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がんを えるタンパク質 —がん治療に新たな道— 細胞内タンパク質は
H24.8.28 / 記者会見資料 <タイトル> がんを⽀えるタンパク質 —がん治療に新たな道— <概 要> 細 胞 内 タンパク質 は,ストレスなどで異 常 を発 ⽣ する。細 胞 は,これを 元 の状 態 に修 復 するストレスタンパク質 の量 を調 節 して適 応 する。中 井 教 授 らは,その調 節 に必 要 なタンパク質 複 合 体 を発 ⾒ した。この複 合 体 ができない条 件 下 では,マウスでの腫 瘍 形 成 が抑 制 された。従 って,が んの治療薬の開発に結びつく可能性がある。 <添付資料> ・タンパク質ホメオスタシスを調節する仕組みを解明 ~がん治療薬のターゲットの可能性~ タンパク質ホメオスタシスを調節する仕組みを解明 — がん治療薬のターゲットの可能性 — 【ポイント】 タンパク質ホメオスタシスの調節に必須のタンパク質複合体を発見 新規タンパク質複合体は、がん細胞の増殖に必要 【概要】 山口大学は、細胞内タンパク質ホメオスタシスを調節する仕組みを分子レベ ルで解明し、それがマウスでの腫瘍形成に必要であることを示しました。これ は、山口大学大学院医学系研究科医化学分野の中井彰教授、藤本充章講らを中 心とした研究グループが、産業技術総合研究所の夏目徹主任研究員らとの連携 研究で得た成果です。 タンパク質は、アミノ酸が一列に並んだひも状のもので、それが正しく折れ たたまれる(フォールディングされる)ことではじめて働くことができます。 不可逆的にミスフォールディングされたタンパク質は分解によって処理されま す。細胞には、外界からのストレスや遺伝的要因などによって生じたタンパク 質の異常を再フォールディングや分解により修復する仕組みが備わっており、 その中でも重要なのが熱ショック応答と呼ばれる適応機構です。これは、フォ ールディングと分解を助けるストレスタンパク質群の遺伝情報の読み取り(転 写)の量を調節することで、タンパク質ホメオスタシス(恒常性)を保つ仕組 みです。がん細胞は、この適応機構を強く発揮させて、それを利用することで、 ストレス条件下でも増殖できることが知られています。 この仕組みの働きを調節するのが熱ショック因子 HSF1(Heat Shock Factor 1) とよばれる転写調節因子です。HSF1 は、ストレスタンパク質をコードする遺伝 子に結合することでその転写量を亢進します。しかし、遺伝子を含む DNA はヒ ストンタンパク質とともにヌクレオソームとよばれる構造を形成しており、通 常は転写調節因子が結合できない状態で存在します。したがって、どのように HSF1 がヌクレオソーム構造をほどき、ストレスタンパク質の遺伝子に結合でき るか不明でした。今回、研究グループは、HSF1 が DNA 代謝と関連する RPA (Replication Protein A)と複合体を形成し、それが DNA からヒストンタンパ ク質を除く因子を引き寄せることを発見しました。その結果、ストレスタンパ ク質の遺伝子に結合できた HSF1 が、その転写量を調節してタンパク質ホメオス タシスを保ちます。さらに、この HSF1-RPA 複合体ができない条件下では、マウ スでの腫瘍形成が顕著に抑制されることも明らかとなりました。 この研究成果は、タンパク質ホメオスタシスの調節の仕組みを解明しただけ でなく、一般に転写調節因子がヌクレオソーム構造をとる遺伝子に結合する仕 組みを世界ではじめて明らかにしました。また、HSF1 と RPA との結合を断ち切 る化合物の探索により、がんの治療薬の開発に結びつけることができると期待 します。本研究は、山口大学研究推進体「ストレス応答と関連した難治性疾患 の克服のための戦略」の一環として進められ、米国の科学雑誌『Molecular Cell』 (8 月 30 日付け)のオンライン版に掲載されます。 1 概要図 新規タンパク質相互作用を断つと腫瘍形成はない 2 【背景】 わたしたちのからだをつくる細胞の成分のうち最も多いものがタンパク質で、 全体の約 70%を占めています。タンパク質の情報は、ゲノム DNA 上に遺伝子と してコード(暗号化)されており、1つの細胞ではおよそ 10%の遺伝情報*1が 読み取られ(転写)、最終的にそれぞれ固有の機能を持つタンパク質が合成さ れます。細胞は、これらの様々な機能を持つタンパク質群によって営まれる組 織化された1つの社会ととらえることができます。したがって、タンパク質を 正しい状態に保つことが、細胞の営み、さらにはわたしたちの健康にとても重 要です。 タンパク質は、アミノ酸が一列に並んだひも状のもので、それが正しく折れ たたまれる(フォールディング*2)ことではじめて働くことができます。不可 逆的にミスフォールディングされたタンパク質は分解によって処理されます。 タンパク質ホメオスタシスは、細胞内タンパク質の量と質を一定に保つことで あり、タンパク質の合成とともに、フォールディング、分解のバランスによっ て保たれています。タンパク質ホメオスタシスが損なわれると、老化が促進さ れ、アルツハイマー病、パーキンソン病、糖尿病などの老化と関連する疾患群 を発症することが知られています。 細胞には、外界からのストレスや遺伝的要因などによるタンパク質のミスフ ォールディングが生じてもホメオスタシスを保つための仕組みが備わっていま す。その中でも重要なのが、熱ショック応答*3と呼ばれる転写調節を介する適 応機構です。これは、フォールディングと分解を助けるいわゆるストレスタン パク質の転写を誘導することで、増加した異常タンパク質を再フォールディン グか分解により適切に処理してタンパク質ホメオスタシスを保つ仕組みです。 つまり、異常なタンパク質の負荷に対して、タンパク質ホメオスタシスを一定 に保つことができる容量(タンパク質ホメオスタシス容量)は、熱ショック応 答により調節されているのです。がん細胞*4は、この適応機構を強く発揮させ て、それを利用することで、ストレス条件下でも増殖できることが知られてい ます。 この熱ショック応答を調節するのが熱ショック因子 HSF1(Heat Shock Factor 1)*5とよばれる転写調節因子です。HSF1 は、ストレスタンパク質をコードす る遺伝子に結合することでその転写量を亢進します。しかし、一般に、遺伝子 を含む DNA はヒストンタンパク質と複合体を形成してヌクレオソーム*6とよば れる構造を形成しているため、通常は転写調節因子が DNA に結合できません(図 1)。したがって、転写調節因子 HSF1 がヌクレオソーム構造をとる DNA に最初 に結合する仕組みの解明は、タンパク質ホメオスタシス容量を調節する基本的 な過程であるにもかかわらず、長い間、未解明のままでした。 【研究の成果】 研究グループは、ヒト HEK293 細胞に Flag 標識を付けたヒト HSF1 を発現させ、 抗 Flag 抗体を用いて共沈降するタンパク質群を質量分析法*7によって網羅的 に同定しました。その中で、DNA の複製、修復、組み換えなどの DNA 代謝を担う ことが知られている RPA1 を同定しました。HSF1 は、winged helix-turn-helix 型の DNA 結合ドメインをもつ転写調節因子です。RPA1 は、このドメイン内の wing 3 motif に結合することが分りました(図2) 。特に、ヒト HSF1 の 87 番目のグリ シンは相互作用に必要で、それをアラニンに変えた変異体 HSF1G87A は RPA1 と 結合できませんでした。HSF1 は酵母からヒトまで進化の過程で良く保存された 因子ですが、驚くべきことに、wing motif の 13 アミノ酸の中でこのグリシン だけがすべての種の HSF1 で保存されています。 HSF1 は通常、ストレス遺伝子の上流で、転写量の調節に働くプロモーターへ 結合します。研究グループは、細胞内で、HSF1 が結合している HSP70(ストレ ス遺伝子の一つ)のプロモーターには、同時に RPA1 も存在することをクロマチ ン免疫沈降法*8で示しました。そして、RPA1 をノックダウン法により減少させ ると、HSF1 が HSP70 のプロモーターに結合できなることを発見しました (図3)。 RPA1 と結合できない変異体 HSF1G87A に置換すると、HSF1G87A も RPA1 もプロモ ーター上に存在できません。つまり、HSF1 は RPA1 と複合体を形成することでプ ロモーターに結合できることが明らかとなりました。さらに、この複合体によ って、DNA とヒストンタンパク質からなるヌクレオソーム構造からヒストンタン パク質が除かれることが分りました。 RPA1 は一本鎖 DNA に結合する性質をもちますが、その性質によってヒストン タンパク質を直接除くことはできません。酵母では、RPA1 がヒストンタンパク 質を除く性質をもつヒストンシャペロン複合体(FACT、facilitates chromatin transcription) * 9 と結合することが知られていました。研究グループは、 HSF1-RPA1 複合体が FACT を引き寄せることで HSP70 のプロモーターのヒストン タンパク質が除かれることを明らかにしました(図4)。 HSF1-RPA1-FACT によるヒストンタンパク質の除去とその結合が、一般的な仕 組みかどうかを明らかにするために、DNA マイクロアレイ解析*10により遺伝子 発現が HSF1 あるいは RPA1 に依存する遺伝子群を同定しました。その結果、HSF1 に依存する遺伝子群のうち 70%のものが RPA1 にも依存していました。一部の遺 伝子のプロモーターを解析したところ、すべて HSF1-RPA1-FACT 複合体が存在し ていました。以上の結果は、HSF1 の機能に RPA1 は必須であることを示唆してい ます。HSF1 は、がん細胞の増殖に必要であることが知られています。研究グル ープは、ヒト悪性黒色腫の細胞株の HSF1 を HSF1G87A へ置換すると、細胞の増 殖が遅くなり、さらにマウス体内で腫瘍を形成しないことを明らかにしました (図5)。 【研究の意義と今後の展望】 HSF1 による熱ショック応答の研究の歴史は古く、特に、ショウジョウバエを モデルとした研究が精力的に進められてきました。それによると、GAF 因子があ らかじめ HSP70 プロモーターのヒストンタンパク質を除いておき、HSF1 はスト レス条件下でのみ DNA へ結合して転写調節を行うとされていました。しかし、 当該研究グループの研究をはじめとして、外的ストレスのない条件下の培養細 胞やマウス個体でも HSF1 が常に DNA に結合することで、タンパク質ホメオスタ シス容量を保ち、老化や老化と関連する疾患群の進行を抑制することが示唆さ れてきました。本研究により、HSF1 が非ストレス条件下で DNA へ結合する仕組 を明らかにすることで、一連の議論に決着がついたといえます(図6)。HSF1 は生理的な条件下で、絶えずタンパク質ホメオスタシス容量を調節しています。 4 一般に、転写調節因子がヌクレオソーム構造をとる遺伝子に安定に結合する 仕組みについてはよくわかっていませんでした。DNA はヒストンタンパク質にお よそ2回巻き付いてヌクレオソーム構造を形成していますが、この構造は流動 的で、DNA が巻き付いては離れることを繰り返しています。転写調節因子が、ヒ ストンタンパク質から離れた DNA に結合したとしても、すぐにヒストンタンパ ク質と競合して除かれます。本研究により、転写調節因子 HSF1 がヒストンタン パク質を除く FACT を引き寄せることで、安定に DNA に結合することを世界では じめて明らかにしました(図6)。 ヒトの様々ながん組織においてストレスタンパク質の発現が上昇しているこ とが知られています。最近、その転写調節をになう HSF1 の発現も前立腺がん、 肝細胞、乳がんなどで上昇していることが明らかになってきました。さらに、 様々な組織由来のがん細胞の増殖が HSF1 に依存することが示され、HSF1 ががん 治療のターゲットとして注目を集めるようになりました。HSF1 は、正常な細胞 の増殖には必要ないが、がん細胞の増殖に特異的に作用するのが特徴です。本 研究により、HSF1-RPA1 の相互作用が、がんの治療ターゲットとして有望である ことが示されました。この相互作用を断ち切る化合物を見いだすことで、がん 細胞特異的に増殖を阻害できる可能性があります。 <論文情報> M. Fujimoto, E. Takaki, R. Takii, K. Tan, R. Prakasam, N. Hayashida, S. Iemura, T. Natsume, and A. Nakai. RPA Assists HSF1 Access to Nucleosomal DNA by Recruiting Histone Chaperone FACT. Mol. Cell, 2012, in press. <問い合わせ先> 国立大学法人山口大学大学院医学系研究科 教授 中井 彰 TEL: 0836-22-2214 FAX: 0836-22-2315 5 医化学分野 <補足説明> *1 遺伝情報 ゲノム DNA に書き込まれた塩基配列の情報で、一つひとつが遺伝子として存在 する。動物細胞では、一つの遺伝子の情報をもつ DNA が読み取られて、相同な 塩基をもつ RNA ができる。この過程は転写とよばれる。次に、RNA の塩基配列か らなる暗号は、翻訳されてタンパク質ができる。DNA からタンパク質ができるま での流れを、遺伝情報発現とよぶ。 * 2 タンパク質のフォールディング タンパク質は、アミノ酸が一列に並んだひも状のもので、それが折りたたまれ ることでそれぞれ決められた立体構造をつくる。この折れたたまれる過程をフ ォールディングと呼ぶ。立体構造の情報はタンパク質自身が持っているが、HSP が相互作用することで正しい構造をつくるよう助ける。タンパク質のフールデ ィングが異常になると、たがいに会合して凝集体を形成し、細胞毒性を示す。 * 3 熱ショック応答 ある生育温度で維持されている細胞を、数度高い温度にさらすといわゆる熱誘 導タンパク質あるいはストレスタンパク質とよばれる多種類のタンパク質が誘 導される。これはすべての生物がもつ高温に対する適応機構であり、熱ショッ ク応答とよばれる。タンパク質は極めて高温に感受性が高いため、タンパク質 ミスフォールディングに対する適応機構ともいえる。発見の歴史上、温熱スト レスによって顕著に誘導される一群のものは、熱ショックタンパク質(Heat shock protein: HSP)と名付けられた。HSP は、細胞内のすべてのタンパク質の フォールディングを介助する。それ以外にも、タンパク質の分解を助けるもの などが誘導される。 * 4 がん細胞 様々な組織の細胞が、遺伝子変異によって自律的に増殖し、周囲の組織に浸潤 または転移を起こす悪性腫瘍をさす。 * 5 熱ショック因子 熱ショック因子(Heat shock factor: HSF)は、遺伝子の読み取り(転写)を 制御する転写調節因子。ヒト細胞で HSP の量を調節するのは主に HSF1 である。 HSF1 は温熱ストレスをはじめとする様々なストレスによるタンパク質のミスフ ォールディングを感知し、活性化されることで HSP をはじめとするストレスタ ンパク質の遺伝子上流のプロモーターへ結合し、その転写量を調節する。 * 6 ヌクレオソーム 真核細胞の DNA は、核内においてクロマチン(染色体)として存在する。これ は、DNA がヒストンタンパク質におよそ2回巻き付いたヌクレオソームとよばれ る基本単位が、より複雑に凝集してできた構造である。転写や複製の際には、 この構造が弛緩されてヒストンタンパク質が除かれることで、様々な因子が DNA と結合できる。 6 *7 質量分析法 タンパク質を酵素で切断し、長さの異なるアミノ酸配列断片についてそれぞれ の質量を測定する。その質量からアミノ酸の種類を同定する方法。 *8 クロマチン免疫沈降法 細胞内で、あるタンパク質がクロマチンを構成する DNA 領域に存在するかどう かを調べる方法である。目的とするタンパク質に対する抗体を用いて、そのタ ンパク質を沈降させたときに同時に沈降する DNA を同定する。 * 9 ヒストンシャペロン ヒ ス ト ン タ ン パ ク 質 と 結 合 し 、 そ の DNA と の 会 合 あ る い は 脱 離 を 補 助するタンパク質をさす。ヌクレオソームの形成あるいは分解に重 要な役割を担う。 *10 DNA マイクロアレイ解析 細胞の持つ全ての遺伝子の発現を RNA レベルで定量的に計測する方法である。 スライドガラス上に数千から数万個の DNA 断片をのせ、細胞から抽出した RNA とハイブリッドを形成させ、ハイブリッド形成の強度を指標にして各遺伝子の 転写量を測定する。 <図と説明> 図1 HSF1 は単独ではヌクレオソームを形成する DNA に結合できない 遺伝子の上流のプロモーターに HSF1 の結合配列(HSE)が存在しても、HSF1 単 独で安定に結合することができない。ショウジョウバエの研究では、GAF とよば れる因子があらかじめプロモーターに結合してヌクレオソーム構造を分解する ので、HSF1 は活性化することで速やかに結合できる。しかし、動物細胞には GAF がないので、HSF1 がどのような仕組みで細胞内の DNA に結合するか不明であっ た。 7 図2 RPA1 は HSF1 の wing motif に結合する HSF1 の DNA 結合ドメインは winged helix-turn-helix 型の構造をもつ(左)。そ の中の、特定の構造をとらず、外側に露出している wing motif が RPA1 と相互 作用する。87 番目のグリシン(G)をアラニン(A)またはセリン(S)に置換し た変異体(hHSF1-G87A、hHSF1-G87S)は、共沈降実験で RPA1 との結合が検出さ れない(右)。 図3 HSF1 の DNA への結合には RPA1 が必要である HSF1 および RPA1 が HSP70 遺伝子のプロモーター(上)へ結合するかどうかをク ロマチン免疫沈降法(ChIP 法)で調べた。RPA1 のノックダウン(mRPA1-KD1 or KD2)により HSF1 がその結合配列(pHSE と dHSE)に結合できなくなり、HSF1 の ノックダウン(mHSF1-KD1 or KD2)により RPA1 が結合できなくなる(下)。* 印は有為差を示す(p<0.01、Student t 検定)。 8 図4 HSF1-RPA1 は FACT を引き寄せることでヒストンタンパク質を除く ヒストンシャペロン複合体 FACT(SPT16 と SSRP1 の二量体)(左)は HSP70 遺 伝子のプロモーターへ結合している。しかし、RPA1 または HSF1 のノックダウン により結合できなくなる(中)。さらに、SPT16 のノックダウンによりヒストン H2B がプロモーター上に増加する、つまりヌクレオソームの形成がより進んでい る。*印は有為差を示す(p<0.01、Student t 検定)。 図5 HSF1-RPA1 相互作用は腫瘍形成に必要である ヒトメラノーマ細胞株 HMV-1 を用いて、内在性の HSF1 を GFP、野生型 HSF1 (hHSF1-HA)、あるいは相互作用変異体(G87S-HA、G87A-HA)に置換した。その 細胞をヌードマウスの背部皮下の2カ所に移植した(n=8)。代表的な腫瘍を形 成したマウス及び摘出した腫瘍の写真(28 日後)を示す(左) 。腫瘍の容量変化 の時間経過を示す(右)。*印は有為差を示す(p<0.01、ANOVA 検定)。 9 図6 RPA1 は FACT を引き寄せることで HSF1 の DNA の結合を助ける ストレスのない生理的条件下で、DNA 非結合型の単量体 HSF1 と DNA 結合型の三 量体 HSF1 の平衡状態が単量体側に片寄っている。わずかに存在する三量体 HSF1 は、RPA と結合することで FACT を引き寄せて、さらにクロマチンリモデリング 因子である SWI/SNF 複合体(Brg1 複合体)と協力してヒストンタンパク質を除 く。その結果、HSF1 は安定にプロモーターへ結合し、RNA ポリメラーゼ II(Pol II)を含む転写開始前複合体を引き寄せることで転写を進める。この構成的な 転写調節は、タンパク質ホメオスタシスに必要である。また、この調節がない とがん細胞の増殖が顕著に抑制される。 10