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新興・再興感染症研究拠点形成プログラム

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新興・再興感染症研究拠点形成プログラム
参考資料5
新興・再興感染症研究拠点形成プログラム
事後評価 報告書
平成21年7月
新興・再興感染症研究拠点形成プログラム
評価委員会
目
次
Ⅰ
はじめに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1
Ⅱ
プログラムの概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2
Ⅲ
事後評価の概要・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5
Ⅳ
事後評価結果
1 プログラム全体について・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6
(1) 総評・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6
(2) 事業の達成度について・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7
(3) 事業の成果について・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7
(4) 感染症研究人材の確保・養成状況について・・・・・・・・・・・・・7
(5) プログラムの推進体制について・・・・・・・・・・・・・・・・・・7
(6) 将来展望について・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8
2 各研究拠点等<責任機関別>
(1) 国立大学法人
北海道大学人獣共通感染症リサーチセンター・・・・・9
(2) 国立大学法人
東北大学医学系研究科・・・・・・・・・・・・・・・12
(3) 国立大学法人
東京大学医科学研究所・・・・・・・・・・・・・・・14
(4) 国立大学法人
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科・・・・・・16
(5) 国立大学法人
大阪大学微生物病研究所・・・・・・・・・・・・・・18
(独立行政法人
農業・食品産業技術総合研究機構動物衛生研究所)
(6) 国立大学法人
神戸大学大学院医学研究付属感染症センター・・・・・21
(7) 国立大学法人
岡山大学インド感染症共同研究センター・・・・・・・23
(8) 国立大学法人
長崎大学熱帯医学研究所・・・・・・・・・・・・・・25
(国立国際医療センター)
(9) 独立行政法人
Ⅴ
理化学研究所感染症研究ネットワーク支援センター・・28
おわりに・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・31
(参考資料)
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・32
(1)新興・再興感染症研究拠点形成プログラム事後評価委員会
(2)プログラムの実施体制
(3)事後評価シート
委員
Ⅰ
はじめに
国際的に、重症急性呼吸器症候群(SARS)、高病原性鳥インフルエンザ、最近では新
型インフルエンザの発生が相次いで起こり、またエイズ、マラリア、結核、肝炎ウイル
スなどの感染者数は依然として多く、これらの新興・再興感染症に対する社会不安が増
大している。
その一方、国内では主要感染症を征圧したとの認識などから、感染症分野への研究者
の新規参入が減少し人材の層が薄くなりつつあると同時に、人材、研究設備、研究資源
等が散在して十分な連携が取られていないために、緊急の課題に対応することが困難な
状況にあった。
また、研究の側面からは、必要な病原体の情報等について入手経路や使用目的等の
様々な制約により、迅速な研究実施に支障が生じるなどの課題が明らかとなっていた。
このような状況に対し、平成17年度より、国全体としての感染症対策を支える研究
を集中的・継続的に進め、人材の育成・知見の集積等を図るために「新興・再興感染症
研究拠点形成プログラム」
(以下、
「本プログラム」という。
)が5カ年計画で実施され
ている。
平成21年度は当プログラムの当初計画における最終年度にあたり、
「文部科学省に
おける研究及び開発に関する評価指針(平成21年2月17日改定)」を踏まえ、本プログラ
ムに係る事後評価報告書をとりまとめた。
-1-
Ⅱ
プログラムの概要
(1)目的
本プログラムは、新興・再興感染症に関し、国内外での我が国の研究体制を整備す
るとともに、国内外の研究拠点における感染症研究の推進を通じ、国内発生等の緊急
時に即戦力として活躍できる研究人材の確保、将来にわたって本分野で活躍すること
ができる研究者の育成を図ることを目指し、文部科学省が委託事業として実施してい
るものである。
具体的には、国内では、新興・再興感染症研究の拠点として相応しい研究機関にお
いて研究設備の充実等を図り、当該機関を中心として、新興・再興感染症に対する基
礎的知見の集積を図ることができる研究体制を整備する。また、国外では、アジア・
アフリカを中心に新興・再興感染症の発生国あるいは発生が想定される国に、現地研
究機関との協力の下、海外研究拠点を設置し、我が国の研究者が恒常的に現地で研究
を行うことができる体制を整備する。さらに、これら国内外の研究拠点における研究
を通じて、人材の育成等を図るものである。
(2)実施期間
平成17年度~平成21年度
(3)予算の推移
(単位:億円)
予
平成17年度
平成18年度
平成19年度
平成20年度
平成21年度
23
26
28
25
21
算
(4)実施体制(参考資料2参照)
各機関及び海外に設置されている研究拠点等については以下の通りである。
責任機関名
/研究代表者名
海外拠
協力(サブ)機関名
点設置
年度
症リサーチセンター
19
宏
究・教育中核拠点
(ザンビア大学サモラ・マシ
ェル獣医学部)
東北大学-RITM 新興・再興
東北大学医学系研究科
/押谷
(相手国研究機関)
北海道大学人獣共通感染症研
北海道大学人獣共通感染
/喜田
海外拠点名
20
仁
感染症共同研究センター
(フィリピン共和国・熱帯医
-2-
学研究所)
東京大学医科学研究所・アジ
ア感染症研究拠点
東京大学医科学研究所
/岩本
17
愛吉
(中国科学院微生物研究所、
中国科学院生物物理研究所、
中国農業科学院ハルビン獣医
研究所)
東京医科歯科大学新興再興
東京医科歯科大学大学
院医歯学総合研究科
/大野
喜久郎
大阪大学微生物病研究所
/木下
20
タロウ
大阪大学感染症国際研究拠点
動物衛生研究所
17
(タイ国立予防衛生研究所、
タイ国立家畜衛生研究所)
神戸大学新興・再興感染症国
付属感染症センター
19
博
際共同研究拠点
(インドネシア
アイルラン
ガ大学熱帯病センター)
岡山大学インド感染症共同研
岡山大学インド感染症共
同研究センター
/岡本
(ガーナ共和国・ガーナ大学
野口記念医学研究所)
神戸大学大学院医学研究
/堀田
感染症国際共同研究拠点
19
敬の介
究センター
(インド国立コレラ及び腸管
感染症研究所)
長崎大学新興再興感染症臨床
長崎大学熱帯医学研究所
/平山
謙二
国立国際医療センター
17
疫学研究拠点
(ベトナム国立衛生疫学研究
所、バックマイ病院)
理化学研究所
感染症研究ネットワー
17
ク支援センター
/永井
-
美之
本プログラムを効果的・効率的に推進するために、プログラムディレクター(PD)
、
プログラムオフィサー(PO)及び研究者や各方面の有識者等で構成される感染症研究推
進委員会を設置している。また、研究活動上の情報交換、研究現場の意見・要望の取り
まとめを行うため、各拠点代表者等で構成される新興・再興感染症研究拠点形成プログ
-3-
ラム実施会議、および関係各省庁と研究者の連絡・意見交換を行うため、新興・再興感
染症研究拠点形成プログラム連絡調整会議を設置し、プログラムの円滑な実施を図って
いる。
また、既存の海外拠点を活用する研究機関と研究課題は、以下のとおりである。
【北海道大学人獣共通感染症研究・教育中核拠点】
・ 高知大学(HLA 結合性ペプチド予想プログラムを活用したワクチンデザイン)
・ 滋賀医科大学(カニクイザルを使用した高病原性鳥インフルエンザに対するワクチンの
開発検定)
【東京大学医科学研究所・アジア感染症研究拠点】
・ 国立国際医療センター(中国拠点を介した感染症の学術・医療協力ネットワーク構築に
関する研究)
・ 理化学研究所(新興・再興感染症関連タンパク質の解析)
・ 神戸大学(日本周辺アジア諸国における新興・再興感染症制御に向けた研究)
・ 熊本大学(中国における新興・再興感染症の研究)
・ 獨協医科大学(HIV アクセサリー蛋白の高次構造と機能の関係に関する研究(ウイルス蛋
白の高次構造・機能相関の解析))
【東京医科歯科大学新興再興感染症国際共同研究拠点】
・ 結核予防会結核研究所(ガーナにおける薬剤耐性結核菌の発生状況の細菌学的・疫学的
研究)
【大阪大学感染症国際研究拠点】
・ 帯広畜産大学(タイ国における人獣共通感染症の疫学調査)
・ 九州大学(結核感染症および後天性免疫不全症候群における結核複合感染症の病態解明
とその予防・治療法の開発)
・ 大阪府立公衆衛生研究所(新型インフルエンザに対する診断・予防及び治療に関する総
合研究)
・ 神戸大学(ヘリコバクターピロリ感染による胃癌誘導因子の疫学的解析研究)
・ 東北大学(タイ拠点での新興呼吸器感染症の監視と二次性肺炎発症機構の解析)
・ 藤田保健衛生大学(ノロ・ロタウイルスなどによるウイルス性腸管感染症の疫学研究)
【長崎大学新興再興感染症臨床疫学研究拠点】
・ 金沢大学(ハノイにおける薬剤耐性 HIV の現状および推移)
・ 鳥取大学(ベトナムにおける鳥インフルエンザ侵淫実態調査と流行予測)
-4-
Ⅲ
事後評価の概要
1
目的
本委員会では、本プログラムにおける事業の推進体制、達成度、成果等について事後
評価を公正かつ公平に実施し、報告書として取りまとめる。
2
方法
各研究拠点等において作成された成果報告書(平成17年度~20年度実施分)に基
づき事前に書面審査を実施し、平成21年5月20日に各研究拠点等からのヒアリング
を実施し、6月8日に総合的な審議を行い、本報告書をとりまとめた。
● 評価事項
【平成20年度終了時における評価】
① 総評
(視点:プログラム全体として)
② 事業の達成度
・プログラムの目的に沿って拠点活動(設置・運営・管理)及び拠点を中心とした研究が
なされ、所期の目標が達成されたか。
(視点:計画、目標、進度の妥当性、費用対効果)
③ 事業の成果
・どのような成果が確立され、その成果が社会に還元されたか。
(視点:成果の波及効果、社会への還元、日本へのフィードバック、科学技術外交)
④ 感染症研究人材の確保・養成状況
・人材育成に配慮した拠点活動、研究がなされたか。
(視点:人材交流、相手国との協力、友好関係、将来性)
⑤ 推進体制
・成果を効率的に創出するための推進体制が構築されたか。
(視点:拠点の地域特性、相手国との信頼関係、拠点の活用性、代表者の指導性、選択
と集中)
⑥ 将来の展望
(視点:政策的価値、関係機関との連携、他の拠点間での連携、国際貢献)
-5-
Ⅳ
事後評価結果
1
プログラム全体について
本プログラムは、①国内における研究施設の充実、研究体制の整備、また国外では現
地研究機関との協力の下、海外研究拠点を設置し、我が国の研究者が恒常的に現地で研
究できる体制を整備すること、②これら国内外の研究拠点における感染症研究の推進、
③研究人材の確保、養成を図ること、を目的としている。
今回の事後評価ではこれらの目的に則ってプログラムが実施されてきたかを確認し、
前述Ⅲに記載した事項に沿って評価を実施した。
(1) 総評
経済・社会のグローバル化が進む中で、人・動物・物資の移動の頻度、速度はますま
す高まりつつあり、世界のどの地域で感染症が発生した場合も、我が国への病原体の侵
入、感染患者・動物の侵入が短時間に起こりうる状況にある。また、発展途上国の人口
増加や開発による生態系の変動、経済成長などが新たな感染症を生み出す要因の1つと
なっており、新興・再興感染症の脅威への対応は人類共通の課題となっている。
このような背景を受けて、本プログラムの5年間において、相手国関係機関との信頼
をベースとする人間関係の構築によって、アジア・アフリカの8カ国に12の海外研究
拠点が形成され、広い領域の専門家が一体となり、感染症の発生する現場に常駐して、
現地研究者・専門家と共に研究を進めるという、かつてない研究体制が構築された。そ
して、海外研究拠点の地理的意義、拠点機関の専門性、国際貢献・共存共栄の観点から
の相手国の公衆衛生面等への貢献等を勘案した研究が実施され、新興・再興感染症に関
する知見・情報の蓄積や、国際的な人材育成への貢献が図られたことは、科学技術外交
のお手本とも言える成果であり、高く評価される。
研究面では、インフルエンザをはじめとする呼吸器感染症、腸管感染症、結核、HIV、
肝炎などをテーマとした研究の成果が見られ、ウイルス学的に新たな知見もあり、国際
的に高い評価の研究も多く見られる。これらは、感染症の予防や治療の具体的な対策に
資するものと考えられる。
ただ、予算規模の小さな拠点ほど、海外研究拠点の確立に予算が注入され、学術的基
礎研究への投資が少ないとの印象が強い。また、情報や検体の共有などが今後の課題で
あり、相手国との信頼関係の強化がさらに重要となってくる。
感染症の原因ウイルス等は常に変化する生き物であり、人類は感染症と永久に闘い、
共存の途を探り続ける必要があることから、今後とも長期にわたり本プログラムを継続
していく必要がある。その際、共通の疾患について、各研究拠点共同で研究することも
-6-
重要であり、各拠点機関間での共同研究をより一層推進するとともに、より連携したネ
ットワークを構築していくことが重要である。
(2)事業の達成度について
言葉、文化、生活など各国との様々な壁があるにもかかわらず、相当な努力により各
国の事情や各大学等の特色ある取組に基づき、海外研究拠点が設置・運営され、基礎研
究による知見の蓄積や、国内外の研究者交流及び人材育成が順調に進捗していることな
どから、所期の目標は概ね計画に沿って達成されており、その取組は高く評価できる。
また、費用対効果についても、研究拠点の整備や組織・ネットワークの形成といった
観点からは良好であり、十分に効果があがったと考えられる。
(3)事業の成果について
アジア・アフリカの新興・再興感染症の発生国等において、各大学等が現地研究機関
との密接な協力の下に、海外研究拠点を形成し、わが国の研究者が常駐し、現地スタッ
フとの共同研究や人材育成を進める、という当初目的に対して、十分な成果をあげたと
評価される。
拠点における研究では、ゲノム情報に基づく病原微生物自動同定システム(RAPID)
が開発され、ザンビアの新興感染症と思われる発生事例に応用されたことは特に大きな
成果としてあげられる。また、野生動物や家畜に感染しているウイルスについて地域の
特性が示されたことも本計画の主旨からして高く評価できる。
この他にも、消化器、呼吸器系感染症、出血熱のワクチン開発や治療に寄与すると考
えられる研究成果をはじめ数多くの成果があがっており、鳥インフルエンザなど人獣共
通ウイルス感染症研究の成果の日本へのフィードバックも進んでいる。一方で、現地へ
のより一層のフィードバックが期待される。
また、感染症研究ネットワーク支援センター(以下、「支援センター」という。)に
おいては、蓄積された海外拠点形成のノウハウやネットワーク、感染症関連の情報が集
約される体制が構築できたことは、今後の展開においても重要な成果となる。
(4)感染症研究人材の確保・養成の状況について
わが国の研究者が拠点国に常駐し、現地スタッフと協力して研究を進め、人材を育成
するという本プログラムにより、それぞれの拠点で育成されたポスドクが拠点国内ある
いはわが国で職を得るなど、一定の成果をあげている。
海外研究拠点での共同研究をはじめ感染症研究を担う若手人材を育成していくため
には、海外研究拠点を活用したプロジェクトを通して育成することが重要であり、今後
とも引き続き人材の育成・交流を継続していく必要がある。
(5)プログラムの推進体制について
「感染症に国境なし、感染症研究に国境あり」という言葉で表現されるように、重要なウイ
-7-
ルス等生物資源に対する従来のアクセスの困難性は、生物資源は分離・採種国に帰属するこ
とやバイオテロ対策などが主な理由と思われるが、本プログラムの実施により、本困難性が
かなり解消されつつある点は、評価できる。
その中でも、支援センターの設置及びその役割は、海外研究拠点の設置や共同研究体制構
築の支援・推進体制の中核機関として、良く機能したと評価できる。さらに、場合によって
は関係省庁とより連携しながら対応していくことも重要である。
(6)将来展望について
アジア・アフリカに研究拠点や情報収集・発信拠点を持つことは、新興・再興感染症研究・
対策において、日本のみならず国際的にも有意義であり、国策上重要である。
政策的配置、関係機関との連携、他の拠点間との連携、国際貢献、科学技術外交、いずれ
の面でも、本プログラムによって各々の現地に確立された信頼関係、人間関係、人材・資料
交流、情報交換等は長期に亘って継続されるべきである。
今後は、厚生労働省国立感染症研究所(以下、
「感染研」という。)や先行する他国の研究
機関(仏国パスツール研究所や米国疾病予防管理センター(以下、「米国CDC」という)
等)との共同研究体制の構築を図り、真に我が国の国民の感染症対策に資する拠点・ネット
ワーク形成を行うとともに、国際的にも存在感を示すべきである。
また、個々の研究は、幅広い分野で行われ、一定の成果を創出しているが、永続的な研究
基盤を形成するために、研究課題の選択と集中を行った上で、拠点間で連携して疾患別の共
同研究を進めていくことも重要である。その際、同一の疾患に関する類似の研究だからと排
除するのではなく、感染症の病原体は伝播等とともに変異していく可能性が高いことなどか
ら、関係拠点間で横断的に連携して取組むことが重要である。また、その研究を進めていく
うえでは、支援センターの役割も、
「支援」から「推進」へと、機能の拡充が望まれる。
さらに、本プログラムに関し、感染症研究の人材養成と社会教育や社会への情報発信、診
断薬や新薬の開発など具体的な新興・再興感染症対策の強化に資する体制づくりに尽力され
たい。
-8-
2
各研究拠点等<責任機関別>
(1)北海道大学グループ
〈研究拠点の概要〉
人獣共通感染症の克服に向けた基盤研究、予防・診断・治療法の開発と実用化、情報と技
術の社会普及、人獣共通感染症対策専門家の養成を目指す。予防対策における中核拠点とし
て、人獣共通感染症リサーチセンターを設置した。
人獣共通感染症は、その病原体が自然界から供給されるので、根絶することは不可能であ
り、「先回り予防戦略」が、重要である。本事業では、人獣共通感染症を克服するために、
国内拠点において(1)タイ、ベトナムおよび中国に形成される海外拠点および既存のネッ
トワークを活用し、グローバルサーベイランスを展開(2)調査で分離される微生物と遺伝
子のライブラリーを構築(3)「先回り予防戦略」の策定(4)人獣共通感染症対策専門家
を養成している。
なお、本研究は、国立大学法人滋賀医科大学および国立大学法人高知大学とともに実施す
る。
さらに、平成19年度より海外研究拠点をザンビア大学内に設置している。
ザンビア拠点においては、人獣共通感染症克服を目指した研究を推進するため、
(1)ザン
ビア大学獣医学部内に人獣共通感染症研究拠点を設置し、
病原体のグローバルサーベイラン
スを展開(2)ヒト、家畜、野生動物における人獣共通感染症の病原体を追跡し、自然界で
の病原体の生態を解明(3)人獣共通感染症の予防、診断、治療技術の向上を図ることを目
的として活動を行う。
①総評
ザンビアに新興・再興感染症の共同研究拠点を設置して展開されているインフルエンザ・
プリオンをはじめとした人獣共通感染症の研究は、いずれも極めて重要であり、同拠点は我
が国が人獣共通感染症の研究と対策を進める上で、アフリカにおける重要な足がかりになる。
また、ザンビア大学との人材交流を積極的に行っているほか、同国の鳥インフルエンザ診
断センターの設置も支援するなど、同国の感染症研究の底上げも行った。
一方、北海道大学でも人獣共通感染症リサーチセンターにおいて、海外共同研究の経験も
豊富な人材を抱え、優れた研究を展開するとともに、人獣共通感染症対策の専門家育成体制
を整え、スーダン、ケニア、ブラジル、韓国、中国など海外の研究者を受け入れ、JICA と
共催でインフルエンザなど感染症の専門家のトレーニングをするなど、国際的な研究ハブと
して成長しつつある。
ザンビア拠点では、各種病原体のグローバルサーベイランスを行うことにより人獣共通感
染症の病原体を追跡及び解析を行うプログラムも実施されており、極めて高い成果が創出さ
れている。内容が多岐に渡るため、代表者のリーダーシップの下に、長期的展望に基づいた
継続が重要である。
-9-
②事業の達成度について
遠隔地で、インフラ整備が遅れているにもかかわらず、十分な人員が投入され、研究員の
常駐体制が整備されるとともに、バイオセーフティレベル3(BSL3)施設の整備などの海外
研究拠点形成、グローバルネットワークの形成、国内との連携において、初期の目標に対し
て十分な成果を上げている。また、
ザンビア大学、ザンビア野生生物管理局との共同研究や、
野性動物の検体を収集し、我が国に輸出する体制の整備など、疫学的な研究基盤が整備され
ている。
③成果について
<拠点活動>
ザンビア政府や、ザンビア大学と良好な共同研究体制を構築している。相手国との連携を
継続させるための人的交流基盤、野生動物の確保の許可、人の臨床材料の確保のための協定
などが整い、本計画の持続的推進の基盤は強化されている。アフリカ諸国、WHO との連携や、
大阪大学タイ拠点、長崎大学ベトナム拠点、神戸大学のインドネシア拠点などとの研究連携
もスムーズに進められており、拠点活動は高く評価できる。
また、この拠点はザンビア保健省からの依頼を受ける不明出血熱の病原微生物の検出を行
うなど、ザンビア国内で感染症研究拠点として一定の評価を獲得しており、科学技術外交の
観点からの貢献度も高い。
<研究活動>
インフルエンザに関するサーベイランス、診断キットの開発、日本におけるワクチンの開
発やタイでの抗酸菌サーベイランス、野生動物からのフィロウイルスの遺伝子検出など、個
別研究のレベルは高く、科学的・学術的価値も高い。
また、高病原性インフルエンザワクチンについて国内メーカー4社と共同開発を試み、有
望な結果を得るなど、日本のフィードバックにつながる成果も創出している。
④感染症研究人材の確保・養成の状況について
日本人研究者の現地常駐、短期・長期研究者の日本からの派遣、北海道大学でのザンビア
研究者のトレーニング等を通じて、
ザンビア国内インフルエンザセンターを立ち上げるなど、
人材交流も活発であり、様々な方策を駆使して人材育成にも取り組んでおり、十分に成果を
あげている。
⑤プログラムの推進体制について
代表者の強力なリーダーシップの下、国内外の連携体制が構築された。ザンビア大学との
提携により、臨床材料の取扱いを可能にしたこと、他大学の海外拠点と連携した検体の採取
も進んでいることから、今後の研究に期待が持てる。
⑥将来展望について
- 10 -
我が国の感染症防御対策として人獣共通感染症の国際的なネットワークのハブをアフリ
カに確保したことは極めて重要であり、ぜひとも拠点を継続し、更なる発展を期待したい。
環境中の野生生物に存在する微生物・ウイルスの網羅的な解析とデータベース化は、壮大
な新興・再興感染症のエコシステムを解明する試みであるが、新しい学問体系と新しい感染
防御システムの開発につながる可能性があり、
大いに期待できる野心的なプログラムである。
- 11 -
(2)東北大学グループ
〈研究拠点の概要〉
国 立 大 学 法 人 東 北 大 学 は フ ィ リ ピ ン 保 健 省 の 国 立 熱 帯 医 学 研 究 所 ( Research
Institute for Tropical Medicine, RITM)との関係を軸とし(1)RITM のリファレンス
センターとしての機能強化
および疫学的解析
(2)フィリピンにおける主要な感染症の原因病原体の解明
(3)フィリピン国全体における持続可能な感染症コントロールプロ
グラムの確立を主な目的とし、公衆衛生学的見地から感染症対策に寄与できるような実
践的研究を計画・実施する。このため、保健省内の国立疫学センター、国立サンラザロ
病院や地方の病院等とも協力し、フィールドでの研究を積極的に推進する。また、フィ
リピン国内のみならず、国際的な研究機関とも連携をとりながら研究課題を進めている。
①総評
今後、フィリピンからの就労人口の増加が予測される中で、本海外拠点での研究は極めて
重要である。
国際協力機構(JICA)を中心として、施設の整備や技術支援協力を行ってきたフィリピン
国立熱帯医学研究所(RITM)を活用した具体的な海外研究拠点の整備は平成20年度からで
あるが、短期間に精力的に基盤整備が進んでおり、東北大学と RITM の間に、感染症リファ
レンスセンター機能を発揮させ、フィリピンにおける主要感染症の原因・病原体解析を進め、
感染症コントロールプログラムを確立する体制が動き出し、具体的な成果が創出され始めて
いる。
また、テーマを絞って、適切な科学的技術に基づき、公衆衛生学的見地から感染症対策に
寄与しようとする計画となっている点や、国内外の拠点との連携もスムーズに行われ、成果
があがっている点など、高く評価できる。
②事業の達成度について
1 年足らずの短期間で、RITM と連携し、リファレンスセンターの機能の強化、重要感染症
の病原体解明、疫学調査、感染症コントロールプログラムの確立を計画し、研究が順調に進
んでいることは一定の評価ができる。また、短期間に大きな人材交流成果をあげている。
③成果について
<拠点活動>
RITM のほか、国立サンザラロ病院、国立疫学センターなどとの連携を図るなど、短い期
間で、フィリピン側と体制を整えた具体的作業の達成度は非常に高いと判断される。
今後とも、現地に研究者に加えて事務職員を常駐させている体制を維持して、目的達成の
ための骨格を強化していく必要がある。
また、疫学調査などのためには国立疫学センターやサンラザロ病院との連携を拡充し、研
究基盤を充実させることが急務である。
- 12 -
<研究活動>
RITM に保存している呼吸器感染症由来ウイルスの分子疫学的検査、小児呼吸器感染症の
原因ウイルス調査では我が国と類似のウイルスが検出されており、今後日本との共同研究が
期待される。
また、狂犬病の検体収集システムの構築、呼吸器感染症の疫学調査による実態の解明や、
麻疹対策の科学的評価ができるようになった。
さらに拠点設置後短い期間で、エボラ・レストンウイルスが豚から検出されたことや、ブ
タインフルエンザのウイルス検出法の開発など、具体的な成果をあげている。
④感染症研究人材の確保・養成の状況について
2 名の研究者と 1 名の事務員が現地に駐在している。フィリピンの研究者 8 人を招聘し、
1 人は東北大学の博士課程で教育するなど、人材養成に着手した段階にある。
今後は、日本側の若手研究者の育成のため、計画に積極的に取り込むことが望まれる。
⑤プログラムの推進体制について
持続的な感染症研究のために現地の人と機材の研究体制を整えており、効率の良い推進体
制を構築しようと努力している。
⑥将来展望について
WHO の地域事務局のあるフィリピンはアジアのネットワークの拠点として期待され、更な
る継続により研究拠点の整備拡充を行うとともに、WHO との協力関係を構築していくことが
重要となる。
また、フィリピンでは多くの島からなるという特殊な地理的条件を備えており、その中で
パラワン島やミンダナオ島において多くマラリアが発生しているとい現状があり、今後は研
究テーマにマラリアの研究を取り入れることも重要である。
- 13 -
(3)東京大学グループ
〈研究拠点の概要〉
海外研究拠点においては、中国科学院に属する微生物研究所と生物物理研究所の 2 研
究所に日中連携研究室を設置し、おもにHIV,肝炎ウイルスの解析、レンチウイルス
を中心としたウイルス蛋白の機能・構造解析など、感染症の先端的学術連携研究を行う。
さらに、ハルビンの中国農業科学院・獣医研究所との国際連携研究により、アジアにお
ける鳥インフルエンザウイルスの進化過程の解明を目指す。これらの研究を統合し、円
滑に運用するため、オフィスを北京に設置している。
国内研究拠点においては、次世代ワクチンの研究を実施する。
また、国内研究拠点から参加する各種病原体の専門家、構造生物学者、国際医療協力
の経験豊富な人材等が、中国において感染症国際連携研究を発展させ、恒久的な研究体
制確保するための人材育成に貢献する。
① 総評
本プログラムでは、東京大学医科学研究所を中心とした国内グループが、中国科学院、中
国農業科学院に研究拠点を据えたことにより、極めて緊密な人的関係が構成された。感染生
態学的研究にその典型がみられるように、個別研究グループの成果は、概ね高い学術的レベ
ルのものが得られているのをはじめ、幅広い活動により、原著論文、特許出願、シンポジウ
ム、若手研究者の育成と中国・我が国での採用等、十分な成果をあげている。近年の人獣共
通感染症や感染生態学的に中国は極めて重要な近隣国であり、感染症研究を介してこのよう
な中国との関係を構築し、成果をあげたことは高く評価される。
今後とも、さらなる発展が期待される。
②事業の達成度について
中国において強い影響力のある行政機関や人物との関係が構築されたことは、
今後の更な
るネットワーク研究体制の構築上重要であり、
基本的な拠点体制は達成されたと見ることが
できる。また、これより研究用の検体入手が改善されており、人畜共通感染症、とりわけイ
ンフルエンザウイルス研究に関し、
中国農業科学院ハルビン獣医研究所での研究成果は目覚
しいものがある。
③成果について
<拠点活動>
バイオセーフティレベル2(BSL2)施設の設置や中国科学院重点研究室の設置など中国で
の拠点整備がなされ、研究員の確保や人的交流もスムーズに行われている。的確な機関、人
物との関係を構築することによって、感染症研究に関する拠点形成とネットワークの構築を
達成している。
また、SARS 感染症における ADE のエピトープを初めて決定、証明したが、これらを通じ
て中国拠点のネットワーク化と中国協和医科大学との交流が図られ、
科学技術外交としての
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成果をあげている。
<研究活動>
個別グループにより、学術的レベルの高い研究成果が得られている。例えば、適切な方針
の下に、鳥インフルエンザの感染生態学を疫学的に調査し、実験医学的、分子生物学的研究
を進め、注目すべき成果をあげている。この研究内容は、社会還元、日本へのフィードバッ
ク、臨床応用のいずれの観点からも評価できる。また、HIV の膜融合リアルタイムアッセイ
樹立により特許を得たことで、ワクチン開発に寄与できる成果をあげている。学会発表や論
文発表数も活発に行われ評価できる。
④感染症研究人材の確保・養成の状況について
中国での人材育成にはさまざまな困難があると思われるが、将来に向けての基盤整備とし
ては評価できるものの、具体的な人材育成の実りという観点からは、より一層の努力が必要
である。今後は、さらに中国の国内事情の理解を深め、日中の架け橋となるような人材を輩
出していただきたい。
⑤プログラムの推進体制について
中国との信頼関係の構築にはかなり困難な状況にある中で、代表者のリーダーシップが発
揮され、効果的な拠点の選定やネットワークの構築により、相手国との信頼関係が構築され
つつある。
今後は、国内の研究グループと中国の研究拠点との連携を強化する努力が期待される。
⑥将来展望について
中国は、新興感染症の発生地域として極めて重要で、我が国にも地理的に近いため、より
広汎な中国内の研究ネットワークを形成する必要がある。また、中国の政治・経済的重要性
を考えれば、中国との共同医学研究に政策的な付加価値は大きいと思われる。研究拠点の整
備により、今後の研究の進展が期待できると考えられ、今後は、長期的な観点から現在の拠
点を中核に中国全土に研究開発のネットワークを拡大する努力が重要である。
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(4)東京医科歯科大学グループ
〈研究拠点の概要〉
国立大学法人東京医科歯科大学は、ガーナ共和国・野口記念医学研究所(以下、
「野口研」
という。)に拠点を設置して共同研究を推進し、日本・ガーナ両国の感染症研究向上と人材
育成に資するとともに、有効な疾病対策システム構築を図る。
国立大学法人東京医科歯科大学は野口研における研究拠点形成のための調査と西アフリ
カ地域に特徴的なウイルスおよび寄生虫感染症の医学生物学的研究及びその疾病対策法確
立に関する研究を、結核研究所はガーナの薬剤耐性結核の調査とその細菌学的・疫学的研究
を実施する。
①総評
本海外研究拠点での研究は、西アフリカの感染症に目配りする上で、必須である。また、
国際協力機構(JICA)の無償資金協力によって 1979 年に設立され、長期間技術支援プロジ
ェクトが実施され、感染症研究の活性化が期待されている野口研との人的交流、人材育成、
研究推進は重要である。比較的ニーズが高く重要な感染症であるHIV、結核、寄生虫を中
心にテーマを絞って研究を開始しているが、具体的成果は今後に期待したい。
今後とも野口研において先行している他の研究システムとの協調体制の構築が重要であ
り、長期的展望を明確にして研究を継続するとともに、野口研は施設として狭隘であり、設
備も老朽化していることに配慮した予算が鍵となると思われる。
②事業の達成度について
ガーナの国内事情と海外研究拠点の野口研の老朽化などで、研究の進展は難渋を極めたこ
とが想像でき、具体的成果の創出はこれからである。
③成果について
<拠点活動>
ガーナ共和国の野口研に拠点を設置し、世界の重要な感染症である HIV、寄生虫、結核を
ターゲットに検体収集の体制を整え、研究を開始したところであり、今後、研究所内の体制
強化の努力が必要である。
<研究活動>
計画通り、HIV と関連するトキソプラズマ症の血清疫学データをまとめ、薬剤耐性結核菌
の検査体制の構築が進みつつあるが、まだ研究は緒についたばかりである。
④感染症研究人材の確保・養成の状況について
東京医科歯科大学より2名、結核研究所より1名の常駐研究者を派遣し、相手国協力機関
と学術交流協定を締結し、計画的な研修・共同研究体制をとっている。積極的に技術移転も
行っていることも一定の評価ができる。
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また、国内若手研究者の研修の機会として本プログラムを活用しようと努力が見られる。
一方で、現地の研究員の養成に関しては、もう少し積極性が望まれる。
⑤プログラムの推進体制について
HIV は国家エイズコントロールプログラムと、寄生虫は保健センターと、結核は国家結核
対策プログラムと、それぞれ連携して効率的に研究を進めているが、まだ、研究協力体制を
構築する途上にある。
⑥将来展望について
今後、アフリカという遠隔地でインフラ整備に乏しい国で、ガーナ共和国が国の施策とし
て求めるテーマと一致する研究体制を構築していくことが望まれおり、その研究を確実に推
進するために施設等の整備を進めるとともに、研究費等の資金面でも考慮する必要がある。
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(5)大阪大学グループ
(独立行政法人
農業・食品産業技術総合研究機構
動物衛生研究所)
〈研究拠点の概要〉
大阪大学微生物病研究所を中心に、大阪大学各部局に属する感染症研究グループ、および
国立大学法人帯広畜産大学、国立大学法人九州大学生体防御医学研究所、独立行政法人農
業・食品産業技術総合研究機構動物衛生研究所、大阪府立公衆衛生研究所が連携して、呼吸
器感染や消化器感染をはじめ細菌やウイルスによる感染症を網羅的に研究する体制を作り、
そしてタイ王国保健省医科学局およびタイ王国農務省畜産振興局の協力のもと国立予防衛
生研究所及び家畜衛生研究所内に設置した感染症共同研究拠点(それぞれ RCC-ERI 及び
ZDCC)において、タイ側研究機関との感染症共同研究を行う。
さらに、藤田保健衛生大学、国立大学法人東北大学、国立大学法人神戸大学も参画し、
RCC-ERI を活用して共同研究を展開する。また、海外研究拠点において、我が国及び東南ア
ジアの若手感染症研究者へ研修を行なって研究遂行を容易ならしめ、
グローバルな新興感染
症の日本への被害を軽減し、新興・再興感染症制圧に国際的連携で対応し得る体制を構築し、
研究を実施する。
① 総評
長年にわたって構築されたタイの研究機関および専門家との連携を生かし、大阪大学微生
物病研究所を中心とする研究グループがタイ国立予防衛生研究所内に共同研究拠点を設け、
呼吸器感染症、消化器感染症、細菌・ウイルス感染症等を網羅的に研究する体制を作り上げ
たことは、大いに評価される。
また、日本・タイの両国のメンバーによるテレビ会議システムを活用した合議体制を構築
するとともに、相互に専任スタッフを雇用し、共同研究を円滑に進める仕組みも構築し、現
地拠点を活用した研究により、現地研究者が筆頭・共著となる論文報告も多く、拠点におけ
る研究推進と次世代人材育成の実績は高いと判断される。
さらに、タイにおいて遺伝子配列決定を迅速に実施する体制確立の努力は、単に検体入手
にとどまらず、現地の研究体制を確立し、現地発の情報発信体制を作ろうとするもので、将
来的にも有用であり、高く評価できる。
②事業の達成度について
日本・タイ感染症共同研究センターは豊富な研究人材や高い研究レベルを背景に、目的に
沿った研究がなされており、拠点整備及び研究内容については、所期の目的を十分に達成し、
費用対効果も十分にあったと評価できる。
なお、鳥インフルエンザ発生時に、タイ側の事情により H5N1 検体を取扱えなかったこと
は、外部の要因によるものとはいえ、今後の研究活動にとって課題となった。必要に応じ、
関係省庁と連携しながら対応していくことも重要である。
③成果について
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<拠点活動>
タイ拠点は十分に整備され、恒常的な活動が行われているとともに、国内ネットワークの
形成や、他の東南アジア諸国との連携体制なども構成されつつある。タイ国内の評価は高く、
科学技術外交の面からも一定の成果が見られる。
また、両国の研究協力を円滑に進めるために、科学諮問委員会や運営協議会など合議の場
を形成したこと、タイ国内への社会還元のためにシンポジウムや公開講演会を開催したこと
も努力として評価できる。
<研究活動>
インフルエンザ、コレラ、デング熱などを対象に、極めて多くのグループがそれぞれ専門
分野の各論的研究を実施し、学術的成果をあげたこと(共同研究 22 件、共同研究発表 400
件、特許出願 18 件)は高く評価される。
特に、RAPID の開発、新興感染症の病原体分離・同定、ワクチン開発など、いずれもわが
国益に直ちにつながるものであり、高く評価できる。
また、疫学研究についても、コレラの感染経路の同定などの研究成果も創出しつつある。
さらに、ヒトインフルエンザウイルスの疫学研究の認可も取得し、将来の鳥インフルエンザ
研究へつながる橋頭堡を形成している。
研究交流の側面からは、臨床分離株の入手や疫学調査などで日タイ交流が実りつつある。
④感染症研究人材の確保・養成の状況について
大阪大学微生物研究所所属の大学院生を毎年 1~3 名タイ国に派遣するとともに、タイ NIH
所属若手研究員を毎年 3~14 名、大阪大学微生物研究所に招聘するなど、人材交流、人材育
成でも成果をあげている。
⑤プログラムの推進体制について
日タイ両国の共同研究・共同事業を効率よく支援する合議体制が構築されている。また、
中核機関である大阪大学とタイ予防衛生研究所(NIH)との人的ネットワークや、情報ネッ
トワークが充実しており、今後も体制の拡充が期待できる。
しかし、研究については、各論的グループが多く、それらのコンセンサスや共同研究を推
進する体制がまだ確立していないように見受けられる。
⑥今後の展望について
本拠点は、鳥インフルエンザなどに加えて、HIV 感染や我が国と共通するヘリコバクター
感染など、我が国の問題を解決するために必要な研究の場であり、今後も強化する必要があ
る。
一方で、タイに拠点を置き、連携することによって真に意味のある研究を促進すると判断で
きるテーマやグループに絞り込みを行う必要があるとともに、今後は、基礎的な研究と疫学
研究の両輪体制が機能することを期待したい。
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また、タイには2つの海外研究拠点が設置されており、両拠点間においても、より緊密な
連携の下、効率的・効果的に研究を進めていくことが重要である。
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(6)神戸大学グループ
〈研究拠点の概要〉
インドネシアのアイルランガ大学熱帯病センター(TDC)に形成した神戸大学新興・再
興感染症国際共同研究拠点において、日本人研究者を常駐させ、バイオセーフティーレベル
3(BSL3)施設を新設・稼働した。鳥インフルエンザ、B型、C型及びE型肝炎、デング熱・
デング出血熱及びその他のフラビウイルス感染症、感染性下痢症の4研究課題について共同
研究を実施し、それら感染症の診断、治療及び予防ワクチンの開発・改良に資する情報を集
積する。
また、国内支援体制の強化を含めたプログラム全体の推進を図る。
① 総評
神戸大学は、アイルランガ大学医学部との約 40 年前からの交流により培った信頼関係を
もとに、国際協力機構(JICA)の無償援助を受けて、アイルランガ大学熱帯病センター(TDC)
に海外研究拠点を設置し、相手国研究者との意思疎通も極めて良好な環境の下で、研究を着
実に進めている。
インドネシアは、鳥インフルエンザ(H5N1)による死亡例がもっとも多い国であり、その
国に海外研究拠点を設け、BSL3 施設を新設、稼働させた。日本人研究者も3名常駐し、感
染症研究、日本・インドネシア両国の人材育成が進んだ。鳥インフルエンザ(H5N1)の最先
端現場での共同研究で十分な成果をあげたことは、わが国の国益にもかなうものであり、ま
た相手国の感染症研究のレベルアップにも貢献した。
また、研究課題のほとんどがインドネシアの事情にあったテーマに絞って計画され、国内
拠点とも緊密な連携を図りつつ、人獣共通感染症について評価すべき調査を行うなど、現地
をベースとした研究を実施し、成果をあげており、海外研究拠点を単なる検体収集の場所と
してではなく、共同研究拠点として確立していこうとする視点が明確で、その活動は高く評
価できる。
さらに、国内の研究体制として感染症センターを神戸大学内に設置したことや、インドネ
シアの鳥インフルエンザ情報を伝えるウェブサイトの開設したことも評価できる。
②事業の達成度について
本格的な活動は 2 年に過ぎないにも関わらず、インドネシアに BSL3 施設を設置し、疫学
調査、検体収集を行い、現地拠点で解析研究を行っている点は、拠点の設置とその活用が理
想的に実施されていると判断できる。
また、研究目的を鳥インフルエンザ、B、C、E 型肝炎、デング熱、感染性下痢症にしぼり、
効率的に研究が進められ、成果をあげている点も評価できる。
③成果について
<拠点活動>
長年にわたって築かれてきた神戸大学とアイルランガ大学との連携関係が人材確保、育成
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に有効に機能している。インフルエンザに関して現地でのアウトブレークに対処する BSL3
施設を新設・稼働させ、効率のよい現地ベースの研究がなされていると判断できる。
<研究活動>
鳥インフルエンザやB型肝炎、デング熱のゲノム疫学的研究成果があがっており、将来の
感染症研究の基盤を形成しつつある。特に、ブタ、ニワトリの鳥インフルエンザに関する疫
学調査を通じ、ヒトに感染し得る鳥インフルエンザを検出したことは、H5N1 型インフルエ
ンザウイルスの広がりを強く示唆する極めて重大な知見である。
④感染症研究人材の確保・養成の状況について
兵庫県立健康環境科学研究センターと連携大学院を設置し専門家の確保を手がける他、博
士課程の大学院生を海外拠点へ派遣(一時雇用)し積極的に実地教育に努めている。
今後は、
現地の若手研究者の養成についても組織的に推進する必要がある。
⑤プログラムの推進体制について
医学医療国際交流センターの組織再編、神戸大学内における感染症センターの新設、東京
大学グループとの連携など推進体制構築に尽力している。
特に、東京大学とインフルエンザ研究に関して密接な連携があることは、今後の拠点形成
プログラム推進に参考とすべき事項であり、他の研究課題においても他グループと定期的な
連絡体制を図ることにより、より効果的な研究成果の創出が期待される。
⑥将来展望について
現地拠点は単なるサンプリング窓口となり、持ち帰って我が国での研究に使用しがちであ
るが、神戸大学の現地主義に基づく努力は、必ずや相手国研究者の高い信頼を勝ち取ること
ができ、今後の成果の創出につながるものである。
鳥インフルエンザのパンデミックが懸念されている現在、
最も感染者の死亡例の多いイン
ドネシアに研究拠点を形成する意味は大きく、さらにネットワークを拡充し、積極的にフォ
ローアップしていく必要がある。また、我が国でも感染者の多い、B型肝炎やC型肝炎の診
断、治療薬の開発の基礎研究も期待できる。
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(7)岡山大学グループ
〈研究拠点の概要〉
インド国コルカタ市にある「インド国立コレラ及び腸管感染症研究所(NICED)」内に、
「岡山大学インド感染症共同研究センター」を設置し、新興・再興感染症の研究を行う。
展開する研究は、インド国において現在発生している、あるいは発生が危惧される感染
症の治療や予防に有用な知見や技術を獲得あるいは開発することを目的とした研究で
ある。目的を達成するためには、研究内容は微生物の分子生物学的解析、疫学調査、予
防医学の実践など、幅広い分野にわたる。
研究の遂行のためには、インド現地でのサンプルの入手、さらには入手したサンプル
の新技術手法での解析が求められる。これらを実践するためには、このプログラムを統
括する委員会や日本国内及びインド国内での共同研究体制を構築する必要がある。その
ために、 岡山大学に本プログラムの運営にたずさわる「岡山大学新興・再興感染症拠
点形成運営委員会」を設置し、インドにおいてはインド人研究者と調整を図る「連絡協
議会」を、国内では研究センターの研究を支援する「支援研究者連絡会」を設置してい
る。
① 総評
岡山大学は、国際協力機構(JICA)が援助してきたインド国立コレラ及び腸管感染症研究
所(NICED)を活用し、現在までに積み上げた科学的実績、交流・友好関係などを生かして、
海外研究拠点を形成している。当海外研究拠点では、インドで重大な問題となっている下痢
症に的を絞り込み、体系的な研究が現地でなされているとともに、インド及び国内拠点との
連携、人的交流が非常に活発になされており、多くの成果をあげている。特に、海外研究拠
点では、発展途上国として初めてとなる積極的疫学研究を実施し、1000 例以上の症例を集
めるなど成果を挙げている。また新種のロタウイルスの全ゲノム解析を行うなど基礎研究で
も進展があった。
一方で、相手国にとってはワクチン等による感染者の減少など実際的な成果を求める時代
に入っていると思われ、
「国際貢献」という観点から研究の進展が望まれる。
②事業の達成度について
岡山大学インド感染症共同研究センターには特任教授以下、専任事務員職員を含む 3 名が
常駐し、インドの若手研究者多数と共に極めて活発に研究を展開している。インド人研究者
のレベルの高さも相まって、拠点形成及びその活動は妥当な計画の下、十分所期の目標を達
成している。特に、人材育成計画が進んでいることも評価できる。
また、予算規模は少額であるが、研究のフォーカスを絞り、下痢原因微生物の積極的疫学
調査と検査技術の改良、病原性の解析など概ね所期の目標を達成しており、費用対効果が極
めて高い実力ある拠点になっている。
③成果について
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<拠点活動>
下痢症が蔓延するインドの国立コレラ腸管感染症研究所(NICED)と共同研究センターを
整備したことは、極めてニーズに合った取組であり、科学技術外交としても貢献している。
スムーズな連携体制の構築により、インドでの研究サンプルの収集を可能とし、発展途上国
では世界初の下痢患者 1107 人を対象とした積極的な疫学調査を遂行するなど、基礎研究に
関しても十分満足できる成果があがっている。
<研究活動>
海外研究拠点設置後の期間が短いにもかかわらず、赤痢ワクチンの開発、新種のロタウイ
ルスの遺伝子配列の決定、コレラ菌の増殖条件の解明は高く評価できる。
また、赤痢ワクチンについてはインド政府とも協力して将来計画をたてており、日本—イ
ンド協力によりインドに蔓延している下痢性細菌感染症へアプローチする姿勢は高く評価
できる。
④感染症研究人材の確保・養成の状況について
インド国の大学院生を指導できる体制を整備し、共同研究を行うことで将来の人材育成と
友好に寄与しており、拠点形成後短期間で着実に人材交流や、相手国との協力が進行してい
ることは評価できる。
⑤プログラムの推進体制について
インドの研究者と連絡協議会を設置するなどし、相手国との連携体制を構築しており、イ
ンド国内の評価も極めて高い。
岡山大学では過去 20 年にわたりインドと交流があるがそれに甘んじず、日印感染症シン
ポジウム、他の拠点グループ(ハノイ長崎大グループ)との連携フォーラムの開催など積極
的に実施し、プログラム推進をアピールしている。また、そのイベントに現地の研究者、専
門家を積極的に参加させ人材交流や現地の研究者育成に尽力している点は大変評価できる。
⑥将来展望について
このグループは長年にわたりインドの研究機関との連携があり、今後の成果の創出が待た
れる。
水由来伝染性疾患として最も重要な下痢性伝染性感染症は途上国の灌漑用水開削計画と
も密接に関連した重要課題であり、
今後のアフリカとの協力関係推進でも求められる研究で
ある。
今後、インドと日本の経済協力も拡大し、インドを訪問する日本人も増加すると思われる。
インドを訪問した日本人を悩ませるのが下痢症であり、今回のテーマの研究が進めば、イン
ドの国民の福祉に貢献するだけでなく、我が国の経済発展にも寄与するだろう。
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(8)長崎大学グループ
(国立国際医療センター)
〈研究拠点の概要〉
長崎大学熱帯医学研究所を核とし、国立国際医療センターを協力機関とする国内拠点と、
ベトナム・ハノイの国立衛生疫学研究所(NIHE)を核とし、バックマイ病院が協力する海外研
究拠点により構成される。
国内拠点では感染症研究に最も重要な臨床・疫学研究分野を中心として、人を対象とした
新興再興感染症の治療・予防介入研究のための基盤構築をして、研究を行う。
また、国内および海外で世界レベルの研究を遂行するためのノウハウを倫理面、データ管
理面からサポートするとともに、国内外の臨床サンプルから得られた細胞や DNA、および遺
伝情報の管理センター機能を担う。
ベトナムは熱帯アジアの中で開発と近代化が急速に進行しており、新興感染症の脅威にさ
らされ続けている。本拠点ではベトナムに常駐型のラボを設置し、そこを中心として国内拠
点とも連携しながら、これら新興感染症が流行する根本要因を科学的に追及し、新しい予防
対策に資する。また、当該拠点の共同利用を推進し、北海道大学人獣共通感染症リサーチセ
ンターのサーベイランス研究等との連携を図る。
さらに、拠点での急性呼吸器感染症の検体(咽頭スワブ、血液)を採取・保存し、将来的
な新興感染症の原因菌・ウイルスの迅速同定と、診断・治療法の早期開発に備える。
なお、本研究は国立大学法人長崎大学、国立国際医療センター、国立大学法人北海道大学、
国立大学法人東京医科歯科大学、国立大学法人高知大学、国立大学法人大分大学、国立大学
法人琉球大学、学校法人東海大学、学校法人京都産業大学、独立行政法人国立病院機構長崎
医療センターと共同で業務を行う。
① 総評
本拠点は、基礎と臨床の理想的な研究体制を構築している。長崎大学を中心とする国内グ
ループが水平協力関係を構築しつつ、ベトナムに海外研究拠点を形成し、さらにベトナム内、
インドシナ3国にまたがるネットワークを構築するとともに、人材養成と共同研究を進め、
ほぼ目標通りの成果をあげており、評価できる。
現地でなければできない研究課題を追求し、急性に経過する感染症(インフルエンザなど)
や慢性に経過する感染症(HIV、結核など)に対する対策上必要な研究が進められており、
また、病原体媒介昆虫の研究が取り入れられていることにも特徴がある。
また、ベトナムにおける研究体制構築は、我が国の高病原性鳥インフルエンザ感染防御や、
抗ウイルス剤、迅速診断薬の臨床評価の場としても極めて重要であり、さらには、現地のコ
ホートによる感染症と宿主要因などの関連研究も注目に値する。
多くの部門で目的の達成度は高く、多くの成果があがっている。
②事業の達成度について
南北に長い地勢状の利点を活用して、蚊の媒介性研究などで独自の研究基盤があるベトナ
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ムにおいて、人獣共通感染症の疫学上の知見が得られたことや、インフルエンザの新規薬の
実用化に向けた臨床評価の場として活用している段階に入ったこと、
小児重症下痢症がウイ
ルスによるものが多いことを見出したことなど、所期の目標・計画通りの成果を上げている。
③成果について
<拠点活動>
現場主義、臨床疫学研究を重視しており、ハノイの国立衛生疫学研究所に長崎大学のフレ
ンドシップラボを設置、バクマイ病院に国立国際医療センターの拠点事務所を設置し、基礎
研究と臨床研究の両論で長期的な感染症研究を進める効率的な体制を敷いている。いずれも、
日本からの臨床医も含めてスタッフが常駐、基礎研究では博士研究員を日本から派遣、長期
的な研究を行っている。
また臨床研究では国内の主要病院とのネットワークも形成されつつ
あるなど、拠点として極めて理想的で活発な活動が行われている。2 海外研究拠点間の相互
連携のさらなる強化が望まれる。
今後の地道な広報活動により、科学技術外交上の貢献も期待できる。
<研究活動>
積極的な検体や情報の収集により、鳥インフルエンザや、デング熱などで有望な研究成果
が得られており、HIV の副作用と薬剤代謝酵素の SNPs の研究のため、36 万人のコホートを
設立するなど、臨床的に有効性の高い研究にも着手している。
また、デング熱重症化遺伝子の GWAS などの基盤を形成し、我が国で開発された抗ウイル
ス剤や診断薬の臨床評価も進めるなど、ベトナム政府の積極的な協力の下、トランスレーシ
ョナルリサーチの拠点ともなっており、今後に期待がもてる。
加えて、迅速診断キット開発など目標以上の成果をあげ、その有用性も高いと思われる。
④感染症研究人材の確保・養成の状況について
人材の確保、養成については明確に意識され、研修プログラムなども進められている。本
プログラムに参加した若手研究者が継続して専門職につき、次の世代を育成する仕組みの検
討を期待したい。
また、ベトナムにおける基礎研究の強化の観点から、今後長期的に維持すべき研究テーマ
に関しての現地専門家を育成することは国際貢献としても必要である。
⑤プログラムの推進体制について
国内と海外研究拠点と研究目的を明確にするとともに、ハノイ市内の小児病院、結核病院、
ホーチミン医科薬科大学間を TV 会議システムで連携させるなど、日本とベトナムとの間で
共同研究を進める協議体制が構築されている。長崎大学内にもアジア・アフリカ感染症研究
施設を設置し、民間会社とも研究協力体制をとっており、今後の成果が期待できる。
一方で、ベトナムの材料を用いて行う非常に多くの研究テーマが計画されたが、今後はテ
ーマの重点化が必要である。
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⑥将来の展望について
べトナムは SARS の最初の患者報告も行われたように、アジアの感染症モニタリングの重
要拠点である。鳥インフルエンザに加え、熱帯性の感染症、そして HIV 感染などの研究では
ベトナムは極めて重要な位置を占める。今後、我が国で開発された新薬や診断薬の評価を行
う場としても重要性が増している。
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(9)独立行政法人理化学研究所横浜研究所
感染症研究ネットワーク支援センター
〈研究拠点の概要〉
本プログラムでは、複数の海外研究拠点が設置されている。本プログラムを効率的
かつ効果的に推進していくためには、参画する各研究機関間の情報共有及び連携強化、
各研究拠点及び内外の研究機関等との連絡調整、最新の研究動向調査、普及・啓発等
が重要であることから、この業務を担う統括的な組織として支援センターを運営し、
本プログラムの活動に対する支援を行う。
上記の目的を達成するため、支援センターは以下の業務を行っている。実施業務
は以下のとおりである。
(1)プログラムの総合的推進
本プログラムにおける研究拠点間のネットワークの構築を支援するとともに、プロ
グラム運営の支援を実施する。研究拠点ネットワーク支援の実施に際しては、理化学
研究所のこれまでの経験を活かし、各研究センターをはじめ内外の関係機関との協力
及び連携を図るとともに、支援のために必要な情報収集、各種調査等を行う。
また、感染症研究推進委員会の運営支援及び研究拠点代表者等で構成される感染症
研究実施会議の運営を行うほか、各研究拠点との情報交換を行う。
(2)情報収集及び提供等
本プログラムを紹介するシンポジウム・ワークショップ等を各研究拠点と調整の上
で開催すること等により、感染症研究に対する理解増進及び各研究拠点間における情
報の共有並びに人材の育成を行う。
また、新興・再興感染症研究に関する一般国民向けの普及のため、ホームページ等
による情報提供を行う。
さらに、国内外の最新の研究動向を高度な研究能力を持った研究者を中心に調査し、
本プログラムに関わる研究者に情報提供する。
(3)支援業務
本プログラムの円滑な実施のため、海外研究拠点の設置・運営に必要な共通的事項
に関する情報収集及び各研究拠点への提供を行う。
また、各研究拠点における共同研究(知的財産権の取り扱い等についても含む)に
ついての連絡調整などを行う。
① 総評
本プログラムを効率的に進め成果をあげるためには、相手国内、日本国内共に、情報を共
有し連携を強化することが必須であり、そのために支援センターの果たす役割はきわめて大
きいが、企画、情報、業務の 3 チームを編成し、各研究拠点との連携・調整や、広く感染症
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対策の啓発活動や情報発信を行うなど、十分に求められる役割を果たしてきたと高く評価で
きる。
今後とも国際貢献の役割が強い本プログラムにおいて、支援センターはより一層の機能強
化が望まれる。
②事業の達成度について
平成 17 年に本組織を設置し、企画、情報、業務の 3 チームを配置し、常勤 9 名を確保し
ている。
また、このプログラムが単なる研究者の興味に止まらず、我が国の感染症防御体制の充実
に結びつくように支援を行った。研究推進委員会、事務担当連絡会、一般国民向けの講演会
やホームページの充実などの事務局機能に加え、研究関係機関の調整やプログラム全体の戦
略立案支援などに、活躍したことは評価できる。
③事業の成果について
研究プロジェクトの円滑な推進と WEB による情報発信、メールマガジン「月刊
くるにど」
の送信、多くの講演活動で所定の成果を挙げている。特に海外拠点形成で問題となる相手国
との交渉や法的対応の調査・支援を行ったことは極めて大きな成果に結びついた。また診断
や抗ウイルス剤について開発企業と交渉し、海外拠点での臨床研究などに結びつけるなど、
トランスレーショナルリサーチを推進したことは大いに評価できる。
特に RAPID の活用を実
際にザンビアで発生した不明熱の診断に応用できたことは、高く評価できる。
④研究支援人材の確保・養成の状況について
リサーチフォーラムや講演会の開催を通じて、
研究者に対して情報交換や人的交流の場の
提供を行い、人材育成に配慮した取り組みを行っている。
今後とも、人材育成に関して各研究拠点と連絡して、なお一層の努力が重要である。
また、
研究者が研究に専念できるよう、特許申請など国際的な制度や法律に詳しいアドバイザーの
確保を検討することも重要である。
⑤推進体制について
JICA が ODA 予算によって途上国に整備した施設を活用・強化し、活性化したことは高く
評価される。またそのことが当該国の中でも、国際的にも評価されている。また、出張調査
や現地対応など、拠点形成のための実行力のある支援を行い、企業との共同研究の仲介機能
も充実させており、充分な役割を果たしたと評価できる。
⑥将来展望について
今後は「支援」から「推進」へと支援センターの一層の機能強化を図り、国民の感染症対
策を担う感染研や、JICA 、WHO、 FAO などの国連機関や外国の代表的な大学、研究機関(仏
国パスツール研究所、米国CDC等)、さらには民間企業との連携・協力体制を構築するた
- 29 -
めの調整役と、本プログラムの牽引役を担う組織として活躍することを期待している。
また、国民に対して積極的に情報発信を行い、感染症研究の重要性などの理解を得る努力
を続けていただきたい。
- 30 -
Ⅴ
おわりに
本プログラムにおいては、国内の各拠点が海外において感染症の共同研究拠点を設置
し、研究を推進するという取組であるが、各研究機関等の努力と協力により、拠点の準
備が順調にすすみ、広い領域の専門家が一体となって現地研究者・専門家と共に研究を
進めるという、かつてない研究体制が構築された。また、新興・再興感染症に関する知
見・情報の蓄積だけでなく、国際的な人材育成への貢献が図られており、科学技術外交
の側面からも重要な役割を担っている。
今後は、基礎研究のみにとどまらず、我が国の感染症対策の臨床研究者や疫学研究者
とも連携し、真に我が国の感染症対策に資するネットワーク形成に進む段階に来ており、
永続的な研究拠点の形成が課題となる。このためにも、引き続き研究体制を維持し、人
材養成と社会への情報発信を行うとともに、拠点間のより一層の連携化はもとより、厚
生労働省関係機関や海外機関との連携を含めた感染症研究ネットワーク機能や協力関
係の強化を行い、予防・診断薬や新薬の開発など具体的な新興・再興感染症対策の強化
の実現に資することが期待される。
報告書のまとめとして、今後、本プログラムをより強力に推進していくにあたって、
留意すべき点を指摘しておきたい。
○
現段階では、本プログラムは、我が国の感染症対策の中核機関である感染研や国際
的な研究機関等との直接的な連携がとれていないなど、国内外の感染症対策における本
プログラムの位置づけが必ずしも具体的になっていない。今後、本プログラムが我が国
及び国際的な感染症対策に資する研究基盤となるよう、感染研や国際的な研究機関等と
の強固な連携体制構築に向けて、関係者における一層の検討を期待したい。
○
海外研究機関(仏国パスツール研究所、米国CDC等)の先行する取組を見るまで
もなく、海外に設置した研究拠点は、数十年にわたる現地での地道な活動を継続するこ
とにより初めて、相手国から信頼されるパートナーとなるものである。
計画的に研究成果の創出を促すことは必要であるが、同時に長期的な視点で研究体制を整
備・維持することが重要であり、本プログラムによる取組が長期的なものとして継続される
ことが強く望まれる。
最近でも、世界中で新型インフルエンザが猛威を振るうなど、新興・再興感染症に対
する社会不安は払拭されていない状況であることから、引き続き各海外研究拠点を活用
し、新興・再興感染症の基礎的知見の集積につとめ、国民の暮らしの安心・安全の確保
に向けて、さらなる研究費の確保を含めて、感染症研究を強力に推進していくことを期
待する。
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(参考資料)
「新興・再興感染症研究拠点形成プログラム」評価委員会
かきぞえ
ただお
○垣添
忠生
さがら
国立がんセンター
委員
名誉総長
ひろこ
相楽 裕子
横浜市立市民病院感染症内科非常勤医師(前感染症部長)
しぶや
澁谷
いづみ
すずき
まもる
鈴木
守
すなかわ
けいすけ
砂川
慶介
半田保健所
上武大学
みつやま
まさお
光山
正雄
みやた
みつる
宮田
満
やまにし
こういち
山西
弘一
やまもと
やすひろ
山本
保博
(五十音順
愛知県
所長
学長
北里大学
北里生命科学研究所
京都大学
大学院医学研究科長・医学部長
日経BP社
主任編集委員
独立行政法人医薬基盤研究所
理事長
日本私立学校振興・共済事業団東京臨海病院
○:主査)
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病院長
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