...

2010 年 2 月 27 日チリ・マウレ地震 被害調査報告書

by user

on
Category: Documents
15

views

Report

Comments

Transcript

2010 年 2 月 27 日チリ・マウレ地震 被害調査報告書
2010 年 2 月 27 日チリ・マウレ地震
被害調査報告書
平成 22 年 5 月 10 日
日本地震工学会・日本建築学会 調査団
目
次
まえがき
・・・
1
1.1 調査団の目的・構成
・・・
2
1.2 日程および調査項目
・・・ 2
1.3 地震の諸元と被害統計
・・・ 3
1.概論
2.自然条件および社会条件
2.1 一般地理
・・・
7
2.2 過去の地震活動
・・・ 8
3.地震および地震動
3.1 地震の概要
・・・ 11
3.2 強震記録
・・・ 13
3.3 強震観測点での地盤特性
・・・ 21
3.4 建物被害地点での常時微動の特性
・・・ 26
3.5 まとめ
・・・ 32
4.建築物の被害
4.1 RC 造建物の被害
・・・ 34
4.2 RC 造以外の建物の被害例
・・・ 81
4.3 非構造要素の被害例
・・・ 89
4.4 主な調査地と被害の特徴
・・・ 93
4.5 1985 年の地震で被災した後に補修・補強した建物の被害例
・・・ 99
4.6 調査結果から学ぶこと
・・・105
5.地盤および地質
5.1 チリの地形、地質
・・・107
5.2 地盤の関わった被害
・・・108
6.まとめ(今回の調査で判明した事、今後の対応及び検討事項)
・・・117
付録(チリ側より入手した資料およびチリ国とのセミナーの概要など)
・・・119
調査団メンバーおよび執筆担当
日本地震工学会調査団長:北川良和(慶応大学・元教授) 第 1、2、6 章
調査団員:小長井一男(東京大学・教授) 第 5 章
調査団員:翠川三郎(東京工業大学・教授) 第 3、6 章
日本建築学会 調査団長:小林克巳(福井大学・教授) 第 4 章の 4.1 1)∼3),5), 4.4∼4.6
調査団員:香取慶一(東洋大学・准教授) 第 4 章の 4.1 4), 4.2, 4.3
まえがき
Preface
2010 年 2 月 27 日(土) 06 時 34 分(UTC、現地時間 03 時 34 分)南米チリ国マウレ州沿岸部付
近(チジャン北北西 100km、コンセプシオン北北東 115km)を震源とする M8.8(Mw)の地震が発
生した。この地震では、震源地付近での津波による甚大な被害、構造物の被害はもとより、震
源から約 330km も離れた首都サンティアゴ市及びその周辺地域でも構造物被害をもたらした。
震源域がチリ中部∼南部にかけて長さ約 500km、幅 100kmと大きく、種種の被害が広い範囲
で発生していることが予想された。この地震に対して現地調査を行うことは、チリ国及び我が
国の今後の地震防災(東海・東南海・南海地震対策等)に役立つものと考えられた。
この様な状況のもと、日本地震工学会、(社)土木学会、(社)建築学会、(社)地盤工学会が調査
団を派遣する事を決定したため、日本地震工学会が幹事学会となり合同調査団が編成された(団
長:北川良和、幹事;安田 進、翠川三郎)。現地派遣の日時、期間、調査地等について調整の
結果、3 月 27 日(土)∼4 月 07 日(水)、
(団長、幹事2名は 08 日まで)、の期間、各分野での専門
家 16 名から成る合同調査団が被災地域に派遣された。
合同調査団の目的は以下の通りである。
・ 地震工学・建築構造分野野からの被災調査と情報収集
・ 土木構造物(特に橋梁)分野からの被災調査と情報収集
・ 津波分野からの被災調査と情報収集
・ 地盤工学分野からの被災調査と情報収集
被災地が広域にわたっていることを考え、これら4つの分野毎にグループを編成し、各グル
ープ毎に被災地現場の状況を調査すると同時に大学や地震防災関連部局等の関係者と意見交
換。情報収集を行った。
本報告書は上記グループのうち、日本地震工学会、(社)日本建築学会より派遣さメンバーに
よって調査された地震工学・建築構造分野、地盤工学分野での調査結果を取りまとめたもので
ある。尚、橋梁、津波分野での被災調査結果については(社)土木学会、地盤工学分野での被災
調査結果については(社)地盤工学会のホーム頁を参照されたい。
チリ国は我が国と同様、環太平洋地震帯に位置する地震国であるため、これまでに耐震工学
関連の研究・技術協力が行われている。なかでも、1984∼1997 年の期間行われた(独法)国際協
力機構(JICA)による研究協力プロジェクト「チリにおける構造物の耐震設計」、「チリにおける
構造物群の地震災害軽減技術」やフォローアップ個別専門家派遣など、長期にわたっての協力
が行われてきた。
海外の現地調査にあたっては、相手国等の協力が不可欠である。これまでの研究協力を踏ま
え、今回の被災調査に際し、チリ・カトリカ大学、チリ大学、及び在チリ日本国大使館、JICA
チリ支所などから多大のご協力を得た。
ここに関係各位に感謝の意を表するとともに、本調査結果が我が国の地震災害対策、ひいて
は世界の地震被災国の地震災害軽減対策に役立つことを祈念する次第である。
平成 22 年 5 月 10 日
日本地震工学会、(社)日本建築学会
調査団一同
1
1.概論
General Remarks
1.1 調査団の目的・構成
(Purpose and 0rganization of Joint Survey Team)
1) 目的
2010 年 2 月 27 日(土) 06 時 34 分(UTC)、現地時間 03 時 34 分に発生したチリ・マウレ(Maule)
地震は津波や建築構造物の被害により多数の人命を奪うとともに、土木構造物(橋梁)の被害、
地盤災害により市民生活に様々な影響を及ぼした。
世界有数の地震国である我が国においても、チリと同様、海溝型の地震により同様の地震災
害の発生が懸念され、従前より種種な防災対策の推進が努められている。
この様な状況のもと、広域を対象とした震災対策のより一層の推進、更には世界の地震災害
の軽減対策向上に貢献することを目的として今回の合同調査団が派遣された。
調査団はカトリカ大学、チリ大学、JICA チリ支所、日本大使館等の絶大なる協力を得て、
各種被災状況、応急対策等を調査するとともに、日本・チリの関連分野での専門家と討議・情
報収集を行うことにより、所期の調査目的を果たす成果を得ることができた。
2)調査団の構成
今回のチリ・マウレ地震合同調査団の構成員は Table 1.1-1 に示すように合計 16 名である。
被災地域が広域であること等を考慮し、地震工学・建築グループ、橋梁グループ、津波グルー
プ、地盤工学グループの4つのグループ毎に被災調査を行った。日本地震工学会、(社)日本建築
学会より派遣された団員が属するグループのメンバーリストを Table 1.1-2 に示す。表中、併せ
て橋梁・津波・地盤工学グループも示す。
1.2 日程および調査項目
(Team Activities and Survey Items)
1) 日程
地震工学・建築グループ、地盤工学グループの被災調査地域を Fig. 1.2-1 に示す。図中、橋梁
グループ、津波グループの被災調査地も併せて示す。地震工学・建築グループを中心にその日
程を以下に示す。
3 月 27 日(土) 成田発(AA06 便) 、ダラス発(AA945 便)
28 日(日) チリ・サンティアゴ着、チリ側専門家と個別討議
サンティアゴ市内被災建物調査・常時微動測定
29 日(月) JICA 訪問、日本大使館訪問(団長、幹事他2名)
、チリ側専門家と個別討議
合同調査団打ち合わせ(今後の各グループの調査予定、連絡方法等)。
30 日(火) 被災地調査(クリコ被災建物調査、タルカ被災建物調査、常時微動測定、コンセ
プシオン着)
31 日(水) 被災地調査(コンセプシオン被災建物調査、常時微動測定)
4 月 01 日(木) 被災地調査(チジャン被災建物調査、コンスティトウシオン津波被害視察、常時
微動測定、タルカ着)
02 日(金) 被災地調査(サン アントニオ津波・橋梁被害視察、ビーニャデルマール着)
2
03 日(土) 被災地調査(バルパライソ・ビーニャデルマール被災建物調査、常時微動測定、
サンティアゴ着)
04 日(日) 被災地調査(サンティアゴ市内被災建物調査、道路橋被害視察、常時微動測定)
調査団打ち合わせ
05 日(月) JICA 事務所にてセミナー準備、チリ側専門家と個別討議
合同調査団・カトリカ大学・JICA 共催によるセミナー参加(14:00∼17:00)
サンティアゴ発(AA940 便) ・日本側主催夕食会(北川、安田、翠川)
06 日(火)ダラス発(AA175 便)
・JICA 訪問、日本大使館報告(北川、安田、翠川)
サンティアゴ発(AA 940 便)
07 日(水) 成田着
・ダラス発(AA175 便)
08 日(木) ―――
・成田着
2) 調査項目
主な調査項目を以下に示す。
・チリ・マウレ地震の発震機構・強震観測結果等の情報収集
・主な強震観測点および被災建物周辺等での常時微動測定
・建物被害調査とその特徴把握および応急対策調査
・地盤変状視察
・津波・橋梁被害視察
1.3
地震の諸元と被害統計
(Basic Data of Event and Statistic of Damage)
1)地震の諸元
今回の地震の諸元は以下の通りである(米国地質調査所、USGS、による)。
・地震名称
:チリ・マウレ地震
・発震時
:2010 年 02 月 27 日(土) 06 時 34 分(UTC、協定世界時)
・マグニチュード:8.8(Mw)
・震央
:マウレ州沿岸部、南緯 35.9 度、西経 72.7 度
・震源深さ
:35Km
・余震域
:コンセプシオン∼ビーニャデルマール間、約 500km
・断層面の大きさ:約 500km ×
100km (傾斜角:約 18 度)
・断層のすべり量:約 11m
・発震機構
:低角逆断層型(プレート境界地震)
2) 被害統計
2010 年 03 月 20 日現在、チリ国内務省の公式発表によるチリ・マウレ地震による被害統計
量は下記の通りである。
・死者
:342名
・行方不明者:
97名
・被災者
:
80万人以上
・被害総額
:296億 US ドル(約3兆円)
なお、04 月 01 日現在、03 月 20 日以降のチリ国政府からの公式発表はない。
3
Table 1.1-1 Member List of Joint Survey Team
団長
幹事
幹事
北川良和(日本地震工学会 元会長/慶応義塾大学 元教授)
安田 進(地盤工学会/東京電機大学 教授)
翠川三郎(日本地震工学会/東京工業大学 教授)
小長井一男(日本地震工学会/東京大学生産技術研究所 教授)
川島一彦(土木学会(構造)/東京工業大学 教授)
運上茂樹(土木学会(構造)/国土技術政策総合研究所 地震災害研究官)
星隈順一(土木学会(構造)/(独)土木研究所 上席研究員)
幸左賢二(土木学会(構造)/九州工業大学 教授)
今村文彦(土木学会(津波)/東北大学 教授)
藤間功司(土木学会(津波)/防衛大学校 教授)
有川太郎(土木学会(津波)/(独)港湾空港技術研究所)
小林克巳(日本建築学会/福井大学 教授)
香取慶一(日本建築学会/東洋大学 准教授)
菅野高弘(地盤工学会/(独)港湾空港技術研究所 地震防災研究領域長)
岡村未対(地盤工学会/愛媛大学 教授)
飛田哲男(地盤工学会/京都大学 助教)
(順不同)
Table 1.1-2 Member List of Survey Group
・地震工学・建築グループ
北川
翠川
小林
良和(慶應義塾大学元教授/JAEE)
三郎(東京工業大学教授/JAEE)
克巳(福井大学教授/AIJ)
香取
慶一(東洋大学准教授/AIJ)
・地盤工学グループ
安田 進(東京電機大学教授/JGS)
小長井 一男(東大生産技研教授/JAEE)
菅野 高弘(港湾空港技研地震防災研究領域長/JGS)
岡村 未対(愛媛大学教授/JGS)
飛田 哲男(京都大学助教/JGS)
・橋梁グループ
・津波グループ
川島 一彦(東京工業大学教授/JSCE)
運上 茂樹(国交省国総研地震災害研究官/JSCE)
星隈 順一(土木研究所上席研究員/JSCE)
幸左
賢二(九州工業大学教授/JSCE)
4
今村 文彦(東北大学教授/JSCE)
藤間 功司(防衛大学校教授/JSCE)
有川 太郎(港湾空港技研主任研究官/JSCE)
地震工学・建築グループ
の主な調査範囲
ビーニャデルマール
サンアントニオ
ディチャト
チジャン
Fig.1.2-1(a) Survey Area of Earthquake Engineering and Building Group
ヘ
リコ
以 プタ
南 ー
の に
海 よる
岸
部 コン
調 セ
査 プ
も シ
実 オ
施 ン
地盤工学グループ
の主な調査範囲
ホスピタル
イロカ
コブケクラ
ディチャト
チジャン
コイエコ
ロタおよび
アラウコ
クラニラーエ
Fig.1.2-1(b) Survey Area of Geotechnical Group
5
調
Au
to
p
ist
a5
号
査 線沿
も実 い
施 の橋
梁
橋梁グループ
の主な調査範囲
チジャン
アラウコ
Fig.1.2-1(c) Survey Area of Bridge Group
リコ
・イ プタ
ロ ー
カ
間 によ
海 る
岸 コ
部 ンセ
調
査 プシ
も
実 オン
施
津波グループ
の主な調査範囲
ヘ
サンアントニオ
イロカ
ディチャト
ペンコ
Fig.1.2-1(d) Survey Area of Tsunami Group
6
2.自然条件および社会条件
Natural and Social Conditions
2.1 一般地理
(General Geography)
チリ国は南緯 17°30′∼55°59′、西経 66°30′∼75°45′に位置し、南米大陸の西側の 3
分の 2 を支配して、細長く伸びる国(総延長 4300Km、平均幅約 100Km)で、アンデス(Andes)山脈
を背に、西側の太平洋岸をフンボルト寒流に洗われている。国土面積は約 75.6 万平方 Km(日本
の約 2 倍)で、その 80%は山岳部が占めている。
チリ北部にあたるアリカ(Arica)からアントファガスタ(Antofagasta)に到る地域は広漠たる砂
漠地帯が広がっている。中でもアタカマ(Atacama)砂漠は世界で最も乾燥した砂漠である。
チリ中部あたるラセレナ(La
Serena)、首都サンティアゴ(Santiago)からコンセプシオン
(Concepcion)に到る地域は季節的な降雨のある温和な農牧畜地帯で、ブドウなどの果物が栽培
され、ワインの産地となっている。
チリ南部にあたるバルディビア(Valdivia)からプエルトモン(Puerto Mont)に到る地域は雨量
の多い緑地、湖沼と森林地帯が広がっている。
南緯 40 度以南はパタゴニア(Patagonia)地方といわれ、1年の大半が寒冷気候で、氷河を抱い
た峰峰が続いている。パタゴニアの地名はマゼラン海峡にその名を残すマゼラン(Magallanes)
がこの地方で見た先住民(大きな足が語源)に由来している。中でも、トーレス デ パイネ(Torres del
Paine)は有名である。
チリ国の総人口は 1645 万人(2008 年現在、日本の 8 分の 1)で、その内、約半数は首都サンテ
ィアゴ市(海抜 500∼600m、チリ国のほぼ中央に位置)及びその周辺に住んでいる。
約 2.5 億年前までのチリは、超大陸ゴンドワナの周辺部とその付近の海面下であった。その
部分が約 2 億年からのゴンドワナの分裂・移動に伴い、プレートの境界部分としての地殻変動
(アンデス
サイクル)を受けて、現在に到ったものと考えられている。このため、地殻変動やマ
グマ活動、地震活動等も存在し、この時期に幾種かの鉱物資源の沈殿が生じている。
アンデス サイクルの開始前までは、南緯 39°以北は海に覆われ、堆積層が形成されていた
が、1.6 億年前までの期間に、現在の海岸線近くで火山の噴出があった。一方、海水面下の堆積
が進み低地が埋められ、海の後退とともに大陸化が進んだ。その後、海の進出がみられたが、1.2
億年前に海が後退した後は、中央堆積平野部の一部に塩水湖を残しつつ、現在のチリの大部分
が陸地化された(和泉、1991)。
現在のアンデスの火山は約 1500 万年位から形成され始め、海岸山脈、主脈、前山脈の3つの
列から構成されている。海岸山脈はチリで最も発達し、起伏状のちいさな丘陵状山脈で、新生
代の地層などで構成されている。海とは急崖で接していることが多い。海岸山脈と主脈との間
は、中央縦谷と呼ばれ、主脈からの河川堆積物で埋められた堆積平野で、新世代第四紀の堆積物
等で構成されている。主脈は新世代第三紀にかけて活発であった火山活動による貫入深成岩類
や中世代の地層で構成されている。
7
2.2 過去の地震活動
(Seismicity)
1) 断層
チリは我が国と同様にプレート境界近傍に位置し、地殻変動を受けているため、国土全域に
わたり多くの断層がある。このうち、特に巨大な断層は4群あり、プレート境界のペルー・チリ
海溝にほぼ平行に、南北方向に連なっている(和泉、1991)。すなわち、
・ 北部タルタルを中心とする断層群
・ 中部サンティアゴ近傍のポクロ断層
・ 南部リキネ・オフキ断層
・ 再南端部のマゼラン断層
である。
北部断層群中、タルタル断層は、北西から南東方向へと他の断層を横切る正断層で、海岸線
と平行に連なるアタカマ断層(長さ約 1000Km)をほぼ中央で切断している。
ポクロ断層は、長さ 1000Km におよぶ断層が2列平行に走っており、これが中央低地を形成
する基因となっている。
リキネ・オフキ断層は南部を縦走する右横ずれ断層で、この断層に沿って多くの火山や湖が
点在している。
マゼラン断層は南米と南極とのプレート境界を形成する左横ずれ断層で、その北側にある多
くの小断層によって、プレート間の歪が吸収されている。
2) 地震活動
ナスカプレートと南米プレートとの相対スピードは年に 5.5∼7cm で、ナスカプレートが南米
プレートに沈み込んでいる。このプレートの沈み込み地域はチリの西海岸の沖合で、比較的陸地
に近く、全長 5900Km を超えるペルー・チリ海溝を形成している。このため、このプレート境界
で発生する海溝型の地震が多く、1570 年以降 M7.5 以上の被害地震数は 30 を超えている。原
(2009)および北川(1985,1986)をもとに作成した被害地震一覧を Table 2.3-1 に、被害地震の位置
と時系列を各々Fig. 2.3-1 および 2.3-2 に示す。
この様に、震源域が太平洋沿岸の海底、或いは海岸近傍にあるため、地震動期待値は概して太
平洋沿岸から東へ離れるほど小さくなっている。
参考文献
原辰彦(2009). 世界の被害地震の表(古代から 2008), http://iisee.kenken.go.jp/utsu/index.html, 国際
地震工学センター、 (独法)建築研究所.
和泉正哲(1991). チリの断層と構造物、東北地域災害科学研究第 27 巻.
北川良和(1985). チリ国への防災技術協力、JSEEP NEWS, No.82.
北川良和(1986). チリ国への防災技術協力(続編)
、JSEEP NEWS, No.88.
8
Table2.2-1 List of Major Earthquakes (1570∼2010, M7.3 or greater)
(Hara, 2009; Kitagawa, 1985, 1986)
Data
1570
1575
1575
1604
1615
1647
1657
1730
1737
1751
1796
1819
1822
1835
1837
1859
1868
1877
1880
1906
1918
1922
Feb. 8
Mar. 17
Dec. 16
Nov. 24
Sep. 16
May. 13
Mar. 15
Jul. 8
Dec. 24
May. 25
Mar. 30
Apr. 11
Nov. 19
Feb. 20
Nov. 7
Oct. 5
Aug. 13
May 9
Aug. 15
Aug. 16
Dec. 18
Nov. 10
Magnitude
8.3
7.3
8.5
8.5
7.5
8.5
8
8.7
7.7
8.5
7.7
8.3
8
8.1
8
7.7
8.5
8
7.7
8.4
7.9(7.6)
8.5(8.3)
1928
1939
1943
1953
1960
1960
Dec. 1
Jan. 24
Apr. 6
May 6
May. 21
May. 22
8
7.8(7.8)
8.2(7.9)
7.6(7.4)
7.3(7.9)
9.5(8.5)
1965
1966
1971
1975
1985
1987
1995
2007
2010
Mar. 28
Dec. 28
Jul. 8
May. 10
Mar. 10
Mar. 05
Jul.. 30
Nov. 14
Feb. 27
7.3(7.2)
7.8(7.7)
7.5(7.7)
7.7(7.6)
7.9(7.8)
7.5(7.3)
8.0(7.3)
7.7(7.4)
8.8
Observations
Concepcion. Great Tsunami. 2000 deaths
Approx.100km from Santiago.
Valdivia. Tsunami. 120 deaths
North of Arica. Tsunami.
Arica.
Great Earthquake in Santiago. 1000 deaths.
Concepcion. Tsunami.
Great Earthquake in Valparaiso. Great Tsunami.
Valdivia.
Great Earthquake in Concepcion. Tsunami.
Copiapo.
Copiapo. Great Tsunami.(3 Earthquakes)
Valparaiso. Great Tsunami.
Concepcion. Great Tsunami. Large Geodetic Dis.
Valdivia. Great Tsunami.
Copiapo. Tsunami.
Great Earthquake in Arica. Great Tsunami.
Iquique. Great Tsunami.
Illapel.
Valparaiso. Tsunami.1500 deaths.
Copiapo. Tsunami.
Great Earthquake in Vallenar. Great Tsunami.
600 deaths.
Talca.
Great Chillan Earthquake.30000 deaths.
Illapel.11deaths.
Chillan.Conception.
Concepcion.
Valdivia. Large Geodetic Disp. Great Tsunami.
2230 deaths in Chile.
La Ligua. 600 deaths.
Taltal.
Valparaiso. Tsunami. 100 deaths.
Traiguen.
San Antonio,Valparaiso. 178 deaths.
Antofagasta.
Antofagasta. 3 deaths
Tocopilla.
Maule. Concepcion. Great Earthquake in Chile
Great Tsunami. Approx.570 deaths
.
(
) indicates Ms.
9
Fig.2.2-1 Location of Major Earthquakes
(Hara, 2009; Kitagawa, 1985, 1986)
Fig.2.2-2 Time History of Major Earthquakes
(Hara, 2009; Kitagawa, 1985, 1986)
10
3.地震および地震動
Earthquake and Ground Motion
3.1 地震の概要
(Outline of Earthquake)
1) 本震および余震分布
年間 7cm 程度の速度でナスカプレートが南米大陸の下に沈み込むことにより、チリの沿岸で
は海溝型の巨大地震がたびたび起こってきた(Fig. 3.1-1 参照)。中でも 1960 年チリ地震は史上最
大の地震で、Mw は 9.5、断層長さは 1000km 程度に達する。今回の 2 月 27 日の地震(Mw8.8)
の震源域は 1960 年の地震と 1985 年の地震(Mw8.0)の震源域の間にあり、この領域では 1835
年の地震(M8.5)が起こって以来、大地震が発生しておらず、いわゆる空白域であった(Beck et al.,
1998)。余震は 、 Fig. 3.1-2 に示す よう に、南北 500km 以 上の広い範 囲で発生し てお り
(Seismological Service, U. Chile, 2010)、今回の地震の震源域が大きかったことを示している。
2) 震源過程
この地震の震源過程について、Poiata and Koketsu (2010)は、遠地実体波による震源インバー
ジョンから、走行が N16°E、傾きが 16°の低角逆断層によるもので、断層長さは 400km 程度と
推定している。破壊は断層のほぼ中央から開始し、南北に伝播した。大きなすべりの領域は震
源付近と断層の北側にみられ、最大のすべり量は 10m 程度と推定されている。Fig. 3.1-3 に示
すように、Sladen(2010)や Shao et al.(2010)も同様の結果を得ているが、Shao et al.(2010)では震
源の南で大きなすべりが推定されている。大きな地殻変動もみられ、Fig. 3.1-4 に示すように
Concepcion では西南西に約 3m の変位が観測された(IRIS, 2010)。
3) 震度分布
この地震でのおおよその推定震度分布(USAID, 2010)を Fig. 3.1-5 に示す。断層の直上付近で、
修正メルカリ震度階でⅧ(気象庁震度階で震度 5 強に相当)の範囲が広く分布している。部分
的に修正メルカリ震度階でⅨ(気象庁震度階で震度 6 弱に相当)の地域も推定されている。
Fig. 3.1-1
Historical Earthquakes
(Beck et al., 1998)
Fig. 3.1-2
11
Aftershock Distribution
(Seismological Service, U. Chile, 2010)
leftt: Saldan (20110), center: Poiata and Kok
ketsu (2010),, right: Shao eet al.(2010)
Fig. 3.1-3
Earthquaake Fault Moddel
Fig. 3.1-4
Crustal Moovement Observed by GPS
S (IRIS, 20100)
Fig. 3.1-5
Estimated Seisimic Inteensity Map (U
USAID, 20100)
12
3.2 強震記録
(Strong Motion Records)
1) 強震観測網
チリでの強震観測は 1940 年からサンティアゴで開始された。その後、チリ大学は 1969 年か
らチリ各地に強震観測を展開し(Kausel and Saragoni, 1976)
、2009 年の時点では 60 地点からな
る強震観測網 RENADIC が構築されている(Department of Civil Engineering, U.Chile, 2010)。これ
以外にも強震観測が行われており(Seismological Service, U. Chile, 2010)、今回の地震の震源域周
辺の観測点数は 30 程度である。設置されている強震計はアナログ型強震計(SMA-1)とデジタル
型強震計が混在している。デジタル強震計は QDR が多く用いられている。これは半導体加速
度計を用いた簡易型強震計で、フルスケールが水平で 2g、最小分解能は 2gal である。記録時
間は 100 秒以下となっているため、今回の地震では、主要動の終わりの部分が記録されていな
いものもみられる。強震観測点は多くの場合、学校の建物内に設置されている。RENADIC の
強震観測点の設置条件を Table 3.2-1 に示す。観測点の写真を Photo 3.2-1∼3.2-8 に示す。
2) 最大加速度分布および加速度波形
現時点(2010/4/9)では、公開されている情報はデジタル型強震計によるもので(Boroschek et al.,
2010; Seismological Service, U. Chile, 2010)、アナログ型強震計による結果については不明である。
観測された最大加速度値のリストを Table 3.2-2 に、水平動の値の分布を Fig. 3.2-1 に示す。
Santiago では最大加速度は 0.17g から 0.56g と場所毎に異なる。Concepcion 郊外の San Pedro で
0.65g 、Curico で 0.47g、Vina del Mar で 0.3g 強の最大加速度が観測されている(Boroschek et al.,
2010;
Seismological Service, U. Chile, 2010)。Angol では 1g を越える最大加速度が観測されたと
いう情報がある(Saragoni, 2010)。Fig. 3.2-2 には最大加速度と断層からの距離の関係を示す(Si,
2010)。観測された最大加速度と距離との関係にはばらつきがみられるが、既往の距離減衰式と
整合した結果となっている。
得られた加速度波形の例(Boroschek et al., 2010; Seismological Service, U. Chile, 2010)を Fig.
3.2-3 に示す。図の(a)および(b)は Santiago での記録で、主要動部分は 1 分以上継続している。
図の(c)は Curico での記録で、この場合には 100 秒までしか記録が得られていないが、波形の包
絡形から判断して、この記録についても主要動部分の継続時間は1分を越えているとものと判
断できる。図の(d)は Concepcion 郊外の San Pedro での記録で、主要動部分の継続時間は 1 分を
越えている。これらの記録は、Mw8.8 という大規模な地震では地震動の継続時間が長いものに
なることを示している。
3) 応答スペクトル
いくつかの観測点での記録の加速度応答スペクトルの図が公表されている(Boroschek et al.,
2010)。これらの図から加速度応答値を読み取り、角振動数で除して、擬似速度応答スペクトル
(h=0.05)を描いたのが Fig. 3.2-4 である。Santiago のチリ大学や Curico ではスペクトルは比較的
平坦で、周期 0.5∼2 秒で速度応答量はそれぞれ 50cm/s および 80cm/s 前後の値を示している。
一方、Santiago のマイプ地区や Vina del Mar では、それぞれ周期 0.5 秒および 0.7 秒付近に鋭い
ピークがみられ、ピークでの速度応答量は 150cm/s 程度と大きい。
比較のために、Fig. 3.2-5 に 1985 年の地震(Mw8.0)の記録のスペクトルを示す。左の図は
Santiago のチリ大学から約 2km 東にある ENDESA ビルの地下で得られた記録である。2010 年
のチリ大学の記録の方が 2 倍程度大きく、1985 年の地震に比べて今回の地震の方が Santiago
13
で被害が多かったことと符合している。右の図は Vina del Mar の記録で、2010 年の記録と同様
に周期 0.7 秒付近にピークがみられ、2010 年の記録の方がやや大きい。
4) チリ大学地球物理学科から公開されているデジタル強震記録
Table 3.2-2 に示した記録のうち、Concepcion 郊外の San Pedro、Santiago の Cerro Calan および
Campus Antumapu,、TilTil の Cerro El Roble の4つの記録がチリ大学地球物理学科からインター
ネット上で公開されている(Department of Geophysics, U. Chile, 2010)。Concepcion 郊外の San
Pedro は、Concepcion の中心部から BioBio 川をはさんで約 5km 西北西に位置し(Matsuoka, 2010)、
地盤条件は市中心部とは異なるものと考えられる。Santiago の Cerro Calan および Campus
Antumapu は市中心部の Universidad de Chile からそれぞれ約 10km 東北東および南に位置する。
表層地盤は Cerro Calan では泥流堆積物、Campus Antumapu では礫地盤に覆われている
(Valenzuela, 1978)。 Tiltil の Cerro El Roble は Santiago から約 50km 南南西の山地部に位置し、
貫入岩からなる岩盤サイトである。
これら 4 つの記録の各チャンネルがどの成分に対応するかは記載がないが、波形から判断す
ると、Concepcion 郊外の San Pedro の記録はチャンネル 3 が、その他の 3 つの記録はチャンネ
ル 1 がそれぞれ上下動成分に対応しているものと考えられる。また、その他の 3 つの記録は
Seismological Service, U. Chile (2010)の表の最大加速度値との対応から、チャンネル 2 および 3
がそれぞれ NS および EW 成分に対応しているものとも判断できる。なお、Santiago の Cerro
Calan の記録のチャンネル 2 の成分は記録開始の約 54 秒後から約 1 秒間は値が 0 となっており、
記録が欠落しているようにみえる。Fig. 3.2-6 に4つの記録の加速度波形を示す。
記録に含まれるノイズ成分について検討するため、フーリエスペクトルを計算した。Fig.3.2-7
に San Pedro の記録の例を示す。周期 30 秒前後以上で、スペクトル振幅は周期とともに増大す
る傾向がみられ、ノイズ成分が卓越していることを示唆している。周期 15 秒、30 秒、80 秒程
度以上をカットして加速度波形を積分して求めた変位波形を Fig. 3.2-8 に示す。周期 80 秒程度
以上をカットして求めた波形は不自然でノイズ成分の影響が認められる。周期 30 秒程度以上
をカットして求めた波形は記録の後半部で振幅が小さくなり因果性を満足しているようにみ
える。そこで、この記録は周期 30 秒程度までは信頼性があるものと判断した。同様の検討を
行い、他の3つの記録についても周期 25 秒程度までは信頼性があるものと判断した。
Anderson and Quaas (1988)は、1985 年メキシコ地震およびその余震の際に岩盤上で得られた
加速度記録を比較し、地震規模の増大とともに地震動の継続時間が延びることを示している。
彼らの図に今回の地震の際に岩盤上の Cerro El Roble で得られた記録を加えて、Fig. 3.2-9 に示
す。前述したように今回の地震での継続時間は 1 分程度であり、M8.1 のメキシコ地震に比べ
ても継続時間は 2 倍弱長くなっている。
速度応答スペクトルを Fig. 3.2-10 に示す。なお、前述の検討から、記録に周期 30 秒前後の
ローカットフィルターを掛けたものを用いている。いずれの記録も少なくとも周期 20 秒まで
速度応答スペクトルは平坦な形を示しており、Mw8.8 といった巨大地震の場合にはスペクトル
の折点周期が長くなり、長周期でも加速度スペクトル振幅が低下しないことを示している。
14
Table 3.2-1 List of RENADIC Strong Motion Sites in the Epicentral Region
Site Name
Instrument Type
Location of Instrument
Basement floor of 7-story building
Viña del Mar
Centro
QDR
Viña del Mar
Marga Marga
ETNA
N/A
SMA-1
Church
Valparaiso Almendral
Valparaiso UTFSM
SMA-1
Vault*
Santiago Unversidad de Chile
K2
Basement floor of 5-story building
Santiago Metro Estacion Mirador
SSA-1
Platform of metro station
Santiago CRS Maipu
QDR
1-story building
Santiago Hospital Tisne
QDR
1-story building
Santiago Hospital Sotero del Rio
QDR
1-story house
Rancagua
QDR
N/A
Matanzas
SMA-1
N/A
Pichilemu
CUSP
1-story building*
Iloca
SMA-1
1-story building*
Hualane
SMA-1
Church*
Constitucion
SMA-1
2-story building*
Cauquenes
SMA-1
2-story building*
Talca
SMA-1
2-story building
Chillan Nuevo
SMA-1
Basement floor of 2-story building
Concepcion Colegio Inmac. Conc.
SMA-1
Basement floor of 3-story building
Angol
QDR
N/A
Valdivia
QDR
N/A
*after Riddell et al.(1992)
Table 3.2-2 List of Observed Peak Ground Accelerations
Location
Horizontal
Acceleration
Vertical
Acceleration
Vina del Mar
Centro
0.33 g
0.19 g
Vina del Mar
Marga Marga
0.35 g
0.26 g
Santiago Depto. Ing. Civil, U. de Chile
0.17 g
0.14 g
Santiago
Estación Metro Mirador
0.24 g
0.13 g
Santiago
CRS Maipú, R.M.
0.56 g
0.24 g
Santiago Hospital Tisne, R.M.
0.30 g
0.28 g
Santiago
Hospital Sótero del Río R.M.
0.27 g
0.13 g
Santiago
Cerro Calan
0.23 g
0.11 g
Santiago
Campus Antumapu
0.27 g
0.17 g
0.19 g
0.11 g
0.47 g
0.20 g
0.65 g
0.60 g
0.14 g
0.05 g
Tiltil
Cerro El Roble
Curico
Hospital de Curicó
Concepcion
Valdivia
Colegio de San Pedro
Hospital de Valdivia
15
Photo 3.2-1 Vina del Mar (Centro) Site
Photo 3.2-2 Santiago Universidad de Chile Site
Photo 3.2-3 Santiago Metro Mirador Station Site
Photo 3.2-4 Santiago CRS Maipu Site
Photo 3.2-5 Santiago Hospital Tisne Site
Photo 3.2-6 Santiago Hospital Sotero del Rio Site
Photo 3.2-7 Curico Hospital Site
Photo 3.2-8 Concepcion Centro Site
16
F 3.2-1
Fig.
Distribution of
D
o Peak Grounnd
A
Acceleration
Fig. 3.2-2
1
2
3
4
5
(bb) Santiago C
Cerro Calan
(a) Santiaago Universiddad de Chile
1
(c) Curico Hosppital
Fig. 3.2-3
Attenuationn of Peak Gro
ound
Acceleratioon (Si, 2010)
2
min
min
3
(d) Conncepcion Coleegio San Pedrro
mological Service, U. Chiile, 2010)
Acceleration Timee History (Booroschek et all., 2010; Seism
17
200
Universidad de Chile
CRS Maipu RM
NS
EW
NS
EW
pSv(cm/s)
pSv(cm/s)
200
100
0
1
2
100
0
3
NS
EW
NS
EW
pSv(cm/s)
pSv(cm/s)
Vina del Mar (Centro)
1
2
100
0
3
Fig. 3.2-4
1
2
3
Period(s)
Period(s)
Pseudo Velocity Response Spectra (h=0.05) of the 2010 Records
200
200
Endesa Bldg, Santiago
Vina del Mar
NS
EW
NS
EW
pSv(cm/s)
pSv(cm/s)
3
Hospital Curico
100
100
0
2
200
200
0
1
Period(s)
Period(s)
1
2
3
0
Period(s)
Fig. 3.2-5
100
1
2
Period(s)
Pseudo Velocity Response Spectra (h=0.05) of the 1985 Records
18
3
1000
Ch1
Ch1
Ch2
Ch3(UD)
Max=-591.9(cm/s/s)
0
Fourier Spectrum (cm/s/s*s)
Acc.(cm/s/s)
Acc.(cm/s/s)
Acc.(cm/s/s)
2010/2/27 Colegio San Pedro, Concepcion
500
-500
Ch2
500
Max=639.1(cm/s/s)
0
-500
Ch3(UD)
500
Max=570.8(cm/s/s)
0
-500
0
20
40
60
80
100
120
140
160
180
200
Time (s)
(a) San Pedro, Concepcion
100
10
Ch1(UD)
Max=104.5(cm/s/s)
0
1
-200
Ch2(NS)
200
Fig. 3.2-7
Max=183.8(cm/s/s)
0
Dis.(cm)
-200
Ch3(EW)
200
100
Period (s)
Fourier Spectra of Record at San Pedro
g
p
Ch1
0
18.2∼25.0秒をカット
Max=130.7(cm/s/s)
-40
40
0
-200
0
20
40
60
80
100
120
140
160
180
200
Time (s)
15.6∼20.0秒をカット
Dis.(cm)
-40
40
2010/2/27 Cerro Calan, Santiago
Ch1(UD)
200
Ch2
0
(b) Cerro El Roble, Tiltil
Acc.(cm/s/s )
10
40
Dis.(cm)
Acc.(cm/s/s)
Acc.(cm/s/s)
Acc.(cm/s/s)
2010/2/27 Cerro El Roble
200
Ch3(UD)
0
Max=107.2(cm/s/s)
14.9∼20.0秒をカット
-40
0
0
20
40
60
80
100
120
140
160
180
(a) displacement with cut-off periodg of about 15p sec.
-200
Dis.(cm)
Ch2(NS)
200
Max=201.0(c m/s/s)
0
Ch1
0
36.4∼40.0秒をカット
-200
-40
40
Dis.(cm)
Ch3(EW)
200
Max=-222.2(c m/s/s)
0
Ch2
0
36.4∼40.0秒をカット
-200
0
20
40
60
80
100
120
Time (s)
140
160
180
-40
40
200
Dis.(cm)
Acc.(cm/s/s)
40
Acc.(cm/s/s)
200
Time (s)
(c) Cerro Calan, Santiago
Ch3(UD)
0
27.3∼40.0秒をカット
40
60
80
100
120
140
160
180
Dis.(cm)
Ch2(NS)
0
81.9∼100.0秒をカット
-100
Max=-224.3(cm/s/s)
100
Dis.(cm)
0
-300
300
Ch3(EW)
Ch2
0
81.9∼100.0秒をカット
-100
Max=-264.8(c m/s/s)
100
0
0
20
40
60
80
100
120
Time (s)
140
160
180
200
Ch3(UD)
0
65.5∼80.0秒をカット
-100
0
20
40
60
80
100
120
140
160
180
200
Time (s)
(d) Campus Antumapu, Santiago
Fig. 3.2-6
200
Ch1
100
Dis.(cm)
Acc.(cm/s /s)
Acc.(cm/s/s)
20
(b) displacement with cut-off period of
about 30 sec.
g
p
0
-300
0
Time (s)
Max=163.6(cm/s/s)
-300
300
Acc .(cm/s/s)
-40
2010/2/27 Campus Antumapu, Santiago
Ch1(UD)
300
(c) displacement with cut-off period of about 80 sec.
Acceleration Time Histories
Fig. 3.2-8
19
Comparison of Displacements at San
Pedro with Different Low-cut Filters
M3.1
M4.1
M5.1
M5.5
M7.0
M8.1
200
Ch3)
Cerro El Roble (C
M8.8
Max=104.5(cm
gal /
0
-200
40
0
80
160
120
Seconds
Fig. 3.2-99 Comparisonn of Acceleroograms from Earthquakes with Different Magnitude
(modified from Anderson and Quaas, 1988)
Cerro El Roble
Velocity Response Spectra (cm/s)
Velocit
Velocity Response Spectra (cm/s)
o, Concepcion
Colegio San Pedro
1000
h=0.05
100
10
Ch1
Ch2
Ch3(UD)
1
0.1
100
10
1
1000
0.05
h=0
100
10
Ch1(UD)
Ch2(NS)
Ch3(EW)
1
0.1
Period (s)
Period (s)
Cam pus Antumapu, Santiago
Velocity Response Spectra (cm/s)
Velocity Response Spectra (cm/s)
o Calan, Santtiago
Cerro
1000
h=0..05
100
10
Ch1(UD)
Ch2(NS)
Ch3(EW)
1
0.1
1
100
10
1
10
100
d (s)
Period
1000
0.05
h=0
100
10
Ch1(UD)
Ch2(NS)
Ch3(EW)
1
0.1
10
1
od (s)
Perio
Fig. 3.2--10 Velocity Response Spectra of the 2010 Records
20
100
3.3 強震観測点での地盤特性
(Site Characteristics at Strong Motion Sites)
1) 常時微動の H/V スペクトル比
強震観測点での地盤特性を把握するために常時微動測定を行った。約 20 秒間のデータから
0.25cps の Parzen ウインドウをかけたスペクトルを計算し、さらに水平 2 成分の相乗平均を上
下成分で除して H/V スペクトル比を計算した。交通振動などの特定の振動の影響が少ない3区
間のデータの平均値を最終的な結果とした。Fig. 3.3-1(a)および(b)に結果を示す。礫からなる硬
質地盤上の観測点である Santiago の Universidad de Chile では H/V スペクトル比はほぼ1と一
定で、特定の地盤特性を示さない。Santiago の Metro Mirador および Hospital Sotero del Rio や
Curico、Talca、Chillan も同様に H/V スペクトル比はほぼ平坦で、硬質地盤上の観測点と考えら
れる。
一方、Santiago の CRS Maipu や Vina del Mar ではそれぞれ周期約 0.4 秒および 0.5 秒に大きな
ピークがみられ、地盤による増幅特性が強いことを示唆している。このピーク周期は Fig. 2.2-4
に示したそれぞれの地点での強震記録にみられるピーク周期 0.5 秒および 0.7 秒と対応してい
る。Santiago の Hospital Tisne や Valparaiso、Concepcion でもそれぞれ周期 0.4 秒、0.6 秒および
1.5 秒付近にピークがみられ、地盤特性がみられる。
なお、参考までに、今回測定したものではなく、1993 年 4 月に測定した常時微動記録を再解
析した結果を Fig.3.3-1(c)に示す。Pichilemu では H/V スペクトル比は平坦で硬質地盤上の観測
点と考えられる。一方、Iloca や Hualane では周期 0.3 秒付近に、Constitucion では周期 1 秒付近
にピークがみられ、地盤による増幅特性が現れている。
2) 余震記録
常時微動測定の際にたまたま余震を観測した。Fig. 3.3-2(a)は Concepcion での 3 月 31 日 14:58
頃の余震の記録である。最大速度振幅は 0.02cm/s 程度である。この記録のスペクトルは Fig.
3.3-2(b)に示すように周期 1.5 秒にピークがみられ、この周期は Fig. 3.3-1(b)に示した常時微
動の H/V スペクトル比のピーク周期とほぼ一致する。また、Concepcion では 1978 年の地震の
記録が得られており、この記録にも周期 1.5 秒の成分が卓越しており(Riddell et al., 1985)、周期
1.5 秒がこの地点での地盤の卓越周期と考えられる。
Fig. 3.3-3(a)は Chillan での 4 月 1 日 12:49 頃の余震の記録である。S 波初動から約 15 秒間が
記録され、約 9 秒後から後続動が記録されている。この記録の S 波部分と後続動部分のスペク
トルを Fig. 3.3-3(b)に示す。Concepcion での余震記録に比べてスペクトルは比較的平坦であり、
Fig. 2.3-1(b)に示した常時微動の H/V スペクトル比と類似の形状を示しており、この地点での地
盤特性が強いものではないことを示唆している。
21
10
H/V Spectral Ratio
H/V Spectral Ratio
10
1
1
mps01
mps02
mps06
Ave
ucg02
ucg03
ucg04
Ave
0.1
0.1
Period (s)
0.1
0.1
3
1
Period (s)
Santiago Universidad de Chile
Santiago CRS Maipu
10
H/V Spectral Ratio
H/V Spectral Ratio
10
1
1
tsn01-1
tsn01-2
tsn04
Ave
mrd02
mrd03
mrd04
Ave
0.1
0.1
Period (s)
0.1
0.1
3
1
3
1
Period (s)
Santiago Metro Mirador
Santiago Hosp. Tisne
10
H/V Spectral Ratio
10
H/V Spectral Ratio
3
1
1
1
CHP02
CHP03
CHP04
Ave
sts01
sts03
sts04
Ave
0.1
0.1
Period (s)
1
0.1
0.1
3
Period (s)
Santiago Hosp. Sotero del Rio
1
Curico Hospital
Fig. 3.3-1(a) H/V Spectral Ratio of Microtremor at Strong Motion Site
22
3
10
H/V Spectral Ratio
H/V Spectral Ratio
10
1
1
vl101
vl102
vl103
Ave
vdm01
vdm02
vdm04
Ave
0.1
0.1
Period (s)
0.1
0.1
3
1
Period (s)
Vina del Mar Centro
Valparaiso Almendral
10
H/V Spectral Ratio
H/V Spectral Ratio
10
1
1
cll02
cll03
cll06
Ave
TLC02
TLC03
TLC05
Ave
0.1
0.1
Period (s)
0.1
0.1
3
1
Period (s)
Talca
1
Chillan Nuevo
10
H/V Spectral Ratio
3
1
1
ccp04
ccp05
ccp06
Ave
0.1
0.1
Period (s)
1
3
Concepcion Colegio Inmac. Conc.
Fig. 3.3-1(b) H/V Spectral Ratio of Microtremor at Strong Motion Site
23
3
10
H/V Spectral Ratio
H/V Spectral Ratio
10
1
1
IL1
IL1
IL2
Ave.
PC1
PC2
PC2
Ave.
0.1
0.1
0.1
0.1
3
1
Period (s)
Period (s)
Pichilemu
Iloca
10
H/V Spectral Ratio
10
H/V Spectral Ratio
3
1
1
1
HL1
HL1
HL2
Ave.
CS1
CS2
CS3
Ave.
0.1
0.1
Period (s)
1
0.1
0.1
3
Period (s)
Constitucion
Hualane
Fig. 3.3-1(c) H/V Spectral Ratio of Microtremor at Strong Motion Site
24
1
3
NS
Max=-0.019(cm/s)
0.1
0
CCP01
Vel.(cm/s)
-0.02
0.02
EW
Max=-0.020(cm/s)
0
UD
Max=-0.013(cm/s)
0
0
10
20
30
0.001
0.0001
0.1
40
1
Period(s)
(a) Velocity Time History
Fig. 3.3-2
NS
EW
UD
0.01
Time (s)
(b) Fourier Spectra
Aftershock Record at Concepcion (2010/3/31 14:58)
0.005
NS
Vel.(cm/s)
Max=0.0039(cm/s)
0
-0.005
0.005
EW
Vel.(cm/s)
Max=0.0048(cm/s)
0
-0.005
0.005
UD
Max=-0.0026(cm/s)
Vel.(cm/s)
-0.02
0
-0.005
0
10
20
30
40
50
60
70
80
90
Time (s)
(a) Velocity Time History
10-2
Fourier Spectra (cm/s*s)
Vel.(cm/s)
-0.02
0.02
Fourier Spectra (cm/s*s)
Vel.(cm/s)
0.02
CLL
NS
EW
04 (S-wave)
05 (Coda)
04 (S-wave)
05 (Coda)
UD
10-3
10-4
10
04 (S-wave)
05 (Coda)
-5
0.1
1
Period(s)
10 0.1
1
Period(s)
10 0.1
1
Period(s)
(b) Fourier Spectra
Fig. 3.3-3
Aftershock Record at Chillan Nuevo (2010/4/1 14:58)
25
10
10
3.4 建物被害地点での常時微動の特性
(Characteristics of Microtremors at Building Damage Sites)
1) Concepcion
Concepcion は人口約 23 万人のチリ第 2 の都市である。ここで多数の建物が大きな被害を受
けた。Fig. 2.4-1 に建物被害分布図(Bray and Frost, 2010)を示す。中心部で多くの建物に被害が生
じたことがわかる。市の調査では、3 階建て以上で取り壊しが必要な程度の大被害を受けた建
物(Category 1)が 8 棟、大破の建物(Category 2)が 68 棟とされている(Municipality of Concepcion,
2010)。Category 1 の建物の多くは 15∼20 階建てのものである。
Category1 の被害建物の付近で常時微動を測定した。Fig. 3.4-1 に測定地点の位置を番号で示
す。各地点での H/V スペクトル比を Fig.3.4-2 に示す。地点 6 を除けば、いずれの地点でも
Fig.3.3-1 に示した中心部の強震観測点と同様に周期 1∼1.5 秒に大きなピークがみられ、
Concepcion 中心部での地盤の卓越周期は 1∼1.5 秒と考えられる。
Concepcion の地盤は BioBio 川により堆積した砂地盤である。深さ 30m 程度までのボーリン
グデータや重力探査などから、Table3.4.1 に示すような S 波速度構造が推定されている(Nicolau
del Roure et al., 1980)。これによると、表層は S 波速度で 200m/s 弱の砂層で、深さとともに S
波速度は増加し、深さ 100m 強で基盤岩に達する。この構造から地盤の増幅率を計算し、Fig.
3.4-3 に示す。周期 1.5 秒付近に増幅率のピークが認められる。これらの結果や Fig. 3.3-2 に示
した余震記録、1978 年の地震記録の結果から、今回の地震でも Concepcion 中心部では周期 1.5
秒程度の地震動が卓越したものと推測される。
大きな被害は 15∼20 階建のものに目立った。Fig. 3.4-4 は Santiago および Vina del Mar で常
時微動測定から求めた建物の固有周期と建物階数の関係である(Midorikawa, 1990a)。この図か
ら、15∼20 階建の建物の周期はおおよそ 1 秒弱と読み取れる。微動時に比べ強震時には固有周
期が延びることが知られている(Midorikawa, 1990a)ので、強震時のこれらの建物の周期が 1.5
秒程度に延びたとしても不思議はない。したがって、これらの建物が地震動と共振を起こした
可能性が高く、これが被害を大きくした一因として指摘できる。
2) Vina del Mar
Vina del Mar は Santiago から約 100km 西北西にある海岸沿いのリゾート都市である。地盤は
海成堆積物による砂地盤である(Alvarez, 1964)。表層地盤の S 波速度は 200m/s 弱で、深さとと
もに増大するものと推定されている(Riddell et al., 1992)。基盤までの深さは 100m 程度と推定さ
れている(Aguirre et al., 1986)。強震計設置地点の 500m 南では花崗岩が露頭しており(Alvarez,
1964)、基盤深度は北に向かって深くなっているものと考えられる。
ここでも 15∼20 階建の高層建物に大きな被害がみられた。大きな被害がみられた建物付近
で常時微動を測定した。Fig. 3.4-5 に番号で測定地点を示す。各地点での H/V スペクトル比を
Fig. 3.4-6 に示す。いずれの地点でも周期 0.8∼1 秒に大きなピークがみられ、この地域での地
盤の卓越周期は 1 秒程度と考えられる。一方、強震観測点はこの地域から 1km 弱南に位置し、
Fig. 3.3-1 に示したように、常時微動の卓越周期は 0.5 秒とやや短い。これは前述の基盤深度が
北に向かって深くなっていることと整合している。
強震記録の卓越周期は 0.7 秒と常時微動のそれに比べて 40%程度長く、これは地盤の非線形
性の影響によるものと考えられる。したがって、被害のみられた地点では、常時微動の周期が
0.8∼1 秒であったことから強震時には地震動の卓越周期は 1.5 秒近くまで延びて、Concepcion
26
の場合と同様に、15∼20 階建の高層建物が共振した可能性が考えられる。
3) Santiago
Santiago は Chile の首都である。Santiago の人口は、1940 年 95 万人、1960 年 190 万人、1982
年 390 万人、1990 年 480 万人、2008 年 540 万人と年々増加し、都市域もそれに応じて、1930
年 65 km2、1980 年 380 km2、1990 年 600 km2、2008 年 640km2 と拡大していった(Municipality of
Santiago, 2010)。Santiago の地質図を Fig. 3.4-7 に示す(Valenzuela, 1978)。市の中心部(Centro)で
は S 波速度で 700m/s 程度の硬質な礫からなる(Midorikawa, 1990b)。一方、市の北西部では S 波
速度で 200m/s 前後のシルト質の地盤が、市の西部では S 波速度で 300m/s 程度の軽石からなる
地盤が、市の東部では S 波速度で 300m/s 程度の崩積土からなる地盤がそれぞれみられ
(Midorikawa, 1990b; Riddell et al., 1992)、市の中心部に比べて地盤は軟弱である。
Santiago での建物被害の全貌を把握していないが、地元のチリカトリカ大学の研究者に代表
的な被害例として案内された 9 つの建物の位置を Fig.3.4-7 の☆印で示す。図には赤丸で強震観
測点の位置も示してある。3 つを除く 6 つの建物は礫地盤以外の比較的軟弱な地盤に位置して
いる。これら 5 つの建物の付近の 3 地点で常時微動を測定した。Fig.3.4-7 に番号で測定地点を
示す。各地点での H/V スペクトル比を Fig.3.4-8 に示す。地点 1 では 5 階建程度の建物に大き
な被害がみられ、地盤の卓越周期は 0.3∼0.4 秒にみられる。地点 2 では 21 階建の建物に大き
な被害がみられ、地盤の卓越周期は 1.5 秒付近にみられる。地点 3 では 10 階建前後の建物に大
きな被害がみられ、地盤の卓越周期は 0.7 秒付近にみられる。これらの地点において被害建物
と地盤の周期は近く、建物が地震動と共振を起こした可能性が考えられる。
これら Concepcion や Vina del Mar、Santiago の事例から、大都市でのマイクロゾーニングの
重要性が再確認されたものと考えられる。
6
5
4
3
2
S
1
Fig. 3.4-1
Location of Microtremor Measurement Sites (S means strong motion site)
27
10
H/V Spectral Ratio
H/V Spectral Ratio
10
1
1
no802-2
no803
no804
Ave
OHG03
OHG04
OHG06
Ave
0.1
0.1
0.1
0.1
3
1
Period (s)
Period (s)
Concepcion 1
Concepcion 2
10
H/V Spectral Ratio
H/V Spectral Ratio
10
1
1
no201
no203
no205
Ave
no604
no607
no608
Ave
0.1
0.1
Period (s)
0.1
0.1
3
1
Period (s)
Concepcion 3
3
1
Concepcion 4
10
H/V Spectral Ratio
10
H/V Spectral Ratio
3
1
1
1
pm 01
pm 02
pm 03
Ave
n0701-1
n0701-2
n0702
Ave
0.1
0.1
1
Period (s)
3
Concepcion 5
Fig. 3.4-2
0.1
0.1
Period (s)
Concepcion 6
H/V Spectral Ratio of Microtremor at Concepcion
28
1
3
Tabble 3.4-1 Soil Profile Model of Conccepcion
(N
Nicolau del Ro
oure, R. G. ett al., 1980)
D
Depth
ρ(g/cm
m3 )
Vs (m
m/s)
5m
Sa
and
1.6
16
60
10m
Sa
and
2.0
17
70
23m
Sa
and
2.0
25
50
28m
Cllay
1.7
19
90
63m
Sa
and
2.1
28
80
134m
Sa
and
1.9
35
50
-
Ro
ock
2.6
65
33
300
10
Amplification
Soil
Conccepcion
1
2E''/2E
0.1
1
10
Perio
od(s)
Fig. 3.44-3 Amplificaation Factor of
o Ground at Concepcion
C
Fig. 3.4-4
Vibration Period
P
of Builldings (Midorrikawa, 19900a)
29
3
2
1
S
500m
Fig. 3.4-5
Location of Microtremor Measurement Sites (S means strong motion site)
10
H/V Spectral Ratio
H/V Spectral Ratio
10
1
1
ptr02
ptr03
ptr05
Ave
tld02-1
tld02-2
tld03
Ave
0.1
0.1
1
Period (s)
0.1
0.1
3
Period (s)
Vina del Mar 1
1
Vina del Mar 2
H/V Spectral Ratio
10
1
fsv01-1
fsv01-2
fsv05
Ave
0.1
0.1
Period (s)
1
3
Vina del Mar 3
Fig. 3.4-6
H/V Spectral Ratio of Microtremor at Vina del Mar
30
3
3
2
1
Fig. 3.4-7
Location of Microtremor Measurement Sites in Santiago
10
H/V Spectral Ratio
H/V Spectral Ratio
10
1
1
s9 02
s9 03
s9 04
Ave
HF 00
HF 01
HF 02
Ave
0.1
0.1
0.1
0.1
3
1
Period (s)
Period (s)
Santiago 1
1
Santiago 2
H/V Spectral Ratio
10
1
HF 13
HF 14-1
HF 14-2
HF 15
Ave
0.1
0.1
Period (s)
1
3
Santiago 3
Fig. 3.4-8
H/V Spectral Ratio of Microtremor at Santiago
31
3
3.5 まとめ
(Summary)
Mw8.8 のチリ・マウレ地震の際に比較的多数の強震記録が観測された。観測された最大加速
度と距離との関係は既往の距離減衰式と整合している。主要動部分の継続時間は 1 分を越え、
速度応答スペクトルは少なくとも周期 20 秒程度まで平坦であり、Mw8.8 といった巨大地震で
は地震動の継続時間は長く、長周期までスペクトル振幅が低下しないことを示している。軟弱
地盤上の強震観測点では強い地盤特性が認められ、また、被害を生じた Concepcion や Vina del
Mar、Santiago では、被害と地盤の関係が示唆され、大都市でのマイクロゾーニングの重要性
が再確認された。
参考文献
Aguirre, C. A. et al. (1986). Microzonificacion Sismica de la Ciudad de Vina del Mar, 4as. Jornadas
Chilenas de Sismologia e Ingenieria Antisismica, E.70-E.84 (in Spanish).
Alvares, L. S. (1964). Geologia del Area Valparaiso-Vina del Mar, Boletin No.16, Instituto de
Investigciones Geologicas, 58pp. (in Spanish).
Anderson, J. G. and R. Quaas (1988). The Mexico Earthquake of September 19, 1985 – Effect of
Magnitude on the Character of Strong Ground Motion: An Example from the Guerrero, Mexico
Strong Motion Network, Earthquake Spectra, 4, 635-646.
Beck, S. et al. (1998). Source characteristics of historic earthquakes along the central Chile subduction
zone, Journal of South American Earth Sciences, 11, 115-129.
Boroschek, R. et al. (2010). Informe preliminary, RED Nacional de acelerografos, terremoto centro sur
Chile, 27 de Febrero 2010,
Informe Preliminar No.4, Universidad de Chile, 5 de Abril, 2010,
http://www.terremotosuchile.cl/red_archivos/UdeCHILE_Informe_EQ_20100227_Ing_Civil_Inf_4_
Ver_1.pdf
Bray, J. and D. Frost (Ed.) (2010). Geo-engineering Reconnaissance of the 2010 Maule, Chile
Earthquake, GEER Association Report No. GEER-022, 267pp.
Department of Civil Engineering, U. Chile (2010). Red Nacional de Acelerografos RENADIC,
http://www.terremotosuchile.cl/
Department of Geophysics, U. Chile (2010), Ultioms Sisimos Sensibles, http://ssn.dgf.uchile.cl/
IRIS (2010). Recent Earthquake Teachable Moments, Magnitude 6.7 Offshore, Bio Bio, Chile,
http://www.iris.edu/hq/retm/#980 (20/April/2010).
Kausel, E. and G. R. Saragoni (1976). La Red Nacional de Acelerografos, 2as. Jornadas Chilenas de
Sismologia e Ingenieria Antisismica, F8.1-F8.7 (in Spanish).
Matsuoka, M. (2010). Personal communication (21/April/2010).
Midorikawa, S. (1990a). Ambient Vibration Tests of Buildings in Santiago and Vina del Mar, DIE
No.90-1, Departamento de Ingenieria Estructural, Pontificia Universidad Catolica de Chile, 169pp.
Midorikawa, S. (1990b). Site Response at Strong-motion Sites of SMASCH Array in Santiago, DIE
No.90-5, Departamento de Ingenieria Estructural, Pontificia Universidad Catolica de Chile, 76pp.
Municipality of Concepcion (2010). Informe Parcial Edificios de 3 o Mas Pisos Segun Condiciones
Estructurales, http://www.concepcion.cl/
32
Municipality of Santiago, (2010). Antecedentes Históricos, Hacia la Ciudad vivible y confinable,
http://www.municipalidaddesantiago.cl/comuna/comuna_450-adelante.php
Nicolau del Roure, R. G. et al. (1980). Caracteristicas de la Amplificacion Sismica en la Ciudad de
Concepcion, 3as. Jornadas Chilenas de Sismologia e Ingenieria Antisismica, C.4.1-C.4.18 (in
Spanish).
Poiata, N. and K. Koketsu (2010). Source process inversion of teleseismic body waves,
http://outreach.eri.u-tokyo.ac.jp/2010/03/201003_centralchile/
Riddell, R. et al. (1985). Analisis de Espectros de Terremotos Chilenos (Registros Hasta 1981), DIE
No.85-5, Departamento de Ingenieria Estructural, Pontificia Universidad Catolica de Chile, 128pp.
(in Spanish).
Riddell, R. et al. (1992). Clasificacion Geotecnica de Los Sitios de Estaciones Acelerograficas en Chile,
DIE No.92-2, Departamento de Ingenieria Estructural, Pontificia Universidad Catolica de Chile,
174pp. (in Spanish).
Saldan, A. (2010). Slip Maps of Recent Earthquakes, Preliminary Result 02/27/2010 (Mw 8.8), Chile,
http://tectonics.caltech.edu/slip_history/2010_chile/index.html
Saragoni, R. (2010). Personal communication (6/April,2010).
Seismological Service, U. Chile (2010). Informe Tecnico Terremoto Cauquenes 27 Febrero 2010, 3
April 2010, http://ssn.dgf.uchile.cl/informes/INFORME_TECNICO.pdf
Shao, G. et al. (2010). Preliminary slip model of the Feb 27, 2010 Mw 8.9 Maule, Chile Earthquake,
http://www.geol.ucsb.edu/faculty/ji/big_earthquakes/2010/02/27/chile_2_27.html
USAID (2010). Chile Earthquake Map Book:04/08/10, http://www.usaid.gov/helpchile/ (20/April/2010)
Valenzuela, G. B. (1978). Suelo de Fundacion del Gran Santiago, Boletin No.33, Instituto de
Investigciones Geologicas, 84pp. (in Spanish).
33
4.建築物の被害
Damage of Buildings
4.1 RC 造建物の被害
(Damage of RC Buildings)
1) チリの耐震規定
地震国チリの耐震規定は、日本と同様に古くから定められており、過去の被害地震のたびに改
定が加えられ、現在使用されている NCh433-1996(1996) に到っている。今回の被災建物の多くは、
1974 年版あるいは 1996 年版の耐震規定に基づくものと思われるが、1974 年版が実際に使われる
ようになった 1966 年以前の建物もある。
Arze(1986)に耐震規定の歴史が述べられており、地震工学の研究の始まりは 1928 年の Talca 地
震がその契機といわれている。1930 年にはすでに振動理論に基づいた設計ベースシア係数を取り
入れた耐震規定が暫定的に承認され、1935 年に最終的に承認されたようである。約 30,000 人の死
者を出した 1939 年 Chillan・Concepcion 地震後には、地盤の影響もとり入れて 1949 年の改定に到
ったようである。1960 年には三陸津波を引き起こしたチリ大地震が発生しており、それを受けた
理論研究に基づいて耐震規定を改定し、1966 年に暫定的承認、1974 年に最終的承認となり、ほぼ
現在の規定のように地盤種別ごとにスペクトルの形で設計ベースシア係数が定められた。ちなみ
に、どの地盤種別でも設計ベースシア係数の上限値は 0.1、下限値は 0.06 であり、外力分布を考
慮した静的解析が規定された。ただし、15 階建て以上あるいは建物高さ 45m 以上では動的解析に
よることが定められているが、ベースシアの大きさは静的解析の場合と変わらない(NCh433-1972
(Provisional))。
現在の耐震規定は、1985 年に Viña del Mar 付近で起こった地震後に大幅な改定が行われたもの
で、1993 年に暫定的に承認、1996 年に最終的に承認された NCh433-1996(1996)である。
NCh433-1996(1996)では静的解析とモーダルアナリシスによる場合が規定されている。概ね 15 階
建てまでは静的解析であるが、水平剛性が小さく変形しやすい建物ではモーダルアナリシスによ
ることとなっている。
静的解析時のベースシア係数は、
C=
2.75 A0 T ' n
( )
g ⋅R T*
(4.1-1 式)
で与えられる。 A0 は最大地表加速度で、Fig.4.1.1-1 に示す地震地域区分ごとに、0.4g、0.3g、0.2
gと定められている。 T ' と n は地震地域区分ごとに定められている定数である。 R は構造種別に
よる低減係数で、RC 壁構造およびフレーム構造では R=7 である。今回の被災地域の多くが含ま
(4.1-1 式)
れるゾーン 3 で、R=7 で(4.1-1 式)を計算して図示すると Fig.4.1.1-2 のようになる。
のベースシア係数には下限値と同時に上限値が設けられており、Fig.4.1.1-2 の図中に示した。RC
壁、フレーム、組積造の耐力壁が組み合わさった構造で、RC 壁の水平力負担割合 q が 50%以上
になると、さらに(4.1-2 式)の f をかけてベースシア係数を低減できる条項もある。
f = 1.25 − 0.5q
0.5 ≤ q ≤ 1.0
(4.1-2 式)
34
水平力の全てを RC 壁が負担する場合、すなわち壁構造では 0.75 の低減係数をかけてよいことに
なる。このことは、1985 年の Viña del Mar 付近で起こった地震(Mw=8.0)による壁構造の倒壊建
物が殆どなかったという経験に基づいていると思われる。結果として、Fig.4.1.1-2 によれば、設計
ベーシア係数は高々0.15 程度であり、日本の基準に比べれば 1/2 以下となる。
なお、地盤は 1 種地盤から 4 種地盤に分かれているが、1 種および 2 種が日本の 1 種に相当す
ると思われる。
モーダルアナリシスによる場合の設計地震加速度の大きさは、
Sa =
I ⋅ A0 ⋅ α
(4.1-3 式)
R*
と定められている。ここで I は重要度係数である。 α は応答倍率で地盤種別ごとにスペクトルの
形で表され、図で表せば Fig.4.1.1-3 のようになり、最大 α=3 程度となる。 R * は構造種別による低
減係数で、これも地盤種別ごとにスペクトルの形で表される。壁構造建物に対しては、別に低減
係数が階数の関数として定められている。階数を 20 で割るとおよその周期になる (Riddell et al.,
1987) と言われており、スペクトルの形として見ることもできるが、より大きい低減係数になっ
ている。壁構造建物の低減係数を図示すれば Fig.4.1.1-4 のようになる。地震地域区分3として I=1.0、
A0=0.4g、α=3、1 種または 2 種地盤上の 15 階を越える建物として R*=7∼9 とすれば、設計地震加
速度の大きさは 0.17g∼0.13g となり、静的解析の場合と設計地震力の大きさは大きく変わらない
ことになる。
Valparaiso
Santiago
Santiago
Rancagua
Concepcion
Talca
Ao=0.2g
Ao=0.4g
Concepcion Ao=0.3g
Temuco
Fig.4.1.1-1 Seismic zone map (NCh433-1996)
35
0.2
上限値 0.182
0.18
上限値 0.168
設計ベース シ ア 係数 C
0.16
上限値 0.140
0.14
上限値 0.126
0.12
2 種地盤
0.1
1 種地盤
0.08
4 種地盤
3 種地盤
0.06
下限値 0.067
0.04
0.02
0
0
0.5
1
1.5
建物周期 T*
2
2.5
3
Fig.4.1.1-2 Seismic design base shear coefficient (NCh433-1996)
3.5
3
応答倍率 α
2.5
3 種地盤
4 種地盤
2
2 種地盤
1.5
1 種地盤
1
0.5
0
0
0.5
1
1.5
2
2.5
3
周期
Fig.4.1.1-3 Amplification factor for design spectral acceleration (NCh433-1996)
36
3.5
10
1 種地盤
9
8
2 種地盤
低 減 係 数 R*
7
6
3 種地盤
5
4
4 種地盤
3
2
1
0
0
5
10
15
20
25
階数 n
Fig.4.1.1-4 Reduction factor for the wall system RC buildings (NCh433-1996)
2) RC 構造の耐震設計と過去の地震被害
現在の RC 構造の設計コードは
(NCh430-2007) で、1957 年版の NCh429 (Hormingón armado –
Parte 1) と 1961 年版の NCh430 (Hormingón armado – Ⅱ Parte)
を更新したものであるが、
NCh430-2007(2007)で ACI318-05 を採用することが正式に条文化されたようである。それまでは、
NCh433-1996 (1996)のような耐震規定はあっても、具体的な RC 造の耐震設計コードはなかったよ
うである。Riddell et al.,(1987) の記述によれば、
① NCh429 と NCh430 は、1952 年版および 1959 年版の DIN1045 に基づく。
② 耐震設計条項を含んでいない。
③ 特に、靭性建物にするための詳細を規定していない。
④ 設計者はフレーム構造建物を設計するために、ACI コードの付録 A を使用することが多い。
⑤ しかし、靭性を確保するための条項は、壁構造建物に殆ど用いられていない。
⑥ 設計者は CEB あるいは FIP の基準を参考にすることもあるが、彼らの経験と判断に頼ってい
ることが多い。
⑦ RC 構造の設計は ”working stresses” に基づくものである。
今回の地震被害は、壁端部の圧縮破壊によるものが多いと思われるが、その一般的ディテール
については Riddell et al.(1987) に紹介されている。 Fig.4.1.2-1 に一般的な壁端部断面を示す。
(Riddell et al., 1987) によれば、壁厚は鉛直あるいは水平支点間距離の 1/25 以上かつ 20cm 以上、
建物頂部から 6m の範囲は 15cm にまで低減可能(1961 年版の NCh330 によると思われる)とある
が、実際には下層階でも 15cm 程度になっている場合もある(調査結果)。Riddell et al.(1987) によ
れば、壁端部曲げ補強筋量についての制限はなく、それらに対する拘束方法の規定もないという
ことであるが、調査結果では 15∼20cm の壁厚の中に D25∼D32 の太径鉄筋が多数配置され、しか
も全数重ね継手になっている場合も確認された。また、壁横筋は縦筋の外側に配置され、壁端部
37
では 90 度に折り曲げられているだけで、壁端部曲げ補強筋の横拘束には殆ど役立っていないと思
われる。1996 年以降の建物でも、同じディテールが見られた(調査結果)。なお、壁厚が小さい
場合には、壁端部で L 型と U 型に曲げられている場合もあるが、やはり壁端部曲げ補強筋の横拘
束効果としては小さいと思われる。Riddell et al.(1987) によれば、壁筋はダブル配筋で 0.2%以上、
間隔は 30cm 間隔以下、コンクリートの被厚さは 15mm(1957 年版の NCh429 によると思われる)
である。建設年が最近の建物では、壁筋間隔は狭くなっているようであるが、殆どの場合 D8∼
D10 程度の鉄筋が使用されている(調査結果)
。コンクリート強度は、シリンダー強度に換算して
190 kg/cm2 と 255kg/cm2 が使用されているようである (Riddell et al., 1987)。今回、コンクリート強
度の調査はしていないが、コンクリートの表面を観察する限り特に品質が悪いという感じは持た
なかった。ただし、最大粒径が卵サイズの骨材が用いられている場合も多く見られ、付着強度、
圧縮強度後の脆弱性が懸念されるなど、筆者らの経験的知識外のこともあった。
Fig.4.1.2-2 は 1985 年の Viña del Mar 付近で起こった地震(Mw=8.0)による被害例を Flores(Editor)
(1993) から引用して示す。この建物は 1970 年の建設で、上記の慣行で設計・施工されていると思
われる。壁のせん断破壊と思われるが、壁コンクリートが大きく脱落している。今回の地震では、
RC 壁のこのような破壊は顕著でなく、設計者の経験と判断に頼っているとしても、壁筋間隔が狭
くなるなど改善はなされているように思われる。Fig.4.1.2-3 の建物は、Fig.4.1.2-2 に示す建物の隣
に位置しており、1985 年の地震で大きな被害を受けた建物である。建設は 1965 年である。壁端
部が圧縮破壊し、軸筋が座屈して飛び出している。今回の地震でも、同じような被害が多くの建
物で見られた。壁筋の量が増えているようには感じられても、やはり配筋詳細に問題を残してい
ることが予想される。
曲げ補強筋量の制限なし
拘束効果に対する規定なし
ダブル配筋 0.2% 以上 30cm 間隔以下
被り厚さは15mm (NCh429 )
壁厚:支点間距離の 1/25 以上
20cm 以上
最上層部 6m に範囲は 15cm まで低
減可
D25∼D38が使用されている
重ね継手になっている(調査結果)
下層部でも15cm程度が多い
(調査結果)
壁横筋は90°フック、良くても
1993年以降の建物でも、同じディテールが見られる
壁筋間隔が小さくなった程度(調査結果)
Fig.4.1.2-1 Typical wall details (Riddell et al., 1987)
38
+
Fig.4.1.2-2 Damage example of the wall in the event of 1985 (Hanga-Roa) (Flores R. A. (Editor), 1993)
今回は、
このパターンの被害
が多く見られた
Fig.4.1.2-3 Damage example of the wall-end in the event of 1985 (Acapulco) (Flores R. A. (Editor), 1993)
39
3) チリの壁構造建物の特徴
チリの壁構造は日本の壁式構造と異なっている。特徴的な建物の例を Fig.4.1.3-1 に示す。
① RC 壁は平面を仕切るように設けられるが、建物外周に壁が設けない場合が多い。平面を仕切
る壁が外周部に到達したところで T 形に直交した壁が取り付けられることは稀で、外周部では
壁端部の小口(壁厚さ)だけが見えるようになることが多い。
Fig.4.1.3-1 の例では、Y1 通りの X2 軸および X8 軸に外周部の直交壁があるが、Y1 通り
では平面の隅角部に鉛直部材が無く、X3-X7 間のバルコニーで軸芯がずれるためラーメ
ンが形成されず、これらの壁が桁行き方向の大きな水平力を負担することはない。X1 通
りおよび X9 通りにある壁も同じである。
② 外周部に壁をおかないため、ねじり剛性が小さくなり、壁配置のバランスが悪いと捩れ変形を
起こしやすいと想像される。
③ 連層耐震壁が片持ち型の曲げ壁となり、耐力が小さく応答変位が大きいと想像される。
Y2 通りでは比較的壁が連続しているが、これらを結ぶ梁の幅は壁厚と同じで、階高の関
係で梁せいも大きくしない。従って、大きな曲げ戻しを期待できず、連層壁になっても
曲げ型になってしまうことが予想される。Y2 通り X1-X2 間および X8-X9 間のような壁
は軸芯がずれるために、X2 軸あるいは X8 軸側に向って梁が設けらずスラブだけでつな
がることもあり、結果として連層耐震壁が片持ち型の曲げ壁となってしまう。このよう
な性質の壁が配置されることが多くある。チリの壁構造建物の壁量は比較的多いといわ
れ、弾性周期は日本の RC 造建物と大きく変わらないようであるが、容易に損傷が起こ
りそうで、損傷が生じた後の周期が延びることも想像される。
④ 上下階の壁が連続しない場合も多くある。また、上階でオーバーハングしたりバルコニーが設
けられることが多く、上階で外縁まで延びていた壁が、1 階ではオーバーハングやバルコニー
がないために、その分だけ壁長さが縮小されることがよくある。
⑤ 地下階を駐車場として利用することが多い。この時、車路を確保したり、人の通路を確保する
ために、上階から連続する壁が地下階で長さを縮められることがよくおこる。極端に壁長さが
縮められた場合には、いわゆる下階壁抜け状態となる。
Fig.4.1.3-2 は、1974 年頃建設、地上 16 階、地下 2 階の RC 壁構造建物に、日本の耐震診断法 (二
次診断)を適用した結果 (Makino, S., 1997) である。Fig.4.3-2 には基準階の平面が示されているが、
各階とも同じ平面形で壁が上下方向で不連続となることはない。また、X 方向および Y 方向とも対
称である。外周部の長さの短い壁がせん断型の壁柱として評価されているが、梁断面の大きさと配
筋量を考えれば、耐力はさらに低く評価されるようになる。内部の長さの大きい壁は連層壁として
曲げ型に評価されているが、浮き上がりまでは考慮されていない。いずれにしても、水平耐力(C
値)はより小さくなり、変位(F 値)は大きくなると思われるが、Is 値としてはそう大きく変わら
ないかもしれない。ただし、ここでは地下階があることから、SD 指標が 1.2 とされている。
Fig.4.1.3-3 には、Fig.4.1.3-2 の建物のほかに 15 階建て 1 棟、9 階建て 3 棟、計 5 棟の壁構造建物
の 1 階の Is 値(二次診断)が簡略的に求められている (Makino, S., 1997)。Is 値は 0.3 前後であり、
地下階があることを考慮すれば C 値は 0.25 以下で、二次診断の仮定よりはより曲げ型になるとす
れば、さらに C 値は小さくなる。
40
C 値が小さいことを考えれば、チリの壁構造建物は、倒壊に到るような被害を受けないとして
も、曲げによる損傷が生じ、相当に大きな変形が生じて非構造要素が損傷する可能性がある。変
形に追随できない構造詳細があれば、大きな構造的ダメージをうける可能性もある。
1985 年の Viña del Mar で起こった地震被害の統計的分析が行われている (Riddell et al., 1987)。
そこでは設計図が入手できた 5 階建てから 23 階建てまでの 178 棟について、志賀マップによる検
討が行われている。Fig.4.1.3-4 は無被害、小破、中破、大破ごとに示されているが、無被害と大破
を区分する境界は見当たらない。つまり、壁量で被害を説明できないことがわかる。平均せん断
応力度が大きいのは高層建物が多いからである。8∼17 階建てでは 30∼40kg/cm2 程度である。20
階を超えると 60∼70kg/cm2 程度となる。上述の耐震診断結果より、地震時のベースシア係数が 0.2
程度とすれば、壁に生じるせん断応力度は 12∼14 kg/cm2 程度となり、コンクリート強度が確保さ
れていれば、それほど大きな値とは思われない。やはり、被害が生じるとすれば、壁量よりは変
形に追随できない構造詳細、構造計画上の弱点などが大きな理由になる可能性はある。
Y4
Y3
Y2
Y1
Y0
X1
X2
X3
X4
X5
X6
Fig.4.1.3-1 An example of wall system architecture
41
X7 X8
X9
Fig.4.1.3-2 An example of seismic performance evaluation (Makino, S., 1997)
Fig.4.1.3-3 Distribution of seismic performance indices of wall system RC buildings (Makino, S., 1997)
42
軽微/無被害
小破
大破
中破
Fig.4.1.3-4 Structural indices of the RC buildings in Vina del Mar (Riddell et al., 1987)
43
4) RC 壁構造建物の被害例
(Example of Damaged RC Wall System Buildings)
この項では、実際の RC 壁構造建物の被害例を述べる。なお、この項で扱う被害建物は、
「サ
ンチアゴ(Santiago)およびマイプ(Maipu)」
「コンセプシオン(Concepcion)」
「ビーニャデルマール
(Vina del Mar)」「タルカ(Talca)」「チジャン(Chillan)」に所在する。
下記の「建物名称」について説明する。調査時点で建物の固有名詞が判明したものと、建物
の固有名詞は不明のものがある。このため、
「建物固有名詞が判明したもの」については、
「建
物名称」はその建物の固有名詞を記し、あわせて住所が判明したものについては、その住所も
記す。一方、「所在住所のみが判明し建物の固有名詞が不明のもの」は、建物名称の冒頭に英
語の”Building”に相当するスペイン語単語”Edificio”を付け、あわせて名称の後ろに「(住所)
」と
付記する。すなわち、
「Edificio ○○****(住所)
」で、
「○○通り****番地の建物」という意味
である。なお、チリにおける住所の表記方法は、アメリカ合衆国などで見られる形式と同じく
「正面玄関が面する通りの名前」+「番地」である。
①建物名称:Edificio Los Leones 1300(住所)
所在地:Santiago
階数:地上 20 階、地下 2 階
建設年:不明
2000 年代と思われる
この建物は、上階の住居部分の立ち入り調査はできなかった。また、地下階は調査時点です
でに補修工事が始まっていたことに注意を要する。
この建物は、Fig.4.1.4-1(b)に示すように、住居部分が地上 20 階建て地下 2 階で、建物裏側の
庭下に地下 2 階部分が拡大している。
地下階は 2 階とも駐車場および設備室関係となっている。
地下階では柱も存在したが、配置間隔は規則的にはなっておらず、ラーメン構造と壁構造の混
用(駐車場のため車の駐車に支障をきたさないよう、壁ではなく柱としたもの)と推測される。
地上階直下の地下 1 階で測定した結果、壁厚さは 150mm、柱は 600mm×400mm であった。
地上階直下の地下階壁が、地下 1 階、地下 2 階のいたるところで圧縮破壊を起こしていた模
様で、補修にともないコンクリートを除去した壁から、内部の縦筋が座屈した状況や、圧縮に
よる座屈の末、軒並み破断している状況が確認された(Fig.4.1.4-1(c)および(d))。地震発生以前
からのものと思われる壁横筋の腐食も目立った。
調査時点で、地下階の一部壁際に鋼管が立てられていた(Fig.4.1.4-1(e))が、今回の地震後に行
なった補修用なのか、それとも地震前にすでに行なっていた補強用なのかは不明である。
44
地上
20 階
この部分地上庭
前
面
道
路
地下 2 階
Fig.4.1.4-1(b) Schematic Elevation
Fig.4.1.4-1(a) Appearance of
Edificio Los Leones 1300
Fig.4.1.4-1(c) Deformation of Wall
Reinforcement on Underground Level Caused
by Compressive Force
Fig.4.1.4-1(d) Buckling and Breaking of Wall
Reinforcement
Fig.4.1.4-1(e) Support Steel Pipe Standing
near Shear Wall
45
②建物名称:Sol Oriente 1 y 2
所在地:Santiago(同一敷地に類似の 2 棟が建っている)
住所:Exequiel Fernandez 2302 および Av. Macul 2301
階数:Sol Oriente 1 は地上 20 階、地下 2 階
建設年:不明
Sol Oriente 2 は地上 18 階、地下 2 階
2000 年代と思われる
この建物(群)は、Fig.4.1.4-2(b)に示すように、同じ敷地にほぼ同規模の 2 棟が建っている。
両棟の間は車路で区切られており、地上階部分では構造的な一体性はない。しかし、地下階(駐
車場が主な用途)は連続しており、構造的な一体性が認められる。なお、両棟とも地上階部分
はやや南側に傾斜していた。
内部に立ち入ることのできた Sol Oriente 2 は、東西方向のほぼ中央部分にエキスパンション
ジョイントがあり、1 階南面部分ではジョイント内は空洞であったものの(Fig.4.1.4-2(c))、上階
の室内側では、ジョイント内に発泡スチロールが詰められていた(Fig.4.1.4-2(d))。
外観上はこのエキスパンションジョイントの 1 階部分で壁のかぶりコンクリートが落ち、内
部の配筋が露出していた(Fig.4.1.4-2(e))。これによると、壁端部の縦筋は直径 25mm 程度のもの
が 2 段の配筋となっており、この縦筋を取り囲むように直径 8mm 程度の横筋が、端部 90°フッ
クで配筋されている。余長が 20mm 程度ときわめて小さい。縦筋は軸方向に座屈しており、ま
た横筋もこの座屈にともない開いている。壁が地震により大きな圧縮力を受けたものと考えら
れる。
上階部分内部では、居室内の間仕切り壁が大規模に破損するなどの被害が確認された
(Fig.4.1.4-2(f)および Fig.4.1.4-2(g))。4.3 節で後述のとおり、間仕切り壁は石膏製の穴空きパ
ネルであり、地震により大きな応答変位が建物上階部分に発生して破損したものと考えられる。
なお、戸境にあるコンクリート製耐震壁にはせん断ひび割れは発生していたものの、そのひび
割れ幅は目立って大きなものではなかった。
また、直天井ではあるが、天井材の落下も確認された(Fig.4.1.4-2(h))。
一方、地下階の耐震壁には、大きな圧縮力を受けたと思われる圧縮破壊の痕跡が多数確認さ
れた。直交する壁梁のせいより下の部分で圧縮破壊を起こした耐震壁が多く見られた
(Fig.4.1.4-2(i))。壁配筋は、前述の地上階のそれとおおよそ同じである。壁横筋の端部は 90°フッ
クであるものの、余長がかなり長く(すなわちコ型をなす)、しかも余長が不揃いであること
が特徴である(Fig.4.1.4-2(j))。一部独立柱ともいえる部材が上階の床スラブのリブを支持してい
る箇所もあったが、柱とリブのかかり寸法が小さいことが特徴として挙げられる(Fig.4.1.4-2(k))。
地下 1 階の天井を兼ねる地上 1 階の床スラブと壁柱の接合部が、圧縮によると思われる破壊
を起こしている箇所があった(Fig.4.1.4-2(l))。
46
道
道
北
Sol Oriente 2
Sol Oriente 1
両棟ともやや
南側に傾斜
路
路
Fig.4.1.4-2(b) Schematic Site Plan
Fig.4.1.4-2(a) East Side
Appearance of
Sol Oriente 1
Fig.4.1.4-2(d)
Failure of Exp. Joint
from Inside
Fig.4.1.4-2(e) Detail of Wall
Reinforcement
Fig.4.1.4-2(c)
Failure of Exp. Joint
from Outside
Fig.4.1.4-2(f)
Damage of Partition
Wall
Fig.4.1.4-2(g) Damage
of Partition Wall
47
Fig.4.1.4-2(i) Damage of Shear Wall on
Underground Level
Fig.4.1.4-2(h) Damage of Ceiling
Fig.4.1.4-2(j) Detail of Failed Joint
between Wall and Beam
Fig.4.1.4-2(k) Detail of Failed Joint
between Column and Slab
Fig.4.1.4-2(l) Detail of Failed Joint
between Column and Slab
48
③建物名称:Edificio Los Cerezos 33(住所)
所在地:Santiago
階数:地上 27 階、地下階不明(地下 4 階まで存在する模様である
地下階は地下 1 階のみ
立ち入り調査)
建設年:不明
2000 年代と思われる
高層で奥行きの小さい板状の集合住宅である。正面入り口は東に面しており、入り口のある
1 階床高さが道路面から 1m ほど上がっている。
1 階正面入り口両横の耐震壁端部が破壊を起こしていた(Fig.4.1.4-3(c))。また、上階では 4 階
の東面外周にある壁(方立て壁)にも圧縮破壊と推測される破壊が見られた(建物外側から
Fig.4.1.4-3(d)、同じ方立て壁を室内側から Fig.4.1.4-3(e))。この壁に接するサッシュ縦枠も、激
しく座屈を起こしていた。同じく 4 階の内部では、壁梁端部に曲げ破壊と思われる破壊が生じ
ていた(Fig.4.1.4-3(f))。
破壊した方立て壁には、粒径のかなり大きい粗骨材が用いられている。形状から河川からの
天然粗骨材(いわゆる川砂利)であると推定される(Fig.4.1.4-3(g))。壁厚さや鉄筋の径、かぶり
厚さの実情から、この大きさの粗骨材を多量に用いると、コンクリートの充填不良を導く恐れ
が大きいと思われる。
Fig.4.1.4-3(c)
道
Failed
Wall on
4th Floor
建
物
路
Fig.4.1.4-3(a)
Fig.4.1.4-3(b) Schematic Site
Plan
Fig.4.1.4-3(a) East Side Appearance
of Edificio Los Cerezos 33
Fig.4.1.4-3(c) Detail of Failed Wall on
Entrance 1st Floor
49
Fig.4.1.4-3(e) Detail of Failed
Wall on 4th Floor from Inside
Fig.4.1.4-3(d) Detail of Failed
Wall on 4th Floor from Outside
Fig.4.1.4-3(f)
Detail of Failure on End of Beam
Fig.4.1.4-3(g) Gravel Used
in Wall
④建物名称:Raddison
所在地:Santiago
住所:不明
階数:地上 13 階、地下階不明(立ち入り不可)
建設年:不明
2000 年代と思われる
サンチアゴ中心部北方にある山を越えた新興開発地域 Ciudad Empresarial にある建物で、用
途は下層約 3 階までが物販商業施設と駐車場、上層が事務所と思われる。立ち入りが禁止され
ており、内部の調査はできなかった。
主な被害は、高層部外周の開口部下腰壁あるいは梁(逆梁)の多数にせん断ひび割れが発生
したことである。なお、直交する別の構面の壁梁にもせん断ひび割れが発生している
(Fig.4.1.4-4(c)(d)))。低層部では、エキスパンションジョイントにおける両側建物の衝突と、上
50
下方向壁と水平方向円周状桁の衝突あるいはねじりと思われる破壊が確認された
(Fig.4.1.4-4(e)))。
事
務
所
部
分
物販・駐車場
Fig.4.1.4-4(b) Schematic Elevation
Fig.4.1.4-4(a) Appearance of Raddison
Fig.4.1.4-4(c) Damage of Shear Failure
on Wall
Fig.4.1.4-4(d) Damage of Shear
Failure on Perpendicular Wall
Fig.4.1.4-4(e) Damage of Joint between Wall
and Girder
51
⑤建物名称:Patio Mayor
所在地:Santiago
住所:Av. Del Valle 937, Ciudad Empresarial
階数:地上 5 階、地下階不明(立ち入り不可)
建設年:不明
2000 年代と思われる
Raddison から 200m ほど離れた建物(用途、構造など詳細は不明)である。立ち入り調査は
できなかったが、外観する限り、階段室最上階の鉄骨製梁が地震で落下した模様で、階段室の
外壁が完全に落下した状態であった(Fig.4.1.4-5)。
なお、この建物の周辺には、学校と思われる施設や商業施設あるいは集会施設と思われる建
物が複数あるが、その多くで何らかの構造的被害が確認された。
Fig.4.1.4-5 Damage of
Stairway Area of Patio Mayor
⑥建物名称:Don Tristan
所在地:Maipu
住所:Calle Bailen 2320
階数:地上 4 階、地下 1 階(構造的には地上 5 階
なお地下 1 階はピロティ)
建設年:おそらく 2000 年代
建物に近づくことが許可されなかったので、以下は、建物周囲から被害状況を観察した結果
である。地上 4 階、地下 1 階と言っても、ドライエリアが大きく構造としては 5 階建てである。
2 面が道路に面しており、地中壁があるはずである。地下階は駐車場として利用されているの
で、確認できないがおそらくピロティ構造になっているか、壁長さが縮められていると思われ
る。地中壁で偏心して振られる方向へ大きく傾斜して倒壊しており(Fig.4.1.4-6(c))、下階壁抜け
52
と偏心の両方があることが想像される。Fig.4.1.4-6(e)では、駐車場天井レベルが完全に地に着
いており、確認はできないが壁部材が鉛直荷重を支えられなくなっていることは明らかである。
Fig.4.1.4-6(c)
倒壊している方向
道路
ドライエリア
Fig.4.1.4-6(e)
道路
Fig.4.1.4-6(d)
Fig.4.1.4-6(b) Key plan and section
地中壁
Fig.4.1.4-6(a) Schematic Site Plan
Fig.4.1.4-6(c) Appearance of Don Tristan
Fig.4.1.4-6(d) Appearance of Outside
Fig.4.1.4-6(e) Pancake Crush of 1st Story
53
⑦建物名称:Don Luis
所在地:Maipu
住所:Luis Gandarillas 360
階数:地上 4 階、地下 1 階(構造的には地上 5 階
建設年:不明
なお地下 1 階はピロティ)
2000 年代と思われる
構造的には地上 5 階建ての建物であるが、ピロティのある最下階の床面が道路面より低く
なっている。このため、建築計画的にはこの最下階が地下 1 階ということになり、「地上 4 階
地下 1 階建て」ということになる。妻側が道路に接するため、地中壁がある。また、残りの 3
辺がドライエリアである。平面形状は L 型をしている。
地下 1 階のピロティ壁が、せん断破壊あるいは壁頂部の圧縮破壊を起こしており
(Fig.4.1.4-7(d)(e)(f))、建物の一部は地下 1 階が落階している(Fig.4.1.4-7(a))。
壁厚さは 150mm 程度で、壁端部には D22 程度の縦筋が配筋されており、横筋は D8 程度で
配筋間隔は 120mm 程度、端部フックは 90°で、余長は少ない。フックが開いてしまっている
(Fig.4.1.4-7(g))。壁は、車の出入りを妨げないようにとの配慮から、一方向に偏った配置となっ
ており、それに直交する方向の壁は少ない。壁自体も端部に柱や直交方向壁がほとんどない状
態である。また、上階には壁があるが 1 階には壁がない構面(下階壁抜け)が存在する
(Fig.4.1.4-7(e))。壁長さや配置間隔に統一性がない箇所があり、妻側の地中壁の存在とあわせて、
地震動によりねじれが発生した可能性が高い。
壁横筋上にかぶり厚さ確保のためのスペーサーが配されているが、かぶり厚さそのものは小
さかった(Fig.4.1.4-7(h))。
落階した部分では、直天井を兼ねた上階スラブが、押し抜きせん断状に破損していた
(Fig.4.1.4-7(i))。これは落階したことにより生じたものと考えられる。
Fig.4.1.4-7(d)(e)
道
5 階建て
車進入路
路
Fig.4.1.4-7
(f)(g)
落階
Fig.4.1.4-7 (a)(c)
Fig.4.1.4-7(b) Schematic Site Plan
Fig.4.1.4-7(a) Appearance of
Don Luis
54
Fig.4.1.4-7(c) Appearance of
Don Luis
Fig.4.1.4-7(d) Shear Failure Damage
of Wall on 1st Floor
Fig.4.1.4-7(e) Damage of Underground Floor
Fig.4.1.4-7(f) Compressive Failure
Damage of Wall on Underground Floor
Fig.4.1.4-7(g) Detail of Top of Wall on
Underground Floor
Fig.4.1.4-7(h) Detail of Reinforcement
Fig.4.1.4-7(i) Damage of Upper
Floor’s Slab
55
⑧建物名称:Condominio Los Jazmines
所在地:Maipu
住所:Tristan Valdes 275
階数:地上 4 階、地下 1 階(構造的には地上 5 階
建設年:不明
なお地下 1 階はピロティ)
2000 年代と思われる
前述の⑦と同じく、構造的には 5 階建てであるが、建築計画的には地上 4 階地下 1 階建てで
ある。一部中庭を有し、また建物の約半分は地下 1 階部分がピロティ(駐車場)となっている。
壁の配筋は、Fig.4.1.4-8(b)に示すように、壁端部だけでなく壁中央部にも縦方向に太めの鉄
筋が配されており、これを取り囲むように横筋が配されている。すなわち、壁厚さは壁全域で
同じであるものの、柱に相当するような部分が壁内に存在するということである。いわゆるコ
ア部を壁両端部と壁中央部に形成しようとした形跡と考えられる。しかし、断面が小さかった
ため、コアとしての挙動ができなかったものともいえる。
壁横筋は D8 あるいは D10 程度のものが 100mm 間隔で配されており、壁縦筋の拘束という
点では効果を発揮しているといえる。他の建物の壁で見られた壁縦筋の軸方向圧縮力による座
屈は見られなかった。ただし、かぶり厚さの確保ができていなかったようで、壁横筋のかなり
の腐食が確認された(Fig.4.1.4-8(c)(d))。
構造的な被害は、建物の外周部に集中している。上述のとおり壁縦筋の座屈は見られなかっ
たが、壁コンクリートが圧縮力により圧壊していた(Fig.4.1.4-8(b)(c)(d))。
前
面
道
路
中庭
地下 1 階
部分
ピロティ
Fig.4.1.4-8(b)
Fig.4.1.4-8 (c)
Fig.4.1.4-8(a) Site Plan of Condominio Los Jazmines
Fig.4.1.4.8-(c) Damage of
Outer Wall
Fig.4.1.4-8(b) Damage ofOuter Wall
Fig.4.1.4-8(d) Detail of Wall
56
⑨建物名称:Vista Hipodromo
所在地:Santiago
住所:Av. Hipodromo Chile 1631
階数:地上 21 階、地下 1 階
建設年:不明
2000 年代と思われる
21 階建の壁構造高層集合住宅で、平屋建ての管理棟の横に 21 階建て部分が接続している。
ただし、この平屋部分と 21 階楯部分の境界にエキスパンションジョイントがあるかどうかは、
不明である。1 階のおよそ 1/3 がピロティ階(駐車場)となっており、そのほかは玄関ホール
や階段室、エレベータホールとなっている。
Fig.4.1.4-9(a)に示すように、長辺方向に比べて短辺方向の長さが比較的小さい板状の建物で
あるので、短辺方向に地震動が作用した場合、下層に大きな付加曲げモーメントが作用するこ
とが容易に想像でき、事実それを裏付けるように、構造的被害は 1 階に集中し、ピロティ部分
の壁頂部の圧縮破壊が多く見られた(Fig.4.1.4-9(c)(d)(e)(f))。壁端部縦筋の座屈を壁横筋(D8 程
度)が拘束できなかった模様で、端部 90°フックの壁横筋が開いていた(Fig.4.1.4-9(d)(f))。
なお、外周部の階段も、踊り場や踏み板の傾斜が著しく、歩行に支障をきたす箇所が多かっ
た(Fig.4.1.4-9(g))。住居内部は入り口が施錠され詳細な内部確認ができなかったが、間仕切り壁
の破損などがある模様である。
平屋
玄関
ホール
前
面
道
路
21 階建て
住居部分
Fig4.1.4-9(f)
1階
ピロティ
Fig.4.1.4-9(c)(d)
Fig4.1.4-9(e)
Fig.4.1.4-9(b) Schematic Site Plan
Fig.4.1.4-9(a) Appearance of
Vista Hipodromo
57
Fig.4.1.4-9(d) Detail of Top of Failed Wall
on 1st Floor
Fig.4.1.4-9(c) Damage of
Wall on 1st Floor
Fig.4.1.4-9(e) Damage of Wall on 1st
Floor
Fig.4.1.4-9(f) Detail of Top of Failed
Wall on 1st Floor
Fig.4.1.4-9(g) Damage of Stair Step
58
⑩建物名称:Edificio Caupolican 518(住所)
所在地:Concepcion
階数:地上 11 階、地下階不明(立ち入り不可)
建設年:不明
Concepcion 市街地中心部にある商業建築物であるが、立ち入っての調査はできなかった。外
観上は地上 11 階建てであるが、上部 3 階がセットバックした形状である。
9 階部分に黒い目隠し幕が張られており、9 階で構造部材あるいは非構造部材の大規模な損
傷があった模様である(Fig.4.1.4-10(b))。なお、外観上目立った層間変位は確認されなかった。
Fig.4.1.4-10(a) Appearance of
Edificio Caupolican 518
Fig.4.1.4-10(b)
Detail of Upper Floor
⑪建物名称:Edificio Los Carreras 1535(住所)
所在地:Concepcion
階数:地上 17 階、地下 1 階
建設年:2006 年頃
建物外観を Fig.4.1.4-11(b)に示す。玄関回り、建物外周、駐車スペースを見ることができた。
建物内部には入れなかった。後部に駐車スペースが設けられているが、その屋根は建物に取付
けられたブラケットに乗せてあり、建物は独立して建っている。Fig.4.1.4-11(a)に立面の概略を
示す。道路側の外観には被害が目立たないが、図中の矢印の方向の力で大きな損傷が起こった
形跡がある。Fig.4.1.4-11(c)はその方向に力を受ける 2 階駐車スペース側の壁で、バルコニーの
分だけセットバックしているが、壁が圧縮力で大破している。壁端部は T 字形をしており、端
部の破壊は目立たない。
Fig.4.1.4-11(a)の立面と直交方向に振られた形跡も見られた。Fig.4.1.4-11(d)は、駐車スペース
の屋根に接する部分で壁柱が短柱化している部分が破壊したものである。また、Fig.4.1.4-11(e)
は建物の両側にある 5 層の張出し部分である。両側とも、建物本体側の梁端が全層にわたって
大破している。建物内部の壁に面内方向で接続しているかどうかは定かでないが、主筋量が多
いのに梁幅が小さく、しかもコアコンクリートの拘束が十分でなければ、このような破壊モー
ドを示しても不思議はない。
59
Fig.4.1.4-11(e)
Fig.4.1.4-11(c)
Fig.4.1.4-11(d)
駐車スペース
道路
駐車スペース
Fig.4.1.4-11(b) Schematic View of Elevation
Fig.4.1.4-11(a) Appearance of
Edificio Los Carreras 1535
Fig.4.1.4-11(d) Failure of Short T-shape Wall
Fig.4.1.4-11(c) Compressive Failure of RC wall
Fig.4.1.4-11(e) Failure at Beam Ends
60
⑫建物名称:Plaza del Rio
所在地:Concepcion
住所:Salas 1343
階数:地上 13 階(一部 12 階)、地下階不明(立ち入り不可)
建設年:不明
Concepcion 市街地にある高層の集合住宅で、エキスパンションジョイントを介して L 字型平
面の 13 階建て部分とほぼ矩形平面の 12 階部分が接続しており、全体として平面形状は L 字型
をしている。L 字折れ曲がり部分のエキスパンションジョイントの隣に階段室とエレベータが
配置されている模様である。
敷地内への立ち入りができなかったが、外観では 12 階建て部分の 1 階妻壁が圧縮破壊して
いた(Fig.4.1.4-12(c))。また、エレベータシャフトの外面ガラス(半透明ガラスと思われる)が
大規模に破損しており、エレベータ機械が収納されていると思われる搭屋が完全に崩れ落ちて
いた(Fig.4.1.4-12(a))。また、13 階建て部分の壁柱にせん断ひび割れが生じ、外装(化粧)部分
がはがれおちる被害も多く見られた(Fig.4.1.4-12(d))。
13 階建て
Fig.4.1.4-12(d)
Fig.4.1.4-12(a)
12 階
建て
エキスパンション
ジョイント
Fig.4.1.4-12(c)
Fig.4.1.4-12(b)
Fig.4.1.4-12(a) Appearance of
Plaza del Rio
Fig.4.1.4-12(c)
61
Schematic Site Plan
Damage of Wall on 1st Floor
Fig.4.1.4-12(d) Damage of Shear
Failed Wall
⑬建物名称:Torre O’higgins
所在地:Concepcion
住所:O’higgins 241
階数:地上 20 階程度(層崩壊や複雑なセットバックのため詳細不明)、地下階不明(立ち入
り不可)
建設年:不明
「分譲中」との幕が張られていたため、比較的最近の竣工と考えられる
Concepcion 市街地にある高層の事務所建築である。平面的には、2 面が道路に接している。
一方の前面道路に面した部分(Fig.4.1.4-13(a))が一部面取り状に切り欠かれた形状をしており、
この部分は全階がガラス張り開口部となっている。他の面は、道路に面した面(Fig.4.1.4-13(e))
は規則的に開口部をもつものとなっているが、道路に面していない敷地裏側に面する立面
(Fig.4.1.4-13(c)は、一部窓のない連層耐震壁となっている。また、複雑なセットバックや、後
述のような深刻な被害があること、倒壊の恐れがあり近づくことができなかったことなどから、
詳細な階数が把握できない。いずれにせよ、以上の理由からも壁偏在の建物で、地震時には大
きな面内ねじれを受けるであろうと推測できる。
この壁偏在をうかがわせるように、道路に面した側に被害が集中しており、外面する壁の多
数が圧縮破壊あるいはせん断破壊を起こしている(Fig.4.1.4-13(f)(g))。このため、8 階が層崩壊
している。壁の破壊は、直交する方向の外面する壁でも認められる(Fig.4.1.4-13(e))。また、セッ
トバックした上階でも一部の階が層崩壊しており、このためセットバック部分が道路側に倒れ
かかってきており、極めて危険な状態である。
せん断破壊した外面壁を見る限り、壁横筋は D8 程度で、端部は 90°フック、配筋間隔は
100mm 程度と見られる(Fig.4.1.4-13(h))。壁の厚さ内で余長をとっていることから、余長は
100mm 程度と考えられる。
62
道
路
Fig.4.1.4-13(e)(g)(h)
建物
Fig.4.1.4-13(c)
道
Fig.4.1.4-13(a)(f)
路
Fig.4.1.4-13(d)
Fig.4.1.4-13(e)
Fig.4.1.4-13(b)
Schematic Site Plan
Fig.4.1.4-13(a) Front Side
Appearance of Torre O’higgins
Fig.4.1.4-13(c)
Back Side Appearance
Fig.4.1.4-13(d) Detail of Story
Collapse on 8th Floor
Fig.4.1.4-13(e)
63
Shear Failure of Wall
Fig.4.1.4-13(f) Detail of Story
Collapse on 8th Floor
Fig.4.1.4-13(h)
Fig.4.1.4-13(g)
Shear Failure of Wall
Detail of Failed Wall
⑭建物名称:Edificio Lincoyan 440(住所)
所在地:Concepcion
階数:地上 18 階、地下 1 階
建設年:1973 年
取壊しが決定されている建物で、内部に立ち入ることができず、外部からの観察だけである。
Fig.4.1.4-14(a)に建物外観を示す。これより推測した壁配置で確認できた部分を Fig.4.1.4-14(c)
に示す。1 階道路側で確認できた壁厚は 30∼35cm であるが、ここに D25 程度が多数過密配筋
されていた。壁横筋は D8~D10 程度でおよそ 200mm 間隔、壁端部では 90 度フックであった
(Fig.4.1.4-14(d))。壁端部で壁端部が圧縮破壊し、主筋が座屈しているのは、他の建物でも見ら
れた破壊モードである。
Fig.4.4.1-14(b)は梁と壁の接合部周りの損傷であるが、下層階から上層階まで、ほぼ全ての階
で起こっていた。梁主筋を壁厚 30∼35cm の中に定着しようとすると、鉄筋の納まりに難しさ
が出てくる。また、梁主筋がうまく納まった場合には、梁端曲げモーメントと壁の面外方向曲
げモーメントのつり合いから、壁の面外方向にヒンジが生じやすくなるものと思われる。
外部から見た損傷状況から判断して、損傷後の水平剛性が低下していることが想像でき、内
部では非構造要素も含めて相当の損傷が生じていると推測される。
64
Fig.4.1.4-14(b) Damage around Beam-Wall Joint
Fig.4.1.4-14(a) Overall Appearance of
Outside of Edificio Lincoyan 440
Fig.4.1.4-14(a)
Fig.4.1.4-14(c) Floor Plan and the
Supposed Location of Walls
Fig.4.1.4-14(d)
Congested Reinforcement
Arrangement in the Wall
with Small Thickness
65
⑮建物名称:Centro Mayor
所在地:Concepcion
住所:Freire 1165
階数:地上 17 階、地下 1 階
建設年:2007 年
Concepcion 市から取り壊しの決定を受けている建物である。内部への立ち入りが許可されな
かったため、外観からの調査である。Fig.4.1.4-15(f)では、地上階の駐車スペースで、上階から
の連層壁に通路を確保するための開口が設けられ、壁断面が小さくなっていることが確認でき
る。調査後に住人より提供された背後からの写真(Fig.4.1.4-15(c),(d),(e))によれば、この縮小さ
れた壁が圧縮破壊していることが分かる。Fig.4.1.4-15(e)では、壁端部に太径鉄筋が多数配置さ
れ、壁横筋が拘束筋として働いていないことも分かる。
その他、壁端部あるいは短柱化した部分での圧縮破壊およびせん断破壊がみられるが当建物
に特異なものではない。
地下階への車侵入路が確認できるが、地下階の状況は未調査である。建物内部の非構造要素
の被害状況も聞き取り調査できていない。
Way out from basement
Way in to basement
Fig.4.1.4-15(g)
Fig.4.1.4-15(h)
Fig.4.1.4-15(a) Appearance of
Outside of Centro Mayor
Fig.4.1.4-15(j)
Fig.4.1.4-15(f)
Fig.4.1.4-15(i)
Fig.4.1.4-15(a)
Fig.4.1.4-15(b) Imaged Key Plan of
1st Story from the View of Outside
66
Fig.4.1.4-15(c) Compression Failure of
Squeezed Wall (Photo by Mr. Maureira, N.)
Fig.4.1.4-15(d) Compression Failure of
Squeezed Wall (Photo by Mr. Maureira, N.)
Fig.4.1.4-15(f)
Squeezed Wall Section due to
Opening
Fig.4.1.4-15(e) Compression failure of
Squeezed Wall (Photo by Mr. Maureira, N.)
Fig.4.1.4-15(h) Shear Failure of Wall
(Photo by Mr. Maureira, N.)
Fig.4.1.4-15(g) Compression Failure of
Wall End (Photo by Mr. Maureira, N.)
67
⑯建物名称:Alto Rio
所在地:Concepcion
住所:詳細住所不明
Av. Arturo Prat と Av. Los Carrera の交差点に面して所在
階数:地上 12 階、地下 2 階と思われる(立ち入り不可)
建設年:不明
インターネット上に竣工直後と思われる画像(Fig.4.1.4-16(a))があり、背後の
工事中の建物との関係から、比較的最近竣工したものと考えられる
調査した限りにおいて、完全に倒壊した高層のコンクリート系建築物の唯一の例である。報
道によると、この倒壊で住民 9 名が死亡した。なお、調査時点では敷地境界に危険回避のため
の囲いが設けられており、また警察の監視下に置かれ、許可なく近づけない状況にもあったた
め、内部の立ち入りはできなかった。
チリ国鉄の Concepcion 駅にほど近い線路際にあり、この線路に直交する幹線道路 Av. Los
Carrera の地下立体交差に敷地境界の一方が接している(Fig.4.1.4-16(c))。敷地の他の周囲では、
高層集合住宅が工事中である。
Fig.4.1.4-16(a)によると、地上 12 階建てで、1 階部分の階高が他の上階のそれよりも大きいよ
うに見える。一方、敷地内を周回する車路から推測すると、12 階建て部分の直下および裏側に、
地下 2 階の駐車場があると推測される。すなわち、立面が L 字型をしている(Fig.4.1.4-16(d))。
建物は、この地上 12 階建て部分が完全に地下のある部分側に転倒倒壊している。また、こ
の転倒の衝撃が原因と思われるが、地上約 8 階部分で転倒した部分が完全に折れて分離してい
る(Fig.4.1.4-16(e))。
この分離転倒箇所以外にも、正面玄関部分の壁が崩壊し鉄筋の大多数が壁から抜け出した痕
跡が見られた(Fig.4.1.4-16(f)(g))。また、報道によると住民の証言として「地震の最中に転倒し
たのではなく、地震時はわずかな傾きしかなかった。地震終了後にゆっくりと建物が傾き始め、
最終的に転倒した」旨が伝わっている。このため、地震時に地下部分の耐震壁に大きな圧縮力
が作用し圧縮破壊が発生して建物がわずかに傾斜、その後この傾斜にともない、転倒の引張側
となる正面玄関側の壁から壁縦筋が抜け出し、最終的に転倒したものと考えられる
(Fig.4.1.4-16(d))。地下壁の損傷は確認できなかったが、正面玄関近くの壁から壁縦筋が抜け出
した痕跡は多数確認された。
他の建物と同じように、壁厚さに対して比較的太い壁縦筋を用いていることと、壁横筋によ
る拘束が不充分であろうと思われるため、壁縦筋の重ね継手部が破壊し、壁縦筋の抜け出しを
助長するとともに、建物の転倒を抑えきれなかったものと考えられる。壁内部には多数の設備
配管が認められた。
なお、地震後に救助のために壁に人為的に穴が開けられている(Fig.4.1.4-16(h))。
また、調査終了後にインターネット上で確認したところ、この建物はツインタワーとして別
棟が建設される予定であったとのことで、それに対応して建物地下階に一部セットバックした
箇所があったとのことである。
68
Fig.4.1.4-16(b)
Fig.4.1.4-16(a) Appearance of Alto Rio
before Earthquake from Website
(http://www.flickr.com/photos/monolive/
4484829133/)
Appearance after Earthquake
地上部分がこの向き
に転倒倒壊
車進入路
地下
2階
のみの
部分
地上 12 階
地下 2 階
線
路
+
前
面
道
路
地
上
12
階
地下 2 階
幹線道路(地下立体交差)
地下階壁の破壊
Fig.4.1.4-16(c)
Schematic Site Plan
Fig.4.1.4-16(d) Schematic Elevation
and Imagined Collapse Mechanism
Fig.4.1.4-16(e)
Damage of Wall on 8th
Floor
Fig.4.1.4-16(f) Collapse of Main
Entrance Floor
69
Fig.4.1.4-16(g) Detail of Wall on Mail
Entrance Floor
Fig.4.1.4-16(h) Broken Wall by
Rescue Team
⑰建物名称:Edificio Plaza Mayor
所在地:Concepcion
住所:Castellon 1367
階数:地上 14 階、地下 1 階
建設年:不明
Fig.4.1.4-17(b)に示すように、敷地内に番号の順に建設された 6 棟からなる集合住宅で、一番
古い No.1 が大きな被害を受けた。Fig.4.1.4-17(b)は No.2 を見たものであり、右側に No.1 の一
部が見えている。建設年は不明であるが、おそらく現行耐震規定が実際に使われるようになっ
た 1993 年以降と思われる。⑮建物と同じ開発業者による計画である。
他の被害建物と同じように、壁端部の圧縮破壊と思われるものもあるが、よりせん断の影響
が大きいと思われるものがある(Fig.4.1.4-17(c))。横補強筋は 10cm 間隔程度で配筋されている
が、90 度フックで拘束効果は期待できない(Fig.4.1.4-17(d))。Fig.4.1.4-17(e)は建物外周部の T 形
壁である。T 形の短手方向にも端部に太径鉄筋が配置してあり、大きな力を負担する。しかし、
壁横筋は 90 度フックであり、壁筋拘束の点で効果を発揮できていない。
Fig.4.1.4-17(f)は床が外側へ飛び出しているバルコニー部の腰壁であるが、おそらくここが梁
と見なされ、過剰な鉄筋が配置されている。内部の壁にアンカーされているが鉄筋で囲まれた
コンクリートの中にアンカーされていない。
Fig.4.1.4-17(c)のような RC 壁の大破は、上階の床の下がりを伴っており、床と床に挟まれた
木質系間仕切壁は圧縮されて大きく撓んだ状態となっていた。
70
4
4
1
N
2
3
2
Fig.4.1.4-17(a)
Fig.4.1.4-17(b) Layout of 6 Buildings
Fig.4.1.4-17(a) Overall view of Plaza
Mayor
Fig.4.1.4-17(c) Failure of RC Wall
Fig.4.1.4-17(d) Failure of
Column with Wall Thickness
Fig.4.1.4-17(e) Failure of T-shaped Wall
Fig.4.1.4-17 (f ) Anchor in the Wall
without Reinforcement
71
⑱建物名称:Toledo
所在地:Vina del Mar
住所:3 Norte 487
階数:地上 10 階、地下 1 階
建設年:1997 年(聞き取り結果)
集合住宅である。建物の長辺方向幅は約 36m である。壁は約 6.4m 間隔に配置され、壁厚さ
は 250mm から 300mm である。建物正面の外観からは軽微な被害であったが、建物裏側の 1 階
壁脚部が圧縮破壊を起こしている(Fig.4.11.4-18(b)(d))。建物裏側構面では傾斜が認識でき、そ
の角度はおおよそ 1/100 と思われる。なお、地下階は無被害であった。
Fig.4.11.4-18(b) Damage on
Wall of 1st Floor
Fig.4.1.4-18(a) Appearance of
Toledo
道路
裏側
10 階建て
Fig.4.11.4-18(b)
Fig.4.11.4-18(d)
正面玄関
(2 Poniente)
こ
の
向
き
に
傾
斜
前面道路(3 Norte)
Fig.4.1.4-18(a)
Fig.4.1.4-18(c)
72
Schematic Site Plan
Fig.4.11.4-18(d) Damage on
Wall of 1st Floor
⑲建物名称:Tricahue
所在地:Vina del Mar
住所:8 Norte 501
階数:地上 11 階、地下 1 階
建設年:1997 年(聞き取り結果)
高層の集合住宅である。当地の慣例で、高層建築では、意匠設計者名、構造設計者名、施工
業者名のすべてあるいはいずれかが、建物外壁に刻印されていることが多い。この建物では、
意匠設計者名と施工業者名が判明している。バルコニーに軒並みひび割れが発生しており、内
部でもバルコニーにある腰壁端部(表面にタイルを貼り付け)に大きくひび割れが生じている
(Fig.4.1.4-19(b))。また、内部では、1 階と 2 階の壁(t=180mm)の頂部に圧縮力によると思われる
曲げ破壊が多数発生している(Fig.4.1.4-19(c))。
一方、地下階は駐車場となっているが、こちらの壁(t=180mm)は多数がせん断破壊を示して
いた(Fig.4.1.4-19(d)(e))。車路部分は下階壁抜け構造となっている(Fig.4.1.4-19(f))が、壁抜け部
分の両側の壁には、軽微なひび割れが生じているだけであった(Fig.4.1.4-19(g))。
73
Fig.4.1.4-19(b) Damage of End of Wall
on Balcony
Fig.4.1.4-19(a) Appearance of
Tricahue
Fig.4.1.4-19(c) Damage of Wall on
1st Floor
Fig.4.1.4-19(d) Shear Failure of Wall
on Underground Level
Fig.4.1.4-19(e) Shear Failure of Wall
on Underground Level
Fig4.1.4-19(f) Structural Frame on
Underground Level
Fig4.1.4-19(g) Damage of Joint
between Wall and Beam
74
⑳建物名称:Rio Petrohue
所在地:Vina del Mar
住所:7 Norte 585
階数:地上 18 階、地下 1 階
建設年:1993 年(聞き取り結果)
高層の集合住宅である。地上 1 階外壁が被害を受けており、一部の壁はせん断破壊し、主筋
の多数が破断している(Fig.4.1.4-20(b))。また、他の 1 階の外壁で曲げ破壊を起こしているもの
もある(Fig.4.1.4-20(c)(d))。2 階以上の壁にもせん断破壊や圧縮破壊を起こした箇所がある。
また、1 階の壁梁にもせん断ひび割れが生じている(Fig.4.1.4-20(e))。
地下階壁の頂部で曲げ破壊を起こしている。この壁は厚さ 200mm で、壁端部の縦筋は D29
相当である(Fig.4.1.4-20(f)(g))。
Fig.4.1.4-20(b) Damage of Wall
on 1st floor
Fig.4.1.4-20(a) Appearance of
Rio Petrohue
Fig.4.1.4-20(c) Damage of Top of Wall
on 1st Floor
75
Fig.4.1.4-20(e)
Damage of Beam on 1st
Floor
Fig.4.1.4-20(d) Damage
of Wall on 1st Floor
Fig.4.1.4-20(g) Damage of Wall on
Underground Level
Fig.4.1.4-20(f) Damage of Wall on
Underground Level
21 建物名称:Torre der Mar
○
所在地:Vina del Mar
住所:8 Norte 380
階数:地上 16 階、地下 1 階
建設年:1988 年(聞き取り結果)
高層の事務所兼集合住宅で、地上 1 階と 2 階が店舗と事務所、3 階以上が集合住宅である。
セットバックとなる 3 階で、特に顕著な被害が確認された。3 階の中廊下に面する壁梁およ
びそれに接続する 4 階床スラブに損傷が発生している(Fig.4.1.4-21(d))。同じく 3 階の住戸の水
周り 部の壁(戸 境壁)に圧 縮破壊が生 じたり (Fig.4.1.4-21(e))、 壁端 部や壁 柱に圧縮破 壊
(Fig.4.1.4-21(f)(g)(h)(i))が認められる。
76
地上 3 階
以上集合
住宅部分
地上 2 階店舗
事務所部分
地下 1 階駐車場
Fig.4.1.4-21(b)
Schematic Elevation
Fig.4.1.4-21(i)
Fig.4.1.4-21(a) Appearance of
Torre der Mar
事務所
部分
集合
住宅
部分
Fig.4.1.4-21(g)
Fig.4.1.4-21(f)
Fig.4.1.4-21(h)
Fig.4.1.4-21(c)
Fig.4.1.4-21(d)
Fig.4.1.4-21(a)
Damage of Beam
Schematic Site Plan
Fig.4.1.4-21(f)
Fig.4.1.4-21(e)
Damage of Wall
77
Damage of Wall on 3rd
Floor
Fig.4.1.4-21(g)
Damage of Wall on 3rd Floor
Fig.4.1.4-21(h) Detail of
End of Wall on 3rd Floor
Fig.4.1.4-21(i) Damage of Wall on
3rd Floor
22 建物名称:Rio Imperial
○
所在地:Vina del Mar
住所:2 Poniente 648
階数:地上 16 階、地下階不明(立ち入り不可)
建設年:1999 年(建物外面に刻印)
立ち入り調査を拒否されたため、内部の被害の詳細は不明であるが、管理人の話によると地
下階で構造的な被害があるとのことである。
外観からは、外面する壁柱と壁梁の接合部がせん断破壊している箇所が多数あった
(Fig.4.1.4-22(b)(c))。また、内部の壁がせん断破壊している箇所が、窓越しに確認された
(Fig.4.1.4-22(d))。
78
Fig.4.1.4-22(b) Shear Failure of Joint
between Wall and Beam
Fig.4.1.4-22(c)
Fig.4.1.4-22(a) Appearance of Rio
Imperial
Fig.4.1.4-22(c)
Shear Failure of Beam
Fig.4.1.4-22(d)
79
Damage of Inner Wall Seen
from Outside
5) RC ラーメン構造建物の被害例
建物名称:Hospital de Curico
階数:5 階
建設年:1973 年
間仕切り:穴空きレンガ
被害建物
取壊し決定
純ラーメン構造に近く、穴空きレンガを後から施
工して間仕切り壁が造られている(Fig.4.1.5-5)。階段
室の壁も穴あきレンガでできており、階段スラブは
梁から梁へ掛け渡されている。
柱は 700mm×700mm の独立柱で可撓長さが大きい
が、フープ筋は D10@200mm 程度で、90 度フック、
それに余長も大きくない(Fig.4.1.5-4)。結果として、
柱頭あるいは柱脚でせん断破壊した(Fig.4.1.5-3)。コ
ンクリートの品質がやや悪いと感じられるが、最大
粒径が 50∼60mm を越えるような骨材が使われてい
た(Fig.4.1.5-4)。柱のせん断破壊で終局耐力が決まり、
水平耐力が不足していたことは明らかである。
倒壊には至っていないが、雑壁が建物重量を支え
ている状況である。雑壁であっても終局の安全性に
は貢献している。
Fig.4.1.5-2
Fig.4.1.5-1 Key plan of the hospital
Fig. 4.1.5-3 Shear failure at column top and bottom
Fig.4.1.5-2 Overview of the building
Fig.4.1.5-5 Damage on the portioning wall
made of hollow bricks
Fig.4.1.5-4 Detail of hoops and egg-size gravels
80
4.2 RC 造以外の建物の被害例
(Damage of Buildings Other than RC Structure)
1) 枠組み組積造の被害
壁などの面材を組積造とし、その周囲に柱や梁などによる枠を配置して面材を拘束する工法
を枠組み組積造という。この場合、柱や梁は鉄筋コンクリート構造とすることが多い。チリで
は、枠組み組積造は、組積造部分をレンガで、枠を鉄筋コンクリートとする例が多いと考えら
れる。両者間の空隙をなくす目的から、まず組積像部分を積み上げ、その後に枠部分を構築す
る(コンクリートを後打ちする)工法を採る。このような枠組み組積造の耐震性確保には、組
積造面材部分の一体性をどのように確保するかという点が重要となる。もちろん、枠部分が面
材を十分拘束できるような諸元(断面積、鉄筋量、コンクリート強度が適切であること)であ
ることも重要である。
①古い枠組み組積造の建物(タルカ(Talca)市中心部)
Fig.4.2.1-1(a)から Fig.4.2.1-1(c)に、枠を鉄筋コンクリート構造とした枠組み組積造の被害例を
示す。用途は商店あるいは飲食店と思われる。この例は、壁をレンガの組積で構築し、周囲の
枠は鉄筋コンクリートによるものである。写真から分かるように、壁がせん断破壊し、周囲の
枠のうち柱もせん断破壊していることが分かる。壁と枠の間には、両者を連結させる鉄筋など
は配筋しないのが通常で、組積造部分の破壊を枠が拘束しきれなかったと判断される。
枠部分のうち柱に注目すると、主筋と帯筋のいずれも丸鋼を用い、帯筋間隔がかなり大きく、
端部は 90°フックであることが分かる。このことから、この建物は相当な築年数であると思わ
れる。壁の斜めひび割れが写真での左側柱を貫通していることを考えると、柱が壁による押し
ぬきせん断に近い状態にあったことが推測される。
また、柱のコンクリート充填状態を見ると、粒径の大きな粗骨材が用いられており、粗骨材
表面に十分なセメントペーストが存在していないことが分かる。また、主筋と帯筋の両方が錆
びていることからも、十分なかぶり厚さが確保されていなかったことが分かる。
Fig. 4.2.1-1(a) Damage of Confined
Masonry Building (in Talca)
Fig. 4.2.1-1(b) Detail
of Failed Column in
Confined Masonry
Building
81
Fig. 4.2.1-1(c)
Detail of Failed
Column in Confined
Masonry Building
②Don Teodoro(コンセプシオン市内)
この建物は、同じく枠を鉄筋コンクリート構造とした枠組み組積造の被害例である。コンセ
プシオンに所在する集合住宅で(住所:Rozas 1145)。内部への立ち入りはできなかったので、
地下階があるどうかは不明である。Fig.4.2.1-2(a)によると、外観上 4 階建てである。しかし、
聞き取り調査によると、平屋建ての建物にのちに上部 3 階分を増築したとのことである。
Fig.4.2.1-2(c)は、建物正面 1 階は長辺方向の壁がない構造となっているが、建物裏側にはレン
ガ造壁を積んだ枠組み組積造の構面が現れている。1 階の組積造壁の頂部に開口部があり、こ
のために枠部分の柱が短柱化し、せん断破壊したものと考えられる(Fig. 4.2.1-2(b))。柱主筋お
よび帯筋は丸鋼のため、相当な築年数を経過したと思われる。また、鉄筋の発錆が認めら、枠
部分のかぶり厚さはわずかである(Fig. 4.2.1-2(c))。壁と枠の間には、両者を連結させる鉄筋な
どの金具はない。なお、柱内に上水道および電気系統の配管が多数埋め込まれており(Fig.
4.2.1-2(c))、このことも柱の損傷の原因の一つと考えられる。
Fig. 4.2.1-2(b)
Fig. 4.2.1-2(a) Appearance of Don Teodoro
Fig. 4.2.1-2(c) Detail of Failed
Column
82
Detail of Failed
Wall
2) 無補強組積造の被害例
枠組み組積造と違い、組積造の面材を拘束する枠がなく、また組積内部に鉄筋などの補強材
がない構造を無補強組積造と呼ぶ。ただし、本項では、後述するアドベ造建物は除外する。前
項と同じく、面材を構成する組積造部分はレンガが多数を占めるものと考えられる。この場合、
レンガを積んで壁を構成し、その頂部に主に木造による小屋組みを渡し屋根を架けることが一
般的である。
①学校の建物(タルカ市内)
Fig.4.2.2-1(a)から Fig.4.2.2-1(b)は、タルカ市内の学校の建物で、外観から講堂と思われる建
物である。崩壊した(短辺手方向)妻壁と残存した桁行き(長辺)方向壁のいずれもが、レン
ガ積みによる無補強組積造で、破風に開口窓を設け、木造トラスにより屋根を架け渡した構造
と考えられる。なお、レンガは中実レンガが使われている。レンガ内部に適当な間隔で木製の
貫が設けられており、レンガ表面は石膏プラスター塗りがされていると思われる。
この建物は、桁行き方向の外壁に目立った損傷がなかったことから、妻壁が短辺方向の面内
力を受けたか、あるいは妻壁が面外力を受けて崩壊したものと考えられる。ただし、金属板あ
るいは樹脂板の波板葺きの木造屋根であったため屋根は軽量で、小屋組と桁行き方向外壁が連
結されたことにより外壁の損傷が少なかったこととあわせて、建物が倒壊するまでには至らな
かったと考えられる。
Fig. 4.2.2-1(a) Damage of Unreinforced
Masonry School (in Talca)
83
Fig. 4.2.2-1(b) Detail of Failed
Gable Wall in Unreinforced
Masonry School
②Parroquia Los Doce Aposteles(バルパライソ市内の教会)
バルパライソ市内の教会 Parroquia Los Doce Aposteles
(住所不明、Av. Argentina と Av. Juan Ross
の交差点)で、正面入り口前庭に立てられた参詣者向けの看板によると、1844 年創建とのこと
である。尖塔が傾斜しており、また、外壁のいたるところにひび割れが生じている(Fig.4.2.2-2(a))。
教会内部は、柱列すべてに何らかの損傷が生じており、特に横ずれ方向の損傷が目立った
(Fig.4.2.2-2(b))。
Fig. 4.2.2-2(a) Damage of Unreinforced Masonry
Church (in Valparaiso)
Fig. 4.2.2-2(b) Detail of Failed
Column in Unreinforced
Masonry Church
3) アドベ造の被害例
日干しレンガの一種であるアドベは、一般に砂や砂質粘土とわらまたは他の有機素材を水で
練り混ぜて製作する天然の建材である。これらの練り混ぜ物を型枠に詰め、天日で干すことで
レンガの形にして使われる。チリにおいては、古くはアドベ造により多くの建物が作られたが、
現在は法律により新築の建築物をアドベ造とすることは禁止されている。しかし、既存の築年
数の古い建物、特に農村部の古い住宅の相当数は、アドベ造であるとされている。
アドベ造の建物は、前項の無補強組積造と同じく、壁はアドベを積んで構築するが、屋根は
木造とすることがほとんどと考えられる。アドべ壁表面は化粧を施すこともある。
無補強組積造と同じく、アドベ造壁を拘束する枠がないことから、以前からその耐震性能は
極めて低いとされている。今回の調査においてもおびただしい数のアドベ造住宅の倒壊事例が
確認された。以下に、アドベ造住宅の被害の代表例を示す。
84
①戸建て住宅(クリコ(Curico)、チジャン(Chillan)、タルカ市内)
Fig.4.2.3-1(a)は、クリコ市内でのアドベ造平屋建て戸建て住宅の被害例である。壁の上半分
が崩壊し、あわせて小屋組みも崩壊したものと考えられる。アドベは破れ目地状に積んである。
また、アドベ造は補強コンクリートブロック造とは異なり、アドベ相互を繋ぐ金物などはな
く、またセメントモルタルのような接着物も用いないため、いったん外力が作用して目地にず
れ が生じると 、アドベが ばらばらに 分離する可 能性が高い といえる。 Fig.4.2.3-1(b)か ら
Fig.4.2.3-1(c)はその一例で、場合によっては、建物の原形をとどめないほどの被害を引き起こ
すこともあり得る。
Fig. 4.2.3-1(a) Damage of Adobe Masonry
House (in Curico)
Fig.4.2.3-1(b) Severe Damage of Adobe
Masonry House (in Chillan)
Fig.4.2.3-1(c) Severe Damage of Adobe
Masonry House (in Talca)
4) 津波による木造建築物の被害例
アドベ造と同様に、戸建て住宅の相当数は木造であると考えられる。今回、明らかに木造と
分かる戸建て住宅が地震動により倒壊した事例は確認できなかったが、調査範囲外にも相当数
の木造建築物の被害はあったものと考えられる。
①タルカーノの木造住宅その 1(タルカーノ市内)
Fig.4.2.4-1(a)は、津波で大きな被害を受けたタルカーノ市の海岸部(小河川の河口)に面し
85
た低層の木造住宅の被害である。この建物の前面道路を通って、中型の漁船が津波で内陸へ打
ち上げられている。住民からの聞き取りによると、1 階は車庫兼倉庫で、津波により 1 階部分
が大破したとのことである。Fig.4.2.4-1(b)に示すように、布基礎から土台がめくれ上がるよう
な被害を受けており、津波によるものと考えられる。なお、布基礎と土台を緊結するアンカー
ボルトに相当する金物は、布基礎に埋め込まれた直径 8mm 程度の丸鋼で、土台側の先端が鋭
く尖っている。これを土台に開けた穴に貫通させ、土台側に折り曲げることで、布基礎と土台
を緊結させている。
②タルカーノの木造住宅その 2(タルカーノ市内)
一方、Fig.4.2.4-2(a)は、前述①の建物の道路を挟んだ向かい側に立つ木造住宅で、住民から
の聞き取りによると、地震動や津波による住宅の構造的な損傷はなかったとのことである。し
かし、住宅外壁や居室内部に津波の痕跡が残っており(Fig.4.2.4-2(a)および Fig.4.2.4-2(b))、さ
らに隣家の外壁に前述の漁船が接触してできた陥没痕が残っている(Fig.4.2.4-2(c))。
Fig.4.2.4-1(b) Detail of Joint between
Foundation and Ground Sill
Fig.4.2.4-1(a) Damage of Wooden House
Caused by Tsunami (in Talcahuano)
Fig.4.2.4-2(a) Appearance of Wooden House
Damaged by Tsunami (in Talcahuano)
86
Fig.4.2.4-2(c) Scratch by Ship Carried by Tsunami
(in Talcahuano)
Fig.4.2.4-2(b) Marks of Height of
Tsunami in wooden House
(in Talcahuano)
③ディチャトの木造住宅(ディチャト市内)
Fig.4.2.4-3(a)は、同じく津波で甚大な被害を受けたディチャト市の海岸部に建っていた木造
住宅の痕跡である。基礎部分を残し、それより上部の構造がすべて津波によりさらわれたもの
と考えられる。このため、建物の全体像を推測することはできない。ただし、被害状況からお
およそ次のようなことが推測される。まず、部屋割りは 3200mm を基本とするグリッドで構成
されている。前出のタルカーノでの住宅とは違い、津波を受けても布基礎と土台は緊結された
ままである。よって、津波により柱と壁が土台から引き抜けさらわれたものと考えられる
(Fig.4.2.4-3(b))。土台や柱脚部は腐朽が著しい箇所が多く見られた(Fig.4.2.4-3(c))。
なお、隣接する組積造戸建て住宅(Fig.4.2.4-3(d))は、基礎下が洗掘されたが、上部構造の倒壊
は免れており、津波に対してある程度の強度があったものといえる。
Fig.4.2.4-3(a) Complete Collapse of Wooden
House by Tsunami (in Dichato)
87
Fig.4.2.4-3(c) Decay of Ground Sill
Fig.4.2.4-3(b) Detail of Joint between
Foundation and Ground Sill
Fig.4.2.4-3(d) Damage of Masonry House
Caused by Tsunami (in Dichato)
88
4.3 非構造要素の被害例
(Damage of Non-Structural Members)
建物の地震時応答変位が大きい場合、非構造要素(部材)の損傷が問題となることが多い。
今回の地震でも、天井材の落下や間仕切りの非構造壁の損傷などが確認された。本節ではこれ
ら非構造要素の被害について述べる。なお、以下に説明する以外にも、同様の被害が多く発生
している可能性があることを付記しておく。
1) 天井材の被害例
①アルトゥーロ・メリノ・ベニテス・サンチアゴ国際空港ターミナルビル(サンチアゴ市内)
Fig.4.3.1-1(a)から Fig.4.3.1-1(d)に、アルトゥーロ・メリノ・ベニテス・サンチアゴ国際空港
ターミナルビルでの天井材の落下被害を示す(地震発生から 1 か月後の状況)。Fig.4.3.1-1(a)
は、2 階入国審査場の天井の落下状況を、Fig.4.3.1-1(b)および Fig.4.3.1-1(c)は、2 階到着ロビー
から吹き抜けの 3 階出発ロビーを見上げたものである。さらに、Fig.4.3.1-1(d)は、3 階搭乗口近
くの飲食店天井の被害状況である。この空港ターミナルビル建物は、鉄骨造の建物である。
写真より大規模な天井材の落下があったことが分かる。屋根面ブレースは確認できたが、吊
りボルトをつなぐ斜材など横方向の触れ止めに相当する部材が見当たらない。このため、天井
材は地震による建物の応答変位により桁や壁あるいは隣接する天井材と衝突し、落下したもの
と考えられる。一方、Fig.4.3.1-1(d)では、天井材の落下だけにとどまらず、電気設備配管、照
明、換気ダクトの広範囲な落下も見られる。これにより、地震による空港ターミナルビルの応
答変位の大きさがうかがえる。
Fig.4.3.1-1(a) Damage of Ceiling Panel on
2nd Floor of Santiago Int’l Airport
Fig.4.3.1-1(b) Damage of
Ceiling Panel on 3rd Floor of
Santiago Int’l Airport
89
Fig.4.3.1-1(d) Damage of Facility
Equipment above Ceiling Panel
on 3rd Floor of Santiago Int’l Airport
Fig.4.3.1-1(c) Damage of Ceiling Panel on
3rd Floor of Santiago Int’l Airport
②Centro de Salud Familiar(チジャン(Chillan)市内 Chillan Biejo)
チジャン旧市街地 Chillan Biejo に建つ 2 階建ての中規模診療所である。主構造は RC である
が、小屋組は木造である。吹き抜け部分 2 階の天井材(吊り天井)が落下している。
RC 主構造の上にあるレンガ造壁に小屋梁をかけているが、屋根面ブレースはないので屋根
面剛性が小さく、ダイヤフラムがない状態と考えられる。これにより、吹き抜け部の長柱の変
形が大きくなると考えられる。ガラスの破損も確認されている。
Fig.4.3.1-2(a) Appearance of Centro
de Salud Familiar
Fig.4.3.1-2(b) Roof Truss
Fig.4.3.1-2(c) Damage of Hanging Ceiling
90
③Torre del Mar(ビーニャデルマール市内)
当地の高層のコンクリート系集合住宅では、直天井となっているものが多い。Fig.4.3.1-2 は、
直天井材の落下の被害例である。上階の床スラブを兼ねた直天井に石膏プラスターが塗られた
塗り天井であるが、この塗り材の損傷落下が確認された。
Fig.4.3.1-3 Damage of Direct Ceiling
2) 間仕切り壁の被害例
主に高層のコンクリート系集合住宅で、間仕切り壁の損傷が確認された。地震時の建物の応
答変位の大きさを裏付ける事例でといえる。
①Edificio Sol Oriente 1 y 2(サンチアゴ市内)
Fig.4.3.2-1(a)から Fig.4.3.2-1(b)に、サンチアゴの高層集合住宅 Edificio Sol Oriente 1 y 2 での事
例を示す。この建物の間仕切り壁は、石膏製の穴空きパネルによりできており、床および天井
(直天井であるのですなわち上階の床)から棒状の金具を差し出し、パネルを固定する工法で
ある。建物の応答変位により、パネルが過大な変形を強制され、崩壊したものと考えられる。
Fig.4.3.2-1(a) Damage of Partition Wall
Made from Plaster
Fig.4.3.2-1(b) Damage of
Partition Wall Made from
Plaster
91
②Plaza Mayor Ⅰ(コンセプシオン市内)
Fig.4.3.2-2 に、Plaza Mayor Ⅰでの間仕切り壁の被害例を示す。RC 壁構造高層集合住宅で、
間仕切り壁表面に壁紙が施されているが、打撃音から木製と推測される。
開口部を含めて間仕切り壁の面外方向に変形しているが、隣接する耐震壁の損傷状況から、
RC 壁の圧縮破壊で上階の床が下がり、これにともない間仕切り壁が面外にはらみ出したもの
と考えられる。
Fig.4.3.2-2 Damage of
Partition Wall Made from Wood
Panel
92
4.4 主な調査地と被害の特徴
(Investigated Cities and Characteristics of Damage)
1) Santiago
チリ・カトリカ大学から情報提供を受けた 9 棟の調査を行った。それらの位置を Fig.4.4.1-1 に示
す。チリの人口はおよそ 1500 万人で、その 1/3 以上が首都圏に集中しているので建物数も膨大で
ある。調査建物からサンチャゴ市の被害の全貌を把握するのはおよそ不可能であるが、調査建物
でほぼ共通していたのは、駐車場として使用されている地下階あるいは地上階で、壁端部がおそ
らく圧縮力によって破壊が進行したと推測されることである。すなわち、15∼25cm 程度の壁厚し
かないところに太径鉄筋が過密配筋されていること、壁横筋の壁端部での定着が 90 度フックで壁
端部補強筋にかけられていること、太径鉄筋の過密配筋でも重ね継手になっていること、太径の
壁端部補強筋が破断していること等、繰返し応力によって壁部材の破壊が進行したと思われる壁
詳細が確認されたことである。なお、太径鉄筋の破断が目立つが、鉄筋規格は A63-42H で、降伏
点 4200kg/cm2、破断強度 6300kg/cm2、延び率 8%以上と見られる。
サンチャゴ市の地盤特性については、第 3 章で翠川により報告されている。Los Leones、Los
Cerezos、Sol Oriente の 3 棟はマポチョ川南側の礫層の上にある。地上 18∼27 階の建物で弾性周
期は 1 秒前後にあると予測され、応答がそれほど大きくなるとは考え難い。同規模の建物も多数
ある中で、この 3 棟の被害が大きくなったのは、別の理由があると思われる。
Don Tristán、Don Luis、Los Jazmines の3棟は火山噴出物が堆積している区域にあり、地表加速
度も0.56g が記録されているように地盤の影響が大きいことは間違いない。ただし、地盤の影響
に加えて、壁のディテールは上述の通り共通しているが、構造計画上の不備が重なっていること
も大きいと思われる。周辺に同規模、同種の建物もあるが建物は継続して使用されているものが
多数ある。Don Tristán は倒壊したが、地下階の壁の偏在と下階壁抜けの構造的弱点がある。Don
Luisは倒壊したが、完全なピロティー構造で水平耐力が著しく不足していることは明らかである。
Los Jazmines は倒壊までには至っていない。中央部にコアとなる壁があるが、周囲がピロティー
構造となっており、やはり下階壁抜けの構造的弱点がある。
Radisson、Patio Mayor、Vista Hipódromo の 3 棟は地質の境界部にあり、推定された地盤の卓越
周期から考えても、地盤の影響を強く受けていると思われるが、他の被害建物と共通した壁ディ
テールの弱点があることから、今後、地盤条件と構造詳細の両面からの原因究明が必要となろう。
調査建物の建設年代を確認できなかったが、外観は古そうに見えず、おそらく経年の少ないも
のが多いと思われる。
93
Investigated buildings,
heavily damaged
ROCK
SILT
Radisson, 13stories
Patio Mayor, 5stories
SAND
Vista Hipódromo, 21Stories
MAPOCHO
GRAVEL
Los Leones, 20stories
PUMICE
Los Cerezos, 27stories
TRANSITION
ZONE
Sol Oriente, 18stories
ROCK
COLLUVIAL
DEPOSIT
Don Tristán, 5stories*
Don Luis, 5stories*
Los Jazmines, 5stories*
* Don Tristán, Don Luis and Los Jazmines have the dry area more than a half of basement floor area. They are
described as 5 storied buildings including the basement level in terms of structural configuration.
Fig.4.4.1-1 Location of the investigated buildings in Santiago
94
2) Curico
クリコは海岸山脈とアンデス山脈との間で、アメリカンハイウェイ沿いの内陸部にある地方都
市である。大破した病院1施設を調査した。当敷地内で 0.47g が記録されているが、地盤は礫層
と推定されている。本調査で、当病院内で行われた微動測定の結果からも礫地盤と考えられてい
る。
5階建ての旧館が取り壊し決定の大被害を受けていた(Fig.4.1.5-1∼Fig.4.1.5-5)。1973 年の建設で、
耐震壁は全くなく、純ラーメン構造と見られる。新館は 2003 年建設の 3 階建てで、業務継続中で
あった。当病院の向かい側にある教会の尖塔が折れていた。市中に高層建物は見当たらなかった
が、アドベ造の住宅の倒壊が多かった。クリコは農業地帯にある人口約 10 万の地方都市で、古く
からの住宅が多いということであろう。低層のショッピングモールは営業中であった。
Chile Highway Route 5
Hospital de Curico, 5stories, 1973
Fig.4.4.2-1 Location of Hospital de Curico in Curico
95
2) Talca
サンチャゴからコンセプシオンに向う途中で、1 時間ほど市中心部を視察した。
「調査」という
よりも、
「視察」が適当である。Fig.4.4-3 に□で囲った中心部を歩いた。高層建物の数は多くない。
高層建物は○印の 3 棟を外観のみ視察した。1 棟は住人がいる様子がなく、内部で被害を受けて
いると想像される。もう1棟は、外観からは全く被害状況は分からなかった。もう1棟は軽量化
のためかあるいは別の目的があるのか、粒状の発泡スチロールを混ぜ込んだコンクリートが見ら
れた建物で、大破した建物である。
市中心部では、低層の組積造が多い。周辺部では麦あるいはワインの生産地としての農業地域
でもあることからアドベ造も多く、これらは居住できなくなるほどの被害を受けている。クリコ
と同様に海岸山脈とアンデス山脈との間に広がる農業地域ではアドベ造が多いことから、その被
害が大きいのが特徴であろう。タルカの南 20km にある Villa de Alegre では、アドベ造の被害が際
立っているという情報もあったが、日程上立ち寄ることはできなかった。
Fig.4.4.3-1 Location of the investigated buildings in Talca
96
3) Concepcion
市が取壊しの決定 (Category 1) を行った 8 棟を中心に調査を行った。分類は、
Category 1:差し迫った倒壊の危険があり、取り壊さなければならないもの。
Category 2:構造的被害が大きく補修しなければならないが、取り壊しか修復かの判断には高度
な検討要するもの
Category 3:補修はしなければならないが、住むには安全なもの。
とされており、Category 2 には 68 棟がリストアップされている。コンセプシオンは人口約 23 万の
チリで 2 番目の大都市であり高層建物も数多くあり、被害建物の数が多かったといえよう。第 3
章の地震動の報告にあるように、地盤の影響を大きく受けそうな場所であり、高層建物の応答が
大きかったことは推測されるが、限られた数の建物調査結果でも、サンチアゴ、ビーニャ・デル・
マルでも共通の壁端部の拘束不足による圧縮破壊、短柱化した壁柱のせん断破壊など、被害部位
は共通している。つなぎ梁端部が曲げ破壊し、端部コンクリートが脱落するような被害が見られ
たのは、それだけ応答変位が大きかったのかもしれない。
高層建物の被害に目をやられるが、コンセプシオンは 16 世紀中頃に造られた都市であり、組積
造の低層建物も数多くある。地震規模が大きければ、組積造は少なからず被害を受けるし、老朽
化した無補強レンガ造では、壁面がそのまま横倒しになるような被害も生じていた。
Plaza del Rio
Alto Rio
Plaza Mayor
Los Carreras 1535
Don Teodoro
Centro Mayor
Caupolican 518
Lincoyan 440
Torre Ohiggins
Fig.4.4.4-1 Location of the investigated buildings in Concepcion
97
4) Viña del Mar
チリ・カトリカ大学、Rafael Riddell 教授から被害の程度が大きいと情報提供を受けた 8 棟および
1985 年の地震で被害を受けた後に補修・補強が行われた 2 棟の調査を行った。それらの位置を
Fig.4.4.5-1 に示す。ビーニャ・デル・マルは海岸リゾート地であり、海岸に近いこの区域に RC 造
の集合住宅が集中している。市内の東側は海岸山脈に向かって高台となり、斜面に中低層の建物
が多くある。地盤は良好な締まった砂層で、建物の多くはベタ基礎で施工されているようである
(Riddell et al., 1987)。地震記録のピークは 0.6∼0.7 秒にあり、1985 年の地震で大きな被害を受けた
ものは建物周期がほぼこれに一致する 12 階∼15 階建ての建物で、20 階を越えるような建物の被
害は軽微であったという報告もある (Riddell et al., 1987) が、15 階∼20 階建ての建物数が少なか
ったという事実もある。
今回の地震でも 15 階∼20 階建ての比較的周期の長い建物の被害が目立っているが、調査建物
の半数が 1993 年から 1999 年に建設されたものであり、現行耐震規定が実際に使われ始めた以後
のものである。従来は計算外の壁が多く配置されていたが、計算方法の進歩とともに計算上必要
な壁しか配置されなくなったということは、どこでも聞く話であるが、それよりも変形能力を示
さなければならない鉛直部材の変形能力が不足していたということであろう。壁端部の拘束不足
による圧縮破壊、短柱のせん断破壊など被害部位は他の調査地と共通しており、全国的に同じ構
造詳細で建物が造られているようである。チリ北部には空白域といわれているところもあり、今
後同規模あるいはそれ以下であっても、同種の被害が生じる可能性は否定できない。
調査建物数は限定されており、(Riddell et al., 1987) のような被害統計をとらなければ分からな
いが、1985 年の地震被害、その後の補修・補強方法、そして今回の地震被害がどうなっているか
は興味があるし、日本で行っている耐震補強にも有用な情報となろう。わずかな情報であるが、
1985 年の地震被害を受けた建物 4 棟を調査できた。その結果は次節で述べることにする。
Hanga-Roa,15stories,1970
Festival,14stories,1970
Emporium,4stories,1980
Acapulco,15stories,1965
Torre del Mar,16stories,1988
Tricahue,11stories,1997
Rio Imperial,**stories,1999
Rio Petrohue,18stories,1993
Toledo,10stories,1997
Las Archiras,**stories,1999
Fig.4.4.5-1 Location of the investigated buildings in Viña del Mar
98
4.5
1985 年の地震で被災した後に補修・補強した建物の被害例
(Damage of buildings retrofitted after the 1985 earthquake)
1) Edificio Acapulco
建設年:1965 年
所在地:San Martin 821, Viña del Mar
階数:地上 15 階、地下1階
延床面積:9,789m2
1985 年の被害程度:severe
地元の専門家からの聞き取り調査によれば、壁の補強が行われたということである。組積造の間
仕切壁も軽量化が図られたようである。1985 年当時、妻壁は Fig.4.5.1-1 のような被害を受けている
が、補強詳細は分からない。今回は、6 階床レベルで妻壁脚部にわずかな膨れが見られる程度
(Fig.4.5.1-2)であった。1 階エントランスの鉄骨柱は、後から取り付けられたものかどうかは分から
ないが、柱頭で床コンクリートが損傷していた(Fig.4.5.1-3)。建物内部の調査はできなかったが、壁
コンクリートが脱落しているという調査報告もあることから、少なからず損傷は起こっているもの
と推測される。ただし、一部の住人が地震後も継続して生活している様子であることから、建物の
使用禁止命令は出ていないようで、構造的な被害の程度は小破ないし中破と考えられ、補修・補強
の効果が現れている。ただし、損傷後に建物周期が延びることを考慮すれば、非構造要素にも被害
が出るはずであるが、これについては調査できていない。
1985 年に地震被害を受け、補修・補強された後の固有周期が常時微動測定により求められている
(Midorikawa, 1990)。固有周期は長辺方向で 1.07 秒、短辺方向で 0.79 秒、ねじれ成分で 0.91 秒であ
った。今回の地震被害調査では、翠川によりこの建物の頂部で常時微動測定が行われた。Fig.4.5.1-4
にスペクトルを示す。長辺方向および短辺方向で周期 1.1 秒弱にピークがみられる。また、短辺方
向で周期 1.3 秒に小さなピークがみられる。今回の測定は建物頂部の1点で行われ、ねじれ成分が
抽出できるような多点同時測定は行われていない。そこで、1990 年の測定結果を参考にして今回の
測定から判断すれば、周期は長辺方向および短辺方向で 1.1 秒、ねじれ成分で 1.3 秒という判断も断
定的ではないにしても可能であろう。地震前の結果と比べると、長辺方向は変わらず、今回の損傷
が生じたことにより、短辺方向とねじれ成分の周期が約 40%長くなったことになる。
Fig.4.5.1-1 Damage of the
wall in 1985
Fig.4.5.1-2 Minor damage of the
wall in 2010
99
Fig.4.5.1-3 Damage around the steel column top in the entrance
Fourier Spectrum (cm/s*s)
0.1
Transverse
01
02
03
Longitudinal
01
02
03
0.01
0.001
0.0001
0.5 0.6 0.70.80.9 1
20.5 0.6 0.70.80.9 1
Period (s)
Period (s)
Fig.4.5.1-4 Fourier spectrum in 2010
100
2
4.1 節 2)で述べたように、当建物は 1985 年
2) Edificio Hanga-Roa
建設年:1970 年
の地震で大きな被害を受けた。補修・補強詳細
所在地:San Martin 925,
は明らかでないが、当時 RC 壁が大破している
ことから、Edificio Acapulco と同様に RC 壁の
Viña del Mar
補強と軽量化が図られていると推測される。
階数:地上 5 階、地下不明
内部への立ち入り許可が得られなかったた
延床面積:16,550m2
め、外側からの観測だけとなったが、RC 壁端
1985 年の被害程度:severe
部の損傷が全階で生じ(Fig.4.5.2-3)、一部に仕上げコンクリートの剥落が見られた(Fig.4.5.2-4)。1
階ガラス越しには、壁面に斜めひび割れが入った様子と仕上げ材が剥落しているような様子が伺
われた。一部の住人は継続して居住しているようであり、建構造的な被害の程度は小破ないし中破
ではないかと思われ、補修・補強の効果が現れていると推測される。内部でも少なからず非構造要
素の被害があるのではないかと思われるが、これについては聞き取り調査もできていない。
Fig.4.5.2-4
Fig.4.5.2-3
Fig.4.5.2-2
Fig.4.5.2-2 Overall looks of the building
Fig.4.5.2-1 Plan of the building
Fig.4.5.2-3 Damage appeared outside
Fig.4.5.2-4 Peeling off of the finishing mortar
101
3) Edificio Emporium
内部の調査はしていない。ファサードの柱
建設年:1980 年
((Fig.4.5.3-1)のみの調査である。組積造の腰壁で柱が
所在地:9 Norte 955,
短柱化しており、聞き取り調査の結果では、1985 年
Viña del Mar
地震でせん断破壊し、その後補強したとのことであ
階数:地上 5 階、地下不明
る。補強方法は、モルタルによるジャケッティング
m2
と見られる(Fig.4.5.3-2)。補強された柱は、今回はほ
1985 年の被害程度:
ぼ無被害であった。1985 年に生じたせん断ひび割れ
延床面積:
のうち、ひび割れ幅の小さいものは放置したようである。今回、腰壁は大破した模様ですでに撤去
されていたが、ファサードの柱(断面:約 70cm×70cm) 3 本にせん断ひび割れが生じていた
(Fig.4.5.3-3)
。ジャケッティングによるせん断破壊した柱だけの補強では水平耐力の増加は僅かで
あり、変形能力に依存するなら全ての柱の補強をするなど、建物全体を考えた補強計画が重要であ
ることが再認識できる。聞き取り調査によれば、炭素繊維シートでせん断ひび割れの生じた柱の補
強をするとのことであったが、建物全体の被害状況と建物全体に対する補強目標は不明である。
Fig.4.5.3-1 Shear failure of the columns in the facade
Fig.4.5.3-2 Jacketing with mortar after 1985
Fig.4.5.3-3 Shear failure in this event
102
1985 年の地震による被害は moderate (中破)
4) Edificio Festival
とされており (Riddell et al., 1987)、聞き取り調
建設年:1979 年
査では、エポキシ注入によりひび割れの補修を
所在地:9 Norte 450,
行ったとのことである。補修箇所は不明である。
Viña del Mar
エポキシ注入によって剛性の回復は可能とな
階数:地上 14 階、地下 1 階
るが、基本的に耐震性能は地震前と同じである。
延床面積:14,697m2
今回は大破に近い被害が生じており、1985 年
1985 年の被害程度:moderate
の地震よりも入力が大きかったと推定される。
被災後の復旧については、耐震性能の把握に努め、地震前の状態に戻すだけでよいのか、それ
とも補強が必要なのかをしっかり判断することの重要性を再認識できる事例である。
Fig.4.5.4-1 にキープランを示す。壁量は比較的多くあり、志賀マップで定義する壁量は短辺方向
で 27.5cm2/m2、平均せん断応力度は 36.3kg/cm2 (Riddell et al., 1987) である。Fig.4.5.4-1 の斜線で示
す住戸内部を 9 階で見せてもらった。片づけが済まされていると思われるが、意外と内装材の損
傷は少ない(Fig.4.5.4-3)。壁量が確保されているためかもしれない。9 階廊下では、RC 壁と床スラ
ブの交点で、床スラブが大きく損傷していた(Fig.4.5.4-4)。これは、応答変位が大きかったためで
あろう。
階段スラブ脇には耐力壁がなく、両端の壁に踊り場が接続している。階段スラブ筋の定着が不
十分で、階段スラブも大きく撓んでいたが、踊り場が大きく損傷してコンクリートが脱落してい
た(Fig.4.5.4-5)。 剥 落 し た コ ン ク リ ー ト に は 、 粒 径 の 極 め て 大 き い 砂 利 が 用 い ら れ て お り
(Fig.4.5.4-6)、コンクリートの品質の問題があるかもしれない。耐震性能の把握のためには、現場
調査によって現況を良く知ることが重要であることは言うまでもない。
Fig.4.5.4-7 および Fig.4.5.4-8 は、1 階および地下階での RC 壁の被害である。壁筋は D8 あるい
は D10@250mm 程度で、大きな圧縮力を受けた形跡がある。
Fig.4.5.4-3
Fig.4.5.4-1 Plan of the building
Fig.4.5.4-2
103
Fig.4.5.4-2 Overall looks of the building
Fig.4.5.4-3 Inside of the house on 9th floor
Fig.4.5.4-4 Damage at wall-slab joint
Fig.4.5.4-6 Concrete with egg-size gravels
Fig.4.5.4-5 Damage of stairway slab
Fig.4.5.4-7 Damage of the wall at 1st story
Fig.4.5.4-8 Damage of the wall at underground level
104
4.6 調査結果から学ぶこと
(Lessons from damage investigation)
NCh433-1996 第 5 章では、
① 中規模地震 (Moderate intensity) では無被害
② 通常規模の地震 (Regular intensity) では、非構造要素の被害を許容
③ 例外的大地震 (Exceptionally severe intensity)では倒壊を避け、構造部材の被害を許容する。
と耐震設計の目標が示されており、
1981 年の日本の耐震設計の目標とかわりない。
今回の地震が、
例外的大地震であることは間違いなく、その意味では目標はほぼ達成されたと評価すべきである。
しかし、倒壊には到っていないが、取り壊しと決定されているものが多数あった。壁部材の被
害を許容するとしても、壁部材の圧縮破壊は僅かではあっても床レベルの下がりを伴い、1/200∼
1/100 の傾斜を生じているものもあった。これを修復するには多くの困難を伴い、取り壊しの決定
がなされた理由の一つかもしれない。構造部材の被害を許容しても修復できるかできないかは、
重要な判断基準であり、壁部材の圧縮破壊モードをコントロールできる構造詳細の改良が必要と
思われる。日本の耐震診断では、部材耐力に到達した後の軸力保持能力と周辺部材による応力再
配分の可否をチェックするが、いわゆる第 2 種構造要素の判定では、床レベルの下がりが生じる
かどうか、修復を容易にできるかどうかなどの観点から、変形を考慮した判定が重要なことを再
認識した。
いわゆる下層壁抜けに相当する地下階の壁断面縮小部で圧縮破壊が生じており、構造計画上、
地震時変動軸力に特に注意する必要がある。また、このことをチリの今後の耐震診断に反映する
必要があろう。日本の耐震補強でも、下層壁抜け対策が行われるが、極めて重要であることを再
認識した。十分に拘束を受けたコンクリート断面の確保が、とりわけ重要である。
ピロティー構造あるいはそれに近い構造で倒壊に到った例は、サンチャゴ市で 2 例見た。チリで
は、駐車場を地下階に設けることが多く、1 階の床スラブが十分な面内せん断力を伝達できれば、
地中壁がせん断力を負担してくれるので、地下階の問題は地震時変動軸力を受ける場合であろう。
ただし、サンチャゴ市で倒壊に到った建物は、地下階とは言っても、周囲がすべてドライエリアと
なるような、構造的には地下階がないピロティー構造で、兵庫県南部地震でピロティー構造が崩壊
した例と同じである。ピロティー構造については、日本においてはすでに注意が払われた設計が行
われているはずであるが、改めて地震時にリスクがあることを再認識するのがよいと思われる。
日本においては、性能設計の考え方がだいぶ普及してきたといえる。チリの建物、とりわけ高
層建物は損傷が生じると総じて変形しやすくなっていると想像される。大きな応答が生じたと推
測されるように、非構造要素の破壊が目立っている。将来の問題として、チリでも変形を制限す
るような設計が必要になると思われる。変形の制御の必要性と変形に追随できる非構造要素の取
り付け詳細の開発の必要性は、日本でも同じである。
サンチャゴ、ビーニャ・デル・マル、コンセプシオンなど、大都心の高層住宅の被害に目を奪わ
れやすいが、それよりもアドベ造や無補強組積造の住宅に住む人のほうが圧倒的に多い。今回の
地震の被災者数は、政府発表で 80 万人以上と言われている。日本に比べて国土の広さが 3 倍、人
口が 1/8 であることを考えると、もしこの規模の地震が日本で起これば被災者数は膨大である。
日本においても、古い木造住宅に住む人の数が圧倒的多数であり、兵庫県南部地震の悪夢を考え
れば、被災者の数をどのようにして減らすかは、他人ごとではない。
105
参考文献
Arze, E. L. (1986), 58 Anos de Ingenieria Antisismica en Chile, 4as. Jornadas Chilenas de Sismologia e
Ingenieria Antisismica, pp.I.141-I.166 (in Spanish).
Flores R. A. (Editor) (1993), Ingenieria Sismica; El Caso del Sismo del 3 de Marzo de 1985, Instituto de
Ingenieros de Chile, ISBN:956-201-178-X, 450pp. (in Spanish).
Makino, S. (1997), Seismic Evaluation of an Apartment Building of Wall System Structure, Proc. of
Seminario de Ingenieria Sismica, Universidad Catorica de Chile y JICA, 24 Sep 1997
Midorikawa, S. (1990). Ambient Vibration Tests of Buildings in Santiago and Vina del Mar, DIE No.90-1,
Departamento de Ingenieria Estructural, Pontificia Universidad Catolica de Chile, 169pp.
NCh430-2007 (2007), Hormingón armado – Requisitos de diseño y cálculo (in Spanish).
NCh433-1972 (Provisional), Provisional Standard Earthquake Resistant Design of Buildings, IAEE World
List – 1992, pp.7.1-7.19.
NCh433-1996 (1996), Seismic design of buildings(英語訳)
Riddell, R. et. al. (1987), The 1985 Chile Earthquake Structural Characteristics and Damage Statistics for
the Building Inventory in Viña del Mar, Report to the National Science Foundation, Research Grant
ECE 86-03789, 264pp.
106
5.地盤および地質
Geological and Geotechnical Aspects
5.1 チリの地形、地質
(Morphological and Geological View of Chile)
チリはナスカプレートが南アメリカプレートに沈み込むアタカマ海溝(Atacama Trench)沿
いに北端のペルー国境(南緯17.5°)から南端のフエゴ島(南緯68°)まで南北およそ4500km
に及ぶ細長い国である。この細長い国の脊梁山脈として標高3000m∼7000mのアンデス山脈が
走り、サンチアゴより南ではさらに海岸よりに海岸山脈と呼ばれる低い丘陵性の山脈があり、
2つの並行する山脈に挟まれて中間盆地が南北に伸びている。これらの山脈の東西の横断方向
に見れば海岸部から海岸山脈,中間盆地,脊梁山脈部に向かって,三畳系∼ジュラ系,下部白
亜系,上部白亜系と規則的に次第に新しい地層が露出する。南北方向には気候の差異が顕著で
あり、アタカマ砂漠の広がる北部は1 年と通してほとんど雨が降らない一方、南緯40 度以南
(いわゆるパタゴニア(Patagonia)地方)は,1 年の大半が寒冷で氷河を抱いた鋭い峰々が続いて
いる。このため植生も乾燥した北部から氷河に覆われる南部までFig.5.1-1に示すように大きく
変化し、これらが表層地質に大きな影響を与えている。
この地震で影響を受けた地域は、北はサンチャゴ(Santiago)、バルパライソ(Valparaiso)のある
南緯33度あたりから、コンセプシオン(Concepcion)やアラウコ(Arauco)よりさらに南の南緯38度
あたりまでの500kmを越える範囲である。この範囲の海岸山脈は古生代(Paleozoic)から中新
世(Miocene)にかけての層が露出し、金、銅などの鉱山がある。これらの鉱山の中には後述
するようにその鉱さいダムが崩壊したものもある。平野部は海岸に沿っての河口部や、中間盆
地には第四紀の堆積層が発達していて、特に河川沿いに被害が確認できる(Fig.5.1-2参照)。
Fig. 5.1-1 Vegetation map of Chile: different climates of Chile
are reflected on this vegetation map. (from Wikimedia
Commons)
107
Fig. 5.1-2
Geological map of the affected area (Cecion, A,. and Quezada, J., 1994)
5.2 地盤の関わった被害
(Geotechnical Damage)
以下に地盤条件が関わったと見られる被害事例を挙げる。これらは地盤班が調査したものの
うち、盛土被害を中心にそれらの概略をまとめたものである。メンバーは以下の通りである。
日本側:
安田
進 (東京電機大学)リーダー
小長井一男 (東京大学生産技術研究所)
菅野 高弘 (港湾空港技術研究所)
岡村 未対 (愛媛大学)
飛田 哲男 (京都大学)
チリ側協力者
Ramon Verdugo, Professor, Universidad de Chile
Felipe Villalobos, Professor, Universidad Catolica de la Santisima Concepcion
Mr. Andres Torres, Universidad de Chile
被害地点の緯度経度(代表箇所、世界測地系)は度を単位として、またマイナスを南緯、西経
として表示する。
108
1) Paso Superior Hospital 跨線橋の被害
*位置(Fig. 5.2-1 の中心): -33.861476,-70.746535
Paso Superior Hospital はサンチャゴ(Santiago)の南ほぼ 50km の地点で、Pan American 高速
道路とその旧道の 3 本の橋梁が鉄道を跨いでいるが、そのうち旧道と北行線用の橋が線路上に
落下した。落下した跨線橋はいずれも斜橋で、残った南行線の橋は直橋である。最も南側の旧
道の橋の落下状況を Fig. 5.2-1 に示す。この旧道の取り付け盛土は無被害で沈下をしなかった
と推定される南行線の橋台から 1m近く沈下しているが、この状態で地表面から 8mの高さが
あって、当初は 9m 近い盛土であったと推定される(Fig. 5.2-2)。高速道路で一般的な跨線橋の
盛土高さ 5m と比べて、鉄道を跨ぐこの跨線橋の盛土はかなり高い。この盛土上の舗装には Fig.
5.2-3 に示すように縦断方向に亀裂が現れ、盛土全体が揺すりこまれて沈下するのと同時に開放
面のある南側に 0.7m∼1.0m ほど広がった。広がった状態で法面勾配は 1:1.5∼1:2.1 であった。
この盛土が立地する地点表面には水が滞留し、近くにはラグーンがあり、粘性土が多い地盤で
あると推定される。関係者によればこの地盤は地表から-7m までがシルト質砂、地下水面は地
表付近まで達している。
Fig. 5.2-1 Paso Superior Hospital Overpass
0.6m
0.9m
0.8m
Fig. 5.2-2 Settlement of fill (Paso Superior Hospital Overpass)
109
Crack A
Crack B
Crack C
11 : 7
12 : 7
-0.6m
-0.9m
14 : 8
18 : 8
0
10
20
30
40
50m
Crack A
Line E
Crack B
About 0.7 to 1m
shifted sideways.
Crack C
0.15m
Crack D
Fig. 5.2-3 Cracks on pavement (Paso Superior Hospital Overpass)
110
2) Lota 北の道路盛土被害
*位置(盛土南端): -37.074808,-73.147734
片側 2 車線の道路が Lota の町のある段丘から海岸部に出る部分に造られた盛土である(Fig.
5.2-4)。北行側の盛土が 60m∼70m にわたって最大 7m沈下し滑った盛り土は側方に 30m 以上
押し出している。段丘から急に砂浜に沿った低地に出る部分であるため、盛土は最大 16m 程度
と高く、その法面勾配はおおよそ 1:2 である。5cm 厚さのアスファルト舗装の直下に 20cm 厚
の路盤(シルト質砂)があって、その下は近傍の砂浜からの均一な細砂を盛って造られた盛土
である。この砂浜の背後には湿潤な低地が広がっていて、所々に水が滞留している。このよう
な軟弱な地盤上の高い盛り土が沈下し、側方に広がった状況は前述の Paso Superior Hospital 跨
線橋盛土の被害と酷似している。盛土の 16m という高さは上記の地形的な理由ばかりでなくこ
れと交差する鉄道を跨ぐためでもある。鉄道盛土も全体的に沈下した。最も沈下の大きいとこ
ろは沈下の少なかった部分よりさらに 2m も沈下している。この部分は道路盛土の被害と異な
り、その断面形状が大きく変わることなく、そのまま軟弱な地盤に沈み込んだ様子である。
Sand dune
11m
A B
-7m
-16m
B’
31m
A’
64m
Fig. 5.2-4 Cracks on pavement (Paso Superior Hospital Overpass)
111
3) Pan American 高速道路沿いの被害
*位置(盛土南端): -37.074808,-73.147734
サンチャゴから Pan American 高速道路(5 号線)を中間盆地に沿って南下しコンセプシオンな
どの被災地に移動する間に片側対面交通になっている区間、および沿線で見られた被害(鉄道
橋、サイロの被害など)を通過しながら GPS でマークしたものを Fig. 5.2-5 に示す。マークし
た地点はサンチャゴから 280km以上離れたロンガビ(Longavi)からチジャンの間に集中して
いる。このマークの集中する部分は大きく 3 箇所あり、地図上に落としてみて、結果的にこれ
らがそれぞれ河川沿い(図中白矢印)にある様子が示される。
Railway
bridge
Inclide
Overpass above
railway drpped
Two-way traffic
Silo
damaged
Overpass for
pedestrians
Overpass for
railway drpped
Liquefaction at
gass station
Fig. 5.2-5
Damage distribution along Pan American Highway
4) Coihueco 灌漑用ダムの被害
*位置(ダム右側アバットメント): -36.63726,-71.7981
大小2つのダムがほぼ連続する総延長 975m のゾーン型フィルダム(堰堤高さ:最大 31m、
下流側斜面勾配:21°、上流側斜面勾配 19°、湛水域面積 226 万㎡)である(Fig. 5.2-6)。以下
は”Irrigation Management in Latin America, 1990”の記述も参考にしている。
チリの灌漑は北から南に大きく 12 の管轄区域に区分されているが、Coihueco ダムはこのう
ち第 7 区域でおよそ 6500ha を灌漑する代表的なダムである。この区域はアンデスから流下す
る雪解け水の恩恵を受け、このため灌漑は必要な時期に補助的に行われる。第 7 区域は 250,000
ha が稲作に充てられていて、チリの米の収量の 2/3 がこの地域で生産される。稲は粘性土地盤、
旧湖沼地で栽培されていてこれが他の農作物耕作地との地盤条件を分けている。チリでは、
1915 年に開発省の下に灌漑局が置かれ、水資源活用のためのインフラの計画、施工、管理が進
められてきた。また公共事業省の水資源局は水利関係法案の実施機関として機能してきた。か
112
つては国が深く関わった灌漑事業も 1980 年以降民活化が大きく進み、農業者や水利用者は彼
らの自立的組織である水利委員会(water communities), 運河協会(canal associations), そして
監視委員会(vigilance councils)などに関わる形でこれを利用している。ダムや運河、水路など
の水利施設も、民間セクターへの売却、水利用者の株式取得などの形で民間への管理の移行が
進んでいる。
ダムの被害は堤頂のほぼ全長に走る縦断亀裂と上流側斜面の貯水池方向への滑りである(Fig.
5.2-7)。縦断亀裂は右岸近くで深さ 1.9m に達する部分がある。堤頂コア部分の沈下はほとんど
確認できない。上流側斜面の貯水池方向への目立った滑りは 3 箇所で確認できる。最も大きな
すべりは左岸近く(Fig. 5.2-7 中 AA’付近)で発生していて、この計測断面を Fig. 5.2-8 に示す。
肩の部分が 3.3m近く沈下し、貯水池側に大きくはらみだしている。この結果この断面の上流
側斜面は他の健全な部分の 19°に対し 16°程度に変化している。3.3mの肩部の沈下はダムの最
大高さ 31mの 10%以上にも達している。
Fig. 5.2-6 Location of Coihueco Dam:
Left abutment: -36.63726,-71.7981
113
24m
9m
39m
12m
-1.0m
-0.2m
20m
32m
12m
7m
1.9m
-0.5m
-0.5m
63m
-1.0m
-0.5m
46m
16m
25m
N
Up-stream side
Down-stream side
46m
16
77m
31m
-1.5m
-3.3 - 4m
-4m
A
Fig. 5.2-7
Location of Coihueco Dam: Left abutment: -36.63726,-71.7981
5.2m
Fig. 5.2-8
Cross-section of dam: Upstream side spreaded sideways.
114
A’
5) 鉱滓ダムの被害
位置(作業所跡):-35.187453,-71.757395
Las Palmas鉱山の鉱滓ダム(tailing dam)が崩壊し、鉱滓が最大幅250m、約3度の勾配の斜面を
最大距離650mにわたって流下し、末端部にあった家屋を飲み込み4名の命が奪われた。Fig. 5.2-9
はこの鉱さいダムの崩壊前の衛星写真にGPSでマークした崩壊土砂範囲と滑落崖、そして崩れ
残った鉱さい堆積物に現れた亀裂の位置を記したものである。
15m
11m
10m
18m
100
200 m
6m
8m
0
Fig. 5.2-9
Entire area covered by the liquefied slime at Pencaue Gold mine
115
このダムの被害は同じく金山であった持越鉱山の鉱滓ダムが、1978 年の伊豆大島近海地震で
崩壊した事例を彷彿とさせる。シアン化化合物が狩野川に流出しこれを汚染したのである。ま
た 1936 年には尾去沢鉱山の中 沢 鉱 滓 ダ ム が 決 壊 し 、死 者 374 名 に い た る 第 惨 事 に な っ
て い る 。 閉山して長年が経ち、特に鉱山を運営する企業が倒産した場合には、管理主体がな
いままに放置されて地震や豪雨で崩壊するのみならず、自重で壊れる事例も報告されている。
このような廃鉱の鉱滓ダムの管理をどのように進めていくかが鉱物資源国でもあるチリの地
震防災に関わる課題の一つであろう。
参考文献
Cecion, A,. and Quezada, J. : Sintesis preliminar de la geologia urbana de Concepción, 7 °Congreso
Geologico Chileno, pg.595-599, 1994.
Colombo Sri Lanka, International Irrigation Management Institute (1990), Irrigation Management in
Latin America, Present situation, problem areas and areas of potential improvement, Translated from
Spanish to English by Mira Fischer and others.
Vegetation map of Chile (1972): Perry-Castañeda Library Map CollectionUniversity of Texas,
http://en.wikipedia.org/wiki/File:Chile_veg_1972.jpg
116
6.まとめ
Concluding Remarks
6.1 今回の調査で判明した事項
(Major Observations and Conclusions)
1) 地震概要
2010 年 02 月 27 日(土)06 時 34 分(UTC、現地時間 03 時 34 分)、チリ・マウレ州沿岸部を震源(震
央:南緯 35.9 度、西経 72.7 度)とするチリ・マウレ地震が発生した。地震のマグニチュードは
8.8(Mw)、断層面の大きさは約 500km×100km で、1960 年チリ・バルディビア沖で発生したマグ
ニチュード 9.5(Mw)に続く巨大地震であった。被害は、死者・行方不明者が 500 名を越え、被
害総額は約 3 兆円とされている。
2) 強震観測結果
チリでの強震観測は 1940 年サンティアゴで開始された。その後、チリ大学では、1969 年か
らチリ各地に強震観測を展開し、2009 年の時点で、約 60 地点からなるチリ強震観測網
(RENADIC)を構築している。今回の地震の震源域周辺での観測点数は 30 程度となっている。
2010 年 04 月 09 日現在、インターネット上で公開されている観測結果はディジタル型強震計
によるもので、アナログ型強震計による結果については不明である。これによると、コンセプ
シオン(Conception)郊外のサン・ペドロ(San Pedro)で 0.65g、クリコ(Curico)で 0.47g、ビーニャ
デルマール(Vina del Mar)で 0.3g、バルデビア(Valdivia)で 0.14g、首都サンティアゴ(Santiago)で
は 0.17∼0.56g となっている。
サンティアゴでの最大加速度値は硬質な礫地盤上で小さく、比較的軟弱な堆積地盤上では大
きくなっており建築物の被害もみられたこと、軟弱地盤上のコンセプシオンで強い地震動が観
測され建築物の大きな被害につながったことなどから、マイクロゾーネーションに係わる研究
の重要性が指摘される。また、観測波形の主要動部分は 1 分以上継続し、Mw8.8 という巨大地
震での地震動継続時間が非常に長いものになることを示している。
3)建築物の被害概要
建築物の被害はマグニチュード(Mw8.8)が大きかったにもかかわらず、さほど甚大なもので
はなかった。しかしながら、震源域の大きさと比例して被災範囲は大きく、北はサンティアゴ、
ビーニャデルマールなど、南はコンセプシオンなど、までに至る約 500km である。
今回の調査から建築物の被災の特徴をまとめると、以下の通りとなる。
①鉄筋コンクリート造建物は壁式構造のものが多く、被災現象としては、地下階・一階部分
での耐震壁端部の圧縮破壊(主筋の座屈等)、壁梁せん断破壊が主であった。これは主とし
て駐車場確保等のため、下層壁抜け、壁厚不足、壁配置の不備によるもので、構造詳細の
観点からは、壁端部での太径過密配筋、端部縦筋を拘束する横筋詳細不備、過大粒径の粗
117
骨材の使用、壁梁と壁柱接合部の不備などがみられた。これらの事から、構造計算は十分
であっても構造規定に不備があるものと考えられる。
②枠組組積造については、枠組である鉄筋コンクリート造柱、梁、壁がせん断破壊している
ものが多かった。壁と枠組柱・梁の間に、両者を緊結する鉄筋が無く、構造的一体性が欠
如しているものが多くみられた。
③レンガ造、アドベ造については、外壁面の面外倒壊、せん断破壊、等により、全壊したも
のが多くみられた。
④サンティアゴからコンセプシオンに至る広範囲の地域で、間仕切り壁の被害、天井材の落
下、ガラスの破損、給排水・電気配管設備(照明・空調機等)の落下がみられた。
6.2 今後の対応および検討事項
(Future Tasks and Items)
今回の調査を通じて、地震工学・建築構造分野で、今後の調査・検討及び研究協力の可能性
が考えられる事項は以下の通りである。
1)「主要都市におけるマイクロゾーネーションの高度化に関する研究」
コンセプシオン、サンティアゴでの被災建築物が軟弱な堆積地盤上にあったこと、強震観測
結果から硬質地盤上より軟弱な堆積地盤上で地震動が強かったことなどから、地震防災上の観
点から研究を遂行する必要がある。
2)「建築物の機能性能及び耐震性能向上技術に関する研究」
構造詳細として、構造性能が担保できる構造規定の充実、震前・震後対策としての壁式構造
の合理的補修・補強技術の向上、機能性維持のための高耐震化などの観点から研究を遂行する
必要がある。
本報告書は今回のチリ・マウレ地震調査結果に基づき、地震工学・建築構造分野の観点から、
約一ヶ月間で作成したものである。今後の調査・研究が進むにつれて、より詳細な実態や被害
要因などが明らかにされるものと思われる。
末筆ながら、今回の地震で亡くなった方々のご冥福をここに心からお祈りする次第です。
118
付録
Appendices
1) チリ・カトリカ大学傘下の組織DICTUC より提供されたサンチアゴおよびマイプの被害建物
概要(8 ページ)
2) 3 月29 日午後(現地時間)にチリ・カトリカ大学で開かれた情報交換会の出席者署名(1
ページ)
3) Hospital de Curico(3 月30 日調査)より提供された病院内の略平面図(1 ページ)
4) コンセプシオン市当局が公表した同市内の要取壊(CATEGORIA 1)および大破(CATEGORIA 2)
建物リスト(2 ページ)
※CATEGORIA 1 建物名の冒頭の番号は、5)資料および6)資料中に記された番号に対応する。
5) チリ・カトリカ大学 Ernesto CRUZ 教授提供の、コンセプシオン市内倒壊・大破建物の位
置を示す地図(CRUZ 教授筆の資料に一部情報を加筆)(1 ページ)
6) 5)資料を清書し新たに地図上に記入したもの(1 ページ)
7) チリ国とのセミナーの概要(3 ページ)
8) 津波の被害写真(2 ページ)
以上
119
120
121
122
123
124
125
126
127
128
129
130
131
132
133
チリ国とのセミナーの概要
セミナー名称: Seminario Soble El Terremoto Chileno 2010 (2010 年チリ地震に関するセ
ミナー)
主催者:
チリ・カトリカ大学
日時:2010/4/5 14:00-17:00
場所:チリ・カトリカ大学サンフォアキンキャンパス
参加者:約 250 名(チリ国内の研究者、構造設計実務者など)
日本そしてチリで発生する海溝型の地震は強い揺れのみならず甚大な津波被害に繋がる点
で共通する課題を我々に突きつけている。おりしも 2010 年 2 月 27 日にチリで発生した巨大地
震はこの意味で日本・チリの研究者にとって貴重な機会を与えた。この地震の被害やその教訓
を共有化するため、本セミナーが開催された。セミナーはチリカトリカ大学 Rafael Riddell
教授の司会により進められ、林渉日本大使の挨拶の後、日本側から 4 名およびチリ側から 8 名
の計 12 名の研究者が以下の発表を行った。
a) 地震および地学的環境 Sergio Barrientos(チリ大)
チリの地震環境、2010 年チリ地震のメカニズム、強震観測結果、地殻変動結果、地表に
現れた断層などについて説明された。
b) 地盤工学からの観点1 Christian Ledezma(カトリカ大)
地盤変状に伴う橋梁・建物・港湾・道路・ダムなどの被害が報告され、各地点の地盤条
件が被害に及ぼす影響が大きいことが指摘された。
c) 地盤工学からの観点2 安田進(東京電機大)
鉱滓ダムの被害、液状化による建物被害、地盤変状による道路の被害が報告され、日本
の経験を踏まえて、これらに対する対策が推奨された。
d) 鉄筋コンクリートビルの被害1
Diego Lopez-Garcia (カトリカ大)
多くの鉄筋コンクリートビルは無被害か軽微な被害に止まったが、ある程度の数のビル
にかなりの被害がみられ、おおむね 4 タイプに被害が分類できることが指摘された。
e) 鉄筋コンクリートビルの被害2 小林克巳(福井大)
鉄筋コンクリートビルの被害は全般に軽微で、人命保護の観点からはチリの耐震設計は
おおむね成功といえるが、さらなる耐震性向上のための方策が望まれ、関連する日本の事
例が紹介された。
f) 鉄筋コンクリートビルの修復 Carl Luders (カトリカ大)
鉄筋コンクリートビルの被害例が示され、それぞれの被害に対する耐震補強方法につい
て紹介された。
g) 鉄骨造産業施設の被害 Ernesto Cruz(カトリカ大)
134
変電施設や工場、港湾、タンクなどに被害が生じ、各地で工場や港湾などの機能が失わ
れた事例が報告された。
h) 橋梁の被害1 Hernan Santa Maria (カトリカ大)
サンチアゴおよびその近郊でのハイウエイの道路橋の被害とその原因について報告され
た。
i) 橋梁の被害2 川島一彦(東工大)
1990 年後半以降のスペインの基準で設計されたものに大きな被害がみられ、それ以前の
チリの基準で設計されたものには大きな被害がみられないこと、また今後の耐震設計向上
への方向が指摘された。
j) 制振免震建物の挙動 J. C. de la Llera (カトリカ大)
サンチアゴ周辺の制振・免震構造物が紹介され、免震建物は 5∼20cm の変位を示し、無
被害であり、制振建物にも被害がみられず、制振・免震構造物の高耐震性が確認されたこ
とが報告された。
k) 津波と被害1 Paricio Winckler(バルパライソ大)
津波の検潮記録や津波による各地の被害が紹介され、各種建物の耐津波性についても言
及された。
l) 津波と被害2 今村文彦(東北大)
津波の遡上高や川の遡上長さが場所により大きく異なること、最大津波は地震の約 2 時
間後に発生したこと、津波発生のメカニズムを考慮した詳細な津波ハザードマップ作成が
重要であることが指摘された。
その後、質疑がおこなわれ、日本・チリの関係分野の専門家が地震・津波減災に繋がる科
学技術について情報を交換・共有化することができた。最後に、北川良和合同調査団団長から
被害調査へのチリ側からの協力に対して謝意が述べられ、閉会した。なお、日本・チリ双方の
理解を深めるため、スペイン語―英語の同時通訳が行われた。
セミナーでの日本大使挨拶
セミナー会場の様子
135
セミナー案内資料
136
津波の被害写真
Dichato
San Antonio
137
Constitucion
上:1993 年撮影
下:2010 年撮影
上:1993 年撮影
下:2010 年撮影
138
Fly UP