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1 - 経済産業省
平成 18 年 6 月 経済産業省 目次 第 1 章 「新経済成長戦略」が目指すもの・・・・・・・・・ 1 頁 1.人口減少下での「新しい成長」 2.イノベーションと需要の好循環 3.改革の先に見える明るい未来 第 2 章 国際競争力の強化(国際産業戦略) 第 1 節 日本とアジアの成長の好循環・・・・・・・・・・23 頁 1.アジア規模の生産ネットワーク 2.アジアの発展に貢献 3.アジアと共に成長 〔具体的施策〕 (1)シームレスな経済環境の整備 (2)持続的な協働関係構築のための制度整備 (法人実効税率の見直し、国際課税制度の見直し、資金調達の円滑化等) (3)エネルギー・環境協力 第 2 節 世界のイノベーションセンター・・・・・・・・・51 頁 1.イノベーションの加速化 (「イノベーション・スーパーハイウェイ」構想 等) 2.世界をリードする新産業群の創出 (「新産業創造戦略」の燃料電池、ロボット、情報家電等の戦略分野、新 世代自動車向け電池、次世代知能ロボット、先進医療機器・技術(がん 克服等)、次世代環境航空機 等) 3.高度な部品・材料産業、モノ作り基盤技術を担う中小企業の強化 4.対日直接投資の一層の促進に向けた取組の強化 5.内需依存型産業の国際展開 第 3 節 IT による生産性向上・・・・・・・・・・・・・・83 頁 1.生産性の向上をもたらす IT (世界トップクラスの「IT 経営」の実現 等) 2.IT 産業の強化・基盤の確保 (IT 産業の強化、IT 人材の充実・強化 i 等) 第 3 章 地域経済の活性化(地域活性化戦略) 第 1 節 地域活性化のための政策・・・・・・・・・・・・95 頁 1. 複数市町村圏で推進する地域産業活性化策 2. 新しい政策目標指標 − 「就業達成度」 3. 今後の地域産業政策 (1)「産業クラスター計画」第Ⅱ期の推進 (2)地方活性化総合プランの実行 (3)公的サービスのコスト低減・質的向上と高齢者や女性の活 用・就業 4. 自立的・安定的地域経営のための基盤整備 (1)地域の努力が報われる地方交付税制度の構築 (2)地方の法人所得課税の抜本的見直しによる地方税収構造の再 構築 (3)地域レベルでの規制緩和 第 2 節 地域中小企業の活性化・・・・・・・・・・・・ 143 頁 1.「地域資源活用企業化プログラム」の推進 2. 中小小売商業振興を通じたまちづくりプロジェクトの推進 3. 地域におけるモノ作り中小企業の振興 4. 小規模・零細企業の振興 5. 中小企業の再生・再起業の推進 6. 地域活性化のための新たな金融手法の活用 7. 女性や高齢者を活かした地域中小企業の事業展開支援 第 3 節 サービス産業の革新・・・・・・・・・・・・・ 161 頁 1.サービス産業の現状と認識 (サービス産業の重要性、生産性、社会的意義、重点サービス産業) 2.サービス産業横断政策 (1)目標 (2)需要の創出・拡大 (3)競争力・生産性の向上 (4)政策インフラの整備 (サービス統計の充実・整備、生産性向上運動の推進 ii 等) 3.サービス分野別対応 (1)健康・福祉関連サービス (2)育児支援サービス (3)観光・集客サービス (4)コンテンツ(製作・流通・配信) (5)ビジネス支援サービス (6)流通・物流サービス 第 4 章 横断的施策 第 1 節 ヒト:人財力のイノベーション・・・・・・・・ 201 頁 〔具体的施策〕 (1)柔軟な人材育成の仕組みの形成 (社会人基礎力の養成、人材育成パスの複線化 等) (2)産業界や地域と連携した人材育成 (産学連携による人材育成、「地域ぐるみ」の人材育成) (3)グローバル人材戦略 (「アジア人財資金(仮称)」構想、高度人材の受入れ拡大 等) 第 2 節 モノ:生産手段とインフラのイノベーション・・ 221 頁 〔具体的施策〕 (1)生産手段の新陳代謝の促進 (減価償却制度の抜本的見直し 等) (2)産業・物流インフラの戦略的整備 第 3 節 カネ:金融のイノベーション・・・・・・・・・ 241 頁 〔具体的施策〕 (1)リスクマネーの供給拡大 (2)コミュニティ事業への資金供給 (3)ベンチャー・中小企業等のイノベーションに対する資金供給 (4)地域金融の目利き力の向上 (5)医療介護、農業、公営事業等への資金供給 (6)「事業と金融の融合」の高度化 (7)高度金融人材の育成強化 (8)東アジア資産担保証券市場の拡大 iii (9)日本型預託証券(JDR)の導入 第 4 節 ワザ:技術のイノベーション・・・・・・・・・ 259 頁 〔具体的施策〕 (1)イノベーションの促進 (革新的研究開発、異分野融合、研究・技術人材の育成・流動化、革新 的ベンチャーの育成 等) (2)知財政策 (特許審査迅速化、模倣品・海賊版対策の強化、営業秘密管理と技術流 出防止の強化 等) (3)基準認証政策 (国際標準化の推進、計量標準の整備 等) 第 5 節 チエ:経営力のイノベーション・・・・・・・・ 291 頁 〔具体的施策〕 (1)経営イノベーションの基盤整備 (国際競争力の実態を踏まえた企業結合審査、敵対的買収・防衛に関す る公正なルール整備、新たな信託制度の活用) (2)我が国ならではの強みを活かした経営 (LLP・LLC 等の効果的活用、「知的資産経営」の促進) 第 5 章 日本経済の展望(試算結果) ・・・・・・・・・・・305 頁 (1)将来の我が国経済の展望 (2)試算の前提(標準ケース) (3)マクロ経済の前提が異なることによる成長への影響の検証 (4)新経済成長戦略の主要政策の効果 (5)産業構造の展望 (6)潜在的新産業群・重点サービス分野の将来展望 新経済成長戦略策定の経緯・・・・・・・・・・・・・・・ 316 頁 産業構造審議会 新成長政策部会 委員名簿・・・・・・・ 317 頁 iv 第1章 「新経済成長戦略」が目指すもの 1 第 1 章:「新経済成長戦略」が目指すもの − 世界第 2 位の経済大国から強い日本経済・魅力ある日本へ − ○ 1960 年代の終わりに、我が国は「世界第 2 位の経済大国」となり、以来約 40 年間、この言葉は日本経済の代名詞であった。「世界の一割国家」、「世界 の GDP の約 15%を占める経済大国」などと誇らしく語られてきた。高度成 長を通じて、国民生活は著しく向上した。また、国連分担金拠出や ODA の 供与などもこの地位に見合った貢献を行ってきており、これが国際政治や外 交における力の源泉になった。 ○ しかしながら、おおむね 10 年後には GDP の規模で中国に追いつかれ、また 約 20 年でインドに追い抜かれるという予測もあり、 「世界第 2 位」の地位は いずれ他国に譲ることとなる。そのような場合でも日本人の誇りと自信とな る新たな日本経済の姿を模索することが重要である。活力ある経済は、豊か な国民生活の原資である。したがって、GDP の規模では世界第 2 位の地位を 失ったとしても、国際競争力のある経済、一人あたり所得水準の高い経済、 リスクや不確実性に強い経済、すなわち、世界に存在感のある「強い日本経 済」、新しい価値を次々と発信し、世界へ提供し続ける「魅力ある日本」を 目指すべきである。 2 1.人口減少下での「新しい成長」 (労働力人口1の減少) ○ 我が国では、戦後長期にわたり、生産年齢人口2が従属人口3を大幅に上回っ ていた。1970 年代初頭までの日本経済は、こうした「人口ボーナス」を享受 するとともに、農村部から都市部、農業から工業への人口移動などを背景に、 増加する労働力を一つの原動力として高度成長を遂げた。 ○ しかし、少子化・高齢化に伴い生産年齢人口は、1995 年をピークに減少、労 働力人口で見ても 1998 年以降減少に転じている4。 今後 10 年間は戦後の成 長を支えた「団塊の世代」が大量に引退する時期に当たる。一方、日本の若 手人口は 2020 年までに約 31%減少する5。このまま推移した場合には、2015 年までの 10 年間に約▲400 万人の労働力人口が減少することとなる6 。労働 力人口の成長寄与度が小さくなってきたとはいえ、この減少は、今後の実質 成長率を年率▲0.4%程度引き下げるマグニチュードをもっている7 8。労働力 人口の減少は、供給サイドでの経済成長の制約要因となる。 ○ また、少子化対策について最大限の努力を継続していくことが重要ではある が、少子化は人々の価値観や社会的規範とも関わっており、必ず出生率が回 復するという政策手段が、現時点においては見当たらないのが現実である。 仮に、今すぐ少子化傾向が反転したとしても、向こう 20∼30 年間は経済へ の大きなプラス効果は期待できない。したがって、少子高齢化・人口減少が もたらす影響は、少なくとも今後数十年間にわたる前提条件として捉える必 要がある。 (潜在的労働力の顕在化) ○ こうした労働力人口の減少に対する一つの対応は、これまで十分に活かされ てこなかった潜在的労働力の顕在化である。過去 30 年間に日本人の平均寿 1 2 3 4 5 6 7 8 ◆労働力人口 15 歳以上の就業者の人口と完全失業者(就業したいと希望し、求職活動をしているが仕事に ついていない者)の人口の総和のこと。 ◆生産年齢人口 15∼64 歳の人口のこと。 ◆従属人口 年少人口(0∼14 歳の人口)と老年人口(65 歳 以上の人口)の総和のこと。 日本は人類の歴史上初めて総人口の平均年齢が 40 歳を超えた国だと言われている。 ◆若手人口 20∼34 歳の人口のこと。若手人口の将来見通しは、国連「世界人口見通し」 (2002 年改定: 中位見通し)による。 「団塊世代」と言うと年配の男性をイメージしがちだが、団塊女性もパートタイム労働力等の 大きな部分を占めている。 これは、1 人当たり労働生産性の上昇率が過去 10 年間の平均で推移する場合には、実質 GDP 成長率は年率 1%強にとどまることを意味する。 このほか、資源・環境の制約も存在するが、日本に限って言えば人口減少はそれを緩和させる 効果を持つ。ただし、資源・環境制約は世界経済の制約要因として看過できない。 3 命は 10 年近く伸びたが、就労年齢の伸びはそれを大きく下回っている。平 均寿命の伸びは健康寿命9の伸びを伴っており、現在の 60 歳台は大きな余力 を持っている。また、幾分改善したものの、女性の年齢階級別の労働力率10を 見ると依然としていわゆる「M 字カーブ」11の形状を残しており、子供を持 つか仕事を継続するかの二者択一を迫られ、結局のところ、働きたくても働 けない女性が多く存在することが示されている。さらに、長期化した新卒採 用抑制でその能力を十分発揮できる職を得ていない若者も少なくない。 ○こうした潜在的労働力の中にはソフト・スキル12を含め高い能力を眠らせてい る人が少なからず存在する。就労をめぐる制度・慣行(組織内での働き方、 働かせ方)の見直し、テレワーク13の活用、家事労働の資本への代替14等によ り、就労意欲を持ちながらそれを実現できていないこれら潜在的な労働力を 可能な限り活かしていくことは、労働供給減少の緩和に資する。加えて、例 えば、有能な女性の活用・離職防止を通じた生産性向上にも資するものであ り、中長期的な経済活力の維持・向上の観点からも重要である。さらに、そ れは個人の生き甲斐、自己実現を高めることにもつながる。 (労働生産性) ○ これら潜在的労働力の顕在化を見込んだとしても、他方で平均労働時間の短 縮により相殺されることもあり、量的な意味で労働力の成長寄与度がプラス になることは容易ではない。 ○ また、我が国においては、工業社会から知識経済社会への大きな構造変化も 進行している。工業社会においては商品価格と生産費用の構造的な差が利潤 を生み出したが、そうした構造をもたらした都市への人口流入が頭打ちとな り、生活水準の向上に伴う個人の価値観の多様化など知識経済化が進む中で、 価値の源泉は商品やサービスの独自性へと変化しつつある。このため、こう した独自性を生み出すことができる創造性を有した人材や多様な人材の重 要性が高まっている。 9 ◆健康寿命 人生の中で健康で障害の無い期間(支援や介護を要しない期間)のこと。 10 ◆労働力率 15 歳以上の人口に占める労働力人口の割合のこと。 11 ◆M 字カーブ 女性には、出産・育児期にいったん就業を中断し,子育てが一段落したところで再就職する という就業パターンを持つ者が多いということ。 12 ◆ソフト・スキル 効果的なコミュニケーション、創造力、分析力、柔軟性、問題解決力、チームビルディング、 傾聴力等の、他者と触れ合う際に影響を与える一連の能力のこと。 13 ◆テレワーク 情報通信機器等を活用し時間や場所に制約されず、柔軟に仕事を行う働き方。 14 高度成長期に「三種の神器」が女性の家事労働(household production)時間を大幅に軽減する 効果を持ったことは良く知られている。今後は、介護、育児等の負担軽減のために有効な家計 資本財が期待されている。 4 ○ このため、一人ひとりが生み出す付加価値(=労働生産性)を高めることが 必要である。すなわち、人的資源の価値をこれまで以上に高めることが人口 減少下での「新しい成長」のカギとなる。2015 年までの長期展望(第 5 章) の実質経済成長率15を実現するためには、単純に計算してこれまでに比べて 年率 1%ポイント前後の労働生産性上昇率「加速」が必要となる。これは決 して容易なことではないが、個人・企業が持てる能力をフルに発揮するとと もに、政策を総動員すれば実現不可能な数字ではない。創造力のある人材や 多様な人材の育成に努めるとともに、労働生産性を高めるため、①労働者一 人当たりの資本ストック16(資本装備率)を高めること、②イノベーション (TFP17)を上昇させることに努めることが重要である。 (人財立国) ○ 教育水準の上昇を始めとする労働力ストック 18 の質の向上は、これまでも TFP の上昇に一定の寄与をしてきた。高等教育進学率は今後も上昇を続ける と予想されるが、ストックベースでの教育水準の上昇は次第に頭打ちになる と考えられる。最先端技術産業から地域のサービス産業までその成長を支え るのは創造力、実行力のある優れた人材である。人材の能力開発への投資は、 生産性の向上にとって重要である。特に人口減少社会において経済活力を維 持するには、一人当たりの生産性を上げていくよりほかなく、これまで以上 に人材育成が重要となる。将来を見据えた先行投資に重点を置き、社会人基 礎力の強化、企業内教育訓練の充実、産学連携等による人材の質の向上等を 図っていくことが課題である。教育機関、産業界、地域社会、政府が一丸と なって取り組む必要がある。魅力ある日本を構築し、アジアを始め世界から 優れた人材が日本に集まる施策も重要である。人材は日本の「財(たから)」 であり、人材を「人財」と位置づけて取り組むことが重要である。 (IT 資本、省人化) ○ 過剰設備の解消が企業及び政府にとってこれまで重要課題であった。しかし、 最近では設備過剰感はおおむね解消し、前向きの設備投資も拡大を始めてい 15 ◆実質経済成長率 物価変動の影響を除いた GDP 成長率のこと。物価変動を反映した時価で計算した GDP 成長 率が名目経済成長率。 16 ◆資本ストック 工場や機械など、経済活動に用いられる設備の、ある時点における総量を指す。一般に、資 本ストックの増加は経済の生産力を高める。 17 ◆TFP 全要素生産性(Total Factor Productivity)。経済成長の要因のうち、労働と資本の投入以外の要 素のことであり、具体的には、技術革新や、労働や資本の質的向上、経営の効率性向上等が含 まれる。 18 ◆労働力ストック ある時点において、社会で働いている労働力全体のことを指す。一般に、労働力ストックの 増加は経済の生産力を高める。 5 る。長期に及んだ不況と労働需給の緩和基調の中では「省力化投資」は切実 でなかったが、今では企業の雇用過剰感がほぼ解消し、多くの業種・地域で 労働力不足が始まっている。中長期的にも労働力不足が問題になることを考 えれば、労働力は人間でなければできない仕事にできるだけ特化させ、産業 全般に IT の高度利用、省人化や最新設備への投資を促進し、資本ストック で労働を代替することが求められる19。 ○ これは製造業はもとより、日本経済全体の生産性上昇のカギとなるサービス 分野でとりわけ重要である。日本のサービス産業の労働生産性上昇率は、製 造業とは対照的に、OECD 諸国の中で下位にとどまっている20。汎用性のあ る IT 資本の産業全般での利用に加え、従来資本への代替が困難だった清掃・ 警備等の本質的に労働集約度が高い分野でも、ロボット化(次世代ロボット) 等の取組がありうる。 ○ 政策的には、減価償却制度の抜本的見直しを含む税制や金融上の措置を通じ て、企業のこうした投資を加速することが急務である。 (イノベーション) ○ 広義のイノベーション(全要素生産性:TFP)をどれだけ高めることができ るかは「新しい成長」にとって最大の課題である21。IT を活用した企業の経 営革新、労働力の質の向上、サービス部門の効率化、研究開発による技術力 の向上、ビジネスモデルの革新とその事業化、グローバル化の下での産業構 造変化、安定的なマクロ経済環境などがその中心となる。 ○ IT 投資は、①資本投入の結果として供給面から生産能力を上昇させる、②ネ ットワーク効果等により全要素生産性(TFP)を上昇させる等のパスを通じ、 これまでも労働生産性の向上に貢献してきた(図 1-1-2)。IT は、地理的・空 間的制約を克服することを可能とするが、特に、近年の技術革新と高速ネッ トワークの普及により、大量の情報を、発信、複製、移動、保存、検索等の 形で、組織の壁、国境の壁を越えて、利用し、共有することが容易となって きている。 19 ただし、資本ストックだけで成長率を稼ごうとすれば、いずれ資本収益率の低下が生じる。 「過 剰設備」の厳しい経験を忘れてはならない。 20 OECD 統計によれば、1995∼2003 年の間の日本の労働生産性上昇率は、製造業は 4.0%(年率) で 28 か国中 8 位だが、サービス産業は 0.8%(同)で 27 か国中 19 位である。サービス産業は 品質の向上の計測が困難で、GDP は特に医療サービスの質の向上を相当程度過小評価している と言われている。サービス統計の整備と品質向上の適切な評価は重要課題である。 21 TFP とは経済成長率の要因のうち労働及び資本の貢献では図られない「残差」であり、 「無知 の指標」 (”measure of our ignorance”)とも言われ、様々な要因がこれに影響する。TFP を要因分 解しようとする試みは過去無数にあったが、完全に要因分解されたことはない。 6 ○ 米国で 1990 年代後半に「生産性の加速」が生じたことはよく知られており、 IT の利用はその有力な要因である。単なる IT 資本の蓄積や IT を生産する産 業(電子工業、ソフトウェア業等)の成長だけでなく、IT のユーザー産業(金 融、流通、サービス業等)で経営革新を伴いつつ活用されたことが大きかっ たとされる。日本でも、IT 利用の高度化と企業の組織革新を国民運動的な取 組として進めることが必要である。 (研究開発・技術革新) ○ 研究開発による狭義のイノベーションは、言うまでもなく引き続き TFP 上昇 の主役である。技術の新陳代謝、すなわち技術革新を続けることで、日本経 済は成長し続けることができる。日本の研究開発支出の GDP 比率(3.35%) は OECD 諸国中スウェーデン、フィンランドに次いで高いが、従来のように 企業が全て自前で中長期の研究開発などを推進することが難しい状況も生 じている。企業、大学、政府の研究支援などの役割を再確認した上で、研究 開発における外部リソースの積極的活用、我が国が強みを持っている産学官 による「協働」の拡大、チームワークによる異なる知識やアイデアの融合、 競争環境の構築や知的財産制度・基準認証等のインフラ整備、研究開発促進 税制による支援等を通じて企業の研究開発集約度を高めることが重要であ る。また、創造的イノベーションの担い手として期待される「ベンチャー」 のビジネス環境の一層の改善などが欠かせない。IT 活用や人財立国と合わせ て、こうした強みを活かした我が国独自のイノベーション・モデルを確立す ることが求められる。 (双発の成長エンジン) ○ イノベーションが起こる「領域」について考えると、まず、これまで成長の エンジンであった製造業の強みを更に強化することが欠かせない。アジアの 生産力が飛躍的に伸びる中でなおかつ強力な製造業を国内に維持している 我が国経済は、先進諸国の中で独自のものである。伝統的に我が国が強みを 持つチームワークや擦り合わせ力を更に伸ばすとともに、産学連携による技 術開発、IT の高度活用や省人化投資を進める必要がある。 ○ 同時に、生産性向上の余地が大きいサービス産業を中心とした幅広い分野で イノベーションを喚起することも重要である。 しかしながら、サービス分野は、規制や商慣行などによる新規の参入障壁 やサービスのモジュール化、マニュアル化22の遅れなどがあって、イノベー ションやその成果の波及が阻まれている。産業分野ごとに、その隘路となっ ているものを点検し、障害を除去することによって、イノベーションが起こ 22 ◆サービスのモジュール化、マニュアル化 サービスをある程度の「かたまり」として切り分け、規格化・標準化することによって、 提供されるサービスを均質化すること。 7 りやすい環境を整備する必要がある。サービスのマニュアル化、チェーン化 の手法、金融工学など米国等の先進技術を取り入れるとともに、我が国が 強みを持つ製造業の経営技術等をサービス産業の革新に応用することも重 要である。 23 ○ 強力な製造業が生み出すハイテク技術が取り入れられてサービス産業の革 新が実現する。コンテンツ24やビジネス支援サービスが高度化することで製 造業の競争力が更に高まる。両者は相互に補完し、高め合い、融合化するこ とで、ハイブリッドな産業に進化することが可能となる。 ○ サービス産業が製造業と共に、「もう一つの成長エンジン」となれるよう、 明確な目標を掲げつつ、産学官の連携体制を立ち上げ、生産性向上運動を広 く展開することが重要である。 我が国は、成長のエンジンをこれまでの製造業単発から製造業とサービス 産業の「双発エンジン」に切り替え、製造業からサービス産業へと軸足を移 したアメリカとは異なる道を目指すべきである。 (産業構造、国際分業) ○ 個々のセクターの生産性上昇だけでなく、国際分業等を通じた産業構造の高 度化もマクロの生産性上昇に大きく貢献する。製造業を中心とした貿易財産 業は、戦後一貫して、輸入数量制限や関税などの貿易障壁の低下が進む中で、 これに対応して国際分業構造を高度化させ、国内での生産をより高付加価値 なものにシフトさせることにより生産性上昇に寄与してきた。「失われた 10 年」といわれる 1990 年代以降においても、製造業の中での構造変化は日本 の経済成長率を高める効果を持ってきた。めざましい成長を続け、世界の成 長センターとなったアジアを中心にグローバルな分業を更に進めていくこ とは、国内製造業の生産性上昇にとって引き続き重要である。EPA25、投資 協定、WTO 交渉を推進することにより、その環境整備を図ることが必要で ある。それは、「アジアの発展に貢献し、アジアと共に成長する」ことにつ ながる。 ○ 他方、サービス産業は相対的に見ると国際競争圧力からこれまで隔離され、 またその影響が少ない分野であったが、サービス貿易の一層の自由化、対内 直接投資の拡大はサービス産業の効率性を高める効果を持つと期待される。 23 ◆チェーン化 同一資本による店舗経営の系列化を行うこと。 24 ◆コンテンツ 人間の創造的活動により生み出されるもののうち、教養又は娯楽の範囲に属するもの。具体 的には、映像(映画、テレビ、アニメなど) 、音楽、ゲーム、出版・新聞等。 25 ◆EPA 経済連携協定(:Economic Partnership Agreement)。特定の二国間又は複数国間で、域内のヒ ト、モノ、カネの移動の自由化、円滑化を図るため、水際及び国内の規制の撤廃や各種経済制 度の調和等、幅広い経済関係の強化を目的とする協定。 8 なお、観光産業は、人が国境を越えて移動することを通じて、国際競争メカ ニズムが機能する貿易財産業という特徴を持つ。サービス産業の中では異色 のセクターである。人口が減少し地元の需要が伸び悩む地域の活性化と地域 の生産性を高める潜在力を持っている。 ○ これらの政策を戦略的に推進し、主要先進国で戦後初めて継続的に人口が減 少するという逆風の下でも、供給サイドの成長制約を克服し、我が国は「新 しい成長」が可能であることを内外に示すことが重要である。 9 2.イノベーションと需要の好循環 ○ 人口減少社会が供給サイドで成長の大きな制約要因となることは、既に述べ たとおりであるが、需要サイドでも人口減少や人口構成の変化により今後の 個人消費の減少や内容の変化が生じるおそれがある。しかしながら、バブル 崩壊後の「失われた 10 年」と言われる 1990 年代においても、携帯電話、コ ンビニ、インターネットショッピング、デジタル家電、ハイブリッド車など に見られるように、新たなイノベーションが需要を生み、需要が新たなイノ ベーションを生む「イノベーションと需要の好循環メカニズム」が機能して いた。今後ともこうしたメカニズムによりイノベーションが我が国を拠点と して国内外で継続的に拡大し、それが国内外で潜在需要を顕在させていくこ とが重要である。 ○ 国内では、我が国の「強み」である生産性の高い製造現場・研究開発拠点を 維持・強化しつつ、世界のイノベーションセンターとして、国際競争力のあ る新商品、新サービスを世界に送り出し、世界的規模で「イノベーションと 需要の好循環」を作り出す。燃料電池、情報家電、ロボット、コンテンツな どを自動車、家電・電子産業の後継となる戦略産業として育成する。特に、 「21 世紀の成長センター」となったアジアと協働することにより、アジア規 模での機能分業、生産ネットワークの構築を図り、イノベーションの成果が アジアに広く迅速に波及し、アジアの経済成長と生活水準の向上を更に加速 することが重要である。こうしたアジア経済社会の発展は、モノだけでなく 「観光」などのサービスを含む幅広い分野において潜在的な需要の拡大を可 能とするものとして期待される。 ○ 国内については、我が国全体でこの「イノベーションと需要の好循環」が機 能していくことが重要である。特に生産性向上やビジネスモデルの革新が遅 れた地域経済において、このメカニズムが機能すれば、大きな成長をもたら す。官業の民間開放、規制緩和により新たな需要の創出を後押ししつつ、地 域のイノベーション力を高め、地域産業の大胆な変革を促していくことが必 要である。それは、地域で幅広い層向けに良質な就業機会を作り出すことに つながる。地域においては、我が国が直面する本格的な高齢化等が顕在化し ており、今後高齢者層の需要が拡大するだけでなく、その比重が主に医療、 介護、その他のサービス消費にシフトする。こうした地域のニーズに対応し た新たなイノベーションが起こることにより、潜在的需要が顕在化し、新た な雇用が生まれ、これらが全国に波及していくことも期待できる。 ○ 日本又は世界の場で展開される「イノベーションと需要の好循環」のメカニ ズムをとりわけアジア規模と地域で働かせることが重要である。 ①我が国やアジア諸国で次々と生まれるイノベーションが、アジア諸国の 10 成長を牽引し、アジア域内での分業を高度化させるとともに、イノベー ションが生み出すアジア域内の需要の拡大が次なるイノベーションを誘 発するという「日本の成長とアジアの成長の好循環」 ②大都市だけでなく地域からも発信されるイノベーションが、価値観の異 なる多様な国内需要を新たに呼び起こし、それが、良質な就業機会を創 り、地域の活力も高めるという「地域におけるイノベーションと需要の 好循環」 という「2 つの好循環」が創り出す需要の拡大が人口減少社会に入った我が 国の経済成長に大きく貢献をする。 11 3.改革の先に見える明るい未来 (バブル崩壊後の日本経済) ○ バブル崩壊以降、我が国経済は、3 度の景気回復を経験してきた。 一度目は、93 年 10 月から 97 年 5 月まで(43 ヶ月)の景気回復である。 この回復は比較的長期に及んだが、公共投資、減税、金融緩和などの各種の 政策によって下支えされたものであった。しかしながら、バブルの負の遺産 である過剰債務、過剰雇用、過剰設備といった「3 つの過剰」は解消されず、 また、95 年には円高が亢進したこともあり(95 年 4 月 19 日には、1 ドル 79.75 円の史上最高値を記録)、回復のテンポは緩慢かつ不安定であった。その後、 97 年の夏以降には、タイ・バーツの暴落に始まるアジア通貨危機が発生し、 また、北海道拓殖銀行、日本長期信用銀行など複数の金融機関が破綻したこ とに伴い金融システム不安が生じ、株価が下落した。それと前後して、消費 税率の引き上げ、医療費自己負担の 2 割への引き上げなど、合計 9 兆円の負 担増となる政策が実施される中、景気は悪化した。 ○ 二度目は、99 年 1 月から 00 年 11 月まで(22 ヶ月)の景気回復である。98 年以降に実施された景気対策における公共投資などに加え、輸出と設備投資 に依存した景気回復が進んだ。とりわけ、輸出の増加の効果は大きく、米国 を中心とした世界的な IT 関連需要の増大によって、生産拠点であるアジア への電子部品など、IT 関連財の輸出が増加した。しかしながら、00 年半ば 以降、米国経済の急速な減速が始まると同時に世界的に IT 需要が冷え込み、 我が国からの輸出も減少し、回復局面は終了した。外需が IT 関連財などに 偏っており、また、消費の低迷も続いていたことから、回復の推進力は弱く、 持続性にも欠けるものであった。 ○ この間、我が国経済が本格的な回復に向けた原動力を欠く中、中国からの輸 入急増や国内企業の海外移転の増加を背景として、国内製造業の縮小や投資 や雇用機会の海外流出といった産業空洞化の懸念が強まった。「海外事業活 動基本調査概要」によれば、製造業の海外生産比率(国内法人売上高と現地 法人売上高の和に占める現地法人売上高の割合)は、製造業全体で見ると、 94 年度には 7.9%であったが、その後上昇傾向にあり、00 年度には 11.8%と なった(04 年度は 16.2%)。こうした流れは、比較優位に基づく国際工程間 分業の一環であるが、中国を始めとするアジア諸国の躍進の下で、本来国内 に留まるべき技術集約的・高付加価値部門までが流出することが危惧された。 ○ IT バブルの崩壊を経た後、比較的早期に米国経済やアジア経済が回復に向か ったことから、輸出が増加したことを契機とし、我が国経済は 02 年 1 月か ら三度目の回復局面に入った。この回復は、国内民需が主体となった息の長 いものであり、06 年 5 月時点で 52 ヶ月となる戦後二番目に長い景気回復と 12 なっている。 (3 つの過剰の解消) ○ 小泉内閣発足後に始まった今回の回復は、従来のものとは異なる特徴がある。 第一の特徴としては、公共投資など政府部門の支出が抑制される中、民間 需要主導で経済成長が実現している点である。90 年代の過去二回の景気回復 が公共投資などによって下支えされていたのとは大きく異なる。05 年度の実 質成長率+3.0%(05 年 5 月 19 日公表の 06 年 1-3 月期QE1 次速報ベース) のうち、政府消費や公共投資などの寄与度が+0.1%である一方で、個人消費 や設備投資などの民需の寄与度が+2.4%となっている(外需の寄与度は+ 0.5%)。 第二の特徴としては、民間需要主導の回復の背景として、企業部門の体質 が改善・強化されてきたことである。小泉内閣では、「改革なくして成長な し」という基本方針の下、各般にわたる構造改革の取組が推進された。こう した中、企業部門のリストラの進捗もあって、景気の本格的回復の制約要因 となっていた「3 つの過剰」はほぼ解消され、我が国経済は「筋肉質」にな ってきている。 ○ 具体的には、02 年 10 月の「金融再生プログラム」により、銀行部門の不良 債権処理が進展したことにより、金融システム不安は後退した。主要行では、 不良債権比率は、01 年度 3 月期時点の 8.4%から、05 年度 9 月期時点の 2.4% まで大きく低下している。金融機関の不良債権処理が進捗すると同時に、企 業部門の過剰債務も減少している。企業収益が好調に推移する中、有利子負 債の圧縮が進み、05 年第 4 四半期の法人企業統計季報では、有利子負債のキ ャッシュフローに占める比率(償還年数)は、6.6 年とおおむねバブル期以 前の水準にまで改善している。不動産、卸小売、建設といったこれまで過剰 債務を抱えていたとされる業種においても、債務削減が進捗している。 過剰雇用については、過去数年間にわたる人件費の圧縮を通じ、解消が進 んできた。05 年第 4 四半期の法人企業統計季報では、売上高に占める人件費 比率(全規模・全産業)は、99 年第 4 四半期の 15.0%から 12.7%にまで低下 している。また、06 年 3 月の日銀短観・雇用人員判断 DI(全規模・全産業) を見ると、▲7 と「不足超」になっている。 過剰設備については、新規投資の手控え、遊休化・老朽化した設備の廃棄 によって解消が進んできた。これまで、企業は景気の先行きに対し慎重な見 方を崩さず、収益の改善によって増加したキャッシュフローを債務返済に充 ててきた。こうした中、06 年 3 月の日銀短観・生産・営業用設備 DI(全規 模・全産業)は、02 年 3 月の+21 から 0 へと過剰感が大きく低下している。 ○ このような「3 つの過剰」の解消は、海外経済が堅調に推移する中で、主に 民間部門が自助努力によって実現してきたものであるが、政府もそうした取 13 組を側面から支援してきた。例えば、不良債権処理の加速化を促す一方で、 産業再生法の改正を行うとともに、産業再生機構を創設するなど、企業・産 業再生の円滑化を図る取組を推進した。また、研究開発促進税制の抜本的強 化や IT 投資促進税制の導入により、企業の前向きな設備投資を促すほか、 M&A 法制の整備により、企業再編を円滑化するなど、企業の財務体質の改 善を後押しした。このように、官民が一体となって「3 つの過剰」を解消し てきたことにより、我が国経済の安定的な成長の基礎が固められた。 (構造改革型の景気回復) ○ 今回の景気回復では、米国経済・アジア経済の回復による輸出の増加を契機 とし、体質強化が進みつつあった企業部門の設備投資に火がついた。この間、 国際的な協調の下、為替の安定が図られたことも、回復の動きを支えた。企 業部門の回復の度合いと比較すると雇用や所得の改善は遅れ、当初、回復は 家計部門にまで波及しなかったものの、企業収益の増加基調が継続するにつ れて、名目雇用者報酬が 06 年第 1 四半期で前年同期比+1.9%と増加すると ともに、失業率も 4%台前半にまで低下した。最近では、企業部門の好調さ は家計部門にも波及し、個人消費は緩やかに増加している。また、国及び地 方の法人所得税収も、06 年度には、03 年度と比較して約 4.6 兆円も増加する 見込みである。足下の景気回復は、こうした国内民需と堅調に推移する海外 経済による外需の両輪に支えられた「構造改革型」の回復となっている。 ただし、今回の回復局面においても、一本調子で改善が続いたわけではな く、途中二度の調整局面を経験している。一度目は、03 年前半のイラク戦争 の時期、二度目は、04 年後半の世界的な IT 調整の時期である。前者では、 戦争終結とともに内外経済が回復基調を取り戻し、株価が回復する中で、ま た、後者では、企業部門の好調さを背景とした民間需要の底堅さによって、 再び回復軌道に回帰している。 ○ 物価動向を総合的に見ると、緩やかなデフレは継続している(06 年 5 月現在)。 01 年 3 月から始まったデフレは、企業の実質的な債務負担を増加させ、企業 収益を圧迫することを通じ設備投資などを抑制し、景気の下押し要因として 働いてきた。その過程では、物価下落と実態経済の縮小が相互に作用して、 らせん階段を下りるように悪化していくデフレ・スパイラルも懸念された。 かかるデフレに対し、政府は、需給ギャップを縮小させることを目指し、構 造改革の取組を推進するとともに、日本銀行は、ゼロ金利政策(99 年 2 月) や量的緩和政策(01 年 3 月)を実施し、長期金利の安定を図るなど、金融面 からデフレからの脱却を後押ししてきている。こうした政府・日本銀行一体 となった対応が講じられる中、消費者物価指数(生鮮食品を除く)は、03 年 11 月以降、前年同月比でマイナスが続いてきたものの、原油価格上昇の影響 もあり、06 年 4 月には同+0.5%と 6 ヶ月連続のプラスとなっており、デフレ 脱却に向けた着実な進展が見られる。 14 ○ 06 年 3 月、日本銀行は、量的緩和政策を解除する一方で、当面、無担保コー ルレート(オーバーナイト物)26をおおむねゼロ%で推移するよう促す金融 市場調節を行う方針を示した。また、政策委員の「中長期的な物価安定」に 係る理解として、消費者物価指数の前年比 0%∼2%程度(中央値はおおむね 1%の前後)の上昇という数値が明らかにされるなど、新しい金融政策運営の 枠組みが示された。日本銀行には、金融資本市場に混乱が生ずることのない よう、引き続き、適切な金融政策運営を行うことが期待されている。 ○ 景気の先行きについては、原油価格の高止まりや海外経済の動向といったリ スク要因はあるが、政府経済見通しでは、実質成長率について、06 年度は 1.9%と見込まれている。こうした民間需要主導の回復基調が継続するとの見 通しは、多くの民間シンクタンク関係者や国際機関が共有するところとなっ ている。 (今後の課題) ○ 我が国経済は、ようやくバブルの負の遺産の精算を終え、巡航速度による安 定的な経済成長の軌道に乗りつつある。 しかしながら、我が国経済を取り巻く環境を見ると、世界に類を見ない少 子高齢化・人口減少、増嵩する財政赤字、エネルギー・環境制約、アジア諸 国の追い上げなど、将来の成長の阻害要因となりかねない課題が山積してい る。 ○ 地域に目を転じると、大都市圏以外での回復の遅れが目立つ。その構造的要 因としては、第一に、依存度の高い公共投資が減少し、それに代わる新産業 の成長と雇用構造の転換が遅れていること、第二に、公共投資自体の生産力 効果が低下していることが挙げられる。また、回復を牽引している自動車や デジタル家電などの生産拠点が一部の地域に集中していることも、地域の景 況感の違いを生んでいる。今後、国・地方の財政制約が一層強まることにか んがみれば、地域間のばらつきは更に拡大していくことも予想される。 ○ 以上のような現状認識を前提とすれば、経済活性化に向けた改革の手綱を緩 めることは許されない。足下の景気・経済が堅調に推移している今こそ、克 服困難な課題の解決に明確な道筋をつけることが必要である。 (「残された 10 年」への対応) ○ バブル崩壊、産業空洞化の懸念、デフレ・スパイラルなどの難題に直面した 26 ◆無担保コールレート(オーバーナイト物) 金融機関同士で短期資金の貸し借りを行う市場をコール市場と言い、ここで行われる無担保 で翌日には返済するという資金の金利を無担保コールレートという。 15 「失われた 10 年」27は日本経済にとって貴重な経験であった。民間部門が厳 しい事業再構築や企業再編に取り組み、政府が構造改革の取組を推進し、民 間部門の努力を後押しすることにより、日本経済は着実に回復の歩みを始め た。05 年度の実質成長率は+3.0%と、バブル崩壊以降、最も高い水準となっ た。我が国の人口は減少が始まったとはいえ、それが本格化するまでには若 干の猶予がある。これからの 10 年は「残された 10 年」28である。この間に、 人口減少社会でも「新しい成長」を実現していくため、更なる改革に取り組 まなければならない。未来は明るいと考えてこそチャレンジする勇気が湧い てくる。改革の道は険しく、痛みを伴うこともあるが、改革の先に見えるも のは何か、それが「明るい日本の未来」であることを国民に示すことは、政 府全体に課された重要な責務である。 (改革の先に見えるもの) ○ 改革の先に見える「明るい日本の未来」とは、どのような日本なのか。 ① それは、 「世界のイノベーションセンター」として、新商品、新技術が次々 と生まれ、高い国際競争力を維持し、先端産業が育つ日本である。また、 発展するアジアとの協働を深化させ、アジアの発展に貢献し、アジアと 共に成長する日本である。 ② 各地域の独自の魅力を活かした多様な産業が生まれ、日本を支える産業 群が育ち、その地域に住まう人々が生き甲斐、働きがいを感じられる就 業の場が確保され、自己実現が可能となり豊かに生活している地域であ る。地域の持つ文化力を高めながらこれを活かし、環境との共生、安心 な生活、個性が輝く社会など地域が「新しい価値」の創造拠点となる日 本である。外国人からも日本に住みたい、日本で働きたい、学びたいと 言われる日本、「魅力ある日本」である。 ③ 「人は国の財(たから)」といわれるが、人材を「人財」と捉え、人的資 本の向上に国を上げて取り組み、女性、高齢者、若者も含めて誰もが自 らの能力の研鑽に努め、様々な価値を生み出す創造的な仕事に従事し、 生き甲斐を感じながら、自己実現を図っている、 「人財立国」の日本であ る。 27 景気基準日付では、2002 年1月から景気は回復期に入っている。日銀短観における業況判断 D.I.では、1992 年以降、中小企業は製造業・非製造業ともにマイナスで推移してきたが、中小 企業・製造業では、2004 年 7-9 月期になってようやくプラスに転じた。 28 この間に、人口減少社会でも新しい成長を実現するため、「新経済成長戦略」等経済の活性 化に向けた取組を進めるとともに、より広い視野に立って、豊かで安心して暮らせる国民社会 や信頼ある行財政にも目を向けた経済社会システム全体の構造変革を「車の両輪」として進め ることが必要である。こうした認識の下、産業構造審議会基本政策部会(橘木俊詔部会長)に おいて、制度毎、分野毎の見直しに留まらないトータルな視点からの経済社会システム全体の 構造変革について検討している。 16 ④ 国富の増大が持続する日本である。様々な改革が引き続き実行され、以 下のような諸施策が講じられることを前提として、今後 10 年間で年率 2.2%程度の実質成長(GDP)が可能であると試算した。一人当たり実質 国民総所得(GNI)29では年率 2.5%程度の増加が実現できる。その場合、 2004 年度と比較して、2015 年度の一人当たり所得は、約 3 割増加する。 「世界第 2 位の経済大国」の地位をいずれ他国に譲ることになるとして も、国民が豊かさに自信を持つことができる日本である。 (「新経済成長戦略」) ○ 高齢化の進む中で社会保障制度を持続可能なものとするためにも、歳出・歳 入一体改革による財政再建を実現可能なものとするためにも、経済の活性化 が重要である。先進国として、戦後初めて経験する継続的な「人口減少」と 世界最高水準のスピードで進む少子高齢化に伴う成長制約を克服して持続 的な経済成長を実現することができれば、今後同じ課題に直面するであろう 諸外国のモデルとなりうる。これが「新しい成長」である。 ○ このような「新しい成長」を実現して、世界の国々から魅力ある国として尊 敬され、何よりも日本人自身が自信を持てる国、誇れる国となることを目指 すべきである。文化、政治、外交なども含めた総合的な国力を背景に「魅力 ある日本」を実現すべきことはもとよりであるが、これまで「世界第 2 位の 経済大国」であった経済力が自信と誇りの中核になっていたことを踏まえれ ば、 「強い日本経済」を再構築することが優先課題である。それができれば、 我が国は、アジア太平洋地域の、そして全世界の人々の繁栄と平和に役立つ ことができる。 ○ 新経済成長戦略は、そのような我が国の進むべき方向とそれを実現するため の経済産業政策をとりまとめたものである。 29 ◆実質国民総所得(GNI) 国民が受け取る所得の総額。実質 GDP に、海外からの利子・配当等の純受取額などを加え たもの。2004 年度の国民一人当たりの実質 GNI は約 420 万円。 17 (参考) 図 1-1-1.生産年齢人口の推移 (%) 生産年齢人口比率の推移 80.0% 70.0% 66.6% 60.0% 50.0% 40.0% 30.0% 20.0% 19.5% 13.9% 10.0% 0.0% 1944 1948 1952 1956 1960 1964 1968 1972 1976 1980 1984 1988 1992 1996 2000 2004 2008 2012 2016 2020 2024 2028 2032 2036 2040 2044 2048 (年) 15歳未満人口比率(中位推計) 生産年齢人口比率(中位推計) 高齢者比率(中位推計) 15歳未満人口比率(低位推計) 生産年齢人口比率(低位推計) 高齢者比率(低位推計) ◆生産年齢人口 15∼64 歳の人口のこと。 ◆高齢者人口 (出所)厚生労働省 「人口動態統計」 65 歳以上の人口のこと 図 1-1-2.成長要因分析 (% ) 5 TFP 4 労働投入 3 非 IT 資 本 投 入 IT 資 本 投 入 2 1 0 75∼ 90 90∼ 95 95∼ 2000 -1 (出所)Motohashi, K. (2003)”Economic Growth of Japan (年 ) and the United States in the Information Age,” 図 1-1-3. 潜在成長率の要因分解 (%) 6 +4.4 5 +3.4 +2.7 4 +2.2 3 資本投入 労働投入(労働時間) 労働投入(就業者数) TFP 潜在GDP +1.4 +2.0 +0.9 2 1 +0.7 +1.8 +0.5 +1.2 +1.7 +1.0 +0.7 0 +1.2 -▲0.1 ▲0.5 ▲0.6 81∼85 86∼90 91∼95 +0.0 +0.5 ▲0.3 +1.0 +0.0 +0.7 ▲0.5 ▲1 (注)労働投入は、労働時間の寄与と就業者数の寄与に分解。 【出所】平成15年度版 経済財政白書 18 96∼00 01∼02 (年) 図 1-1-4. 全要素生産性(TFP)成長率の各国比較(1990-2003(注1)) (%:平均年率) 1.8 1.6 1.6 1.4 1.4 1.2 1.2 1.2 1.2 1.0 0.8 0.9 0.7 0.6 0.6 0.4 0.2 0.0 リ タ ア 平 CD OE イ ダ カ ツ リ ナ カ イ ド メ ア ス ス リ ン ギ 本 ラ フ イ 日 均 (出典)OECD Productivity database(2006) 注1:日本は2002年まで、その他の国は2003年までの平均値。 注2:国際比較を目的とするデータであり、国内のみを対象とした全要素生産性の計測結果とは必ずしも数字が一致しない。 注3:OECD平均は、データを入手可能な国についての平均の値。 図 1-1-5. イノベーションを核とする2つの好循環 日本の成長とアジアの成長の好循環 ・アジア諸国との協働 ・アジアの成長を牽引 ・役割分担の高度化 アジア ・世界のイノベーション センター化 ・多様な地域産業の育成 ・ITによる生産性向上 ・サービス産業の革新 産業 19 地域におけるイノベ-ションと需要の好循環 ・新たな国内需要の喚起 ・良質な就業機会の創出 ・地域の活性化 国内 図 1-1-6.先進諸国の 65 歳以上人口割合別の到達年次 日本 アメリカ イギリス フランス ドイツ イタリア スウェーデン 1970年 1942年 1929年 1864年 1932年 1927年 1887年 65歳以上 人口割合が 7%から14% 24年間 − 47年間 115年間 40年間 61年間 85年間 に達するまでに 要した年数 1994年 − 1976年 1979年 1972年 1988年 1972年 現在の65歳 19.1% 12.7% 15.6% 16.1% 16.9% 18.3% 17.2% 以上人口割合 (2003) (2000) (1999) (2001) (2001) (2001) (2001) (年) 資料:一般人口統計−人口統計資料集(2005年度版)より作成 図 1-1-7. (百万人) 140 年齢 3 区分別人口の推移(1950∼2050 年) 120 100 80 65 歳以上 15∼64 歳 60 0∼14 歳 40 20 0 1950 1955 1960 1965 1970 1975 1980 1985 1990 1995 2000 2005 2010 2015 2020 2025 2030 2035 2040 2045 2050 (備考)2000 年以降の推計は国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成 14 年 1 月推計)」の中位推計を使用。 (資料)総務省「国勢調査」、国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(平成 14 年 1 月推計)」より作成。 20 (年) 図 1-1-8.主要国・地域の成長率の見通し 図 1-1-9.日米中印 GDP の見通し (※過去のトレンドを延長) 内閣府による成長率見通し(2003∼2030年) (平均年率、%) 8 7 6 5 4 3 2 1 0 米国 EU 日本 中国 インド ASEAN4 NIEs (出所)内閣府『世界経済の潮流 2004年秋』。 出典:21世紀ビジョン グローバル化ワーキンググループ報告書(2005年4月) 図 1-1-10.景気回復に伴う法人所得税収の増加 ※数字は04年度法人企業統計年報(税収については06年度)。 [ ]内は03年度→04年度の増減。 (税収については03年度→06年度の3年間の増減)。 [6.4兆円増] 139.7兆円 配当金 経常利益 44.7兆円 [8.5兆円増] 8.5兆円 1.4兆円増 うち個人株主分は 約0.3兆円(注)増 家計所得の増加︹約7兆円︺ 経済活性化による景気回復 従業員給与 注:東証の株式売買金額に占める個人投資家 の割合 (ほぼ2割)をかけて求めた試算値 法人所得税収 20.6兆円 設備投資 40.1兆円 [4.6兆円増] 注:予算、地方財政計画ベース [8.4兆円増] 注:設備投資は経常利益に加え、減価償却等が原資。 法人企業統計年報の調査対象は、金融・保険業を除く営利法人(全規模) 回答率は82%(資本金1,000万円以下の企業については70%) 21 22 第2章 国際競争力の強化(国際産業戦略) 第 1 節.日本とアジアの成長の好循環 23 図 2-1-1. 日本経済を取り巻く環境変化 グローバル化による国際競争の激化 グローバル化による国際競争の激化 IT,バイオ,コンテンツ等の 高付加価値産業の立地 経済連携の進展・グローバル化 米国 EU(25カ国) 人口:4億6,000万人 GDP 12.8兆㌦ 年率8%の経済 成長を維持 インド 中国 人口:10億8,000万人 GDP:0.7兆㌦ 人口:12億9,600万人 GDP:1.9兆㌦ 最終組立など EU加盟は東方に向かって 拡大中。2004年には15カ国 から25カ国に拡大。 人口:2億9,000万人 GDP:11.7兆㌦ NAFTA(3カ国) 人口:4億3,000万人 GDP:13.4兆㌦ アメリカ、カナダ、メキシコ 豊富な資源、新興市 場としての投資増大・ 産業の集積 日本 ASEAN(10カ国) 人口:5億4,000万人 GDP:0.8兆㌦ インドネシア、マレイシア、フィリピン、 シンガポール、タイ、ブルネイ、 ヴェトナム、ラオス、ミャンマー、カンボジア 人口:1億3,000万人 GDP:4.6兆㌦ イノベーション 機能など MERCOSUR(4カ国) 高度部材産業 部品供給など 東アジア地域の 集積の存在 経済関係の深化 (域内輸出額は 10年間で倍増) 出典:「World Develpment Indicator 2005」 (the World Bank) 図 2-1-2. GDPに輸出入が占める割合の各国比較(2004年) 40% 38.0% 35% 33.1% 28.6% 25.2% 30% 25% 26.0% 25.7% 20% 15% 13.1% 11.2% 10% 15.4% 10.1% 5% 0% 日本 アメリカ イギリス 輸出額 (GDP比) ドイツ フランス 輸入額 (GDP比) (出所) National Accounts Statistics [OECD] 24 人口:2億3,000万人 GDP:0.8兆ドル アルゼンチン、ブラジル、 パラグアイ、ウルグアイ 第2章 第1節 国際競争力の強化(国際産業戦略) 日本とアジアの成長の好循環 我が国と地理的に近接するアジア諸国は極めて高い成長を続けており、今後 とも欧米を上回る成長を続けると見られる。特に、中国やインドの成長は著し い。これらアジア諸国は貿易額も急増させており、世界貿易の中に占める存在 感も増している。少子高齢化や人口減少に伴う需給両面の成長制約に直面する 我が国と対比して、日本の存在感が薄れてきたと見る向きもある。 しかしながら、これまでのアジアの成長には我が国が多くの役割を果たして きたし、これからもアジアの成長にとって、我が国が大いに貢献していくこと は間違いない。また、成長するアジアの活力を取り込むことによって、我が国 の成長を持続させ得る。 以下では、いかにして日本がアジアの発展に貢献し、共に成長していくかに ついて検討する。 25 図 2-1-3.世界貿易総額の推移 (10億ドル) 図 2-1-4.中間財・最終財輸出の推移 2003年 アジア3兆572億ドル(20%) 日本8,661億ドル(6%) 米国2兆48億ドル(13%) EU5兆9,651億ドル(39%) 世界貿易総額の推移 18000 16000 アジア 我が国の中間財・最終財輸出の推移 2003年 (10億ドル) 300 日本 250 14000 アメリカ合衆国 2003年 最終財輸出額 2,298億円 うち欧米向け 1,196億円 左側棒グラフ 中間財輸出 EU 12000 中間財輸出額2,659億円 うちアジア向け1,578億円 その他世界 米国 EU15カ国 アジア 200 その他 右側棒グラフ 最終財輸出 10000 150 1985年 最終財輸出額1,116億円 うち欧米向け795億円 8000 100 6000 4000 1985年 中間財輸出額579億円 うちアジア向け167億円 50 2000 0 0 1985 1990 1995 2000 1985 1980 1990 1995 2000 【出所】RIETI-TID 2003 【出所】IMF 図 2-1-5.東アジア域内の工程間分業の進展 <中国、ASEANから対日本、米国、 EU、韓国、台湾への最終財(資本 財・消費財)の貿易額の推移> 520億ドル(1990年) ↓ 3,480億ドル(2003年) 対先進諸国 (最終(最終消費 消費) ) 最終財 資本財 最 地 終財 へ輸 を 出 消費 消費財 生産者による資本蓄積 家計、政府による消費 東アジア域内の 内の工程間分業の進展 工程間分業の進展 東アジア域 China, 中国, ASEAN (組 立) (組立) 最終財 資本財 消費財 中間財の 組立てに より最終財 を生産 中間財 加工品 部品 Japan, NIEs (部品生 日本,NIEs (部品生産) 産) 中間財を労働集約 的な工程に強みを 持つ国へ輸出 中間財 加工品 付加価値の高い中 付加価値の高い中 間財を国内で生産 間 財を国内で生産 部品 資本集約型 工程 労働集約型 工程 <日本、NIEsから中国、ASEANへの中間財(加工品・部品)の貿易額の推移> 240億ドル(1990年) → 1,820億ドル(2003年) ◆最終財と中間財 最終財とは製造設備などの資本財や一般消費者が使用する消費財のこと。中間財とは、 これら最終財を生産するために必要となる部品や加工品のこと。 26 2003 1.アジア規模の生産ネットワーク 今や、アジア諸国は、我が国にとって競争相手であるとともに、不可欠な協 働相手となっている。日本の輸出を見ると、先進国向けの製品輸出の伸びに比 して、アジア向けの部品・加工品輸出の伸びが著しく大きくなっている。日本・ NIEs が付加価値の高い中間財を生産し、中国・ASEAN が中間財を輸入して最終 財に組立てる貿易の進展が見られる。この貿易構造は、我が国等がアジアへの 直接投資を拡大し、アジア規模での生産ネットワークを構築したことに起因し ている。この生産ネットワークが効率的に機能し、国内市場に加え世界への輸 出を増加させることで、アジアの生産も我が国の生産も増加するという、 Win-Win の関係が形成されてきている。 この生産ネットワークは、プラザ合意後の円高を受けて、我が国企業のアジ ア向け直接投資が急増したことに始まり、試行錯誤を通じて構築されていった ものである。製造業の海外移転については、空洞化を懸念する声が強く、深刻 な経済的影響を受けた地域もあった。しかしながら、現時点で経済全体として 見てみれば、アジア規模での生産ネットワークが構築されることを通じて、我 が国からの輸出はむしろ大きく拡大し、海外投資先からの販売や投資収益の還 元も増加した。 これは、我が国企業が効率的な生産ネットワークを追求した結果でもあった。 具体的には、多くの企業が研究開発拠点や高付加価値製品の製造拠点などを国 内に維持する一方で、海外に積極的に最終組立部門を構築し、国内で生産され た高付加価値な部品や材料を海外の製造拠点へ供給する方式を選択したことに よる。(業種別の具体的な事例は参考参照) 我が国には、品質や価格について要求水準の高い消費者や産業部門のユーザ ーがおり、また質が高く規模の大きな市場が存在する。さらに、高度なモノ作 り基盤技術を持つ企業、幅広い業種の産業が比較的狭い国土に高密度に集積し ている。これらは共同研究、共同開発を行う上で他国にない有利な環境と言え る。こうした需給両面での集積が、イノベーションを生み出す拠点を国内に維 持する理由になっている。 27 (参考)製造業の国内立地の理由(出所:2005 年版ものづくり白書) 国内立地を行った理由については、製造業全体では、市場の近さ、自社の関連工場・研 究所の存在、高度部材が入手しやすいといったことが多くなっている。 図 2-1-6.対アジア貿易と直接投資額 我が国の対中・ASEAN貿易総額と直接投資額の推移 (兆円) (億円) 45 14,000 貿易(中国+ASEAN)左目盛 投資(中国+ASEAN)右目盛 40 12,000 35 10,000 30 25 8,000 20 6,000 15 4,000 10 2,000 5 0 0 1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 【出所】財務省 2001 2002 2003 2004 FY 図 2-1-7.中国の産業構造の変化 ○中国においては、労働集約的な産業に加え、2000 年に入り電気電子・石油化学、鉄鋼な ど資本集約型産業の国内基盤が強化。 ※横軸は当該部門の国内での生産額シェア(幅の太い産業ほど、その国の経済の生産全体 に占める割合が大きい) 、縦軸は自給率(国内調達率)100%のところに線が引かれ、それ を上回る部分が輸出。 出典:通商白書(2005 年版) 28 他方、この間に、アジア諸国の産業構造も、急速に高度化していった。例え ば、1990 年の中国の国内産業基盤は、繊維など特定の労働集約的な製造業のみ であったが、2000 年には電気・電子、鉄鋼など資本集約型産業の国内産業基盤 も強化され、また輸出産業となっている。言わば日本が 30 年間かけて形成して きた製造業の高度化を、10 年間で達成したと言える。しかし、高度成長期の日 本では部品・材料産業と共に組立型産業が発展したのに対して、アジア諸国で は、部品や材料のかなりの割合を輸入に依存している点が異なる。 こうした急速な産業の高度化が可能であったのは、上記の生産ネットワーク が構築された結果とも考えられる。 上述した貿易構造が固定的なものではないことを指摘しておく必要がある。 日本・NIEs の中間財も、中国・ASEAN からの最終製品も共に高付加価値化しな がら、世界市場へと提供されている。中国・ASEAN で今後、部品、材料の国内 調達比率が上がっていくことが予期される。さらに、かつて我が国と補完的な 垂直分業関係にあった NIEs が、今では我が国と競合する部品供給拠点となって いる。様々な産業分野で、NIEs、さらには中国・ASEAN が急速に我が国をキャ ッチアップしつつある。すなわち、様々な産業分野でアジア全体が高付加価値 化しながら、先頭を行く我が国に、NIEs、中国、ASEAN などが急速なキャッチ アップを続けるというダイナミックな競合と協調の関係が形成されているので ある。 29 (参考)主要産業の国際展開の現状 ○グローバル化による国内生産活動への影響を見るといくつかのタイプが存在。 −国内における最終製品の生産は縮小する一方、中間財の生産が拡大。海外 生産活動も進展(家電等) −海外生産自体は限定的だが、我が国企業の海外生産の拡大に伴い、その部 品や素材供給に強みを発揮。国内生産への影響は小さい(素材等) −国内生産も海外生産も拡大(自動車等) 図 2-1-8.主要産業の国際展開の現状 国内への影響少 90.0% 国内への影響大 80.0% 輸送機械 70.0% 60.0% 50.0% 40.0% C 30.0% 35.0% 30.0% 25.0% A 20.0% 製造業平均 精密機械 化学 鉄鋼 B 15.0% 繊維 10.0% 食料品 5.0% 0.0% 2002年 (出典:海外事業活動基本調査) 2003年 注:横軸は、現地需要への対応で国内の生産活動に変化はないと答えた企業の割合 30 海外生産比率 電気機械 <自動車> ・ BRICs など海外市場が成長の原動力。完成車、部品ともに、国内生産・ 輸出が拡大。空洞化は生じていない。 ・ 国内完成車生産は国内部品調達が基本。海外生産分は、日本から(高度 な部品・材料)、日系進出企業から、地場企業からの調達の組み合わせ。 我が国中小部品企業の更なる能力強化が重要であり、連携支援、国際展 開のための環境整備が課題。 ・ 国内で技術による差別化を次々に生み出し、海外で収益確保。現地生産 を前提とした事業環境整備が課題。 図 2-1-9.自動車産業の国内外の生産・市場の変化 2005年 2000年 1995年 1990年 欧州 1% ア ジア 6% アジア 12 % 北米 9% その他 3% (万台) 1576万台 国内 65% 欧州 4% その 他 3% 1675万台 国内 81 % 北米 2 0% 北米 18% 北米 1 6% アジ ア 10 % 欧州 6% その他 4% 2226万台 1643万台 国内 62% アジア 1 9% 欧州 7% 2 ,0 0 0 1985年 ア ジア 欧 州2 % 北 米 2% 0% その他 3% 1 ,5 0 0 1316万台 増 生産 での 国 米 国内 93% 増 生産 での ア アジ 海外生産 (1150万台) 海外市場 (1640万台) 1 ,0 0 0 500 輸 出増 の時 加 輸出 (500万台) 代 第2期:国内生産と海外生産 両立の時代 第1期:国内生産のみの時代 第3期: 海外生産 増大の時代 国内生産 (1080万台) 国内市場 (590万台) 0 1970 1975 第1次石油危機 1980 1985 第2次石油危機 対米輸出規制 米国 マスキー法制定 日本 排ガス規制導入 1990 1995 プラザ合意 円高 日米協定 日本 燃費規制導入 20 00 2005 通貨危機 中国WTO加盟 国際的産業再編 31 (年) アジアとのFTA その他 4% 国内 50 % <鉄鋼> ・ 我が国鉄鋼業の強みは、高炉からの一貫生産等による作り込みによって 実現される付加価値の高い鋼材の生産能力。 ・ 自動車をはじめとしたユーザー産業のグローバルな市場拡大に伴い、我 が国の鉄鋼生産もかかる高級鋼材の生産にシフトしつつ、その強みを一 層発揮。 図 2-1-10.需要先別鋼材消費推移 我が国の需要先別鋼材消費推移 (千トン) (%) 100,000 90,000 70.0 造船 産業機械 自動車 その他製造業 建設(建築・土木) 合計 製造業比率(右目盛り) 80,000 65.0 70,000 建設(建築・土木) 60,000 61.7 61.2 60.4 50,000 58.7 40,000 54.9 20,000 56.6 56.2 30,000 56.1 55.4 55.2 54.7 56.5 その他製造業 56.8 55.8 自動車 55.0 54.7 54.2 10,000 産業機械 造船 0 (年度) 60.0 50.0 (H.2) (H.3) (H.4) (H.5) (H.6) (H.7) (H.8) (H.9) (H.10) (H.11) (H.13) (H.14) (H.15) (H.16) (H.17) 90年度 91年度 92年度 93年度 94年度 95年度 96年度 97年度 98年度 99年度 2000年度 01年度 02年度 03年度 04年度 05年度 (出所:日本鉄鋼連盟統計<一部経済産業省推計>) 32 (H.12) <電機電子> ・ アジア諸国からの激しい追い上げの中、海外生産比率は上昇。国内の最 終製品の生産は減少傾向。 国内生産額(97 年→2004 年) 電子レンジ▲69%、ステレオ▲66%、ファックス▲87% ・ 他方、中間財輸出は引き続き増加。 ・ 日本では新たな製品を開発し、それを製造するマザー工場を有し、高付 加価値製品については日本で量産する一方で、汎用的な製品の量産は海 外(特にアジア)の製造拠点で行ない、基幹部品は日本から供給すると いう生産戦略が基本。 ・ 中国への進出が加速するも最近は生産拠点の地域バランスを模索。 ・ 大型液晶テレビなどの日本発の製品であっても、技術流出等によりアジ ア勢との競争が激化。 ・ 技術流出のリスク等の地域特性を踏まえたグローバルな最適機能分業の 構築が課題。 ・ モジュール化が進む電気電子機器の中で、モノ作りと擦り合わせという 日本の強みを生かせる情報家電に注力。 ◆モジュール 個別に設計された既存の部品を組み合わせると最終製品ができるような場合、個々の部 品をモジュール、最終製品をモジュール型製品という。 ◆擦り合わせ 製品を実現するために必要な要素となる技術や部品、その設計などを関係者・関係企業 が持ち寄り、全体として最適な機能が発揮されるよう相互に調整を行うこと。 図 2-1-11.電機・電子関係企業の海外製造拠点 図 2-1-12.電気機械業の対世界輸出 図2 電気・電子関係企業の海外製造拠点数の推移 400 100 1400 世界 インド 中国 アセアン5 300 250 1200 800 200 600 150 最終材 400 100 中間財 80 1000 社 (世 界 ) 社 (ア セ ア ン、イ ンド、中 国 ) 350 我が国の対世界輸出額の推移(電気機械) (billion $) 60 40 200 50 0 0 1978 1983 1988 1993 1998 20 2003 年 【出所】(社)電子情報技術産業協会 0 1980 【出所】RIETI-TID 33 1985 1990 1995 2000 2003 図 2-1-13.日本、韓国、台湾の貿易構造の推移 日本、韓国、台湾の輸出構造の変化 台湾の輸出(2003年) 韓国の輸出(2003年) 日本の輸出(2003年) 台湾の輸出(1990年) 韓国の輸出(1990年) 日本の輸出(1990年) 0% 10% 20% 30% 原材料 40% 50% 加工材 60% 70% パーツ・部品 80% 資本財 90% 100% 消費財 図 2-1-14.製造業の世界シェアの変化 自 動 四輪車 1990年 エア コン 1991年 カラ ーテレ ビ 1991年 VTR 1991年 日本 , 1 3 .0 % 日本, 27.7% 中国, 1 5.3 % その他, 2 1.3 % A SEAN4, 1.0% その他, 69.6% その他 , 5 8 .5 % ASEAN4, 13.5% 中国, 1.7% 中国, 4.3% 日本, 5 0 .1 % 1 3 .2 % 日本 , 60 .9% 2002年 その他, 3 7 .9 % ASE AN4 , ASEAN4, ASE AN4 , 2 .3 % 日 本 , 0 .8 % 中 国 , 2 0 .7 % 中 国 , 2 4 .4 % その 他 , 2 1 .6 % 中 国 , 5 .5 % 2002年 中国 , 0 .4 % 日 本 , 1 .9 % 日 本 , 1 5 .5 % 日 本 , 1 7 .4 % 1 1.6 % 2002年 2001年 その 他 , 2 7 .8 % その他 , 4 7 .8 % ASEA N4, 5 .3 % ASEAN4, その 他 , 7 4 .8 % 中 国 , 5 7 .6 % 電 気冷 蔵庫 1991年 日 本 , 11 .0 % ASEAN4, 2 5 .9 % 携 帯電話 1995年 5 0 .6 % デスクトップパソ コン 1995年 日本, 15.41% ノートパソ コン 1995年 日本, 7 .7 % 中国 , 2 .4 % 日本, 2 9 .5 % 中 国 , 9.9% ASEAN4 , 0 .7 % 中国, 7.79% ASEAN 4, 3.2% その他(ASEAN4 そ の 他 , 75 .9 % 含む), 76.79% その他 , 6 9 .0 % その他, 89 .2% 中国 , 1 .5 % ASE AN4 , 0 .0 % 2001年 2002年 200 2年 2002年 日 本, 1 .3 % 日 本 , 11.5% 日 本 , 11.1% 日 本 , 1 6 .6 % 中 国 , 3 4 .3 % 中 国 , 26.9% そ の 他 , 49.9% 中 国, 38.5% ASEAN 4, 0.5% その他 , 5 1 .8 % 中 国 , 2 0 .1 % その 他 , 6 0 .4 % そ の 他 , 59.7% ASEAN4 , 4 .0 % ASEAN 4, 1.9% ASEAN4 , 1 1 .5 % (資料 ) 電 子情 報 技術 産 業 協会 (JEITA ) 「主 要 電子 機器 の 世 界生 産 状況 」、日 本自 動 車工 業 界「2003 日本 の 自 動車 工 業(国 際 自動 車 工業 連 合会 調 べ 、各国 二 輪車 工 業会 ・IRF等 調べ )」、 日 本電 機 工業 会 「白物 家 電製 品 の 国際 需 給統 計 」2003年3月・・・生 産数 量 の世 界 シ ェア 34 2.アジアの発展に貢献 急速に成長しつつあるとはいえ、アジアの産業基盤はまだ脆弱である。我が 国は、資本や技術の供給元となるとともに、自国の先端技術を磨き、経済発展 のパートナーとして、引き続きアジアの成長に貢献していくことが重要である。 テレビ、オートバイ、パソコンなどかつて我が国が世界一高いシェアを有し ていた商品でも、中国や ASEAN 諸国のシェアが急拡大している。先端技術を用 いたデジタル家電や、国内の高度な部品・材料産業の集積を活かした自動車等 では、引き続き、我が国企業が高い世界シェアを占めているが、アジア諸国で も先端的、高付加価値の産業を育成する動きがある。いずれアジア諸国にこれ らの生産を譲ることになったとしても、我が国はより高度なもの、先端的なも のに特化する、シフトしていく、そのような形で日本はアジアの発展に貢献す ることが重要となる。 未だ資本が不足しているアジアにとっては、その供給元として日本はこれま でも重要であったし、その重要性を一層増している。1,500 兆円とされる国内の 個人金融資産がアジアの発展に有効に活用されるよう様々な制度の整備が必要 である(第 4 章カネ参照)。 また、日本企業のみならずアジア各国の企業が国内のみならずアジア全体を 一体化する地域として捉え、より効率的にグローバルな活動を行えるよう、各 国の事業環境を整備するとともに、シームレスな経済環境をアジア規模で構築 してゆくことが重要である。その際、我が国の制度についても、企業のグロー バルな活動、投資収益の日本への還流、拡大するアジア・マネーの日本への流 入等の障害とならないよう率先して見直していくことが重要である。 35 図 2-1-15.世界の地域別エネルギー需要推移と見通し 図 2-1-16.中国における石油需給バランスの推移 18,000 (石油換算百万トン) 16,487 16,000 7% 14,404 14,000 6% 5% 5% 12,194 12,000 5% 10,000 4% 4% 8,000 15% 12% 7% 15% 4,000 9% 9% 旧ソ連等 消費量 10% 10% 36% 39% 42% 45% 2,000 中国 14% 12% 4% 1% 4% 輸入依存度 アジア(日韓含む) 20% 19% 13% 5,536 中南米 5% 18% 6,000 中東 6% 21% 4% 5% 10,345 アフリカ 5% OECD(日韓除く) 生産量 56% 0 1971 (出典)IEA 2002 2010 2020 2030 World Energy Outlook 2004 (出典)IEA World Energy Outlook 2004 図 2-1-17.原油価格の推移 70.00 図 2-1-18.GDP 当たりのエネルギー利用効率 ドル/バレル 65.00 19.7 20.0 WTI価格 60.00 55.00 15.0 50.00 45.00 40.00 8.7 10.0 35.00 6.2 6.3 30.00 5.0 25.00 20.00 1.0 1.8 2.1 3.2 3.3 15.00 10.00 1996 0.0 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 日本 EU アメリカ カナダ 韓国 中東 ASEAN 2006 出典:NYMEX(ニューヨークマーカンタイル取引所)公表の数値より 36 (出典)IEA Energy Balance 2005 中国 ロシア さらに、高い経済成長を続けるアジア諸国におけるエネルギー需要が急増し たことが世界のエネルギー需給の不安定要因の一つになっている。過去石油の 輸出国であった中国も石油の輸入国に転じている。また、経済発展に伴う地球 温暖化問題等の環境問題も顕在化している。我が国自身にとっても、アジア諸 国にとってもエネルギー・環境問題は経済成長の深刻な制約要因となりかねな い重要な課題である。 このため、我が国が先進的な技術を有する省エネ、クリーンコールテクノロ ジー等の分野で協力を促進する。エネルギー需要の長期的な抑制やクリーンな エネルギー利用の拡大を促すとともに、石油備蓄制度構築にかかる政策ノウハ ウを提供していく。アジアに賦存量が多く、今後需要の一層の増加が見込まれ る石炭のクリーンな利用を推進するため、生産・保安技術、石炭液化技術、石 炭火力発電の高効率利用技術等で積極的な貢献をする。これらについて、人材、 技術、資金等の面で我が国が積極的な貢献をすることを通じて、アジア諸国間 でのエネルギー・環境分野での協力関係強化、ひいては国際的なエネルギー市 場やアジア経済全般の安定化を進めることが重要である。 EU は、経済統合に最も早く取り組んだ先進的形態である。発足当初は、関税 同盟と共通農業政策を推進する EEC(欧州経済共同体 1958 年)と、共通資源・ エネルギー政策を推進する ECSC(欧州石炭鉄鋼共同体 1952 年)、EAEC(欧州 原子力共同体 1958 年)の共同組織体としてスタートした。その後、資本、労働 の移動の自由化から金融政策、財政政策の統一、一部の政治統合にまで大発展 を遂げた。このような経緯からみても、東アジアで経済統合を展望するとき、 アジア各国がエネルギー政策で共通の利害を有することを踏まえ、我が国がエ ネルギー・環境問題の解決に積極的貢献をしていくことの意義は極めて大きな ものである。 37 図 2-1-19.2005 年度の我が国の所得収支受取 所得収支受け取り 直接投資収益 米国 西欧 アジア 証券投資収益 米国 西欧 アジア その他投資収益 米国 西欧 アジア 12兆2,612億円 2兆545億円 5,511億円 3,412億円 7,921億円 8兆7,955億円 3兆9,479億円 3兆3,443億円 2,060億円 1兆3,925億円 1,607億円 3,511億円 5,309億円 出典:国際収支表(日銀) 図 2-1-20.海外現地法人の利益率 (%) 図 2-1-21.アジアの家計最終消費支出 海外現地法人の地域別、業種別の売上高経常利益率 20 第2-1-57図 アジア の家計最 終消費支 出の推 移 (百 万USドル) 2,000,000 15 マ レーシア 10 イン ドネシア フィリ ピン タイ シンガ ポール 香港 1,500,000 5 台湾 1,000,000 0 韓国 -5 500,000 -10 中国 北米 アジア EU -15 0 1990 【出所】海外事業活動基本調査(経済産業省) 表 2-1-1 小売業の海外展開 企 業 コンビニA社 スーパーA社 百貨店A社 その他小売A社 5 7 12 9 4 6 9 5 計 アジア うち うち 中国 5,532 1,099 19 39 5,531 37 19 14 92 25 3 6 時点 米 ヨー ロッパ 1 1,062 − − − − − 25 ASEAN4 520 11 12 − 05年/11月期 05年/08月期 05年/09月期 05年/08月期 注:百貨店A社におけるアジアの海外店舗数は、アジアに展開する海外現地会社のうち6社の店舗数で、 他の3社の店舗数は未開示。 表 2 海 外 展 開 企 業 4社 の 所 在 地 別 営 業 利 益 率 (% ) 日本 ア ジア 北米 その他 平均 2000 3.9 0.1 10.7 6.4 4.1 2001 4.1 0.5 12.5 5.2 4.4 2002 4.3 0.9 11.5 4.8 4.5 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 我が国への観光目的入国者数の推移 千人 店 舗 数 うちアジ ア 1992 2000 2001 図 2-1-22.観光目的入国者の推移 表1 海外展開企業4社の海外現地法人数、店舗数 海外現 地会社 数 1991 (備考 )値は 実質1995年 価格 USドル。 (資料 )世界 銀行「WDI」 、ADB「ADB Key Indicators 2004」から作 成。 鉄鋼 非鉄 金属 一般 機械 電気 機械 情報 通信 機械 輸送 機械 精密 機械 その 他の 製造 業 化学 石油 石炭 繊維 木材 ・紙 パ 食料 品 製造 業 -20 2003 2004(年 ) 3.9 3.9 1.4 1.9 10.6 8.8 4.8 4.5 4.1 4.0 04年総入国者数 311万人 東アジア228万人 アメリカ29万人 ヨーロッパ33万人 その他21万人 3,500 その他 アメリカ ヨーロッパ 東アジア 3,000 2,500 2,000 1,500 1,000 500 2000年 38 2001年 2002年 2003年 2004年 2002 (年) 3.アジアと共に成長 アジア規模での生産ネットワークの形成と高度化は、アジアに更なる経済成 長の土台とダイナミズムをもたらしつつある。すなわち、生産と貿易の拡大が 所得の増加を通じて域内需要の喚起をもたらす。それが、更なる投資機会と生 産と貿易の拡大を提供するという好循環を実現している。 我が国の消費市場が人口の減少とともに変化していく一方で、絶対額では小 さいものの、急速に拡大するアジアの消費市場は日本の経済成長に大きな意味 を有する。欧米企業、他のアジア諸国などと競争があるが、東アジア諸国に地 理的に最も近い主要先進国である我が国にとっては、工業製品はもちろん、コ ンテンツ、国際競争力のある農水産品、先進的なサービスなどの魅力的な市場 と考えられる。また、急速に豊かになっていくアジアの消費者を観光客、長期 滞在客として国内に呼び込むことで、観光や地域の活性化につなげていくこと が重要である。 我が国にとってアジアは、投資収益の面でも重要性を高めつつある。アジア 向け直接投資収益は欧米向けを上回る水準で推移してきており、その収益はア ジア域内で再投資されるとともに、国内へ還流する額が増加している。 企業の国際展開やアジア域内の貿易構造の高度化などを通じて、我が国がア ジアの最先端を担いながらアジアの持続的な成長を牽引する一方、高い潜在成 長率を有するアジアの活力を日本経済の活性化につなげる。アジアの市場その ものを新たに生み出しながら拡大していく。こうした「アジアの発展に貢献し、 アジアと共に成長する」という姿勢が重要である。東アジア経済統合の推進等 にあたってはこうした視点で取り組んでいくことが必要である。 39 (参考)最近の日-アジアの協力に関するトピック ○日 ASEAN 首脳会議共同声明 2005 年 12 月 13 日、日 ASEAN 首脳会議は共同声明を発表。 「日 ASEAN 戦略的パートナーシップ」の深化・拡大に向けた政治的決意を再確認(日 ASEAN は対等の立場で共通の課題と機会に取り組む。ASEAN は地域協力の「運転者」の 役割・ASEAN 統合の推進を通じて、東アジア地域協力に一層活発な貢献) 。 また、ASEAN 統合支援や鳥インフルエンザ対策を含め、日 ASEAN で協力を強化してい く分野や具体的協力を明示。 経済産産業省においては、ASEAN 統合を支援するための貿易投資円滑化支援や産業基盤 強化支援を行うとともに、ASEAN 内でも特に発展の遅れているメコン地域の人材育成、物 流網整備の支援強化を行っている。 ○インドからの本邦中小企業のインド進出支援の要請 2005 年 4 月 29 日、日印首脳会談で合意した「日印グローバル・パートナーシップを強化 するための 8 項目の取組」のなかで、両国政府は、民間と協力しつつ、日本企業の対印投 資を促進するために特別な努力をすることを決定。 これを受け、カマル・ナート商工大臣からも、2005 年 11 月に二階大臣が WTO 少数国会 合に参加した際に、我が国中小企業の対印投資を促進するよう強く要請を受けた。 具体的な取り組みとして、2005 年 11 月以降、経団連、日印経済委員会、JETRO、東京中 小企業投資育成株式会社・中小企業基盤整備機構、中小企業金融公庫がミッションを派遣。 昨年末から今年前半にかけてのこれらのインド・ミッションには合計 170 名が参加。 ◆経済連携協定(EPA:Economic Partnership Agreement) 特定の二国間又は複数国間で、域内のヒト、モノ、カネの移動の自由化、円滑化を図る ため、水際及び国内の規制の撤廃や各種経済制度の調和等、幅広い経済関係の強化を目的 とする協定。 (参考)経済連携協定(EPA) 、投資協定、租税条約等の推進の意義 EPA、投資協定、租税条約等の推進は、実態として進む経済の一体化を制度面でも一層強 固なものとし、アジア企業の協働体制づくりを後押しする。貿易、直接投資を通じて、域 内の最適な生産・販売ネットワークの構築と各国における産業・工程の高度化が可能とな ることで、域内全体での産業の効率化をもたらす。 また、開かれた日本市場はアジア諸国に大きなチャンスをもたらすとともに、日本から のアジアへの直接投資は、アジア諸国への経済協力と相まり、資本蓄積やイノベーション の促進を通じて、アジアの投資受入国の経済成長を刺激する。 この結果、アジア経済は、域内の経済格差を縮小させながら、全体として成長していく という win-win の関係を築くことが可能となる。 既に日本が締結した日シンガポール EPA、日墨 EPA についても、これらの効果として、 締約国間での貿易、投資の拡大や協定締結後に日本企業の現地進出が進んだ事例が確認さ れている。 <日墨 EPA 発効後の効果> <日シンガポール EPA 発効後の貿易動向> (投資) (貿易) ・ 日墨経済連携協定発効以後、自動車関係を中心にメキシ 関税が撤廃された主な品目の貿易推移 コ市場に進出する企業は増加。 ビール:貿易額 20.3%増加 自動車 A 社(05 年夏現地販売会社設立) 、自動車 B 社(05 年半ばより販売開始) 、自動車部品 C 社(05 年秋より生産 開始予定) 、タイヤ D 社(07 年 7 月生産開始)等 40 プラスチック:貿易額 74.7%増加 〔具体的施策〕 (1)シームレスな経済環境の整備 win-win の利益をもたらす東アジア経済統合の形成に向け、更なる市場開放、 投資ルール及び経済協力を含む質の高い経済連携協定(EPA)を、東アジア全体 で迅速に締結する。その実現に向けた今後の経済連携協定交渉のロードマップ を明らかにし、日本企業のみならず、アジアの各国企業がアジア展開戦略を考 える上での予見可能性を高める。また、東アジア地域をはじめ各国との経済連 携の強化を図るため、日本の制度や政策手法に係る経験・知恵を活かしつつ、 貿易・投資環境の整備に ODA を戦略的に活用していく。 アジア各国には、移転価格税制の不透明性、厳しい送金規制、配当や利子・ ロイヤルティに対する高い源泉課税等の問題が存在し、域内の投資交流・資金 移動のコストを高くしている。経済連携協定と併せて、政府間協議・官民協議 の場の活用や投資協定・租税条約等の推進によってこうした問題の改善を図り、 アジアとの投資交流を拡大する。 41 図 2-1-23.法人実効税率(表面税率)の国際比較 法人実効税率(表面税率)の国際比較 45 % 40.69 40.75 39.9 40 35 30 12.8 8.8 35.0 33.33 地方税 33.0 3.0 30.0 18.4 30.0 28.0 27.5 25 2.5 25.0 25 25 韓国 台湾 20 15 35 31.9 33.33 30 27.9 10 5 0 30 28 30 21.53 国税 日本 (東京都) ドイツ 米国 (ネバダ州) 米国 (加州) (デュッセル ドルフ) フランス 英国 スウェーデン 中国 タイ (注1)税率は、2006年1月現在。 (注2)日本の税率は、法人事業税が損金算入されることを調整した上で、「法人税」「法人住民税」「法人事業税」の税率を合計したものであ る。また、法人事業税の外形標準課税の対象となる資本金1億円超の法人に適用される税率である。 (注3)米国・加州では、州法人税8.84%。ネバダ州ほか州法人税がない州も複数存在。 (注4)中国では、適用税率が15%に半減される経済特区制度や、いわゆる「二免三減」制度(外資系企業の企業所得税(法人税)を会社設 立以降初めて利益を計上した年度から2年間免税とし、その後の税率を3年間半減とする制度)などが存在するため、外資系企業につい ては、実際に適用される税率は上記の基本税率よりも大幅に低い場合が多い。 (出典) 政府税調資料、KPMG 「Corporate Tax Rates Survey」 等 (参考)2000 年以降の各国の法人実効税率の引き下げの例 ・ドイツ 48.55% (2000 年) → 38.47% (2001 年)(▲10.1%) ・フランス 36.67% (2000 年) → 33.33%(2006 年)(▲ 3.3%) ・カナダ 44.6% (2000 年) → 36.1% (2005 年) (▲ 8.5%) ・韓国 30.8% (2000 年) → 27.5% (2005 年)(▲ 3.3%) (出所)KPMG「Corporate Tax Rate Survey」 、各国政府資料等 図 2-1-24.EU・OECD 等の法人実効税率(国+地方)の推移 % 45 日本( 日本(東京) 東京): 42.0% 40 日本( 日本(東京) 東京): 40.7% EU15ヶ国平均: 35.4% 35 EU15ヶ国平均: 29.5% OECD平均: 34.0% 30 アジア平均: 27.9% 25 2000年 1月 2001年 1月 EU15 OECD平均: 28.3% 2002年 1月 OECD 2003年 1月 2004年 1月 アジア平均: 27.3% 2005年 1月 アジア(NIEs+ASEAN4+中国) 2006年 1月 日本 (注)NIEsは韓国、香港、台湾、シンガポール。ASEAN4はインドネシア、マレーシア、フィリピン、タイ。 (出所) KPMG’s Corporate Tax Rate Surveyより作成 ◆サプライチェーン 製品などの生産者・供給者から消費者までを結ぶ、開発・調達・製造・配送・販売の一 連の業務のつながりのこと。 42 (2)持続的な協働関係構築のための制度整備 ⅰ)法人実効税率の見直し ・世界各国は、産業競争力強化の観点から法人実効税率(国税と地方税を 合わせた法人所得課税負担の表面税率)の引き下げを進めており、我が 国も、1998・1999 年度に法人実効税率を約 10%引き下げた。しかし、そ の後も世界的には税率引き下げの動きもあり、先進国に限って見ても、 我が国は米国、ドイツとはほぼ同等であるが、フランス、イギリスより も高い水準となっている。特にアジア各国の低税率との格差は大きく、 我が国企業の国際競争力への影響が懸念されている。 ・法人実効税率の高さは、企業が税コスト意識を高め、グローバルに国や 地域を選ぶ時代にあって、国際的な企業誘致や海外利益の国内還流を阻 害するのみならず、企業の海外流出を招くおそれもある。 ・このため、後述の対日直接投資の促進や地域経済の活性化の観点も踏ま え、我が国の法人実効税率を引き下げる必要がある。また、減価償却制 度の抜本的な見直しが必要である(第 4 章「モノ」参照)。 ⅱ)国際課税制度の見直し ・企業の海外活動が拡大し、海外利益の重要性が高まる中、海外利益に対 する課税の問題は、今後ますます大きくなっていく。我が国企業の国際 的な事業活動を円滑にするよう、企業の海外活動と海外利益の拡大の実 態、諸外国の制度との比較等を踏まえ、移転価格税制の明確化、外国税 額控除制度の見直しなど、国際課税制度のあり方の見直しを行う必要が ある。 ⅲ)資金調達の円滑化 ・ 売掛債権を証券化した「アジアの資産担保証券市場」を育成し、アジア 展開する我が国企業に資金を供給する。日本型預託証券(JDR)を創設 し、アジア企業の株式を事実上我が国資本市場に上場できるようにする ことでアジア企業の資金調達を円滑化する(第 4 章カネ参照)。 43 44 ⅳ)国際競争の実態を踏まえた企業結合審査の実現 ・ 事業者の活動領域や需要者による調達領域がアジアを始め国際的規模 へと拡大する中で、独禁法上の企業結合審査も、こうした経済実態を十 分踏まえて行われる必要がある。このため、アジアを含めた海外市場に おける競争状況が日本市場に与える影響を考慮する際の判断基準を分か りやすく提示することにより、組織再編を行う事業者の予見可能性の向 上を図るとともに、国外市場を含めた市場画定の可能性についても検討 を深める(第 4 章チエ参照)。 ⅴ)効率的なサプライチェーン構築の基盤整備 ・ アジアとの「距離」を短縮する港湾機能の強化など産業・物流インフラ を整備する(第 4 章モノ参照)。 ⅵ) 「アジア標準」の形成 ・ 東アジア全体の産業基盤強化の観点から、情報処理技術者のスキル標準 の普及や製品規制・規格にかかる共通基盤の構築等、我が国の企業慣行 や政策手法を東アジアの視点で体系化しつつ、「東アジア標準」として 積極的に提案していく。 45 ・ (省エネ協力の具体例) ・ 我が国企業の省エネ技術、設備の優位性を示し、現地での普及を促すモ デル事業の実施 ・ 省エネ基準・ラベリング制度の国際展開等を始めとする省エネルギー制 度の構築・運用支援 ・ これらを推進するための人材育成事業 (参考)日中省エネルギー・環境総合フォーラム 省エネルギーと環境に関する制度、政策、経験、技術などについて日中間で幅広く意見 交換を行って認識を共有するとともに、日中双方が WIN-WIN となるような協力の在り方に ついて議論することを目的に、日中の政府関係者と産業界関係者約 500 名が参加し、2006 年 5 月東京にて開催。 図 2-1-25.アジア諸国の石油備蓄制度 国 名 国家備蓄 民間備蓄 韓国 有 有 中国 準備中 タイ 検討中(FS実施) 有 有(一部) シンガポール 検討中 有 フィリピン 検討中(FS実施) 有(暫定) インド 準備中 準備中 台湾 準備中 有 ベトナム インドネシア 有 (参考)クリーン開発と気候に関するアジア太平洋パートナーシップ(APP) 2005 年 7 月に米国主導によって立ち上げられた地域協力のパートナーシップ。 参加国は、 日本、米国、豪州、韓国、中国、インドの 6 ヵ国。2006 年 1 月に豪州で閣僚会合を開催。 アジア太平洋地域において、増大するエネルギー需要、エネルギー安全保障、気候変動 問題へ対処することが目的とし、クリーンで効率的な技術の開発・普及・移転のための地 域協力を推進。参加国の CO2 排出量は世界全体の 5 割を越えている等大きな意義を持ち、 その憲章においては「気候変動枠組条約に整合的で、京都議定書を代替するものではなく、 これを補完するもの」と規定されている。 具体的なエネルギー・環境関連の技術協力は、再生可能エネルギー、鉄鋼、アルミニウ ム、セメントなど個別セクター毎に検討することとされている。 (参考)アジアの未利用エネルギーに関する研究 バイオエタノールの利用や海洋温度差発電の研究など、アジアの未利用エネルギーにつ いても、中長期的に検討していくことも考えられる。 46 (3)エネルギー・環境協力 ①省エネルギー協力の促進 アジア地域における省エネルギーを推進するため、 「日中省エネルギー・環境 総合フォーラム」の開催をはじめとして、日中、日印等の二国間協力を強化す ると共に、ASEAN+3 等の多国間の枠組みを活用し、アジア諸国におけるエネ ルギー需給構造の体質強化に向け、モデル事業の実施、省エネ基準・ラベリン グ制度等の省エネルギー制度の構築・運用支援、人材育成支援などの省エネ協 力を積極的に進める。 また、二国間の省エネ分野のビジネス連携強化を支援していく。 ②化石燃料のクリーン利用の促進 化石燃料需要の急増が見込まれる中国及びインドに対し、両国政府と協力し ながら、個別に協力活動を促進するとともに、ASEAN+3 などの多国間の枠組 みを活用しつつ、アジア諸国全体に対して、我が国が化石燃料のクリーン利用 の推進について得てきた技術(脱硫・脱硝技術、高効率利用技術)やノウハウ を導入・普及させるための戦略的な取組を強化する。特に、我が国が長年培っ た石炭の生産・保安に関する技術、世界に誇る液化、高効率利用、環境保全等 のクリーンコールテクノロジーをアジア地域に普及させる。 ③石油備蓄制度等の導入・普及の促進 石油需要の急増が見込まれる中国及びインドに対し、それぞれ政府間での協 力活動を促進するとともに、ASEAN+3 などの多国間の枠組みも活用しつつ、 アジア諸国全体に対して、石油備蓄制度構築にかかる政策ノウハウを積極的に 提供していく。 ④気候変動問題への積極的貢献 「クリーン開発と気候に関するアジア太平洋パートナーシップ(APP)」に基 づき、我が国が議長国となっている鉄鋼、セメント分野を中心にベンチマーク の設定や技術の普及に向けた調査など、本パートナーシップが有意義な取組と して発展していくよう積極的に貢献していく。 47 (参考)新経済成長戦略と並ぶ 2 つの戦略 経済産業省では、新経済成長戦略と並行して、通商政策、国際経済政策につ いては「グローバル経済戦略」、資源・エネルギー政策については「新・国家エ ネルギー戦略」という 2 つの戦略としてとりまとめている。これら 2 戦略は新 経済成長戦略を実現する上でも不可欠なものである。 グローバル経済戦略(※)のポイント ※産業構造審議会通商政策部会(部会長:御手洗冨士夫キヤノン株式会社代表 取締役会長兼社長)における審議も踏まえ、2006 年 4 月に経済産業省として とりまとめたもの。 1.東アジア経済統合と日本のイニシアティブ −東アジア経済圏を日本のイニシアティブで質の高い市場経済圏にする。 −日本の産業の知恵と経験をアジアで共有し、世界の製造業と技術の中心に なる。 ○EPA アクションプランの策定(経済連携促進関係閣僚会議で策定) ○「東アジア EPA」構想 ○「東アジア版 OECD」構想 2.企業のグローバル化と産業競争力の強化 −日本企業の国際展開を支援する。 −日本が内外の企業の生産・流通ネットワークのハブとなる。 ○産業界と一体となった投資・ビジネス環境整備(「駆け込み寺」機能の強 化) ○技術流出の防止・知的財産保護 ○「国際物流競争力強化パートナーシップ」(国土交通省と連携) 3.より開かれた魅力的な国づくり −国を開き、魅力を高め、世界の優れた企業・人材を呼び込む。 −日本の強み・ブランドを世界に発信する。 ○対内直接投資の促進 (新目標(2010 年までに GDP 比倍増となる 5%程度)) ○「アジア人財資金(仮称)」構想 4.地域戦略とグローバルな共通課題への貢献 −技術力を活かして、リーダーシップを発揮する。 −グローバルな秩序形成とアジアの秩序形成の「蝶番」となる。 ○欧米との高次の経済連携 ○省エネ・環境協力 ○アフリカ等後発途上国支援(一村一品運動) 48 新・国家エネルギー戦略(※)のポイント ※総合資源エネルギー調査会総合部会(部会長・黒田昌裕 内閣府経済社会総 合研究所 所長)における議論も踏まえ、2006 年 5 月に経済産業省としてと りまとめを行ったもの。 <戦略の目標> ○国民に信頼されるエネルギー安全保障の確立 ○エネルギー問題と環境問題の一体的解決による持続可能な成長基盤の確立 ○アジア・世界のエネルギー需給問題克服への積極的貢献 <戦略策定に当たっての基本的視点> ○世界最先端のエネルギー需給構造の実現 ○資源外交、エネルギー環境協力の総合的な強化 ○緊急時対応策の充実 <戦略実施に際しての留意事項> ①中期にわたる軸のぶれない取組とそのための明確な数値目標の設定 ②世界をリードする技術力によるブレークスルー ③官民の戦略的連携と政府一丸となった取組体制の強化 <戦略項目> ※( )内の数値は 2030 年までに達成することを目指す数値目標 (世界最先端のエネルギー需給構造の実現) 1-1.省エネルギーフロントランナー計画(30%以上の消費効率改善) -2.運輸エネルギーの次世代化計画(石油依存度 80%程度) -3.新エネルギーイノベーション計画 -4.原子力立国計画(発電電力量の比率 30∼40%以上) (資源・エネルギー外交等の総合的な強化) 2-1.総合資源確保戦略(自主開発比率 40%以上) -2.アジア・エネルギー協力戦略 (緊急時対応の充実) 3. 緊急時対応の強化 (共通的課題) 4-1.エネルギー技術戦略 -2.その他環境整備 49 50 第 2 節.世界のイノベーションセンター 51 図 2-2-1.IMD 国際競争力年鑑 国際競争の状況について、海外研究機関の調査を見ると、我が国の総合順位 は 90 年代に大きく低下し、アジア諸国における相対的な順位も低下している。 【日 米 、アジアの国 際競 争 力 】 0 1 米国 3 シンガポール 1 5 10 11 台湾 15 20 21日本 25 27 タイ 28 マレーシア 29 韓国 31 中国 30 35 39 インド 40 45 50 91年 出 典:IMD 01年 02年 03年 04年 05年 ※スイスの独立非営利研究機関である国際経営開発研究所(IMD)による国際競争力に 関する調査。評価は、統計数値のみならず、経営者へのアンケートを用いて算出して いることに留意が必要。 (参考)諸外国のイノベーション強化のための政策 ・ 米国では近年、イノベーション創出力を強化するための政策についての議論が活発 化。2006 年 1 月には、ブッシュ大統領の一般教書演説の中で、基礎研究開発の強化 や学校教育・生涯教育改革などを内容とする「米国競争力イニシアチブ」を発表し ている。 ・ 2006 年 2 月、韓国産業資源省は、現在は多くを輸入に依存している電機、自動車等 の生産に必要な部品・素材産業の強化を目指した「2015 年部品素材発展戦略」を発 表。 (参考)川上・川下メーカーの協力の例 ・ 例えば、ある自動車メーカーと部品メーカーは、カーエアコンの製品化を行う場合、 構想段階から協力して開発チームを組んでいる。これにより短期間で車両全体のコ ンセプトや設計思想にマッチした最適な性能や構造にすることが可能になると同 時に、 “作りやすさ”や“組み付けやすさ”といった生産の視点も加えた構造にす ることが可能になり、生産効率の向上やコストダウンを実現している。 ・ また、別の例では、ハイブリッド自動車用電池の開発をする上で、自動車メーカー が電池メーカーと共同出資会社を設立し、ハイブリッド自動車に最適な電池を開発 し、量産化している。電池については、主に民生用電池でのノウハウを持つ電池メ ーカーが高い技術力を持つ一方、自動車に搭載する電池については民生用と比べて 高い信頼性や耐久性が要求されるため、自動車メーカーの経験が不可欠となること から、自動車メーカーと電池メーカーが協力することで初めて自動車用電池の開発 や量産化が可能となっている。 52 第2章 第2節 国際競争力の強化(国際産業戦略) 世界のイノベーションセンター 我が国には、既に述べたとおり、品質や価格について要求水準の高い消費者 や産業部門のユーザー、質が高く規模の大きな市場が存在すると同時に、多く の融合を生み出すことが可能な高度な部品・材料やモノ作り基盤技術を担う企 業、幅広い業種の産業が集積している。こうした需給両面での集積が、イノベ ーションを起こしてきた原動力である。 「カイゼン」や「セル生産方式」に象徴 される製造現場での効率化や製品の改良が継続的に行われる企業文化、川上・ 川下メーカーの信頼関係に基づく開発体制等が我が国の強みであり、これらを 維持・強化していくべきである。 世界的なモノの供給能力が増大する中で、コスト競争力と品質だけでは新興 国に対抗することができない。差別化が可能な新しいモノやサービスを次々と 創造し、付加価値を生み出していくこと(イノベーション)がこれからの競争 力の源泉である。資源小国であり、今後人口減少・少子高齢化を迎える我が国 が持続的な成長を実現するためには、連続的なイノベーションの実現が重要で ある。また、国内外の市場における差別化や付加価値の源泉ともなりうる新た な日本ブランドの確立、展開も重要な課題である。 各国政府はイノベーション創出強化に向けた政策を強めつつある。例えば、 米国政府はイノベーションの強化を国際競争力強化のための政策の中核とし、 研究開発投資の拡充や教育改革に重点的に取り組む方針を打ち出している。ま た、経済規模(GDP)を見れば我が国はいずれ中国に抜かれる時が来る。経済 規模の逆転だけを過度に恐れる必要はないが、欧米諸国だけでなく、アジア諸 国でも、先端的、高付加価値の産業を育成する動きがある。アジア諸国は、我 が国と共に発展していく関係であるとともに、我が国の優位性をいずれ脅かす 存在でもあることを強く意識する必要がある。 こうした中で、強みを更に強化し、諸外国との競争の中で、イノベーション を絶え間なく創出し続けることができる「世界のイノベーションセンター」と しての地位を獲得していくことが我が国の目指すべき方向である。 53 「イノベーション・スーパーハイウェイ」構想 ∼戦略研究への集中・加速・双方向連携∼ “TOP30 ”大学研究拠点※ ポスト21世紀COE、科研費 先端融合領域研究拠点※ 戦略重点科学技術※ 市場展開加速化 プログラム(新規) 国際競争力 ※第3期科学技術基本計画の主要施策 知の創造・原理の解明 知の創造・原理の解明 ∼ 目的基礎研究・先端人材養成∼ 応用・実用化技術開発 ∼ 研究成果の市場展開 大学 大学 ○○大学 □□研究所 ○○ 機構 公的・民間 公的・民間 研究機関 研究機関 民間基礎 研究所 ○○大学 □□研究室 民間 研究所 ヒト 官需・民需 官需・民需 /事業化 /事業化 民間市場化 規制緩和・隘路解消 民間 (新技術活用 ・ 市場 ヒト ・ 研究開発 モ のための制度整備等) モノ から ノ 政府調達 イ 研究 ・ スピンオフ・ ・ ノベ 現場 カネ カ 大学発 ーシ ・ ワ ネ へ 研 ザ ョン ・ 研究開発型 究 ・ チ ワ 加 特許の早期審査制度の活用 エ ベンチャー ザ 現場 速 化 か 特許審査ハイウェイの活用 ・ ら 市 チ ○○ (日米早期審査の連携) エ 場 特許審査迅速化効率化行動計画 へ 研究所 の推進 民間 研究所 SBIR枠 の拡大 戦略連携を支える 標準基盤整備 ベンチャー 政府調達 民間市場化 国際標準の獲得に 向けた戦略的対応 (計量標準、評価手法の標準化等) 双方向で連携すべき 戦略研究分野の例 ○市場から研究へのアプローチ • 新世代自動車向け電池 • 先端燃料電池、革新的水素貯蔵・輸送技術 • ガン等克服のための先進医療機器・医療技術 • 次世代ディスプレイ・半導体 ○研究から市場へのアプローチ • ナノテク • 微小な電気機械システム(MEMS) • ゲノム解析(ゲノム創薬) 54 1.イノベーションの加速化 イノベーションで世界をリードするためには、後述の横断的施策に加え、産 業が抱える最先端の技術課題について科学の原理まで遡って解決することや、 自然科学における発見や基礎研究の成果から技術や製品などが創造されること が重要である。第 3 期科学技術基本計画においても、イノベーションを生み出 すシステムの強化を重要政策として掲げている。 加えて、我が国が諸外国との競争の中で「世界のイノベーションセンター」 の地位を獲得し、国際競争力を強化していくためには、産業界、学界、公的機 関、政府が有機的に連携し、研究から市場へ、市場から研究へと双方向で、鋭 い軸が通るようなシステムの改革が必要である。 (イノベーションの「壁」) イノベーションを育む創造的な活動を活性化するためには、既存の枠組みを 越えて、様々な人、組織、機関等による有機的な連携が起こり、人、情報など が組織の垣根を越えて流れていくことが必要である。 しかし、大学、研究機関などは依然として研究テーマの選定や人材の流動化 に、縦割りの弊害が生じており、緊密な連携が十分に行われているとは言い難 い。特に、大学から産業界への人材の流動性は、産業界や研究機関から大学へ の流動性と比較しても極めて低く、民間企業等の研究における自前主義などに より、産学や官民の連携の障害という影響を及ぼしつつある。 さらには、近年、企業の研究開発が短期的な成果を求める傾向が強まり、長 期的視野での民間研究開発投資が必ずしも十分に行われていないこと、研究開 発の成果が十分な利益に結びつけられていないことにも懸念がある。 (「イノベーション・スーパーハイウェイ」構想(戦略研究分野への集中・加速・ 双方向連携)) ①集中・弾力化 こうした中、科学の力によりイノベーションを加速するべき分野(戦略研究 分野)に官民の資金、人材、技術などの政策資源を集中させるとともに、人材 の流動化の阻害となる仕組み、公的研究機関の画一的な予算制約など、政策資 源の集中に不可欠な制度や仕組みの見直しを行うことが必要である。 ②加速(市場展開加速化プログラム) また、戦略研究分野の成果を市場展開まで切れ目なく支援することが重要で ある。例えば、早期審査制度や日米の特許審査結果の連携(特許審査ハイウェ イ)などによる特許等の権利化を迅速に行うこと、また国際標準の獲得、政府 調達における新技術の優先的な購入などを優先的に実施することが必要である。 また、燃料電池・水素利用に必要な基準・標準の更なる整備など、新技術の 利用に必要不可欠な環境整備を実現することも重要である。 医薬分野については、官民一体の対話の場を設けることが重要である。 55 (参考)科学の原理まで遡った研究開発が不可欠な例 ・ 燃料電池用の高圧水素の貯蔵には分子レベルの材料工学などの基礎研究 が必要。 ・ がん克服のためには、微細ながん細胞を三次元的に映し出す診断技術、 がん細胞の発現のメカニズムを解析し原因となるタンパク質のみを標的 とする治療技術など、融合研究が不可欠。 (参考)自然科学の成果が新しい技術や製品に結実するのに長期間を要する例 ・ 液晶という現象は、1888 年に植物学者により発見されたが、電卓に応用 するまで 85 年、大型液晶テレビに利用されるまでには 110 年以上かかっ ている。 56 ③双方向の連携 がん対策や水素利用のような社会や産業の課題解決には基礎研究や融合研究 が不可欠である。また、液晶の例のように、大学や研究機関で発見された自然 科学の成果が、新しい技術や製品に結実し、国際競争力を得るには長い時間が かかる。したがって、研究から市場、市場から研究といった双方向の連携を深 めながら、双方向の流れの時間を短縮していくことが必要である。 政策資源の集中、制度の弾力化、市場展開の加速化を進めるためには、関係 府省・機関による組織の壁を越えた強固で有機的な連携を双方向で実現するこ とが不可欠である。そのためには、現状の総合科学技術会議の調整機能の強化、 政府における主要な資金配分機関間の連携等の抜本的強化を実現することが必 要である。 57 図 2-2-2.2010 年の新産業群 2010年の新産業群 現在の2大産業群 自動車 部品 金型 燃料電池 家電 半導体(DRAMなど) 材料(鉄鋼など) 製造装置 2010年の新産業群( )内2025年 原料 43兆円 ガラス 材料 化学 化学 計測機器 計測機器 原料 66兆円 情報家電 1兆円 (8兆円) コンテンツ 部品 半導体(システムLSIなど) 金型 製造装置 ロボット IT デジタル技術 電子部品材料 特殊ガラス 18兆円 (29兆円) ソフト センサ 2兆円 (6兆円) 通信 17兆円 (29兆円) 製造業の設備投資伸び率 全体(国内含む):16.9%(9年ぶりの2桁増) 海外向け :14.5% (設備投資動向調査(日経新聞社)) 空洞化(90年代以降) 国内回帰(2003年頃から) 最適生産体制 【海外】 の確立 イノベーション的な機 低コスト生産機能や大 能や高付加価値品の 量生産機能 生産機能 【国内】 【強み】 ○「高度部材産業集積」を核とした擦り合わせの連鎖 ○取引関係のメッシュ化と新たな企業間連携 ○技術課題に真摯に取り組むものづくりの姿勢 ○濃密なコミュニケーション、スピードときめの細かさ 擦り合わせ段階 58 モジュール化段階 2.世界をリードする新産業群の創出 2004 年 5 月に策定した「新産業創造戦略」 、2005 年 6 月に策定した「新産業 創造戦略 2005」では、世界を勝ち抜く先端産業群、社会ニーズに対応する産業 群として 7 つの戦略分野を特定し、その育成を図ることとした。この 7 つの戦 略分野の市場規模の拡大とその波及効果については、2010 年において約 300 兆 円の市場に成長すると試算している。 この実現に向けて、引き続き進捗状況のフォローアップを行うとともに、需 要・供給両面から必要な追加的施策を実施していく。 また、戦略 7 分野は将来の市場拡大が期待される分野であるが、これらの更 に先端的な領域や複数分野が関係する融合領域においても、経済的、社会的に 大きなインパクトを持つ潜在的な新産業群が期待される。 こうした潜在的な新産業群となりうるものとしては、例えば以下のような分 野(後述☆潜在的新産業群の例)があり、実用化・市場化を見据えつつ、科学 の基礎に立ち返った研究開発や次なる市場創造の基礎となる研究開発等を推進 していく。 59 ◆燃料電池 水素と空気中の酸素を結合させることによって電気と熱を作り出す発電装置。家庭等で の使用(定置用燃料電池)や燃料電池自動車などがある。 <参考> (燃料電池分野のその他の施策) ・ 水素をより安全、簡便に利用するための技術基盤を確立するため、 「水素 材料先端科学研究センター(仮称)」を創設し、水素の輸送、貯蔵に必須 な材料に関し、水素脆化等の基本原理の解明及び対策を中心とした高度 な科学的知見を要する先端的研究を実施する。 ・ 現状の技術開発における壁を打破し、コスト、性能面での抜本的改善を 図るため、 「固体高分子形燃料電池先端基盤研究センター」を中心として、 燃料電池の基本的反応メカニズムの現象解明など基礎に立ち返った研究 開発を実施する。 ・ ユビキタス社会に対応する燃料電池の実用化・普及拡大を図るため、燃 料電池を搭載したパソコン、車いす、二輪車などの技術開発・国際標準 策定などを実施する。 ○新世代自動車のための電池技術の開発・普及 (例示)①リチウムイオン電池 (試作品) (試作品) 出典:NEDO 成果報告書及び事後評価書 ②リチウム金属電池/イオン液体リチウム金属電池 リチウムイオン電池の 2 倍以上のエネルギーを蓄積 (試作品) 出典:NEDO 成果報告書及び事後評価書 60 〔具体的施策〕 (燃料電池分野の主要な施策) ・ 効 率 が 高 く 分 散 電 源用 途 と し て 期 待 さ れる 固 体 酸 化 物 形 燃 料電 池 (SOFC)の初期段階の普及を睨んだ規制の再点検を行う。 ・ 定置用燃料電池の世界初のリアルマーケットの立ち上げを目指し、大規 模な実証事業を実施する。 ☆ 潜在的新産業群の例 新世代自動車向け電池 1)市場規模(及び社会的インパクト) 0.1 兆円(直近実績) 8.2 兆円(2015 年) ※新世代自動車(ハイブリッド自動車と燃料電池車の合計)の値 2)現状と課題 ・新世代自動車については、電池の性能とコストに課題があり、実用 化や普及拡大には至っていない状況。今後、電池技術の更なる高度 化によって、電池をより安く、小さく、長寿命化していく必要があ る。電池技術の更なる高度化は、太陽光発電や風力発電といった新 エネルギーの出力安定化や普及拡大にも寄与。 3)主な施策 ・自動車用のマーケットニーズを満たす電池の実現には、サイエンス に回帰し、材料を含めた基礎的な部分から技術開発を実施すること が必要。このため、①次世代リチウム系二次電池の開発、②リチウ ム系以外の電池技術の開発等を中心として、実用化を視野に入れた 基礎技術の高度化を実施する。 61 ◆ロボット 製造工場で作業などを行う産業用ロボットや、清掃や警備など人間の社会生活の中で移 動しながら作業を行うサービスロボットがある。 <参考> (ロボット分野のその他の施策) ・ 人間と協働した生産活動や災害現場での探索など、具体的な仕事をする 「本格実用ロボット」を実現するための共通基盤となる技術を開発する。 清掃、警備、案内、搬送など、実際の生活空間でロボットを使うサービ ス事業における誤作動防止技術等の安全性確保の取組を支援する。 知能ロボットの例:自律的に見て、理解・認識し、学習し、判断する 出典:独立行政法人産業技術総合研究所 <参考> (情報家電分野のその他の施策) ・ コンセプト、デザイン等の優れた情報家電を表彰する「ネット KADEN 大賞」を実施する。 62 (ロボット分野の主要な施策) ・ オフィスビル等へのサービスロボット導入に関連する法令の解釈、運用 の明確化を図る。 ・ 民間企業の開発競争とロボットの活用を促すための表彰制度を創設する。 ☆ 潜在的新産業群の例 次世代知能ロボット 1)市場規模(及び社会的インパクト) 0.5 兆円(直近実績) 3.1 兆円(2015 年) 6.2 兆円(2025 年) ※ロボットへの適用のみならず、製造工程における検査工程(欠 陥の検査・識別、部品の識別)、監視・セキュリティ(生産ライ ンにおける異常監視、侵入者の監視、個人認識など)等の分野に 波及。 ※産業用ロボット及び生活、医療・福祉、公共分野の次世代ロボ ットを合計した値 2)現状と課題 ・ ロボットの駆動系については、これまでに行われてきた企業・ 大学・研究機関自らの技術開発と国の技術開発プロジェクト(21 世紀ロボットチャレンジプログラム等)により、急速に発展し つつある。 ・ 他方、単なる「画像処理」ではなく、 「画像認識・音声認識」と いった、 「見て、理解・認識し、学習し、判断する」知能部分の 技術については、未だに発展途上にある。 ・ また、欧米でも、この分野は近年、重点的に取り組まれ始めて いる。 3)主な施策 ・ 次世代知能ロボットや産業機械の核となる画像認識・音声認識 (見て、理解・認識し、学習し、判断する)技術等を開発し、 ロボット等の機能を飛躍的に高める。 (情報家電分野の主要な施策) ・ 技術戦略マップに基づき、次世代半導体デバイス、次世代フラットディ スプレイ・ストレージ、超高速光ネットワーク通信機器、相互接続・運 用技術等の技術開発を実施する。 ・ 情報家電のネットワーク化を推進するため、コンテンツ、サービスの提 供と決済等に関する情報家電の実証実験を実施する。(総務省と協力) ・ デジタル機器・媒体に関する私的録音録画補償金制度を、廃止を含め抜 本的に見直すとともに、地上デジタル放送における「コピーワンス」を 緩和するなど、情報通信機器等に関する制度改革等により、ハード・ソ フト産業間の連携を強化する。 63 <参考> (コンテンツ分野のその他の施策) ・ アジアの閣僚級セミナーの開催等によりコンテンツ産業の国際展開のた めの枠組みを構築する。 ・ LLP 制度の活用促進や、モデル契約の見直しを通じた取引慣行の改善に より、優れたコンテンツを生み出す制作・流通環境を整備する。 ・ 産学連携の強化、中核的コンテンツ人材の育成等を行う。 (第 3 章第 3 節参照) <参考> (健康・福祉分野のその他の施策) ・ 良質なサービスを効率よく提供する体制を整備するため、サービスを提 供する人材を適材適所に確保・育成する。 ・ 健康増進・予防医療・代替医療の実現を図る先導的取り組みに対して支 援を行うことにより、新たなビジネスモデルの開発・普及を図る。 ・ 予防医療や個別化医療の実現に向け、遺伝子情報を活用した創薬基盤の 確立と生体情報の解析技術を開発するとともに、その実用化を促進する。 (第 3 章第 3 節参照) ○先進医療機器・医療技術(がん克服) 微細ながん細胞の位置を的確に把握 64 (コンテンツ分野の主要な施策) ・ 東京国際映画祭における国際コンテンツマーケットの拡充、国際共同製 作の推進、海賊版対策の強化・拡充等を行う。 ・ デジタル化やブロードバンド化を積極的に活用するため、ポータルサイ トの構築を支援する。 (第 3 章第 3 節参照) (健康・福祉分野の主要な施策) ・ 予防・代替医療を含む健康産業の医学的根拠の明確化を図るとともに、 良質なサービスを保証することにより、国民が安心してサービスを利用 できる環境を整備する。 ・ 健康プログラムを持続的に行う意欲の向上を図るため、健康状態の変化 を詳細かつ正確に把握できる環境を整備する(具体的には、臨床検査用 標準物質の開発等)。 (第 3 章第 3 節参照) ☆ 潜在的新産業群の例 先進医療機器・医療技術(がん克服等) 1)市場規模(及び社会的インパクト) 8.7 兆円(直近実績) 10.0 兆円(2010 年) 11.8 兆円(2015 年) ※がん対策以外の医療機器・医療技術を含む。 2)現状と課題 ・ 我が国の医療機器の競争力は、診断機器で強く、治療機器で弱 い。日本人の死亡原因の第 1 位であるがんの克服を目指し、先 進的な医療機器を世界に先駆けて開発・普及させることが課題。 3)主な施策 ・ がん等の超早期発見や低侵襲治療に資する「分子イメージング 機器」「DDS システム」や、診断と治療を一体化した手術シス テム等の開発及び普及に向けたガイドラインの整備を行う。ま た、遺伝子情報を活用した、副作用が少なく有効性の高い創薬 等の実現に向けた支援技術を開発するとともに、その実用化を 促進する。 ・ 医薬分野のイノベーションの加速化に向けた官民一体の対話の 場を設ける。 65 <参考> (欧州における政府と産業の対話の場) EU 「G10 医薬品グループ会議」 ・2000 年末より活動 ・ 「G10 医薬品レポート」発表(2002 最終化、2003 追加事項) →市場競争、規制、価格、アクセス、科学基盤、研究開発、情報提供等 ・企業担当委員、各国保険担当大臣、業界代表等 「Pharmaceutical Forum」 ・EU“Industry Policy”(2005)の中の 7 つのクロスセクショナル施策の筆頭の位置づ け →魅力ある投資と労働の場、成長の要としてのイノベーション、良質な雇用の 形成・創出 ・欧州委員、各国閣僚、産業代表、その他ステークホルダー ・R&D、各国の規制、統一市場の形成について議論 英国 「PICTF(医薬品産業競争力タスクフォース)」 ・2000 年に首相が設置、毎年、フォローアップ、競争力指標の評価 ・ 「PICTF レポート」発表(2001) →英国が、R&D 型製薬企業にとって魅力的環境であるという材料を提供 ・製薬企業、保健省、科学技術、教育雇用、住宅計画、財務責任者 独国 「タスクフォース」 ・2003 年に厚生社会保障大臣を長として設置 ・ “Report & Action Plan of the TF”発表(2004) →R&D 促進、バイオテクノロジー推進、承認プロセスの改善、市場競争力を検討 ・製薬企業、政府代表(厚生社会保障、教育、経済・労働省) 仏国 「医療産業戦略審議会」 ・2004 年に首相が設置。半年に一度の定期開催 →医薬品・バイオ企業の投資先としての魅力と、仏業界の競争力を検討 ・製薬企業 6 社、閣僚(経済・財政・産業、連帯・厚生・家族、教育、研究) 66 <参考> (遠隔医療の推進) 映像を含む患者情報の伝送により、遠隔地から診断、指示などの医療行為 などを行う遠隔医療を普及させるためには、システムの導入・運用に向けた インセンティブの付与と、動画像等を送受信するための通信手順の標準化等 が重要。 <遠隔医療を実現するシステムのイメージ> 脂肪厚計 健康マット エアマット 心電リズム計 ・心拍 ・呼吸 ・体動 家庭内端末 血糖値計 ・匿名化通信 ・経路探索保護 ・個人認証 ・NON-PC ・小型 ・QVGA表示 ・体脂肪 ・尿塩分量 ・尿糖 リビングヘルスケアモニタ 生活リズム計(歩数計) 体重計 統 一 無 線 プ ロ トコ ル で 接 続 尿・体脂肪計測トイレ データセンタ 小型運動能力計 血圧計 ・歩数 ・運動量 ・生活リズム 体温リズム計 ・わかり易い解析指標 ・危険度の推定 ・検診データとの連携 ・筋力・筋持久力 ・心肺持久力 札幌における実証実験(参加家庭数71軒 利用者総数 約200名)で用いる機器の例 67 <参考> (環境・エネルギー分野のその他の施策) ・ 現行の太陽電池の発電コストを大幅に低下させ、2010 年度を目処に家庭 用電力料金並みの発電コスト(23 円/kWh 程度)を実現するため、量産 化技術や高性能化技術等の開発を推進する。 ・ 風力発電の出力変動による電力系統への影響を緩和するため、蓄電池等 を活用したシステムを実用化するための技術開発・実証試験を行う。 ・ ESCO 事業の市場拡大に向けて、公的部門への導入の拡大を図るととも に、ESCO 事業の資金調達の円滑化を図る。 ・ 政府による京都メカニズムのクレジット取得制度を構築し、その着実な 運用を図るとともに、民間事業者へのプロジェクト形成支援等を通じて、 我が国の企業のグローバルな環境ビジネスを促進する。 ○次世代環境航空機 軽量化、新エンジン開発により燃費を最大 20%向上 <参考> (ビジネス支援分野のその他の施策) ・ 実務教育ビジネスの振興を図るため、先導的なビジネスモデルの開発を 支援する。 ・ 産業界と大学経営学部等の連携強化を図るため、大学経営学部等が産業 界に対してコンサルティングを行う上での組織対組織契約の在り方の検 討を行う。 (第 3 章第 3 節参照) 68 (環境・エネルギー分野の主要な施策) ・ 省エネ法に基づくトップランナー制度について、対象機器の拡大を行う。 ☆ 潜在的新産業群の例 次世代環境航空機 1)市場規模(及び社会的インパクト) 2.8 兆円 (販売開始から 2015 年にかけての総額) 5.3 兆円(販売開始後 10 年間(2021 年まで)の総額) ※航空機・エンジンの生産額(2015 年までで 1.6 兆円、2021 年ま でで 2.9 兆円)の他、社会全体への経済波及効果も含む。 2)現状と課題 ・我が国航空機産業は、これまでボーイング等との国際共同開発 等を通じて技術力の向上、生産基盤の強化に努めてきた。今後 の一層の産業発展のためには、機体・エンジンの全体を開発・事 業化を通じて、継続的な成長を図ることが重要な課題となって いる。 3)主な施策 ・ 「環境適応型高性能小型航空機研究開発」を通じ、2010 年度まで に 70−90 席クラスの機体の全機開発能力を獲得する。この事業 化を成功させるため、防衛庁・文部科学省・宇宙航空研究開発 機構・国土交通省との連携を強化するとともに、関係金融機関 等の協力も得つつ、ファイナンススキームの確立を図る。また、 「環境適応型小型航空機用エンジン研究開発」を通じ、2009 年 度までに 50 席クラスのエンジンの全機実証研究を行う。これら、 航空機開発は極めてリスクの高い事業であるという性格を踏ま え、長期的な観点から販売までを含めた継続的な支援を実施す る。 ・また、宇宙分野においては、環境・エネルギー負荷の少ないロ ケット(GX ロケット)を開発することに加え、従来の研究開発 を重視した「宇宙開発」の時代から、社会インフラとして「宇 宙の利用・産業化」を図る時代に移行しつつあることを踏まえ、 宇宙の多様な利用について検討し、利用ニーズに立脚した技術 開発・制度整備を推進する。 (ビジネス支援分野の主要な施策) ・ 人材派遣・請負業の人材に対する教育機会の提供と資格制度等の確立等 によりキャリアパスの明確化を図る。 ・ 派遣・請負業において、就業者の権利保護等を積極的に行っているビジ ネス支援企業をユーザー企業が選別することを可能とする適合性認証、 格付け等の検討を行う。 ・ 派遣・請負業において、ビジネス支援企業とユーザー企業との間での教 育投資コストなどの必要なコスト負担に応じたメリットシェアを可能と するモデル契約の策定を支援する。 (第 3 章第 3 節参照) 69 図 2-2-3.供給と需要の谷を埋める施策の例 新産業創造戦略の戦略分野における供給と需要の谷を埋める施策の例(案) ☆は新産業創造戦略2005以後の施策の案。 燃料電池 ロボット 情報家電 環境・エネルギー 2010年における市場規模 (新産業創造戦略の試算) 約1兆円 約1.8兆円 約18兆円 約78兆円 現状と課題(概要) ・燃料電池自動車については、低コス ト化と耐久性、効率向上が課題。定置 用燃料電池は、具体的な市場立ち上げ に向け、低コスト化・耐久性向上など の商品性を高める段階。 ・水素については、効率的な貯蔵・輸 送技術の確立、高圧、液体水素下にお ける材料の水素脆化などが課題。 ・現在の市場はほぼ産業用ロボットの み。(デモ用ではなく)具体的ミッ ションをこなすサービスロボットの市 場立ち上げが課題。 ・東アジア企業の台頭や価格の下落に ・高い国民意識を背景に、適切な制度 よる収益の低迷に直面している中、事 の導入により、環境・エネルギー産業 業の絞り込みや企業の枠組を超えた合 の需要を創り出すことが課題。 従連衡などの「選択と集中」を進める ことが必要。 1.制度、規制、慣行の是正や整備−需要の顕在化を妨げている障壁を取り除く ①規制・制度の緩和等 −ユーザーの潜在的需要へ応える製 ・固体高分子形(PEFC)、水素ステー 品、サービスの具体化の障害を取り ションについては、初期段階の普及を 除く 睨んだ6法律28項目に渡る規制再点検 ☆オフィスビル等へのサービスロボッ ☆私的録音録画補償金については、そ の廃止を含めて抜本的に見直すととも に、技術的保護手段との関係で私的覆 製の範囲を明確化。 ト導入に関連する法令の解釈、運用の ☆地上デジタル放送に関する「コピー が終了。【FY16】 ワンス」の見直しなど、放送通信関連 ☆効率が高く分散電源用途として期待 明確化。 機器・システムの規格・運用の決定プ される固体酸化物形(SOFC)について ロセスについて、透明性向上、競争促 も、同様の規制再点検が必要。 進の観点から、抜本的に見直し。 ②規制・制度の創設・強化、既存慣 行の是正 −ユーザーの(潜在的)需要を創り ・円滑な系統連系協議に向けた検討。 出す ③基準や標準、評価制度の創設 −ユーザーの情報不足を補完 −新市場の品質管理 ☆発電分野における新エネルギーの導 入を促進するため出力変動による電力 系統への影響緩和のための技術開発・ 実証試験を実施。 ☆RPS法の適切な評価・検討による新 エネルギー発電の一層の促進。 ・省エネ・トップランナー制度による 省エネ家電への買い替え促進。【継 続】 ☆サービスロボットの安全性確保に関 ・燃料電池・水素利用に係る製品性 するガイドライン(仮称)の策定。 「情報家電コンシューマレポートの作 ・環境ラベル(エコリーフ)による製 能、評価手法などの国内外の基準・標 品・サービスの環境情報の提供 ☆ロボット安全性確保の推進拠点の整 成・公表【FY17∼】」 準化等を推進。【継続】 備 ④海外需要の拡大 −国内需要が飽和、減少する中で、 海外市場の獲得のための基盤を整備 ☆「新日本様式」[再掲] 2.需要を引き出す呼び水−ユーザーの需要を強める ⑤ユーザへの公的助成 ・定置用燃料電池の実証データ取得と ・ロボット活用サービス事業に対する −新たな製品、サービスの量産効果 コストダウンを目指した大規模実証事 助成を通じた「一号導入」支援と安全 業(一般家庭への導入)。【FY17∼ の後押し、信用補完 性の実証【FY18∼】。 ・地方公共団体や民間事業者等に対す る新エネルギーの導入補助の実施。 19】 ⑥政府の率先調達、大規模実証実験 −政府の導入による信用補完、民間 ・経済産業省庁舎での燃料電池自動車 ユーザ−への普及啓発 の導入、実証。 ・情報家電のネットワーク化を推進す るため、コンテンツ、サービスの提供 と決済等に関する情報家電の実証実験 を実施。(総務省と協力)【FY18∼】 ・定置用燃料電池の大規模実証事業 (一般家庭への導入)。[再掲] ⑦国民運動、イベント、表彰制度な ど啓蒙活動 −普及啓発を通じた需要拡大 ・グリーン購入による環境配慮製品の 率先導入。【継続】 ・経済産業省庁舎へのESCO導入、他省 庁への導入働きかけ。【FY17】 ☆京都メカニズムクレジット取得制度 の構築による環境ビジネスの促進 ・クールビズ等政府主導の国民運動に よる省エネ意識の喚起【FY17】 ・地球温暖化防止ポータルサイトを立 ち上げ、各団体等が発信する地球温暖 ・コンセプト、デザイン等の優れた情 化防止に関するニュース、イベント情 ・愛知万博での定置用燃料電池・燃料 ・愛知万博でのサービスロボット(清 報家電を表彰する「ネットKADEN大 報、推奨する取組などをウェブで公 電池バスの実証実験。【FY17】 賞」を実施。【FY17∼】 掃、警備、接客等)の実証実験。 開。 ・燃料電池自動車や移動式水素ステー ☆「新日本様式」運動による伝統と最 【FY17】 ・地球温暖化防止につながるエコスタ ションを活用した啓発活動【継続】 新技術の融合による付加価値向上、海 ☆表彰制度を創設。【FY18∼】 イルの提案をサブタイトルとしたエコ ・燃料電池の展示会を開催【継続】 外需要の拡大。【FY17】 プロダクツ展2005の開催。 ・各地域において行われる、地球温暖 化防止に向けた取組の市民レベルでの 普及・啓発活動の実施。 3.供給を需要につなげるインフラの整備 ⑧ハード、ソフトのインフラ整備 ☆水素供給インフラの存続 −新たな製品、サービスの活用の前 ・実証実験等で設置した水素ステー ☆サービスロボット導入のインフラと してのオフィスビル等へのICタグ導入 提となるインフラを整備し、ユー ションを活用した次世代フェーズの実 の推進。 ザーの需要を顕在化させる 証試験を展開。【FY18∼22】 4.その他 技術戦略マップに基づき、次世代半導 ・次世代知能ロボットや産業機械の核 体デバイス、次世代フラットディスプ となる画像認識・音声認識技術等を開 レイ、超高速光ネットワーク通信機器 発。 等の技術開発を実施。【継続】 70 (供給と需要の谷を埋める施策群) また、 「イノベーションと需要の好循環」を実現するため、供給側の施策に加 えて、規制や制度の見直し、競争政策の適用、基準の制定・見直しなどの環境 整備、普及啓発や政府の率先導入等国民の意識喚起を通じた潜在需要の掘り起 こしに取り組む。 さらに、政府や大企業によるベンチャー企業からの調達は、革新的な商品・ サービスに対する初期需要を創出することにより、経験が浅く資金面でも脆弱 なベンチャー企業に革新的な技術開発等に取り組む大きなインセンティブを付 与する効果があり、こうした観点からも推進していくことが重要である。 71 図 2-2-4.基盤技術と川下産業の関係 基盤技術と川下産業の関係 基盤技術と川下産業の関係 《基盤技術の例》 鋳造技術 鍛造技術 【特徴】 材料に強度等を付 与し、成形する加 工技術 【強み】 ・複雑形状加工 ・後加工不要な高 精度加工 ・超薄肉加工 等 【強み】 ・複雑形状加工 ・高精度加工 ・高生産性 等 【特徴】 素材表面に機能 (導電性、耐熱性、 磁性等)を付与す る加工技術 【特徴】 大量生産向きの加 工技術 【強み】 ・高精度加工 ・新素材・難加工 材加工 ・極薄版の深絞り 加工 等 高強度 ボルト ピストンリング めっき技術 プレス加工技術 【特徴】 特に複雑形状のも のを比較的容易に 作れる加工技術 【強み】 ・高い均質性 ・超微細部品対応 ・超低不良率 等 マイクロ センサ ロッカー アーム 切削技術 【特徴】 工具等により、被 加工物の不要な部 分を除去する加工 技術 【強み】 ・難加工材加工 ・超精密加工 ・複雑形状加工 ・超微細加工 等 ボルト シリコン 加工 精密 歯車 熱処理技術 【強み】 ・高い均質性 ・高生産性 駆動部 ギア 足回り 部品 半導体製造装置 部品 金型設計技術 【特徴】 製品の形状を保ち つつ、高強度・耐 久性等を付与する 加工技術 【特徴】 同一形状の製品を 大量に生産する際 に使用する金型の 製造に係る技術 【強み】 ・複雑形状化 ・超微細化 ・超精密化 ・新素材対応 等 等 その他複合的な技術 (技術の組合せ) 【特徴】 各種基盤技術を組 合せ、高機能部品 を製造する技術 【強み】 ・高精度 ・微細化 ・高生産性 ・・・ 等 工作機械 用カム ドライブ シャフト エンジンブロック 用金型 エンジン、 足回り部品用 ねじ 高精度歯車 カムギア パワーチャック クォーター パネル 配線 基盤 触媒 携帯電話 用金型 ハードディスク 軸受 配線 セパレータ 精密鍛造歯車 燃料電池 燃料電池 情報家電 情報家電 アクチュエータ 用金型 工作機械用 フレーム 輸送機械 輸送機械 ロボット ロボット 一般機械 一般機械 ・・・・・ ・・・・・ ◆川上、川下 材料や部品から組立を経て最終製品ができあがるまでの工程を川の流れのように見て、 材料や部品の製造企業・工程を「川上」、最終製品の製造企業・工程を「川下」としている。 72 3.高度な部品・材料産業、モノ作り基盤技術を担う中小企業の強化 我が国には、最終製品の高度な機能や品質を実現する優れた部品や材料を供 給する産業、レベルの高い製造設備を支える工作機械、計測機器等の関連する 産業が比較的狭い国土に多数、高密度に立地している。これらの産業を支えて いるのは大企業だけではなく、多くは中堅・中小企業である。 こうした産業集積は、自動車や家電等の製造拠点の周辺に裾野産業として形 成され、組立メーカーとの信頼関係を保ちつつも組立メーカーからの厳しい要 求を受けつつ相互の競争力が強化されていった。例えば、我が国経済を牽引す る産業の一つである自動車産業は、高品質の鋼材、部品、製造装置等を扱う産 業が強靱であればこそ成立している。 逆に鉄鋼業にとっては、国内に自動車産業のような厳しいユーザーが存在す ることも大きな強みとして、発展を遂げてきた。ユーザーと供給者が信頼関係 を下に互いに切磋琢磨しながら、国際競争力のある産業が育っていったといっ ても過言ではない。その際、各産業における現場での改良やそれを実現するチ ームワーク、企業間の壁を乗り越えた共同製品開発、国内の目の肥えた消費者 の存在など、狭い国土をうまく活用したとも言える集積を活かしてきた。 また、情報家電分野においても、液晶ディスプレイ用の高品質ガラスやカラ ーフィルターなど材料や部品、あるいは半導体製造装置などで高い国際競争力 を有している。 こうした高度な部品・材料産業や基盤産業をはじめとするモノ作り産業の強 さが、我が国産業の国際競争力はもちろん、近接するアジア諸国の製造業の国 際競争力を支えている。 これらの集積は、企業の国際展開とグローバルな競争が激化する中で、セッ トメーカーとその協力企業という単純直列の系列関係が大きく変化し、取引関 係は多面的に展開し、メッシュ構造化していった。さらに、川上−川下といっ た垂直関係のメッシュ化に加え、川上相互、川中相互、川下相互といった新た な川上−川下間の企業間連携が生まれたことから、川上産業からの提案力が強 化されるなどモノ作りに不可欠な現場レベルでの迅速かつ高度な擦り合わせの 連鎖が生まれている。 こうした結果、企業同士が集積の中で近接して存在し、それぞれの強みを相 互に活かしながら協働すること自体が個々の事業価値を高めている。協働や協 力を簡単に行えるのが日本の産業・企業文化の特色であり、大田区や多摩地区、 東大阪などの産業集積は、世界に誇るべきものと言える。 73 ○中小ものづくり高度化法に基づく施策を始めとした主要な施策 ・ (技術の将来ビジョン) 「モノ作り基盤技術」について、技術を活用して最終製品 を製造する大企業等のニーズを整理し、 「中小企業が目指すべき技術開発の方向性」 を取りまとめた「特定モノ作り基盤技術高度化指針」を策定する。 ・ (研究開発)中小企業と川下大企業等が協力して行う研究開発プロジェクトを資金 面等で重点的に支援する。 ・ (ネットワーク)発注企業のニーズに関する情報の入手に繋がる中小企業と大企業 との「出会いの場」の創設を支援する。 ・ (人材育成)高専等を活用した中小企業の技術者の育成を支援する。産学連携によ る実践的人材育成プログラムの開発を支援する。 ・ (技術承継)個々の熟練技術者に蓄積された生産技術・ノウハウを目に見える形で データベース化し、効率的な継承を促す。 ・ (知的基盤)加工・製造プロセスの精度・信頼性の確保、向上のため、校正事業者 の確保等、中小企業者のための知的基盤の整備等を行う。 ・ (知的財産)全国の商工会・商工会議所を「知財駆け込み寺」として整備し、公的 支援機関に取次を行うほか、知財を中核に据えた企業経営の普及を目的としたセミ ナーを開催する。 ○モノ作り中小企業の国際展開の環境整備に係る主要な施策 1)情報提供・アドバイス ・ 中小企業の進出先に、法務、税務、労務等の経営上の問題についてアドバイスを行 うアドバイザーを常駐させる。 ・ 海外進出を計画している中小企業の F/S(事業化調査)実施の負担を軽減する施策 を講じる。 ・ 短期間で効率的に進出先の投資環境の情報を収集するため、調査ミッションを派遣 する。 2)人材確保、人材育成の支援 ・ 海外に派遣する人材が不足している中小企業の現地人材の確保を円滑化するため の施策を講じる。また、現地人材の育成を更に進めるため、日本国内での研修受け 入れ等の技術協力スキームを強化する。 3)現地制度の改善促進 ・ 現地制度の改善促進中国等に見られる不公正取引等の実態を調査し、当該調査結果 に基づいて、状況の改善に向けた相手国政府等との政策対話を行う。 4)資金面での支援 ・ 海外における設備投資資金、運転資金の確保を円滑化するための施策を講じる。 74 こうした強みが我が国の国際競争力を支えていたが、少子高齢化・人口の減少 や技術の高度化・複雑化などの環境変化の中で、モノ作り人材の不足、研究開 発効率の低下、国内市場の飽和、縮小懸念などの課題が生じており、強みをい かに維持・強化していくかが課題となっている。 我が国が引き続き世界のモノ作りのイノベーションセンターであり続けるた めには、大企業の多いセットメーカーの技術力強化に取り組むことに加え、セ ットメーカーとの確かな信頼関係に基づいて最終製品の競争力の鍵を握る高度 な部品・材料産業や、これを支えているモノ作り基盤技術を担う中堅・中小企 業の強化を同時に図ることが重要である。 また、例えば汎用品分野を始めとして中小企業の積極的な国際展開が必要な分 野については、国際展開のための環境を整備することにより、我が国産業の競 争力の強化とアジア規模での効率的な生産ネットワークの追求など産業構造の 高度化を図っていくことが重要である。 〔具体的施策〕 ①高度な部品・材料産業の強化 ○ 高品質・高性能な部品や高精度な加工技術を提供する高度な部品・材料産業 は我が国経済発展の基盤となる産業群であり、その強化を図る。具体的には、 高度な部品・材料分野の技術戦略マップ等を活用しつつ、ユーザー企業と垂 直連携による研究開発などを引き続き推進する。 ②モノ作り基盤技術を担う中小企業の強化 ○ 我が国製造業の強みの源泉である、鋳造、プレス加工、めっきなど「特定モ ノ作り基盤技術」を高度化し、「擦り合わせ」によるイノベーションの促進 と我が国製造業の国際競争力の強化を推進するため、中小企業のものづくり 基盤技術の高度化に関する法律案(以下、中小ものづくり高度化法)の制定 を始めとして、総合的施策を強力に推進する。 ③モノ作り中小企業の国際展開のための環境整備 ○ 汎用品製造を中心としたモノ作り中小企業の海外進出を円滑化するため、海 外進出に係る不測のリスクを軽減するための環境整備を行っていく。 1)情報提供・アドバイス 2)人材確保、人材育成の支援 3)現地制度の改善促進 4)資金面での支援 75 図 2-2-5.更なる対日直接投資促進に向けた新たな目標 本年 3 月 9 日に行われた対日投資会議において、対日直接投資残高を 2010 年までに対 GDP 比倍増となる 5%程度とすることを目指すという新たな目標を設定。 対日直接投資残高(兆円) 40 (%) 40 対内外直接投資残高/GDPの国際比較 34.3 30 30 24.5 26.4 新目標 20 12.8 9.9 10 1.9 加速化 0 日本 20 米 英 独 仏 EU全体 倍増計画の目標 13.2(GDP比2.5%) 10 9.4 9.6 10.1 6.6 0 2 00 1 2 00 2 2 00 3 200 4 2 00 5 20 06 20 07 (注1)2005年から統計変更。新目標はそれを踏まえた値 2 008 20 09 2 010 (年) (注2)「構造改革と経済財政の中期展望−2005年度改定(案)」の成長率をもとに試算 <対日直接投資の事例> ○研究開発・イノベーション基盤の強化につながっている事例 −仙台フィンランド健康福祉センタープロジェクト(宮城県仙台市) ・ 仙台市は、フィンランドが優位性を持つ北欧型福祉と IT 分野での先進性を融合させ た健康福祉産業分野における新産業創出を目的として、2002 年から同国家プロジェク トとの連携を開始。2005 年 3 月に開設された「仙台フィンランド健康福祉センター」 を拠点に仙台及びフィンランドの企業、学術研究機関による共同研究や行政機関によ るマッチング支援等が実施され、既に個別企業の業務提携やフィンランド企業の誘致 等に成功。 ・ このプロジェクトにより仙台市に 2004 年に設立された福祉 A 社は、フィンランド型 介護施設の研修事業を企画するなど、成長分野である健康福祉機器産業の育成による 仙台市の産業競争力強化、地域経済との関係を重視した高齢者福祉の高度化に貢献が 期待される。 ○新しいサービスがもたらされた事例 −広告 B 社(岡山県岡山市、神奈川県横浜市、愛知県名古屋市、兵庫県神戸市) ・ フランスの広告 C 社と商社 D 社が共同出資した広告 B 社は、国土交通省及び警察 庁に規制緩和(バス停留所の上屋に壁面を設置し、広告として利用することを解禁) を働きかけ、その結果、日本で初めて広告パネル付きバス停を設けるサービスの提 供を実現。 ・ 洗練されたデザインの屋根・壁付きの広告付きバスシェルターの設置費用、その快 適なバス停の管理費用は広告代でカバーし、バス停の管理に関する自治体の財政負 担は不要とするという、新たなビジネスモデルにより、広告主・バスの利用者・地 方自治体やバス事業者のすべてにメリットをもたらした。 ○地域の産業基盤の強化、地域経済・地域企業の活性化につながっている事例 −製造 E 社(福岡県北九州市ほか) ・ 世界最大の自動車用燃料タンクの製造メーカーF 社(仏)は、日本の自動車産業への 販路開拓のため日本に進出。2000 年に自動車 G 社(日)の生産工程の一部(2 工場) を譲り受け、燃料タンクの設計、開発、販売を手がける。G 社との取引を継続しつつ も、他の複数の自動車メーカーの海外工場への供給にも成功。2003 年には北九州市に 新たな工場を建設(投資額約 14 億円) 。従業員は 115 名から 180 名体制に増加。世界 的な燃料タンクメーカーの進出により、北九州の自動車産業の集積に厚みが増した。 76 4.対日直接投資の一層の促進に向けた取組の強化 我が国の対日直接投資は近年着実に増加しているものの、経済規模に照らす と、欧米諸国との間では依然として大きな格差がある。 グローバル化の進展の中で、我が国が世界のイノベーションセンターとして の地位を獲得していくためには、海外からの投資や人材の一層の受入れを進め、 海外の新たな技術や革新的なノウハウ等を取り込んでいくことも重要である。 政府としては、本年 3 月 9 日、対日投資会議において、 「対日直接投資残高を 2010 年までに GDP 比倍増となる 5%程度とすることを目指す」との目標を決定した ところであり、その着実な達成を目指す。 また、特に、我が国は、外国企業の販売拠点としてのみならず、研究開発拠 点や地域統括拠点、物流拠点等としての位置付けを高めつつ、対日直接投資を 我が国のイノベーション能力・国際競争力の強化や、地域経済の活性化等につ なげることも重要であり、こうした「質」的側面にも着目した施策を展開する。 〔具体的施策〕 ①我が国・地域にとって意義の高い投資を誘致し根付かせていくための取組み 1)投資先としての我が国・地域の魅力の向上と一体となった誘致活動の展開 (我が国・地域の投資先としての魅力向上に向けた取組) ○ まず、外国企業の研究開発拠点、地域統括拠点等としての我が国・地域の魅 力・競争力を高めるべく、今後、優れた教育・研究開発体制の整備とその国 際化、優秀な高度人材の確保、産業クラスターの国際化推進等の取組を積極 的に進める。 (戦略的な投資誘致活動の推進) ○ こうした取組と併せて、以下のような投資の誘致に積極的に取り組む。 ・ 研究開発拠点の立地等、イノベーション基盤の強化につながる投資 ・ 生産性や質の向上につながる新たなサービス・商品をもたらす投資 ・ 地域の産業基盤の強化や事業再生、地域活性化につながる投資 ・ アジアのゲートウェイ・統括拠点としての投資 等 2)意欲ある地域への支援と、外国企業への支援体制の整備 (地域の発意に基づく対日投資のための規制緩和の実現) ○ 投資誘致に意欲ある地域の取組を促す観点から、外国人の入国・在留規制等、 投資誘致の阻害要因となっている規制の緩和を一層推進すべく、構造改革特 区制度の活用等も含め、具体的方策を検討する。 77 −観光 H 社(北海道虻田郡倶知安町) ・夏冬が逆で時差のないオーストラリアから、良質の雪でスキーが楽しめる北海道への観 光客が近年増加していることを背景に、豪州資本の H 社は日本に子会社を設立。2004 年 にニセコのスキー場等を不動産 I 社(日)より約 5 億円で買収し、昨シーズンより営業を 開始。今後 15 年間で 500∼600 億円の投資を行い、周辺に 8,000 人分の宿泊施設(温泉等) を整備予定。年間 17 万人の利用客を見込んでいる。 図 2-1-6.外資系企業が対日直接投資の増加に非常に効果的であると考える政策 税負担の軽減 2 6 .6% 対日直接投資手続の改善 1 1 .3% 商法等の制度改革 11 .0 % 労働市場の改革 1 0 .2 % 公的な低金利融資 8 .8 % 入国在留関係制度の改善 8 .2 % 合併等対価の柔軟化の実現 6 .8 % 構造改革特区の推進 6.2 % 年金協定の締結 5 .9 % 外国人の生活環境整備 5 .7 % 投資 環 境 に関 す る広 報 等 5 .7 % 積極的な誘致活動 5.1 % 0% 5% 10% 15 % 20 % 25% 3 0% (出所)JETRO「第 9 回対日直接投資に関する外資系企業の意識調査」(2004 年 5 月) ・ 上記は、「対日直接投資を増やすためには、どのような政策を実施すれば効果があ ると考えるか」という質問に対し、「非常に効果的」と回答した企業の割合。 ・ 在日外資系企業(外資出資比率が 3 分の 1 以上)2,684 社を対象としたアンケート調 査。回答企業数は 353 社。 図 2-1-7.外資系企業と全企業の一人当たりの経常利益額の比較 外資系企業と全企業の1人当たりの経常利益額の比較 (百万円) 5 1人当たりの経常利益額(全企業) 1人当たりの経常利益額(外資系企業) 4 3 2 1 0 1997年度 1998年度 1999年度 78 2000年度 2001年度 (地域への投資誘致へのシームレスな支援体制の整備) ○ 地域への外国企業の誘致から進出、事業の立上げ・拡大まで円滑に進むよう、 JETRO や地方自治体、地元経済界、中小企業支援機関等との連携による地域 に進出する外国企業の誘致・支援体制の充実や、新連携等の施策も活用した 外国企業と地域・中小企業との連携の一層の推進を図る。 (「対日投資ナビ(仮称)」の作成) ○ 地域の投資関連情報(産業集積情報、研究開発機能の集積、インフラ、エキ スパート情報等)を整備し、投資家が欲する内容に合わせ、情報をより充実 させていく投資家オリエンテッドなウェブサイトを構築。 ②投資環境の一層の整備 (法人実効税率や国際課税制度の見直し) ○ 諸外国と比べて高く、特に低税率のアジア各国との格差が大きい我が国の法 人実効税率の引下げや、租税条約の推進等国際課税制度の見直しを進める。 (国境を越えた M&A の円滑化) ○ 外国企業と国内企業との国際的な M&A を円滑にする観点から、親会社の株 式等を対価とした合併等(三角組織再編)の円滑な施行に向け、必要な制度 整備を進める。 (国際物流・人流の効率化等) ○ 羽田空港における国際定期便の受入れ、港湾機能の強化等、国際物流・人流 の効率化等に向けた取組を進める。 (サービス分野等における投資環境の整備) ○ PFI の改善等による公共サービスにおける民間活力の一層の活用、医療機 器・医薬品の承認審査手続の改善等を通じ、サービス分野等への投資環境の 整備を図る。 (投資手続きの改善、情報提供等の推進) ○ 投資手続きの円滑化や、法令等の英訳化・情報提供を一層推進する。 ③内外への情報発信・PR の強化 ○ 我が国の投資先としての魅力や投資歓迎姿勢等を更に強力に海外へと発 信・PR するため、トップセールスの実施、投資ミッションの派遣、国際的 な投資カンファレンスの開催、在外公館の一層の活用、JETRO 等を通じた PR 活動の強化等を行う。また、観光振興等との連携を図る。 ○ 併せて、対内直接投資の意義に関する国民理解を深め、国民各層の意識改革 を進めるべく、統計の整備とともに、対内直接投資の効果等の調査分析や投 資の成功事例等に関する情報提供等の充実を図る。 79 <農林水産物の輸出促進> ・ 2005 年 6 月、官民の関係者で構成される農林水産物等輸出促進全国協議会(名誉 会長:農林水産大臣)は、農林水産物等輸出倍増行動計画(2004 年の約 3 千億円 から 5 年間で約 6 千億円に倍増する目標)を策定。 ・ 農林水産省を中心に輸出促進のための総合的な施策を講じており、経済産業省でも、 JETRO を通じて、農林水産・食品産業事業者の海外市場への販路開拓への取り組 みを支援(相談、海外見本市出展支援等)。 <観光立国へ向けた取組> ・ 観光立国推進戦略会議の提言、ビジット・ジャパン・キャンペーン(2004 年 11 月 ∼) ・ 外国人旅行者の訪日促進の意義としては、①グローバル化が進む中での国際相互理 解の促進、②経済活性化への波及効果、③地域の魅力の再発見、自信と誇りの醸成、 などが挙げられる。 <「新日本様式」> ・ 「我が国の伝統文化をもとに、今日的デザインや機能を取り入れて、現代の生活に 相応しいように再提言」する新しい日本ブランドである「新日本様式」の取組を最 大限活用。 ・ 活動の母体となる民間による「新日本様式」協議会が本年 1 月に設立している。 <感性と技術の融合を通じたファッションの創造と発信> ・ ファッション産業の国際競争力強化のため、価値の源泉である感性と技術の融合を 促進する創造的な産業集積を形成するとともに、国際市場開拓のための発信拠点を 国内に整備する。このため、日本ファッション・ウィークを核としたファッション 発信機能を強化するとともに、素材と製品双方の企画・製造・販売機能を強化し、 事業創造を促すため、人材育成や企業間連携を促進する。 <世界的評価を獲得できるブランドを構築> ・ 「世界で通用しない BRAND は BRAND ではない」との共通認識の下、世界的評価 を獲得する真に世界で通用する GLOBAL BRAND の確立を目指す。 ・ 業種毎(家具、文具、宝石等)にトレンドセットされるハイエンドな国際展示会を ターゲットに、JETRO 等のノウハウを活用し、企業単位で選定を行った製品を出 展していく。 ◆トレーサビリティ 食品や製品の生産・流通履歴を明確にすることで、その食品や製品の安全性を証明した り、あるいはより正確な在庫管理を行なうこと。 ◆コンテンツ 人間の創造的活動により生み出されるもののうち、教養又は娯楽の範囲に属するもの。 具体的には、映像(映画、テレビ、アニメなど) 、音楽、ゲーム、出版・新聞等。 80 5.内需依存型産業の国際展開 先端産業のみならず、農産物や食品、観光、ファッション、日用品、鉄道シ ステムなど、これまでともすると内需依存型産業とされた産業が国際進出を目 指すようなビジネスモデルについても、積極的に推進することが重要である。 また、新たな日本ブランドを確立することで、我が国産業が有する潜在力を最 大限に発揮し、総合力としての我が国の魅力を高めていくことが重要である。 人口減少社会にあって国内では縮小する可能性がある内需依存型産業も、成長 するアジア全体を市場として捉えれば、成長の戦略を描くことも可能である その際、優れた国際展開の事例も参考に、地域の持つ特色、我が国の伝統、 感性と技術、安全・安心など、我が国独自の魅力・強みを活かすような施策が 重要である。 〔具体的施策〕 ・ 農林水産物・食品の輸出拡大(トレーサビリティ、国際マーケティング 強化) ・ 海外観光客を引きつける価値/コンテンツの提示とマーケティング、産 学官連携 ・ 車両と運行・保守をセットにした鉄道システムの輸出拡大(新幹線、都 市鉄道) ・ 先端技術や技能と伝統美や技を融合した新たな日本ブランドである「新 本様式」の活動を積極的に推進 ・ 感性と技術の融合を通じた魅力あるファッションの創造と発信 ・ 世界的評価を獲得できるブランドの構築 81 82 第 3 節.IT による生産性向上 83 図 2-3-1.主要先導的な IT 投資の事例 ○製造業A社 【IT投資の内容】サプライヤーの部品開発計画をデータ ベース化し、取引先と設計から販売までの情報を共有 【IT投資の効果】旬の部品情報を共有し、結果として部 品点数の大幅削減(35→3千点)、在庫の削減、部品供 給の安定化、開発期間の短縮を実現 ムダな費用の発生 開発期間の遅れ 従来の方向 購入価格の低減不能 部品打切 買溜め 在庫費用 (在庫金額、倉敷料・・) 破棄費用 代替部品 PWB改版 改版費用 再評価 評価費用 開発が阻害 未然防止の 最大のポイント 部品打切にならないものを選択すればよい その為に 旬の部品情報の収集、DB構築 した事 集約化(35000点→3000点) 在庫低減 部品供給安定化 ・高機能、且つ適価な フューチャーベスト部品を 上手に選択 ・入手性の向上 S C M 開発期間短縮 3千点/3千種類超のPCB サプライヤーも歓迎 品質向上 Fコスト低減 <参考> 製造業 A 社は 1992 年ごろから、従来のアナログコピー機に変わるデジタルコピー機の開 発を本格化させた。これに合わせて、原価要素の1つである PCB(電子回路基盤)のコス ト増加をいかに抑えるかが課題の1つとなった。また多種多様な電子部品の市場サイクル は一般的に 3 ヶ月から長くても 6 ヶ月のものが多く、こうした早い市場サイクルのなかで、 必要十分な量の電子部品調達を実現することが量産化における必須の達成課題であった。 その一方で、製品開発は量産化に至るまで 2 年程度を要する。前述の部品のライフサイク ルとのギャップを埋めるためには、部品の買いだめや代替部品の使用で対応せざるを得ず、 在庫の保管、過剰在庫の廃棄、代替部品の評価などに莫大な費用と開発工数を費やしてい た。 同社は、このような部品の買いだめや代替部品の適用による無駄を排除するために、設 計の上流の段階で、量産時を想定した最良の部品を特定できるよう、部品開発情報を集約 した統合グローバル・データベースを構築した。データベースには 2 年先の部品の開発計 画まで収められており、同社は完成品の量産化のタイミングに併せて「開発打ち切りにな らない」高機能かつ適価な部品を開発段階で選定することが可能となった。同時に、部品 の見直しも行い、過去 3 万 5,000 点も存在していた部品情報が、現在約 3,000 点の「推奨部 品」にまで集約されている。サプライヤー数も 354 社と散在していたものが 100 社にまで 絞り込まれ、現在はそのうちの 30 社で約 80%の購入量をまかなっている。 なお、データベースには代理店からの価格情報が随時更新されており、購買部門はデー タベースを参照することにより、リアルタイムにかつグローバルベースで最安値による部 品調達が可能となった。 このアプローチのポイントは、データベースを駆使した情報の標準化・共通化・集約化 の徹底にあり、具体的効果として、部品価格の低下、部品在庫の削減、開発期間の短縮な どの実現を通じて、量産時の価格競争力に貢献している。 (出所:経済産業省「CIO の機能と実践に関するベストプラクティス懇談会」報告書、平成 17 年 11 月) 84 第2章 第3節 国際競争力の強化(国際産業戦略) IT による生産性の向上 (IT による日本型擦り合わせの強化(IT をテコとする経営の改革)) IT の普及はモジュール化を促進する、あるいはモジュール化を前提とした産 業にとって、より効果が大きいという見方があったが、我が国が得意とされる 「擦り合わせ」型の産業構造の強さ、すなわち、上流と下流の密接なコミュニ ケーション・ネットワークを前提とした産業においても、IT を活用することに より可視化・擦り合わせの効果を高め、競争力の強化に貢献する事例が見られ るようになってきている。 これを可能とするためには、技術としての IT の導入にとどまらず、業務の可 視化、徹底的な合理化・見直し、及び全体最適の実現が不可欠である。しかし ながら、我が国企業における IT の活用の「質」は、70%以上が「部門の壁」を 越えられない「部分最適」であるのが現状であり、IT 活用の可視化・擦り合わ せも不十分である。IT 投資の生産性上昇への寄与は米国と比べて低く、特に、 非製造業において顕著である。今後、IT の有するポテンシャルを最大限に発揮 させるためには、経営ビジョンの明確化、事業・組織の改革等を伴う「IT 経営」 の実現による「全体最適化」が不可欠となる。 (IT 活用による経済・産業活動へ の参加) ブロードバンドの展開や技術の進歩を背景としながらも、テレワーク等の普 及、柔軟な就労の展開は十分でない。IT の活用は、高齢者、育児中の親、女性、 障害者、要介護者等の経済活動への参加を円滑化することが期待できる。こう した柔軟な就業の展開は、労働力人口の拡大につながり、経済成長を支えるこ ととなる。 85 図 2-3-2.IT 化のステージ 情報システムを 取引先・ 顧客等関係者も含め ﹁ 企業を越えて﹂最適に活用 ﹁ 企業﹂ の壁 情報システムを ﹁部門を越えて﹂ 企業内で最適に活用 ﹁部門﹂ の壁 情報システムを 部門内で活用 情報システム の導入 第四段階 企業間最適 第三段階 企業内最適 第二段階 部門内最適 第一段階 情報システムの導入 6% 68% 24% (※ 米国で41%) 2% (※ 米国で11%) 出所: 経済産業省「IT投資促進税制に関するアンケート調査」(平成17年8月) ガートナー「IT投資動向に関する海外調査」(平成17年8月) 図 2-3-3. IT 投資と生産性上昇の相関係数 日本 米国 製造業 非製造業 0.19 0.35 0.03 0.41 (出所)JCER データベース 米商務省"Fixed Assets Tables''、"GDP by Industry Data'' ◆部分最適 ある狭い範囲(見える範囲、考えられる範囲、できる範囲)でシステムの効率性などを 最適にすること。 ◆全体最適化 部分最適とは異なり、視野を広く持ち、全体を見て最適化すること。 86 (IT による生産性の向上を支える産業・基盤の確保) ①IT 産業の強化 生産性の向上に向けて IT を活用するためには、我が国 IT 産業による質の高い 製品・サービスの提供が必要となるが、厳しい国際競争環境下、低水準の収益 力しか有しない企業が多いのが現状である。そのため、更なる選択と集中を促 進するとともに、製品、サービスの質を向上させるためのコア領域の技術開発 を行うことが不可欠である。 ②IT 人材の充実・強化 我が国の IT 人材の育成基盤の整備は立ち後れており、産業界が求める即戦力 となるスキルは、大学で培われる状況ではない。また、 「IT 経営」を実現するた めに必要な人材があらゆる分野で不足している。IT を専門とする人材のみなら ず、IT をツールとして活用できる人材の育成が急務となっている。 ③市場環境の整備 1)競争性・透明性の高い市場 我が国の IT 製品の取引は、官公庁調達に多く見られるように、ユーザーとベ ンダーとの役割分担・責任分担が不明確である等不透明性が高い。生産性の高 い IT の活用を実現するには、市場の透明化を促すことにより、競争の質・情報 の質を高めることが不可欠である。 2)安心・安全な取引基盤 IT は、今や社会経済を支える「神経系」であり、生産性向上に向けた IT 活用 を実現するためには、情報基盤を安心・安全に利用できることが不可欠である。 具体的には、事業主体にとっての情報セキュリティの確保と、利用者・消費者 にとっての安心・安全の確保が不可欠となっている。 87 図 2-3-4.実務との乖離が指摘される我が国の大学等における高等教育 実務との乖離が指摘される我が国の大学等における高等教育 ■ 大学では基礎・理論的科目(計算機科学・プログラミング入門等)が多く、より実務に即した応用的科 目(データベース・オペレーティングシステム・ソフトウェア工学)は扱われていない。 ■ 産業界が求める即戦力となるスキルは、大学では培われる状況にない。 授業(講義・演習) で勉強した 授業(講義・演習)、 及び自分で勉強した 自分で勉強した 勉強せず 計算機科学 プログラミング入門 形式言語とオートマトン 基礎・理論 ネットワーク工学 プログラミング言語論 情報数理科学 データベース 応用的科目 オペレーティングシステム ソフトウェア工学 0% 20% 40% 60% 80% 100% (出所: 経済産業省、「情報系学科卒業生の活動状況調査」、2004年3月) (出所: 情報サービス産業協会、「2005年度 情報サービス産業白書」、平成17年) 図 2-3-5. 委託先と円滑な協力関係を築くために重要と考える点 [ポイント] 0 200 400 600 800 905 仕事の進め方の標準化(共通のタスク定義) 616 対等な立場での相互の役割分担 280 ユーザー・ベンダー共通の価格基準 104 第三者(コンサルタント、コーディネーター)の介入と支援 119 成功報酬制の契約の導入 その他 1000 21 ※ポイントは、企業のIT部門(977社)に対して、委託先と円滑な協力関係を築くために重要な点2つを選択し てもらい、1位を2点、2位を1点として加重平均したもの 出典:「企業IT動向調査 報告書2005年版」社団法人日本情報システム・ユーザー協会 ◆テレワーク 情報通信機器等を活用し時間や場所に制約されず、柔軟に仕事を行う働き方。 ◆CIO Chief Iinformation Officer。企業の経営戦略と IT 投資の橋渡しを行い、企業内の情報シス テムや情報の流通を統括する担当役員。 ◆ベストプラクティス 最も効果的、効率的な実践の方法。または最優良の事例。 88 1.生産性の向上をもたらす IT IT による生産性の向上を加速させるべく、IT 投資の「質」の向上と「量」の 充実、社会参加を促す IT の活用に向けた、「IT 生産性向上運動」を支援し、経 済成長を加速化する。 <今後 5 年間の「IT 生産性向上運動」> ① IT 投資の質については、情報システムの導入という第一段階、情報システムの高 度利活用により部門内最適化を図るという第二段階をさらに推し進め、企業内全 体最適(第三段階)から企業間全体最適(第四段階)まで達成した企業の割合を 米国水準以上とする。 ② IT 投資の量については、現在の 5 割以上増加した水準とする。 ③ IT による経済・産業活動参加を促し、テレワークを就業者人口の 2 割以上とする。 〔具体的施策〕 ①世界トップクラスの「IT 経営」の実現 1)「IT の戦略的導入のための行動指針」の策定 日本のベスト CIO から聴取したベストプラクティスを体系化の上、IT 投資 の動向等を踏まえて内容を更に具体化し、我が国の IT 経営の教科書として定 着を目指す。 2)「IT 経営力指標」(仮称)の策定と「IT 経営力格付け」(仮称)としての試 行 上記「行動指針」を指標化し、公表する。これをもとに、企業の「格付」 を試行する。これにより、 ⅰ)企業規模別、業種別等の IT 利活用のレベル(「IT 経営力」)を客観的に 把握、我が国企業と米国、韓国等との国際比較を実施し、 ⅱ)「IT 経営力」と企業業績等との関係を分析するとともに、 ⅲ)各企業に IT 利活用による生産性向上のための指針・効果測定手法等を 示す。 これらより、我が国 IT 経営の現状と課題をあぶりだし、企業の経営層によ る自覚的な取組に「気づき」を与え、サポートする。 3)「IT 経営大賞」(仮称) IT を活用して優れた経営を実践している企業を大企業分野及び中小企業分 野毎に表彰し、それぞれのベストプラクティスとしての普及を促進すること により、我が国企業全体の IT 活用水準の向上を促す。 ②IT 投資の促進 平成 18 年 4 月より導入・拡充された「産業競争力のための情報基盤強化税 制」及び「中小企業投資促進税制」の活用により、部門間・企業間の情報共 有・活用が促進されるよう、徹底した広報普及活動を行う。 89 ◆イコールフッティング 対等の立場・条件の下におくこと。 ◆データ・マイニング 企業などに大量に蓄積されるデータを解析し、項目間の相関関係やパターンなどを探し 出す技術。 ◆知的情報アクセス 利用者の知的欲求を満たす、各人の特性に合った情報を入手すること。 ◆情報システムユーザースキル標準 ユーザー企業における情報システム機能を経営的観点から体系的に整理し、従来、可視 化されていなかったユーザー企業の情報システム機能の調達、評価、利活用にかかる必要 なスキル・知識を一覧化したもの。 ◆情報経済社会 情報処理のデジタル化と高速ネットワークの普及により、大量の情報を利用することが 容易となり、その活動が経済活動、社会活動において重要な位置づけを占めるに至った社 会のこと。 ◆電子タグ(RFID) 電波を使って、IC チップに記録された個体識別を自動的に行う技術の総称。 90 ③IT による人材の意欲・能力の活用 企業内制度や労働関連法令・ガイドラインの更なる見直しを図るとともに、 情報セキュリティの確保等、テレワークの具体的な成果、課題を官民で共有し、 ベストプラクティスの共有を促進するための取組を推進する。 ④電子政府の推進 行政サービスに係る国民の利便性の向上と行政運営の簡素化、効率化、高度 化及び透明性の向上を図る観点から、行政分野について、IT の活用に合わせ て、外部委託等により業務の効率化を図る。 2.IT 産業の強化・基盤の確保 〔具体的施策〕 ①IT 産業の強化 1)情報家電、コンテンツ等基幹産業の育成 コアデバイス等の研究開発や「ネット KADEN 大賞」等の情報家電の普及 施策を通じて、新産業創造戦略を着実に実施する。 情報家電のネットワーク化の進展と、 「放送と通信」による流通の多様化に 伴うインターネット配信等の拡大が相まって、情報家電等のハード、コンテ ンツ等のソフトを合わせた市場の拡大及び経済成長への貢献が期待される。 グローバル市場、特に中国・ASEAN・インドでのビジネス拡大に加え、地 域特性を踏まえた生産国の多様化等に戦略的に対応することにより、グロー バルな生産の最適機能分業の構築を行うことが重要な課題となっている。こ うした企業の活動を支援するために、国際的にイコールフッティングな税制 の整備や日・ASEAN EPA の実現等の環境整備を図る。 2)「IT 経営力強化型技術開発」 (仮称)の支援 大量かつ多様な情報処理、データ・マイニング等の観点からの「知的情報 アクセス」の技術開発など、情報活用力の強化に資する技術開発を支援する。 ②IT 人材の充実・強化(専門人材育成支援) 「専門職大学院」設立支援、情報処理技術者試験制度の改革、情報システム ユーザースキル標準の策定・普及等により、質の高い IT 産業を支える人材育成 を促進。 ③市場環境整備 1)競争性・透明性の高い市場 ⅰ)我が国の IT サービス市場の約 2 割を占める官公庁調達の改革などによ り、民間市場を含めた取引全般において、ユーザー・ベンダー間の適切 な役割分担、適切な会計制度の整備、取引の透明性の向上等を促進する。 ⅱ)情報経済社会におけるイノベーションの原動力として重要な役割を果 たすようになっている知識共有・協同的な取組を促進する。 ⅲ)流通効率化や新サービスの創出を通じた産業競争力の強化を図るため に電子タグ等の新しい IT 技術の普及に向けた基盤を整備する。 91 ◆電子債権 電子的な方式で権利の発生、譲渡等が行われる「新しい金銭債権」であり、その導入に より、売掛債権の流動化の促進等に資するものと期待されている。 92 2)安心・安全な取引基盤 ⅰ)セキュリティ関係投資の支援 「産業競争力のための情報基盤強化税制」(再掲) 平成 18 年 4 月より導入された本税制の活用により、高度な情報セキュリテ ィが確保された情報システムの導入が促進されるよう、徹底した広報普及活 動を行う。 ⅱ) 「安心・安全な情報経済社会の実現のための行動計画」の実施と、定期的 な見直し 情報基盤の利用者が、安心・安全に IT の潜在力を活用できるよう、産業 構造審議会 商務情報基本問題小委員会で本年 3 月に策定された「安心・ 安全な情報経済社会の実現のための行動計画」に基づき、政府として具体 的な対応を図るとともに、事業者による適切な対応を促す。また、同計画 の内容及び実施状況を毎年見直し、 「安心・安全」な環境の実現に向けた官 民の取組を促進するとともに、同計画を根底から支える情報セキュリティ の確保のための取組を推進する。 ⅲ)情報システムの開発・運用ガイドラインの策定 経済活動が情報システムにより深く依存するようになってきている中、 最近の東証システム不調の事例のように、その安全や安心の確保が重要な 課題となっている。このため、情報システムの信頼性を高めていくための ガイドラインを、早急に策定する。 3)IT を活用した次世代産業金融インフラの構築 電子的手段による債権譲渡の推進を図る「電子債権法(仮称) 」の制定によ り中小企業等の資金調達環境を整備すると共に、電子債権市場の構築を図る。 93 94 第 3 章 地域経済の活性化(地域活性化戦略) 第 1 節.地域活性化のための政策 95 図 3-1-1 2005 年 11 月都道府県別有効求人倍率(出典:一般職業紹介状況) 各地の有効求人倍率を見ると、地域によって格差が存在する。 特に有効求人倍率が低い地域 有効求人倍率 (%) 1.0 0.9 0.8 0.7 0.6 0.5 図 3-1-2 都道府県別有効求人倍率(上位 5 都県、下位 5 道県)(出典:一般職業紹介状況) 有効求人倍率の上位の都道府県は景況によって倍率に大きく変動がある 有効求人倍率推移(上位5都県、下位5県) 2.6 愛知 2.4 2.2 福井 群馬 2.0 1.8 三重 東京 1.6 1.4 全国 1.2 秋田 1.0 鹿児島 0.8 0.6 0.4 高知 青森 沖縄 0.2 0.0 H2 H3 H4 H5 H6 H7 H8 H9 H10 96 H11 H12 H13 H14 H15 H16 H17 第3章 地域経済の活性化(地域活性化戦略) 人口減少下での新しい成長を実現するため、国際産業戦略と並ぶ二本柱の一つとして 新しい発想で地域経済の発展を図る「地域活性化戦略」を推進する。 人口減少と急速に進む少子高齢化は、地方においてより加速されて進むものと推測さ れており、地域の豊かさに大きな格差をもたらす。また、経済のグローバル化は、地域 の経済格差を一層拡大することとなる。これまでは、 「国土の均衡ある発展」という大 目標の下に、公共事業政策、農林水産業対策などが展開され、地域の雇用、所得、税収 など「地方経営」を支えてきた。特に不況時に大幅増額される公共事業が建設業の振興 等を通じて、地域経済の落ち込みを下支えし、地方交付税や補助金等が地方自治体の財 政力格差を緩和する機能を果たしてきた。地方分権、国・地方を通じた財政再建、「官 から民へ、国から地方へ」を基本的な考え方とする構造改革が進められる中で、従来の 発想や政策とは異なる地域活性化のための政策を展開することが重要である。 地域経済の活性化を図るためには、地域資源を活用した地域産業の新たな取組に対す る総合的支援、地方自治体の自立的安定的な地域経営のための基盤整備、地域を支える 人材育成など、総合的に地域活性化のための政策を推進することが必要である。また、 中小企業は、地域において広い裾野を形成し、地域の経済と雇用の大宗を支えている。 こうした多数の中小企業の活性化なくして、地域経済が活性化することはないと言って も過言ではなく、地域中小企業への支援が必要である。さらに、地域経済において重要 な位置を占めるサービス産業が、製造業とともに我が国経済成長の「もう一つのエンジ ン」となるよう、その発展基盤を整備していくことが必要である。 第1節 地域活性化のための政策 少子高齢化と人口減少社会の到来、グローバル化と国際競争の激化など、我が国経済 を取り巻く環境は大きく変化している。地域経済も、現状のままであれば、国・地方を 通じての財政制約が強まる中、地域間格差は更に拡大し、我が国全体が一定のバランス を保って発展していくことは困難となってくる。日本経済全体としてみれば景気が改善 しているにもかかわらず、地域の景況格差は少なくない。今回の景気回復は、輸出や設 備投資の増加など民需を中心とするもので、これまでとは異なり、不況対策としての公 共事業の出動がなく、財政再建の一環として公共事業予算の削減が継続していることが 影響している。また、不況時にも好況時にも大きな変動がなく、常に厳しい状況に置か れている地域が少なからず存在している。こうした地域間格差は、構造的なものとなっ ている。今後、地域の総生産額と人口は、地方特に現在人口規模が小さいところで、2015 年頃から大きく減少すると予想され、現状のまま対策を講じなければ、人口と経済の両 面で地域間格差は拡大すると見込まれる。 97 98 国は、国際競争力強化策を積極的に講じ、ロボット、燃料電池等の次世代のリーディ ング産業の発展を図るとともに、地域においても、国際競争力のある優れた産業や企業 を戦略的に育成し、地域経済を支える努力を行っている。しかし、広く地域経済の活性 化を図るためには、これらの国際競争力強化策を充実するだけでは十分とは言えない。 地域は多様であり、歴史や文化・伝統を含む地域資源を活用し、各地域が創意工夫する 余地も大きい。少子高齢化、人口減少社会の下では従来のような国土の均衡ある発展を めざすことは困難であるが、地域間格差を過度なものとしないためにも、意欲のある地 域が、その地域資源を活用して特色のある発展を実現してゆくことが重要であり、地域 経済、地域産業を自立的に活性化させようとする取組を積極的に支援していくことが必 要である。 有力企業が工場を海外に移転することにより、地域の雇用や関連中小企業が深刻な影 響を被り、地域経済が一挙に縮小する「産業の空洞化」現象は、最近でこそ少なくなっ たものの、産業構造の変化やグローバル化が地域経済に及ぼす影響については、今後と も留意が必要である。工場の「国内回帰」という流れの変化をとらえて、主力産業であ る自動車、電機、電子等の工場を誘致し、また、次世代の先端産業の育成に取り組むこ とで地域の活性化に成功している地域、地方自治体も少なくないが、すべての地域、地 方自治体がこのようなアプローチをできるものではない。地域活性化の主役たる地方自 治体は、地域の人材、インフラ等の資源を十分に見極め、企業誘致や施設整備という従 来の手法のみに限定せず、新しい発想に基づいて、地域の特色ある産業構造に立脚した 中長期の産業振興策を確立し、総合的な地域戦略を持つことが重要である。特に市町村 での取組の強化が不可欠である。欧米においても、国が国際競争力強化の観点から産業 政策を実施する一方、地域でも地域活性化の観点から産業振興を行い、両者の相乗効果 により、産業競争力の向上と地域活性化の同時達成を目指している。日本においても、 地方自治体が産業振興を積極的に行いうるような支援策と制度整備が必要である。 99 ◆観光 自由時間活動の中で、特に日常生活圏を離れた移動活動を伴う活動の総称。 (「レジャー白書」か ら抜粋) ◆インキュベーション施設 創業間もない企業等に対し不足するリソース(低賃料スペースやソフト支援サービス等)を提供 し、その成長を促進させることを目的とした施設のこと。 100 1.複数市町村圏で推進する地域産業活性化策 地域の産業振興、経済活性化策は、市町村単位ではなく、場合によっては、県境を 越えて経済的社会的に一つのまとまりをもつ複数市町村圏単位で推進することが適 切である。 例えば、東京都、神奈川県及び埼玉県の西部にまたがる TAMA 地域には、22 市町 村にわたって研究開発型企業が多数立地している。つくばや京阪奈は市町村、県を越 えて研究施設、大学が集積している。三河、浜松等には県境をまたいで自動車関連企 業等が立地している。飛騨高山地域は、3 市村(合併前は 15 市町村)にまたがり、 観光産業を軸に共通の圏域を構成しており、また、県境をまたぎ、観光ルートでつな ぐ動きも活発になりつつある。 平成の大合併により、市町村の数は 2000 弱にまで減少した。2005 年に経済産業省 が策定した「人口減少下における地域経営について」によれば全国 269 の都市圏に分 類されている。経済圏は、市町村の行政区域を越えて、おおむね、日常の生活、通勤・ 通学等の行動範囲と重なる面的拡がりにおいて、複数市町村からなる経済社会的なま とまりを持っている。こうした複数市町村圏の単位で見ると、居住地のみの地域、生 産地のみの地域、消費地のみの地域が存在する場合があり、行政区域を越えて役割を 分担している。 例えば、都市圏が産業集積地であれば、その中で、主として住宅地からなる市町村 と工業団地の存する市町村が行政区画を超えて道路その他の通勤手段等により結び ついている。また、都市圏が研究機能の集積地であれば、その中で、研究所、大学、 インキュベーション施設、国際会議場、住宅等が市町村の行政区域を越えて存在して いる。また、都市圏が観光地域であれば、その中で、観光資源や宿泊施設等を市町村 が分担して整備し、広報活動、案内標識、周遊ルートを共通政策として推進している ことがある。 このように、それぞれの市町村毎に産業振興政策を推進することは効果的でなく、 多くの場合、市町村の人材、財政等からみても限界がある。合併により広域行政を推 進することが重要であるが、合併は、地域活性化のためだけで行われるわけではない。 合併を待つことなく、経済面で共通性を有する複数市町村が一部事務組合等を利用し て、又、必要に応じ、都道府県が積極的な役割を果たし、共通の地域活性化事業を実 施することが効果的である。国としても、複数市町村圏単位で推進する地域産業活性 化策を支援することが重要である。 101 <参考> ●地域住民の参加による取組み 装飾品 A 社(徳島県上勝町)のつまものビジネス 徳島県上勝町では、高齢化率 4 割を超え、人口 2,000 人余りの四国で一番小さなまち。 女性、高齢者が主体となって、紅葉・柿・南天・椿の葉、梅・桜・桃の花など、自然の中に あるものを料理の「つまもの」として商品化し販売。 現在では 179 名が参加し、年間売り上げ 2 億 5 千万円の町の一大事業。 葉っぱを収穫 綺麗に箱詰めし出荷 102 2.新しい政策目標指標 − 「就業達成度」 県民所得を比較すると、第一位の東京都と最下位の鳥取県では 33 倍の格差がある。 東京都が日本で最も豊かな自治体かと言えばそうではなく、旧経済企画庁の新国民生 活指標に基づき、富山県が日本一豊かな県とされたこともある。 大都市と地方では、不動産価格等に差があり、住宅の広さや価値、職場までの通勤 時間など住民の実質的な生活水準は、所得額だけでは対比できない。また、人間の満 足度は、良い環境の下で働きがいのある仕事や社会から評価される仕事に就くことか らも得られる。良質な雇用機会に恵まれることも地域の活性化の指標とすることが重 要である。具体的には、就業率(65 歳以上の高齢者も含めた就業率。以下同じ。)に 加え、就業満足度等を加味し、これらを総合して「就業達成度」として指標化し、前 年からの改善度や他地域との差を地域活性化の目標とすることが考えられる。 地方自治体の地域の「就業達成度」を物差しとして地域間競争をすることになれば、 地域活性化に新しい発想が生まれる。大企業の工場を誘致し、所得の大きな雇用を拡 大することだけが地域振興ではない。所得が少なくても、恵まれた自然環境のもとで 働きがいのある仕事を開拓することも、地域振興である。こういう発想に立てば、一 次産業などの地域産業の雇用も、大企業の雇用と同じ価値を持ち、自治体の地域産業 振興の対象は、企業だけではなく、ボランティア団体、NPO 等もその対象となる。 地域産業の雇用は、都会に出た若者が実質的な豊かさを求めてふる里に戻って来るき っかけとなる。正規労働ばかりでなく、高齢者、専業主婦及び学生を含む地域住民の パート労働力やボランティア活動も重要な経済活動である。これらの人々が経済活動 に様々な形で参画することが、地域振興になる。地域に存在する多様な資源に新たな 光をあてて地域社会に根ざした働きがいのある仕事を創出することを地域活性化の 基本的な目標とすることが重要である。 103 図 3-1-3 産業クラスター計画Ⅱ期 17 プロジェクト 産業クラスター計画Ⅱ 産業クラスター計画Ⅱ期 17プロジェクト 全国で世界市場を目指す中堅・中小企業約9,800社、 連携する大学(高専を含む)約290大学が、広域的な人 的ネットワークを形成(数値は平成17年12月末時点の 参画状況で推計) 北海道経済産業局 ◇北海道スーパー・クラスター 振興戦略Ⅱ 情報・バイオ分野 約750 21 大学 沖縄総合事務局経済産業部 ◇OKINAWA型産業振興プロジェクト 情報・健康・環境・加工交易分野 社 4大学 約250 東北経済産業局 ◇TOHOKUものづくりコリドー モノ作り分野 約750社 48大学 関東経済産業局 ∼広域関東圏産業クラスター推進ネットワーク∼ 中国経済産業局 ◇次世代中核産業形成プロジェクト(モノ作り、バ イオ、IT分野) ◇循環・環境型社会形成プロジェクト(環境分野) 両プロジェクト 約290社 ◇地域産業活性化プロジェクト ・首都圏西部ネットワーク支援活動(TAMA) ・中央自動車道沿線ネットワーク支援活動 ・東葛川口つくば(TX沿線)ネットワーク支援 活動 ・三遠南信ネットワーク支援活動 ・首都圏北部ネットワーク支援活動 ・京浜ネットワーク支援活動 モノ作り分野 約2,290社 73大学 ◇バイオベンチャーの育成 17大学 九州経済産業局 ◇九州地域環境・リサ イクル産業 交流プラザ(K-RIP) 環境分野 19大学 バイオ分野 約380社 19大学 ◇情報ベンチャーの育成 約250社 IT分野 約560社 1大学 ◇九州シリコン・クラス ター計画 半導体分野 33大学 約410社 近畿経済産業局 ◇関西バイオクラスタープロジェクト Bio Cluster 四国経済産業局 ◇四国テクノブリッジ計画 モノ作り、健康・バイオ分野 約400 社 5大学 バイオ分野 約450社 35大学 中部経済産業局 ◇東海ものづくり創生プロジェ クト モノ作り分野 約1,110社 30大学 ◇東海バイオものづくり創生プ ロジェクト ◇関西フロントランナープロジェクト Neo Cluster バイオ分野 学 モノ作り分野・エネルギー 約1,530社 34大学 ◇北陸ものづくり創生プロジェ クト モノ作り分野 約240社 13 ◇環境ビジネスKANSAIプロジェクト Green Cluster 環境分野 約140社 10大学 備考:斜体は新設プロジェクト 104 大学 約60社 51大 3.今後の地域産業政策 地域経済が持続的に存立・発展するためには、地域外を市場とする産業(域外市場 産業)によって所得が生み出され、その所得が地域内を市場とする産業(域内市場産 業)によって地域内に循環すること、つまり、域外市場産業と域内市場産業が車の両 輪のようにうまく機能することが必要である。 しかし、人口減少下の時代にあっては、域内需要に密接に関連する域内市場産業は 総じて厳しい状況に置かれる。このため、広く国内や海外市場を視野に入れた活動を 行うことで人口減少の制約を比較的受けにくい域外市場産業の発展を図ることが、地 域経済・社会を維持・発展させていく上で極めて重要となる。 (1)「産業クラスター計画」第Ⅱ期の推進 我が国経済を支える重要産業である自動車産業を例に挙げれば、部品産業な ど関連産業の裾野も広く、自動車組立工場の有無が都道府県の有効求人倍率の差 をもたらす程の影響力を持っている。30 年あまり前九州地区には自動車組立工 場は存在しなかったが、今では北部九州を中心に年産 100 万台規模の生産拠点が 形成されている。これは中国を始めとする東アジアに地理的に近いという利点を 活かし、インフラの整備や産業振興に戦略的に取り組んできた成果である。また、 九州地域では、北部を中心として、半導体生産拠点が集積している。この地域で の半導体に関するプロジェクトが産業クラスター計画に位置づけられており、産 学官のネットワークの形成が進んでいる。 さらに、静岡県遠州地域、長野県南信州地域、愛知県東三河地域からなる三遠 南信地域には、輸送用機械、光学機器等の産業が集積し、その製造品出荷額は、 埼玉県や兵庫県に匹敵する。産業クラスター計画のプロジェクトとして位置付け られている地域であり、企業等のネットワークの形成が進んでいる。 第 2 章第 2 節では世界をリードする新産業の創出が日本の国際競争力の鍵を握 る旨述べたが、このような分野の産業集積の裾野が広がれば、最も大きな地域活 性化となりうる。このためには、国の産業クラスター政策等と地方自治体の産業 振興策の連携など、大がかりな取組が不可欠である。 産業クラスター計画は、知的クラスター創成事業を始めとした関係府省の地 域科学技術施策と連携しながら、「新産業創造戦略」における戦略 7 分野を中心 に、各地域における企業や大学、研究機関等がネットワークを形成して企業間 連携や産学官連携を進展させ、新事業が続々と輩出されることを目指すもので ある。これにより、各地域において、我が国の国際競争力を支える企業群のす そ野を拡大することが期待される。 105 <参考> ●産業クラスター計画による成功事例 自動車用の薄型発光素子の商品開発 電子機器 A 社(岐阜県本巣市)は、水銀を使用しない自動車用平面発光素子(ルームランプ・厚さ 3mm) を開発した。 蛍光管を利用した従来の自動車用室内灯に比して、薄型(高さ約 35mm→17mm)、長寿命(12,000 時 間以上) 、低温(-40℃)での瞬間点灯が特徴であり、また、廃棄時の環境負荷が少ない。 自動車用室内蛍光灯では既に国内シェア 1 位である電子機器A社は、本商品の開発により、これまで 採用できなかった小スペースの車載仕様等の分野においても新市場を開拓し、更なる事業の拡大につな げている。平成 14 年度創造技術研究開発補助事業を活用。特許出願。 普通自動車室内灯(ミニバン用) <従来品> <開発製品> 茶に含まれる微量な抗アレルギー性カテキン類の研究用試薬の開発 緑茶中に微量に含まれるメチル化カテキンには、強い抗アレルギー性が見出されている。これは、茶 葉中には微量しか存在しないために研究用試薬としての十分な供給ができなかった。 製薬 B 社(岐阜市)は、世界で初めて有機合成による抗アレルギー性茶メチル化カテキン類の量産化 に成功した。 平成 15 年に増資し株式会社化。売上増加に伴い、補助金交付時に比べ資本金、社員は倍増した(売上 5,000 万円、資本金 950→2,000 万円、社員 3→7 人) 。平成 13 年度補正予算創造技術研究開発事業を活用 し、事業化に成功した。 茶カテキン研究用試薬 106 「産業クラスター計画」の第Ⅱ期については、第I期(2001∼2005 年度)の 評価を踏まえ、各経済産業局が実施している現行 19 プロジェクトについて見直 しを行った結果、全体を 17 プロジェクトに再編(既存 5 プロジェクトの廃止・ 統合、3 プロジェクトの新設)する。また、5 年間で 4 万件の新事業創出という 全プロジェクト共通の目標に加え、売上高や新規企業創出数などの数値目標等 をプロジェクト毎に設定する。また、各プロジェクトにおける対象分野やテー マについては、基本的に、燃料電池、ロボットなどの「新産業創造戦略」に掲 げられている重点分野とし、各重点分野に属するテーマや医工連携による先端 医療機器の開発といった重点分野間の連携テーマとする。さらに、クラスター 間の広域連携や国際連携を進めていく。 産業クラスター計画を推進するため、同計画で活用されている重点施策であ る地域新生コンソーシアム研究開発事業と地域新規産業創造技術開発費補助事 業について、事業化への到達率を一層高めるための制度の見直しを行う。 107 簡単・短時間・正確な細菌検査装置 従来、医療機関等では、大腸菌などの細菌検査は、専門知識や熟練技術を要する人材が、目視で 1∼2 日かけて増殖過程を観察していた。 バイオ A 社(仙台市)は、地元高専と共同研究したデジタル画像処理技術を応用して、簡単かつ正確な 細菌検査が短時間(8 時間程度)でできる細菌検査装置を開発し、実用化した。 産業クラスター計画の事業として行った「トウホクビジネスマッチング in 東証アローズ」等にてプレゼ ンテーションを実施したところ食品業界、薬品業界からの引き合いが多数生まれ、米国バイオ系VCから の投資も得られた。 細菌検査装置 環境に優しいエレメントレスフィルター 従来、金属を切削する際に用いる油は、切りくずをフィルターで除去して再利用しているが、フィルター のエレメント(網)は目詰まりするため定期的な交換が必要であり、維持コストがかかっていた。 製造 B 社(入間市)は、産業クラスター計画の推進組織(TAMA 協会)の支援を受けて地方国立大学と連携 し、切りくずを遠心分離・沈殿してろ過する「エレメントレスフィルター」を開発・事業化した。 これにより受託加工業から研究開発型企業へと転換。国内外の自動車メーカーから引き合いが相次ぐな ど、事業化後の3年間で売上が急拡大した。なお、このようなフィルターを作っているのは世界でここだけ である。 交換が不要なエレメントレスフィルター 108 109 ◆コミュニティ・ビジネス 市民が主体となって、地域が抱える課題をビジネスの手法により解決し、コミュニティの再生と 地域経済の活性化を実現しようとする事業の総称。株式会社、NPO法人、企業組合、LLPなど その形態は多様であるが、ビジネスとして自立し、持続しながら、地域や社会への貢献を実現しよ うとするもの。 110 (2)地方活性化総合プランの実行 ∼ 5 年間で 1000 の新たな取組みの創出とそのための総合的支援 地域の総生産額、人口などが厳しい傾向を強めるのは 2015 年頃からと予測され るが、対策は早急に実施しなければならない。特にこれからの 5 年間に、産業クラ スター計画等の地域経済産業政策により地域産業に発展の機会を提供する必要が ある。 しかし、地方の多くの地域においては、自動車、電機・電子等の国際競争力のあ る産業の発展によるばかりでなく、繊維、木製品、食品等の生活関連製造業、一次 産業及び観光産業の振興、まちづくりの推進並びにコミュニティ・ビジネスの振興 といった地域の資源を活用した活性化の取組を総合的に推進する必要がある。地域 には、新たなアプローチに基づけば成功の可能性に富む事業や事業構想等が、多く 存在する。中心的リーダーとなる人材のイニシアティヴの下で、経営の革新、新事 業の創造を促進していくことが求められる。 特に、地方における生活関連製造業及び一次産業に係る新商品・新技術開発や産 業の観光化等を強力に進め、地域の中核事業の育成を図るとともに、中小企業支援 策とあいまって、あわせて 5 年間で 1000 の新事業創出等の取組を地方において創 出する。 この一環として、経済産業省と関係省庁が、地域と協働しつつ、緊密な連携をと り、個別具体的な複数市町村圏を対象とする産業振興ビジョン策定のモデル事業を 実施する。すなわち、地域類型を踏まえ、全部で数カ所の複数市町村圏において、 モデル的に、総合的かつ具体的な産業活性化に係るアクションプランを策定し、実 行する。 これらの支援を実施するに当たっては、支援が個々に縦割り的に提供されること のないよう、必要に応じ、地域においても地域経済産業局と関係省庁の地方支分部 局が緊密に連携して、総合的な支援をワンストップで提供し、地域の人々に使いや すい仕組みにすることが必要である。 111 図 3-1-4 各国の繊維、家具、食品の輸出額、貿易収支 日本では、繊維、家具、食品は全て輸入超過産業だが、欧米先進国では、多くの国で輸出 超過産業として国際競争力を有している。また、輸出額で見ても、日本におけるこれらの 産業の輸出額は、欧米先進国に比較すると非常に小さい。 繊維 家具 食品 輸出額 貿易収支 輸出額 貿易収支 輸出額 貿易収支 日本 アメリカ イタリア フランス 0.9 ▲ 2.1 0.1 ▲ 0.5 0.1 ▲ 1.0 2.4 3.6 1.4 1.4 1.2 1.4 0.7 1.7 2.9 ▲ 1.0 0.4 ▲ 0.4 ▲ 1.0 ▲ 7.0 0.7 ▲ 3.0 1.3 ▲ 1.7 2.3 0.9 ドイツ 1.1 ▲ 0.2 1.8 ▲ 0.2 (単位:兆円) ※ 貿易統計データベース(Global Trade Information Services Inc.)、アメ リカ、イタリアは 2004 年、他の 3 カ国は 2005 年の数値 <参考> ●製造業、一次産業における新たな展開事例 伝統工芸から生み出された高級化粧筆のメーカー 繊維 A 社がある広島県熊野町は、約 170 年の歴史を誇る筆づくりの産地で全国の筆生産高のおよそ9 割を占める。 繊維 A 社が生産する化粧筆は、ロシア、ヨーロッパなど世界各地から厳選して取り寄せた素材を用い、 熟練した職人の手で丹精込めて作られた手作りの筆。それは、伝統工芸の面相筆の技術から生み出され ている。今では、海外からも注目されるようになり、国内外の化粧品トップメーカーの高級化粧筆のほ とんどを手がけている。 直接販売により輸出等を拡大した繊維メーカー 繊維 B 社(福井県)では、従来合繊メーカーからの賃加工 100%であったが、ストレッチ性、防風性、 耐水性に優れた生地・素材を開発したことをきっかけに積極的に自ら販売活動を行った。 その結果、世界的なスポーツブランドとの直接取引が始まるなど実績を積み、売上を大きく伸ばして いる。 アンテナショップを通じた繊維メーカーの販売戦略 繊維 C 社(大阪府)は、独自に開発した殺菌等の効果がある「さき和紙」素材を糸や生地の販売で はなく、タオル、パジャマ、ぬいぐるみなどの最終製品に自ら製造し、東京/渋谷のアンテナショップ や通販で直接消費者に販売し、また小売店に卸売りにした。 清潔感があり、肌に優しい癒しの効果もあり、リピーターが増え、売上を大きく伸ばしている。 112 ①製造業、一次産業等の新展開 繊維、木製品、陶磁器、紙製品等の製造業は、多くの場合地域産業として集積 し、地域経済を支えてきたが、海外から安価で品質もある程度の水準にある製品 の輸入増に影響を受けている。しかし、一次産業・食品産業等には、旧来から、 同じような商品を生産し、同じ取引先への販売を続けている企業が少なくない。 我が国では、繊維、木製品、食品等の産業は、労働集約的で付加価値が低く国 際競争力が弱いと考えられがちであり、実際、輸入超過産業(繊維 2 兆円、家具 0.5 兆円、食品 1 兆円の輸入超過)となっている。しかし、こうした産業も、国 際的には、特に豊かな消費市場を持つ欧米の主要国では、質が高く、デザインに 優れたブランド力のある輸出商品が存在し、高品質・高価格な商品分野では国際 競争力を持つ産業となっている。例えば、イタリアでは繊維が 1.4 兆円、家具が 1.2 兆円、食品が 0.7 兆円の輸出超過、フランスでは食品が 0.9 兆円の輸出超過、 スウェーデン、フィンランドといった北欧諸国でも家具が輸出超過産業となって いる。また、これらの欧米諸国では、低価格品の輸入も多いため、各商品分野ご との貿易収支では輸入超過となっていても、輸出額は日本よりも大幅に大きく、 輸出産業としての国際競争力を有している。 我が国においては、これらの産業では、企業レベルでの商品企画、販売戦略、 生産・在庫管理等の課題や業界レベルでの不透明な商慣行、非効率な流通構造等 の問題を抱えており、製造業者はマーケット情報から遠く、消費者ニーズに合致 した商品開発、効果的な流通、効率的な生産・在庫管理等がなされていない場合 が少なくない。昨今は消費者の間で、安全や安心対する意識が急速に高まってお り、こうしたニーズに応えることで商品の付加価値を大幅に高めることが可能で ある。また、事業を再構築すれば、全国各地更には海外市場においても十分通用 する可能性がある事業が存在する。さらに、これまでにない新たな発想で企画さ れ、実行に移せば十分成功の可能性がある事業構想等も存在する。この事業の再 構築や事業構想等を実行に移すに当たっては、特に、マーケットを意識した機 能・デザインの革新などの新技術・新商品開発を行い、生産者が直接消費者に訴 える手法や地域ブランドの確立などを進めることが重要である。その他、国内外 における新たな販路の開拓・流通ルートの構築、マーケットニーズに適切に対応 可能な生産・在庫管理体制の構築等がより総合的に行われることが望ましい。 一次産業・食品産業の場合、農業と製造業との連携(農工連携)等も有力な方 途であり、これにより、IT やバイオの先端技術を活用した生産技術や産品の革新、 新たな食品の開発、食品生産機械の開発、医療品・化粧品の開発等を図ることが 重要である。 このため、新技術・新商品開発を強力かつ大規模に進めるとともに、国内外に おける新たな販路の開拓・流通ルートの構築と国内外におけるブランド力の強化 を図るための支援を行う必要がある。また、地域発の商品を、自らこれまでの取 引慣行ではあまり見られないリスクを負って、直接消費者に提供する、大手を含 めた小売事業者への支援を行う必要がある。 113 和歌山県那智勝浦 まぐろを使った「海の生ハム」 那智勝浦産のまぐろは生の味と品質が自慢。なかなか管理が難しいことが欠点であったが、研究 の末、加工しても生のような食感や味を実現した。 企業 1 社ではなく、地域ブランド化し、地域のためにと考え、地元漁協と企業が共同出資会社が 「海の生ハム」を販売。 発売直後から、テレビや雑誌で取り上げられたほか。キリンビールのキャンペーンで「和歌山代 表の一品」として選定される。製造元では数ヶ月先まで予約がいっぱいに。 食品 A 社(北海道札幌市)の生チョコレート 北海道の生乳を使用した良質の生チョコレートを生産、販売。販売体制は直営店、小売店への直 販による道内限定販売。また、全国への通信販売が売上全体の 3 割以上。現在、全国に約 30 万人の 顧客。 【期間数量限定】 生チョコレート[オーレ] 生チョコレート[グラン マルニエ] 食品 B 社(北海道砂川市)の夕張メロンピュアゼリー 「旬のおいしさを通年提供できるお菓子が作れないか。 」という発想が商品化のきっかけ。近隣の 夕張市で生産される夕張メロンの果肉をふんだんに使用し、独自の果実加工技術により、本物の味、 食感、みずみずしさを忠実に再現することに成功。世界的な食品コンクール「モンドセレクション」 での金賞受賞歴あり。 夕張メロンピュアゼリー ダクタイル鋳鉄一体成型スピーカーシステムの開発・販売 マンホール蓋の専業メーカーC社(旭川市)が、企業の生き残り戦略としてダクタイル鋳鉄 一体成型スピーカーシステムを開発した。 114 115 <参考> ●農工連携による新たな取組 自動給餌装置(北海道) 我が国の酪農家の約 9 割は家族経営を中心とした中小規模経営であるが、乳牛を一頭ずつつな いで飼育する方法が一般的であるため給餌作業はかなりの重労働となっている。 この点に着目した食品 A 社(札幌市)は、IT 管理による家畜の自動給餌装置を開発した。 本装置は、IT により牛舎事務所や自宅で給餌時間や各牛ごとの給餌量の管理が可能となり、す べての飼料を無人で給餌できる。また、給餌システムにトラブルが発生した場合は、携帯電話に メールが送信される。 2005 年度までに北海道内で約 130 ヶ所で導入されている。 ◆地域ブランド 地域ブランドとは、地域の事業者が連携して、地域名を付した共通のブランドを用いて生産、販 売等を行うものであり、地域独自の創意工夫により需要者の認知度を高め、商品・サービスの差別 化を図るものである。地域ブランドの浸透は、地域のブランド化による地域経済の好循環化に繋が るため、これを支援する地方公共団体の動きも活発化している。 116 117 <参考> ● 地域資源が観光と結びついた取組み 「黒壁」と「硝子細工」を軸としたまちづくり(滋賀県長浜市) 滋賀県長浜市で、黒漆喰の外壁で「黒壁銀行」の呼び名で親しまれていた銀行 A 社社屋の解体計 画に対して反対の声が上がり、その保存・活用主体として 88 年に企業・住民有志・市が出資する第 三セクターの製造 B 社が設立された。 製造 B 社は、黒壁銀行を世界の硝子を販売する「黒壁ガラス館」として活用し、近隣の空き店舗 に硝子工芸家のギャラリーや工房等を開設した。 これをきっかけに、周辺の商店街でも伝統的景観の再生等が実施され、長浜市は黒壁銀行という 「点」から、 「面」の観光地に成長し、89 年当初 10 万人に満たなかった入込客数も、03 年には 210 万人を迎えるようになった。 「黒壁ガラス館」に生まれ 変わった『黒壁銀行』 空き店舗を活用した 吹きガラスの一日体験 工房ショップ(黒壁 2 號館) 教室の様子 黒川温泉の再生(熊本県南小国町) 熊本県南小国町の黒川温泉では、アクセスも良くないこともあり、かつては週末しか客が来なか ったが、 「露天風呂をつくり、雑木を植え、自然回帰・レトロ・緑豊かという雰囲気を全体像として 作り出す」ことを町全体として取組み始めた。 こうした流れの中で、旅館経営者が集う観光旅館協同組合は、組合に加盟する旅館の露天風呂の うち 3 つを自由に入れるパスポート「入湯手形」を発行し、そこからの収入を元手に雑木の植樹活 動や、各旅館の宣伝用看板の撤去、統一案内看板の設置、旅館建て直しの際に黒・茶を基本色とす る取組みを進めた。黒川温泉の「全体像」を維持するためのコミュニティとしての役割を果たすよ うになった。 こうして、86 年当初年間入込客 30 万人に過ぎなかった黒川温泉は、05 年には 101 万人に達し、 24 軒の旅館の客室稼働率が平日も含め 7 割を超える温泉郷に変貌した。 黒川温泉の風景 「入湯手形」 118 ②観光産業化の推進 地域活性化策として観光が重要であるのは、地元ではありふれたものと考えられ ていた地域資源が創意と工夫で雇用と収入をもたらすことである。そして、住民と 自治体がやる気になれば、大いに工夫のできる分野であり、それぞれの市町村が比 較的取り組み易い地域活性化の方策である。 また、観光産業は、旅行代理店と宿泊施設、交通機関だけのものではない。製造 業、健康関連産業などこれまで観光業にとっては「異業種」と考えられていた産業 との連携が観光に新たなコンセプトをもたらし、同時にこれらの産業に新たな活路 を提供することとなる。異業種企業等をネットワーク化して新たなコンテンツが 次々と生まれる「新観光ネットワーク」を形成していくことが求められる。加えて、 農林水産品を他地域に今までとおりのやり方で出荷するよりも、地元で観光客の飲 食に供する方が地元は賑わう。商店街の街並み整備などまちづくりプロジェクトも 観光振興と関連づけて推進することができる。観光の異業種連携は、地域活性化に 大きな効果をもたらす。 近年は、自然景観、歴史的建造物等の見学を行う「サイトシーイング」から、日 常では味わえない体験を得る「ツーリズム」に進化し、長期の滞在を楽しむ「ロン グステイ」までその外縁を拡大している。人工的に作られたテーマパーク、ブラン ド力のある地域商品の製造工程の見学、農林漁業などの作業体験、商品購入、飲食 等が可能な総合施設など、産業、文化等のコンテンツを備えた観光ポイントの人気 が高まっている。産業史、技術史上重要な産業遺産を保全し、産業史などストーリ ーの中で位置付ければ、それも有力なコンテンツとなる。 このため、優秀なコーディネーター・プロデューサーやコーディネート・マネー ジメント機関の育成・活用、地域の文化・歴史等のコンテンツを語れるガイド・説 明者の養成、施設・設備の整備等が必要である。 さらに、観光は、サービス産業の中では、外国人観光客を受け入れることにより、 外貨収入を得られるといった特徴を有している。数少ないサービス産業である。こ のため、 「外国人旅行者訪日促進戦略」に基づき、外国人にも通じる案内標識の統 一整備、クレジットカードや通信手段等の利便性、出入国手続き、航空アクセスな ど言わば「国際競争力」を意識した基盤整備を進めることが重要である。 このような観光事業への支援は、経済産業省と国土交通省を始めとする関係省庁 との連携の下に実施する。 ◆外国人旅行者訪日促進戦略 国土交通省が、 「経済財政運営と構造改革に関する基本方針 2002」(平成 14 年 6 月 25 日閣議 決定)に基づき、外国人旅行者の訪日を促進する「グローバル観光戦略」を関係府省と協力して 策定。本戦略の中の一つに挙げられている、 「外国人旅行者訪日促進戦略」の一環としてビジッ ト・ジャパン・キャンペーンの実施が決定され、 「2010 年までに 1,000 万人の訪日外国人誘致」 を実現するための活動を開始。 119 熊本市の食品工業団地「フードパル熊本」 熊本市は、業種別の事業所数で食品業が最も多く 3 割を超す。こうした背景から、90 年代初め、 中小企業の振興策と観光振興のために「地域をリードする企業」 「生活者との交流」などをコンセプ トに食品工業団地を計画し、「フードパル熊本」を開園した。 園内では食品加工の工程見学やソーセージづくりなどの体験ができるほか、地元の新鮮な野菜や 食品を農家が直売するコーナーもあり、各種イベントが開かれている。 来場者数は約 86 万人。見学、食事施設を備えるテーマパークとして、今や熊本城の約 93 万人に 匹敵する観光地になっている。 「フードパル熊本」内で開催される農家による直売 「とれたて市」 <参考> ● 観光のコンテンツの具体例 ・ 地域の文化・歴史と結びついた博物館や資料館 ・ ブランド力のある地域商品の製造工程の見学や作業体験、商品購入、飲食等が可能な総合施設 産業施設・企業見学を売りにした日本産業・企業のPRと観光の組合せこれらによる産業観光 ・ 農林漁業を始めとする地域産業の作業体験と農林漁家での宿泊体験等を売りにした観光ポイ ント ・ フィッシング、乗馬、カヌー・カヤック等のエンターテイメント型スポーツと観光の組合せ ・ 伝統的な古い建物、町並みを保存・改修等した景観 ・ 映画等のロケを誘致することにより、作品のエンターテイメント性を活用した観光ポイント ・ 人間ドック、長期療養、人工透析等を含めた医療サービスやエステ等の健康サービスの享受と 観光を組み合わせた観光ポイント ・ 自然、歴史、文化、風景などをテーマとして、「訪れる人」と「迎える地域」の豊かな交流に よる地域コミュニティの再生を目指した、美しい道路空間の形成を図る「日本風景街道(シー ニックバイウェイ・ジャパン)」プロジェクト 120 121 <参考> ● 指定管理者制度を活用した地域活性化の事例 ・茨城県では、県立カシマサッカースタジアムの管理・運営を行う指定管理者に地元密着 のクラブで、多数のファンのいるサッカーJ1チームの運営会社 A を選定。その結果、 スタジアムの空き部屋を利用したオープンカレッジや講演会の開催、コンサートの誘致 など、従来に比べ事業の範囲が広がるなどのメリットが生じている。 122 ③まちづくりプロジェクトの推進 地域が効果的に経済発展を図るためには、海外を含めた域外から産業を通じて 得た所得を可能な限り地域内で循環させることが重要である。このため、中心市 街地のコンパクトシティ化の推進に併せて、域外や海外からの観光客や来訪者を 引きつけるため、地域資源を最大限活用した商店街の町並み整備などのまちづく りの取組を行う。 ④コミュニティ・ビジネスの振興 近年、多くの地域において、地域の社会的課題の解決や地域の生活文化資源の 活用等をテーマとするコミュニティ・ビジネスの胎動が見られる。今後、地域に おいて、新たな所得・雇用を生み出すコミュニティ・ビジネスが次々に誕生する ことは、地域の抱える社会的課題を解決する機能の向上や地域資源の域外への発 信に資するのみならず、高齢者や女性を含む住民にとって満足度の高い新たな就 業機会を創出することにつながる。また、介護、福祉や子育て支援等の生活関連 ビジネスの場合、公的サービスを効率的に供給する新たな行政パートナーとして も期待される。 今後、これらコミュニティ・ビジネスの増進を図っていくためには、コミュニ ティ・ビジネスに取り組もうとする NPO、社会起業家(ソーシャル・アントレプ レナー)等の育成が重要である。このためには、国内外の成功事例や類似の取組 事例の紹介やノウハウ等の情報交換、起業に際してのワンストップでの相談や必 要な専門家とのマッチング、NPO、社会起業家等のネットワークの形成等の中間 支援機能の充実が必要であり、広域的な活動を行う中間支援機関を中心に支援を 行う。 また、公的サービス分野における指定管理者制度において、地域に密着してコ ミュニティ・ビジネスに取り組む組織が指定管理者として採択されやすい制度の 在り方などについて検討する。 なお、こうしたコミュニティ・ビジネスの振興については、地方のみならず大 都市圏域のいわゆるベッドタウンと言われる地域においても重要な課題である。 123 <参考> ●地産地消・安全な食を確保する総合給食センター 福島県伊達市の総合給食センター事業計画 福島県伊達市では、学校給食で地産地消・安全な食を確保するため、地域の農作物を、規格外、 泥付き等を含め最大限活用するべく、食材の一次加工施設を有する給食加工センターを設置する とともに、給食献立に必要であるが地域内では調達できない農作物を、地域内の耕作放棄地で高 齢者が生産する事業を計画中。 その際、学校給食のみならず、病院給食、工場等の事業場への配食、地域の高齢者への供給な ども行い、施設の有効利用を図る。 <学校> <地域の農作物> 給食センター <病院> <高齢者住宅> <参考> ● 医療サービスについては、カルテや会計業務を電子化し、統合運用することで効率化を促 進する必要がある。中核医療施設と福祉・介護施設も含む周辺施設との IT 化による情報共 有化等を行って効率化を進めることも可能である。なお、高齢者居住の中心市街地への集 中化は、介護、医療・福祉サービスの効率的な提供に寄与するため、高齢者住宅の中心市 街地における整備も重要である。 ◆PPP(パブリック・プライベート・パートナーシップ) PPP とは、公共的な社会基盤の整備や運営を、行政と民間が共同で効率的に行なおうとする手 法のこと。 ◆NL ハイブリッド 地域振興の担い手としての台頭しつつある NPO(非営利法人)や、企業、自治体、地域住民な どの様々なプレイヤーが共同事業を行うための器のうち、新たな組織形態として創設された LLP (有限責任事業組合) ・LLC(合同会社)を活用したもの。全員有限責任で出資比率以上の成果配 分などが可能な LLP・LLC を活用すれば、資金力がないプレイヤーであっても、インセンティブ をもって主体的に事業に参加できる。 124 (3)公的サービスのコスト低減・質的向上と高齢者や女性の活用・就業 ①地域自立型公的サービス事業の推進 特に地方中小都市を中心とする地域及び中山間地域等では、中心市を中核とし て広域的に連携することにより、医療・福祉・介護等の公的サービスを効率化し、 コストの低減を図る必要がある。また、公共施設の集約化・機能分担等による維 持管理・更新投資コストの低減等を図る必要がある。さらに、サービスの質的向 上、事業の一層の効率化の観点からも、公的サービスの運営等の民間委託、更に は PPP(パブリック・プライベート・パートナーシップ)の活用も重要である。 また、公共サービスの現場において、新しい民間活力として育ちつつあるコミ ュニティ・ビジネスの効率的かつ質の高サービスを積極的に活用する。さらに、 意欲のある市民、中でも高齢者や女性の参加を得て就業率の拡大を図る。 さらに、コミュニティ・ビジネスでは、「資金提供者のニーズに応じ収益配分を 柔軟に行うことができる利点を有し、多様な参画者を得られる LLP」等の事業形 態による実施が適している場合が少なくない。こうした場合、NPO が、LLP に参 加する形(NL ハイブリッド)でコミュニティ・ビジネスに参画すれば、NPO の有 する専門的能力をコミュニティ・ビジネスに活用することが可能となる。 ②専門的リタイアメント層の活用 地方では、特に地方中小都市を中心とする地域及び中山間地域等においては、 医療、福祉、教育等における専門的知識・資格の必要な人材が不足しがちである。 このため、専門的知識等を持った 60 歳代のリタイアメント層の地方における定住 又は半定住の推進と地域の公的サービスへの参画を促進する。この際、コンパク トシティ化や都市再生の推進の観点から、中心市街地での定住又は半定住を推奨 し、これらの専門的知識等を持ったリタイアメント層が地方で定住又は半定住し、 地域の医療、福祉、教育等の活動に参画する場合に、住民税等の課税の減免を実 施することが考えられる。 125 図3-1-5 地方交付税不交付団体数の推移 H元 都道府県 市町村 H4 H7 H10 H11 H12 H13 H14 H15 H16 4 4 1 1 1 1 1 1 1 1 170 143 153 119 84 74 95 104 114 133 ※市町村数には東京都特別区を含まない。 地方交付税不交付団体数の推移 市町村数 都道府県数 300 45 40 250 35 200 30 25 都道府県 市町村 150 20 100 15 10 50 5 0 0 H7 図3-1-6 H8 H9 H10 H11 H12 H13 H14 H15 H16 地方交付税額の推移 単位:億円 年度毎の 地方交付税総額 H8 H9 168,891 171,276 H13 H10 180,489 H14 203,498 H11 208,642 H15 195,449 H12 H16 180,693 H17 170,201 ※平成 17 年度は見込み額 地方交付税額の推移 兆円 25 20 15 10 H8 H9 H10 H11 H12 H13 126 H14 H15 H16 217,764 H17 168,979 4.自立的・安定的地域経営のための基盤整備 地方が総生産額、人口などの面で厳しい傾向を強める 2015 年頃を迎える前に、地 方において、経済発展と自立性拡大の基盤を形成することが必要である。このため、 自動車、電機・電子等の企業の国際競争力の強化や生活関連製造業の活性化を図ると ともに、関係省庁が連携し、インフラの整備、観光業の海外からの集客を視野に入れ た競争力の強化、一次産業・食品産業等の国際市場への進出を視野に入れた活性化、 少子・高齢化等への対応及び人材の育成を推進すべきである。 (1)地域の努力が報われる地方交付税制度の構築 国庫支出金が地方財政全体の歳入の 12%を占めることにかんがみ、それを大きく 超える 19%を占める地方交付税制度の占める位置づけは大きい。 地方交付税のうち、普通地方交付税の額は、基準財政需要額から基準財政収入額 を差し引いた差額として算定される。このため、地方自治体にとって、努力して増 収を実現し、また行政改革により歳出を削減するインセンティブが働きにくくなっ ている。 まず、基準財政収入については、法定普通税等の標準税率における税収の3/4が 基準財政収入額に算入される。このため、普通地方交付税の交付を受けている地方 自治体にとっては、経済活性化によって税収が増えても、その3/4は基準財政収入 額に算入され、その額に相当する額が普通地方交付税額から減額される。 127 図 3-1-7 都道府県道の管理コスト 0 %% 1100 0 全国平均 75.7% 80% 60% 40% 沖 縄 県 鹿児島県 宮 崎 県 大 分 県 長 崎 県 熊 本 県 佐 賀 県 福 岡 県 高 知 県 交 付 税 積 算 ベース 愛 媛 県 最低 35.6% (徳島県) 20% 3都府県 44道府県 基準額以上 基準額以下 140% 香 川 県 ※地方交付税法による単位費用:1000㎡につき213千円(平成15年度) (注)道路統計年報2005をもとに算出 図 3-1-8 各都道府県の教材費の予算措置(2003 年度決算) 徳 島 県 山 口 県 広 島 県 島 根 県 岡 山 県 和歌山県 鳥 取 県 奈 良 県 兵 庫 県 大 阪 府 滋 賀 県 京 都 府 沖 縄 鹿 児島 宮 崎 大 分 熊 本 長 崎 佐 賀 福 岡 高 知 愛 媛 取 根 島 山 香 川 徳 島 山 口 広 岡 島 鳥 和歌山 奈 良 兵 庫 大 阪 野 知 岡 阜 京 都 滋 賀 三 重 愛 静 岐 長 山 梨 福 井 石 川 富 山 新 潟 神奈川 東 京 田 木 城 島 形 千 葉 埼 玉 群 馬 栃 茨 福 山 秋 宮 城 岩 手 青 森 北海道 128 三 重 県 静 岡 県 愛 知 県 岐 阜 県 160% 長 野 県 最高 163.7% (東京都) 170% 山 梨 県 石 川 県 福 井 県 新 潟 県 富 山 県 東 京 都 神奈川県 埼 玉 県 千 葉 県 群 馬 県 茨 城 県 栃 木 県 山 形 県 福 島 県 宮 城 県 0% (基 準 財 政 需 要 額 ベース ) 120% 秋 田 県 岩 手 県 北 海 道 青 森 県 0 94 76 81 75 72 58 66 70 全国平均(121千円) 161 173 78 92 102 83 75 98 100 104 100 102 88 113 122 116 120 116 72 59 47 86 83 95 78 78 100 136 129 130 124 127 133 地方交付税法における単位費用(213千円) 297 300 161 156 173 190 200 1000㎡当たり管理コスト 千円 600 500 501 400 258 出典:中央教育審議会答申より また、基準財政需要額は、道路橋りょう費、小学校費、商工行政費等の個々の行 政項目毎に、測定単位(道路の面積・延長、教職員数、人口など)を補正係数で補 正し、これに単位費用を乗じて算定された額を合計したものである。決算ベースの 費用は、都道府県毎に大きく異なり、算定に用いられる単位費用との乖離が存在す ることが少なくない。また、ほぼ全項目にわたり、算定に用いられる単位費用は、 毎年度、相当な変動がある。財源不足への対応のための地方債の増発や法律等によ る地方自治体への義務的な事業の追加が生じた年度に、その行政項目の単位費用が 増加していることも、変動の要因となっている。基準財政需要の個別の行政項目毎 に、支出の義務の程度は異なるが、いずれにせよ、個々の地方自治体の個々の行政 項目の実際の支出額は、地方自治体の裁量によっている。 さらに、特別地方交付税は、災害対策、除排雪、病院運営、上下水道、重要文化 財の保存、老人ホームの運営、公営駐車場の整備等の個別の行政需要に応えるため のものであり、行政分野毎の政策的な補助金により類似している。 以上のような方法で、毎年度、交付される地方交付税額が決定されるため、地方 自治体にとっては、自らの歳入の予見可能性が低下し、的確な支出・収入見通しに 基づく経営が困難な状況となっている。 以上を踏まえ、地方交付税制度の抜本的な改革を行うべきである。 まず、自立的・安定的地域経営を確保するためには、改革の基本方向として、地 方交付税に頼らない地方団体(不交付団体)をできる限り増加させることが重要で ある。このためには、国と地方双方が納得できる形で歳出の削減努力を続けるとと もに、国と地方の役割を踏まえつつ、地方行政を自立的・安定的なものとする税収 構造にすることが必要である。また、地方自治体の中期的な財政運営の予見可能性 を高めるために、中期的な地方財政ビジョンの提示が必要である。 同時に、普通地方交付税の算定方法について、国の関与の見直しを大胆に進める とともに、人口・面積による算定の導入による抜本的な簡素化を図るべきである。 この際、いわゆる条件不利地域における地域の活性化については、特別地方交付税 を災害対策等の緊急時対応に充てる他このための対応に充てることにより、その具 体的な手法に関し十分な検討がなされるべきである。 129 図 3-1-9 人口と面積で算定した基準財政需要額と実績値の乖離(出典:「基準財政需要の近 年の動向等に関する実証分析」Keio Economics Society Discussion Paper Series 、2006 年 3 月)) ◆都道府県、市町村ごとに基準財政需要額の実績値を、人口、(人口) 2、面積及び(面積) 2 で、並びに、人口及び面積で比例して単純に計算した額と実績値との乖離は、それ ぞれ次のとおり。なお、決定係数が1に近いほど、実績値との乖離が小さいことを 指す。 都道府県 市町村 2 説明変数 人口、(人口) 面積、(面積)2 乖離率 10%以上30%未満 うち実績値を下回る場合 30%以上 うち実績値を下回る場合 地方自治体数 回帰式の決定係数 人口、面積 人口、(人口)2 面積、(面積)2 人口、面積 8 10 1,424 1,027 5 5※ 966 657 0 0 647 1,525 0 0 508 1,380 47 47 3,132 3,132 0.984 0.975 0.980 0.975 (出典:「決算状況調」及び「地方交付税関係計数資料」より作成) ・※には不交付団体である東京都も含まれていることから、実質的には4件にとどまると言える。 図 3-1-10 特別地方交付税総額による実績値との乖離の解消(出典:「基準財政需要の近年 の動向等に関する実証分析」Keio Economics Society Discussion Paper Series 、2006 年 3 月を踏まえ試算) ◆人口と面積で算定した基準財政需要額が実績値に比べて下方に乖離している市町村 の乖離を特別地方交付税(平成15年度決算状況調:923,130,348 千円)で補い、 乖離幅を縮小させた際の最大の乖離率は以下のとおり。 最大の乖離率 人口、(人口)2 面積、(面積)2 5% 人口、面積 19% (出典:「決算状況調」より作成) 130 131 図 3-1-11 地方の税収構成の国際比較(2004 年度) 法人所得課税 個人所得課税 資産課税 消費課税 その他 日本 ドイツ 米国 フランス 職業税 英国 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100% (注1) OECD統計の区分基準に従って作成(日本の地方法人所得課税には、法人 住民税均等割も含まれている)。 (注2)フランスの職業税の課税ベースは、有形固定資産の賃貸価格。かつては支 払給与も課税ベースとしていたが、2004年度から廃止された。 (出典) OECD Revenue Statistics 2005 (注)先進国の中では、連邦制を採用しているアメリカ、ドイツ、カナダは地方法人所得課税を課 しているが、イギリスやフランス、スウェーデンなどでは、地方財政は資産課税、付加価値税な ど安定的な財源で賄われており、法人所得に課税する地方税は存在しない。 (参考)OECD 加盟 30 ヶ国中、地方法人所得課税が存在するのは、連邦制を採用している米国、ド イツ、カナダ、スイスを除けば、日本(12.8%)とイタリア(4.25%) 、韓国(2.5%)、ポルトガル (2.5%)、ルクセンブルク(6.75%)のみ。 図3-1-12 国・地方別の法人所得課税負担(対名目GDP比)の国際比較(2004年) % 4.0 3 .6 3.5 2 .9 3.0 2.5 法人税収の 35.8%を地方 交付税交付 金に充当 地方税 地方へ 配分 2 .2 0.3 2.0 0.8 1.5 1.0 2 .8 1.4 2.9 1 .6 2.8 国税 1.9 1.1 1.4 0.5 0.5 0.0 日本 英国 フランス 米国 ドイツ (注1)法人所得課税の定義はOECDの区分による。日本の地方の法人所得課税には、法人住民税均等割・法人事業税の外形標準分 も含まれる。 (注2)ドイツは、2001年に行われた法人税制改革に伴う移行措置の影響で、法人所得税収が一時的に減少している可能性がある。 (注3)日本は、法人税収の35.8%が法定割合分として地方交付税交付金の財源に充当されると定められている。英国、フランス、 ドイツには、国から地方へ交付される一般交付金が存在するが、法人税収をそれに充てるかどうかについては定めがない。 図 3-1-13 住民 1 人あたりの主な地方税の地域偏在性(地域間格差) (2004 年度) 最大(東京都)/最小(沖縄県)の倍率 地域間格差 法人2税 個人住民税 (住民税・事業税) (所得割) 6.6倍 3.3倍 固定資産税 地方消費税 2.5倍 1.7倍 132 (参考)1 人当たり 県民所得の格差は 2.1 倍(2003 年度)。 (2)地方の法人所得課税の抜本的見直しによる地方税収構造の再構築 地方自治体が自立的・安定的な地域経営に取り組むためには、それを支える税収 構造のあり方も重要な検討課題となる。 我が国の地方の財源としては、法人所得課税の割合が約 2 割を占めており、国際 的に見ても極めて高い水準になっているのが現状である(注)。しかし、法人所得課 税による税収は都市部に偏在しており、地方間の税収格差が大きいことの要因とな るとともに、結果として、税収の少ない地方の財政調整への依存を大きくしている。 また、法人所得課税は景気変動の影響を受けやすく、地方財政の不安定性を高める 要因ともなっている。こうした偏在性・不安定性の観点から、法人所得課税は、本 来、地方が自立的・安定的に地域経営に取り組むための財源として適していないと の指摘がなされている。 また、地方の法人所得課税負担が国際的に高い水準にあり、先に指摘したとおり 法人実効税率が国際的に高い水準になっていることは、企業がグローバルに税負担 の低い国・地域を選択する中で、地域の経済活性化を図る観点からもマイナス要因 となるおそれがある。 133 図 3-1-14 地方法人所得課税を他の偏在性の小さな税で代替した場合の試算 地方法人所得課税(法人事業税+道府県民税法人税割+市町村民税法人割)の税収の 50%に相 当する額(注)を、同額の他の偏在性の小さな税で代替すると仮定し、15 年度決算データに基づ き、都道府県別の税収の増減等を試算。 (注)15 年度は約 2.9 兆円。 ※地方法人所得課税は極めて偏在性が高く、東京都の法人所得課税の税収は鳥取県の 90 倍(東 京都の人口は鳥取県の 20 倍) 。 <試算の前提> ・ 都道府県全体の総税収及び市町村全体の総税収はそれぞれ維持することとした。 ・ 地方法人所得課税の税収の 50%に相当する額について、現在のところ最も偏在性の小さな地方 消費税の現行の配分基準に準拠して機械的に再配分した。 <試算の結果> 。 ○47 都道府県のうち 39 道府県で増収となった(次表参照) ○これにより、現状の法人所得課税の税収に比して、東京都は約 25%、愛知県は約 20%減収とな るのに対し、50%以上増収となる県が 3 存在(多い順に高知県、長崎県、青森県)。20%以上増収 となる道県は 20 存在。 ○また、地方税収総額で見ると、5%以上減少するのは東京都(▲7%)だけであるが、逆に、5% 以上増加する県が 10 存在(多い順に、高知県、長崎県、青森県、秋田県、宮崎県、山形県、岩手 県、鳥取県、熊本県、鹿児島県)。 ○都道府県別の人口一人当たり地方税収総額(都道府県税+市町村税の都道府県別集計値)の地 域間格差は小さくなり、 最も多い東京都と最も少ない沖縄県との格差は 2.8 倍から 2.5 倍へと縮小。 ○多くの自治体で自主財源が充実し、結果として、地方交付税による財政調整の必要性が小さくな り、地方交付税総額は約 3,000 億円減少することとなる。 地方法人所得課税の税収の 50%を他の偏在性の小さな税で代替した場合の 都道府県別の税収の増減(平成 15 年度決算データを基に試算) (単位:億円) 15年度地方税収総額(都道府県+市町村計) 税収の増減額 うち地方法人所得課税 1 北 海 道 2 青 森 県 3 岩 手 県 4 宮 城 県 5 秋 田 県 6 山 形 県 7 福 島 県 8 茨 城 県 9 栃 木 県 10 群 馬 県 11 埼 玉 県 12 千 葉 県 13 東 京 都 14 神奈川県 15 新 潟 県 17 石 川 県 18 富 山 県 18 福 井 県 19 山 梨 県 20 長 野 県 21 岐 阜 県 22 静 岡 県 23 愛 知 県 24 三 重 県 25 滋 賀 県 26 京 都 府 27 大 阪 府 28 兵 庫 県 29 奈 良 県 30 和歌山県 31 鳥 取 県 32 島 根 県 33 岡 山 県 34 広 島 県 35 山 口 県 36 徳 島 県 37 香 川 県 38 愛 媛 県 39 高 知 県 40 福 岡 県 41 佐 賀 県 42 長 崎 県 43 熊 本 県 44 大 分 県 45 宮 崎 県 46 鹿児島県 47 沖 縄 県 全国 12,033 2,713 2,582 5,526 2,081 2,367 4,609 7,067 5,132 4,756 15,800 14,273 50,940 24,067 5,462 2,902 2,719 2,206 2,075 5,066 4,848 10,434 22,794 4,539 3,294 6,231 24,793 13,412 2,837 2,110 1,196 1,458 4,430 7,008 3,335 1,850 2,302 2,888 1,451 11,216 1,680 2,539 3,333 2,410 1,999 3,059 2,024 323,845 1,573 307 355 979 275 323 744 1,181 871 723 2,044 1,689 14,767 3,445 877 472 430 368 336 741 682 1,988 5,593 849 600 982 5,072 1,629 336 316 162 227 679 1,104 505 380 405 452 167 1,811 260 316 463 343 262 433 281 58,797 590 169 146 47 128 134 116 49 38 89 291 382 -3,555 -75 132 54 56 11 51 198 122 -90 -1,091 -24 -24 171 -304 350 84 58 66 52 80 93 74 -6 49 92 102 215 69 163 178 99 118 161 93 0 地方税収総額に対す 地方法人所得課税収 る増減率(%) に対する増減率(%) 442 148 125 44 106 40 37 10 93 35 99 35 62 53 31 18 29 10 67 22 216 75 269 112 -2,507 -1,049 -105 30 88 43 43 11 48 9 0 12 33 18 143 56 82 40 -87 -3 -834 -257 -27 4 -18 -6 142 29 -203 -102 245 105 63 21 42 16 49 17 37 16 64 16 77 15 54 21 -5 0 40 9 67 26 74 27 175 39 46 23 121 43 132 46 72 27 88 30 120 41 66 27 0 0 (注)東京都については、市町村に特別区を含む。 (出所)三菱UFJリサーチ&コンサルティング調査(平成 17 年度経済産業省委託調査) 134 一方、企業は、地方が行う社会資本整備や産業振興策などの行政サービスの受益 者であり、応益原則に基づき企業にも負担を求めるべきであるといった意見がある。 他方、企業は法人所得に対する課税以外にも法人住民税均等割、法人事業税(外形 標準課税部分)、固定資産税、都市計画税、地方消費税等を負担している上に、前述 のとおり、我が国の地方法人所得課税負担の水準は国際的にも高く、応益負担の範 囲を超えているとの意見がある。また、受益の有無ではなく所得の多寡に応じて課 税されており、法人住民税については、地方行政サービスとは関係の無い海外所得 にも課税されるなど、そもそも応益負担になっていないとの意見もある。 こうした観点を踏まえ、地域経済活性化のためにも、地方の法人所得課税につい て抜本的に見直すとともに、地方の税収構造を、産業立地を促進し、自立的・安定 的な経営を行うのにふさわしいものに再構築していく必要がある。 また、地方法人所得課税は、現状においては地方財政を支える重要な財源となっ ており、その見直しに当たっては、地方にとって真に必要な歳入を如何に確保する かという点ともあわせて議論すべきである。この点に関しては、国・地方がともに 最大限の歳出削減をまず行うことが必要であるが、その上で、地方が担うべき行政 を遂行するための財源については、国と地方の役割を踏まえつつ、地方行政を自立 的・安定的なものとしていくためにはどのような税収構造にすべきかという観点か ら、歳出・歳入一体改革の中で議論をしていく必要がある。 135 A市とB市住民一人当たり法人住民税収の比較 (過去 10 年間(平成 6∼平成 15 年度)の平均) 図3-1-15 地方法人所得課税の偏在性の具体例 大企業X社が立地しているA市と、隣接しA市のベッ ドタウンとなっているB市を比較すると、法人住民税の 一人あたり税収は3倍の格差。B市は、X社の従業員や その家族に対し、教育や社会福祉などの行政サービス を提供しているが、X社からの法人住民税は享受でき ず、地方交付税への依存度が大きくなっている。 法人住民税 A市 1.5万円 地方交付税 2.6万円 法人住民税 0.5万円 B市 地方交付税 10.6万円 図3-1-16 主な地方税収の対前年度増減比率の推移 10 % 9.2 6.0 5.8 法人二税 5 5.1 3.0 2.5 地方消費税 2.0 0 -0.8 -2.5 -2.8 1.7 1.2 -3.0 -2.1 0.0 -1.8 -4.2 -4.2 -3.4 -5 -1.1 -1.3 -2.0 固定資産税 個人住民税 -10 -11.3 -15.0 -15 11年度 12年度 13年度 14年度 15年度 16年度 (注)制度改正の影響は調整していない。 (出所)総務省 HP「地方税の計数資料」より経済産業省作成 図3-1-17 地方法人所得課税の不安定性の具体例 大手電機メーカーなどの本社所在地として発展したC市は、工場の移転などで法人住民税 収が激減(平成3年度→平成16年度で▲37億円) 。結果として地方交付税への依存が増大。 C 市の税収の推移(決算額) 60.6億円 法人住民税 48.5億円 23.6億円 地方交付税 4.4億円 平成3年度 (市の総税収) 16年度 (272.2億円) (226.7億円) 136 (3)地域レベルでの規制緩和 地域経済の活性化を進める上で、地域に密着した市町村等が具体的な行動でイニ シアティブをとることが求められることが少なくない。 例えば、映画のロケのための道路や河川敷の使用許可や多様な施設での滞在を可 能とするための宿泊や飲食の施設、設備の要件、基準の設定を市町村等がイニシア ティブを持って行えることが求められる。 (ア)地方分権、権限委譲、規制緩和が進められているが、個別、具体的な事項で 弾力的な取扱いを行うことが有効であり、現実的である。構造改革特区制度はそ のような役割を期待されている。特区に指定されることが、地方自治体のPRに なり、他地域と異なる有利な取り扱いが可能となることが地域活性化のインセン ティブとなっている。 しかし、現行の構造改革特区制度は、特例措置の全国展開が前提となってい るため、地方自治体等における特区制度の発案のインセンティブが十分に機能し ていない。このため、今後、構造改革特区制度の見直しの議論の中で、地方自治 体等に発案のインセンティブを付与する具体的方策( 「全国初」 「一号」など発案 地域であることが明確となる特区名称の付与なども含む。)を検討していく必要 がある。 (イ)また、一部の都道府県では、市町村から権限委譲の提案を受け、市町村と調 整する制度等の導入も見られるが、都道府県から市町村への権限委譲が進んで いないとの指摘がある。こうした中、都道府県から市町村への権限委譲等を促 進し、各地域の権限委譲の進捗に係る情報を共有できる仕組み(例えば、都道 府県別委譲等推進度ランキングの公表)を設けることが必要である。 137 図 3-1-18 自動車、電機・電子等の国際競争力のある産業の集積地(出典:2000 年度工業統計) 自動車、電機・電子等の出荷額が上位 50 位以内の都市圏を表示している 北上 上田 松本 広島大都市圏 仙台大都市圏 米沢 長野 富山 伊那 福島 郡山 長岡 いわき 宇都宮 日立 金沢 福山 水戸 伊勢崎 高崎 豊橋 津 岡山 北九州・福岡 大都市圏 沼津 18.33% 中京大都市圏 大分 熊本 長崎 御殿場 掛川 静岡 浜松 12.36 京阪神大都市圏 138 太田 23.38% 京浜葉大都市圏 <参考> 地域類型と活性化に重要となる産業例 「少子高齢化時代の地域活性化検討委員会」による各地域類型毎に、今後、その活 性化に向けた取組について典型的な発展パターンを整理すれば以下のとおり。 (1)東京を中心とする地域 東京を中心とする地域は、自動車、電機・電子等の国際競争力のある産業、金 属、石油化学等の産業及び情報通信業等のサービス業等の幅広い産業並びに企業 の本社機能の厚い集積があり、モノ作りに係る国際競争力強化策及びサービス産 業政策の対象となっている企業等が集中している。 引き続きこれらを域外市場産業として育てていくことが重要である。 (2)政令指定都市を中心とする地域及びそれと近隣関係にある地域 政令指定都市を中心とする地域及びそれと高速道路等で結ばれ近隣関係にあ る地域(具体的には、仙台市を中心とする地域、京浜葉大都市圏等を除く関東平 野、東名高速道路沿い、名古屋市を中心とする地域、名神高速道路沿い、大阪市 を中心とする地域、山陽自動車道沿い、広島市を中心とする地域並びに福岡市を 中心とする地域、熊本市を中心とする地域及び大分市を中心とする地域)には、 国際競争力のある自動車、電機・電子等の国際競争力のある産業や金属、石油化 学等の産業が厚く集積しており、モノ作りに係る国際競争力強化策の対象となっ ている企業等が集中している。 引き続きこれらを域外市場産業として育てていくことが重要である。 (3)地方中核都市を中心とする地域 地方中核都市を中心とする地域では、繊維、木製品、食品、陶磁器、紙製品等 の生活関連製造業の集積が厚い地域が多数存在する。一方、北陸自動車道沿いの 富山市、金沢市等を中心とする地域、中央自動車道沿いの甲府市及び松本市を中 心とする地域、関越自動車道沿いの長岡市を中心とする地域並びに東北自動車道 沿いの福島市及び郡山市を中心とする地域では、自動車・電機・電子等の国際競 争力のある産業の集積が厚い。また、旭川を中心とする地域、青森を中心とする 地域、松江を中心とする地域等のように、製造業の集積が薄い地域もある。 さらに、観光業、商業、サービス業が主要産業の一つとなっている地域が多い。 これまであまり重要視されてこなかったきらいがあるが、今後、海外市場への 進出を視野に入れ、これらの産業を域外市場産業として活性化していく。 139 140 (4)地方中小都市を中心とする地域 地方中小都市を中心とする地域においては、製造業がその域内に存在していても、 その集積の厚みが乏しいため主要産業となっておらず、商業、サービス業が主とし て地域を支える産業となっている地域が多い。また、観光業が主要産業の一つとな っている地域もある。一方、米沢市、いわき市、上田市を中心とする地域並びに中 央自動車道沿いの伊那市及び諏訪市を中心とする地域など、自動車、電機・電子等 の国際競争力のある産業の集積が厚い地域も存在する。 これらの地域では、域外市場産業として、一次産業・食品産業や観光業が重要な 役割を果たすこととなる。一次産業・食品産業の活性化を図るためには、生産性や 産品の質の向上等を図るとともに、地域に存在する製造業との連携(農工連携)等 を図り、全国更には海外にも積極的に販路を拡大していくことが重要である。一部 の地域では観光等の活性化も重要である。観光等の活性化に当たっては、単なる自 然景観の観光ではなく、戦略的なコンセプトの下、広域的に連携した文化・産業等 のコンテンツの観光の発展の要素を取り入れることが重要である。 自動車、電機・電子等の国際競争力のある産業の集積が厚い一部の地域では、一 定の研究開発機能が存在するか否かで、モノ作りに係る国際競争力強化等による産 学官連携の技術開発等の有効性が異なってくる。 (5)中山間地域等 中山間地域等は、主として、一次産業が地域を支える産業となっている。また、 観光業が主要産業の一つとなっている地域もある。 一次産業では、生産性や産品の質の向上等を図るとともに、地域に存在する製造 業との連携(農工連携)等を図り、域外市場産業として全国更には海外に販路を拡 大していくことが重要である。また、一部の地域では観光業の活性化も重要であり、 伝統的な民俗・生活文化等のコンテンツや農林水産業等の作業体験、農林漁家での 宿泊体験等を売りにしたグリーン・ツーリズムで成功している例も出てきている。 141 142 第 2 節.地域中小企業の活性化 143 <参考> 従業者数の構成比 三大都市圏 三大都市圏以外 全国計 中小企業 58.1 84.5 71.0 大企業 41.9 15.5 29.0 資料:総務省統計局「事業所・企業統計調査」(2004年)再編加工 (注)1.ここで、三大都市圏とは、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、愛知県、大阪府を指す。 2.数値は、中小企業基本法改正後(1999年12月)の定義に基づき、計算している。 3. 記載している数値は会社の正社員及びパート・アルバイト、個人事業主、個人企業の無給家族従業者、正社員、パート ・アルバイトの合算。 4. 常用雇用者数とは、正社員及びパート・アルバイトの人数を指す(個人業主、無給家族従業者、有給役員は含まれない)。 従業者総数とは常用雇用者のほか、個人業主、無給家族従業者を含む従業者総数を指す。 5. 中小企業とは常用雇用者300人以下(卸売業、サービス業については100人以下、小売業、飲食店については50人以下)、 又は、資本金3億円以下(卸売業については1億円以下、小売業、飲食店、サービス業については5,000万円以下)の会社 及び従業者総数300人以下(卸売業、サービス業については100人以下、小売業については50人以下)の個人事業者。 144 第3章 地域経済活性化(地域活性化戦略) 第 2 節 地域中小企業の活性化 中小企業は広い裾野を形成し、我が国の経済と雇用の大宗を支える重要な存 在である。特に、大都市圏以外の回復の遅れが目立つ地域においては、中小企 業の重要性は一層高い。他方、地域経済は公共投資に依存しない自立型の経済 構造への転換が望まれている。 こうしたことから、これからの地域経済の活性化には、地域の中小企業の知 恵とやる気を活かし、中小企業が活力をもって事業を展開していくことが極め て重要になっている。さらに、地域の中小企業にとっては、少子高齢化問題は 特に深刻な課題であり、積極的な対策が必要である。 1.「地域資源活用企業化プログラム」の推進 地域ごとに経済状況をみると、大都市圏以外での回復の遅れが目立っている。 こうした回復の遅れが目立つ地域経済の活性化のためには、大都市部等の主要 マーケットで顧客を獲得する必要があるが、コスト優位によって競争力を維持 することは困難なことが多く、消費者に高く評価されるための差別化を図るこ とが重要である。こうしたことから、地域にある優れた地域資源(地域の農林 水産品、産地の職人の技、伝統文化等)を活用することが一つの有効な方策で あると考えられる。 地方でこうした産業を支えているのは主に中小企業であるが、地方の中小企 業は、主要マーケットから離れており市場ニーズの把握が容易でない、商品企 画や商品開発に必要な外部人材へのアクセスが容易でない、都市部に販路開拓 を進めるための情報の入手や情報発信が困難である、資金調達のための環境が 十分でない等の事業環境の整備が不十分な面があり、やる気があって優れた資 源を有する中小企業であっても、都市部の消費者ニーズにあった新商品を開発 しその販路を確保することは容易ではない。 こうしたことから、法律を制定するなどにより、以下の施策を中心とする総 合的な支援策(「地域資源活用企業化プログラム」)を実施し、地方の中小企 業による地域資源を活用した新商品・新サービスの開発・販売を促進する。ま た、NPO や LLP 等が行う取組についても支援の対象としていく。 【具体的施策】 ①地域経済への波及効果が大きい取組を成功まで導くための支援 地方でさまざまな困難に直面している中小企業が行う地域資源を活用した 「売れる商品作り」、例えば、産地の技術を活用した新ブランドの確立、農 林水産業と製造業との連携による新製品の開発・販売等のうち、地域経済へ の波及効果が大きいものについて、以下の支援を行うことにより、効果的に 成功まで導く。 145 <参考:モデルとなる中小企業の取組例> ●産地の中小企業等が一丸となって新ブランドを確立 山形発カロッツェリア型ものづくり ・世界的に著名な工業デザイナー (山形県出身)が中心となって、2003 年度に、鋳物、木工、 繊維等の分野の県内の優れた職人が参画した「山形カロッツェリア研究会」を立ち上げ、 ハイクオリティの商品開発を実施。 ・2006 年 1 月には、選抜した 5 社の製品群を「山形工房」というブランド名でインテリア 国際見本市「メゾン・エ・オブジェ」に出展。最有力コーナーでの出展を実現し、多数 の商談が進展。 ※カロッツェリア:イタリア語で(車の)ボディ工房の意味。部品・素材調達からデザイン開発、組 立まで地域一体となって推進する北イタリアの伝統的な生産方式。 ※ 「メゾン・エ・オブジェ」に出展した製品 コートハンガー 折りたたみ椅子 コーヒー&ティーポット ペレットストーブ 緞 通 ●特産品開発と観光客誘致の一体的推進による事業拡大 特産品加工・販売業 A 社(千葉県富浦町) ・富浦町は、交通インフラ整備の遅れにより主要産業であった観光事業が衰退し、1991 年 には観光客が 20 万人に激減。 ・地域の産業振興を目的として、町の全額出資により、特産品加工・販売業 A 社を設立。 ・特産品である枇杷の規格外品を活用したソフトクリーム等の開発、花摘み園、いちご園、 枇杷園など体験型施設の整備、道の駅の開設、「南房総いいとこどり」と題した観光情報 の発信等を総合的に展開。 ・観光客数は年間 100 万人突破、年商約 6 億円(利益約 1500 万円)で、60 人の雇用を創出 (町民の約 1%に相当) 。 146 ○市場調査、商品企画・開発、販路開拓等に対する支援 ・地域資源を活用した売れる商品作りのための、市場調査、商品企画、技 術開発、試作品の製作、デザインの改良、展示会出展等の取組に対し、 資金面の支援に加え、マーケティング等の専門家によるアドバイスなど 徹底したハンズオン支援を実施する。 ○地域資源の企業化に取り組む中小企業の資金調達の円滑化 ・地域の金融機関等と(独)中小企業基盤整備機構の共同出資により設立 される「地域資源活用企業化ファンド(仮称)」や信用保険等の活用を 通じて、地域資源を活用して企業化する会社等の設立、資金調達の円滑 化等を支援する。 ②地域中小企業の基礎力(企業化力)の向上支援 中長期的には、地域の中小企業が市場ニーズに対応するための製品改良な どの知恵を継続的に出して、自らの力で事業の維持・拡大を図ることができ るようになることが重要。そのため、地域の中小企業が消費者ニーズを踏ま えた商品開発等を行う基礎力(企業化力)を向上するための支援を行う。 また、地域において、地域の強みである資源を認識し、それらを活用した ビジネスの種づくりが行われることが重要であり、こうした土壌作りを行う 活動に対して支援を行う。 ○地域資源を活用したビジネスの種を産み出す活動に対する支援 ・地域における新たなビジネスの種の創出を狙った研修会等の開催や、産 地の中小企業と東京等のデザイナーとのネットワーク構築を狙った活動 などに対し、支援を行う。その際、こうした取組の新たな主体となりつ つある NPO 等についても支援を行うこととする。 ○地域中小企業の取組の核となる人材の育成に対する支援 ・経営の中核を担う後継者等の育成を支援する。 ・円滑な事業承継に対する支援を行う。 ○中小企業の商品開発力の向上 地域の中小企業が消費者ニーズを踏まえた商品開発を行う基礎力を向上 するため、以下の支援を行う。 ・顧客志向の商品企画・開発の手法、ブランドの効果的な利用方法等に関 するマニュアルなどを策定し、普及させる。 ・中小企業大学校における市場調査や商品企画等のノウハウに関する研修 を実施する。 ③ 成功事例の普及啓発 地域中小企業にとって身近な成功事例の分析・紹介や表彰などを通して、 地域資源を活用した新製品の開発・販売等を行う取組を全国に拡大する。 147 コンパクトシティ構想に基づく「ウォーカブルタウン」に人が集い、交流が生まれ る。賑わいを再生するまちづくりの展開 青森商工会議所/青森県青森市 名実ともに青森県トップの中心商店街をいかに訪れやすく、にぎわいのあるまちにしていくか を目指しプロジェクトを展開。商業・交流拠点施設「アウガ」 「パサージュ広場」を起点に各商 店街をまちづくりの舞台として来街者に開放し、地域、業種、世代を越えて人が集う中で、様々 なイベントを実施し交流が生まれるまちづくりを展開している。 ▲ 駅前再開発ビル「アウガ」 ▲ 駅前再開発ビル「アウガ」内部 ★事業の着眼点 ○青森市中心商店街の特徴である、広い歩道を活用したイベントの実施、50 基のパラソルを歩道 に配置し、ストリートマーケット・パラソルショップを開催し、より多くの集客を図ることに照 準を合わせた。 ○イベントの実施にあたっては中心商店街が連携し、中心街区の一体感をアピールすると共にそ の活動を通じてコンセンサス形成を行うことが重要と考えた。 ○イベント開催のための実行委員会には様々な分野の人が参加しているため、イベントに対する ニーズを的確につかんで実施することにした。 ○TMO の総合的な調整のもとに行政・民間・市民が、各イベントに主体的に参加するスタイル を目指した。 148 2.中小小売商業振興を通じたまちづくりプロジェクトの推進 既に地方都市を中心として人口減少及び超高齢化社会が始まっている。今後 2015 年から人口規模の小さい都市を中心に更に大幅な人口減少が予想される一 方、国及び地方財政は巨額な財政赤字を抱えており、既存のインフラの維持負 担の増大に加え、無秩序な郊外開発は地方財政を圧迫し、地方経済の足かせに なることが予想される。このため、政府としては人口減少社会に対応したコン パクトシティの推進を打ち出しているところである。 他方、わが国経済の発展の陰で進むコミュニティの喪失が、安全安心社会を 脅かすなど、数字だけでは計れない我が国の経済社会に与える影響を指摘する 声もある。中心市街地はインフラ整備が進み、歴史的に見ても地域住民等の生 活と交流の場であり、地域経済の拠点である。地域における経済的活動の支柱 となるにふさわしい魅力ある市街地の形成を図る観点から、改正中心市街地活 性化法等に基づき、コンパクトでにぎわいあふれるまちづくりを推進する。 なかでも、商店街は、地域経済の商業機能の担い手であるだけでなく、歴史 的経緯、地理的状況を背景にそのまちの文化や伝統を育み、公益、産業等の各 種機能を担ってきた社会資本の蓄積地である。人々が集い、共に助け合い楽し む地域コミュニティとしての商店街は、まさに中心市街地の核としての役割を 有しており、地域経済におけるコミュニティの回復の鍵を握っていると言える。 近年、公と民の関係が変化し、価値観が多様化する中で、まちづくりは、そ こに住み生活をし、活動する様々な主体が自らの手で、自らのまちを作ってい く作業となってきている。このため、改正中心市街地活性化法において、新た に民間を主体とし官との連携も含めた「中心市街地活性化協議会」(新 TMO: New Town Management Organization)を法定したところである。この機能を今後 強化することが、地域経済の核組織を育てることになり、地域経済の活性化に つながるものである。 今後、中心市街地における商業活性化については、本協議会の下で、商業機 能をまちづくりの中でどのように位置づけ、どのように住民等の支持を得てい くのかを明確にし、中小小売商業者が地権者など様々な関係者の協力を得て行 う、意欲的な取組に対する重点支援を更に強化していくべきである。 149 150 もちろん、このことは消費者ニーズへの対応等自助努力を怠っている中小小 売商業者や地方のにぎわい回復という名の下に主体性、計画性の無い事業を支 援することを意味するものではない。中心市街地以外の地域も含めた地域にお いて、にぎわいの回復に、意欲的及び計画的に取り組む中小小売商業者の立ち 上がりを後押しし、地域経済の発展につなげるとともに、コミュニティの中心 としての商店街に着目し、少子高齢化社会や多様な就業機会の創出等、今後の 我が国のあり方に深く関わる経済社会問題に対応した形で、サービスを含む商 業の構造改革を促進していくことが必要である。 【具体的施策】 ○ 改正中心市街地活性化法により基本計画の認定を受けた地域において、商 店街、商業者が地権者などの幅広い参画を得て実施する、集客核施設の設 置等のハード事業や共同ポイントカード事業等のソフト事業に対する支援 策の更なる強化及び重点化を図る。 ○ タウンマネジャー活動支援及び TMO 活動の実効性を確保するための施策 を強化する。 ○ 商業機能を有効展開する観点から、空き店舗活用を通じた起業・再起業支 援、少子化社会対応ビジネス等への支援を実施する。 等 151 <参考:元気なモノ作り中小企業 300 社> 全国には、一般には知られていないが我が国産業の競争力を支えている優れたモノ作り 中小企業が沢山ある。そこで、そのような企業の姿を、広く国民に対して分かりやすく示 すことにより、中小企業のやる気を一層引き出すとともに、若年者などのモノ作り分野に 対する関心を喚起するため、全国各地域から 300 社を選定・公表した(2006 年 4 月 11 日)。 300 社のプロフィール ①世界規模の市場において高いシェアを誇っている中小企業 …98 社 ②国内市場で高いシェアを持ち、我が国の誇る高度なモノ作りの基盤を支えている中 小企業 …98 社 ③特定の狭い(ニッチ)分野に特化することで、他社にマネのできない技術を確立し ている中小企業 …104 社 事業分野別内訳 機械 90 社 (一般機械 60 社、特殊機械 10 社、医療機械 10 社、光学機械 8 社、精密機械 2 社) 電気・電子・半導体 70 社 輸送機械(自動車等) 43 社 金属処理(絞り等) 21 社 金型 13 社 工具・測定器 12 社 化学 5社 その他 46 社 地域別内訳 モノ作り産業の活発な地域に多く存在。 ・東京都(34 社)、大阪府(26 社) 、愛知県(18 社) 、神奈川県(17 社)等 ・東京都のうち 15 社が大田区、大阪府のうち 13 社が東大阪市 98 100 80 64 60 44 40 20 0 28 25 22 10 7 2 北海 道 東北 関東 中部 近畿 中国 四国 九州 沖縄 7 22 98 44 64 25 10 28 2 152 3.地域におけるモノ作り中小企業の振興 我が国には、加工・部品等の分野で世界的な競争力をもつ中小・中堅企業が 多数存在しているところであり、「元気なモノ作り中小企業 300 社」(2006 年 4 月 中小企業庁編)にも、(1)世界規模の市場において高いシェアを有する中小 企業約 100 社、(2)国内市場で高いシェアを持ち、我が国産業の基盤を支えてい る中小企業約 100 社、(3)特定の狭い(ニッチ)分野に特化することで、他社に マネのできない独創的・高度な技術を持つ中小企業約 100 社が含まれている。 それら中小企業は、大都市圏以外の地方にも、また、東大阪や東京都大田区の ように、高度な技術をもつ中小企業が高密度に集積している地域にも、日本全 国に幅広く存在している。 これら中小企業には、自動車、電機・電子産業の国際競争力を支える高度部 品・材料産業が多く含まれ、世界をリードする新産業を生み出す我が国の国際 競争力の基盤となっている。こうしたことから、企業の海外進出や産業構造の 変化にもかかわらず、モノ作り中小企業は、日本に立地し続けることが重要で あり、国際競争力強化政策としても、その維持・活性化が重要である。しかし ながら、同時に、モノ作り中小企業は、地域経済の活性化にも大きな影響を有 することから、地域活性化の視点でもモノ作り中小企業を捉えていくことが必 要である。したがって、地域活性化の視点からも振興策を強力に推進していく。 【具体的施策】 ○研究開発支援 ・ 「中小ものづくり法」に基づく技術高度化指針を整備し、普及させる。 ・ 「中小ものづくり法」技術高度化指針に沿った研究開発に対する支援を 行う。 ・ 地域の公設試と中小企業が協力して行う地域ニーズにあった研究開発 に対する支援を行う。 ・ 地域資源を活用した技術開発に対する支援を行う。 ○人材育成 ・高専等と地域中小企業の連携による中小企業の技術者の育成プログラム を実施し、充実させる。 ○技術基盤の整備 ・地域の中小企業のニーズに対応した計量標準を供給できる体制を整備す る。 ・商工会、商工会議所を活用した「知的財産に関する駆け込み寺」を整備 する。 ○危機に強い地域経済の構築 ・地震や水害等の突発的災害によるモノ作り中小企業の事業中断が、サプ ライチェーン全体を停止させるリスクを避けるため、新しい危機管理手 法であるBCPの策定の普及を図る。 153 <参考:中小企業に占める小規模企業数の割合> 中小企業 4,326,342 社 うち小規模企業 3,776,863 社(87.3%) ※資料:総務省「事業所・企業統計調査」(2004 年)より <参考:1996 年から 2001 年までにおける各事業所の雇用変動状況> ∼企業規模が小さくなるほど、増加率は大きくなる∼ (万人) 200 161万人 増加率:20.7% 164万人 増加率:13.9% 150 99万人 増加率:11.8% 100 61万人 増加 減少 純増減(左目盛り、万人) 57万人 増加率:11.2% 58万人 増加率:9.7% 50 41万人 増加率:6.9% 0 -50 ▲ 50万人 ▲ 73万人 ▲ 67万人 ▲ 103万人 ▲ 50万人 -100 -150 ▲ 100万人 減少率:12.9% ▲ 108万人 減少率:21.1% -200 -250 1∼5人 ▲ 213万人 減少率:18.2% 6∼20人 ▲ 166万人 減少率:19.8% 21∼50人 51∼100人 資料:総務省「事業所・企業統計」再編加工 (注)1.1996年と2001年の調査で接続可能な事業所を存続事業所とする。 2.従業者規模は、期首(1996年)とする。 3.増加率(減少率)は、増加計(減少計)/その従業者規模の期首 154 ▲ 131万人 減少率:21.9% 101∼300人 ▲ 144万人 減少率:24.3% 301人∼ (従業者規模) 4.小規模・零細企業の振興 中小企業の9割近くを占める小規模・零細企業は、特に地域に根付いた活動 を行う存在であり、地域経済・社会の活力を維持するためには、こうした小規 模・零細企業が円滑に事業を行う環境を作っていくことが不可欠である。 こうした観点から、小規模・零細企業の支援機関として重要な役割を果たし ている商工会議所、商工会その他関係機関が連携して、小規模・零細企業が地 域資源や人材を有効に活用しやすくするための地域的な取組や技術革新、情報 化等の社会経済環境の変化に柔軟に対応するための経営力強化を支援していく。 【具体的施策】 ○ 地域に密着する小規模・零細企業が事業展開を円滑に行うための地域全体 での取組を支援する。 ○ 新たな経済環境の変化に小規模・零細企業が対応するための創業・経営革 新・事業承継等に関する知識の習得、経営力強化のための財務・税務等の 分析に関する支援を行う。 ○ 小規模・零細企業が必要とする資金の円滑な供給を確保する。 ○ 小規模・零細企業に対する施策等を効果的に広報・普及する。 155 <参考:金融再生法の開示不良債権比率推移> ¾ 地域金融機関の不良債権比率は高止まっている 第二地銀の 開示債権額 3兆9,480億円 主要行 地銀 第二地銀 10% 9.0% 9% 8% 8.1% 8.0% 8.2% 7.6% 7.5% 7.4% 7% 地銀の 開示債権額 11兆550億円 第二地銀の 開示債権額 2兆4,090億円 8.9% 7.2% 6.9% 6.5% 6% 6.8% 5% 6.3% 6.3% 5.2% 5.5% 4.7% 5.8% 5.1% 4% 主要行の 開示債権額 23兆9,480億円 3% 2.9% 2% 2.4% 地銀の 開示債権額 7兆1,920億円 1% 主要行の 開示債権額 6兆1,090億円 0% H14.9 H15.3 H15.9 H16.3 H16.9 H17.3 H17.9 ※金融庁HPデータより <参考:再生計画策定支援案件の推移と雇用確保の成果> (件) (人) 1,600 70,000 60,106 1,400 60,000 再生計画策定支援件数(累計) 1,200 50,124 46,429 再生計画策定完了件数(累計) 43,193 1,000 50,000 39,671 雇用確保数(累計) 1,146 34,094 22,331 800 600 540 400 301 9,399 3,546 129 171 200 35 0 3 45 1,068 872 647 17,807 805 1,371 894 530 971 584 40,000 711 640 456 30,000 20,000 311 234 10,000 101 0 H15.6.27 H15.12.17 H16.3.31 H16.9.30 H17.11.30 H17.3.31 H17.5.31 H17.7.31 H17.9.30 H17.11.30 H18.3.31 156 5.中小企業の再生・再起業の推進 ①再生・再起業支援のための金融環境の整備 都市銀行の不良債権処理は一段落したが、地方の金融機関や信組・信金に おける不良債権処理は、現在引き続き進みつつあるとされている。このため、 中小企業の再生に対するニーズが高まっており、事業再生を促すために、必 要な資金を供給する環境の整備が望まれている。 これまで、昨年からの制度改正により、求償権先への新規保証や求償権の 放棄を、中小企業再生支援協議会が策定した再生計画等に基づくことを条件 に可能とし、さらに、本年 4 月からは信用保証協会が保証を行う際に、第三 者保証人を求めることを原則禁止とするなど、再生・再起業支援の強化・環 境整備に取り組んできたところである。また、中小企業再生支援協議会にお いては、2005 年度末までに約 9,000 件の相談、約 1,400 件の再生計画の策定を 支援してきた。 【具体的施策】 今後は、再生支援協議会の一層の充実を図るとともに、事業に失敗した者 等の再挑戦を支援する融資・保証制度の創設や現行の事業再生のための融 資・保証制度の拡充を検討する必要がある。 また、事業に失敗した者等は担保が不足していることも考慮して、売掛債 権、在庫等を担保とする融資の推進や、成功時のアップサイドリターン等を 前提として、資金調達当初の負担を抑えた形での新たな資金調達手法につい ても、検討する必要があると考えられる。 さらに、事業継続の見通しがつかない事業者において、早期撤退の決断が されない場合、事業を継続するための運転資金を確保すべく、借入債務が急 激に増大することとなる。こうした借入債務が膨張した後に事業から撤退し た場合、その後の返済が極めて困難となり、再起に大きな障害となることと なる。このため、こうした場合の早期撤退の決断、債務整理等の手続きの実 施、新たな事業への再挑戦という一連の流れに関する相談窓口を全国に設置 していく必要がある。その際は、特に、経営者自身が身近に感じる機関に相 談窓口を設置し(商工会、商工会議所等の活用)、また、税理士、公認会計 士、弁護士といった専門的知識を有する者を活用することが重要である。 ②再起業等のためのハード面等での支援など 再起業や退職者等の起業を支援するには、資金調達のための環境を整備す ることともに、再起業等に必要なコストの低減も重要である。 【具体的施策】 ○空き店舗等の既存の施設を活用した、再起業等のための店舗やオフィスを 提供する。その際、ハード・ソフト面での支援に加え、地元商業者による コンサルティングも実施する。 ○再起業についての情報交換や研修の場などを整備する。 157 <参考:勤務先に子どもを連れてくること(企業内託児所を含む)に 関する制度の整備・利用状況> ∼従業員規模が小さい企業ほど柔軟に対応している∼ 制度が整っており、実際に利用されている 制度は整っているが、あまり利用されていない 1001人- 3.8 301-1000人 1.9 101-300人 3.4 8.1 13.5 9.0 80.1 6.8 17.6 21-50人 3.5 79.2 8.5 70.9 26.6 0-20人 2.8 0% 74.6 9.0 10.6 51-100人 3.0 制度は整っていないが、柔軟に対応している 制度も柔軟な対応もない 3.5 66.4 43.5 10% 20% 6.2 30% 40% 47.4 50% 60% 70% 80% 90% 100% 資料:富士通総研「中小企業の両立支援に関する企業調査」(2005年) <参考:職場に子どもを連れてきやすい環境にするための重要点> ∼スペースの確保、子どもの面倒を見る人の確保、職場の理解が重要∼ (点) 250 子どもの居場所の 確保 207 200 子どもの面倒を見 る人の確保 子どもを職場に連れてくる ことへの職場の理解 192 150 129 125 90 100 50 3 そ の他 他 に職 場 に子 ど も を 連 れ てき て いる 従 業 員 が いる こ と 子 ど も を 連 れ てき て いる こ と で 処 遇 上 不 利 に扱 わ れ な い 上 司 ・同 僚 の理 解 が あ る こ と 保 育 の専 門 的 な 知 識 を も った 人 の配 置 子 ど も の 面 倒 を 見 る 人 が いる こと 11 職 場 に自 家 用 車 で 通 勤 で き る こと 26 子 ど も の居 場 所 と な る ス ペー ス の確 保 0 資料:富士通総研「中小企業の仕事と育児に関する調査」(2005年) (注) 「職場に子どもを連れてきやすいような環境に際して、重要だと思う」上位3点について、「1位」を回答したものは3点、「2位」のものは 2点、「3位」のものは1点として集計。 158 6.地域活性化のための新たな金融手法・主体の活用 地域内の助け合いや地域おこし事業を活性化するためには、地域の資金をこ れら事業に有効活用するルートを整備していく必要がある。他方で、NPO や LLP 等を含むこれらコミュニティ事業者は、単独で円滑に資金調達を行うことは困 難である。 このため、こうした新しい金融手法・主体の活用を検討していく。 【具体的施策】 ○ 地域の様々な主体を中心とした、ファンド等の金融手法の活用による資金 供給策を整備する。 ○ 地域活性化を担う新たな主体への資金供給策を整備する。 ○ 事業会社の活用による金融サービスの向上を図る。 7.女性や高齢者を活かした地域中小企業の事業展開支援 我が国の現在の出生率は極めて低い水準にあり、我が国は他の先進国に先駆 けて総人口が減少に転じている。こうした中で、社会の全ての局面において、 子供を産み育てやすい社会の構築に向けた取組が期待されている。 中小企業における「仕事と育児の両立」に関する職場環境を見てみると、中 小企業においては、育児休業制度、職務時間短縮制度などの「制度」の整備状 況は大企業に比べて進んでいない。しかし実際には、中小企業は、制度の整備 ではなく、従業員の個別の事情に応じた育児休業や勤務形態に関して柔軟な対 応により仕事と育児の両立を可能とし、大企業と比べても両立が容易な職場環 境になっている。 少子高齢化社会の到来により、中小企業においては労働力不足が大きな課題 であるが、特に地方においては、一層深刻な課題である。このため、地方の中 小企業では、その長所である「柔軟な対応」を利用し、企業経営、女性の双方 にメリットがある形での事業展開を進めていくべきである。また、企業 OB など の高齢者についても、事業展開の中でその経験や技能が活かされるよう工夫さ れるべきである。このため、こうした事業者の活動を支援していくことが必要 である。 【具体的施策】 ○ 商店街における空き店舗等を活用した託児・育児施設の整備等に対する支 援を行う。 ○ 女性・高齢者等を活用するための事業施設・厚生施設の整備に対する金融 措置等を講じる。 等 159 160 第 3 節.サービス産業の革新 161 図 3-3-1 サービス産業のシェア 日米の実質GDPの伸びへの各産業の寄与度(1993年から2003年) 40.0% 36.8%の伸び 35.0% 30.0% 25.0% 29.6% 80.6%の伸び 20.0% 3次産業 2次産業 1次産業 14.5%の伸び 15.0% 10.0% 13.5% 93.1%の伸び 1.4% -0.4% 9.7%の伸び 5.0% 18.2%の伸び 6.7% 0.0% 0.4% 日本 アメリカ -5.0% (出所):日本 国民経済計算 日本の実質GDPの推移(1993-2003) 兆円 アメリカの実質GDPの推移(1993-2003) 兆円(1ドル120円) 1200 1200 1000 1000 800 600 +67兆円 +7兆円 400 −2兆円 EU-15の実質GDPの推移(1993-2003) 兆円(1ユーロ135円) 200 1993 1998 2003 +60兆円 +4兆円 1次産業 2次産業 日本の就業者数変化(1993-2003) 百万人 1次産業 −3.9百万人 2次産業 +0.5兆円 2次産業 3次産業 1次産業 1993 1998 2003 3次産業 1993 1998 2003 +0.2百万人 1次産業 (出典)国民経済計算 2次産業 3次産業 EU-15の就業者数変化(1993-2003) 百万人 +19百万人 −0.4百万人 2次産業 (出典)グローニンゲン大学データベース アメリカの就業者数変化(1993-2003) 百万人 +3.5百万人 −1百万人 400 (出典)Bureau of Economic Analysis (出典)国民経済計算 140 120 100 80 60 40 20 0 1993 1998 2003 +47兆円 0 1次産業 3次産業 800 600 200 0 0 +177兆円 1000 600 400 1200 +268兆円 800 1993 1998 2003 200 140 120 100 80 60 40 20 0 アメリカ Bureau of Economic Analysis 3次産業 140 120 100 80 −1.6百万人 60 −1.8百万人 40 20 0 1次産業 2次産業 (出典)グローニンゲン大学データベース +19百万人 1993 1998 2003 3次産業 (出典)グローニンゲン大学データベース ◆サービス産業 サービス産業とは第三次産業のことであり、旧産業分類 L サービス業に加え、エネルギ ー、運輸業、通信業、卸・小売業、飲食店、金融保険業、不動産業を含む。 ◆サービスの(品)質の定義 「製品またはサービスに本来備わっている特性の集まりが、(顧客の)要求事項を満た す程度。 」 (ISO9000:2000)に拠る。この場合、サービスの質は、 顧客満足度の程度に よって評価できる。 図 3-3-2 サービス産業の生産性 日欧生産性比較(2002 年マン・アワー・ベース) 日米生産性比較(2002 年マン・アワー・ベース) 140.0 医 療 120.0 政 府 サ 120.0 対 個 人 サ 100.0 ビ ス 運 輸 ビ ス コ ン ピ 80.0 ー ホ テ ル ・ 外 食 タ 法 金 務 融 ・ 保 通 技 険 信 術 ・ コ 広 不ン 告 動ピ 産 タ 60.0 不 動 産 40.0 40.0 20.0 研 究 開 20.0 発 0.0 政 府 サ ュー 医 療 法 務 ・ 技 術 ・ 広 告 ビ ス ー 金 融 ・ 保 険 ュー 60.0 卸 ・ 小 売 ー 80.0 通 信 ー ー ビ ス 100.0 対 個 人 サ 0.0 162 ホ テ ル ・ 外 食 卸 ・ 小 売 運 輸 研 究 開 発 第3章 地域経済の活性化(地域活性化戦略) 第3節 サービス産業の革新 1.サービス産業の現状と認識 (1)サービス産業の重要性 イ.サービス産業のシェア 先進国経済においては、サービス産業のウェイトが、実質 GDP、雇用の両面 で着実に拡大を続けており、我が国も例外ではない。 具体的には、2003 年時点で、我が国では実質 GDP の 7 割弱(69.6%)、雇用の 約 3 分の 2(66.8%)をサービス産業が担っている。また、最近 10 年間(1993 年∼2003 年)を見ると、実質 GDP の伸びの約 93%をサービス産業が担うととも に、雇用についても、製造業で約 390 万人減少したのに対しサービス産業で約 357 万人増加し製造業における減少を吸収するなど、重要な役割を果たしている。 ロ.経済成長のエンジン 以上のような我が国サービス産業の現状を踏まえると、今後とも我が国経済 が引き続き活力を維持していくためには、サービス産業が製造業とともに我が 国経済成長の「双発のエンジン」としての役割を果たしていくことができるよ う、その発展基盤を整備していく必要がある。具体的には、潜在的な顧客ニー ズに対応した新たな需要の創出・拡大とともに、サービス産業の生産性向上を 図ることが不可欠である。 (2)サービス産業の生産性 サービス産業は生産・雇用の両面で大きな役割を担っているが、その生産性 を日米欧で比較すると、製造業では日本が欧米を上回っている一方、サービス 産業については、ほとんどの分野で下回っている。 これまで我が国経済の生産性上昇を担ってきた製造業のシェアが縮小し、代 わりにサービス産業が拡大する中で、サービス産業の労働生産性がこのまま低 位で推移すると、マクロ経済全体の生産性が伸び悩み、ひいては我が国経済の 競争力が低下し、活力が失われる恐れがある。 しかしながら、我が国のサービス産業の労働生産性が欧米に比べて低いとい うことは、今後の生産性向上の余地が大きいということでもあり、産官学を挙 げてサービス産業の生産性向上に取り組んでいくことが重要である。 なお、ここでいう生産性向上とは、提供されるサービスの質の向上を通じた 生産性向上を念頭においたものであり、単純な労働投入量の削減によってもた らされる一時的な労働生産性向上を意図したものではない。 163 図 3-3-3 サービス産業の意義 (出所):OECD 図 3-3-4 サービスの所得弾力性 サービス支出の所得弾力性(1988-2004) 2.518 工事その他サービ ス 2.006 1.847 パック旅行費 宿泊料 1.346 1.229 1.173 1.001 0.862 0.774 0.705 0.641 0.562 0.477 0.442 補習教育 他の教養娯楽サービ ス 家事サービ ス 授業料等 理美容サービ ス 一般外食 保健医療サービ ス 交通 通信 被服関連サービ ス 月謝額 0 0.5 1 1.5 ( 2 ◆ 2.5 出所)平成16年度家計調査から推計 3 アウトソーシング 企業や行政の業務のうち専門的なものについて、それをより得意とする外部の企業 等に委託すること ◆ サービス経済化 サービス業の拡大だけでなく、すべての産業でサービス化が進むということ 164 (3)サービス産業の発展の社会的意義 サービス産業の発展は、健康や安全、娯楽といった国民の新しいニーズに応 えるものであるだけでなく、国際競争に晒されている製造業の競争力強化にも 資するものであり、その経済的・社会的意義は大きい。 また、地域における雇用機会という観点からも、少なからぬ地域が既に製造 業にのみ依存することが難しくなってきており、地域の活力ある発展のために は、観光・集客サービスや健康・福祉サービスといった地域サービス産業の発 展が期待されている。 更に、我が国は既に人口減少社会に突入しており、労働力減少の影響を可能 な限り小さくするためには、これまで以上に女性・高齢者の活用を促進してい くことが必要となっているところであるが、労働力率の向上という観点からも、 就業者に占める女性・高齢者の割合が高いサービス産業の役割は大きい。 (4)今後有望とされる重点サービス産業 今後の発展が期待されるサービス産業は、業種毎の所得弾力性の相違、少子 高齢化の進展、製造業とサービス産業の融合の進展、サービス経済化注に先んじ ている米国の産業構造等を踏まえると、以下のように整理することができる。 一つは、対人サービスを中心とする生活充実型サービスであり、一人当たり 所得の増加や高齢化の進展により、今後とも、生活充実型サービスへの需要は 拡大していくと考えられる。もう一つは、事業充実型サービスであり、製造業 におけるサービス職種の割合や中間投入に占めるサービスの割合が増大するな ど、製造業とサービス産業の戦略的なアライアンスが進展する中で、製造業の 競争力強化の観点から、事業充実型サービスの発展が期待される。 165 図 3-3-5 米国サービス産業の動向 図 3-3-6 製造業におけるサービスのウェイト 製造業におけるサービス部門からの中間投入の構成比 製造業の中間投入に占めるサービス部門の割合 100% 100% 90% 19.6 21.8 26.0 29.3 31.3% 0.2.0 2.8 20.4 29.8% 0.2.02 1.7 17.8 80% 80% 70% 14.3 50% 70.6 30.1 63.7 64.0 40% 62.0 64.5% 65.8% 20% 20% 16.0 0% 10.5 3.9 10% 7.5 12.8 9.1 7.6 1990 1995 0% 1980 1985 4.3% 4.4% 2000 2004 16.2 11.6 6.5 1980 1985 棒グラフ項目: 下から順に教育、対事業所サービス、電力ガス水道、 商業、金融保険不動産、運輸、通信、保健その他公 共サービス、対個人サービスの順 第一次産業 第二次産業 第三次産業(サービス部門) 0.1.249%% 14.8 15.6 14.2% 10.1 9.3 8.3% 26.6 28.4 11.0 10.0 20.6 19.0 21.0% 14.8 15.6 17.0% 1990 1995 0.1.257%% 11.5% 8.6% 25.7% 26.4% 26.8 40% 30% 0.1.25 17.2 60% 60% 0.1.253 10.6% 10.6% 21.9% 19.3% 2000 2004 教育・研究 対事業所サービス 電力・ガス・水道 商業 金融・保険・不動産 運輸 通信 保健その他の公共サービス 対個人サービス (出典)2002年通商白書のデータを産業連関表(延長表)を用いて延長 166 ① 生活充実型サービス ・ 健康・福祉関連サービス (医療サービス、医療機器・医薬品、スポーツ・健康維持増進サービス、介護サービス、 エステサービス等) ・ 育児支援サービス (幼児支援サービス(保育サービス、安全提供サービス、就学前教育サービスなど)、 家庭支援サービス(送迎サービス、献立作成サービスなど)等) ・ 観光・集客サービス (旅行業、宿泊業、運輸業、飲食業、娯楽サービス業等) ・ コンテンツ(製作・流通・配信) (映像(映画、テレビ、アニメなど) 、音楽、ゲーム、出版・新聞等を扱う産業等) ② 事業充実型サービス ・ ビジネス支援サービス (情報サービス、労働者派遣サービス、リース、レンタル、デザイン等のサービス業等) ・ 流通・物流サービス (卸売業、小売業、運輸業) 167 ◆情報の非対称性 買い手と売り手の間に存在する情報格差。例えば、サービスの売り手は事前に十分な 情報を持っているが、買い手はサービスを受けるまで内容について情報を知ることは困 難であること。 168 2.サービス産業横断政策 (1)目標 従来サービス産業は、金融、医療のように、各府省に分掌され、各々異なる 規制体系の下で行政対象となってきたこともあり、これらを全体として横断的 に捕捉し、政策課題等を抽出する努力がほとんど行われてこなかった。しかし ながら、サービス産業を取り巻く環境変化の中で、各サービス分野は、生産性 向上といった共通の課題に直面しているため、サービス分野横断的な政策体系 を構築していく必要がある。 こうした取組により、新しいサービスに対する需要の創出・拡大とともに生 産性の向上を図り、もって我が国経済の持続的な成長と地域経済の活性化を実 現する。 イ.サービス産業の特性 サービスは、同時性、消滅性、無形性、変動性といった、工業製品とは異な る特性を有する。 ・同時性(Simultaneous)−生産と消費が同時に起こる ・消滅性(Perishable)−蓄えておくことができない ・無形性(Intangible)−見えない、触れられない ・変動性(Heterogeneous)−誰が誰にいつどこで提供するかに左右される こうしたサービスの特性のため、サービス産業は、総じて、1)労働集約的で あり、2)需要の変動に対してピーク時に対応した体制を採る必要がある。更に、 3)情報の非対称性等に起因する市場の失敗を補完するため、公的規制下の産業 も少なくない。 ロ.環境変化の中での対応 以上のようなサービス産業の特性から、サービス分野におけるビジネスモデ ルの革新は、これまで必ずしも活発ではなかったが、近年、①需要面の環境変 化(所得向上、ニーズの多様化、少子高齢化)、②供給面の環境変化(IT 利活用 の浸透、サービス関連技術の進展)、③グローバリゼーションと国際競争の激化、 ④財政制約の強まりといった環境変化の中で、サービス分野におけるビジネス モデルの革新を活発化させていくことが重要となっている。 こうした環境変化は、特定の分野に限定的に起こっているものではなく、多 くのサービス分野が共通して直面している課題であり、需要の創出・拡大と生 産性の向上という 2 つの観点からサービス分野横断的対策を講じることにより、 サービス産業の発展基盤を整備していくことが必要である。 169 170 (2)需要の創出・拡大 人口減少社会においては、既存の財・サービスへの需要は飽和していかざる を得ない面がある。そうした中で、我が国経済の活力を引き続き維持していく ためには、我が国経済の 7 割を占めるサービス分野で、常に新たな需要を創出 し拡大していくことが求められる。 具体的には、国民所得の向上や少子高齢化の進展等に伴い多様化・個別化す るニーズに積極的に対応し、新しいサービスへの需要を創出・拡大していくこ とが必要であり、①新ビジネスモデルの展開の促進、②高齢者向けサービス・ ニーズの顕在化、③国際的需要の拡大、④規制改革(官民パートナーシップに おける役割分担の明確化)を推進する。 〔具体的施策〕 1)新ビジネスモデルの展開の促進 ① サービスの差別化とそのビジネスモデル化 工業製品の差別化が新しい需要を生み出すように、サービス産業においても 新しいニーズに対応しつつサービスの差別化を図っていくことが、新しい需要 を顕在化させる。 例えば、観光・集客分野におけるサービス形態が団体型から個人型に変化す る中で、顧客参加型の差別化されたプログラムへのニーズが拡大している。ま た、健康サービス分野において、フィットネスクラブが病院と連携して、個人 の健康状態に応じた運動プログラムを提供することも差別化である。 顧客ニーズに対応したサービスの差別化は、潜在需要を引き出すことに繋が るが、重要なことは、そうした差別化したサービスをシステムとして持続的に 提供できるよう、安定性の高いビジネスモデルを確立していくことである。 こうした観点から、ベストプラクティス(成功事例集)を提供していくとと もに、予算事業(「サービス産業創出支援事業」)などにより先導的なビジネス モデルの構築を支援する。 ② 高齢者向けサービス・ニーズの顕在化 現在、60 歳以上の人口のシェアは 26.7%(2005 年)であるが、今後 10 年間で 32.6%に拡大する。しかもその大半を占める団塊世代は、活動的であり、IT 等の テクノロジーにもリテラシーが高い。こうした高齢者向けサービスへのニーズ は着実に増大すると考えられるが、従来型サービスと質的に異なる場合には、 普及に向けた新たな基盤整備が必要となる。 例えば、健康サービス分野では、財政制約が強まる中で、健康保険組合等保 険者の良質な健康増進プログラムへのニーズが強まっていくと予想されるが、 一方で、国民が安心してサービスを利用できる環境が整備されていない。 171 ◆WTO(World Trade Organization:世界貿易機関) 世界貿易の秩序維持を目的とし、各国が自由にモノ・サービスなどの貿易が出来るよう にするためのルール(各種協定)を定める国際機関。GATT(関税と貿易に関する一般協定) ウルグアイ・ラウンドにおける合意に基づき、1995年1月に発足。140以上の国・地域が加 盟。 ◆FTA(Free Trade Agreement : 自由貿易協定) 特定の国や地域の間で、物品の関税やサービス貿易の障壁等を削減・撤廃することを目 的とする協定。経済連携協定(EPA)の主要な内容の一つ。 ◆経済連携協定(EPA:Economic Partnership Agreement) 特定の二国間又は複数国間で、域内のヒト、モノ、カネの移動の自由化、円滑化を図る ため、水際及び国内の規制の撤廃や各種経済制度の調和等、幅広い経済関係の強化を目的 とする協定。 172 このため、健康サービスの普及を促進する観点から、良質なサービスを保証す る仕組みを構築すること等により、その普及を支援する。 ③ IT 利活用による新サービス提供の実現 IT を利活用することにより、これまで人手と時間をかけていたサービスを瞬 時に提供するようなビジネスモデルの創出も可能となっている。 例えば、観光・集客サービスにおいては、携帯電話による個人への情報提供 等を通じたマーケティングや通訳サービス、地理案内情報の提供等が新たな需 要を開拓している。コンテンツ産業におけるインターネット配信サービスも同 様である。サービス分野における新たなビジネスモデルの構築に当たって、IT が果たす役割は極めて重要である。 サービス産業における IT の利活用は、単なるコストダウンを通じた生産性向 上に留まらず、顧客の多様なニーズに応えるための商品の企画・構想、マーケ ティング、サービス提供後のフォローアップ、技術的サポート等顧客とのコミ ュニケーション手段として有用である。 そうした取組を促進するため、産業競争力のための情報基盤強化税制を創設 するとともに中小企業投資促進税制を拡充してきたところであるが、加えて、 上述の「サービス産業創出支援事業」などを通じ、IT を活用した先導的なビジ ネスモデルの構築を支援する。 2)国際的需要の拡大 ① WTO や FTA 交渉を通じた投資・サービスの自由化 サービス産業においてもグローバリゼーションが次第に進展しつつあり、サ ービス産業の国際展開を図るため、諸外国の投資・ビジネス環境の整備に向け た取組を強化していく必要がある。 このために、WTO サービス交渉や、二国間又は地域における経済連携協定 (EPA)の交渉を通じて、我が国サービス産業の国際展開の障壁の除去に積極的 に取り組み、国際的な事業展開を行おうとしている事業者の、ビジネス上の予 見性を高めていく。また、国際的なビジネス展開の円滑化を図るため、投資に 係る法制度、物流や資金に関する法制度、知的財産に関する法制度等について、 大使館や JETRO を通じて十分な情報収集に務めるとともに、これを周知してい く。 ② 外国人観光客の誘致 我が国のサービス収支の赤字の大部分は、観光分野における赤字(2.8 兆円、 2005 年)に起因している。こうした状況を鑑み、2003 年には観光立国関係閣僚 会議において「観光立国行動計画」がとりまとめられ、観光立国に向けた取組 が強化・実施されている。 173 ◆PFI Private Finance Initiative:プライベート・ファイナンス・イニシアティブ。公共施設 等の建設、維持管理等を民間の資金、経営能力及び技術的能力を活用し行う手法。 ◆指定管理者制度 地方公共団体やその外郭団体に限定していた公の施設の管理を、株式会社・民間業者 などの団体に委託すること。 174 元来、我が国は四季折々の美しい自然、歴史・文化、リゾート、温泉・癒し などの観光資源が豊富であり、これらを有機的に結びつけ、観光メニューとし て適時的確に、外国人にも優しい形態で情報発信することにより、外国人旅行 者の拡大につなげることが可能と考えられる。 また、2008 年に北京オリンピックが開催され、2010 年に上海万博が催される 中、合間となる 2009 年や前後の年に、同じアジア地域である我が国においても、 これらと比較して遜色のない国際的に魅力のあるイベントの実施について検討 する。その際には、イベントの開催される地域とその他地域との有機的な連携 等により、外国人が我が国を訪れた際に、より高い満足度が得られる機会を提 供することとする。 3)規制改革(官民パートナーシップにおける役割分担の明確化) これまで公共セクターが一定の責任を担ってきたサービス分野は、医療、教 育から観光まで広範な分野に及んでいるが、少子高齢化等を背景にニーズが多 様化する一方、国、地方の財政制約は一層強まっており、民間資金やノウハウ 等の一層の活用が求められている。 そうした観点から、PFI や指定管理者制度、更には、市場化テストといった制 度を積極的に活用していくことが重要であるが、その前提として、次の 3 つの 対応が徹底されるよう、ガイドラインの整備等を検討する。 イ.サービスの内容・目的に応じた民間活用の推進 民間活用には、公的業務のアウトソーシングから運営委託、PFI、更には完全 民営化まで様々な形態が存在するが、サービスの質を維持する必要性とサービ スの革新の必要性を比較考量し、事業の性格に応じてそれぞれ適切な手法を採 用する。 ロ.曖昧さを極力排除した契約の締結 我が国の契約文化等を背景に、官民の契約が曖昧なケースが多いが、豊富な 経験を有する海外事業者の参入を促すためにも、契約の範囲やリスク・リター ンの分担、事業破綻後の処理等について、契約により明確化していく。 ハ.合理的で簡略化した入札制度の導入 官民連携事業における入札制度は、事務作業が繁雑で、特に民間事業者に過 度な手間と費用がかかる。 新規参入を促すためにも、官民双方にとって合理的で簡略化した制度とすべき である。 ニ.関連諸規制の見直し 民間が事業目的やニーズに応じたサービスを提供していくためには、施設の 設置者要件や補助金要件を緩和する一方で、地域の景観を維持するために規制 の強化が必要となることもある。こうした課題について、事業の遂行上必要と 認められる場合には、国・地方公共団体が柔軟に対応していく。 175 図 3-3-7 日本経済成長の要因分析 図 3-3-8 日米小売業の等量曲線 176 (3)競争力・生産性の向上 サービス産業においても、製造業と同じように、1)モジュール化(サービス のマニュアル化)と、2)差別化(顧客接点の改善)とを適切に組み合わせてい くことにより、生産性向上を図っていくことが重要であるが、サービス分野に おいては製造業以上に経営理念の果たす役割が大きいこと等に留意する必要が ある。 具体的には、サービス分野では、①経営理念と人材育成、②IT の利活用、③ サービス品質の標準化、④対日直接投資の増大、⑤規制改革(市場ルールの導 入を通じた公的サービスの効率化)を推進していく。 〔具体的施策〕 1)経営理念と人材の育成 ① 経営理念とベストプラクティスの提供 サービスは工業製品と違って、目に見えず、かつ在庫がきかないため、これ を提供する人材によって、そのサービスの質が規定される。そうした理由から、 人材の育成が重要な取組となるが、完璧なマニュアルは存在しないため、それ を補うものとして、経営理念が重要となる。こうした観点から、ベストプラク ティス(成功事例集)を提供していく。 ② 専門職大学院の充実・活用支援 サービスは人を介して提供されることから、サービス産業の最も重要な経営 資源は人材である。提供するサービスの質を高め、イノベーションを生み出し、 新たなビジネスモデルを提供していく源泉も、サービス産業の担い手である人 材にある。 このため、個々のサービス分野毎の特徴を踏まえた経営戦略や財務分析を含 めた管理手法に係るノウハウの伝授を目的とした分野毎の専門教育システムの 整備が必要であり、サービス産業分野毎に専門職大学院の充実・活用を支援し ていく。 具体的には、既に、コンテンツ分野、観光・集客分野、医療経営分野におい て人材育成に必要となるモデル・プログラムとテキストの策定等を支援してき ているが、今後、これらの教育プログラムを活用した取組及びその結果を踏ま えた当該プログラムの改善等を支援していく。 ③ サービス人材育成に資する社会的仕組み整備 サービス分野で活躍するプロデューサー等の人材を、専門職大学院等を通じ て育成していくのみならず、そこで育成された専門職を、産業界が適切に処遇 し、継続的に教育していく社会的仕組みがあって、はじめてその専門職は個人 のキャリアパスとして認知され、社会に展開していくことができる。 177 図 3-3-9 IT 化と TFP 上昇率 %ポイント 18 16 ︵ 金融・保険 14 製造業 非製造業 卸売業 ︵ 米国 1 9 I 9 T 0 資 年 本 と 比 2 率 0 の 0 差 0 年 精密機械 12 10 サービス 8 通信 運輸 6 一般機械 石油・石炭製品 ︶ ︶ 1 9 9 I 0 T 年 資 と 本 2 比 0 率 0 の 0 差 年 の 差 %ポイント 12 製造業 非製造業 小売業 4 運輸・通信 8 金融・保険 6 サービス 4 建設 2 商業 電力・ガス・水道 0 電気機械 2 日本 10 不動産 -2 0 -10 -8 -6 -4 -2 0 2 4 6 TFP上昇率の差(1991-95年平均と96-2000年平均、%ポイント) 8 -6 10 -4 -2 0 2 4 6 8 TFP上昇率の差(1995/1990と2000/1995、%ポイント) (出所):JCERデータベース 米商務省:Fixed Asset Tables, GDP by industry data ◆ホワイトカラー・エグゼンプション ホワイトカラー労働者に対する労働時間規制を適用除外(エグゼンプト)すること。 ◆認証制度の対象となるサービスの品質は、サービスの生産・供給段階で満たすことが 求められている基準が達成されているか否かについてが中心となる。 178 10 そうした観点から、民間教育事業者等のビジネス展開の一環として、そうし た職業能力を高めていくための社会的仕組みが整っていくことが期待される。 2003 年に事業再生分野の実務者が「事業再生実務家協会」を設立し、相互の意 見交換等を通じた知識水準の向上を図っているように、継続教育等を担えるよ うな専門職ネットワークを構築していく。 2)IT の利活用 ① IT 投資の量的充実 IT によって、これまで不可能であった個人レベルでのきめ細かなマーケティ ングを可能とすることは、新たなサービス需要を創出するが、更に、少人数の 営業活動で大きな成果を上げることができるという意味で生産性の向上にも貢 献する。これは、サービスの質の向上を実現する一例であるが、同レベルの質 のサービスの提供を、より少人数で提供することが可能になれば、労働生産性 が高まることとなる。 こうした観点から、本年度より産業競争力のための情報基盤強化税制を創設 するとともに、中小企業投資促進税制を拡充している。 ② IT 投資に伴う雇用・組織見直しの円滑化 IT 資本の量的な充実と並んで、IT 投資の質を高めていくことが重要である。 米国では、製造業、非製造業の区別なく、IT 化が生産性向上に寄与しているの に対し(相関係数 0.41)、日本のサービス産業では、ほとんど寄与が認められな い(相関係数 0.03)。 我が国サービス産業の生産性を向上していくためには、米国のように IT 投資 が生産性向上に寄与するよう、広い意味でのビジネスモデルの革新を促進する ために雇用・組織・業務プロセスの見直し等を円滑化していくことが必要であ る。 例えば、従業員の創造性を高めるため、ホワイトカラー・エグゼンプション 等労働時間管理の一層の弾力化を図ることが重要となる。そうした中で、多様 な短時間就業モデルが実現していけば、女性や高齢者をはじめ能力と意欲のあ る者の就業を通じ、労働投入の側面からも経済成長に寄与すると考えられる。 3)サービス品質の標準化 ① 認証制度の整備 情報の非対称性が存在するサービス分野においては、品質の保証がなされな いために購買意欲が縮小している場合がある。こうしたサービス分野において、 購買意欲を高め、かつ、付加価値に応じた高価格取引を可能とするよう、提供 されているサービスの質が一定の基準を満たしていることを第三者機関等が認 定する仕組みづくりを行う。 179 180 ② 標準約款の策定・普及 ビジネス支援サービスの分野においては、契約の形態や内容が十分に明確で ない場合や、契約者間における利益の配分が必ずしも適当ではない場合が見受 けられる。この結果、サービス提供者にサービスの品質の改善動機が生じない ことに加え、良い人材が集まらないという問題が生じている。 そこで、契約書や標準約款の内容を検討し、その内容を公表するとともに、 普及に向けた取組を行う。 なお、アニメーション産業分野においては、著作権に係る問題意識を背景に、 プロダクション側にとって理想的なモデル契約書の検討を行い、アニメーショ ン産業研究会報告書(2002 年 6 月)の中で公表することで、その普及と、交渉 時における活用を促す取り組みを行っている。 4)対日直接投資の拡大 対日直接投資は、単なる資金の移動だけでなく、競争の促進、新しい技術や ビジネスモデルの移転、革新的な商品・サービスの供給やリスクマネーの供給 等を通じて、投資受入れ国における産業活性化につながる。 我が国サービス産業においても、金融、通信、飲食・流通分野等で、外資の 参入が活発化しており、競争の促進等を通じ、生産性の向上に寄与していると 考えられる。 サービス分野は、公的規制下の産業も少なくないため、そのことが外資導入 の制約となっている場合がある。そのような場合には、特区制度の活用や公共 サービスにおける民間活力の一層の活用等についても積極的に検討していく。 5)規制改革(市場ルールの導入を通じた公的サービスの効率化) 医療サービスや介護等の福祉サービスに代表される公的サービス分野におい ては、財政面では公的保険に依存しつつ、民間経営主体のサービスの提供は、 いわゆる「準市場(疑似市場)」において提供されている。 しかしながら、こうした公的サービス分野においては、これまで、組織、金 融、会計、税制、事業再編といった市場ルールが十分に整備されておらず、経 営面での非効率性が指摘されてきた。 今後は、財政制約と高まる国民ニーズという、相反する要請に同時に応えて いく必要があり、効率的で質の高いサービスの提供体制を構築していく必要が ある。 例えば、医療サービス分野では、昨年末の医療制度改革大綱において、医療 法人会計基準の検討が明記されたところであるが、こうした市場ルールの導入 等を通じた公的サービスの効率化を図っていく。 181 図 3-3-10 サービス分野における e コマースの拡大 ◆ e コマース インターネットなどを使った電子商取引 図 3-3-11 サービス政策の対象の拡がり 全産業に占める2次産業と3次産業の粗付加価値の比率 3次産業(71.7%) 2次産業(26.8%) 3次産業付加価値の内訳 (職種別就業者数で代替) 2次産業付加価値の内訳 (職種別就業者数で代替) 65% 25% 10% 7% 64% 2次産業中間投入の内訳 (製品とサービスの割合) 3次産業中間投入の内訳 (製品とサービスの割合) 182 3次産業の付加価値と中間投入の割合 サービス 70% 中間投入 製品 サービス 30% 付加価値 サービス職種 管理・ 事務・ 技術・農林漁業 製品 中間投入 30% 製造職種 サービス職種 管理・ 事務・ 技術・農林漁業 製造職種 付加価値 2次産業の付加価値と中間投入の割合 70% 29% (4)政策インフラの整備 サービス産業は、その重要性にもかかわらず、日本ではこれまでは十分な評 価がなされてこなかったため、サービス政策の企画立案に係るインフラ自体が 十分に整備されていない。製造業など他産業のサービス部門も視野に入れ、政 府全体でサービス政策インフラを整備することが重要である。 〔具体的施策〕 1)サービス統計の充実・整備 ① サービス産業を対象とした構造統計・動態統計の充実 これまで、我が国のサービス統計は、十分に整備されてきているとは言えな いが、その背景には、サービス産業は対象業種が多様であり、製造業等とは異 なり需要サイドに牽引される形で新しいビジネスモデルが随時生まれてくるた めに捕捉が難しいということもあると考えられる。 しかしながら、経済におけるサービス産業のウェイトとその重要性が趨勢的 に増大する中で、必要な施策を適時的確に講じていくためには、当該産業の最 新の動向について十分把握していくことが不可欠である。このため、特定サー ビス産業動態統計調査等において培った知見やノウハウを十分に活用し、サー ビス統計の整備・充実を図っていく。 なお、サービス産業は、運輸業や医療業など多くの府省にまたがる産業であ り、統計の整備に際して、調査方法や調査項目の整合性の確保が大きな課題と なるため、関係府省の緊密な連携が不可欠である。 ② 全産業を対象にした e コマースの把握 近年、インターネットの普及に伴い、金融、小売をはじめとして、広範な産 業分野において e コマースの活用が進んでいる。銀行・証券等の金融サービス では既に 16.8%がネットを介して取引されており、書籍・音楽の売り上げについ ても 6.7%、旅行業でも 4.7%を占めるようになってきている(2004 年)。米国で は 2002 年の経済センサスから全産業で e コマースの把握がなされており、我が 国においても速やかに、取引の実態を把握していくよう検討を進める。 ③ 日本版 NAPCS(北米生産物分類システム)の検討 サービス産業の動向を正確に把握するためには、需要サイドに着目したデー タの収集が重要となる。例えば、広告一つをとっても、イ)郵便により配達さ れるもの、ロ)サンプルが届くもの、ハ)公共の掲示によるもの、というよう に、きめ細かく分類することが求められる。こうした観点から、米国、カナダ 及びメキシコでは、1999 年より、需要サイドの視点に立った生産物の分類 (NAPCS:North American Product Classification System)を行うための取組が進 められており、2007 年経済センサスに反映させる計画となっている。 183 図 3-3-12 CRD を用いた生産性向上余地の計測(ベストプラクティスからの乖離) 効率性指標 医療業・保健衛生業 効率性指標 運送業 1.0 1.0 0.8 0.8 0.6 0.6 効率性の改善 0.4 0.4 0.2 0.2 0.0 効率的な事業者 企業構成比 0.0 企業構成比 非効率的な事業者 効率的な事業者 非効率的な事業者 (出典)CRD協会のデータ(2004年)に基づいて経済産業省作成 ◆イコールフッティング 対等の立場・条件の下におくこと ◆コンソーシアム 企業連合など 184 こうした米国等の取組は、サービス産業の重要性を踏まえた動きであり、我が 国においても、こうした諸外国のサービス統計に関する取組について、調査を 行う必要がある。 2)サービス政策の体系的整備 ① 営利・非営利間のイコールフッティング サービス分野においては、介護等福祉分野を中心に、民間営利事業者と NPO 等民間非営利事業者がサービス提供者として競争を展開している。こうした実 態にもかかわらず、中小企業対策をはじめとする国の施策は、民間営利事業者 のみを対象とするものが多い。このため、支援対象を NPO 等非営利法人に拡大 していくことを検討する。 3)サービスの生産性向上運動の推進 ① サービス産業生産性協議会(仮称)の設置と生産性向上運動 我が国の高度成長期には、良好な労使関係の下、主として製造現場の生産性 向上運動が推進され、経済成長に大きな貢献をした。一方、サービス分野の生 産性は、欧米と比較して、低い水準に留まっている。 サービス分野において生産性向上運動を展開していくためには、製品とサー ビスの特性の違いや労使関係の変化等を十分に踏まえ、新しい時代の生産性向 上運動を推進していく必要がある。 具体的には、産官学コンソーシアム(「サービス産業生産性協議会(仮称)」) を立ち上げ、業種レベル、企業レベルという 2 つのレベルで運動を展開してい く。 a)業種毎の生産性向上目標の設定と定期的公表 サービス分野の生産性(効率性)を捕捉するためのミクロ統計の整備は極め て不十分であり、広範なサービス産業をカバーする生産性分析は、ほとんど行 われてこなかった。 一方、デフォルトリスク分析を目的として中小企業庁が整備してきた CRD(信 用リスク・データベース)は、200 万社を超える事業者の財務情報を含んでおり、 ミクロ分析に有用なため、これを活用し、初めての包括的なサービス産業の効 率性分析を行った。 この結果、業種毎に生産性格差が大きく異なることが明らかとなってきてお り、こうした分析手法等を積極的に活用し、業種毎の生産性向上目標を設定す るとともに、その成果を定期的に公表すること等により、業種内の経営非効率 性の解消に向けたベンチマークとすることを検討する。 185 ◆マルコム・ボルドリッジ賞(The Malcolm Baldrige National Quality Award:MB 賞) 1987 年のレーガン政権のもとで、米国の国家的競争力の向上を目的とし、その設立に尽 力した商務長官の名を冠して創られたもの。創造的でかつ継続的に顧客が満足するクォリ ティ改善、その実施度合の評価、そしてその改善領域発見のための優れた経営システムを 有する企業を、大統領自らが表彰するもの。 186 b)「日本サービス品質賞(仮称)」の創設 生産性向上運動の有力な「手段」として機能している米国マルコム・ボルド リッジ賞(MB 賞)は、連邦法により制定され、「米国の競争力強化」を主要目 的として創設された大統領表彰制度である。 こうした取組等を参考に、「日本サービス品質賞(仮称)」を創設し、健康・ 福祉、観光・集客、ビジネス支援といったサービス分野の企業が取り組みやす い表彰制度を創設する。MB 賞と同様、賞を受けた企業に受賞理由となったビジ ネス手法を公開する義務を課すことにより、一つの企業の成功が他の企業にも 連鎖的に成功をもたらす効果が期待される。 こうした表彰制度を、地方公共団体が地元企業の活性化手法として活用する ことについても、積極的に支援していく。 ② サービス研究センター(仮称)の設置 サービス分野の生産性研究は、製造業に比べて困難でもあり、これまでは、 必ずしも十分な蓄積があるとはいえない。ミクロデータを活用した生産フロン ティアの計測などサービスの生産性に係る実証分析等は次第に増えてきている が、サービスの品質の計測は、大変な困難を伴う。 特に、サービス業にとって最も重要な資産である無形資産(インタンジブル・ アセット)には、経営理念、経営者のリーダーシップ、戦略、組織文化、ブラ ンド、労使関係といった組織資産、顧客資産、サプライヤー資産、従業員資産 といった直接的には計量できないものまで含んでいるため、様々な角度からア プローチしていく必要がある。 そこで、サービスの品質の計測手法を含めたサービス生産性研究、サービス の標準化やビジネスモデルの類型化等に関する研究、更にはサービスに対する 市場の潜在ニーズの可視化等を推進するための研究拠点(サービス研究センタ ー(仮称))を整備するとともに、サービス研究で先行する米国等海外の研究者 の招聘等も積極的に行う。そのため、経済学、経営学、工学等における関連研 究を体系化する「サービス研究マップ」を年度内に策定する。 187 図 3-3-13 健康・福祉関連サービス 図 3-3-14 分野の将来展望(試算) 国民生活における関心事項 4 3 .7 5 0 .0 老 後 の 生 活 設 計 4 4 .8 4 6 .3 自 分 の 健 康 直近 2015年 3 6 .5 今 後 の 収 入 や 資 産 の 見 通 し 4 1 .7 3 5 .9 3 8 .4 家 族 の 健 康 ○市場規模 約51.8兆円 → 約66.4兆円 ○雇用規模 約496万人 2 7.0 2 8.6 現 在 の 収 入 や 資 産 → 約552万人 2 3 .5 24 .6 家 族 の 生 活 上 の 問 題 1 4 .6 1 3.9 自 分 の 生 活 上 の 問 題 0 出所:経済産業省作成 2002年 2003年 1 1.4 1 1.1 勤 務 先 で の 仕 事 や 人 間 関 係 10 20 30 40 5 0 (% ) 出所:内閣府「国民生活に関する世論調査」2003 年 図 3-3-15 医療法人会計基準導入に向けて(昨年末の医療制度改革において検討を明記) 医療法人 会計基準 (未制定) (出所):医療介護関連産業活性化のための事業インフラ 研究会より(2005 年:経済産業省) 図 3-3-16 レセプトのオンライン化(昨年末の医療制度改革において実施を明記) (出所):経済産業省作成 ◆モニタリング 継続的に監視すること ◆健康増進のインセンティブ供与体系 健康増進を動機付け、誘因するもの ◆レセプト 診療報酬明細書 ◆ゲノム 親から子へ伝えられる遺伝情報の全て 188 3.サービス分野別対応 <1.健康・福祉関連サービス> 所得の向上による健康志向の高まりと高齢化の進展により、健康・医療・福 祉ニーズは着実に拡大している。この結果、産業規模及び雇用吸収力も一貫し て増加している。 一方、医療・介護給付等の社会保障費用の増大により財政への圧迫に対する 懸念が深刻化している。 注)保育は福祉の1つであるが、本報告書においては、「育児支援サービス」 に含めている。 〔具体的施策〕 (1)需要の創出・拡大 ① 健康・医療・福祉に係る新ビジネスモデルの創造支援 先導的なビジネスモデルをベストプラクティスとして情報提供する。 ② 新健康産業の創出と科学的根拠の明確化支援 健康サービスの普及を促進する観点から、良質なサービスを保証する仕組 みの検討を行う。 (有識者からなる評価委員会が一定の要件に基づき「良質な プログラム」を認めるものについては、「特定健康増進サービス」(仮称)と して認証する等) ③ 健康状態の把握を可能とする基盤整備支援 個人が日常的に自らの健康状態を把握できる手法の整備を支援する。 ④ 健康増進インセンティブの検討と普及支援 民間保険における疾病管理型保険等、健康増進を促す活動の検討と普及を 支援する。 (2)競争力・生産性の向上 ① 良質なサービスを提供する人材の確保・育成 医療技術と経営実務の双方に通じた人材を育成するための教育プログラム の開発を支援する。 ② IT 活用を通じた医療サービスの効率化と質の向上 医療法人に対する会計基準の導入を図るとともに、レセプトオンライン化 による医療保険事務の効率化や、電子カルテによる医療情報のリアルタイム 共有等を図る。 ③ 地域ヘルスケア提供体制の重点化 地域における質の高い効率的なサービスを実現するため、地域ヘルスケア 提供体制の重点化のための実証事業を実施する。 ④ 高度医療・福祉支援技術の開発・普及 がん対策等に資する先進的医療機器や創薬等に向けた支援技術の開発・普 及を促進するとともに、研究成果の実用化を促進するための「橋渡し研究」 を推進する。また、研究成果の実用化を加速化するための治験環境を整備す る。 189 図 3-3-18 合計特殊出生率の低下要因の分析 図 3-3-17 育児支援サービス分野の将来展望(試算) 直近 2015年 ○市場規模 約3.1兆円 → 約3.9兆円 ○雇用規模 約50万人 → 約54万人 出所:経済産業省作成 出所:平成 17 年度版国民生活白書 図 3-3-20 子育てに自信をもてなくなる専業主婦 図 3-3-19 共働き等世帯数の推移 共働き等世帯数の推移 図 3-3-21 保育サービスに対する期待 0.0% 20.0% 40.0% 子どもの病気時の対応 4.3% 3.3% よくわからない 4.7% 19.7% 17.6% 15.5% 子どもの発達や幼児教育のプログラム提供 6.5% 子育てのノウハウに関する研修 6.2% その他 29.7% 地域のネットワークづくりの支援 8.0% 特にない 45.7% 父親の育児参加に関する意識啓発 15.5% 13.8% 親の精神的なサポー ト 60.0% 31.5% 子育て支援に関する総合的な情報提供 15.9% 子どもの栄養や健康面の管理 40.0% 61.1% 親の不安や悩みの相談 19.3% 長時間の就労に対応した保育サー ビス 20.0% 親のリフレッシュの場や機会の提供 26.9% 残業など急な予定変更への対応 0.0% 子どもを遊ばせる場や機会の提供 28.2% 一人一人の発達に対応した保育プ ログラム 無回答 100.0% 46.9% 家庭と同じように子どもがくつろげる 環境 利用者間のネットワー クづ くりの支援 80.0% 50.0% 不定期就労に対応した保育サー ビス 幼稚園と同じよ うな教育プ ログラム 図 3−3−22 保育サービス以外へのサービスへの期待 60.0% その他 特にない よくわからない 無回答 1.2% 1.9% 3.9% 2.3% 1.0% 出所:UFJ 総合研究所「子育て支援策に関する調査研究(厚生労働省委託調査) 」 (2003 年 3 月) 190 <2.育児支援サービス> 核家族化の進行、女性の社会進出、地域社会の変化などを背景に家庭や地域 における「子育て力」が低下している。同時に、育児支援サービスに対するニ ーズが多様化しており、家庭内育児活動の外部化等、育児支援サービスに対す る潜在的ニーズも依然大きい。 〔具体的施策〕 (1)需要の創出・拡大 ① 新ビジネスモデルの展開と新しい育児支援ニーズの顕在化 新しい多様な育児支援サービスを生み出す事業を支援することで、安心し て育児ができる環境を整備する。 ・ 既存の保育所や病院と連携して、子供の病気時の対応が可能な育児サポ ートサービスを提供するモデル ・ 地域社会において、出産・子育てに関するコーディネータを設けること で、妊娠から出産・子育てまで自治体や医療機関など関係者が一体とな って支援するネットワークを構築するモデル ② 企業における育児と仕事の両立環境の整備 (2)競争力・生産性の向上 ① 育児支援サービス人材の育成 子育てを終えた主婦等子育て経験者の知見や経験等を収集・分析すること により、年配者や学生等に対する教育プログラムの作成を支援する。 ② 育児支援サービス活性化のための基盤整備 a. 家庭、保育所等における安全安心設計の推進 子どもの事故情報収集・分析などに基づく身の回りの製品等の安全安心な 設計を支援する。 b. 育児施設、児童遊戯施設等の整備 空き店舗を活用した育児施設や児童遊戯施設の整備等、商店街の社会的機 能の強化を通じた街の活性化への取組に対して支援を行う。 c. 地域連携型育児支援サービス提供体制の構築 NPO、民間企業、病院、自治体等、地域の多様な主体がそれぞれ独自の特 性を活かしてネットワークを構築するための取組に対して支援を行う。 ③ IT の活用 a. 産前産後の母子に対するネットワークの構築のための情報基盤を整備する。 b. 自治体等において行われている子育て支援サービスを広く周知 PR する。 c. 育児期の親等の能力が最大限に発揮されるようなテレワークの推進を図る。 ④ 保育所における質の向上と市場ルール 保育サービスの質の向上を図りつつ、様々な場での議論の蓄積等を踏まえ て経営の一層の効率化について検討する。 191 図 3-3-23 図 3-3-24 観光・集客サービス分野の将来展望(試算) 市場規模(国内旅行消費額)の推移 (兆円) 26 直近 24.5 24.0 24 22.6 2015年 22 ○市場規模 約24.5兆円 → 約30.7兆円 ○雇用規模 約475万人 21.3 20. 9 20 → 約513万人 18 2000年 2001年 2002年 2003年度 2004年度 出所:国土交通省「旅行・観光産業の経済効果に関する調査研究」より作成 出所:経済産業省作成 図 3-3-25 図 3-3-26 観光・集客サービスの市場規模(内訳) 観光・集客サービスの市場規模(内訳) 5.3 16.6 04年度 0 5 1.8 1.4 4.5 10 15 波及効果 1.7 1.6 20 宿泊旅行 日帰り旅行 海外旅行(国内分) 訪日外国人旅行 旅行消費額 24.5兆円 25 5% 生産波及効果 55.4兆 ※1 付加価値効果 29.7兆 ※2 雇用効果 475万人 ※3 税収効果 4.8兆 ※4 5.8% 5.9% 7.3% 日本経済への貢献度 12.4 01年度 観光・集客サービスの波及 6.0% 出所:国土交通省 「平成 16 年版観光白書」 ※ ※ ※ ※ ※ 1 2 3 4 5 :産 業 連 関 表 生 産 額 9 4 9 . 1 兆 円 に 対 応 (2 0 0 0 年 ) :国 民 経 済 計 算 に お け る G D P5 0 5. 5兆 円 に 対 応 (2 0 0 4年 度 ) :国 民 経 済 計 算 に お け る 就 業 者 数 6 , 5 1 2 万 人 に 対 応 (2 0 0 3 年 度 ) :国 税 + 地 方 税 9 0 . 4 兆 円 に 対 応 (20 04 年 度 ) :こ こ で 言 う 貢 献 度 と は 全 産 業 に 占 め る 比 率 出典:(社)日本ツーリズム産業団体連合会「21世紀のリーディング産業へ」 図 3-3-27 消費者ニーズの推移 図 3-3-28 (%) 70 単位:回,泊 60 3.0 国民一人あたり宿泊観光旅行回数 及び宿泊数の推移 1人当たり宿泊数 1人当たり回数 2.94 2.92 50 2.83 2.30 2.61 2.35 40 2.0 2.14 1.32 20 1.20 1.0 2.24 1.62 1.54 1.26 1.15 1.36 2.47 2.27 2.15 1.55 30 2.73 1.62 1.52 1.51 1.92 1.41 1.57 1.18 1.18 (出所):平成 16 年版観光白書 出所: (社)日本観光協会「観光の実態と志向」 10 0 0.0 1964 66 68 1970 72 慰安旅行 74 76 78 1980 82 84 スポーツ・レクリエーション 図 3-3-29 86 88 1990 92 96 98 99 2000 01 02 自然・名所・スポーツなどの見物や行楽 温泉に入る ・湯治 主な宿泊業(ホテル・旅館等)の倒産件数 主な宿泊業(ホテル・旅館等)の倒産推移 件 140 114 120 100 97 80 60 94 59 56 81 102 125 109 91 70 53 40 20 出所:国土交通省「平成 17 年版観光白書」 0 1994年 1996年 1998年 2000年 2002年 2004年 (出所):東京商工リサーチ経済研究室 192 1976 1978 1980 1982 1984 1986 1988 1990 1992 1994 1996 1998 2000 2002 2004 <3.観光・集客サービス> 製造業では生産の低迷が見られる沖縄・北海道が、同産業では高成長を示す など、地域再生のための中核的産業と期待されている重要な産業である。 一方、一人当たりの宿泊観光旅行回数や宿泊数は減少傾向にあるなど小口化 が見られる状況である。また、旅行予約や情報収集に IT の活用が普及し、消費 者の選択の幅が増えるとともに、価格低下圧力が上昇している。 こうした環境構造の変化の下、これらの変化に対応できていない宿泊施設や テーマパーク、ひいては地域経済に著しい疲弊が見られる状況である。 〔具体的施策〕 (1)需要の創出・拡大 ① 観光資源の差別化と、産業観光、文化観光、ヘルスツーリズムをはじめ とするビジネスモデル化の支援 体験型観光の積極的取り入れ等による観光資源の差別化やコンベンショ ンビジネスを含めた地域の観光・集客ビジネスモデルの確立を支援し、多様 化する需要ニーズへの対応能力を高めていくことが必要である。 特に、自立可能なビジネスモデルが確立されていない産業観光のビジネス モデル化を支援することにより、地域における体験型メニューの選択肢を広 げ、地域の魅力向上に繋げることが必要である。 ② 海外や高齢者に対する戦略的広報 海外支社等と連携するなど、国際 PR を積極的・戦略的に推進すべきであ る。 ③ 海外の高度専門人材の受入拡大等の規制改革 海外からの集客増大を図るため、査証発行の拡大の検討を進め、我が国に おいて不足している人材については、海外からの積極的受け入れを進める。 (2)競争力・生産性の向上 観光・集客サービス業は、過度な規制はなく事業者の競争によりサービス の質の向上が図られることが基本となる分野であるため、需要ニーズの多様 化等の大きな環境変化に対しては、個々の事業者において、サービス理念の 明確化、サービスの標準化及び継続的改善、IT の活用、差別化されたサービ スを持続的に提供可能とするマニュアル化、高付加価値サービスを多店舗展 開可能な仕組みの構築、外国人観光客に優しいサービスの充実等あらゆる手 段をもって対応するべきであり、その結果大幅な生産性向上が期待できる。 また、個々の事業者による取組のみでは不十分な面があり、景観維持等地 域ぐるみによる魅力向上に向けた取組を進めることも極めて重要である。 政府としても、このような事業者の取組を側面支援する観点から、 ・ 先導的ビジネスモデルに対する支援 ・ 観光・集客プロデューサーを含めた高度専門人材の育成 ・ 集客事業の成功・失敗要因から学ぶことを可能とする ・ 需要の平準化による競争環境の整備 ・ 観光・集客サービスに係る統計の整備 ・ アクセス改善による集客の増加 等に取り組んでいく。 193 図 3-3-31 日本の近年のコンテンツ市場規模推移 図 3-3-30 コンテンツ分野の将来展望(試算) 直近 市場規模(日本) 15 兆円 14 13 2015年 ○市場規模 約13.6兆円 → 約18.7兆円 ○雇用規模 約185万人 約200万人 → 12 2002 2003 年 出所:経済産業省作成 (出所):DCAJ 白書 2005 日本のコンテンツ産業と世界市場(2004 年) 図 3-3-32 日本のコンテンツ産業と世界市場 日本 米国 世界 2004 コンテンツ 規模 0.1 兆ドル 0.6 兆ドル 1.3 兆ドル GDP 4.6 兆ドル 11.7 兆ドル 40.9 兆ドル コンテンツ /GDP 2.2% 5.1% 3.2% 海外売上 /コンテンツ 1.9% 17.8% N.A. (出所):世界銀行 HP、DCAj 白書 2005、DCAj 調査データより 図国際共同製作への支援 3-3-33 国際共同製作への支援 海外と共同で映像コンテンツの製作を行おうとする事業者に対して、情報提供・マッ チング支援を行うとともに、海外の映画祭等において企画開発のためのワークショップ の開催等を実施する。(平成 18 年度予算 2 億円(新規)) 《ワークショップ》 海外との協業の場として機能 ・制作者のマッチング ・脚本共同開発 国内のプロデューサー (参加) (サポート) 独立系中小企業 (選定) (公募) (参加) <支援> (開催) 《国際共同製作サポートチーム》 ファイナンスの専門家、 ロイヤー等 民間の審査委員会 国際共同製作促進のインキュベーションセンター ((財)ユニジャパンを想定) 国内外のプロデューサーへの 情報提供 アジア・コンテンツ産業セミナー閣僚会合の開催 アジア・コンテンツ産業セミナー閣僚会合の開催 昨年 10 月 28 日、アジア 14 カ国(日中韓、インド、ASEAN)のコンテンツ産 業を所掌する閣僚が初めて集まり、アジア各国の連携・協力の枠組みについて 議論を行い、今後各国が取り組むべき対応を、参加閣僚による共同声明として とりまとめた。 ◆コンテンツ 人間の創造的活動により生み出されるもののうち、教養又は娯楽の範囲に属するもの。 具体的には、映像(映画、テレビ、アニメなど) 、音楽、ゲーム、出版・新聞等。 ◆情報家電のネットワーク化事業 情報家電を相互接続し、様々なコンテンツ・サービスの提供を可能とする事業。例え ば、テレビ端末を通じた映像配信サービスの提供など。 ◆デジタルシネマ 映画の製作、流通、上映をデジタル化すること。 194 <4.コンテンツ(製作・流通・配信)> 我が国コンテンツ産業は、高い経済的波及効果を持つのみならず、海外への 日本文化の発信の観点からも極めて重要な産業である。しかしながら、これま で、海外でのビジネス展開が不足しており、潜在的な価値の高さを外貨獲得に 活かせていない。近年、ネットワーク環境の整備、技術革新の進展等によって、 放送と通信による流通の多様化が進み、インターネット配信等が拡大すること によって、コンテンツのマルチユースが進展し、コンテンツ市場が拡大する可 能性が高まっている。 〔具体的施策〕 (1)需要の創出・拡大 ① 国際展開の推進 東京国際映画祭等の積極的拡大による国際コンテンツカーニバルを開催す る。また、国際共同製作の支援を強化するとともに、アジアコンテンツ産業 セミナーの推進により国レベルでの関係構築を進める。また、JETRO の機能 強化、在外公館の積極的活用、海賊版対策の強化・拡充を行うとともに、ゲ ーム・アニメ産業の競争力強化に向けた検討を進める。さらに、製造業の海 外展開と連携したコンテンツ輸出等によりハードとソフトとの連携を強化す る。 ② 新ビジネスモデルの展開とデジタル化やブロードバンドの積極的活用 コンテンツ配信促進のため、ネット上でのビジネスマーケットを創設する とともに、コンテンツポータルサイト(インターネット上の情報検索窓口)を 構築する。特に、NHK等のアーカイブ・コンテンツのインターネット配信に ついては、その提供を促進し、有効活用を図る。また、動画をはじめとするさ まざまなコンテンツの製作・流通・配信を支え、円滑化するために、民主導の 原則による信頼性と安全性を確保した次世代のネットワークの構築に向けた 取組を促進する。さらに、情報家電のネットワーク化事業を推進するとともに、 IP マルチキャスト放送の著作権法上の取り扱いを明確化する。 (2)競争力・生産性の向上 ① 創造性ある人材の育成 コンテンツ人材育成のモデル教育プログラムの普及を図るとともに、イン ターンシップの推進等により産学連携を強化する。また、我が国に残すべき 技術を有する中核的人材の育成・発掘や、海外の優秀な人材の日本への流入 を促進する。 ② 優れたコンテンツを生み出す製作環境の改善 製作委員会方式を見直し、有限責任事業組合(LLP)制度の活用促進を行う とともに、契約モデル(映画、アニメ等)の策定・見直しにより、製作と流通 との取引慣行の改善を促す。 ③ IT 活用による生産・流通の効率化 デジタルシネマの普及を推進する。 ④ コンテンツの地域展開の促進 ライブエンターテインメントの振興など、観光産業等と一体となったコン テンツ展開の促進を行うとともに、日本ブランドを積極的に発信する。 195 図 3-3-34 ビジネス支援サービス分野の将来展望(試算) 直近 2015年 ○市場規模 約75.0兆円 → 約93.9兆円 ○雇用規模 約630万人 → 約681万人 出所:経済産業省作成 図 3-3-35 日米のビジネス支援サービスの市場規模と雇用者数 国内生産額(兆円) 1990年 2000年 対事業所サービス 日 広告 米 調査情報サービス 物品賃貸業(除貸自動車) 日 米 日 米 日 貸自動車業 米 日 自動車修理 米 日 機械修理 米 日 建物サービス 米 法務・財務・会計サービス 土木建築サービス 労働者派遣サービス その他の対事業所サービス 日 米 日 米 日 米 日 米 日 合計 米 5.8 2.8 7.3 10.4 8.5 3.5 0.8 1.8 5.7 9.1 6.7 4.6 2.3 3.3 1.8 21.4 3.7 10.8 0.8 4.0 9.2 24.8 52.5 96.5 雇用者数(万人) 1990年 2000年 9.1 4.9 14.9 29.2 11.0 5.0 1.6 6.6 6.7 10.8 6.1 5.4 4.2 5.3 2.7 24.2 4.1 14.0 1.6 10.6 14.0 43.3 76.2 159.2 18 24 59 77 15 34 2 17 64 74 28 37 42 81 28 148 48 79 15 154 140 274 460 999 25 30 101 210 29 45 4 23 62 102 26 37 72 99 35 173 46 102 50 389 177 403 627 1,612 図 3-3-36 労働生産性の伸び(1990−2000)の日米比較 アメリカ=1.0 (2000年) 1.60 1.421 1.40 1.269 1.20 1.154 1.154 1.009 1.00 0.856 0.844 0.822 0.80 0.60 0.40 0.621 0.552 0.397 0.20 0.00 ) ス ス ビス 業 理 理 ビス ービ ビス 動車 告 ビス ービ ー 車 修 修 ー 広 サー 自 ー サ サ 動 車 サ 械 サ 貸 サ 所 計 自 動 遣 機 築 報 物 業 貸 自 (除 派 建 情 建 務・会 事 業 者 木 査 対 貸 働 土 調 の ・財 賃 労 他 務 品 の 法 物 そ ◆ビジネス支援サービス 広告、情報サービス、労働者派遣サービス、リース、レンタル、自動車・機械修理、会計・法 務・財務サービス、デザインといった企業活動と密接に関わり企業活動の代替を行うサービス ◆キャリアアップ・パス 仕事の経験を積みながら能力を高めていくための経歴のこと。 196 <5.ビジネス支援サービス> 製造業との相互補完関係は年々増加し、製造業の中間投入におけるサービス 部門の割合は 3 割に拡大している。 分野毎に差異が大きいが、ビジネス支援サービス全体の労働生産性は、1990 年から 2000 年にかけて 7%程度改善。ビジネス支援サービスが更に発展するた めには、サービスの質の向上を図りつつユーザー企業との間で戦略的な提携関 係の構築が不可欠である。 〔具体的施策〕 A.人材派遣・請負業 ビジネス支援提供企業が質の高いサービス提供を実現するためには、就業者 の意欲を高めることが重要であり、就業者の権利保護や人材育成を重視したビ ジネス支援提供企業とユーザー企業の戦略的提携関係は、就業者を含めた 3 者 の“Win-Win-Win”の関係となる必要がある。このため、政府としても、 ・新ビジネスモデルの展開と優良なビジネス支援提供企業の認証等 ・人材育成とこれを促すモデル契約の整備の検討 ・意欲向上に資する就業者のキャリアアップ・パスの構築支援 に取り組んでいく。 B.実務教育サービス 実務教育産業の振興を図るため、先導的なビジネスモデルの開発支援を行う ほか、産業界が大学経営学部等の活力を有効活用し得る方策について検討を行 う。 C.情報サービス 情報サービス産業の振興を図るため、情報システムの価値や人材のスキル等 の可視化を促進し、もって市場の高度化の実現を目指すほか、産学が連携した 高度 IT 人材の育成や、企業の海外展開の支援等を行う。 D.デザイン産業 デザイン産業の更なる振興に向け、保護、推進並びに基盤整備を行うべく、デ ザイン保護法制の改正に向けて検討するとともに、表彰制度の充実、並びにデ ザインの基盤となる人体寸法・形状データの整備等を実施する。 また、我が国デザイン産業が「我が国の伝統文化をもとに、今日的デザイン や機能を取り入れて、現代の生活にふさわしいように再提言」する新しい日本 ブランドである「新日本様式」を国内外に発信していくなどの取組を最大限活 用する。 197 図 3-3-37 流通・物流サービス分野の将来展望(試算) 直近 約126.5兆円 約1447万人 ○市場規模 ○雇用規模 → → 2015年 約150.7兆円 約1458万人 出所:経済産業省作成 図 3-3-38 図 3-3-39 日米大手小売業財務データ比較 小売業の商店数の推移(1991-2002) 日米大手小売業財務データ比較 ①総売上高 ②売上原価 ③売上総利益(①−②) ④営業収入 ⑤営業総利益(③+④) ⑥販売費及び一般管理費 ⑦営業利益(⑤−⑥) 単位:百万円 イトーヨーカ堂 1,600,000 2004/1 2004/2 2004/2 1,400,000 ※為替レート:1USD = 115.93円(2003年度期中平均レート) 図 3-3-40 食料品卸売業上位 15 社のシェアの推移 50.0% 1 40.0% 18.1% 17.7% 15.3% 14.1% 6位∼15位の 上位5社のシ 20.0% 10.0% 20.5% 22.8% 19.2% 21.9% 18.1% 1996年度 1997年度 1998年度 1999年度 2000年度 1,419,696 1,406,884 1,300,057 1,200,000 1,000,000 800,000 600,000 400,000 200,000 0 1991 1994 1997 自動車・燃料小売業除く 1999 2002 小売業計 図 3-3-41 我が国のインターネット通販の市場規模は近年 急激に拡大) 食品卸売業上位15社のシェア推移 13.8% 1,449,948 出所:商業統計 出所:各社有価証券報告書、アニュアルレポート 16.6% 小売業の商店数の推移(1991-2002) 1,605,583 イオン 29,716,221 100.0% 1,676,112 100.0% 1,474,808 100.0% 23,040,740 77.5% 1,251,271 74.7% 1,066,600 72.3% 6,948,149 23.4% 424,841 25.3% 408,208 27.7% 272,667 0.9% 88,252 5.3% 19,153 1.3% 7,220,816 24.3% 513,093 30.6% 427,361 29.0% 5,206,300 17.5% 489,076 29.2% 403,259 27.3% 1,741,848 5.9% 24,017 1.4% 24,103 1.6% 30.0% 1,800,000 ウォルマート 24.5% 0.0% 2001年度 出所:(財)流通経済研究所 (上位企業の売上高は日経流通 新聞。シェアは、商業統計における酒類卸売業、菓子卸売業、 その他食品・飲料卸売業の1次卸販売額をベースに作成) 198 10.0% 0.0% <6.流通・物流サービス> (1)流通分野 流通ニーズが多様化・高度化する中で進んでいる、卸・小売の事業所数の減 少、企業間の合併等、集約化の動きは、高度な消費文化や狭隘な国土といった 制約の中で、流通分野の生産性向上に寄与していると言える。その上で、情報 技術をより効果的に活用しメーカー・卸・小売間のサプライチェーン全体で円 滑に情報共有するなど、効率化・高付加価値化する環境が必要である。 ネット取引は、生産性の高い新たな流通手法として注目されているが、取引 が増大する中、取引主体の匿名性ゆえに、不十分・不適切な情報提供や詐欺等、 消費者保護が十分図られない面があり、更なる発展の阻害要因となりかねない。 (2)物流分野 物流は、単に財を物理的に移動する機能にとどまらない。生産と消費の間の 財の流れ(=物流)に関する情報共有を通じて、自社と取引先を含むサプライ チェーンの全体最適化と効率化が可能となる。こうした物流機能の重要性を踏 まえ、物流事業者は、IT 活用による在庫管理、共同配送、配送経路の見直し等、 より付加価値の高いサービスや物流改革を荷主に提案していくことが重要であ る。 また、わが国物流分野では、国際物流及びこれに接続する国内物流のトータ ルコストやリードタイムにおいて国内物流の占める比重が高い。このため、国 内物流の生産性の向上を図ることが必要であるとともに、国際物流と継ぎ目の 無い連結の実現を図ることが必要である。 [具体的施策] ① 流通システムの情報化・標準化による効率化・高付加価値化 企業間商取引でやりとりされるデータのうち、消費ニーズへの対応において 差異化の源泉にならない部分について標準化を推進する。また、最新のテクノ ロジーを活用して、生産から消費に至るまでの流通全体の効率化・付加価値向 上を実現するとともに消費者満足を向上させる「フューチャーストア構想」を 推進するなど、流通システムの高付加価値化を図る。 中小卸・小売等についても、消費需要の多様化に対応すべく、販売情報等の 情報収集、安定した商品調達力等のリテールサポートの強化、製・配・販や業 種・業態を融合した新たなビジネスモデルの構築を図る。 ② インターネット取引における消費者保護の徹底 利用者、消費者が安心・安全に取引できる環境の整備を図るため、不適切な 広告表示の排除や法令で求められた表示事項の遵守確保、安心・安全な支払方 法の普及を促進。裁判外紛争処理(ADR)メカニズムの充実に向けた取組を支援する。 ③ 国際・国内の物流システムの標準化等を通じた生産性の向上 輸出入や港湾手続に関する電子化の促進、電子タグやコンテナの標準化等を 通じた国際的な物流基盤の整備等により、国際物流と国内物流の継ぎ目のない 連結の実現を図る。また、パレット等の輸送機材の標準の普及、電子タグ等の 情報技術の標準化や実用化の促進、安全・安心、確実で、標準的な物流サービ スを持続的に提供出来る方策の検討等により、国内物流の生産性の向上を図る。 199 図 3-3-43 図 3-3-42 売上高に占める物流コスト比率 トラック事業者数の推移 売上高に占める物流コスト比率 9.4 9.2 9 8.8 8.6 物流コスト比率 8.4 8.2 8 7.8 97年 99年 01年 日本ロジスティクスシステム協会調査 (出所):国土交通省作成 200 第4章 横断的施策 第 1 節.ヒト:人財力のイノベーション 201 図 4-1-1.人口減少社会の到来 20年後の生産年齢人口 2025年 第1次ベビー ブーマー 第2次ベビー ブーマー 生産年齢人口 (出所:総務省統計局「我が国の推計人口」、国立社会保障・人口問題研究所 「日本の将来推計人口 (中位推計)(平成14年1月推計)」) 図 4-1-2.企業の人材育成に関する投資の抑制 労働費用(現金給与総額を含む)に占める 教育訓練費の割合 (%) 0.40 約6000億円 0.38% 0.34% 0.30 約1000億円 0.36% 0.31% 0.27% 0.29% 0.28% 約5000億円 0.20 0.10 1983 1985 1988 1991 1995 1998 2002 ※本社の常用労働者が30人以上の民営企業のうちから、産業、規模別に層化 して抽出した約5,300企業の調査結果。 (出所:厚生労働省「賃金労働時間制度等総合調査」2000年(1983年は同省 「労働者福祉施設制度等調査」、2002年は同省「就労条件総合調査」) 図 4-1-3.基礎学力の低下 数学・理科の成績の国際順位(中学生) 1 (順位 ) 1 1 2 2 2 3 3 4 4 5 5 5 6 6 数学 理科 (出所)TIMSS調査。2003年は45カ国中の順位 7 1964 70 81 83 95 99 (年 ) 03 ※本調査は、調査年により、参加国・参加国数・出題内容などに違いがある点は、留意が必要。 図 4-1-4.大学生の社会的強みの変化 偏 差 差 大学生の「社会的強み」の変化 50 49 49.1 48.1 48 46.7 45.8 46.1 46.3 自主 性 46.5 46.3 46 指導 性 47 45.8 45.2 45 44 43 創造 的 態 度 協調 性 共感力 説得 力 自己 統制力 適応 力 ス ト レ ス耐 性 意欲 42 (注)比較方法:各項目における2005年度の平均点を、1997年の母集団に おける平均点と標準偏差を元に偏差値化。 (出所:「社会人基礎力に関す る研究会」報告書 (㈱ベネ ッセコーポレーション大学事業部資料から 経済産業省作成) 202 第1節 「ヒト」 :人財力のイノベーション 〔目標〕 −産業界、学校、地域・家庭の力を結集し、経済成長を支える人材を育成する 我が国が人口減少社会に突入し、 「労働」と「資本」の伸びに限界が見られ る中で、中長期的に新しい成長を実現するための源泉は、 「我が国の財(タカ ラ)であるヒトの質的向上(人財力の向上)」にある。持続的な経済成長を実 現するためには、一人当たりの生産性向上と、イノベーションを生み出すた めの人材の育成が鍵となる。人材の育成・確保に関する国際競争の視点も含 めて「人財立国」を推進する。 〔問題意識・課題〕 経済・社会環境の急速な変化が進む中、社会で活躍する上で個人に求めら れる能力には大きな変化が生じてきている。 また、価値観の多様化が進む中で、個人の求める学び方・働き方も多様化 している。産業界、学校、地域・家庭において、様々な点で既存の人材育成・ 活用システムの限界が見られる。 第一に、産業界においては、絶えざる経営の革新が不可欠となっており、 バブル崩壊後の低成長化と従業員構成の高齢化によるコスト制約の拡大する 中、即戦力を求め、人材育成に関する投資を抑制してきた。加えてリストラ や新卒採用の抑制、成果主義賃金の導入などが進められた結果、労働者の長 期的な雇用の下での能力向上の機会と期待を低減させ、就業意欲の低下をも たらしたとの指摘もある。長期雇用・年功序列得が揺らぐ中で、多くの企業 は、多様な能力を持つ人材を育成する新たな形での人材マネジメントの姿が 見いだせていない。 第二に、学校においては、これまで基礎学力の充実を中心とした教育によ り人材を送り出してきたが、少子化の進展、社会の価値観の多様化、高学歴 化等により、従来の教育で対応できない部分が増大している。また、大学工 学部や工業高校は、これまで戦後の製造業を中心とした高度経済成長を支え る人材の育成に大きな役割を果たしてきたが、技術の急速な進歩等に伴い、 実社会の変化に対応したその人材育成機能に課題を抱えている。 第三に、地域・家庭においても、地域コミュニティの崩壊・核家族化等に より、子供達が、社会性を育む場と機会を提供する機能が衰えている。 203 204 <「人財立国」の実現のための 3 つの視点> (1)柔軟な人材育成の仕組み −従来型のキャリアパスの機能不全と社会人基礎力の低下 <基礎的な能力の強化> 個人の才能を眠らせず、社会で最大限に発揮させるため、各々が基礎とな る学力や専門知識を身につけることが必要であり、近時の学力低下や理数系 離れが指摘される中、基礎教育の質を高めるための教育改革の取組が着実に 進められることが重要である。その上で、学んだ知識やノウハウを実社会で の実践に結びつけていくためには、積極性、課題解決力、コミュニケーショ ン能力など「多様な人々とともに仕事を行っていく上で必要な基礎的な能力」 (社会人基礎力)が必要である。自明とされてきたこれらの能力が、近時低 下しているとの指摘もある。近年の大卒の早期離職者の増大(7・5・3 問題) やフリーター・ニートの増加の問題が生じている原因の一つとして考えられ る。短期的、一時的なものでなく、生涯を通じた学習プロセスにおいて、そ の対応を考えなければならない。 <意欲と能力のある個人の活用> 意欲と能力のある個人が、実社会で活躍できる環境の整備が必要である。 雇用形態の多様化が進みつつあるが、従来の大量採用・長期雇用の枠組みに とらわれず、才能ある人材にチャレンジの機会を与え、育て、登用していく ことに加え、人材の流動化のための企業年金のポータビリティの向上等制度 面も含めた対応が求められる。また、女性の労働参加率が結婚・出産・育児 期付近で落ち込むいわゆる「M 字カーブ」の改善や、2007 年以降順次定年を 迎える団塊世代のベテラン人材のノウハウと経験の活用を進めることが重要 である多様な個人の意欲と能力を活かし、生産性の高いアウトプットを生み 出すことは、バブル崩壊後の新しい企業の人材マネジメントとして、企業の 競争力の強化と個々人の自己実現を両立する鍵となる。 <複線的なキャリアパスの形成> 個人の求める学び方・働き方の多様化に対応したキャリアパスの形成と普 及という課題である。すなわち、価値観の多様化が進む中で個人の目標に対 して、多様な道筋で挑戦を続けられる仕組みを作ることが求められている。 例えば、企業においては、新卒一括採用から年功的な処遇という単一的な キャリアパスに限らず、個々人の目標や適性に応じて柔軟な採用・育成・処 遇を行い、能力ある人材を適切に活用できるシステムの構築が必要である。 205 図 4-1-5.社会人基礎力を構成する能力 前に踏み出す力(アクション) 考え抜く力(シンキング) ∼一歩前に踏み出し、失敗しても粘り強く取り組む力∼ ∼疑問を持ち、考え抜く力∼ チームで働く力(チームワーク) ∼多様な人とともに、目標に向けて協力する力∼ 図 4-1-6.大卒の早期離職者の増大(7・5・3 問題) 図 4-1-7.フリーター・ニートの増加 (フリーター) (ニート) ( 万人) (万人) 250 70 209 217 213 200 64 64 平成14年 平成15年 平成16年 48 50 151 150 40 40 平成5年 平成8年 40 101 100 50 64 60 30 79 20 50 10 0 0 昭和57年 昭和62年 平成4年 平成9年 平成14年 平成15年 平成16年 平成11年 (出所)厚生労働省「労働経済の分析」2005 206 また、教育面においても、これまでの中学・高校・大学の受験システムを ベースとした単線的なキャリアパスだけではなく、例えば、工業高校から実 社会の経験を経てからの大学院への進学、高専から大学への編入の拡大など、 様々な道筋で目標に向けた挑戦を可能とする複線的な人材育成ルートの形成 が進められることが必要となっている。 (2)産業界や地域と連携した人材育成 ①実社会と学校教育の乖離 企業の OJT 全盛の時期には、産業側は、学校に対して必ずしも実践的な教 育を期待せず、また、学校側も、それを前提として理論・知識の習得に力点 を置く傾向があった。しかしながら、今、産業界は、むしろ新しい知識と能 力を持った即戦力の人材、より実践的な教育を期待するようになっている。 また、学校側にも、少子化による学校間の競争激化の中で、より社会で評価 される教育を作り出そうという機運がある。 現在、産学連携により、大学等の授業をより実践的なものとしたり、大学 等の教員の知識を企業の経営革新に役立てようとする動きが進みつつあるが、 大学教育の高度化と実社会のニーズに即した人材の育成に向けていかに取組 を加速していくかが、重要である。例えば、高専、大学、専門職大学院等に おいて、これまでの学問分野別の教育体系にとらわれず、産業界の課題に応 じて関係分野の知見を統合して解決していくような試みが進んでいけば、自 ら課題を発見し問題解決に取り組める人材や、事業に必要な複数の専門分野 に精通した人材が育っていく。また、逆に、企業のベテラン技術者等を特任 教員として教育分野で活用し、産業界の蓄積を教育分野に還元していくこと も考えるべき課題である。 このような課題を解決するため、産業界と学校側との円滑なコミュニケー ションと協働関係の確立に取り組まなければならない。 207 図 4-1-8.大学教育分野における我が国競争力 8 (60 カ国中) 10 位 26 位 28 位 6 41 位 46 位 58 位 4 2 0 米国 フランス 台湾 英国 中国 (出所:IMD「世界競争力年鑑」) 日本 図 4-1-9.大学の教育内容における「教育充実度」の海外比較 参加型・ プ ロ ジェク ト型の実践教育に力を注 いで いる 2 9 .1 工夫され勉強しやす いカリキ ュラ ム にな っ て いる 3 0 .1 8 5 .0 8 0 .0 4 7 .3 教養教育が充実して いる 7 0 .0 6 2 .6 専門教育が充実して いる 9 5 .0 0 .0 2 0 .0 4 0 .0 6 0 .0 8 0 .0 海外の大学 日本の大学 1 0 0 .0 (出所: 「社会人基礎力に関する研究会」報告書 (21世紀大学経営者協会「卒業生からみた『教育力』 (2005年)」から経済産業省作成) 208 ②地域に眠る教育資源の活用 地域と教育との協働関係も重要である。地域における人材の育成と活用は、 地域産業の高付加価値化、新規産業の誘致・創造を通じた経済の活性化の鍵 である。しかし、従来「地域経済を支える人材の育成」という観点からの取 組は、十分に行われてきたとは言えない。 地域には、世界的な技術力を持つ中小企業、優秀な教員と高度な施設を有 する大学・高専、訓練機関、意欲ある先生や NPO など、人材育成に役割を果 たしうる主体が多数存在しており、地域の潜在的な「人材育成力」は決して 低くない。上記に示した高専、大学、専門職大学院における地元企業のベテ ラン技術者の活用のみならず、地域の研究者や OB 人材の小中学校における 授業作りへの参画や、地域のキャリア教育への活用を図るなど、地域に眠る 教育資源を結集させ、地域産業の高度化と教育の充実に相乗効果をもたらす ことは重要な課題であり、このために、地方自治体の積極的取組に加え、国 としていかなる支援をすべきかも、重要な検討課題である。 209 図 4-1-10.高等教育機関在学者数に占める留学生の割合 イギリス オーストラリア ドイツ フランス アメリカ 日本 18.1% 14.8% 11.6% 7.6% 6.6% 2.6% (出所)中央教育審議会答申「新たな留学生政策の展開について」2003 図 4-1-11.主要国の受入留学生数と内訳 (人) 700,000 600,000 586,323 500,000 400,000 300,000 242,800 180,418 200,000 185,058 142,786 109,508 100,000 0 米国 英国 ドイツ 大学院レベル フランス 学部レベル オーストラリア その他 日本 合計 (出所)文部科学省「我が国の留学制度の概要」2004 外務省「主要国・地域における留学生受け入れ政策」2004 210 (3)グローバル人材戦略 −グローバルな視点での人材育成・確保への出遅れ 企業の国際競争やグローバル展開が加速する中で、人材育成・活用につい てもグローバルな視点が欠かせなくなっている。イノベーションを先導する 人材の育成・確保に関し国際的な競争が始まっている。 優秀な人材を世界から集め、アジアの産業革新を先導するとともに、アジ アと共同での高度人材の育成と重層的な人的ネットワーク構築などに取り組 み、アジア全体のレベルアップに貢献する必要がある。 我が国が留学生、研究者など世界の優秀な人材にとって、魅力的な国にな るかどうかという点からみると、企業のキャリアパス、言葉の問題等により、 米国などに大きく出遅れている状況にある。 特に、アジアの優秀な人材が学びの場、働く場としての魅力を感じ日本に 集まってくるための環境整備や、我が国の若者が国際的な経験・感覚を身に つけるための育成策は重要な検討課題である。また、世界中から優秀な人材 を集めている米国との更なる人材交流も日本の魅力を増す上で考えなければ ならない。こうしたグローバルな視点での人材の確保・育成を進めることは、 企業のグローバル展開にとっての貴重な担い手を獲得する観点からも重要な 課題と言える。 こうした人材育成を巡る課題を克服し、将来に向けて、優れた人材を生み 出すシステムを創り出すことが、今我々が取り組むべき重要な課題である。 思い切った「将来を担う人財のための投資」を進め、 「人財立国」を推進して いかなければならない。 211 ◆「PBL(Project Based Leaning) 」 (=プロジェクト型授業) 企業や地域社会が抱える課題について、企業関係者、大学教員、学生等のチームで、グ ループワークや現場実習を実施し具体的な解決策を取りまとめ、評価していくことを通じ て、専門知識の活用や実践力を身に付ける授業。 <参考事例>慶應義塾大学 SFC 研究所のプロジェクト型授業 企業からの提案により具体的な提案(例: 「IC タグを用いた顧客マーケティングの改 善戦略」等)を設定し、学生、教員、企業関係者がチームを作って解決策を検討。1 年 後に企業が成果を評価する。 また、こうしたプロジェクト型授業を実施した際の教育効果の測定にあたっては、独 自の評価手法を活用して学生の能力を測定し、若者の「気付き」や自己評価を促すとと もに、その教育プログラムの効果を検証する取組を実施。 <参考事例>米国「21 世紀スキルパートナーシップ」 米国の IT 関連企業、自動車製造メーカー等の企業が教育機関と連携して、21 世紀の 職場で重視されるスキルの明確化、育成を目指すパートナーシップを 2002 年に設立。 今春、2006−2010 年の 5 カ年の行動計画を策定予定。 212 〔具体的施策〕 (1)柔軟な人材育成の仕組みの形成 ①社会人基礎力の養成 近年の大卒の早期離職者の増大(7・5・3 問題)やフリーター・ニートの増 加の問題に対応するため、実社会で求められる社会人基礎力の内容を最大公 約数として明確化し、伝達可能な形にすることにより、就職プロセス等にお ける産業界と教育界とのコミュニケーション・ギャップを解消する。 教育の各段階に応じて、社会人基礎力を養成・強化する実践型教育を推進 する。このため、PBL(Project Based Learning)等の教育手法を効果分析し、 大学等における実践教育の充実を支援する。また、幅広い層に対する社会人 基礎力の養成を図るため、e ラーニング等を通じて、「誰もがどこでも学習で きる環境」を整備する。 社会人基礎力を重視する企業や大学等の関係者が集まり、採用や人材育成 の在り方を検討し、育成に向けた取組の共有を図る場(「社会人基礎力パート ナーシップ」)を形成する。 213 ◆ベストプラクティス 最も効果的、効率的な実践の方法。または最良の事例。 ◆テレワーク 情報通信機器等を活用し時間や場所に制約されず、柔軟に仕事を行う働き方。 ◆ワークライフバランス 性別や年齢に関係なく、いかにして労働者の仕事と生活の両方が充実した働き方を実 現させるか、という考え方のこと。 214 ②人材重視型マネジメントの推進 ・「新しい人材マネジメント」の提言 企業の生産性と個人の満足とやり甲斐の双方をバランスさせ、比較的長 期的な雇用慣行の下で、「ヒトを採用して育てる」「個々人の意欲・能力と 適性を見極め、これに応じた仕事分担をする」といった、人材重視型のマ ネジメントのあり方について、先進事例の分析やベストプラクティスを提 示し、その普及を図る。 ・女性・高齢者が活躍できる環境作り 働きたくても働けない女性の活躍の場を拡大するため、起業や再就職と いった再チャレンジの支援を行う。仕事から離れずに家事・育児との両立 が図られるよう、短時間正社員制度やテレワークの制度の導入、男性中心 の雇用慣行や働き方の見直し等ワークライフバランスを促進する先進的な 企業の事例分析やベストプラクティスの公表を行う。また、結果的に女性 の就労に対するディスインセンティブとなっている側面を持つ税制・社会 保障制度を働き方の選択に中立的な制度へと改めることについて検討を行 う。 高い能力と経験を持ったベテラン人材が、第一線を退いた後も、その力 を活かして企業や教育の現場で活躍し続けられるよう、環境整備を進める。 特に、地域ぐるみの支援の仕組みを促進する。 「モノ作り」を始め、各分野の専門家を目指す若者等が社会的に評価さ れ、能力と実績に応じた処遇がされる環境を整備する。 ③人材育成パスの複線化 高専から四年制大学専門課程への編入、大学院への進学、工業・商業高 校から大学等、更に高度な専門教育へと進学することが容易となるよう環 境整備を図る。また、大学等における社会人教育の優れた取組みの支援等 を通じて、その普及を図る。学歴にとらわれない個人ごとの柔軟な採用、 育成・処遇を進める先進的企業の取組みを分析、周知を図り、必要に応じ、 関連する制度・環境の整備を進める。これを通じて、複線的な人材育成パ スの形成を促進する。 215 <具体例>岩手大学における専門コース開設 製造中核人材育成プロジェクトを実施してきた岩手大学では、2006年度より、地 元金型企業、電気B社、自動車C社等との連携の下、大学院工学研究科に金型・鋳造 工学専攻を開設。同コースでは、地元企業のベテランOB技術者を特任教授として登 用するほか、コース修了者に、モノ作り分野の修士号(マスター)を授与。 <具体例>東京工業高等専門学校の取組 東京工業高等専門学校では、地域のハイテク中小企業5社の経営者が特別客員教授 となり、学生に自社の紹介を兼ねた講義とモノ作りの現場を体感する機会を提供し、 正式な単位として認定する実践的な「地域産業論」を2005年度から開講。 <具体例>ジョブカフェ福岡の産業直結型人材育成 ジョブカフェ福岡では、自動車、IT等の産業分野毎の業界団体等と連携し、個別の 企業ニーズに即した人材育成カリキュラムを開発し、育成後、同業界への就職を促 進。今後は、県立職業訓練校と提携して訓練を実施していく予定。 <具体例>ジョブカフェ大阪の中小企業採用戦略向上事業 ジョブカフェ大阪では、地元中小企業の社長が若者に対して直接語りかける企業 説明会を実施するとともに、企業のプレゼン等への評価を実施。この評価を企業に フィードバックすることを通じて、人材確保・魅力発信の機会を提供するとともに、 企業の採用能力の向上を図っている。 216 (2)産業界や地域と連携した人材育成 ①産学連携による人材育成の推進 1)大学と産業界の連携強化 ・専門職大学院等の充実 我が国競争力を支える分野において、現場の課題に対応した教育体系を 導入し、各分野の産業ニーズに応じた高度専門人材を育成するため、モノ 作りやサービス、IT 等の各分野において、専門職大学院の充実等、産学連 携による実践的な教育の導入を支援する。 ・実践的な経営人材の育成 大学経営学部における実践的な経営人材の育成を促進するため、地域の 中小企業や中小企業大学校等との連携による実践的な教育を支援するとと もに、産業界との連携強化に必要な組織・制度面での環境整備を支援する。 2)モノ作り人材の育成 ・工業高校等における実践的教育の充実に向けた産学連携の推進 地域の工業高校や工業高専等の教育において、産業界との連携により、 即戦力養成と評価される実践的な教育が更に進められるよう、企業技術者 講師派遣や現場実習等を通じた教育の充実を支援する。 ・中小企業の若手技術者育成に向けた地域教育ネットワークの充実 ものづくり分野の基盤を支える中小企業の現場人材の育成等を促進する ため、地域の工業高等専門学校その他の教育・訓練機関とのネットワーク の形成を支援する。 ②「地域ぐるみ」の人材育成の推進 1)地域の若者就職支援 ・地域産業への就職に直結した人材育成 地域の工業会や職業訓練機関が一体となって、地域の企業への若者の就 職を支援するため、企業が求める基本的な能力を育成するためのプログラ ム開発と訓練の実施を行う。 ・中小企業への人材確保支援 地元企業の魅力を発信し、若者との触れ合い、語り合いの機会を生み出 すことにより、地域の中小企業に対する若者の就職を促進する。 217 <具体例>愛知県瀬戸市における取組 地場産業である「やきもの」を通じたキャリア教育を実施。子供達は、地元のベ テラン職人の協力の下で「やきものづくり」を体験するとともに、地域企業の OB 人 材や経営者の力を借りて、自ら作成したやきものの販売等を実践。 ◆ポスドク ポスト・ドクターの略称。主に博士課程(ドクター)修了後、研究者としての能力を さらに向上させるため、引き続き大学等の研究機関で、研究に従事する者をいう。(2005 度文部科学白書より) <具体例>産業技術総合研究所の取組 平成 18 年 4 月より、モノ作りへの関心や興味を高めることを目的として、小中高 校等の依頼に応じ、豊富な知識や技術等を有する OB 技術者等が学校等に出向いて講 義を行う「出前講座」を実施。 図 4-1-12.教育学部の教員希望学生の多くが高校時代に物理・理科を「未履修」または「履 修したものの嫌い」であり、このことが、理科教育における指導力低下につなが っているとの懸念あり 【物理】 ・ 高校時代に未履修 61.3% ・ 高校時代に履修したものの嫌い 21.6% 【化学】 ・ 高校時代に未履修 10.4% ・ 高校時代に履修したものの嫌い 50.6% 出所:経済産業省 「進路選択に関する振り返り調査」2005 <参考>「アジア人財資金(仮称) 」構想の概要 ・ 日本企業等での活躍を目指すアジアの優秀な学生・研究者等に対し、日本で の留学・研究費用を支給するとともに、インターンシップ参加や産学協同プ ロジェクトへの参加促進など、就職面でのサポートを強化。 ・ アジア各国等の専門家となって日本との橋渡し役を目指す日本の若者に対し、 当該国の大学等に派遣する費用を支給するとともに、任地での企業系検討を 促進。 <具体例>立命館アジア太平洋大学の取組 ・ 学生も教員も約半数が外国籍という多文化環境。国際舞台で通用する人材の 育成を目指す。 ・ 外国籍学生とともに、多文化環境で成長した国内学生も、企業の評価が高く、 就職率もほぼ100%。 <具体例>九州地域における取組 中国や韓国を中心に東アジア地域からの留学生が多い九州地域では、在学中の留 学生を対象とした企業でのインターンシップの紹介(大学コンソーシアムおおい た)や、留学生向けの就職面談会の開催(福岡県)など、留学生の就職支援にお ける先進的な取組が見られる。 218 2)地域人材を活用した教育力の強化 ・地域の OB 人材によるキャリア教育の推進 企業での経験・ノウハウの豊富な企業ベテラン OB 人材による、質の高い キャリア教育を推進する。 ・企業の技術者やポスドクを活用した「博士実験教室」の推進 理科の原理や楽しさを体感できる充実した授業づくりを進めるため、地 元企業の技術者や地元の大学・研究所等に所属する研究者やポスドクなど が「モノ作り博士」として、地域の小中学校における派遣授業や授業のサ ポートを行う取組を推進する。 (3)グローバル人材戦略 ・グローバルな若者交流の拡大 アジア中の優秀な人材の我が国における留学や研究活動を拡大させると ともに、我が国の若者のアジアへの派遣を促進し、若者レベルの交流を進 める(「アジア人財資金(仮称)」構想)。併せて、世界中の優秀な人材を集 める米国との人材交流も促進する。 その際、我が国の魅力を高める観点から、生活面や就職面での支援を各 地域で行うとともに、日本語の研修機会等を充実させる。 ・留学生等の活躍の場拡大 大学等による就職プロセスガイダンス等の留学生サポートの充実やイン ターンシップによる現場体験機会の提供等により、企業の留学生に対する 理解を高め、留学生等の就業機会を拡大する取組を進めるとともに、帰国 留学生のネットワークを維持するなどによって、帰国後においても留学生 が活躍できる場の拡大を図る。 ・高度人材の受入を拡大するための制度整備 海外から優秀な技術者、研究者等が集まるよう、実務経験年数の要件緩 和や在留資格制度の見直しなどを進める。また、留学生が日本の企業等で 活躍できる環境を整備するため、就職プロセスを円滑化するための制度整 備を図る。 219 220 第 2 節.モノ:生産手段とインフラのイノベーション 221 (注 1)特にここ数年は所得の減少も貯蓄率の減少に拍車をかけ、足下の貯蓄率は 10 年前 の水準の 4 分の 1(13.1%(1994)→2.8%(2004))にまで低下している。 図 4-2-1 家計貯蓄率の国際比較 (%) 20.0 日本 フランス ドイツ アメリカ スウェーデン イギリス 15.0 13.1 13.3 12.4 10.0 8.7 9.2 10.5 8.6 5.3 4.8 5.0 11.8 10.3 9.9 4.4 4.5 4.1 2.8 2.4 1.8 2.1 0.0 -5.0 1988 1989 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 【出所】 Economic Outlook no.78 (05年12月19日)、 国民経済計算(内閣府)(06年1月13日) (注1)日本は年度値、それ以外の国は暦年値 (注2)イギリスについては家計の固定資本減耗分を含む。 図 4-2-2 全産業の設備ビンテージ(平均年齢) (経過年数) 12.5 04年 11.8年 12.0 資本設備のヴィンテージ(左目盛り) 11.5 11.0 +2.7年 10.5 10.0 90年 9.1年 9.5 9.0 8.5 85 86 87 88 89 90 91 92 93 【出所】民間企業資本ストック統計(内閣府)、国富統計(経済企画庁) 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 (暦年) 注:1.1979年までは68SNAベースであり、1980年からは93SNAベースの統計を使用。 2.日本の設備の平均年齢=〔(前期の平均年齢+1)×(前期末の資本ストック −今期の除却額)+今期の設備投資額×0.5〕÷今期の資本ストック 222 第2節 「モノ」:生産手段とインフラのイノベーション 〔目標〕 生産手段の新陳代謝の促進と産業・物流インフラの戦略的整備を通じ、経 済成長と競争力を支える良質な資本形成を促進する 〔問題意識・課題〕 ・ これまでの我が国の経済成長は、資本投入の拡大と生産性の向上が寄与して きた。しかしながら、少子高齢化・人口減少の進行により、貯蓄率の一層の 低下を通じて、国内における資本蓄積が減少し、経済成長の低下圧力となる ことが懸念される(注 1)。今後、我が国が経済成長を続けていくためには、 海外からも資本を呼び込むことで資本の量を確保すると同時に、国内におい て生産性向上につながる質の高い資本投入、すなわち良質な資本形成を促進 していくことが重要な課題となる。 ・ 特に、経済成長を支える企業の競争力を維持・強化する観点からは、資本の 中でも、「設備」と「インフラ」の効率を高めることが重要である。企業が その生産手段である設備の効率を高めるため、思い切った設備投資ができる 環境整備を行うとともに、アジアとの最適分業体制の進展や地域産業集積を 踏まえた産業・物流インフラの整備・機能強化を行う必要がある。 (1)生産手段の新陳代謝の必要性 ・ 資本の中でも、民間設備投資のあり方は、マクロ経済面のみならず、企業の 国際競争力を規定する重要な要素である。企業は、適切なタイミングで思い 切った設備投資を行い、最新鋭の設備や IT・ロボットを活用した生産性の高 い生産手段により事業を行わなければ、ますます激化する国際競争を勝ち抜 いていくことができないことは論を待たない。 ・ しかしながら、我が国においては、総じて設備の老朽化が進んでいるのが現 状である。このままでは、資本生産性の低下につながり、我が国企業の国際 競争力の低下、経済成長の鈍化を招くことが懸念される。このような状況を 打破するためには、国内の設備投資を活性化させ、老朽化した設備から技術 革新を反映した設備への更新やイノベーションを具現化した先端製品を生 産するための新規の設備投資等を後押し、生産手段の新陳代謝が継続的に行 われる環境を整備して、資本面からの経済成長を支えていく必要がある。こ のような施策は、日本企業の国内立地を維持し、また、海外資本を国内に呼 び込むためにも必要である。 223 図 4-2-3 各産業の償却累計率の国際比較 日本企業 (%) 日本企業 (%)80 80 70 75 60 70 50 設 備 が古 い 85 電機・半導体の償却累計率の日韓比較 設備が古い 総合化学大手の償却累計率の日米比較 韓国企業 米国企業 96 97 日本企業A 98 99 2000 2001 日本企業B 2002 日本企業C 2003 2004(年度) 40 30 96 97 98 99 2000 2001 2002 2003 2004 (年度) 韓国企業A 日本企業A 日本企業B 日本企業C 日本企業D 日本企業E 米国企業A (注)償却累計率は、減価償却累計額を有形固定資産の取得原価(土地と建設仮勘定を除いた償却資産)で 除することで求められ、その数値が高いほど、企業の設備が償却の進んだ状況にあり、使用年数の長 いことを示している。 (注)償却累計率は、減価償却累計額を有形固定資産の取得原価(土地と建設仮勘定を除いた償却資産)で 除することで求められ、その数値が高いほど、企業の設備が償却の進んだ状況にあり、使用年数の長 いことを示している。 (資料)有価証券報告書、アニュアル・レポートからニッセイ基礎研究所作成。 (資料)有価証券報告書、アニュアル・レポートからニッセイ基礎研究所作成。 224 設 備 が新 しい 60 設備が新しい 65 ・ 特に、減価償却制度は、企業の設備投資に係る税務・会計を規定する基本制 度であり、そのあり方は、企業の設備投資行動や国際競争力に影響を与える ものである。しかしながら、我が国の減価償却制度は、昭和 39 年度改正を 最後に本格的見直しが行われておらず、残存価額や耐用年数など諸外国の制 度との乖離が大きくなっていることや、制度が詳細に過ぎ、技術革新や産業 構造の変化のスピードに対応しにくいものとなっていることといった問題 が指摘されている。企業の国際競争が激化する中で、減価償却制度について、 国内における設備投資が諸外国と比べて不利にならないよう、我が国企業の 国際競争力と制度の国際的整合性の観点からの見直しが求められる。 ・ また、IT やソフトウェアに対する投資は生産性の向上に大きく寄与するもの と期待されており、その質・量の両面でその水準を高めていく必要がある。 また、ロボットを活用した省力化投資は、今後の少子・高齢化の進展による 労働人口の減少に的確に対応するために特に重要である。 ・ なお、資金調達環境、各種の公的負担などの改善を一体として推進すること により、生産手段の新陳代謝を進めるための投資を促進していくことも必要 である。 225 図 4-2-4 図 4-2-5 世界の主要港湾コンテナ取扱量ランキング (出所)国土交通省HP 日本発着のコンテナ貨物のうちアジア主要港湾で積換輸送される比率(トランシップ 率)の推移 (出所) 国土交通省「平成 15 年全国輸出入コンテナ貨物流動調査」 図 4-2-6 アジアの主要空港の規模比較 空港名 今後の計画 成田 滑走路の長さ及び本数 4000m×1 2180m×1 関西 3500m×1 中部 3500m×1 シンガポール 4000m×2 4124m×1 クアラルンプール 4056m×1 3700m×1 バンコク 3500m×1 香港 3800m×2 3660m×1 台北 3350m×1 2180mを2500m化 仁川 北京 上海 広州 4000m新設(2007限定供用開始 最終的に4000m×5計画 4000m新設(2008予定) 最終的に4本計画 3750m×2 3800m×1 3200m×1 4000m×1 3800m×1 3800m×1 3600m×1 3800m新設(2007年予定) 最終的に5本計画 (出所)国土交通白書 226 (2)産業・物流インフラの戦略的整備の必要性 ・ 我が国の経済成長を支える良質な資本形成を促進する観点からは、産業の競 争力を高める産業・物流インフラのあり方も重要な要素である。 ・ IT の急速な発展は、情報の瞬時の伝達を可能とし、距離という概念を取り除 いたが、「モノ」の移動は、時間と距離の制約からは逃れられず、依然とし て企業にとっての大きなコスト要因として残されている。 ・ 我が国企業は、経済のグローバル化・国際競争の激化に伴い、製造業を中心 として、アジア諸国を始め開発・生産・販売拠点等のグローバル展開を進め ている。例えば、高度な部品・材料や付加価値の高い製品を国内で開発・生 産し、アジア諸国で汎用品の生産や完成品の組立を行い、欧米等最終消費市 場に輸出するなど、アジアを中心とした最適分業体制の構築しつつある。こ れに伴い、必然的に「モノ」の移動が増大し、企業の物流コストを押し上げ ることが予想される。 ・ 企業の競争力に影響を与える物流コストの低減のためには、港湾や空港とい った物流インフラの整備・充実が重要な役割を果たすが、かつてアジアのハ ブ港湾であった神戸・横浜・東京は今や香港・シンガポールや上海・釜山等 に取扱量で大きな差を付けられている。空港に関しても、中国、韓国など東 アジア地域で複数の滑走路を有する大規模空港の整備が進んでおり、我が国 の国際的地位は低下してきているのが現状である。空港は、観光立国の実現 や国際物流機能の向上などによる国際競争力・地域競争力の強化等を図るた めに不可欠な航空輸送を支える基盤であり、特に大都市圏拠点空港(成田、 羽田、関空、中部)の機能強化は我が国全体の競争力の向上にとって重要な 役割を果たすものである。さらに、空港・港湾などの物流拠点と高速道路と のアクセス状況についても、欧米と比較して依然として低い水準にある。こ れを放置すれば、取扱量の減少等が物流コストの増大を招き、産業立地の低 迷や企業の国際競争力の低下につながるおそれがある。 ・ 既に政府としては、昨年 11 月に総合物流施策大綱(2005-2009)を閣議決定し、 国際拠点港湾・空港の機能向上、空港・港湾アクセスの整備を始めとする国 際・国内の輸送モードの有機的な連携による円滑な物流ネットワーク構築に 関する諸施策を進めつつある。今後、アジアとの最適分業体制の急速な拡大 が見込まれることを踏まえると、特にアジアにおける効率的なサプライチェ ーンの実現に焦点を当てた戦略的な物流インフラの整備・機能向上が急務と なる。 ・ また、物流インフラは地域における産業立地の観点からも重要である。例え ば、我が国の臨海部における産業集積は、港湾拠点とともに発展してきた。 最近では、地方の整備された港湾とその周辺地域に最新鋭工場等が立地する 227 図 4-2-7 拠点的な空港・港湾への道路アクセ ※ ス率 の国際比較 空港及び港湾の合計 100% 91% 94% 88% 高速道路 IC からの距離別の 工場立地状況(平成16年) 高速道路I.Cからの距離別立地状況(平成16年) 61% 84% 2空港 82% 88% 3港湾 75% 80% 55% 60% 40% 20% 0% 1 アメリカ(H13末) 2 3 4 図 4-2-8 欧州(H13末) 5 6 7 日本(H16末) 8 9 10 注)対象空港:日本/第1種空港及び国際定期便が就航している第2種空港。 :欧米/国際定期便が就航している空港。 対象港湾:日本/総貨物取扱量が年間1,000万t以上又は国際貨物取扱量が年間500万t以上の重要港湾 及び特定重要港湾(国際コンテナ航路、国際フェリー航路及び内貿ユニット航路のい ずれも設定されていないものを除く)。 :欧州/総貨物取扱量が年間1,000万t以上の港湾。 :米国/総貨物取扱量が年間1,000万t以上又は国際貨物取扱量が年間500万t以上の港湾。 40∼50km以内 1%(9件) 30∼40km以内 3%(22件) 20∼30km以内 5%(44件) 10∼20km以内 15%(125件) 50km以上 2%(17件) 10km以内の立地が74% 5∼10km以内 23%(192件) ※ 「高速道路I.Cからの距離別の工場立地状況」については、 有効回答分のみ対象 (出所)工場立地動向調査((財)日本立地センター) ※高速道路ICから10分以内に到達できる割合 (出所)国土交通省資料 図 4-2-9 東海環状自動車道の整備による沿線工業団地への企業進出状況 ・ (出所)国土交通省資料 228 0∼5km以内 51%(443件) 例が多くなり、また、北部九州において自動車産業等の集積が進んでいる。 物流インフラが、地域の産業集積と有機的に連携することができれば、当該 産業集積に関連する企業の物流チェーンが効率化され、競争力の向上につな がるとともに、当該地域の物流インフラの利用コストが下がることが更なる 企業立地を呼び込むといった、「産業集積を通じた地域活性化と企業の物流 コストの低減の好循環」を産み出すことが可能となる。実際に近年新規工場 立地の大半が高速道路インターチェンジ周辺で行われており、また、高速道 路整備と合わせた企業立地も行われている。このような産業集積と物流イン フラの連携は、我が国の国土の狭さを逆に強みに転換する効果もあると考え られる。 ・ 日本の製造業の強みは、高い技術に裏打ちされた部品・材料等を供給できる ことにあり、その高速輸送手段である航空輸送の効率を向上させることによ り、更に競争力を高めることが期待される。加えて、このような付加価値の 高い製品の研究開発と生産活動を国内において一体的に行っていることも 日本の強みの一つである。したがって、日本国内での協業・分業体制も考慮 し、都市−地方間において、モノだけでなくヒトの流れの効率化を図るため のインフラ整備が、国際競争力の向上、地域経済活性化につながるものと考 えられる。 ・ こうした産業インフラの整備は、主に公共投資により行われるものであるが、 近年は財政再建の要請から減少傾向にある。今後は、従来型の「量」を重視し た公共事業とは性格を異にする、限られた財源の中で既存資産の機能を最大 限引き出す形での「質」を重視した戦略的なインフラ整備が求められる。加え て、企業のグローバルな競争が激化している中、こうした物流インフラ整備 への取組は時間軸を意識したスピード感のあるものでなければならない。 229 (注 2)平成 18 年度税制改正大綱(検討事項) 「減価償却制度は費用と収益を対応させる観点から設けられているものであるが、最 近の償却資産の使用の実態や諸外国の制度を踏まえ、企業の国際競争力や財政への影 響に配慮しながら、抜本的税制改正と合わせ、総合的に見直しを検討する。 」 (注 3)除却状況調査の結果 製造業を中心に 1011 社、設備 96 万台を調査した結果、実際に売却できた資産は 3.8 万台で、除却台数全体の 5.3%。除却時の価値であるスクラップ価額の合計額は 109 億 円で、取得価額の合計額(3 兆 2221 億円)の 0.34%であった(現行の残存価額 5%の約 15 分の 1) 。一方、除却時の処分費用の合計額は 1,056 億円と取得価額の合計額の 3.3% であった(スクラップ価額の合計額の約 10 倍)。 (注 4)使用年数調査の結果 製造業を中心に 530 社、146 設備区分を調査した結果、約 9 割の設備が法定耐用年数 より長く使用していた。設備の平均法定耐用年数は 10.1 年、全設備の平均使用年数は 16.5 年。したがって、実際の平均使用年数は、平均法定耐用年数の約 1.6 倍という結果 であった。 ただし、耐用年数を決定するにあたっては、資本的支出の実態、今後の技術革新の 動向など経済的減価等を総合的に勘案して判断する必要があるが、当該調査における 使用年数は、これらの要素が勘案されていないことに留意する必要がある。 以上、(注 3)(注 4)は、2005 年 8 月に日本経済団体連合会と関係省庁(経済産業 省、農林水産省、厚生労働省、総務省)が合同で行った実態調査の結果による。 (注 5)国際比較調査の結果 委託調査において主要製造業種における 99 の同一設備を調査した結果、約 8 割の設 備で(80 設備/99 設備) 、日本が主要国中最も長い耐用年数となっている(他の国と 同一の耐用年数を含む。なお、日本の耐用年数が国際的に短い設備は、化学薬品によ る影響、腐食等が考慮されている化学関連の製造設備など一部) 。 (注 6)アメリカでは、税務会計と企業会計の乖離を前提とし、減価償却制度については、 費用収益対応の原則から離れて、投下資本の早期回収(コスト・リカバリー)の考え 方を採用している。税務会計と企業会計の関係について、我が国が採用している確定 決算主義・損金経理要件の在り方も検討課題となる。これについては、安定的な税収 確保等を目的とする税務会計と企業実態をより反映することを目的とする企業会計を 一致させることには一定の限界があるという指摘がある一方で、確定決算主義は企業 の事務コストの軽減につながるとの指摘もある。 230 〔具体的施策〕 (1)生産手段の新陳代謝の促進 ①減価償却制度の抜本的見直し ・ 減価償却制度について、企業活動の実態を踏まえつつ、企業の国際競争力の 確保、制度の国際的な整合性の観点から、抜本的な見直しを行う必要がある。 具体的には、以下の 3 点が重要となる(注 2)。 A.取得価額の全額を償却可能とすること 現在の制度は、耐用年数経過時点における残存価額を取得価額の 10%と し、それ以降使用する場合の償却可能限度額は、取得価額の 95%までに設 定されており、除却した場合に全額損金扱いとなる。一方、欧米先進国は 100%まで償却可能な制度となっており、我が国の制度は国際的には極めて 例外的なものとなっている。また、設備の除却時の価値はほとんど残って おらず、むしろ処分費用を要しているのが実態である(注 3)。したがって、 「償却可能限度額」を撤廃し、取得価額の全額を償却可能とする必要があ る。 B.法定耐用年数を諸外国に劣らないよう短縮すること 減価償却制度は、費用と収益を対応させる観点から設けられているもの であるが、耐用年数の長短は、投下資本の回収の速度に影響し、企業の競 争力に大きく影響するものである。我が国企業の設備の平均使用年数は法 定耐用年数を上回っているという調査結果もあるが、我が国の主要設備の 多くが、欧米等に比べて長い法定耐用年数を採用しており、特に、米国、 韓国と比較すると、ほぼ全ての設備で日本の法定耐用年数が最も長くなっ ている(注 4) (注 5)。したがって、諸外国の制度や国際競争力への影響を 十分に踏まえた上で、諸外国の耐用年数よりも劣ることがないように法定 耐用年数を見直す必要がある(注 6)。 231 図 4-2-9 減価償却制度の諸外国比較表 日本 アメリカ 国名 イギリス ドイツ 韓国 償却可能限度額 ( )内は残存簿価 95% (5%) 100% (0) 100% (なし) 100% 100% (備忘価額1 ユーロ) (備忘価額1 ウォン) 残存割合 10% 0 なし 0 5% 標準期間 (自主的な申告により 25%の加減が可能) 法定耐用年数※ 例1)自動車製造用プレス機械 10年 例2)液晶パネル製造設備 10年 7年 5年 <4.6年> 7年 12年 例3)鍛造圧延機 耐用年数表の 区分数 <6.4年> 耐用年数毎に 3区分 (3年,5年,7年) 設備の種類毎 に388区分 7年 8年 <6.4年> 10(8−12)年 <6.2年> <7.7年> 8年 - 5(4−6)年 8年 6年 10(8−12)年 <4年> <5.5年> <7.7年> 耐用年数毎 に4区分 設備の種類毎 に規定 償却率で規定 (5年,8年,10年,12年) ※日本、イギリスの耐用年数は残存価額は10%の時点。アメリカ、ドイツの耐用年数は残存価額はゼロの時点。 韓国の耐用年数は残存価額5%の時点。また、アメリカ、ドイツ、韓国の<>内は、残存価額が10%に到達する年数であり、日本の法定耐 用年数との比較可能性を考慮したもの。 ※2005年8月調査(146設備区分)から推計したところ、平均使用年数は、平均法定耐用年数の約1.6倍。 ただし、当該調査における平均使用年数は、資本的支出による使用期間の延長を反映していることに留意する必要がある。 図 4-2-10 機械・装置における償却曲線の国際比較 (自動車製造用プレス機械の例) 100% 90% 80% アメリカ 70% 60% ドイツ 50% 40% イギリス 30% 日本 20% 韓国 10% 3年 2年 4年 1 1 1 1年 1 0年 9年 1 8年 7年 6年 5年 4年 3年 2年 1年 0年 0% (注 7)特に機械及び装置に関しては、設備の種類ごとに 388 の区分が設けられており、諸 外国と比べて非常に区分の数が多い(例えば、アメリカ・韓国は、耐用年数ごとに、 それぞれ 3 区分・4 区分) 。 (注 8)耐用年数の短縮特例は、一定の事由(陳腐化、材質・製作方法、腐食、損耗等)に より、使用可能期間が約 1 割以上短くなった場合、国税局長の承認を受け、耐用年数 を短縮することができる制度。また、陳腐化特例は、技術の進歩等により著しく陳腐 化した場合、国税局長の承認を受け、通常の減価償却費に加えて償却額を損金算入す ることができる制度。 (注 9)経済産業省が 2005 年に企業に対して実施したアンケート調査(約 150 社)によれ ば、例えば、耐用年数の短縮特例を利用している企業は全体の 2 割弱にとどまってい る(陳腐化を理由として短縮特例を利用したという回答はなし) 。制度を利用しない理 由の多くは「適用したいが手続きが煩雑なため」と回答している。また、 「陳腐化のた め制度を利用したいが、それを税務当局に説明することが困難であり、かつ、否認さ れるリスクが高いため申請を断念する」と回答しているケースが多い。 232 C.制度を柔軟かつ簡素なものとすること 日本の減価償却制度は、諸外国と比べても、耐用年数区分が非常に多く、 詳細なものとなっている(注 7)。その結果、新技術や新製品が誕生する度 に区分けの問題が生じたり、適用する耐用年数の問題が生じている。 また、現行制度では耐用年数を画一的に規定する一方で、個別企業の事 情を考慮する観点から、国税局長又は税務署長の承認を条件として特例的 扱いを認めている(注 8)。しかしながら、これらの制度を企業が利用する ための手続きに膨大なコストがかかっており、また、陳腐化を理由とした 申請が困難であり、実質有効に利用されていないという指摘がある(注 9)。 このため、例えば、設備の区分を大括り化することや標準耐用年数を設 け一定の幅で耐用年数を企業が自主的に選択できる制度とすること等の検 討を含め、経済実態の変化や個別の事情に機動的・弾力的に対応できるよ うな柔軟かつ簡素な制度とする必要がある。 以上のような減価償却制度の抜本的な見直しに際しては、償却資産に対す る固定資産税等の在り方についても併せて検討する必要がある。 ②IT・ソフトウェア、ロボット等を活用した生産性向上投資の加速 ・ IT やソフト、ロボットを活用した投資については、技術革新が早く、頻繁な 設備更新が行われることから、減価償却制度の抜本的見直しの中で、償却に 要する年数の設定や柔軟性の確保などに特に留意する必要がある。 ・ また、IT やソフトウェアに対する投資を促進するツールとして、企業経営の 効率向上やセキュリティの確保といった政策目的の観点から講じられてい る情報基盤強化税制や中小企業投資促進税制といった政策税制も引き続き 推進していく必要がある(再掲)。 233 <参考 1>九州をゲートウェイとした上海−東京間の「距離」の短縮 シャーシを自走により積み卸しする高速の RORO 船(上海スーパーエクスプレス (SSE))が上海−博多間に就航することにより、従来上海−東京間の海上輸送に 10 日間要 していたところ、トラック輸送や貨物鉄道と組み合わせて、3.5∼4.5 日程度までリード タイムが短縮されている。 <参考 2>九州における産業集積を考慮した物流インフラ整備の取組 北九州市は、ひびきコンテナターミナル、新北九州空港を始めとする物流インフラ の整備を行うとともに、国際物流特区第 1 号の認定を受け、通関・検疫体制の 24 時間 化、安価な電力の供給を行い、また、廃棄物処理を一手に行う北九州エコタウン事業 の展開、補助金制度により、企業誘致を活発に行っている。この地域の背後には、複 数の大手自動車メーカーの完成車工場があり、部品メーカーも集積しつつある。 また、これらの地域の産業集積・港湾機能とエコタウンの廃棄物処理施設・リサイ クル機能を結びつけることで静脈物流の効率化を図り、アジア等との国際資源循環の 構築を目指している。 <参考 3>関西における産学官連携による物流インフラ整備の取組 関西では、産業界、学界、自治体、関係省庁等からなる「国際物流戦略チーム」を全 国に先駆け設置。企業競争力強化等の観点から以下のような提言を行っている(平成 17 年 6 月)。 ・大阪湾諸港の包括的な連携による国際競争力の強化(港湾) ・国際物流基幹ネットワークの形成(道路) ・関西国際空港を活用した国際物流機能強化(空港) 図 4-2-10 関西における国際物流基幹ネットワークの形成 234 (2)産業・物流インフラの戦略的整備 ①アジアとの「距離」を短縮する港湾等の機能強化 ・ 我が国企業のグローバル展開、特にアジア最適生産体制の進展等に伴い、ア ジアとの貨物輸送量が増大している。また、トラックのシャーシごとコンテ ナを積載する国際フェリーや RORO 船を活用し、これをトラック輸送、貨物 鉄道などの国内の陸上輸送と組み合わせる複合一貫輸送が増大しつつある。 このため、国際基幹航路確保のためのスーパー中枢港湾プロジェクトを推進 するとともに、アジア諸国との「時間距離」が短く、ゲートウェイとなる九 州などの港湾のターミナル機能の高度化、車両の相互乗り入れの円滑化等を 図る。また、陸海複合一貫輸送の促進のため、港湾アクセス道路の整備、貨 物鉄道と国際フェリー等を組み合わせて輸送する「SEA&RAIL サービス」の 展開を促すための長距離鉄道貨物の輸送力増強を図る。 ②地域産業集積と物流インフラの有機的連携の促進 ・ 北部九州の自動車産業に見られるような、地域における特色ある産業集積を 物流インフラの整備や機能向上と結びつけることにより、地域の活性化と企 業の競争力強化の同時達成を図る。また、港湾機能の強化と連携する形で、 臨海部工業地帯の産業集積の再活性化や大都市圏環状道路の整備等による 地域産業集積と国際物流拠点の一体化を図る。 ・ 関西や九州地域においては、産学官の連携による地域活性化のための総合的 な物流ネットワーク構築に向けた検討が行われている。こうした産業界・学 界・自治体・関係省庁等の一体的な取り組みを各地域において促進すること により、物流インフラの効率化を通じた地域産業の活性化・企業の競争力強 化を図る。 235 <参考4>九州地域における産学官連携による物流を含めた産業戦略への取組 東九州地域では、自動車、半導体、デジタルカメラ工場の新規立地等の動きを踏ま え、地域内の企業、大学、自治体、関係省庁が連携し、「東九州軸産業戦略委員会」 を設置し、ものづくりの視点に立ち、産業集積など地域の潜在力を踏まえ、経済波及 効果について計量分析を行うなどして同地域の今後の経済発展方策を検討。その中で、 東九州自動車道等の交通インフラの一体的整備が不可欠であること等の提言を行って いる(平成 16 年 5 月)。 図 4-2-11 九州における自動車生産台数の推移 万台 100 90 九州 全国シェア 90 79 80 68 70 58 60 50 45 61 44 4.2% 30 5.7% 60 55 5.6% 54 5.3% 9.0% 7.3% 8.3% 7.7% 6.0% 7.0% 5.6% 12.0% 68 6.6% 6.0% 5.7% 40 20 59 77 15.0% 4.0% 3.0% 10 0 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 0.0% 05 年 図 4-2-12 北部九州地域における自動車関連企業の進出と物流インフラの連携 236 237 図4-2-13 国際空港拠点の整備 ∼2005年度 国際空港拠点の整備 2006年度 2007年度 平行滑走路の2500m化の推進 成田 関西 2本目の滑走路の整備 中部 05年2月開港 羽田 2008年度∼ 2009年度末を目 途に供用開始予定 2007年限定 供用開始予定 貨物施設を需要 に応じて拡充 再拡張事業の推進(深夜・早朝時間帯の国際貨物便就航実現を図る) 2009年末供 用開始予定 <参考5>経済活動のグローバル化に伴う企業の物流効率化の取組例 近年、物流の国際展開に伴い、企業においては、ITを活用した最適物流計画の立案と リアルタイムの進捗管理を可能とする「グローバル・サプライチェーンマネジメント」、 海外生産部品を輸出側・輸入側双方で集約する方式(「Vender to Vender」事業)、複 数の発荷主から配送貨物を集荷する方式(「ミルクラン物流」)など、オペレーショ ンの効率化、物流コストの低減、リードタイムの短縮、在庫低減等への取組が行われ ている。 <参考 6>電子タグの活用によるサプライチェーンマネジメントの効率化 電子タグは、物流業務を飛躍的に省力化・効率化するとともに、製品の販売動向を ネットワーク経由で瞬時に製造拠点に伝えることにより、ジャストインタイムの製品 補充や在庫削減を可能とする技術である。現在、政府と産業界が連携し、低廉な電子 タグの開発、実証実験を通じたビジネスモデルの確立、国際標準化等に取り組んでい るところであり、今後、国際物流の競争力強化においても、電子タグを活用していく ための方策の検討や実導入と普及が課題である。 <参考 7>東アジアにおける産業・物流インフラ整備のニーズ 東アジアにおいては、港湾・空港・橋梁・道路・都市交通などの分野で、今後 5 年 間に毎年 2000 億ドル超のインフラ整備需要が存在する(世銀・ADB・JBIC 共同調査 「Connecting East Asia」 ) 。我が国では、2005 年 1 月、60 以上の民間企業・関係団体か らなる「アジア官民パートナーシップ推進協議会」が設立されており、今後これを核 として、アジア諸国における IT を活用した港湾・空港施設高度化や道路渋滞解消に資 する都市交通などの産業・物流インフラ整備につき、「高品質」、 「信頼性」、 「施工や運 転の安全性・確実性」の面で優れた日本の技術・ノウハウを活用し、運営・管理も含 めたトータルサービスとして提供していくことを目指している。 238 ③我が国産業の強みを活かした空港等の機能強化 ・ 我が国の高度な部品・材料の供給基地としての性格を強める中、国際物流に 占める航空輸送の重要性が増大しつつある。国内に付加価値の高い製品を開 発・製造する企業を確保し、その競争力を高める観点から、製造業にとって 使いやすい効率的な大都市圏拠点空港(成田、羽田、関空、中部)の存在が 重要である。このため、成田空港については2009年度内に約1割の能力 増強のための施設整備、羽田空港については2009年内に約4割の能力増 強のための施設整備とともに国際定期便の就航を図るほか、関西国際空港に おいて2007年に2本目の滑走路を供用するなど、我が国の経済活動を支 える国際物流・人流の基盤となる大都市圏拠点空港の整備・活用を重点的に 進めるとともに(図 4-2-13)、空港への道路アクセスの向上、24 時間化の実現、 電子タグの導入・活用による通関手続等の効率化を図る。 ・ また、日本の製造業は研究開発機能と生産機能の一体化・連携を強みとして いる。都市部の研究開発拠点と地方の生産拠点の緊密化により競争力を一層 高める観点から、地方空港の有効活用、関連する道路・鉄道等を含め、総合 的に産業インフラを整備することにより、都市部と地方の人流を含めたコミ ュニケーションの効率向上を図る。 ④国際物流競争力のための官民連携の強化 ・ グローバルに経済活動を展開する我が国企業にとって、製品を製造拠点から 販売市場に迅速かつ効率的に投入できるサプライチェーンマネージメント (SCM)を確立することが国際競争力を左右する。しかしながら、前述の国内 における物流インフラ上の課題に加え、日本企業が展開するアジア諸国にお ける物流インフラや関連制度の整備が不十分という問題がある。このため、 物流事業者の国際展開を含め、我が国企業のグローバルな経済活動をサポー トするには、グローバル企業が SCM 上に抱えるボトルネック(物流インフラ の未整備、非効率な通関制度、貨物航空便数の不足等)を抽出し、その原因を 地域別・主体別(日本政府、現地政府、物流事業者等)に整理し、課題解決を 図る必要がある。このため、関係産業界(航空会社、海運会社、フォワーダー、 商社、物流ユーザーである製造業・流通業、その他関係産業)及び関係省庁(経 済産業省、国土交通省等)が密接に連携して、機動的に課題解決策の検討と対 応を進める体制を強化する(国際物流競争力パートナーシップ)。 239 240 第 3 節.カネ:金融のイノベーション 241 ○我が国の家計金融資産は約 1,500 兆円(図 4-3-1) (家計金融資産と家計貯蓄率の推移) (兆円) (%) 1600 16.0 1400 14.0 15.0 1200 12.0 1000 10.0 800 8.0 600 6.0 400 4.0 200 2.0 2.8 0 0.0 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 00 01 02 03 04 05 家計預貯金(ストック) 家計資産(ストック) 家計貯蓄率(フロー) 【出所】家計預貯金、家計資産:日銀資金循環統計より 家計貯蓄率:内閣府国民経済計算年報より作成 05年は年末の数値、他は年度末の数値 ○サウジアラビアの石油資源は約 1180 兆円 ・ サウジアラビアの石油埋蔵量は 2627.3 億バレル (2004 年末、出典は BP 統計)。 世界全体の石油埋蔵量は約 1 兆 1885 億バレル、サウジアラビアの石油埋蔵 量は世界全体の約 22.1%。 ・ 時価総額は、1180 兆 6689 億円(2004 年末の NY 原油価格(NYMEX の WTI 価格)で計算。$/B=43.26、¥/$=103.88)。 ◆サプライチェーン 供給者から消費者までを結ぶ、開発・調達・製造・配送・販売の一連の業務のつなが り。 ○金融フロンティア拡大のイメージ(図 4-3-2) (従 来 の 資 金 の 流 れ ) 銀 行 家 計 (資 金 余 剰 主 体 ) 企 業 (資 金 不 足 主 体 ) 公的金融 (新 し い 資 金 の 流 れ ) 家計 ミドル リス ク 商品の提供 助け合い 教育資金等 の供給 若年齢層 目利き能力の活用 コミュニ テ ィ 事業活性化 投資しやすい環境整備 中高齢層 銀行 証券会社 ノンバ ンク ファンド 強みの発見・ 再生 医療介護 農業 等 民 が 担う公 共 N P O /LLP P F I、 公 営 事 業 アジアの金融ハ ブ化 アジアへの投資拡大 対内投資の拡大 アジア域内の金融制度整備 緊 密 なサ プライチェー ン 現地資本市場 の整備 大企業 中小企業 金融機能に よる効率化 事業会社 企業 リ スクファイ ナンス 多様な金融主体 現地企業 海外進出 日系企業 アジアと共存共栄の資金の流れ 242 資金調達手法 の拡大 第 3 節 「カネ」:金融のイノベーション 〔目標〕 −金融のフロンティアを拡大し、経済成長を支えるリスクマネーの供給を活 性化する 天然資源に恵まれない我が国にとって、これまでの経済成長によって積み 上げてきた約 1,500 兆円の国民の金融資産は、重要かつ貴重な資源である。少 子高齢化に伴い貯蓄率が低下し、国内貯蓄に依存した資本形成に限界が生じ る可能性がある中で、持続的な経済成長を可能とするためには、これら豊富 な金融資源が、我が国産業のイノベーションにこれまで以上に効率的に活用 され、国民にその収益が十分に還元される必要がある。 このように、経済全体の資源配分機能の最適化を進めるためには、我が国 の金融サービス産業の競争力を強化し、金融機能の活躍する領域を広げる、 言わば「金融のフロンティア」を拡大していく必要がある。 従来の金融サービス産業は、家計の貯蓄を集め、比較的リスクの低い企業 の資金調達を担う資金仲介を中心としてきた。他方、今後の金融サービス産 業には、潜在力はあるもののリスクを伴う事業活動への資金供給を円滑化し、 事業の成長力を引き出すことによって、 「産業のフロンティア」の拡大に寄与 することが求められる。同時に、NPO や LLP 等の新たな事業主体への資金供 給や、アジア域内を中心にグローバルな資金循環を円滑化することも期待さ れており、 「金融のフロンティア」を拡大していく必要がある。すなわち、今 後の金融サービス産業は、リスク・リターンに敏感になった企業や投資家の 代理人として、金融技術を駆使しつつ、グローバルに広がった投資機会とリ スクを評価する「リスクの目利き」としての役割を果たす必要があり、経済 成長を支える高度な情報インフラ産業へと転換することが求められる。 我が国の金融サービス産業は、不良債権処理の進捗や金融ビッグバン以降 の規制緩和の中でその機能を回復しつつあるものの、欧米と比較すると、高 度な金融工学を駆使した金融技術のイノベーションや、国際的な情報収集・ 分析能力面で遅れをとっていると言われている。特に、我が国産業のサプラ イチェーンがアジア域内に拡大する一方で、それを支える金融サービスの海 外展開は十分ではなく、中堅・中小企業を中心に我が国金融サービス産業の 国際競争力の向上に対する期待は非常に高い。このため、我が国金融サービ スの内外一体となった積極的な海外展開を支援するとともに、新たな金融の 担い手の参入を通じた競争環境の整備によって、金融サービス産業の国際競 争力の強化に向けた制度環境を整備し、潜在的成長性の高い産業や中堅・中 小企業に対する資金供給の円滑化が同時に達成されるよう、躍動的かつ革新 的な金融システムの形成を進める。 243 ○我が国の家計の資金の流れ(図 4-3-3) 家計 郵便貯金等 325兆円 預金 514兆円 国債・地方債等 23兆円 郵貯・簡保 株式 社債・投信等 82兆円 54兆円 民間金融機関 国債・地方債等 234兆円 国債・預託金・ 地方債・貸付等 328兆円 貸付 263兆円 株式 社債・投信 29兆円 71兆円 政府部門 企業 【出所】日銀資金循環統計より作成 数値は2004年度末ベース ○先進諸国におけるベンチャーファイナンスの規模比較(図 4-3-4) (% ) 0 .6 0 .5 5 ベ ン チ ャ ー フ ァ イ ナ ン ス の 対 G D P比 0 .5 0 .4 5 0 .4 0 .3 5 創 業 期 0 .3 拡 大 期 0 .2 5 0 .2 0 .1 5 0 .1 0 .0 5 I SL U SA K OR C AN G BR S WE F IN N LD O EC D E SP A US D NK N OR B EL F RA I RL N ZL D EU I TA P RT A UT C HE P OL C ZE H UN G RC S VK J PN 0 【出所】OECDレポート『Going For Growth2006』より作成 ○大企業及び中小企業の自己資本比率(図 4-3-5) (%) 40.0 35.0 大企業 中小企業 30.0 25.0 20.0 15.0 10.0 5.0 03 01 99 97 95 93 91 89 87 85 83 81 79 77 75 0.0 (年度) 【出所】財務省「法人企業統計年報」より作成 (注)自己資本比率=自己資本/総資産 244 〔問題意識・課題〕 ○リスクマネー供給のための環境整備 我が国の家計は、安全志向が強くリスクの低い安全資産を保有する比率が 高かったが、近年、リスクの高い資産を指向する傾向が定着しつつある。他 方、現状では、資産選択の機会は、預貯金や個人国債等の低リスク商品や外 債等の高リスク商品に二極分化しており、もう少し高いリターンと引き替え にもう少し大きなリスクをとる形での資金の流れを整備していく必要がある。 ○リスクをチャンスにつなげる企業金融の活性化 グローバルな競争環境の激化や人口減少に伴う需要の減少が見込まれる中 で、我が国企業は不確実性の高い分野に果敢に挑戦することによってイノベ ーションを生み出していくことが求められており、市場環境は従来にも増し て「ハイリスク・ハイリターン化」しつつある。他方、我が国では、先進諸 国に比べるとベンチャーファイナンスの規模が極めて小さく、その手法も大 半が株式公開を前提としており、株式公開を志向しない企業では調達手法が 極めて限定的になるなど、真にリスクマネーが必要とされる分野に十分に資 金が行き渡っていない。また、自己資本が薄い中堅・中小企業や、再生から 再出発に向かう企業、いったん失敗した後に再挑戦する起業家等に対する資 金供給は今なお容易ではない。このため、金融の「目利き能力」を最大限活 用することにより、潜在的な成長性の高い事業を的確に見出し必要なリスク マネーを供給する仕組みや金融手法を整備する必要がある。また、資本市場 の評価軸が短期化する中で、企業の長期的な成長に向けた研究開発や設備投 資を可能とするよう、必要な環境整備を進める必要がある。 ○地域の強みを「発見・再生」する金融の実現 「革新は伝統を突き詰めたところに生まれる」と言われるように、地方に は、豊かに発展できる潜在力を持った企業が数多く存在しており、金融機能 の活用によって、こうした地域独自の資源の発見・成長を促進することが重 要である。このため、地域における金融の「目利き能力」の向上を通じて、 従来は担保が少なくリスクが高いと考えられてきた新たな主体への資金供給 を活性化する必要がある。これにより、これまで金融の対象とされてこなか った新たな主体に対し、金融の「規律づけ機能」の導入を図ることを通じて、 効率化等による生産性の向上を図ることが期待できる。また、新たな金融手 法を構築することで、自治体、地元企業、金融機関、大学、住民等の地域活 性化を担う様々な主体をリスクの担い手として呼び込み、よりリスク許容度 の高い地域金融の基盤を整備し、地域活性化を進めることが必要である。 245 ○投資大国化した日本(図 4-3-6) (兆円) 18.0 所得収支 16.0 経常収支 14.0 12.0 10.0 8.0 6.0 所得収支が経 常収支を逆転 4.0 2.0 0.0 05 04 03 02 01 20 00 98 99 97 96 95 94 93 92 【出所】日銀国際収支統計より作成 91 ◆アジア通貨危機 1997 年夏のタイ・バーツ急落をきっかけに、インドネシアや韓国などで連鎖的に通貨 が暴落し、金融機関や企業破たんが相次ぐ経済混乱。 ◆高齢化による家計貯蓄率の低下 ライフサイクル仮説によると、若い世代は老後に備え、消費を抑え貯蓄を行うと考え られている。 ○アジアの資金循環の状況(図 4-3-7) 米国 1996年 2003年 経常収支 ▲1,202⇒ ▲5,307 資本収支 1,304⇒ 5,412 直接投資 証券投資 その他投資 計 投資収支 1996年 2003年 米→日 日→米 米→日 日→米 ▲3 133 58 65 58 95 320 ▲ 55 ▲ 36 425 221 1,397 19 653 599 1,407 634 808 直接投資 証券投資 その他投資 計 投資収支 1996年 2003年 ア→日 日→ア ア→日 日→ア 4 97 4 50 直接投資 33 21 ▲1 ▲5 証券投資 ▲ 30 ▲ 5 ▲ 179 ▲ 383 その他投資 7 113 ▲ 176 ▲ 338 計 投資収支 106 ▲ 162 (単位:億ドル) 1996年 2003年 米→ア ア→米 米→ア ア→米 138 ▲7 159 ▲3 251 50 120 448 139 480 119 1,344 528 523 398 1,789 ▲5 1,391 直接投資 証券投資 その他投資 計 投資収支 東アジア(日本を除く) 1996年 2003年 経常収支 ▲219⇒ 1,646 資本収支 971⇒ 124 N.A. 1996年 2003年 欧→日 日→欧 欧→日 日→欧 8 32 54 80 直接投資 660 224 430 729 証券投資 その他投資 ▲ 349 ▲ 252 75 ▲ 898 ▲ 89 319 4 559 計 ▲ 648 投資収支 ▲ 315 日本 1996年 2003年 経常収支 658⇒ 1,362 資本収支 ▲313⇒ 679 1996年 2003年 米→欧 欧→米 米→欧 欧→米 531 814 115 362 605 145 1,077 733 1,721 862 995 748 2,857 1,821 2,187 1,843 366 1,014 E.U.(15か国) 1996年 2003年 861⇒ 578 ▲55⇒ ▲809 経常収支 資本収支 ○アジア諸国の資本市場の規模(図 4-3-8) (億ドル) 90,000 株式時価総額(03年末) 債券発行残高(04年9月) 80,000 70,000 60,000 アジア最大の 金融資本市場 50,000 40,000 30,000 20,000 本 日 中 国 フィ リピ ン シア ドネ イン タ イ ア 韓 国 マレ ーシ シン ガ ポー ル 0 香 港 10,000 【出所】World Bank 「World Development Indicators」、「Quarterly Review」、BIS「Triennial Central Bank Survey of Foreign Exchange and Derivatives Market Activity in April 2004」、 IMF「International Financial Statistics」より作成 246 ○アジアの資金循環の活性化 所得収支が貿易収支を上回るなど、 「成熟した債権国」化した我が国にとっ て、国際投資の最適化は今後の重要な課題である。我が国の資源たる金融資 産を有効活用する観点から、これまでのように欧米中心の投資ルートを改め、 収益率の高いアジアの成長産業に積極的に投資していくことが必要である。 また、アジア諸国の経済成長にとっても、我が国からの安定的な投資拡大 は不可欠である。特に、アジア諸国は、貯蓄率が高いにもかかわらず、国内 資金が米国等の先進諸国に流出する傾向が強く、アジアの貯蓄が経済発展に 必要な中長期の投資資金に結びつけられていない。これは、アジア通貨危機 によりアジア各国の金融資本市場が大きな打撃を受け、未だに地域内に域内 資金循環の要となるべき資本市場が十分に育っていないことによる。また、 我が国からアジア地域への投資が必ずしも太くなっていない理由も、アジア 域内の資本市場の規模が小さく、投資に値する魅力的な金融商品が十分に提 供されていないことによるものと考えられる。 このため、我が国を含めたアジアの資金をアジア域内の投資に活用してい くためには、アジア域内に安定的に資産運用を行うことができる資本市場を 育成することが不可欠である。このような観点から、我が国としても、いわ ゆるアジアボンド市場のインフラ整備も含めアジアにおける社債市場や証券 化市場の育成等、アジア全体の金融資本市場の整備に積極的に貢献していく 必要がある。 さらに、高齢化による家計貯蓄率の低下により、家計貯蓄に依存した資本 形成は次第に困難となることが予想される中で、世界の資金を我が国に引き つけるための環境整備も重要である。アジア企業の旺盛な資金調達ニーズに 対応しつつ、我が国の豊富な金融資産をアジア全体の繁栄のために活用する ためには、海外企業による日本における資金調達手段の多様化を図るなど、 我が国の金融資本市場を「アジアの金融ハブ」とするための環境整備を強力 に推進していく必要がある。また、海外からの投資を、我が国・地域の経済 活性化につなげていく観点から、対日直接投資を一層促進していく必要があ る。 247 ○コミュニティ活性化ファンドの育成 地域内の助け合いや地域おこし事業を活性化するためには、地域の資金を これら事業に有効活用するルートを整備していく必要がある。他方で、NPO や LLP 等を含むこれらコミュニティ事業者は、豊富なアイデアはあっても、 信用力が低く担保が不足しており、単独で円滑に資金調達を行うことは困難 である。 こうした事業への資金供給ルートを拡大するための方策として、地域社会 において形成されている「コミュニティ」に着目し、互いに信頼関係のある 企業が連携し、助け合いの金融プラットフォーム(コミュニティ活性化ファ ンド)を設立することを促進する必要がある。これは、江戸時代に庶民がお 金を貸し合った互助組織の頼母子講(たのもしこう)の原理を現代に応用し たものである。 また、投資信託など新たな金融手法を活用し、地域活性化を担う様々な主 体が各々許容できるリスクを負担しつつ、広く地域活性化を支援する新たな 方策も検討されていくべきである。 ◆ 神戸市の中小企業 15 社は、01 年に計 5000 万円を拠出して「神戸コミュニティクレ ジットファンド」を設立。さらに、金融機関が 15 社と連帯保証契約を結んで、フ ァンドに 5000 万円を融資。同ファンドは、この 1 億円をグループ内の部品メーカ ーなど 6 社に融資、新規事業の創出や新商品開発につながり、2 年間で全額回収で きた。 ○リスクファイナンスの高度化 企業を取り巻くリスクが多様化する中で、既存の保険商品では対応できな いケースが増えている。欧米企業の中には、事業への知見を活用してリスク 管理を内製化し、リスクに強い経営基盤を構築する動きが見られており、我 が国企業の国際競争力を維持するため、企業グループ内で保険機能の内製化 を可能とする制度整備について検討する。また、証券化手法など高度な金融 工学を駆使することによって、資本市場を通じて的確にリスクを分散できる ような枠組みを整備する。 なお、中小企業については、多くの事業者のリスクをプールし、そのリス クを証券化あるいは補完することを通じ、中小企業向けの融資を円滑に行う ことが可能となるため、リスクの証券化・補完の方策の一層の充実を進める。 また、中小企業にとって継続的にファイナンスを受けられるかどうかは大 きなリスクであり、安定的に融資が確保されることを予め担保する方策の導 入について検討する。さらに、リスク対策に対する意識やコスト負担能力が 不足しているため、これらのリスクを取りまとめ、地公体と連繋した上での 官民共同での中小企業向け地震リスクの証券化などの枠組み整備を進める。 ◆リスクファイナンス 企業が行う事業活動に必然的に付随するリスクについて、これらが健全化した際の企業 行動へのネガティブインパクトを緩和・抑止する財務的手法 248 〔具体的施策〕 (1)リスクマネーの供給拡大 多様化しつつある家計の金融ニーズを充足させるため、魅力的な金融商品の イノベーションや、投信や保険など幅広い金融商品の適切な提供が行われるよ う、金融所得課税一元化やファンド投資の促進等の環境整備を進める。 また、会社法の改正により種類株式の発行自由度が増し、今後は、リスクマ ネー調達のために様々な形態の種類株発行ニーズが高まることが予想されるこ とから、種類株式の評価手法や譲渡マーケットを構築する等により、種類株式 発行を容易とする環境整備を進める。 ◆金融所得課税一元化 金融所得に関する課税方式の均衡化を図るとともに、損益通算の範囲を拡大すること。 ◆種類株式 議決権がない代わりに優先的に配当を得ることのできる優先株など、普通株と比べて、 さまざまな権利が優先、あるいは制限されている株式。 (2)コミュニティ事業への資金供給 雇用形態の変化や高齢化に伴い家計の格差拡大が進行する中で、我が国では 個人金融資産の大宗をシニア層が占めるなど「資産の偏在」が存在するため、 世代間や地域内の「助け合い」に向け、 「コミュニティ」の信頼関係に着目した 取組を活性化する。また、地域金融インフラの構築にあたっては、その効用を 受ける「コミュニティ」内の主体が証券化手法の活用等により一定のリスクを 引き受けることを通じて、リスクマネーの供給を円滑化することを目指す。 249 ◆社会的責任投資(SRI:Social Responsible Investment) 社会的責任投資とは、従来型の財務分析による投資基準に加え、法令遵守や消費者対応、 地域貢献などの社会・倫理面あるいは環境面から企業を評価・選別し、投資行動を行うこ と。 250 (3)ベンチャー・中小企業等のイノベーションに対する資金供給 我が国産業のイノベーションは、ベンチャー企業や企業のリノベーション活 動から生じるものであり、資金面からこうした企業の挑戦を支援していく必要 がある。このため、売掛債権の早期資金化を可能とする電子債権法制の整備や、 ベンチャーファンドや事業承継ファンドの成長に向けた環境整備を進める。さ らに、種類株の活用や社会的責任投資(SRI)など、企業による長期的な成長戦 略に基づく研究開発や設備投資を促進するための方策について検討する。さら に、銀行がベンチャー企業等に投資を行い、議決権のない優先株方式で株式を 保有する場合には、独占禁止法及び銀行法に基づき株式保有制限(5%ルール) の適用を除外することについて検討する。 また、事業に失敗した者等の再挑戦を支援する融資・保証制度の創設や、現 行の事業再生のための融資・保証制度の拡充、さらに、自己資本が薄い中堅・ 中小企業や、リスクのある新事業等に進出し新たな成長機会を発掘しようとす る中堅・中小企業、再生から再出発に向かう企業等に対する円滑な資金供給を 促す手法について検討する。特に、成功時のアップサイドリターン等を前提と して、資金調達当初の負担を抑えた形での新たな資金調達手法について、検討 する必要があると考えられる。 251 ○地域金融の目利き能力の強化(図 4-3-9) ○ABL(Asset Based Lending)とは、企業が保有する在庫や売掛債権を金融機関へ担保提供 等をすることで資金調達をする方法。 企 業 事業資産やキャッシュフローを裏づけに貸付 (必要に応じてリスク補完) 動産 金融機関 在庫 (雑貨、原材料等) 評価・管理(モニタリング) 売掛債権 機械等 評価 (産業用ロボット等) 評価会社 評価会社 評価機関 評価機関 (商社や小売業者等) (商社や小売業者等) 【企業側のメリット】 ①不動産や保証人依存からの脱却 ②動産の評価を通じた企業価値 の把握 ③金融機関との取引信頼関係の向 上とそれによる適時安定資金確保 【銀行側のメリット】 ①不動産や保証人依存からの脱却 ・バランスシートだけで ②新たな事業担い手への事業機会 は見えなかった『真の の拡大(NPO、LLP等) 企業価値』の把握。 ③取引先の事業を真に知ることによ ・『目利き力』の向上に よる商流金融の高度化。 る取引信頼関係の深耕 ◆債権譲渡禁止特約 掛取引における債務者が債権者に対し第三者への債権譲渡を禁止する特約。 日本の商 慣行上、掛取引を行う場合において(特に中小企業等の信用力の低い先に対して)この 債権譲渡禁止特約を入れるケースが多く存在する。ただし世界的にみて特約による譲渡 禁止は原則として対外的効力をもたないものとされている。 ◆信用リスクデータベース 中小企業の財務データ等を集積する機関として、平成 13 年 3 月に発足。信用保証協会 や政府系・民間金融機関など 200 機関によって構成され、中小企業に関する最大のデー タベース機関として機能。 ○地域サービス産業活性化に向けた取組(図 4-3-10) 資金需要 資金調達の課題 医療介護 農業 大学 ・最新機器の導入や改築等 による資金需要増大。 ・病院倒産件数が増加。 ・公的病院の経営効率化・ 再生が課題 ・農地転用規制の緩和や 株式会社参入の解禁によ り、企業の参入拡大。 ・農水産品のブランド化等 により、資金需要増大。 ・国立大学の法人化により 施設整備等に係る資金需 要増大。 ・地方私立大学の経営悪化。 事業再生の必要性。 ・従来の不動産担保主義は 限界。介護ビジネス等は 担保物件無。 ・事業者の情報開示不十分。 経営ノウハウも低い。 ・農地は担保非適格。売掛 金や在庫の有効活用が 必要。 ・事業者の情報開示不十分。 経営ノウハウも低い。 ・PFI手法や学校債等によ る資金調達の大規模化が 課題。 ・事業者の情報開示不十分。 経営ノウハウも低い。 ①アセットファイナンスの拡大 ①アセットファイナンスの拡大 対応策 ○ABL手法の普及啓発 ○売掛債権や各種報酬債権 等の流動化促進 ○公的金融による協調融資 ○固定資産流動化規制緩和 ②経営情報の透明化 ②経営情報の透明化 ○財務管理サービスの育成 ○情報開示ガイドライン普及 ○農業・医療・大学版CRD ○大学破綻法制の整備 ○「資産と経営の分離」促進 252 ③直接金融の拡大 ③直接金融の拡大 ○再生ファンド等の評価ベ ンチマーク整備 ○社会的責任投資の推進 (4)地域金融の目利き力の向上 我が国の融資慣行は不動産担保や保証人に過度に依存しており、動産や債権 など、企業の保有する多様な資産が担保として十分活用されていない。中堅・ 中小企業金融の円滑化を図る観点からは、保証人徴求の制限を図りつつ、動産・ 債権を活用した融資を促進することにより、事業の収益性に着目した融資慣行 を定着させていくことが必要である。 他方で、動産・債権を活用した融資を促進するためには、①動産を的確に評 価する人材の育成、②動産処分市場の整備、③金融機関における実務ノウハウ の蓄積、④債権譲渡禁止特約等の商慣行の改善、⑤リスクの適切かつ効率的な 補完、⑥新たな金融の担い手の参入等の基盤整備が不可欠となる。このため、 動産・債権を活用した融資を対象とする新たな信用保証制度の創設等のリスク 補完措置を講じつつ、事業価値を的確に評価する人材の育成支援や、商慣行の 改善に向けた取組を強化し、地域金融機関や一般事業者等への普及啓発を図る。 また、動産処分市場の整備に向け、資産評価データベースの整備等を進める。 また、地域金融においては、高い技術力を持っている企業や地域インフラに 必要不可欠な企業でありながら、自己資本が薄く、成長に向けた取組が難しく なっている中堅・中小企業も少なくなく、成長に向けた自己資本増強のための 支援策について検討する。この中で、一時的に業況が低迷している企業に対し ては、目利き能力によりその潜在的な企業価値を把握し、事業再生を行うこと も重要である。このような取組を活性化するため、ファイナンス手法の整備や、 事業再生に取り組む組織の整備、人材育成等を進める。 さらに、地域金融の活性化のためには、金融機関側の「目利き能力」向上の みならず、中堅・中小企業側での情報開示の促進や、信用リスクデータベース の拡充も不可欠である。このため、 「中小企業の会計に関する指針」に沿い、第 三者のチェックを受けた財務諸表作成へのインセンティブ付与や、定性的な情 報開示としての知的資産経営報告書の作成・普及、返済履歴等のクレジットヒ ストリーのデータベース化やこれに基づくインセンティブの付与等を検討する。 (5)医療介護、農業、公営事業等への資金供給 医療介護や農業、教育、観光など潜在力の高い地域密着型産業群は、地域ブ ランドによる付加価値の向上や販路開拓、経営効率化によるコスト削減等の経 営努力により、大きな生産性の向上が期待できる有望な産業分野である。特に、 近年の規制緩和により事業会社の参入が進んでおり、今後市場規模の拡大が見 込まれている。他方、これら分野では、①情報開示が不十分、②担保が少ない、 ③組織形態が特殊等の構造問題が存在する。これら資金供給の「目詰まり」と なる制約要因を取り除くことにより、地域内における資金循環を円滑化する。 253 254 (6)「事業と金融の融合」の高度化 近年、一部の事業会社は、事業の競争力を高める観点から戦略的に金融機能 を活用しており、「事業と金融の融合」が進んでいる。例えば、製造業におい ては、自社の製品の販売を促進するとともに顧客ニーズを的確に把握する観点 から、自動車ローンや住宅ローン等に進出する企業がある。また、流通業を中 心に、顧客の利便性の向上を図る観点から、インターネット専業銀行への参入 や銀行代理店制度の活用等が進んでいる。さらに、通信業において、携帯電話 サービスと決済・融資機能を組み合わせる例も見られる。加えて、大企業から 有望な技術や事業シーズを切り出し、ファンドを活用して事業化を試みるカー ブアウトファンド等を設立する動きもある。 このように、事業会社による金融機能の活用が拡大すれば、金融サービス産 業における競争が活性化し、金融サービス産業の生産性向上に資するものとな る。また、事業会社にとっても、事業との相乗効果により、顧客利便性の向上 と事業の競争力強化を実現することができる。 政府においては、銀行法の見直し(銀行代理店制度の創設等)や信託法・信 託業法の見直し、ファンド法制の整備等を通じて、事業会社による金融機能の 活用に向けた環境整備を進めてきた。今後も、こうした新しい制度の積極的な 活用を促進するとともに、「事業と金融の融合」の高度化を図る観点から、事 業会社のニーズ等を踏まえつつ、金融制度の柔構造化について検討を進める。 (7)高度金融人材の育成強化 金融サービス産業は「知識集約型産業」であり、新金融商品の開発・提案能 力やアジア等における国際展開を強化するためには、金融工学を駆使しつつ、 多様なリスクの分析・評価を行う高度な金融人材が不可欠となる。 米国では、ビジネススクールや理系大学院において高度な金融教育が行われ るとともに、金融業界や事業会社と大学・研究機関との交流が活発に行われる など、高度金融人材を育成・再生産する好循環が構築されており、米国の金融 サービス産業の競争力を支える土台となっている。 他方、我が国の場合には、大学側の金融工学等の研究・教育体制が不十分で あり、金融業界や事業会社側も専門人材の育成に対する意識が十分ではなく、 高度金融人材育成のための環境整備が整っていない。これが、我が国の金融サ ービス産業におけるイノベーションが進まない一因ともなっている。 このため、金融工学等の金融リテラシーの向上を国家戦略として進めるため、 金融工学の科学技術研究の対象への追加や、産学官連携の強化等を通じて理系 学生や社会人向けの教育体制を整備すること等について検討を進める。 255 ○東アジア資産担保証券構想の概要(図 4-3-11) <ABCP発行> 東アジア諸国 [優先債] 売掛債権 完成車メーカー 安定的取引 ・現地通貨建て公募優先債 ・AA以上の地場格付取得 ・地場銀行等を投資家に想定 ・国内債券市場育成に貢献 SPC 一次サプライヤー 二次・三次 二次・三次 サプライヤー サプライヤー (中堅・中小企業) (中堅・中小企業) 地場銀行 個人 ・日本国内投資家層にも販売 安定的取引 安定的取引 アジアファンド (日本国内) 譲 渡 二次・三次 サプライヤー (中堅・中小企業) 債 券 発 行 [劣後債] ・現地通貨建て私募劣後債 政府系機関 【具体的スキーム】 ①中堅中小企業の運転資金支援 ①中堅・中小企業は、保有する一次サプライヤー向け売掛債 権をSPCに譲渡し、資金調達(運転資金)。 ②アジア諸国の資本市場育成 ②SPCは、売掛債権を裏付資産として「証券」を発行(売掛 債権を裏付資産としたCP:ABCP(Asset-Backed CP)。 (アジア債券市場構想の一環) ③日本国内で「アジアファンド」を設 立、諸国のABCPに投資 ③政府系機関は、ABCPの劣後債の引受による信用補完。 一般投資家(日本国及び海外機関投資家)は、優先債に投 資。 (アジアと日本の共存共栄) ※アジア諸国の政府系機関との連携も要検討。 ○JDR のイメージ(図 4-3-12) ○ アジアの成長企業への投資 ○ 日系金融機関による積極的活用 株券預託 預託証券(JDR) 東証等 現地株式市場 上場 アジア企業 日系証券会社等 リスクマネー 投資 日本の投資家 ○証券取引所の上場要件の緩和(新たなマーケット類型の創設) これまでの証券取引所上場とは別個の新たな取引マーケットを創設し、証 券取引所が認める一定の海外証券取引所に上場されている株式については簡 易な審査で取引を行うことを認めるなど、その上場要件を緩和することによ り、アジア企業などの資金調達のニーズを満たすため手段の拡大を図る。 256 (8)東アジア資産担保証券市場の拡大 我が国金融機関においては、財務体質の健全化に伴い積極的に海外展開を推 進する動きが見られているものの、我が国事業会社と比較すると、依然として その活動範囲は限定的であり、特に財務人材不足に課題を抱える中堅・中小企 業の現地子会社を中心に、現地における現地通貨建ての運転資金調達や売掛債 権管理の円滑化に多くの課題を抱えている状況にある。 特に、中国やタイでは外国企業の土地所有が禁止されるなど、アジア諸国で は不動産に担保価値が認められない場合が多い。このため、現地において運転 資金や設備投資資金を調達する場合に、担保制約に直面する日系中小企業が多 いと言われている。また、日系中小企業の多くは日本の親会社からの送金や邦 銀借入に依存しているが、親会社の資金調達力や邦銀の経営動向に左右されず に安定的に資金調達を行う観点から、子会社独自の資金調達ルートを拡大する ニーズも高まりつつある。 このため、アジア域内に広がる我が国産業のサプライチェーンに着目し、こ れらサプライチェーンから生じる売掛債権の証券化を促進することにより、日 系中小企業の海外資金調達を支援するとともに、アジア各国における資産担保 証券市場を育成するための取組を推進する必要がある。 なお、アジア各国では、ASEAN+3 における「アジア債券市場育成イニシャテ ィブ」に基づき域内債券市場の育成を推進しており、我が国も政府系機関の保 証等を通じて大企業の起債を支援してきた。今般の証券化の推進により、社債 市場に加え、資産担保証券市場の拡大が期待される。同時に、これら証券市場 に対する我が国からの投資拡大を促進し、アジア大の資金循環の円滑化を目指 す必要がある。 ◆ アジア債券市場育成に向けた我が国の取組状況 04 年 4 月 自動車 A 社タイ現地法人によるバーツ建て債券発行 05 年 11 月 自動車 B 社タイ現地法人によるバーツ建て債券発行 06 年 1 月 リース C 社マレーシア現地法人によるリンギット建て 債券発行 (9)日本型預託証券(JDR)の導入 アジア諸国においては、海外市場への株式そのものの上場を前提とした制度 や体制が未整備なため、そのような国の企業が海外市場から資金調達を行うに 際しては、預託証券(DR:Depositary Receipt)を活用することが有効とされて いる。しかしながら、日本において、この DR 制度を活用できるかどうかについ ては不明確な点が多いため、アジア企業が日本市場において円滑に資金調達が 可能となるよう、日本型預託証券(JDR)の導入可能性について総合的な検討を 行い、早急にその実現に向けて必要な制度整備を行う。 257 258 第 4 節.ワザ:技術のイノベーション 259 第3期科学技術基本計画(平成18∼22年度)の概要 基 本 理 念 ○基本姿勢 ①社会・国民に支持され、成果を還元する科学技術 絶え間なく科学水準の向上を図る 研究開発の成果をイノベーションを通じて、社会・国民に還元 ②人材育成と競争的環境の重視 ⇒ 知的・文化的価値の創出 ⇒ 社会的・経済的価値の創出 ○科学技術の政策目標の明確化 政府研究開発投資が何を目指すのかを明確にするため、3つの基本理念の下で目指すべき具体的な政策目標を設定。 大目標 ①飛躍知の発見・発明 ②科学技術の限界突破 ③環境と経済の両立 ④イノベーター日本 ⑤生涯はつらつ生活 ⑥安全が誇りとなる国 ○政府研究開発投資 政府研究開発投資の総額規模約25兆円 (計画期間中の対GDP比1%、GDP名目成長率3.1%を前提) 科学技術の戦略的重点化 ○基礎研究の推進 研究者の自由な発想に基づく研究 →多様性の苗床の形成 ※政策課題対応型研究とは明確に区分。ビッグサイエンスは国としても優先度を含めた判断を行い取り組む。 政策に基づき将来の応用を目指す基礎研究 → 非連続的なイノベーションの源泉となる知識の創出 ○政策課題対応型研究開発における重点化 重点推進4分野(ライフサイエンス、情報通信、環境、ナノテクノロジー・材料)、推進4分野(エネルギー、ものづくり技術、社会基盤、フロンティア) 分野別推進戦略 ・第3期期間中に重点投資する対象として、戦略重点科学技術を選定し、選択と集中を図る。 ①社会・国民ニーズ(安全・安心等)②国際的な科学技術競争③国家基幹技術(スーパーコンピュータ、宇宙輸送システム等) ・新興領域・融合領域への対応 ・第3期期間中であっても、必要に応じて分野別推進戦略の変更・改訂を柔軟に行う。(「活きた戦略」の実現) 科学技術システム改革 1.人材の育成、確保、活躍の促進 ○個々の人材が活きる環境の形成 ・若手研究者の自立支援 ・女性研究者の活躍促進 ・外国人研究者の活躍促進 ○大学の人材育成機能の強化 (大学院教育振興施策要綱、 博士課程在学者支援) ○社会のニーズに応える人材の育成 ○次代の科学技術を担う人材の裾野の拡大 2.科学の発展と絶えざるイノベーションの創出 ○競争的環境の醸成 ○大学の競争力の強化 (世界トップクラスの30研究拠点形成、 地域の知の拠点再生プログラム、私学の活用) ○イノベーションを生み出すシステムの強化 (イノベーション創出を狙う制度、先端融合領域研究拠点、つなぐ仕組み) ○地域イノベーション・システムの構築と活力ある地域づくり 〇研究開発の効果的・効率的推進 (研究費制度間の重複チェックのためのデータベースの構築等) 〇円滑な科学技術活動と成果還元に向けた制度・運用上の隘路の解消 3.科学技術振興のための基盤の強化 4.国際活動の戦略的推進 ○優秀な人材の育成とその活躍を支える研究教育基盤の強化 (「第2次国立大学等施設緊急整備5か年計画」の推進) ○先端大型共用研究設備の整備・共用の促進 ○知的基盤の整備 ○知的財産の創造・保護・活用 〇公的研究機関における研究開発の推進 〇研究情報基盤の整備、学協会の活動の促進 社会・国民に支持される科学技術 ○国際活動の体系的な取組 ○アジア諸国との協力 ○国際活動強化のための環境整備と 優れた外国人研究者受入れの促進 総合科学技術会議の役割 ○科学技術が及ぼす倫理的・法的・社会的課題への責任ある取組 (研究データ捏造対策のルールづくりを含む) ○科学技術に関する説明責任と情報発信の強化 ○科学技術に関する国民意識の醸成 ○国民の科学技術への主体的参加の促進 260 ○司令塔機能の強化 ・政府研究開発の効果的・効率的推進 (法人活動の把握・所見とりまとめの強化を含む) ・制度・運用上の隘路の解消 第 4 節 「ワザ」:技術のイノベーション 〔目標〕 −業種・技術分野の実態を踏まえつつ、融合・協働によりイノベーションを促 進・加速化するとともに、その成果を効果的に成長へと繋げる 産業技術の高度化により、科学と技術の距離が急速に接近する分野が増える 一方、企業における基礎的な分野の研究開発投資が減少している業種があるこ と、より複雑化・高度化する要請を解決するためにも様々な知識・技術の融合 が求められていることなどを含め、イノベーションを支える研究開発活動は、 業種・技術分野ごとに異なる課題に直面している。 このような環境変化の下、イノベーションが連続的に創出される状況の実現 のため、業種・技術分野ごとの実態を踏まえつつ、産学官一体となって知識の 融合や先端的・革新的な研究開発を戦略的に促進し、この成果(知的財産権を 含む。)がより効率的かつ効果的に価値の創造・成長につながるような状況の 実現を目指す。それを加速するため、政府としては、第3期科学技術基本計画 (2006 年 3 月 28 日閣議決定)も踏まえ、関係府省の組織の壁を越えて強固に連 携しつつ、これまでの諸施策(注 1)に加え、各種の環境整備を行う。 (注 1)これまでの主な施策 科学技術基本法の制定(1995 年度)、大学等技術移転促進法(1998 年度)による TLO(技 術移転機関)の整備促進、産業再生特別措置法(1999 年度)による日本版バイドール条項 の導入(国の委託研究開発による知的財産権の民間への移管)、産業技術力強化法(2000 年度)による大学等の研究者の兼業規制の緩和(大学発ベンチャーの設立促進等)、研究 開発促進税制の恒久化(2003 年度)、国立大学の独立行政法人化(2004 年度)等。 261 (%) 図 4-4-1, 【研究開発費(総額)の対GDP比の推移】 図 4-4-2, 4.00 70.0 3.50 60.0 3.00 【人口1万人当たりの研究者数の推移】 (人) 日本 米国 ドイツ フランス イギリス 中国 韓国 日本(専従換算値) 50.0 日本 米国 ドイツ フランス イギリス 中国 韓国 2.50 2.00 1.50 40.0 30.0 20.0 1.00 10.0 0.50 2004 2003 2002 2001 2000 1999 1998 1997 1996 1995 1994 1993 1992 1991 1990 1989 1988 1987 1986 1985 1984 2004 2003 2002 2001 2000 1999 1998 1997 1996 1995 1994 1993 1992 1991 1990 1989 1988 1987 1986 1985 1984 1983 1982 (年度) 1983 1982 0.0 0.00 (年度) dd 出典:「科学技術要覧(各年度)」(文部科学省)に基づき経済産業省が作成 なお、日本の専従換算値については、「平成 15 年度科学技術の振興に関する年次報告」(文部科学省)の値を使用。 図4-4-3 特許の新規登録件数の国際比較(特許権利者国籍別) (件) 250,000 200,000 日本 米国 ドイツ フランス イギリス 韓国 中国 150,000 100,000 50,000 0 1980 1985 1990 2000 2001 2002 (年) 1995 出典: ①WIPO「INDUSTRIAL PROPERTY STATISTICS」 ②特許庁「特許行政年次報告書(2005年版)」 図 4-4-4, 我が国製造業の研究開発投資と付加価値額の推移 20 ,000 10億円 10 億円 140,00 0 a.研 究 開 発力 18 ,000 16 ,000 図 4-4-5, 国際競争力の強みと欠けているもの(2004年) 120,00 0 付加価値額: 右目盛り 50.3 7.9 d.事 業 戦 略 12 ,000 80,000 8 ,000 g.トップの リ ーダ ー シップ 6 ,000 研究開発費:左目盛り 2 ,000 0 25.4 7.4 15.3 10.3 k. 新 たな もの へ の挑 戦 6.3 l.事 業 そ の もの が 国 際 競 争 に直 面 して い ない 28.0 13.6 4.0 j.他社 と の連 携 注)付加価値額=生産額−(原材料使用額、減価償却額等) 出典: 総務省統計局「科学技術研究調査報告」 36.2 5.6 i.人 材の 量 20,000 0 8 0 81 82 83 8 4 85 86 87 88 89 9 0 91 92 9 3 94 95 96 9 7 98 99 00 01 02 0 3 04 年 20.3 17.7 h.人 材の 質 40,000 4 ,000 24.9 9.7 f.商 品 企画 力 60,000 13.7 6.9 e.マネ ジ メント(技 術 経 営) 10 ,000 43.4 10.7 c.生 産 ・製 造技 術 力 100,00 0 14 ,000 42.3 17.5 b.製 品 化 技術 力 22.0 10.7 3.4 4.0 m.その 他 0 10 20 30 40 50 60 回 答 率 (% ) 経済産業省「工業統計表」 出典:経済産業省委託調査「産業技術開発に関する実態調査(平成16年度)」 注1 :調査対象は、研究開発投資の多い企業(328社)。調査時点は平成16年8月、調 査票回収数184社。 注2:上段の棒グラフは「国際競争力の強み」、下段の棒グラフは「国際競争力で欠けて いるもの」を示している。 262 〔問題意識・課題〕 ○ 研究開発からのイノベーションへの低効率性(不十分な利益の確保) ・ 我が国は、バブル崩壊後経済が低迷した中でも世界最大規模の研究開発を維 持し、これが近年の景気回復につながる薄型テレビ、デジタルカメラ、ハイ ブリットカーなどの魅力的な先端製品の創出にも貢献している。また、研究 者数、特許登録件数においても世界的に高水準にある。 ・ しかし、経営上の課題や同一製品分野で複数の企業が競合しているため重複 投資が多いなどもあり、研究開発の成果が企業の利益や国富の拡大に効果的 に結びついておらず、今後とも次を担うイノベーションが継続的に生み出さ れていくのかについて懸念が存在する。また、労働、資本の投入量の伸びに 一定の限界がある中、我が国の今後の成長にとって極めて重要な全要素生産 性(TFP)の伸び率も足下では主要先進国の中で最も低い状況に留まってい る(注 2)。 ・ 産業界には、経営力を高め、自らの強みや独自性を明確に意識しつつ、様々 な要素を組み合わせ、イノベーションを軸に利益を生み出すビジネスモデル を確立することが求められている。 (注 2)全要素生産性の向上に寄与するのは、第 1 章で述べたとおり、労働や資本 の質的向上、技術革新以外にも、経営の効率性の向上、新事業の市場化など、新 しい価値を生み出す全てを含むものである。 263 図 4-4-7, 80年代と90年代の研究開発成果の事業化における変化 図 4-4-6, 収益期間(製品寿命)に関する調査 0 20 40 13.2 基礎研究や応用研究に対して投入する資金や人材等の資 源を縮小 (N=114) 13.4 0.0 従来のリニア型イノベーションモデルが適用できない新しい 状況が生まれ、適応できない (N=82) 100 78.1 25.8 23.7 生産設備への投資や市場開拓などの研究成果の事業化が 困難 (N=82) (%) 80 25.4 実用化に向けた大規模な開発研究に着手することが困難 (N=97) 75.3 30.5 80.5 15.9 95.1 21.4 新規市場の規模と自社の経営規模のミスマッチ (N=70) 52.9 35.9 全般的に研究開発の成果が新規事業に結びつかない (N=117) 特に困難はなく、研究開発の成果が効果的に新規事業の 創出に結びついている (N=72) 80年代中盤まで 60 67.5 69.2 69.4 41.7 22.2 80年代後半∼90年代中盤 65.7 90年代中盤以降∼現在 出典: 経済産業省委託調査「我が国の産業技術開発力に関する実態調査(平成15年度)」 注 : 調査対象は、業種ごとに研究開発投資の多い企業(161社)の中央研究所及び事業 部門研究所(370所)。 調査時点は平成15年8月、調査票回収数113社、156研究所。 出典:日本政策投資銀行調査第78号(2005年3月) 「技術寿命の短期化と財務構造へ与える影響」 図 4-4-8, 研究者の生涯移動回数期待値 図 4-4-9, 各組織間の研究者の移動の状況(2004年度) 非営利団体から 転入 122 会社から 転入 14,475 8,155 29,711人 企業等+非営利団体 その他の転出者数 15,000人 (注1) 2004年度末研究者数 465,891人(前年比 3,332人減) (注2) 退職者・海 外転出者等 新規採用者 20,456 492 312 317 その他︵ 外国 ・自営業等︶ 3,635人 4,201 その他の転出者数 14,000人 (注1) 2,940 1,100 大学等 2004年度末 研究 者数 291,147人 (前年比6,817人増) (注2) 428 436 大学等から転入 203 6,606 3,081 公的機関 合計 29,678人 2004年度末研究者数 33,894人(前年比183人 増) (注2) その他の 転出者数 1,000人 (注1) 公的機関から 転入 2,242 : 採用・転入研究者数 合計 65,566人 (出典)「科学技術政策研究所「基本計画達成効果の評価のための調査 (出典)科学技術政策研究所「基本計画達成効果の評価のため − 主 な 成 果 − 報 告 書 の調査−主な成果−報告書(2005年3月)」 主要国の受入留学生数と内訳 全製造業における外資系企業による (注)カーネギー調査とレビュー調査とは調査対象が異なるの 研究開発投資のシェア(2002年) (2005年3月)」 で、単純比較は適当でない。 :その他の 転出者数 合計 29,678人 2004年度末研究者数 790,932人(対前年3,668人増) (出典)総務省統計局踏査を基に経済産業省が作成(2004年) (注)カーネギー調査とレビュー調査とは調査対象が異なるので、単 純比較は適当ではない。 図 4-4-10, 全製造業における外資系企業による 研究開発投資のシェア(2002年) 図 4-4-11, 主要国の受入留学生数と内訳 (人) 700,000 Per cent 40 600,000 586,323 500,000 30 400,000 300,000 242,800 20 180,418 200,000 185,058 142,786 109,508 100,000 10 0 米国 英国 ドイツ フランス オーストラリア 日本 大学院レベル 学部レベル その他 合計 0 日本 米 仏 独 英 伊 加 (出典)「我が国の留学制度の概要」 (2004年度、文部科学省高等教育局学生支援課) 「主要国・地域における留学生受け入れ政策」 出典:OECD/Going for Growth 2006 (2004年8月、外務省人物交流室) 264 (研究開発を巡る環境変化に対する対応の遅れ) ・ 90 年代以降、研究開発の実施にあたり、我が国が強みを持つ現場での創意工 夫だけでは対応できず、産業技術の最先端が理論限界ぎりぎりの領域に迫る とともに、異分野にまたがる複合的・融合的な技術課題を克服しないと優れ たイノベーションが生み出されないといった環境の変化も生じている。さら に、製品寿命の短縮化等に伴って研究スピードを加速させる必要も増してい る。 ・ しかし、我が国においては、欧米に比して科学(サイエンス)領域に遡って 課題を解決するアプローチや異分野の融合を分野や組織の垣根を越えて進 める研究開発スタイルはごく一部でしか定着していない、自然科学における 発見や基礎研究の成果が技術や製品などに迅速に展開されないとの指摘が あり、今後継続してイノベーションを創造し続けていくために、市場から研 究、研究から市場まで、双方向の有機的連携の強化など更なる対応が求めら れる。 ・ 更に、一部産業では、近年の景気回復の中にありながらも、中長期の研究開 発へのリソースの投入が過去と比較して円滑には進みにくくなったとの指 摘もなされている。企業の研究開発サイドと経営サイドが、中長期の研究開 発による将来の成長ポテンシャルについて十分な意思疎通を図っていくこ とも重要である。 (連携・融合への取組の遅れ) ・ 従来のリニア型(線型)・キャッチアップ型(追従型)のモデルが適用でき なくなっているという技術開発を巡る大きな環境変化の中で、組織を超えた 各種連携や融合が極めて重要になってきているが、我が国の企業、大学、公 的研究機関などでは、単一組織内での「自前主義」の傾向が強く、組織外の リソースを効果的・効率的に活用するといったマインドが不十分であるとい う指摘もある。加えて、欧米と比較すれば、より広範な「知」を結集すべき 領域においても、研究人材の流動化が進んでいない。 (海外リソースの活用の遅れ) ・ 更に、モノの生産を中心として企業の経済活動がグローバル化する中、特に 欧米系の企業の研究開発活動もグローバル化が進展しているが、我が国企業 の海外における研究開発が緩やかな増加傾向を示してはいるものの、我が国 に対する外国企業による研究開発投資や海外からの研究人材の流入が少な いなど、海外のリソースの活用が未だ不十分な水準に留まっている。 265 図 4-4-12, 図 4-4-13, 企業数による開廃業率の推移(非一次産業) (%) 7 5.9 5.9 11.9% 12.0% 3.8 3.8 4.0 4.0 3.2 3.5 2 10.0% 4.5 3.6 2.7 3.1 0 0.0% 91∼96 96∼99 99∼01 01∼04 2.5% 1.9% 電 気 ・ガ ス 資料:総務省「事業所・企業統計調査」 図 4-4-14, 6.8% 5.6% 4.2% 2.8% 連携の課題(大企業に対するアンケート調査) 課題 スケジュール通りに事業が伸展しない 34.5% 両者の企業文化が異なる 23.0% 自社内の調整に時間がかかる 22.3% 両者間の調整に時間がかかる 20.9% 連携先企業の企業体力がないため、事業が伸展しない 16.5% 両者間の取決め、ルールがあいまいである 14.4% 連携先企業の社内管理体制が整備されていない 9.4% 連携により開発した製品・サービスのトラブルが発生した 8.6% 連携先企業がなかなかみつからない 8.6% 自社の取組が熱心でない 5.0% 製品化等に向けた連携途中の段階において技術・製品の競争力が低下した 4.3% 連携先企業内の調整に時間がかかる 3.6% 自社のノウハウ、シーズ、技術が漏洩した 2.9% 連携先企業の経営方針が変更された 2.9% 連携先企業が取組に熱心ではない 1.4% ※「連携を行う際に、どのような課題がありましたか」との質問に対する回答(複数回答)。 出典:中小・ベンチャー企業と大企業の連携における課題と支援のあり方(中小企業基盤整備機構)2005年3月 266 8.5% 6.5% ・熱 (年) 5.6% 6.2% 2.9% 5.5% 5.4% 4.7% 5.4% 3.9% 3.1% 1.2% 業 86∼91 1.7% 鉱 81∼86 5.0% 6.2% 3.6% 4.0% 2.0% 78∼81 5.2% 6.0% 1 75∼78 9.1% 8.0% 3.5 製 造 供 業 給 ・水 道 情 業 報 通 信 業 運 輸 卸 業 売 ・小 売 金 業 融 ・保 険 業 不 動 飲 産 食 業 店 , 宿 泊 業 医 教 療 , 育 福 , 学 祉 習 複 支 合 援 サ 業 ー ビ ス 事 業 サ ー ビ ス 業 4.3 4 10.0% 設 業 5 3 14.0% 6.1 5.6 建 6 企業の業種別開廃業率(非一次産業) 開業率 廃業率 (革新的ベンチャー企業を生み出す基盤の弱さ) ・ イノベーションの創出にとって、ベンチャー企業の貢献に対する期待が大き い。しかし、これまで、我が国においては、ブラウン管から薄型テレビ、レ シプロエンジン車からハイブリット車に見られるように、大企業が主導して イノベーションを生み出してきた事例が多い。我が国の連続的なイノベーシ ョンを支えるためには、こうした大企業中心のイノベーションの創出に加え、 米国の IT やバイオ分野に見られるような革新的ベンチャー企業による新た な市場の創造が重要である。 (注)我が国においても、宅配便、格安航空券の販売及び IT 等の分野でベンチャー企業が革 新的なビジネスを展開してきた事例がある。 ・ 我が国においては、90 年代後半からベンチャー企業創出のための各種環境整 備・支援策が実施されてきたものの、米国が世界的なベンチャー企業を多く 輩出しているのと異なり、我が国の成長に大きく寄与するような革新的ベン チャー企業は未だ少ない状況である。また新規の開業率も未だ低い水準に留 まっている。 ・ ベンチャー企業の成長の面では、経営面、技術面、情報収集面、市場化面(い わゆる「目利き」)等あらゆる面での能力の向上が求められる。経験の浅い ベンチャー企業にとって、自らの力だけでこれら全ての面で秀でることは不 可能に近いが、まずベンチャー企業自身の取組としても、自社の持つ技術的 強みや知的資産等をどのように用いて、どのような市場ニーズを狙ったビジ ネスを目指すのかという経営ビジョンの明確化が不十分である。また同時に、 自社だけでは足りない部分を補完するための外部の力の活用やベンチャー を取り巻くコミュニティーの構築も十分できていない。例えば、外部評価機 関の活用、産学連携及び幅広い経験・リソースを有する大企業・商社などと の連携は重要な要素であるにもかかわらず、未だ低い水準に留まっている。 ・ また、我が国の研究開発型ベンチャー企業からは、 「自社で開発した新製品・ 新技術を披露すると、欧米企業は一定の技術的な質疑を経て、直ちに有償で サンプル提供の話に移行できるが、我が国の大企業は採用実績のみを求め、 その後の商談が進まない」という、いわゆる「ファーストカスタマー問題」 が存在すると言われている。 ・ さらに、特に初期のベンチャー企業にとって、十分な資金の確保は研究開発 等を進めていくために極めて重要な課題であるが、リスクの高いベンチャー 企業の成長を正しく見極めること(投資側の「目利き」)が極めて困難なこ となどから、それら初期のベンチャー企業へリスクマネーが円滑に流れにく い状況が続いている。 267 図 4-4-15, 図 4-4-16 万件 50 一次審査件数と審査請求件数 40 審査請求件数 一次審査件数 30 被害企業数 40 38 29 20.0% 18.3% 600 2004 年度 2005 733 722 15.2% 580 15.0% 641 11.5% 10.0% 385 336 200 0 2003 28.8% 800 10 2002 模倣被害率 30.0% 27.4% 25.0% 23.9% 400 2001 模倣被害率 1000 24 22 20 模倣品被害を受けた企業数及び被害率の推移 被害企業数 1200 5.0% 247 0 2006 予測 0.0% 1997年 1998年 1999年 2000年 2001年 2002年 2003年 (注)過去5年間に日本における特許、実用新案、意匠、商標出願の合計件数が多い企業・団体上位8,000社を対象にア ンケート調査を実施。有効回答の内、海外で模倣品被害を受けたと回答した企業数を集計して作成。 出典:特許庁「2004年度模倣被害調査報告書」 図 4-4-17, 図 4-4-19, 図 4-4-18, デザイナーランキング2005 上位60ブランドの出身国 デザイナーランキング2005 上位60ブランドのコレクション発表場所 米 英 3% 5% 米 5% 中小企業の知財経営に関する問題点 40.0% 35.0% ベルギー 3% 30.0% (%) 25.0% 日 10% 伊 28% 15.0% 仏 41% 英 13% 10.0% 5.0% 特 に問 題 な い そ の他 知 的 財 産 の 帰 属 に つ い て 、親 企 業 や 共 同 研 究 先 と の 調 整 が不 足 適 当 な 弁 護 士 ・弁 理 士 等 の 専 門 家 を 確 保 で き て いな い 職 務 発 明 に 対 す る 報 奨 ・補 償 制 度 に 関 し 、社 内 で の 調 整 が 不 足 国 外 に お け る 出 題 や紛 争 対 応 の た め の人 材 や情 報 が不 足 新 た な 製 品 ・サ ー ビ ス に つ い て 、他 者 の 有 す る 知 的 財 産 権 の 侵 害 リ ス ク な ど の見 立 て ができな い 知 的 財 産 の 管 理 に 関 す る 社 内 規 定 ・契 約 書 等 の 整 備 が不 足 知 的 財 産 戦 略 と 研 究 開 発 ・事 業 戦 略 と の 連 携 が取 れ て い な い 権 利 活 用 を 目 的 と し た 知 的 財 産 の戦 略 的 な 権 利 化 ︵周 辺 特 許 を 押 さ え る 等 ︶が で き て いな い ※デザイナーランキング:毎年、仏の業界紙「journal du textile」において世界的に著 名なファッションバイヤー70名(内、日本人1人)による投票によって選出。 知 的 財 産 の 権 利 化 や 権 利 侵 害 への 対 応 の た め の資 金 や 人 材 が不 足 0.0% 伊 28% 知 的 財 産 に 対 す る 社 内 の 認 識 や 関 心 が薄 い 仏 64% 20.0% 出典:経済産業省特許庁 「知的財産への取組に関するアンケート」(平成17年3 月) 図 4-4-20, ○大学との共同・委託研究において、大学の 秘密保持に不安があると答えた企業(大企 業38社) 不安がある 問題なし 未回答 図 4-4-21, <民間企業における知的財産関連人材の過不足感> 研究開発を行う民間企業における知的財産関連人材の過不足感 14社, 37% 5社, 13% 19社, 50% 46.4% 14年度調査 52.9% 0.6% 16年度調査(現在) 57.0% 42.3% 0.6% 16年度調査(5年後) 56.8% 42.9% 0.2% 80% 100% 不足 過不足なし 余剰 不安要因 z学生、院生、留学生との関わり合いで不安 0% 20% 40% 60% z学会でのフライング発表 出展:文部科学省「民間企業の研究活動に関する調査報告(平成16年度)」(平成17年9月)、 「民間企業の研究活動に関する調査報告(平成14年度)」(平成15年9月) z教員の機密保持意識の認識の低さ 等 ※平成17年度株式会社ベンチャーラボ人材育成評価推進事業「大学評 価手法調査事業におけるアンケート調査及びヒアリング調査結果」より。 268 ○知的財産に対する対応の弱さ ・ イノベーションの創造を我が国経済の活性化のための強力なエンジンにし ていくためには、革新的な技術の創出や独創的なデザインの創造等を促進す るとともに、その成果を知的財産として適切に保護・活用し、また、標準化 などの基準認証のルールを構築することにより、連続的なイノベーションを 生み出す環境を整備することが必要である。 ・ 経済のグローバル化、我が国企業の海外活動の拡大を踏まえ、国内制度の整 備はもとより、世界市場を見据えた取組が求められている。近年の制度改正 に伴う審査請求件数の増大による審査順番待ち期間の長期化は、我が国企業 の研究開発への効率的な投資や独創的な発明の早期事業化を困難にし、国際 競争力の維持、強化の妨げとなりかねない。また、特許制度の国際的な調和 や諸外国との審査協力を進め、我が国企業の海外における権利取得の円滑化 を図ることが重要である。 ・ 国際市場における模倣品・海賊版の氾濫により、我が国企業の市場が不当に 奪われるなど被害が深刻化している。模倣品・海賊版の拡散を防止するため、 特に被害が顕著なアジア地域を中心に、取締りを強化するとともに、国際的 な協力体制の構築を進めていくことが必要である。また、企業においては、 事業戦略、研究開発戦略と一体となった知的財産戦略に基づき、海外におけ る技術の権利化や営業秘密管理などを的確に実施して意図せざる技術流出 を防止し、技術的優位性の確保を図っていくことが求められている。 ・ 加えて我が国の産業基盤を支え、地域経済の担い手として大きな役割を果た す中小・ベンチャー企業や地域の企業では、資金力、人材等の不足から、知 的財産の権利化や活用に当たって様々な課題を抱えており、これらの企業が 生み出す知的財産の保護や個性を活かした魅力ある地域づくりに対する支 援の強化を図っていくことが必要である。 ・ さらに、近年知的財産制度の整備は目覚ましく進展しているが、企業や大学 等において専門的知見を有し、知的財産を戦略的にマネジメントできる人材 が不足しているとされている。特に大学等については、知財本部等の本格的 な活動が緒についたところであるが、せっかく生み出された研究開発成果が 十分活用されないという問題が生じている。そのため、知的財産制度を支え る専門人材の確保・育成を図っていくことが必要である。 (具体的事例) ・ 特許に関する業務は多岐にわたるが、企業の知的財産部員は概して明細書を作成する ことや発明者と特許事務所との連絡調整が主体であり、知的財産マネジメント全般に 携わっていると言える状況にない。 (メーカー) 269 図 4-4-22, 各国の一人当たりGDPに対するISO・IECの各委員会の幹事国業務引受数の割合 (2004年度) ISO・IEC幹事国業務引受数/一人当たりGDP (日本を1とした場合) 6 ISO(国際標準化機構)幹事国業務引受数/一人当たりGDP IEC(国際電気標準会議)幹事国業務引受数/一人当たりGDP 5 4 3 2 1 0 米国 幹事国 業務引受数 130 26 (ISO)(IEC) 図 4-4-23, ドイツ 124 25 イギリス フランス 99 79 25 26 日本 45 スウェーデン 13 24 6 韓国 9 中国 3 9 2 各国のGDPに対するISO・IECの各委員会の幹事国業務引受数の割合 (2004年度) 8 ISO(国際標準化機構)幹事国業務引受数/GDP ISO・IEC幹事国業務引受数/GDP (日本を1とした場合) IEC(国際電気標準会議)幹事国業務引受数/GDP 7 6 5 4 3 2 1 0 米国 幹事国 業務引受数 130 26 (ISO)(IEC) ドイツ 124 25 イギリス フランス 99 79 25 26 日本 45 13 スウェーデン 24 6 韓国 9 中国 3 9 2 出典:・世界銀行公表資料(GDP及び人口) ・ISO、IEC公表資料(幹事国業務引受数) ※ISO 幹事国業務引受数の世界上位 6 カ国及びアジア上位 3 カ国 (日本は世界第 5 位(アジアでは第 1 位) ) ◆基準認証制度 鉱工業製品等の物資や施設・設備が満たすべき基準と、当該基準への要求事項を満た していることを確認する方法や手続きのこと。 ◆計量標準 長さ、質量、時間、温度などの量を正確に測定するための基準となる”ものさし”。例 えば、1kgの正確なおもり。国内で最も正確な計量標準は「国家計量標準」と呼ばれ る。最近は、半導体製造に必要な極微小寸法のための標準など、技術の進歩に応じた計 量標準が求められている。 270 ○基準認証に対する戦略的対応の不足 ・ 世界の市場で我が国の優れた技術を普及させるためには、それらの技術 やその試験・評価方法等の国際標準化により、市場規模の拡大や技術の 信頼性を客観的に証明する基盤を確保することが重要である。このため、 諸外国においては、知的財産と同様に標準化を国家戦略と位置づけ、あ るいは、企業の事業戦略に組み込み、産業界のニーズに応じた国際標準 化活動を展開している。 ・ 他方、我が国も取組を進めつつあるものの、現在の我が国の国際標準化 の取組・働きかけは必ずしも我が国の経済力に見合ったものとは言えな い。その原因として、企業の事業戦略への標準化の組み込みが十分でな いこと、国内の意見が統一できず官民一体となった戦略的な対応が十分 でないこと、欧州主導の国際標準化の現場で国際的な顔となる人材が不 足していることなどが挙げられる。情報分野を始めとして技術進歩のス ピードに応じて迅速かつ戦略的対応が求められる中で、このような状況 は我が国の足かせとなりかねない。 ・ また、昨今、基準認証を戦略的に活用するため、諸外国において独自の 国家規格を策定しようとする動きが見られるとともに、諸外国の基準認 証制度が貿易制限的になっているのではないかとの懸念が高まっている。 ・ 計量標準については、これまで世界トップレベルを目指して加速的に整 備・供給を進めてきたが、国際競争を勝ち抜ける事業環境・技術力の確 保や社会ニーズへの対応の観点から、特に先端的な技術開発や安心・安 全を支援する先導的な計量標準を機動的かつ迅速に整備・供給すること が必要になっている。 (我が国が先導的に国際標準化を展開している例) ・ ばね技術は、様々な産業分野で利用される重要な基盤技術であるが、国際分業が進 む中でその品質等を確保するためには、基本となる用語を始め、製造技術、性能試 験などの国際標準化が必要であり、我が国ばね業界が中心となって、アジア地域レ ベルでの標準化を行った。 ・ ナノテクノロジーは、我が国が優位に立ち得る有望技術であるが、その安全性に対 して国際的に疑念が持たれつつあることにかんがみ、安全性評価方法についての国 際標準化が進められつつあるが、その中で我が国は先導的役割を果たしている。 271 272 〔具体的施策〕 ○ 研究開発の成果から効果的に利益を生み出し、我が国の国富を拡大していく ために、業種・技術の実態を踏まえつつ、①イノベーションの促進、②知的 財産、③基準認証について、産学官が有機的に連携しつつ、戦略的な取組を 加速していくことが不可欠であり、以下の施策を関係府省の有機的・強固な 連携の下、重点的に実施する。 (1)イノベーションの促進 ○革新的な研究開発の促進や異分野の融合の場の構築 ・ 従来から我が国が強みを持つ経験論に基づくイノベーションモデルだけ では対応できないという研究開発を巡る劇的な環境変化に対応するため、 国の研究開発プロジェクトにおいて、将来の市場化を睨みつつ、産学官 協働によるサイエンスにまで遡った革新的な研究開発を優先して実施す る(※)。 ※ 例えば、認識・学習・判断機能を有する次世代知能ロボット、シリコン CMOS 構 造半導体の物理限界を克服する次世代半導体デバイス、希少金属や供給安定性に 問題のある元素・物質の使用量を抜本的に削減・代替する次世代ナノテク材料な どの研究開発が挙げられる。 なお、これらの研究開発は、第 3 期科学技術基本計画(2006 年度から 2010 年度) においても、戦略重点化投資の対象と位置づけられているところ、これを担う独 立行政法人に、独立行政法人であるがゆえに直ちに予算上の制約が課されること のないよう、中期目標の見直しを含め検討することが必要。 ・ 異分野の研究者(海外の先端的研究者を含む)、経営者と技術者、企業、 大学、公的研究機関、ユーザー等の間の垣根を越えた融合を促すため、 優れた国の研究開発プロジェクトや競争的研究資金等を活用し、大学や 公的研究機関に研究開発に関する融合の「場」を構築するとともに、こ れら関係者が集いやすい開かれた場(インテレクチュアルカフェ)を開 設する。 273 ◆インターンシップ 学生が在学中に、企業等において自らの専攻や将来のキャリアに関連した就業体験を行 うこと。 ◆エフォート管理 研究に携わる個人が研究、教育、管理業務等の各業務に従事する時間配分を大学等研究 機関が適切に管理すること。 ◆知的資産経営 知的資産(企業等の競争力の源泉としての、人材、技術、技能、知的財産(特許、ブラ ンド等) 、組織力、顧客とのネットワークなど、財務諸表には現れてこない資産の総称)を 活かした経営のこと。 274 ○研究・技術人材(海外人材を含む)の育成・流動化の促進 ・ 産業界のニーズに応えられる、十分な問題設定・解決能力や幅広い専門的知 識を身につけた高度な研究人材・技術人材の育成を図るために、産学が連携 して、大学のカリキュラムの見直し、実践的なインターンシップ及び研究開 発プロジェクトを効果的に組み合わせて実施する教育研究拠点を整備する。 ・ 人と技術を一体的に流動させて企業が抱える様々な研究・技術人材の最適配 置と活性化を図るため、産業技術総合研究所等の公的研究機関を活用し、企 業の研究チームの流動化と当該研究チームと公的研究機関の研究者間の融 合を促進し、新事業の創出を図る。 ・ 大学におけるエフォート管理の徹底等を行った上で競争的資金の人件費へ の充当を認め、能力主義の徹底を行うことなどにより、人材の育成・流動化 を促進する。 ・ 留学生を始め海外の優れた研究・技術人材を我が国に呼び込みその活用を促 すため、留学生等の企業へのインターンシップ等を促進する。 ○研究開発の成果が成長に結びつく仕組みの構築 ・ 効果的な技術戦略を通じて、研究開発の成果が企業の成長に結びつくことを 促進するため、知的資産経営へのインセンティブを与える研究開発プロジェ クトの運営手法を導入する。 ・ 研究開発成果を社会へ効率的に還元するため、文部科学省(大学等) 、経済 産業省、各事業官庁の「縦」の連携を通じ、技術シーズの発掘・探求・開発 から成果の普及・展開までを一体的に捉えた府省間縦連携研究開発プロジェ クトを実施する。また、公的部門による初期需要の喚起や必要な規制・制度 の整備を行う。その際、大学や研究・資金配分機関は互いの優秀な成果を有 効に活用し、市場化への迅速な展開が実現されるよう努める。 ・ 成長を支える企業の競争力の源泉であるイノベーションの能力の向上に向 け、企業において適切な投資が行われるよう、研究開発促進税制を活用する。 ○競争力のあるビジネスモデル構築のための環境整備 ・ 基盤技術の産業レベルでの共同開発の円滑化などの環境整備を行うことに より、各企業の経営資源(資金、人材等)の最適配置や、新しいビジネスモ デルの創出など民間の創意工夫が活かされるビジネス基盤の構築を図る。 275 (ベンチャー活用のための具体的な取組事例) ・ 横浜市は、環境問題等の行政課題を解決するために市が必要とする製品の製作を公募の 上、中小・ベンチャー企業を対象に実用化(製品化)のための研究開発助成金を公布す るとともに、実用化された試作品をモニタリングした上で購入する制度を創設。 ・ 大手 IT 企業は、強いリーダーシップの下、ベンチャーの積極的活用の方針を打ち出し、 ベンチャー活用を促進するためのグループを創設。同グループでは、新たなベンチャー の発掘や提携戦略を考えるとともに、協力するベンチャー企業にハンズオン支援を行い つつ、事業部との橋渡しを行う役目を担っている。 ◆スピンオフベンチャー 企業に眠っている技術、人材、資本等の資源を外部に分離して、独立したベンチャー 企業のこと。親元企業から独立して会社を設立する場合には、親元企業の管理下で運営 する「子会社型」、親元企業の支援を受けない「スピンアウト型」 、両者の中間的な「ス ピンオフ型」に分類することが可能。 ◆SBIR(中小企業技術革新制度) 中小企業(ベンチャー企業も含む)の新技術を利用した事業活動を促進するため、関 係省庁が連携して、中小企業による研究開発とその成果の事業化を支援する制度として 99 年より開始。具体的には、新産業の創出につながる新技術に関する研究開発のための 補助金・委託費等(特定補助金等)について、中小企業者への支出の機会の増大を図る とともに、その成果を利用した事業活動を行う場合に、特許料等の軽減や債務保証に関 しての枠の拡大等の措置を講じている。 ◆ハンズオン ベンチャー企業に対して積極的に経営戦略策定、販路開拓、資本政策策定、資金調達、 人材確保等に対する支援・経営指導を行うこと。 (参考)ドリームゲートと e-連携事業創出中小企業経営者団体フォーラムの連携 起業・独立意識を喚起し、起業家予備軍の輩出を促進することを目的とする「ドリー ムゲート」と、ビジネスチャンスに直結する規制改革、民間開放情報の提供及びベンチ ャー起業等の連携により新事業創出を図る「e-連携事業創出中小企業経営者団体フォーラ ム」は、両者とも Web を中心に情報提供事業を行ってきた中で、ビジネスチャンスをつ かめば新たな事業が生み出されるとの理念のもと、相互に連携。メルマガ等による情報 提供を実施している。 (参考)事業創造大学院大学について 起業家や組織における新事業の創造を担い得る人材を育成するため、従来の大学院と は異なり高度専門職業人養成に特化した実践的な教育を行う大学院。起業教育の場を通 じ多数の起業家を輩出することによる新潟の活性化を目指し 2006 年 4 月新潟市にて開学、 取得学位は経営管理修士。 276 ○革新的ベンチャーの育成 ・ 我が国の経済を牽引するような革新的ベンチャー企業を育成するために、ベ ンチャー企業自体の実力を向上させるための施策はもちろん、大企業やベン チャーキャピタル、大学等、ベンチャーを活用する側・生み出す側にも着目 した支援体系を構築する。 (「ベンチャー率先活用運動(仮称) 」の促進) ・ 政府、自治体、大学及び大企業等がベンチャーの製品やサービスを積極的に 調達し、技術を活用することを促進するため、「ベンチャー率先活用運動」 を展開する。 ・ 具体的には、ベンチャー企業の政府調達への入札機会を拡大するために、一 般競争入札の参加資格基準や運用の検証やベンチャーからの試験的な調達 の促進を図るとともに、ベンチャーからの調達のネックとなっている安全性 や知財権利関係等の評価を行うための体制を整備する。 ・ さらに、民間ベースでのベンチャー活用を促進するため、地域での大企業や 商社等とベンチャーの新ビジネス創出に向けたマッチングや民間企業のイ ンキュベーション施設の運営への関与等を促進する。 (競争入札参加者の資格) ・現行の政府調達の競争入札資格者は、年間平均(生産・販売)高、自己資本額、流動比率、 営業年数、機械設備等の額の多寡に応じた配点の合計額により、その等級が分かれること となっている。一部の調達では、特許保有件数等の中小企業の技術力を評価した数値を点 数に加算している例もある。 (ベンチャー企業の実力向上(技術力、経営力等)) ・ スピンオフベンチャーや大学発ベンチャー等の研究開発型ベンチャーが、保 有する技術や市場性に関して、第三者による客観的評価を身近に受けること のできる環境を整備する。例えば、市場性の評価、再現性の追試、理論的裏 付けのための技術的実証及びこれらを行う機関のネットワーク化を行う。 ・ ベンチャー企業による自らの強みを最大限活かした経営(知的資産経営)を 推進する。 ・ ベンチャー企業が、自身の事業戦略や技術力等について、様々な方面からの 意見等を得られるような機会を多く設ける。また、次世代ベンチャー企業育 成に向けて、優れたベンチャー企業経営者等の支援ネットワークを構築する。 ・ ベンチャー企業の技術開発を支援するため、中小企業技術革新(SBIR)制度 において、特定補助金等の拡充等を図る。 (リスクマネー供給の更なる円滑化) ・ 初期段階のベンチャーや研究開発型ベンチャーなど、政策的ニーズの高いベ ンチャー企業への資金供給を一層円滑化するため、ベンチャー企業に投資す るファンドに対する支援(中小企業整備基盤機構によるファンド組成の仕組 みの見直し等)やベンチャー企業への投資を促進するための税制面を含めた 環境整備を行う。 277 ◆地域新生コンソーシアム研究開発事業 地域において、新産業・新事業を創出するため、大学等の技術シーズや知見を活用し た産学官の強固な連携体制(地域新生コンソーシアム)の下で実用化に向けた高度な研 究開発を行う、提案公募型の委託研究開発制度。 ◆地域新規産業創造技術開発費補助事業 地域において、新産業・新事業を創出するため、地域の中堅・中小企業による新分野 進出やベンチャー企業による新規創業といった、リスクの高い実用化技術開発を支援す る、提案公募型の研究開発補助制度。 図 4-4-24 産 業クラスター計 画 Ⅱ期 17プロジ ェクト 全国で世界市場を目指す中堅・中小企業約9,800社、 連携する大学(高専を含む)約290大学が、広域的な人 的 ネ ッ ト ワ ー ク を 形 成 ( 数 値 は 平 成 17 年 1 2 月 末 時 点 の 参画状況で推計) 北海道経済産業局 ◇ 北 海 道 ス ー パ ー ・クラ スタ ー 振興戦略Ⅱ 情 報 ・バ イ オ 分 野 大学 約 750 21 沖縄総合事務局経済産業部 ◇ O K IN A W A 型 産 業 振 興 プ ロ ジ ェ ク ト 情 報 ・健 康 ・環 境 ・加 工 交 易 分 野 社 4大 学 約 250 東北経済産業局 ◇ TO H O K U も の づ くり コ リ ド ー モ ノ作 り分野 約 750社 48大 学 関東経済産業局 ∼ 広 域 関 東 圏 産 業 ク ラス ター 推 進 ネ ッ トワ ー ク∼ 中国経済産業局 ◇ 次 世 代 中 核 産 業 形 成 プ ロ ジ ェ ク ト(モ ノ 作 り 、バ イ オ 、 IT 分 野 ) ◇ 循 環 ・環 境 型 社 会 形 成 プ ロ ジ ェ ク ト (環 境 分 野 ) 両 プロジェクト 約 290社 ◇ 地 域産 業 活性 化 プロジェクト ・首 都 圏 西 部 ネ ッ トワ ー ク 支 援 活 動 (TA M A ) ・中 央 自 動 車 道 沿 線 ネ ッ トワ ー ク 支 援 活 動 ・東 葛 川 口 つ くば (TX沿 線 )ネ ッ トワ ー ク 支 援 活動 ・三 遠 南 信 ネ ットワ ー ク 支 援 活 動 ・首 都 圏 北 部 ネ ッ トワ ー ク 支 援 活 動 ・京 浜 ネ ッ ト ワ ー ク 支 援 活 動 モ ノ 作 り 分 野 約 2,290社 73大 学 ◇ バイオベンチャー の育 成 17大 学 九州経済産業局 ◇ 九 州 地 域 環 境 ・リ サ イクル産業 交 流 プ ラ ザ ( K - R IP ) 環境分野 19大 学 バ イオ分 野 約 3 80 社 19大 学 ◇ 情報 ベンチャーの 育 成 約 250社 IT 分 野 約 560社 1大 学 ◇ 九 州 シ リ コ ン ・ク ラ ス ター 計画 半導体分野 33大 学 約 410社 近畿経済産業局 ◇ 関 西 バ イオ クラス ター プロジ ェクト B io C lu s te r バイオ分野 四国経済産業局 ◇ 四 国 テ クノブ リッジ 計 画 モ ノ作 り、 健 康 ・バ イ オ 分 野 社 5大 学 約 400 約 450社 35大 学 中部経済産業局 ◇ 東 海 も の づ くり創 生 プ ロ ジ ェ クト モノ作 り分 野 約 1,110社 30大 学 ◇ 東 海 バ イオ もの づ くり創 生 プ ロジェクト ◇ 関 西 フロントラン ナ ー プロ ジェクト N e o C lu s te r バイオ分野 学 モ ノ 作 り 分 野 ・エ ネ ル ギ ー 34大 学 ◇ 北 陸 も の づ くり創 生 プ ロ ジ ェ クト モノ作 り分 野 約 240社 13 約 1,530社 ◇ 環 境 ビ ジ ネ ス K A N S A Iプ ロ ジ ェ ク ト G re e n C lu s te r 環境分野 約 140社 約 60社 51 大 大学 10大 学 備 考 :斜 体 は 新 設 プ ロ ジ ェクト (参考)エネルギー資源を活用した研究開発 福井県では、同県に多く立地する原子力発電所の安全・安心を確保するとともに、原 子力の持つ幅広い技術を地域の活性化につなげていくため、2005 年 3 月にエネルギー研 究開発拠点化計画を策定。国、県、大学、研究機関、産業界及び電力会社等による「エ ネルギー研究開発拠点化推進会議」を設置し、取組を進めている。 その中で、「安全・安心の確保」のための研究体制の整備に加え、 「研究開発機能の強 化」(県内企業の製品化を目指した研究開発等)や「産業の創出・育成」(県内企業等に おける放射線利用技術の共同研究、原子力関連企業の立地促進等)などを行うとしてい る。 278 ○第Ⅱ期「クラスター計画」 (2006∼2010 年度)の推進 ・ 現在進められている第I期「産業クラスター計画」の成果と反省を踏まえつ つ全国 19 プロジェクトの見直しを行い、全体を 17 プロジェクトに再編する。 ・ その際、「5 年間で 4 万件の新事業創出」といった全プロジェクト共通の目 標に加え、売上高や新規企業創出数などの数値目標等をプロジェクト毎に設 定する。 ・ 燃料電池、ロボット、環境・エネルギーなど、新産業創造戦略等により国が重 点的に取り組むべきとされている分野を中心に、対象テーマの重点化を図る。 ・ 産業クラスター計画で活用されている主要施策である「地域新生コンソーシ アム研究開発事業」及び「地域新規産業創造技術開発費補助事業」について、 一層の事業化率の向上を図るなど、より効果的な制度に改善する。 279 図 4-4-25 我が国企業の特許出願・取得の現状 研究開発 審査請求 審査請求 内国人出願 研究開発費 総額 16.8兆円 内 約20万件/年 約20万件/年 特許査定 約10万件 拒絶査定 約10万件 約37万件/年 訳 企業 11.8兆円 大学 3.3兆円 外国出願され 海外で特許保護される もの3∼4万件 国内出願されたが 国際的に保護 される対象に ならなかった出願 年間約30万件以上 特許出願の9割以上 公的機関 1.8兆円 2003年度データ ※直近5年平均値 発明内容を出願 出典:特許庁年報、三極統計報告 (技術流出の恐れ) 参考:各国における特許率・グローバル出願率 特許率(2004年) グローバル出願率※ 日本 49.5% 20% 米国 61.2% 44% 欧州 55.2% 60% ※日本(2004年)、欧米(2002年)出願のうち海外にも出願されるもの ◆先行技術調査 特許審査において、発明の新しさなどを判断する基礎資料を得るため、既に公開され ている技術を調査すること。この調査は、特許庁の他、一定の要件を満たした登録調査 機関が行っている。 ◆WIPO(World Intellectual Property Organization:世界知的所有権機関 1970 年に設立され、1974 年に国連の専門機関となった。知的財産の保護の促進や、知 的財産関連の諸条約の管理を活動目的としている。現在の加盟国数は 183 ヶ国。 ◆実体特許法条約 実体特許法条約は、各国の新規性・進歩性等の特許に関する実体的規定を調和するべ く、現在 WIPO にて議論中のものである。 ◆模倣品・海賊版 一般に「模倣品」とは特許権、実用新案権、意匠権、商標権等の知的財産侵害品を、 「海 賊版」とは著作権などを侵害するものをいう。 ◆模倣品・海賊版拡散防止条約(仮称) 模倣品・海賊版の国際的な拡散を防止するため、加盟国におけるそれらの製造、流通 及び消費を規制するための措置に関する法的枠組み。平成 17 年 7 月、G8 グレンイーグル ズ・サミットにおいて小泉総理が提唱。 280 (2)知財政策 ○特許審査迅速化と特許情報の有効活用による研究開発効率の向上 ・ 「特許審査迅速化・効率化のための行動計画」を推進し、特許審査官の拡充 や先行技術調査の外注規模の拡大等により審査体制を強化するとともに、産 業界等における出願構造の適正化を促すことにより、世界最高水準の迅速な 特許審査の実現を図る。また、イノベーションの加速化に直結する戦略研究 分野に係る大学等の成果の権利化については、早期審査制度の活用が一層促 進されるよう努める。 ・ 世界最高水準の電子化の下に蓄積してきた約 5,400 万件の特許関連情報や検 索手法を研究開発現場に広く提供すること等により企業等で行うサーチ能 力を向上させつつ、重複研究を排除することで、研究開発効率の向上を図る。 ○複数国での円滑な権利取得を実現する世界の特許制度の調和の推進 ・ 世界特許システムの構築を図るため、WIPO の実体特許法条約などへの取組 を推進する。また、日米欧等の主要特許庁間における実質的な相互承認制度 の実現を目指す。さらに主要先進国との審査協力を推進するため、第 1 国で 特許となった出願を第 2 国で早期に審査を受けることを可能とする「特許審 査ハイウェイ構想」を推進し、米国及び韓国との間で先行的に開始すること を目指す。これらを通じて戦略研究に係る成果の国際的な権利化を促進する。 ・ 審査官の人材育成協力など、アジアでの特許権の保護環境の整備を促進する とともに、我が国の審査結果を発信し、海外における早期の権利取得を支援 する。 ○模倣品・海賊版対策の強化 ・ 模倣品・海賊版の国内への流入を防止するため、 「個人輸入」を偽装した輸 入に対する規制を強化する。 ・ 模倣品の国際的な流通を防止するため、意匠法等を改正して知的財産侵害品 の輸出等を禁止し、水際取締り規制を強化する。また、輸入者、権利者等の 当事者の参加、法律及び技術専門家の関与等により、知的財産侵害品の輸出 入に係る紛争を未然に解決することのできる事前手続の整備を検討する。 ・ 模倣品・海賊版の製造・輸出国における取締り強化を働きかけるとともに、 知的財産制度の整備、法執行機関の能力向上に関する協力を実施する。 ・ 模倣品・海賊版の拡散を防止する国際的な協力体制を構築するため、模倣 品・海賊版拡散防止条約(仮称)の実現に向け、G8 における議論を加速す る。 281 ◆先使用権 特許権者の発明と同一の内容を、その特許出願前から事業として実施または準備して いる者は、特許権者の許諾がなくとも継続して無償で実施することができる権利。 282 ○営業秘密管理と技術流出防止の強化 ・ 改訂営業秘密管理指針の普及、民事訴訟の活用促進等により企業における営 業秘密管理の取組み強化を促すとともに、内外における取組状況の調査を行 う。また、「大学における営業秘密管理指針作成のためのガイドライン」を 改訂し、大学における営業秘密管理の強化を図る。 ・ 先使用権の立証方法等に関するガイドライン(事例集)を作成し、先使用権 主張に要する証拠等の明確化を通じて制度利用の円滑化を図ることにより、 企業による戦略的な知財管理を支援し、意図せざる技術流出を防止する。 ・ 汎用技術の軍事転用の増加等を踏まえ、我が国の企業、大学等から機微技術 が流出し、大量破壊兵器等の開発等に利用されることを防止するため、安全 保障貿易管理規制を強化することを検討する。 283 ◆日本ファッションウィーク ファッション・ショーや生地展などを短期集中的に開催することにより、日本のファ ッションを東京から世界に向けて効果的に発信し、ビジネスに繋げていくイベント。昨 年秋から官民一体で取り組んでいる。年 2 回開催。 ◆ポスト・ドクター 主に博士課程(ドクター)修了後、研究者としての能力をさらに向上させるため、引 き続き大学等の研究機関で、研究に従事する者をいう。 (2005 度文部科学白書より) ◆MOT:Management of Technology(技術経営) 技術に立脚する事業を行う企業・組織が、持続的発展のために、技術が持つ可能性を 見極めて事業に結びつけ、経済的価値を創出していくマネジメントのこと。 意匠法等の一部を改正する法律案の概要 改正の必要性 ○デザイン(意匠)の創作やブランド(商標)の確立、革新的な発明(特許)によって我が国産業の国際競争力を強化するため、国際的な制度調 和の観点も踏まえ、産業財産権の保護の強化、権利取得の容易化が必要。【権利保護の強化】 ○模倣品被害の国際的拡がりが見られる中で、模倣品の流通・輸出入を防止するための措置の強化が必要。【模倣品対策の強化】 改正の概要(産業財産権四法:意匠法・商標法・特許法・実用新案法、不正競争防止法) 権利保護の強化 デザインの保護の強化(意匠法) 模倣品対策の強化 ブランドの保護の強化(商標法) 権利期間の延長 意匠権の存続期間を現行の15年から20 年に延長する。 権利侵害行為への「輸出」の追加 (産業財産権四法) 模倣品の国際的な流通を防止するため、侵害行為に 模倣品の輸出を追加する。 小売業等の商標の保護の拡充 小売業者等が使用する商標について、 事業者の利便性向上や国際的制度調 和のため、役務商標として保護する制 度を導入する。 権利侵害行為への「譲渡目的所持」の追加 (意匠法、特許法、実用新案法) 団体商標の主体の追加 画面デザインの保護の拡充 情報家電等の操作画面のデザインの保 護対象を拡大する。 団体商標の主体を見直し、広く社団(法 人格を有しないもの及び会社を除く)も 主体となることを可能とする。 模倣品を効果的に取り締まるため、譲渡等を目的とし て模倣品を所持する行為を侵害行為に追加する。 (商標法では措置済み) 発明の保護の強化(特許法) 分割制度の拡充・補正制度の見直し 関連意匠・部分意匠の保護の拡充 デザインのバリエーション(関連意匠)や 部品・部分のデザイン(部分意匠)の出 願期限を延長する。 出願内容を分割できる時期を追加する (分割制度の拡充)とともに、審査対象 を技術的特徴の異なる別発明に変更す ることを制限する(補正制度の見直し)。 利便性の向上 秘密意匠の請求可能時期の追加を行う。 最初に外国語で日本に出願した場合に、 追って提出すべき日本語翻訳文の提出 期限を延長する。 刑事罰の強化 (産業財産権四法、不正競争防止法) 利便性の向上 特許権、意匠権及び商標権の侵害罪並びに営業秘 密侵害罪について、懲役刑の上限を10年、罰金刑の 上限を 1,000万円に引き上げる。また、実用新案権 侵害罪及び商品形態模倣行為罪について、懲役刑 の上限を5年、罰金刑の上限を500万円に引き上げ る。 等 地域知財戦略本部の展開 北海道 関東地域 ○大学、企業等における知的財産の創造の推進 ○模倣品・海賊版に対する啓発、取締の強化等知的財産の保護 ○中小・ベンチャー企業に対する支援等知的財産の活用 ○知的財産を活用した地域ブランドの確立 ○知的財産に関する支援機関・人材のネットワーク化 ○知的財産に関する相談体制の強化 ○知的財産関連人材の育成及び制度等の普及啓発 (本部設置 H17. 7. 8 AP策定 H18. 3.27) ○計画的な普及・啓発施策の実施 ○関連機関連携による支援体制の強化 ○地域の専門人材の育成 ○地域の相談体制の強化 ○有用な知的財産の産業化支援の取り組み (本部設置 H17. 5.30 計画策定 H17. 9.20) 近畿地域 ○人材育成策の充実 ○情報提供体制の充実 ○企業間交流の促進 ○個別の中小・ベンチャー企業の知財戦略策定の支援 ○自治体・知財関係支援機関等の連携強化 (本部設置 H17. 5.27 計画策定 H17. 5.27) 東北地域 ○知的財産についての意識醸成 ○中小企業等への支援施策・制度の周知 ○知的財産教育支援、支援人材育成事業の強化 ○産学連携の取り組みによる知的財産創出、活用の推進 ○支援機関等のネットワーク構築 ○地域ブランドの確立支援 (本部設置 H17. 7. 8 計画策定 H18. 2.15) 中国地域 ○知財マインドの醸成 ○取り組み企業への対応 ○知財活動を補完する人材確保への対応 ○知財の円滑な移転への対応 ○技術流出防止、地域ブランド化への対応 (本部設置 H17. 9. 8 計画策定 H18. 3.30) 中部地域 ○中小企業の支援と産学連携の促進 ○デザイン・ブランドの振興 ○知財マインドの向上 ○支援インフラの整備 (本部設置 H17. 9.30 計画策定 H18. 3.23) 四国地域 九州地域 ○中小・ベンチャー企業に対する知的財産戦略策定支援 ○人材育成策の充実(ニーズに合ったセミナー実施等) ○情報提供体制の充実 ○自治体・知的財産関係支援機関との連携強化 (本部設置 H17. 6.22 計画策定 H17. 6.22) ○広報・意識啓発の涵養 ○個別相談体制の強化 ○知財戦略支援の充実 ○知財支援組織の連携 (本部設置 H17. 6.10 計画策定 H17. 6.10) 284 沖縄 ○知的財産推進に向けた意識啓発の強化 ○知的財産基盤の充実 ○知的財産支援人材の育成・確保 ○知的財産活用による地域振興 (本部設置 H17. 8. 3 計画策定 H18. 3. 8) ○デザイン保護の強化、ブランドの確立とコンテンツ流通の促進 ・ 意匠法及び商標法を改正し、意匠権の権利期間の延長、画面デザインの保護 強化、小売業等の役務商標の保護の拡充等を行う。 ・ ファッション産業の国際競争力強化のため、価値の源泉である感性と技術の 融合を促進する創造的な産業集積を形成するとともに、国際市場開拓のため の発信拠点を国内に整備する。このため、日本ファッション・ウィークを核 としたファッション発信機能を強化するとともに、素材と製品双方の企画・ 製造・販売機能を強化し、事業創造を促すため、人材育成や企業間連携を促 進する。 ・ 我が国の伝統的な技術・デザインや機能、コンテンツを現代の生活にふさわ しいように再提言していく「新日本様式」ブランド確立に向けた活動を支援 する。 ・ 特色ある地域づくりを支援するため、地域団体商標制度の活用を促すととも に、地域ブランドを活用した商品の国際的な販路開拓等を支援する。 ・ 著作権処理の円滑化などビジネス環境の整備を進め、インターネットを活用 した映像コンテンツの配信を促進するとともに、クリエーター大国の実現を 目指す。 ○中小・ベンチャー企業、地域企業の支援 ・ 料金減免制度、早期審査制度の利用拡大や先行技術調査支援制度の拡充等を 図るとともに、海外への出願支援を行い、中小企業等のグローバルな権利取 得の促進を図る。 ・ 知的財産の活用ノウハウや問題解決の窓口として、全国の商工会・商工会議 所に「知財駆け込み寺」を整備し、知的財産の活用に問題を抱える中小・ベ ンチャー企業を支援する。 ・ 地域知財戦略本部や地方公共団体毎の取組を通じて、地域のニーズに合った 知財戦略を実施し、地域産業が知的財産を利用し自立的に経済の活性化を図 ることを支援する。 ○知的財産人材の確保・育成 ・ 知的財産の保護に加え、活用も活発になされるよう、技術知識を持つ若手人 材(ポスト・ドクター等)の活用や MOT 人材の輩出など、企業や大学等に おいて知的財産を戦略的にマネジメントできる人材の確保・育成等を図る。 ・ 初等教育から高等教育にいたるまでの段階に応じた知財教育の支援を行い、 国民の知的財産に対する意識向上を図る。 ・ 弁理士の量的・質的な拡大を図るため、幅広い観点から検討を行い、戦略的 に特許取得が行える弁理士の増大を図る。 285 ◆デジュール ISO(国際標準化機構)などの標準化機関によって策定された公的な標準。例えば、 国 内においては JIS(日本工業規格)があり、国際的には、ISO 規格,IEC 規格などがある。 ◆デファクト 事実上の標準。個別企業や企業連合等の標準が、市場の取捨選択・淘汰によって市場で 支配的となったもの。具体的には、マイクロソフトの Windows などがある。 ◆フォーラム 関心のある企業等が集まり、フォーラムを結成して作成した標準。比較的合意形成が容 易であり、特に先端技術分野の標準を作成する場合にデジュール標準の前段階として策定 されることが多い。 ◆標準物質 濃度などの計測において、計測器の正確さを確認・調整するための基準として用いられ る物質。例えば、エタノール 15%濃度の正確な溶液。広い意味での計量標準に含まれる。 安全・安心への関心の高まりから、有害物質濃度などを正確に計測する上で必要な標準物 質の整備が求められている。 286 (3)基準認証政策 ○イノベーションの加速化に直結する国際標準化の推進 ・ 技術革新のスピードが速い情報分野など、各々の産業分野における技術動向、 市場動向を踏まえて戦略的な国際標準化活動を行うことができるよう、デジ ュール、デファクト、フォーラムの使い分けなど、産業分野の特徴に応じた 国際標準化の推進を図る。このため、具体的な標準化の成功・失敗事例等の 分析・研究を進め、その成果の普及を図るとともに、企業の経営トップが自 ら国際標準化戦略の重要性を認識し、また、国際標準化活動の総括部署を設 けるなど、意識改革・体制強化に取り組み、企業が自ら事業戦略の中で標準 化を積極的に活用するよう促す。併せて、官民協力の下、各省庁の所管分野 を超えて、国を挙げた戦略的な取組のあり方について検討する。 ・ 特に、イノベーションを加速すべき戦略的な技術分野については、市場や技 術の特徴等を踏まえ、研究開発・知的財産保護・標準化の一体的推進を図り、 我が国発の技術・評価技術等が国際標準となるよう戦略的活動を推進する (「国際標準化活動基盤強化アクションプラン」の拡充・推進)。このため、 産業技術総合研究所が有する研究開発能力、標準・試験技術等の利用、政府 の研究開発プロジェクトにおける研究開発と標準化の一体的推進等を進め る。 ・ 国内での標準化競争による産業界の多重投資や消費者の不利益を早期に回 避すべく、政府がより事前の段階から標準化への積極的関与を行うことがで きる仕組みを具体化する。 ○国際標準化への戦略的働きかけ(アジア地域との連携) ・ 我が国の優れた技術が国際市場で活きるよう、当該技術及びその評価技術等 について国際標準を獲得するため、各種国際会議の場や技術協力ツールを駆 使して、欧米のみならず、特にアジア地域との連携・協力関係を強化する。 この際、各国の関係政府機関を対象とした人材育成事業を進めるほか、各国 政府のみならず、地元企業や現地進出した我が国企業の問題意識も喚起し、 アジア地域での官民一体となった国際標準化活動を促すことにより、我が国 が基準認証分野の国際的イニシアチブを発揮する。 ○貿易・投資相手国の不正措置の是正 ・ 独自の国家規格や認証制度など、不必要な貿易上の障害や技術流出の温床と なっている可能性がある各国制度に対し、WTO の場などを活用して、問題 提起や提訴を積極的に行う。また、そのため、産業界の問題意識やニーズの 把握の強化、諸外国の基準認証政策にかかる情報収集体制の強化など、必要 な体制の充実を図る。 287 288 ○計量標準・標準物質や評価手法の整備加速 ・ 科学的・客観的に技術を評価できる環境を整備することにより、優れた我が 国の技術が世界で適切に評価されるよう、その基盤として、評価手法の国際 標準化や、評価に必要不可欠な「ものさし」となる国際的に通用する計量標 準・標準物質の整備を強化する。計量標準・標準物質については、2010 年 までに世界トップレベルの規模及び質の達成を目指し、開発を推進する。 ・ 具体的には、海外や民間の能力を活用することにより、先端的な技術開発等 に資する計量標準をニーズに応じて機動的かつ迅速に供給する新たな枠組 みの創設を図る。また、産業の自律的な競争基盤の整備の観点から、中堅・ 中小企業の「ワザ」である緻密なモノ作りを支えるため、科学的客観的な精 度管理を支援するための事業を強化する。 ○標準化推進のための人材育成 ・ 戦略的ゲームとなる国際標準化の舞台において、我が国が様々な分野におい て国際標準化のイニシアチブを発揮できるよう、必要な人材育成、業界の意 識涵養・体制整備等を行う。具体的には、現在作成中の標準化教材を企業や 大学院で積極的に活用していくことに加え、将来的には標準化にかかる知識 体系を整備し、産業界などで活用できる体制づくりを目指す。また、民間企 業で国際標準化活動に携わった経験豊富な人材の知識や経験を積極的に活 用すべく、当該人材に国際標準化の専門家として活躍してもらう仕組み(「国 際標準化エキスパート制度」)を構築するとともに、その知識や経験を知識 体系に組み込み、後継人材への移行を図る。 289 290 第 5 節.チエ:経営力のイノベーション 291 図 4-5-1 我が国における経済制度改革の進展と M&A 件数の推移 件数 3000 2725 2500 2211 2000 17521728 16351653 1500 1169 1000 500 260 418 382 523 0 1985年 645 754 483 397 1990年 621 753 834 2000年 04年 05年 会社法成立、LLP制度創設 03年 ︻ 独 禁 法︼ 企業結合GL改訂 02年 2005年 ︻ 産活法︼再編支援措置︵ 商 法・ 独禁法特例︶ ︻ 労働法︼雇用流動化を促す 規制緩和︵ 第2弾︶ 01年 ︻ 税制︼ 連結納税制度 00年 ︻商法︼ 新株予約権導入 ︻税制︼ 企業組織再編税制 99年 ︻ 商法 ︼ 会社分割制度 ︻ 労働法︼労働契約承継法 ○ 多様な組 織形 態の創 設 (株 式会 社以外 で出資 者全員が 有限 責任の 人的 閉鎖的 組織 の創設 ) 97年 ︻ 商法・税制︼ 株式交換・ 移転 制 度・ 税制 ︻ 労働法︼雇用流動化を促す 規制緩和︵ 第1弾︶ ○ 組織再 編手法 の選択肢 の拡 大 → 事業 に適した組織 へと柔軟 かつ 機動的 に移 行することが可 能に。 505 531 1995年 ︻ 独禁法︼ 持株会社解禁 ︻ 商法︼合併法制の簡素化 経済制度改革の動向 ○ 企業経 営の 自由度 拡大 638 出所:(株)レコフデ ー タをもとに 作成 図 4-5-2 日本における主な産業再編 ○自動車業界 :1996年以降、日産、三菱、マツダに欧米資本が参入。5大グループに集約。 ○鉄鋼業界 :2002年9月の川崎製鉄とNKKの経営統合により発足したJFEグループと新日鐵・住金・神戸 による3社提携グループの2大グループに集約。 ○紙・パルプ業界:2001年以降、3度の大きな企業再編。2大グループに集約。 ○セメント業界 :1990年代に2度の大きな企業再編。3大グループに集約。 ○通信業界 :1990年代後半以降、再編が加速化し、4大グループに集約。 ○流通業界 :2002年以降、ウォルマートが西友を買収(02)、そごうが西武と経営統合(03)、マイカルがイオングループ と統合(03)など、再編が加速。 ○石油業界 :1999年以降、日本石油と三菱石油の合併(99)、モービル石油、エッソ石油、ゼネラル石油、東燃の 統合によるエクソンモービルジャパングループの誕生(00)など、再編が加速。 出所:各種資料より経済産業省作成 ◆再編の必要性に関する産業界の声 ・欧米企業に対抗する競争力を強化するためにも、M&A を通じて、①企業間の技術・ 製造のシナジー効果による製品競争力強化、②経営基盤の強化による資源の集中投 入、③生産性の向上、④コスト削減、⑤自社にない技術の獲得などが必要。 ・成長しつつある中国・アジア企業に対抗する競争力強化が必要。M&A により低価 格製品に対抗する高技術・高品質製品の開発などが可能となる。 ・時間を買う、知財を買う、という意味で、M&A は今後の企業戦略にとって極めて 重要。とりわけ、国内企業との M&A が、取得後の運営や、売却事業分野の雇用問 題を考えた場合にリスクが低い。 ◆知的資産 企業等の競争力の源泉としての、人材、技術、技能、知的財産(特許、ブランド等)、 組織力、顧客とのネットワークなど、財務諸表には現れてこない資産の総称。 ◆ジョイントベンチャー 複数の事業者が共同出資会社を設立するなどして、1 つの事業を行う方式のこと。 292 第 5 節 チエ:経営力のイノベーション 〔目標〕 −知的資産をより効果的に活用し、差別化された強みを創出し続ける経営 を実現する 我が国が「新しい成長」を実現していく上で大きな鍵となるのは、ヒト、 モノ、カネ、ワザといった経営資源を最大限に活かすための「チエ」 (経営力) にある。この経営力が、他の企業と差別化された強みを創出し、競争優位を 確保していく上での最大変数となる。 特に、日本企業の経営において、一貫として強みとなってきた要素は、人 材・チームワークを重視し、長期的な企業価値向上に向けて、株主・投資家、 従業員、取引先などの多様な関係者との間でコンセンサスを形成してきた点 にある。強い日本経済を築いていくためには、整備された制度インフラを活 用しながら、こうした要素、すなわち「知的資産」を活かした経営を推進す ることにより、イノベーションを起こしていくことが極めて重要である。 〔問題意識・課題〕 ○整備された制度インフラの活用には障壁が存在 企業が好業績を持続していくためには、様々な有形・無形の経営資源の中 でも、人材、組織力、顧客とのネットワーク等の財務諸表に現れてこない「知 的資産」を認識し、有効に活用しながら、他の企業と差別化された強みを創 出し、競争優位を確保するような経営を行っていく必要がある。このため、 例えば、選択と集中により強みを伸ばしていく戦略をとる場合もあれば、新 たな分野に果敢に挑戦していく場合もあり、また、ジョイントベンチャー設 立などにより他企業と連携していくこともある。こうした経営イノベーショ ンの基盤となるインフラは、97 年の持株会社解禁以降 10 年にわたる制度改革、 そして、会社法の現代化により、国際的に見ても遜色ないものとなる。 しかしながら、整備された制度インフラを活用するに当たって障壁が存在 しており、制度の使い勝手を良くし、制度の有効活用を促す上で、見直して いく課題は多い。 例えば、国境を越えた事業者間競争が激化する中で競争優位を確保してい くためには、産業・事業再編による規模の経済の獲得、研究開発投資の拡大、 販売網の拡大、効率化の実現等は重要な経営課題である。特に、急速に進む アジア市場の獲得競争に打ち勝っていくためには、単独拡大路線よりも再編 による拡大路線を追求した方が時間的にも早期に対応可能であることから、 組織再編に対するニーズは大きなものとなっている。 293 図4-5-3 2002∼04年度における独禁法上の企業結合審査の結果 【結合後シェア50 %超】 【 結合後シェア35%超】 問題あり 問題あり 5 8 条件付きで 問題なし , 2, (10.0%) , ( 9.3% ) (1 4.8%) 5 , 問題 条件付きで (25.0%) 計20件 なし 問題なし 問題 計54件 なし 41 , 13 , (65.0%) ( 75.9% ) 出所:公正取引委員会公表資料より作成 ◆企業結合審査に関する産業界の認識と実際の審査の間のギャップ ・国内シェアが 50%以下となる再編であっても、企業結合審査を気にしてその再編を 躊躇すると回答した企業は、全体の 9 割。 (2006 年 2 月調査。有効回答企業 67 社) ・一方で、02∼04 年度における企業結合審査事例をみると、結合後シェア 50%以下の 案件の 9 割が独禁法上問題なしと判断されている(独禁法上の問題点を指摘された のは、73 件中 6 件であり、うち 3 件は条件付きで合併を認められている) 。 ◆日本における最近の敵対的買収事例 ・ SPJ によるユシロ化学及びソトーに対する敵対的 TOB (03∼04 年) ・ 三井住友 FG による UFJHD に対する敵対的買収 (04 年) ・ ライブドアによるニッポン放送に対する敵対的買収 (05 年) ・ 夢真 HD による日本技術開発に対する敵対的買収 (05 年) ・ MAC による阪神電鉄に対する敵対的買収(05 年) ・ 楽天による TBS に対する敵対的買収(05 年) ・ MAC による新日本無線に対する敵対的 TOB(05 年) ・ ドンキ・ホーテによるオリジン東秀に対する敵対的 TOB(06 年) ◆買収防衛策導入企業数:全 73 社(2006 年 5 月 17 日現在) ・ 株主総会承認型 ・・・ 37 社 ・ 取締役会決議型(客観的廃止要件設定型) ・・・ 59 社 ・ 〃 (独立社外チェック型) ・・・ 12 社 図4-5-4 LLP制度活用の想定例 B社 (ベンチャー) A社 (機械メーカー) 90% 50%の 議決権・損益配分 出資 図4-5-5 LLPの設立件数(累積) (件数) 400 10% 出資 362 350 276 300 50%の 議決権・損益配分 250 200 176 150 ロボット技術 と資金、製造 設備を提供 ロボット開発 製造共同LLP 音声認識技術 とセンサー技 術を提供 100 104 53 50 0 平成17年 8月 9月 10月 11月 12月 ◆友好的な M&A と敵対的な買収 経営陣同士が合意して行うものが「友好的」な M&A、買収者が提案する M&A に対象 会社の経営陣が反対しているものを「敵対的」な M&A という。敵対的な M&A は、株式 の買い占めなどによる「買収」に始まる。 ◆ステークホルダー 株主、従業員、取引先、地域社会など、企業活動と関わる利害関係者のこと。 294 こうした組織再編を可能とする手法は、数次にわたる商法改正によって簡 素化・多様化したものの、国内寡占市場となっている産業界においては、国 内市場を対象とした企業結合審査のために、再編したくてもシェアが高まる ため進められないといったもどかしい状況になっている。一方で、最近の企 業結合審査の実態をみると、シェアや競争者の数以外に、輸入圧力などの海 外要因や参入圧力、川下市場からの購買圧力等も考慮に入れる傾向にあり、 国内シェアが 50%以上となるからといって、必ずしも、独禁法上問題がある と判断されているわけでもない。こうしたギャップを埋め、企業結合審査の 透明性を高めていく必要がある。 また、制度改革の進展に伴い友好的な M&A による産業再編は進んだが、 最近では、株式持合構造の変化や株主主権的な企業観の台頭などを背景とし て、敵対的な買収も現実化している。また、これに対する防衛策を導入する 企業も増加しつつある。会社法現代化によって、採りうる防衛策の種類も多 様化するが、企業買収にしろ、企業防衛にしろ、制度の濫用を防いで有効活 用を促し、再編を通じた経営イノベーションを実現するという観点から、一 定の公正なルール形成が求められるところである。 ○我が国ならではの強みを経営に活かしきれていない さらに、今後、重要となるのは、整備された制度的枠組みをうまく使いこ なしながら、我が国の強みとも言える、人材、組織力、顧客とのネットワー ク等の「知的資産」を活かした経営を実現していくことである。これらは、 基本的には企業の創意と工夫により発展していくものではあるが、政策的に も、我が国の強みとなっている要素が企業経営において効果的に活用される ような仕組みを提示するなどして、経営のイノベーションに弾みをつけてい くことが重要である。 例えば、我が国の強みとしては、人材やチームワークといった要素がある が、この人材の有するチエや、チームワークによる総合力の発揮を促すこと が 可 能 な 新 た な 事 業 体 と し て 期 待 さ れ る の が 、 LLP ( Limited Liability Partnership:有限責任事業組合)、LLC(Limited Liability Company:合同会社) である。この効果的活用を誘発していけば、産業界や企業社会に、これまで にない新たな新陳代謝を呼び起こすものと考えられる。また、各企業それぞ れが、自らが有する強みをきちんと認識しうるような仕組みを構築していけ ば、経営力の強化につながるとともに、そうした強みを活かした経営戦略が 様々なステークホルダーとの間で共有されることにより、長期的な企業価値 向上に向けたコンセンサスが形成され、持続的な経営イノベーションも実現 可能になると考えられる。 295 図4-5-8 シェア50%超で独禁法上問題がないとされた案件の概要 図4-5-6 独禁法上問題がないとされた案件 における考慮要素の動向 (02∼04年度・シェア順) (99∼01年度と02∼04年度の比較) 0.0% 20.0% 40.0% 60.0% 80.0% 78.3% 85.9% 有力な競争者の存在 ユー ザーの購買力 28.2% 28.9% 20.5% シェアの増加分が小さい 結合後の シェア 02-04FY :83件 99-01FY :78件 出所:公正取引委員会公表資料より作成 図4-5-7 輸入圧力の存在など海外要因による競争圧力の 判断基準を明確化すべきと回答した企業割合 海外要因の 判断基準を 明確化すべき × 海外要因 04 ○ 競合品の存在、参入、活発な価格競 争 03 約80% 大塚化学 水加 ヒドラジン 三菱瓦斯化学 の製造販売 × 海外要因、ユーザーの購買力、参入 容易性 04 約75% UMG・APS ASA樹脂 日立化成工業 ○ ユーザーの購買力、競合品の存在、 供給余力の存在 02 約75% 三井化学 トルイレンジイソシ 住友化学工業 アネート(TDI) ― (対応策を前提として、競争への影響を見 るべき企業結合関係はないものと判断) × 海外要因、競合品の存在 × 海外要因、シェアの増分が小さい 02 02 02 04 04 03 出所:2006年2月経済産業省調べ (回答企業80社) その他の要素 家電量販店における家 電小売販売(愛知県ハ 地区) 04 95% 有力な競争者 の存在 エディオン 約85% ミドリ電化 1.3% 10.8% 12.8% 独禁法上の考慮要素 画定市場 02 24.1% 14.5% 17.9% 当事会社 当事会社 三井化学 アリニン大口取 約90% 住友化学工業 引分野 44.6% 競合品の存在 参入可能性 年度 63.9% 34.6% 海外要因 供給余力の存在 100.0% 03 三井化学 ペ ン タ エリ ス リ 約70% 住友化学工業 トール 日本フェルト 約70% 市川毛織 ワイヤー 日本フィルコン 日本フェルト 約70% 市川毛織 ベルト 日本フィルコン 約65% 約55% × 海外要因、シェアの増分が小さい エディオン ミドリ電化 家電量販店における家 電小売販売(岐阜県チ 地区) ○ 競合品の存在、活発な価格競争 エディオン ミドリ電化 家電量販店における家 電小売販売( 三重県ワ 地区) ○ 競合品の存在、参入、活発な価格競 争 変性ポリフェニレ ンエーテル樹脂 ○ 競合品の存在、参入容易性 ○ ユーザーの購買力 ○ ユーザーの購買力、供給余力の存在 三井化学 住友化学工業 日立金属 約55% 住友特殊金属 ユアサ 約55% 日本電池 約55% ネオジム焼結磁 石 産 業 用 鉛 蓄電 池 出所:公正取引委員会公表資料より作成 ◆企業結合審査 企業結合(合併、分割、営業譲受など)が一定の取引分野における競争を実質的に制 限することとなるか否かについて、公正取引委員会が行う独禁法上の審査のこと。 296 〔具体的施策〕 今後、重要となるのは、産業界や企業が、多様な制度インフラの選択肢を 効果的に使いこなしていくことにより、創意と工夫を発揮し、経営のイノベ ーションを実現していくことであり、政策の課題も、そのための条件を整備 していくことに重点がシフトすることとなる。 第一に、整備された制度の使い勝手をより良くするために、その運用方法 を見直していくことが必要となる。第二に、制度の有効活用を促すために必 要となるルールを整備することが挙げられる。企業経営の自由度の高まる中 で、この自由が悪用につながらないよう公正なルールを示していくことは、 制度を使いやすくする上でも重要である。第三に、産業界や企業の創意と工 夫を効果的に引き出し、強みを生かした経営の実践を誘発する仕掛けをつく っていくことが考えられる。 これらの取組を通じて、産業・企業の新陳代謝、経営資源の有効活用を促 すソフトインフラの整備を図り、経営力のイノベーションを喚起していく。 (1)経営イノベーションの基盤整備 ① 国際競争の実態を踏まえた企業結合審査の実現 グローバル競争に対応した組織再編に関する独禁法上の審査の予見可能性 を高めるため、最近の企業結合審査の実態を明らかにしながら、輸入拡大の 可能性の評価手法など海外要因を始めとした独禁法上の考慮要素に関する判 断基準を分かりやすく提示するとともに、企業結合審査の目安となる市場シ ェアの基準を引き上げる方向で見直すことが必要である。 公正取引委員会においては、こうした基準を企業結合ガイドラインにおい て明確化するとともに、国内シェアだけではなく、グローバル化の進展が企 業経営に与える影響が高まっているという実態を踏まえた審査を行うことが 求められる。 297 ◆経済産業省・法務省「企業価値・株主共同の利益の確保又は向上のための買収防衛策に 関する指針」 (2005 年 5 月)が示す 3 原則 【原則 1】企業価値・株主共同の利益の確保・向上の原則 ・買収防衛策の目的は、企業価値(株主利益に資する会社の財産、収益力 安定性、成長力などを指す) 、ひいては株主共同の利益(株主全体に共通 する利益)の維持・向上とする。 【原則 2】事前開示・株主意思の原則 ・買収防衛策は、事前にその内容などを開示し、株主等の予見可能性を高 める。 ・株主の合理的意思に依拠したものとする。 【原則 3】必要性・相当性の原則 ・買収防衛策は過剰なものとしない(経営者の濫用防止を図る措置が必要) 。 図 4-5-9 合併等対価の柔軟化 三角組織再編:合併等により消滅する会社の株主に 対して、消滅会社の株式の対価として、 存続会社の株式以外の財産(親会社の 株式等)を交付することが可能に。 (2007年5月施行予定) 株主 現金、親会社の 株式等を交付 合併企業 (存続会社) 合併 対象企業 (消滅会社) 図 4-5-10 新たな信託制度の活用事例 (事業再生) 自 己信 託 受益権の 売却益 A 社 B 社 受益権 受益権の 売却 自 己信 託 A 社 (スピンオフベンチャー) 受益権 人材 資金 X部門 受益権 事業の 運営・実施 外部投資家 298 受益証券 ベンチャー部門 受益権 事業の 運営・実施 ② 敵対的買収・防衛に関する公正なルールの整備 敵対的買収そのものは、企業経営に規律を与えるのみならず、敵対的買収 の結果として経営革新が実現することもあるが、一方で、現経営陣が反対す る買収であるからこそ、買収のあり様によっては、株主を始めとする様々な 関係者に無用な混乱や現経営陣による過剰な保身行動を招くおそれがある。 こうしたおそれが現実化し、企業価値が損なわれることがないよう、関係省 庁等とも協力しながら、敵対的買収や買収防衛策に関する公正なルールを整 備する。また、05 年 5 月に法務省と共同して策定した買収防衛策に関する指 針については、市場関係者によって尊重され、企業社会の行動規範となるよ う、その普及に努める。また、今後とも企業買収を取り巻く環境変化は著し く変化するものと予想されることから、指針の運用状況をレビューしながら、 環境変化を踏まえた指針の見直しを行う。 ③ 三角組織再編制度の活用による新陳代謝の促進 三角組織再編は、主に、グループ企業内での再編を迅速に行う上での有効 なツールとなり得る。消滅会社の株主の利益の保護を一層強化するため、発 行会社による情報開示の充実を促し、株主による議決権行使を円滑化する。 外国企業の日本上場要件の緩和、日本型預託証券(JDR)の創設などの関連す る制度の整備に取り組む。 ④ 新たな信託制度の活用による新陳代謝の促進 改正信託法により、創業、再編、資金調達などのツールとして信託制度を活用 することが可能となる。例えば、事業再生に際し、会社の有力部門が売却 に追い込まれる場合があるが、自己信託を活用すれば、当該部門の事業を 手放すことなく資金調達ができるようになる。また、事業部門や店舗を能 力のある第三者に信託を活用して一定期間に限定して委ねることも可能と なる。さらに、スピンオフベンチャーの立ち上げに際して自己信託を活用 すれば、社内の優秀な人材や休眠特許等の眠れる資産を完全に手放すこと なく、ベンチャー部門の事業リスクを隔離しながら、自らの収益向上にも つなげることができる。こうした新たな信託制度の活用を通じた経営イノ ベーションを実現するため、関連する制度運用面の整備に取り組む。 299 図 4-5-11 LLPを活用した具体例 ○ Suica 普及LLP (鉄道A社、通信B社、ITC社) (東京都) 鉄道A社、通信B社、ITC社が、Suica 電子マネーの普及促進を目的とした共同事業の実現に向けて設立した LLP。(2005年11月8日設立) Suica 電子マネーの導入を検討している企業へ、初期投資(端末費や後方システム改修費等)に充てるため の資金提供を3社の出資により設立されるLLPを通じて行い、Suica 電子マネー導入企業からは、Suica 電子 マネーの利用額に応じた手数料を収受するという共同事業。 鉄道A社は、Suica 電子マネーシステムを、通信B社は、おサイフケータイ®システムを、ITC社は、決済インフ ラサービスをプロジェクトに提供しそれぞれのノウハウや経営資源の相互補完で新市場の開拓を目指す。出資 金額は3社が4億円ずつで12億円。組織の意思決定はLLPの職務執行者からなるステアリングコミッティで実 施し、機動的な経営を図る。有限責任でリスクを限定できるため、過度に慎重にならず業務を円滑に進められ る。 ○ ESICAT JAPAN LLP (D研究所・E研究所・電気F社)(茨城県) D研究所、E研究所、電気F社が、次世代の半導体デバイス材料の実用化のために設立したLLP。(2005年9 月20日設立) 電力、自動車、鉄道、家電など様々な分野に利用されているインバータ(電力交換スイッチングデバイス)や、 通信用の高性能・大電力高周波数デバイスの次世代材料として期待の高まるSiC(炭化珪素)について、D研究 所を中心に開発したSiCを薄い膜にする特殊技術を電気F社の製造ラインを活用しつつ、実用化までの開発を 計る。これにより、発電設備や列車などの冷却装置が格段に小型化されるなどパワーデバイス産業に大きな効 果が期待される。出資金額については、電気F社が大部分を占めるが、技術を提供するD研究所やE研究所が 対等なパートナーとしてプロジェクトを推進する。公的研究機関においても「要素技術にとどまらず実用化技術を 提供してこそ意義がある」との認識があり、LLPだと知的貢献を反映して出資比率以上の損益配分を受けられる ので事業に参加しやすい。 ○ トライアウトえひめ LLP (愛媛県) 精密機械、金属加工、プラント設計などの特殊技能を有する中小企業が集まり、技術開発、共同受注などで、 大企業への提案型の事業展開を図る。(2005年8月1日設立) 結成のきっかけは、四国一円に工場をもつ電気G社がインドネシアに生産拠点を移すことを決定し、西条市近 辺にあった事業所にも新規投資がなくなったこと。下請けの中小企業は突然受注先を失い、いくつかは倒産し た。そんなとき、西条市の産業支援機関「西条産業情報支援センター」が中心となって、単機能の下請け工場が 複数社組んで事業の幅を広げることを提案する一方、下請けを必要としているシステム受注会社に声をかけ「発 注、下請けの関係でなく完全な水平構造の連携体」としてトライアウトえひめを結成した。 従来の共同受注体では 結束が弱く業務に対しての温度差が生じやすいため、連携崩壊が起こってしまいが ちであったが、企業・担当者間でLLPを設立することで、一つのコンセプトに向かって「同じ釜の飯を食う」信頼関 係の強化を図る。 300 (2)我が国ならではの強みを活かした経営 ① LLP・LLC 等の効果的活用によるイノベーションの喚起 LLP、LLC は、全員が有限責任でありながら組織設計が柔軟であり、例え ば、資金力(カネ)はないが専門的能力(チエ)を有する者に対して出資比 率以上の成果配分を行うことにより、チエの最大限の発揮を促すことが可能、 という特徴を有する。このため、LLP、LLC を活用すれば、個人、企業、自 治体、大学、NPO などの多様なプレイヤーが、相互に異なる強みを活かしな ら、効果的に共同事業を展開していくことができる。こうした LLP・LLC の 効果的活用を誘発すべく、これらの制度を活用した企業連携モデルや産学官 連携モデル、地域振興プロジェクトモデル(NL ハイブリッドなど)等の開発・ 普及に取り組む。 301 図 4-5-12 企 業 価 値 にお け る 無 形 資 産(知 的 資 産 )の 役 割 企業価値 備 考 :株 式 時 価 総 額 、社 債 、転 換 社 債 及 び 長 期 借 入 金 か ら 有 形 固 知的資産 定 資 産 を 差 し 引 い た 部 分 を 無 形 資 産 と して 計 算 して い る 。日 金銭資本 物的資本 本 企 業 169社 の 2003年 3月 時 点 の デ ー タを 対 象 。 出 典 :通 商 白 書 2004 無形資産 有形資産 37.8% 62.2% 図 4-5-13 知的資産経営の実践がもたらす好循環 企業価値の源泉となる 知的資産の認識・管理 、それを活用した経営 消費者を含む ステークホール ダーの安心 さらなる知的資産経営の実践 「強み」となる知的 資産の増大 バリューチェーン/ 経営の強化 従業員、顧客、取引先 、市場・投資家等から の評価↑ 企業価値↑ 知的資産への投資意欲↑ 資金調達コスト↓ 図 4-5-14 知的資産経営のステップ 自社の強みをしっかりと認識する 自社の強みがどのように収益につながるかまとめる 経営の方針を明確にし、管理指標を特定する 報告としてまとめる 知的資産経営の実践 内 部 マネ ジメント 外 部 マネ ジメント ステークホルダーへの開示:外部資源の活用と協働 302 ② 「知的資産経営」の促進 個々の企業が、自身の強みを最大限活かした経営を行うに際しては、まずは 各企業が、自らの強みしっかりと認識した上で、それを収益につなげていく ための経営方針を明確にし、その方針に沿った経営、すなわち「知的資産経 営」を実践することが重要である。特に、中小企業については、不足する経 営資源を適切に補いつつ経営戦略を構築していくことが重要になる。このた め、知的資産経営に関する評価軸を提示することにより、企業が有する知的 資産の気づきの機会を与えるとともに、知的資産を活用した経営の実践が、 新興市場における上場審査、金融機関における融資の審査、ファンドの投資 判断等の場面において評価されるよう関係機関に働きかけることなどを通じ て、強みを活かした経営を促す。 303 304 第5章 日本経済の展望(試算結果) 305 これまで述べてきた「新経済成長戦略」の各政策を着実に実施することで、 改革の先にどのような未来が実現するのか。ここでは、2015 年までの我が国の 経済成長の将来像について、実質的な成長を中心とした試算結果を示す。 本試算では、 「新経済成長戦略」を中心に最大限の政策努力を行うこととして おり、それら政策の効果を可能な限り具体的に折り込んだものである。すなわ ち、単純な予測ではなく、一種の政策目標という性格を持つものである。絶え 間ない努力により、今後の成長力を最大限高めた場合の日本経済の展望を描く。 経済環境の変化もありうることから、試算はある程度幅を持って考えられる べきものである。 (1)将来の我が国経済の展望 ①実質 GNI 成長率 日本経済のグローバル化が進む中、日本企業の海外経済活動や証券投資 の果実としての投資収益(要素所得純受取)の重要性が増大する。海外経 済の着実な成長を前提に、 「新経済成長戦略」を中心に最大限の政策努力を 行った場合、実質 GNI(国民総所得)1は平均年率 2.4%程度、一人当たり実 質 GNI は平均年率 2.5%程度の成長を見込み、結果として 2015 年度の一人 当たり実質 GNI は 2004 年度と比べ、約 3 割増加する。 (表 1 参照) ②実質 GDP 成長率 「新経済成長戦略」を中心に最大限の政策努力を行った場合、実質 GDP は、2004 年度から 2015 年度までの間、平均年率 2.2%程度で成長すると見 込む(政策努力の具体的内容は後記)。 ③名目 GNI 成長率・名目 GDP 成長率(参考値) 名目成長率は、物価上昇率に左右されるため、今後の金融政策や本年 6 月頃にとりまとめられる歳出・歳入一体改革の議論の結果等により変動す る。上記の実質成長率を前提とし、物価上昇率について下記標準ケースの 数字により試算すれば、名目 GNI 成長率は平均年率 3.8%程度となる。また、 名目 GDP 成長率は平均年率 3.6%程度となる。 1 ◆実質 GNI 国民総所得。国民が受け取る所得の総額。実質 GDP に、海外からの利子・配当等の純 受取額などを加えたもの。2004 年度の国民一人当たりの実質 GNI は約 420 万円。 306 (表1) 新経済成長戦略が実現した場合の経済成長の姿 (標準ケース) 年平均成長率 同・1人当たり 実質GNI 2.4%程度 2.5%程度 実質GDP 2.2%程度 2.3%程度 (参考) 名目GNI 3.8%程度 (参考) 名目GDP 3.6%程度 (注1)いずれも2015年度までの平均年率。 (注2)1人当たり実質GNIは、海外経済の見方等によって異なる可能性がある。 (参考) 内閣府の「改革と展望(05年度)参考試算」では、実質GDP成長率が約1.9%、名目GDP 成長率が約2.6%と試算している(2011年度までの平均)。 (2)試算の前提(標準ケース) ①基本的なマクロ経済環境 本試算は、2015 年(年度)までの長期試算であり、経済成長は労働、資 本、生産性という供給サイドから規定されるという考え方を基本としてい る。また、世界経済の成長が持続するとともに、大規模災害や疫病の蔓延 といった経済外的リスクが生じないこと等を前提としている。 なお、マクロ経済環境の安定は、経済成長にとって重要な前提となる。 マクロ経済が不安定化する場合には経済成長率も低下する可能性が高い。 計画的な財政健全化、安定的な金融政策運営により、バブル崩壊以降最近 までの不安定な時期に比べて、インフレ率や成長率が大きく変動する可能 性が低下することを前提としている。 ②物価上昇率 物価上昇率については、金融政策、為替レート、原燃料輸入価格の動向 等様々な不確定要因に左右されるものであり、本試算では 2010 年度にかけ て年率 1.5%まで上昇し、以降は一定で推移するという想定を置いている。 ③長期金利 長期金利については、長期的に名目 GDP 成長率と同じ値をとることを基 本としている。 ④財政 財政については、2010 年代初頭(2011 年度)にプライマリー・バランス 307 2 が黒字化するよう、(A)財政健全化に向けた歳出・歳入面の対応を機械的に 行う場合と、(B)歳出削減のみで対応する場合の両方について試算を行って いる。歳出削減の費目別の構成あるいは増税の時期・上げ幅について具体 的な判断を行わない。後者のケースでは名目成長率が 0.5%程度低くなるが、 実質成長率に変化はない。 (3)マクロ経済の前提が異なることによる成長への影響の検証 上記の標準ケースからマクロ経済の前提が異なった場合に、実質的な経済成 長に及ぶ影響について検証するため、下記の 4 つのケースについて、実質 GNI 成長率と実質 GDP 成長率を試算している。(表 2 参照) ・「新経済成長戦略」の施策が講じられない場合 ・物価上昇率が「標準ケース」より 1%高い場合 ・金利が「標準ケース」より 1%高い場合 ・金利が「標準ケース」より 1%低い場合 (表2) マクロ経済の前提が異なった場合の経済成長への影響 2 実質GNI成長率 実質GDP成長率 標準ケース (再掲) 2.4% 程度 2.2% 程度 「新経済成長戦略」の施策が講じられない場合 1.1% 程度 0.8% 程度 物価上昇率が「標準ケース」より1%高い場合 2.4% 程度 2.2% 程度 金利が「標準ケース」より1%高い場合 2.3% 程度 2.1% 程度 金利が「標準ケース」より1%低い場合 2.5% 程度 2.3% 程度 ◆プライマリーバランス 基礎的財政収支。税収等の歳入額から、国債の利払い費等を除いた歳出額を差し引い た財政収支のこと。政府として、2010 年代初頭のプライマリーバランスを黒字化を目標 としている。 308 (4)新経済成長戦略の主要政策の効果 <生産性(TFP)3の向上> 我が国経済の趨勢的な生産性上昇、構造的な成長率低下要因等をベースとし た上で、新経済成長戦略の施策のうち、次の 5 つの主要政策分野について政策 効果を積み上げている(表 3 参照)。これらの施策が実現した結果、1990 年代以 降の米国と同程度ないしそれを上回る TFP の伸び(1.3%程度)が 2015 年まで続 くことを目指す。 なお、数字はある程度の幅をもって見る必要がある。各政策の効果には重な りがある一方、相乗的により大きな効果を持つ場合もあり、単純に加算してマ クロの数字になるわけではない。 ①サービス産業の活性化 サービス産業活性化策の具体化によってサービス産業の効率化が進展し、 地域経済の活性化に大きく寄与するとともに、マクロ経済の生産性上昇に 寄与する。(経済成長への寄与度は 0.4%程度) ②IT による生産性向上 IT は近年の生産性上昇に大きな寄与をしてきたが、 「IT 経営」の確立及び IT 施策の着実な推進により IT 利用の高度化や企業の組織革新を進め、相当 程度の生産性上昇に寄与する。(経済成長への追加寄与度は 0.4%程度) ③技術のイノベーションの強化 公的研究開発の伸びの鈍化が見込まれる中、民間研究開発支援を引き続 き講じ、知的財産権保護の拡充・強化、研究開発の効率性向上等とあいま って、生産性向上に寄与する。(経済成長への追加寄与度は 0.2%程度) ④「人財力」強化による労働力の質の向上 「人財」については、労働力ストック4の学歴向上による生産性向上効果 が次第に頭打ちとなっていく中で、産学連携事業、高専・工業高校のレベ ルアップ、企業内訓練の支援等により労働力の質を高める。 (経済成長への 寄与度は、労働力人口の減少を最小限に抑制する政策を含めて 0.4%程度) ⑤国際産業戦略による生産性の向上 「国際産業戦略」の中で EPA、投資協定等を推進し、アジア規模での生 3 4 ◆TFP 全要素生産性。経済成長の要因のうち、労働と資本の投入以外の要素のことであり、 具体的には、技術革新や、労働や資本の質的向上、経営の効率性向上等が含まれる。 ◆労働力ストック ある時点において、社会で働いている労働力全体のことを指している。一般に、労働 力ストックの増加は経済の生産力を高める。 309 産ネットワークの形成・高度化を行うとともに、WTO ドーハ・ラウンド交 渉を早期に終結させる。この結果、産業構造の変化を通じて生産性の上昇 につながるような国際分業構造を実現する。また、対日直接投資残高を倍 増し、相対的に生産性の高い外国企業がサービス産業を中心に進出(M&A 等)することで、生産性上昇に寄与する。 (経済成長(GNI ベース)への寄 与度は約 0.3%程度) (表3) 「新経済成長戦略」の主要政策の経済成長への寄与度(概算) ・サービス ・IT 施 策 ・技術 分 ・人財 野 ・国際産業戦略(GNIベース) 0.4% 程度 0.4% 程度 0.2% 程度 0.4% 程度 0.3% 程度 0.2% 程度 ・安定的な金融・財政政策 ※マクロの実質成長率は、趨勢的な生産性上昇、構造的な成長率低下要因等をベースにした上で、 政策効果を積み上げている。上記の数字は「追加的な政策効果」のみを表記しているが、「IT」や 「技術」は趨勢的な生産性上昇に相当程度の寄与があると考えられる。 ※いずれも2015年度までの平均年率。 ※施策相互間の重複や相乗効果があるため単純に加算することはできない。 ※経済成長率への効果は間接的な効果が加わるため、上記の数字よりも大きくなる。 <労働力人口の減少を最小限に抑制> 趨勢的な労働力人口の減少は、将来の経済成長にとって、大きな制約要因で ある。性・年令別の労働力率が現在のレベルで推移する場合には、2015 年まで に労働力人口は約▲400 万人の減少となることが見込まれている。 女性、高齢者、若者の就労環境整備を強力に進め、前述の「人財」政策、IT 政策によるテレワークの活用等ともあいまって、2015 年における労働力人口が 自然体に比べて約 300 万人増加し、労働力人口の減少を最小限に食い止める(労 働力人口の想定については、厚生労働省・雇用政策研究会試算の「労働参加拡 大ケース」を参照している)。具体的には、①2030 年までに、65 歳まで希望者 が継続雇用可能な企業が約 9 割に増加、②男女間賃金格差が解消するとともに 管理職の女性比率が 35%に上昇、③2015 年までに若年無業者比率が 1992 年水準 に低下等の、大胆な労働市場改革が想定されている。 労働力需給のタイト化に伴い循環的失業が解消する。構造的失業率は高齢者 の労働参加の増加、ニートの労働力化等の結果、上昇する可能性もあるが、社 会人基礎力の強化、マッチングの改善等によりその上昇を回避する。 以上の結果、労働投入(マンアワー)は 2015 年までの間、▲4%の減少にとど める(ベースラインに比べて 5%程度増加)。 310 <資本の充実> 労働力の減少が始まった現在、稀少化する労働力が「人財」として人でなけ ればできない仕事に特化する一方、資本ストック5で労働を代替することが求め られている。 減価償却制度の抜本見直しを含む税制の見直しや企業金融の活性化を図るこ とを通じ、労働力人口が減少する中でサービス部門をはじめ経済全体で労働力 の資本への代替(省力化投資)、IT 高度化等のための設備投資が着実に実施され、 結果として資本装備率(資本ストック/労働力)、資本係数(資本ストック/ GDP)は趨勢として上昇を続ける。 (5)産業構造の展望 日本経済が上記のような成長を遂げた場合、我が国の産業構造がどのように 変化するのかについて、一つの目安としての試算を行った。(表 4 参照) 我が国経済を取り巻く環境が大きく変化する中、中長期的な産業構造を見通 すことは困難であり、本試算は、いくつかの仮定を置くことによって、産業別 に見た 2015 年の付加価値額と就業者数のおおまかな姿を示そうとするものであ る。 試算に当たっては、「(2)将来の我が国経済の展望」で示した経済成長と、 「(5) 新経済成長戦略の主要政策の効果」で示した労働供給を前提とした上で、労働 力人口の減少を補うだけの労働生産性向上の加速が各産業で生じることを想定 している。加えて、サービス産業については、新経済成長戦略の主要施策の一 つであるサービス産業の活性化策の効果を織り込んでいる。 5 ◆資本ストック 工場や機械など、経済活動に用いられる設備の、ある時点における総量を指す。一般 に、資本ストックの増加は経済の生産力を高める。 311 (表4)産業別の付加価値額と就業者数 付加価値額 金額(実質:兆円) (暦年) 2004 農林水産業・鉱業・建設業 2015 就業者数 構成比(名目:%) 2004 2015 人数(万人) 2003 構成比(%) 2015 2003 2015 42 39 8.7% 7.6% 997 868 15.8% 13.8% 114 142 22.0% 18.9% 1,100 997 17.4% 15.9% 食料品 繊 維 パルプ・紙 窯業・土石製品 化 学 石油・石炭製品 鉄鋼・非鉄金属 金属製品 一般機械 電気機械 輸送用機械 精密機械 その他の製造業 14 1 3 4 10 4 6 4 11 29 13 2 15 12 1 3 4 15 4 6 5 12 53 13 2 12 2.7% 0.2% 0.6% 0.7% 1.8% 1.2% 1.5% 0.9% 2.1% 3.4% 2.6% 0.3% 3.0% 2.7% 0.1% 0.6% 0.6% 1.9% 1.4% 1.0% 1.0% 2.1% 2.7% 2.0% 0.2% 2.5% 153 27 28 41 42 3 44 94 125 167 107 20 250 150 17 29 36 45 3 35 104 138 118 93 21 208 2.4% 0.4% 0.4% 0.6% 0.7% 0.0% 0.7% 1.5% 2.0% 2.6% 1.7% 0.3% 4.0% 2.4% 0.3% 0.5% 0.6% 0.7% 0.0% 0.6% 1.7% 2.2% 1.9% 1.5% 0.3% 3.3% 電気・ガス・水道・運輸通信業 58 70 11.1% 11.4% 437 405 6.9% 6.5% 卸売・小売業 69 102 14.1% 14.9% 1,126 1,134 17.8% 18.1% 金融・保険・不動産業 47 72 10.7% 11.1% 266 310 4.2% 4.9% サービス業 167 184 33.3% 36.2% 2,395 2,559 37.9% 40.8% (再掲) 第一次産業 第二次産業 第三次産業 8 147 341 8 173 428 1.8% 28.9% 69.3% 1.2% 25.3% 73.6% 377 1,720 4,223 253 1,611 4,409 6.0% 27.2% 66.8% 4.0% 25.7% 70.3% 製造業 (注1)経済産業省が推計(国民経済計算(SNA)ベース)。就業者数は、SNAの値をベースに、「日本経済の展望」試算の就業者数に 換算した値。 (注2)実質付加価値額は2000年基準の値。付加価値額の構成比は、名目で見た産業別付加価値額の、付加価値額総和に対する比率。 (注3)不動産業には帰属家賃を含まない。 (注4)四捨五入や統計上の不突合により、合計が一致しないことがある。 就業者数 付加価値額 100% 100% 8.7% 7.6% 90% 90% 15.8% 13.8% 農林水産業・鉱業・建設業 18.9% 80% 22.0% 80% 15.9% 17.4% 70% 11.4% 製造業 70% 6.5% 11.1% 6.9% 60% 60% 電気・ガス・水道・運輸通信業 18.1% 14.9% 50% 14.1% 40% 10.7% 11.1% 50% 17.8% 40% 4.2% 4.9% 卸売・小売業 30% 30% 金融・保険・不動産業 20% 33.3% 36.2% 20% 37.9% 40.8% 10% 10% サービス業 0% 0% 2004 2015 2003 312 2015 (参考)海外各国の産業別就業者数 100% 90% 80% 70% 2.1% 1.6% 10.8% 12.2% 5.9% 0.4% 22.4% 20.5% 6.8% 0.4% 23.2% 60% 6.3% 0.8% 4.1% 4.7% 6.0% 0.8% 17.3% 3.8% 4.5% 6.1% 6.2% 4.3% 10.0% 15.2% 20.0% 5.5% 50% 2.7% 農林水産業・鉱業 17.4% 製造業 19.8% 9.7% 7.4% 0.3% 27.2% 5.4% 40% 6.1% 0.8% 建設業 17.8% 電気・ガス・水道業 4.2% 6.1% 3.5% 30% 金融・保険・不動産業 6.1% 48.3% 20% 45.9% 39.9% 卸売・小売業 45.9% 37.9% 運輸・通信業 25.6% 10% サービス業 0% アメリカ (2003) イギリス (2003) ドイツ (2002) フランス (2002) 韓国 (2001) 日本 (2003) (注1)SNAベース。日本の産業分類と極力一致するよう、National Accounts [OECD]のデータを再分類している。 (注2)イギリス、韓国については、不動産業はサービス業に含まれている。 313 (6) 潜在的新産業群・重点サービス分野の将来展望(再掲) 新経済成長戦略では、今後の発展が期待されるサービス分野や潜在的な新産 業群として下記の 10 分野を取り上げている。これらの分野の将来展望について は、第 2 章、第 3 章で詳しく示してきたが、今後、市場規模や雇用規模が拡大 し、2015 年には下記の姿を実現することを見込んでいる。(表 5 参照) (表5) 潜在的新産業群・重点サービス分野の将来展望 <潜在的新産業群> (第2章 第2節参照) 市場規模(実質値:兆円) 直近実績 2015年(推計値) 新世代自動車(注1) 0.1 8.2 次世代知能ロボット(注2)(注3) 0.5 3.1 先進医療機器・医療技術(がん克服等)(注4) 8.7 11.8 次世代環境航空機(注3)(注5) NA 2.8 <重点サービス分野> (第3章 第3節参照) 市場規模(実質値:兆円) 直近実績 2015年(推計値) 雇用規模(万人) 直近実績 2015年(推計値) 健康・福祉サービス(注6) 51.8 66.4 496 552 観光・集客サービス 24.5 30.7 475 513 コンテンツ(注3) 13.6 18.7 185 200 3.1 3.9 50 54 75.0 93.9 630 681 126.5 150.7 1447 1458 育児支援サービス ビジネス支援サービス 流通・物流サービス (注1) 新世代自動車はハイブリッド自動車と燃料電池車の合計 (注2) 産業用ロボット及び生活、医療・福祉、公共分野の次世代ロボットを合計した値 (注3) 次世代知能ロボット、次世代環境航空機、コンテンツについては、海外市場も含めた数値 (注4) がん対策以外の医療機器・医療技術を含む (注5) 推計値は販売開始から2015年にかけての総額。航空機・エンジンの生産額(1.6兆)のほか、 社会全体への波及効果も含む (注6) 保育は福祉の一つであるが、本報告書においては「育児支援サービス」に含めている 314 315 新経済成長戦略策定の経緯 ○ 新経済成長戦略の策定にあたっては、広く有識者から意見をいただくため、経 済産業大臣の諮問機関である産業構造審議会 新成長政策部会を開催した。 ○ 総理の主宰される経済財政諮問会議においても、経済産業大臣から検討状況を 説明し、審議が行われた。 ○ 財政経済一体改革会議(総理、関係閣僚と与党幹部で構成される政府与党協議 会)では「歳出・歳入一体改革」と並ぶ車の両輪として、新経済成長戦略やグ ローバル戦略などを統合し、他省庁の成長政策も含めた「経済成長戦略大綱」 を策定することとなった。そのとりまとめを二階大臣・経済産業省が担当する 旨決定された。 平成17年 12月8日 二階経済産業大臣記者会見(新成長戦略策定の方針を発表) 平成18年 1月20日 1月25日 2月 1日 2月27日 小泉総理大臣施政方針演説(新たな成長戦略を検討する旨表明) 第1回・産構審新成長政策部会(全体、地域経済活性化) 経済財政諮問会議(新経済成長戦略の概要) 第2回・産構審新成長政策部会 (国際、サービス産業の革新、IT、中小企業、横断的分野) 3月 7日 経済財政諮問会議(地域活性化) 3月16日 第3回・産構審新成長政策部会(中間とりまとめに向けた審議) 経済財政諮問会議(人財立国) 3月22日 二階経済産業大臣記者会見(目指すべき経済成長の姿) 3月23日 第4回・産構審新成長政策部会(中間とりまとめ) 3月28日 二階経済産業大臣記者会見(GNI基準の重要性を指摘) 3月29日 経済財政諮問会議(中間とりまとめの報告) 4月 7日 経済財政諮問会議(グローバル経済戦略) 4月19日 経済財政諮問会議(技術革新、制度インフラ) 4月24日 第5回・産構審新成長政策部会(最終とりまとめに向けた審議) 4月27日 経済財政諮問会議(人財立国) 5月10日 経済財政諮問会議(経済成長戦略大綱、サービス産業と金融の革新) 5月15日 第6回・産構審新成長政策部会(とりまとめ案につき概ね了承) 5月18日 経済財政諮問会議(経済成長戦略大綱、IT、コンテンツ) 5月22日 財政経済一体改革会議 第1回会合 5月31日 経済財政諮問会議(経済成長戦略大綱、新・国家エネルギー戦略) 6月 9日 新経済成長戦略 とりまとめ (注)このほか、とりまとめまでの間に、日本経済団体連合会、日本商工会議所、 経済同友会、主要業界団体との意見交換、地方で開催された「一日経済産 業省」、地方経済産業局長会議等による意見聴取、OECD、APEC 等の国際 会議での検討状況の説明、広く国民一般からのパブリックコメントの聴取 等が行われた。 316 産業構造審議会新成長政策部会 委員名簿 部会長 西室 泰三 石川 好 石津 賢治 上野 保 東成エレクトロビーム(株) 代表取締役社長 内ヶ崎 功 日立化成工業(株) 取締役会長 (株)東芝 相談役・(株)東京証券取引所 代表取締役社長兼会長 秋田公立美術工芸短期大学 学長 埼玉県 北本市長 岡田 羊祐 一橋大学大学院経済学研究科 助教授 小野 敏彦 富士通(株) 取締役専務 金田 新 木村 裕士 日本労働組合総連合会 総合政策局長 木村 良樹 和歌山県 河野 栄子 (株)リクルート 特別顧問 佐藤 博樹 東京大学社会科学研究所 教授 宍戸 善一 成蹊大学法科大学院 教授 トヨタ自動車(株) 専務取締役 知事 高橋はるみ 北海道 知事 松井 孝典 東京大学大学院新領域創成科学研究科 教授 森 雅彦 (株)森精機製作所 取締役社長 矢嶋 英敏 (株)島津製作所 代表取締役会長 柳川 範之 東京大学大学院経済学研究科 助教授 山崎 朗 中央大学経済学部 教授 山田眞次郎 (株)インクス 代表取締役 吉川 洋 東京大学大学院経済学研究科 教授 吉村 貞彦 依田 巽 和気 洋子 慶應義塾大学商学部 教授 渡部 國男 キヤノン(株) 常務取締役企画本部長 新日本監査法人 代表社員 (株)ギャガ・コミュニケーションズ 代表取締役会長 317