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偏光解消と虹ムラに関する実験とシミュレーション

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偏光解消と虹ムラに関する実験とシミュレーション
2014.03
王子計測機器株式会社
偏光解消と虹ムラに関する実験とシミュレーション
● はじめに
2014.01 付けの技術資料「偏光解消のシミュレーション」で、高位相差フィルムに直線偏光が入
射したときの偏光解消効果を見積もる方法について報告しました。ここでは、偏光解消と虹ムラ
の関係について実験を行うとともに、シミュレーションの有効性を検討した結果を報告します。
● 結論
今回の実験結果とシミュレーション結果から以下のことが分かりました。
ⅰ)偏光板2枚を用いたときの干渉色は、直交ニコルのときに最も顕著に表れ、偏光板2
枚の透過軸のなす角度が45°のときはフィルムの位相差が3000nm以上あれば
殆ど着色しない
ⅱ)偏光板2枚を用いたときの干渉色は、光源の分光スペクトルの分布によって異なり、
輝線スペクトルを持つ蛍光灯光源では着色しやすく、フィルムの位相差が10000
nmでも着色するが、ハロゲン光源やLED光源ではフィルムの位相差が3000n
m以上あれば直交ニコル状態でも殆ど着色しない
ⅲ)偏光解消効果は偏光板透過軸と位相差板の遅相軸のなす角が45°のときに最も大き
く、LED光源でフィルムの位相差が3000nm以上あれば非偏光度95%以上が
期待できる
ⅳ)光源の分光スペクトルとフィルムの位相差の波長分散特性・入射角特性および偏光板
とフィルムの軸関係が既知であれば、正面と斜め受光の分光スペクトルのシミュレー
ションができ、その結果から虹ムラ発生の見積もりもできる
● 使用した装置と試料
装置: 多目的偏光解析装置 KOBRA-MP
面光源ライトガイド FGF6F1000-60-60(ショットモリテックス)
ハロゲン光源装置
MegaLight100(ショットモリテックス)
LED光源装置
ルミナーエース LA-HDF105A(林時計工業)
蛍光灯照明装置
フラットイルミネーターHF-SL-100W(電通産業)
マルチチャンネル分光器 S2630(相馬光学)
1
試料:
次の4種の高位相差フィルム
表1 実験に使用した高位相差フィルム
厚さ
面内位相差
材質
d(μm)
R0(nm)
延伸方法
pet2400
100
2400
PET、逐次2軸延伸
pc4500
125
4505
PC、1軸延伸
pet8855
85
8855
PET、1軸延伸
pet10550
100
10550
PET、1軸延伸
記号
● 実験方法
図1のようにKOBRA-MPの受光ユニットを利用し、光源の上に透過軸方位φp が0°の偏
光板と遅相軸方位がφr の高位相差フィルムを置き、検光子の透過軸方位φa を30°刻みで回転
したときの透過光の強度I(θ)を読み取り、I(θ)をコサイン2乗近似して、その最大値と最小
値から楕円率a/b、I(θ)が最大となるθから楕円方位角Ψを求めました。
また、図1の測定系でφp=45°、φr=0°とし、φa が135°(直交ニコル)と0°のと
きの透過光の分光スペクトルを分光器で検出しました。
図1 測定系の図
2
● 測定結果
1)光源の分光スペクトル
光源の上に偏光板を置いた状態での透過光の分光スペクトルを調べると、図2のようになり蛍
光灯光源の場合は水銀の数本の輝線と蛍光物質のスペクトルが見られます。ハロゲン光源とLE
D光源はいずれも可視域の広範囲の波長の光を含んでいますが、LED光源の方は青色LEDの
波長450nm付近の強度が高いのが特徴です。今回の実験は、狭帯域のバンドパスフィルタを
用いずに、光源の波長すべてを使って測定しました。
(a)縦軸スケールを同じにしたとき
(b)縦軸を拡大したとき
図2 各光源の分光スペクトル
2)干渉色の観察
偏光解消の効果を調べる場合、偏光板2枚の間にフィルムを置いたときの干渉色で判断するこ
とがあります。そこで、蛍光灯光源でφp=45°の偏光板の上に表1の高位相差フィルムをφr
=0°にして置き、φa が135°と0°の2つの状態で干渉色を調べると図3のようになります。
図3の上図を見ると、φa=135°のときは pet10550 でも虹色が観察できますが、下図のφa
=0°のときは pet2400 で少し着色が見られ、pc4500 以上の位相差では殆ど着色がないことが分
かります。偏光サングラスを掛けて偏光板透過軸が45°のLCD画面をみる場合は、図3の下
図に相当するので、必ずしも直交ニコル観察での干渉色を参考にする必要がなく、特にLCDと
異なる蛍光灯光源での観察は参考になりません。
ハロゲン光源とLED光源の場合は殆ど違いがなく、pet2400 のときのみ図4のように着色が観
察できますが、pc4500 以上の位相差では着色はなかったことから、フィルムの位相差が3000
nm以上あれば十分と思われます。
3
図3 蛍光灯光源で偏光板2枚を用いたときの干渉色の観察
図4 LED光源で偏光板2枚を用いたときの干渉色の観察 (pet2400)
3)透過光の分光スペクトル
直交ニコル状態での透過光の分光スペクトルを測定し、LED光源での pet2400 と pc4500 を比
較すると図5のようになり、pet2400 のとき正面と右斜め10°での分光スペクトルが異なるのに
対し、pc4500 では右斜め10°でも殆ど変化しないことが分かります。このことは、図4上図の
ようにpc2400で正面と右斜めで色が変わることと同じであり、また pc4500 では正面でも斜
めでも、透過光の波長帯域が広く着色がないことを意味します。
4
1000
1000
正面
右斜め10°
正面
右斜め10°
800
600
光強度
光強度
800
400
200
600
400
200
0
0
400
450
500
550
600
650
700
750
800
400
波長 (nm)
450
500
550
600
650
700
750
800
波長 (nm)
(a)pet2400
(b)pc4500
図5 LED光源での直交ニコル状態の透過光の分光スペクトルの実測
蛍光灯光源で直交ニコル状態の干渉色と透過光の分光スペクトルを対比すると、図6のように
なり、どの波長の光強度が大きいかによって色が決まることがよく分かります。
(a)pet2400
(b)pc4500
(c)pet10550
図6 蛍光灯光源での直交ニコル干渉色と透過光の分光スペクトルの対比
4)楕円率と楕円方位角
KOBRA-MPを使って前述の実験方法で、φp=0°でφr を30°と45°にしたときの
楕円率と楕円方位角を算出し、その結果をポアンカレ球赤道面に表すと図7のようになります。
この図を見ると、ハロゲン光源とLED光源では殆ど差がなく、さらにフィルムが異なってもほ
ぼ同じですが、蛍光灯光源のときはフィルムの違いによって偏光状態が異なることが分かります。
このことは、干渉色の観察結果とも一致します。
5
図7 高位相差フィルム透過光の偏光状態の測定結果 (φp=0°)
5)偏光度
KOBRA-MPでの測定時に、偏光板の上にフィルムを置いた場合だけでなく、さらに検光
子の下に遅相軸方位を0°にした波長板(R0=53nm)を挿入したときの、透過光のa/bと
Ψを調べました。フィルム単体の場合と波長板を追加したときの偏光状態の変化量から、フィル
ム透過光の偏光度を算出すると、結果的にその光はほぼ直線偏光と非偏光の合成と見做してよい
ことが分かりました。したがって、偏光度は図8(a)のようにポアンカレ球の半径を1とした
ときの赤道面において、円の中心から測定点までの距離が偏光度に相当します。また図8(b)
のように、回転検光子法で得られる透過光強度I(θ)の最大値、最小値をそれぞれImax、Imin
としたとき、偏光度Vは式①で表されます。
V
Imax -Imin
Imax  Imin
①
6
(a)ポアンカレ球赤道面
(b)回転検光子法の光強度図形
図8 高位相差フィルム透過光の偏光度
φp=0°で、4種のフィルムについてφr を15°、30°、40°、45°と変えて、3種
の光源で測定したときのI(θ)から、式①によりVを算出すると図9のようになります。φr=1
5°のときにはVが大きく、φr が45°に近づくほどVが小さくなることが分かります。図9
(b)を見ると、pc4500 以上ではハロゲン光源、LED光源でφr=45°のときに、Vは5%以
下すなわち非偏光度が95%以上になることが分かります。一方、φr=45°のときでも蛍光灯
光源は他の光源に比べてVが大きいことが分かります。すなわち、蛍光灯光源の場合は偏光解消
φ
φ
φ
φ
30
r=15°
r=30°
r=40°
r=45°
φ r=40°
φ r=45°
25
偏光度V (%)
90
80
70
60
50
40
30
20
10
0
20
15
10
5
LED光源
蛍光灯光源
LED光源
pet8855
pet10550
pc4500
pet2400
pet10550
pc4500
pet8855
pet2400
pet8855
ハロゲン光源
光源と試料
pet10550
pc4500
pet2400
pet8855
pet10550
pc4500
pet2400
pet10550
pet8855
pc4500
pet2400
pet8855
ハロゲン光源
pet10550
pc4500
0
pet2400
偏光度V (%)
効果が表れにくいことを意味しています。
蛍光灯光源
光源と試料
(a)すべてのφr での結果
(b)φr=40°と45°の結果
図9 高位相差フィルム透過光の偏光度の実測値
7
● シミュレーション
今の場合、偏光板にフィルム1枚の貼合であり、透過光の楕円偏光状態のシミュレーションは
比較的容易です。ただし、入射光は広範囲の波長分布を持っており、回転検光子法で観測される
光強度はすべての波長の合計として計算する必要があります。その考え方は前回の技術資料でも
説明しましたが、もう一度整理すると図10のようになり、偏光板透過後の光源の分光スペクト
ルT(λ)と φr およびφa が既知であれば、
検光子透過光の分光スペクトルはT(λ)×I(φa,λ)
で求まります。また、ポアンカレ球赤道面での点の座標はストークスパラメータのS1とS2で
決まり、かつ最終的にS1、S2、S3の全波長の合計から式②によって偏光度Vを算出できま
す。
図10 光源の分光スペクトルを考慮したときの検光子透過光の計算方法
S0  (  S1) 2  (  S 2 )2  (  S 3 )2
V
②
S0
 T( λ )
1)検光子透過光の分光スペクトル
直交ニコル状態で、pet2400 のときの検光子透過光の分光スペクトルの実測値と計算値を比較す
ると、図11のようになり両者はよく一致しています。pet2400 以外のフィルムでも、実測値と計
算値は良い一致でした。
8
100
実測 正面
計算 正面
900
80
800
700
70
700
70
600
60
600
60
500
50
500
50
400
40
400
40
300
30
300
30
200
20
200
20
100
10
100
10
実測_光強度
0
400
428
456
484
512
539
567
595
622
649
677
704
731
758
785
0
波長 (nm)
80
0
波長 (nm)
100
14000
90
100
実測 右10°
計算 右10°
12000
80
10000
70
8000
60
50
6000
40
4000
30
実測_光強度
実測 正面
計算 正面
計算_透過率 (%)
14000
(b)LED光源で右斜め10°のとき
70
8000
60
50
6000
40
4000
30
20
2000
10
0
0
400
429
458
486
515
543
572
600
629
657
685
713
741
769
796
0
10
400
429
458
486
515
543
572
600
629
657
685
713
741
769
796
0
80
10000
20
2000
90
計算_透過率 (%)
(a)LED光源で正面のとき
12000
90
400
428
456
484
512
539
567
595
622
649
677
704
731
758
785
実測_光強度
0
実測_光強度
100
実測 右10°
計算 右10°
90
800
計算_透過率 (%)
900
1000
計算_透過率 (%)
1000
波長 (nm)
波長 (nm)
(c)蛍光灯光源で正面のとき
(d)蛍光灯光源で右斜め10°のとき
図11 直交ニコル状態での透過光の分光スペクトルの実測値と計算値の比較 (pet2400)
図3の下図と図4の下図、すなわちφr=0°、φp=45°、φa=0°の条件では、透過光の
着色は直交ニコルのときに比べて少ないことが分かります。この状態の透過光の分光スペクトル
を、pet2400 で計算すると図12のようになります。他のフィルムでも位相差に関係なく分光スペ
クトルは同じになり、透過率は光源の光強度の50%になることが分かります。
9
pet2400
光源
80
70
60
50
40
30
20
100
90
透過光の透過率 (%)
透過光の透過率 (%)
100
90
10
0
pet2400
光源
80
70
60
50
40
30
20
10
0
400
500
600
波長 (nm)
700
800
400
(a)ハロゲン光源で正面のとき
500
600
波長 (nm)
700
800
(b)LED光源で正面のとき
図12 φr=0°、φp=45°、φa=0°の条件での透過光の分光スペクトルの計算値
2)フィルム透過光の楕円率と楕円方位角
φp=0°で pet10550 について3種の光源別にφr を変えたときの、透過光の偏光状態の実測値
と計算値をポアンカレ球赤道面で比較すると、図13のようになりφr が小さいときには両者のず
れがありますが全体的にはよく合っていると言えます。
装置0°
ハロゲン光源
装 置
0°
LED光源
蛍光灯光源
◆ 実測
◇ 計算
◆ 実 測
◇ 計 算
(a)φr=15°のとき
(b)φr=30°のとき
10
装 置
0°
装置0°
◆ 実 測
◇ 計 算
◆ 実測
◇ 計算
(c)φr=40°のとき
(d)φr=45°のとき
図13 pet10550 の透過光の偏光状態の実測値と計算値との比較
図3の下図の pet2400 の斜め観察時に着色が見られるのは、斜め受光のときにはφp=45°で
あっても見掛け上のφp が受光角によって変わるためです。例えば、受光角40°のときは見掛け
上のφp が49°になり、LED光源でφr=0°の高位相差フィルムを見たときの透過光の偏光
状態を計算すると、偏光状態は図14のようになります。斜め受光のときの偏光状態は主に受光
角によって決まり、フィルムの位相差が2000nm以上であれば値に関係なくほぼ同じ点とな
ります。
装置0°
φp=45°
φr=0°
正面と右斜め40°
◆正面
◆斜め
図14 LED光源での正面と斜め受光のときの偏光状態の計算結果
3)フィルム透過光の偏光度
図10の計算方法で得た検光子透過光の分光スペクトル、あるいはフィルム透過光の偏光状態
の計算値は、実測値と比較してよく合うことが確認できました。そこで最後に、4種の高位相差
11
フィルムのφr と光源3種を変えたときの偏光度Vについて、シミュレーションから式②で得た値
と、実測から式①で得た値を比較すると図15のようになります。この図を見ると、計算値のV
の方が大きくなる傾向がありますが、高位相差フィルムの偏光解消効果、すなわち非偏光度(1
00-V)を見積もるには十分と言えます。実測値のVが計算値よりも小さくなるのは、試料の
偏光板や装置の検光子の偏光度の影響があると考えられます。
100
y = 0.8592x + 0.623
R2 = 0.9763
偏光度Vの実測値 (%)
80
60
40
20
0
0
20
40
60
80
100
偏光度Vの計算値 (%)
図15 偏光度Vの計算値と実測値との比較
4)分光スペクトルと虹ムラ
偏光サングラスを掛けてLCD画面を見たときに発生する虹ムラの問題を議論するには、フィ
ルムによる偏光解消効果よりも、偏光サングラス(検光子)透過光の分光スペクトルに着目するの
が現実的です。このとき図3の干渉色から分かるように、検光子の透過軸方位φa がどの方向であ
るかによって着色の仕方は大きく変わります。
LED光源で pet2400 と pc4500 について、φp=45°でφa が135°(直交ニコル)と0°
の場合の、受光角が0°、10°、30°のときの検光子透過光の分光スペクトルをシミュレー
ションし、斜め受光時の受光角0°のときからの透過率の変化量をグラフにすると、図16によ
うになります。この図を見ると、直交ニコルのときはφa=0°のときに比べて斜め受光による分
光スペクトルの変化が格段に大きいことが分かります。図16(b)の pet2400 は図4の上図に、
図16(d)は図4の下図に相当するので、干渉色と分光スペクトルの変化量を比較すると、面
内位相差が3000nm以上であって、かつ斜め受光による透過率の変化が5%以下であれば虹
ムラの発生が少ないと考えられます。
12
100
pet2400
pc4500
80
60
60
透過率変化量 (%)
透過率変化量 (%)
100
pet2400
pc4500
80
40
20
0
-20 400
450
500
550
600
650
700
750
800
-40
40
20
0
-20 400
450
500
550
700
750
800
-40
-80
-80
-100
-100
波長 (nm)
波長 (nm)
(a)φa=135°、受光角10°のとき
(b)φa=135°、受光角30°のとき
0.5
0.1
0.0
0.0
400
450
500
550
600
650
700
750
-0.5 400
800
透過率変化量 (%)
透過率変化量 (%)
650
-60
-60
-0.1
600
-0.2
-0.3
-0.4
450
500
550
600
650
700
750
800
-1.0
-1.5
-2.0
-2.5
-3.0
-3.5
-0.5
pet2400
pc4500
pet2400
pc4500
-4.0
-0.6
-4.5
波長 (nm)
波長 (nm)
(c)φa=0°、受光角10°のとき
(d)φa=0°、受光角30°のとき
図16 LED光源での斜め受光時の検光子透過光の分光スペクトルの変化量の計算結果 (正面基準)
● おわりに
以上のように、曖昧で数値化の難しい高位相差フィルムによる偏光解消と虹ムラ現象について、
実験とシミュレーションから光学的解釈をしました。偏光解消は(偏光板+フィルム)の透過光
の問題であり、虹ムラは(偏光板+フィルム+偏光板)の問題であることを区別しなければなり
ません。両者ともに、入射光が単一波長のときは議論の対象にならず、広い波長分布を持つ光が
入射するときに問題となります。虹ムラは受光側に偏光板すなわち検光子が存在して初めて発生
するものであり、光源の分光スペクトルおよび偏光板とフィルムの軸関係が既知であればシミュ
レーションも可能であり、その結果は実測とよく一致することが分かりました。
以上
13
Fly UP