...

お受験 ブ ームの背景 ∼早期教育の現状 と問題点

by user

on
Category: Documents
20

views

Report

Comments

Transcript

お受験 ブ ームの背景 ∼早期教育の現状 と問題点
`お受験 ブ ーム の 背 景 ∼早 期 教 育 の現 状 と問題 点
野
Reserch
島
正
Note on the Early
也
Learning
in Japan
NOJIMA,Masaya
私 立 小 学 校 へ の 受 験 戦 争 を 描 い た 連 続 テ1/ビ ド ラ マ 「ス ィ ー トホ ー ム 」(1994年
1月 放 映 、TBS系
列)は 翼 くん の 合 格 で 完 結 した 。 トレ ンデ ィ ー ドラ マ の 一 つ と
して 世 相 を 反 映 した こ の ホ ー ム ドラマ は 、 人 々 の 関 心 を 集 め た 。 ドラマ の 最 終 回 で
は 、 高 視 聴 率26.9%が
記 録 さ れ た(ビ デ オ リサ ー チ)。 ドラ マ と並 行 して 、 現 実 で
も幼 児 向 け の 早 期 教 育 を い ち 早 く家 庭 に導 入 す る な ど、 い さ さか 加 熱 ぎ み の対 応 が
み ら れ た 。 小 学 校 受 験 と幼 稚 園 受 験 は 、 局 地 的 な が ら、 家 庭 の 大 き な 関 心 事 に も
な って い る 。 ドラ マ の 中 の こ と は 必 ず し も絵 空 事 で は な い よ う だ 。
か つ て の 「15歳の 春 」 は 「7歳 の 春 」、 さ ら に 「4歳 の 春 」 に下 降 して い る 。 東
京 都 内 の大 手 書 店 で は、従 来 の学 習 参 考 書 コ ー ナ ー と は別 に 「
幼 児 教 育 教 材 コー
ナ ー 」 を 設 け て 、 「お 受 験 」 ね ら い の 家 庭 の 需 要 に応 え よ う と して い る 。 ま た 首 都
圏 で は 、 幼 児 教 室 数 は 約300あ り、 そ の 内 の 半 分 か ら3分
れ てい る。
の1は 幼 児 進 学 塾 と み ら
以 下 で は 、 早 期 教 育 の 全 体 の 輪 郭 を確 認 しな が ら 、 今 日の 早 期 教 育 の 動 向 を み き
わ め る作 業 を進 め た い 。
1早
期教育の概念
「早 期 教 育 」(earlylearning)の
①
用 語 は 、大 略 的 に み て 次 の3つ
の 意 味 で 用 い られ る 。
子 ど もの 能 力 を成 長 の 時 期 か らみ て 早 め に訓 練 ・教 育 す る こ と。 人生 の 早 期(乳 幼 児 期)か
ら、 通 例 は就 学 後 に行 う教 育 の 内 容 を 意 図 的 に就 学 前 に子 ど も に教 え る もの 。 そ の子 ど もの 知 能
年 齢 や 発 育 段 階 よ り も一 段 高 い レベ ル の 教 育 を実 施 す る。 この 場 合 「早 教 育 」 「早 期 開発 」 の用
語 も用 い られ る。
②
知 能 ・才 能 の 発 達 が 特 別 に早 い子 ど もに対 して 行 う教 育 。 通 常 の教 育 で は、 そ の優 秀 性 を正
当 に 引 き 出 す こ とが 困難 で あ る場 合 。優 秀 な素 質 の 一 層 の発 現 が 主 目的 で あ る。 「天 才 教 育 」 「才
能 教 育 」 厂早 教 育 」 の用 語 も使 わ れ る 。 ① と概 念 的 に は 区 別 で きて も、 実 際 に は① と一 部 重 複 し
た イ メ ー ジ で と ら え られ る こ と も多 い 。
③
障 害 を もつ 子 ど もの教 育 に適 用 され る教 育 方 法 で 、 障 害 の 早 期 発 見 と早 期 教 育 が 有 効 と され
る。 乳 幼 児 期 の 適 切 な教 育 的 対 応 に よ り、 発 達 の加 速 を促 そ う とす る もの 。 と くに脳 性 麻 痺 児 、
ダ ウ ン症 児 、 言 語 障 害 児 の場 合 、 超 早 期 教 育 的対 応 の 効 果 が 確 認 され て い る。 また 、 精 神 遅 滞 児
につ い て も、 遅 滞 が 発 見 さ れ た 時 点 で速 や か に適 切 な 指 導 が と られ る こ とが重 要 と さ れ る 。
本 稿 で は 、 この と こ ろ の幼 児 教 育 産 業 の 急 速 な発 展 の 中 で 、 そ の 効 用 が 疑 問視 され る 、① の 意
一65一
味 で の 早期 教 育 の 発 展 形 態 に焦 点 を あ て て 、 現 状 と問 題 点 を さ ぐ って み る こ と にす る 。
2早
1)0歳
期 教 育 の現 状 と その背 景
∼1歳
の 「超 早 期 教 育 」
約140億 あ る と い わ れ る脳 細 胞 を 有 効 に生 か す に は0歳
う触 れ 込 み で 、0歳
か ら脳 に刺 激 を与 え る こ とが 大 切 とい
∼1歳 児 を対 象 に した 「超 早 期 教 育 」 と もい うべ き対 処 法 が 行 わ れ て い る 。
幼 児 教 育 の 宣 伝 の キ ー ワー ドは 「0歳 」、 「英 才 」、 「IQ」
の3つ で あ る 。 また 音 楽 を 中 心 と した
胎 教 の 教 室 も大 都 市 圏 を中 心 に展 開 中 で あ る。
「0歳 教 育 友 の 会 」 を主 催 す る七 田 眞 は 「赤 ち ゃん は私 た ち が 考 え て い る よ う に無 感 覚 ・無 知
能 な の で は な い 。 む しろ 、 一 生 の 内 で い ち ば ん の 天 才 期 に あ る 」 と し、新 生 児 期 を 「一 生 の うち
で い ち ば ん学 習 能 力 の 高 い 時 期 」 と と ら え て0歳 教 育 の効 用 を説 い て い る。 ま た鈴 木鎮 一 は 「母
国 語 は、 子 ど もた ち の教 育 の可 能 性 の 高 さ を示 す バ ロ メ ー ター で あ る」、 「母 国語 の教 育 は 、生 ま
れ た 日か ら 始 ま っ て い る」 と し、超 早 期 か らの 「才 能 教 育 」 の 効 用 を説 い て い る 。
2)3歳
時 の早期教育
3歳 は習 い 事 の 適 齢 期 と い っ た風 潮 が 一・
般 の 父 母 の 中 に み られ る。 英 語 、 漢 字 、 音 楽 、 作 法 な
どが 早 期 教 育 の 対 象 とな る。
早 期 教 育 の 主 要 な 関 心 事 で あ る 英 語 教 育 に つ い て み て み よ う。 一 般 に子 ど もの 言 語 発 達 に は次
の段階が 区別 される。
1歳 ∼2歳
発 音 ・発 声 の基 礎 の 形 成
2歳 ∼3歳
単 語 か ら短 文 の 表 現 へ の発 展
3歳 ∼4歳
語 彙 ・品 詞 の 増 加 か ら言 語 コ ミュ ニ ケ ー シ ョ ンへ の拡 大
3歳 か ら英 語 を習 わ せ た い とい う親 の希 望 と、 そ れ を助 長 す る早 期 教 育 産 業 の 基 本 的 立 場 は、 子
ど もの母 国 語 語 彙 能 力 の増 加 とそ れ に伴 い言 語 表 現 能 力 が 急 速 に高 ま る3∼4歳
に タ ー ゲ ッ トを
絞 っ て教 育 を 開始 す る とい う もの で あ る 。 ち ょう どこ の こ ろ は 、子 ど もの 自 我 発 達 は上 げ 潮 の 時
期 に入 る 。 身 体 的 に は、 粗 大 運 動 か ら巧 緻 運 動 へ 身体 活 動 能 力 が飛 躍 的 に高 ま り、 発 達 心 理 的 に
は 「第 一次 反 抗 期 」 を経 験 す る こ ろ に 当 た り、 言 語 教 育 訓 練 へ の過 度 の集 中 は、 総 合 的 な 発 達 の
バ ラ ンス を 崩 す 危 険 を は らん で い る。 上 野 辰 美 は 、子 ど もが 外 国 語 を習 得 す る時 期 に 関 し て 、3
歳 か らの 学 習 に 反 対 の立 場 か ら次 の よ う に述 べ て い る 。 「
外 国 語 の 習 得 は 、 知 的 発 達 が急 カ ー ブ
を描 く児 童 中期(8∼10歳)に
あ た る小 学 校 ・中学 校 の 時 期 に 聞 く ・話 す とい う音 声 言 語 を 中 心
に して体 験 的 に 訓 練 して い くこ との ほ うが 、 は る か に効 果 的 で あ り永 続 的 で あ る。 … … 幼 児 期 の
段 階 で は 、 む し ろ健 康 条 件 の 確 保 や基 本 的 生 活 習 慣 の 自立 的訓 練 を徹 底 優 先 す る」 こ とが 重 要 だ
と指 摘 す る。
漢 字 の 早 期 教 育 につ い て は、1968年'よ り幼 稚 園 で 試 み られ た 「石 井 式 漢 字 教 育 」 が よ く知 られ
て い る 。 こ れ は 、 漢 字 とい う もの は む ず か しい もの 、 子 ど も に は理 解 で きな い もの と い う 通 念 へ
の疑 義 か ら始 ま る。 石 井 勲 に よれ ば次 の 通 りで あ る 。 「記 憶 の 仕 方 に は 、 論 理 的 な記 憶 の 仕 方 と
機 械 的 な 記 憶 の 仕 方 が あ って 、 機 械 的 な記 憶 は3∼4歳
の幼 児 期 が 最 高 で 、 こ の 時 期 を過 ぎ る と 、
あ とは 衰 え る 一 方 だ と言 わ れ るが 、 言 葉 や 文 字 は 、 論 理 的 な 記 憶 よ りも主 と して機 械 的 な 記 憶 に
よ っ て い る の で 、 と くに よ く使 わ れ る言 葉 や文 字 は幼 児 期 に 環 境 か ら 自然 と吸 収 させ る よ う に配
慮 す る の が い ち ば ん い い 方 法 で あ る」。 「日常 生 活 を成 り立 た せ る`言葉 や そ れ に 関連 の あ る`文字'
な ど は理 解 して覚 え る 段 階 に入 る 前 の 、 何 で も吸 収 す る幼 児 期 に で きる だ け 覚 え させ た 方 が よ
一66一
い 」。 石 井 は 、 当 時 、 小 学 校6年 用 の 教 科 書 で 出 て く る 「腹 」 「
胸 」 「肩 」 「背 」 「宇 宙 」 「内 閣 」
「県 庁 」 「郵 便 」 「裁 判 」 「警 察 」 な どの 漢 字 を3∼4歳
児 が 難 無 く覚 え る事 実 を挙 げ て い る
。
音 楽 の 領 域 で は 、 か つ て 松 本 音 楽 院 の 鈴 木 鎮 一 が 幼 児 の 音 楽 教 育(と くに ヴ ァイ オ リ ン教 育)
に早 期 教 育 の 考 え を導 入 して 以 来 、 数 々 の試 み が な さ れ て き て い る 。
作 法 で は、 例 え ば、 フ ラ ンス 料 理 の 作 法 と い うの が あ る 。3歳 児 を対 象 に して 料 理 店 が 「チ
ビ ッ子 テ ー ブ ル マ ナ ー」 を開 催 して い る(1991年 よ り、 宮 崎 市)。2時 間 の 講 習 が 組 まれ 、 ワ イ
ンの代 わ りに ジ ュ ー スが 出 され た ほ か は 成 人 の 場 合 と 同様 で あ っ た 。 お しぼ りが 出 され 、 ス ー プ 、
魚 料 理 、 肉料 理 、 デ ザ ー ト、 パ ンが 供 され 、 ナ イ フ と フ ォー クで 食 事 す る。 つ い で な が ら、 一 般
家 庭 調 理 メ ー カ ー 川 嶋 工 業(関
市)は
、 子 ど も の た め の 調 理 道 具 「台 所 育 児 」 を発 売 し(1993
年)、 以 来 、 売 れ 行 きは 好 調 だ とい う。 内 容 は包 丁 、 お た ま、 キ チ ン ば さみ 、 フ ライ 返 し、 ボ ウ
ル な ど20品 目 で 、 子 ど も用 に使 い や す く して あ る とい う。
母 親 か ら 「作 法 」 を習 う と、つ い ふ だ ん の わが ま まが で る と考 え た の か 、 講 師 の 自宅 で作 法 の
レ ッス ン を受 け る もの も出 て きて い る。
昨 今 の こ う した早 期 教 育 の 進 展 の 背 景 に は 、 大 き く次 の2つ
①
の要 因 が あ る よ うに 思 わ れ る 。
独 身 時 代 にい わ ゆ る 「Hanako世 代 」 と して余 暇 か ら仕 事 まで 目 一杯 自 己実 現 して き た 時代
の 若 い 母 親 た ち は 、 育児 で もそ れ を生 活 の楽 しみ の一 つ とみ なす 感 覚 を もち続 け た 。彼 女 た ち に
と って は 、子 ど もは ペ ッ トを育 て る よ う な感 覚 で あ る か も しれ な い 。 あ るい は 、 ブ ラ ン ド志 向 の
強 い 親 が お気 に入 りの ア ク セ サ リー を身 につ け る感 覚 と も と ら え られ る。 子 育 て を通 して 自 らの
願 望 を表 現 す る、 い わ ば 「自`子'実 現 」 の様 相 が み られ る。
②
学 習 ・教 育 産 業 や ゲ ー ム機 メ ー カ ー が 幼 児 教 育 産 業 分 野 を営 業 の ター ゲ ッ トに据 え る よ うに
な っ た 結 果 、全 体 と して子 ど もの 数 が 減 って い る に も か か わ らず 、 市 場 の拡 大傾 向 が み られ る。
例 え ば福 武 書 店(現
ベ ネ ッセ ・コ ーポ レ ー シ ョ ン)、 公 文 、 セ ガ 、 セ シ ー ル な ど各 分 野 の企 業 の
営 業 努 力 が 早 期 教 育 の進 展 を もた ら して い る。
3早
期 教 育産 業 の新 展 開
業 務 用 ゲ ー ム機 最 大 手 の セ ガ ・エ ン タ ー プ ラ イ ゼ ズ(東 京 都 大 田 区)は
幼児用 知育 コ ンピュー
タ玩 具 「PICO」
社 は、0歳
を年 間30万 台 販 売 し、 売 れ行 き好 調 と評 価 さ れ て い る(1994年)。
∼1歳 児 を対 象 に した 英 才 教 室 とIQ開
また、同
発 教 室 を 開設 して い る。 そ こで は教 師がAB
Cや 足 し算 の 歌 を歌 う と、 そ れ に合 わ せ て 、 母 親 に抱 か れ た 乳 幼 児 が 教 材 の カ ー ドを指 した り、
め くっ た りす る光 景 が み られ る。
大 手 書 店 の 福 武 書 店(岡
山市)は 絵 本 、 ゲ ー ム 中心 の ワ ー ク ブ ック やCDを
信 教 育 「こ ど もち ゃれ ん じ」 を 開始 した(1988年)。
5・6歳
コ ー ス は3・4歳
教 材 と し た幼 児 通
児 向 け 、4・5歳
児 向 け、
児 向 け の3コ ー ス で 受 講 料 は 月 に約1500円 で 、書 店 発 表 の受 講 者 数 は32万 人 に 及 ぶ 。
公 文 教 育 研 究 会(東
京 都 千 代 田 区)は0歳
か ら6歳 児 向 け の 通 信 教 育 を開 始 した(1990年)。
0歳 で は、 童 謡 ビ デ オ で 言 葉 を吸 収 させ 、2∼3歳
習 をす る。5∼6歳
ま で に小 学 校1年
で ひ らが な ・数 字 の 読 み や 鉛 筆 で 線 を引 く練
前 期 ま で の 国 語 ・算 数 を学 習 す る 。
女 性 用 衣 料 品 の 通 信 販 売 最 大 手 の セ シ ール(高 松 市)は
、0歳 か ら6歳 児 向 けの 通 信 教 育 の 新
分 野 に進 出 した 。
各 社 で 共 通 す るセ ー ル ス ポ イ ン トは 、 詰 め 込 み や 「英 才 教 育 」 で は な く、 い わ ば 遊 び の延 長 線
で 、 教 材 を楽 しみ な が らい ろ い ろ な経 験 を も たせ て 、 好 奇 心 や探 求 心 を刺 激 す る こ と に お か れ て
一67一
い る。確 か に 、 教 材 が 用 意 す る学 習 プ ロセ ス は 、発 達 の 段 階 に合 わ せ て きめ細 か く工 夫 され 、 段
階 的 に能 力 を引 き 出 す 努 力 が み られ る。
しか し 一 方 、 幼 児 教 材 の 高 額 化 も進 ん で い る。 「家 庭 保 育 園」 や 「す じみ ち学 習 」 な どの 教 材
セ ッ トが 約25万 円 、 デ ィズ ニ ー の英 語 教 材 が30∼40万 円 とな って い る 。教 材 セ ッ ト販 売 の 言 葉 巧
み な売 り込 み に不 本 意 に購 入 して し ま う ケ ー ス もみ られ る。 これ ら幼 児 教 育 教 材 の 人 気 は、 幼 児
教 育 へ の 親 の 関心 の 高 さ に加 え て 、 親 が 学 習 を動 機 づ け な くて も子 ど もの ペ ー ス で 繰 り返 しの 学
習 が 可 能 で あ る と こ ろ に あ る よ う に思 わ れ る。 しか し一 方 で 、 子 へ の 早 期 教 育 が 、他 の親 との 比
較 で 、 人 に遅 れ は しな い か とい う不 安 心 理 か ら開 始 され る傾 向 もあ り、 親 の教 育観 の 確 立 過 程 で
の 問題 を は らん で い る。
企 業 で は な い が 、 財 団法 人 日本 英 語 検 定 協 会 が 主催 す る英 語 検 定 で も世 間 の 早 期 教 育 へ の 関心
の 高 さが 反 映 され た結 果 が で て い る 。 英 語(外
国 語)が
中学 校 の 教 科 に入 って くる こ と を考 え れ
ば 、 そ れ 以 前 に 英 語 の学 習 に入 る の は 、 早 期 教 育 の 一 つ と見 な せ る。 小 学 生 で の英 語 学 習 に は 、
親 の 根 強 い 要 望 が 見 られ る。
同 協 会 が 主 催 す る 実 用 英 語 検 定5級
の 小 学 生 受 験 者 は5万9000人
1987年 当 時 の7倍
に相 当 す る 。 また 、1994年 に第1回
生 ・幼 児 対 象)で
は 、 約2万
で(平
成5年
度)、 こ れ は
の検 定 が 行 わ れ た 児 童 英 語 技 能 検 定(小
学
人 の 受 験 者 が あ った 。 現 在 は、 こ の学 習 効 果 の 中長 期 的 な効 果 を積
極 的 に評 価 す る立 場 と、 実 用 的 な 意 味 で 効 果 の 減 退 を指 摘 す る立 場 が 並 立 して い る。
4早
期 教 育 の 問 題 点、
「バ リ ウ ム言 葉 」 とい う流 行 語 が あ る。 親 が 子 ど も に連 発 す る 「○ ○ ち ゃ ん の た め だ か ら」 の
言 葉 の 果 て に 、 否 応 な く子 ど もは親 の 恣 意 を嚥 下 す る こ とに な る。 言 わ れ た ら飲 ま な い わ け に は
い か な い バ リ ウ ム に 由 来 す る。 そ の結 果 、 子 ど も は短 期 的 に は、 強 度 の ス ト レス や体 の 異 常 を訴
え る こ と に もな る。 また 、 中 長 期 的 に は、 周 囲 の こ とへ の 関 心 の 減 退 や 、 や る意 欲 の 喪 失 な どの
問 題 群 が 生 じ る。 中 長期 的 な時 間経 過 の 中 で は 因 果 関係 は把 握 しに くい が 、 今 日の状 況 で は 、 早
期 教 育 が 遠 因 の 一 つ とな る と思 わ れ る子 ど もの 「お か しな 」 行 動 が 観 察 され て い る。 例 え ば 「お
ぼ ろ っ子 」 「ぐ に ゃ」 「ゲ ル」 「無 行 少 年 」 「ア チ ャ子 」 な どの 命 名 例 が そ れ で あ る。
「お ぼ ろ っ子 」 は、 飛 ん で い る 虫 や ボ ー ル を避 け る こ とが で き な い子 。 運 動 不 足 、 遊 び体 験 の
不 足 、 テ レ ビ画 面 の 見 過 ぎな どが 原 因 と考 え られ る 。 「ぐ に ゃ」 「ゲ ル 」 は 、 関 心 が ど こに あ る の
か 、 身体 的 に も ダ ラ ッ と して と ら え所 が な い 子 を い う。 幼 児 期 の 自発 的 な遊 び経 験 の不 足 が 懸 念
さ れ る。 「無 行 少 年 」 は、 保 坂 展 人 の命 名 とい わ れ るが 、 や りた い こ と を 我 慢 し、 や が て 自分 が
何 をや りた い の か もわ か らな くな っ て し ま う子 ど も を い う 。 大 人 の 心 理 的 ・身 体 的 支 配 が 続 く中
で 、 親 へ の 反 抗 を含 む 非 行 の エ ネ ル ギ ー す ら失 わ れ て し ま った 状 態 で あ る 。 「ア チ ャ子 」 は 「ア
ダ ル ト ・チ ャイ ル ド」 の 略 か 。 大 人 の 心 や 立 場 を先 取 り した 物 分 か りの い い子 ど も をい う 。 自 ら
の 内 部 に感 情 を押 し込 め て しま う タイ プで あ る。
幼 児 教 育 の 過 度 の適 用 で 、 さ ま ざ ま な弊 害 が 指 摘 さ れ て い る。 あ る3歳 児 は 、 保 健 所 の 健 診 で
名 前 を聞 か れ た だ け で 嘔 吐 して し ま った 。 母 親 に よ る と、 私 立 幼 稚 園 受 験 の た め 進 学 教 室 に通 わ
せ て い た とい う。 問 診 と受 験 を 間 違 え た よ うだ 。 ま た 、 あ る幼 児 は 受 験 に失 敗 し た後 、 一 時 的 に
口が きけ な くな った とい う。 この 他 に も、感 情 の表 現 が 極 端 に少 な い、 原 因 不 明 の熱 が で る 、全
身 が だ る い 、 全 身硬 直 が お きる 、 頭 痛 ・め ま いが す る な ど 、言 葉 にで な い 身 体 表 現 の例 が み られ
る。 目に み え な い ス トレス が 「よい 子 」 を演 じる代 償 と して 蓄積 さ れ て い る と思 わ れ る。 子 ど も
一68一
は 「子 ど も」 で あ って 、 「小 さ な大 人 」 で は な い 。 乳 幼 児 期 の 子 ど もの 発 達 段 階 の全 て の 過 程 を
通 じて 、 発 達 の 自然 な欲 求 に耳 を傾 け た 謙 虚 な対 応 が い ま求 め られ て い る よ う に思 わ れ る 。 母 親
の 育児 不 安 と根 づ よい 受 験 社 会 の 体 制 の 中 で 、 早 期 教 育 は こ れ か ら も増 加 す る こ とが 予 想 され る
が 、 子 ど もの トー タル な発 達 か らみ て 、 そ の 功 罪 の論 議 が 引 き続 き必 要 に思 わ れ る。
引用 及 び 参 考 文 献
・飯 島篤 信 他偏 『
児 童 学ハ ン ドブ ック』1973、 朝 倉 書 店 、 と くに森重 敏 執筆 の 「
優 秀 児 の教 育 」(258-259頁)
・深 谷 昌志 他偏 『
現 代 子 ど も大 百科 』1988年 、 と くに松 波和 子 他 執筆 の 「
早 期 教 育 」(1084-1085頁)
・村 山 貞雄 監 修 『
幼 児 保 育学 辞 典』1980年 、391頁 、 明 治 図書
・保坂 展 人 「`お受 験 ブー ム'の危 な い親 子
早期 教 育が 子 ど もを ダメ にす る」 『
諸 君 』1994年12月 号
・上 野辰 美 『
幼 児 の しつ けQ&A』1984年
、101-102頁
こ こで 差 が つ く3歳 まで の育 て 方』1991年 、4∼5頁
、KKベ ス トセ ラー ズ
・石 井勲 『
漢 字 に よる才 能 開発3歳
か らの漢 字 教 育』1970、1∼2頁
、15頁 、18頁 、 講 談社
・七 田眞 『
赤 ち ゃん は天才
・鈴 木鎮 一 『
鈴 木 メ ソー ドに よ る幼 児 の能 力 開発 』1970 、4頁 、10頁 、 三省 堂
・以 上 の他 、 東 京読 売 新 聞社 、 日経 流 通 新 聞 、朝 日新 聞の記 事 を参考 に した 。
[付記]こ
の研 究 ノ ー トは、 「
平 成6年 度文 教 大 学 共 同研 究」 と して、 子 ど も文化 に 関す る研 究 を人 間科 学 部 ・
角 田巌 氏 と共 に進 め た結 果 の一 部 を記 載 す る もので あ る。 また、 関連 文 献 の 検 索 で は文 教 大 学 図 書 館 の鈴 木正 紀
氏 に と くに お世 話 に な った 。
一69一
Fly UP