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特集
地域に根ざした観光情報を音声ガイドとして
容易に提供できるサービス
A Service for Easily Providing Local Sightseeing
Information as an Audio Guide
要
旨
富士ゼロックスが2013年7月に商品化した「観光
音声ガイドサービス」は、スマートフォンのGPSによ
る位置情報を利用し、あらかじめ指定したガイドポイ
ントに来た観光客に対し、自動で音声による観光ガイ
ドを再生するサービスである。我々は約3年間、延べ
10か所の観光地での実験を通して、観光客に高い満
足を与える観光ガイドの提供方法を研究開発してき
た。また実験を通じてスマートフォンアプリケーショ
ンだけでなく、ガイドコンテンツの制作支援の重要性
が明らかになったことを受けて、観光ガイド提供者が
自ら手軽に観光ガイドコンテンツを作るための制作
支援サービスをクラウド環境に構築し提供する。これ
により、まるで地元の人が一緒に歩いてガイドしてく
れているような高品質な観光ガイドを観光客に提供
することができるようになる。本稿では本サービスの
コンセプト、システム、実証実験の成果、今後の展開
に関して述べる。
Abstract
執筆者
上野 裕一(Yuichi Ueno)*1*2
服部 宏行(Hiroyuki Hattori)*1*2
島田 裕平(Yuhei Shimada)*1*2
植田 学(Manabu Ueda)*1*2
*1
*2
研究技術開発本部 コミュニケーション・デザイン・オフィス
(Communication Design Office, Research &
Technology Group)
新規事業開発部 事業開発センター
(Business Development Center, New Business
Development)
富士ゼロックス テクニカルレポート No.23 2014
Fuji Xerox’s Audio Guide Service, which was
released as a product in July 2013, detects when a
tourist approaches a pre-specified point by retrieving
location information using a smartphone’s GPS and
automatically plays audio tour guide content. Through
conducting experiments at 10 tourist destinations over
the course of approximately three years, we
researched and developed a way to provide a tour
guide service that would give tourists a high level of
satisfaction. Through these experiments, it became
clear that it was important for us to provide not only
the smartphone application itself but also support for
the creators of guide content, so we developed a
cloud-based support service that allows tour guide
service providers to easily create content themselves.
This makes it possible to provide tourists with a
high-quality tour guide service that makes them feel
almost as if they are being shown around by a local
resident. This paper describes the service’s concept,
its system, the results of our field tests, and future
development.
25
特集
地域に根ざした観光情報を音声ガイドとして容易に提供できるサービス
1. はじめに
ICTによるモバイルサービスと人間による観光
案内人の2つのサービスがあることがわかった。
日本では国策として観光立国を目指すさまざ
しかし、これらのサービスは以下のように、観
まな施策が打たれている。また各観光地におい
光客および観光事業者のニーズを満たしていな
ても観光を軸とした地域活性化を模索するなど、
いことがわかった。
観光への取り組みは近年特に活発になってきて
いる。このような状況に応じて、富士ゼロック
a)モバイルサービスは、屋外では特に画面が
スは「観光音声ガイドサービス」を2013年7
見づらくシニア層には使いづらい。操作が
月に商品化した。本論文では、
「観光音声ガイド
面倒なため端末に気を取られる。また、プ
サービス」のコンセプト、システム、および実
ル型サービスのため観光物の見落としが起
証実験の状況やそこからわかったこと、今後の
きる。
→ニーズ②③⑤⑦の未実現。
展開について述べる。
2. 観光ガイドサービスの課題
2.1
観光客のニーズ
平成24年度観光白書によれば、国として観光
客の多様化する趣味趣向性に応えるえるために、
b)観光案内人は、高品質なサービスを提供で
きるが団体やグループ行動が比較的多く、
自律的に自由に観光したい人にはそぐわな
い。また、観光案内人ごとに知識やスキル
のバラツキがあるとの意見もあった。
→ニーズ①⑧の未実現。
グリーン・ツーリズムや文化・産業観光の推進
などニューツーリズムに関する施策が数多く打
たれている1)。
2.3
提供価値の設定
富士ゼロックスでは独自に観光客のニーズを
前述のニーズ①から⑦に対応して、以下の5
Webアンケート(1,000名規模)で調査し、ま
つの提供価値を設定した。ニーズ⑧については
た観光客へのサービス提供者である観光協会や
サービスを提供するシステムを実現し対応する。
観光事業者へのヒアリング(8件)を実施した。
(1) 自律性(ニーズ①に対応)
(2) リアルタイム性(ニーズ②と⑥に対応)
観光客に関し以下の5つのニーズを抽出した。
(3) 意外性(ニーズ③と⑥に対応)
①自由に歩いて観光を楽しみたい
(4) コンテンツ的確性(ニーズ④と⑥に対応)
②そのときにしかできない説明を聞きたい
(5) 利用容易性(ニーズ⑤と⑦に対応)
③これまでにない体験をしたい
④自分が知りたい情報をよりよく知りたい
⑤簡単によりよい観光をしたい
3. 観光ガイドサービスのコンセプト
3.1
サービス提供者に関し以下の3つのニーズを
抽出した。
サービスコンセプト
5つの提供価値に基づきサービスのコンセプ
トを、観光客へ意外性のある観光体験を届ける
⑥ガイド内容の更新が容易であってほしい
こと、すなわち「体験を届けるメディアサービ
⑦年齢を問わず広く提供したい
ス」と定めた。
⑧高品質なサービスを安定的に提供したい
このコンセプトを以下の3つの設計方針に
よって実現する。
2.2
既存ガイドサービスの課題
次に、サービス提供者がすでにどのような「観
1)音声を主体としたガイドサービス
光ガイドサービス(観光中の利用を想定したも
表示画面での情報提供は極力避け、音声を
の)」を提供しているかについて、観光事業団体
主体としたオーディオ情報を提供する。こ
や自治体に対してインタビュー調査したところ、
れによって、
(3)意外性の向上を目指す。
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富士ゼロックス テクニカルレポート No.23 2014
特集
地域に根ざした観光情報を音声ガイドとして容易に提供できるサービス
2)指定位置で自動的にコンテンツを提示
あらかじめ指定した位置で、観光客の位
置を自動検出することでコンテンツを
プッシュ配信する。これによって、(1)
自律性、(5)利用容易性を実現すること
を目指す。
3)登録/更新が容易なコンテンツ制作ツール
特別なスキルがなくても容易にコンテン
ツを制作更新できるUI設計と、更新され
たコンテンツを容易に提供できる技術選
択を行う。これによって、(2)リアルタ
イム性、
(4)コンテンツ的確性を目指す。
4. 観光音声ガイドサービスの実装
4.1
サービスモデル
「観光音声ガイドサービス」は、地方自治体・
図1
音声ガイド提供機能
The audio guide feature
委託を受けて、音声ガイドコンテンツをデジタ
ルコンテンツ配信サービスに登録する。コンテ
ンツは富士ゼロックスの配信用サーバーにて配
信を行う。
観光協会・地元のNPO団体などの地域振興パー
トナーをターゲットユーザーとしている。現行の
4.2
音声ガイド提供機能
サービスモデルでは、クラウド上で以下のサービ
音声ガイドの技術的な提供機能について述べ
スを提供し、観光客に対し専用スマートフォン端
る。本サービスでは、観光客に観光音声ガイド
末を貸し出すサービスを提供可能とする。
サービスアプリをあらかじめインストールした
1)コンテンツ制作サービス
GPS機能付き専用スマートフォンを貸し出し、
ユーザーが音声、音楽、画像などを組み
そのスマートフォンを持って観光することで自
合わせたガイドメッセージを作成できる。
動的に音声ガイドが提供される(図1)。コンテ
2)音声ガイドソフト配信サービス
ンツ制作ツール上で指定したガイドポイントを
コンテンツ制作ツールからコンテンツと
中心に半径20m以内で端末が検出されると、指
ともに配信され、ユーザーはコンテンツ
定した音声コンテンツが再生される。
とともに専用スマートフォン端末にイン
ストールできる。
再生される音声コンテンツは前半パートと後
半パートの2つに分けて設定することができる。
サービスがすべてクラウド上で提供されるの
たとえば、前半にはこれからガイドする内容を
で、ユーザーはクラウド環境にアクセスするイ
簡単に説明し興味を喚起する内容を設定する。
ンターネット回線、PC、観光客に貸し出す専用
前半パート終了後に後半パートを聞くかどうか
スマートフォン端末を用意するだけで、音声ガ
選択する画面が現れた後、後半パートを聞くこ
イドサービスを開始することができ、初期投
とを選択すると、より詳細なガイドが再生され
資・維持コストを抑えることができる。
る。これによって、前半パートを聞いてあまり
今後の計画としては、音声ガイドソフトおよ
び音声ガイドコンテンツを、アップル社による
App Store
SM
興味のないコンテンツであることがわかれば、後
半パートを聞かずに観光を続けることもできる。
やGoogle社が運営するGoogle
また、本サービスでは、音声ガイドとともに
Play などの、
デジタルコンテンツ配信サービス
複数枚の画像を表示することができる。たとえ
を用いて配信し、観光客が所有するスマートフォ
ば、観光中に「赤い鳥居をご覧ください」とい
ンにアプリやコンテンツを観光客自身がダウン
う音声ガイドが再生されたときに、どれがこれ
ロードできるサービスモデルを計画している。
から案内される対象の鳥居かわからないことが
TM
この場合、富士ゼロックスは、ユーザーから
富士ゼロックス テクニカルレポート No.23 2014
ある。特に海外からの観光客にとっては鳥居と
27
特集
地域に根ざした観光情報を音声ガイドとして容易に提供できるサービス
いう言葉から対象をイメージできない場合があ
い観光ガイドは屋外だけではなく、屋内の観光
る。この場合、鳥居の画像を表示しながら「こ
ポイント(美術館や武家屋敷など)があり、屋
の写真の鳥居が見つかりましたら続きをお聴き
内と屋外とのシームレスな音声ガイドサービス
ください」と案内することで観光対象をはっき
も望まれている。これに対して本サービスでは
りと認識したうえでガイドを聞くことをサポー
屋内ガイドモードという機能を提供している。
トできる。
GPSデータの取得できない屋内であっても
観光ポイントによっては、移動して来る方向
ガイドを再生することが可能である。具体的に
によって説明内容を変えることが望ましい場合
は屋内のガイド対象に接続する屋外ポイント
がある。たとえば、ある神社に向かうときに再
(建物の入口等)にコンテンツを設定し、その
生するコンテンツと帰るときに再生するコンテ
コンテンツを再生すると番号選択モードという
ンツを変えたい場合などである。また、徒歩で
屋内対応機能に移行するかどうかを観光客に尋
観光している場合とレンタサイクルなどに乗っ
ねる。屋内対応機能に移行した場合、端末の画
て観光している場合とで、案内の対象や案内す
面は番号選択モードとなり、画面に表示される
るタイミングを切り替えてガイドしたい場合が
複数の番号ボタンから観光客が聞きたい対象の
ある。たとえば、徒歩のときには道端のお地蔵
番号を押すことで屋内でも任意に音声ガイドを
さんの案内を再生し、自転車のときは少し離れ
聞くことができる。
た建物や山河の説明をするなどである。本サー
ビスではGPS座標だけでなく、来た方向や移動
4.3
音声ガイドコンテンツの制作環境
速度によって再生されるコンテンツを個別に設
音声ガイドのコンテンツ制作ツールは、PCか
定できるため、観光客の状況に即したガイドを
らインターネット経由でアクセスし利用できる
自動的に選択して再生することが容易にできる。
クラウド上のWebアプリケーションである。
ユーザーである自治体や観光協会が提供した
ツールがクラウド環境で提供されるため、イン
©
図2
28
コンテンツ制作ツールのユーザー・インターフェイス
The user interface of the content editing tool
Copyright 2014 ZENRIN CO., LTD.(Z14LE第494号)
富士ゼロックス テクニカルレポート No.23 2014
特集
地域に根ざした観光情報を音声ガイドとして容易に提供できるサービス
ターネット回線とPCを用意すれば利用できる
ツール上で制作した音声ガイドコンテンツは、
ことから、地方自治体・観光協会・地元のNPO
Excel形式でダウンロードできる。ダウンロー
団体などの地域振興パートナーに属する多岐に
ドしたExcel形式のファイルは再びアップロー
わたる制作者が、共同でコンテンツの作成・メ
ドすることができ、コンテンツ制作ツール上で再
ンテナンスを行えるようになる。
度編集することができる。Excel形式のファイル
コンテンツ制作ツールの画面を図2に示す。
を直接編集することで、オフラインでコンテンツ
音声ガイドコンテンツ制作者は、電子地図上
を追加するなどの修正を行うことも可能である。
で音声ガイドを設置するガイドポイントの位置
完成した音声ガイドコンテンツは、音声ガイ
を対話的に定める。次に、当該ガイドポイント
ドソフトと組み合わせたパッケージファイルと
において再生される音声ガイドメッセージをテ
してダウンロードできる。ダウンロードされた
キストにより入力する。
パッケージファイルを専用スマートフォンにイ
音声ガイドメッセージは前半パートと後半
パートを分けて入力することができる。さらに、
ンストールすることで、観光客への貸し出しが
可能になる。
「ポーズを入れる」フラグをONにすることで、
前半パート再生後に後半パートを聞くかどうか
を選択できるように指定し、OFFにすることで
後半パートが自動的に再生されるよう指定する
ことができる。
音声ガイドコンテンツ制作者が、テキスト
5. サービス実証実験
5.1
コンセプト検証実験
3.1節で述べたサービスコンセプトを検証す
ることを目的として、プロトタイプを開発した。
データで音声ガイドメッセージを入力すると、
このプロトタイプでは、あらかじめ指定したガ
ツール内の音声合成機能によって音声データに
イドポイントで端末が検出されると、そのガイ
変換される。音声合成機能がサポートする言語
ドポイントに対応した音声ガイドが自動再生さ
は、日本語、英語、中国語(標準語)、韓国語の
れる機能のみを実装した。
4言語である。
本プロトタイプを用いて実証実験を行い、
音声合成されたメッセージは、ツール上で
2.1節で述べた5つのニーズがどの程度達成さ
メッセージごとにプレビュー再生することがで
れるのかを調査した。実証実験場所の選定にお
き、発音などを調整することができる。音声合
いては、過去の観光経験の影響を排除するため
成機能を使用することで、声優等による肉声を
に、過去にその観光地を訪れたことがない人、
使用する場合に比べ、制作期間の短縮・制作コ
さらには2.1節で観光協会や観光事業者がニー
ストの削減が可能となり、コンテンツの更新頻
ズとして挙げたICTによるモバイルサービスを
度を高めることができる。
好まない50歳以上の男女34名を選定し実施し
その一方で、音声合成機能だけではなく、実
た。上記34名に、プロトタイプをインストール
際の肉声を設定することもできる。たとえば音
したスマートフォン端末を持ってもらい、指定
声合成では表現しづらい地域の方言や民謡など
した範囲を自由に45分間観光してもらい、その
を肉声で入れることで、より効果的に観光客に
後アンケート調査を実施した。アンケート調査
ガイド内容を印象づけることができる。
では、本サービスを今後利用したいかどうか(利
音声ガイドメッセージの再生時に同期させて
用意向度合い)と、2.1節で述べた5つのニーズ
音声や画像を再生・表示させる機能を備え、音
に対する達成度を尋ねた。その結果次のことが
声ガイドメッセージに演出を加えるなど、音声
わかった。
や画像による説明を補助することができる。た
1)約94%(34人中32人)が本サービスを
とえば、ガイドポイントで聞くことのできる鳥
利用したい、またはやや利用したいと回
の鳴き声や鐘の音を再生したり、自治体の持つ
答した。
オリジナルの画像を表示したりすることで、そ
のガイドポイント固有の体験を演出できる。
富士ゼロックス テクニカルレポート No.23 2014
2)5つのニーズの達成度に関しては、「②そ
のときにしかできない説明を聞きたい」
29
特集
地域に根ざした観光情報を音声ガイドとして容易に提供できるサービス
以外の4つのニーズに対して60%以上の
2)本サービスの満足度を尋ねた結果、
「大変
満足」、「満足」、「やや満足」との回答が
かたが達成できたと回答した。
77人中76人であった。また、
「大変満足」
3)5つのニーズの達成度合いが高い人ほど、
という回答は28人(36.4%)であった。
本サービスの利用意向度合いも高い傾向
にあった。
なお、
「ニーズ②そのときにしかできない説明
サービスの利用意向度合いと満足度ともに非
を聞きたい」に関しては、プロトタイプで用意
常に高く、
「とても使いたい」または「大変満足」
したコンテンツがリアルタイム性の低いコンテ
との回答も1/3を超えている。この結果からわか
ンツであったことが要因であり、現在もリアル
るように、本サービスは大磯町の魅力を伝える
タイム性の高いコンテンツ制作に関して検討を
サービスとして十分効果を発揮できたといえる。
継続している。
本実証実験により提供価値の有効性が確かめ
られた。
11月26日以降は、貸出状況やサービスの価
格受容性の確認を行った。実証実験中の端末の
貸出/返却処理などの運用業務は、観光案内所
また、端末の重量は、落下防止のケースを含
の窓口担当者が実施した。運用に関しての課題
め160gであり、当時は軽量であると判断した
はなく、各地の観光案内所で取り扱える可能性
が、アンケート調査では、大きすぎる76%、重
が高いことを確認できた。
い70%という結果となり、長時間観光するうえ
ではさらに携帯性を高める必要があることがわ
かった。
5.3
震災復興支援としての活用
東日本大震災後、当社従業員ボランティアに
よる砂浜の清掃などを通じて継続支援してきた
5.2
神奈川県大磯町での実証実験
コンセプト検証実験の次のステップとして、
宮城県気仙沼市大島では、東北被災地で2012
年度唯一の海開きが行われた。当社では復興の
大磯町観光協会の協力を得て観光音声ガイド
象徴ともいえるこのイベントを盛り上げるため、
サービスの実証実験を行った。端末は120gの
観光音声ガイドサービスを導入した。
軽量な機種を選択し、音声ガイド数も60か所と
充実させた。
導入の準備では、10名程度の当社ボランティ
アが島内を取材し、コンテンツ制作ツールを
実証実験は2010年10月20日から2011年
使って約140か所の音声ガイドコンテンツを1
3月14日の約5カ月間実施し、述べ308名の利
週間程度で作成した。各観光地での実証実験を
用があった。利用者の内訳は、50歳以上が75%
通じて改良してきた本サービスを復興支援ツー
であった。男女比では女性が全体の60%であっ
ルの1つとして活用できた事例である。
た。本実験を通じてサービスの価値検証と運用
に関する課題を抽出した。
サービス導入後に気仙沼大島で開催されたイ
ベントで本サービスを提供し、参加者にアン
サービスの価値検証は、利用者が無料で3時
ケート調査を実施した。47件の回答の内、約
間程度サービスを体験した後に、端末返却時に
91%が大変満足、満足、やや満足と回答してお
アンケートを記入する方法で2010年10月20
り、高い評価を得た。本サービスおよび活動自
日から11月26日の約1カ月間実施し、77人の
体を宮城県観光連盟から評価して頂き、宮城県
回答を得た。その結果、次のことがわかった。
の観光キャンペーンに対応した県全体の観光ア
プリケーションの開発へと繋がった。
30
1)本サービスを今後も使いたいかどうか(利
観光音声ガイドサービスは2013年10月に
用意向度合い)を尋ねた結果、
「とても使
グッドデザイン賞を受賞することができた。受
いたい」、「使いたい」、「やや使いたい」、
賞のポイントは、上記のような地域の人と観光客
という回答が77人中76人であった。ま
とのコミュニケーションを生み出す新しい仕組
た、「とても使いたい」という回答は34
みを日本各地で提供し、持続可能な社会づくりに
人(44.2%)であった。
貢献しようとする活動が評価されたことによる。
富士ゼロックス テクニカルレポート No.23 2014
特集
地域に根ざした観光情報を音声ガイドとして容易に提供できるサービス
集した。そのうち70人分についてはガイドメッ
セージ再生履歴に加えGPS履歴も記録している。
ここでは次の4つの分析を実施した。
1)音声ガイドの後半パートの再生有無とガ
イドポイントでの平均滞留時間の相関を
明らかにするため、各ガイドポイントの
平均滞留時間と後半パートの再生有無を
比較する。
2)音声ガイドの時間的な利用特性を明らか
「観光音声ガイドサービス」の紹介動画が
ご覧いただけます(冒頭部は音声がございません)。
にするため、GPS履歴の開始時刻と終了
時刻から利用時間帯および利用時間長の
5.4
外国人観光客における価値検証
分布を求める。
旅行に対する価値観の文化差を把握すること
3)音声ガイドの量的な利用特性を明らかに
を目的とし、日本、韓国、中国、米国の生活者、
するため、音声ガイド利用時間帯内に再
各110人に対し、インターネット調査を行った。
生されたガイドメッセージの数および、
旅行に求めることとして日本以外の3カ国で
ガイドポイントでの合計滞留時間の分布
を求める。
有意に高い因子として、
「現地の人々や旅行仲間
と交流すること」が抽出された。この結果から、
4)目視によって、特徴的な行動パターンを抽
外国人へサービス提供を拡大する場合は、上記因
出するため、GPS履歴を可視化し、探索
子に配慮したコンテンツ制作を今後のコンテン
的に分析する。本サービス固有の特徴であ
ツ企画方針に含める必要があることがわかった。
る、ガイドメッセージ再生履歴に着目する。
6.1.3
6. 行動分析サービス技術
6.1
6.1.1
分析結果
上記4つの分析について結果と考察を次に述
行動履歴分析技術
べる。
z 分析含意1
行動履歴分析のねらい
近年、GPS履歴を活用した観光客の行動調査
ほとんどのガイドポイントにおいて、後半
手法について多くの研究がなされ、有益な情報
パートの再生があるほうが、ない場合に比
を抽出するうえで、GPS履歴を可視化し探索的
べ滞留時間が長いが、関係が逆転するガイ
2)
に分析する手法の有効性が指摘されている 。
今後、音声ガイド利用中の観光客の行動履歴
ドポイントが8か所存在することがわかっ
た。それらは、観光客が事前に計画し知識
分析サービスを商品に組み込む予定である。大
を持って訪問する可能性の高い場所であり、
磯町での実証実験において収集した行動履歴に
後半パートによる詳しい説明を聞くことな
基づき、音声ガイドコンテンツの改善指針を抽
く長時間滞留する傾向がある場所であると
出することをねらいとした評価を行った。
推定することができる。
z 分析含意2
6.1.2
分析方法
実証実験に使用した音声ガイドソフトでは、
利用開始から終了までの時刻を30分ごとに
区切り、区間ごとの人数分布を求めた。10
ガイドメッセージ再生履歴およびGPS履歴を
時~10時半に利用開始する人数が最も多く、
記録することができる。それら履歴データに基
15時半~16時に利用終了する人数が最も
づいて、観光客の行動を分析することができる。
多い。また、利用開始時刻に対し、利用時間
ここでは、2010年11月から2011年7月に
の長さが相関する。たとえば、早い時間帯か
収集した履歴データの分析事例を紹介する。観光
ら利用開始する観光客ほどサービスを長時
客約300人分のガイドメッセージ再生履歴を収
間利用する傾向があることがわかった。
富士ゼロックス テクニカルレポート No.23 2014
31
特集
地域に根ざした観光情報を音声ガイドとして容易に提供できるサービス
つかっており、歩きからバスやタクシーな
どの移動手段に切り替えたと推定すること
ができる。また、今後、アンケートとのク
ロス分析により、行動履歴から得られる行
動特性と、観光客の年齢等のプロファイル
との相関を探れるであろう。
図3
効率的に観光地を回る例
Example of walking around the area efficiently
6.1.4
分析サービス化に向けて
ガイドメッセージ再生履歴に着目することで、
人気のあるガイドポイントの特定、ガイドメッ
セージの利用特性の把握、特徴的な行動パター
ンの抽出(プロファイルに応じた観光ルートの
抽出)が可能になることがわかった。これによ
り、観光事業者が作成した音声ガイドコンテン
ツに期待する利用特性と実際とのギャップを把
握し、施策検討に有用な判断材料を提供できる。
今後、行動履歴データの記録・収集手段の確
図4
往復行動を多く含む例
Example of walking back and forth
立、より効果的な分析手法の開発、異なるチャ
ネルから入手可能な観光客のプロファイルデー
z 分析含意3
タとのクロス分析などを進めていきたい。
平均2.52時間の利用時間内に再生された
ガイドメッセージ数は平均29個であった。
メディア連携技術
ガイドポイントにおける滞留時間の合計値
2013年秋に開催された「富士ゼロックス ソ
は平均67.7分であった。利用時間のうち
リューション&サービスフェア 2013」では、
47.2%の時間、ガイドポイントに滞留して
観 光 音 声ガイ ド サ ービス と SkyDesk Media
いた。利用開始時刻に対し、ガイドメッセー
Switch3) 、パブリックプリント 4) を連携した
ジの数および、ガイドポイントにおける滞
サービスモデルをお客様に紹介した。
留時間の合計値が、それぞれ相関すること
SkyDesk Media Switchは富士ゼロックス
から、早い時間帯から利用開始する観光客
の画像認識技術を活用し、印刷物からウェブサ
ほど多くのガイドメッセージを聞き、ガイ
イトやコンテンツへリンクするマーケティング
ドポイントに長く滞在する傾向があった。
サポートサービスである。印刷原稿にマークを
z 分析含意4
付け、マークのついた画像とそれに対応した動
観光客の行動履歴を地図上にガイドポイン
画などのコンテンツへのリンクをあらかじめ登
トの位置ともわかる形で可視化することで、
録しておくと、印刷物のマークを専用のスマホ
観光行動においていくつかの行動パターン
アプリで撮影することによって、リンク先のコ
が見いだせる可能性があることがわかった。
ンテンツにアクセスできる。
たとえば、利用時間内に再生されるガイド
32
6.2
パブリックプリントは、スーパー等の店舗、
メッセージの数が多い観光客は、
「一筆書き」
あるいは郵便局や図書館、駅等の公共の場など
のような行動パターンで、観光地を効率よ
に設置された富士ゼロックスのデジタルフルカ
く回る傾向がある(図3)。一方、再生され
ラー複合機を利用し、あらかじめパブリックプ
るガイドメッセージの数が少ない場合は、
リントセンター(データの預かり所)に登録/
往復行動を多く含む探索型の傾向がわかっ
格納された電子文書やコンテンツを、安全に高
た(図4)
。ここでは図示しないが、途中で
画質プリントとして取り出すことができるサー
移動速度に大きな変動がある行動履歴も見
ビスである。さらにこれに課金処理機能(参考
富士ゼロックス テクニカルレポート No.23 2014
特集
地域に根ざした観光情報を音声ガイドとして容易に提供できるサービス
出品)を追加することで、コンテンツの販売が
有率が急増する中、よりグローバルな音声ガイ
可能になる。フェアでは、これらを連携し次の
ド利用者に対し、高い価値の実現とその提供方
ようなサービスシナリオを紹介した。
法を検討していきたい。
観光客が観光案内所でパブリックプリントを
使って観光音声ガイドサービスの申込書と観光
マップをプリントする。そのとき、課金処理機
能によって観光音声ガイドサービスのレンタル
8. 商標について
z App Storeは、米国およびその他の国々で登録
料が支払われる。プリントされた申込書に必要
されたApple Inc.の商標または登録商標です。
事項を記入してレンタル窓口に提出し、観光音
z Google Playは、Google Inc.の登録商標ま
声ガイド端末を受け取る。またさらに、プリン
たは商標です。
ト さ れ た 観 光 マ ッ プ 上 の SkyDesk Media
z Excelは、米国Microsoft Corporationの米
Switchのマーカーを、観光客が自分のスマート
国およびその他の国における登録商標または
フ ォ ン にダウ ン ロ ードし た SkyDesk Media
商標です。
Switchのアプリを使って撮影することによっ
て、観光マップにリンクされた動画やWeb情報
z その他、掲載されている会社名、製品名は、
各社の登録商標または商標です。
にアクセスすることができる。
音声ガイドとクロスメディアの連携効果は、
たとえば、鎌倉のやぶさめの勇壮なシーンや、
江の島の水上花火のシーンなど、観光客が観光
9. 参考文献
1) 国土交通省観光庁, “観光白書 平成24年
地を訪問しているときには見ることができない
度”, 日経印刷(2012).
映像を提供する場合に有効である。また、地元自
2) 矢部直人, 有馬貴之, 岡村
祐, 角野貴信,
治体において、SkyDesk Media Switchを使う
“GPSを用いた観光行動調査の課題と分析
ことによってのみアクセスできる情報をリンク
手法の検討”, 観光科学研究第3号, 首都大
することで、その観光地においてのみ入手可能な
学東京観光科学域, pp.17-30 (2010).
地元情報といった価値を演出することができる。
3) http://www.fujixerox.co.jp/solution/
skydesk/skydesk_media_switch.html
7. おわりに
[SkyDesk Media Switch (富士ゼロックス)]
4) http://www.fujixerox.co.jp/solution/
本稿では観光資源を紹介したい自治体とそこ
skydesk/skydesk_media_switch.html
に訪れる観光客が持つニーズに対応すべく開発
[パブリックプリント (富士ゼロックス)]
したサービス商品について述べた。本サービス
が提供する価値を実現するためのシステムに関
して説明し、各観光地で実施している実証実験
筆者紹介
の状況を述べた。さらに、今後の商品に組み込
上野
まれていくサービスとして、観光客の行動履歴
裕一
研究技術開発本部 コミュニケーション・デザイン・オフィス、
兼、新規事業開発部 事業開発センターに所属
専門分野:情報処理技術、システム・アーキテクチャ
データの活用や、各種メディア技術との連携に
関して述べた。
今後の事業展開の展望としては、地域住民へ
のサービス提供を検討している自治体等からの
要望もあり、地域住民向けの教育や防災、福祉、
企業向けの営業支援や保守点検支援など、音声
ガイドが効果を発揮する他分野に適用領域を広
げることを検討していきたい。また、若年層を
含めた幅広い年齢層におけるスマートフォン保
富士ゼロックス テクニカルレポート No.23 2014
服部
宏行
研究技術開発本部 コミュニケーション・デザイン・オフィス、
兼、新規事業開発部 事業開発センターに所属
専門分野:情報処理技術
島田
裕平
研究技術開発本部 コミュニケーション・デザイン・オフィス、
兼、新規事業開発部 事業開発センターに所属
専門分野:情報処理技術
植田
学
研究技術開発本部 コミュニケーション・デザイン・オフィス、
兼、新規事業開発部 事業開発センターに所属
専門分野:情報処理技術、組織分析、コミュニケーション分析
33
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SkyDesk Media Switchは画像認識技術を使ったクロスメディアサービスです。
スマートフォン/タブレットで紙から簡単に動画
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画像認識
1.撮影する
画像検索サーバー
コンテンツサーバー
2.送信
画像認識アプリの
ダウンロード
画像、動画、音声、Web、
ソーシャルメディア、
マップ等
3.コンテンツ表示
企画→制作→活用→分析、
そしてまた企画というサイクルを効率的に実践し、改善していくために必要なツールをオールインワンで
ご提供します。
管理ツール
企画
ログ分析のフィードバック結果をもとに、
クロ
スメディアの活用アイデア検討に
お役立てください。
企画
制作
ウェブブラウザ上で動作し、
紙面にマー
クを付け、
印刷データを出力するツールで簡単
にコンテンツと紐づいた紙面を作成できます。
◀印刷物を配布
検索サーバー、
スマートフォンアプリ
ログ分析
コンテンツへのアクセス履歴をリポートでき、
分析結果のフィードバックが可能。
分析
活用
コンテンツ閲覧に必要なスマートフォンアプリ
(iOS、Android)
と画像検索サーバーも
合わせて提供。
検索
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