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愛知医科大学病院 緩和ケアマニュアル

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愛知医科大学病院 緩和ケアマニュアル
愛知医科大学病院
緩和ケアマニュアル
平成 17 年 1 月作成
平成 18 年 4 月改訂
平成 21 年 4 月改訂
平成 22 年 3 月改訂
平成 24 年 11 月改訂
平成 26 年 7 月改訂
愛知医科大学病院
緩和ケアマニュアル
1.緩和医療の目的
治癒をめざした治療と並行して患者の身体的・精神的・社会的苦痛の緩和を行
う。
2.愛知医科大学における緩和医療の形態
一般病棟を中心とした院内コンサルテーション形である。
当院を退院された患者の診察は患者の状態により継続する。
3.緩和医療の諸条件
1)患者が難治の痛みに苦しんでいる。
2)患者・家族が望んでいる。
3)緩和医療チームに主治医が依頼する段階で、患者・家族に病名・症状の告
知が行われている。
4.患者の依頼手順
1)前記の緩和医療実施条件が整った段階で主治医は「緩和ケアチーム」に
外来コンサルテーションより依頼する。
2)依頼はカンファレンス開催 5 日前の 12 時までとする。また、依頼時は
カンファレンス時間調整のため必ず電話にて調整する。ただし緊急時は
5 日前を問わず電話連絡調整にて可。
3)主治医参加カンファレンス:月曜日・水曜日 8:10~8:30、木曜日 15:45
~に初診患者紹介を行う。
*初診は主治医から患者紹介の後、緩和ケアチームが関わりを持つ。
4)依頼と同時に主治医から患者または家族に緩和ケアチーム介入の旨を説
明しておく。
5)緩和ケアチームは可能なら外来で患者を診察し、今後の医療について説
明する。
6)緩和医療を終了した患者で2ヶ月以上経過後、症状の変化で緩和医療を
受診する場合、再度コンサルテーションが必要となる。
1
主治医からの
コンサルテーション
緩和ケアチームコンサルテーションに
内容記載
主治医・緩和医療チーム
提出場所:痛みセンター
合同カンファレンス
提出曜日:月~金
提出時間:8:30~11:30
患者診察
*医師以外、看護師からの相談も受け付ける。
5.薬の処方
緩和医療チームと主治医が相談し双方で処方する。
6.疼痛評価と治療方針
1)疼痛評価は病棟担当看護師が原則として毎日行いカルテに記載する。
評価は主に NRS を用いる。痛みなしを「0」最大の痛みを「10」として
体温表に記載する。
2)治療方針は緩和ケアチームへ依頼されている患者全員について話し合い
決定する。
3)外来受診患者には「痛み日記」を渡し、自覚的な痛み評価を毎日行って
もらい、受診時に評価する。
4)カンファレンス場所:痛みセンター外来
初診:毎月曜日・水曜日 8:10~8:30 主治医参加のカンファレンス
定例:毎木曜日 15:45~
*カンファレンス終了後病棟回診を行う。
*初診患者の主治医参加カンファレンスを開催する場合もある。
緩和ケアチーム・病棟看護師・主治医・担当薬剤師
*研修生がいる場合は事前に調整を行う。
7.緩和ケアチームの疼痛緩和方針
1)WHO方式がん疼痛治療にとらわれず、第 3 段階からスタートする。
2)モルヒネ製剤・オキシコドン製剤・フェンタニル貼付剤・NSAIDs
2
を使用する。
3)鎮痛補助薬の抗うつ薬・抗てんかん薬を併用する。
4)いくつかの剤形がある場合、内服薬・座薬の順序を原則とする。
終末期には持続注射も行う。
5)外来通院となった場合、状況に応じて主科か痛みセンターで緩和医療を
継続する。
8.緩和医療の実施手順
1)初期評価
緩和医療チームは診察で「初診疼痛評価」を行う。
①疼痛の性質と強さの評価
②身体的及び神経学的検査
③がんの痛みに伴う様々な診断を記載
2)継続評価
初期評価に引き続き疼痛、処方薬の効果・副作用の評価を継続的に行う。
疼痛評価は全くない「0」から最大の痛み「10」までの 11 段階数値評価
(Numeric Rating Scale NRS)を行うか、10 ㎝の線を用いた両端を「無
痛」と「最大の激痛」にして患者に「しるし」を付けさせるVAS(Visual
Analogus Scale)を採用している。
副作用評価は「吐き気」
「眠気」など全くない「0」から少しあるが気になら
ない「1」処置が必要「2」非常に強く耐えられない「3」の 4 段階評価表を
採用している。
方法としては、毎木曜日に行われているカンファレンス・病棟回診で評価す
る。
3)患者カンファレンス
患者カンファレンスは原則として毎木曜日 15:45 から行う。
カンファレンスへの参加の連絡を受けた主治医・病棟看護師は出席するもの
とする。カンファレンスの記録は痛みセンターにて保存する。
9.緩和医療の終了
緩和医療チームが患者に緩和医療を行う必要がないと判断した場合
(症状の安定・患者の死亡)
患者が退院した場合、主治医が外来で疼痛コントロールを行う場合
*主治医から依頼があれば緩和医療を継続する
3
10.現在の緩和ケアチーム構成員
医師・看護師・薬剤師・MSW で構成されている。
*構成員の任期は定めず、諸事情で参加が困難になった場合は、各所属長と
相談し構成員を変更する。
11.疼痛マネジメント
1)痛みとは
・痛みは、不快な感覚体験であると同時に感情体験であり、何らかの組織損
傷が起こったとき、組織損傷が差し迫ったとき、あるいは組織損傷に引き続
いて特異的に表現される。痛みは常に主観的な感覚である。
(国際疼痛学会)
・痛みとは、それを体験している人が痛いと訴えるものの全てである。それ
は、痛みを体験している人が痛みがあるというときはいつでも存在している
(McCaffery)
*「痛み自制内」の意味とは*
・自制:自分の感情や欲望を抑えること(広辞苑)
・「痛み自制内」という表現は、痛みがあることを意味するが、痛みの内容
も、程度も、治療の必要性も伝えていない。
・「痛みの強さはそれほどでもなさそうなので、様子を見ています」程度の
情報であるが、「それほどでもない」という内容は、患者自身が「痛みはあ
っても生活上の影響はなく、治療はこのままで十分です」という評価とはか
け離れている。
(的場元弘著:がん疼痛治療のレシピより抜粋)
⇒がん性疼痛の痛みの強さを表現するためには不適切
2)がん性疼痛の特徴
(1)がんの痛みの原因
① がん自体が原因となる痛み
がん自体が周囲の組織に広がることで生じる痛みで全体の 7 割を占める。
骨への転移による「腰痛」のように、痛む部位が比較的はっきりしている場
合もあれば、内臓にがんが広がることに伴う「腹痛」など、痛む部位が特定
しにくい場合もある。また、神経が圧迫されると「しびれ」が生じることも
ある。
②
がんの治療による痛み
手術後の傷の痛みや放射線治療、化学療法などを行った際に生じる副作用
としての痛み。
口内炎による痛みや、手や足にしびれをともなうこともある。
4
③ がんに関連した痛み
がんによる体力の低下や全身の衰弱による痛み、寝たきりで長時間同じ姿
勢でいることによる筋肉痛や褥瘡などがある。
④ がんとは直接関係のない疾患に関連した痛み
例えばもともと患者がもっていた疾患による痛みなどがある。
(2)痛みの種類
① 侵害受容性疼痛
切傷や炎症、機械的刺激などの侵害刺激によって起こる疼痛。体性痛と内臓
痛に分けられる。
・体性痛:筋、骨、皮膚、粘膜に生じる疼痛
骨転移が代表。非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)が有効。
・内臓痛:内臓に生じる疼痛
膵臓がん、肝臓がんが代表。オピオイド鎮痛薬が有効。
② 神経障害性疼痛
神経(中枢、末梢)が障害されることによって生じる疼痛。
難治性疼痛の一つであり、オピオイド鎮痛薬と鎮痛補助薬を必要とすることが
多い。
・がんの神経圧迫や浸潤
・化学療法(オキサリプラチン、シスプラチン、パクリタキセル、硫酸ビン
クリスチン、ボルテゾミブなど)の副作用
・手術操作による神経損傷
・放射線治療などがある。
5
(3)全人的苦痛(トータルペイン)
がん患者の痛みは身体的な痛みだけでなく、精神的な痛み、社会的・スピリ
チュアルな痛みが複雑に絡み合った痛みで、これをトータルペインと言う。
私達は、身体的な痛みに視点がいきがちであるが、患者は疾患を持ち苦痛を
抱えた一人の人間として捉える必要がある。
(4)痛みの閾値
痛みの閾値とは、痛みの感じ方のことを言う。閾値は人によって、あるいは
その時によって変化する。
がん患者は痛みの閾値を低下させる因子が多く、痛みを感じやすい状態にな
っている。さらに、痛みの閾値を低下させる因子は身体的な痛みを修飾し、
痛みを強く感じさせる。
看護師は、痛みの閾値を低下させる因子を最小限にし、上昇させる因子を最
大限にするケアを提供することで、患者の痛みの感じ方を変化させる事がで
き、身体的な痛みを緩和することが可能となってくる。
6
低下させる因子
上昇させる因子
•
不快感
•
睡眠
•
•
•
•
不眠
疲労
不安
恐怖
•
•
•
•
休息
理解
人とのふれあい
気晴らしとなる行為
•
•
•
•
•
怒り
悲しみ
うつ状態
倦怠
孤独感
•
•
不安の減退
気分の高揚
•
社会的地位の喪失
トワイクロス先生のがん症状
マネジメントより改変
3)痛みのアセスメント
痛みのアセスメントとは、「痛みの原因を明らかにし、痛みの治療を方向付
けるために、最もふさわしい診断や治療を考えることであり、医師、看護師
など の医療チームが共同で行うものである。」
(がん疼痛治
療ガイドラインより引用)
痛みのアセスメントは、患者の主観である痛みを客観的、多角的に把握し、
疼痛コントロールに関わる人々と共通認識し、適切な薬物療法や看護介入や
評価を行うことができる重要な情報となる。
つまり、痛みのアセスメントは効果的で適切な疼痛コントロールをするうえ
で、非常に重要なもので、適切に痛みをアセスメントすることが、患者を疼
痛から解放する第一歩になると言える。
看護師は、24時間患者の側にいるので、患者の全体像を観察しやすい職種
であるため、多角的な情報を得るために果たす役割は大きい。
(1)痛みの初期アセスメント
1.痛みの部位
がんの痛みは1つだけでなく複数の痛みを伴っていることが多い。そのため、
患者の痛みがある場所を全て確認する。
2.痛みの強さ
痛みの強さは主観的な感覚であるため痛みを客観的に評価し、患者と医療者
が共通認識をする。(代表的なペインスケールを下記に示す)
ペインスケール
7
~ペインスケール使用時のポイント~
・患者が痛みを表現しやすいものを選ぶ。
・ペインスケールは、痛みを持っている患者に答えてもらう。
・医療者が患者の痛みの強さを判断したり、誘導したりしない。
・治療前より治療後に、患者の痛みの強さがどう変化したか、現在の痛みの
治療が十分か否か判断する。
→数字の変化をとらえることが重要
3.痛みの性質
どのような痛みなのか患者の言葉で表現してもらう。(例:ずきずき、電気
が走る、びりびりなど)
痛みの性質により、侵害受容性疼痛、神経障害性疼痛などの痛みの原因を予
測することができ、鎮痛薬の選択に役立つ。
4.痛みの持続時間とパターン
どのような時間や動作で痛みが出現するか、痛みは持続性か間欠的か、1日
の中で痛みの変化はあるかなど把握する。鎮痛薬の投与時間や、日常生活の
変更を工夫する事ができる。
5.痛みの増強因子・緩和因子
痛みを増強あるいは緩和させる因子を確認する。増強因子は避けるように、
緩和因子は看護ケアに取り入れることができる。(体位の工夫、温罨法、入
浴、傾聴など)
6.痛みの日常生活への影響
痛みはQOLを著しく低下させる。痛みが日常生活にどのような影響をどの
程度及ぼしているか確認する。日常生活の援助の工夫や生活環境の調整がで
きる。
7.今までの鎮痛薬の効果
過去に使用したことがある、鎮痛薬の効果、鎮痛薬の副作用症状について把
握する。次に使用する鎮痛薬を決定する時の参考になる。
8
8.患者の希望する疼痛緩和の目標
どの程度まで痛みを和らげたいと患者が希望しているのかを確認し、患者と
医療者の疼痛緩和の目標にする。
9.精神・社会・スピリチュアルな面のアセスメント
がん患者の痛みは、身体面以外に精神面・社会面・スピリチュアルな面が痛
みの感じ方に影響を及ぼしている。トータルペインの視点から患者の痛みを
考える。
その他、病状や鎮痛薬に対する認識・医学診断的評価もアセスメント項目に
含まれる。
(2)継続アセスメント
継続アセスメントとは「疼痛緩和ケアの効果や副作用を評価し、効果的な疼
痛緩和ケアへと修正し、さらにその効果を評価するというように、疼痛が緩
和されるまで行うもの」
(がん疼痛治療ガイドライン)
1.痛みの強さ、痛みの部位・性質
2.痛みの治療の副作用
3.ペインマネジメントに対する満足度
4.鎮痛薬に対する患者・家族の受け止め方
5.精神・社会・スピリチュアルな面のアセスメントなど
4)痛みの薬物治療
(1)WHO方式がん疼痛治療法
WHO方式がん疼痛治療法に従って進める。
①
痛み治療の目標設定
患者と共に目標をたてる。
表1
痛み治療の目標の設定
第 1 目標:痛みに妨げられない夜間の睡眠時間の確保
第 2 目標:安静時の痛みの消失
第 3 目標:起床時や体動時の痛みの消失
②
鎮痛薬使用の基本原則
表2
WHO 方式鎮痛薬使用の 5 原則
9
①
経口投与を基本とする
(by the mouth)
②
時刻を決めて規則正しく投与する
(by the clock)
③
痛みの強さに応じた効力の鎮痛薬を選ぶ
(by the ladder)
④
患者ごとに適量を求める
(for the individual)
⑤
以上の 4 原則を守った上で細かい配慮を行う (attention to detail)
③ 3段階除痛ラダー
「痛み治療の目標」を達成するための鎮痛薬による具体的な方法。
表3
WHO方式がん疼痛治療法
(3段階徐痛ラダー)
Ⅲ
中等度から高度の痛み
Ⅱ
軽度から中等度の痛み
Ⅰ
軽度の痛み
強オピオイド
モルヒネ
フェンタニル
オキシコドン
弱オピオイド
弱オピオイド
コデイン
コデイン
トラマドール
NSAIDs または アセトアミノフェン
必要に応じて鎮痛補助薬
(抗てんかん薬、抗うつ薬、局所麻酔薬、NMDA受容体拮抗薬、ステロイド薬など)
的場元弘「がん疼痛治療のレシピ」春秋社より引用改変
・非オピオイド鎮痛薬を使用しても強い痛みが残存する場合は、第Ⅱ段階を
とばして第Ⅲ段階の強オピオイドを用いる。
・オピオイド鎮痛薬は、非オピオイド鎮痛薬と併用することが望ましい。
(2)鎮痛薬の使用法
<鎮痛薬での治療を始める前に>
以下のような疼痛は、薬物療法よりも神経ブロックが有効な場合があるので、
早期に緩和医療チームに相談してください。
・2~3 個以下の肋骨、胸膜腫瘍による胸部の限局した疼痛
・膵臓がんなどの上腹部の内臓痛
・直腸がんの局所再発の肛門痛、子宮がんによる陰部痛など
【非オピオイド鎮痛薬】
・NSAIDs は体性痛に効果が高く、皮膚転移痛、骨転移痛、がんの軟部組織
浸潤など、炎症を伴う痛みに有効。
例)「ズキズキ」、「うずく」、「焼けつく」などの言葉で表現される痛み。
・NSAIDs は、消化管出血が許容できる限り、オピオイドと併用する。投与
不可能な場合は、肝機能に問題がなければアセトアミノフェンを使用する。
10
・骨転移などの炎症性疼痛の場合は、オピオイドより NSAIDs のほうが有
効な場合が多い。
≪処方例≫
Rp. ロキソニン錠(60mg) 3 錠 / 分 3
消化管から吸収後に活性化されて作用を発揮するプロドラッグである
ため、直接的な胃腸障害は少ない。主に肝臓で代謝されるため、肝障害
には注意。
Rp.ハイペン錠 2 錠 / 分 2 または モービック錠 1 錠 / 分 1
COX-2 選択的阻害薬で、胃腸障害や腎機能障害が少ない。
Rp. ナイキサン錠(100mg) 6 錠 / 分 2~3
鎮痛効果は弱いが、腫瘍熱に有効であることが多い。
Rp. カロナール錠(200mg) または カロナール 20%散 2000~
4000mg / 分 4 1 日 4000mg を限度とする。
解熱、鎮痛効果は高いが、抗炎症効果はほとんどない。NSAIDs と比較
して消化管障害等の副作用を懸念することなく使用できる。腎機能への
影響は少ない。肝障害には注意。
Rp. ボルタレン sp 1 回 25mg~50mg 1 日 1~2 回
消炎、鎮痛、解熱作用は他の NSAIDs より強力。胃腸障害に注意。
Rp. ロピオン注射薬(50mg/5mL)1A+生食 50mL / 1 回 div.
がん性疼痛に用いることができる NSAIDs のうち、唯一の注射剤。
【オピオイド鎮痛薬】
・オピオイド鎮痛薬は、内臓痛に効果が高い。
例)「鈍痛」「圧迫」「締め付け」などの言葉で表現される痛み。
・少量のオピオイドから投与を開始し、痛みがあって眠気がなければ 30~
50%増量、痛みがなくて眠気が強い場合は 30~50%減量する。
・定時内服のオピオイド処方と同時に、突出痛出現時のためにレスキューオ
ピオイド(1 日投与量の 1/6~1/4 量が目安)も処方する。原則、同一成分
のオピオイドをレスキューとして用いるが、フェンタニル貼付剤にはモル
ヒネまたはオキシコドンの速放製剤やフェンタニル舌下錠を用いる。
レスキュー(速放性のオピオイド)は 1 時間の間隔を空けて投与であるが
このかぎりではない。
・オピオイドによる副作用(便秘、吐き気等)のコントロールが必要である。
具体的な方法については「オピオイドによる副作用対策」を参照。
・オピオイドの種類により、作用する受容体に違いがある。
モルヒネ・・・μ(+++)、κ(+)
フェンタニル・・・μ1 選択性が高い(+++)
11
オキシコドン・・・μ(+)、κ(+)※強さは不明
表3
オピオイド受容体の特徴
オピオイド受容体
μ受容体
μ1
κ受容体
μ2
δ受容体
鎮痛、鎮咳、多幸感、身体・ 鎮痛、鎮静、鎮咳、縮瞳、 鎮痛、情動、身
生理機能
精神依存、徐脈、消化管運動
徐脈、利尿、嫌悪感、呼
体・精神依存、
抑制、瘙痒感、尿閉など
吸抑制、身体違和感など
呼吸抑制、など
① モルヒネ
腎機能障害時には注意。呼吸困難感に対しても有効。
② フェンタニル
腎機能障害時でも使用可能。モルヒネに比べて嘔気や便秘の副作用が少ない。
フェンタニル貼付剤(デュロテップ MT パッチ、フェントステープ、ワン
デュロパッチ)を中止した場合、皮下のフェンタニルの吸収がしばらく持続
するため、半日以上(半減期 17 時間以上)の観察が必要である。そのため
開始前には、フェンタニルに反応性の痛みであるかの評価が必要である。
※ デュロテップ MT パッチ、フェントステープおよびワンデュロパッチは、
他のオピオイド製剤からの切り替えで使用
※ 経口モルヒネとの換算比は 75:1 として計算
表 4 換算比
フェンタニル経皮吸収
製剤含有量
3 日貼付型製剤
2.1mg
4.2mg
8.4mg
12.5μg/hr
25μg/hr
50μg/hr
0.3mg/日
0.6mg/日
1.2mg/日
1㎎
2㎎
4㎎
(デュロテップ MT パッチ)
フェンタニル放出速度
フェンタニル
1 日放出量
フェンタニル経皮吸収
1 日貼付型製剤
(フェントステープ)
12
フェンタニル経皮吸収
1 日貼付型製剤
0.84 ㎎
1.7 ㎎
3.4 ㎎
22.5mg/日
45mg/日
90mg/日
15mg/日
30mg/日
60mg/日
15mg/日
30mg/日
60mg/日
(ワンデュロパッチ)
モルヒネ経口剤
(中央値)
オキシコドン経口剤
(中央値)
モルヒネ坐剤
③ オキシコドン
腎機能障害時でも使用可能。オキシコドン徐放錠(オキシコンチン錠)は、
経口モルヒネに比べて、血中濃度の立ち上がりが速い。
≪処方例≫
Rp.
Rp.
アンペック sp(10mg)1 回 1 本 8 時間ごと
塩酸モルヒネ注射薬(10mg/mL)1A+生食 23mL
1mL/hr(10mg/day)から開始
シリンジポンプを用いて投与する。レスキューは 1 時間量早送りで対応。
4 時間後に効果を確認し、痛みの残存があれば 30~50%量を増量する。
Rp. オキシコンチン錠(5mg)2 錠 / 12 時間ごと
Rp. 塩酸オキシコドン注射薬(50mg/5mL)1A+生食 45mL
0.5mL/hr(10mg/day)から開始
シリンジポンプを用いて投与する。レスキューは 1 時間量早送りで対応。
4 時間後に効果を確認し、痛みの残存があれば 30~50%量を増量する。
Rp. デュロテップ MT パッチ(2.1mg) / 72 時間ごと
他のオピオイド製剤からの切り替えで使用。
Rp. フェントステープ(1mg) / 24 時間ごと
他のオピオイド製剤からの切り替えで使用。
Rp. ワンデュロパッチ(0.84mg) / 24 時間ごと
他のオピオイド製剤からの切り替えで使用。
Rp. フェンタニル注射薬(0.1mg/2mL)2A+生食 20mL
1mL/hr(0.2mg/day)から開始
シリンジポンプを用いて投与する。レスキューは 1 時間量早送りで対応。
1 時間後に効果を確認し、痛みの残存があれば 30~50%量を増量する。
【トラマドール】
・トリプルアクション(オピオイド受容体作動作用、ノルアドレナリン再
取り込み阻害作用、セロトニン再取り込み阻害作用)により鎮痛効果を示
す。
13
・WHO 方式がん疼痛治療法における 3 段階除痛ラダーの第 2 段階(軽度
から中等度のがん疼痛)に位置づけられる、非オピオイド鎮痛薬で治療困
難な疼痛において改善効果を示す。
・モルヒネと比較して、便秘等の副作用が少ない。
・麻薬及び向精神薬に指定されていない。
≪処方例≫
Rp. トラマールカプセル(25mg)4 錠 / 分 4 から開始
1 日 100~300mg を 4 回に分割経口投与する。なお、症状に応じて適宜
増減する。ただし、1 回 100mg、1 日 400mg を超えないこととする。
主な副作用は嘔気、嘔吐、めまい、倦怠感、発汗、口渇、眠気、起立性
低血圧である。
表 5 当院採用のモルヒネ、オキシコドン、フェンタニル製剤
薬剤名
投与経路
最高血中濃度
半減期
定期投与間隔
経口
0.5~1.3 時間
2~3 時間
4 時間
塩酸モルヒネ散
原末
オプソ
液
モルペス細粒
細粒
経口
2~3 時間
7~9 時間
8~12 時間
MS コンチン
錠
経口
0.5 時間
2~3 時間
12 時間
ピーガード
錠
経口
4~6 時間
22 時間
24 時間
アンペック
坐剤
直腸内
1.3~1.5 時間
4~6 時間
8 時間
-
1~3 時間
-
塩酸モルヒネ
持続静注
-
注射薬
持続皮下注
オキシコンチン
錠
経口
2~3 時間
6~9 時間
12 時間(8 時間)
オキノーム
散
経口
1.7~1.9 時間
4.5~6 時間
4~6 時間
オキファスト
持続静注
-
注射薬
-
2~4 時間
-
持続皮下注
デュロテップ MT
貼付剤
経皮
24~48 時間
21-23 時間
72 時間
フェントステープ
貼付剤
経皮
20~27 時間
―
24 時間
ワンデュロパッチ
貼付剤
経皮
20~27 時間
―
24 時間
アブストラル舌下錠
-
舌下投与
0.5~1 時間
5-7 時間
-
-
3.6 時間
-
パッチ
フェンタニル
持続静注
-
注射薬
持続皮下注
14
オピオイドローテーション
オピオイド製剤→フェンタニル貼付剤
(先行薬)オピオイド製剤
(切り替える薬剤)フェンタニル貼付剤
デュロテップMTパッチ
フェントステープ
ワンデュロパッチ
1日1回投与の経口剤
パシーフ、ピーガード
先行薬剤最終投与の12時間後にフェン
タニル貼付剤貼付
1日2回投与の経口剤
MSコンチン、オキシコンチン
先行薬最終投与と同時にフェンタニル
貼付剤貼付
1日3回投与の経口剤
MSコンチン、オキシコンチン
先行薬投与と同時にフェンタニル貼付
剤貼付し、貼付後8時間後に先行薬投
与
オピオイド持続静注
フェンタニル貼付剤貼付6-12時間後に
先行薬剤投与中止
【鎮痛補助薬】
・オピオイド抵抗性の神経障害性疼痛に対し、抗うつ薬、抗痙攣薬、抗不整
脈薬、NMDA 受容体拮抗薬などの鎮痛補助薬を使用する。
・オピオイドや NSAIDs の反応性をみながら鎮痛補助薬の併用を考慮する
が、明らかに神経障害性疼痛という診断がつく場合、早期から鎮痛補助薬
を開始する。
・鎮痛補助薬は鎮痛薬としての保険適応が承認されていないものが多い。
抗うつ薬・・・持続性の「しびれ」、
「焼けるよう」、
「つっぱる」といった疼
痛に有効。
抗痙攣薬・・・「痛みが走る」、「電気が走る」、「鋭い痛み」などの発作的に
生じる疼痛に有効。
抗不整脈薬・・・「張り痛い」疼痛に有効。
NMDA 受容体拮抗薬・・・どのような性質の疼痛に対して有効か明確では
ないが、幅広い神経障害性疼痛に対し有効である。
プレガバリン・・・末梢性神経障害性疼痛の保険適応がある。多くのガイド
ラインで神経障害性疼痛に対する第一選択薬とされている。
≪処方例≫
Rp. 抗うつ薬:トリプタノール錠(10mg)1 錠 / 就寝前 から開始
副作用として、尿閉、口渇に注意。
Rp. 抗痙攣薬:ガバペン錠(200mg)2 錠 / 分 2
腎機能障害に注意。
Rp. 抗不整脈薬:メキシチール錠(50mg)3Cap / 分 3
15
食道潰瘍の副作用が発現する可能性があるため注意。
または 静注用キシロカイン 2%(100mg/5mL)500mg / 日~開始
催不整脈作用があるため注意。
Rp. NMDA 受容体拮抗薬:ケタラール静注用(200mg/20mL)50mg / 日
~開始
麻薬扱い(平成 19 年 1 月より)のため、金庫に保管する。
あらゆる神経障害性疼痛に対して高い鎮痛効果が得られるが、悪夢の副
作用が出現しやすい。
Rp. プレガバリン:リリカカプセル(75mg)2Cap / 分 2~開始
めまい、浮腫の副作用がある。
高齢者、腎機能障害患者などは、25mg / 回 から開始することもある。
表6
当院採用の鎮痛補助薬(一部抜粋)
薬剤名
抗うつ薬
抗痙攣薬
抗不整脈薬
NMDA 受容体
拮抗薬
プレガバリン
成分名
用法・用量
アモキサン
アモキサピン
初回 25mg/就寝前~
トリプタノール
塩酸アミトリプチリン
初回 10mg/就寝前~
アナフラニール
塩酸クロミプラミン
25mg/就寝前 div.
リボトリール
クロナゼパム
初回 0.5mg/就寝前~
テグレトール
カルバマゼピン
初回 200~400mg/日~
ガバペン
ガバペンチン
初回 400mg/分 2~
メキシチール
メキシレチン
初回 150mg/分 3~
キシロカイン
リドカイン
500mg/日 div.
セロクラール
酒石酸イフェンプロジル
60~120mg/分 3
ケタラール
ケタミン
50mg/日~ div.
リリカ
プレガバリン
初回 50~150mg/分 2
5)オピオイドによる副作用対策
(1)便秘
モルヒネは小腸の運動を抑制し、特に十二指腸において腸管分泌を抑制し
内容物の粘稠度を増加させる。大腸においては駆出性の蠕動を減少もしくは
消失させ、緊張増強により結果的に内容物の通過を遅発させる。
(対策)
①
②
蠕動運動の亢進
水分の腸内での保持
≪処方例≫
Rp. パントシン散 20%
3g
/ 分3
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または
パントシン錠(30mg)6
錠 / 分3
酸化マグネシウム
1.5g
/ 分 3
または マグミット 500mg
3 錠 /
分3
作用は緩やかで、服用回数の調節により自然に近い排便が得られる。
表7
分類
塩類下剤
当院採用の下剤
薬剤名
成分名
カマ
酸化マグネシウム
マグミット
プルゼニド
センノサイド顆粒 8%
複合剤
大黄末
センノシド
大黄末
ラキソベロン液/錠
新レシカルボン
ピコスルファート
ナトリウム
発泡性
用法・用量
1~3g/日
1~2 錠/回
0.15~3g/回
0.7~1.4g/回
10~15 滴/2~6 錠
1 個/回
(看護)
・薬物の適切な使用
・腹部マッサージ(腹部や腰仙骨部に温罨法を組み合わせて行うと効果的)
・
指圧
・可能であれば、水分や食物繊維を多く含む食品の摂取
・腹圧をかけやすい安楽な排便姿勢の工夫
・体を動かす、散歩
・決まった時間に排便を試みる
(2)嘔気・嘔吐
オピオイドの投与初期あるいは増量時に発現しやすい。しかし、投与量が適
正である場合、連用により 2 週間程度で耐性が生じ、嘔気、嘔吐は消失して
いく。
(対策)
①
消化の良い食事をとる。刺激や匂いの強い食事は避ける。
≪処方例≫
Rp. ノバミン錠 3~6 錠 / 分 3
オピオイド導入の 1 時間以上前から服用を開始することが望ましい。
高齢者ではとくに錐体外路障害が出現する可能性があるため、少量から
開始し注意深く観察する。
Rp. ジプレキサ錠 2.5mg 1 錠 / 分 1
ノバミン無効時には効果的。眠気があるため就寝前内服が望ましい。非
定型抗精神病薬。従来の抗精神病薬と比較して、ドパミン D2 受容体以
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外の神経伝達物質受容体に対しても選択的に作用し、錐体外路症状を中
心とした中枢神経に対する副作用が少ない。
Rp. ドラマミン錠 3 錠 / 分 3
体動時の嘔気に有効。
Rp. セパゾン錠 1~2mg / 分 1~2
予測性の悪心、嘔吐に有効。
表8
オピオイドによる嘔気・嘔吐の予防と治療薬一覧
主な作用部位
CTZ
(ドパミン受容体拮抗薬)
前庭器
(抗ヒスタミン薬)
消化管
(消化管運動亢進薬)
CTZ・VCなど
(非定型抗精神病薬)
薬剤名
(商品名)
用法・用量
プロクロルペラジン
(ノバミン)
1回5~10mg/4~6時間ごと
ハロペリドール
(セレネース)
1回0.75~1.5mg/1日1~2回
ジメンヒドリナート
(ドラマミン)
1回50mg/1日1~3回
メトクロプラミド
(プリンペラン)
1回5~10mg/4~6時間ごと
ドンペリドン
(ナウゼリンOD)
1回10mg/1日1~3回
オランザピン
(ジプレキサ)
1回2.5mg/1日1回
がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン2010年版より一部改変
(看護)
・環境整備(換気、臭い)
・口腔ケア
・オピオイドの Tmax の時間を食事の時間と重ならないようにする
・精神的ケア
・リラクセーション、つぼ
・事前のオリエンテーション
(3)眠気
オピオイドの投与初期あるいは増量時に発現しやすい。痛みによる不眠傾
向にあった患者では、鎮痛効果により睡眠不足が解消されて眠気が強く現れ
る場合もあるので、副作用であるか、あるいは除痛効果によるものであるか
十分な配慮を必要とする。
(対策)
① 1 日量の 30~50%を減量、または 1 日量を変更せずに投与回数を増やし
て 1 回量を減量する。製剤の変更により対処できる場合もある。
(看護)
・気分転換
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・昼間の覚醒を促す。
・日常生活を工夫し、眠れる時間を作る。
・眠気と上手く付き合っていけるような妥協案を一緒に考える。
(4)排尿障害
モルヒネは尿管の緊張や収縮を増加させる作用があり、また、排尿反射の抑
制、外括約筋の緊張亢進、膀胱容量の増大などの作用を有する。
α1 ブロッカーの投与が有効なこともある。
(5)呼吸抑制
モルヒネによる呼吸抑制は主として呼吸回数の減少によるものとされてい
るが、単なる呼吸数減少ではなく、呼吸活性のすべての相(呼吸数、分時呼
吸量および 1 回呼吸量)を抑制するとの報告もある。中毒量では呼吸数は 1
分間に 3~4 回にまで低下する。
(対策)
① オピオイドを減量または中止する。
② 舌根沈下が認められる場合には気道確保
③ 低酸素血症が疑われる場合には酸素吸入
④ PaCO2 が上昇している、または呼吸回数が低下していれば、オピオイド
拮抗薬ナロキソンの投与を行う。
≪処方例≫
Rp. ナロキソン注射薬(0.2mg/1mL)1A+生食 9mL とし 1 回 1mL
を静注
呼吸数が 10 回/分以上を維持するまで 1 回 1mL を追加投与する。
12.薬物療法以外の疼痛緩和技術・援助
薬物療法と疼痛緩和技術・援助を組み合わせることで、相乗効果が期待できる。
特に看護援助は多くの疼痛緩和援助となる。また、身体への侵襲が少なく、患
者・家族が行うことができる。
例・罨法
・ポジショニング
・マッサージ
・リラクセーション
・アロマテラピー
・音楽療法など
**適応と禁忌を十分に理解した上で行うこと**
13.疼痛以外の身体症状のマネジメント
1)便秘
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一般に数日間以上排便がないもの、排便後の残便感が残るもの、さらにこれ
らにより腹部膨満感、腹痛を伴う症状を便秘という。便秘には、腸管の狭窄、
炎症などによる器質的な便秘と、腸管の緊張運動亢進、排便反射が起こらな
くなるなどによる機能的な便秘がある。
モルヒネやオキシコドンを服用する患者の多くに便秘が生じるため、
予防的に下剤を併用する。また、抗うつ薬、抗コリン作動薬は便秘を誘発、
悪化させるため、このような薬剤を使用している場合は特に排便状況に注意
し、便秘が改善されない場合は薬剤の変更や中止を考慮する。
(看護)
・薬物の使用
・腹部マッサージ(腹部や腰仙骨部に温罨法を組み合わせて行うと効果的)
・可能であれば、水分や食物繊維を多く含む食品の摂取
・腹圧をかけやすい安楽な排便姿勢の工夫
・体を動かす、散歩
・決まった時間に排便を試みる
2)嘔気・嘔吐
オピオイドによる副作用以外に、①脳転移などによる頭蓋内圧の亢進によ
る嘔気・嘔吐や、②化学療法に起因することの多い予測性嘔気・嘔吐も原因
として考慮する。眠気や口渇などの症状がある場合は、③高カルシウム血症
による嘔気・嘔吐の可能性があるため血液検査も確認する必要がある。低ナ
トリウム血症などの他の電解質異常による嘔気・嘔吐にも注意する。また、
便秘(オピオイドに起因するものも含む)により、胃の内容物が停滞して生
じる嘔吐もあるため、排便状況の確認も必要である。
≪処方例≫
①頭蓋内圧の亢進による嘔吐
Pp. リンデロン錠 1 回 4~8mg
Pp. リンデロン注 1 回 4~8mg
1日2回
1 日 2 回静注、点滴静注
Rp. グリセオール 1 回 200mL 1 日 2 回
②予測性嘔吐
Rp. セパゾン錠 1~2mg / 分 1~2
③高カルシウム血症による嘔吐
Rp.
Rp.
ゾメタ 4mg 静注
ランマーク皮下注 120mg
(看護)
・食事・栄養への援助
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・安楽な体位の工夫
・リラクセーション
・環境整備(換気、臭い)
・指圧、排便コントロール
・精神的ケア
3)呼吸困難
呼吸時の不快な感覚と定義される主観的症状であり、原因として①腫瘍によ
るもの、②抗がん剤治療によるもの、③がんの進行に伴うもの、④心理・精
神的なものなどがある。
呼吸不全は、低酸素血症(動脈血酸素分圧(PaO2)≦60Torr)と定義される
客観的病態であり、多くの場合、生理的障害による呼吸不全の結果として呼
吸困難が生じるが、両者は必ずしも一致せず、重症度も相関しない。
呼吸困難の訴えがあった場合、治療可能な原因があるかどうかを評価し、原
因治療が可能であれば治療を行う。低酸素血症があれば酸素を投与する。さ
らに、モルヒネ、抗不安薬を使用する。
≪処方例≫
Rp.塩酸モルヒネ 3~5mg を呼吸困難時、1 日 4~5 回内服
すでにモルヒネを使用している場合は、25~50%増量する。
Rp. ワイパックス錠 1 回 0.5~1mg 1 日 1~3 回
(看護)
・セミ・ファーラー位や起坐位などの体位の工夫
・環境調整(適切な湿度・温度の調節、室内の換気をよくするなど)
・日常生活動作の援助
・酸素療法の工夫
・呼吸理学療法(深呼吸、腹式呼吸、排痰援助、スクイージングなど)
・精神的ケア
4)骨転移痛
骨転移は、耐え難い骨痛、病的骨折、運動制限、高カルシウム血症などの骨
関連事象を併発するため、がん患者の QOL を著しく低下させる。
骨転移による疼痛は、がん細胞の浸潤に伴う物理的刺激や、腫瘍組織が産生
するサイトカインの刺激、骨転移巣の酸性環境により発生する。
≪処方例≫
Rp. ゾメタ 4mg
早期に対策を講じることで、骨折などのリスクを軽減し、同時に骨痛を
21
軽減させる。
腎機能障害患者では、クレアチニンクリアランスに応じて投与量を調節
する。
低カルシウム血症となる場合があるため Ca 値を定期的に測定し、必要
があればカルシウム製剤で補正する。
Rp. ランマーク皮下注 120mg
分子標的薬。ゾメタと異なる機序で骨折などのリスクを軽減させる。
使用開始時からカルシウム及びビタミン D の経口補充の併用が推奨さ
れる。重度の腎機能障害患者では低カルシウム血症を起こすおそれが高
いため慎重に投与する。
カルシウム…乳酸カルシウム末
ビタミン D…アルファロール、ロカルトロールなど
(看護)
・痛みのアセスメント
・日常生活援助
・コルセットの使用、転移部に荷重がかからない方法での体動
・体動前の予防的なレスキューの使用
・安静の保持
5)全身倦怠感
ターミナル期になると、全身倦怠感や食欲不振が出現しやすく、ステロイド
の投与が有効な場合がある。
≪処方例≫
Rp.リンデロン錠 1 回 1~2mg1 日 1 回朝、1 日 2 回朝・昼
Rp.リンデロン注 1 回 2~4mg 1 日 1 回静注、点滴静注
少量から開始して、効果をみながら徐々に増量する。不眠を避けるため
夕刻以降には投与しない。
(看護)
・日常生活動作の援助、安楽な体位の工夫
・気晴らしや気分転換
・環境調整
・マッサージ、指圧、温罨法
6)睡眠障害
不眠と眠気が問題となりやすい。不眠とせん妄やうつ状態の鑑別が必要であ
り、低活動型のせん妄は不眠と間違えられることがある。不眠には入眠困難、
中途覚醒(睡眠維持困難)、早朝覚醒があり、持続時間により睡眠導入薬を
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適応する。また早朝覚醒が著しい場合には抑うつ状態が背景にある可能性を
考慮する。しかし、睡眠導入薬による転倒、Hangover、依存性などの副作
用については説明が必要である。
≪処方例≫
Rp.(入眠困難)マイスリー錠(10mg)0.5-1 錠/眠前
Rp.(肝機能障害時)エバミール錠(1mg)0.5-1 錠/眠前
(看護)
・環境調整(光、騒音、臭い)
・睡眠前のケア(口腔ケア、排泄の援助、足浴、温罨法、安楽な体位の工夫)
・不安の軽減
・薬物使用時の事故防止
・日中の過ごし方の工夫
14.精神症状のマネジメント
1)不安
通常の不安と、病的な不安がある。鑑別のポイントは持続時間が長い場合(一
日中不安であるなど)、パニック発作などの症状を伴う場合、日常生活に支
障をきたす場合などである。精神療法が必要になるケースが多い。
≪処方例≫
Rp.ソラナックス錠(0.4mg)1.5 錠/分三
半減期は数時間。抗不安作用が強い。
Rp.メイラックス錠(1mg)0.5-1 錠/夕食後
半減期は半日程度。夕食後に飲むと、入眠を容易にし次の日の不安軽減
になることもある。しかし Hangover に注意が必要。
(看護)
・不安の原因の把握、患者の思いの傾聴
・信頼関係の構築
・日常生活援助、レクリエーション
・身体的苦痛の除去
・家族へのアプローチ
2)うつ状態
気分の落ち込みが見られる時には、正常反応、適応障害、うつ病などを考慮
する。どの場合にも薬物療法より支持的に接する態度が最も重要である。う
つ状態を軽減することが痛みの緩和につながることが多い。症状の中で特に
希死念慮は確認が必要(死にたいぐらい辛いと思うことはありませんか…な
ど)。
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≪処方例≫
Rp.トレドミン(15mg)2 錠/分二
チトクローム P450 によって代謝されず、他の薬物との相互作用に対す
る影響が少ない。
(看護)
・観察(抑うつ気分の程度、患者の態度・表情・会話、気分の日内変動、食
事摂取量、など)
・日常生活援助
・患者への対応(必要以上に励まさない、感情の表出を促す、話しの傾聴・
支持的態度)
・家族への説明
・薬物療法の援助(薬物の正確な服用、副作用の観察)
3)せん妄
緩和医療では、モルヒネなどの薬剤、脱水、高 Ca 血症、感染などがせん妄
の原因になりやすい。抗精神病薬の適応より前に原因が分かる場合にはその
対応を一番に考える。また、照明、生活リズムの確保など環境へのアプロー
チも行う。
≪処方例≫
Rp.リスパダール 1mg(1ml)/眠前 (保険適応外)
内服可能な場合に使用。非定型抗精神病薬であり、錐体外路症状は比較
的出にくい。
Rp.セレネース1A(5mg)+生食 50ml 点滴 一時間で
(保険適応外)
内服が困難な場合。
(看護)
・時間・場所・人などの見当識をつける
・幻覚や妄想は同調しない。感情を受け止める
・自傷・他害による事故防止
・日常生活の援助
・家族へのケア
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