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東京大学大学院経済学研究科ものづくり経営研究 センター 特任研究員/元サムスン電子・常務 キヤノン㈱ 成形金型開発センター 吉川良三氏 菊池 渉氏 Ryozo Yoshikawa Wataru Kikuchi 菊池 今回は、元サムス い状況でした。会長からオ 日本企業は ン電子・常務の吉川良三 ファーを受けたことが入社 さんに、サムスン電子の のきっかけですが、実は 1 「国際化」 ではなく 市場戦略から見たグロー 度お断りしています。理由 「グローバル化」 を目指した バル市場を見据えたモノ は設計者の技術レベルが想 づくり法や今後の日本企 モノづく りに取り組むべきです 像以上に低かったためです。 業の展開策、また金型メ 最低限のレベルまで高める ーカーの生き残り策などについてうかがいたいと思い ことができれば考えてもよいと返事をしたところ、翌 ます。 年妥協できるレベルにまで技術力を高めてきて、改め まず、吉川さんの簡単な経歴をお聞かせください。 て入社をお願いされました。 吉川 1964 年に日立製作所に入社し、CAD/CAM サムスン電子では約 10 年間常務を務め、デジタル などソフトウェアの開発を担当した後、日本鋼管(現・ 技術を活用した設計・開発環境の整備やグローバル化 JFE ホールディングス)のエレクトロニクス開発本 に向けた情報システムの構築など、モノづくりにおけ 部長を経て、94 年にサムスン電子に入社しました。 る業務革新を行いました。帰国後、2004 年からは東 李健煕(イ・ゴンヒ)会長とはたまたま縁あって 87 京大学大学院経済学研究科ものづくり経営研究センタ 年に知り合いました。それから何度か当時の三星電子 ーの特任研究員として、日本と海外の製造業の比較研 に訪問しましたが、まだ会社としての体をなしていな 究などを行っています。 型技術 第 28 巻 第 3 号 2013 年 3 月号 001 〈プロフィール〉 吉川 良三(よしかわ りょうぞう) 1940 年生まれ。1964 年に日立製作所に入社し、 CAD/CAM などソフトウェアの開発に従事した。そ の後、日本鋼管(現・JFE ホールディングス)を経 て、1994 年に韓国サムスン電子に入社。2003 年ま で常務として、デジタル技術を活用した設計・開発 の業務革新を担当した。帰国後、2004 年より東京 大学大学院経済学研究科ものづくり経営研究センタ ーの特任研究員として、日本と海外の製造業の比較 研究などを行っている。 「国際化」と「グローバル化」の違い 菊池 日本製品が高品質を武器に世界を席巻したのは にして体感温度を下げた方が喜ばれます。日本のエア コンのように、冷気が直接当たらないように気を使っ て設計されているエアコンは、インドでは“全然冷え 一昔前で、最近では家電製品を中心に苦戦しています。 ない、ききの悪いエアコン”と見なされます。 苦戦の原因は、何だとお考えでしょうか? このように、各国それぞれの細かな要求を踏まえた 吉川 一言で言えば、グローバル化できなかったこと 製品設計を行うべきだったのですが、日本企業の多く だと思います。 「グローバル化」はよく耳にする言葉 は、日本で設計したものをそのまま人件費の安い海外 ですが、日本でいうグローバル化は、賃金の安い国に 工場で生産して供給するだけだったために、グローバ 工場をつくり、そこで生産することでした。つまり、 ル化に至らなかったのです。 賃金格差によるコストダウンを実現することだったの 一方、サムスンでは「地域専門家制度」をつくりま です。しかし、それはグローバル化ではなく、あくま した。90 カ国の現地語を担当者がそれぞれ習得し、 で「国際化」なのです。 その国に最低でも 1 年間は滞在して徹底的に調査を では、グローバル化とは何かというと、 「外国に工 場や拠点をおいて、その国の文化に合った製品を提供 すること、つまり地域密着型ものづくりを行うこと」 です。日本企業は、現地の要求に関係なく日本で設計 します。こうして、その国や地域の文化や習慣を熟知 し、それに基づいた製品を提案するのです。 日本は「つくり」は得意、 「もの」は苦手 したものをそのまま現地工場で生産する方法を採用し 菊池 なぜ、日本企業では現地での要求をうまく取り たため、グローバル化を進められなかったのです。 入れられなかったのでしょうか。サムスンのような地 例えば、インドでの例をあげてみます。インドでは 鍵のついていない冷蔵庫は人気がありません。インド 域専門家が不在だったためですか。 吉川 これは持論ですが、世界屈指の職人技を身につ で冷蔵庫を買うような家庭は家政婦を雇っているため、 けていたがゆえに、生産技術にばかり目がいったせい 家政婦が自由に冷蔵庫の食材を使ってしまわないよう ではないでしょうか。高品質の製品をつくるには日本 に鍵をかけるのです。また、インドは暑い国なので、 の技術が一番であるという思いからだったのでしょう。 どんなに性能のよいエアコンでも部屋全体を快適温度 日本ではよく「ものづくり」と言います。 「ものづ にするためには時間を要します。すぐに「涼しい」と くり」とは、 「もの」と「つくり」を組み合わせた造 感じてもらうには、あえて冷気が人に直接当たる設計 語ですが、 「もの」とは、奈良県の万葉文化博物館館 002