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ソーシャルワーク〈カリキュラム〉への 社会開発的視点の導入

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ソーシャルワーク〈カリキュラム〉への 社会開発的視点の導入
立教大学コミュニティ福祉学部紀要第 6 号(2004)
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[翻訳]
ソーシャルワーク〈カリキュラム〉への
社会開発的視点の導入
― ソーシャルワークにおける社会開発志向型のコースに関する
アジア太平洋地域ワークショップ報告 ―
Introducing a Social Development Perspective into Social Work Curricula at All Levels
Report of a Regional Workshop on Social Development -Oriented Courses in Social Work
David Cox et al., Translated by Tooru, Okada & Keiichi Hayashi
D・コックス他 著 岡田 徹・林 敬一 訳
訳者前文
本訳文は、1997年4月初旬、2週間、オーストラリア・メルボルンの郊外、ラ・トロー
ブ大学で開催されたワークショップ「ソーシャルワーク『カリキュラム』への社会開発的
視点の導入」を翻訳したものである。訳者の1人である岡田はこのワークショップに日本代
表として招かれた。
7年後の今、これを訳出した理由は、1つには、所属する学部でのカリキュラム改訂にさ
いして本稿の知識が資すると判断したこと、もう1つは、やっとわが国の社会福祉界にもこ
の種の情報が必要になり始めたことによる。7年のタイムラグは、わが国では頃合いである。
紙幅の関係で、掲載は2回に分けざるを得なかったことを記す。
(岡田 徹)
まえがき
ソーシャルワークは長年にわたって多くの機能を果たしてきている。ソーシャルワークはさ
まざまな状況下にある個人や家族を支援してきたし、ソーシャル・サービスの供給にあたって、
政府他から要請される人材供給に貢献してきた。ソーシャルワークはまた、街頭実践などをと
おして都市内部のある種の社会崩壊に対して対応してきたし、ソーシャルワークは多くの国々
では病院、学校や工場において重要な役割を果たしてきた。そしてソーシャルワーカーはしば
しば、広汎な開発援助、難民や自然災害の現場で、また紛争や戦争地域において見受けられる
ようになってきている。
こうした多種多様な役割の中心に、専門職としてのソーシャルワークの中核となる目的や中
心的価値とされるような、統一的なテーマは果たして存在するだろうか、あるいは存在し得る
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ソーシャルワーク〈カリキュラム〉への社会開発的視点の導入
であろうか、また存在すべきであろうか? 世界のソーシャルワークには、統一的なテーマや
視点は存在し得ないことは確かである。とはいえ、ここに参加した研究者たちは、ソーシャル
ワークの重要な焦点の1つに、少なくとも社会開発があげられるべきだと確信している。社会
開発は、すべての人々のウェル・ビーイング向上に焦点をあて、貧しい、資格を剥奪された、
そして一層周縁に追いやられた人々にたえず重点をおく、コミュニティや国家による開発と人
間中心的なアプローチを採用している。
社会開発の焦点は、ソーシャルワークで公式に表明されている価値や目標とぴったり一致し
ている。社会開発の焦点は人間中心的なものであり、開発的なものである。その焦点はまた、
最も豊かになるような生活を選択するための人々の能力を極限化するように、また、人々が生
きて働いているコミュニティにおける生活の質に資するような調整におかれている。このこと
からいえば、ソーシャルワーク教育が少なくとも必要に応じて社会開発的な焦点を採用するこ
とは、確かに理にかなっている。しかし、このことを具体的な言葉で表現すれば、どのような
意味合いになるのであろうか?
1997年4月、アジア太平洋地区からのソーシャルワーク教育関係者が2週間にわたってメル
ボルンに集まり、そしてこの問いを前にして、答えを模索し合った。さまざまなレベルのソー
シャルワークの〈カリキュラム〉は、もし社会開発的な焦点を反映させるとすれば、どのよう
なものになるか? このレポートはかかる作業がもたらした成果である。
本研究グループは、あらゆる状況下での開発の目標を効果的に達成するカリキュラムを開発
するのに成功したということを示唆するものではない。これは出発点を示すものにすぎない。
つまり、これは教育者が手にとり、実験してみて、そして自分たちの現実にあてはめて検討す
る上での参考にする1つの考え方を呈示したものにすぎない。しかし、ソーシャルワーカーは
社会開発に寄与し得るし、また寄与するべきであること、そしてソーシャルワーク系の学校が
(たとえ彼等の間だけでも)確固たる信念をもってソーシャルワーカーにその役割を果たさせ
る準備をすべきであるということを、われわれは常に強く確認している。アジア太平洋地区の
ソーシャルワークは選択の岐路に立たされている。その役割を他へゆだねて、社会開発過程の
ための全責任を拒否するか、あるいは他の役割を放棄してでも社会開発の最終目的を受け入
れ、その学校や専門職連盟が効果的な実行にむけて積極的に関与するか、のどちらかである。
1995年の「国連社会開発サミット」直後に、世界は社会開発に関するアジェンダを入手して
いる。アジア太平洋地区の国々も社会開発アジェンダを入手している。効果的な実施にあたっ
て、こうしたアジェンダはこの地区の半数以上の人々の基本的なウェル・ビーイングに、そし
てこの地区の全ての人々の究極的なウェル・ビーイングの達成を目標数値化している。これほ
どのチャレンジがあるだろうか。
日本財団の惜しみない援助によって実現したこのプロジェクトに関わるわれわれは、アジア
太平洋地区のソーシャルワーク系の学校や個々の教育者を訪問し、注意深くこの挑戦的な試み
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に対する彼らの反響を検討してみた。もし彼らが積極的に回答してくれているとすれば、―わ
れわれは、彼等の大多数がそうしてくれたことに自信を持っているが―、われわれの仕事は、
この報告書に反映されているように、この地区におけるソーシャルワーク教育に関係した課題
を取り上げる、われわれが直面している社会開発の現実に彼らが一層近づく上で手助けとなる。
われわれは1998年には、このプロセスを明確化すべく社会開発教育やトレーニング計画のた
めの要覧を出版する意向をもっている。
序 論
相当以前から、他の専門従事者と同様、多くのソーシャルワーカーにとっても明らかなこと
は、世界の多くの地域での社会開発状況は受け入れ可能なほどには改善を見ていないという点
である。事実、いくつかの国々では、状況は悪化している。ソーシャルワークが、ソーシャル
ワークの価値や社会開発のニードが要請しうる、また要請しているほどには、社会開発に貢献
してきていないというのが多くのソーシャルワーカーにとってもまた明白になった。
それゆえ、過去20年あるいはそれ以上にわたってソーシャルワークによる社会開発領域への
意味ある動きを見つめてきた、われわれはカリキュラムの中に社会開発の内容を組み込み、社
会開発プロジェクトに参加しているソーシャルワーク系の学校を知っているし、こうした学校
の多くが社会開発ネットワークで、とりわけ「国際社会開発大学間コンソーシァム」(IUCISD)
を通じて互いに結びついていることも知っている。文献の刊行を推進したり容易にするために
発刊されたすくなくとも2つの専門雑誌“Social Development Issues”“Journal of Social
Development in Africa”によりソーシャルワークの資力によって発行された社会開発文献の量
的増加も目にしてきている。こうした創発的な活動は、さらなるかかる創発的な活動の必要性
に気付かせてくれることによって、われわれにソーシャルワークの社会開発への関与をさらに
広げるように駆り立て、励ましてくれる。こうして拡大された関与の中心には、今始まったわ
けではないが、ソーシャルワーク教育が含まれなければならない。
社会開発におけるソーシャルワークの関与の拡大は明らかに危機的であるが、しかし見込み
があると思われる、世界の中での地域の1つがアジア太平洋地区である。危機的であるという
のは、とくに貧困地域であり、ある階層に属する人々が他に対して有利になるような偏った開
発をおこなってきたり、また概して低開発であるからである。見込みがあるというのは、社会
開発に対するニードやその潜在可能性が広く認識されているからであり、また社会開発運動の
拡大に対して、この地区やこの地区内にあるソーシャルワーク系の学校も、この運動への参加
の拡大に対して受け入れの用意があるからである。この地区内にある300以上のソーシャルワ
ーク系の学校は社会開発に対して有意義な貢献をしてきた。他方、社会開発的視点を盛り込ん
だ、ソーシャルワーク系の新しい学校の展開が社会開発領域での主要な役割を果たすことがで
きるようになってきている。
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ソーシャルワーク〈カリキュラム〉への社会開発的視点の導入
アジア太平洋地区にはかなり多くのソーシャルワーク系の学校があるが、社会開発的視点か
らみれば、状況的にはなお多くの欠点が見受けられる。例えば、この地区の大部分が最貧国で
あり、そこにはソーシャルワーク系の学校がない。この地区の大半を占める農村部には、ソー
シャルワーク系の学校はほとんどないか、いかなる形態のソーシャルワーク教育にも接近でき
ない。最終的には、この地区内にある既存のソーシャルワーク系の学校において社会開発を教
えることは、相対的に言って限界があり、時として失意をもって断念することにもなる。
それゆえ、この地区内のソーシャルワーク系の教員の多くに求められるのは、かかる状況を
変えるための不退転の努力をすることである。ソーシャルワークのカリキュラムの中に社会開
発的視点を包摂する度合が増すことも重要であると思われる。結果として、多くの創発的な取
組みがなされてきているし、また本論もこうした創発的な取組みの1つの成果でもある。
この地区内にあるソーシャルワーク系の学校に指針を与える可能性をもつ、過去よりも未来
志向の社会開発教育やトレーニングを提供しようとしているわれわれのプロジェクトに日本財
団は助成することに同意してくれた。本プロジェクトは、オーストラリア、バングラデシュ、
香港、インド、インドネシア、日本、パプアニューギニア、フィリピンそしてスリランカとい
った国々の教育者たちによって、この地区内に蓄積されてきた考えや経験を互いに持ち寄って
協働するなかで請け負われた仕事である。
最初の仕事には、この主題に関する文献研究が含まれている。つぎに、社会開発カリキュラ
ムの内容に関係した現状を確定するために、この地区内のソーシャルワーク系の学校の調査を
おこなった。約100校から調査に対する回答があった。その調査報告書は、『アジア太平洋地区
ソーシャルワーク教育における社会開発の内容』と題されて、別途、刊行されている。とはい
っても、本プロジェクトが最高潮に達したのは、参加者が社会開発的視点を反映させるべく構
想されたソーシャルワークのコースのカリキュラム内容をめぐる問題を検討するために、オー
ストラリア・メルボルン市に集まった2週間のワークショップの時である。
この論考を生み出したのは何といっても、このワークショップをおいて外にはない。全員で
16人の教育者が同期間中に提起された案を、10日間にわたってじっくりと検討しあった。その
成果がアジア太平洋地区におけるソーシャルワーク教育の社会開発へのさらなる取組みを促し
てくれることこそ、参加者全員の切なる願いである。
この仕事を完成させた今、参加者は、社会開発領域におけるソーシャルワーク教育のさらに
大きな前進にむけて、お互いの現在の役割が果たせるようにとネットワークをつくることにし
た。またわれわれは、社会開発におけるソーシャルワークの関与一般に貢献すると思われるい
くつかの関連プロジェクトを立ち上げることを決定した。
ネットワークの参加者は本論考をあなたにお薦めする。そしてわれわれは、読者であるあな
たが必要と思われる、フォローアップには喜んで援助することをここに述べておきたい。
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第1章 社会開発とソーシャルワーク教育におけるその包摂
序
ソーシャルワーク「カリキュラム」への社会開発的視点の包摂にむけて
近年の経済・政治・社会・文化的な発展動向のもつ、肯定的かつ否定的影響を、地球社会的
および国民社会的な見地に立って、わけても人間と人間のウェル・ビーイングに与える影響を
考察するとき、つぎのようなことが望ましい。すなわち、準専門職ないし専門職、さらにより
高度な学位レベルにおいて、またそれに相当する他の研修課程においても、ソーシャルワーク
教育カリキュラムの中に社会開発的視点を導入すべきである、と。
われわれはここで、社会開発を、「人間のウェル・ビーイングを促進するように企てられた、
計画的な社会変革への参加過程」と定義しておきたい。またここでいう参加過程は、それ自体
が「生活の質」の向上にむけた全住民に固有のニーズと熱意へむけた効果的な対応を引き出す
ことになろう。
近年、多くの地域での進展にもかかわらず、現行の諸種の社会指標は以下のことを明らかに
してくれている。すなわち、貧困、剥奪、劣悪な保健衛生状態、粗末な住居、人々の開発への
全面参加からの排除(ジェンダー、人種、エスニシティ、年齢、階級、宗教、障がい)、環境
悪化、そして過度な軍事費支出がごく限られた範囲の人々だけに負荷を負わせているというこ
とがこれである。それゆえ現時点での至上命題は、現代世界における不平等の程度を、そして
世界中の大部分の人びとが自己の権利として期待していて、しかも世界が実現可能であるよう
なウェル・ビーイングの基準を否定されているその程度を、可能な限り縮小すべきである、と
いうことである。
ソーシャルワークは、われわれの考えによれば、経済・社会的な発展からの大部分の恩恵を
今日まで否定され続けてきた世界中の人々のウェル・ビーイング水準を劇的に向上させようと
摸索している他の専門職や専門諸学と手を合い携えておこなっていかなければならない。この
ことを実行しようとすれば、ソーシャルワーカーは、自らも従事する社会開発領域での現任ト
レーニングと同様、基礎教育やそれに続く教育においても社会開発に関する包括的な理解に精
通しておかなければならない。
第1節 社会開発的視点
「目 標」
・人間のウェル・ビーイングあるいは生活の質の向上
・人間が自らの意欲を満足させることのできる自由を経験できるようにすること、そしてその
潜在能力を顕在化できるようにすること。
「価 値」
・人間に対する尊敬の念と、成長発達する潜在能力に対する信頼
・人間存在 −身体的存在から精神的存在まで− の全体的な理解
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ソーシャルワーク〈カリキュラム〉への社会開発的視点の導入
・社会・文化的複合多元主義の受容と、人々のもつ文化や価値の中心部との連繋
・生態問題や、人間の自然と環境への関わりの重要性の認識
・社会関係が参加する権利と義務、機会の均等、そして社会正義に対するありとあらゆる権利
に基づいているということの認識
「過 程」
・参加の過程
・エンパワーの過程
「戦 略」
地域社会的、国民社会的そして国際社会的な諸レベル
・個人、集団、コミュニティの能力構築の強化
・地域施設の建設と地域の人々の組織への支援
・自己への信頼感の涵養
・すべての人々の成長発達を可能ならしめる環境の創出
・社会施設の設置とその管理運営への参加
・すべての人々にとって利用可能な適切な資源とサービスの供給の促進
・参加型の計画づくりを支援するにあたって国に率先した役割の推進
・社会開発の向上のための政策策定と実施にむけての参加
・ あらゆるレベルでの開発事業との連携
・ あらゆる面での市民社会の強化
より広汎で特殊な状況への対応
経済・政治・社会・文化的な発展動向のもつ、肯定的かつ否定的影響を、地球社会的ないし
国民社会的な見地に立って、わけても人間と人間のウェル・ビーイングに衝撃を与えるという
観点から理解すること。
・人々のニーズを状況に即して理解すること
・人々の熱意と、その実現を阻む障碍を認識すること
・人々の文化と価値を理解すること
・既存の社会施設の範囲と性格を理解すること
第2節 カリキュラムの中に反映されたものとしての社会開発的視点のパラメーター
社会開発は広汎な領域のニードや介入を包摂するものと見なされなければならない。この広
範囲な社会開発事業は本質的には、一般的なものと特殊なものとに分けることができる。
一般的な教育や社会開発的視点に立ったトレーニングには、上記の概要にみられるような社
会開発的視点を含む領域で、熟練のワーカーと潜在的可能性を有する非熟練のワーカーとの両
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者がふくまれる。社会開発的視点には、目標、価値、過程、包括的な戦略そして開発事業に対
する一貫したアプローチなどが含まれている。その焦点は本質的には開発的なものにあてられ
るが、他方、短期的にはそのアプローチはしばしば予防的なものである。ただし、社会開発的
視点を実施する段になると、そのプロセスは同時に、必然的に保護的な焦点を含まざるを得な
くなる。社会開発の一般的な側面は、社会的ニーズに応えるものとしての、保護的、予防的そ
して開発的なアプローチを含みながら、個人的なレベルから国際的なレベルまでの全範囲の社
会的ニーズを網羅している。
とはいえ、社会開発的視点をもった教育やトレーニングを、一般的なレベルにとどめておく
ことは十分ではない。現場にあっては、社会開発事業の目標はきわめて限定的なものになりが
ちである。それには、例えば貧困の除去、障がい者の開発過程への参加、そして特に困難な環
境下にある子どものニーズの表明といったような諸目標が含まれている。こうした特殊な目標
達成にあたっては、必然的に、特殊な体系的知識、すなわち理論と実践的知識、また特殊な介
入あるいは特定の技術を含む社会開発的戦略などが必要になる。とはいっても、こうしたこと
は通常、特殊領域の社会開発事業、特定の居住者、あるいは重要な意味をもつ特定の状況へ
の、一般的な戦略や技術の適用ということである。
われわれは、社会開発の主たる特殊領域とみなされるものを、以下にリストアップしてみた
が、このリストは必ずしもすべてを網羅しているわけではない。そのうえ、目標とされるべき
優先的な領域は、時と所によって変わる。
教育やトレーニングの供給が要請されている社会開発内での特殊領域
社会開発の教育やトレーニングの供給が要請されている以下の特殊領域のリストは、首尾一
貫したものを意図したものではない。しかしながら、こうした領域は一般には、特殊なトレー
ニングが望ましい領域であると見なされている。
・貧困の除去
・雇用と所得の創出
・社会的統合
(これら3領域は「1995年国連社会開発サミット」での中心課題であった。
)
・村落、遠隔地開発
・環礁・島嶼開発
・都市スラムとセツルメント開発
(これらはESCAPによって確認された社会開発のための優先タイプの状況を代表してい
る。)
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ソーシャルワーク〈カリキュラム〉への社会開発的視点の導入
・特に困難な環境下にある子どもとの活動
・ストリート・チルドレン
・児童労働
・こども買春
・性的虐待
・戦争によって影響を受けた子ども
・障がい者との活動
・家族、子ども、青年、高齢者との活動
・開発の中の女性
・種族と先住民マイノリティ・グループ
(これらは社会開発アジェンダの中で一般的に確認されている「目標となる人々」である)
・保健、衛生および家族計画等
・シェルターと自助ホーム
・コミュニティ教育、公式および非公式な教育−識字教育から高度な教育まで−
(これらは高度な優先順位をもつ社会サービスとして一般に言及される傾向がある)
・災害危機管理
・薬物乱用、依存(ギャンブルを含む)と地域に根ざした対応
・HIV/AIDS
・ 個人と社会の安全
(近年多大な関心が払われている、若干の特殊な領域)
それぞれの特殊領域での教育やトレーニングは、第2章1節で確認される4つのレベルのカ
リキュラムの各々にとって、また開発分野で働いている、あるいは働くことになる社会開発ワ
ーカーのすべてにとって役立つことが望ましい。理想的な解決策としては、有能なトレーナー
の一覧表を掲げて、それぞれの領域で「教育・トレーニング」カリキュラムを展開し、必要と
思われるコースを設置することである。
第3節
ソーシャルワーク教育カリキュラムの中に社会開発的視点を組み込むにあたっての基
本目標
本論の目的は、社会開発的視点を反映させてカリキュラムの一部ないし全部を改訂しようと
しているソーシャルワーク系の学校に対して指導要領を提供することにある。
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こうした改訂を導入する直接の目的は一連の学習目標の達成にある。そして社会開発志向型
のソーシャルワークのカリキュラムにおける一般的な学習目標はつぎのとおりである。
社会開発的視点の基本的な学習目標
学生たちが以下の能力を保有すること
1.社会開発の目標に対する取り組み姿勢を明確にすること
2.社会開発を根底から支え、そして学生たちの倫理的な関わりを注意深く見守る価値を
適用すること
3.個人から全体社会レベルまでのすべてのレベルにおいて、人々の生活とウェル・ビー
イングにかかわる状況を正しく識別判断すること
4.すべてのカリキュラム・レベルに関係する重要な社会開発の知識と技術を適用すること
5.社会開発にとっての基本戦略を活用すること
6.社会開発の2つの主要なプロセス、すなわち参加とエンパワーメントというアプロー
チに関与すること
7.省察に富む実践家として生涯学習に参加すること
われわれは以下の章で、さまざまなレベルのソーシャルワーク教育に必要なカリキュラムの
核になる社会開発的視点を導入するにあたって包含されるべきもののうちから、いくつかの面
について論議してみたい。
われわれはここで、ソーシャルワーク教育が採用している全カリキュラムを呈示しようとし
ているわけではない。カリキュラムは常に、特定の何がしかのニーズを満たすように作成され
ているものである。社会開発はその内の1つにすぎない。と同時にわれわれは、社会開発的視
点がカリキュラム全体に浸透可能であり、かつ浸透させる必要があると信じている。事実、わ
れわれはさらに、もしソーシャルワーク教育が社会開発のニーズに応えるべきものであるとす
れば、ソーシャルワーク系の学校の本質的な性格と構造はこの目的に沿ったものにならなけれ
ばならないということを検討する。
こうすることが学校の目標かカリキュラムの目標のいずれかを危うくするとは思えない。わ
れわれは事実、ここで検討する以外の他の目標も社会開発的視点を取り入れることによって向
上をみることが可能であると確信している。
第2章
社会開発的視点に対応したソーシャルワーク教育システムの特徴と性格
序
国のソーシャルワーク教育システム、あるいは特定のソーシャルワーク系の学校が社会開発
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ソーシャルワーク〈カリキュラム〉への社会開発的視点の導入
的視点の要請や関わりに対して効果的に応えるためには下記の特徴をもつカリキュラムに可能
なかぎり修正する必要がある。とはいえ、短期間でシステムや組織を大幅に変更することは容
易なことではないということも、われわれは承知している。重要なことは長期目標を受け入れ
ることである。そうすれば変更も可能になり得るし、好機会が到来すれば、掲げる理想的な状
況に学校を近づけることもできる。
われわれはまた、ここで呈示される理想的なシステムがソーシャルワーク教育の一般的な概
念に合致しないことも承知している。社会開発的視点は当然、社会開発ニーズに応えるもので
ある。例えば、地位がきわめて重要であるようなタイプの専門職の中でソーシャルワークを展
開したいと思えば、ソーシャルワーク教育がそのニーズに応えようとするのと同じある。それ
ゆえ、われわれは社会開発的視点を優先することにためらいを感じない。われわれは以下の節
で、ソーシャルワーク教育が社会開発という挑戦に応えるのに必要なレベルを、また社会開発
的視点に対応するソーシャルワーク系の学校の主要な特徴を、そして社会開発的視点に立った
ソーシャルワークのカリキュラムのもつ、主要な一般的な特徴を考察してみよう。
第1節 社会開発的視点をもった教育やトレーニングがソーシャルワーク系の学校の中で/学
校によって提供されるレベル
社会開発は1つの複合的な過程である。社会開発はあらゆるサービス供給部門や、すべての
専門職、そして社会のすべてのレベルを積極的に巻き込んでいくことが求められている。ソー
シャルワークは数ある領域の中の1つの領域を代表しているにすぎないが、その一般的性質、
全体的アプローチや調整的役割を取得する能力は社会開発という挑戦に応えるにあたって、ソ
ーシャルワークに有利に働くとともに、また何がしかの責任を果たすことを期待されている。
ソーシャルワーク系の学校は、ソーシャルワーク専門職が社会開発の分野においてその役割
を果たしていないといわれることには批判的である。学生が社会開発の中でさまざまな役割を
果たす上で注意深く準備することがなければ、学生はその役割を果たさないか、さもなくば、
果たしたとしても可能でありかつ望ましいとされる程度には至らないかのどちらかであろう。
とはいえ、ソーシャルワーク系の学校が社会開発に貢献することができることは、単に質の高
いソーシャルワーカーを準備することだけにとどまらない。学校は、他の専門職領域において
トレーニングを受けてきたが、いまでは自分の仕事の中に社会開発的視点を取り入れていくこ
とを願っている人々にもしばしば魅力を与えているし、またこれからも与えるであろう。学校
はまた、社会開発的視点で他の準専門職や専門職のトレーニングに対しても貢献することがで
きる。学校は理想的には、こうした方向で展開され組織化されるべきである。
ソーシャルワーク系の学校は、以下の4つのレベルで社会開発教育やトレーニングを提供す
ることができる。それらはいずれも、社会開発ニーズの全体状況の中では重要なものばかりで
ある。4つのレベルとは、準専門職レベル、ソーシャルワーク専門職の学士レベル、大学院教
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育レベル、そして継続教育レベルである。これら4つについてそれぞれ検討してみよう。
準専門職レベル
準専門職の教育レベルは、コミュニティないし草の根レベルで社会開発的役割を引き受ける
ことが求められている。しばしば圧倒的多数のワーカーがこうした役割を果たすために適切な
準備が受けられるように設計されている。ここでは多様な背景を持った人々がこうしたトレー
ニングの中に入ってくることを可能にするべきである、ということを示唆しておきたい。そし
てこのトレーニングはこのレベルからはじめて、明確に構築された専門職レベル、あるいは学
士レベルへと組み入れられていくことを想定しつつ、社会開発あるいはソーシャルワーク職へ
と歩みだす道のりの第一歩を提供すべきである、ということもあわせて示唆しておきたい。ソ
ーシャルワーク系の学校はある状況下では、それ自身の科目提供の範囲内で準専門職トレーニ
ングを含むことができるかもしれない。別のケースでは、トレーニングは他のやり方で行なっ
たほうがより首尾よく展開できるかもしれない。そしてこの場合には、学校は教育水準を維持
するのに資するある範囲の支援を提供することによって、こうしたコースの展開を支えること
ができる。準専門職レベルは、とりわけより貧困で、あまり開発が進んでいない国や国の中の
地域での社会開発分野においてきわめて重要である。そしてごく少数の国々だけが、潜在的に
きわめて重要な役割を果たすことができる適切な訓練を身につけた適正数の人材を確保してい
るにすぎない。
平和と開発のために働く軍隊の中で、歩兵は他のタイプの軍隊と同じように重要である。準
専門職は社会開発の歩兵にあたるといえよう。
専門職ないし学士レベル
第2のレベルは準専門職あるいは学士レベルである。社会開発においては他の多くの専門職
が含まれるべきであるし、また事実、含まれている。ソーシャルワーク系の学校の責任の1つ
は、ソーシャルワーカーがその中の1つとして含まれるということを確信することにある。そ
れゆえ、社会開発的視点を含めることができるように専門職を発展させることが、ソーシャル
ワーク専門職とソーシャルワーク系の学校の責務である。われわれは、すべてのソーシャルワ
ーク系の学校がたとえ程度の差こそあれ、そして異なった方法であれ、開発的視点を反映させ
るべきである、と確信している。
大学院レベル
第3のレベルは大学院レベルである。このレベルの教育の本質的目的は、一般的用語法に従
えば、専門職の中でリーダーシップを発揮することにある。ソーシャルワークにもこうしたニ
ーズがあるという点では、例外ではない。とはいえ、われわれは次のことを論議している。ソ
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ソーシャルワーク〈カリキュラム〉への社会開発的視点の導入
ーシャルワーク系の学校は、すべての国々のこうした地域における、少なくともある種の社会
開発状況下では、専門職であるソーシャルワーカーが提供できる範囲を超えたリーダーシップ
を、社会開発の中で発揮するための潜在的な力を持つべきである、と。換言すれば、ソーシャ
ルワーク系の学校は大学院レベルでは、専門職的な背景をもって入ってくる学生たちに対して
門戸を開いておくようなコース編成がもとめられている。そうすれば、学生のすべては社会開
発のさらに進んだトレーニングの恩恵を受けることになるし、またすべての学生は社会開発分
野でのリーダーシップが発揮できるような潜在能力を保有することになるだろう。
継続教育レベル
第4のレベルは継続教育レベルである。前節で掲げた特殊領域のリストが示すように、社会
開発は継続教育の側面をたくさん持っている。この分野の職員は絶えず新しい問題に対処した
り、新しい領域の仕事に踏み込んでいったり、あるいは効果的に仕事を継続することができる
ように新しい技術や知識を必要としている。このため、社会開発のそれぞれの領域における短
期コースは、国のレベル、地区レベルそして/あるいは地域社会レベルで用意されることが重
要である。かかるニーズが充たされれば、社会開発教育においてすでに相当程度の実績を積ん
でいる学校は、適正なコースが現行の基礎の上に立って提供することによって、中心的な役割
を果たすことになろう。むろん学校はこのことを、政府各省庁、この分野のNGO、コミュニテ
ィ組織あるいは他の第三者機関との連携をとおして遂行することになる。重要なことは、この
レベルの社会開発教育が見落とされてはならないことである。そしてこうした4つのレベルに
おいて、ソーシャルワーク系の学校が社会開発教育の提供に取り組むことを示唆することであ
る。また学校がもし、その1つに限定するよりはむしろ、少なくともある程度4つの領域すべ
てに焦点をあてることを摸索すれば、長期にわたってより有効かつ効果的であることが証明さ
れやすくなるだろう。
第2節 社会開発的視点に対応するソーシャルワーク系の学校の主要な特徴
われわれはここでは、社会開発を強調するソーシャルワーク系の学校に関する主要な特徴や
トピックについて述べようとしているわけではない。ここで論議する事柄は明らかに、ある程
度、理想的なモデルである。ソーシャルワーク系の学校には、必ずしもいつでも理想的なモデ
ルを導入する自由があるわけではない。学校が所在している地域や施設によって、また政府の
教育政策によっても、さらに当該の学校の資源環境という現実の制約によってもできることは
限られているものである。それでもなお、たとえある時点での結果が妥協の産物という形をと
ったとしても、目指すべき理想的なモデルをもっていることは常に有益である。
以下のような諸点を含んでいる社会開発的視点に応えるソーシャルワーク系の学校の主要な
特徴を見てみよう。
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1.社会開発の重要性
学校の管理部門およびそのスタッフは、自国にとって社会開発的視点が重要であり、またソ
ーシャルワーク職にとって社会開発的視点の中心にあるものが重要であるということを確信す
るに至るであろう。
国の社会開発計画におけるソーシャルワーク系の学校にもとめられる役割は、以下の点であ
る。
1) 社会開発にコミットしていることを示す能力
2) ある特定の社会開発プログラムへの関与に必要な社会開発ワーカーを質量ともに供給する
ためのコースやカリキュラムを意欲的に改編すること
3) 当該プログラムに含まれているすべての機関や職業訓練とすすんで協働しようとする意思
と能力
4) 社会開発領域において真の専門性を発揮する能力
2.教育レベル
学校は社会開発からの求めに応じられるようなレベルのコース、とりわけ準専門職、学士、
大学院レベルのコースの提供に努めるべきである。
いくつかの主要な社会開発計画には、かなりの人数の、前段階レベルないし準専門職レベル
のワーカーが必要である。こうしたワーカーはソーシャルワーカーとしての鍵となる資質を身
につけておくことが必要であるので、少なくとも初歩的なレベルでの彼らの訓練はソーシャル
ワーク職の責任であるといえる。このことはかかる目的にむけて注意深く構成されたカリキュ
ラムや、その実施提供のための適正な教育モデルを必要とするはずである。
学士ないし専門職レベルでのソーシャルワーカーは促進者として社会開発における主要な役
割を果たすべきである。このことは、一般的な支援、スーパービジョンそしてその後の継続教
育という点で、準専門職への支援を含むことになる。加えて、彼らの卓越した専門的な能力は
準専門職のワーカーの能力を超えて状況に関わり、支援すべきである。
大学院レベルのソーシャルワーカーは状況全体を見渡してリーダーシップを発揮するするで
あろうし、また発揮している。加えて、特に彼らがもし、そうした役割に人間中心的アプロー
チとを持ち込むことができるならば、人々や集団やコミュニティに関する健全な理解―その性
格、ニーズそして成長・発達する力という点で―、社会開発政策や計画活動に参加する彼らの
能力はきわめて重要な意味をもつことになるであろう。
3.カリキュラム内容
学校は、3つのレベルのカリキュラムすべてがその領域の環境に重要な関連をもっていると
いうこと、本論文において概略されているような社会開発内容の領域を少なくとも含んでいる
134
ソーシャルワーク〈カリキュラム〉への社会開発的視点の導入
ということを確信するであろう。とりわけ、カリキュラムは、当該の国や地域の広汎な開発状
況を学生に呈示するものである。このことが、学生に社会開発ニーズを探求する励みになり、
またそれを可能にもする。そしてその結果、こうしたニーズに応えるために適切な役割、方法、
態度、戦略そして技術を確認し、かつ獲得しようとする主体的な関与が生まれる。
こうした領域のカリキュラムのそれぞれに関わる詳細は本稿のやや後の章で概述される。内
容の多くは今日、ほとんどのソーシャルワーク系の学校において教えられているものとさほど
異なるものではないものの、その範囲と強調点は異なっている。これは今日しばしば排除され
ているが、しかし排除されるべきでない、きわめて重要な諸領域である。本稿の次節でリスト
アップされるものがそれにあたる。
4.スタッフ
学校は、社会開発分野での経験を有するスタッフをリクルートしたり、あるいは現員スタッ
フにその分野の経験や理解を獲得させる機会を提供することが求められている。
スタッフの力量はソーシャルワーク系の学校にとって重要である。社会開発用語でいえば、
スタッフは数年間の現場経験を有していなければならず、そしてその後も実践との繋がりを保
持し続けているべきである。多くの領域におけるスタッフは言語技能、文化的資質あるいはそ
の領域内で効果的に機能し得るような理解力や他の特殊な資質を保有していることが必要であ
る。スタッフの質は学生への良質な教育にとって根本的なものである。そしてその質は、率先
しておこなう適切な授業準備や、知識や教授技術を活性化し、質の向上のための機会を提供す
ることによって確保される必要がある。スタッフの身分と給与水準の問題はスタッフをつなぎ
止めておく上で、そして水準を保つ上で重要である。他方、専門職組織をとおした仲間同士の
支え合いや、学校と他の組織との間の連繋は最も重要である。
5.学生の履修要件
学校は履修要件、単位付与、単位互換や読み替えになどにおいては柔軟かつ、融通が利くよ
うにしておきたいものである。学生たちは自己の学習能力と同様、その年齢や生活経験、労働
経験等々に見合った特別な履修上の調整をもって遇されるべきである。ほかにも、たとえば学
生が別の職業からソーシャルワーク系の学校を通じて社会開発の仕事に転職してきているとい
うこともあるので、単位の読み替えが必要になる。単位やキャリアの互換や読み替えはさまざ
まな形態の準専門職トレーニングを受けている人々が、ソーシャルワーク系の学校が提供する、
さらに上位のトレーニングに向かうことができるというということを確信できるという上で重
要である。
適正な学生の入学を促進するためには、学校は、パートタイムのコースや、高度に集中的な
トレーニング期間をもつ、おそらくインターネット上のコースの提供を真剣に検討する必要が
立教大学コミュニティ福祉学部紀要第 6 号(2004)
135
あるかもしれない。こうしたモデルは、カリキュラムや学習内容についての注意深い検討を要
する。
6.学生の受け入れ
学校は、現行の社会開発の人材要請に可能な限り見合ったものを確保できるように、受け入
れ学生数を継続的にモニターする必要がある。
7.教授−学習アプローチ
学校は社会開発に焦点を合わせた、それに相応しい教授−学習アプローチを開発することに
なるだろう。
8.コースへの接近のしやすさ
学校は村落地域や遠隔地、そしてまたマイノリティや阻害されている集団からの学生に役立
つ社会開発コースの設置の可能性を検討することになるだろう。多くの国々では、村落部に位
置している学校や、カリキュラムにおいて村落部の状況や学生の出身母体を反映させるような
学校を持つ必要がある。かかる学校では、その地域での一般的な所得水準、潜在能力を持つ学
生の特質そしてスタッフを魅了し、留めえておく困難等に適応できるように刷新していくこと
が必要である。
ある状況下では、村落部に根ざした学校は不可能であるかもしれない。村落部のニードはむ
しろ、適切なカリキュラムや教育の提供方法をもった、適正な形態の遠隔地教育や学外サテラ
イト・キャンパスによった方が首尾よく満たされるかもしれない。
9.卒業生のステイタス
学校は、卒業生が社会開発領域において高い評価を得られること、そして社会開発領域自体
が高く評価されることを確保するように、絶えず模索することになる。
10.卒業生との連絡
学校は、社会開発領域に入っていった卒業生と接触を保つよう努めることになるであろう。
そのことが、卒業生によってもとめられている。そしてまた社会開発の存在理由をさらに明ら
かにすることにとって本質的に重要になるような継続教育コースや他の形態のサポートを提供
しやすくしてくれる。
11.学校のネットワーク 理想的にいえば、学校は他の学校、政府省庁、そして非政府組織あるいは社会開発と密接な
136
ソーシャルワーク〈カリキュラム〉への社会開発的視点の導入
関連のある他の専門職等とうまくネットワーク化されるべきである。このネットワークは多く
の状況下では、国内的でありかつ国際的であるべきである。
12.外部からのサポート
学校は、社会開発に焦点を当てるためには国内的かつ国際的なサポートを受けるべきであ
る。社会開発領域におけるソーシャルワーク系の学校の潜在的な役割は、国際的および国内的
なソーシャルワーク連盟やソーシャルワーク教育連盟から、そして社会開発的焦点という明確
で疑う余地のない証拠によって大幅に高められていくものである。
13.ソーシャルワーク教育者と学生のための奨学金
学校は、まずソーシャルワーク教育者が社会開発領域における活動に相応しい準備ができる
ように、そして次に、ある範囲の学生がさまざまなレベルでのトレーニングを受ける機会を得
ることができるように奨学金制度の発足を模索することになるだろう。
14.社会開発におけるソーシャルワークの推進
学校は、社会開発におけるソーシャルワークの役割を意識喚起させることができるようなプ
ログラムによって、その展開が促進されるであろう。というのは、ソーシャルワーク教育の全
領域が社会開発という挑戦を正しく認識しているとは考えられないからである。つぎのような
ことが重要である。すなわち、社会開発において中心的な役割を果たすソーシャルワークに資
するような雰囲気をつくる意識喚起型プログラムは、たぶん、とくに行政府に属するスタッフ
とソーシャルワーカーの雇用主との間で引き受けられる、と。このためにはソーシャルワーク
の現行のイメージに働きかけることが必要であるだろう。
第3節 社会開発的視点に対応したソーシャルワーク系の学校のカリキュラムの主要な特徴
カリキュラムを報じるにあたっては、社会開発的視点にとって明白で、重要なニーズがある
が、浸透しているという意味合いでいえば、社会開発は、以下に掲げる領域を含んだ、一連の
範囲のカリキュラムの中で直截に特徴づけられるということがまた重要である。
1.コースの内容
1) カリキュラムにおける知識領域は社会開発では基礎科目としての役割を果たすことになる。
2)カリキュラムの価値領域では、社会開発にとっての基本的な価値がここに含まれる。
3) カリキュラムの中に含まれている一連の政策と計画の領域には、現行の地域社会
開発の重要課題とされているものがすべて含まれている。
4) 技術の領域には、特殊領域の社会開発においてきわめて重要な意味をもつ、それゆえカリ
立教大学コミュニティ福祉学部紀要第 6 号(2004)
137
キュラムに含められるべき技術がある。
2.科目構造
1) カリキュラムのさまざまな側面を、選択された現代の社会開発問題をめぐって統合するこ
とが望ましいと思われる。
2)この視点はそれ自体がセミナーの組み立てや成人学習アプローチにも適用することができ
る。
3.学習過程
1) 学習過程は社会開発にとって中心的なプロセス、すなわち参加とエンパワーの過
程を反映するものである。
2)評価手続きは社会開発的視点によっても影響を受けるかもしれない。
3) 学習は学生自身の経験からはじめるべきであるし、そこから展開するべきである。
4)学習過程は生涯を通じたものであるべきであり、内省をとおして実践することは本質的に
重要である。
<コース内容>
コース内容との関連では、社会開発型カリキュラムにとって中核となると思われる、特殊な
知識、価値、技術の体系がある。われわれは、以下の領域がこうした領域のカリキュラムとの
関連で含まれる、重要なものであることを示唆しておきたい。
カリキュラムの中の知識の構成要素
社会開発的視点を反映するカリキュラムの中に含まれる必要があると思われる多くの知識群
が存在しているが、この点では、われわれはとりわけ1つの点を強調したいと思う。社会開発
的視点にとって中核と見なされる知識内容の領域は、適切なフォーマットに収められた広い開
発状況という形で呈示される。そこには以下の項目がふくまれる。
1)経済開発と社会開発との間の関係性を反映している開発に関するさまざまな理論やパラダ
イム
2)政治的開発とグループ間における権力の役割
3)文化的開発と開発における文化の役割
4)すべてのレベルにおける開発の重要性 ― 個人、家族、コミュニティ、制度、社会 ―
5)今日の生活の全局面をおおうグローバル化
6)社会指標の性質と役割の重要性
7)開発における価値の重要性
138
ソーシャルワーク〈カリキュラム〉への社会開発的視点の導入
広汎な開発状況の中でこうした重要な領域は以下のような教授-学習アプローチを通して呈示
されうる。
1)主題に基づいて構造化された科目
2)特殊な開発問題に関するゲストスピーカーの活用
3)クラスにおける補助的な教材としてのレジュメ、参考資料の配布
4)状況の分析と学習をとおした生涯にわたる継続学習
社会科学や行動科学的な知識の洗礼を受けることはソーシャルワーカーすべてにとっても重
要である。社会開発的視点が特殊領域を呈示しているかどうかに関しては疑問の余地のあると
ころである。われわれは、それはその通りであるということを示唆しておきたい。われわれは
以下の諸点を呈示しておくことにしたい。
1)経済学や政治学は行動科学よりもより重要である可能性がある。ただし、3つの分野の
科学はいずれも潜在的には重要であるということを十分承知している。
2)社会科学と行動科学の内どちらがカリキュラムの中にふくまれようとも、必要なことは、
社会開発にとって直接関連性のある応用的な知識により焦点をあてた、高度に選択的なも
のである。ただし、社会開発が隣接複合学的な活動領域であることを承知した上でのこと
である。
3)こうした一般的な分野での内容の選択は、卒業生が実践にかかわる状況をある程度反映
すべきである。
カリキュラムの中の価値にかかわる構成要素
価値にかかわる構成要素との関連で、われわれは社会開発志向型カリキュラムにおける価値
の重要性を強く強調しておきたい。とくに前の章で呈示しておいた社会開発視点において核と
なる価値リストをここでも掲げておく。以下がこれである。
・人々に対する尊敬の念と成長発達する人々の能力に対する信頼
・人間存在 ―肉体的存在から精神的存在― に関する全体的な理解 ・社会・文化的複合多元主義の受容と、人々の文化や価値の中心部にあるものを繋ぎあうこと
・生態学的な問題や、自然と環境との人間の関わりの重要性を認識すること
・社会関係が参加の権利と義務や、理にかなった機会の均等、そして社会正義に対する一切の
権利等に基づいているということを認識すること
カリキュラムの中における技術的な構成要素
カリキュラムの中における技術的な構成要素の関連では、われわれは次のことを示唆してお
きたい。ソーシャルワークにとって重要なものとして一般に受け入れられている広範囲におよ
ぶ技術はまた、社会開発にとっても重要である。この範囲の中には次のような項目が含まれて
立教大学コミュニティ福祉学部紀要第 6 号(2004)
139
いる。
(1)その領域における介入と問題解決に関する技術
1)状況のアセスメント
2)現状の問題の原因分析
3)現状分析やモニターリングや評価をふくむ介入戦略の選択と実行
(2)プロジェクトと実施計画にかかわる技術
1)プロジェクトの計画と管理運営
2)プログラムの設計と評価
3)文書起案および発信
4)資源開発
(3)より広汎な人々との相互交流に関わる技術
1)広汎な状況を前にした会話および文章コミュケーション技術
2)コミュニティ教育を含むプログラムの市場調査
3)メディア対応技術
(4)社会統合に関する技術
1)多様な状況下での仲介、交渉、葛藤・紛争解決の技術
(5)社会開発実践にかかわる技術
1) 社会開発プログラムの調整
2)社会活用
3)地域組織の構築 4)さまざまな集団やコミュニティの人々との協働に含まれる技術
5)弁護・代弁機能
6) 参加型計画の推進と参加能力
7) チームの一員として活動する能力と、チームを構築する技術
(6)調査技術
1)一般的な調査技術
2)こうした状況において調査するにあたって1つの重要なアプローチとしての参与観察調査
3) 内省を伴なった実践における理解と参加能力
(7)経済学に関する技術
1)効果対費用分析の実施
2)計画に関する経済的な結果、あるいは導き出される不足要素の例証
3) 経済学的な観点から社会問題を効果的に呈示すること
(8)政策技術
1)政策分析、定式化と実行
140
ソーシャルワーク〈カリキュラム〉への社会開発的視点の導入
2)特殊な状況下での政策実行のもつ潜在的な貢献を評価する能力
ソーシャルワークのプログラムの中でこうした範囲の技術を教えることは時間とスタッフの
専門的な資質能力という理由を考えれば、困難であることが予想されることは、われわれも承
知している。それゆえ、以下の戦略が考慮され得るということを示唆しておく。
1.正規のカリキュラム外でのさまざまなタイプの技術を教える短期コースを、学士レベル
や修士レベルの学生に、実践家に、そしてソーシャルワーワーではな い従事者に対して
開かれたコースとして提供すること
2.トレーニングを提供するために外部講師を導入すること
3.基礎的なトレーニング、あるいはさまざまな技術に関する再教育コースへのスタッフの
提供
(以下は次号に掲載予定)
目 次
まえがき
序論
第1章 社会開発とソーシャルワーク教育におけるその包摂
序 ソーシャルワーク「カリキュラム」への社会開発的視点の包摂にむけて
第1節 社会開発的視点
第2節 カリキュラムの中に反映されたものとしての社会開発的視点のパラメータ
第3節 ソーシャルワーク教育カリキュラムの中に社会開発的視点を組み込むにあたっての基本目標
第2章 社会開発的視点に対応したソーシャルワーク教育システムの特徴と性格
序
第1節 社会開発的視点をもった教育やトレーニングがソーシャルワーク系学校の中で/学校によ
って提供される諸レベル
第2節 社会開発的視点に対応するソーシャルワーク系の学校の主要な特徴
第3節 社会開発的視点に対応したソーシャルワーク系の学校のカリキュラムの主要な特徴
(以上、本号掲載)
(以下、次号掲載予定)
第3章 ソーシャルワークのカリキュラムのための社会開発の内容の提案
序
第1節 ソーシャルワーク修士レベルのカリキュラムのための社会開発の内容の提案
第2節 ソーシャルワーク学士レベルのカリキュラムのための社会開発の内容の提案
第3節 準専門職のカリキュラムのための社会開発の内容の提案
第4節 社会開発における短期トレーニング・コースのためのカリキュラムの提案
立教大学コミュニティ福祉学部紀要第 6 号(2004)
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第4章 社会開発的視点をソーシャルワークカリキュラムに導入するための示唆された戦略
序
第1節 国内のソーシャルワーク系の学校の数と所在地
第2節 各地区におけるソーシャルワーク系教員のレベルと資質能力
第3節 ソーシャルワーク系学生の特質
第4節 社会開発的視点をもったソーシャルワーク教育の供給形態
第5節 教材の効用
第6節 政策策定者と中間管理職のための社会開発における短期トレーニング・コースを提供する
にあたってのソーシャルワーク系の学校の関与
第7節 ソーシャルワーク教育状況におけるさまざまな形態の社会開発トレーニングの関連づけ
選択的な参照
若干の有益な専門雑誌
社会開発トレーニング資料へ接近するための連絡先
ワークショップ参加者の連絡先
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