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詳細版 - GEC
新メカニズム実現可能性調査 最終報告書(詳細版) 目次
1 調査の背景.................................................................................................................................... 1
1.1 国際交渉・議論の動向 ............................................................................................................. 1
1.2 ホスト国の新メカニズムに対する考え方 ..................................................................................... 2
2 調査対象事業・活動....................................................................................................................... 3
2.1 事業・活動の概要..................................................................................................................... 3
2.2 企画立案の背景 ...................................................................................................................... 4
2.3 ホスト国における状況 .............................................................................................................. 4
2.4 新メカニズムとしての適格性 ................................................................................................... 21
2.5 事業・活動の普及................................................................................................................... 22
3 調査の方法.................................................................................................................................. 22
3.1 調査実施体制 ........................................................................................................................ 22
3.2 調査課題............................................................................................................................... 23
3.3 調査内容............................................................................................................................... 24
4 調査結果....................................................................................................................................... 54
4.1 事業・活動の実施による排出削減効果 ................................................................................... 54
4.2 リファレンスシナリオの設定..................................................................................................... 55
4.3 バウンダリーの設定................................................................................................................ 58
4.4 モニタリング手法・計画 .......................................................................................................... 64
4.5 温室効果ガス排出量及び削減量 ........................................................................................... 70
4.6 排出削減効果の測定・報告・検証(MRV)手法....................................................................... 95
4.7 環境十全性の確保 ................................................................................................................ 97
4.8 その他の間接影響............................................................................................................... 102
4.9 利害関係者のコメント ........................................................................................................... 103
4.10 事業・活動の実施体制 ....................................................................................................... 104
4.11 資金計画 ........................................................................................................................... 105
4.12 日本製技術の導入促進方策 .............................................................................................. 107
4.13 今後の見込み及び課題 ..................................................................................................... 109
5 コベネフィットに関する調査結果 .................................................................................................. 111
5.1 背景 .....................................................................................................................................111
5.2 ホスト国における環境汚染対策等効果の評価 ....................................................................... 111
6 持続可能な開発への貢献に関する調査結果...............................................................................114
H23 新メカ FS
最終報告書
新メカニズム実現可能性調査 最終報告書(詳細版)
調査名「ベトナム・ソンラ省における荒廃地の植生回復・植林等による REDD+
と木質バイオマス発電に関する新メカニズム実現可能性調査」
団体名:住友林業株式会社
1 調査の背景
1.1 国際交渉・議論の動向
森林減少・劣化等に由来する排出は、世界の温室効果ガス排出量の約2割を占めるとさ
れているが、京都議定書下のルールでは、この排出量は削減義務の対象とされていない。
REDD は途上国の森林の減少・劣化を抑制する取組みによるCO 2 の排出削減に対して、
何らかの経済的なインセンティブ(クレジット等)を与えようとするものである。
REDD+ についての国際交渉・議論等の経緯を振り返ると、その発端は、2005 年の
COP11 モ ン ト リ オ ー ル 会 合 に お い て パ プ ア ニ ュ ー ギ ニ ア と コ ス タ リ カ が 「 Avoiding
Deforestation(森林減少の回避)」という概念を用いて森林減少の削減による温室効果ガス
排出削減対策を新しいテーマとして提案したことである。COP13 で合意されたバリ行動計
画には、森林減少・劣化による排出削減と並んで、「保全、森林の持続可能な管理、森林の
炭素貯留量増加」が追加され、REDD+が次期枠組みの検討項目とすることが合意された。
2010 年にメキシコ・カンクンで開催された COP16 においては、同会合における決定「条
約の下での長期的協力の行動のための特別作業部会の作業結果」の中に、途上国の森林
減少・劣化対策等と先進国の支援の枠組みが盛り込まれた。また、セーフガードとして
REDD プラス事業による社会・環境面での悪影響の回避のための要素として示された。
また、2011 年 11 -12 月に南アフリカ・ダーバンで開催された COP17 では、AWG-LCA
にて REDD+が本格実施される場合の資金のあり方について議論が行われたが、市場メカ
ニズムの利用を認めるか否かをはじめ、資金支援のありかたについて合意が得られず今後
の交渉に持ち越しとなった。一方で、セーフガードに関する情報提供システム、リファレンス
レベル等に係る技術指針が決定されたほか、途上国の森林減少・劣化対策等への資金と
先進国の支援の枠組みについて、今後さらに検討していくことが決定した。また、2010 年採
択されたカンクン合意に基づき、緑の気候基金の基本設計に合意するとともに、削減目標・
行動推進のための仕組み、MRV(測定・報告・検証)の仕組みのガイドライン等に関する取
組を進めていくことも合意している。
REDD+の具体的な制度運用に向けた課題として、リファレンスレベルの設定方法、森林
減少・劣化の誘因(ドライバー)の特定、排出削減や吸収増加等につながる行動(対策)の
特定、リモートセンシングや地上調査の組み合わせ等による森林モニタリングシステムの構
築、セーフガードの内容と実施方針、モニタリング・報告・検証(MRV)を含む方法論等の検
討が継続的に進められている状況にある。
表 1
主要マイルストーン
COP11(2005 年)
@モントリオール
COP13(2007 年)
@バリ
REDD に関する主な国際交渉の経緯
概要
パ プ ア ニ ュ ー ギ ニ ア と コ ス タ リ カ が REDD ( Reducing Emissions from
Deforestation in Developing Countries)を共同提案
「バリ行動計画」で、次期枠組における検討項目として REDD+を対象とする
ことに合意
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H23 新メカ FS
最終報告書
※この間、AWG-LCA(政策論)および SBSTA(方法論)で継続議論
2008 年 6 月 世界銀行「森林炭素パートナーシップ基金(FCPF)」の運用開始
COP15(2009 年)
「コペンハーゲン合意」では森林減少・劣化からの排出の削減や吸収の役
割の重要性や、REDD+を含む制度を直ちに創設することに言及。REDD+
@コペンハーゲン
に関する方法論のガイダンスを決定
※この間、AWG-LCA(政策論)および SBSTA(方法論)で継続議論
二国間枠組みの立ち上げ(フランス、ノルウェー等)
COP16(2010 年)
REDD+の制度・政策面の議論が本格化
@カンクン
REDD+に関する合意が COP16 の決定文書に盛り込まれる
COP17(2011 年)
カンクン合意に基づく継続議論
@ダーバン
セーフガード情報提供システム、リファレンスレベルに関する指針
が COP17 の決定文書に盛り込まれる
出典:森林総合研究所 REDD 研究開発センター(http://www.ffpri.affrc.go.jp/redd-rdc/)を一部改編
1.2 ホスト国の新メカニズムに対する考え方
ベトナムは、日本政府が提案する二国間オフセット・クレジット制度の重点対象国(ベトナ
ム・インド・インドネシア)の一つに挙げられている。また、2010 年 7 月から事務方の政府間協
議を開始する等、早くから同制度の立ち上げに向けて検討を行ってきている。さらに、2010
年 10 月 31 日の日越首脳会談では、気候変動分野を含む共同声明の中で、二国間オフセ
ット・クレジット制度の構築等に関する協議開始について合意がなされた。この中で、両首脳
は、二国間オフセット・クレジット制度の構築の可能性を含め、両国の関係機関に意見交換
を行うことを指示することで一致した。このように、ベトナム政府は、二国間オフセット・クレジ
ット制度に対して積極的な関心を表明しており、今後の検討の進展状況が注目されている。
平成 22 年度地球温暖化対策技術普及等推進事業(経済産業省管轄)では、一次公募お
よび二次公募を通じて合計4件が採択された。ただし、平成 22 年度新柔軟性メカニズム実
現可能性調査については、ベトナム案件の採択はなかった。さらに、平成 23 年度において
は、平成 23 年度地球温暖化対策技術普及等推進事業(NEDO 管轄)が4件、新メカニズム
実現可能性調査が3件の採択となっており、周辺国と比較しても、事業実施数が多くなって
いる。
なお、ベトナム政府は 2008 年に策定された国家目標プログラム(The National Target
Program (NTP)において中長期的に気候変動に対する取り組みを強化することとしており、
REDD+についても、京都議定書下の植林 CDM とともに政府の体制整備およびプログラム
の実施を積極的に進めている。
以上より、ベトナムを対象とした REDD+プロジェクのト形成は、二国間オフセット・クレジッ
ト制度を進めるうえでも有効である。
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最終報告書
◎平成 22 年度地球温暖化対策技術普及等推進事業(経済産業省管轄)
<一次公募>
・ 「高効率石炭火力(超々臨界)」東電(丸紅)
・ 「高効率変圧器による送電ロスの減少」三菱UFJモルガンスタンレー(東北電力、日立金属)
・ <二次公募>
・ 「原子力発電の導入」東京電力
・ 「家電(エアコン、冷蔵庫、給湯器、テレビ、照明)普及」三菱商事(主要家電メーカー)
◎平成 23 年度地球温暖化対策技術普及等推進事業(NEDO 管轄)
・ 「ベトナム国における超々臨界圧石炭火力導入プロジェクトの案件組成調査」三菱総合研究所
・ 「ベトナム国における低濃度炭鉱メタンガス処理・発電プロジェクトの案件発掘調査」三井物産、川崎重工
業
・ 「ベトナム社会主義共和国におけるデータセンター等サーバーの更新・統合等による CO2 削減プロジェクト
の案件発掘調査」日本電気、スマートエナジー
・ 「ベトナムにおける高効率電化機器普及促進発掘調査(建物省エネ)」三菱 UFJ モルガン・スタンレー証券
◎平成 23 年度新メカニズム実現可能性調査(GEC 管轄)
・
「ベトナム・ソンラ省における荒廃地の植生回復・植林等による REDD+と木質バイオマス発電に関
する新メカニズム実現可能性調査」住友林業
・
「ベトナム・混合セメントへの高炉スラグ利用による CO2 削減に関する新メカニズム実現可能性調査」
三菱総合研究所
・
「インドネシア・ジャカルタ並びにベトナム・ハノイ及びホーチミンにおける大量高速輸送機関(MRT)
導入に関する新メカニズム実現可能性調査」三菱総合研究所
2 調査対象事業・活動
2.1 事業・活動の概要
ベトナム北西部ソンラ省 Thuan Chau 保護林 Ban Lam 地区(約 6,000ha、土地区分は
林地だが焼畑により荒廃している。保護林事務所は非林地で植生回復を希望してい
る)及び Copia 特定利用林(約 10,000ha、コア部分には天然林が残るがとくに森林の
劣化が進行している。生物多様性保全上重要な場所である)を対象とする植林及び森
林保全プロジェクトの実現可能性調査を行う。これらの対象候補地はベトナム北西部
の典型的な土地利用形態であり、その多くを占める焼畑耕作地、荒廃地を対象に植生
回復を実施する。具体的には、住民の薪や建築材料の採取を目的としたコミュニティ
フォレストの造成、外部への販売を狙った生産林の育成、天然更新等低コスト手法に
よる保全林の再生や焼畑に代
替する定地型農業指導を実施
する。このような農林業の定着
により、既存天然林への圧力が
低下し、植林地の炭素蓄積量が
増加する効果を定量化し、GHG
排出削減として排出権を獲得
する。
この手法はベトナム北西部
一帯での適用が期待される。二
国間オフセット・クレジット制
度 ( Bilateral Offset Credit
Mechanism:BOCM)が植林を
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最終報告書
推進するベトナムの政策と連動して推進され、大規模な造林、植生回復活動が行われ
た場合、将来、当該地域から大量の木材が供給されることとなる。周辺農村における
煮炊き用の薪炭材や建築材料、木材産業の原材料としても利用する一方、木材加工産
業を誘致し高付加価値の木材製品を製造するとともにバイオマス発電も行い、火力発
電による電力を代替することで GHG 排出削減を行う。
森林造成による水源涵養や国土保全、生物多様性保全等の森林の多面的機能向上に
貢献し、ベトナムでの最も貧しい地域の一つであるベトナム北西部に新たな産業を起
こし、地域の持続的発展に資する事業を模索する。
2.2 企画立案の背景
ベトナム政府は植林面積を増やし、林業を拡大する政策を進めている。北西部の広大な
荒廃地はその対象地であり、ベトナムでも最も貧しい地域で農林業の振興が期待されてい
る。また、水源涵養や国土保全、生物多様性の維持等の面からも森林回復が望まれる。
ベトナムは日本企業が多く進出しており、また日本製品の市場としても有望である。このた
め、排出削減を行なおうとする我が国あるいは我が国の企業にとって、排出権調達のための
優先度の高い国のひとつと言える。また、この地域での森林保全による排出削減活動は、貧
困の解決、水源涵養、生物多様性の保全等に貢献し、排出権を獲得する企業のCSRニー
ズを十分に満たす競争力のある排出権を創出することが期待できる。
2009 年時点の EVN の電力消費予想では、以後 10 年間で 2.6 倍、15 年間では 3.9 倍に
なると予想されている。ベトナムの停電の原因のひとつとして、急激な電力需要の伸びに電
源開発が追いついていないことが挙げられている。
当事業活動によるバイオマス発電事業は、EVN の電力事情に影響されずに、地域産業
に電力を供給することができる。また、ベトナムは木材消費量の半分以上を輸入に頼ってお
り、当事業の実施により、国内材の供給力を高めることは、地域の経済発展に貢献できる。
当事業の実施により自国における生産により輸入量を削減し、また余剰ある場合には中
国など近隣諸国及び日本へ販売することで、国家の経済に貢献できる。このように、ベトナ
ム国内から安定的に木材を供給する体制を確立することは木材の輸入国である我が国の責
務であると言える。
以上が、企画立案した基本的背景であるが、上記に加えて、企画当時、JICA が「ベトナム
における森林減少・劣化からの排出量の減少の経済ポテンシャル」を調査しており、民間企
業の参画を促すための方法を模索していたこと、北西部での森林回復をベトナム林業大学
から強く推奨されたこと、実際に現地を訪問し広大な非森林地、荒廃地を目のあたりにし、
森林回復による環境保全の必要性と林業を軸とした地域振興の可能性を強く感じたことが
本件の企画、提案の動機である。
2.3 ホスト国における状況
(1) ベトナム政府の森林関連施策の動向
多くの開発途上国で森林減少が進む中、ベトナムでは植林・再植林が積極的に実施され
たことで近年森林が拡大しており、1990 年に比べて 2005 年の段階で森林面積が 38%ほど
増えている。このように国全体で見ると森林は増えているが、本プロジェクトの対象地である
ベトナム北西部におけるいくつかの地域では森林の被服率は低く、とくに天然林の減少・劣
化が大きな問題として指摘されている。このような状況下で、ベトナム政府は、500 万 ha 国家
造林計画(661 プログラム)などの森林面積拡大のための施策に取り組むと同時に、複数の
国際機関、援助機関の協力を得ながら、積極的に REDD+に取り組む姿勢を見せている。
以下、ベトナム政府及び国際機関、各国の援助機関の動向について、詳述する。
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コラム 住友林業の荒廃地植林 別子全山をあをあをとした姿に
別子銅山の運営に伴い、周辺の森林から木材を調達し続けた結果、19 世紀末には、豊かだった森
林が荒廃の危機を迎えていた。原因は異なるものの、現在のベトナム北西部のそれを彷彿とさせる。
当時の別子支配人・伊庭貞剛は「国土の恵みを得て事業を続けていながら、その国土を荒廃するに
任せておくことは転地の大道に背く。別子全山をあをあをとした姿にかえさねばならない」と 1984 年に
大規模な植林によって森林を再生させる「大造林計画」を樹立。大変な苦労と努力の末、やがて山々
は豊かな緑を取り戻すことができた。
この「国土報恩」の精神に基づく植林活動は、住友林業グループの事業活動、そして CSR 活動の原
点となっており、本 FS を企画立案した動機と強い関連がある。
植林前の別子銅山
植林後の別子銅山(現在)
ベトナムにおいては、20 世紀後半の人口増加、経済発展に由来する森林資源及び農地
需要の拡大、さらに無秩序な開発の進展などの要因により、1976 年から 1990 年までの 15
年間で、200 万 ha 以上の森林が減少したとされている(なお、ベトナムの森林面積は、南北
統一以来、1990 年頃が最低で、917 万 ha と言われている)。この状況に対して、ベトナム政
府は優先プログラムとして「荒廃地緑化計画(327 プログラム)」、「500 万 ha 国家造林計画
(661 プログラム)」を策定・実施している。「327 プログラム」は、1992 年に発表され 1993 年か
ら 1997 年まで実施されたもので、残された森林を保護するとともに、未立木地に対して大規
模な森林再生を行うことを目標としたものである。具体的には、①裸地・禿山に対する植林
の実行および現存する森林の保護と天然林伐採の抑制、②海岸地・水系の利用、③山
岳地において焼畑移動耕作を行う少数民族の定着と生活の安定化、を目的としていた。ベ
トナム政府は、同プログラム下で森林保護、植林を促進するため、森林の利用権を国営企
業、民間企業、世帯、個人などに交付した。
また、「661 プログラム」は、1997 年に発表され、「327 プログラム」に続いて 1998 年から
2010 年まで実施されたもので、2010 年までに生産林 300 万 ha、最重要保護林、重要保護
林および特別利用林 200 万 ha を造成し、森林面積を 1945 年時点と同じ 1430 万 ha に回復
させることを目標としたものである。同計画の目的としては、①環境保全、遺伝子資源の保
全、②未立木地の活用による労働機会の創出、飢餓の根絶、貧困の排除、定住農業、山間
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部における住民所得の向上、などが掲げられている。さらに、移民の生活を安定化させるた
め、彼らを植林活動に参加させることも目的としていた。政府資金は同計画に関連する 200
万 ha の最重要保護林、重要保護林、特別利用林にのみ投入される一方、300 万 ha の生産
林は非国営企業、その他組織、世帯および個人などの資金によって造成されることとされた
(ラヴィンハイハー、飯田、2008)。なお、2007 年 7 月には「661 プログラムの一部見直し」が
行われ、非木材林産物(NTFP)への特別な配慮をすることなどの指針を新たに定めている。
同プログラムの国家レベル、省レベル、プロジェクトレベルの実施体制の概要図を、以下
に示す。
図 2-1 500 万 ha 国家造林計画(661 プログラム)の実施体制の概要図
出所:“Five Million Hectare Reforestation Program Partnership Synthesis Report”
同計画によって森林面積は増加したものの、依然として多くの問題を抱えているのが実情
である。例えば、配布された苗木に問題があったケース、ローカルな気候風土に必ずしも合
わない樹種が配布されたために定着しなかったケース、アカシアなどのモノカルチャーが主
となってしまっているケース、地域により天然林が減少しているケース、などが指摘されてい
る。今後、より持続可能な管理を長期的に実現していくことが重要となる。現在、同計画の成
果についての評価が政府内で行われているところであるが、そこでは、同プログラムによって
森林面積の量的拡大は達成できたものの、在来樹種の活用が少なく上述のように多様性に
乏しいこと、また生物多様性にとっても最良とは言えないことなど、質的な側面ではいまだ課
題が残っており、今後長期的視野に立って持続可能な管理を実現していくためのファースト
ステップと位置付けるべき、との認識がなされている模様である。
他にも、ベトナム政府は森林セクターの長期的政策として 2001 年に「森林開発戦略(2001
~2010)」を策定しており、森林面積の増大、住民生活の向上等に向けて取り組むこととした。
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その後、援助機関や国際機関の意見を取り入れつつ上記戦略を改訂し、より包括的かつ高
度、具体的な内容を盛り込んだ「森林開発戦略(2006~2020)」を策定し、質的側面、量的
側面双方を念頭に置いた森林の回復に向けて取り組んでいる。同戦略では、2020 年までに
森林被覆率 47%、GDP に占める林業の割合 2~3%、林業による新規雇用創出 200 万人、
を達成することを目標としている。
以下、ベトナムにおける森林および気候変動分野における、政府機関同士の役割分担
ついて示す。ベトナムにおける気候変動対策は、基本的には天然資源環境省(MONRE)の
管轄とされており、MONRE が UNFCCC(気候変動枠組条約)のフォーカルポイントとなって
い る 。 だ が 、 REDD+ など 農 林 業分 野の 取り組 み に つ い ては 上述の 農 業農 村開 発 省
(MARD)が担当しており、特に森林・林業分野の各種活動は、基本的に MARD 傘下の森
林総局(VNFOREST)が管轄することとなっている。すなわち、MARD と MONRE の役割分
担について、気候変動関連は緩和策、適応策共に MONRE の所轄とされているが、
REDD+については MARD が所轄している。(ただし、一方で土地管理や土地利用につい
ては MONRE の管轄とされており、森林面積に関する統計データは、MONRE のものと
MARD のものが別々に存在し、しかも両者の数値が整合していない状況である。)
なお、2011 年 3 月に新たに「国家 REDD+ オフィス(Vietnam REDD+ Office)」が設立さ
れた。同オフィスは、省庁横断組織である National REDD+ Steering Committee の傘下に位
置しており、所属する人員こそ農業農村開発省(MARD)の人間が多いものの、MARD だけ
の管轄下にあるわけではない。今後、REDD+に関する取り組みについては、同オフィスが
中心的な役割を果たすこととされているが、VNFOREST との役割分担が明確になされてい
るわけではない(国家 REDD+ オフィスと VNFOREST を兼務している人間も多い模様であ
る)。現在、同オフィスを中心に、ベトナム政府としての REDD+に関する取り組みの方向性、
方針を取りまとめた「国家 REDD+戦略」の策定が進められている。現時点で、関連する国際
機関や援助機関らとの調整・議論を重ね、レビューを受けた段階であり、2012 年初頭には首
相による最終承認を得て公表される予定のようである。なお、同戦略は現在フェーズ 1 の準
備段階であり、これから開始されるフェーズ 2 の試行段階におけるパイロット事業では北部の
Bac Kan 省、Lao Cai 省、Ha Tinh 省、中部の Lam Dong 省、Binh Thuan 省、南部の CaMau
省の 6 省がパイロット省として選定され、さらに様々な検討が加えられる予定となっている。
国家全体の気候変動対策に係る政策として、MONRE によって国家目標計画(NTP)が策
定されており、2008 年 12 月に首相承認を得ている。同計画では、農林業分野における気候
変動対策についても、活動計画を作成・実施することとされており、MARD が策定する各種
計画などの枠組みは、この NTP に沿った形で策定されることとなる。
また、生物多様性関連については、基本的に天然資源環境省(MONRE)の管轄とされて
おり、CBD(生物多様性条約)のフォーカルポイントにもなっている。
(2) ベトナムの森林分野における援助機関、国際機関の動向
ベトナムは、世界銀行の森林保全カーボンファンド(FCPF)や、UN-REDD プログラムの対
象国となっており、多くの技術面及び資金面での援助を受けている。UN-REDD は 440 万
US ドルを拠出して、中央政府に対する REDD+関連活動の管理・推進のための組織的・技
術的な能力開発や、Lam Dong 省における 2 つのパイロットプロジェクトを通じた省・県・コミ
ューンレベルでのキャパシティビルディングを 2009 年より実施している。
UN-REDD 以外にも、ベトナムに対する REDD+関連(および森林セクター関連)の支援が、
我が国の JICA、オランダ開発機構(SNV)、Winrock International、フィンランド政府、米国
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H23 新メカ FS
最終報告書
国際開発庁(USAID)、国連食糧農業機関(FAO)、国際アグロフォレストリー研究センター
(ICRAF)等の援助機関、国際機関より実施されている。
我が国の JICA は、REDD+など森林分野に係る複数のプロジェクトを実施している。例え
ば、「気候変動対策の森林分野における潜在的適地選定調査」では、対象地域において森
林の分布やその他基礎情報のデータベース化を行い、衛星画像解析及びフィールド調査
を通じた地域ごとの情報の収集、マッピング、地域住民との共有を行うことを目指している。
同プロジェクトにおいては、森林分野における気候変動対策を幅広くカバーするため、
AR-CDM、REDD+、他手法による炭素蓄積促進という 3 つの視点から、事業実施のポテン
シャルを有する土地に係る情報を整理している。これまでベトナムでは、政府が公表してい
る統計データのみに基づいて、森林が増加・減少傾向を論じるのみであった。本プロジェク
トによって衛星画像(2005 年以前は Landsat、2010 年からは SPOT)を活用することで、客観
的なデータに基づいて、第三者の視点で評価ができるようになったという経緯がある。
また、「北西部水源地域における持続可能な森林管理プロジェクト」では、生産林、保全
林、特別利用林の 3 区分の境界やこれら林地と農地等の境界が不明瞭で、さらに林地の半
分近くが荒廃した状況にあるベトナム北西部の Dien Bien 省のパイロットサイトにおいて、1.
参加型森林管理計画と、オンファームトライアル活用や非木材林産物の導入を通じた農民
の生計向上計画の策定及び実施、2. 実施機関の能力強化、3. 将来の普及展開戦略の策
定、を行うことで、参加型森林管理と生計向上が両立する開発モデルを構築し、森林破壊
の抑制、森林回復を促進することを目指している。
JICAは、北西部のカオフォン県で「AR-CDM促進のための能力向上開発調査」を 2006
年 10 月から 2009 年 3 月まで行っており、同調査において企画・立案された植林プロジェク
トが 2009 年 4 月、国連CDM理事会によって小規模植林CDM事業 として登録されている。
これは、植林分野のCDM事業としては世界で 4 件目の登録となる。同プロジェクトには、ホン
ダ・ベトナム社が 2008 年から 2011 年までに合計VND35 億を運営資金として拠出しており、
16 年間でおよそ 4 万 3000 トン分のCO 2 削減が見込まれている。
他にも、オランダ開発機構(SNV)は、ベトナムにおいて REDD+及び生物多様性関連のパ
イロット事業を Lam Dong 省など複数の地域で実施している。例えば、UN-REDD プログラム
の一環として、Lam Dong 省において希少種動物および価値の高い森林等の分布状況の
調査を行って、生物多様性の観点で重要な地域(high biodiversity area)を特定し、マップ化
を行っている。
またドイツは、ドイツ復興金融公庫(KfW)が、「ソンラ省及びホアビン省における森林整備
プロジェクト(KfW7)」を実施している(2006 年合意)。同プロジェクトは、無償援助及び借款
総額 1200 万ドルを拠出して、2014 年までに 22,000ha の造林を行うこととしている。さらに、ド
イツ国際協力公社(GTZ)は、「Capacity Building for Sustainable Forest Management and
Biodiversity」(2007-2014)による森林資源管理分野への協力を実施している。
国際アグロフォレストリー研究センター(ICRAF)は、ベトナムにおいて「REALU(The
Reducing emissions from all land uses)プロジェクト」という研究プロジェクトを実施しており、ノ
ルウェー開発協力局(Norad)からの資金拠出の下で、農業・森林などあらゆる土地利用から
の排出削減手法を複眼的に検討することを目指している。特に REDD+関連の取り組みを補
完する位置づけとされており、フェーズ 1 は Dak Nong 省で、フェーズ 2 は東北部の Bac Kan
省で実施した。サイト内の複数のムラを対象に、森林パトロールのトレーニングの実施、コー
ヒーなどの商品作物の導入、さらには森林環境支払いサービス(PFES)の導入などをパイロ
ット的に実施している。以下に、REALU プロジェクトの進捗状況と主なアウトプットを示す。
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H23 新メカ FS
最終報告書
図 2-2 REALU プロジェクトの進捗状況及び主なアウトプット
出所:“AN ASSESSMENT OF OPPORTUNITIES FOR REDUCING EMISSIONS FROM ALL
LAND USES VIETNAM PREPARING FOR REDD FINAL NATIONAL REPORT”
国連食糧農業機関(FAO)は、UN-REDD の中で MRV についての方針策定を担当してい
る。現在、MRV について「フレームワークドキュメント」という形式で具体案を策定している最
中のようである。また、FAO はランドモニタリングシステムの構築にも取り組んでおり、天然資
源環境省(MONRE)のランドマネジメント管轄部署や、農業農村開発省(MARD)などと共
同で、新たなシステムの開発を目指している。
Winrock International は、森林環境支払いサービス(PFES)に係るパイロットをベトナムに
おいて先駆的に実施している。具体的には、Lam Dong 省やソンラ省でパイロット事業を実
施しており、電気利用者から水力発電事業者を通じて回収した徴収金を上流地区に住む森
林管理者(含:地域住民)に支払う、という構造となっている。発電事業者は VND20/kWh を
支払う必要があるとのことであるが、結果として発電事業者はコスト増分を電力価格に転嫁
するので、最終的には需要家が負担しているとも言える。なお、この取り組みでは、ソンラ省
内のみならず、下流に位置する Hoa Binh 省の水力発電事業者からも資金を徴収するという
議論が進んでいるとのことである。
9
H23 新メカ FS
最終報告書
コラム JICA 持続可能な森林管理プロジェクト(SUSFORM-NOW プロジェクト)
JICA がソンラ省の隣ディエンビエン省で行なっているベトナム北西部水源地域における持続可能
な森林管理プロジェクトを訪問し、調査内容を聞き取りした。2010 年 8 月から 5 年間、ディエンビエ
ン省農業農村開発局をカウンターパートとして行なっているプロジェクトである。ディエンビエン省も
ソンラ省同様に 5 百万造林プログラム等により森林率の回復が見られるものの、依然として森林が
荒廃している。また、ベトナムで 2 番目に貧しい省で、農業が主要産業である。
持続的な森林経営に効果的なアプローチとして、オンファームトライアルと植林地や非木材林産
物の採取や栽培が可能な林地の分与をセットにしたランドスケープ計画を面的に取り組むことと、
農林産物の市場アクセス開発によって代替収入を確保する手法が試みられている。この結果、住
民参加型の森林管理と住民の生計向上の両立がはかられ、森林被服の回復が進むことを究極目
標としている。
少数民族による焼畑が多く、土地利用と森林のおかれた状況はソンラ省と類似しており、プロジェ
クトの成功には大きな困難があることが予想される。住民へのキャパシティビルディングをすでに
行なっており、訪問した Phien Ban 村の村人は森林の重要性を認識し、植林活動の意義を理解し
ているなど、成果が上がりつつある。
持続可能な森林管理のアプローチや目標は本 FS で提案したものと同様である。
植林予定地の様子。現在は陸稲が植えられてい
るが、住民の理解を得て植林を実施する予定。
森林保全のために地域住民の養豚をを支援す
る。生計を向上し、焼畑への依存を減らす。
(3) プロジェクト対象地における森林の状況
本調査のプロジェクトサイトがあるソンラ省は、総面積は 1,412,400 ヘクタールで、11 の県
を有する。ソンラ省では、政府によって複数の森林保全・植生回復事業が実施され、その結
果、森林被覆率は 2000 年度の 25.2%から 2006 年度の 42.1%まで増加している。ただし、
ソンラ省の天然林は劣化が進んでおり、また人工林の面積も十分でなく、依然として裸地面
積が多い状況である。
林業用地はおよそ 70%を占め、林業が社会経済及び住民とって最も重要な役割を果た
している。だが、保護林と特別利用林の面積割合が大きく生産林が不足していること、中央
政府や地方政府による支援が十分でないことなどから、住民は林業によって生計を十分に
10
H23 新メカ FS
最終報告書
維持することが困難な状況である。
上記の状況を克服するため、38/CT-TTg 号の首相指令に基づいて、2006 年から 2007 年
にかけて、ソンラ省人民委員会は各県人民委員会に対して、省内の森林 3 種類(生産林、
保護林、特別利用林)の面積割合を再調査・調整するように指導した。結果として、保護林
の割合が 80.2%から 45.4%に、特別利用林の割合が 8%から 6.7%に減り、生産林の割合が
12%から 47.9%に増加した。この構造転換に伴って、林業生産に係る計画を再調整する必
要 が 生 じ た た め 、 農 業 農 村 開 発 省 ( MARD ) の 指 導 の 下 、 ソ ン ラ 省 を 含 む 各 省 は
「2007~2015 年の森林開発計画及び 2020 年までの方針」を策定した(2007 年 3 月 15 日付、
688/BNN-LN 号文書)。また、この実現のために、ソンラ省の農業農村開発局(DARD)が
西北森林研究企画院支部、ソンラ省人民委員会直轄各部門、各県人民委員会と協力して
「2015 年までのソンラ省森林保全・開発計画及び 2020 年までの方針」を策定している。同方
針に記載されている、2006 年時点のソンラ省の森林・林業用地面積およびそれらの利用分
類、および今後の森林保全・開発計画の目標値(期間別)を、以下の表に示す。
社会経済状況について、2006 年 12 月の統計によると、ソンラ省の人口は 1,007,511 人の
うち都市人口が 113,680 人(11.3%)を占め、残り 88.7%が農村に居住している。平均人口密
度は 71 人/km2 である。また、労働人口は 541,451 人で全省人口の 53.7%を占めており、う
ち農林業従事者は 90%弱、工業・建設・サービス業従事者が 10%強となっている。人口増
加率が 1.59%と比較的高い。
表 2-1 ソンラ省の森林・林業用地面積およびそれらの利用分類(2006 年)単位:ha
森林種類
合計
保護林
特定利用林
生産林
934,039.0
423,992.6
62,978,7
447,067.7
森林面積
594,435.3
309,093.4
46,678,2
238,663.7
1.天然林
563,890.3
298,827.8
46,633,2
218,429.3
1.1.広葉樹林
469,145.9
236,404.7
43,812,2
188,929.0
木の多い森林
28,744.8
12,686.4
15,010,4
1,048.0
平均的な森林
37,707.8
22,780.6
7,235,9
7,691.3
木の少ない森林
70,798.7
41,906.0
5,291,3
23,601.1
回復林
324,584.0
151,720.8
16,274,6
156,588.6
1.2.混合林
51,174.8
15,722.4
2,821,0
32,631.4
1.3.竹林
19,172.8
19,172.8
1.4.高山林
33,843.0
33,843.0
2. 造林森林
30,545.0
10,265.6
45.0
20,234.4
8,372.5
3,146.2
22,172.5
7,119.1
45.0
15,008.4
339,603.7
114,899.2
16,300.5
208,404.0
空地・草地 ( Ia)
130,973.9
42,962.3
3,520.3
84,491.3
空地・低木 (Ib)
69,740.3
20,285.2
3,906.3
45,548.8
138,889.5
51,651.7
8,873.9
78,363.9
総面積
利用できる森林
利用できない森林
森林でない土地
散在木・空地 (Ic)
5,226.3
出所:「2015 年までのソンラ省森林保全・開発計画及び 2020 年までの方針」
11
H23 新メカ FS
最終報告書
表 2-2 「2015 年までのソンラ省森林保全・開発計画及び 2020 年までの方針」における森林保全・
開発計画の目標値(期間別・一部抜粋)
期間別
項目
1.森林保護
単位
合計
2008-2010
2011-2015
2016-2020
ha
770,000.0
594,435.3
724,730.0
770,000.0
特別利用林
ha
55,000.0
46,678.2
50,653.0
55,000.0
保護林
ha
380,000.0
309,093.4
348,446.0
380,000.0
生産林
ha
335,000.0
238,663.7
325,631.0
335,000.0
2. 森林開発
ha
284,778.0
202,300.0
219,900.0
44,278.0
2.1 森林修復
ha
180,000.0
180,000.0
180,000.0
特別利用林
ha
15,900.5
15,900.5
15,900.5
保護林
ha
88,207.9
88,207.9
88,207.9
生産林
ha
75,891.6
75,891.6
75,891.6
2.2. 貧弱天然林
ha
6,500.0
2.3. 新規植栽
ha
98,278.0
特別利用林
ha
400.0
保護林
ha
28,737.0
9,000.0
15,000.0
4,737.0
生産林
ha
69,141.0
12,000.0
20,000.0
37,141.0
ha
6,500.0
1,300.0
2,500.0
2,700.0
2.4. 果樹園、森林園
2.5. 散在植樹
2.6. 主伐後植林
100 万本
23
21,000.0
2,500.0
4,000.0
35,400.0
41,878.0
400.0
3
10
10
ha
24,700
4,000
8,500
12,200
出所:「2015 年までのソンラ省森林保全・開発計画及び 2020 年までの方針」
また、農村人口も増大傾向にあり、2006 年から 2011 年でおよそ 6%増加している。農業セ
クターへの依存度が大きく(GDP 比で 4 割程度)、耕地面積は省全体の 2 割弱を占める。う
ち、畑地がおよそ 78%(多くは焼畑地である)、水田がおよそ 6%、果樹などその他の栽培地
が 16%を占めている。ベトナム全体の平均に比べて、水田の比率が小さい一方で、果樹お
よび畑地の比率が大きくなっていることが特徴として挙げられる。ソンラ省の主要農作物は、
トウモロコシ、コメ、キャッサバ、チャ、果樹類などである。特にトウモロコシは、近年若干の減
少傾向にあるものの、ベトナム全省で第 1 位の生産量を誇っており、多くは飼料用として販
売されている。また、近年はコーヒーやゴムの栽培も拡大しつつある。
以下に、ソンラ省および本調査のプロジェクトサイトのあるトゥアンチャウ県における主要農
作物の作付面積を示す。
12
H23 新メカ FS
最終報告書
表 2-3 ソンラ省における主要農作物の作付面積(上)と
そのうちトゥアンチャウ県における作付面積(下)
(単位:ヘクタール)
出所:”SONLA STATISTICAL YEARBOOK 2010”
このように、トゥアンチャウにおいてはトウモロコシの作付面積はわずかに減少傾向にあり、
代わりにキャッサバの面積が増大している。また、コーヒー栽培が近年急増しており、さらに
ゴムも政策的後押しを受けた Vietnam Rubber Group (VRG)による植林推進により 2008 年よ
り急拡大するなど、永年作物の作付面積が増大傾向にあると言える。また、以下に、同じくソ
ンラ省およびトゥアンチャウ県における主要農作物の単位面積当たり収穫量(生産性)を示
す。
13
H23 新メカ FS
表 2-4
最終報告書
ソンラ省における主要農作物の単位面積当たり収量(上)と
トゥアンチャウ県における単位面積当たり収量(下)
(単位:トン/ヘクタール)
出所:”SONLA STATISTICAL YEARBOOK 2010”
以上より、たとえば夏作の水稲については、省全体よりもトゥアンチャウの水準が低くなっ
ており、少なくともソンラ省全体の水準までは、トゥアンチャウの水稲の生産性を向上させる
余地があるとも考えられる。サトウキビについても同様である。他方、キャッサバについては
省全体の平均よりも高水準で、相対的に生産性が高いことがわかる。
さらに、以下にソンラ省およびトゥアンチャウ県における家畜飼養頭数の推移を示す。
14
H23 新メカ FS
最終報告書
表 2-5 ソンラ省における家畜飼養頭数(上)と、そのうちトゥアンチャウ県の頭数(下)
(単位:頭)
出所:”SONLA STATISTICAL YEARBOOK 2010”
このように家畜については、ソンラ省全体の傾向として、家禽類、次いでブタ、さらにウシ
やスイギュウが多くなっている。特にブタおよびウシは、顕著な増加傾向にある。トゥアンチャ
ウだけを見ても、省全体の動向とほぼ同様であると言える。
ソンラ省には 12 の少数民族が居住しており、主な民族としては、Thai 族 54%、Kinh 族
18%、H’Mong 族 12.02%、Muong 族 8.12%、Dao 族 2.5%、Sinh Mun 族 1.64%、Kho Mu
族 1.49%、La Ha 族 1.02%、その他 0.64%となっている。このように、ソンラ省では Thai 族が
マジョリティとなっており、ベトナムにおける主要民族である Kinh 族は相対的に少ない。さら
に、プロジェクトサイトである Copia 自然保護区にある 3 つのコミューンのうち、2 つは H’
Mong 族が主体のコミューンで、残り 1 つは、Thai 族が主体のコミューンとなっている。このた
め、本プロジェクトサイトにおいては、さらに少数民族(先住民)の比率が高くなる。少数民族
については非常に繊細な問題であり、また、国境地帯でもあることから森林関連プロジェクト
を実施するには十分な配慮が必要である。一方、この知己での活動が、少数民族の持続的
な発展に貢献し、一定の解決をもたらしたならば、ベトナム政府に対する大きな貢献となる。
また、山岳地帯においては民族ごとに居住地の棲み分けがなされており、Thai 族や
Muong 族は山間低地に、Dao 族は山岳の中腹に、H’Mong 族は山頂近くに居住している
場合が多い。Kinh 族はもっぱら平野部に居住しており、山岳部に居住している Kinh 族は 20
世紀後半に平野部から移住してきた人間が多い。また、トゥアンチャウにおける民族ごとの生
業(特に農業)について、Thai 族は水田稲作に、H’Mong 族は焼畑による陸稲栽培に従事
している場合が多いという特徴がある。
以上の状況を踏まえた上で、排出削減効果を確たるものとするためには、既存の農地に
おける今後の土地利用シナリオを検討する必要がある。その際、世帯或いは集落(自然村)
単位で、現状の食料供給量を保ちつつ、かつ現金収益の拡大(或いは、少なくとも現状で
の現金収入の維持)が見込まれるものであることが必須となる。具体的な取組内容について
は、今後地域住民の現状認識や意向を踏まえた上で検討する必要があるが、ここでは排出
15
H23 新メカ FS
最終報告書
削減効果を持続的なものとするために有効な土地利用の方針について、整理する。
まず、現地住民の自家消費用作物(コメ、キャッサバなど)の栽培地については、現状の
生産を維持することを基本とし、可能であれば水田におけるコメの生産性を高めることで陸
稲栽培面積を減らすことを検討する。また、商品作物栽培地(焼畑)のうち土壌浸食リスクが
低い土地については、施肥や防除技術、さらに適切な輪作体系を導入することで生産性の
向上および常畑化を図り、現状以上の焼畑拡大を防ぐことを目指す。さらに、商品作物栽培
地(焼畑)のうち土壌浸食リスクが高い土地については、植林や果樹植栽等への転換を図る
ことが有効と考えられる。
また、製材所や農産物加工所などを建設・誘致することによって、雇用を創出して農業以
外からの現金収入を増大させるとともに、植林或いは果樹栽培への転換のインセンティブを
高める方策も有効と考えられる。加えて、日系企業による事業展開も含めたお茶やコーヒー
等に係る投資も、同じく現地住民に対する持続的土地利用のインセンティブとなりうる。
以上のようなシナリオを策定する際には、現地住民のニーズに則した検討を行うと同時に、
植林や果樹植栽等への転換を図る場合には収益が得られるタイミングについても十分留意
し、有効な対策を検討する必要があろう(たとえば、トウモロコシを果樹に転換する場合、初
収穫が得られるまで、住民の収入・生計をどのように確保するか、等)。
(4) 第 7 次国家電力開発計画に基づくベトナムの電力事情について
第 7 次国家電力開発計画(Power Development Master Plan 7)(以下、PDP7)では、以下の
方針が掲げられている。
 再生可能エネルギーの普及、電力供給の安定化、燃料の多様化、農村・山岳地帯
の電化を推進する。
 電力セクターに市場メカニズムを導入することで、国内外の企業が発電事業へ参入
しやすくなる投資環境を整える。
 環境対策まで計画にいれた投資を促すために、環境改善につながる案件(新エネル
ギー・再生可能エネルギー、農林業・都市廃棄物によるエネルギーを利用する発電
所 等)は、税金面で優遇される。
本プロジェクトの木質バイオマス発電で利用する燃料は、REDD+事業から出材された
材の加工により発生する廃材や林地残材を想定しており、PDP7 の方針と一致する。
以下に、ベトナムの電力の需給予測、小売電力単価、ベトナム電力公社(EVN)の買電単価
について報告する。
① 電力の供給予測
ベトナムの電力総出力(MW)、供給発電量(GWh)の予測については以下表 2-3 の通り
である。
現在、ベトナムの電力は水力による出力・発電量の割合が多く、35%以上を占めている。
今後も水力発電の開発は進んでいくものの、政府は、石炭やガスを利用した火力発電の
開発、燃料調達に注力していく方針であり、2020 年には水力発電よりも石炭火力発電の
出力・発電量の割合が多くなる見込である。
水力を除く再生可能エネルギーの中では、風力発電の開発促進が見込まれている。
PDP7 では、風力発電の出力を 2020 年に 1,000MW、2030 年には 6,200MW まで増加(発
16
H23 新メカ FS
最終報告書
電量比率は、2020 年に 0.7%、2030 年には 2.4%)させようとしている。ベトナム国内のバイ
オマス発電は、現在、砂糖工場のサトウキビ廃材(バガス等)を利用したものが中心ではあ
るが、他のバイオマス燃料によるバイオマス発電を開発し、発電出力を 2020 年に 500MW、
2030 年には 2,000MW まで増加(発電量比率は、2020 年に 0.6%、2030 年には 1.1%)さ
せる計画である。
輸入電力量は、2010 年時点で 5,000~6,000GWh であり、2020 年に 9,900GWh、2030
年に 26,410GWh を近隣諸国(ラオス・カンボジア・中国)より輸入する計画である。
2010 年は Son La 水力発電所の稼動に向けたダムの貯水が開始された影響で、同 Da
川下流に位置する Hoa Binh ダムへの流入水量が減少したために、Hoa Binh の水力発
電所の発電量が大きく減少した。しかし、2011 年は Son La 水力発電所が稼動し、Hoa
Binh ダムへの流入水量も 2010 年より増えたため、2010 年と比べると電力供給量が増加し、
停電頻度は減少した。停電の要因には、供給量が不足すること以外に、送電線のメンテ
ナンス不十分(破損等)も一因として指摘されており、今後は送電線の整備が電源開発と
合わせて必要になってくる。送電線を管理する国家送電会社(National Transmission
Company : NTC)は、ベトナム電力公社(EVN)同様財務状況が厳しい状況であり、現状
の送電料金 VND80/kWh では収益を改善することは難しいと言われている。EVN、NTC
双方の経営を安定させるための一案として、電力単価を値上げすることが考えられるが、
国民や産業界への負担、ベトナムの経済発展を考えると赤字解消のための大幅な値上
げは、すぐに実行に移せる状況にはない。
表 2-6 電力供給予測
2010 年
総出力
MWh
2020 年
2008 年
供給発電量
GWh
2020 年
2030 年
2030 年
Total
20,000
(100%)
75,000
(100%)
146,800
(100%)
73,049
(100%)
330,000
(100%)
695,000
(100%)
石炭火力
3,600
(18%)
36,000
(48.0%)
75,749
(51.6%)
15,172
(20.8%)
154,440
(46.8%)
394,760
(56.8%)
オイル・ガス
火力
6,400
(32%)
12,375
(16.5%)
17,322
(11.8%)
31,891
(43.6%)
79,200
(24.0%)
97,300
(14.0%)
水力
7,600
(38%)
17,325
(23.1%)
17,029
(11.8%)
25,986
(35.6%)
64,680
(19.6%)
64,635
(9.3%)
揚水
-
1,800
(2.4%)
5,725
(3.9%)
-
-
-
原子力
-
975
(1.3%)
9,689
(6.6%)
-
6,930
(2.1%)
70,195
(10.1%)
4,200
(5.6%)
13,799
(9.4%)
-
14,850
(4.5%)
41,700
(6.0%)
2,325
(3.1%)
7,193
(4.9%)
-
9,900
(3.0%)
26,410
(3.8%)
再生可能
エネルギー
(水力除く)
輸入
2,400
(12%)
(出典:PDP7、ベトナム電力調査2010/2011(JETRO)、ヒアリング結果に基づき当社作成)
② 小売電力単価について
EVN の小売電力単価は全国で統一されており、基本料金は無く、供給電圧別及び用
17
H23 新メカ FS
最終報告書
途別に区分された従量料金制が採用されている。2011 年は電力単価の引き上げが 2 度
行われている。2011 年 3 月の値上げでは平均 VND165/kWh(2010 年比 15.28%)引き上
げられた(Circular 05/2011/TT-BCT)。2 度目の電力単価引き上げは 12 月に実施され、平
均電気料金が更に 5%引き上げされ、VND1,304/kWh となっている(表 2-4 参照)。
EVN は現在の料金水準では健全な財務バランスを維持することが難しく、小売電力単
価を 2015 年には¢7.5/kWh、 2020 年に¢9/kWh まで引き上げる目標を持っており、今
後も段階的な引き上げが予想されている。また、現在の料金水準では、企業が発電
事業に参入しようとしても、発電コストより小売電力単価が安くなるケースが多く、投資
意欲が生まれないと言われている。
③ EVN の買取り単価について
ベトナムでは、2011 年 6 月 29 日に風力発電由来の電力を EVN が買取る際の単価が
設定された(Decision No.37/2011/QD-TTg)。これによると、買取り単価は¢8.8/kWh と定
められ、内¢1/kWh は政府からの補助金である。それ以外に、「必要な設備にかかる輸
入関税の減額 or 免除」、「法人税の減額 or 免除」、「土地使用料の減額 or 免除」等の優
遇条件がある。風力発電以外の買取り単価は、個別案件毎に EVN との間で決めることに
なる。
表 2-7 ベトナムの小売電力単価
需要
工業用
公共施設
商業用
家庭
100kV 超
22-110kV
6-22kV
6kV 以下
病院・
6kV 超
学校・幼稚園 6kV 以下
公共証明
6kV 超
6kV 以下
行政機関
6kV 超
6kV 以下
22kV 超
6-22kV
6kV 以下
50kWh まで(低所得層向け)
0-100kWh
101-150kWh
151-200kWh
201-300kWh
301-400kWh
401kWh
時間帯別単価(VND/kWh)
ピーク
通常時間帯
オフピーク
(18:00-22:00)
(4:00-18:00)
(22:00-4:00)
1,970
1,102
683
2,049
1,128
710
2,119
1,164
727
2,185
1,216
767
1,184
1,263
1,290
1,369
1,316
1,369
3,117
1,022
1,808
3,226
1,939
1,153
3,369
1,965
1,205
993
1,242
1,369
1,734
1,877
2,008
2,060
(出典:PDP7、Circular 42/2011/TT-BCT、海外諸国の電気事情
第1編
2008 年版((社)海外電力調査会))
(5) ベトナムの木材需給について
2010 年のベトナムにおける木材生産量は約 400 万m3であり、丸太や製材加工品等を約
400 万m3輸入している。加工後の製品は 9 割が輸出されており、チップが約 300 万m3、家具
が約 300 万m3を占める。ベトナムからの輸出は、米国・日本・EU・中国の 4 カ国で輸出量の
18
H23 新メカ FS
最終報告書
8 割近くを占めており、アメリカが 1 位で約 3 割を占めている。一方、輸入は製品によって
様々であり、以下の表 2-8 の通りである。
表 2-8 ベトナムの木材輸入国と輸入品
【地域】
国名
【東南アジア】
ラオス、ミャンマー、マレーシア、インドネシア、
カンボジア、タイ
中国
【オセアニア】
オーストラリア、ニュージーランド
【アフリカ】
南アフリカ、ガーナ、カメルーン
【南米】
チリ、ブラジル
【北米】
アメリカ、カナダ
輸入品
・天然林由来の木材(大径木、硬木)
・植林木
・木質パネル
・木質パネル
・アカシア、ユーカリ(植林木)
・南アフリカ:ユーカリ(植林木)
・ガーナ、カメルーン:天然林由来の木材
・ユーカリ(植林木)
・オークやチェリーなどの広葉樹
ベトナムの木材加工工場の原料は輸入品が 70~80%を占めている。最も輸入材を消費し
ているエリアは北中部・中部沿岸エリアであり、このエリアでは主に輸出向け屋外用家具や
木細工品が多く生産されている。北部山岳・紅河エリアや中部高原エリアなどの内陸部では、
植林木を中心とした国内材を消費している(表 2-9 参照)。
表 2-9 ベトナムのエリア別木材消費量
地域
北部山岳・紅河エリア
北中部・中部沿岸エリア
中部高原エリア
南部・メコンデルタエリア
合計
(調査対象:120 工場)
木材消費量
(m3)
256,699
(100%)
1,673,435
(100%)
210,784
(100%)
122,726
(100%)
2,263,644
(100%)
輸入材消費量
(m3)
71,673
(27.9%)
1,504,771
(89.9%)
38,111
(18.1%)
44,934
(36.6%)
1,659,489
(73.3%)
国内材消費量
(m3)
185,026
(72.1%)
168,664
(10.1%)
172,673
(81.9%)
77,792
(63.4%)
604,155
(26.6%)
消費量比較
輸入材<国内材
輸入材>国内材
輸入材<国内材
輸入材<国内材
輸入材>国内材
(出典:Forest Science Institute of Vietnam 調査結果(2009 年)より)
ベトナム森林科学研究所(Forest Science Institute of Vietnam, FSIV)による 2025 年までの
予測では、木材需要は、国内向けの需要が伸びていくとされている(表 2-10 参照)。ベトナム
の経済は今後急速な成長が見込まれ、2020 年には GDP で USD3,000~3,200 まで伸びるこ
とが予測されている(2010 年比 2.2 倍)。それに伴い、ベトナム国内の木材需要(建築用材、
家具、製紙原料等)も飛躍的に伸びると予測されている。
表 2-10 木材加工製品の需要予測(m3/yr)
年
2015 年まで
2025 年まで
4,250,000
5,000,000
輸出向け
7,850,000
12,500,000
国内向け
(出典:General Statistics Office of Vietnam 、FSIV 作成資料)
19
H23 新メカ FS
最終報告書
(6) 優遇税制について
以下に本プロジェクトで利用可能な法人税及び、関税の優遇制度について述べる。税率
は、プロジェクトの内容や取り扱う商品によって異なり、また、頻繁に変わる可能性もあるため、
財務省や関係省庁へ確認を取りながら事業を進めることに留意したい。
① 法人税
本プロジェクトの対象地であるソンラ省は、特別奨励投資地域に指定されているため、
以下表 2-11 に示す免税 4 年間、減税 9 年間(50%)の優遇を受けられる。
表 2-11 法人税の優遇措置
税率
25%
20%
10%
適用対象
標準税率(下記以外のすべての企業)
奨励投資地域への投資企業*
農業協同組合及び共済組合
特別奨励投資地域への投資 *、ハイテク、科学技
術、技術開発、特に重要なインフラ及びソフトウェ
ア開発に関する企業
期間
全期間
10 年
全期間
15 年間
免税
―
2 年半
―
4 年間
減税(50%)
―
4 年間
―
9 年間
教育訓練、職業訓練、医療、文化、スポーツ、環
全期間
4 年間
5 年間
境分野に関する企業
天然資源(オイル・ガス等)に関する事業を行う企業には、ケースに応じて 32-50%の税率が課される。
* 地域のリストは、2006 年 9 月 22 日付 Decree No. 108/ND-CP の補足資料にある(JETRO 作
成訳 http://www.jetro.go.jp/jfile/country/vn/invest_03/pdfs/vietnam_kisei_yuugu.pdf)
(出典:Circular 130/2008/TT-BTC、JETRO 作成資料、KPMG 作成資料を一部改)
② 関税
ベトナムは、投資誘致と輸出促進に積極的であり、ASEAN 自由貿易地域(AFTA)へ
参加し、その他の国際貿易機関との協定に則り関税率の引き下げ、非関税貿易障壁の
撤廃に取り組んでいる。また、日越投資協定に基づき、日本はベトナムに最恵国待遇を
供与しているので、日本は輸入関税に関して優遇税率の対象となっている。輸入関税は、
輸出入関税法の規定に従って課税されるが、具体的には以下表 2-9 の 3 種類に分類さ
れる。本プロジェクト対象地であるソンラ省は全県、投資優遇地域に含まれており、関税
面で 5 年間の免税措置を受けられる。
表 2-12 関税率の分類
自由貿易地域や共通関税制度の一環として、国際貿易の連携強化に向
けて、またはその他特別優遇措置の対象となる場合において、ベトナ
特別優遇税率*
ムとの間で特別優遇輸入関税に関する協定を締結している国または
国家連合からの輸入物品に対し適用される。
ベトナムとの間で互恵関税協定を締結している国または国家連合か
優遇税率*
らの輸入物品に適用される。
標準税率
優遇税率及び特別優遇税率に該当しないもの。
*特別優遇税率および優遇税率の適用を受けるためには、原産地証明書が必要
(出典:国際機関日本アセアンセンター資料、JETRO 作成資料、ベトナムポケットタックスブック 2011、
Circular 83/2009/BTC-TT)
20
H23 新メカ FS
最終報告書
2.4 新メカニズムとしての適格性
2007 年にインドネシアのバリ島で開催された、気候変動枠組条約(UNFCCC)の第 13 回
締約国会議(COP13)において、2013 年以降の先進国による新たな排出削減目標の設定と、
開発途上国による適切な緩和行動(NAMAs)についての国際交渉を行う特別作業部会
(AWG)が設置された。この AWG においてなされた交渉、議論をベースとして、2010 年 12
月にメキシコのカンクンで開催された COP16 において採択されたカンクン合意の中で、新た
なクレジットメカニズムに関して 2011 年 12 月に南アフリカのダーバンで開催される COP17
において「新しい市場メカニズムの創設を検討することを決定する」との内容が盛込まれた。
COP17 においては、①国連が管理を行うメカニズムの方法・手続、②各国の国情に応じた
様々な手法の実施に向けた枠組みの検討開始が決定され、二国間のオフセット・クレジット
制度も対象となることが想定されている。
二国間協定による新メカニズムにおいては、温室効果ガスの排出削減・吸収を促進する
ことによって気候変動枠組条約の目標達成に貢献するために、それぞれの国情に応じた適
切な二国間協力を推進し、途上国の持続可能な開発、環境保全にも貢献することが求めら
れている。 なお、2009 年 11 月に開催された第 1 回日メコン首脳会議において採択された
東京宣言において、「緑あふれるメコン(グリーン・メコン)に向けた 10 年」イニシアティブを開
始することが宣言され、2010 年 10 月には「グリーン・メコンに向けた 10 年」イニシアティブに
関する行動計画が策定されている。同行動計画においては、「温室効果ガスの排出抑制・
削減」の取り組みとして、•日本の優れた技術・製品や再生可能エネルギーの取組を生かし
た排出削減プロジェクトの発掘・形成を促進するとともに,温室効果ガス排出削減量やその
測定方法に関する調査を行い,二国間オフセットメカニズムの構築に向けた検討を進めるこ
とが明記されている。また、REDD+に係る環境整備(国家戦略策定支援,制度整備やキャ
パシティビルディング,モニタリングシステム整備,地域住民による森林管理を行うコミュニテ
ィフォレストの推進)を支援することにより、REDD+の実施に向けた協力を進めていくことが
謳われている。
本プロジェクトの目指す、焼畑に由来する荒廃地における植生回復や森林保全による二
酸化炭素吸収増大、および森林の多面的機能(水源涵養、土壌浸食防止機能など)向上の
重要性については、国際的にも十分な認識が得られている。また、REDD+が気候変動対策
として有効な手段であることも、前節にて述べたようにベトナム政府も積極的姿勢を見せて
おり、また現在まさに REDD+の推進に向けた国際的な議論、交渉が進みつつあることから、
妥当であると言える。ただし、プロジェクトによる持続的森林管理や植生回復により追加的に
発生する二酸化炭素吸収分について、そのクレジットとしての扱い、および二国間取引のあ
り方、制度については、いまだ国際的に議論が進んでいる最中であり、明確には定まってい
ない(ことになっている)。また、林地残材や廃材などを利用したバイオマス発電が導入される
ことで、ベトナムにおける低炭素型社会の構築に対しても貢献することができ、併せて農村
地域における電力不足の解消にも繋がる。加えて、持続的な森林経営や営農活動を促進
することにより、地域経済の活性化や貧困問題の緩和にも寄与しうる。
このように、本プロジェクトによる二酸化炭素吸収および排出削減の増大をはじめとする、
持続可能な開発への寄与などの見込まれる各種効果は追加的なものであり、新メカニズム
の下で事業を展開し、その効果を評価することは適格であると言える。
さらに、先行実施されている JICA プロジェクトと連携・協働を行うことにより、例えば、レフ
ァレンスレベルの特定に関する方針で整合化を図ったり、使用するデータや分析手法等を
21
H23 新メカ FS
最終報告書
共有化したりして、より効率的なプロジェクト運営を実現する。今回の文献調査および現地
調査等を通じて、JICA プロジェクトでは、農業農村開発省(MARD)との連携はもちろんのこ
と、UN-REDD 等との連携も図っており、ベトナム政府の実施方針等も熟知していることが分
かった。こうした既存の取り組みの成果を最大限に活用することにより、安定的でかつ実現
可能性の高いプロジェクト運営が可能となるように配慮する。
2.5 事業・活動の普及
森林減少や劣化の主因である焼き畑農業を実施している住民に対して、森林の必要性
や保全の意義・目的を十分に理解させ、共通理解の醸成が重要である。また、行政の強いリ
ーダーシップが求められる。その上で、焼き畑農業を代替する、収益性の高い定地型農業
を中心とする産業の創出支援と植林及び森林保全活動に対する経済的なインセンティブの
付与が必須と思われる。
参考となる情報として、持続的森林管理に取り組む Dien Bien 省の JICA のサイトでは、キ
ャパシティビルディングにより森林保全に対する住民の理解と意識は大変高いことがわかっ
た。ここでは、焼畑農地から植林地へ転換する代替として、住民からの要望に基づき、水稲
栽培の収量向上と養豚に対する支援を実施する計画である。また、インドネシアのジャワ島
で住友林業が木材加工事業を行なっているインドネシアのジャワ島では、近年、早生樹によ
るアグロフォレストリーや低生産性農地での植林が盛んとなっている。これは木材の安定的
なマーケットが提供され、伐採時に住民が十分な収入を得られることが要因のひとつに挙げ
られる。このように、住民に十分な経済的なメリットがあり、自主的参加を促すようなシナリオ
(=その土地で住む地域の人々にとって真のメリットがある土地利用の提案)であるならば、
空間的あるいは時間的リーケージの問題は生じにくく、また、プロジェクト全体として「炭素収
入(炭素固定量+排出抑制量からの収入)+事業による収入」に事業性と魅力があれば、
REDD+活動の永続性も確保されるものと期待される。
3 調査の方法
3.1 調査実施体制
調査実施体制は下記の通りである。
住友林業株式会社
(主な担当業務)
環境ビジネス開発部
植林関連事業グループ
全体監理
植林や森林保全に関する調査
農業や生計向上策に関する調査
事業性の評価
バイオマス事業グループ
バイオマス発電に関する調査
木材加工、原木搬出に関する調査
筑波研究所
GIS・リモートセンシングに関する調査・解析
植林・森林保全技術に関する調査
植林候補樹種に関する調査
22
H23 新メカ FS
最終報告書
以下、外注先
ベトナム林業大学
ベトナムREDD+、AR-CDM等状況調査
現地土地利用、森林蓄積量等調査、植林成長量調査
利害関係者に関する情報収集、試験植栽
バイオマス利用に関する法律、規制に関する調査
ベトナム国内の調整、とりまとめ
三菱総合研究所
調査背景(国際交渉、ホスコト国のREDD+や新メ
カニズムに対する考え方)に関する調査
参照シナリオ、参照レベルの試行的設定
方法論(案)の作成、MRVの提案
生物多様性等セーフガードに関する調査
千葉大学
衛星画像解析、モニタリング技術の確立
(緑地科学領域緑地環境資源学分野)
3.2 調査課題
本プロジェクトについて実現可能性を検討するにあたり、以下について把握する必要があ
る。
(1) 森林管理分野
•
REDD+に関するベトナム政府の方針、体制、法規制等。とくに植林活動が REDD+
の対象となるか、どうか継続的に動向を見守る必要がある。
•
ソンラ省の森林、林業に関する詳細な情報
•
ソンラ省の森林、林業政策及び今後の方針
•
プロジェクト対象地における森林減少、劣化の実態に関する情報
•
衛星画像解析による森林減少、劣化の把握の実用性。
•
ベトナムは森林面積が増加傾向であるが、もっとも好ましいレファレンスシナリオとリ
ファレンスレベルの設定の方法について検討を要する。また、今後設定されるであ
ろう政府による公式なリファレンスとの整合性の確保が必要である。
•
政府の植林プログラムや他ドナーによる植林プログラム、ゴム植林等が存在する。ま
た、環境サービス支払制度(PES)を利用した森林保全活動も模索されており、リフ
ァレンスレベルへの影響と追加性の確保について検討する必要がある。
•
セーフガードとしての生物多様性配慮方法や地域住民対策と参加の仕組み。
•
地域住民や地元の要望に応じてどのような森林保全活動が求められるか。
(2) バイオマス利用分野
①ベトナムの電力事業について
• ベトナムにおけるバイオマス発電普及状況
• 発電プロジェクトの燃料価格目安
②ベトナム北西部における木材加工業について
• 木材加工業の動向
• ソンラ省における木材加工業を取り巻く環境
• 利用されている原材料
• 木材加工後の廃材の用途
23
H23 新メカ FS
最終報告書
3.3 調査内容
(1) 現地調査(事前調査を含む)
第 1 回現地調査(2011/8/7~2011/8/16)
【訪問先】
ベトナム林業大学、JICA、Thuan Chau 保護林事務所、Copia special use forest 管理
事務所、農業及び地域開発省(MARD)
【調査内容】
•
リファレンスシナリオに関する調査
•
適格性に関する調査
•
環境十全性確保のための措置に関する調査
•
その他の間接影響に関する調査
•
利害関係者のコメントに関する調査
•
ホスト国の持続可能な開発への貢献に関する調査
【結果】
•
本事業の説明を行い、関係者との協力体制を構築した。また、REDD+に
関連する事業・団体の動きや意見交換の情報収集を行った。
•
Thuan Chau 保護林、Copia special use forest では本調査に必要な基礎
データを入手した。Copia special use forest では、661 プログラムで
Pinus massoniana の植林を行っているが、焼畑による森林減少・劣化の
圧力が強いことを確認した。天然林から人工林~荒廃地までバラエティに
富む植生・土地利用が存在し、画像解析に必要な地上データは取得しやす
いと思われた。
•
REDD+プロジェクトについて、ベトナム政府の承認が得られるかは未定
とのこと。政府として、プロジェクトベースの投資を呼び込むことで
REDD+を進めていくのか、一元的に REDD+の管理を行うのか方向性が
定まっていないとの情報を得た。
第 2 回現地調査(2011/8/28~2011/9/4)
【訪問先】
Vina Eco Board Co.,Ltd、MEGATEC 社、JETRO、IBC 社、JICA、ベトナム林業大
学、Copia 特定利用林
【調査内容】
•
ホスト国の法制度・政策等調査
•
REDD+やバイオマス発電事業活動に関連する情報・データの収集
•
新メカニズムに関する国際交渉の動向について情報収集
•
GHG 排出削減効果実証の方法論に関する調査
•
リファレンスシナリオに関する調査
•
モニタリング手法、MRV に関する調査
【結果】
•
ベトナムの南部ではゴム植林、ゴム材の利用が進んでいるが、北部でもゴムの
植林が盛んに行われ始めており、ソンラ省では現在 6,200ha、2015 年までに
20,000ha まで増やす計画がある。
•
ソンラ省の土地は、主に農業に利用されており、特にトウモロコシの生産量が多
く、急峻な斜面でさえ焼畑が行われトウモロコシが栽培されている。他に、水
稲、キャッサバ、お茶、サトウキビの栽培も盛んである。
•
調査対象地である Copia 自然保護区は、コアエリア 9,600ha、バッファーエリア
3,000ha であり、コアエリアは Production Forest(伐採可) 、Protection Forest(許
可があれば伐採可) 、Special Use Forest(伐採不可)に区分される。
第 3 回現地調査(2011/9/14~2011/9/18)
【訪問先】
JICA、ベトナム林業大学、Ken Green Farm(日本茶生産)、ソンラ省 農業地域開発
局(DARD)
【調査内容】
•
GHG 排出削減効果実証の方法論に関する調査
•
リファレンスシナリオに関する調査
•
GHG 排出削減効果の測定・報告・検証(MRV)手法に関する調査
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H23 新メカ FS
【結果】
•
•
•
•
•
•
•
•
•
•
•
最終報告書
適格性に関する調査
環境十全性確保のための措置に関する調査
利害関係者のコメントに関する調査
コベネフィットの評価に関する調査
ホスト国の持続可能な開発への貢献に関する調査
FSC(森林認証)について、2020 年までに 30%の森林で森林認証とする政府
方針があり、FSC に代わる国内版の森林認証制度を作る構想があることを確認
した。
ゴム生産を増加させる政策があり、現在 70 万 ha から 90 万 ha に拡大する方針
である。
参照レベルについて、公式なものはなく、参照レベルの引き方も決まったもの
はまだない。過去の衛生画像解析からの REL 設定は JICA 支援のみで行って
おり、国際的な標準に鑑みて作成しており、ベトナムのスタンダードとして採用
できるよう JICA が働きかけている。
ホアビン省のベトナム唯一の AR-CDM にはベトナム林業大学が係っており、実
施体制について情報を得た。
農業収入向上案としてお茶生産に関する情報収集。ソンラ省 Moc Chau の
50ha の土地で日本茶の生産を行っている農家を訪問し、農業収入向上案とし
てお茶生産に関する情報を収集した。茶葉よりも短期間で収入が上がる農作
物が良いとのアドバイスを得た。
本事業は DARD の方針と合致していると賛同を得て、DARD と連携して進める
必要があることを確認した。Thuan Chau ではソンチャ(モン族のリンゴ)を植える
計画があり、木材利用には Voithou と Skima が適しているとアドバイスを得た。
第 4 回現地調査(2011/10/30~2011/11/14)
【訪問先】
ベトナム林業大学、JETRO ハノイ事務所、天然資源環境省 MONRE(生物多様性保
全局)、Vietnam Rubber Group、農業農村開発省(MARD)、FAO、天然資源環境
省 MONRE(気候変動課)、海外林業コンサルタンツ JOFCA
【調査内容】
•
GHG 排出削減効果実証の方法論に関する調査
•
リファレンスシナリオに関する調査
•
GHG 排出量・削減量の定量化に関する調査
•
GHG 排出削減効果の測定・報告・検証(MRV)手法に関する調査
•
適格性に関する調査
•
環境十全性確保のための措置に関する調査
•
その他の間接影響に関する調査
•
利害関係者のコメントに関する調査
•
コベネフィットの評価に関する調査
•
ホスト国の持続可能な開発への貢献に関する調査
【結果】
•
BDS(Benefit Distribution System:利益分配システム)のための「R-Coefficient
(R 係数)」というコンセプトの説明を受けた。このコンセプトは REDD+の活動の
成果として炭素蓄積量だけでなく、水質保全や生物多様性、少数民族への配
慮等の社会・環境の側面から定量的に評価するためのツールであり、「定性評
価を定量化する(Quantify qualitative assessment)」ことを試みているとのこと。
•
MONRE は、気候変動および生物多様性の問題に関心があり、森林回復のた
めに「生物多様性の回廊(biodiversity corridor)」プロジェクトを実施している。
現在、「国家生物多様性行動計画(the National Biodiversity Action Plan)」およ
び そ の 「 推 奨 事 項 ( Recommendation ) 」 を 発 表 し て い る が 、 こ れ ら は 規 制
(regulation)ではないことを確認した。
•
懸念事項であった北西部地域でのゴムの生育や、ベトナムにおける生ゴム(ラ
テックス)の性質について情報収集。Son La のゴム農園も見学でき、REDD+と
ゴムプランテーションの連携可能性について打ち合わせた。
25
H23 新メカ FS
•
•
•
最終報告書
ベトナム政府による REDD+および関連施策の動向、政府機関の役割分担に
ついて情報を得た。
ベトナム国内で森林情報を取得している機関は多く存在し、どの情報を採用す
るのかは留意する必要があることを確認。
REDD+については MARD(農業農村開発省)が担当窓口となることを確認で
きた。現在、フェーズ2の実施計画が策定されており、調整機関(Coordination
body)の設立、データベースの構築:国レベルの REL 策定等に貢献、REDD
国家戦略、環境サービスへの支払い(PES)、MRV について検討されている。
第 5 回現地調査(2011/11/13~2011/11/22)
【訪問先】
JETRO、双日株式会社、FAO、Vietnam Timber & Forest Product、木材加工工場
【調査内容】
•
ホスト国の法制度・政策等調査
•
REDD+やバイオマス発電事業活動に関連する情報・データの収集
•
リファレンスシナリオに関する調査
•
利害関係者のコメントに関する調査
•
資金計画に関する調査
【結果】
•
ベトナム北部の木材需要は、①製紙、②製材(建築用材及び家具用下地材)、
③合板用単板、④家具が中心であり、主な樹種はアカシアである。
•
Yen Bai 省には、単板工場が集まっている。また、ソンラ省の東に隣接している
Phu Tho 省には製紙工場、同 Hoa Binh 省には MDF 工場がある。
•
ソンラ省内の Phu Yen、Moc Chau には、アカシアが植林されている。Phu Yen、
Moc Chau はソンラ省の東に位置し、Hoa Binh 省と Phu Tho 省に近いため、製
紙/MDF 工場向けの原料供給には良い立地にある。
•
ベトナム国内の木材需給関係、輸出入に関わる統計データは整っていない。
輸出入データは税関を通るため把握しやすいが、国内の木材需給は小規模の
家内工場が無数にあるため把握しきれていない。
•
風力発電の買取り単価(¢8.8/kWh)は政令で定まっているが、バイオマス発電
の買取り単価は決まっておらず、EVN との交渉で価格が決定される。
第 6 回現地調査(2011/12/8~2011/12/17)
【訪問先】
ベトナム林業大学、Copia 特定利用林、Thuan Chau 保護林、ソンラ省林業局
(SUBDOF)、International Union for Conservasion of Nature(IUCN)、国際アグロフ
ォ レ ス ト リ ー セ ン タ ー 、 Institute for Sustainable Forest Management and Forest
Certification(SFMI)、農業及び地域開発省(MARD)、在ベトナム日本大使館
【調査内容】
•
GHG 排出削減効果実証の方法論に関する調査
•
リファレンスシナリオに関する調査
•
モニタリング手法・計画に関する調査
•
GHG 排出量・削減量の定量化に関する調査
•
GHG 排出削減効果の測定・報告・検証(MRV)手法に関する調査
•
適格性に関する調査
•
環境十全性確保のための措置に関する調査
•
利害関係者のコメントに関する調査
•
ホスト国の持続可能な開発への貢献に関する調査
【結果】
•
Copia 特定利用林において、衛星画像解析グランドトゥルースデータの取得、
保護林植生回復手法と森林の状態確認、パイロットプロット設定作業を行った。
•
Copia 特定利用林のコアエリアは在来種保護のため植林は全面禁止。バッファ
ーゾーンでは地域住民との契約のもとで、また保護林であれば、DARD の許可
の下で植林可能であることを確認。自生種であれば容易に許可はでるが、新
規樹種は協議が必要となる。
•
ソンラ省として植林推進に加えて木材加工産業の振興を行いたいという意向を
26
H23 新メカ FS
•
•
•
•
最終報告書
確認できた。当社が植林活動を実施したい場合、植林地の提供が可能とのこと
で、Copia 特定林の周辺地域での植林を薦められた。
ベトナム北西部は少数民族の問題(モン族と中央政府との軋轢など)があり、ベ
トナム政府としても重要な地域と認識しているが、難しい地域である。北西部の
活動は林業にしても農村振興とセットで行う必要があるとアドバイスを得た。
Bac Kan 省で REDD+のモデル事業について情報収集。住民全員が森林の保
全 へ の 協 力 す る 契 約 に サ イ ン し 、 保 護 林 か ら の 伐 採 の 禁 止 、 Forest
enhancement のための植林を行っている。ダム水源にもなっているので環境サ
ービス支払(PES)も同時に行う等、本プロジェクトに参考となる情報を得た。
FSC 森林認証制度について情報収集を行なった。森林認証(ベトナムでは森
林認証=FSC)は政府の戦略で、森林管理のゴールとされている。植林時から
認証を取得する必要はなく、伐採前に取得すればいいが、住民の教育など準
備は最初から行っておくのがよいとアドバイスを得た。
二国間の REDD+は VNFOREST と JICA 間で協議が進んでいる。REL につい
て SABSTA で共同発表した。炭素のオーナーシップについては、Degree99 で
Prime Minister に所有権が発生するよう準備をしているので注意が必要との助
言を得た。
第 7 回現地調査(2012/2/15~2012/2/22)
【訪問先】
JICA,ベトナム林業大学、ソンラ省林業局、農業及び地域開発省(MARD)
【調査内容】
調査結果概要の説明と協力に対する謝意の表明、今後の進め方に関する打合せ
【結果】
生産林の造成と天然林保全を組み合わせて実施する手法は関係者から一定の賛
同を得た。
MARD から、パイロットプロジェクトの実施は歓迎するが JICA とよく相談するとよいと
の助言があった。JICA 現地専門家と予備的な協議を行った。
ソンラ林業局から、特定利用林や保護林においても現在の環境に負荷を与えない
範囲ならば生産活動を実施してもよく、木材生産、非森林生産物、環境サービス支
払が含まれるようになった(2 月 8 日首相通知)との情報を得た。
(2) ソンラ省の状況、森林・林業に関する現状と今後の方針について
本調査で明らかとなったソンラ省の森林に関する概況と今後の方針を以下に示す。
① 経済―地理的位置
ソンラ省はベトナムの西北部の山岳地域で、経緯度は北緯 20°39’~20°02’、東経
103°1’~105°02’である。また、北方は LAO CAI、YEN BAI 省に接し、東方は PHU
THO 省、HOA BINH 省、西方は LAI CHAU 省、南方は THANH HOA 省とラオス人民共
和国に接している。
ソンラ省は全国の 64 省中、省面積の大きさで 3 位、面積は 1,412,500ha、国土の 4.27%を
占めている。また、ソンラ省に SON LA 市,Thuan Chau 県, Mai Son 県, Yen Chau 県, Moc
Chau 県, Song Ma 県, sop Cop 県, Phu Yen 県, Bac Yen 県, Muong La 県, Quynh Nhai 県、
全部で 11 行政区分がある。ソンラ省は HANOI 首都・北部地域の経済重点地域と西北地域
をつないでいる。ソンラ省にはベトナムとラオスとの国境が 250km あり、国際また隣接同級行
政区分との文化・経済・社会交流に良い条件になる。ソンラ省の森林が源流保護林、自然
環境保護、国防安全、国家主権保衛として大切な役割を担う。しかし、山岳地域で、地形が
険しいため、経済発展・投資を引きつけるには問題点が少なくない。
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H23 新メカ FS
最終報告書
② 自然の特徴
【地形・地勢】
地形は断片的に分けられ、高い岩山や峡谷、盆地、高原地帯が雑ざりあう。西北・東南の
平行している 3 つの山脈で、平均高度は 600~1,000m である。平均斜度は 25 度以上であ
る。地質構造に特徴の断裂帯(例えば Da 川、Nam Pia 断裂帯)があり、ソンラ省の地形は
様々である。地勢が険しく、高い峰や深い崖、渓谷が混ざり、断崖絶壁が多い。
Da 川と Ma 川の間には 2 つの大きな高原が形成され、Moc Chau という高原の標高は 800
~1000m、面積は 2 万 ha で、Son La ‐ Na San という高原の標高は 600~800m、面積は 1.5
万 ha である。この辺りは広くて平坦で、土壌が良いので規模を集中して多様な原料生産地、
果樹園、飼育を展開するのに適切である。各高原の間に盆地、渓谷が混在し、河川からも
たらされた土砂によって、形成された 300~1,000ha の中小規模の水田がある。
【気候】
ソンラ地方は熱帯山地地域特有のモンスーン気候に影響され、1年に2つの季節がある。
冬は 10 月から翌年 3 月までで、寒くて乾燥しており、夏は 4 月から 9 月までで雨が多く降り、
高温多湿である。
温度:年間平均気温は 20oC~22oC、平均最高気温は 27oC 、平均最低気温は 16.7oC
で、気温が一番低いのは 12 月と 1 月である(0oC~5 oC)。1 年間の平均気温/積算気温度
の平均は 7,550℃、年間の日照時間の平均は 1,641 時間、1 ヶ月の晴天の平均日数は 23
日間である。
湿度:年間の雨天は 118 日で、一年間の平均雨量は 1,420mm、一ヶ月の平均雨量は
150mm である。雨季は 6-7 ヶ月間で(4 月~9 月)、雨量は年間の全降水量の 84~92%を
占め、地滑り・洪水・鉄砲水・浸食などが起こり、地元の人の生活や生産業に被害を与える。
一方、乾季が長く続き、干ばつになり、その結果農業用及び生活用水が不足し、特に山岳
部の農村での作物の育成に悪影響を与える。
年間の平均相対湿度は 81%で、最高値の平均は 86~87%(6、7、8 月)、最低値の平均は
6~10%(1、2、3 月)である。年間平均蒸発量は 800mm で、毎年 10 月から翌年の 5 月にか
けて降水量より蒸発量の方が何倍もある時期なので、土中含水度がいつも萎れ点より低い
ので、この時期は給水しなければ短期の作物の耕作できない。
特殊要素:毎年 12 月から 1 月にかけて霜害が何回か発生し、全地域に影響を与えている。
しかし近年では霜の発生頻度が低下しつつある。一方、雨季に斜面が険しい地域や植物が
少ない場所で鉄砲水が良く発生する。フェーン現象(ラオスから吹く高温の乾燥した風、ラオ
ス風)により夏の初期は暑く乾燥する。
【水文学的特徴】
ソンラ省は河川が多く、密度 1.2~1.8km/km2 程度であるが、ほとんど低地に分布してい
て、97%の低地面積は DA 川、MA 川の流域である。DA 川は省地を 253km 流れ、流域の
全面積が 9,874km2 で、MA 川は 93km で、流域面積が 2,800km2 である。SON LA 地域の
河川は斜度が高く、川幅が狭く、水力発電の潜在力がある。全面的に極小規模の水力発電
所を展開させる一方、全省で 96 の中小規模の水力発電所が計画されており(工事中が 41
ヶ所)、総発電量は 3,400Mw、其のうち発電量 1,000kw 以上の発電所が 21 ヶ所あり、特に
2,400Mw の SON LA 水力発電所は近く建設される。他に SON LA 地域に 5,000ha の湖が
あり(水力発電用の HoaBinh ダムや Son La ダムを除き)、これは重要な水源で、主に灌漑事
業用として、乾季に農業用及び生活用水として利用している。
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H23 新メカ FS
最終報告書
【土壌】
ソンラ省の林業地の調査によると、土壌は主に黄赤土フェラリット(F)と腐葉土フェラリット
(H)から構成されている。上記の土壌は SON LA 地域の森林地の総面積の 89.7%を占める。
また、斜度が 25°以上の険しい土地は 86%占める。しかし、平坦で広い Moc Chau や
SonLa-NaSan という 2 つの高原地帯があり、この地域石灰岩の上には黄赤色土や黄褐色土
の土層で、肥沃で集約的な生産性の高い農林業を展開するのに適している。土層の厚さは
平均的かやや厚め、100cm 以上の土地が 33.5%、50~70cm が 36.1%、50cm 以下が 30.4%
である。粒径分布は平均的から重みまでである。肥沃度は森林伐採と古い耕作習慣の影響
で衰えている。
③土地使用と森林資源の現状
【林業用地の現状】
2007/01/01 の時点で森林地は面積が 934,039ha、自然総面積の 66.1%を占め、詳細は
表 2-1 に示す。特定利用林は 62,978.7ha、全体の 6.7%、保護林は 423,992.6ha、45.4%、
生産林は 447,067.6ha で 47.9%を占める。
森林のある林業地は 594,435.3ha、全省の面積の 42%を占め、天然林は 563,890.3ha
で森林のある林業地の 94.8%を占める。(広葉樹林 469,145.9ha、混合林 51,174.8ha、
竹林 19,172.8ha、高山林 33,843.0ha)造林の森林は 30,545.0ha で 5.2%を占める。この
うち、使用/利用できる森林が 8,372.5ha、まだ利用できない森林が 22,172.5ha ある。
森林のない林業用地は 339,603.5ha で、全省面積の 24%を占め、うち空地・草地(カ
テゴリー:Ia)が 130,937.9ha、空地・低木(Ib)が 69,740.3ha、散在木の空地(Ic)が
136,753.5ha である。
【森林の利用可能性・ポテンシャル】ソンラ省の森林材の利用可能量は 12,296,000m3
の木材と 1.833 億本の各種竹である。中に天然林は 11,854,000m3の木材、1.833 億本の
竹で、造林森林材は 44.3 万m3の木材になる。
特定利用林、保護林、生産林ごとのによる利用可能量は次の通り。
+特定林:木材は 305 万m3、24.8%を占め、竹は 1069.3 万本である。
+保護林:木材は 594.9 万m3(天然林 562.5 万m3、造林森林 32.4 万m3)、50.1%を
占め、竹は 8050 万本である。
+生産林:329.8 万m3(天然林 317.9 万m3、造林森林 11.9 万m3)、26.8%を占め、
竹は 9230 万本である。
全体を見て、ソンラ省の利用可能な森林は大きくない。天然林が主で、造林森林、
特に生産林の利用可能度が低いためである。利用可能な高い森林はほとんど保護林、
特定林の林地にあり、高度・斜度が高く、交通が不便である。保護林は非常に重要で、
人の侵食/影響が少なく、生態系が豊富で、貴重で価値の高い大木が多い。このような
森林が Xuan Nha(Moc Chau)、Ngoc Chien、Hua Trai(Muong La)、Suoi To、Muong Thai、
Muong Do(Phu Yen)、Huoi Mot(Song Ma)、Sop Cop(Sop Cop)に多く分布する。一
方、生産林になる利用可能森林が少ない。
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H23 新メカ FS
最終報告書
まとまった面積があり、かつ開発できる森林のほとんどは標高が高く、斜面の険し
い保護林か交通が未発達な特定林の中に存在する。保護林は人々から伐採される影響
が少ないので、生物の種が豊富、かつ貴重で、大木が多い。この森林のタイプは Xuan
Nha (Moc Chau), Ngoc Chien, Hua Trai(Muong La), Muong Thai, Muong Do,(Phu Yen),
Huoi Mot (Song Ma), Sop Cop (Sop Cop)の場所に分布する。しかし、産業的に利用でき
る生産林が少ない。
(出所:2005 農業と農村開発省の森林資源調査結果)
【管理者別の森林面積】
林業用地の総面積は 934,039ha から、2001 年から 2006 年にかけて 917,772.28ha の
森 林 ・ 林業用地(天然林 578,712.54ha、造林森林 22,629.52ha、森林のない土 地
316,440.75ha)を森林業界に引き渡された。94,345 の使用者に 812,906ha の林業用地の
使用権認定書を交付された。このうち 157,736ha
(19.5%)が個人使用者、
68,652ha
(8.5%)
が 5,009 使用者グループ、137,337ha(17%)が 2,018 経済団体、449,070ha(55%)が
少数民族農村に引き渡された。
森林・林地の引渡しは基本的に終了したが、引渡し面積は各森林業界の間に不均等
な差があり、新森林の開発・保全の重要な要素である経済団体、特に国営森林企業・
保護林管理部に 17%しか引き渡されず、少数民族農村に 55%引き渡された。このため、
効果的に使用・管理できるよう、森林・林地の引渡しに関する再調査・調整が必要で
ある。
【森林再生・修復の状況】
空地・裸丘(Ib、Ic)の自然再生回復する過程について、農業・農村開発省の森林
調査・計画部の 2005 年度調査結果によると次の通りである。
全体を見ると、全省の天然林の再生・回復は順調に進んでいる。特にIcの場所は、
猛烈な再生力で、再生目的樹木の平均密度は 2,000 本/haである。よく見られ樹木は 7
~15 種:Thanh nganh (Cratoxylum ligustrinum), De (栗の一種), Khao(Machilus
odoratissima Ness), Hooc quang, Thau tau (Aporosa dioica), Tram (Combretum SP.), Truong
(Xerospermum noronhianum), Boi loi (Litsea sp.), Voi thuoc (Schima wallichii).等である。特
定林と保護林の中で天然更新による森林再生地域を区分け、その状態のまま自然再生
を行えば 5~7 年後に修復でき、20~25m3/haの利用可能な若森林になると期待される。
カテゴリーIb(空地・低木)の場所では Ic ほど自然再生力が強くないが、再生樹木
の密度は平均 1,200 本/ha になることが可能である。Ib の特定林及び斜面又は標高が
高い場所、遠隔地の保護林の場合、区分けして自然再生させる。手入れ可能な保護林
は自然再生と補助植林を同時に行なう。また生産林は植林しなければならない。
このように、公式な資料、報告書では森林の再生が順調に進んでいることになって
いるが、天然林では違法な伐採や薪採取が行なわれており、劣化が進んでおり、行政
も課題であるとして認識している。植林は管理がよく順調に成長している場所とそう
でない場所が混在している。
【森林資源(植物・動物)
】
森林の植物資源:ソンラ省はベトナムの西北に位置しており、ベトナム北部本地‐
中国南部の植物系、またインド・ミャンマーの植物系とインドネシア・マレーシアの
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H23 新メカ FS
最終報告書
移行植物系やヒマラヤの植物系が混在し、多用な生態系が育まれている。
森林調査・計画部、ベトナム林業科学院、生態・生物資源院の調査によると、SON
LA に は 161 目 、 624 類 の 1,066 以 上 の 種 の 維 管 束 植 物 が あ り 、 こ の う ち Lat
hoa(Chukrasiatabularis sp.), Bach xanh (Calocedrusmacrolepis sp.,中国語名:翠柏 )、Pơmu
(Fokienia sp., ヒ ノ キ 科 ) , Thong tre (Podocarpaceae), Tram huong ( Aquilaria
malaccensis), Dinh huong (Syzygium aromaticum), Dinh thoi (Fernandoa brilletii),
Nghien (Burretiodendron hsienmu), Sen mat (Madhuca pasquieri) のようにベトナムレッ
ドブックに掲載されている珍貴で、保護しなければならないものが 30 種ある。
森林動物資源:生息地が縮小されると乱獲の状況と相まって、近年の森林動物の種
数や個体数が徐々に減少している。概略調査によると省内に 15 類の獣と 320 類の鳥、
60 種の爬虫類、25 種の両生類がいる。ベトナムのレッドブックに載っている珍貴で
保護の必要な動物には黒テナガザル(Vượn đen Tây Bắc)、灰色ラングール(Voọc xám)、
ゾウ(Voi)、クマ(Gấu)などがいる。
全体的に、ソンラ省の森林動植物系は北西部地域特有の石灰岩と土が混じった
山地動植物系の特徴がある。ただし、この生物資源は多様性と生息数が減少し、多く
の種が絶滅の危機に瀕している。森林資源を保護、開発するため有効で迅速な対策が
必要である。
【木材以外林産物資源】
SON LAの気候は木材樹木以外に竹、有益な昆虫が寄生する宿主樹木、, Sa nhan
(Amomum), Thien nien kien(Homalonema occulta (Lour.) Schott), Ngu gia bi(Araliaceae),
Đang sam (Campanumoea javanica), Ha thu o(Radix Polygoni Multiflora), Son tra(サ
ンザシ), Hoai son(Rhizoma Dioscoreae)等の薬用樹木に適切である。また、森林の
中にも 20 種近くの藤類がある。
④ 社会・経済的特徴
【人的資源】
2006 年 12 月の統計によると、ソンラ省の人口は 1,007,511 人で、都市が 113,680 人、
11.3%を占め、残り 88.7%は農村にいる。平均人口密度は 71 人/km2で、最高密度はSON
LA市の 200 人以上/km2、50 人以下/km2の密度はQuynh Nhai区, Sop Cop区, Bac Yen区で
ある。
ソンラ省には 12 の少数民族がいる。主な民族はThai族 54%、H’Mong族 12.02%、
Kinh族 18%、Muong 族 8.12%、Dao族 2.5%、Sinh Mun族 1.64%、Kho Mu族 1.49%、
La Ha族 1.02%、他に全省に点在している少数民族は 0.64%しかいない。
2006 年ソンラ省の労働人口は 541,451 人、全省人口の 53.7%を占めた。このうち
に農林業は 90%弱、工業・建設・サービス業などは 10%強である。人口増加速度がか
なり高く(1.59%)、人民教育程度が市場経済の発展進度に追いつかない。土地開発の
大きな潜在力と比べ、労働人口がまだ少なく、仕事のない人数は多い(約 11%)。
31
H23 新メカ FS
最終報告書
(a) 経済の実状
【経済成長の状況】
2000-2005 年の平均成長率は 11.6%、(1996-2000 年は 9.05%)、全国の平均成長率
(8.5%)より高い。特に 2006 年は 13.25%に達した。GDPは 著しく伸びて、2000 年
はVND1.20717 兆、2005 年はVND2.112 兆で 1.75 倍増加し、2006 年はVND2.39284 兆
に達した。ただし、一人当たりの収入については、全国平均の 715USD/人に対し
296USDである。
【経済状況の変化】
近年の GDP の構成は積極的に変化し、サービス業、工業・建設業の比重/比率が徐々
に増加するのに対して、農林業・水産業の比重が減少する傾向にある。工業・建設業
の比重は 2000 年の 9.49%から 2006 年の 18.58%に増え、サービス業も 2000 年の 29.55%
から 2006 年の 38.52%に転じた一方、農林業・水産業は 2000 年の 60.96%から 2006 年
の 42.90%に減少した。
【農業経済機構変化】
農業のGDPの構成は、作物生産業から 畜産業 ・サービス業に転移した。2000 年の
作物価値は 80.73%から 2006 年の 69.21%に減少、畜産業の価値は 18.66%から 30.21%
に増加、サービス業は 0.61%から 0.58%になった。
(b) インフラ構成
【交通】
ソンラ省は、複雑な地形に位置しているが、他の北西地域に比べると交通網がかな
り開発されている。全省の 5,240kmの道路網があり、このうち車が走れる道は 2,441km
である。詳細は:414kmの国道の 5 路線の中に、国道 6 号は 230km、国道 37 号は 109km、
国道 32bは 11km、国道 279 は 32km、省道(日本の場合は県道)は全長 668kmの 13
路線で、都会の道路は 121km、県道は 668km、村連結路は 527kmである。また、車が
走れない民生の道路が 2,842kmある。
水路のシステムは主にDA川(230km)とMA川(70km)の水路である。将来はSON
LA水力発電所とTHANH HOA省のNgoc Lac水力発電所が完成すれば、水路はますます
発展でき、効果的である。
航空路:Na San空港は(SON LA市から東南に 20km離れたところ)小さい空港で、
今は主に旅客輸送であるが、効果的ではない。現在、社会発展に効果的に応えられる
よう拡大・工事中である。
【エネルギー・通信(テレコム)
】
エネルギー:人口が過疎で、地形が山岳なので、SON LAの電気網の整備が遅れて
いるが、現在 全ての 11 行政区分に国家電力供給網があり、80%の農村に生活用電気
があって、63%の家庭で電気を使用できる。
通信網も次第に発展しており、2006 年に固定電話の設置率は 95 台/1000 住民である。
省内 全ての 11 行政区分にテレビ放送されて、80%の農村でテレビ受信できる。各村
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H23 新メカ FS
最終報告書
に郵便局・文化センターも次々に建設され、精神・文化生活も改善されている。
州都ソンラ市内の多くのホテルではインターネットが利用できる。また、全国をカ
バーした携帯電話網を利用したワイヤレスのインターネットサービスを利用すれば、
山間地でのウェブサイトの閲覧やメール送受信も可能である。
【社会文化の実状】
全省の各村には小学校と中学校が設置され、2000 年から小学校の義務教育が実施さ
れた。2006 年に全省に小学校が 232 校、中学校が 192 校、高等学校が 26 校ある。専
門教育機関は大学が 1 校、短期大学が 1 校、専門学校が1校、専修学校が 1 校ある。
省内に医療施設が 246 箇所あり、そのうち病院が 15、地域の診療所が 9 箇所、町村
の病室が 201 箇所、他の医療施設が 9 箇所で、全省に設置された病床は 2,935 である。
診療能力も向上しており、危険な伝染病や風土病が相当減少した。
スポーツ・文化活動に対する(政府機関の)関心が高まり、住民の健康・知識
が改善され、社会及び共同体が質的向上するのに有効的である。2005 年に全省の 10%
の家庭がスポーツ活動に参加し、90,000 の家庭が「文化家庭」に達したと評価されて
いる。
(c) 省内における社会経済発展の有利性と課題
【有利点】
ソンラ省は省内を流れる河川網の斜度が高く、滝 が多いので、水力発電の潜在力が
非常に大きい、特に工事中の 2,400MWのSON LA水力発電所である。この発電所が社
会・経済を迅速に発展させ、工業の顕著な発達が可能になるにつれて、インフラやサ
ービス・他の経済分野の発展をも促進する最高の機会といえる。
土地の潜在力も大きく、特に林業用地は肥沃で、湿度も高く、林地の特性がまだ維
持されており、気候も多様で、様々な高価値で生産力が高い樹木に適切である。特に
DA川水力発電所のために水源調和を保つ価値がある。また、Hong川デルタの一部が
ソンラ省に返却された場合、森林の開発・投資や農村農業の経済構成を変動させる原
動力になる。
鉱産資源は埋蔵量が少なく、散在するが、多種多様で豊富であるため。有効的に管
理されれば省の経済発展に大きく貢献できる。
ソンラ省は数多くの名所、SON LA刑務所や 革命史跡博物館、To Hieu桃木などの 史
跡、天然温泉、気候が良くて涼しいMoc Chau高原、DA川流域の湖地があり、HOA
BINH省、DIEN BIEN省やLAO CAI省などと連携し、観光客を引寄せる魅力的な観光
プログラムを実行できる。
【難点・問題点】
省の経済は後発であるし、製品の競争力も低い。脆弱なインフラ施設が社会・経
済の発展を阻害する要因となる。生活用・生産用の水源分布は不均一である。また、
国家電気網は全土を覆わないし、政財・金融、通信、教育等各分野のインフラ整備
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H23 新メカ FS
最終報告書
が遅れている状態である。
地形は複雑で断片に分割される。農業用地は殆ど斜面で、面積も小さい。近年、森
林面積が増加してきたが、安定的に環境保護できる森林被覆率がまだ低い。
気候が厳しく、乾季が 6 ヶ月もあり、山火事の危機に瀕している。地元の経済力が
弱く、人材源は刷新(Doi Moi)経済政策に応えられない。
SON LA水力発電所や小規模発電所の建設がソンラ省に新たな課題が出て、特に発
電所の建設予定地の住民の移民・再定住は困難な任務である。再定住の住民と定住
者受入れ地域の住民の両方とも安定的に、より良い生活ができるように農地再編が
必要である。
⑤ 森林の拡大及び保護の実状
(a) 林業生産活動の概要
【林業組織・管理の現状】
行政組織上、省では農業農村開発局(Sở Nông nghiệp và PTNT、英:Department of
Agriculture and Rural Development)並びに、農業農村開発局に属している国家林業管
理上の役割を果たす森林保護支局(Chi cục Kiểm lâm, 英:Forest Protection Bureau)及
び林業支局(Chi cục Lâm nghiệp, 英:Forestry Bureau)があり、林業管理システムが
次第に整備されてきている。
各地区では経済部(Phòng Kinh tế)が地区の森林管理・林業開発の上で、地区 の人
民委員会を扶助する。またが森林保護・開発に関する実施を検視する森林保護部
(Hạt kiểm lâm)という機関がある。
各村では林業管理の上で、村の人民委員会を補助する幹部 1 名がいた林業課があっ
たが現在は閉鎖されている。
【経営・生産現状】
国営林業事業(林場)が 5 つあり:Muong La林業事業、Song Ma林業事業、Sop Cop
特産林業事業、Moc Chau林業事業、Phu Bac Yen林業事業;ベトナム製紙業に属するA
Mai林業事業とTam Son林業事業がPhu Yen区とMoc Chau区に所在している。他に 559
株式会社やMinh Giang株式会社、Khang Ninh株式会社など、国営でない企業がある。
省内の収益団体は 4 つの自然保存地区(Xuan Nha、Suoi Cop、Ta Xua、Copia)の管
理部とThuan Quynh保護林管理部である。これらの収益団体の任務は引渡された森林
の保護・管理・開発である。
林産生産/加工企業:SON LA林産生産企業や林業事業に属する林産生産所(以前は
Moc Chau、Phu Yenだった)、他に 400 以上の民間木材生産所があり、ほとんどSON LA
市、Phu Yen、Moc Chau、Thuan Chau、Song Maに集中する。
また、農村開発計画・調査局や林業研究・生産センター、西北農業センター、SON
LA種子センターと 661 プロジェックトの 11 の管理部など、森林開発に注力している
別の機関・団体もある。
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(b) 経営生産活動の成果
【森林保全】
近年、森林保護や管理の強化を進めており、森林保護管理面積は 2000 年の 357,000ha
から 2006 年の 577,638haに引き上げた。
【再生目的とする森林区分】
近年、再生目的とする森林区分は特に注目され、661 号プロジェックト、DA川盆地
の住民安定策(1382)、森林保護事業などの各プロジェックトで森林区分・再生を展
開し、その結果は、2000~2006 年の期間で森林区分・再生の面積は年間平均 158,400ha
に達した。区分・再生の実施はIc状態の森林で、源流保護林に属する最重要地域、ま
た灌漑・水力発電所施設の重要地域、河川流域・交通路沿の斜面などで行なわれてい
る。
森林区分再生は相当な効果が出ており、DA川の沿岸は 5-7 年後に森林被覆度が高ま
り、木材の利用可能量は 20-25m3/haに達した。生産地区分けの成功は森林被覆度が増
加した一つの要因である。ただし、山岳裸地の被覆を目的にする場合、森林生産地区
分けはスピードが速く、低コストで森林被覆を実現できるが、ほとんどは不用木材で、
経済的な価値が低い。経済効果や森林の保護機能を増大するため、適切な造林作業を
しなければならない。
【集中造林】
2006 年に全省で 30,545.0haの集中造林森林(rừng trồng tập trung)が造林でき、この
うちに保護林は 10,265.6ha、28.7%を占め、生産林は 20,234.4ha、66.3%で、特定林は
45haである。栽培された種はThong ma vi
(バビショウ, 馬尾松、学名:Pinus
massoniana ) , Lat hoa (Chukrasiatabularis), Xoan セ ン ダ ン ( Chinaberry ) , Mo
( Manglietia conifera ) , タ ケ ノ コ 採 取 竹 , Tech ( チ ー ク 、 Teak ) , Voi thuoc
( Schimawallichii ) , Bach dan (Eucalyptus), Keo lai (Acacia mangium x Acacia
auriculiformis)である。造林の直径成長は 1.0~1.5cm/年、高さ成長は 1.0~1.4m/年、特
に 2~2.5m/年の成長できる樹種もあるが、現在の造林森林は散在しており、生産林は
少なく、集約耕作に適していないため能率が低く、平均 8~10m3/ha/年である。
集中的に造林する外、毎年省内に散在的に 500,000~600,000 本の各樹木を植林し、
農林結合により多年果樹園や林園などの形態で、林業用地の利用の多様化を行なう必
要がある。
【林産伐採・加工】
林産伐採:2000~2006 年全省の毎年の丸木伐採平均量は 50,000m3、1990~2000 年
の時期と比べ、年間 40,000~50,000m3減少する。伐採したのが各民族住民需要の家具
用樹木、または水力発電所・道路工事所などの地盤工事用樹木、土地使用目的変更の
林業用地の樹木、農業・農村開発省の天然林伐採指示の 1,000m3丸木である。他に薪
は 2,000,000ster、竹類は 5~6 百万本、Bai Bang、Hoa Binh、Ha Tay製紙工場に供給す
るneohouzeaua(竹の 1 類)は 4~4.5 千トンである。
林産加工:省内に 3 つの国営企業や 400 以上の国営外の企業があり、計画生産量:
MDFは 1,300m3、基礎建設の建材木製品は 11,400m3、手芸材は 2,200m3、家具用木材
35
H23 新メカ FS
最終報告書
は 2,400m3、木製スラットは 1,500m3、紙は 2,500 トンである。近年天然林の伐採量が
減少していて、造林森林からの伐採量は各企業の需要に応えられないので、生産能力
の 20~30%しか稼動していない。原料が十分に供給できれば生産量は 20,000m3の製品/
年に達し、1,000 件以上の雇用創出が達成できる。
木材加工設備のほとんどは長年使用されたもので、製造設備は古く、製品の品質・
規格・デザインは国内・国際要求を満たしていない。基礎建設の建材木製品の比重は
高く(65%)、手芸材・家具はまだ貧弱である。MDF、木製スラットなどの新製品は
国内市場に販売できるが、現在、原材料の安定した確保ができないので、小規模で稼
動する企業が多い。
全体を見ると、以前や現在の各木材加工所が生産能力を充分に発揮できないのは安
定的な原材料や市場の確保の 2 つの要因を克服できないからである。
表 3-1
項目
単位
集中造林
ha
散在植樹
1,000 本
森林再生
主な林業製品
2001 年
2002 年
2003 年
2004 年
2005 年
6,776
6,361
4,489
3,714
3,507
527
1,043
553
647
418
ha
166,116
146,597
172,156
147,970
158,997
3
m
47,550
57,463
54,088
53,405
51,986
薪
1,000 ster
1,398
1,486
1,426
1,395
1,306
竹類
1,000 本
7,084
5,836
5,415
5,099
4,095
製紙の原料
トン
7,334
5,437
7,670
3,800
2,450
Neohouzeaua
(竹の 1 類)
トン
4,762
4,676
4,880
4,635
4,520
林業製品価値
VND 百万
148,892
159,715
160,040
156,979
152,352
伐採の丸木
出所:2006 年のソンラ省の統計年鑑
⑥ 林業開発現状評価
(a) 省の経済に対する林業の役割
省の総経済生産に占める林産物の割合はあまり高くなかった(2006 年 VND3856.55
億で、全省 GDP の 8.8%を占めている)が、全省人口の 78%に影響を与えるため大変
重要である。とくに遠く離れた山岳地帯に住んでいる人民には顕著である。森林面
積は省の自然地の約 70%を占めている。森林保護・森林保全・森林拡大に寄与する
活動が実施されたら、林産物や将来の森林環境からのサービスを通じてソンラ省の
人民の主な収入になる。
ソンラ省の森林と共に西北部の森林系は大切な北部平野の「緑の屋根」である。上
流保護や国最大の水力発電用水の調節に機能し、国のエネルギーの安全保障上重要
であり、農業・灌漑・漁業の為に水を供給する。森林はインフラや洪水防止、浸食
などを防止する保護シールドの役割を果たし、地域や下流エリアでの環境を保護す
る。
ソンラ省に於いて林業が発展すれば、多くの仕事を作りだし、人工的な木材加工
業や製紙業に林産物を提供する。そして、人民のニーズに応じ、輸出に参加し、農
業経済の機構を発展させ、底固い経済・社会発展を確保するであろう。
36
H23 新メカ FS
最終報告書
(b) 11 年間(1995―2006)の林業発展の規模と程度
1995 年以来ソンラ省の林業は主要な役割を果たしてきた。ソンラ省の森林面積は 11
年後に 374,299ha、2.7 倍に増加した。その内、天然林が 362,580ha、2.8 倍、各種人工林
が 11,719ha、1.6 倍に増加した。森林の被覆率は 26.3%増加、年平均 2.39%の増加に相当
する。これはソンラ省の林業の住民が達成した大きな成果で、住民生活と地元の経済を
発展させた。
表 3-2:(1995-2006)期間森林と森林被覆の進化単位:ha
No
項目
全森林の土地
1995 年
2006 年
増加 (+),
減少(-)
1,115,987
934,039
-181,948
1.
森林のある土地
220,136
594,435
+ 374,299
-
天然林
201,310
563,890
+ 362,580
-
造林森林
18,826
30,545
+ 11,719
2.
森林の無い土地
895,851
339,604
- 556,247
3
森林被覆率(%)
15.7
42.08
+ 26.3
出所:2006 年総計年鑑
(c) 森林技術の発展
造林工程:先ず種苗生産に組織培養・挿し木工学を適用した。最近、生産林の面積
は挿木や組織培養方法で造られている。森林管理では、地理情報システム(GIS)と
衛星リモートセンシング技術を使い始めて森林図を作成し、森林企画及び森林資源の
変化を監視することなど、森林管理用技術を適用されてきた。
(d) 林業における人的資源の評価
林業生産の人的資源のレベルは農業・林業助成の活動によって上昇してきたが、全
体的にまだ低く、少ないと見られている。高等専門学校、大学の森林関連学科で、教
育、訓練された幹部職員の割合が少し上がってきた。総計で林業エンジニアが 360 人
を超え、高等専門学校や技術を持っているワーカーが 90 人である。但し、将来の林
業発展のプログラムを担当することで、能力を持つ幹部に追加的な教育や能力開発を
行い、人材の強化をしなければならない。
(e) 林業発展の政策、メカニズムの影響評価
森林・林業用地の引渡し政策:森林、土地が保護や管理されているので、違法な森
林開発が制限されて、森林ファームや林業経済のモデル模型が出てきた。2005 年の農
村農業調査の結果によって、現在、Moc Chau 区、Muong La 区に集中して森林を専業
で生活できる経済的に優秀なファームが 68 農家ある。
投資信用政策:森林発展のプログラムやプロジェクトなどの国の投資のもとで
仕事を創出し、貧困層の削減、森林の被覆率の増加に貢献することである。但し、投
資は要求に満たず、予算も少く、サポートも十分でないので、林業従事者の収入が少
ないし、森林の質も高くないという課題がある。
37
H23 新メカ FS
最終報告書
森林から利益を得る政策は住民を安心させ、人手やお金を投資して官民共同で森林
保護・開発を実施した上で、農林構造を転換させ、林業の生産性を向上させることが
期待される。但し、森林の利用可能量が低く、人民に請負した森林は貧弱であり、森
林からの収益が非常に少ないため、現時点では林業従事者が林業で生活できない。
(f) 林業現況の全体評価
最近、森林の保護や森林の資源、経済の発展は必要な結果を達成した。全省の森林
被覆率は 2000 年の 25.2%から 2006 年の 42.08%になった。環境の保護、上流保護の
役割が強化され、土地の保護、浸食の防止、天災や洪水の制御、Hoa Binh 水力発電、
SONLA 水力発電、生物資源の保護、地域の水力工事は水力発電工事の重要な糸口で
ある。さらに、土地使用の効率を向上、貧困層の削減のために仕事を創出し、山を糧
と生活している人民を中心として安定な生活をする。
森林と森林土地の管理は国家の独占的な林業管理から多くの経済セクターによ
る参加で社会林業的な管理に変更されて、森林は森林土地の配分、雇用、賃貸で林業
用に個人的な管理、経営、長期使用が実施されるようになった。
⑦ 未解決な課題とその原因
(a) 未解決問題
最近森林被覆率が増加してきたが、森林の質や林産物の供給可能量が減少してきた。
林地を農作物耕作に利用され、山火事や、森林動植物の違法な捕獲や採集・売買が続
けられ、主な植林面積は断片化され、成林率が上がらず、造林及び森林開発が遅く、
山岳地域にある省の潜在力に見合った経済発展が達成できていない。
林業の施設や技術の基盤は強化されているが、まだ弱くて同一性も弱いし、林産物
の加工や市場リサーチが遅延し、製品の競争力も弱く、林業の社会化(民間化)活動、
林業への投資および経営の奨励・誘致が注目されていない。また、林業計画の管理が
脆弱で、国営の森林企業の再編・転換が遅くて方向性がない状態である。それに、森
林の保護、再生、植林への投資が少なく、また分散されたため、省の開発需要に応え
られない。
林産物の産業が発達していない。例として、国営企業 3 社及び民間企業数社が所在
するがそれらの企業に原材料を充分供給できない。天然林よりの原材料供給量が減少
してきたが生産林よりの供給量が需要に応えられないため、林産物加工企業が生産能
力の 20%~30%程度で稼動している。
(b) 要因
客観的な原因:ソンラ省での林業生産条件が悪く、複雑に断片化され、また急斜面
の地形で危険でもあり、交通の問題もある。林業用地での人民生活が難しく、日常生
活の要求に直面して、国民の文化水準が低く、山、遠隔地、国境地帯には遊牧、移動
耕作や畑の為の森林燃焼(焼き畑)の習慣がまだ残っている。それと、森林事業は経営
サイクルが長く利益も少ない。年間の低い投資では林業発展ニーズを満たしていない。
一方、林業従事者の収入は確保されていない。
38
H23 新メカ FS
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行政の主観的な原因として、幹部や人民の数人は短期と長期的な森林の意味や役割
を完全に理解していない。山岳地域の潜在の開発・活用や人民内部のリソースへ適切
な関心がなく、部門、当局、団体のタスクを組むのがしっかり実行されていない。そ
して、森林の保護、植林、森林経営への投資の奨励の為に、とくにに森林、土地配分
後の受益者の割り当てとしての政策が実態需要を満たしていない。森林計画、林業発
展計画が統一されていない。森林経済や森林における科学技術の適用は充分注目され
ていない。
【写真】ソンラ省の状況
ソンラ省内の典型的な土地利用状況(Coma 地
区)
ソンラ省内の土地利用状況(Coma 地区)
ベトナム国内最大級のソンラダム(発電を開始
しているがまだ建設中)
ダム湖周辺の斜面は森林がほとんどなく、濁っ
た水が流れ込んでいる。
ソンラ省のトウモロコシの集荷場(Bac Yen 県)
同左(Mai Son 県)
39
H23 新メカ FS
最終報告書
Phu Yen 県のアカシア植林地
Moc Chau 県のチーク植林地
少数民族タイ族の住宅 農閑期は住宅の建設が
多く見られる。
同左、軸組みの様子
木材は地元の森林から供給される。
加工された梁材
ほぞを切った柱材 木造住宅の建設技術は日本
のそれと共通するものがある
(3) REDD+の活動のアプローチ
地域住民や地元の要望に応じた求められる森林保全活動として、プロジェクトのコンセプ
トは次図の通りである。
40
H23 新メカ FS
最終報告書
これらの方策の総合的な実施により、環境を保全し、地域の持続的発展に貢献し、森林
保全や目指すべき将来像をイラスト化した。
① 現状のイメージ
傾斜地は焼畑か荒廃地で、森林はわずかに残される。農業生産性は低く、土壌浸食や河
川への土砂の流入が見られる。
② REDD+を通じて達成したい地域の将来像
農業生産性が高まり、林業の振興により、地域経済が発展している。山には森がよみがえ
り、生物多様性や水源涵養機能が向上する。
41
H23 新メカ FS
最終報告書
REDD +は、森林減少と森林劣化の減少、森林保全、持続的な森林管理と森林の炭素蓄
積量の増加による GHG 排出量の削減であるが、REDD +プロジェクトは地元の人々、地域
社会の要望に基づいて実施する必要がある。REDD+プロジェクトを通じて、ソンラ省政府や
地域住民からの課題や要望等を参考に集約すると下記の通りである。
表 3-3
分類
森林保全を実現するために必要なアプローチ
森林減少・劣化の防止、抑制
手法・アプローチ
直接的手アプローチ
違法伐採対策・パトロール強化
防火帯設置等山火事防止
間接的アプローチ
地域住民用木材の供給(支給)
生計向上施策(農業指導、畜産支援、灌漑設備等インフラ整備)
高収量作物の種苗や家畜の適用
土地利用の種類ごとに最適な集約的農業技術
優良な種苗と家畜の繁殖源を確保するための、コミューンレベルでの作物
の苗、林業苗の生産と家畜繁殖
農産物の予備的処理、加工およびポストハーベスト技術の実施
村レベルでのアグロフォレストリーの拡大
植栽、育林に関するに技術トレーニングコース
アグロフォレストリーから生産物の市場について
安定した市場の形成とコミューンのアグロフォレストリー農産物の販売
チャンネル確保や地元の市場の構築
高効率かまどの普及支援(薪利用量低減)
ゴム、コーヒー等定置型高収益性農業と森林保全の組み合わせ
42
○
H23 新メカ FS
森林保全
森林炭素蓄積
の増強
土地利用に関する事項
-傾斜地の利用計画作り
-適切な輪作の実施 (マメ科植物の栽培を含む)
-土壌流亡防止の確立
-土地の保護を目的とした植物の栽培
傾斜地における持続的な農業の実施や管理
環境教育プログラム
生物多様性等学術的な調査・研究支援
エコツーリズムの誘致
森林保護及び天然更新による再生
産業植林(自生種、非木材林産物の利用)
最終報告書
○
○
○
○
地域の木材需要を満たす樹木の植林(スキマなど)
地域経済に貢献する果樹等の植林(ソンチャなど)
行政の監理強化
持続的森林管理・経営
資金に関
する課題
解決
コミュニティフォレストの管理体制構築と管理強化
森林の土地利用の明確化と計画
林地の土地利用計画は地域コミューンの真の発展に貢献すること
各村、各世帯の森林面積や地図上のバウンダリーを明確にする
森林管理のために規制や村の規則を設定する
GIS やリモセン、通信等先端技術導入
モニタリング技術の強化支援
地元の自治体職員の能力強化
トレーナーの訓練
地元の職員のためのトレーニング需要の評価
優先的にトレーニングするべき項目
作物の病害対策、家畜や養魚の疾病予防や治療技術
公開宣伝と動員の方法
傾斜地での栽培技術
農産物のポストハーベスト技術
低金利の信用クレジット
手続きが簡素化されたローン
○
○
○
○
○
○
○
研究分野に
おける持続
可能な森林
管理支援
村レベルでの信用基金の設定
森林の保護活動資金の支援
○
○
植林、森林管理や森林蓄積量増加のための研究支援資金
○
持続可能な水稲生産のためのサポート、および高地栽培技術の開発
○
畜産技術開発のサポート
村人のためのアグロフォレストリー生産に関する技術研修のサポート
○:地元ヒアリング結果、要望があった事項
○
○
現存する森林を維持し、新たな炭素蓄積源を増やすためには、上記の活動を総合的
且つ多角的に活動を行なう必要があると考えられる。このアプローチが住民の自主的
参加を促すようなシナリオ(=その土地で住む地域の住民にとって真のメリットがあ
る土地利用の提案)であるならば、空間的あるいは時間的リーケージの問題は生じな
いと期待できる。また、プロジェクト実施者を含むステークホルダー全体として、
「炭
素収入(炭素固定量+排出抑制量からの収入)+事業による収入」に事業性と魅力が
43
H23 新メカ FS
最終報告書
あれば、REDD+活動の永続性も確保されるものと思われる。反対に、それらが満た
されない場合、リーケージや永続性への問題が懸念され、これが真の REDD+を成功
させる難しさのひとつと思われる。
プロジェクトを実施する際には、カウンターパートである地元(自治体行政組織と
地域住民)の理解と積極的な関与が必須といえる。表 3-3 に示したアプローチをうち
間接的なものや森林管理に関する部分については通常の行政サービスの一部でもあ
るものも多く、これらは REDD+への出資者が自ら行なうものというよりも行政の責
任の範囲業務とも言える。REDD+対して民間からの投資を促す場合、REDD+活動
の基盤ともなるこれらの事項については、国際援助機関等の支援のもとで行われるキ
ャパシティビルディング等準備活動を通じて、民間企業が活動を行ないやすいインフ
ラを準備することも有効と思われる。これは実施体制をプロジェクト実施者が作り上
げる難しさが指摘されている AR-CDM の課題からの教訓であろう。
以上の地域の要望を踏まえ、パイロットプロジェクトの候補地である Copia 特定利
用林と Thuan Chau 保護林 Ban Lam 地区においては、森林減少のドライビングフ
ァクターを勘案して、以下の事業・活動の実施が有効と判断し、本年度の実現可能性
調査においては、b に注力して事業性の検討を行なった。
a.住民の薪や建築資材の調達を目的としたコミュニミティフォレストの管理強化
b.外部への販売を目的とした生産林の造成
c.天然(下種)更新等、低コスト手法による保全林の拡大
d.焼畑の代替としての定置型農業の確立
44
H23 新メカ FS
最終報告書
コラム 植林運動に積極的に参加しているタオ・ニン・ジアさん
ベトナムの日本向けラジオ放送VOVで次のようなニュースが紹介されました。植林の成功事例として
注目される。
北部山岳地帯ソンラ省コマ村に住む少数民族モン族のタオ・ニン・ジアさんは2005年から、農産物
の栽培に代わり、ソンラ省トゥァン・チャウ村による植林プロジェクトに関する合意書に基づき植林をす
ることにしました。これまで、6年経ち、ジアさんとコマ村の人々は900ヘクタールの森林を植林してき
ましたが、ジアさんだけが、50ヘクタールを植林しました。ジアさんは次のように語りました。
「トウモロコシや稲などの農産物を栽培することは当然ですよ。そうすることで、植林も維持される事
になるんですから。植林することは私たちの世代だけではありません。次の世代に続いてゆくことにな
ると思いますから。森林は貴重な財産ですよ」
植林とともに、ジアさんは家禽や家畜を飼育しています。ジアさんのやり方を真似た多くの家庭は、貧
困な状態から脱出しています。そのため、ジアさんはソンラ省の農民たちにとって手本となっていま
す。ソンラ省農業農村開発局の林業支局のグェン・フィ・トァン副局長は、次のように語りました。
「コマ村に住むタオ・ニン・ジアさんは、優秀な人です。彼は立ち遅れた耕作習慣を変更させ、植林に
新たな技術を導入しました。また、植林、植林の保護に参加するよう他の人々を励ましました。今後、
私達たちは、ジアさんのような優秀な人を表彰する運動を拡大します。」
~ベトナムの日本向けラジオ放送VOVサイトから 2011 年 12 月 14 日~
(4) リファレンスレベル、GHG 算出、MRV に関する事項
現地調査時に REDD+に関連する政府機関、国際機関、研究機関を訪問し、ベトナム国
内の検討状況に関する情報を得た。リファレンスレベル、GHG 算出、MRV 等の調査、検討
に供した。詳細は現地調査及び調査結果で述べる。
バウンダリーの設定に際し、リーケージ、リファレンスエリアの設定を行い、Landsat
衛星画像を用いて解析を行った。経年的土地利用変化を衛星画像から解析して把握す
るために、現在の土地利用変化をプロジェクトエリア周辺に調査を行い、衛星画像解
析のためのトレーニングデータとした。結果は調査結果の項目内に記述する。
(5) セーフガードや環境十全性に関する事項
現地調査時に関係する REDD+に関連する政府機関、国際機関、研究機関を訪問し、
ベトナム国内の関連情報を得た。また、ソンラ省の関連機関や地域住民代表等に聞き取りを
行い、地元の意向を収集した。結果は調査結果の項目内で記載する。
45
H23 新メカ FS
最終報告書
コラム ソンラ省での日本茶生産者 Ken Green Farm
Ken Green Farm はソンラ省でモクチャウ県において 90ha の土地で日本茶の生産を行っている。
日本式の高品質茶葉生産を行っており、主に日本、台湾、パキスタンに輸出している。とくに一番
茶は無農薬で生産が可能で、手摘みで収穫した最高級茶葉が日本に輸出されている。有名なパ
ティシエ辻口博啓氏が天空のお茶として販売を行なっている。
当初、日本の茶産業への影響を懸念され、日本国内業者からの反発があったとのことが、結果
的に第三国への輸出が中心となっており、海外進出による日本農業の拡大・振興の一事例ともな
っている。
ソンラ省では焼畑による粗放的な農業が主体で、生産性の低さが問題である。これをカバーする
ために無計画に拡大する焼畑栽培が横行し、森林減少、劣化の要因となっている。このため、現
在の荒廃地に森林を再生するためには、生産性の高い定地型農業への移行、推進が必要と考え
られる。定地型農業として、米などの作物に加え、果樹、野菜、茶、コーヒーなどが候補として挙げ
られるが、この日本式の茶園は、日本の農業技術による課題解決のモデルケースと言える取り組
みである。
ソンラ省では日本式イチゴ栽培に取り組む若い日本人生産者がいるとのことである。日本の農業
技術、農作物の加工技術、販売・マーケティングノウハウの導入がベトナム北西部の貧困を解消
し、環境保全を達成する原動力となる可能性を感じる。
日本の技術により高いレベルで管理された茶園
茶葉の加工設備はすべて日本製である
(6) ベトナムの電力事業について
① ベトナムにおけるバイオマス発電普及状況
本調査において、北西部でバイオマス発電事業を実施している企業の情報は得られ
なかった。ベトナム国内のバイオマス発電案件は、サトウキビ工場が自社廃材(バガ
ス等)を利用して行っている小規模(10MW 以下)の自家発電が主である。(社)海外電力
調査会の海外諸国の電気事情 第 1 編(2008)には、
「バイオマス発電は 42 ヶ所ある」と
の記述があるが、経済状況の悪化や事業認可が得られないために撤退した事例もある
様である。
ベトナムにおけるCDMの登録件数は2012年1月時点で94件あるが、水力発電の案件
が多い。登録されたプロジェクトの中には、バイオマス利用(直接燃焼)の案件が2件あ
り、いずれもベトナム南部における籾殻利用プロジェクトである。うち1件がバイオ
46
H23 新メカ FS
最終報告書
マス発電事業(Dong Thap省の10MW発電事業)であるが、本格稼動には至っていない様
である。
② 発電プロジェクトの燃料価格目安
ベトナムの工業用電力単価は¢5~6/kWh であり、他の ASEAN 諸国と比べて安い
水準にある。EVN の買取り単価は小売電力単価より安く設定される傾向にある。現
在の単価設定では、企業が発電事業に参入しようとすると、発電コストが EVN の買取
り単価より高くなり、ベトナム国内の売電を目的とした発電事業に対する投資はほとん
ど行なわれていない。本プロジェクトでバイオマス発電を行う場合の採算ラインを確
認するべく、本プロジェクトで見込まれる発電コストと EVN の電力単価を比較した
(試算結果は、4.11 資金計画参照)。その結果、バイオマス発電用の燃料単価を USD0(ゼ
ロ)/t にした場合、現在の EVN の小売電力単価 USD57/MWh(工業用平均)と同じ水準に
なる事が分かった。
北西部では植林木のアカシアがUSD35~45/m3(約USD58~75/t)で流通しており(ヒア
リング情報)、丸太をそのまま燃料として利用するバイオマス発電事業は論外であり、
木材のカスケード利用を前提とし、木材加工後の廃材や林地残材をできるだけ安価で
燃料として調達することが事業成立の条件となる。
(7) ベトナム北西部における木材加工業について
① 木材加工業の動向
ベトナム北西部の木材加工業の主な動向は、以下の通りである。






北西部 Phu Tho 省には生産量 10 万 t/yr の製紙工場 Bai Bang Pulp Company が
あり、生産量を 25 万 t/yr に増加させる投資計画がある。原料はアカシアである。
Tuyen Quang 省の An Hoa には、生産量 13 万 t/yr の製紙工場の建設が進んでい
る(2011 年中に稼動予定)。
Hoa Binh 省では、Vietnam Forest Corporation(VINAFO)が MDF 工場を建設中で
ある(2012 年稼動予定)。
Yen Bai 市を中心とする道路 37 号線、70 号線の 40km 圏内には単板工場・製材
工場が集まっており、製品は首都ハノイ方面に出荷されている。
ベトナム北部(Vinh Phuc 省、Tuyen Quang 省)にはかつて PB 工場があったが、
2000~2006 年にかけて倒産に至った。主な理由は、輸入家具との競合に負けて
しまったこと及び、MDF の方が品質的に好まれていることが挙げられる。
ソンラ省では、原材料の安定確保が難しく、木材加工工場の立地が限られている。
Son La 省には北西部唯一の PB 製造ラインを有している企業があるが、PB の製造
は現在行っていない。
ベトナム北部・山岳エリアの木材生産量は、ベトナム北中部・中部エリアの次に多く、Phu
Tho 省、Tuyen Quang 省、Yen Bai 省、Hoa Binh 省の木材生産量は、ベトナム国内で 10 位
以内に入っている(表 3-3 参照)。また省内には製紙、MDF、単板、製材工場があり、新規事
業案件や増産計画も多い。しかし、それらの省と比較すると、北西部に位置する Lai Chau 省、
Lao Cai 省、Dien Bien 省、ソンラ省は木材生産量が少なく、特に植林及び森林保全プロジェ
クトの対象地があるソンラ省は、木材生産量が減少傾向にある。ソンラ省は、ソンラ省より東
の省と比べると、原材料の安定確保が難しく、木材加工工場が立地しにくい環境にある(詳
細は「3.3(2)②ソンラ省における木材加工業を取り巻く環境」に述べる)。
47
H23 新メカ FS
表 3-4 ベトナム北部山岳エリアの木材生産量推移(千m3)
2007
2008
2009
行政区分
Phu Tho 省
Tuyen Quang 省
Yen Bai 省
Hoa Binh 省
Lang Son 省
Ha Giang 省
Bac Giang 省
Lao Cai 省
Bac Kan 省
Thai Nguyen 省
ソンラ省
Dien Bien 省
Cao Bang 省
Lai Chau 省
182
232
200
137
70
62
50
30
55
29
52
56
25
6
218
215
200
131
74
63
60
37
52
37
50
37
26
8
251
218
200
136
75
67
62
44
56
38
48
48
26
11
2010
274
226
200
140
75
73
63
54
54
51
44
35
32
9
最終報告書
ベトナム国内における順位
(59 省、5 直轄都市のうち)
1位
2位
4位
8位
21 位
24 位
26 位
27 位
28 位
31 位
34 位
37 位
40 位
51 位
(出典:General Statistics Office of Vietnam 2010)
② ソンラ省における木材加工業を取り巻く環境
ソンラ省に木材加工業が発展しにくい要因として、以下の 2 つがあげられる。
(a) 原料の安定確保が難しい
ソンラ省は山岳地帯、峡谷、盆地、高原地帯等の多様な地形が存在している。平地や高
原地帯は、すでに水田やコーヒー、お茶、キャッサバ、ゴムなどの農作物用途で利用されて
おり、急峻な斜面では、焼畑が行われトウモロコシが栽培されている。農作物収入は山岳民
族の貴重な収入源となっており、山岳民族には、林業のような長期的な視野に立った収入
や森林の公益的価値が認めてもらいにくいため、植林適地が確保しにくい環境となっている。
仮に植林地を確保できたとしても、焼畑によってトウモロコシ畑に変わってしまうケースもある
ようである。
平地や道路からアクセスのしやすい場所の土地利用(左はキャッサバ畑、右は水田)
48
H23 新メカ FS
最終報告書
焼畑の様子
急斜面でも焼畑が行われ、トウモロコシが
栽培されている。
(b) 省内の木材加工製品の需要が少ない
ソンラ省内での木材の用途は、燃料利用(薪)が大半を占める。その他には、建築材料(山
岳民族の住居用材等)、合板原料、製紙原料等の用途があるが、木材加工製品としての需
要は少なく、主に原材料として他省へ供給されている。ソンラ省の人口は毎年約 1.5%ずつ
増加しており、今後も増加が予測され 2020 年には約 1,246 千人となる見込みである(2010
年比+156 千人)。それに伴い木材・薪の消費量も増えることが予測される(表 3-4 参照)。
また、ソンラ省の中心から主要な需要地であるハノイまでは約 300km あり、よりハノイに近
く木材加工が盛んなエリアである Yen Bai 省、Phu Tho 省、Hoa Binh 省(200km 圏内)と比べ
ると、ソンラ省は需要地から遠いために工場立地選定の際の優先順位が低いとも考えられ
る。
表 3-5 ソンラ省内における木材消費予測(m3)
用途
2010 年
2015 年
2020 年
家具・建築用等
128,000 m3
150,000 m3
180,000 m3
薪
1,785,310 m3
2,064,470 m3
3,000,000 m3
合板用
180,000 m3
370,000 m3
510,000 m3
製紙用
20,000 m3
50,000 m3
100,000 m3
合計
2,113,310 m3
2,634,470 m3
3,790,000 m3
(出典:2020 年までのソンラ省森林保全・開発計画より)
③ 要因解決に向けたソンラ省の計画(ソンラ省森林保全・開発計画 2020 より)
ソンラ省は上の(a)、(b)の事情を鑑み、地域経済の発展を目指した森林の保全・開発を進
めており、最も重要となる原材料確保のため以下の通り、2020 年までに新規植林を行う計画
である。
 製紙用材 27,130ha
 合板用材 30,444ha
 その他産業用材 11,567ha
 薪の需要に応えるように家庭農園、公共の土地、役所、学校、工業団地、道路端、
運河等に、年間 2,000,000 本を植樹する。
49
H23 新メカ FS
最終報告書
ソンラ省は新規植林だけでなく、現存する森林の有効利用も進める計画であり、森林保
全・開発が順調に進めば、産業用林地面積は 480,000ha に達し、2020 年に予測される木材
消費量に十分対応できる見込みである。製紙用材、合板用材用の植林は、Phu Yen、Bac
Yen、Moc Chau や国道 6 号線に沿う地区を中心に行われることになっている。ソンラ省で
も Hoa Binh 省や Phu Tho 省に隣接したエリア(ソンラ省の Phu Yen、Moc Chau)は、広
くて平坦で植林適地があり、MDF 工場や製紙工場向けの植林事業が行われている。
ソンラ省における木材加工工場の建設について、雇用機会拡大を見込んだと思われる以
下の計画がある。
人工林が安定的に収穫できる段階に入ってから、合板、建築資材、製紙用パルプ
等の加工工場を建設する。
 ソンラ省 Mai Son、Moc Chau、Phu Yen、Thuan Chau 各地区で年間生産能力
20,000~30,000 トンの中小規模の合板工場を 4 施設、建設する。
注) ソンラ省の森林保全・開発計画には、合板工場に必要とされる原材料の量、合板
用材を搬出する際に発生する廃材、製造工程から発生する廃材の利用については言
及されていない。合板工場 1 施設あたりの従業員は 500~1,000 人と推定される。

また、製品の搬送コストを少しでも軽減するために Decision147/2007/QD-TTg では、北西
部から木材製品が搬出される際に製品 1t あたり VND1,000/km の補助金を、工場が稼動し
てから 5 年間受けられることが定められている(対象期間は 2007~2015 年)。
最も重要なことは原料の安定調達であり、木材加工工場の計画は原料調達計画に因ると
ころが大きい。本プロジェクトはソンラ省の計画とも合致しており、原料確保が確実となった
後、木材加工工場の実現可能性について検討することができる。
(a) 利用されている原材料
 ベトナム北西部の単板、製材、家具工場では、アカシア(植林木)がメインの原料
として使用されている。また、単板の原料となっていた Bo de (Styrax tonkinensis)
や Mo(Manglietia conifera)も植林木であった。天然木は家具や住宅の構造材に使用
されている。
 北部ではゴム植林地が拡大しており、将来的には南部と同様に 25-30 年経過した
ゴム材を家具等の原料として利用できる可能性がある。
 以下にソンラ省、Yen Bai 省、Phu Tho 省で加工されている樹種と用途を整理する。
樹種
Acacia
用途
単板(コア用)、パルプ
原料、家具用材、
MDF
伐期
7年
50
写真
H23 新メカ FS
Eucalyptus
パルプ原料
7年
Pinus
松脂、建築用材
20 年以上
Schima wallichi
建築用材
15 年
Manglietia
conifera
家具用材、単板、パ
ルプ原料
7年
51
最終報告書
H23 新メカ FS
Styrax
tonkinensis
パルプ原料、MDF、
単板(コア用)
最終報告書
7年
(b) 木材加工後の廃材の用途
廃材の主な消費形態は、「自社での燃料利用」か「住民の燃料」である。燃料以外には、
飼料やチップ原料としての用途があり、既に出口が決まっているものがほとんどであった。
住民が廃材を運ぶ様子
52
H23 新メカ FS
最終報告書
コラム 木材資源と木材産業
ソンラ省を含むベトナム北西部ではほとんど木材産業が育っていない。これは、安定的に利用でき
る原材料がないことが原因であろう。ソンラ省の隣 Yen Bai 省には、標高が高く、傾斜がきつい山間
地域に 1980 年代にマツの植林が行なわれた地域がある(下写真上段)。ここでは、小規模ながら製
材工場が稼動しており、持続的な森林管理が行われているとのことである。
アカシアやユウカリ等の植林が盛んな Yan bai 省や Hoa Binh 省の平野部では、木材の多くはパルプ
原料として利用されているもののが、単板工場や製材工場が多く存在し、一部は合板も製造してい
る。安定したマーケットが存在することで、持続的な森林経営が行なわれる。
現在、森林の被服率が低く、また生産林の面積が少ないソンラ省及びベトナム北西部においても、
まず森林を造成し木材資源を増やすことが、経済的及び環境的好循環をもたらすために必要なこと
である。
Yen Bai 省山間部のマツの植林地
伐採されたマツの丸太が搬入された製材工場(Yen
Bai 省)
Yen bai 省の合板工場の単板乾燥ライン。廃
材を燃やした熱で乾燥を行なっている。
同左工場にて手作業で合板を製造している様子。技
術レベルは低いものの木材産業の萌芽が見られる。
53
H23 新メカ FS
最終報告書
4 調査結果
4.1 事業・活動の実施による排出削減効果
(1) 森林管理分野
植林・森林保全の効果を見積もる暫定的な方法として、現在の土地利用や森林蓄積量、
過去の土地利用変化からリファレンスシナリオに基づき炭素蓄積量を推定し、対策プロジェ
クト下における炭素蓄積量変化との差から排出削減量(吸収量を含む)を推定する。この時、
リーケージや永続性等問題に対する配慮から割引率を乗じて削減ポテンシャル量を算定す
る。詳細は 4.2 以降で述べる。
(2) バイオマス利用分野
本プロジェクトにおける温室効果ガス削減事業は、植林木を利用した木材加工業からでる
廃材及び、林地残材を燃料としたバイオマス発電事業である。事業実施による効果として、
ソンラ省の森林保全・開発計画に則り、将来建設される合板工場の消費電力を、バイオマス
発電に代替する事による排出削減量を求める。



工場は、ソンラ省の森林保全・開発計画に記載されている合板工場の規模とし、生産量
60,000m3/yr(原料必要量 120,000m3/yr)、廃材・ハネ材が原料の 40%、林地残材は出材
される原料の 50%発生することを見込む。
木材加工工程で発生する廃材及び林地残材をバイオマス発電用の燃料とし、木材加
工工場、近隣住居や施設へ電気を供給する(発電容量 5MW)。発電に必要な燃料は、
約 5 万 t/yr と推測される(発電効率 20%、発熱量 3,726kcal/kg として計算)。
近隣住居や施設への電力供給は行うが、グリッドには接続しない。
本プロジェクトでは、既に国際的に数多く利用されている発電事業に係る方法論の内、本
プロジェクト条件に適用可能な AMS-I.A.(ver.14): Electricity generation by the user(利用者
による発電)をベースに排出削減量求める。ソンラ省の木材加工業は、隣接している Yen Bai
省、Phu Tho 省、Hoa Binh 省と比べると発展途上の段階にあり、本プロジェクトはソンラ省で
唯一のバイオマス発電を行う木材加工工場となる。
(3) 農業分野(農地における土地利用シナリオ)
上述の各種活動における排出削減効果を確たるものとするためには、既存の農地におけ
る土地利用シナリオを併せて検討する必要がある。その際、世帯または集落(自然村)単位
で、現状の食料供給量を保ちつつ、かつ現金収益の拡大(または、少なくとも現状での現金
収入の維持)が見込まれるものであることが必須となる。具体的な取組内容については、今
後地域住民の現状認識や意向を踏まえた上で検討する必要があるが、ここでは排出削減
効果を持続的なものとするために有効な土地利用の方針について、整理する。
まず、現地住民の自家消費用作物(コメ、キャッサバなど)の栽培地については、現状の
生産を維持することを基本とし、可能であれば水田におけるコメの生産性を高めることで陸
稲栽培面積を減らすことを検討する。また、商品作物栽培地(焼畑)のうち土壌浸食リスクが
低い土地については、施肥や防除技術、さらに適切な輪作体系を導入することで生産性の
向上および常畑化を図り、現状以上の焼畑拡大を防ぐことを目指す。さらに、商品作物栽培
地(焼畑)のうち土壌浸食リスクが高い土地については、植林やゴム、茶、果樹植栽等への
転換を図ることが有効と考えられる。
また、製材所や農産物加工所などを建設・誘致することによって、雇用を創出して農業以
54
H23 新メカ FS
最終報告書
外からの現金収入を増大させるとともに、植林或いは果樹栽培への転換のインセンティブを
高める方策も有効と考えられる。加えて、日系企業による事業展開も含めたお茶やコーヒー
等に係る投資も、同じく現地住民に対する持続的土地利用のインセンティブとなりうる。
4.2 リファレンスシナリオの設定
<リファレンスシナリオの設定>
(1) 森林管理分野
森林減少に関するリファレンスシナリオは、プロジェクトを実施しなかった場合の想定であ
り、対象地であるソンラ省の Thuan Chau 保護林管轄 Ban Lam 地区および Copia 特別利用
林において植生回復等の対策が実施されず、従来の森林減少および劣化が継続する状況
とする。
このとき、現地調査等を通じてプロジェクトサイトにおける現状の土地利用の状況を確認し、
今後起こりうる森林減少および劣化の分析等に活用し、ベースライン排出量の推定を行なっ
た。一例として、現地調査の結果やヒアリング結果に基づく、土地利用パターンのモデルを
次に示す(表 4-2-1)。
表 2
ベトナム北西部における土地利用パターンのモデル
住居及び自家消費用の野菜や果樹栽培
豚等の家畜の小規模飼育
川沿い、灌漑設備のある土地 水田
地域コミュニティで管理する森林
住居周辺丘陵地、山地
薪や建築用材の供給源となっている
焼畑農地、トウモロコシ、キャッサバ、水稲が主要作物。
1 世帯で 10ha 以上を耕作することも多く、違法耕作も
住居から比較的遠い丘陵地、
少なくない。森林減少、劣化の主な原因。
山地
放牧も森林劣化や新しい植林地の枯死の原因となって
いる。
天然林。ただし、ほとんど残っていない地区も多い。
遠隔地・アクセスしにくい場所 建築用材の違法伐採で森林劣化が進行している。
道路に近い場所では薪の違法採取が多い。
住居およびその周辺
近い
↑
住居
から
↓
遠い
さらに、コンセッションの発行状況 1 等の情報を把握できる場合には、これを活用し、土地
利用の実態や見通しに関する情報をできる限り収集してベースライン排出量の精緻化を試
みることができる。現地調査の結果によれば、ベトナム北西部では、銅・レアアース等の鉱物
資源が豊富であることが分かった。このため、今のところ、プロジェクトサイトやその周辺で具
体的な開発計画の情報は得られなかったが、今鉱山開発計画等を把握できる場合は、これ
をベースライン排出量に組み込むことで精緻化を検討する。
【ゴムプランテーションの植林政策】
森林とバイオマスに関連する政策としてゴム植林推進があることが明らかとなった。ベトナ
ムでは従来、南部メコンデルタを中心にゴムのプランテーションが盛んであったが、全土に
おける産業育成の一環として、2009 年 6 月の政府決定(Decision750)において 2020 年まで
1
SON LA 省人民委員会(2743/QD-UBND 号)「COPIA – THUAN CHAU 自然保護区の管理部に土地
譲渡及び土地使用権発行に関する決定」によれば、「COPIA-THUAN CHAU 自然保護区管理部に土地
(96,142,510 ㎡の森林地)を譲渡し、土地使用権を発行する」ことが決まった。
55
H23 新メカ FS
最終報告書
に到る植林面積の拡大と天然ゴムの輸出拡大方針が発表されている。内容は、2010 年現
在、全国で植林面積 650 千 ha/天然ゴム生産量 800 千トンの状態から、2020 年に面積 800
~850 千 ha/天然ゴム生産量 1,200 千トンに拡大するもの。地域的には南東部 390 千 ha、
中部 320 千 ha、北部 130 千 ha となっており、政府予算が 10 年間で 30 兆 VND(約 1,150
億円)のプロジェクトである。
北西部をはじめとする農村の低所得層、少数民族らは、教育レベルが十分でなく、自身
の生計や目先の利益のために焼畑など持続可能でない農業生産を行わざるを得ない状況
にある。VRG は、彼らに対する政府の社会経済政策とも連動させて事業を展開し、現地住
民に適切に関与することで、土地利用上、あるいは社会経済上の問題解決に資することを
目指している。具体的には、荒廃地にゴムなどの植林を推進することで土壌浸食や劣化を
抑えたり、ラテックス(あるいはその原料)や木材などより高付加価値産品を導入することで農
民らの現金収入向上、雇用促進をもたらしたり、加工や輸送向けのインフラ建設による経済
効果をもたらしたりすることを狙っている。 こうした VRG の取り組みのように、ゴム植林の正
の効果に着目して REDD+の対策メニューとし組み込むことも森林保全の達成にために必要
なアプローチと思われる。ゴム生産はより一層環境保全型、社会貢献型に行なわれ、ゴム生
産物に付加価値がつくことで市場におけるベトナム産ゴムの市場性や希少性が高まることが
期待される。
このように、ゴム植林推進政策はソンラ省を含むベトナム北西部で実施されており、中央
政府の要請により、2007 年からゴム植林を開始した。ソンラ省がその第一候補地に選ばれ、
省政府から 5 万ヘクタールの土地の提供を受けて、ゴム植林を行っている。現在、SonLa
Rubber 社(SLR 社)が行なったソンラ省内の植林地は 6,500 ヘクタールまで広がっている。
2015 年までにゴム植林地を 5 万ヘクタールにまで拡大することを目指しているが、当面の目
標は 2 万ヘクタールである。
GIS でしっかり管理しており、50,000ha をどこに植えるかという計画地図もすでにあり、Da
川流域と Ma 川流域に集中している。ソンラ省全体を調査して候補地を抽出しており、傾斜
が 30 度以下、標高が 600m 未満を基準としている。また、村落に比較的近く道路インフラが
整っている地域が優先的に選ばれているおり、SLR 社へのヒアリングでは、植林対象地は焼
畑耕作地か荒廃地とのことであった。ソンラにはゴム植林にとって条件の悪いところしか天然
林が残っていないので、天然林からの大規模な転換はあまりないとのことで、観察された現
地の状況からも納得ができる説明と思われる。ただし、JICA からの情報ではディエンビエン
省ではカテゴリーIIa Midium Forest からの転換が多いとのことである。また、一般的な印象と
して、ゴム植林は天然林からの転換によるものが多く、森林破壊のドライバーであるとの認識
がある。
本 FS で対象としている Copia 特定利用林と Thuan Chau 保護林周辺でのゴム植林計画は
なく、影響はほとんどない。
(2) バイオマス利用分野
AMS-I.A.パラグラフ 8 には、リファレンスシナリオ(ベースライン)は、「プロジェクトが実施さ
れない場合に、同等のエネルギーを得るために使用される発電設備による燃料消費からの
排出量」と定義されている。
北部では Hoa Binh ダム(1,920MW)が既に稼動しており、Son La ダム(2,400MW)も 11 月
時点で全 6 タービンあるうちの 3 タービンまで稼動している。さらに Son La ダム上流(同 Da
川水系)の Lai Chau にも 1,200MW の水力発電計画があり、大型水力発電の電源開発が進
められている。ソンラ省では現在すべての行政区分に国家電気網があり、電力供給を受け
56
H23 新メカ FS
最終報告書
やすい環境が整っているので、グリッドからの電力購入が初期投資の一番小さな電力利用
手段として考えられる。石炭を燃料とする火力発電所の新設は、木質バイオマス利用の場
合より初期投資額は抑えられるが、ベトナム国内の石炭価格は国際動向に連動し上昇傾向
にあり、ソンラ省迄の石炭搬送コストも考えると実現性が低い。そのため、本プロジェクトの実
施がなければ、グリッドからの電力購入が BaU シナリオとなる。また、リファレンスシナリオの
対象となる電力量は、木材加工工程及び近隣住居や施設へ供給される電力量とする(発電
設備自体が消費する電力は含まない)。
コラム 地域住民と共生を基本とするゴム植林事業
ソンラ省のゴム植林の特筆すべき特徴は次の3点である。①地域住民と利益をシェアする仕組
みにしていること、②ユニットごとに学校、トレードショップ、集会場等を建設し、医療サービスなども
行っていること、③政府と強い協力関係にあること
3-500ha、1-2 村をひとつにユニットとし、200-250 人を雇用し、学校、商店、集会場、文化施設の4
点セットを建設・運営する。一定の面積が集まらない場所は実施せず、また、村民の 100%の合意
が得られなければ実施しないとしている。地域住民は土地を提供し、従業員として雇われるだけで
なく、株主のような形で経営に参加している。ゴム事業で利益があれば所定の利益を受ける仕組
みとなっており、現在の地域住民のシェアは約 6%である。ゴム事業が始まる前は焼畑等により生
計を立てていたが、収入が安定したことと、年間を通じて仕事があるため生活が改まったこと(これ
まで農閑期は酒びたりになっていた)など住民の生活に変化が見られると言う。
地域住民参加型の事業としているため、ゴム園には侵入者を防ぐための柵がなく、住民との関係
が良好な証拠という。地域との共生は Vietnam Rubber Group の企業ポリシーと強調していた。この
モデルはベトナム北西部特有のもので、ゴム生産がすでに盛んな南部では必要ないとのこと。少
数民族が多い北西部に適したスキームと思われ、ゴム事業に従事する地域社会が同時に森林保
全に取り組んだならば REDD+プロジェクトの有効な実施母体となろう。ただし、天然林からの転換
が無計画に拡大しないよう厳格な監視が必要である。
3 年生の SLR 社のゴム植林
地域住民のために建設した集会場
57
H23 新メカ FS
最終報告書
4.3 バウンダリーの設定
(1) 森林管理分野
~プロジェクト、リーケージ、リファレンスエリアの設定~
バウンダリーをプロジェクト、リーケージ、リファレンスエリアと3つに分けて、
それぞれの対象地での経年的森林減少・劣化面積の動向を過去の衛星画像を用いて解
析し、把握した。プロジェクトエリアは、ベトナムの北西部に位置するソンラ省 Copia
特定利用林、Ban Lam 保護林の総面積 16,060ha とする(図 4-3-1 を参照)。当該サ
イトは、調査実施のカンターパートであるベトナム林業大学から推薦を受けた地域に
含まれており、調査実施の際に、現地の状況を把握しやすく、データ収集等の協力を
得やすい等のメリットがある。
リーケージ、リファレンスエリアの設定には、VCS の方法論(Approved VCS
ModuleVMD0007, Version 1.0)を採用し、活動の移転等でリーケージが生じる地域
をプロジェクトエリアの 90%以上とした。 本プロジェクトでは、対象地域の総面積
16,060ha の 90%の面積である 14,454ha をリーケージエリアの最小面積として、プロ
ジェクトエリア周辺部を対象とした(図 4-3-2 を参照)。本プロジェクトのリーケー
ジエリアは、その最小面積(14,454ha)を満たす大きさで、プロジェクトエリア境
界から 1,400m のバッファーを設定し、リーケージエリア総面積は、15,234ha である。
図 4-3-2.リーケージエリア(白枠内)
図 4-3-1. プロジェクトエリア(赤枠内が
Copia 特定利用林、黄枠内が Ban Lam 保護林)
リファレンスエリアの最小面積(MREF)は次式により算出される。
MREF=RAF*PA
(式 1)
RAF=7500*PA^(-0.7)
(式 2)
MREF:リファレンスエリアの最小面積(ha)
RAF:リファレンスエリア係数 8.53(式 2 より算出)
PA:プロジェクトエリア(ha)
PA が 16,060ha であるため、最小面積が 137,020ha となるリファレンスエリアの設定
を行う必要がある。リファレンスエリアは、行政界であるコミューンのバウンダリー
に沿う形でエリアの設定を行った(図 4-3-3 参照)。その総面積は、204,856ha である。
リファレンスエリアおよびリーケージエリアともに、プロジェクトエリアと特徴が
類似している地域(森林区分、土壌タイプ、傾斜、標高等)で設定を行った。
58
H23 新メカ FS
最終報告書
図 4-3-3.リファレンスエリア(青枠内)
【写真】プロジェクトバウンダリー内の状況と現地調査
Copia 特定利用林
Copia 特定利用林内の典型的な状態(森林がほ
とんどないエリア)
同左:焼畑が繰り返された場所
中程度の森林を調査している様子
Rech Forest の様子
59
H23 新メカ FS
最終報告書
ソンチャ(モン族のヒメリンゴ)の樹 現金収
入にもなり、植栽樹種として有望
ソンチャの果実 焼酎につけて果実酒を作った
り、ワインやドライフルーツに加工される。
モン族集落の周辺の森林。一部は植林
マツ(Pinus massoniana)の植林地 661 プロ
グラムで植えられたもの、3 年生。
山火事防止として伐採された防火帯。斜面の裏
側の深い天然林を保全する目的
約 8 年生のスキマ。焼入れ後天然更新してきた
もの。建築用材として利用可能。
Rich Forest(カテゴリーIIIa)で見られた違法
伐採の様子。足場を組んで伐採されていた。建
築用途の伐採と思われる
薪を採取して運んでいるバイク。都市部の住民
による薪採取も多いとのこと。
60
H23 新メカ FS
最終報告書
画像解析用の森林調査の様子
解析した画像と森林の状態を照合する
現地調査のメンバー
Copia 特定利用林管理事務所での打合せの様
子。左から2番目が所長。
Thuan Chau 保護林管理事務所管轄 Ban Lam 保護林
典型的な土地利用の状況 焼畑の後が見られる
同左 保護林という土地区分ながらほぼ全域が
焼畑耕作地である。
一部残されている森林の近隣で焼畑耕作が行な
われ、森林減少の危機に直面している。
違法伐採により搬出された角材
比重の高い堅木であった。住宅建築に使うとの
こと
61
H23 新メカ FS
最終報告書
山岳地帯にある少数民族モン族の住居
モン族の牛舎 牛を飼育している。
モン族の女性 華やかな服とぼんぼりの付いた
髪が特徴である。
KWf7プログラムで植林を行なったエリア
保護員事務所管轄エリア内ながら地域住民の所
有で、樹木の所有権も住民にあるとのこと
植えられたばかりのマツ(Pinus massoniana)
の苗
苗畑で余っていたマツ(Pinus massoniana)の
苗木
植えられたばかりのソンチャの苗
果実が取れるようになれば住民の収入となる。
苗畑の様子 翌シーズン向けの苗生産が始まっ
ていた。育苗技術、植林技術は十分にあると思
われる。
62
H23 新メカ FS
最終報告書
フィールド現地調査の調査チーム。保護林事務
Thuan Chau 保護林管理事務所での打合せの様
所の全面的な協力が得られた。道路が悪いため、
子。一番右が所長。
バイクで移動した。
比較的森林がよく維持されている地域の遠景。
茶色の部分にはコーヒーが植えられているが、
山の上部の森林は維持されている。
標高 500-1000m あたりで植栽が進むコーヒー
高収益が期待されており、定置型農業への誘導
には有効と思われる。
(2) バイオマス利用分野
AMS-I.A.パラグラフ 7 より、「再生可能エネルギーによる発電設備と、発電された電気を使
用する施設の物理的・地理的なサイト」がバウンダリーの条件であり、本プロジェクトもそれに
従う。
63
H23 新メカ FS
最終報告書
4.4 モニタリング手法・計画
プロジェクト実施時の実現可能性を確保する観点から、森林減少、劣化の状況把握のた
めのモニタリングは、できる限り、現地政府、住民、事業者等のステークホルダーで実施可
能な方策とすることを前提に検討を進めるものとする。
現 段 階 で は 、 VCS 方法 論 ( VMD0015: Methods for monitoring of greenhouse gas
emissions and removals)および CDM 方法論(AMS-I.A.: Electricity generation by the user)
等を参考にしつつ、検討を進めることを基本方針とする。
(1) 森林管理分野
土地利用および土地被覆の変化に関するデータを分析し、森林蓄積量の変化量を推計
する方針とする。
森林管理分野モニタリング項目(案)
•
衛星画像データ解析
•
プロジェクトサイト/リーケージベルトにおける森林被覆図
•
森林劣化にかかる参加型地域評価(PRA: Participatory rural appraisal)の結果
•
森林劣化にかかるサンプリング調査の結果
•
焼失面積
•
プロジェクトサイト/リーケージベルトにおける森林減少面積
•
森林面積、森林減少のサンプリング調査の総面積
•
社会経済分野の統計情報 等
さらに、対策メニューの効果を把握するため、衛星画像データの解析や現地調査も実施
することが望まれる。データ収集や現地政府・ステークホルダーへのヒアリングを通して、対
策メニューの効用性について継続的に調査していく必要がある。
一方で対策メニューを実施した場合のプロジェクト外地域への影響も考慮しなければなら
ない。そのためには、プロジェクト対象地以外で発生したプロジェクト由来の排出量(リーケ
ージ)をモニタリングする必要がある。このモニタリング手法については VCS 方法論を参照し
ながら、実現可能性の高い手法を検討する。
モニタリング手法の検討については項目の必要性とともに実現可能性や費用対効果を十
分に検討しておく必要がある。例えば、焼失面積や森林減少面積などは衛星画像データ解
析からも把握できる可能性があるため、現地のステークホルダーが実施しなくても良い場合
も考えられる。モニタリングに労力と時間を費やしてプロジェクト自体の継続性が低下しない
ように、さまざまな視点・技術を導入して的確かつ簡素なモニタリング手法を採用すべきであ
る。また、ベトナム政府や UN-REDD、国際交渉における REDD+の制度設計の動向も踏ま
えながら、柔軟的にモニタリング手法を選択できる体制を整えておくことも重要である。
本実現可能性調査のモニタリング手法開発に資する知見を得るために、Landsat 衛
星を用いて解析を行った。本プロジェクトで用いたセンサーのデータ取得時期、セン
サーの特徴を記す(表 4-4-1~3 参照)。1999 年だけは、Landsat7 号 ETM+の画像を用
いた。本プロジェクトで Landsat を用いた大きな理由として、Landsat 画像は USGS(US.
Geological Survey)から過去のデータも含めて無料で公開されており、継続的モニ
タリングを行う上で、データ取得が容易である。現地(途上国)のカウンターパート
も入手可能であるため、Landsat を用いて今後も継続的に解析できる手法の確立を本
プロジェクトは目指した。
64
H23 新メカ FS
最終報告書
表 4-4-1 Landsat 衛星データのデータ取得時期
Year
Month
Day
Sensor
1993
2
1 Landsat5
1999
12
27 Landsat7
2006
12
22 Landsat5
2009
2
13 Landsat5
バンド
Band 1
Band 2
Band 3
Band 4
Band 5
Band 6
Band 7
表 4-4-2 Landsat 衛星 5 号の特徴
波長
波長域(μm)
Blue
0.452-0.518
Green
0.528-0.609
Red
0.626-0.693
Near infrared (NIR)
0.776-0.904
Middle infrared (MIR) 1.567-1.784
Thermal infrared (TIR) 10.45-12.42
Middle infrared (SWIR) 2.097-2.349
バンド
Band 1
Band 2
Band 3
Band 4
Band 5
Band 6
Band 7
Band 8
表 4-4-3 Landsat 衛星 7 号 ETM+の特徴
波長
波長域(μm) 解像度(m)
Blue
0.452-0.514
30
Green
0.519-0.601
30
Red
0.631-0.692
30
Near infrared (NIR)
0.772-0.898
30
Middle infrared (MIR) 1.547-1.748
30
Thermal infrared (TIR) 10.31-12.36
60
Middle infrared (SWIR) 2.065-2.346
30
Panchromatic
0.515-0.896
15
解像度(m)
30
30
30
30
30
120
30
本プロジェクトでの解析では、解像度 30m のバンドのみを用いたため、Landsat5
号、7 号ともに Band1~5,7 のみを解析に用いた。
経年的土地利用変化を衛星画像から解析して把握するために、まずその前段階の土
地利用自体を把握しなければならない。現在の土地利用変化をプロジェクトエリア周
辺に 2 回現地調査を行い、衛星画像解析のためのトレーニングデータとした。
現地調査で確認した土地利用データは、その土地利用を画像データ上で確認し、ト
レーニングデータとして用いるとともに、現地の森林局で得られた紙ベースの林班図
画像をデジタルデータとして作成し、その場所と森林区分のカテゴリーを衛星画像と
照らし合わせて確認することで、現地調査では行けない場所(アクセスの悪い場所)
での土地利用状況を把握した。森林局で得られた林班図をプロジェクトエリア別に図
4-4-1 及び 2 に示す。
衛星画像解析は、画像上で土地利用を定義してトレーニングデータとして設定した
後、そのトレーニングデータを基に ENVI(ITT Inc.)ソフトを用いて最尤法による
教師付分類を行った。その結果の妥当性は、検証用トレーニングデータを別に設け、
最尤法による解析結果で推定された場所と比較することで、解析結果の確かさを確認
した。
教師付分類で解析する際、各バンドの輝度値もしくは DN 値(unsigned 8bit デジ
タル値)をそのまま用いるのでなく、各バンドの割合(Band1/Band2, Band2/Band3,
…, Band5/Band7)を用いることで、より精度の高い解析結果を得ることができた。
65
H23 新メカ FS
最終報告書
図 4-4-1. Copia 特定利用林での林班図
図 4-4-2. Ban Lam 保護林での林班図
図 4-4-1 及び 25 中の文字は、それぞれの森林区分を示す。この森林区分は、
Vietnam
National Inventory に定められた森林区分に準じている(表 4-44 参照)。
66
H23 新メカ FS
最終報告書
表 4-4-4. Vietnam National Inventory で定義された森林区分カテゴリー
Standing
Land condition
Additional definition
volume
Category
m3/ha
I
a
grass (Ia)
0
Land for planting
activity
I
b
shrub (Ib)
0
regenerated vegetation
I
c
0
>0.5m(Height),500pcs/ha
(Ic-IIa)
II
a
Very poor forest
<10
<8cm(DBH)
(IIa-IIb)
II
b
III
a1
III
a2
III
a3
III
b
Poor forest
(IIIa1)
Midium Forest
(IIIa2)
Midium Forest
(IIIa3)
Rich forest
(IIIb, …)
10-100
101-200
201-300
>300
本プロジェクトで分類カテゴリーは、表 4-4-4 で定義されている。本プロジェクト
では Classification Category に記載のある土地利用区分で森林区分をまとめて、衛星
画像から土地利用分類を行った。
(2) 現地調査の方法
モニタリング手法確立のために平成 23 年 11 月 9 日~14 日、12 月 9 日~19 日の 2
回、Son La 省プロジェクトエリア周辺で現地調査を行った。現地調査の主な目的は、
土地利用現状の把握である。11 月の調査では、調査地概要を把握するために、道路
から見える場所を中心に、土地利用状況を衛星画像上と照らし合わせ、衛星画像の画
素値と現地の土地利用状況との比較を行った。現地調査で主に用いた画像は、Rapid
Eye という解像度 5m の衛星画像である。現地調査に用いる衛星画像は、高解像度の
ものを用いる方が良く、これまで使用可能な Landsat, SPOT 等の衛星画像では詳細
な土地利用状況を衛星画像上で確認できなかった。また、本プロジェクトの対象地は、
都市部から離れているため、Google Earth (Google Inc.) 画像でも解像度の高いデー
タを得ることができなった。高解像の衛星画像として IKONOS や Quick Bird などが
知られているが、高額であるため入手が難しい、その一方で Rapid Eye 衛星は、解像
度 5m ではあるが、他のセンサーに比べ格段に安い。Rapid Eye 衛星画像の質を示す
ために、Landsat との画像を比較したものを図 8 に示す。図 4-4-3 で地図がない場所
での現地状況把握に向いていることがわかる。しかし Rapid Eye は 2008 年に打ち上
げられたため、過去のアーカイブが十分になく、過去に戻って REDD+のための経年
的変化を把握することができない。しかし、画像データや地図の入手が困難な地域で
も画像から詳細な道路地図等を読み取ることができたため、Rapid Eye 衛星画像を用
いることが有効であった。
67
H23 新メカ FS
最終報告書
図 4-4-3 Rapid Eye(左図)と Landsat(右図)との画像比較。画面中央の道路の線が左図でははっ
きりとわかる。
図 4-4-3 より、Rapid Eye 衛星画像の方が道路がより鮮明に見えることがわかる。2011
年 12 月に実施した現地調査では、道路沿いの土地利用だけでなく、内陸部の林地へ
も行き、森林状況を確認することができた。プロジェクト対象地である Copia 特定利
用林では VFU に依頼し、森林カテゴリー別に(表 4 を参照)調査プロットを設置し、
毎木調査をしてもらった。そのため毎木調査を行ったプロットに行き、各プロットで
の森林状況を確認することができた。
本プロジェクトでは、Rapid Eye を用いることで、現地調査の際の森林の現況を詳
細に衛星画像上で確認できたことから、Rapid Eye による比較的安価で高解像度衛星
画像の利用が有効であることがわかった。高解像度衛星画像を用いることで、同じ森
林状況を事前に画像上で確認でき、限られた時間で広域を効率良く調査することがで
きた。
(3) 本プロジェクトにおけるモニタリング解析の必要性
既存のデータとして、これまですでに解析された既存のデータとして、国レベルで
土地利用変化を把握するために JICA が解析した結果が VFU に報告されており、
VFU の協力の下、その報告結果をプロジェクトエリアで抽出して、経年変化をまと
めたものを図 6, 7 に示す。
図 4-4-4 よりプロジェクト対象地である Copia 特定利用林での森林域 (Rich+
Medium+Poor)は、2005 年をピークに減少するという傾向が見られ、図 4-4-5 より
Ban Lam 保護林での森林域は、2000 年から徐々に減少するという傾向が見られた。
この結果は、国レベルでトレーニングエリアを設定して土地利用分類を行ったもので
あり、地域に特化した解析結果ではない。よって本プロジェクトでは、JICA の解析
でも用いられた Landsat 画像を用いて、本プロジェクトが対象とするエリアに特化
した、より詳細なトレーニングエリア設定と解析結果を用いることで、現実的な森林
減少・劣化状況をモニタリングすることを目的としている。
68
H23 新メカ FS
図 4-4-4 既存のデータを用いたプロジェクト対
象地(Copia 特定利用林)での
経年的土地利用変化(VFU より提供データ)
最終報告書
図 4-4-4 既存のデータを用いたプロジェクト
対象地(Copia 特定利用林)での
経年的土地利用変化(VFU より提供データ)
(4) バイオマス利用分野
CO 2 排出削減量をモニタリングするための手法や計画は、生産活動全体としての管理体
制に組み込み、事業と一体化したモニタリング管理体制を構築することを提案する。木材加
工工場・バイオマス発電では品質管理体制を構築するためにISO9001認証を取得し、その
際、モニタリングに係る管理体制を明記した手順書を作成し、ISO9001の内・外部による監
査システムの中で、活動状況が管理される体制を構築する。その結果、モニタリング活動が
事業活動と一体した形で行われ、信頼性の維持も期待できる。モニタリングすべきデータに
ついては、定期的に記録するルールを作成し、報告体制を構築する。計測機器の校正につ
いては、必要に応じて外部機関へ委託することとする。また、プロジェクトで使用する量のバ
イオマスが競合無く利用できることをCDMのルールに則り、7年毎(CDMプロジェクトのクレジ
ット更新期間に相当)確認することとする(AttachmentC to Appendix B,EB47 General
guidance on leakage in biomass project activities (version03))。
モニタリング項目及び、手法は以下表 4-4-5 を想定する。
表 4-4-5 モニタリング項目・手法
変数
値
単 位
EG-actual,y
35,040
MWh/yr
EF-grid
PEC-coal,y
0.5764
0
t-CO 2 /MWh
t/yr
PEC-biomass,y
50,548
t/yr
EG-from grid,y
0
MWh/yr
説 明
モニタリング手法
リファレンスシナリオ発電量
の実測値
グリッド排出係数
石炭の消費量
ワットメーターによるモニタリング
及び、購入伝票の確認
公的機関公表値
消費量を記録。また、前月末在
庫、当月受入量、当月末在庫量
から実使用量を計算し、ダブル
チェックを行う。
消費量を記録。また、前月末在
庫、当月受入量、当月末在庫量
から実使用量を計算し、ダブル
チェックを行う。
ワットメーターによるモニタリング
及び、購入伝票の確認
木質廃材の消費量
グリッドからの電力供給量
69
H23 新メカ FS
最終報告書
4.5 温室効果ガス排出量及び削減量
(1) 森林管理分野
本プロジェクトでの GHG 排出量および排出削減量は一般的な手法を採用するが、さらに
衛星画像解析による森林階層ごとの森林面積の変化量やトレンドについても検討する。
GHG 排出量および排出削減量の基本的な分析フローは以下のとおりである。
本プロジェクトでの GHG 排出量および排出削減量の基本的な分析フローを次に示す。
①
②
③
④
⑤
⑥
⑦
⑧
プロジェクトエリアおよびリファレンスエリアの特定
プロジェクトサイトのプロファイル分析
リファレンスシナリオ(および事業・活動実施シナリオ)の策定
森林変動マトリクスによる評価の検討
事業・活動実施シナリオ
モニタリング方法論の確立(含:現地調査)、リーケージ排出量
排出削減量の特定
非永続性に対する留意事項
以下に、各プロセスの検討すべき主要な論点を記載する。
① プロジェクトエリアおよびリファレンスエリアの特定
ベースライン排出量を算定するためには、将来、プロジェクトエリアの森林がどの程度の
割合で減少していくのかを把握する必要がある。このため、すでに設定したプロジェクトサイ
トとリファレンスエリア(プロジェクトエリアよりも広い概念)から、過去の森林減少率の分析、把
握を試みる。なお、VCS 方法論(VMD0007: Estimation of baseline carbon stock changes and
greenhouse gas emissions from unplanned deforestation)によれば、リファレンスエリアを設定
する際には、次の点において、プロジェクトエリアと類似していることが必要とされている。
ベースライン排出量を算定するためには、将来、プロジェクトエリアの森林がどの程度の
割合で減少していくのかを把握する必要がある。このため、プロジェクトサイトを設定の上、リ
ファレンスエリア(プロジェクトエリアよりも広い概念)を設定し、過去の森林減少率の分析、把
握を試みる。なお、VCS 方法論(VMD0007: Estimation of baseline carbon stock changes and
greenhouse gas emissions from unplanned deforestation)によれば、リファレンスエリアを設定
する際には、次の点において、プロジェクトエリアと類似していることが必要とされている。
•
森林減少の主要因
•
景観的要因(森林区分、土壌区分、傾斜角度、高度 等)
•
輸送インフラ(道路密度m/km2)および人的インフラ(集落密度settlements/km2)
•
社会的要因
•
政策および規制 等
さらに本プロジェクトにおいては衛星画像解析による森林階層ごとの森林面性の変化量や
トレンドについても検討すし、リファレンスエリアおよびプロジェクトサイトにおける森林減少お
よび劣化の定量分析を試みた。分析結果については、次の③の項目で記載した。
② プロジェクトサイトのプロファイル分析
リファレンスシナリオと事業・活動実施シナリオを策定するため、次に示したとおり、プロジ
ェクトサイトに関連する情報の収集・分析を実施した。
•
土地利用区分と現在の利用状況の把握(含:コンセッションの保有状況)
•
森林植生、土壌区分等の特徴の把握
70
H23 新メカ FS
•
•
•
•
•
最終報告書
社会・経済的状況の把握(人口、農業・林業生産量、その他の経済活動等)
森林減少の発生状況とその要因分析
プロジェクト実施体制構築可能性(地元政府、住民の理解・協力の獲得可能性)
サンプリング調査等の結果による森林階層ごとの単位面積当たりの炭素蓄積量 等
植林事業を実施するに当たり必要な、樹種毎の技術レベル、収穫予想、植林コスト、
丸太の価格等
③ リファレンスシナリオの策定
上記までの検討結果をもとにリファレンスシナリオおよび事業・活動実施シナリオを策定す
るとともに、ベースライン排出量を算定するための方法論を検討した。ここで、検討が必要と
なる主な項目は次のとおり。
•
森林減少率の算定(リファレンスエリア)
•
プロジェクトサイトにおける森林減少対策の洗い出し
 森林保全活動の実施(防火対策、農民植林 等)
 高収益農業等の普及
 法規制遵守のための支援策の導入(ゾーニングによる土地利用規制 等)
以下では、リファレンスエリアにおける過去の森林面積の変化についての調査結果をもと
に、リファレンスエリアでの森林減少率について算定した結果を示す。リファレンスエリアの森
林減少率は、プロジェクトサイトにおける将来の森林減少率を予測する際に活用され、ベー
スライン排出量を計算する際の重要な参考情報となる。
1993 年、1999 年、2006 年、2009 年におけるリファレンスエリアの土地利用区分ごとの面積
データを下表および下図に示す。リファレンスエリアでは、この期間における森林面積のシェ
アが約 5~9%の範囲となっており、広域にわたって、裸地、草地等が広がっている。
表 4-5-1 リファレンスエリアにおける土地利用区分ごとの面積
区分
森林(高密度:rich)
森林(中密度:medi)
森林(低密度:poor)
植生回復(reha)
草地(Gras)
裸地(bare land)
水域(water)
その他(other)
合計(sum)
森林合計(rich+medi+poor)
森林面積のシェア
1993
3,490
6,690
8,704
3,630
40,475
44,808
178
96,902
204,877
18,883
1999
2,728
5,536
4,357
10,229
62,490
51,762
173
67,602
204,877
12,620
2006
2,101
3,456
5,716
25,784
46,121
28,160
186
93,352
204,877
11,274
2009
2,086
2,830
4,546
27,259
23,806
69,196
227
74,928
204,877
9,462
9.22%
6.16%
5.50%
4.62%
71
H23 新メカ FS
最終報告書
Reference area (all land use) [ha]
250,000
200,000
other
water
150,000
bareland
gras
100,000
reha
poor
50,000
medi
rich
0
1993
図 4-5-1
1999
2006
2009
リファレンスエリアにおける土地利用区分ごとの面積(全土地利用区分)
また、リファレンスエリアにおける森林面積に着目すると、1993 年~2009 年にかけて、継
続的な減少傾向が見られる。森林面積は、1993 年をピークとし、2009 年にかけて減少を続
けている。
森林面積の密度区分(高密度(rich)/中密度(medium)/低密度(poor))に分けて詳細
を見ると、高密度および中密度の森林は、1993 年以降、継続して減少している。一方、低密
度の森林は、2006 年に増加し、その後、再び減少している。これらの要因としては、1993 年
以降、違法伐採等の影響を受けて、森林劣化が進行したことが影響していると考えられる。
結論として、リファレンスエリアでは、1993 年以降、森林減少、森林劣化ともに、速度は緩
和されているものの、継続して進行していることが分かった。
20,000
Reference area (forest only) [ha]
18,883
18,000
16,000
14,000
12,620
11,274
12,000
9,462
10,000
8,000
poor
medi
6,000
rich
4,000
2,000
0
1993
図 4-5-2
1999
2006
2009
リファレンスエリアにおける土地利用区分ごとの面積(森林のみ)
次に、リファレンスエリアにおける森林減少率を算定するため、森林面積の減少率につい
て分析を行った。先に示した「表 4-5-1. リファレンスエリアにおける土地利用区分ごとの面
積」の森林面積のデータに基づき、過去の森林減少率について調査した。
下図に示したとおり、リファレンスエリアの森林減少率を算定するために、次の2種類の分
析を行った。
(a) 1990 年基準:1993 年、1999 年、2006 年、2009 年の 4 ヵ年に基づく森林減少率
(b) 2000 年基準:1999 年、2006 年、2009 年の直近 3 ヵ年に基づく森林減少率
なお、下図に示したとおり、いずれも回帰式を設定しており、(a)については指数関数を、
72
H23 新メカ FS
最終報告書
(b)については一次関数を適用し、それぞれ 1990 年基準および 2000 年基準として森林減少
率を計算した。
25000
1990年基準(全4時点平均)
2000年基準(直近3時点平均)
y = 20861e-0.039x
20000
15000
y = -293.94x + 15724
10000
5000
0
1990
1991
1992
1993
1994
1995
1996
1997
1998
1999
2000
2001
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
2009
2010
※図中の近似式はx軸を項目軸(1990=1、・・・、2010=21)として表現している。仮にプロジェクト開始年を2010年(=21)とした場合、20年後は2030年(=41)となる。
図 4-5-3
リファレンスエリアにおける森林減少率の算定
以上の分析の結果、基準年の取り方、近似式の設定方法により、リファレンスエリアにお
ける過去の森林減少率は、下表の通り、異なる選択肢が存在することが分かった。4 ヵ年を
基準(1990 年基準)とした場合は、直近 3 ヵ年を基準(2000 年基準)とした場合よりも森林減
少率が大きくなることが分かった。算出の方法や国レベル、準国レベルのリファレンスレベルとの整
合性等、引き続き検討が必要である。
表 4-5-2. リファレンスエリアにおける森林減少率の分析結果
区分
(a)1990 年基準
(4 カ年基準)
(b)2000 年基準
(直近 3 カ年基準)
内容
1993 年、1999 年、2006 年、2009 年の4ヵ年データに基づき、
森林減少率を算出。指数関数を適用。R2=0.9298
<近似式> Y=20861e-0.039X
※ただし、1990 年のとき X=1、2010 年のとき X=21 とする。
1999 年、2006 年、2009 年の直近3時点のデータに基づき森
林減少率を算出。一次関数を適用。R2=0.9059
<近似式> Y=-293.94×X-15724
※ただし、1990 年のとき X=1、2010 年のとき X=21 とする。
森林減少率
-3.82%/年
-2.61%/年
④ 森林変動マトリクスによる評価の検討
衛星画像解析結果が得られた後、解析結果で得られた土地利用カテゴリーの各面積
に、土地利用カテゴリー毎に決められた平均材積量をかけあわせることで、バイオマ
ス量を算出するという手法がすでに確立している
(http://www.jofca.or.jp/seminar/20111007-seminar/20111007seminar02.pdf)。
また、経年的土地利用の森林域の変動から森林減少、劣化、質的または面的回復を
解析する手法も提案されている。本プロジェクトでは、上記に提案されている手法を
用い、経年的土地利用変化より森林減少、回復状況を評価した。
Landsat による 1993 年から 2009 年までの土地利用変化を各エリア別に図 4-5-4
~9 に示す。また、解析結果画像を図 4-5-9~11 に示す。
73
H23 新メカ FS
最終報告書
図 4-5-4 より、リフェレンスエリアでは非森林域(Grass, Bare, Others)の面積率
が大きいため、リフェレンスエリア全体的で見ると、非森林域での経年変動が大きく
影響していた。よって非森林域で、より詳細な土地利用変化を今後把握する必要があ
ると考えられる。衛星画像から田んぼ等の非森林域の変化を把握する際、各年の落葉
時期や乾期の度合いでその分類面積が変動しやすく、その経年的傾向は一定とはなり
図 4-5-4 1993 年から 2009 年までのリファレン 図 4-5-5 1993 年から 2009 年までのリファレ
スエリアでの土地利用変化
ンスエリアでの森林域変化
にくい。
図 4-5-5 よりリファレンスエリアでは、Rehabilitated forest(plantation 地域も含
む)が衛星画像からの解析で増加傾向となるのは、2000 年以降の植林活動による影
響で増加傾向である実際の事情と一致している。また、森林域(Rich+Medium +
Poor)はリフェレンスエリアで減少傾向となっている。
図 4-5-6 1993 年から 2009 年までの Copia
特定利用林での森林域変化
図 4-5-7 1993 年から 2009 年までの Ban Lam
保護林での森林域変化
図 4-5-6~4-5-7 より、広域なリファレンスエリアで森林域の減少傾向が見られたが、
本プロジェクトの対象地である Copia 特定利用林や Ban Lam 保護林でも森林域が
減少傾向を示していた。
本プロジェクトの解析では、グランドトゥルースを行った際、プロジェクトエリア
周辺での森林状況のみデータを収集し、その森林状況をトレーニングデータとし、リ
フェレンスエリア全体での分類を行った。それゆえ、トレーニングデータ収集に地域
的偏りがあった。今後広域なリファレンスエリアでより均一にトレーニングデータを
取得することで、リファレンスエリアでの解析精度を向上したい。限られた時間で広
74
H23 新メカ FS
最終報告書
域調査するのは限界があるため、本プロジェクトで用いた Rapid Eye 衛星の様な高解
像度画像を併用することで、広域でのサンプル収集を効率よく行う手法の開発を今後
行いたい。
Rich
Medium
Poor
Rehabilitated
Grass
Bare
Water
Others
図 4-5-8 リファレンスエリアで切り出した 1993 年の解析結果(赤枠左が Copia 特定利用林、
赤枠右枠が Ban Lam 保護林)
Rich
Medium
Poor
Rehabilitated
Grass
Bare
Water
Others
図 4-5-9 リファレンスエリアで切り出した 1999 年の解析結果((赤枠左が Copia 特定利用林、
赤枠右枠が Ban Lam 保護林)
75
H23 新メカ FS
最終報告書
Rich
Medium
Poor
Rehabilitated
Grass
Bare
Water
Others
図 4-5-10 リファレンスエリアで切り出した 2006 年の解析結果(赤枠左が Copia 特定利用林、
赤枠右枠が Ban Lam 保護林)
Rich
Medium
Poor
Rehabilitated
Grass
Bare
Water
Others
図 4-5-11 リファレンスエリアで切り出した 2009 年の解析結果(赤枠左が Copia 特定利用林、赤
枠右枠が Ban Lam 保護林)
1993 年から 2009 年の 2 時期の解析結果より、リファレンスエリアでの土地利用変
化から、森林劣化(表 4-5-3 オレンジ色域)、森林減少(表 4-5-3 紫色域)、森林の質
的回復(表 4-5-3 緑色域)、面的回復(表 5 水色域)をマトリクス解析することで表
4-5-3 の表中に色分けして示す。また、プロジェクト対象地である Copia 特定利用林
の 1993 年から 2009 年の 2 時期でのマトリクス解析による土地利用変化を表 4-5-4
Ban Lam 保護林での 1993 年から 2009 年の 2 時期でのマトリクス解析による土地利
用変化を表 4-5-5 に示す。
76
H23 新メカ FS
最終報告書
表 4-5-3 1993 年から 2009 年までのリファレンスエリア(204,856 ha)での森林変動マトリク
ス(単位: ha)
2009 年の解析結果
Rich
Forest
888.75
Medium
Forest
653.04
Poor
Forest
726.57
Medium Forest
180.09
1387.89
Poor Forest
606.78
142.11
Rehabilitated
722.16
Grass
Water
1993 年の解析結果
Rich Forest
Bareland
Others
Rehabilitated
Grass
Water
1657.89
1190.7
895.59
318.69
65.16
122.13
1535.04
2116.8
13042.8
22372.65
8.28
46.08
99.81
8494.02
13704.75
160.02
478.26
577.71
8619.03
22382.01
0
0
0
0
0.81
0.09
0.81
2897.73
Bareland
Others
623.52
0
0.63
1428.3
310.32
0
0.36
872.64
0
17.46
0
72.09
0
53.64
15.57
2710.89
0
5199.12
10999.4
4
6778.98
58724.9
1
3.69
157.86
17.1
752.85
7609.86
45.09
2388.51
表 4-5-3 より、1993 年から 2009 年まで森林劣化地は 4,374ha、森林減少地は 43,087ha、
森林の質的回復地は 5,303ha、森林の面的回復地は 21,383ha ある。
表 4-5-4
位: ha)
1993 年から 2009 年までの Copia 特定利用林(9,756 ha)の森林変動マトリクス(単
2009 年の解析結果
1993 年の解析結果
Rich Forest
Medium Forest
Rich
Forest
152.46
Medium
Forest
466.47
Poor
Forest
127.26
Rehabilitated
Grass
13.86
Water
Bareland
Others
0.45
218.07
21.06
152.46
25.56
453.6
737.82
155.88
2.97
518.76
38.25
25.56
Poor Forest
6.3
75.96
442.35
340.56
15.66
513
37.71
6.3
Rehabilitated
1.71
28.44
229.86
379.08
21.78
170.37
17.82
1.71
Grass
4.32
16.2
47.25
361.8
125.82
540.63
58.32
4.32
Water
0.54
11.34
81.9
590.49
297.27
1235.34
157.05
0.54
54
104.13
72.54
88.65
13.23
579.33
105.12
54
152.46
466.47
127.26
13.86
0.45
218.07
21.06
152.46
Bareland
Others
表 4-5-4 より、1993 年から 2009 年まで森林劣化地は 1,842ha、森林減少地は 1,576ha、
森林の質的回復地は 368ha、森林の面的回復地は 1,433ha ある。
表 4-5-5
ha)
1993 年から 2009 年までの Ban Lam 保護林(6,301 ha) の森林変動マトリクス(単位:
1993 年の解析結果
2009 年の解析結果
Rich Forest
Medium Forest
Poor Forest
Rehabilitated
Grass
Water
Bareland
Others
Rich
Forest
15.39
4.95
0.45
0.54
0.63
14.85
2.7
15.39
Medium
Forest
44.55
48.87
2.97
4.05
0.72
25.74
7.02
44.55
Poor
Forest
17.91
93.69
21.33
32.4
8.55
31.32
28.89
17.91
Rehabilitated
5.94
41.76
68.58
58.41
176.58
100.71
312.03
5.94
77
Grass
0.72
3.06
5.22
3.96
119.25
53.46
118.08
0.72
Water
116.37
298.17
221.49
82.53
518.67
998.28
1146.96
116.37
Bareland
35.91
40.32
34.47
19.53
127.98
754.56
432.72
35.91
Others
15.39
4.95
0.45
0.54
0.63
14.85
2.7
15.39
H23 新メカ FS
最終報告書
表 4-5-5 より、1993 年から 2009 年まで森林劣化地は 272ha、森林減少地は 862ha、
森林の質的回復地は 45ha、森林の面的回復地は 710ha ある。
これらの結果より、どのエリアでも森林劣化・減少面積が森林の質的・面的回復面
積よりも大きい。リフェレンスエリアでの経年的森林減少傾向は、プロジェクト対象
地での経年的森林減少傾向と一致している。より詳しい森林面積変化をマトリクス解
析で見ると、リフェレンスエリアと Ban Lam 保護林では森林劣化より森林減少(他
の土地利用に転用)が進んでおり、もともと森林率が高く、森林管理局の監視がある
Copia 特別利用林では森林劣化が進んでいた。よってこの結果を、今後の植林活動の
基礎的空間情報として使用する。
⑤ 事業・活動実施シナリオ
事業・活動実施シナリオに伴う排出量および吸収量を算定するための方法論を検討する。
必要となる項目は次の通り。
 森林減少率の算定{(ウ)リファレンスシナリオより}
 プロジェクトサイトにおける実施可能な植林事業・活動の洗出し
 各植林事業・活動による費用(コスト)対効果(丸太の収穫および炭素固定量)
本項では、1990 年を基準としたリファレンスシナリオ(-3.82% year-1)を用いて、事業・活動
シナリオ策定する。
① 事業期間:20 年とした。
② 対象地と事業面積:上記リファレンスシナリオから、2009 年時点の Grass/Bareland および
Others の一部を対象とした。Copia 特定利用林 9,758ha 中 4,492ha、Ban Lam 保護林
6,303ha 中 4,159ha、事業面積 16,062ha 中計 8,651ha であった。
Copia 特別利用林、Ban Lam 保護林の 2009 年時点、20 年後のリファレンスシナリオおよ
びプロジェクトにおける土地利用区分別面積は表 4-5-6~7 の通りである。
表 4.5.6. Copia 特別利用林の 2009 年時点、20 年後のリファレンスシナリオおよびプロジェク
トにおける土地利用区分別面積
Area
Reference
Under REDD+
in 2009 (ha)
scenario (ha) program (ha)
245
144
364
1. 森林 (高密度:Rich)
1,156
681
1,718
2. 森林 (中密度:Medium)
1,739
1,025
1,739
3. 森林 (低密度:Poor)
1,930
2,307
1,249
4. 植生回復(Rehabilitation)
477
570
0
5. 草地(Grass)
435
520
196
6. 水域およびその他(Others +Water)
3,776
4,511
0
7. 裸地(Bareland)
0
0
0
8-1. 植林地・保護林 (Plantation/Protection)
0
0
2,246
8-2. 植林地・生産林 Pinus massoniana
0
0
2,246
8-2. 植林地・生産林 Styrax tonkinensis
Total
9,758
9,758
9,758
土地利用区分
表 4.5.7. Ban Lam 保護林の 2009 年時点、20 年後のリファレンスシナリオおよび本プロジェク
ト下における土地利用区分別面積
土地利用区分
Area
in 2009 (ha)
78
Reference
scenario (ha)
Under REDD+
program (ha)
H23 新メカ FS
40
134
234
764
304
1,445
3,382
0
0
0
6,303
1. 森林 (高密度:Rich)
2. 森林 (中密度:Medium)
3. 森林 (低密度:Poor)
4. 植生回復(Rehabilitation)
5. 草地(Grass)
6. 水域およびその他(Others +Water)
7. 裸地(Bareland)
8-1. 植林地・保護林 (Plantation/Protection)
8-2. 植林地・生産林 Pinus massoniana
8-2. 植林地・生産林 Styrax tonkinensis
Total
最終報告書
18
61
107
793
315
1,500
3,509
0
0
0
6,303
59
199
234
680
0
972
0
0
2,080
2,080
6,303
③ 樹種、伐期、蓄積量および収穫表
当該地域で実績のある植林対象木は Pinus massoniana、Styrax tonkinensis とし、それぞ
れの伐期を 20、14 年とした。試算に用いた成長量を、表 4.5.①エ-2.に示す。
④ 毎年の植林面積
プロジェクトでは、生産林の法正林化を目的として、Copia 特別利用林、Ban Lam 保護林
の対象地面積を伐期(Pinus massoniana、Styrax tonkinensis、それぞれ 20、14 年)で除し
た面積を毎年の植林面積とした。
すなわち、(ウ)リファレンスシナリオで想定した生産林(伐期 20、14 年の Pinus
massoniana、Styrax tonkinensis)の MAI(m3/ha/year)13.1、13.9 の森林が一度に成林す
るわけではなく、Pinus massoniana、Styrax tonkinensis それぞれ、プロジェクト期間をかけ
て、0~20 年生、0~14 年生の林分を整備することになる。植林に適すると思われる樹種
は他にもあったが、植林の実績があり、成長式等情報がある 2 樹種を採用した。
この活動の GHG 吸収量評価に与える意味は、次項に示す林齢の林分材積量を持つ
森林がプロジェクト期間を通して整備され、Pinus massoniana、Styrax tonkinensis それぞ
れの樹種について、プロジェクト開始から 20 年および 14 年までは{=MAI(m3/ha/year)
13.1、13.9 の森林が成立するまでは}植林活動地は GHG 吸収するが、それ以降の吸収
量は実質 0 となる(図 4.5.12)
100,000
80,000
50,000
40,000
30,000
60,000
20,000
40,000
10,000
20,000
0
0
1
3
5
7
35,000
120,000
Annul a Cha nge i n Ca rbon Stocks (tCO2)
30,000
100,000
25,000
80,000
20,000
60,000
15,000
40,000
10,000
20,000
5,000
0
0
1
9 11 13 15 17 19 21
40,000
140,000
Tota l Stem Vol ume
(m3)
Annual Chnge in Carbon Stocks (t-CO2)
Tota l Stem Vol ume
(m3)
Annul a Cha nge i n Ca rbon Stocks (tCO2)
120,000
Ha rves t Vol ume (m3)
160,000
Volume (m3)
140,000
Volume (m3)
60,000
Ha rves t Vol ume (m3)
Annual change in Carbon stocks (t-CO2)
160,000
3
5
7
9 11 13 15 17 19 21
years
Years
図 4.5.12 森林の材積量、伐採量および年炭素蓄積変化(左図: Pinus massoniana、右
図: Styrax tonkinensis)Copia 特別利用林
⑤ 炭素の蓄積量の変化
各土地分類の地上部の炭素固定量(蓄積量)および材比重表 4.5.8 に示す。Plantaion
は②で示した伐期に対応する MAI(m3/ha/year)を示した(表 4.5.①エ-2.)。
それぞれ、地下部までの蓄積量計算のための拡大係数を 1.5 とし、これに 3.7(≒
79
H23 新メカ FS
最終報告書
44/12=CO2/C)をかけて CO2 固定量に換算した。
⑥ 植林コスト Son La 省の 661 プログラムに準じ、6,000,000.-VND/ha/6years (≒300USD)
とした。事業では、植林以外にも森林保全を実現するために必要な実施項目があり、プ
ロジェクトの実行に際してはそのための経費計上が必要になると思われるが、それぞれ
費用の精査が必要となるため、本報告書では計上しない。
⑦ 材の価格 現地調査より、合板コア材として 40USD/m3とした。
⑧ CO2 の価格 5USD/t-CO2 とした。
表 4.5.8 対象樹種の収穫表
Styrax tonkinensis
林 Pinus massoniana
MAI
本 数 樹高 胸高 立 木 材 MAI
齢 本 数 樹 高 胸 高 立木材
(m3/ /ha
(m3/ha)
/ha
(m)
(m)
直 径 積
直径 積
ha)
(cm)
(m3/ha)
(cm) (m3/ha)
2.2
2328
8.6
32.6
10.9
2.8
7.0
3
1700
2.8
1730
11.4
61.0
15.3
3.7
9.2
4
1700
3.5
1328 13.9
90.7
18.1
5
4.7
11.3
1700
4.3
14.2
2.4 1078 15.8
120.3
20.1
5.8
13.1
6
1700
5.0
23.2
3.3
936 17.3
125.8
18.0
7.0
14.6
7
1700
5.9
35.9
4.5
843
18.5
141.1
17.6
8.2
15.9
8
1700
7.0
43.0
4.8
753 19.6
150.8
16.8
9.8
17.1
9
1200
7.9
57.0
5.7
698
20.6
160.5
16.1
11.1
18.1
10
1200
8.8
77.9
7.1 649.0 21.5
168.5
15.3
11
12.4
19.1
1200
9.7
101.0
8.4 616.0 22.3
176.5
14.7
13.6
19.9
12
1200
10.6
127.2
9.8 584.0 23.1
180.7
13.9
14.8
20.7
13
1200
11.4
155.6 11.1
15.9
14
1200
12.3
185.9 12.4
1200
16.9
15
13.5
172.6 10.8
810
18.7
16
14.3
188.9 11.1
810
19.6
17
15.0
213.4 11.9
810
20.5
18
15.7
237.5 12.5
810
21.3
19
16.3
261.0 13.1
810
21.9
20
表 4.5.9 土地利用区分毎の地上炭素材積、材比重
土地利用区分
地上部材積
(m3/ha)
1. 森林 (高密度:Rich)
2. 森林 (中密度:Medium)
3. 森林 (低密度:Poor)
4. 植生回復(Rehabilitation)
5. 草地(Grass)
6. 水域およびその他(Others +Water)
7. 裸地(Bareland)
8-1. 植林地・保護林 (Plantation/Protection)
8-2. 植林地・生産林(Plantation/Production)
300
200
50
10
1
0
1
18
55
8-2. 植林地・生産林(Plantation/Production)
62
Pinus massoniana
Styrax tonkinensis
80
材比重
(ton/m3)
備考
0.5
0.5
0.5
0.5
0.5
0
0.5
0.65
MAI (13.1)
0.45
MAI (13.9)
H23 新メカ FS
最終報告書
⑥ モニタリング方法論の確立(含:現地調査、リーケージ排出量)
プロジェクト実施時の森林減少状況や対策の実施状況を把握するため、衛星画像データ
の解析、現地調査を通じたエラーチェック、現地サンプリング(炭素蓄積量のデータ収集)等
を実施した。
また、リーケージのモニタリングに関しては、VCS 方法論(VMD0010: Estimation of
emissions from activity shifting for avoided unplanned deforestation)を参照しつつ、リーケー
ジベルトを設定し、モニタリングの方針を検討した。ここでは、可能な限り、実現可能性を考
慮しつつも、モニタリングの簡素化を図ることを基本方針とする。
リーケージベルトにおける炭素変化量および排出量の推計、プロジェクトサイトからリーケ
ージベルト(またはその外側)へ移動する森林減少の推計、リーケージ対策の活動からの排
出量等については、今後、検討を実施し、リーケージ排出量を推計することとする。
具体的には、リーケージベルトにおける炭素変化量および排出量の推計、プロジェクトサ
イトからリーケージベルト(さらにはその外側)へ移動する森林減少量の推計、リーケージ対
策の活動からの排出量等については、既存 VCS 方法論(VMD0010)を参照しつつ、次に
示すとおり、今後、さらに簡素化を図る方針とする。
VMD0007 によれば、リーケージベルトを次の条件で設定し、リーケージベルトのベースラ
イン排出量、プロジェクト排出量を特定し、リーケージ排出量を定量的に評価しなければな
らないと規定されている。
【リーケージベルトの設定要件】
a) 以下の要件を満たす、プロジェクトエリアに最も近い森林地域とする。
b) リーケージベルトのすべての部分は、プロジェクトエリアの端(edge)からアクセス可能であ
ること。
c) リーケージベルトは、プロジェクトエリアの端(edge)からの距離において、空間的に偏っ
ていない(must not be spatially biased)こと。
d) 景観的要因(landscape factor)が類似していること。
 森林タイプ(±20%)
 主な森林減少因子となっている土地利用に適した土壌タイプ(±20%)
 土地傾斜(slope classes)の構成比率
 標高(elevation classes)の構成比率
e) 交通的要因(transportation factor)が類似していること。
 航行可能な河川の密度(navigable river/stream density)
 道路密度(road density)
 集落密度(settlement density)
f) 土地利用変化に影響する政策および規制
g) 土地利用変化に影響する社会的要因(ゲリラ等の存在、民族構成等)
なお、リーケージベルトの面積はプロジェクトエリアの 90%以上とする
このようにリーケージベルトを定義した上で、地元住民および移住民による森林減少因子
(local/immigrant deforestation agents)を特定し、次の手順でリーケージ排出量を算定するこ
とと規定されている。
81
H23 新メカ FS
最終報告書
リーケージベルトにおける炭素蓄積量および GHG 排出量の推計
ベースラインにおけるリーケージベルトでの炭素蓄積量および GHG 排出量を
推計する。
② ベースラインにおける地域住民/移住者による森林減少影響の割合の推計
PRA(Participatory rural appraisal: 参加型農村評価)、既存研究、その他の情報
源を活用して、地域住民および移住者による森林減少影響の割合を推計する。
③ プロジェクトエリアからリーケージベルトに移動した森林減少量の推計
プロジェクトシナリオのリーケージベルト内での正味 GHG 排出量から、ベースラ
インの正味 CO2 排出量を減じ、リーケージ量を推計する。なお、計算結果が負
の場合は 0 として扱う。
④ プロジェクトエリアからリーケージベルト外に移動した森林減少の推計
プロジェクトエリアに移住したり、森林減少を起こしたりすることを抑制された移
住者は、別の森林地域へ移住し、そこで森林減少を発生させていると保守的に仮
定することとする。
⑤ リーケージ対策活動からの排出量
リーケージ対策活動として、バイオマスの燃焼、肥料の施肥等を行った場合、これ
に伴う GHG 排出量を計上する。
⑥ 森林減少の移動による総リーケージの推計
③、④、⑤で計上したリーケージ排出量を総計して、総リーケージ量を推計する。
①
VCS 方法論では、上記の通り、リーケージ排出量を推計するように規定がなされているが、
他方で、例えば上記の②および④などは精度の高い推計手法を確立することが難しいと想
定される。このため、これらについては、詳細な定量評価を行うのではなく、簡略化を図るこ
とも検討する余地があると考えられる。
例えば、②におけるリーケージベルトでのベースライン排出量については、それ単独で分
析するのではなく、リファレンスエリアでのベースライン排出原単位を参照する等して推計す
る方法は有効と考えられる。さらに、④については、チェックリスト等を準備し、この確認を通
じてリーケージベルト外でのリーケージ排出量が生じている可能性が高い場合にのみ、リー
ケージ排出量の評価を行うこととすること等も効率化を図る有効な手段になると考えられる。
ここでは、プロジェクトサイトおよびリファレンスエリアでの炭素蓄積量を把握するために実
施したサンプリング調査の実施要領と、その結果を以下に示す。
本プロジェクトでは、カウンターパートである VFU にお願いをし、プロジェクト対象地での
炭素蓄積量を把握するために毎木調査を行った。毎木調査では、各森林カテゴリー別(表 4
を参照、IIa、IIb、IIIa、IIIb 等)に対する材積を算出するため、方形プロットを設置して、方形
プロット内すべての樹木に対する樹高、胸高直径、単位面積当たりの樹木本数、樹種を記
録し、樹種別に決められている幹形状係数を掛け合わせることで、単位面積あたりの材積を
求めた。幹形状係数を用いた材積計算式を以下の式 1 に記す。
V = D2 x pi/4 x H x F
(式 1)
V: 幹材積 D: 幹直径 pi: 円周率 H: 樹高 F: 樹種別幹形状に沿った変換係数 (0.52
~0.58).
82
H23 新メカ FS
最終報告書
F は幹の先細りの度合いによって決まる。胸高直径と樹高から円錐を想定して材積計算を
行い、その後樹種による幹の先細りを F を掛け合わせることで修正する。
本プロジェクト対象地で森林が残っている Copia 特定利用林内で調査プロットを設け、各
調査プロット数は表 4-5-10 に、結果を表 4-5-11 示す。本データは削減量の推定の基礎資料
とするが、GHG 削減量の計算には森林カテゴリーごとに定められた立本材積値を用いた。
表 4-5-10 森林カテゴリー別調査した森林プロット数。
森林カテゴリー
調査プロット数
IIa
5
IIb
4
IIIa
5
IIIb
3
Plantation* (Pinus massoniana)
2
*2005 年または 2006 年に植林
表 4-5-11
No
Plot
Result of biomass estimation in forest category
Forest
Vplot (m3)
M ha (m3)
category
Average
(m3/ha)
2
2
IIA
0.985
9.85
5
5
IIA
8.87
88.7
7
7
IIA
9.451
94.51
16
16
IIA
2.746
27.46
19
19
IIA
12.017
60.085
9
9
IIB
18.91
189.1
10
10
IIB
1.591
15.91
12
12
IIB
13.076
130.76
17
17
IIB
36.756
183.78
6
6
IIIA1
6.132
61.32
11
11
IIIA1
13.428
134.28
1
1
IIIA2
21.198
211.98
8
8
IIIA2
6.041
60.41
18
18
IIIA3
46.399
232.00
13
13
IIIB
56.711
567.11
14
14
IIIB
38.365
383.65
15
15
IIIB
30.295
302.95
3
3
Plantation
5.868
58.68
11.74 m3/yr
4
4
Plantation
7.798
77.98
13.00 m3/yr
56.12
129.89
97.80
136.20
232.00
417.90
⑦ 排出削減量の特定
ベースライン排出量から、プロジェクト排出量およびリーケージ排出量を減じることにより、
プロジェクト実施による排出削減量を特定する。下図に、ベースライン排出量(Reference
Emission Level: REL)とプロジェクト排出量(法規制、土地利用計画、森林管理等の対策が
83
H23 新メカ FS
最終報告書
効果的に実施されたケース)の概念図を示す。
図 4-5-13 リファレンス排出量とプロジェクト排出量の概念図
出典:UN-REDD プログラム「Viet Nam National REDD+ Program: Discussion document」
以下では、1993 年、1999 年、2006 年、2009 年におけるプロジェクトサイト(Copia-Core
Area および BanLam-Core Area)の土地利用区分ごとの面積データを下表および下図に
示す。
プロジェクトサイト(Copia-Core Area)については、森林面積のシェアが 3~4 割程度を占
め、比較的、森林が残っている地域となっている。ただし、森林の構成をみると、高密度
(Rich)の面積は小さく、中密度~低密度の森林が主体となっている。
表 4-5-12 プロジェクトサイト(Copia-Core Area)における土地利用区分ごとの面積
区分
森林(高密度:rich)
森林(中密度:medi)
森林(低密度:poor)
植生回復(reha)
草地(Gras)
裸地(bare land)
水域(water)
その他(other)
合計(sum)
森林合計(rich+medi+poor)
森林面積のシェア
1993
1,000
1,933
1,432
849
1,154
2,374
0
1,017
9,758
4,364
44.7%
84
1999
435
1,341
1,400
922
2,398
2,462
0
800
9,758
3,175
32.5%
2006
334
758
1,702
2,985
2,511
1,132
0
336
9,758
2,794
28.6%
2009
245
1,156
1,739
1,930
477
3,776
0
435
9,758
3,140
32.2%
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Copia Special Use Forest (ha)
10,000
9,000
8,000
7,000
6,000
5,000
4,000
3,000
2,000
1,000
0
その他(other)
水域(water)
裸地(bare land)
草地(Gras)
植生回復(reha)
森林(低密度:poor)
森林(中密度:medi)
森林(高密度:rich)
1993
1999
2006
2009
図 4-5-14
プロジェクトサイト(Copia-Core Area)における土地利用区分ごとの面積
(全土地利用区分)
図 4-5-15
プロジェクトサイト(Copia-Core Area)における土地利用区分ごとの面積
(森林のみ)
プロジェクトサイト(BanLam-Core Area)については、森林面積のシェアが 1 割程度(1993
年を除く)となっており、相対的に森林の比率が低い地域となっている。森林の構成をみても、
高密度(Rich)の面積は小さく、中密度~低密度の森林が主体となっている。
表 4-5-13 プロジェクトサイト(BanLam-Core Area)における土地利用区分ごとの面積
区分
森林(高密度:rich)
森林(中密度:medi)
森林(低密度:poor)
植生回復(reha)
草地(Gras)
裸地(bare land)
水域(water)
その他(other)
合計(sum)
森林合計(rich+medi+poor)
森林面積のシェア
1993
237
531
355
201
952
2,048
0
1,979
6,303
1,122
17.8%
85
1999
56
202
147
135
2,148
1,894
0
1,722
6,303
404
6.4%
2006
130
170
385
1,388
1,519
992
0
1,719
6,303
686
10.9%
2009
40
134
234
764
304
3,382
0
1,445
6,303
408
6.5%
H23 新メカ FS
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図 4-5-15
プロジェクトサイト(BanLam-Core Area)における土地利用区分ごとの面積
(全土地利用区分)
図 4-5-16
プロジェクトサイト(BanLam-Core Area)における土地利用区分ごとの面積
(森林のみ)
先に述べたとおり、排出削減量は、リファレンスシナリオ排出量から、プロジェクト排出量お
よびリーケージ排出量を減じることで算定することができる。しかし、リーケージ排出量の定
量分析は、さらに今後の分析結果を待つことが必要となることから、今年度の報告書の提出
段階では、ベースライン排出量およびプロジェクト排出量(事前予測)に着目し、これらを算
定することにより、見込み排出削減量の検討を行うこととする。
【リファレンスシナリオ排出量の想定】
ベースライン排出量の算定に当たっては、リファレンスエリアにおける過去の森林減少率
を参照し、これがプロジェクトサイトにおける将来の森林減少率と同じと仮定して、プロジェク
トサイトでの排出量を推計した。
「③ リファレンスシナリオ(および事業・活動実施シナリオ)の策定」で検討した結果によれ
ば、下表のとおり、リファレンスエリアにおける森林減少率として、次の2つのオプションが算
出され、これを引用することとした。
表 4-5-14 リファレンスエリアにおける森林減少率の分析結果
区分
リファレンスシナリオでの森林減少率
(a) 1990 年基準
-3.82%/年
(4 ヵ年データ基準)
(b) 2000 年基準
-2.61%/年
(直近 3 ヵ年データ基準)
86
H23 新メカ FS
最終報告書
これにより、(a)1990 年基準による-3.82%/年、(c)2000 年基準による-2.61%/年を採用し
てリファレンスシナリオ排出量を推計するものとする。プロジェクト実施期間全体にわたり、森
林面積がこれらの森林減少率で継続的に推移することを想定して算定する。
リファレンスシナリオでの土地利用面積の変化量の想定
・ 森林(Rich、Medi、Poor)はいずれもリファレンスシナリオの森林減少率で推移する。
・ 残りの面積を植生回復(Rehabilitation)、草地、裸地、その他の 2009 年時点の面積比
で按分する。
【プロジェクト排出量の想定】
他方、プロジェクトを実施した場合の排出量(プロジェクト排出量)については、別途、調
査結果として「森林保全を実現するために必要なアプローチ」で取りまとめた次の手法等を
組み合わせて適用することによる森林保全効果を見込むことを想定する。
表 4-5-15
森林保全を実現するために必要なアプローチ(抜粋)
手法・アプローチ
森林減少・
劣化の防止、抑制
直接的手法
違法伐採対策・パトロール強化
防火帯設置等山火事防止
間接的手法
地域住民用木材の供給(支給)
生計向上施策(農業指導、畜産支援、灌漑設備等インフラ整備)
高収量作物の種苗や家畜の適用
土地利用の種類ごとに最適な集約的農業技術
優良な種苗と家畜の繁殖源を確保するための、コミューンレベルでの作物
の苗、林業苗の生産と家畜繁殖
農産物の予備的処理、加工およびポストハーベスト技術の実施
村レベルでのアグロフォレストリーの拡大
植栽、育林に関するに技術トレーニングコース
アグロフォレストリーから生産物の市場について安定した市場の形成とコミュ
ーンのアグロフォレストリー農産物の販売チャンネル確保や地元の市場の構築
高効率かまどの普及支援(薪利用量低減)
ゴム、コーヒー等定置型高収益性農業と森林保全の組み合わせ
○
○
○
○
○
○
○
ここで、各種の対策実施の排出削減効果をどのように定量的に見込むかについては、入
手データ等が制約されるため、プロジェクトサイトにおける過去のデータのうち、増加トレンド
にある期間のデータを参照し、これをもとに森林増加率を保守的に設定する方針とした。
具体的には、プロジェクトサイト(Copia-Core Area および BanLam-Core Area)における森
林面積の変化のうち、高密度(Rich)および中密度(Medi)に着目し、増加傾向となっている
2時点間を選択し、その年平均増加率を求めると、次の通りとなる。
・ Copia-Core Area: 8.69%/年(2006 年~2009 年)
・ BanLam-Core Area: 2.23%/年(1999 年~2006 年)
これらの森林増加率は、プロジェクトサイトにおいて各種の森林対策の実施等を通じて、
特に高密度(Rich)および中密度(Medi)の森林面積の増加につながったと想定される。
当該プロジェクトの実施によって各種の森林保全対策が導入されれば、上記の森林増加
率と同等程度の効果は期待できると想定されるが、ここでは保守的に評価するとの観点から、
87
H23 新メカ FS
最終報告書
Copia-Core Area および BanLam-Core Area ともに、プロジェクトで各種対策を実施した結
果として、高密度(Rich)および中密度(Medi)の森林面積がいずれも 2%で増加すると仮定
し、REDD+プロジェクトの実施による削減ポテンシャルを計算した。
また、プロジェクト実施時における植林事業は、2009 年時点における草地、裸地およびそ
の他の一部(新たな伐開地または焼畑地)のすべてにおいて実施されると仮定した。以上よ
り、プロジェクト排出量を求める際の想定は次の通りとなる。
事業実施時の土地利用面積の変化量の想定
・ 対策実施を通じて、森林面積(Rich、Medi)がいずれも 2%/年で増加するとする。
・ 2009 年時点の草地、裸地、およびその他の一部(新たな伐開地または焼畑地)の土
地で植林事業を実施する。
・ 残りの面積を森林(Poor)、植生回復(Rehabilitation)の順番に、それぞれ 2009 年時
点の面積を上限として割り振る。
・ 非永続性に関する割引率(バッファ)を 20%と仮定する。
この結果、基準ごとのプロジェクト実施時の見込み排出削減量は次の通りとなる。プロジェ
クト実施後 20 年間経過した時点での年平均での削減ポテンシャル(20 年間の総削減ポテン
シャルの年平均値)を示している。
表 4-5-16 基準ごとのプロジェクト実施時の見込み排出削減量
(プロジェクト実施後 20 年間経過した時点での年平均削減ポテンシャル)
見込み排出削減量
ベースラインでの
区分
(Copia-Core Area および
森林減少率
BanLam-Core Area)
(a) 1990 年基準
-3.82%/年
63,518 t-CO 2 /年
(4 ヵ年データ基準)
(b) 2000 年基準
-2.61%/年
59,510 t-CO 2 /年
(直近 3 ヵ年データ基準)
以上より、当該プロジェクトの実施を通じた見込み排出削減量は、59,510~63,518 t-CO 2 /
年程度となる。ベースラインでの森林減少率の想定により、見込み削減量にも大きな差が出
ることが分かった。また、算定のためのスプレッドシートを見ても分かるとおり、植林事業によ
る削減効果(吸収増加の効果)が大きいことにも留意が必要である。
なお、上記の見込み削減量の算定にあたっては、最後に「クレジットの非永続性への対
応」として、全体の削減量のうち 20%を割り引いた。これは、植林や REDD などの森林保全
事業において固定された炭素量が、予期せぬ森林伐採や森林火災などにより再び放出さ
れてしまう可能性が考えられるため、あらかじめそのリスクを割り引いておくことを想定してい
る。この考え方は、既存制度の VCS でも、REDD 事業において発行されるクレジットにバッフ
ァーを設定すること(Reserve Accounting)で対処する方針となっている。この割引率を設定
する代わりに、発行されたクレジットは他の排出削減プロジェクトで発行されたものと同等の
ものとして取り扱うことができるとされており、補てん義務のある現行 A/R-CDM に比べて、事
業者に対して一定の実施インセンティブを与えることができると考えられている。
88
H23 新メカ FS
見込み排出削減量の試算((a) 1990 年基準(全4ヵ年データ基準):-3.82%/年)
<89>
最終報告書
H23 新メカ FS
見込み排出削減量の試算((b) 2000 年基準(直近 3 か年データ基準):-2.61%/年)
<90>
最終報告書
H23 新メカ FS
最終報告書
非永続性に対する留意事項
植林や REDD などの森林保全事業において固定された炭素吸収が、予期せぬ森林
伐採や森林火災などにより放出されてしまう可能性が考えられる。その対策として重
要なのは「どの期間で」、「どのように」保証するかを検討する必要がある。
⑧
【既存対策手法】
・ A/R CDM
A/R CDM では下記の二種類クレジットを発行し対処している。
① 短期期限付き(temporary CER)
② 長期期限付き(long-term CER)
非永続性の特性から、クレジットに期限が発生してしまうため、失効した際に補
てん義務が発生する。その結果としてクレジット購入のインセンティブが低下し
クレジット価格が低くなるため、事業者には十分なクレジット収集が見込めない。
なお、A/R CDM 起源のクレジットは EU/ETS における取引対象となっておらず、
取引市場が限られる点もクレジットの流通を阻害する要因となっている。
・
VCS
VCS においては非永続性に対して、REDD 事業において発行されるクレジット
にバッファーを設定すること(Reserve Accounting)で対処するとしている。こ
れは、発行クレジットからバッファーとして一定量を割り引くことを示す。この
割引率について事業継続性を考慮したインセンティブを加味するシステムとすれ
ば、民間企業等の投資計画に合致する点も多い。
・
UNFCCC
国ベースの非永続性の対処については深い議論が交わされていない現状である。
<91>
H23 新メカ FS
最終報告書
【対応策の検討】
A/R CDM の非永続性対策は、クレジット失効の場合の補てん義務が大きな課
題となっている。そのため現状では、VCS のバッファーを用いた非永続性対策が
採用される場合が多い。ただし、この場合もバッファーの割引率について確立的
な手法がない現状である。
プロジェクトベースでの非永続性について言及するためには、プロジェクト活動
とリスク低減効果の定量化が不可欠である。以下に、VCS におけるリスク定量化
の整理方針を示す。
分類
内部リスク
項目
プロジェクト管
理
財務的実行可能
性
機会費用
外部リスク
持続性
土地利用権
自然リスク
コミュニティ契
約
政治的リスク
自然リスク
内容
継続的実施体制、プロジェクト経験者の有無、適
応管理計画 等
キャッシュフロー損益(0~4 年、4~7 年、7~10 年
等)、必要資金 等
代替土地利用の NPV(net present value)、クレジ
ット期間の考慮 等
プロジェクト管理の法的契約 等
土地と資源のアクセス・所有権、保護領域、土地
紛争 等
地域コミュニティの同意、プロジェクトエリア依
存の生活者、地域社会の福利 等
政治リスク、REDD+の対応 等
火災、害虫、疫病、異常気象 等
(発生頻度と影響の両面から考慮)
リスク分類と合わせて、プロジェクト活動の効果は経過年数に大きく左右されるこ
とに留意する必要がある。通常、プロジェクト活動が地域に根付くまでの期間やパイ
ロット活動期間には非永続性のリスクが高い状態であることが想定される。一方で、
プロジェクト体制が定着した時期には非永続性のリスクが軽減することが期待でき
る。各リスクについて時系列での影響変化を考慮することで、より活動実態に近い評
価ができる。
非永続性の評価には各リスク評価から導かれるコミュニティの能力強化、キャパシ
ティビルディングの効果の定量化および適切なモニタリングを行うことが必要とさ
れる。モニタリングについてはプロジェクトベースでは現地調査におけるマンパワー
や正確性が大きな課題であり精査が必要とされる。定期的にこれらの活動とリスク低
減効果を評価する体制を整えることが、適切なプロジェクト運営になるとともに非永
続性のリスク低減にもつながると言える。
<92>
H23 新メカ FS
最終報告書
(2) バイオマス利用分野
① 排出削減量(ER,y)
方法論 AMS-I.A.(ver.14)に則り、排出削減量の計算式は以下の通り。
ER,y = RE,y – PE,y – LE,y
ER,y
:プロジェクト排出削減量(t-CO 2 /yr)
RE,y
:リファレンスシナリオ排出量(t-CO 2 /yr)
PE,y
:プロジェクト排出量(t-CO 2 /yr)
LE,y
:リーケージ排出量(t-CO 2 /yr)
(a) リファレンスシナリオ排出量(RE,y)
グリッドからの電力購入がリファレンスシナリオとなる。計算式は以下の通り。
RE,y = EG,y × EF-grid
RE,y
:リファレンスシナリオ排出量(t-CO 2 /yr)
EG,y
:リファレンスシナリオ発電量(MWh/yr)
EF-grid
:グリッド排出係数(t-CO 2 /MWh)
本プロジェクトでは、実際の発電量をモニタリングすることにより、リファレンスシナリオ発電
量(EG,y)を求める。木質廃材、林地残材の発生量が不足した場合、化石燃料(石炭)を使用
する可能性がある。石炭を使用した場合には、AMS-I.A.パラグラフ 16、パラグラフ 19 により、
石炭の特定燃料消費量(t/MWh)、および石炭の消費量(t/yr)を用いて、リファレンスシナリオ
発電量の実測値から石炭由来のエネルギー分を減算したものを算出し、リファレンスシナリ
オ発電量(EG,y)を求める。計算式は以下のようになる。
EG,y = MIN(EG-actual,y – EG-system coal,y , EG-system biomass,y )
= MIN(EG-actual,y – PEC-coal,y / SFC-coal , Σ[PEC-biomass,y / SFC-biomass])
EG,y
:リファレンスシナリオ発電量(MWh/yr)
EG-actual,y
:リファレンスシナリオ発電量の実測値(MWh/yr)
EG-system coal,y
:バイオマス発電設備の燃料となる石炭エネルギー由来の発電量(MWh/yr)
:バイオマス発電設備の燃料となる木質廃材エネルギー由来の発電量
EG-system biomass,y
(MWh/yr)
SFC-coal
:石炭の特定燃料消費量(t/MWh)
PEC-coal,y
:石炭の消費量(t/yr)
PEC-biomass,y
:木質廃材の消費量(t/yr)
SFC-biomass
:木質廃材の特定燃料消費量(t/MWh)
現段階では、発電に必要な廃材が全量利用でき、石炭を使用する予定はないので、
EG,y = EG-actual,y となる。リファレンスシナリオ発電量の実測値(EG-actual,y)、石炭の
消費量(PEC-coal,y)、木質廃材の消費量(PEC-biomass,y)は、モニタリング結果による。
本プロジェクトは、木質廃材を 100%使用する計画であるが、事業を行う中で異なるバイオ
マスや石炭以外の化石燃料を使用する可能性もでてくる。木質廃材、石炭以外の燃料(i)を
使用する場合は、その燃料の特定燃料消費量も使用前に特定する。特定燃料消費量
(SFCi)を求めるための計算式は、以下の通りである。
SFCi = (Cp / Epower) / (NCVi / Inc × 103 )
SFCi
:燃料 i の特定燃料消費量(t/MWh)
Cp
:kWh あたりの発熱量(kcal/kWh)
<93>
H23 新メカ FS
Epower
NCVi
Inc
最終報告書
:発電効率(%)
:燃料 i の発熱量(TJ/Gg)
:国際蒸気表カロリー(kJ/kcal)
発電効率は、メーカーの設備仕様によるが、ここでは発電効率を 20%として計算する。
kWh あたりの発熱量、国際カロリーは、国際蒸気表カロリーに基づく。石炭と木質廃材の発
熱量については、IPCC ガイドラインに示された数値を使用する。
(b) プロジェクト排出量(PE,y)
AMS-I.A.パラグラフ 12 では、プロジェクト排出量は 0t-CO 2 /yrであるとされている。ただし、
例外として以下のプロジェクトは、方法論ACM0002 の最新版に従うこととなっている。


地熱発電のオペレーションに関わる排出量
水力発電の貯水槽/貯水池からの排出量
本プロジェクトは、上記のいずれにも該当しないため、ACM0002 に則った計算は必要ない
が、以下の項目は計算の対象とする。

バイオマス発電のスタートアップに必要な電力利用/バックアップやメンテナンス時
に必要な電力に伴うCO 2 排出量
バイオマス発電のスタートアップ、バックアップやメンテナンス時に必要な電力については、
本プロジェクトでは EVN からの買電を想定する。
計算式は以下の通り。
PE,y = EG-from grid,y × EF-grid
PE,y
:プロジェクト排出量(t-CO 2 /yr)
EG-from grid,y
:グリッドからの電力供給量(MWh/yr)
EF-grid
:グリッド排出係数(t-CO 2 /MWh)
スタートアップ、バックアップやメンテナンス時に必要な電力は小さく、使用頻度も少ないた
め、現時点では0 t-CO 2 /yrとして試算する。ただし、プロジェクト開始後は、モニタリング結果
と本計算式に基づいて算出する。
(c) リーケージ排出量(LE,y)
AMS-I.A.パラグラフ 13 により、「エネルギー生成装置が、他の活動から移送されてきた場
合、あるいは既存装置が、他の活動に移送される場合、リーケージを考慮しなければならな
い。」と、定められている。また、小規模 CDM プロジェクトの簡易指針には、バイオマス収集
に関わるリーケージが定められている(AttachmentC to Appendix B,EB47 General guidance
on leakage in biomass project activities (version03))。
本プロジェクトは、工場設立にともなう発電設備の新規導入であり、発電設備の他からの
移送及び、他への移送は想定しておらず、設備の流用に関するリーケージを考慮に入れる
必要は無い。
本プロジェクトで使用する燃料は木質バイオマス(発熱量 3,726kcal/kg、IPCC ガイドライン
換算値)であり、必要な燃料は年間 50,548t である。燃料の必要量を十分考慮し、適切な事
業サイトを選定する予定である。また、燃料は工場内及び、工場に供給される原材料用の植
<94>
H23 新メカ FS
最終報告書
林地から発生する廃材を新たに調達するため、燃料の競合は生じない。仮に自社廃材以外
のバイオマスを利用する場合は、その余剰量、収集可能量を確認し、燃料の競合が生じな
いことを CDM のルールに則り、7 年毎(CDM プロジェクトのクレジット更新期間に相当)に確
認することとする。
以上より、本プロジェクトからのリーケージ排出量(LE,y)は 0t-CO 2 /yrとなる。
② 計算結果
ER,y = RE,y – PE,y – LE,y
= 20,197 t-CO 2 /yr
5MW(所内電力 1.0MW)の発電設備が 365 日 24 時間で稼働した場合、20,197 t-CO 2 /yr
のCO 2 削減量が見込まれる。同様の工場がソンラ省の計画とおり 4 施設建設されるとすると、
合計で 80,788t-CO 2 /yrの排出削減量が見込まれる。
(a) リファレンスシナリオ排出量(RE,y)
RE,y = EG,y × EF-grid
= 35,040 × 0.5764
= 20,197 t-CO 2 /kWh
SFCi については、以下の通りとなる(ここでは、木質廃材と石炭について計算する)。
SFC-coal = (Cp / Epower) / (NCVcoal / Inc × 103 )
= (860 / 20%) / (18.9 / 4.186 × 103 )
= 0.952 t /MWh
SFC-biomass = (Cp / Epower) / (NCVbiomass / Inc × 103 )
= (860 / 20%) / (15.6 / 4.186 × 103 )
= 1.154 t /MWh
(b) プロジェクト排出量(PE,y)
実際の計算は計算式に則るが、現時点ではプロジェクト排出量は 0 t-CO 2 /yrとなる。
PE,y = 0 t-CO 2 /yr
(c) リーケージ排出量(LE,y)
LE,y = 0 t-CO 2 /yr
4.6 排出削減効果の測定・報告・検証(MRV)手法
REDD+については、この分野で広く認知されている VCS 方法論を参照しつつ、ベトナム
政府が発表している REDD+関連の情報を参考にして、政府の実施方針等に整合させつつ、
MRV 手法を検討する。また、バイオマス発電については、現状の CDM 方法論を参考にし
て MRV 手法を検討する方針とする。いずれについても、MRV の実施にかかるコスト等、プ
ロジェクトを実施する上での実現可能性にも留意して検討する。
(1) 森林管理分野
<測定(Monitoring)>
事業・活動実施シナリオで、森林減少対策として植生回復の活動を実施した結果、どの
程度の森林減少の抑制効果が実現できたかを定量的に評価する。
モニタリング方法の検討の留意点としては、炭素蓄積量のサンプリングデータの取得方法
<95>
H23 新メカ FS
最終報告書
やその方法論の簡素化、森林減少率等の既存データの有効活用等を検討し、モニタリング
にかかる手間やコストを低減させることが挙げられる。
<報告(Reporting)>
プロジェクト事業者がモニタリング結果に基づき、森林減少面積、排出削減量等の関連デ
ータをモニタリング報告書として取りまとめ、提出するものとする。このほか、プロジェクト説明
書等についても事業者側が準備し、提出することが必要になると想定される。既存の VCS
等の制度を参考にしつつ、事業者が準備すべき文書類を整理・検討するものとする。なお、
データの開示基準についても検討する。
<検証(Verification)>
モニタリング報告書の検証については、すでに国際的に認知されている ISO の認証規格
(ISO 14064:2006)等の内容を参考にしつつ、排出削減量の検証に必要な手続きおよび確
認事項を検討する。
(2) バイオマス利用分野
検証は指定された第 3 者認証機関が行い、CDM の Validation、Verification と同じように
プロジェクト実施前、実施後で検証することが信頼性を確保する上で必要である。
実施前(計画)と実施後で、プロジェクトの内容が変更された場合は、排出削減量に与える
影響が軽微であれば、モニタリングレポートに記載することで変更を認めることとしたい。た
だし、同一種の変更に限ってはプロジェクト期間内で変更回数に上限を設定する。
また、排出削減量の大幅増加につながる変更が行われたとしても、計画通りの排出削減
量分しか、クレジットを取得しないとモニタリングレポート中に記載すれば、変更手続きは不
要とする。それ以外の場合は、CDM の変更手続きルールに則る。
発電に関する MRV 手法は、既に CDM の方法論、Procedure や Guideline として多数定
められており、国際的に認知され実績もあるため、参考にする。
<測定(Measurement)>
測定については、4.4 モニタリング手法・計画に記載した方法に則る。全モニタリング項
目は、電子機器を用いて計測を行なうものとし、機器の校正、データの管理・報告体制も構
築する。燃料の購入・在庫量を計測し、実際の消費量とクロスチェックを行う。
都度の取得ができないデータ(ex.燃料の発熱量、グリッド排出係数等)は、公表されている
係数や計算値・推測値、保守的な数値を使用することもできるが、その場合は妥当性につ
いて言及することとする。IPCC の公表値は CDM プロジェクトでも利用されており、本プロジ
ェクトでも利用する。
<報告(Reporting)>
プロジェクトの概要・実施体制、レファレンスシナリオ・バウンダリー決定方法、プロジェクト/
クレジット期間、排出削減量の定量化方法、モニタリング手法・計画、環境影響、利害関係
者コメントを明記したプロジェクト設計書(Project Design Document:PDD)を作成する。また、
モニタリング活動を実施したあとは、プロジェクトの概要・実施体制、プロジェクトの実施状況、
モニタリング体制の詳細、モニタリングデータ、排出削減量の計算について記したモニタリン
グ報告書(Monitoring Report)をまとめ、報告する。
<検証(Verification)>
検証は指定された第 3 者認証機関が行い、CDM の Verification と同じようにプロジェクト
実施前、実施後で検証することが信頼性を確保する上で必要である。
<96>
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最終報告書
実施前(計画)と実施後で、プロジェクトの内容が変更された場合は、以下の CDM ルール
に則って変更手続きを行うこととする。
CDMルール区分
Procedures
【EB48Annex 66】
Guidelines
【EB 48 Annex 67】
タイトル
「PROCEDURES FOR NOTIFYING AND REQUESTING APPROVAL OF
CHANGES
FROM THE PROJECT ACTIVITY AS DESCRIBED IN THE REGISTERED
PROJECT DESIGN DOCUMENT」
「GUIDELINES ON ASSESSMENT OF DIFFERENT TYPES OF CHANGES
FROM THE
PROJECT ACTIVITY AS DESCRIBED IN THE REGISTERED PDD」
4.7 環境十全性の確保
(1) 森林管理分野
本プロジェクトによってもたらされ得る環境面での好影響としては、植生回復や天然林保
全に伴う森林の多面的機能(水源涵養機能や土砂流亡防止機能、生物多様性の保全等)
の改善が挙げられる。特に、本プロジェクト対象地域は多様な動植物の生息域となっている
ことから、生物多様性保全のための活動は、希少生物を含む生息域の確保に加え、森林の
撹乱からの回復力の強化に伴う炭素蓄積の安定性・永続性への寄与の観点からも、非常に
重要である。このため、ベトナム政府及びソンラ省の関連する施策や方針等を考慮した活動
を実施することで、環境十全性を確保することが求められる。以下に、考慮すべき施策や取
組みの概要を示す。
<基本法令>
ベトナムにおける生物多様性の保全に関連する基本的な法令として、生物多様性法
(Biodiversity law)と、森林保全・開発法(Forest Protection and development law)の 2 つが
挙げられる。生物多様性法は、2008 年 11 月 13 日にベトナム議会で可決され、2009 年 7 月
1 日に施行された。同法は以下の 8 つの章で構成されている。
1 章:
2 章:
3 章:
4 章:
5 章:
6 章:
7 章:
表 4-7-1 ベトナム生物多様性法の構成
生物多様性法の基本コンセプト
生物多様性法の計画の歴史
自然生態系の保全と開発
種の保全と持続可能な開発
遺伝資源の保全と持続可能な開発
生物多様性における国際協力
生物多様性の保全と開発のためのメカニズムと資源
8 章: 履行規定
森林保全・開発法では、ベトナムにおける森林資源の保全と持続可能な開発をどのように
して行い、生物多様性関連のプログラムの成功に向けどのような支援を実施するかに焦点
が当てられている。
この 2 つの文書をもとに、ベトナム政府は全国規模の生物多様性の保全と開発に関する一
連のプログラム主導的に実施している。目標プログラムの一つとして、原生の生物多様性の
強化と外来種の管理が挙げられる。
<国家生物多様性行動計画:National Biodiversity Action Plan>
ベトナムにおいては、1995 年に National Biodiversity Action Plan (NBAP1995)が発表さ
<97>
H23 新メカ FS
最終報告書
れ、さらに 2007 年には、2010 年までの計画と 2020 年に向けた方針を示した NBAP2007 が
承認された。NBAP2007 では、以下の 5 つの目的を掲げている。
① 陸域における生物多様性の保全と開発
 持続可能な土地利用管理、森林経営モデルの開発
 5Mha の再植林プログラムの継続と効果的な実施
 生態系ベースの方法を採用した生物多様性保全のためのモデル開発、特に希少
種・固有種の保全 等
② 海洋及び湿地における生物多様性の保全と開発
 国・省における実施戦略・計画の開発を通じた海洋・湿地の保護地域の管理システ
ムの開発
 海洋及び湿地生態系の再生・開発(サンゴ礁、海藻、マングローブ、湿地) 等
③ 農業における生物多様性の保全と開発
 生産植物、家畜や微生物に関する遺伝資源の調査・インベントリ及び分析を行い、
農業における生物多様性保全及び開発のプログラムを構築
 貴重、希少、固有な植物及び家畜の保全・開発モデルの構築 等
④ 持続可能な生物資源の活用
 木材・非森林木材製品の持続的な活用:これらの利用の現状を評価し、高度な技術
を適用して森林資源の利用効率を向上、天然資源の使用を節約
 海洋・湿地資源の持続的な活用
 天然資源や国立公園等の国レベルのエコツーリズムネットワークやモデルのポテン
シャルの評価・分析の実施 等
⑤ 生物多様性の状態管理能力の向上、人々の健康、環境及び生物多様性を守るため
の MGO 及び MGO 製品の制御
 生物多様性及び生物安全性に関する政府職員のための省の管理能力強化
 生物多様性管理のためのメカニズム、政策、文書システムの開発、公表、統合
 生物多様性、生物安全性に関する情報やデータベースシステムの開発、運用、統一
的な管理、クリアリングハウスの開発と運用 等
<生物多様性の回廊:biodiversity corridor>
MONRE では、森林回復のための「生物多様性の回廊(biodiversity corridor)」を推進し
ている。これは、ベトナムの 8 つの各地域において高い生物多様性を有する地域を保護地
域に指定し、保護地域間を繫げることで、野生動物の生息地や移動経路に関する生態系の
分断を低減する。
NBAP2007 の中でも、保護地域間を繫げる生物多様性の回廊について、生物多様性保
全のための生態系ベースの取組みの一つとして言及されている。
<2007~2015 年の森林開発企画及び 2020 年までの方針>
農業農村開発省の指導の下、農業農村開発局が西北森林研究企画院支部、ソンラ省
人民委員会直轄各部門、各地区人民委員会が協力して作成された。この中で、森林保
護及び開発の企画・目標・任務と方向性の中で、「特定林の十分な管理・保護を継続
して生物多様性の保全と持続可能な開発を確保する」ことが示されている。
また、同文書の中でソンラ省における保護しなければならない生物種に関し以下の
記述がある。
•
161 目 、 624 類 の 1,066 以 上 の 種 の 維 管 束 植 物 が 生 息 し 、 こ の う ち Lat
<98>
H23 新メカ FS
•
•
最終報告書
hoa(Chukrasiatabularis), Bach xanh (Calocedrusmacrolepis sp.,中国語名:翠柏)、
Pơmu (Fokienia sp., ヒ ノ キ 科 ) , Thong tre (Podocarpaceae sp.), Tram huong
( Aquilaria malaccensis), Dinh huong (Syzygium aromaticum), Dinh thoi (Fernandoa
brilletii), Nghien (Burretiodendron hsienmu), Sen mat (Madhuca pasquieri) のように
ベトナムレッドブックに掲載されている珍貴で、保護しなければならないものが 30 種
ある。
15 類の獣と 320 類の鳥、60 種の爬虫類、25 種の両生類が生息し、ベトナムのレッ
ドブックに載っている珍貴で保護の必要な動物には(Vượn đen Tây Bắc)黒テナガ
ザル、(Voọc xám)灰色ラングール、(Voi)像、(Gấu)熊などがいる。
全体的に、ソンラ省の森林動植物系は西北の石灰岩と土が混じった山脈の動植物
系の特徴がある。ただし、この資源は、生物多様性と豊かさが減少し、多くの種が絶
滅の危機に瀕している。森林資源を保護、開発するため有効で迅速な対策が必要
である。
<Payments for Environmental Services(PES)の導入状況>
PES は、地方政府が森林(あるいは景観など)の管理者(土地所有者)に対し、サービス
(水源涵養や景観維持など)の対価として資金を提供する仕組みであり、そのための資金源
は、たとえば水力発電事業者などから徴収することで賄われる。この仕組みによって、農民
らは自分が所有する森林からより多くの収入を得ることができるようになる。REDD+と親和性
の高い取り組みと言える。
Winrock International が、Lam Dong 省で PES のパイロット事業を実施したのが、ベトナム
における PES(PFES)に係る取り組みの皮切りである。ソンラ省においてもパイロット事業が
実施されており、電気利用者から水力発電事業者を通じて回収した徴収金を上流地区に住
む森林管理者(含:地域住民)に支払っている。また、ソンラ省に加え、下流に位置する Hoa
Binh 省の水力発電事業者からも資金を徴収するという議論が進んでいる。これにより、発電
事業者は VND20/kWh を支払う必要があるとされている。
ソンラ省では、省政府が森林管理者に資金を分配している。森林 1 ヘクタール当たりの支
払額は VND150,000 程度であり、1 世帯の所有する森林を平均 2 ヘクタールとすると、
VND300,000 程度の収入となる。
以上の検討を踏まえ、本プロジェクトにおける環境十全性に関する配慮事項は以下のよう
に整理される。
•
•
•
•
•
生物多様性法、森林保全・開発法の順守
持続可能な農林業の検討と実施
 持続可能な土地利用管理・森林経営、植林活動
 持続的な資源活用
生物多様性の保全(農林業の実施における配慮を含む)
 森林・緑地の連続性への配慮(生物多様性の回廊)
 希少種・固有種の保護
 外来種の管理
 遺伝資源の保護・管理
生物多様性の管理機能強化
 プロジェクト担当者、地域住民の教育
 生物多様性保全のシステム構築(データベース、モニタリングシステム等)
環境十全性の確保のための地域住民への利益配分
 REDD+と PES の連携
<99>
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最終報告書
コラム REDD+と FSC 森林認証制度
ベトナム森林認証ナショナルスタンダード(以下、VN-FSC)とは、持続可能な森林経営(以下、
SFM)は森林経営の中で環境、経済や境の持続性を成立させる義務があるとの考えの下、FSC 認
証をベースとして考案されたベトナム独自の認証制度である。
■VN-FSC の原則について
VN-FSC は 10 の原則からなる。原則 1 と2ではコンプライアンスや、土地所有者と森林経営の
関係などが規定されている。多面的機能を持つ森林については地方コミュニティが管理することを
土地所有者は認めることなど細部にわたり規定されている。
原則 3 では原住民の権利について触れられ、原住民の法律的・慣習的な権利として土地、テリト
リーと資源の管理と使用を認め、尊重しなければならないとしており、原住民の生活と森林経営の
共存を重要視している。
原則 4 において、森林経営の実施が地域住民の社会経済を長期的に維持向上する必要がある
とされ、地域社会の発展を前提としている。
原則 5 森林からの利益を規定し、森林経営が多様な生産物・サービスを効果的に使用するよう
に努め、経済価値と環境社会の利益を拡大する必要があるとしている。ここに伐採の際の廃棄物
をできる限り少なくすることという規定もされている。
原則 6 では環境影響について規定し、生態系への影響を最低限に抑えることが規定されてい
る。この影響の評価方法についても言及され、スケールに合わせて、森林管理の方向性から影響
を受ける資源を特定し、それを踏まえた森林計画を立てることとされている。また、原則 6 において
はセーフガードについても言及され、絶滅の危機に瀕している種の存在が認められれば、保護区
を設ける必要があるとされている。
原則8ではモニタリングとアセスメントについて規定し、原則 9 では保護価値の高い森林(天然
林)のメンテナンスについて規定されている。
原則10では植林について規定されているが、原則 1-9 に留意することとしながらも、世界の需
要に合った樹種の植林を認めており、環境と経済の両立を前提としている。
■VN-FSC と REDD+の比較
REDD+は国全体またはサブナショナルレベルを対象とする事業である
が、VN-FSC の原則は REDD+の要求事項と通じるところが多く、特に原
則3-6については REDD+事業が必ず直面し、対策を講じる必要のある
課題である。つまり、FSC の要求事項を満たすことは REDD+活動の仕組
みの構築に必須な事項といえる。REDD+活動を通じた森林保全や持続
的森林経営を行う場合、同時に森林認証の取得要件を満たす可能性が
高い。これは、森林の価値の最大化にとっても意義のあることであろう。
<100>
H23 新メカ FS
最終報告書
(2) バイオマス利用分野
本プロジェクトを実施した場合に想定される環境への好影響は、廃棄物及び温室効果ガ
スの削減である。一方、想定される悪影響として、騒音、悪臭の発生、大気汚染(SOx、NOx、
煤塵等)、水質汚染、地盤沈下、廃棄物の発生(燃焼灰)、土壌汚染、生態系破壊、周辺住
民及び従業員の健康状態の悪化、原材料等の運搬に伴う渋滞の発生など利便性の低下が
挙げられる。しかし、本プロジェクトはベトナムの環境保護法(Law No.52/2005/QH11)に基づ
く、環境影響評価(Environmental Impact Assessment, EIA)が要求される事業であり(表 4-7-2
参照)、EIA に基づいた調査を行ない、想定される悪影響を回避・軽減する対策が認められ
れば、プロジェクトを実施する事ができる。EIA で調査・報告すべき内容については表 4-7-3
の通りである。EIA の中では、プロジェクトの対象となる環境規制や環境要因を特定し、それ
に対する対策・管理等について、広範囲に述べる必要がある。天然資源・環境局は、継続
的に環境規制に違反した企業に対して、操業停止処分を与えることがある。電力供給がカッ
トされ、機械類が差し押さえられる事例も実際にでてきており、環境配慮抜きでの事業展開
は考えられない。
バイオマス発電による自家発電を行う木材加工工場に関わる環境規制は、表 4-7-4 に示
すものが想定される。
表4-7-2
環境影響評価(EIA)対象事業リスト
a) 政府が定める重要な事業
b) 自然保護区、国立公園、歴史‐文化遺産、自然遺産、登録済みの名勝地に関わる事業
c) 水源や流域、沿岸部、生態系保護地区に悪影響を与える危険性のあるプロジェクト
d) 経済区、工業団地、ハイテク団地、輸出加工区、Craft Villeage 家内工業村のインフラ建設プロジェ
クト
e) 都市区、集中型住宅区の新たな建設プロジェクト
f) 大規模な地下水や自然資源を開拓、使用するプロジェクト
g) 環境に対して悪影響を与える危険性の大きいその他プロジェクト
※対象事業に関する情報は、Decree No.80/2006/ND-CP による。
表 4-7-3
環境影響評価(EIA)で調査・報告すべき内容
a) プロジェクトの全体説明とスケジュール
b) プロジェクトサイト及び隣接地の環境の現状と環境感度、許容力について
c) プロジェク実施後に影響を受ける環境構成要素と社会経済要素の評価、リスク予測
d) 環境影響を緩和するための対策
e) プロジェクト実施に関する環境対策の公約
f) 環境管理・監査の計画
g) 環境保護対策にかかる費用
h) プロジェクトサイトの人民委員会や地域住民代表の意見
i) 数値や資料、測定方法の出典
表4-7-4
自家発電を行う木材加工工場建設時に対象となる環境規制
•
QCVN 03:2008/BTNMT: 土壌中の重金属許容値に関する基準
•
QCVN 05:2009/BTNMT: 大気環境基準
•
QCVN 06:2009/BTNMT: 大気中の有害物質に関する基準
•
QCVN 08:2008/BTNMT: 地表水の水質に関する基準
•
QCVN 09:2008/BTNMT: 地下水の水質に関する基準
<101>
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最終報告書
QCVN 19:2009/BTNMT: 無機物と粉塵の産業排出に関する基準
QCVN 20:2009/BTNMT: 有機物の産業排出に関する基準
QCVN 22:2009/BTNMT: 排ガス中の大気汚染物質の排出基準
QCVN 24:2009/BTNMT: 産業排水に関する排水基準
TCVN 5949:1998: 公共地域及び住宅地域騒音基準
TCVN 6705:2000: 有害ではない固形廃棄物-分類基準
TCVN 6706:2000: 有害廃棄物-分類基準
Decision No. 3733/2002/QD-BYT: 労働衛生基準
•
•
•
•
•
•
•
•
(出典:環境保護法(Law No.52/2005/QH11)、Decree No.80/2006/ND-CP、ベトナムにおける企業の環境対策と社会的責任
((財)地球・人間環境フォーラム)、環境問題に関する OECD 加盟国等の貿易保険制度調査報告書 Part II((財)地球・人間
環境フォーラム)より)
4.8 その他の間接影響
本プロジェクトの実施に伴う社会的・経済的な悪影響として考えられる事項は、焼畑農業
から定地型農業・生産植林への転換が、地域住民にスムーズに浸透しないケースである。
天然林、生産林、農地等の土地利用管理により、地域住民による開墾可能地域等が事実
上狭まることから、生産性の高い農林業が浸透しない場合は、地域住民の経済活動に悪影
響を及ぼす恐れがある。
これを回避するためには、森林保全の重要性及び生産性の高い農林業の実施方法に関
する教育が重要である。また、生産された木材や農産物の販売先がある程度担保される仕
組み作りが必要である。加えて、本プロジェクト対象地域は標高が高く勾配も急でり、それほ
ど肥沃な土地ではないことから、植林には多くのコストや時間を要する可能性がある。標高
の低い地域と比べて遅く、標高の特に高い地域では強い風の影響を受けて木材の質が低
下することも懸念される。
これを回避するためには、以下の点に留意する必要がある。
•
•
•
森林保全の重要性及び生産性の高い農林業の実施方法に関する教育の実施
生産された木材や農産物の販売先がある程度担保される仕組み作り
地理条件、気象条件を考慮し、農林業の生産性が最大となる土地利用計画の策定と
植栽樹種の選定
また、実施にあたっては、地域住民に適切な利益配分がなされる仕組みを検討し、地域社
会・文化に悪影響を及ぼさないよう評価することが不可欠となる。具体的には、上述のとおり
本プロジェクトサイトでは、Thai 族や、H’Mong 族など、ベトナムにおける主要民族である
Kinh 族以外の少数民族(先住民)が住民の大半を占める状況となっている。そのため、地域
住民への配慮についての検討を行うに際しては、以下のような要素についての検討を行うこ
とが求められる。
•
•
•
民族ごとの生業・生活文化に合致した(少なくとも彼らのアイデンティティを破壊しな
い)事業計画の策定。移転する技術や導入する作物など、彼らの現状の生業から見
て受容しやすいものを選定する必要がある。
少数民族同士、および少数民族と Kinh 族とのコンフリクトを誘発しないための、利益
配分の調整・配慮。
ベトナム政府やソンラ省政府、その他関連機関の実施している既往の先住民・少数
民族政策(および支援)を阻害しない、適切な事業形態の検討。
<102>
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最終報告書
4.9 利害関係者のコメント
これまでに収集した主なステークホルダーのコメントを以下に示す。
ステークホルダー
農業及び地域開
発省(MARD)
環境及び天然資
源省(MONRE)
ソンラ省農業及び
地域開発局
Thuan Chau 保護
林・Copia 特定利
用林
地域住民代表
ベトナム林業大学
タイバック大学農
林学部
国際自然保護連
合(IUCN)
FAO ベトナム事
務所
国際アグロフォレ
ストリーセンター
持 続 的 な森 林 管
主なコメント
REDD+の Focal point である。二国間メカニズムなら
MONREにも説明しておいた方が良い。
森林セクターへの海外を含む民間からの投資は歓
迎する。
植林は AR-CDM で対応し REDD+の対象としない
との発言があったが、検討事項との見解。
AR-CDM については引き続き推進したい。
REDD+についてはMARDが窓口である。
AR-CDM は大規模な事業が難しく、適格条件、方
法論、永続性等課題が多く、魅力的ではない。
REDD+における生物多様性に関しては、生物多
様性の回廊やセーフガードとして関心がある。
本 FS のコンセプトはソンラ省の政策と合致してお
り、歓迎する。
ソンチャなどの植林を促進したい。
コミュニティフォレストの管理強化についてを支援し
て欲しい。
植林を推進したいと考えているが十分な予算がある
とは言えない。KFW7 等の植林プログラムがあるが
実施までに時間がかかる。
森林保全プロジェクトは歓迎する。地域住民の意向
を組んだ活動にして欲しい。
林業を促進して残された天然林を保全する方法は
有効なアプローチである。北西部には植林が必要
な土地が多く存在する。
森林の再生と林業の振興はベトナム北西部にとっ
て必要なことである。
プロジェクト実施に対してサポートできる。
ベトナムの植林は外来種による一斉植林がほとん
どで生物多様性の保全上問題がある。
自生種による植林は経済的に合わないと思われる
が、REDD+の資金で補填できればよい。
フェー ズ1 か らフェー ズ2への 移行段 階であ り、
MRV の具体的な方向性、方法論はすぐには決まら
ないであろう。
今後の進展については不明確ながら、UN-REDD
のパイロット事業がはじめに行なわれたのがベトナ
ムであり、条件が整えば進展するかもしれない。
REDD+の課題としてモノカルチャーになりがちなこ
とが挙げられる。森林保護に REDD+資金がインセ
ンティブとなり、民間が参入することを期待する。
コミュニティフォレストに係る取り組みに関して、炭素
吸収の対価としてではなく、モニタリングの労働力
対価として支払うという考え方も可能ではないか?
森林認証は森林管理のゴールとされている。輸出
<103>
対処状況
引き続き連絡を密に取りな
がら検討を行なう。
引き続き情報交換を行な
いながら検討する。
引き続き連絡を密に取りな
がら検討を行なう。
引き続き連絡を密に取りな
がら検討を行なう。
引き続き意見ヒアリングを
行なう。
技術的アシスタントとして
の役割を担っていただくよ
う検討する。
現場レベルでの技術的サ
ポートとして期待できる。
連絡を密に取りながら検
討を行なう。
自生種利用を中心に、樹
種 選 定 に は十 分 留 意 す
る。
引き続き連絡を密に取りな
がら検討を行なう。
引き続き情報交換を行な
いながら検討する。
REDD+PJ 開始の場合、
H23 新メカ FS
理・認証研究所
(SFMI)
JICA
Son La Processing
of Forest Products
and Construction
Co.,Ltd (ソンラ省
の木材加工法人)
Yen Bai 省、Hoa
Binh 省の製材工
場、単板工場
ソンラ省の住宅建
設中現場(大工)
向けだけでなく、国内需要でも適用したい。
コミュニティフォレストでも取得しようとしている地域
がある。FAおなどが取得のためのサポートを行な
っている。
ベトナムは天然林が少なく、植林を推進している国
であり、植林を REDD+の対象から除外すると国とし
てのメリットが少なくなる。天然林も低インパクトロギ
ングをすでに実施しており、ラオスなどへのリーケー
ジが懸念される。
ソンラ省内での植林事業は、「土壌条件が良くな
い」、「植林技術不足」、「マニュアルがない(教育が
必要)」、「勾配がきつい」、「消費地に遠い」等の理
由により適地選定が難しい。
自社製品は、ソンラ省内へ販売している。
ソンラ省には他の省から家具などが入ってくるが、
天然木の伐採規制、保護林からの持ち出し規制が
あり、ソンラ省から木材製品が出て行くことはない。
製材用の原材料は、アカシア主体。
単 板 ( コ ア 用 ) の 原 材 料 は 、 Bo de (Styrax
tonkinensis) 。 単 板 ( コ ア 用 ) の 原 料 単 価 は 、
USD40/m3程度。おが屑は 10kg袋につめて販売、
廃材は住民燃料やチップ工場向けに販売してい
る。
柱や梁などにマツが利用されている。建築構造材
の 9 割はコミュニティフォレストのものを伐採して利
用している。1 件あたり構造材で 20~30 m3ほど利
用している。
最終報告書
当初から準備しておき、伐
採が始まるときに審査を申
請する。
引き続き連絡を密に取りな
がら検討を行なう。
植林適地・樹種などを検
討する。
4.10 事業・活動の実施体制
ベトナム唯一の AR-CDM(Project 2363 : Cao Phong Reforestation Project)の実施体制に
ついて調査を行なった。ホアビン省の AR-CDM 実施組織として Forest Development
Fund(FDF)と言う NPO を立ち上げ、この Management Board は方針決定を担い、役員とし
て省人民委員会委員長、ベ
トナム林業大学(VFU)副学
長(当時)、Secretary として
VFU から Ms.Bich が就任し
ている。プロジェクトの実施
に つ い て は 、 Management
Board 内の Director と二人
の副 Director が責任を持ち、
地元の人民委員会幹部が
就任している。クレジットは
30%が農民、70%が FDF で
配分し、プロジェクトの維持・
運営や再植林に投資するこ
ととしている。プロジェクトを
実際に行なう際には同様の
<104>
H23 新メカ FS
最終報告書
実施体制が適当かどうか再度検討を行なうが、とくにプロジェクトベースの活動を行なう場合
には参考となる。
ドイツ援助で実施されている KfW7 プログラムでは、省及び県レベルの行政担当者が委
員長及び副委員長を勤める運営委員会を組織しており、プログラム実施のために有識者に
よるアドバイスを受けている。
ソンラ省林業局と協議を行なった結果、プロジェクトベースの AR-CDM 以上に地元政府
や地域コミュニティの参加が
重要であることから、下図のよ
うな運営組織が提案された。
出資者と省及び県の人民委
員会が中心となり、ベトナム
林業大学(VFU)、タイバック
大学(TBU)が技術的支援を
行なう。助言機関としてソンラ
省の林業局、森林保護局が
担当し、活動を行う現地森林
管理事務所、コミューンやコミ
ュニティ代表もプロジェクトの
運営に参加する体制をとる。
4.11 資金計画
(1) 森林管理分野
プロジェクトの 20 年目の収支(USD)は、Copia 特別利用林の植林活動費用に、
-1,718,041、保守的である 2000 年基準リファレンスシナリオでの GHG 吸収量および丸太販
売からの収入がそれぞれ 3,969,581、3,949,024、合計 6,200,564 と見積もることができた。ま
た、Ban Lam 保護林の植林活動費用に、-1,590,903、GHG 吸収量および丸太販売からの収
入がそれぞれ 1,981,411、3,656,788、合計 4,047,297 と見積もることができた。 両方合わせ
たプロジェクトの 20 年目の収支(USD)については、植林活動費用、GHG 削減量および丸
太販売からの収入とその収支はそれぞれ、USD-3,308,944、USD5,950,992、USD7,605,813、
USD10,247,861 と見積ることができた。
植林にかかるコストを GHG 吸収量からの収入が上回る結果となった。丸太販売からの収
入は伐期(14 年目)以降にしか生じないため、事業性を高く確保するためには、GHG 削減
量からの収入を早期に発生を確保する仕組みが望まれる。また、本調査では生産林造成以
外の活動費用を計上していないため、最終的な事業性の判断にはさらに詳細な調査が必
要である。
表 4.11-1 Copia 特別利用における事業収支
土地利用区分
収支 (USD/20yrs)
Cost of planting
activites (a)
1.
2.
3.
4.
森林(高密度:Rich)
森林(中密度:Medium)
森林(低密度:Poor)
植生回復
Income from
GHG reduction (b)
0
0
0
0
<105>
471,034
1,482,520
255,368
-75,577
Income
timber (c)
from 収支 balance
(b)+(c)-(a)
0
471,034
0
1,482,520
0
255,368
0
-75,577
H23 新メカ FS
5. 草地
6. 水域およびその他
7. 裸地
8-1. 植林地・保護林
8-2. 植林地・生産林 Pinus
最終報告書
0
0
0
0
-4,077
0
-32,256
0
0
0
0
0
-4,077
0
-32,256
0
massoniana
-707,429
880,674
813,880
987,125
tonkinensis
Total (A)
-1,010,612
991,895
3,135,144
3,116,427
-1,718,041
3,969,581
3,949,024
6,200,564
8-2. 植林地・生産林 Styrax
表 4.11-2 Ban Lam 保護林における事業収支
収支 (USD/20yrs)
土地利用区分
Cost of planting
activities (a)
1. 森林(高密度:Rich)
2. 森林(中密度:Medium)
3. 森林(低密度:Poor)
4. 植生回復
5. 草地
6. 水域およびその他
7. 裸地
8-1. 植林地・保護林
8-2. 植林地・生産林 Pinus
Income from GHG Income
reduction (b)
timber (c)
from 収支 balance
(b)+(c)-(a)
0
75,996
0
171,726
0
34,376
0
-7,577
0
-2,233
0
0
0
-24,871
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
75,996
171,726
34,376
-7,577
-2,233
0
-24,871
0
massoniana
-655,078
815,502
753,651
914,076
tonkinensis
Total (B)
-935,825
918,493
2,903,137
2,885,805
-1,590,903
1,981,411
3,656,788
4,047,297
8-2. 植林地・生産林 Styrax
表 4-11-3
プロジェクト全体の収支
Grand Total (A+B)
Cost of planting
activities (a)
(USD/20yrs)
Income from GHG Income from timber Balance
reduction (b)
(c)
(b)+(c)-(a)
-3,308,944
5,950,992
7,605,813
10,247,861
(2) バイオマス利用分野
本プロジェクトの資金計画、収益性については、以下の通り想定している。
<試算条件>
•
初期投資:USD13.5.百万(発電設備のみ)
•
購入電力単価:USD57/MWh(工業用平均)
•
発電容量:5MW
発電効率:20%
•
年間発電量:43,800MWh/yr(24hr/day、365days/yr)(内、所内電力 8,760MW を含む)
•
燃料:林地残材・廃材を 100%利用(燃料価格を USD0/t とする)
•
燃料発熱量:3,726kcal/kg(IPCC ガイドライン換算値) 燃料消費量:50,548t/yr
<試算結果>
•
発電コスト:USD 54.4/MWh(クレジット価格USD5/t-CO 2 とした場合)
USD 56.3/MWh(クレジット価格含まず)
<106>
H23 新メカ FS
最終報告書
上記条件で試算すると EVN の売電単価(USD57/MWh)と同水準となるが、これはあくま
でも燃料コストをゼロとした場合であり、プロジェクトの実現性は低い。プロジェクトの実現性
を高めるためには、現在の EVN の売電単価では、資金調達において公的な補助や優遇策
を得ることが前提となる。しかし今後、EVN の売電単価が PDP7 の計画通り、2015 年まで
に¢7.5/kWh まで上がる場合、自己資金による事業実施の可能性が高まる。プロジェクト
の実施に必要な資金調達においては、公的な補助や優遇策を受けることを前提とする
が、今後、EVN の売電単価が PDP7 の計画通り、2015 年までに¢7.5/kWh、2020 年ま
でに¢9/kWh まで上がる場合、IRRがベンチマーク指標となりうるベトナム中央銀
行の基準金利(9.0%)を上回る可能性もでてくるため、事業実施の可能性が高まる。
4.12 日本製技術の導入促進方策
日本あるいは日本企業が有する持続的森林経営のノウハウや植林技術が適用可能であ
る。とくに森林認証など環境や社会性に配慮したマネジメントは木材の価値を最大化するた
めに有効である。
また、ベトナム北西部の地形は日本と類似している点があり、日本の低コスト低環境負荷
伐採搬出技術が適用できる。例えば、路網は、造林、保育、素材生産等の施業を効率的に
行うために最も重要な生産基盤であり、また、作業現場へのアクセスの改善や災害時の緊
急搬送等により、林業の労働条件の向上等にも寄与するものとして位置づけられている。我
が国においては、地形が急峻であること等により、路網の整備が十分には進んでおらず、今
後本格的な伐採時期を迎えるにあたって森林の整備や木材生産の効率化に必要な路網と
林業機械を組み合わせた作業システムの構築が進められている。このような林道の設計手
法の技術や路網開設等に必要な技術、人材等、我が国林業の経験とノウハウを活用するこ
とができる。
林業の機械化の促進に関して、木材素材生産の生産性向上には、立木の伐倒(伐木)、
木き寄よせ、枝払い・玉たま切きり(造材)、林道沿いの土場への運搬(集材)などの工程ごと
に、林業機械を有効に活用することが求められる。我が国では昭和 60 年代(1980 年代半
ば)に高性能林業機械の導入が始まり、現在、プロセッサ、ハーベスタ、フォワーダが普及し
ている。ベトナム北西部に類似した、我が国の森林や地形等の条件に適応した高性能林業
機械と、これらを組み入れた効率的な作業システムは、将来、当該地域の林業が盛んとなっ
た際には、林業の効率化と高付加価値化に資するであろう。また、我が国の重機、林業機
械、人材等を活用する機会ともなり得る。生産される木材に対しては、加工技術、市場ニー
ズに合わせた木材製品の生産技術が採用され、日本の林業機械や林業技術が幅広く適用
可能である。
バイオマス発電設備について、海外における発電容量 10MW 規模のバイオマス発電設
備の基礎工事込費用の目安は、日本企業アレンジの場合、5 億円/MW、中国企業アレンジ
の場合、1.5 億円/MW、発電効率は、前者 26%、後者 30%と言われている。日本企業の取り
扱うボイラーは、日本の排ガス規制をクリアーでき、環境に配慮されたボイラー及び付帯設
備であり高価である。全てを日本製にすると投資金額が大きくなり、採算性を確保するのが
難しくなる可能性がある。まずは、可能な限り設備機器等の内容を確認、比較したい。
<107>
H23 新メカ FS
最終報告書
コラム 森林・林業経営を軸とした日本の地域振興事例(岩手県住田町)
岩手県住田町は「森林林業日本一のまちづくり」を掲げ、豊富な森林資源を活かした素材生産、
木材加工・供給、住宅建設、木質バイオマス利用など、川上から川下までのトータルな林業振興を
官民一体となって推進している。とくに、森林・林業経営を核と位置付け、FSC 森林認証の取得を
実現するなど、林業を機軸とした地域振興の優良事例と言える。東日本大震災の直後に建設、提
供された木造の仮設住宅には、多くの関心が寄せられ、設計図は「全国の林業地域で活用される
ことが災害復旧対策として重要」との観点から、希望者に無料で提供されている。また、幅広い世
代の方たちに自然と触れ合い、森林の大切さを知ってほしいという想いから森林環境教育にも力
を入れており、地元の住民が『森の案内人』となる指導者養成プログラムを実施している。ベトナム
北西部のモデルとしてふさわしい日本の自治体の取り組みである。
住田町の美しい山林
東日本震災後建てられた木造の仮設住宅
木材産業、加工設備について、雇用機会の創出を念頭に置くが、製品品質のポイントと
なる工程の機械は、できるだけ数を減らし管理し易くする目的で、生産効率の高い日本製機
械設備(なければ欧州製等)の導入を前提とし、必要発電容量を推定する。
バイオマス発電設備について今回調査した結果、海外における発電容量 10MW 規模の
バイオマス発電設備の基礎工事込費用の目安は、日本企業アレンジの場合、3 億円/MW、
中国企業アレンジの場合、1.5 億円/MW、発電効率は、前者 23%、後者 30%という情報を入
手する事ができた。日本企業のアレンジする設備は高価であるが、日本の排ガス規制をクリ
アーし、環境に配慮されたボイラー及び付帯設備であり、安定した品質の電力を長期連続し
て生産できる実績が確認されている。実際に設備投資を検討する際には、中国企業アレン
ジの設備に関する実績を確認する必要がある。
木材産業、加工設備について、雇用機会の創出を念頭に置くが、製品品質のポイントと
なる工程の機械は、できるだけ数を減らし管理し易くする目的で、生産効率の高い日本製機
械設備(なければ欧州製等)の導入を前提とする。
事業実施に際する設備導入については、優遇策をうまく利用しながら投資金額を可能な
限り抑え、維持管理費、メンテナンス、稼働率等、機械設備を総合的に評価し、その導入の
可否について検討すべきである。
<108>
H23 新メカ FS
最終報告書
4.13 今後の見込み及び課題
(1) ベトナム側の状況の認識
UNREDD プロジェクトを 6 省で開始(北西部では Lao Cai 省が対象)し、Phase2 に以降す
る段階にあり、世界的には準備が進んでいる国と言える。また、REDD+に対する国レベルの
組織は確立されている。植林面積を拡大し森林保全を推進する方針があり、植林プログラム
は規模縮小ながら継続する見込みである。輸入木材に依存しており、国産材の利用と高付
加価値化を推進したい意向がある。
(2) 地元ソンラ省の状況
REDD+のパイロットプロジェクトには指定されていないが、森林面積の増大、植林の実施、
保護林から生産得林への転換、木材産業の育成の方針があり、海外を含む民間投資・支援
への強い期待がある。また、水源涵養としての森林造成の重要性への認識は高い。さらに、
森林環境サービス支払制度(PEFES)が実施されており、環境サービス支払いのスキームと
経験がある。
トウモロコシ、陸稲、キャッサバ等焼畑栽培が盛んである。一方、ゴム植林やコーヒー栽培
が拡大しており、定地型農業への移行する可能性もある。
木材の需要に関しては、住宅建設のための木材、薪採取等を目的とした森林伐採が進ん
でいる。コミュニティフォレストの劣化が問題となっており、管理強化の必要性が求められて
いる。同時に、管理強化イコール違法伐採の抑制だが、旺盛な地元の木材需要を満たす対
策が必要である。国境地域、少数民族地域での事業実施は様々な困難が予想される。
ソンラ省東部(Hoa Binh 省や Yen Bai 省に隣接する地域)は早生樹(アカシア、ユーカリ)
植林がビジネスとして進む可能性がある。それ以外の地域は運送コスト、地形や自然条件が
悪いこと、インフラ(とくに道路)の未整備、土地のアロケーションが済んでいる(少数民族問
題)等の理由により BAU での植林事業実施は現状では困難とみる。
植林へのニーズ、期待は高いものの、ビジネスとして植林事業への投資判断はしにくい状
況にある。
(3) REDD+プロジェクト、二国間メカニズムとしての課題
国際交渉での進展あるものの、今後の動向はまだ不透明な状況にある。参照レベルの設
定の方法が決まっていない、MRV の仕組みがない等の理由で実際に得られる排出削減量
(排出権の量)が算定できる状況にない。国あるいは準国レベルで実施する REDD+は民
間企業が単独でハンドリングできる性質のものではない可能性がある。また、炭素がベトナ
ム政府に帰属する可能性もある。
天然林が残る Copia 特定利用林の森林は保護が目的のため伐採ができない。木材利用
目的の投資は考えられない。伐採ができない場合、事業性が悪化する。また、収入が得られ
ない保護林は地域住民ニーズを満たさない可能性があり、伐採圧力が将来にわたって高く
維持される可能性があり、長期事業リスクと判断される。
これまでの森林政策の影響で森林面積は増加傾向にあり、得られる排出権が少量しか認
められない可能性がある。また、森林劣化は進んでいるとみられるが証明が技術的に難しい
という課題がある。また、他の森林保全プログラムが走っており、プロジェクトで実施した活動
による GHG 削減量との関連性の定量化が難しく、クレジットの配分が難しい。
(4) 今後の進め方方針(案)
上記の状況を踏まえ、前提を整理すると次の通りである。
・北西部の植林は広大な土地があり、ポテンシャルは非常に高い。
<109>
H23 新メカ FS
最終報告書
・環境面、社会面から植林による REDD+活動を推進する意義は高い。
・営利目的とした投資判断をするにはまだ環境が整っていない。
そこで、今後の進め方として、小規模パイロットプロジェクト(PP)の実施を目指すことを提
案したい。これは、二国間 REDD+制度が確立されるまでの準備活動として実施するもので、
制度構築や日越の協議・交渉に貢献する活動として位置付ける。当面、社会貢献活動とし
て実施を目指すものの、二国間メカニズム制度が我が国とベトナムの間で成立したときには
活動に応じた排出削減量の配分を求めていく。
スケジュール(案)
2012 年度
PP 実施準備、実施体制、許認可、受け入れ側体制整備、PDD 作成、出資者募集・調整
2013 年度
PP 開始(10 年、5 年×2 期程度)
現地政府及び関係機関は REDD+の仕組み等基本的な事項を理解していないので、キ
ャパシティビルディングとして受け入れ側の体制整備とあわせて、基本的知識や森林保全の
意義等について教育を行なう。このとき豊富な知見とノウハウを有する JICA と密接な連携を
取りながら活動を行うことが必要である。PP は社会貢献型民間連携のスキームを活用して実
施する。また、デモンストレーションプロジェクトとして、ベトナム政府の承認を得なが進めるこ
とが求められる。また、森林管理分野における。今後の課題を下表にまとめる。パイロットプ
ロジェクトの実施を通じて明らかにしていくことができる。
課題
植林以外の森林保全を実
現するために必要な実施
項目等に係る費用の調査
プロジェクトサイトにおける
土地利用デザインの構築
地位の検証
対象樹種の多様化と植林
技術開発
現状と課題
活動が多岐に渡り、また、事業性を検討するデータがない。
Bareland/Grass を対象としているが、必ずしも行政による区分と同一ではな
く、実際の植林対象地は行政による区分と一致している必要がある。
また、地域の住民は放牧、焼畑で生計を立てていることが分かっており、そ
の利用活動と競合しないようなグランドデザインの構築が不可欠である。
当該地域には地位(林業における土地の肥沃度)に関する知見が皆無であ
る。森林の成長量は地位に依存するため、この知見の収集(もしくは試験林
のモニタリングによる検証)が望まれる。
未利用樹種の中に有望な樹種を多く確認している
こうした樹種の開発によって、同齢一斉林のみでなく、種の多様性を担保し
た植林事業の展開が期待できる。
また、天然(下種/萌芽)更新する樹種を用いた省力化造林技術の開発も、
本プロジェクトでは有効な手段となることが期待される。
バイオマス利用分野については、本事業では原料確保が確実となった後、木材加工工場
の実現可能性について検討することができる。そのためにソンラ省含めた北西部で原材料
及び、燃料が安定的に調達できるエリアを特定できるかどうかが一つの課題となる。その後、
原材料及び燃料の安定調達条件を精査しながら、木材加工工場及び、バイオマス発電の
実現可能性を検討することになる。そのために、北西部の森林保全・開発計画、植林プロジ
ェクト及び、木材加工工場建設計画の進捗を把握する必要がある。
<110>
H23 新メカ FS
最終報告書
5 コベネフィットに関する調査結果
5.1 背景
本プロジェクトにおいては、環境十実性の確保の観点から生物多様性の保全が極めて重
要であり、前述の通りベトナム政府の森林関連施策の中では、生物多様性の保全が重視さ
れている。特に、生物多様性の保全に関する法令や行動計画を策定し、政府が主導的に
生物多様性保全の活動を進めているところである。
他方、REDD+活動は、生息環境の保全の効果を有しており、これを適切に実施すること
で生物多様性のコベネフィットが創出され、生物多様性の高い場所での活動実施は、特に
その効果が高くなる。「生物多様性と気候変動に関するアドホック技術専門家グループ」に
おいては、「(REDD+活動を)生物多様性の価値が高く、炭素蓄積も高い地域で実施するこ
とでコベネフィットを生み出す。」ことが指摘されている。本プロジェクトの対象地域は、生物
多様性の保全上重要な地域であることから、これを保全することはコベネフィットの創出の観
点からも重要と言える。
そこで、本プロジェクトのコベネフィットとして生物多様性を取り上げ、具体的な評価方法
を検討した。
5.2 ホスト国における環境汚染対策等効果の評価
ここでは、本プロジェクトにおける生物多様性への配慮事項を検討すると共に、具体的な
活動としての生物多様性モニタリングの考え方、さらにこれらの活動の効果を示す。
<生物多様性への配慮事項案>
① 当該国の法令、ガイドラインの遵守
② 土地利用の空間配置・計画、変化の方向性
③ 生物多様性への影響が現れるまでの時間差への配慮
④ 適正な時間枠の検討
⑤ 地域コミュニティの生活、地域の経済活動への配慮
<生物多様性のモニタリングの方針>
森林の生物多様性の指標については、従来から多くの研究が行われると共に、
Biodiversity Indicators Partnership(BIP)等の生物多様性指標に関する枠組みにおいても
開発、整理が行われている。次表に生物多様性指標の分類を示す。
表 5-1 生物多様性指標の分類
分類
系統に基づく多様性指標
人為的影響の指標
構造に基づく多様性指標
概要
生物が進化した系統を基に開発された指標であり、指標種の存在
や種の多様性、種の固有性、希少性などが挙げられる。
人間活動の程度を示す指標であり、人間活動領域からの距離や
土地利用の強度などにより説明される原生度などが挙げられる。
森林の構造に基づく指標であり、林分構造の複雑性、不均質性、
連続性、面積、蓄積量などが挙げられる。これらは森林生態系の
持続性を表現できる。
(出所:D.B.Lindenmayer et al. 1991, UNEP-WCMC. 2001)
生物多様性の評価は対象地域のスケールや評価対象・指標により技術的・コスト的に容
易でないケースも想定されることから、効果的かつ効率的な生物多様性のモニタリング方針
を決める必要がある。そのため、REDD+において必要となる炭素蓄積のモニタリングと合わ
せて実施可能なモニタリング対象、方法をできるだけ採用することが重要である。
<111>
H23 新メカ FS
最終報告書
以下に、生物多様性モニタリングの基本方針を示す。

対象地域の生息種
指標種や種の多様性など、系統に基づく指標や、林分構造に関する指標は、対象地
域に生息する生物種により異なる。対象地域の生息種を考慮して適切な指標を選定す
る必要がある。特に、プロジェクトの開始時点における状況を、既存情報も使い出来
るだけ正確に把握した上で、重要性の高い指標を選定することが望ましい。

対象地域及び周辺の土地被覆と人為活動の状況
対象地域及び周辺の土地被覆状況は人為的影響の推定に重要であるだけでなく、森
林の分断状況や面積など森林の構造を把握する要素である。対象地域における薪炭材
採取や拓伐等の人為活動の状況については、林分構造や原生度の観点から生物多様性
の現況とその低下への圧力を推定する重要な要素である。これらを考慮した上で、モ
ニタリングの重要性の高い評価指標を選定する必要がある。

当該国の法令・ガイドライン
当該国の生物多様性保全に関する国内法やガイドラインに示されている生物多様
性保全の方針や特に示されている保護対象の生息種等を考慮して、具体的な評価指標
を選定する必要がある。

当該国のモニタリング技術レベル及びコスト、データ整備状況
当該国におけるモニタリング技術のレベルや必要とされるコスト、さらに生物多様
性の評価に資するデータの整備状況の観点から、現実的に評価可能な指標を選定する
必要がある。REDD+において必要となる森林減少・劣化ドライバーや抑止策、森林
炭素のモニタリングに適用する手法等を踏まえ、そこから抽出可能な指標や、追加可
能な手法によって得られる指標を選定することが望ましい。
<具体的な実施方法>
本プロジェクトにおいて想定されるモニタリング指標と評価方法を以下に示す。ま
た、その概要を表に示す。

森林面積
炭素蓄積量の評価に適用されている森林変動マトリクスの考え方を踏まえ、土地利
用区分ごとの森林面積変化を把握する。そこで、森林及び植生回復エリア全体の面積
評価に加え、プロジェクト開始時とモニタリング実施時において土地被覆区分間の面
積の移動が生物多様性に寄与する変化であったかどうかを評価する。すなわち、以下
の面積変化を評価する。
 非森林から森林・植生回復への変化量
 森林(低密度)から森林(中・高密度)への変化量
 森林(中密度)から森林(高密度)への変化量
また、森林及び植生回復の土地利用区分には、自然林と植林が含まれるが、生物多
様性への貢献の観点では自然林の方が有効であることから、森林面積に関するもう一
つの評価指標として、「自然林の面積の増加量」が挙げられる。但し、自然林と植林
の分類については、本調査において検討していないことから、実施可否や具体的な手
<112>
H23 新メカ FS
最終報告書
法についての技術的検討が今後必要である。検討に当たり、自然林と植林の双方に関
する調査プロットの設定が必要となる。

森林の連続性
衛星画像による森林の面積評価に加え、森林の連続性についても評価を行う。プロ
ジェクト開始時と比べて、モニタリング実施時に、連続する森林面積が拡大している
ことを確認する。具体的な評価の観点は以下の通りである。
 森林・植生回復のエリアが連続しているかどうか
 森林(低密度・中密度・高密度)が連続しているかどうか
 森林(中密度・高密度)のエリアが連続しているかどうか
 森林(高密度)のエリアが連続しているかどうか

希少種、固有種、種の多様性
炭素蓄積量評価において実施する毎木調査の際に、樹種の調査及び、低木・灌木や
下層植生の調査を実施し、種の多様性や希少種・固有種について評価する。具体的な
評価方法は以下の通りである。
 全体の種数と個別の種の出現頻度
 希少種数とその出現頻度
 固有種数とその出現頻度
本調査の実施に当たっては、調査プロットを対象地域内に分散させることが望まし
いが、状況に応じ、トランセクト調査を実施することで、対象地域の全体傾向を補完
することも想定される。
表 5-2
指 標
生物多様性モニタリングの指標と方法
モニタリング手法
森林面積
衛星画像解析
森林の連続性
衛星画像解析
種の多様性
希少種
固有種
現地調査
評価の観点
土地被覆区分(森林区分)ごとの面積変化の評価
・ 森林・植生回復エリアの面積増加量
・ 非森林→森林・植生回復への変化量
・ 森林(低密度)→森林(中・高密度)への変化量
・ 森林(中密度)→森林(高密度)への変化量
森林が連続しているかどうかの評価
・ 森林・植生回復の連続性
・ 森林(低・中・高密度)の連続性
・ 森林(中・高密度)の連続性
・ 森林(高密度)の連続性
種数及び種ごとの出現頻度の評価
・ 種全体の数・出現頻度
・ 希少種の種数・出現頻度
・ 固有種の種数・出現頻度
なお、生物多様性モニタリングの実施方法としては、「専門家によるモニタリング」と
「参加型モニタリング」の 2 つの方法論がある(T.Pistorius et al., 2010)。本プロジ
ェクトにおいては、現在協力関係にある千葉大学、ベトナム林業大学の有識者による
「専門家によるモニタリング」の実施が可能である。加えて、地域住民による「参加
型モニタリング」を実施することで、地域住民の雇用創出や生物多様性に関する教育
<113>
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最終報告書
に繋がることが期待される。特に、PES と連携した制度設計も想定される。
<活動の効果>
活動の効果としては、森林修復対象面積の内の保護対象地域において生物多様性の増
加が見込めることから、ソンラ省において目標としている森林面積の比率(「2015 年までのソ
ンラ省森林保全・開発計画及び 2020 年までの方針」:森林修復面積 180,000ha、内保護林
面積 88,208ha)を参照し、およそ 50%程度のコベネフィット(生物多様性)の増加が期待され
る。
6 持続可能な開発への貢献に関する調査結果
持続可能な開発への貢献については、ベトナム政府もしくはソンラ省における持続可能
な開発に関する施策や計画に資する活動を行うことが求められる。以下に、本活動におい
て貢献できる施策・計画等を示す。
ベトナムにおける森林に関する開発戦略として、Vietnam Forestry Development Strategy
(2006-2020) が公表されている。本文書は、従前の Vietnam Forestry Development Strategy
(2001-2010) をもとに作成され、Ministry of Agriculture and Rural Development (MARD) に
より承認されたものである。
本文書においては、林業開発の視点として、以下の 4 つが示されている。
1. 林業開発は、管理、保全及び適切な資源利用を統合するものであり、植林及び再植林に始ま
り、伐採し、森林生産物や環境サービス、エコツーリズム等を行うものである。
2. 林業開発は、経済成長、貧困削減及び環境保全に重大な貢献をするものである。
3. 森林の持続的な管理、利用及び開発は、林業開発の基礎となる。
4. 林業開発は、迅速かつ社会活動と深い関係を有する政策であり、森林の保全及び開発に関
する投資資源を引き寄せるものである。
また、目標として 16.24 百万 ha の林業用途に計画された土地を、持続的に管理、保全、
開発及び使用することを掲げている。森林面積を 2010 年までに 42~43%、2020 年までに
47%の割合で増加させるとしている。そのためのタスクとして、経済的な課題、社会的課題、
環境面での課題を提示している。
本プロジェクトは、植林による森林面積の増加、天然林・生産林・コミュニティフォレスト等
の区分による森林管理と天然林の保全を実施すると共に、地域住民の収入源を提供するこ
とで、持続的な開発を行うものであり、Vietnam Forestry Development Strategy の視点、目的
に合致するものである。
ベトナム政府の推進している 500 万 ha 国家植林計画などの施策・計画を鑑み、本プロジェク
トは、植林による森林面積の増加、天然林・生産林・コミュニティフォレスト等の区分による森
林管理と天然林の保全を実施すると共に、地域住民の収入源を提供することで、持続的な
開発を行うものであり、Vietnam Forestry Development Strategy の視点、目的に合致する。ま
た、500 万 ha 国家植林計画の本来の目的にも合致する一方、天然林の保全やモノカルチャ
ー化の防止、ローカルな風土に合った樹種の使用において、同計画の課題を踏まえた持続
可能な計画と言える。
<114>
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