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GDP成長率とその要因分解
1.GDP成長率と その要因分解 経済統計分析 (2016年度春学期) 到達目標 1.成長率の計算ができる 年次データだけでなく、四半期・月次などのデータについても、前年 同期比と前期比年率の成長率を、適切に使い分けて計算できる 2.構成比(シェア)の計算ができる 3.成長率を、その各構成項目の寄与度に要因分解できる 2 主な内容 (経済理論との関連) n 名目と実質、物価との関係 n GDPの三面等価 n 消費理論(恒常所得仮説、予備的貯蓄等) n 投資理論(加速度原理等) n 財政運営原理(ケインズ政策 vs 財政再建) (統計分析手法) n 成長率(年次データ、四半期データ(前年同期比と 前期比年率)) n 構成比(シェア) n 成長率の要因分解 3 名目GDPと実質GDP① (データ)内閣府「国民経済計算」 4 名目GDPと実質GDP② n 名目: 各時点の価格によるGDP =物価変動の影響を含むGDP n 実質: 基準年(ex.2005年)時点の価格によるGDP =2005年から物価が変化しなかったとした場合のGDP =物価変動の影響を取り除いたGDP n 物価(デフレータ): 基準年の価格=100として、各時点 の価格を指数化 (名目、実質、物価の関係) ¨ 名目=実質×物価 ¨ 実質=名目/物価 ¨ 物価=名目/実質 デフレータ =「デフレート(割り 算)するもの」の意 5 成長率の計算① 2014年の名目GDP = 486.9兆円 n 2015年 = 499.1兆円 ⇒ 2015年の名目GDP成 長率は? n 499.1 − 486.9 = 2.5% 486.9 6 成長率の計算② n 今期のGDPを yt, 前期のGDPを yt-1 とすると、 t 期の成長率= Δyt yt − yt −1 = yt −1 yt −1 yt = −1 yt −1 (×100%) (×100%) (注) 正負の値や0の値が混在するデータについては、成長率は定義できない 例: 在庫投資、純輸出など 7 名目成長率と実質成長率 10.0% 名目成長率 8.0% 実質成長率 6.0% 4.0% 2.0% 0.0% 81 83 85 87 89 91 93 95 97 99 01 03 05 07 09 11 13 15 -2.0% -4.0% -6.0% -8.0% (データ)内閣府「国民経済計算」 8 名目成長率、実質成長率、物価上昇率の関係 名目成長率 ≒ 実質成長率 + 物価上昇率 ※ 実際のデータで計算して確かめよ (参考)数式による確認 名目GDP(Y)、実質GDP(y)、物価(p)とすると、 Yt = yt pt ⇔ ΔYt = yt pt − yt −1 pt −1 = ( yt pt − yt −1 pt ) + ( yt −1 pt − yt −1 pt −1 ) = Δyt ⋅ pt + yt −1 ⋅ Δpt ∴ ΔYt Δyt ⋅ pt + yt −1 ⋅ Δpt = Yt −1 yt −1 pt −1 Δpt Δyt Δpt Δy pt = + ≅ + yt −1 pt −1 pt −1 yt −1 pt −1 ⎛ pt ⎞ ⎜⎜ if ≅ 1⎟⎟ ⎝ pt −1 ⎠ 9 名目成長率の要因分解(実質要因vs物価要因) 10% 物価上昇率 8% 実質成長率 名目成長率 6% 4% 2% 0% -2% -4% -6% 暦年 名目成長率 実質成長率 物価上昇率 誤差 97 2.2% 1.6% 0.6% 0.0% 98 -2.1% -2.0% -0.1% 0.0% 99 -1.5% -0.2% -1.3% 0.0% 00 1.0% 2.3% -1.2% 0.0% 01 -0.8% 0.4% -1.2% 0.0% 02 -1.3% 0.3% -1.6% 0.0% 03 -0.1% 1.7% -1.7% 0.0% 04 1.0% 2.4% -1.4% 0.0% 05 0.0% 1.3% -1.3% 0.0% 06 0.6% 1.7% -1.1% 0.0% 07 1.2% 2.2% -0.9% 0.0% 08 -2.3% -1.0% -1.3% 0.0% 09 -6.0% -5.5% -0.5% 0.0% 10 2.4% 4.7% -2.2% -0.1% 11 -2.3% -0.5% -1.9% 0.0% 12 0.8% 1.7% -0.9% 0.0% 13 0.8% 1.4% -0.6% 0.0% 14 1.6% 0.0% 1.7% 0.0% 15 2.5% 0.5% 2.0% 0.0% -8% 81 83 85 87 89 91 93 95 97 99 01 03 05 07 09 11 13 15 (データ)内閣府「国民経済計算」 10 要因分解の計算方法(掛け算・割り算の場合) At = Bt ⋅ Ct At = Bt / Ct ⇔ ΔAt ΔBt ΔCt ≅ + At −1 Bt −1 Ct −1 ⇔ ΔAt ΔBt ΔCt ≅ − At −1 Bt −1 Ct −1 (例) n 名目GDP = 実質GDP × 物価 ⇔ 名目成長率 ≒ 実質成長率 + 物価上昇率 n 輸出額(円) = 輸出量 × 輸出価格(ドル) × 為替レート ⇔ 輸出額伸び率 ≒ 輸出量伸び率 + ドル建価格変化率+ 為替変化率 n 労働生産性 = 生産額 / 雇用者数 ⇔ 労働生産性上昇率 ≒ 生産伸び率 - 雇用者数伸び率 11 GDPと三面等価の法則 n 三面等価の法則 ¨ 生産=所得=支出 n 支出面から見たGDP・・・需要項目別の分解 ¨ IS方程式 Y = C + I + G + (X - M) GDP 消費 投資 政府支出 輸出 輸入 民需 公需 外需 12 GDPの需要項目別構成比(シェア) 13 構成比(シェア)の計算 n n個の要素{x1, x2, …, xn}のうちj番目の要素xj が、全体Xに占める割合(構成比・シェア)は、 xjのシェア = = xj (×100%) X xj (×100%) n ∑x i i =1 14 GDPの需要項目別構成比の推移 (データ)内閣府「国民経済計算」 15 GDPの需要項目別内訳の推移 n GDPの成長はどの需要項目が増えたからか? (データ)内閣府「国民経済計算」 16 主な需要項目別の成長率① 民需 (データ)内閣府「国民経済計算」 17 主な需要項目別の成長率② 公需 (データ)内閣府「国民経済計算」 18 主な需要項目別の成長率③ 外需 (データ)内閣府「国民経済計算」 19 GDP成長率の要因分解(民公外需別) (データ)内閣府「国民経済計算」 20 (参考)GDP速報記事 日本経済新聞 2015.2.16夕刊 21 GDP成長率の要因分解(民需内訳) (データ)内閣府「国民経済計算」 22 要因分解の計算方法 yt = ct + it + g t + xt − mt -) [ IS恒等式 ] yt −1 = ct −1 + it −1 + g t −1 + xt −1 − mt −1 [前年のIS恒等式 ] Δyt = Δct + Δit + Δg t + Δxt − Δmt 両辺をyt-1で割る 民需寄与 公需寄与 外需寄与 Δyt Δct Δit Δg t Δxt Δmt = + + + − yt −1 yt −1 yt −1 yt −1 yt −1 yt −1 GDPの 成長率 = Δct ct −1 Δit it −1 Δg t g t −1 Δxt xt −1 Δmt mt −1 ⋅ + + + − ct −1 yt −1 it −1 yt −1 g t −1 yt −1 xt −1 yt −1 mt −1 yt −1 消費の 伸び率 消費のGDPに 投資の 占めるシェア 伸び率 投資の シェア ・・・・・・ 23 要因分解の計算方法(足し算・引き算の場合) At = Bt + Ct − Dt ΔAt ΔBt ΔCt ΔDt = + − ⇔ A At −1 At −1 At −1 t −1 A の成長率 B 要因 C 要因 D 要因 ΔBt Bt −1 ΔCt Ct −1 ΔDt Dt −1 = + − Bt −1 At −1 Ct −1 At −1 Dt −1 At −1 D の成長率 C の成長率 B の成長率 B のシェア C のシェア D のシェア (例) n 利益 = 売上高 - 原価 - 人件費 n 売上高 = A支店の売上高 + B支店の売上高 + C支店の売上高 24 要因分解の計算方法(応用:加減乗除混在の場合) At = Bt + Ct ⋅ Dt − Et / Ft X t = Ct ⋅ Dt , Yt = Et / Ft と置くと At = Bt + X t − Yt ⇔ ΔAt ΔBt Bt −1 ΔX t X t −1 ΔYt Yt −1 (足し算・引き算の = + − 要因分解) At −1 Bt −1 At −1 X t −1 At −1 Yt −1 At −1 ΔX t ΔCt ΔDt ΔYt ΔEt ΔFt (掛け算・割り算の要因分解)を用いて ≅ + , ≅ + X t −1 Ct −1 Dt −1 Yt −1 Et −1 Ft −1 ΔAt ΔBt Bt −1 ⎛ ΔCt ΔDt ⎞ X t −1 ⎛ ΔEt ΔFt ⎞ Yt −1 ⎟⎟ ⎟⎟ ≅ + ⎜⎜ + − ⎜⎜ − At −1 Bt −1 At −1 ⎝ Ct −1 Dt −1 ⎠ At −1 ⎝ Et −1 Ft −1 ⎠ At −1 ΔB B ΔCt Ct −1 ⋅ Dt −1 ΔDt Ct −1 ⋅ Dt −1 ΔEt Et −1 / Ft −1 ΔFt Et −1 / Ft −1 = t t −1 + + − + Bt −1 At −1 Ct −1 At −1 Dt −1 At −1 Et −1 At −1 Ft −1 At −1 B 要因 C 要因 D 要因 E 要因 F 要因 25 成長率と要因分解から見た 日本の景気循環の特徴 n 本格的な景気の回復には 民需の回復 が必要 n 消費は景気の変動に対して 比較的安定した 動き(cf. 恒常 所得仮説) =景気の変動を抑えるアンカー的役割 n 設備投資は、景気と 同方向に激しく変動 (cf. 加速度原理) =日本の景気変動の 最大の犯人 n 在庫投資は、GDPに占めるシェアは 極小 だが、その変動は 時に成長率に 無視できない影響 を与える n 公需は、90年代は比較的景気と 反対方向への 動き(cf. ケ インズ政策)、00年代は若干のマイナス寄与(cf. 財政再建) n 外需は、輸入が景気と 同方向に 動く(※なぜ?)⇒景気回 復のきっかけとはなり得るが 持続的回復 の要因とはなりに くい 26 GDP成長率(四半期): 原系列と季節調整済系列/前年同期比と前期比年率① 27 原系列と季節調整済系列(実質GDP) (データ)内閣府「国民経済計算」 28 季節変動の例 チョコレート の消費金額(1世帯あたり) 1,200 (円) 2006年 2005年 2004年 2003年 1,000 800 600 400 200 0 1月 2月 3月 (データ)総務省「家計調査」 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 29 前年同期比と前期比年率の計算 n 前年同期比 (四半期データの場合) yt − yt − 4 yt 前年同期比 = = −1 yt − 4 yt − 4 n 前期比年率 (×100%) (四半期データの場合) yt − yt −1 yt 前期比 = = −1 yt −1 yt −1 (×100%) 4 4 ⎛ yt − yt −1 ⎞ ⎛ yt ⎞ ⎟⎟ − 1 前期比年率 = ⎜⎜ + 1⎟⎟ − 1 = ⎜⎜ (×100%) ⎝ yt −1 ⎠ ⎝ yt −1 ⎠ yt − yt −1 ≅ ×4 (×100%) (簡略法) yt −1 30 実質GDP成長率(四半期): 前年同期比と前期比年率② (データ)内閣府「国民経済計算」 31 前年同期比と前期比年率の使い分け n 前年同期比=過去1年間の傾向的・平均的な動 きを見る場合に用いる n 前期比年率=直近の動きを見る場合に用いる (参考)前年同期比と前期比年率の関係 前年同期比≒過去1年間の前期比年率の平均 ※ 実際のデータで確認せよ 32 需要項目別成長率(前年同期比)① 民需 (データ)内閣府「国民経済計算」 33 需要項目別成長率(前年同期比)② 公需 (データ)内閣府「国民経済計算」 34 需要項目別成長率(前年同期比)③ 外需 (データ)内閣府「国民経済計算」 35 要因分解の計算方法(前年同期比) yt = ct + it + g t + xt − mt [ IS恒等式 ] yt − 4 = ct − 4 + it − 4 + g t − 4 + xt − 4 − mt − 4 -) [前年のIS恒等式 ] Δ 4 yt = Δ 4 ct + Δ 4it + Δ 4 g t + Δ 4 xt − Δ 4 mt 両辺をyt-4で割る 民需寄与 公需寄与 外需寄与 Δ 4 yt Δ 4 ct Δ 4it Δ 4 g t Δ 4 xt Δ 4 mt = + + + − yt − 4 y t − 4 y t − 4 yt − 4 yt − 4 yt − 4 GDPの 前年同期比 成長率 = Δ 4 ct ct − 4 Δ 4it it − 4 Δ 4 g t g t − 4 Δ 4 xt xt − 4 Δ 4 mt mt − 4 ⋅ + + + − ct − 4 yt − 4 it − 4 yt − 4 g t − 4 yt − 4 xt − 4 yt − 4 mt − 4 yt − 4 消費の 消費の 投資の 投資の 前年同期比 GDPに 前年同期比 GDPに ・・・・・・ 伸び率 占めるシェア 伸び率 占めるシェア 36 GDP成長率(前年同期比)の要因分解 (データ)内閣府「国民経済計算」 37 民需寄与の内訳 (データ)内閣府「国民経済計算」 38