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博士論文 カーボンナノチューブ表面改質技術を用いた コンポジット材料の

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博士論文 カーボンナノチューブ表面改質技術を用いた コンポジット材料の
博士論文
カーボンナノチューブ表面改質技術を用いた
コンポジット材料の開発
平成28年3月
西村 直之
岡山大学大学院
自然科学研究科
目次
1. 序論
1.1 概要:炭素材料
1.2 繊維状炭素系材料に関して
1.3 CNT を用いた工業製品実用化の現状
1.4 CNT を用いたセラミックス複合材料
1.5 参考文献
2.カテキン含有天然物系分散剤を用いたカーボンナノチューブ/アルミナセラミックスの試作
2.1 CNT の分散凝・集分散剤に関わるこれまでの研究
2.1.1 CNT の分散に係るこれまでの研究
2.1.2 CNT/アルミナ繊維強化複合体に関わる研究
2.2 カテキン含有天然物系分散材を用いたアルミナ/CNT 複合体の研究
2.2.1 カテキン含有天然物系分散材を用いた CNT の分散に関わる研究
2.2.2 カテキン含有天然物系分散材を用いた CNT/アルミナ複合体の作製
2.2.3 カテキン含有天然物系分散材を用いた CNT/アルミナ複合材料の評価
2.3 まとめ
2.4 参考文献
3.各種分散剤を用いた CNT 分散水溶液の検討
3.1 諸言
3.2 実験方法
3.2.1 CNT 水系分散溶液の作製
3.2.2 分散剤吸着量の定量
3.2.3 パルス NMR による分散剤の評価
3.2.4 振動粘度測定法による粘度測定 3.2.5. 多検体遠心沈降分析法による分散性の評価
3.3 結果及び考察
3.3.1. 界面活性材吸着量の定量
3.3.2 パルス NMR による分散剤の評価
3.3.3 CNT 分散水溶液の粘度評価と吸着量、パルス NMR との相関性
3.3.4 水溶液中における分散性の評価
3.4 まとめ
3.5 参考文献
I
4. CNT 表面に吸着した分散剤とアルミニウム成分の相互作用
4.1 緒言
4.1.1 CNT/アルミナ複合材料の研究と界面構造
4.1.2 CNT/アルミナ複合材料を作製する前駆体の構造
4.1.3 使用する分散剤の官能基の検討
4.2 実験方法
4.2.1 電位差滴定法によるアルミニウムイオンとの反応性評価方法
4.2.2 pH シフト法によるアルミニウムイオン等との反応性評価方法
4.2.3 pH シフト法により作製した CNT/アルミニウムイオン複合材料の形態に係
る解析方法
4.3 結果及び考察
4.3.1 電位差滴定法によるアルミニウムイオンとの反応性評価
4.3.2 pH シフト法によるアルミニウムイオン等との反応性評価
4.2.3 pH シフト法により作製した CNT/アルミニウムイオン複合材料の形態に係
る解析
4.4 まとめ
4.5 参考文献
5.CNT/アルミナ複合材料の機械的特性に関わる検討
5.1諸言
5.1.1 概要
5.1.2 セラミックスの破壊と破壊靭性値
5.2 実験方法
5.2.1 CNT/アルミナ複合材料の焼結方法
5.2.2 焼結体の密度測定方法
5.2.3 機械的強度及び破面電子顕微鏡観察
5.2.4 破壊靭性値及びクラックの成長の電子顕微鏡観察
5.3 結果及び考察
5.3.1 焼結体の密度測定
5.3.2 機械的強度及び破面電子顕微鏡観察
5.3.3 破壊靭性値及びクラックの成長
5.4 まとめ
5.5 参考文献
6.総括
II
各論文の対外発表
7.謝辞 III
1. 序論
1.1 概要:炭素材料[1][2]
炭素はクラーク数 13 であり、自然界に 0.08%存在している。地殻中はもちろんのこと、
人間が生活する環境雰囲気では非常に高い濃度で分布している元素である。この為に自然
環境での人体の構成元素、天然物の中心元素はもとより、人工的にもプラスチック、有機
物等に活用されている元素である。
他方、純粋に炭素のみを使用した材料として古来より炭等が燃料、工芸等に用いられて
来た。また特殊な例としての入れ墨等にカーボンブラックに近い物質が用いられている。
炭素材料は高い強度を必要とする部位に用いられる金属、セラミックス等他と比較する
と非常に軽量であり、また引張りに関する比強度でも非常に高い。
【炭素系材料の分類】
炭素材料としては構造の違いから以下の材料が有る。
・ ダイヤモンド(図 1.1.1)。
炭素が sp3 混成軌道を形成して正四面体の立体結晶構造をとったものがダイヤモンド
である。絶縁材料であり非常に硬い。また熱伝導性が非常に高い。工具等に使用される
他、装飾品となる。
・ グラファイト(図 1.1.2)。
炭素が sp2 混成軌道を形成して正六角形の平面構造をとった層(グラフェンシート)
が重なったものがグラファイトとなる。層内は強い結晶構造で繋がっているが、層間は
ファンデルワールス力で結合されている。この為に層状に剥離出来る。電子状態は半電
子的であり、電気伝導性が高く柔らかい材料である。るつぼ、電池などの電極材料など
に使用される。また原子炉材料等にも多く使用されている。
炭素繊維もグラファイト構造を保っており、繊維方向に規則正しく並んだ網目構造を
持ち複数の層が何段にも重なり合っている。
・ フラーレン
結合様式は黒鉛と類似するが分子として取り扱われる。炭素からのみなるクラスター
であり、C60 のサッカーボール型フラーレンや C70 などであり、構造は球状である。
・ 無定形炭素
余り結晶構造を保たないアモルファス状態である。末端を水素とのダングリングボン
ドで安定化しているものもある。顔料、カーボンブラック、活性炭、コークス、すす等
がこれに当たる。反応性に富む。天然鉱物系はかなりの不純物を含む。
・ カーボンナノチューブ(ナノホーン)(図 1.1.3)
1
グラフェンシートが円筒状に撒かれた構造体を指す。一層を巻いたものから多層を巻
いたものまで様々存在する。同じ重量の鋼鉄と強度を比較すると、約80倍程度の強度
を持つと言われている。また円筒の末端が閉じられた形状のものをカーボンナノホーン
と呼ぶ。
またその最終的な材料の構造より大きく分けて以下の 2 つの分類になる。
① 炭素系材料 これは材料をバルクとして使用する場合
② 炭素系繊維を各種マトリックス材料に分散する事により材料を構成する
近年では②の形態の材料のうち、カーボンファイバーと呼ばれる 1960 年代に開発され、
μm 単位の繊維直径、mm 単位の繊維長を持つ Carbon-Fiber を利用した複合材である CFRP
( Carbon-Fiber-Reinforced-Plastic )、 CFRM ( Carbon-Fiber-Reinforced-metals )、 CFRM
(Carbon-Fiber-Reinforced-Ceramics)として盛んに研究されおり、特に CFRP に関しては
省エネルギー等の観点から航空機はもとより自動車、一般産業用途で盛んに使用されてい
る。
一方、1990 年代に開発されたカーボンナノチューブ(Carbon-Nano-Tube:CNT)は近年量産
化が進み、Li 電池等の電極材料としての利用が進められている。しかし構造材料としての
利用は、これまでの炭素材料の用途が高強度化を中心として検討されている。しかし CNT
を添加した場合では CFRP の様に強度に対して一部を除いて劇的な効果を見る事は難しく、
高強度を実現する構造解析、新たな用途開発等模索している段階である。
炭素繊維、カーボンナノチューブ等の歴史的経緯を表 1.1.1.に示す。
1.2 繊維状炭素系材料に関して[2]
○ 繊維状炭素材料(Carbon-Fiber)
機能性材料としての炭素材料は数多く存在しているが、sp2 混成軌道は非常に強い事が知
られており、これを基にした材料は金属を大幅に超える強固な材料が作製出来る事が予測
されて来た。この為、古来より炭素繊維の研究は精力的に行われて来た。古く炭素繊維と
して使用した例はトーマスエジソンが竹や木綿の繊維から炭素繊維を合成し、電球に適用
した史実が有る。
また 1960 年代に現在の材料である工業向けの炭素繊維の基礎である PAN 系炭素繊維など
が発明されている。近世の技術の発展により炭素材料は燃料などから次第に高い機能を持
つ構造材料への進化し続けている。
2
特に炭素繊維材料はその特性を最大限に活かし、近年複合材料のフィラー等として CFRP
に用いられ航空機等の高信頼性を要求される構造部材にも積極的に使用されている。
炭素繊維は先述の通り、PAN 系、ピッチ系の原料を基に製造されている。その材質は様々
であるが、一般的な物性としては図 1.2.1 の通りである。
○ CNT(Carbon-Nano-Tube)[3][4]
CNT はグラフェンシートを円筒状に丸めた構造をしており、巻かれた円筒が一本からな
る CNT は SWCNT(SingleWallcarbon-Nano-Tube),円筒の 2 本が同軸で重なって出来た CNT
を DWCNT(Double-Walled-Carbon-Nano-tube)と呼ぶ。また多数重なって出来たものを
MWCNT(Multi-Walled-Carbon-Nano-tube)と呼ぶ。
CNT は一般的に黒鉛の特徴である化学的安定性、優れた電気伝導性、低摩擦係数等の特性
を持つ他に、高強度、高弾性率、電磁波吸収性に優れている。一般的な物性を表 1.2.1.[1]
に示す。
それぞれの円筒サイズは製法等により様々であるが、一般的には SWCNT は 0.5〜数 nm 程
度であり、MWCNT では 100nm を超えるサイズのものもある。
長さに関しても同様に製造方法によって様々であるが、数十 nm から数 mm に及ぶものもあ
る。
CNT の一般的な製造方法を表 1.2.2.[1]、に示す。CNT の製造方法は大きく分けて 3 種
類程度が主流である。それぞれに特徴が有り、その用途に応じて使い分けられている。
1)CVD 法
その構成元素である炭素の原料としてガスを用い、加熱炉にキャリアガスと共に吹きこ
んで CNT を合成する方法。主として MWCNT の合成に使用される。1 部 SWCNT の合成にも使用
される。
【長所】
・ 比較的安価で大量生産が可能
【短所】
・純度は熱処理に依存。不純物は残る。
2)アーク放電法
グラファイト電極に直流もしくは交流電流を印加して CNT を成長させる方法。SWCNT では
よく用いられる。
【長所】
・CNT の結晶化度が高い。
・ 直線性が良い。
3
・ 比較的量産性が良い。
【短所】
・ 炭素系不純物が多い
・ 触媒不純物が多い。
・ 収率が低い
3)レーザー蒸発法
グラファイトを炭素源としてレーザー照射により加熱蒸発させて CNT を成長させる方法。
【長所】
・ 結晶化度がアーク放電より高い
・ 繊維直径、生成温度等精密な制御が可能
【短所】
・ レーザー等大規模な設備が必要
・ 量産に不向き
近年構造材1.1料として使用されている CNT は主として工業ベースでの大量生産が可
能な MWCNT である。CVD 法はその製造方法であり、様々な研究が行われている。また既に各
社により大量生産が始められている。市場価格も近年5−10 万円/kg 程度(1 部では 1 万円
/kg)であり、工業用途としてコスト的にも実用化の範囲に入りつつ有る。代表的な工業グ
レード製品を表 1.2.3.[5]に示す。
平均的な繊維径としては 10〜100nm 程度であり、平均長さも1〜10μm 程度である。
不純物としては炭素系不純物と触媒系不純物に分けられる。触媒系不純物としては鉄系、
コバルト系に分けられ、高真空中において加熱処理をする事により純度向上が図られてい
る。この為熱処理温度によって純度及び結晶化度が左右される事が多い。
比表面積はその CNT の直径に依存する場合が多く、20−300m2/g が一般的である。
1.3.CNT を用いた工業製品実用化の現状
・概要
炭素繊維材料と同様に CNT はその特徴を生かして、種々の複合材料として期待が寄せら
れている。現在工業材料への応用は Li 電池の電極材料として MWCNT が用いられている。ま
た薄型ディスプレイデバイス等への応用・実用化が急速に進みつつ有る。
CNT の機械的特性は塊状の物質では比較にならない位突出した特性である。しかしその物
質単独での活用は様々な紡糸等の研究がなされているが現在の所、困難である。これは CNT
4
が短繊維である事に起因している。従って複合材料として様々なマトリックス物質へ混合
する事により、そのマトリックス材料の物性を著しく高める事が CNT を材料として活かす
道の 1 つである。
複合材料としては高分子材料、金属・セラミックス材料等が挙げられる。
・高分子材料系
構造材料としての炭素繊維強化複合材料としては実用化の進展が中々見られていないの
が実情である。高分子複合材料は比較的製造が容易であり、様々な研究が進められて早期
の実用化が期待されていた。代表例としては航空機強度部材としての複合材である。この
部材は 1960 年代よりプラスチックを基材とした比強度、比剛性の高い材料を目指して開発
が進められて来た。これらは編まれた炭素繊維骨格にエポキシ樹脂を含浸させる事により
構成されている。主として軍用の部材が先行し、2000 年を超えた当りからは民間用航空機
部材として構造重量の 50%を超えて使用されている[6]。
一方汎用炭素繊維強化部材はチョップ化された炭素繊維を樹脂に混合して成形する事で
高い強度、弾性率を発揮する事で自動車を始め様々な分野の構造材料として使用されてい
る。
CNT において産業界からの同様の期待を受け、様々な開発が進められて来た。しかし実際
として応用が期待されていた自動車部品用高強度、高弾性率材料の実用化は未だ実用の域
ではなく、特殊用途のごく一部の実用化(例えば高耐熱性 O リングの実用化等[7])にすぎ
ない。また電子材料等でも理論的に予想される電気伝導度に比べ、非常に低い材料しか実
現化出来ていない。
これらの原因として高分子材料へ添加した場合、分散された CNT は理想的なのびた状態
では無く、凝集した状態で存在している為であると推測している[8]-[12]。一部では、あ
えて凝集した状態を利用して高分子材料へ適用する研究等もなされている(図 1.3.1)。1
例としてポリエチレン/CNT 複合材料が挙げられる。ポリエチレンの耐摩耗性を向上させる
場合、電子線、ガンマ線などによるクロスリンク処理が挙げられる。しかしこの処理を行
った場合には耐衝撃性の著しい低下が発生する。ポリエチレン/CNT 複合材料では、①CNT
が存在することによる高い弾性率の部分と従来のポリエチレンのみの部分を 1 つの材料中
に共存させている。この構造は高い弾性率と耐衝撃性を維持しながら、耐摩耗性を実現し
ている[13]。また PEEK(Poly-ether-ether-ketone)と CNT を複合化させることによる骨誘
導が可能な複合材料の開発も行われている(図 1.3.2)[14]。
CNT は繊維状であるために異方性が高く、これを高い効率で分散させる事が実用化への第
一歩である。高分子材料系ではその解決策の 1 つとして、高分子材料の製造工程において
混練時に於ける高い粘弾性状態を利用し、せん断応力を利用して凝集した CNT を強制的に
5
解離させ、均一に分散させる技術が確立されつつある。
・ 金属/セラミックスなど粉体系
金属/セラミックス材料においても古くより炭素繊維強化複合材料は開発されて来てお
り、その一部は実用化されている。CNT においても同様の考え方で開発が進められている
[15]-[19]。しかし直面する課題が様々に発生している。
1) 均一な混合が困難である事
樹脂と異なり原料粉末等の粘弾性を利用した分散・混合が非常に困難である事が指摘さ
れる。樹脂等を利用した分散技術は有るが、有機残渣等の発生や金属材料の酸素ピックア
ップ等が有りその適用は限られている。
2) CNT 周辺のマトリックス材料に残留応力が発生すること(特にセラミックス材料)
分散した CNT 周辺に金属・セラミックス組織が存在する場合、弾性率や焼結時の熱膨張
率の違いから、界面に大きな残留応力が発生する場合が有り、機械的特性等を阻害する場
合が有る。
3) 金属元素との反応による炭化物の生成
金属材料等の場合には、特に高温を利用した焼結では CNT との反応から金属炭化物を生
成して、CNT そのものがマトリックス中から消滅する場合がある。金属材料は高炭素含有素
材となり、マトリックスの特性を大きく変えてしまう場合が有る。
CNT 含有複合材料の実現には上記のような課題をいかに克服してゆくか、その製造プロセ
スの開発が非常に重要になってくる。
1.4CNT を用いたセラミックス複合材料
高分子系材料に比較してその製造方法の違いから CNT を金属・セラミックスマトリック
ス中へ高い効率で分散させる事は非常に困難である。一方高分子系材料の技術を応用して
金属やセラミックスに適用する動きもあるが、ごく一部に限られており実用化されていな
い[1][2]。しかし脆性材料であるセラミックス材料等を繊維強化により高靭性化できた場
合、その製品性能の好影響は非常に大きい(図 1.4.1)。
金属・セラミックス材料をマトリックスとした CNT 繊維強化複合材料を開発する上では、
6
マトリックス材料の機械特性を大きく変えず、CNT を高分散化する技術の研究・開発は必須
と言える。
セラミックス部材の場合にはその粉末をベースに CNT を混合する製造プロセスが採用さ
れる。湿式混合プロセスでは製造する部材の形状等により製造プロスセは大きく異なるが、
以下の 2 つに大別される。
1)CMC 等を使用する高い粘性を持たせた混合
2)水溶液等に分散剤等を適用して低い粘性での混合
特に2)においては分散安定性が長年にわたり議論されており、その分散安定性が製品
の特性・品質に大きな影響を与える事が知られている。CNT 繊維強化セラミックスにおいて
も同様に CNT とセラミックス粒子の分散・安定性に関わる議論が必要である。CNT 繊維強化
セラミックスの研究報告は近年報告されているが、その多くは作製した CNT 繊維強化セラ
ミックスの機械的特性とその構造に関するものが多い。一方その機械的特性は前駆体の合
成方法により大きく左右されることが多く、合成方法や合成プロセス自体の開発などは非
常に重要な研究である。 しかしセラミックス粉末単独でも、その分散安定性に関わる水
溶液構造には未解明な部分が多い。もちろん CNT 分散安定性に関わる面、更に CNT/セラミ
ックス複合分散系では尚更に、構造等に関わる知見やその分析方法に関しては未だ不明な
点が多い。CNT 繊維強化複合セラミックスを実用化する上では今後これまでの解析技術や新
しい考えに基づいた解析を基に、その技術の構築や知見を積み上げて行く研究開発を行う
必要が有る。
また分散安定性だけではなく、その複合体溶液の中での CNT 表面とアルミナとの相互作
用が機械的物性に与える影響も大きいと考えている[12]。CNT 関して水溶液中で分散させる
場合には、その疎水性表面に吸着している界面活性剤の親水性基はカルボニル基や OH 基で
あることが多く、これらとの難溶性塩の生成などの化学反応を伴うアルミナの吸着挙動や、
溶液 pH の影響等が CNT/アルミナ焼結体への与える影響等を考慮する必要も有る(図
1.4.2)。
【本研究の構成】
本研究においては CNT 繊維強化複合セラミックスの製造プロセスにおいて、前駆体を合
7
成する際の溶液構造と CNT/セラミックス繊維複合材料の機械特性との関連を明らかにする
事を目的とした。
研究に用いた実験系は CNT/アルミナ複合材料を一例とし、以下の 6 章に示す研究を行っ
た。
1. 緒言
2. カーボンナノチューブ/アルミナセラミックスの試作
・CNT の分散安定性に関する研究
・カテキン含有天然物系分散剤を用いた CNT/アルミナ複合材料の研究
・CNT/アルミナ繊維強化複合材料の強化機構
3. 分散剤を用いた CNT 分散系の研究
・CNT 分散液の試作
・分散剤吸着量の定量
・遠心沈降法による界面活性剤による CNT 分散安定性の評価
・NMR を用いた界面活性剤の CNT 表面への吸着評価
4. CNT とアルミナとの水溶液中での反応機構の考察
・ pH 滴定法によるアルミニウム成分吸着量の定量
・ pH 変化によるアルミニウム成分と CNT 表面の反応挙動
5. 溶液構造と破壊靭性値への影響
・ CNT/アルミナ繊維強化複合材料の試作
・ 溶液構造と破壊靭性値への影響
・ 溶液構造と強度への影響
6.総括
8
参考文献
[1]:カーボンナノチューブ・グラフェン(最先端材料システム OnePoint1),高分子学会
(2012)
[2]:新・炭素材料入門,炭素材料学会編 (1996)
[3]:A.Oberlin,M.Endo,Filamentousgrowthofcarbonthroughbenzenedecomposition,
JournalofCrystalGrowth,32,(1976)335-349,
[4]:S.Iijima,Helicalmicrotubesofgraphiticcarbon,Nature,154,(1991)56-58
[5]:平成 21 年度 NEDO ナノテク・部材イノベーションプログラムナノテク・先端部材
実用化研究開発 会議資料より抜粋
[6]:(公財)航空機国際共同開発促進基金【解説概要23-2】
[7]:昭和電工株式会社 プレスリリース 多層カーボンナノチューブを用いた石油資源探
査・採掘用超高性能複合ゴム超過酷環境下での油田開発の実証実験に成功(2009 年 8 月 25
日) http://www.sdk.co.jp/news/2009/aanw_09_1139.html
[8]:Peng-ChengMa,NaveedA.Siddiqui,GadMarom,Jang-KyoKim,Dispersionand
functionalizationofcarbonnanotubesforpolymer-basednanocomposites:Areview,
Composites,PartA,41(2010)1345–1367[9]:MamoruOMORI,TakashiWATANABE,Masaaki
TANAKA,AkiraOKUBO,HisamichiKIMURA,ToshiyukiHASHIDA,NanocompositePreparedfrom
Carbon Nanotubes and Hydroxyapatite Precursors, Nano Biomedicine, 1(2), (2009)
137-142
[10]:Beate Krause, Gudrun Petzold, Sven Pegel, Petra Pötschke, Correlation of
carbonnanotubedispersabilityinaqueoussurfactantsolutionsandpolymers,Carbon
47(2009)602–612
[11]:Xuetong Zhang, Jin Zhang, Rongming Wang, Zhongfan Liu, Cationic surfactant
directed polyaniline/CNT nanocables: synthesis, characterization, and enhanced
electricalproperties,Carbon42(2004)1455–1461
[12]:Hong-ZhangGeng,DaeSikLee,KiKangKim,GangHeeHan,HyeonKiPark,Young
Hee Lee Absorption spectroscopy of surfactant-dispersed carbon nanotube film:
Modulationofelectronicstructures,ChemicalPhysicsLetters455(2008)275–278
[13]平成 21 年度 NEDO ナノテク・部材イノベーションプログラムナノテク・先端部材
実用化研究開発 ナノバイオテクノロジーによる高機能人工関節摺動部材の研究開発報
告書
[14]平成 24-26 年度厚生労働科学研究費補助金(医療機器開発推進研究事業)超微細技術
9
(ナノテクノロジー)を活用した医療機器等の開発に関する研究 「カーボンナノチュー
ブと PEEK 材を複合する技術を活用した脊椎手術のための高機能インプラントの開発」報告
書
[15]Z.Xia,L.Riester,W.A.Curtin,H.Li,B.W.Sheldon,J.Liang,B.Chang,J.
M.Xu,Directobservationoftougheningmechanismsincarbonnanotubeceramicmatrix
composites,ACTAMATER52(2004)931-944
[16]:Kee-SungLEE,Byung-KoogJANG,YoshioSAKKA,DamageandwearresistanceofAl2O3–
CNTnanocompositesfabricatedbysparkplasmasintering,
[17]Kee-SungLEE,Byung-KoogJANG,andYoshioSAKKA、Damageandwearresistance
ofAl2O3–CNTnanocompositesfabricatedbysparkplasmasintering,J.Ceram.Soc.Jpn,
121[10](2013)867-872
[18]GoYamamoto,KeiichiShirasu,ToshiyukiHashida,ToshiyukiTakagi,JiWonSuk,
JinhoAn,RichardD.Piner,RodneyS.RuoffNanotubefractureduringthefailureof
carbonnanotube/aluminacomposites,Carbon,49(2011)3709–3716
[19]:MehdiEstili,AkiraKawasaki,HirokiSakamoto,YutakaMekuchi,MasakiKuno,
TakayukiTsukada,Thehomogeneousdispersionofsurfactantless,slightlydisordered,
crystalline, multiwalled carbon nanotubes in a-alumina ceramics for structural
reinforcement,ACTAMATER,56(2008)4070–4079
10
図 1.1.1. 天然ダイヤモンド
図 1.1.2. グラファイト系材料
炭素繊維
炭素バルク
http://www.teijin.co.jp/products/composites/
11
図 1.1.3. CNT の電子顕微鏡写真
12
表 1.1.1 炭素繊維系材料の歴史的経緯
13
図 1.2.1 炭素繊維材料の一般物性
炭素繊維協会委員会の HP より作成
http://www.carbonfiber.gr.jp/material/type.html
14
表 1.2.1. CNT の一般的な物性[1]
表 1.2.2. 代表的な CNT 合成方法
15
[1]
表 1.2.3. 代表的な MWCNT とその物性[5]
16
図 1.3.1. ポリエチレン/CNT 材料
17
図 1.3.2 PEEK/CNT 複合材料
18
図 1.4.1 繊維強化セラミックスの一例
(炭素繊維強化セラミックスブレーキディスク)
http://www.sglcarbon.co.jp/products/006.html
19
図 1.4.2 CNT 複合材料の界面構造
20
2.カテキン含有天然物系分散剤を用いたカーボンナノチューブ/アルミナセラミックスの
試作
2.1 CNT の分散凝集分散剤に関わるこれまでの研究
2.1.1 CNT の分散に係るこれまでの研究
カーボンナノチューブへ可溶化(及び分散安定性)は様々な手法により行われている。
表 2.1.1 に溶媒中への可溶化の分類を示す。疎水性の CNT 表面は大きく 3 つに分類される
[1]。
ここで溶媒和に関しては DMF(N,N-dimethylformamide)や NMP(N-methylpyrrolidinone)が
高い分散効果を示すが、その分散が一時的であり、また今回の研究範疇から外れる為に除
外する。
安定した分散の実現に関しては化学的修飾法と物理的な修飾法に分類される。
化学的手法に関しては、グラフト重合等を用いて表面に親水性の官能基(カルボニル基
や OH 基)を導入する方法や、熱処理による欠陥生成、酸素導入等が挙げられる。何れにし
ても CNT へのダメージは避けられず、また工業ベースでも安定した生産が難しい。
これに対して物理的修飾法は分散剤を使用して可溶化する技術であり、比較的容易であ
る。一方分散剤の選定等が非常に重要であるが、溶液の構造解析等が非常に難しい。
化学的手法の一例を図 2.1.1 に挙げる[1]。硫酸:硝酸=3:1(volume)に MWCNT を投入
し、超音波照射下、40-70℃で加熱する。CNT 表面の 5 員環の部分と反応し、カルボニル基
が導入される。この官能基を基に目的に応じた官能基を再度導入する。但しこの場合には
CNT そのものを破壊するために、細い径の CNT 等は機械的な特性が阻害される場合が有る。
その他に Bingel 反応やオゾン酸化による手法等が挙げられる。但し化学的修飾に関しては、
グラフェンンの骨格部分の化学結合を切断する事で官能基を導入する。この為に CNT へ少
なからずダメージを与える事になる。また上述した酸化処理に関しては、最表面 1 層だけ
を酸化処理する事は操作上非常に困難である為に、ダメージが進行する場合が多い。
物理的手法に関しては種々の分散剤があり、一般的な分類及特徴を表 2.1.2 に示す[1]。
分散剤は低分子系、高分子系に分けられる。可溶化の方法に関してはミセル可溶化、物理
吸着可溶化に分類される。 低分子系ミセル可溶化に関して、一般的に SDS(ドデシル硫酸ナトリウム)や SDBS(ド
デシルベンゼン硫酸ナトリウム)等従来から分散剤として利用されている物質が挙げられ
21
る。低分子系物理吸着可溶化としては、ピレンやナフタレンなど CNT 表面とπ−π結合、CH
−π結合を持つ多環芳香族を持ち、アンモニウムブロマイド等親水基を持つ物質が用いられ
ている。一般的に多くのベンゼン環を直線上に持つ構造が有利と言われている[2]-[4]。
高分子系ミセル可溶化、物理吸着可溶化ともに基本的には先の低分子系と同様な機構に
より可溶化を実現している。高分子系ミセル可溶化としては PS(ポリスチレン)-PMMA(ポリ
メタクリル酸メチル)、PS-PEO 等が挙げられ、物理吸着可溶化ではポリパラフェニレンピニ
レン系誘導体、カルボシキメチルセルロース等が挙げられる(図 2.1.2)。
経験的に高分子系可溶化剤は低分子系のそれと比べて、CNT 表面と多点で吸着していると
言われており比較的安定な吸着を達成していると言われている。
その他では九州大学大学院 中嶋研究室で積極的な研究が行われている[2]-[4]。ここで
は様々な溶媒、ポリマーへの分散に関わる研究が行われている。CNT への分散剤、溶剤、ポ
リマーの吸着に関しては戦術の通り、π—πスタッキング若しくはπ−CH スタッキングによ
る物理吸着を利用し、DNA の吸着やポリイミド等への分散等を報告している。
2.1.2CNT/アルミナ繊維強化複合体に関わる研究
これまでに様々な研究者により CNT/アルミナ繊維強化複合体の研究がなされている
[5]-[9]。分散に関しては様々な取り組みがなされているが、機械的な分散(ジェットミル
等)やエタノールでの分散を用いている。
焼結に関してはセラミックスを製造する際の一般的な製造プロセス(粉体の成形⇒CIP⇒
雰囲気/真空焼成⇒HIP)、近年高い焼結密度を得られる SPS(Spark-Plasma-Sintering)を
用いて焼成を行っている。
CNT/アルミナ焼結体
の物性であるが、1%程度の CNT 添加量で 600-700MPa 程度の曲げ強度を示し、5−6MPa・m1/2
程度の破壊靭性値を示している、
セラミックスの焼結理論に関しては様々な説があり、CNT/アルミナ複合材料に関しても
SPS、雰囲気焼結などの論文が発表されている。CNT の添加量が 1vol%ではほぼアルミナと
同じ程度の>99%の焼結密度で複合材料を焼成出来ている。ただし添加量が増加するとや
はり焼結密度の低下を招いており、構造材料としての強度、破壊靱性値を考えると、1vol%
が繊維強化材料としての限度ではないかと思われる。
22
2.2 カテキン含有天然物系分散材を用いた CNT/アルミナ複合材料の研究
2.2.1 カテキン含有天然物系分散材を用いた CNT の分散に関わる研究
九州大学大学院 中嶋らの研究では SWCNT 分散(可溶化)の研究がなされている。この
中でカテキン含有天然物系分散材を用いた SWCNT 分散安定性に関わる研究が報告されてい
る[10]。カテキン含有天然物系分散材等の日本茶にはその成分の 1 つであるカテキンが CNT
表面に吸着し、水溶液中への分散を可能にしていると推測されている。
2.2.2カテキン含有天然物系分散材を用いた CNT/アルミナ複合材料の作製
【カテキン含有天然物系分散材の材料構成】
カテキン含有天然物系分散材を用いて CNT/アルミナ複合材料を試作した。カテキン含有天
然物系分散材は日本茶をベースとした市販飲料品であるが、この中にはカテキンが多く含
まれている(カテキン含有天然物系分散材 180mg、カテキン含有天然物系分散材(カテキ
ン含有 370mg/500ml)。CNT をカテキン含有天然物系分散材の中に添加すると容易に分散す
る。これは 1 部にカテキン含有天然物系分散材のカテキンによる作用と考えられている[10]
(但しお茶の場合は天然物ベースであり試薬ベースの薬品と異なり、試薬で販売されてい
る(+)−カテキン水和物だけでなく種々の異性体、類縁体(-)−エピガロカテキン、(-)−エ
ピガロカテキンガレートを含む)[11]。カテキンの分子構造の 1 例を図 2.2.1 に示す。
【焼結体の作製】
製造プロセスを図 2.2.2 に示す。
1) カテキン含有天然物系分散材は販売状態では pH=7 程度であり、これに硝酸を加えて
pH=4.5 とし、アルミナを加えた(スラリーpH は随時硝酸を加えて調整)
2) この後に MWCNT の一例として VGCF-S(昭和電工社製 CNT 繊維径 80nm 平均長さ
10μm)を加え、更にポットミルで混合する
3) 得られたスラリーを 70℃で 1 昼夜乾燥させ、再度ポットミルでアルミナボールを加え
たまま混合・粉砕する事で CNT/アルミナ複合体粉末を得た。
4) 得られた粉末をφ30mm の金型を用いて 1 軸プレス、CIP を実施し、成形体を得た。
5) 成形体をカーボンビーズ埋入中、1350℃で真空中焼成する事で焼結体を得た。
作製した試験体は CNT 添加量 1,3,5vol%の間で試作した。
23
SampleA1:CNT を 1vol%添加した CNT/アルミナ複合材料
SampleA2:CNT を 3vol%添加した CNT/アルミナ複合材料
SampleA3:CNT を 5vol%添加した CNT/アルミナ複合材料
この添加量を 3 種類作製した試験結果に基づき、1vol%添加 CNT/アルミナ複合材料に関
しては以下の 3 種類を作製した。
SampleB:カテキン含有天然物系分散材のない場合(VGCF-S の大気中 615℃/2 時間 加熱に
よる表面酸化品)
SampleC:カテキン含有天然物系分散材のみの場合
SampleD:カテキン含有天然物系分散材溶液に CNT、アルミナを入れ pH=4.5 にて調整した場
合
【焼結体の評価】
得られた焼結体は、アルキメデス法による真密度計測(エタノール 23℃)を行った。
また試料片から破断面を作製し、電界放射型電子顕微鏡(日本電子株式会社製 電界放
射型電子顕微鏡 JSM-7500FA)による組織観察を行った。
【機械的な特性の評価】
得られた焼結体は、以下の評価を行った。
【破壊靭性試験】
ダイヤモンドカッターにて切断の後、エポキシ樹脂で埋入した後、SiC 耐水研磨紙
(#200-#2400)、ダイヤモンドスラリー(〜1μm)で表面を鏡面まで研磨した後、マイ
クロビッカース硬度計を用い、ダイヤモンド圧子によりクラックを導入する IF 法によ
り 破 壊 靭 性 値 を 計 測 し た 。 マ イ ク ロ ビ ッ カ ー ス 硬 度 計 は 株 式 会 社 ミ ツ ト ヨ 社 製
HM-114 を用い、試験条件は以下の通りである。
・ 圧入力 19.6N
・ 圧入パターン 圧入 4秒:保持 10秒:除去 4秒
・ 圧入雰囲気 大気中 室温 23℃ 湿度 55%Rh
本条件にて圧入したラジアルクラックの圧痕の幅及びクラックの進展幅より破壊
靭性値を求めた。
24
また発生したクラックを日本電子社製 電界放射型電子顕微鏡 JSM7500FA を用い
て、クラックの進展の形状に関して調べた。
【CNT 分散性の評価】 得られた CNT 分散水溶液は、20ml の沈降管に分取し、沈降体積より分散性を評価した。
【アルミニウムイオンとの反応性評価】
またカテキン含有天然物系分散材とアルミニウムイオンとの反応性に関しては電位差滴
定法により調べた。
1) 5x10−3MAl(NO3)3 の濃度となる様に硝酸アルミを純水及びカテキン含有天然物系分散
材に溶解して溶液を得た。
2) 1)で得られた容液を 1NKOH 水溶液を用いて電位差滴定を行った。
3) 電位差滴定は図 2.2.3 に示す装置で構成する。必要とされる物は、pH 電極、所定量
の容器(ガラス、ポリスチレン容器等)、マイクロビュレットで主に構成される。そ
の他 PTFE 製撹拌子等が有れば良い。
4) イオン性の不純物を十分に酸、純水等で洗浄し乾燥した容器を準備する
5) 滴定を行う溶液をホールピペットにより正確に分取し、先の容器に移す。
6) pH 電極を先の溶液に挿入する。
7) テフロン製撹拌子を入れ溶液を撹拌する。この時に大気中の炭酸ガスの影響が出る場
合には窒素ガス等でバブリングを行い、影響を除去する。
8) マイクロビュレットを用いて、所定量のアルカリを滴下(今回の場合は 1NKOH)し、
pH の変化が無くなった際に、pH を計測する。
9) この操作を繰り返し行い、滴下したアルカリ量に対する pH 変化を記録する。
繰り返し計測を行った結果について、縦軸を溶液 pH、横軸を滴下したアルカリ量(この
時は 1NKOH)としてグラフを作成する。
アルミニウムイオンとの反応性評価は純水、カテキン含有天然物系分散材の電位差滴定
曲線の差より求める。図 2.2.4 にモデル的な電位差滴定曲線を示す。ブランクである電位
差滴定曲線(純水に硝酸アルミニウム/硝酸酸性)は pH=4.5 付近でプラトーを示す。この
反応は硝酸アルミニウムイオン(Al3+)が OH−と反応して水酸化アルミニウムとして析出す
る反応が起きている為に発現する。
25
Al3++3(OH)−⇒ Al(OH)3
この後に硝酸アルミニウムイオンが消費されると、pH はアルカリ性側に徐々に上昇する。
他方、アルミニウムイオンと反応する分散剤等を含む溶液は、pH4.5 より以下でブランク
と比較して、なだらかに pH が上昇する。更にプラトーの析出が発生する際にも、そのプラ
トーは水溶液中に含まれる分散剤の量に応じて、そのプラトーが徐々に短くなる(図
2.2.5)。
これらの差を確認する事でアルミニウムイオンと分散剤との反応量を調べる事が出来る。
使用した分散材は溶液で用いられているためにフリーズドライにより固形化をおこない、
得られた粉末を 100ml 硝酸アルミニウム溶液に 0.5g、0.25g 加え、電位差滴定を行った。
2.2.3 カテキン含有天然物系分散材を用いた CNT/アルミナ複合材料の評価
【焼結体の評価】
CNT を 1~5vol%添加した CNT/アルミナ複合材料を図 2.2.6 に示す。得られた試験体は
収縮率約5〜15%程度である。 焼結体密度は 1wt%ではほぼ理論密度に近い値が得られたが、3wt%、5wt%では焼結密度
がかなり小さくなっていることが分かった。
図 2.2.7 に 1vol%CNT を添加した CNT/アルミナ焼結体の破断面の電子顕微鏡観察結果
を示す。1%添加した系では、焼結したアルミナの粒界から CNT がプルアウトしている構造
が解る。また CNT が突出している粒界部分は比較的緻密であり、CNT とアルミナの隙間はほ
とんど見られない構造であることが分かった。
これに対して図 2.2.8、2.2.9 に 3vol%、5vol%添加した系を示す。1vol%と比較して
プルアウトした CNT とアルミナの隙間は比較的大きく見られ、CNT の存在によってアルミナ
の焼結が阻害されている様子が見られる。特に 5vol%ではその隙間が顕著にみられ、焼結
体密度と同様に焼結自体が大きく阻害されていることが解る。
このためこれ以降の焼結体作製は基本として 1vol%で試験を行った。
【破壊靱性値の計測】
マイクロビッカース硬度計を用いた IF 法により破壊靭性値を計測した。その結果を図
2.2.10 に示す。
CNT の表面酸化品を加えた系(SampleB)では破壊靱性値が 4.7 アルミナ単独と比較して
ほとんど効果は見られない。
26
カテキン含有天然物系分散材のみの場合(SampleC)では破壊靱性値 6.3 であり、破壊
靱性に対する効果がみられる。
カテキン含有天然物系分散材を添加し、かつ溶液を pH=4.5 に調整し 1350℃にて焼成し
たサンプル(SampleD)おいて破壊靭性値は 7.3 であり、CNT を添加していない純粋なアル
ミナに比較して(3.5〜4程度)大幅に向上している事が解った。
その原料粉末を合成の段階において、カテキン含有天然物系分散材(カテキンを含んだ分
散剤の役割)及び水溶液 pH 制御を行っていないサンプルにおいて、その破壊靭性値は大き
く異なっており(カテキン含有天然物系分散材を添加しない場合 破壊靭性値は 4.7、カテ
キン含有天然物系分散材を添加した場合では 6.3)、初期の溶液組成の制御を行う事で破壊
靭性値を構成する必要が有る事が解っている。
またビッカース圧子により圧痕を圧入した部位の電子顕微鏡写真を図 2.2.11〜2.2.13
に示す。その圧痕の先端より伸びるクラックの進展状態を比較すると、カテキン含有天然
物系分散材を添加していない(SampleB)では、クラックは比較的直線状に進展している
(図 2.2.11)。しかしカテキン含有天然物系分散材を添加し(SampleC:図 2.2.12)、
水溶液の pH を制御する事により(SampleD:図 2.2.13)、クラックは直線ではなく、波
を打った様に屈曲を左右に繰り返しながら進展して行く状況が解る。
また発生したクラックの幅に関して SampleD では、クラックが開いている様子が見られ
る。これに比較して SampleC、SampleD ではクラックの幅が狭い様子が見られる。
【分散性の評価】
図 2.2.3.14 にはカテキン含有天然物系分散材に CNT を添加したさいの CNT/カテキン含有
天然物系分散材水溶液の分散状態写真を示す。CNT は特に問題も無くカテキン含有天然物系
分散材の中に分散安定化している。
カテキンには分子構造の 1 部にベンゼン核があり、この部分が CNT 表面のグラフェン構
造とπ−πスタッキングにより結合を持ち、CNT 表面に吸着していると推測している(図
2.2.15)[10]-[13]。
これらの溶液を基にアルミナを添加し、CNT/アルミナ複合体粉末を作製し、所定の温度
で焼成する事で CNT/アルミナ複合材料を得る事が出来る。その他に市販のお茶類に関して
検討を実施したが、カテキン含有天然物系分散材は十分な分散安定性を持っているものと
考えている。
【CNT 表面とアルミニウムイオンとの反応性】 図 2.2.16 に純水及びカテキン含有天然物系分散材に硝酸アルミを加えた溶液の電位差
27
滴定曲線を示す。ブランクである純水系の溶液は pH=4.5 付近でプラトーを持つ曲線である
事が解る。
一方カテキン含有天然物系分散材系では pH=3 付近より1NKOH を加えた場合では、
1) ブランクに対して、滴定前の pH は若干塩基性側にシフトしており、滴定後の pH 変化で
は pH=3 付近より pH=4.5 にわたってなだらかに pH は上昇している事が解る。
2) pH=5 付近より塩基性側においても、プラトー以降の pH 上昇はブランクに対して少ない
KOH 量で pH が上昇している。
3) ブランクに示される様な pH ジャンプを示さずなだらかに上昇している事が解る。
以上の事より、硝酸アルミニウム水溶液においてカテキン含有天然物系分散材が存在
した場合の反応は以下に示される水酸化アルミニウムが析出する反応(1)以外にも、
カテキン含有天然物系分散材中に存在するカテキン等の有機物等の反応(2)、
(3)に
より、pH へ影響を与える反応を含む場合が存在すると推測している。
Al3++3(OH)−⇒ Al(OH)3 (1)
Al3++3(-COOH)⇒ (-COO)3Al+3H+ (pH<4) (2)
-Al-(OH2)++-COOH ⇒ -Al-(-O-C=O)x+H2O+H+ (pH>5) (3)
カテキン含有天然物系分散材等天然有機化合物には、例えばカテキンは同じく分子構造
中に水酸基、カルボニル基を持ち、これらがアルミニウムイオンと容易に反応してアルミ
ニウム難溶塩を生成すると推測している。
2.3 まとめ
カテキン含有天然物系分散材を用いて、CNT/アルミナ複合材料を作製し、その効果に
関して検討を行った。
1)水中での CNT 分散性に関しては特に沈降が見られず、水中で比較的安定な状態で CNT が
存在しているものと考えている。
2)分散効果を示す物質は単に CNT を水溶液中で分散させる機能だけではなく、その CNT/ア
ルミナ界面において 2 つのマトリックス相を化学的に結合する構造が存在していると推測
28
している。
3)CNT/アルミナ焼結体を作製し、破壊靱性値を計測したところ、KⅠc=7.3 程度を示し、ア
ルミナ単独と比較して高い破壊靱性値を示した。
4)これらの効果は水溶液中での分散剤の選定及び水溶液の溶液 pH などの溶液条件の制御に
より、CNT/アルミナの機械的特性の制御を実現出来る可能性を示唆している。
以上の水溶液中での反応と機械的特性への影響を明らかにする事により、CNT/アルミナ
セラミックス複合材料の高靭性化、高強度化への製造指針を構築する事が出来、これまで
様々な用途研究が実施されている[14]-[15]この様な材料の実現を一歩進める事になる。界
面反応の模式図として図 2.3.1 を示す。
第 3~5 章では、これらの機構に関して詳細に検討を行い、その破壊靱性値の向上するメ
カニズムなどに関して検討を行った。
29
2.4 参考文献
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[7]Kee-SungLEE,Byung-KoogJANG,andYoshioSAKKA、Damageandwearresistance
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(2007)1140-1141
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30
[12]:平成 21 年度 NEDO ナノテク・部材イノベーションプログラムナノテク・先端部材
実用化研究開発 ナノバイオテクノロジーによる高機能人工関節摺動部材の研究開発報
告書
[13]:平成 25 年度 経済産業省 課題解決型医療機器 界面制御 CNT コンポジット材料を
用いた高機能人工関節の安全性の開発報告書
[14]:Peng-ChengMa,NaveedA.Siddiqui,GadMarom,Jang-KyoKim,Dispersionand
functionalizationofcarbonnanotubesforpolymer-basednanocomposites:Areview,
Composites,PartA,41(2010)1345–1367
[15]GoYAMAMOTO,KeiichiSHIRASU,YoNOZAKA,TakahumiNAKAMURAandToshiyukiHASHIDA,
DevelopmentofPressurelessSinteringMethodforCarbonNanotube/AluminaComposites
andTheirMicrostructure-PropertyRelationships,JournalofSolidMechanicsand
MaterialEnginnering,Vol.7,No.3(2013),394-237.
31
表 2.1.1 CNT の可溶化法
32
図 2.1.1 CNT 表面処理の模式図
33
表 2.1.2 可溶化剤の分類と特徴
34
SDS(ドデシル硫酸ナトリウム)
ナフチルアンモニウムブロミド
PS-PMMA
ポリパラフェニレンピニレン系誘導体
図 2.1.2 水中への分散に使用される分散材の分子構造
35
図 2.2.1 カテキンの分子構造(一例)
36
図 2.2.2 試験に供した試験体の作製フロー
37
図 2.2.3 電位差滴定曲線装置 概略図
38
図 2.2.4 電位差滴定曲線の一例(硝酸アルミニウム水溶液)
39
図 2.2.5 分散剤が存在した場合の硝酸アルミニウム溶液電位差滴定曲線の変化
40
図 2.2.6 作製した焼結体
41
1wt% VGCF-S/Al2O3 10K
1vol% VGCF-S/Al2O3 100K 1vol% VGCF-S/Al2O3 100K
図 2.2.7 1vol% CNT/アルミナ 破断面電子顕微鏡写真
42
3vol% VGCF-S/Al2O3 100K
3vol% VGCF-S/Al2O3 10K
粒成長はそれほどではない。CNT/Al2O3 の間に隙間
表面に遊離した CNT が多数みられる
がある?
図 2.2.8 3vol% CNT/アルミナ 破断面電子顕微鏡写真
43
5vol% VGCF-S/Al O 10K
2 3
5vol% VGCF-S/Al2O3 100K
表面に遊離した CNT が多数みられる。
多孔質に近い様子。
図 2.2.9 5vol% CNT/アルミナ 破断面電子顕微鏡写真
44
Sample D
Sample C
Sample B
アルミナ
図 2.2.10 各種条件で作製した CNT/アルミナ複合材料の破壊靱性値
45
図 2.2.11 CNT/ アルミナ焼結体の構造と圧痕より伸びたクラックの状態
Sample B (分散剤無し) 1vol%CNT 添加 1350℃焼成
46
図 2.2.12 CNT/アルミナ焼結体の構造と圧痕より伸びたクラックの状態
Sample C (分散剤あり)pH 調製なし 1vol%CNT 添加 1350℃焼成
47
図 2.2.13 CNT/ アルミナ焼結体の構造と圧痕より伸びたクラックの状態
Sample D(分散剤あり)pH=4.5 で調製 1vol%CNT 添加 1350℃焼成
48
図 2.2.14 使用したカテキン含有天然物系分散材他と CNT を分散した溶液
49
図 2.2.15 多環芳香族の吸着モデルとカテキンの分子構造
50
図 2.2.16 カテキン含有天然物系分散剤を存在させた場合の電位差滴定曲線
51
図 2.3.1 CNT 表面での分散剤/アルミナとの反応模式図
52
3.各種分散剤を用いた CNT 分散水溶液の検討
3.1 緒言
Peng らは、CNT はその単体に於いて引張り強度、縦弾性係数はそれぞれ 100GPa と 1000GPa
と従来の材料に比べて 1〜2 桁高い特性を示しており[1]-[4]、塊状の物質では実現出来な
い程の機械的特性を CNT は示す。この為 CNT を繊維強化材料として用いたセラミックス複
合材料においても盛んに研究が進められている[5]-[10]。セラミックス材料のもっとも課
題とされる物理的特性はその低い破壊靭性値であり、CNT により繊維強化したセラミックス
複合材料では破壊靭性値の向上が最も期待される。
しかし複合材料としてその特性を発揮する為には、はじめに CNT をその溶媒中に高い効率
で分散・安定化させる事が必要である。分散安定性は様々な因子が相互に関した現象であ
り、この為に非常に複雑な特性を持つ。これらの因子は以下の物理・化学的因子に依存し
ている[11]。
1)溶液中に分散している粒子の濃度(体積、重量)
2)分散している溶液の密度、粘度
3)溶液中に分散している粒子の状態(粒子径、形状、密度の分布)
4)溶液に分散している粒子間の相互作用(静電的相互作用やファンデルワールス力)
5)分散している粒子と溶液との相互作用(濡れ性、界面張力、表面及びバルクのレオロ
ジーなど)
一般的な議論として、粒子の分散安定性に関しては粒子表面の静電相互作用による安定
化が議論される。しかし1)〜3)に示す物理量もストークスの式を基礎にしたスラリー
分散・安定性に関しては重要な意味を持つ。
CNT は繊維状であるため異方性が高く、高分子材料等では混練時の粘弾性状態を利用する
事により均一に分散・安定化させる技術が確立されつつある。しかしセラミックス材料で
は一般に用いられる水溶液中等での単純なスラリーでの混合では十分な分散が困難である。
この為セラミッックス、CNT 分散・安定性の為の分散剤の選定・評価は破壊靭性値をはじ
め機械的特性を実現する為の不可欠の要素であり、その重要性は以前より認識されている。
この為セラミックスの製造プロセスなどの粒子分散系の解析では、これまでにスラリーの
特性化の為に多くの技術が用いられて来た。これらの技術のおかげで巨視的な特性や、レ
オロジー測定、沈降速度試験、成形体最密充填密度計測等が行われる様になった。また粒
度分布やゼータ電位の解析なども検討を行われて来ているが、これらの一般的な測定方法
は希釈系での適用に限られている。この為これらバルクを合成する為の前駆体分散性評価
と機械的特性には現実的な解離があり、限界があった。実際系に近い形での分散性評価が
望まれている。
53
近年これまでの希釈系での懸濁液に適用される手法だけではなく、より実際系に近い濃
厚系での解析が要求されてきている。これに対応するために、多検体遠心沈降分析法、パ
ルス NMR 法が急速に発展している。
○パルス NMR 法[12]−[14]
近年、動的NMRは濃厚分散系における界面制御の研究が応用において急速に重要にな
ってきた技術である。例えば、動的NMRでは、粒子表面に吸着した化学種の分子運動は
局所環境を調べるための非常に敏感なプローブとして使用することができる。NMRの緩
和時間測定により複合系エラストマーの運動性や不均一性、水中において吸着した分子の
動的挙動の変化を容易に明らかにすることができるので、均一系、不均一系を問わず、多
様な用途に対応可能なツールとなりえる。 CNT 水溶液分散系において使用される分散剤は水溶液に水和して溶解する。低い濃度であ
れば分子溶解領域で存在し、濃度上昇と共にミセルを形成する事が知られている。この際
に溶解する状態では水分子を水和している関係から、バルクの水分子と分散剤近傍の水分
子では分子運動の束縛状態が異なる事が考えられる。パルス NMR を用いて大きなモーメン
トを持つ H を含む水分子の緩和時間 T2 を計測する事で、液中の水の異なる束縛状態を観察
する事が出来、CNT と分散剤の液中での量的な関係を明らかにする事が可能となる。
○遠心沈降分析法[15]−[17]
CNT 分散安定性に関しては遠心場に於ける分散系の状態を近赤外光で分光を行う手法に
て評価を行った。LUMiFuge/LUMiSizer を用い、CNT 懸濁液に対して 6~2300Gの重力で遠心
力による分離過程を近赤外光の透過光強度によって計測し、CNT の分散安定性を評価した。
本章では CNT 分散剤としてポリスチレン-マレイン酸系共重合体を例にとり、水溶液中
での CNT と分散剤の相互作用、分散安定性に関して検討を行った。
3.2.実験方法 本研究で使用した MWCNT(Multi-Walled-Carbon-Nano-Tube)は保土谷化学社製 MWNT-7K
を用いた。MWNT-7K の基本的な物性を表 3.2.1.に示す。分散剤はポリスチレン-マレイン
酸系共重合体((株)センカ製 GD55R(分子量約 4,000) 図 3.2.1:以後 PSMA と称する)
を用いた。ポリスチレンの官能基は疎水性でベンゼン環を持っており、CNT 表面のグラフェ
ンシートとπ-πスタッキングにより吸着すると推測している。またマレイン酸は親水性で
カルボニル基を持っており、これが水溶液系側に配向する事で CNT は水溶液側に見かけ上
可溶している[18]−[22]。
54
3.2.1 CNT 水系分散溶液の作製
CNT を含むスラリーの調整は、以下の手順により得た(図 3.2.2)。
1) 高密度ポリエチレン製密閉容器に蒸留水 150cm3 に所定量の分散剤を加え混合する。
2) CNT を 1.5g 秤量し、1)の溶液に加える。
3) φ20mm のアルミナボール(日本化学陶業社製 SSA-99.5)を6個加え、60rpm の速度で
10時間撹拌する。
CNT に対する分散剤の量は 0.7%から 14%(CNT に対する重量比:固形分)添加し、上記
の手法により CNT を水溶液中に分散した。
3.2.2.分散剤吸着量の定量
CNT に吸着した分散剤の定量は、CNT 含有水溶液中における未吸着の分散剤を濾過、分取、
減圧乾燥を行い、残渣の重量を測定する事により得た。実験は以下の手順で行った。
2−1.で得られた CNT 含有水溶液をホールピペットで 10ml 採取し、φ47、目開き 0.2μm
の親水性 PTFE 製のメンブレンフィルターを用いてろ過、濾液を得た。更に 10ml の蒸留水
で 3 回水洗し、先の濾液と併せて採取し、この濾液を減圧乾燥する事で分散剤を計量し、
未吸着の分散剤を計測する事で吸着した分散剤量を定量した。
3.2.3.パルス NMR による分散剤の評価
得られた溶液を用いてパルス NMR 方式粒子表面特性評価装置 ACOMArea(XigoNanotools
社製)により緩和時間 T2 を計測し、CNT が存在する溶液中の分散剤添加量と水溶液の構造を
評価した。
3.2.4.振動粘度測定法による粘度測定
得られた溶液を用いて振動粘度測定装置 SV-10A (株式会社 A&D)により溶液粘度を測
定し、分散材の増加に伴う液体の構造の変化を調べた。CNT を分散した溶液 30ml を分取し、
振動板全体を溶液に浸漬させ試験を行った。試験温度は 25±2℃である。
3.2.5.多検体遠心沈降分析法による分散性の評価
2-1.で得られた溶液のうち、吸着飽和前後の溶液を LUMGmbH 社製粒度分布・分散安定
性分析装置 LUMSizer を用いて分散安定性を評価した。セル中に CNT スラリーを入れ、6
〜2300G の遠心場でのセルの遠心軸方向の光透過分布を計測する事で分散安定性を評価し
55
た。評価を行った CNT スラリーは GD55R 添加量により、飽和前後を含む以下の 3 種類(3.5%
(C-1 と表す)、7%(C-2 と表す)、11.7%(C-3 と表す))を選定した。
3.3 結果及び考察
3.3.1.界面活性材吸着量の定量
試作した CNT を含む水溶液はどの濃度域においても CNT が水溶液中において濡れている
事を確認している。
図 3.3.1 に溶液中の分散剤濃度(CNT に対する比)に対する CNT への吸着量を示し、右
図には試験に供したセルを示す。横軸は CNT への分散剤吸着量を示し、縦軸は CNT を水溶
液中に分散させた際の分散剤濃度を示す。図より水溶液中の分散剤濃度が約 3.5%までは
CNT への吸着濃度が上昇している事が解る。この事より CNT 表面への分散剤飽和吸着量は約
0.018g/g(CNT)と推測している。3.5%以降は増加が見られない。またこれ以上の分散剤添
加量では分散剤は CNT 表面には吸着せず、水溶液中に単純な吸着とは異なる構造が存在し
ていると推測している。
3.3.2パルス NMR による分散剤の評価
図 3.3.2 に溶液中の分散剤濃度に対するパルス NMR 横緩和時間(T2)及び CNT 表面への
分散剤の吸着量を示す。分散剤吸着量が飽和する濃度約 4%までは横緩和時間 T2 は直線的
に緩和時間が減少している事が解る。これは吸着に伴い、CNT 上へ吸着している分散剤に相
互作用を受ける水分量が増加し、その結果 T2 が減少していると考えている。
この結果よりパルス NMR での T2 値は CNT 上に吸着した分散剤に束縛される水分子の運動
状態を示しており、パルス NMR が分散剤の吸着挙動解析が可能である事を示している。
これに対して吸着量が飽和した後は、溶液中の分散剤の構造が複雑になり、T2 にバラツ
キが生じていると考えているが、詳細な構造は以降の項目で検討する。
3.3.3 CNT 分散水溶液の粘度評価と吸着量、パルス NMR との相関性
図 3.3.3 に分散剤濃度に対する CNT を含む溶液の粘度の変化(分散剤吸着量を含む)を示
す。分散剤0 の場合の粘度が必要であるが、CNT を純粋に添加すると完全に水面上に存在
し、溶液中に分散することはできなかった。
分散剤を 3%程度まで添加した場合、粘度は 2mPa/s 程度を示している。分散剤濃度が 3%
を超えると、濃度は分散剤濃度の増加に伴い 3.3mPa/s まで増加する傾向を示す。その後 7%
程度で急激に 0.6mPa/s まで濃度が低下し、再度分散剤の増加に伴い徐々に粘度が増加する
ことが分かった。
56
分散剤吸着と粘度の関係に関して検討する。分散剤吸着飽和量は 3.5%程度である。粘度
変化は 3.5%まではほぼ一定の値であり、3.5%を超えると粘度が上昇する。アルミナ粒子な
どへの界面活性剤添加した場合の挙動として、界面活性剤が粒子表面に飽和吸着し、それ
以上に界面活性剤を添加すると粘度上昇を起こすことが知られている。3.5%以上の分散剤
増加では、飽和吸着以上の分散剤を添加していることにより粘度上昇を起こしていると推
定している。
図 3.3.4 に分散剤濃度に対する CNT を含む溶液の粘度と T2 の変化を示す。T2 は分散剤
濃度上昇に伴い、7%までは単純に減少し、7%以上では上昇している。これに対して粘度は
3.5%未満ではほぼ一定であり、3.5%から 7%までは上昇している。7%以上では T2 と同様に上
昇している。
T2 は先述のように分散剤の周囲にある水の束縛状態を示すとすると、3.5%までは CNT 表
面に吸着している分散剤周辺の束縛された水を占めし、3.5%より 7%までは、吸着はしてい
ないが、その周囲で存在している水分子を示していると考えている。7%以上ではまた別の
存在状態を示していると考えているが詳細に関しては今後の検討課題である。
3.3.4 水溶液中における分散性の評価
図 3.3.5 に多検体遠心沈降分析法による分散性の評価を行ったサンプルを示す。分析
は 6〜2300G まで徐々に遠心力を大きくする方法で行った。遠心力は図中 Cellbottom 方向
に掛かっている。サンプルは前述の通り 3.5%(C1)、7%(C2)、11.7%(C3)である。C1
においては 2300G を印加したあとは完全に沈降している事が解る。分散剤量を吸着飽和量
以上に増加させた C2、C3 においては、CNT は水溶液中で分散・安定化している事が解る。
図 3.3.6―3.3.8 分散性の評価を行った結果を示す。図中、横軸は遠心分離装置の中心
軸からの距離、縦軸は光の透過率を示す。グラフでは回転中心より遠い距離にある曲線が
試験の開始を、回転中心から近い距離にある曲線が試験終了時を示す。図中、回転中心か
らの距離に対して傾きを持たない線である場合全体として沈降を起こしており、均一に沈
降している事を示している。一方傾きを持つ曲線となった場合には、粒子は独立して沈降
している事になる。
図 3.3.6 に示す C1 では時間経過(遠心力を高くする)と共に CNT が存在する液面が徐々
に回転中心に向かって沈降して行く事が解る。また CNT が存在する濃度は光の透過率より
考えると、遠心中心からの距離に対して透過率を示す曲線は、左から右に斜めに上昇して
いる事が解る。これは CNT が均一には沈降せず、分布を持って沈降している。この事から
57
も CNT は水溶液中において水に対して濡れてはいるが、安定して分散はしていない事が解
る。これに対して図 3.3.7、3.3.8 に示す分散剤を飽和吸着量以上に増加した C2、C3 では
液面の回転中心への沈降量が徐々に減少し、また遠心中心からの距離に対して透過率を示
す曲線は透過率に対して平行であり、分布も小さくなる傾向が有る。また C2 と C3 を比較
すると、分散剤量の増加に伴い分散安定性が増加している事が解る。遠心沈降法での解析
の結果から C1 では CNT は単独で沈降している物が多く、これに対して C3 分散剤量の増加
に伴い、CNT 間で相互作用を及ぼしながら沈降している。
図 3.3.9 に C1~C3 CNT 分散水溶液の時間に対する積算透過光量を示す。約 1500 秒ま
では回転数 2,000rpm、それ以降は 4,000rpm にて遠心沈降を行っている。1 時間当りの透過
率の変化を傾きとして比較した。この傾きが小さい場合、分散安定性が優れていることに
なる。C2、C3 の比較においても 4,000rpm ではその差が顕著に認められ、分散剤の増加に伴
い分散安定性が増加している事が解る。
分散剤の吸着が飽和していない状態では CNT を水溶液中では濡れる働きを示すが、分散
安定性には寄与が不十分である。これに対して分散剤が過剰量添加している場合、CNT 表面
に吸着していない分散剤が分散安定性に寄与する働きを示していると推測している。
これらの構造に関して図 3.3.10 にモデル図を示す。PSMA 系分散剤では官能基では親水
基と疎水基が両方存在する。C2 で示される分散剤濃度までにおいては、一般的な吸着等温
泉に従い分散剤は疎水基のポリスチレンが CNT 表面に吸着し、マレイン酸基は水溶液中に
配向する事で水溶液中に溶解する。C3で示される分散剤濃度においては、C2と比較して
過剰な分散剤が存在する[22]−[25]。過剰な分散剤は親水性基を水溶液中に配向し、分
散剤が吸着した CNT 間に存在するネットワーク構造を構築する。これにより CNT の分散安
定性に寄与していると推測している。
3.4まとめ
本研究においては PSMA 系分散剤を用いた CNT を含む水溶液に関してパルス NMR、溶液の
粘度測定、遠心沈降法を用いた粒子分散安定性評価の検討を行った。
1) PSMA 系分散剤において、パルス NMR 法により CNT 上に吸着した分散剤の増加と横緩和時
間(T2)に関して、飽和吸着を行うまでは相関関係があり、分散剤吸着量が飽和する 7%
までは T2 が減少する事が解った。しかし CNT の溶液中の分散は分散剤の添加量 7%では
不十分であり、分散性を向上させる為には更に添加が必要である。また分散剤の添加量
を増加させると CNT の分散安定性が向上するが、添加量 11.7%では T2 は増加する傾向
に有る事が解った。
58
2) 溶液粘度と分散剤添加量の関係では
① 飽和吸着までは粘度が低下(分散剤 0 の場合は作製出来ないため、この部分は
推測)
② 飽和吸着ののち粘度が上昇する。
③ その後、一度粘度が下降したのちに再度粘度上昇する。
このことより、少なくとも CNT を含む溶液には 3 つの①~③までの構造があると推測して
いる(図 3.4.1-3.4.2 青破線で領域を区切る)。
3) 2)遠心沈降分析法においてカーボンナノチューブ表面への吸着量のみではその分散安
定性が不十分であり、これは粒子分散等で示される一般的な吸着等温線では説明出来な
い。飽和吸着量を超えて液中に存在する分散剤がある種のネットワーク構造を構築し、
分散安定性に寄与していると推測している。
4) PSMA 系分散剤では官能基では親水基と疎水基が両方存在する。一般的な吸着等温泉に従
い分散剤は、疎水基のポリスチレンが CNT 表面に吸着し、マレイン酸基は水溶液中に配
向する事で水溶液中に溶解する。過剰な分散剤は親水性基を水溶液中に配向し、分散剤
が吸着した CNT 間に存在するネットワーク構造を構築する。これにより CNT の分散安定
性に寄与していると推測している。
5) 分散剤の吸着、分散系に関してはパルス NMR と多検体遠心沈降分析法により非常に容易
に吸着量、分散の評価が可能である。
59
5.参考文献
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61
表 3.2.1 MWNT-7 の物性
62
図 3.2.1 分 散 剤 の 構 造 ( ポ リ ス チ レ ン - マ レ イ ン 酸 共 重 合 体
PSMA)
図 3.2.2 CNT 分散水溶液の作製模式図
63
図 3.3.1 CNT 上への PSMA 吸着量
64
図 3.3.2 CNT 上への分散剤吸着量と緩和時間 T2 の関係
65
図 3.3.3 分散剤濃度に対する CNT を含む溶液の粘度の変化
66
図 3.3.4 分散剤濃度に対する CNT を含む溶液の粘度と T2 の変化
67
図 3.3.5 多検体遠心沈降分析法による分散性の評価を
行ったサンプル
68
図 3.3.6 CNT スラリーの分散安定性 (C1)
69
図 3.3.7 CNT スラリーの分散安定性 (C2)
70
図 3.3.8 CNT スラリーの分散安定性 (C3)
71
図 3.3.9 CNT 分散水溶液の時間に対する積算透過光量
72
図 3.3.10 CNT 分散水溶液中の推定する構造
73
図 3.4.1 CNT 上への分散剤吸着量と溶液粘度の関係(溶液構造の推定)
74
図 3.4.2 CNT 分散水溶液の T2(緩和時間)と溶液粘度の関係(溶液構造の推定)
75
4.CNT 表面に吸着した分散剤とアルミニウム成分の相互作用
4.1 緒言
4.1.1 CNT/アルミナ複合材料の研究と界面構造
近年カーボンナノチューブ(carbonnanotubes : CNT と略記)を繊維強化材料として
用いたセラミックス複合材料においても盛んに研究が進められている。セラミックス材料
のもっとも課題とされる物理的特性は、その低い破壊靭性値であり、CNT を繊維強化したセ
ラミックス複合材料では破壊靭性値の向上が期待される。
しかし複合材料としてその特性を発揮する為には、はじめに CNT をそのマトリックス中
に高い効率で分散させる事が必要である。CNT は繊維状であるため十分な分散が困難であり、
この為に分散剤等の利用が研究されている。3 章においては、水溶液中での分散性に関して
検討を行い、その機構に関してモデルを提案した。
更に機械強度、破壊靭性値を向上させる為には、マトリックス材料と CNT の間の制御も
必要と成ってくる[1]。複合材料の破壊靭性向上の機構としては、様々なモデルが提案され
て来ているが[2]-[3]、これらのモデルのいずれもが単純にマトリックス中に CNT が分散す
るモデルではなく、何らかの界面構造の制御を持つもとして提案されている。つまりマト
リックス材料と CNT との混合時の前駆体の構造がその焼結体の機械的特性及ぼす影響が大
きい。
これまでに Santhyaetal[4]や平田・石原ら[4]-[5]によってポリアクルル酸、ポリビニ
ルアルコールのアルミナ表面への吸着挙動が明らかにされている。これらによると pH によ
るアルミナの表面構造とポリアクリル酸のカルボニル基との化学結合による吸着が起きて
いると考えられている(図 4.1.1)。これらによると水和したアルミナ表面にポリアクリ
ル酸のカルボニル基の二重結合酸素の不対電子若しくはアルミナ表面の酸素と水素イオン
の相互作用(pH<4)、及びカルボニル基とアルミナの難溶性塩が生成する反応を推定して
いる。またポリビニルアルコールに於いても同様の反応を推定している。
これらの反応は、分散剤を構成する分子構造中のカルボニル基とアルミナ表面が強固な
化学結合の生成を示しているものである。
4.1.2 CNT/アルミナ複合材料を作製する前駆体の構造
CNT/アルミナ複合材料を作製する上で、前駆体に於ける CNT/アルミナとの上述の様な結
合はその焼結体に及ぼす影響が少なからず有ると考えている。この為 CNT への水溶液への
分散に同様の官能基を有しているポリスチレンマレイン酸共重合体(GD55R:センカ社製
固体分 34.5%:以降 PSMA)やカテキン(試薬:アルドリッチ社製)に於いても、各 pH に
76
おいてアルミナとの相互作用を有すると推測している。
電位-pH 図によると、アルミニウムイオンは水溶液系に於いて、pH=4.5 を境に酸性側で
は Al3+として存在し、pH=5 以上では実際として水酸化アルミニウム(Al(OH)3)として存
在する。この場合、pH<4.5 ではアルミニウムイオンとしての反応性、pH>5 ではアルミニ
ウム酸化物固体(水酸化物)として反応しているものと考えられる。Santhyaetal[1]に
よるアルミナとポリアクリル酸相互作用を検討すると物質移動として、pH<4 ではカルボニ
ル基の酸素と表面水酸基の水素、もしくはカルボニル基の水素と表面水酸基の酸素との静
電相互作用と示されている。この場合、溶液中の溶液 pH の変化は認められない。
-Al-(OH)+-COOH ⇒ -Al-(OH)----(-OCOH) (4.1)
しかし、pH<4 において先の電位-pH 図においてはアルミニウムイオンが存在出来る事が
解っており、黒瀬らの研究[6]によっても最も安定なα-アルミナにおいてもアルミニウ
ムイオンが溶出する事が解っている。アルミニウムイオンが存在し、難溶性塩を生成した
場合には以下の(4-2)に示される反応により溶液 pH が低下すると推測される。
Al3++3(-COOH)⇒ (-COO)3Al+3H+
(4.2) また pH>5 では(4-3)の式で表される様なアルミナ表面の水酸基との間に難溶性塩生成
反応が発生すると推測している。
-Al-(OH2)++-COOH ⇒ -Al-(-O-C=O)x+H2O+H+(4.3)
つまり分散剤が吸着した CNT とアルミニウムイオン若しくはアルミニウム酸化物系溶液
との反応は、溶液 pH を測定する事により計測する事が出来ると考えている。
本章では以下の項目に関して検討を行った。
4.1.3 使用する分散剤の官能基の検討
本研究で使用した MWCNT(Multi-Walled-Carbon-Nano-Tube:以降 CNT と標記)は保土谷
化学社製 MWNT-7K を用いた。分散剤は主として物理結合を持つと推測される構造を持つも
のを選定し、高分子系、低分子系の 2 種類を選定した(図 4.1.2)。
77
分散剤 1.
高分子系分散剤の 1 つであるはポリスチレン-マレイン酸系共重合体(PSMA:(株)セン
カ製 GD55R(分子量約 4,000))を用いた。ポリスチレンの官能基は疎水性でベンゼン環を
持っており、CNT 表面のグラフェンシートとπ-πスタッキングにより吸着すると推測して
いる。またマレイン酸は親水性でカルボニル基を持っており、これが水溶液系側に配向す
る事で CNT は水溶液側に見かけ上可溶している。
分散剤2.
(+)カテキン(アルドリッチ社製)を用いた。
カテキンに関しては PSMA に対し親水基であるカルボニル基を持っておらず、主として水
酸基を 1 分子内に複数保持している((+)Catechin の場合は 5 個)。疎水基は分子構造内
には 2 つのベンゼン環を保有し、PSMA と同様にその部分でのグラフェンシートとπ-πスタ
ッキングにより吸着しているものと推測している。
CNT を分散させる能力などに関しては中島らの研究[7]により報告されている。
1)電位差滴定法によるアルミニウムイオンとの反応性評価
硝酸酸性硝酸アルミニウム溶液を用いた溶液に分散剤を共存させ、電位差滴定法により
pH=4.5 付近のプラトーの変化から、分散剤とアルミニウムイオンの反応及びその量に関し
て検討を行った。
2)pH シフト法によるアルミニウムイオン等との反応性評価
pH 変化を明確に調べる為に、MWCNT 水溶液とアルミニウムイオン若しくはアルミニウム
酸化物系水溶液を別々に且つ同じ pH に調整し、これらを混合した際の時間に対する溶液 pH
変化を測定する事でこれらの反応を調査した。
3)pH シフト法により作製した CNT/アルミニウムイオン複合材料の形態に係る解析
2)で調べた MWCNT 水溶液とアルミニウムイオンの反応生成物を FE-SEM、TEM-EDX をも
ちいて、CNT 表面上にアルミニウムイオンが析出していることを調べた。
4.2 実 験 方 法 4.2.1 電位差滴定法によるアルミニウムイオンとの反応性評価方法
【硝酸アルミニウム水溶液の調製】
5x10−3M 硝酸アルミニウム水溶液を調整し 100ml 採取する。この水溶液に所定量の PSMA、
78
(+)カテキンを所定量加えマグネティクスターラ―で撹拌し、溶解させることで試験溶
液とした。
【電位差滴定】
作製した溶液にマイクロビュレットを用いて 1N KOH 溶液を 0.01ml 滴下する(図 4.2.1)。
滴下3分後に溶液の pH を計測する。この作業を pH が 10 を超えるまで続ける。初めに分散
剤が入っていない系を計測してこれをブランクとする。その後所定量の分散剤を添加した
溶液を同様に計測し,ブランクと比較する事で分散剤の影響を調べた。
実験手法詳細に関しては第 2 章を参照。
4.2.2 pH シフト法によるアルミニウムイオン等との反応性評価方法
【溶液の調製】
第 3 章にて CNT の水中での分散性を評価した試料のうち、PSMA 添加系に関しては CNT
に対しての添加量を重量比率として 3.5%(C1 と表す)、11.7%(C3 と表す)を選定した。
カテキン添加系においては、同様に重量比率で 13%(D1 と表す)、27%(D3 と表す)を選定
した。
【硝酸アルミニウム水溶液の調製】
10−2M 硝酸アルミニウム水溶液を調整し、これを 50ml 採取する。この溶液を 1N 水酸化カ
リウム水溶液、1N 硝酸水溶液を用いて、溶液 pH(4、5、7の 3 種類)を調整した。
【CNT/分散剤スラリー】
容量 250ml のポリエチレン溶液に分散剤である PSMA(ポリスチレンマレイン酸共重合体)
を水 150ml に加え、CNT を 1.5g 加える。これにφ20mm のアルミナボール(日本化学陶業社
製アルミナボール 材質 SSA995)6 個及びφ5mm アルミナボール 70g(同上)を加え、12 時
間容器を回転させて混合する。混合終了後、この液を 50ml 採取する。この溶液を 1N 水酸
化カリウム水溶液、1N 硝酸水溶液を用いて、溶液 pH(4、5、7の 3 種類)を調整した。
(+)カテキンを用いたスラリーも同様の操作を行った。
【pH 変化の計測】
① ②で作製した同じ溶液 pH の溶液を混合し、マグネティックスターラで大気中におい
て撹拌下、溶液 pH の変化を調べた(図 4.2.2)。
4.2.3 pH シフト法により作製した CNT/アルミニウムイオン複合材料の形態に係る解析方
法
79
【CNT 表面の状態】
混合した液を 10ml 採取し、親水化 PTFE 製フィルター(目開き 0.2μm)上でろ過、30ml
の蒸留水を用いて3回水洗した CNT を乾燥後、FE-SEM(日立ハイテクノロジーズ社製電界
放射型電子顕微鏡 S-4800)、TEM-EDX(日立ハイテクノロジーズ社製 H7600)により形態
を調べた。
4.3 結 果 及 び 考 察 4.3.1 電位差滴定法によるアルミニウムイオンとの反応性評価
アルミニウムイオン(Al3+)を含む水溶液に徐々にアルカリを滴下すると、以下に示さ
れる反応が進行する。
Al3++3(OH)−⇒ Al(OH)3
この反応は加えたアルカリ(OH-)が水酸化アルミの生成として消費される為に、溶液
中の pH の変化は見た目上無くなる。縦軸を溶液 pH、横軸を加えた1NKOH としてグラフ
に示すと平坦部として表される。
初めに分散剤を添加していない系をブランクとし、分散剤を加えた系とブランクを比
較する事で、分散剤とアルミニウムイオンとの反応を評価した。
【PSMA 系】
図 4.3.1 に PSMA を加えた場合の電位差滴定曲線を示す。ブランクに対して、PSMA を
加えた系はそのプラトーは添加量の増加に比例して短くなっている事が解る。また pH<
4.5 の領域では加えたアルカリに対して pH 変化が小さく、アルミニウムイオンでは無く
別の化合物が生成している可能性を示している。また滴定曲線はブランクに対して初期
pH では塩基性側にシフトしていることより、pH=3 付近にておいて酸を消費する反応が
起きている。
平坦部を測定し、減少したプラトー量からアルミニウムイオン(Al3+)を計測する手法
を図 4.3.2 に示す。この方法を用いて分散剤へアルミニウムイオンが吸着した量を試算
した。結果を図 4.3.3 に示す。添加した PSMA 量に比例して反応したアルミニウムイオ
ン量が増加している事が解る。
【カテキン系】
80
同様に(+)カテキンを加えた場合の電位差滴定曲線を図 4.3.4 に示す。ブランクに
対して、PSMA を加えた系と同様にそのプラトーは添加量の増加に比例して短くなってい
る事が解る。但し pH<4.5 の領域では加えたアルカリに対して pH 変化は PSMA のサイト
は異なり、pH の緩衝能が異なっている。アルミニウムイオンでは無く別の化合物が生成
し、且つ別の塩が生成している可能性を示している。また滴定曲線はブランクに対して
右にシフトしており、PSMA とは酸塩基の緩衝能が異なる生成物が有ると推測している。
またアルミニウムイオン(Al3+)との反応量に関して同様に図 4.3.3 に示す。添加した
(+)カテキン量に比例して反応したアルミニウムイオン量が増加している事が解る。
反応量については PSMA が(+)カテキンの約4倍程度反応する事が解った。
電位差滴定曲線の結果からアルミニウムイオンと分散剤の反応を確認する事が出来た。
また電位差滴定曲線を用いて反応量の定量を行う事も可能である。
4.3.2 pH シフト法によるアルミニウムイオン等との反応性評価
【分散剤の有無による反応】
はじめに①硝酸アルミ水溶液を pH=5 に調整した。この溶液に純水を加えて pH の経時変
化を計測した系及び、②同じ pH=5 の硝酸アルミ水溶液に同じ pH に調整した表面に分散
剤を吸着した CNT 水溶液(C3)を同量加えて pH の経時変化を計測した系の 2 つを準備し
た。
結果を図 4.3.5 に示す。図中硝酸アルミのみの系①では pH の変化は殆ど観察されなか
った。一方、硝酸アルミと分散剤吸着 CNT を加えた系②では、混合直後に pH が pH=5 よ
り pH=4.3 まで酸性側にシフトしている事が解る。酸性側にシフトした後、溶液 pH は時
間経過と共に徐々に塩基性側にシフトしている事が解る
この 2 つの系の比較より、水溶液中において、硝酸アルミ(この場合では水酸化アルミ
として水溶液中に存在)と分散剤が吸着している CNT との間に、溶液を混合する事により
化学反応が発生し、
② 水素イオンが発生する非常に早い反応
②徐々に水酸イオンを生成する①と相対的に遅い反応
の 2 つの種類の反応が発生している事が解る。
【溶液 pH の影響:PSMA 系】
81
図 4.3.6 に硝酸アルミ水溶液及び分散剤(PSAM)が吸着した CNT 水溶液(C3)の溶液 pH
の経時変化を示す。溶液 pH は pH=4、5、7 の 3 種類である。
pH=4 の系の場合には液を混合した直後に溶液 pH は酸性側にシフトしている事が解る。
一方 60 秒後の溶液 pH は殆ど塩基性側に戻らず、pH=3.8 付近においてほぼ一定の値を示し
ている。
これに対して pH=5、pH=7 の溶液 pH では液の混合直後に酸性側にシフトしている。この
場合溶液 pH=5 の系では pH=5⇒pH=4.2 付近まで酸性側にシフトしており、pH=7 の系でも
同様に pH=6.6 付近まで酸性側にシフトしている。60 秒後の状態は pH=5 の系では徐々に塩
基性側にシフトし、pH=4.5 付近まで塩基性側にシフトしている。pH=7 の系では元の pH を
超えて、pH=7.5 付近まで塩基性にシフトしている事が解る。 水素イオンの濃度の変化で比較(PMSA)を図 4.3.7 に示す。この場合、pH=7 では水素
イオン濃度の変化は殆ど見られず、pH=4 は pH=5 を比較すると、水素イオン濃度変化は pH=5
の 2 倍程度水素イオン量が増加している事が解る。
【溶液 pH の影響:カテキン系】
同様に(+)カテキンを分散剤とした系(D3)の結果を図 4.3.8 に示す。
pH=4 の系の場合には液を混合した直後に溶液 pH は酸性側にシフトしている事が解る。
一方 60 秒後の溶液 pH は殆ど塩基性側に戻らず、pH=3.6 付近においてほぼ一定の値を示し
ている。
これに対して pH=5、pH=7 の溶液 pH では液の混合直後、同様に酸性側にシフトしている。
この場合溶液 pH=5 の系では pH=5⇒pH=4.4 付近まで酸性側にシフトしており、pH=7 の系
でも同様に pH=6.6 付近まで酸性側にシフトしている。60 秒後の状態は pH=5 の系では徐々
に塩基性側にシフトし、pH=4.6 付近まで塩基性側にシフトしている。pH=7 の系で、pH=
7.5 付近まで塩基性にシフトしている事が解る。
水素イオンの濃度の変化で比較(PMSA)を図 4.3.9 に示す。この場合、pH=7 では水素
イオン濃度の変化は殆ど見られず、pH=4 は pH=5 を比較すると、水素イオン濃度変化は pH=5
の 10 倍程度水素イオン量が増加している事が解る。
これらの結果より溶液 pH の影響は以下の通りである。
・ pH<4.5(Al3+として存在している)では、溶液混合時に酸性側にシフトし、その後は pH
の変化は大きくは見られない。
82
・ pH>4.5(Al(OH)3 もしくは AlO2-として存在していると推測)では混合時に酸性側にシフ
トしてゆくが、徐々に塩基性側に戻っている。アルミニウムイオンとしてだけでなく、
固相の場合でも化学反応を起こしていると推測出来る。
・ これらは PSMA、
(+)カテキンでも同様に起る現象である。ただし pH の変化量等は非常
に大きい影響を持つ。
【濃度の影響:PSMA 系】
図 4.3.10 に C3、C1 の溶液 pH に対する変化量のグラフを示す。C3 と C1 の添加量比
はほぼ 3 倍程度である。溶液 pH4.5、7においてアルミニウムイオン添加後の pH 変化の
傾向はほぼ同じである。しかし水素イオン濃度に換算した場合(図 4.3.11)、その変化量
は大きく異なり、C3の変化量は C1と比較して pH=4の場合で約 10 倍、pH=5の場合で約 5
倍程度の違いがある。
【濃度の影響:カテキン系】
図 4.3.12 に D3、D1 の溶液 pH に対する変化量のグラフを示す。D3 と D1 の添加量
比はほぼ 2 倍程度である。溶液 pH4.5、7においてアルミニウムイオン添加後の pH 変化
の傾向はほぼ同じである。しかし水素イオン濃度に換算した場合(図4.3.13)、その変化
量はそれほどの違いはなく、変化量に関しては PSMA と大きく異なることが分かった。
4.2.3 pH シフト法により作製した CNT/アルミニウムイオン複合材料の形態に係る解析
4.2.2 で得られたアルミニウムイオンと CNT 分散水溶液中の CNT を分取して電子顕微鏡に
より CNT 表面の観察を行った。未処理の CNT を電子顕微鏡で観察した場合の電子顕微鏡像
を図 4.3.14 に示す。CNT は自体は電子顕微鏡で観察した場合、非常に平滑な面を持って
いることが解る。また MWNT-7 には生産途上で発生した球状のカーボン粒子が混ざっている
ことが解る。
【PSMA 系】
C1 における pH=4、5.7 の CNT 表面観察の電子顕微鏡写真を図 4.3.15‐4.3.17 に示す。
pH=4 では CNT 上には僅かに粒子らしきものの析出がみられるが、顕著な析出物は観察され
ていないことが解る。これに対して pH=5 では 2-30nm 程度の析出物が観察されている。pH=7
では全体として CNT 表面の凹凸が観察され表面全体に付着物がみられる。
83
【Catechin 系】
D1 における pH=4、5.7 の CNT 表面観察の電子顕微鏡写真を図 4.3.18‐4.3.20 に示す。
pH=4 では CNT 上には C1 と同様に僅かに粒子らしきものの析出がみられるが、顕著な析出物
は観察されていないことが解る。これに対して pH=5 では 2-30nm 程度の析出物が観察され
ている。pH=7 では C1 で観察された CNT 表面の凹凸らしき模様は見られず、CNT 粒子間に剥
離して凝集していると思われる様子が見られる。
【TEM/EDX による観察】
C1 の試料に対して、TEMEDX 観察を行った(pH=4、pH=5)。TEM 観察の結果を図 4.3.21、
4.3.22 に示す。TEM による観察では、
(pH=4、pH=5 双方に CNT 表面に粒子状の付着物らしき
模様が観察された。また pH=5 では凝集した粒子状のものが多く観察された。
視野中、CNT 表面の粒子状の物質に対して、TEM/EDX にて組成分析を行った。結果を図
4.3.23、4.3.24 に示す。pH=4 の観察視野では CNT 粒子が無い部分ではアルミニウム成分は
観察されなかった。しかし視野上に粒子が析出している部分でアルミニウム成分が観察さ
れた。また pH=5 では粒子上の成分 2 か所を計測し、いずれもアルミニウム成分を観察した。
この結果より CNT 表面の粒子状析出物は先に pH シフトで反応し吸着したアルミニウムイ
オンであると推測している。
以上より、pH シフトを用いた反応により分散剤と反応することが分かった。また分散剤
の種類によって反応量、反応機構が異なると推測される。
pH シフトの時間経過とともに 2 つの反応が進行することに関しては、現段階では以下の
様に Santhya らのモデルを基に推測している(図 4.3.14)。
1) 反応初期においては、Al3+(もしくは Al-OH2+:表面水酸基)がカルボン酸基もしく
は水酸基の H+と置き換わって、難溶性塩を生成することで水素イオンを放出し、溶
液 pH は酸性になる。
2) その後未かい離のカルボン酸と水酸化アルミの-OH 基が反応して水酸イオン(OH-)を
放出することで塩基性にシフトする。
3) COO-と COOH の存在領域は pKa で決定されるが、大まかには pH>4.5より若干低い値で
有る為、このような反応が進行する。pKaは分子構造によっても若干変化すると推測
する。
84
4−4 結言
1)電位差滴定を用いたアルミニウムイオン(Al3+)と分散剤との反応に関して評価を行っ
た。分散剤とアルミニウムイオンとの反応性を確認でき、分散剤 1g あたりのアルミニ
ウムオンの反応量に関しては、PSMA に関しては 0.63x10-3mol。カテキンに関しては
0.16x10-3mol 程度であることが分かった。
2)pH シフト法、電子顕微鏡観察を用いて、アルミニウムイオン(水酸化アルミを含む)
との反応性に関して検討を行い、それぞれの溶液 pH において分散剤と反応することを
確認した。
3)溶液 pH を変化させた場合に、初期に水素イオンを放出する反応、その後に水素イオン
を吸収{もしくは水酸イオンを放出する反応}の 2 つが同時に発生する。
4)PSMA 系では、分散剤の濃度に対応する形で反応量は変化する。しかし分散剤添加量と
反応量は1:1対応ではない。
5)カテキン系では分散剤濃度に対して反応量の依存はないことが分かった。
85
4−5 参考文献
[1] K.M. Prewo : Tailoring Multiphase and composite Ceramics, Materials Science
Research,vol.20,PlenumPress,NewYork,p529(1995)
[2]B.Bender,D.Shadwell,C.Bulki,L.Incorvari,D.LewisⅢ,AmCeram.Soc.Bull.,”
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[3]MRossoJournalofMaterialsProcessingTechnology,”Ceramicandmetalmatrix
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[4]SanthiyaD,SubamanianS,NatarajanKA,MalgphanSG,JColloidInterfaceSci,
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Poly(vinylalcohol)ontoAlumina,216,(1990)143-153
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100,[1](1992)7-12
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SolutionIndividuallySolubilizesSingle-walledCarbonNanotubes,Chem.Lett.36,
(2007)1140-1141
86
図 4.1.1.Santhya et al によるアルミナとポリアクリル酸相互作用の概念図
87
OH
HO
OH
O
HO
OH
(+)Chatechin
図 4.1.2 分散剤の分子構造
88
図 4.2.1 電位差滴定法概略図
89
図 4.2.2 pH シフト法操作概略図
90
図 4.3.1
PSMA を添加した 5x10-3M Al(NO3)3 溶液の
電位差滴定曲線
91
図 4.3.2 電位差滴定によるアルミニウムイオン吸着量の計算方法
92
Catechin
PSMA
図 4.3.3 分散剤へのアルミニウムイオン吸着量
93
-3
図 4.3.4 Catechin を添加した 5x10 MAl(NO3)3 溶液の
電位差滴定曲線
94
Al(OH)3 のみ
CNT GD55R/Al(OH)3 混合系
図 4.3.5 CNT 分散水溶液とアルミニウムイオン含有溶液との反応
(比較として分散剤なしの場合を示す)
95
図 4.3.6 硝酸アルミニウム水溶液及び分散剤(PSAM)が吸着した
CNT 分散水溶液(C3)の溶液 pH の経時変化
96
Al 溶液の添加
図 4.3.7 硝酸アルミニウム水溶液及び分散剤(PSAM)が吸着した
CNT 分散水溶液(C3)の水素イオン濃度の経時変化
97
図
4.3.8 硝酸アルミニウム水溶液及び分散剤(PSAM)が吸着した
CNT 分散水溶液(D3)の溶液 pH の経時変化
98
図 4.3.9硝酸アルミニウム水溶液及び分散剤(PSAM)が吸着した
CNT 分散水溶液(C3)の水素イオン濃度の経時変化
99
図 4.3.6 硝酸アルミニウム水溶液及び分散剤(PSAM)が吸着した
CNT 分散水溶液(C3)の溶液 pH の経時変化
100
101
図 4.3.10 硝酸アルミニウム水溶液及び分散剤(PSAM)が吸着した CNT 分散水溶液(C1 及び C3)の
溶液 pH の経時変化
100
図 4.3.11 硝酸アルミニウム水溶液及び分散剤(PSAM)が吸着した CNT 分散水溶液(C1 及び C3)の
水素イオン濃度の経時変化
101
図 4.3.12 硝酸アルミニウム水溶液及び分散剤(Catechin)が吸着した CNT 分散水溶液(D1 及び D3)の
溶液 pH の経時変化
102
図 4.3.13 硝酸アルミニウム水溶液及び分散剤(PSAM)が吸着した CNT 分散水溶液(C1 及び C3)の
水素イオン濃度の経時変化
103
CNT
炭素粒子
図 4.3.14 使用した CNT(MWNT-7)の電子顕微鏡像
104
PSMA C1 pH=4
図 4.3.15 pH シフト法により処理を行った CNT の
電子顕微鏡イメージ
(PSMA C1 pH=4)
105
PSMA C1 pH=5
図 4.3.16 pH シフト法により処理を行った CNT の
電子顕微鏡イメージ
(PSMA C1 pH=5)
106
PSMA C1 pH=7
図 4.3.17 pH シフト法により処理を行った CNT の
電子顕微鏡イメージ
(PSMA C1 pH=7)
107
Catechin
D1
pH=4
図 4.3.18 pH シフト法により処理を行った CNT の
電子顕微鏡イメージ
(Catechin D1 pH=4)
108
Catechin
D1
pH=5
図 4.3.19 pH シフト法により処理を行った CNT の
電子顕微鏡イメージ
(Catechin D1 pH=5)
109
Catechin
D1
pH=7
図 4.3.20 pH シフト法により処理を行った CNT の
電子顕微鏡イメージ
(Catechin D1 pH=7)
110
図 4.3.21 C1 pH=4における TEM 像
111
図 4.3.22 C1 pH=5における TEM 像
112
析出粒子と思われる部分
(併せて Si も存在?)
粒子が見られない部分
図 4.3.23 C1 pH=4における TEM 像及び組成分析(点分析:定性)
113
析出粒子と思われる部分
析出粒子と思われる部分
図 4.3.24 C1 pH=5における TEM 像及び組成分析(点分析:定性)
114
5.CNT/アルミナ複合材料の機械的特性に関わる検討
5.1緒言
5.1.1 概要
これまでにアルミナ/カーボンナノチューブ複合材料の前駆体の検討を行った。用いる分
散剤、前駆体を合成する溶液 pH の変化によっての違いを論述した。本章では、異なる条件
で作製した前駆体を用いて焼結体を作製し、その焼結体の機械的強度を調べる事で、前駆
体が焼結体の機械的特性に及ぼす影響を明らかにした。
これまでにアルミナセラミックス等でも分散性による強度変化等の論文が数多く報告さ
れている。また産業界においてもその粒度分布計測等は JIS 化の動き等も行われており、
その製造段階での品質管理は製品に与える影響が非常に大きい事が認識されている。
5.1.2 セラミックスの破壊と破壊靭性値[1]-[3]
5.1.2 では CMC(CeramicsMatrixComposite)の高靭性化機構に関して説明する。固体
材料の破壊のメカニズム及び複合材料化した場合の破壊メカニズムに対して本研究に置け
る材料の強化機構に関して考察する。
【セラミックスの破壊】
固体材料の破壊の様式は以下の 2 種類に類別される。
①
脆性破壊(へき開など)
②
延性破壊(塑性流動など)
材料にかかる応力に対応する場合、先述の①、②のどちらの破壊が発生するかによって、
破壊の様式は大きく異なる。金属材料の場合、その破壊の多くは転位の移動による原子間
のすべりが容易に生じ易いため塑性流動がおこり変形を生じる。ポリマー等も同様に長鎖
の物質内の相対的な移動により塑性流動をおこし変形する。
これに対してセラミックスは転位の運動に対する変形に体する格子抵抗が大きい為に、
転位が生成して運動をはじめる前に、原子間の結合が切断されて材料が破壊されてしまう
事が、先の 2 つの材料系とは大きく異なる点である。
材料中の構成する原子間結合が切断され、せん断破壊する際の応力をτmax とすると、破
壊が瞬間的に発生する場合、その材料固有のせん断係数を G とすると以下の式で近似され
る。
τmax≒ G/2π (5.1)
115
この為に強度はせん断係数 G に大きく影響されると予測される。
しかし実際の材料の場合はこの式に従うことが少ない。例えば金属材料の場合、転位に
よる塑性変形が有る為に、式5.1には従わない事が一般的である。金属材料では原子の
結合強度は 3 次元的な異方性(力の方位)を持っており、方向によって強度が異なる。こ
の為、結合強度が弱い方向に塑性変形が生じ易い。塑性変形はせん断応力τがある限界値
τy を超えた際に発生し、このτy は降伏応力と呼ばれる。金属材料はせん断が発生する前に
転移による塑性変形が発生する。すべり変形により十分な転移密度が生成されると転移群
がクラックを生成するのに十分な高い応力集中を生じる事により破壊が発生する。
一方セラミックス材料の場合には、アルミナ、シリカの様な共有結合性が強い固体等で
は強度の異方性が小さく、転位が容易に発生しないためにτy が非常に大きい為に転位が動
き出す前に破壊が発生する。セラミックスは理想系の強度に比べ実際系の強度は非常に小
さい。これは内在する欠陥が大きく影響している。この様な理由によりセラミックス材料
は金属材料、ポリマー材料と比較して塑性変形伴わない脆性破壊が発生する。
セラミックスが破壊される場合には弾性変形からいきなり破壊に移行する。この時に欠陥
がなければ材料中の応力は均一にかかる。しかし実際の材料では何処か一箇所から破壊が
発生する。この事は材料中に欠陥等の弱い部分が存在する事を示唆している。この様な破
壊のメカニズムはグリフィスの理論が基礎となる。グリフィスの理論では表面や内部の欠
陥による応力集中が破壊の起点となる事を仮定している。
長さ a のクラックを持つ無限大の厚さのセラミックス板を考える。クラックはその先端
で原子結合が切断された時に進展するとする。
セラミックス板のそうエネルギーU、クラックのない場合のセラミックス板の弾性エネル
ギーU0、クラックが生じた為にセラミックス板に生じた弾性エネルギー Ua、クラック(あ
たらしい表面)を作る為に要したセラミックス板の表面エネルギーUγ、クラックを生成す
る為に外部からセラミックス板になされた仕事 F とすると、以下の式で表される。
U=U0+Ua+Uγ−F (5.2)
クラックが進展する為の条件は dU/da=0 となる。
セラミックス板の表面エネルギーγs、弾性率を E とすると、破壊応力 σf は以下の
式で表される。
𝜎𝑓= (2𝐸γ𝑠/𝜋𝑎)(5.3)
116
E’=E(平面応力) E’=E/(1-γ2) (平面ひずみ)
この式から解る様に、脆性材料のクラックの進展は①外部応力、②クラック長さ、③弾
性率、表面エネルギー等の材料定数で決まる事が解る。
強度を改善する為には弾性率はセラミックスを構成する原子結合の強度により定まる為
に、a を小さくする、もしくは表面エネルギーを小さくする事が求められる。a を小さくす
る方法はセラミックス組織の微細化(材料粒子、焼結後の組織)により行われている。CMC
の高靭性化機構は表面エネルギーを小さくする事による物である。これは繊維材料等をマ
トリックス中に導入する事により、界面の導入や破断の凹凸等によってあたかも表面エネ
ルギーが大きくなった事を意味している。
【セラミックス複合材料の破壊】[1]
セラミックス複合材料の破壊現象はいくつかの区分があることが知られている。大き
く分けると、シールディング機構、非シールディング機構である。
シールディング機構では、コンタクトシールディングとゾーンシールディングとに区別
され、その中でも様々な区分が存在する。
ファイバー材料などによる複合化の場合にはシールディング機構はブリッジングプルア
ウトなどで示される場合であり、外力のクラック先端への影響をファイバーが存在する。
・ 第 2 相(強化相)が直接力を受け持つ事によりシールディングを行う。
・ 第 2 相は直接力を受け持たず、破壊過程に対して相互作用を及ぼす。
また ZrO2等による誘起応力変態などの機構も存在している。
非シールディングでは、き裂先端の相互作用(フロンタルプロセスゾーンでの現象)①
き裂の湾曲、②き裂の偏向などがある。
一般的なセラミックス複合材料の破壊様式を表 5.1.1[1]に示す。
繊維強化セラミックスはこれまでに様々な研究がおこなわれてきている。SiC 系材料では、
炭素繊維上に様々なコーティングを施した場合の強度変化の研究もおこなわれている[4]。
この様に繊維/マトリックス界面の表面処理の状態により全体としての強度、破壊靱性値へ
の影響は非常に大きいものと考えられる。
【破壊靭性値】
元々セラミックスは硬い材料であると言う反面、非常に脆いという性質を持っている。
117
「脆い」と言う材料の反対は「粘り強い」という特性になる。この特性は「靭性」と呼ば
れる。つまり靭性は、物質の脆性破壊に対する抵抗値の程度もしくは、き裂による強度低
下の抵抗値を示す事になる。
亀裂が存在する材料に応力がかかっている場合,この亀裂が進展するためには材料の有
する抵抗力に打ち勝たなければならない。この亀裂進展に対する抵抗力の事を広義で「破
壊靭性」と呼ぶ。
ファインセラミックスの破壊靭性は破壊する時の亀裂先端での応力拡大係数 KIC で表さ
れ「破壊靭性値」と呼ばれる。特に平面ひずみ条件下での亀裂が開く型の破壊靭性値 KIC が
材料の比較に使用される。CNT/アルミナ複合材料でも、同様の研究が様々な機関で進めら
れており、様々な手法により破壊靭性は検討されている。
本研究においても作製した試験片に対して破壊靭性値 KIC を用いて評価した。評価方法は
JISR16072010 に基づいて試験を実施した。本試験方法は硬さ計を用いた圧子圧入法であ
る[5]。
CNT/アルミナ複合材料でも、同様の研究が様々な機関で進められており[6]-[10]、これら
複合材料の機械強度、破壊靭性に関するは上記の方法、その他 SEVEN 法等を用いて評価さ
れている。
5.2 実験方法
5.2.1 CNT/アルミナ複合材料の焼結方法
使用する原材料は以下の通りである。
CNT:MWNT-7(保土谷化学社製)
アルミナ:TM-DAR(大明化学工業社製)
アルミナ/カーボンナノチューブの各条件での焼結体作製方法を以下に示す。なお、本製
造方法は第 2 章で示した製造方法とほぼ同一である。
1) 分散材を所定量くわえた水溶液を作製し、これに硝酸を加えて pH=4 若しくは 5 とし、
アルミナを加えた(スラリーpH は随時硝酸を加えて調整)。
2) この後に MWNT-7 を加え、更にポットミルで混合する。
3) 得られたスラリーを 70℃で 1 昼夜乾燥させ、再度ポットミルでアルミナボールを加え
118
たまま混合・粉砕する事で CNT/アルミナ複合体粉末を得た。
4) 得られた粉末をφ20mm の金型を用いて 1 軸プレス、CIP を実施し、成形体を得た。
5) 成形体をカーボンビーズ埋入中、1350℃から 1400℃、Ar 雰囲気中で焼成する事で焼
結体を得た。
評価を行った CNT スラリーは PSMA 添加量により、飽和前後を含む以下の 2 種類(3.5%
(C1 と表す)、11.7%(C3 と表す))を作製した。また調整した pH は各々pH=4,5 の 2 種
類とした。
同様に CNT スラリーはカテキン添加量により、飽和前後を含む以下の 3 種類(13%(D1
と表す)、27%(D3 と表す))を選定した。また調整した pH は各々pH=4,5 の 2 種類とし
た。
コントロールとしてアルミナ単独での試験片を併せて作製した。作製したアルミナは特
に分散剤、溶液 pH を制御しておらず、原料である TM-DAR をそのまま利用した。
5.2.2 焼結体の密度測定方法
焼結体の密度は、無水エタノールを用いたアルキメデス法により求めた[11][12]。
比重測定装置D-1653(株式会社エーアンドディー)を用いて行った。
5.2.3 機械的強度及び破面電子顕微鏡観察
得られた試験片をステップカッター (精密切断機)MC-170Y (株式会社マルトー)を
用いて、2 ㎜ x2 ㎜□xL=15 に切断し、曲げ試験片を得た。この曲げ試験片を微小強度測定
装置マイクロオートグラフ MST-I(株式会社島津製作所)3 点曲げ試験機を用いて、破断
強度を測定した。
破断面の観察はビッカース硬度計でクラックを入れた試験片を電界放射型電子顕微鏡
(日立ハイテクノロジーズ社製 S-4800)を用いて、クラックの伸展、形状などを観察し
た。
5.2.4 破壊靭性値及びクラックの成長の電子顕微鏡観察
評価方法は JISR16072010 に基づいて試験を実施した。本試験方法は硬さ計を用いた圧
子圧入法(IFmethod:Indentation-Fracture)である。
試験サンプルは以下の方法にて作製した。
① 用いる試験片をエポキシ樹脂に埋入し、1 昼夜保存する。
119
② エポキシ樹脂に埋入した試験片を回転研磨機 テグラミン-25(丸本ストルアス株式
会社製)により用いて、研磨を実施する
③ 研磨は#240 から開始し、#2,000 まで実施する。最後にダイヤモンドペースト 3μm
を用いて、最終研磨を実施する。
作製したサンプルを、微小マイクロビッカース硬度計 HM-200(株式会社 ミツトヨ)を
用いて、ダイヤモンド圧子により破壊靭性値を計測した。破壊靭性値を計測する計算式は
以下の通りである。
Kc=0.018(E/HV)1/2(P/C3/2)
=0.026(E1/2P1/2a)/C3/2
但し Kc:破壊靭性値 E:計測する弾性率
HVビッカース硬さ
P:押し込み荷重
C:クラック長さの半分の平均の半分
a 圧痕の対角線長さの平均の半分
また試験条件は以下の通りで実施した。
・ 圧入力 19.6N
・ 圧入パターン 圧入 4秒:保持 10秒:除去 4秒
・ 圧入雰囲気 大気中 室温 23℃ 湿度 55%Rh
クラックの成長状態の観察はビッカース硬度計でクラックを入れた試験片を電界放射型
電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ社製 S-4800)を用いて、クラックの伸展、形状な
どを観察した。
5.3 結果及び考察
5.3.1 焼結体の密度測定
図 5.3.1 に各試料の焼結体真密度の結果を示す。いずれの焼結体でも密度は 99%以上で
あり、セラミックス複合材料として十分な密度を持っていることが解る。
120
5.3.2 機械的強度及び破面電子顕微鏡観察
図 5.3.2 に各試料の 3 点曲げ試験結果を示す。アルミナ単独での焼結では 3 点曲げ強度
450-500MPa に対して、200-300 MPa と低い値を示している。各試料の曲げ強度に関して
は特に傾向がみられることがない。全体として PSMA を用いた試料はカテキンと比較して高
い値を示している。また 1350℃、1400℃の焼成温度の違いによる強度の差は特に大きな影
響を示さなかった。
図 5.3.3~図 5.3.6 までに代表的な試料の破断面の電子顕微鏡観察像を示す。破断面の
観察では、粒内より CNT が突出している場合と、粒界より突出している場合の 2 つに分け
られる。前駆体合成時の区別によって大小は特に観察されなかった。
ここより特に低い 3 点曲げ強度を持つ試料には、CNT の凝集塊の影響による数十μm の空
孔がみられることが有る(図 5.3.7)。これらが破壊起点となって低い曲げ強度を示した
ものと推測している。安定した曲げ強度を維持するためには今後分散の完全性に関して、
さらに検討を進める必要がある。
5.3.3 破壊靭性値及びクラックの成長
図 5.3.8 に 1350℃で焼成した焼結体の破壊靱性値 K1c を示す。コントロールとして
TM-DAR のみで 1350℃で焼成したアルミナの破壊靱性値を示す。アルミナ単独では K1C=3.5
程度を示す。これに対して分散剤として PSMA を用いて CNT を加えたアルミナ(C1、C3)
では
①C1、C3 ともにアルミナ単独系に比して、明らかに高い破壊靱性値を示し、分散剤の添加
効果が確認できた。
②C1、C3 を比較すると全体として添加量の増加に伴い、破壊靱性値が大きくなっているこ
とが解る。
③ pH の影響では pH=4 に対して pH=5が高い値を示していることが解る。
一方カテキンを添加して CNT を加えたアルミナ(D1、D3)では
① D1、D3 ともにアルミナ単独系に比して、明らかに高い破壊靱性値を示し、ともに分散剤
の添加効果が確認できた。
② D1、D3 を比較すると全体として添加量の増加に伴い、破壊靱性値が大きくなっているこ
とが解る。
③ pH の影響では pH=4 に対して pH=5が高い値を示していることが解る。
C1、C3(PSMA)と D1、D3(カテキン)を加えた系を比較すると、PSMA の系はわずかに
121
破壊靱性値が高い。
図 5.3.9 に 1400℃で焼成した焼結体の破壊靱性値 K1c を示す。アルミナ単独では
K1c=3.7 程度を示す。これに対して分散剤として PSMA を用いて CNT を加えたアルミナでは
1350℃にて焼成した試料と同様に、
① C1,C3 ともにアルミナ単独系に比して、明らかに高い破壊靱性値を示した。
②C1、C3 を比較すると全体として添加量の増加に伴い、破壊靱性値が大きくなっているこ
とが解る。
② pH の影響では pH=4 に対して pH=5が高い値を示していることが解る。
一方カテキンを添加して CNT を加えたアルミナでは
① C1,C3 ともにアルミナ単独系に比して、明らかに高い破壊靱性値を示した。
② C1、C3 を比較すると全体として添加量の増加に伴い、破壊靱性値が大きくなっているこ
とが解る。
③ pH の影響では pH=4 に対して pH=5が高い値を示していることが解る。
PSMA とカテキンを加えた系を比較すると、大きな変化は見られない事が解った。
以上より PSMA 及びカテキンを加えた試料に関して破壊靭性値を計測した。その結果、1)
CNT/アルミナ複合材料の破壊靭性値を向上出来る事を確認した。また添加する分散材では
1350℃において僅かでは有るかカテキンを添加した場合が優位であった。1400℃において
は優位な差は見られ無かった。
2)前駆体を調整する溶液 pH では全体として pH=5の場合が高い靭性値を示した。
5-4-4.クラックの伸展
5-4-3 において計測したクラックの伸展の状況を電子顕微鏡により観察を行った。分散剤
として PSMA を用いた試料の計測結果を図 5.3.10 に示す。比較として同じ条件で焼成、
測定したアルミナ(TM-DAR)を用いた。
アルミナのクラックの伸展では、クラックはほぼ直線上に伸展しており、細かくは粒界
に沿う形で伸展している。またそのクラックの幅はビッカース圧子による圧痕付近では 0.5
μm 程度の幅を持つものである。
これに対して C1 pH=4、pH=5 ではクラックの幅が 0.2μm 程度であり、アルミナに対
して狭い事が解る。また1部幅の広い部分を観察すると、クラック中に CNT がクラックを
122
跨ぐ形で存在している事が観察出来た。C3 pH=4でも同様にクラックの幅が 0.1−2μm 程
度と非常に狭い事が解る。クラックの周囲では一部分であるが、周辺の粒子が浮き出てい
る様子も観察された。クラックの伸展はアルミナと同様に粒界を沿う形で進んでいる。C3
pH=5 ではクラックの幅は他の試料と比較して更に小さくなり、またクラックの周囲では粒
子が剥離している様子も同様に観察された。
分散剤としてカテキンを用いた試料(D1、D3)の計測結果を図 5.3.11 に示す。D1 pH=4
ではクラックの幅が 0.2μm 程度である。他方 D1pH=5、D3 pH=4、pH=5 ではクラックの幅
が非常に狭い事が解る。クラックの伸展はアルミナと同様に粒界を沿う形で伸展している。
以上より、クラックの伸展の状況を観察すると、クラックの幅が単独系のアルミナに比
べて非常に狭くなっており、アルミナ中に分散されている CNT がブリッジングにより、ク
ラックの伸展時に幅の拡大を抑制し、フロンタルプロセスゾーン(亀裂先端)に掛かる応
力を抑制している機構ではないかと考えている[1]-[3]。
3 章、4 章において検討を行った CNT 上でのアルミナ分散等と破壊靭性値との関係は、以
下の通りである。
1)全体として pH=4 に比較して pH=5 の方が若干高い値を示した。
2)これまで検討した 2 種類の界面活性剤では添加量の増加に伴い高い値を示した。
5.4 まとめ
CNT/アルミナ複合材料を焼成し、各種機械特性を調べた。その結果、以下の事が解った。
1) アルミナに CNT を分散させる事により破壊靭性値を向上出来る事を確認した。
2) 添加する分散材では 1350℃において僅かでは有るかカテキンを添加した場合が優位で
あった。1400℃においては優位な差は確認出来無かった。
3) 前駆体を調整する溶液 pH では全体として pH=5の場合が高い靭性値を示した。
4) クラックの伸展の状況を観察すると、クラックの幅が単独系のアルミナに比べて非常に
狭くなっており、アルミナ中に分散されている CNT がブリッジングにより、クラックの
伸展時に幅の拡大を抑制し、フロンタルプロセスゾーン(亀裂先端)に掛かる応力を抑
制している機構ではないかと考えている。
5) 3,4 章で検討を行った CNT 上でのアルミナ分散と破壊靭性値との関係は、界面活性剤の
種類、作製する溶液 pH により影響を受けると推測しているが詳細は今後、更に条件検
討を詰める必要が有る。
123
5.5 参考文献
[1] セラミックス基複合材料, 香川豊 八田博志 著,アグネ承風堂(1990)
[2] 東京工業大学 第 11 回 高温構造材料特論 “セラミックスの高靱化メカニズム 1”
資料
[3] 東京工業大学 第 12 回 高温構造材料特論 “セラミックスの高靱性化機構”資料
[4] K.M.Prewo: TailoringMultiphaseandcompositeCeramics,MaterialsScience
Research,vol.20,PlenumPress,NewYork,p529(1995)
[5]JIS-R-1607:JISハンドブック36(セラミックス),日本規格協会,(1994)
[6]Z.Xia,L.Riester,W.A.Curtin,H.Li,B.W.Sheldon,J.Liang,B.Chang,J.
M.Xu,Directobservationoftougheningmechanismsincarbonnanotubeceramicmatrix
composites,ACTAMATER52(2004)931-944
[7]:Kee-SungLEE,Byung-KoogJANG,YoshioSAKKA,DamageandwearresistanceofAl2O3–
CNTnanocompositesfabricatedbysparkplasmasintering,
[8]Kee-SungLEE,Byung-KoogJANG,andYoshioSAKKA、Damageandwearresistanceof
Al2O3–CNTnanocompositesfabricatedbysparkplasmasintering,J.Ceram.Soc.Jpn,
121[10](2013)867-872
[9]GoYamamoto,KeiichiShirasu,ToshiyukiHashida,ToshiyukiTakagi,JiWonSuk,
JinhoAn,RichardD.Piner,RodneyS.RuoffNanotubefractureduringthefailureof
carbonnanotube/aluminacomposites,Carbon,49(2011)3709–3716
[10]:MehdiEstili,AkiraKawasaki,HirokiSakamoto,YutakaMekuchi,MasakiKuno,
TakayukiTsukada,Thehomogeneousdispersionofsurfactantless,slightlydisordered,
crystalline, multiwalled carbon nanotubes in a-alumina ceramics for structural
reinforcement,ACTAMATER,56(2008)4070–4079
[11]JIS-R-1634:JISハンドブック36(セラミックス),日本規格協会,(1998)
[12] エタノールの比重に関しては、メトラードレード密度測定キット取扱説明書より米
国物理学会ハンドブックの数値を用いて行った。
124
表 5.5.1 セラミックス複合材料の破壊形態一覧
125
図 5.3.1 焼成した CNT/アルミナ複合材料の焼結密度
126
図 5.3.2 CNT/アルミナ複合材料の 3 点曲げ強度試験結果
127
図 5.3.3 CNT/アルミナ破断面 (C1)
128
図 5.3.4 CNT/アルミナ破断面(C3)
129
図 5.3.5 CNT/アルミナ破断面(D1)
130
図 5.3.6 CNT/アルミナ破断面(D3)
131
図 5.3.7 CNT/アルミナ判断面に観察された CNT 凝集による欠陥の 1 例
132
1350℃
図 5.3.8 CNT/アルミナ複合材料の破壊靱性値(1350℃焼成品)
133
1400℃
図 5.3.9 CNT/アルミナ複合材料の破壊靱性値(1400℃焼成品)
134
図 5.3.10 CNT/アルミナ複合材料のクラック伸展の状態(C1,C3PSMA 系)
135
図 5.3.11 CNT/アルミナ複合材料のクラック伸展の状態(D1,D3 カテキン系)
136
6.総括
本研究においては CNT 繊維強化複合セラミックスの製造プロセスにおいて、前駆体を合成す
る際の溶液構造とセラミックス/CNT 複合材料の機械特性との関連を明らかにする事を目的とし
た。
本書の構成は,以下の通りである。
1.
序論
第 1 章では炭素系材料概要、及び繊維強化複合材料の研究開発に関して記した。
2.
カテキン含有天然物系分散剤を用いた CNT/アルミナ複合材料の試作
第 2 章ではカテキン含有天然物系分散剤を用いて CNT/アルミナ複合材料の試作及び原理
となる機構の解析を行った。ここでは CNT を繊維強化材としてアルミナセラミックスに添
加する事に寄って、破壊靭性値を向上出来る事を確認した。また CNT/アルミナスラリーの
前駆体合成時に CNT 表面に吸着した分散剤がアルミニウムイオンと相互作用を持つ可能性
に関して電位差滴定法を用いて解析を実施した。
この事より CNT/アルミナ複合材料を作製する上での前駆体合成の重要性を認識し、その
溶液構造の解析を実施する事とした。主として①分散安定性 ②CNT/アルミニウムイオン
間の相互作用に関する項目 の 2 つを考え、機械的特性(特に破壊靭性値)との相関を検
討した。
3.
各種分散剤を用いた CNT 分散水溶液の検討
第 3 章では CNT 単独系においての水中での分散状態、分散安定性に関して議論を行っ
た。ここではポリスチレン-マレイン酸系ブロック共重合体(PSMA)を分散剤の 1 つとして
検討した。PSMA 添加 CNT 分散溶液に関しては以下の事が解った。
1)
PSMA と吸着量の関係では吸着飽和を超えて、分散剤を添加する事で分散安定
性が発言する事が解った。
2)
分散安定性に寄与する構造としては、分散剤が吸着し水中に分散している CNT
の間に更にミセル状態の分散剤が存在する事で繊維状の CNT が安定して分散
出来るとの考え方を示した。
4.
CNT 表面に吸着した分散剤とのアルミニウム成分の相互作用
第 4 章では分散剤が吸着した CNT とアルミニウム成分の相互作用に関して検討を行った。
第 2 章で使用した電位差滴定及び pH シフト法を用いて、種々の pH による CNT(分散剤)と
137
アルミニウム成分(アルミニウムイオン及び沈殿生成物としての水酸化アルミニウム)と
の関係を調べた。この場合先の PSMA(高分子系)と(+)カテキン(低分子系)の 2 つに
関して検討を行った。その結果、以下の事が解った。
1)
pH4、pH5 での検討の結果、pH がシフトする事により分散剤とアルミニウム成分の反
応を確認した。
2)
分散剤の分子構造、濃度、反応する溶液 pH でそれらの反応が異なる事が示唆された。
3)
これまでのアルミナ/ポリアクリル酸等で検討が行われた反応の他に、未解離のカル
ボン酸との反応が存在する事を示唆するデータが得られた。
5.
CNT/アルミナ複合材料の機械的特性に関わる検討
第 3 章、第 4 章の結果に基づき、CNT/アルミナ複合材料の試作を行い、破壊靭性値の評
価を行った。その結果、以下の事が解った。
1)
これまで検討を行った前駆体を使用して作製した CNT/アルミナ複合材料にお
いて破壊靭性値が向上する事が解った。
2)
前駆体合成条件としては、使用する分散剤により破壊靭性値が異なる事が解っ
た。
3)
溶液 pH としては pH=5 で作製した前駆体に対して pH=5 で作製した前駆体が
高い破壊靭性値を示した。
これらより作製した前駆体の条件(分散剤、溶液 pH など)によって破壊靭性値が異なる
事が解った。
以上より本研究において
・ CNT/アルミナセラミックス系において、その前駆体合成時における溶液条件での機械
的特性の変化を統計的に実施した。
・ 前駆体合成時の①分散剤の分子構造 ②分散剤濃度 ③反応する溶液 pH によってその
機械的特性に影響を受ける事が解った。
・ CNT の分散安定性では、これまでの一般的な理論ではなく分散剤が吸着する事だけでな
く、液体中での分散剤のミセル構造が分散安定性に影響を及ぼす、
・ CNT とアルミナとの相互作用では、カルボン酸、水酸基との反応性を確認し、未解離の
カルボン酸に関しても反応を関係する可能性がある事を示した。
しかし作製した試験片断面では CNT の凝集塊がみられ、実用セラミックスとしてはより
138
高い分酸性等が求められると思われる。今後これらの解析技術を用いて、より高いレベル
での分散安定性、反応性の制御を行い、実用レベルでの CNT/アルミナ複合材料の実用化を
検討してゆきたい。
近年ではGeneralElectric 社によってジェットエンジンの 1 部分にセラミックス材料
の 1 つである CMC(CeramicsMatrixComposite)が適用され、2016 年の実用化を目指して試
作・実証試験が進められている。この研究には 1990 年代より基礎研究が継続的に行われて
来ており、幾多の困難を乗り越えて実用化が進められて来ている。
CNT 材料は20世紀末に発見された比較的新しい材料である。理論的には弾性率、機械
強度等では格段に優れた機能を持っていると思われる。
しかし一方で新しい材料であるがゆえに未解明な部分が多く有り、今回検討を行った水
溶液中での実用レベルの濃度による分散水溶液等に関しては未だ実施された例が少ない。
実際に繊維状の材料を水溶液中での分散を行う場合には、その物理的形状の制約から、ま
た表面の不均一性等からも、分散安定性を維持する技術及びその解析を実施する技術等も
未だ不完全である。
今後 CNT の分散から CNT 複合材料の合成まで、技術開発が継続的に統計的に進めてゆき
たい。
139
対外発表
1.参考論文 Refereed Papers
(1)論文名 Effect of surfactant on the dispersion stability of carbon nanotube-alumina
particle systems (Part 1.: Effect of surfactant on dispersion stability of CNT)
カーボンナノチューブ - アルミナ粒子系の分散安定性に対する界面活性剤の影響(第 一
報:CNT 分散安定性への界面活性剤の影響)
著者氏名 西村直之 武田真一 寺西貴志 林秀考 齋藤直人 岸本昭
Mater. Trans., Vol. 56, No12, pp2006-2009 (2015)
2.その他の論文等 Other Papers, etc.
(1)その他の論文 Other Papers
(1)論文名 Evaluation of CNT toxicity by comparison to tattoo ink
著者名 Kazuo Haraa, Kaoru Aokia, Yuki Usuia, Masayuki Shimizua, Nobuyo Naritaa,
Nobuhide Ogiharaa, Koichi Nakamuraa, Norio Ishigakia, Kenji Sanob, Hisao Haniuc,
Hiroyuki Katoa, Naoyuki Nishimura, Yoong Ahm Kime, Seiichi Tarutae, Naoto Saito
Material today, Volume 14, Issue 9, pp 434–440(2011)
(2) 論文名 Carcinogenicity evaluation for the application of carbon nanotubes as
biomaterials in rasH2 mice
著者名 Seiji Takanashi, Kazuo Hara, Kaoru Aoki, Yuki Usui, Masayuki Shimiz, Hisao
Haniu, Nobuhide Ogihara, Norio Ishigaki, Koichi Nakamura, Masanori Okamoto,
Shinsuke Kobayashi, Hiroyuki Kato, Kenji Sano, Naoyuki Nishimura, Hideki Tsutsumi,
Kazuhiko Machida, Naoto Saito6
Scientific Reports, vol. 2, no. 498, pp. 1–7, 2012.(2012)
(3)論文名 Safe Clinical Use of Carbon Nanotubes as Innovative Biomaterials
著 者 氏 名 Naoto Saito, Hisao Haniu, Yuki Usui, Kaoru Aoki, Kazuo Hara, Seiji
Takanashi, Masayuki Shimizu, Nobuyo Narita, Masanori Okamoto, Shinsuke
Kobayashi, Hiroki Nomura, Hiroyuki Kato, Naoyuki Nishimura, Seiichi Taruta,
Morinobu Endo
Chemical Reviews, 114 (11), pp 6040–6079(2014)
(2)口頭発表(ポスター発表含む)Oral and Poster Presentation
1)
発表名 MWCNT を用いた人工関節部材の開発〜高耐久部材を中心として〜
140
発表者氏名 西村直之
日本生体医工学会 ナノメディシン研究会 2012 年 10 月
2) 発表名 カーボンナノチューブを用いた医療用コンポジット材料の開 発
発表者氏名 西村直之
フィラー研究会 第 20 回フィラーシンポジウム 2012 年 11 月
(3)特許 Patent
1) 特許名 セラミックス複合材料の製造方法およびセラミックス複合材料
出願者氏名 西村直之 綱嶋義貴 福与知行 齋藤直人 薄井雄企
特許番号 特開 2014-162692 2013 年 2 月出願(出願中)
2)特許名 セラミックス複合材料の製造方法およびセラミックス複合材料
出願者氏名 西村直之 綱嶋義貴 福与知行 岸本昭 齋藤直人 薄井雄企 遠藤守
信
特許番号 特開 2013-166682 2012 年 1 月出願(出願中)
141
謝辞
本研究を遂行するにあたり、公私にわたり終始暖かいご指導、ご助言ならびにご鞭撻を
賜りました岡山大学大学院自然科学研究科 岸本 昭 教授に心より感謝の意を表します。
また研究を遂行するにあたり、ご懇切丁寧なご指導を頂くと共に、様々なご教示を頂き
ました岡山大学大学院自然科学研究科 林 秀考先生、寺西 貴志先生、小郷 義久先生
に心から感謝の意を表します。
本論文に対しご指導、ご助言を頂きました武田コロイドテクノコンサル株式会社 武田
真一先生(元 岡山大学 助手、大阪大学 講師)、信州大学先鋭領域融合研究群 バイオ
メディカル研究所 バイオテクノロジー・生体医工学部門 齋藤 直人教授、薄井
雄企
先生、青木 薫先生、羽二生 久夫先生に心からお礼申し上げます。
本研究を遂行するにあたり、研究の機会を頂きました帝人ナカシマメディカル株式会社
(旧ナカシマプロペラ株式会社、旧ナカシマメディカル株式会社)に感謝の意を表します。
特に研究の時間をとるために色々と業務の調整をして頂きました蔵本元常務、中村製造部
長、中川研究部長に感謝します。
社会人となって初めてセラミックス研究に接する機会を与えて頂きました三井造船株式
会社 下津 正輝氏、村田 和俊氏、 槙野 隆章氏に感謝します。
研究の基礎を修士学生時代にご教示頂きました元岡山大学 教授 田里 伊佐夫先生に
感謝します。
また本研究を遂行するにあたり、実験装置の教育訓練、有益なご助言、文章の推敲にご
支援を賜りました富山県立大学 永田 員也先生、元ユミコア日本触媒株式会社 小森
充氏、岡山県工業技術センター 西 勝志氏、浦部 匡史氏、日笠 茂樹氏、國次 真輔
氏 に感謝します。
最後に長きにわたる社会人大学院での研究と会社の業務の中で、家庭にておいても研究
に明け暮れた毎日の中で常に暖かく見守ってくれた 妻 知子に感謝します。
2016 年 3 月
西村 直之
142
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