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第8章 天井構成材・接合部の強度

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第8章 天井構成材・接合部の強度
第8章
天井構成材・接合部の強度
落下した天井の調査より、吊元のフック状金具(商品名つりっこ2号:溶融亜鉛メッキ
鋼板 JIS G 3302)が変形して、この部分で分離しているものが非常に多い。したがって、
この金具の強度が問題となる。ここではフック状金具とともに現場から採取された天井構
成材の引張実験の結果をまとめ、その強度および剛性から天井落下の原因を考察する。
8.1 試験体の採取
表 8.1 にサンプル採取された天井構成材の一覧を示す。また図 8.1 にサンプル採取され
た部材、図 8.2 に天井下地の構成・位置関係を、図 8.3~8.5 にサンプル採取を行った位置
を示す。サンプル採取された部材は、試験用と保存用に分かれ、実験では試験用のものを
使用した。
表 8.1 サンプル採取部材(試験用)
部 材
(1)フック状金物
採取場所
@Pオルガン前
(2)ハンガー
@Pオルガン前
(3)防振ゴム
(4)クリップ廻り一式
@Pオルガン前
(野
縁受け・クリップ・野縁・ボー
ド)
@3C席中央付近
サンプリング名
品 種
試験用(1)-1∼試験用(1)-10
−
試験用(2-1)-1∼試験用(2-1)-5 C100×50用
試験用(2-2)-1∼試験用(2-2)-5 C60×30用
試験用(3)-1∼試験用(3)-5
−
試験用(4)-1∼試験用(4)-6
個 数
10
5
5
5
−
6
品 種
フック状金物
全ネジボルト(M12)
防振ゴム
全ネジボルト(M12)
ハンガー(C100×50用)
Cチャンネル(C100×50)
Cチャンネル(C60×30)
フック状金物
全ネジボルト(W3/8)
ハンガー(C60×30用)
Cチャンネル(C60×30)
クリップ
野縁
天井FGボード
ハンガー(C100×50用)
防振ゴム
ハンガー(C100×50用)
フック状吊金物
ハンガー(C60×30用)
防振ゴム
ハンガー(C100×50用)
Cチャン(C100×50)
個 数
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
表 8.2 サンプル採取部材(保存用)
部 材
採取場所
(1)つりっこ吊元から下
@3C席中央付近
部一式
(2)ハンガー吊元から
下部一式
@下手⑪∼⑫通り間
(3)溶接吊元から下部 @下手⑫∼⑬通り
一式
間
(4)落下1次下地(後付 @上手奥タラップに
けアングルあり)一式 引っかかっているもの
サンプリング名
保存用(1-1)
保存用(1-2)
保存用(1-3)
保存用(1-4)
保存用(1-5)
保存用(1-6)
保存用(1-7)
保存用(1-8)
保存用(1-9)
保存用(1-10)
保存用(1-11)
保存用(1-12)
保存用(1-13)
保存用(1-14)
保存用(2-1) 保存用(2-2) 保存用(2-3) 保存用(2-4) 保存用(2-5) 保存用(3)-1
保存用(3)-2
保存用(3)-3
保存用(4)
8-1
Cチャン(C100×50)
1
天井下地材の構成・位置関係は図 8.2(中間報告書 図 4.2.2 を参考に作図)のようになっ
ており、サンプル採取された部材は図の破線で示される位置に使用された部材である。採
取された部材を①、②、③部分に分類して試験体とし、それぞれ別個に引張実験を行った。
②では表 8.1 中の(2)ハンガー、(3)防振ゴムを組み合わせ、一体として引張実験を行った。
またハンガーは品種 C100×50 用のみを用いた。③では(4)クリップ廻り一式の各部材(野縁
受け・クリップ・野縁・ボード)を組み合わせ、一体として引張実験を行った。
①フック状金具(つりっこ)
①
フック状金具(上段)
吊りボルト(上段)φ12
防振ゴム
フック状金具(下段)
①
②防振ゴム+ハンガー+吊りボルト(φ12)
ハンガー(上段吊先)
②
吊りボルト(下段)φ9
野縁受(3次下地材)
③野縁(C-60)+野縁受(C-60)+繊維混入石膏板
③
野縁
図 8.1 サンプル採取された部材
繊維混入石膏場板
図 8.2 天井下地の構成・位置関係
8-2
保存用(3)溶接吊元から下部一式
保存用 (3)-1
保存用 (3)-2
保存用 (3)-3
8-3
図 8.3 サンプル採取位置(1)
試験用(1)-10
試験用(1)つりっこ
試験用(2)ハンガ
試験用(1)-9
試験用(3)防振ゴム
試験用(1)-7
試験用(1)-8
試験用(1)-1 試験用(2-2)-1
試験用(3)-1 試験用(2-1)-1
試験用(1)-2 試験用(2-2)-2
試験用(3)-2 試験用(2-1)-2
試験用(1)-3 試験用(2-2)-3
試験用(3)-3 試験用(2-1)-3
試験用(1)-4 試験用(2-2)-4
試験用(3)-4 試験用(2-1)-4
試験用(1)-5 試験用(2-2)-5
試験用(3)-5 試験用(2-1)-5
C100×50用
試験用(1)-6
C60×30用
図 8.4 サンプル採取位置(2)
8-4
試験用(4)-5
試験用(4)-3
保存用(1)つりっこ吊元から下部一式
保存用(1-1)
保存用(1-2)
保存用(1-3)
保存用(1-4)
保存用(1-5)
保存用(1-6)
保存用(1-7)
保存用(1-8)
保存用(1-9)
保存用(1-11)
保存用(1-10)
保存用(1-12)
保存用(1-13)
保存用(1-14)
試験用(4)-1
試験用(4)クリップ廻り一式 (野縁受け・クリップ・野縁・ボード)
試験用(4)-6
試験用(4)-4
試験用(4)-2
保存用(2)ハンガ吊元から下部一式
保存用(2-1)
保存用(2-2)
保存用(2-3)
保存用(2-4)
保存用(2-5)
図 8.5 サンプル採取位置(3)
8-5
保存用(4)落下1次下地(後付けアングルあり)
保存用(4)
8.2 フック状金具の引張性状
(1) 予備実験
サンプル採取されたフック状金具の引張実験に先立ち、その予備実験として市販品を用
いて引張実験を実施し、フック状金具の最大耐力を確認した。
使用したフック状金具はすべて市販品(つりっこ 2 号 A タイプ:溶融亜鉛メッキ鋼板 JIS
G 3302)であり、計 6 本(No.1∼No.6)に対して鉛直方向のみに加力を行った。また吊元で
あるリップ溝形鋼(以下 C 形鋼)も市販品を使用し、その寸法は C−100×50×20×2.3 とし
た。加力には 100t アムスラー型万能試験機を使用し、C 形鋼の支点間距離は 230mm とし
た。試験体 No.4,5 では吊りボルト先端を C 形鋼に溶接して加力を行った。
表 8.3 に各試験片の最大荷重一覧を示す。カタログ値はフック状金物の 2003 年度版のカ
タログに記載されている値である。No.1~No.6 までの平均最大荷重とカタログ値を比較す
ると、1.13 倍程度となった。
図 8.6 にフック状金具の破壊状況一覧を示す。つめの開きには C 形鋼に設置した倒れ止
めの状況によって差が生じたが、概ね捩れながら上方に開いた。この破壊状況は現場で観
察されたものと矛盾しない。
表 8.3 最大荷重一覧
最大荷重
試験片
kN
kgf
No.1
5.28
539
No.2
5.31
542
No.3
5.67
579
No.4
5.57
569
No.5
5.82
593
No.6
6.23
636
平均
5.65
576
510
カタログ値 5.00
図 8.6 フック状金具破壊状況(左上から No.1∼)
8-6
(2)斜め引張実験
地震時には水平振動による慣性力と、上下振動による慣性力とが加わったと考えられる。
そのため実験ではおもりによって鉛直荷重を加えた状態で、水平荷重を与え、強度、剛性、
破壊性状を調べた。実験に用いたリップ溝型鋼 C-100×50×20×2.3 はサンプル採取された
ものではなく、市販品を調達して使用した。実物では C 形鋼とフック状金具のボルトとは
溶接されていたが、予備実験結果からその影響は小さいものと判断し、実験では溶接を行
っていない。また、採取されたフック状金具のボルトは直径 9mm であり、下段に使用され
ていたものであるが、実験でボルトの損傷等はなかったため、実験で得られたフック状金
具の性状は一般性を有していると判断した。
加力装置を図 8.7 に示す。加力方向は図 8.8 に示すように、C 形鋼の長さ方向に対して平
行方向を x 軸、直行方向を y 軸とした。地震時の水平応答の自由度を考慮し、鉛直荷重を
加えた状態でそれぞれの方向に独立に水平力を加えた。y 軸方向は C 形鋼のウェブから離
れる方向を正、向かう方向を負とする方向に加力した。調査結果より、フック状金具1個
が常時荷重として平均的に負担した重量は 180kg であるので、これを鉛直荷重の基本とし
た。さらに上下動による応答を最大1Gと見積もり、基本鉛直荷重の 1.5 倍および 2.0 倍の
荷重も鉛直荷重として採用した。実験パラメーターは鉛直荷重の大きさおよび載荷方向と
し、計 10 体の試験体について実験した。No.10 については、640kg のおもりを用い、クレ
ーンを使って鉛直方向に徐々におもりの重量をフック状金具に移行させ、最終的に金具を
脱落させ、鉛直方向引張強度を得た。表 8.4 に試験体諸元を示す。
チェーンブロック
C 形鋼倒れ止め
支点間距離 2100mm
C 形鋼
フック状金具
ロードセル
おもり
700mm
加力装置転倒防止
2150mm
1450mm
600mm
図 8.7 x方向加力装置
8-7
表 8.4 試験体諸元
試験体番号
-y 方向
No.1
No.2
No.3
No.4
No.5
No.6
No.7
No.8
No.9
No.10
x方向
+y 方向
おもり重量 吊りボルト
(kg)
長さ(mm) 加力方向
180
397
x方向
270
395
360
395
180
395
+y方向
270
397
360
397
180
398
-y方向
270
396
360
395
640
395
鉛直方向
3 種類(180,270,360)kg のおもりによる鉛直荷重
図 8.8 水平加力方向設定
実験結果をまとめて表 8.5 に示す。表 8.5 の最大斜め荷重とは、水平加力により傾いた
ボルトの方向に一致する荷重である。鉛直方向にのみ荷重を与えた実験(No.10)ではフッ
ク状金具の最大荷重は 5.73kN(584kg)であった。
「つりっこ 2 号」の 2003 年度版のカタ
ログによると、許容静荷重(安全荷重)は 180kg(1.76kN)
、最大荷重は 510kg(5.00kN)
であり、実験による最大荷重はカタログ値を上回っている。
x 方向に水平荷重を加えた場合、
No.1、
No.2 では最大斜め荷重がそれぞれ 2.10kN、
3.20kN
のときフック状金具が C 形鋼上を滑った。下方応答 1G相当の鉛直力を加えた No.3 ではフ
ック状金具のつめが開いてC形鋼から脱落し、最大斜め荷重は 4.51kN となり、鉛直方向の
みの加力における最大荷重値をかなり下回った。No.3 の最大水平荷重は 2.53kN であり、
常時の負担重量の 1.44 倍であった。すなわち、x 方向の水平応答加速度が 1.44Gに達する
と同時に 1Gの鉛直下方の応答が生じると、フック状金具が脱落することになる。
次に+y方向に水平荷重を与えた実験では、鉛直荷重の大きさにかかわらず3体の試験体
ともフック状金具のつめが開きC形鋼から脱落した(図 8.9)
。各試験体の最大水平荷重か
ら求まる脱落時の応答水平加速度/応答鉛直加速度の組み合わせは、No.4:1.82G/0.0G、
No.5:1.44G/0.5G、No.6:1.39G/1.00G となる。すなわち、+y方向の応答では、上下動
の応答がない場合、1.8Gの水平応答で、上下動の応答が 0.5Gを超える場合、1.4Gの応答
でフック状金具は脱落する。
なお、−y方向に水平荷重を与えた実験では吊り金具が C 形鋼ウェブに向かう方向に加
力していくので C 形鋼にねじれ変形が認められ、倒れ止めが外れる、あるいは加力装置が
転倒する等の危険性が生じたため加力を途中で終了した。
8-8
表 8.5 実験結果一覧
おもり吊り時 最大
最大
最大
最大荷重
加力方向 試験体番号 鉛直荷重 斜め荷重 水平荷重 水平変位 時傾斜角
終了状況
(kN)
(kN)
(kN)
(mm)
度R (度)
No.1(180kg)
1.85
2.10
0.86
168
25
吊り金具が水平
x方向 No.2(270kg)
載荷方向に滑る
2.71
3.20
1.64
291
47
No.3(360kg)
3.68
4.51
2.53
263
42
つめが開き脱落
No.4(180kg)
1.82
4.13
3.20
356
64
つめが開き脱落
+y方向 No.5(270kg)
2.69
3.93
2.54
299
49
つめが開き脱落
No.6(360kg)
3.68
4.52
2.44
262
41
つめが開き脱落
No.7(180kg)
1.80
3.56
2.63
356
63
加力途中終了
-y方向 No.8(270kg)
2.70
4.13
2.78
327
56
加力途中終了
No.9(360kg)
3.68
4.97
3.06
323
55
加力途中終了
加力方向 試験体番号 最大荷重(kN)
鉛直方向
No.10
5.73
図 8.9 No.6 試験体破壊状況
表 8.5 に示した鉛直荷重と最大水平荷重の関係をx方向加力および+y方向加力について
プロットしたものを図 8.10 に示す。x方向加力の No.1、No.2 をみると鉛直荷重が大きい
ほど(おもりの重量が大きくなるほど)静止摩擦力が大きくなりフック状金具の滑り時の
水平荷重は増加した。鉛直応答1G相当の No.3 は静止摩擦力がフック状金具の強度を上回
ったため滑らずに脱落したと考えられる。+y方向加力では鉛直荷重が大きいほどフック状
金具の発揮できる水平強度は小さくなった。
図 8.11 に例示する鉛直下方から測った最大荷重時の傾斜角度Rの変化を、フック状金具
の脱落が見られた+y方向について、
鉛直荷重に対してプロットしたものを図 8.12 に示す。
傾斜角度Rは鉛直荷重と最大水平荷重の合力ベクトルの方向として求めた角度、および最
大水平変位から求めた角度(表 8.5 中のR)の双方をプロットした。両者は必ずしも一致し
ないが変化の傾向は同じである。すなわち鉛直荷重が大きくなるとより小さな角度でフッ
ク状金具が最大強度に達した。最大強度時の上下動応答の大きさと傾斜角度の組み合わせ
は、0G/60∼64 度、0.5G/43∼49 度、1.0G/34∼41 度であった。
8-9
0.0
1.0
水平荷重(kN)
2.0
3.0
4.0
0.0
1.0
No.4
No.1
鉛直荷重(kN)
2.0
x方向
No.5
No.2
3.0
No.6
+y方向
No3
4.0
R
5.0
No10
6.0
図 8.11 最大荷重時傾斜角度 R
図 8.10 鉛直荷重−水平荷重関係
4.0
No6
No6
3.5
鉛直荷重(kN)
3.0
No5
2.5
No5
+y方向(変位)
2.0
No.4
No.4
1.5
+y方向(力)
1.0
0.5
0.0
30
40
50
60
70
角度R(度)
図 8.12 フック状金具脱落時における鉛直荷重と傾斜角の関係
8-10
8.3 ハンガー・防振ゴム部分の引張性状
現場よりサンプル採取されたハンガー、防振ゴムが吊りボルトで繋がれた部分を市販の C
形鋼(寸法 C-100×50×20×2.3)で連結し(図 8.13 の点線で囲まれた部分)
、100tアムス
ラー型万能試験機により、この部分の引張性状を調べた(図 8.14)
。
防振ゴム
ハンガー
図 8.13 天井下地の構成
C 形鋼
ハンガー
防振ゴム
図 8.14 加力装置
8-11
試験体 No.1 の加力の際には,C 形鋼が傾きハンガーの背の部分に変形が生じたが、実際の
天井では吊り先部分がこのように変形するとは考えにくい(図 8.15)。C 形鋼が倒れないよ
う倒れ止めを設置し鉛直方向に引張った試験体 No.2 は防振ゴムの金具が変形し、ハンガー
のボルトとの接合部分が破断した(図-8.16)。その時の最大荷重は 19.2kN であり、吊り先部
分であるフック状金具を鉛直方向に加力したときの最大荷重 5.73kN の 3.4 倍である。故に
吊り金具、防振ゴム、ハンガーをボルトを介して接合した天井下地は鉛直方向の加力に対
してフック状金具が脱落して破壊する。表 8.6 に実験結果を示す。
表 8.6 実験結果
試験体番号
No.1
No.2
最大荷重(kN)
破壊状況
4.6
加力途中終了
19.2
ハンガーのボルト孔部分の破断
加力前
加力後
図 8.15 試験体 No.1 写真
ハンガー
防振ゴム
図 8.16 試験体 No.2 写真
8-12
8.4 天井ボード・クリップ部分の引張試験
現場よりサンプル採取された天井材(ボード、野縁、野縁受)の引張性状を調べた。試験体
は No.1、No2 の 2 つである。試験体において、野縁に打たれたビスは配置も数もランダム
であり、試験体 No.2 は試験体 No.1 の 2 倍の数のビスが打たれていた。
各試験体は、天地を反転させて 100tアムスラー万能試験機の上部クロスヘッドに設置し
た冶具に固定し、野縁受に引っ掛けたワイヤーを下部クロスヘッドで固定し下部クロスヘ
ッドを移動させて荷重を与えた。
試験体 No.1、No.2 で異なる破壊が見られた。試験体 No.1 は野縁がボードと野縁を留め
ているビスから引き抜けそうになった。野縁と野縁受を接合しているクリップは片側のツ
メの部分に変形が見られたが外れることはなかった。最大荷重は 4.58kN であった。一方、
試験体 No.2 は石膏ボードに損傷はなく、クリップのツメが変形し野縁から脱落した。最大
荷重は 4.80kN であった。表 8.7 に実験結果を、図 8.17 に各試験体破壊状況を示す。
試験体番号
No.1
No.2
表 8.7 実験結果
最大荷重(kN)
破壊状況
4.58
野縁がビスから抜ける
4.80
クリップのつめが開き脱落
試験体 No.1 加力後
試験体 No.2 加力後
図 8.17 加力後の各試験体
8-13
両試験体の破壊状況は異なったが、最大荷重は 4.80kN、4.58kN でほぼ同程度であった。
両試験体の破壊性状が異なった原因をビスの数と配置と考えて、各試験体の野縁 100mm あ
たり(=6000 ㎟)のビス数を算出した(表-8.8)。これによると、試験体 No.2 は試験体 No.1 よ
りも 2 倍密にビスが打たれている。また、図 8.18 を見ると試験体 No.2 のビスは野縁のほ
ぼ中心を等間隔で打たれているが、試験体 No.1 のビスは野縁の中心を逸れており、間隔も
No.2 と比較して不均一である。したがって、各試験体で破壊の状況が異なるのはビスの数
と配置によるものと考えられる。
表 8.8 単位長さあたりのビス数
試験体番号
No.1
No.2
実際の長さ(mm)
385
490
ビス数(個) 100mmあたりのビス数(個)
5
1
10
2
図 8.18 ビスの位置
8-14
8.5 下地組上下方向の剛性
天井下地部分を図-8.19 のように定め、各部の鉛直方向剛性 Ki を求める。K1・K2・K4 は
それぞれ実験結果から得られた剛性とした。2 次ボルト吊り先のハンガーの剛性は実験を行
っていないため省略している。K0・K3・K5・K6 はそれぞれ計算により求めた。表 8.9 に各
剛性値を示す。
1 次下地(C-100×50×20×2.3
@1500):K0
フック状金具:K1
防振ゴム
防振ゴム+ハンガー+1 次ボルト:K2
2 次下地(C-60×30×10×1.6
@900): K6
フック状金具: K1
2 次下地(C-100×50×20×1.6
ハンガー
2 次ボルト:K3
天井ボード+野縁+野縁受:K4
図 8.19 天井下地の構成
K0:1 次下地 C-100 の曲げ剛性
K1: フック状金具の剛性(市販品)
K2:(防振ゴム+ハンガー+1 次ボルトφ12)の鉛直剛性
K3:2 次ボルトφ9 の鉛直剛性
K4:(天井ボード+野縁+野縁受)の鉛直剛性
K5:2 次下地 C-100 の曲げ剛性
K6:2 次下地 C-60 の曲げ剛性
表 8.9 剛性 Ki の値
Ki
数値(N/mm)
K0
570
K1
370
K2
300
K3
20130
K4
920
K5
3330
K6
340
(色つきの部分の剛性は計算により導出。)
8-15
@1500):K5
◇Ki (i=0,3,5,6)の計算
・K0,K5,K6 は単純梁の剛性と仮定して以下のように求めた。
結果は表-8.10 にまとめた。
PL i 3
(mm) ,
48EI i
δi=
Ki =
P
(N/mm)
δi
ヤング係数:E=2.05×105 (N/㎟) 荷重:P=180(kgf)=1760(N)
Ii:各 C 形鋼の断面二次モーメント
Li:上段吊りボルト 1 本あたりの支配面積内における部材長さ
(ただし L0 は先行ピース間距離を用いた。)
表 8.10
i=0
i=5
i=6
Ki (i=0,5,6)の計算
Li (mm) Ii (×104mm4) δi (mm) Ki (N/mm)
2400
80.7
3.13
570
1200
58.4
0.54
3330
1500
11.6
5.32
340
◇K3:二次ボルトφ9 の鉛直剛性の算定
K3=
EA 2.05  10 5  49.1
=20130(N/mm)

L3
500
ボルト W3/8 の有効断面積:A=49.1 高天井二次ボルト長さ:L3=500mm
ここで、上段吊りボルト 1 本の支配面積(1.8m2)に対して下段吊りボルトの支配面積は
0.81m2 であり、下段吊りボルトは上段吊りボルト 1 本の支配面積内に
1.8
 2 .2 本
0.81
存在する
よって、
天井の構成としては上段吊りボルト 1 本に対して、
下段吊りボルトが 2 次下地 C-60
を通して 2 本取り付けられているとみなし、下段吊りボルト部分の剛性は K1 と K3 と K4の
和を 2 倍して合成する。
1
K 1 3 4
(
1
1
1
1
1
1


) (


)  3.839  10 3
370 20130 920
K1 K 3 K 4
K1+3+4=260(N/mm)
2 K1+3+4=520(N/mm)
8-16
残りの部材は直列に接合されている。よって、全体の剛性 K は以下のようになる。
K =
1
1
1
1
1
1
1





K 0 K 1 K 2 K 5 K 6 2K 13 4
1
1
1
1
1
1
1





570 370 300 3330 340 520
=77.2(kN/m)→77.2×1000/9.8=7877.6 (kgf/m)→7880 (kgf/m)
また上段吊りボルト一本あたりにおける支配面積の質量を M とし、重力加速度を 9.8m/s2
とすると
M=180/9.8=18.4(kgf・s2/m)
となり天井下地の鉛直方向の周期 T は以下のように導出される。
T= 2π
= 2π
M
K
18.4
7880
=0.30 (s)
8-17
0.30
図 8.20 R 階床位置での加速度応答スペクトル(上下動: h=5%)
建物全体をモデル化した応答解析により別途求められた R 階床位置での鉛直方向加速度
応答スペクトル上に、計算した天井周期をプロットすると、応答加速度は約 800(gal)となる
(図 8.20)。応答スペクトルの概略の形状から 1G に近い鉛直方向の応答が生じていた可能性
が伺える。ただし上図は R 階床(屋根)での応答計算値に基づいたスペクトルであり、今回検
討した下地組の剛性はブドウ棚の剛性が考慮されていないことに注意する必要がある。
8-18
8.6 実験結果のまとめと考察
天井構成材それぞれの間隔は、図 8.18 に示すように
1 次下地材(C-100)
ホール短辺方向にほぼ 1.5m 間隔
2 次下地材(C-60)
長辺、短辺方向ともにほぼ 0.9m 間隔
野縁
基準詳細図の値 0.45m 間隔
上段吊りボルト(高天井)
ホール長辺方向 1.2m 間隔
ホール短辺方向 1.5m 間隔
下段吊りボルト(高天井)
ホール長辺方向 0.9m 間隔
ホール短辺方向 0.9m 間隔
となる。
上記にある各部材の間隔から、考えられる天井構成材の配置の例を図 8.18 に示す。
上段吊りボルト一本の支配面積 1.2×1.5=1.8m2
下段吊りボルト一本の支配面積 0.9×0.9=0.81m2
クリップ一個の支配面積
0.45×0.9=0.405m2
上段吊りボルト1本に対し
下段吊りボルトの本数=1.8/0.81=2.22(本)
クリップの個数=1.8/0.405=4.44(個)
となる
実験結果より、鉛直下方の力に対する脱落強度は、クリップ<フック状金具<ハンガー
の順に小さかった。そこでフック状金具とクリップのどちらが先に脱落するかは上段吊り
ボルト 1 本(フック状金具 1 個)がクリップ何個を支持しているかによる。上段吊りボルト 1
本につながる下段吊りボルトおよびクリップの数が最小となる場合を上記の配置間隔より
求めると、以下のようになる。
(上段吊りボルトの短辺方向の間隔)/(下段吊りボルトの短辺方向の間隔)
=1.5/0.9=1.67
(上段吊りボルトの短辺方向の間隔)/(クリップの短辺方向の間隔)
=1.5/0.45=3.33
(上段吊りボルトの長辺方向の間隔)/(下段吊りボルトの長辺方向の間隔)
=1.2/0.9=1.33
(上段吊りボルトの長辺方向の間隔)/(クリップの長辺方向の間隔)
=1.2/0.9=1.33
よって
下段吊りボルトの最小の個数
1本
クリップの最小の個数
3個
となる。
8-19
図 8.21 に上段吊りボルト 1 本に対して下段吊りボルト、クリップが最小の個数となる配置
の例を示す。太線は上段吊りボルト 1 本の支配面積である。
短辺方向
長辺方向
1200
450
450
1500
1500
1500
1500
1200
900
900
単位(mm)
図 8.21 天井構成材における配置の例
1200
1500
450
900
450
1500
450
900
450
1200
図 8.22 下段吊りボルト、クリップの数が最小となる配置の例
−1次下地
上段吊りボルト
−2次下地
下段吊りボルト
−3次下地(野縁)
クリップ
8-20
単位(mm)
前述の結果より上段吊りボルト 1 本に対してそれぞれ最小の個数である下段吊りボルト 1
本、クリップの数 3 個を天井構成として考えると実験結果より図の①、②、③の最大耐力
は表 8.11 となる。図 8.23 に天井下地材の位置関係を示す。
①
表 8.11 各部分最大荷重一覧
番号
①
②
③
破壊形式
つめが開き脱落(鉛直引張)
つめが開き脱落(斜め引張)
ハンガーのボルト孔部分の破断
ビスが抜ける
クリップのつめが開き脱落
最大荷重(kN)
5.73
4.52
19.2
13.7
14.4
②
③
図 8.23 天井下地材の位置関係
表 8.11 中①の 4.52kN という値は斜めに引張った実験のなかで最も大きい最大耐力を示
した試験体 No.6(360kg のおもり、+y 方向)の値である。
鉛直方向力のみ加わった場合、①のフック状金具の最大耐力が最も小さい。これにより
フック状金具のつめが開き脱落する事により、天井全体が落下すると考えられる。
鉛直荷重に加え、水平荷重も加わり、フック状金具が斜め下に引張られた場合、前述し
たように発揮できる最大耐力が小さくなる。このような最大耐力の低下は、上下動が 0∼1
Gの範囲で、応答水平加速度が 1.4∼1.8Gで起こりうる。②、③部分に関しては斜め方向
の引張り試験を行っていないので、直接には比べられないが、鉛直引張試験の最大耐力の
値がフック状金具に比べ十分大きいので、フック状金具の最大耐力の値を下回ることはな
いと考えられる。
実験よりフック状金具は斜め下に引張られた場合、カタログの最大荷重まで耐力を発揮
できない事が分かった。また天井構成材のなかでフック状金具が最も強度の小さい部材で
あり、天井に対して地震力が加わった場合、フック状金具が変形し、この部分で落下する
可能性が非常に高い。これは被害状況と合致する。
8-21
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