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修士論文 3軸加速度センサを用いた「ラジオ体操」の認識 と体の伸びの

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修士論文 3軸加速度センサを用いた「ラジオ体操」の認識 と体の伸びの
修士論文
3 軸加速度センサを用いた「ラジオ体操」の認識
と体の伸びの判定
平成 25 年 2 月 13 日
11350917
照本 旭生
指導教員 井上 創造 准教授
九州工業大学 工学府 先端機能システム工学専攻
i
内容梗概
近年,運動不足が社会問題となっている.厚生労働省の国民栄養・健康調査によると,20∼30 代
の人たちは7割以上が身体活動や運動を実践していないとされている.その原因の一つとしてあげ
られるのは運動を行う時間が取れないということである.ゆえに現代の社会人にとっては,いかに
短い時間で効率よく体を動かすかが重要になる.そこで我々は短い時間で手軽に,かつ十分な身体
活動を行うことができる運動として「ラジオ体操」に着目した.ラジオ体操は通しで行うことが理
想とされているが,目的別にいくつかの動きを選び仕事や家事の合間に行っても十分効果が得られ
る.特に,一番効果があるのは体のどの部分を使っているかを意識しながら行うことであるとされ
ているが,実際はこの意識を持って正しく体操できている人はほとんどいない.そこで,我々はセ
ンサを用いたラジオ体操を支援するシステムが開発できれば,国民の健康促進に役立つのではない
かと考えた.我々は,ラジオ体操の「専用の器具や場所を要さない」という長所を活かすために,開
発システムには現在大幅に普及しているスマートフォンを用い,センサシステムはスマートフォン
に搭載されている 3 軸加速度センサを使用することに決めた.
我々は,ラジオ体操支援システムの要件としては,a) ユーザに各体操において体のどの部分を
使って体操すべきかを促す,b) 実際にその部分が使われているか知らせる,c) ユーザへのフィード
バック(どのくらいの頻度で行っているか容易に確認できる,行った体操の良し悪し評価,カロリー
表示などのユーザが定期的に続けるための動機付け)といったことが必要であると考えた.そこで,
開発システムには A) ラジオ体操中に使うべき部位が使えていないときに警告音をリアルタイムに
発生させる,B) ラジオ体操を行った日にログを残す,C) 行った体操の良し悪しを点数で表示する,
D) 消費カロリーを表示する,E) 体操のポイント解説ページの設置といった機能を組み込むことを
考案した.
本研究では,上記システム実現のために 2 つの実験を行った.1 つ目は,「ラジオ体操」の各項目
の認識である.これは,上記 B) の機能実現を目的として行ったものである.被験者 4 人に対して,
3 軸加速度センサが搭載された単一のスマートフォンを胸ポケットに入れてもらい,ラジオ体操第一
の 13 種の行動の内,同様の行動 2 種類を除いた 11 種類の行動の加速度データの収集を行った.そ
内容梗概
の後,取集された各加速度データに前処理を行い,最終的に 8 次元の特徴量を抽出,この特徴量を
用いて機械学習を行った.機械学習には,再帰分割回帰木 (rpart),単純ベイズ分類器 (NB),最近
傍分類法 (1-NN),サポートベクターマシン (SVM) の 4 種類の分類器を用い,分類に最適な分類器
の選定を行った.結果としては,最も分類精度の良かったものは SVM で,各体操の行動の認識精
度を平均したところ 66.68% であった.我々は,各体操のデータの分布を調べるためデータのマッ
プ化を行い各体操のデータ間の距離を確認してみたところ,「両足で飛ぶ」は単独のデータの集合と
なっているが,そのほかの行動はデータ間の距離が近く,重なっている箇所が多いことが判明した.
これは,胸ポケットでは着ている衣類の影響があり,「両足で飛ぶ」といった全身を大きく動かす運
動以外は衣類の影響でデバイスがあまり特徴的な動きにならないからではないかと考えた.日常生
活においてはそこまで全身を大きく動かさない行動が多く,それらを考慮すると,機能 B) の実現に
は着ている衣類を考慮した解析手法が必要であるという課題が生まれた.
2 つ目の実験では,A) の機能の要である「体の伸ばし」に関する解析を行った.我々は,「伸ば
し」の運動である「背伸びの運動」「体を横に曲げる運動」「体をねじる運動」の 3 種類の体操に焦
点を置き,さらに各体操で「良い(レベル 1)」
「伸びていない(レベル 2)」
「適当(レベル 3)」の 3
つのレベルを設けてデータ収集を行った.データ収集には 20∼30 代の 20 人の被験者に協力しても
らい,スマートフォンを右手に持ちそれぞれの体操の各レベルのデータを収集した.収集した加速
度データに前処理として強度を求め,さらに「伸ばし」を行っている箇所とその直前の腕の振りの
箇所を切り出し,その区間の強度の最大値と最小値を特徴量とし,これら特徴量を用いて機械学習
を行った.機械学習には一つ目の実験で一番精度の良かった SVM を用いた.我々は,結果を出す
にあたって 3 つの手法を用いた.1 つ目は前実験同様特徴量をそのまま用いての精度を出す方法,2
つ目は個人差の軽減を目的として,各個人で「良い」の特徴量(最小値と最大値)の平均をそれぞれ
のレベルのデータから引いてから機械学習させ精度を出す方法,3 つ目は各個人のデータのばらつ
きを軽減することを目的とし,2 つ目に行った「良い」の平均を引いた後に「良い」のデータの標準
偏差で各レベルのデータを割ったものを特徴量として用い機械学習させ精度を出す方法である.結
果としては,「背伸びの運動」では 2 つ目の手法を適用した場合が一番精度が良く,57.05% の精度
であった.「体を横に曲げる運動」では,1 つ目の通常通り行う場合が 54.16% と一番精度が良かっ
た.「体をねじる運動」に関しては,3 つ目の手法を適用した場合が一番よく,67.73% であった.
我々は,個人差がうまく軽減されていなかった原因を探ってみたところ,被験者によって各レベル
のデータの分布が異なることに気が付いた.このような現象が起きたのは「体の硬さ」が原因では
ないかと考えた.よって,今後としては「体の硬さ」により被験者を数段階に分けその人に合った
段階で行う解析手法の検討が必要であるという結論に至った.
ii
iii
目次
内容梗概
第1章
i
序論
1
1.1
背景 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
1
1.2
ラジオ体操支援システムの考案 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
3
1.3
研究概要 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
4
関連研究
7
第2章
2.1
大規模行動情報収集システム ALKAN
2.2
その他の関連研究
第3章
. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
7
. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
8
実験 1:「ラジオ体操」の各体操の認識
9
3.1
背景と目的 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
9
3.2
データ収集 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
10
3.3
特徴量選定 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
10
3.4
学習 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
12
3.5
結果 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
12
3.6
考察 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
13
実験 2:「ラジオ体操」による体の伸びの判定
15
4.1
目的 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
15
4.2
「ラジオ体操」の要素 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
15
4.3
データ収集 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
17
4.4
データ解析 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
21
4.5
個人差の軽減 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
30
4.6
考察 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
50
第4章
目次
第5章
iv
結論
52
謝辞
54
参考文献
55
1
第1章
序論
本章では,研究に至った背景と,その背景を考慮したシステムについて,そして我々が行った研
究の概要を記載する.
1.1 背景
近年,運動不足が社会問題となっている.厚生労働省による最新の国民栄養・健康調査 [2] による
と,健康づくりのための身体活動や運動を実践している者の割合(男女計)は,20 代では 26%,30
代では 27.5% とされている.つまり,現在の 20 代,30 代の人たちは 7 割以上が身体活動や運動を
実践していないことになる.それに比べ 60 代以上の人たちでは,5 割近くが健康づくりのための身
体活動や運動を実践していると報告されている.これは,定年退職により運動の時間が多く取れる
ようになったからではないかと推測できる.つまり,退職前の者は,短い時間で効率よく運動を行
うことが望ましいと伺える.
スポーツ医学では,運動の消費カロリーの計算の際,METs という指標を用いる.METs とは
「Metabolic equivalents」の略で,活動・運動を行った時に安静状態の何倍の代謝(カロリー消費)
をしているかを表している.様々な運動と METs の対応表を以下に示す.
第1章
序論
2
表 1.1
身体活動と METs
運動の種類
METs
テレビ・読書(リクライニング)
1.0
運転・事務仕事
1.5
電車で立つ
2.0
ストレッチ・ヨガ
2.5
ゴルフの練習(打ちっぱなし)
3.0
平地での自転車
3.5
速いウォーキング・ハイキング
4.0
ラジオ体操
4.5
軽いジョギング
6.0
ランニング
8.0
厚生労働省の「健康づくりのための運動指針 [3]」によると,1 週間に 23 エクササイズ,そのう
ち 4 エクササイズは活発な運動,つまり 3METs 以上の活発な身体活動を行うことが推奨されてい
る.表 1.1 では 3METs 以上の身体活動は,ゴルフの練習(打ちっぱなし),平地での自転車,速い
ウォーキング・ハイキング,ラジオ体操,軽いジョギング,ランニングが挙げられる.しかし,ゴル
フの練習(打ちっぱなし),平地での自転車,速いウォーキング・ハイキング,軽いジョギング,ラ
ンニングは,それ相応の場所・時間が必要となり,あまり手軽には行えない.そこで,我々は時間
も場所もあまり要さず,手軽に行うことができる活発な運動として「ラジオ体操」に着目した.
ラジオ体操は第一,第二と存在しているが,第一のみでも十分運動の効果が得られる.ラジオ体
操は以下の特徴がある.
• 3 分十数秒(第一のみ)という短時間で全身運動ができる
• 有酸素運動と無酸素運動が同時にできる
• 時間当たりのカロリー消費が多い
• 運動の基本的な動きがすべて組み込まれている
• すべての動きが,けがをしない安全な動きでつくられている
• 性別・年齢を問わず,幅広く実施可能
• 専用の器具や場所を要さない
第一は 13 の動きにより構成されており,その一つ一つが健康増進のために計算しつくされた動き
第1章
序論
である.「全身運動」や「有酸素運動」を得るためにはこのラジオ体操のすべての項目を通しで行う
ことが理想とされているが,時間がない場合は「お腹を凹ましたい」「足を細くしたい」など目的別
にいくつかの動きを選び,仕事や家事の合間に行っても十分効果が得られるとされている [1].
ラジオ体操の効果を十分に得るには,体のどの部分を使っているかを意識しながら行うことが必
要となる.しかし,この意識を持って正しく体操できている人はほとんどおらず,正しく体操できて
いなければ期待している効果が望めないという危惧すべき点もある.そこで,我々はセンサを用い,
ラジオ体操を支援するシステムが開発できれば,国民の健康促進に役立つのではないかと考えた.
ラジオ体操の長所の一つに「専用の器具や場所を要さない」という点がある.そこで我々は,こ
の研究を行うに当たって,近年大幅に普及しているスマートフォンに着目した.スマートフォンに
は様々なセンサが搭載されており,そのセンサを用いた多種多様なアプリケーションが開発されて
いる.スマートフォンのアプリケーションとしてラジオ体操の支援システムを開発すれば,専用の
器具や場所を要さず,だれもが気軽に使用することができる.そこで,我々は研究に用いるセンサ
デバイスとしてスマートフォンを使用し,センサはスマートフォンに搭載されている 3 軸加速度セ
ンサを用いることを決めた.これにより本研究の解析結果を,後に開発するアプリケーションに反
映し易くなると考えた.
1.2 ラジオ体操支援システムの考案
上記問題を解決するシステムには以下の要素が必要になると考えられる.
a)
ユーザに各体操において体のどの部分を使って体操すべきかを促す
b)
実際にその部分が使われているか知らせる
c)
ユーザへのフィードバック(定期的に続けるための動機づけ)
• どのくらいの頻度で行っているか容易に確認できる
• 今行った体操の良し悪し評価
• 今行った体操のカロリー表示
我々は,これら要素を満たすためにラジオ体操支援システムには以下の機能を考案した.
3
第1章
序論
A)
ラジオ体操中に使うべき部位が使えていないときに警告音をリアルタイムに発生させる
B)
ラジオ体操を行った日にログを残す
C)
行った体操の良し悪しを点数で表示する
D)
消費カロリーを表示する
E)
体操のポイント解説ページの設置
A) については,音楽に合わせて体操を行い,体操途中で伸ばすべきところが伸びていなかったら
「〇○を伸ばす!」などの警告の音声をリアルタイムに発生させ,使うべき体の部位をしっかり使わ
せることを促す機能である.これにより要素 a)b) が満たされる.この機能を実装するためには,各
ラジオ体操において使うべき部位が使えている場合の加速度と使うべき部位が使えていない場合の
加速度の両方を解析する必要がある.また,E) についても要素 a) を満たす機能である.
B)C)D) では,要素 c) を満たし,ユーザにゲーム的な感覚を与え,ラジオ体操を行う動機づけに
なることが期待できる.B) については,日常生活において突発的に行った体操の一部をカウントし
てログに残す機能も考えている.ゆえに,デバイスをどこかのポケットに入れた状態で行った体操
の解析が必要になる.C) では,「良い」ラジオ体操の基準を定めること,それに対する点数付けの
アルゴリズムの考案が必要である.D) では,そのとき行った体操の運動量を加速度より求め,消費
カロリーへ変換するアルゴリズムが必要になる.
本研究は,B) の機能の実現に向けた実験,A) の機能の「体の伸び」の判定に向けた実験を行った
ものである.
1.3 研究概要
本研究では,2 つの実験を行っている.
1 つ目は,「ラジオ体操」の各項目の認識である.我々はまず,1.2 節の B) の機能である日常生活
でどの体操をどれだけ行ったかのログを残す機能を考えた.被験者 4 人に対して,3 軸加速度セン
サが搭載された単一のスマートフォンを胸ポケットに取り付けてもらい,ラジオ体操第一の 13 種の
行動の内,同様の行動 2 種類(
「背伸びの運動」
「腕を振って脚を曲げ伸ばす運動」
)を除いた 11 種類
の行動の加速度データの収集を行った.その後,取集された各加速度データに前処理を行い,最終
的に 8 次元の特徴量を抽出,この特徴量を用いて機械学習を行った.機械学習には,再帰分割回帰
木 (rpart),単純ベイズ分類器 (NB),最近傍分類法 (1-NN),サポートベクターマシン (SVM) の 4
種類の分類器を用い,分類に最適な分類器の選定を行った.結果としては,最も分類精度の良かっ
たものは SVM で,各体操の行動の認識精度を平均したところ 66.68% であった.行動ごとに見て
4
第1章
序論
みると,
「両足で飛ぶ」は 3 つの分類器において 100% の判別結果となった.これは,飛ぶという行
動が他にないからであると考えられる.しかし,ラジオ体操には他にも特徴的な動きをする運動が
含まれており,もう少し精度よく認識できるものだと考えていた.そこで,今回収集したデータが
どのような分布になっているか確認するためにデータのマップ化を行い各体操のデータ間の距離を
確認した.すると,「両足で飛ぶ」は単独のデータの集合となっているが,そのほかの行動はデータ
間の距離が近く,重なっている箇所が多いことが判明した.これは,胸ポケットでは着ている衣類
の影響があり,「両足で飛ぶ」といった全身を大きく動かす運動以外は衣類の影響でデバイスがあま
り特徴的な動きにならないからではないかと考えた.日常生活においてはそこまで全身を大きく動
かさない行動が多く,それらを考慮すると,日常でどれ程ラジオ体操を行ったか,またどの体操を
どれだけ行ったかのログを残す機能の実現には着ている衣類を考慮した解析手法が必要であるとい
う課題が生まれた.
2 つ目の実験では,1.2 節に述べた A) の機能の要である「体の伸ばし」に関する解析を行った.
我々は,
「伸ばし」の運動である「背伸びの運動」
「体を横に曲げる運動」
「体をねじる運動」の 3 種
類の体操に焦点を置き,さらに各体操で「良い」「伸びていない」「適当」の 3 つのレベルを設けて
データ収集を行った.データ収集には 20∼30 代の 20 人の被験者に協力してもらいスマートフォン
を右手に持ち,それぞれの体操の各レベルのデータを収集した.収集した加速度データに前処理と
して強度を求め,さらに「伸ばし」を行っている箇所とその直前の腕の振りの箇所を切り出し,そ
の区間の強度の最大値と最小値を特徴量とし,これら特徴量を用いて機械学習を行った.機械学習
には一つ目の実験で一番精度の良かった SVM を用いた.我々は,結果を出すにあたって 3 つの手
法を用いた.1 つ目は通常通り特徴量をそのまま用いての精度を出す方法,2 つ目は個人差の軽減を
目的として,各個人で「良い」の特徴量(最小値と最大値)の平均をそれぞれのレベルのデータから
引いてから機械学習させ精度を出す方法,3 つ目は各個人のデータのばらつきを軽減することを目
的とし,2 つ目に行った「良い」の平均を引いた後に「良い」の標準偏差で割ったものを特徴量とし
て用い機械学習させ精度を出す方法である.結果は,
「背伸びの運動」では 2 つ目の手法を適用した
場合が一番精度が良く,57.05% の精度であった.「体を横に曲げる運動」では,1 つ目の通常通り
行う場合が 54.16% と一番精度が良かった.「体をねじる運動」に関しては,3 つ目の手法を適用し
た場合が一番よく,67.73% であった.我々は,個人差がうまく軽減されていなかった原因を探って
みたところ,被験者によって各レベルのデータの分布が異なることに気が付いた.このような現象
が起きたのは「体の硬さ」が原因ではないかと考えた.よって,今後としては「体の硬さ」により被
験者を数段階に分けその人に合った段階で行う解析手法の検討が必要であるという結論に至った.
以下第 2 章では,本研究に関連する研究の紹介を行い,第 3 章で 1 つ目の実験である「ラジオ体
5
第1章
序論
操」の各体操の認識について,第 4 章で 2 つ目の実験の「ラジオ体操」による体の伸びの判定につ
いて記述し,第 5 章の結論にて本研究のまとめと今後の展望を述べる.
6
7
第2章
関連研究
人間の動きを客観的に計測できれば,様々な応用ができるとして,盛んに研究されている.人間
の動きをセンサデータなどから解析し,認識を行うこれら研究は一般的に「行動認識」と呼ばれて
いる.本章では,関連研究であり,我々が開発した大規模行動情報収集システム ALKAN や,ウェ
アラブルセンサを用いたその他の関連研究を紹介する.
2.1 大規模行動情報収集システム ALKAN
行動認識を行うに当たって,センサなどを用い,その行動を客観的に計測したデータが大量に必要
となる.そのようなセンサデータを収集するシステムに行動情報収集システム ALKAN([4][5][6])
がある.ALKAN は,iPhone や iPod touch,Android 端末などの携帯情報端末を用い,携帯端末
アプリケーションで日常の行動情報を効率的に収集するシステムのことである.システムの概要を
図 2.1 に示す.
図 2.1
ALKAN 概要
第2章
関連研究
ALKAN では携帯端末アプリケーションを用いて行動情報を収集,蓄積を行う.そののちに収集
した行動情報を,インターネットを介して ALKAN’s Server に送信する.これにより ALKAN’s
Server に大量の行動情報が蓄積されていくという仕組みである.行動情報に含まれるデータは,
iPhone や iPod touch 端末のアプリケーションでは,ユーザ ID,3 軸加速度データ,取り付け位置
の XYZ 座標,開始時間,終了時間,GPS 座標,機種情報が含まれる.また,3 軸加速度のデータ
は 20Hz ごとに記録される.Android 端末のアプリケーションでは,上記に加えて,ジャイロセン
サデータも収集可能となっており,3 軸加速度のデータは 10Hz ごとに記録される.
我々は,本研究においてこの ALKAN を用いてデータ収集を行った.
2.2 その他の関連研究
ウェアラブルセンサを用いた行動認識の研究は様々な観点からされている.文献 [7] では,日常生
活のように自然なデータの収集,解析を行っている.被験者 24 人で単一の 3 軸加速度センサを腰に
固定した状態で日常生活を行ってもらい,そのデータを元に 5 種類の行動(歩く,走る,サイクリン
グ,車の運転,スポーツ)の行動認識を試みている.また,文献 [8] では,SCUT-NAA データセッ
トという行動認識のためのデータセットを作成し,その水準評価を行っている.文献 [9] では,ウェ
アラブルセンサのデータから熟練ランナーと非熟練ランナーを区別する方法を述べている.このよ
うに,
「行動認識」1 つをとっても様々な角度からの研究が行われており,決まった形はまだない.
本研究に近い研究として文献 [10] がある.この文献では,歩行の質の改善が運動不足を解消させ
る有効な手段であると考え,歩行改善ツールの検討・開発を行っている.彼らは,スマートフォン
に内蔵された加速度センサを用いて歩行の分析を行い,悪い特徴が現れた時にリアルタイムで警告
するアプリケーションを開発し,そのアプリケーションの有用性の評価を行っている.我々の研究
との違いは,彼らはスマートフォンを「腰に固定」して行うことを前提としていることである.ス
マートフォンを腰に固定するには専用の器具,またはベルトを装着している必要がある.男性は比
較的ベルトを着けるズボンを履いていることが多いが,女性のスカートなどはベルトを着けない場
合が多く,いつでも気軽にこのアプリケーションを使用することが難しい.それに対して我々が開
発を想定しているアプリケーションは右手に持つ,またはポケットに入れた状態を想定しているた
め固定器具を必要とせず,手軽に運動不足の解消へとつながる有効な手立てになると考えられる.
8
9
第3章
実験 1:「ラジオ体操」の各体操の認識
本章では,ラジオ体操の各行動の行動認識を行った.これは,1.2 節の B) の機能である,日常生
活においてどれ程ラジオ体操を行ったか,またどの体操をどれだけ行ったかのログを残す機能実現
のための実験である.
3.1 背景と目的
ラジオ体操第一は 13 の項目があり,それぞれに違った箇所への効果が期待できる.体操の項目と
効果の箇所の対応表を以下に記す.(参考文献 [1])
表 3.1
ラジオ体操の項目と効果の対応表
ラジオ体操の項目
効果の箇所
1. 背伸びの運動
お腹,背中
2. 腕を振って脚を曲げ伸ばす運動
脚,お尻
3. 腕をまわす運動
背中
4. 胸を反らす運動
胸,二の腕
5. 体を横に曲げる運動
脇腹
6. 体を前後に曲げる運動
お腹,背中,脊椎
7. 体をねじる運動
お腹,二の腕,脊椎
8. 腕を上下に伸ばす運動
背中,二の腕,脊椎
9. 体を斜め下に曲げ胸を反らす運動
脚,お尻
10. 体をまわす運動
お腹,脊椎
11. 両足とび運動
脚
12. 腕を振って脚を曲げ伸ばす運動
脚,お尻
13. 深呼吸
心肺機能
第3章
実験 1:「ラジオ体操」の各体操の認識
ラジオ体操では,「全身運動」や「有酸素運動」を得るためにすべての項目を通しで行うことが理
想とされているが,仕事や家事の合間などの時間がない場合は目的別にいくつかの動きを選び,個
別に繰り返し行っても十分効果が得られるとされている.また,その他に日常において,ラジオ体
操の一部だけを行うことはしばしばあるはずである.例えば,肩が凝ったから「腕をまわす運動」を
する,腰が痛いから「体を前後に曲げる運動」をする,などである.そこで我々は,その日にどの体
操を行ったか自動でログの残る機能があれば,その日にどのような箇所に効果がある運動を行った
か確認でき,その後の運動スケジュールが立てやすくなるのではないかと考えた.
我々はこの機能の実現のために,日常生活において邪魔にならずかつ体操の動きが伝わりやすい
取り付け位置として胸ポケットを選んだ.本章の実験では,1.2 節の B) の機能に応用する解析のア
ルゴリズムとして,ラジオ体操を行っている動画を見ながら収集した胸ポケットでの加速度データ
でそれぞれの体操の認識が精度よく行うことができるかを検証することを目的とする.
3.2 データ収集
我々は,被験者 4 人に対してラジオ体操第一の行動をラジオ体操の動画を見てもらいながら一つ
一つ行ったデータを収集した.センサデバイスには iPod Touch を用い,日常生活において邪魔に
ならないであろう胸ポケットを取り付け位置とした.行動の種類としては,同じ動きである 2 種類
の行動を除いた「腕を振って足をまげのばす運動」,「腕を回す運動」「胸をそらす運動」,「体を横に
曲げる運動」,「体を前後に曲げる運動」,
「体をねじる運動」,「腕を上下に伸ばす運動」,「体を斜め
下にまげ,胸をそらす運動」
,
「体をまわす運動」,
「両足で飛ぶ運動」,
「深呼吸」の 11 種類の行動で
ある.
3.3 特徴量選定
収集した加速度データをそのまま機械学習させることではあまり良い結果が期待できない.通常
はそのデータの特徴となるベクトルを抽出し,それをデータの特徴量として機械学習に用いること
が一般的である.
我々は特徴量抽出の前にまず収集した加速度データに前処理を行った.収集したデータは,
ALKAN アプリケーションの開始を押してから胸ポケットに入れるまでのデータや,行動が終わっ
てから胸ポケットからデバイスを取り出し ALKAN アプリケーションの終了を押すまで,といっ
たラジオ体操とは関係のない行動を含んでいる(図 3.1).縦軸は加速度 [m/s2 ],横軸は時間 [s] で
ある.
10
第3章
実験 1:「ラジオ体操」の各体操の認識
図 3.1
収集された 3 軸加速度データ (ex. 胸を反らす運動)
こういった行動のデータが機械学習において誤分類の原因となりうるため,我々はその不要デー
タの切り出しを手動で行い,体操部分のみの加速度データを取り出した.また,手動切り出しによ
るものなので,切り出した各データにおいて多少の時間のずれが生じる(以下タイムラグ)ことが
考えられる.よって我々は切り出しによるタイムラグを考慮し,切り出したデータの− 1 秒から+
1 秒まで 0.5 秒ずつずらした 5 つのデータも解析に起用した.
次に,切り出したデータを 4 秒のタイムウィンドウで区切り 1 秒ずつ移動させ 4 つのウィンドウ
を取った.そしてそれぞれのウィンドウにおいて
(a)
x 軸,y 軸,z 軸の平均値
(b)
x 軸,y 軸,z 軸の分散
(c)
xy,yz,zx 軸の逆正接から求めた角度の平均
(d)
xy,yz,zx 軸の逆正接から求めた角度の分散
(e)
x 軸,y 軸,z 軸の周波数エネルギー
の算出を行い,特徴量とした.つまり,1 つのデータから 4(ウィンドウ) × 3(軸) × 4((a)∼
(d))+3(e)=51 次元の特徴量を抽出した.
特徴量は多ければ多いほど精度が良くなる,というわけではなく逆に悪くなる場合がある.そこ
で我々は算出した特徴量の内,主要な成分だけを機械学習に用いるために主成分分析を行い,それ
により出た 1 番目から 8 番目の主要な構成成分を採用,最終的な特徴量とした.
11
第3章
実験 1:「ラジオ体操」の各体操の認識
12
3.4 学習
機械学習において,用いる分類器により生成される学習モデルは様々である.我々は以下の 4 つ
の分類器を用い,それぞれの学習モデルを生成した.
• 再帰分割回帰木 (rpart)
• 単純ベイズ分類器 (NB)
• 最近傍分類法 (1-NN)
• サポートベクターマシン (SVM)
ただし,学習モデルを生成する際の学習データとその学習モデルの精度を出すためのテストデー
タは分ける必要がある.そこで我々は 3 分割交差検定を行い精度の確認をした.
3.5 結果
3 分割交差検定により出た各分類器の認識精度を表 3.2 に示す.ただし,この精度は f 値によるも
のである.
表 3.2
それぞれの分類器での精度(f 値)[%]
ラジオ体操の項目
rpart
NB
1-NN
SVM
2. 腕を振って脚を曲げ伸ばす運動
13.30
0.00
0.00
0.00
3. 腕をまわす運動
26.70
49.96
49.95
60.64
4. 胸を反らす運動
0.00
49.96
49.95
60.64
5. 体を横に曲げる運動
14.80
43.25
48.64
62.84
6. 体を前後に曲げる運動
44.44
41.67
79.98
56.02
7. 体をねじる運動
29.63
34.45
19.96
75.85
8. 腕を上下に伸ばす運動
30.80
53.31
30.76
57.12
9. 体を斜め下に曲げ胸を反らす運動
70.97
0.00
86.70
62.50
10. 体をまわす運動
81.09
71.43
64.53
56.22
11. 両足とび運動
100.00
33.33
100.00
100.00
13. 深呼吸
30.80
75.00
60.89
69.53
mean
43.96
49.92
59.27
66.68
一番結果が良かったものは SVM で 66.68% であった.特に精度が良かった行動は「両足とび運
第3章
実験 1:「ラジオ体操」の各体操の認識
13
動」で,3 つの分類器において 100% の判別結果となった.ここで,最も精度の良かった SVM の各
行動の分類結果を表 3.3 に示す.ただし,表 3.3 の縦・横のラベルは表 3.2 の「ラジオ体操の項目」
と対応したものであり,行が予測件数,列が実際の行動件数を表している.
表 3.3
@
@
@
SVM による各行動の分類結果
2.
3.
4.
5.
6.
7.
8.
9.
10.
11.
13.
2.
0
0
2
0
0
0
0
0
0
0
0
3.
7
10
0
0
0
0
1
0
0
0
0
4.
1
5
13
0
0
0
1
0
0
0
2
5.
0
0
0
11
0
4
1
4
0
0
0
6.
0
0
0
0
7
0
0
0
2
0
1
7.
0
0
0
2
0
11
1
0
0
0
0
8.
7
0
0
1
0
0
10
0
0
0
3
9.
0
0
0
1
2
0
0
10
4
0
0
10.
0
0
0
0
6
0
0
0
9
0
1
11.
0
0
0
0
0
0
0
0
0
15
0
13.
0
0
0
0
0
0
0
0
0
0
8
@
@
表 3.3 によると,
「2.腕を振って脚を曲げ伸ばす運動」は「3.腕をまわす運動」と「7.腕を上下
に伸ばす運動」であると多く誤認識されている.また,「6.体を前後に曲げる運動」は「10.体を
まわす運動」に誤認識されているものが多いこともわかる.
3.6 考察
表 3.3 にて「11.両足とび運動」は完璧に分類されていて,さらに「7.体をねじる運動」も精度
よく分類されている.これは,
「飛ぶ」や「ねじる」という行動が他にないからであると考えられる.
一方,「2.腕を振って脚を曲げ伸ばす運動」は「3.腕をまわす運動」と「7.腕を上下に伸ばす運
動」に多く誤認識された理由はお互いが似た行動であることが挙げられる.その他にも,「6.体を
前後に曲げる運動」は「10.体をまわす運動」に誤認識されており,さらに,
「3.腕をまわす運動」
や「4.胸を反らす運動」,
「5.体を横に曲げる運動」といった行動は,再現率は良いものの適合率
が悪く f 値の精度に悪影響を与えている.我々は各行動の距離を確認するために特徴量の第一主成
分と第二主成分のプロット部を作成した(図 3.2).
第3章
実験 1:「ラジオ体操」の各体操の認識
図 3.2
各体操データの特徴量の第一成分と第二成分の分布 [縦軸:特徴量の第二主成分,横軸:
特徴量の第一主成分]
図 3.2 を見てみると,「両足とびの運動」は単独のクラスタとなっているが,そのほかの行動の
データは距離が近く重なっている箇所が多いことが見て取れる.これは,胸ポケットは衣類の影響
があり,「両足で飛ぶ」といった全身を大きく動かす運動以外はデバイスが衣類の影響であまり特徴
的な動きにならないからではないかと考えた.日常生活においてはそれほど全身を大きく動かさな
い行動が多い.それらを考慮すると,更に認識率が低下すると考えられる.これにより,日常でど
れ程ラジオ体操を行ったか,またどの体操をどれだけ行ったかのログを残す機能実現のためには,
着ている衣類のポケットのサイズや体とのゆとりなどの影響を考慮した解析手法の検討が必要であ
るという新たな課題が生まれた.
14
15
第4章
実験 2:「ラジオ体操」による体の伸び
の判定
本章の実験では,ラジオ体操を行う際の体の伸びの判定を行う.我々は,ラジオ体操の行動のう
ちいくつかに焦点を置き,
「伸ばし」がしっかり行えているかの判定を行った.
4.1 目的
ラジオ体操の効果を十分に得るには,体のどの部分を使っているかを意識しながら行うことが必
要となる.しかし,この意識を持って正しく体操できている人はほとんどおらず,正しく体操でき
ていなければ期待している効果が望めない.本章の実験は,正しいラジオ体操へと導く機能である
「ラジオ体操中に使うべき部位が使えていないときに警告音をリアルタイムに発生させる機能」実現
に向けたものである.その中でも今回は,ラジオ体操において「体の伸ばし」ができているかの判
定を目的としている.
4.2 「ラジオ体操」の要素
ラジオ体操は,3.1 節でも述べたように 13 の項目から構成されている.文献 [1] によると,ラジ
オ体操の行動は以下の要素に分類される.
• ストレッチ(伸ばし)
• バランス改善(回し)
• 筋力トレーニング
• 心肺機能促進
第4章
実験 2:「ラジオ体操」による体の伸びの判定
これら要素と,各行動の対応表を以下に示す.
表 4.1
ラジオ体操の項目と要素の対応表
ラジオ体操の項目
要素
1. 背伸びの運動
ストレッチ(伸ばし)
2. 腕を振って脚を曲げ伸ばす運動
筋力トレーニング
3. 腕をまわす運動
バランス改善(回し)
4. 胸を反らす運動
ストレッチ(伸ばし)
5. 体を横に曲げる運動
ストレッチ(伸ばし)
6. 体を前後に曲げる運動
ストレッチ(伸ばし)
7. 体をねじる運動
ストレッチ(伸ばし),バランス改善(回し)
8. 腕を上下に伸ばす運動
ストレッチ(伸ばし),筋力トレーニング
9. 体を斜め下に曲げ胸を反らす運動
ストレッチ(伸ばし)
10. 体をまわす運動
バランス改善(回し)
11. 両足とび運動
筋力トレーニング
12. 腕を振って脚を曲げ伸ばす運動
筋力トレーニング
13. 深呼吸
心肺機能促進
表 4.1 を見てみると,「ラジオ体操」は半数以上がストレッチ(伸ばし)の構成となっていること
がわかる.さらに,伸ばし方の種類としては
• 体を倒して伸ばす
• 体を引っ張り上げて伸ばす
• 体をねじって伸ばす
の 3 種類に分けることができる.そこで,本章の実験においては上記 3 種類の行動を含む
• 背伸びの運動
• 体を横に曲げる運動
• 体をねじる運動
の 3 つの体操の解析を行った.
16
第4章
実験 2:「ラジオ体操」による体の伸びの判定
4.3 データ収集
本章の実験では,20∼30 代の 20 人の被験者に対し右手に端末を持ってもらいデータ収集を行っ
た.本章の実験は,姿勢の判定を目的とする.よって,収集する各体操において「良い(レベル 1)
」
「伸びていない(レベル 2)
」
「適当(レベル 3)」の 3 つのレベルを設けた.目的である正しい姿勢は
レベル 1 のみで,他は間違った姿勢である.なお,レベル 1,2 においては文献 [1] を参考にして決
めたものである.また,レベル 3 の「適当」というのは「いい加減である」の意である.
4.3.1 レベル 1:良い
レベル 1 では,理想の「伸ばし」ができている状態の体操である.各体操の条件を以下に記す.
a.1 背伸びの運動
背伸びの運動では,腕を頭上まで上げた際に腹横筋・背中が伸びることが理想とされている.そ
れを実現させるためには,以下のポイントを考慮する必要がある.
• 反りすぎず,前かがみにならず,床にしっかりと体の重心を乗せる
• 腕をまっすぐ挙げ,横から見ると耳・肩・胴体の真ん中・くるぶしが一直線上に乗るように
する
• かかとをしっかりと床につけ,かかとと手で体を上下に引っ張るように意識して全身を伸
ばす
図 4.1
背伸びの運動(レベル 1)
17
第4章
実験 2:「ラジオ体操」による体の伸びの判定
a.2 体を横に曲げる運動
体を横に曲げる運動では,体を横に曲げた際に脇腹(腹斜筋)がしっかり伸びること,脊椎を左
右真横に曲げることが理想とされている.ポイントは以下である.
• 腕を真横から振り上げる
• 腕を上げた際に,腕が耳の上に来るようにする
図 4.2
体を横に曲げる運動(レベル 1)
a.3 体をねじる運動
体をねじる運動では,体をねじることで内・外腹斜筋や腰方形筋といった脇腹から腰のウエスト
のラインの筋肉を伸ばすことを理想としている.ポイントは以下である.
• 脚を動かさず,かかとは床につけたまま
• 体の軸は動かさない
• 下半身は固定する
図 4.3
体をねじる運動(レベル 1)
18
第4章
実験 2:「ラジオ体操」による体の伸びの判定
4.3.2 レベル 2:伸びていない
レベル 2 では,一見しっかりと体操しているように見えるが,目的箇所が伸びていない間違った
体操をいう.これは,文献 [1] の「やりがち NG」を参考に定めた.
b.1 背伸びの運動
背伸びの運動でよくやりがちな間違いは,図 4.4 のように腕はまっすぐ上げるが最後まで上げず,
腹横筋・背中が伸びるまで至っていない体操である.
図 4.4
背伸びの運動(レベル 2)
よって,我々はこれをレベル 2 と定めた.
b.2 体を横に曲げる運動
横曲げの運動では,腕を振り上げた際に図 4.5 のように腕が前に出ているという間違った体操を
やりがちである.
図 4.5
体を横に曲げる運動(レベル 2)
これでは,目的の筋肉や脊椎を伸ばすことができない.よって我々はこれをレベル 2 に定めた.
19
第4章
実験 2:「ラジオ体操」による体の伸びの判定
b.3 体をねじる運動
体をねじる運動でよくありがちな間違いは,体をねじる際に下半身が固定されず,かかとが上がっ
てしまう体操である.
図 4.6
体をねじる運動(レベル 2)
これでは目的箇所が伸びないので,レベル 2 とした.
4.3.3 レベル 3:適当
レベル 3 は,いい加減でやる気のない体操である.
c.1 背伸びの運動
図 4.7 のように腕が曲がり,真上まで腕が伸びない体操をレベル 3 とした.
図 4.7
背伸びの運動(レベル 3)
c.2 体を横に曲げる運動
体を横に曲げる運動では,図 4.8 のように手だけしか動かしていない,という体操をレベル 3 に
定めた.
20
第4章
実験 2:「ラジオ体操」による体の伸びの判定
図 4.8
体を横に曲げる運動(レベル 3)
c.3 体をねじる運動
こちらも手だけしか動かしておらず,体を全くねじっていない体操をレベル 3 とした.
図 4.9
体をねじる運動(レベル 3)
20 人の被験者には,その体操時の実際の音楽に合わせて各体操を各レベルで 3 件ずつ行っても
らった.なお,端末の加速度データ収集アプリケーションのスタートと体操のスタートのタイミン
グを合わせてデータは収集した.これにより,それぞれの体操の加速度データの時間軸は全て同期
しているものであると仮定づけている.
我々は 20(被験者)× 3(体操の種類)× 3(レベル)× 3(回数)の計 520 件の加速度データを
収集した.
4.4 データ解析
本節では,我々が「体の伸び」の姿勢判定に用いた手法を記す.
21
第4章
実験 2:「ラジオ体操」による体の伸びの判定
22
4.4.1 特徴量の選定
本実験においては同端末を用いて加速度データを収集したが,のちにシステムを開発した際には
様々な端末が使用されることが想定される.しかし,端末により 3 軸加速度センサの搭載されてい
る位置が異なることから,端末間で各軸に若干の差異が生じると考えられる.また,使用者の端末
の持ち方においても各軸間での差異が生じる.姿勢の判定はそのような少しの差異が結果に影響を
及ぼす可能性がある.我々は,そのような差異を考えずに済み,純粋な手の動きの加速度を用いる
ために,収集した 3 軸加速度データの x 軸 y 軸 z 軸の 3 軸を以下の式により合成し強度を算出した.
√
x2 + y 2 + z 2
(4.1)
以下のデータ解析はこの強度を用いて行ったものであり,以下からはこの強度のことを「加速度」
と表記するものとする.
収集した加速度データを図 4.10 に示す.
第4章
実験 2:「ラジオ体操」による体の伸びの判定
(a) 背伸びの運動の各レベルの加速度
(b) 体を横に曲げる運動の各レベルの加速度
(c) 体をねじる運動の各レベルの加速度
図 4.10
各体操の各レベルの加速度 [縦軸:加速度 [m/s2 ],横軸:経過時間 [s]]
23
第4章
実験 2:「ラジオ体操」による体の伸びの判定
各行動の初めの数秒間は端末のアプリケーションをスタートして目的の体操の音楽の位置まで
待っている状態である.4.2 節でも述べたが,アプリケーションの開始と音楽の開始のタイミングを
合わせているので,同じ体操の加速度データにおいては同様の時間の待ち時間が存在しており,各
体操の開始時間はそれぞれのデータ間で同期しているものとして解析を行っている.また,更に詳
しく見るために図 4.10 中の青い四角の枠で囲っている箇所を切り出したものを図 4.11 に示す.た
だし,図 4.10(a) の青い枠は背伸びの運動を一回行っている箇所であり,図 4.10(b) の青い枠は右手
を挙げ体を左に 2 回倒している箇所,図 4.10(c) の青い枠は体をねじる運動の開始から左に大きく 2
回ねじるまでの箇所である.
24
第4章
実験 2:「ラジオ体操」による体の伸びの判定
(a) 図 4.10(a) を切り出した図
(b) 図 4.10(b) を切り出した図
(c) 図 4.10(c) を切り出した図
図 4.11
体操箇所(図 4.10 の青枠)を切り出した図 [縦軸:加速度 [m/s2 ],横軸:経過時間 [s]]
25
第4章
実験 2:「ラジオ体操」による体の伸びの判定
我々はデータ収集の際に用いたラジオ体操の音源を参考に,以下に示す各体操の「体を伸ばして
いる瞬間」の加速度データの位置を探した.
背伸びの運動
腕を上にあげ,体を引っ張り上げてお腹を伸ばしている瞬間
体を横に曲げる運動 右手をあげ体を左に倒し脇腹を伸ばしている瞬間
体をねじる運動
体を大きく左にねじりお腹を伸ばしている瞬間
すると,図 4.11 に記している青い枠中が「伸び」を行っている箇所であると判明した.我々は,収
集した各データにおいてその加速度の最小値をとり,各レベル間で箱ひげ図を作成した.その図を
図 4.12 に示す.
図 4.12 各体操における「体を伸ばしている瞬間」の加速度の最小値 [縦軸:加速度 [m/s2 ],横
軸:体操のレベル]
図 4.12 を見てみると,(a) は各レベル間において明確な差が見受けられず,(b) はばらつきが大
きい.また (c) はレベル 3 においては他のレベルとの多少の距離があるがレベル1とレベル 2 に差
がない.このことから,体を伸ばしている瞬間,つまり最小値だけでは良い結果がでるとは考えが
たい.
そこで,我々はしっかりとした「伸び」を実現させるためにはその「伸び」に至る直前の手の振
りも関係するのではないかと考えた.直前の手の振りの加速度データは,図 4.11 の赤い枠の位置で
ある.そこで先ほどと同様に,その位置の加速度データの最大値を分析した.その図を図 4.13 に
示す.
26
第4章
実験 2:「ラジオ体操」による体の伸びの判定
図 4.13 各体操における「体を伸ばす手前の手の振り」の加速度の最大値 [縦軸:加速度 [m/s2 ],
横軸:体操のレベル]
図 4.13 を見てみると,ばらつきはあるものの各レベルの中央値に若干の差があることがわかる.
よって,我々は「伸び」の直前の区間から「伸び」が終わる区間までの加速度データを切り出し,そ
の区間の加速度データの最小値,最大値を算出し,それを解析の特徴量とした.
4.4.2 解析方法
まず,我々は収集した体操の加速度データ一件につき,前節で述べた区間を 2 か所ずつ切り出し
た.各体操の切り出しの区間は以下である.
(1) 背伸びの運動 両手を頭上に上げる区間 (2 回)
(2) 体を横に曲げる運動 右手を上げる区間 (前半の初め 1 回,後半の初め 1 回)
(3) 体をねじる運動 左に大きくねじる区間 (前半の 2 回)
(2) においてその体操の前半の初め 1 回,後半の初め 1 回,(3) で前半の 2 回を選んだのは,のち
にシステムに実装することを考慮してである.想定されるシステムとしては,ラジオ体操をしてい
るとリアルタイムに姿勢の判定を行い,「伸び」がしっかりと行えてないときに警告音を発して「伸
び」を促すシステムである.(2) においては前半の初め 1 回,後半の初め 1 回,(3) では前半の「伸
び」の部分の判定を行い,その時に警告音が出れば逆の動きの際に動きを改善し「伸び」を意識す
るのではないかと考えた.なので,主に前半部分(片側の運動)の区間の切り出しを行った.
27
第4章
実験 2:「ラジオ体操」による体の伸びの判定
28
次に,切り出したデータを 1 件のデータと考え特徴量を出した.つまり,1 つの体操につき 20(被
験者数) × 3(レベル) × 3(回数) × 2(切り出し)=360 件の特徴量データを算出した.
最後に,機械学習に用いる学習データとテストをさせるデータを分け 20 分割交差検定を行い,精
度を確かめた.ただし,学習データとテストデータの両方に同一人物のデータが含まれないように
してある.
4.4.3 結果
3 章の結果を参考に,機械学習の分類器を SVM とし,精度を出した.各体操の分類結果の表を以
下に示す.ただし,表中の Lv1,Lv2,Lv3 というのは順にレベル 1(良い),レベル 2(伸びていな
い),レベル 3(適当) を指しており,表の行は予測件数,列は実際のそのレベルの件数となっている.
表 4.2
背伸びの運動の結果
表 4.3 体を横に曲げる運動
表 4.4 体をねじる運動の結果
の結果
@
@
@
Lv1
Lv2
Lv3
@
@
@
@
@
Lv1
Lv2
Lv3
@
@
@
@
@
Lv1
Lv2
Lv3
Lv1
45
30
2
@
@
Lv1
69
29
8
Lv2
26
52
42
Lv1
55
14
8
Lv2
54
74
24
Lv3
25
39
70
Lv2
34
66
43
Lv3
21
16
94
Lv3
31
40
69
上記結果をもとに F 値による精度を計算したところ,背伸びの運動では 53.30%,体を横に曲げる
運動では 54.16%,体をねじる運動では 59.40% とあまり良い判別結果にはならなかった.そこで,
個人のデータを確認してみた.被験者 A の各体操,各レベルにおいての特徴量(最大値,最小値)
の散布図を図 4.14 に示す.
第4章
実験 2:「ラジオ体操」による体の伸びの判定
29
図 4.14 被験者 A の特徴量データの散布図 [縦軸:加速度(最大値)[m/s2 ],横軸:加速度(最
小値)[m/s2 ]]
図 4.14 を見てみると,それぞれのレベルで若干のクラスタができていることが見受けられる.そ
こで,我々は各個人のデータで学習し同じ人のデータでテストを行ってみた.ただし,学習とテス
トは同じデータが含まれないようにしてあり,分類器には最も単純とされる決定木を用いた.各個
人で出した結果を 20 人分足し合わせた表を下に示す.
表 4.5 背伸びの運動の結果
(個人)
@
@
@
Lv1
Lv2
Lv3
@
@
表 4.6 体を横に曲げる運動
表 4.7 体をねじる運動の結
の結果(個人)
果(個人)
@
@
@
Lv1
Lv2
Lv3
@
@
@
@
@
Lv1
Lv2
Lv3
@
@
Lv1
92
23
23
Lv1
81
16
14
Lv1
90
21
7
Lv2
20
79
23
Lv2
27
80
21
Lv2
26
93
5
Lv3
8
18
74
Lv3
12
24
85
Lv3
4
6
108
第4章
実験 2:「ラジオ体操」による体の伸びの判定
30
こちらも同様に f 値による精度を計算したところ,伸びの運動では 68.26%,体を横に曲げる運動
では 68.45%,体をねじる運動では 80.88% と,先ほどよりも良い精度が得られた.このことから,
悪い結果が出た要因は,個人差(個人の癖や腕の長さ,体の柔らかさなど)による影響が大きいも
のであると考えられる.
4.5 個人差の軽減
前節の結果をふまえ,我々は個人差の軽減を目指した.
4.5.1 個人差軽減のアルゴリズム
我々は,各個人のレベル間の比はどの被験者においても同程度ではないかと考えた.そこで,各
個人においてレベル 1(良い)のデータを基準にそれぞれのレベルのデータを変異させる下記式を考
案した.
ai − a1
(4.2)
a1 というのはレベル 1 の特徴量(本章の実験では最小値と最大値)の平均,ai は各レベルの特徴
量を示している.式 (4.2) を各個人のデータで適用し,算出されたデータを各体操のレベルごとに箱
ひげ図にまとめた.それを図 4.15∼図 4.23 に示す.なお,各図の横軸は被験者ナンバーで,縦軸は
上の図が加速度の最大値,下の図が加速度の最小値のグラフである.
第4章
実験 2:「ラジオ体操」による体の伸びの判定
図 4.15 「背伸びの運動」のレベル 1 の平均値で引いた最大値(上)最小値(下)の加速度デー
タ(レベル 1) [縦軸:加速度 [m/s2 ],横軸:被験者の番号]
31
第4章
実験 2:「ラジオ体操」による体の伸びの判定
図 4.16 「背伸びの運動」のレベル 1 の平均値で引いた最大値(上)最小値(下)の加速度デー
タ(レベル 2) [縦軸:加速度 [m/s2 ],横軸:被験者の番号]
32
第4章
実験 2:「ラジオ体操」による体の伸びの判定
図 4.17 「背伸びの運動」のレベル 1 の平均値で引いた最大値(上)最小値(下)の加速度デー
タ(レベル 3) [縦軸:加速度 [m/s2 ],横軸:被験者の番号]
図 4.15 の,最大値のグラフでは 0 付近に,図 4.16 の,最大値のグラフでは 0∼-0.5 付近に,図
4.17 の,最大値のグラフは-0.5 付近に集まっているデータが多い.それに対して,最小値のグラフ
はどれも 0 付近に集まる形となった.
33
第4章
実験 2:「ラジオ体操」による体の伸びの判定
図 4.18 「体を横に曲げる運動」のレベル 1 の平均値で引いた最大値(上)最小値(下)の加速
度データ(レベル 1) [縦軸:加速度 [m/s2 ],横軸:被験者の番号]
34
第4章
実験 2:「ラジオ体操」による体の伸びの判定
図 4.19 「体を横に曲げる運動」のレベル 1 の平均値で引いた最大値(上)最小値(下)の加速
度データ(レベル 2) [縦軸:加速度 [m/s2 ],横軸:被験者の番号]
35
第4章
実験 2:「ラジオ体操」による体の伸びの判定
図 4.20 「体を横に曲げる運動」のレベル 1 の平均値で引いた最大値(上)最小値(下)の加速
度データ(レベル 3) [縦軸:加速度 [m/s2 ],横軸:被験者の番号]
図 4.19 と図 4.20 では,最大値のグラフも最小値のグラフも似ており,各被験者間のデータのば
らつきが大きい.また,各個人においてもデータのばらつきが大きいことが見て取れる.
36
第4章
実験 2:「ラジオ体操」による体の伸びの判定
図 4.21
「体をねじる運動」のレベル 1 の平均値で引いた最大値(上)最小値(下)の加速度
データ(レベル 1) [縦軸:加速度 [m/s2 ],横軸:被験者の番号]
37
第4章
実験 2:「ラジオ体操」による体の伸びの判定
図 4.22
「体をねじる運動」のレベル 1 の平均値で引いた最大値(上)最小値(下)の加速度
データ(レベル 2) [縦軸:加速度 [m/s2 ],横軸:被験者の番号]
38
第4章
実験 2:「ラジオ体操」による体の伸びの判定
図 4.23
39
「体をねじる運動」のレベル 1 の平均値で引いた最大値(上)最小値(下)の加速度
データ(レベル 3) [縦軸:加速度 [m/s2 ],横軸:被験者の番号]
図 4.23 が特に全体的に数値が低くなっており,図 4.21 と図 4.22 とは容易に判別できそうに思え
る.しかし,図 4.22 のグラフでは最大値,最小値共に 0 付近のデータが多い.
図 4.15∼図 4.23 全体的に見ると,各個人の各レベルにおいて箱ひげ図の箱が長い,つまりデータ
のばらつきが多い.そこで,式 (4.2) とは別に各個人の各レベルにおいてデータのばらつきを軽減し
た式 (4.3) での結果も確かめた.
ai − a1
sd1
(4.3)
sd1 は,レベル 1 の特徴量の標準偏差である.式 (4.2) の時と同様に,式 (4.3) を各個人のデータ
で適用し,算出されたデータを各体操のレベルごとに箱ひげ図にまとめた.それらを以下に示す.
第4章
実験 2:「ラジオ体操」による体の伸びの判定
なお,以下のグラブも式 (4.2) を適用したグラフ同様,各図の横軸は被験者ナンバーで,縦軸は上の
図が加速度の最大値,下の図が加速度の最小値のグラフとなっている.
図 4.24
「背伸びの運動」のレベル 1 の平均値で引いて標準偏差で割った最大値(上)最小値
(下)の加速度データ(レベル 1) [縦軸:加速度 [m/s2 ],横軸:被験者の番号]
40
第4章
実験 2:「ラジオ体操」による体の伸びの判定
図 4.25
「背伸びの運動」のレベル 1 の平均値で引いて標準偏差で割った最大値(上)最小値
(下)の加速度データ(レベル 2) [縦軸:加速度 [m/s2 ],横軸:被験者の番号]
41
第4章
実験 2:「ラジオ体操」による体の伸びの判定
図 4.26
「背伸びの運動」のレベル 1 の平均値で引いて標準偏差で割った最大値(上)最小値
(下)の加速度データ(レベル 3) [縦軸:加速度 [m/s2 ],横軸:被験者の番号]
図 4.15∼図 4.17 に比べ,各個人のデータのばらつきが多少緩和されている.しかし,各レベル間
のデータの距離も近くなっているようにも見える.
42
第4章
実験 2:「ラジオ体操」による体の伸びの判定
図 4.27 「体を横に曲げる運動」のレベル 1 の平均値で引いて標準偏差で割った最大値(上)最
小値(下)の加速度データ(レベル 1) [縦軸:加速度 [m/s2 ],横軸:被験者の番号]
43
第4章
実験 2:「ラジオ体操」による体の伸びの判定
図 4.28 「体を横に曲げる運動」のレベル 1 の平均値で引いて標準偏差で割った最大値(上)最
小値(下)の加速度データ(レベル 2) [縦軸:加速度 [m/s2 ],横軸:被験者の番号]
44
第4章
実験 2:「ラジオ体操」による体の伸びの判定
図 4.29 「体を横に曲げる運動」のレベル 1 の平均値で引いて標準偏差で割った最大値(上)最
小値(下)の加速度データ(レベル 3) [縦軸:加速度 [m/s2 ],横軸:被験者の番号]
図 4.27∼図 4.29 では,図 4.18∼図 4.20 に比べ各個人のデータのばらつきが大きく緩和されてい
る.しかし,先ほどの結果と同様に各レベル間でのデータの距離が近くなっている.
45
第4章
実験 2:「ラジオ体操」による体の伸びの判定
図 4.30 「体をねじる運動」のレベル 1 の平均値で引いて標準偏差で割った最大値(上)最小値
(下)の加速度データ(レベル 1) [縦軸:加速度 [m/s2 ],横軸:被験者の番号]
46
第4章
実験 2:「ラジオ体操」による体の伸びの判定
図 4.31 「体をねじる運動」のレベル 1 の平均値で引いて標準偏差で割った最大値(上)最小値
(下)の加速度データ(レベル 2) [縦軸:加速度 [m/s2 ],横軸:被験者の番号]
47
第4章
実験 2:「ラジオ体操」による体の伸びの判定
図 4.32 「体をねじる運動」のレベル 1 の平均値で引いて標準偏差で割った最大値(上)最小値
(下)の加速度データ(レベル 3) [縦軸:加速度 [m/s2 ],横軸:被験者の番号]
こちらのグラフも,各個人のデータのばらつきが多少緩和していることがわかる.しかし,図
4.21∼図 4.23 と大きな変化は見受けられない.
4.5.2 結果
式 (4.2) を適用した結果の表を以下に示す.
48
第4章
実験 2:「ラジオ体操」による体の伸びの判定
表 4.8
式 (4.2) を適用した
背伸びの運動の結果
@
@
@
Lv1
Lv2
表 4.9
49
式 (4.2) を適用した
体を横に曲げる運動の結果
Lv3
@
@
@
@
@
Lv1
Lv2
表 4.10
式 (4.2) を適用した
体をねじる運動の結果
Lv3
@
@
@
@
@
Lv1
Lv2
Lv3
@
@
Lv1
99
51
29
Lv1
94
42
27
Lv1
93
55
1
Lv2
12
32
16
Lv2
22
34
43
Lv2
21
42
14
Lv3
9
37
75
Lv3
4
44
50
Lv3
6
23
105
結果より,F 値による精度を計算したところ,背伸びの運動では 57.05%,体を横に曲げる運動で
は 48.54%,体をねじる運動では 65.88% と,背伸びの運動と体をねじる運動は精度が上昇したが,
体を横に曲げる運動は逆に精度が落ちた.
次に,式 (4.3) を適用した結果の表を以下に示す.
表 4.11
式 (4.3) を適用した
背伸びの運動の結果
@
@
@
Lv1
Lv2
表 4.12
式 (4.3) を適用した
体を横に曲げる運動の結果
Lv3
@
@
@
@
@
Lv1
Lv2
表 4.13
式 (4.3) を適用した
体をねじる運動の結果
Lv3
@
@
@
@
@
Lv1
Lv2
Lv3
@
@
Lv1
99
52
38
Lv1
98
45
26
Lv1
103
60
1
Lv2
10
31
18
Lv2
19
42
44
Lv2
14
39
15
Lv3
11
37
64
Lv3
3
33
50
Lv3
3
21
104
結果より,F 値による精度を計算したところ,背伸びの運動では 53.96%,体を横に曲げる運動で
は 52.40%,体をねじる運動では 67.73% と,先ほどの結果に比べて背伸びの運動の精度は落ちたも
のの,体を伸ばす運動と体をねじる運動は精度が向上した.
3 つの手法すべての結果を合わせると,背伸びの運動は式 (4.2) を適用した場合が一番精度が良
く,57.05% の精度であった.体を横に曲げる運動では,式 (4.2),(4.3) のどちらも適用しない場合
が 54.16% と一番精度が良かった.体をねじる運動に関しては,式 (4.3) を適用した場合が一番よ
く,67.73% であった.
最後に,
「良い(レベル 1)
」と「その他(レベル 2,レベル 3)
」の 2 種類での判別精度を確認して
みた.判別を行ってみたところ,手法は前述の手法(背伸びの運動は式 (4.2) を適用,体を横に曲げ
第4章
実験 2:「ラジオ体操」による体の伸びの判定
50
る運動はそのまま,体をねじる運動は式 (4.3) を適用)が一番精度が良かった.結果を表 4.14∼表
4.16 に示す.
表 4.14
背伸びの運動を「良
体を横に曲げる運
表 4.16 体をねじる運動を
い」と「その他」での判別し
動を「良い」と「その他」で
「良い」と「その他」での判別
た結果
の判別した結果
@
@
良い
@
@
@
表 4.15
@
その他
@
良い
@
@
@
結果結果
@
その他
@
良い
@
@
@
その他
良い
62
43
良い
46
12
良い
94
53
その他
54
197
その他
74
228
その他
26
187
精度としては,背伸びの運動が 69.03%,体を横に曲げる運動が 71.64%,体をねじる運動が
76.98% という一見良い精度のように思えるが,背伸びの運動では約半数が,体を横に曲げる運動で
は半数以上が「その他」に誤認識されているという結果になった.
4.6 考察
本章の実験では,体をねじる運動以外 60% 未満であまり良い結果が得られなかった.しかし,各
個人で学習し,その人の別のデータを適用すれば 70% 近くの精度となることから,個人差が全体の
精度に大きく影響を与えていると考えられる.そこで,収集したデータを注意深く見てみると,興
味深い事象を発見した.以下に 3 人の被験者の「体を横に曲げる運動」の特徴量の箱ひげ図を示す.
第4章
実験 2:「ラジオ体操」による体の伸びの判定
図 4.33 3 人の被験者の「体を横に曲げる運動」の各レベルにおける加速度の最大値と最小値
図の各被験者の最大値に注目してみる.被験者 7 はレベル 1 が一番高く,レベル 2,レベル 3 と
行くにつれて下がっていることがわかる.被験者 2 は箱の中央値でみるとレベル 2 が一番高く,レ
ベル 1,レベル 3 と下がっている.被験者 8 は中央値だとほぼ横ばいである.ここで,この加速度
の最大値について考えてみる.我々が抽出した加速度のこの最大値は「伸びに至るまでの手の振り」
がどれだけ速いかを表している.つまり,被験者 7 はレベル 1 のしっかり伸ばす体操で腕が素早く
振れていて,被験者 2 ではレベル 2 の伸ばすべき場所が伸びていないときに一番早く腕が振れてい
る.被験者 8 に至っては全てのレベルにおいて腕の振りが遅い.腕を速く振るためにはそれ相応の
稼働範囲が必要である.このことから,被験者 7 はものすごく体が柔らかく被験者 2 は少し硬い,
被験者 3 は腕にスピードが乗るに至らない箇所でつかえてしまうほど体が硬いことが推測できる.
図 4.33 のようなデータどうしではそれら行動の判別は難しい.このようなデータは他の体操にも見
られ,この現象,つまり「体の硬さ」が本実験の精度に大きく左右したと考えられる.ここで問題
は,被験者 2 も被験者 8 もレベル 1 において本人にとっては「しっかり脇腹を伸ばした理想的な体
操」であったということである.そこで,今後は「体の硬さ」により被験者を数段階に分けその人
に合った段階での解析を行う,という手法も検討する必要がある.
51
52
第5章
結論
本研究では,運動不足解消に貢献するとして「ラジオ体操支援システム」を考案し,そのシステ
ムに実装する「日常生活でどの体操をどれだけ行ったかのログを残す機能」と「ラジオ体操中に使
うべき部位が使えていないときに警告音をリアルタイムに発生させる機能」実現のための 2 つの実
験を行った.
1 つ目は,「ラジオ体操」の各体操の認識である.これは,日常生活でどの体操をどれだけ行った
かのログを残す機能開発のため行った実験である.被験者 4 人に対して,3 軸加速度センサが搭載
された単一のスマートフォンを胸ポケットに取り付けてもらい,ラジオ体操第一の 13 種の行動の
内,同様の行動 2 種類(「背伸びの運動」「腕を振って脚を曲げ伸ばす運動」)を除いた 11 種類の
行動の加速度データの収集を行った.その後,取集された各加速度データに前処理を行い,最終的
に 8 次元の特徴量を抽出,この特徴量を用いて機械学習を行った.機械学習には,再帰分割回帰木
(rpart),単純ベイズ分類器 (NB),最近傍分類法 (1-NN),サポートベクターマシン (SVM) の 4 種
類の分類器を用い,分類に最適な分類器の選定を行った.結果としては,最も分類精度の良かった
ものは SVM で,各体操の行動の認識精度を平均したところ 66.68% であった.行動ごとに見てみ
ると,
「両足で飛ぶ」は 3 つの分類器において 100% の判別結果となった.これは,飛ぶという行動
が他にないからであると考えられる.逆に,結果の悪い行動はお互いが似た行動であるからだと考
察できる.さらに,データのマップ化をしてみたところ,「両足で飛ぶ」は他の行動のデータと距離
が離れていたが,そのほかの行動はデータ間の距離が近く,重なっている箇所が多いことが判明し
た.これは,胸ポケットでは着ている衣類の影響があり,「両足で飛ぶ」といった全身を大きく動か
す運動以外は衣類の影響でデバイスがあまり特徴的な動きにならないからではないかと考えた.日
常生活においてはそのような全身を大きく動かさない行動が多く,それらを考慮すると,日常でど
れ程ラジオ体操を行ったか,またどの体操をどれだけ行ったかのログを残す機能の実現には着てい
る衣類を考慮した解析手法が必要であるという課題が生まれた.
第5章
結論
2 つ目の実験では,「ラジオ体操中に使うべき部位が使えていないときに警告音をリアルタイムに
発生させる機能」開発のための「体の伸ばし」に関する解析を行った.我々は,「伸ばし」の運動で
ある「背伸びの運動」
「体を横に曲げる運動」
「体をねじる運動」の 3 種類の体操に焦点を置き,さら
に各体操で「良い」
「伸びていない」
「適当」の 3 つのレベルを設けてデータ収集を行った.データ収
集には 20 人の被験者に協力してもらいスマートフォンを右手に持ち,音楽に合わせてそれぞれの体
操の各レベルのデータを収集した.収集した加速度データに前処理として強度を求め,さらに「伸
ばし」を行っている箇所とその直前の腕の振りの箇所を切り出し,その区間の強度の最大値と最小
値を特徴量とし,これら特徴量を用いて機械学習を行った.機械学習には一つ目の実験で一番精度
の良かった SVM を用いた.我々は,結果を出すにあたって 3 つの手法を用いた.1 つ目は通常通り
特徴量をそのまま用いての精度を出す方法,2 つ目は個人差の軽減を目的として,各個人で「良い」
の特徴量(最小値と最大値)の平均をそれぞれのレベルのデータから引いてから機械学習させ精度
を出す方法,3 つ目は各個人のデータのばらつきを軽減することを目的とし,2 つ目に行った「良い」
の平均を引いた後に「良い」の標準偏差で割ったものを特徴量として用い機械学習させ精度を出す方
法である.結果は,
「背伸びの運動」では 2 つ目の手法を適用した場合が一番精度が良く,57.05% の
精度であった.「体を横に曲げる運動」では,1 つ目の通常通り行う場合が 54.16% と一番精度が良
かった.「体をねじる運動」に関しては,3 つ目の手法を適用した場合が一番よく,67.73% であっ
た.精度があまり良くなかった原因を探ってみたところ,個人個人の「体の硬さ」が一番影響を与
えているのではないかという結論に至った.
2 つの実験をふまえ,今後としては「日常生活でどの体操をどれだけ行ったかのログを残す機能」
については衣類を考慮した解析手法の提案,「ラジオ体操中に使うべき部位が使えていないときに警
告音をリアルタイムに発生させる機能」実現のために,「体の硬さ」により被験者を数段階に分けそ
の人に合った段階で行う解析手法の検討,またその他の「バランス改善(回し)」の体操や「筋力ト
レーニング」の体操の解析が必要になると考えられる.また,その他の機能である体操の良しあし
の点数化アルゴリズムの考案なども必要である.
53
54
謝辞
本研究にあたり,厳しく,また熱心にご指導いただいた九州工業大学大学院工学研究院基礎科学
研究系井上創造准教授に心から御礼申し上げます.また,実験に快く協力してくださった本研究室
や情報系研究室の皆様方や友人,陰ながらお力添えをしていただいた事務員の内野さん,いつも暖
かく見守ってくれた家族,皆様方に感謝の意を表します.
55
参考文献
[1] 中村格子 著, ”実はスゴイ!大人のラジオ体操”, 講談社, 2012.
[2] 厚 生 労 働 省,
平 成
年 国 民 健 康・栄 養 調 査 結 果 の 概 要,
23
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r9852000002q1st.html
[3] 厚 生 労 働 省,
健
康
づ
く
り
の
た
め
の
運
動
指
針
2006,
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/undou01/pdf/data.pdf
[4] 服部 祐一, 竹森 正起, 井上 創造, 平川 剛, 須藤 修, ”携帯情報端末による大規模行動収集システ
ムの運用と基礎評価”, マルチメディア,分散,協調とモバイルシンポジウム (DICOMO2010)
予稿集, pp. 583 - 590, July 6, 2010, Gifu, Japan.
[5] 服部 祐一, 竹森 正起, 井上 創造, 平川 剛, 須藤 修, ”携帯情報端末による大規模行動情報収集シ
ステム「ALKAN」”, マルチメディア,分散,協調とモバイルシンポジウム (DICOMO2010)
予稿集(デモ), pp. 2061 - 2065, July 6, 2010, Gifu, Japan.
[6] Yuichi Hattori, Sozo Inoue, Go Hirakawa, Osamu Sudo, ”Gathering Large Scale Human Activity Information Using Mobile Sensor Devices”, International Workshop on Network Traffic Control, Analysis and Applications (NTCAA-2010), pp.708-713, Fukuoka, Japan,2010.
[7] Xi Long, Student Member, IEEE, Bin Yin, and Ronald M. Aarts, Fellow, IEEE, ”SingleAccelerometer-Based Daily Physical Activity Classification”, 31st Annual International
Conference of the IEEE EMBS Minneapolis, Minnesota, USA, September 2-6, 2009.
[8] Yang Xue, Lianwen Jin, ”A Naturalistic 3D Acceleration-based Activity Dataset Benchmark Evaluations”, Systems Man and Cybernetics (SMC), 2010 IEEE International Conference on
[9] Christina Strohrmann, Holger Harms, and Gerhard Troster, ”What do sensors know about
your running performance?”, IEEE International Symposium on Wearable Computers,
pp.101-104, 2011.
[10] 樫原 裕大, 清水 裕基, 吉永 努, 入江 英嗣, ”スマートフォンによる歩行動作分析の評価”, マ
参考文献
ルチメディア, 分散, 協調とモバイルシンポジウム (DICOMO2012), pp.165-172, Jul. 2012,
Ishikawa, Japan.
56
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