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第二期・展示資料解説

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第二期・展示資料解説
展示期間:2013 年 6 月 25 日~7 月 8 日
レオナルド・ダ・ヴィンチ
《ラ・ジョコンダ(モナ・リザ)》
1503-1516 年頃 77×53cm
パリ、ルーブル美術館蔵
■出典 レオナルド・ダ・ヴィンチ : 全絵画作品・素描集
■出版事項 Köln : Taschen , c2007 ■請求番号 L-723.37-L55Yzb ■資料 ID 396336244
■ 解説
世界一、有名な絵「ラ・ジョコンダ(モナ・リザ)」は、500年の時を経てなお、我々の
想像力をかき立てる。謎めいた微笑は、ついに到達した究極のぼかし技法、スフマートによる
もの。水に溶いた顔料を指の腹で何度も画面に重ねていくという、気の遠くなるような作業を
繰り返す技法だ。レオナルドはスフマートを巧みに用い、かすかな筋肉の動きまでもつぶさに
表現した。奇妙な背景には、木も雲も描かれてはいない。つまり、短い時の移り変わりを示す
要素を極限まで省き、それを超えた永遠の風景を描いたのだ。モデルについては諸説あり、現
在も定まっていない。池上英洋氏は「母親を描いたものだろう」と推論する。理由のひとつは、
レオナルドが本作を売ろうとした形跡がなく、10年以上にわたって手を入れていること。飽
きっぽい彼にしては珍しいことであり、金銭や名声とは別の動機があったと考えるのが自然だ。
(ダ・ヴィンチ全作品・全解剖。(702.37-L55Yd)より)
展示期間:2013 年 6 月 25 日~7 月 8 日
レオナルド・ダ・ヴィンチ
《洗礼者ヨハネ》
1513-1516 年頃 油彩、板 69×57cm
パリ、ルーヴル美術館蔵
■出典 Leonardo infinito / Alessandro Vezzosi ; con la collaborazione di Agnese Sabato ;
introduzione di Carlo Pedretti
■出版事項 Reggio Emilia : Scripta Maneant , c2008
■請求番号 L-702.37-L581Yv
■資料 ID 396867569
■解説
実質的な遺作であり、レオナルド芸術の到達点でもある。衝撃的なのは、ヨハネが中性的な
美少年として描かれていること。
十字架と、纏った毛皮でヨハネであることがかろうじてわかる。この中性性は『ラ・ジョコ
ンダ(モナ・リザ)』でも見られるが、より確信的。ヨハネは救世主の存在を知らせるメッセ
ンジャーであり、天を差す指でそれを伝えている。性別をもたない天使に近い存在だというの
が、その理由と考えられる。
若き日のレオナルドに似ているともいわれるヨハネは、作者だけが理解しうる自画像なのか
もしれない。
(ダ・ヴィンチ全作品・全解剖。(702.37-L55Yd)より)
展示期間:2013 年 6 月 25 日~7 月 8 日
ミケランジェロ・ブオナローティ
《原罪と楽園追放》
フレスコ
1509 年-1510 年 498×870cm
システィーナ礼拝堂
ローマ、ヴァティカン宮殿
■出典 旧約の世界 / ミケランジェロ [画] ; フレデリック・ハート序文 ; ジャンルイジ・コラ
ルッチ解説 ; 岡村崔撮影 ; 若桑みどり監訳
■出版事項 日本テレビ放送網 , 1990
■請求番号 L-723.37-Mi13b-1
■資料 ID 185167390
■解説 若山映子著 『システィーナ礼拝堂天井画』 東北大学出版会, 2005 年, 207-210
723.37-Mi13Ywb-1
善悪の知識の木の実を食べてはいけないと神から直接告げられたのはアダムである。エバもその
禁令を知ってはいたが、「決して死ぬことはない。それを食べると、目が開け、神のように善悪を知るも
のとなることを神はご存じなのだ」(創世記3章4-5節)と「野の生き物のうちで最も賢い」蛇から言葉巧
みに誘われた。しかも「その木はいかにもおいしそうで、目を引き付け、賢くなるようそそのかしていた」
(同6節)ので、彼女はその実を取って食べてしまうのである。誘惑者に手を差し出す栗色の髪のエバ
展示期間:2013 年 6 月 25 日~7 月 8 日
は、晴朗無垢な表情で、顔面に光を受けている。一方アダムの顔には光が当たらず、彼の肉体そのも
のも、《アダムの創造》や《エバの創造》のそれとはまったく異なった、粗野な荒々しさを感じさせる。彼
は木の実に手を伸ばした瞬間、すでにそれを食べること、つまり神から直接禁じられていたにも拘わら
ず禁令を破ること、神に背くことを選択したのである。そのことの責任をエバに帰し、神にまで責任を転
嫁したアダムと、周囲の状況に影響されて、ことの重大さに気づかぬままに木の実に手を伸ばしたエ
バとの違いを、ふたりの姿の相違としてミケランジェロは描いている。
「創世記」には、アダムとエバをエデンの園から追放する前に「主なる神は、アダムと女に皮の衣を
作って着せられた」(3章21節)と記されているが、天井画の《楽園追放》には、全裸の男と女が描かれ
ている。罪ゆえに老醜を晒すことになったエバは、身を縮めながら後方を振り返り、老いて顔面の筋肉
がたるんだアダムは、激しい拒絶のジェスチャーを見せている。しかしそこにも、アダムの罪の大きさと
その自覚とが読みとれる。なぜなら彼の右掌は、彼を追放する天使に抵抗しているのではなく、明らか
に誘惑者、あるいは木の枝をつかんでその実をもぎ取ろうとしている彼自身の過去の姿に向けられて
いるからである。それに気づいてエバを見直すと、彼女も、誘惑者から果実を受け取る清廉な表情の
かつての自分に視線を向けて、悲しみに打ちひしがれている。
罪の結果、神の恩寵を失い、弱き者となった彼らは、深い哀しみと慟哭の内にも、自らの責任を負
い、罪の自覚と悔悟の念を心に刻んで楽園を去ってゆく。
展示期間:2013 年 6 月 25 日~7 月 8 日
ミケランジェロ・ブオナローティ
《ノアの洪水》
フレスコ 1509 年 555×875cm
システィーナ礼拝堂天井画から
ローマ、ヴァティカン宮殿
■出典 ミケランジェロ : 1475-1564 : 全作品集 / [ミケランジェロ作] ;
フランク・ツォルナー, クリストフ・テーネス, トーマス・ペッパー著
■出版事項 Taschen , c2008
■請求番号 L-702.37-Mi13m ■資料 ID 396733510
■解説 若山映子著 『システィーナ礼拝堂天井画』 東北大学出版会, 2005 年, 194-196
ミケランジェロがシスティーナ礼拝堂装飾に着手して最初に手懸けたことが知られている《ノアの洪
水》は、「創世記」に取材した主題に振り分けられた画面のうちで、もっとも広い面積を占めている。
前景には、地表を覆う水にまだ完全には呑み込まれていない山頂が設定され、そこに登ってくる
人々、そこに辿りついて休息をとる人たちの姿が描かれている。親子、夫婦の愛の絆を窺わせる人、
生き延びられると信じて生活必需品を担いで逃れてくる人もいる。彼らのどの表情にも悪意は見いだ
せない。着衣の人もいるが大半は裸である。
山頂には強風に吹かれて倒れかかる一本の太い枯れ木と切り株とがあるが、生命を感じさせる自
然はない。そのことは、この山頂に辿りついた人々の将来を暗示している。しかしそこにもやがて再び
展示期間:2013 年 6 月 25 日~7 月 8 日
生命が宿るであろう。人々が正しい道に立ち帰ったとき、打ち倒された樫の木の根元からは若枝が芽
吹くのである。
右中景には、やはり水面から突き出した大きな岩にテントを張って風を避けようとする人、岩盤によ
じ登ろうとする人、瀕死の若者を担いでようやくそこに辿りついた白髪白鬚の男性、彼の方に手を差し
伸べる老人と女性などが表されている。茫然自失の状態で、樽に身体を預ける青年もいる。この岩場
の人たちも、互いに助け合う仕草を見せている。木の一部から空に向かって広がる漆喰の欠損部分
に何が描かれていたのかは知る由もない。
岩場よりやや奥、画面中央には、波にもまれる深皿状の船に乗って避難を試みる人が見えるが、そ
れに乗り込もうとする人との間で暴力的な争いが繰り広げられている。さらにその奥に浮かぶノアの箱
舟のデッキ状の張り出し部分にも、救いを求める人々の姿がある。そこでも、友人を助け上げる人がい
る一方で、よじ登ろうとする人を追い落とそうと斧を振り上げる者もおり、さまざまな人間模様が展開し
ている。箱船の上階の窓から顔を出すノアは手を高く差し伸べ、最上階の窓の前では白い鳥が羽ば
たいている。
《ノアの洪水》の前景と中景右には、人や物に執着する人々が描かれているが、彼らは暴力を振るう
船上の男女のように醜く表現されていない。すでに具体的に記述した人々に加えて、子を慈しむよう
にかき抱く母、母の脚にすがりつく子供、疲れ果てて坐り込む女とその背後で緑色の布で全身を包み
涙に暮れる子供、状況を把握しようとするかのように強風に身を晒しながら木によじ登り、下で彼を見
守る男女とことばを交わす若者、驢馬の背に幼児を乗せようと彼を抱えあげる着衣の女性と自分のマ
ントでその子供を頭から覆う有鬚の男性など、悪意のない表情の人々がそこには見える。しかし彼ら
が洪水で滅びゆく人々であることは疑う余地がない。
展示期間:2013 年 6 月 25 日~7 月 8 日
ラファエロ・サンツィオ
《大公の聖母》
1504 年頃 84×55cm
フィレンツェ ピッティ美術館
■出典 世界美術大全集 : 西洋編 イタリア・ルネサンス
■出版事項 東京 : 小学館 , 1992.12-1994.12
■請求番号 L-708-Se22d-12
■資料 ID 395640527
解説
ラファエロがフィレンツェにやってきた 22 歳の頃の名品。わず
かに首を傾けたまま静かに立つ聖母の姿は、かぎりない優しさと気
品に溢れている。
聖母の卵形の顔は、フィレンツェ以前に師事していたペルジーノ
(1450 頃~1523)風であるが、明暗の色彩的なぼかしや、犯しが
たい気品をそなえた聖母の精神性には、レオナルドの影響がみられ
る。
初め画家のカルロ・ドルチが所有していたが、1799 年にトスカ
ーナ大公フェルディナンド三世が購入し、旅行にも携行するほど愛
蔵したことから、《大公の聖母》と呼ばれるようになった。
ラファエロは同時代の画家たちから「優美の画家」と称された。
その「優美さ」は女性像に最もよく表現され、それは何世紀にもわ
たってヨーロッパの女性像の規範となった。
ラファエロの芸術は以後近代に至るまで、優美や調和、あるいは
「完成された形式美の範例」であり続け、またそれゆえに他方では
否定や反抗の標的として象徴的な存在となった。十九世紀イギリス
のラファエル前派はその一つの例である。
参考文献:『ラファエロとヴェネツィアの絵画』(L-708-G77-12)、
『ラファエロ』
(L-723.08-F11-5)、
『三巨匠』
(702.37-N71-5)
展示期間:2013 年 6 月 25 日~7 月 8 日
ラファエロ・サンツィオ
《マリアの結婚》
1504 年 170×117cm
ミラノ ブレラ美術館
■出典 世界美術大全集 : 西洋編 イタリア・ルネサンス
■出版事項 東京 : 小学館 , 1992.12-1994.12
■請求番号 L-708-Se22d-12
■資料 ID 395640527
解説
手に持った枯枝に新しい芽が出た者がマリアの夫となる、という
神の意志に従順に従うマリアとヨセフ。建物や人物配置の遠近法的
表現が清新大胆である。
フィレンツェに移ってくる以前に注文を受けて制作した、チッ
タ・ディ・カステロのサン・フランチェスコ聖堂の祭壇画である。
師ペルジーノの作品をモデルに制作されたものと思われるが、ペル
ジーノの様式を踏襲し、ほぼ我がものとしたラファエロは、初めて
自らのサインを書き込んだ。
参考文献:『ラファエロとヴェネツィアの絵画』(L-708-G77-12)、
『ラファエロ』(L-723.08-F11-5)
『誰も知らないラファエッロ』(723.37-R17Yib)
展示期間:2013 年 6 月 25 日~7 月 8 日
ラファエロ・サンツィオ
《アテネの学堂》
1509-10 年 横幅 770cm
ヴァティカン ヴァティカン宮殿署名の間
■出典 The Complete work of Raphael / Raphael
■出版事項 New York : Reynal , c1969
■請求番号 L-723.37-R217
■資料 ID 182981169
解説
教皇ユリウス二世の招きでフィレンツェからローマに移ったラ
ファエロが、最初に手がけたヴァティカン宮殿内署名の間の壁画の
一つ。ピタゴラスやソクラテスをはじめ古代世界の著名な哲学者や
科学者が一堂に会した、理想的な集会の場面。
同時にここには当代の諸芸術―絵画、彫刻、建築―の最大の開拓
者の肖像が取り入れられている。つまり、中央左で天をゆびさして
いる老プラトンはレオナルドの、階段に腰かけ頬杖ついて沈思して
いるヘラクレイトスはミケランジェロの、右前景で身を傾けてコン
パスで図表を描いているユークリッドにブラマンテの顔が用いら
れている。ラファエロ自身は右端から二番目につつましげに顔をの
ぞかせこちらを見ている。
盛期ルネサンスの巨匠たちの肖像が「生き写し」でこのように一
つの画面に収められている例はほかにない。貴重かつ記念碑的な作
品といえる。
参考文献:『三巨匠』(702.37-N71-5)
:『美術手帖』(P-705-B42b-65(984))
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