Comments
Description
Transcript
胸部 HRCT にて reversed halo sign を呈した非特異
248 日呼吸会誌 45(3) ,2007. ●症 例 胸部 HRCT にて reversed halo sign を呈した非特異型間質性肺炎の 1 例 植田 史朗1) 河村 哲治2) 井上 竜治1) 中原 保治2) 田中 勝治1) 望月 吉郎2) 水守 康之2) 小橋陽一郎3) 要旨:症例は 39 歳男性.前胸部不快・乾性咳嗽・階段昇降時の息切れを主訴に当院初診.両側下肺野に軽 度捻髪音が聴取された.炎症反応軽度上昇あり,呼吸機能では拘束性・拡散能障害を認めた.胸部 X 線単 純写真・CT にて両肺下葉中心にスリガラス様濃度上昇や肺容積減少を認め,胸部 HRCT にて reversed halo sign を呈していた.胸腔鏡下肺生検では主に cellular nonspecific interstitial pneumonia の所見であった. Reversed halo sign は cryptogenic organizing pneumonia に比較的特徴的とされているが,他の組織型でも 部分現象としてみられることがあると思われる.本例は膠原病の診断基準は満たしていないが,臨床・画像 所見から肺病変先行型膠原病関連間質性肺炎の可能性が考えられた. キーワード:Reversed halo sign,非特異性間質性肺炎(NSIP),膠原病関連間質性肺炎 Reversed halo sign,Nonspecific interstitial pneumonia (NSIP), Collagen vascular disorder associated interstitial pneumonitis 緒 言 現症:身長 178cm,体重 70kg,体温 37.1℃,脈拍 63! 分・整,血圧 112! 69mmHg,SpO2 97%,表在リンパ節 Reversed halo sign(以下 RHS)とは,high-resolution 触知せず,バチ状指なし,両側下肺野にわずかに捻髪音 CT(HRCT)において,スリガラス濃度上昇の周囲を 聴取,顔貌普通,皮疹や関節症状なし,腹部に圧痛など やや濃い帯状の濃度上昇が取り囲む画像所見をさす.最 異常所見なし.その他,関節痛・筋肉痛など膠原病を示 近では Cryptogenic Organizing Pneumonia(COP)に 唆する症状は認めず. おいて比較的特徴的な CT 画像所見とされ,本邦も含め 来院時検査所見(Table 1) :白血 球 12,200! µl,好 中 報告がなされている.今回我々は,画像所見では RHS 球 74.0%,CRP 0.5mg! dl,血沈 19mm と炎症反応は軽 であったが,病理で主に cellular nonspecific interstitial 度上昇していた.生化学検査では,KL-6 が 1,610U! ml pneumonia(c-NSIP)の所見を呈した症例を経験したの と高値で,LDH は正常範囲内であった.各種自己抗体 で報告する. 症 例 症例:39 歳,男性. 主訴:前胸部不快,乾性咳嗽,息切れ. 既往歴:5 年前に片頭痛. 職業歴:バス運転手. 生活歴:喫煙歴・飲酒歴・アレルギー・ペット飼育・ 粉塵曝露歴なし. 現病歴:2005 年 3 月頃より前胸部不快,4 月中旬より 乾性咳嗽・階段昇降時に息切れを自覚したため,5 月 6 日当院初診となった. 〒679―2493 兵庫県神崎郡神河町粟賀町 385 番地 1) 公立神崎総合病院内科 2) 国立病院機構姫路医療センター呼吸器内科 3) 天理よろづ相談所病院医学研究所病理 (受付日平成 18 年 6 月 28 日) t h, Fi g.1 Che s tr a di o gr a pht a ke no nMa y6 2 0 0 5s ho wi ng gr o undgl a s so pa c i t y wi t h vo l ume l o s si n bo t h l o we rl ungf i e l ds . reversed halo sign を呈した NSIP の 1 例 249 t h, Fi g.2 Che s tCT t a ke no nMa y1 3 2 0 0 5 .( A) ;A r e ve r s e dha l os i gni ss e e ni nt hel o we rl o beo ft her i ght hepo r t i o nsr e s e c t e dbyt heVATSpr o c e dur e . l ung. ( B) , ( C) ; Ar r o wsi ndi c a t et Fi g.3 Hi s t o l o gi c a lf i ndi ngso fvi de o a s s i s t e dt ho r a c i cs ur ge r ys pe c i me ns ho wst hi c ke ni ngo ft hea l ve o l a r 2 9 wa l l swi t hi nf i l t r a t i o no fi nf l a mma t o r yc e l l s . ( A) , ( B) ; Ri ghtuppe rl o beS o ft hel ung. ( C) , ( D) ; Ri ghtS. では抗 Jo-1 抗体が 2 倍と軽度高値を示したが,それ以 たが,蜂窩肺や牽引性気管支拡張は認めなかった. 外は陰性であった.呼吸機能検査は,肺活量が 3.06L 2005 年 5 月 19 日施行した気管支肺胞洗浄は,分画で (73.9%)と低値で拘束性障害を,%DLco が 49.9% と拡 はリンパ球が 58% と増加,CD4! 8 比は 0.17 と低下して 散能障害を認めた.動脈血液ガス分析では室内空気吸入 いた.経気管支肺生検(TBLB)の病理所見では,肺胞 下で PaO2 が 84.8Torr であった. 壁に水腫状肥厚や軽度の線維増生が見られるが肺胞構築 胸部 X 線単純写真(Fig. 1) :両下肺野中心にスリガ の破壊なく,肺胞内にはマクロファージの浸潤が軽度見 ラス陰影・一部斑状陰影を認めた.小葉間裂が下方に偏 られた.水腫状を呈するあるいは膠原線維が目立つ線維 位しており,下葉の容積減少が示唆された. 化病巣が軽度散見され,壁在性のものとポリープ状のも 胸部 CT 検査(Fig. 2) :両側下葉中心に,スリガラス 濃度上昇の周辺に帯状の濃度上昇,いわゆる RHS を呈 している所見を認めた.両側下葉の軽度容積減少を認め のとが混在していた.TBLB の病理所見では確定診断に 至らなかった. 経過観察においても陰影の改善傾向や陰影の移動を認 250 日呼吸会誌 45(3) ,2007. Fi g.4 Cl i ni c a lc o ur s e めなかった.診断確定のため姫路医療センターに紹介, と命名し,COP の 31 例中 6 例(約 19%)に認められ, 2 6 月 17 日胸腔鏡下肺生検が施行された(Fig. 3) .右 S Wegener 肉芽腫(14 例)や肺胞上皮癌(10 例) ・慢性 では,背景の肺構造は良く保たれるが,肺胞壁あるいは 好酸球性肺炎(5 例) ・Churg-Strauss syndrome(1 例) 小血管周囲などに,ごく軽度から一部中等度のリンパ球 と い っ た non-COP(計 30 例)で は 認 め ら れ ず,COP などの浸潤によるびまん性の肥厚がみられ,軽度ながら において比較的特徴的な画像所見である,と報告した2). 胸膜の線維性肥厚を伴っていた.右 S9 では,同様に背 他の文献でも BOOP! COP による RHS の報告例がみら 景にびまん性に細胞性の間質性肺炎が広がり,少ないな れている3)4).Non-COP 症例では,ラテンアメリカにお がら一部にはポリープ型の腔内器質化病変が散見され いてしばしばみられる真菌症である Pulmonary た.ポリープ型の腔内器質化病変を認めるものの部分的 coccidioidomycosis の 148 例 中 15 例(約 10%)で の 報 で,c-NSIP が主たる組織パターンと考えられた.尚, 告5)や,小青竜湯による薬剤性肺炎の経過中に認めたと 胸膜の肥厚,ここでは図示していないが小葉間隔壁の肥 の報告6)がある.c-NSIP の画像所見は,両側性,胸膜直 厚もみられるなど広義の間質に病変が及んでおり,特発 下や下肺野優位に,スリガラス濃度上昇,牽引性気管支 性のものより二次性の c-NSIP パターンがより強く示唆 拡張,線状網状影,浸潤陰影と多彩である7)8)が,検索し された. た限り RHS を NSIP で認めた症例は報告されていない. Para- 膠原病におけるそれぞれの診断基準は満たしていない 本 症 例 で は,胸 部 HRCT 上 RHS を 認 め た こ と や が,抗 Jo-1 抗体軽度高値で,胸腔鏡下肺生検の組織所 TBLB の組織所見にはポリープ型の腔内器質化病変がみ 見でも胸膜など広義の間質にも病変が広がることなどよ られたことから BOOP! COP が鑑別として挙げられてい り,肺病変先行型膠原病関連間質性肺炎の可能性が考え たが,陰影が両側下葉中心性で肺容積の減少を認めたこ られた.治療はプレドニゾロン 30mg! 日より開始し,2 とや観察期間中に陰影の移動が認められなかったこと 週間ごとに 5mg! 日ずつ漸減.5mg! 日まで減量した時 9) ,KL-6 が高値であったことなど (non-wandering type) に肺病変の増悪を認め,15mg! 日に増量し,現在に至っ から他の間質性肺炎,特に NSIP との鑑別が重要と考え ている(Fig. 4) . られた.c-NSIP と BOOP! COP は限られた範囲の組織 考 察 所見では鑑別が問題となることがしばしば経験される. 組織標本において NSIP では BOOP! COP パターンは病 RHS は,胸部 HRCT において,スリガラス濃度上昇 変全体の 10% 未満までとされているが10)11),現在では の周囲をやや濃い帯状の濃度上昇が取り囲む画像所見で BOOP! COP パターンの割合に関わらず画像や臨床像も ある.1996 年 Voloudaki らは,crescent and ring-shaped 考慮して診断される.本症例の胸腔鏡下肺生検による病 opacities として BOOP の 2 症例に認められたと最初に 理所見では,HRCT 上ほとんど所見のみられない部分 1) 報告した .2003 年 Kim らは,この CT 画像所見を RHS の組織(右 S2)においても軽度ながらびまん性の細胞 reversed halo sign を呈した NSIP の 1 例 251 性間質性肺炎の所見がみられ,右 S9 では,部分的に腔 in two cases of bronchiolitis obliterans organizing 内のポリープ型器質化病変がみられるものの,背景には pneumonia (BOOP). Acta Radiologica 1996 ; 37 : 軽度から一部中等度の細胞性間質性肺炎の像が広がって 889―892. おり,画像と合わせ c-NSIP と考えられた.RHS を呈す 2)Kim SJ, Lee KS, Ryu YH, et al. Reversed halo sign る部分の病理組織は,中央のスリガラス濃度上昇部分は on high-resolution CT of cryptogenic organizing 肺胞隔壁の炎症と肺胞腔内での細胞浸潤に,外側のやや pneumonia ; diagnostic implications. AJR 2003 ; 180 : 濃い帯状の部分は器質化肺炎に一致すると報告されてい 1250―1254. 2) 9 る .本症例の場合採取した部位は右 S のスリガラス濃 度上昇の部分が主で,腔内の器質化病変の数が少なかっ たのではと推測される.その後の経過ではステロイド治 療により周辺の濃度上昇部分は改善し,中央のスリガラ ス部分が残存していることから周辺部は器質化肺炎が主 体であり,そのためステロイドの反応が良好であったと 考えられる.RHS を生じるメカニズムについては,未 3)田中伸幸,松本常男,松永尚文.BOOP! COP.臨 床画像 2004 ; 20 : 52―60. 4)Raoof S, Raoof S, Naidich DP. Imaging of unusual diffuse lung diseases. Current Opinion in Pulmonary Medicine 2004 ; 10 : 383―389. 5)Gasparetto EL, Escuissato DL, Davaus T, et al. Reversed halo sign in Pulmonary Paracoccidioidomycosis. AJR 2005 ; 184 : 1932―1934. だ不明な点が多い.浸潤陰影部分が中心部から改善して 6)畑 芳夫,上原久幸.経過中 reversed halo sign が いく過程でスリガラス陰影を生じているのか,あるいは みられた小青竜湯による薬剤性肺炎の 1 例.日呼吸 何らかの影響でリンパ流や血流の停滞がおこるためなの 会誌 2005 ; 43 : 23―31. か,今後の検討が必要と思われる. 本症例では,皮膚・関節症状など認めず,膠原病にお けるそれぞれの診断基準は満たしていないが,抗 Jo-1 7)Akira M, Inoue Y, Yamamoto Y, et al. Non-speciffic interstitial pneumonia : findings on sequential CT svcans of nine patients. Thorax 2000 ; 55 : 854―859. 抗体軽度高値で,胸腔鏡下肺生検の組織所見でも胸膜な 8)Johkoh T, Muller NL, Colby TV, et al. Nonspecific ど広義の間質にも病変が広がることなどより,肺病変先 Interstitial Pneumonias : Correlation between Thin- 行型膠原病関連間質性肺炎の可能性が考えられた.膠原 病の肺病変としてしばしば NSIP を認めるが,中でも PSS や PM! DM に多く,20% 以上で NSIP 所見を示す といわれる.その他,MCTD・SJS・RA・MPA で 5∼ Section CT findings and pathologic subgroups in 55 patients. Radiology 2002 ; 225 : 199―204. 9)山本正彦,伊奈康孝,北市正則,他.本邦における BOOP―とくに臨床 像 に つ い て―.日 胸 疾 会 誌 1990 ; 28 : 1164―1173. 20% にみられるとされる12)∼15).膠原病では幾つかの肺 10)Katzenstein ALA, Fiorelli RF. Nonspecific Intersti- 病変の混在がみられることもあり,多彩な病態を示すこ tial Pneumonia! Fibrosis ; Histologic Features and とが多い12)∼19).その治療法については明確な基準はない Clinical Significance. Am J Surg Pathol 1994 ; 18 : が,ステロイド療法や,その無効例では他の免疫抑制剤 併用が行われる18).今後はステロイド減量による臨床症 状の出現など,注意深く経過観察する必要がある. 病理診断は c-NSIP であるが,病理所見としては部分 的に BOOP! COP パターンが目立つ c-NSIP パターンで ある.膠原病が基礎にある間質性肺炎では,一つの型に 収まらない間質性肺炎がしばしば観察され,当症例では, BOOP! COP パターンの混在が RHS を示したことが示 唆される. 謝辞:本症例に対し多大なご協力をいただきました国立病 院機構姫路医療センター呼吸器外科宮本好博先生に深謝致し ます. 136―147. 11)小橋陽一郎.NSIP,BOOP の位置づけ;病理の立 場から.第 62 回間質性肺疾患研究会討議録.2000 ; 44―53. 12)Kuwana M. Pulmonary involvement. Jpn Clin Immunol 2004 ; 27 : 118―126. 13)Frazier AR, Miller RD. Interstinal pneummonitis in association with polymyositis and dermatomyositis. Chest 1974 ; 65 : 403―407. 14)Salmeron G, Greenberg SD, Lidsky MD. Polymyositis and diffuse interstitial lung disease. Arch Intern Med 1981 ; 141 : 1005―1010. 15)槇野茂樹.膠原病肺の臨床と画像.画像診断 2005 ; 本症例の要旨を第 66 回日本呼吸器学会近畿地方会(2005 年 12 月)にて報告した. 文 25 : 13―23. 16)Travis WD, Colby TV, Koss MN, et al. Connective 献 tissue and inflammatory bowel diseases. In : Nonneoplastic Disorders of the Lower Respiratory 1)Voloudaki AE, Bouros DA, Froudarakis ME, et al. Tract. Washington, DC : Armed Forces Institute of Crescentic and ring-shaped opacities ; CT features Pathology and American Registry of Pathology, 252 日呼吸会誌 45(3) ,2007. 2002 ; ; 291―320 の組織学的分類に基づく膠原病随伴間質性肺疾患の 17)早川啓史,白井正浩,中村裕太郎,他.膠原病性肺 臨床的特徴と予後.日本呼吸会誌 2000 ; 38 : 259― 病 変 の 臨 床 お よ び 病 理 組 織 像.呼 吸 1999 ; 18 : 266. 19)本間 栄.膠原病肺の病理.日胸疾会誌 1985 ; 23 : 1264―1269. 18)近藤康博,谷口博之,横井豊治,他.外科的生検肺 332―347. Abstract A case of nonspecific interstitial pneumonia with reversed halo sign on chest HRCT Shiro Ueda1), Ryuji Inoue1), Katsuji Tanaka1), Yasuyuki Mizumori2), Tetsuji Kawamura2), Yasuharu Nakahara2), Yoshiro Mochizuki2)and Yoichiro Kobashi3) 1) Department of Internal Medicine, Kanzaki General Hospital Department of Respiratory Medicine, National Hospital Organization Himeji Medical Center 3) Department of Pathology, Tenri Hospital 2) A 39-year-old man was referred to our hospital with anterior chest discomfort, dry cough and shortness of breath. His blood test revealed mild inflammatory change and high serum KL-6 levels. Chest radiograph and computed tomography (CT) showed ground glass attenuation with volume loss in both lower lung fields, and in particular a reversed halo sign was shown on high-resolution CT (HRCT). As transbronchial lung biopsy and bronchoalveolar lavage did not enable a diagnosis, video-assisted thoracic surgery was performed. The histological findings of the resected specimen showed cellular nonspecific interstitial pneumonia. This suggested the possibility of collagen vascular disorder (CVD) associated with interstitial pneumonitis, but no criteria of CVD were fulfilled. Although the reversed halo sign is relatively specific for cryptogenic organizing pneumonia, we report a case of cellular nonspecific interstitial pneumonia showing this sign on chest HRCT.