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“接点制御”方式による心なし研削の 高精度・高能率化

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“接点制御”方式による心なし研削の 高精度・高能率化
日本機械学会誌 2009. 8 Vol. 112 No. 1089
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“接点制御”方式による心なし研削の
高精度・高能率化
1. はじめに
心なし研削盤は,調整砥石とブレー
ドで工作物外周面を回転支持しながら
研削砥石により加工する独特の研削機
構を有している.そこで,たとえば小
径から大径の工作物に切り換えをする
など,いわゆる段取り換え作業には,
心なし研削盤特有のブレード,工作物
用案内板など工作物の各支持工具の調
整および調整砥石の水平旋回調整作業
があり,他の汎用研削盤での作業と比
較して,熟練技能とともに時間を要す
る.そのため,心なし研削盤では,作
業者の習熟度が,生産効率および製品
品質のばらつきの要因となりやすい.
とくに,工作物を研削・調整両砥石
の間を通過させるスルフィード研削に
おいては,
上述の傾向は顕著に現れる.
両砥石間へ工作物をスムーズに挿入し
取出しをするための案内板の微調整は
μm オーダの手作業であり,段取り換
えのつど必要となる.さらに,調整砥
石の水平面内での旋回角度の微調整
は,熟練者でも数回の試し研削を要す
る作業であり負担も大きい.
これらを解決すべく,ミクロン精密
(株)では 1994 年,
図 1 の“接点一定”
方式の自動段取り心なし研削盤を開発
した.図 1 に示すように二つのスライ
ド間に特定の交差角を設ける独特の機
構を有している.ここで工作物と研削
砥石との接触点を接点 G1,ブレード
との接触点を接点 B1,調整砥石との
接触点を接点 R1 とすると,接点 R1 を
一定にしながら異なる直径の工作物へ
の段取り作業が可能となる.このため
案内板の調整,さらに調整砥石の水平
旋回の調整も不要となり,大幅な省力
化が実現された.この“接点一定”方
式をより広範囲に適用するため,新た
に“接点制御”方式の自動段取り心な
し研削盤を開発したので紹介する.
2. 原理と機構
新開発した図 2 の“接点制御”方式
の自動段取り心なし研削盤は,従前の
“接点一定”方式のコンセプトを発展
させ,さまざまな加工条件に対応でき
るようにした.このため,研削時,工
作物に接触する工具である,
研削砥石,
調整砥石さらにブレードの位置をそれ
ぞれ数値制御する必要がある.従来よ
り,ブレードの高精度位置決めは,剛
性やスペースの問題,また湿式研削と
いう条件のもとでは実施困難とされて
きた.しかし,検討を重ね,ベッドを
高剛性化し,支持剛性を高め,安定し
て高精度な位置制御ができるサーボ
モータ駆動のワークレストを開発し
た.これにより,工作物径に合わせ自
動で最適な支持ができる“接点制御”
が可能となった.図 3 に“接点制御”
方式の自動段取り心なし研削盤の外観
と仕様を示す.
3. 特徴と効果
“接点制御”方式の自動段取りの特
徴を表すため,ここで,図 2 のように,
工作物と研削砥石との接触点を接点
G2,ブレードとの接触点を接点 B2,
調整砥石との接触点を接点 R2 とする.
たとえば,スルフィード研削におけ
る異なる直径の工作物への段取り換え
においては,接点 R2 と接点 B2 を一定
となるように条件を設定し,各工具の
自動位置決めを行えば,
“接点一定”
方式と同様に,案内板の調整,さらに
調整砥石の水平旋回の調整が不要にな
り,工作物とブレードの接点も一定で
あることから,直径差の大きい工作物
への段取り換えでも,ブレードの交換
作業は不要となる.それに付随して工
作物の挿入・取出し装置(コンベア等)
の位置調整も容易となる.
いっぽう,インフィード研削におい
ては,接点 G2 と接点 R2 を一定とする
条件で異なる直径の工作物の段取り換
えを行えば,心なし研削条件として重
要な要素である工作物の心高角を一定
に保つことができる.さらに,接点
B2 と接点 G2 間の工作物の弧長,また,
接点 B2 と接点 R2 間の工作物の弧長の
比率も心なし研削における造円作用に
は重要な要素であり,これまでは管理
しにくい設定条件であったが新開発の
“接点制御”方式の自動段取りを適用
することで設定は容易になり,より高
精度な研削が可能となる.
従来より,大型の工作物の場合,段
取り換えは重作業であり,また,大型
機ゆえの高所作業となる.しかも設定
条件の不具合などによる大型工作物の
不良発生による経済的損失は大きい.
新開発した“接点制御”方式の自動段
取りにより作業環境の改善や不良発生
の解消も期待できる.
他方,効果としては,作業能率の点
でスルフィード研削の段取り換えに要
した時間は約 20 秒間で,対象工作物
の直径入力と各スライドの移動時間の
みであり,大幅な時間短縮と作業労力
の軽減がなされた.さらに,各スライ
─ 93 ─
工作物
研削砥石
G1
B1
R1
調整砥石
ブレード
ワークレスト
図1 “接点一定”方式自動段取り心なし研
削盤 MSL-600Ⅲ-15D 型の機構
工作物
研削砥石
G2
B2
ワークレスト
R2
調整砥石
ブレード
図2 “接点制御”方式自動段取り心なし研
削盤 MFC-600Ⅵ-15D-GS 型の機構
研削能力
研削砥石
調整砥石
据付床面積
質
量
工 作 物 外 径
10―240mm
最大送込み長さ
610mm
外径 610 ×幅 610 ×内径 304.8mm
外径 380 ×幅 650 ×内径 228.6mm
3 100 × 4 350mm
16 000kg
全
高 2 000mm
図3 “接点制御”方式自動段取り心なし研
削 盤 MFC-600Ⅵ-15D-GS 型 の 外 観
および仕様
ドの繰返し位置決め精度は数μm 以下
であり,仕上り精度に関して,熟練者
が段取りした場合の加工品質との差は
認められなかった.
4. おわりに
従来にない,独自の“接点制御”方
式のコンセプトに基く,自動段取り心
なし研削盤を開発することができた.
今後,必要な課題を克服すべく,位置
制御理論の展開と実証テストを重ね,
高精度・高能率化の追求を図る予定で
ある.
(原稿受付 2008 年 11 月 5 日)
〔寒河江茂兵衛 ミクロン精密(株)
〕
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