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自動車用キャニスターの 吸着機能高度化に関する研究

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自動車用キャニスターの 吸着機能高度化に関する研究
名古屋大学 大学院 工学研究科
博士課程(後期課程)
平成 22 年度 学位論文
自動車用キャニスターの
吸着機能高度化に関する研究
名古屋大学大学院工学研究科化学・生物工学専攻
山碕 弘二
(指導教員:小林
敬幸)
目次
第1章
第2章
本研究の背景
1.1 エネルギーと大気汚染問題
1
1.2 大気汚染の現状
3
1.3 自動車の排出ガスと規制動向
9
1.4 燃料蒸発ガス規制の動向
12
1.5 キャニスターの役割と原理
16
1.6 自動車におけるエネルギー効率化の動き
20
1.7 キャニスター開発の現状と課題
25
1.8 本研究の目的
29
キャニスターからの微少破過原因に関する研究
2.1 研究の目的
31
2.2 キャニスターからの微少破過の定量的評価
34
2.2.1 実験試料
35
2.2.2 実験装置と手順
37
2.3 結果と考察
2.3.1 キャニスターの形状と微少破過の関係
42
2.3.2 放置時間と微少破過の関係
45
2.4 まとめ
第3章
39
46
キャニスターにおける燃料蒸発ガスの吸着分布に関する研究
3.1 研究の目的
47
3.2 キャニスター内部の吸着分布評価方法
48
3.2.1 実験装置と方法
48
3.2.2 実験試料
49
3.3 結果と考察
50
3.3.1 多成分ガス吸着時の吸着分布
50
3.3.2 単成分ガス吸着時の吸着分布
54
3.4 まとめ
59
第4章
キャニスターにおける燃料蒸発ガスの拡散挙動に関する研究
4.1 研究の目的
60
4.2 吸着材層におけるブタンガスの拡散挙動評価
60
4.2.1 2 成分系ガスの拡散実験装置と方法
60
4.2.2 結果と考察
63
4.3 吸着分布を加味した拡散挙動の検証
4.3.1 拡散量の計算方法
67
4.3.2 結果と考察
71
4.4 まとめ
第5章
75
自動車用燃料の多様化に対応する吸着技術の研究
5.1 研究の目的
76
5.2 エタノール混合燃料での影響分析
77
5.2.1 実験装置と方法
77
5.2.2 結果と課題
78
5.3 エタノール混合燃料対応吸着材の検討
84
5.3.1 課題に対する対策の検討
85
5.3.2 対策の検証結果と考察
86
5.4 まとめ
第6章
67
94
本研究で得られた成果と今後の展望
6.1 研究の成果
95
6.2 今後の展望
97
参考文献
99
使用記号一覧
102
第1章
本研究の背景
1.1 エネルギーと大気汚染問題
人間は,生産活動や消費活動の結果,石炭や石油などの化石燃料を消費し,さまざまな
排出物や廃棄物を生み出している.その量がそれほど多くない時には,自然の浄化作用に
よって十分に処理されていたが,排出物は多量になり自然の処理能力を超え,更には自然
の浄化能力では処理できない新しい廃棄物が生まれもした.こうして自然環境の汚染は,
生態系が破壊されて人間の健康にも被害が生じる公害問題として認知されるようになった.
公害問題の 1 つとして大気の汚染がある.その歴史は古く,13 世紀の後半には家庭用暖
房と工業用の燃料としてロンドンで石炭の使用が一般的となり,それによる大気汚染の人
体への影響が現れ始めていた.1285 年には,石炭窯による煙についての苦情で調査委員会
が開かれ,石炭が害を与えていることを認めている.1289 年にはロンドンの鍛冶屋が自主
的に近所迷惑にならないように夜の仕事をしないことを決めている.しかし,これらの対
策では不十分で,1306 年にエドワード1世は,職人が炉で石炭を焚くことを禁止した1).
18 世紀に入ると,イギリスで産業革命が起こり,それに伴って石炭消費量も急激に上昇
していった.これは製鉄に石炭を利用できるようになったことと,1765 年にワットが蒸気
機関を発明し,工場での動力源の他,蒸気機関車,蒸気船など様々な分野に応用されたこ
とがその要因である.1909 年にはスコットランドのグラスゴーで石炭焚きのばい煙(smoke)
と霧(fog)により 1063 人の過剰死亡者が出たと報告されており,以降スモッグ(smog)
という合成語が使われるようになった.産業革命は世界へ波及し,その波と共に公害問題
も世界各地で発生するようになった.
1859 年にアメリカにて新たな採掘方法が開発され大量生産が可能になったことで,石油
の利用方法が発展していった.1950 年代に中東やアフリカで相次いで大油田が発見され,
化石燃料の主役が石炭から石油へ移行することとなり,世界的な化石燃料の消費量は爆発
的な上昇を見せた2).それに呼応するかのように,大気汚染の問題も世界各地で報告される
ようになった(表 1-1 参照).大気汚染の拡がりは日本においても例外ではなく,太平洋戦
1
争終了後の工業復興とともに産業公害苦情が増加し,大気汚染被害を訴える住民運動が都
市部を中心に活発化した.
Table1-1 Famous episodes of air pollution
被害
ミューズ
ドノラ
ロンドン
ロサンゼルス
ポザリカ
(ベルギー)
(アメリカ)
(イギリス)
(アメリカ)
(メキシコ)
1930 年
1948 年
1952 年
1944 年~現在
1950 年
2 週間に 4,000 目,鼻,気道, 22,000 人のう
60 名死亡のほ 18 名死亡
か,全年齢層 人口 14,000 人 人 の 過 剰 死 肺などの粘膜 ち 320 名が急
の急性呼吸器 中
亡,その後 2 の持続的,反 性中毒となり
刺激性疾患の 重症:11%
ヶ 月 に 8,000 復性刺激.
発生,家畜・ 中等症:17%
人 の 過 剰 死 日常生活の不
鳥・植物も致 軽症:15%
亡.全年齢層 快 感 ( 全 市
死的被害.
22 名死亡.
の全年齢層に に心肺性の疾 民),家畜,植
肺刺激症状を 患多発入院患 物 果 実 の 被
者激増.
起こした.
害,ゴム製品,
建造物の損
害.
原因物質
工場からの亜 工場からの亜 石炭燃料によ 石油系燃料に 硫化水素
硫酸ガス,硫 硫酸ガス及び る 亜 硫 酸 ガ 由 来 す る ,
酸,フッ素化 硫酸微細エア ス,微細エア SO2 , SO3 ,
合物.一酸化 ロゾルとの混 ロゾル,粉じ NO2 , ア ル デ
炭素,微粒子 合
んなど
など
ヒド,ケトン,
酸,芳香族お
よびオレフィ
ン系炭化水素
など
このように大気汚染問題は世界的な波及を見せるとともに,それまで社会的災害として
位置づけられていた個々の公害問題から,全地球規模での環境の変化として学問的な調査
研究も進み,酸性雨,オゾンホール,異常気象,地球温暖化などへつながる地球環境問題
として認知されるようになった.
2
このように,化石燃料の消費増大と共に顕在化していった大気汚染を含む地球環境問題
は,我々人類の子孫が生存の基盤を失うほど深刻なものになりつつあり,人類の最重要課
題として挙げられるほどに至ってしまった.
1.2 大気汚染の現状
地球環境問題を考えるにあたって,酸性雨,オゾンホール,地球温暖化など大気の汚染
が原因と考えられる問題は多い.中でも地球温暖化は大気汚染と密接な関係があり,気候
変動に関する政府間パネル(Intergovernmental Panel on Climate Change)第 4 次評価報告書に
おいて,他の様々な要因を考慮しながらも「20 世紀半ば以降に観測された世界平均気温の
上昇のほとんどは,人為起源の温室効果ガス濃度の観測された増加によってもたらされた
可能性が非常に高い」と述べられている3)4).環境問題として,大気汚染のメカニズムや汚
染物質を理解することは非常に重要であると共に,必須事項でもある.
日本では環境基本法に基づき,人の健康を保護し生活環境を保全するうえで維持される
ことが望ましい基準として,「環境基準」が設定されており,大気汚染物質の排出源や分類
によって異なるそれぞれの法令により排出基準が設けられている.大気汚染物質を排出す
る源は以下の二つに大別される.
1) 固定発生源・・・火力発電所,工場,廃棄物焼却炉,ボイラー施設など
2) 移動発生源・・・自動車,船舶,航空機など
固定発生源から排出又は飛散する大気汚染物質については,大気汚染防止法に基づき,
物質の種類ごと,施設の種類と規模ごとに排出基準などが定められている5).一方,移動発
生源についても自動車排出ガス規制など,物質の種類ごと,移動発生源の種類ごとに排出
基準が設けられ,規制が行われている.表 1-2 に法令により排出基準等が定められている大
気汚染物質の分類を示す.
3
Table1-2 Controlled material by air pollution control law in Japan
発生源
分類
固定発生源 ばい煙
硫黄酸化物(SOX)
煤塵(煤など)
有害物質
・カドミウム及びその化合物
・塩素及び塩化水素
・弗素,弗化水素及び弗化珪素
・鉛及びその化合物
・窒素酸化物(NOX)
特定物質
合成・分解・その他の化学的処理に伴い
発生する物質のうち,人の健康又は生活
環境に係る被害が生ずる恐れがある物質
:28物質(アンモニア,シアン化水素など)
揮発性有機化合物
粉じん
大気中に排出され,又は飛散した時に
気体である有機化合物
(浮遊粒子状物質及びオキシダントの生成の
原因とならない物質として法令で定める物質
を除く)
一般粉じん
セメント粉,石炭粉,鉄粉など
特定粉じん
石綿
有害大気汚染物質
有害大気汚染物質に該当する可能性のある物質:234種類
うち優先取組物質:22種類
優先取組物質のうち指定物質:4種類
(ベンゼン,トリクロロエチレン,テトラクロロエチレン,ダイオキシン類)
移動発生源 自動車排出ガス
一酸化炭素(CO)
炭化水素(HC) うちメタンを除く炭化水素(NMHC)
窒素酸化物(NOX)
粒子状物質(PM)
著しい経済発展とともに大気汚染は深刻な社会問題となり,大気汚染防止法の制定(1968
年),大気環境基準の設定(1969 年より順次),大気汚染物質の排出規制,全国的な大気汚
染モニタリングなどの対策を実施してきた.表 1-3 に大気汚染に係る環境基準と指針6)を,
一般環境大気局(以下,一般局)及び自動車排出ガス測定局(以下,自排局)により測定
された結果7)を図 1-1~6 に示す.
4
Table1-3 Environmental standard and target values of pollutant in Japan
大気汚染物質
環境上の条件
二酸化窒素
1 時間値の 1 日平均値が 0.04ppm から 0.06ppm までのゾーン内
(NO2)
又はそれ以下であること
1 時間値の 1 日平均値が 0.10mg/m3以下であり,
浮遊粒子状物質
かつ,1 時間値が 0.20mg/m3以下であること
(SPM)
光化学オキシダント
(Ox)
二酸化硫黄
1 時間値の 1 日平均値が 0.04ppm 以下であり,
(SO2)
かつ,1 時間値が 0.1ppm 以下であること
一酸化炭素
1 時間値の 1 日平均値が 10ppm 以下であり,
(CO)
かつ,1 時間値の 8 時間平均が 20ppm 以下であること
非メタン炭化水素
(NMHC)指針
1 時間値が 0.06ppm 以下であること
午前 6 時から 9 時の平均値が 0.20ppmC から 0.31ppmC
0.06
一般局
自排局
基準値
年平均値 [ppm]
0.05
0.04
0.03
0.02
0.01
0.00
1970
1975
1980
1985
1990
1995
2000
Fig.1-1 Annual averaged profiles of concentration of NO2
5
2005
2010
年度
0.12
0.10
年平均値 [mg/m3]
一般局
自排局
0.08
基準値
0.06
0.04
0.02
0.00
1970
1975
1980
1985
1990
1995
2000
2005
2010
年度
Fig.1-2 Annual averaged profiles of concentration of SPM
0.10
一般局
自排局
年平均値 [ppm]
0.08
基準値
0.06
0.04
0.02
0.00
1970
1975
1980
1985
1990
1995
2000
Fig.1-3 Annual averaged profiles of concentration of Ox
6
2005
2010
年度
0.05
年平均値 [ppm]
0.04
一般局
自排局
基準値
0.03
0.02
0.01
0.00
1970
1975
1980
1985
1990
1995
2000
2005
2010
年度
Fig.1-4 Annual averaged profiles of concentration of SO2
12
一般局
自排局
10
年平均値 [ppm]
基準値
8
6
4
2
0
1970
1975
1980
1985
1990
1995
2000
Fig.1-5 Annual averaged profiles of concentration of CO
7
2005
2010
年度
1.0
一般局
自排局
年平均値 [ppmC]
0.8
指針値
0.6
0.4
0.2
0.0
1970
1975
1980
1985
1990
1995
2000
2005
2010
年度
Fig.1-6 Annual averaged profiles of concentration of NMHC
前述したような対策を行ってきた結果4),測定されている大気汚染物質のうち,浮遊粒子
状物質(SPM),二酸化硫黄(SO2)や一酸化炭素(CO)による大気汚染は大幅に改善され
ている.窒素酸化物(NOX)や光化学オキシダント(Ox)による大気汚染も顕著な改善は
見られないものの年平均では基準値を満足する結果となっている.しかしながら,図 1-6 に
示した非メタン炭化水素(NMHC)による大気汚染は,大幅に改善されているが未だ指針
値を満足できておらず,課題が残っているともいえる.
8
1.3 自動車の排出ガスと規制動向
大気汚染物質発生源の一つである移動発生源の中には,自動車,船舶,航空機などが挙
げられるが,その中でも自動車の普及に伴う排出ガスによる大気汚染は世界的な問題にな
っている.自動車が大気に放出する排出ガスは,燃料をエンジンで燃焼させた排気ガス,
走行時にタイヤが巻き上げる巻き上げ粉塵,自動車に搭載した燃料あるいは自動車の材料
の溶剤などから発生する蒸発ガス(evaporate emission)などがあり,以下に詳細を記述する.
1)排気ガス : 排気ガスは燃料を燃焼したときに発生するガスで,大気汚染物質として
主に一酸化炭素 ( CO ) ,非メタン炭化水素 ( NMHC ) ,窒素酸化物 ( NOX) ,浮遊
粒子状物質 ( SPM ) が含まれる.
a)一酸化炭素 : 燃料中の炭素成分の不完全燃焼により生成される.体内では血液中の
ヘモグロビンと結合して,酸素の運搬機能を阻害するなどの影響を及ぼすほか.温
室効果ガスである大気中のメタンの寿命を長くすることが知られている.
b)非メタン炭化水素 : 炭化水素は,炭素と水素が結合した有機物の総称である.自動
車の排気ガスには,不完全燃焼による生成や未燃燃料の結果として排出される.こ
れらは炭化水素自体としての環境影響に加え,空気中の窒素酸化物(NOX),硫黄酸
化物(SOX)との光化学反応による,酸性雨及び光化学オキシダントに関与している
といわれている.
c)窒素酸化物 : 窒素酸化物は,物の燃焼や化学反応によって生じる窒素と酸素の化合
物で,主として一酸化窒素 ( NO ) と二酸化窒素 ( NO2 ) の形で大気中に存在する.
二酸化窒素は,高濃度で呼吸器に影響を及ぼすほか,酸性雨及び光化学オキシダン
トの原因物質になるといわれている.
d)SPM : 主にディーゼル車から,燃料の不完全燃焼により生成される.大気中に長時
間滞留し,高濃度で肺や気管などに沈着して呼吸器に影響を及ぼすといわれている.
9
2)巻き上げ粉塵 : 主に自動車の走行によるタイヤの摩耗粉と道路表面の摩耗粉からな
る.粉塵は,SPM として大気環境に対して影響を及ぼしている.
3)蒸発ガス : 蒸発ガスは,燃料供給時に燃料と置換され放出される燃料蒸発ガスに加
え,自動車の燃料タンクあるいは燃料配管から浸漬して発生する燃料由来の蒸発ガス,
さらには内装材やタイヤなどに用いられている溶剤あるいは可塑剤から発生するガ
スがある.これらは基本的には非メタン炭化水素(NMHC)の類である.
Fig.1-7 Comparison chart of exhaust emission regulations
[出展:日本自動車工業会編 環境レポート 2010]8)
10
これらの排出ガスに対して各国・各地域で排出ガス規制が行われており,日本・米国・
欧州にて制定されている排出ガス規制値を比較したものを図 1-7 に示す.各国・地域ともに
時代にあわせて規制値が強化される方向にある.日本では 2005 年より開始された新長期規
制と呼ばれる自動車排ガス規制が表 1-4 のように定められている9).さらには,2010 年の中
央環境審議会第 10 報告にて,乗用車についても世界統一試験方法と新たな許容限度目標値
の設定について検討を開始することが記述されている10).
Table1-4 Exhaust emission regulation for gasoline vehicles in Japan
規制値
試験モード
乗用車
トラック/バス
軽自動車
成分
上限値
型式
平均値
コンバイン※1
CO
1.92
1.15
[g/km]
NMHC
0.08
0.05
NOx
0.08
0.05
コンバイン
CO
6.67
4.02
[g/km]
NMHC
0.08
0.05
NOx
0.08
0.05
軽量車
コンバイン
CO
1.92
1.15
(GVW※2≦1.7t)
[g/km]
NMHC
0.08
0.05
NOx
0.08
0.05
中量車
コンバイン
CO
4.08
2.25
(1.7t<GVW≦3.5t)
[g/km]
NMHC
0.08
0.05
NOx
0.10
0.07
重量車
JE05
CO
21.3
16.0
(3.5t<GVW)
[g/km]
NMHC
0.31
0.23
NOx
0.9
0.7
新長期規制
開始年
2005年
2007年
2005年
2005年
2005年
※1) 11 モード測定値に 0.12 を,10・15 モードでの測定値に 0.88 を乗じた後の合計
※2) 車両総重量
11
また,燃料蒸発ガスに対する規制も各国,各地域で排出規制が行われている.本研究で
題材としたカーボンキャニスター(以下,キャニスター)は,燃料蒸発ガス規制対応部品
として重要な役割を担っており,燃料蒸発ガス規制及びキャニスターの役割に対する理解
を深めることが重要と考え,次項以降で詳細を記述する.
1.4
燃料蒸発ガス規制の動向
自動車用燃料であるガソリンは揮発性を有し,気温・車両温度の上昇などに伴い,燃料
貯蔵・供給系統における揮発量が増加する.また,内装材などの接着に用いられている溶
剤なども揮発して,蒸発ガスとなる.これらは燃料蒸発ガスとよばれ,主成分は,炭化水
素のブタン・ペンタン・プロパンなどである.燃料蒸発ガスの代表的な物を発生タイミン
グ別に分類すると表1-5のようになる.
Table1-5 Classification of evaporative emission of gasoline vehicle
燃料蒸発ガスの種類
概要
ホットソークロス
エンジン停止後1時間以内に吸気管に付着したガソリン
Hot Soak Loss (HSL)
ランニングロス
が気化して発生する蒸発ガス
車両の走行中に発生する蒸発ガス
Running Loss (RL)
ダイアーナルブリージングロス
駐停車中における,外気温変化等によりガソリンタンク
Diurnal Breathing Loss (DBL)
の内圧が変動し,ガソリン蒸気が大気中に放出されるこ
とにより発生する蒸発ガス
リフューエリングベーパー
Refueling Vapor (RV)
燃料を給油することにより,燃料タンク・配管より押し
出される蒸発ガス
12
排出された燃料蒸発ガスは大気中のNOXなどとの光化学反応により光化学オキシダント
となり,環境及び人体へ悪影響を及ぼす.そのため自動車からの燃料蒸発ガスの排出量は
燃料蒸発ガス規制(以下,エバポ規制)として,排出ガス規制と同様に,各国・各地域で
規制されている.エバポ規制も,近年見られる大気汚染問題の深刻化に伴いその規制が強
化されている傾向にある.時代と共に規制値だけでなく,測定方法も変化してきており,
日本では1972年より燃料蒸発ガスの排出抑止装置搭載が義務化され,2000年からは燃料蒸
発ガス測定用密閉装置(Sealed Housing for Evaporative Determination:以下,SHED)を用い
た試験方法による排出質量規制(以下,J-LEV)が行われている11).欧州と日本のエバポ規
制はほぼ同等といえる水準にあるが,米国では日本や欧州よりも高い頻度でエバポ規制
の改定が行われており(図1-8参照)
,排出ガス規制としても特徴的なものがある.米国
の排出ガス規制はTierと呼ばれ,その一部としてエバポ規制が制定されており,下記2
つの特徴がある.
1) 米国連邦政府が定める基準を超えて,カルフォルニア州政府は独自の規制(以
下,LEV)を定めることができる.
2) リフューエリングベーパーに対して もエバポ規制(Onboard Refueling Vapor
Recovery:以下,ORVR)がある.
米国にてカルフォルニア州が独自の排出ガス規制を制定することができる背景には,ロ
サンゼルススモッグ対策として米国連邦政府よりも早く,マスキー法と呼ばれる自動車
の排出ガス規制を制定した歴史がある.他の州には独自の排出ガス規制を制定する権利
はなく,連邦政府の定めるTierまたはカルフォルニア州の定めるLEVから選択すること
となる.このような背景からカルフォルニア州の政府機関(California Air Resources Board:
以下、CARB)では,連邦政府に先駆けてより厳しい規制を導入する傾向があり,エバポ規
制については図1-9に示すような世界的に見ても厳しい規制値を制定している.
13
1990
1995
Enhanced Evapo
2000
Tire-Ⅰ
2005
2010
2015
Tire-Ⅰ
USA
Enhanced Evapo
LEV-Ⅰ
LEV-Ⅱ
LEV-Ⅲ
California
CED-Ⅰ
EU
Japan
EU2000(CED-Ⅲ)
Post53(J-LEV)
Current Evapo
Fig.1-8 Trend of regulation for evaporative emission
2.0
2.0
車両
Vehicle
燃料システム Fuel
System
規制値 [g/day]
1.5
1.0
0.6
0.5
0.25
0.5
0.0
0.35
0.0
LEV-Ⅰ
LEV-Ⅱ
Optional
ZERO
Fig.1-9 HSL and DBL regulation in state of California
14
さらにCARBは,2004年より導入したLEV-Ⅱ規制の中で,州内で一定以上の販売台数
を有する自動車メーカーに対し,排出ガスを一切出さない車両(Zero Emission Vehicle:
以下,ZEV)が販売台数の10%以上を占めるよう要求している.但し,要求された10%
のうちの一部を,PZEV (Partial Zero Emission Vehicle) 基準12)を満足するガソリン自動車な
どで計上することを認めている.このPZEVとして認定されるための基準値は,世界で最
も厳しい排出ガス規制値とも言われており,下記3つの条件を満たさなければならない.こ
の中で2番目に示したエバポ規制に対する条件は,通称ゼロエバポ規制と呼ばれ,世界で
最も厳しいエバポ規制と言われている.
PZEV基準
1)排気ガスは最も厳しい下記 SULEV 排気ガス規制に適合する
・ Non Methane Organic Gas を 2003 年型(以下 03MY) ULEV(乗用車カテゴリ-)比
82%削減
・
CO を 03MY ULEV(乗用車カテゴリ-)比 52%削減
・
NOx を 03MY ULEV(乗用車カテゴリ-)比 93%削減
2)エバポ規制は LEV を満足し,DBL と HSL の合計値は下記に適合する
Back ground(塗装・接着剤・タイヤ・エアコン用ガス・ウインドウォッシャ-液・
冷却水・オイル等)と Fuel Source(エンジン吸気系・燃料ライン・エバポレーシ
ョンライン・キャニスタ-・燃料タンクシステム)から放出される HC の総量を
0.35g/day に削減.そのうち Fuel Source からの放出は 0.054g/day 以下.
(図 1-9 参照)
3)上記1,2の保証距離を 150,000 マイル,保証期間を 15 年とする
15
現在,CARBでは次期排出ガス規制(LEV-Ⅲ)の検討が進められており,2014 年からの
導入を目指している13).その中で,エバポ規制についても強化が検討されており,LEV-Ⅱ
ではPZEVとして認定される条件の一つにすぎなかったゼロエバポ規制を乗用車全体へ適
用する案が検討されている.
ゼロエバポ規制のような,自動車を試験試料として測定が可能な下限値に近い規制値を
満足するため,キャニスターを用いた,ガソリン蒸散防止装置(Evaporation Loss Control
Device:以下,ELCD)の役割は重要性が非常に高まってきている.
1.5
キャニスターの役割と原理
燃料蒸発ガスの排出量を低減するため,ガソリン自動車には ELCD が搭載されており,
日本でもエバポ規制が始まった 1972 年から車両に搭載されるようになった.燃料蒸発ガス
の蒸散防止方法として下記のようにさまざまなものが考えられる.
・ 吸収法
・ 冷却凝縮法
・ 加圧凝縮法
・ 酸化分解法
・ 吸着法
一般的な自動車では,活性炭を用いて燃料蒸発ガスを吸脱着により大気と分離する方法
が採用されており,この活性炭が充填された部品はキャニスター(図 1-10 参照)と呼ばれ,
ELCD の中でも重要な働きをしている.以下に,キャニスターの作動原理を説明する.
自動車が走行を停止した場合 (hot soak) や,日中の気温上昇 (diurnal cycle) や太陽の直射
などによって,キャブレター・フロートタンク・ガソリンタンクなどの温度が上昇すると,
燃料が蒸発する.燃料経路を密閉すると,圧力の高まった燃料蒸発ガスは逃げ場を求めて,
キャブレター式の場合はエンジンに流れ込みエンジンがかからなくなる.燃料噴射式の場
16
合では燃料経路の継ぎ目などから漏洩する恐れがある.そのため,燃料経路内の圧力を下
げるために大気への連結を必要とするが,そのままでは燃料蒸発ガスが大気に放出され,
大気汚染へと繋がる.それを防ぐためにキャニスターの設置が必要となる.キャニスター
に内包された活性炭層は大気に連結されており,燃料蒸発ガスは大気放出前に活性炭層に
吸着される(図 1-11(a)参照).自動車のエンジンが稼働すると,インテークマニホールドに
発生する負圧を利用して,エンジンへ供給される空気の一部が活性炭層を通って送気(以
下,パージ)される.この時,活性炭層に吸着されていた燃料蒸発ガスは脱離し,エンジ
ンへ空気と共にパージエアーとして運ばれる.稼働状態にあるエンジンでは,噴射される
燃料と共にパージエアーに含まれる蒸発ガス成分も完全に燃焼され,活性炭層はこれによ
って再生されたことになる(図 1-11(b)参照).キャニスターはこのような吸脱着の過程を繰
り返すことによって燃料経路内の圧力放出と,大気中への燃料蒸発ガスの放出防止とを行
っている.
従って,キャニスターに求められる主な機能は下記のようになる.
1)発生する燃料蒸発ガスを漏らさない吸着機能
2)エンジンの稼働に合わせた,燃料蒸発ガスの脱離機能
3)吸脱着に伴う大気の搬送を促す低い通気抵抗
4)車両の使用距離及び期間を満足する耐久信頼性
これまでエバポ規制の強化に併せ,上述した機能がバランスよく設計されることにより,
ゼロエバポ規制まで満足できるキャニスターが開発されてきた.また,キャニスターの開
発にあわせて,燃料蒸発ガスの吸脱着を繰り返す吸着材として,キャニスター用の吸着材
もさまざまな検討が行われている.しかしながら,近年ガソリン自動車のエネルギー効率
化が進むのに併せて,キャニスターの吸脱着機能に対して新たな課題が生まれている.
17
150mm
100mm
200mm
(a) Picture of typical canister for USA
Activated Carbon
Bed
Activated Carbon
Bed
(b) Image of cross section of canister
Fig.1-10 Picture of typical canister for USA (a) and image of cross section of canister (b)
18
Engine Intake
Evaporative gas
Activated carbon
Canister
Fuel Tank
(a) Adsorption Process
Engine Intake
Purge Gas
Activated carbon
Canister
Fuel Tank
(b) Desorption process
Fig.1-11 Schematic drawing of ELCD working system
19
1.6 自動車におけるエネルギー効率化の動き
ここまでに説明してきた排出ガス規制には,温室効果ガスとして最も一般的であろう二
酸化炭素(CO2)が含まれていない.これは大気汚染問題が人体への影響に主眼を置いて考
えられてきた結果だと考える.生物の生命活動によっても排出されるCO2は,世界的な化石
燃料の消費量が爆発的な増加をみせはじめる 1950 年頃まで,問題視されていなかったので
はないだろうか.世界的なエネルギー資源別の消費量推移を図 1-12 に2),大気中CO2濃度の
年平均濃度と人為的CO2排出量の経年変化を図 1-13 に4),そして世界の年平均地上気温の経
年変化を図 1-14 に4),それぞれ示す.1950 年頃から,特に石炭,石油と天然ガスにて代表
される化石燃料の世界的な消費量が爆発的な増加を見せており,それに同調して人為的な
CO2排出量,大気中のCO2濃度も急激な上昇を示していることが確認できる.更には,年平
均CO2濃度と年平均地上気温は正の相関を示していることが伺える.
Fig.1-12 Profiles of total energy consumed and energy source in the world
[出展:経済産業省編 エネルギー白書 2010]2)
20
Fig.1-13 Profiles of the atmospheric mixing ratio of CO2 and exhaust amount of CO2 by human
activities in the world
[出展:環境省編 21年版
環境白書 循環型社会白書/生物多様性白書]4)
Fig.1-14 Annual averaged profile of the temperature in the world
[出展:環境省編 21年版
環境白書 循環型社会白書/生物多様性白書]4)
21
CO2濃度の急激な上昇に伴い顕在化した,エネルギー起源のCO2排出などに起因する地球
温暖化問題は,世界的な人類の重要課題として取り上げられ,先進国の温室効果ガス排出
削減を定めた京都議定書の採択(1997 年)など国際的に議論されるようになり,現在各国・
各地域で対策が検討されている.
化石燃料をエネルギーとする自動車は,その利便性の高さから,社会にとって不可欠な
存在となり,近年の日本においても保有台数は増加を続けている14).今後,現在の先進国に
おいては一定の台数に落ち着くと見られているが,発展途上国を中心に増加を続け,世界
的に増加傾向が続く見通しにある.自動車がその生涯に排出するCO2の約 8 割は走行段階で
発生しているとも言われており,エネルギー効率向上によって燃料消費量とCO2排出量を削
減することは,最重要な課題であると言える.
道路交通分野におけるCO2削減の取り組みとして,自動車単体の燃費改善,燃料の多様化,
交通流の改善,効率的利用などが考えられている8).自動車のエネルギー効率を向上させ,
自動車単体の燃費を改善する手段だけをみても,図 1-15 に示すようにさまざまな方法が検
討されている.
Fig.1-15 Main items for improvement of energy efficiency for vehicle
[出展:日本自動車工業会編
22
環境レポート 2010]8)
Fig.1-16 Profile of averaged fuel cost of gasoline vehicle in Japan
[出展:日本自動車工業会編 環境レポート 2010]8)
Fig.1-17 Exhaust amount of CO2 by vehicle in Japan
[出展:日本自動車工業会編
23
環境レポート 2010]8)
日本において上述した自動車のエネルギー効率向上は進められており,自動車単体の燃
費改善(図 1-16 参照)は着実に成果をあげていることが伺える.さらには,運輸部門のCO2
排出量(図 1-17 参照)も改善の方向へ向かっている.また,欧米諸国においてもエネルギ
ー効率改善の動きは進められており(図 1-18 参照),世界的な規模でさらに加速していくと
考えられる.このようなCO2削減の取り組みは,キャニスターに対しても新たな課題を投げ
かけている.
Fig.1-18 Passenger vehicle GHG scenarios of state of California
[出展:Informational Update On Zero Emission Vehicle Regulation Revisions]15)
24
1.7 キャニスター開発の現状と課題
キャニスターは 1.5 項で述べたように吸脱着の過程を繰り返し,理論上では半永久的に燃
料蒸発ガスの大気放出を防止することが可能なように設計された部品である.しかしなが
ら,自動車のエネルギー効率化を背景として,キャニスターにも新たな課題が発生してい
る.その課題を大別すると下記の 2 つとなる.
1)
吸着に対する課題:燃料の多様化に伴う,新たな吸着質への対応
2)
脱着に対する課題:エンジン効率向上によるパージ機会の損失
上述した課題を解決するためには,キャニスターの吸脱着に関連するメカニズムを解明
していくことが必要不可欠と考える.これまでにもキャニスターは規制の強化に併せて,
後述するような研究開発が行われてきた.
ガソリン蒸気に対する有効吸着量と劣化現象
キャニスターは吸脱着過程を車両の使用期間中に繰り返し行うことで,燃料蒸発ガスが
大気に放出されることを抑制している.よって,キャニスターの吸着性能に対する指標と
して,一定条件下における破過吸着・脱離過程を繰り返して有効吸着量を求めるのが一般
的である.より有効吸着量の大きい活性炭を開発するため,活性炭の細孔構造とガソリン
蒸気の有効吸着量について,いくつかの報告が確認できる.1990 年には,ガソリン蒸気に
含まれる炭化水素の分子直径に対し,数倍にあたる直径をもつ細孔の容積がガソリン蒸気
の有効吸着量と高い相関性を持つことが報告された16).併せて,ガソリン蒸気吸脱着を繰り
返すことにより,水蒸気に対する吸着性能が低下することなども報告されている.米国で
ORVRの導入が開始された 1998 年にも,活性炭の細孔構造と有効吸着量について研究が行
われており,直径 2.5~4.0nmの区間細孔容積がガソリン蒸気有効吸着量と良好な相関性を
示すことが報告されている17).また,吸脱着の繰り返しに伴い有効吸着量が徐々に低下する
劣化現象についても,ガソリン蒸気に含まれる炭化水素成分と,吸脱着の繰り返しととも
25
に変化する細孔分布の関係性について報告がなされている18).さらにはキャニスター内の活
性炭で吸着が進行する過程は,活性炭の細孔表面積が支配的な表層吸着から,細孔容積に
支配される多層吸着へ移行して飽和吸着となることも報告されている19).
これらの報告では特に細孔直径 2~50nm のメソ孔(meso pore)とガソリン蒸気吸着との
関係性について報告されているが,細孔直径 2nm 以下のマイクロ孔(micro pore)や細孔直
径 50nm 以上のマクロ孔(macro pore)についての記述は少ない.
吸脱着に伴う熱移動
キャニスターにおける活性炭と炭化水素との関係だけではなく,気相吸着において吸着
熱の発生は,しばしば吸着性能を低下させる大きな問題となる20).キャニスターに関して出
願された特許からも,吸着熱による吸着層の温度変化を抑制し性能向上をはかる案件は散
見される.また,市販されたキャニスターからも活性炭層の温度変化抑制を意識した設計
が見られる.図 1-19 左の 2000 年に対して,2004 年に市販されたキャニスターでは外見か
らも活性炭層が 2 分されていることがわかり,吸着熱の放熱を意識したと推定される.
2000年
2004年
Fig.1-19 The comparison between old (2000 model year) and new (2004 model year) canisters
26
近年では,蓄熱材を投入してパージに伴う温度変化を抑制したキャニスターが報告され
ている21)が,キャニスターの吸着熱に対する研究の報告例は少ない.
微少破過現象
ゼロエバポ規制のような極めて微少な破過量しか許容されないキャニスターにとって,
最も大きな課題になるのが微少破過である.微少破過の概念について,米国カルフォルニ
ア州における車両のDBL試験手順22),キャニスター単体での試験の流れをもとに記述する.
車両のDBL試験手順 40%給油
START
20.0~30.0 ℃
燃料
交換
コールド
ソーク
40%給油
プリコンディ
ショニング
(事前走行)
燃料
交換
コールドソーク
キャニスター
パージ&ロード
12~36 hr
VT SHED
18.3~40.6 ℃
48 hr
1 hr,
20.0~30.0 ℃
排気
テスト
ホット
ソーク
ロス
12~36 hr
18.3 ℃
2 day.
DBL
ソーク
END
6~36 hr
車両の慣らし
キャニスター単体での試験の流れ Gasoline Working Capacity
微小破過
(慣らし)
キャニスタ重量
ソーク
チャージ
ソーク
ソーク
ヒール量
パージ
Butane Working
Capacity
Diurnal Breathing
Loss
Fig.1-20 Test flow of 2days Diurnal Breathing Loss in state of California
DBL試験では車両の排気試験とDBL試験が一連の試験として行われており,車両の排気
試験前にキャニスターはn-ブタンを用いて破過吸着の状態にすることが定められている.nブタンを吸着した状態のキャニスターを再度車両へ接続し,排気試験で車両が走行してエ
ンジンが稼働することに伴い,キャニスターのパージも行われる.しかしながら,この排
27
気試験は走行距離も短く,必然的にパージエアー量も少なくなるため,キャニスターの内
部にn-ブタンが残存することになる.その後,ソークと呼ばれる過程で,キャニスターは車
両と共に一定温度で放置されるが,このときにキャニスターの内部でn-ブタンの拡散移動が
起こる.このためDBL試験では,キャニスターの有効吸着量に満たない吸着量で微少な破
過が起こり,微少破過成分はn-ブタンが 80%以上を占めることが報告されている23).
微少破過のメカニズムや対策方法についてはいくつかの報告が散見され,キャニスター
内部に空間を設けること24),吸着材層の形状を最適化すること,有効吸着量が大きくヒール
の少ない活性炭を使用すること25),などが提案されているが,キャニスターの吸着材層や吸
着材を最適化するためには,更なるメカニズム解明が必要といえる.
吸着質の多様化
炭化水素とは異なる吸着質がキャニスターへ与える影響は多く報告されている.特にメ
タノールやエタノールなどのアルコールが混合された燃料蒸気を題材とした研究報告は多
い26)27)28).しかしながら,活性炭以外の吸着材を用いて対策を行った研究報告例は確認でき
ない.これはパージ過程においてキャニスターへ大気が掃気されるため,大気中に多く含
まれる水蒸気の影響が重視されるためと考えられる.有効吸着量の向上や劣化の抑制にお
いても,水蒸気の吸着に対する懸念が研究されており16)29),水蒸気の吸着能力が高いシリカ
ゲルなどの吸着材はキャニスター用途として大きな課題を抱えているといえる.
28
1.8 本研究の目的
これまでに記述した背景を踏まえ,本研究ではキャニスターの吸着材充填層内部にて起
こる炭化水素とエタノールの吸脱着/拡散現象から微少破過につながるメカニズムについ
て実験的に解明し,吸着機能を向上させる方策とその可能性について検討した.
2章では,DBL テスト中におけるキャニスターからの微少破過のメカニズムを鮮明にす
るため,実験系の簡略化を行い,吸着時間に対する単位時間当たりの破過量との関係から,
キャニスター内部の挙動を考察した.続いて,キャニスター形状や放置時間を変化させる
ことで,微少破過量に支配的な影響を与えている因子について検討した.
3章では,活性炭充填層内における脱着後に残存した炭化水素の濃度勾配に関して考察し
た.流れ方向に対して直列な 4 つの活性炭層からなるキャニスターを用いて,吸脱着の各
過程における吸着量分布を測定し,その推移から放置過程における残存炭化水素の拡散移
動を検証した.また,キャニスター試験の前処理として行われるガソリン蒸気吸脱着の有
無での影響を確認し,活性炭層内における炭化水素の拡散現象について考察した.
4章では,キャニスター内部における炭化水素の拡散係数に関して考察した.まず,微少
破過する主成分であったブタンと窒素との2成分系にて,拡散移動量の濃度依存性と定量
的な移動量の算出方法について検討した.さらに3章にて求めた吸着量分布と脱着量曲線
より,キャニスター内部における連続的な濃度勾配を推定し,炭化水素の総括的な拡散係
数を求めた.導出された拡散係数を他の拡散係数と比較することで,吸着材層内における
炭化水素の拡散メカニズムを検証した.
29
5章では,キャニスター内部におけるエタノールの吸脱着・破過挙動に関して考察した.
活性炭を用いて,エタノールの混合比を変えたガソリン燃料蒸気の吸着破過実験を行い,
吸着成分にエタノールが加わることによる吸脱着及び破過挙動の変化を明らかにした.エ
タノール吸脱着に適した吸着材料として,エタノールと化学的な親和性が高く低濃度にお
けるエタノール吸着量が高いシリカゲルを検討した.同時に脱着に対する課題を解消する
ため,ベースとしたシリカゲルの,特に水蒸気に対する親和性を下げるために,表面改質
を検討した.なおかつ,充填密度を高め,吸着材層の比熱容量を大きくすることで,エタ
ノールの吸脱着熱による温度変化を抑制する効果についても検証を行い,キャニスターへ
の適用方法について検討した.
6章では本研究で得られた成果をまとめるとともに,今後の展望について記述した.
30
第2章
キャニスターからの微少破過原因
に関する研究
2.1
研究の目的
キャニスターの吸着機能を高度化させるためには,燃料蒸発ガスを吸着した際の破過挙
動を明確にし,その原因を解明していく必要がある.米国カルフォルニア州におけるDiurnal
Breathing Loss(以下,DBL)試験22) に準じた方法による,キャニスターのDBLテスト結果
を以下に記述する.図 2-1 には各試験過程におけるキャニスター増加重量の推移を,図 2-2
にはDBLにて測定したキャニスターの破過曲線をそれぞれ示す.また,ガスクロマトグラ
フ(検出器:Flame Ionization Detector(以下,FID), 島津製作所㈱製 GC-14A)により,
破過ガスを分離し,n-ブタンの割合を各成分のピーク面積比より計算した結果を併せて記載
した.
Canister Stabilization
(Gasoline Vapor Charge and Purge)
Increase Weight of Canister [g]
180
160
Slight Breakthrough
140
120
100
80
Soak
60
40
Diurnal Breathing Loss
(2days)
n-Butane
Charge and Purge
Heal
20
0
0
20
40
60
80
100
Time [h]
Fig.2-1 Canister DBL test flow based on the regulation of state of California
31
120
Breakthrough [mg/day]
100
80
60
40
20
0
0
10
20
30
40
50
60
70
Charge Weight at DBL [g]
Fig.2-2 Breakthrough curve of typical canister at DBL (■:Total breakthrough, ◆:n-Butane,
▲:Hydrocarbon without n-Butane)
図 1-10 に示したキャニスターを容積 70Lの燃料タンクへ接続して行った今回の試験では,
DBLテストの 2 日目迄に燃料タンクから約 40gの燃料蒸気が発生し,キャニスターからは 2
日目において約 50 mg/dayの破過が検出されている.そのうちおよそ 90%に当る約 45 mg/day
をn-ブタンが占めていることが解り,総破過量の増加に併せて,n-ブタンの破過量も増加し
ている.対して,n-ブタン以外の成分はDBLテストを行った期間を通じて約 10 mg/day 程度
で推移している.これはDBLテスト前に行われているn-ブタン吸脱着により,キャニスター
内部に残存したn-ブタンがキャニスター内部をすり抜けたためだと考えられている24).
32
しかしながら DBL テストでは,キャニスターの吸着機能に対して少なくとも下記2つの
影響が同時に加えられており,微少破過を起こす影響因子とその影響度を分離させて推し
量ることは難しい.
1)キャニスターを含めた環境温度の変化(図 2-3 参照)に伴う平衡吸着量の変化
2)燃料タンク内の燃料蒸気圧変化に伴う燃料蒸気の吸着及び脱着
そこで本章ではキャニスターの微少破過メカニズムをより鮮明に解明するため,DBL に
相当する吸着質の供給速度にて,等温系での吸着破過特性を取得し,その破過挙動につい
て考察することとした.等温系の吸着破過実験ではキャニスターの形状,放置時間など実
験条件を変えて行い,それぞれの破過挙動への影響度について考察した.
50
The Ambient Temperature [℃]
45
40
35
30
25
20
15
10
0
6
12
18
Time [h]
Fig.2-3 The ambient temperature profile per day of DBL test13)
33
24
2.2
キャニスターからの微少破過の定量的評価
キャニスターの DBL テストにおける炭化水素の微少破過原因をより鮮明にするため,本
章では下記3つについて現象を簡略化している.
1)雰囲気温度
DBLテストは車両停車中の昼夜における気温の変化を模擬するため,図 2-3 に示し
たとおり,雰囲気温度を時間と共に変化させて行う.しかしながら,雰囲気温度の
変化は燃料蒸発ガスの圧力や発生量に影響を与えるだけでなく,キャニスターに内
包された吸着材層における吸着平衡にも影響を与える.そこで本研究では,車両に
て燃料蒸発ガス試験を行う際の試験室11)と同じ,雰囲気温度を 25℃にて一定として,
燃料蒸気の吸着及び脱着に伴うキャニスターの破過特性に焦点をあてた.
2)吸着ガス
DBL においてキャニスターが吸着する吸着質は多成分の炭化水素からなる燃料蒸
発ガスであるが,破過成分の多くは n-ブタンであること(図 2-2 参照)から,破過特
性を測定する際の吸着ガスは n-ブタンと窒素との 2 成分混合気体とした.
3)吸着質の供給速度と供給濃度
自動車の燃料タンクから発生する燃料蒸発ガス量は温度の変化量に依存するが,
DBL テストにおいて雰囲気温度は時間に対して曲線的に変化する(図 2-3 参照).
よって,燃料蒸発ガスの発生速度と発生濃度はいずれも一定ではない.破過特性を
考察する際には吸着質の供給速度と供給濃度それぞれの変化も考慮すべきであり,
その影響を分離して考えるためには,供給する速度および濃度を一定として破過特
性を取得することが有効と考えた.そこで本研究では DBL テストにおけるキャニス
ターへの燃料蒸発ガスの供給速度・供給濃度を平均化し,双方ともに一定として破
過特性を測定した.
34
本章では以下に詳細を記述する実験試料,実験装置および実験手順によって,上述した
簡略化を行い,キャニスターからの微少破過特性について実験的検討を行った.
2.2.1
実験試料
本研究では自動車用キャニスターにて一般的に用いられている図 2-4 に示した木質系活
性炭を用いて検討を行った.真密度はガス置換法によって,比表面積とMesopore(細孔直
径 2~50nmの細孔)容積及び平均直径はガス吸着法によって,測定した30)31)32).
Physical properties
Test method / Analyzer
Apparent density (dry)
360
[ kg/m3 ]
ASTM* D 2854
Butane
working
capacity
112
[ kg/m3 ]
ASTM* D 5228
True density
1580
[ kg/m3 ]
ULTRAPICNOMETER
(YUASA IONICS )
Relative
surface area
1250
[×103 m2/kg ]
Mesopore volume
0.46
[×10-3 m3/kg ]
Average
mesopore
diameter
4.5
[nm ]
Tristar 3000
(Micromeritics)
1cm
*American Society for Testing and Materials
(a) Picture of activated carbon
(b) Physical properties of activated carbon
Fig.2-4 Picture (a) and physical properties (b) of activated carbon
35
また,キャニスターには図 2-5 に示した活性炭充填層容積が 0.20×10-3 m3 の金属製円筒
形ケースを用いている.吸着材層を設計する上で,吸着材層の流れ方向長さLを流れ方向に
垂直な断面積を同一面積の円に換算したときの等価直径Dで除した値L/Dは重要であること
が知られている33).そこで,吸着材層の形状による破過特性への影響を確認するため,今回
の研究に先立って調査したキャニスターの平均値に近いL/D=4.0 を中心として,表 2-1 に示
した同一容積でL/Dが異なる金属製円筒形ケースへ活性炭を入れて,破過特性の測定を行い,
比較を行った.
Length, L [mm]
Charge/Purge Port
Drain Port
Diameter, D [mm]
Activated Carbon Bed
: 0.20×10-3 [m3]
Fig.2-5 Image of test canister
Table2-1 Dimensions of activated carbon bed of test canisters
Activated Carbon Bed
Diameter, D
Length, L
L/D [-]
[mm]
[mm]
3.0
44
132
3.5
42
146
4.0
40
160
5.0
37
185
6.0
35
209
8.0
32
254
36
2.2.2
実験装置と手順
キャニスターの DBL テストにおける微少破過メカニズムを解明するため,本章では図 2-6
に示すように,ガソリン蒸気の吸脱着繰り返しによる性能安定化,ブタンの吸脱着・放置
過程,という DBL テストと同様の前処理過程を経た後,等温系でのブタン吸着破過特性を
Canister Weight
測定した.それぞれの実験過程における詳細を以下に記述する.
Charge
Purge
Canister Stabilization
n-Butane Charge
and Purge,
and Soak
Breakthrough
Measurement
Test Flow
Fig.2-6 Test flow of this study showing the three basic steps
性能安定化過程
(Canister stabilization)
雰囲気温度 25℃,相対湿度 40%Rhに調整した実験室内で図 2-7 示す実験回路にて,60℃
の恒温水槽内に入れたタンク内のガソリン燃料(リード蒸気圧(以下,RVP):60kPa)を,
流量 30×10-3m3/hの窒素でバブリングし蒸発を促進させたのち,過剰の蒸気を凝集させるこ
とで 25℃の飽和蒸気として吸着質とし,キャニスターの下流側に設けた活性炭を封入した
トラップの増加重量が 0.2gを越えるまで,キャニスターへ燃料蒸気を破過吸着(以下,チ
ャージ)させた.その後切り替え用 3 方バルブにより流路を切り替え,エアーポンプによ
って発生する負圧を用いて,実験室内の大気を 0.18m3/h の流量にて,キャニスターへ 0.333h
37
送気して脱着再生(以下,パージ)を行った.この吸着脱離を 6 サイクル行い,吸脱着性
能安定化を図った.
Air
Air pump
: Switching (3-way) valve
Purge
Volume flow
measurement
Volume flow
measurement
Purge
Charge
Charge
Fuel
Trap
Nitrogen
Water bath
(60±0.5℃)
Canister
Fig.2-7 The test circuit used in the canister stabilization (gasoline vapor adsorption and desorption)
n-ブタンの吸着脱離・放置過程 ( n-Butane charge and purge, and soak )
性能安定化後のキャニスターに,性能安定化時と同じ環境温湿度とした実験室にて,nブタン/窒素=50/50 (vol/vol)の混合気体を流量 30×10-3m3/hにて,性能安定化時と同様にキ
ャニスターの下流側へ接続した活性炭トラップの増加重量が 2.0gとなるまで,n-ブタンをチ
ャージした.その後,実験室内の大気によるパージを,送気流量が 0.18m3/h で 0.117h 行
い,36hキャニスターの大気開放側(以下,ドレン側)を開放した状態で実験室内に放置(以
下,ソーク)した.
38
破過特性の測定 ( Breakthrough Measurement )
性能安定化及びn-ブタンチャージ・パージ,ソークを行ったキャニスターに,図 2-8 に示
す実験装置を用いて,雰囲気温度 25℃の等温系にて,n-ブタン/窒素=50/50 (vol/vol) の混合
気体を流量 3.0×10-3m3/h にてチャージし,破過特性の検証を行った.
Flow
Volume flow
measurement
Volume flow
measurement
HC detector
(FID)
Canister
Nitrogen
n-Butane
Fig.2-8 The test circuit used in the breakthrough measurement
2.3
結果と考察
L/D=4.0 のケースを用いて取得した破過特性の測定結果を図 2-9 および図 2-10 に示す.図
2-9 はキャニスターの増加重量(以下,チャージ量) MC に対する破過量 MBT の測定結果
を,図 2-10 はチャージ量 Mc に対する単位時間あたりの破過量(Breakthrough Ratio:以下,
破過速度)をそれぞれ示している.
図 2-9 および図 2-10 の結果を見るとチャージ開始直後から破過量は増加しており,破過
が始まっていること,すなわち微少破過が今回の試験条件でも再現できていることがわか
る.また,チャージ量が 9g程度を中心として,傾向が異なることが伺える.図 2-9 よりチ
ャージ量 9gまでは破過量が直線的に増加し,図 2-10 より破過量の傾きを示す破過速度はほ
39
ぼ一定であることがわかる.対して,チャージ量 9g以降では破過量及び破過速度ともに急
激に増加している.この破過量及び破過速度の急激な上昇は,試験キャニスターの内部に
て吸着帯がドレン側へ接近したことを示唆していると考えられる33).
それに対して,チャージ量 9g 以前の破過は,速度がほぼ一定で推移しており,キャニス
ター内部における吸着帯の移動が原因とは考えにくい.破過速度一定の破過が起こる原因
として,パージ後においてもキャニスター内部に炭化水素が残存するためだと考える.破
過特性の測定前における試験キャニスターの吸着材層では,残存した炭化水素が各吸着材
の表面にて吸着平衡の状態にあり,破過特性の測定過程でチャージされた n-ブタンの吸着
帯が各吸着材へ移動するまで,炭化水素の残存量に応じた吸着平衡状態が続くと考えられ
る.しかしながら,吸着されにくい窒素はキャニスター内部を,ドレン側まで一定流量で
流れるため,吸着平衡状態にある炭化水素も押し出され,一定速度で破過が続くと考えら
れる.
上述した考えが正しいとすると,キャニスターからの破過は下記の 2 段階に大別できる.
1)一定速度で破過量が増加するドレン近傍の吸着平衡状態に起因する破過
2)吸着帯がドレン側へ接近して破過量・破過速度ともに急上昇する破過
ここで,前者を微少破過と定義すると,微少破過は破過特性測定時における,ドレン側
に残存した炭化水素の吸着平衡状態と密接な関係を持っていることになる.そこでここか
らは,破過特性測定時のチャージ量 2g での破過速度を初期破過速度として定義し,比較す
ることとした.初期破過速度を比較することで,破過特性測定時のドレン側における残存
した炭化水素の吸着平衡状態を推し量ることが可能だと考えた.
40
120
Breakthrough, MBT
MBT [g]
Breakthrough,
[g
100
80
60
40
20
0
0
2
4
6
8
10
12
Charge
ChargeWeight,
Weight,MC
MC[g]
[g]
Fig.2-9 Relationship between charge weight and breakthrough (L/D=4.0 test canister)
BreakthroughRatio
Ratio[mg/s]
[mg/s
Breakthrough
0.1
0.01
0.001
0
2
4
6
8
10
ChargeWeight,
Weight, M
MC
[g]
Charge
C [g]
Fig.2-10 Relationship between charge weight and breakthrough ratio (L/D=4.0 test canister)
41
12
2.3.1
キャニスターの形状と微少破過の関係
表 2-2 に性能安定化および n-ブタンチャージ・パージ,ソーク過程後における試験キャニ
スターの吸着量として初期重量からの増加量を示す.表 2-2 よりキャニスターの L/D に関わ
らず,各試験過程後,特にパージ後においても試験キャニスターは炭化水素を吸着した状
態にあることがわかる.パージ後において初期から増加した重量より,性能安定化によっ
て増加した重量を引くことで,n-ブタンチャージ・パージ過程により増加した重量,つまり
残存 n-ブタン量が伺える.パージ後の残存 n-ブタン量,及び残存した総炭化水素量ともに
試験キャニスターの L/D に対して正の相関を示している.
Table2-2 Amount of adsorption at each test steps
Amount of Adsorption [g]
After Purge
Test Canister
L/D
After
Stabilization
After
n-Butane Charge
3.0
6.4
3.5
Total
Hydrocarbon
Remained
n-Butane
19.0
10.9
4.5
6.8
19.5
11.3
4.5
4.0
6.9
19.9
11.6
4.7
5.0
7.2
20.5
12.0
4.8
6.0
7.2
20.3
12.1
4.9
8.0
6.9
19.9
11.8
4.9
42
これは L/D を変えたことによる,吸着材層長さが長くなることによる効果と,断面積が
小さくなることによる影響の 2 つを分けて考えることで考察ができる.吸着質の供給速度・
吸着材の吸着速度が一定であれば,吸着材層内部を移動する吸着帯の長さは一定と考えら
れる.今回のような破過吸着を行った場合には,吸着材層の長さが長いほど,吸着帯の占
める割合が少なく,それだけ飽和吸着となる領域が増加するため,L/D の増加に伴いチャー
ジ量も増加したと考えられる.対して,L/D=5.0 より大きい L/D=6.0,8.0 では n-ブタンチャ
ージ過程におけるチャージ量が減少している.今回の試験条件では L/D によらず活性炭容
量と吸着質の供給速度を一定としているため,L/D が大きいほど単位断面積あたりの吸着質
の供給量は増加する.これにより,L/D が大きいほど吸着帯は長くなることが推測され,
L/D=5.0 より大きい領域では,吸着材層が長いことによる効果よりも,断面積が小さくなっ
た影響がより強く現れ,結果 n-ブタンチャージ過程におけるチャージ量に減少傾向が見ら
れたと推察する.さらには,断面積が小さくなることによる影響はパージ過程においても
現れ,パージエアーの流速が上昇することとなる.吸着材からの脱着速度は L/D によらず
一定であるため,パージエアーの流速が早いほど,一定のパージエアー量における脱着量
は低下することが予測される.
上述したような効果と影響が組み合わさり,今回の試験条件では,パージ後の残存 n-ブ
タン量,および残存した総炭化水素量ともに試験キャニスターの L/D に対して正の相関を
示したと考えられる.
図 2-11 にはキャニスターの L/D に対する初期破過速度の違いを示す.
キャニスターの L/D
が大きくなるほど,初期破過速度が減少する負の相関を示していることがわかる.初期破
過速度がキャニスターの残存 n-ブタン量とは逆ともとれる相関を示す理由として,ソーク
における n-ブタンの拡散が考えられる.L/D が大きい,つまり吸着材層の断面積が小さく,
充填層の長さが大きいほど,キャニスター内の n-ブタン拡散距離は長くなり,拡散量は少
なくなると推定される.拡散量が少ないため,キャニスターのドレン側における n-ブタン
43
濃度が低くなり,初期破過速度も小さくなったと考える.微少破過量を示す初期破過速度
が,キャニスター内部における残存 n-ブタンの総量よりも,DBL テスト開始時におけるド
レン側の炭化水素濃度に起因することを検証するため,同一 L/D のキャニスターにおいて
ソーク時間を変化させて初期破過速度の違いを比較した.
Initial Breakthrough Ratio [mg/s]
0.1
0.01
0.001
0
2
4
6
8
Test
CanisterL/D
L/D[-]
Test
Canister
Fig.2-11
Relationship between the initial breakthrough ratio and test canister L/D
44
10
2.3.2
放置時間と微少破過の関係
ソーク時間の違いによる破過特性への影響を確認するため,表 2-1 の L/D=4.0,5.0 のケ
ースを用いて検証を行った.
Initial Breakthrough Ratio [mg/s]
0.1
0.01
0.001
1
10
100
1000
Soak Time [h]
Fig.2-12 Initial breakthrough ratios at different soak times for
L/D=4.0 (◆) and L/D=5.0 (■)
canisters
図 2-12 が示すとおり,キャニスターの吸着材層 L/D が 4.0,5.0 のいずれにおいても,ソ
ーク時間を増やすことで初期破過速度が大きくなることが確認できた.ソーク時間,つま
りキャニスター内での残存 n-ブタン拡散時間を増やすことで,ドレン側への拡散量も増え
たことが推定され,破過特性測定開始時のキャニスターのドレン側における n-ブタン濃度
が高くなり,初期破過速度が大きくなったと考えられる.
45
2.4
まとめ
キャニスターの DBL テストにおける炭化水素の微少破過原因を解明するため,等温系で
の吸着破過試験を行い,キャニスターからの破過は微少破過と吸着帯の移動による破過の 2
段階に大別できることが明らかになった.微少破過の原因を特定するため,活性炭充填層
の形状,ソーク時間を変化させて,破過特性への影響を確認した.その結果,キャニスタ
ーの残存炭化水素総量がほぼ同じでも,吸着材層の長さが長いほど,ソーク時間が短いほ
ど,微少破過は小さいことがわかった.これは,キャニスターの残存炭化水素総量よりも,
ソークにおける残存した炭化水素のドレン側への拡散移動量を含めた,DBL テスト開始直
前のドレン側における吸着量が,微少破過に支配的な影響を与えている可能性を示してい
る.従って,キャニスターの吸着機能を高度化させるためには,活性炭充填層内における
パージ過程後に残存した炭化水素,特に n-ブタンの拡散挙動を明確化していく事が不可欠
であると考え,3 および 4 章にて拡散挙動の解明について検討を進めていった.
46
第3章
キャニスターにおける燃料蒸発ガスの
吸着分布に関する研究
3.1 研究の目的
前章までの研究により,キャニスターの微少破過には,吸着材層内部で起こる,残存し
た炭化水素の拡散挙動が大きな影響力を持つことが明らかになった.そこでこの拡散挙動
を明確にすることが肝要だと考える.
吸着材層における吸着質,すなわち炭化水素の拡散挙動として下記のようなものが考え
られる33)34)35).
1)吸着材細孔の表面における表面拡散
2)細孔内における細孔拡散
3)吸着材と空隙の境界における境膜拡散
4)空隙における自由拡散
これらを全て分離してそれぞれの影響度を解明することは,非常に困難なことが容易に
予測される.そこで本研究では,図 3-1 に示すような,キャニスターの吸着材層を微小な活
性炭層の集合体としてモデル化し,各微小体積間の総括的な移動速度を求め,微少破過へ
の影響を明確化しようと試みた36)37).
Test Canister
Calculation Model
Thin
Adsorbent
Bed
Activated
Carbon Bed
ΔL
Non-woven
Fig.3-1 Image of test canister and calculation model
各微小体積間における吸着質の拡散移動速度Jが,各微小体積でのさまざまな拡散を含む
総括的な拡散係数DEと,吸着材層の断面積A,各微小体積における吸着平衡状態に応じた吸
47
着質の濃度勾配∂C/∂Lを用いて,式(1)のようなFickの拡散に従うと仮定すると,拡散係数
と濃度勾配を明らかにすることで,キャニスターの微少破過量と拡散量の関係を明確化で
きると考えられる.
∂C
J
= - DE × A ×
(1)
∂L
そこで本章では拡散の推進力である濃度勾配を求めるために,炭化水素の吸着量分布を
明確にすることを試みた.
3.2 キャニスター内部の吸着分布評価方法
3.2.1
実験装置と方法
キャニスターの吸脱着過程における,吸着材層内の炭化水素吸着量分布およびその推移
を明確にするため,本章では DBL テストの前処理と類似した下記 2 つの条件下における各
過程の吸着量分布および推移を比較検討した.
1)ガソリン蒸気の吸脱着繰り返しによる性能安定化,n-ブタン吸脱着・ソーク
2)性能安定化を行わず,n-ブタンを吸脱着・ソーク
この 2 つの条件下における吸着量分布およびその推移を比較することで,残存した炭化
水素の拡散挙動に対する吸着成分の影響を明らかにしていく.以下に各過程の詳細を記述
する.
ガソリン蒸気による性能安定化
(Canister stabilization by gasoline vapor)
雰囲気温度 25℃,相対湿度 40%Rhに調整した実験室内で第 2 章と同じ実験回路(図 2-7
参照)にて,60℃の恒温水槽内に入れたタンク内のガソリン燃料(RVP:60kPa)を,流量 30
×10-3m3/hの窒素でバブリングし蒸発を促進させたのち,過剰の蒸気を凝集させることで
48
25℃の飽和蒸気として吸着質とし,キャニスターの下流側に設けた活性炭を封入したトラ
ップの増加重量が 0.2gを越えるまで,キャニスターへ燃料蒸気をチャージさせた.その後
切り替え用 3 方バルブにより流路を切り替え,エアーポンプによって発生する負圧を用い
て,実験室内の大気を 0.18m3/h の流量にて,キャニスターへ 0.333h 送気してパージを行っ
た.この吸着脱離を 6 サイクル行い,吸脱着性能安定化を図った.
n-ブタンチャージ・パージおよびソーク ( n-Butane charge and purge, and soak )
性能安定化後のキャニスターに,性能安定化時と同じ環境温湿度とした実験室にて,nブタン/窒素=50/50 (vol/vol) の混合気体を流量 30×10-3m3/hにて,性能安定化時と同様にキ
ャニスターの下流側へ接続した活性炭トラップの増加重量が 2.0gとなるまで,n-ブタンを吸
着させた.その後,実験室内の大気によるパージを,送気流量が 0.18m3/hで 0.117h 行い,
24hのソークを行った.
3.2.2
実験試料
第 2 章でも使用した新品の活性炭(図 2-4 参照)を 50×10-6m3毎に精量し,図 3-2 に示す
金属製キャニスターケースの不織布にて仕切られた 4 つの各吸着材層に入れ,各過程にお
ける各吸着材層の重量変化を測定することで,吸着量分布の測定を試みた.
Activated
Carbon
Purge
Drain
Charge
φ40mm
Non-woven
40mm
Fig.3-2 Test canister for measure the distribution of adsorption mass
49
3.3
結果と考察
ここでは各吸脱着過程における吸着量分布とその推移,さらにはガソリン蒸気(多成分
炭化水素)での性能安定化を行ったか否かの違いによる,吸着量分布とその推移の差異に
ついて検討した.
3.3.1.
多成分ガス吸着時の吸着分布
キャニスターで行われる DBL テストの前処理と同様に,
ガソリン蒸気による性能安定化,
n-ブタンチャージ・パージ,ソーク後の各過程における,キャニスター内部の吸着量分布を
測定した結果を図 3-3 に示す.
図 3-3(b)より n-ブタンパージ終了直後と 24h ソーク後の吸着量分布を比較すると,ドレン
側近傍の第 4 吸着材層にて,キャニスター内に残存した炭化水素総量の 2.5%程度に相当す
る,0.27g 吸着量が増加していることが確認できた.この吸着量増加が起因して,第 2 章で
観察された初期破過速度の上昇,つまり微少破過の増加につながったと考えられる.
前章で確認した初期破過速度の増加と比較すると,ドレン側第 4 吸着材層の吸着量増加
は単位容積当り 5.4kg/m3 程度であり,小さいようにも思われる.このようにわずかな吸着
量の増加で初期破過速度が増加した原因として,今回の試験で用いたキャニスター用活性
炭の吸着特性が考えられる.図 3-4 に今回使用した活性炭のn-ブタン吸着等温線(測定温度:
40℃)を示す.ここで,PSはn-ブタンの飽和蒸気圧を示し, Wagner式38)より計算した値を
用いた.キャニスターで用いられる一般的な活性炭と炭化水素の吸着系では図 3-4 に示した
ような,低相対圧で吸着量が大きく変化する Langmuir型の吸着等温線が得られる33).ソー
ク前後のドレン側第 4 吸着材層の炭化水素吸着量(図 3-3(b)参照)を,仮にn-ブタンの吸着
量とみなして,それぞれ平衡に至る相対圧を考えると,ソーク前は P/PS = 0.010,ソーク後
はP/PS = 0.013 となり,その差ΔP/PS = 0.003 となる.25℃でのn-ブタン飽和蒸気圧が
50
(a)
Charge/Purge Port
After Stabilization
After n-Butane Charge
Drain Port
100
3
Adsorption Mass [kg/m ]
120
80
60
40
20
0
1
2
3
Number of Adsorbent Bed
4
(b)
Charge/Purge Port
After Purge ( Before Soak )
After Soak
Drain Port
100
3
Adsorption Mass [kg/m ]
120
80
60
40
20
0
1
2
3
Number of Adsorbent Bed
4
Fig.3-3 The distribution of adsorption mass inside the test canister (4 adsorbent beds) at each adsorption
and desorption process after the stabilization by gasoline vapor
(a) After stabilization and After n-butane charge, (b) After purge and After Soak
51
140
Adsorption Mass [kg/m3]3]
120
100
80
60
40
20
0
0.00
0.10
0.20
Relative Pressure, P/PS [-]
0.30
Fig.3-4 Isotherm of n-butane and activated carbon in test canister (measured at 313K)
2500
n-Butane Concentration
Breakthrogh [ppmC]
of Breakthrough
[ppm]
2000
1500
1000
500
0
0
1
2
3
Charge Weight, Mc [g]
Fig.3-5 n-Butane concentration of breakthrough at charge weight for L/D=4.0 Canisters after purge
(■) and after (■) 24h soak
52
Wagner 式より 244kPa と計算されることを考慮すると,約 0.8kPa 平衡状態での n-ブタン分
圧が上昇したことになり,大気圧を 101.3kPa とすると約 810ppm の濃度差になる.
図 3-5 には L/D=4.0 のキャニスターを用いて,パージ過程終了直後に破過特性を取得した
ときと,パージ過程終了後に 24 時間のソーク過程を経て破過特性を取得したときの,チャ
ージ量に対する破過ガス中の n-ブタン濃度推移を示す.初期破過速度として定義したチャ
ージ量 2g での n-ブタン濃度差は約 960ppm であり,ソーク過程の前後におけるドレン側第
4 吸着材層の吸着量増加と吸着等温線から予測される n-ブタン分圧の上昇分とから考えら
れる濃度差に匹敵する.このことから微少破過量はチャージ直前の,ソーク過程における
拡散移動量を含めた,ドレン側吸着材層の吸着平衡状態に支配されていると考えられる.
After Purge ( Before Soak )
n-Butane Adsorption Mass [kg/m3]
3
(Calculation)
Adsorption
Mass [kg/m ]
120
Charge/Purge Port
After Soak
Drain Port
100
80
60
40
20
0
1
2
3
4
Number of Adsorbent Bed
Fig.3-6 The distribution of n-butane adsorption mass (calculation value of excluding the adsorption
mass after stabilization from the total adsorption mass) inside the test canister (4 adsorbent
beds) before and after soak
53
また,DBL テストにおいて微少破過する主成分が n-ブタンであったことを考慮し(図 2-2
参照),図 3-3(a)より求められる,ガソリン蒸気を用いた吸脱着繰り返しでの性能安定化によ
る吸着量の増加を除いて,n-ブタンチャージ・パージにより与えられた,n-ブタン成分単独の
吸着量として,ソーク前後での n-ブタン吸着量分布推移を見ると図 3-6 となる.キャニスター
内部に 4 つある吸着材層のうち,チャージ/パージ側から第 3 層目を中心として,チャージ/
パージ側吸着材層(第 1・2 吸着材層)の吸着量は減少し,ドレン側吸着材層の吸着量が増加
しているのは,総炭化水素量で比較した図 3-3(b)と変わらない.しかしながら,算出された nブタンのみの吸着量勾配を推進力として,ドレン側へ残存した n-ブタンが拡散移動し,第 4
吸着材層の吸着量が増加したとは考えにくい.そこで,ガソリン蒸気の吸脱着繰り返しによる
性能安定化を行わず,n-ブタン単成分の吸着量推移がどのように変化するか検証をおこなった.
3.3.2.
単成分ガス吸着時の吸着分布
キャニスターの内部にて起こる拡散移動現象が,ガソリン蒸気を用いて性能安定化処理
を行うキャニスター特有のものか否か,推進力となっているであろう吸着量勾配をどのよ
うに考えればよいのか,この 2 点を確認するために,ガソリン蒸気の吸脱着による性能安
定化を行わずに,n-ブタンの吸脱着,ソークを行ったときの吸着量分布推移を確認した.各
過程におけるキャニスター内部の吸着量分布測定結果を図 3-7 に示す.図 3-7(b)よりパージ
終了直後と 24hソーク後の吸着量分布を比較すると,残存したn-ブタン総量の 3.6%程度が拡
散し,ドレン側の第 4 吸着材層の吸着量が 0.32g増加していることが確認できた.これは前
項で述べたガソリン蒸気吸脱着による性能安定化後に同様の実験を行ったときの値(残存
炭化水素総量のうちの 2.5%)と比較して 1.1 ポイントほど大きい.ドレン側第 4 吸着材層
における単位体積あたりの吸着量の増加分としてみても,ガソリン蒸気吸脱着による残存
を含めた場合の 5.4kg/m3増加に対し,性能安定化を行わないn-ブタン単成分での値は
6.4kg/m3増加となる.
54
(a)
n-Butane Adsorption Mass
Mass [kg/m3
[kg/m3]
120
After n-Butane Charge
Charge/Purge Port
Drain Port
100
80
60
40
20
0
1
2
3
4
Number of Adsorbent Bed
(b)
3]
n-Butane
n-ButaneAdsorption
Adsorption Mass
Mass [kg/m
[kg/m3]
120
Charge/Purge Port
After Purge ( Before Soak )
After Soak
Drain Port
100
80
60
40
20
0
1
2
3
4
Number of Adsorbent Bed
Fig.3-7 The distribution of n-butane adsorption mass inside the test canister (4 adsorbent beds) at
each adsorption and desorption process (without stabilization)
(a) After n-butane charge, (b) After purge and After Soak
55
移動量の値は異なるが,ガソリン蒸気の吸脱着による性能安定化実施の有無を問わず,
ソークにおいて残存した炭化水素の拡散移動が起こることが確認できた.そこで性能安定
化実施の有無によって,ドレン側の第 4 吸着材層の吸着量増加に大きな違いが現れない原
因を究明するため,図 3-8 にてソーク直前における残存炭化水素の分布を比較した.
各吸着材層における単位体積あたりの吸着量で比較すると(図 3-8(a)),性能安定化過程
におけるガソリン蒸気吸脱着での残存吸着量が反映されるためか,性能安定化の有無で値
は大きく異なっている.しかしながら,キャニスターに残存した総量に対する比として,
各吸着材層の分布を計算して比較すると(図 3-8(b)),残存総量に対する各吸着材層の残存
量比は,第 1 から第 4 の全ての吸着材層で性能安定化による違いが見られず,第 1 から第 4
に向けた減少傾向もほぼ同じであった.これは今回の試験条件において,ソーク前におけ
る炭化水素の濃度勾配が,性能安定化実施の有無で変化しなかったことを示唆している.
上述したように拡散移動量が同じで,図 3-8 より拡散の推進力として働く濃度勾配
も同じであるとすると,必然的に拡散係数も同じと考えられる.少なくとも今回の吸
脱着条件下では,性能安定化実施の有無により,拡散係数にも違いが無いことを確認
するため,第 2 章の試験方法により初期破過速度のソーク時間依存性を,性能安定化
実施の有無で比較した.図 3-9 には L/D=4.0 キャニスターでの結果を,図 3-10 には
L/D=5.0 キャニスターで取得した結果を示す.キャニスター吸着材層の L/D が 4.0, 5.0
のいずれにおいても,微少破過の大きさを表す初期破過速度のソーク時間増加に対す
る傾きは,性能安定化実施の有無によって違いが見られない.これはソーク過程にお
ける単位時間当たりの拡散移動量には差が無いことを示し,すなわち今回の吸脱着条
件では,性能安定化実施の有無が吸着層内の吸着質拡散係数に影響を与えなかったこ
とを示唆している.
56
(a)
120
Charge/Purge Port
Before Soak without Stabilization
Before Soak with Stabilization
Drain Port
Adsorption Mass [kg/m3]
100
80
60
40
20
0
1
2
3
4
Number of Adsorbent Bed
(b)
Remained Hydrocarbon Ratio [-]
50
Charge/Purge Port
Before Soak without Stabilization
Before Soak with Stabilization
Drain Port
40
30
20
10
0
1
2
3
4
Number of Adsorbent Bed
Fig.3-8 Comparison of distributions adsorption mass (a) and remained hydrocarbon ratio (b) inside
the test canister (4 adsorbent beds) between with/without stabilization before soak
57
Initial Breakthrough Ratio [mg/s]
0.1
0.01
0.001
1
10
100
1000
Soak Time [h]
Fig.3-9 Comparison of relationships between soak time and initial breakthrough ratio for L/D=4.0
canisters that have been stabilized (◆) and canisters that have not been stabilized (▲)
Initial Breakthrough Ratio [mg/s]
0.1
0.01
0.001
1
10
100
1000
Soak Time [h]
Fig.3-10 Comparison of relationships between soak time and initial breakthrough ratio for L/D=5.0
canisters that have been stabilized (◆) and canisters that have not been stabilized (▲)
58
3.4
まとめ
本章では残存炭化水素の拡散挙動を明確化するため,キャニスターを流れ方向断面で分
割した微小体積の連続として捉え,その断面層間の移動量を吸着量分布の推移から考察し
ていった.4 分割された吸着材層をもつキャニスターの吸着量分布を,チャージ・パージ,
ソークの各過程で測定することにより,下記が明らかになった.
1)ソーク過程においてチャージ/パージ側吸着材層の吸着量は減少し,ドレン側吸着
材層の吸着量は増加する方向へ,炭化水素の拡散がおこる
2)ドレン側への炭化水素拡散量より微少破過量の増加も裏付けられる
3)性能安定化におけるガソリン蒸気の残存吸着量も考慮して,全炭化水素の残存総量
から吸着量勾配を求め,濃度勾配を求める必要がある
4)性能安定化実施の有無によらず,ソーク過程における炭化水素の拡散移動が起こる
5)性能安定化実施の有無によらず,炭化水素の濃度勾配が同じであれば,拡散量が同
じであり,拡散係数も同じと考えられる
以上の検討結果から,キャニスターの吸着材層内における炭化水素の総括的な拡散係数
は,活性炭層内の n-ブタン拡散係数を求めることにより導出できる可能性が高い.よって
第 4 章では,n-ブタン・窒素の 2 成分系にて実験を簡素化して n-ブタン拡散係数を求め,キ
ャニスターへの適用可否について検討を進めていくこととした.
59
第4章
キャニスターにおける燃料蒸発ガスの
拡散挙動に関する研究
研究の目的
4.1
前章までの研究結果により,キャニスターの微少破過が炭化水素の拡散挙動と密接な関
係を持つこと,キャニスター内部においてソーク過程の前後で吸着量分布が変化すること
など,キャニスターの微少破過原因を明確にしてきた.また,性能安定化実施の有無での
吸着量分布推移および破過速度のソーク時間依存性から,活性炭充填層内における n-ブタ
ンの拡散係数を求めることにより,キャニスター吸着材層内の炭化水素拡散係数へ展開で
きる可能性がある.そこで,本章では n-ブタン・窒素の 2 成分系にて n-ブタン単成分の拡
散移動速度を導出し,キャニスター吸着材層内部における残存炭化水素の総括的な拡散係
数への適用,および破過量の定量的予測手法としての可能性について検証を行った.
吸着材層におけるブタンガスの拡散挙動評価
4.2
本項ではキャニスターの吸着材層における燃料蒸発ガスの拡散挙動を明確にするため,
燃料蒸発ガスの主成分であるn-ブタンと,空気の主成分である窒素との 2 成分系にて,拡散
実験を行った.吸着平衡状態にある活性炭充填層内からの脱着を伴うブタンの拡散移動速
度Jを求めることにより,第 3 章にて仮定した吸着材層のモデルを用いて,吸脱着に伴うさ
まざまな拡散を含む総括的な拡散係数DEが明確化できると考えられる.
4.2.1
2 成分系ガスの拡散実験装置と方法
拡散実験装置
実験装置の概略を図 4-1 に示す.40℃に設定した 3 つの恒温器を設置し,恒温器内にステ
ンレス製の各容器(容器 A,B,C)を配置した.容器 A と容器 C は半円筒状であり内径は
50mm,外径は 75mm,内側の長さは 100mm,外側の長さは 106mm である.容器 B は円筒
状であり内径,外径は同じく 50mm,75mm,長さは 60mm である.
60
容器 A 及び容器 C には n-ブタンガスボンベ,窒素ガスボンベ,真空ポンプを接続し,そ
れぞれの間には電磁弁を設置した.また,T 型熱電対,圧力トランスミッタ,ガスクロマト
グラフ(検出器:Thermal Conductivity Detector)を接続し,容器内の温度を 0.1℃単位で,
圧力を 10Pa 単位で,n-ブタン・窒素それぞれの濃度を 0.1%単位で計測することを可能にし
た.容器 B には圧力トランスミッタを接続し,吸着材層内の圧力を計測する.
それぞれの恒温器内の容器を内径 50mm,外径 75mm のステンレス製配管で繋ぎ,恒温器
外に露出している部分には断熱材を巻き,大気間との熱移動を遮断した.配管と容器の接
続には O-リングとクランプを用い,脱気時においても接続部からの気体の漏洩が無いよう
Incubator A
Gate B
Gate A
にした.
n-Butane
Incubator B
Incubator C
Compressor
Nitrogen
Vacuum pump
: Pressure sensor
: Thermo sensor
: Electromagnetic valve
GC (TCD)
Case A
Case B
Case C
Activated carbon
was packed
Fig.4-1 Overview of experiment equipment for the quantification of n-butane diffusion
61
ステンレス製配管と容器Bを繋ぐ部分には,容器Bの両側に圧空式ゲートバルブ(バルブ
A,B)を接続し,電磁弁,コンプレッサーを接続した.容器B内には,前章までと同じ新
品の活性炭(図 2-4 参照)46×10-6 m3を精量して充填容器につめた後,挿入する.容器は
アセタール製の筒状容器であり,両側にステンレスメッシュをはさみ,ネジで挟み込む事
で活性炭を保持するものである.充填容器の内径は 36mm,充填部分の長さは 45mmであ
る.
拡散試験方法
まず,全ての容器を真空状態とし,容器 C には 101.3kPa の窒素を充填しておく.
①
吸着過程
容器 A・B は1h 真空引きした後,容器 A には n-ブタンを 101.3kPa になるよう注入
し,ゲート A を 1s だけ開け,圧力変化を測定.容器 B 内の圧力変化が見られなくなっ
たら,吸着平衡とする.容器 A に再び n-ブタンを注入し,101.3kPa に戻して,再びゲ
ート A を 1s だけ開ける.この操作を容器 A,B 間の圧力移動が見られなくなるまで繰
り返し行う.この時,容器 B の吸着層を 101.3kPa における吸着平衡状態とみなす.
②
拡散過程
吸着過程を終えた後,ゲート B を 1000s 開放し,圧力変化を測定する.ゲート B 閉
鎖後,ガスクロマトグラフ(検出器:TCD)にて容器 C 内のブタン及び窒素の濃度を
測定し,真空ポンプを用いて容器 C 内の圧力が 101.3kPa となるよう調整した.その後,
上記吸着過程を行い,再び容器 B 内活性炭を 101.3kPa における吸着平衡状態にする.
再度ゲート B を 1000s 開放し,圧力変化を測定.上記操作を 13 回繰り返し,容器 C 内
の圧力変化,濃度変化を基に拡散量を算出することとした.
62
4.2.2
結果と考察
拡散過程での圧力変化
各繰り返し回数における,拡散過程でのゲート B 開放時間に対する容器 C 内の圧力変化
を図 4-2 に示す.
30
Increse Puressure [kPa]
25
20
15
10
5
0
0
200
400
600
800
1000
Time [s]
Fig.4-2 Pressure change in case C with respect to open time of gate B in each repetition of diffusion
process (1st time:◆, 4th time:▲, 7th time:◇, 10th time:△, 13th time:*)
63
図 4-2 ではいずれの繰り返し回数においても容器 C の圧力がゲート開放時よりも増加し
ている.これは以下に記す n-ブタン・窒素の拡散および n-ブタンの脱着によって起こると
考える.
吸着過程終了後の容器 B(吸着材層)は,n-ブタン 101.3kPa の吸着平衡状態になってい
る.ゲート B が開放されると,n-ブタンと窒素の混合気体が 101.3kPa 充填されている容器
C と容器 B がつながる.これにより,容器 B へは窒素が拡散するため,n-ブタン分圧が減
少し,容器 B では吸着材層から n-ブタンの脱着が起こる.さらに容器 B で脱着した n-ブタ
ンが拡散し,容器 C へと移動することで,容器 C の圧力が上昇していく.このようなメカ
ニズムで,ゲート B の開放と共に容器 B と容器 C の圧力は共に上昇し,その中で n-ブタン
は容器 B から C へ,窒素は容器 C から B へと拡散が起きていると考える.
ここで,窒素は使用した活性炭に吸着されないと仮定すると,図 4-2 の圧力上昇分より
n-ブタンの脱着量及び拡散量の算出が可能となる.
拡散過程での濃度変化
続いて各繰り返し回数での拡散過程終了後の容器 C の濃度変化を図 4-3 に示す.拡散過
程を繰り返すほどに n-ブタン濃度は 100vol%へ,窒素濃度は 0vol%へ漸近していくことがわ
かる.また,その変化量は繰り返し回数が増すほど少なくなっていることが解る.これは
容器 C 内の n-ブタン濃度が上昇し,容器 B との n-ブタン分圧差が小さくなるためである.
64
100
90
80
Concentration [vol%]
70
60
50
40
30
20
10
0
0
2
4
6
8
10
12
14
Number of Repetition
Fig.4-3 The n-butane concentration (◆) and the nitrogen concentration (◇) in the case C after
the diffusion process has finished
拡散量の算出
以上の結果から,今回の実験系での容器Bと容器Cのn-ブタン分圧比PC/PBに対する 1000s
B
でのn-ブタンの拡散量を算出した.その結果を図 4-4 に示す.図 4-4 における容器Bと容器C
のn-ブタン分圧比に対する拡散移動量の傾きから,今回の実験系での容器Bから容器Cへの
n-ブタン拡散移動速度は 1.4×10-5 mol/s であることが確認できた.
65
16
Diffusion Volume of n-Butane [mmol]
14
12
10
8
6
4
2
0
0.0
0.2
0.4
0.6
0.8
1.0
Partial Pressure Ratio of n-Butane, PC/PB [-]
Fig.4-4 Diffusion volume of n-butane from case B to case C due to difference in partial pressure
ratio of n-butane between cases B and C
今回の n-ブタン・窒素 2 成分系における拡散実験により,吸着材層からの n-ブタン脱着・
拡散移動速度を求めることができた.続いてキャニスターにおいて,この n-ブタン拡散移
動速度を適用して吸着材層における拡散移動量を推定すること,更には拡散移動量から破
過量を推測すること,それぞれの妥当性について検証することとした.
66
吸着分布を加味した拡散挙動の検証
4.3
キャニスターのソーク過程における炭化水素の拡散挙動定量化を完成させるためには,
第 3 章にて明らかにした吸着量勾配のほかに,拡散係数の導出が必要と考え,前項では nブタン・窒素 2 成分系での拡散実験を行い,n-ブタン拡散移動速度を求めた.本項では,こ
れまでに導出された結果を用いてキャニスターのソーク過程における挙動を机上にて検討
し,実際の試験結果に対する整合を図ることで,キャニスターからの微少破過量を定量的
に推算する手法としての妥当性を検証する.
4.3.1
拡散量の計算方法
計算手法と仮定条件
キャニスター内部の拡散量計算にあたって,第 3 章で提案した,キャニスターの吸着材
層を流れ方向に分割し,連続した断面層間における炭化水素の拡散移動として解明してい
く.改めて,その計算モデル概念図を図 4-5 に示す.
Calculation Model
Test Canister
Thin
Adsorbent
Bed
Activated
Carbon Bed
ΔL
Non-woven
Fig.4-5 Image of test canister and calculation model
67
さらに,計算を進めていくに当って,以下の6つを仮定した.
1)炭化水素は n-ブタンで代表できるものとする.
2)吸着材保持に使用した不織布などの移動抵抗,及び占有された体積は無視できる.
3)吸着材はモデル化した微小体積に対して十分に小さく,一様に充填されている.
4)キャニスター内部及び吸着材粒子内温度は常に一定であり,熱移動は無視できる.
5)キャニスター内部の流れ方向に垂直な断面では物理量が一様である.
(1 次元モデル)
6)各微小体積内は常に充填された吸着材の吸着量に応じた吸着平衡状態になっている.
特に6)を仮定することによって,吸脱着に伴うさまざまな拡散係数が総括的な拡散係
数DEに含まれることになる.従って,吸着材を含む実験系ではあるが物質移動を微小体積
間の濃度勾配による拡散移動だけとして,Fickの拡散式により拡散係数を導出している.
計算の初期条件
ソーク過程での吸着質の拡散量を計算するにあたって,微小体積の大きさを検討してい
く必要がある.第 3 章では実験的な精度と再現性を優先して 4 分割(ΔL=40mm)としてい
たが,本章では,より微小な体積へ分割することとした.分割数を増やすことに伴い,パ
ージ終了後(ソーク過程直前)の吸着量分布をより連続的に求める必要がある.吸着材層
内部の連続的な吸着量分布を求める方法として,n-ブタンの吸脱着性能より計算する手法25)
なども考えられるが,今回は試験キャニスターのパージ過程にて重量測定を併せて行うこ
とで取得できるパージ曲線から推定を行った.図 4-6 にn-ブタンチャージ後のパージ過程に
て取得したパージ曲線を示す.ここではパージ効率η を{パージにより低下した重量q /
性能安定化にて吸着したものを含む,n-ブタンチャージ後の総炭化水素吸着量Q }として,
パージエアー量を吸着材層体積(Bed Volume)の倍率Bとして表記している.
68
図 4-6 のパージ試験結果を近似することにより与えられる実験式(η=F(B))を用いて,
各微小体積においても(2)式が成立すると仮定し,ドレン側からn番目の微小体積におけるパ
ージ量qnを算出した.
ηn = F (Bn) =
Bn
∑ qn
(2)
∑ Qn
VPurge / ∑ vn
=
1 ≦ n ≦
(3)
L
(4)
ΔL
(3)式にて,VPurge はパージ過程でキャニスターに供給されたパージエアー量,Σvn はn
番目までの微小体積の総和を示す.
100
90
Purge Efficiency, η [wt%]
80
70
60
50
40
30
20
10
0
0
200
400
Purge Air Volume / Adsorbent Bed Volume, B [-]
Fig.4-6 Hydrocarbon purge efficiency curve
69
600
図 4-7 にて,上記より算出した各微小体積のパージ後残存吸着量と,第 3 章にて実験的に
計測した吸着量分布を比較した.吸着量分布の計算結果は,実験結果に対して,吸着層全
体としてみるとよく一致している.但し,ドレン側近傍にて,計算結果では急激な吸着量
の低下が見られる.これには図 4-6 より近似した実験式が大きく影響していると考えられる.
微小体積の長さをΔL=1mmとして計算を行った場合(図 4-7 黒線参照),ドレン側近傍の微
小体積(n=1)にはB1=104程度のパージエアーが流れることとなり,今回の実験式ではパー
B
ジ効率η1はほぼ 1 となる.この結果ドレン側近傍で急激に吸着量が減少したと考える.微
小体積の長さをΔL=2mmとした計算結果(図 4-7 赤線参照)も,ドレン側近傍で急激な吸
着量の低下が確認できる.このことからより計算精度を改善するためには,計算する微小
体積の大きさではなく,図 4-6 においてより大きいBの値までを実験的に取得し,近似式を
改善していく必要性があると考えられる.
120
Charge / Purge Port
Drain Port
3
Adsroption Mass [kg/m ] .
100
80
60
Experiment
40
Calculation (ΔL=1mm)
Calculation (ΔL=2mm)
20
0
0
40
80
120
L [mm]
Fig.4-7 The distribution of adsorption mass inside the test canister before soak
70
160
図 4-7 に示した計算結果は改善すべき余地を含んでいるが,全体的には各微小体積におけ
るパージ過程後の吸着量分布を再現できていると考え,ΔL=1mm とした計算結果を初期状
態とし,拡散量の計算を行った.
4.3.2
結果と考察
n-ブタン移動速度の検証
前項までの仮定に基づき,チャージ/パージ側よりm番目の微小体積からm+1 番目への拡
散移動速度Jmは,Fickの拡散式より,キャニスター内部の濃度勾配∂C/∂Lとキャニスター
の吸着材層断面積Aによって(5)式のように与えられる.
∂C
Jm = - DE × A ×
(5)
∂L
(5)式から試行錯誤法によって総括的な拡散係数DEを求め,計算したソーク後の吸着量
分布と,実験により得られた吸着量分布を図 4-8 に示す.
図 4-8 をみると,計算結果は実験結果に非常によく一致しているが,第 3 吸着材層(80mm
<L≦120mm)を中心として,ドレン側第 4 吸着材層(120mm<L≦160mm)の計算結果は
実験結果より少なく,第 1・2 吸着材層(0mm<L≦40mm, 40mm<L≦80mm)の計算結果は
実験結果より多くなっている.これは,実験により得られた吸着量分布が吸着材層長さ L
に対して非常に偏差の少ない直線近似ができるのに対して,計算結果は変曲点を持つ曲線
になっているためである.図 3-4 に示した吸着等温線や,図 4-6 に示したパージ曲線などを
考慮すると,吸着量分布も直線的なものが得られるとは考えにくく,曲線になると考えら
れる.また,前項の図 4-7 においても第 4 吸着材層では実験結果と計算結果に乖離がみられ
ていたことから,特に第 4 吸着材層について細分化した実験検証を行うことで,より理論
の特性が現れるのではないかと推定する.
71
120
Charge / Purge Port
Drain Port
3
Adsorption Mass [kg/m ]
100
80
60
40
Experiment
Calculation
20
0
0
40
80
L [mm]
120
160
Fig.4-8 The distribution of adsorption mass inside the test canister after soak
続いて図 4-9 に,大気中のn-ブタン拡散係数(0.875×10-5[m2/s]38))より算出した拡散移
動速度,4.2 項で求めたn-ブタン・窒素 2 成分系にてn-ブタンを 1 気圧で吸着平衡状態にあ
る活性炭充填層からのn-ブタン拡散移動速度,図 4-8 に計算結果を示した試行錯誤法により
得られたキャニスター内部の総括的なn-ブタン拡散移動速度,活性炭におけるn-ブタンの表
面拡散速度33)をそれぞれ比較した.(5)式に大気中のブタン拡散係数を代入してソーク後の
吸着量分布を計算した場合,ソーク開始後 1 時間程度でキャニスター内部の濃度勾配がほ
ぼなくなる.図 4-8 に計算結果を示したキャニスターの吸着材層における総括的な拡散係数
は,大気中の拡散係数よりも非常に小さく,活性炭における表面拡散係数に近い値であっ
た.今回導出した総括的な拡散係数が小さくなった要因は,大気中の拡散,吸着材が立体
障害として働く影響,吸脱着に伴う表面拡散・境膜拡散の影響など,複数の影響要素を含
72
めていることが原因だと考えられる.特に表面拡散係数に近い値であったことから,吸着
材層における拡散に表面拡散が与える影響は大きいと考えられる.
Diffusion Speed, J [mol/s]
10-3
10-4
10-5
10-6
10-7
In the air
Calculation
Result of
n-Butane
Diffusion
Calculation
Result in
Canister
On the
surface of
adsorbent
Fig.4-9 Comparison of the diffusion speed
さらに,n-ブタン・窒素 2 成分系での活性炭充填層における n-ブタン拡散移動速度から求
めた拡散係数に対しても本項で導出した総括的な拡散係数が小さくなった要因として,4.2
項の n-ブタン・窒素 2 成分系実験では圧力変化を伴っていたことが考えられる.脱着に伴
い圧力変動が発生するため,4.2 項で導出した n-ブタン分圧 101.3kPa の吸着平衡状態からの
拡散係数と,本項で導出した n-ブタン分圧が 2~12kPa の吸着平衡状態(図 3-4 参照)から
の拡散係数とに違いが見られたと考える.
73
微少破過量予測手法としての検証
本項で試行錯誤法により導出された総括的な拡散係数を用いて,第 2 章で実験的検討を
行った形状の異なるキャニスター(L/D=3.0, 4.0, 5.0)におけるソーク過程での拡散移動量を
計算し,ソーク終了後のドレン側吸着量を求めた.図 4-10 にドレン側吸着量の計算結果と
初期破過速度の測定結果を示す.ソーク過程後ドレン側吸着量の計算結果と初期破過速度
測定結果の間には相関がみられており,初期破過速度はドレン側吸着量の 0.86 乗に比例し
ている.このことからソーク過程における拡散量と破過量には相関性があり,更には今回
提案した拡散量の計算方法及び拡散量からの微少破過量予測手法がキャニスターに適用で
きる可能性を示している.
Initial Breakthrough Ratio [mg/s]
0.1
0.01
0.001
20
25
30
35
40
45
50
3
Adsorption Mass of Drain Side after Soak [kg/m ]
Fig.4-10 Relationship between adsorption Mass of drain side after soak (calculation) and initial
breakthrough ratio (experiment)
74
4.4
まとめ
本章では,前章までの検討結果を受けて,n-ブタン・窒素 2 成分系での拡散移動速度を取
得し,キャニスターの吸着材層を流れ方向に分割した微小体積モデルを使用して,拡散量
の計算と微少破過量予測手法としての妥当性を検証した.
n-ブタン・窒素 2 成分系での実験的検討結果から,101.3kPaの吸着平衡状態にある吸着材
層からのブタン拡散移動速度は 1.4×10-5 mol/sであることが確認された.このn-ブタン拡散
移動速度より求められる拡散係数に対して,キャニスターの吸着量勾配から推定される濃
度勾配を元に,試行錯誤法によってキャニスター内の吸着材層における拡散係数を導出す
ると,それらの値には乖離が見られた.これは脱着に伴う圧力変動が大きく影響したため
と考えられる.しかしながら,今回導出された拡散係数はいずれも,大気中の拡散係数に
対して非常に遅く,吸脱着に伴う吸着材での表面拡散係数に近い値であった.このことか
ら,吸着材層における吸着質の拡散速度は,吸着材の吸脱着速度が与える影響が大きいと
考えられ,すなわち吸着材に対する固有値である可能性が高い.また今回求めた拡散係数
は,他にも境膜拡散の影響など,複数の影響要素が含まれた総括的な拡散係数であり,今
後さらに各影響度を細分化し検討していく必要性も含んでいる.
上述した課題はあるが,総括的な拡散係数として捉え計算した拡散移動量と実験的に得
られた微少破過量には相関性がみられ,初期破過速度はドレン側吸着量の 0.86 乗に比例し
ており,計算的予測手法として適用できる可能性を見出した.今後,実際のキャニスター
設計開発へ適用を行っていく価値は十分にあると考える.
75
第5章
自動車用燃料の多様化に対応する
吸着技術の研究
5.1
研究の目的
これまで,キャニスターの吸着機能を高度化させるために,炭化水素を主成分とする燃
料蒸発ガスを吸着した際の微少破過挙動を明確にしてきた.しかし,近年の環境問題に対
応するため,化石燃料を主体としてきた自動車用燃料も,バイオエタノールの混合など多
様化する傾向を示している39).現在,バイオ燃料自身にも,食糧問題への影響,経済性,燃
料性状の変化による既存自動車の排気悪化など課題は残されているが40),バイオエタノール
をガソリンに混合することによって,以下のような利点がある41)42).
1)バイオマスエタノールとして植物から製造することが可能であるため,カーボンニ
ュートラルである.
2)オクタン価が高くエンジンの圧縮比を向上できる.
キャニスターにとって吸着質が多様化することは非常に大きな課題となることが容易に
予測され,これまでにもエタノール混合ガソリンが与えるキャニスターへの影響について,
いくつかの報告がなされている26)27).そこで本章では,炭化水素以外の吸着質としてエタ
ノールが含まれる,エタノール混合ガソリンを題材とし,自動車用燃料の多様化に起因す
るキャニスターの課題と,対応する吸着技術の可能性について検討した.
76
5.2
5.2.1
エタノール混合燃料での影響分析
実験装置と方法
雰囲気温度 25℃,相対湿度 40%Rh に調整した試験室内にて図 5-1 に示す実験装置を用
い,エタノール混合ガソリン蒸気の吸着脱離試験を行った.
Air
Air pump
: Switching (3-way) valve
Purge
Volume flow
measurement
Volume flow
measurement
Purge
Charge
Charge
Fuel
Trap
Nitrogen
Water bath
(30±0.5℃)
Canister
Fig.5-1 The test circuit used for measurement of working capacity (ethanol mixed gasoline vapor
adsorption and desorption)
第 2 章で詳細を記述したキャニスター用の汎用活性炭(図 2-4 参照)20×10-6m3を容器に
入れ,30℃の恒温水槽によって温度調節した 300×10-6m3のエタノール混合ガソリンを 2.34
×10-3m3/hの窒素でバブリングして蒸発を促進させたのち,過剰の蒸気を凝集させることで
25℃の飽和蒸気として吸着質とし,試験キャニスターの下流側に設けた活性炭を封入した
トラップの増加重量が 2.0gを越えるまで,試験キャニスターへ燃料蒸気をチャージした.
その後,切り替え用 3 方バルブにより流路を切り替え,エアーポンプによって発生する負
圧を用いて,試験室内の大気を 18×10-3m3/hの流量にて,試験キャニスターへ 0.333h 送気
77
してパージを行った.このチャージ・パージ過程を 6 サイクル繰り返し行い,4 から 6 サイ
クル目のチャージ量とパージ量を平均して有効吸着量(Working Capacity)とした.
5.2.2
結果と課題
燃料蒸気成分の変化
前述した実験方法に従い発生した燃料蒸気をガスクロマトグラフ(検出器: FID,島津製
作所㈱製GC-14A)をもちいて分析した結果を図 5-2 に示す.ここでFIDに対するエタノール
の相対重量感度が炭化水素の相対重量感度と異なる43)ことを考慮し,成分比率の計算に当っ
て,エタノールの検出ピークのみ 2.2 倍とする補正を行っている.
C7~C12
100
C6
C6
Composition [wt%]
C6
80
C5
60
C5
C5
40
20
C4
C4
C4
Ethanol
0
Gasoline
1
(E0)
E10
2
Fig.5-2 Vapor composition of ethanol mixed gasoline
78
E85
3
今回使用したガソリン(RVP=54kPa)の蒸気成分は炭素数 4 の炭化水素成分(以下,C4)
からC6 が 95%を占めており,以前報告されている組成に近い18).これに対して,エタノー
ルを 10vol%混合したガソリン(以下,E10)及びエタノールを 85vol%混合したガソリン(以
下,E85)の蒸気成分からはエタノールがそれぞれ 5wt%,15wt%検出されている.エタノ
ールの蒸気圧を考慮すると,エタノールの混合比に対して蒸気成分に占める比率が高く,
理想溶液に対して正のずれを示すことが伺える.よって,エタノールとガソリンの分子間
引力は小さいと考えられる.
活性炭の有効吸着量への影響
ガソリン燃料へのエタノール混合率に対する,有効吸着量の推移を検証した.その結果を
図 5-3 に示す.燃料中のエタノール混合率が増加すると共に有効吸着量は低下した.
Working Capacity
Capacity[kg/m3
[kg/m3]
Working
100
80
60
40
20
0
0
20
40
60
80
Ethanol Ratio in Liquied Fuel [vol%]
Fig.5-3 Relationship between ethanol fraction in fuel and working capacity
79
100
今回の試験条件にて,使用した活性炭のエタノール有効吸着量は 35kg/m3であり,ガソリ
ン(以下,E0)の有効吸着量 67kg/m3に対しておよそ半減している.E85 の有効吸着量 50kg/m3
は,E0 の有効吸着量に対して約 30%程の低下であるが,蒸気成分中には 15wt%程度しか含
まれていないことを考慮すると,エタノールは多大な影響を与えているといえる.
破過成分への影響
有効吸着量が低下した原因を探るため,図 5-4 に E85 燃料蒸気と吸脱着させた活性炭から
の破過成分を,上述したガスクロマトグラフを用いた方法により分析した結果を示す.
C7~C12
100
C6
Composition [wt%]
80
60
C5
C5
C4
40
C4
20
Ethanol
0
Charged1 Vapor
Breakthrough
2
Fig.5-4 The comparison between charged vapor and breakthrough composition
チャージされる E85 燃料蒸気の成分比に対して破過成分では,C4 が約 5 ポイント,エタ
ノールが約 15 ポイント増加しており,他の成分は減少している.このことから,エタノー
ルは炭化水素に対して,活性炭に吸着されにくいと考えられる.
80
吸脱着繰り返しによる残存量の推移
更に有効吸着量が低下した原因を探るため,図 5-5 に E0(ガソリン)と E85 それぞれの
吸脱着を繰り返したときの,活性炭の重量推移を示した.チャージ後における活性炭の増
加重量(各吸脱回数における極大点),つまり総吸着量は E0,E85 ともにほぼ同じである.
これは破過成分としてエタノールが増加するが,同時に発生する炭化水素成分は吸着でき
るため,2.0g 破過するまでの吸着量に大きな違いがないことを示している.それに対して,
パージ後の増加重量(各吸脱回数における極小点),つまり残存量は E85 が E0 に対して大
きいことが確認できる.このことから,有効吸着量が大きく低下した主要因は,パージ後
における残存量の増大と考えられる.
140
3
Adsorption Mass [kg/m ]
120
100
80
60
40
20
0
0
1
2
3
Number of Cycles
4
5
Fig.5-5 Cyclic profiles of E0 (○) or E85 (◆)adsorption mass by activated carbon
81
6
エタノールの有効吸着直径に関する検討
エタノールの有効吸着直径を確認するため,ことなる細孔分布をもつ複数の活性炭にて,
エタノールの有効吸着量を測定した.図 5-6 では,縦軸に活性炭充填層単位容積当りのエタ
ノール有効吸着量,横軸に活性炭充填層単位容積当りに占める直径 1~100nmの細孔容積比
(図 5-6(a))と直径 3.0~4.5nmの細孔容積比(図 5-6(b))で結果をまとめた.図 5-6(a)にお
いて,全体の細孔容積が増加するにつれてエタノールの有効吸着量も増加していることが
伺える.ガソリンから発生する炭化水素に対する有効吸着直径は 2.5~4.0nmであることが
報告されており17),これまでの結果からエタノールは脱離性に課題があることを考慮すると,
より細孔直径の大きい領域が有効吸着直径となる可能性が高い.そこで,直径 3.0~4.5nm
の細孔容積比を横軸とした図 5-6(b)をみると,図 5-6(a)と比較してより偏差の小さい正の相
関をしめすことから,本研究で行った実験条件でのエタノール有効吸着直径は 3.0~4.5nm
であることが推定される.
ガソリン蒸気の主成分である,n-ブタンの理論粒子径が 0.469nmであるのに対し,エタノ
ールの理論粒子径は 0.453nmと若干小さい44).しかしながら,エタノールの有効吸着直径
が,理論粒子径の大きいガソリン蒸気の有効吸着直径よりも大きくなった理由として,エ
タノールの分子構造から考えられる性質がある.エタノール分子は水酸基を持つため,水
素結合によりエタノール分子同士の相互作用は強く働く.よって,吸着された状態におい
て分子同士の相互作用が強いエタノールは脱着され難くなり,有効吸着直径は大きくなっ
たと考える.エタノールの有効吸着直径が大きいため,ガソリン蒸気の吸脱着に適した細
孔分布をもつ活性炭では,前項で述べた残存量の増加が現れたと考えられる.
82
3
Ethanol
EthanolWorking
WorkingCapacity
Capacity[kg/m
[kg/m3]
(a)
45
40
35
30
25
20
0.00
0.05
0.10
0.15
0.20
0.25
0.30
pore Volume
volume ofofpore
The
cumulative Pore
The
Cumulative
Porediameter
Diameter
3
3
nm [m3/m3]
from
nm to
from11nm
to 100
100nm
[m /m ]
0.35
0.06
0.08
0.02
0.04
volume ofofpore
The
cumulative Pore
pore Volume
The
Cumulative
Porediameter
Diameter
3
3
to
4.5
nm
[m3/m3]
from
3.0
nm
from 3.0nm to 4.5nm [m /m ]
0.10
EthanolWorking
WorkingCapacity
Capacity[kg/m
[kg/m3
3
Ethanol
]
(b)
45
40
35
30
25
20
0.00
Fig.5-6 Relationship between the cumulative pore volume for pore diameter 1-100nm(a)or
3.0-4.5nm (b) and ethanol working capacity
83
課題のまとめ
活性炭をエタノール混合ガソリン用吸着材料として用いた場合,下記2つの課題があるこ
とがわかった.
1)エタノールは炭化水素に比べて吸着されにくく,破過しやすい
2)エタノールは脱着されにくく,E85 を吸脱着させると残存量が増加する
これらの課題に対する解決策について,引き続き検討を進めていった.
5.3
エタノール混合燃料対応吸着材の検討
本研究では,活性炭だけを用いて上述した課題を解決することは難しいと考え,エタノ
ール用吸着材料として,出発材料をシリカゲルとし検討を行った.
エタノール分子は,疎水性のエチル基と親水性の水酸基を持つ構造をしている.そこで,
吸着材表面をエタノールと同等な中間的性質にすることで,疎水性の表面をもつ活性炭30)よ
りも吸着能力を向上させようと試みた.具体的には,シリカゲル表面に存在する水酸基(シ
ラノール基)をエトキシル基へと置換する改質を行った吸着材(以下,開発シリカゲル)
を開発した.図 5-7 に開発シリカゲルの表面改質概念図を示す.
Si
O
O
C 2H 5
Si
O
Ethoxyl Group
Si
O
C 2H 5
H
Silanol Group
Si
(a) Chemical Modified Silica Gel
O
O
H
(b) Base Silica Gel
Developed Silica Gel
Fig.5-7 Image of the chemical modified silica gel (a) and base silica gel (b) surface
84
5.3.1
課題に対する対策の検討
本研究では表 5-1 に物性値を示す 3 種類の吸着材を用いて,エタノール混合燃料対応キャ
ニスターの吸着材層について検討を進めていった.前項でも使用したキャニスター用の汎
用的な活性炭(以下,AC1),有効吸着量の向上を狙い賦活を促進させて比表面積を増加さ
せた高性能活性炭(以下,AC2),及び開発シリカゲルである.
Table5-1 Physical properties of adsorbents
Activated carbon
Developed
Silica Gel
AC1
AC2
Test method
[kg/m ]
800
360
300
ASTM
D-2854
Relative
surface area
[×103m2/kg]
700
1250
2100
N2
adsorption
Pore volume
(1-100nm)
[×10-3m3/kg]
0.37
0.94
1.37
N2
adsorption
Sample
Apparent
density
3
ここで,比表面積,細孔容積,および細孔分布については液体窒素温度での窒素吸着法
により求めた30)31)32).細孔分布を比較するため,細孔直径dに対する,細孔容積Vを細孔直径
dの対数で微分した値(d V / d log d )を図 5-8 に示す.
85
1.4
logdd[×10-3m3/kg]
[×10-3m3/kg]
d dV/V/d
d log
1.2
1.0
0.8
0.6
0.4
0.2
0.0
1
10
Pore Diameter, d [nm]
100
Fig.5-8 Pore size distributions of developed silica gel (◆), standard activated carbon (AC1, △) and
high performance activated carbon (AC2, ■)
5.3.2
対策の検証結果と考察
シリカゲルの表面改質による疎水化とエタノール吸着能力
図 5-9 に 25℃で測定した,水蒸気に対する吸着等温線を示す.特に高濃度の水蒸気(相
対圧P/Psが 0.8~1.0 の範囲)において,表面改質前のシリカゲルに対して,平衡吸着量の低
下が確認できる.これは,シリカゲル表面に存在したシラノール基がエトキシル基に置換
されたことにより,水蒸気に対する吸着能力が低下したためと考える.図 5-10 には,同じ
く 25℃で測定した,エタノールに対する吸着等温線を示す.
86
Adsorption
[kg/m3]
Adsorption Mass
mass [kg/m3]
400
300
200
100
0
0.0
0.2
0.4
0.6
Relative Pressure,
Relative
Pressure, P/PS
P/P [-]
[-]
0.8
1.0
S
Fig.5-9 Isotherms of water and base silica gel (▲) or developed silica gel (◆)
(measured at 298K)
Adsorption
[kg/m3]
Adsorption Mass
mass [kg/m3]
400
300
200
100
0
0.0
0.2
0.4
0.6
Relative Pressure,
Relative
Pressure, P/PS
P/P [-]
[-]
0.8
S
Fig.5-10 Isotherms of ethanol and base silica gel (▲) or developed silica gel (◆)
(measured at 298K)
87
1.0
図 5-10 の結果から,相対圧 0.2 以上の高濃度領域では,表面改質前のシリカゲルと開発
シリカゲルのエタノール平衡吸着量がほぼ同等であることが確認できる.これは,エタノ
ールが疎水性,親水性の両官能基を有するため,シリカゲル表面のシラノール基をエトキ
シル基へ置換しても,吸着能力が低下しなかったためと考える.しかしながら,相対圧 0.2
以下の領域では,若干吸着量の低下が確認される.これは,表面改質を行った際の残渣に
よる影響と考えられ,低相対圧における吸着量の低下により,破過量が増加する可能性が
懸念される.そこで,エタノール混合ガソリン蒸気に対する吸着能力,特に破過成分の検
証を行っていった.
エタノール混合ガソリン蒸気に対する吸着能力
エタノール吸着材としての性能を確認するため,E85 の有効吸着量を確認した.吸脱着を
繰り返したときの重量推移を図 5-11 に示す.有効吸着量は,開発シリカゲル:47kg/m3,AC1:
50kg/m3,AC2:55kg/m3であった.
Adsorption Mass [kg/m3]
[kg/m3]
200
150
100
50
0
0
1
2
3
Number of
of Cycles
Cycles
Number
4
5
6
Fig.5-11 Cyclic profiles of E85 adsorption mass by AC1 (△), AC2 (■) or developed silica gel (◆)
88
有効吸着量だけで見ると,AC2 が E85 の吸脱着に最も有効な吸着材である.しかしなが
ら,図 5-11 を見ると,AC2 は AC1 に対して,吸着量も大きいが,残存量も多くなっている.
これは AC1 及び AC2 は吸着材表面の性質などには変化がないため,細孔容積に比例して吸
着量及び残存量が増えたためであると考える.
図 5-8 に示した細孔分布からは,開発シリカゲルはAC1 との比較でも,エタノールおよび
ガソリンの吸着に有効な細孔直径の領域における吸着材重量当りの細孔容積が少ないこと
がわかる.吸着材を充填した容積あたりの総細孔容積を比較しても,AC1:0.33m3/m3,AC2:
0.41m3/m3に対して,開発シリカゲル:0.30m3/m3となっている.しかしながら,その吸着量
と残存量はAC1 とほぼ同等となっている.これは開発シリカゲルが,可逆的な物理吸着を
しているが,その表面がエタノールに近い性質を有するため,吸着量および残存量が増加
したものと考える.但し,細孔容積の不足を完全に補うまでには至らず,有効吸着量は最
も少ない結果となった.
さらに E85 を吸着させたときの破過成分を比較した図 5-12 を見ると,その違いは明確で
ある.AC1 と AC2 との破過成分には大きな違いが見られないが,開発シリカゲルの破過成
分にはエタノールがほとんど無く,ガソリンに由来する C4,C5 などの炭化水素成分が 95%
以上を占めている.開発シリカゲルのエタノール吸着等温線(図 5-10 参照)により見られ
た低相対圧での吸着量低下から懸念されるエタノールの破過量増加は,活性炭からのエタ
ノール破過量と比較すると十分に小さく,開発シリカゲルがエタノール吸着に有効である
と言える.ただし,開発シリカゲルの破過成分に占める C4 の割合は非常に高く,不足して
いた有効吸着量を向上させるためには,C4 の吸着が必要不可欠ではないかと考えられる.
89
C7~C12
Breakthrough Composition [wt%]
100
80
C6
C6
C6
C5
C5
C5
C4
C4
Ethanol
Ethanol
AC1
2
AC2
3
60
40
C4
20
Ethanol
0
Developed
1
Silica Gel
Activated Carbon
Fig.5-12 The comparison of breakthrough composition during E85 vapor adsorption
キャニスターへの適用方法の検討
開発したシリカゲル系吸着材料だけでは,エタノールの破過は抑制されるが,絶対的な
細孔容積が不足し,エタノール混合ガソリン蒸気の,特に炭化水素に対する,有効吸着量
が不足していた.そこで,シリカゲル系吸着材料と炭化水素の有効吸着量が大きい活性炭
を組合せ,エタノール混合燃料対応キャニスターの吸着材として最適化を図った.
高性能活性炭 AC2 と開発シリカゲル,各々の造粒体を混合し,一つの吸着材層へ充填し
た試験キャニスターを用いて,E85 の有効吸着量を測定した結果を図 5-13 に示す.図 5-13
の結果から,AC2/開発シリカゲル=90/10(vol/vol)にて混合した吸着材料で,有効吸着量は
最大となり,AC2 単独での有効吸着量に対して約 10%向上した.
90
E85
[kg/m3]
E85Working
workingCapacity
capacity (g/dL)
70
60
50
40
30
0
20
40
60
80
100
Activated
CarbonMixing
Mixing Ratio
Activated
Carbon
Ratio[vol%]
[vol%]
Fig.5-13 Relationship between adsorbents mixing ratio and E85 working capacity
200
3]
Adsorption Mass
Mass [kg/m
[kg/m3
Adsorption
]
180
160
140
120
100
80
0
1
2
3
Number of
of Cycles
Cycles
Number
4
5
Fig.5-14 Cyclic profiles of E85 adsorption mass by AC2 (■) or mixed adsorbent (●)
91
6
最大値を示した混合吸着材料と AC2 単独の,E85 吸脱着時の重量推移を図 5-14 に記載す
る.吸着量については混合吸着材料と AC2 単独で大きな差異は見られない.これは開発シ
リカゲルがエタノールの破過は抑制するが,炭化水素成分の破過を抑制できないため,総
破過量に変化が無かったためだと考える.一方で,混合吸着材料の残存量は AC2 単独に比
べて小さい.これには下記2つの要因が考えられる.
1) 開発シリカゲルがエタノールを吸着したことによって,活性炭が吸着するエタノ
ールが減少し,脱着が起こりやすくなった.
2) 開発シリカゲルと活性炭の熱容量を比較すると,
開発シリカゲル:0.6 J/(K・mL) 程度
(シリカライトの熱容量38)と充填密度から算出)
活性炭:0.2 J/K・mL程度(黒鉛の熱容量38)と充填密度から算出)
と推定され,熱容量が増大したことにより,吸着材料の温度変化が緩和され,脱
着が促進された.
特に熱容量の効果を明確にするため,試験キャニスターの吸着材層を 3 つに区分し,チ
ャージ・パージ側から AC2/開発シリカゲル/AC2=10/10/80 (vol/vol/vol)にて配置した場合
の結果を図 5-15 に追記する. 図 5-15 より,吸着材層を 3 つに区分して配置した場合には,
上述した 1)の効果により AC2 単独よりも若干残存量の低下が見られるが,開発シリカゲ
ルと AC2 は区分されているため熱容量の向上効果を十分に得ることは出来ず,一つの吸着
材層に混合して投入した場合に比べて,残存量が多いことが確認できる.
以上の結果から,高性能活性炭と開発シリカゲルを混合した吸着材料を用いることで,
E85 吸脱着時の残存量増加を抑制し,有効吸着量を向上させることができた.
92
200
3
Adsorption
Adsorption Mass [kg/m
[kg/m3]]
180
160
140
120
100
80
0
1
2
3
Number of
of Cycles
Cycles
Number
4
5
6
Fig.5-15 Cyclic profiles of E85 adsorption mass by AC2 (■) , mixed adsorbent (●) or 3 chambers
adsorbent bed (AC2/developed silica gel/AC2=10/10/80[vol/vol/vol], ▲)
93
5.4
まとめ
高濃度エタノール混合ガソリン対応キャニスターの吸着材料として,活性炭及びシリカ
ゲルをベースとした開発品について評価・検討を行った.
活性炭を吸着材料とした場合,燃料中のエタノール濃度の増加と共に有効吸着量は減少
する.これは,活性炭がエタノールを吸着しにくいことによる破過量の増加と,一度吸着
されたエタノールは脱着されにくいことによる残存量の増加が原因であった.
エタノール用吸着材料として,シリカゲルをベースとし,表面改質を行った吸着材料を
開発した.この開発シリカゲルを用いることで,エタノールの破過は抑制できたが,細孔
容積の少なさもあり,単独で有効吸着量を確保するまでには至らなかった.
そこで,高濃度エタノール混合ガソリンに適したキャニスター用吸着材料として,活性
炭と開発シリカゲルを混合した混合吸着材料の検討を行った.その混合比を調整すること
で,高濃度エタノール混合ガソリンの吸脱着においても,エタノールの破過と残存量の増
加を抑制し,有効吸着量を確保できる吸着材料の開発が行えた.
94
第6章
本研究で得られた成果と
今後の展望
6.1
研究の成果
本研究では,化石燃料をエネルギー源とした自動車の利用に伴い排出されるガスが,大
気汚染,人体への健康被害,そして深刻な地球環境問題へとつながる事実を顧みて,今後
も人と自動車が共存を維持するために必要不可欠な環境対応技術について検討した.大気
汚染物質である炭化水素を含んだ燃料蒸発ガスの排出抑制装置として,自動車に搭載され
たキャニスターは内部の活性炭層における吸着現象により炭化水素を分離し,大気への漏
出をゼロと呼べるほどにまで低減してきた.ガソリン自動車が,化石燃料への依存度を低
減するために,ハイブリッド化などによるエネルギーの効率化,バイオ燃料など燃料の多
様化に向けて開発が進められている中,キャニスターにもそれらに対応した技術開発が求
められている.
そこで,キャニスターの吸着機能をさらに高度化させるために,吸着材層における炭化
水素やエタノールなど吸着質の挙動を捉えることが必要と考え,実験的な検討により現象
解明を行った.
キャニスターの吸着材層における吸着質の挙動を解明するにあたり,破過のメカニズム
から内部における挙動を考察した.キャニスターにおける破過は,脱着後に残存した炭化
水素の拡散移動による微少破過と,吸着過程における吸着帯の移動による破過との2段階
に大別ができ,微少破過を定量的に捉えるためには,吸着材層における炭化水素の拡散移
動を解明する必要があることを明らかにした.キャニスター内部の吸着材層を流れ方向の
1次元微小体積モデルとして仮定し,吸着量分布の推移をとることで,拡散の推進力とな
る濃度勾配は,総括的な炭化水素の吸着量勾配として捉えられることがわかった.また,
吸着量勾配は脱着過程における炭化水素の脱離量曲線から推定が可能であることも明らか
にした.微少破過の主成分が n-ブタンであり,なおかつ n-ブタン単独および n-ブタンを含
めたガソリン蒸気の実験系にて拡散挙動に明確な違いが見られないことから,吸着材層内
における n-ブタンの拡散移動速度を求めた.今回吸脱着速度を含めた総括的な拡散速度と
95
して求めた移動速度は,大気中の移動速度と比較して遅く,吸着材の表面における移動速
度に近い値であった.このことから,吸着材層での吸着質の移動速度は,吸脱着速度に依
存した吸着材の固有値である可能性が高い.今後さらに各影響度を細分化する必要はある
が,吸脱着速度を制御することで拡散速度を制御できる可能性が見出せた.さらには吸着
量勾配と総括的な拡散係数を用いて拡散量を計算することで,微少破過量との関係を明確
にすることができた.
続いて炭化水素とは異なる吸着質として,エタノールの吸脱着挙動について考察した.
吸着材として活性炭を用いた場合,炭化水素とは異なる性質をもつエタノールが加わるこ
とにより,吸脱着挙動の両面にてエタノールによって引き起こされる悪影響が確認された.
対して,エタノールの吸脱着に有効な変性シリカゲルは,エタノール混合ガソリン蒸気の
うち多数を占める炭化水素の吸脱着において活性炭より劣る.そこで,活性炭と変性シリ
カゲルを混合し,相乗効果を利用した,エタノール混合ガソリンに対応できるキャニスタ
ー吸着材層の仕様を提案することができた.
96
6.2
今後の展望
キャニスターの吸着機能向上に向けた,吸着材層における吸着質の挙動解明について報
告をしたが,本研究の結果から示唆されたキャニスターの吸着機能向上手法と展望につい
て述べる.
1)吸着材層への補助材料投入
吸着機能の向上に対して,顕熱および潜熱を利用した蓄熱材料などを用いて温度
安定化を図るなど,吸着材層へ補助材料を投入する手法が様々に考案されている.
比熱容量の大きい変性シリカゲルと活性炭で相乗効果が生まれたのも,温度安定化
が図られた為と考えられる.しかしながら,補助材料の機能に見合った吸着機能の
向上が見られないことが多いのも事実である.その一因として,吸着材層における
残存吸着質の拡散への悪影響を及ぼしている可能性が考えられる.今回,吸着材層
における吸着質の拡散は,大気中や立体障害における拡散などと比べて遅いことが
明らかとなったが,その境界や原因を明確にするところまでは至っていない.今後,
拡散挙動も含めた観点から補助材料の投入を検討していくことで,更なる吸着機能
の高度化は十分に可能であると考える.
2)吸着層の低抵抗化
吸着層長さを拡大することは,吸脱着ばかりでなく,残存吸着質の拡散に対して
も非常に有効であることが確認された.しかしながら,吸着層長さを拡大すると通
気抵抗が上昇するため,吸着層の低抵抗化が必要になる.この手法として,第1章
でも例示したハニカム構造化などが具現化されているが,吸着層における空隙率の
上昇を招き,単位体積あたりの吸着量低下という課題も抱えている.吸着層におけ
る空隙率の上昇を抑制しつつ通気抵抗を低下させる手法として,吸着材の大粒径化
は有効な手段と考えられるが,吸脱着速度の低下などの懸念に加え,残存吸着質の
拡散に対する影響も考慮する必要がある.
97
3)吸着材の化学的表面改質
今回エタノールに対する変性シリカゲルの有効性を確認したが,炭化水素に対す
る活性炭についても,表面性質を吸着質の性質にあわせることで吸着機能が向上す
る可能性を秘めている.こうした観点から,新規な吸着材及び吸着装置の開発を行
っていくために,多孔質材料の表面性質や構造を評価し,吸着質に対する吸着能力
を推し量る研究は,今後も必要不可欠であり更なる進展が望まれる.
4)拡散速度を制御する吸着材の可能性
本研究では吸着質の拡散速度が,吸着材の吸脱着速度に依存した固有値である可
能性が高いことが明らかになった.よって,吸着材の特性を制御することで,吸着
質の拡散速度が遅い,つまり微少破過しづらい吸着材を開発できると考える.そこ
で着目したいのが,これまであまり注目されてこなかった表面改質やマクロ孔の制
御である.有効吸着量と大きな相関性が確認されているメソ孔を維持して,表面改
質による表面拡散速度や,マクロ孔による細孔拡散速度を制御することで,有効吸
着量が大きく微少破過の少ない吸着材が開発できる可能性がある.
最後に,本研究で取り組んだ吸着材層における吸着質の挙動解明結果が,高度な吸着機
能を要求されるキャニスターに反映され,化石燃料への依存度と環境への影響が共に低い
自動車の早期な市場拡大に貢献し,地球環境問題解消への一助となることを願い,最終章
の結びとする.
98
参考文献
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101
使用記号一覧
L:キャニスターの吸着材層長さ
[m]
D:キャニスター吸着材層流れ方向の等価直径
[m]
Mc:破過特性取得時のキャニスターの増加重量
[kg]
MBT:破過特性取得時のキャニスターからの破過量
[kg]
ΔL:微小体積の流れ方向長さ
[m]
J:各微小体積間における吸着質の拡散移動速度
[mol・s-1]
DE:キャニスターの吸着材層における炭化水素の総括的な拡散係数
[m2・s-1]
A:吸着材層の流れ方向に垂直な断面積
[m2]
C:各微小体積における吸着質の濃度
[mol・m-3]
P:吸着質の分圧
[Pa]
Ps:吸着質の飽和蒸気圧
[Pa]
PB:容器Bにおけるブタン分圧
[Pa]
PC:容器Cにおけるブタン分圧
[Pa]
q:パージ過程における吸着材層の低下重量(脱離量)
[kg]
qn:ドレン側からn番目の微小体積におけるの低下重量(脱離量)
[kg]
Q:ブタンチャージ後の総炭化水素吸着量
[kg]
Qn:ドレン側からn番目の微小体積における総炭化水素吸着量
[kg]
η:q/Q で表されるパージ効率
[-]
ηn:ドレン側からn番目の微小体積におけるパージ効率
[-]
B:吸着材層容積に対するパージエアー量の倍率
[-]
VPurge:パージ過程でキャニスターに供給されたパージエアー量
[m3]
Σvn :ドレン側からn番目までの微小体積の総和
[m3]
Jm:チャージ/パージ側からm番目の微小体積からm+1 番目への拡散移動速度
[mol・s-1]
d:吸着材の細孔直径
[m]
V:吸着材の細孔容積
[m3]
B
102
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