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欧州発の「グローバル・アンワインド」 - 三菱UFJモルガン・スタンレー証券

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欧州発の「グローバル・アンワインド」 - 三菱UFJモルガン・スタンレー証券
藤戸レポート
欧州発の「グローバル・アンワインド」
2015 年 5 月 7 日
米国の成長鈍化は一過性の要因
「米国の成長率を高く見過ぎていたのではないか?」・・・投資家の疑念
なのか
が膨らみ始めている。今年1~3月期の米実質GDP成長率は、前期比年率
で僅か+0.2%に留まった。昨年10~12月期の+2.2%からは大幅な鈍化で
ある(グラフ1)。この落ち込みについては、悪天候要因、西海岸の港湾ストラ
イキ等で説明されることが多い。4/29のFOMC(米公開市場委員会)声明で
も、「一過性の要因を一部反映し、米経済は冬季に減速したことが示唆され
た」と表明されている。昨年の1~3月期が▲2.1%になったのと、同工異曲と
の見方だ。しかし、GDP統計の内訳に踏み込むと、「特殊要因」だけでは説
急減した設備投資
明し難い要素が浮上してくる。まず設備投資だが、▲3.4%と前期の+4.7%
から大きく落ち込んでいる。特に、オフィスビルや工場等の非居住用構築物
は▲23.1%と前期の+5.9%から鋭角的に沈んだ。これは明らかに、エネルギ
ー関連の設備投資が急減したことが背景にある。油井・油田の投資は▲
48.7%と前期の+8.1%からの急減だ。リグ(石油掘削機器)稼働数は、昨年
10/10の1,609基から4/24時点では703基にまで半減以下である(グラフ2)。
まさに、この油井・油田の投資の落ち込みを、最もビビッドに反映したものと
言えよう。これは悪天候や港湾ストで説明できるものではない。原油価格の
急落が招いた投資の急減であることは明らかだ。WTI原油先物価格は、
3/18安値42.0ドルからはリバウンド傾向だが、オイル関連企業の投資が復
活するのには、なお相当な時間を要しよう。
(グラフ 1)
急減速した 1-3 月の
米 GDP 成長率
巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。(35015050732M)
2015 年 5 月 7 日
ストラテジー
マーケット分析
(グラフ 2)
油井・油田の投資の落ち込みを
示すリグの稼働減少
ドル高で停滞する純輸出
もう一つの注目点は、純輸出の GDP 寄与度が▲1.25%と前期の▲1.03%
から連続して不振だったことだ。前期には港湾ストの影響がなかったことか
らも明瞭だが、これはドル高の影響が顕著に表れていると解釈すべきであ
ろう。ICE(インターコンチネンタル取引所)のドル実効レートは、昨年 5/8 安
値 78.9 から今年 3/13 高値 100.3 まで 27.1%の上昇だった(グラフ 3)。イエ
レン FRB(連邦準備制度理事会)議長も、「ドル高が純輸出の足枷になって
いる」と述べていたが、統計数値として具現化したものと思われる。このドル
高の影響は、企業業績にも表れており、ファイザー、プロクター&ギャンブ
ル、スリーエム、ユナイテッド・テクノロジーズ、アフラックや、ハイテクでも
IBM、フェイスブック等、広汎な企業がドル高の悪影響を認めている。どう
も、米景気の鈍化を「一過性」と断言するのは危うい部分が残る。こうした状
況を考慮すると、「6 月利上げ」は余程の経済統計の急転がない限り、後ズ
レした可能性が濃い。超緩和政策の長期化は株価のサポート要因となる
が、逆に米景気の回復力が想定よりも弱いとなれば、企業業績面から株価
の上値抑制要因ともなる。米国株は、好悪両面に挟まれてレンジ往来の動
きとなろう。ただし、ラッセル 2000 指数やナスダック・バイオテック指数等の
割高・脆弱な小型株指数の下落には注意が必要である。
急変した欧州の株式と債券市場
もたつく米国株を尻目に、大金融相場を展開してきた欧州株だが、変調
を見せ始めている。ドイツDAX指数は、昨年10/16安値8,354から今年4/10
高値12,390まで+48.3%の大幅上昇を見せた。ところが、4月も後半になると
利益確定売りに押され、4/29には1日で3.2%の大幅下落となった。10日高
値からは▲7.7%の下落である。フランス、イタリア等も同様な展開で、騰勢の
強かった欧州株にブレーキが効き始めている。一方、欧州債も株安と同時
に売られ、4/29の独10年国債利回りは前日から0.122%上昇し、0.285%に跳
ね上がった(5/6には0.599%まで急騰)(グラフ4)。独国債金利は、一時9年債
までが全てマイナス金利となる異常事態で、10年債も4/17には0.049%と「金
巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。(35015050732M)
2
2015 年 5 月 7 日
ストラテジー
マーケット分析
(グラフ 3)
ドル高の影響で
予想を下回る米経済指標
為替・経済指標からみたNYダウ
(ドル)
20000
18288
(2015/3)
(出所)BloombergのデータよりMUMSS作成
18000
*サプライズ・インデックスは、各種経済指標の予想と結果を比較、
実績が上回ればプラス、下回ればマイナスで指数化
14198
(2007/10)
16000
14000
リーマン
・ショック
(2008/9)
NYダウ
QE3終了
(2014/10)
12000
10000
ドル実効レート(右)
サプライズ
インデックス(左)
8000
1.00
6000
100.0
95.0
90.0
85.0
80.0
75.0
70.0
65.0
60.0
0.50
0.00
-0.50
-1.00
2007/1
(グラフ 4)
独長期金利反転上昇
独 DAX 指数が反落
2008/1
2009/1
2010/1
2011/1
2012/2
2013/2
2014/2
2015/2
(P)
独10年国債利回りとDAX指数
(%)
1.400
13,000
(出所)BloombergのデータをもとにMUMSS作成
12390(4/10)
1.200
12,000
DAX指数(右)
1.000
11,000
0.800
0.600
10,000
独10年国債
利回り(左)
0.400
9,000
0.200
0.049
(4/17)
8354(10/16)
0.000
9/1
10/1
11/3
12/3
1/9
2/10
3/12
4/15
8,000
利が消失する」状況に陥っていた。急騰したとは言っても、日本の10年国債
利回りと同等の水準であり、このこと自体で大騒ぎする必要はない。注意す
べきは、「グローバル金融相場」の象徴となっていた欧州株、欧州債ともに
屈折点を迎えた点である。今回の金融相場の基点となったのが、ECB(欧
州中銀)の量的緩和策であることは間違いない。1月下旬にドラギECB総裁
が量的緩和を強く示唆して以来、欧州株が牽引役となって世界的株高現
象が起こっていた。日経平均も1/16安値16,592円から4/23高値20,252円ま
で上昇したのは御存知のとおりだ。その欧州の変調となれば、日本株にとっ
ても軽視することはできない。
巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。(35015050732M)
3
2015 年 5 月 7 日
ストラテジー
マーケット分析
「新債券王」は独国債の空売りを
推奨
材料面では、ドイツの4月CPI(消費者物価・EU基準・前年比)が+0.3%と
なり、1月の▲0.5%をボトムとしてリバウンド傾向にあることが挙げられよう。4
月のユーロ圏全体のCPIもゼロと、緩慢ながらもデフレを脱却する動きが見
え始めている。一方、4月のユーロ圏総合PMI(購買担当者景況指数)は
53.9と高水準にある。特に、ドイツは54.1と好況と言ってもいい状況だ(グラフ
5)。元来競争力の強いドイツの輸出はユーロ安も加わって上伸し、内需も
堅調さを持続している。景況感が良好であるにもかかわらず、ユーロ圏の協
調体制のために、ブンデスバンク(独連銀)はマイナス金利の独国債を買っ
て市中にマネーを撒き散らす政策を推進している。まさに、「大いなる矛盾」
である。そこに目を付けたのが、「新債券王」の異名を持つダブルライン・キ
ャピタルのガンドラックCEO(最高経営責任者)だ。同氏は、「ドイツ2年国債
で100倍のレバレッジをかけた空売りを行えば、リターンは20%になる」との刺
激的な発言を行った。この独国債空売りに関しては、「旧債券王」のビル・グ
ロース氏も、「空前絶後のショート・チャンス」と述べ、珍しく新・旧「債券王」
の見解が一致している。「壮大な矛盾」に着目した投資家が、徐々に増加し
始めたと見るべきであろう。ユーロ圏の実態改善が続けば、ドラギECB総裁
が、やがてどこかのタイミングでTapering(量的緩和策の段階的縮小)を囁き
始める可能性も否定できない。
(グラフ 5)
ドイツ景気指標が回復基調に
「ユーロキャリー・トレード」の巻き
戻し
ECB の量的緩和策で、ユーロ圏は膨大なマネーの供給基地となってい
た。2 年国債以下の短期債はマイナス金利が常態化しており、ほとんどコスト
ゼロで投機マネーを集めることができる。そして、調達したマネーを各アセッ
トに投入して利鞘を稼げばいいわけだ。まず、為替では「ユーロ売り+資源・
新興国通貨売り+ドル買い」のポジションが積み上がった。CFTC(米商品
先物取引委員会)が発表しているヘッジファンドのユーロ売りポジションは、
巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。(35015050732M)
4
2015 年 5 月 7 日
ストラテジー
マーケット分析
2014年3/18の52,991枚から今年3/31には▲226,560枚と、史上最高のショ
ートに積み上がっていた(グラフ6)。この売り枚数は、ユーロ債務危機に揺れ
た2012年6/5の214,418枚さえ凌駕している。豪ドルも、3/10には76,851枚と
史上最高の売りポジションだった。一方、主要6通貨(ユーロ、円、ポンド、豪
ドル、カナダドル、スイスフラン)に対するドル買いポジションは 3/10に
397,312枚と、これも史上最高だ。ユーロ/ドル相場は、3/16安値1ユーロ=
1.0458ドルの安値をつけ、豪ドル相場も4/2安値1豪ドル=0.753ドルまで売
られていた。ところが、4/29にはユーロが1.118まで買い戻され(翌30日には
1.122まで続伸)、豪ドルも0.807まで切り返した。端的に言えば、為替市場
でも大規模なアンワインド(ポジションの巻き戻し)が発動されたと見て良い。
つまり、ヘッジファンドが利益を刈り取る「収穫のシーズン」を迎えたわけだ。
(グラフ 6)
過去最高に積み上がった
ユーロ売りポジションの巻き戻し
日本株にもアンワインドが波及
通貨ユーロ、欧州株、欧州債で大規模なアンワインドが発生したならば、
日本株も無縁でいられるはずがない。年初来のパフォーマンスを見ると、先
進国では欧州株に次ぐ位置にいたのが日本株である。東証の投資主体者
別売買動向を見ても、外国人は株式先物で 1 月第 3 週から 2 月第 4 週に
かけて 3 兆 1,154 億円の買い越しを見せた。その後、多少の売買はあった
ものの、単純計算では 4 月第 3 週時点で 2 兆 7,266 億円のロング・ポジシ
ョンを抱えていることになる。「当らずと雖ども遠からず」というのが実態と思
われる。注目すべきは、外国人の現物株式買いが、4 月第 1 週から第 4 週
までで 2 兆 527 億円とヒートアップしたにもかかわらず、株式先物は僅か
3,054 億円の買い越しに留まっていることだ(表 1)。日本株に出遅れた外
国人が慌てて買いに走る一方で、早めに日本株のロング・ポジションを形成
したヘッジファンドはバイ&ホールドを維持し、慎重に利益確定売りのタイミ
ングを模索していたことが分かる。いかにも相場巧者の手並みだ。4/30 に
日経平均は 538 円安と久々の下落幅を記録したが、ヘッジファンドの本格
巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。(35015050732M)
5
2015 年 5 月 7 日
ストラテジー
マーケット分析
(表 1) ●外国人投資家(現物・先物計)
先物
外国人投資家の
月/週 日経
JPX
小計
現物買いが急増
TOPIX
平均
-953 -384
-1,072
883
-2,068
778
120 -1,259
-712 -124
-408
818
1,439
-71
386
299
3月1週
3月2週
3月3週
3月4週
4月1週
4月2週
4月3週
4月4週
日経
46
121
85
46
125
141
-120
23
【a】
-1,291
-69
-1,204
-1,093
-711
551
1,249
709
(億円)
ミニ先物
小計
日経
TOPIX
【b】
平均
267
273
-7
135
146 -11
-950
-896 -55
-989
-934 -54
603
596
7
655
666 -11
-1,060 20 -1,040
1,021 18 1,039
先物
合計
【a+b】
-1,025
67
-2,155
-2,082
-108
1,206
209
1,747
現物・先物合計
現物
【c】
【a+c】
2,100
3,062
1,334
-1,191
4,454
5,910
3,084
7,080
809
2,993
130
-2,284
3,743
6,461
4,333
7,788
【a+b+c】
1,076
3,129
-821
-3,273
4,346
7,116
3,293
8,827
(出所)東証、大証のデータをもとに、MUMSS作成
的アンワインドが始まったと解釈すべきであろう(グラフ 7)。同日の株式先物
の手口を見ると、ヘッジファンドの受注が多い外資系の売りが、日経・
TOPIX 両先物で並んでいた。東証一部の売買代金は 3 兆 4,727 億円に
膨らみ、安値圏の買い指値にぶつけた売りが幅広く出たものと推測される。
(グラフ 7)
日経平均
商いを伴って急落
(4/30)
(兆円)
(円)
日経平均と東証1部売買金額
16.00
22,000
(出所) AstraManagerのデータをもとにMUMSS作成
20252
(4/23)
14.00
18030
(12/8)
12.00
20,000
日経平均
(右メモリ)
18,000
10.00
16592
(1/16)
8.00
16,000
6.00
14529
(10/17)
14,000
東証1部売買金額(左メモリ)
4.00
12,000
2.00
0.00
膨張した裁定買い残高は「今、そ
こにある危機」
9/1
10/1
10/30
12/1
12/30
2/2
3/3
3/31
4/28
10,000
また、裁定買い残高が 4/24 時点で 3 兆 5,505 億円に積み上がっている
ことも、日本株には重しになり始めている。先高期待が続けば、株式先物は
理論値以上に買われて、いわゆる「ベーシス」が付く形となる。この状況にな
れば、裁定業者(裁定売買は薄利多売なため、手数料フリーの証券自己ポ
ジションで行う)は割高な株式先物を売って、割安な現物株式を買う。つま
り、裁定買い残高は膨張することになる。裁定買い残高の推移を見ると、昨
年 9/26 の 3 兆 6,410 億円、同 12/5 の 3 兆 5,741 億円に匹敵する買い残
の積み上がりが形成されていることが分かる(グラフ 8)。もし、何らかの材料
で先高期待が消失し、株式先物が理論値以下に売り込まれる局面が到来
巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。(35015050732M)
6
2015 年 5 月 7 日
ストラテジー
マーケット分析
(グラフ 8)
昨年 9 月、12 月の水準に
積み上がった裁定買残
(兆円)
(円)
日経平均と裁定買残の推移
9.00
22,000
20187
(4/23)
(出所) AstraManagerのデータをもとにMUMSS作成
20,000
8.00
7.00
17935
(12/8)
16291
(12/30)
日経平均
(右メモリ)
18,000
16374
(9/25)
16,000
6.00
14,000
5.00
4.23
(11/29)
12,000
4.00
裁定買残
(金額・左メモリ)
3.64
3.57
(9/26) (12/5)
3.55
(4/24)
3.00
2.00
2013/8
10,000
8,000
2013/12
2014/5
2014/9
2015/2
6,000
(逆ベーシスと呼ぶ)すれば、裁定業者は割安な先物を買って割高な現物
を売る。即ち、裁定解消売りの発動となる。4/30 の TOPIX 先物手口では、
欧州系 A 証券の買い越しが 4,881 枚と突出していたが、A 証券は TOPIX
先物の裁定業者として著名である。何故かフランス系証券は、TOPIX の裁
定売買を好むようだ。この 4,881 枚の買いは、「上がると思ったので買った」
というノーマルな投資ではなく、「先物買い・現物売り」という裁定解消売りの
典型的なパターンだ。つまり、先物買いの裏には、それに相当する大規模
な裁定解消売りがあったことを意味する。こうなれば、相場は音もなく崩れる
といった症状を呈することになる。日経平均の下落が 500 円以上に拡大し
た最後の仕上げは、この裁定解消売りの発動と解釈すべきであろう。既述
の裁定買い残高のピークと、日経平均の推移を見ていたただきたい。昨年
9/26 の裁定買い残高 3 兆 6,410 億円の後、日経平均は 9/25 高値
16,374 円から 10/17 安値 14,529 円まで 1,845 円安を記録している。12/5
の 3 兆 5,741 億円の後も、日経平均は 12/8 高値 18,030 円から今年 1/16
安値 16,592 円まで 1,438 円安だ。裁定買い残高は注意すべき水準に膨ら
んでいる。まさに、「今、そこにある危機」だ。
日本株急落のメカニズム
整理してみると、「①独CPIの上昇・ユーロ圏のデフレ・リスク逓減→②ガ
ンドラックCEOの独国債空売り推奨→③大規模なアンワインドの発動→④
独金利急騰・欧州株安・ユーロ買戻し→⑤日本株にもアンワインドが波及
→⑥ヘッジファンドの株式先物売り→⑦裁定解消売り→⑧日経平均538円
安」が日本株急落のメカニズムである。ポイントは、日本固有の要因ではな
く、グローバルな投機マネー・フローの急変が真の要因であることだ。メディ
アや兜町の市況解説では、米GDPやFOMCで500円安を無理やり説明しよ
うとする動きがあったが、極めて皮相的な御都合解釈だ。1月以来、欧州株
は世界の株式相場の中心にあった。必然的に、日本株も従来のような米国
株との連動性は薄れ、欧州株との相関性が極めて高まっている。今回の金
融相場、そしてアンワインド共に欧州が震源地である。
巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。(35015050732M)
7
2015 年 5 月 7 日
ストラテジー
マーケット分析
過去のパターンでは6月SQ前後
まで調整色が強い
(グラフ 9)
急騰の反動で波乱となった
2012 年、2013 年の 5 月相場
5 月が荒れ相場となるのは、もはや恒例化している。先週号で詳述した
が、2012 年は欧州債務問題によって、日経平均は 3/27 高値 10,255 円か
ら 6/4 安値 8,238 円まで▲19.6%の下落となった。2013 年もバーナンキ前
FRB 議長の「tapering(量的緩和政策の段階的縮小)示唆」で、日経平均は
5/23 高値 15,942 円から 6/13 安値 12,415 円まで▲22.1%の急落である。
2014 年はジリ貧相場であり、今年とは明らかに相場の様相が異なる。した
がって、比較検討すべきは 2012、2013 年相場と思われる(グラフ 9)。この両
年に共通するのは、株価の上昇自体が急落を招く一つの要因になっている
ことだ。2011 年は 3 月に東日本大震災の惨害があり、秋にはタイの洪水
で、日本企業のサプライチェーンが寸断される悪材料があった。日経平均
は、2011 年 11/25 安値 8,135 円から 2012 年 3/27 高値 10,255 円まで
26.0%の上昇を見せていた。2013 年はアベノミクス相場の全盛期で、2012
年 11/13 安値 8,619 円から 2013 年 5/23 高値 15,942 円まで、実に 84.9%
の急騰だった。相場で強調展開が続くと、必ず「今年は 5 月の波乱がない」
との兜町理論が横行する。今年も、その声は高まっていた。しかし、欧州発
のアンワインドが、日本株をも巻き込み始めたのは否定し難い事実である。
そして、両年共に、5 月の波乱展開の後に、株価のボトム形成が 6 月上旬
であることも一致している。視点を変えれば、5 月の波乱展開の後、6 月のメ
ジャーSQ 前後で底入れのパターンとなっている。
(兆円)
(円)
日経平均と東証1部売買金額
16.00
24,000
(出所) AstraManagerのデータをもとにMUMSS作成
14.00
バーナンキ
ショック
8.00
バレンタイン
緩和
(2/14)
10255
(3/27)
20,000
16,000
日経平均
(右メモリ)
13885
(4/11)
12415
(6/13)
12,000
消費税増税
(2014/4~)
6.00
4.00
20252
(4/23)
16320
(12/30)
15942
(5/23)
12.00
10.00
米国が
寒波で減速
8,000
8238
(6/4)
4,000
2.00
東証1部売買金額(左メモリ)
0.00
2012/1
昨年10月・今年1月並みの調整
2012/5 2012/10 2013/3
2013/8
2014/1
2014/6 2014/11 2015/4
0
調整幅はどの程度だろうか?単純に 2012、2013 年を踏襲すれば、約
20%の下落となる。しかし、①日本企業が体質改善に成功し、収益力が飛躍
的に強まっていること、②年後半には消費増税のネガティブ効果剥落やエ
ネルギーコストの低減から景気の浮揚が見込めること、③必要とあらば黒田
日銀が追加緩和カードを抜く可能性があること、④米議会でも演説を行った
安倍総理の政治基盤が盤石であること、等を考慮すれば単純な 2 割下落
巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。(35015050732M)
8
2015 年 5 月 7 日
ストラテジー
マーケット分析
シナリオの確率は低いものと思われる。おそらく、昨年10月前半の下落、今
年1月前半の下落が参考になるものと思われる。外国人は、昨年10月第1週
から第4週の間に、株式先物▲2兆1,380億円・現物株式▲9,139億円で、計
▲3兆519億円の売り越しを見せた。これが日経平均の1,845円安に直結し
ている。今年1月第1週と第2週の外国人は、先物・現物合計で▲1兆9,720
億円の売り越しで、日経平均は1,438円安である。既述のように、ラフな見積
もりでは先物で3兆円弱のロング・ポジションがあり、全てアンワインドを行え
ば昨秋並みの下落幅は想定できよう。つまり、高値から1,500~2,000円の
調整は、通常の相場変動として起こる可能性がある(グラフ10)。もちろん、あ
くまでもリスク・シナリオであり、海外環境のさらなる悪化がなければ軽微な
調整で終わることもあり得よう。要は海外次第だ。
(グラフ 10)
外国人投資家の大口売りが
昨年 10 月、今年 1 月の急落要因
(億円)
(億円)
(円)
(円)
円)
日経平均と外国人投資家動向(現物+先物)
70,000
(出所)AstraManagerのデータをもとにMUMSS作成
60,000
日銀追加
金融緩和
(10/31)
20187
(4/23)
22,000
20,000
17935
(12/8)
50,000
40,000
16291
(12/30)
日経平均
(右メモリ)
18,000
16374
(9/25)
16,000
30,000
14,000
20,000
12,000
10,000
10,000
0
8,000
-10,000
外国人投資家売買動向
(現物・先物計:左メモリ)
-20,000
2013/8
日銀の金融政策裁量余地は限
界的
2013/12
2014/5
2014/9
2015/2
6,000
4/30の政策決定会合は、結局現状維持に終わった。一部英国の調査会
社が表明していた「サプライズ緩和で日経平均21,000円・円/ドル相場140
円」の御伽噺は雲散霧消した。競馬の経験でもそうだが、「万馬券」を狙い
続けると財布の中身がカラカラになって、中山競馬場からの帰りは「螻蛄
(オケラ)街道」をトボトボと歩くことになる(G1レース開催日の最終12レース
後に、沈黙した敗者の大群が行軍する様は一見の価値がある)。問題は、
この御伽噺に引っ掛けてイベント・ドリブン・ファンドの暗躍が続いていたこと
だ。手の速い巧者は、既に4/30前にポジションを手仕舞っているだろうが、
どこの世界にも手の遅い向きはいる。「現状維持」発表後に、慌ててポジシ
ョンの解消に努めた兆候がある。30日後場に一段安となった背景には、日
銀緩和に引っ掛けたポジションのアンワインドもあったかもしれない。「追加
緩和」という四文字熟語には、投資家を魅了する魔力がある。しかし、具体
的な内容となると、次第に曖昧さが増しているように思える。債券関係者の
発言では、「ETF(上場投信)買い増し」と新聞に書いてあるが、今年は年1
兆円から3兆円に増枠したばかりだ(グラフ11)。1月からのETF買入額は1兆
巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。(35015050732M)
9
2015 年 5 月 7 日
ストラテジー
マーケット分析
(グラフ 11)
ETF 購入金額を 3 倍に
増額した日本銀行
(1 兆円→3 兆円)
(億円)
(円)
日銀ETF購入と日経平均
6兆8000億円
(2015年末)
110,000
(出所)AstraManagerのデータをもとにMUMSS作成
100,000
20187
(4/23)
24,000
22,000
20,000
90,000
量的・質的
金融緩和
第1弾
(2013/4)
80,000
70,000
15627
(5/22)
16291
(12/30)
18,000
2015年
年間 3兆円
16,000
14,000
60,000
日経平均(右メモリ)
量的・質的
金融緩和第2
弾(2014/10)
50,000
12,000
10,000
40,000
8,000
8534(12/10)
30,000
1兆136億円
2015年以降
日銀ETF購入額
(左メモリ)
20,000
4,000
2014年
年間 1兆円
10,000
0
2011/1
6,000
4兆8618億円
(4/30時点)
2,000
0
2011/8
2012/3
2012/9
2013/4
2013/11
2014/6
2015/1
2015/8
136億円に達しているが、まだ約2兆円の枠が残っている(4/30時点)。買入
枠が残っている状態で、さらに枠の拡大を行っても心理的効果以外には積
極的な評価ポイントを見出し難い。しかも、今以上に中央銀行が直接市場
に手を突っ込むとなれば、効果よりも弊害の方が大きくなる恐れもある。一
部では、地方債や現物株式の買入という見方もあるが、「公平・公正なマー
ケット」という観点からはいかがなものか。黒田日銀と雖も、超緩和策を延々
と続けるわけにはいかない。国債の流動性低下と合わせて、緩和策の裁量
余地は限界的だ。「追加緩和」という四文字熟語は、「抜かずの宝刀」となる
可能性もあろう。
リスク・コントロール
藤戸 則弘
投資情報部長
過去の5月~6月前半の荒れ相場はシビアだが、反面では好買い場を提
供しているのも事実だ。積極的な見方をすれば、「波乱に利あり」との解釈も
可能である。ただし、4月上旬までの春相場のような一方的上昇局面は、い
ったん終止符を打ったことも認めなければならない。おそらく、今後は一段
とボラタイルな展開を想定しておくべきであろう。したがって、春相場の延長
線上の思考で、安易な買いは慎まなければならない。海外環境を吟味し、
十分引き付けてからの押し目買いを考えるべきだ。余程の好材料でも出な
い限り、6月上旬までは慎重スタンスを推奨する。ファンドマネージャー時代
の教訓では、強気一辺倒のスタンスをとる向きは、やがて運用の世界から消
えて行くことが多かった。リスクとリターンは表裏一体であり、リスク・コントロ
ールこそがパフォーマンス向上の鍵である。
巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。(35015050732M)
10
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