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歴史的な米国超低金利時代の終焉 - 三菱UFJモルガン・スタンレー証券

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歴史的な米国超低金利時代の終焉 - 三菱UFJモルガン・スタンレー証券
藤戸レポート
歴史的な米国超低金利時代の終焉
2015 年 6 月 15 日
ボラタイルな展開が続く欧州
債券市場
(グラフ 1)
欧州諸国の長期金利が
急反発
「資産価格のボラティリティは高まる傾向がある。市場はボラティリティの
高い時期に順応する必要がある」・・・このドラギ ECB(欧州中銀)総裁の読
みどおりに、世界のアセット価格はボラタイルな展開が続いている。最初の
震源地になったのは欧州債券市場であったが、その後も欧州長期金利の
騰勢は衰えていない。ドイツ 10 年国債利回りは、6/10 に一時 1.057%と 1%
の大台を超える局面があった。絶対水準的には、「たかが 1%」だが、4/17
の最低利回りが 0.049%だったことを考えると、債券投資家にとっては深刻な
意味を持つ。欧州債のベンチマークである独国債がこの状況では、南欧重
債務国の金利体系にも微妙な変化が訪れている。大騒動が続くギリシャは
別格としても、ポルトガル 10 年国債は 3/12 の 1.509% →6/10 には
3.131%、同イタリア国債で 3/12 の 1.031%→6/10 に 2.422%、スペイン国債
も 3/12 の 1.048%→6/10 には 2.396%と同様な展開だ。3 月のボトムから、
いずれも倍以上になっている(グラフ 1)。その後も上下の振れが大きく、まさ
に高変動率相場である。中でも、デリバティブを利用してギアリングを高め
ていた向きのダメージは大きい。「独 10 年国債もマイナス金利になる」との
夢は雲散霧消し、シビアな現実に直面せざるを得ない。問題になるのは、
単なるポジション調整で済めばよいが、ユーロ圏のデフレ・リスク減衰、景況
感の改善といったファンダメンタルズを考慮すると、さらなる金利上昇の可
能性が高まっている点だ。債券市場に投入されている金額が巨大なだけ
に、世界の各アセット価格にも大きな影響を及ぼすことになろう。
(%)
欧州各国の10年国債利回り
4.500
ポルトガル
スペイン
イタリア
ドイツ
4.000
3.500
3.000
2.500
2.000
1.500
1.000
0.500
(出所)BloombergのデータをもとにMUMSS作成
0.000
2014/7
2014/8
2014/10
2014/11
2015/1
巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。(35015061536M)
2015/2
2015/4
2015/5
2015 年 6 月 15 日
ストラテジー
米国では歴史的な低金利時代
が終焉
(グラフ 2)
米国雇用の「質的改善」が進行
米国の債券市場も、同様な展開だ。イエレン FRB(連邦準備制度理事
会)議長の「年内利上げ宣言」に続いて、良好な 5 月雇用統計が金利上昇
トレンドに寄与したようだ。非農業部門雇用者数の 28 万人増もさることなが
ら、平均時給と労働参加率の上昇、長期失業者比率の低下等、雇用の「質
的改善」が確認されたことが大きかった(グラフ 2)。5 月の労働市場情勢指
数(19 の項目で構成)は前月比+1.3 の改善で、3 月▲1.0、4 月▲0.5 から
の回復感が顕著である。さすがに 6 月利上げはスケジュール的に無理だ
が、市場は「9 月利上げ濃厚・年内必至」との見方に傾斜している。米 10 年
国債利回りは今年 1/30 に 1.635%だったが、6/10 には 2.492%まで上昇す
る局面があった。長期的に見た場合には、2012 年 7 月の 1.379%と今回の
1.635%で明瞭なダブル・ボトムを打った可能性が濃厚である(グラフ 3)。フィ
シャーFRB 副議長によれば、「ターゲットはフェデラルファンド・レートで
3.25%~4.00%」とのことである。いったん利上げとなれば、「10 数回の連続
的な利上げ時代の開幕」となる。10 年長期金利も 2.5%の節を突破すれば、
次第に 2014 年 1 月の 3.051%が視野に入って来ることになろう。初回利上
げまで時間的猶予は残されているが、歴史的な超低金利時代が終焉を迎
えようとしている。
(%)
米国の雇用・賃金動向
(%)
20.0
5.0
17.2%
(2010/4)
18.0
4.5
広義の失業率(左)
16.0
4.0
14.0
3.5
12.0
10.8%
(2015/5)
平均時給(前年同月比・右)
10.0
3.0
2.5
+2.3%
(2015/5)
8.0
2.0
6.0
1.5
(出所)BloombergのデータをもとにMUMSS作成
4.0
1.0
2008
FRBの金融政策とダウ工業株
30種平均の相関性
2009
2010
2011
2012
2013
2014
2015
2016
ウォールストリートも兜町も、「過去の経験則」が好きである。前回利上げ
時の金融政策と株価の関係をチェックしてみよう。FRBは2004年6月から
2006年6月まで、0.25%刻みで17回の連続的利上げを実施した。フェデラル
ファンド・レート(FFレート)誘導目標は、1.00%から5.25%にまで引き上げられ
ている。この「利上げ時代」の前後の相場がどうであったのか。時系列で振
り返って見よう。
巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。(35015061536M)
2
2015 年 6 月 15 日
ストラテジー
(グラフ 3)
米 10 年国債利回りが
ダブルボトム形成へ
米10年国債利回りの推移
(%)
3.500
(出所)BloombergのデータよりMUMSS作成
イエレンFRB議長
「年内利上げが
適切」(5/22)
3.051%
(2014/1)
3.000
2.498
(2016/6)
2.500
米10年国債利回り
2.000
1.500
1.635%
(2015/1)
1.379%
(2012/7)
1.000
2012/1
2012/6
2012/12
2013/6
2013/12
2014/5
2014/11
2015/5
① ITバブル崩壊・・・ダウは2000年1/14高値11,750ドルから2002年
10/10安値7,197ドルまで▲38.7%の下落となった。ナスダック総合
指数は、2000年3/10高値5,132~2002年10/10安値1,108で5分の1
近い暴落であり、老舗優良企業で構成されるダウの相対パフォー
マンスは悪くなかったと言えるかもしれない。
② 連続利下げによる底打ちから浮揚期・・・ITバブル崩壊に対して、
FRBは2001年1月から2003年6月まで13回の連続的利下げを行っ
た。FFレート誘導目標は、6.50%から1.00%へと引き下げられた。ダ
ウは、2002年10月安値7,197ドルを底に反発し、2004年2/19高値
10,753ドルまで+49.4%のV字型反騰を記録。利下げ効果による反
騰である。
③ 連続利上げ期・・・既述のとおりだが、この間のダウ工業株30種平均
の動きを概観すると、10,000ドル割れ~11,000ドル超のボックス往
来に終始し、躍動感に乏しい状況が続いた。利上げモード終了間
近の2006年5/10には高値11,670ドルをマークし、利上げの重石が
とれた後に上昇トレンドを形成した。
④ 再びバブルの創生と崩壊・・・FRBは、2007年9月~2008年12月の間
に、5.25%から0.25%にまでの利下げを実施した。10回の連続的な利下げだ
が、0.75%幅の大幅利下げを3回含む急速な利下げであった。住宅・クレジ
ットバブルの創生とリーマンショックによる崩壊の激動期である。ダウは2007
年10/11高値14,198ドルまで駆け上がった後、2009年3/6安値6,469ドルま
で暴落した(グラフ4)。
利上げはマーケットから活力を
吸収する
一般的には、③の連続利上げ時代に大幅な株安がなかったことから、
「利上げは株価にマイナスではない」とか、「利上げと株高は共存した」とい
った前向きな「兜町的解釈」に使われるケースが多い。しかし、②の V 字型
巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。(35015061536M)
3
2015 年 6 月 15 日
ストラテジー
(グラフ 4)
FRB の金融政策の
影響を受ける NY ダウ
(ドル)
NYダウとFF金利誘導目標
22.0
20.0
リーマン
・ショック
ITバブル崩壊
18.0
14,198
(2007/10)
11750
(2000/1)
16.0
18,351
(2015/5)
10753
(2004/2)
16,000
④
NYダウ(右)
14.0
③
12.0
①
10.0
8,000
②
7197
(2002/10)
(%)
8.0
6.0
4.0
イエレンFRB議長
「年内の利上げ
開始が適切」
(2015/5/22)
6469
(2009/3)
利上げ開始
2004/6
4,000
利上げ開始
1999/6
2.0
0.0
1998
FF金利誘導目標(左)
2000
2002
2004
2006
2008
2010
2012
2014
2016
2018
2,000
出所:Bloomberg のデータをもとに MUMSS 作成
反騰期や、バブル形成となった④前半に見られるような高揚感はない。明ら
かに、連続利上げが株価を抑圧していたのは、隠しようもない事実である。
やはり FRB の利上げは、控えめに見ても、マーケットから活力を吸収すると
理解すべきであろう。ダウ工業株 30 種平均の年初来パフォーマンスが冴え
ないのも、既に利上げを織り込み始めたためと思われる。
過去の経験則は適用不能
より重要なのは、未曽有かつ非伝統的な緩和策からの脱却となる今回の
利上げに、こうした過去の経験則をあてはめるのは不適切ということだ。今
回はゼロ金利に加えて、3 次にわたる「QE」(量的緩和策)を実施した。
「QE」は終了したけれども、FRB のバランス・シートは膨張したままである。
2007 年 8 月に 8,968 億ドルだった純資産は、この 6/10 時点でも 4 兆
5,124 億ドル・約 5 倍を維持している(グラフ 5)。この巨額の国債・MBS(住宅
ローン担保証券)の買入に相当する膨大なマネーが、市中に放出されてい
るわけだ。利上げに続いて、FRB はいずれバランス・シートの縮小に着手せ
ざるを得ない。漸進的にではあろうが、それこそが「金融政策のノーマル化」
である。2009 年 3 月安値をボトムに、6 年余り米国株価が上昇を続けたの
は、まさにこの有り余るマネーの力によるものと考えて良い。この巨額のマネ
ー膨張による「金融相場」は、過去に存在していない。つまり、過去の単なる
利下げによる「金融相場」とは、中央銀行の関与の度合いが量的にも質的
にも全く異なるのだ。過去の経験則を利用しようにも、ヒストリーがない。前
人未到の領域に踏み込んでおり、その超緩和策からの脱却の処方箋はど
こにもない。そして、FRB が先鞭をつけた巨額の量的緩和策は、日銀や
ECB でも踏襲されている。世界各国の中銀が、いまや競うように緩和政策
を拡張している状況だ。「出口」の実践は、暗中模索の状態である。
巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。(35015061536M)
4
2015 年 6 月 15 日
ストラテジー
(グラフ 5)
5 倍に拡大した FRB 資産
超緩和策の申し子ヘッジファン
ド
黒田総裁の円安牽制発言
この膨張したマネーの申し子がヘッジファンドである。調査会社ユーリカ
ヘッジによると、今年 4 月時点のヘッジファンド運用資産額は 2 兆 2,107
億ドルに達している。ただし、これも推計値であり、別の調査会社では 3 兆
ドルに迫るとの見方もある(グラフ 6)。いずれにしても、邦貨換算で 300 兆円
前後の巨額かつ攻撃的なマネーである。中には、ロンドンに本拠を置くマ
ン・グループのように、今年 3 月末の運用資産額が 781 億ドル・10 兆円に
迫るモンスターもある。この 300 兆円が、デリバティブ利用のレバレッジ効果
(梃子の原理)によって、数倍から 10 数倍にまで膨れ上がることになる。こ
のリスク・マネーの膨張も、人類が過去に経験したことがないものだ。ヘッジ
ファンド・リサーチによると、IT バブル当時 2000 年のヘッジファンド運用資
産額は 4,910 億ドル、前回利上げ開始の 2004 年には 9,730 億ドルだっ
た。3 兆ドル近くに膨れ上がったリスク・マネーが、シュリンクに向かい始め
た場合、マーケットに与える影響は誰にも分からない。したがって、この不透
明な状況が、投資家に防御的な運用スタンスを採らせることは、大いに在り
得ることだ。あるいは、それまでの強気と弱気が交錯して、不安定な状況が
現出する可能性もあろう。つまり、冒頭のドラギ総裁の警告のように、投資家
は「高ボラティリティへの順応」が必要なのかもしれない。今回の FRB の政
策転換は、ある意味では歴史的な転換である。軽視すべきではない。
債券市場に続いて、為替市場も振幅が大きくなり始めている。契機となっ
たのは、黒田日銀総裁の発言である。6/10、衆院の財務金融員会で、黒田
総裁は、「かなり円安の水準になっている。実質実効為替レートが、ここまで
来ているということは、ここからさらに円安に振れるということは、普通に考え
ればありそうにない」と述べた。さらに、言葉を進めて、「米国が金利を上げ
る局面に入るから、直ちにドル高が進むと決め打ちするのも、なかなか難し
巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。(35015061536M)
5
2015 年 6 月 15 日
ストラテジー
(グラフ 6)
2000 年から 4 倍超に
膨らんだヘッジファンド指数
ヘッジファンド指数(ユーリカヘッジ)の推移
450
(出所)BloombergのデータをもとにMUMSS作成
400
350
300
250
ヘッジファンド指数
200
150
100
*1999年末=100で指数化
50
2000
2002
2004
2006
2008
2010
2012
2014
い。米利上げが市場にほぼ織り込まれているとすれば、それ以上のサプラ
イズがなければ、これ以上のドル高になる必要はないように思われる」と言
及した。かなり明瞭な「相場観」の開陳である。しかも、「織り込み済」との表
現は、相場を実体験した総裁ならではの発言と言えよう。これが、為替相場
の素人閣僚の発言ならば、マーケット・インパクトは限定的だったことだろう。
官僚に手渡されたペーパーを大臣が読み上げるだけならば、投資家は高
を括ったはずだ。ところが、元財務官で、ヘッジファンドとも丁丁発止の打ち
合いをやった経験を持つ日銀総裁の発言である。投資家が泡を食ったのも
当然であろう。円/ドル相場は、6/5の1ドル=125.86円の安値から、6/10に
は一時122.46円まで一気に円高に振れる局面があった(グラフ7)。
(グラフ 7)
黒田発言で「円が急反発」
黒田発言と円ドルの推移
(円/ドル)
126.5
125.87円
(6/5)
126.0
黒田日銀総裁
「さらに円安に振れると
いうことは、普通に考え
ればありそうにない」
125.5
124.64円
(6/10)
125.0
124.5
円ドル
124.0
123.5
123.0
122.5
122.45円
(6/10)
(出所)BloombergのデータをもとにMUMSS作成
122.0
6/4
6/5
6/8
6/9
巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。(35015061536M)
6
6/10
6/11
6/12
2015 年 6 月 15 日
ストラテジー
ヘッジファンドはユーロを買
戻し
円/ドル相場は、今年1月~5月中旬まで、120円±3円程度のナロウレン
ジの揉み合いが延々と続いてきた。ところが、5月後半から円安方向に振れ
始め、良好な米雇用統計を反映する形で125円を突破する動きを見せたわ
けだ。米利上げ観測が強まったことや、雇用の好転が材料とされていた。と
ころが、楽屋裏を見ると異なった風景が現出してくる。CFTC(米商品先物
取引員会)が発表しているヘッジファンドの為替先物ポジションを見ると、彼
らが主たる攻撃先と定めていたのはユーロであった。ユーロの先物ポジショ
ンは、2014年3/18の52,991枚をピークとした後、延々とショートを積み上げ
てきた。今年3/31時点では▲226,560枚と、ユーロ危機時の2012年6/5の▲
214,418枚を凌いで、史上最高の売りポジションを形成した。もちろん、最大
の材料はECBの量的緩和策である。この間、ユーロ/ドル相場は、2014年
5/8高値1ユーロ=1.399ドル~今年3/16安値1.045ドルまで、25.3%のユー
ロ安進行となった。ヘッジファンドのポジション・テイクをそのまま反映したよ
うな相場である。ところが、春以降ユーロのショートカバーに転じ、6/9時点
では▲137,974枚に売りが減少している(グラフ8)。ギリシャ問題の混迷は依
然として続いているが、最もユーロ売りの美味しい局面は終わったとの解釈
であろう。ユーロ・キャリー・トレードの巻き戻しも加わって、足下ではショート
カバーが続いている。このあたりの迅速・機敏な動きこそが、ヘッジファンド
の真骨頂と言えるだろう。
(グラフ 8)
ファンド筋
ユーロ売りの巻き戻し
円ショートのヘッジファンド
を急襲
このユーロのショートカバーと同時に進行したのが、円ショートである。彼
らは、円売りに再びターゲットを絞ったのだ。円/ドル相場のヘッジファンド・
先物ポジションは、今年 4/28 には僅か▲5,493 枚と、ほぼニュートラルだっ
た。アベノミクス相場が佳境だった 2013 年 12/24 時点では、▲143,822 枚
の円ショートだっただけに、彼らがショートカバーを続けたことが分かる。とこ
巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。(35015061536M)
7
2015 年 6 月 15 日
ストラテジー
ろが、5 月後半から俄に売りが続き、6/9 時点では一気に▲116,286 枚にま
で積み上がった(グラフ 9)。このユーロと円のポジションの変転を見れば、彼
らの戦略転換が明瞭である。約半年間、揉み合いが続いた円/ドル相場が
標的とされたのだ。125.86 円までの円安進行に、彼らの関与が極めて大き
かったものと思われる。為替相場は、中長期的には、景況感格差や金利格
差といったファンダメンタルズで動く。しかし、短期的には、投機的な需給が
相場の帰趨を握ることが多い。おそらく、日本政府・当局が、円安を傍観す
る姿勢を維持したならば、一段と円安は進行して 120 円台後半に定着した
ものと思われる。この円安ピッチの速さに対して、黒田発言の登場となるわ
けだ。どうも、黒田総裁は、ヘッジファンドの動向に精通されているように思
える。昨年 10 月末の追加緩和策発動に際しても、10 月前半にヘッジファ
ンドを主とした外国人が日本株を約 3 兆円ショートし、ポジションがカラカラ
になっていた時の奇襲攻撃であった。絶妙のタイミングでの緩和策、円安
牽制発言は、相場の実戦を体験した総裁ならではのものと思われる。
(グラフ 9)
5 月後半から
円売りに転じたファンド筋
再び「円売り・日本株買い」
この為替の円安シフトと同時に、ヘッジファンドが行ったのは日本株買い
だった。日本株相場と円相場は明瞭な正の相関性を維持することが多かっ
たが、2 月後半から 3 月いっぱいまでは相関係数がマイナスになってい
た。ところが、その後は正の相関に回帰し、再び「円安=日本株高」の構図
が鮮明になっている。東証の投資主体者別売買動向において、外国人は
5 月第 3 週に現物株式 4,376 億円・株式先物 6,046 億円、同第 4 週も現
物株式 3,971 億円・株式先物 3,098 億円の大幅買い越しとなった。2 週間
で現物株式 8,347 億円に対して、株式先物は 9,144 億円とデリバティブの
ウェイトが高まっていることが分かる。つまり、5 月後半から、ヘッジファンド
は、「円売り・日本株買い」のポジションにベットしたことが、データでも証明
巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。(35015061536M)
8
2015 年 6 月 15 日
ストラテジー
されているわけだ(表 1)。もちろん、外国人の中にはロング・オンリーと呼ば
れる年金や海外投信といった中長期投資家もいる。彼らは、いったん買入
れれば、余程の変事がない限り、短期で売却することはない。安定的な買
い主体だ。しかし、マーケット・インパクトが大きいのは、明らかにヘッジファ
ンドのデリバティブ売買である。しかも、債券、為替、株式をリンケージさせ
たポジション・テイクを行うため、各アセットの変動率が大きくなる。
●投資部門別株式売買状況
(表 1)
デリバティブ買いのウェイトを
高める外国人投資家
区
分
年月
11年
12年
13年
14年
12月
月
1月
間
2月
動
3月
向
4月
5月
4月3週
4月4週
週 4月5週
間 5月1週
動 5月2週
向 5月3週
5月4週
6月1週
6月1週
売買シェア
年
間
(億円)
(海外
投資家)
19,725
28,264
151,196
8,527
1,976
-8,932
2,015
5,306
19,953
9,956
3,084
7,080
-574
584
1,025
4,376
3,971
403
64.1%
個人
法人
外国人
金融機関
生損保 都・地銀 信託銀
-5,757
-815
7,890
-6,978
-1,182 -10,193
-10,751
-2,830 -39,664
-5,038
-1,290 27,848
-230
-317
6,039
-323
180
5,262
-822
-275
2,809
-1,043
-157
-1,226
-1,154
-655
-4,307
-326
-369
-436
-298
13
-598
-303
-6
-987
-29
68
-150
-2
9
-111
-91
-9
-274
-55
-179
-636
-178
-190
585
-20
-22
128
0.2%
0.1%
事法
投信
信用
6,174
3,804
6,297
11,018
2,109
1,619
631
-8
-618
1,072
124
-174
-68
21
-118
492
676
892
-1,386
460
4,267
-2,105
2,014
432
-1,120
-1,255
-1,273
217
86
-805
-503
386
175
-65
-279
-800
10,497 -10,438
5,774 -24,886
29,774 -117,282
13,189 -49,512
3,524
-5,483
2,643
879
-2,363 -14,166
3,009
-4,072
618 -15,845
-25 -12,805
459
-3,926
-725
-5,284
1,314
-492
125
-518
310
-2,130
-444
-5,515
-17
-4,642
1,221
-293
1.3%
2.5%
3.6%
16.7%
現金
9.7%
(出所)東証のデータをもとに、MUMSS作成
●外国人投資家(現物・先物計)
月/週
4月3週
4月4週
4月5週
5月1週
5月2週
5月3週
5月4週
6月1週
先物
JPX
日経
TOPIX
平均
日経
1,439
-71 -120
386
299
23
-1,991
473 -209
-2,480 -160
-67
-1,229 -682
-71
3,528 1,519
-87
1,163 1,450
10
-1,294 -945 -250
(億円)
ミニ先物
小計
小計
日経
TOPIX
【a】
【b】
平均
1,249 -1,060
20 -1,040
709 1,021
18 1,039
-1,727 -423
-338
85
-2,707
-90
-93
4
-1,982
525
524
2
4,959 1,088
-1 1,087
2,623
475
482
-7
-2,489 -427
-430
-2
先物
合計
【a+b】
209
1,747
-2,066
-2,796
-1,457
6,046
3,098
-2,919
現物・先物合計
現物
【c】
【a+c】
3,084
7,080
-574
584
1,025
4,376
3,971
403
4,333
7,788
-2,301
-2,123
-958
9,335
6,594
-2,086
【a+b+c】
3,293
8,827
-2,640
-2,212
-432
10,422
7,069
-2,516
(出所)東証、大証のデータをもとに、MUMSS作成
投機マネーの関与で目立つ相
場の歪さ
日経平均 12 連騰という 1988 年以来の記録をマークした需給面の最大
要因は、明白に「円安・日本株高」戦略にシフトしたヘッジファンドである。た
だし、彼らの関与が大きくなると、相場の歪さが目立ってくる。例えば、12 連
騰中もそうだが、後場の 14:00 とか 14:30 とかの引け間際になると、突如と
して号砲が鳴ったように株価指数が急動意を見せることが少なくない。特段
の材料がないにもかかわらず、「引け際の魔術師」が如き上昇は異様であ
る。上がっている場合は良いが、彼らがアンワインド(ポジションの巻き戻し)
を行えば、今度は下げ局面で真逆の事態が生じることになろう。あるいは、
日経平均を恣意的に動かすアイテムとして、ファーストリテイリング等の値嵩
株に思惑的な売買が目に付くことも多い。6/11 時点では、ファーストリテイリ
ングの日経平均に対する構成比率は 10.2%に達している。単純平均指数で
巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。(35015061536M)
9
2015 年 6 月 15 日
ストラテジー
ある日経平均には、時価総額の概念はなく、株価の高い銘柄の寄与度が大
きくなる。したがって、個人投資家に人気の高いみずほFGが0.05%、第一生
命が0.04%、関西電力に至っては0.02%といった構成比で、こうした低位の個
別銘柄の騰落は、ほとんど日経平均に影響を及ぼさない。となれば、日経平
均を振り回すためには、値嵩株のバスケット売買を行えば良いことになる。メ
ジャーSQ(特別清算指数)の前日である6/11の相場では、特段の材料がな
いにもかかわらず、ファーストリテイリングの株価は1980円高、同社一銘柄
で日経平均を77.7円吊り上げたことになる(グラフ10)。そして、メジャーSQの寄
付きで、ファーストリテイリングは53,400円の昨年初来高値をマークした。そ
の他の値嵩株も大同小異で、SQ値は20,473円だった。この12日の現物株
指数の高値は20,437円であり、実際には存在していない「幻のSQ」で高値
決済となった。日経平均の特性を熟知した買い方の完勝と言っても良い。
(グラフ 10)
構成比率の高い銘柄の
影響が大きい日経平均
日経平均の構成比率(6/11時点)
ファーストリテイ
10.20
ファナック
5.03
ソフトバンク
4.20
KDDI
3.31
京セラ
TDK
1.91
日東電
1.83
ダイキン
1.78
アステラス薬
1.70
ホンダ
1.60
トヨタ
1.60
セコム
1.60
0.00
不透明な海外環境がトリガー
藤戸 則弘
投資情報部長
2.51
2.00
(出所)BloombergのデータよりMUMSS作成
4.00
6.00
8.00
10.00
(%)
ヘッジファンドの本質は「鞘取り」である。彼らが買いに回っている間は良
いが、「旬が過ぎた」と見れば直ちに反対売買を行う。特に、今回のような
「SQプレイ」の後には、その反動が出易い。欧米債券相場、為替相場共に
不安定な状況であり、6/16~17にはFOMC(公開市場委員会)という大イベ
ントも控えている。もし、市場の想定以上に、FRBのタカ派色が強まった場
合には、波乱展開となる可能性も否定できない。ギリシャ問題がユーロ全体
に与えるインパクトは限定的だが、ブレの大きなチプラス首相の発言は、ヘ
ッジファンドに格好のトレード材料を提供することになろう。国内要因は落ち
着いているが、海外環境には不透明感が強い。「黒田発言」もあって、これ
以上の円安・株高が短期的には期待できないとなれば、彼らが円と日本株
のアンワインドに走ることも想定すべきであろう。
巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。(35015061536M)
10
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