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日銀の「ETF6兆円買入」に関する考察

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日銀の「ETF6兆円買入」に関する考察
藤戸レポート
日銀の「ETF6兆円買入」に関する考察
日銀ETF6兆円買入に関する考
察
(表1)
外国人投資家の
大幅買い越しが一巡
2016 年 8 月 8 日
日銀の追加緩和策で目玉になった ETF(上場投信)買入枠拡大につい
て考えてみたい。まず、年間 6 兆円という金額については、既に御伝えした
ように、中央銀行が日本株の最大の買い手に浮上する可能性を示唆してい
る。日本株市場で最大の売買シェアを占める外国人投資家は、2011 年 1
兆 9,725 億円、2012 年 2 兆 8,264 億円、2013 年 15 兆 1,196 億円(史上
最高)、2014 年 8,527 億円の買い越しが続いた。特に、アベノミクス相場の
全盛期となった 2013 年の 15 兆円を超える膨大な買い越しは、おそらく空
前絶後の巨額として、長く日本証券史に残ることになろう。その外国人も、
日本株への情熱が急速に冷めて、2015 年▲2,510 億円、今年前半(1~6
月期)で▲4 兆 7,411 億円の売り越しに転じている(表 1)。内外投資家が
興奮した 2013 年を除けば、2 兆円前後の買い越しでも「大幅買い越し」と
の評価が妥当と思われる。一方、国内勢で最大の買い主体たる信託銀行
(GPIF 等の公的年金の売買は、この勘定に反映される)は、2014 年 2 兆
7,848 億円、2015 年 2 兆 75 億円、今年前半 2 兆 8,880 億円の買い越し
だ。ここでも、2 兆円前後の買い越しは、巨額と評して良いスケール感であ
る。自社株買いの隆盛で注目が集まる事業法人も、2012 年 3,804 億円、
2013 年 6,297 億円、2014 年 1 兆 1,018 億円、2015 年 2 兆 9,632 億円、
今年前半 1 兆 3,603 億円の買い越しである(表 2)。株主優遇策・ROE(株
主資本利益率)重視の経営がブームとなったこの 2 年間でも、2 兆円超の
買い越しは「大幅」と表現してよい。今回の ETF 買入枠 6 兆円は、中央銀
行が外国人、信託銀行、事業法人を統合した巨額の買い主体になることを
意味している(グラフ 1)。
◎外国人投資家売買動向(現物)
月
2009年
2010年
2011年
2012年
2013年
(億円)
2014年
2015年
2016年
1月
-8,303
14,666
7,204
4,598
12,379
-11,696
-8,932
-10,556
2月
-8,240
2,750
9,322
5,874
8,543
-829
2,015
-19,983
3月
-8,835
5,428
14,034
2,426
16,554
-5,807
5,163
-19,588
4月
4,101
8,302
6,261
950
26,827
4,244
19,953
8,604
5月
3,740
-6,011
1,992
-3,647
12,225
-825
9,956
-3,258
6月
45
-9,911
1,212
-1,275
6,708
5,649
-1,713
-2,630
7月
10,101
2,315
1,695
-2,133
9,421
4,976
-3,476
8月
5,811
-846
-10,656
-338
-1,194
-3,925
-11,582
9月
-1,242
1,262
-7,526
-149
8,064
5,952
-25,772
10月
7,302
4,626
1,655
1,586
6,950
-3,774
4,630
11月
273
4,209
-1,704
4,925
22,993
12,586
6,777
12月
13,021
5,316
-3,764
15,448
21,725
1,976
330
合計
17,775
32,105
19,725
28,264 151,196
8,527
-2,653
-47,411
出所:AstraManager のデータをもとに MUMSS 作成
巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。
2016 年 8 月 8 日
ストラテジー
マーケット分析
(表2)
信託銀行、事業法人の
買い越し継続
●投資部門別株式売買状況
区
分
年月
(海外
投資家)
12年 28,264
13年 151,196
14年
8,527
15年 -2,510
2月 -19,983
月
3月 -19,588
間
8,604
4月
動
5月 -3,258
向
6月 -2,630
1,290
7月
2,236
6月2週
6月3週 -2,208
週 6月4週 -1,301
間 6月5週
105
動 7月1週 -1,749
向 7月2週
3,512
7月3週 -1,262
788
7月4週
7月4週
69.1%
売買シェア
年
間
(グラフ1)
ETF購入金額を拡大した
日本銀行
(億円)
法人
外国人
金融機関
生損保 都・地銀 信託銀
-6,978 -1,182 -10,193
-10,751 -2,830 -39,664
-5,038 -1,290 27,848
-5,841 -3,094 20,075
-11
-566
9,501
-986
-134
4,982
-624
-584
1,421
8
132
1,152
-669
-194
5,747
-1,396
-292
2,635
78
-9
1,489
15
50
213
15
27
1,251
-605
-167
2,283
-297
-76
1,526
-611
-161
-57
-181
-71
660
-308
16
506
0.2%
(億円)
0.1%
個人
事法
投信
信用
現金
3,804
6,297
11,018
29,632
2,910
-91
729
3,080
5,835
729
871
3,533
261
20
442
124
88
76
460
4,267
-2,105
2,429
1,980
932
1,182
-382
950
-1,337
-205
563
238
606
-372
-463
-147
-355
5,774 -24,886
29,774 -117,282
13,189 -49,512
16,748 -66,744
-209
3,645
2,419
407
-1,031
-5,917
1,024
-950
1,568
1,246
-61
-3,839
443
-148
372
1,562
178
177
-322
202
834
858
-1,692
-3,299
847
-460
-50
-938
3.6%
0.9%
2.8% 15.6%
6.2%
(出所)東証のデータをもとに、MUMSS作成
(円)
日銀ETF購入と日経平均
180,000
26,000
(出所)AstraManagerのデータをもとにMUMSS作成
160,000
20868
(6/24)
日銀
異次元緩和
(2013/4/4)
140,000
日銀
ETF増額
(2016/7/29)
22,000
12兆8000億円
(2016年末)
日経平均
(右メモリ)
120,000
24,000
20,000
18,000
16,000
100,000
14,000
日銀
追加緩和
(2014/10/31)
80,000
12,000
10,000
60,000
40,000
8,000
3.3兆円
⇒
6.0兆円
日銀ETF購入額
(左メモリ)
4,000
20,000
0
2012/1
スタンス変更のないロング・
オンリー
6,000
9兆41億円
(8/4時点)
2,000
0
2012/9
2013/5
2014/1
2014/9
2015/5
2016/1
2016/9
しかも重要なのは、年間売買動向で分かるように、外国人は相場環境次
第で巨額の買い手にも売り手にもなる点だ。信託銀行も、アベノミクス相場
全盛の 2013 年には、▲3 兆 9,664 億円の売り越しとなっている。つまり、当
然だが、固定した買いスタンスではない。世界の経済・金融情勢によっては、
大きな売り手に変容することも事実なのだ。ところが、日銀の ETF 買いは、
巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。
2
2016 年 8 月 8 日
ストラテジー
マーケット分析
まるで官庁が予算を執行するように粛々と買い続けるだけだ。その累計買
い越し額は、9 兆 41 億円の膨大な金額に達している(8/4 時点)。ここに、
「年 6 兆円」の買い越し金額がオンされて行くわけだ。TOPIX が前引け段
階で前日比安い場合(以前は▲1%だったが、足下では▲0.4%前後でも買
い発動)という縛りはあるが、延々と買い続けるだけである。言葉を換えれ
ば、増刷した日銀券で毎年 6 兆円の ETF を買い続けることになる。おそら
く、何らかの大材料が出現し、日経平均が短期間に 22,000~25,000 円程
度まで急騰して、デフレ脱却が明瞭とならない限り、日銀が反対売買を行う
ことはないだろう。それまでは、バランス・シートに ETF の残高を抱えたまま
で、日銀は突き進んで行くものと思われる。
相場の底入れから反転のメカ
ニズム
(グラフ2)
景気・業績で大きく変動する
日本株の世界シェア
こうした中央銀行による巨額の買いを評価して、兜町筋では、「日経平均
が 2,000~3,000 円上がる」との御託宣だ。確かに、既述のような突出したロ
ング・オンリーの投資主体の出現を考えると、そう宣言したくなる気持ちも分
かる。しかし、30 年以上相場を見て、実際のファンド運用も経験した私の目
からすれば、「足し算しかできない兜町」の思いを強くしている。「そもそも
論」からすれば、株価は実体経済や企業業績の好悪に応じて、騰落を繰り
返すはずだ。仮に日本の実質成長率が 3%以上になり、企業業績も 2 割増
益となれば、政府や当局が放置していても、世界の投資マネーは日本株市
場に奔流となって押し寄せてくる。これとは逆に、景気が停滞し、企業業績が
悪化すれば、売りが強まるのは当然だ。投資家のセンチメントは冷え込み、
悲観論一色となって、グローバル投資家の日本株ウェイトは大幅に下がるこ
とになる(グラフ 2)。大手企業の破綻が起こるのも珍しいことではない。こうし
た状況になれば、空売り筋が大挙して東京市場に参入し、「売り仕掛け」を
行うようになる。そして悪いファンダメンタルズを考慮しても、実体以上に空
売りが膨張する「オーバー・ショート」が現出する。売りが売りを呼ぶ展開だ。
日経平均と日本株の世界シェア
(%)
(円)
13.00
24,000
(出所)BloombergのデータをもとにMUMSS作成
20,952
(6/26)
12.00
11.00
20,000
日銀
異次元緩和
(2013/4/4)
東日本
大震災
(2011/3/11)
16,000
10.00
日経平均(右)
12,000
9.00
8,000
8.00
4,000
7.00
日本株の世界シェア(左)
6.00
2010/1
2010/11 2011/10
巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。
3
2012/8
2013/6
2014/5
2015/3
2016/1
0
2016 年 8 月 8 日
ストラテジー
マーケット分析
こうした弱気相場継続の中、政府・当局が国際協調体制の下で渾身の景気
対策・金融緩和策を実施すれば、相場は突如として大底を入れ、急速な反
転に向かう。大底入れから急反発に向かう際の主力となるのは、この空売り
勢のショート・カバーである。この問答無用の買い戻しによる急騰相場が第
一波であり、その後に政策効果が顕在化し、ファンダメンタルズの改善を伴
った内容の濃い第二波の上昇トレンドが形成される。これが相場の底入れ
から急反発のメカニズムだ。
相場ダイナミズムの喪失
(グラフ3)
リーマン・ショックによる
急落からV字型反発
上記の急反発メカニズムは、大昔の事でも架空の話でもない。ベテラン
投資家は記憶に鮮明に残っていることだろうが、リーマン・ショック(2008 年
9 月)後の 2009 年 3 月に、世界が破滅の淵から蘇生した大逆転相場のメ
カニズムである。ダウ工業株 30 種平均は同年 3/6 安値 6,469 ドルで大底
を形成し、壮大な相場に繋がって行った。日経平均も 3/10 安値 7,021 円
で底入れし、2010 年 4 月高値 11,408 円までの大反騰となった(グラフ 3)。
当初は、空売り残高の多い銘柄群が主役を演じた。ヘッジファンドを中心と
した空売り残高の多い銘柄群がディスクローズされていたため、その一覧表
を見ながら買い向かった投資家も少なくなかったはずである。つまり、悲観
論がオーバー・ショートを生み、その絶望の中から株価は反転上昇波動を
形成するのだ。これこそが相場が持つダイナミズムである。ところが、輪転機
で印刷したマネーでロング・オンリーが毎年 6 兆円買うとなれば、この相場
が本来持つダイナミズムが変容してしまう。つまり、「下げるべき局面で下げ
渋る」現象が起きよう。即ち、上げ相場の起爆剤も喪失することになる。
(ドル)
日経平均とNYダウの推移(2008/4-2010/7)
(円)
19,000
16,000
(出所)BloombergのデータをもとにMUMSS作成
リーマン
・ショック
(2008/9)
17,000
14,000
11408
(2010/4)
12,000
日経平均(右)
15,000
10,000
13,000
11258(2010/4)
11,000
7021
(2009/3)
8,000
6,000
9,000
NYダウ(左)
4,000
7,000
2,000
6469
(2009/3)
5,000
2008/4
日銀審議委員の的確な指摘
0
2008/8
2008/11
2009/3
2009/7
2009/11
2010/3
2010/7
7/28~29の金融政策決定会合に際しても、このETF買入枠6兆円の拡大
に反対したのは、証券界出身の二人の審議委員のみだった。佐藤委員
は、「約6兆円の買入は、市場の価格形成や日本銀行の財務健全性に及ぼ
す悪影響等を踏まえると過大である」とし、木内委員も、「財務健全性への悪
巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。
4
2016 年 8 月 8 日
ストラテジー
マーケット分析
影響のほか、株式市場のボラティリティを高める、株価を目標にしているとの
誤ったメッセージになる」との反対意見を述べた。この二人の審議委員は、6
兆円買入の巨大なインパクトを体感できるのだろう。異常な政策のリスクを
明瞭に指摘している。日銀は9月の会合で超緩和策の「総括」を行うと表明
したが、ETF買入に関して、ぜひ「そもそも論」から討議していただきたい。
資産価格の象徴である株価を浮揚させることが、デフレ脱却の印象を強く
するとの考えは理解できる。しかし、中央銀行が、ここまで株価形成に関与
することの是非も、真っさらな土台から議論する必要があるものと思われる。
平成バブル崩壊後、1990年代に行われたPKO(プライス・キーピング・オペ
レーション。公的資金を投入した株価維持策)は、苦い終焉を迎えた。今回
の6兆円買入は、「日経平均で3,000円上昇する」といった皮相的な解釈で
済むものではない。それは、東京市場の株価形成を歪にし、ファンダメンタ
ルズと乖離した価格形成に繋がるリスクを内包している。しかも、単純な「足
し算」だけではなく、相場が固有に持つダイナミズムを崩壊させる「引き算」
も加味して評価しなければならない。
個別銘柄への大きなインパク
ト
(グラフ4)
圧倒的な構成比率の
ファーストリテイリング
角度を変えて、ETF6 兆円の買入を個別銘柄への影響という観点から分
析してみよう。8/4 時点の日銀の累計買い越し額は、既述のように 9 兆 41
億円である。日銀はトータルの ETF 残高を公表しているが、TOPIX 型、
JPX400 型、日経平均型の各残高がどれくらいあるかは公表していない。仮
に、TOPIX 型、JPX400 型が 7 割、日経平均型が 3 割として、ラフなシミュレ
ーションを行ってみよう。日経平均型の ETF 残高は、「9 兆 41 億円×0.3=
2 兆 7,012 億円」となる。日経平均の構成ウェイトは、①ファーストリテイリン
グ 8.5%、②KDDI4.6%、③ソフトバンク G4.2%、④ファナック 4.0%、⑤京セラ
2.3%である(8/4 時点。ブルームバーグ)(グラフ 4)。単純平均株価指数であ
る日経平均は、圧倒的に値嵩株の構成比率が大きい。したがって、日銀の
日経平均型 ETF の残高が約 3 割と仮定すると、「2 兆 7,012 億円×0.085
日経平均の構成比率(8/4時点)
ファーストリテイ
8.5
KDDI
4.6
ソフトバンクG
4.2
ファナック
4.0
京セラ
2.3
ダイキン
2.1
アステラス薬
2.0
東エレク
2.0
テルモ
2.0
セコム
0.00
(出所)BloombergのデータよりMUMSS作成
1.8
1.00
2.00
巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。
5
3.00
4.00
5.00
6.00
7.00
8.00
9.00
(%)
2016 年 8 月 8 日
ストラテジー
マーケット分析
=2,296 億円」で、ファーストリテイリングへの投資相当金額は 2,296 億円と
なる。「2,296 億円÷35,500 円(8/4 引値)=約 647 万株」で、日銀はファー
ストリテイリング 647 万株相当を保有しているのと同義である。これは柳井会
長の 2,299 万株、カストディアン(投資家に代わって有価証券の管理を行う
機関)である日本マスター信託口 1,330 万株、日本トラスティ信託口 1,009
万株に次いで第 4 位に位置する(2016 年 2 月時点の保有株数ベース)。
ファンダメンタルズと無関係
の騰落を生む
(グラフ5)
底入れから急反発となった
ファーストリテイリング
同様な計算を行うと、年間6兆円のETF買いを継続し、内3割が日経平均
型とすれば、毎年約431万株の買いと同等の効果が表れる。実際には、
TOPIX型やJPX400型にもファーストリテイリングが採用されているため、株
数はさらに増加する。ただし、両指数共に加重平均株価指数のため、構成
ウェイトはTOPIX0.30%、JPX0.41%に過ぎない。やはり、日経平均におけるフ
ァーストリテイリングの構成比率が突出して高いのだ。日銀は業績動向や財
務状況は一切考慮せずに、粛々とETF買いを実行するだけだ。しかし、結
果的には、ファーストリテイリング株の大量買いと同じ効果が顕現することに
なる。ファーストリテイリングの株価は、7/6安値25,305円をマークした後、決
算が「予想したほど悪くなかった」こと、7月の既存店売上高が前年比+18.1%
だったことを受けて、反騰に転じたと解説されている。しかし、その材料だけ
で、8/5ザラ場高値36,880円にまで上昇したと見るのはナイーブに過ぎる
(グラフ5)。このファーストリテイリング1銘柄の上昇で、日経平均全体を約452
円吊り上げていることになる(上昇幅11,575円÷8/5時点の日経平均除数
25.596=452.2円)。機を見るに敏なヘッジファンドは、ETF6兆円がファース
トリテイリングに与えるインパクトを計算済みで、暗躍している可能性が高
い。そう考えないと、短期間で1万円以上の株価上昇は説明し難い。この結
果、NT倍率(日経平均÷TOPIX)は、8/5ザラ場に12.70倍をつけるに至っ
た。2013年12/26のピーク12.74倍は、指呼の間である(グラフ6)。ファーストリ
テイリングに象徴される値嵩株主導のバランスを欠いた上昇は、その後に
大きな波乱を生むことが多い。日銀は、日経平均型ETFの買いを、再考す
べき局面に到達したものと思われる。
(円)
ファーストリテイリング株価推移
45,000
日銀ETF
買い入れ
増額(7/29)
(出所)AsatraManagerのデータよりMUMSS作成
40,000
3Q
決算発表
(7/14)
36880
(8/5)
35,000
30,000
26320
(4/12)
25,000
20,000
1/4
2/2
3/2
巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。
6
3/31
25305
(7/6)
4/28
6/1
6/29
7/28
2016 年 8 月 8 日
ストラテジー
マーケット分析
(グラフ6)
「歴史的高値」に接近した
NT倍率
日経平均とNT倍率(2013/1~)
(倍)
(円)
15.50
24,000
(出所) AstraManagerのデータをもとにMUMSS作成
20952
(2015/6)
15.00
22,000
20,000
14.50
日経平均(右)
18,000
16320
(2013/12)
14.00
16,000
13.50
14,000
12.74
(2013/12)
13.00
12.70
(2016/8)
12.50
10,000
12.00
11.50
2013/1
日銀買いの有無が相場に大き
な影響を及ぼす
正常化への道程を模索
12,000
NT倍率(日々高値・左)
8,000
6,000
2013/8
2014/3
2014/11
2015/6
2016/1
8/4、日銀は通常の ETF707 億円、設備投資・人材投資に積極的な企業
支援枠で 12 億円の買いを実施した。同日の日経平均は前場安値 15,921
円と 16,000 円の大台割れまであった。しかし、後場になって日銀の剛腕が
唸り、結局 16,254 円・171 円高で引けた(グラフ 7)。前場と後場で相場の様
相が一変しており、今後も同様な展開がしばしば起こることになろう。ファン
ダメンタルズの材料で騰落が決まるのではなく、日銀が買うか買わないかと
いう需給要因が大きなインパクトを与えることが実証されたわけだ。問題のフ
ァーストリテイリングは 960 円高で、この日 1 日だけでも、日経平均全体を
37.5 円吊り上げている。おそらく、ブローカーを始め、短期的には喜ぶ向き
が多いことだろう。しかし、中長期的には、日本の株価が何で形成されてい
るかは五里霧中となる。騰落が需給要因で決することが多くなれば、株価の
方向性を判断するのは困難さが増す。材料株の騰落が読み難いのと同様
だ。この歪な動きに対して、欧州系 A 証券、同 B 証券が、日経平均先物、
TOPIX 先物で大幅な売り越しだったのは印象的である。
このラフなシミュレーションは、日銀の保有する日経平均型 ETF が、保有
ETF 全体の 3 割という仮定である。ところが、市場の株式インデックス・タイ
プの主要 ETF 純資産を見ると、日経平均型が 7 兆 3,340 億円、TOPIX 型
56,654 億円、JPX400 型 6,153 億円である(8/4 時点。ブル・ベア、レバレッ
ジ除く。QUICK)。合計で 13 兆 6,147 億円(日銀の保有 9 兆 41 億円は、
いかにも巨大である)だが、シェアは日経平均型 53.9%、TOPIX 型 41.6%、
JPX400 型 4.5%となる。日経平均型 ETF は投資家に認知度が高いため、
日銀以外の利用者が多いことも想定される。その分を考慮しても、日銀保
有の日経型 ETF3 割という前提は、非常に控え目なものである。実際は、3
割以上の可能性が濃厚だ。したがって、ファーストリテイリングへのインパク
トも、その分大きくなる可能性が高い。つまり、ファーストリテイリングのファン
巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。
7
2016 年 8 月 8 日
ストラテジー
マーケット分析
(グラフ7)
日銀のETF購入で
後場に相場が一変
(円)
日経平均(8/4データ・1分足)
16,350
(出所)AstraManagerのデータよりMUMSS作成
16,270
(14:57)
16,300
16,250
16,200
16,150
16,100
16,050
16,020
(前引)
16,000
日銀 ETF購入
719億円
15,950
15,921
(10:49)
15,900
15,850
9:00
10:00
11:00
12:30
13:30
14:30
ダメンタルズがどうであろうが、日銀が日経平均型 ETF を粛々と買い増せ
ば、結果的にその投資金額の 8.5%がファーストリテイリング株の買いとして
機能することになる。証券界出身の日銀審議委員は、こうした歪さがもたら
すリスクを的確に指摘している。8/4 のメディアの市況解説では、「日銀が
700 億円以上 ETF を買ったので株価が上がった」と書いてある。本来、株
価を左右するはずのファンダメンタルズの話は、付け足しに過ぎない状況
だ。「株価が上がればイイじゃないか」との発想は、極めて近視眼的である。
日銀は、未来永劫 ETF を買い続けるわけではない。東京市場が日銀の買
いをビルト・インするのが常態化すれば、やがて訪れる金融政策の転換の
際に、その反動は巨大なものとなろう。黒田総裁の任期は 2018 年 4 月まで
である。正常化への道程を模索しなければならない。
中央銀行と公的年金が最大の
買い手
私はマーケットの分析項目として、①世界・日本の景気、②各国中央銀
行の金融政策、③各国政府の主要政策、④企業業績・バリュエーション、
⑤為替動向、⑥コモディティ価格、⑦地政学的リスク、⑧イベント(世界的な
会合や催し物)、⑨信用需給や裁定動向といった市場の内部要因、⑩株式
需給・投資主体者別の売買動向、等々をチェックして、長年株価の予測を
行ってきた。いわばオーソドックスなアプローチである。しかし、今や⑩の日
銀の動向が、日本株に大きな影響を持つファクターとして肥大化している。
「日銀が買ったから上がった・買わなかったから下がった」という状況が続け
ば、競馬ファンの「戸崎圭太は進境著しい」、「やっぱりミルコ・デムーロはう
まい」、「いやクリストフ・ルメールの方が上だ」といった会話と同等のレベル
に堕してしまうことになる。経済や企業業績よりも、「日銀は前日比▲0.1%で
も買うのか、プラスでも買うのか?」といった要素が決定的な意味を持つ。日
本株の最大の買い手が、中央銀行と公的年金という事態が続けば、真摯な
外国人投資家は忌避することだろう。
巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。
8
2016 年 8 月 8 日
ストラテジー
マーケット分析
「夏の停滞相場」の予感
(グラフ8)
日銀金融政策決定会合に向けて
思惑が高まる日本市場
バーナンキ前 FRB 議長来日によって、投資家の大胆な景気対策と日銀
追加緩和への期待(妄想)は膨張した。しかし、事業費規模 28.1 兆円の景
気対策は、数々の美辞麗句で装飾されているが、秋の補正予算の規模は
4 兆円程度に過ぎない。また、日銀の追加緩和策は ETF の買い枠拡大に
留まったことは御存知の通りだ。これで、命題たるデフレ脱却達成と見るの
は苦しい。その失望感もあって、8/4 に日経平均は 15,921 円まで売られた
ものの、日銀 ETF719 億円買いで相場は上昇に転じた。おそらく、このパタ
ーンは、次回の日銀金融政策決定会合(9/20~21)の思惑が膨らむまで
は、繰り返されることになろう(グラフ 8)。つまり、下値は日銀が支え、上値は
積極的な買い主体が見えない状況だ。リオの五輪が始まることを考えると、
夏場は「証券ブローカー殺し」の停滞相場が続く可能性が高まっているよう
に思える。「株価の下げが将来の上昇に繋がる」メカニズムを粉砕すれば、
この冴えない相場は意外に長期化するかもしれない。そして、日銀決定会
合前後に、イベントと見たヘッジファンドの激しい売買が集中する構図だ。
人為的な株価サポートの弊害と言えよう。
日銀金融政策決定会合と日経平均
(円)
21,000
(出所)BloombergのデータよりMUMSS作成
(6/16)
19869
(12/18)
20,000
(7/29)
(4/28)
<日付は日銀政策決定会合日>
(3/15)
(1/29)
19,000
英国国民
投票(6/23)
17905
(2/1)
18,000
17291
(3/14)
17613
(4/25)
(9/21)
16938
(7/21)
17,000
(12/18)
16,000
日経平均
15,000
15395
(6/16)
14,000
「リターン・リバーサル」
12/1
1/5
2/5
3/9
4/11
5/17
6/16
7/19
8/19
9/21
もう一つ相場を読み難くしているのは、「リターン・リバーサル」(好パフォ
ーマンス銘柄を売って、アンダー・パフォーム銘柄を買う手法。長期投資家
が比較的好む)の様相が強まっていることだ。TOPIX33 業種の年初来パフ
ォーマンス(~8/4)を見ると、ワースト・ランキングは1位鉱業▲33.2%、2 位銀
行▲31.8%、3 位証券▲30.4%、4 位海運▲29.2%、8 位保険▲23.7%だった
(グラフ 9)。ところが、7/28 引け~8/4 のベスト・ランキングでは、1 位銀行
3.8%、2 位保険 3.0%、3 位証券 0.7%、4 位情報・通信 0.7%、5 位卸売▲0.6%
である(グラフ 10)。日銀の追加緩和策でマイナス金利の拡大がなかったこと
から、金融株の反発が大きくなっているのが明瞭だ。また、年初来で相対パ
フォーマンスが良好だった 3 位紙・パルプ→31 位、4 位建設→30 位、5 位
食品→33 位等々は、悪化が目立っている。この業種間パフォーマンスの大
巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。
9
2016 年 8 月 8 日
ストラテジー
マーケット分析
(グラフ9)
ワースト・パフォーマンス上位に
金融、資源関連が並ぶ
東証業種別(ワースト・パフォーマンス・2015年末~8/4)
鉱業
-33.2
銀行
-31.8
証券
-30.4
海運
-29.2
電気ガス
-27.7
空運
-26.5
輸送用
-25.0
保険
-23.7
不動産
-22.7
(出所)BloombergのデータよりMUMSS作成
他金融
-40.0
(グラフ10)
7月末から
リターン・リバーサルが鮮明に
-35.0
-30.0
-22.2
-25.0
-20.0
東証業種別(ベスト・パフォーマンス・7/28~8/4)
銀行
3.8
保険
3.0
証券
0.7
情報・通信
0.7
卸売
-0.6
他製品
-0.9
ゴム
-1.1
非鉄
-1.1
倉庫
-1.1
精密
-3.0
藤戸 則弘
投資情報部長
(%)
-10.0
-15.0
(出所)BloombergのデータよりMUMSS作成
-1.3
-2.0
-1.0
0.0
1.0
2.0
3.0
4.0
(%)
5.0
きな逆転を見ると、比較的規模の大きなファンドが「リターン・リバーサル」を
実施した可能性が大きい。個別銘柄で見ても、業績が良好で右肩上がりの
綺麗なチャートの銘柄ほど、足下では大きく売られている。小売りセクター
で、ニトリ HD、しまむらが売られ、百貨店株が買われるのも同様である。つ
まり、物色動向に不透明感が増しているわけだ。ただし、「リターン・リバーサ
ル」は、相対的な出遅れ感が消えれば終焉を迎える。短期的には、「好業
績銘柄が売られ・業績不振銘柄が買われる」現象が目立っても、それが新
たなトレンドを生むとは思えない。むしろ、中期的には、売られた好業績業
種・銘柄の押し目買いを考えるべきであろう。相場全体の方向性は読み難
いが、最後に物を言うのは、好調な企業業績と思われる。
巻末に重要な注意事項を記載していますので、ご参照下さい。
10
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