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魚鱗の構造、形成と鱗相分析

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魚鱗の構造、形成と鱗相分析
ふ化技術のワンポイント・アドバイス
魚鱗の構造,形成と
福 者 雅章,
Structure‖nd’ormation{f’ish《cale,
and@scale@pattern@analysis
Masa , aki Fukuwaka*
はじめに
鱗の種類
おそらく皆さ/" は,「
鱗」というと魚類の
魚類の鱗は,古生代㏄.6-2.4 億年前) に
・
硬い鱗を思い浮かべることだろう。しかし,
出現。 した無顎類 ( ヤッメタナギの仲間) の
ほかにも「鱗」を持つ動物はたくさんいる。
頭部を覆う「庚申」に 起源を持つ (落合
例えば,「ゥロ コムシ」という
動物は,環形
1987) 。 これらの皮 甲を持つ化石種は甲皮類
動物の多毛類つまり海にすむ ゴヵイの仲間
と呼ばれている。その中の異甲類の戊申は
であ る。 鱗は「動物の体表の大部分または
一部を覆 ,多少とも硬質の小薄片状の形
貴様組織の層と象牙質結節から構成されて
おり,一部の種では象牙質結節の表面に ェ
成物 」であ り,脊椎動物の中では,魚類を
ナメル質横組織 (エ ナ
う
ノ
ロイド) が存在し
はじめ,爬虫類・鳥類・哺乳類などに広く
ていた (後藤 1988) 。 この貴様組織・象牙
見られる (八杉 5 1996) 。 脊椎動物の皮膚
質・ エ ナ
は,表皮と真皮の 2 層からなる。 魚類の鱗
や私達の歯にも共通して観察される。
は真皮中に形成される骨の様な組織であ る
麦谷
ノ
ロイドなどの構造は,魚類の鱗
魚類の鱗は,その構造から コス ; ン鱗,
爬虫類
イ
ン 鱗 (硬鱗) .楯鱗・骨鱗の4 種に大
などの鱗は表皮が角質化したもので,魚類
別される (表 D) 。 楯鱗は,軟骨魚類の板鯉
の鱗 とは異なる。特に魚類の鱗は,年齢査
類 (サメ・エ イ類) に見られる。
定 によく用いられるので読者の皆さ
めはだ」と言われるよさに,楯鱗は突起を
なじみがあ るだろう。ここでは鱗に関する
持つものが多くざらざらしている。楯鱗は
これまでの知見を紹介する。
顎 にあ る 歯と起源が同じなので「皮歯」と
*
北海道さけ・ますふ
化場業績
B 第 52 号
北海道さけ・ますふ
化場調査課
(ResearchDiVision.H0kkaidoSalmonHatche
Japan,
2-2 Nakanoshima,
Toy.ohira.ku,Sappor0
一 45
062, Japan)
一
げ, FlsherlesAgenc
Ⅴ
0f
表 1.
魚類における
鱗構造の上ヒ 較
m@ 丈
ど
コ
スミン鱗
エナメル,目
エナメロイド エナメロイド エナメロイド ガツイン
ぢ ,り Ⅰ y
象牙竹 結節
象メ "臼
アスピディン
り
十様 利
@孔
サ
Ⅱ
コスミン
" スミン
コ
同氏 板のⅡ ザ様
m@l%朋
イソペヂイン
P:% 弗 y@
A@!好 @
WkM
仮 ハシ
i板
チョウサメ
ガ一
アミアお !
・
エ
頼石
糸念
川り
ネ
も
呼ばれる。楯鱗は,外層から エ ナ
ノ
ロイ
イ
・スズキ・マハゼなどに見られるような
ド・象牙質・貴様組織の 3 層からなる。楯
京のあ
鱗の発生は表皮と真皮の境界でおこり,
1988) 。
そ
の原基は表皮と真皮の両方の要素から形成
・
櫛鱗に 大別される (山田・麦谷
鱗の機能
される (後藤 1988)0
硬骨魚類に見られるコス , ン鱗
る
鱗は体表にあ る硬い組織なので, その重
ガ ツイ
ン 鱗 (硬鱗) .骨鱗は,真皮の 結合組織中に
要な機能の一つは体表の保護であ る (落合
形成され,表皮細胞の 関与はないと考えら
1987) 。 最初の脊椎動物であ る無顎類の皮甲
れる (山田・麦谷 1988) 。 典型的なコス ,
も
ン 鱗は, 古代の総鰭類 (シーラ ヵシスの仲
て 獲得されたと言う説もあ る
間) や肺魚類に見られる。 コス,ン 鱗は体
1988) 。 なお,現生の無顎類であ るヤ ツ
表から エ ナ
ノ
ロイド層 ・象牙質( コス,ン )
層 ・海綿状の骨質層
・
層板状骨質層 ( イソ
ガ 一類・ァ , ァ 類など
(山田・麦谷
メウ
ナギ類やメ クラウナギ類には皮 甲も鱗も持
つものはない。
ペディン) の 4 層 よ りなる。ポリプテルス
類, チ , ゥザメ類・
,淡水サソリの捕食からの防御組織とし
魚類の鱗はリン酸カルシウムが沈着して
いる貴様組織であ る。 動物にとってカルシ
に見られる ガ ツイン鱗 (硬鱗) は,その外
ウムは,神経刺激や運動機能など様々な機
層が ガ ツイン (硬鱗質) と呼ばれる厚いエ
能を有し, なくてはならない元素であ る。
ナ
しかし必要以上にあ
ノ
ロイドで覆われる。その構造は, ガ
ツ
イン層 ・薄いコス ; ン層 (退化してしまっ
ているものもあ る )
. イソ ペ ディン層の
3
も
ると生体活動の阻害
起こる。海水中にはカルシウム・イオン
が豊富に含まれているが,淡水中には非常
に少ない。そこで,鱗や骨組織はこれらの
層よりなる。
真菅魚類に見られる骨鱗は,外層の薄い
環境に適応するためにカルシウムや リンな
骨質層 と内層の繊維層板 よりなる (図 1) 。
どの排泄や貯蔵の機能も果たしていると考
骨鱗は,
えられる (山田・美容 1988) 。
さげ,ます類,サンマ・マイワシ
などに見られる 突起や辣のない 円鱗 とタ
一 46 一
また,側線網のように孔があ いて,中に
隆起縁
¥
且 ャ生
繊密 性 結合組織
筋肉 層
骨芽細胞
繊維芽細胞
図 1. 鼻骨魚類の皮膚の
構造の模式図 (山田・ 麦谷 1988)
水 の 動 ぎや水圧を感じる側線管という感覚
サンマ・スズキでは
, それぞれ31.5,
器官が通っている鱗もあ る。 戊申・楯鱗・
16-17, 約20, 18-20 mm
コス ; ン鱗 ,一部のガ ツイン鱗に見られる
1979) 。 初生鱗の発生部位も魚種によって異
象牙質層は, 硬組織中に細胞突起が 入り込
なる。サケ属魚類の初生鱗発生部位は背鰭
み,皮膚感覚の
受容器として 働く (後藤
巧 . 0,
であ った (松原 5
から脂鰭にかけての側線付近であ
り
(小林
1988) 。 私達の面の感覚もこれと 同じ象牙質
1961 ; 大熊 1991),
の果たす皮膚感覚として受 げっがれている
キ・コクチク p マスなどでも尾楠部付近で
と
ア ユ
・
ヮヵサギ ・スズ
言われる。
イ
骨鱗の発生
凍 ら 1979) 。
帰山 (1986) は, サケの初めて鱗が形成
される体長が ;37-50 mm
・
オイカ ワ などでは,躯幹の
前部であ った(松
骨鱗の形成と 吸収
であ ることを 示
初生鱗発生を稚魚期と幼魚期 に分ける
鱗は,骨質層 が最初に形成され,
指標として用いた。
初生鱗発生体長は, 発
綿屑板 が骨質層を裏打ちする j 形成 が
し
ょ
百段階を示すほかにも後に述べる " ックカ
進む dU 田 ・衰容 1988L 。 最初,表皮直下
ルキュレーシ。 ンの妥当性判定にも有効な
の真皮結合組織内に集まった乳頭細胞の間
ので,池魚種でも広く調べられている。
に, コラーゲン繊維とその間を埋める無定
えば,サケ属 魚類ではサクラマスの初生鱗
型の有機物質からなる 骨基質が分泌され
発生体長は 36- 42 mm,
る 。 次にリン酸カルシウム結晶が有機物質
ヒメ マス・ギンザ
ケ ・カラフトマスではそれぞれ平均41
上に現れ,石灰化が進み骨質層 が形成され
41, 07
る。 骨質層の直下の繊維芽細胞により,
mm
であ った(Kaer ゆama
熊 199l; Fukuwaka
刷中)。
l989; 太
and Kaeniyama
印
ラーゲン繊維が分泌され繊維層板 が形成さ
また,マイワシ・ワカサギ・コイ・
一
コ
れる。
'
成長中の鱗の縁でも同様に 骨基質が骨芽
焦点
細胞によって分泌される (図 1 ; 山田・麦
ス)
谷 1988) 。 丸形の骨芽細胞は基質を分泌す
ると扁平になり消失していく。鱗の上面に
隆起線
あ る骨芽細胞は,扁平化の過程でその 間に
骨基質を分泌 し 隆起線を形成する。骨質層
下面に接する骨芽細胞は,繊維芽細胞とな
条溝 -
り, コラーゲン繊維と無定型有機物質を分
図
表
ついで繊維層仮 に及ぶ。鱗 吸収に働く細胞
田部の模式
霜道
図
成熟や飢餓によって起こる (大池 ら 1971) 。
鱗の吸収は,成長縁の
骨質層側から始まり,
十手首
面
年齢査定の際に障害となる鱗の吸収は,
被覆櫛
の
部鱗
泌 し 繊維層板を形成する。
は鱗形成細胞に似ており, これと同じ起源
年輪や擬年輪は ,隆起線間隔が狭 いか,
の結合組織性細胞から分化したものと考え
または隆起線 が不連続になっているものと
られる。哺乳類では骨の 吸収は,多核の巨
して観察される (小林 1961,)。 年輪 や捷年
大な破骨細胞によって起こるが,鱗 吸収が
輪の形成は, 日長や水温など無機的環境要
進むと破骨細胞に似た細胞が観察される 2
因によって起こるという説もあ るが,体成
5 になる。
長によって大きな影響を受けていると考え
られている。また成熟,時期に
鱗 吸収が起こ
鱗 相形成
りその後再び鱗が成長すると ,隆起線 が不
鱗の後部は表皮直下に露出し (露出部),
前部はその前の 鱗の下に潜り 込み (被覆
部), 多くの硬骨魚類の鱗は,瓦状に重なり
連続になり 「産卵記号」が
f 成される (大
池5
1971) 。
海洋生活中のサケ属魚類の年輪形成時期
合い体表を覆う (図 1) 。 鱗の表面構造には,
は初春であ ると考えられる。
サケでは 2- 5
骨質の線状隆起によって 形成される隆起
月, ベ ニザケ では 1 月, ヵ ラフトマスでは
線,鱗の中心から縁辺にのびる放射状に骨
12 月末に年輪形成が 起こっていた (小林
質層 が欠損した条溝 ,
1961; Bilton and Lud
また櫛鱗の露出部に
は縁辺の切れ込みや隆起線の肥厚によって
形成される突起や疎などがあ る (図 2) 。 隆
1965; 石田・桜
井私信 )。
また,サクラマスなど淡水生活が長い 魚
体
種では,淡水生活中に形成される隆起 線の
悪いとぎは
間隔は狭く,海洋生活中に形成される隆起
起線は等間隔に形成されるのではなく,
成長の良いとぎは間隔が広く,
㎡g
狭くなる。 これは体成長速度と関連した鱗
線間隔は広くなっている。 このことから,
成長の速度が隆起線 間隔に大 ぎく影響して
後述するバックカルキュレーシ。 ン によっ
いると考えられる (Fukuwaka
て 降毎時の体長が推定できる (大熊・真山
alld
時。
バ
しあ
る
な㏄
求
鱗を
成
刑て
が
成
用
的
大て
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し法
中の通らあ都卒
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の定休
生広一
や
度でが
さ鱗間
そをそ
た生
意
'
@
Ⅰ
や
㌧
ヰ
"
さけ・ます類の最も
望ましい鱗採取部位 (本文参照)
図 3.
49
鱗標本作製は, ガムカードに鱗を張り付
油圧器を用いて加熱 ,加圧し 酢酸 ビ二
かなどの樹脂仮 に刻印し
鱗表面構造の
る 。
年齢形質は, 以下の条件を備えなければ
ならない。 1) 年齢表示 (年輪) と物理的
プリカを採る方法が広く用いられている。
時間との関係が 明らかであ り,生涯にわた
この方法は,同一の鱗から複数のレプリカ
って一定であること。 2) 年齢表示の変更
がとれるので,複数の人による年齢の読み
や消失のないこと。 3) 取り扱いが簡便で
合わせに適している。幼魚の小さな鱗の標
あ ること。4) 読みとりが容易であ ること。
本作製には, グリセリン・ジェリーやバル
魚類では採取や前処理が容易なことから,
サムなどで封入する方法が採られている。
鱗が使われることが 多い。
さげ・ます類での鱗相分析は,年齢査定
一般に, 鱗の読みとりは 高齢の魚ほど難
や成長" ターン推定のほかに系群識別にも
しいと言われる。年齢査定の誤差は,資源
用いられている ( 田中ら 1969) 。 これは鱗
評価に非常に 大きな影響を与える ( タイラ
が付加成長をし
ー ら
吸収が少ないことと鱗相
1993) 。 査定者による誤差を小さくす
が体成長を通して 生息環境の影響を受ける
るためには,複数の
人に よ る年齢の「読み
合
ことから,鱗相 が過去の生活歴を保存して
わせ」が行われることが多い。 また,複数
の年齢形質を組み合わせて査定し誤差を
いると考えられるためであ る。
調べることもあ る。 鱗に よ る年齢査定は,
鱗 分析と資源管理
耳石に よ る査定と比べ年齢を過小評価する
水産資源の管理とは,資源の状態 (生物
ことが多い (Beamish
and
McFarlane
学的諸特性) を人間の望む値に近づ け,維
198 円。 例えば,ギンダラでは鱗から3円歳
持することであ る (田中 1985) 。 資源の状
であ ったが耳石ではA- W0 歳と査定された。
態を調べてなにが 望ましくないかを判定す
ることを,資源診断あるいは資源評価とい
う。 資源評価には,水産生物個体群の量 (密
おわりに
1898 年のコイを対象とした研究以来,100
度や " イオマス), 年齢組成,成長速度,繁
年間にわたり,魚類の鱗は年齢査定に用い
殖形質 (苧卵数,成熟サイズ,性比など)
られている(Carlander l987) 。 ここで紹介
などのデータが必要となる。
したように,鱗 自体の形成機構は生理的・
水産生物の年齢組成や体成長速度の推定
には,飼育法,標識放流
法,体長組成法,
形態的に明らかにされてきた。 しかし現在
年齢形質 法 が用いられている
ら
形成機構がすべて 明らかにされたわけでは
1988) 。 これらのなかでも,年齢形質法は,
ない。 もちろん私には,鱗を見てこの 魚に
処理に手間がかかるが 必要であ るとされ
なにがあったか言い当てるような神通力も
年齢形質とは年齢を記録している形質
ない。 しかし研究が 進み将来にはもっと
る。
(能勢
においても,年輪形成機構をはじめ, 鱗相
のことで, 魚類では鱗,脊椎骨,耳石,鰭たくさんの情報を鱗分析から取り 出せるよ
条, 貝類では貝殻,鯨では耳垢が利用され
うになる日が来るかも知れない。
ひ . S. Bulr. Fiish., 43,
ここでは,鱗に関する基礎的知見の紹介
後藤仁敏 (1988): サメ類の皮歯 および歯の
を行った。採鱗 ・年齢査定などを
行う際に,
発生と脊椎動物における硬組織の系統発
生.海洋生物の石灰化と系統進化 (大森
少しでも参考にしていただければ幸いであ
る。
昌衛 ・須賀昭一・
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Fi2
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第 4 版.岩
Fly UP