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酒小売自由化に向けての生き残り戦略 酒小売自由化に向けての生き残り

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酒小売自由化に向けての生き残り戦略 酒小売自由化に向けての生き残り
酒小売自由化に向けての生き残り戦略
水野 雄二
(中小企業診断士)
1.企業概要
三星酒食品株式会社の創業は、明治 16 年であり、すでに 100 年以上の歴史を有している。
現社長は、経営者としては4代目である。
酒類その他飲料水等を料飲店に業務販売することが、その主たる業務であり、高度成長期が
到来するとともに、活況を呈する飲食業界を顧客に発展してきた。
しかし、バブルの崩壊から飲食業界が低迷し、酒類の廉売店の台頭や酒類免許の規制緩和か
らスーパーマーケット等の大型量販店等にも酒類の販売が許可され、次第に厳しい環境となっ
た。
大量に購入してくれる業務顧客は、その値段交渉も厳しく、利幅は薄いものとなり、酒類の
業務販売では、事業の発展は見込めず、会社そのものの存続が危うくなった。
昭和 61 年、ワインと地酒専門の小売店「モンカーヴサンボシ」をオープンした。
社長自ら、年に何度となくヨーロッパに出張し、様々なワインを研究し、買い付けた。
岐阜市及び岐阜市近郊では、ワインの品揃えでは、ナンバーワンであったと思われる。
しかし、高価なワインを長い年月、大切に貯蔵し続けるには、その在庫に対する資金的負担
とワインセラー等に掛かる光熱費等の負担が重くなり、なによりも来店客数が少ない店に問題
を感じていた。
そこで、平成6年ごろ、総合酒類店である「乾杯や」を岐阜市日野にオープンした。業績は
極めて順調であり、その後、引き続いて、郊外店2号店として「祝杯や」を岐阜市東島にオー
プンした。
また、ワイン、地酒専門店の「モンカーヴサンボシ」を閉店し、総合酒類店に統合すること
で専門性を強め顧客の増加を得たのである。
こだわりのワインと地酒の専門店を閉鎖することは、極めて残念であったが、激化するであ
ろうディスカウント競争に打ち勝つには、スリム化は、急務であった。
以後、どちらの店も、売上は、極めて好調であり、酒類等の業務販売から店頭販売小売店へ
の転身は、成功であったと思われる。
(なお、現在も、業務販売も行っている。
)
しかしながら、規制緩和に伴い、酒類販売への異業種の参入やディスカウント店等による価
格競争がますます激しくなり、その環境の悪化は年々拍車がかかっている。
売り上げても売り上げても利益のでない体質となり、再び、大きな試練に立たされることと
なった。
激烈な価格競争に打ち勝つには、さらに新たなる出店をして、全体として、更なる大量仕入
れ大量販売をするという方法もあるが、それは、あまり先の見えない戦略であり、新たな道を
模索し始めた。
2.アメリカの現状と今後の日本
20 年ほど前のアメリカは、酒類に関する販売規制が非常に厳しく、未成年者やドライバーに
販売すると厳しい罰則が課せられた時代であり、酒類を販売するにはそれなりのライセンスの
取得と義務が課せられていた。
当時のアメリカでは、
「ヴェンドーム」とか「レッドカーペット」とかの専門店が一世を風
靡し、特にクリスマス時期の贈答は、年間売上の 25%を締める勢いであった。
にもかかわらず、その後のライセンスの緩和によって、これらの店はその地位をスーパーマ
ーケット等に譲ることとなってしまった。これ以後零細な小売店はアメリカにおいてはみられ
ない。コンビニエンスがその役割を果たしている。
そのアメリカの状態が現在の日本の酒類販売業界だと考えると、2003 年 9 月に実施される事
実上の酒類販売許可の自由化で、同様のことが、日本全国に起きるであろうと想像される。
昨年において、岐阜だけでも、20 数件の新規免許が許可されている。
今後はその数倍の勢いで、酒類を販売する企業が増えると言われている。
全国の酒屋は、打つ手もなく、次々と廃業に追いやられてしまうのであろうか。
さらにタイミングは悪く、このデフレの経済状況は、更なる価格競争を迫り、ささやかな抵
抗すら許そうとしない。
一方、この 10 年のディスカウント店の戦いで、酒類の小売販売という業界は、一番利益の
出ない業界になってしまった。
ビールなどはわずか数パーセントの利益で販売され、そのビールが大半を占めるディスカウ
ント店の経営は、その基盤を失うほどの状況である。
ビール業界は寡占状態となっていて、メーカーに単価交渉を強く迫ることによって、仕入価
格を引き下げるということが出来ないため、小売店は、自らの利益を削っての販売しなければ
ならない。
スーパー業界や電化チェーンなどの酒類販売の新規参入が続くが、そのほとんどは売り場の
縮小か撤退を余儀なくされていて、もはや、酒類は集客商品ではなくなってきていることを証
明している。
過去、集客商品でありえたのは、免許で保護されていて、誰も廉売をしなかった時代にディ
スカウントをしたからであり、誰でも販売でき、価格も制限をうけない現在では、
「安いとい
うキーワード」ではその魅力を完全に失ってしまった。
3.当社の取組
当社は、酒類販売の徹底した専門店化への脱皮と利益率の良いこだわり食品の販売へと業態
転換を進めている。
つまり、こだわりの酒類を中心としたミニスーパーへの転身を積極的に進めている。
スーパーマーケットが、酒類の販売を始めるのであれば、酒屋が食料品を販売することに何
ら不自然はないと考え、生鮮三品は除外して全国の美味しい食材を広く集めている。何処にで
もある食料品を販売しているだけならば、そのスケールにおいて巨大スーパーマーケットには
勝てるはずがない。
そこで、当店にしかない全国のこだわり食品を品揃えする。
良い商品は、良い顧客を呼ぶとの信念で、現在、数百種類の全国のこだわり食品を揃えるこ
とが出来、口コミで顧客が増え続けていて、1年間で、当社の売上の 20%近くを占めるに至っ
た。
また、従来から扱っている酒類も、酒類を単なる価格訴求による集客商品としか見ていない
スーパーやその他新規参入企業と比べて、こだわった品揃えが出来る。
ワイン、地酒、焼酎だけでなく、ビールですらそうである。ドイツの「芳醇物語」など麦芽
100%の美味しいビールがあり、味にうるさいお客様にブレイクする勢いである。
さらに、当社は、前述したようにワイン専門店として岐阜市及びその近郊で一番であったこ
とから、総合酒類販売店でありながら、ワイン専門店以上の品揃えを誇っている。
また、日本酒の地酒においても、非常に豊富に揃えていて、全国各地の蔵元とのパイプも太
く、他では見られない四季折々の酒を楽しむことが出来る。
酒を愛する者であり、自分の納得出来る品質を提供するのが信条である。
このように、食文化を楽しめるような酒類を中心にした総合食材店としてナンバーワンでな
く、オンリーワンをめざしている。
4.経営理念
スローガン
「私たちは、縁を活かし、人を活かし、己を活かし、喜業としています。
」
「無限に無限に、ありがとうございます。
」
(1)集客力とは、価格でもなければ、豪華な店でもない。
絶対的な集客力とは、商品力であり、商品の魅力である。
商品が素晴らしければ、お客さまは何度でもその魅力で来店していただける。
価格で集客すれば、いつかは価格で奪われる。
(2)お客さまはとても大切であるが、極端に言えば、お客さまに頭を下げるのでなく、仕入
先に頭を下げる。
価値ある真心込めて造られた商品は、大量生産することが出来ないのであるから、販売
先は自ずと限られる。
よって、簡単に仕入れることが出来ないから、大切に扱い、商品に想いもこめて丁寧に
売らしていただくことになる。そして、当然にお客さまにも、この商品の素晴らしさがわ
かっていただける。
(3)
「感謝」
、
「ありがとうございます。
」
「ありがとうございます。
」の言葉で常に心を一杯にして、逆風であっても、
「ありがと
うございます。
」と感謝することが出来る人間でありたい。
人に「ありがとうございます。
」と感謝する心を持っていたからこそ、色々な方々の助
言、苦言、何気ない話が、気づきとなって、新しい経営への糸口となってきた。
そして、その新しい出会いから、如何に、多くの人に助けられ、知恵を頂き、徳をお借
りすることが出来たことか。
「ありがとうございます。
」と「感謝」の心を片時も忘れないことが信念である。
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