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技術開発促進事業終了報告書 - 地球環境産業技術研究機構
平成14年度∼16年度 地球環境保全関係産業技術開発促進事業 京都議定書目標達成産業技術開発促進事業 技術開発促進事業終了報告書 ステンレス酸洗剤の高効率資源化技術の開発 <公開版> 平成17年3月 RITE−千葉第5研究室 RITE−東京千代田研究室 RITE−千葉第6研究室 RITE−東京千代田第2研究室 RITE−周南研究室 RITE−大阪西淀川第2研究室 目 次 1 まえがき.................................................................................................................... 1 2 技術開発の概要 ......................................................................................................... 2 3 技術開発の内容 ......................................................................................................... 6 3.1 中和・脱水プロセスの研究 ................................................................................ 7 3.1.1 目的.............................................................................................................. 7 3.1.2 方法.............................................................................................................. 7 3.1.3 結果、考察 ................................................................................................... 8 3.1.4 まとめ ........................................................................................................ 10 3.2 酸・アルカリ分離プロセスの研究.................................................................... 16 3.2.1 目的............................................................................................................ 16 3.2.2 方法............................................................................................................ 16 3.2.3 結果と考察 ................................................................................................. 18 3.2.4 まとめ ........................................................................................................ 21 3.3 酸濃縮プロセスの研究...................................................................................... 27 3.3.1 目的............................................................................................................ 27 3.3.2 方法............................................................................................................ 27 3.3.3 結果、考察 ................................................................................................. 28 3.3.4 まとめ ........................................................................................................ 31 3.4 全体プロセスの最適化と回収酸評価 ................................................................ 37 3.4.1 目的............................................................................................................ 37 3.4.2 方法............................................................................................................ 37 3.4.3 結果、考察 ................................................................................................. 38 3.4.4 まとめ ........................................................................................................ 38 4 技術開発成果の概要................................................................................................ 42 5 あとがき.................................................................................................................. 43 1 まえがき ステンレス酸洗工程やLSI工場ではフッ酸、硝酸等を使用した後、廃液として処理して いる。新酸製造にエネルギーを消費しCO2を排出するだけでなく、廃水処理からフッ素を 含むスラッジ廃棄物が発生する。スラッジは鉄、クロム、ニッケル等の有価金属を含むが、 同時に資源化を阻害するフッ素が共存するため利用出来ず、埋立処分場の確保やスラッジ からのフッ素溶出による環境負荷の問題がある。また、排水される硝酸イオンの有害性や 富栄養化等の環境負荷の問題がある。これら現状の問題点を図 1.1 に示す。 本技術開発は、省エネルギーとゼロウエイストを両立させた真の意味の循環型社会構築 と京都議定書目標達成に向けて、 ① 酸洗剤のリサイクル使用によるCO2排出量削減 ② 廃棄物のゼロ化プロセスの実現 ③ フッ素、硝酸イオンによる環境負荷ゼロ化 を図ることを目的とし、ステンレス酸洗工程の酸洗剤をリサイクルする実用化技術の開発 を目標とする。 現状のプ ロセスと課題 ステンレス 鋼板酸洗 廃酸 フッ硝酸を使用 ① ③ 中和 処理 脱水 ② 高濃度フッ素 スラッジ 含有スラッジ 製鉄所 未利用エネルギー ・埋立地の枯渇 (低温廃熱)の存在 廃棄物 埋立て ろ液 高濃度硝酸イオン 含有排水 ③ ・フッ素イオンの溶出 に よる 環境負荷 図1.1 ステンレス酸洗剤の高効率資源化技術の必要性 1 2 技術開発の概要 <技術開発フロ−> ステンレス酸洗工程廃液からフッ硝酸の回収技術を開発する。主要な技術開発は、 ① 経済的な中和・脱水技術(プロセス研:JFE スチール㈱、JFE テクノリサーチ㈱) ② 酸・アルカリの分離技術(酸・アルカリ分離研:㈱アストム) ③ 酸の濃縮技術(酸濃縮研:㈱ササクラ) を含む高効率資源化プロセスのエンジニアリング技術から構成される。開発するプロセス のフローを図2.1に示す。分離回収された酸は濃縮して酸洗剤として、アルカリは廃液から の金属スラッジ生成用中和剤として再利用される。脱水された金属スラッジはフッ素を含 まないため、鉄鋼原料として資源化され、廃棄物ゼロ化が可能となる。また、ステンレス 酸洗剤が完全リサイクルされることで、CO2排出削減とフッ素や硝酸イオンによる環境負 荷ゼロ化が可能となる。 半導体製造工程からの廃酸も、開発する濃縮技術を適用することにより、ステンレス酸 洗工程で利用が拡大される等適用範囲の広い技術領域である。 <技術開発の目標値> ステンレス酸洗剤を高効率で資源化する閉鎖系のプロセスを実現する。このためにプロ セスを構成する各単位操作を結び付け全体プロセスを省エネの観点から最適化する。単位 操作の最終目標および全体プロセスの目標成果を表 2.1 に示す。 個々の単位操作技術を確立後、ステンレス酸洗ラインから出る実廃液を長期連続的に3 つのベンチ実験設備で順次処理して酸洗剤を回収する連続一貫プロセスベンチ実験を行な う。全体プロセスのとしての目標は、この連続一貫プロセスベンチ実験において、1ヶ月 以上の安定連続運転を達成し、ステンレス酸洗剤を回収することである。 2 <技術開発による効果> 技術開発の効果として下記の値を想定している。 ①温室効果ガス削減 本技術開発はフッ硝酸を完全リサイクルすることであり、その際のCO2削減効果を算 出した。その量は日本ステンレス鋼製造で100%普及した場合で80,000t/年と試算され る。概要を表2.2と図2.2に示す。 ②廃棄物のゼロウエイスト化 既存埋立処分場の延命、新たな設置による環境負荷回避 埋立スラッジ削減量:93,000(t/年) ③フッ素、硝酸イオンによる環境負荷削減 上記スラッジによるフッ素溶出問題解決 硝酸イオンによる富栄養化窒素負荷削減:4,800t-N/年 3 酸洗槽 :現状プロセス :完全リサイクルプロセス 開発技術フロー 購入 フッ硝酸 製鉄所未利用エネルギーの回収 回収酸 サーキュレーションタンク 酸の濃縮 廃酸 遊離酸回収装置 Ca(OH)2 中和処理 ろ液 中和 処理 ろ液 脱水処 (カリウム塩) 理 脱フッ素ス ラッジ フッ素含有 スラッジ 脱水処理 KOH KOH フッ硝酸金属塩 回収酸 回収アルカリ 遊離酸 HF,HNO3 酸・アルカリの 分離回収 溶融還元炉 で資源化 海外も含めた技術の現状 放流 フッ硝酸金属塩回収実用運転設備なし 図2.1 ステンレス酸洗剤の高効率資源化プロセス 表2.1 プロセス内容と目標値 分担 開発の内容 目標値 ①ステンレス酸洗廃液の中和・脱水の性能、 ①スラッジの K,F 低減: プロセス研究 [K]<0.2%, [F]<1.0% 工程安定性試験 (JFE スチール、 ②中和ろ液の SS 除去: JFE テクノリサーチ) ②回収酸の評価(酸洗性試験) SDI15< 4 備考1 ③完全リサイクルプロセスの設計 (各プロセス要素技術組合せの最適化検討) 酸・アルカリ分離 ①酸・アルカリ分離の性能、工程安定性試験 ①バイポ−ラ−による酸・ア ②膜の耐久性試験。 ルカリ分離膜耐久性:寿命2年 研究 (アストム) 酸濃縮研究 (ササクラ) ①酸濃縮の性能、工程安定性試験 ②装置の耐食性試験 ①酸濃縮による回収率:95% ②ライニング試験片の長時間 試験:耐久性 2 年以上 備考1:SDI15 (Silt Density Index) 膜の汚れを示す指数で詳細はP.8に示す。 4 全日本ベースでの効果 ① CO2削減効果 ②ゼロウエイスト化 130,000 CO2排出量 (t/y) 埋立削減量 93,000 t/y 製鉄所 未利用エネルギー 活用他 濃縮 N排水処理 80,000 64,000 ③フッ硝酸のリサイクルによる 環境負荷のゼロ化 ・スラッジからのフッ素溶出問題解決 ・硝酸イオンによる富栄養化窒素負荷削減 50,000 (4,800 t/y) 中和剤 製造 膜分離 省エネとリサイクルの統合 (高効率資源化技術) 新酸製造 真の循環型社会対応技術 廃酸回収 現在 (今回開発) 図2.2 技術開発による効果 表2.2 完全リサイクル技術開発によるCO2削減量 本技術開発 完全リサイクル技術 現状レベル技術による 廃酸リサイクル技術 CO2排出量 t-CO2/年 CO2排出量 t-CO2/年 項目 ユーティリティー 電力:百万Kwh/年 蒸気:千t/年 前処理 膜分離 電力:8.0 電力:122 3,000 電力:8.0 46,600 電力:110 3,000 41,900 濃縮 電力:9.5 蒸気:447 3,600 電力:9.5 76,000 約130,000 3,600 合計 ユーティリティー 電力:百万Kwh/年 CO2削減量 5 合計 約50,000 約 80,000 3 技術開発の内容 ステンレス酸洗剤の高効率資源化プロセスを図 3.1 に示す。このプロセスは、酸洗廃液 (Ⅰ)を先ずAPU(Acid PUrification)で、酸洗廃液中のHF,HNO3の一部を回収(APU回収酸) し、引続き、残存する酸洗廃液を (1)中和・脱水プロセス (2)酸・アルカリ分離プロセス (3)酸濃縮プロセスによって酸洗剤をリサイクルする。それぞれのプロセスと要求品質につ いて以下に示す。 (1) 中和・脱水プロセス 酸洗廃液を水酸化カリウム(KOH)で中和し、脱水により中和ろ液とスラッジ (Fe,Cr,Niの水酸化物)に分離する。次に、スラッジ中のKOH,HF,HNO3を除去するた めに再度水、又はKOHにより洗浄し、洗浄液とスラッジに分離する。発生したスラッ ジは鉄鋼原料として再資源化されるが、[F]<1%, [K]<0.2%, 水分は固体輸送が可能な レベル(60∼70%)が要求品質である。中和および洗浄により発生した溶液は、次の酸・ アルカリ分離プロセスへ送られるが、SS(懸濁固形物)分は充分に除去する必要があ り、MF(精密ろ過)膜により除去する。 (2) 酸・アルカリ分離プロセス MF膜によりSS分が除去された溶液は、RO(逆浸透)濃縮装置により塩濃度を高め、 次いでBP(バイポーラ装置)により酸(フッ酸(HF)+硝酸(HNO3)とアルカリ(KOH) に分離する。両工程では、膜寿命に著しく影響を及ぼすSS分について、溶液中の SDI15<4 の要求品質がある。更に、溶液のpHはROモジュールの仕様(三酢酸セルロ ール製)により制限されており、pH=7∼8 にする必要がある。RO濃縮装置により塩 濃度を高められ、電気伝導度 100mS/cmとした溶液は、次いでBP装置に送られる。分 離された酸は次の酸濃縮プロセスへ、アルカリは中和プロセスに再利用され、脱塩液 はMF処理液と混合し再度RO濃縮工程に送られる。 (3) 酸濃縮プロセス 酸・アルカリ分離プロセスで分離回収された酸と APU 回収酸を混合して低温真空 蒸発により濃縮する。濃縮された酸は再度ステンレス酸洗ラインで再利用される。 APU 回収酸には、Fe,Cr,Ni の金属成分が含まれ、溶液中に溶解している。濃縮工程 で、これら金属成分が析出して固体スラッジが生成しないように、APU 回収酸の混合 割合および濃縮度を決める必要がある。 6 3.1 中和・脱水プロセスの研究 3.1.1 目的 本プロセスは、大きく分けて酸洗廃液を KOH で中和し脱水により中和ろ液とスラッジ に分離し、次にスラッジを水、又は KOH により洗浄するプロセスと、中和および洗浄に より発生したろ液を、MF 膜により SS 分を除去するプロセスの 2 つである。本プロセス 研究の目的は、スラッジおよびろ液の要求品質を満足する最適な中和・脱水条件を検討す ることにある。 3.1.2 方法 (1) ラボ実験 酸洗廃液の中和・脱水・洗浄の実験フロ−および実験条件を図 3.1-1 に示す。スラ ッジ中のフッ素およびカリウム濃度の低減効果が期待できる条件としては、中和pH の上昇、中和処理温度の上昇、スラッジ循環の実施、およびアルカリ洗浄が考えられ、 これらの効果を確認すべく実験条件を決定した。実験手順は、HAP(Hot Annealing Pickling ステンレス熱間圧延コイルの酸洗焼鈍ライン)の酸洗廃液を 1.5mol/L の KOH を用いて所定のpHで中和し、ろ過した後のスラッジをスラッジ重量の 10 倍量 の水あるいは KOH で洗浄しろ過を行い、生成したスラッジの成分分析を実施した。 (2) ベンチ設備実験 <中和・脱水・洗浄ベンチ実験設備> 中和・脱水・洗浄ベンチ実験設備を建設し、この実験設備を用いて酸洗廃液の中和・ 脱水・洗浄の運転技術を確立すると共に、連続一貫プロセスベンチ実験を行った。 ベンチ実験設備の写真を写真 3.1-1 に示す。また、図 3.1-2 にベンチ実験設備のフ ローシートを示す。実験設備は、1m3の廃液槽とKOH槽を備える。酸洗廃液は中和・ 反応槽でKOHにより中和され、脱水原液槽に入る。脱水機は洗浄機能つきフィルター プレスを選定した。フィルタープレスの組立図および仕様を図 3.1-3 に示す。仕様は 460mm□×12 室、総ろ過面積 3.1m2、総ろ過体積 34.0L、ろ室厚 25mm、ろ過圧力 0.4Mpa、圧搾圧力 0.7Mpaのものを導入した。 7 <精密ろ過膜(MF)装置> 精密ろ過膜(MF)装置の本体仕様・装置構成・ろ過方式は以下の通りである。 ① 処理能力 :ろ過水:流量 100 リットル/24hr ② 装置概略寸法 :790 mm-W 、 990mm-D 、 1600mm-H ③ MF 膜モジュール:0.1μm, 0.1m2 ④ 外圧全ろ過 :MF 膜の外側(表面)から溶液をろ過させ、MF 膜の内側か らろ液として取り出す。 フローシートを図 3.1-4 に示す。試験は、ベンチプラントで作成したステンレス廃 酸を中和後、フィルタープレスでろ過・脱水したサンプル(中和pH=11、中和用ア ルカリKOH=0.01mol/L、スラッジ重量の10倍量の水で洗浄)について、精密ろ過 膜によるろ過試験とろ過試験後のろ液のSDI15測定を実施した。SDI15の測定方法は以 下の通りである。 (測定方法) ASTM D 4189-95 による ①公称孔径 0.45μm のメンブレンフィルター(東洋ろ紙製〔FIU-20〕 )を用いて、試 料液を 206kPa の加圧下でろ過したときに、初めに 500ml をろ過するのに要した時 間 T0(sec)を測定する。 ②このまま継続して 15 分間ろ過した後に、試料液を再び 500ml ろ過するのに要した 時間 T1(sec)を測定する。 ③の式によってをSDI15算出する。 SDI15=(1−T0/T1)× 100/15 3.1.3 結果、考察 (1) ラボ実験 スラッジの成分分析結果を表 3.1-1 に示す。結果は下記の通りである。 ①スラッジの洗浄を 0.01mol/L の KOH で実施した際に、フッ素濃度が 0.7%、カリウ ム濃度が 0.3%とほぼ目標に近い値を達成できた。中和条件はpH=11、中和処理温 度=室温、中和時のスラッジ循環=無しであった。 ②中和時のスラッジ循環の倍率が高いとスラッジ中のフッ素およびカリウム濃度は低 減した。 ラボ実験の結果から、pH11で中和し、生成スラッジを 0.01mol/L の KOH で洗 浄することでスラッジ中のフッ素、カリウム濃度をほぼ目標まで低減することが出来 8 ることがわかった。中和時のスラッジ循環で、最終的に生成するスラッジ中のフッ素 カリウム濃度が低減する結果が得られていることから、先の処理条件に加えてスラッ ジ循環を行なう検討をする価値がある。 (2) ベンチ設備実験 <中和・脱水・洗浄ベンチ実験> ベンチ設備を表 3.1-2 に示す条件で運転し、中和・脱水・洗浄の運転技術を確立さ せる目的で実験を行った。結果は以下の通りである。 ①フィルタープレスによる脱水では、ケーキ厚が厚くなるほど、ケーキ洗浄に要す る時間が著しく増加することがわかった。その結果、一連の工程における処理能 力(単位 ろ布面積、単位時間あたりに処理できるスラッジ重量)もケーキ厚が厚 くなるほど小さくなる。 ②圧搾時間については 5 分では短いが、15 分実施すればケーキ厚に関係なく含水率 はほぼ一定(60%)になり、30 分実施しても含水率はほとんど変わらない。 ③ベンチ設備での実験においても、スラッジ中のフッ素濃度はアルカリで洗浄する ほうが水で洗浄するよりも低い濃度であった。アルカリ洗浄はスラッジ中のフッ 素の低減効果があると考えられる。カリウムの低減は、ラボ実験程効果が見られ なかったが、中和時にスラッジ循環を行うことでカリウムの低減が期待できる。 本ベンチ設備で得られた、中和ろ液の分析値を表 3.1-3 に示す。Fe,Cr,Ni の含有量 が数 ppm 以下で、充分に分離・除去されていることがわかる。 <精密ろ過膜(MF)実験> 原水供給圧力を 120kPa としてろ過実験を行った。この条件化では、ろ過流量が 50 ∼70ml/min となり正常に運転できた。ろ液の分析結果を表 3.1-4 に示す。比較のため に静置分離した結果も示す。結果は下記の通りである。 ①精密ろ過を行った溶液は、SDI15<4 を満足する溶液が得られた。フィルタープ レス液では、SDI15<4 を満足する溶液は得られない。この事より、SDI15<4 を 満足させるには、精密ろ過が必要である。 ②フィルタープレス液中の SS 分は粒度分布として 0.1∼50μm の分布を持ち、特 に 1, 2.5, 5, 30μm にピークを持つ。この SS 分は 0.1μm 孔経の精密ろ過膜によ り、充分に除去されることが確認できた。 9 3.1.4 まとめ (1) ステンレス酸洗廃液を下記の条件で中和・脱水・洗浄し、運転技術を確立した。 ・ 中和pH条件 : 11 ・ 中和処理温度条件 : 室温 ・ ろ過条件 : 圧搾圧力 0.7 Mpa 15min ・ 洗浄条件 : スラッジ重量の 10 倍量の 0.01mol/L KOH で洗浄 ・ スラッジ循環 : なし (2) この中和・脱水・洗浄して得られた中和ろ液と洗浄液の混合液は、MF 試験(精密ろ 過膜試験)による SS 除去試験を実施し、以下の知見を得た。 ・ フィルタープレスにより脱水処理された液中のSS分は、 粒度分布として 0.1∼ 50 μmの分布を持つ。このSS分は 0.1μm孔径の精密ろ過膜により、充分に除去さ れSDI15<4 を満足する溶液が得られる。 (3) スラッジのアルカリ洗浄とスラッジ循環が、スラッジ中のフッ素およびカリウムの低 減に効果がある。 10 プロセス研 乾燥 スラッジ スラッジ 剥離水 スラッジ 酸洗 液 酸洗 廃液 (Ⅰ) 酸洗 APU 酸洗 廃液 洗浄 中和・ 脱水 洗浄液 中和ろ液 APU 回収酸 乾燥 ろ液 MF BP回収 KOH MF 処理液 酸・アルカリ分離研 BP 脱塩液 混合液 酸濃縮研 BP 濃縮酸 蒸留 混合酸 BP回収 酸 RO 処理液 RO RO 脱水液 分離水 図3.1 ステンレス酸洗剤の高効率資源化プロセス 11 実 験 フ ロ ー ス ラ ッ ジ 循 環 廃 液 ( 中 和 ) ( 1 回 目 ろ 過 ) ( ス ラ ッ ジ 洗 浄 : 1 0 倍 ) 条 件 p H 温 度 ス ラ ッ ジ 循 環 洗 浄 1 ① 11 ① 室 温 ① 無 し ① 水 洗 浄 2 ② 12 ① 室 温 ① 無 し ① 水 洗 浄 3 ③ 13 ① 室 温 ① 無 し ① 水 洗 浄 4 ① 11 ② 中 温 ( 4 0 ℃ ) ① 無 し ① 水 洗 浄 5 ① 11 ③ 高 温 ( 6 0 ℃ ) ① 無 し ① 水 洗 浄 6 ① 11 ① 室 温 ② 有 り ( 1 倍 ) ① 水 洗 浄 7 ① 11 ① 室 温 ③ 有 り ( 2 倍 ) ① 水 洗 浄 8 ① 11 ① 室 温 ① 無 し ② 0.05NKOH洗 浄 9 ① 11 ① 室 温 ① 無 し ③ 0.01NKOH洗 浄 図3.1-1 中和・脱水・洗浄ラボ実験フローおよび実験条件 図3.1-2 中和・脱水・洗浄ベンチ実験設備フローシート 12 中和・反応槽 廃液槽 KOH槽 脱水原液槽 フィルタープレス 純水製造器 純水槽 写真3.1-1 ベンチ実験設備 13 図3.1-3 フィルタープレスの組立図と仕様 図3.1-4 精密ろ過のフローシート 14 表3.1-1 中和・脱水・洗浄ラボ実験結果 条件 pH 温度 スラッジ循 環 洗浄 1 11 室温 無し 2 12 室温 3 13 4 スラッジ分析結果 F(%) K(%) 水洗浄 1.46 4.39 無し 水洗浄 0.66 5.40 室温 無し 水洗浄 0.44 6.07 11 40℃ 無し 水洗浄 0.85 0.76 5 11 60℃ 無し 水洗浄 0.92 0.78 6 11 室温 有り(1倍) 水洗浄 11.60 5.87 7 11 室温 有り(2 倍) 水洗浄 2.56 0.57 8 11 室温 無し 0.05KOH 1.08 1.16 9 11 室温 無し 0.01KOH 0.69 0.31 表3.1-2 ベンチプラント実験条件 中和実験 洗浄実験 ろ過実験 pH 11.0 に調整 0.01mol/L KOH 使用 スラッジの 10 倍量 圧搾圧力 0.7Mpa 15min 表3.1-3 ベンチプラント実験の中和ろ液 中和 ろ液 電気伝 導度 (mS/m) pH T.F T.N 分析項目 (mg/l) T.K T. T. T. Fe Cr Ni 9750 9.6 9810 3450 29200 4 1 <1 T. Si T. Mo SO4 Cl- 3 5 32 <10 表3.1-4 精密ろ過試験の分析結果 SDI15 外観 0 hr pH の経時変化 (静置分離、MF 分 3 hr 離後の経時変化) 24 hr 48 hr 沈殿物の有無 溶液中 SS 分の粒度分布 フィルタープレス液を、JFE で 静置分離した上澄み液 算出不可 (フィルター目詰まり) 黄色透明 フィルタープレス液を、 MF 処理した液 7.4 7.4 7.6 7.8 7.8 7.8 7.8 7.9 3.4 薄黄色透明 沈殿物無し 沈殿物無し 1, 2.5, 5, 30μm ピーク SS 分無し を持つ 15 3.2 酸・アルカリ分離プロセスの研究 3.2.1 目的 「ステンレス酸洗剤の高効率資源化技術の開発」における酸・アルカリ分離研究室の役割 は、バイポーラ膜電気透析によりフッ化カリウム、硝酸カリウムの混合溶液からフッ硝酸 と水酸化カリウムに変換・分離するプロセスを開発することである。 本検討では、連続一貫ベンチプラント実験を行い、前工程で処理された実廃液を連続的 に処理することにより実工程を睨んだ長期安定運転技術の確立を目指した。また、膜寿命 を推定する為、加速耐久性試験を実施した。 <バイポーラ膜電気透析の原理> バイポーラ膜電気透析に用いるバイポーラ膜はアニオン交換膜とカチオン交換膜を張り 合わせた構造をしており、陽極側にアニオン交換膜が、陰極側にカチオン交換膜が向くよ うに配置して両端に電圧をかけると、アニオン交換膜/カチオン交換膜界面に存在する水分 子がH+とOH-に解離する。このとき発生したH+とOH-はそれぞれ反対方向にイオン交換膜 を移動し、 酸とアルカリを生成する。 この原理を利用してKF、 KNO3からKOHとHF、 HNO3 を生成する。すなわち、バイポーラ膜でH+とOH-を生成させて別々の部屋に導き、同時に KF、KNO3をK+とF-/NO3-に分離してKOHとHF/HNO3を生成させる。このことを模式的 に示したものが図 3.2-1 であり、アニオン交換膜とカチオン交換膜ではさまれた部分に塩 溶液を入れて電流を流すと、バイポーラ膜−アニオン交換膜間に酸が、バイポーラ膜−カ チオン交換膜間にアルカリが生成する。 3.2.2 方法 (1) 連続試験 酸・アルカリ分離プロセスにおけるフローを図 3.2-2 に示す。前工程の中和・脱水 工程から発生したろ液を逆浸透装置により塩濃度を高め、次いで濃縮された塩溶液を バイポーラ膜電気透析装置に供給し、酸とアルカリに分離する。塩溶液を逆浸透装置 で濃縮することによって、バイポーラ膜電気透析装置のセル電圧の上昇を抑制でき、 その結果、酸とアルカリを効率的に回収することが可能となる。バイポーラ膜電気透 析装置から生じる塩濃度の低い脱塩液は、 逆浸透装置に戻しリサイクルする。 実験は、 まず模擬液を用いて連続運転の条件を確立した後、実液を用いて実証運転を行った。 16 ①装置仕様 「逆浸透装置」 形式 ;RC006C 逆浸透膜モジュール ;東洋紡製 高圧ポンプ ;プランジャー型 2L/min×60Kg/cm2×0.75kW インバーター駆動 「バイポーラ膜電気透析装置」 形式 ;TS3B-2-5 イオン交換膜 ;アニオン交換膜 AHA(5 枚) ;カチオン交換膜 CMB(6 枚) ;バイポーラ膜 バイポーラ-1E(5 枚) 有効膜面積 ;200cm2 × 5 枚 = 1000cm2 ②運転条件 「逆浸透装置」 操作圧力 ;5MPa リサイクル水量 ;30∼80L/hr 温度 ;室温 「バイポーラ電気透析装置」 電流密度 ;100mA/cm2 回収酸・アルカリ濃度 ;1.5mol/l スッタク内、線速度 ;6cm/s RO へ供給するろ液のpHは RO 膜の材質(三酢酸セルロース製)により制限されており、 フッ硝酸でpH=6.5∼8 にpH調整した。また、生成する酸液、アルカリ液は一定濃度 1.5mol/l になるよう適宜イオン交換水を添加しながら電気透析を行った。 17 (2) バイポーラ膜の加速耐久性試験 バイポーラ膜電気透析による酸・アルカリ分離技術を実用化するにあたり、バイポ ーラ膜の耐久性を知っておく必要がある。そこで、小型 4 室セル(模式図を図 3.2-3 に示す)を用いた加速耐久性試験により確かめた。バイポーラ膜の劣化を促進する要 因として、電流密度および製造する酸・アルカリ濃度が考えられる。この 2 項目を変 動させた際のバイポーラ膜の耐久性を確認することにより実機に適用した場合の膜寿 命を推定した。また、本加速耐久性試験において、酸として硝酸を用いた。硝酸は、 他の酸と比較して酸化力が強く膜を酸化劣化さやすいため、加速試験として適当と考 えられる。実際の系は硝フッ酸混合液であり、硝酸単独の本系に比べ更に長期耐久性 が予想される。 3.2.3 結果と考察 (1) 模擬液を用いた運転結果 イオン交換膜を用いて電気透析を行う場合、一般に膜の劣化は膜電圧(イオン交換 膜の両面間にかかる電位差)の変化として現れるので、連続運転に際して、膜電圧の 経時変化を測定することで劣化が進行しているか否かの判断基準とした。なお、本来 であれば 3 種類の膜(アニオン交換膜、カチオン交換膜、バイポーラ膜)を使用する ため、それぞれの膜について膜電圧を測定する必要があるが、これら 3 種類の膜を1 つの単位(セル)として取り扱い、単位セルあたりの電圧(セル電圧)の変化を測定 することで劣化の進行をモニターすることとした。 図 3.2-4 に連続運転を実施した結果を示す。通電開始当初(図中 0 時間∼1200 時間) は 1 週間のうち 5 日は 10A/dm2の電流密度で通電し、残りの 2 日(土、日)は停止す る(電流密度:0A/dm2)という運転パターンであった。しかし、徐々にセル電圧が上 昇する傾向が見られたため、間欠通電運転から連続通電運転に変更した。1 週間のう ち 5 日を 10A/dm2で通電し、残りの 2 日(土、日)は微小な電流を流して(電流密度: 2.5A/dm2)運転した。この連続運転の結果、セル電圧の上昇速度(V/時間)は小さく なることが明らかとなった。この結果から、膜の寿命を延ばすためには連続で通電す る必要があることがわかった。 18 (2) 実液を用いた連続運転結果 模擬液と同様に、実液を使用した連続運転における電圧の経時変化を測定した。本 実験期間内では膜電圧が閾値に達しないため、膜電圧は直線的に上昇するとして膜寿 命を推定した。閾値は以下の式に基づいて算出し、3.75V/cell とした。 閾値=運転開始直後の膜(セル)電圧×1.5 ※ 係数である「1.5」は目安であり、最終的には電力費、転換率などから算出される ランニングコストと整流器の能力の余裕 (イニシャルコスト) の兼ね合いで決定した。 図 3.2-5 にセル電圧の経時変化を示す。運転時間約 1,400 時間まではろ液に MF(精 密ろ過)未処理液を用いており、運転時間 1,400∼1,800 時間は MF 処理液を用いて いる。そこで 0∼1,400 時間までの電圧変化を考慮した膜寿命と、1,400∼1,800 時間 の電圧変化を考慮した膜寿命の推定を行った。装置を設置した場所の関係で外気温の 温度変化の影響が生じた。この液温変化がセル電圧に影響を及ぼす為、温度変化のフ ァクターを排除する補正を行い、膜寿命を推定した。その結果、MF 未処理水を用い た 0∼1,400 時間まで電圧変化から推定すると膜寿命は約 1∼1.5 年であると推定され たが、MF 処理水を用いている 1,400∼1,800 時間を考慮した場合、膜寿命は目標であ る 2 年以上と推定された。これは MF 処理により液中の SS 分を少なくしたことが影 響したと考えられる。なお、セル電圧に小さな山と谷が見られるが、これは昼夜の液 温の変化によるものである。 (3) 酸・アルカリ液の電流効率および生産能力 電気透析プロセスのエネルギーコスト(=ランニングコスト)を見積もる上で、電 流効率が重要な指標となる。そこで、KF の酸・アルカリ分離プロセスに関して電流効 率を算出した。なおここでいう電流効率は下式により定義される値であり、運転時に 系内を流れた全電気量に占める、酸(又はアルカリ)の生成に使用された電気量の割 合を示す。 19 BP 回収アルカリの電流効率(%) = [(運転中に生成したアルカリの量(mol))×96500 / (流れた電気量(A・s)×セル数(対))]×100 BP 回収酸の電流効率(%) = [(運転中に生成した酸の量(mol))×96500 / (流れた電気量(A・s)×セル数(対))]×100 生産能力は 1dm2のイオン交換膜 1 組(アニオン交換膜、カチオン交換膜、BP膜) を使用して 10A/dm2の電流密度で運転したときに生成した酸、またはアルカリのモル 数である。結果を表 3.2-1 に示す。本実験における酸、アルカリの電流効率の平均値 はともに約 77%であった。電流効率目標値の 60%を大きく上回っており、目標を達 成できた。運転開始時点から 1,800 時間経過まで生産能力、電流効率ともにほとんど 変化しておらず、この期間では酸・アルカリの生産能力に大きな変動は無いことが明 らかとなった。 (4) バイポーラ膜の加速耐久性試験 バイポーラ膜の限界電流密度の測定を行ない膜寿命を推定した。バイポーラ膜の限 界電流密度とは、高電流密度域でカチオン交換層/アニオン交換層界面への水の供給 が不足・律速になり、その結果、界面の枯渇・電圧上昇に至るときの電流密度である。 図 3.2-6 に硝酸濃度が 4N の時の電流密度と膜寿命(対数)の関係を示す。これよ り電流密度が低いほど膜寿命は長くなる傾向が見られた。 図 3.2-7 に電流密度 25 A/dm2における酸濃度と膜寿命(対数)の関係を示す。酸濃 度が低下するにつれて、膜寿命が長くなる傾向が見られた。 この電流密度依存性と先の酸濃度依存性の結果に基づいて、硝酸濃度が 4Nの時の 実測ラインを 25 A/dm2 を基準に外挿させて、各酸濃度における電流密度依存性を予 測したのが図 3.2-8 である。この図より実際の電気透析装置の運転に用いられる酸濃 度に最も近い 2N-HNO3,10 A/dm2における膜寿命はおよそ 14000 時間程度であると 推測される。実機適用時には、酸が硝酸単独ではなく硝フッ酸の混合液になることか ら、更なる長寿命化が期待できる。本結果は、連続試験結果から推定された膜寿命 2 年以上をサポートしうる結果である。 20 3.2.4 まとめ (1) 逆浸透膜装置と BP 膜電気透析装置の改造により連続自動化運転が可能となり、ろ液 を用いた 4 ヶ月間の連続試験を実施した。 (2) セル電圧が初期の 1.5 倍に達した時を膜の寿命とすると、前工程で MF 処理した液を 用いた場合、目標値である 2 年以上の膜寿命が予測できた。MF 処理しない液を処理 した場合、セル電圧の上昇度合いが若干増し、膜寿命は短命化し 1 年から 1.5 年と予 想できた。 (3) 目標値である 2 年以上の膜寿命を確保する主条件として、間欠運転を回避することが 重要であった。 (4) 実際の廃液であるろ液を用いた場合の電気透析における酸とアルカリの電流効率は共 に約 77%であり、電流効率目標値の60%以上を達成した。試験範囲内のろ液性状の 変動幅に依存せず、酸・アルカリの製造能力の低下は認められなかった。 (5) NaOH/HNO3の系で小型 4 室セルを用いた加速耐久性試験の結果から、バイポーラ膜 の寿命は 14,000 時間程度と推測された。 以上、本技術開発により、実工程における酸・アルカリ分離の長期安定運転の目処がたっ た。 21 回収酸 HNO3 , HF 回収アルカリ KOH 脱塩液 A膜 BP膜 NO3− + F− BP膜 C膜 KNO3 KF K+ − OH− H+ OH− H+ H2O H2O H2O H2O A膜 C膜 H O 2 KNO3 ,KF (塩液) H2O A膜・・・・アニオン交換膜 BP膜・・バイポーラ膜 C膜・・・・カチオン交換膜 図3.2-1 バイポーラ膜による酸・アルカリ分離の原理 22 フィルタープレスろ液* HAP K:0.66mol/L、F:0.31mol/L、NO3:0.19mol/L RO 濃縮用 バッファータンク イオン交換水 3.2L/h 脱塩液 2.4L/h K: 0.26 mol/L F: 0.26mol/L NO3: 0 mol/L (Mo:3ppm) CAP K:0.52mol/L、F:0.31mol/L、NO3:0.06mol/L BP 塩液 3.2L/h K: 1.2 mol/L F: 1.0 mol/L NO3 : 0.2 mol/L RO 濃縮装置 BP 電気透析 RO 塩液 7.7L/h K: 0.5 mol/L F: 0.4 mol/L NO3 : 0.1 mol/L RO 脱塩水 4.5L/h *液組成が以下の場合、上記のフローとなる。 脱塩液 5.3L/h K: 0.61 mol/L F: 0.45 mol/L NO3: 0.15 mol/L アルカリ液 2.1L/h K: 1.6 mol/L (F : 0.02 mol/L) (NO3 : 0.00 mol/L) 酸液 1.9L/h F: 1.3 mol/L NO3 : 0.3 mol/L (K : 0.01 mol/L) (Mo : 5ppm) 図3.2-2 酸・アルカリ分離プロセスフローシート BP 膜 + 3N-NaOH BP 膜 3N-NaOH 4N-HNO3 図3.2-3 4室セルの模式図 23 BP 膜 3N-NaOH _ 図3.2-4 セル電圧の経時変化(模擬液) 図3.2-5 セル電圧の経時変化(実液) 24 表3.2-1 酸・アルカリ液の電流効率および生産能力 BP 装置運 転時間 [hr] 62 230 397 565 1197 1342 1505 1682 1838 酸生産能 力 [3cell・ mol/h] 2.0 1.6 2.0 1.8 1.8 1.9 1.7 1.8 1.7 酸濃度 HF [mol/l] 1.01 1.07 1.14 1.17 1.19 1.39 1.39 1.34 1.34 HNO3 [mol/l] 0.45 0.46 0.53 0.46 0.51 0.52 0.55 0.48 0.50 酸電流効 アルカリ生産 アルカリ アルカリ 濃度 KOH 電流効率 能力 率 [%] [3cell・mol/h] [mol/l] [%] 84.9 1.8 1.60 75.6 69.0 2.0 1.73 85.7 83.6 1.8 1.61 75.6 77.6 1.9 1.60 82.1 77.1 1.8 1.74 77.2 80.7 1.9 1.61 82.0 73.8 1.9 1.58 83.3 78.3 1.8 1.62 77.0 71.4 1.7 1.69 73.6 図3.2-6 電流密度と膜寿命の関係(4N-硝酸) 25 図3.2-7 硝酸濃度と膜寿命の関係(25A/dm2) 図 3.2-8 各硝酸濃度における電流密度と膜寿命の関係 26 3.3 酸濃縮プロセスの研究 3.3.1 目的 酸・アルカリ濃縮研究室は酸洗液をリサイクル使用する過程において回収プロセスに加 えられる水を蒸発させ、酸洗に必要な酸液濃度に濃縮する技術の開発を目的とする。酸液 としては酸・アルカリ分離工程で回収される酸液と遊離酸回収装置(APU)において回収 された酸液が対象となる。酸・アルカリ分離工程で回収される酸液はフッ硝酸のほかには 不純物が無く、一方、APU において回収された酸液中にはステンレスを洗浄した金属成分 を多く含む。これらの液を混合して所定の濃度まで濃縮することが本研究の目的である。 混合された酸液の濃度はフッ酸 1.2N、硝酸 1.4N でありこれを酸液リサイクル全体のマ スバランスからフッ酸濃度を 4N まで濃縮することとした。なお酸・アルカリ分離工程で 回収される酸液と APU 回収酸液の割合は実操業データから 73:27 とした。硝酸はこの条 件ではほとんど蒸発しないがフッ酸は蒸発しやすいのでフッ酸の目標回収率を 95%以上 と設定した。 3.3.2 方法 (1) フッ硝酸の濃縮 フッ酸硝酸の混合系における気液平衡関係は必ずしも明らかではない。大気圧付近で 発表されている気液平衡データからすると単純蒸発濃縮操作ではフッ酸の回収率 95% は困難と考えられた。 このため真空低温蒸発を行ない、バッチ濃縮運転を連続的に繰り返す運転方式と、 蒸発缶の後段に純水スクラバーを設けて回収したフッ酸を蒸発缶にもどす方式を採用 することによって回収率を向上させることを試みた。 真空低温条件では発表された気液平衡データがないので、今回混合系における気液 平衡データを得る実験も合わせて実施した。 (2) 蒸発缶の耐食 蒸発缶にはフッ硝酸が高濃度で濃縮されると共に真空運転となるので金属製の容器 に内面を耐薬品性に富む材料でライニングすることが必要である。硝酸は特に有機物を 分解する力が強いのでゴム系材料が使用できずフッ素系を選択することが必要である。 一般にフッ素系材料は薬液の透過性が高い上、金属との接着性において難があるの で真空容器に使用する場合は十分な注意が必要である。実用化する上において材料、ラ 27 イニング方法に関する情報が無いので耐薬液評価装置を作成してエンジニアリングデ ータを得る耐食実験をおこなった。 3.3.3 結果、考察 平成 14 年度はフッ硝酸混合系の低温真空条件における気液平衡関係をビーカー試験に より求めた。また蒸発缶および純水スクラバーからなるベンチプラントを設計製作した。 薬液は試薬で所定の濃度に調整しベンチプラントによる濃縮試験を行った。また材料の耐 薬液評価装置を設計製作し各種耐食材料サンプルを入手して評価を行った。 平成 15 年度はベンチプラントを用いて操業中の APU 回収酸実液により濃縮試験を行っ た。酸・アルカリ分離工程から得られる薬液については試薬で調整しこれと APU 回収酸 実液と混合して濃縮試験を行った。材料の耐薬液評価は継続した。 平成 16 年度は操業中の APU 回収酸実液、および酸・アルカリ分離工程のベンチプラン トから回収された実際の酸液を所定の割合で混合した原液から濃縮試験を行った。材料の 耐薬液評価は継続した。 (1) フッ硝酸の低温真空領域における気液平衡データ ある濃度のサンプル液を密閉ビーカーに投入し恒温槽に維持して真空下で一定時 間蒸発させ、蒸発前後のサンプル液の濃度変化を分析して気液平衡関係を得た。 フッ酸に関する気液平衡関係を数式で近似するとこの領域では次の1次式で現すこ とができることが判明した。 yF = 0.049 xF yF;気中のフッ酸のモル分率 xF;液中のフッ酸のモル分率 28 (2) ベンチプラント運転結果 a. ベンチプラントの運転概要 実験に用いたベンチプラントを写真 3.3-1 に示す。このベンチプラントは蒸発缶、 純水スクラバー、アルカリスクラバー、加熱器、コンデンサー、真空ポンプか らなり、基本的な運転方法は以下の通りである。 ・ 純水スクラバーに純水約 20L を供給する。 ・ 蒸発缶に原液、又は純水スクラバーに酸液が生成している場合は純水スクラ バー内の液を先に移し、全体を約 40L となるよう供給する。 ・ 蒸発缶内のフッ酸濃度が約 2N に達するまで原液を供給しながら濃縮を続け、 以後原液の供給を停止して蒸発缶内液量が約1/2 になったところで終了する。 蒸発能力は 10 リットル/時間、運転圧力は真空、温度は約 50℃である。 b. 濃縮試験における結晶の生成 APU回収実液酸中にはフッ硝酸のほかステンレスを洗浄した後の鉄が多く含 まれている。APU回収酸液をそのまま濃縮したところ蒸発缶内に結晶が発生し た。調査の結果、結晶はフッ化鉄FeF3・3H2Oであることが判明した。この結果 および結晶が出なかったその他の条件による試験結果からフッ化鉄の結晶の成 長領域を図 3.3-1 に示す。濃縮操作にあたっては本図に示される結晶成長領域を 避けることが必要である。 また APU 回収実液酸と酸・アルカリ分離工程回収酸液の混合溶液の濃縮試験 においても、供給液量と濃縮液量で濃縮試験条件を定めていたところ原液組成 が変化して結晶成長領域に達している場合があった。 このような場合は当然のことながら結晶生成の影響を受け、酸の回収率 95% を達成することができなかった。 29 c. APU 回収実液酸と酸・アルカリ分離工程回収酸液による濃縮試験 APU 回収実液酸に実液から得られた酸・アルカリ分離工程回収酸を所定の割 合で混合した液を用いて濃縮試験した結果を以下に示す。この試験は連続バッ チ運転を繰り返し適切なバッチ回数のところでサンプル液を採取して試験デー タとした。その代表例として試験した試験結果を図 3.3-2 に示す。フッ酸の回収 率92%、硝酸の回収率94%の値が得られた。 フッ酸の回収率が目標の95%以上にならなかった原因として、先に述べた フッ化鉄の結晶析出が考えられるが、目視で結晶析出が観察されなかったこと から、計量誤差の影響も考えられる。 濃度は化学分析を繰り返し実施して求め、また投入液量はメスシリンダーで 秤量して正確を期している。一方濃縮液量は試験装置の内部に残留し誤差を生 じたた可能性があった。 実験条件では硝酸はほとんど蒸発しないことが実証されているので硝酸の酸 成分バランスが100%になるよう濃縮液量を補正した結果、フッ酸の回収率 は 96%に達していることが推測された。その結果を表 3.3-1 に示す。 以上のことから濃縮において 92∼96%のフッ酸回収率が得られるが、そのた めには鉄濃度を監視しフッ化鉄の結晶成長領域に入らないように注意する必要 があることが判った。 表 3.3-1 硝酸基準で見直した酸成分バランス 液量 L IN OUT 蒸発缶初期充填 水洗塔初期充填 蒸発缶への送液 計 蒸発缶濃縮液 水洗塔液 計 24.4 25.0 61.9 ※19.7 (18.6) 24.4 回収率 % ( 濃度 HF mol/L 0.72 0 1.4 HNO3 Mol/L 0.006 0 0.99 4.2 3.1 0.72 0.006 酸成分量 HF mol 18 0 87 105 ※83 (78) 18 ※101 (96) ※96 (92) HNO3 mol 計 mol 0 0 61 18 0 148 61 ※61 (58) 0 ※61 (58) ※100 (94) 166 ※144 (136) 18 ※162 (153) ※98 (93) )内は補正前の値 ※は硝酸の回収率が100%になるように補正した値 30 d. 回収濃縮酸液中の微量元素 APU 回収実液酸と実液から酸・アルカリ分離工程で回収された酸液を混合し て得られた原液を濃縮して得られた回収濃縮酸液中の微量成分を分析した結果 を表 3.3-2 に示す。 (3) 耐酸液材料評価 試験条件は促進試験を目的として高濃度(4NHF+4NHNO3)と高温(70℃)を選 定した。サンプル材料は鋼板にFRPライニング、フッ素樹脂ライニングしたものを 選定し、一定時間経過後表面の目視検査、接着強度変化を測定して評価した。写真 3.3-2 はFRPライニング、フッ素樹脂ライニング 2 種の外観を示し、図 3.3-3 は接着 強度変化を示す。 a. FRP ライニング FRP ライニングは浸透薬液がフレーク層に堆積し接着強度を低下させるため 真空容器のライニング材料としては適さない。 b. フッ素樹脂ライニング フッ素樹脂ライニングについては、ライニング仕様によっては接着強度が低下 して使用に適さないものがあるが、注意深く仕様を選定することにより使用可 能である。 3.3.4 まとめ (1) 酸液濃縮プロセス a. APU 回収酸と酸・アルカリ分離工程から得られる回収酸を所定の割合で混合し た酸液をフッ酸 4N まで濃縮することができた。フッ酸の回収率はほぼ 95%を 達成した。 b. 濃縮工程では APU 回収酸に含まれる鉄濃度に注意し、フッ化鉄の結晶が成長す る領域に達しないような運転条件を監視することが必要であることが判った。 31 (2) 耐酸液材料 蒸発缶の材質としては鋼板にフッ素樹脂ライニングを施すものが使用できることが 判った。但し、フッ素樹脂ライニングにはさまざまな種類がありその耐薬液性は異な るものと推測された。このためフッ素樹脂ライニングの選定にあたっては特に試験に より確認することが必要である。 写真 3.3-1 32 100 × HAP液単独 ▲ HAP液+試薬 ● ● CAP液+試薬 フッ素濃度 F(g/l) ▲ 備考 結晶成長 × 矢印は濃縮過程を示す。 50 ● ▲ × ゾーンA ●▲ 0 0 50 100 150 鉄濃度 Fe(g/l) 図 3.3-1 フッ化鉄結晶成長領域 備考: HAP 液:ステンレス熱間圧延コイルの酸洗焼鈍ライン(Hot Annealing Pickling Line)からの廃液(遊離酸回収後液) CAP 液:ステンレス冷間圧延コイルの酸洗焼鈍ライン(Cold Annealing Pickling Line)からの廃酸(遊離酸回収後液) 33 給液 61.9L HF : 1.4mol/L HNO3 : 0.99mol/L 38.5L 18.6L 24.4L 液量 酸濃度(mol/l) Fe L HF NO3 ppm スタート時 24.4 0.72 0.006 定量給液濃縮 38.5 2.3 1.6 6,350 濃縮完了時 18.6 4.2 3.1 12,700 回収酸量 投入酸量 回収率 缶内液量 酸濃度(mol/l) Fe L HF NO3 ppm 25 0 0.000 27.2 0.35 0.001 24.4 0.72 0.006 HF 96 mol 104 mol 92 % 図 3.3-2 APU 回収実液酸+酸・アルカリ分離工程回収酸濃縮試験データ RUN1 34 表 3.3-2 濃縮酸液の成分分析 濃度 mg/l 107,400 268,000 775 23,100 5,630 3,030 1,810 100 6.3 74.3 128 11 12 53 13 16 420 800 元素 F NO3 K Fe Cr Ni Si Mn Mg Ca Mo Cu V Ti Nb Co So4 Cl 35 サンプル 1 サンプル 2 FRP ライニング サンプル 3 フッ素樹脂ライニング 1 フッ素樹脂ライニング 2 60 12 50 10 40 ▲サンプル1 液相部 ■サンプル1 気相部 30 20 10 接着力 〔kgf/cm〕 接着力 〔kgf/cm2〕 写真 3.3-2 耐酸液試験サンプル ■サンプル2 気相部 ゚ル2 液相部 ◆サンプル2 液相部 ◆サンフ ●サンプル3 気相部 ▲サンプル3 液相部 8 6 4 2 0 0 2204 4356 5317 0 0 経過時間 〔hr〕 2275 4047 6488 経過時間 〔hr〕 図 3.3-3 接着強度の変化 36 8840 3.4 全体プロセスの最適化と回収酸評価 3.4.1 目的 プロセス研究では、ステンレス酸洗廃液からフッ硝酸を回収し完全リサイクルする閉鎖 系プロセスの開発において、構成する各単位プロセス:(1)中和・脱水プロセス (2)酸・ア ルカリ分離プロセス (3)酸濃縮プロセス の各プロセス要素技術を結び、全体プロセスと しての最適化を目的とし、酸洗剤を完全リサイクルするプロセスの設計・検討を行った。 更に、ステンレス酸洗廃液から本プロセスによって回収された酸について、ステンレス の酸洗性の評価を目的として酸洗実験を行った。 3.4.2 方法 (1) 全体プロセスの最適化 ステンレス酸洗剤の高効率資源化プロセスを図 3.4-1 に示す。このプロセスは、酸 洗廃液(Ⅰ)を先ずAPU(Acid PUrification)で、酸洗廃液中のHF,HNO3の一部を回収 (APU回収酸)し、引続き、残存する酸洗廃液を (1)中和・脱水プロセス (2)酸・アル カリ分離プロセス (3)酸濃縮プロセス によって酸洗剤をリサイクルする。 H16 年度はベンチプラントを用いて、実際のステンレス酸洗廃液を中和・脱水プロ セスで処理し、この溶液を次ぎのプロセスである酸・アルカリ分離プロセスに送り処 理し、更にこの溶液を次の酸濃縮プロセスで処理するという、連続一貫プロセスで酸 回収の実験を行った。この連続一貫ベンチプラントによる実験によって、各プロセス が全体として最適なリサイクルプロセスになるよう検討した。 (2) 回収酸評価 連続一貫プロセスベンチ実験によって回収された酸を用いて、SUS304 と SUS430 の酸洗実験を行った。実際のライン酸洗液との比較しての、評価試験である。 37 3.4.3 結果、考察 (1) 全体プロセスの最適化 連続一貫プロセスベンチ実験における、各プロセス研究室の処理量(マスフロ−) を図 3.4-2 に示す。酸洗廃液の処理量が 454 リットル/月のベンチ実験であった。本実験に よる酸・アルカリの回収は以下の通りであった。 ①酸・アルカリ分離研究室では、BP (バイポ−ラ−)回収酸としてHF = 1.0~1.4mol/L, HNO3 = 0.45~0.55 mol/L,BP 回 収 ア ル カ リ と し て KOH = 1.6~1.7mol/Lの酸・アルカリが分離・回収できた。 ②酸濃縮研では、APU回収酸とBP回収酸の混合比率は 27:73 として、この混合酸 を蒸留して、HF = 4.2~5.6mol/L, HNO3 = 3.1~4.5 mol/Lの酸が回収できた。 (2) 回収酸評価 連続一貫プロセスベンチ実験で回収酸を用いて、HOT 材である SUS304 と SUS430 の酸洗実験を行った。回収酸を実際のライン酸洗液の濃度に調整し、実際の ライン酸洗液との比較で試験を行った。表 3.4-1 に溶解実験結果を、写真 3.4-1 に溶 解試験後の表面状態を SEM で観察した結果を示す。酸による溶解量は、ほぼ同じで あり、溶解後の表面状態は、局部的に溶解が発生するような異常は見られず、回収酸 はライン酸洗液と同じような酸洗性を有していることが確認された。 3.4.4 まとめ (1) ステンレス酸洗廃液を順次 ①中和・脱水プロセス ②酸・アルカリ分離プロセス③ 酸濃縮プロセスで処理し、アルカリ(KOH)および酸(フッ酸(HF)+硝酸(HNO3) ) を回収し、連続一貫プロセスベンチ実験で完全リサイクルプロセス技術を確立した。 全体プロセスでは、酸・アルカリの回収率は 94%以上であった。 (2) 連続一貫プロセスベンチ実験によって回収された酸を用いて、SUS304 と SUS430 の酸洗実験を行った。回収酸はライン酸洗液と同じような酸洗性を有していることが 確認された。 38 プロセス研 乾燥 スラッジ スラッジ 剥離水 スラッジ 酸洗 液 酸洗 廃液 (Ⅰ) 酸洗 APU 酸洗 廃液 洗浄 中和・ 脱水 洗浄液 中和ろ液 APU 回収酸 乾燥 ろ液 MF BP回収 KOH MF 処理液 酸・アルカリ分離研 BP 脱塩液 混合液 酸濃縮研 BP 濃縮酸 蒸留 混合酸 BP回収 酸 RO 処理液 RO RO 脱水液 分離水 図 3.4-1 ステンレス酸洗剤の高効率資源化プロセス 39 L/月 マスフロ− kg/月 乾燥 スラッジ 1454 洗浄水 濃度 mol/L 94 144 洗浄 スラッジ 酸洗 液 酸洗 廃液 (Ⅰ) 酸洗 APU 乾燥 スラッジ 剥離水 酸洗 廃液 中和・ 脱水 洗浄液 1505 454 中和ろ液 ろ液 2671 1166 MF APU 回収酸 BP回収 KOH 302 KOH=1.6-1.7 2671 MF 処理液 806 900 BP 脱塩液 3571 HF=4.2-5.6 HNO3=3.1-4.5 1202 RO 処理液 BP 1109 331 濃縮酸 混合液 蒸留 分離水 806 混合酸 778 BP回収 酸 HF=1.0-1.4 HNO3=0.45-0.55 RO 1310 イオン 交換水 RO 脱水液 2369 酸回収率=濃縮酸のHF,HNO3のmol数/酸洗廃液(Ⅰ)のHF,HNO3のmol数>94 アルカリ回収率=BP回収KOHのmol数/酸洗廃液への中和KOHのmol数>94 図 3.4-2 連続一貫プロセスベンチ実験におけるマスバランス 40 表 3.4-1 調整回収酸とライン液の溶解実験結果(g/m2) フッ硝酸液 HOT 430 304 ライン液 29.5 16.2 調整回収酸 24.2 16.4 ライン液 調整回収酸A HOT 304 ライン液 調整回収酸A HOT 430 写真 3.4-1 溶解後表面状態の比較(SEM) 41 4 技術開発成果の概要 個々の単位操作に関する技術開発を終え、グループを構成する 3 研究室のベンチプラン トを用いて実廃酸を順次処理する、 連続一貫実験を行った。 その結果は以下の通りである。 (1) プロセス研究室 ①ステンレス酸洗工程廃液を水酸化カリウムで中和・脱水・洗浄する操業条件を見出 した。これにより酸・アルカリ分離の原液となるフッ素・硝酸カリウム塩液を得て 分離から濃縮に至る4ヶ月間の連続一貫操業実験が出来た。 ②分離工程のRO膜とバイポーラ膜寿命に影響を与えないよう、 微細粒子をMF膜 (精 密ろか膜)で前処理する技術を確立した。 ③中和スラッジの資源化阻害要因となっていたフッ素、カリウムを目標の1%、0.2% 未満にする中和pH条件、洗浄条件を見出した。 ④酸洗ラインから、中和・脱水工程、後に続く「酸・アルカリ分離」 「酸濃縮」の各工 程、回収酸の酸洗ラインでの受け入れまでの全体プロセスのマスバランスをとりプ ロセスフローを設計した。 ⑤酸の循環再利用して作成した回収酸でステンレス鋼材の酸洗実験を行ない、表面状 態等品質上問題ないことを確認した。 (2) 酸・アルカリ分離研究室 ①バイポーラ膜による酸・アルカリ分離で、セル電圧が初期の 1.5 倍に達した時を膜 の寿命とすると、目標値である 2 年以上の膜寿命が予測できた。 ②目標値である 2 年以上の膜寿命を確保する主条件として、間欠運転を回避すること と微細粒子を除去することが重要であることを確認した。 ③実際の廃液であるろ液を用いた場合の電気透析における酸とアルカリの電流効率は 共に約 77%であり、電流効率目標値の60%以上を達成した。試験範囲内のろ液性 状の変動幅に依存せず、酸・アルカリの製造能力の低下は認められなかった。 ④連続試験後の BP 膜、カチオン交換膜とアニオン交換膜の分析を行った結果、Si 成 分の析出が観察されたが、顕著な性能劣化は認められなかった。 ⑤以上、本技術開発により、実工程における酸・アルカリ分離の長期安定運転の目処 がたった。 42 (3) 酸・アルカリ濃縮研究室 ①ベンチプラントを用いて実液によるサンプル酸液を繰り返し濃縮試験し、あらかじ め定めた条件の範囲においてフッ酸回収率 95%以上を実証した。これによりほぼ濃 縮プロセスは実証された。 ②フッ酸の回収率については、 フッ化鉄の結晶が発生しない条件を注意深く選定し又、 制御することが重要であることがわかった。 ③材料試験装置を用いてライニング試験片の長時間にわたる耐フッ酸情報を得た。フ ッ素樹脂ライニング試験片について耐フッ酸性の再現を確認した。 5 あとがき 本技術開発により、 実工程における酸・アルカリ分離の長期安定運転の目途が立った。 今後企業化にあたっては、平成 17 年度以降、実用化を目指すために、JFE スチールが中 心になってコスト計算、設備費計算、メリット計算を行う。 また、省エネルギーと資源循環を両立させるこの技術開発はステンレス製造だけでなく ガラス研磨や半導体製造等、フッ酸を使用し廃液を発生している他産業への適用も可能で あると考える。 43 技術開発促進事業終了報告書<公開版>の取扱いについて 本報告書は、参加企業の研究報告を目的に作成したものです。このため報告書の 内容について引用等をされる場合には、参加企業及びRITEの許可が必要ですので、 ご連絡いただくようお願い致します。 連絡先 ①参加企業名 JFEスチール株式会社、JFEテクノリサーチ株式会社 株式会社アストム、株式会社ササクラ グループ連絡先 JFEスチール株式会社 技術企画部 主任部員 白井 眞一 TEL 03-3597-3561 FAX 03-3597-3601 ②財団法人地球環境産業技術研究機構(RITE) 研究企画グループ研究公募チーム TEL 0774-75-2302 FAX 0774-75-2314 44