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数学科におけるICTの効果的活用 ~課題理解の手助けのための活用と
数学科におけるICTの効果的活用 ~課題理解の手助けのための活用と表現力を高めるための活用について~ 尾花沢市立常盤中学校 田中 雄大 1 テーマの設定 なぜ数学を学ぶのかという課題に対する私なり なる。また,考えたり判断したりしたことを振り の答えの一つに「物事を論理的に考えられるよう になる」ことが挙げられる。表現力を高めること とは知的なコミュニケーションを支え,また,知 的なコミュニケーションを通して表現の質が高め で合理的,論理的に思考する力が身につくと考え られる。よって,表現力を高めることが学習する 意義に直結すると考える。一方で,本校の生徒の 実態は,以下の通りである。 られ,相互に関わり合いながら学習を充実させる ① 数や式を計算処理する学習では例題を参考に しながら正確に解くことができる生徒が多い。 を高めていきたい。 以上,2つの点から本テーマを設定した。 返って確かめることも容易になる。 」「表現するこ ことにつながる」と書かれている。 表現活動を通し て自己を表現できる楽しさや,他者が表現したも のを理解できる楽しさを実感できるよう表現の質 ② マッチ棒や碁石の配列が変化する様子や,図形 が変化する様子を考察する課題等において,イ メージをもつことができず,課題を的確に捉え て考察できない。 ③ 計算過程を説明する学習や,事象が変化する様 子を考察する学習において,用語を正しく用い て自分の考えを表現する力が不足している。 2 研究の仮説 〔仮説1〕課題提示の工夫と課題解決に向けた見 ④ 表現力に関して,1年生は自信をもって自分の 考えを表現しようとする生徒が少なく,2,3 年生は用語を正しく用いて聞き手に伝わるよ なり意欲的に取り組むことができるのではないか と考える。また,課題解決の見通しがもてない生 う説明できる生徒が少ない。 そこで,本校の生徒の実態をふまえ,数学を学 習する意義に迫るには,以下の2点について追求 していく必要があると考えた。 (1)課題把握時の体験活動について 具体物を生徒に操作させて変化の様子を考察さ せる工夫を行ったところ,課題を捉えることがよ り容易にできる様子が見られた。よって,ICT を 有効に活用し,手に取って操作できない物やグラ フ,図形などを操作する様子を提示,または実際 に操作させることで課題を的確に把握できるので はないかと考えた。生徒たちが課題を的確に把握 し,目的意識をもって主体的に数学的活動に取り 組めるよう指導していきたい。 (2)表現力の向上について 表現力を高める意義について,学習指導要領解 説には「表現することにより,一層合理的,論理 的に考えを進めることができるようになったり, より簡潔で的確な表現に質的に高めることになっ たり,新たな事柄に気付いたりすることも可能に 通しをもたせるための支援について 文章問題や事象の変化を考察する課題,図形の 特徴を考察する課題において,変化の様子を確認 する映像を提示することで,課題を把握しやすく 徒については,個別に映像を提示することで,課 題をより的確に捉え,解決への見通しをもって考 察できるようになるのではないかと考える。 〔仮説2〕表現力を高める工夫について 既習内容をもとに正確に式変形を行う学習や関 数のグラフと式の関係を考察する活動,図形が変 化する様子を考察する課題について,ICT を用い て発表用資料を作成することで, 時間を短縮でき, 生徒が互いに表現し合う時間が確保され,表現力 の質的向上が期待できるのではないかと考える。 また,表現活動を通してより合理的・論理的に思 考する力を養うことや,新たな事柄に気づかせた りすることができるのではないかと考える。 3 研究の方法と計画 〔仮説1〕に関して (1) ソフトを活用して見通しをもたせる ①GRAPES 1 年 比例と反 比例 比例定数とグラフの傾きが対応する様子を, 視覚的に,かつ連続的に捉えさせる。 点の移動に比例して図形の面積が大きくなる ことを視覚的に捉えさせる。 2 年 1次関数 3 年 関 数 y = ax 2 図形の形がどのように変化するのか,面積の 増減がどの地点から変化するのかを視覚的に 捉えさせる。 比例定数とグラフの形状の関係を視覚的に捉 えさせる。 2点が同時に移動したときの図形の面積の変 化する様子や,面積が増減する分岐点はどこ なのかを視覚的に捉えさせる。 ②GeoGebra 3 年 3 年 相似な図 形「平行線 と比の定 理」 円「円周角 の定理の 証明」 前時の図形の一部を変化させて新たな課題を 提示する方法を,単元を通して実践し,前時 の学習内容を生かして課題解決ができるよう にする。 点を自由に移動させ,円周角と中心角の関係 を比較させることで,定理が成り立つことを 実感させるとともに,様々な形状において定 理が成り立つのかを考えるための見通しをも たせる。 (2) 課題を視覚的に理解させるために次の ICT を 活用する ①iPad の活用 2 年 1次関数 傾きと切片の値を自由に変化させてグラフの 様子を考察することで,課題を視覚的にかつ 連続的に捉えさせる。 ②線を連続的に移動する様子を提示するパソコン ソフト(フリーソフト)の活用 1 年 空間図形 「面の移 動」 生徒たちに自由に図を描かせて考察させ,で きる立体図形の特徴を考察させる。 〔仮説2〕に関して (1) 生徒がノートに書いた答えを発表資料として 使う場面 ・ iPad を 用 い て 生 徒 の ノ ー ト を 撮 影 し , appleTV でテレビに映し出す。 ・ 映し出した映像(生徒自身がノートに書いた 考え)を用いて生徒に発表させる。 (2) 1年資料の整理と活用「資料を収集・整理し, その資料の特徴を読み取る活動」 ・ パソコンソフト「simlehist」を用い,全員が それぞれパソコンを使用して学習する。 ・ 生徒自身がインターネットもしくは全校生徒 にアンケートをとってデータを収集し,ヒス トグラムに表したり代表値を求めたりするこ とで,自分なりの視点で分析し,表現しよう とする意欲を高め,表現力を養う。 4 研究の実践 ICT を活用しなかった実践について ・ 2年「ある座標を通るグラフの式を求める」や 「あるグラフに平行な直線の式を求める」にお いて,多くの生徒がグラフをイメージすること ができず,課題を解決できなかった。 ・ 3年「関数 y = ax 2 」においてグラフ上の 2 点の 傾き具合をイメージできず,変化の割合を求め ることができない生徒が多かった。 〔仮説1〕に関する生徒の変容 ・ 1年「面の移動」において,生徒に自由に書か せた図形を変化させることで,多くの生徒が興 味をもって学習していた。人の顔を回転させた ことが大変印象的だったようだ。生徒 A の授業 後の感想では,「回転するとどんな図形になる のかがイメージしやすかった。顔が面白かっ た。 」と答えていた。 ・ 2年「傾きや切片の値とグラフの関係」におい て,iPad を用いて学習することで,グラフの式 を正確に読み取る感覚が養われ,途中からグラ フが変化するような応用問題や文章問題を正 確に解くことができるようになった。生徒 D は, iPad を繰り返し操作して,式とグラフの形の関 係を考察することで,イメージ化できた。また, 苦手意識のある生徒 E に iPad を用いてグラフ の変化の様子を確認する個別支援を行ったと ころ,意欲的に取り組むことができた。 ・ 2年「点の移動による図形の面積の変化の様 子」において,苦手意識のある生徒 C が,図形 の変化の様子をイメージして考察し,グラフや 式を求めようと意欲的に取り組むことができ た。授業の感想からも,「図形がどのように変 化するのか分かりやすかった。 」と答えていた。 ・ 3年生「比例定数の値とグラフの形状の関係」 において,ICT を用いて確認することで,比例 定数とグラフの形状の関係に対する感覚が磨 かれ,グラフをイメージして書ける生徒が増え た。苦手意識の強い生徒 F は,いろいろなグラ フの形状を,両手を動かしてイメージしながら 問題に取り組むようになった。 ・ 3年「2点の移動による図形の面積の変化の様 子」について,多くの生徒が,問題の中の図に 点が動いて図形が変化する様子を書き込んで イメージしようとする姿が見られた。全体での 確認で変化のイメージをもてなかった生徒 G に,さらに個別に図形が変化する様子の映像を 見せたところ,図形の面積の増減の仕方や増減 の分岐点がイメージでき,意欲的に取り組むこ とができた。 ・ 3年「平行線と比の定理」の学習において,新 出事項の導入の際に,パソコンソフト 「Geogebra」を用いて前時で学習した図をその まま提示したことで,多くの生徒が既習の定理 ・ 自分の考えの過程を説明するのが苦手な生徒 B を利用して新出の定理を見通しをもって証明 することができた。 〔仮説2〕に関して (1) 単元名 1年「比例と反比例」 が,班の中での教え合い活動を通して,グラフ を活用して説明すると分かりやすいというこ とに気づき,思考のポイントをテレビに書き込 (2) 目標 ・ 様々な事象から関数関係にあるものを見いだ し,それらの変化の様子を表,式,グラフで表 して,どのような特徴があるのかを意欲的に考 察し表現しようとする態度を育てる。(数学へ の関心・意欲・態度) ・ 具合的な事象の中にある2つの数量の関係を 表した表やグラフなどを読み取り,変化の様子 に着目して比例・反比例であるかどうかを判断 できるようにする。 (数学的な見方や考え方) ・ 比例,反比例の関係を表,式,グラフを用いて 表現したり,数学的に処理したりすることがで きるようにする。 (数学的な技能) ・ 関数関係の意味や比例と反比例の意味,また, それらを表す表,式,グラフ,座標の特徴を理 解し,比例や反比例であることを,用語を用い て説明することができるようにする。(数量や 図形などについての知識・理解) (3) 指導の手立て ・ 考えをまとめたノートを iPad で撮影して発表 用資料にすることで,自分の考えを班の仲間に 伝えたり班の仲間の考えを理解したりする時 間を確保した。 ・ 表・式・グラフを関連付けて説明させる活動に おいて,ノートを iPad で撮影し,appleTV で テレビ画面に映し出して発表させた。 (4) 生徒の変容 ⅰ)授業の様子より 以前行っていた ICT を活用しない授業では,発 表用資料を作成するために,ホワイトボードや拡 大したプリント,黒板にもう一度考えを書かせる 時間を設定しなければならず,班の中で考えを深 めたり,理解しきれていない生徒が理解できるよ うに教え合ったりする時間が不足していた。本実 践によって,学習内容や自分の考えをノートに整 理したり,班の仲間に質問する時間を十分に確保 できたので,以下のような変容が見られた。 ・ 板書や自分の考えをノートに書くのに時間が かかる生徒 A が,自分の考えをノートに丁寧に 書き,班の仲間の考えを聞いて思考を深めるこ とができた。 んで発表資料を補足しながら,丁寧にポイント を押さえて説明できた。 ⅱ)レディネスと評価テスト比較より ・ 反比例の表の特徴を説明する課題の正答率は, レディネステストでは55%だったが,評価テ ストでは73%だった。 ・ 「図形が変化したときの時間と面積の関係を式 に表す」課題の正答率は45%だった。 生徒 A, B ともに不正解だった。生徒 A は, 「3秒後」 の地点の図を書く事はできたが,時間と面積の 関係を式に表すことはできなかった。授業で見 た映像によって,点がどのように動くかを多少 はイメージできたが,2つの数量関係を式に表 すことができなかった。生徒 B は時間と面積の 関係をグラフに表すことはできた。これは,点 の動きをイメージできたからだと思われる。た だし,グラフを式にすることができなかった。 ・ 「速さの問題において時間と距離の関係を考 察する」課題の正答率は以下の通りだった。 ㋐ 速 さの 値か ら比 例の関 数 をグ ラフ に表す 問題(正答率55%) ㋑ グ ラフ から 題意 に当て は まる 値を 読み取 る問題(正答率73%) 思考を深める過程において,班の仲間の考え を聞いて理解するにとどまった生徒 A は両方 不正解で,全体の場でグラフを活用して自分の 考えを説明できた生徒 B は両方正解だった。 その他の取り組みとして 今年度,様々な場面で ICT を活用したが,学習 のまとめの段階として, 「知識を着実に習得し,技 能を効率よく高める工夫」としての活用も行うこ とができた。具体的には以下の通りである。 (1) 1年 文字と式「次数の学習」 「同類項の計算」 ・ パソコンソフト「PowerPoint」を用いて,類似 問題を次々と提示し,数多くの問題に触れさせ, 短時間で着実に理解することができた。 (2) 2年 平行と合同「角度を求める活動」 ・ タブレット PC を用いて,角の定理を利用して 角度を求める問題を次々と提示し,数多くの問 題に触れさせることで,生徒 C は角度を求める 技能を高めることができた。 (3) 3年 標本調査「元日の日本の気温を標本調 査で求める活動」 ・ パソコンソフト「Excel」を用い,関数を使っ てランダムで観測地点を選択する方法と,自分 で数字を選ぶ方法のそれぞれの結果を比較す をイメージする力を伸ばすための効果的な活 用が必要である。 る活動を通して,多くの生徒が「無作為に抽出 ・ 各学年の「図形が変化する様子をグラフに表す 活動」において,変化の様子を ICT で確認し, イメージをもって課題に向かうことで解決で する」意味を正しく理解することができた。 これらの取り組みについては,来年度改めて仮 きた。1年空間図形「面の移動」において,大 変意欲的に学習し,授業後の感想でも「分かり 説をたて, ICT の効果的活用を検証していきたい。 やすかった。」と答えた生徒が多かった。とこ ろが,テスト等で ICT が利用できない状況にな ると図形をイメージできなくなるようだった。 5 成果と課題 【成果】 〔仮説1〕について ・グラフの形状(右 上がりと右下がり の判断)や切片の 位置,グラフの傾き具合について考察する学習 において,パソコンや iPad を活用してグラフ を視覚的にかつ連続的に捉えられるよう提示す ることで,式や事象からグラフの形をよりイメ ージしやすくできるようだった。式とグラフを 関連付けて考察するためには効果があったと考 えられる。 ・図形の周上を動く 点と頂点を結んだ 時にできる図形の 面積がどのように 変化するのかを考 察する学習では, 「GRAPES」を用いて面積が変化する様子を提 示することで,変化の様子をイメージし,図に 表せるようになった生徒が多く, 効果的だった。 〔仮説2〕について ・資料作成時間を省略することで,お互いがノー トを使って説明し合う時間が確保され,全員が 納得できるまで教え合ったり,聞き手がより分 かりやすいと思える説明の仕方に気づいたりで きる。よって,より自分の考えを深めたり,表 現力を高めたりすることができるようになった のではないかと考える。 【課題】 〔仮説1〕について ・ 学習指導要領解説にも「表,式,グラフを単独 で用いるのではなく相互に関連付けて関数の 特徴を調べる能力を伸ばすことを重視する。」 と書かれており,ICT を用いて課題からグラフ ICT を活用することでグラフや図形を視覚的 に捉えることはできるが,課題解決するために ドリルなどを行う必要がある。多くの類似問題 において ICT を活用しつつイメージをもてる ようにし,最終的には ICT の力に頼らずに図形 を書いてイメージできるような力を身につけ させたい。 ・3年円「円周角の定理の証明」において,教科 書にあるような理解しやすい図での証明のみ扱 ってしまい,発展問題を用いて思考力を高める ことができなかった。生徒一人一人に図形を自 由に操作させて結果を予想させたり,図形を場 合分けして考察させたりする活動を仕組み,発 展問題として上位生徒に取り組ませ,数学的思 考力をさらに高めていく必要があった。 〔仮説2〕について ・発表用資料を作成する時間を省略でき,仲間同 士互いに表現し合う時間が確保できたが,表現 力の質的向上や思考力を高め合えるような内容 になるよう指導できなかった。表現活動に対し てより積極的にコメントし,取り組みを価値づ けていく。 ・本時の学習の目標を達成するために,全体でど のような確認方法をとるべきか,誰にどんな発 表をさせて,どんな学習効果を狙うのかを授業 者が明確にもつ必要があった。表現活動の場面 (ペア・班内・学級全体) ,表現方法,生徒同士 の練りあいを活発にするための工夫など,生徒 の表現力や思考力を高められるように,的確に 選択できるようにしたい。 ・発表用資料を iPad で撮影して作成する時に, 発表のポイントを焦点化できるような画像作成 ができていないことが多かった。聞き手が理解 しやすいような資料作成を心がけていく。