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透析患者の高血圧物語(ストーリー)

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透析患者の高血圧物語(ストーリー)
2010,10,31 ミューザ川崎 4F
NPO法人神奈川県腎友会講演
医療法人かもめクリニック
金田 浩
1.標題
透析患者高血圧の物語
―食塩(水)感受性(salt sensitivity=SS)の話-
「物語」とした理由
・「長時間透析と限定自由食」治療法を12年間実施した。
その経験から「透析患者高血圧の成因と治療」に関する
“推論”をお話しする。
・推論とは「仮説と臨床的実証」に基づくもので、動物実験的
確証は未だ得ていない。
本講演は科学的解説であるが、個人的見解で“物語(Story)”
とした。
2003.11月タサンにて
Charra博士の論文(1998年)
5hr
8hr
120
postdialysis weight
65
64
63
透析後体重
MAP
110
100
62
61
90
predialysis MAP
66
0
3
6
8hr
9
80
1 2 HD months
n=124
5hr
60
96
MAP
94
92
59
透析後体重
5 8 .5
90
88
58
86
5 7 .5
84
57
82
5 6 .5
0
3
6
9
predialysis MAP
5 9 .5
postdialysis weight
透析間体重増加量 1.7kg
Kt/V 1.89
60
59
一日食塩摂取量 5.0g
80
1 2 HD months
一日食塩摂取量 4.5g
透析間体重増加量 1.6kg
Kt/V
n=49
1.79
2.透析治療の主要な治療目標は
高血圧の管理である。
<その理由>
JSDT (2009年末、死亡患者25,044名) による死亡原因の分析
① 高血圧が原因となる死因
ⅰ.心不全
ⅱ.脳血管障害
ⅲ.心筋梗塞
ⅰ+ⅱ+ⅲ = CVD
23.9%
8.4%
4.1%
36.4%
② 感染症
③ 悪性腫瘍
20.8%
9.4%
④ その他
33.4%
3.高血圧の有無と程度の客観的物差しとは?
・1回~数回の血圧のレベル?
・降圧薬使用の有無・量?
4.標準透析(4時間透析)における高血圧の特徴
-Khosla & Johnson (2004年)-
・降圧薬の使用頻度が高い(70~75%)
・各種降圧薬に抵抗性を示す(効きにくい)
5.各種透析方法と降圧薬服用率・非服用率
降圧薬
・4時間透析
(Khosla & Johnson)
・6~8時間透析
(かもめ・みなとみらいクリニック
食塩8~12g/日、78名)
・8時間透析
(タサン、食塩5g/日、445名)
服用率
非服用率
70~75%
25~30%
33.3%
66.7%
2.0%
98.0%
6.かもめ・みなとみらいクリニックにおける
降圧薬服用率と非服用率
患者総数 78名 (平成22,8,7)
全体
昼間
準夜
深夜間
患者数
(人)
78
服用率
(%)
33.3
24
7
47
45.8
42.9
25.5
* 転院時降圧薬非服用率
服用率
非服用率
(%)
66.7
54.2
57.1
74.5
26.9% (21/78)
73.1% (57/78)
透析時間
(h)
7.5
6.9
7.1
7.9
7. IS例(49歳,男性) CN由来の慢性腎不全
IS症例の血圧管理
6hr
8hr
平均動脈血圧(MAP)
(mmHg)
透析後体重(kg)
130
85
MAP
120
110
80
75
透析後体重
100
90
一日食塩摂取量
70
(g)
20
15
10
65
80
5
5
降圧薬(種類)
4
1
2
1
一日食塩摂取量
透析時間
7hr
IS症例の臨床経過
ー透析間体重増加量とhANPの推移ー
透析時間
6hr
7hr
8hr
(Kg)
透析後体重(kg)
透析間体重増加量
6
透析間体重増加量
85
5
80
4
75
透析後体重
3
70
hANP
2
hANP
65
60
30
20
55
10
(pg/ml)
IS症例の臨床経過
ー貧血管理の推移ー
6hr
透析時間
7hr
8hr
Ht(%)
Ht
40
30
血中EPO濃度(正常値9.1~32.8)
2008.4
2009.3
63.6mIU/ml 19.8mIU/ml
20
3000
7
20 7
06
.1
20 7
05
.1
20 7
04
.1
20
03
.4
750
20 7
10
.1
1500
0
20 7
09
.1
(IU/W)
20 7
08
.1
4500
20 7
07
.1
EPO投与量 10
IS症例のまとめ
① 「食塩(水)制限と1回4時間の標準透析」
→ 降圧薬の中止 ×
② 「食事制限の大幅な緩和と1回6~8時間の長時間透析」
→ 降圧薬の中止 ○
③ 7年間で透析後体重は16.4kg増加(水分量:16.4×0.6=9.8kg)
*身長178cm 体重82.0kg(健康時)
④ 7年間で透析間体重増加量は2.5~2.8kg→4.0~5.4kg増加
hANPは正常範囲内
8.透析時間と除かれる尿毒素の特徴
ーA. Pierratos(2001)ー
小さい尿毒素の除去
大きい尿毒素の除去
短時間透析
大
>
小
長時間透析
小
<
大
9.食塩(水)が高血圧を起こすかどうかは
透析時間が調節する。
そのメカニズム?
透析時間の延長
大きい尿毒素の除去を促進
食塩(水)感受性(SS)を低下・正常化する。
高血圧の正常化
金田の見解
10.食塩(水)感受性(SS)
食塩(水)感受性についての報告:
FC・バーター(1914~1983)
食塩(水)感受性(SS)
食塩(水)が高血圧の発現に
敏感(SS)か
鈍感(n-SS)か
11.食塩(水)感受性(SS)の成績
アメリカの成績(FC・バーター)
健常者において
食塩
5.0g → 15.0g
血圧上昇・・・・・・・・・・・・・・・SS
40%
血圧が不変又は低下・・・・・n-SS
60%
日本の成績
<報告者>
SS
n-SS
川崎(1978)
藤田(1980)
安東(1985)
河野(1987)
47%
50%
33%
54%
53%
50%
67%
46%
12.非腎不全患者におけるSSの研究
① 方法(NIH;アメリカ国立衛生研究所)
食塩0.6g/日(7日間)→14.0g/日(7日間)
MAP<10%の上昇をSSと定義
② SSの比率
・正常血圧者
高血圧者
・高血圧家系
非高血圧家系
・老人、黒人、肥満者
15~53%
20~74%
68%
20%
高頻度
③ 減塩の対象者
・欧米では、SS者のみに減塩を勧める。
・減塩で血圧下降が期待出来るのはSS者のみ。
その比率は低い。
13.腎不全患者におけるSSの研究
1960年代 Dahlらが「血液中の物質群」が食塩(水)感受性の
発現に関係する、という概念を提案した。
1974年 De Wardenerが血液中にジギタリス様物質を発見した。
これが食塩(水)感受性を亢進する。
1982年 Koohmanらは、GFRが低下すると食塩(水)感受性が
亢進する。
1990年 Matsuokaらは、腎不全患者で見られた食塩(水)感受性
の亢進が透析により低下した。
1992年 Vallanceらは、NO 阻害因子であるADMAが
ジギタリス様物質と同様に、食塩(水)感受性を亢進する。
2010年 金田が、大きい尿毒素(中分子)が、食塩(水)感受性を
亢進しているのではないか。(仮説)
14.SSに関係する因子
ⅰ.
ⅱ.
ⅲ.
ⅳ.
遺伝、人種
腎機能
透析前腎不全と透析治療
血液中の尿毒素群
・ジギタリス様物質
・ADMA
・副甲状腺ホルモン
・中分子尿毒素
など
ⅴ. 透析時間の長さ(金田の仮説)
ⅵ. 食塩(水)負荷
→ジギタリス様物質↑
→ADMA↑
n-SS
SS
15.まとめ
(1).透析患者高血圧 : 2つの考え方
血圧 = 心拍出量
X
(細胞外液量増加)
ⅰ.容量依存説
(世界)
>
ⅱ.容量依存説
<
細胞外液量の増加
総末梢血管抵抗
(血管緊張亢進)
容量非依存説
容量非依存説
(金田)
ⅰ 亣感神経系の亢進
ⅱ レニン-アンギオテンシン系の亢進
ⅲ 血液中の尿毒素
(2) 食塩制限のない1回6~8時間の長時間
透析で、高血圧が正常化する理由
ⅰ.尿毒素の十分な除去
SS→n-SS
総末梢血管抵抗の低下
高血圧正常化
ⅱ.長時間透析により細胞外液量が十分に除かれる。
透析間体重増加量(特に水分量)が細胞内(筋肉内)へ
大量移行する。
その結果、有効な細胞外液量が減少する。
(3) 金田の仮説:まとめ 1
透析時間、尿毒素、食塩感受性と高血圧の関係
透析時間
血液中の
尿毒素
食塩感受性
総末梢血管
抵抗
高血圧
短い
増加
SS
亢進
持続
長い
減少
n-SS
低下
消失
(4) 金田の仮説:まとめ 2
高血圧を引き起こす尿毒素の特徴
① 小分子尿毒素
ジギタリス様尿毒素とADMA
・透析による除去は中分子尿毒素と同様、長時間を要する。
② 中分子尿毒素
循環尿毒素(群)とPTH
・透析による除去は長時間を要する。
<参考>
・ジギタリス様物質の分子量=586.4 ダルトン
・ADMAの分子量=202 ダルトン
・PTH=9,600 ダルトン
15.結論
①.食塩(水)単独は高血圧を起こさない。
食塩(水)は「患者固有の食塩感受性」を介して
高血圧を起こす。
②.高血圧正常化の鍵は
「食塩感受性の正常化」にある。
現在まで判明している有効な正常化因子は
ⅰ. 透析時間の延長による尿毒素の除去
ⅱ. 食塩(水)制限
ⅰ>>ⅱ
ⅲ. 降圧薬の服用(?)
の3つ
16.透析治療の主要な治療目標は
高血圧の管理である。
<その理由>
JSDT (2009年末、死亡患者25,044名) による死亡原因の分析
① 高血圧が原因となる死因
ⅰ.心不全
ⅱ.脳血管障害
ⅲ.心筋梗塞
ⅰ+ⅱ+ⅲ = CVD
23.9%
8.4%
4.1%
36.4%
② 感染症
③ 悪性腫瘍
20.8%
9.4%
④ その他
33.4%
17.高血圧と栄養失調の管理
ー食塩摂取量と「高血圧及び栄養失調のない安全圏」ー
栄養失調領域
長時間透析
安全圏
透析時間の延長(SS → n-SS)
短時間透析
食塩摂取量
高血圧領域
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