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3.2.2 防災・減災施設の整備状況
3.2.2 防災・減災施設の整備状況 3.2.2.1 洪水を防ぐ治水施設 ハード対策の整備状況について述べる前に、以後、文 中に頻繁に出てくる工事名についての理解を助けるため に、水害を防ぐ目的で建設される治水施設の主なものに ついて以下に簡単に説明する。 捷水路 : 曲がりくねった川をショートカットしてま っすぐスムーズに流れるように川の流れを真っ直ぐにす る。 図 3.2.4 樋門の構造 10) 分水路 : 一本の川で流せる量は限られているの で、大雨の時に、洪水を流す川をもう一本作って、安全に 流す。 堤 防 : 洪水を川に閉じこめて洪水が川から溢れな いようにする最も基本的な施設。 堤防を建設することを築堤という。 護 岸 : 堤防や川岸が洪水の勢いで削られるのを防 ぐため堤防の表面を保護する。 河床掘削 : 川を深くすることで流下出来る洪水の量 を増やして川からの氾濫を防ぐ。 河道拡幅 : 川幅を広げる事で、流下出来る洪水の量を 増やして川からの氾濫を防ぐ。 水門・樋門 : 本川と支川や水路とが合流する所に作ら れるもので、洪水の時は本川の水が支川に逆流して氾濫 しないようにゲートを閉める。 排水機場 : 水門、樋門のゲートが閉じられたと き、支川が氾濫しないよう、たまった水(内水)を 図 3.2.5 排水機場の働き (近畿地方整備局ホームページ) 11) より。 ポンプで吸い上げて本川へ吐出す。 ダ ム :コンクリートまたは土と岩石で河川をせき止める構造物。堰き止めてできた湖をダム湖とい う。豪雨の際、洪水をダム湖に貯水することにより、河川を流れる洪水のピーク流量を低く調整し、川 からの氾濫を防ぐ。 3.2.2.2 治水工事の歴史 表 3.2.1 は信濃川(新潟県)における江戸から大正時代の河川改修の歴史をまとめたものである。400 年も前から大規模な河道の掘削工事,築堤工事が行われてきたことがわかる。その背景には頻繁に繰り 返される大洪水により甚大な被害を受けた歴史がある。 越後平野の歴史の中で最も古いものは、天正 10 年(1582 年)に信濃川で行われた「直江(なおえ)工 事」と言われている。上杉氏の家臣である直江山城守が当時の燕島を守るために行った。川筋のもとの 流れを東側に押しやるために掘削したものであるが、16 年の歳月が費やされた(信濃川河川国道事務所 ホームページより)。現在の白根市新飯田付近から上流の中ノ口川はこのときに掘られたものと言われて いる。 144 表 3.2.1 信濃川の改修工事の歴史(江戸~大正時代) 時代 江戸 年(度) 1597 1611 1624 1648 1660 1680(水害) 1697 1730 1735 1738 1742戌の満水 1744 1748 1757(水害) 1776 1789(水害) 1819 1820 1820 1828 1829 1829 1830 1836(水害) 1837 1839 1839 1841 1845 1847(水害) 1866 1868(水害) 明治 1872 1885 1896 1896(水害) 1910(水害) 1914(水害) 大正 名称 場所 直江[なおえ]工事1582(天正10)年~1597(慶長2)年 新潟県燕市~白根市(信濃川下流域中ノ口川) 裾花川[すそばながわ]の瀬替え 1611(慶長11)年頃 長野県長野市(千曲川支川裾花川) 福島正則(大夫)の千両堤 1619(元和5)年~1624(寛永元)年 長野県小布施町(千曲川支川松川) 西川の柳土手 慶安年間(1648~1651) 新潟県弥彦村(信濃川下流域西川) 万冶[まんぢ(じ)]工事 明暦(1655)~万冶(1660) 新潟県燕市~三条市(信濃川下流域中ノ口川) 信濃川:「白髭(髪)の水」と呼ばれる大洪水 新大川の開削 1697(元禄10)年 長岡市蔵王町(信濃川水系) 松ヶ崎[まつがさき]掘削1730(享保15)年 新潟市(信濃川下流・阿賀野川) 千原[ちはら]の堀割 享保年間(1716~1735) 長野県小川村(千曲川支川土尻川) 車田(横手)第一次堀割1724(享保9)年~1738(同20)年 長野県小川村(千曲川支川土尻川) 信濃川:信濃川下流各地で破堤し、南・中蒲原の地形変わる。 千曲川で史上最大の大洪水。全滅村落数知れず、死者は約2,800人 松代[まつしろ]領内の本瀬替え 延享年間(1744~1747) 長野市(千曲川) 左近[さこん]堤(左近の大土手) 1748(寛延元)年 新潟県長岡市(信濃川) 信濃川:宝暦の横田切れ。与板・栄村大沼・三条市今井等、破堤多発 車田第二次堀割 1768(明和5)年~1776(安永5)年 長野県小川村(千曲川支川土尻川) 信濃川:長岡城内浸水8尺以上 黒埼~鮫面[さめづら]間の堀割 1819(文政2)年 新潟市(信濃川下流) 関屋堀割騒動 1820(文政3)年 新潟市(信濃川下流) 三潟悪水抜き (金蔵坂[きんぞうざか]堀割工事) 新潟市(信濃川下流域西川等) 1818(文化15・文政元)年~1820(文政3)年 不崩[かけず]の土手 1828(文政11)年頃 長野県長野市(千曲川) 文政12年の堤防復旧御普請工事 1829(文政12)年 長野県飯山市(千曲川) 八幡越[はちまんこし]の堀割 1829(文政12)年 長野県小川村(千曲川支川土尻川) 舟平[ふなだいら]の堀割 1800(寛政12)~1830(文政13)年 長野県小川村(千曲川支川土尻川) 信濃川:白根郷全域水に浸かる。米・大豆・雑穀の他領への移出禁止 日影[ひかげ]の堀割 1837(天保8)年 長野県小川村(千曲川支川土尻川) 舞袋[ぶたい]の堀割 1839(天保10)年 長野県小川村(千曲川支川土尻川) 初引[はつびき]の堀割 1839(天保10)年 長野県小川村(千曲川支川土尻川) 天保12年の堤防普請工事 1841(天保12)年 長野県飯山市(千曲川) 常山[じょうざん]堤1841(天保12)年~1845(弘化2)年 長野県坂城町(千曲川) 千曲川:善光寺地震で土砂崩れが犀川をせき止め崩壊し下流に大きな被害 天野[あまの]の瀬替え1614(慶長19)年~1866(万延元)年 新潟市(信濃川下流) 信濃川:戊辰戦争の最中、5月に越後平野は大洪水に見舞われ、各地で破堤 千曲川:千曲川7回出水。4月と5月の洪水は川沿いの村落に甚大な被害 上今井の新川掘り 1870(明治3)年~1872(明治5)年 長野県豊田村(千曲川) 中条地区信濃川堤防工事 1881(明治14)年~1885(明治18)年 新潟県十日町市(信濃川) 河川法制定 (明治2 9 年) 信濃川(横田切れ):被害人口75人(死者)、流失家屋25,000戸、冠水水田18,000ha(新潟県全域) 千曲川:千曲川では寛保2年以来の大洪水であり千曲川全域で、流失・浸水被害家屋10,000戸超。 千曲川:千曲川をはじめ、各河川が氾濫。全壊・流失家屋が259戸、床上・床下浸水は12,800戸 信濃川:死者55人、被害家屋数9,174戸、水害被害区域面積約7,600ha(農地) 千曲川:被害家屋数369戸(流出・床上浸水・床下浸水)、水害被害区域面積約820ha(農地) 1917 河川法準用河川に決まる。内務省土木局新潟出張所の直轄施行となる 1917(水害) 信濃川:被害人口1名(死者)、流失・全壊家屋29戸、土木復旧費135万円、耕地総損害219万円 1922 信濃川改修工事 1909(明治42)年~1922(大正11)年 新潟県分水町(信濃川) (大河津[おおこうづ]分水路・旧洗堰[あらいぜき]・自在堰) 1926(水害) 信濃川:死者83人、行方不明者23人、流出全壊家屋577棟、水害被害区域面積31,779丁歩(約31,500ha)、水害被害高2,134万7千円余 (国土交通省北陸地方整備局ホームページ<治水事業の歴史>,信濃川百年史)18)より。 3.2.2.3 河川法とその変遷(明治河川法から平成河川法へ,治水から利水、河川環境保全へ) 日本最初の河川法は 1896 年(明治 29 年)4 月に制定された。河川管理者を原則として都道府県とし、 必要に応じて国が工事を実施するというもの。当時頻発していた水害の防止に重点をおいたもので、制 定以来,日本の大河川の改修事業はこの河川法の下で実施された。森林法・砂防法と合わせ『治水三法』 と呼ばれた。 河川法制定前の河川関連の法制度は、1871 年(明治 5 年)に大蔵省によって施行された「河港道路修 築規則」である。 145 図 3.2.6 河川法とその変遷 (第 1 回河川環境の整備・保全に関する政策レビュー委員会資料(平成 19 年 4 月 13 日)19)より。 社会経済の変化や地域住民の河川に求める機能を踏まえ、河川整備の視点は「治水の時代」から「利 水の時代」、そして「水環境重視の時代」へと推移した。 明治 29 年の旧河川法(明治河川法)は昭和 39 年に廃止されて、新河川法(昭和河川法)となった。主な 改正点は、治水中心の河川整備から利水も考慮した河川整備への方向転換である。高度成長期の日本経 済を支えるために電源開発や工業用水開発が求められたからである。 昭和 39 年河川法の特色は水系を一貫管理するという水系主義をとっていることである。 その象徴的な 条文が第 16 条の河川整備計画の事前作成である。計画高水流量を基礎に、さまざまな河川工事を整合性 あるものにしようとした。 しかし,工事実施基本計画の策定率が低く,平成 9 年の段階で計画が存在していたのは、全国で 2,718 河川のうち、702 河川、25.8%であった。長良川河口堰反対運動の高まりから、’92 年の地球サミット 以後、河川環境保全を考慮した河川法として平成9年に改正された。これが現行の河川法(平成河川法) である。 水系一貫管理の基礎的保障が第 16 条であるが、昭和河川法の「工事実施基本計画」が平成河川法では 「河川整備基本方針」と「河川整備計画」の2段階で整備する方針となっている。 平成河川法も平成 11 年に 16 条が改正された。改正点は、1級河川では「事前に河川審議会の意見を 聴かなければならない」となっていたものを「社会資本整備審議会の意見を聴く」ようにと変更されて いる。 3.2.2.4 河川整備事業(整備率)とその効果 (1) 河川整備効果 河川の整備効果の主たるものは洪水被害の防止である。表 3.2.2 に示すように、洪水被害は直接被害 と間接被害に分類される。直接被害は浸水による財産および人的被害であり、間接被害は営業停止や復 旧のためにかかった費用、インフラ被害に伴う波及被害がそれにあたる。 146 薄く着色した部分は費用便益分析(B/C 算定)の便益計算の対象とされている項目である。人的被害が 算定に含まれていないこと、間接被害の多く項目が算定対象外となっていることに留意が必要である。 算定基準を明確に定めにくいなどの理由があると想定されるが、河川整備の必要性、効果を一般にアピ ールするうえで、算定方法を明確にして効果を高く評価することが望まれる。 表 3.2.2 洪水被害の分類と内容 (国土交通省,河川事業の再評価説明資料より。) (3) 河川整備計画と整備率 以下に、各県を代表する河川、新潟は信濃川、富山は常願寺川、福井は九頭竜川について河川整備計 画とその進捗状況について述べることとする。 147 a.信濃川(新潟) 河川整備計画規模は下記のとおりである。また、これまで行われてきた事業計画およびその進捗状況 を図 3.2.7 に示す。 ・計画規模 : 1/150確率 ・計画雨量 : 171mm/2日(小千谷地点) ・基本高水のピーク流量 : 13,500m3/s (小千谷地点) ・洪水調節施設による調節流量: 2,500m3/s (小千谷地点) ・河道への配分量 : 11,000m3/s (小千谷地点) 図 3.2.7 信濃川の整備事業業計画およびその進捗状況 (河川事業の再評価説明資料 信濃川直轄河川改修事業 〔信濃川・魚野川〕)4)より。 以上に示した河川整備事業が完成することにより約 16 兆円の被害防止効果による便益があると試算 されている。 総便益(B) = 16 兆 1837 億円(3 兆 3507 億円) • 一般資産 5 兆 7463 億円(1 兆 1931 億円) ※( )書きは残事業分 • 農作物被害 711 億円( 103 億円) • 公共土木被害 9 兆 7882 億円(2 兆 166 億円) • 間接被害 5688 億円(1241 億円) ・費用対効果 • 施設の残存価値 93 億円( 66 億円) 信濃川水系直轄河川改修事業全体の費用は 8495 億円であり、費用対効果 (B/C)は 19.1 と算定されている。 B/C= (総便益:B=16 兆 1837 億円) / (総費用:C=8495 億円) = 19.1 (河川事業の再評価説明資料 信濃川直轄河川改修事業 〔信濃川・魚野川〕)4)より。 148 b.常願寺川(富山) 昭和 4 4 年 8 月の洪水等を背景に、河川整備計画は昭和50年に改定された。計画の概要は以下のと おり。 ・計画規模 : 1/150 確率 ・計画雨量 : 4 9 8 mm/2 日( 瓶岩上流域) ・基本高水のピーク流量 : 4,600m3 /s( 瓶岩地点) ・河道への配分流量 : 4,600m3 /s( 瓶岩地点) 図 3.2.7 常願寺川の整備事業計画およびその進捗状況 (河川事業の再評価説明資料〔常願寺川直轄河川改修〕)6)より。 総便益(B)=6,667億円 ・一般資産 2,353億円 ・農作物被害 14億円 ・公共土木被害 3,987億円 ・間接被害 313億円 ・費用対効果 信濃川水系直轄河川改修事業全体の費用は 992 億円であり、 費用対効果(B/C)は 6.7 と算定されている。 B/C= (総便益:B=6,667 億円) / (総費用:C=992 億円) = 6.7 (河川事業の再評価説明資料〔常願寺川直轄河川改修〕)6)より。 149 常願寺川の本格的な改修工事は明治 24 年 7 月の大洪水を機に、オランダ人技師ヨハネス・デ・レー ケの計画により着手した。 ①下流河道を直線(分水路)にして河口を白岩川と分離し、停滞する土砂の排出を図る ②幾多もある取水口を1箇所にまとめた合口化し用水に関する害をなくす ③霞堤(かすみてい)の採用 図 3.2.8 デ・レーケが計画した常願寺川改修工事 霞堤は武田信玄(1521~1573)が考案したと言われている。急流河川で用いられる。氾濫した流れを河 道に戻す機能、貯水機能を持つ。北陸では富山県の常願寺川、黒部川、石川県の手取川で用いられてい る。常願寺川に天正 8 年(1580)に築かれた佐々堤は越中初の霞堤で長さ 150 メートル、底幅は 45 メー トル。 図 3.2.9 に霞堤の成り立ちと構造を示す。 図 3.2.9 霞堤の成り立ちと原理 (国土交通省富山河川国道事務所ホームページ)7)より。 150 c.梯川(石川) 昭和 46 年 12 月に工事実施基本計画が策定された。平成8年には改修計画の改定が行われ、分水路工 が追加された。現在、河川整備基本方針を策定中である。 ・計画規模 :1/100 確率 ・計画雨量 :208mm/日(小松大橋上流域) ・基本高水のピーク流量 :1,700m3/s(小松大橋地点) ・洪水調節施設による調節流量 : 700m3/s(小松大橋地点) ・河道への配分 :1,000m3/s(小松大橋地点) 平成17年3月末時点で、直轄管理区間における堤防整備率(完成堤)は約 30%である。 現在、市街化区域である前川合流部から鍋谷川合流部までの重点改修区間において引堤及び河道掘削 を実施中である。 重点改修区間のうち、小松市街地に隣接し特に流下能力の小さい小松地区の改修を重点的に推進して いる。 図 3.2.10 梯川の整備計画 (河川事業の再評価説明資料〔梯川直轄河川改修事業〕)8)より。 総便益(B) 2 兆 210 億円 ・一般資産 7,270 億円 ・農作物被害 46 億円 ・公共土木被害 1 兆 2,316 億円 ・間接被害 572 億円 ・施設の残存価値 6 億円 ・費用対効果 梯川直轄河川改修事業の費用は 1,191 億円と算定されており、 費用便益比は 17.0 となっている。 B/C=(総費用:C=1,191 億円/総便益:B=2 兆 210 億円)=17.0 (河川事業の再評価説明資料〔梯川直轄河川改修事業〕)8)より。 151 d.九頭竜川(福井) 九頭竜川水系河川整備計画基本方針(平成 18 年 2 月策定)によると計画規模は下記のとおり。 ・幹川流路延長 : 116km ・流域面積 : 2,930km2 ・計画規模 : 1/150 確率 (2 日間) ・計画高水流量 : 布施田 9,200m3/s(12,500m3/s) 中角 5,500m3/s(8,600m3/s) 深谷 4,800m3/s(5,400m3/s) 天神橋 1,800m3/s(2,600m3/s) (九頭竜川水系河川整備計画(国管理区間))9)より。 ( )内値は基本高水流量。 図 3.2.11 九頭竜川水系河川整備計画(国管理区間)9) 図 3.2.12 現況と整備後の流下能力図(九頭竜川)9) 152 被害想定に基づく河川整備便益は公表資料からは確認できなかったが、低水路拡幅により約 2000m3/s の流下能力が向上することにより氾濫被害の軽減が期待される。 昭和 36 年 9 月洪水(第二室戸台風)では、中角地点及び布施田地点において、計画高水位を越え、 戦後最大流量を記録し、流域での被害は家屋の流失・損壊、床上・床下浸水等、大きな被害となった(流 失・損壊家屋 125 戸、床上浸水家屋 1,740 戸、 床下浸水家屋 2,621 戸。 農地及び宅地の浸水面積 3,264ha)。 その後、堤防の拡築、河道掘削・浚渫等の河道改修と併せてダム建設に着手し、昭和 43 年には九頭 竜ダム、昭和 54 年には真名川ダムが相次いで完成した。近年では、平成 14 年 7 月の台風 6 号による 出水では九頭竜ダムにおいて、平成 16 年 7 月の福井豪雨による出水(死者 4 名、行方不明者 1 名、全 壊流失・半壊家屋 406 戸、床上浸水家屋 3,314 戸、床下浸水家屋 10,321 戸 農地及び宅地の浸水面積 260ha)では真名川ダムにおいて、いずれも管理開始以来最大の流入量を記録した。しかし、ダムへの流 入水のほとんどを貯留し、下流の洪水被害軽減に大きな効果を発揮した(九頭竜川水系河川整備計画(国 管理区間)平成19年2月近畿地方整備局による)。 (3) 県が管理する河川の整備率 概ね 10 年に 1 回の確率で発生する豪雨を安全に流すことができる水準の堤防の割合が公表されている。 北陸の 4 県について示せば下記のとおりである。概ね 40~50%台であり,依然として洪水のリスクは非 常に高いと言える。 新潟県管理の河川 富山県管理の河川 石川県管理の河川 福井県管理の河川 52%(H21.3) 54.7%(H22) 44%(H23.3) 42.5%(H23) 県のホームページによる 県のホームページによる 石川の土木 2011 より 河川課でのヒアリングによる (4)各県の河川整備状況 図 3.2.13 に各県の河川整備状況図を示す。 153 図 3.2.13(1) 北陸の河川整備状況(新潟県) (北陸地方整備局,2006,北陸地方整備局管内の河川整備状況)15)より。 図 3.2.13(2) 北陸の河川整備状況(富山県) (北陸地方整備局,2006,北陸地方整備局管内の河川整備状況)15)より。 154 図 3.2.13(3) 北陸の河川整備状況(石川県) (北陸地方整備局,2006,北陸地方整備局管内の河川整備状況)15)より。 155 図 3.2.13(4) 北陸の河川整備状況(福井県) (福井県,福井県現況河川の治水安全度)16)より。 156 (5)治水施設 a.治水ダム 治水ダムは洪水を貯水することにより、下流部の河川への洪水流下量を河川の流下能力以下に調整し、 洪水による氾濫を防止する機能を持つ。図 3.2.14 は手取川ダムの洪水調節効果を図解したものである。 鶴来地点における洪水のピーク流量を約 1000 ㎥/s 低減する調整効果が期待される。 図 3.2.14 手取川ダムの洪水調節効果 (国土交通省金沢河川国道事務所,手取川事業概要)20) より。 新潟県~福井県の国土交通省が管理、もしくは建設中のダムを表 3.2.3 に挙げる。建設中の利賀ダム (富山)と足羽川ダム(福井)は事業見直しの対象となっている。 表 3.2.3 北陸地方のダム(国管理) 一次 支川名 (本川) 阿賀野川 阿賀野川 荒川 横川 荒川 大石川 信濃川 信濃川 信濃川 信濃川 信濃川 犀川 信濃川 魚野川 信濃川 新信濃川 信濃川 関屋分水路 黒部川 黒部川 庄川 利賀川 小矢部川 小矢部川 手取川 手取川 水系名 九頭竜川 九頭竜川 九頭竜川 九頭竜川 九頭竜川 真名川 九頭竜川 日野川 二次 支川名 - - - - - 高瀬川 三国川 - - - - - - 三次 支川名 - - - - - - - - - - - - - 堤高 (m) ダム名 大川ダム 横川ダム 大石ダム 妙見堰 蒲原大堰 大町ダム 三国川ダム 大河津可動堰 新潟大堰 宇奈月ダム 利賀ダム 小矢部川大堰 手取川ダム 75 72.5 87 - - 107 119.5 - - 97 110 - 153 - - 九頭竜ダム - - 足羽川 - - 部子川 九頭竜川鳴鹿大堰 真名川ダム 足羽川ダム 128 5.5 127.5 96 総貯水 容量 (千m³) 57,500 24,600 22,800 - - 33,900 27,500 - - 24,700 31,000 - 231,000 型式 複合型 重力式 重力式 可動堰 可動堰 重力式 ロックフィル 可動堰 可動堰 重力式 重力式 可動堰 ロックフィル 353,000 ロックフィル 667 可動堰 115,000 アーチ 28,700 重力式 着手 (年) 1971 1987 1968 1985 1978 1972 1975 1927 1964 1974 1989 1977 1969 1962 1989 1967 1983 完成 (年) 備考 1987 2008 1980 1990 1984 1985 1993 1931 1972 2001 未定 1983 1979 水特法指定 水特法指定 - - - - - - - - 見直し対象 - 水特法9条指定 1968 - 2003 - 1977 - 未定 見直し対象 (国土交通省直轄ダム ウィキペディア)14)より引用編集。 157 大町ダム(高瀬川) 三国川ダム(三国川) 宇奈月ダム(黒部川) 写真 3.2.1 北陸の主なダム 手取川ダム(手取川) (横川ダムのほかは 国土交通省直轄 横川ダム(横川) ダム ウィキペディア)14) より引用。 九頭竜川では、既設ダムの有効活用が考えられている。九頭竜川中角地点における目標流量 8,100m3/s (昭和 36 年 9 月型)のうち 2,600 ㎥/s を既設ダムにより洪水調節を行い、河道への配分を 5,500 ㎥/s とする。ダムによる 2,600 ㎥/s の洪水調節の内訳は、既設ダムによる洪水調節 1,400 ㎥/s と、既設ダ ムの有効活用による 1,200 ㎥/s である。 図 3.2.15 既設ダムによる流量の低減(九頭竜川中角地点) (九頭竜川水系河川整備計画(国管理区間)平成19年2月近畿地方整備局)9)より。 b.排水機場 排水機場は本川からの洪水の逆流を防ぎ、 支川の水を本線へ吐出して堤内地の洪水を防ぐ機能をもつ。 ここで、例として、梯川支川合流地点の前川排水機場(平成 12 年度完成)の効果を概説する。 梯川の支川の前川流域は都市化の進展により流出量が増大した。低平地のため甚大な浸水被害が生じ ていた。梯川の洪水時には自然排水できないことから、平成 2 年~12 年度にかけて排水機場を設置し、 50 年に一度の洪水に対応できる 62m³/s のポンプを設置した。 158 平成 10 年 9 月 22 日、平成 16 年 10 月 20 日の出水はともに梯川本川で危険水位 を超える出水となり、既往最大・2番目の 洪水となったが、平成 10 年の出水時に 33 万 m³、平成 16 年の出水時には 50 万 m³を 排水し浸水被害を防いだ。 図 3.2.16 前川排水機場の被害軽減効果 (河川事業の再評価説明資料〔梯川直轄河川改修事業〕)8)より。 3.2.3 防災・減災に向けてのソフト対策の現状 河川の整備には莫大な費用が必要であり、完成までには長い年月を必要とする。その間にも豪雨災害 は発生するので、豪雨により洪水被害が生じる可能性があるときは地域住民に速やかな避難を促し、人 的被害を最小限に止めることが必要となる。 また、水防組織がスムーズに水防活動に入れ るよう、判断および準備に必要な情報を提供 することが必要である。 すなわち、洪水時に浸水すると想定される 地域をあらかじめ知らせる浸水想定区域図、 浸水の予想と非難場所や避難経路を図に示し た洪水ハザードマップおよび雨量や河川の水 位などの情報提供のシステムが国、県、市町 村により整備が進められてきた。 これらの情報の提供は堤防やダムの建設 図 3.2.17 国土交通省川の防災情報 12) などのハード対策に対し、ソフト対策と言 われている。浸水想定地域図、ハザードマッ プおよび河川水位などの情報をインターネッ トで公開することにより、市民が容易に情報 を入手できるようになり、 地域の防災組織の活動および住民の避難行 動がスムーズに行われるようにすることを目 的としている。 3.2.3.1 防災情報の提供 川の防災情報は国土交通省、県、市町村の ホ ー ム ペ ー ジ で 紹 介 さ れ て い る 。 図 3.2. 17,18,19 は国土交通省の川の防災情報のペー ジである。各地方整備局管内のデータを閲覧 す 図 3.2.18 レーダー雨量 ることができる。 159 12)