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喫煙による肺の老化・機能低下に対する予防・治療法 埼玉医科大学病院
喫煙による肺の老化・機能低下に対する予防・治療法 埼玉医科大学病院呼吸器内科 1、 仲村 秀俊 はじめに 喫煙による健康障害はよく知られていますが、喫煙を主な原因として肺の老 化 と 機 能 低 下 が 進 行 す る 慢 性 閉 塞 性 肺 疾 患 : COPD ( chronic obstructive pulmonary disease)については、一般の方々の間では十分に理解されていない のが現状です。本講演では、喫煙による一般的な健康障害と禁煙治療について 紹介するとともに、慢性閉塞性肺疾患:COPD について解説します。COPD の予防・ 治療法の第一歩は禁煙ですが、ワクチン接種、運動、薬物療法の効果について も紹介し、この病気の進展の各段階における対処法について理解を深めていた だきたいと思います。 2、この病気について (定義) 慢性閉塞性肺疾患:COPD(chronic obstructive pulmonary disease)はタバ コ煙を主とする有害物質を長期に吸入曝露することで肺に炎症が起きる病気で、 咳、痰、息切れなどが主な症状です。細い気管支がさらに狭くなり、肺胞がこ われ、肺気腫を来たします。その結果、大きく息を吸った状態から、空気をす ばやくはき出すことが難しくなります。最大速度で呼気を行った時に最初の1 秒間で呼出される空気の量(1秒量)を最大速度で呼出した際の肺活量(努力 肺活量)で割って%で表示したものが1秒率で、これが70%未満であること が、COPD の診断基準に含まれます。COPD 患者が喫煙を継続することで肺機能は さらに悪化し、進行すると酸素療法が必要となります。現在、在宅酸素療法を 1 必要とする患者さんの約半数は COPD で占められています。 (合併症) COPD が進行すると、肺炎や結核などの感染症に罹りやすくなります。また、 肺癌を併発する頻度も高いことが知られています。我が国における平成23年 の死因の第1位は悪性新生物、3位が肺炎、9位が慢性閉塞性肺疾患となって います。欧米の報告でも、肺癌と呼吸器疾患は喫煙による健康障害のうちでも 最も深刻なものとされています。さらに発展途上国では、喫煙が HIV の患者を 増加させ、喫煙に続発する COPD とともに結核や日和見感染を併発し、地球規模 の健康問題となっています。 3、診断について (症状と肺機能) 気管支拡張薬吸入後の1秒率<70%で、気管支喘息など、他の気流閉塞を きたしうる病気が除外できる場合に COPD と診断されます。したがって、診断の ためには肺機能検査を受けていただくことが必須です。咳、痰、息切れなどの 症状は初期には自覚されないことが多いため、長期にわたる喫煙歴(例えば1 日1箱を10年以上)がある場合には、肺機能検査の実施が望まれます。年齢 は高齢者ほど、喫煙量は多いほど COPD と診断される可能性は高くなります。 咳、 痰に加え、階段や坂道を上った時の息切れが出てきた場合にはこの病気がある 程度進行している可能性があります。また、咳、痰はなく、労作時の呼吸困難 だけが自覚症状という場合もあります。COPD の重症度は MRC と呼ばれる息切れ に関する質問票や COPD アセスメントテストという自覚症状に関する質問票によ る症状の評価と、1秒量の基準値に対する低下の程度または呼吸器症状が増悪 した頻度などを総合して判定されます。 2 (画像所見) 胸部X線やCT検査では、COPD の主要な病理形態学的な変化である肺気腫の 存在を検出することが可能です。特に胸部CTでは、肺野のどの部位にどの程 度の肺気腫が存在するかを定量的に解析することが可能であり、肺癌の発見に ついても、最も有力な検査法といえます。しかしながら、肺気腫の程度と肺機 能の重症度や自覚症状は必ずしも比例するわけではありません。国際的にも胸 部CTを施行できる国は限られているため、COPD はあくまでも肺機能検査を行 うことによってのみ診断されることになっています。 4、治療について (禁煙) COPD は喫煙が主な原因であり、その意味で禁煙が最も重要な治療と考えられ ます。欧米の報告によれば、喫煙を継続することで非喫煙者と比べ、寿命は約 10年短くなると考えられています。その中でも、喫煙に関連する死因のうち、 肺癌と肺癌以外の呼吸器疾患が大きな比重を占めています。一方で30才で禁 煙すればほほ100%、50才からでも約6年は寿命を取り戻すことができる と報告されており、喫煙者はなるべく早い時期に禁煙することが望ましいと考 えられます。喫煙習慣はタバコに含まれるニコチンに対する依存症であるため、 依存度の高い患者ではニコチン置換薬(ニコチンパッチ)またはニコチン受容 体拮抗薬(チャンピックス)を用いた治療が必須と考えられています。禁煙治 療は現在主としてチャンピックスにより行われており、埼玉医科大学病院では、 3カ月の治療終了時に約75%の患者さんが禁煙に成功しています。しかしな がら、その後の追跡では、禁煙治療終了後4~5カ月位の間に再喫煙してしま うケースがみられ、禁煙開始1年後の禁煙持続率は55%程度となっています。 3 (薬物治療) 長期間の喫煙により肺の炎症と構造破壊は進行し、禁煙しても残念ながら元 に戻ることはありません。しかしながら、禁煙により肺機能の悪化する速度を 遅くすることは可能です。また、近年、長時間作用性気管支拡張薬の有効性が 明らかになってきました。吸入開始により、肺機能は改善し、その効果は長期 にわたって持続します。例えば、スピリーバという吸入薬を継続することで、 肺機能と自覚症状を数年分取り戻すことができると報告されています。他にも、 オンブレスという別の種類の長時間作用性吸入気管支拡張薬や、テオドールと いう内服薬の気管支拡張薬、さらには各種の吸入ステロイド薬など、多くの有 効な薬剤が投与可能となっており、症状や呼吸機能の重症度などを総合して、 個々の患者さんに最適な薬物療法が決定されます。したがって、COPD と診断さ れた場合には、医療機関(呼吸器内科)を受診し、適切な治療を開始・継続す ることがすすめられます。 (運動療法) 呼吸は呼吸筋を使った運動です。呼吸機能を保つためには、適度な運動を継 続することが重要です。週に数回以上、30分以上の運動を継続することが必 要と考えられています。運動の内容は個々の患者さんに合わせて検討する必要 がありますが、散歩や自転車こぎなど、全身的な持久力を高める運動を行うの が最も効果的と報告されています。特に、比較的重症の患者さんでは、病院の リハビリテーション科で運動療法の指導を受けることが有用です。 5、日常生活での注意点など COPD の経過中に気道感染がきっかけとなって、呼吸器症状が増悪することが 知られています。増悪により入院が必要になったり、肺機能がさらに悪化する 4 危険があります。手洗い、うがいなどによる感染対策に加え、毎年インフルエ ンザワクチンを接種することや、高齢者や肺機能が特に悪い COPD 患者さんでは、 5年に1回の肺炎球菌ワクチンが有効です。インフルエンザウイルスと肺炎球 菌は増悪の主要な原因微生物と考えられています。 6、参考となるホームページ (1)COPD 情報サイト GOLD-jac.jp: http://www.gold-jac.jp (2)COPD-jp.com: http://www.copd-jp.com (3)日本禁煙学会:http://www.nosmoke55.jp (4)すぐ禁煙.jp: http://sugu-kinen.jp 7、相談窓口 埼玉医科大学病院呼吸器内科外来 電話:049-276-1197 5