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触媒化学を駆使した省エネルギープロセス
触媒化学を駆使した省エネルギープロセス 横浜国立大学 ○窪田 好浩,稲垣 怜史 1. はじめに 炭素資源利用分野においてクリーンエネルギー社会の 構築につながる課題としては,化学品原料の製造プロセ スを省エネルギー化・低炭素化することが挙げられる。 特に有望視されるのが,すでに化学プロセスで実用され ている「ゼオライト触媒」の高機能化である。 天然ガスや石炭,バイオマスといった非石油資源から 合成ガス(CO+H2)を得た後,メタノール等を経て低級 オレフィンを製造するプロセスは,石油資源の節約,省 エネルギー,二酸化炭素の排出削減のいずれにもつなが る技術として,近年重要な研究対象となっている。例え ば,メタノールの脱水縮合体であるジメチルエーテル (DME)からオレフィンを得る dimethyl ether-to-olefin (DTO)プロセスが知られている。反応需要と供給のギャ ップが続くプロピレンを DTO で高選択的に製造するた めのゼオライト触媒の開発を,ここでは具体的な研究例 として紹介する。 我々は,新型ゼオライトの触媒としての可能性を探っ ている。その一環として注目している MCM-68 ゼオラ イトは,まっすぐに伸びる 12 員環 (0.67 nm)ミクロ孔 と曲がりくねった 2 つの 10 員環 (0.50-0.55 nm)ミクロ 孔からなる三次元細孔構造 (Framework Type Code: MSE)をもつゼオライトであり,Si/Al 比が 9~12 という 限られた組成領域でのみ直接合成可能である。これまで に,酸処理で適度に Al 含有量を減らした MCM-68 がヘ キサンのクラッキングで高いプロピレン選択性を示すこ とを見出している。そこで本研究では,MCM-68 の酸処 理で Al 含有量を調節し,DTO 反応に対する触媒特性の 検討を行った。 3. 結果と考察 XRD から,イオン交換もしくは酸処理後も MSE 骨格 が保たれていることを確認した。 ICP-AES の結果から, 得られた MCM-68 の Si/Al 比はそれぞれ 12, 52, 110, 177 および 258 であることがわかった。NH3-TPD によ り,Al 量の減少に従って酸量が減少することを確認でき た。N2 吸脱着測定から,処理の前後で BET 比表面積お よびミクロ孔容積に変化は見られなかった。調製した MCM-68 触媒をそれぞれ MCM-68(12), MCM-68(52), MCM-68(110), MCM-68(177)およびMCM-68(258)と表 記する(かっこ内は Si/Al 比) 。 400ºC における DTO 反応の結果を図 1 に示す. MCM-68(12)では反応開始直後から急激に活性が低下し た.一方,適度に脱 Al 処理を施した MCM-68(110)およ び MCM-68(177)では,245 分間の反応を通じて 100% 近い DME 転化率を維持しており,脱 Al 処理によって 触媒寿命が長くなった。TG-DTA から,Al 量の少ない MCM-68 では反応後の炭素析出量が少ないことがわか った。プロピレン収率は適度な脱 Al 処理で向上し, MCM-68(110)および MCM-68(177)で 37%前後の高い 値を示した。活性点が適度に離れて存在することで,反 応初期に生成したプロピレンの逐次反応が抑制されたた めと考えられる。一方,Al 量の減少に従ってエチレン収 率が低下した。また,同程度の Al 量をもつ従来型ゼオ ライト ZSM-5 と比較すると,MCM-68 のプロピレン/ エチレン生成比は ZSM-5 に比べて極めて高いことがわ かった。これは MCM-68 の酸強度が ZSM-5 よりも弱い ことや,MCM-68 の反応場が ZSM-5 に比べて広いこと により,MCM-68 では ZSM-5 に比べてエチレンの生成 がおこりにくいためと考えている。以上より,MCM-68 の脱 Al 処理で適度に酸量を調節することによりエチレ ンの生成が抑制され,プロピレンを選択的に製造するた めに有用な触媒となりうることがわかった。 5 6 125 185 245 5 5 6 125 185 5 24 5 5 6 125 185 245 5 5 6 125 185 245 5 5 6 125 185 245 5 5 6 125 185 245 5 5 6 125 185 245 5 DME conversion (%) Distribution of DME and products (C%) 2. 実験 MCM-68 を水熱合成した後,650ºC での焼成サンプ ルを NH4NO3 水溶液によるイオン交換,または HNO3 (0.1~9.0 M)による酸処理を経てプロト ン型とした。キャラクタリゼーションは 100 100 XRD, ICP- AES, N2 吸 脱 着 測 定 , 80 80 NH3-TPD 等で行った。DTO 反応は常圧 固定床流通式反応装置で行った。触媒量 60 60 は 100 mg とし,前処理条件は空気流通 40 40 下 550ºC, 1 時間とした。原料 DME は ガスボンベから供給し,キャリアーガス 20 20 で希釈して反応器に導入した。キャリア 0 0 ーガスには CH4 (1.0 vol%)/Ar ガスを用 い,CH4 を内部標準とした。いずれの反 Time on stream / min 応も触媒量は 100 mg, W/F は 10 g-cat h C2 + C3 C2= C3= C4s C5s >C6 MeOH DME DME conversion (mol-C)-1, 反応温度は 400ºC とした。生 成物は GC (FID)で分析し,反応後の炭 図 1 (a) MCM-68(12), (b) MCM-68(52), (c) MCM-68(110), (d) MCM-68 (177), (e) MCM-68(258), (f) ZSM-5(44), および (g) ZSM-5(177)を触媒と 素析出量は TG-DTA で見積もった。 する DTO 反応