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米国における動産・債権担保融資 (Asset Based

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米国における動産・債権担保融資 (Asset Based
ISSN 1883−5937
米
国
に
お
け
る
動
産
・
債
権
担
保
融
資
日本公庫総研レポート No.2008-3
2009年2月17日
米国における動産・債権担保融資
(Asset Based Lending : ABL)
の機能と実態
Ⅰ. ABLの考え方と米国におけるABLの概況
Ⅱ. 米国におけるABL実務の詳細
二
〇
〇
九
年
二
月
Ⅲ. ABL市場にみられる変化と金融機関の
ABL戦略
Ⅳ. ABLの実務における注目点
日
本
政
策
金
融
公
庫
総
合
研
究
所
総合研究所
はじめに
アセット・ベースト・レンディング(ABL)は、売掛債権や在庫といった企業の事業活
動に基づく資産を担保とする貸出手法である。今日のように金融環境が変化するなかにあ
っても、ABL には、不動産価格の変動や金融機関側の貸出姿勢の変化に過度に左右されず
に、借り手の事業動向や時々の資金需要の変動に柔軟に対応できるという機能がある。ま
た、企業側の情報開示を前提とするため、情報の非対称性を緩和する効用もある。近年、
わが国では、ABL のこうした機能・効用に対する注目が高まり、新たな金融手法の一つと
して、政府や民間金融機関ともに各種の促進策を実施している。
こうした我が国の動きに先んじて、ABL は、米国で、安定的な貸出手法として認知され、
既に広く普及している。その貸出残高は、米国における非金融企業の総借入残高の 2 割前
後を占めるといわれており、また、貸出残高は 1990 年以降に急速に拡大した結果、1990
年代初頭と比較して近年では約 5 倍の規模に達している。
このような米国の ABL については、これまでの先行研究では、一般的に、リスクが高
めの中堅企業でキャッシュフロー貸出の対象になりにくい先に対して、運転資金を貸し出
す手法とされてきた。また、ABL の貸出主体は、商業銀行というよりファイナンス・カン
パニー(我が国でいうノンバンク)が中心であると捉えられてきた。
そうした特長は、確かに、米国 ABL 市場の一面を表しているとみられるが、本研究に
より、対象企業や貸出主体の双方にみられる広範化、用途の多様化、ABL に対するイメー
ジや外部評価を含む意識の変化など、様々な面での新たな動きや変容が、今次、明らかに
なった。こうした ABL を巡る新たな動きは、ABL という貸出手法が融資現場に広く浸透
し、大幅に貸出実績を伸長していることに伴って進行してきたといえる。本研究では、そ
れを可能にした ABL を支えるインフラの構築、例えば、高い専門性を持つ多くのプレー
ヤーが様々なサービスを提供しているシステムの存在についても注目した。
以上の観点から、本研究の実施に際しては、ABL を巡る様々なプレーヤー(商業銀行、
ファイナンス・カンパニー、及びアプレイザー、リクイデーターと呼ばれる各種 ABL 関
連サービス専門会社)に対して、現地ヒアリングを敢行し、米国における ABL 市場の動
向、実務プロセスの詳細と実態、近年の市場の変容などについて探ったうえで、その考察
を行なっている。
なお、本レポートは、当公庫総合研究所とみずほ総合研究所株式会社が行った共同研究
を題材に、当公庫総合研究所が作成したものである。
また、検討を進めるに際し、当公庫総合研究所の研究顧問である根本忠宣中央大学教授
のアドバイスを受けている。
(総合研究所
海上 泰生)
【要
第1章
旨】
ABL の考え方と米国における ABL の概況
アセット・ベースト・レンディング(ABL)は、売掛債権や在庫などの事業収益資産を
担保とする貸出手法であり、不動産等に依存せず、経済環境の変化のなかにあっても、借
り手の事業動向や時々の資金需要の変動に柔軟に対応できる機能がある。また、企業側の
情報開示を前提とするため、情報の非対称性を緩和する効用もある。
米国では、ABL 市場が順調に拡大し、現在では、非金融企業の総借入残高の約 2 割を占
めている。 ABL の主たる対象は、中堅企業の規模が中心とみられ、卸売業や小売業など
換価性の高い在庫資産を多く抱える業種が相対的に多い。信用リスク面は、やや高めの企
業が対象と言われてきたが、近年はだいぶ変化してきた。プライシング水準は、参入金融
機関の増加、貸出競争の拡大、市場の透明性の向上を背景に、低下傾向にある。
第2章
米国における ABL 実務の詳細
実務の手順は、①客先の取扱品目や事業形態に着眼し、ABL に適した案件の発掘を行う。
②売掛債権は、通常、金融機関が自ら評価を行う。一方、在庫の評価は、高い専門性が必
要であり、外部の評価専門会社も活用しつつ、評価作業を行う。③評価後、担保として適
格なものを抽出し、各換価価値にそれぞれの担保掛目(アドバンス・レート)を適用する。
それを合計し、ボローイング・ベース(貸出基準額)を算出する。④これを上限に融資額
を決定。担保については、
「統一商事法典(UCC)」に基づき包括的な登記を行う。そして、
契約を締結、融資を実行する。⑤借入企業から、定期的に更新情報を入手し、積極的なモ
ニタリングを行う。必要に応じて評価替え・融資額変更も行う。⑤債務不履行時には、担
保である売掛債権や在庫を処分する。
これら一連のプロセスのなかで、ABL 関連サービス専門会社が携わるケースが多い。サ
ービス専門会社には、評価会社(アプレイザー)や実地調査会社(フィールド・イグザミ
ナー)、登記・調査(UCC サーチ)会社などがある。また、アプレイザーは、オークショ
ンや商品の処分・清算(リクイデーション)なども併せて行っているケースが多い。数百
名規模の従業員を擁する評価・処分会社から個人のフィールド・イグザミナーまで、様々
な規模の会社が全米に存在している。もとは在庫の換価処分等を行う業者が、ABL 業界の
誕生・成長に合わせて、新たなサービスの提供にビジネスチャンスを見出したものが多く、
統一商事法典(UCC)による動産担保法制の整備が進むなかで、自らファイナンス会社を
設立して ABL のレンダーとなった社もある。
金融機関によっては、アプレイザー的機能を内部で抱える一方、在庫確認は外部のフィ
ールド・イグザミナーを活用するケースもある。とくに在庫については、現物の種類や状
態によって資産価値が大きく異なり、その評価には高い専門性が必要とされるため、外部
会社を活用することが多い。
第3章
ABL 市場の変容と金融機関の ABL 戦略
1.ABL 市場にみられる様々な変容
従来、ABL は、主に、信用力がやや低い中堅企業層の運転資金調達に向けたものとさ
れてきたが、今回の調査によって、様々な面で ABL 市場に変容が生じていることが確認
された。具体的には、以下のとおり、
(1) 大型案件の組成が急増:今回ヒアリング先の商業銀行の多くにおいて、最大で 10
億ドルを超える大型案件の組成が確認された。平均でみても高額化傾向がみられる
が、10 億ドル超の大型案件の組成は、近年の大きな特徴。
(2) 資金使途・調達目的の多様化:従来型の利用者は信用力がやや低めの企業だが、
近年は、これにとどまらず、成長著しい企業が、成長に合わせて増加する売掛債権
や在庫を裏づけにする例や、買収対象企業の資産を担保にして買収資金を調達する
レバレッジド・バイアウト(LBO)のため、ABL を活用する例などが増えている。
(3) 商業銀行や投資銀行の積極的な参入:従前のファイナンス・カンパニーに加え、
現在では、商業銀行や投資銀行が ABL 市場に積極的に参入しており、ABL レンダ
ーの厚みが増している。商業銀行は、既存領域での競争の激化、薄利化のなかで、
新たな参入領域として ABL に積極的になってきた。また、投資銀行は、顧客の M&A
資金調達策として ABL を活用している。
(4) ABL 利用企業層の広がり:従前の中堅企業層に、最近では、より大規模な企業が融
資対象層に加わってきた。M&A や LBO での活用もその一環。逆に、小規模な企業
層に向けて、積極的に ABL を取り組む例もある。
(5) 信用力からみた対象企業層の変化:ここ 10 年ほどの間に、ABL のイメージは、よ
りポジティブなものに変わってきた。財務優良で信用力が高い企業も、借入余力を
向上させる方策として、新たな借入枠を得ることができる ABL を選ぶケースや、コ
ベナンツが少なくてすむ ABL のメリットに着目するケースが増えている。
2.各金融機関にみられる ABL 戦略の比較
商業銀行等が積極的に進出しているが、既存勢力のファイナンス・カンパニーとの間
では、適度な競合及び棲み分けが形成されている。例えば、借入企業の信用力を基準に、
それぞれが得意領域に軸足を置き、自らの存立基盤を築いている。ただし、個々の金融
機関の戦略は、必ずしも画一的なものではなく、それぞれの個性が色濃く出ている。
第4章
ABL の実務における注目点
1.ゴーイング・コンサーンを旨とする ABL 融資
ABL は、最初から倒産・清算を想定し、担保の処分を念頭においたものとしばしば強
調される。円滑な担保処分を企図しているのは確かであるが、実態は、ABL といえども
企業・事業の存続が前提となっている。
2.ABL の鍵となるモニタリングの徹底
期中のモニタリングは、リスクの未然防止、万一の時の効果的な回収・処分のために
も極めて重要なプロセスである。貸し手は、フィールド・イグザミナーなどの専門会社
を活用しながら、徹底的かつ効率的にモニタリングに尽力している。
3.ABL の実務を支えるサービス専門会社の活用
ABL 実務には、専門的知見が必要とされる。そのニーズを受けて、ABL 関連サービ
ス専門会社が数多く存在し、中核的な役割を担っている。例えば、アプレイザーは、借
入企業の取引先や貨物運搬事業者に電話をし、誤りや偽装がないか、運送会社に連絡し、
いつ船に積荷されたか、GPS で海上のどこに船がいるか、を確認することもある。
むすび
我が国における ABL の一層の進展に向けて
1.ABL という融資手法に対する共通認識の醸成
米国でも、かつては ABL 利用者に対するネガティブなイメージがあったが、ここ 10
年ほどで、そうしたイメージは払拭され、ABL のメリットへの注目が高まった。我が国
においても、かかるメリットの認識をより広めていくことが重要である。
2.ABL のインフラ整備としてのサービス会社の育成
現時点では、我が国での ABL 関連サービス会社の存在は限定的であり、アンケート
結果でも、サービス会社に対してのユーザー側の意識も高いものとはいえない。米国に
みられるような、幅広いサービス会社の育成が、ABL 普及の一つの鍵といえる。
[目
次]
第 1 章 ABL の考え方と米国における ABL の概況 ........................................................... 1
1.Asset Based Lending(ABL)の考え方 ................................................................... 2
(1)Asset Based Lending(ABL)とは..................................................................... 2
(2)ABL のメリットとコスト..................................................................................... 4
2.米国における ABL の概況 ......................................................................................... 7
(1)急速に拡大する ABL 市場.................................................................................... 7
(2)米国における ABL の特徴.................................................................................... 7
第 2 章 米国における ABL 実務の詳細 ............................................................................ 13
1.ABL 実務の流れ(基本プロセス概要)................................................................... 13
(1)ABL の基本的なプロセス................................................................................... 13
(2)ABL スキームを支える各種プレーヤー ............................................................. 14
2.各プロセスの詳細 .................................................................................................... 17
(1)案件の発掘・組成............................................................................................... 17
(2)期中管理と事後管理 ........................................................................................... 30
第 3 章 ABL マーケットの変容と金融機関の ABL 戦略 .................................................. 38
1.ABL 市場にみられる様々な変容.............................................................................. 39
(1)大型案件の組成が急増........................................................................................ 39
(2)資金使途・調達目的の多様化 ............................................................................. 40
(3)商業銀行や投資銀行の積極的な参入 .................................................................. 41
(4)ABL の対象層にみられる変化............................................................................ 42
(5)信用力からみた ABL 対象企業層の変化 ............................................................ 43
2.各金融機関にみられる ABL 戦略の比較 .................................................................. 45
(1)商業銀行とファイナンス・カンパニーの棲み分け............................................. 45
(2)個々の金融機関の戦略性から生じる特徴 ........................................................... 46
第4章 ABL の実務における注目点 ................................................................................. 50
1.ゴーイング・コンサーンを旨とする ABL ............................................................... 50
2.ABL の鍵となるモニタリングの徹底 ...................................................................... 52
(1)リスクに応じたモニタリングの実施 .................................................................. 52
(2)ABL レンダーにとって大きな脅威である借り手の不正行為 ............................. 52
3.ABL の実務を支えるサービス専門会社の活用 ........................................................ 54
(1)徹底したモニタリングの重責を担うフィールド・イグザミナー ....................... 54
(2)処分経験が重視されるアプレイザー .................................................................. 55
むすび 我が国における ABL の一層の進展に向けて ....................................................... 57
1.ABL という融資手法に対する共通認識の醸成 ........................................................ 57
2.ABL のインフラ整備を企図したサービス会社の育成 ............................................. 58
参考資料 ............................................................................................................................. 60
1.ヒアリング録 ........................................................................................................... 61
2.最近の ABL 融資案件の実際例(2007 年 10 月 1 日~12 月 31 日) ............................... 99
3.ボローイング・ベース確認証のサンプル............................................................... 100
4.UCC ファイリングの様式...................................................................................... 103
(1)融資声明書(Financing Statement)のサンプル ........................................... 103
(2)融資声明書(Financing Statement)の電子ファイリング(登録)手続き .... 105
5.参考文献................................................................................................................. 112
第1章
ABL の考え方と米国における ABL の概況
米国では、在庫や売掛債権を担保として融資を行うアセット・ベースト・レンディング
(Asset Based Lending:ABL)の市場が急速に拡大している。ABL の融資残高は、1990
年代初頭と比較すれば、近年では約 5 倍の規模に達しており、米国における非金融企業の
総借入残高の約 2 割を占めている(2006 年末時点)1。ABL は、貸し手である金融機関側
にとっては、景気や地価の変動のなかでも、不動産や個人保証に依存することなくリスク
の保全が可能で、貸出手法に広がりをもたせることができ、ビジネスチャンスの拡大につ
ながる。また、借入企業側にとっても、例えば、季節変動に応じて在庫を大幅に積み増さ
ねばならない時期に、在庫に連動して貸出上限額が上がるといった柔軟性がメリットの一
つとなっている。近年では、M&A や、買収対象企業の資産を担保にして買収資金を調達す
るレバレッジド・バイアウト(Leveraged Buy-Out:LBO)の資金調達を目的として、ABL
が活用されるといった新しい動きもみられている。2
わが国においても、企業の資金調達方法を多様化し、不動産担保や保証人に過度に依存
しない貸出手法を推進する観点から、近年、特に ABL に対する関心が高まっている。例え
ば、経済産業省は、2005 年 9 月に ABL 研究会を立ち上げた。そこでは、企業の成長のた
めに必要な資金に係る新たな調達手法として、ABL に注目し、その現状と課題の整理を行
ったうえで、
その定着に向けた今後の方向性について検討が進められた。2006 年 3 月には、
その成果が報告書としてとりまとめられている。その後、2007 年 6 月には、金融機関や商
社、サービス事業者など、ABL 業務を支える事業者が一堂に会して「ABL 協会」が設立さ
れ、今後の協働体制の整備に向けての一歩が踏み出された。この間、2005 年 10 月に動産・
債権譲渡登記制度(「債権譲渡の対抗要件に関する民法の特例等に関する法律の一部を改正
する法律」)が施行され、これを利用した ABL が多くの金融機関で導入されている。
このように内外で注目されている ABL について、我が国に先行して実績を伸長させてい
る米国の姿を捉えることは、極めて有益であると考えられる。具体的には、米国における
ABL の現状や実態、新たな動向について、順を追って把握・整理していく。まず本章では、
ABL の定義を整理した上で、近年の進展が著しい米国の ABL の動向を概観する。
2006 年末時点での ABL 残高は 4,893 億ドル(Commercial Finance Association, “Annual Asset-Based
Lending and Factoring Surveys, 2006”)、非金融企業の総借入残高は 2 兆 2,474 億ドル(FRB, Flow of
Funds Accounts of the United States” December 6, 2007)となっている。
2 なお、本調査時点の直後から、いわゆるサブプライム問題に端を発した米国金融市場の混乱が顕在化し
た。この混乱が、調査終了時点から本レポート刊行までの間に、本稿で記述する各種プレーヤー(特に投
資銀行)の事業活動にも少なからぬ影響を及ぼしている可能性がある。今後、そうした影響についての確
認・検証が必要になるかもしれない。
1
1
1.Asset Based Lending(ABL)の考え方
(1)Asset Based Lending(ABL)とは
①事業収益資産の価値に重きを置いた融資手法
アセット・ベースト・レンディング(ABL)とは、どのようなものか。
ABL も含め、商業銀行やファイナンス・カンパニー等の金融機関が実施する商業融資の
全体像は、Berger and Udell(2002)に従えば、①リレーションシップ貸出(relationship
lending)、②財務諸表貸出(financial statement lending)、③クレジット・スコアリング
(credit scoring)、④資産担保融資(asset-based lending:ABL)の 4 つの手法に大別さ
れる(図表 1)。①は、経営者の資質(性格や信頼性等)といった数量化が困難である定性
的な「ソフト」情報に基づいて実施される取引であり、②~④は、「トランザクション貸出
(transactions-based lending)」と呼ばれ、「ハード」情報、すなわち、財務諸表などに表
れる企業の外形的・定量的な情報に基づき、一時点かつ個々の取引の採算性を重視した取
引である。
ABL は、ここに分類され、与信判断が主に企業の保有資産の担保価値に依拠
して行なわれるものとされている。もっとも、これは ABL の与信判断において借入企業の
財務状況が全く考慮されないということではなく、財務諸表等の企業情報よりも担保物の
評価の方がより重きが置かれているということを意味している3。
図表1 商業融資の主な手法
リレーションシップ貸出
財務諸表貸出
商業融資
の手法
クレジット・スコアリング
資産担保融資(ABL)
トランザクション貸出
3
グレゴリー・エフ・ユーデル著、高木新二郎・堀池篤共訳「アセット・ベースト・ファイナンス入門」
(金
融財政事情研究会、2007 年)、p.4
2
【リレーションシップ貸出(relationship lending)】
長期にわたる多種多様なコンタクトを通して、企業やその経営者に関する私的情報(ソ
フト情報)を入手し、主としてそうした情報に基づいて融資判断を行うこと。
【財務諸表融資(financial statement lending)】
融資判断に際し、財務諸表の評価に最も重きを置く手法。融資の実行と融資条件を定め
る上では、主に貸借対照表と損益計算書の内容が根拠となる。透明性が高く、監査済みの
財務諸表を完備している企業が最もその対象となる。従って、主に大企業向け融資の手法
ということになるが、中小企業であっても、業歴が長く、監査済み財務諸表が整っている
ような透明性の高い企業であれば、適用が可能。
【クレジット・スコアリング(credit scoring)】
消費者金融で活用されてきた判別分析や統計的手法を企業融資に適用したもの。企業の
財務諸表から得られる情報に加え、中小企業の場合は、企業と経営者の信用力が密接に関
連しているため、経営者個人の財務状況や信用履歴などの情報の分析にも重きが置かれ
る。1 件当たりの融資額が小口となる小企業・零細企業に対する融資で適用される。
【資産担保融資(asset-based lending)】
与信判断が主に企業の保有資産の担保価値に依拠して行われるもの。一般的に、担保は
売掛債権や在庫であるため、金融機関は動産担保のモニタリングに多大な労力をかける必
要があり、相対的に融資金利が高くなる(relatively expensive)。中小企業に適用可能で
あるとはいえ、中小企業にとってはコストの高い融資であり、かつ良質な売掛債権や在庫
を有していることが前提となる。
出典:Berger and Udell(2002)
②売掛債権と在庫を対象とする ABL
ABL を「資産担保融資」と捉えるならば、ここでいう“資産”には、商業用不動産や有
価証券、機械設備なども含まれるとする考え方もある。また、担保の資産価値に着目する
与信行為という点では、その行為には、ファイナンス・リースやファクタリングなども含
まれるとする考え方もある。
この点について、経済産業省は、先述の ABL 研究会の報告書において、ABL を『動産・
債権等の事業収益資産を担保とし、担保資産の内容を常時モニタリングし、資産の一定割
合を上限に資金調達を行う手法』と定義している4。また、中小企業庁は、中小企業白書の
なかで、「流動資産担保保証制度」の創設に向けて、『中小企業の持つ約 140 兆円の在庫・
売掛債権を活用するため、売掛債権担保融資保証制度を拡充し、新たに在庫(棚卸資産)
を担保とする融資についても保証を行うことを可能とする』と記しており、主に売掛債権
4
経済産業省 ABL 研究会「ABL(Asset Based Lending)研究会報告書」(平成 18 年 3 月)、p.4
3
と在庫のことを ABL の対象となる資産として捉えている5。
そこで、本調査では、ABL を「売掛金や在庫など企業の保有する流動性の高い事業収益
資産を担保とし、その資産価値に依拠した貸出」と定義する。そして、その主たる担保物
件としては、企業が日々行う事業活動に基づく資産である売掛債権と在庫に焦点を当て、
船舶や航空機、機械・設備、不動産を担保とする貸出は対象外とする。また、リースやフ
ァクタリングなどを含めた与信行為は、より広い意味でのアセット・ベースト・ファイナ
ンス(Asset Based Finance)と捉えられていることが多いことから、これも本稿では対象
外とする。
なお、米国においては、通常の貸出においても、売掛債権や在庫を担保とするケースが
あるが、これは、売掛債権や在庫をいわゆる“添え担保”として扱っているケースであり、
当該債権や在庫の価値に重点的に依拠した貸出とはいえず、本稿で扱う ABL とは異なるも
のである。
図表2
ABL の基本スキーム(概要)
【借入企業】
借入企業の
取引先
商取引
・在庫
担保
・売掛金
・機械設備
【金融機関】
融資
・不動産
(資料)各種資料に基づき作成。
(2)ABL のメリットとコスト
①ABL のメリット
米国においては、一般的に、ABL は通常のキャッシュフロー貸出と比較して、次のよう
な特徴・利点があるといわれている。
まず、借入企業にとっては、借入可能額を算定するに際して、財務状況、例えば、EBITDA
(支払利息・税金・減価償却控除前利益)等を一つの目安にする場合、収益が低下すると
借入余地が縮小する。一方、事業収益資産を担保にする ABL では、当該資産に一定の換価
価値が認められ、かつ、その事業が安定的・継続的に回転しているのであれば、それに見
合った借入可能額が設定される。また、ABL は、担保価値に依拠して融資が行われるため、
5
中小企業庁「2007 年版中小企業白書」p.299
4
キャッシュフロー貸出と比べ、借入企業に利益水準やレバレッジ率などの維持を求める財
務制限が少なくて済むなど、柔軟性が高いとされる6。このような資産価値に見合った借入
枠設定と柔軟性の高さを合わせ持っているため、例えば、季節変動に応じて売掛債権や在
庫が大幅に変動する業態にとっては、在庫を大幅に積み増さねばならない時期には、在庫
に連動して借入上限額が上がるため、より多くの融資を受けることが可能になる。さらに、
キャッシュフロー貸出と異なり、ABL では、自社株・社債の買戻しや M&A 資金に当てる
ことができるなど用途に広さがある(キャッシュフロー貸出では、融資を将来の返済原資
を生み出す仕入れや設備投資などに向けることが求められるが、ABL では、買い入れた証
券や買収先企業の資産が担保となり将来の返済の拠り所となるため、こうした用途が可能
となる)。
他方、貸し手の金融機関にとっても、従来型の不動産担保や個人保証に依拠した貸出手
法とは別に推進することで、商品ラインアップに広がりをもたせることができる。また、
特定された資産の価値を見込んで融資を行うため、貸出先の企業体としての信用力が多少
低下しても、当該資産に大きな変動がない限り融資を継続することが出来る。不動産担保
と異なり、融資可能額が地価の変動という制御しにくい他律的要因に左右されない。さら
に重要なことは、担保となる事業用収益資産に係るモニタリングを継続して頻繁に行うた
め、借入企業の事業活動の実態をより詳細に把握することが可能となる。
図表3
借入企業
ABL の主なメリット
メリット
【資産価値に見合った借入枠設定】
・キャッシュフロー貸付では、企業収益が低下すると借入余地が縮小するが、
ABL では、事業収益資産に価値が見込めれば、それに見合った借入枠が設
定される。
【柔軟性の向上】
・ABL の場合、コベナンツが少ない。
【用途の広さ】
・キャッシュフロー貸出と異なり、ABL では、自社株・社債の買戻しや M&A
資金に当てることができるなど、用途が比較的広い。
貸出金融機関
【ビジネスチャンスの拡大】
・不動産担保や個人保証を離れ、貸出手法に広がりをもたせることが可能。
・資産価値を担保に融資を行うため、貸出先の信用力が多少低下しても融資を
継続できる。
【企業情報の入手】
・借入企業の事業活動の実態をより細部にわたって把握。
(資料)Bank of America Business Capital, “Capital Eyes”, April 2006、トゥルーバ(2005)により作成。
6 米国においては、ABL のメリットとして、キャッシュフロー貸出に比して財務制限条項が少ないという
「柔軟性の高さ」が強調される。これに対し、我が国においては、経済産業省や金融庁の議論のなかでは、
担保としての不動産に過度に依拠した融資への反省から、どちらかといえば中堅・中小企業にとっての資
金調達手法の多様化、選択肢の拡大の観点から、ABL が注目・議論されている。
5
②ABL のコスト
もっとも、ABL にはこうしたメリットがある一方で、借入企業にとっては、保有資産に
関する正確かつタイムリーな情報の開示が求められるため、売掛債権や在庫の状況を金融
機関に対して定期的に報告しなければならないという負担が生じる。また、担保となる売
掛債権や在庫の増減に応じて、与信枠は変動するため、これら資産の保有状況によっては
与信枠が縮小する状況にも直面しうる。
6
2.米国における ABL の概況
以下では、米国における ABL の概況として、市場動向、主な貸し手や借り手、融資の規
模などについて、文献調査やヒアリング調査を基にとりまとめる。
(1)急速に拡大する ABL 市場
米国における ABL の融資残高の推移をみると、米国の商業金融の業界団体である CFA
(Commercial Finance Association)によれば、2007 年は 5,450 億ドル(約 62 兆円/2007
年末時点)に上っている(図表 4)。これは、米国における短期の商業与信総額の 2 割前後
を占める規模であると言われている。また、ABL の残高は急速に拡大しており、2007 年時
点で、1990 年代初頭の融資残高の約 5 倍の規模になっている。こうした背景には、大手金
融機関が活発に ABL 貸出を推進していることがあるといわれている。
図表4 米国における ABL 残高の推移
(10億ドル)
600
500
400
300
200
100
19
7
19 6
77
19
7
19 8
79
19
8
19 0
81
19
8
19 2
83
19
8
19 4
85
19
8
19 6
87
19
8
19 8
89
19
9
19 0
199 1
9
19 2
9
19 3
9
19 4
9
19 5
9
19 6
9
19 7
9
19 8
9
20 9
0
20 0
0
20 1
0
20 2
0
20 3
0
20 4
0
20 5
0
20 6
07
0
(年)
(注)CFA が、会員 100 社以上に対して行ったアンケート調査をもとに推計した値。
(資料)Commercial Finance Association, “Annual Asset-Based Lending and Factoring Surveys, 2007”
(2)米国における ABL の特徴
①ABL の主な対象となる企業の規模と融資額
他方、ABL はどのような企業が活用しているのであろうか。
先行研究(Udell2004)によれば、米国における ABL の利用企業の7割は売上高 15 百万
7
~50 百万ドルの企業であり、平均従業員数は 268 人である7。ABL の主たる対象は中堅企
業とみられる。
図表5
ABL の借入企業の規模(売上高規模別)
4% 2%
23%
15百~50百万ドル
50百万~200百万ドル
200百万ドル~500百万ドル
500百万ドル~10億ドル
71%
(資料)GE Capital Commercial Finance, “Guide to Asset Based Lending”
また、融資額の規模は、米国の専門誌である ABL Journal 誌によれば、2007 年 10~12
月期に実施された ABL115 案件のうち、融資額 10 百万ドル未満が 19 件、10 百万ドル超~
100 百万ドル未満が 63 件、100 百万ドル超が 33 件となっている(図表 6)。小規模な案件
では 1~2 百万ドル規模のものある一方で、最大規模の案件は 9,200 百万ドルに上るなど、
融資額の規模にはかなりのばらつきがみられる(なお、当該データは、調査の便宜上 2007 年
10~12 月期のみを抽出したものであり、他の時期では案件数や規模の分布に違いがあり得る。
また、当該データは ABF Journal に記載されている案件のみであり、同時期に実施された全て
の ABL 実績が網羅されているわけではない)8。
図表6 主な ABL の規模と件数(2007 年 10 月 1 日~12 月 31 日)
融資額区分(百万ドル)
500 超~
100 超~500 未満
50 超~100 未満
20 超~50 未満
10 超~20 未満
10 未満
件数
4
29
14
31
18
19
合 計
115
融資額平均(百万ドル)
(注 1)2,737.5
222.6
65.1
33.3
13.3
4.1
(全体平均)171.0
(注 2)91.8
(注 1)500 百万ドル超区分では、4 件のうち 9,200 百万ドルの案件が 1 件含まれるため、平均値
が大幅に高くなっている。当該案件を除く 3 件の融資額平均は 583.3 百万ドル。
(注 2)注 1 の 9,200 百万ドル案件を除いた 114 件の融資額平均。
(資料)ABF Journal ウェブサイト。
7
8
小野(2007)、p.190
融資案件の詳細は巻末資料を参照のこと。
8
ABL は、貸し手である金融機関にとって、動産担保の管理・回収に手間がかかり(ABL
の実務については第 2 章で詳述する)、システム投資などもある程度必要とされるため、一
般的なキャッシュフロー貸出と比較しても、貸出規模が大きめな案件を組成しなければペ
イしないと考えられる。もちろん、一般的な融資においても、貸出金額の大小に関わらず、
ある程度の固定費がかかるが、特に ABL では期中におけるモニタリングの充実が必要とさ
れ、それに係る費用のウエイトは決して小さくない。したがって、こうした固定費相当額
を利息収入でカバーする必要性から、一貸出あたりの損益分岐点比率が高めに設定され、
金融機関側にとって貸出規模拡大に向かうインセンティブが高まるのである。
②ABL の主たる貸出対象層の信用リスク
ABL の主たる貸出対象企業層を、信用リスクの高低でみた場合、一般的には、キャッシ
ュフローを生み出す力がやや弱く信用リスクが高めの企業であるといわれてきた9。例えば、
米国の上場企業 850 社について分析した先行研究(Klapper2001)によれば、ABL とみら
れる売掛債権を担保とするクレジットラインを利用している企業は、無担保のクレジット
ライン借入企業に比べて、信用リスクが高く、株式市場からは成長力が乏しいと評価され
る傾向があるという。
これは、ABL の特性に起因すると考えられている。すなわち、一般的なキャッシュフロ
ー貸出の場合は、与信判断において企業のキャッシュフローや信用リスクが重視されるの
に対し、ABL では、担保となる事業収益資産の換価価値が最も重視されるため、企業の信
用力が多少低くても高い担保価値を有していれば、融資を受けることが可能である10。
なお、第 3 章で詳述するように、急成長企業の場合であって、キャッシュフロー貸出で
は成長に見合う充分な資金を調達できないときなども、最近では ABL を活用するようにな
ってきている。したがって、ABL を活用する企業の信用力が必ずしも低いというわけでは
ない。
③換価性の高い担保を有する業種が中心
ABL の融資対象となる業種は多岐にわたるが、卸売業や小売業など、換価性の高い在庫
資産を多く抱える業種が相対的に多いとされている(図表 7)。例えば、在庫では、特に日
用品や消耗品、家具、衣類など、広く一般消費者を最終消費者とする製品を担保として多
く抱えている業種が、ABL の主対象となる(図表 8)。また、原材料や半製品、完成品とい
った在庫の形態別にみれば、原材料や完成品、売買できる部品などはそれぞれ換価性があ
るため担保となるが、例えばパネルがついていない液晶テレビなどの半製品は、換価性が
9
10
小野(2007)、p.187
太田・小野・野田(2007)、p.11
9
低いため ABL では担保にはならない。
なお、一部の金融機関では、ブランド名などの無形資産を担保として ABL を行っている
例もある。
図表7 主な業種の割合(ABL 残高における金額割合)
8%
11%
28%
5%
13%
卸売業
製造業(耐久消費財)
小売業
製造業(非耐久消費財)
医療
その他サービス
その他
18%
17%
(注)「その他」の主なものは、木材、繊維、印刷、家具、情報技術、医療等。
(資料)Commercial Finance Association, “Annual Asset-Based Lending and Factoring Surveys, 2006”
図表8
ABL 融資案件の具体例(2007 年 10 月 1 日~12 月 31 日の組成分から)
金融機関
GE キャピタルマーケッツ
シルバー・ポイント・
ファイナンス
JP モルガンチェース銀行
キー・バンク、BNP パリバ
銀行等
アベルコ・ファイナンス
ワコビア・キャピタル・
ファイナンス
PNC 銀行
エリア・キャピタル
バンク・オブ・アメリカ
借入企業・業種(取扱品)
リネン・ホールディング社
小売業:家財道具
インターステート・ベーカリー社
パン類製造販売業:パン、菓子
ニューパーク・リソーシズ社
製造業:掘削機オイル等
レックス・エナジー社
エネルギー開発業:石油、ガス
アメリマーク・ダイレクト社
販売業:婦人服、化粧品、宝飾品等
ビッグ・ロック・スポーツ社
流通業:スポーツ用品
ハーン・オートモーティブ・ウェアハウス社
流通業:自動車補修部品
アップル&イブ社
製造業:ジュース
ガンダー・マウンテン社
小売業:アウトドア製品
(資料)ABF Journal ウェブサイト。
10
融資額
(100 万ドル)
700.0
400.0
225.0
200.0
135.0
130.0
80.0
78.5
40.0
④主なレンダー(貸し手)
米国 ABL の主なレンダーとして、商業銀行やファイナンス・カンパニーが存在する。こ
れまでは、とくにファイナンス・カンパニーが主要な貸し手として ABL の一翼を担ってき
た(第 3 章で詳述)。
貸し手である金融機関の規模別分布をみると、先行研究(Udell2004)によれば、大規模
な金融機関が ABL を牽引していることがわかる。2002 年の統計に基づけば、商業銀行や
ファイナンス・カンパニー等のなかで、ABL 融資残高が 5 億ドル超の金融機関群は、ABL
融資を行っている金融機関数全体の 29%に過ぎないが、米国における ABL 残高の約 95%
を占めている(図表 9)。
半面、同図表をみれば、ABL の融資残高が 100 百万ドル以下の金融機関の数が、全体の
約 45%を占めていることもわかる。ABL 業界には多くの小規模なレンダーが存在し、大手
金融機関が大規模案件を組成する傍らで、小規模金融機関は比較的小規模な企業を対象に
ABL を実施している11。大規模金融機関から小規模金融機関まで、ABL が広く普及してい
ることがうかがわれる。
図表9 金融機関の ABL 融資残高の規模別にみた分布状況(2002 年)
1機関当たりの
融資残高
各分類の残高合計
(百万ドル)
(百万ドル)
0~25
割合(%)
金融機関数
割合(%)
748
0.23
58
25.11
25~100
2,335
0.72
47
20.34
100~500
11,872
3.64
58
25.11
500~
310,950
95.41
68
29.44
合
325,905
100.00
231
100.00
計
(資料)Udell(2004)
⑤プライシングの動向
ABL のプライシングの動向(金利水準)をみると、近年の ABL 需要の高まりと参入金融
機関の増加、貸出競争の拡大、市場の透明性の向上を背景に、その水準は低下傾向にある
(図表 10)。借入企業の業種別にみれば、小売業と非小売業では、小売業の方が低い水準で
ある。これは、小売業者に対する貸出競争が他業種に比べ激しいことを示しており、小売
業が有する在庫の多くは、先述の通り流動性・換価性が高く、仮に融資先に問題が生じて
も在庫の処分がしやすいため、特に ABL に適しているからである。
また、他の金融商品との比較においては、大手金融機関が実施している ABL の例をみる
11
Udell (2004), p.29
11
と、通常のキャッシュフロー貸出等のプライシングと比べて、必ずしも高いとは言えない
ようである(図表 11)12。
図表10
ABL 案件の金利水準(LIBOR スプレッド平均)の推移(小売・非小売)
350.0
300.0
LIBOR(bps)
250.0
200.0
小売業
非小売業
150.0
100.0
50.0
0.0
2002
2003
2004
2005
2006
2007
(注)融資額 1 億ドル以下の案件。2007 年は第 3 四半期。
(資料)ヒアリング先提供資料をもとに作成(原データは Loan Pricing Corporation)。
図表11
ハイ
イールド債
コスト
期
間
償還方法
ABL と他の資金調達手法との借入条件比較
セカンド
キャッシュ
タームローン B
リエン
フロー貸出
ABL
LIBOR
LIBOR
LIBOR
LIBOR
+3.5%-9%
+1.25%-4%
+1.25%-4%
+1%-3%
7-10 年
3-5 年
3-7 年
3-5 年
3-5 年
一時払
一時払
n/a
n/a
6-12%
1%償還+
最終年一時払
(注)資金調達手法のうち、「ハイ・イールド(High Yield)債」は低格付けの社債、「セカンド・リエン
(Second Lien)」は無担保社債等よりは弁済は優先するが通常のローンよりは劣後するもの、
「ター
ムローン B(Term Loan B)」は、一般的なタームローン(A)よりも返済期限が長く追加的なスプ
レッドがあるもの。
(資料)GE Commercial Finance, “Lending Views from GE”, June 2006
12
ヒアリングを行った金融機関には、「ABL の金利は少し高めであり、例えば通常融資がプライム+0.5
の場合、ABL はプライム+1.5 または 1.75 となる」とする例(商業銀行 E)があった一方、「一般的に、
ABL 貸出の場合はより高いリスクに見合ったプライシングを行うが、他の金融機関との競争が激しいなか
で、競争力のある(低めの)金利を提示することもある」という例(ファイナンス・カンパニーH)も確
認された。
12
第2章
米国における ABL 実務の詳細
本章では、米国において実際に ABL 貸出の実務がどのように行われているか、ヒアリン
グ調査の結果や文献調査をもとに詳しくみていく。具体的には、ABL 実務の基本プロセス
や ABL に係る様々なプレーヤー(専門家)の存在を概観した上で、ABL 実務を2つの項目
((1)案件の組成 = 新規ビジネスの開拓、企業・担保評価、契約手続き、(2) 期中管理・事
後管理 = 担保のモニタリング、回収・処分)に分け、各項目ごとに実務の詳細を明らか
にする。その際、売掛債権と在庫とでは実務がどのように異なるのか、様々なプレーヤー
がどのような実務を担うのかに着眼し、ポイントを整理していく。
1.ABL 実務の流れ(基本プロセス概要)
(1)ABL の基本的なプロセス
ABL の基本的なプロセスを概観すると、以下の通りである(図表 12)。
図表12
ABL の基本プロセス
①新規ビジネスの開拓
案件の組成
期中管理・事後管理
②企業・担保評価
・企業の信用分析
・担保適格性の判断
・ボローイング・ベース(貸出基準額)の設定
③契約手続き
・融資契約書
・対抗要件の具備のための UCC 登記
④モニタリング
・ボローイング・ベース確認証によるモニタリング
・実施調査によるモニタリング
・「警告サイン」を見つける
⑤回収・処分
・売掛金の回収のためのロックボックスの活用
・在庫の処分・競売の実施
・インターネット競売と資産の状態確認
・競売実施後の資産の配送
(資料)各種資料およびヒアリングをもとに作成。
まず、金融機関は、①資金需要の探索、ABL の新規ビジネスの開拓といった営業活動を
通して、案件の発掘を行う。対象企業の業種や取扱品目からみて、ABL に適した事業形態
であったり、企業の側に ABL に適した資金需要や使途があるとなると、申込意思を前提に
13
実地調査に着手する。②当該企業が保有する売掛債権や在庫に関する事前調査を実施し、
担保としての詳細な評価作業に入る。通常、売掛債権は金融機関が自ら評価を行うが、在
庫については、多様な商品・原材料等を評価するのに高い専門性が必要となり、単独で分
析するのは難しいケースが多い。この場合は、外部の評価専門会社などを活用しつつ、評
価作業を進める。
次に、この分析結果をもとに、当該企業が有する売掛債権・在庫のうち、担保として適
格と判断されるものを抽出し、さらに、それらの換価価値を踏まえて適用すべき担保掛目
(アドバンス・レート)を決める。通常、売掛債権と在庫ではこの掛目が異なるため、売
掛債権と在庫それぞれの別の掛目をかけた金額を合計してボローイング・ベース(貸出基
準額)を算出する。③このボローイング・ベースを上限にして、最終的な ABL の融資額を
決定するとともに、担保について第三者への対抗要件を具備するために、「統一商事法典
(Uniform Commercial Code:UCC)」に基づき担保の登記を行う(「UCC 登記」と呼ば
れる)。そして、借入企業と契約を締結し、融資を実行する。
その後は、④借入企業から、定期的に売掛債権と在庫の更新情報を入手し、それらをモ
ニタリングする。モニタリング結果に基づき、必要に応じて評価替えを実施し、更新後の
評価内容を踏まえて融資額を変更する。⑤万一、借入企業が返済することができなくなっ
た場合には、担保となっている売掛債権や在庫の処分を行い、資金の回収を図る。
ABL では、これらのプロセスを厳格に遂行していくことが肝要とされている。
(2)ABL スキームを支える各種プレーヤー
米国の金融機関では、ABL の一連のプロセスを進めるなかで、外部の ABL 関連サービス
専門会社と密接に連携・協働するケースが多い(図表 13)。サービス専門会社には、在庫の
評価を行う評価会社(アプレイザー)や、融資先を訪問して売掛債権や在庫の所在につい
て実地調査を行う実地調査会社(フィールド・イグザミナー)、担保として登記を行う作業
を代行したり、他の債権者が担保権を有していないかなどを確認する登記・調査(UCC サ
ーチ)会社などがある(図表 14)。また、アプレイザーは、資産の評価だけでなく、オーク
ションや商品の処分・清算(リクイデーション)なども併せて行っている場合が多い。従
業員数が数百名規模の評価・処分会社から個人のフィールド・イグザミナーまで、様々な
規模のサービス専門会社が全米に存在し、提供するサービスの内容・規模に応じてフィー
をとりつつ、業務を行っている。
これらのサービス専門会社は、近年設立された会社を除けば、もともとは在庫の換価等
の業態を営んでいた者が、ABL 業界の誕生・成長に合わせて、これに関わる新たなサービ
スの提供にビジネスチャンスを見出してきたものが多い。例えば、リクイデーターの最大
手の一つであり、ゴードン・ブラザーズは、1903 年に設立され、当初は鑑定や在庫の買取
処分業務を手がけていたが、1970 年代にリクイデーター業務を開始し、1980 年代には自ら
14
も ABL を実施するようになった13。米国では、20 世紀以降、企業の創業と廃業が頻繁に行
われ、保有資産の評価や処分を迅速・客観的・公正に行うシステムが発展し、この過程で
アプレイザー、リクイデーター等のプレーヤーが誕生した。これらのプレーヤーが、統一
商事法典(UCC)による動産担保法制の整備が進むなかで、自らファイナンス会社を設立
して ABL のレンダーとなったほか、現在の ABL のサービス専門会社として活躍するよう
になったと言われている14。
こうした外部のサービス専門会社を活用するか否かは金融機関によって異なり、例えば
アプレイザー的機能を内部で抱え、評価業務は内製化している一方、在庫確認のための実
地調査については外部のフィールド・イグザミナーを活用しているケースなどもある。資
産の評価に関しては、通常、売掛債権は金融機関が独自に行うが、在庫については現物の
種類や状態によって資産価値が大きく異なり、その評価には高い専門性が必要とされるた
め、外部のアプレイザーを活用することが多いとされている。
図表13
ABL の作業フローにおける金融機関と外部のサービス専門会社との連携イメージ
【金融機関】
【借手企業】
新規ビジネスの開拓
【外部評価会社】
・アプレイザー
・リクイデーター
・製造業者など
企業・担保評価
○財務状況等
○担保
・売掛債権
・在庫
契約手続き
モニタリング
【実地調査会社】
・ フィールド・
イグザミナー
・監査法人
【担保処分会社】
・リクイデーター
・オークション会社
・通常の販売先
回収・処分
(資料)トゥルーバ(2005)ほか各種文献及びヒアリングに基づき作成。
13
14
ヒアリング及び同社ホームページ("A Brief History of Gordon Brothers Group”)。
ヒアリング及びトゥルーバ(2005)、p.124。
15
図表14
ABL 関連サービス専門会社の例
サービス分野
会
社
AccVal Associates, Inc.
Collateral Specialists, Inc.
and/or
The Daley-Hodkin Group
オークショニア(競売)
DoveBid, Inc
and/or
Emerald Technology Valuations
リクイデーター(処分)
Great American Group Machinery & Equipment, LLC
The Hilco Organization
Lenders Consulting Group
Thomas Industries, Inc.
アプレイザー(評価)
フィールド・
イグザミナー
(実地調査)
Bourget & Associates, Inc.
Capital D.F. Associates, Inc.
Collateral First, Inc.
Collateral Specialists, Inc.
Evergreen Collateral Consulting, LLC
Lenders Consulting Group
Nassau Asset Management
RG Barber Consulting Group
Trump Lender Services, Inc
Unified Examiners
UCC サーチ・
C&R Credit Services, Inc.
ファイリング
CSC Diligenz
(UCC 調査・登記) UCC Direct
(資料)Commercial Finance Association, “ABL Services Directory”.
16
2.各プロセスの詳細
以下では、ABL の基本プロセスを、(1)案件の組成(新規ビジネスの開拓、企業・担保評
価、契約手続き)と、(2)期中管理・事後管理(モニタリング、処分・回収)とに分け、現
地金融機関ヒアリング調査15などをもとに、ABL 実務の詳細を明らかにする。
(1)案件の発掘・組成
案件組成の基本的な流れは、以下の通りである(図表 15)
。金融機関に対するヒアリング
によれば、案件発掘から契約に至るまでの期間は、概ね 2~6 週間程度が目安であるが、や
はりケースバイケースであり、長いものでは 5 年かかった例もあるという。
図表15 案件組成の流れ
新規ビジネスの開拓
企業・担保評価
・企業の信用分析
売掛債権・在庫ごとに実施
・担保適格性の判断
・ボローイング・ベース(貸出基準額)の設定
契約手続き
・融資契約書
・対抗要件の具備のための UCC 登記
(資料)文献調査及びヒアリングをもとに作成。
①金融機関によって多様な新規開拓の進め方
案件の発掘は、基本的には当該金融機関の営業担当者が担っているが、その体制やチャ
ネルは金融機関によって様々である。
例えば、ヒアリング調査先の商業銀行 B は、全米数箇所の拠点に合計数十名の ABL 専属
の新規顧客営業担当者(オリジネーター)を配置し、案件の発掘を行っている。その際、
上記拠点以外の支店ネットワークを通して得られる情報も活用している。他方、商業銀行 C
では、ABL 専属の営業担当者は置いていない。代わりに、個々の顧客担当窓口としての役
割を担っているリレーションシップ・マネージャーが、当該企業と頻繁にコンタクトをと
15
米国現地における金融機関ヒアリング調査の概要は、巻末の参考資料「ヒアリング録」を参照。
17
るなかで ABL のニーズを見出し、案件を発掘している。この場合、リレーションシップ・
マネージャーは、顧客の業種・取扱品目・資金使途などから判断して、多様な商品ライン
ナップの中から ABL が適するケースだとみると、これを勧奨するようである。
このように、新規 ABL 案件の開拓は、必ずしもその対象を ABL に限定したものではな
く、企業の資金需要を探索しているなかで、ABL の活用が当該企業のその時点の資金ニー
ズによく当てはまる場合に行なうという例がみられる。ABL 専属担当者を置いている商業
銀行 B においても、通常のキャッシュフローベースの貸出を行う部門と ABL を担当する部
門が協働し、両部門の担当者が共に同一の顧客を訪問するケースがある。そして、キャッ
シュフローベース貸出と ABL の両方を提案し、どちらを選択するかを顧客に決めさせてい
る。もし、顧客の資金ニーズがどちらか一方の融資手法のみでは完全に充足されない場合、
不足分をもう一方の貸出手法で賄うというハイブリッドタイプの融資を行うこともあると
いう。こうした対応をとるのは、当該銀行として顧客をしっかりと掴んでおくためである。
米国の企業は、基本的には一行取引を望んでいるものの、実際に融資を受ける際には他の
複数の銀行からも提案を取り寄せ比較検討している。優良顧客であればあるほど、この傾
向は強い。当該銀行としては、他銀行との競争に勝つために、顧客に対して、ABL を含め
た様々な選択肢を提供する必要がある。
他方、ファイナンス・カンパニーは、商業銀行のような預金・決済機能を持たず、支店
ネットワークも商業銀行ほど広範とはいえない。そのため、顧客ニーズに関する情報収集
力においては商業銀行に及ばないが、第三者からの情報ソース等も積極的に活用し、不足
を補うよう努めている。具体的には、ファイナンス・カンパニーF の担当者によると、相手
が大企業の場合は、金融・投資市場関係者などから顧客ニーズ関係情報を入手するほか、
会計士や弁護士からも案件情報を入手している。また、ターンアラウンド・マネジメント
協会(TMA:Turnaround Management Association = 企業再生に関する専門家のコミュ
ニティ)や、コマーシャル・ファイナンス協会(CFA:Commercial Finance Association =
ファクタリングなども含めた広義の ABL に関する各種情報提供などを行っている)などの
会合に参加して情報を集める。同時に、ABL に適した売掛債権や在庫を豊富に抱えている
とみられる業種に焦点を当てつつ、そうした企業に一社ずつ電話をしてニーズを聞き出す
(cold calling と呼ばれる)といった地道な努力も行っている。
さらに、他機関でセールス実績のある者を担当者として雇うこともある。こうしたセー
ルス担当者は複数企業のコンタクトリストをもっており、彼らが会社を移ると顧客も引き
連れて移ってくることがしばしばあるので、強力な顧客ネットワークを有するセールス担
当者を雇うことは非常に効果的とされている。
ファイナンス・カンパニーは、預金や決済機能がなく、キャッシュ・マネジメントなど
のサービスは提供できない。商業銀行と比べて提供する商品ラインナップは限られている
が、複数の金融サービスの提供を通して顧客の獲得や取り込みを図っている点は、商業銀
行と同じである。ABL 以外の金融サービスも提供できる一部の大手ファイナンス・カンパ
18
ニーの場合は、通常のコーポレート・ファイナンスを始めとする複数のサービス提供(「ク
ロス・セリング」と呼ばれる)を提案するなかで、ABL 案件を発掘する例も少なくない。
②担保評価・案件の組成
イ.企業の信用分析
案件が発掘されると、オリジネーターは、アンダーライター(案件組成担当者)と協働
して、評価・組成に係る作業を行っていくことになる。アンダーライターは、オリジネー
ターから上がってくる情報をもとに、企業情報や融資条件案などをとりまとめ、審査担当
に提案する。
融資条件の検討や案件審査が行われる際、多くの金融機関では、担保価値に重きを置く
ABL であっても、担保だけでなくキャッシュフロー貸出と同様に企業の評価も重視してい
る。これは、企業の経営・管理能力が低ければ、担保となる資産の適切な管理がなされな
い恐れがあり、また、当該資産価値が安定するには、企業活動が健全であることが望まし
いためである。ある意味当然のことながら、ABL は、担保資産の価値を十分な裏付けにし
ているとはいえ、決して貸出先が経営困難に陥ることを是としていないのである。
図表16 営業・審査体制のイメージ
金融機関
審査担当
稟議・申請書
融資条件
協働・起案
交渉・検討
可否
アンダーライター
オリジネーター
オリジネーター
新規顧客の発掘
新規顧客新規顧客新規顧客
協働・起案
新規顧客の発掘
新規顧客
新規顧客
新規顧客
新規顧客
(注)金融機関によっては、リレーションシップ・マネージャーがオリジネーターと
アンダーライターの役割を担っている場合もある。
(資料)ヒアリングをもとに作成。
19
ロ.担保適格性の判断
担保の評価作業に当たっては、まず、担保の「適格性」を判断することから始める。ABL
では一般的に、融資先企業の持つ全ての売掛債権や在庫に担保権を設定するが、なかには
回収の可能性が低い売掛債権や最終的な処分が困難な在庫が存在することから、個々の担
保価値の評価に入る前に、予め不適格な担保を除外しておく必要があるためである。
一般的に、担保として魅力があるのは、換価性・流動性の高い動産であり、具体的には、
現金、財務省証券のような市場性の高い有価証券、売掛債権、在庫、機械設備の順である。
また、商標やブランド名なども時には非常に高い市場価値を持つ場合があるが、実際の評
価に際して、具体的にどれだけの価値を見込むかは非常に難しいとされている。
なお、金融機関のなかには、ABL における担保の対象として不動産も含めて取り扱うと
ころもあるが、不動産の場合、所在地によっては換価処分が非常に難しくなるため、一般
的に ABL 向け担保としての優先度は低い。
以下、売掛債権と在庫が、それぞれどのような基準で担保として適格・不適格と判断さ
れているか概観する。
(イ)売掛債権の適格性
売掛債権の担保価値の評価は、回収の可能性が疑わしいもの、すなわち、担保としては
「不適格」なものを売掛債権総額から差し引くことで求められる。
不適格とされる例としては、まず、請求書の発行日から原則 90 日を超える売掛債権は、
適格担保から除外される。当然のことながら、売掛債権回収に時間を要しているものほど、
不履行リスクが高いためであり、また、審査に際して、請求書発行日からの経過日数まで
チェックしていることを明示し、借入企業にその速やかな回収を促す意味もある。
回収の遅れについて言えば、一部の売掛債権の回収の遅れをもって売掛債権全体の回収
が疑わしいとみられる場合もある。例えば、ある特定の取引先(例:借入企業の顧客 A 社)
に対する売掛債権残高のうちの一定割合(例:10%)以上が、請求書発行日から 90 日以上
経過している場合、当該取引先 A 社に対する売掛債権全てが不適格となる。このような適
格性判断の方法は、クロス・エージング(cross aging)ルールと呼ばれている。
担保となる売掛債権が一つの取引先(例:借入企業の顧客 B 社)に過度に集中している
場合も、その一部が不適格となる場合がある。これは、当該取引先 B 社が仮に倒産した場
合に、その影響が甚大で、貸付金の回収が困難となるリスクが高いためであり、リスク分
散の観点から、一つの取引先に対する集中度(借入企業の売掛債権総額に占める当該取引
先 B 社あて売掛債権額の割合)の許容範囲に一定のキャップが設けられることが一般的で
ある。
このほか、借入企業の取引先(商品納入先)が同時に資材等の調達先でもあり、同じ会
社に売掛債権と買掛債務の両方があるケースでの「反対勘定」や、親子会社間の売掛債権
20
なども不適格とされる。前者は、当該取引先から債権と債務の相殺が主張され、担保とし
たはずの売掛債権が消滅してしまう可能性がある。また、後者については、親子会社は経
営上も密接に関連しているため、借入企業または借入企業の売掛先が経営悪化に直面した
場合、相手方にもその影響が及んで共倒れになる等、いざというときに担保の機能を果た
せない可能性が高いためである。
以上のものを含め、売掛債権の担保としての不適格なものは、一般的には以下の通りで
ある。
図表17 回収不能と見積もられる不適格な売掛債権
【良質ではない債権】
・請求書発行日から 90 日を超えたもの
・集中度(concentration)キャップを超過した債権(10%が一つの目安)。
【実質的に無価値な債権】
・委託販売
・反対勘定(contra accounts)
・親子会社あて債権・従業員あて債権
・製品が発送されていない段階での請求書(pre-billings)、作業の進捗段階に応じ
て発行される請求書(progress billings、主に建設業などでみられる)
【制約付き債権】
・保険金請求権などの要求払い債権(claim type receivables)
・政府債権など譲渡が禁じられている債権
【回収手続きが困難な債権】
・海外への売掛債権
(資料)各種資料及びヒアリングをもとに作成。
(ロ)在庫の適格性
在庫の適格基準は、企業や業界によって異なるが、共通点としては、
「借入企業に在庫の
所有権が明確に帰属しており、在庫を自由に扱うことができること」が大前提とされてい
る。
また、在庫の価値は、それがどれだけ市場性を有するかによって決まる。例えば、原材
料、半製品、完成品といった在庫の状態に応じて異なる。原材料や完成品は市場性がある
が、半製品(Work-in-Process:WIP)は買い手を捜すのが困難であり、通常は担保不適格
となる。
一般的に、担保として不適格とされる在庫の例は、以下の通りである。
21
図表18 回収不能と見積もられる不適格な在庫
【良質でない在庫】
・季節はずれの商品(主にアパレル・衣服関連で多い)
・過剰在庫、滞留在庫
【実質的に無価値な在庫】
・半製品(WIP)
・破損した財、時代遅れの財
・委託販売品(第三者から販売を委託されており、所有権が借入企業に帰属し
ていないもの)
・パッケージング(包装)材
・有害物
【価値が不安定/価値判断が困難な在庫】
・傷みやすい商品(例:生鮮野菜、鮮魚など。ただし、冷凍魚は担保適格)
・新しく未試験の製品、新しい技術の製品(仮に価値があっても当該製品が適
切に機能するか否か確認することが難しいもの)
【売却先を見出すのが困難な在庫】
・部品
・デモ製品
・特注品
・多品種で、かつ、それぞれが少量のもの(処分時に買い手をみつけるのが困
難なもの)
・半端または通常でない大きさや量の材
(資料)各種資料及びヒアリングをもとに作成。
ハ.「ボローイング・ベース(貸出基準額)」の設定
売掛債権・在庫の帳簿上の残高から不適格な担保分を差し引き、残った金額が適格担保
額となる。この適格担保額に、回収の安全度を見込んだ一定の掛目を乗じる。この掛目は
「アドバンス・レート」といわれ16、担保の種類ごとに異なっている。
以下、売掛債権と在庫のそれぞれのケースに着目しつつ、ボローイング・ベース(貸出
基準額:適格担保額にアドバンス・レートを乗じて算出した金額)の設定までの流れを整
理する。
(イ)売掛債権
売掛債権のアドバンス・レートは、一般的には上限が 85%程度とされる。
アドバンス・レートは、実務上、ダイリューション率と呼ばれる数値に応じて段階的に
決定するのが一般的である(図表 19)。「ダイリューション率」とは、売掛債権が様々な理
16ABL 業界関係者からヒアリングしたところ、
「アドバンス(advance)」という語句には、
「貸付金」のほ
か、
「前貸し」、
「前払い」といった意味がある。通常、掛取引では、商品の引渡し後、一定の期間を経て代
金の決済(売掛金の回収)が行われるが、ファクタリングにより売掛債権の買い取りが行われる場合には、
当初に想定された期日よりも前倒しで売掛金を回収することができる。ここから転じ、売掛債権や在庫を
担保に融資を行う際に「アドバンス」という語句が使われるようになったのではないかとの推測も交えた
見解が聞かれた。
22
由で未回収となる可能性の傾向値である(図表 20 に解説)。業態や業界によって異なり、
一般的に製造業は率が低く、流通業は中~高率、ハイテク関連は高率となる。金融機関は、
過去の傾向からダイリューション率を計り、その率が高い(未回収となるおそれが高い)
ほど、アドバンス・レートを低く設定する。
図表19 ダイリューション率の水準に対応したアドバンス・レート
(借入企業が A 業種の場合の例)
ダイリューション率
アドバンス・レート(上限)
0~3%
90%
4~6%
85%
7~9%
80%
10~12%
75%
13~15%
70%
(資料)トゥルーバ(2005)
図表20 ダイリューション(Dilution)とは
通常の取引においては、値引きや返品、回収不能に伴う償却、請求金額の相違などによ
り、請求書(売掛債権)の額面通りの回収が行われるケースは少ない。このような、「請
求書の金額と実際の回収額との乖離(差額)」を、「ダイリューション」という。
ダイリューションには、以下のような種類がある。
① 返品:商品の返品によるもの。
② 売上割戻し:大量購入に対する報奨として、売り手から買い手に還元されるもの。
③ 売上割引:期日前決済に対する値引き。米国では、買い手が期日よりも早めに代金
を支払えば一定の割引を受けられる旨を、売買契約において予め認めているケース
がある。
④ 償却:回収不能に伴う償却
⑤ その他の特殊な値引き:買い手が売り手のために販売促進の広告宣伝を行った場合
などに、その費用の一部を売り手に請求することがある。その場合、売掛金の減額
(相殺)という形で処理されることが多い。
このようなダイリューションが発生した場合、当初の売掛金額よりも回収額が減額した
分の割合をダイリューション率という。その過去の傾向値をアドバンス・レートの設定の
際に用いる。
【例】当初の売掛金が 100、実際の回収額が 95 の場合
・ダイリューション発生額=100-95=5
・ダイリューション率=5÷100=5%
(参考)トゥルーバ(2005)
23
(ロ)在
庫
在庫については、まず、現金化にどの程度の時間を要するか、市場流通性は高いか、と
いった観点から適格在庫の担保価値をとらえ、その評価額を決定する。具体的な評価額の
決定方法には、①公正市場価格(FMV)、②通常処分価格(OLV)、③強制処分価格(FLV)、
の 3 つが価格算定方法ある(図表 21)。
なお、担保評価額を見極める際には、外部のサービス会社(アプレイザー)が活用され
ることも多々ある(サービス会社の役割や選定基準は後述)。
図表21 在庫評価における価格算定方法
公正市場価格
Fair Market Value
(FMV)
通常の取引において決
定される価格。売却資
産に関する情報が充分
に提供され、資産の売
り手(及び買い手が)充
分に時間をかけて売買
を行うことができる。
通常処分価格
Orderly
Liquidation Value
(OLV)
資産の売却に際して買
い手を合理的な期間内
に見つけられる状況を
想定した価格。
強制処分価格
Forced
Liquidation
Value
(FLV)
資産の売却を特定の時
期までに行うなど、限ら
れた期間内に強制的に
処分しなければならな
い状況を想定した価
格。
(資料)ヒアリング結果及びトゥルーバ(2005)を参考に作成。
期待できる価格の大小の程度を、円の大きさでイメージしたもの。
担保としての在庫の評価額が定まれば、その処分が現実化することを想定して、回収の
安全度を見込んだ一定の掛け目、すなわち、アドバンス・レートを乗じる。アドバンス・
レートを乗じることで、実際の担保処分時には、法的費用など予見可能若しくは不可能な
回収コストも含めてカバーすることが出来る。
在庫のアドバンス・レートは、上述の FMV、OLV、FLV による評価額を考慮しつつ、通
常、在庫の種類に応じて 30~65%程度に設定される。売掛債権の一般的なアドバンス・レ
ート(上述)の上限が 85%程度であることに比べれば、在庫のアドバンス・レートは、相
当程度低い水準となっている。これは、在庫を現金化することは、売掛債権に比して一般
的に難しく手間が掛かること、売却先市場の需給や環境に応じて処分価格が変動するため、
将来時点の価値を見極めるのが難しいこと、などがその理由である。
24
(ハ)ボローイング・ベース(貸出基準額)の算出
売掛債権及び在庫の適格担保額に、それぞれ別個のアドバンス・レートを乗じ、それら
を合算した値が「ボローイング・ベース(貸出基準額)」となる。担保となる売掛金や在庫
の資産残高が変動すれば、それに合わせてボローイング・ベースも変動する。
金融機関は、ボローイング・ベースをもとに与信枠((「クレジットライン」)の設定を行
う。このクレジットラインは、ボローイング・ベースの変動を考慮し、多少ではあるが、
ボローイング・ベースより大きめの金額を設定するのが通例である。
図表22 ボローイング・ベース(貸出基準額)算出の流れ
流動資産
1200
売掛債権・在庫
の抽出
売掛金
600
在庫
400
担保適格性
の判断
担保適格な売掛金
500
担保適格な在庫
250
×70%
× 40%
ダイリューション率に
対応した
アドバンス・レート
アプレイザーの
担保評価を考慮した
アドバンス・レート
350
担保価値の評価
貸出基準額の
算出
100
貸出基準額=450
クレジットライン
の算出
クレジットライン
500
(資料)トゥルーバ(2005)をもとに作成。
25
③ABL における契約手続きの特徴
イ.融資契約書の作成
クレジットラインが設定されると、融資契約書の作成に移る。契約書の主な内容は以下
の通り(図表 23)、コベナンツも盛り込まれる。例えば、ファイナンス・カンパニーF によ
ると、ABL の契約文書で最も重要なのは、担保の適格・不適格の基準を設定する条項(適
格担保の定義)に、一部の留保を設けておくこととされる。あまりに厳密な規定を設ける
と、後のビジネス環境の変化に対応して行動することができなくなってしまうからである。
図表23 融資契約書の主な内容(項目)
① 適格担保の定義(適格売掛債権、適格在庫品)
② アドバンス・レート
③ クレジットラインの限度額(貸金残高最高額)
④ 財務比率や担保掛目などとリンクした利息や手数料の率の調整
⑤ コベナンツ
(資料)各種資料及びヒアリングをもとに作成。
ロ.対抗要件の具備のための「UCC 登記」
担保である売掛債権や在庫について、第三者への対抗要件を具備するためには、貸し手
である金融機関は、
「統一商事法典(Uniform Commercial Code:UCC)」の第9編に基づ
き、「Financing Statement(本稿では、「融資声明書」とする)」を、州(かつては、動産
の存在する全ての州に登録しなければならなかったが、現在では、借入企業の設立登記が
なされている州に登録をすればよいとされている17。)の登録局(通常は州務長官事務所)
に「登録(file)」しなければならない(これが「UCC 登記」と呼ばれる)。こうした登録手
続きは、州によっては、その州が用意したホームページ上の登録画面を通してオンライン
で行うことも可能になっている(参照:ウィスコンシン州のウェブサイト例)。
17
ミシガン州政府ホームページ。
26
【参考】
融資声明書(Financing Statement)のサンプル
(資料)ウィスコンシン州ホームページ
27
【参考】
融資声明書(Financing Statement)の電子ファイリング(登録)手続き
UCC 登記は、オンライン上でも行うことができる。例えば、ウィスコンシン州では、登
録局の以下のウェブサイトで手続きができる。
<登録手続きのトップページ>
<スタート画面>
28
UCC 登記では、先に登録(ファイル)した債権者が当該物件について優先的地位を獲得
するため、登録の際には、当該売掛債権や在庫について他の債権者が既に担保権を持って
いないか確認する調査を行う。こうした調査は、「UCC 調査(UCC Search)」と呼ばれ、
一般的には外部の専門調査会社を活用して行われる。
対抗要件を具備する目的で、融資声明書に記載する内容は、債務者や担保権者(金融機
関)の名前・住所、具体的な担保物である(巻末資料参照)。担保物については、物品や有
価証券といったカテゴリー、設備、在庫、農産物、売掛債権といった物件の種類、数量、
動産の所在地などを記載する。担保物の描写は、その内容が合理的に分かるもので足り、
「担
保権設定者の全ての資産(all assets)」といった包括文言で記載することが可能である(た
だし、担保設定者と担保権者で交わす担保契約書上には、種類や数量の記載によってある
程度の特定が求められる)18 。また、売掛金や在庫など日々変動する担保物であっても、
「present and future」などの文言を付すことにより、現在ならびに将来に発生する担保物
に対しても担保権を公示し、第三者対抗要件を具備することが可能である。
図表24
UCC 調査レポートの事例
Filing Location(登録地):
Original Filing Number(当初登録番号):
Original Filing Date(当初登録日):
Collateral(担保):
Debtor(借り手):
Secured Party(担保権者):
New York Secretary of State
XX Street New York, NY10000
1234567890
11/11/2000
Accounts Receivable, Inventory,
Machinery & Equipment
The ABC Company Inc
1234 5th Street, Fort Lee, NJ
XYZ Finance Corp
8765 Main Street, Summit, NJ 765432
(資料)トゥルーバ(2005)
図表25 融資声明書における将来発生する担保物に対する表記の例
【売掛債権】
・All present and future accounts または
・All accounts Receivables, present and future created
【在
庫】
・All Inventory, present and future acquired
(資料)トゥルーバ(2005)
18
鹿島(2003)
29
(2)期中管理と事後管理
案件の契約手続きが終了すると融資が実行され、その後は、担保である売掛債権や在庫
のモニタリングが行われ、この間、借り手は、クレジットラインの枠内で随時、返済と借
入を行うことが出来る(リボルビング)。何らかの事由によりデフォルトが発生し、完済に
至らない場合には、担保の処分が行われる。期中管理、正常返済とデフォルト発生時の回
収・処分について、一般的な流れは以下の通りである(図表 26)。
図表26 期中管理、正常返済、回収・処分の流れ
モニタリング
・ボローイング・ベース確認証によるモニタリング
・実施調査によるモニタリング
・
「警告サイン」を見つける
正常返済、回収・処分
・売掛金の回収のためのロックボックスの活用
・在庫の処分・競売の実施
・インターネット競売と資産の状態確認
・競売実施後の資産の配送
(資料)各種資料及びヒアリングをもとに作成。
①様々な角度から実施されるモニタリング
案件の契約が済めば、ポートフォリオ管理とモニタリングが行われる。
イ.「ボローイング・ベース確認証」によるモニタリング
金融機関は、融資実行時及びその後のモニタリングに際して、借入企業から「ボローイ
ング・ベース確認証(borrowing base certificate)」を定期的に提出してもらうよう要求し
ている。この目的は、売掛債権や在庫の持ち高が日々変動するなかで、その現状を借り手
自身によりカウント・計算してもらい、その報告をもとに適格担保の各カテゴリー別の数
量と価値を把握し、ボローイング・ベースを定期的に確認又は見直すことにある。この報
告により、報告時点での適格担保の現在高とローン残高との関係やバランスをチェックす
ることでき、貸し手側が担保価値に見合わない過大なリスクを負わないよう調整すること
も可能になる。さらに、売掛債権や在庫の異常な動きをいち早く知る効用も見逃せない。
不動産担保融資などとは異なり、日々、担保の数量や価値が変動するという前提に立った
ABL ならではの手法である。
30
ボローイング・ベース報告の頻度については、一般的に四半期に一度(年 4 回)程度だ
が、例えば、企業の信用力が低くなるほど、また、ファシリティの利用率が高まるほど、
月次、週次、日次と頻度が高まる傾向にある。実際、経営状態をみて、一定程度、信用リ
スクが高まったと判断される企業については、こうした報告のやり取りを日次で実施して
いる。
また、ボローイング・ベース報告の際に追加情報(supporting documentation)として、
①売掛債権の更新状況(前回報告時点から現時点までの間において、追加された新たな
売掛債権、回収された額、その他の調整・差し引き額を示した現時点でのグロスの売
掛債権額の報告 = 売掛債権の新発・回収状況をチェックするもの)
、
②売掛債権のエージング(個別債権の請求書発行・売掛発生日からの経過日数の報告 =
売掛債権の長期化をチェックするもの)、
③滞留在庫報告(perpetual inventory report)
(=不良在庫の発生をチェックするもの)、
④所在地・種類ごとの在庫報告書(=在庫の現状・偏在・逃避をチェックするもの)、
⑤買掛金のエージング(=買掛けの長期化、資金繰りの逼迫度合いをチェックするもの)、
⑥不適格な売掛債権・在庫(=取引の変容・与信余地等をチェックするもの)、
などの提出も求めている。
こうしたモニタリングの実施は、その効用もさることながら、貸し手・借り手とも実作
業に多大な手間がかかる。この負担の軽減を図るため、最近では、報告手続きや入力・計
算を電子化し、顧客ごとにカスタマイズして自動化するなどの対策も進められている。例
えば、商業銀行 D の担当者によると、確認証の提出方法も以前は FAX であったが、現在は
e-mail で行なうのが一般的になりつつある。
ロ.実地調査によるモニタリング
売掛債権と在庫のモニタリングは、前述した借入企業からの報告に基づくものだけでな
く、金融機関からも定期的に実地調査に赴き、借入企業から提出された報告内容が正しい
か否か確認している19。
この実地調査は、金融機関自らが行うこともあれば、ABL 関連サービス専門会社の一種
であるフィールド・イグザミナーに外部委託して実施することもある。その頻度は、通常
は年 2 回程度であるが、借入企業の信用状態などに応じて、場合によっては年 3~4 回と回
数を増やす。
19 実地調査には、融資実施後の定期調査だけでなく、融資前に与信関係が持てるか否かを判断するための
概況調査などもある。
31
ハ.「警告サイン」を見つける
金融機関は、借入企業からボローイング・ベース確認証の提出を求め、合せて、実地調
査を行うことで、モニタリングを行う。ただし、こうした作業を通して担保の状況だけを
把握していればよいのではなく、日々の顧客との連絡などを通して、借り手の信用・財務
状況の悪化や担保の劣化の兆候を見落とさないことも重要である。
そうした兆候が感じ取れる警告サインの具体例は多岐にわたる(図表 27)。いずれも借り
手の信用劣化を早期に発見し、損失の最小化を図る上では見落とせないものであり、これ
に対する早急かつ適切な対応が肝要である。
図表27
ABL 実施金融機関が着目する“警告サイン”の例
・定期報告の遅れ
・予想を超えるスピードでの融資可能額(ボローイング・ベース)の下落
(=担保物の急速な減少)
・他の貸し手(金融機関)に対する新たな担保に係る担保権の設定
・売上増加を超える売掛債権の増加
・新規得意先の大量流入
・健全債権と遅延債権の割合の悪化
・資金不足理由の不渡小切手の異常な増加
・売掛債権の集中度合い(concentration)の重大な高まり
・買掛金のこれまでにない増加
・電話の不通・コールバックなし
・先方連絡窓口担当者の頻繁な更迭
・突然の在庫品の積み上がり
・出荷先への配達日(到着日)が不明な在庫の出荷(倉庫から搬出して貨物運
搬事業者に預けたままにしておくこと。請求書発行や出荷の偽り)
・急に端数のない丸められた数字として売上金額を計上
(資料)Udell(2004)及びヒアリングに基づき作成。
②正常返済、回収・処分
イ.売掛金の回収のための「ロックボックス」の活用
担保権が設定された売掛金の回収は、貸し手が(a)商業銀行の場合は、自行に、
(b)フ
ァイナンス・カンパニーである場合は、その取引銀行に設置されたロックボックス20を通じ
米国で ABL が実施される際には、一般的に売掛金の回収は、顧客振り出しの小切手で行われ、小切手
の送付は、貸し手側の一種の私書箱であるロックボックス宛になされる。
20
32
て行われる(図表 28)。
具体的な流れは、以下のフローとなる。
①借入企業は、顧客から注文を受ける。
②借入企業は、商品在庫を注文に従って販売する。この請求書発行時点で売掛債権が発
生する(この売掛債権の上に、貸し手金融機関のための担保権が設定される。前述の
通り、UCC 登記の融資声明書で将来担保物について明記しておけば、事後、新たに発
生した売掛債権に対しても自動的に担保権が設定される)
。
③借入企業は、販売に伴って発生した在庫や売掛債権の増減を、貸し手金融機関に定期
報告する。
④貸し手金融機関は、借入企業からの情報を精査した上で、貸出枠の範囲内で貸出を実
行する。
⑤売掛金の支払期日に借入企業の顧客(販売先=第三債務者)は、小切手により支払い
を行う。小切手は、貸し手が商業銀行の場合は自行内に設けたロックボックス宛てに、
貸し手がファイナンス・カンパニーの場合は貸し手の取引銀行に設けたロックボック
ス宛てに郵送される。このロックボックスは形式上は借入企業の名義となっているが、
実態は貸し手金融機関の管理下にある。
⑥ロックボックス経由で回収された売掛金は、貸付金の返済に充当される。この時点で
返済金額分だけ、担保である売掛債権が減少(=ボローイング・ベースも減少)し、
同時に貸付金の残高も減少する。
図表28 ロックボックス活用の仕組み
【(a)商業銀行のケース】
①注文
在庫
借手
(企業)
借手の販売先
②販売
⇒売掛金発生
③書類送付
(インボイスなど)
貸手
(商業銀行)
④貸出実行
⑤支払
⇒小切手送付
⑥回収
ロックボックス
33
【(b)ファイナンス・カンパニーのケース】
①注文
在庫
③書類送付
(インボイスなど)
借手
(企業)
借手の販売先
②販売
⇒売掛金発生
⑤支払
⇒小切手送付
④貸出実行
貸手
(ファイナンス・カンパニー)
ロックボックス
⑥回収
貸手の取引銀行
(資料)トゥルーバ(2005)、Udell(2004)、各種ヒアリングをもとに作成。
借入企業が貸し手金融機関から遠距離に所在するような場合は、借入企業側の地場銀行
にブロック口座(blocked account)を開設するケースもある。この場合、借入企業は返済
のための金額をその地場銀行のブロック口座に入金し、貸し手金融機関は、定期的に当該
金額を移動して貸付金の返済に充てるというプロセスが踏まれる
ロックボックスは、貸し手金融機関が、借入企業における売掛金の回収ルート(第三債
務者からの送金)を押える上で重要な機能を担っているほか、送金が直ちに貸付金返済に
充てられることで、金利負担を最小限にするという副次的効用も備えている。
ロ.在庫の処分・競売の実施
借入企業の経営状況が悪化しデフォルトした場合、担保権を実行し貸付金の回収を図る
ことになる。在庫の処分については、担保物を押えた貸し手金融機関が独力で処分できる
ノウハウやルートを持っていない限り、外部のサービス専門会社に委託するのが一般的で
ある。通常、ABL を行っている大手金融機関は、これまで委託実績のあるサービス専門会
社の内部リストをもっており、サービス専門会社によって取り扱う在庫の得意分野・不得
意分野があることを考慮しつつ、当該在庫の種類に応じて委託先を選んでいる。
商品在庫の処分方法としては、①現地競売(on-site auction)、②ウェブ上のオンライン
競売/現地・ウェブ併用型競売(on-site-internet webcast auction)、③当事者売買又は交
渉売買(private treaty sale or negotiated sale)、④封印入札(sealed bid auction)などが
ある(図表 29)。
34
図表29 競売・オークションの実施方法
概
現地競売
on-site auction
要
・現地(on-site)で行われる競売。競売に参加す
る人々は近隣から集まってくる。10 年ほど前
までは一般的な方法。
・例えば、ある工場で機械設備の競売を行うケー
スでは、競売当日に人が集まり、その日のうち
に落札者が決まり、落札者は翌日にトラックで
機械設備を運び出して競売が終了する。
ウェブ上のオンライン競売
/現地・ウェブ併用型競売
internet webcast auction
/on-site-internet webcast
auction
・インターネット上で実施する競売。数個程度の
機械設備の売却処分のケースなど、現地に人を
集めるほどではない比較的小規模な案件に向
いている。
評価額
強制処分価格
Forced
Liquidation
Value
強制処分価格
Forced
Liquidation
Value
・インターネット上で、例えば 7 日間または 10
日間の入札期間を設定した競売として公示す
る。期日が終了した時点で最高価格入札者が落
札する。
・現地競売と、インターネットウェブ放送の両者
を 合 わ せ た 併 用 型 の 競 売 ( on-site-internet
webcast auction)も行われる。
・例えば、競売は現地工場等で行われ、同時に競
売の様子がネット上でライブ放送される例な
どがある。電話で競売人に話ができるため、現
地からは遠くはなれた事務所からでもリアル
タイムで競売に参加できる。
当事者売買又は交渉売買
private treaty sale or
negotiated sale
・資産の種類によって、どのようなバイヤーに向
ければ売却しやすいかが経験的に分かってい
るような場合、直接バイヤーに話をもちかけ交
渉しながら売却を進めるもの。
通常処分価格
Orderly
Liquidation
Value
封印入札
sealed bid auction
・複数の入札者に対して入札期限を示し、各入札
者に入札価格を封印して入札してもらう。それ
らを一斉に開札し、一番高値で入札した者が落
札する。
通常処分価格
Orderly
Liquidation
Value
(資料)各種ヒアリングをもとに作成。
(イ)「現地競売」は、借入企業の工場や倉庫などを競売会場とするもので、主に近隣から
の競売参加者を見込むケースである。比較的シンプルで、10 年ほど前までは一般的な
手法であった。
35
(ロ)「ウェブ上のオンライン競売」は、インターネット上のオークションサイトで物件処
分を行うものである。例えば、数個程度の機械設備の売却処分など、わざわざ工場等
の現地を競売会場として人を集めるほどではないレベルの、比較的小規模な案件に向
いているとされる。
また、現地競売とインターネット競売の両者を合わせた「現地・ウェブ併用型競売」
という手法もある。実際の競売が工場等の現地で実施されると同時に、その競売の様
子がネット上でライブ放送される。電話で競売人と話ができるため、遠隔地の事務所
からでもリアルタイムで競売に参加できる。インターネットを利用して競売を進める
ことが可能になったため、物件の売却市場はグローバルになり、海外のバイヤーが参
加するケースもある。
(ハ)「当事者売買又は交渉売買」は、経験的に買取ニーズのあることが推測できるバイヤ
ーに向けて、直接話をもちかけ、個別交渉しながら売却を進める手法であり、公募手
続を踏まないため、適切なバイヤーに心当たりがあれば、簡易迅速な処分が期待でき
る。
(ニ)「封印入札」は、複数の入札参加者に対し一定の入札期限を示し、各参加者に買取申
込価格を封印して札入れしてもらう方法である。
総じていうと、在庫の種類、数量、地理的条件により適切なバイヤーに心当たりがない
場合でも、(イ)(ロ)の競売手続であれば、一定期間のうちに何らかの買い手がつく可能
性が高い。半面、売却価は、強制処分価格(FLV)であり、参加者間の競争が少なければ、
低価格におわる可能性もある。
(ハ)(ニ)では、ある程度、類似物件の処分経験があるか又は時間的余裕があって、買
取ニーズのある適切なバイヤーを自力で探し出せることが前提となる。交渉等がスムーズ
に進めば通常処分価格(OLV)となり、処分価格を高めることができる。
ハ.インターネット競売と資産の状態確認
インターネット競売の場合、当該資産(在庫・機械設備等)の状態を直接確認すること
ができないため、同競売に参加し落札することにはある程度のリスクが伴う。
にも係らず、遠隔地や海外のバイヤーがインターネット競売に参加する理由は、低価格
で迅速な取得が期待できるからである。例えば、ABL サービス会社へのヒアリングによる
と、人気の新規機械設備(新品価格例 100 万ドル)を注文すれば納品までに2~3年程度
かかるようなケースでも、中古ではあるが、インターネット競売なら即座に 5 万ドルくら
いで入手できるという。これにより、落札者は当該物件をすぐにでも生産設備に組み込む
ことができ、その分、生産高も上がる。
一方、競売主催者(リクイデーター等)側では、インターネット競売により多くの参加
36
者を集めるため、競売対象物件の状態に関する情報収集・提供の努力を行っている。具体
例として機械設備の場合、まず、新規購入年月日やモデル番号、製品シリアル番号、過去
のメンテナンス記録を入手する。そして、そうしたメンテナンス記録をもとにした物件の
概要・状況に関する記述と写真をウェブ上に掲載し、バイヤーが状態の悪い機械を買い取
ることがないよう、判断材料を提供している。
競売への参加者が多くなり処分価格が高まれば、貸し手である金融機関にとってはその
分回収額が拡大する。金融機関から処分業務を委託される専門サービス会社としては、物
件を単に売りさばくのではなく、綿密なデュー・ディリジェンスを行う等により、競売参
加者から高い信頼を得ることが重要なポイントとなっている。
ニ.競売実施後の資産の配送
競売が実施され担保物の売却先が決まると、売却された物件は借入企業の工場や倉庫か
ら搬送される。現地競売などで近隣からの参加者がトラックで自ら搬送するケースもある
が、売却物件が大型・大量である場合などは、主催サービス会社が物件の梱包といった準
備や配送手配・輸送などのアレンジを行っている。大手のサービス会社の場合、こうした
輸送業務を担う運輸会社とネットワークをもっており、競売の実施から売却物件の搬出ま
での一連の業務が円滑に進められている。
37
第3章
ABL マーケットの変容と金融機関の ABL 戦略
本章及び次章では、米国における ABL の実態について、以下の金融機関や ABL 関連サ
ービス専門会社へのヒアリングにより確認された事実に基づいて考察する(各金融機関・
サービス会社へのヒアリングの詳細は、巻末の参考資料を参照のこと)。
本章では、ABL 市場においてみられる近年の変容を整理した上で、金融機関の業態ごと
に明らかになった ABL 戦略の違いについてみていく。
<現地インタビュー先一覧>
業種・業態
商業銀行
会社名
従業員数
特徴
約 14~20 万人
総資産約 12,000 億ドル以上。全米に数
千の拠点を構える大手商業銀行群。
商業銀行 A
商業銀行 B
商業銀行 C
ファイナンス・
カンパニー
サービス会社
商業銀行 D
約 10 万人弱
商業銀行 E
約 1,500 人
ファイナンス・カンパニー F
約 7,000 人
ファイナンス・カンパニー G
n.a
ファイナンス・カンパニー H
n.a
サービス会社 I
数十人規模
サービス会社 J
約 250 人
サービス会社 K
約 20 人
総資産約 6,000~8,000 億ドルのレンジ
に位置。米国内に数千の拠点を構える。
総資産約 100 億ドル超。米国内に約 70
拠点を構える。
総資産約 1,000 億ドル弱。30 以上の産
業分野でファイナンスを実施。
総資産約 3,000~5,000 億ドルのレンジ
に位置。製造業をはじめ様々な産業にフ
ァイナンスを実施。
総資産約 3,000~5,000 億ドルのレンジ
に位置。大手商業銀行グループ傘下の会
社。
主要都市に拠点を構える。担保の評価、
処分・競売を実施。
業界大手の一角。担保の評価や処分のサ
ービスを提供。
ロサンゼルス、サンフランシスコ等に拠
点を構える実地調査専門会社。
(注)このほか、サービス会社 K のクライアントである「ファイナンス・カンパニーL(従業員数約 150
人)
」に対してもヒアリングを実施した。
38
1.ABL 市場にみられる様々な変容
第一章でみたように、従来、ABL は、一般的にはキャッシュフロー貸出の対象になりづ
らいような、信用力がやや不足している中堅企業層により、運転資金を工面する目的で利
用されてきたといわれている。しかしながら、今回、米国において金融機関や ABL 関連サ
ービス専門会社を対象にインタビュー調査を実施した結果、様々な面でこうした従来の
ABL 市場に変容が生じていることが確認された。
その変容が ABL のどの側面において顕著に現れてきたのか、以下では、(1)ABL の貸出
規模、及び(2)資金の用途・目的、並びに ABL の主たるプレーヤー、すなわち、(3)貸し手
金融機関、(4)借入企業、などの動きに着眼して明らかにしていく。
(1)大型案件の組成が急増
先述の通り、従来、ABL は、主に中堅企業が運転資金を工面する目的で活用するものと
されてきた21。このため、ABL の貸出規模は、中小企業向けでは数百万ドル前後、中堅企
業向けでは数千万ドル程度と言われてきた。例えば、大手のファイナンス・カンパニーH
では、一般的な ABL の融資額は 1 百万~50 百万ドルとし、また、商業銀行 D では 5 百万
ドルが最低額で、通常の範囲は 7.5 百万ドル以上としている。各金融機関とも個別の案件で
は融資規模は大小様々であるが、典型的なファシリティサイズは、50 百万ドル~100 百万
ドルの帯域を中心に分布しているように見受けられる。
こうしたなかで、近年、ABL の大型案件の組成が急増していることが明らかになってき
た。商業銀行 A、B、C、D など、ヒアリングを行った多くの商業銀行では、近年は最大で
10 億ドルを超える大型案件の組成が確認された。平均でみても、融資先の企業規模や融資
額は大きめになっていると考えられるが、10 億ドルを超えるような大型案件の組成がみら
れることは、近年の大きな特徴であるといえる。
図表30
聞き取り先
ABL の融資規模についてのインタビュー結果
融資規模についてのコメント内容
商業銀行 A
・ 貸出額は、15 百万~10 億ドル超の範囲である。
商業銀行 B
・ ABL の一件当たり貸出額は、最小で 4.5 百万ドルであり、15 百万ドル
以下が小規模案件として数えられる一方、大型案件では 10 億ドルを超
えるものもある。平均的な貸出規模と言えば、ファシリティ規模では、
75~100 百万ドルが一般的、平均では 100 百万ドル程度であろう。
21 ABL の主な対象が中堅以上の規模の企業である背景には、貸し手にとって動産担保の期中管理・回収に
は手間がかかり、情報システム投資などもそれなりに必要とされるため、一定額以上の案件でないと割が
合わないためと考えられる。ただし、巻末資料にもある通り、小額の ABL 案件も存在しており、地域の小
規模なファイナンス・カンパニー等が小規模な ABL を実施しているものと考えられる。
39
聞き取り先
融資規模についてのコメント内容
商業銀行 C
・ 融資の規模は案件によって異なるが、小規模な案件でも 200 百万ドル
前後である。顧客との関係により 50 百万ドル規模の ABL を行うこと
もあるが、効率が高くないので案件数はあまり多くない。数百万ドル
程度の案件はない。他方、大型案件では 10 億ドル単位のものもある。
商業銀行 D
・ 融資額は、5 百万ドルが最低額、7.5 百万~10 億ドル超が通常の範囲で、
個別の規模は企業によってケースバイケースである。典型的な規模は
50 百万ドルまでの帯域。
商業銀行 E
・ 売上高に応じて融資の規模も変わる。例えば、売上高 10 百万ドル程度
の企業なら、融資額 1~2 百万ドルとなる。
ファイナンス・ ・ 融資規模は 10~500 百万ドル程度である。10 百万ドル以下の小規模案
カンパニーF
件や、10 億ドル以上といった大規模案件は行わない。
ファイナンス・ ・ 当社はファクタリングを行っており、取引の一般的な規模は 1~50 百
カンパニーH
万ドルである。
(資料)金融機関へのヒアリングに基づき作成。
(2)資金使途・調達目的の多様化
最近では、ABL を通して調達する資金の使途にも選択肢が広がり、多様性がみられてい
る。
具体的には、商業銀行 A、C、D などによると、成長著しい企業が通常のキャッシュフロ
ー貸出では成長に見合う十分な資金を獲得できない場合などに、成長に合わせて増加する
売掛債権や在庫を裏づけにするかたちで、ABL 利用を選択する例がみられる。これまでの、
借入企業の信用力不足を補うために ABL を利用するパターンとは、異なる用例である。ま
た、M&A や、買収対象企業の資産を担保にして買収資金を調達するレバレッジド・バイア
ウト(LBO)において、当該資金調達を目的として、ABL が活用される例などが増えてい
る(図表 31)。
キャッシュフロー貸出の場合、その借り入れた資金を活用し、将来的な返済原資となる
新たなキャッシュフローを生み出すことが求められるが、ABL では、最終的に返済を担保
する事業収益資産が確保されているため、M&A や株の買い入れ等、直接的にキャッシュフ
ローを生まない資金使途にも対応できると考えられる。こうした資金使途の広がりについ
て、例えば、全米規模で ABL の担保評価を行っているサービス会社 I は、「2006 年の評価
業務のうち、M&A に関連した業務が全体の7割に達した」とのことであった。このような
状況変化を受けて、同社では、M&A に関する専門家を社内に雇い入れている。
40
図表31 近年の米国における ABL の典型的な用途
局 面
用
途
経常運転資金の調達
・借入企業の信用力不足を動産担保で補完【従来型】
企業の急成長
・成長に合わせて増加する事業用資産を金融面で活用
事業拡大
・レバレッジド・バイアウト(LBO)
・M&A
・営業・販売地域の拡大/生産能力の増強
財務内容の改善
・リファイナンス/資本再構成
・株式の買い戻し
経営体質の改善・強化
・経営再建
・DIP(Debtor-in Possession)ファイナンス
・エグジット・ファイナンス(Exit Finance)
(資料)Bank of America Business Capital, “Capital Eyes”, April 2006
(3)商業銀行や投資銀行の積極的な参入
ABL は、借入企業の信用力不足を補う手法の一つと位置づけられてきたことから、これ
までは、信用力不足を理由に商業銀行があまり相手にしない企業、いわゆる「non-bankable」
な企業を主な顧客とする、ファイナンス・カンパニーが主な貸し手であると言われてきた。
しかしながら現在では、商業銀行や投資銀行が ABL 市場に積極的に参入しており、ABL
レンダーの厚みが増している。ABL レンダー(アレンジャーを含む)のランキングをみる
と、今やファイナンス・カンパニーだけでなく、大手の商業銀行や投資銀行22が名を連ねて
いる(図表 32)。
商業銀行は、近年の金融環境の変化の中から ABL 市場に新たな魅力を見出し、積極的に
参入するようになってきた。商業銀行 E によれば、「ABL による融資が新しい収入源にな
ることに気付いた」という。金融機関間の競争の激化を背景に、優良企業に対するキャッ
シュフロー貸出の分野ではますます利幅が薄くなり、高い収益を確保することが困難にな
りつつあるなかで、新たに参入領域を広げて ABL をより積極的に手がけるようになってき
たようである。
また、投資銀行は、顧客が M&A を進める際に、その資金調達策の一環として ABL を手
がけるようになった。先にみた ABL の用途が広がりをみせるなかで、投資銀行がアレンジ
ャーとして ABL 市場に参入している。商業銀行 D の担当者によると、こうした投資銀行の
参入の動きは「近年の新たな特徴」とのことである。
22 なお、巻頭でも記したとおり、本調査時点の直後から、いわゆるサブプライム問題に端を発した米国金
融市場の混乱が顕在化した。この混乱が、調査終了時点から本レポート刊行までの間に、本稿で記述する
各種プレーヤー(特に投資銀行)の事業活動にも少なからぬ影響を及ぼしている可能性がある。今後、そ
うした影響についての確認・検証が必要になるかもしれない。
41
図表32
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
ABL の主なアレンジャー上位 20(融資額・件数、2007 年第 3 四半期)
金融機関名
Bank of America
JP Morgan
Wachovia Corp
Citi
General Electric Capital Corp
Deutsche Bank AG
Goldman Sachs & Co
Lehman Brothers Inc
PNC Bank
ABN AMRO Bank NV
USB AG
Credit Suisse
Wells Fargo & CO
CIT Group Inc
Bear Stearns Cos
BNP Paribas SA
Merrill Lynch & Co inc
Morgan Stanley
GMAC Commercial Finance
SilverPoint Capital
金額(100 万ドル)
13,097.3
12,643.9
6,738.7
4,910.0
3,739.8
2,862.5
2,015.0
1,925.0
1,920.6
1,900.2
1,742.5
1,202.5
1,086.0
845.5
367.5
332.0
244.5
200.0
190.0
105.0
案件数
80
52
41
14
21
10
9
3
33
13
8
13
11
9
2
1
4
1
1
1
(資料)Loan Pricing Corporation
(4)ABL の対象層にみられる変化
ABL を利用する企業の規模についても、近年は層の広がりがみられている。これまでの
先行研究においては、ABL の利用企業の 7 割は売上高 15 百万~50 百万ドルの中堅企業で
あるとされてきたが、最近では、より大規模な企業が融資対象層に加わりつつある。例え
ば、商業銀行 B では売上高が「100 百万ドル以上」、商業銀行 C では「最低 500 百万ドル」、
などの比較的大規模な企業を対象に ABL を行っているケースが確認された(図表 33)。先
述の通り、M&A や LBO の資金を調達する目的で ABL が利用されていることから、一部
には、ミドルマーケット以上の比較的規模の大きい企業も ABL を利用していると思われる。
反対に、大規模な企業層から小規模な企業層に向けて、ABL の取り組みを進める例もあ
る。例えば、商業銀行 C では、従来は Fortun500 のような大企業しか対象としてこなかっ
たが、最近は ABL 市場での顧客獲得競争が激しくなってきているため、よりターゲットを
広げ、規模が小さい企業に対しても ABL を行おうとしている。
42
図表33
聞き取り先
ABL の対象となる企業の規模
ABL 対象企業の規模(売上高)についてのコメント内容
商業銀行 B
・ 案件数では、売上高 100~250 百万ドルの企業が大半を占める。
商業銀行 C
・ 売上高が最低 500 百万ドル程度で、10 億ドル程度の企業もある。
商業銀行 D
・ 対象となる企業の規模はまちまちであるが、売上高 200~500 百万ド
ル程度のミドルマーケットである。ただし、最も小さい企業では売上
高 50 百万ドルという例もあり、ケースバイケースである。
商業銀行 E
・ 借入企業の規模は、売上高 10~300 百万ドルである。
ファイナンス・ ・ 当社が ABL の対象としているのはミドルマーケットである。貸出先の
カンパニーF
売上高規模では、50~100 百万ドルからであり、100 百万ドル以上が
もっとも一般的である。
ファイナンス・ ・ 主な顧客は、典型的にはミドルマーケットからスモールにかけての企
カンパニーH
業層であり、売上高では 20~50 百万ドル程度だが、売上高 5 百万ドル
くらいから取引の対象としている。もっとも、なかには売上高 100 百
万ドルを超える企業への融資もある。
(資料)金融機関へのヒアリングに基づき作成。
(5)信用力からみた ABL 対象企業層の変化
第 1 章でみたように、ABL の主たる対象となる企業のイメージは、一般的には、キャッ
シュフローを生み出す力がやや弱い、信用力が若干不足している企業であるといわれてき
た。例えば、商業銀行 D の担当者によると、ABL の商品特性は、借入企業自体の信用力が
あまり高くなくても、優良な動産担保を有していれば適用することができる点であるとい
う。換言すれば、信用力の高い企業は、資金調達手段の選択肢が広く、あえて ABL のため
に事業収益資産を差し出すまでもない。
「格付けの高い大企業は、CP や無担保(unsecured)
ローンで資金調達が可能なため、ABL の対象にはならない」
(ファイナンス・カンパニーF)
ということでもある。この点で、ABL の対象企業の格付は、主にトリプル B やダブル B 以
下であるとする金融機関が今回インタビューでも確認された。
しかしながら、これはあくまで中心的な対象企業層のイメージであって、信用力の高い
企業が ABL を全く活用しないということではない。むしろ、ここ 10 年ほどの間に、企業
の資金調達場面における ABL の位置付けは大きく向上し、より利用価値のあるポジティブ
なイメージをもつものに変わってきた。商業銀行 D の ABL 担当者は、
「ABL は近年、重要
(viable)かつ積極的な資金調達手段となった。以前の ABL は、存続に必死な企業
(struggling companies)や、ほかでは融資を受けられない(non-bankable)企業のため
のものと認識されていたが、近年では、M&A における追加的な資金調達手段としてのニー
ズが高まるなど、より積極的な意味合いをもつようになった」と語っていた。財務状況が
比較的優良な企業でも、今後の事業の拡大・強化を図るため、借入余力を向上させる方策
43
として ABL による借入枠の増強に取り組むケース、また、通常のキャッシュフロー貸出と
比較してコベナンツが少なくてすむ ABL のメリットに着目し、ABL を活用するケースが増
えているといわれている。
米国ではかつて、ABL を活用する企業は財務的困難に直面した小・中堅企業であるとの
認識が市場に広がっていた時代があったとされる23。しかしながら、現在では、そうした風
潮は大きく変わっている。商業銀行 B によれば、
「米国においても、10 年位前までは、ABL
で融資を受ける企業は、経営が危うい状況に陥っているのではないかとのイメージを持た
れがちだった。しかしながら、この 10 年くらいの間で ABL というビジネスが定着し、現
在ではそのようなネガティブなイメージが抱かれることはないと思われる」という。
23
Udell(2004)
44
2.各金融機関にみられる ABL 戦略の比較
先にみたとおり、これまでの ABL は、商業銀行の貸出対象になりにくい信用力不足の企
業を中心に、ファイナンス・カンパニーが主たる実施主体になって行われてきた。しかし
ながら、近時、商業銀行が ABL 市場への参入を積極的に進めており、既存勢力のファイナ
ンス・カンパニーと商業銀行の間では、ABL 市場における適度な競合及び棲み分けが進ん
でいるものとみられる。市場全体を俯瞰して勢力分布をみるとすると、借入企業の信用リ
スクの高低などを基準に、商業銀行とファイナンス・カンパニーがそれぞれの得意領域に
軸足を置き、そこに自らの存立基盤を築いていると考えられる。ただし、個々の金融機関
における戦略の方向性にまで掘り下げると、ABL 事業を戦略的にどう位置づけるかは、そ
れぞれの機関によって相当程度異なっていることが明らかになった。
(1)商業銀行とファイナンス・カンパニーの棲み分け
大手商業銀行が ABL 市場への参入を積極化するなか、元来リスク許容度が異なるとされ
る商業銀行とファイナンス・カンパニーとでは24、一般的な傾向として借入企業層の信用リ
スクによる棲み分けが形成されてきたようである。実際、ヒアリングを行った多くの金融
機関によれば、ファイナンス・カンパニーは、商業銀行と比べて、よりリスクの高い企業
を対象に ABL に取り組んでいるとのことであった。
図表34
ABL 市場における各プレーヤーの主な顧客層
高
企業格付け・信用力
低
大
企
業
規
模
・
融
資
規
模
投資銀行
証券会社
大手商業銀行
大手ファイナンス
カンパニー
中堅地方銀行
中堅ファイナンスカンパニー
小
(資料)金融機関へのヒアリングに基づき作成。
24
商業銀行とファイナンス・カンパニーの主な顧客層の信用力の違いについては、例えば、1987~93 年
における米国の中堅・大手企業向け貸出契約データを分析した先行研究(Carey, Mark, Mitch Post, and
Steven A. Sharpe, “Does Corporate Lending by Banks and Finance Companies Differ? Evidence on
Specialization in Private Debt Contracting”, Journal of Finance, 1998)がある。これによれば、ファイ
ナンス・カンパニーから借入を行なっている企業は、商業銀行だけから借入を行っている企業と比較する
と、キャッシュフロー創出力が相対的に劣っている、あるいは負債比率の高い高リスク企業であるとされ
ている(太田・小野・野田(2007)、p.11)。
45
ファイナンス・カンパニーが商業銀行よりリスクの高い企業を主な顧客層とする背景に
は、以下の事由があると指摘されている。
まず、ファイナンス・カンパニーには預金獲得の形で資金を低利調達する機能がなく、
一般的に資金調達コストが商業銀行に比して高いため、貸付金利を高めに設定できる企業
を主要融資先とする必要がある。
一方、金融規制の強弱の差により、商業銀行にはファイナンス・カンパニーより保守的
にならざるを得ない事情もある。米銀各行は FDIC のガイドライン等に合わせた Credit
Grading System を策定しており、これは①「借入企業格付(Borrower Rating)」と、②「案
件格付(Transaction Rating)」に大別される。商業銀行における典型的な ABL 案件は、
①の企業格付の低い先を対象とし、ストラクチャリング(担保評価、モニタリング、出口
シナリオ等)を施して信用力をカバーし、②の案件格付を改善する。そして、最終的には
「非分類債権」として採り上げるのが目標とするイメージである。仮に「分類債権」にな
ると、引当を積む必要が出てくるので、少々高い程度の金利を取るくらいでは採算が合わ
なくなる。商業銀行の ABL に対する基本的な考え方や手法は、ファイナンス・カンパニー
と変わりないが、「非分類債権」とするために、リスクの取り方がファイナンス・カンパニ
ーよりも保守的にならざるを得ないのである。
(2)個々の金融機関の戦略性から生じる特徴
一般的な傾向としては、上述の「棲み分け」がみられるのは確かであるが、個々の金融
機関における ABL 事業に係る戦略や発展経緯により、ターゲットとする顧客層にもそれぞ
れ特徴が現れている。単純に「ファイナンス・カンパニーはハイリスク企業、商業銀行は
ローリスク企業」といった画一的な図式で終わらない。加えて、各金融機関は、その業態
を問わず、個性を活かして顧客のニーズに柔軟に対応し、自らの存立基盤を確かなものに
する努力を続けていることも明らかになった。
①リスクのとり方に対する姿勢の違い
まず、各金融機関の ABL 対象顧客層をその信用力でみた場合、商業銀行でもファイナン
ス・カンパニーと並んで BBB 格以下を融資対象としているところがあった(図表 35)。例
えば、商業銀行 A では、融資対象を BB 格以下としており、ケースによっては商業銀行の
方が信用力の低い企業層にまで進出していることも想定される。
また、商業銀行のなかでも、リスクをとる姿勢や体制にそれぞれ特徴がみられる。商業
銀行 A や B のように、銀行本体のなかに、銀行と別名称をつけた ABL 専用部門を設ける
ケースもあれば、ファイナンス・カンパニーH が属する商業銀行グループのように、銀行
が子会社を設立して ABL を推進しているケースもある。前者では、融資対象企業の格付基
準は、銀行本体と同じ基準が適用されるが、後者では、リスクのとり方が商業銀行本体に
46
比べてよりアグレッシブであり、独立系ファイナンス・カンパニーに近いというケースが
確認された。
図表35
聞き取り先
商業銀行 A
商業銀行 B
ABL の対象となる企業の信用力
対象企業の信用力についてのコメント内容
【ABL 対象層の信用力】
・ 典型的な ABL 案件は、BB 格付以下の企業である。
【ABL 推進体制】
・ 当行の ABL 部門は、独立した法人格はないが、別名称を掲げている。
【ABL 対象層の信用力】
・ 最も数が多い顧客層は、信用力では中位に位置する企業。
・ 商業銀行は、独立系ファイナンス・カンパニーと比べて当局の規制が
非常に厳しい。規制対象外のファイナンス・カンパニーは、我々より
リスクの高い企業に融資を行うことができる。我々は顧客の預金残高
や格付けを注視しなければならず、低格付企業に融資できない。
【ABL 推進体制】
・ 当行の ABL 部門は、個別に法人格を有してはおらず、対外名称は営業
上で用いている便宜的な名であり、当行の部署である。当行の ABL 担
当部署は、当行本体と同じ格付基準を採用している。
商業銀行 D
【ABL 対象層の信用力】
・ 対象企業の信用力は、BBB 以下である。
・ 一般的に、ファイナンス・カンパニーは、商業銀行もよりアグレッシ
ブに、リスクの高い案件を手がけているようである。
商業銀行 E
【ABL 対象層の信用力】
・ 一般的に、ファイナンス・カンパニーは、商業銀行に比べて対応でき
る企業の財務状況の幅が広く柔軟なため、同業態が ABL 市場で果たす
役割は今後も大きい。商業銀行によっては、商業銀行にかかる規制を
回避するために持ち株会社としてファイナンス・カンパニーを設立(買
収)し、そこで ABL を手がけるところもある。
ファイナンス・ 【ABL 対象層の信用力】
カンパニーF
・ 企業格付けは BBB 以下であろう。BBB 以上であれば、CP や無担保
(unsecured)ローンで資金調達が可能である。
ファイナンス・ 【ABL 対象層の信用力】
カンパニーH
・ 一部の大手商業銀行は、当社ほどリスクをとらない傾向にあり、多少
の棲み分けがある。
【ABL 推進体制】
・ ABL を実施する大手商業銀行と当社が異なるのは、当社は元から ABL
レンダーであった点である。大手商業銀行 ABL 部門のリスクのとり方
は商業銀行のそれの延長にある傾向があり、これは大きな違いである。
ファイナンス・ 【ABL 対象層の信用力】
カンパニーL
・ 当社の貸出先は、基本的には信用格付が最も低いか、格付自体を取得
してない企業が多い。
・ これらの企業は、商業銀行から融資を受けることができないか、また
は、当初は商業銀行の顧客であったが業績が悪化して商業銀行から取
引を避けられた企業、の 2 つのパターンがある。
(資料)金融機関へのヒアリングに基づき作成。
47
②金融サービスの提供に係る戦略性
ABL の実施におけるリスクのとり方には相違がみられるものの、ヒアリングを行った金
融機関の多くは、ABL や通常のキャッシュフロー貸出、さらには他の金融サービスを、顧
客に対する幅広いメニューとして総合的に供給しようとしている点で共通している(図表
36)。
具体的には、商業銀行 B やファイナンス・カンパニーF のように、同一の顧客に対して
ABL とキャッシュフロー貸出の両方を「ハイブリッド型」として提供している金融機関が
ある。資金使途や条件により、使い勝手の違う貸付商品を並行して推進している点が興味
深い。また、ファイナンス・カンパニーH では、キャッシュフロー貸出先に同時に ABL を
も行うことは稀だが、これまで ABL の対象としていた企業の格付が順次向上すれば、それ
に適した貸付商品を扱うグループ内の他の部門に引継ぐことで、顧客の資金ニーズに“シ
ームレス”で対応している。金融機関間の競争が激しいなかで、これらの例のように、提
供する商品・サービスのラインナップを充実させ、単発の取引で終わらせずに、顧客のニ
ーズに柔軟かつ切れ目なく対応しようとする努力が行なわれている。ABL は、物的な資産
担保を裏付けとする融資手法ではあるが、そこでも顧客とのリレーションシップが最重要
視されており、こうした考え方は、多くの金融機関において共通してうかがわれる。
図表36 金融サービスの提供に係る戦略性
聞き取り先
商業銀行 B
商業銀行 C
貸出商品の提供についてのコメント内容
【キャッシュフロー貸出と ABL】
・ 同一の顧客にキャッシュフローベースの貸出と ABL の両方を提案す
ることがある。どちらを選択するかは顧客が決める。当行内の通常貸
出部門と我々ABL 部門とが同一顧客に対して提案を行う。
・ 顧客の資金需要が ABL のみでは充足されない場合、不足分を通常貸出
で賄うというハイブリッドタイプの融資を行うこともある。
【サービス提供に関する戦略】
・ こうしたことを行うのは、当行内の部署間競争のためではなく、当行
として顧客をしっかりと掴んでおくためである。顧客は、基本的には
一行取引を望んではいるものの、融資を受ける際には常に他の複数の
銀行からの提案を取り寄せ比較検討している。当行としては、他の銀
行との競争に勝つために、顧客に様々な選択肢を提供している。
【キャッシュフロー貸出と ABL】
・ 当行では、通常のキャッシュフロー貸出と ABL を同一の企業に同時に
行うということはない。
・ ただし、格付けが低下しつつある企業に対し、無担保から担保ローン
にして、さらに悪化が想定された段階で ABL を使うといったことはあ
りうる。
48
聞き取り先
商業銀行 D
貸出商品の提供についてのコメント内容
【商業銀行の競争力】
・ 商業銀行の場合、外為やキャッシュ・マネジメントなど様々なサービ
スとともに包括的に金融サービスを提供できる。こうしたサービスを
ファイナンス・カンパニーは提供できない。
ファイナンス・ 【キャッシュフロー貸出と ABL】
カンパニーF
・ 基本的に、顧客に対しては ABL か通常のコーポレート・ファイナンス
かどちらか一方を提供する。しかし、ABL のリボルバーで運転資金の
融資を行い、設備投資などの資金としてキャッシュフローベースのタ
ームローンを併せて提供するというハイブリッドなサービスを提供す
ることもある。
【サービス提供に関する戦略】
・ 一顧客に対するサービスの提供という点では、当社が提供する様々な
サービスを取りまとめ、クロスセリング(cross-selling)を行っている。
【ファイナンス・カンパニーの強みと弱み】
・ 商業銀行に対するファイナンス・カンパニーの競争力の背景としては、
ファイナンス・カンパニーは、商業銀行ほど厳しい規制下にはないと
いう点があろう。
・ 他方、商業銀行は当座預金口座やキャッシュ・マネジメントなど、我々
が提供していないサービスを提供しており、この点がファイナンス・
カンパニーの弱みである。
・ 案件の発掘・営業面でも、商業銀行は独自の支店やネットワークを有
しており、そこから顧客をフォローしている。ファイナンス・カンパ
ニーは、そうした強力な支店ネットワークをもたない。
ファイナンス・ 【キャッシュフロー貸出と ABL】
カンパニーH
・ 親会社である銀行が通常融資を行っている先に、同時に当社から ABL
を提供するということは稀である。
【サービス提供に関する戦略】
・ 親会社の銀行並びに傘下の子会社 3 社が連携して、顧客に対する“シ
ームレス”なサービスの提供、“クロスセリング”を行っている。
・ 企業の財務状況や信用格付け、資金需要などは状況に応じて変化する。
格付けが低下しても資金需要が強い場合は ABL で融資を行い、時間の
経過とともに格付けが向上すれば、グループ内の他のセクションで適
切に対応する。これがまさに“シームレス”なサービスの提供であり、
当社・当グループにとって「重要な競争上の強み」となっている。
(資料)金融機関へのヒアリングに基づき作成。
49
第4章
ABL の実務における注目点
本章では、現地調査・ヒアリングを通して明らかになった点のうち、米国の ABL にみら
れる特徴的な事項、特に ABL の実務を行う上で注目すべきポイントをピックアップし、詳
述する。
1.ゴーイング・コンサーンを旨とする ABL
ABL とキャッシュフロー貸出との対比においては、
“キャッシュフロー貸出が信用力の高い
企業に貸出を行い、かつ貸出先の倒産や清算を想定しないのに対し、ABL は最初から倒産・
清算を想定し、担保の処分を念頭において融資を行う”という点がしばしば強調される。
ABL が円滑な担保処分を企図して取り組まれていることは確かであるが、実態としては、
やはり企業・事業の存続が前提となっていることに留意すべきである。
◇ 事業の継続を前提として企業の様々なリスクを踏まえることが重要
ABL は、企業の信用力を補完又は増強するために、売掛債権や在庫の事業収益資産を担
保とし、その換価価値の評価に特に重きが置かれる。そして、その価値に見合うボローイ
ング・ベースが設定され、貸し手はそれを超えるリスクを負わないことから、デフォルト
が発生しても損失が最小限に抑えられるのは確かである。しかし、担保とする事業収益資
産の価値は、当該資産に係る商流や企業体の経営が順調に推移するときにおいて最も安定
しており、借入企業が成長し貸出取引が継続・拡大してこそ、金融機関側の利益も最大化
する。対して、デフォルト発生時には、担保物件を取得できるとはいえ、多くの不確実な
要素が顕在化するおそれがある。物件処分や回収にも多大な手間とコスト・期間を要する
ことから、極力避ける方が得策である。
こうしたことから、ABL の実施に当たっては、実際上、通常貸出の審査に相当するレベ
ルで、企業の信用力の評価や、事業性、将来性に対する評価も重視されている。
例えば、商業銀行 C の担当者は、
「動産を担保にした融資とはいえ、資産を評価・モニタ
リングするだけでなく、最終的には企業の信用力を必ず確認する」と語っている。この点
については、リスク許容度が比較的高いといわれるファイナンス・カンパニーにおいても
同様であり、ファイナンス・カンパニーF では、
「基本的には、ABL でもキャッシュフロー
貸出でも同じように評価を行う。まず、企業の市場性、存在意義を確認する。次に、経営
者のマネジメント経験をチェックする。当該企業の属する産業自体のリスクについても分
析を行う。そして、当該企業のキャッシュフローを評価する」ことを強調している。
このほかにも、多くの金融機関が、ボローイング・ベースの算出時においては処分価格
を想定しつつも、実際の融資を行う上では企業の存続・事業の継続を前提としていると口
50
を揃える(図表 37)。貸出残高に見合う担保価値を確保しつつも、いざ借入企業の経営状況
が悪化し倒産しそうになった場合は、倒産を回避すべく様々な努力が行われる。これは、
リスクのとり方の面で保守的であると言われている商業銀行だけでなく、ファイナンス・
カンパニーにおいても同様である。
図表37 事業の存続を前提とする ABL の考え方
聞き取り先
商業銀行 B
・
・
・
商業銀行 C
・
・
・
商業銀行 D
・
ファイナンス・ ・
カンパニーF
ABL のリスク管理についてのコメント内容
当行はファイナンス・カンパニーに比べて、担保処分にまで至ること
は少ない。
モニタリングを通して貸出先の財務状況が悪化していることが判明し
たとしても、通常、金利を引上げることはない。むしろ、ボローイン
グ・ベースに対するリザーブを慎重に引上げる。
ボローイング・ベースでの余裕がなくなり、借入企業が資金を使い果
たしてしまうとデフォルトになってしまうが、これを回避するために
我々は何が問題点であって、それをどのように解決するかを借入企業
とオープンに協議する。
動産を担保にする融資とはいえ、資産を評価・モニタリングするだけ
でなく、最終的には企業の信用力を必ず確認する。当該企業の経営者
が借入の返済をきちんと行えるか否かを判断するためである。
最終的には企業全体の信用状況をみており、担保の評価のみに依存す
ることはない。CEO に面接し、「信用できるか、返済するか否か」を
見極めることによる部分も大きい。
ABL を行う際には、担保の評価額算定のために担保処分するケースを
想定する。しかしながら、実際の対応としては、担保処分の実施に進
む前に、融資の条件変更などの方法を取ることを先に考え、処分の実
施を回避するための努力を行う。事業の継続(going concern)を前提
としているからである。
借入企業が倒産しそうになった場合、ボローイング・ベース確認証の
提出を日次にするなど、顧客とのコンタクトを非常に緊密にすること
を通して、倒産を回避するための努力を行う。
基本的には、ABL でもキャッシュフロー貸出でも同じように審査を行
う。まず、企業の市場性、存在意義を確認する。最終的に担保処分に
至ることを恐れないが、将来性のない商品・サービスを提供している
企業に融資を行い、好ましくない結果に陥ることは避ける。次に、経
営者のマネジメント経験をチェックする。当該企業が属する産業自体
のリスクについても分析を行う。そして、当該企業のキャッシュフロ
ーも評価する。
(資料)金融機関へのヒアリングに基づき作成。
51
2.ABL の鍵となるモニタリングの徹底
ABL を行う上では、担保の評価と並んで、モニタリングが非常に重要であるとされる。
徹底したモニタリングの遂行は、担保価値の確保、借入企業の経営状態の把握、リスクの
未然防止、いざという時の効果的な回収・処分、いずれの局面のためにも不可欠なプロセ
スである。ABL を実施する金融機関は、後述するフィールド・イグザミナーなどの専門会
社をも活用しながら、モニタリングを徹底的かつ効率的に行なっている。
(1)リスクに応じたモニタリングの実施
第 2 章でみたとおり、貸し手金融機関は、日々変動する売掛債権や在庫の動向を把握・
分析するため、ボローイング・ベース確認証や実地調査を通してモニタリングを行う。先
述した通り、ABL では企業の存続・事業の継続を旨としており、損失の発生を未然に防止
するために、また、万が一損失が発生した場合それを最小限にするために、借入企業のリ
スクが高まればモニタリング実施の頻度も高めていく。融資を実行した後のモニタリング
は、ABL をきちんと機能させる上で非常に重要な作業となっている。
(2)ABL レンダーにとって大きな脅威である借り手の不正行為
一般的に、中小企業金融においては、貸し手が借り手に関する情報を充分に有していな
いという「情報の非対称性の問題」が存在する。ABL は、担保となる売掛債権や在庫の動
向をモニタリングすることを通して、借入企業の事業動向を把握し、情報の非対称性をで
きる限り克服しようとする貸出手法であるといわれている。換言すれば、ABL の実施にお
いては、日々変動する売掛債権や在庫について、その価値や動向を的確に把握することが
不可欠となっている。
ここで深刻な問題となるのが、借り手が貸し手に対し、担保である売掛債権や在庫につ
いて虚偽の報告を行うといった粉飾・詐欺的行為である。先述した通り、ABL の対象企業
は現在では必ずしも信用リスクの高い企業とは限らないが、仮に経営が苦しく ABL 以外の
資金調達手段に窮している企業であれば、モラルハザードの問題が現実化し、与信枠を維
持するために粉飾・詐欺的行為に走る可能性も少なくない。
実際、多くの金融機関は、このような不正行為の問題を強く懸念しており、その対応策
の一つとして、ボローイング・ベース確認証に借入企業の CEO や CFO などの署名を求め
ている(図表 38)。商業銀行 D の担当者は、「ABL における大きなリスクは、借入企業に
よる不正である。レンダーとしては、各種の手続きを適切に進めていれば、ABL は比較的
損失の少ないビジネスである。しかしながら、借り手が担保の数量等について虚偽の報告
をしていれば、結果として大きな損失を招きかねない。レンダー側が現地調査を通して確
認作業をするのは当然であるが、他方で虚偽報告がないことを借入企業側に「誓約」させ
52
ることも非常に重要である。我々は、借入企業の倒産を恐れてはいないが、その不正につ
いては深く注意している」と語っている。借入企業の責任者に虚偽の報告がないことを誓
約させることで、不正行為に走ることを少しでも抑止しようとしている。
図表38 モニタリングを通した不正防止
聞き取り先
商業銀行 B
商業銀行 C
商業銀行 D
不正行為防止策についてのコメント内容
・ 借入企業は、基本的に自らのボローイング・ベースを自ら計算し、CFO
は我々への報告書に誓約のサインをする。
・ 定期報告の意義の一つには、先方の CEO や CFO にサインしてもらう
こと、本人が確認して報告したものであることを受け取るという意味
もある。
・ ボローイング・ベース確認証には、必ず誓約署名を求める。ABL にお
ける大きなリスクは、借入企業による不正である。レンダーとしては、
各種の手続きを適切に進めていれば、ABL は比較的損失の少ないビジ
ネスである。しかしながら、借り手が担保の数量等について虚偽の報
告をしていれば、結果として大きな損失を招きかねない。レンダー側
が現地調査を通して確認作業をするのは当然であるが、他方で虚偽報
告がないことを借入企業側に「誓約」させることも非常に重要である。
・ 我々は、企業の倒産を恐れてはいないが、借入企業の不正については
深く注意している。
商業銀行 E
・ ABL では、融資実行後の企業に対するコントロールは、通常融資より
もかなり厳しい。
ファイナンス・ ・ モニタリングは、借入企業の信用力に応じて行われ、リスクが高いほ
カンパニーF
ど頻度が高くなる。例えば、BBB の企業であれば、評価と実地調査を
それぞれ年 1 回行うが、リスクが高くなると四半期ごとに行われる。
ファイナンス・ ・ フィールド・イグザミナーが行う業務は、借入企業の事業に何が進行
カンパニーH
しているかを包括的に分析することである。具体的には、帳簿の精査、
在庫のエージング(古い在庫)や在庫の種類の確認、買掛金のエージ
ング、税金の支払い状況、等である。実地調査で確認する事項は、当
該企業に対してどれだけの融資を行うかによる。
・ 実地調査は、端的に言えば担保の妥当性(validity)を検証することで
ある。売掛債権であれば、借入企業の請求手続きは適切であるか、請
求(売掛)額は正確であるか、ダイリューションのコストはどの程度
か、などを確認する。また、在庫であれば、借入企業が行っている在
庫評価額は適正か、月次ベースの在庫報告書(inventory report)は適
切か、などである。
・ 最も重要なことは、売掛債権が適切に当社に帰属(assign)している
か、換言すれば、出荷前に売掛に計上していないかを確認することで
ある。これは、ABL レンダーにとって非常に重大な問題で、一般的に、
財務状況が悪化し始めると、企業は出荷前に請求書を出したり、場合
によっては虚偽の請求書を提出するなど、不正・詐欺を行う可能性が
高まる。借入企業の経営陣が誠実で適切な財務管理を行っていること
が前提であるが、経営陣が不正に動く可能性があることも認識してお
かねばならない。
(資料)金融機関へのヒアリングに基づき作成。
53
もっとも、借入企業に虚偽の報告がないことを誓約させるだけでは、充分とはいえない。
一般的に、不正行為には様々なパターンがあり、これらを回避するためには、売掛債権や
在庫の動向を企業からの報告にのみ基づいてモニタリングするのではなく、不正行為を早
期発見・防止するための他の取り組みを講じることが必要となる。次項で述べる外部の専
門会社、すなわち、フィールド・イグザミナーの活用もその有効な手段である。
3.ABL の実務を支えるサービス専門会社の活用
通常の融資に比べ、ABL においては、担保物件の評価から回収まで多大な労力と専門的
知識や経験が必要とされる。ただし、この種の作業に従事する有能な人材を自社内で独自
に確保・育成することは、実態上困難であるうえ、人的資源の投入の面からして効率的で
ない。このような金融機関側のニーズに対応して、米国では、ABL 関連サービス専門会社
が全国に数多く存在している。前項で述べたように、ABL において重要なプロセスである
モニタリングを受託するフィールド・イグザミナー、多様な担保物件の換価価値を的確に
評価するアプレイザーなど、多くの専門会社が ABL を支える役割を果たしている。その存
在は、ABL 普及の基盤であり、ある種のインフラと考えることができる。ここでは、その
中から、フィールド・イグザミナーと、アプレイザーの役割について、明らかにする。
(1)徹底したモニタリングの重責を担うフィールド・イグザミナー
金融機関は、融資の焦げ付きや借入企業による不正行為を回避する上では、様々な角度
から借入企業の状況を把握することが求められる。この点で、フィールド・イグザミナー
は、実地調査を行って担保物件の存在を確認するだけでなく、借入企業の様々な情報の把
握を行っており、ABL のモニタリング作業のなかでも重要な役割を担っている。
具体的にいうと、フィールド・イグザミナーは、実地調査において、当該企業の銀行取
引明細・総勘定元帳の閲覧、顧客の動向、在庫の種類、在庫管理のシステム、他債権者に
負っている債務などの多岐にわたる情報を収集する。また、取引先と良好な関係を構築し
ているか、税金の滞納はないか、といった点も注視する。在庫については当該企業の顧客
に電話し、請求書が本当にその仕入先からのものであるかということも確認する。
実地調査を専門とし、約 20 名のフィールド・イグザミナーを擁するサービス会社 K によ
れば、企業全般や在庫・売掛債権の状況を確認する手法は、現地調査のほかにもいくつか
ある。特に売掛債権については、請求書の正確性を確認する目的で、例えば借入企業の取
引先に電話をかけ、当該取引先の買掛債務が請求書の期日と整合しているかを確認する。
また、貨物運搬事業者に電話をし、荷物(在庫)の受取期日と配達日時を確認することで、
請求書期日が正確であるかをチェックする。後者については、製品(在庫)を倉庫から搬
出して貨物運搬事業者に預けたままにしておくという粉飾行為(=請求書・出荷の偽り)
54
を防ぐためでもある。さらに、借入企業が海外との取引を行っている場合は、運送会社に
連絡し、いつ船に積荷されたか、GPS で海上のどこに船がいるか、を確認することもある。
これほどの作業を行うのは、フィールド・イグザミナーが業務上でミスを犯せば、それ
が貸し手である金融機関の損失に直接的につながる可能性が高いためである。より効果的
な実地調査を行うためには、売掛債権や担保の確認だけでなく、借入企業の全般的なパフ
ォーマンスを理解することが必要とされる。フィールド・イグザミナーは、借入企業によ
る原材料の発注、製品の製造、在庫の積み上がり、顧客への販売による売掛債権の発生、
販売代金(現金)の回収といった事業サイクルを理解・観察し(図表 39)、信用リスクや取
引リスク、コンプライアンス面でのリスクについても把握・分析を行っている。
サービス会社 K の熟練フィールド・イグザミナーは、
「米国では、借入企業が作成する各
種情報に偽りがあり、リスクが高い案件が比較的多い。よって、我々フィールド・イグザ
ミナーは、そうした事実を念頭に置きつつバランスシート等を分析し、数字の奥にあるも
のや、当該企業がなぜそのような財務状況にあるのかについてのストーリーまで理解する
ように心がけている」と語っている。モニタリングという独特のプロセスを伴う融資手法・
ABL において、フィールド・イグザミナーは、中核的な役割の一つを果たしているといえ
る。
図表39 フィールド・イグザミナーが注視する事業サイクルのイメージ
企 業
売
掛
金
変
動
現 金
フ
仕入契約
ィー
回収期間
モニタリング
売掛債権
財・サービス
の調達
納品前
もしくは
製造過程
在 庫
ル
ド
・
イ
グ
ザ
ミ
ナ
ー
販 売
事業
サイクル
在庫変動
(資料)The Office of the Comptroller of the Currency (OCC), “Accounts Receivable and Inventory
Financing : Comptroller’s Handbook” (March 2000)に基づき作成。
(2)処分経験が重視されるアプレイザー
第 2 章でみたように、ボローイング・ベースを算出する上では、売掛債権や在庫などの
55
資産を処分する際の価格を想定する。アプレイザーは、この担保物件の評価業務を担う専
門会社である。多くの金融機関やサービス会社は、アプレイザーを選定する上で、借入企
業の業界や担保物に関する専門性をみると同時に、当該資産を実際に処分した経験がある
ことも重要視している(図表 40)。
図表40 評価業務とアプレイザー選定に対する考え方
聞き取り先
商業銀行 B
商業銀行 D
ファイナンス・
カンパニーF
アプレイザー活用についてのコメント内容
・ 評価業務を委託したいと思うアプレイザーは、当該担保を実際に処分
した経験があり、かつその最近の処分価値の動向を熟知している業者
である。
・ 当行内部にもアプレイザーはいるが、外部のアプレイザーも活用する。
選定に際しては業界内での評判だけでなく、当該資産の評価・処分を
行った経験を有していることを重視する。
・ 評価は、第三者である外部のサービスを活用している。アプレイザー
には、特定のタイプの在庫に強いアプレイザーや、あらゆる在庫に対
応できるアプレイザーがいる。当社では、専門性があり、かつ同一種
類の在庫の処分を行った経験が最近あるアプレイザーに委託してい
る。会社の規模の大小でアプレイザーを選ぶのではなく、担保とする
資産の評価を直近で行った経験があれば、たとえ小さな評価会社のア
プレイザーであっても評価を委託する。
・ 評価と処分は表裏一体であり、あらゆる評価は当該時点での処分コス
トを前提にして行われる。
サービス会社 I
(評価・処分)
サービス会社 J
(評価・処分)
・ ABL と通常融資の最も異なる点は、ABL の場合、返済の代替手段とし
て、担保資産の処分(価格)を常に想定するところにある。
・ ABL では、もし融資が焦げ付きそうになると、担保を買い取って処分
する必要が生じる。その際、担保物件(在庫)をオークションに掛け
ることになるが、当社は、多くの分野でオークションの経験を有する。
アプレイザーは、こうした経験を通して評価の知見を積み重ねていく。
・ 当社の場合、評価会社であると同時に大規模な処分会社でもある。資
産を売却・処分する能力があることは、当該資産の市場価値をより深
く理解することにつながる。処分業務が円滑に行えることが、評価業
務を支えることになる。
・ 評価事業と処分事業は表裏一体であり、評価事業で得られた情報を活
用して処分事業の収益性を高めることができる。評価部門と処分部門
は協働することが必要である。この点で当社には、20 年前から「実際
の処分経験がない限り、評価をすべきではない」という基本理念をも
っている。仮に書類上での評価分析は出来ても、実際の価格を決める
のは市場である。
(資料)金融機関及びサービス会社へのヒアリングに基づき作成。
56
むすび
我が国における ABL の一層の進展に向けて
以上のように、米国では、マーケットの拡大とともに、ABL の担い手である金融機関、
対象となる企業、融資規模などが広がりを見せ、それを多様なサービス会社などが支えて
いるという構図が明らかになった。
米国のこうした状況が、
「ABL への取り組みが一定の広がりをみせつつある」25といわれ
る我が国に与える示唆とはどのようなものであろうか。
経済産業省の ABL 研究会報告書では、今後、我が国において ABL が普及していく上で
の課題として、金融機関における ABL の管理体制や ABL 関連法制度、処分マーケットの
整備など、様々な点が指摘されている。以下では、ABL の主体やプレーヤーという観点か
ら、我が国における ABL の発展に向けた課題を簡潔に考察したい。
1.ABL という融資手法に対する共通認識の醸成
『 “ゴーイング・コンサーンを旨とする ABL”という認識 』
現在、我が国では ABL に関する議論が活発化してきているが、ABL の歴史が浅いことも
あり、
「ABL とは何か」という点で共通の認識が醸成されておらず、様々な解釈がなされて
いるように見受けられる。
例えば、ABL という手法の理解を促す観点から、動産や売掛債権を単なる“添え担保”
として位置づける融資と ABL との違いを際立たせるため、ABL は担保を処分する際の価値
に着目して行う融資手法であるという点がしばしば強調されている。確かに、通常のキャ
ッシュフロー貸出において動産も含め何らかの担保が取られているケースと ABL とを混同
することは危険であるが、他方で担保の換価性、換言すればその清算・処分価値に着目す
るという点があまりに強調されると、「ABL は担保にとった資産の処分を前提にしており、
担保の処分価値を把握すればよい」ということになりかねない。これは、「企業のリスクを
精査せずとも不動産を担保にとっておけば、いざというときには担保不動産を売却して融
資を回収できる」という考え方に通じる部分がある。不動産担保に過度に依存した融資へ
の反省から、リレーションシップ・バンキングが注目され、中小企業の資金調達手法の多
様化を図るために ABL への期待が高まってきたことに鑑みれば、こうした解釈に基づく
ABL は、むしろ状況を後戻りさせることになろう。
この点、第 3 章でみたように、米国においては、担保の評価と処分が「表裏一体」であ
ることが強調されつつも、処分の実施はあくまでも最終手段であり、実態としては徹底し
たモニタリングを通して清算・処分に至る状況を極力回避する努力が行われている。その
際、評価・モニタリングを行う対象は、担保となる動産だけでなく、キャッシュフロー貸
25
週刊金融財政事情「ABL 市場発展の条件は何か」(2008 年 1 月 28 日号)
57
出と同様に企業のマネジメントや信用力なども視野に入れている。
我が国においても、ABL は、ゴーイング・コンサーンを旨とし、借入企業の成長性やリ
スクを様々な観点から分析・把握する手法であるという認識が関係者の間で共有されるこ
とが重要であろう。
『 “ABL を活用する企業は財務的困難に直面している”というイメージの払拭 』
共通認識の醸成という点では、ABL は健全な融資であるということが広まることも重要
であろう。財務状況が優良で事業の成長性が見込まれる企業であれば通常のキャッシュフ
ロー貸出で融資が受けられるので、
「ABL は信用力が低く財務状況が芳しくない企業が利用
するもの」というイメージがあると、イメージダウンや風評被害を恐れ、企業は ABL を活
用することに二の足を踏みかねない。
米国の金融機関に対するヒアリングによれば、ABL の歴史が長い米国においても、かつ
てはそうしたネガティブなイメージがつきまとったが、ここ 10 年ほどで ABL はより積極
的な意味合いを持つようになった。その背景には、「コベナンツが軽い」、「季節変動の影響
を受けやすい業種でも ABL なら柔軟に対応できる」といった、ABL のメリットへの注目が
高まったことがある。
我が国においても、企業にとっての資金調達手段の多様化という観点、換言すれば、動
産を担保とすることで従来よりも借入余地が広がるといった点を出発点としつつ、ABL と
いう融資手法がもつメリットの認識を、より広めていくことが重要であると思われる。
2.ABL のインフラ整備を企図したサービス会社の育成
上記の点と並んで重要と考えられるのが、ABL を支えるサービス会社の育成である。第
2 章、第 4 章でみたとおり、ABL の実務においては、売掛債権や在庫の評価、モニタリン
グは ABL の根幹をなす非常に重要な作業である。また、万一トラブルが発生した際には、
担保の処分が融資の出口になるため、処分業務を円滑に進められるようにしておくことも
肝要である。
これらの作業は、それぞれに高度な専門性が必要とされ、かつその円滑な遂行のために
は充分な体制を整備・構築しておくことが不可欠である。これら全てを ABL の貸し手であ
る金融機関が自前で揃えることは現実的ではない。この点で、米国においては、アプレイ
ザーやフィールド・イグザミナー、リクイデーター、オークショニア(オークション会社)
等、ABL 実務のプロセスごとに専門的機能を担うサービス会社が存在する。ABL サービス
会社は、評価やモニタリング、処分といった専門機能を有しているだけでなく、例えば小
売・流通分野での評価の専門性が高いサービス会社や、ハイテク関連在庫の処分で強みを
もつ会社があるなど、それぞれ得意とする分野を持っている。サービス会社は、自ら強み
とする専門分野を柱としつつ、商業銀行やファイナンス・カンパニーなど複数の金融機関
58
に ABL サービスを提供している一方、金融機関の側も案件に応じてサービス会社を使い分
けている。層の厚いサービス専門会社が、金融機関の ABL 実務を支えているといえよう。
一方、我が国に目を転じると、現時点では、専門性やノウハウを蓄積した ABL サービス
会社の存在は限定的であるように見受けられる。また、そうした状況からか、金融機関の
側も外部のサービス会社に対しては高い期待を抱いていないようである(図表 41)。評価、
モニタリング、処分などの面で金融機関を支えるサービス会社の育成が、ABL 普及の一つ
の鍵となっていると考えられる。
図表41 日本の金融機関が動産担保融資を実施した際に考慮した点
0
10 20 30 40 50 60 70 80 (%)
外部の動産評価専門会社の評価
評価結果を保証する機関の有無
処分価値
中古市場の有無
処分時の制約(難易度、期間、コストなど)
担保として不適格な資産の判定
保管所在地、保管場所の数
保存状態
特になし
その他
(注)n=139
(資料)経済産業省 ABL 研究会「ABL 研究会報告書」
59
参 考 資 料
60
参考1.ヒアリング録
(1)商業銀行A
総資産
約 12,000 億ドル以上
概
全米に数千の拠点を構える大手商業銀行群の一つ
要
従業員数
約 14~20 万人のレンジ
いて、借入企業はウェブ上でアクセスできるように
当行の ABL の概要
なっている。
■多様な担保・業種を扱う当行の ABL 事業
■顧客ニーズに併せた複合的なサービス提供
当行は、世界でも有数の ABL レンダーであり、
当行では、ABL 専門の子会社を置かず、銀行本体
360 億ドルの残高(コミットメントベース)を有す
の一部門が中心になって ABL を行っている。顧客
る。単独融資だけでなくシンジケーションでも大き
の多様なニーズに応えるという点では、他の部署と
な市場シェアを有する。拠点は、米国を中心に海外
も連携を図りつつ、複数の様々なサービスを提供し
も含め 20 拠点ある。
ている。銀行全体としては、ABL 以外にもシンジケ
ABL は、概ね 15 百万ドル以上の融資額で、最大
ートローン、国際的な事業展開に対する担保融資、
では 10 億ドル超というものもある。
融資の形態は、
劣後ローン、リスクマネジメント、キャッシュマネ
リボルバー(設定された貸出枠内で借り手が借入と
返済を随時行える貸出形態)
のクレジットラインや、
償還期限に柔軟性をもたせたタームローンである。
ジメント、外為・貿易サービス、M&A アドバイザ
リー、株式公開支援、リース、不動産担保融資など
のサービスを提供しており、これらをその時々の顧
コミットメントの期間(与信期間)は、一般的には
客のニーズに合わせて複合的に提供している。
3~5 年である。
業種については、これまで扱ってきた業種は 200
ABL 実務におけるポイント
以上に及ぶが、主なものは製造業、卸売業、流通業、
サービス会社、小売業などである。また、扱う担保
■「アートと科学」である担保評価
としては、売掛債権、在庫、機械設備などが中心で
ある。扱っている担保のウエイトとしては、売掛債
どのような資産が ABL 事業の対象として相応し
権が全体の 6 割、在庫が 3.5 割程度である。製造ラ
いかを把握するまでには、長い年月にわたる経験を
インや企業名(商標)といった無形資産、知的財産
必要とする。
や海外資産なども ABL の担保として扱っている。
売掛債権は、売掛先が分散していることが重要な
キャッシュフロー貸出と同様に不動産も担保として
ので、特に売掛先の集中度合いを注視している。売
扱うことがあるが、不動産はその売却に時間やコス
掛債権のダイリューション率(売掛債権が未回収と
トがかかるため、ABL で不動産を担保にするのは、
なる可能性の傾向値。本編 22~23 頁参照)の設定
いわば最後の手段である。
は、融資先の企業体や業界の事業の成り立ちを適切
ABL の資金使途としては、企業の成長資金、経常
に理解したうえで、
行うことが不可欠である。
他方、
運転資金、M&A、LBO、設備投資、リファイナン
在庫については、どんな種類の在庫をどの程度の評
ス、事業の再構築、事業再建、DIP などである。
価額とするか判断するのは、いわば「アートと科学
(art and science)
」の領域であり、その判断には長
当行の強みとしては、ウェブベースでの融資シス
テムを構築しており、口座や日々の取引の状況につ
年の経験を要する。
61
当行のアドバンス・レートは、売掛債権では 75
活用するようになるケースがある。また、劣後ロー
~85%、在庫では 65%まで、不動産では 75%まで、
ンやメザニン債での資金調達を行っていた企業が、
機械設備では 80%までが一般的である。ボローイン
財務状況の改善や成長軌道にのった場合に、シニア
グ・ベースは、融資先のリスクに応じて日次/月次
債務としての ABL にステップアップしてくるケー
で計算する。
スもある。
近年、事業活動においては、SCM(サプライチェ
さらに、上述のような企業の財務状況の変化だけ
ーン・マネジメント)の重要性が高まっている。そ
でなく、M&A や事業の承継、企業再編、LBO・
のなかで、ABL においても、在庫や売掛債権の流れ
MBO、上場から非上場への転換、DIP といった企
を把握するためには、融資先の SCM を意識するこ
業の再構築プロセスにおいて ABL が多く活用され
とが非常に重要になってきている。
ている。
また、不動産を担保にとるときには、近時、特に
■払拭されつつある ABL のネガティブなイメージ
環境問題の面に関しても敏感であることが求められ
かつては、ABL を活用する企業は、ハイリスクで
ている。
財務状況が悪化しているといった悪いイメージがあ
った。しかしながら、現在では、ABL のメリットへ
■ABL の実施に不可欠なロックボックスの活用
の注目が高まったことなどを背景に、そうしたネガ
ティブなイメージは払拭されつつある。
売掛債権の回収においては、ロックボックス(本
編 31~33 頁参照)を活用する。売掛金はロックボ
以 上
ックスに入金され、ロックボックスに入金された金
額は、貸し手である金融機関のものであると予め契
約で定めておく。ロックボックスを設定・活用する
ことで、金融機関は ABL 案件をコントロールする
権限を備えることになるので、ロックボックスは
ABL の実施において不可欠となっている。
ABL のメリット
■企業が ABL を活用する理由・メリット
キャッシュフローが相対的に少ない半面、事業収
益資産が多い企業の場合、キャッシュフロー貸出で
は融資を受けることができなくても、ABL ではより
高いレバレッジを確保することができる。ABL では、
他の貸出方式の場合と異なり、無形資産などの非伝
統的資産をも担保とすることができる。また、コベ
ナンツも軽いか限定的な構造となっている。
ABL が活用されるようになる局面は、多様である。
例えば、CP や無担保融資での資金調達が可能だっ
た企業が、一時的な財務状況の悪化などに見舞われ
たことにより、従前の調達が困難になって、ABL を
62
(2)商業銀行 B
総資産
約 12,000 億ドル以上
概
全米に数千の拠点を構える大手商業銀行群の一つ
要
従業員数
約 14~20 万人のレンジ
バーを行っている。実地調査も頻繁に行い、モニタ
当行の ABL の概要
リング、評価替えも頻繁に行う。固定資産に基づく
■ABL では資産の換価性を重視
(長期の)タームローンは、キャッシュフローが必
ずしも強くなくてもいいものであるとはいえ、我々
当行の ABL 部門は、銀行本体と別法人のような
はこの点では保守的であり、あまり扱わない。
名称を付しているが、個別に法人格を有してはおら
最も数が多い顧客層は、企業規模ではミドルマー
ず、その名称は営業上外向けに用いている名称であ
ケットであり、信用力では中位に位置する企業が多
り、あくまで商業銀行の一部署である。当行のオリ
い。企業規模の区分は、当行の場合、スモールは売
ジネーターは、全米各地のオフィスにおり、ABL を
上 100 百万ドル以下、
ミドルは 100~250 百万ドル、
専門に手がけている。また、ABL 部隊のアンダーラ
ラージがそれ以上となる。案件数でみれば、100~
イターは、全米では 15 人程度であり、彼らも ABL
250 百万ドルが大半を占める。なお、大企業で信用
のみに従事している。
力が低い(リスクが高い)というのは、航空会社な
ABL 取引の役割分担は、まず、オリジネーターが
案件を発掘し、
アンダーライターが案件を組成する。
最終的な貸出可否は、審査部が決定する。
どであり、案件の規模も大きい。また、対象となる
企業規模が同じでも、
ファイナンス・カンパニーは、
よりリスクの高い(格付けの低い)企業を相手にし
当行にとっての ABL とは、現金化可能なアセッ
ている。
トの価値をベースにした“シニアローン”
(他の債権
ABL を活用する企業は、キャッシュフローがタイ
より優先的に弁済される相対的にリスクの低いファ
トな状態か、Higher Leverage(借入金の額が大き
イナンス)である。ここでいうアセットとは、流動
い、借入比率が高い)な状態にある。通常のキャッ
性が高いものほど魅力があり、相殺(offset)対象に
シュフローベースの貸出と異なり、コベナンツが軽
ならない回収可能な売掛債権、潜在的なバイヤーが
い点も、こういった企業には利点である。
多く存在することにより売却可能な在庫などがその
リスクの低い(格付けの高い)大企業の場合、当
筆頭である。
行ではボローイング・ベースの設定は、より柔軟で
ABL においては、当該企業のパフォーマンスやキ
ある。これらの企業は優良企業であり、供給側の金
ャッシュフローというよりは、当該アセットがいか
融機関の間での顧客獲得競争が激しいため、ABL で
に現金化しやすいかという換価性(liquidity)を最
も金利は高くない。また、優良な大企業ゆえに ABL
も重視する。担保としては、売掛債権が一番よく、
で必要とされる各種報告の体制も整っており、我々
次いで日用品・消耗品タイプの在庫、機械・設備の
も評価替えや実地調査を頻繁には行わない。こうし
順である。
た企業に対しては、ブランド名などの無形資産を担
■ミドルリスク、ミドルマーケットが主な対象
保にした融資も行う。
融資先の主な業種としては、繊維、暖房用の灯油
実際に ABL の対象となる企業は、企業規模の大
やアパレルといった、在庫を多く抱え、かつ価格変
小、信用格付けの高低を問わずあらゆるところに存
動が大きく、季節性がある業種が多い。キャッシュ
在する。企業規模が小さく格付けが低い企業の場合
フローレンダーはこうした業種をあまり好まないが、
は、質の良い売掛債権と在庫のみを裏づけにリボル
ABL の場合は融資の対象となる。
63
■ABL の貸出規模と期間
るが、資本市場グループから市場コストや最近の案
件の情報を得て、審査担当者が最終的なプライシン
ABL の一件当たり貸出額は、最小で 4.5 百万ドル
グを決定する。
であり、15 百万ドル以下が小規模にあたる一方、大
型案件では 10 億ドルを超えるものもある。15 百万
■担保の適格性
ドルの貸出は当行にとっては小規模である。我々は
より大型の案件を好んでいる。
平均的な貸出規模は、
我々が実施している案件で 40 百万ドルだが、トー
担保が適格であるか否かは、アンダーライターが
判断する。
例えば、担保不適格な売掛債権の一つは、支払期
タルのファシリティ規模(リボルバーやタームロー
限が過ぎているものである。支払期限の具体的な日
ンをセットにした貸出枠)では、75~100 百万ドル
数は、業種によって異なり、90 日というものもあれ
が一般的。平均では 100 百万ドル程度であろう。残
高は、外部環境にもよるが、ファシリティ(貸出枠)
の 40~50%の利用率である。
ば、
食品産業のように 7 日間という例もある。
また、
売掛先の信用力が非常に低く倒産に近い状況にある
場合なども、不適格な売掛債権となる。
ファシリティのコミットメント期間は、だいたい
3~6 年であるが、5 年が一般的である。もっとも、
これは企業のリスクによるのであり、6 年半という
担保として不適格な在庫は、老朽化在庫、長期滞
留在庫、委託販売品(L/C 取引にみられるただの荷
受人"Consignee"が、製品販売コミッションを受け
ものもあれば、2 年という案件もある。
取っているような商品)
、
所有権が既に第三者に移っ
ているにも関わらず倉庫に保管されているもの(本
ABL 取引の流れ
来は在庫のカウントから除外しなければならないが、
これを在庫としてカウントすることがしばしばある。
■ABL に特化したオリジネーター
当行としては、フィールド・イグザミナーがこれを
ABL 取引の主なプロセスは、まず、オリジネータ
適切に確認することを期待している)の他、破損し
ーが顧客の ABL ニーズを探し出し、アンダーライ
たもの、返品されたもの、などである。
ターが案件を組成する。次に、これを基にプロポー
在庫に何某かの名前が印刷されているもの、ライ
ザルを作成し、審査部に持ち込む。最終的な貸出可
センス契約のために Licensor に払うロイヤルティ
否は、審査部が決定する。その後、契約・実行・モ
ーが義務付けられていて処分が制限されてしまうも
ニタリングとなる。当行のオリジネーターは、全米
のも不適格となる。例えば、商標・キャラクター名
各地のオフィスにおり、ABL を専門に手がけている。
が付いているもの、なかでもディズニー商品は(著
ABL は非常に特殊な融資・商品なので、これらオリ
作権管理・監視が徹底していることから)処分は難
ジネーターは、ABL に特化している。
しいと考える。
アンダーライターは、オリジネーターと協働して
担保として魅力があるのは、現金(預金担保)
、財
案件を起案、レビューをする。当行の ABL 部隊の
務省証券のような市場性の高い証券、売掛債権、在
アンダーライターは、全米で 15 人程度であり、彼
庫、機械設備である。不動産は、それがどこに位置
らも ABL のみに従事している。
するかによって処分が非常に難しくなる。商標やブ
オリジネーションから契約までに要する期間は、
ランド名なども時には非常に価値が高く魅力的であ
だいたい少なくとも 60 日程度である。ときには、
るが、具体的にどれだけの価値を設定するかは非常
融資先が決心し起案できるようになるのに 5 年間か
に難しい。
かることもある。
金利水準などの条件の決定は、
審査担当者が行う。
■担保処分の経験が求められるアプレイザー
売掛債権を分析する上では、フィールド・イグザ
金利水準などは経験的にアンダーライターが提示す
64
ミナーを現地に送り込み、その価値の把握を行って
もっとも、売掛債権のエイジングなどを考慮する
いる。在庫や設備の場合も、アプレイザーにより同
のは非常に難しい部分であり、我々自身やフィール
様のことを行う。当行は自前のフィールド・イグザ
ド・イグザミナーがこの理解をサポートするために
ミナーを抱えているが、業務多忙時には外部のフィ
出向くことがある。この点でフィールド・イグザミ
ールド・イグザミナーも活用する。
ナーは、借入企業に対面で説明を行う重要なポジシ
ョンにいる。
アプレイザー業務は、機械設備や不動産も含め、
在庫の場合は全てアウトソースしている。アンダー
こうした報告作業の習得は 2 カ月くらいを要する
ライティングの際に、デュー・ディリジェンスの過
が、それでも完璧にならないこともある。場合によ
程において評価を行い、実地調査をセットする。
っては、案件から手を引くこともある。
アプレイザーの選定は、まず、その専門性・強み
なお、モニタリング等を頻繁に行ったとしても、
を基準とする。また、借入企業の地域によって決め
そのコストは借入企業が負担するので、貸し手にと
る場合もある。また、当該アプレイザーが借入企業
っては大きな負担とはならない。もっとも、他の大
の評価を最近行ったことがあるか否かで決めること
手金融機関との競争が激しいなかでは、莫大なコス
も多い。同じアプレイザーであれば、知見・経験が
ト負担を求めることは難しく、また、借入企業側が
ある分、借入企業にとって評価コストが低く済むか
コスト負担の上限(キャップ)の設定を要求する場
らである。評価業務を委託したいと思うアプレイザ
合もある。
ーは、当該担保を処分した経験があり、かつ、その
最近の処分価値を熟知しているアプレイザーである。
■融資先のデフォルト回避への努力
融資先の資金需要が強い状況にあるとしても、基
■モニタリングの頻度と作業
本的には我々が適切であると考えるアドバンス・レ
実地調査を通したモニタリングの頻度は、借入企
ートを引上げることはない。季節要因で一時的にア
業の強さ、クレジットの質(企業の信用状況)によ
ドバンス・レートを引上げることはあっても、これ
って、年 1 回から年 4 回(四半期に一度)までと、
は融資先の要求に基づくものではない。例えば、小
案件によって異なる。
売業では、10 月~1 月にかけて在庫の価値が上がる
また、ボローイング・ベースのモニタリングも、
ケースがある。
アドバンス・レートが上昇するのは、
四半期ごと、毎月、毎日とケースによって異なる。
こうした季節・循環的な要因を考慮してのことであ
借入企業は、売掛債権や在庫の詳細、売上高、財務
る。
状況など我々が内部審査で必要とする情報を報告す
モニタリングを通して借入企業の財務状況が悪化
る。在庫の場合は月次から週次、売掛債権は週次が
していることが判明したとしても、通常、金利を引
基本的なパターンである。
上げることはない。むしろ、ボローイング・ベース
借入企業は、基本的にボローイング・ベースを自
に対するリザーブを慎重に引上げる。これは、プラ
ら計算し、CFO は当行への報告書にサインをする。
イシングの幅が契約で予め定められていること、及
当行は、それを内部で独自にチェックし、ボローイ
び、そもそも ABL の借入企業はパフォーマンスが
ング・ベースを決定している。借入企業による報告
あまり良くない先であるからである。ABL の貸出先
書の提出方法は、
FAX および e-mail の両方がある。
のパフォーマンスが悪化しても、ボローイング・ベ
借入企業にとっては、こうした報告は、以前に同
ースでの余裕があれば、当該企業がデフォルトする
様のことを行った経験がなければ大きな負担となろ
ことはない。我々は与信契約(credit agreement)
う。しかしながら、習得のプロセスを経れば負担感
へのコンプライアンスから金利を引上げることはな
が減じるし、我々からもエクセルシートのテンプレ
く、融資を続けることになる。
ートを借入企業に提供して負担軽減を図っている。
ボローイング・ベースでの余裕がなくなり、借入
65
企業が資金を使い果たしてしまうとデフォルトにな
なお、
こうしたコストは全て借入企業が負担する。
るが、これを回避するために我々は何が問題点であ
■ABL 融資を受けることに伴う風評被害
って、それをどのように解決するかを貸出先とオー
プンに協議する。
米国においても、10 年位前までは、ABL で融資
なお、金利の幅グリッド(融資を行う際の金利水
を受ける企業には、経営が危うい状況に陥っている
準の許容幅)は、しばしばボローイング・ベース対
のではないかとのイメージがあった。
しかしながら、
比でどれだけの余裕があるかで定められる。余裕が
この 10 年くらいの間で ABL というビジネスが定着
なくなるほど金利が高くなるのが一般的なストラク
し、現在ではそのようなネガティブなイメージが抱
チャーである。
かれることはないと思う。
ABL のメリットとコスト
当行の ABL 戦略
■借入企業にとっての ABL のメリットとコスト
■商業銀行とファイナンス・カンパニーの違い
借入企業にとっての ABL のメリットは、柔軟性
商業銀行は、独立系ファイナンス・カンパニーと
を確保できる点である。通常のキャッシュフローを
比べて規制が非常に厳しい。規制対象外のファイナ
ベースとした貸出と異なりコベナンツが不要であり、
ンス・カンパニーは、我々よりもリスクの高い企業
潤沢なキャッシュフローがなくてもよい。換言すれ
への融資を行うことができる。
当行の ABL 部門は、
ば、ABL 以外の融資を受けることができない企業が
銀行本体と別法人のような名称を付しているが、個
ABL の借入企業である。
別に法人格を有してはおらず、その名称は営業上外
逆に、借入企業にとっての ABL のコストは、頻
向けに用いている名称である。あくまで商業銀行の
度の高い報告やモニタリング手続きなど手間がかか
一部署であるので、顧客の預金残高や格付けを注視
る(labour intensive)点である。金利面は通常融資
しなければならないし、損失を出すことは許されな
に比べて必ずしも高いとは限らない。案件にもよる
い。よって、格付けの低い企業に融資を行うことは
が、金利は通常融資と比較してわずかに高い程度で
できない。
当行は、ファイナンス・カンパニーに比べて担保
ある。各種報告やモニタリングのコストは付加的に
物件の処分にまで至ることは少ない。ファイナン
借入企業のコストとなる。
借入企業側の ABL のコストは、一般的に融資額
ス・カンパニーは、より積極的にリスクをとりに行
が大きくなればコストも高くなるが、これは、担保
っている(信用力・格付けの低い企業に融資する)
となる資産や融資の額に対する割合でコストが定ま
ので、その分、処分まで至る機会が増えるのであろ
っているのではなく、評価やモニタリングを行う作
う。
業量や担保の種類が基準となっている。例えば、評
当行は、担保物件処分にまで至るような案件には
価・モニタリング対象の在庫を保管している倉庫が
手を出したくないので、リスクの高い企業には融資
全米に 15 箇所あれば、1 箇所に集約されている場合
を行わない。ファイナンス・カンパニーと異なり、
よりも作業量が増え、フィールド・イグザミナーの
我々商業銀行は、キャッシュマネジメントのサービ
現地訪問に要する費用(人件費、旅費)も増える。
ス等、多様な商品をもっており、これらを提供する
また、チェックする在庫の量が多ければ、その分作
ことを通して顧客とのリレーションシップの維持拡
業量も増える。結果として、評価・モニタリングコ
大を図っている。
ストも高くなる。したがって、金利の何%がコスト
であるといった計算式はない。
66
■多様なサービス提供の一環としての ABL
同一の顧客にキャッシュフローベースの貸出と
ABL の両方を提案することはある。どちらを選択す
るかは顧客が決めること。当行のなかの通常貸出部
門と我々ABL 部門とが同一顧客に対して共に提案
を行う。
顧客の資金需要が ABL のみでは充足されない場
合、不足分を通常貸出で賄うというハイブリッドタ
イプの融資を行うこともある。
こうしたことを行うのは、当行内の部署間競争の
ためではなく、当行として顧客をしっかりと掴んで
おくためである。顧客は、基本的には一行取引を望
んではいるものの、融資を受ける際には常に他の複
数の銀行から提案を取り寄せ比較検討している。当
行としては、他の銀行との競争に勝つために、顧客
に様々な選択肢を提供している。
なお、
キャッシュフローベース貸出と ABL では、
どちらが銀行にとってより収益性が高いかというと、
それはケースバイケースであって、一概には言えな
い。
以 上
67
(3)商業銀行 C
総資産
約 12,000 億ドル以上
概
全米に数千の拠点を構える大手商業銀行群の一つ
要
従業員数
約 14~20 万人のレンジ
ンス・カンパニーが参画することもある。どちら
当行の ABL の概要
が参画するかは案件の大きさによって異なり、案
■レバレッジが高い ABL 活用企業
件の規模が大きくなると商業銀行が参画するケー
スが多くなる。
ABL の部署は、fixed income(債券部門。
“債
ABL のコミットメントの期間は、契約(policy)
券”は、正式には fixed income securities(確定
上で取り扱えるのは 7~8 年である。しかしなが
利付証券)という)を担当する部署の leverage
ら、基本的に 5 年以上の案件はあまり取り扱いた
finance(企業が他企業を買収する際、被買収企業
くないと考えており、実際には 3 年前後の契約が
の資産を担保として買収資金を融資すること)グ
多い。
ループに入っている。leverage finance に属して
■将来の IPO 企業も対象に
いる理由は、ABL を必要とする会社は、基本的に
レバレッジ(借入比率)が高いからである。LBO
当行で ABL の対象となる企業は、売上高が最
(Leveraged Buyout。買収先の資産やキャッシュ
低 500 百万ドル程度であり、10 億ドル程度の企
フローを担保に買収資金を調達し、買収後に被買
業にも ABL を実施する。従来は、Fortun500(米
収企業の資産、キャッシュフロー等で返済をして
経済誌「Fortune」が公表している総収入を指標
いく M&A)の案件に絡んで ABL を実施する。
とした全世界上位 500 社の企業ランキングリス
なお、リテール部門において、小規模企業ある
ト)に入るような企業のみを相手にしていたが、
いは個人事業主に対し、動産を担保にとって融資
最近は対象を広げる方針をとり、Fortun500 以下
を行うことがある。ただし、これは、基本的に個
の企業にも ABL を行おうとしている。
人保証を入れるとか、あるいは経営者自身の生命
ただし、
あくまでもケースバイケースではある。
保険を担保にとり、動産の担保とセットにする方
今は企業規模が小さくても、将来的に IPO により
式。したがって、こうした融資は純粋な ABL で
大きなビジネスチャンスをもたらしてくれそうな
はなく、通常の担保ローンの一種と考えている。
企業であれば、顧客として取り込むため ABL を
■ABL の融資規模と期間
活用することはありうる。
融資の規模は、案件によって異なり、小規模な
案件でも 200 百万ドル前後である。顧客との関係
ABL 取引の流れ
により 50 百万ドル規模の ABL を行うこともある
■案件の発掘
が、収益効率がよくないので案件数はあまり多く
ない。数百万ドル規模の案件はまずない。他方、
ローンセールスの担当者が毎日、商業銀行や投
大型案件では 10 億ドル単位のものもある。さら
資銀行等の関係者と案件についての情報交換を行
に、その場合には、単独組成ではなく、他の商業
っている。ただし、当行の場合、ABL などの取扱
銀行やファイナンス・カンパニーとのシンジケー
商品ごとに営業を行うのではなく、顧客ごとにリ
ションで扱うこともある。シンジケーションに参
レーションシップ・マネージャーがつく。そこで
加する金融機関は、商業銀行が多いが、ファイナ
の顧客ニーズを汲み上げた結果、ABL の実施に発
68
Check Deposit)
。ただし、売掛債権と入金データ
展することがあるという流れになっている。
の整合・消しこみに作業が必要なことは、変わら
■ABL の担保種類とアドバンス・レート
ない。米国では、送り手が勝手に値引きした額の
小切手を送ってくるケースもあり、必ずしも容易
担保として最もよく扱うのは、換金性が高い売
に整合できるとは限らない。
掛債権である。在庫は全てを担保に取るが、その
なかに担保としては適格でも、あまり好ましくな
■事業の継続に向けて処分の回避に尽力
い(換価しにくい)ものが含まれる場合は、アド
ABL を行う際には、担保の評価額算定に際して、
バンス・レートを引き下げる形で対応する。不動
産は、その処分が難しいため基本的に担保に取ら
担保を処分する事態を想定する。ただし、実際に
ず、担保に組み入れてもアドバンス・レートは非
は、担保処分の手続に進む前に、融資条件変更で
常に低く設定する。売掛債権のアドバンス・レー
対応する余地等について考え、処分の実施を回避
トは 85%。また、在庫は 50%~80%である。
するための努力を行う。あくまで、事業の継続
(going concern)を前提としている。
■ABL でも企業の信用力は、必ず審査
企業の信用状況が悪化してくると、その企業や
動産を担保にした融資とはいえ、最終的には企
債権の管理は、通常のリレーションシップ・マネ
業の信用力を必ず審査しており、担保の評価のみ
ージャーの手から離れ、アームといわれる別セク
に依存することはない。担保が充分でも、当該企
ションに移管された上で集中管理が行われる。
業の経営者が返済をきちんと行う意思があるか、
能力があるかを判断する。必ず、借入申込企業の
その他
CEO に面接し、
「信用できるか、返済するか否か」
■ABL とキャッシュフロー貸出は二者択一
を見極めることは重要である。
当行では、キャッシュフロー貸出と ABL を同
■定期報告では、貸出先の責任者のサインが重要
時に同一の企業に行うということはない。
ただし、
ABL では、実際に現地調査を行い、月次~四半
格付けが低下しつつある企業に対し、無担保から
期ごとに定期報告を義務付ける。モニタリングの
担保ローンに移行し、さらに悪化が想定された段
頻度、間隔期間は、何を担保として設定したかに
階で ABL を使うといったことはありうる。
よって変わる。場合によっては、2 週間に 1 回と
当行の場合、ABL という商品を専門的に扱う部
いうケースもある。現地調査は、最低でも年に 1
署があるわけではなく、顧客ごとにリレーション
回は実施する。定期報告義務の意義の一つは、借
シップ・マネージャーがついている。顧客に ABL
入企業の CEO や CFO にサインしてもらうこと。
など何か特定のサービスを狙って売り込むという
責任者本人が確認した上で報告したものを受け取
感覚ではなく、ケースに応じて最も良い選択肢を
る意味もある。
提供することを一番としている。この点で、ABL
なお、これら定期的な評価やモニタリングに要
を専門とする部署をもち、ABL に狙いを絞ったセ
するコストは、顧客に負担してもらう。
ールスを行うような他の金融機関とは、顧客への
■売掛債権の入金管理
アプローチの仕方が異なっている。
■理論上はプライシングが低い ABL
入金管理については、ロックボックスを活用す
るが、これ以外にも、顧客側に小切手が届いた時
ABL とキャッシュフロー貸出のプライシング
点で、それをスキャニングしてデータ送信しても
は、それぞれを利用する企業層が異なっているの
らうことも可能になっている(EDC:Electric
69
で単純な比較はできないが、敢えて言えば、ABL
は担保を取るので、同じ企業相手なら ABL の方
が理論的にはプライシングは低いはずである。た
だし、ABL にかかる手数料、実地調査や評価等の
費用は基本的に顧客が負担するため、借入のため
の諸費用は、確実に ABL の方が高い。
■ABL と風評被害
動産に担保をつけたということは経営が悪化し
ている兆候なので取引を停止するといった話は、
耳にしない。
以 上
70
(4)商業銀行 D
総資産
約 6,000~8,000 億ドルのレンジ
概
米国内に数千の拠点を構える。
要
従業員数
ABL の概要
約 10 万人弱
の資金手当ての一環として ABL を手がけている。
もっとも、
投資銀行が行うのはアレンジのみである。
■組織体制
当行グループのなかで ABL を手がけているのは、
グループ内に設立した LLC であり、法人格を有し
ABL 取引の流れ
■売掛債権の適格性
ている。同社は、当行グループの親会社である持ち
株会社が保有するノンバンク子会社の傘下にある。
売掛債権の典型的な不適格基準は、次の通りであ
■主な借入企業の規模、信用力、業種、貸出規模
る。
具体的には、請求書発行日から 90 日を超えたも
対象となる企業の規模はまちまちであるが、売上
の、委託販売、反対勘定(contra accounts)
、保険
高(annual sales)200~500 百万ドル程度の企業層
金 請 求 書 な ど の 要 求 払 い 債 権 ( claim type
が中心で、
ミドルマーケットである。
しかしながら、
receivables)
、製品が発送されていない段階での請
最も小さい企業では売上高 50 百万ドルクラスとい
、作業の進捗段階に応じて発行
求書(pre-billings)
う例もあり、ケースバイケースである。なかには小
される請求書(progress billings、主に建設業など
規模企業に特化している担当者もいる。
対象企業の信用力では、BBB 以下が主対象である。
主な顧客の業種は、製造業、流通・卸売業、小売
でみられる)
、
政府債権など譲渡が禁じられている債
権、親子会社あて債権・従業員あて債権、集中度
(concentration)キャップを超過した債権(当行で
業、運送業、輸出入に携わる企業、などである。特
は 10%が一つの目安)
、海外への売掛債権等である。
に流通業や小売業は、ABL にとって非常に魅力的な
■在庫の適格性
業界である。実際、これまでの経験から、小売業は、
担保となる在庫の処分がしやすいため、製造業より
在庫の適格基準は、
企業や業界によって異なるが、
も低い金利水準にある。
共通点としては、在庫の所有権が当該借入企業に明
貸付額は、5 百万ドルが最低額、7.5 百万ドル~10
確に帰属しており、在庫を自由に取り扱うことがで
億ドル超が通常の範囲で、実際の規模は企業によっ
てケースバイケースである。
典型的な案件の規模は、
50 百万ドル程度。アンダーライトするだけでなく、
シンジケーション・アレンジも行っている。シンジ
きること、という点が大原則である。
在庫の価値は、
それがどれだけ市場性を有するか、
また、原材料、半製品、完成品といった在庫の状態
に応じて異なる。
原材料や完成品は市場性があるが、
ケーションでは、自らアレンジするケースと、他行
半製品(Work-in-Process:WIP)は、売却するの
のアレンジに参加するケースの両方がある。
が困難であり、通常は担保不適格となる。
■投資銀行の ABL 市場への参入
一般的には、不適格となる在庫は、半製品(WIP)
、
部品、多品種で、かつ、それぞれが少量の製品(処
主な ABL プレーヤーについて、近年の新たな特
徴としては、
投資銀行が参入してきている点である。
投資銀行は、彼らの顧客が M&A を進める上で、そ
分時に買い手をみつけるのが困難なもの)
、新しい・
未試験の製品(新しい技術の製品は、仮に価値があ
るとしても、当該製品が適切に機能するか否かを確
71
■ボローイング・ベース報告はモニタリングの基礎
認することが難しく、よって担保適格とするのは困
難)
、季節はずれの商品(主にアパレル・衣服関連で
融資実行時及びその後のモニタリングとして、借
多い)
、過剰在庫・滞留在庫、破損した財、時代遅れ
入企業に「ボローイング・ベース確認証(borrowing
の財、パッケージング(包装)材、半端または通常
base certificate)
」を定期的に提出するよう要求して
でない大きさや量の材、デモ製品、特注品、委託品、
いる。売掛債権や在庫が日々変動するなかで、その
傷みやすい商品(例:生鮮野菜、生魚-冷凍魚は担
現状を借入企業自身により、カウント・計算しても
保適格)や有害物、等である。
らい、その報告から、物件の各カテゴリーごとに、
■外部サービス会社の活用
適格担保の数量と価値を把握し、ボローイング・ベ
ースを定期的に見直すのである。こうした報告によ
当行内部にアプレイザーを有しているが、外部の
り、各報告時点での適格担保の現在価値とローン残
アプレイザーも活用する。外部のアプレイザーを活
高のバランスをチェックすることも可能になる。
用するのは、機械設備・不動産を評価する場合であ
ボローイング・ベース報告の頻度は、一般的には
る。外部のアプレイザーの選定については、これま
四半期に一度(年 4 回)だが、企業の信用力の変化
で評価業務を依頼したアプレイザーのリストを備え
やファシリティの利用率の高低等に応じて、月次、
ており、世間での評判だけでなく、当該資産に係る
週次、日次と頻度が高まる。実際、借入企業のなか
評価・処分を行った経験や実績を有していることを
には、毎日こうしたやり取りをしている融資先の例
重視する。
もある。
他方、フィールド・イグザミナーは全て内部の者
また、ボローイング・ベース報告の際に、追加情
であり、現地調査業務を外部・第三者に委託するこ
報として、①売掛債権の更新状況(前回のボローイ
とはない。
ング・ベース報告から現時点までの間に、追加され
なお、不動産の評価という点では、近年は環境面
た新たな売掛債権の分、回収した分、その他の調整・
(土壌汚染)が非常に重要な評価ポイントとなって
差し引き分を示した当該時点でのグロスの売掛債権
いる。
額の現状)
、②売掛債権のエイジング、③滞留在庫報
告(perpetual inventory report)
、④所在地・種類
■回収リスクに備えたアドバンス・レートの設定
ごとの在庫報告書、⑤買掛金のエイジング、⑥不適
担保処分を巡る回収リスクへの対応として、OLV
格な売掛債権・在庫、などの提出も求めている。
(Orderly Liquidation Value : 通常処分価格)と適
売掛債権と在庫のチェックは、レンダー側からも
格担保価値の差をカバーするために、アドバンス・
定期的に現地調査に赴き、借入企業の提出してくる
レート(掛け目)を設定する。アドバンス・レート
報告内容が正しいか否かを確認する。その頻度は、
を担保物件の評価額に乗じることで、担保処分のた
通常、年 2 回程度であるが、ケースによっては 3~4
めの法的費用も含めて、予見可能若しくは不可能な
回と回数を増やす。
回収コストに備えることが出来る。
こうした報告等の実施は、非常に手間がかかるも
一般的なアドバンス・レートは、売掛債権では 75
のだが、この負担の軽減を図るため、報告手続きや
~85%、在庫では 30~65%としている。在庫のアド
入力・計算を顧客ごとにカスタマイズしつつ自動
バンス・レートが低いのは、売掛債権に比べて流動
化・電子化を進めている。確認証の提出方法も以前
性が低い(回収が難しい)こと、市場の状況に応じ
は FAX であったが、現在は e-mail で送ってもらっ
て処分価格が変動するため、価値を見極めるのが難
ている。
しいこと、等がその理由である。
なお、ボローイング・ベース確認証には、必ず署
名を求める。やはり、ABL における大きなリスクは、
72
借入企業による不正である。レンダーの立場からす
最初からある程度念頭においたうえで融資を行うと
ると、各種の手続きを適切に進めていれば、ABL は
いう点である。
比較的損失の少ないビジネスである。
しかしながら、
また、ABL の場合、あまり財務面が強くない企業
借入企業から担保の数量等について虚偽の報告をさ
であっても、
担保となる動産が適格なものであれば、
れると、結果として大きな損失を招きかねない。レ
会社としての信用力だけで融資を受けるより、低い
ンダー側が現地調査を通してチェック作業をするの
金利で資金を調達することが可能である。
は当然であるが、他方で虚偽報告がないことを借入
ABL は、キャッシュフロー貸出に比してプライシ
企業側にも
「誓約」
させることが非常に重要である。
ングが高めであるが、
仮に同じレベルに下がっても、
我々は、企業の倒産を過度に恐れはしないが、借入
ABL の損失リスクは低いため、相対的にレンダーへ
企業の不正については非常に強く警戒している。
のリターンが大きくなる。確かに、コスト面では
ABL は手間がかかるが、一行が扱う ABL 総額を大
■ロックボックスの活用
きくし、いったん ABL 実施のためにインフラを構
売掛債権については、第三債務者からの入金がロ
築してしまえば、その後の一件当たりのマージナル
ックボックス(形式上は借入企業の名義になってい
コストは逓減する。
るが、実態はレンダーの管理下にある)に宛ててな
■重要性の高まりに伴う ABL のイメージの変化
されるようになっており、借入企業の口座に直接入
ABL は近年、資金調達において重要(viable)か
金されることがないようブロックしている。
つ積極的な代替手段となった。以前は、ABL は存続
■借入企業が倒産しそうになった場合の対応
に必死な企業(struggling companies)
、他の方法で
借入企業の倒産リスクが高まったら、ボローイン
はなかなか融資を受けられない企業のためのものと
グ・ベース確認証の提出を日次にするなど、借入企
認識されていた。しかし、近年では、M&A におけ
業とのコンタクトを非常に緊密にし、倒産を回避す
る追加的な資金調達手段としてのニーズが高まるな
るための努力を行う。
ど、投資銀行が新たに参入してきたことで、より積
極的な用途や意味合いをもつようになった。
また、米国では仮に企業が倒産しても、Chapter
11 に基づき、DIP ファイナンスによって会社更生時
ABL が活発化した背景には、キャッシュフロー貸
にも融資を続けることができる。その際には、弁護
出の利回りが小さくなり、商業銀行としては満足な
士等とも協働して当該企業の再生に努力をする。他
収益をあげにくくなっていることもあるだろう。
方、Chapter 7 により、大きなリスクを伴う場合に
■包括的な金融サービスを提供する商業銀行
は借入企業の清算(liquidation)を進めることもあ
商業銀行の場合、ABL だけに限らず、外為やキャ
る。
ッシュマネジメントなど様々なサービスとともに包
括的な金融サービスを提供できる。こうしたサービ
その他
スをファイナンス・カンパニーは提供できない。
■ABL とキャッシュフロー貸出の違い
また、ファイナンス・カンパニーは、商業銀行よ
借入企業の倒産・清算を視野に入れて考えた場合、
キャッシュフロー貸出と ABL の決定的な違いは、
りアグレッシブに、リスクの高い案件を手がけてい
るようである。
以 上
前者が信用力の高い企業に利幅の薄い貸出を行い、
かつ、借入企業の倒産や清算を基本的に想定しない
のに対し、
後者は借入企業が倒産・清算することを、
73
(5)商業銀行 E
総資産
約 100 億ドル超
概
米国内に約 70 拠点を構える商業銀行
要
従業員数
約 1,500 人
ABL の概要
ABL 取引の流れ
■成長過程にある企業に有用な ABL
基本的に ABL は、会社が成長する際の手助けに
■入念に行われる融資前の事前審査作業
なる手法として活用されている。従来の一般的な銀
担保の対象としては、売掛債権や在庫のほか、例
行融資の場合は、厳格に財務指標の与信基準などが
えば設備、機器、場合によっては建物や不動産など
決められており、成長途上の段階によっては優良企
も検討する。
業であっても同基準に合致しないことがありうる。
売掛債権の評価・確認については、借入企業側に
そのようなケースにおいて、通常の融資ではなく
こちらからアプレイザーを送り込み、報告などの数
ABL が活用されるのである。ABL では、基本的に
字が合っていて正しいものであることをチェックす
担保となる資産の価値・品質が重視されるので、従
ると同時に、経理方法・経理形式などが正しく行な
来の融資とはポリシーが異なる。
われているかなどをしっかりと確認する。さらに、
■ファクタリングとの違い
実際の取引について、取引先から現実に発注されて
ABL では、売掛債権や在庫を担保に取る。ただし、
企業規模が小さい場合は、ファクタリングが活用さ
いるのか、納品されているか、きちんと名義が変わ
っているか、という点についての確認も行う。
さらに、売掛債権がどの程度の期間内に入金され
れることが多い。
るかに関するエイジングレポートを作成し、分析す
ABL の場合、借入企業自体の体力という要素に加
る。エイジングレポートにおいて、具体的には、売
え、売掛債権と在庫の状態をみる。他方、ファクタ
掛債権を請求書発行日から 30 日以内のもの、31~
リングの場合は、借入企業自体ではなく、どのよう
60 日のもの、61~90 日のものに分ける。91 日目以
な企業と取引をしているかに注目する。借入企業自
降は、請求書に対する支払いがなされないものと考
体の規模的は小さいが、取引相手が大きく著名な企
え、適格担保から除外する。90 日を超えると支払い
業であれば良いという考え方である。
がなされる可能性は低いという考え方である。
■主な借入企業の規模と業種
また、買掛金のエイジングは、借入企業が期日内
に買掛先に支払いを行っているという確認を取る。
借入企業の規模は、売上高 10~300 百万ドルであ
在庫に関しては、まずは良い在庫であるか否かを
る。売上高に応じて貸付規模も変わる。例えば、売
チェックする。滞留在庫ではなくきちんと売れるも
上高 10 百万ドル程度の企業の場合は、融資額 1~2
のであることを確認する。また、技術面で優れてい
百万ドルとなる。
るもの、例えばハイテク製品の場合、その在庫製品
業種、在庫の種類によっても、融資対象となるか
の含む技術が陳腐化していないことも確認する。さ
否かが分かれる。例えば、材木関係、部品関係、水
らに、商品の性格上、腐るものや痛んでしまうもの
周りの蛇口などの部品、建物の部品などを扱う企業
であれば、腐っていない、痛んでいないことの確認
に対して ABL 融資を実行したことがあるが、農業
まで行う。
関係、具体的には、果物や野菜などは避けている。
在庫の確認・検証については、当行では外部のサ
74
企業が実際使用している機器・機材に対しては、
ービス会社を活用せず、内部で対応している。
こうした検証作業などを行い、
報告書を受け入れ、
FLV と OLV の二種類の価値を算出することを鑑定
人に依頼する。
財務状況なども分析する。
さらに、当行が ABL を行うことにより、借入企
FLV と OLV の差は、担保価値に対する与信の割
業が他行からの借入残高をきちんと返済し、買掛金
合(アドバンス・レート)にも現れる。例えば、FLV
の支払いを済ませた上で、改めてビジネスを伸ばせ
は、もともと低く見積もった価値に対しての与信と
るかどうか、成長余地が残るかどうかを検討する。
なるので、例えば 100 ドルの見積に対し 70 ドル程
当行が融資した資金が単に他者への債務返済のみに
度で処分できると考え 70%となる。他方 OLV は、
充てられてしまうと、借入企業の成長には結びつか
100 ドルの見積に対して 40 ドルか 30 ドル、もしく
ないので、基本的に借入企業にとって我々の融資が
は 25 ドル程度の割合で与える。これは、OLV のケ
役に立つかどうかを検討する。
ースでは、実際にいつ売れるかわからないという不
これらの全ての情報を集め、
それを分析した上で、
売掛債権と在庫のそれぞれに融資可能額を検討し、
確定要素を考慮するためである。
■複数の要素を加味するアドバンス・レートの決定
ボローイング・ベースを算定、クレジットラインを
設定する。
売掛債権のアドバンス・レートを決定する際には、
いくつかの要素・要因を条件として検討する。具体
■在庫の権利関係を確認する
的には、ダイリューション、借入企業の取引先の信
基本的に、在庫の存在が正確であるか確認する作
用力・レベル(Dun & Bradstreet の信用格付、評
業では、仕入価格を請求書などに基づき確認する。
価されている数字なども確認する)
、支払条件、ター
一般的に、市場に受け入れられる製品であれば担
ンオーバーである。
保の対象とするが、在庫の種類によっては、価値が
ターンオーバーとは、
取引先に請求書を出した後、
あっても対象外とするものもある。
何日以内に支払いを受けているのかという指標であ
例えば、野菜や果物の場合、農家から配送され、
り、
30~50 日以内であれば非常に良いターンオーバ
在庫として会社の倉庫に入るが、最終的に出荷され
ーであるが、逆に 80~90 日もしくはそれ以上であ
るまでは商品の権利が農家側にあるケースもあり、
る場合には、
ターンオーバーは良くないと判断する。
そのような、権利が借入企業に帰属していない在庫
■モニタリングを通した融資先企業の管理
は、対象にならない。また、ハイテク、先進技術を
含む在庫は、適格担保とみなさない。先進性が求め
ABL では、融資実行後の企業に対するコントロー
られる技術は常に進化するので、優れた技術であっ
ルは、通常融資よりもかなり厳しい。入金管理は、
てもすぐに受け入れられなくなるケースが少なくな
基本的に日々コントロールアカウントという口座で
い。
管理を行い、入金の一部(80%)をローン返済にあ
て、残りをその企業の成長のために使用する。報告
■リスクに応じた担保評価額の算出
頻度は、借入企業の信用状態によって異なり、売掛
新設の設備や機器・機材などを裏づけに融資をす
債権では日次あるいは週次のベースで報告を受ける。
る場合は、鑑定人を雇い機器・機材の価値をきちん
企業のモニタリングは、融資実行前にも行うが、
と検討させる。それによりローン資産価値比率がき
融資後にも行う。その頻度は当該企業の信用力のレ
ちんと把握できる。機器・機材の場合、3 つの評価
ベルにより異なり、例えば 3 ヶ月に1回、6 ヶ月に
方法を用いる。具体的には、①適正市場価格(FMV)
、
1回、1年に1回などと変わってくる。モニタリン
②通常処分価格(OLV)による価値、③清算価値(倒
グを通して借入企業から報告があがってきたら、記
産により売却を迫られる際の価値、FLV)である。
載されている数値を確認・検証するため、借入企業
75
の取引先に手紙を出して、売上や販売価格を含めた
ベルの幅が広いため、ファイナンス・カンパニーが
ビジネスの内容について確認する。
ABL 市場で果たす役割は重要であり続ける。商業銀
モニタリングの実施体制は、金融機関により異な
行によっては、商業銀行にかかる制約を回避するた
る。金融機関によっては内部に監査の担当者・担当
めに、銀行グループとして持ち株会社(親会社)を
組織を持っており、そうでない場合は外部のフィー
設立してその傘下にファイナンス・カンパニーを設
ルド・イグザミナー等を活用する。当行では、監査
立(買収)し、そこで ABL を手がけるところもあ
法人など外部に依頼している。外部のオーディター
る。
に監査を依頼する場合は、そのオーディターの実
以 上
績・経験等を確認するため、例えば履歴書や過去の
経験に関する情報を入手し、そのオーディターが以
前に実行した監査の報告書のサンプルをいくつか提
出してもらう。
エイジングレポート報告書および在庫の一覧表は、
少なくとも1ヵ月に1回は提出してもらうが、場合
によってはそれ以上の頻度で報告を受ける。財務諸
表については企業により異なり、ある企業は 3 ヵ月
に1回、別の例では 6 ヵ月や1年に1回の提出を求
めている。
監査作業の費用は企業側が負担する。機材・機器
の評価をする際は、
その費用も企業が支払う。
また、
厳しい監視・管理の必要性から、金利も少し高めで
ある。例えば通常融資がプライム+0.5 の場合、ABL
は、プライム+1.5 または 1.75 などになる。
■UCC ファイリング
ABL を実行する借入企業が他行とも取引をして
いるケースは少ない。仮に、対象となる担保に対し
て他行が包括的に担保権を設定している場合には、
それを外してもらうよう依頼をする。結果的には、
他行の融資残高全てを当行に移した上で、ABL を実
行することもありうる。
その他
■ABL 市場に対する商業銀行の参入
商業銀行は、ABL が新しい収入源になることに気
づいたため、事業領域を広げて手がけてきたという
のが実状である。ただし、ファイナンス・カンパニ
ーは、商業銀行に比べて対応できる企業の信用力レ
76
(6)ファイナンス・カンパニーF
1,000 億ドル弱
概
製造業や小売、運輸、通信など 30 以上の産業分野でのファイナンスを実施して
要
従業員数
約 7,000 人
総資産
いる。
ABL の概要
Management Association や Commercial Finance
Association のような組織の会合に参加して情報を
■ミドルマーケットが主な対象
集めるほか、企業を直接訪問してニーズを聞き出す
当社が ABL で対象としているのは、ミドルマー
こと(Cold Calling と呼ばれる)も行っている。
ケットである。融資規模は 10~500 百万ドル程度で
セールスのエキスパートを担当者として雇うこと
あり、それを外れる 10 百万ドル以下の小規模案件
もある。こうしたセールス担当者は複数企業のコン
や、10 億ドル以上といった大規模案件は行わない。
タクトリストをもっており、彼らが会社を移ると顧
ABL は、手間がかかる手法であり、融資額が小規模
客もついてくることがしばしばあるので、適切なセ
だとモニタリングのコストに見合わないため、ABL
ールス担当者を雇うことも非常に重要である。
の対象とはならない。
■担保資産に止まらない評価・審査の対象
ABL の借入企業の多くが格付け上、比較的リスク
基本的には、ABL でもキャッシュフロー貸出でも
の高いクラスに入っている。高格付け(低リスク)
の大企業は、CP や無担保ローンでの資金調達が可
同じように審査を行う。
能なため、当社の ABL の対象ではない。もっとも、
まず、企業の市場性、存在意義を確認する。最終
リスクの高すぎる企業には融資を行いたくはないが。
的に担保の処分に至ることは恐れないが、市場性の
ない商品・サービスを提供している企業に融資を行
■担保資産の流動性・換価性の高さが重要
い、好ましくない結果に陥ることは避ける。
担保としては、一応、機械設備や不動産のほか、
次に、
経営者のマネジメント経験をチェックする。
商標のような無形資産も扱うが、主なものは売掛債
経営者に犯罪歴や飲酒運転による逮捕歴がある場合
権と在庫である。
や、過去に事業に失敗し 2 度の倒産を経験している
どのような資産を担保にするかは、借入企業の規
場合などは融資を行わない。当該企業が属している
模や信用力に応じてではなく、当該企業の業種によ
産業自体のリスク分析も行う。ただし、自社で産業
る。サービス業であれば売掛債権が多いし、製造業
アナリストを抱えているのではなく、外部サービス
であれば売掛債権、在庫のほか、機械設備、不動産
を活用している。そして、当該企業のキャッシュフ
が対象になり、小売業であれば主に在庫が担保にな
ローを評価する。
ABL ではこうしたチェック・評価に加え、担保と
りうる。
担保の判断で最も重視するのが、その流動性・換
なる資産の確認、すなわち、資産の種類ごとに何が
価性(Liquidity)である。
処分・売却できる資産であるかといった点を確認す
る。また、仮に処分が必要な事態となった場合、借
入企業に所得税の未納・延滞があれば、州法により
ABL 取引の流れ
税関係債権が優先される場合もあり、調査の段階で
■営業チャネルは多様
把握し、処分可能価格から未納・滞納分を割り引く
案件発掘においては、
エクイティ投資家や会計士、
弁護士からも情報を入手する。自社で Turnaround
77
必要もある。
の 70%~80%が貸出額になる。
■売掛債権の評価方法・適格性
■在庫処分の経験が重視されるアプレイザー
売掛債権では、エイジング(売掛金の「年齢」
。イ
ンボイス日付から現時点までの経過日数)をチェッ
資産の評価は、第三者や外部のサービスを活用し
クする。適格性の基準として、例えば売掛金の支払
ている。
を 30 日単位で設定し、借入企業の取引先の多くが
アプレイザーには、特定のタイプの在庫に強いア
30~60 日で支払を行う場合、当社としては 60 日ま
プレイザーや、あらゆる在庫に対応できるアプレイ
での売掛債権を適格とし、60 日を超えるものは不適
ザーがいるが、当社では、専門性があり、かつ同一
格となる。
種類の在庫の処分を行った経験が最近時点であるア
また、一売掛先への集中度合いも確認する。当該
プレイザーに委託する。これは、例えば同じ小売企
企業の売掛全体の、例えば 10、15、20%が一売掛先
業の在庫でも、ジャケットやセーターと T シャツで
に集中している状況では、もしその売掛先が倒産す
は、季節によって実際の処分価格が異なるからであ
ればローン全体が大きなダメージを受けるため、集
る。評価会社の規模の大小でアプレイザーを選ぶの
中度合いの高さに制限を設ける。このほか、クロス
ではない。担保とする資産の評価を直近で行った経
エイジング(Cross Aging)と呼ばれる基準も設け
験があれば、たとえ小さな評価会社のアプレイザー
る。
であっても評価を委託する。
また、ダイリューション率(返品やクレームによ
る請求額に対する入金額の欠損度等)
をチェックし、
アドバンス・レートを調整する。ダイリューション
評価と処分は表裏一体であり、あらゆる評価は、
当該時点での処分コストをベースにして行われる。
■借入企業が負担する評価作業のコスト
率があまりに高いと、アドバンス・レートを引き下
げる。例えば、ダイリューション率が 5%なら、ア
評価にかかるコストは、借入企業が原則負担する
ドバンス・レートは一般的な水準として 85%が適用
ので、事前にそれに当てるデポジットを要求する。
されるが、5%以上なら、それを 80%以下に引き下
デポジットの規模は、ミドルマーケットの企業であ
げるといった形で調整する。
れば 50,000~75,000 ドル、大規模案件であれば
100,000~150,000 ドルである。このデポジットは、
■在庫の評価方法・適格性
我々の旅費(実地調査等)や第三者への委託費とし
在庫については、評価のために現地調査を実施す
て使用される。50,000 ドルもあれば案件をスタート
る。当社では、社内にフィールド・イグザミナーを
できる。
抱えており、外部のフィールド・イグザミナーを活
■審査・クロージング(契約)
用する場合もある。外部サービスを活用するのは、
業務の繁忙期や案件の規模が大きい場合である。
以上のような評価プロセスを経て、審査委員会に
融資対象となる在庫は業種によって異なり、例え
向けてメモランダムが提出される。メモランダムに
ば製造業の場合、原料や完成品は第三者に売却しや
は、当該案件の経緯、企業の業務内容、貸出条件、
すいので対象となるが、スクリーンを取り付ける前
財務状況とキャッシュフロー、当該企業の産業・業
のテレビのような中間製品・仕掛り品は、換価性が
界動向、経営陣、担保、アンダーライターからの助
ないため扱わない。小売業では、在庫商品の大半に
言と留意点などが取りまとめられている。
換価性があるので、それらを対象にできる。アドバ
案件発掘からメモランダムの作成・提出までには、
ンス・レートは、処分のし易さによって異なる。
ケースバイケースで 2~6 週間程度の時間がかかる。
ちなみに、不動産は、公正市場価格(FMV)の
メモランダムが提出されると、差し戻されるケース
75%、機械設備は、ネットの通常処分価格(OLV)
を除けば、融資決定までは通常 1~2 日間である。
78
決定がなされれば、コミットメントレターが作成
てる競争力の源としては、ファイナンス・カンパニ
される。コミットメントレターにサインがなされる
ーは、商業銀行ほど厳しい規制の下にはないという
と、クレジットアグリーメントやセキュリティアグ
点である。商業銀行は、ガイドラインの下で不良債
リーメントが準備される。財務コベナンツも盛り込
権を抱えることへの規制が厳しく、商業銀行では融
まれるが、ABL の契約文書で重要なのは、担保の適
資できない企業の担保も、当社にとっては ABL の
格・不適格の基準設定に留保を設けておくことであ
対象になる。
る。あまりに厳密な規定を設けると、後のビジネス
他方、商業銀行は、当座預金口座やキャッシュマ
環境の変化に対応することができなくなってしまう。
ネジメントなど、ファイナンス・カンパニーが提供
できないサービスを売り物にしている点が強みであ
■信用力に応じて実施されるモニタリング
る。案件の発掘・営業面でも、商業銀行は、独自の
契約が済めば、ポートフォリオ管理とモニタリン
支店やネットワークを有しており、そこを起点に顧
グが行われる。モニタリングは、信用力に応じて行
客を訪問したりしている。ファイナンス・カンパニ
われ、借入企業の信用リスクが高いほど頻度が高く
ーにはそうした支店ネットワークがない。
なる。例えば、BBB の企業であれば、評価と実地調
これを補うため、当社はエクイティ投資家やヘッ
査をそれぞれ年 1 回行うが、信用リスクが高くなる
ジファンドなどから情報を得ることがある。彼らは
と四半期ごとになる。ボローイング・ベースの見直
マーケットを注視しており、企業買収や負債の買い
しも同様であり、通常、四半期ごと~1 ヵ月ごとで
取りなど市場の資金の流れをよく見ているので、オ
あるが、
信用リスクが高まると週次で行う。
ただし、
リジネーターとしての重要性が高まっている。
また、
処分・回収が視野に入らない限り、日次では行わな
弁護士や会計士などからも案件の情報を得ているほ
い。
か、企業訪問や電話攻勢で情報を収集している。
また、評価実施の頻度は、担保となる在庫の入れ
■通常融資に対する ABL の強み
替えがどの程度の頻繁で行われるかによっても異な
る。例えば、百貨店等では冬にコート、夏にシャツ
ABL でも、通常融資と同様、企業のキャッシュフ
が在庫となるため、年に 2~3 回程度の頻度で評価
ローに関して、損益計算書をチェックし、貸借対照
を行うが、例えば不動産などの場合はそこまで頻繁
表も確認する。両者で最も異なる点は、ABL の場合、
には行わない。
融資回収の代替手段として、担保資産の処分(価格)
を常に想定するところにある。
個人的な考えであるが、ABL の場合、評価や実地
その他
調査に基づいてアドバンス・レートを適用し、ロー
■ファイナンス・カンパニーの競争力
ンを実施する時点で担保の処分を想定することがで
きるため、潜在的なロスをコントロールしやすいこ
借入企業に対するサービスの提供としては、当社
とが利点となる。融資実行から時間が経過してもモ
が提供できる様々なサービスをファシリティに取り
ニタリングを通してアドバンス・レートや担保適格
まとめ、クロスセリング(cross-selling)を行って
性を調整することができる。これに対し、通常融資
いる。ABL と通常のコーポレート・ファイナンスの
の場合、貸し手が自らの身を守る唯一の方法は、財
使い分けについては、どちらか一方だけ提供するの
務コベナンツのみである。
が基本だが、ABL のリボルバーで融資を行い、キャ
以 上
ッシュフローベースのタームローンを併せて、ハイ
ブリッドなサービスとして提供することもある。
商業銀行に対してファイナンス・カンパニーが持
79
(7)ファイナンス・カンパニーG
総資産
約 3,000~5,000 億ドルのレンジ
概
医療、製造業、通信、建設、エネルギー等の分野を始めとする様々な産業へのフ
要
従業員数
―
ァイナンスを実施している。
ABL の概要
であれば、なおさら処分は困難であり、業界全体の
動向を把握することが重要である。例えば繊維・縫
■借入企業の規模、特徴
製関係であれば、米国内では、もはや当該業界は成
企業向け融資の典型的な顧客層としては、売上高
り立っていないため、縫製機械を担保にとっても処
が 50 百万ドル程度のミドルマーケットであり、最
分は困難である。
低でも 10 百万ドル以上である。
■クロージング、案件管理
ABL の業界分野として小売業は非常に重要であ
り、当社では専門的に取り組んでいる。小売業は、
コベナンツでは、対象とする在庫、対象としない
在庫が多く、また、その評価が比較的容易で処分も
在庫をはっきりと規定し、追加の借入金や新たな買
しやすいので ABL の良い顧客となっている。流通
収をしないことなどを取り決めている。
関係では、ドラッグストア、医薬関係、食料品など
ボローイング・ベース(貸出基準額)のチェック
が閉店セールなどによる処分が容易なため、扱うこ
については、なかには 1 日ごとという極端なケース
とが多い。
もあるが、通常は一ヶ月ごとに見直す。当社では、
他の業種としては、自動車関係、食料、飲料、農
請求書の発行やロックボックスでの回収額の動向な
業関係業界となどもある。西海岸では特に農業分野
どを一日単位で管理するためのシステムを構築して
の案件も多い。
おり、それで一日単位での貸出基準額の管理や見直
しができる。なお、こうしたシステムは一部の専門
会社によって販売されている。
ABL 取引の流れ
■担保の評価
その他
売掛債権の評価は社内で対応し、ダイリューショ
■ABL とキャッシュフロー貸出
ン分析などを行う。ダイリューションについては、
ABL は、基本的には、信用リスクの高めの企業が
過去 2 年間のデータを用いて分析する。他方、在庫
活用する融資手法であり、キャッシュフローベース
の分析は、外部のアプレイザーに依頼する。
処分を考える際、対象業界・産業の個別動向を理
の融資が受けられる企業は ABL を活用しない。た
解・把握することが重要であるため、社内に産業ア
だし、有望な企業は ABL を活用しないという意味
ナリストを抱えている。製造業の場合は、当該業界
ではなく、成長の早い企業などは ABL の対象とな
のほか、同業界の製品を購入して事業をする川下工
る。
程の業界についても十分に分析しておく必要がある。
ABL は、担保の評価やモニタリングにおいて正し
製造業に関しては、当社内のリース事業部門から、
いアプローチを維持すれば、比較的ロスがない安定
当該業界の情報を入手することもある。
したビジネスである。他方、キャッシュフロー貸出
製造業における製造機械などは処分が難しい。特
では、大きな環境変化さえなければ何もしなくても
に、業界自体で海外移転が進行しているような業界
よいかもしれないが、環境変化や業況の悪化が急速
80
に進むとフォローしきれない面がある。
ABL とキャッシュフロー貸出は、金利水準の面で
あまり大きな差がなくなってきている。ただし、
ABL では、評価コストなどをはじめ、他の様々なコ
ストを借入企業が負担しなければならない。
以 上
81
(8)ファイナンス・カンパニーH
総資産
約 3,000~5,000 億ドルのレンジ
概
大手商業銀行グループの傘下にあるファイナンス・カンパニー
要
ABL の概要
従業員数
―
部門もある。他方、ときには売上高 100 百万ドルを
超える企業への融資もあるが、その場合はプライシ
■グループ全体でのシームレスなサービスの提供
ングに非常に敏感な取引になる。
当社の親会社である商業銀行は、米国の他の商業
主な対象は、流通業、製造業、小売関連の製品を
銀行のスタイルと少し異なり、ABL やファクタリン
扱っている輸入業者などである。当社はより消費者
グなど様々な分野の融資に特化したファイナンス・
関連製品に特化しており、融資の約 60%はアパレル
カンパニーを買収することで体制を構築してきた。
関連の企業向けである。このほか、エレクトロニク
当社はファクタリングを行っており、取引の規模
ス、家具、玩具、家電、食料品なども扱っている。
は融資額で 1~50 百万ドルである。また、輸出入業
流通業を通して売却することが可能な消費者関連商
者を対象にトレードファイナンスも積極的に扱って
品を対象とし、主な顧客企業は小売業である。大手
おり、柔軟性に富む信用状(L/C)プログラムを提
小売業に限らず、専門小売店も対象としている。な
供している。この点は、米国における競合他社と比
お、顧客企業の取引先(第三債務者)の信用力をは
較した当社の特徴である。
かる部門が NY にある。
当社の一般的な顧客企業には、通知(notification、
当社のほかにも子会社があり、親会社の銀行並び
に傘下の子会社とともに、顧客に対する“シームレ
債権者(顧客企業)が債権をファクタリング会社に
ス”なサービスの提供、
“クロスセリング”を行って
譲渡した事実を債務者(顧客企業の取引先)に知ら
いる。
グループ内の営業部隊が案件を発掘した場合、
しめること)
・ノンリコース(売掛債権を償還請求権
それをグループ内のどの部門・子会社が担当するの
なしに買い取ること)ベースでファクタリングを行
がよいかを、各部門・子会社のシニアマネージャー
っているので、顧客の取引先の信用リスクを負担す
レベルで密に連絡を取り合って検討する。ときに部
る。仮に、顧客の取引先が財務状況の悪化により支
門・子会社間での案件の取り合いになることもある
払いができなくなった場合、当社がそのロスを引き
が、グループ内で調整している。当行グループの理
受けることになる。なお、非通知ベースでのファク
念としては、顧客に対し、特定のサービスを提供で
タリングも行っている。
取引においては、売掛債権と在庫の両方を扱い、
きる部門がないよりは、多少調整が必要でも、グル
トレードファイナンスも行う。
ープ内に当該サービスを扱える部門が複数ある方が
望ましいと考えている。
ABL 取引の流れ
■主な顧客と融資規模
■借入企業に提出を求める情報
ファクタリングにおける一般的な買取額は、1 百
万ドル~50 百万ドルである。主な顧客企業層の規模
借入企業に提出を求める情報は、一般的には、過
は、ミドルマーケットからスモールが中心で、売上
去 3 年の財務諸表、
売掛債権・買掛金のエイジング、
高で言えば 20~50 百万ドル程度だが、売上高 5 百
在庫のエイジング、手元在庫のリスト、今後一年間
万ドルの企業あたりからが取引の対象となる。もっ
のキャッシュフロー見通しである。
とも、さらに規模の小さい企業を専門に扱っている
キャッシュフロー見通しは、担保が売掛債権のみ
82
の場合は提出を求めないときもあるが、在庫が含ま
引の場合で、ネットの OLV(通常処分価格)で評価
れる場合は必ず提出を求める。キャッシュフロー見
を行う。アドバンス・レートは、85%が上限である。
通しは、通常 12 ヶ月分であるが、借入企業の事業
もう一つは、顧客企業が知的財産を担保にタームロ
の見通しがしやすい場合は、期間が短縮されること
ーンを受ける場合である。この場合、ネットの OLV
もある。
と FLV(公正市場価格)の両方をみる。アドバンス・
レートは、案件のリスクや清算のし易さに応じて大
■売掛債権の適格性
きく異なる。また、現在は不動産を担保にした取引
はないが、不動産を担保とする場合にもアプレイザ
不適格な売掛債権としては、後日になって何か明
ーを活用する。
示的ではない義務が発生する建設関係の売掛債権の
ように、時の進行にともなって権利義務等の変化が
上述は、ファクタリングのケースであるが、ABL
組み込まれている売掛債権や、医療関係の売掛債権
でも大きな違いはないだろう。ファクタリングと
(業種の特殊性が非常に強いため)などである。適
ABL の主な違いは、ファクタリングを行っている
格債権として取り扱っているのは、特に、サービス・
我々の方が売掛債権をより積極的に管理している点
消費者関連製品の売掛債権が中心である。
である。
歴史的にダイリューション率が非常に高い種類に
■ABL 実施の前提となる UCC サーチ
該当する場合、当社ではアドバンス・レートを調整
することで対応している。ダイリューション率の傾
UCC ファイリングについては、外部の民間企業
向をつかむためには、実地調査の積み重ねが重要に
に UCC サーチを委託している。第一の目的は、我々
なってくる。
よりも先に UCC ファイリングを行っている者がい
ないことを確認することである。万一、第三者がフ
■個人保証の徴求
ァイリングを行っていることが判明した場合は、ロ
ーンを実行する前に当該ファイリングを終了しても
競争状況や案件のリスクにもよるが、借入企業に
対して 20%以上の出資持分がある個人から個人保
らうか又はリリースしてもらう。
それが完了したら、
証を徴求する。もっとも、借入企業が大企業の場合
融資を行う前にファイリングを行い、以後、我々の
は、個人保証を徴求せず、単に当社が受け取る売掛
ファイリングが有効であることを継続してモニター
債権が虚偽でない(true)債権であることを保証す
する。
る正当性保証(validity guarantee)を求めるケース
通常の案件では、UCC ファイリングの際に、借
入企業の全ての資産をファイリングする。
が多い。また、公開・未公開株式の保有者に機関投
UCC サーチは、様々な州をカバーする。通常、
資家がいる場合も、個人保証をあまり徴求しない。
企業がどの州で設立登記を行ったかによる。
例えば、
■ファクタリングにおける在庫の評価
カリフォルニアで設立された企業であれば、カリフ
在庫を担保にする場合は、在庫の評価(appraisal)
ォルニアで UCC サーチを行う。こうしたサーチは、
を行う。在庫評価では、いくつかの外部企業を活用
インターネットではできない。有料のインターネッ
している。それら評価会社は、当社や他のグループ
トサービスを用いれば、情報をある程度把握するこ
子会社が在庫評価で長年に亘り活用しているサービ
とも可能であるが、必要とする情報全てを入手する
ス会社であるが、必ずしも大規模なサービス会社で
ことはできない。
はない。主に活用している評価会社は、全米で 3 社
■ロックボックスを活用して資金の流れを支配
ほどである。
評価に際してアプレイザーを活用するのには、二
借入企業には、ロックボックスの利用を義務付け
つのケースがある。一つは、在庫をベースとした取
ている。ロックボックスは国内で集約化されている
83
が、地域内でのロックボックスの活用を望む企業に
チェックである。実地調査で確認する事項は、当該
対しては、なるべく希望に沿うようにしている。
企業に対してどれだけの融資を行うかによって、変
ファクタリング・ABL を行う上で、こうした資金
動する。売掛債権のみを担保にするのであれば、在
の流れのコントロールを行わないというのは、ほと
庫の確認は非常に限定的な作業となる。
んど稀である。
実地調査は、端的に言えば担保の妥当性を検証す
る作業である。売掛債権であれば、借入企業の請求
■通常貸出よりも負担が重い ABL のモニタリング
手続きは適切であるか、請求(売掛)額は正確であ
商業銀行による通常のコーポレート・ファイナン
るか、ダイリューションのコストはどの程度なのか
スやリレーションシップ貸出と、ABL との大きな違
等を確認する。在庫であれば、借入企業が行ってい
いは、
モニタリングや各種報告を求める点であろう。
る在庫評価額は適正か、月次の在庫報告書
もちろん、
トレードオフもあり、
各種報告の作業は、
(inventory report)は適切か、などが確認事項で
通常貸出よりも負担が重い。
ある。
借入企業から提供された情報が内部基準を充たし
なお、フィールド・イグザミナーは内部で雇用し
ていれば、
、モニタリングの観点から、在庫確認証
ているが、外部のサービス会社を活用する場合もあ
(inventory certificate)を月次で提出してもらう。
る。外部のフィールド・イグザミナーは、これまで
売掛債権は日次でモニタリングを行っているが、そ
長い間、当社との取引実績を有している。
の頻度はリスクの程度によってまちまちである。
■借入企業の不正・詐欺行為は、大きな脅威
■実地調査を通して担保の妥当性を検証
最も重要なことは、売掛債権が適切に借入企業に
実地調査の頻度は、
案件のリスクに応じて変わり、
帰属しているか、換言すれば、出荷前に売掛金を計
リスクが高くなるほど頻度も高くなる。典型的な案
上していないかを確認することである。これは、
件では年 2 回以上で、在庫も担保に入っているか、
ABL レンダーにとって非常に重大な問題で、一般的
企業のパフォーマンスが予測にどれだけ一致してい
に、財務状況が悪化し始めると、借入企業は、売上
るか、企業の収益性は高いか、などの要素を勘案し
の計上を急いで出荷前に請求書を出したり、場合に
て、4 回またはそれ以上になる。売掛債権は日次で
よっては虚偽の請求書を提出するなど、不正・詐欺
管理しているため、ダイリューション率を日次で分
を行う可能性が高まる。このため、借入企業の経営
析することが可能である。
陣が誠実で適切な財務管理を行っていることが前提
であるが、経営陣が不正に動く可能性があることも
こうして収集した情報は、記録として保管する。
認識しておかねばならない。
これにより、循環的・季節的変動を把握することが
でき、一年のうち何月にダイリューション率が高く
■実地調査の費用は借入企業が負担
なる傾向にあるか等を理解することが可能となる。
フィールド・イグザミナーが行う業務は、借入企
実地調査の費用は、借入企業が支払う。外部のフ
業について、現在、何が進行しているかを包括的に
ィールド・イグザミナーの費用は、近年、上昇傾向
分析することである。具体的には、帳簿の精査、在
にあり、5 年前なら 600 ドル/日であったが、現在
庫のエイジング(在庫の滞留度)や在庫の種類の確
では 800~900 ドル/日まで上昇している。通常の
認(季節の変動に応じた適切な在庫か、セール対象
規模の企業で在庫評価も含めた典型的な現地調査は、
の在庫となるのか、等を把握する。例えば、白い T
5 日間程度、総額で 15,000 ドル程度かかる。
シャツは通年で販売可能だが、コーデュロイの衣服
借入企業に対しては、実地調査の費用は、借入企
は夏には販売できないので、在庫の適格性に違いが
業とのローンアグリーメントにおいて一日あたりい
ある)
、買掛金のエイジング、税金の支払い状況等の
くらと定めておく。一般的には 750~1,000 ドル/
84
日程度のレンジである。もっとも、交渉によって上
能である。
限額にキャップが設けられることもある。借入企業
総じていうと、ABL の借入企業は、必ずしも格付
がデフォルトになった場合は、フィールド・イグザ
けの低い(リスクの高い)企業とは限らない。数年
ミナーとともに現地に入る権利を留保しておく。そ
前までは、米国においても、ABL を活用する企業の
の費用も借入企業が負担する。
典型は、バランスシートや PL などが傷んだ企業で
あったが、現在ではそうではない。昨今の ABL 市
場では、優良企業であっても、商業銀行が提供する
その他
厳しいコベナンツ付きの融資を嫌い、より柔軟性を
求めて ABL の活用を希望する例も多々ある。
■金融機関によって異なるリスクのとり方
例えば、スノーボードメーカーの場合、スキーシ
一部の大手商業銀行は、当社ほどリスクをとらな
ーズン中は、大量の製品を出荷するため、シーズン
い傾向にあり、多少の棲み分けがある。彼らと当社
前に非常に多くの在庫を積み上げる必要がある。
が異なるのは、彼ら商業銀行が業務範囲を拡大して
ABL では、これを担保に必要在庫量に見合った融資
ABL を手がけるようになったのに対し、当社や他の
が可能になる。その後、シーズンに入り、出荷が増
グループ子会社は、元から ABL レンダーであった
えて在庫が減少するに従って、当該企業に対する融
点である。彼らはリスクのとり方が商業銀行のそれ
資可能額(ボローイング・ベース)も低くなる。こ
の延長線上にある。これは大きな違いである。
のような、企業自体は優良でも、非常に季節変動の
ちなみに、近年は、投資銀行なども積極的に ABL
大きい業種に対しては、商業銀行はあまり融資に前
市場に参入している。もっとも、投資銀行は、他の
向きにならないので、ABL の適用価値が高まるので
多くのレンダーがあまりリスクを引き受けない部分
ある。
で参入して、市場シェアの拡大を図ることを目的と
もっとも、確かに ABL の借入企業は、通常融資
しているように見受けられる。マーケットの情勢が
の借入企業よりもいくらか格付けが低い。個々の格
悪化すれば早急に撤退するだろうし、そうした戦略
付けが低い企業への貸出は、借入企業から月次で提
は、あまり優れたものではないとみている。
出されるボローイング・ベース報告書
なお、ファクタリングの世界では、基本的に一行
(borrowing-base certificate)をチェックするだけ
取引が多い。これは、借入企業の取引先が、買掛債
でなく、日次で担保のレビューを行うことで可能に
務の支払いを複数の金融機関に対して行うことを好
なる。また、当社では、内部で独自の格付けシステ
まないことが主な要因である。
ムを有しており、ABL では、借入企業の格付けと案
■優良企業でも柔軟性を求めて ABL を活用
件格付けの両者を勘案し、企業格付けが低い場合で
も、案件自体の格付けの高さでバランスをとってい
親会社(商業銀行)の主な顧客は、大企業であり、
る。ABL の金利については、総じて高めのリスクに
財務体質が堅固で収益性の高い企業が多い。そんな
見合ったプライシングを行うが、他の金融機関との
なかでも ABL を行う先は、収益性が高くても、一
競争が激しいなかで、競争力のある(低めの)金利
年のある特定時期に、より多くの資金を必要とする
を提示することもある。
企業などである。ABL では、在庫価値の 50%を超
なお、親会社である銀行が通常融資を行っている
える額の融資も可能だが、通常融資では、商業銀行
借入企業に対して、ABL を同時に行うということは、
はあまりやりたがらない。また、事業計画が基本的
稀である。
に健全であるが、バランスシートが少し傷んでおり
■多様な商品ラインナップの一つとしての ABL
収益性もあまり高くない企業などに対しても、商業
銀行の通常融資では対象外とされるが、ABL なら可
企業の財務状況や信用格付け、資金需要などは状
85
況に応じて変化する。格付けが低下してもなお資金
需要が強い場合は、ABL で融資を行うが、時間の経
過とともに格付けが上昇すれば、グループ内の他の
セクションで上昇した格付けに見合った商品により
適切に対応する。これが正に“シームレス”なサー
ビスの提供であり、当グループにとって「重要な競
争上の強み」となっている。
例えば、銀行の借入企業が銀行の貸出基準やコベ
ナンツをクリアできなくなる状況に陥り、当社が対
象とするカテゴリーに入ってきた場合、当社が当該
企業の資金需要をカバーして再建計画(turnaround
strategy)を実行する。再建が進めば再び銀行の融
資に戻る。こういうシナリオが実際例としてある。
グループ内での貸出元の変更について、当該企業に
チャージを求めることはない。こうしたシナリオが
可能であることは、他の金融機関との競争上、当社・
グループの大きな強みである。
以 上
86
(9)ABL 関連サービス会社 I
総資産
概
要
―
従業員数
数十名規模
ニューヨークやロサンゼルス等の主要都市に拠点を構え、担保の評価、処
分・競売を実施している。
ABL での資金調達が可能となる。M&A 案件は、投
当社の概要
資銀行などから当社に打診がくる。
■当社概要
商業銀行その他の機関に ABL 関連サービスを提
ABL における評価業務の流れ
供している。具体的には、担保の評価と処分・オー
■評価業務の具体的な流れ
クションである。
当社では直接、
実地調査は行わず、
公認会計士に依頼している。また、当社の従業員の
アプレイザーとしての評価業務を行う際には、個
多くは、金融のバックグラウンドを有している。
人ではなくチームで臨むというアプローチを採用し
■主な顧客、対象業種、評価案件の規模
ている。具体的な作業の流れは、以下の①~⑧とな
る。
主な顧客は、商業銀行とファイナンス・カンパニ
①業界分析:まず、在庫評価を行う企業の業界分
ーである。商業銀行とファイナンス・カンパニーの
析を行う。具体的には、在庫の評価・処分に関する
間で、借入企業の格付け・リスクに違いがあるかと
社内データベースを検索し、評価・処分の面で関連
いえば、商業銀行の方が若干ではあるがリスクのと
するこれまでの実績のリストアップを行うとともに、
り方が慎重(less aggressive)であろう。もっとも、
対象業界がどのような状況にあるか、今度のトレン
その差は非常に大きなものではない。
また、
当社は、
ドはどうかといった点を確認する。
特定の金融機関のグループに属している会社ではな
②提案:評価業務の範囲やアプローチ方法、料金
く、独立したアプレイザーであることから、評価業
を決定し、レンダーに提案する。提案が通れば、レ
務に関する条件やフィーの面では、両者に対して特
ンダーから評価業務が委託される。
に違いを設けてはいない。
③評価の事前準備:通常、提案から正式な評価業
業務対象分野は、①消費者-小売(デパート・ス
務委託まで数日から 1 週間の間があく。その間、評
ーパー流通業)
、②卸売-流通、③不動産・工場・機
価対象企業のバックグランドのチェックを行う。例
械設備、の 3 つのセグメントに分けている。
えば、以前にも在庫の評価を行った経緯があり、今
当社が評価を手がけている案件の平均的な融資額
回はその更新であれば、以前の評価作業の書類に目
の規模は、50~100 百万ドル程度である。最小では
を通しておく。当該企業でなくとも、似たような業
20 百万ドル、最大では 400 億ドル(資産規模で 700
種の経験があれば、そうした資料にも目を通す。
億ドル、コンピューターエレクトロニクス:ソフト・
④実地調査:評価業務委託が決定されると、評価
ハードウェア)というものもある。
対象企業への実地調査のアレンジを行う。その目的
■近年は M&A 関連の業務が増加
は、現地確認、当社のデータ収集を当該企業に理解
してもらう、の 2 点である。
昨年の評価業務の約 7 割は、M&A 関連の業務で
実地調査は、a)経営陣へのインタビュー、b)サン
あった。LBO の場合は、資産が豊富な企業が買収対
プル調査、c)データ収集、の 3 つの作業に分けられ
象となることが多いので、その資産を担保にして
87
■評価業務には多数の人員が参画
る。a)は、当該企業の事業概要、事業の方向性、業
界の変化などを理解し、今後の戦略を確定する目的
一連の評価業務に関わる人員は、一案件の平均で
で実施する。b)では、これまでの経験・知見に基づ
6~10 名程度である。アナリスト、ライター、実地
いて、施設が正常に機能しているか、在庫が適正か
調査員、評価プロセスを管理するマネージャー、プ
などを判断する。c)は、当社の標準的なフォーマッ
ロセスをレビューする幹部などが関わる。
もっとも、
トに沿って、分析上必要とされる情報の提出を求め
大規模な案件では、25 名という例もある。
る。このデータ収集は、実地調査を行う前に企業に
評価業務の料金は、単純平均では 2 万ドル前後に
記入用フォーマットを投げて予め行われる。これに
なるが、案件によって大きな開きがあるので、平均
より、経営陣へのインタビューを行うに際して、ポ
値をみるのはむしろ誤解を招くであろう。1 万ドル
イントをついた質問を行うことができる。
というケースもあれば、5 万、6 万、7 万ドルという
⑤実地調査を踏まえた内部検討:自社に戻り、業
ケースもある。
界アナリストや事業審査担当(writer)とともに、
収集したデータの読込み・分析を 1~2、3 週間かけ
■評価額に対して保証を付けることも
て行う(案件の規模によって要する期間が変わる)
。
そして社内でエグゼクティブ・経営クラスと評価業
評価業務の目的は、担保に当てる資産が適切に評
価されることで、借入企業が資産に見合った最大規
務の全般的な方針を検討する。
模の資金を調達できることにある。もし借入企業が
⑥顧客の意向の確認:評価業務の方針が内部で固
困難に陥った場合は、レンダーと協働して借入企業
まると、顧客(金融機関)や評価対象企業と会い、
が完全に保護されるよう努める。
同方針が彼らの意向に沿っているか、委託された業
当社は評価結果額に対する保証も行っており、レ
務と矛盾している点がないかを確認する。もし不整
ンダーが望めば保証を付する。ただし、それは当社
合な点があれば、再び社内で検討し、その検討結果
にとってもリスクが高いことなので、保証を付す場
をレンダーや評価対象企業に伝える。こうした顧客
合は保証料をもらう。
等との対話は、業務を推進していく過程で行ってい
評価額に保証を付することで、資産を当社が買い
く。
取ることもあるが、これにより収益をあげるという
⑦評価報告書の作成・提出:以上の作業を通して、
よりは、あくまでも顧客であるレンダーに対する保
最終的な評価報告書を提出する。評価報告書の一般
険であって、当社にとっては収益の源泉ではない。
的な内容は、当該産業の概要、借入企業の概要、在
なお、当社が手がける処分業務の大半は、実は、
庫の評価、想定される処分に係るプロセス、などで
当社が評価を行った案件ではない。むしろ、当社が
ある。
評価を行った案件で処分にまで至るのは、処分案件
⑧定期的な再評価:その後は、定期的に評価の見
全体の 5%以下である。
直しを行う。その頻度は、通常のケースでは年 2~4
時間の経過とともに在庫は入れ替わるため、仮に
回であるが、業界リスクが高い、貸し手金融機関が
処分実施に向かうことになれば、処分実施前に改め
借入企業の営業損失に懸念を抱いている、融資額が
て在庫評価を行うことで保証額を変更する。経営状
大きい、等のケースでは、評価見直しの頻度は高ま
況が悪化した場合、企業は在庫の現在価値を正確に
っていく傾向にある。見直しの頻度が高まるほど、
把握して、
より多くの融資枠を確保しようとするし、
急激な状況の変化を回避できるので、金融機関はア
金融機関の側も精緻な在庫価値を把握しようとする
ドバンス・レートの調整などについて、
より頻繁に、
ため、彼らから再評価の依頼がくる。
より小幅にすることが可能となる。
金銭的保証もさることながら、優れた経営陣を有
した優良な企業であれば、
それが一番の保証である。
88
■担保不適格な在庫の例
ことはなく、エンドユーザーを見つけて、再度オー
クションで売却する。この点、当社はエンドユーザ
どのような在庫が担保不適格であるかは、案件に
ー候補となる顧客リストを備えている。
よって異なるが、不適格となる例としては、委託販
次に、②製品の構成、利益幅、生産高等、処分対
売品、返品在庫、破損品・不良品、コンピューター
や包装材(ほとんど価値がないため)
、特別注文品、
仕掛り品、滞留在庫(古い在庫、流動性が低いもの)
などが挙げられる。
象の資産について、徹底的に分析・勉強することで
ある。処分案件を組み立てるため、当社は社内にデ
ータベースをもっている。
そして、最も重要なのは、③可変性の高い処分市
在庫の古さによって、
例えば 30 日以内のものと、
場の状況に応じて調整をする能力である。例えば、
60 日を超えるものを比較すれば、ボローイング・ベ
オークションにおいて、ある者は価格を 10 百万ド
ース(アドバンス・レート)が異なってくる例があ
ル、他の者は 11 百万ドルと見積もっているなら、
る。また、ハイテク産業の場合、技術革新が激しい
そこでは 11.5 百万ドルの価格提示を行う。価格を引
ため、90 日を超える在庫は不適格とされる場合があ
き上げるという観点からは、次順位入札者
る。
(underbidder)が非常に重要である。そして、も
■高い専門性が求められる評価業務
し入札で損を出したらその失敗を学び、即座に自ら
を修正していくことが不可欠である。組織力・構成
在庫の評価業務は、当該産業に関する知見を積み
力が重要であるといえる。
重ね、業界を理解することが不可欠である。当社で
は、小売、卸売、M&A などの各分野を中心に専門
■評価と処分は、表裏一体
家を抱えている。また、化学、自動車部品、紙製品、
ABL では、融資が焦げ付きそうになると、必要に
樹脂、プラスティック、などの専門家もいる。評価
応じて担保を買い取って処分する。その際、担保物
業務は、かなり専門的な知見がベースになる業務で
件(在庫)をオークションにかけることになるが、
ある。
当社は多くの分野でオークションの経験を有し、こ
よって、仮に少人数のスタッフで担当すると、一
人が全てを行わねばならなくなる。
業務範囲を広げ、
かつ、業界に関する知見を深耕するには、多くのス
れが活きてくる。アプレイザーとしては、こうした
経験を通して評価の知見を積み重ねていく。
以 上
タッフが必要となる。この点、当社は 60 名の常勤
の専門家を有している。
なお、アプレイザーのライセンスについては、ア
プレイザーの認証を行っている「American Society
of Appraisers:ASA」という組織がある。
■処分の実施においては、柔軟な対応力がカギ
処分を実施するうえで必要とされる知見・スキル
は、次の 3 点である。
まず、①充分なファンド(big bank line)をもっ
ていることが重要である。当社は、処分のためにオ
ークションを行うが、その際に入札者としても参加
する。資金の裏づけがなければ買い取ることはでき
ない。もっとも、当社は、最終的に資産を保有する
89
(10)ABL 関連サービス会社 J
総資産
概
要
―
従業員数
約 250 名
担保の評価や処分のサービスを提供している ABL サービス専門会社。
当社の業務概要
務を行っており、当社はミドルマーケットバンク
(mid-market bank)と呼んでいる。
当社は、ABL レンダーに対して、在庫・売掛債権
なお、さらに小規模なコミュニティバンクに対し
の評価、在庫処分、機械設備処分などのサービスを
て評価業務を行うことは、非常に稀である。コミュ
提供している。
ニティバンクが融資を行う際に担保とする資産の規
■評価事業の組織体系
模は、非常に小さく、当社からみて、コスト-ベネフ
ィットの観点から、収益的にとても割に合わない。
評価事業は、複数の部門に分かれている。まず、
もっとも、従業員 2~3 名程度の非常に小規模な評
営業部(business development)があり、商業銀行
向けとファイナンス・カンパニー向けとで分かれて、
リレーションシップの維持・構築を行っている。
価会社であれば、評価料金 5,000 ドル以下のレンジ
で業務を行い、コミュニティバンクも顧客となるで
あろう。こうした従業員 5 名以下程度の小規模の評
次に、個人資産・設備グループ(約 30 名)
、在庫
価会社は、全米の各市街にある。
評価グループ(約 30 名)
、知的財産権グループがあ
リージョナルバンクなら ABL 部門を抱えている
る。知的財産権グループを設けているのは、ブラン
が、
コミュニティバンクとなると ABL 部門がない。
ド名や商標(trade name)
、特許権・著作権使用料
コミュニティバンクは、通常のキャッシュフロー貸
(royalty)といった非伝統的資産を担保にした融資
出を行っており、担保もとっているが、ABL のよう
が、この 3~4 年前から非常に活発化してきている
に担保のモニタリングは行っていない。ABL のモニ
ためである。
タリングは日次、週次、月次のレベルであって、ボ
ローイング・ベースに直結している。
■評価件数
評価件数は、毎年 1,200 件程度である。内訳は、
在庫評価が 500~600 件、設備が 400~500 件、知
■借入企業が担保評価を依頼するケースもあり
最近のとても重要な傾向として、レンダーである
的財産が 100 件程度である。これとは別に、不動産
金融機関ではなく、資産を保有している企業の側が
の評価も年間 500 件程度実施している。不動産も含
評価を依頼してくるケースが出てきている。数年前
めれば、年間の評価件数は 1,500~2,000 件といっ
までは、
金融機関の側からの依頼で評価作業を行い、
たところだろう。これだけの評価を手がけていると
その評価をベースに融資の実施や条件が決まってい
ころは、北米でも最大級ではないか。
た。
一度評価を行うと、顧客(金融機関)との関係は、
これに対し最近は、企業が自ら評価を依頼して、
3~5 年は継続する。
その評価を複数の金融機関に向けて提示するケース
■大手金融機関と一部のリージョナルバンクが顧客
が出てきている。ここでは、各金融機関が同じ担保
評価をベースとして融資の実施・条件を競うことに
当社の顧客(レンダー)は、大手の商業銀行やフ
なる(もっとも、当該企業の経営が傾いた場合は、
ァイナンス・カンパニーが中心であるが、リージョ
評価の依頼主は借入企業ではなく債権者である金融
ナルバンクのような小規模金融機関も顧客である。
機関となる)
。
リージョナルバンクは、一部地域に特化した金融業
90
なお、企業が担保評価を直接依頼してくるケース
10 万ドルを超える評価案件もある。数百ドルの小規
では、評価のコスト・料金は、企業に直接請求する。
模案件はあまり多くないが、評価市場を広範にカバ
ーしている。
評価を行う資産の規模は、数百万ドル~数十億ド
評価業務のポイント
ルまでの幅がある。
■処分の実施が評価の精度を高める
■評価業務は ABL の重要なインフラの一つ
当社は、評価会社であると同時に大規模な処分会
金融機関にとって、評価結果は信頼できるもので
社でもある。
資産を実際に売却・処分できることは、
あり、かつ迅速に行われ、アドバンス・レートを設
当該資産の市場価値をより深く理解することにつな
定する上で、担保価値を明確に理解できるものでな
がる。他方、従業員 2~3 名程度の小規模な評価会
くてはならない。また、評価は、財務諸表と同様に
社では、ABL の関連業務を効率的に行うことはでき
ある一時点での評価であるので、担保価値を継続し
ない。なぜなら、彼らは一般的には資産の処分にま
て把握するために連続性が必要とされる業務である。
で関わらないからである。小規模な評価会社は、過
評価業務は、ABL の重要なインフラの一部である。
去の売却情報に基づいて資産評価を行うのであり、
現在の市場で売却・処分されている価格を知らない。
処分事業の実態
この点で、当社のような大規模な評価会社とは資産
評価の見通し方が異なっている。
■処分業務の顧客
主要な金融機関は、3~4 社の評価会社リストを持
っている。評価会社であればどこでもこのリストに
評価業務の顧客と処分業務の顧客は、必ずしも一
入れる訳ではなく、処分する能力が求められる。処
致しない。処分の場合は、担保資産を保有している
分業務が円滑に行えることは、評価業務を支えるこ
企業が破綻しているケースなどもあり、複数の債権
とになる。
者が競売に参加してくる。
小規模な評価会社やコミュニティバンクが処分の
最近の傾向として、金融機関ではなく資産を保有
必要性に直面した際には、当社のような大規模評価
している企業が評価を依頼してくるケースがでてき
会社に処分業務を依頼してくる。もっとも、担保の
ている。もっとも、企業が破綻して資産の処分の段
大半が機械設備である場合なら、地域の(ローカル
階になると、当社の顧客は企業ではなくレンダーで
な)評価会社でも、当該資産を売却・処分すること
ある金融機関になる。
ができる。そのことを含めれば、当社のような大規
■処分実施への 2 つのアプローチ
模な評価会社以外にも、処分を依頼できる業者は存
処分を実施する際には、担保資産を当社が買い上
在する。しかしながら、大規模評価会社ほど有利な
げる場合と、
手数料をとって実行する場合とがある。
条件での処分は、できないかもしれない。
融資を行う上では担保の評価が必要であり、
また、
前者の場合、処分に関するコストなどのリスクは全
て当社が負うことになる。
万一、事が起これば、担保処分が融資の出口として
の位置づけとなる。評価と処分の業務を担うサービ
■処分業務の流れ-小売業とそれ以外
ス会社の存在は、ABL にとって不可欠なインフラで
ある。
最も大規模な処分業務が行われるのは、しばしば
小売業である。小売業の処分は、処分の方法・プロ
■評価料金と対象資産の規模はケースバイケース
セスが明快で見通しがきくことから、当社も含め処
分会社は、非常に積極的に取り扱う。当社が実施し
評価の料金は、数百ドルから数千ドル、なかには
91
た大型処分としては、家具・雑貨企業の例がある。
売却処分など、比較的小規模な取引のケースでは、
数百店舗を閉店する際、窓に「10%オフ」などのス
現地に多くの人を集めるのは期待できない。こうし
テッカーを表示して閉店セールを行い、集客を行っ
たケースは、ネット競売に向いている。ウェブ上で
た。
競売期間を 7 日間または 10 日間として公表し、期
日が終了した時点で最高価格入札者が落札する。
小売業の閉店セールでは、9~12 週間をかけて、
家具や設備など店舗内にあるあらゆる物や在庫を売
また、現地とインターネットウェブ放送の両者を
却し、店舗内を空にすることを目標とする。その際
合わせた競売(on-site-internet webcast auction)
には、広告や様々な販売促進活動を通して集客し、
も行われる。競売は工場内で行われるが、競売の様
可能な限り早く在庫の売却を図る。
小売業の在庫は、
子はネット上でライブ放送され、電話で競売人に話
多くの消費者のアクセスのしやすいところに店舗が
ができるため、工場所在地からは遠くはなれた場所
あり、大きな潜在市場がそばにあるため、もっとも
からでも、リアルタイムで競売に参加できる。競売
処分しやすい資産である。
会場には 200~400 人前後が集まり、併せて、ネッ
ト上ではさらに 100~200 名程度が競売に参加する
他方、小売業以外で、例えば製造業の在庫となる
ケースがある。
と、処分のプロセスは、より複雑になる。まず、在
庫の種類にも、原材料・仕掛品・完成品などがある。
インターネットで競売を進めることが可能になっ
もっとも、機械・設備などの処分は、小売業の在
たことで、競売市場はグローバルなものになってき
庫同様に見通しがききやすい。工場に行って設備を
た。当社では、自社の競売サイトをもっており、海
確認し、競売にかける。工場で現物を確認してから
外も含め、登録された事業者に対し、ネット上で全
競売を実施するまでには、通常 60~75 日程度の期
ての競売の宣伝広告を行う。全バイヤーの 30~40%
間があり、この間により良い適切な買い手を捜すこ
は、
海外のバイヤーであり、
近年はアジアやインド、
とができる。
東欧のバイヤーが大規模な買取りを行っているよう
処分の方法は、処分対象となる資産の性質や、当
だ。
③当事者売買又は交渉売買(private treaty sale
該資産が地理的にどこにあるかなど、様々な要因に
or negotiated sale)
:第三の競売方法は、当事者売
よって異なる方法で進められる。
買または交渉売買といわれ、その種類の資産がどの
■近年は、ウェブ上のオンライン競売も実施
ようなバイヤーに売却しやすいかがある程度分かっ
オークション・競売の実施方法には、
①現地競売、
ている場合に、個別のバイヤーに話をもちかけ、交
②ウェブ上のオンライン競売、③当事者売買または
渉しながら売却を進めるものである。
④封印入札(sealed bid auction)
:複数の入札者
交渉売買、④封印入札、などがある。
①現地競売(on-site auction)
:競売は、10 年ほ
に対して入札期限を示し、各入札者は、申込価格を
ど前までは現地(on-site)で行われるのみであり、
封筒に入れ封印して入札を行う。それらを一斉に開
競売に参加する人々は近隣から集まってくるのが一
札し、一番高値で入札した者が落札する。
般的であった。例えば、ある工場で機械・設備の競
なお、評価額との関係では、①や②の競売では、
売を行うケースでは、競売当日に人が集まり、当日
価格は強制処分価格(FLV)であり、③や④では、
中に落札者が決まり、落札者は翌日にトラックで機
適切なバイヤーを探し出すためのある程度の時間が
械・設備を運び出して競売が終了する。
あるため、通常処分価格(OLV)である。このよう
②ウェブ上のオンライン競売/現地・ウェブ併用
に、売却処分の実施までにどれだけの時間的猶予が
型競売(on-site-internet webcast auction)
:現在で
あるかは、非常に重要なポイントである。猶予が短
は、インターネット上で競売を実施することができ
ければとにかく売却することが第一だが、時間的な
る(eBay-style disposition)
。数個の機械・設備の
猶予があれば、より適切なバイヤーを探し、リター
92
原則として、現状・無条件受け取り(as-is)ベース
ンを大きくすることができる。
での競売となる。資産の状態についての保証も行っ
■競売に参加するには、事前登録が必要
ていない。この点で、インターネット競売で資産を
競売に参加するにあたり、
入札者は登録制である。
購入することにはリスクが伴う。
また、銀行の信用状(bank letter)または支払保証
ただし、大型かつ非常に高価な資産で、海外のバ
付き小切手(certified check)によって、落札後の
イヤーが対象となる場合は、当該資産の状態につい
支払い能力を示さなければならない。
て詳細な説明文を掲載する。また、競売の実施に先
駆けて、
対象資産を事前確認する機会も設けている。
■経験の積み重ねが処分価格の最大化につながる
事前確認の場では、当該設備を実際に起動させ、作
処分の実施においては、様々な進め方・パターン
動状況を確認することもできるようにしている。海
がある。例えば、競売を行い、売却できなかった資
外のバイヤーの場合、こうした事前確認のために人
産が多く残ってしまった場合、当社がそれらを買取
を派遣してくるケースもある。
リスクが伴うにも係らず、海外のバイヤーは競売
り、当社のウェブ競売サイトに掲載して競売を実施
するケースがある。
顧客から資産の処分を依頼され、
に積極的に参加している。これは、例えば、新しい
手数料を受けて当社サイトに掲載することで、競売
機械・設備を注文しても、人気の製品なら納品まで
を実施する例もある。
長期間かかるかもしれないが、インターネット競売
機械・設備などは、当社のような処分事業を行っ
では、かなり安価でしかも即座に入手できるといっ
ている会社の競売サイトではなく、eBay のような
た利点があるためである。これにより、落札者は、
通常のネットオークションサイトで売りに出されて
当該資産をすぐにでも生産設備に組み込み、利益を
いる場合もある。このようなケースは、単に企業が
生み出すことができる。
自ら処分したい資産をオークションサイトに出品し
また、資産の状態に保証はつけないが、大半の機
たに過ぎず、処分会社がしばしば行う企業の清算に
械・設備で、新規購入年月日やモデル番号、シリア
伴うものではない。
ル番号、過去のメンテナンス記録等の製品情報を入
これに対し、倒産によって資産を処分しなければ
手している。よって、ネット競売においては、そう
ならなくなった場合は、処分対象となっている資産
したメンテナンス記録をもとにした資産の概要・状
のうち、一部は現地でウェブ放送を併用した競売を
況に関する記述と写真を掲載し、バイヤーが状態の
行い、一部は当社の競売サイトに掲載してオンライ
悪い機械を買わされることはないと信頼できるよう
ンでの売却処分を図ることができる。このように、
にしている。
ネット競売は、
確かにリスクは伴うが、
資産の処分を熟知した専門サービス会社が、処分の
他方で、海外など遠方から機械を事前に視察しに来
プロセスをアレンジ・管理することがベストであろ
るのも現実的ではない。
この点で、処分会社は、機械・設備についてデュ
う。
どのような処分の方法・進め方を選択すれば、処
ー・ディリジェンスを行い、当該資産に関するあら
分価格が最大化するかを判断するには経験が要る。
ゆる記録を入手して、それをウェブ上で公開するこ
借入企業が倒産したケースでは、当社は債権者であ
とが非常に重要なのである。
るレンダーに最大の回収をもたらさなければならず、
単に処分を進めればよいのではない。
■競売実施後のアレンジ業務
競売を実施する際は、
競売実施の準備作業として、
■インターネット競売と資産の状態確認
対象となる全資産のウェブ上への掲載などを行う。
インターネット競売の場合、当該資産(在庫・機
競売実施後は、売却された資産の配送準備や配
械・設備等)の状態(condition)の確認はできない。
送・輸送の手配など必要とされるアレンジを行う。
93
もっとも、
輸送費などは当社が負担することはなく、
を受けている。また、公的な倫理基準といった位置
バイヤーが支払う。
付けの「USPAP(Uniform Standards Professional
Appraisal Practice)
」というものもある。これはア
実際に、競売が実施される際には、多くの梱包業
者、運輸会社などが駆けつけてくる。これは、彼ら
プレイザーが準拠する倫理基準である。
にとってビジネスになるからである。当社も、輸送
アプレイザーを活用する場合は、こうした認定を
等を担う会社とネットワークをもっている。それら
一つ以上受けている評価会社を選ぶのが良いであろ
の業者は、これまでの長い期間にわたって当社と取
う。認定を受けているアプレイザーは、少なくても
引関係をもっている信頼できる者である。
標準的なパフォーマンスをもっていると考えられる
からである。
これに対し、処分業者・競売業者については、米
評価と処分は表裏一体
国ではライセンスが必要とされるが、そのライセン
■書類上の評価分析と市場での処分価格は、別もの
スは単にライセンスでしかないため、ライセンスを
保有しているからといって、そのオークショニアが
評価と処分の収益性は、状況によって異なる。評
良いパフォーマンスをあげるとは限らない。
むしろ、
価業務は、見通しがききやすいが、処分業務は、よ
オークショニアを活用する際には、評判が最も重要
り多くの困難が伴う。
である。
処分事業の場合、自ら資産を買取ればそれだけ高
■アプレイザー必要とされるスキル
いリスクを背負うことになる。もっとも、単に資産
処分の代行をするだけでなく、自ら買取ることも必
アプレイザーに求められるスキルは、まず、在庫
要である。リスクは高いが、処分業務でフィーをと
評価においては、強力な財務会計のバックグラウン
るより、高い利鞘を得られるケースがある。
ドが必要である。例えば、機械・設備の評価の場合
評価事業と処分事業は、表裏一体であり、評価事
なら、競売を実施したことがあるか、または中古設
業で得られた情報を活用して、処分事業の収益性を
備の販売事業を行った経験があるかに注目する。
高めることができる。評価部門と処分部門は協働す
ることが必要である。この点で当社には、20 年前か
■同業他社との協働
ら「資産の処分を行わない限り、資産の評価をすべ
非常に大型の競売を行う際には、2 社の競売会社
きではない」という基本理念をもっている。書類上
が協働するケースが多々ある。これは、仮に自ら資
での評価分析は出来ても、実際の価格を決めるのは
産を買取らねばならないケースになっても、リスク
市場なのである。
を分担できるためである。
競合相手であると同時に、
■ライセンスは必ずしも成果を保証しない
パートナーになることもあるといえる。
ただし、これは処分を行う際であって、評価業務
処分業務を行うには、米国ではオークショニアラ
では協働は一般的ではない。
イセンス(auctioneer license)が必要である。しか
以 上
も、このライセンスは、処分業務を行う各州で取得
しなければならない。
他方、アプレイザーについては、政府の認証資格
はない。その代わり、当社は専門的な評価会社とし
て、ASA(American Society of Appraisers)や
AMEAA(American Machinery and Equipment
Appraisers Association)といった協会からの認定
94
(11)ABL 関連サービス会社 K 及び
総資産
概
要
―
ファイナンス・カンパニーL(K の顧客金融機関)
約 20 名(K)
従業員数
ロサンゼルス、サンフランシスコ、シカゴなどに拠点を構える実地調査専
門会社(K)
当社の概要
う企業のあらゆる施設を動いて回り、クライアント
の耳目となって作業を行う。
■主な顧客と案件の発掘・規模
実地調査には数日から数週間を要するが、
その間、
当社は、実地調査を専門に手がけるサービス会社
数字上の情報だけでなく、当該企業の事業内容など
である。主な顧客は、大手商業銀行、及びその傘下
一般的な情報も収集する。そして、現地からクライ
又は独立系のファイナンス・カンパニーなどがある。
アントと頻繁に電話でコンタクトを取る。
現場作業を終えると、実地調査報告書を作成し、
ファイナンス・カンパニーL 社は、当社の数あるク
クライアントに提出する。そして、クライアントか
ライアントの一つである。
ら報告書に対する意見のフィードバックを受ける。
金融機関がローン実施の決定をする前に、デュ
ー・ディリジェンスに関連する作業を依頼してくる。
米国では、借入企業が作成する各種情報に偽りが
ローンの実施後は、一般的には年 3~4 回の実地調
あり、リスクが高い案件が比較的多い。よって、我々
査が行われ、それを依頼してくる。
フィールド・イグザミナーは、そうしたことを念頭
当社が実地調査を行っているローン案件の規模は、
に置きつつバランスシート等を分析し、数字の奥に
10 万ドル~200 百万ドルと、個々の案件によってか
あるもの、当該企業がなぜそのような財務状況にあ
なり異なる。顧客であるファイナンス・カンパニー
るのか、背後にあるストーリーを理解するように心
L 社による ABL の借入企業の規模も、案件により
がけている。実地調査をする上では、
「これが最も重
大きく差があり、売上高では 5 百万ドル~100 億ド
要な情報」というものはない。
以上をまとめると、フィールド・イグザミナーは
ルの範囲となっている。
単に在庫や売掛債権を確認するだけでなく、企業の
全般的なパフォーマンスを理解する作業を行ってい
実地調査の実務
る。このような業務を行うことができるようになる
■企業の財務状況の奥にあるストーリーを読み取る
には長い年月がかかる。最近は人材育成にも多くの
時間を費やしている。
フィールド・イグザミナーに求められるスキルと
■実地調査で収集する情報は多岐にわたる
しては、まず、①会計に関する知見が挙げられる。
しかしながら、実地調査の業務は、その性質上非常
に特殊なので、
多くの業務スキルは現場
(on the job)
で学ぶことになる。
実地調査では、借入企業の銀行との取引明細、財
務諸表、調査対象企業の顧客動向、在庫の種類、在
庫管理のシステム、当該企業が負っている債務、な
また、②コミュニケーション能力も非常に重要で
どの情報を収集する。取引先と良好な関係を構築し
ある。これは、実地調査では、企業の経営者や会計
ているか、税金の滞納はないか、といった点も注視
責任者と直接面談し、様々な部署、倉庫の担当者に
する。
質問をして情報を収集するためである。事務所のデ
在庫については、当該企業の顧客に電話し、請求
スクに一日中座っていることはなく、実地調査を行
書が本当にその顧客からのものか否かもチェックす
95
る。売掛債権については、その収支も確認する。
後のフォローアップとして、社内で実地調査情報の
精査を行う。特に売掛債権については、継続的にチ
ェックする体制を整えており、毎回、売掛債権全体
■実地調査を補足する状況確認の手法
の 20~25%程度のチェックを行っている。
企業全般や在庫・売掛債権の状況を確認する手法
■実地調査のサンプリング
は、現地調査のほかにもいくつかある。特に売掛債
権については、借入企業の請求書の正確性を確認す
実地調査でサンプリング調査を行う際、全在庫に
る目的で、例えば借入企業の取引先に電話をかけ、
占める調査サンプルの割合は、商業銀行の方が低い
取引先の買掛金が請求書の期日と整合しているかを
傾向にあるし、調査の頻度も少ない。これは、銀行
チェックする。また、貨物運搬事業者に電話をし、
が扱う ABL 案件の方が、ファイナンス・カンパニ
荷物(出荷品)の受取期日と配達日時を確認するこ
ーのそれと比べてリスクが低い先が多いためと考え
とで、請求書期日が正確であるかをチェックする。
られる。
後者については、多くの企業が、出荷を装い製品を
もっとも、商業銀行は、チェックが少ないため、
倉庫から搬出し貨物運搬事業者に預けたままにして
損失も出す。実地調査も含めたチェックをより厳密
おくような虚偽行為をはたらくケースがあるため
に行うことの重要性がここにある。
(請求書・出荷の偽り)
、不正防止の手段でもある。
借入企業が海外との取引を行っている場合も、運
送会社に連絡し、いつ船に積荷されたか、GPS で海
■実地調査・フィールド・イグザミナーの費用体系
フィールド・イグザミナーの費用は、通常、ABL
上のどこに船がいるか、
をチェックすることもある。
の借入企業が負担する。費用請求は、フィールド・
こうしたチェックは、ABL 事業/フィールド・イ
イグザミナーが直接の依頼主である金融機関に費用
を請求し、それを受けて、金融機関が借入企業に費
グザミナーとしては非常に重要な作業である。
用請求を行うという流れになっている。レンダーが
■実地調査の担当件数と日数
借入企業に費用を請求する際には、
他の必要経費
(評
昨年の担当者一人当たりの取扱件数は、平均で 45
価等)も含めた一括請求ではなく、実地調査という
独立した項目を建てて請求している。
件程度である。もっとも、これはあくまでも平均で
あって、案件の規模によって処理できる件数はかな
料金体系は、フィールド・イグザミナーの人日単
り異なる。大規模な案件であれば、一件で 2~3 週
位で計算する形となっており、平均で 750 ドル/人
間を要することがある一方、小規模案件では数日で
日程度である(ただし、これはフィールド・イグザ
済むものもある。また、顧客(金融機関)からの業
ミナーが一次的な依頼者であるレンダーに請求する
務依頼が初めてのケースでなければ、実地調査は定
金額なので、借入企業の負担は、これにさらにプラ
期的に行われるので、比較的スムーズだが、初回の
ス 100 ドル程度上乗せされる)
。これには、実地調
顧客であればそれだけ時間がかかる。
査報告書の費用も含まれる。また、実地調査のため
の旅費・交通費も請求する。このため、国内に複数
■実地調査の頻度
の拠点を構えていると、借入企業にとっては旅費・
一般的には四半期ごと(年 4 回)が多いが、売掛
交通費が安くて済む。
債権のみの案件であれば、年 2 回が一般的である。
案件がより複雑になり、また借入企業のパフォーマ
ンスが低いほど、実地調査の頻度は高まる傾向にあ
■アプレイザーや会計士との違い
一般的に、アプレイザーは、在庫や機械・設備な
る。
どの「担保価値」の判断に集中する。これに対し、
ファイナンス・カンパニーL としても、実地調査
フィールド・イグザミナーは、融資を行う際の特定
96
の担保だけでなく、企業の財務パフォーマンスや会
スも多く、それだけリスクが高い業務である。よっ
計システムなど企業全般を調べる。
て、フィールド・イグザミナーとして、自ら慎重に
また、アプレイザー・評価会社は、処分やオーク
業務を行うことはもとより、会社としては、社内の
ションのプロセスにも係るケースがあるが、フィー
フィールド・イグザミナーが出先(現地)でどのよ
ルド・イグザミナーはこうしたプロセスには係らな
うな作業を進めているかを、しっかりと管理・チェ
い。
ックすることも非常に重要である(この管理が非常
に難しい作業である)
。
他方、CPA との違いは、CPA は過去のある特定
時点(直近決算期等)での財務諸表などの確認を行
同業他社としては、単独・個人のフィールド・イ
うだけだが、フィールド・イグザミナーの実地調査
グザミナーがいる。また、大手もいるが、基本的に
は、調査実施時点の直近までの様々な生の情報をチ
大手は地域に基盤を強く持っていることが多い(全
ェックし、当該企業のトレンド分析や統計分析を行
米規模ではない)
。シカゴ、ニュージャージー、NY、
う。フィールド・イグザミナーは、財務諸表等の数
アトランタ、テキサス、LA などに大手がいる。実
値に奥にあるストーリー、企業や事業の状態を探し
地調査は、現場に赴くという性質上、市場自体が地
出すことまで踏み込むのであって、CPA はそこまで
域化(regionalized market)されている。よって、
は行わない。また、CPA は会計士業務と実地調査業
大手といっても 100~200 名のフィールド・イグザ
務の両方をかけもちするが、我々フィールド・イグ
ミナーを抱えているわけではなく、
30~40 名程度が
ザミナーは実地調査業務に特化している。
多いのではないか。
ファイナンス・カンパニーL 社としても、当社の
フィールド・イグザミナーを社内に雇用し続ける
ようなフィールド・イグザミナーの方が専門的スキ
のは難しい。時には、フィールド・イグザミナーを
ルをもっていることから、CPA ではなくフィール
やめて、アカウント・エグゼクティブとして働いた
ド・イグザミナーに実地調査業務を依頼している。
りする。イグザミナーは非常に独立心が強い。
■フィールド・イグザミナーの業界について
ファイナンス・カンパニーL 社
様々な業界の在庫を確認する業務ではあるが、各
■ABL 貸出先の業界分野
業界に関する専門知識もさることながら、在庫と売
掛債権について、あらゆる機会で様々なスキルを活
主な産業分野は、アパレル、繊維、電子、家電な
用 し なが ら広 範 な経 験を 積 む( broad base of
どが多い。二次的な分野としては、宝飾品、航空宇
experience)ことを、より重視している。
人材としてのフィールド・イグザミナーをみると、
特に国家資格や業界団体はない。このため、優れた
宙、ハイテク、サービスなどの分野である。なお、
小規模なファイナンス・カンパニーにもリファイナ
ンスを行っている。
人材を見出すために、様々なトピックスについて 1
時間ほどディスカッションをする。それでも判断に
■担保が在庫のみの融資は行わない
迷う場合は、1~2 日程度業務に同行してもらうこと
第一義的な担保としては、売掛債権を重視してい
で、人材を判断している。フィールド・イグザミナ
る。担保が在庫のみという形での融資は行っていな
ーの業務は、非常に特殊な仕事なので、少し時間を
い。ポートフォリオとしては、売掛債権が 75%を占
共にすればどれだけの実力があるか分かる。
めるのが理想的と考えている。
国家資格や業界団体がないため、フィールド・イ
グザミナー業務への参入障壁は低い。
しかしながら、
一度業務上でミスを犯して、それがクライアントの
■案件に応じて大きな開きがあるプライシング
適用金利は、案件のリスク、借入企業の信用力、
損失につながるようだと、担当者はクビになるケー
97
担保構成に応じてかなり異なる。Libor プラス 350
■業種・業界の専門性が高いアプレイザー
~1100 といった幅である。
当社では、外部のアプレイザーとして、主に大手
上記のプライシングは、当社で内部完結できる作
の 3 社を活用している。
外部のこうした評価会社は、
業の全てのフィーを含んだものだが、在庫評価、実
フィールド・イグザミナーよりも業種・業界の専門
地調査、ロックボックスの使用、法的文書の作成な
性が高い。ハイテク、アパレル、航空宇宙、自動車
ど、外部に委託する部分は、そのコストを借入企業
など、経済情勢の変化が資産価値に大きな影響を与
に請求する。
える産業分野は、継続的なフォローをする必要があ
り、評価会社にはこうした分野の専門性を構築して
■ABL を通して貸出先の動向を理解
いるところがある。
もっとも、産業・業界動向分析は社内でも行って
当社の貸出先は、基本的には信用格付が最も低い
いる。特に、米国内では地域と産業の結びつきがあ
クラスか、格付自体を得られていない企業が多い。
り、例えば、LA ではアパレルや繊維、アトランタ
これらの企業は、商業銀行から融資を受けることが
やノースカロライナでは家具メーカーが多いため、
できないか、または、当初は商業銀行の顧客であっ
そうした地域特性を踏まえた知見を積み重ねている。
たが、業績が悪化して商業銀行から切られた企業の
2 つのパターンがある。
以 上
商業銀行が相手にしない(出来ない)企業に ABL
を行うことが出来るのは、当社が財務諸表よりも担
保により注目して、企業自体や事業内容の変動をよ
り理解しているからである。
98
参考2.ABL 融資案件の実際例(2007 年 10 月 1 日~12 月 31 日)
米国の専門誌 ABL Jounal のウェブサイト(http://www.abfjournal.com/deals_main.asp)
に記載されている ABL 融資案件を一部掲載する。その概要は、以下の通りである。
金融機関
融資額
借入企業
GE Corporate Lending
SABIC Innovative Plastics
Holding B.V.
Co-Admin. Agent
Manufacturer/Chemicals, Fertilizers,
Plastics, Metals
GE Capital Markets
Linens Holding Co.
Admin. Agent, Collateral
Agent
Retailer/Home Furnishings
Wachovia Capital Finance
Ruddick Corp
Admin Agent
Operater/Harris Teeter supermarkets,
American & Efird Inc
Bank of America
Corrections Corporation of
America
Admin Agent
Provider/Corrections Management
Services
(100 万ドル)
$9.2B
案件概要
Revolver
Supports GE's Plastics
acquisition/GE Capital Markets:
joint bookrunner
$700.00
Revolver
GE Canada Finance: Canadian
admin. agent, collateral agent
$450.00
Silver Point Finance
Interstate Bakeries Corp.
Lender
Baker, Distributor/Bread, Sweet
Goods
JP Morgan Chase Bank
Newpark Resources Inc
Lead Lender
Provider/Drilling Fluids, Temporary
Worksites, Access Roads
KeyBank, BNP Paribas,
M&T Trust Co., Sovereign
Bank, Allied Irish Banks
Rex Energy Corp.
Lead Lenders
Provider/Oil, Gas
Ableco Finance
AmeriMark Direct LLC
Lender
Marketer/Women's Apparel,
Cosmetics, Jewelry, etc.
Wachovia Capital Finance
Big Rock Sports, LLC
Managing Agent
Distributor/Sporting Goods
GE Commercial Finance
Golden Circle
Lender
Manufacturer/Shelf Stable Fruit,
Vegetables, Juices, etc.
Ares Capital
Apple & Eve, LLC
Lead Arranger, Admin. Agent,
Collateral Agent
Manufacturer/Juice
Bank of America
Gander Mountain Co
Lender
Retailer/Outdoor Products
RBS Citizens Bank
Dover Saddlery Inc
Lender
Retailer/Equestrian Products
$350MM Revolver/$100MM Term
Loan
Five-year term/Lenders: BB&T,
Regions Bank, Bank of America,
JPMorgan Chase Bank, RBC,
CoBank, others
$450.00
Revolver
Five-year term/Arrangers: Banc of
America Securities, Wachovia
Capital Markets
$400.00
Exit Financing
$225.00
$175MM Revolver/$50MM Term
Loan
Replaces previous facility
$200.00
Revolver
Five-year term/Replaces previous
debt
$135.00
$20MM Revolver/$115MM Term
Loan
Supports recap
$130.00
Revolver
$120.00
Revolver
Anchorage Capital Partners
provided $35.5MM in new equity
$78.50
Revolver
Completed in conjunction with
ClearLight investment
$40.00
Term Loan
Supports Overton's Inc acquisition
$18.00
99
Line of Credit
BCA Mezzanine Fund led a $5MM
sub-debt facility
参考3.ボローイング・ベース確認証のサンプル
○Accounts Receivable Information
A:ACCOUNTS RECEIVABLE
1. ACCOUNTS RECEIVABLE BALANCE as of
a. Balance forward from previous BBC
b. Plus: Credit sales for the period
c. Plus: Other credits
d. Less: Accounts receivable collections
e. Less: Write-offs, returns, credits, etc.
$
2.INELIGIBLE ACCOUNTS RECEIAVABLE as of
Accounts outstanding for >90 days from original
a.
invoice date(>60 days original due date)
b. 50% Gross-Age
c. Accounts owed by any Affiliate
Accounts owed by a creditor of Borrower to the
d.
extent of the amount of the indebtedness(contra)
Accounts in dispute or subject to any
e.
counterclaim, contra-account,deposit or offset
Accounts owing by an Account Debtor which is
f.
not Solvent
g. Bill-and-hold,guaranteed sale, consignment,etc.
Accounts owed by an Account Debtor that is not
h.
a Sanctioned Person or is non-US
Accounts owed by the US or other governmental
i. or quasi-governmental unit, agency or
subdivision
Unearned by performance, prebilled accounts
j.
receivable
Accounts from an Account Debtor (together with
the Affiliates of the Account Debtor) that exceed
k.
10% of the total Accounts lines except for the
Permitted Lines
Subject to any lines excpet for the Permitted
l.
Lines
Aged credits>90 days from original invoice
m.
date(>60 days from the original due date)
n. Other - Designated by Bank
LESS:
3. TOTAL INELIGIBLE ACCOUNTS RECEIVABLE
4. ELIGIBLE ACCOUNTS RECEIVABLE
Eligible Accounts Percentage
5. ACCOUNTS AVAILABILITY
100
$
$
$
$
○Inventory Information
B:INVENTORY
Raw
Materials
Work In
Progress
Finished
Goods
Consolidated
$
$
$
$
$
$
$
$
1. INVENTORY as of
2. INELEGIBLE INVENTORY as of
Not subject to a duly perfected, first
a. priority (and only) security interest in
favor of Bank
b. Not in good or saleable condition
On consignment or subject to ant
c.
repurchase agreement
Returned, repossessed, damaged,
d. defective, obsolete, or slow-moving
goods
Does not conform to warranties and
representations described in the
e.
Agreement with respect to Inventory
Collateral or Collateral generally
Subject to negotiable document of
f. the title not issued or endorsed to
Bank
Has labels, trademarks, trade
names that are owned by third
g.
parties or licensed goods unless
documentation acceptable to Bank
h. Not at a Collateral Location
i. Inventory In-Transit
Inventory in a location, not owned
and controlled by Borrower, that
j. Bank has not received from Person
owning such property or in control
thereof a Third Party Waiver
Packaging Materials, supplies or
k.
promotional materials
l. Other - designated by Bank
3. TOTAL INELIGIBLE INVENTORY
4. ELIGIBLE INVENTORY
Eligible Inventory Percentage
5 INVENTORY AVAILABILITY
101
○Excess Availability Calculation
$
C:COLLATERAL STATUS
1. REVOLVER COMMITMENT
2 .BORROWING BASE TOTAL
a. ACCOUNTS AVAILABILITY
b. INVENTORY AVAILABILTY
$
LESS: RESERVES
BORRWING BASE
LESS:
$
3. REVOLVING LOANS OUTSTANDING (plus current request)
4. LETTERS OF CREDIT OUTSTANDING (plus current request)
5. EXCESS AVAILABILITY
LESS:
LESS:
$
In connection with the foregoing, we hereby acknowledge and agree that, as of the date
hereof, the Agreement remains in full force and effect, is binding upon us and
enforceable against us in accordance with its terms, and we certify to you that, as of the
date hereof, there exists no Event of Default under the Agreement or event which, with
the passage of time or the giving of notice, or both, would so constitute an Event of
Default. We hereby restate and renew each and every representation and warranty
made by us in the Agreement or in connection therewith, effective as of the date hereof.
Company Name
BY:
TITLE:
102
参考4.UCC ファイリングの様式
(1)融資声明書(Financing Statement)のサンプル
103
104
(2)融資声明書(Financing Statement)の電子ファイリング(登録)手続き
以下では、ウィスコンシン州の登録局における UCC 融資声明書の登録について、オンラ
イン上での手続きのステップ概要を紹介する(http://www.wdfi.org/ucc/instantucc/)。
<登録手続きのトップページ>
<スタート画面>
105
<第 1 ステップ:連絡先情報の入力>
106
<第 2 ステップ①:債務者・担保権設定者(Debtor)の選択>
・ 担保権設定者が個人であるか組織
(organization)であるかを選択。
<第 2 ステップ②:債務者・担保権設定者(Debtor)に関する情報の入力>
107
<第 3 ステップ①:担保権者(Secured Parties)の選択>
・担保権者が個人であるか組織
(organization)であるかを選択。
<第 3 ステップ②:担保権者(Secured Parties)に関する情報の入力>
108
<第 4 ステップ:担保物(Collateral)に関する情報の入力>
<第 5-6 ステップ:その他情報の入力>
109
<第 7 ステップ:入力情報の確認・修正>
110
<第 8 ステップ:登録料の支払(登録)>
111
5.参考文献
・ 海上泰生(2008)「米国の ABL(Asset Based Lending)を支える「ある種のインフラ」
の存在とその機能
~動産・債権担保融資の進展を促すもの~」
『政策公庫論集』
(日本
政策金融公庫、2008 年 11 月創刊号)
・ 太田智之・小野有人・野田彰彦(2007) 「中堅・中小企業向けトランザクション型貸
出手法の決定要因~企業属性に応じた適正に関する一考察~」
『みずほ総研論集』
(2007
年Ⅳ号)
・ 小野有人(2007) 『新時代の中小企業金融』(東洋経済新報社、2007 年 6 月)
・ 鹿島みかり「米国の動産担保法制について」
『日本銀行調査月報』
(日本銀行、2003 年 8
月号)
・ 金融庁「平成 19 年度地域密着型金融の取組み状況について」(2008 年 7 月)
・ グレゴリー・エフ・ユーデル著、高木新二郎・堀池篤共訳「アセット・ベースト・ファ
イナンス入門」(金融財政事情研究会、2007 年 12 月)
・ 経済産業省 ABL 研究会『ABL(Asset Based Lending)研究会報告書』
(2006 年 3 月)
・ 中小企業金融公庫総合研究所「米国銀行の中小企業向け融資戦略の実態
~リレーショ
ンシップ・バンキングを活用した融資現場の視点から~」
(2007 年 5 月)
・ トゥルーバ・グループ・ホールディングス株式会社編(2005) 『アセット・ベースト・
レンディング入門』(金融財政事情研究会、2005 年 1 月)
・ Berger, Allen N. and Gregory F. Udell(2002), ”Small Business Credit Availability
and Relationship Lending: The Importance of Bank Organisational Structure”, The
Economic Journal, 2002
・ Gregory F. Udell(2004), “Asset-Based Finance: Proven Disciplines for Prudent
Lending”, The Commercial Finance Association, 2004.
112
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