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ニューアーバニズムによるまちなみの形成と再編

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ニューアーバニズムによるまちなみの形成と再編
働嚇緬の
引
豪ちなみ計画あ舞潮灘:1∴藁廓凌難 ☆、壕謡:湛山鼠∵鼻、、ポ鴛ヅ
∼沿 罐町 柵嘘撚 柵 _
新潮流
きた真の生活の質の獲得や環境への配慮とい
「The New Urbanism]
轟轟 臨
った成長管理の思想があることを私は強く感
じた。
私は80年代末から主には大野輝之氏が紹介
した合衆国の成長管理政策や現代都市計画論
36
を読み、アメリカ現代都市のPollce Power
都市計画論としてみたニューアーバニズム
(都市権限)に基づく自立性や先進的な都市マ
血
ネジメント思想を知った。そして経済の原理
『家とまちなみ』43号(前号)の「特集ニ
に屈服し続ける日本の現代都市計画とそれら
ューアーバニズム入門」は、このNUという
とのギャップ大きさに愕然とした。1995年の
コミュニティ・デザイン運動の全体像とその
夏に面識も無かった大野氏に無理をお願いし
理念、詳細について実に分かり易くまとめら
て本学(九州芸術工科大学)に来ていただき、
れた特集であった。その概要を確認すれば、
氏が1997年に発表することとなる「現代アメ
NU論は1980年代前半にアメリカの建築家、
リカ都市計画」のゲラを使っての集中講義を
都市計画家たちによって実践のデザイン活動
受けた。私にとっては千日にも値する一日と
のなかから提起されたもので、車社会が引き
なった。合間の休憩の門門にも、この時とぽ
起こす自然破壊やコミュニティ破壊を実際の
かりに私は成長管理によって実際に創り出さ
デザイン事例の中で解決していくことをめざ
れた都市空間が如何なるものかを質問した。
したものである。その理論は、Neighborhood
すると大野氏は「私は経済の専門家なので空
(前号p40参照)がコンパクトにまとめられ、
間のことは苦手です。成長管理思想によって
その中で土地や建物の用途が混在し、歩行者
創り出された空間像については、空聞の専門
に優しい道路を提供すること、Dls加ct(機能
家が探求すべきでしょう」と言われた。何か
的に特化された地区で商業集積地や行政機能
ら何まで大野氏から教えてもらうつもりでい
地区、大学キャンパスなど)が適切に配置さ
た自分を恥じ、この探求を自分の研究目標の
れ明確な用途を持つこと、そしてCorridor
一つとして立てることにした。
(NelghborhoodとDlstrlctを結ぶ自然歩道や
まさに奇遇であろうが、その同じ夏に学内
幹線道路など)が機能的に計画され景観的に
の教授からアメリカ土産に見せてもらったの
美しいこと、この3っの条件を揃えることで
が、ニューアーバニズムを提唱する建築家や
自然の生み出す環境とヒトの形成するコミュ
計画家たちがこの運動を世に問うた中核書で
ニティとの統一を促し、持続可能なコミュニ
ある1994年出版の「The New Urbanlsm」
ティを創り出そうとするものである。NU論
(Peter Katz編、 McGraw−Hlll, Inc.)であっ
はこうした現代アメリカ都市計画の目指す都
た。この本の序論を熟読すると、そこにはす
市デザインのあり方を体系性をもって自己表
でに単なるブームの域を越え、コミュニテ
現したユニークな運動であると言える。
ィ・デザインに対する手応えと確信に満ちた
実践事例では、地域個々に即したコミュニ
著者たちの実践理論が整然と書き連ねられて
ティ像を描き出し、建築単体の細部にまでそ
いた。一見派手にも映るこのデザイン運動の
の思想の実現を目指す一方、それを住区単位
底流に、アメリカが60年代から模索し続けて
で実現するために必要な都市レベルでの計画
家とまちなみ44 20019
ぐ}
提案をおこなっているものも多い。私の研究
表一1NU論の有するデザイン条件(文1より筆者が作成)
室では前述の「The New Urbanism」の24
..
A
の事例の中身を詳しく見ていくことで、NU
が持つ具体的なデザイン条件として表1,2に
示す7つを抽出した。そしてこれらの条件は、
都市レベル(TOD;transit oriented
development:公共交通に基づく開発によっ
てNeighborhoodやDistrictを配置していく都
市規模のデザイン)、近隣住区レベル
(Neighborhoodの骨格にあたる道路、街区、
土地利用等に関するデザイン)、建築レベル
(建物の形態や配置、材料等の建築単体のデザ
イン)という3段階の空間スケールのレベル
で存在していると見なすことができ、各レベ
ルの計画間に整合性をもたせることが、NU
論のデザイン概念を実現する上で重要となっ
ているという結論を得た。
「The New Urbanism」から読みとれる今
一つの興味深い点は、24の事例が、前半の
G
「Establishing the Urban Pattern=都市
構成の創出」とされる10の事例と、後半の
「Reconstructing the Urban Fabric=都
市文脈.の再構築」とする14の事例に分けて記
述されていることである。このことは郊外の
新開発地区における一からの都市デザインお
よび都心や既成市街地における都市の再構成
デザインの両方にNUの考え方が有効であり、
NUが単に郊外スプロールを助長する郊外開
発手法とは一線を画しているということを強
く主張しているものである。
さらにNU論の事例を年代順にみると(表一
表一2デザイン条件と計画レベルとの関係(出典 文1)
3参照)、1980年代はじめにはまだ事例も少な
が多かったのに対し、1988年以降は事例数そ
近隣住区レベル
都市レベル
くリゾート地などの独立した近隣住区の計画
UGB
・グリーンベルト
・山、森林、海、
河川など
のものも増えているなかで、都市レベルの計
画までを含むもの(Rio Vista West/San
・駅周辺の高密度な土地利用
(放射状に小さくなる)・高密度な建築利用・歩行空間のネットワーク
TOD
・鉄道のネット
潤[ク
Diego等)や大都市中心部を扱うもの
・各種目的地まで最短距離
・付近の
(Downtown LA.やCite Internationale/
Montreal等)が次第に増えてきていること
TND
を目的とした「成長管理の第2の波」が大都
地域固有の自
R・文化を利
p(省資源)
市を中心に押し寄せた時期である。前述した
NU論のデザイン概念もまたこの「生活の質」
一つとなったことは間違いないと言えるであ
・自然環境要素は共有の財とする・伝統的建築スタイルを保つ・地形に沿った道路、街区の設定
・建築素材や形状を地域に
№、コードで規制
配置する
meighborhood
ンける
体的な計画の中で実現していく有効な手法の
E土地利用のミックスドユース
件を生かして
潟bクスペースを
歩行を促す
空間
E徒歩圏内に生活に必要なものはある
meighborhood
フ中心部にパブ
NU論が現代アメリカ都市政策の求める都市
像を、地区レベルから都市レベルにおける具
・気候、地形、自然
・複数の
パブリック「スペース
の維持と向上を目的としたものとなっており、
Lゴ
・公園徒歩3分圏内、中心地5分圏内
Neighborhood ・半径1/4マイル内にNeighborhood
連携させる・中心地間は単調
ェある
ニならないネット
潤[クをもつ
がわかる。1980年代後半は、大野氏が指摘す
る、より包括的な「生活の質」の維持と向上
建築レベル
・幹線道路や主要道路
・河川、運河、森林、海、ゴルフ
コース
・商業施設と公園が中心地にある・公園と公園を結ぶようにコート
・集合住宅にコートヤード
ェある
п[ド、スクエア、緑豊かな歩道
ェある
・サービス路地を設ける
・広い駐車場がない
・歩道と車道の間に駐車スペースを
設ける
・連続した街路樹
・車道を狭くする
・多種多様なタイプの住戸が混在・公共施設の機能の多様化
多様性
Eポーチやコートヤード、
Xクエアなどの公的私有
nが存在する
・庇やベンチがある
・ポーチがある
・壁の高さを規制する
(通りの連続性)
・建物のミックスドユース
Eアフォーダブル住宅の促進
ろう。
家とまちなみ44
200t9
37
㌦なみ諏の
薪潮流
以上のように現代アメリカ都市政策の求め
for the New Urbanism(前号p25参照)の
る都市像に対し、都市レベル、近隣住区レベ
ホームページ(http://www.cnu.org/)を覗
ル、建築レベルという多段階の空間スケール
いた。そこで最も驚いたことはNUに基づく
の計画・デザインによって連続的かつ総合的
既存開発や開発計画として実に363もの事例
に対応しているという点、また新規開発にお
がリストアップされていたことである。これ
いても既存都市の空間再編においても明確な
ら事例はその立地と開発形態によって、「都市
指針を持った都市像を描き出しているという
地域における充填開発」II3事例、「郊外にお
2点において、NU論は、アメリカにおける現
ける充填開発」64事例、「TND=伝統的近隣
代都市計画の空間化を初めて試みた、体系的
住区開発」138事例、「TOD」19事例というよ
デザイン論であると私は感じたのである。
うにカテゴリー分けされている。空洞化した
中心都市や郊外都市の既成市街地への充填開
発の事例が半数以上を占めていることは、80
NU運動の近況
年代以降の大都市における成長管理政策が充
填(=infill)による市街地の成熟をキーワー
本稿を書くに当たってNUのアメリカにお
ける近況を知ろうと考え、CNU=Congress
ドとしたことに呼応するものである。
またこれらの事例の開発規模は(表一4参照)、
TODによる近隣住区開発の適正規模とされる
一一3NU型開発の事例と計画レベル別のデザイン条件(出典:文1)
ンするものまで多義的に使用されていること
●
●
●
●
●
●
●
灘脾.卯扁
と、「都市地域における充填開発」と「郊外に
●
●
●
●
●
おける充填開発」は、その性質上、近隣住区
●
やDistrict全体にわたる計画にならないもの
●
●
●
●
●
が理解できる。
開発規模を立地・開発形態との関係で見る
●
●
●
●
兇ノ
る小規模プロジェクトから都市全体をデザイ
●
●
●
●
●
●
囲にまんべんなく分布しており、NU型開発
という考え方が都市の一要素として挿入され
●
●
●
●
●
●
●
ら2,000haを超えるものまで非常に幅広い範
rL
パブリックスペース
歩行を促す空間
地域固有の文化の利用
●
●
●
●
●
●
●
●
●
多様性
ペル
●
●
●
.、燃
●雛
●
︹自然・省資源︶
多様性
パブリックスペース
地域固有の文化の利用
︹自然・省資源V
●
●
灘灘議
贔驚騒 難
⋮
.轟
Mashpee Commons
罵讃
㍉
●
●
New York, New York
● ●
50∼100haをピークとしっっも、 lha未満か
建
歩行を促す空間
ベル
レ
築
レ
区
住
パブリックスペース
︵自然・省資源︶
り事例
地域固有の文化の利用
ニューアーバニズム論
隣 TND
TOD
UGB
レ
TDN
TOD
UGB
市
都
近
ベル
●
●
が多いため、ともに平均50ha程度で全体の中
*K・・tl・・d・1M・脚d l’●●●●●●●●●●●●
では小規模な開発が多い。これに対し事例数
の最も多い「TND開発」では、周辺の緑地帯
*Welling[on!Florida ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ●
階腿・・1・・…・・●●●●●●●●●●三華・1●●●
等を含む一体的な近隣住区開発となっている
ためか、.
ス均面積が約250haと最も大きい。
このことは実際のTND開発がTODの理想とす
㎞㎜伽曲 鞭●●鍵●●●●●●蒙i●●・●
るコンパクトな規模内に収まり切れていない
畿麟£S蕊lif。,n、。●●●●●●●●●●●●●●●●
こと、あるいは複数の近隣住区やDistrictと
91 *Rosa vista/Arizona ● ● ● ● ● ● ● ● ● ●
の一体開発となっている例があることなどを
理由として挙げることができるだろう。意外
に事例の少ない純然たる「TOD開発」事例で
は、例外的な大規模事例を除くと平均30haと
翻繋舗、渥III1●●●●●●●●●●●●●●●
小さなものばかりであり、近隣住区全体とい
うより駅前の再開発的な事例が多くなってい
るようである。
またNU運動の拡がりを見てみると(表一5
*A晦wVゆt備・・瀦鑑・・・・・・・・…
参照)、やはり成長管理等の都市政策の先進地
・醗・・罐・・・・・・・・…
でもあるカリフォルニア州とフロリダ州に多
灘
・瞼難灘
くの事例が集中しているが、.一方で全米中37
の州とカナダ(2事例)やニカラグアにまで
*は新規開発の事例 ●意図する内容がデザインに反映されていると判断できる項目
38
事例の中で必要としない項目
NUが展開していることは意外であり、展開
資料から判断できない項目
の急速さを裏付けるものと言えよう。
家とまちなみ44
200t9
≒.♪
28
3
3
0
26
22
5
話髪リナ1婁国
2
42
5
3
0
9
3
7
3
表一4 NU開発計画事例の規模
苫秀皐≠
5︾ピ
3
8
柔マ
51
1
7
5
6
石ギ
総計
1
6
8
11
づ充督ア
その他・不明
14
5
4
16
6
3
季其
郊外における充填開発
TOD
24
8
6
葦←養
すヨ
遍羅ラ
都市地域における充填開発
23
ヨ言
5
greenfleldにおけるTND
イ秀琴≠
州名
呂多
召叢生ア
表一5立地・開発類型と州別に見たNU型開発計画事例の分布(CNUホームペーシより作成)
×「greenf【eld」 市街地の外れかまたはいかなる市街地とも隣接せす孤立した農地・原野等の開発地
3
4
5
2
1
36
27
3
13
別分布(CNUホームページよ
り作成)
総計
1
2
2
2
1
0
1
2
0
2
10
138
113
64
19
29
20
17
15
13
11
11
10
10
87
363
7
5
5
1
1
3
6
2
2
1
謙 撃 。 灘
は定かでないが、このアメリカの交通土木の
NUを支えるWの思想
専門家たちを中心とした、理論、実践の両面
から都市構造の再編に取り組もうとするTV運
前述のような体系性を持った理論としての
動の歴史は古く、NU運動がTV運動を背景と
NU論は、当然ながら公共交通基盤の整備を
して生まれてきたことはほぼ間違いなさそう
前提とするTODという開発手法がその骨組み
である。
を支えているとみるべきであろう。有名にな
ったシーサイドやケントランド、セレブレー
ションといった孤立型近隣住区でリゾート的
TVが形成した古き良き時代の街並み
な事例の建築デザインばかりに目を惹かれて
幽
いると分からないが、より普遍的な意味での
TVの思想を理解するには、アメリカにおけ
NU型開発を普及させることができるのは、
る自動車社会到来以前の都市化の歴史を知る
鉄道やバスといった公共交通機関の駅を核と
必要がある。既に忘れ去られているかもしれ
するコンパクトなビレッジ(Nelghborhood
ないが、20世紀初頭のアメリカにおける都市
の集合体)を交通機関(=transit)のネット
化の歴史は、路面電車の発展の歴史であった。
ワークによって結合することで都市を構成し
移動手段が徒歩と自転車、馬車しかなかった
ようとするTODの計画概念である。これは、
19世紀までのアメリカの都市は、必要な移動
自動車交通中心で職住分離を前提とする低密
を最小限に抑えるために職住が高密度に混在
度な現在の郊外居住スタイルを根本的に否定
した汚染と過密の環境下にあった。そこに
したものであり、計画事例にはサンフランシ
1887年、バージニア州リッチモンドでアメリ
スコやワシントンDC、サンディエゴ、ニュー
カ初の電車線が開通した。以来、多くの中産
ヨーク等におけるものがあり、地域プランナ
階級の都市民にとってこの路面電車は、過密
ーや地方自治体は、このTOD概念によって整
化した都心部から郊外へ脱出するための救世
備、創出された都市を「トランジットビレッ
主となり、1900年までに全米で2,107マイル
ジ=Translt Vlllages(以下、 TV)」と呼んで
が敷設され、1916年までにその延長は15,000
いるという。「トランジットビレッジ」という
マイルにのぼっている。1880年にはおよそ
呼び名がいつから使われるようになったのか
1,000万人であった都市人口が1920年には当
へ はらみ めタ
図一1郊外における充填開発の段階的転換を示すダイヤグラム、Eastgate Mall(Chattanooga, Tennessee)の事例(出典文4)
駐車場の海の中の離れ小島のようであった大規模ショッピングモールがNU型開発の手によってヒューマンスケールな街に生まれ変わる
家とまちなみ44 20019
39
畦嚇緬の
住宅地に代表される現代アメリカの都市景観
となるまでの狭間に、路面電車網によって形
新潮流
成されたこうした高密度な街並みが存在した
ことは、西部劇や「風と共に去りぬ」でしか
アメリカの歴史的な都市景観を知らなかった
図一2 広々とした郊外の一戸建て、
庭の手入れをするママと家事を手伝
私には意外であった。
う明るい兄弟。これは「the New
Urbanism」の序論に出てくるアメ
リカンドリームが実現するライフス
タイルのイメージ挿画。そう言われ
ればトムとジェリーはこんな家族の
足もとでドタバタ劇を繰り返してい
たのか、と妙に納得(出典=文2)
自動車社会の到来と街並みの破壊
しかし1920年代に入ると、いよいよ国民の
は当時の全米総人口の半数:に当たる4,500万
足としての自動車が登場し始め、アメリカ人
人となり、さらにその約半数は路面電車によ
は60年聞以上にもわたる長いアメリカンドリ
って形成された都市またはその郊外に居住し
ームと呼ばれる悪夢?(図一2参照)を見続け
ていたという。路面電車線は東西両海岸の大
ることになる。こうして1920年頃まで発展し
都市において従来全く見られなかった星形・
続けた鉄道開発であったが、自治体による過
放射状の都市骨格を形成し、車時代の到来を
剰な路線拡大や世界恐慌による経済的圧迫な
待たずに、既に最初のアメリカ都市民の職住
どが作用して次第に鉄道会社も減少し始め、
分離型の都市形態を物理的に実現していた。
20年代後半には鉄道利用客も減少してゆくこ
この時の都市像がrvの原型とされている。
とになる。第二次世界大戦後の都市民は完全
写真一1,2,4に見られるような、中心都市や
に鉄道を使う習慣を捨て、自家用車による通
郊外都市で形成されたヨーロッパ諸都市から
勤、買い物、余暇を楽しむ生活へと走るよう
輸入された様々な建築様式で彩られたコンパ
になる。1956年の論評ハイウェイ計画の連邦
クトでヒューマンスケールなこの時代の街並
議会での可決によって鉄道交通が支える都市
みこそ、NU運動が提示するどこか懐かしい
像も一旦は息の根を止められた。都市の中を
デザインを素直に受け入れる土壌となるアメ
毛細血管のように走っていた軌道敷(図一3)
リカ都市民の原風景と言えよう。カウボーイ
はことごとくはぎ取られ、6車線、8車線の車
やならず者が闊歩する砂ぼこり舞う馬車道と
道が、通りを取り囲むようにして建っていた
殺風景な木造の街が、摩天楼群と郊外戸建て
中低層の様式建築群をすべてなぎ倒し、さら
螺,
鎌鑛欝
写真一11910年のパサディナの街。この路面電車は多くの
郊外のneighborhoodとLAのダウンタウンとを結んだ(出
写真一3湾を挟んだサンフランシスコの業務地区とバークレ
典二文3)
System Train(1903年開通)(出典=文3)
ーをフェリー+トレインによって1時間以内で結んだKey
驚..鳥
凝聾{誓、
kノ
戦亭
写真一2 1925年のニューヨーク,Scarsdale業務地区の駅前
風景。自動車が登場し始めた頃(出典;文3)
40
家とまちなみ44 2001.9
写真一41930年頃のShaker Heights。ジョージア様式の商
業建築と線路に面する鉄道駅(出典:文3)
さらには農地をまたぐ線路や鉄橋(写真一3)
も広幅員の自動車専用道路へと造りかえられ
、
た。
アメリカにおいてはこうした破壊から免れ
キー・山岳リゾートとして有名なアスペン
難
漿麟
リア調を基調とした鉱山街の町並みが残るス
寒
た歴史的町並みは希有である。今日、ビクト
(コロラド州)も、シルバーラッシュ後に急速
に衰退し、誰も車で訪れなくなったために偶
然残ったものである。未だに路面電車を維持
するニューオリンズの街だからこそ希な歴史
的な町並みが残されているというのも納得で
きる。また、成長管理を掲げる諸都市の中で
今日貴重な保存対象となっている歴史的建築
物は、19世紀から20世紀初頭にかけて建設さ
れたものがほとんどであるが、それらもたま
たま広場に面していたり、一体となった敷地
にセットバックして建っていたために生き延
びたものが大半であろう。単体でわずかに残
図一3 1924年当時のオークランドとバークレーにおける
Key Syヒem高密度な路線綱(出典 文3)
るこうした役所や図書館などの石造、コンク
罵
リート造の建築、あるいは煉瓦造りの倉庫群
辮難二品三
難
などは、現代の都市においてアメニティを形
成する上で欠かせない要素として、都市の成
川,・
舞繍.
長管理計画においてもTDR(開発権の移転)
などの方策を駆使して懸命に保存に努めてい
・欝蜜
る。当然ながらこうした歴史的な町並みのス
ケール感や単体の建築物そのものは、すべて
細纂蒙
NU型開発の大切なモチーフであり取り込む
べき資源として活かされている(図4,5:
Orange Tree Coしrts, Rlverslde)。
TVの再興とNUへの展開
気正常化法(CAA)の改正と総合陸上交通効
図一4(右上》5 0range Tree
Courts(Rlvers[de)のNU型開
率化法(ISTEA)の成立は、都市における鉄
発例。色の薄い部分は長い歴
史を誇るホテル建築、色の濃
い部分が歴史的環境を取り込
み調和した新規開発(出典
道の人気回復に大きな役割を果たした。
こうした情勢変化の中で、既設の鉄道にお
、ノ
こうして1960年代にアメリカにおける鉄道
ける郊外駅周辺の活性化や新設の鉄道網によ
交通は最悪の時期を迎えるが、未だ赤字の鉄
るTOD開発を成功させるための開発手法とし
道路線を抱える自治体等からの圧力もあり、
て登場したのがTV運動である。 TOD型開発
1961年にはケネディ政権が鉄道に対する補助
に依らない既設の郊外鉄道駅は、街を形成で
を決め、1964年にはジョンソン政権は都市大
きずにただ農地の中に停むか駐車場の海に飲
量交通法(the Urban Mass Transportaセon
み込まれるしかなく、パーク・アンド・ライ
Act)を制定して10年間にわたる33億ドルの
ドと呼べば聞こえはよいものの、車を利用し
財政援助による鉄道交通システムの再整備や
なけれぼ駅にたどり着けないという矛盾を抱
民営化を進めるようになる。このころから、
えた状況であった。TV運動はこうした状況に
都市の土地を食いつぶす高速道路建設への反
対し、徒歩で自宅やオフィスから鉄道を利用
対運動や環境保護運動が表面化し始め、70年
しにやってくる乗客を創出し、そうした人々
忌のオイルショックなども手伝って鉄道交通
に職場やサービスを24時問提供し続けること
は再度脚光を浴び始める。とはいえ自動車の
で駅周辺に街としての活気を取り戻そうとす
需要は増え続け、その勢いは80年代に入って
る運動である。このTVを成り立たせる基本要
も止まらないが、一方で都市問題の解決に対
素は、表一6で示す6つとされている。これらの
する鉄道への期待も高まり続け、1990年の大
原則を適用することによって駅周辺の徒歩圏
家とまちなみ44 20019
文3)
41
㊦
表一6トランジットヒレッジを成り立たせ得る6つの要素とその解説
新潮流
詔
まちなみ謙颪の
馨峯
j
’
交通庚滞の緩和
1Enhanced moblllty and envlronment
O職 住 遊 商機能の駅前周辺への集中化
n鉄道設備の近代化や新路線の建設
S道利用者の増加
蜍C汚染の改善
@公共交通機関の強化と駅周辺の環境整備
…
QPedestnan frendlmess
歩行者にやさしい空間形成
3AIternatIve suburban llvlng worklrlg envIronments
郊外生活における職任環境の代替案
歩行者利用の増大
Q通りに面した店舗の配置や並木道の設置
o広大な平面駐車場や壁面後退の禁止
尅ス様な住戸形式の確保
スプロールの防止
住宅の多様1生創出
O駅を中心として次第に低くなる任宅密度設定
oアフォーダブル住宅の確保
4NelghbQ漁ood rev}tal忙za勤on
O貧困層の多い都心部と職場のある郊外部とを結ぶ
pスサービスの運行
貧困対策、雇用創出
ァ織住区の再活性化
5Publlc sa的
@公共の場の安全性
治安対策、犯罪の減少
O駅前広場への交番の設置
將ハりにおける徒歩交通の積極的導入
魅力的な場の創出
o歩行者広場やパス停留所、オープンカフェの設置
O朝市やコンサートの開催
…
aPublic eeieb㈱on
@公共の場の賑わい
1歩情肺恥礁無住。
τ議回さ拡
口歪
燭
[コ
融・8
蔦欝『懸盤
論・8
;診
百
曇藪些
一
。。、れた。行者腰レノ \轟哉回蹴 \灘・
↑自動車交通を前提とした商業地区開発 ↑歩行者や公共交通利用者に配慮した開発 ↑TODによるne[ghborhood開発
歩行者や公共交通利用者に対する配慮が の初期段階
見えない
図一6トランジットビレッジの考え方に基づいて開発された公共交通駅周辺の段階的整備イメージ(出典 文3)
綴\
鰯『
騨麟難
騒凝嚢
糠葺
熱
ら ∼弘晒
螺嚢 影隔
竃穆一縷簸
図一7,8,9サンディエゴ市における都市計画案(出典文2)
①はサンディエゴ市の都市レベルにおけるTODの概念図。②③は近隣住区レベルにおける計画図。今までよく見られた②のよ
うな計画はNU論のデザイン概念を用いて計画すると③のようになる。③はクルドサックをやめて道路を格子状にし、街路樹を
植え、道路に面して建物を配置し、ポケットパークを多く設けている
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家とまちなみ44
20019
らの原則を適用することによって駅周辺の徒
代に形成された都市構造をTODの概念によっ
歩圏に商業と雇用、住宅を高密度に配置し、
て再編成しなければならない。提案された地
様々な顔や声が飛び交うヒューマンスケール
区レベルの計画図においても、従来のゾーニ
な都市空間を創出しようとしている。これら
ングが全面的に否定されている訳ではなく、
を目指すTV運動家たちの脳裏に1920年代の
現況や既存計画の求めるものを尊重しながら
古き良き時代のアメリカの都市像が浮かび、
も、十分にNU論のデザイン概念を注入しな
さらにその都市像がNU運動家たちの求める
がら大胆な計画変更を示している。
方向と見事に一致したのである。
いま一つのNU論に見られる計画描出の着
目すべき手法として、絵的表現の多用をあげ
ることができる。NU論では個々の建築から
NUたおけるマスタープランの描出手法
公園や街路、近隣住区全体にいたるまでの
西山徳明
(にしやま のりあき)
1961年福岡県生まれ。
京都大学博士(工学)。九
州芸術工科大学助教授。国
様々な空間レベルにおける計画内容をパース
立民族学博物館客員助教
近代アメリカの都市計画においては、都市
図やスケッチ、雷雨図、CG等を用いて丹念に
授。専攻は建築学・都市計
機能の合理的配置を実現する手法としてゾー
かつ分かりやすく訴えかける。既存計画との
ニングが偏重されてきた。しかしその結果生
対比を同様に作成した図面によって示すこと
み出された単機能で車でしか移動できない無
で、高い説得力を得ている(図一10参照)。
のまちづくり∼生活空間計
機的な町や街区においては、犯罪が多発し、
こうした近隣住区レベルと都市レベルの計
画学の現代的展開』学芸出
また都心の空洞化などの様々な社会問題が引
画を整合させる一体的なマスタープランの策
版社など。日本都市計画学
き起こされた。こうしたことから、マスター
定手法は、日本の市町村マスタープランが目
プランを持たないあるいはそれと整合しない
指す地区別計画と全体計画を統合させる計画
物群景観保存地区保存審議
ゾーニングは次第に否定されるようになる。
描出手法に対しての示唆ともなると考える。
会委員(1996∼)、福岡県
光・リゾート開発の人類
学』飼草書房、『地域共生
会論文奨励賞(1996)。そ
のほか、吉井町伝統的建造
まちづくりアドバイザー
州によって事惰が異なるとはいえ、総じてア
(1998∼)等を務める。
メリカの現代都市計画においては、州・郡・
都市のそれぞれのレベルにおいてマスタープ
画学。訳書・著書に『観
・おbりに・
ランの優位性が復権することになった。
前述したようにNU論は、こうした都市レ
成長管理政策は合衆国において1960年代か
ベルのマスタープランを描出するこ.とのでき
ら真剣に取り組まれて来ていたにもかかわら
る体系的な理論として着目できる。NU論の
ず、日本においては一部の空乱コントロール
理想とする個々のNeighborhoodを提案する
技術(ダウンゾーニングや開発権移転等)を
には、都市レベルにおけるTODが構想されな
輸入するのみで、80年代末までその思想その
ければならない。サンディエゴ市における計
ものが紹介されることはなく、今日において
画提案(図一7,8,9参照)から分かるように、
も日本の都市計画はその思想の検証を怠って
NU論のデザイン概念に基づく住居地区や商
いると言わざるを得ない。
業地区の開発は、アメリカにおいて一般的で
同じように日本の都市計画関係者は、アメ
あった幹線道路とクルドサック等の歩車分離
リカという自動車偏重社会の特殊なデザイン
システムの組み合わせとは異なるものであり、
運動に過ぎないとして、あるいは日本では既
におけるニューアーバ
こうしたNeighborhoodやDistrict単位のサー
にTVが形成されているとして、 NU運動を看
日本都市計画学会学術
キュレーションシステムを実現するには、近
過してしまって良いものであろうか。
研究論文集35号,
【引用文献】
文1)新島亜希子・西山徳明
「現代アメリカ都市計画
ニズム論に関する研究」
pp.43−48,2000.
文2)Katz, P., ed., The New
Urbanism:
Toward an A【℃hitecO』re of
Commu皿t}乙, New York:
McGraw−Hi11,1994.
文3)Michad B,, Robert C,
Transt ViIlages郵or the
21st Century., McGraw−
HilI,1997.
文4)Jhon A. Dutton, New
AmeHcan Urbanis皿:Re
め㎜血9血eSuburban
Metropolis., Italy=S㎞a,
2000.
文5)大野輝之「現代アメリ
図一10ニューアーバニズムの計画検討段階における複数のシナリオ設定を示す開発イメージパース(出典=文4)
現況や否定すべき開発形態についても念入りなパース図を同様に描き、NU型開発の優位性を証明してみせる手法は秀逸である
家とまちなみ44 2001.9
カ都市計画」学芸出版
社,1997.
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