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ISSN 1347−3514
長 岡 大 学 紀 要
創刊号
2002年3月
目 次
中 西 貞 夫 紀要創刊にあたって
論 文
原 陽一郎 国際競争とは何か
…産業のパフォーマンスから
イノベーション・システムのパフォーマンスへ‥‥(1)
下 坂 佳 正 キャッシュ・フローと利質‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥(23)
中 村 治 仁 教育改革とグローバリゼーション‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥(39)
報 告
吉 川 宏 之 Windows NT Terminal Serverの導入と管理‥‥‥‥‥(51)
長岡大学教員研究・社会活動一覧(2001年4月∼12月)‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥(57)
長岡大学
紀要創刊にあたって
長岡大学長 中 西 貞 夫
蒼柴の森に本学の前身である長岡女子短期大学が誕生して早や30年。昨4月1日をもって新しく長岡大
学として生まれ変わった。その間、共学制の長岡短期大学への改組転換、単科から経済学科・経営情報学
科の2学科への発展と、常に時代の要請に応じつつ脱皮をとげてきた。今般20世紀から21世紀への節目に
あたって、大いなる時代の趨勢を見据えつつ、本学は産業経営学部を擁する4年制大学として新たなる出
発点に立った。
研究・教育機関としての大学は社会によって支えられている存在であるから、研究・教育の成果を社会
に還元することは当然の責務である。個々の教員の研究成果を紀要という形で公刊するのもその責務の1
つであることは論を俟たない。成果を世に問うにあたっては当然質が問われなくてはならない。「紀要」
は大学の持つ顔の1つでもあるからである。
「地域に開かれた大学」を理念として掲げる本学であるが、この紀要が充実した教員スタッフの研究成果
を公開し、地域社会にその実りを還元する手段として有効に機能することを願うものである。
なお、創刊号より紀要はCD-ROM版と冊子版を発行し、Webで公開していく試みを始めたことを付記
するものである。
長岡大学紀要 創刊号
1
国際競争とは何か
…産業のパフォーマンスからイノベーション・システムのパフォーマンスへ
原 陽一郎
はじめに
各国の産業が国際市場において競争を展開し、
そこに競争優位の差が生じる構造は現実に存在す
る。これがフロート制下の為替の調節機能を越え
て貿易のインバランス、すなわち貿易収支の黒
字・赤字が生ずる主たる原因である。
各国産業の国境を越えた市場競争を本格的に取
り扱った最初の経済学者はマイケル・ポーター7)
であったと考えられる。貿易赤字に悩まされたア
メリカの研究者たちは、各国の産業の国際競争で
発揮されるパフォーマンスの違いを生む要因を具
体的に調べ始めた。そして、その結果、パフォー
マンスを支配する主要なファクターとして個々の
企業の経営戦略や組織能力が注目されるようにな
ると共に、イノベーションが国際競争力の源泉で
あることを認めるようになった。次いで、産業を
支える環境要因、とくにイノベーションを促進す
る社会的要因への関心も高まった。
産業の国際競争力を支える環境要因に関する研
究は、国の産業政策、科学技術政策の議論と結合
して、ナショナル・イノベーション・システムの
研究へと発展し、イノベーション政策の概念が生
まれた。さらに、クラスターの持つ競争力の研究
から地域政策への展開も図られている。
今日、国際競争論議の焦点は、産業のパフォー
マンスの比較からイノベーション・システムのパ
フォーマンスの比較へと移っている。
私たちがこれまでに行ってきた一連の研究、す
なわち(A)国際競争力と高度化のイノベーショ
ン 、(B)国際競争力の構造と支配的要因、(C)
イノベーションのメカニズムとイノベーション・
システム(原著等は本稿の末尾に記載、本文中で
は A)、B)、C)で示した)は、振り返って見ると、図
2001.11.21投稿 2001.12.20受理
*長岡大学産業経営学部教授
*
らずもそのような大きな流れに沿って展開してき
たことになる。本稿では、産業の国際競争力から
イノベーション・システムに至る私たちの調査に
基づく検証と考察を中心に、この分野の国内外で
の研究や議論の発展過程を概説して見たい。
1.国際競争力とはなにか
1.1 国際競争力議論の歴史的経緯
¸ 国際競争力と経済学の立場
経済は市場における供給側主体(大部分が営利
企業)の自由な競争によって成り立っている。そ
の意味で市場における「企業の競争力」は重要な
概念であるはずだが、経済学の教科書にはこうし
た専門用語は存在しない。経済学の立場では、企
業同士のミクロな競争にまで立ち入って考える必
要がなかったからだろう。国際交易の観点で、比
較優位(Comparative advantage)という概念
はあるが、これはここで取り上げようとする国際
競争力とは異なっている。少なくても国際競争力
という言葉は存在しない。実際に、経済白書、通
商白書にもほとんど使われていない。
しかし、実際に「企業の(国際)競争力」「産
業の国際競争力」という言葉は、ある概念を伴っ
てしばしば用いられてきた(引用文献を参照)。
ただ、共通の定義が存在しないのだから、その意
味するところは人によって異なり、議論の混乱の
元にもなっていた。
一方で、マクロ経済の専門家は概して国際競争
力論議に嫌悪感を持つ傾向がある。クルーグマン
10)11)
は「国家が直面する経済問題は他の諸国との
比較における相対的な生産性(すなわち国際競争
力)ではなく、あくまでも国内における生産性の
向上だけの問題。国際競争力という概念はよく言
えば掴みどころのない概念、悪く言えば無意味な
もの」と言い、小宮2)は「国際競争力という言葉
2
国際競争とは何か
を使う人は大体において国際貿易の基礎理論や国
際収支理論(フロート制下での)を理解していな
い」と手厳しく批判している。マクロ経済の立場
では、国際競争が実態に照らして取り上げられる
ことはなかった。
¹
ミクロの立場とマクロの立場
国際競争力について、実際に行われる論議を見
ると、ミクロの立場とマクロの立場があり、それ
ぞれにその目的や焦点の当て方に違いがある。
ミクロの立場、すなわち企業の内部では、市場
における自社事業のポジションの確認が経営戦
略、事業戦略の目標設定に不可欠である。企業内
では、なんらかの形で自社事業の競争力を競合他
社と比較評価することを行なっている。1企業に
とっては、国際競争力とは国際市場における自社
の事業の競争力を意味する。しかし、今日のよう
に事業の展開もグローバル化し、国内市場もグロ
ーバル化してくると、企業の中では国際競争力と
いう概念の持つ意義は薄れてくる。
マクロの立場、すなわち、政策当局、マスコミ、
研究者らは国際市場における自国産業(業種)の
総合的な競争優位性が議論の対象となる。これは
経済成長や貿易収支といったマクロ経済の観点、
あるいは自国産業に対する関心や期待といった観
点からである。議論は貿易の自由化、資本の自由
化の過程、オイルショック、ニクソンショックや
急激な円高の後など、上記の観点で問題が生じた
ときに活発化した。
一般に国際競争力の議論はマクロの立場からで
ある。
º
国際競争力論議の時代背景
激しい国際競争の歴史は決して新しくはない。
化学業界では20世紀の初め、ヨーロッパ、アメリ
カを舞台に激しい企業競争が展開され、今も存続
する巨大化学資本の成立を促したA)。日米間の繊
維製品を巡る貿易摩擦は戦前からあった。
国際競争力という言葉が、わが国において一般
に使われるようになったのは、貿易と資本が自由
化に向かう1960年代以降だと考えられる1)。当時
のわが国の経済運営は貿易立国を標榜し、貿易収
支の黒字化が重要な課題であったから、国際市場
で欧米先進諸国の産業に対抗できる、国際競争力
のある製造業を育てる必要があった。1960年代前
半、わが国の製造業は繊維など一部の業種を除い
て欧米企業にいろいろな面で遅れをとっていた。
したがって、個々の企業も市場の国際化の流れ中
で生き残りをかけて自社事業の国際競争力を高め
る努力を続けたのである。国際競争力という言葉
はこのような状況の中で自然に生まれて使われる
ようになったと考えられる。以下に述べるように、
国際競争力の議論は常に貿易との関連で議論され
てきた。
我が国における国際競争力を巡る議論は、オイ
ル・ショック、ニクソン・ショックや急激な円高
の後など、貿易を通してわが国産業が打撃を受け
る懸念が生じたときに活発化した。しかし、これ
らの懸念は杞憂に終わり、議論を深めることはな
かった。そして、わが国の貿易収支は長期にわた
る円高シフトにも拘わらず、拡大を続け、しばし
ば貿易摩擦を引き起こした。
アメリカにおいて国際競争力論議が活発化した
のは80年代以降である。富浦4)は、アメリカの生
活水準の低迷や失業の問題はアメリカの産業が外
国との競争に負けているからだという現状認識か
ら出発していると説明している。アメリカの研究
者たちが産業の国際競争力に強い関心を抱くよう
になる背景には、為替では調整できない対日貿易
のインバランスの現実があったからである。
当初、アメリカ側は対日貿易収支の赤字の原因
をわが国の不公正な産業支援政策や輸出指向の企
業体質、見えない輸入規制などに求める傾向があ
ったが、国際競争力のメカニズムの解明が進むに
従い、次第にアメリカ産業のパフォーマンスに問
題があると認識されるようになった。ヤング・レ
ポート5)に始まる大統領競争力委員会の継続的な
活動、MIT6)、ポーター8)などの研究が知られ
ている。ブルーム9)も日本産業の国際競争力の基
盤となった技術力の強さに着目した。
これに対し、わが国貿易収支の膨大な黒字が国
際問題となった90年前後、わが国のマクロ経済学
者ら2)3)はIS理論(貿易収支が貯蓄と投資の差に
一致すること)を援用して貿易収支の黒字と産業
の国際競争力が強いためではないと主張し、当時
の通産官僚にもこれに同調する空気があった(現
在でもある)。これは企業の赤字を資産が負債と
資本の合計を下回った結果であって、経営のパフ
ォーマンスとは関係ないと言うのと同じ。ほとん
ど説明にはなっていない奇妙な論理である。1998
年、我が国も中国などアジア諸国との競争の激化
を受けて、内閣に産業競争力会議が設置された。
長岡大学紀要 創刊号
このときにも、小峰12)はクルーグマンの前述の言
葉を引用して、産業の競争力を海外と比較するこ
とは本質的問題と関係ないと言っている。
我が国のマクロ経済学者はあくまでも国際競争
力の議論を忌避する。彼らは価格(生産性やコス
ト要素)だけが決定要因ではない今日の複雑な市
場の現実を決定的に見落としているのである。
»
国の能力論の展開
ポーター7)は企業の競争戦略を「コスト・リー
ダー」「差別化」「集中」の3つに分類した。そし
て、グローバル市場での競争は国内市場のそれと
は大違いで、経営環境上の4つの違い、すなわち、
①国による生産要素コスト、②外国市場の環境、
③外国政府が果たす役割、④外国の競争者の目標
と経営資源、を重視する必要があると述べ、経営
と同時に企業の経営環境要因にも着目した。
前述のアメリカにおける産業の国際競争力に関
する研究の過程で、産業の国際競争力に影響を与
える国の環境要件が次第に明らかになり、そこか
ら産業の国際競争力を支える「国の能力、あるい
は国の競争優位性」25)28)29)という概念が生まれた
のである。ここでもポーターは指導的役割を果た
している。
ただし、アメリカの経済学者にも「国の能力」
論には批判がある。クルーグマン11)は国の競争力
などという概念は有害無益、国の経済的繁栄は生
産性の向上だけに依存すると。
わが国においては、産業の国際競争力に関する
定性的な評価は行われていたが、国際競争力に関
する理論的研究はほとんどなかったし、国の環境
要件についても、産業政策、通商政策を越えた議
論はこれまで行われていなかったと言って良い。
¼
経済成長理論とイノベーション政策への発展
「ナショナル・イノベーション・システム」は
ネルソン26)が創造した概念である。彼は80年代半
ば頃から国の科学技術政策とその国の産業の発展
との関連性を実証的に研究し、そこからイノベー
ションを支える国のシステムの意義を指摘した。
一方で、イノベーションこそが産業の国際競争
力の源泉であると同時に健全な経済成長に不可欠
という認識が浸透した。その裏には経済成長と技
術進歩との関連性に関する理論的研究、内生的経
済成長理論32)の影響も少なくない。これが産業の
国際競争力に関する「国の能力」論と結びついて、
3
OECD 27)やEU 31)でのナショナル・イノベーショ
ン・システムに関する研究へと発展した。
イノベーション政策はこうした論理の流れから
必然的に生まれた政策概念である。EU31)は科学
技術政策と産業政策を融合したイノベーション政
策を経済成長と国民生活の向上を実現するために
もっとも基本的なものと位置付けて、加盟諸国に
対して、その指針を示している。グローバル経済
の時代、国の産業の競争優位はその国の経済にと
って、これまで以上の意味合いがある。その競争
優位と経済成長を生み出すのがイノベーション。
イノベーションのパフォーマンスは国の環境要因
に支配されるから、国同士はイノベーション・シ
ステムのパフォーマンスを競い合うことになる。
これが、今日考えられている国際競争力の意義で
ある。
1.2 国際競争力の定義
¸
二つの異なる概念
わが国において、マスコミなどで使われる「国
際競争力」は通常、2つの異なる意味で使われて
いる。松本ら13)はこの2者は明確に区別すべきだ
としている。私たちB)も同様の立場をとってきた。
① ある産業あるいは業種全体の現時点での国
際市場における競争上の強さの程度
② 欧米のInternational(あるいはWorld)
Competitivenessの訳語
前者が本来の意味であるが、すでに述べたよう
に明確な定義は存在しない。これは個々の企業あ
るいは事業の市場における競争上の優位性を示す
市場競争力を国際市場に当てはめた概念と見なさ
れる。「国際競争力」は上記の①、すなわち、あ
る企業が国際市場でその事業を他の国の企業に対
してどれだけ有利に展開しているかを示すもので
ある。マクロの立場で、ある国に立地する企業あ
るいは事業の集合全体を見る場合が「産業の国際
競争力」である。
後者は、産業の国際競争力を支える国の環境要
件が持っている能力を意味する。これは明らかに
企業や事業の「国際競争力」とは異なる概念であ
って、「国の能力」あるいは「国の競争優位性」
と訳すのが適当である。IMDや世界経済フォー
ラムのランキングは「国の能力」の評価に関する
ものだが、不適切な訳語のため、実際に誤解が生
じている。ちなみに、ポーター25)は“Competitive
4
国際競争とは何か
advantage”および“Innovative capacity”と
いう言葉を使っている。ここでは、「国の能力」
で統一しておきたい。
¹
産業の国際競争力の定義
私たちA)は、「産業の国際競争力」とは、「ある
国に立地する特定の産業が自由な国際市場におい
て発揮する相対的な競争力、その産業に属しその
国に立地する個々の企業の相対的な競争力の総合
されたもの」とした。たとえば、A国のK産業の
製品について、輸出超過になり、貿易の偏り係数
がプラス・サイドで大きくなり、さらに、A国立
地のK産業の製品の世界市場におけるシェアが高
くなる場合、A国のK産業の国際競争力は現時点
で強いと見做す。
私たち B)はさらに、「企業(あるいは事業)の
国際競争力」とは、「日本国内に本拠を置く事業
部門(海外拠点も含めて)により生産・販売が行
われている、ある事業(製品やサービス)が、国
内および世界の主要なマーケットにおいて、現在
から将来にわたって優位なポジションを持ち続け
る能力」であるとした。
これらの視点は、企業および産業の問題に重点
を置き、現在の状況を踏まえながら将来向けての
能力に焦点を当てようとしたものである。これ以
外に、産業の国際競争力を厳密に定義した例は他
に見当たらない。
MIT6)は「プロダクティブ・パフォーマンス」
という概念を提出している。定量的指標ではない
が、生産性と品質、タイミングの良いサービス、
企業の柔軟性、イノベーションのスピード、戦略
的な技術の強さなど経済指標で捉えられない多く
の要因を総合した概念であるとしている。松本ら
13)
も産業のパフォーマンスを代表する指標で評価
すべきだと述べている。
º
国の能力の定義
ここで言う「国の能力」とは、産業の国際競争
力を支える国の環境要件のもつ能力である。
International(あるいはworld )competitiveness
がこれに当たる。
ヤング・レポート5)は「国民の実質所得の維持
または増加をもたらしつつ、自由で公正な市場条
件の下で、国際市場の基準に堪え得る財やサービ
スを作り出すことのできる国の有する能力」とし
ている。
ま た 、 IMD( International Institute for
Management and Development、スイス)28)は
「付加価値の創造を維持し、その国の企業の競争
力を高める国の環境条件の能力」と定義している。
アメリカでの「国の能力」論は、ヤング、
MIT、ポーターなどすべてが産業の国際競争力
が国の経済的繁栄と国民の生活水準の向上に大き
く貢献するという基本認識を大前提にしている。
このことを見過ごすべきではない。
2 競争力の構造
2.1 競争力の測定方法
すでに述べたように、産業の国際競争力も国の
能力もともに戦略策定の前提として、能力の相対
的レベルを議論するための概念である。したがっ
て、戦略策定上の意義があって、しかも、なんら
かの方法で測定できることを前提としている。こ
のことを無視した抽象的、観念的な議論は建設的
な意義を持っていない。ことにアメリカの研究で
は、測定評価を重要な課題としている。
¸
個々の企業の国際競争力の評価
企業の内部では、一般には、自社の競争力を競
合する他の企業に対する自社事業の売上げや業績
の比較、自社の市場シェアの動向などのような実
績の結果から判断していたと考えられる。
企業がどのような要素で自社事業の国際競争力
を評価しているかについて、私たちB)が1997年に
行なった調査結果は図表1のとおり。
図表 1 国際競争力の評価項目
順位
項目 (*)印はポテンシャルに着目している項目 回答比率
1位 製品のパフォーマンスが競合製品よりも高いこと(*)
19.5%
2 世界的なシェアが高いこと
13.4%
3 製品のコストが競合製品よりも安いこと(*) 12.7%
4 新製品を継続して市場に出していること(*) 10.6%
5 事業戦略に先行性があること(*)
9.3%
6 世界的にシェアが伸びていること
8.5%
注)輸出比率の伸び 輸出比率の高さなどはほとんど注目
していない。
長岡大学紀要 創刊号
過去に調査例がないので、比較はできないが、最
近の国際的な競争環境の変化を反映して、評価の
要素が実績から将来に向けてのポテンシャルへと
変化したと見られる。ある企業の当事者もそのよ
うに述べている。
¹ 産業の国際競争力の評価
一般に定性的方法と定量的方法がある。
① 定性的方法
・アンケート調査
業界当事者などに優位性の感触を段階評価で聞
いて平均値を求めるものである。経済生産性本部
20)
は1995年から毎年、この方法でアンケート調査
を行っている。私たちA)も機械工業について、戦
後から今日に至る機械系業種の国際競争力の推移
を業界関係者に対するアンケートからまとめてい
る。
・事例研究
特定業種ごとに詳細な国際比較分析を行う方法
で、定量的な指標の比較も含まれる。MIT 6)や
ポーター8)が用いた方法である。私たちも複数の
国内企業のヒアリングで行った。
② 定量的方法 一般に産業の国際競争力の評価に用いられる定
量的指標に次のようなものがある。
・付加価値労働生産性
・輸出価格指数
・輸出入金額とその国における該当国の該当製
品の市場シェア
・RIC(revealed international
competitiveness)係数:
次の式で計算される。
RIC係数=(輸出−輸入)/生産
・貿易の偏り係数(貿易特化係数あるいは競争
力指数):
次の式で計算される。
競争力指数=(輸出−輸入)/(輸出+輸入)
・顕示比較優位指数(貿易特化係数)
当該国の当該製品輸出額
当該国の総輸出額
世界の当該製品輸出額
世界の輸出総額
{
}
/{
}
松本ら13)は、国際競争力関連指標をコスト指標
とパフォーマンス指標に分けている。上記は一般
にパフォーマンス指標(国際競争力の総合的な評
5
価指標)と見なしているものである。コスト指標
には、全要素生産性、単位労働コスト、単位多要
素コストなどを挙げている。
上記のいずれも一長一短があり、業界関係者の
実感とのギャップを埋めるための解釈を必要とす
る場合が少なくない。これらの中で、松本ら13)は
RIC指数がもっとも優れているとしている。私た
ち A)B)は「貿易の偏り係数」(私たちの呼称)を
専ら用いてきた。これは経済白書などにも使われ
ている。国際比較を必ずしも必要とせず、計算も
簡単で、しかも、業界関係者の実感に近い結果が
得られるなど実用性が高い指標と考えられる。
総じて言えば、産業のパフォーマンスは自由公
正な交易を前提にする限り、貿易の実績を通して
現れると見るのである。その意味で、付加価値労
働生産性、輸出価格指数、全要素生産性などは貿
易の実績に現れた国際競争力の説明因子としての
位置づけになる。
なお、以上のような測定は業種別あるいはより
細目の財別(製品系列別)で行う必要があり、定
性的方法と定量的方法の組合せが望ましいと考え
られている。
2.2 事業の競争力と国の競争力の関係
¸ 事業の競争力とその要素
古典的に、市場競争の優位性はコストあるいは
生産性の差で説明されてきたが、今日では、競争
力は価格(コスト)競争力と非価格競争力で構成
されると考えられている。
ある商品の市場での優位性は顧客から見た魅力
度で決まる。市場競争の実際を見ると、顧客が商
品を評価する要素は多様で、商品の性格や顧客の
立場によっても異なる。現実には決して価格だけ
では決まっていない。
市場における競争力は個々の事業ごとに論じら
れる。個々の事業の競争力の総和が企業全体の競
争力である。私たちA)は「総合的な事業の競争力」
が「生産の競争力」と「新製品開発の競争力」で
構成され、それぞれを構成される要素は図表2の
ようになるとした。戦略の前提としての競争力の
比較は要素を細分化して行わない限り、実際的な
インプリケーションは得られない。これが産業の
国際競争力の構造をもっとも細かく分けて、定性
的調査を行ったほとんど唯一の例と考えられる。
6
国際競争とは何か
図表 2 事業の総合的な競争力の構造
価格競争力
価格(コスト)
企業全体の総合
的な競争力
品質
狭義の
非価格競争力
納期
生産の競争力
柔軟性*1
サービス*2
各事業の総合的
な競争力
革新性・新規性
商品企画力*3
新製品開発
の競争力
広義の
非価格競争力
商品競争力*4
開発コスト
注)*1:新製品の生産化、多品種焦慮生産、
開発期間
オプション対応など
*2:アフターサービス、品質性能保証、メンテナンス
*3:商品コンセプトのうまさ、タイミング
*4:他社の同種の商品に対する魅力度、差別化の力
図表2に挙げた要素は、「新製品開発の競争力」
の開発コストを除いて、他のすべてが顧客から見
える要素である。
¹
価格競争力と非価格競争力のウエイト
図表2で、価格競争力に関する要素よりも非価
格競争力に関する要素の方がはるかに多いことに
注目する必要がある。実際に調べてみると、現実
の市場競争は価格ではなく非価格競争力を軸に展
開されていることが多い。
私たちA)は調査結果から、機械製品分野におい
図作成:原
ては、欧米に対しては、生産の競争力における価
格(コスト)競争力の寄与度は狭義の非価格競争
力(品質、納期、柔軟性、サービス)の寄与度の
約1/4、アジアNIESに対しては約1/6程度
しかないと分析した。現在の市場競争においては、
新製品開発の競争力を含めた総合した競争力とし
て、広義の非価格競争力の寄与が圧倒的に大きい
ものと推定されるのである。
º
事業の競争力、企業の能力、国の能力の関係
企業にとっては、個々の「事業の総合的な競争
図表 3 競争力の間の構造関係
企業の能力
経営理念
企業風土
事業の性格
経営戦略
事業戦略
全社マネジメント
とポテンシャル
マネジメントのポテンシャル
・マーケテイング
・生産・物流
・研究・技術開発
図作成:原
製品の市場競争力
・生産コスト
・非価格要素
コンセプト、魅力度
品質、性能など
事業の競争力
社会基盤・政策
・規制、制度
・税制、社会的負担
・社会的、政治的安定性
・経済の健全性
産業基盤
・技術者、技能者
・科学技術の水準
・周辺関連産業
・市場
国の能力
生産要素
・賃金水準
・労働者の質
・投入要素のコスト
・産業インフラ
市
場
︵
顧
客
︶
長岡大学紀要 創刊号
力」を構成する重要な戦略的要素を、いかにして
強化するかが経営上の課題である。これらの要素
の多くは組織内部に依存するが、企業全体から影
響を受けるもの、さらには企業の外部の環境に支
配されるものも少なくない。「国の能力」に関す
る議論は、企業の外部環境がそこに立地する事業
の競争力に大きな影響を与えるという認識に立っ
ている。
私たちB)は調査の結果、同種の製品系列(たと
えば乗用車、NC工作機械など)であっても、国
際競争力強化の戦略の重点の置き方が企業によっ
てさまざまに異なることを見出し、MITやポー
ターらの研究も参考にして「事業の競争力」とこ
れに影響を与える「企業の能力」、さらにこれら
に影響を与える「国の能力」の要素との構造的関
係を図表3のように示した。
個々の「事業の総合的な競争力」はその「企業
の能力」と「国の能力」を有効に活用できるよう
な事業戦略を定め、「企業の能力」と「国の能力」
に支えられたマネジメントのポテンシャルを発揮
して、市場に対する競争力を作り出すのである。
»
国際競争力の評価と戦略
国際競争力の議論は戦略の策定の前提として意
義がある。事実、アメリカにおける企業へのアド
バイスや国の能力論は戦略への繋がりを意識して
行われている。この意味で、国際競争力はセグメ
ント化して論じる必要があるが、セグメントの単
位は戦略の単位でなければならない。国際競争力
の評価と戦略との関係は図表4のように示すこと
ができると考えられる。
7
3.わが国の国際競争力の評価結果
3.1 産業の国際競争力
¸
定性的評価
最近行われた業界関係者に対するアンケート調
査に基づく業種別の評価結果は図表5のとおりで
ある。
経団連および科学技術と経済の会の調査は、技
術水準の評価にウエイトを置いているので、純粋
に産業の国際競争力の評価とは言い難い。総じて
言えば、機械系業種(電機、電子を含み、航空・
宇宙を除く)、鉄鋼・金属系業種が強いと見られ
ている。
私たちA)の調査によると、機械系4業種の欧米
に対する国際競争力の時代推移は図表6のとおり
である。この動きは貿易の偏り係数の推移とも対
応している。
わが国製造業の約5割を占める機械系業種で
は、1970年代には、「生産の競争力」だけではな
く、「新製品開発の競争力」においても、欧米の
水準を超え、以後、世界をリードしてきたと広く
業界関係者は認識している。これについては関係
業界の具体的な事例を調査して裏付けをとってあ
る。70年代に欧米の水準を超えたのは機械系に止
まらず、多くの業種に共通するものだろう。つま
り、わが国製造業は20年以上も前から世界のフロ
ント・ランナーであったのである。このことは海
外では強く認識されていたが、わが国のエコノミ
ストやマスコミはほとんど理解していなかった。
図表 4 国際競争力の評価と戦略の関係
A社のX製品事業
X
製
品
の
国
際
市
場
評価
国際競争力
事業戦略
X製品の産業
の国際競争力
の評価
B社のX製品事業
C社のX製品事業
国の戦略課題
国の能力
図作成:原
8
国際競争とは何か
図表5 欧米に対するわが国産業の国際競争力の評価結果
19)
調査機関
生産性本部
(1998年)
総合力
私たち(日機連)
経
A)
22)
団
連
科学技術と経済の会
(1994年)
(1999年)
(機械系業種のみ)
主力技術・商品の競争力
21)
(1999年)
技術に着目した市場競争力
生産の競争力、新製
品開発の競争力
かなり
その他輸送用機
電気機械、産業機械、 家電機器、非鉄、半導体デ
優 位
械、鉄鋼、ガラ
電子機器、自動車、
バイス、精密機械、鉄鋼、
ス土石製品
造船
金属製品、情報通信機器、
情報家電
食料品、自動車
優 位
非鉄金属、自動
繊維、重電機器、ガラス、
車、精密機械、
産業機械、造船、医薬品
電子・光学材料、電子デバイス
食品、金属製品
ほぼ同等 化学、機械、電
新素材
気機器
劣 位
繊維、紙・パルプ、 航空機
かなり
医薬品
情報機器・システム
航空機
通信機器・システム、ソフトウエア、
劣 位
医療技術、バイオ、
表の作成:原
図表6 機械系4業種の国際競争力の推移
優位
1
○
生産の競争力
0.5
△
○
同等
0
△
○
△
−0.5
劣位
−1
新製品開発の競争力
○
△
−1.5
1950年代
60∼75年頃 70∼85年頃
85年以降
図作成:原
¹
定量的評価
わが国での定量的な評価結果に次のようなもの
がある。
・ 貿易の偏り係数からの評価(図表7)
・ ハイテク製品輸出額の世界シェア(図表8)
OECDはハイテク産業の国際競争力を重視して
いる。日本は航空宇宙と医薬品で劣るためハイテ
ク製品の貿易に関しては強いとはなっていない。
・RIC係数
わが国でRIC係数(輸出比率)の高い(強い)
業種は、鉄鋼、一般機械、電気機械、輸送用機械、
図表7 貿易の偏り係数から見た産業の国際競争力の評価
評価
極めて強い
偏り係数
70以上
強い
ほぼ同等
弱い
極めて弱い
30∼70
▲30∼30
▲30∼▲70
▲70以上
業 種
合繊織物、工作機械、繊維機械、自動車部品、産業用輸送機械、鋼船、軸受、半導体製造装
置、事務用機器
合成繊維、ゴム、プラスチック、写真フィルム、鉄鋼、自動車、半導体、VTR
綿織物、不織布、テレビ
化学肥料、医薬品、合繊紡績
綿紡績、シャツ、外衣、ニット、カーペット、航空宇宙機器、自転車
表作成:原(データは93あるいは95年)
長岡大学紀要 創刊号
9
図表8 ハイテク製品の輸出額の世界シェア
ハイテク製品全体
通信機器
事務機器・コンピュータ
精密機械
電気機械
医薬品
航空宇宙
1位
2位
3位
4位
5位
米(15.4%)
日(23.1%)
米(26.0%)
独(20.6%)
独(17.8%)
独(17.1%)
米(42.8%)
独(14.4%)
米(20.7%)
日(19.6%)
米(17.8%)
日(17.1%)
英(14.2%)
仏(16.2%)
日(11.9%)
独( 9.3%)
英(12.2%)
日(16.4%)
米(14.9%)
仏(12.8%)
英(13.6%)
仏( 7.9%)
英( 8.0%)
独( 7.7%)
英( 6.8%)
仏( 8.1%)
米(12.4%)
独(10.0%)
英(
仏(
仏(
仏(
英(
日(
日(
7.2%)
5.9%)
6.1%)
6.0%)
5.8%)
3.3%)
1.5%)
出所:OECD STAN Database
・顕示比較優位指数
図表9 日米産業の比較優位
比較優位が非常に高いもの(極めて強い)
日 本
米 国
比較優位が高いもの(強い)
通信・音響機器(708)、カメラ・時計(481)
鉄鋼(240)、その他電気機器(183)、ゴム製品
自動車(480)、事務用機器・コンピュータ(257)、 (180)、金属製品(160)
金属加工機(254)
原動機(241)、特殊産業用機械(193)、飼料
事務用機器・コンピュータ(345)、専門科学機器
(182)、その他電機機器(154)
(294)、その他輸送用機械(269)
出所:松本、花崎「日・米・アジアNIESの国際競争力」
13)
・付加価値労働生産性の米国に対する水準(米国:100)
図表10 日米の業種別付加価値労働生産性比較
生産性水準
100以上
80∼100
60∼ 80
60以下
業種
優位
やや劣位
劣位
極めて劣位
鉄鋼、化学工業
非鉄金属、金属製品、自動車、その他輸送用機械
繊維、ゴム・プラスチック
衣服、一般機械、電気機械、精密機械
注)購買力平価で換算、出所:生産性本部「労働生産性の国際比較」
精密機械。米国はプラスが化学のみ、他はすべて
マイナス、すなわち輸入超過である。
19)
ンスの評価とはまったく対応しない。後に述べる
が、生産性は今日の市場競争におけるパフォーマ
ンスを測る指標としては不適切と見られる。
º
総合した評価
以上のように、わが国における定性的評価と貿
易面に現れた指標は概ね対応している。産業の国
際競争力が強いから輸出が増え、輸入は抑制され
るという文脈が成り立つ。わが国で国際競争力の
強い業種は、機械系4業種、鉄鋼・金属系業種、
一部の化学系業種である。一方で、とくに国際競
争力の弱い業種は、航空宇宙、衣服、繊維製品の
多くなどになる。
ただし、ハイテク製品に限ると、日本の優位性
は航空宇宙、医薬品を除いても、数字上で必ずし
も高くない。
付加価値労働生産性の対米比較では、ほとんど
の業種が劣位にあり、貿易面に現れたパフォーマ
3.2 国の能力
¸ 評価の結果
国の能力に関するランキングは、IMD世界競
争力報告書28)および世界経済フォーラムのレポー
ト33)が一般に知られている。日本の評価は、IMD
では、かつて1位であったものが、90年代後半か
ら急速に地位を落とし、2001年には26位。世界経
済フォーラムでも21位となった。
わが国の「国の能力」に関する国際評価は近年
とみに低落している。確かに90年代のわが国経済
は国際比較において、IT化、規制緩和、グロー
バル化などで遅れをとっていると海外から指摘さ
10
国際競争とは何か
れている(たとえば、OECD内部資料)。国とし
て、ランキングの低落に危機意識を持つ必要があ
るだろう。
ることができると説明されてきた。この古典的な
理論は、今日においても貿易収支や産業の国際競
争力の問題に関連して、折りに触れて援用される。
一方で、国間の輸出と輸入の額が変動すれば、
決済通貨のバランスが崩れ、為替レートが変動し、
貿易の調整機能を果たすとも考えられてきた。為
替レートの上昇は、その国固有の要素コストを相
対的に上昇させ、国際的な優位性を減殺させるか
らである。
為替の変動相場移行後、円レートは最近までほ
ぼ一貫して上昇してきた。一般には認識されてい
ないが、1970年からの約25年間の7割の期間は円
が上昇傾向にあったのであるA)。わが国の産業の
国際競争力を論じるとき、うち続く円高トレンド
によって、常に価格(コスト)競争力を殺がれ続
けてきたことを考慮せずに語ることはできない。
米ドルに対してほぼ一貫して高くなってきた通貨
は円だけで、為替による国際競争力の不利化はわ
が国の産業だけが経験した現象だったのである。
繊維製品分野に関しては、明らかに円高の影響
を強く受けた。私たちA)は繊維製品の貿易の偏り
係数が為替レートに実に見事に対応して下落した
ことを示した。これは明らかに円高による価格競
争力の低下の結果であった。繊維製品の市場競争
が価格に強く支配されているためと考えられる。
円高の原因はさまざまに議論されてきたが、そ
の大きな原因の一つにわが国の貿易収支の大幅な
黒字があったことは否定できない。プラザ合意に
よる急激な円高シフトは、アメリカの膨大な貿易
赤字と日本の膨大な貿易黒字を相殺させることを
狙ったものであった。
しかし、実際には円高による貿易収支の調整は
全体としてほとんど機能しなかったと言ってよ
い。私たちA)は、わが国の輸入が円レートには連
¹
評価法としての特徴
IMD、世界経済フォーラムともに、多数のハ
ードデータ(公式統計の国際比較)とソフトデー
タ(その国在住の有識者に対するアンケート結果)
から統計解析によって総合的な指標を求めている
が、方法の詳細は秘密にされている。ソフトデー
タのウエイトが高いため、その時々の状況に影響
され易い点に批判がある。日本のランキングの急
落は現在の長期にわたる経済の低迷、構造改革の
遅れといった心理的要因と決して無関係ではない
だろう。
しかし、能力の評価は客観的データだけでは不
可能で、主観的評価との組合せを考えざるを得な
い。ポーター25)は主観的評価を数値化して、重回
帰分析を行う手法を開発したが、より説得力のあ
る評価方法の開発に国際的な関心が集まっている
ようである。
4 産業の国際競争力の源泉
4.1 国際競争のメカニズム
¸
為替レートの影響
リカードに始まる比較優位説によると、国際的
な交易は個々の産業の生産性と投入要素コストの
国際的な格差に基づいて生じ、自国内の産業で生
産性と国固有の要素コストにおいて比較的優位に
あるものを輸出し、劣位にあるものを輸入するこ
とで、国全体の生産性を高め、コストを下げるこ
とができ、貿易による利益は貿易国相互に享受す
図表 11 繊維製品の貿易の偏り係数の推移と円レートの関係
400
100%
350 * *
円
レ
ー
ト
300
*
250
円レート
特化係数
*
* *
** *
** * *
*
200
*
80%
60%
40%
* *
20%
*
150
0%
*
100
*
−2 0 %
* * * * * −4 0 %
50
−6 0 %
70
72
74
76
78
80
82
84
86
88
90
92
貿
易
の
偏
り
係
数
図作成:原
長岡大学紀要 創刊号
動して増加したが、輸出に関しては円高とは関係
なく一本調子で増加してきたことを挙げ、輸入製
品と輸出製品とでは市場の性質が異なると指摘し
た。通商白書(平成5年版)の分析によれば、急
激な円高が生じた後、輸出製品は平均して円高に
見合う輸出価格の引き上げを行ったとされてい
る。これは国際市場で、価格を上げても輸出製品
は売れたことを示している。これは実際に多くの
製品で認められたことであった。
円レートの上昇トレンドが輸出の動向にほとん
ど影響を及ぼさず、したがって、貿易黒字の削減
にもさしたる効果がなかったという事実は、生産
性と要素コストを前提とした貿易理論が価格競争
力にだけに支配される限定された範囲の製品分野
にしか当てはまらないことを示唆している。
¹
付加価値労働生産性との関係
従来、各業種の労働生産性水準の国際間格差が
産業の国際競争力と密接な関係があると考えられ
てきた。比較優位説も国内における生産性の格差
に基づいている。しかし、すでに述べたように、
日米の生産性水準の格差、わが国の業種間の格差
と国際競争力の定性的評価や貿易に現れた評価指
標とはほとんど対応していない。全要素生産性
(TFP)の日米比較の結果も同様である。クルー
グマン11)も、為替レートによる調整を理由に、国
際競争力と生産性の上昇はまったく関係がないと
言っている。
しかし、生産性の上昇率の格差と産業の国際競
争力とは関係がある可能性がある。長岡18)は1970
∼1987年の生産性の上昇率と価格競争力の変化の
間には相関があると分析している。私たちA)は生
産性指数も含めて業種別の高度化ランクを求め、
高度化ランクと貿易の偏り係数で示される国際競
11
争力の間には相当程度の相関があることを示した
(後述)
。
いずれにせよ、価格要素を含む生産性だけでは、
国際競争力を説明できないのである。
º
市場の性格の変化
上に述べたことは市場の変化と密接に関係して
いる。成熟した市場における顧客の選択は価格競
争力から非価格競争力にウエイトを移したからで
ある。まったく同種類の製品の場合は、今日でも
価格が最大の決定要素になるが、製品の品質、性
能、デザインなどに差のある場合は、非価格競争
力が強い影響力を発揮する例が多い。カラーテレ
ビのケースでは、14インチ標準型からハイビジョ
ンまで製品の非価格的要素に大きな差があり、そ
の間で価格競争は実質的に存在しないと言われて
いる。
為替レートによる調整機能も、計算される生産
性の競争上の意義も、製品が画一的で価格が競争
力の決定要因であって、初めて成り立つ理論であ
った。
私A)は市場のカテゴリー構造を図表12のように
表し、カテゴリーが異なると相互に競争関係がな
いことを多くの事例を挙げて示した。わが国の製
造業は概してハイテク型汎用中級製品市場におい
て、実際に圧倒的な強さを持っている。日本の製
造業に詳しいフィングルトン23)は、日本製品の国
際競争力の強さの秘密は日本でしか作られない独
占的製品が輸出の大半を占めているからであり、
さらにソフト・モノポリー・パワーで世界市場を
支配している分野も少なくないと分析している。
ポーター7)の競争戦略の3つのタイプは、この
市場のカテゴリーに対応していると考えられる。
価格競争から脱却するために差別化戦略やニッチ
図表 12 市場の構造と競争戦略
ハイテク・ハイタッチ
型特殊高級製品
ハイテク型汎用
中級製品
汎用低価格製品
ニッチ戦略
企
業
の
努
力
差別化戦略
コスト・リーダー戦略
の市
圧場
力
競
争
図作成:原
12
国際競争とは何か
戦略を採ろうと企業は努力する。一方で市場競争
は常に成功した差別化製品やニッチ製品を価格競
争の場に引きずり降ろそうとする。このような対
流が市場競争をダイナミックなものにしている。
日本の製造業は国際市場において、強い「新製品
開発の競争力」をバックに差別化戦略を採り続け
て、成功してきたと考えることができる。ちなみ
に、ヨーロッパにはニッチ戦略を得意とする企業
が多い。アメリカはコスト・リーダー戦略志向の
ように見られる。当然、アジアNIESはコスト・
リーダー戦略を採る。
顧客の好みは多様化し、個性化し、実際に、市
場はもっと細かく細分化されている。さらに商品
のライフサイクルは急速に短くなっている。これ
は商品の選択の際の価格要素の決定力をますます
小さくする。市場構造の変化がイノべーション
(新製品や新サービスの事業化)を競争力の源泉
としたのである。イノベーションと国際競争力の
関連については、後に詳しく述べる。
»
国際市場の一体化と国家の立場
国際市場は急速に拡大し、今後も拡大を続ける。
これはアジアの経済発展によって、アジアに高度
な市場が開けたためである。それと同時に、アジ
アNIESの数多くの企業が国際競争に参入してき
た。これによって、国際競争は著しく多元化し、
複雑化することになった。また、企業は母国立地
に拘らず、グローバルに事業拠点を展開するグロ
ーバル企業へと発展していく。グローバル企業に
とっては、国際競争力という言葉はもはや意味を
もっていない。経済活動と市場は国境の存在を無
視して、一体化の方向に進んでいる。
このような傾向は国の立場から見ると、企業の
成功が国の経済的繁栄に必ずしも結びつかなくな
るという問題をはらんでいる。現実に、企業は競
争に勝つために、自国に拘らず世界中に最適の立
地を求めるようになった。アメリカで産業の空洞
化が起こったように、わが国でも90年代前半の激
しい円高の時期に空洞化が大いに議論を呼んだ。
すでに述べたように、アメリカの「国の能力」
論は、産業に対して立地としての国の魅力を高め
なければ、国としての経済的繁栄と国民の生活水
準の向上は望めないという危機意識から出発して
いる。いわば国レベルの産業誘致戦略である。ア
メリカにおける国の能力論でも、国境主義、国籍
主義、戦略産業重視主義があると言われている。
国境主義はどこの国籍の企業であっても自国内で
成功すれば良いとする考え方、国籍主義は自国資
本の企業が自国内をベースに成功するが重要なの
だとする考え方、戦略産業重視主義は自国内で戦
略産業が成功することが重要なのだという考え方
である。もちろん客観的理由があってのことだが、
経済のグローバル化が進んでいるアメリカにおい
てさえ国籍主義が存在するところが面白い。
しかし、アメリカの議論に詳しい富浦4)は国民
の福利厚生という観点で考えて、貿易黒字として
現れる産業の国際競争力が真にどのような意味を
持っているのか分からなくなると述べている。
¼ 日本の製造業の強さの分析
わが国製造業の国際競争力の強さの原動力につ
いては、マクロ的な視点で次のような分析がある。
宮川ら 17) は技術進歩率(全要素生産性の伸び
率)、均衡為替レート等を用いて、日本はとくに
技術進歩で欧米を上回り、円高によるコストの不
利化を補ったと述べている。機械振興協会経済研
究所16)も米国を上回る技術進歩率を挙げると同時
に、85年までは生産要素相対比価が米国よりも著
しく低かったことに注目している。水口 14) は、
「長期的視点に立った経営」「良質な労働力」「ユ
ーザー志向の体制」「品質とコストの両立」「経営
ネットワーク」といった経営風土が強みで、「基
礎技術力」「法人税負担」「社会資本整備」「人件
費」といった社会的要件に弱みがあるとしている。
私たちA)は機械系企業に対するアンケート調査
から、72年以前と以降とは競争力を支えた要素が
異なり、72年以降は、「激しい企業間競争」「厳し
い顧客の存在」「マーケット重視の経営」「部品メ
ーカーの強さ」「新技術に対する貪欲さ」「自社の
技術蓄積」がとくに効果があったことを見てとっ
た。また、
「生産の競争力」
「新製品開発の競争力」
の向上が円高トレンドを乗り越えて、国際競争力
を維持し得た主要な要因であることも検証した
(後に詳しく示す)
。
製品アーキテクチャーに着目して、日本産業の
強さ、弱さを説明しようとする試みもある。藤本
35)
は設計・製造の視点「インテグラル」「モジュ
ラー」の軸と調達の視点「クローズド」「オープ
ン」の軸で見て、日本はインテグラルでクローズ
ドの領域(たとえば自動車)では強い競争力を発
揮するが、モジュラーでオープンな領域(たとえ
ばパソコン)では弱い傾向があると分析した。さ
長岡大学紀要 創刊号
らに、モジュラー・オープン型の製品市場が拡大
しつつあるから、日本企業も戦略を変える必要が
あると警告している。
4.2 産業の国際競争力の戦略的要因
¸
企業の要素
国際競争力(国内も含めて)の強化に重要な企
業の要素について、調査研究の結果から挙げられ
ている項目は図表13のとおりである。いずれの調
13
査でも、研究・技術開発が重要とされている。ま
た、最近の傾向として、戦略と組織能力がとくに
重視されるようになった。
¹ 国の要素
すでに述べたように、産業(あるいは企業・事
業)の国際競争力は国の能力の影響を受けると考
えられている。
主要なレポートが取り上げている国の要素を図
表14にまとめた。日本では、マクロな視点での調査
はなく、すべて企業側への意識調査の結果である。
図表13 重要とされている企業の要素
B)
調査機関
MIT
要素
生産
マーケテイング
研究・技術開発
戦略
組織能力
コスト
非価格要素
生産体制の合理化
供給業者との連携
顧客への接近
日機連
国際競争力
6)
○
○
○
○
○
○
マネジメント
適応力
コアコンピタンス
ネットワーク
創造と革新力
日機連
高度化
○
○
A)
生産性本部
20)
24)
タッシュマン
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
注)○印:重視している項目 表の作成:原
図表14 重要とされている国の要素
マクロ的な視点
調査機関
要素項目
社会
労働の質と雇用
国際化の程度
高等教育
専門人材
経済
健全性、成長性
金融システム
国内市場 市場の特徴
企業の競争環境
政府、政策 政府の政策
公的部門の効率
産業基盤 産業インフラ
賃金、要素コスト
周辺関連産業
科学技術 水準
インフラ
経営風土 経営環境と戦略
マネジメント
表の作成:原
IMD
○
○
6)
OECD
○
○
○
29)
企業側の調査から
世界経済
8)
6)
ポーター
MIT
33)
フォーラム
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
A)
B)
日機連
国際競争力
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
日機連
高度化
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
14
国際競争とは何か
図表15 わが国の「国の能力」の強みと弱み
IMD
社会
経済
政府、政策
産業基盤
科学技術
経営風土
労働の質と雇用
国際化の程度
高等教育
専門人材
健全性、成長性
金融システム
政府の政策
規制緩和
税制
公的部門の効率
産業インフラ
情報通信インフラ
賃金、要素コスト
周辺関連産業
水準
インフラ
経営環境と戦略
マネジメント
28)
△
33)
世界経済フォーラム
生産性本部
20)
○
△
日機連・国際
B)
競争力
○
△
○
△
△
△
△
△
○
△
△
△
△
△
△
△
△
△
△
△
○
△
△
△
○
○
△
△
○
注)○印:優れている、△印:問題あり、無印:評価されていない 表の作成:原
国の科学技術の水準はいずれにおいても重要と
見なされていることが分かる。また、政府、政策
の寄与は一般にはそれほど高く評価されていな
い。IMDが挙げている項目は他の指摘とやや異
質の感がある。わが国の企業が、賃金水準や原材
料・エネルギーコストを必ずしも重視しているわ
けでないことも注目に値する。企業の要素と考え
られる経営戦略やマネジメントは、その国固有の
風土的要素に注目するものである。
企業側の調査では、政府・政策の重視度が低い
傾向がある。また、わが国ではその国の経営風土
に関心が低いようである。
º
わが国の問題点
最近の調査では、わが国の「国の能力」として
の強みと弱みは次のように指摘されている。
一般に高コスト構造が問題にされるが、専門家
の調査分析からは、人件費の高さはそれほど問題
視されず、運輸・通信のコスト、電力料金など規
制に関連することが問題指摘される例が多い。ま
た、海外からはIT投資の遅れ、規制緩和の遅れ、
金融システムの不健全性、解放性の低さなどが問
題として挙げられる傾向がある。
4.3 国際競争力とイノベーション
¸
イノベーションの意義
シュンペーターは、経済発展の原動力がイノベ
ーションであることを明らかにした。そして、企
業同士の市場競争もイノベーションによって、局
面が変わることも広く認識されるようになった。
さらに、ポーターやMITが行った多数の事例研
究から、国際競争においても、イノベーションが
重大な影響を与えることが知られるようになっ
た。
ポーターは、競争力協議会の最新のレポート25)
で「イノベーションこそが国際競争力の源泉だ」
と言い、国の能力として、イノベーティブ・キャ
パシティという概念を提案した。OECDの27)レポ
ートにおいても、「イノベーションは長期的経済
成長の推進力であり、世界市場での競争力の主要
な基盤であり、さらに、多くの社会的課題に対す
る対応の一部である」という基本認識を示してい
る。
前項で述べたように、国際競争力の企業の要素
で戦略や組織能力が重視され始めたが、これも企
業のイノベーション能力の観点からである。国際
長岡大学紀要 創刊号
競争力における国の能力は、イノベーションを中
心にして新たな議論が展開され始めている。
15
クとは、「生産の高度化」と「製品の高度化」の
進捗の程度を工業統計等(用いた統計指標は図表
16のとおり)から計測し、両者を総合して求めた
ものである。
取り上げられた業種は85年時点でいずれも輸出
が輸入を上回っていた。
「生産の高度化」と「製品の高度化」はそれぞ
れ一般に言われるプロセス・イノベーションとプ
¹
産業の高度化と国際競争力
私たちA)は円高が進行する期間(1985∼1995年、
この間に円レートは2倍強に上昇した)を通じて、
総合的な高度化ランクの高い業種ほど貿易の偏り
係数の低下が小さいことを見出した。高度化ラン
図表16 生産の高度化、製品の高度化に関する指標
指標
* 物的労働生産性(生産数量/従業員数)
生産の競争力の向上に関連するもの
生産の競争力の向上と新製品開発の競争力
* 一人当たり売上げ高(製品出荷額/従業員数)
の発現に関連するもの
* 付加価値労働生産性(付加価値生産額/従業員数)
新製品開発の競争力の発現に関連するもの
* 製品の平均出荷単価(製品出荷額/生産数量)
* 製品の平均付加価値額(付加価値生産額/生産数量)
* 製品の平均付加価値比率(付加価値生産額/製品出荷額)
図表 17 高度化ランクと貿易の偏り係数の変化
不織布
20
貿
易
の
偏
り
係
数
の
変
化
幅
軸受
0
鋼船
工作機械
合繊織物
−20
合成繊維
自動車
−40
綿織物
ビデオ
−60
テレビ
外衣
−80
カーペット
−100
合繊紡績
−120
−1
0
1
2
3
4
5
高度化ランク(総合)
図の作成:原
図表18 高度化のタイプ
市場
技術
改良・改善型
技術体系革新型
市場順応型
ベアリング(生産)
自動車部品(生産)
造船(生産)
合成繊維(生産)
自動車(生産)
半導体(製品)
テレビ(生産)
コンセプト提案・市場開拓型
テレビ(製品)
合繊織物(製品)
「新合繊」
複写機・プリンター(製品)
「NC工作機械」
「クォーツ式腕時計」
「ジェット織機」
「液晶表示デバイス」
注1)「 」内に示した事例はその製品市場で新しいカテゴリーを作り出したもの
2)( )内の製品は製品の高度化の事例、生産は生産の高度化の事例
表の作成:原
16
国際競争とは何か
図表 19 国際競争力を決める4つのベクトルの綱引構造
図の作成:原
競争力を引き上げる力
生産の高度化
製品の高度化
生産の高度化ランク
製品の高度化ランク
競争 相手国企 業の
キャッチアップ
円高などによる
コスト競争力の低下
競争力を引き下げる力
ロダクト・イノベーションに該当する。高度化の
具体例として、図表18の業種、製品を取り上げて
検討し、高度化のタイプを4つに分けた。模倣と
改良改善を得意とすると言われるわが国の製造業
も、円高トレンドの中で国際競争力を維持してき
た業種はコンセプト提案・市場開拓型、技術体系
革新型のイノベーションが多かったことを示して
いる。また、このような高度化がわが国固有の場
の条件とのリンケージ、①市場の先行性と競争の
激しさ、②わが国得意のメカトロニクス技術、③
関連周辺産業の強さと厚み、がとくに有効に機能
していたと考察した。
激しい円高の渦中にあっても、国際市場におけ
る地位を維持し得た業種は、イノベーションを
次々と展開し、そのパフォーマンスの良さで競合
する国々の企業を上回っていたのである。以上の
調査研究に基づいて、私たちA)は国際競争力を決
める4つのベクトルの構造を図表19のように示し
た。
私たちのこの研究は国際競争力とイノベーショ
ンとの関係を定量的に示した唯一の例と考えられ
る。ポーター 8)も同じ結論を導き出しているが、
その根拠はケース・スタディのみである。
º イノベーションのタイプ
クリステンセン30)はイノベーションが持続的技
術によるものと破壊的技術によるものに分けられ
ることを事例研究に基づいてを示した。私たちC)
はイノベーション・システムの観点から「既存企
業型イノベーション」と「ベンチャー企業型イノ
図表 20 イノベーションのタイプ
ベ ン チ ャー 企 業 型 イ
ノベーション
〔タイプⅡ〕
( ビ ジ ネス ・ コ ン セ
プトの創造)
図の作成:原
製品と市場のつながりに与える影響力
(プロダクト・イノベーション)
破壊技術的
【強】
マーケター
ベンチャー企業型イノベーション
〔タイプⅠ〕(革新技術の企業化)
アーキテクチュアル
【強】
テクニカル・プ
グレス
レボリューショナル
生 産 シ ス テ ムに 与 え る 影 響
力
既存企業型イノベーション
長岡大学紀要 創刊号
ベーション」に分けて、クリステンセンの考えと
アバナシー34)の分類軸を参考にして、個々のイノ
ベーションの事例を分析し、その結果を図表20の
ように図示した。
すなわち、ベンチャー企業型イノベーションは
既存企業型イノベーションに比べて製品と市場の
繋がりに与える影響力が強い傾向があり、したが
って、既存の技術や市場に対して破壊的であり、
新しい市場創造への力が強いと言うことができ
る。
そこで、私たちC)はイノベーションのタイプに
よる日本と欧米の事例の比較を行ってみた。その
結果は図表21のとおりで、日本は既存企業型でと
くハードの新製品開発の事例が欧米全体の事例に
匹敵するほどに多いが、その反面、ソフト・サー
ビス分野での事例やベンチャー企業型イノベーシ
ョンの成功例が極めて少ない。日本のイノベーシ
ョンは既存企業型に極度に偏っていたのである。
わが国製造業の国際競争力を支えてきた「生産の
17
高度化」「製品の高度化」は明らかに既存企業型
イノベーションであった。
4.4 イノベーションと社会環境
¸ イノベーション・システム論
ナショナル・イノベーション・システムとは、
イノベーションに影響を与える社会システムの中
のさまざまな主体、あるいはその機能の相互関係
を体系的に記述するもので、イノベーションの促
進にとって、どこに問題があるのかを明確にする
目的を持っている。
ネルソン26)はアメリカ産業のイノベーションに
対する政府の役割について分析を行い、続いて、
日米欧、アジアNIESなど15ヶ国のナショナル・
イノベーション・システムの比較研究を行った。
OECD 27)はワーキンググループを設置し、4年
間にわたってナショナル・イノベーション・シス
テムの国際比較を行い、レポートを発表した。そ
図表21 世界のイノベーションの分類
タイプ
既存企業型
イノベーション
特徴
*市場の進化
に対応する
産業の高度
化
*技術、市場
の過去の蓄
積の活用
事例(1970年以降、世界的に生活、産業へのインパクトが大きいもの)
( )内は生産技術、< >内はデバイス・材料
日本発(最初の事業化)
欧米発
動機と狙い
ハ
ー
ド
企業の成長維持、
競争力の確保
<危機意識>
サ
ー
ビ
ス
*潜在ニーズ
の発掘によ
ベンチャー企業型 る新産業の
イノベーション 創造
*ニッチ市場
から
クォーツ・ウオッチ、NC工作機
械、カップ麺、AFカメラ、ヘッ
ドホンステレオ、ワープロ、家庭
用VTR、レンズ付きフィルム、
小型プリンタ、家庭用ビデオカメ
ラ、DVD、新合繊、デジタルカ
メラ、HDテレビ、
<液晶表示、炭素繊維、半導体レ
ーザ、ポリアセチレン>
ソ
フ 宅急便、
ト (ジャストインタイム)
・
ハ
ー
ド
カラオケ、ファミコン
自己実現意欲、
創業者利潤の追求 サ ソ
ー フ
<夢>
ビ ト
ス ・
注)
斜文字:潜在ニーズの開拓、他は既存製品の極限突破、アンダーライン:破壊技術的
注)斜文字:潜在ニーズの開拓、他は既存製品の極限突破、アンダーライン:破壊技術的
表の作成:原
表の作成:原
デジタルウオッチ、ジャンボ
ジェット機、人工衛星、MRI、
LSI、フロッピーディスク 、C
D、 ス ー パ ー コ ン ピ ュ ー タ 、
ポストイット、バンドエイド 、
人工腎臓、バルーンカテーテ
ル、
<CCD、太陽電池、光ファイ
バー>、
X線CT 、衛星通信、衛星放
送、 移 動 体 通 信 、 カ ー ナ ビ 、
金融デリバティブス、デビッ
ドカード、ATM、NASDAQ
(CAD、CG、GPS、)
集積回路、MPU、テレビゲー
ム機、パソコン、バイオ医薬、
コンビニ 、ソフト、 ベンチャ
ーキャピタル 、パソコンソフ
ト、 ネットビジネス 、ゲノム
ビジネス、
(遺伝子工学、インターネット)
18
国際競争とは何か
の中で、グローバリゼーションが進む中で、各国
政府は国の優位性を保つためのイノベーション・
システムの強化と知識主導型経済(Knowledgebased Economy)への移行の課題に直面してい
ると動向を分析している。
アメリカ競争力協議会はポーターとスターンを
ヘッドとするワーキンググループを設け、イノベ
ーションを活発化させる国の環境要件に関する研
究を行い、報告書25)を発表した。これはイノベー
ティブ・キャパシティ(イノベーションを支える
国の能力)の理論的枠組み、OECD 17カ国の過
去25年間にわたる国際特許件数と各種の定量的イ
ンプット指標の回帰分析に基づく各国のイノベー
ション・インデックスの算出と時系列的な考察、
これらに基づくアメリカ政府に対する提言で構成
されている。この中で、アメリカは研究開発投資
を減らしているので、近い将来、イノベーティ
ブ・キャパシティの国際ランキングが低下すると
警告している。
3つの研究はいずれも、イノベーションが国の
経済的繁栄と国民福祉の向上の基本であり、国際
競争力の源泉であるという基本認識に立って、イ
ノベーションを巡る国の能力のあり方を論じたも
のである。イノベーションは必ずしも新しい科学
技術を前提としたものではないが、欧米では暗黙
の内にTechnological Innovationをイメージして
いるように見られる(OECDのOslo Manual36)は
明確にTechnologically Product and Process
Innovationを対象としている)。3者に共通する
ところは次の点である。
① 国のイノベーション・システム同士の競争が
展開されている
② イノベーションの主役は企業である
③ 科学技術の重要性、とくに目的基礎研究に対
する国の役割は無視できない
④ 高等教育は極めて重要な意義をもっている
⑤ 企業を取り巻く社会的環境、産業間ネットワ
ークと協調は重要な要素である
欧米ではイノベーションと経済成長との関係を
図表22にように理解されている。
ポーターら 25)やOECD 27)が図で示したイノベー
ション・システムの概念モデルは極めて簡素化さ
れ、とくにポーターのものは「共通するイノベー
ション・インフラ」と「クラスターの特徴要件」、
この2者をつなぐ「リンケージの質」だけに焦点
を当てている。
私たちC)もわが国のイノベーション・システム
を欧米と詳細に比較して問題点を明らかにするた
めに、イノベーション・システムの概念モデルを
検討した。私たちの提示した概念モデル(図表23)
の特徴は次のとおりである。
① プラットフォーム機能を明らかにした。イノ
ベーションを起こすためには、プラットフォー
ム(イノベーションに必要な知識・情報、人材、
資本等の経営資源が必要に応じてスムースに起
業家の手に渡るような、起業家に好意的な環境
と機能を有する場)が不可欠である。
② プラットフォームの特性の違いから、イノベ
ーションは既存企業型(プラットフォームは既
存企業の組織を中心に形成される)とベンチャ
ー企業型(プラットフォームは社会システムに
依存する)に分けるべきである。
¹ わが国のイノベーション・システムの特徴と
問題点
すでに述べたように、わが国のイノベーション
の実績は既存企業型に大きく偏っている。既存企
業型イノベーションのパフォーマンスの良さは、
図表 22 欧米の経済業政策に対する基本的な考え方
生活水準の向上
民間の力
経済の健全な成長
+
産業の国際競争力強化
イノベーションの成果
図の作成:原
有効なイノベーション・システム
国の施策
国の戦略的科学技術の振興
国のイノベーション環境の充実
長岡大学紀要 創刊号
19
図表 23 イノベーション・システムの概念モデル
イノベーションのアウトプット
経済成長率、失業率、貿易収支
国内の産業構造、市場競争環境
国際的競争環境
市場
経済的フレーム
ワーク条件
起業活動
新製品、新サービスの創造
既存企業
資源の移転と流
動性の機能
個人起業家
研究開発のアウトプット
科学技術の
国際協力と
競争環境
研究開発活動
既存企業内
研究開発部門
イ
ン
キ
ュ
ベ
ー
タ
機
能
、 人材
知識
資本
大学・
公的研究機関
社会的基盤
研究開発のインプット
注
図の作成:原
プラットフォーム(既存企業)
プラットフォーム(ベンチャー企業)
政策の対象領域
欧米の研究者が指摘してきたように、企業内の組
織能力の高さ、すなわち企業内組織を中心とする
プラットフォーム機能の能力に支えられてきたと
考えられる。しかし、一方で、ベンチャー企業型
イノベーションのパフォーマンスは著しく低い。
これはベンチャー企業型イノベーションを支援す
る社会システムとしてのプラットフォーム機能が
弱体であり、そこに含まれる主体、大学・公的研
究機関や金融機関などの能力にも問題があるから
である。
私たちC)は、とくに米国との客観的データの比
較から、わが国のイノベーション・システムの問
題点を次のように指摘した。
① 社会システムとしてのプラットフォーム機能
(とくに資源の移転と流動性の機能)の貧弱さ
② 産業のニーズと大学等の公的研究機関の研究
の質的なミスマッチ
我が国は、元来、人材の流動性に欠け、大学等
と産業界の連携・交流も薄く、ベンチャー企業等
リスクを伴う事業に対する資本市場も十分に機能
していなかった。これらの問題の背景には、我が
国社会に根差す要因が存在し、改善には時間がか
かると考えられる。
資源の移転と流動性を高めるためには、我が国
に適合した強力なインキュベータ機能を創設し
て、知識、人材、資本の流動性を阻害する我が国
の社会的要因を緩和することが当面、もっとも有
効な手段であると考えられた。
º
大学の果たす役割
大学は研究面で、とくにベンチャー企業型イノ
ベーションに対して重要な役割を果たしていると
欧米では早くから認識されてきた。実際に、アメ
リカでは有名な大学の近郊でベンチャー企業が群
生するケースは多い。たとえば、大学での研究成
果を生かしてスピンオフした企業数(1980∼94年)
はMITが86、ユタ大が62、有名なスタンフォー
ド大は意外にも下位ランクで、25である。38)アメ
20
国際競争とは何か
リカの大学からはイノベーションの切っ掛けとな
る研究成果が多数生まれているのである。これに
対して、日本では、大学からのスピンオフ企業の
例は見当たらないし、大学から民間企業への技術
移転も極端に少ない。C)
アメリカの大学は教育面でも、ベンチャー企業
の振興に貢献してきた。ビジネス・スクール出身
者は起業家志向が強く、実際に、起業家やベンチ
ャー・キャピタリストを多く排出してきた。実証
主義経営学を拓き多くの国際級経営学者を育てた
東大名誉教授土屋守章氏は「学者としての最大の
過ちはアメリカのMBA教育の戦略的意義に気づ
かなかったこと」と述懐したが、日本ではベンチ
ャー企業で活躍できるような人材の育成をまった
く怠ってきたのである。
アメリカでは、80年代、国際競争力という観点
で大学改革が進んだ経緯がある。日本の大学改革
も経済と産業の再生、ベンチャー企業支援という
側面が色濃くあることを大学関係者は良く認識す
る必要がある。
»
イノベーション・システムの比較優位
先に述べたように、ポーター25)はナショナル・
イノベーション・システムの国際的な競争優位性
を評価する目的で、イノベーション・インデック
スを開発した。これはイノベーションの中間指標
として国際特許出願件数を用いており、その妥当
性は大いに疑問があるし、評価結果にも違和感が
ある。たとえば、日本は2000年代初頭には、世界
ランキング1位となっている。スイスがトップに
いることも実態とはかけ離れる。
一般に、国のイノベーション・システムの国際
比較には、欧米は強い関心を持っている。
OECD 36)はEUと協力して、国際統一基準(オス
ロ・マニュアル)によるイノベーション実績調査
(CIS)を開始した。さらにEU39)はイノベーショ
ン・スコアボードを作成して、EU加盟国同士の
イノベーション環境のベンチマークを発表した
(日本と米国も含まれている)
。
このように、国際競争の議論はイノベーショ
ン・システムのパフォーマンスの優位、劣位の評
価に重点が移った。この背景には、世界経済の健
全な発展と生活水準の向上には、イノベーション
の活発化が不可欠であり、そのためには各国が競
い合ってイノベーション・システムの改善を推進
する必要があるという信念がある。この信念の根
拠として、内生的経済成長理論32)の発展が重要な
役割を果たしているのである。
5 結語
各国の産業のパフォーマンスを競うという視点
での国際競争力は、企業がグローバル化するに従
い、意味を失い始めた。企業あるいは事業の競争
力は本稿で論じたように、企業の内部だけではな
く、拠点を置く国の社会的要素にも強く影響を受
ける。したがって、国際市場で競争優位を確保す
るためには、世界で最適の場所に事業拠点を置く
必要がある。現在、日本の製造業で急速に進んで
いる生産拠点の海外シフトもそのための戦略の現
れである。仮にテレビが大幅輸入超過になったと
しても、輸入される製品の多くが日本企業の海外
生産品であれば、日本のテレビ・メーカーが競争
力を失ったとは言えない。
企業のグローバル展開は個々の企業の成功と国
の経済運営とを切り離し始めた。国の立場では国
内生産の維持、雇用の維持は重要だが、企業の立
場では重要な関心事はない。企業は日本という国
が事業拠点を置く立地として、不適当と判断すれ
ば、世界中に適地を求めて移っていく。生産拠点
の海外シフトは日本の産業立地としての魅力度が
相対的に低下したことを示している。IMDなど
の評価ランキングの低下とも相通ずる。
国の経済的繁栄と国民生活の質の向上はその国
に立地する産業のパフォーマンスに依存するか
ら、国は世界中の企業に対して優れた国の能力を
提供し、企業の立地を促すことが最大の政策課題
になる。このような観点で、国の能力論が生まれ、
ナショナル・イノベーション・システム論に発展
した。欧米各国はイノベーション政策によって、
その国のイノベーション・システムを他の国より
も優れたものし、国の経済発展と国民生活の向上
を実現しようとしている。経済に対する国の政策
の関与が従来以上に重視される方向にある。
わが国はイノベーション・システムの国際競争
で気付かない間に遅れをとった。その遠因は産業
の国際競争力の研究を怠ったからである。わが国
の製造業が国際市場で際だった競争優位を発揮
し、国の経済成長と国際収支の健全化に少なから
ぬ貢献をしてきた状況があったため、研究者も国
の政策担当者も問題意識をもつ必要性がなかった
からでもある。一方で、欧米は日本の製造業に手
長岡大学紀要 創刊号
痛い打撃を受ける自国産業界の現実に危機意識を
もって、この問題に真剣に取り組んできた。
この違いが、結果として、大きな格差となって
顕在化してきたように思われる。90年代に入り、
欧米諸国の経済成長率は日本を上回るようにな
り、知識主導型経済(OECDの認識37))に相応し
い新しい産業も多くが欧米で生まれるようになっ
た。フロントランナーであったわが国の製造業は
再びキャッチアップを迫られようとしている。
ハード中心の工業製品市場が成熟・飽和に達し
た今日、新しいタイプの市場の創造が経済成長の
原動力となる。これが欧米の基本認識である。新
しいタイプの市場創造は、私たちのいう「ベンチ
ャー企業型イノベーション」に強く依存する。と
ころが、わが国はベンチャー企業型イノベーショ
ンに著しく弱い。このことが日本経済の本質的な
問題なのである。このことへの危機意識は政治・
行政サイドにもまだ強くない。
わが国おいて新市場を創造する力をもつベンチ
ャー企業型イノベーションが起こり難い原因は日
本のイノベーション・システムに欠陥があるから
である。私たちが強く指摘したように社会システ
ムとしてのプラットフォーム機能は欧米に比して
著しく弱い。その元には、社会の流動性の低さと
大学の社会への対応力の低さがある。これらの問
題は価値観や意識に係わり、政策・制度の改革だ
けでは短期間に効果を挙げ難い。これを補うため
には、強力なインキュベーション機能の創出が必
要となるだろう。すでに述べたように、ここで社
会科学系大学は重要な役割を果たさなければなら
ない。
日本が世界に誇ることのできる既存企業型イノ
ベーションのプラットフォーム機能は健在であ
る。当面は既存企業に頑張ってもらって経済を支
えてもらうことを期待したい。
付記)本稿で紹介した私たちの一連の調査研究は
›日本機械工業連合会および新エネルギー・産業
技術総合開発機構(経済産業省)の指導と支援を
得て行われたことを記して、両機関に対して心か
ら感謝の意を表したい。
21
*原陽一郎「ニクソン・ショックからの合成繊維産業」
日化協月報、1994年12月号
*東レ経営研究所「我が国機械産業の発展基盤に関す
る調査研究」日機連、平成4,5年度
*東レ経営研究所「わが国機械工業の高度化に関する
調査研究」日機連、平成6,7,8年度
*原陽一郎、古宮達彦、武澤泰「産業高度化と国際競
争力」研究・技術計画学会第11回年次大会講演要旨
集、1996年
*原陽一郎「国際競争力と産業高度化のイノベーショ
ン」慶応経営論集17巻3号、2000年
*原陽一郎「国際競争と高度化のイノベーション」(第
1報)長岡短大紀要、32号(平成10年)、「同」(第2
報)、33号
(平成11年)
B)国際競争力の構造と支配的要因
*東レ経営研究所「機械情報産業の国際競争力強化に
関する調査研究」日機連、平成9、10年度
*原陽一郎、古宮達彦、武澤泰「製造業の国際競争力
の支配要素について(第1報)」研究・技術計画学会
第13回年次学術大会講演要旨集、1998年
C)イノベーションのメカニズムとイノベーション・シ
ステム
*東レ経営研究所「産業技術戦略策定基盤調査(基
盤・環境整備戦略<全体調査>)NEDO、平成11年度
*東レ経営研究所「技術革新システムのモデル化に関
する調査研究」NEDO、平成12年度
*東レ経営研究所「技術革新指標の策定に関する調査
研究」NEDO、平成12年度 *原陽一郎、亀岡秋男ら「イノベーション・システム
に関する考察とその展開(第1報)」、研究・技術計
画学会第14回年次学術大会講演要旨集、1999年
*原陽一郎、亀岡秋男ら「イノベーション・システム
に関する考察とその展開(第2報)」、研究・技術計
画学会第15回年次学術大会講演要旨集、2000年
*原陽一郎、黒田明生「イノベーションのタイプと我
が国の特徴」および「イノベーションのダイナミッ
ク・プロセス」、研究・技術計画学会第16回年次学術
大会講演要旨集、2001年
*原陽一郎「イノベーションのメカニズムと日本の強
み弱み」、マネジメント・トレンド、Vol.6 No.1、
2001年
*原陽一郎「新産業創造のイノベーション」
、化学経済、
2002年1月号
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研究論文のリスト
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22
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ダイヤモンド・ハーバード・ビジネス、1998年12月号、
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27.OECD「Managing National Innovation Systems」
OECD Publications(1999)
28.IMD「The World Competitiveness Yearbook」
29.OECD「Industrial Competitiveness」
(1998)
30.C.クリステンセン「イノベーションのジレンマ」
翔泳社(2000年)
31. EU・ COM( 2000) 567final「 Innovation in a
knowledge-based economy」
長岡大学紀要 創刊号
23
キャッシュ・フローと利質
下 坂 佳 正
1
キャッシュ・フロ−計算書は損益計算書と貸借
対照表につづく第三の財務諸表として正式な地位
を与えられた。しかし、それが第三の財務諸表た
りうるか、については議論のあるところである。
そのためにはキャッシュ・フロ−計算書が「総額
法と誘導法と直接法との組み合わせ」によって作
成されるものでなければならない1)、というので
ある。
この議論は国際会計基準書第7号(1992年改訂
版) 2)における諸規定の曖昧な態度を直接突くも
のではあるが、頑な誘導法と直接法への固執は却
ってキャッシュ・フロ−計算書の意義を狭隘化さ
せるものとして一考を要する問題を含むことにな
る。
直接法の最大の利点はキャッシュの入出金総額
を把握できる点にある。 3)また、これによって各
種の比率計算4)による分析が可能になり、その意
味では従来の損益計算書や貸借対照表からは得ら
れない情報が得られる点で、まさに第三の財務諸
表の名に値すると思われる。
しかしながら、直接法ではキャッシュ・フロ−
と利益との関係は遮断されてしまう。この点は直
接法の最大の弱点でもある。もっとも、利益その
ものについては損益計算書がその由来を説明し、
その裏付けは貸借対照表が表示しているのである
から、ことさらキャッシュ・フロ−との係わりに
拘泥する必要はないとする論もある。5)
これらの議論はキャッシュ・フロ−と利益との
直接の係わりを第二義的なものとするようであ
る。
果たして、それで良いであろうか。その答えは
国際会計基準書第7号やFASB『財務会計基準書
2001.06.12投稿 2002.01.09受理
*長岡大学産業経営学部教授
*
第95号』6)が直接法を推奨しつつも、その一方で
間接法を排除し切れなかった点にあるように思わ
れる。その論拠は国際会計基準の先駆的役割を果
たしたFASBの基準書第95号にキャッシュ・フ
ロ−計算書の目的の(c)として「純利益と関連する
収支のズレの理由の評価」が新たに追加されたこ
とに見ることができるからである。
この目的は順位こそ第三順位ではあるが、はじ
めて利益の質(Quality of Earnings)の評価
が打ち出された点にこそ注目しなければならな
い。この点はイギリス会計基準審議会(ASB)の財
務報告基準第1号の7項でも利益と営業キャッシ
ュ・フロ−との調整表を義務づける根拠として利
益の質を評価するため7)と述べられている。
すなわち、キャッシャ・フロ−と利益の間には
利益の質を評価するという関係があると公式に表
明されたのである。そうだとすれば、キャッシ
ュ・フロ−と利益の関係が遮断される直接法によ
る限りこの目的を達することはできないのであ
り、それ故に、直接法を第三の財務諸表のための
要件とする論拠も偏狭に過ぎるとされなければな
らない。
異なる目的のためには異なる方法ないし手段が
用いられることは理の当然であり、それを唯一の
方法を以て財務諸表たるの要件とするようなこと
は視野狭窄との誹りを受けても仕方がないといわ
なければならない。
キャッシュ・フロ−計算書の目的はその順位は
ともかく、多様であり、むしろその故にこそ、第
三の財務諸表としての資格を有するものと考える
べきである。
国際会計基準書第7号やFASBの基準書第95号
が直接法も、間接法も、と両法併記にならざるを
えなかったのはキャッシュ・フロ−計算書のもつ
多目的性の故にである。そして今や利益の質の評
価がその目的に掲げられたのである。
では、利益の質とはどのようなことであろうか。
24
キャッシュ・フローと利質
これについてFASBは1981年の公開草案で、つぎ
のように述べている。「分析家達は利益の『質』
を問題にする。利益の質を決める要素の一つは利
益が現金等の資金に転化する程度である。…中略
…利益獲得活動からもたらされる資金フロ−と利
益の比率が高ければ高いほど利益の質は高いとい
われる。8)」
さて、「利益獲得活動からの資金フロ−と利益
の比率が高ければ高いほど利益の質は高い」との
説明は観念的には何となく理解可能であるが,何
を基準とする比率か、恐らく利益獲得活動からも
たらされる資金フロ−に占める利益の割合を指す
のであろうが、いま少し判然としない面が残る。
それというのも、ここにいう「利益獲得活動から
もたらされる資金フロ−」とはキャッシュ・フ
ロ−計算書における「営業活動からのキャッシ
ュ・フロ−」を指すのであろうが、このフロ−は
厳密には費用・収益を網羅するものでもなく、ま
た一部の利益処分項目が混入しているからであ
る。また、利益の質は単なる比率だけで測られる
問題でもないであろう。
本稿ではこれらの点を考慮して、「営業からの
キャッシュ・フロ−」に費用・収益項目を網羅し、
利益処分項目を除外することにより「利益獲得活
動からもたらされる資金フロ−」を極力損益計算
書の範疇に近づけ、「キャッシュ・フロ−と利益
の質」の問題に接近したいと思うのである。
2
キャッシュ・フロ−と利益の質の問題に接近す
るためにはキャッシュ・フロ−の把握に間接法が
採られなければならない。そして利益の質の良否
を吟味するには端的にいって成長企業の利益と倒
産企業のそれを実証的に比較するのが最も近道で
あろう。
ここで注意すべきは倒産会社といえども、利益
を計上している状態のものを対象にしなけれぱな
らないという点である。損失を重ねて倒産に至る
ことは知れたことであり、損失の質をことさら吟
味するのはおよそ無意味である。企業経営にとっ
て損失それ自体は絶対悪とされるからである。
利益の質に良否があるとすれば、倒産会社の利
益は恐らく質の悪いものであろうとの憶測も成り
立つ、また逆に質の悪い利益のため倒産の憂き目
に逢うともいえよう。否、むしろ良質の利益を生
み出し得なかったところにこそ倒産の原因を求め
るべきかもしれない。また逆に、利益の質を判別
することが倒産の危険を予知することに繋がるか
もしれない。
まさに、「勘定合って銭足らず」的利益が質の
悪い利益である。この言い古された慣用句は利益
の質の悪さを直観的かつ感覚的に捉えたものとも
いえよう。
しかし、操作性を重視する簿記会計は、このよ
うな事柄を観念的なものとして放置すべきでな
く、それを具象化してこそ、その任に耐え得るも
のといわなければならない。
そこで、以下において倒産会社(以後A社とい
う)と成長会社(以後Z社という)の財務諸表に
もとづいて利質の良否をキャッシュ・フロ−と係
わらせることにより、その具象化を試みよう。
その前に両社の業歴を一瞥しておこう。
A社は機械製造業であり、第18期決算日のおよ
そ1か月前に自己破産を申請して倒産に至った会
社である。一方、Z社は1925年設立の醸造業の老
舗であるが、第74期以前10年間の実績は売上高で
約3倍、資産規模で約2.5倍、そして当期純利益で
実に6.5倍に伸ばした会社である。したがって、
Z社を成長会社とみて大過ないであろう。
両社には業種、規模において違いが見られるも
のの、ともに製造業であるため当面の吟味に当た
って致命的な障害になるものではない。
A社の倒産直前の財務諸表は、第1表第17期貸
借対照表(前期対比)、第2表損益計算書と第3表
製造原価報告書として示すとおりである。
Z社の財務諸表は、第4表第74期貸借対照表
(前期対比)、第5表損益計算書、第6表製造原価明
細書、第7表減価償却明細表(部分)および第8
表利益処分計算書として掲げるとおりである。
第2表からA社の当期純利益は1,300万円、第5表
からZ社は57億円の当期純利益を計上しているこ
とが示されている。規模に違いはあるものの、共
に利益を計上していることに変わりはない。使用
資本量の大小により利益に大小が生じるのは、こ
れまた当然のことである。利益の質は利益の額の
大小とは別問題である。
では、損益計算書と貸借対照表の観点から利益
の質についてどのような見方があるであろうか。
その一つに、近時重要視されている自己資本利益
率(R.O.E)がある。ここでは自己資本利益率に
よって両社の利質を判別できるか見てみよう。
長岡大学紀要 創刊号
第1表 貸借対照表
A社
(単位:百万円)
第16期末
(
Ⅰ 流
現
受
資
産
動
金
資
及
取
部
産
収
貸
貯
)
第17期
Ⅰ 売
Ⅱ 売
(単位:百万円)
上
上
高
原
771
価 165
期 首 製 品 棚 卸 高
60
形 ( 注 )
25
0
当期製品製造原価
614
入
員
第17期末
207
預
掛
未
第2表 損益計算書
A社
金
び
手
売
役
の
25
付
蔵
製
金
27
42
合 計 674
金
5
8
期 末 製 品 棚 卸 高
93
金
26
6
5
28
品
60
93
売 上 総 利 益
Ⅲ 販売費及び一般管理費 営 業 利 益
190
品
Ⅳ 営 業 外 収 益 Ⅴ 営 業 外 費 用 12
581
124
66
仕
掛
品
0
82
原
材
料
203
79
仮
払
金
2
8
経
益
13
貸
付
金
1
1
税引前当期純利益
13
用
1
8
法人税等引当額
0
金
6
10
当 期 純 利 益
13
金
0
6
(注) 減価償却費 42
金
0
1
そ の 他 流 動 資 産
0
23
流 動 資 産 合 計
568
560
前
保
払
費
険
積
立
敷
出
Ⅱ 固
資
定
資
産
常
利
65
第3表 製造原価報告書
A社
(単位:百万円)
第17期
Ⅰ 原
材
料
費 有
形
固
定
資
産
495
462
期首原材料棚卸高
203
無
形
固
定
資
産
1
1
当期原材料棚卸高
339
固 定 資 産 合 計
496
463
合 計 542
期末原材料棚卸高
79
Ⅲ 繰
延
繰
資
延
産
資
産
繰 延 資 産 合 計
資
(
Ⅰ 流
産
負
債
動
支
の
負
払
部
債
手
買
掛
未
短
合
払
期
借
入
計
2
Ⅱ 労
務
費
114
2
1
Ⅲ 経
費
119
1,066
1,024
当 期 総 製 造 費 用
696
)
期首仕掛品棚卸高
0
合 計 696
形
543
242
期首仕掛品棚卸高
82
金
62
22
当期製品製造原価
614
金
7
10
金
81
65
預
り
金
2
1
前
受
金
0
172
流 動 負 債 合 計
695
512
Ⅱ 固
定
負
債
長
期
借
入
金
200
328
固 定 負 債 合 計
200
328
負
895
840
(
資
債
本
合
の
部
計
)
金
24
24
Ⅱ 利 益 準 備 金
10
20
Ⅲ 別 途 積 立 金
10
20
Ⅳ 当期未処分利益金 127
120
Ⅰ 資
本
計
171
184
負 債 資 本 合 計
1,066
1,024
(注)この他に、受取手形割引高
439
379
資
(出所)
本
合
463
1
森脇 彬著『資金と支払能力の分析』税務経理協会 平成2年 P.P.250−252。
26
Z社
キャッシュ・フローと利質
第4表 貸借対照表
第73期末
( 資 産 の 部 ) 動
資
産
Ⅰ 流
現 金 及 び 預 金
受
取
手
形
売
掛
金
有
価
証
券
商
品
製
品
半
製
品
原
材
料
容
器
包
装
品
仕
掛
品
貯
蔵
品
前
払
費
用
そ の 他 流 動 資 産
貸
倒
引
当
金
流 動 資 産 合 計
定
資
産
Ⅱ 固
有 形 固 定 資 産
無 形 固 定 資 産
投 資 そ の 他 の 資 産
貸
倒
引
当
金
固 定 資 産 合 計
資
産
合
計
( 負 債 の 部 ) 動
負
債
Ⅰ 流
支
払
手
形
関係会社に対する支払手形
買
掛
金
関係会社に対する買掛金
関係会社に対する支払手形
及
び
買
掛
金
短
期
借
入
金
1年以内に返済予定の長期
借
入
金
未
払
酒
税
未
払
金
未 払 法 人 税 等
未 払 事 業 税 等
未
払
費
用
預
り
金
設 備 関 係 支 払 手 形
そ の 他 流 動 負 債
流 動 負 債 合 計
定
負
債
Ⅱ 固
長
期
借
入
金
退 職 給 与 引 当 金
そ の 他 固 定 負 債
固 定 負 債 合 計
負
債
合
計
( 資 本 の 部 ) 本
金
Ⅰ 資
本
準
備
金
Ⅱ 資
益
準
備
金
Ⅲ 利
Ⅳ そ の 他 の 剰 余 金
任
意
積
立
金
当 期 未 処 分 利 益 金
その他の剰余金合計
資 本 合 計
負債及び資本合計
注1 このほかに、
受 取 手 形 割 引 高
2 このうち、
関係会社支払手形
関 係 会 社 買 掛 金
3 このうち、
設 備 関 係 未 払 金
物 品 購 入 代 他
(出所)
(注1)
(注2)
(注3)
(単位:億円)
112
114
80
33
6
76
83
7
18
11
4
6
5
−
555
203
1
44
△ 2
264
728
277
1
48
△ 4
322
877
74
−
28
−
95
13
28
9
17
−
76
81
32
32
28
12
42
11
46
43
22
5
436
56
14
56
14
53
50
24
6
531
85
11
7
103
539
90
13
8
111
642
106
4
19
106
4
20
19
41
60
189
728
39
66
105
235
877
98
133
Ⅰ 売 上 高 上
原
価 Ⅱ 売
商品製品期首棚卸高 当期製品製造原価 当期商品仕入高 酒 税 合
計
他 勘 定 振 替 高 (注1)
商品製品期末棚卸高 売 上 総 利 益
Ⅲ 販 売 費 及 び 一 般 管 理 費(注3,4)
営
業
利
益
Ⅳ 営 業 外 収 益 Ⅴ 営 業 外 費 用 経
常
利
益
特
別
利
益 特
別
損
失 固 定 資 産 売 却 ・ 除 却 損 (注2)
税引前当期純利益
法 人 及 び 住 民 税
当 期 純 利 益
前 期 繰 越 利 益 金
当期未処分利益金
注1 主なものは、製品廃棄・
欠減損であります。
2 建物、機械及び装置など
の売却・除却損であります。
3 このうち、
人
件
費
4 このうち、
貸 倒 引 当 金 繰 入 額
退職給与引当金繰入額
1,301
111
586
17
306
1,020
1
165
854
447
287
160
12
29
143
−
2
2
141
84
57
9
66
40
2
1
第6表 製造原価明細書
Z社
(単位:億円)
第74期
Ⅰ
Ⅱ
Ⅲ
注
材
労
経
料 費 務 費 (注1)
費 当 期 総 製 造 費 用
期首仕掛品棚卸高
計
期末仕掛品棚卸高
当期製品製造原価
このうち、
退職給与引当金繰入額
Z社
434
64
88
586
11
597
11
586
3
第7表 減価償却明細表(部分)(第74期)
(単位:億円)
資 産 の 種 類
当期償却額
有 形 固 定 資 産
投 資 そ の 他 の 資 産
( 長 期 前 払 費 用 )
合 計 Z社
Ⅰ
Ⅱ
Ⅲ
10
7
11
3
(単位:億円)
第74期
第74期末
114
92
67
57
5
41
65
7
9
11
3
5
6
−
482
10
2
第5表 損益計算書
Z社
Ⅳ
注
38
1
39
第8表 利益金処分計算書 当期未処分利益金 任 意 積 立 金 取 崩 額 (注)
合 計 利 益 金 処 分 額 利 益 準 備 金
配 当 金
役 員 賞 与 金
任 意 積 立 金
合 計 次 期 繰 越 利 益 金 価格変動準備金の取崩額
であります。
森脇 彬著『資金と支払能力の分析』税務経理協会 平成2年 P.P.208−211。
(単位:億円)
第73期
41
2
43
1
10
1
22
34
9
長岡大学紀要 創刊号
A社の率は7.1%、Z社は24.3%である。Z社は
A社に比して資本が3倍以上も有効に利用されて
いることが判読される。 しかし、これは利益を
一つの指標とした資本効率であって、利益それ自
体の良否については何も語れないのである。その
意味で自己資本利益率は時系列分析や横断面分析
のような相対評価には有効であるが、利質分析の
ような絶対評価には無力である。したがって、こ
の観点からA社の利益が悪質、Z社のものが良質
であるとは到底いえないであろう。
では利益の処分可能性に着目する観点からはど
うであろうか。この観点では、自ずから利益と現
金・預金との係わり合いが問題になってくる。処
分可能性の第一順位は現金・預金だからである。
A社の現金・預金保有高は自己資本のほゞ9割
に達しており、Z社では大約5割近くである。預
金の内容を無視すれば、A社の現金・預金はZ社
に比して明らかに潤沢である。この点を確認して、
さらに現金・預金に占める利益の割合を比較して
みよう。
A社では7.9%、Z社で50.9%となってZ社の利益
が現金・預金に占める率は高い。これを以てZ社
の利質がA社のそれに比べて良質であるといい得
るであろうか。否である。
何故なら、それは比率の単純な計算技術的錯覚
に左右されるからである。つまり、分母が相対的
に大きくなれば、比率それ自体は相対的に小さく
なるのは初等算数の教えるところだからである。
事実、A社の現金・預金保有高はZ社に比して相
対的に大きいのである。利益を計上しつつも現
金・預金が過小であれば、この比率は高く、よっ
てすべて良質な利益と判断したり、逆に現金・預
金の保有高が大きければ無条件に全て良質の利益
と即断して良いものであろうか。
このような観点には、計算技術的な面もさりな
がら、より本質的な誤りがある。発生主義会計の
もとでは利益が現金・預金と必然的に結び付く保
証はないからである。なるほど、損益計算書原則
一のAに「すべての費用及び収益は、その支出及
び収入に基づいて計上し」との規程はあるが、こ
れは費用・収益の測定基準を指示したものであ
り、その差額である利益が収支差額である現金で
なければならいことを保証するものではない。利
益と現金の関係を問う前に利益の具体的把握とい
う会計学上の一大難問の解決が図られなければな
らいことを想起しなければならないのである。
27
3
利益は現金の堆積として存在するとの考えは素
朴でわかり易いのであるが、その事実を論証する
ことは容易ではない。この点は前節でみた自己資
本利益率による分析、自己資本に占める現金・預
金の割合と利益の関係からも明らかである。この
ため、利益と現金の関係を損益計算書と貸借対照
表それ自体にもとづいて詮索し、あれこれ論じて
みても、およそ空疎なものにならざるを得ないの
である。その限りでは損益計算書と貸借対照表か
ら利質を分析することは不可能といわざるを得な
い。これ、すなわち第一、第二の財務諸表におけ
る情報機能の限界である。
そこで、第三の財務諸表とされるキャッシュ・
フロ−計算書にはその任に耐え得うるものがある
か否かが問われなければならないのである。そし
てその際、利益と現金の関係を明らかにするとい
う条件を緩和して、つぎのように考えるのである。
利益に換えて費用・収益のグル−プを採り上
げ、その費用・収益に連動する資産と負債のグ
ル−プと費用・収益グル−プの間の関係を描写す
るのである。
すると、事態が少し見えてくるようである。す
なわち、キャッシュ・フロ−計算書が間接法で作
成される場合、そこではキャッシュ・フロ−が現
金を除く資産、負債および資本の流れで描写され
ることになるからである。しかもその際、資産と
負債の流れの中には必ず費用と収益の流れに連携
するものが含まれている点を見落としてはならな
いのである。資本はむろんのこと、資産、負債の
流れには費用と収益に連携しないものも含まれる
が、それは除外すれば済むことである。
利質の分析という目的観では、キャッシュ・フ
ロ−計算書の作成が間接法によらざるを得ない理
由がここにある。
さて、この観点から再びA、Z2社の財務諸表
にもとづいてキャッシュ・フロ−を求めてみよ
う。第9表はA社、第10表がZ社のものである。
両表は以後の分析における基礎資料になるもので
ある。
第9、第10表はともに精算表形式で表示してあ
る。この形式の利点は主として期首の資産、負債
および資本が期中取引による変動を経て期末の資
産、負債および資本に至るその移動状況を示せる
点にあるからである。この点はキャッシュ・フ
28
キャッシュ・フローと利質
第9表 A社キャッシュ・フロー精算表
現 金 ・ 預 金
受
取
手
形
売
掛
未 収 入
役 員 貸 付
貯
蔵
製
金
金
金
品
品
仕
品
掛
原
材
料
仮
払
金
貸
付
金
前 払 費 用
保 険 積 立 金
敷
金
出資金その他
流 動 資 産
有形固定資産
無形固定資産
繰 延 資 産
割 引 手 形
支 払 手 形
買
掛
金
未
払
金
短 期 借 入 金
預
り
金
前
受
金
長 期 借 入 金
資
本
金
利 益 準 備 金
別 途 積 立 金
当期未処分利益
売 上
売 上 原 価
減価償却費
その他販管費
営業外収益
営業外費用
当期純利益
第16期末
貸借対照表
207
439
25
27
5
26
5
60
0
203
2
1
1
6
0
0
0
495
1
2
営業キャッシュ
支 出 収 入
投資キャッシュ
支 出 収 入
財務キャッシュ
支 出 収 入
60
25
15
3
20
23
614
463
114
119
339
6
581
(単位:百万円)
第17期末
振 替
貸借対照表
42
165
379
0
42
8
6
28
93
82
614
463
79
8
1
8
10
6
1
23
462
1
1
7
4
6
1
23
41
8
1
439
543
62
7
81
2
0
200
24
10
10
127
60
301
379
379
242
22
10
65
1
172
328
24
20
20
120
339
3
16
1
172
128
10
10
20
13
771
581
42
82
12
65
13
(注)1,505
1,505
3,236
キャッシュ増減額
3,236
3,082
154
3,236
15
15
(注)割引手形分だけ原資料の貸借対照表合計額と一致しない。
0
15
15
41
127
168
168
168
(注)1,403
42
55
55
1,403
長岡大学紀要 創刊号
29
第10表 Z社キャッシュ・フロー精算表
現 金 ・ 預 金
受
売
有
商
取
手
形
証
金
券
品
掛
価
製
品
酒
税
第73期末
貸借対照表
114
98
92
67
57
5
41
半
製
品
原
材
料
容 器 包 装 品
仕
品
11
貯
蔵
品
前 払 費 用
その他流動資産
3
5
6
有形固定資産
無形固定資産
投資その他資産
貸 倒 引 当 金
割 引 手 形
支 払 手 形
関係会社支払手形
買
掛
金
関係会社買掛金
短 期 借 入 金
1年以内返済長期借入金
未 払 酒 税
未
払
金
設備関係未払金
未払法人税等
未払事業税等
未 払 費 用
預
り
金
設備関係支払手形
その他流動負債
長 期 借 入 金
退職給与引当金
その他固定負債
資
本
金
資 本 準 備 金
利 益 準 備 金
任 意 積 立 金
当期未処分利益
売 上
売 上 原 価
人 件 費
貸倒引当金繰入
退職給与引当金繰入
減 価 償 却 費
その他販管費
営 業 外 収 益
営 業 外 費 用
固定資産売・除却損
法 人 税 等
当 期 純 利 益
振 替
17
586
24
16
550
1
278
28
10
434
(単位:億円)
第74期末
貸借対照表
112
133
114
80
33
6
76
83
7
18
586
11
4
6
5
1
38
2
114
1
5
277
1
48
△4
△2
98
74
10
28
7
76
32
28
2
10
42
11
46
43
22
5
85
11
7
106
4
19
19
41
35
21
3
133
95
13
28
9
81
32
56
3
11
56
14
53
50
24
6
90
13
8
106
4
20
39
66
2
5
278
306
1
1
14
3
7
7
2
1
5
2
4
1
2
1
10
1
22
1,301
854
40
2
1
39
205
1
22
2
57
12
29
2
84
57
(注)826
キャッシュ増減額
財務キャッシュ
支 出 収 入
2
28
434
9
434
64
88
1
1
203
1
44
△2
投資キャッシュ
支 出 収 入
35
22
13
306
0
65
7
9
掛
営業キャッシュ
支 出 収 入
826
3,572
107
3,679
3,679
3,679
119
119
(注)割引手形分だけ原資料の貸借対照表合計額と一致しない。
3
116
119
36
7
43
43
43
(注)1,010
2
59
59
1,010
30
キャッシュ・フローと利質
ロ−の問題が貸借対照表領域に属することを示し
ている。このため、損益計算書は両表において未
処分利益剰余金の内訳項目として表示してある。
また、「営業キャッシュ・フロ−」欄には多少
の修正を加えている。すなわち、同欄には「投資
キャッシュ・フロ−」欄に表示されるべきもの
(有価証券の売買によるもの、固定資産の売買あ
るいは除却によるもの)を加え、「営業キャッシ
ュ・フロ−」欄に表示すべきもの(配当金の支払
い)を除外したのである。これらの措置は営業キ
ャッシュ・フロ−の範疇をできるだけ損益計算書
の範疇に近づけるためである。
さらに、精算表形式による表示はこれらの措置
に誤りが無いことを確認するための計算技術的意
味合いも込めている。そしてその確認は、同表振
替欄の「キャッシュ増減額」が同じ振替欄の「現
金・預金」の行へ移され、その移された増減額が
期首現金・預金の額に加減されて期末現金・預金
の額に一致するか否を見ることで果たされる。む
ろん、問題の焦点は「営業キャッシュ・フロ−」
欄にある。
さて、第9と第10表に戻ろう。営業キャッシ
ュ・フロ−面でA社とZ社は好対照である。すな
わち、A社は、1億5千4百万円の、いわば赤字の
キャッシュ・フロ−であるに対してZ社は107億
円の黒字のキャッシュ・フロ−になっているから
である。
とすれば、共に利益を計上する両社であるが、
赤字のキャッシャ・フロ−を抱えるA社の利益は
黒字のキャッシュ・フロ−に支えられたZ社に劣
るといって差し支えないようである。この意味で
は、営業キャッシュ・フローと利益の対比の段階
で利質の判定は一応つくようにも思われる。しか
し、それでもなお問題が残る。
というのも、一つには利益と営業キャッシュ・
フローが明確な対応の形で表示されていないから
である。営業キャッシュ・フロ−の中には確かに
利益が存在するのであるが、皮肉なことに、営業
キャッシュ・フロ−を求めるが故に利益は却って
その中に埋没してしまうのである。
二つには営業キャッシュ・フロ−の範疇は純粋
に損益計算書の範疇に合致しないことである。具
体的には、売上原価や減価償却費等の費用は損益
計算書に採り上げられるが、キャッシュ・フロ−
の観点では収支を中和化するものして相殺消去さ
れてしまうからである。因みに売上原価や減価償
却費等の、いわゆる非資金的費用はキャッシュ・
フロ−に全く影響しないことが読みとれる。この
点はキャッシュ・フロ−がインカム・フロ−に比
して客観性に優れるとされる所以でもある。
また逆に、損益計算書には採り上げられないが、
キャッシュ・フロ−の観点で採り上げなければな
らないものもある。その典型は買掛債務である。
この点、売掛債権は売上としての収益と連携して
いるため問題がない。ところが、売上原価は買掛
債務に連携しないのである。この点は留意してお
く必要がある。
差し当たり、キャッシュ・フロ−と利益の関係
を吟味するには、営業キャッシュ・フローの範疇
が損益計算書の範疇に対応するよういま少し純化
が図られなければならない。
4
第11表(A社)と第12表(Z社)は営業キャッ
シュ・フロ−の範疇を損益計算書の範疇に出来得
る限り対応させたものである。
これらの対比表はつぎのような構成であり、そ
の基本は損益計算書の範疇を基準に営業キャッシ
ュ・フロ−の範疇を取捨選択する点にある。以下、
具体的に順を追ってみておこう。
まず、インカム・フロ−である売上は営業キャ
ッシュ・フロ−面で売掛債権の調整を受けて対比
されている。対する売上原価は製品、半製品、商
品等棚卸資産の調整を受けて対比されている。こ
の対比はとりわけ営業キャッシュ・フロ−面での
収支中和化現象として留意すべきである。この段
階で売上総利益とそれに相応すると見られる営業
キャッシュ・フロ−が表示される道理である。
つぎに、販売費および一般管理費(以下、販管
費という)と営業キャッシュ・フロ−の対比であ
る。販管費のうち減価償却費と各種引当金繰入額
とされる費用は、営業キャッシュ・フロ−の面で、
それぞれ固定資産、投資その他の資産、繰延資産
の償却による減少や各種引当金の積み増しと調整
されるため、ここでも営業キャッシュ・フロ−の
収支中和化が行われている点に留意する必要があ
る。反面、これら以外の販管費は営業キャッシ
ュ・フロ−面で調整を受けないためインカム・フ
ロ−面と完全に一致する。いわゆる、間接法でも
直接法でも差異が生じない面である。この段階で
営業利益とそれに相応すると見られる営業キャッ
長岡大学紀要 創刊号
31
(単位:百万円)
キャッシュ・フロー
売 掛 金 滞 留
金額
インカム・フロー
金額
キャッシュ・フロー
売
15
771
金
25
製品売上原価化
581
581
売
価
581
手
売上総利益キャッシュ
781
売 上 総 利 益
190
上
原
上
原
1,377
インカム・フロー
上
価
売
金額
形
入
771
減 価 償 却 費
42
売上総利益キャッシュ
781
その他販管費
82
その他販管費
82
固定資産償却減
41
営業利益キャッシュ
699
営
66
繰延資産償却減
業
利
益
823
190
771
売 上 総 利 益
190
771
1
823
営 業 外 費 用
65
営 業 外 費 用
65
営業利益キャッシュ
当期純益キャッシュ
646
当 期 純 利 益
13
営 業 外 収 益
711
上
1,377
42
減 価 償 却 費
売
78
金額
699
12
190
営
業
利
益
66
営 業 外 収 益
12
711
78
(単位:億円)
キャッシュ・フロー
金額
インカム・フロー
受取手形滞留
22
売 掛 金 滞 留
13
売
上
原
価
売上総利益キャッシュ
854
1,266
金額
キャッシュ・フロー
売
売
上
原
価
売 上 総 利 益
2,155
854
上
1,301
製品売上原価化
550
半製品売上原価化
10
酒税売上原価化
278
商品売上原価化
16
1,301
1,266
2
貸倒引当金繰入
2
貸倒引当金積増
2
1
退職給与引当金繰入
1
退職給与引当金積増
4
39
減 価 償 却 費
39
固定資産償却減
38
その他販管費
205
その他販管費
205
投資その他資産償却減
1
営業利益キャッシュ
1,024
営
160
29
営業利益キャッシュ
1,024
143
営 業 外 収 益
40
貸倒引当金繰入
退職給与引当金繰入
減 価 償 却 費
業
利
益
1,311
営 業 外 費 用
29
経常利益キャッシュ
1,007
447
営 業 外 費 用
経
常
利
益
1,036
固定資産売・除却損
法
人
税
2
等
84
当期純益キャッシュ
937
1,023
営
益
160
1,036
営 業 外 収 益
172
1,007
経
143
経常利益キャッシュ
84
固定資産売・除却減
2
当 期 純 利 益
57
未払法人税等の増
14
税
143
447
業
利
12
2
人
1,301
447
等
法
1,301
売 上 総 利 益
1,311
172
固定資産売・除却損
上
2,155
売上総利益キャッシュ
費
売
金額
447
40
件
件
インカム・フロー
費
人
人
金額
1,023
12
常
利
益
143
32
キャッシュ・フローと利質
シュ・フロ−が求められている。
さらに、営業外収益および営業外費用と営業キ
ャッシュ・フロ−の対比がつづく。ただし、営業
外損益はその細目を原資料から知り得ないためイ
ンカム・フロ−と営業キャッシュ・フロ−の両面
で完全に一致すると見なしている。この段階で経
常利益とそれに相応するとみられる営業キャッシ
ュ・フロ−が得られる。
最後に、特別利益および特別損失と営業キャッ
シュ・フロ−の対比がある。ただ、この対比は第
11表には無く、第12表に特別損失として僅か固定
資産売・除却損があるばかりである。ただし、第
12表にはこの外に法人税等があるため、これをこ
の区分に組み込んで採り上げてある。要は最終利
益である当期純利益と営業キャッシュ・フロ−の
対比ができればよいからである。
ところで、第12表の固定資産売・除却損は営業
キャッシュ・フロ−面で固定資産の売・除却によ
る減少という調整を受けるため営業キャッシュ・
フロ−としては収支中和化されている。また同様
に、法人税等も営業キャッシュ・フロ−面では未
払法人税等の増加によって部分的調整を受けてい
るためそのままの額では営業キャッシュ・フロ−
に反映されない。こうして最終段階としての当期
純利益と営業キャッシュ・フロ−の対比が示され
るのである。
以上の措置により営業キャッシュ・フロ−の範
疇は幾分なりとも損益計算書の範疇に近づけられ
たと思われる。
ここで、第11、第12の両表から当期純利益と営
業キャッシュ・フロ−の関係を見てみよう。
A社では当期純利益1,300百万円に相応する営
業キャッシュ・フロ−は6億4,600万円の多きに達
するため営業キャッシュ・フロ−に占める当期純
利益の割合は僅か2.0%に過ぎない。
他方、Z社の当期純利益57億円に相応の営業キ
ャッシュ・フロ−も937億円と大きく、それに占
める当期純利益の割合は6.1%である。
確かに、この比率関係からすればA社の当期純
利益はZ社のそれに比して利質は劣るかのようで
ある。ところが、そこに利質判別の決定的な要素
があるようには思われない。その比率の差は僅か
な域に留まる相対的なものに過ぎないからであ
る。敢えて皮肉をいえば、当期純利益に対する営
業キャッシュ・フロ−の規模では、A社はむしろ
Z社より3倍も優れて見えるのである。比率関係
とは往々そういうものであり、定量的評価には便
利かつ有効であろうが、利質の判定という定性的
評価にはおよそ無力である。
ということは、このような比率関係のうちに利
質の良否を判定するに十分確固たるものは何も語
られてはいないということである。そもそも利質
の判別は単純に分子と分母の問題に還元してとや
かく云々出来るほど皮相的なものではないからで
ある。
それにしても、当期純利益の額と営業キャッシ
ュ・フロ−の額に大きな開らきがあり過ぎるのは
どうしたことであろうか。元をただせば営業キャ
ッシュ・フロ−の範疇を損益計算書の範疇に出来
得る限り対応させてキャッシュ・フロ−と利益の
関係を吟味した結果がこうだからである。
むろん、キャッシュ・フロ−と利益では概念、
計算原理が自ずから異なるため完全に合致しない
のは当然としても、費用・収益と資産・負債は互
いに連携しているはずであり、またこの道理を利
用して両者の対応を試みているのである。どうや
ら何か見落としがあるようである。
5
では、営業キャッシュ・フロ−と当期純利益と
の対応において見落としたものとは何であろう
か。
その手掛りは第9表および第10表の営業キャッ
シュ・フロ−の内容にある。そこでは購買(仕入)
関係と製造関係のキャッシュ・フロ−が表示され
ている。より具体的には購買関係に資産としての
商品、購買債務としての支払手形、買掛金等、製
造関係に資産としての製品、半製品、仕掛品等、
そして購買、製造関係の両者に通じるものとして
の原材料、等々で示されるものである。そのこと
を確認したうえで、これらのキャッシュ・フロ−
とインカム・フロ−の係わり合いをいま一度吟味
しなければならない。
購買関係のキャッシュ・フロ−は棚卸資産が買
掛債務と連携して取得される時点では収支中立的
である。ところが、その後において一方の棚卸資
産は売上原価に転化してインカム・フロ−となる
のに対し他方の買掛債務は支払を通して営業キャ
ッシュ・フロ−に反映されるものの、インカム・
フロ−とは完全に遮断されてしまうのである。3
節に触れたとおり、売上原価と買掛債務は元は同
長岡大学紀要 創刊号
根に生じながら連携していないのである。まず、
この点に注目しなければならない。
また、製造関係のキャッシュ・フロ−も経営内
部における価値移転関係として把握されるため、
キャッシュ・フロ−の見地からはその大半が収支
中立的である。しかし、その一部は製品を媒介と
してインカム・フロ−としての売上原価に繋がっ
ていることにも留意しておかなければならない。
このように見てくると、問題の鍵は売上原価に
関連するキャッシュ・フロ−の取り扱いにあるこ
とになる。いいかえれば、インカム・フロ−とし
ての売上原価に対応させたつもりのキャッシュ・
フロ−が結果において実は対応していないのでは
ないかということである。
この点を第11表と第12表によって確認してみよ
う。
なるほど、いずれの表でも売上原価に対応のキ
ャッシュ・フロ−は売上原価(費用の発生)に棚
卸資産の売上原価化(資産の減少)を対置させる
ことによって収支中和化されている。つまり、結
果において対応していないのである。まさに、
「対応させたと見せかけて、実は対応させていな
い」と罵評されても仕方がないのである。収支中
和化現象を伴うキャッシュ・フロ−は全て形式の
上でインカム・フロ−と対応しても、その実は対
応し得ないのである。ここにインカム・フロ−と
キャッシュ・フロ−の決定的な相違面がある。収
支中和化を伴うキャッシュ・フロ−はひとり売上
原価だけに留まるものでないことも確認しておか
なければならない。この点は次節で触れる。
この事実は売上原価がインカム・フロ−に特有
の概念であり、キャッシュ・フロ−とは相容れな
いものであることの表明でもある。平たくいえば、
売上原価そのものを用いるとキャッシュ・フロ−
面に収支中和化現象が生じ、営業キャッシュ・フ
ロ−とインカム・フロ−との実質的な対応自体が
不可能になるということである。この点こそ、営
業キャッシュ・フロ−と当期純利益との対応にお
いて見落としたものにほかならない。
6
売上原価概念がキャッシュ・フロ−概念と相容
れない性質である以上、これに代置し得るものを
キャッシュ・フロ−面で選択しなければならな
い。それは前節冒頭に触れた棚卸資産に関連のキ
33
ャッシュ・フロ−である。棚卸資産こそはインカ
ム・フロ−としての売上原価と一方で繋がり、他
方では購買(仕入)および製造関係のキャッシ
ュ・フロ−に繋がる連結環だからである。このた
め購買(仕入)関係と製造関係のキャッシュ・フ
ロ−に注目しなければならない。
そこで、売上原価に代置されるキャッシュ・フ
ロ−として購買(仕入)関係と製造関係キャッシ
ュ・フロ−を織り込み、再度、営業キャッシュ・
フロ−と当期純利益との対応を試みたものが第13
表と第14表である。
両表のキャッシュ・フロ−欄には棚卸資産関係
のキャッシュ・フロ−が仕入支出、製造収入とし
て取り込まれている。購買(仕入)関係キャッシ
ュ・フロ−が専ら支出として、また製造関係のそ
れも専ら収入として表れる点は興味深い。なお、
両表ともキャッシュ・フロ−の内訳欄では売上原
価が表示されているものゝ、それに対応の棚卸資
産の減少(表では各種棚卸資産の売上原価化と表
示)と相殺されて収支は中和化されている。ただ
両表の場合、売上原価を販管費の区分としたため、
この中和化が製造収入と販管費支出の両区分を跨
ぐ形でなされている点に注意されたい。
このほか、収支中和化を伴うキャッシュ・フ
ロ−が販管費支出の中に多く含まれている点にも
意を払われたい。具体的には減価償却費、各種引
当金繰入とされる費用がそれらに対応の固定資産
の減、投資その他資産の減、繰延資産の減ならび
に各種引当金の増と対になる結果、いずれもキャ
ッシュ・フロ−に反映されないという点である。
さらに、両表について断っておきたい点がある。
それはキャッシュ・フロ−欄がインカム・フロ−
欄(表では損益欄として表示)より延長され、営
業キャッシュ・フロ−と当期純利益の行が段違い
になっている点である。こうした狙いは二つある。
一つは当期純利益以下に配される項目がインカ
ム・フロ−と正確に対応するものか否か原資料か
ら明らかでないためインカム・フロ−から除外
し、当期純利益に相応すると思われる営業キャッ
シュ・フロ−を当期純利益と同じ行に揃えて表示
したいこと、したがって営業キャッシュ・フロ−
の焦点は当期純利益と同じ行のものに移ることを
留意させたいためである。 二つには、このよう
な措置によって得られた当期純利益相応の営業キ
ャッシュ・フロ−が検証可能なものであることを
示すこと。つまり、当期純利益相応の営業キャッ
34
キャッシュ・フローと利質
シュ・フロ−にインカム・フロ−から除外された
営業キャッシュ・フロ−を加えた結果は基礎資料
(第9表および第10表)の営業キャッシュ・フロ−
に一致することを示すためである。
さて、これらの措置を施すことによって当期純
利益相応の営業キャッシュ・フロ−と当期純利益
との対応はどのようになるであろうか。
A社(第13表)の当期純利益1千3百万円に相応
する営業キャッシュ・フロ−は実に1億2千5百万
円に達する赤字の営業キャッシュ・フロ−であ
る。利益は計上してもそれ相応のキャッシュ・フ
ロ−は赤字というわけである。因みに、A社では
営業利益に相応の営業キャッシュ・フロ−でも既
に赤字の状態に陥っている。対するZ社(第14表)
では、当期純利益57億円に相応する営業キャッシ
ュ・フロ−はそれを上回る80億円の黒字のキャッ
シュ・フロ−である。
両社はこの対応において好対照を示しているの
である。この点では両社の当期純利益の質の違い
は当期純利益とそれに相応の営業キャッシュ・フ
ロ−の対応を通してある程度鮮明にされたといっ
てよいかもしれない。とはいえ鮮明にされたのは
むしろ営業キャッシュ・フロ−の質である。実の
ところこれだけではまだ十分ではないのである。
何故なら、この対応形式は営業キャッシュ・フ
ロ−とインカム・フロ−を互いに独立させたまゝ
対応させる、まさに形式的なものに過ぎないから
である。いいかえれば、このような対応形式は両
者の間の関連を説明する構造にはなっていないの
である。この点も実は4節末尾で指摘したもう一
つの「見落とし」であることに気付かなければな
らないのである。
7
利質の吟味を利益とキャッシュ・フロ−のただ
単なる形式的対応で行うことは不可能である。そ
のためには利益とキャッシュ・フロ−が有機的な
関連形式で表示されなければならない。この表示
形式こそ間接法そのものにほかならないのであ
る。
ただ、間接法はこれまで利益と営業キャッシ
ュ・フロ−のズレの理由を説明するものと解さ
れ、しかも利益と営業キャッシュ・フロ−の調整
過程を報告式で表示するものとして捉えられてき
た嫌いがある。このような理解に留まる限り、間
接法は両者の間のズレの理由の説明と調整過程の
表示という消極的な意味合に終始しなければなら
ない。これでは利益とキャッシュ・フロ−の折角
の関連表示もその効果の程は一面に限られてしま
うことになる。両者の関係を単に金額関係で観察
しようとの考えもそれである。9)利質の表示はさ
らにもう一方の面であり、またより積極的意味合
いのものといわなければならない。
この点に関連して、先に触れた「もう一つの見
落とし」について再度言及しなければならない。
それは営業キャッシュ・フロ−面で生じた収支
中和化現象である。中和化が生じた原因は費用・
収益と資産・負債を互いに関連付けて対置表示し
た点にある。むろん、その目的は営業キャッシ
ュ・フロ−を求めることであり、その限りでは問
題ない。しかし、この対置表示形式そのまゝの形
でキャッシュ・フロ−を利益に関連付けようとし
たところに「もう一つの見落とし」があったので
ある。
いいかえれば、営業キャッシュ・フロ−に関連
付けるべき当期純利益は費用・収益によるもので
はなく、資産・負債によるべきものであったとい
うことである。いわゆる資金法による損益計算方
式10)によらざるをえないのである。より一般的に
いえば、キャッシュ・フロ−は貸借対照表領域に
属するものであるため、それに関連付けられる利
益もまた貸借対照表領域で説明できる形式のもの
でなければならないのである。
では、資金法による損益計算方式ではどのよう
になるであろうか。いいかえれば、営業キャッシ
ュ・フロ−と資金法による損益計算方式とはどの
ような関係にあるだろうか。それを見るには第13
表または第14表によるのが具体的でわかりやすい
であろう。
繰り返しになるが、両表のキャッシュ・フロ−
欄には費用・収益とそれに対応の資産・負債が収
容されている。また、そのために収支中和化現象
も起きたのである。ところが、両表における損益
欄では利益(営業利益、経常利益、当期純利益)
が費用・収益で表示されており、資産・負債によ
っては示されていないのである。つまり、資金法
による利益は資産・負債により計算表示されなけ
ればならないのである。
そのためには、両表のキャッシュ・フロ−欄か
ら資産・負債のみが抽出されなければならない。
よって、費用・収益は除外され、その結果である
長岡大学紀要 創刊号
第14表 Z社営業キャッシュ・フローと損益
売
上
受 取 手 形 滞 留
売 掛 金 滞 留
売 上 収 入
原 材 料 仕 入
商
品
仕
入
容 器 包 装 品 購 入
貯 蔵 品 購 入
支 払 手 形 滞 留
関係会社支払手形滞留
関係会社買掛金滞留
仕 入 支 出
製 品 売 上 原 価 化
半製品売上原価化
製
品
欠
減
仕 掛 労 務 費
仕
掛
経
費
製 造 収 入
酒 税 売 上 原 価 化
商 品 売 上 原 価 化
売
上
原
価
未 払 酒 税 支 払
人
件
費
退職給与引当金繰入
退職給与引当金積増
退職給与引当金取崩
貸 倒 引 当 金 繰 入
貸 倒 引 当 金 積 増
減 価 償 却 費
固 定 資 産 償 却 減
投資その他資産償却減
そ の 他 販 管 費
未 払 費 用 滞 留
前 払 費 用 滞 留
未 払 事 業 税 滞 留
販 管 費 支 出
営 業 利 益
営 業 外 収 益
営 業 外 費 用
経 常 利 益
固定資産売・除却損
固定資産売・除却減
法
人
税
等
未払法人税等滞留
当 期 純 利 益
有 価 証 券 減
その他流動資産減
未 払 金 滞 留
その他流動負債増
営業キャッシュ・フロー
(単位:億円)
キャッシュ・フロー
損 益
1,301
1,301
△22
△13
△35
1,266
△434
△17
△9
△1
21
3
2
△435
550
10
1
△64
△88
409
278
16
△854
△854
△278
△40
△40
△1
△1
4
△2
△2
△2
2
△39
△39
38
1
△205
△205
7
△1
3
△1,073
167
160
12
12
△29
△29
150
143
△2
△2
2
△84
△84
14
80
57
24
1
1
1
107
35
第13表 A社営業キャッシュ・フローと損益
売
上
受 取 手 形 入 金
前 受 金 入 金
売 掛 金 滞 留
売 上 収 入
原 材 料 仕 入
貯 蔵 品 仕 入
支 払 手 形 決 済
買 掛 金 支 払
仕 入 支 出
製 品 売 上 原 価 化
仕 掛 労 務 費
仕
掛
経
費
製 造 収 入
売
上
原
価
減 価 償 却 費
固 定 資 産 償 却 減
繰 延 資 産 償 却 減
そ の 他 販 管 費
前 払 費 用 滞 留
販 管 費 支 出
営 業 利 益
営 業 外 収 益
営 業 外 費 用
経常利益(当期純利益)
未 収 入 金 滞 留
仮 払 金 滞 留
その他流動資産滞留
未 払 金 滞 留
営業キャッシュ・フロー
(単位:百万円)
キャッシュ・フロー
損 益
771
771
25
172
△15
182
953
△339
△23
△301
△40
△703
581
△114
△119
348
△581
△581
△42
△42
41
1
△82
△82
△7
△670
△72
66
12
12
△65
△65
△125
13
△3
△6
△23
3
△154
第15表 A社営業キャッシュ・フローと利益
売
掛
金
原
材
料
仕 掛 労 務 費
仕 掛 経 費
貯
蔵
品
前 払 費 用
支 払 手 形
買
掛
金
増
増
増
増
増
増
減
減
15
339
114
119
23
7
301
40
958
(単位:百万円)
現 金 ・ 預 金 減
125
受 取 手 形 減
25
製
品
減
581
固定資産減(償却)
41
繰延資産減(償却)
1
前
受
金
増
172
当 期 純 利 益
13
958
第16表 Z社営業キャッシュ・フローと利益
現 金 ・ 預 金 増
受 取 手 形 増
売
掛
金
増
商
品
増
原
材
料
増
容 器 包 装 品 増
仕 掛 労 務 費 増
仕 掛 経 費 増
貯
蔵
品
増
前 払 費 用 増
80
22
13
17
434
9
64
88
1
1
729
(単位:億円)
商
品
減
16
製
品
減
550
製
品
欠
減
1
半
製
品
減
10
固定資産減(償却)
38
固定資産減(除・売却)
2
投資その他資産減(償却)
1
支 払 手 形 増
21
関係会社支払手形増
3
関係会社買掛金増
2
貸 倒 引 当 金 増
2
退職給与引当金増
2
未
払 費 用 増
7
未 払 事 業 税 増
3
未 払 法 人 税 等 増
14
当 期 純 利 益
57
729
36
キャッシュ・フローと利質
利益(営業利益、経常利益、当期純利益)のみが
表示されることになるのである。しかしながら、
この説明は実は正確でない。
というのは資産・負債による損益計算方式こそ
資金法によるものであり、その結果として利益が
計算表示されるからである。また、そのためには
キャッシュ・フロ−が総額間接法11)により計算表
示されなければならないことも留意しておく必要
がある。
これに関連して間接法が当期利益に減価償却費
等の非資金的費用を加減してキャッシュ・フロ−
求める方法と説明されるのは不当とされなければ
ならない。何故なら、利益とキャッシュ・フロ−
の関係は貸借対照表の領域で説明されるべき筋合
いのものであるにもかかわらず、そこに損益計算
書領域のものを持ち込むことになるからである。
この点を端的にいえば、現金と利益は貸借対照表
において対応形式で表示される関係にあることを
思えば腑に落ちよう。資金法による損益計算の存
在に気付かない証左である。
ここに営業キャッシュ・フロ−と資金法による
損益計算方式の関係が明らかに示されている。す
なわち、総額間接法による営業キャッシュ・フ
ロ−の中には資金法による損益計算方式が内在し
ていると同時に損益法による損益計算方式も存在
しているのである。いいかえれば、資金法と損益
法の両法による損益計算方式が同時並行的に行わ
れる方法こそ総額間接法によるキャッシュ・フ
ロ−計算にほかならないのである。この点はまさ
に重要である。
さらに付け加えれば、営業キャッシュ・フロ−
の計算表示は表面的にはまさに営業キャッシュ・
フロ−そのものを目指すものであるが、その背後
では資金法による損益計算12)と損益法による損益
計算が同時並行的に励行されているのであって、
それを看過し勝ちになるのは利益が表立って表示
されないためである。
かくして利質の評価は総額間接法による営業キ
ャッシュ・フロ−中に内在する資金法による損益
計算方式によって始めて可能になるといわなけれ
ばならない。
8
第13表と第14表のキャッシュ・フロ−欄には資
金法による損益計算方式が隠れている事実を確認
することができた。そして今やその方式を取り出
すことにより、ようやく利質の評価に接近できる
段取りが整ったことになる。
第15表と第16表はそれぞれ第13表と第14表の内
容を資金法による損益計算方式で取り出したもの
である。
両表とも借方と貸方からなる勘定式であるが、
借方には資産の増加と負債の減少の事象が示さ
れ、貸方には資産の減少と負債の増加の事象が表
示される仕組みである。この仕組みは基本的には
貸借対照表の構造そのものである。ただ異なる点
は資産と負債についてその増減が表示されること
である。そこでは資産と負債の入出流量が示され
ており、残量は示されていない。その意味でこれ
ら二表は、限定的ではあるが、アメリカでいう財
政状態変動表、ドイツでいう運動貸借対照表に通
じるものがあろう。利益の観点では、キャッシ
ュ・フロ−は転じて貸借対照表的に表現されなけ
ればならないのである。
さて、第15表と第16表によってA社とZ社の利
質に迫ろう。
A社(第15表)では当期純利益に相応する現
金・預金の流入は皆無であり、むしろ逆に当期純
利益の9倍強もの現金・預金が流出している。
ゴ−イング・コンサ−ンを前提とする利益の処分
可能性に着目する限り、処分の対象とされる資産
の第一順位は現金・預金である。
とすれば、利益の質の良否は利益に相応の現
金・預金の流入量との兼ね合いで判断して差し障
りないであろう。この意味からA社の利質は劣悪
と評価してよいのである。因みに、利益処分の対
象とされる資産の第二順位は売掛債権になろう
が、この流入量は当社の当期純利益を僅かに上回
わっているものゝ現金・預金の流入という事実に
比べれば到底及びのつかないものである。やはり、
利質の良否は利益に相応の現金・預金の流入量で
評価すべきことになる。
ここで、多少論点を外れてA社の状況に触れて
おきたい。それは第15表に限るものであるが、何
にせよ、現金・預金1億2千5百万円の流出超過が
特異的である。本業から得た現金・預金が結果的
に皆無に等しいからである。次に頼りとなる受取
手形も金額的には僅かであるものゝ流出超過であ
る。つまり、ゴ−イング・コンサ−ン下の支払能
力は営業から到底望み得ないのである。
さらに、特徴的なのは3億1百万円という巨額の
長岡大学紀要 創刊号
手形決済である。現金・預金と受取手形の流出超
過はこの手形決済と無関係ではない。決済額のお
よそ半分を本業から得られた現金・預金と受取手
形で補填したが、なお不足を生じるため前受金の
積極的導入を図って急場を凌ぐ姿が現出されてい
る。如何にA社が手形決済に苦しんだかが判るの
である。
ともあれ、本表が資金法による損益計算方式で
あることを考えれば、借方が貸方を凌駕する分が
利益であり、支払手形の巨額な決済がその利益に
大きく貢献する形になるのは誠に皮肉なこととい
わなければならない。
論点を戻そう。Z社(第16表)では当期純利益
を上回る現金・預金の流入が見て取れる。この利
益はA社(第15表)と打って変わり十分な現金・預
金の流入に裏付けられたものということができ
る。その意味からすれば当社の利質は明らかに良
質と判断してよいのである。合わせて処分対象資
産の第二順位との兼ね合いもみておこう。第二順
位は受取手形である。これは法的強制力を持つ確
実な収入として期待できるものである。この意味
でもZ社の利質は良好としてよいであろう。A社
の第二順位はそれより劣位の売掛金になっている
からである。
かくして利質の良否は営業キャッシュ・フロ−
に内在するところの資金法による損益計算方式に
よって判別し得ることが明らかにされた。すなわ
ち、利質は先ず利益に対応する現金・預金の流入
量によって、つぎに受取手形の流入量で、その後
に売掛金の流入量で、という序列で格付けし得る
との結論である。この点から貸借対照表において
資産項目の配列に流動性配列法が採られる理由は
利質の評価とあながち無縁ではないともいえるの
である。
なお、論を終えるに当たっていま一つ触れてお
きたい点がある。というのも、これまでの議論は
利質にまつわるものであって、それはあくまでも
利益の具体的把握、つまり利益が具体的に現金な
いし預金等の形で存在すると論じてはいない点で
ある。
この点は第15と第16表でも明らかであろう。つ
まり、両表で示されている現金・預金はあくまで
も流量であり、存在としての残量ではないからで
ある。残量としての現金・預金は貸借対照表に明
らかである。しかしながら、それは営業活動、投
資活動および財務活動による混合物としてのもの
37
であり、純粋に営業活動によって精製されたもの
ではない。
仮に利益が現金・預金として具体的に存在する
とすれば、資金法による損益計算方式で明らかに
されたA社の利益とその現金・預金流出超過の事
態はどのように理解されればよいであろうか。
古くに、タガ−トは「利益とは効果のある運転
資本に附着するもの」13)との示唆を与えたが、利
益と現金・預金の流量は利質の評価という観点で
繋ぎ得ても、利益の具体的把握という観点に立つ
とき今なお利益と現金・預金の残量を繋ぐ環は見
出し得ないのである。
註
1)
杉本典之・洪慈乙著『キャッシュフロ−計算書』東
京情報出版、平成7年、p.161.
2) International Accounting Standards Committee,
International Accounting Standard 7
(Revised 1992) Cash Flow Statements,1992. par.18a,
par.19, par.19a.
3) 債権と債務の間に相殺が行われる場合、間接法は直
接法に比べキャッシュ・フロ−額が過大表示になる偏
向性を持つ。詳しくは下記を参照されたい。
拙稿「キャッシュフロ−表示における直接法と間接
法」『長岡短期大学研究紀要』第36号
4) John R. Mills & Jeanne H. Yamaura,“The Power
of Cash Flow Ratios”Journal of Accountancy,
October 1998. p.p.53―61.
5) 佐藤靖「FASB財務会計基準書第95号『現金フロ−
計算書』の批判的考察―直接法と間接法―」
『名城商学』
1990年、6月、p.187.
6)
Financial Accounting Standards Board, Statement
of Financial Accounting Standards No.95,
Statement of Cash Flows Accounting Series No.053
November 1987.
7) ASB, Financial Accounting Standard Board No.1,
Cash Flow Statement, September 1991.
8) FASB Exposure Draft, Reporting Income, Cash
Flows, and Financial Position of Business
Enterprises, November 1981. par.123.
9) 佐藤倫正「利質分析と資金計算書」『企業会計』
1995年、12月、p.86.
10) 佐藤倫正『資金会計論』白桃書房、1993年、p.p.10
―11.
11) 費用・収益と資産・負債を連携させる形式でキャッ
シュ・フロ−を計算表示させる方法を総額間接法と呼
んでいる。詳しくは下記を参照されたい。
拙稿「キャッシュ・フロ−表示における直接法と間
接法」『長岡短期大学研究紀要』第36号
38
キャッシュ・フローと利質
12) この点から配当金支払によるキャッシュ・フロ−は
営業活動に、有形固定資産の処分から生じるもの、有
価証券の売買から生じるものは投資活動にと分類する
現行のキャッシュ・フロ−分類は一考を要する問題で
ある。
13)
Paul Taggart, Profit and Balance Sheet
Adjustments, Pitman&Sons, 1934. p.1.
長岡大学紀要 創刊号
39
教育改革とグローバリゼーション
中 村 治 仁
はじめに
学級崩壊、いじめ、暴力、不登校といった問題
は豊かな先進国共通の問題である。
アメリカでは1960年代、イギリスでは1970年代、
日本では1990年頃から、韓国では1990年代後半か
ら教育荒廃が顕在化した。日本では不登校児童が
1975年頃から増加し、2001年には13万4000人に達
し、「ひよわで、わがままで、すぐきれる新しい
子供」が1990年頃から出現した。少年事件多発に
見られるように事態はきわめて深刻である。1人
で支障なく生活できる豊かで便利な社会では他者
との協力・連携といった社会的関係が理解されな
いため、いわゆる「個食」に表現されるような環
境で育った孤立的な子供が登場したのである1。
こうした子供の問題は社会の変化に既存の教育
制度が適応しなくなっていることが主因である。
学級担任、登校義務、一斉授業などを特徴とする
「近代学校」といわれる既存の教育制度は、19世
紀初頭にアンドリュー・ベル東インド会社孤児院
院長が孤児教育のために開発した教育システムを
教育者ジョセフ・ランカスターが改良普及させた
ベル・ランカスター・システムが起源である 2 。
「近代学校」は19世紀において国民国家形成のた
めに「国民」に「国民国家」という共同幻想をイ
ンプットする装置として普及した3。
グローバリゼーションとIT革命の進行で、「国
民国家」という共同幻想が急速に消滅しつつある
現状において「国民教育」のための教育制度はす
でに破綻している 4。こうした潮流は不可逆的で
あり、改革はグローバルな視点に立ち、既存の教
育制度の解体が出発点となる。
本稿では、豊かな社会の中で機能不全に陥って
いる「近代学校」という教育システムの限界と、市
2002.01.08投稿 2002.01.09受理
*長岡大学産業経営学部助教授
*
場が国民国家を飲み込んでいくグローバリゼーシ
ョンの一過程として進行しているアメリカ、イギ
リス、そして日本の教育改革を大学改革を中心に
検証し、21世紀の教育を展望したい。
Ⅰ アメリカの教育改革
¸ 『危機に立つ国家』
アメリカでは1960年代に小・中・高校で同時発
生的に教師無視、勉強放棄、器物損壊、いじめな
どが発生した。学校での成績と社会的地位・収入
は相関せず、学校はドラッグや犯罪などの拡散装
置と化してしまった。デューイの「学校による教
育の機会均等が社会的不平等を解消する」という
テーゼが破綻したのである5。
教育荒廃が深刻化し、学力の低下が進む中でレ
ーガン大統領は1981年に連邦教育省長官諮問委員
会を設け「教育ほどアメリカ国民にとって大事な
ものはない」と同委員会第1回会合で危機的状況
を訴えた。アメリカの教育の転換点になったのが
1983年に同委員会がまとめた報告書『危機に立つ
国家』である6。
同報告書の中で「SAT(大学進学適性テスト)
の得点は1963年以降、一貫して低下している」、
「17歳人口の13%は日常生活の読み書き能力が欠
如している」という学力低下の深刻な状況が明ら
かにされた。さらに「このような凡庸(学力低下)
が他国に押しつけられたならば、それは戦争行為
に等しい」と述べ、アメリカの教育荒廃が国の存
亡を揺るがすほどに深刻であることを訴えた7。
レーガン大統領が「強いアメリカ」復活のため、
教育改革を国家戦略として展開したのである。こ
の時点ではアメリカの競争力回復のためにトヨタ
の「カンバン方式」が製造業の手本として研究さ
れたように、教育については日本の教育制度が研
究された8。1985年に上院でまとめられた、アメリ
カ再生のシナリオを描く『ヤング・リポート』9と
40
教育改革とグローバリゼーション
も連動して教育改革は進められた。コンピュータ
教育、起業家教育10、MBA(Master of Business
Administration)を教育するビジネス・スクール
の拡充、そしてインターンシップの普及などの施
策を展開した11。
伝統的にアメリカの教育は自由と多様性を特徴
としており、各地域の独立性が尊重されて、全国
レベルで歩調を合わせて教育を論じるということ
は殆どなかった。教育行政は州政府の専管業務で
あり、連邦政府がリーダーシップを取って教育改
革を進めること事態が極めて異例であった。また、
当時のレーガン大統領は「小さな政府」を目指し
ていたので連邦政府の役割が増大することも避け
られるべきであったが、アメリカ国民は連邦政府
の教育への関与を積極的に支持したのであり、ア
メリカ国民の学力低下問題に対する危機感の強さ
が窺える。
1989年にはブッシュ大統領によって全国の州知
事を招いて初の「教育サミット」が開催されて、
就学前教育の拡充、全国的な学力評価の実施など
を含んだ「全国共通教育目標」が合意された。
1991年には当時アーカンソー州知事であったク
リントンによってまとめられた教育改革戦略
「2000年のアメリカ」が発表され、予算措置など
の具体的施策の実現に向けて準備が進められた。
1994年にはクリントン大統領によって、教育の
全国的基準となる「教育スタンダード」の開発と、
各学区や各学校の自立的な改革を促すための規制
緩和を定めた「2000年の目標:アメリカ教育法」
が制定された。
「教育スタンダード」は、自由と多様性を特徴
としてきたアメリカの教育を大幅に軌道修正する
のである。共通目標への到達度を州統一テストに
よって判定し、各学校のアカウンタビリティー
(教育成果に対する責任)を明確にしようという
画期的なものであった。
こうして本格的に始まったアメリカの教育改革
は各学校レベルでの学習プログラムの開発などの
ボトムアップと、行政府のリーダーシップによる
トップダウンの両面から進められる挙国一致の大
プロジェクトであった。
1996年にはクリントン大統領によって第2回教
育サミットが開催され、「教育スタンダード」を
中心とする教育改革の基本的枠組みが各州知事に
よって確認された。
各州では、行き過ぎた自由化を是正し「教育ス
タンダード」に基づく基準化・共通化の推進、ハ
イスクールの卒業要件の厳格化や授業日数の延
長、教員の給与引き上げ、優秀教員への報奨など
教員の待遇改善が進められた。各学校ではボトム
アップで教授方法・学習プログラムの改善が進め
られた12。
翌1997年にはクリントン大統領が一般教書演説
において、教育を21世紀のアメリカ構築のための
最重要課題として位置付け、世界最高水準の教育
実現を宣言した13。
¹ アメリカの大学
アメリカの大学制度は1636年にカルバン派の信
徒によって設立されたハーバード大学に始まる
が、その世界的地位は長い間低かった。第2次世
界大戦以前にアメリカの大学を卒業してヨーロッ
パの大学に留学しても大学卒としては扱われず、
ハイスクール卒の学歴しか認められなかった。博
士号、修士号を授与する大学院教育が本格的に始
まったのも第2次大戦以後である。
アメリカの大学の教育システムはヨーロッパの
大学とはかなり異なる。その相違点として
「general education」、「単位制」、「professionally
degree」を指摘しておきたい。
アメリカの大学では「general education」を
教育しているが、これはヨーロッパや日本では中
等教育で終了している普通教育(general
education)がハイ・スクールで終了しないため
に、大学で普通教育を実施しているのである14。
「単位制」とは大学生の学業も労働の一種と見
なしているアメリカで学習量を労働量に比定して
表すシステムである。「1単位:45時間の学習」と
は週給制における「1週間分の労働量:45時間」
を根拠に「1週間分の労働量に等しい学習量」と
いう意味で設定した基準である15。
「professionally degree」は高度な職業能力を
高等教育機関で習得した者に対して授与される学
位である。伝統的なヨーロッパの大学で研究能力
に対して授与される「academic degree」とはま
ったく性質が異なる。たとえばMBA(Master of
Business Administration)は日本では「経営学修
士」と訳され、あたかも研究者のような印象を与
えるが、その意味するところは「ビジネスの親方」
としての職業能力に対して与えられる学位であ
る。高度な専門的能力を要する医師や法律家のよ
うな職業能力の学位として、準学士・学士・修
長岡大学紀要 創刊号
士・博士とは別に「第1専門職学位(First
Professional Degree)」が設けられている。この
教育課程は中等教育修了者に対して6年以上の教
育を行うと定められているが、一般的には学士取
得者に3∼4年の教育を行っている例が多い16。
このように固有な教育システムを有するアメリ
カの大学の発展の経緯を振り返っておきたい。
① 黄金時代(1960年代∼1970年代後半)
アメリカの大学が世界水準に到達するきっかけ
になったのは、1957年にソ連が人工衛星打ち上げ
に成功したスプートニク・ショックである。宇宙
開発でソ連の後塵を拝したアメリカが挽回を図る
ために、1958年に米航空宇宙局(NASA)を設立
して宇宙開発を国家プロジェクトとして進めたこ
とから科学技術ブームが起こり、その主役となっ
たのがアメリカの大学であった17。
科学技術ブームによって高等教育需要が増大
し、1000校以上の大学が新設された。大学進学率
はフルタイム学生で50%、パートタイム学生を含
めると70%に達し、高等教育の大衆化が一気に進
んだ。科学技術の進歩に伴うサービス・製造業増
大という産業構造の変化に対応して、農村から排
出された農民にサービス・製造業への労働者教育
を提供したのがコミュニティー・カレッジであっ
た。さらに、公民権運動や1965年に設けられた連
邦政府奨学金がさまざまな階層の大学進学を促し
た。
② 冬の時代(1970年代後半∼)
こうして成長したアメリカの大学も1970年代に
入ると18才人口減少、石油危機による景気減速、
双子の赤字という状況に見舞われ、冬の時代を迎
える。
18才人口は1950年の216万人から1979年の432万
人へと増加した後減少に転じ、1995年には333万
人へと減少したのである。18才人口減少には成人
学生の受け入れによって対応した18。
大学生の70%を抱える州立大学が肥大化し、
1980年代中頃から州財政悪化の中で問題化してい
た。教育行政機構の縮小、州(市)立大学の整理
統合、学部改組が進められた。収入確保のため授
業料が1980年代末∼1990年代初めに年率10%で引
き上げられ、病院、出版、駐車場などの事業経営
も展開された。募金活動も行われ、カルフォルニ
ア大学バークレー校では1985∼90年に4億6860万
ドルを集めた。
教育水準引き上げのためにリメディアル教育
41
(ハイスクール・レベルの基礎教育)の実施や、
ほとんど無条件だった入学基準を引き上げた。ま
た各大学の教育・研究活動の評価、テニュア制度
の見直しが進められた。
º アメリカの大学改革
こうして州立大学を先頭に推進された大学改革
は次のようにまとめられる19。
① 18才人口減少を成人学生よって補完
成人に対する継続教育(生涯学習)によって、
減少した18才以下の学生の不足分を補った。その
教育は学期内に正規学生に対する授業ばかりでな
く、長期休業中に一般社会人に対して広く提供さ
れるさまざまなビジネス教育も展開された。
② 産学連携、事業展開、募金などによって資金
を外部調達
産官学連携政策が1980年代に進められ、技術移
転によって外部から研究資金を確保した。1980年
に制定されたバイ=ドール法によって政府資金に
よって研究開発された大学の知的財産権の私有と
商業化が認められるようになった。スタンフォー
ド大学のDNA組替え技術の商業化が成功例であ
る20。
③ 教育行政機構の縮小
ニュージャージー州では大学に対して強い権限
を有していた州高等教育委員会とその事務局であ
る州高等教育局が1994年に廃止され、州が大学に
対して持っていた権限は各大学に移された。廃止
された同委員会に代わって政策立案と連絡業務を
行う州高等教育審議会が設けられたが、組織の規
模は以前の4分の1に縮小された。
④ 大学の統廃合、学部改組、組織のスリム化
全米の中でも最大規模で改革が進められたミネ
ソタ州では、ミネソタ大学、ミネソタ大学以外の
4年制大学、コミュニティ・カッレッジ(2年制)、
テクニカル・カレッジ(2年制)の4つの高等教育
システムがあったが、ミネソタ大学以外の学校が
1つのシステムに統合された。
⑤ アクレディテーション
傘下に50組織を有する教育高等教育アクレディ
テーション協議会(CHEA)の指導の下に各大学
の教育研究活動を客観的に評価し、大学の教育・
研究に対する責任つまりアカウンタビリティが厳
しく問われるようになった。併せて各教員の教育
研究能力の評価とテニュア制度の見直しが進めら
れた。
42
教育改革とグローバリゼーション
⑥ 連邦奨学金制度改革
大学進学を支援するためにボランティア活動に
学費・賃金を支給するナショナル・サービス・プ
ログラムや大学授業料の家計負担の軽減措置など
が採られた。
⑦ アファーマティブ・アクションの廃止
マイノリティーや女性に対する特別優遇策であ
るアファーマティブ・アクション(積極的差別撤
廃措置)を廃止した。
このように『危機に立つ国家』以来の教育改革
の成果を概観してみると、SATの平均スコアは
1987年の1008から1999年には1016へと8ポイント
上昇した。大学の学位授与数は1979−80年の
1999−2000年の間に学士が92万9417人から116万
4000人へ、第1専門職は7万131人から7万4200人へ、
修士は29万8081人から38万5000人へ、博士は3万
2615人から4万3900人へと増加した21。
1973∼95年の労働生産性の平均伸び率は1.4%
であったが、1995年以降は2.9%に上昇した 22 。
1999年のアメリカの労働生産性は6万8579ドルで、
ルクセンブルグの7万2289ドルに次いで世界第2位
であり、他方日本は4万8282ドルで世界第19位で
あった。2001年に入ってアメリカ経済の景気減速
が明確になったが、労働生産性(農業部門を除く)
の10−12月期の対前年伸び率は3.5%に達し、ア
メリカの企業の生産性は依然として向上を続けて
いる23。
超党派で進められてきた教育改革はアメリカを
再生し、1991年から10年間続いたスーパーエコノ
ミーの繁栄へと導いたのである。しかし、全米の
約20%の人々はスーパーエコノミーの繁栄から取
り残されており、低所得層の学力低下も深刻にな
っている24。
2001年12月に対テロ戦略で挙国体制を固めたブ
ッシュ大統領が「教育改革法」を制定し、1965年
のスプートニク・ショック以来の教育改革を265
億ドルの予算を投入して進めることになった。同
法は、小学3年生から中学2年生まで数学と朗読の
統一テストを実施することで学校間に競争原理を
導入する一方で、学力低下が深刻な低所得層への
教育支出も増大させ全国的に教育水準を引き上げ
ようとするものである。ブッシュ大統領が選挙公
約にしていたバウチャー制度は私立校と公立校の
格差拡大を懸念する民主党の反対によって見送ら
れた25。
Ⅱ イギリスの教育改革
¸
イギリスの大学
1973年のオイル・ショックによる財政悪化が高
等教育機関に対する補助金への批判を生み、更に
高等教育機関そのものへの批判に発展した。アメ
リカのレーガン大統領による教育改革に連動し
て、イギリスでもサッチャー首相による教育改革
が強力なリーダーシップによって進められた26。
1979年にサッチャー首相が、地方分権が強かっ
た教育制度に、国による教育の品質評価システム
を導入し、初等中等教育では地方・各教育機関・
親の責任を明確化し、高等教育においては「効率
性・市場主義」を主張し大学改革に着手した27。
イギリスの大学改革を検証するためにその固有
な歴史を見ておきたい。
1096年に設立されたオックスフォード大学がイ
ギリスの大学の創始である。1209年にオックスフ
ォード大学から派生してケンブリッジ大学が設立
され、この両大学が「オックス・ブリッジ」と称
され、「永遠の自治と学問の自由」の特権を享受
して「象牙の塔」としてイギリスのアカデミズム
の頂点に君臨した。イングランドでは19世紀まで
「オックス・ブリッジ」以外に大学の設立は認め
られていなかった。
スコットランドでは1411年にセント・アンドリ
ュース大学が設立された後、グラスゴー大学が
1451年に、アバディーン大学が1495年に、エジン
バラ大学が1583年に相次いで設立された。グラス
ゴー大学やエジンバラ大学が産業革命に果たした
役割は周知のとおりである28。
産業革命の進展に伴い、19世紀後半から資本家
の要請により、技術者・科学者養成のために「赤
レンガ大学」ないしは「市民大学」といわれる新
興の大学が設立された。1881年にリバプール大学、
1893年にウェールズ大学、1900年にバーミンガム
大学、1903年にマンチェスター大学などが相次い
で設立された。
戦車、飛行機などの近代兵器が登場した第一次
大戦勃発により科学技術の研究開発の必要から、
自然科学を重視する「第2次市民大学」といわれ
る大学が設立された。1948年にノッテンガム大学、
1949年にキール大学、1952年にサザンプトン大学、
1954年にハル大学などが設立された。
1963年にまとめられた『ロビンズ報告書』が高
等教育の拡充を勧告したことによって、1964年に
長岡大学紀要 創刊号
ストラスクライド大学、1966年にアストン大学、
1966年にバース大学、1966年にブラッドフォード
大学などが設立された29。
イギリスの高等教育機関は上述のような大学か
ら成る「私営部門」と、職業教育を行うカレッジ
から成る「公営部門」とに分かれていた。「私営
部門」とはオックス・ブリッジを頂点とする旧大
学で、政府からの補助金と国王・教会・資産家か
らの寄付金によって経営されていた大学であり、
エリート養成の支配権力・階級構造の再生産装置
として機能してきた。「公営部門」とは教員養成
カレッジ・工学・商業・美術教育などの継続教育
カレッジ、1964年に29校創設された技術者教育の
ポリテクニクから成り、職業教育に特化し研究活
動がないのが特徴であった。これらの学校は地方
教育当局の管轄下にあり、同局が教員任免、カリ
キュラムなど一切の権限を掌握していた。各校に
学位授与権はなく、全国学位授与委員会が学位授
与権を持っていた30。
¹ サッチャー首相の教育改革
① 1988年教育改革法
1988年に制定された「1988年教育改革法」よっ
て抜本的な教育改革が始まった。全国共通カリキ
ュラムが設定され、教育水準局による監査である
視学制度によって教育の品質評価を行い、教育に
市場原理を導入し、各学校に情報公開、自己責任
を義務付けたのである31。予算・教員任免に関す
る各学校の権限は強化され、経営責任がより問わ
れるようになった。
1991年にポリテクニクと高等教育カレッジを学
位授与権を有する大学に昇格させ、旧大学と新大
学を同じリングで競い合わせる「一元化政策」が
実施され、
「バトルリーグ」に約100校の大学が統
合された。ポリテクニクと大半の高等教育カレッ
ジを地方教育当局から教育科学省に移管し、私営
部門(旧大学)には大学財政審議会、公営部門に
はポリテクニク及びカレッジ財政審議会を設置し
て補助金を管理することとなった32。
1992年に制定された「1992年継続・高等教育法」
によって、高等教育財政審議会が研究評価・教育
評価に応じて補助金を配分することとなった33。
1997年にまとめられた『デアリング報告書』に
よって、評価に基づいた補助金配分制度の強化、
学生の授業料と生活費が国から支給されていた従
来の制度を改める大学教育の有償化、学生が卒業
43
後に学費を返済する学生ローン制度の設立などが
勧告された34。
② 教育行政機関の変遷
1944年に創設された教育省は、1964年にスプー
トニク・ショックに始まる科学技術ブームの中
で、科学技術の発展を促すために教育科学省へと
改組された。1992年にはサッチャー首相によって
教育行政は教育省、学術行政は科学技術庁、文
化・芸術・スポーツ行政は国民文化遺産省へと教
育行政の改組・分割が行われた。1995年には更に
教育省は教育雇用省へと改組し、教育と企業を接
合し、教育とアカデミズムが分離された。
イギリスの人口の8割を占めるイングランドを
例に全体を俯瞰して見ると、初等中等教育は地方
分権が進められ、LMS(Local Management of
Schools)というシステムによって地域社会に教育
に対する責任が明確化された。地方教育当局が学
校設置や補助金交付の権限を有し、各学校には予
算、人事、カリキュラムなどについての権限を持
つ学校の最高意志決定機関である学校理事会に親
と地域代表が参加して学校を経営する。このシス
テムはフランス、オランダ、韓国などにも移植さ
れている。
他方、高等・継続教育は中央の教育雇用省に集
約され、同省が基準策定、監査、補助金交付など
の権限を有し、市場評価に基づいて補助金を配分
する35。
º サッチャー首相の大学改革
サッチャー首相による教育改革は高等教育の大
衆化と「情報公開・市場原理・自己責任」による
教育機関の整理統合が基本方針であった。高等教
育進学率は1965年の8.7%から、1988年の15.1%、
1994年の31.1%へと急増した36。
サッチャー首相が教育改革の中で最もエネルギ
ーを投入したのが、オックスフォード大学との対
立であった。サッチャー首相はイギリスのアカデ
ミズムの頂点に立つオックスフォード大学の「象
牙の塔」としての特権を剥ぎ取ることに心血を注
いだのである37。それ故にオックスフォード大学
からの反発も強く、同大学は歴代首相に名誉博士
号を授与するのが慣例であったが、サッチャー首
相への授与は取りやめとなった。
サッチャー首相の大学改革によって、アカデミ
ズムは解体されて教育に対する支配力を喪失し
た。
44
教育改革とグローバリゼーション
中世において絶対王政の権威を「王権神授説」
によって支えたのが教会であったように、近代に
おいて国民国家の骨格である国家官僚の権威を
「学歴信仰」によって支えてきたのがアカデミズ
ムである。アカデミズムの解体によって、国民国
家の骨格である国家官僚機構はその権威の基盤を
失って弱体化し、さらに国民国家の枠組みの解体
が進められた。この時期にサッチャー首相がアメ
リカ金融資本にシティの門戸を開放してイギリス
経済を再生させたビッグバン政策が想起されよ
う。
サッチャーは首相を辞した後、1983年に設立さ
れたバッキンガム大学の学長となり、理想の大学
教育を目指して経営に励んでいる。同大学はイギ
リスで唯一補助金を受けていない私立大学で、長
期休業がなく2年間で学士が取得できるために人
気がある38。
Ⅲ 日本の教育改革
¸ 臨時教育審議会
教育改革の開始は日本でもイギリスと同様に
1973年の石油ショックであった。1981年に巨額の
財政赤字を解消するために臨時行政調査会(臨調)
が設けられた。「増税亡き財政改革」を旗印に国
鉄・電電・専売の3公社民営化を推進した。この
臨調の答申の中で大学についても国立・私立とも
に厳しい抑制方針が示された。
1984年に中曽根首相によって首相直属の臨時教
育審議会(臨教審)が総理府に設けられて教育改
革が本格的に始まった。首相直轄の教育に関する
諮問機関が設置されるのは、占領下において設置
された教育刷新委員会以来の30年ぶりのことであ
った。
臨教審によって①個性重視、ゆとり、自由化、
②生涯学習、学校・地域・社会の連携、③国際
化・情報化などに対応した教育改革が提言され
た。
この中で大学に関する答申による改革の提言は
次の4点である。
① 大学教育の充実と多様化:大学設置基準の大
綱化・簡素化
② 大学院の飛躍的充実と改革:標準修業年限の
短縮、社会人の受け入れなど
③ 大学の評価と大学情報の公開:自己点検・自
己評価
④ ユニバーシティー・カウンシル(大学審議会)
の設置39
1991年に臨教審の答申を受けて大学審議会が設
けられた。大学審議会によって最初に行われた改
革は、大学設置基準のいわゆる「大綱化」による
一般教育・専門教育等の科目区分の撤廃であっ
た。大方の予想に反し、各大学の対応は早く、一
斉に一般教育の廃止に踏み切った。
日本の大学の一般教育は占領下においてGHQ
のCIE(民間情報教育局)の指導でアメリカの大
学教育における「general education」を模して
設けられた制度である。CIEの指導では初等中等
教育は十分な議論を経て6・3・3制が実施された
が、大学についてはほとんど議論もされないまま
に、アメリカの大学の教育制度が日本の大学に持
ち込まれたのである。その際に「general
education」が「一般教育」と訳されて、その意
味も目的も曖昧なままに40年に渡って存続したの
である40。
大学審議会が取り組んだ次の施策が大学院の拡
充であった。その内容は社会人教育と専門職業教
育機能の重視と、大学院進学と学位取得の容易化
である。1999年には大学院設置基準が改正され、
高度専門職業人養成に特化した修士課程が「専門
大学院」として制度化した。そして次の施策が大
学のアカウンタビリティとしての自己点検・自己
評価であったが、これも瞬く間に全国の大学に普
及していった。このように大学審議会の改革は、
予想を大きく外れて多くの大学に浸透していった
が、これは各大学の危機感の現れと見なしてよい
であろう41。
1995年には第15期中央教育審議会で①「生きる
力」の促進、②外国語教育と情報教育の促進、③
受験競争の緩和(「ゆとりある教育」)、④「ここ
ろの教育」、⑤学校の確立と家庭や地域とのかか
わりの促進などが提言された。
こうした改革の中で初等中等教育では民間人の
教員への採用、総合的な時間、応募型教育研究開
発学校制度(学習指導要領にとらわれない)、学
区制廃止、教育長公募、学校評議員などが試行さ
れてきた。
1998年に大学審議会は過去10年にわたる大学改
革を総括した上で、①課題探求能力の育成、②大
学の自律性の確保、③責任ある意思決定と実行の
ための組織、④多元的な評価システムなどの答申
をまとめた。この答申を受けて、1991年に設置さ
れた学位授与機構が2000年に大学評価を行う大学
長岡大学紀要 創刊号
評価・学位授与機構へと改組された。
¹ 教育改革国民会議
2000年3月に故小渕首相の私的諮問機関として
設置された教育改革国民会議が本格的な教育改革
の戦端を開き、12月に最終報告書を発表した 42。
この報告書が現在進行している教育改革であるの
で詳しく見ておきたい。
1 視点
① 社会性・自立心を促し、人間性豊かな日本
人を育成
② 1人1人の個性を生かし、創造性に富んだリ
ーダーの育成
③ 新しい学校づくり
2 道徳
① 家庭教育が教育の原点
② 学校が道徳教育
③ 全員の奉仕活動
④ 問題児教育の明確化
⑤ 有害情報から子供を保護
3 創造性・リーダー
① 一律主義を改め、個性を伸ばす教育
年齢基準の撤廃、学習達成度試験、中高一貫
教育 大学入学年齢制限撤廃
② 記憶力偏重を改め、大学入試を改革
入試の多様化、9月入学、暫定入学制度
③ リーダー育成のために大学・大学院の教育・
研究機能強化
飛び級、プロフェッショナル・スクール、リ
サーチ・アシスタント
④ 大学にふさわしい学習を促す教育システム
の導入
ティーチング・アシスタント、ダブル・メジ
ャー制度、厳格な成績評価、教員の評価制度
と任期制
⑤ 職業観・勤労観の育成
ビジネス教育
4 新しい学校
① 教師の教育能力の評価システム
② 地域の信頼に応える学校
地域社会による学校評価
③ 学校・教育委員会に組織マネジメントの発
想
④ 分りやすく効果的な授業
⑤ コミュニティー・スクール43等の設置推進
45
私立学校設立基準の緩和と積極的育成
5 教育振興基本計画策定
① 教育施策の総合的推進のための国家戦略
6 教育基本法改正
① 新しい時代に即した教育基本法
以上のようにこの最終報告は市場原理を導入し
て、グローバル・スタンダードの新しい教育を指
向し、教育基本法改正など日本の教育制度の刷新
を目指すものである。
学力低下問題をについて「ゆとりある教育」政
策の見直しを求める委員と行政当局との間で議論
になったが、2001年に入ってから「ゆとりある教
育」政策に修正が見られるようになった。
文部科学省は2001年1月に教育改革国民会議が
提言した17の改革案を中心に法律改正や予算措置
などを実施する「21世紀教育新生プラン」を発表
した44。
同省は「21世紀教育新生プラン」に盛り込まな
かった教育基本法の見直しと、「教育振興基本計
画」策定を11月に中央教育審議会に諮問した 45。
教育基本法は日本国憲法と密接な関係にあるた
め、同法の改正は憲法改正につながるとの懸念か
らタブー視されてきた。現在の教育改革路線を敷
いた1984年の臨時教育審議会でも同法改正には触
れなかった。「教育振興基本計画」は、科学技術
基本計画をモデルに5−10年間の教育施策を決定
し、必要経費の予算化を目指すものである。
この諮問の審議期間は1年で審議の難航も予想
されるが、1947年制定の教育基本法を超克し、明
治政府が1872年に国民国家建設のために定めた
「学制」以来の教育改革の一里塚となるであろう。
º 大学改革
競争力低迷に喘ぐ産業界の大学教育への不満を
背景に、旧通商産業省および経済産業省が大学改
革について産学連携政策を通じて積極的に発言す
るようになった。
1998年に「大学等技術移転促進法」、2000年に
「産業競争力強化法」がバイ=ドール法を模して
制定され、産学連携政策が進められている。2000
年度における国立大学と企業との共同研究の件数
は4029件に達し、対前年度比は28.8%と大幅に増
加している。分野別で伸び率が高かったのはバイ
オ・テクノロジーの59.9%増、材料開発の23.6%
増であった46。
経済産業省は2001年5月に「官から民へ、独占
46
教育改革とグローバリゼーション
から競争に、規制から自由に」を原則とした「新
市場・雇用創出に向けた重点プラン」(「平沼プラ
ン」)を発表した。「平沼プラン」は大学の組織改
革にまで言及しながら、「大学発ベンチャー1000
社創出」を提言し、大学改革を促した47。
文部科学省は6月に「大学(国立大学)の構造
改革の方針」(「遠山プラン」)と「大学を起点と
する日本経済活性化のための構造改革プラン」を
発表した。「遠山プラン」では2004年の独立行政
法人化に向けて、国立大学の再編・統合による大
幅削減、世界に通用する「トップ30」大学の育成
などが盛り込まれている。「トップ30」大学構想
は国公私立の区別なく世界に通用する大学に補助
金を優先的に配分するものである。「大学を起点
とする日本経済活性化のための構造改革プラン」
では、世界最高水準の大学作り、人材大国の創造、
都市・地域の再生を大学を核とした3つの改革と
位置付け、評価に基づく競争原理の徹底、大学発
の新産業の加速、国立大学の経営システムの転換
などが提言されている48。
「遠山プラン」発表後、文部科学省の強い指導
の下で国立大学の再編・統合が始まり、国立大学
99校を含めて671校ある国公私立大学を、国公私
立の区別なく市場の中で競い合わせることで再
編・統合を進めるのである。
11月には経済財政諮問会議が大学の株式会社化
や、大学の都市の中核施設化といった大胆な大学
改革を提言した49。
日本の大学改革はアメリカとイギリスの市場原
理導入による改革政策を模倣して進められてお
り、日本が教育の標準化を通じてグローバル・シ
ステムに統合されていく過程である。
例えば、日本技術者教育認定機構(JABEE)
は理工農系大学における技術者教育プログラムの
認定を行い、国際的同等性を評価する民間のアク
レディテーション機関として1999年に設立され
た。同機構は、技術者教育の質的同等性を国境を
越えて相互に承認しあう協定として1989年に米欧
諸国によって締結された「ワシントン・アコード」
への加盟を目指している 50。これは邦銀がBIS規
制を課せられて、グローバル・システムに組み込
まれた過程と比定されよう。
国立大学が独立行政法人化される2004年以降、
国公私立の区別や規模の大小に関わらず全ての大
学が同じ土俵で競い合う本格的な「大学冬の時代」
が到来する。さらに、多様な設置形態の大学の登
場、さまざまな業種の企業やNPOの教育事業へ
の参入、そして米欧の大学の進出などによって、
生き残りを賭けた大学の壮絶なバトルが展開され
るであろう。
Ⅳ 新しい教育と大学改革
¸ 新しい教育
「近代学校」という学校制度はすでに破綻して
おり、さまざまな新しい教育が生まれつつある。
学級を単位として教師が知識・技能を教えるとい
うシステムから、学習者1人1人の関心や目的に応
じて自由に学ぶシステムへと移行しつつある。
「近代学校」が誕生した時代では、教師は重要
な情報の伝達者として機能していたが、今日のよ
うにさまざまな情報産業が発達し、コンピュータ
とインターネットが個人に普及している社会で
は、教師の情報の伝達者としての役割は相対的に
縮小している。情報の伝達はコンピュータとイン
ターネットに任せて、教師の役割は学習者の学習
のアレンジや心のケアに移行していくべきであ
る。
子供の発育状態を考慮せず、満年齢で一律のカ
リキュラムに嵌め込み、優劣をつける教育制度は
悪しき平等主義ではないだろうか。今日のように
多様な価値観、多様なライフスタイルが浸透して
いる社会で、教室に閉じ込めて既定のカリキュラ
ムを一律に教育する「近代学校」という教育シス
テムは既に破綻しているのである。
現在注目されているいくつかの新しい教育シス
テムを見ておきたい。
① チャーター・スクール
アメリカで、有志がチャーター・スクール設立
を州に申請し、認可を得て公的資金で設立するも
のである。銃やドラッグが蔓延するほどに荒廃し
た公立学校に子供を行かせたくないが、私立学校
に行かせる資金がない家庭がチャーター・スクー
ルを切望している。公立学校の維持管理のための
官僚機構が巨大になり、財政を圧迫していること
もチャーター・スクールが要望されている理由の
1つである。
1992年にミネソタ州で全米初のチャーター・ス
クールが開校した。2000年5月には36州およびワ
シントンDCでチャーター・スクールが設置可能
となり、全米の公立学校の2%にあたる1689校の
チャーター・スクールが設置されており、43万人
長岡大学紀要 創刊号
の児童生徒が就学している51。ブッシュ大統領は
教育を最重要政策として掲げ、「チャーター・ス
クールを(2∼3倍に)増やす」と公約している52。
② ホーム・スクール
オンライン教育などを利用した在宅学習をホー
ム・スクールという。最初のホーム・スクールは
アメリカで1970年代前半に、近代文明を頑なに拒
否するオランダ系プロテスタントのアーミッシュ
で誕生した。1981年にワシントン州が始めて認可
した後、学校荒廃が進むにつれて急速に普及し、
現在では全州で認可されている。現在では約170
万人がインターネットなどを利用してホーム・ス
クールで学んでいる。ホーム・スクールで学ぶ生
徒のSATのスコアは全国平均を上回っており、
評価が高まっている53。日本でもインターネット
を利用して学習し、アメリカ・ワシントン州の高
校の卒業資格を得られる教育システムが誕生して
いる。
③ フリースクール
フリースクールは1924年にイギリスでA.S.ニイ
ルが設立した「サマーヒル・スクール」が嚆矢で、
生徒の自発性を重視して教育するシステムであ
る 54。日本では東京シューレが1985年に誕生して
全国的に拡大し、1992年には文部省が公的教育を
補完する民間施設(矯正施設)としてフリースク
ールを認知した55。不登校児童が13万人を超えて
いる現状で、フリースクールの存在感が急速に増
している。学習者個人を単位として「好きなこと
を、好きなように学ぶ」というフリースクールの
教育システムが21世紀の学びの原点となっていく
であろう。
¹ 大学の変遷
学位を授与する高等教育機関としての大学は12
世紀に設立されたパリ大学を嚆矢とする。博士号
という学位はキリスト教社会ならばどこでも通用
する教員資格免許であった。ヨーロッパ中世の大
学はキリスト教の教義を研究教育する教会の付属
機関として、神学を中心に法学、医学が研究され
た。その目的はローマ教皇の下にヨーロッパをキ
リスト教社会として統合することであった。
パリ大学で同一出身地の学生が共同で居住し学
習していた寮がコレギウム(collegium)であり、
ラテン語で「同僚の集まり」の意味で、英語のカ
レッジ(college)の語源となった。このコレギ
ウムがオックスフォード大学を始めとするヨーロ
47
ッパの大学の原型となったのである。
複数のコレギウムの集合体が「組合・共同体」
の意味であるウニウェルシタス(universitas)と
称されて教育のギルドとして誕生し、これが英語
のユニバーシティ(university)の語源となっ
た56。
ルネッサンス期には人文主義がイタリアのフェ
ッラーラ大学を通じて北欧の大学へ広まった。オ
ランダのライデン大学が科学研究のメッカとして
栄え、やがて法学の研究でもヨーロッパの中心と
なった。ドイツのウィッテンベルク大学の教授で
あったルターが起こした宗教改革はスイスのカル
バンを経てジュネーブ大学を舞台に展開してい
く。カルバン派の信徒がハーバード大学を創設し
たように、この宗教改革の時期には多くのプロテ
スタント系の大学が設立された。ガリレオによっ
て確立された実験科学によって始まった17世紀の
科学革命は神学を中心テーマとしていたヨーロッ
パの伝統的大学の近代化への変革を導いた57。
国民国家が誕生した近代を象徴する大学が1809
年に設立されたドイツのベルリン大学である。中
世およびルネッサンス期の大学がキリスト教のた
めの大学であったのに対して、ベルリン大学はキ
リスト教とは関係のない国民国家のための大学と
して設立された。国民国家という共同幻想を構築
するために、哲学を中心に社会科学が研究され、
生産力増大のために科学技術が主要な研究テーマ
となった58。このベルリン大学を模して1986年に設
立された東京帝国大学は世界で初めて工学部を大
学教育に組み込んだ世界最先端の大学であった59。
グローバリゼーションの進展に伴い、国民国家
が解体されつつある今日では国民国家のための大
学も大きな変革を迫られている。EUでは数年以
内に学位が統一されてEUのすべての大学が1つの
大学のように再編されるように、国境線の消滅と
ともに自立的な組織としての大学の枠組みも消滅
していくのである。e-learningの普及とともにそ
の速度も加速されていくであろう。
国民国家を対象とした社会科学が行き詰まりを
見せているように、大学の中心的研究テーマも大
きく変容し、ハーバード大学ビジネス・スクール
をメッカとするビジネスと、スタンフォード大学
をメッカとする生命科学に移行していくであろ
う。
志願者全員が入学できるユニバーサル時代の大
学は、かつてのエリート教育、マスプロ教育の時
48
教育改革とグローバリゼーション
代のように入試制度によって偏差値に応じて輪切
りにされた一定の学力レベルの学生を対象とした
集団教育から換骨奪胎して、学生1人1人の自発
性を促しそれぞれの能力・適性に応じた教育方法
を創り出さなければならない。
おわりに
以上に見てきたように、経済活動が国境を越え
て拡大するグローバリゼーションの時代に「双子
の赤字」に苦しむアメリカと「英国病」に苦しむ
イギリスは、それぞれレーガン大統領とサッチャ
ー首相という強力なリーダーの指導によって競争
力回復のために教育改革が進められた。
日本も中曽根首相によって同時期に教育改革が
始められたが、アメリカ・イギリスの教育改革と
は逆方向の「ゆとりある教育」へと向かった。
1991年にバブルが崩壊し、その後の「失われた10
年」の間に日本の教育水準は低下し続けた 60。教
育改革国民会議の最終報告は日本の教育改革の軌
道修正を図り、グローバル・スタンダードの教育
改革を目指すものである。このグローバル・スタ
ンダードの教育改革とは「教育の市場化」によっ
て、国民国家建設以来の国家主導の公教育制度を
終焉に導くものである。つまり市場が国家を超克
するグローバリゼーションの一過程として教育改
革が進んでいるのである。
大学は「学問の自由と自治」という特権を有し
国民国家発展のために教育制度の頂点に君臨して
きたが、進行している大学改革によって市場に飲
み込まれていくのである。大学は、12世紀にギル
ドとして誕生して以来の「象牙の塔」としての自
立的な組織が溶解し、企業や地域社会と融合した
ものに変容し、中心的研究テーマはビジネスと生
命科学へと移行していくであろう。
豊かな先進国共通の教育荒廃は、グローバリゼ
ーション、つまり国民国家解体という歴史的転換
点に世界があるという文脈の中で、「近代学校」
という既存の公教育制度の解体から着手しなけれ
ばならない。新しい教育システムの構築には、生
徒の主体性にもとづいて学習するフリー・スクー
ルの教育システムが重要な手がかりになる。急速
に展開するIT革命の中で、e-learning の普及が教
育システムの変革をさらに推進するであろう。
現在われわれが直面している変革は明治維新以
来の大転換であり、江戸幕府を解体して明治国家
を建設したほどの規模で、古いモノを解体して新
しいモノを創りださなければならない。その新し
いモノを創りだす担い手が起業家である。新産業
創出のための起業のみならず、解体しつつある国
民国家が担ってきた役割を引き継ぎ、新しい社会
の枠組みを創る企業やPKOを創出しなければな
らないのである。起業家教育も米欧と比較して日
本は大きく遅れているが61、日本で起業家を育成
し、新しい経済社会を創造することは世界に対す
る経済大国日本の責務として進められなければな
らない。新しい時代に何が必要で、何が生き残る
のかは試してみなければ誰にも分からないのであ
り、起業家教育で最も重要なのは、失敗にめげず
に何度でも挑戦するチャレンジ精神と創造力を育
てることである。
2001年10月に中国で開催されたAPEC閣僚会
議、11月にブルネイで開催されたASEAN+3首
脳会議で、9月にアメリカで発生した同時多発テ
ロによる世界不況を回避するために、相次いで貿
易自由化や域内統合などが決議された。12月には
中国がWTOに加盟し、世界の市場統合を目指す
グローバリゼーションの展開はさらに加速され
た。
長岡大学紀要 創刊号
註
24
25
“The Battle In Seattle”, TIME.11.29.1999.
『日本経済新聞』2002年1月10日付。
1 金子郁容・鈴木寛・渋谷恭子『コミュニティ・スクー
26
本間政雄・高橋誠、前掲書、87-89頁。
ル構想−学校を変革するために』岩波書店、2000年、
50-62頁、およびOECD著 嶺井正也訳『学力低下と教
育改革 学校での失敗と闘う』アドバンテージサーバ
ー、2000年。
27 秦由美子『変わりゆく イギリスの大学』学文社、2001
年、232-4頁。
28
29
2 中内敏夫『教育思想史』岩波書店、1998年、71-2頁。
3 堀尾輝久『教育入門』
(岩波新書)岩波書店、1989年、
舘昭、前掲書、182-5頁。
秦由美子『イギリス高等教育の課題と展望』明治図書、
2001年、111-5頁。
30
31
秦由美子、同上、115-8頁。
藤田英典、前掲書、33-9頁。
リゼーション・国民国家』東京都立大学出版会、2000
32
33
本間政雄・高橋誠、前掲書、109頁。
本間政雄・高橋誠、同上、109-10頁。
年。
34
秦由美子、前掲書、203-6頁。
35
36
本間政雄・高橋誠、前掲書、91-5頁。
本間政雄・高橋誠、同上、108頁。
37
38
秦由美子、前掲書、21-35頁、44-52頁。
秦由美子、前掲書、36-43頁。
51-75頁。
4 アンディ・グリーン著 大田直子訳『教育・グローバ
5 宇沢弘文『日本の教育を考える』(岩波新書)岩波書
店、1998年、44-66頁。
6 藤田英典『教育改革 共生時代の学校づくり』(岩波
新書)岩波書店、1997年、65-70頁。
7 本間政雄・高橋誠編著『諸外国の教育改革 世界の教
育潮流を読む』ぎょうせい、2000年、262-277頁。
49
39 大崎仁『大学改革1945∼1999』有斐閣、1999年、295306頁。
8 藤田英典、前掲書、25-9頁。
40
9 President's Commission On Industrial Competitiveness,
41 大崎仁、前掲書、307-327頁。
42 教育改革国民会議『教育改革国民会議報告 教育を変
Global Competition The New Reality, 1985, pp.117-8.
10 Junior Achievement Program(1919年∼), Exchange
City Program(1972年∼), Mini Society Program(1995年
∼)などが代表的な起業家教育であるが、これの教育目
的は単なるビジネス教育ではなく、ビジネスを疑似体
験することによって働くことの意味、社会と個人との
関係、モラルやマナー、生涯に渡って学習することへ
のモチベーションなどを総合的に学習させるのである。
11 アメリカの競争力政策全般については立石剛『米国
経済再生通商政策』同文館、平成12年を参照。
12 本間政雄・高橋誠、前掲書、36-40頁。
13 本間政雄・高橋誠、同上、277-81頁。
14 舘昭『大学改革 日本とアメリカ』玉川大学出版部、
1997年、17-23頁、47-58頁。
15 舘昭、同上、93-5頁。
16 舘昭「米国の大学における高等職業教育の成功」、青
木昌彦・澤昭裕・大東道郎『通産研究レビュー』編集
委員会[編]『大学改革 課題と争点』東洋経済新報社、
2001年、所収。
17 奥家敏和「米国経済の復活と高等教育システム」、青
木昌彦・澤昭裕・大東道郎『通産研究レビュー』編集
委員会[編]『大学改革 課題と争点』東洋経済新報社、
2001年、所収。
18 舘昭、前掲書、142-50頁。
19 本間政雄・高橋誠『諸外国の教育改革 世界の教育潮
流を読む 主要6か国の最新動向』ぎょうせい、2000年、
62-72頁。
20 奥家敏和、前掲書73-83頁。
21 The New York Times ALMANAC, Penguin Books,
2000, pp.355-7.
22 奥家敏和、前掲書67-68頁。
23 『日本経済新聞』2002年2月26日付。
舘昭、前掲書、47-58頁。
える17の提案』平成12年12月22日。
地域のニーズを踏まえ、コミュニティーの支持を得て、
43
やる気のある人が手を上げることで設立される学校で
ある。有志が学校設立を自治体(市町村)に申請し、
認可されたら自治体が学校を設置し、校長が予算や教
員採用権など経営の全権を担ってマネジメントし 、
親・地域代表によって構成される「地域学校協議会」
が教育成果を厳正に評価する。アメリカのチャータ
ー・スクールとイギリスのLMSを合体したものである。
44 文部科学省「21世紀教育新生プラン」平成13年1月25
日。
45 中央教育審議会「第10回中央教育審議会 議事録」2001
年11月26日。
46 『日本経済新聞』2001年11月16日付。
47 経済産業省「新市場・雇用創出に向けた重点プラン」
平成13年5月25日。
48 文部科学省「大学(国立大学)の構造改革の方針」及
び「大学を起点とする日本経済活性化のためのプラン」
平成13年6月11日。
49
『日本経済新聞』2001年11月25日付。
50 日本技術者認定機構「技術者教育認定機構が目指すも
の」。
51 本間政雄・高橋誠、前掲書、59-69頁。
52 「特集 教育を問う 第7部 改革への青写真」
『日本
経済新聞』2000年10月31日付。
53 「特集 教育を問う 第7部 改革への青写真」
『日本
経済新聞』2000年11月1日付。
54 Alexander Sutherland Neill, et al Summerhill
School: A New View of Childhood, St. Martin's. Griffin,
1995
55
東京シューレ編『フリースクールとはなにか』教育
50
教育改革とグローバリゼーション
56
史料出版会、2000年。
舘昭、前掲書、175-8頁。
57
舘昭、同上、178-82頁。
58
59
舘昭、同上、182-90頁。
舘昭、同上、192-212頁。
60 戸瀬信之・西村和雄『大学生の学力を診断する』(岩
波新書)岩波書店、2001年。
61
OECD Fostering Entrepreneurship, OECD Publications,
1998
長岡大学紀要 創刊号
51
Windows NT Terminal Serverの導入と管理
吉 川 宏 之
はじめに
Windowsを使用したシステムでは,管理のた
めのプログラムがGUI(Graphical User Interface)
のものが主流になっています.GUIは目で見て理
解できるので,CUI(Character User Interface)に
比べて,必要な知識は少なくて済む利点がありま
すが,大人数のユーザ登録など,GUIに向かない
作業もあります.コマンドラインから使用できる
管理ツールも,ある程度用意されていますが,そ
のままでは使いづらいものが多いようです.
対象システムはTSE(Windows NT 4.0 Server,
Terminal Server Edition)をベースにしたもので,
端末はすべてWBT(Windows-Based Terminal)端
末を想定しています.
Windowsに標準で備わる機能の不足部分を補
う形で,大人数のユーザに対する一括作業を簡単
にするためのシステムを作成しました.また,
TSEでは,場所に応じたプリンタ選択機能が不
足している点など,運用上の問題点が幾つかあり,
対策のためのプログラムを作成しました.
1章にシステム構成を.2章にユーザ登録を.
3章にプリンタ選択の方法を示します.
*
とBDC(Backup Domain Controller)は同じ構成と
します.PDCは,ユーザプロファイルやデータ
を保存するファイルサーバとしても利用するもの
とします. WBT(Windows-Based Terminal)端末
は,複数の場所に配置されており,各々複数のプ
リンタがネットワークで接続されているものとし
ます.システム構成図を図1.1に示します.
サーバ名はTSEをFrame1, Frame2,PDCを
FS1,BDCをFS2とします.
Windows NT 4.0 Server TSE
Framel∼Frame4
A室
Windows Based Terminal
プリンタ
Windows NT 4.0 Server
FS1(PDC)
B室
Windows Based Terminal
プリンタ
Windows NT 4.0 Server
FS2(BDC)
C室
Windows Based Terminal
プリンタ
図1.1 システム構成図
1.システムの構成
2.ユーザの登録
TSE(Windows NT 4.0 Server, Terminal
Server Edition)が複数台あり,サーバは負荷分散
により,自動的に割り当てられるものとします.
ユーザのアプリケーションはここで動作します
が,ログインする毎にどのTSEを使用するのか
わかりません.PDC(Primary Domain Controller)
大人数の登録作業をGUIでおこなうのは,時間
がかかるうえに,間違いも多くなりがちです.
ユーザ登録は変更の容易なExcelとエディタの
組み合わせとしました. 使用したExcelのシート
内容を図2.1、図2.2、図2.3に示します.
2001.10.04投稿 2002.01.16受理
*長岡大学産業経営学部講師
52
Windows NT Terminal Serverの導入と管理
図2.1 ユーザ名の入力
図2.2 ユーザ情報の作成
図2.3 コマンドの作成
2.1 ディレクトリの配置
各ユーザのホームディレクトリ,プロファイル
ディレクトリの配置を以下に示します.
ホームディレクトリのパス
¥¥fs1¥home¥users¥%UserName%
プロファイルのパス
長岡大学紀要 創刊号
¥¥fs1¥profiles¥users¥%UserName%
ファイルサーバ¥¥fs1にホームディレクトリと
プロファイルディレクトリを作成したあと,共有
名homeとprofilesを設定します.
2.2 ユーザ登録の順序
ユーザ登録は,おおよそ下記の(1)∼(3)の作業
となります.
(1) フォルダ作成
(2) ユーザ登録
(3) アクセス権設定
(1)のフォルダ作成を省略しても,ユーザ登録
時にフォルダが作成されます.ただし,所有権は
登録されたユーザのものになります.この場合,
所有権,アクセス権の関係から,そのままでは
administratorsでは消せないフォルダになりま
す.所有権を取得すれば削除できるのですが,削
除件数が多くなると手間がかかるため,(1)の作
業を行い,事前にフォルダを作成しています.
2.2.1 フォルダの作成
ホームディレクトリ
¥¥fs1¥home¥users¥%UserName%と,
プロファイルディレクトリ
¥¥fs1¥profiles¥users¥%UserName%を
作成します.コマンドは以下のとおりです.
MkDir ¥¥fs1¥home¥users¥e00000
MkDir ¥¥fs1¥profiles¥users¥e00000
図2.3に示すExcelのシートを利用してコマンド
を作成したあと,J5以下を選択し,コピー,貼り
付けを使いエディタに移します.batまたはcmd
の拡張子を付けたファイル名を付けて保存してお
きます.パスは絶対パスで指定しましたが,相対
パスにしておき,ディレクトリの変更コマンド
ChDirと組み合わせて同じものを呼び出す方法も
あります.
¥¥fs1以外で作業を行うときは,¥¥fs1¥home
と¥¥fs1¥profilesをドライブに割り当ててから作
業することが必要になります.
2.2.2 ユーザ登録
Windows NT Server Resource Kit の
addusers.exe を利用します.Addusersを利用し
53
てユーザ登録すると,「ユーザは次回ログオン時
にパスワード変更が必要」がチェックされます.
addusesで利用するデータファイルの書式は以
下のとおりです.
[User]
アカウント,フルネーム,パスワード,説明,ホーム
パス,プロファイルパス,ログオンスクリプト
[User]
e00000,00E000,,,X:,¥¥fs1¥home¥users¥e00000,
¥¥fs1¥profiles¥users¥e00000,START_S.CMD
パスワードは無しにして登録しておき,初回ロ
グイン時にパスワードを付けることとします.
Excelのシートからから,”ファイル”→”名前
を付けて保存”を選択し,ファイルの種類として”
CSV(カンマ区切り)( * .csv)”を選択して保存しま
す.今回は1枚のシートにディレクトリの作成と
アクセス権の設定もまとめました.図2.2のA4以
下を選択してコピーしたあと.エディタに貼り付
けてから,タブをコンマに置き換えて保存します.
そのあと,コマンドプロンプトから以下のコマン
ドを使い登録します.
addusers /c users.txt
ユーザの削除も同様に,下記のコマンドで一括し
て行えます.
addusers /e users.txt
2.3 アクセス権の設定
プロファイル,ホームディレクトリ共に,ユー
ザとadministratorsだけに”フルアクセス”の権
限を与えます.コマンドは下記のとおりです.
echo y | cacls ¥¥fs1¥home¥users¥e00000
/G e00000:F Administrators:F
echo y | cacls ¥¥fs1¥profiles¥users¥e00000
/G e00000:F Administrators:F
Excelを使った作成方法を図2.3に示します.
フォルダの作成時と同様に相対パスで表現し,
ディレクトリを変更して同じ物を2回呼び出す方
法もあります.
ホームディレクトリを作成したあと,プロファ
イルディレクトリにコピーして使用するときは,
エクスプローラやコマンドプロンプトのcopyコ
マンド,xcopyコマンドではアクセス権がうまく
設定されません.Windows NT Resource Kitに
付属するscopyコマンドを利用します.
54
Windows NT Terminal Serverの導入と管理
3.プリンタの自動選択
TSEやMetaFrameには,クライアントの場所
に応じたプリンタの自動選択機能が付属していま
せん.端末が複数の場所に配置されている場合,
印刷時に適切なプリンタを選択してやらないと,
違う部屋のプリンタから出力されてしまいます.
この結果,「印刷出力されない」と勘違いして何
度も印刷してしまい,他の部屋のプリンタから出
力がたくさん出てしまうことになります.また,
メモ帳など,「通常使うプリンタに設定」とされ
たプリンタに自動的に出力してしまうアプリケー
ションもあります.そこで,場所に応じたプリン
タを「通常使うプリンタに設定」に設定するプロ
グラムを作成しました.
Windows NTでは,デフォルトプリンタの取
得と設定を,以下の方法で行うことができます.
デフォルトプリンタの取得
GetProfileString(“windows”, “device”,
“,,,”, buffer, sizeof(buffer));
デフォルトプリンタの設定
WriteProfileString(“windows”, “device”,
“My Printer,WINSPOOL,lpt1:”);
SendMessageTimeout(HWND_BROADCAST,
WM_WININICHANGE,
0L, 0L, SMTO_NORMAL, 1000, NULL);
TSEについて,対応の記述がありませんでし
たが,確認した所,うまく動作しました.
3.1 クライアントのIPアドレスの取得
IPアドレスの取得には,
Wtsapi32.h,Wtsapi32.libと,Terminal Server
に対応したkernel32.libが必要になります.プロ
セスIPをGetCurrentProcessId()で取得します.
ここから,ProcessIdToSessionId()でセッション
IDを取得します.このIDを使用してセッション
の情報を取り出します.
IPアドレスは,
WTSQuerySessionInformation()に
WTSClientAddressを指定することで取得できま
す.
サンプルコードを以下に示します.address>Address[2]からaddress->Address[5]にクライア
ントのIPアドレスが設定されます.エラーチェッ
クは省略してあります.
DWORD sessionId;
LPTSTR ppBuffer;
DWORD bytesReturned;
WTS_CLIENT_ADDRESS* address;
ProcessIdToSessionId(GetCurrentProcessId(), &sessionId);
WTSQuerySessionInformation(WTS_CURRENT_SERVER_HANDLE,sessionId,
WTSClientAddress,&ppBuffer, &bytesReturned);
address = (WTS_CLIENT_ADDRESS*)ppBuffer;
printf(“%d.%d.%d.%d¥n”, address->Address[2], address->Address[3], address->Address[4] , address>Address[5]);
WTSFreeMemory(ppBuffer);
長岡大学紀要 創刊号
55
3.2 通常使用するプリンタの自動設定
参考文献
取得したIPアドレスとプリンタの対応表を使う
ことで,選択するプリンタを決定します.対応表
は以下のようなファイルを用います.ログオンス
クリプトに追加することで,ログイン時に自動的
にプリンタが選択されます.
[1]
Microsoft Corporation,“Microsoft WindowsNT 4.0
Server リソースキット”,株式会社アスキー,1997.
[2]
Microsoft Corporation,”Microsoft Windows2000
Server リソースキット”,日経BPソフトプレス,2000.
[3] 倉澤寿之,”学校環境でのNTドメイン管理RAQ”,
http://www.shiraume.ac.jp/~kurasawa/network/
NTRAQ.htm.
#開始アドレス 終了アドレス プリンタ
192.168.1.21 192.168.1.59 A室PR1,winspool,Ne05:
192.168.1.61 192.168.1.99 A室PR2,winspool,Ne04:
192.168.1.101 192.168.1.112 B室PR1,winspool,Ne03:
192.168.1.113 192.168.1.124 B室PR2,winspool,Ne02:
192.168.1.151 192.168.1.170 C室PR1,winspool,Ne01:
192.168.1.171 192.168.1.199 C室PR2,winspool,Ne00:
まとめ
Excelを利用することにより,大人数のユーザ
登録が比較的容易に行えることを示しました.学
校など,定期的に大規模にユーザ登録が必要な所
では効果が期待できます.また,TSEのシステ
ムにおいて,プログラムを作成することで,場所
に応じて標準プリンタを自動設定できることを示
しました.
今後の課題として,ユーザの使用しているディ
スク容量の管理などがあげられます.
[4]
[5]
“Windows NT ServerおよびWindows2000で利用可
能なターミナルサービスAPI”,マイクロソフトシステ
ムジャーナル日本語版 No.64,株式会社アスキー,1999.
“[SDK32] Windows におけるデフォルトのプリンタ
の取得および設定” ,Microsoft Knowledge Base.
長岡大学紀要 創刊号
57
長岡大学教員研究・社会活動一覧(2001年4月∼12月)
原 陽一郎
教授
〔研究活動〕
・『イノベーション経営』(共著)
、放送大学教
育振興会、2001年
・「イノベーションのメカニズムと日本の強み
弱み」、『マネジメント・トレンド』(経営研
究所)
、Vol.6 No.1 2001年
・「メーカー生き残りの戦略…コストに対する
執念と論理と智恵の結集で」、『地域研究』
(長岡大学地域研究センター)
、創刊号(通巻
11号)、2001年
・「ITは何ゆえに革命的であるのか…未来社
会でオチコボレたくない人たちのために」、
『生涯学習センター研究実践報告』(長岡大
学)、第4号、2001年
・「イノベーションのタイプとわが国の特徴」
(共著)、『研究技術計画学会第16回年次学術
大会講演要旨集』
、2001年
・「イノベーションのダイナミック・プロセス」
(共著)、『研究技術計画学会第16回年次学術
大会講演要旨集』
、2001年
・「プロジェクト終了後の技術の波及効果評価
手法」(共著)、『研究技術計画学会第16回年
次学術大会講演要旨集』
、2001年
・「新産業創造のイノベーション」
、
『化学経済』
(化学工業日報社)
、2002年1月号
・『イノベーションのメカニズムと我が国の課
題』、技術経営ビジネススクール(テクノ未
来塾)テキスト
〔社会的活動〕
・放送大学講義「イノベーション経営」、前期
および後期(各4回)
・経営研究所定例研究会「イノベーションのプ
ロセスと我が国の問題点」、2001年4月5日、
東京
・FM長岡「スタジオに遊びに来ませんか」出
演「イノベーションと起業家精神」、2001年
6月20日放送
・マーカスエバンズ国際会議「生産革命」基調
講演「次世代生産システムへのアプローチ」、
2001年7月17日、大阪
・中小企業大学校・中小企業技術指導員研修講
座「研究開発マネジメントの基本」、2001年
7月31日、東京
・長岡大学地域研究センター・シンポジウム基
調報告およびパネリスト「国内製造業生き残
りの戦略は何か」
、2001年10月11日、長岡
・長岡市民大学・4大学連携講座「地域の生活
文化に根ざしたモノ作りへ」、2001年10月20
日、長岡
・長岡大学地域研究センター実践講座「カンバ
ン方式を越えるコストダウンの秘訣」、2001
年10月17日、長岡
・信濃川テクノポリス技術セミナー講演「国内
製造業生き残りの戦略は何か」、2001年11月
19日、吉田
・NHK・きらっと新潟「新潟鉄工経営破たん」
出演、2001年12月7日放映
・ベンチャー学会イノベーション研究会「イノ
ベーションのダイナミック・メカニズムと我
が国の課題」
、2001年1月15日、東京
・研究・技術計画学会理事(庶務担当)
・日本開発工学会理事
・㈱東京創研取締役(非常勤)
・㈱アリス・インスティチュート監査役(非常
勤)
・㈱東レ経営研究所研究参与(非常勤)
・長岡市インキュベーター検討委員会委員
中 澤 孝 之
教授
〔研究活動〕
・「再評価の機運高まるゴルバチョフ」、『世界
週報』
、2001年4月10日号
・「プーチンのメディア・オリガルヒ締め付
け」
、『世界週報』
、2001年5月22日号
・「数字に見るプーチン政権の1年」、
『世界週
報』
、2001年6月5日号
・「資産10億ドル以上のロシア人長者たち」、
『世界週報』
、2001年7月24日号
・「ロシアにおけるオリガルヒについて」、『ロ
シア東欧学会年報』2000年版(2001年10月刊)
・「8月クーデター未遂事件から10年」
、『世界
58
長岡大学教員研究・社会活動一覧
週報』
、2001年9月18日号
・「ロシア専門家が見たモスクワ・キエフの近
況」
、『新潟日報』、2001年10月29日
・「プーチンのロシア」(15回連載)、『世界日
報』
、2001年11月
〔社会的活動〕
・新潟川商会講演「プーチン政権下のロシア」、
2001年9月13日
・ながおか市民大学講座、「20世紀のソ連と新
生ロシアを検証する」(合計4回)、2001年10
月
・日本対外文化協会ロシア問題セミナー報告
「2年目のプーチン政権」
、2001年11月15日
・ユーラシア研究所ロシア問題・シンポジウム
「ソ連崩壊10年」議長、2001年4月7日
・日本記者クラブ会報委員、2001年4月∼12月
・長岡朝飯会会員、2001年4月∼12月(毎週水
曜朝)
・法務省公安調査庁ロシア問題月例セミナー主
査、2001年4月∼12月
・「世界日報」客員解説委員、2001年4月∼12
月(毎月社説、評論を各一本執筆)
・二日会(青山学院大学大学院での月例研究会)
会員、2001年4月∼12月
・外国特派員協会会員、2001年4月∼12月
・ロシア東欧学会理事、2001年4月∼12月
・日本国際政治学会会員、2001年4月∼12月
・環日本海学会会員、2001年4月∼12月
・日本比較政治学会会員、2001年4月∼12月
・環日本海アカデミック・フォーラム会員、
2001年4月∼12月
・時事総合研究所客員研究員、2001年4月∼12
月
・日露ジャーナリスト会議・国際問題専門家訪
問団団員、2001年9月23日∼30日(訪問地:
モスクワ、キエフ)
・日本スラブ東欧学会(JSSEES)第16回
大会シンポジウム参加、2001年12月1日
李 宗 惠
教授
〔研究活動〕
・「 日 双漢辞書更上一層楼」(よりよい日
漢漢日辞典を編纂するために)、『日漢双語辞
書編纂日語教学論文集』、商務印書館、2001
年6月
・「〈日漢辞典〉への期待」、『日漢双語辞書編
纂日語教学論文集』、商務印書館、2001年6
月
・「北京地区大学日語教育簡述」(北京におけ
る大学日本語教育の歩み)、『日漢双語辞書編
纂日語教学論文集』、商務印書館、2001年6
月
〔社会的活動〕
・長岡産業経済視察団訪中結団式講演「中国の
現状と今後の展望」、2001年4月3日
・長岡地区国際交流企業連絡協議会総会講演
「中国の事情について」
、2001年4月27日
・北京大学第2回世界良寛研究会講演「良寛と
子供」
(代読)
、2001年5月3日
・ながおか市民大学講座「中国語講座」、2001
年6月1日∼7月10日
・ながおか市民大学講座「中国の姓名(名前)
文化」
(全4回)
、2001年11月
・長岡中央公民館講座「続中国語講座」、現在
に至る
岡 野 宏 昭
教授
〔研究活動〕
・「市町村合併の必要性と今後の展望」
、
『調査月
報』
(香川経済研究所)
、No.177、2001年11月
〔社会的活動〕
・地域政策形成研究会委員(第一法規出版)、
1995年4月∼現在に至る
定 方 昭 夫
教授
〔研究活動〕
・「ユングとチベット密教」(共訳)、ビイン
グ・ネット・プレス、2001年6月
・人体科学会第11回大会発表「露伴と養生」、
2001年11月
〔社会的活動〕
・『シンポジウム 情報・教材・臨床を拓く』、
長岡大学紀要 創刊号
「教育の臨床を拓く」パネリスト、
新潟大学教育人間科学部附属
教育実践総合センター、2001年12月
・スクール・カウンセラー(文部科学省補助事
業)、2001年4月1日∼2002年3月31日
・学校派遣スクール・カウンセラー(新潟県事
業)、2001年4月1日∼2002年3月31日
・学校不適応対策検討委員会委員長(長岡市)、
2001年4月1日∼2002年3月31日
・人体科学会検討委員会委員長、2001年4月1
日∼2002年3月31日
高 橋 治 道
教授
〔研究活動〕
・Y.Fukuzawa, S.Nagasawa. H.Takahashi,
S.Hikotani,「Thermal cycle fatigue behavior
on the dissimilar material joint,」『 10th
international Conference on Fractue,
Advances in Fracture Research Proceeding
of ICF10』, PERGAMON, ISBN 0080440428,
2001.12
〔社会的活動〕
・ながおか市民大学講座「インターネットを知
る」
、2001年6月26日∼7月17日
・第2回にいがた連携講座公開講座2001講演「IT
革命のゆくえ」
、2001年10月28日
太 田 惠 子
教授
〔社会的活動〕
・長岡市まちなか再生研究会委員、2001年7月
∼現在に至る
小 川 幸 代
助教授
〔研究活動〕
・林英夫・青木美智男編『事典 しらべる江戸
時代』、柏書房、2001年10月
「商家文書−白木屋に見る商人の文書−」
59
〔社会的活動〕
・文京ふるさと歴史館友の会講座「古文書講座」
(東京都文京区、月1回)
、2001年4月∼12月
・文京ふるさと歴史館友の会講演「古文書にみ
る上方商人の江戸暮らし」(東京都文京区)、
2001年6月30日
鯉 江 康 正
助教授
〔研究活動〕
・山口誠、鯉江康正他『社会科学の学び方』、
朝倉書店、2001年10月
・「計量経済モデルによる新潟県経済の長期予
測」、『地域研究』(長岡大学地域研究センタ
ー)
、創刊号(通巻11号)、2001年10月
〔社会的活動〕
・『市町村合併を考えるシンポジウム』、パネ
ルディスカッション「市町村合併とまちづく
り」コーディネーター、長岡地域広域行政組
合、2001年10月
・『中永トンネル開通記念シンポジウム』、基
調講演「出雲崎の魅力を活かしたまちづく
り」、パネルディスカッション「21世紀にふ
さわしい魅力ある町づくりと市町村合併につ
いて」パネリスト、出雲崎町、2001年10月
・『長岡大学地域研究センター2001年シンポジ
ウム 新時代への挑戦−地域企業からの脱
皮−』、基調報告「厳しい新潟経済の先行き」
、
パネルディスカッション「地域企業の新時代
への適合性を求めて」パネリスト、長岡大学
地域研究センター、2001年10月
・「地域経済の活性化方策」、新潟県長岡地域
振興連絡会議、2001年12月
・『FM-NIIGATA ベンチャーマイン
ド講座』、「新潟県の製造業の特徴と成長企業
の条件」
、FM-NIIGATA、2001年12月
・「成長企業の条件とその条件の経営状況への
影響」、長岡新聞(連載)
、2001年11月
・長岡操車場地区土地利用計画策定委員、長岡
市、現在に至る
・まちづくり条例調査・研究委員、長岡商工会
議所、現在に至る
・さんじょう市21世紀産業振興ビジョン推進会
議委員、三条市、現在に至る
60
長岡大学教員研究・社会活動一覧
・三島町地域情報化推進計画検討懇談会委員、
三島町、現在に至る
・商品・技術情報発信事業実行に係る実行委
員、財団法人信濃川テクノポリス開発機構、
現在に至る
・新潟職業能力開発促進センター推進協議会委
員、新潟職業能力促進センター、現在に至る
・『長岡市高齢者等生活実態調査』、長岡市、
2001年11月
・松本昌二、鯉江康正他『長岡都市圏の地域施
策に関する調査業務』、社団法人 北陸建設
弘済会、継続中
・定方昭夫、滝沢和彦、鯉江康正『心の教育に
関するアンケート調査』集計・分析、長岡市
教育委員会2001年8月
松 信 ひろみ
講師
〔研究活動〕
・山田昌弘編『家族本40』(共著)、平凡社、
2001年4月
・「女性の職業別にみた結婚・出産・子育てに
関する意識」、『こども未来』2001年12月号、
œこども未来財団、2001年12月
〔社会的活動〕
・長岡大学生涯学習センター公開講座「日常生
活のジェンダーを考える」、2001年6月∼7
月
・新潟県高教組長岡支部女性部2001年度研修会
「ジェンダー・フリー教育について」、2001年
7月
・長岡大学地域研究センター実践セミナー「こ
れからの若者の生き方を考える−ジェンダ
ー・フリーな生き方とは」
、2001年11月
・新潟県生涯学習推進センター連携講座「現代
の子育てを問い直す」、2001年11月
・長岡工業高校教職員研修会「『男らしさ』
『女
らしさ』って何だろう−教育におけるジェン
ダーをよみとく」
、2001年12月
・第11回日本家族社会学会大会自由報告部会司
会(
「家族役割」部会担当)
、2001年9月
小 田 康 治
講師
〔研究活動〕
・日本管理会計学会2001年度全国大会(東北大
学)報告「品質コスト概念の再検討と品質原
価計算の現代的意義」、2001年10月
〔社会的活動〕
・ながおか市民大学講座「会計の基礎知識−簿
記入門」
、2001年6月∼11月
・長岡大学地域研究センターシンポジウム「新
時代への挑戦−地域企業からの脱皮−」コー
ディネーター、2001年10月
・長岡大学地域研究センター実践セミナー「新
潟県内企業の経営分析」
、2001年11月
松 本 和 明
講師
〔研究活動〕
・「新潟県における産業・企業と企業家の変
遷」、『地域研究』(長岡大学地域研究センタ
ー)
、創刊号(通巻11号)
、2001年10月
〔社会的活動〕
・ながおか市民大学講座「新潟県の産業発展と
企業家の変遷」
、2001年11月
・早稲田大学大学史資料センター研究調査員、
2001年10月より現在に至る
長岡大学紀要 冊子版
創 刊 号
平成14年3月26日 印 刷
平成14年3月29日 発 行
編集・発行 長 岡 大 学
〒940−0828 新潟県長岡市御山町80−8
電話 (0258)39−1600㈹
印 刷 所 株式会社 第一印刷所
〒950−8724 新潟市和合町2丁目4−18
電話 (025)285−7161㈹
(非売品)
The Bulletin of Nagaoka University
No.1
March 2002
Contents
Articles:
Competitive Advantage in Global Market
…From Industrial Performance to Performance of Innovation System
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ Yoichiro Hara ‥‥‥‥(1)
Cash Flows and The Quality of Earnings
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥Yoshimasa Shimosaka ‥‥‥‥(23)
Educational Reform and Globalization
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥Haruhito Nakamura ‥‥‥‥(39)
Note:
Introduction and administration of
Windows NT Terminal Server Edition
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ Hiroyuki Yoshikawa ‥‥‥‥(51)
Edited by
Nagaoka University
^ Nagaoka City, Niigata Pref, 940-0828, Japan
80-8 Oyamacho,
Tel 0258-39-1600
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