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3 次元深部地下構造がやや長周期 地震動の特性に及ぼす
地 震 第 2 輯 第 54 号 (2001) 381-395 頁 3 次元深部地下構造がやや長周期 地震動の特性に及ぼす影響 −横浜市とその周辺地域における検討− 東京工業大学大学院総合理工学研究科* 三 浦 弘 之・翠 川 三 郎 Effects of 3-D Deep Underground Structure on Characteristics of Rather Long-Period Ground Motion – Examination in and around Yokohama City – Hiroyuki MIURA and Saburoh MIDORIKAWA Department of Built Environment, Interdisciplinary Graduate School of Science and Engineering, Tokyo Institute of Technology, 4259 Nagatsuta, Midori-ku, Yokohama, Kanagawa 226-8502, Japan (Received August 9, 2001; Accepted November 9, 2001) The effects of 3-D deep underground structures in and around Yokohama city on the characteristics of rather long-period ground motion are examined. The detailed 3-D deep underground structure was modeled by interpreting the time delay between PS converted waves and the direct P waves (PS-P time) calculated from earthquake records. This PS arrival time was determined on the stacked receiver function waveforms. The results show that the basement depth varies between 2.5 to 4.0km. The propagation characteristics of rather long-period ground motions in the southern part of the Kanto basin were examined by analyzing records pertaining to the east off Izu Peninsula earthquake of May 3rd, 1998. The results show that Love wave packets traveling across the basin turn into the main contributors to the observed rather long-period ground motions. The amplitudes of the Love waves appear well correlated with the basement depth. The observed phase velocities for periods between 5 and 10s show good agreement with those of fundamental mode Love waves calculated for the estimated model. However, in cases where steep dipping of the basement is detected, a simple underground model beneath the sites cannot explain the amplitudes and phase velocities. This is caused by the effect of these irregularities of the deep underground structure on the waves propagation. Key words: Rather long-period ground motion, 3-D deep underground structure, Yokohama City, PS converted wave §1.は じ め に 計や地震防災対策上,重要な問題の一つである. 近年では,固有周期の長い高層建築物,長大橋梁,沈 一般にやや長周期の地震動は,その周期領域を支配す 埋トンネル,大型タンクといった長大構造物や長周期特 る地震波の波長が長くなるため,深い地下構造の影響を 性を利用した免震構造物などの長周期構造物が数多く建 受ける.このため,主に堆積層の厚い平野部を対象とし 設されている.このような構造物に影響を及ぼすと考え て,1970 年代から地震観測によってやや長周期地震動 られる周期数秒から 10 数秒程度のやや長周期地震動の の特性を把握する試みが行われている.関東平野を対象 特性をあらかじめ把握しておくことは,構造物の耐震設 としたものとして,Seo and Kobayashi (1980)は,伊 豆半島・相模湾周辺での浅発地震の場合,平野の中央部 * 〒226-8502 神奈川県横浜市緑区長津田町 4259 での地震動は 7∼10 秒のやや長周期成分が優勢に現れ, 382 三浦弘之・翠川三郎 それらは平野の厚い堆積層の影響によって励起された表 り,3 次元構造を詳細に知るのに十分な情報を与えてい 面波であると指摘している.Kinoshita et al. (1992) で るとは言えない.これは,一般に深部を対象とした地下 は東京都心部におけるアレイ観測から,やや長周期帯域 構造探査は容易でなく,3 次元構造を知るには複数の地 の主要動は S 波から 2 次的に生じた Love 波であり,震 域で多数の探査を行う必要があり,多大な経費や手間が 源とは異なる方向から到来する場合があることを示し, かかるためである.このため,平野の詳細な 3 次元構造 その生成位置を推定している.Yamanaka et al. (1989, を把握できる地域は少なく,3 次元深部地下構造とやや 1992) は 2 次元構造によるやや長周期地震動の数値シ 長周期地震動の特性との関係を詳細に検討した例もほと ミュレーションを試み,ある程度の精度での波形の再現 んどない. は可能であるものの,継続時間の長い後続動については 一方で,1995 年兵庫県南部地震以降,各研究機関・ 3 次元的な地下構造の影響のために再現が困難な場合が 自治体などによる新規観測点の増加に伴って,地震記録 あ る こ と を 指 摘 し て い る . Koketsu and Kikuchi も数多く蓄積されつつある.この豊富な地震記録を有効 (2000) は関東平野の観測記録から平野内および関東山 に利用して地下構造を推定することができれば,より広 地を伝播する Love 波の様子をとらえ,この傾向は 3 次 域で詳細な地下構造の把握が可能となると考えられる. 元地下構造モデルによるレイトレーシングによってある 近年では,小林・他(1998)や Kobayashi et al. (2000) に 程度説明可能であることを示している. より深部地下構造を比較的簡便に評価する手法として, 同様の検討は,他の堆積平野上でも行われており,大 地震記録を利用する方法が提案され,その有効性が確認 阪平野を対象とした観測[例えば,鳥海・他(1982), されている.この手法は,地震記録にみられる地震基盤 Hatayama et al. (1995)]では,平野端部で励起された 面を生成位置とする PS 変換波を利用する方法であり, やや長周期の表面波の到来が確認されており,濃尾平野 ある程度の地震記録の蓄積があれば,深部地下構造の情 を対象とした観測[例えば,正木・成瀬(1983),宮崎・ 報を得ることができる. 他(1986)]では,名古屋市域において周期数秒程度の地 関東平野南西部に位置する横浜市では,市内 150 地点 震動が卓越し,その周期・振幅特性は深部地下構造に対 に設置された強震計からなる高密度強震計ネットワーク 応して変化することが示されている.これらの研究によ が 1997 年から稼働している[例えば,Midorikawa and り,堆積平野上でのやや長周期地震動の特性は,対象地 Abe (2000)] .このネットワークは地震計間隔が約 2km 域の深部地下構造と密接な関係にあり,地下構造の影響 と高密度であり,各観測点で深部地下構造を推定するこ によって複雑な挙動を示すことが指摘されている.この とができれば,より詳細な 3 次元構造を把握することが ため,やや長周期地震動の特性を詳細に把握するには, 可能で,地下構造とやや長周期地震動の特性との関係を 地震波の伝播経路にあたる地下構造の 3 次元変化を把握 詳細に検討することができると考えられる. することが重要であると考えられる. そこで本研究では,横浜市とその周辺地域を対象とし このような背景から,関東平野や大阪平野をはじめい て,地震観測記録から PS 変換波を検出することで各観 くつかの平野において,S 波速度 3km/s,P 波速度 測点下の深部地下構造を推定し,対象地域のより詳細な 5km/s 程度の地震基盤までの深部構造を明らかにする 3 次元構造を把握することを試みる.また,実際にやや ための地下構造探査が 1970 年代より数多く行われてい 長周期地震動が顕著に現れた伊豆半島付近での地震によ る.関東平野を対象とした地下構造探査としては,人工 る記録を解析し,やや長周期地震動の特性を推定した地 地震による屈折法探査[例えば,首都圏基盤構造研究グ 下構造との関係をふまえて検討することで,深部地下構 ループ(1989),山中・他(1986, 1988, 1991)]による結 造の 3 次元変化がやや長周期地震動の特性に及ぼす影響 果を基に,3 次元基盤深度分布を推定した Koketsu and について検討する. Higashi (1992)や纐纈(1995)による研究のほかに,深層 ボーリングデータや各種の物理探査による探査結果を用 §2. 深部地下構造推定のための PS 変換波の検出 いて 3 次元地質構造を求めた鈴木(1996, 1998, 1999) 横浜市における地震観測点の位置を Fig. 1 に示す. による研究がある.また,関東平野のいくつかの地点で 各観測点では深度 20∼50m 程度,VS0.6km/s 程度の は微動アレイ探査[例えば,松岡・他(1996),山中・他 層までの表層地盤を対象とした PS 検層が行われている (1999)]により S 波速度構造が推定されている.このよ [横浜市総務局災害対策室(1997)].また,対象地域で うな複数の地下構造探査の結果,関東平野の大局的な深 はいくつかの深部地下探査が行われており,そのうち微 部構造については明らかになりつつある. 動アレイによる探査では,Fig. 1 に示す地点において地 しかし,これらは限られた点や測線での探査結果であ 震基盤までの S 波速度構造が推定されている[山中・他 3 次元深部地下構造がやや長周期地震動の特性に及ぼす影響 383 (1999),横浜市(1999)] .屈折法探査[瀬尾・小林(1980), 層の S 波と P 波の走時差を意味しており,地下構造を把 山中・他(1986, 1988, 1991),鈴木・他(1993)]や反射 握する上で重要な情報となる. 法探査[川崎市(1996),横浜市(2000)]による測線で地 地表面では地震波はほぼ鉛直下方からやってくると 下構造が推定されているものの,いまだに深部構造が明 考えられるので,P 波は主に UD 成分に現れ,PS 変換波 らかでない地域も多い. は SV 波であり主に Radial 成分に現れるが,PS 変換波 本研究では,各観測点下の深部地下構造を推定する方 は常に地震波形から明瞭に判別できるわけではない.そ 法として地震記録にみられる PS 変換波を利用する.一 こで本研究では,PS 変換波の検出方法として小林・他 般に,速度のコントラストが大きい地震基盤面に P 波が (1998)による手法を適用した.この方法では,複数の地 入射すると,屈折 P 波とともに屈折 SV 波が顕著に表れ 震記録の Radial 成分と UD 成分を用い,P 波初動部の る.このように P 波から S 波に変換された波は,PS 変 水平/上下スペクトル振幅比関数からフーリエ逆変換に 換波と呼ばれ,地表面では S 波初動の前に到達する.こ よりレシーバーファンクション,すなわち Radial 成分 の PS 変換波と P 波の到達時間差(PS-P 時間)は,堆積 を UD 成分でデコンボリューションした波形を算出し, それらを重合することによって明瞭に現れる最大値の発 生時間から PS-P 時間を検出する.ここで,Radial 成分 は放射方向を,UD 成分は Up 方向を正の極性とすると, Y-LA3 正の最大値を示す時間が PS-P 時間となる. 解析条件は小林・他(1998)を参考に,計算区間は P 波到達から 2.5 秒ないし 4 秒間とし,レシーバーファン クション算出の際のフィルタ幅は 1∼5Hz とした.解析 Y-LA2 には 1997∼2000 年に発生した MJ4∼5 程度の 12 地震 AST Y-LA1 の記録を用いた.Fig. 2 に解析に用いた地震の震央位置 No.4 :Observation station :Microtremor array (Yokohama city (1999)) :Microtremor array (Yamanaka et al. (1999)) Y-LA5 0 Y-LA4 2.5 5 No.2 No.11 No.8 Yokohama No.5 No.12 Kilometers No.3 Fig. 1. Location of observation stations in Yokohama city and arrays for microtremor measurements. Solid circles show observation station. Solid squares and large triangles indicate microtremor arrays by Yamanaka et al. (1999) and Yokohama City (1999) respectively. No.9 No.1 No.10 No.6 No.7 Date 1997.07.09 1997.08.09 1997.09.08 1997.11.02 1998.01.14 1998.01.16 1998.05.16 1998.08.29 1998.11.08 1999.09.13 1999.12.04 2000.02.11 50km Fig. 2. Location of epicenters of the 12 earthquakes used in the detection of PS converted waves in Yokohama. Table 1. List of earthquakes used in this study No. 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 0 Time Region Lat.(deg.) Lon.(deg.) 35.55N 140.13E 18:36 Northern Chiba 05:34 Southern Saitama 35.83N 139.51E 08:40 Tokyo Bay 35.55N 140.01E 07:13 Southern Ibaraki 36.06N 139.92E 02:17 Northern Chiba 35.59N 140.24E 10:58 Southern Chiba 35.21N 140.31E 03:45 Southern Chiba 34.97N 139.94E 08:46 Tokyo Bay 35.60N 140.05E 21:40 Tokyo Bay 35.61N 140.05E 07:56 Northern Chiba 35.57N 140.16E 14:06 Southern Ibaraki 35.90N 140.75E 20:57 Eastern Yamanashi 35.50N 139.05E Mj 4.6 4.7 5.2 4.3 4.9 4.6 4.8 5.1 4.6 5.0 4.8 4.2 D(km) Records 77 145 67 137 109 144 51 86 76 149 57 148 74 150 67 149 78 150 77 150 99 109 18 149 三浦弘之・翠川三郎 384 を,Table 1 に地震の諸元をそれぞれ示す.解析に用い EQ. た地震数は多い観測点では全 12 地震, 少ない観測点で 7 No.1 AST 地震であった. 一例として,Table 1 中の No. 9 地震での横浜市旭区 No.2 の観測点 AST(Fig. 1 参照)における PS-P 時間の検出 結果を Fig. 3 に示す.Fig. 3 は上から Radial 成分, No.3 UD 成分および P 波到達直前から 4 秒間の記録を用いて No.5 計算したレシーバーファンクションを示している.この 場合,P 波初動到達から約 1.5 秒付近の Radial 成分に 2 AST No.6 No.9 EQ. PS Acc. (cm/s/s) No.7 0 -2 5 No.8 Radial P No.9 0 -5 5 No.10 UD ▼1.50s No.11 0 -5 No.12 Reciever Function 0 1 2 3 4 Time (s) Fig. 3. Example of detection of PS-P time (time delay of PS converted wave to direct P wave) of No. 9 event at AST shown in Fig.1. Receiver function is calculated from Fourier spectral ratio between radial and vertical component. ▼1.490s AST 30 Receiver Function Stacks 0 -30 0 1 2 3 4 Time (s) Fig. 4. Paste-up of receiver functions and their stacking waveform at AST. Y-LA2 0 2 MDH 1.5 1 ASW ASO ASD AST :Observed :Theoretical ASJ 0 MD C MD H AS W AS O AS AS T D AS J 0.5 MDC Y-LA2 3km Depth (km) PS-P time (s) 2.5 2 Basement 4 6 8 10 0 Vs Vp 2 4 6 8 Velocity (km/s) Site Name (a) (b) (c) Fig. 5. (a) Comparison between observed (open circles) and calculated (hatched region) PS-P time at the sites around the microtremor array (Y-LA2) by Yokohama City (1999). (b) Map showing location of the observation stations (solid circles) and the array named Y-LA2 (large triangle). (c) Underground structure model at Y-LA2 derived from the microtremor exploration. 3 次元深部地下構造がやや長周期地震動の特性に及ぼす影響 385 Table 2. Comparison between the underground structure model of Y-LA2 and the modified reference model Reference Model Original Y-LA2 Model Layer Vs(km/s) Vp(km/s) Depth(km) Thickness(km) Layer Vs(km/s) Vp(km/s) Depth(km) Thickness(km) 1 0.47 1.86 0.00 0.10 2 0.68 2.06 0.10 0.10 3 0.87 2.24 0.20 0.12 4 0.75 2.14 0.31 0.12 5 0.85 2.23 0.43 0.18 6 0.95 2.34 0.61 0.27 7 1.45 2.93 0.88 1.30 8 1.85 3.49 2.18 0.87 9 3.30 5.74 3.04 2.70 10 3.50 6.12 5.74 - 1 0.8 2.2 0.0 0.9 2 3 4 1.4 1.8 3.3 2.9 3.4 5.6 0.9 2.2 3.0 1.3 0.8 - PS 変換波と推定される位相が目視でも確認できる.ま た計算したレシーバーファンクションにも 1.5 秒にピー Yokohama City (2000) Kawasaki City (1996) Kouhoku クが見られる.全 11 地震で計算したレシーバーファン Yumenoshima C クションとその重合波形を Fig. 4 に示す.各波形を見る と震源の位置や深さの違いによるレシーバーファンクシ ョンの違いは認められない.ほとんどの地震で 1.5 秒付 近に最大値を示す位相が現れており,図の最下段に示す 重合波形には明瞭なピークがみられ,PS-P 時間として D 1.49 秒が検出された.全 150 点で検討したところ,133 B Daikoku 点では明瞭なピークを示す PS-P 時間が読みとれた.し かし,他の 17 点においてはレシーバーファンクション の形状が複雑でピークが明瞭でないために,PS-P 時間 :Refraction survey が読みとれなかった.読みとれた PS-P 時間は 1.2∼2.0 :Reflection survey 秒程度であった. A 検出した PS-P 時間は地震基盤から地表までの地下 構造の情報が含まれているが,本研究では深い地下構造 を対象とするため,検出値から表層地盤の影響を取り除 く必要がある.そこで,各観測点での PS 検層データか ら表層地盤の PS-P 時間を計算し,検出値から差し引い た.表層地盤の PS-P 時間は全観測点で 0.1∼0.2 秒程度 であり,検出値に占める割合は 5∼10%程度であった. ここで,検出した PS 変換波がどの層境界面で生成さ れたものであるかを検討するため,PS 検層結果および 既往の微動アレイ探査による地下構造モデルを用いて PS-P 時間の理論値を計算し,アレイ周辺の観測点での 検出値との比較を行った.Fig. 5 (a) に横浜市西部の微 動アレイ探査点 Y-LA2 での理論値とその周辺の観測点 0 2.5 5 Kilometers Zushi Enoshima Miura Peninsula Fig. 6. Map showing past seismic refraction lines (broken lines) after survey Yamanaka et al. (1991) and Suzuki et al. (1993) and seismic reflection survey lines (solid lines) after Kawasaki City (1996) and Yokohama City (2000). Circles represent stations where PS converted waves were detected. Crosses indicate stations where PS converted waves were not detected because of the complexities of the receiver functions. Solid circles are used in comparisons shown in Fig. 7. での検出値との比較を,Fig. 5 (b) に Y-LA2 とその周辺 の観測点の位置を,Fig. 5 (c) に Y-LA2 の地下構造モデ した PS 変換波が地震基盤面で生成されたものであるこ ルをそれぞれ示す.PS-P 時間の理論値は Fig. 5 (c) 中 とを示唆している.その他の微動アレイ(Fig. 1 参照) の矢印で示した VS3km/s 程度の地震基盤面に相当する 周辺についても同様に検討したところ,ほとんどの地震 層境界面への P 波入射を仮定し,入射角を 30∼60°ま 観測点において検出値と理論値はほぼ一致する結果が得 で変化させたときの S 波と P 波の走時差を計算した. られた. Fig. 5 (a) から PS-P 時間の検出値と理論値は 1.4∼1.5 秒程度とほぼ同程度の値を示しており,このことは検出 三浦弘之・翠川三郎 386 Yumenoshima Daikoku -30 0 -20 -10 0 10 Depth (km) 0 1.8km/s 2.3km/s 2 2.9km/s 4 4.7km/s 6 SW NE 20 km Depth (km) Enoshima SW 0 4 1.7km/s 8 NE 12 2.0-2.3km/s 2.4-2.8km/s 1 2 2.9-3.7km/s 3 4.5-5.0km/s 5.5km/s (c) (a) Kouhoku Depth (km) 0 0 10 2.0km/s Miura Pen. Zushi 20 30 3.6km/s 3.0km/s 4.7km/s 4 6 N 0 2.4km/s 2.3km/s 2 S 40 km 4.7km/s 5.5km/s Depth (km) N 1.9km/s 16 km 0 S 2 4 6 8 10 km 1.8-1.9km/s 1 2.5-2.7km/s 2 2.7-3.5km/s 3 5.1km/s (d) (b) Fig. 7. Comparisons of basement depth estimated from PS-P time (inverted triangles) with P wave profile from seismic refraction and reflection surveys in Fig. 6. Numerical values in figure indicate P wave velocity. (a) The P wave profile was from seismic refraction survey (Line A) between Yumenoshima in Tokyo, and Enoshima by Yamanaka et al. (1991). (b) The P wave profile was seismic refraction survey (Line B) between Kouhoku in Yokohama, and Miura Peninsula by Suzuki et al. (1993). (c) The P wave profile was seismic reflection survey (Line C) by Kawasaki City (1996). (d) The P wave profile was seismic reflection survey (Line D) by Yokohama City (2000). §3. 横浜市とその周辺地域の 3 次元深部地下構造 の推定 推定した地下構造と Fig. 6 に示す既往の屈折法と反射 法による探査結果との比較を行う.Fig. 7 (a) は夢の島 PS-P 時間から各地点の地下構造を独立に求めるには, −江ノ島を結ぶ測線における屈折法探査結果[山中・他 基準となる地下構造モデルが必要となる.そこで本研究 (1991)]と推定した基盤深度の比較を,Fig. 7 (b) には では,基準モデルとして Table 2 に示すようなモデルを 港北−三浦半島を結ぶ測線での屈折法探査[鈴木・他 仮定した.このモデルは,前述の横浜市(1999)による北 (1993)]との比較を示す.同様に,Fig. 7 (c) には川崎 西部の微動アレイ観測点 Y-LA2 でのモデルを基にして 市と横浜市北部を結ぶ測線での反射法探査結果[川崎市 いる.Y-LA2 モデルは,既往の反射法探査[川崎市 (1996)]と推定した基盤深度との比較を,Fig. 7 (d) に (1996)]による層境界深度と概ね一致する結果が得られ 横浜市北西部での反射法探査[横浜市(2000)]との比較 ており,他のアレイによるモデル[横浜市(1999)]とも を示す.本研究により推定した基盤深度は,どの測線に 速度構成はほぼ同じであるため,横浜市における代表的 おいても地震基盤面に相当する VP4.7km/s 層上面深度 な地下構造を表しているものと考えられる.しかし,こ と概ね一致している. のモデルは Table 2 に示すように堆積層部分が 8 層から 各観測点間の深度を Kriging 法を用いた線形補間に なり複雑な構造を有する.そこで,Y-LA2 の表層部分の より補うことで,横浜市における 3 次元深部地下構造を 低速度層を単純化し,堆積層部分を 3 層と地震基盤層の 求めた.Fig. 8 に横浜市における算出した地震基盤まで 計 4 層構造とすることで,深部地下構造を求めるための の深度を表す分布図を示す.図は基盤までの深さをコン 基準モデルとした.なお,この基準モデルから算出され ターで示したものであり,黒色に近づくほど基盤までの る PS-P 時間は,入射角によらず Y-LA2 モデルによる 深さが大きいことを表している.ここで,横浜市の地下 PS-P 時間とほぼ同じ値をとることを確認している.こ 構造は,最南部での基盤深度は 3km 以下と比較的浅い こで,基準モデルの速度構成と層厚比を固定し,PS-P が,北上するに従い深度が深くなり,南部地域では深度 時間を満足するよう層厚のみを変化させることで,各地 3.5km を越える地域が広く分布するようになる.また, 点での地震基盤までの地下構造を推定した. 東部の湾岸部において基盤深度は最も深く,深度が 4km 0 km 5 Basement Depth (km) 3 次元深部地下構造がやや長周期地震動の特性に及ぼす影響 10 387 2.4 2.5 2.6 2.7 2.8 2.9 3.0 3.1 3.2 3.3 3.4 3.5 3.6 3.7 3.8 3.9 4.0 4.1 4.2 4.3 Fig. 8. Contour map of basement depth in Yokohama derived from the detection of PS converted waves. The results of 133 stations (open circles) are used in this study. 17 stations (crosses) are unused. Numerical values in figure show depth contour line with interval of 0.5km. を越える地域が存在する.その北側の横浜市北東部では 深度が 3km と急激に浅くなり,この地域で地下構造が 急変していることを示している. §4. 関東平野南部におけるやや長周期地震動の伝播 特性 対象地域における深部地下構造の 3 次元変化が,やや より広域での深部構造を把握するため,横浜市以外の 長周期地震動の伝播特性に与える影響を評価するため, 地域での既往の調査を加えることによって,より詳細な 実際にやや長周期地震動が卓越して観測された事例を基 関東平野南部の深部地下構造モデルの構築を試みた.既 に検討を行う.やや長周期地震動の伝播特性は平野全体 往の研究による関東平野の 3 次元地下構造モデルとして の地下構造の影響が大きいことから,ここではまず横浜 は,纐纈(1995)や鈴木(1999)などがある.本研究では, 市を含む関東平野南部を対象として,やや長周期地震動 横浜市以外の地域のモデルとして鈴木(1999)による 3 次 の伝播特性について検討した.検討には 1998 年 5 月 3 元モデルを用いた.Fig. 9 に関東平野南部における基盤 日伊豆半島東方沖の地震(MJ5.7,震源深さ 3km)にお 深度コンター図を示す.図中の太実線は本研究による ける記録を使用した.震央の位置と関東平野南部の地震 PS-P 時間から算出した基盤深度,細実線は鈴木(1999) 観測点(全 265 点)の位置を Fig. 10 に示す.伊豆半島 による地震基盤に相当する先新第三系基盤上面の深度線 付近を震源とする浅発地震の場合,関東平野ではやや長 を表している.横浜市は,その南側に位置する三浦半島 周期の表面波(主に Love 波)が卓越し,震央とは異な や西側の神奈川県中部では基盤深度が急激に浅くなって る方向から伝播する波群が存在することが指摘されてい いるため,周辺に比べて基盤面が谷状に落ち込む地域で る[例えば,Kinoshita et al. (1992)] .この地震でも震 あり,関東平野の中でも最も堆積層が厚い地域の一つで 源が 3km と非常に浅く,平野内でやや長周期の Love ある.また,東京湾を挟んで東側の房総半島中部でも横 波が顕著に現れた[Miura et al. (2000)] . 浜市湾岸部と同様に 4.0km 以上の深い基盤がみられる. 観測された記録に対し,加速度記録は積分して速度記 録とし,水平 2 成分を震央に対して Radial,Transverse 三浦弘之・翠川三郎 388 1.5 2.0 2.5 3.0 Tokyo Tokyo 0.0 3.0 2.5 3.5 3.5 Boso Pen. Pen. Boso 0.5 1.0 1.5 3.5 4.0 2.0 Kanagawa Pref. Pref. Kanagawa 2.5 4.0 3.5km 2.0 1.0 :This study 3.0 2.5 :Suzuki(1999) 0 10 2.0 20km 1.0 1.5 0.0 Fig. 9. Contour map of basement depth in the southern part of the Kanto basin. Bold solid lines indicate the basement depth in this study shown in Fig. 6. Fine solid lines represent the basement depth derived from various geophysical and geological surveys after Suzuki (1999). Numerical values in figure show depth contour line with interval of 0.5km. 方向に座標変換した.Fig. 10 に示す X-X’線付近に位置 SHR する KKR,TRK および SHO の 3 地点における速度波 X' 形 3 成分を Fig. 11 に示す.KKR では比較的震源に近い ために S 波の短周期成分が比較的優勢であるものの, SHO SHR SNG OTA KWS Transverse 成分では S 波到達後にやや振幅の大きい長 周期成分がみられる.TRK の Transverse 成分ではさら に後続の長周期成分が顕著であり,その振幅は S 波と同 HL 程度である.東京低地に位置する SHO においては S 波 TRK の立ち上がりは明瞭でなく,継続時間の長い後続の長周 Yokohama 期成分の方が優勢に現れている. X それぞれの記録のフーリエスペクトルを Fig. 12 に示 す.周期 1 秒以下の短周期成分は KKR,TRK,SHO と 点においても周期 5∼10 秒のやや長周期成分が顕著で ある.水平成分では Transverse 成分が優勢であり,8 秒付近に明瞭なピークがみられる.上下成分は KKR で は水平成分とほぼ同じ周期にピークがみられ,TRK や SHO ではピークが 5 秒付近とやや短周期側にみられる ものの,全体的に上下成分は水平成分に比べて小さい. ここで,KKR で優勢な長周期成分が現れていることから, 平野南端部ですでにある程度優勢なやや長周期地震動が 到達していると考えられる. 全観測記録を検討した結果,ほとんどの記録において やや長周期帯域では 7∼8 秒の Transverse 成分が顕著 Izu Peninsula 震源から離れるにしたがって小さくなる一方で,どの地 KKR Sagami Bay 1998.5.3 Epicenter : Observation station 0 10 20km Fig. 10. Location of observation stations (solid circles) in the southern part of the Kanto basin and the epicenter (star) of the earthquake of May 3, 1998 (MJ=5.7, Focal depth=3km). Hatch denotes the outcrops of Pre-Tertiary rock. The western edge of the basin is termed Hachioji line (HL, broken line). 3 次元深部地下構造がやや長周期地震動の特性に及ぼす影響 (cm/s) KKR Radial 1 (cm/s) 1 Velocity (cm/s) 0 TRK 0 Max=1.62cm/s -1 1 Transverse -1 1 -1 Max=1.08cm/s -1 1 UD 1 0 -1 0 50 100 150 -1 Max=0.35cm/s -1 Transverse 1 Transverse 0 Max=0.76cm/s UD 0 Max=0.61cm/s Radial 0 Max=0.87cm/s 0 0 389 (cm/s) SHO Radial 1 -1 Max=0.40cm/s 1 UD 0 Max=0.29cm/s 0 50 Time (s) 100 Time (s) 150 -1 Max=0.15cm/s 0 50 100 Time (s) 150 Fig. 11. Velocity time histories for three components observed at KKR, TRK and SHO. Fourier Spectra (cm/s*s) 101 101 KKR 101 SHO TRK 100 100 100 10-1 10-1 10-1 10-20.1 Radial Transverse UD 1 10 10-20.1 Period (s) Radial Transverse UD 1 10 Period (s) 10-20.1 Radial Transverse UD 1 10 Period (s) Fig. 12. Fourier spectra for three components observed at KKR, TRK and SHO. であり,水平動のやや長周期地震動の主成分は Love 波 大値発生時刻から推定される伝播方向を矢印で示してい であると判断できる.ここで,Fig. 10 中の X-X'線上で る. の速度波形をペーストアップした図を Fig. 13 に示す. Fig. 14 (a),(b) にかけて,神奈川県中部から横浜南 やや長周期成分を強調するため,各記録に対して 2∼10 部にかけては,ほぼ震央方向からの伝播を示唆する震動 秒のバンドパスフィルタ処理を施しており,図の横軸は がみられる.これに対して横浜北部から東京中部を結ぶ 地震開始時を 0 秒としたときの絶対時間を表している. 線より西側では明らかに伝播方向が異なり,関東山地側 KKR では S 波到達後の長周期成分がそれほど顕著では からの伝播を示す震動がみられる.Fig. 14 (c),(d)では, ないが,横浜市域では優勢に現れるようになる.また, 関東山地側からの波群は東京湾に達し,一方で震央方向 KWS から ARA,SHN,SHO といった東京湾岸部にか からの波群は横浜北部や東京都心部へと伝播する様子が けての地域の比較的記録時間の長い観測点では,図中の みられる.このように伊豆半島沖の地震で関東平野にお ○ で示したように 2 つの波群が伝播する様子がみられ いて震央とは異なる方向から伝播する Love 波群がみら る. れることは,既往の研究[Kinoshita et al. (1992), 次に,対象地域での卓越震動方向の分布とその時間的 変化を調べた.各観測記録に対して周期 8 秒のバンドパ Koketsu and Kikuchi (2000)]によっても指摘されて おり,本検討でも同様の傾向が確認できる. スフィルタを施し,水平 2 成分の粒子軌跡から長軸方向 さらに,これらの Love 波群の到来方向および伝播速 を求め,地図上に図示したものを Fig. 14 に示す.Fig. 度を詳細に検討するため,観測点を Fig. 15 に示す 23 14 (a)∼(d) はそれぞれ地震開始時の 30 秒後から 20 秒 グループに分け,Semblance 解析[Neidell and Taner ごとの変化を表しており,各時間から 10 秒間での最大 (1971)]を行った.各グループの観測記録の Transverse 振幅と長軸方向を示したものである.また,平野内を伝 方向,周期 8 秒成分に対して解析を行い,波群が到来し 播する波群を Love 波と考え,震動卓越方向と振幅の最 たと考えられる時間帯において Semblance 値が最大と 三浦弘之・翠川三郎 390 X' 110 なる時間での到来方向と位相速度を読みとった.波群の SHR 上に図示したものを Fig. 15 に示す.伝播方向は地域に SHO 100 Epicentral Distance (km) 伝播方向と位相速度をそれぞれ矢印の向きと長さで地図 よって異なり,複雑な分布を示すが,大局的には Fig. 14 SHN 90 と同様に震央方向から伝播する Love 波群と西側の関東 ARA 山地方面から伝播する Love 波群の 2 種類に分けられる SNG と考えられる.そこで図中では,伝播方向から判断して OTA 前者を波群 A,後者を波群 B として示している. KWS 80 ここで,Kinoshita et al. (1992) や Koketsu and TRK Kikuchi (2000)による指摘と同様に,平野西端部の八王 KGR 70 子構造線(Fig. 10 の HL)付近に位置する神奈川県中 NAC Yokohama ISO 向に伝播してきた波群が東北東方向に伝播方向を変化し 60 ながら伝播している様子がみられる.また,横浜市周辺 SKD 2.0cm/s KKR X 500 50 100 部の OIS から ATG にかけての地域で,震源から東北方 での伝播方向は一様でなく変動が大きく,複雑な伝播性 状を示す.大局的には南東側においては主に震央方向か 150 200 Time (s) らの波群 A が伝播しており,北東側においては関東山地 側からの波群 B が顕著に現れる傾向が見られる.それら Fig. 13. Paste-up of velocity time histories of transverse velocity component along the solid line (X-X’ line) in Fig. 8. Open ellipses show arrivals of the rather long-period wave packets (a) 30-40s 2 つの波群の到達時間は Fig. 14 (b) で示したようにほ ぼ同時刻である.東京都都心部では,湾岸部の SHN で は 2 つの波群の到来が確認されたが,その他の地域では 全般的に記録時間が短く,詳細な検討は難しいものの, (b) 50-60s 1.0cm/s 0 10 20km (c) 70-80s 1.0cm/s 0 10 (d) 90-100s 1.0cm/s 0 10 20km 20km 1.0cm/s 0 10 20km Fig. 14. Distributions of principal axes calculated from horizontal band-pass filtered velocity components for the period of 8 seconds. Arrows indicates propagation directions of Love wave packets estimated from trend of principal axes. 3 次元深部地下構造がやや長周期地震動の特性に及ぼす影響 391 TTO 1.3 NKN 0.6 KDR 2 HOJ 2 URY 1.2 SOL 1.4 ABC 1.8 KHY 1.5 TRK 1.7 HDS 1.7 MIN 1.8 ATG 2 KZT 1.8 KNC 2 KIS 2.3 OIS 2 Epicenter SHN 1.5 ZUS 1.8 0 10 Kilometers 20 Phase Vel. 2.0 km/s : Wave Packet A : Wave Packet B Fig. 15. Distribution of Love wave propagation directions and phase velocities shown by arrows derived from the Semblance analysis for the predominant period of 8 sec. The length of the arrow means the phase velocity. Solid arrows indicate the wave packet A propagated directly from almost the epicenter and gray arrows indicate the wave packet B arrived from the western basin edge. 主に関東山地側からの到来が確認できる.このように Semblance 解析による伝播方向は,Fig. 14 の震動卓越 方向の分布から推定される伝播方向とほぼ一致する結果 が得られた. 矢印の長さから位相速度の分布について検討すると, Tokyo Bay 基盤深度の浅い平野西端部の地域では位相速度が 1.8∼ 2.5km/s 程度と比較的速いのに対し, 基盤深度の深い横 浜市や東京都心部の平野中央部では 1.2∼1.8km/s と Yokohama 遅い.このように Love 波の伝播速度の分布は,大局的 には Fig. 9 に示す基盤深度の分布と調和的であり,基盤 までの深度に応じて伝播速度が変化している様子がみら れる. やや長周期地震動の振幅について検討する.観測記録 の水平 2 成分の周期 6∼9 秒帯域での最大地動速度を円 の大きさで表した図を Fig. 16 に示す.この最大振幅の 1.0cm/s Epicenter 0 10 20km 分布を Fig. 9 の基盤深度図と比較すると,平野西部の基 盤深度が 2km 以下の比較的浅い地域では振幅は小さく, 基盤深度が 3km を越える横浜市や東京都湾岸部で振幅 が大きい.全体的には震央からの距離の減衰の影響は小 さく,基盤深度が深いほど振幅が大きくなる傾向がみら れ,やや長周期地震動の主成分である Love 波が深い地 盤の影響を受けて増幅している様子がみられる. Fig. 16. Distributions of peak ground velocities of horizontal components for the period of 6 - 9s. Size of open circle indicates peak value of ground velocity at each site. 三浦弘之・翠川三郎 392 影部は得られる理論値の範囲を示している. TDD 観測値をみると,どのグループにおいても表面波の性 KHY 質である分散性が確認できる.Fig. 8 の横浜市の基盤深 ABC 度分布と併せて検討すると,比較的基盤深度の浅い北西 部の AST のグループでは周期 7 秒以上で急激に位相速 TRK AST 度が速くなる傾向がみられるのに対し,東部の基盤深度 が深い MIN のグループでは位相速度の変化は緩やかで KGD HDS 値も小さい.このような傾向は大局的には直下の基盤深 度の傾向と調和的である. 各グループにおいて観測値と理論値を比較すると, MIN ABC,TDD,AST,KGD,MIN および HDG グループ KZT KNC および KZT グループでは理論値と観測値には相違 IZN では両者はほぼ一致するが,KHY,TRK,HDS,IZN, HDG がみられる.特に TRK グループでは両者に大きな差が KNC 0 5km Epicenter Fig. 17. Location of arrays (large open circles) for the Semblance analysis. Small solid circles show the locations of the observation stations used in the Semblance analysis. みられる.このように観測値と理論値の一致度には地域 差が確認できることから,理論値が観測値を説明できな い原因について対象地域周辺の地下構造から検討する. 全 12 グループのうち観測値と理論値がほぼ一致して いる HDG,両者にやや相違がみられる IZN および両者 に大きな差がみられる TRK 周辺の基盤面の変化と Love 波の伝播方向を表した図を Fig. 19 に示す. 図から HDG 周辺ではほぼフラットな地盤を伝播し,IZN 周辺では §5. 横浜市における 3 次元地下構造とやや長周期地 震動の特性の関係 Love 波が 10°程度の下り傾斜を伝播し,TRK 周辺では 20°程度の上り傾斜を伝播していることがわかる.ここ 堆積層の厚い横浜市周辺では,伝播方向の異なる 2 種 で位相速度の比較においては,HDG では理論値と観測 類の Love 波群がほぼ同時間帯に到来するため,複雑な 値はほぼ一致するが,IZN では観測値が理論値よりも 震動性状を示す.また,全般にやや長周期地震動の振幅 20%程度大きく,TRK では周期 6 秒以上で理論値に対 は大きく,その分布も複雑である.そこで詳細な 3 次元 して観測値が最大で 40%程度小さな値を示す. 構造を把握した横浜市を対象として,各観測点でのやや 他のグループについても同様に検討すると,観測値と 長周期地震動の特性と深部地下構造との関係を比較する 理論値がほぼ一致している ABC,TDD,AST,KGD, ことによって,対象地域の深部地下構造の 3 次元変化が MIN や HDG の付近で基盤面は比較的フラットである. やや長周期地震動の特性に及ぼす影響について検討する. また,観測値が理論値よりも大きい傾向を示す IZN, 横浜市の観測点を Fig. 17 に示すように,12 グループ KNC や KZT では基盤深度が浅い地域から深い地域へと に分け,それぞれのグループに対して Semblance 解析 Love 波が下り傾斜を伝播しており,逆に観測値が理論値 を行い,周期 5∼10 秒程度の位相速度を得た.解析では, を下回る傾向を示す KHY や TRK では基盤深度が深い地 中心周期を 5∼10 秒まで 0.5 秒ごとに変化させたバンド 域から浅い地域へと上り傾斜を伝播してきたことが確認 パスフィルタ波を作成し,それぞれの周期に対して解析 できる.特に両者に大きな差がみられた TRK では,基 を行い,Semblance 値が最大となる時間の伝播速度を 盤面の傾斜度が対象地域の中で最も急峻である. ただし, 波群の位相速度として読みとった.各グループにおいて KHY や TRK と同様に観測値が理論値を下回る HDS で 得られた位相速度を Fig. 18 に示す.一方,解析に用い は,Love 波は下り傾斜を伝播しており,他のグループと た各々の観測点では,Fig. 8 に示したように PS 変換波 は逆の特性を示している. を利用して地下構造が推定されていることから,このモ 不整形性が顕著な地盤内を Love 波が伝播する場合, デルから Love 波の基本モードの位相速度を計算し,観 多重反射や散乱等の影響により Love 波の位相速度は直 測値との比較を行った.ここで各グループでは複数の地 下の構造から推定される位相速度とは一致しない場合が 点で地盤モデルが与えられているため,図中の実線は複 ある[例えば,吉田(1993)].これらのことから,Love 数のモデルから得られる位相速度理論値の平均値を,陰 波の位相速度の観測値が直下のモデルによる理論値で説 3 次元深部地下構造がやや長周期地震動の特性に及ぼす影響 Phase Vel. (km/s) 3 ABC Phase Vel. (km/s) :Theoretical 3 AST Phase Vel. (km/s) :Observed 3 TDD 3 KHY 3 TRK 2 2 2 2 1 1 1 1 3 IZN 3 HDG 3 KNC 3 KZT 2 2 2 2 1 1 1 1 0 4 0 12 4 8 0 12 4 8 0 12 4 8 3 HDS 3 KGD 3 MIN 2 2 2 2 1 1 1 1 0 4 0 4 0 12 4 8 0 8 12 4 Period (s) 393 0 12 4 8 0 12 4 8 0 8 12 4 Period (s) 0 8 12 4 Period (s) 8 12 8 12 8 12 Period (s) Fig. 18. Comparison of observed phase velocities with theoretical ones at 12 arrays. Open circles indicate the observed phase velocities derived from the Semblance analysis. Solid lines show the average theoretical phase velocities for fundamental mode of Love wave in the underground structure models derived from PS-P time. Hatched regions show the range of the theoretical phase velocities. HDG Depth (km) 0 1 2 2 4 6 8 0deg. 10 20 Love wave km 0 1 2 IZN 2 4 Basement 4 6 8 0deg. Love wave 3 3 4 10 10 20 TRK km 10 0 1 2 2 4 6 8 km 10 0deg. 10 20 Love wave 3 Basement 4 Basement Fig. 19. Schematic cross-sections of the estimated basement depth in and around HDG, IZN and TRK. Arrows show the propagation directions of Love waves. 明できない原因として,主に伝播経路の基盤面の傾斜度 が影響しているものと考えられる. れらの波群はほぼ同時間帯に到達している.これらのこ とから考えて,HDS では伝播方向の異なる 2 つの波群 しかし,他のグループと逆の特性を示す HDS につい が混在している可能性が高い.このことにより,見かけ ては,基盤の傾斜度のみで説明することは困難である. の位相速度が遅くなった可能性が考えられるが,詳細な Fig. 15 に示したように,HDS は波群 A と波群 B がみ 議論については今後の検討課題である. られる地域の境界に位置している.Fig. 15 では HDS で 深部地下構造とやや長周期帯域の振幅値との関係につ 卓越する波群は関東山地側からの波群 B と解釈している いて検討する. Fig. 20 に各観測点の基盤深度と周期 6 が,波群の伝播方向をみると波群 A と波群 B の中間の方 ∼9 秒帯域での速度波形の水平 2 成分の最大地動速度と 向を示している.また,Fig. 14 (b)で示したように,こ の関係を示す.大局的には基盤深度が深くなるにつれ, Peak Ground Velocity (cm/s) 394 三浦弘之・翠川三郎 0.8 Tc=6-9s 0.6 §6. 結 論 本研究では,横浜市とその周辺地域を対象として,3 次元深部地下構造が,やや長周期地震動の特性に及ぼす TRK 影響を検討するため,地震記録から検出される PS 変換 波を利用して各観測点下の深部地下構造を推定した.本 手法により推定した地下構造は,大局的には既往の地下 0.4 構造探査と一致する結果が得られ,対象地域の詳細な 3 次元構造を把握することができた. また,やや長周期地震動が顕著に現れた伊豆半島沖で 0.2 IZN, KZT 0 1 2 3 4 5 Basement Depth (km) Fig. 20. Relationship between basement depth and peak ground velocities for the period of 6 - 9 s in Yokohama. の地震記録を解析し,やや長周期地震動の特性と推定し た 3 次元深部地下構造との関係を比較検討することで, 以下の結果を得た. 関東平野でのやや長周期地震動の主成分は Love 波で あり,平野全体の地下構造の 3 次元的な影響により, Love 波の伝播方向が変化し,震央とは異なる方向から伝 播する波群が存在することを再確認した.やや長周期帯 域の最大地動速度は,震源の距離による減衰の影響は小 さく,大局的には地震基盤までの深さが大きくなるほど 振幅が大きくなる傾向がみられる.しかし,同じ程度の 振幅は大きくなり,Love 波が深い地盤の影響を受けて増 基盤深度を有する地点でも振幅値にはばらつきがみられ, 幅している様子がみられた. その分布には地域性が確認できる.平均的な傾向に比べ 観測された Love 波の位相速度を,推定したモデルに て基盤深度が深いわりに振幅が小さい傾向がみられた地 よりどの程度説明できるかについて基盤面の傾斜度の面 域は,IZN や KZT 周辺といった市南部地域であり,逆に から検討を行った.その結果,基盤面の形状がフラット 基盤深度が浅いわりに振幅が大きい地域は,TRK 周辺の に近い地盤内を Love 波が伝播する場合においては,位 市北東部で,いずれの場合も前述の地盤の不整形性がみ 相速度の観測値と直下のモデルから計算される理論値は られる地域である. 比較的近い値を示し,観測値は直下の地下構造で説明可 これらのことは,震央方向から伝播して横浜市南部に 能であることを確認した.しかし,Love 波が基盤面の傾 到達した時にはそれほど勢力はない Love 波が,北東方 斜角約 10°程度以上の傾斜構造を伝播する場合, その位 向に伝播するのに従い, 深い地盤の影響を受けて成長し, 相速度や振幅は直下の地下構造だけでは説明できない場 Fig. 19 に示すように基盤が急激に浅くなる TRK 付近を 合があること示した.このように地下構造の不整形性が 通過する際にも,その振幅を維持しながら伝播している 顕著な地域では,やや長周期地震動の特性に対して 3 次 ことを示しているものと考えられる.このことと,前述 元的な構造の影響が現れることを示した. したように TRK 周辺では位相速度が直下の地下構造か ら推定される速度よりも小さくなることは,位相速度が 小さいと振幅は相対的に大きくなるという表面波の一般 謝 的な性質と矛盾しない. 本研究では,横浜市高密度強震計ネットワーク,川崎 辞 以上,横浜市の 3 次元深部地下構造がやや長周期地震 市,神奈川県,東京都,気象庁,防災科学技術研究所に 動の特性に及ぼす影響について検討した.その結果,基 より観測された地震記録を使用しました.竹中工務店技 盤面の形状がフラットに近い地盤内を Love 波が伝播す 術研究所の小林喜久二氏には,レシーバーファンクショ る場合,その位相速度や振幅は推定した地下構造によっ ン算出のためのプログラムを提供していただきました. て説明できることを示した.しかし,地下構造の不整形 記して感謝の意を表します.横浜市立大学の斎藤正徳教 性が顕著な地域では,Love 波の位相速度や振幅は直下の 授,坪井誠司助教授および東京大学の纐纈一起助教授に 地下構造のみでは説明することができない場合があり, は,本論文を改善する上で非常に有益なコメントを頂き 3 次元的な構造の影響が現れることを示した. ました.記して感謝の意を表します. 3 次元深部地下構造がやや長周期地震動の特性に及ぼす影響 文 395 献 Hatayama, K., K. 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