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247 (c) 観察 3 低から中程度の所得水準で急速に成長する経済の例と

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247 (c) 観察 3 低から中程度の所得水準で急速に成長する経済の例と
(c) 観察 3
低から中程度の所得水準で急速に成長する経済の例と見ることができる東南アジア諸
国において(東・東南アジアモデル)、ある水準(GDP/cap = $8,000〜$10,000)までは
経済・技術要因による CO2 削減効果は見られず(特殊例:中国)、同水準を越えると現れ
るが規模は小さいままであり、経済成長要因を相殺するには遠くおよばない。一定規模
の資源代替効果(例えば、石炭から石油、ガスなど低炭素資源への代替)がほとんどの
国で見られるが、その CO2 排出量抑制効果は経済成長要因による増大効果と較べて微々
たる規模にとどまる。
(d) 観察 4
上記の観察 1〜観察 3 より、経済成長とエネルギー消費量、および CO2 排出量の関係
について、以下のような一般的な構造的特性が存在すると整理できるかもしれない。
(i)低開発国:
g(CE) > 0, g(EG) > 0, g(GP) > 0
(ii)低所得・成長国:
g(CE) < 0、g(EG) > 0、g(GP) > 0
(iii)中所得・成長国:
g(CE) < 0, g(EG) < 0, g(GP) > 0、しかし | g(EG)| « |g(GP)|
(iv)高所得国:
g(CE) < 0、g(EG) « 0、g(GP) > 0、しかし |g(EG)|∝|g(GP)| 、 |g(EG)| <
|g(GP)|
(v)高所得国( > GDP/cap = $15,000*)+ 積極的政策:
g(CE) < 0、g(EG) < 0、g(GP) > 0、そして |g(CE) + g(EG)| > |g(GP)|
(*EKC 推計結果とも合わせて)
247
図表 2-72
一人当たり CO2 排出量変化の要因分解(世界モデル)
世界
北米
g(CE)
g(EG)
西欧
g(GP)
オセアニア
ラテンアメリカ
東・東南アジア
アフリカ
南アジア
その他
-2.5
0.0
2.5
5.0
各要因の平均変化率(%/yr; 1971-96)
注:上図において、各地域は 1996 年における一人当たり実質所得(1990 年米国ドル、購買力平価)の高
い順に並んでいる:$23,300 (北米)、$15,536 (西欧)、$14,147 (オセアニア)、$5,530 (ラテンアメリ
カ)、$4,637 (東・東南アジア)、$1,651 (アフリカ)、$1,331 (南アジア); $3,688(その他)、$5,400
(世界平均)。
248
図表 2-73
一人当たり CO2 排出量変化の要因分解(EU モデル)
(旧)EU
デンマーク
g(CE)
フランス
g(EG)
オランダ
g(GP)
オーストリア
ベルギー
イタリア
スウエーデン
西ドイツ
イギリス
フィンランド
アイルランド
スペイン
ポルトガル
ギリシャ
-5.0
-2.5
0.0
2.5
5.0
各要因の平均変化率(%/yr; 1971-96)
注:上図において、各国は 1996 年における一人当たり実質所得(1990 年米国ドル、購買力平価)の高い
順に並んでいる:$20,152 (デンマーク), $18,573 (フランス), $18,200 (オランダ), $18,102 (オース
トリア), $17,806 (ベルギー), $17,614 (イタリア), $17,425 (スウエーデン), $17,399 (西ドイツ) ,
$17,218 (イギリス) , $16,221 (フィンランド) , $14,587 (アイルランド) , $13,205 (スペイン) , $1
1,411 (ポルトガル), および $10,430 (ギリシャ); $16,852(平均)。
249
図表 2-74
一人当たり CO2 排出量変化の要因分解(東・東南アジアモデル)
東・東南アジア
g(CE)
g(EG)
日本
g(GP)
台湾
韓国
マレーシア
タイ
インドネシア
中国
フィリピン
-5.0
0.0
5.0
10.0
各要因の平均変化率(%/yr; 1971-96)
注:上図において、各国は 1996 年における一人当たり実質所得(1990 年米国ドル、購買力平価)の高い
順に並んでいる:$20,076 (日本), $16,001 (台湾), $11,834 (韓国), $8,657 (マレーシア), $6,663 (タイ),
$3,591 (インドネシア), $3,162 (中国), および $2,233 (フィリピン); $4,637(平均)。
250
3. BRICs の経済成長とエネルギー消費、CO2 排出量
本節では、前節で概略的に提示した一般的知見を基礎に、BRICs における経済成長と
エネルギー消費および CO2 排出量の関係、今後の CO2 排出量削減の可能性について簡単
な診断を試みる。結論を先取りすれば、経験的知見からの類推に依拠するかぎり、
「同地
域の経済成長に伴う CO2 排出量が自律的に抑制される可能性は乏しい」という否定的な
ものであるが。
(1) CO2 排出量増大の可能性
BRICs 各国の 2002 年における一人当たり実質所得(1995 年米国ドル、購買力平価)
はそれぞれ、$6,680 (ブラジル), $5,412 (旧ソ連), $2,364(インド),および $4,193 (中国)
である(IEA 統計)。所得水準の上昇に伴う CO2 排出量の逆 U 字傾向(いわゆる、環境
クズネッツ仮説)の適用可能性については、たとえ同仮説が妥当であるとしても、BRICs
のいずれも上昇曲面上に位置し、下降傾向への転換点(先に紹介した推計結果によれば、
約$15,000、1990 年米国ドル、購買力平価(*))には遠くおよばない。経験的事実から
客観的に判断するかぎり、今後とも順調な経済成長が継続すれば、BRICs からの CO2 排
出量は GDP 当たりでも、一人当たりでも、むしろ増大する可能性が高い。ただし、ロシ
ア(旧ソ連)と中国に関しては、後述するように本報告者は例外的事象と理解しており、
実質 GDP 当たりの CO2 排出量は今後しばらく低下傾向を呈すると予想される。
(*)注:多少古い研究結果を援用しており、単位の不統一をお詫びしたい。換算は
必ずしも単純ではないが、本報告で使用したデータに関して、参考に 1995 年における世
界全体の実質 GDP の 1995 年米国ドル(購買力平価)評価値と 1990 年米国ドル(購買
力平価)評価値の比で示すと、約 1.14 になる。
(2) 排出量変化の期間別要因分析
1980 年から 2002 年までのデータについて、いくつかの期間に集計して要因分解分析
を行った結果を図表 2-75(変化率表示)、および図表 2-76(一人当たり CO2 排出量の変
化率への寄与に換算して表示)に示す。
旧ソ連の崩壊、中国における急激な経済成長の影響が目に付く点として観察されるが、
概ね前節で見出した諸知見に沿って解釈可能である。ここで、ロシア(旧ソ連)のケー
スは一つの例外的事象、また先に提示した図表 2-70 などの観察から、最近年までの中国
における急激な効率改善は「ノーマルな自由経済」への移行という推察も可能であり、
これも一つの特有な事象と理解すべきように思われる。これらは、図表 2-77 に見られる
ように、両国における並はずれたエネルギー効率の悪さからも示唆されるところである。
最近年期間(1995 年〜2002 年)において、高い経済成長に伴う全般的なエネルギー
効率改善の進展がインドとロシア(旧ソ連)で見られるが( g(EG) < 0 )、インドにお
いてその進展の速度は経済成長率に較べてはるかに小さい。同じくインドにおいて資源
251
代替効果が見られるが、石炭から石油やガスへの代替(1995 年〜2000 年において、総
一次エネルギー消費量に占める石炭の割合は約 60%から 55%へ減少、石油は 30%から
34%へ、ガスは 6.5%から 7.3%と上昇している)、原子力の増大(同期間において、ほぼ
倍増し約 1.5%を占める)などの寄与が考えられる(データ:エネルギー・経済統計要覧
2003、日本エネルギー経済研究所計量分析部編)。崩壊からの復興として数値的に当然な
のか、政策運営が実際に効を奏しているのか判断は控えるが、ロシア(旧ソ連)におい
て 1995 年以降経済成長率に匹敵する効率改善が達成されている。図表 2-77 から判断す
れば、効率改善の余地はまだ十分に残されており、こうした傾向は今後もしばらく継続
すると予想される。ただし、一人当たりの CO2 排出量で見ると、1998 年以降すでに下降
から上昇傾向に転じている(図表 2-62)。
中国については、高い経済成長とともに全般的な効率改善も相当の速度で進展中と推
察されるが、後者の速度が前者を凌駕するまでには至らない。前節における知見を援用
すれば、高い経済成長率に牽引された効率改善とも解釈できる。中国においてもインド
と同様に資源代替の効果が観察されるが、図表 2-75〜図表 2-76 を見るかぎり、他の 2
要因と較べて規模的には埋没気味である。これは代替効果というより、むしろ石油やガ
スの消費量増大による資源構成の相対的変化を反映したものであり、国内の豊富な石炭
資源を考えれば、同要因が今後 CO2 排出量の削減に大きく寄与する規模になるとは予想
しにくい。
ブラジルについては、1990 年以降の期間においてすべての要因の値は正であり、エネ
ルギー効率改善も資源代替も CO2 排出量に対する削減要因とはなっていない。先の東・
東南アジアモデルの観察からの知見によれば、典型的な中進国の成長経済パターン(所
得水準による比較では、タイ、マレーシアから韓国のケースに相当)に沿って進んでい
るとも解釈される。ただし、大きな構造的相違点として、産油国でもあるブラジルの一
次エネルギー供給構造は石油のシェアが 5 割弱で安定的に推移しており、また水力(総
電力供給の約 9 割を占める)とバイオマスや廃物利用等を加えれば約 8 割に達する(IEA
統計)。石炭のシェアは 7%を下回る。したがって、多くの発展国で一般的に見られる石
炭からより低炭素資源への代替を通じた CO2 排出量削減の余地は乏しい。
(3) 補足1:時間的推移(傍証)
上述した診断の補足(比較、検証)として、BRICs 各国における実質 GDP 当たり CO2
排出量の時間的推移を図表 2-77 に示す。なお、同地域における一人当たりの CO2 排出量
の時間的推移については先の図表 2-62 を参照されたし。また、対比的に言及する同指標
の世界平均の時間的推移については図表 2-63 を参照のこと。本報告者による中国と旧ソ
連のケースを基本的に例外的事象とする診断の部分を除けば、世界平均の傾向とも乖離
してブラジルとインドにおける単位生産当たり CO2 排出量はほぼ横ばい(中国と旧ソ連
を含めた BRICs 全体では減少)、一人当たり CO2 排出量はすべての国で増加傾向にある
252
ことが見て取れる。参考に多少具体的な数値も付しておくと、最近年(1998 年〜2002
年)における BRICs の一人当たり CO2 排出量の平均増加率は約 1.1%/年(同、世界平均
では約 0.4%/年)である。これらの実績データは、上記の基本的診断と概ね合致する。
(4) 補足2:人口要因の付加
これ以上悲観的な報告を加えるつもりはないのだが、これまでの議論は主として生産
単位当たり、および一人当たり CO2 排出量を評価指標として用いてきた。しかし、実際
の CO2 排出量の動向には、さらに人口増加要因も加わる。参考に、2002 年における BRICs
各国の人口と 1998 年〜2002 年における平均増加率を挙げておく(データ:IEA 統計):
174.5 百万人、1.26%/年(ブラジル)、286.8 百万人、-0.30%/年(旧ソ連)、1,048.6 百万
人、1.64%/年(インド)、1,278.2 百万人、0.59%/年(中国)。
なお、同期間における一人当たり実質所得の平均上昇率は、0.73%/年(ブラジル)、
6.35%/年(旧ソ連)、3.43%/年(インド)、6.67%/年(中国)である。人口増加要因と経
済成長要因による寄与を足し合わせて近未来を予測すると、・・・・・・・、やめてお
こう。
(5) まとめ
最後に、簡単にまとめを付しておきたい。ここでの分析からの結論は、冒頭にも記し
たように「経験的知見からの類推に依拠するかぎり、BRICs の経済成長に伴って予想さ
れる CO2 排出量増大が自律的に抑制される可能性は乏しい」という悲観的なものである。
もちろん、地球温暖化問題に対する国際的関心が高まるなか、各国の対応にも影響がお
よぶことが予想され(希望的観測?)、同問題が必ずしも主要な政策課題として認識され
ていたとは言えない時期を含む過去のデータの分析結果から、ここで確固たる結論を導
くことには限界がある。また、たとえ経験的に観測された一般的傾向が因果論的に検証
されたとしても、それらが将来にも当てはまるという保証もない。
しかし、地球温暖化問題への国際的対応という政治経済的文脈において、BRICs 各国
の今後の動向は深慮すべき大きな要因の一つになることは明らかである。現在のところ、
BRICs 各国が温暖化問題への対応に積極的な協調行動をとると期待できる兆候は見られ
ない。多少本報告者の主観的見解も反映するが、公平性の観点なども考慮するならば、
BRICs はもとよりすべての途上国を含めた世界全体の協調実現に向け、広範かつ寛容な
経済的、技術的支援(経済的合理性の追求を骨子とする、いわゆる京都メカニズムを越
えるといった意味)を包含する国際制度(システム)の構築が不可欠であると思われる。
253
図表 2-75
一人当たり CO2 排出量変化の要因分解(BRICs)
ブラジル 1980-02
1995-02
1990-95
1980-90
(旧)ソ連 1980-02
1995-02
1990-95
1980-90
インド 1980-02
1995-02
g(CE)
1990-95
g(EG)
1980-90
g(GP)
中国 1980-02
1995-02
1990-95
1980-90
-14.0
-10.0
-6.0
-2.0
2.0
6.0
10.0
各期間における各要因の平均変化率(%/yr)
出所:IEA 統計、BP 統計
注:各国の 2002 年における一人当たり実質所得(1995 年米国ドル、購買力平価):$6,680 (ブラジル),$5,
412 (旧ソ連), $2,364(インド), $4,193 (中国)
254
図表 2-76
一人当たり CO2 排出量変化の要因分解(BRICs、CO2 排出量変化換算)
ブラジル 1980-02
1995-02
1990-95
1980-90
(旧)ソ連 1980-02
1995-02
1990-95
1980-90
インド 1980-02
1995-02
g(CE)
1990-95
g(EG)
1980-90
g(GP)
中国 1980-02
1995-02
1990-95
1980-90
-0.35
-0.25
-0.15
-0.05
0.05
0.15
各期間における各要因の平均変化率(CO 2換算、△tC/cap/yr)
出所:IEA 統計、BP 統計
注:各国の 2002 年における一人当たり実質所得(1995 年米国ドル、購買力平価):$6,680 (ブラジル),$5,
412 (旧ソ連), $2,364(インド), $4,193 (中国)
255
図表 2-77
BRICs における実質 GDP 当たり CO2 排出量の時間的推移
(比較:世界、日本、米国)
0.6
ブラジル
(旧)ソ連
インド
中国
BRICs(平均)
世界(平均)
日本
米国
0.5
0.4
0.3
0.2
0.1
0.0
1980
1985
1990
1995
暦年
出所:IEA 統計、BP 統計
256
2000
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