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デンマークにおける最近の自転車交通施策

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デンマークにおける最近の自転車交通施策
土木技術資料 55-7(2013)
報文
デンマークにおける最近の自転車交通施策
肇* 藪
本田
雅行 **
人
1.はじめに
700
1
その他
自動車
600
国土交通省道路局及び警察庁交通局から「安全
二輪車(原付含む)
で快適な自転車利用環境創出ガイドライン」が
500
2012年 11月 に 発 出 さ れ 、 日 本 で も 車 道 通 行 を 原
400
4
4
3
歩行者
1
3
則とした自転車利用環境の整備が進められようと
304
している。本稿では、自転車利用が進んでいる国
の一つであるデンマークにおける最近の自転車交
268
200
60
通施策の動向を報告する。
100
2.デンマークにおける自転車交通施策
0
67
1
284
3
268
73
99
58
59
58
2
203
199 221
197 167
71
82
2
0
302 267
300
自転車
0
55
62
49
64
56
52
68
70
49
43
47
53
46
44
60
41
31
0
183
84
46
1
71
68
58
54
54
42
52
25
3
151
34
44
26
117
37
33
30
1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011
2.1 国の取り組み
図-1
デンマークにおける交通事故死者数 5)
デ ン マ ー ク で は 、 1990年 代 に 国 と し て 「 自 転
年 間 の 交 通 事 故 死 者 数 は 、 2007年 、 2008年 を 除
車 安全戦 略」を策 定してい た 1) が、 現在は 、国と
き 、 減 少傾 向に あ り( 図-1)、 2011年 に は 統 計 が
しての自転車単独の計画や目標は策定されていな
残る1930年以降最小の220人にまで減少している
い。これは、既に一定程度自転車利用環境が整備
3),4) 。 ま た 、 全 死 者 数 に 占 め る 自 転 車 の 死 者 数 の
さ れ 、自 転車 利用 が進 んだ こ とが その 要因 の 1つ
割合は、1998年の11.6%から2011年には13.6%と
として考えられる。
なっており、年によって多少変動が見られるもの
な お 、 国 は 、 2012年 を 目 標 と す る 「 交 通 安 全
の、自転車利用の増大もあって、増加している状
計 画 ( Danish Road Safety Commission )」 を
況にある。なお、日本における自転車の死者数割
2000年 に 策 定 し 、 速 度 規 制 、 飲 酒 運 転 、 自 転 車
合(2012年15.0%)よりもわずかに低い。
利 用 者、 交差 点の 4つ を重 点 テー マと して 挙げ て
2.2 自転車通行空間に関する技術資料
い る 2) 。 ま た 、 2009 年 に 策 定 さ れ た 「 交 通 戦 略
デ ン マ ー ク で は 、 2000年 に 国 の 道 路 庁 に よ り
(Danish Transport Strategy)」では、基幹とな
「 自 転 車 利 用 環 境 整 備 事 例 集 ( Collection of
る道路、空港、港湾、鉄道等のインフラ整備とと
Cycle Concepts)」 と呼ば れる自転 車通行 空間 の
もに、自転車利用環境の向上も挙げられており、
計画や設計の考え方及び事例等を取りまとめた技
このための基金の創設がうたわれている 3) 。
術資料が作成された。しかし、その後、自転車通
交通安全計画では、1998年の死者数499人及び
重 傷 者 数 4,071人 に 対 し て 、 2012年 に そ れ ぞ れ 4
行空間の整備が進み、知見が蓄積されてきたにも
関わらず、更新されていなかった。
割減 少させること (死者数 300人未 満、重傷者 数
2,443 人 未 満 ) を 目 標 と し て い た
そこで、地方公共団体、コンサルタント及び自
、
転 車 関 連 団 体 等 が メ ン バ ー と な っ て 2009年 に 設
2006年 に 死 者 数 が 306人 、 重 傷 者 数 2,911人 と な
立 さ れ た 「 デ ン マ ー ク 自 転 車 大 使 館 ( Cycling
り 、 概 ね 目 標 を 達 成 し た こ と か ら 、 2007年 に 死
Embassy of Denmark)」という任意団体が、国
者数の目標値は200人未満に変更されている 4) 。
か ら 助 成 金 を 得 て 、 2012年 に 改 訂 版 を 発 行 し た 。
2) 。 し か し
デンマークの人口は、 2006年の約543万人が、
この改訂版には、自動車交通状況に応じた自転車
2012年には約557万人と微増ではあるものの、毎
通 行 空 間 の 形 態 選 定 の 考 え 方 ( 図 -2)、 自 転 車 通
年増加傾向にある 5) 。一方、先述の通り、最近14
行空間や駐輪空間の計画・設計に関する知見だけ
────────────────────────
Recent Bicycle Policy in Denmark
でなく、自転車による健康便益の算出例や利用促
進等のソフト施策の事例等も掲載されている 6) 。
- 28 -
土木技術資料 55-7(2013)
表-1
自転車戦略に掲げられた目標 7)
2010年
2015年 2020年 2025年
(現況)
自動車交通量(台/日)
目標
自転車道
自転車
レーン
植裁帯のあ
る自転車道
①通勤通学時の自転車分担率(トリッ
プ数割合)
35%
50%
50%
50%
②車道・自転車通行空間・歩道の3つ
の空間のある道路の割合
25%
40%
60%
80%
③2010年と比較した自転車利用者の
所要時間の減少割合
-
5%
10%
15%
④自転車通行を安全と感じる市民の
割合
67%
80%
85%
90%
⑤2005年と比較した自転車利用者の
重傷者数の減少割合
-
50%
60%
70%
⑥自転車通行空間が適切に維持され
ていると感じる自転車利用者の割合
50%
70%
75%
80%
⑦自転車文化が市の雰囲気によい影
響を与えると感じる市民の割合
67%
70%
75%
80%
路肩
車道混在
自動車規制速度(km/h)
図-2
自転車通行空間の形態選定の考え方 6)
3.コペンハーゲンにおける自転車交通施策
3.1 コペンハーゲン市の取り組み
デンマークの首都コペンハーゲン市は、人口
54.7万人(2012年) 5) を 擁し、自転車利用の進ん
5km
だ 都 市 と し て 有 名 で あ る 。 国 に 先 駆 け 1980年 代
から自転車計画を策定し、数度の更新を経て、現
在 は 2011 年 に 策 定 さ れ た 計 画 「 自 転 車 戦 略
図-3
自転車ネットワーク計画図 7)
(Bicycle Strategy 2011-2025)」に従って事業が
人 未 満 に 変 更 さ れ て い る 。 更 に 、 2007年 に は 自
実 施 さ れ て い る 。 こ の 戦 略 で は 、 表 -1に 示 す 7つ
転 車 利用 者、 歩行 者、 交差 点 、若 者の 4つ の重 点
の目標を掲げている。
分野を定めた市独自の交通安全計画を策定し、対
2010年 現 在 、 市 内 に は 自 転 車 道 346km、 自 転
策を行っている。
車 専 用 通 行 帯 23km、 自 転 車 専 用 道 路 42km の 合
更に、整備計画として「自転車道優先計画
計 400km を 超 え る ネ ッ ト ワ ー ク が 形 成 さ れ て い
(Cykelstiprioriteringsplan 2006-2016)」を策定
る も の の 、 図 -3の 通 り 、 2025年 ま で に 、 更 に 充
し、具体的な整備予定路線名を公表している。こ
実させる方針が示されている。その内容には、量
れ に よ れ ば 、 2016 年 ま で の 約 10 年 間 に 合 計 約
的な整備に加え、自転車道の拡幅や幹線道路や運
70kmの 自 転 車 道 ま た は自 転 車 専 用通 行 帯 を整 備
河を横断する自転車用の橋梁等の整備という質的
予 定 で 、 合 計 4 億 DKK ( DKK = デ ン マ ー ク ク
向上を目指した整備が多く含まれている。
ロ ー ネ 、 1DKK≒ 17.4円 ( 2013年 5月 7日 現 在 ))
ま た 、 国 の 交 通 安 全 計 画 を 元 に 、 2001年 に 市
の整備費が想定されている。なお、標準的な整備
の交通計画が策定され、1998年に569人だった死
費 は 、 自 転 車 道 800万 DKK/ km、 自 転 車 専 用 通
亡重傷者数を2012年までに300人未満とする目標
行 帯 50万 DKK/ kmで あ り 、 地 下 鉄 10億 DKK/
値が設定されている。その後、国と同様、概ね目
km、 自 動 車 道 0.7~ 1億 DKK/ kmと 比 較 す る と
標を達成したことから、2006年には目標値が200
かなり安価であることが強調されている 7) 。
- 29 -
土木技術資料 55-7(2013)
また、戦略の達成状況は、1996年から2年毎に
するゾーン40の導入)等が実施されている。
公表されており、表-2に主要指標の推移を示す。
自転車道は、日本とは異なり、原則として一方
こ れ に よ れ ば 、 平 日 の 自 転 車 走 行 台 キ ロ は 2010
通行自転車道であり、自動車と同じ向きに通行す
年 に は 121万 kmに も 及 ん で お り 、 1996年 比 1.26
る ことにな る。自転 車道の 幅員は従 前 2.0~ 2.2m
倍となっている。一方で、自転車利用者の死亡重
と し て い た が 、 自 転 車 交 通 量 の 増 加 に よ り 、 2.5
傷 者 数 は 、 1996年 の 252人 か ら 2010年 の 92人 へ
~ 3.0mに 拡 幅 し て い る 。 な お 、 デ ン マ ー ク で は 、
と 1/3強 に 減 少 し て い る 。 自 転 車 利 用 者 が 増 加 し
道 路 交 通 法 第 49条 に よ り 、 原 則 と し て 自 転 車 の
ていることを考慮すれば、自転車にとって安全な
並進は禁止されているものの、日本と異なり、十
空間が創出されていることが伺える。コペンハー
分な幅員があり危険を招かない場合には、並進が
ゲン市全体の交通事故死者数は、年によって変動
可能となっており、幅広自転車道での並進も可能
は あ る も の の 、 最 近 3年 は 4~ 14人 で 、 そ の う ち
である。
自転車の死者数は1~3人である(図-4)。
更に自転車利用者の快適性を向上させるため、
なお、交通安全面での対策としては、自転車用
市では、「グリーン・ウェーブ」(図-5)と呼ばれ
停止線の前出し、交差点内の自転車通行位置の着
る信号制御を試行している。これは、朝晩の通勤
色、自転車道の幅員の拡幅等がなされている他、
時 間 帯 に 概 ね 20km/hで 走 行 す る と 、 信 号 が 次 々
自動車の規制速度の抑制(エリア内の全ての道路
に青になる制御方法である。なお、道路管理者で
の規制速度を30km/hとするゾーン30や40km/hと
ある市が信号制御も実施している。
自転車交通施策に関連する指標の推移 8)
表-2
年 96
環境都市-目標値
通勤通学時の自転車分担率(%)
自転車事故死亡重傷者数(人/年)
自転車通行を安全と感じる
市民の割合(%)
その他の主要指標
自転車トリップ長(百万km/平日1日)
自転車重傷事故率(人/百万km)
自転車旅行速度 (km/h)
自転車道整備延長 (km)
自転車専用通行帯整備延長(km)
自転車専用道路整備延長 (km)
路上及び舗装された路外の
自転車駐輪スペース(千台)
98
00
02
04
06
30 30 34 32 36
252 173 146 152 125
60
58
57
56
58
08
現時点では、この「グリーン・ウェーブ」をど
10
15
(目標)
のような路線に整備するか明確な基準はなく、主
36 37
97 121
35
92
50
59
要幹線道路ではない自動車交通量が少なめの道路
53
67
80
を対象に導入しているとのことである。今後は、
51
自転車を感知して自転車交通量により青時間を調
0.93 0.92 1.05 1.11 1.13 1.15 1.17 1.21
1.2 1.8 2.4 2.4 3.0 4.0 3.2 4.4
15.3 16.0 16.2 15.8
294 302 307 323 329 332 338 346
6 10 12 14 17 18 23
29 30 31 32 37 39 41 42
42
47
整する機能を持たせることも検討しているとのこ
とである。
3.2 サイクルスーパーハイウェイ
48
コ ペ ン ハ ー ゲ ン 市 を 含 む 周 辺 の 23市 が 連 携 し
人
35
自動車
二輪車(原付含む)
30
歩行者
3
20
15
5
4
11
7
5
6
11
7
4
0
7
4
5
3
4
0
0
3
5
3
4
6
5
2
1
2
0
3
8
4
0
2
5
6
これは、周辺自治体からコペンハーゲン市への通
勤・通学者に対して快適な自転車利用環境を提供
2
し 、 自転 車通 勤通 学者 を 3割 増 加 させ るこ とを 目
1
10
6
8
6
5
標に始められたものである。
0
2
6
10
2
5
3
そ の コ ン セプ ト は 、「公 共 交 通 と の連 携 ・ アク
0
0
3
1
1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 2011
図-4
イ ( Cycle Super Highways)( 以 下 、「 CSHs」
と い う )」 と いう プ ロ ジェ ク ト を 実 施し て い る。
2
2
0
10
自転車
11
25
て 委 員 会 を 設立 し 、「 サイ ク ル ス ー パー ハ イ ウェ
コペンハーゲン市における交通事故死者数 5)
セスのしやすさ」「速く直接到達可能」「信号待ち
を 減 少 」「 追 い 越 し 可 能 な 自 転 車 通 行 空 間 」 の 4
つである。具体的な整備内容は、自転車道の拡幅、
CSHs を 示 す オ レ ン ジ 色 の 線 状 の 路 面 表 示 及 び
CSHsを 示 す ロ ゴを あしら っ た案 内看 板 の 設置 等
である。更に利便性を向上させるため、先述の
「 グ リ ー ン ・ ウェ ー ブ 」の 導 入 、 自 転車 用 空 気入
れの路線上への設置、信号交差点付近での足置き
の設置等も行われている(図-6)。
図-5
「グリーン・ウェーブ」の状況
- 30 -
土木技術資料 55-7(2013)
ているとのことである。
4.まとめ
デンマークでは、既に一定の自転車利用環境が
整備され、自転車関連交通事故も減少してきたこ
とから、主たる整備内容が自転車利用環境の質的
図-6
向上に変化しつつある。日本では、自転車通行空
CSHsの状況 9) (左:オレンジ色の路面表示及び
空気入れ,右:信号交差点付近の足置き)
間の整備が緒についたばかりであるが、本稿が日
本における自転車利用環境の創出の一助となれば
幸いである。
謝
辞
本稿は、インターネット調査に加え、コペン
ハーゲン市、デンマーク自転車大使館に対してヒ
アリング調査を行った内容をまとめたものである。
これらの機関には、ヒアリング調査に協力いただ
き、多数の貴重な資料を提供いただいた。ここに
紙面を借りて御礼を申し上げます。
参考文献
5km
図-7
CSHs計画図 10)
2009年 か ら 本 プ ロ ジ ェ ク ト が 開 始 さ れ 、 26路
線約300kmの計画(図-7)があり、ヒアリング調
査時点では1路線17.5kmのみ供用開始していた。
そ の 後 、 2013年 ま で に 、 更 に 2路 線 32.1kmが 供
用する予定である。現在も関係者間で路線選定や
整備基準に関する議論がなされており、最終的に
は 延 長 が 500kmに 達 す る 可 能 性 も あ り 、 総 額 10
億 DKKを 見 込 む プ ロ ジ ェ ク ト で あ る 。 整 備 は 各
市域に従って、各市が行うこととなっている。
国 は 、 本 プ ロ ジ ェ ク ト 実 施 の た め 1.89億 DKK
1) 古倉宗治:成功する自転車まちづくり-政策と計画
のポイント、p.191、学芸出版社、2010
2) Danish Road Safety Commission, Ministry of
Transport, 2000
3) Danish Infrastructure Investments, Ministry of
Transport, 2012
4) Road Safety Annual Report 2011, p.25& pp.116123, IRTAD, 2012
5) Statistics Denmarkホームページ
http://www.statbank.dk/から集計
(2013年5月7日確認)
6) Collection of Cycle Concepts 2012, Cycling
Embassy of Denmark, 2012
7) The City of Copenhagen’s Bicycle Strategy 20112025, Copenhagen City, 2011
8) Bicycle Account 2010,Copenhagen City, 2010
9) コペンハーゲン市提供資料
10) Cycle Super Highwaysホームページ、
http://www.cykelsuperstier.dk/sites/default/file
s/Cycle%20Super%20Highways.pdf
(2013年5月7日確認)
の基金を設立しており、各市の整備費用について
本田
肇*
藪
雅行**
は、この基金が活用可能である。当初供用した路
線 は 、 関 係 5市 で 事 業 費 1,340万 DKKを 要 し 、 こ
の う ち 3割 ( 2013年 度 か ら 4割 に 引 き 上 げ ら れ る
予定)が国の基金でまかなわれた。
また、整備した路線について、舗装や除雪等の
維持管理水準を各市間でどのように統一し、それ
を担保していくのか等についても、現在議論され
- 31 -
国土交通省国土技術政策
総合研究所道路研究部道
路空間高度化研究室主任
研究官
Hajime HONDA
国土交通省国土技術政策
総合研究所道路研究部道
路空間高度化研究室長
Masayuki YABU
Fly UP