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1 企業の人材経営に関するいくつかの論点 一橋大学 守島基博 1.基本
1 企業の人材経営に関するいくつかの論点 一橋大学 守島基博 1.基本的認識 1)日本企業の人事制度は、変化の時期にある。 →主なプッシュ要因は、バブル経済の崩壊による経済環境の悪化、企業業績の低迷、企業ガ バナンスの変化などであった。 →また、企業が、企業経営と人材活用の連関をより強固にし、経営・事業戦略に合わせた人 材の活用のあり方を模索してきたのもひとつの動きである。 2)だが、ここに来て、労働力の高齢化、少子化、イノベーション・知識経済への転換、働 く人の意識変化などの要因が加わり、企業が、稀少で流動的な経営資源となりつつある人材 の能力を、より効果的に活用し、かつ人材が選択肢と働きがいをもって働くための人材経営 のあり方が求められるようになった。 3)なかでも重要なのは、人材能力の長期的な蓄積と、効果的な活用とのバランスをとりつ つ、そのなかで働く人の選択肢を増やしていく仕組みである。 →基礎となるのは、現在の成果主義をベースにして、そこに人材育成の視点をしっかりと組 み込んだ、新しい人材経営の仕組みである。 →特に、中核人材については、今後も長期的な雇用・育成を基礎とし、さらに専門的な知識 を定期的に転換・向上できる場の提供が不可欠である。 →さらに、周辺労働力である非正規雇用者が、自らのキャリアプランとライフプランに従っ て、低コストで、スキルや能力の向上を目指すことのできる仕組みも必要だと思われる。 2.人材育成について 1)人材育成は、経営コスト削減の対象となることが多く、また多くの企業が選抜的な人材 育成へ傾斜しており、多くの人材にとって、育成機会や投資額の減少などが危惧される。 →こうした動きは企業経営という視点から見た場合、予想される動きだとしても、希少な人 的資源の有効活用という観点からは、対象を広げた人材育成への一層の投資が必要である。 →特に、成果主義の普及の結果、長期雇用と成果主義とを組み合わせた人材管理が一般的に なる場合(参考資料) 、企業の人材育成機能は、働く人のモチベーションを維持するためにも 一層の充実が望まれる。企業内人材育成への政策的支援が必要である。 2)ただし、今後、企業が戦略的に活用する人材を絞込み、長期雇用の対象となる人材を限 定する中で、企業に対して、広い意味での職業人育成を期待することは難しいかもしれない。 →したがって、職業人の育成という課題は、国などによる公的な機関による支援が不可欠で あろうと考えられる。今後、企業と国との職業人材育成に関する役割分担を見直していく必 要がある。 2 3)さらに重要なのは、非正規雇用労働者に対する育成やキャリア開発のあり方である。 →現在の雇用構造のなかで、企業が長期的な育成投資をしない、また個人も自らの能力向上 投資へのインセンティブを認識しにくい、こうしたタイプの労働者については、低コストで、 職業能力の向上に直結するような公的教育機関の整備などが必要である。 3.成果主義の納得性について 1)現在、多くの企業で成果主義に対する反発が高くなっている →その原因の多くは、成果主義の仕組みが拙速に導入されたことと無関係ではない。 →だが、一般論として、成果主義的な人事制度などの納得性は、退出(exit)と声(voice)の両方 の面で考慮されるべきであり、労働市場の流動化(exit)と社内の納得性確保システム(voice) の両面から検討すべきだと思われる。 2)ただ前述のように、多くの企業で、雇用の流動化+成果主義ではなく、長期雇用+成果 主義の雇用制度を採用している可能性が、調査でも確認されており、その場合、人材活性化 のためには、企業内の公平性・納得性を確保するための仕組みの整備が重要な課題である。 参考:長期雇用と成果主義の関係(N=約 1200) 成果主義導入済み 成果主義未導入 長期雇用の維持 39.9% 29.9% 長期雇用は経営的の優先課題 18.3% 12.0% ではない (労働政策研究・研修機構、 『変貌する人材マネジメントとガバナンス・経営戦略』2005 年) 4.働き方の多様化と選択肢の拡大 1)非正規労働力は、現在、企業経営および戦略達成のために不可欠な人材グループとなっ ており、その増加は著しい。だが、そのなかで、非正規から正規への転換可能性が少ない現 状は、多くの非正規労働者の働く意欲を低下させる可能性がある。 →したがって、今後は、非正規雇用と正規雇用を、働く人の価値観と意欲と能力などによっ て選択可能な、オプションとしてとし位置づけ、この2つの雇用形態間の行き来を可能にす る施策を考えることが必要であろう。 →上記にも述べたが、こうした施策のなかで、廉価なキャリア開発・生涯教育のための仕組 みが必要である。 →非正規雇用と正規雇用間の柔軟な境界線は、ワークライフ・バランスの確保や、女性人材 の活用などのためにも有効だと考えられる。 以上。