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『顔が赤くなる人は酒を飲むな』って・・・!?

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『顔が赤くなる人は酒を飲むな』って・・・!?
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『顔が赤くなる人は酒を飲むな』って・・・!?
『医療の常識を疑え−食道がん 顔が赤くなる人は酒を飲むな』
文藝春秋 6 月号大特集のタイトルです。お酒関連業種の皆様
にとっては有り難迷惑な情報です。解説者は食道癌外科で高名
健
Okamura
Takeshi
岡村
な鶴丸昌彦先生(東大医学部卒、現在順天堂大学特任教授)
。
お父様は旧佐賀県立病院好生館(現在佐賀県医療センター好生
館)の名館長、故鶴丸廣長先生(旧制五校、九大医学部卒、私
の教室の先輩)。この記事では飲酒で顔が赤くなる人が食道が
んになり易い理由を述べておられますが、もう少し詳しく解説
しましょう。
アルコールは肝臓で 2 種類の酵素によって、段階的に処理
されます。図 1 上部のように、アルコールはアルコール脱水
素酵素によってアセトアルデヒドに変換され、さらにアセトア
ルデヒドはアセトアルデヒド脱水素酵素によって酢酸という無
害物質に処理されます。問題なのは、このアセトアルデヒドで
す。これが顔を赤くしたり、頭痛、嘔気・嘔吐など不快な症状
をもたらすと共に、発がん物質なのです。飲酒によってすぐに
顔が赤くなるのは生まれつきアセトアルデヒド脱水素酵素活性
が低いため、アセトアルデヒドの処理が遅く、体内に蓄積する
からです。
図 1 アルコールの処理過程、飲酒量と食道がんリスク
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久里浜アルコール症センターの横山 顕先生は顔が赤くなる人とそうでない人に
分けて飲酒量と食道がんのリスクを比較検討しています。その結果、図 1 のグラ
フのように、顔が赤くならない人は飲酒量が増えても、食道がんのリスクに変化は
ありませんでしたが(青の折れ線)
、顔が赤くなる人は飲酒量に比例して食道がん
のリスクが上昇していました(赤の折れ線)
。飲酒で顔が赤くなる人はアセトアル
デヒドの処理能力が低いため、唾液中にアセトアルデヒド(発がん物質)が蓄積し、
その唾液に暴露されて食道にがんが発生するのではないかと考えられています。さ
らに唾液中のアルコールは口腔内の常在菌によって処理され、アセトアルデヒドが
蓄積すること。また喫煙によって唾液中アセトアルデヒド産生が増加することも明
らかになっています。つまり、飲酒で顔が赤くなる人は酒を飲みながら喫煙すると、
食道がんのリスクがさらに高まるというわけです。
では、飲酒で顔が赤くならない人は大丈夫かというと、そうでもありません。最
近、アルコールの代謝活性の違いが遺伝子レベルで解明されました。アルコールと
アセトアルデヒド分解能力の違いから、4 タイプに分けられます(図 2)。
図 2 アルコールの代謝活性の違いによる 4 タイプ
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①アルコールとアセトアルデヒドの脱水素酵素活性が高い(図 2 の左下)
アルコール、アセトアルデヒドとも分解が早いので、顔は赤くなりません。酒
に強いタイプ。日本人の 50%を占め、南九州、東北、北海道に多いとされて
います(縄文人がルーツ?)。白人は 10%です。
②アルコール脱水素酵素活性は高いが、アセトアルデヒド脱水素酵素活性は低い
(図2の右下)
アルコールの分解は早いが、アセトアルデヒドの分解が遅いため、顔が赤くな
り、気分も不快になります。酒に弱いタイプ。日本人の 40%を占め、北九州、
近畿、中部地方に多いとされています(弥生人がルーツ?)。多量飲酒による
食道がんのリスクが高まります。 ③アルコールとアセトアルデヒドの脱水素酵素が低い(図2の右上)
アルコールとアセトアルデヒドともに分解が遅いので、顔は赤くなりにくいが、
両者が長時間蓄積するため、ずっと陽気で翌日まで酒臭いタイプ。アルコール
依存症(中毒)になり易く、さらに食道がんのリスクが 4 タイプ中、最も高
いので、要注意。日本人の 3%を占めています。
④アルコール脱水素酵素活性は低いが、アセトアルデヒド脱水素酵素活性は高い
(図2の左上)
アセトアルデヒドの分解が早いので顔は赤くなりません。しかし、アルコール
の分解が遅いので、ずっと陽気で翌日まで酒臭いタイプ。日本人では 4%です
が、白人の 90%を占めています。アルコール依存症(中毒)になり易いタイプ。
なお、この図は解り易くするため 4 つのタイプに分類していますが、活性能
力の程度によっては中間的なタイプの人もいると思います。
このアルコール代謝酵素の遺伝子解析によって意外な事実が解りました。白人は
①か④なので、飲酒で顔が赤くなる人はいませんが、だからといってお酒に強いか
というと、そうでもありません。90%がタイプ④。すなわち、アルコール分解が
遅いため、翌日まで酒臭い。顔が赤くならないので酔っているかどうか判りません
が、確実に翌日まで酔っぱらっています。アルコール中毒になり易いタイプ。つま
り、白人の 90%はアルコールに弱いのです。欧米でアルコール依存症が社会問題
であることが理解できます。日本人ではこのタイプは僅か 4%です。
真にお酒に強いのはタイプ①で、日本人 50%、白人 10%。したがって、日本人の
方がお酒に強い国民だと言えます。ただ、わが国では飲酒で顔が赤くなるタイプ②
が 40%(白人 0%)も占めていることが、
お酒に弱い国民と思われているのでしょう。
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しかし、理論的に考えてみますと、顔が赤くなるタイプ②はアルコール分解が早い
わけですから、顔が赤くなっている時は既にアルコール血中濃度は低下していて、
アセトアルデヒドだけが蓄積している状態です。したがって、顔の赤みが消えた時
は、アルコールとアセトアルデヒドの分解は終了していることになります。いわば
アルコールに対する人間リトマス試験紙。解り易いタイプです。お酒に弱いといっ
ても、アルコールには強く、酔っぱらいにはなりにくいので、正確にはアルコール
に強いが、アセトアルデヒドに弱いタイプということです。
このことを実証するかのような話があります。顔が赤くなる人の、かなり過去の
体験談。飲酒で顔が赤くなり、気分も不快なため、暫く休憩。顔の赤みも消え、気
分も回復したので、車で帰途につきました。その途中、飲酒運転取締り網に捕まり
ましたが、風船を何度吹いてもアルコールは検出されず、解放されたというのです。
交通警察官は、酒臭い(実際はアセトアルデヒドの臭いと思われます)のに、どう
してかと盛んに首を傾げていたそうです。前述のように、顔が赤くなる人は顔の赤
みが消えれば、アルコールは既に分解終了、アセトアルデヒドもほぼ分解されてい
る状態です。それを実証したかのような体験談でした。ただ、これはあくまで私の
勝手な推論です。現実は推論通りでないこともあります。保証はできかねますので、
顔の赤みが消えたからといって、運転なさらないよう、くれぐれも飲酒運転厳禁を
お願いします。
また、アルコールの肝臓内処理過程で生じたアセトアルデヒドは胆汁に排出され、
胆管、胆嚢、十二指腸、小腸を通って大腸から便となって排泄されます。その経路
はアセトアルデヒドに暴露されるため、アルコールは肝臓がん、胆道系がん、大腸
がんのリスク因子です。したがって、アセトアルデヒドが蓄積し易い②と③のタイ
プは、食道がんだけでなく、これらのがんにも要注意です。
なお、これらのがんリスクは飲酒量に比例します。タイプ②の人は毎日 2 合以
上の飲酒で食道がんのリスクが高くなります。したがって、日本酒 1 合またはビー
ル中瓶 1 本程度(アルコール 20g 相当)
、あるいは僅かに顔が赤くなる程度、飲酒
を常習化しない、などを守れば、がんのリスクは抑えられると思います。その意味
では、文藝春秋のタイトルは「顔が赤くなる人は酒を控えよ」の方が適切です。
一方、飲酒の良い点を示すデータもあります。図 3 はアルコール消費量と死亡
リスクとの関係を調査した欧米の 14 の論文をまとめた研究です。アルコール消費
量 1 日 20g 未満までは死亡率が低下しています。このグラフは J カーブと呼ばれ
ており、日本の研究でも同様の結果が得られています。適量(20g 程度まで)の飲
酒は死亡リスクを下げているのです。ただし、これが当てはまるのは先進国の中年
男女、虚血性心疾患、脳梗塞、糖尿病を有する人のデータの影響であることなども
指摘されています。若年者では直線化しているとのデータもあります。
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図 3 アルコール消費量と死亡のリスク
(Holman CD et al MJA 164,1996)
最後に、お酒は食欲増進、血行促進、ストレス解消などの効用もあり、社会の潤
滑油としての役割も大切です。皆さん方はご自分がどのタイプであるかをご確認頂
き、自己責任に於いて、お酒と上手に付き合って頂きたいと思います。参考になれ
ば幸いです。
九州がんセンター 院長
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