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Page 1 Page 2 2 現在, 本邦では水銀は環境汚染物質と して, 保健衛 生
横浜国大環境研紀要16:1−10(1989)
報 文
1隅鵬!懸州li脳田玉川
環境大気中の水銀濃度に関する考察
ニュージーランド,中国およびインドネシアの大気中水銀濃度
AStudy of Mercury Concentration in Environ−
mental Atmosphere
Concentrations of Atmospheric Mereury in
・ New Zealand, China and Indonesia
中川 良三* ・加藤 龍夫**
Ryozo NAKAGAwA*
a鍛d Taもs縦。 KATou**
Synopsis
In order to s乞udyもhe source and the background level of mercury in urban ambient
air of Japan, the behavior of mercury was considered by the determination of the at−
mospheric mercury concentrations inもhree characもeristic regions of foreign countries
(New Zealand, China and王ndonesia). Namely, New Zealand(Sampling locatiQn:
Auckland and Rotorua)is volcanic area similar to Japan. Bo亡h of demand mercury
and coal fuel energy in New Zealand are very small quantity. China(Inner Mongolia
and Beiling)is the greatest consumption zone of coal魚el energy in the world. The
coal contains a large amount o£mercury and is one o壬mercury sources in atmos−
phere, In(ionesia(Iria11 Jaya and Bali)is a developing country, but Irian Jaya are
barbarous and unexplored areas. The main energy sources in lrian Jaya are wood
and natural gas, but combutions are very low.
The results indica乞ed thatもhe atmospheric mercury in urban areas of Auckland
and Rotorua ranged from 4.4to 9.4ng/m3(av.6.6ng/m3).Hohhot in Inner
Mongolia aranged from llto 33 ng/m3,0ther areas(urad Qianqi and Linhe)ran−
ged from 2.1も08.9ng/m3(av.5.9ng/㎡). Urban area i漁Beiling ranged from 2.Gto
7.Ong/m3(av.4.4ng/m3),and suburban areas from 2.6to 2.7ng/m3(av.2.7 ng/m3).
Concentration of mercury in亡he Great Wall(Badaling)was O,98 ng/㎡as low as
geochemical background level. Badaling is abouも1,000 m above sea leveL and locate−
dat 80 km to northwest of Beiling. K:uta beach of Bali ranged from 1。5to 5.7ng/m3
(av.3.8ng/m3),and Bedugul among in the mountains of Bali ranged from O.63 to 1.7
ng/m3(av。1.2ng/㎡).Irian Jaya ranged from 1.9to 5。9ng/m3(av.3.8ng/㎡).
It is concluded that the concentration levels of atrnospheric mercury in foreign
countries were lower thanもhat of Japan by one order. Also, the main sources of aレ
mospheric mercury were demand mercury, coal colnbution and industrial pollu仁ion.
1.はじめに
人類活動による水銀汚染が議論されてから3G年余に
●千葉大学 理学部化学科 環境科学研究室
Laboratory of Environmental Science, Deparもent of
Chemistry, Faculty of Science, Chiba University,260
Chiba.
’準
。浜国立大学 環境科学研究センター 環境基礎工学研究室
Department of Environmental Engineering Science, In−
stitute of Environmental Science and Technology,
なる。水銀に関連する調査研究は膨大な数に上がるが,
その多くは人為的に水銀汚染された地域の河川水,港
湾海水,土壌および動植物等の資料についてである。
大気中水銀の研究は,従来JIS法において硫酸酸
性過マンガン酸カリウム溶液法が用いられていたが,
気中水銀の捕集法および分析法としては多くの欠点が
あり,10庫以上前の記録は信頼性に欠ける値と考え
られてきた。それに代わる大気中水銀分析法として,
Yokohama National University,240 Yokohama.
金アマルガムー加熱気化一フレームレス原子吸光法が
(1989無6月30日受領)
詳細に研究され1)2),最近は一般に用いられている。
現在,本邦では水銀は環境汚染物質として,保健衛
物量と関連があることから,環境のモニタリングの指
生の観点から各都道府県や市町村などの自治体によっ
標となり得る元三でもある。したがって,大気環境に
て水質および土壌環境への撲出が規舗されている。し
おける水銀の挙動を考察することによって,環境の動
かし,気相中の水銀に関しては,世界保健機構WHO
態あるいは大気汚染物質の発生源を追求することもで
(1976)3)による労働衛生基準値50μg/㎡や一般環
きる。環境大気中水銀は一見緊急を要する問題という
境大気の指針的基準値15μg/㎡はあるが,測定例
わけではないが,人為的大気汚染の実態を解明するた
が少なく,しかも限られた環境の記録であったため,
めには,現縛点の環境大気中の水銀分布を基礎資料と
科学的な検討以前に推測的評論が先立ち,なんら規制
して把握しておく必要がある。
措置は取られていない。日本では1983年秋頃,乾電
本邦では,大気中水銀の捕集法は統一された方法で
池や蛍光燈などの水銀含有一般家庭内廃棄物をごみと
はないが,限定された各地域において,過去ユ0三間
して焼却ないし埋立て処理にともなう水銀汚染の社会
に数多く報告されている。中川6)の統一した捕三法お
問題が人々の関心を高めていた。そのため,一部の地
よび分析例による北海道から沖縄まで日本全国にわた
方自治体においては水銀含有物の分別収集が行なわれ
る測定値では,都市大気392試料の水銀濃度は1∼130
ていた。その結果の例⇔として,千葉市においては,
ng/㎡で,その平均値は13.9ng/㎡であった。ま
一時期,大気および雨水中の水銀濃度が極端に減少し
た,千葉市の一定点(千葉市弥生町)の1978∼1988
た。しかし,1985隼7月に適正処理専門委員会によっ
年の10年聞,373試料の大気中水銀濃度は2∼91ng
て「一般廃棄物の中に含まれる水銀念有物は,他のご
/㎡,その平均値は12.9ng/㎡であった。しかし,ξ
みと合わせて処理しても,生活環境保全上,とくに問
測定記録から結論すると,現在の掴本の大気中水銀の㍉
題となる状況にはない。したがって,現行法制度の遵
バックグラウンド濃度は,地域によって差はあるが,
守が図られれば,特別の措置を講ずる必要性は認めら
非地熱地帯では,その周辺に工場や人家などのない地
れない」と明言された5)。その結果,水銀含有物の各
域で1∼iOng/㎡,一般都市では10∼20ng/㎡の範
地方自治団体の分別収集は宙に浮いた状態になり,最
園にあり,20ng/㎡以上のときは捕集地点の周囲に,
近では乾電池や蛍光燈などが一般家庭内廃棄物として
なんらかの水銀発生源があると考察するのが妥当であっ
捨てられているのを野中でよく見かける。
た。
!960∼1970年代の水質,土壌,動植物試料を対象
しかしながら,火山ガスには水銀が比較的多く含有
とした水銀,カドミウム,六回目ロムなどの璽金属汚
していることは周知の事実であるため7),日本のよう
染を第一次期公害というのならば,1980年代以降の
に地熱地帯や地殻断層の多い火山国では,水銀に関し
先端技術産業による未知の汚染,殺虫・殺菌・除草剤
ては自然活動によるものと,人為的環境汚染とによる
の農薬汚染,原子力産業による放射能汚染など,目に
ものとが混在している状態である。とくに本邦では過
晃えずに知らず知らずして我々の人体を蝕む汚染を第
表35年間に,カセイソーダ製造,触媒,農薬,無機薬
二次期公害というべきであろう。このハイテク産業時
品などに多董の水銀が使用され,その間,合計約3万
代に,いまさら水銀汚染などという言葉は過去の遺物
tが環境に放出されてきた。したがって,現在,大気
であって,第一次期公害の汚染物は現在一切存在しな
に存在する水銀は現時点の人為的需要水銀が発生源と
いし,すべて解決済みであるというのが,関係機関の
なっているのか,過芸に多鐙使用した水銀が環境に停
風潮となっている。しかし,環境中の水銀問題は,局
滞状態で蓄積存在しているためなのか,あるいはエネ
飯的にみると,廃棄物処理所における水銀含有物の埋
ルギーを石炭に依存している中国大陸から黄砂などと
立・燃焼,火力発電所などにおける石油よりも水銀含
共に長距離移送されてきたものか(この説はしばしば
有景の多い石炭エネルギーへの転換,自然界起源水銀
学会等で質問されてきた)明らかでない。これらの問
の100倍鍛以上使麗される需要水銀6)の増加などの結
題をより詳しく考察するため,1)水銀需要が少なく,
果,水銀は再び環境への放出が漸増し,第二次期公害
【ヨ本と同じような地質環境にある南半球の火山国ニュー
の汚染物質の伸間入りの傾向にある。これら環境へ放
ジーランドの北島,2)エネルギーを石炭に依存して
置された水銀はその物理的性質から熱によって大気中
いる中国大陸の内蒙古および北京,3)水銀および石
へ揮散される。今後の環境大気中への水銀の高濃度蓄
炭需要がほとんどなく,一カ日の平均気温の変動が少
積は,将来,生態系への影響も懸念される。また,大
ない,原始生活が残る秘境といわれる赤道近くのイン
気中水銀濃度はSOxやNOx,および工業地目;の熱的
ドネシア領イリアン・ジャヤの3地域(図ユ)におい
条件によって排気されたガス状成分や文明社会の廃棄
て大気中水銀を捕集した。
3
壷口はテフロンシールテープを用いて密閉したQ各装
置の接続にはシリコンゴム管を使用した。
2.2 水銀定量
大気中水銀を捕集した盤面管は実験室に持ち帰り,
馬面鷺を一旦加熱して水銀を蒸気化して,干渉物質除
去溶液(pH 7緩衝液を水で倍に希釈した溶液)を通
過させて,捕集時に紬縞剤および石英ウールに付着し
た分析干渉共存物を除去したのち,地の捕集管に再応
集した。その後,再加熱して水銀蒸気を原子吸光装置
の吸収管に導入し,その吸光度から水銀量を定量した。
、
2.3 捕集地域の状況
2.3.1 ニュージーランド
水銀捕集を行ったニュージーランド北島は南緯
35。∼42。付近の間にあり,総i岡積11万5000k㎡で本
0 署GOOkm
一
州の約1/2の大きさである。ニュージーランドの総
人口330万人のうち,70%が北島に居住しており,北
図1 大気中水銀の捕集地域
/:ニュージーランド,オークランド
2=ニュージーランド,ロトルア
3:中国内蒙古自治区,呼和浩特
4:中国内蒙古自治区,鳥拉特前旗
5:中国内蒙古自治区,臨河
6:中国,北京
7:インドネシア,バリ島
8:インドネシア, ビアク
9:インドネシア,マノクワリ
10:インドネシア,ソロン
東部の商業都市オークランド周辺には約100万人の人
口集中がみられる。オークランドは地形的には細長い
地峡の上に形成された,両側に海を持つ,ニュージー
ランド最大の都市である。気候は年悶を通して温暖で
あり,年平均気温15℃,年降雨量1100mmである。町
はいくつかの死火山の火口からなっており,街園のビ
ルの谷間の所々に硫黄臭の小噴気が見られる。北島全
体は火山と温泉の島という特徴を示している。ロトル
アはオークランドから約240km離れた島の旧婚部周辺
に位併し,温泉,間欠泉,湖,牧場などの自然とマリ
大気中水銀濃度は捕集地点,風向,風速,気温,天
オ文化の中心地という観光地である。
候などの影響を受けやすいため,岡一地点で捕記して
ニュージーランドのエネルギー消費はおもに天然ガ
も大幅に変動する場合もあるので,一度や二度の測定
スである。現在,自国生恥はないが,年間の水銀需要
で捕集地点の濃度評儂をすることは危険ではあるが,
は5t以下である。
周囲の環境を観察し,極端な気象変化がない限り,捕
集地点の濃度評価は可能である。
2.測
定
2.1 試料捕集
2.3.2 中国
内蒙古自治区は中国の総面積の12.3%を占め,中
国東北,西北,華北のいわゆる三北にまたがる東西に
狭長の形で位置している。内蒙古地域の主とした地形
試料の捕三法は3地域とも岡一の方法を用いた。す
は高原であり,全面積の2/3を占める。その多くは
なわち,大気中水銀は大気試料を乾電池式ポータブル
!000∼2000mの標高にあり,各所に草原と荒漠草原
ポンプ(1乏/min)を用いて吸引し,除湿用の穎粒
が分布している。草原は自治区の主要な天然牧場となっ
状過塩素酸マグネシウムを充填したポリエチレン管を
ているが,近郊,人戸の増加にともなって家畜数が増
通過させたのち,水銀忌寸管にアマルガム捕集した。
加し,そのため,この地域の植生が途絶え,水食・風
水銀鋪三管は内径3翔m,外径5馴,長さ16c粗の石英
食によって砂状化した流砂による華原の荒廃・衰退が
管の中爽部にChromosorb Pに金をコーティングし
引き起こされるに至り,沙漠化とともに,大気汚染・
た捕集剤を2.5m田位に充填し,その両端を石英ウール
水質1汚染が現実に進i賦しつつある。気候iは中温帯に区
で固定したものを用いた。捕集中以外は,補集管の両
分されているが,年平均気温9℃,年降雨量500m穣以
4
下である。中国大陸においては,環境汚染の測定はま
霞は900万人を越える。なお,中国は水銀産出国であ
だ日が浅く,その実態は解明されていない。とくに,
るが,おもな鉱床は長江の南側の華南地方にある。現
内蒙古地域においては,環境汚染の研究体制が不十分
在の産出量および需要量の詳細な数値は不明であるが,
であり,人為的汚染の実態は不明である。内蒙古の人
1970年代の初期にはそれぞれ1000t/y前後であっ
為的汚染は現地特有の環境因子と考えられるが,地域
た。
により人口密度(17人/kのが極端に異なるので環境
汚染も一様ではない。内蒙古のような広大な草原地域
2.3.3 インドネシア
において,その環境汚染状況を把握するためには,環
インドネシア領イリアン・ジャや州は世界で二番目
境中にはほとんど存在しない微量成分で環境汚染物質
に大きい島ニューギニアの東経141。以西の分割地で
といわれる成分の濃度を測定することによって人為的
あり,1962葺までオランダの植民地であった。面積4
環境汚染を追求できる。中国のエネルギーの70%以
1万660R㎡は日本の約1.1倍であるが,人口は117万
上が石炭である。そのうち,40%以上が都市部の工
人で,その85%は中央高地および低湿地帯に住むパ
場や家庭で占められている。石炭は中国の大気汚染の
プア人である。島の中央には,4000mを越える山脈
最大原因物質である。とくに硫黄が多量(2.5%以上)
が,西北西から東南東に走っており,山頂には一奪中
含有しており,また,大気中への最大水銀供給源と考
残雪がある。南側海岸は大湿地帯であり,マングロー
えられている。酸性雨問題に関連した大気汚染物質の
ブが密生している。この島は年間降雨量3000m搬以上
長距離輸送と同様に,大気中水銀についても,石炭使
で,気候は高温多湿である。イリアン・ジャや州は秘
用国からの移流が議論されていたが,測定したという
境からの脱皮を急ぎっっあるが,1972年までオース
報告はない。したがって,草原地域の生態系に対する
トラリアに統治されていた東隣国パプア・ニューギニ
影響を考慮した環境保全のための基礎資料を得るため,
アとは異なり,開発が遅れており,原始郷が残る世界
石炭使用地域の大気中水銀濃度を測定するとともに,
最後の秘境といわれている。大気申水銀を滅亡した地
人為的汚染がほとんどないと考えられる内蒙古草原に
点のビアク島,マノクワり,ソロンは赤道直下といえ
おける測定を試みた。
る南緯1。線を横に結んだ直線上にあり,連日日中は
呼和浩特(Hohhoあ)は内蒙古自治区の首府で,面
32℃以上の猛暑であった。
積6079姉,人ロ!20万余り(市内47万),北京の西
ビアク島はニューギニア本島の北100km位に浮かぶ
北西500kmに位置し,大青山の南画黄河の辺にあり,
佐渡ヶ島ほどの小島であり,東インドネシア最大級の
南の黄河側は草原であるが,三方が1500m以上の山
滑走路を持つ国際空港があるが,工業的な産業はなく,
に取囲まれた海抜1000m余りの盆地形高原台地に位
パプアの人々は海岸沿いの低湿地帯に住んでいる。
置する。座中には20∼30m位の工場の煙突が数多く
マノクワリはビアク島の対岸にある西ニューギニア
林立し,粉じんや二酸化硫黄の未処理の,エネルギー
の静かなドレー湾に面した町であるが,両翼は険しい
利用効率約30%と低い排煙を出し続けていた。市街
山岳がせまった海岸沿いにへばりついた地形のなかに
地は,地上 100∼150m位に棚引く逆転層下で,石
位置している。
炭燃料の排煙がスモッグ状態でよどんでいた。
ソロンはニューギニア最西端にある町でニューギニ
函迫座前旗(Urad Qianqi)は呼和浩特の西方約
ア随一の石油と漁業の基地である。しかし,まだ原始
250瞼,黄河北岸の高原にある人口30万人の都市で
生活が一部に残る地域であり,昼間はトランジスタラ
ある。黄河の対岸は沙漠であり,周囲は丘陵低山性草
ジオに電波が一切入らないという陸の孤島という印象
原台地である。大気は拡散希釈される環境状態にあっ
をうける町であった。
た。
バリ島はジャワ島に隣接する東西140癬,南北90km,
薄々(Linhe)は鳥拉特前旗のさらに西方約150k冊
面積5600k㎡の東経115。の線上,南緯8∼9。の範
にある黄河北岸の町である。地形的には烏拉前前旗と
囲にある小島である。この島は1963爺に大爆発した
似ているが,町は建設中で規模が大きくなる様相を示
火山があるが,約250万人の人霞は地上最後の楽園と
していた。人口は9万人の小都市であった。
人が呼ぶ南部の観光地化された地域に集中的に住んで
内蒙古とは環境が全く異なる中国の首都北京地域に
いる。2000m級の山のある内陸部の申部山間部は人
おいても測定を行った。北京は河北省の中心部に位置
家は少なく南部のリゾート地より気温が5℃以上は低
するが,華北平野の北端にあり,東北西の三方が丘陵
い避暑地である。なお,バリ島からビアク島までは直
低山に囲まれている。全面積1万7800k㎡余,都市人
線距離で2300kmである。
5
インドネシアのエネルギー消費はおもに石油と天然
供出された硫化物による捕捉あるいは大気による拡散
ガスである。水銀の産出の記録はない。
のため,噴気地帯から1km以上離れた地点の大気中
水銀の捕集には噴気からの影響が数値としては現われ
なかった。
3.結果および考察
表2に示したロトルア地方の噴気孔ガス中の総水銀
3.1 ニュージーランド
濃度は環境大気の1000倍量のμg/㎡濃度で表示さ
表!にニュージーランドのロトルア(Rotorua)
れるが,日本の噴気孔水銀濃度ηとほぼ同値であった。
およびオークランド(Auckland)市の環境大気中総
試料No.15のChampagne Poo1はWhakarewa−
水銀濃度を示した。
rewaより南東約30kmの距離にあるWaiotapu地熱
ロトルア市の一画にWhakarewarewaの地熱噴気
地帯の熱湯池の噴気である。また,表3に示した噴気
地帯がある。No,1∼NQ.3の試料は地熱地帯に隣接す
孔地帯の大気中総水銀濃度は測定の位置,風向,嵐速
るホテルの中庭において測定した値であるが,主噴気
によって異なるものであるが,噴気孔の2m以内の
孔地帯から風下側の直線距離で180m離れた地点であ
距離において,直接噴気孔ガスの影響をうけない風向
る。そのため,水銀濃度は16.7∼28.Ong/㎡であり,
の地上より高さ1m以下で測定した値である。表2
噴気地帯と約2k田離れた市街地におけるNo.4の測
の濃度にくらべて約1/10の水銀濃度であり,拡散
定値7.Ong/㎡とは明らかに差があった。また,バッ
状況が把握できる。
クグラウンド濃度を測定する目的で,地熱噴気地帯と
したがって,表1のNo.1∼No.3の値は噴気地熱
かけ離れたオークランドの市街地で測定した大気中水
地帯周辺の環境大気中水銀濃度であるが,No.4∼No.
銀濃度は4.4∼9.4ng/㎡であった。日本の地熱地帯
7の値はニュージーランド北島の都市大気の現在の水
の測定例?)においては,噴気から放出された水銀は,
銀バックグラウンド濃度と見倣せる。これらのバック
表1 ニュージーランド地域の環境大気中総水銀濃度
捕集日
NO.
捕集地点
捕集時間
水銀濃度
平均気欝
天候
(ng/㎡)
(℃)
備考
1982.12.2 ロトルァ
15:46∼20:58
28,0
曇り
20
1982.12.9 ロトルア
08;54∼11:00
ユ8.8
晴
23
ユ982.12.14 ロトルア
07:20∼09:50
16.7
晴
22
1982.12.15 ロトルア
10:15∼18=46
7.0
晴
25
噴気地帯隣接
噴気地帯隣鍍
噴気地帯隣接
街中
1982.12,19 オークランド
06:53∼08:53
4.4
晴
21
戸中
1982.12.20 オークランド
07:46∼11:30
5.7
晴
22
街中
1982.工2.20 オークランド
11:34∼17:30
9.4
晴
24
街中
表2 ニュージーランド・ロトルア地方の噴気孔ガス中の総水銀量
No, 捕集日
噴気孔名
水銀濃度
(μ9/㎡)
備考
(Whakarewarewa)
1
1982.12.3
2
1982.12.4
Waiparu
Mahanga一圭
3
1982.12.4
4
1982.12.4
、Vaikorohihi−1
Prince of Wales Feathers−1
5
1982.12.4
POhuもu−1
3.9
6
1982,12.6
7.3
7
1982ユ2.6
8
1982.12.6
9
Mahanga−2
Mahanga−3
Mahanga−4
1982.12.7
10
1982.12.7
Te Horu−1
Te Horu−2
11
1982.12.7
Prince of Wales Featherr 2
5.7
12
1982.12.7
WaiRorohihi−2
0.95
13
1982.12.7
Pohutu−2
1.3
14
1982ユ2.7
日頃hutu−3
10.4
中心孔噴気
中心孔噴気
中心孔噴気
中心孔噴気
中心孔噴気
側孔小噴気
側帯小脳気
側目小噴気
側孔小噴気
月日小回気
側孔小噴気
代八小噴気
側孔小口気
側孔小噴気
14.5
中心孔噴気
2.2
6.3
16.8
2.6
2.3
1,5
1.9
2.4
(Waiotapu)
15 1982,12ユ1 Champagne Poo圭
6
表3 ニュージーランド・ロトルア地方の噴気
孔地熱地帯内の大気中総水銀濃度
No. 捕集目
口集地点周辺の
噴気孔名
水銀濃度
(μ9/㎡)
場合も,水銀の蒸気圧は21℃で1.3×10一㌔mHg(14.3
mg/㎡),29℃で2.6x10一嘱mHg(27.2mg/㎡)
であることから,早朝と日中の水銀濃度の日変化は気
(Whakarewarewa)
圭 1982.12.3
Puapua
0.32
2 1982.12.3
No.19
0.38
31982.12.3
Papakura
0.17
4 1982.12.4
Mahanga
0.42
6 1982.12.4
Pohutu
Parekohoru
7 ユ982.ユ2.4
V三1皇age
0.三ユ
8 1982.12.10
Cooking Poo1
0.040
5 1982ユ2.4
脱・吸着を繰り返している状態である。呼和浩特市の
0,44
0.11
温の変動によるものである。しかし,呼和浩特市の大
気水銀の発生源を推察した場合,地熱などの自然界起
源水銀および需要水銀はないので,人為的な化石燃料
の燃焼,建築物用耐火物の煉瓦製造および陶磁器の製
造などによる水銀であり,おもに石炭燃焼によると考
える。呼和浩高市における石炭使用量は不明であるが,
夏季にくらべて,冬季は暖房のため膨大に使用量が増
加するという話であり,日本とは逆に,おそらく,冬
(∼Vaiotapu)
9 1982。12.11 Champagne Poo1
10 1982.12.13 ChaInpagne PooI
0,023
0,037
季の方が大気中水銀濃度が高いと思われる。今回の調
査は気温が一番高い夏季の調査であり,季節的には,
大気中水銀濃度が一番最低なる時期の捕集であったと
グラウンド値は日本の都市大気の平均水銀バックグラ
考えられる。
ウンド濃度14ng/㎡3)6)の1/2以下である。
烏拉駅前旗の町は大気が拡散される地形をしている
ため,その大気中水銀濃度は呼和浩特市より一桁小さ
く2ユ∼5.2ng/㎡であった。
3.2 中田
表4に内蒙古地域の大気中華水銀濃度を示した。
臨書は気温の変動が少ないので,大気中水銀濃度は
呼和浩特市街の水銀濃度は比較的高く11∼33ng/
6.3∼8.9ng/㎡であった。
㎡であった。とくに日申は早朝の3倍の高濃度であっ
内蒙古で水銀捕脅した3都市は自然界水銀,水銀需
た。試料No.11は夜半に大雨が降った後のもやが棚
要産業および水銀農薬もない地域であり,またガソリ
引く早朝における測定であったが,晴天目の翠朝の試
ン自動車も乾電池や蛍光燈などの水銀含有廃棄物も限
料No.4と濃度は変らない。測定期間における呼和浩
られているので,大気水銀の人為的発生源は石炭燃焼
特筆の昼間の天候はほとんど変化がなく,盆地地形の
の寄与であるといえる。過玄の水銀汚染が示すように,
ため,無風状態の摺鉢の中にいるようであった。日本
大気中水銀も局地的行動をとるので,環境の異なる各
の環境における大気中水銀濃度の季節変化は,水銀が
地親ごとにバックグラウンド濃度を考察する必要があ
揮発性元素であるため,一般に夏季に高く,冬季に低
る。したがって,エネルギーを石炭に依存している雪
く,温度に依存する傾向にあるωが,特異的に高くな
布の夏季のバックグラウンド濃度は,呼和浩特市のよ
る匪寺は,測定時の日中の気温が前瞬あるいは夜明けに
うな石炭汚染地域を例外とするならば,一般に10旦g
くらべて急上昇した場合であった。これは,すでに土
/㎡以下と考えるのが妥当であろう。
壌に多量吸着蓄積している水銀が気温の高低によって,
表4 内蒙古地域の大気中蒔水銀濃度
No.
水銀濃度
平均気温
天候
(ng/㎡)
(℃)
捕集日
捕集地点
捕集時間
1987.8.17
12:19∼14:39
26.7
晴
29
14:39∼16:39
33。0
晴
29
20:57∼21:57
26.1
晴
24
07:09∼08:11
12.6
晴
21
20:46∼21:50
2.1
晴
22
1987.8.19
呼和浩特
呼零酷特
呼和浩特
呼和浩特
烏拉特前旗
鳥拉特前旗
10:17∼11:26
5.2
晴
26
1987.8,19
臨河
15=23∼17:15
6.3
晴
28
1987.8.19
畑田
17:17∼19:05
6.8
晴
24
1987.8.ユ9
臨河
21:35∼22:58
6.2
晴
21
ユ987.8.20
臨河
ユ3:54∼ユ4=54
8.9
晴
27
1987,8.22
呼和浩特
07=37∼08二30
11.2
晴
21
1987,8.17
三987.8.17
1987.8.18
1987.8,18
備考
夜半降雨
7
表5 北京地域の大気中震水銀濃度
NO. 捕集日
12 1987, 8. 畦
13 1987. 8. 6
友誼賓館
東単
水銀濃度
天候
(ng/㎡)
捕集時間
捕集地点
16=51∼21:05
09=13∼10:30
東単∼懐柔
懐柔
10:30∼11:20
15 1987. 8, 6
16 1987. 8, 6
懐柔∼..レ三斜
13:37∼14:37
17 ユ987. 8, 6
17:22∼18;27
18 1987,8. 7
十三陵∼友誼賓館
山関村
14 1987.8.6
1圭;50∼13=30
08:27∼ユ2:00
19 1987,8. 7
東単
14=42∼16:37
20 1987,8.臨8
顕和
08:28∼13:00
21 1987.8.8
万里の長城(八達嶺)
13:45∼14;36
22 1987. 8.24
天壇公園
12:03∼12:33
23 1987.824
願和
14;17∼15:17
3.6 晴
7.0 小雨
4.5 小雨
2.6 曇り
2.7 曇り
3.4 曇り
2.0 晴
5,2 晴
2.4 晴
α98 曇り
10.0 晴
6.7 晴
平均気温
(℃)
備考
27
27
22
自動車走行
25
24
自動車走行
23
自動車走行
26
28
28
20
31
30
表6 インドネシア地域の大気中絶水銀濃度
賛。. 捕集睡
水銀濃度
天候
(ng/㎡)
捕集時間
捕集地点、
平均気温
(℃)
1
1988,11. 9
バリ島クタ
07:39∼09:41
荏,1
晴
34
2
1988.11. 9
バリ島クタ
09:44∼11;07
5.7
晴
36
3
1988,11.10
ビアク島ビアク
06:15∼08=20
8.7
晴
32
4
1988,11.10
ビアク島臼本洞窟
09;15∼09=35
10.6
晴
35
5
1988.11.10
10:30∼11;45
3.6
晴
36
6
1988.11ユ0
ビアク島マナス海岸
ビアク島マナス海岸
13:10∼13:55
5.4
晴
37
7
1988.11.11
マノクワリ
10;15∼10:45
5.9
晴
35
8
1988.11.11
マノクワリ
12:15∼13;15
3.1
晴
38
9
1988。11ユ2
マノクワリ
12:40∼14:30
2。9
晴
37
10
1988.11.1崔
ソロン
06:55∼07:55
12.7
晴
34
11
1988,11.14
13:38∼15:00
1.9
晴
37
12
1988,11.18
ソロン
バ1ノ島クタ
13:25∼14=25
L5
晴
34
13
1988.11.19
04=55∼06;40
0.63
晴
25
14
1988.11.20
バリ島ブドウグル
バリ島ブドウグル
07=50∼19:40
1.7
晴
26
備考
洞窟外捕集
ホテル内捕集
街中捕集
表5に北京地域の大気中総水銀濃度を示した。
まで(車走行中の車外捕集)の水銀濃度は,それぞれ
北京市周辺の丁丁は市内(No.12,13,14,17,!8,19,
2.6ng/㎡,2.7ng/㎡であり,郊外といっても比較
20,22,23の9試料)と郊外(No.15,16)および万里の
的人家があり,また,測定日は天候が曇っており,郊
長城(No.21)の3地域に区分される。市内の試料
外の石炭燃焼地域のバックグラウンド値として,妥当
No.12以外は水銀濃度が比較的高い日中の測定であ
な値と考える。
り,また,試料No.13,14は小雨と明記したが,ほと
万里の長城の八達嶺は海抜約10GOm,北京市の北
んど一時的なものであった。試料No.22は気温が31
函80kmにあるが,人家より隔離された地域での捕集
℃の猛暑の時の測定で,1G.Ong/㎡であったが,他
であるため,大気水銀の総水銀濃度は0.98ng/㎡で
の8試料の水銀濃度は2.0∼7.Ong/㎡であり,その平
あった。中国には北京市をはじめ多くの都市に朱塗り
均値は4.4ng/㎡であった。北京市は起伏ある山はす
の建築物が有る。おそらく,赤色塗料として辰砂(朱
くなく,丘陵低山性平地であるため,大気中に水銀発
砂)HgS(Cinnabar)が使用されていると思われる。
生源から排出されても,拡散希釈される環境にある。
しかし,辰砂鉱床から水銀は揮散し難いように,故宮・
したがって,この値は拡散形地形にある内蒙古の工専
天安門など朱塗り建築物からの大気水銀の寄与はほと
特前旗,臨河と岡様に石炭エネルギー使用地域の夏季
んど無いと考える◎
における大気中水銀のバックグラウンド濃度と見倣せ
る数値であり,日本の都市平均水銀濃度の1/3以下
3.3 インドネシア
であった。北京市郊外の懐柔,および懐柔から十三陵
表6にインドネシア地域の大気中総水銀濃度を示し
8
∼1973年の21年間に水銀が24400t(平均1161t/y)
た。
イリアン・ジャや地域およびバリ島の低地は,調査
も使用されたQその後10年間は600∼250tと漸次減
期間中の紅中は高湿度で,気温は35℃前後の真夏日
少したが,再び300t以上使用されるようになり,現
であった。また,このら地域は年間通じて気温が平均
在まで約3万tが環境に放置された。これらの水銀が,
27℃前後であり,季節変化による使用エネルギーの
土壌に局所的に吸着蓄積されている可能性も十分考慮
変動がないと考えられる。エネルギー消費はおもに薪
される。日本における実測例として,千葉県の値0.35
が使用されていたが,プロパンガスも普及されていた。
∼23μg/(m2・y)および神奈川県の値0.38∼14
電気は重油と思われる燃料を用いた自家発電で夜間の
μg/(m2・y)6)を用いて試算すると,日本の陸地全
み通電されていた。電燈は200V20Wの小電球が用い
体から大気中へ放出される水銀量は0.!4∼&4も/yと
られて,蛍光燈は使用されていなかった。水銀需要産
なる。
業および水銀含有廃棄物は無に等しい地域であるが,
岩石の風化・浸食によるものは日本の陸地では2t
ビアク島の試料No.3,4は軍司令部が置かれているモ
/yと計算されている6)。一方,降水量と雨水中の水
クメール国際空港近くであり,また,ソロンの試料
銀含蚤および河川水量と河川水中の水銀含量とから,
No.10はホテル内の画集であり,ともに人為的影響
海に流出される水銀量は2t/yと計算される6>ので,
を受ける状態であった。それ以外の水銀捕集地点は人
岩石の風化・浸食による気化水銀量は無視できる。そ
為的水銀の影響がほとんどない地域であった。しかし,
の他,河川・湖沼水面からの水銀気化量は0。!t/y以
人問が佐んでいる所には文明が浸透しており,持って
下と推算されている6>。その結果,日本における自然彦
いく土産品等に付属した乾電池や水銀電池が廃棄放置
界起源の大気中総水銀量は約10も/yと見積られる。
されているのが目につくので,一般に季節変化の少な
日本における化石燃料,鉄鉱。非鉄金属製錬,窯業・
い地域では,大気中水銀濃度は捕集地点の人口密度と
ガラス製造など熱的条件による発生水銀量は約60t/
比例関係にあると観察される。したがって,大気中本
y,需要水銀の損失による水銀量は約140t/yである。
水銀濃度はそれぞれ,バリ島クタ1.5∼5.7ng/㎡
その結果,合計200t/yが人為的水銀発生量6)と見積
(平均値3.8ng/㎡),バリ島の山中ブドウグル0.63
られる。
∼!.7ng/㎡(平均値1.2ng/㎡),ビアク島3.6∼5.4
したがって,大気中水銀の95%以上は人為的原因
ng/㎡(平均値4.5ng/㎡),マノクワリ2.9∼5.9ng
によって放出されたものである。
/㎡(平均値4.Ong/㎡),ソロン1.9ng/㎡であっ
4.2 大気中水銀の試算
た。
4.大気水銀の考察
全世界で大気中に不変に存在する水銀量は1.2万
t9)と見積もられている。この値は陸上も海洋上も大
4.1 大気水銀の発生源
気組成が均一であると仮定して,大気中水銀濃度を3
大気中水銀の発生源には,自然界起源のものと,人
ng/㎡として計算した値である。しかし,水銀濃度
為的活動起源のものがある。自然界の発生源のおもな
は上空で滅寵するこど。>,海洋上大気中では陸上大気
ものは,火山・温泉などの地熱活動,土壌の脱ガスお
中より小さいこど1),および最近の水銀バックグラウ
よび岩石の風化・浸食など地球化学的試料によるもの
ンド濃度11)から考慮すると,全世界の大気中の不変水
である。人為的発生源には化石燃料の消費,鉱石の製
銀量は1.2万tの1/3,4000t以下(1ng/㎡以下)
錬窯業,廃棄物の焼却,需要水銀の損失などである。
と見積もるのが妥当である。この値は全地球上の大気
火山ガス・温泉ガスおよび地熱開発による蒸気ガス
中に不変水銀量として有史以来蓄積してきた量である。
などによって放出される水銀は筒地的には高濃度の場
地表と大気との間に徳浸している水銀量は全世界の年
合もあるが,地熱活動から大気申へ放散される水銀は,
間降水量4.0×10Mt(降水量780mm)と雨水中水銀
日本国内では年間!t/y以下,全世界で年間10t/y
量とから試算される。雨水中水銀量として以前は50
以下と推算される6)7)。
∼200ng/の値が採用1Dされているが,最近の実測値
土壌ガスによるものは,自然界の大きな水銀発生源
は10ng/以下である。そこで10ng/乏の値を用いる
と考えられるが,土壌中の水銀濃度,地温,通気性,
と4000tとなる。したがって,地球規模で考察した
土壌構成物質,土壌pH,土壌湿潤性および天候など
場合,大気中水銀濃度の地球化学的バックグラウンド
に依存するので,一概に平均的水銀濃度を表示できる
値は2ng/㎡以下とするのが妥当と思われる。この
まで研究されていない。とくに,日本では過去に1953
バックグラウンド濃度以上の水銀はすべて自然界起源
9
あるいは人為的発生源から新たに供給されたものと考
える。
5.おわりに
日本の場合,平均降水量が1800mmであるから,地
日本の環境大気中水銀濃度の挙動を検討するため,
表と大気との闘に循環している水銀墨は年間降水量
本邦と環境の異なる国外の大気中水銀濃度を調査した。
6.8×101紹と最近の日本の平均雨水中水銀含有量5
すなわち,人為的水銀発生源がすくなく,装本と同じ
ng/乏とから3.4t/yとなり,この値は2.2ng/
火山国で地熱地帯を持つニュージーランド,石炭をエ
㎡に相当する。したがって,現在の玉本の大気中水
ネルギー源としている中国,人為的水銀発生源がなく
銀濃度の地球化学的バックグラウンド値は3.2ng/㎡
石炭も使用しないインドネシアのイリアン・ジャヤに
以下とするのが妥当と思われるが,世界のバックグラ
おいて水銀捕集を試みた。
ウンド値よりlng/㎡高い。
測定記録数が少ないので,一概に結論するのは危険
今,仮に先に示した日本における年間の人為的水銀
ではあるが,一部の石炭燃焼汚染地域を除いては,日
発生量200tが一定の割合で平均的に日:本国土の大気
本の大気中水銀濃度は国外の値より一桁高いことが判
中へ分散放出され,7日ごとに雨が降り(日本の日降
明した。
水量10m醗以上の平均日数51日)洗浄されだとすると,
日:本の水俣病が顕在化してから30年余になるが,
大気中水銀濃度は人為的付加水銀量L3ng/㎡を加
その後水俣病と同様な事{牛は米国,フィンランド,カ
えて3,5ng/㎡となる。また,都市大気中の平均水
ナダ,ブラジルなどで発生している。しかし,日本以
銀濃度が14ng/㎡であるためには,年間の放出水銀
外の国では,水銀使用について厳しい規制は行われて
量は1750tになる。発生源の試算は,あくまでも仮
いない。水銀は地球温暖化の二酸化炭素やオゾン層破
定に基づく見積もりであるが,過怠の環境汚染が示す
壊のフロンと同様に地球i環境においては漸増の一途を
ように水銀は局地的な形で存在するので,試算値と実
たどる環境汚染物質である。今後,局地的には環境申
測値とは差があるが,いずれにしても,日本は環境に
に水銀が増加蓄積され,土壌や大気中を汚染し,生態
蓄積した水銀が気温の上下によって脱・吸着をくりか
系を破棄する傾向にあることは確実である。環境中に
えし,局地的に大気中水銀が高濃度に測定される。
放出される水銀はほぼ100%人為的なものであること
ニュージーランドの場合,地球化学的バックグラウ
が解明されたので,水銀を指標とした大気汚染のモニ
ンド値に地熱地帯および文明推会特有の廃棄物水銀が
タリングは,人為的環境汚染を調査する上で生態学的
付加された状況と考える。
にも非常に有効な研究手段である。しかし,現在の大
中国の場合,隼間石炭消費量は6億tであり,世界
気中の分布を調べるには,なお地球化学的研究が不足
の石炭供給量の1/5である。一般に石炭類中の平均
であり,この方面における記録集積が今後の研究課題
水銀含有量は0.3ppmである。石炭連中の水銀のう
でもある。
ち,燃焼時に大気へ揮散する水銀量を90%とすると,
中国において,石炭類によって大気に放出される水銀
量は162t/yと計算される。しかし,中国の石炭の
謝 辞
1/3は硫黄を2.5%以上含むので,水銀含有量も高
本研究は次の方々および研究所の協力のもとに行わ
いと推定される。また,需要水銀蚤は不明であるが,
れたものであり,心から謝意を表する。
過玄の使用量から考慮して約1QOOtと推定される。い
ニュージーランドにおける測定:
ずれにしても,大気中水銀の発生源はおもに石炭燃焼
東京都立大学名誉教授 野口喜三雄氏
によるものと考えられるが,その値は呼和浩特市のよ
東邦大学医学部教授 相川 嘉正氏
うな局地的な汚染地域を除いては,中国大陸は日本の
N.Z. Geological Survey, E.F.Lloyd氏
25倍の藺積があるので,平均的には日本ぼど水銀に汚
N.Z. Geological Survey, DSIR, Rotorua
染されてはいない。また,中国大陸から臼本への大気
中国における測定:
水銀の長距離輸送も数値的には不可能である。
中国内蒙古良治区建設環境保護庁庁長 廉 皓氏
インドネシア地域のソロンやバリ島はまだ人為的水
中国内蒙古自治区環境保護科学研究所
銀汚染がない地球化学的バックグラウンド地区といえ
中国科学院生態環境研究唐心
る。
筑波大学生物科学系および農林学系研究室
インドネシアにおける測定1
神奈川県児童医療福祉財団理事長 飯田 進氏
10
NKK技術開発本部
中川 紀元氏
藤沢薬品工業株式会社
中川 南雄氏
6)
中川良三:安全工学,26,70∼78(1987).
アルファック会
柴内 芳枝氏
7)
中川良三=地熱地帯の唯気および温泉ガスによっ
アルファック会
鈴木 雪枝氏
文 献
専門委員会報告:朝田新聞(1985.7.25朝刊).
て大気中に放出される水銀量,日化誌,1984㈲,
709∼715 (1984)。
8)
1) 中川喪三:環境に関する水銀分析とその検討,
PPM,9(7),!8∼27(1987).
9)
喜田村正次・近藤雅臣・瀧澤行雄・藤井正美・
藤木素士:水銀,p,257,講談社(1976).
2) 舶藤龍夫・中川良三:環境大気中の水銀の分析
とその挙動,横浜国立大学環境科学研究センター
中川良三:都市大気中の水銀の挙動,日化誌,
1982 (4), 677∼680 (1982) .
10)
紀要,6(1),39∼44(1980).
D.E. Matheson:Mercury in the atmos−
phere and in precipitation, in J.○. Nriag疑
3) WHO:Environmenta至Healもh Criteria,ユ,
(ed.),The Biogeochemisもry of Mercury
Mercury, World Health OrganizatiQn,
in the EnvirQnment, P.!13, E圭sevier,
Amsterdam(1979).
Geneva(1976),
4) 中川良三:降水中の水銀の挙動,1988年日本地
11)
日本化学会編:水銀,p,10∼13,丸善(1977).
球化学会無会講演要旨集,204(1988).
12)
福崎紀夫:大気を通じた水銀の移動擁の評価一
5) 厚生省生活環境審議会廃棄物処理部会適正処理
新潟県の例一,日化誌,1986(5>720∼726G986),
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