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(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 ダイズ蛋白質加水分解物及び酵母

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(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 ダイズ蛋白質加水分解物及び酵母
JP 3934877 B2 2007.6.20
(57)【 特 許 請 求 の 範 囲 】
【請求項1】
ダイズ蛋白質加水分解物及び酵母抽出物を含む動物細胞培養用無血清培地であって、ダ
イズ蛋白質加水分解物の添加量:酵母抽出物の添加量の重量比が90:10∼50:50
である前記無血清培地。
【請求項2】
ダイズ蛋白質加水分解物、酵母抽出物及びコムギ蛋白質加水分解物を含む動物細胞培養
用無血清培地であって、ダイズ蛋白質加水分解物の添加量:酵母抽出物の添加量の重量比
が90:10∼50:50である前記無血清培地。
【請求項3】
10
哺乳動物から分離された成分を含まない請求項1又は2記載の無血清培地。
【請求項4】
ダイズ蛋白質加水分解物の添加量が培地1L当たり1∼5g、酵母抽出物の添加量が培
地1L当たり1∼5gである請求項1又は2記載の無血清培地。
【請求項5】
コムギ蛋白質加水分解物の添加量が培地1L当たり0.5∼3gである請求項2記載の
無血清培地。
【請求項6】
ダイズ蛋白質加水分解物の添加量:酵母抽出物の添加量の重量比が80:20∼60:
40である請求項4記載の無血清培地。
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【請求項7】
コムギ蛋白質加水分解物の添加量が、ダイズ蛋白質加水分解物の添加量と酵母抽出物の
添加量を加算した重量総和の5∼60%の範囲にある請求項5記載の無血清培地。
【請求項8】
動物細胞が外来遺伝子の導入された形質転換細胞である請求項1∼7のいずれか1項記
載の無血清培地。
【請求項9】
動物細胞が哺乳動物細胞である請求項1∼7のいずれか1項記載の無血清培地。
【請求項10】
哺乳動物細胞がチャイニーズハムスター卵巣細胞である請求項9記載の無血清培地。
10
【請求項11】
ダイズ蛋白質加水分解物及び酵母抽出物を含む無血清培地であって、ダイズ蛋白質加水
分解物の添加量:酵母抽出物の添加量の重量比が90:10∼50:50である前記無血
清培地で動物細胞を培養する工程を含む動物細胞の培養方法。
【請求項12】
ダイズ蛋白質加水分解物、酵母抽出物及びコムギ蛋白質加水分解物を含む無血清培地で
あって、ダイズ蛋白質加水分解物の添加量:酵母抽出物の添加量の重量比が90:10∼
50:50である前記無血清培地で動物細胞を培養する工程を含む動物細胞の培養方法。
【請求項13】
動物細胞が外来遺伝子の導入された形質転換細胞である請求項11又は12記載の方法
20
。
【請求項14】
動物細胞が哺乳動物細胞である請求項11又は12記載の方法。
【請求項15】
哺乳動物細胞がチャイニーズハムスター卵巣細胞である請求項14記載の方法。
【請求項16】
ダイズ蛋白質加水分解物及び酵母抽出物を含む無血清培地であって、ダイズ蛋白質加水
分解物の添加量:酵母抽出物の添加量の重量比が90:10∼50:50である前記無血
清培地で動物細胞を培養して、当該動物細胞に物質を産生させ、細胞外に分泌させる工程
、および当該物質を当該無血清培地から単離する工程を含む物質の製造方法。
30
【請求項17】
物質が蛋白質またはペプチドである請求項16記載の方法。
【請求項18】
動物細胞が外来遺伝子の導入された形質転換細胞であり、当該動物細胞が産生して、細
胞外に分泌する物質が導入された外来遺伝子の遺伝子産物である請求項16記載の方法。
【請求項19】
遺伝子産物が組み換え蛋白質またはペプチドである請求項18記載の方法。
【請求項20】
動物細胞が哺乳動物細胞である請求項16記載の方法。
【請求項21】
40
哺乳動物細胞がチャイニーズハムスター卵巣細胞である請求項20記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【0001】
発明の背景
本発明は、動物細胞培養用無血清培地、当該無血清培地を用いて動物細胞を培養する方法
、および当該無血清培地での動物細胞の培養を利用して物質を製造する方法に関する。
【0002】
遺伝子組み換え技術を利用して、種々の蛋白質、ペプチドを人為的に生産する方法が開発
され、また、それに用いられる形質転換細胞の創製とその培養方法の研究が進められてい
る。これらの形質転換細胞のうち、宿主細胞として哺乳動物由来の細胞を用いて、医薬品
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に利用されるヒト由来の蛋白質等の組み換え生産が行われる。幾つかの哺乳動物由来の細
胞が、宿主細胞として利用されているが、広く利用されるものの一つに、チャイニーズハ
ム ス タ ー 卵 巣 細 胞 ( CHO細 胞 ) が あ る 。 遺 伝 子 組 み 換 え 技 術 の 適 用 に 必 要 な 、 各 種 の 選 択
マーカーとそれを利用した組み換え細胞株の選別法、宿主細胞としては、前記の様々な選
択マーカーが有効に機能する遺伝子的な欠陥、あるいは、それに伴う栄養要求性を示すサ
ブ − セ ル ラ イ ン 多 数 が 確 立 さ れ て い る 。 ま た 、 CHO細 胞 を 始 め 、 哺 乳 動 物 由 来 の 細 胞 の 培
養には、血清、血清中から分離した蛋白質成分を添加した培地が多用されていたが、近年
血清中に混入する不要物、例えばウイルスや病原性プリオン等、組み換え蛋白質等の最終
製品に残留してはならない汚染物を排除するため、無血清培地の開発が進められてきた。
【0003】
10
血清のみでなく、血清中から分離された蛋白質、例えば、血清アルブミン、トランスフェ
リン、フェツイン、各種のペプチドホルモン、成長因子蛋白質類など、あるいは、血液を
含む組織、例えば、牛肉の加水分解物など、前記の動物から採取された蛋白質やペプチド
類の使用においても、同様な汚染が引き起こされる懸念が提起されている。従って、これ
らの動物から採取された蛋白質やペプチド類をも添加しない無血清培地の開発が進められ
ている。具体的には、培地に添加される各種のペプチドホルモン、成長因子蛋白質類など
のうち、遺伝子組み換え技術を利用して生産できるものについては、高度に精製された組
み換え生産物への転換がなされている。その他、非動物性細胞から採取された蛋白質、ペ
プチド類、脂質類などを、上述の動物から採取された蛋白質やペプチド類等に換えて利用
することが試みられている。
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【0004】
即ち、開発が進められている無血清培地は、培養する形質転換細胞の構成物質、具体的に
は、培養細胞内で産生される各種蛋白質・ペプチド類、脂質類、核酸類等の生合成に利用
される原料化合物(例えばアミノ酸類、核酸やヌクレオシド前駆体、脂肪酸類など)、更
には、細胞質の構成成分等、細胞の生育と分裂の際、細胞外から摂取し細胞の構成要素・
成分自体に利用される種々の成分(例えば、金属元素、リン酸、塩素イオンなど、酵素に
対する補酵素等に利用されるビタミン類など)、細胞の増殖の際、細胞外から吸収される
成分を過不足なく含む基礎培地に、細胞増殖を誘起又は促進させる各種のペプチドホルモ
ン、成長因子蛋白質類などを加えたものとなっている。
【0005】
30
更に、前記の細胞増殖自体の誘起又は促進に不可欠な成分に加えて、培養速度を高い水準
に維持する役割を果たす補完的な成分の添加が検討されている。加えて、培養された形質
転換細胞からの目的の遺伝子生産物、具体的には、組み換え蛋白質等の産生を促進する、
あるいは、高い水準に維持する役割を果たす補完的な成分の添加が検討されている。具体
的には、前記の補完的な役割を持つものとして培地に添加する補完的な成分の選択とその
最適化添加量の選定を進め、従前の血清添加培地と遜色のない培養性能を達成できる無血
清培地の提案がなお待たれている。特に、医薬品に利用されるヒト由来の蛋白質等の組み
換 え 生 産 に 汎 用 さ れ て い る 哺 乳 動 物 由 来 細 胞 、 特 に は 、 CHO細 胞 に 対 し て 、 従 前 の 血 清 添
加培地と遜色のない培養性能を達成できる無血清培地の新たな提案が待たれている。加え
て 、 か か る 新 た な 無 血 清 培 地 を 用 い て 、 哺 乳 動 物 由 来 細 胞 、 特 に は 、 CHO細 胞 を 培 養 す る
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方法、その培養によって、目的とするヒト由来の蛋白質等の組み換え生産を高い効率で行
う方法の提供も望まれている。
【0006】
本発明は、上記の課題を解決するものであり、本発明の目的は、動物細胞の培養に用いら
れる無血清培地を提供することである。
また、本発明は、前記無血清培地中にて動物細胞を培養する方法を提供することも目的と
する。
さらに、本発明は、前記無血清培地中にて動物細胞を培養することによって、当該動物細
胞が産生して、細胞外に分泌する物質を得る方法を提供することも目的とする。
【0007】
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発明の概要
本発明者らは、前記の課題を解決すべく、鋭意研究を進めたところ、細胞外から摂取され
て、細胞の構成要素・成分自体に利用される種々の成分を過不足なく含む基礎培地に、細
胞増殖を誘起又は促進させる各種のペプチドホルモン、成長因子蛋白質類などを加えた無
血 清 培 地 に お い て 、 哺 乳 動 物 細 胞 、 特 に は 、 CHO細 胞 の 増 殖 が 達 成 さ れ る こ と を 見 出 し た
。さらに、増殖速度を高く維持すべく、基礎培地組成の最適化を行ったが、それでもなお
、 哺 乳 動 物 細 胞 、 特 に は 、 CHO細 胞 の 増 殖 速 度 は 、 前 記 無 血 清 培 地 に 血 清 又 は 血 清 由 来 の
蛋白質、蛋白質加水分解物、ペプチド類などを添加した培地と比較して、未だ有意に劣る
ものであった。血清又は血清由来の蛋白質、蛋白質加水分解物、ペプチド類など、動物か
ら分離される成分に換え、植物由来の成分ならびにヒト又は哺乳動物に対する病原性を示
10
さない微生物に由来する多数種の成分から、特定の組み合わせを選択し、その添加量を最
適範囲に選択することで、これら無血清培地中でも血清含有培地における増殖速度と遜色
のない培養性能を達成できることを見出した。本発明者らは、かかる知見に基づき、本発
明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、ダイズ蛋白質加水分解物及び酵母抽出物を含む動物細胞培養用無血
清培地を提供する。本発明の無血清培地は、さらにコムギ蛋白質加水分解物を含んでもよ
い。本発明の無血清培地を用いれば、血清、血清由来の蛋白質、蛋白質加水分解物、ペプ
チド類などの動物から分離された成分を添加しなくとも、動物細胞を培養することができ
る。ダイズ蛋白質加水分解物の添加量は培地1L当たり1∼5g、酵母抽出物の添加量は
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培地1L当たり1∼5gであるとよい。このとき、コムギ蛋白質加水分解物の添加量は培
地1L当たり0.5∼3gであるとよい。また、ダイズ蛋白質加水分解物の添加量:酵母
抽出物の添加量の重量比は80:20∼60:40であるとよい。このとき、コムギ蛋白
質加水分解物の添加量は、ダイズ蛋白質加水分解物の添加量と酵母抽出物の添加量を加算
した重量総和の5∼60%の範囲にあるとよい。本発明の無血清培地を用いて、動物細胞
、 好 ま し く は 哺 乳 動 物 細 胞 、 よ り 好 ま し く は チ ャ イ ニ ー ズ ハ ム ス タ ー 卵 巣 ( CHO) 細 胞 を
培養することができる。動物細胞は、外来遺伝子が導入された形質転換細胞であってもよ
い。
【0009】
また、本発明は、ダイズ蛋白質加水分解物及び酵母抽出物を含む無血清培地で動物細胞を
30
培養する工程を含む動物細胞の培養方法を提供する。動物細胞は、好ましくは哺乳動物細
胞 で あ り 、 よ り 好 ま し く は CHO細 胞 で あ る 。 動 物 細 胞 は 、 外 来 遺 伝 子 が 導 入 さ れ た 形 質 転
換細胞であってもよい。
【0010】
さらに、本発明は、ダイズ蛋白質加水分解物及び酵母抽出物を含む無血清培地で動物細胞
を培養して、当該動物細胞に物質を産生させ、細胞外に分泌させる工程、および当該物質
を当該無血清培地から単離する工程を含む物質の製造方法を提供する。物質は蛋白質また
はペプチドであってもよい。動物細胞は外来遺伝子が導入された形質転換細胞であっても
よく、当該動物細胞が産生して、細胞外に分泌する物質は導入された外来遺伝子の遺伝子
産物、例えば、組み換え蛋白質またはペプチドであってもよい。また、動物細胞は、好ま
40
し く は 哺 乳 動 物 細 胞 、 よ り 好 ま し く は CHO細 胞 で あ る 。
本 明 細 書 は 、 本 願 の 優 先 権 の 基 礎 で あ る 米 国 特 許 出 願 第 09/113,357号 の 明 細 書 お よ び / ま
たは図面に記載される内容を包含する。
【0011】
図面の簡単な説明
(図 面 の 説 明 に つ い て は 下 記 参 照 )
【0012】
好ましい態様の説明
以下、本発明の一態様について説明する。
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本 発 明 の 無 血 清 培 地 は 、 動 物 細 胞 、 好 ま し く は 哺 乳 動 物 細 胞 、 よ り 好 ま し く は CHO細 胞 の
培養に用いることができる。本明細書において、「無血清培地」とは、培地成分として、
血清、血清から分離される蛋白質等の血清中成分の何れをも含有しない培地をいうものと
する。加えて、本発明の無血清培地は、前記の血清、血清から分離される蛋白質等の血清
中成分に限らず、動物から分離される成分を全く含まないものである。
【0013】
本 発 明 の 無 血 清 培 地 で 培 養 す る こ と が で き る 動 物 細 胞 と し て は 、 CHO細 胞 、 HELA細 胞 、 bab
y hamster kidney (BHK)細 胞 、 rodent myeloma細 胞 な ど の 哺 乳 類 動 物 細 胞 、 シ ョ ウ ジ ョ ウ
バエの細胞系などの昆虫細胞、およびそれらの細胞に外来遺伝子を導入した形質転換細胞
を挙げることができる。
10
【0014】
本発明の無血清培地は、基礎培地成分として、培養すべき動物細胞がその細胞外から摂取
し、且つ細胞の構成要素・成分自体に利用される種々の無機物、合成物、植物由来の成分
から選択される各種養分成分の所定量、当該動物細胞に直接作用し、その細胞増殖を誘起
又は促進する作用を示す、合成又は遺伝子組み換え法で生産されたペプチドホルモンない
しは細胞成長因子の所定量を含み、更に、補完的成分として、ダイズ蛋白質加水分解物及
び酵母抽出物を含む。加えて、補完的成分として添加される、ダイズ蛋白質加水分解物及
び酵母抽出物に加えて、更に好ましくは、コムギ蛋白質加水分解物をも添加する。
【0015】
本発明の無血清培地は、哺乳動物から分離される成分を含有しないが、この哺乳動物から
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分離される成分とは、血清のみでなく、血清中から分離された蛋白質、例えば、血清アル
ブミン、トランスフェリン、フェツイン、各種のペプチドホルモン、成長因子蛋白質類な
ど、あるいは、血液を含む組織、例えば、牛肉の加水分解物など、前記の哺乳動物から採
取された蛋白質やペプチド類をはじめ、脂質類、炭水化物類など哺乳動物源から採取され
た有機物成分などを意味する。
【0016】
本発明の無血清培地において、基礎培地成分として添加される、培養すべき動物細胞、好
ま し く は 哺 乳 動 物 細 胞 、 よ り 好 ま し く は CHO細 胞 が そ の 細 胞 外 か ら 摂 取 し 、 且 つ 細 胞 の 構
成要素・成分自体に利用される種々の無機物、合成物、植物由来の成分から選択される各
種養分成分としては、例えば、下記の表1に列記される成分が具体例として挙げられる。
30
即ち、基礎培地成分としては、各種のアミノ酸類、核酸類又はその前駆体類、必須な金属
や無機イオン類、脂質類、ビタミン類、補酵素や補因子類、エネルギー源、炭素源、窒素
源として利用される有機物類が挙げられる。これらの成分は、動物細胞を構成する種々の
生体物質の生合成の課程で利用される。その他、基礎培地成分には、種々のペプチドホル
モンや成長因子蛋白質であって、動物から直接分離されないもの、具体的には、組み換え
技術で作成されるもの、あるいは、人為的に合成されるもの、植物から採取されるものを
含 み 、 更 に 、 所 望 の pHを 維 持 す る た め に 、 種 々 の 緩 衝 剤 成 分 、 ま た 、 所 定 の 浸 透 圧 に 制 御
するため、無機の浸透圧調整剤を添加する。
特 に 、 CHO細 胞 培 養 に お い て 、 こ の 基 礎 培 地 成 分 と し て 添 加 さ れ る 各 種 養 分 成 分 の 添 加 量
のより好ましい一例として、表1に具体例を示す。
【0017】
【表1】
40
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10
20
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【0018】
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(7)
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【0019】
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(8)
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【0020】
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上 記 表 1 に お い て 、 鉄 源 と し て 、 無 機 鉄 塩 に 加 え て 、 鉄 EDTA錯 体 を も 利 用 す る が 、 そ の 添
加量は、培地の調製が終了した際、培地中に表中に記載された濃度で溶解する量を意味す
る 。 上 記 の 基 礎 培 地 成 分 は 、 当 該 CHO細 胞 が 必 要 と す る 必 須 ア ミ ノ 酸 と 可 欠 ア ミ ノ 酸 類 、
炭素源あるいはエネルギー源として利用する単糖類、各種核酸類、ビタミン類と必要とさ
れる脂質、脂肪酸類、細胞質中に含まれる電界質イオン類、金属イオン類、酸類、酵素蛋
白質に利用される各種金属元素、補酵素類など、当該細胞を構成するのに必要となる物質
、 例 え ば 、 細 胞 膜 、 核 膜 等 、 ペ プ チ ド 、 蛋 白 質 類 、 各 種 の DNA、 RNA等 の 生 合 成 に 利 用 さ れ
る種々の養分成分を不足無く含有するものである。前記の養分成分は、当該細胞が、培地
より細胞内に取り込み・吸収し、細胞の維持、分裂に際し、利用するものである。更には
、 基 礎 培 地 成 分 と し て 、 当 該 培 地 の pHを 培 養 に 適 す る 値 に 保 持 す る 緩 衝 剤 成 分 、 適 度 な 浸
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透圧を維持する浸透圧調製剤成分も適量含有されている。なお。上記表1の基礎培地にお
い て 、 pHは 、 7.0∼ 7.5の 範 囲 に 、 浸 透 圧 は 、 280∼ 320の 範 囲 に 調 節 さ れ て い る 。 特 に 好 ま
し く は 、 基 礎 培 地 に お い て 、 pHは 、 7.2∼ 7.4の 範 囲 に 、 浸 透 圧 は 、 290∼ 300の 範 囲 に な る
べ く 、 緩 衝 剤 成 分 の NaHCO 3 等 と 浸 透 圧 調 整 成 分 の NaCl等 の 添 加 量 を 調 節 す る と よ い 。
【0021】
加えて、本発明の培地に利用できる基礎培地として、例えば、この表1に示す組成は代表
的なものの一つではあるが、それに含まれる種々の成分をそれと等価な成分と置き換えた
ものを用いることもできる。例えば、アミノ酸のシステインとシスチンなど互いに等価な
ものを置き換えを行うことができ、各種金属元素などは、水溶性の無機酸塩であり、動物
細胞の培地に使用可能である限り、この表1に記載される塩以外の塩を用いることができ
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る。あるいは、単糖類として汎用されるグルコースの一部をフルクトースに置き換えるこ
ともでき、また、ビタミン類の内、ビタミンB1 2 のように幾種かの化合物が同様の作用を
持ち、互いに代替可能なものについては、一部を置き換えることもできる。その他、培養
さ れ る CHO細 胞 が 要 求 す る 栄 養 素 、 あ る い は 、 当 該 組 み 換 え CHO細 胞 に お い て 、 遺 伝 子 組 み
換えに利用されるマーカー遺伝子の存在を検定するために添加される付加的な成分は、適
用 さ れ る 組 み 換 え CHO細 胞 の 性 状 に 従 い 適 量 を 添 加 す る と よ い 。 更 に は 、 遺 伝 子 組 み 換 え
に利用されるマーカー遺伝子の存在を検定するため、その妨げになる成分は、例えば、表
1に記載されているものであっても、その目的に沿って添加を省くこともできる。
【0022】
本発明の無血清培地に添加され、動物細胞に直接作用し、その細胞増殖を誘起又は促進す
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る作用を示すペプチドホルモンないしは細胞成長因子は、合成又は遺伝子組み換え法で生
産されたものを用いる。即ち、合成又は遺伝子組み換え法で生産され、十分に高い精製が
なされ、好ましからざる汚染、例えば、ウイルス、マイコプラズム、病原性プリオン等の
混入のないものを用いる。動物細胞に直接作用し、その細胞増殖を誘起又は促進する作用
を示すことが既に報告されているペプチドホルモンないしは細胞成長因子は、従来から培
地に添加されているが、本発明でも同様に利用される。具体的には、細胞増殖を誘起又は
促進するペプチドホルモン、細胞成長因子の一例として、組み換えインシュリン、ないし
は天然インシュリンと同等の生理活性を示すアミノ酸配列に改変のある組み換えインシュ
リン類、あるいは、組み換えインシュリン様成長因子を挙げることができる。組み換えイ
ン シ ュ リ ン 類 と し て は 、 組 み 換 え ヒ ト イ ン シ ュ リ ン を 用 い る と よ く 、 例 え ば 、 商 品 名 nuce
10
llin等 の 市 販 さ れ て い る 組 み 換 え ヒ ト イ ン シ ュ リ ン を 用 い る こ と が で き る 。
【0023】
本発明の無血清培地を最も特徴付ける成分、ダイズ蛋白質加水分解物および酵母抽出物、
ならびにコムギ蛋白質加水分解物の本発明における作用に関して説明する。本来、この三
種の補完的成分は、動物細胞の培養に必須な成分ではないが、前記の細胞増殖を誘起又は
促進する作用を示すペプチドホルモンないしは細胞成長因子により誘起・促進された細胞
増殖の速度を高い水準に維持する作用を有するものである。あるいは、増殖速度を一層高
める効果を示すものである。更には、組み換え動物細胞の培養により達成される、目的と
する組み換え蛋白質またはペプチドの産生を促進する、あるいは、産生速度を高い水準に
維持する効果を示すものである。
20
【0024】
換言するならば、本発明の無血清培地から、ダイズ蛋白質加水分解物および酵母抽出物、
ならびにコムギ蛋白質加水分解物を除いた基礎培地成分のみでも、培養速度は低いながら
も細胞培養は達成されるものではある。しかしながら、本発明の無血清培地の技術的な意
義は、基礎培地成分に、更に、補完的成分として、ダイズ蛋白質加水分解物および酵母抽
出物、更にはコムギ蛋白質加水分解物を適量添加することで、より高い培養効率を達成さ
せる効果を示すものである。その作用から、上記の三成分は基礎培地に対する補完的成分
とされる。
【0025】
本発明において、前記三種の補完的成分のうち、増殖速度を高い水準に維持する、あるい
30
は一層の向上に主に利する成分は、ダイズ蛋白質加水分解物であり、目的とする組み換え
蛋白質またはペプチドの産生速度を高い水準に維持する、あるいは、その産生促進に主に
利する成分は、酵母抽出物である。一方、コムギ蛋白質加水分解物は、目的とする組み換
え蛋白質またはペプチドの産生に伴う、当該組み換え動物細胞の死滅率を低減させる効果
を有する。従って、コムギ蛋白質加水分解物は、単独に培地に添加するよりも、ダイズ蛋
白質加水分解物及び酵母抽出物と併せて添加することにより、その効果が発揮される。
【0026】
ダイズ蛋白質加水分解物は、いかなる品質のダイズから得られたダイズ蛋白質加水分解物
で も よ い が 、 微 生 物 の 培 養 に 利 用 さ れ る 市 販 品 、 例 え ば 、 商 品 名 DMV SE50MK (DMV社 )、 DM
VSE50MAF( DMV社 ) 、 商 品 名 HyPep 1601 (Quest 社 ) 、 Soy Protein Hydrolysate: HySoy
40
(Quest 社 )等 の ダ イ ズ 蛋 白 質 加 水 分 解 物 を 用 い る と 好 ま し い 。 ダ イ ズ 蛋 白 質 加 水 分 解 物 は
各種、例えば、消化酵素による部分的水解による可溶性ポリペプチドとして、得ることが
できる。
【0027】
酵母抽出物も、同じく微生物の培養に利用されるものとして市販されており、例えば、商
品 名 HyYeast 455 (refined yeast extract Quest 社 )、 商 品 名 Springer Yeast Extract
UF10 (Bio Springer 社 )、 商 品 名 Fermax 5902AG (Red Star 社 )等 の 酵 母 抽 出 物 を 用 い
ると好ましい。酵母抽出物は、乾燥酵母を破砕し、抽出により細胞内可溶性画分を分離し
たもので、各種補酵素や補因子類などを含むものとして、得ることができる。
【0028】
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コムギ蛋白質加水分解物は、いかなる品質のコムギから得られたコムギ蛋白質加水分解物
で も よ い が 、 微 生 物 の 培 養 に 利 用 さ れ る 市 販 品 、 例 え ば 、 商 品 名 HyPep 4402 (Quest 社 )
等のコムギ蛋白質加水分解物を用いると好ましい。コムギ蛋白質加水分解物は、例えば、
コムギ胚芽等に含まれる蛋白質を各種消化酵素で部分的水解による可溶性ポリペプチドと
して、得ることができる。
【0029】
なお、ダイズ蛋白質加水分解物、酵母抽出物、コムギ蛋白質加水分解物は、各種の形態で
市販されており、そのような市販品を用いると簡便であり、特には、微生物の培養用途に
市販されているものを利用するのがよい。本発明の培地組成においては、これら成分の添
加量は、乾燥状態における重量により表記する。ダイズ蛋白質加水分解物の添加量は、培
10
養 開 始 時 の 動 物 細 胞 密 度 に 依 存 し て 、 選 択 す る も の で あ る が 、 少 な く と も 1 ∼ 6 g /L の
範 囲 、 通 常 1 ∼ 5 g /L の 範 囲 か ら 選 択 し 、 好 ま し く は 、 2 ∼ 4 g /L の 範 囲 に 選 択 す る 。
一方、酵母抽出物の添加量は、培養による動物細胞密度の上昇率に応じて選択するもので
あ る が 、 少 な く と も 、 0 . 5 ∼ 5 g /L の 範 囲 、 通 常 1 ∼ 5 g /L の 範 囲 か ら 選 択 し 、 好 ま
し く は 、 1 ∼ 3 g /L の 範 囲 に 選 択 す る 。 加 え て 、 培 養 を 促 進 し 、 動 物 細 胞 密 度 を 所 望 す
る値より高くすることが、培養細胞からの組み換え蛋白質の産生量を増すために必要であ
り、ダイズ蛋白質加水分解物の添加量を酵母抽出物の添加量より多くすることが好ましい
。従って、ダイズ蛋白質加水分解物の添加量と酵母抽出物の添加量との比率(重量比)を
50:50以上、好ましくは60:40以上とするとよい。一方、酵母抽出物の添加量が
少なくなると、培養細胞からの組み換え蛋白質の産生を促進する効果が充分に得られない
20
。その点を考慮すると、ダイズ蛋白質加水分解物の添加量と酵母抽出物の添加量との比率
(重量比)を90:10以下、好ましくは80:20以下とするとよい。前記の二条件を
総合すると、ダイズ蛋白質加水分解物の添加量と酵母抽出物の添加量との比率(1量比)
を50:50∼90:10の範囲に選ぶとよく、より好ましくは、60:40∼80:2
0の範囲に選択するとよい。
【0030】
本発明の培地において、コムギ蛋白質加水分解物は、培養速度の向上効果と培養細胞から
の組み換え蛋白質またはペプチドの産生に伴う細胞死滅の低減効果を有する。従って、コ
ムギ蛋白質加水分解物の添加量は、前記ダイズ蛋白質加水分解物の添加量と酵母抽出物の
添加量に応じて選択されるものである。特に、酵母抽出物の添加量に応じて、その添加量
30
を 選 択 す る と よ い 。 酵 母 抽 出 物 の 添 加 量 が 、 1 ∼ 5 g /L の 範 囲 に あ る と き 、 0 . 5 ∼ 3
g /L の 範 囲 か ら 選 択 す る と よ く 、 特 に は 、 酵 母 抽 出 物 の 添 加 量 が 、 1 ∼ 3 g /L の 範 囲 に
選 択 さ れ る 時 に は 、 0 . 5 ∼ 2 g /L の 範 囲 に 選 択 す る と よ り 好 ま し く 、 1 g /L 前 後 に 選
択すると特に好ましい。あるいは、ダイズ蛋白質加水分解物の添加量と酵母抽出物の添加
量との比率(重量比)を60:40∼80:20の範囲に選択する条件においては、前記
ダイズ蛋白質加水分解物の添加量と酵母抽出物の添加量を加算した重量総和の5∼60%
、特には、10∼40%範囲に選択するのが好ましい。また、ダイズ蛋白質加水分解物の
添 加 量 を 2 ∼ 4 g /L の 範 囲 に 、 酵 母 抽 出 物 の 添 加 量 を 1 ∼ 3 g /L の 範 囲 に そ れ ぞ れ 選 択
する際も、コムギ蛋白質加水分解物を、前記ダイズ蛋白質加水分解物の添加量と酵母抽出
物の添加量を加算した重量総和の10∼40%範囲から選択するとより好ましい。
40
【0031】
本発明の培地においては、上記の好ましい添加量でダイズ蛋白質加水分解物と酵母抽出物
を添加することにより、培養速度の促進・維持並びに培養細胞からの組み換え蛋白質また
はペプチド産生の促進が達成される。更に、前記ダイズ蛋白質加水分解物と酵母抽出物の
添加に加えて、コムギ蛋白質加水分解物を上記の好ましい添加量で添加することで、この
両者の効果をより高めることができる。特に、培養速度の促進・維持において、ダイズ蛋
白質加水分解物と酵母抽出物に加えて、コムギ蛋白質加水分解物をも添加することで、細
胞増殖を誘起・促進するために添加されるペプチドホルモン、細胞成長因子の添加量の許
容範囲を広くする効果も得られる。具体的には、ペプチドホルモン、細胞成長因子の添加
量をより低い値としても、充分な培養速度が達成され、加えて、その培養細胞からの組み
50
(11)
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換え蛋白質またはペプチドの産生量も高い水準に安定化することができる。例えば、前記
の細胞増殖を誘起・促進するために添加されるペプチドホルモン、細胞成長因子として添
加 さ れ る 組 み 換 え 型 イ ン シ ュ リ ン に つ い て 、 そ の 添 加 量 は 通 常 5 mg/L 程 度 で あ る が 、 ダ
イズ蛋白質加水分解物と酵母抽出物に加えて、コムギ蛋白質加水分解物をも添加すること
で 、 そ の 添 加 量 を 1 mg/Lま で 減 じ て も 、 充 分 な 培 養 速 度 を 維 持 す る こ と が で き る 。
【0032】
本発明の無血清培地は、適量の水に上記した各添加成分を加えて、溶解または懸濁させ、
培地中に均一化する処理を施し、最終的にその培地容積を所定量とすべく、少量の水を加
えて調製することができる。本発明の無血清培地は、酵母抽出物を除き、それに添加され
る各種成分は、無機物、合成物、あるいは、植物由来の成分、植物由来の蛋白質加水分解
10
物、遺伝子組み換え技術を利用して生産された組み換え蛋白質又はペプチドの何れかを主
に用いて調製する。一部のアミノ酸には、微生物またはその産生する酵素を利用し、酵素
反応により合成原料から合成され、その後、精製されたものを用いることもできる。
【0033】
上に述べたダイズ蛋白質加水分解物及び酵母抽出物、所望により、コムギ蛋白質加水分解
物を添加した本発明の無血清培地を用いて、動物細胞、好ましくは哺乳動物、より好まし
く は CHO細 胞 を 培 養 す る こ と が で き る 。 動 物 細 胞 の 具 体 例 は 既 に 述 べ た と お り で あ る 。 例
5
え ば 、 CHO細 胞 を 培 養 す る 方 法 で は 、 培 養 に 際 し 、 培 地 中 に 当 初 細 胞 密 度 1 ∼ 5 × 10 細
5
胞 /ml、 好 ま し く は 、 2 ∼ 4× 10 細 胞 /mlで 播 種 し 、 3 7 ℃ 、 5 % CO 2 の 雰 囲 気 下 で 培 養
を 行 う と よ い 。 種 々 の 組 み 換 え 蛋 白 質 ま た は ペ プ チ ド の 生 産 を 行 わ せ る 形 質 転 換 CHO細 胞
20
に 当 該 無 血 清 培 地 を 用 い る 培 養 方 法 は 適 用 で き る 。 そ の 培 養 に よ り 当 該 形 質 転 換 CHO細 胞
に 産 生 さ せ る 組 み 換 え 蛋 白 質 ま た は ペ プ チ ド と し て は 、 ヒ ト t− PA、 ヒ ト 免 疫 イ ン タ ー フ
ェ ロ ン γ 、 ヒ ト イ ン タ ー フ ェ ロ ン β 、 顆 粒 球 コ ロ ニ ー 刺 激 因 子 ( G-CSF) 、 顆 粒 球 マ ク ロ
フ ァ ー ジ コ ロ ニ ー 刺 激 因 子 ( GM-CSF) 、 エ リ ス ロ ポ エ チ ン 、 IL-1、 IL-6等 の イ ン タ ー ロ イ
キ ン 、 ウ ロ キ ナ ー ゼ 、 ア ル ブ ミ ン 、 血 液 凝 固 第 VIII因 子 、 ヒ ト 型 化 抗 ヒ ト IL− 6 レ セ プ タ
ー抗体などの各種の組み換え抗体等が挙げられ、それらは、細胞から分泌され、培地中に
蓄積する。培養後、細胞を分離し、培地から目的の組み換え蛋白質を常法により単離、精
製する。
【0034】
以 下 に 、 具 体 例 に よ り 、 本 発 明 の 無 血 清 培 地 、 そ れ を 用 い て 、 CHO細 胞 を 培 養 す る 方 法 、
30
な ら び に 、 形 質 転 換 CHO細 胞 を 培 養 し て 、 組 み 換 え 蛋 白 質 を 生 産 す る 方 法 に つ い て 説 明 す
る 。 な お 、 以 下 に 記 載 す る 具 体 例 に お い て は 、 形 質 転 換 CHO細 胞 と し て 、 ヒ ト 型 化 抗 ヒ ト I
L− 6 レ セ プ タ ー 抗 体 産 生 形 質 転 換 CHO細 胞 株 を 用 い 、 組 み 換 え 蛋 白 質 と し て 、 ヒ ト 型 化 抗
ヒ ト IL− 6 レ セ プ タ ー 抗 体 産 生 さ せ る 系 を 示 す が 、 本 発 明 の 無 血 清 培 地 は 、 DHFR遺 伝 子 欠
損 CHO細 胞 株 を 宿 主 細 胞 と す る DHFR遺 伝 子 マ ー カ ー を 用 い た 形 質 転 換 CHO細 胞 の み で な く 、
他 の 遺 伝 子 マ ー カ ー 、 例 え ば 、 グ ル タ ミ ン シ ン セ タ ー ゼ 選 択 マ ー カ ー を 用 い た 形 質 転 換 CH
O細 胞 に 対 し て も 、 同 様 に 利 用 で き 、 且 つ 同 様 に 極 め て 効 率 的 な 細 胞 増 殖 と そ の 安 定 化 が
達成できる。
【0035】
調製例
40
ヒ ト 型 化 抗 ヒ ト IL− 6 レ セ プ タ ー 抗 体 産 生 形 質 転 換 CHO細 胞 株 の 調 製
ヒ ト 型 化 抗 ヒ ト IL− 6 レ セ プ タ ー 抗 体 産 生 形 質 転 換 CHO細 胞 株 は 、 DHFR遺 伝 子 欠 損 CHO細 胞
3
株(KI株を Hデオキシウリジンで処理し、分離されたジヒドロ葉酸還元酵素欠損株(D
XB11細 胞 ) : 文 献 L. H. Grof, L. A. Chasin, Mol. Cell Biol. 2, 93(1982)に 記 載 )
を宿主細胞として、特開平8−99902号公報中に参考例2として記載された方法に準
じ 、 抗 ヒ ト IL− 6 レ セ プ タ ー 抗 体 を ヒ ト 型 化 し た 組 み 換 え 蛋 白 質 ( ヒ ト 型 化 PM-1抗 体 ) を
コ ー ド す る 遺 伝 子 ( 文 献 Koh Sato et al, Cancer Research, 53, 851-856(1993)に 記
載 ) を 導 入 す る こ と に よ っ て 、 形 質 転 換 し た 。 こ の 形 質 転 換 CHO細 胞 に お い て 、 目 的 と す
る ヒ ト 型 化 PM-1抗 体 へ の 転 写 ・ 翻 訳 は 、 WO92/19759中 の 実 施 例 1 0 に 記 載 さ れ る ヒ ト エ ロ
ゲ ー シ ョ ン フ ァ ク タ ー I α の プ ロ モ ー タ ー の 下 流 に 当 該 ヒ ト 型 化 PM-1抗 体 を コ ー ド す る 遺
50
(12)
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伝子を組み込むことによって、前記プロモーターの支配下に行われる。
【0036】
簡 単 に 説 明 す る と 、 エ レ ク ト ロ ポ レ ー シ ョ ン 法 に よ り 発 現 ベ ク タ ー を DXB11細 胞 に 導 入 後
、選択培地(ウシ血清を含み、ヌクレオチドを含まない)で生き残ってくるコロニーを選
抜した。
【0037】
実施例1
ダイズ蛋白質加水分解物と酵母抽出物の添加
無血清培地において、ダイズ蛋白質加水分解物と酵母抽出物を添加することで、形質転換
CHO細 胞 の 培 養 速 度 、 な ら び に 、 培 養 細 胞 か ら の 組 み 換 え 蛋 白 質 の 産 生 量 の 顕 著 な 向 上 が
10
達成されること、また、その向上とダイズ蛋白質加水分解物と酵母抽出物の添加量との相
関 を 検 証 し た 。 ダ イ ズ 蛋 白 質 加 水 分 解 物 と し て 、 市 販 さ れ て い る Soy Protein Hydrolysat
e: HySoy (Quest 社 )を 、 酵 母 抽 出 物 と し て 、 市 販 さ れ て い る Yeast Extract: UF10 (Bio
Springer社 )を 利 用 し た 。
【0038】
無血清培地として、下記の表2に示す組成の基礎培地に、ダイズ蛋白質加水分解物と酵母
抽出物を添加したものを調製した。ダイズ蛋白質加水分解物と酵母抽出物の添加量の総和
を 5 g/Lと し た 。 ダ イ ズ 蛋 白 質 加 水 分 解 物 と 酵 母 抽 出 物 の 添 加 量 の 比 率 ( 重 量 比 ) を 種 々
に換え、培養開始後第4日目以降の細胞数、その後第7日目に至る間の細胞生存率、第7
日目までに培地中に蓄積する組み換え蛋白質の総量を対比した。
【0039】
【表2】
20
(13)
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10
20
30
【0040】
40
(14)
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10
20
30
【0041】
40
(15)
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10
20
【0042】
上 記 表 2 に お い て 、 鉄 源 と し て 、 無 機 鉄 塩 に 加 え て 、 鉄 EDTA錯 体 を も 利 用 す る が 、 そ の 添
加量は、培地の調製が終了した際、培地中に表中に記載された濃度で溶解する量を意味す
る。
【0043】
5
培 養 条 件 は 、 1 2 5 m l 容 の フ ラ ス コ に 3 0 m l の 培 地 を 入 れ 、 3.0× 10 細 胞 /mlを 播 き
、 160rpm攪 拌 、 3 7 ℃ 、 5 % CO 2 の 雰 囲 気 下 で 培 養 を 行 っ た 。 得 ら れ た 結 果 、 培 養 開 始 後
第4日目以降の細胞数、その後第7日目に至る間の細胞生存率、第7日目までに培地中に
蓄積する組み換え蛋白質の総量をそれぞれ図1、図2、図3に示す。
30
【0044】
図2に示す結果より、培養開始後第6日目における細胞生存率は、ダイズ蛋白質加水分解
物と酵母抽出物の添加量の比率(重量比)を60:40又は80:20に選択すると50
%を超えることが判る。その際、図3に示す結果より、添加量の比率を50:50以上と
すると、組み換え蛋白質の産生総量が高い水準になることが判る。但し、添加量の比率が
80:20を超えると、産生総量は減少傾向にあることが示される。
【0045】
実施例2
コムギ蛋白質加水分解物の添加
無血清培地において、ダイズ蛋白質加水分解物と酵母抽出物の添加に加え、コムギ蛋白質
40
加 水 分 解 物 を 添 加 す る こ と に よ り 、 形 質 転 換 CHO細 胞 の 培 養 速 度 、 な ら び に 、 培 養 細 胞 か
らの組み換え蛋白質の産生量の顕著な向上が達成されるばかりでなく、培養細胞からの組
み換え蛋白質の産生に付随する細胞生存率の低下を大幅に抑制できることを検証した。ま
た、細胞生存率の低下の抑制に好適なコムギ蛋白質加水分解物の添加量と、同時に添加さ
れるダイズ蛋白質加水分解物と酵母抽出物の添加量と比率の至適範囲を検証した。コムギ
蛋 白 質 加 水 分 解 物 と し て 、 市 販 さ れ て い る Wheat protein hydrolysate: HyPep 4402 (Que
st社 )を 利 用 し た 。
【0046】
無血清培地として、上記の表2に示す組成の基礎培地Bに、ダイズ蛋白質加水分解物と酵
母抽出物を添加したものを調製した。ダイズ蛋白質加水分解物と酵母抽出物の添加量の総
50
(16)
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和 を 5 g/Lと し 、 前 記 の 実 施 例 1 に 述 べ た 結 果 に 基 づ き 、 ダ イ ズ 蛋 白 質 加 水 分 解 物 と 酵 母
抽出物の添加量の比率(重量比)を60:40に選択した。この組成に、更にコムギ蛋白
質加水分解物を添加した培地を用い、培養開始後第4日目以降の細胞数、その後第7日目
に至る間の細胞生存率、第7日目までに培地中に蓄積する組み換え蛋白質の総量を対比し
た。
【0047】
5
培 養 条 件 は 、 1 2 5 m l 容 の フ ラ ス コ に 3 0 m l の 培 地 を 入 れ 、 3.0× 10 細 胞 /mlを 播 き
、 160rpm攪 拌 、 3 7 ℃ 、 5 % CO 2 の 雰 囲 気 下 で 培 養 を 行 っ た 。 得 ら れ た 結 果 、 培 養 開 始 後
第4日目以降の細胞数、その後第7日目に至る間の細胞生存率、第7日目までに培地中に
蓄積する組み換え蛋白質の総量をそれぞれ図4、図5、図6に示す。
10
【0048】
図4に示す通り、培養開始後第4日目における細胞数は、コムギ蛋白質加水分解物の添加
の有無による差異は僅かである。培養開始後第4日目以後においては、コムギ蛋白質加水
分解物を添加した場合は、細胞数の維持または増加がみられるが、コムギ蛋白質加水分解
物を添加しない場合は、細胞数は、若干の減少を示している。また、図5に示す通り、コ
ムギ蛋白質加水分解物を添加した場合は、培養細胞の生存率は、培養開始後第4日目以降
も変化は見出されないが、コムギ蛋白質加水分解物を添加しない場合は、培養細胞の生存
率は、有意な低下を示している。なお、その際、第7日目までに培地中に蓄積する組み換
え蛋白質の総量は、コムギ蛋白質加水分解物の添加の有無、添加量による差異は見出され
ない。
20
【0049】
上 記 の 結 果 よ り 、 ダ イ ズ 蛋 白 質 加 水 分 解 物 と 酵 母 抽 出 物 の 添 加 量 の 総 和 を 5 g/Lと し 、 ダ
イズ蛋白質加水分解物と酵母抽出物の添加量の比率(重量比)を60:40で添加するこ
と に 加 え 、 コ ム ギ 蛋 白 質 加 水 分 解 物 を 2 g /L ま で の 範 囲 で 更 に 培 地 に 添 加 す る こ と で 、
組み換え蛋白質の産生量を維持しつつ、培養細胞の生存率の低下を顕著に抑制できること
が判る。なお、コムギ蛋白質加水分解物の添加量を更に増しても、培養細胞数の更なる増
加 は 見 出 さ れ な か っ た 。 特 に 、 コ ム ギ 蛋 白 質 加 水 分 解 物 を 0.5∼ 3 g /Lの 範 囲 、 多 く の 場
合 1 ∼ 2 g/Lの 範 囲 で 添 加 す る 際 、 前 記 の 改 善 が 最 も 効 果 的 に 達 成 さ れ る こ と が 判 明 し た
。より一般的には、コムギ蛋白質加水分解物を、同時に添加するダイズ蛋白質加水分解物
の添加量と酵母抽出物の添加量を加算した重量総和の10∼40%範囲に選択するとより
30
好ましいことが判明した。
【0050】
上記の例に示されるように、ダイズ蛋白質加水分解物の添加量と酵母抽出物の添加量を加
算 し た 重 量 総 和 を 5 g/L程 度 と す る 際 に は 、 コ ム ギ 蛋 白 質 加 水 分 解 物 の 添 加 量 を 1g/L前 後
とすることで、十分にその効果が達成されることが判明した。
【0051】
実施例3
ダイズ蛋白質加水分解物、酵母抽出物、コムギ蛋白質加水分解物の添加時における組み換
えインシュリンの添加量の許容範囲
無血清培地にダイズ蛋白質加水分解物と酵母抽出物を添加することに加え、コムギ蛋白質
40
加水分解物をも添加することで、培養細胞の細胞数の維持又は増加、並びに、細胞生存率
の 低 下 を 抑 制 す る こ と が 可 能 で あ る こ と が 判 明 し た 。 こ の 効 果 は 、 当 該 形 質 転 換 CHO細 胞
の増殖を誘起する成長因子の添加量に依らず、見出されることを検証した。この例では、
CHO細 胞 の 増 殖 を 誘 起 す る 成 長 因 子 と し て 、 組 み 換 え ヒ ト イ ン シ ュ リ ン を 用 い た 無 血 清 培
地において、組み換えヒトインシュリンの添加量を減じても、培養細胞数並びに形質転換
CHO細 胞 が 産 生 す る 組 み 換 え 蛋 白 質 の 総 量 に 有 意 な 差 異 を 生 じ さ せ な い こ と を 検 証 し た 。
【0052】
培養に用いた無血清培地は、組み換えヒトインシュリンの添加量を除き、他の成分は表3
に 記 載 さ れ る 基 礎 培 地 A と 同 じ 組 成 と し 、 そ れ に ダ イ ズ 蛋 白 質 加 水 分 解 物 3g/L、 酵 母 抽 出
物 2g/L、 コ ム ギ 蛋 白 質 加 水 分 解 物 1g/Lを そ れ ぞ れ 添 加 し た 培 地 を 用 い た 。 組 み 換 え ヒ ト イ
50
(17)
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ン シ ュ リ ン の 添 加 量 を 、 5mg/L、 2.5mg/L、 1.25mg/L、 な ら び に 0mg/L( 無 添 加 ) の 四 条 件
にとり、それぞれ培養条件は前記実施例2に記載される条件と同じにした。なお、各無血
5
清 培 地 に 培 養 開 始 時 に 3.0× 10 細 胞 /mlを 播 い た が 、 そ の CHO細 胞 は 、 表 3 に 記 載 さ れ る 基
礎 培 地 A に ダ イ ズ 蛋 白 質 加 水 分 解 物 3g/L、 酵 母 抽 出 物 2g/L、 コ ム ギ 蛋 白 質 加 水 分 解 物 1g/L
を添加した無血清培地中で前記実施例2に記載の条件で培養したものを用いた。
【0053】
【表3】
(18)
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10
20
30
【0054】
40
(19)
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10
20
30
【0055】
40
(20)
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10
【0056】
図7のaに培養開始後8日間の培養細胞数を、図8のaにその間の培養細胞が産生する組
み換え蛋白質の総量の変化を、組み換えヒトインシュリンの添加量の異なる四条件を対比
20
して示す。図7のbならびに図8のbには、培養開始後8日間が経過した細胞を新たな培
地に植え継ぎ、更に培養した結果も併せて示す。
【0057】
図 7 に 示 す 通 り 、 組 み 換 え ヒ ト イ ン シ ュ リ ン の 添 加 量 を 1/4に 減 じ て も 、 培 養 細 胞 数 に 有
意な差異はなく、それに付随して、図8に示す通り、その間の培養細胞が産生する組み換
え蛋白質の総量においても、有意な差異は見出されない。なお、組み換えヒトインシュリ
ン の 添 加 量 を 、 0mg/L( 無 添 加 ) と し た 条 件 に お い て も 、 細 胞 増 殖 が 見 ら れ て い る が 、 こ
れは播種した細胞が予め組み換えヒトインシュリン添加培地で培養されたものであり、そ
の経歴が在留した影響によると考えられる。
【0058】
30
加えて、培養開始後8日経過した後、新たな培地に植え継いだ際にも、前記の結果とほぼ
同じ結果が得られている。即ち、無血清培地にダイズ蛋白質加水分解物と酵母抽出物を添
加することに加え、コムギ蛋白質加水分解物をも添加することで、培養細胞の細胞数の維
持又は増加、並びに、細胞生存率の低下を抑制することが可能であるばかりでなく、この
効果は、逐次的に新たな培地に植え継いだ際にも、維持されることが確認される。
【0059】
ダイズ蛋白質加水分解物と酵母抽出物を添加することに加え、コムギ蛋白質加水分解物を
も添加することで、安定な細胞増殖が達成できるため、新たな培地に植え継いだ際、細胞
密 度 が 低 い 環 境 下 で は CHO細 胞 の 増 殖 を 誘 起 す る 成 長 因 子 が 必 要 で あ る も の の 、 成 長 因 子
の添加量が多少変動があっても、再現性のよい細胞増殖が行えることが判明した。具体的
40
に は 、 成 長 因 子 と し て 、 組 み 換 え ヒ ト イ ン シ ュ リ ン を 利 用 す る 場 合 、 そ の 添 加 量 は 1.25 m
g/L∼ 5mg/L、 好 ま し く は 2 mg/L∼ 5 mg/Lの 範 囲 内 で あ れ ば 、 培 養 効 率 自 体 に 影 響 を 与 え な
いと判断される。加えて、ダイズ蛋白質加水分解物と酵母抽出物を添加することに加え、
コムギ蛋白質加水分解物をも添加することで、細胞生存率を高く維持できるため、継代培
養を続ける際にも、各代における培養効率の安定化が果たされ、且つその際に培養細胞が
産生する組み換え蛋白質の総量も安定したものとなる。
【0060】
実施例4
グルコースのフルクトースへの置き換え
本発明の無血清培地において、汎用されるエネルギー源である単糖類が利用されるが、グ
50
(21)
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ルコースに換えてフルクトースをも利用できることを検証した。
実 施 例 2 に 記 載 す る ダ イ ズ 蛋 白 質 加 水 分 解 物 3g/L、 酵 母 抽 出 物 2g/L、 コ ム ギ 蛋 白 質 加 水 分
解 物 1g/Lを 表 2 の 基 礎 培 地 に 添 加 し た 無 血 清 培 地 中 の グ ル コ ー ス 8g/Lに 換 え て 、 グ ル コ ー
ス 1.6g/Lお よ び フ ル ク ト ー ス 6.4g/Lを 添 加 し た 無 血 清 培 地 を 調 製 し た 。 前 記 す る グ ル コ ー
ス 8g/Lを 含 有 す る 培 地 と グ ル コ ー ス 1.6g/Lお よ び フ ル ク ト ー ス 6.4g/Lを 含 有 す る 培 地 に 加
え 、 そ れ ぞ れ 組 み 換 え ヒ ト イ ン シ ュ リ ン の 添 加 量 を 5 mg/Lか ら 10mg/Lに 増 し た 培 地 を 調 製
し た 。 こ の 計 4 種 類 の 無 血 清 培 地 を 用 い て 、 形 質 転 換 CHO細 胞 を 培 養 し た 。 培 養 条 件 は 、
5
1 2 5 m l 容 の フ ラ ス コ に 3 0 m l の 培 地 を 入 れ 、 3.0× 10 細 胞 /mlを 播 き 、 160rpm攪 拌
、 3 7 ℃ 、 5 % CO 2 の 雰 囲 気 下 で 培 養 を 行 っ た 。
【0061】
10
培養開始後4日間以降の培養細胞数、培養細胞の生存率並びに培養開始後7日目までに形
質 転 換 CHO細 胞 が 産 生 す る 組 み 換 え 蛋 白 質 の 総 量 を 測 定 し 、 組 み 換 え ヒ ト イ ン シ ュ リ ン の
添 加 量 を 5 mg/Lか ら 10mg/Lに 増 し た 際 の 影 響 、 単 糖 類 と し て 、 グ ル コ ー ス を フ ル ク ト ー ス
へ置き換えた際の影響を評価した。図9に培養開始後4日間以降の培養細胞の生存率を対
比 し た 結 果 、 図 1 0 に 培 養 開 始 後 7 日 目 ま で に 形 質 転 換 CHO細 胞 が 産 生 す る 組 み 換 え 蛋 白
質の総量を比較した結果を示す。図10に示す通り、組み換えヒトインシュリンの添加量
を 増 す と 、 若 干 培 養 速 度 が 増 し 、 そ れ に 伴 い 形 質 転 換 CHO細 胞 が 産 生 す る 組 み 換 え 蛋 白 質
の総量も若干の増加が見られた。一方、組み換え蛋白質の産生量に対して、グルコースの
フルクトースへの置き換えは、その産生量を有意に増大することが確認される。なお、こ
のグルコースのフルクトースへの置き換えの効果は、組み換えヒトインシュリンの添加量
20
に依らず達成されると判断される。
【0062】
他方、図9に示す通り、グルコースのフルクトースへの置き換えに伴い、培養開始後4日
間以降の培養細胞の生存率は有意に低下することが判明した。この培養細胞の生存率の低
下 は 、 形 質 転 換 CHO細 胞 が 産 生 す る 組 み 換 え 蛋 白 質 総 量 の 増 加 に 付 随 し て 生 じ て い る こ と
が判明した。また、グルコースのフルクトースへの置き換え比率が増すにつれ、前記の影
響 が 比 例 的 に 増 す こ と も 別 途 確 認 さ れ て い る 。 こ の こ と か ら 、 形 質 転 換 CHO細 胞 を 新 た な
培地に植え継ぎ、継続的に組み換え蛋白質の生産を行わせる場合には、培養細胞の生存率
低下は必ずしも好ましいものではないが、グルコースのフルクトースへの置き換え比率を
80%以下にすることで、培養細胞の生存率を20%以上に保つことができることが確認
30
された。細胞の生存率を20%以上に保つ限り、新たな培地に植え継ぎ、細胞培養を継続
する際、極端な悪影響を及ぼすことはなく、継代培養による継続的な組み換え蛋白質の生
産における総合的な生産性の低下には至らないと判断される。
【0063】
即ち、コムギ蛋白質加水分解物の添加による培養細胞の生存率低下の抑制作用を利用する
ことで、グルコースをフルクトースに置き換えた培地を用いて、実用上、エネルギー源と
してグルコースを用いた培地を用いる際と遜色のない継代培養による継続的な組み換え蛋
白質の生産効率を達成できることが確認された。
【0064】
実施例5
40
動物由来蛋白質添加無血清培地との比較
本発明の無血清培地において、その特徴的な成分である、ダイズ蛋白質加水分解物及び酵
母抽出物、加えて、コムギ蛋白質加水分解物の三成分に代えて、従来より無血清培地への
添加物として汎用される動物由来蛋白質を添加した動物由来蛋白質添加無血清培地と、本
発明の無血清培地とを比較した。即ち、この無血清培地両者間で、培養結果に有意な差は
なく、本発明の無血清培地における、ダイズ蛋白質加水分解物及び酵母抽出物、加えて、
コムギ蛋白質加水分解物の三成分添加は、汎用される添加物の動物由来蛋白質の添加効果
と対比させると、より勝る、少なくとも同じ効果があることを検証した。
【0065】
具体的には、動物由来蛋白質添加無血清培地として、ウシ血清アルブミン、ウシのフェチ
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(22)
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ュイン、プライマトン(牛肉の加水分解物)の三種を、下記する表4の基礎培地Cに添加
したものを用いた。ウシ血清アルブミンは、ウイルス等の検定を経て、ウイルス等に汚染
されていないものとして市販されるものを用いた。フェチュイン、プライマトン(牛肉の
加水分解物)も、同じくウイルス等に汚染されていないものとして市販されるものを用い
調 製 し た 。 そ の 添 加 量 は 、 培 地 1 L 当 た り 、 ウ シ 血 清 ア ル ブ ミ ン ( Albumin, Bovine Viru
s Free) を 100mg、 フ ェ チ ュ イ ン (Fetuin)を 200mg、 ヒ ト ト ラ ン ス フ ェ リ ン ( Human transf
errin) を 5mg, プ ラ イ マ ト ン (Primatone)を 2500mgと し た 。
【0066】
【表4】
(23)
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20
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【0067】
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10
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【0068】
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(25)
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10
20
【0069】
上 記 表 4 に お い て 、 鉄 源 と し て 、 無 機 鉄 塩 に 加 え て 、 鉄 EDTA錯 体 を も 利 用 す る が 、 そ の 添
加量は、培地の調製が終了した際、培地中に表中に記載された濃度で溶解する量を意味す
る。
【0070】
一方、ダイズ蛋白質加水分解物及び酵母抽出物、加えて、コムギ蛋白質加水分解物の三成
分 を 添 加 し た 無 血 清 培 地 は 、 表 1 に 記 載 さ れ る 基 礎 培 地 A に ダ イ ズ 蛋 白 質 加 水 分 解 物 3g/L
、 酵 母 抽 出 物 2g/L、 コ ム ギ 蛋 白 質 加 水 分 解 物 1g/Lを 添 加 し た も の で あ る 。 更 に 、 実 施 例 4
に 倣 い 表 1 の 組 成 に お い て 、 グ ル コ ー ス 8000mg/L に 換 え て 、 グ ル コ ー ス 1400mg/Lと フ ル
30
ク ト ー ス 6600mg/Lを 添 加 し た 基 礎 培 地 に 、 ダ イ ズ 蛋 白 質 加 水 分 解 物 3g/L、 酵 母 抽 出 物 2g/L
、 コ ム ギ 蛋 白 質 加 水 分 解 物 1g/Lを 添 加 し た も の に つ い て も 、 同 様 に 比 較 を 行 っ た 。 そ の 他
、前記のフルクトース含有培地成分から、グルタミンのみを省いた培地についても、同様
に 比 較 を 行 っ た 。 こ の 計 4 種 類 の 無 血 清 培 地 を 用 い て 、 形 質 転 換 CHO細 胞 を 培 養 し た 。 培
5
養 条 件 は 、 1 2 5 m l 容 の フ ラ ス コ に 3 0 m l の 培 地 を 入 れ 、 3.0× 10 細 胞 /mlを 播 き 、 1
60rpm攪 拌 、 3 7 ℃ 、 5 % CO 2 の 雰 囲 気 下 で 培 養 を 行 っ た 。
【0071】
得られた結果、培養開始後第3日目以降の細胞数、その後第7日目に至る間の細胞生存率
、第7日目までに培地中に蓄積する組み換え蛋白質の総量をそれぞれ図11、図12、図
13に示す。
40
【0072】
図13に示す通り、培養開始後第3日目における細胞数は、動物由来蛋白質添加無血清培
地を用いた場合と、ダイズ蛋白質加水分解物及び酵母抽出物、加えて、コムギ蛋白質加水
分解物の三成分を添加した無血清培地を用いた場合とでは、有意な差異はない。それ以降
においても、上の実施例4に示す通り、グルコースのフルクトースへの置き換えの影響を
除くと、培養細胞数に関して、何れも良好な結果である。
【0073】
特に、動物由来蛋白質添加無血清培地と表1に記載される基礎培地にダイズ蛋白質加水分
解物、酵母抽出物、コムギ蛋白質加水分解物の三成分を添加した無血清培地との比較にお
いては、図11に示す通り、第7日目までに培地中に蓄積する組み換え蛋白質の総量に関
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しても、両者は遜色のないものであった。同じく、図12に示す培養開始後第3日目以降
、第7日目に至る間の細胞生存率においても、互いの差異は僅かである。即ち、ダイズ蛋
白質加水分解物、酵母抽出物、コムギ蛋白質加水分解物の三成分を添加した無血清培地は
、ウシ血清アルブミン、ウシのフェチュイン、プライマトン(牛肉の加水分解物)の三種
の動物由来蛋白質を添加した無血清培地と、培養速度並びに組み換え蛋白質の産生におい
ても、ほぼ等しく好ましい結果を示す。
【0074】
以上の実験結果から、次のことが言える。本発明の無血清培地は、動物から分離された成
分を含まない基礎培地に、ダイズ蛋白質加水分解物と酵母抽出物を添加することで、当該
無 血 清 培 地 に 添 加 さ れ る 組 み 換 え 成 長 因 子 に よ り 誘 起 さ れ る 形 質 転 換 CHO細 胞 等 の 細 胞 増
10
殖の更なる促進と安定化とを行い、培養速度を高い水準に保つことができる。加えて、そ
の 際 に 、 形 質 転 換 CHO細 胞 等 の 培 養 細 胞 が 産 生 す る 組 み 換 え 蛋 白 質 の 総 量 を も 高 く す る こ
とができる。加えて、ダイズ蛋白質加水分解物と酵母抽出物の添加に加え、コムギ蛋白質
加水分解物をも添加することで、細胞生存率を高く維持できるため、継代培養を続ける際
にも、各代における培養効率の安定化が果たされ、且つその際に培養細胞が産生する組み
換え蛋白質の総量も安定したものとする利点を有する。従って、前記する利点を用いて、
本発明の無血清培地を用いた形質転換動物細胞の増殖法を適用することで、目的とする組
み換え蛋白質を高い効率で安定且つ再現性よく生産を行うことができる。
本明細書で引用した全ての刊行物、特許および特許出願をそのまま参考として本明細書に
とり入れるものとする。
20
【0075】
産業上の利用可能性
本発明の無血清培地は、動物細胞の培養の点で、従来の血清含有培地と比較して遜色のな
い性能を達成できるので、有用である。本発明の無血清培地を利用して、所望の動物細胞
を培養し、所望の組換えタンパク質を生産することができる。
【図面の簡単な説明】
【 図 1 】 図 1 は 、 ダ イ ズ 蛋 白 質 加 水 分 解 物 及 び 酵 母 抽 出 物 の 添 加 量 が 形 質 転 換 CHO細 胞
の増殖速度に及ぼす効果を示す図である。
【 図 2 】 図 2 は 、 ダ イ ズ 蛋 白 質 加 水 分 解 物 及 び 酵 母 抽 出 物 の 添 加 量 が 形 質 転 換 CHO細 胞
の細胞生存率に及ぼす効果を示す図である。
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【 図 3 】 図 3 は 、 ダ イ ズ 蛋 白 質 加 水 分 解 物 及 び 酵 母 抽 出 物 の 添 加 量 が 形 質 転 換 CHO細 胞
より産生される組み換え蛋白質量に及ぼす効果を示す図である。
【図4】 図4は、ダイズ蛋白質加水分解物及び酵母抽出物の添加に加え、コムギ蛋白質
加 水 分 解 物 を も 添 加 す る こ と に 伴 う 、 形 質 転 換 CHO細 胞 の 増 殖 速 度 に 及 ぼ す 効 果 を 示 す 図
である。
【図5】 図5は、ダイズ蛋白質加水分解物及び酵母抽出物の添加に加え、コムギ蛋白質
加 水 分 解 物 を も 添 加 す る こ と に 伴 う 、 形 質 転 換 CHO細 胞 の 細 胞 生 存 率 に 及 ぼ す 効 果 を 示 す
図である。
【図6】 図6は、ダイズ蛋白質加水分解物及び酵母抽出物の添加に加え、コムギ蛋白質
加 水 分 解 物 を も 添 加 す る こ と に 伴 う 、 形 質 転 換 CHO細 胞 よ り 産 生 さ れ る 組 み 換 え 蛋 白 質 量
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に及ぼす効果を示す図である。
【図7】 図7aおよび7bは、ダイズ蛋白質加水分解物及び酵母抽出物の添加に加え、
コ ム ギ 蛋 白 質 加 水 分 解 物 を も 添 加 す る 条 件 下 、 継 代 培 養 時 に お け る 形 質 転 換 CHO細 胞 の 増
殖速度に及ぼすインシュリン添加量の効果を示す図である。
【図8】 図8aおよび8bは、ダイズ蛋白質加水分解物及び酵母抽出物の添加に加え、
コ ム ギ 蛋 白 質 加 水 分 解 物 を も 添 加 す る 条 件 下 、 継 代 培 養 時 に お け る 形 質 転 換 CHO細 胞 よ り
産生される組み換え蛋白質量に及ぼすインシュリン添加量の効果を示す図である。
【図9】 図9は、ダイズ蛋白質加水分解物及び酵母抽出物の添加に加え、コムギ蛋白質
加 水 分 解 物 を も 添 加 す る 条 件 下 、 継 代 培 養 時 に お け る 形 質 転 換 CHO細 胞 の 細 胞 生 存 率 に 及
ぼすインシュリン添加量の効果を示す図である。
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(27)
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【図10】 図10は、ダイズ蛋白質加水分解物及び酵母抽出物の添加に加え、コムギ蛋
白質加水分解物をも添加する条件下、グルコースをフルクトースに置き換えた際の形質転
換 CHO細 胞 よ り 産 生 さ れ る 組 み 換 え 蛋 白 質 量 を 比 較 す る 図 で あ る 。
【図11】 図11は、ダイズ蛋白質加水分解物、酵母抽出物、コムギ蛋白質加水分解物
の三成分の添加と、ウシ血清アルブミン、フェチュイン、ヒトトランスフェリン、プライ
マ ト ン の 動 物 由 来 蛋 白 質 の 添 加 と の 、 形 質 転 換 CHO細 胞 よ り 産 生 さ れ る 組 み 換 え 蛋 白 質 量
に及ぼす効果を示す図である。
【図12】 図12は、ダイズ蛋白質加水分解物、酵母抽出物、コムギ蛋白質加水分解物
の三成分の添加と、ウシ血清アルブミン、フェチュイン、ヒトトランスフェリン、プライ
マ ト ン の 動 物 由 来 蛋 白 質 の 添 加 と の 、 形 質 転 換 CHO細 胞 の 細 胞 生 存 率 に 及 ぼ す 効 果 を 示 す
図である。
【図13】 図13は、ダイズ蛋白質加水分解物、酵母抽出物、コムギ蛋白質加水分解物
の三成分の添加と、ウシ血清アルブミン、フェチュイン、ヒトトランスフェリン、プライ
マ ト ン の 動 物 由 来 蛋 白 質 の 添 加 と の 、 形 質 転 換 CHO細 胞 の 増 殖 速 度 に 及 ぼ す 効 果 を 比 較 す
る図である。
【図1】
【図2】
10
(28)
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
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(29)
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
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(30)
【図11】
【図13】
【図12】
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(31)
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フロントページの続き
(72)発明者 渋谷 和史
日本国東京都北区浮間5丁目5番1号 中外製薬株式会社内
(72)発明者 熱海 甲
日本国東京都北区浮間5丁目5番1号 中外製薬株式会社内
(72)発明者 綱川 恵之
日本国東京都北区浮間5丁目5番1号 中外製薬株式会社内
(72)発明者 野垣 兼朗
日本国東京都北区浮間5丁目5番1号 中外製薬株式会社内
(72)発明者 フレッチャー トーマス ライド
アメリカ合衆国 92627 カリフォルニア州 コスタ メサ,リンデン プレイス 1039
(72)発明者 今田 克之
日本国東京都中野区野方3丁目14−21−414
(72)発明者 ライデルセン ビヨルン ケネス
アメリカ合衆国 92024 カリフォルニア州 エンシニタス,エオラス アヴェニュー 16
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審査官 森井 隆信
(56)参考文献 国際公開第98/008934(WO,A1)
国際公開第98/015614(WO,A1)
特開平02−049579(JP,A)
(58)調査した分野(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/00
BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN)
PubMed
JCHEM(JDream2)
JMEDPlus(JDream2)
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