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英国のEU離脱(ブレグジット)

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英国のEU離脱(ブレグジット)
PwC’s
View
経営統合
─ Post Merger Integration( PMI )
特集 :
Vol.
6
January 2017
www.pwc.com/jp
海外
英国のEU離脱(ブレグジット)
アップデート
~離脱のタイムラインと日本政府が出した
要望書について~
PwCアドバイザリー合同会社
シニアマネージャー 舟引
勇
はじめに
英国の EU離脱の国民投票、そして米国大統領選挙でトラ
1
ンプ氏が勝利したように、世界は大きく変動しています。英
EU離脱のタイムライン
~2017年3月末以降交渉開始か?~
英国メイ首相によれば、
「戦略を練るため、すぐには交渉
国の EU離脱の正式通知は現在のところ 2017年 3月末まで
に実施されるといわれており、もう近い将来それが現実にな
を始めることはしなかったがあまり先延ばしにするのもよい
ろうとしています。本稿では、EU離脱に向けたタイムライン
とは思わない」
と述べ、2017 年 3 月末までに離脱交渉を始
と日本政府が出した要望書について触れていきます。
める考えを明らかにしました。一方、11 月 3日にロンドンの
高等法院は、この「離脱通知」で英政府が EUと離脱協議を
正式に開始させる際には、議会の事前承認が必要との判断
を示しました。現在英国政府は最高裁に上訴しており、結果
は年明けの公算が高いといわれています。
メイ首相が示した方針どおりに交渉が始まれば、英国は
2019 年の 3 月末までに EUから離脱することになりますが、
交渉の難航も予想されます。またそれと並行して、英国政府
は EU離脱後を見据えて EUの既存の 2 国間貿易協定につい
て個別の貿易協定の交渉を進める準備を整えなければなり
ません。これには相当の時間がかかるものと予想され、英国
は約 40 年にわたり個別の自由貿易協定を締結していないこ
とから、英国政府の手腕が試されることとなります(図表1)。
2
日本政府から出た
英国・EU向けの要望書について
2016 年 9 月 2日、内閣官房、外務、経済産業など関係省
庁で作る「英国の EU離脱に関する政府タスクフォース」が、
英国の欧州連合(EU)からの離脱について「英国及び EUへ
の日本からのメッセージ」
という要望書を公表しました。
英文で 15 ページに及ぶ要望書では、離脱交渉に向けて
英国とEU双方に具体的な要望が列挙されています。英国・
EU間の無関税の維持や、銀行免許が EU域内で有効な制度
の継続、労働力を確保するための移民制度の維持などが要
求されており、その上で、英国で EU の法律が無効になれ
ば、英国に欧州本部を置く日系企業は、その機能を欧州大
陸に移す可能性があると指摘しています。言い換えれば、こ
PwC’s View — Vol. 06. January 2017
51
海外
図表1:ブレグジットプロセス 概要~ 他のEU諸国の主要な政治イベントと同時並行で行われます
EU離脱に関連する動き
2016年2月2日
2016年6月23日
ドナルド・トゥスク
が E U 、U K の 改 革
案を発表
2017年第1四半期?
英国のEU離脱の是非を問
う国民投票実施。結果は
離脱が過半数を占める
2016年2月19日
2016年7月13日
キャメロン首相が
サミットにて、EU
首 脳 陣とU K 改 革
案に最終合意
英国とEUの将来的な関係の交渉には2年以上の時間がかか
る可能性がある。
タイミングについては不確実性が伴うが、
5~10年の期間が必要と予想される。英国は長期間かけて主
要貿易相手国と個別に二国間協定を締結していく
2017年第1~2四半期
英保守党新党首にメ
イ氏が選出、新首相に
就任。キャメロン首相
が辞任
2016
▼
2019年以降
英国政府が欧州理
事会にEU離脱の意
向を正式に通知
2019年第1四半期
欧州理事会と英国が離脱につ
いて正式に交渉を開始。英国が
EU加盟国と個別に二国間協定
の交渉に入る可能性あり
2017
▼
離脱完了?
2018
▼
2019
▼
2020
1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月 1月 2月 3月 4月 5月 6月 7月 8月 9月 10月 11月 12月
EUにおける政治的日程
2016年1月
2017年第4四半期
2016年7月
オランダが欧州理
事会の議長国に
就任
スロバキアが欧州
理事会の議長国
に就任
2016年5月
ドイツ議会選
2017年1月
マルタが欧州理
事会の議長国に
就任
ロンドン市長選
2017年第2四半期
フランス大統領選
2018年1月
エストニアが欧
州理事会の議
長国に就任
2018年7月
ブ ルガリアが 欧
州理事会の議長
国に就任
2018年第2四半期
イタリア総選挙
2019年1月
オ ーストリア が
欧州理事会の議
長国に就任
2019年5月
欧州議会選挙
2019年7月
2019年第4四半期
スペイン総選挙
2020年第2四半期
ルーマニアが欧
州理事会の議長
国に就任
英国総選挙
主な不透明要因:英国の離脱後の要求に対するEUの反応、地政学上の展開、経済情勢
れらの要望事項が日系企業への影響に関する項目と考えて
等多方面からの視点で比較検討し、有益なアドバイスとなっ
よいかもしれません。
ています。各企業によって置かれている状況は異なります
日本政府としても要望書を出すだけでなく、今後の政策や
が、ぜひ、何かご質問ありましたら、ご連絡のほどお願い申
アップデートにも役立つよう、日本企業へ働きかけ、協議し
し上げます。また、新しく、EU離脱によるサプライチェーン分
ていきながら動いていると思います。個別企業のみであれ
析のツールが構築されました。これについてもぜひ一度ご検
ば影響力は小さいですが、束となって政府と一丸となって取
討ください。
り組むことによって、実現可能なことも多くあると思います
(図表2〜図表5)。
3
おわりに
舟引 勇(ふなびき いさむ )
PwC Japan グループのブレグジットアドバイザリーチーム
は、日系企業に対してさまざまなアドバイスを提供していま
PwCアドバイザリー合同会社
シニアマネージャー
E-mail:[email protected]
す。すでに、複数の日系企業への離脱シナリオに基づく影響
HP:http://www.pwc.com/jp/ja/the-eu-referendum.html
度分析と、拠点移転に関するアドバイスを実施しています。
EU離脱(ブレグジット最前線)
ツイッター:
その中では、戦略・ビジネスモデル・税務ストラクチャ・規制
https://twitter.com/PwC_JP_Brexit
図表2:英国及びEU双方への要望事項~総論的事項
要望事項
詳細
英国・EU間の離脱交渉の動向の明確化
✓離脱交渉の先行きの不透明さが為替や株価等の金融為替市場や企業活動に影響を及ぼすことから、英国とEUの
交渉状況・見通しに係る時宜を得た定期的な情報の提供
制度変更時の十分な移行・周知期間の設定
✓離脱による制度の変更に当たっては、十分な移行・周知期間を含む激変緩和措置を要望
英国・EU間の市場の一体性の確保
✓英国・EU間の市場の一体性ができる限り保たれることを要望
自由貿易体制の維持
✓日EU・EPA交渉の本年のできる限り早期の大筋合意
✓自由貿易の推進は活発な企業活動及び良好な政府間関係の維持に極めて重要。離脱がグローバル経済における
自由貿易環境を損なうことにつながらないことを要望
✓離脱に伴う日 EU・EPA交渉の遅延を懸念。日 EU・EPA交渉の本年のできる限り早期の大筋合意を目指すことを
要望
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PwC’s View — Vol. 06. January 2017
海外
図表3:英国及びEU双方への要望事項~個別論点
モノ・サービス
要望事項
詳細
現行の関税率や通関手続等の維持
✓英・EU間の貿易の無関税の維持
✓新興国から英国及びEUへの輸入に対する特恵関税(0%)の維持
✓AEO(認定事業者)に関する相互承認の枠組みの維持
✓動植物や食品等の検疫制度の維持
✓その他、英・EU間貿易の通関手続の追加的な負担の抑制
労働力
英国籍・欧州大陸籍の労働者へのアクセスの ✓特に企業で現に働き、またこれから働く人々の地位が守られること
維持
資本
国境を越えた投資・サービスやグループ企業 ✓配当課税などグループ企業間の資金移転に係る非課税の維持
間を含む資金移動の自由の維持
✓離脱前に認められていたライセンスの維持
規制
原産地規則の累積規定の導入
✓EU離脱後も、原産地規則の累積規定の対象国とすることを要望
金融単一免許制度を含む金融サービスの提 ✓単一免許制度の適用継続
供及び設立・開業に関する自由の維持
✓単一免許制度が適用継続されない場合、十分な代替措置や関連制度変更等の内容の早期
明確化と一定期間の猶予・準備期間及び激変緩和措置
情報保護の水準とデータ移転の自由の維持
✓情報保護の水準とデータ移転の自由の維持
✓日・英・EU三者間でデータ移転の円滑化に関する緊密な連携
統一的な知財の保護
✓権利者に不利益が生じないよう、離脱後も英国及びEUにおいて統一的に保護されること
英・EU間の規制・基準の維持(既に確立して ✓ EUで現在適用されているEN規格、CEマーク、REACH、RoHSや GMP(優良製造所基準)、動
いる相互承認や同等性の枠組みの維持を含
植物検疫や食品安全の分野等の規制・基準の英国における継続的適用(又は同等の規制・
む。)
基準の採用)
✓第三者認証機関の相互承認の担保
ユーロ決済センターの機能、欧州医薬品庁等 ✓ユーロ決済センター機能の立地の自由、現在の枠組みの維持
の英国内EU機関の立地等の利便性確保
✓欧州医薬品庁(EMA)の立地や英・EU間の認証制度の維持
EU研究開発予算へのアクセス、日 EU共同研 ✓EUからの離脱後も引き続き研究開発に参画できること
究開発への英国の関与
✓日EU間の共同研究開発が、今後も引き続き英国関係者が関与できるような枠組みの構築
図表4:英国のみに対する追加的要望事項
要望事項
詳細
モノ・サービス
関税や税関手続等の負担の無い物品貿易の ✓EU共通関税から外れた英国がEU域外国に適用する関税水準を可能な限り低く設定すること
自由
✓離脱後も英国が貿易円滑化のために我が国との AEO(認定事業者)に関する相互承認の枠
組みや水際取締り等のための情報交換枠組みを維持すること
労働力
必要な技能を持つ労働者へのアクセスの維 ✓銀行等の高度技能人材の受入れを可能にする移民制度の維持
持
✓発電所建設等に従事する労働者の受入れを可能にする移民制度の維持
規制
外資参入に係る基本政策の維持
✓英国が原発建設、上下水道、ゴミ焼却・発電事業等の分野につき、引き続き参入障壁を設け
ることなく外資開放に係る基本政策を維持すること
投資促進策の実施
✓英国がより魅力的な市場になるような規制緩和などの更なる投資促進策
✓外国人労働者に対する査証手続上の配慮
✓英国が投資先としてより魅力的な市場になるよう規制緩和などの投資促進策を期待。他方、
離脱により英国に EU法が適用されなくなれば、英国に本社機能を有する企業は、本社機能
を大陸欧州に移転する可能性
独自のデータ保護法制を制定する際の情報 ✓ EUのデータ保護法制から外れた英国が定める独自のデータ保護法制により情報の自由な移
保護の水準とデータ移転の自由の維持
転が阻害されることを懸念
英国の独自規制・基準のEUの規制・基準との ✓離脱後、EN規格(欧州統一規格)等とは別に、英国のみに適用される規制・基準に基づき認
整合性の確保
証等を受けることに伴う事務負担が生じないこと
✓英国が EUの薬事規制とは独自の枠組みを設けることにより、英国が薬事規制の国際的調和
に向けた取組、GMP(優良製造所基準)相互承認や欧州医薬品庁における承認制度の枠組
みから外れることになり、英国における薬事承認プロセスの煩雑化・長期化及び事務負担の
増大を懸念
英国研究開発予算へのアクセス
✓離脱後に英国が EUからの補助金を得られなくなる場合、英国からの補助金など代替的な研
究開発支援策の実施
図表5:EUのみに対する追加的要望事項
規制
要望事項
詳細
単一免許制度に係る経過措置等の導入
✓日系企業が、単一免許制度に基づき、英国拠点を通してEU域内に設立した拠点についての
グランドファザリング(経過措置)を要望
✓仮に EU域内に新たな法人設立等が必要となった場合は、当局許認可の手続・期間に係る正
確な情報提供、負担軽減措置等が確保されることが重要
PwC’s View — Vol. 06. January 2017
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PwCあらた有限責任監査法人
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