Comments
Description
Transcript
Page 1 Page 2 家族システムの歪みによって 引き起こされる問題性
\n Title Author(s) Citation 家族システムの歪みによって引き起こされる問題性につい て 原, 英樹; Hara, Hideki 神奈川大学心理・教育研究論集, 30: 27-34 Date 2011-03-31 Type Departmental Bulletin Paper Rights publisher KANAGAWA University Repository 家族システムの歪みによって 引き起 こされる問題性 について 原 英樹 や対人関係作 りな どが妨 げ られ て,多 くの心理 1.は じめに 臨床 的問題 が発生す ることが明 らかになってい 著 しい経 済成長 によ り,工業化や都市化が進 る ( F ri el良Fri el ,1 998) 0 そ こで,本論文では,上記 の家族 システムに 行す る中で,家族の形態が大 きく変容 し, この よ うな動 きにつれ て,離婚率の増加や子供 たち おける構造的な歪み とそれ によって引き起 こさ の情緒や適応上の問題の多発な どが顕著 とな り, れ る様 々な障害や心理臨床 的問題 を概観 し,そ 家族 関係 に焦点 を当てた家族臨床 心理学が注 目 の家族 の在 り方や その中で展開 され る関係性 を 集 めるよ うにな った ( 平木 ・中釜 , 2006)0 把握す ることの意味 を再検討 していきたい。 家族 システム論 な どに代表 され る家族臨床 心 理学は,個人が過去 に受 けた心的外傷 に着 目す るだけでな く,家族成員 間の相互作用や コミュ 2.家族 内の不健全な役割 ニケー シ ョンの過程 を重ん じて臨床 的な問題 を F ri el良 F ri el ( 1 998) に よれ ば,不健 全 な 捉 えよ うとす るものであ る ( 亀 ロ,1 992)。 こ 家族 では,各成員が担 う役割 に柔軟性 がな く, の よ うな心理学 の円環的認識論 では,夫婦 間の 特定の人物 に偏 った役割や責任 が課せ られ てお 関係性の問題 に よ り子供 の非行 が発生す る とい り,以下のよ うな適切 さを欠 いた様 々な役割が う一方 向的な因果関係 を把握す るだけでな く, 存在 していることが述べ られ ている。 子供 の非行対応す ることに忙殺 され ることで, ( 1) ドゥア- ( TheDo-er) その夫婦の疎遠 な関係 が表面化せず に維持 され ているとい う異 なる視点か らの因果 関係 に も 目 この役割 を果たす人物は,家族の主な仕事や を向けることになる。言 い換 えると, これ は, 機能 を一手 に引 き受 ける傾 向が強 く,時に疲労 家族 を一つの有機的なシステム とみな し,各 々 や空虚感 を持つ ことがあって も,他者 の役 に立 の成員が相互に影響 を及 ぼす複雑 な因果 関係や つ とい う満足感や責任感 か ら労苦 を厭 わず,食 力学関係 に視点 を据 えて,様 々な問題発生のメ 事や炊事か ら,家族成員 の細々 と した世話 まで カニズムや治療法な どを探 ろ うとす るものであ し続 けることになる。 る ( 亀 口,1 992) ( 2) イネイブラー ( TheEnabl er) さて,家族 システムに歪みが見 られ る不健全 な家族 には,適切 でない世代境界,特定の家族 あ らゆる 自らの犠牲や努 力 を以 って,家族全 成員 に偏 った役割や責任 ,問題性 の否認 な どの 員 をま とめあげ るとす る役割 である。家族 内の 不合理 な家族 間のルール な どが示 され てお り, 争 いを諌 めた り,発生 している問題 が表面化 し それが原因 とな り,正常な コ ミュニケー シ ョン ないよ うに常に配慮 しなが ら行動 してい くこと -2 7- 神奈川大学心理 ・教育研 究冷塊 第 30号 ( 20日年 3月 31日) になる。 Kritisberg (1985) の論 じる ところに よる と,不健全 な家族 では,各 々の成員が前記 の よ ( 3) ロス トチャイル ド ( TheLostChjl d) うな役割の,一つの役割,あ るいには,複数の 一人 で遊ぶ,部屋 に閉 じこもるな どの孤独 な 役割 を担 っていて,家族 内の力動性 の変化 が生 行動 を特徴 と し,家族 か ら自らの存在 を消すか じると,異 なる役割 へ と役割 を変 えてい くこと らの よ うに逃避す る形で機能不全状態の家族 に も少 な くない とされ ている。 また, これ らの役 対応 しよ うとす る。 割 の機能的意味 を考察す る と,ある種 の問題 を 抱 える家族が,真 の問題性 を覆 い隠 しなが ら, ( 4)英雄 ( TheHer o) 現状の家族 間の力動的安定性 を維持す ることに 不断の努力 によ り社会や学校 な どで成功,宿 躍 を示 し,不幸な状態にあ る家族 に名 誉や誇 り Kritisberg, 資す ることが明 らかになっている ( 1 985)。 を与える重い責任 を引き受 ける存在 である。 3. 不適切な家族内のルール ( 5 )マスコッ ト ( TheMascot) 自分 自身の辛 さや孤独 な どの感情表現 を抑 え Kri tisberg ( 1 985) や緒方 (1 996) に よ り, て,常にお どけた言動 で家族 を陽気 に させ よ う アル コール依存症 を始 め と した家族 システムに とす る道化師的役割 である。 歪みがある機能不全家族 には,混乱 した家族 内 に一定の秩序付 けを為すべ く,以下の よ うな適 ( 6 ) いけにえの羊 ( TheScapegoat) 切性 を欠いたルールが用い られていることが論 非行や犯罪 ,アル コール依存な ど社会的に問 じられ ている。 題 のある行動 を起 こ して,家族の厄介者 を体現 す ることにな る。他 の家族成員か ら 「 あいつが ( 1 )硬直のルール いなければ, この家は平和 なのに ・・ ・」な ど アル コール依存者 な どの問題行動 を示す者 を と非難 の的にな り,家族 内の問題や矛盾 を引 き 抱 える家庭 では,その者 が家族 内で暴れ た り, 受 けることになる。 暴言 を吐いた りす るよ うな不測の事態 に対応 し て家庭 を維持 しよ うと,常に身構 えて硬直性 の ( 7)プリンセス ( Dad's li ttl ePri ncess) 高い言動で発生す る事態 に対応 しよ うとす る傾 父親や母親 のパー トナー的な役割 を演 じる役 向が強い。 この よ うな対応姿勢 は柔軟性 を欠 く 割である。子供 らしい感情や意志の表現 を抑圧 ものであるため,事態の本質的な転換や変化 に し,親 に合わせた行動 をと り続 けることで,成 は対応 で きない ことが多い。 長 してか らも他者 か ら虐待 の被害 を受 ける傾 向 が強い。悪化 した事例 では,子供 たちが精神的 ( 2) 沈黙のルール アル コール依存者 の家族 は,家の中で起 きて な近親相姦的な役割 を強い られ,深刻 なス トレ ス障害 を被 ることもある。 いる受 け入れがたい事態 を部外者 に対 しては も ( 8) 聖者 ( TheSai nt) い とい うルール に縛 られ てお り,家族が問題 に ちろん,家族 内で もそれ を話題 に してはな らな 家族 内の暗黙の期待 に こたえて,聖職者 よ う な,常に正 しく酒新 で精神的に価値 の高い崇高 対 して積極的に取 り組む きっかけが得 られ ない とされ ている。 な行動 を体現す る役割 である。 -2 8- 家族 システムの歪みによって引き起 こされ る問越性 について ( 3 )否認のルール ( 2 )弱過 ぎる世代境界 家庭 内に依存症 な どの問題 を示す者がいる機 両親 と子供 との世代境界が弱す ぎて,子供 が, 能不全家族 では,家族成員 が家族 内に問題 が存 大人の役割や責任 を果たす ことを求め られ ると, 在す ることや事態が悪化 してい く現実 を一切認 子供 らしい感情や欲求 を持つ ことが妨げ られ て, めない とす る原則に基づいて行動 し, 自分 たち 大 きな心身的ス トレスを受 け ることが示 され て の家族 には問題 がない と装 うことで,根本的な いる。時には,肉体的な近親相姦,精神的な近親 変化 の必要性 を否定 しよ うとす るのである。 相姦な どに至る深刻 なケース も報告 されている。 F ri e l&F ri el( 1 9 9 8) に よる と,不健全 な ( 4) 孤立のルール 飲酒 な どの家族 内の問題 が,家族 以外の周囲 家族 では,強過 ぎる世代境界 ,あるいは,弱す の者 に知 られ ないよ うに,問題 を抱 える家族 の ぎる世代境界が見 られ るか,または,両者 の間 者 が他者 との親密 な交流 を拒 も うとす る行動傾 を行 き来す るな ど,柔軟 に状況に応 じて適度 な 向で,他者 との交流が妨げ られ ることで,適切 距離感 を保 った形 で対人関係 を持つ ことがな さ な関係性 を築いてい く上で大きな障害が生 じる。 れ ていない と指摘 され ている。つ ま り, この よ うな家庭 は,家族成員 が適度 な関わ りを維持 し 上記のル ール は,依存症 な どの問題 を抱 える なが ら,家族全体 と して一 体感 を保 つ ことが出 家族 が,混乱 した事態 を緩和 して家族 内に安定 来ず,その家庭 で生活す る子供 たちが適応 的な 性 をもた らそ うとす るものであるが,その試み 集団生活 を営むための養 育的環境 に欠 けている も家族 システムの歪み を根本的に修正す ること ことを意味 しているのである。 には至 らないた め,事態 を建設 的な方向- と導 くことにはつなが らない ことが論 じられ ている ( K rl t i s b e r g ,1 9 8 5 ) . 5. 家 族 内 に 見 られ る三 角 関 係 の 問 題 性 1 9 8 4 )は,家族 臨床 心理学の理論家 で 遊佐 ( B o w e n )や ミニューチン ( ML n U C hi n ) あるボーエン ( 4. 不 適 切 な世 代 境 界 な どによる家族 システム論 を基 に,以下の よ う F ri e l& F ri el( 1 9 9 8)揺,不健 全な家族 で 紘,両親 と子供 たちとの世代間の境界 に以下の に,不健全な家族 内に起 こる三角関係的 な問題 を明 らかに している。 ボーエンによれば,二者間の融合性 に関 して, よ うな問題性が見 られ ることを指摘 している。 近親性 -の欲求 と適度 な対人的距離感 の維持 と ( 1)強過 ぎる世代境界 い う背反す る感情 を適切 に コン トロール しなが 両親 と子供 との世代間の境界が,強過 ぎる家 ら,安定 した関係 を維持 してい くことが難 しい 庭 では,親 と子供の間の精神的,物理的な交流 状態にある場合,第三者 を巻 き込んだ,三角関 が妨げ られ る傾 向が強い ことが明 らかに され て t ri a n gl e) と呼 ばれ る新 た な対 人 関係 的 係 ( いる。 両親 と子供 との問に遊びや話 し合 いな ど システムを構成 しよ うす る傾 向が強 くな る とさ の深い関わ りがな く,親の厳然 とした姿勢のみ れ ている。 が示 され る場合 , 子供 は両親の暖かい養育性 を とりわけ,緊張 した二者 関係 に対 して,不満 感 じ取れず,孤独感 に さいなまれ ることが論 じ をよ り強 く感 じる者 が,新 た に引き入れ た第三 られ ている。 者 との間に融合 関係 を結ぶ傾 向が強 く,取 り残 され た一人が遊離的な状態に移行す る とされ て いる。 この よ うな三角化 のシステムによ り, - -2 9- 神 奈川 大乍 心理 ・教育研 究論姓 時的 には二者 関係 で発 生 した緊張 関係 が緩 和 さ 第3 0号 ( 2 0日年 3) 」31日) ( 1)父親孤立型 システム れ るものの,遊離 的 な状態 にな る者 が疎外感 を 日本 の平均的 な家庭 では,父親 は職場 で機 能 感 じるな ど,別 の対人関係 的問題 が生 じて,安 す るこ とが最優 先 され ,家庭 内の役割や存在感 定 した関係性 が本 質的 に構 築 され るには程遠 い が軽視 され る傾 向が強 く,父親本 人が 自覚す る 状態 である と論 じられ てい る。 しないに関わ らず ,心理 的,情緒 的 に孤 立 した また, ミニ ューチ ンの家族間の提携 と機能 に 関す る見解 に よる と,家族 内の三者 の関係性 で 状態 にな り,結果的 に,母子 が密着 した関係性 を築 くとい う問題 が発生す る こ とが多 い。 は,強 い提携 関係 を結ぶ二者 と遊離状態 にある 者 が組 み合 わせ され て,い くつかのパ ター ンが ( 2) 迂回攻撃 型 システム 葛藤や トラブル を抱 えた夫婦が問題 に直面せ 形成 され てい る こ とが明 らかに され ている。 ず ,非行 な どの問題行動 を示 す子供 を攻撃す る ( 1 )片親 と子供 の強 固な融 合性 パ ター ンである。 子供 を共 に攻撃す るこ とであ 片親 が,た とえば父親 な どが不在 であるな ど, る種 の疑似 的連帯感 を持 つ こ とにつ なが り,一 何 らかの理 由で家庭内の役割や存在感 な どを示 時的 には,彼 らの間の疎遠 な関係 を希 い隠す こ せ ない状況 あ る場合,そのパー トナー であ る母 とにな るが,根本 的 な改善にはな らず,問題 が 親 は,夫か ら得 られ ない親 近感や 協力 な どを子 繰 り返 され る。 供 に求 め るよ うにな り,不満 を感 じた一方 の親 と子供 との問に強 い融合 関係 が築 かれ る。 しか ( 3) 迂回保護型 システム し,残 され た も う一方 の親 が孤立 した状態 にな 前述 の よ うに夫婦 間の葛藤 が見 られ る場合 で り,本質的 に安 定 した関係 を形成す ることに は も,子供 が病気や 障害 を持 ってい るよ うな事例 至 らない とされ てい る。 では,子供 を保護養 育す るた めに,彼 ら自身 の 関係性 の問題 を棚 上 げに して, 協調 しあ うこと ( 2) 迂回連合 が多い。 この よ うなケースで は, 当座 の連帯感 両親 間に解 決 され ない強 い葛藤 関係 が存在す が もた らせ られ るが,本質 的 問題 が隠蔽 され て る場合 に,両者 が子供 の非行な どの問題性 を共 いるこ とに変わ りはな く, 当事者 がその問題 に に批判 す ることで,あたか も連合 関係 を持 つか 気 が付 く機 会が 中々得 られず に,真 の関係性 の の よ うな姿勢 を示す こ とを意味 してい る。 この 改善が進 まない ことが多 い と指摘 され てい る。 関係 を,両親 の 側 か ら見 る と,子 供を非難す る とい う間接 的な方 法で連合性 を示 してい ると解 ( 4) 分裂型 システム 釈 され ,他方 ,子供の側 か ら見 る と,子供 が非 夫婦間が疎遠 で, 子供 が複 数 いる家庭 にお い 行 を行 うこ とで,両親 の不和 を顕在化 させ ない て,それ ぞれ の親 が,別 々の子 供を味方 につ け よ うな機能 を果 た している と理解 され るのであ て対立関係 を生 じるパ ター ンであ る。 両親 た ち る。 が問題 を顕在化 させ ない場合 には,家族 の分裂 が回避 され るが,それ が表面化 す るよ うな事態 6.亀口による歪んだ家族システムの類型 に至 る と,離婚 や別居 な どを引 き起 こす ことも 多 いO 亀口 ( 1 992) は,上記 の よ うな歪 んだ家族 シ ステ ムにつ いて,我が国の社会や家庭 の実情 を ( 5) 世代断絶型 システム 両親 の世代 と子供 た ちの世代 との間に,人生 踏 まえて研 究 を進 め,以下の よ うな よ り詳細 な 類型 を明 らかに してい る。 や行動 に関す る価 値観や規範 意識 な どの著 しい -3 0- ' #族 システ ムの歪み によって引 き挺 こされ る間越作 について 隔た りが見 られ ,それが固定化す る と,親子間 7. 家族 システムの歪み と共依存関係 の親密 な交流が妨 げる要因 となることが知 られ ている。 依存症 は,社会生活や対 人関係 な どに繰 り返 し重大な障害 をもた らす悪癖 であ り ( 信 田,20 ( 6 )離散型 システム 00),物質 に対す る依存 と してのアル コール依 上記の世代間の断絶 に加 えて,夫婦間,子供 存症や薬物依存症 ,プ ロセ ス ( 行為過程) に対 たちの同世代のサブシステムに も亀裂が見 られ す る依存症 と してのギャンブル依存症,買い物 るケースで,一人一人が単なる同居人のよ うな 依存症,窃盗癖 ,また,人 間関係 の依存症 とし 形で暮 らし,家族 内の一体感,所属感が薄れ て, ての共依存症,恋愛依存な どがある とされ てい ま とま りのない状態 になる。都市化 した近代的 る ( 斎藤 ,2009)。 代表的な依存症 であるアル コール依存症 とそ な生活スタイル の中で,過度 な個人の権利や多 様性 が強調 され過 ぎた家庭 で多発 しやすいシス の家族 に関す る知見 を鑑み ると,依存症 は,世 テムの歪み であ ると論 じられ ている。 代 を超 えて伝播す ることが捉 え られ ていて,そ のよ うな依存症者 を生み出す家族 システムには, ( 7)密着型 システム 特徴的な問題 が見 られ るとされ ている ( 斎藤, 離散型 と対極 にある家族 システムで,家族 の 2009) 0 成員全員 が心理的に過度 に密着 し過 ぎるため, さて,対人関係 の依存症 である共依存 は,ア 成員の一人に問題 が起 こると家族全体 に動揺や ル コール依存患者 の夫 とそれ を支 える嚢 との依 葛藤 が伝播す る傾 向が強い。世代間の境界,同 存的な対人関係 を表す概念 として生 まれ, 当初 世代サブシステ ム間の境界共に唆味で,個人 と はアル コール依存症 な どの噂好者が生み出 され しての分化度が未熟 であるため,その中で暮 ら る家族 関係 な どを対象 と した ものであったが, す成員は, 自他 の区別 が出来ず に適切 な対人関 近年 では,アル コール依存 ,噂好な どの枠 を超 係 を形成す ることが困難 になると指摘 され てい えて,前述の よ うに機能不全状態にある様 々な 家族 間に見 られ る依存 関係 な どにも適用範 囲が る。 996;信 田,2000) 0 広げ られつつある( 緒方 , 1 ( 8) 均衡型 システム この よ うな近年 の状況 を踏 まえて共依存の定 この家族 システムは歪みがな く,理想的な状 義 を見てい くと,その問題 は, 自己中心的で思 態 を表 しているO各々の家族成員 間に適度 な距 慮 に欠 ける行動や,社会や対人関係 に支障 をき 離感 があ り,世代間の境界や同世代サブシステ たす よ うな問題行動 で他者 を振 り回す者 と,そ ム間の境界の双方が維持 されている。相対的に, の よ うな社会生活 に破綻 をきたす よ うな問題行 家族 内の力動性 がバ ランスよく配置 され ている 動 を続 ける者 に対 して,一 方的な世話や援助 を 健全 な家族形態 であると言 えるのである。 行 うことに没頭 し続 けるこ とで相手 を無意識的 に支配 しよ うとす る者 との二者 間の依存関係 で 前述の よ うに,問題のない均衡型 を除いた, あ り,互いに嫌悪感 ,憎悪や憎 しみ な どを抱 き 家族 システムの歪みが示 された様 々な類型では, つつ も相互 に離れ られ ない深刻 な関係性 の病理 何 らかの形で家族間の適切な交流や コミュニケー 997) 0 を表す ものである とされている ( 斎藤 , 1 シ ョンが妨 げ られ るな ど,様 々な心理臨床的問 1 997) は,アル コール依存者 の さて,斎藤 ( 題 の発生につながる要因が形成 され ていること 夫 とその妻 の間に存在す る共依存的関係 を典型 992) 0 が明 らかに され ている ( 亀 口, 1 例 と して取 り上げ,その依存者 である夫は誰の 目に も明 らかな形 で社会生活に支障のある行動 ー 31- 神奈川 大学 心理 ・教 育研 究論塊 を示す ことになるために,その本人の問題 は, 第 30号 ( 2011 年 3J I J3L日) るのである。 色 々な面で幅広 い注 目を集 めるが,一方,生活 破 たんを引き起 こす夫 を支 え続 けている妻 に関 しては,その問題性が顕在化 しないため,近親 者 は もちろん,親 しい周囲の者 に も周知 され難 8.円環的因果律による問題考察の重要性 亀口 ( 1 9 92)によって述べ られているよ うに, くく,反対に, 甲斐 甲斐 しく夫 を支 える愛情深 家族臨床心理学の円環的因果律 による問題行動 い人物 として称賛 され ることも少な くない こと の考察は,両親 の不和 に起因 した子供 の養育時 を論 じている。注 目すべきは,一見す ると,悲 における協力性 の欠如 によ り,非行が発生 した 悲深 く捉 え られ る妻の行動 も,別 の視点か ら見 とい うよ うな親 か ら子供 への一方 向的な影響 を る と, 自分がいない と生活が困難 となる夫 を支 考察す るだけでな く,他方,子供 の非行によ り, えることで, 自らの存在意義 を確認 し,他者 を 両親 がその対応 に追われ る結 果,親 たちの疎遠 コン トロールす る欲求 を満たそ うとす ることで な関係 とい う問題性 が緩和 され,覆 い隠 され る あるこ とも多 く,結果的には,支 えす ぎる妻の とい う子供 の行動が両親 に与 える異なった方 向 過度の保護的な行動が,夫の問題行動 を維持す 性か らの影響 をも検討す るのである。 つま り, ることに貢献す るいわゆる "ィネ ー ブラー ′ ′ 円環的因果律 による問題考察 では,家族 を有機 と呼ばれ る問題行動 を体現す ることに他 な らな 的につながっている一つのシステム とみ な し, い と解せ ることなのである ( 斎藤,1 997) 0 家族成員間の相互力学や関わ り方の複雑 に連鎖 上記 のよ うに,共依存状態が展開 されてい る 家族 システムの中で育つ子供たちは,両親 間に した作用過程 を詳細 に分析 して,心理臨床的問 題性 の発生や対応 を考 えてい くのである。 示 され る対人関係 のや りと りを見聞 きす ること とりわけ,問題行動を為す者のパーソナ リティー で,上記のよ うな問題性の高い対人関係や コミュ や,その人物が過去に被 った心的外傷 な どの個 ニケー シ ョンの持 ち方な どを身につけることが 人的観 点に焦点付 けを行 って も,その発生の原 知 られ てお り,その結果,夜尿症 ,不登校 ,秦 因や メカニズムが明確化 できないよ うな事態 に 庭 内暴力,非行,食行動異常な どの症状 を呈す 対 しては,その問題行動の本質的理解 を促進す ことが知 られ ている ( 斎藤 , 1 986)。 中で も, るため,当該人物の家族 システムについて,円 アル コール依存症 な どの機能不全家庭 で生育 し 環的因果律的観点か ら,その問題性の考察 を行 た女子は, 自分の父親 と同様のアル コール依存 うことが重要 となることも多 い と考 え られ る。 症者 な どを人生のパー トナーに選択 し,一方的 斎藤 ( 1 996)によれば,非行や不登校 な ど一見 な世話 を し続 けるよ うな夫婦関係 を形成す る割 す る と個人的な原因によるもの と思われ る心理 合が高いことが示 され てお り,依存症 な どの問 臨床的な問題 も詳細 に考察 してみ ると,その問 題 を抱 えた歪 んだ家族 システムは世代 を超 えて 題 が家族 システムの歪みに起因 していて,偏 っ 伝播 してい く傾 向が強い ことが指摘 され ている た形 で背負 わ され ている責任や役割 の重 さに耐 ( 緒方,1 986,斎藤,1 98 4)。 えきれ な くなった特定の個人が,アイデ ンテ ィ 前述の知見や論議 をま とめると,共依存関係 I P) と して ,何 ら フ ァイ ド ・ペ イ シャン ト ( で生育す る子 どもたちは,親の世代か ら歪んだ かの形 で問題行動 を起 こ し,その家族全体の構 対人関係や コ ミュニケー シ ョンを学び取 り, 自 造的問題 に響鐘 を鳴 らしてい るものであると解 らの世代でその共依存 関係 を再生産す る傾 向が 釈 され る事例が見 られ ると指摘 され ている。 強 く,共依存 は世代間 を超 えて継 承 され る簡単 そ こで,い くつかの問題行 動の事例 を円環的 には根絶 できない,歪んだ家族 システムによ り 因果律的立場か ら考察す ると,以下の よ うに家 媒介 され た根深 い対人関係 の病理であると言 え 族 システム上の問題 点が焚 り出 され ,また, そ -3 2- 家族 システムの歪み によって引き起 こされ る問題性 について の よ うな問題行動が システムの歪みに起因 した リテ ィーや心理的外傷 な ど対す る考察 を進 めて ものである と判 明す ることも珍 しくないことが も,問題 の発生原 因や介入的 アプ ローチ を充分 分か るのである。 に見出す ことが難 しい よ うな場合,その本質的 ある児童期の女子学生 を例 に とると,その子 理解 を促進す るために,家族 を一つの システム は常に明 る く,快活で,新 聞配達か ら一家の家 とみな して,その成員 間の複雑 な交流や力学的 事炊事 をも一手 に担 い,親代わ りに弟たちの世 作用 を重ん じて,心理臨床的問題 を捉 えてい く 話 まで しっか りこな し,学校 では, クラスでは ことが望 ま しい と言 えるではないだろ うかO 学級委員 を務 め,運動部の活動に も懸命 に参加 す る典型 的 な ′ ′ よい子 ′であ ったが,学校 の ′ 休暇 中に突然家 出を して周囲を惣 かせ た。 それ 9. おわ りに に対 して,親や教師な ど周 囲の誰 もが 「 なぜ, 人間は,固有 の気質や一人一人の独 自の体験 あんなに真面 目で しっか りした子が家出を した を礎 に成長 してい くものであ り,個人 を起点 と のか理 由が さっぱ り分 か らない。」 とい う趣 旨 してその心理的な問題 を捉 えることが重要なの の ことを異 口同音 に述べるよ うな状態にあった。 は言 うまで もない。 同時に,個人は,家族 とい 個人的な視 点か らは この事例の家出の原因は理 う相互に影響 を与 えあ う対人 関係 のネ ッ トワー 解 し難 いものであったが,彼女 の家族 システム クか ら切 り離せ ない存在 と して生育す る存在 で に視点 を据 えて問題 を考察 してみ る と,その子 あるため,様 々な問題 の発生原 因や メカニズム は,親 の期待 に応 え,遊びたい盛 りに もかかわ を的確 に把握す るためには,共 に生活 してきた らず子供 らしい欲求や思いを抑 えて,児童期 の 家族 内の役割 , ルール,世代境界,家族 の構造 年齢 に不相応 な役割や責任 を果た し続 けてきて 形態な どを丁寧 に理解す るこ とが必要 となる。 お り,その過重 な負担か ら逃げ出す唯-の方法 従 って,適切 な教育や心理的治療 を行 うために と して家出を選択 しなければな らなかった こと は,個人的な視点に加 えて,家族 システム とい が明 らかになるのである。 う観点 を しっか りと踏 まえて,心理臨床的問題 また,ある共働 きの家庭 で鍵 っ子 として暮 ら す男子児童のケースについて考 えると,その 下 性 を検討 し,その原 因や対応 を検討 してい く こ とが不可欠であると言 えよ う。 は,著 しい非行 な どの行動傾 向は一 切伺 えず, 経済的 に も何不 自由ない状態にあ りなが ら,時 文献 折万引 きを繰 り返 し,その原因が理解出来ない Fri el,J.W., a Fri el, LD. 1 998 The secret 親や教師な どを困惑 させていた。顕著な非行傾 ofdysfuncti onalfamlli es.Fl ori da: 向や経 済的な困窮状態 もない子供 が犯 したその HealthCommuni cati ons,I nc. ( 杉村省 吾 ・ 万引きも,鍵 っ子 と していつ も孤独 に放置 され 杉村栄子訳 ていたその子が,万引きす ることで,心配す る 理- うまくいかない家庭の秘密.ミネル ヴァ 親 な どの家族全員 を呼び寄せ よ うとす る試みで アダル トチル ドレンシンの心 書房版 . ) あると解釈す る と,その問題行動の原因が歪ん 平木典子 ・中釜洋子 2006 家族 の心理一 家族- だ家族 システムによるものであ り,問題 を起 こ の理解 を深 めるために- .サイエ ンス社 . す子供 は ,I Pと して家族 全 体の問題 に警鐘 を 亀 口憲治 1992 家族 システ ムの心理学 - <境 鳴 らす役割 を果 た していた と推 察す ることが可 界膜 >の視点か ら家族 を理解す る.北大路 書房 . 能 にな るのであ る。 上記 で論 じた事例 な どを再検討す ると,既 に 亀 口憲治 2000 家族 臨床 心理 学 一 子 どもの問 述べた よ うに,個人的な視点に基づ きパー ソナ -3 3- 題 を家族 で解決す る - .東京大学出版会. 神 奈川 大 乍 心 理 ・教 育研 究 論 処 第 30号 ( 2011 年 3J 」3I日) K ri t s b e r g ,l V .1 985 T h ea d ul tc hi l d r e nof al c o h ol i c ss y n d r o me As t e p by -s t e p g ui d et odiscoverya n drecovery. Fl o ri d a:He al t hC o m mu ni c ati on s ,I n c . ( 斉藤 学 監訳 ・根 伊 登恵訳 ア ダル トチル ドレンシン ドロー ム ー 自己発 見 と回復 の ための ステ ップ.金剛 出版 .) 5 機能不全家族 .講談社 . 西尾和美 200 996 アダル トチル ドレン と共依存 .誠 緒方 明 1 心書房 . 984 噂好行 動 と家族 一 過食 症 ・ア 斎藤 学 1 ル コール依 存か らの回復 .有斐閣選書 . 986 アル コール依存 に関す る 1 2章噂 斎藤 学 1 好行動 と家族 .有斐閣新書 . 997 家 族 の 中の心の病 斎藤 学 1 - 「よい 子」 た ちの過食 と拒食 .講 談社 . 09依 存症 と家族 .学陽書房 . 斎藤 学 20 9 83 家族療法入 門 - システ ムズ ・ 遊佐安 一郎 1 アプ ローチ の理論 と実際.星和書店. -3 4-