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医療の質を高める 「患者満足度調査」の実際 医療の質を高める 「患者
医療の質を高める 「患者満足度調査」の実際 患 者 の 視 点 を 医 療 経 営 に 生 か す patient satisfaction 調査・分析 株式会社ケアレビュー 代表取締役 加藤 良平 たい」と考える人のほうが、満足度は低い 傾向が顕著に表れる(P.26 図 5)。 医療は非常に個別性の強いサービスで 図2. 急性期病院患者平均 緊急改善分野 重点維持分野 60 あり、満足度の平均値だけを見ていても、 課題は浮かび上がってこない。一人ひとり は違うということを理解し、その人が望む 方法で治療や情報提供を行うことが求め られている。 間で共有することが、職員の日々の仕事へ 供が事前に行われないことへの不満が強 患者満足度調査の課題 自動車や家電など日本の工業製品が世 のやりがいやモチベーションを高めること い。 近年、日本の病院でもバランス・スコア 界最高の品質水準を達成できたのは、 「提 につながる。 外来患者では、診察費用の説明や待ち カードなどの目標管理が普及し、患者満足 供される製品やサービスがどんなに優れ 時間の説明が課題だが、医療費や待ち時 度を 「顧客の視点」の評価指標として採用 ていても、利用者がその良さを実感でき 患者満足の全体傾向 間そのものへの不満よりも、適切な情報提 する病院が増えている。また医療機能評 なければ意味はない」という哲学にこだわ 実際の調査分析データから、いくつか 供 (いくらかかるか?、あと何人待つか?な 価機構の審査項目や、医療機能情報提供 り、品質管理にあたり「顧客志向」を徹底 ポイントをご紹介しよう。 ど)が少ないことへの不満が強い。 制度の報告対象になっていることもあり、 的に追求したからにほかならない。 ▶ 不満の傾向(図 1) ▶ 総合満足度に影響を及ぼす要因 多くの病院で患者満足度調査が実施され 医療の質というと、多くの医療者はとか 全体的に、臨床内容への不満はあまり 患者の総合的な満足度は、臨床面の影 るようになってきた。 く臨床データに目が向きがちだが、医療 多くない。多くの患者が適切な医療を受け 響を強く受け、待ち時間や接遇・サービス しかし、施設ごとの「患者満足度」をき 機関にとっての「外部顧客」である患者の て満足していることもあるだろうが、患者 面の影響はそれほど強くない。 ちんと測定するのは、困難であることも否 満足度も医療の質を測る重要なバロメー が医療の中身を評価すること自体が困難 入院患者は、 「看護師の技能」 「治療の めない。 ターであることを忘れてはならない。 であることもうかがえる。 結果」を (図 2)、外来患者は、 「診察や治療 一般的に、患者満足度調査はアンケー 同時に、 「内部顧客」である職員にとって 入院患者では、入院中のエピソードより 内容の信頼感」 「医師の傾聴の態度」を ト方式で行われるが、その人の疾患の程 も患者満足度は重要である。優秀な医療 も退院時の不満が強い傾向があり、在院 (図 3)、重要だと考える傾向が見られる。 度や経済状態、そもそもの性格や価値観 スタッフほど「お金のため」ではなく、 「患 日数の短縮に伴う適切な支援や具体的な ▶ ブランドスイッチの困難さ によって大きく左右される主観的なもので 者のため」に仕事をしたいと考えているも 情報提供が不足していると考えられる。ま 患者の再利用意向と知人推奨意向と ある。医療行為の技術や選択肢にも幅が のだ。患者の視点で医療の質にこだわる た、入院費用への不満も多いが、支払金額 の間には、大きなギャップがあることがわ あって、一概に比較できないこともあり、調 組織文化を構築することが優秀な職員を そのものへの不満よりも、 「入院費がいく かってきた。「自分は再利用するが、知人に 査結果の再現性も低く、統計的にはおの 集め、患者からの評価やメッセージを職員 らかかるのか?」といった具体的な情報提 はあえて推奨しない」 と考える人が多い背 ずと限界がある。 景には、医療においては患者のブランドス また、 “Silent customer is silent gone. イッチ(別のブランドやサービスに乗り換 (クレームを言わない顧客は何も言わずに えること)がなされにくいという特殊事情 ※ 去っていく) ”と言われるように、不満が がある。 あっても口にせず、二度と来院しない患者 とくに、外来患者は 20 ポイントほどの がいることも心しておこう。このような不満 ギャップがあるが(図 4)、 「これまでのカル を持った患者の声は通常の患者満足度調 テはこの病院にあるし、今さら病院を変 査では拾うことができないため、院内での えるのも不安だ。紹介状など費用もかかる 調査結果と地域社会におけるクチコミと し、面倒なので我慢しよう」といった気持 の間には、大きな差がある可能性も指摘さ ちなのだろう。継続的に通院している患者 れる。 図1. 患者中心の医療のポイント ■入院患者経験調査(急性期病院平均) 0 10 20 30 ■外来患者経験調査(全病院平均) 40 40.9 入院費用のアドバイス 25.6 退院後の情報提供 23.9 治療方法への関与 21.1 退院時の気配り 50 0 10 20 30 40 診察費用についての説明 51.8 待ち時間に対する説明 36.7 診察費用 34.8 待ち時間 治療の結果 21.1 会計のスムーズさ 19.6 検査や治療のスムーズさ 29.3 看護師の技能 19.6 期待通りの症状改善 28.7 17.8 診察時間 28.4 32.3 病室 17.7 受付のスムーズさ 21.9 職員の連携 17.3 医師の説明 21.5 家族への情報提供 17.2 看護師の対応 15.8 食事 15.7 病棟施設 14.5 看護師の態度 14.1 治療に関する説明 13.9 医師の態度 19.1 医師の知識や技能 171 施設 15.8 サービス 60 54.6 退院後支援への不安 看護師間の引継ぎ 50 13.9 だからといって、外で良いクチコミをしてい さらには、医療制度についての理解が るとは限らないのだ。 不十分な患者も多いため、個々の医療施 ▶ 価値観による満足度の違い 設の取組み以外に、往々にして国の政策 性別や年齢などのデモグラフィカル ( 人 や地域の医療提供体制への評価が混在 口統計的 )な属性の違いよりも、価値観の しているケースも多い。結果的に、患者満 医師の態度 12.9 違いが満足度に与える影響が強い。 たとえ 足度の施設間の有意差がはっきりと表れ 人間としての尊厳 12.6 入院手続きのスムーズさ 12.5 ば、 「なるべく安く治療を受けたい」と考え 介助の適切さ 12.5 ※企業の顧客対応に関する研究の第一人者であるジョン・グッド マンの言葉。不満をもつ顧客のうち苦情を申し出る顧客は、全 体の 4%に過ぎず、ほとんどの顧客は不満があっても黙ってお り、その 90%は二度とその商品を購入しないという。 24 CSの視点 る人や、 「治療方針に自分の意見を主張し 職員間の連携 人間としての尊厳 医師の技能 医師信頼関係 検査処置説明 医師の態度 看護師信頼関係 身体への理解 看護師引継ぎ ミス防止手順 介助の適切さ 退院後他施設情報 期待通りの症状改善 45 鎮痛への努力 家族への情報提供 検査処置適時性 退院後支援 治療方針関与 知長方針説明 看護師の回答 看護師の対応 退院時気配り 日常生活復帰説明 退院後症状説明 医師の回答 入院費用情報提供 低 入院時説明 手術目的説明 入院手続き 30 74 90 82 将来改善分野 低 満足度 現状維持分野 高 図3. 外来患者平均 緊急改善分野 重点維持分野 70 診察や治療内容の信頼感 医師の説明や 傾聴の態度 診察・治療にかける時間 診察室の設備や雰囲気 プライバシーの配慮 看護師の対応 高 受付や待合室の雰囲気 トイレや洗面所の設備 受付や会計の応対 重要度 患者満足度調査の意義 高 看護師の態度 重要度 医療機関が提供する医療の質は、アウトカム・治療プロセス・医療安全などの臨床指標だけでは測れない。 提供している医療がどんなに優れていても、医師や職員が高い知識や技術を持っていても、利用者がその良さ を実感できなければ意味はない。まずは「患者の満足度」を正しく知ること、その調査の実際を紹介する。 が病院・診療所や医療に期待していること 看護師の技能 治療の結果 掲示や案内表示 診察治療費用の納得感 50 建物の外観やつくり テレビ・雑誌等の備品 診察や会計の待ち時間 低 駐車場の広さ・入りやすさ 交通の便利さ 30 60 90 75 将来改善分野 低 満足度 現状維持分野 高 図4. 再利用意向と知人推奨意向のギャップ (外来患者) 4.5% 0.3% 0.4% 2.3% 0.4% 21.8% 外来患者 再利用意向 49.5% 45.3% 94.8% 27.4% 外来患者 知人推奨意向 75.5% 48.1% ぜひまた利用したい ある程度は利用したい どちらとも言えない あまり利用したくない 絶対利用したくない 自信をもってすすめる ある程度はすすめる どちらとも言えない あまりすすめられない 絶対にすすめたくない 医療の質を高める 「患者満足度調査」 の実際 25 patient satisfaction 図5. 価値観による満足度の違い ・高くても最新・快適な治療を希望する人=84% が満足 ・なるべく安い治療を希望する人=77% が満足 知人への推奨意向 0% 20% 高くても 良い 40% 60% 40% なるべく 安く 28% ぜひ すすめる 80% 44% どちらとも いえない 20% あまり すすめない ・自分の意見を聞いて欲しい人=75% が満足 ・信頼できる医師に任せたい人=84% が満足 100% 15% 49% 一応 すすめる ●調査用紙サンプルはそのままご利用いただいても構いません ●調査内容・分析方法・情報共有システムなど、お問合せは株式会社ケアレビュー(http://www.carereview.co.jp)まで 治療方針に対する価値観の違い 医療費に対する価値観の違い 0% 自分の 意見 医師に 任せる 絶対に すすめない 20% 40% 60% 知人への推奨意向 80% 49% 26% 1.次の質問にあてはまる気持ちに○をつけてください 40% ぜひ すすめる 44% 一応 すすめる どちらとも いえない あまり すすめない 15% 絶対に すすめない にあまり細かく尋ねても、回答率や回答内 な患者との接点を通して、医療のプロであ このような課題を踏まえれば、調査結果 容の質が低下し、調査の精度が落ちるだ る職員が患者の立場でニーズの抽出をし を他院と比較して一喜一憂するのではな けだ。 たり、現状を評価する仕組みがあれば、患 く、継続的に調査を実施してモニタリング 選択肢をたくさん設けて課題を探索す 者にはわからない「医療の質」の劣化を察 (定点観測)を行い、各部署でのPDCA 活 るよりも、不満に感じたことをストレートに 知することもできよう。各職員の患者本位 動や TQM、バランス・スコアカードの目標 記入してもらうほうが、患者が重要だと考 の意識のレベルアップにも効果があると に組み込むなど組織運営に有効に活用す えているポイントが明確になる。 ともに、患者意識とのギャップも把握でき ることが、患者満足度調査の本来あるべ ▶ 調査用紙(P.27 参照) る。 き姿だろう。同じ調査方法で推移を見守る 選択式の質問は、患者の視点でチェッ また、病院・診療所の「顧客」は、目の前 ことによって、人事や運営体制変更などの クして欲しいポイントを示し、有意義なコ の患者だけではない。同業医、救急隊、後 施策を満足度の変化によって客観的に検 メントを引き出すための誘い水となる。質 方医療機関や介護施設などからのフィー 証することが可能となる。 問は 10 問程度までに抑え、どうしても聞き ドバックを集めたり、来院しなくなった患 もうひとつの課題としては、調査をする たいことだけを毎回同じ方法で尋ねるの 者への追跡調査や、地域社会における口 こと自体が目的化し、日常の業務改善に が良い。 コミ影響調査なども検討に値する。こうし 総合的な評価は、漠然と尋ねるよりも、 た多様な目で評価し、 改善策を実施するサ 多いことも指摘しておきたい。日本の医療 「知人にすすめようと思いますか?」という 制度では、患者満足度を高めるための努 知人への推奨意向を確認することをお勧 められていく。 力やコストが診療報酬で評価されないこ めする。 この質問に対して「すすめられる」 米国や欧州では、医療機関ごとの 「医療 とも原因と考えられるが、調査結果が組織 と回答した人の割合を最終目標とするの の質」に関する評価や情報公開が進んで 的な対応や対策実施にほとんど活かされ が適当である。 いる。アウトカム・治療プロセス・医療安全 ていないのは、いかにも勿体無い。 ▶ 外部委託のメリット などの臨床指標だけでなく、国が主導して アンケートに回答してくれた人たちは、 院内でアンケートを集めると、多くの患 患者満足度(患者経験)調査の標準化を 自分が書いた意見や要望を今後の病院運 者はなかなか本音を書くことができない。 進めている国も増えている。 営に役立ててほしいと望んでいるはずで 無記名で回答先を第三者機関宛にしたほ 日本では逆に、患者満足度調査に関す ある。記入されたコメントを各部署で共有 うが、バイアスを排除できる。また、他院と る統一規準もなく、 「情報の客観性が不明 する仕組みを整備し、多くの職員がそれぞ の相対比較により自院の課題を見つけや で、誤解を与える恐れがある」という理由 れの切り口で患者の声にアクセスし、さま すいことや、調査票の制作・データ入力・集 から、患者満足度を広告に用いることは禁 ざまな改善活動の手がかりとして活用す 計作業にかかる職員の作業負担を軽減で 止されている。 ただし、 院内広報やインター ることが望まれる。 きるのも、第三者機関に委託するメリット ネット上での情報公開は自由であり、調査 具体的な調査方法 である。 結果をホームページ等で自主的に紹介し 2 3 4 5 Q1 受付や会計の応対はいかがでしたか? まあまあ 良い どちらとも 言えない あまり 良くない とても 悪い Q2 医師の診断や説明には納得できましたか? とても 良い まあまあ 良い どちらとも 言えない あまり 良くない とても 悪い Q3 看護や介助・検査の方法は適切でしたか? とても 良い まあまあ 良い どちらとも 言えない あまり 良くない とても 悪い Q4 安全面での不安を感じませんでしたか? とても 良い まあまあ 良い どちらとも 言えない あまり 良くない とても 悪い Q5 プライバシーへの配慮は十分でしたか? とても 良い まあまあ 良い どちらとも 言えない あまり 良くない とても 悪い (入院のみ) Q6 退院時の説明や情報提供は十分でしたか? とても 良い まあまあ 良い どちらとも 言えない あまり 良くない とても 悪い 該当 なし Q7 治療の結果にはご満足いただけましたか? とても 良い まあまあ 良い どちらとも 言えない あまり 良くない とても 悪い 該当 なし Q8 当院の施設や設備はいかがでしたか? とても 良い まあまあ 良い どちらとも 言えない あまり 良くない とても 悪い (入院のみ) Q9 当院の食事はいかがでしたか? とても 良い まあまあ 良い どちらとも 言えない あまり 良くない とても 悪い Q10 あなたの大切な人に当院をすすめようと思いますか? とても 良い まあまあ 良い どちらとも 言えない あまり 良くない とても 悪い 0 該当 なし 該当 なし 2.あなたが不満や不安に感じたこと、当院に改善してほしいことをご記入ください。 ではなく、情報公開することで、医療ある ▶ 調査はシンプルに 及してきたが、 「医療の質」をより適正に評 いは社会に対する真摯な姿勢をアピール いざアンケートをとろうとすると、あれも 価するためには、職員が患者の立場に立っ することも、これからの重要な活用方法で これもと調査項目を増やしがちだが、患者 て評価することも必要だ。現場での日常的 ある。 退院日 受診日 月 日 性別 1. 3階A病棟 2. 3階B病棟 3. 4階A病棟 4. 4階B病棟 5. 5階A病棟 6. 5階B病棟 7. 6階A病棟 8. 6階B病棟 9. 7階A病棟 10. 7階B病棟 1. 男性 2. 女性 年齢 歳 利用 種別 1. 入院 2. 外来 3. 検査・健診 1. 内科 2. 循環器内科 3. 神経内科 4. 消化器外科 5. 消化器内科 6. 整形外科 7. 脳神経外科 8. 心臓血管外科 9. 胸部・呼吸器外科 10. 形成外科・美容外科 11. 小児科 12. 産婦人科 13. 眼科 14. 耳鼻咽喉科 15. 泌尿器科 16. 皮膚科 17 リハビリテーション科 18. 健康管理センター 外来待ち時間 ここまで患者へのアンケートについて言 4.当院をご利用いただいた方の情報をご記入ください。 診療科 調査方法を紹介しよう。 動の成果指標として院内で活用するだけ 3.当院のスタッフへのメッセージがあればご記入ください。 入院病棟 ている病院・診療所も増えている。改善活 このような課題を踏まえた上で、有効な CSの視点 1 とても 良い イクルを回すことによって、医療の質は高 患者満足度調査の今後 26 患者さまアンケート調査 ○○○○病院をご利用いただいた皆さまへ 21% ない傾向がある。 調査の結果を活用していない医療施設が SAMPLE 100% 1. 15分以内 3. 30分以内 5. 45分以内 7. 60分以内 9. 60分以上 医療の質を高める 「患者満足度調査」 の実際 27