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yxp - 一般財団法人エンジニアリング協会
ENAA GEC2010-P5
平成 22 年度
CO 2 マイクロバブル地中貯留の成立性に関する調査研究
報 告 書
平成 23 年3月
財団法人 エンジニアリング振興協会
地 下 開 発 利 用 研 究 センター
この事業は、競輪の補助金を受けて実施したものです。
http://ringring-keirin.jp
序
本報告書は、財団法人JKAから機械工業振興資金の補助金を受けて、財団法人エンジ
ニ ア リ ン グ 振 興 協 会 地 下 開 発 利 用 研 究 セ ン タ ー が 、平 成 2 2 年 度「 C O 2 マ イ ク ロ バ ブ ル
地中貯留の成立性に関する調査研究」として検討を進め、その成果を取りまとめたもので
す。
政府は、2009年9月に二酸化炭素を2020年までに1990年比25%削減し、
温室効果ガス排出量を大幅に抑制すると表明しました。地球温暖化防止に向けた技術開発
は、火急にあると言って過言ではありません。二酸化炭素を削減するための具体的な手法
は、様々ありますが、その中でも二酸化炭素地中貯留技術については、国内外でも注目さ
れ て い る 技 術 の 一 つ で あ り ま す 。と こ ろ が 、そ の コ ス ト は 、6 ,0 0 0 ~ 7 ,0 0 0 円 / t
–C O 2 と 言 わ れ 、 実 用 化 す る ま で に コ ス ト ダ ウ ン を 図 る こ と が 課 題 と な っ て い ま す 。
また、大規模な排出源近傍での二酸化炭素地中貯留は、大量の二酸化炭素を圧入するこ
とでコストダウンを図れる長所があるものの、小規模排出源近傍からの二酸化炭素地中貯
留は、輸送コスト負担が大きくなるという短所を有しているのが実情です。また、排ガス
からCO2を分離回収する技術が、大部分のコストを占めていますが、圧入コストや輸送
コストについてもコストダウンを求められています。
マイクロバブルは、二酸化炭素を溶解する特性を持っており、マイクロバブルによる二
酸化炭素地中貯留技術は、CO2を比較的浅い塩水帯水層に貯留することが可能で、沿岸
地域に点在する中小規模排出源に対応可能であり、分離回収・圧入・運搬などのコスト削
減 が 見 込 ま れ る 斬 新 な 技 術 で す 。こ の よ う な 背 景 か ら 、
「 マ イ ク ロ バ ブ ル 」を 活 用 す る 二 酸
化炭素地中貯留技術に着目したものです。
本調査研究では、マイクロバブルによって排ガスを直接地中貯留するシステムを含め、
マイクロバブルによる比較的深度の浅い地層に地中貯留できるシステムの概念をまとめ、
システムモデルを構築し、そのシステムを可能にする地層と地域を選定し、その可能性を
追求したもので、実用化に向け、このシステムにかかわる技術的課題を抽出して整理した
ものです。マイクロバブルを活用する二酸化炭素地中貯留においては、新たなコストダウ
ンできる手法として画期的な技術であることも判明するなど、広く、社会に貢献できる成
果を挙げることが出来ました。
本調査研究は、地下開発利用研究センターの研究企画委員会の下で、学識経験者、関係
官 庁 な ら び に 当 協 会 会 員 企 業 の 専 門 家 か ら な る 調 査 研 究 委 員 会( 委 員 長
独立行政法人 産
業 技 術 総 合 研 究 所 地 圏 資 源 環 境 研 究 部 門 當 舎 利 行 主 幹 研 究 員 )と 作 業 部 会 を 編 成 し て 、実
施してまいりました。なお、本調査研究の取りまとめにあたっては、株式会社大林組が中
心となって行いました。
本調査研究にご協力いただいた関係各位に対して心から謝意を表するとともに、本報告
書の成果が各方面で有効かつ広範囲に活用されることを心より期待する次第です。
平成23年3月
財団法人エンジニアリング振興協会
会
長
増
田
信
行
平成 22 年度
CO2 マイクロバブル地中貯留の成立性に関する調査研究
委員名簿
委
員
長
當舎 利行
独立行政法人 産業技術総合研究所
地圏資源環境研究部門
主幹研究員
委
員
長田 昌彦
国立大学法人 埼玉大学 地圏科学研究センター 准教授
委
員
植村
国立大学法人 東京工業大学 大学院理工学研究科
豪
機械制御システム専攻 助教 博士(工学)
委
員
駒田 広也
(財)電力中央研究所 研究顧問
委
員
海江田秀志
(財)電力中央研究所 研究顧問 地球工学研究所
地圏科学領域 上席研究員 博士(工学)
委
員
石島
洋二
(財)北海道科学技術総合振興センター
幌延地圏環境研究所(幌延ライズ)所長 博士(工学)
委
員
平松 晋一
応用地質(株) エネルギー事業部 執行役員 事業部長
委
員
松田
隆
(株)大林組 技術研究所 副所長
委
員
小出
仁
温暖化防止地球システム㈱
委
員
中西 繁隆
電源開発(株) 火力エンジニアリング部 部長代理
局
三井田英明
(財)エンジニアリング振興協会
事
務
代表取締役社長
地下開発利用研究センター 技術開発第一部 研究主幹
委
員
佐藤 一浩
(財)エンジニアリング振興協会
地下開発利用研究センター 技術開発第一部 研究主幹
平成 22 年度
CO2 マイクロバブル地中貯留の成立性に関する調査研究
作業部会 委員名簿
委
員
長
鈴木健一郎
㈱大林組
技術本部
地盤技術研究部
技術研究所
上席研究員
委
員
松下 典史
応用地質(株) エネルギー事業部技術部 グループリーダー
委
員
下山 真人
(株)大林組 技術本部 技術研究所
地盤技術研究部
委
員
人見
尚
(株)大林組 技術本部 技術研究所
生産技術研究部
委
員
笹倉
剛
副主任研究員
副主任研究員
鹿島建設㈱ 技術研究所地下水・地盤環境グループ
上席研究員
委
員
山本 高司
川崎地質(株) 本社 技術本部 技術統括部 部長
委
員
堀川 滋雄
サンコーコンサルタント(株) 地盤調査・防災部 副部長
委
員
中野 勝志
大成基礎設計(株) 技術研究所 資源エネルギー事業部
事業部長
委
員
小川 豊和
大成建設(株) 技術センター土木技術研究所
地盤・岩盤研究室 岩盤チーム 主任研究員
委
員
稲葉
薫
(株)竹中工務店 技術研究所 先端技術研究部
エコエンジニアリング部門
委
員
事 務 局
主任研究員
志田原 巧
(株)ニュージェック 国内事業本部 技師長
三井田英明
(財)エンジニアリング振興協会
地下開発利用研究センター 技術開発第一部 研究主幹
事 務 局
佐藤 一浩
(財)エンジニアリング振興協会
地下開発利用研究センター 技術開発第一部 研究主幹
平成 22 年度
CO2 マイクロバブル地中貯留の成立性に関する調査研究
目 次
第1章
調査研究の概要
1.1 背景と目的
······························································· 1
···································································· 1
1.2 調査研究の進め方
1.3 調査内容と成果概要
第2章
······························································ 1
···························································· 2
貯留概念の整理とシステム概念の検討
·········································· 7
2.1 情報収集とマイクロバブルの特性の整理 ············································ 7
2.1.1 マイクロバブルの特性 ························································ 7
2.1.2
CO2 の性質 ································································· 22
2.1.3 既往の CO2 貯留方式························································· 39
2.1.4 まとめ ····································································· 40
2.2 貯留システム概念の構築
······················································· 43
2.2.1 基本コンセプト ····························································· 43
2.2.2 基本シナリオの検討 ························································· 43
2.2.3 深部塩水帯水層貯留との比較 ················································· 52
2.3
技術的に貯留が成立する地質条件の整理 ·········································· 55
2.3.1 地質条件の設定・・・・・・・・・ ···················································· 55
2.3.2 貯留深度・地質構造の考え方・・・・・・・・・ ········································ 57
2.3.3 貯留可能領域の検討・・・・・・・・・ ················································ 58
2.3.4 重要なパラメータの設定・・・・・・・・・ ············································ 63
2.3.5
2.4
貯留可能領域の評価法・・・・・・・・・ ············································· 66
貯留概念のまとめ ······························································ 71
第3章
CMS 貯留システムのモデル構築 ·················································· 73
3.1
想定モデル地点での貯留可能量の評価 ············································· 73
3.1.1 モデル地点の選定・・・・・・・・・ ·················································· 73
3.1.2
A 地域の地質概要・・・・・・・・・ ·················································· 73
3.1.3
A 地域の貯留可能領域と貯留可能量・・・・・・・・・··································· 80
3.2
CO2 ガス注入方法・位置の検討···················································· 85
3.2.1 ガス注入方法・・・・・・・・・ ······················································ 85
3.2.2 地下環境条件に応じた溶解度の変化・・・・・・・・・ ·································· 85
3.2.3 効率的注入深度・・・・・・・・・ ···················································· 87
3.2.4 排ガス注入の検討・・・・・・・・・ ·················································· 89
3.3
物理・力学特性による貯留可能範囲の検討 ········································· 99
3.3.1 貯留サイトの検討 ··························································· 99
3.3.2 注入井・揚水井方式による1貯留ユニットの貯留可能量の検討··················· 105
3.3.3 貯留範囲の設定・・・・・・・・・ ··················································· 112
3.3.4 貯留システムのレイアウトの検討・・・・・・・・・ ··································· 115
第4章
まとめと課題 ································································· 117
4.1
まとめ ······································································ 117
4.2
課題の整理 ·································································· 118
4.3
技術的成立性の課題 ·························································· 119
4.4
経済性・安全性の検討準備 ···················································· 120
4.4.1 経済性について ···························································· 120
4.4.2 安全性に関する課題 ························································ 122
第1章
1.1
調査研究の概要
背景と目的
地 球 温 暖 化 対 策 の 方 法 と し て 、 CCS( Carbon Dioxide Capture & Storage) に 期 待 が か
か っ て い る 。CCS は 、現 在 、排 ガ ス か ら 回 収 し た CO 2 を 、GL-800m 以 深 の 遮 蔽 層 下 位 の
貯 留 層 (砂 層 な ど )に 、 超 臨 界 状 態 で 圧 入 し 貯 留 す る 概 念 が 主 流 で あ る が 、 CO 2 の 分 離 ・ 回
収 お よ び 輸 送 に 大 き な コ ス ト が か か っ て い る の が 現 状 で あ る 。 ま た 、 超 臨 界 状 態 の CO 2
に は 大 き な 浮 力 が 働 き 上 昇 し や す い 。CO 2 を 地 下 水 に 溶 解 す る と 、溶 解 水 は 地 下 水 よ り 重
く な る た め 、安 定 な 状 態 で 地 中 に 隔 離 す る こ と が で き る 。し か し CO 2 溶 解 水 を 地 表 で 作 成
して注入するのでは、多量の水を必要とするため、非常に非効率である。排ガスを対象と
し て 、CO 2 を 安 定 に 貯 留 で き れ ば 、回 収 コ ス ト が か か ら ず 経 済 的 で 安 全 な 地 中 貯 留 シ ス テ
ムとなることが期待されている。
本調査研究は、地下水に溶解しやすいマイクロバブルの特性を活かし、既往の深部塩水
帯 水 層 貯 留 に 対 し 、CO 2 を マ イ ク ロ バ ブ ル 化 す る こ と に よ っ て 地 中 貯 留 す る 概 念 の 成 立 性
に 関 す る 調 査 研 究 を し た も の で あ る 。特 に 安 全 性 と 経 済 性 に 関 し て 留 意 し た 検 討 を 進 め た 。
本年度は、マイクロバブル地中貯留に関する資料を収集整理し、マイクロバブルによる
貯 留 シ ス テ ム 概 念 の 検 討 か ら CO 2 マ イ ク ロ バ ブ ル 地 中 貯 留 の モ デ ル を 構 築 し て 成 立 性 を
検討したものである。
また、本調査研究の成立性を図るための経済性検討の準備として、環境面への影響や技
術的課題を整理してまとめた。
1.2
調査研究の進め方
・実施体制は以下のとおり。
(財 )エ ン ジ ニ ア リ ン グ 振 興 協 会
業務実施責任者
委員会
作業部会
CO 2 マ イ ク ロ バ ブ ル 地 中
貯留の成立性に関する
検 討 結 果 に 対 し て 、学 識
経 験 者 に よ る 見 識 、意 見
●貯留システムの位置づけ・全体像の把握
●文献調査と情報収集・整理
● CO 2 マイクロバブル地 中 貯 留 シ
ステム基 本 概 念 の検 討
● CO 2 マイクロバブル地 中 貯 留
システムモデルの構 築
・地 質 条 件 の検 討
・貯 留 可 能 範 囲 の検 討
・注 入 方 法 検 討
1
●想定モデル地点選定
●課題の抽出・整理
および、検討
1.3
調 査 内容と成果概要
調 査 研 究 は 、 図 1.3-1 の 実 施 手 順 に 沿 っ て 進 め た 。
ま た 、 委 員 会 の 活 動 実 績 は 、 表 1.3-1 に 示 す と お り で あ る 。
図 1.3-1
表 1.3-1
委員会活動実績
委員会
第 1 回委員会
開催日時
平 成 22 年 6 月 24 日 (木 )
第 2 回委員会
第 3 回委員会
平 成 22 年 11 月 18 日 (木 )
平 成 23 年 2 月 9 日 (水 )
審議内容
1.実施計画書
2.作業部会の設置
1.中間成果報告
1.成果報告
第 1 回 委 員 会 で 設 置 が 承 認 さ れ た 作 業 部 会 は 、 7 月 よ り 本 格 的 に 作 業 を 進 め 、 表 1.3-2
に 示 す 実 施 工 程 表 に 沿 っ て 検 討 を 進 め た 。 作 業 部 会 の 開 催 回 数 は 、 平 成 22 年 7 月 か ら 平
成 23 年 3 月 ま で 計 15 回 開 催 し て 検 討 し た 。
2
表 1.3-2
実施工程表
1.3.1 貯 留 概 念 の 整 理 と シ ス テ ム 概 念 の 検 討
マイクロバブルの特性や、貯留概念、システム概念に関して、既往の研究事例や検討事
例を調査した。また、マイクロバブルによる地中貯留・システム概念について、既往の帯
水層貯留技術などと比較しながら、その特徴を整理した。
1)
文献調査
文 献 調 査 に つ い て は 、 ① マ イ ク ロ バ ブ ル や CO 2 の 特 性 の 文 献 調 査 、 ② 既 往 の CO 2 地 中
貯 留 方 式 や CO 2 マ イ ク ロ バ ブ ル 地 中 貯 留 シ ス テ ム に 関 す る 文 献 調 査 な ど を 行 っ た 。
2)
CO 2 マ イ ク ロ バ ブ ル 地 中 貯 留 の 概 念 の 検 討
文 献・資 料 の 調 査 結 果 な ど か ら 、マ イ ク ロ バ ブ ル に よ る CO 2 貯 留 概 念 を 整 理 し て ま と め
るとともに、基本的な貯留構想を立案した。
① マ イ ク ロ バ ブ ル 化 す る こ と で 急 速 に 溶 解 す る こ と を 前 提 と す る 。 ま た 、 CO 2 溶 解 水 は
地下水より重く、浮力による上方への漏えいリスクが小さくなる。
②かん水を汲み上げ地下に再注入し、地下の圧力や化学成分を極力変えない、注入井・
揚水井併用方式を主体に考える。
③長期的にはイオン化や岩石との反応による炭酸塩化、微生物固定などの高度固定の促
進が期待できる。
④ マ イ ク ロ バ ブ ル 化 に よ る 注 入 CO 2 の 全 溶 解 ( ま た は 飽 和 に 達 す る 溶 解 ) を 基 本 と す る 。
3
マイクロバブルは原則的に地盤中に浸透しない。しかし現実には、マイクロバブルや大
口径気泡浸透の可能性がある。
⑤大きな浮力の働くプリュームを作らないのでキャップロックは不要だが、安全性を考慮
して、遮蔽層の存在するサイトを推奨する。
CO 2 マ イ ク ロ バ ブ ル 地 中 貯 留 シ ス テ ム の 貯 留 フ ロ ー 概 念 を 、図 1.3-2、図 1.3-3 に 示 す 。
排気ガス
界面活性剤 注入深度
(注入圧)
トラップ状態
貯留機構
CO2状態
分離・回収
長期鉱物化
自身で遮蔽
孔内B
※③溶解率
※④環境影響
※①MB発生確率
※②注入条件
CO2ガス
※⑦鉱物化率
貯留層*1
+遮蔽層
残留MB
液体CO2
界
面
活
性
剤
有
無
安定化
CO2溶解
重い酸性地下水
CO2MB
-300~-500m
地質構造
循環
※⑤長期残留率
※⑥浮力評価
※⑭凝集防止
※⑮寿命延長
※⑩面積・層厚
※⑪浸透率・強度
遊離MB
浮力微小
B残留
集合浮力
あり
-500~-700m
MB化
CO2プリューム
※⑧MBにならない割合
※⑨浮力評価
なし
貯留
注入圧+浮力
基本シナリオ
CO2プリューム
※課題
オプション
貯留層+遮蔽層
※⑫面積・層厚
※⑬遮蔽層強度
図 1.3-2 CO 2 が ソ ー ス の 場 合 の 貯 留 フ ロ ー 図
界面活性剤
注入深度
(注入圧)
トラップ状態
貯留機構
CO2ガスの分離
地質構造
循環 ※⑯排ガス注入時の成分
CO2ガスの分離(溶解度、ハイドレート)
N2+NOX+SOX+重金属+微量元素
※③CO2ガスの分離
※④環境影響評価
長期鉱物化
自身で遮蔽
※⑨鉱物化率
※⑤溶解率
※⑥環境影響
排気ガス
※⑫面積・層厚
※⑬浸透率・強度
CO2溶解
重い酸性地下水
孔内B
-300~-500m
貯留層*2
(+遮蔽層)
残留MB
排ガスMB
※⑦長期残留率
※⑧浮力評価
※①MB発生確率
※②注入条件
遊離MB
浮力微小
界面活性剤有無
貯留層+遮蔽層
B残留
集合浮力
基本シナリオ
オプション
※課題
CO2プリューム
※⑭面積・層厚
※⑮遮蔽層強度
※⑩MBにならない割合
※⑪浮力評価
図 1.3-3 排 ガ ス が ソ ー ス の 場 合 の 貯 留 フ ロ ー 図
4
3)
技術的に貯留が成立する条件の整理
マイクロバブルによる貯留システムの構築にあたって、以下の成立条件を設定した。
① マ イ ク ロ バ ブ ル 注 入 に よ り 溶 解 速 度 を 大 幅 に 促 進 さ せ 、注 入 CO 2 の 全 溶 解 を 期 待 す る 。
②温度、圧力、塩分濃度に依存した溶解度を設定する。過飽和状態は想定しない。
③溶解水の移行を主体と考える。
④ CO 2 全 量 に 対 し て 気 泡 残 留 分 は 少 な い と 考 え る 。
⑤ 遊 離 し た マ イ ク ロ バ ブ ル の 浮 力 は 小 さ い が 、大 口 径 気 泡 が 存 在 す る 可 能 性 も 残 る の で 、
安全性を考慮して、貯留層上位に遮蔽層が存在する条件とする。
マ イ ク ロ バ ブ ル の 貯 留 で 期 待 さ れ る ト ラ ッ プ メ カ ニ ズ ム を 整 理 し て 、 図 1.3-4 に 示 す 。
図 1.3-4 CO 2 マ イ ク ロ バ ブ ル 地 中 貯 留 の ト ラ ッ ピ ン グ メ カ ニ ズ ム
上記の成立条件を考慮すると、我が国においては、新第三紀鮮新統~第四紀更新統の堆
積岩が候補となる。砂岩を貯留層とし泥岩を遮蔽層とすることが可能な地質条件を有する
堆積盆が適するものと判断した。有望な堆積盆は、十勝平野、内浦湾、庄内平野、房総半
島 、 掛 川 地 区 、 伊 勢 湾 、 大 阪 湾 、 宮 崎 地 区 、 別 府 湾 お よ び 沖 縄 本 島 の 10 地 区 で あ っ た 。
1.3.2
CO 2 マ イ ク ロ バ ブ ル 地 中 貯 留 シ ス テ ム の モ デ ル 構 築
CO 2 マ イ ク ロ バ ブ ル 地 中 貯 留 シ ス テ ム は 、 わ が 国 の 地 質 条 件 に 広 く 適 用 可 能 と 考 え て い
る が 、仮 想 の 地 質 条 件 を 想 定 し て 、マ イ ク ロ バ ブ ル 化 CO 2 の 注 入・貯 留 シ ス テ ム に つ い て
検討することにより、貯留システムモデルを構築できることを示した。
1)
貯留概念を考慮した注入井・揚水井併用方式
モデル地点のサイト条件に応じた注入井・揚水井併用方式モデルの検討をした結果、
貯 留 ユ ニ ッ ト は 、図 1.3-5 に 示 す 1 本 の 注 入 井 と そ れ を 円 周 上 に 取 り 囲 む 4 本 の 揚 水 井
5
で構成される孔井群と設定した。
注入井
揚水井
貯留範囲
図 1.3.-5 貯 留 ユ ニ ッ ト の 説 明 図
2)
想定モデル地点での貯留システムモデルの構築
地 質 条 件 が 適 切 で あ り 、地 質 デ ー タ が 豊 富 な A 地 域 を 想 定 モ デ ル 地 点 と し て 、注 入
井・揚水井併用方式の地中貯留システムが、技術的に成立性することを例示した。深
度 300m~ 500m の 貯 留 層 を 対 象 に 、1 万 ト ン - CO 2 /年 、25 年 間 の 貯 留 条 件 で は 、200m
直 径 の 貯 留 ユ ニ ッ ト が 6 つ 確 保 で き れ ば よ く 、10km 平 方 程 度 の 仮 想 貯 留 サ イ ト で は 、
その半分も使用しなくても、十分に余裕をもって設置可能であることを示した。
図 1.3-6 に 、想 定 し た モ デ ル 地 点 A 地 域 の 沿 岸 域( 臨 海 )海 域 、陸 域 に お け る 、CO 2
マイクロバブル地中貯留イメージを示す。
排出源
脱湿機/ポンプ
陸上ガスパイプライン
揚水井
注入井
貯留層
観測井
排出源
海域(沿岸沖)注入
1貯留ユニットの貯留範囲
陸域(臨海部)注入
1貯留ユニットの貯留範囲
Aa断層
脱湿機/ポンプ
陸上ガスパイプライン
注入井
海底ガスパイプライン
貯留層
観測井
揚水井
図 1.3-6 仮 想 貯 留 サ イ ト に お け る 貯 留 範 囲
6
第2章
貯留概念の整理とシステム概念の検討
二 酸 化 炭 素 CO 2 を マ イ ク ロ バ ブ ル 化 し て 、 地 下 水 に 溶 解 お よ び そ の ま ま の マ イ ク ロ バ
ブル状態で地下水利用深度以下の帯水層に貯留するという概念が成立するか、検討するの
がこの調査研究の目的である。
こ の 章 で は 、 ま ず 2.1 節 に お い て CCS の 現 状 お よ び マ イ ク ロ バ ブ ル の 特 性 に つ い て 情
報 収 集 し て 整 理 し た 結 果 を ま と め た 。 こ れ ら を 受 け て 2.2 節 で は 貯 留 シ ス テ ム 概 念 を 構 築
し 、2.3 節 に お い て マ イ ク ロ バ ブ ル 化 に よ る CO 2 貯 留 シ ス テ ム が 技 術 的 に 成 立 す る た め の
条 件 に つ い て 、地 質 条 件 、貯 留 層・遮 蔽 層 の 物 性 条 件 に つ い て 述 べ る 。最 後 に 2.4 節 で CO 2
マ イ ク ロ バ ブ ル 化 貯 留 シ ス テ ム と 深 部 塩 水 帯 水 層 (Deep Saline Aquifer)貯 留 と の 比 較 を 通
してこの貯留概念を明確にする。
2.1 情 報 収 集とマイクロバブルの特性の整理
マ イ ク ロ バ ブ ル は 、 直 径 が 1mm の 1 /1000
以下、すなわちマイクロメータオーダーの微細
な気泡で、明確な径の定義は曖昧であるが、通
常 の 気 泡 と は 異 な っ た 性 質 が 現 れ る 直 径 50μ
m 程 度 以 下 の も の と い わ れ て い る 。こ の 節 で は 、
マイクロバブルとは何か、発生方法、マイクロ
バ ブ ル の 特 性 、お よ び CO 2 を マ イ ク ロ バ ブ ル 化
して地中に貯留することを想定し、地盤中での
挙動について述べる。
図 2.1.1-1 マ イ ク ロ バ ブ ル の 発 生 状 況
2.1.1 マ イ ク ロ バ ブ ル の 特 性
1)
(加圧溶解法、産総研
マイクロバブルの定義
高橋研にて撮影)
環境条件によって気泡の特性は大きく変わる。ひとつの目安として、マイクロバブル
は 直 径 が 50μm 以 下 の 気 泡 で あ り 、マ イ ク ロ ナ ノ バ ブ ル は 300nm~ 3μm、ナ ノ バ ブ ル は
100nm 以 下 の 極 微 小 気 泡 で あ る
1) 。な お 、そ の 生 成 の メ カ ニ ズ ム か ら 推 測 す る と 、マ イ
クロナノバブルやナノバブルはマイクロバブルから作られるものであり、気泡発生装置
か ら 直 接 的 に 生 成 で き る も の で は な い 。 特 徴 を ま と め る と 表 2.1.1-1 お よ び 図 2.1-1.1
のようになる
1) 。
表 2.1.1-1
気泡の概略区分
1)
通常気泡
水 中 を 急 速 に 上 昇 し て い き 、表 面 で は じ け て 消 え る 。
マイクロバブル
水中で縮小してついには消滅(完全溶解)する気泡
マイクロナノバブル
一時的に安定化した気泡
ナノバブル
長期に安定化した気泡
7
図 2.1.1-1
特性から考えたときの微小気泡の分類
出 典 : http://staff.aist.go.jp/m.taka/RS_Characteristics_of_マ イ ク ロ バ ブ ル .html
: 2.3 マ イ ク ロ バ ブ ル の 特 徴
マイクロナノバブルはマイクロバブルが経時的に変化したもので、別の名称を付け
る必要がないが、あえて名称を区別した理由は、その応用面における相違を考えての
ことである。すなわちマイクロバブルはダイナミックな変化の中に優れた応用の可能
性が存在しているのに対して、マイクロナノバブルはその存在そのものに応用のため
の特異性を見いだすことができる。マイクロバブルのダイナミックな変化とは気泡の
縮小に伴う内部圧力の上昇や電荷(イオン)密度の増加であり、過飽和に至る気体の
溶解やフリーラジカルの発生などに関連している。一方、擬似的に安定化したマイク
ロナノバブルには植物や魚類などに対するある種の活性効果を期待することができる。
2)マ イ ク ロ バ ブ ル の 発 生 方 法 お よ び 発 生 装 置
マイクロバブルの発生方法には、主に次の3つがある。
(1)
加圧溶解による方法
あ る 程 度 の 高 圧 ( 0.3~ 0.4MPa) で 十 分 な 量 の 気 体 を 水 の 中 に 溶 解 さ せ た 後 、 そ
の圧力を解放すると、水は過飽和状況になる。口元で急激に減圧することで、溶解
しきれずに気泡となって出てくるものがマイクロバブルとなる。この方法では、気
泡 密 度 の 濃 い 状 態 を 作 成 で き る 。気 泡 径 は 10~ 15μm 付 近 に ピ ー ク を 持 つ 分 布 を 示
し 、気 泡 個 数 は 数 千 個 /mL 以 上 で 、見 た 目 は 牛 乳 の よ う な 状 態 と な る 。マ イ ク ロ バ
ブ ル の 水 に 対 す る 密 度 は 、 1 %v 程 度 で あ る 。 こ の 方 法 は 、 溶 存 イ オ ン の 影 響 を 受
けるので、海水を用いると発生させにくい。
加 圧 溶 解 方 式 で 発 生 さ せ た 気 泡 粒 径 分 布 を 図 2.1.1-2 に 示 す 。 高 濃 度 の マ イ ク ロ
バブルの場合、小さな径と大きな径の二つのピークが存在する。この理由は明確で
はない。
8
図 2.1.1-2 加 圧 溶 解 方 式 ( 高 濃 度 タ イ プ ) の 気 泡 径 分 布 の 例
出 典 : http://staff.aist.go.jp/m.taka/RS_Generation_methods_of_マ イ ク ロ バ ブ
ル .html: 2.2 マ イ ク ロ バ ブ ル の 発 生 法
(2)
二相流旋回による方法(気液せん断による方法)
渦 流 ( 毎 秒 400~ 600 回 転 ) の 中 に 気 体 を 巻 き 込 み 、 そ の 渦 流 を フ ァ ン 等 に よ り
せん断、粉砕させてマイクロバブルを作成する方法である。海水では、この方法の
方がマイクロバブルを発生させやすい。二相流旋回方式で発生させた低濃度の気泡
粒 径 分 布 を 図 2.1.1-3 に 示 す 。 直 径 が 30μm 付 近 に 分 布 の ピ ー ク が あ り 、 気 泡 濃
度 と し て は 数 百 個 /mL 程 度 。 見 た 目 は 水 が 少 し 曇 っ た 状 態 に な る 。
図 2.1.1-3 気 液 二 相 流 旋 回 方 式 (低 濃 度 タ イ プ ) の 気 泡 径 分 布 の 例
出 典 : http://staff.aist.go.jp/m.taka/RS_Generation_methods_of_マ イ ク ロ バ ブ
ル .html: 2.2 マ イ ク ロ バ ブ ル の 発 生 法
渦 を 起 こ す 方 法 と し て は 図 2.1.1-4 に 示 す 3 つ が 主 な も の で あ る 。 渦 を 壊 す 方
法 と し て は 、例 え ば 止 ま っ て い る 水 の 中 に 旋 回 流 を 放 出 す る こ と で 可 能 と な り 、(a)
図 と (b)図 が こ れ に 当 た る 。水 槽 内 の 水 は 渦 流 か ら 見 た 場 合 に 止 ま っ た 状 態 に 相 当 す
る の で 、水 槽 内 に 吐 き 出 さ れ た 瞬 間 に 渦 は 崩 壊 す る 。ま た 、(c)図 は プ ロ ペ ラ の 旋 回
力を変えることで渦を壊すことができる。気泡の濃度は発生装置内の圧力に依存し、
(a)図 の 場 合 、 ポ ン プ 圧 を 有 効 に 利 用 で き る の で 容 易 に 高 濃 度 が 得 ら れ る 。
9
(a)
渦流
(c)
(b)
図 2.1.1-4 渦 を 起 こ す 3 つ の 方 法
出 典 : http://staff.aist.go.jp/m.taka/RS_Generation_methods_of_
マ イ ク ロ バ ブ ル .html: 2.2 マ イ ク ロ バ ブ ル の 発 生 法 に 加 筆
(3)
その他の方法:
微細多孔質管を通過させてバブルを発生させる方法がある。
以上の発生方法により、具体的に様々なマイクロバブル発生装置が開発されている。
そ れ ら の 一 例 を 表 2.1-2 に ま と め た 。表 に 示 し た の は 、一 例 で あ り 、こ れ ら の 他 に も 様 々
なマイクロバブル発生装置があり、それらの特徴を鑑み、地上またはボーリング孔内で
効 率 的 に 発 生 で き る 装 置 の 選 択 、お よ び 開 発 が CO 2 マ イ ク ロ バ ブ ル 化 貯 留 に お い て 必 要
と な る 。 *1
表 2.1.1-2
会社
マイクロバブル発生装置の例
装置概観
装置特徴
マイクロバブ
気泡混合が可能な特殊ポンプとして
ルジュネレー
作り出した渦流ターボミキサー
タ(微細気泡
( KTM) を 搭 載 し た マ イ ク ロ バ ブ ル
発生装置)㈱
の発生装置。溶解させるガスは空気
ニクニ
の他、酸素ガス、オゾンガスなどの
選 択 が 可 能 *1 。
http://www.nikuni.co.jp/equip/s-0250.html
10
マイクロバブ
気泡混合比の高い混合ポンプと、ワ
ル発生ユニッ
ンパスで超微細にくだく静止型ミキ
ト:西華産業
サーの採用により、様々なガスを液
㈱
中に注入し高密度マイクロバブルを
生成することができる。加圧方式と
比べてマイクロバブル生成量が3~
5 倍 、 気 泡 径 は 1/2~ 1/3 と な り 、 同
方式では対応不可能な用途にも適用
可 能 *1 。
マイクロバブ
気液二相流体の超高速旋回によって
ル 発 生 装 置
負の電位を帯びたマイクロバブルを
超高速旋回式
安定かつ大量に発生させる。ゆるや
:㈱ナノプラ
かな流動と広範囲の拡散性を有し、
ネット研究所
また、狭い空間に高密度で存在する
凝 集 性 に も 優 れ て い る *1 。
吐 出 量 : M2-LM 型 15L/min
http://www.nanoplanet.co.jp/NP_mn bresearch6.html
ミューグリー
流体に発振現象を励起させる発振素
ンリアクター
子により気体から液体への物質移動
㈱ミューカン
を高効率で達成する。発振素子は螺
パニーリミテ
旋 状 の 羽 根 体 で 構 成 さ れ 、10m/s 以 上
ッド
の気体速度で通流させる。噴出する
気体は螺旋状と羽根体の機能により
発振現象を励起する。この気体と吸
引される液体とは多数の羽根体で形
成されている「ミューミキサー」の
下方から上方に通流して、回転・多
分割・せん断・合流・反転作用を受
けながら気・液混相の噴流となって
噴 出 す る 。こ の 強 力 な 混 合・せ ん 断 ・
破砕作用により微細な気泡の生成と
垂直・水平方向に強力な循環流が発
http://www.mu-company.com/mu_green_react
生する。大容量のマイクロバブルを
or.html#1
生 成 で き 、 最 大 生 成 量 4,000m 3 /h *1 。
11
マイクロバブ
一般汎用ポンプでの給水により、吸
YJ
気部より自然吸気させてマイクロバ
ル発生器
ノズル
ブルを含んだ大量の曝気水を水中に
エンバイロ・
放出することが出来る。通水量の役
ビジョン㈱
30% の 気 体 を 混 入 さ せ る こ と が で き
る *1 。
ループ流式マ
複合多段階乱流方式=ループ式でマ
イクロバブル
イクロバブルを発生させ、発生効率
発 生 ノ ズ ル
が良く、真空度が高いのが特徴。使
OKE- マ イ ク
用 水 圧 0.15MPa~ 0.20MPa に て マ イ
ロ バ ブ ル
クロバブル発生密度が高い。家庭用
01FJ
~ 工 業 用 *1 。
(有 )OK エ ン ジ
ニアリング
http://www.k3.dion.ne.jp/~matrix/
散気管ポラリ
従 来 の 散 気 装 置 に 比 べ 1.5~ 2.0 倍 以
ス
上の酸素溶解効率(多孔質超微細気
栗田工業㈱
泡散気装置に匹敵)をもった超微細
気泡散気装置。目詰まりを起こさず
長期間安定したエアレーションが行
なえる。フレキシブルチューブ型で
あ る 。 5~ 200L/分 の 範 囲 で 送 気 量 を
コ ン ト ロ ー ル で き る *2 。
出典:栗田工業㈱散気管ポラリス
パンフレット
マイクロバブ
発 生 状 況 を 次 ペ ー ジ 図 2.1.1-5 に 示
ル・ノズル
す *3 。
㈱オーラテッ
ク
*1 出 典 : 環 境 浄 化 技 術
2011.1-2
Vol.10 No.1,pp118-120
ただし、装置特徴は、出典を参考に加筆した。
*2 栗 田 工 業 ㈱ 散 気 管 ポ ラ リ ス
パンフレット
*3 芹 澤 昭 示 、八 尋 俊 彦 : マ イ ク ロ バ ブ ル・ ノ ズ ル と そ の 性 能 評 価
12
図 2.1.1-5 マ イ ク ロ バ ブ ル の 発 生 状 況
左列:液大、空気小、右列:液大、空気大
出典:芹澤昭示、八尋俊彦:マイクロバブル・ノズル
とその性能評価
3)マ イ ク ロ バ ブ ル の 特 性
マイクロバブルの一般的特徴として次の5点が挙げられる。
① 界 面 面 積 /総 体 積 が 大 き い
13
②浮上速度が遅い(浮力が小さい)
③内部圧力が高い
④表面が負に帯電している
⑤自己圧壊性を有する(圧壊時にフリーラジカルを発生する)
① に 関 し て 、 球 体 の 体 積 は Vi 
面 積 /総 体 積 は 、
n

n
3
4
3
 4  D
4 Di 2 2
i
i 1
 D i 2 3 、 表 面 積 は Si  4 Di 2 2 で あ る か ら 、 界 面
2 3 で あ る 。径 の 分 布 は 正 規 分 布 で あ る が 、分 布 が
i 1
小 さ い 場 合 に 一 様 分 布 を 仮 定 で き る と す る と 4nDav 2 2
3
nDav 2 3  32 3Dav と な り 、 生
4
成される気泡の平均径に反比例する。すなわち、気泡平均径が小さくなれば界面面積/
総体積は大きくなる。したがって同体積の気体に比べて、マイクロバブル化することに
より液体との接触面積が相対的に大きくなり、溶解する量も増加する。
②に関しては、ストークスの式で説明される。微小粒子が流体中を沈降する場合の終
端速度とは、粒子に上向きの力を及ぼす抵抗力および浮力と下向きの重力とが釣り合っ
たときの速度である。粒子が一度その速度に達すると、その後、速度は変化せず一定に
なる。この釣り合い式が次のストークスの式である。
ストークスの式: v 


D2  f   p g
( 2.1.1-1)
18
こ こ で 、v は 速 度 、D は 粒 子 直 径 、η は 粘 性 、ρ は 密 度 で 添 字 は そ れ ぞ れ f が 流 体 、p が
粒 子 を 表 わ す 。気 泡 の 場 合 は 、密 度 ρ p が 流 体 の 密 度 ρ f よ り 小 さ い た め 、負 の 沈 降 速 度 、
す な わ ち 上 昇 速 度 と な る 。直 径 10μm の 空 気 気 泡 が 25℃ の 純 水 中 の 浮 上 速 度 は 、純 水 の
粘 性 を 0.89×10 -3 Pa・s、 密 度 997kg/m 3 、 空 気 の 密 度 1.184 kg/m 3 と す る と 、 60μm/s 程
に な る 。計 測 結 果 の 例 を 図 2.1.1-6 に 示 す 。
図 2.1.1-6
計測された気泡および粒子の径と上昇速度の関係
出典:中山ら:マイクロナノバブルの上昇過程、
第 59 回 土 木 学 会 年 次 学 術 講 演 会 、 pp509-510、 2004
14
こ こ で 、 左 図 に 示 し た 気 泡 の 径 と 上 昇 速 度 の 関 係 で は 5μm 程 度 ま で は ス ト ー ク ス
の法則に従うが、それより小さいナノバブルの領域では若干速い上昇速度となってい
ることが示されている。
③ の 内 部 圧 力 は 、気 相 と 液 相 の 二 相 間 で 形 成 さ れ る 界 面 の 張 力 に よ る 加 圧 で 生 じ る
も の で あ る 。 図 2.1.1-7 の 微 小 部 分 δxδy に 注 目 す る と 、 こ こ に 働 く 力 は 液 滴 内 外 の
圧 力 と 表 面 張 力 σ で あ る 。注 目 す る 微 小 部 分 を 平 面 と し て 近 似 す る と δy の 線 状 に 働
く 表 面 張 力 の 液 滴 内 部 の 方 向 の 力 の 総 和 は 2 sin  1y 、同 様 に し て δx の 線 状 に 働 く 液 滴
内部方向の表面張力の総和は、右図と同様にδx 方向に作用する表面張力の働く角度
を θ 2 と し て 2 sin  2x と な る 。 ま た 、 微 小 部 分 に 働 く 外 圧 に よ る 力 は pδxδy で あ る 。
一 方 、液 滴 の 内 圧 を p + Δp と す る と 、微 小 部 分 に は 液 滴 の 外 側 方 向 に (p + Δp) δxδy の
力が作用する。
図 2.1.1-7 液 泡 に 作 用 す る 力
出 典 : http://hb3.seikyou.ne.jp/home/E-Yama/Fluid.pdf#search='流 体 力 学 講 和 '
これらの力の釣り合いから
2 sin  2x  2 sin 1y  pxy   p  p xy
が 得 ら れ る 。θ 1 、θ 2 は 微 小 で あ る か ら sin    と 近 似 す る と 、δ x= 2r 1 θ 1 、 δ y= 2r 2
θ2 となるので
1 1
2 2 x  21y  pxy → p      : ヤ ン グ - ラ プ ラ ス の 式
 r1 r2 
( 2.1.1-2)
が 得 ら れ る 。 球 体 で あ れ ば r1= r2 で あ る か ら
p 
2
r
( 2.1.1-3)
となる。ここで、Δp は内部圧力増加分、σは界面張力、r は気泡半径である。気泡
の大きさに反比例して気泡に加わる圧力が高まる。
気 泡 の 直 径 が 10μ m の 場 合 に は 水 の 界 面 張 力 が 72.75m N/m( 20℃ ) で あ る か ら 、
29kPa 程 内 部 圧 力 が 上 昇 す る 。気 泡 径 と 内 部 圧 力 増 加 の 関 係 は 図 2.1.1-8 の よ う に な る 。
15
1000
内部圧力増加(kPa)
100
10
1
0.1
1
10
100
気泡径(μm)
1000
図 2.1.1-8 気 泡 径 と 内 部 圧 力 増 加 の 関 係 ( ヤ ン グ - ラ プ ラ ス の 式 )
こ の た め 、微 細 気 泡 は 圧 力 に よ り 一 層 小 さ く に な り 、さ ら に 圧 力 が 高 ま る 。理 論 上 、
無限の圧力が生じる。これを自己加圧効果という。後述するヘンリーの法則にしたが
って、加圧効果により効果的に気体が水中に溶解する。
④ に 関 し て 、マ イ ク ロ バ ブ ル は コ ロ イ ド と し て の 側 面 が あ り 、負 に 帯 電 を し て い る 。
このため、マイクロバブル同士は反発し合う。この性質のため、マイクロバブル同士
の結合がなく、気泡濃度が減ることがない。
⑤の自己圧壊作用により、水や窒素などが分解されラジカルが生成される。ラジカ
ルは不対電子をもつ原子や分子、あるいはイオンのことを指し、通常、反応性が高い
ために、生成するとすぐに他の原子や分子との間で酸化還元反応を起こし安定な分子
やイオンとなる。生成メカニズムに関しては、諸説あり未だ決着が着いていない。
こ れ ら の 特 性 か ら 、CO 2 を マ イ ク ロ バ ブ ル 化 し て 地 層 水 へ 注 入 す る 場 合 に 、通 常 の 注
入 方 法 よ り も 溶 解 量 が 増 加 し 、地 層 水 の 流 れ や 濃 度 差 に よ る 移 流 ・拡 散 や 、溶 解 し た
CO 2 と 岩 石 と の 化 学 反 応 に よ る 鉱 物 化 固 定 な ど に よ り 安 全 性 の 高 い 貯 留 メ カ ニ ズ ム の
促 進 及 び 、漏 洩 の 危 険 性 の 低 減 も 期 待 で き る と 考 え ら れ る 。た だ し 、 こ れ ら の 特 性 に つ
いては今後実験を通して確認する必要がある。
5)
マイクロバブルの地盤中での特性-残留マイクロバブルと遊離マイクロバブル
マイクロバブル水を地盤に注入した場合、マイクロバブル径より大きな空隙は透過
し 、小 さ な 空 隙 で は ト ラ ッ プ さ れ る 。で は 、透 過 と 残 留 の 割 合 は ど の 程 度 で あ ろ う か 。
当然、空隙径の分布によりそれは異なる事が予想され、一般的な割合を出す事は難し
い 。 こ こ に 一 つ の 実 験 結 果 が あ る 。 実 験 を 図 2.1.1-9 に 示 す 。
16
図 2.1.1-9 マ イ ク ロ バ ブ ル 水 混 入 実 験 装 置 概 要
出典:小林森雄、末政直晃、永尾浩一、岡庭一憲:マイクロバブル水の混入における
飽 和 度 低 下 効 果 の 検 討 、 第 65 回 土 木 学 会 年 次 学 術 発 表 会 、 Ⅲ -091、 2010
マイクロバブル水を注入してマイクロバブル水で試料を満たした後、脱気水をフラ
ッシングさせてマイクロバブルがどの程度残留するかを調べている。液状化を抑制す
るための効果をマイクロバブルに期待するためこの残留状態を小林ら
3) は 耐 久 性 と 呼
ん で い る 。 結 果 を 図 2.1.1-10 に 示 す 。
図 2.1.1-10 フ ラ ッ シ ン グ に よ る マ イ ク ロ バ ブ ル の 耐 久 性
出典:小林森雄、末政直晃、永尾浩一、岡庭一憲:マイクロバブル水の混入における
飽 和 度 低 下 効 果 の 検 討 、 第 65 回 土 木 学 会 年 次 学 術 発 表 会 、 Ⅲ -091、 2010
こ れ に よ る と 、 マ イ ク ロ バ ブ ル 水 を 混 入 す る こ と で 間 隙 体 積 の う ち 水 が 78% 低 下 し
17
て 、 そ の 後 、 脱 気 水 を 通 水 す る こ と で 、 85%ま で 飽 和 度 が 回 復 し て い る 。 換 言 す れ
ば 、マ イ ク ロ バ ブ ル で 間 隙 中 の 22%が 満 た さ れ 、脱 気 水 を 通 水 す る こ と で 、間 隙 の 15%
にマイクロバブルが残留し、7%が流れとともに移行していったものと考えられる。
間 隙 条 件 は 、 記 述 か ら 間 隙 率 42% 、 透 水 係 数 2.0×10 -5 m/s と 推 定 さ れ る 。 こ の よ
う な 砂 層 の 場 合 に は 、 マ イ ク ロ バ ブ ル 水 は 瞬 間 的 に は 間 隙 体 積 の 22%を 占 め 、 そ の ま
ま マ イ ク ロ バ ブ ル 水 を 流 し 続 け れ ば 空 隙 の 22%の 体 積 を 占 め る 。 一 方 、 脱 気 水 を 通 水
す れ ば 流 れ と と も に 移 行 す る マ イ ク ロ バ ブ ル は 、22%の う ち 7 %、す な わ ち マ イ ク ロ バ
ブ ル 体 積 の う ち 32% が 移 行 し 、 残 り 68%が 残 留 す る と 考 え ら れ る 。
これは溶解以外のマイクロバブルの砂層中での体積と見なせる。この実験では、圧
力 は 、 通 水 す る た め の 透 水 圧 が 400kPa、 背 圧 100kPa で あ る 。
3 1m 3
空 隙 容 量 1m 3 に マ イ ク ロ バ ブ ル 水 を 通 水 す る と 、残 留 マ イ ク ロ バ ブ ル は 0.15m(
×22%×68%)、 遊 離 マ イ ク ロ バ ブ ル は 0.07m 3 ( 1m 3 ×22%×32%) で あ る 。 圧 力 は 背
圧 0.1MPa の 場 合 で あ る 。0.15m 3 は 0.294g- CO 2 で あ る か ら 、0.294g/1000kg= 0.03%
となり、これが残留バブルの量となる。
こ の 実 験 は 、 空 気 の マ イ ク ロ バ ブ ル を 対 象 と し て の 実 験 結 果 で あ り 、 CO 2 よ り 溶 解
度 が お よ そ 60 倍 も 低 い 窒 素 が 主 体 の も の で あ る 。残 留 バ ブ ル の 量 は 、間 隙 率 お よ び 溶
解 度 に 依 存 す る こ と が 推 定 さ れ る た め 、 CO 2 に よ っ て 同 様 の 実 験 に よ り 、 残 留 、 遊 離
の割合を決定する必要がある。
しかし、空隙全てがマイクロバブルによって飽和した場合でも、間隙率相当である
か ら 最 大 で 3 倍 程 度 、 圧 力 が 大 気 圧 か ら 300m 深 度 の 圧 力 で 30 倍 と し て 合 計 90 倍 程
度 で あ る 。 し た が っ て 、 残 留 ト ラ ッ プ の 最 大 値 と し て 0.03×90=2.7%ま で 期 待 で き な
い 。な ぜ な ら 、図 2.1.1-11 に 示 す よ う に 、地 盤 の 空 隙 に は 、マ イ ク ロ バ ブ ル 水 の 移 動 、
残留マイクロバブル、および遊離マイクロバブルの占有率が存在するからである。
MB溶解水
残留MB
遊離MB






地盤中
の空隙
地盤骨格
図 2.1.1-11
溶 解 、 残 留 、 遊 離 CO 2 の 占 め る イ メ ー ジ
砂層や砂岩などの多孔質媒体内にマイクロバブル水を通水させると、空隙壁面に吸
着する。この時、マイクロバブルは、球の状態から、付いた空隙に沿った曲率を持つよ
うに変形し、さらに水中の気体を取り込み、体積を増加させる。
18
超音波振動を与えるとバブルは結合し、大きくなる。これは地震時に断層などを通
ってマイクロバブルといえども上昇することを意味する。
6)
マイクロバブル水の抵抗
マイクロバブルを含む水の粘性抵抗は透水係数および拡散係数に関係する。マイク
ロバブルを乱流境界層に注入した場合、壁面の摩擦抵抗を低減することが実験により
示 さ れ て い る 。低 減 の 幅 は 20% ~ 80% 程 度 と 実 験 に よ り 開 き が あ る が 、い ず れ の 場 合
も噴出するマイクロバブルの量と抵抗低減量には、ほぼ比例関係がある。
神戸大学大学院工学研究科機械工学専攻
混層熱流体工学研究分野では、マイクロ
バブルによる摩擦抵抗低減効果を調べるため、垂直円管上昇流において、圧力損失を
測 定 し 、 図 2.1.1-12 に 示 す よ う な 結 果 を 得 て い る 。 図 は 、 縦 軸 が 管 摩 擦 係 数 、 横 軸
がレイノルズ数である。すなわち、マイクロバブル流れでは水単相流に比べ、層流か
ら乱流への遷移が遅れており、マイクロバブル流れにおいて層流から乱流へ遷移する
辺りで摩擦損失の低減が確認されている。
図 2.1.1-12
マイクロバブル水流における摩擦係数
出典:神戸大学大学院工学研究科機械工学専攻
混 層 熱 流 体 工 学 研 究 分 野 HP
http://www.research.kobe-u.ac.jp/eng-multiphase/research/research3.html
注入孔から地盤中に水が浸透する付近では、乱流状態と云われている。マイクロバ
ブル水は若干、粘性が低下する。さらに比重も若干小さくなるため、媒体の透水に対
する抵抗値、透水係数は、小さくなる。
19
7)
マイクロバブルの溶解特性に関する物理的考察
マイクロバブル化すると溶解速度はどのようになるか、ひとつの考え方を示す。
溶 解 現 象 は 物 質 移 動 の 問 題 で あ る 。こ れ ら の 物 質 移 動 速 度 NA [mol/(m 2 ・s)]の 大 き さ
に 関 与 す る 物 理 量 は 、 濃 度 差 ΔCA [mol/ m 3 ]、 拡 散 係 数 DAB [m 2 /s]、 速 度 u [m/s]、 流
体 の 密 度 ρ [kg/m 3 ]、粘 性 係 数 μ [kg/(m・s)]、単 位 長 さ L [m]で あ る 。こ れ ら の 物 理 量 が
7 に 、 次 元 が mol, M, L, T の 4 つ で あ る か ら 関 係 す る 無 次 元 数 の 数 は 3 つ で あ る と 予
想 で き る 。 3 つ の 無 次 元 数 は そ れ ぞ れ シ ャ ー ウ ッ ド 数 Sh、 ペ ク レ 数 Pe、 シ ュ ミ ッ
ト 数 Sc と 呼 ば れ る 。
球 形 気 泡 の 液 体 中 へ の 溶 解 速 度 は 一 般 的 に シ ャ ー ウ ッ ド 数( Sh 数 )に よ っ て 評 価 さ
れ 、シ ュ ミ ッ ト 数( Sc 数 )、ペ ク レ 数( Pe 数 )そ し て 層 流 乱 流 な ど の 流 れ の 状 態 を 識
別 す る レ イ ノ ル ズ 数 ( Re 数 ) の う ち の 二 つ で 整 理 さ れ る 。 そ れ ぞ れ は
Sh  R / D 、 Re  2 RU  、 Sc   D 、 Pe  2 RU D
で あ る 。 こ こ で 、 α は 物 質 伝 達 率 ( mm/s) 、 ν は 液 体 の 動 粘 性 係 数 ( 水 道 水 24℃ で
0.92mm 2 /s) 、 R は 気 泡 半 径 mm、 D は 拡 散 係 数 で 二 酸 化 炭 素 の 水 中 の 拡 散 係 数 で
1.85×10 -3 mm 2 /s、 U は 気 泡 の 上 昇 速 度 mm/s で 気 泡 径 か ら ス ト ー ク ス の 式 ( 2.1-1 式 )
より計算される。今、溶解速度に関するシャーウッド数は、気泡径変化速度と気泡内
圧力の時間変化、無限遠濃度に相当する圧力について評価する必要があるが、界面が
動 か な い 場 合 の 溶 解 過 程 に お け る Sh 数 を 評 価 す る 推 定 式 と し て
Sh  1  Pe  11 3 Re 0.77
が提案されている
( 2.1.1-4)
5) 。こ れ を 用 い て 、マ イ ク ロ バ ブ ル が 自 然 に 上 昇 す る 過 程 で の
Sh 数
と Re 数 の 関 係 を 調 べ た 結 果 を 図 2.1.1-13 に 示 す 。 ま た 気 泡 径 と Sh の 関 係 を 図
2.1.1-14 に 示 す 。
1.E+05
1.E+04
1.E+04
1.E+03
1.E+03
Sh
Sh
1.E+05
1.E+02
1.E+02
1.E+01
1.E+01
1.E+00
1.E-05
1.E-03
1.E-01
1.E+01
1.E+00
0.001
1.E+03
Re
図 2.1.1-13
Re と Sh の 関 係
図 2.1.1-14
0.01
0.1
気泡径(mm)
1
気 泡 径 と Sh の 関 係
結 局 、気 泡 径 が 小 さ く な る と Sh が 大 き く な る の で 溶 解 速 度 は 上 が る こ と は な く マ イ
ク ロ バ ブ ル の 効 果 は 、 別 の 効 果 と 考 え る 必 要 が あ る 。 す な わ ち 、 図 2.1.1-5 の マ イ ク
20
ロバブルの発生状況から、噴出口では、相当の流速を持っているものと推定される。
つ ま り 図 2.1.1-13 に 示 さ れ る よ う に 乱 流 効 果 で Re が 大 き く な り 、 溶 解 速 度 が 高 い こ
とが予測される。マイクロバブル自身の溶解速度は径が小さいため速くはないが、界
面 面 積 /総 体 積 が 大 き い こ と 、 mL 当 り 数 百 個 と い う 密 度 、 お よ び 発 生 さ せ て 水 中 に 噴
出 さ れ る 時 の 高 流 速 に よ る 効 果 に よ り 溶 解 速 度 は 速 い も の と 推 定 さ れ る 。杉 山 ら
6 )は 、
気泡周囲の乱流によるマイクロバブルの溶解促進に関する知見を得るため、単純せん
断流を対象とした理論、数値解析、および水噴流を対象とした実験を行なって、乱流
がマイクロバブルの溶解を顕著に促進することを観測している。
8)
CO 2 マ イ ク ロ バ ブ ル の 性 質
CO 2 マ イ ク ロ バ ブ ル 水 で は 、 過 飽 和 状 態 と な る 。 大 気 圧 下 で お よ そ 1.5 倍 、 10 気 圧
の 場 合 で 1.05~ 1.1 倍 の 過 飽 和 と な る 。過 飽 和 溶 液 中 で は 、マ イ ク ロ バ ブ ル が 小 さ く な
り 溶 け る と 同 時 に 、 溶 液 中 の CO 2 を 吸 収 し て 大 き く な る マ イ ク ロ バ ブ ル も 存 在 す る 。
CO 2 マ イ ク ロ バ ブ ル の 発 生 状 況 を 空 気 の マ イ ク ロ バ ブ ル と 比 較 し て 図 2.1.1-15 に 示 す 。
図 2.1.1-15
マイクロバブル発生状況(産総研
左 : CO 2
高橋研究室にて撮影)
右:空気
こ の 図 よ り 、CO 2 は 空 気 に 比 べ て 溶 解 し や す い の で 白 濁 が 空 気 に 比 べ て 少 な く 透 明
に近いことがわかる。
21
2.1.2
CO 2 の 性 質
CO 2 は 、 大 気 中 で 370ppmv と い う 少 量 存 在 し 、 植 物 や 動 物 の 生 命 循 環 に お い て 地 球 環
境 に 必 要 な 成 分 と し て 不 可 欠 な 役 割 を 担 っ て い る 。 光 合 成 に よ っ て 植 物 は CO 2 を 吸 収 し 、
酸 素 を 放 出 す る 。CO 2 排 出 の 原 因 と な る 人 間 活 動 は 、化 石 燃 料 や 他 の 炭 化 材 料 の 燃 焼 、砂
糖 の よ う な 有 機 物 の 発 酵 や 人 の 呼 吸 を 含 ん で い る 。人 は 呼 吸 に よ り 年 間 16.8 万 リ ッ ト ル の
CO 2 を 排 出 し て い る 。 世 界 人 口 で 65.12 億 人 の 場 合 、 年 間 で 10.96 億 リ ッ ト ル ( 21.49 億
t -CO 2 ) の 量 に な る 。
CO 2 ガ ス は 少 し い ら い ら す る よ う な 匂 い を 持 ち 、無 色 で 空 気 よ り 重 い 。空 気 中 の 構 成 に
お い て 、 よ り 少 な け れ ば 無 害 で あ る け れ ど も 、 高 濃 度 の CO 2 は 危 険 と な る 。
1) CO 2 の 物 理 的 性 質
通 常 の 温 度 、 圧 力 下 で は 、 CO 2 は 気 体 で あ る 。 圧 力 5.1bar よ り 低 い 場 合 に は 、 固 体
か ら 直 接 気 体 状 態 に 昇 華 す る 。 三 重 点 ( triple point) で あ る -56.5℃ と 臨 界 点 ( critical
point) で あ る 31.1℃ の 中 間 温 度 で は 、 対 応 す る 液 化 圧 力 ま で 圧 縮 に よ り 気 体 か ら 液 体
に 変 化 す る ( 図 2.1.2-1)。
31.1℃ よ り 高 温 で か つ 73.9bar( 臨 界 圧 力 ) よ り 高 圧 で は 、 超 臨 界 状 態 と な る 。 そ こ
で は 、表 2.1.2-1 に 示 す よ う に CO 2 の 密 度 は 液 体 に 近 く 、粘 性 は 気 体 に 近 く 、気 体 の よ
う に 挙 動 す る 。超 臨 界 状 態 の CO 2 は 、 高 圧 下 に お い て は 、気 体 密 度 は 非 常 に 高 く 、水 の
密 度 に 近 づ く 。 ま た 、 液 体 CO 2 の 密 度 は 、 水 の 密 度 よ り 大 き く な る 。( 図 2.1.2-2) こ
れ が CO 2 の 特 異 な 挙 動 で 、 超 臨 界 状 態 で の 貯 留 に 特 に 重 要 な 点 で あ る 。
CO 2 の 密 度 は 気 体 、液 体 、固 体 、超 臨 界 状 態 で そ れ ぞ れ 次 の よ う で あ る 。(表 2.1.2-1)
表 2.1.2-1
物性
CO 2 の 各 相 に お け る 密 度 、 粘 性 、 拡 散 係 数
相
気体
密度
1.977
[kg/m 3 ]
( 0℃ 、 1atm)
粘性
[Pa・ s]
拡散係数
[m 2 /s ]
超臨界
200~ 900
液体
固体
1030
1566
(-20℃ 、1.967MPa)
( -80℃ )
10 -5
10 -5 ~ 10 -4
10 -3
-
10 -5
10 -7 ~ 10 -8
< 10 -9
-
固 体 -気 体 、固 体 -液 体 、液 体 -気 体 の 境 界 を 越 え て 相 変 化 が 起 こ る 場 合 に は 、熱 が 放 出
また吸収される。しかし、超臨界から液体、超臨界から気体への相変化では、放熱、吸
熱 は な い 。 こ の 性 質 は CO 2 圧 縮 施 設 の 設 計 に 有 利 で あ る 。 な ぜ な ら 液 体 -気 体 の 相 変 化
に付随する熱の扱いの必要がないからである。
図 2.1.2-3 に は 、CO 2 粘 性 の 温 度 と 圧 力 の 関 係 を 、図 2.1.2-4 に は 圧 力 - エ ン タ ル ピ
ーチャートを示した。
22
図 2.1.2-1
出 典 : IPCC
Special Report
図 2.1.2-2
出 典 : IPCC
相ダイアグラム
Carbon Dioxide Capture Storage
2005
CO 2 密 度 の 温 度 、 圧 力 関 係 ( Bachu,2003)
Special Report
Carbon Dioxide Capture Storage
23
2005
図 2.1.2-3
出 典 : IPCC
CO 2 粘 性 の 温 度 と 圧 力 の 関 係 ( Bachu,2003)
Special Report
図 2.1.2-4
出 典 : IPCC
Carbon Dioxide Capture Storage
2005
CO 2 の 圧 力 -エ ン タ ル ピ ー チ ャ ー ト
Special Report
Carbon Dioxide Capture Storage
24
2005
2)
CO 2 の 化 学 特 性
(1) CO 2 溶 解 に 関 す る 基 本 的 事 項
(a) 水 へ の 溶 解 形 態
液体に気体、液体または固体が混合して均一な液相を形成する現象を溶解
( dissolution) と い う 。 CO 2 ガ ス を 水 に 溶 解 さ せ た 際 の CO 2 の 水 中 で の 存 在 形 態 は
次の4つである。
ⅰ ) CO 2 分 子 の 形 :
CO 2 分 子 が 水 の ミ ク ロ な 構 造 の 空 孔 ( 水 素 結 合 で 繋 が っ た 水 分 子 相 互 の 間 に
で き る 空 孔 )に 収 ま っ て 存 在 す る 形 で あ る 。多 く の 気 体 の 溶 解 や 非 イ オ ン 性 物
質の溶解にはこの形式が関わっている。化学変化を伴わないことから、ⅱ)
~ ⅳ )と 区 別 し て 物 理 的 溶 解 と 呼 ば れ る こ と も あ る 。
ⅱ ) 炭 酸 ( H 2 CO 3 ) の 形 :
上 記 の CO 2 分 子 の 一 部 は 水 分 子 と 反 応 し て 炭 酸 に な る 。
CO 2 +H 2 O ⇔ H 2 CO 3
こ の 反 応 の 平 衡 定 数 は 1.7×10 -3 (25℃ )と 小 さ く 、 平 衡 状 態 は 著 し く 左 辺 に 偏
っ て い る 。す な わ ち 、通 常 の 水 中 で は 上 記 ⅰ )の CO 2 分 子 と し て の 存 在 が 圧 倒
的に多い。
ⅲ ) 炭 酸 水 素 イ オ ン ( HCO 3 - ) の 形 :
上記の炭酸の一部は、炭酸水素イオンと水素イオンに解離する。
H 2 CO 3 ⇔ HCO 3 - +H +
こ の 反 応 の 平 衡 定 数 は 2.5×10 - 4 (25℃ )と 小 さ く 、平 衡 状 態 は 著 し く 左 辺 に 偏
っ て い る 。換 言 す る と 、炭 酸 は 弱 酸( 水 素 イ オ ン の 発 生 力 が 弱 い 酸 )で あ る 。
なお、炭酸水素イオンは重炭酸イオンと呼ばれることもある。
ⅳ ) 炭 酸 イ オ ン ( CO 3 2 - ) の 形 :
上 記 の 炭 酸 水 素 イ オ ン の 一 部 は 、さ ら に 炭 酸 イ オ ン と 水 素 イ オ ン に 解 離 す る 。
HCO 3 - ⇔ CO 3 2 - +H +
こ の 反 応 の 平 衡 定 数 は 4.7×10 - 11 (25℃ )と 非 常 に 小 さ く 、 平 衡 状 態 は 著 し く
左 辺 に 偏 っ て い る 。 換 言 す る と 、 通 常 の 水 に CO 2 ガ ス を 溶 解 さ せ た 際 の 炭 酸
イオンの量は無視できるほど小さい。
(b) 溶 解 形 態 と pH の 関 係
CO 2 溶 解 形 態 の う ち 上 記 の ⅱ )~ ⅳ )の 化 学 的 溶 解 は 、図 2.1.2-5 の よ う に 溶 液 の
pH の 影 響 を 受 け る 。 な お 、 こ の 図 で は 物 理 的 溶 解 は 扱 わ れ て い な い 。
例 え ば 、大 気 中 の CO 2 濃 度( 約 350ppm)と 溶 解 平 衡 に あ る 水 の pH は 5.6 程 度 で
あ る が 、そ の 化 学 的 溶 解 の 全 体 を 100% と し た 場 合 、約 70%は 炭 酸( H 2 CO 3 )、約 30%
は 炭 酸 水 素 イ オ ン ( HCO 3 - ) の 形 で 存 在 し 、 炭 酸 イ オ ン ( CO 3 2 - ) は 存 在 し な い 。
炭 酸 と 炭 酸 水 素 イ オ ン が 等 量 ず つ 存 在 す る と き の pH は 約 6.0( 解 離 定 数 を pK 1 か
ら 計 算 で き る )、 ま た 炭 酸 水 素 イ オ ン と 炭 酸 イ オ ン が 等 量 ず つ 存 在 す る と き の pH は
約 9.0( 解 離 定 数 pK 2 か ら 計 算 で き る ) で あ る 。
図 2.1.2-6 に は 、海 水 に CO 2 を 溶 解 さ せ た と き の 溶 解 量 と 海 水 の pH の 関 係 を 示 し
た 。CO 2 を 何 ら か の 方 法 で( 例 え ば 、昇 圧 に よ り )溶 解 を 促 進 さ せ る と 、溶 解 量 と と
も に I)の 物 理 的 溶 解 量 が 増 え 、 ⅱ ) ~ ⅳ ) の 反 応 が 進 行 し 、 水 素 イ オ ン の 生 成 量 が
増 え 、pH が 低 下 す る 。こ の よ う に CO 2 溶 解 水 は 溶 解 量 と 平 衡 定 数 に 応 じ て 水 素 イ オ
ン 濃 度 が 決 ま り 、 弱 酸 性 ~ 強 酸 性 を 示 す 。 純 水 に よ る CO 2 溶 解 水 ア ル カ リ 性 を 示 す
こ と は な い 。ま た 、純 水 に よ る CO 2 溶 解 水 の pH 値 と CO 2 形 態 の 関 係 は 、図 2.1.2-5
の よ う に な る 。一 方 、CO 2 溶 解 水 に 別 途 、酸 ま た は ア ル カ リ を 添 加 し て pH を 変 化 さ
せ る と 、溶 液 中 の CO 2 の 形 態 は 、図 2.1.2-5 の 平 衡 状 態 図 の よ う に 変 化 す る 。高 ア ル
カ リ 性 域 で は 炭 酸 イ オ ン( CO 3 2 - )、弱 ア ル カ リ 性 ~ 中 性 域 で は 炭 酸 水 素 イ オ ン( HCO 3
-
)、 酸 性 側 で は 、 炭 酸 ( H 2 CO 3 ) が そ れ ぞ れ 主 体 と な る 。
25
H 2 CO 3
図 2.1.2-5 pH に よ る CO 2 の 形 態 変 化
出 典:Daniel J. Jacob, Introduction to Atmospheric Chemistry,
Princeton University Press, pp96,1999
図 2.1.2-6 海 水 中 の pH と CO 2 濃 度 の 関 係
出 典 : IPCC Special Report on Carbon dioxide Capture and Storage 2005
(c) 溶 解 度 お よ び 濃 度 の 定 義
溶 解 度 ( Solubility) と は 、 一 定 量 の 溶 媒 に 対 し て 溶 解 す る 溶 質 の 最 大 量 で あ る 。
た と え ば 、水 1 L 当 り に CO 2 が ど れ だ け 溶 け る か を 表 す 、mg/L、g /L、モ ル /L、kg/m 3 、
g/kg な ど の 単 位 が あ る 。 溶 解 量 と も い う 。 デ ィ メ ン ジ ョ ン が そ ろ っ て い る 場 合 に
は 、 % や ppm な ど で 表 現 す る こ と も 可 能 で あ る 。
26
一 方 、濃 度( Concentration)と は 、溶 液 の 一 定 量 に 含 ま れ る 溶 質 の 量 で あ る 。た
と え ば 、 CO 2 含 有 水 1L 当 り に CO 2 が ど れ だ け 含 ま れ て い る か を 表 す 。 mg/L、 g/L、
モ ル /L、kg/m 3 、g/kg な ど の 単 位 が あ る 。デ ィ メ ン ジ ョ ン が そ ろ っ て い る 場 合 に は 、%
や ppm な ど で 表 現 す る こ と も 可 能 で あ る 。
(d) 溶 解 量 に 対 す る 圧 力 、 温 度 の 影 響
一 般 に 固 体 や 液 体 の 溶 解 度 は 温 度 の み の 関 数 で あ る が 、気 体 の 溶 解 度 は 温 度 と 圧 力
の関数になる。気体の溶解度は、低圧ではヘンリーの法則に従って、圧力に比例し
て上昇する。
(一 定 温 度 の も と で の 溶 解 )
ヘンリーの法則
n= kP
( 2.1.2-1)
n: 溶 媒 に と け る 気 体 の 物 質 量 ( mol)
P: 溶 液 と 平 衡 に あ る 気 体 の 圧 力 ( ま た は 分 圧 )
k: 比 例 定 数
こ こ で 物 質 量 で な く 質 量 で 表 す と す る 。気 体 の 質 量 を m( 単 位 g)と し 、気 体 の モ
ル 質 量 ( 1mol の 気 体 の 質 量 を M( 単 位 g/mol) と す る と 質 量 = 物 質 量 ×モ ル 質 量 の
関 係 か ら 、( 2.1.2-2) 式 の よ う に な る 。
m= nM
( 2.1.2-2)
( 2.1.2-2) を ( 2.1.2-1) に 代 入 す る と
m( g) = k・ M(g/mol)・ P( atm)
( 2.1.2-3)
となる。
な お そ の と き の 温 度 、 圧 力 、 体 積 の 関 係 は 、 PV=nRT で 表 せ る 。
(一 定 圧 力 の も と で の 溶 解 )
液 体 中 へ の 気 体 の 溶 解 度 は 、一 般 に 溶 液 中 に 存 在 す る 溶 質( 気 体 分 子 )の モ ル 分 率
x 2 で 表 す が 、気 体 の 圧 力 が 一 定 の と き 、溶 解 度 の 温 度 依 存 性 は 、デ ー タ が 十 分 多 い と
き、次式で表される。
B
 T 
( 2.1.2-4)
ln x 2  A 
 C ln

T 100 K 
 100 K 
こ こ で 、T は 温 度( K)、A、B、C は 気 体 に よ る 定 数( 無 次 元 )、分 圧 p 2 = 101.3kPa
で あ る 。代 表 的 な 例 と し て 、水 中 に 酸 素 (O 2 )、窒 素 (N 2 )、二 酸 化 炭 素 (CO 2 )が 溶 解 し て
い る と き の 溶 解 度 ( x 2 ) の 温 度 依 存 性 を 表 2.1.2-2 に 示 し た 。
な お 、同 表 の CO 2 の 25℃ の モ ル 分 率 6.1×10 - 4 は 、溶 解 度( g /L)に 換 算 す る と 、( 6.1
×10 - 4 )×( 1000÷18)×44= 1.49(g/L)と な る 。こ こ で 、18 お よ び 44 は 、そ れ ぞ れ
水および二酸化炭素の分子量である。
気体
O2
N2
CO 2
表 2.1.2-2 水 に 対 す る 気 体 の 溶 解 度 ( モ ル 分 率 、 25℃ の 例 )
A
B
C
10- 4 x 2 (25℃ )
温度範囲
0.229
-66.73538
87.47547
24.45264
273-349
0.118
-67.38765
86.32129
24.79808
273-350
6.10
-60.069
87.424
21.671
273-353
(注 )CO 2 の よ う な 水 と 反 応 性 の 気 体 分 子 の 場 合 は 、水 和 さ れ た 気 体 分 子 と 水 と
の反応によって生じた化学種との総和を気体分子の溶解量とみなす。
出 典:http://www.con-pro.net/readings/water/doc0038.html、 小 林 映 章 、
水の化学 第4章 水の係わる反応
27
図 2.1.2-7 に 、二 酸 化 炭 素 の 溶 解 度 の 温 度 効 果 を 2.1.2-4 式 に 従 っ て 計 算 し た 結 果
を示す。
図 2.1.2-7
二酸化炭素の温度効果
水 と 反 応 す る 気 体 、例 え ば 、CO 2 、NH 3 、SO 2 な ど の 水 へ の 溶 解 度 は 大 き い 値 を 示
すが、非反応性気体の溶解度は他の多くの有機溶媒に比較しても非常に小さいこと
が 知 ら れ て い る 。表 2.1.2-2 か ら 、O 2 、N 2 の 溶 解 度 は 、反 応 性 の CO 2 の 溶 解 度 に 比
して著しく小さいことがよく分かる。
(2)
CO 2 の 水 へ の 溶 解 に 関 す る 既 往 研 究
(a)
温度、圧力の影響
圧 力 と 溶 解 度 の 関 係 を 、 温 度 を パ ラ メ ー タ と し て 図 2.1.2-8 に 示 し た 。 40atm
ま で の 破 線 で 示 し た 直 線 が ヘ ン リ ー の 法 則 で あ る が 、 ど の 温 度 の デ ー タ も 25atm
程度から線形関係でなくなる。したがって、溶解度の圧力依存性は実験値を参考
しなければならないことがわかる。
28
図 2.1.2-8
出典:染矢
圧力と二酸化炭素溶解度の関係
聡 、坂 東
茂 、西 尾
匡 弘 : CO 2 の 水 へ の 溶 解 度 に 対 す る 圧
力 の 影 響 ( ガ ス 析 出 法 に よ る CO 2 溶 解 度 計 測 )、 機 械 学 会 論 文 集 、
B,71-704,pp.151-155,2005
図 2.1.2-9 は 、圧 力 を パ ラ メ ー タ と し た 温 度 と 溶 解 度 の チ ャ ー ト で あ る が 、CO 2
マ イ ク ロ バ ブ ル 地 中 貯 留 の 対 象 と な る 圧 力 30 気 圧 ~ 50 気 圧 (対 象 範 囲 は 、 後 述 )、
地 下 水 温 30℃ 以 下 を 対 象 範 囲 と し て マ ー キ ン グ し た 。 対 象 範 囲 の 温 度 10~ 30℃ 、
圧 力 30~ 50 気 圧 で は CO 2 溶 解 度 は 30~ 65g/L で あ る 。
80
70
CO2 solubility(CO2(g)/水1L
60
50
40
対象領域
30
20
10
図 2.1.2-9
温 度 、 圧 力 と CO 2 溶 解 度 の 関 係
出 典 : IPCC Special Report on Carbon dioxide Capture and Storage 2005
29
実 験 値 に よ る CO 2 溶 解 度 を 知 る た め に 、以 下 に 実 験 に よ る CO 2 溶 解 度 の 温 度 と
圧力の関係のデータと理論的関係を比較した。
染矢ら
8)
は 、 ガ ス 抽 出 法 に よ っ て 純 水 へ の CO 2 溶 解 度 ( モ ル 分 率 ) を 計 測 し 、
図 2.1.2-10 の よ う に 報 告 し て い る 。圧 力 7 ~ 12MPa、温 度 282~ 294K( 9℃ ~ 21℃ )
の 範 囲 に お い て 、 CO 2 溶 解 度 は 、 温 度 上 昇 と と も に 線 形 に 減 少 し 、 圧 力 増 加 と と
も に 増 加 す る 。 図 2.1.2-10 に 示 さ れ て い る 相 関 式 は 、 絶 対 温 度 と モ ル 分 率 の 関 係
で 示 さ れ て い る の で 、摂 氏 温 度 T( ℃ )と 溶 解 度 C( kg/m 3 )の 関 係 に 変 換 す る と 、
図 2.1.2-11 の よ う に な る 。 ま た 、 こ の 図 よ り 、 温 度 を パ ラ メ ー タ と し て 圧 力 と 溶
解 度 を 示 し た の が 図 2.1.2-12 で あ る 。こ れ ら の 図 よ り 、CO 2 溶 解 度 は 、温 度 が 10℃
か ら 20℃ に 上 昇 す る と 、約 15% 減 少 す る が 、圧 力 7 MPa と 12MPa の 範 囲 で は 数
g/L の 増 加 と な る 。
図 2.1.2-10
温 度 、 圧 力 と CO 2 溶 解 度 ( モ ル 分 率 ) の 関 係 ( 染 矢 ら 2 )
出典:染矢
聡、坂東
茂、西尾
匡 弘 : CO 2 の 水 へ の 溶 解 度 に 対 す る
圧 力 の 影 響 ( ガ ス 析 出 法 に よ る CO 2 溶 解 度 計 測 )、 機 械 学 会 論 文 集 、
B,71-704,pp.151-155,2005
30
80
CO2溶解度(kg/m3)
CO2溶解度(kg/m3)
80
70
60
70
60
10℃
15℃
20℃
25℃
≪P=12MPaの場合≫
≪P=10MPaの場合≫
≪P=7MPaの場合≫
50
50
10
図 2.1.2-11
15
20
温 度 (℃)
25
温 度 と CO 2 溶 解 度 の 関 係
5
図 2.1.2-12
(文献8を変換)
またいくつかの実験データ
7)、 8)
10
圧 力 (MPa)
15
圧 力 と CO 2 溶 解 度 の 関 係
(文献8を変換)
か ら 圧 力 と 溶 解 度 C( kg/m 3 )の 関 係 を 、温 度 を パ
ラ メ ー タ と し て 図 2.1.2-13 に 示 し た 。 図 2.1.2-10 で 示 し た 染 谷 ら
8)
の結果と同様、
高 圧 で は CO 2 の 溶 解 度 は 頭 打 ち に な る こ と が わ か る 。
CO 2 マ イ ク ロ バ ブ ル 地 中 貯 留 の 対 象 圧 力 は 、 後 述 す る よ う に お よ そ 圧 力 30 気 圧
(3MPa)か ら 50 気 圧 (5MPa)で あ る の で 、 そ の 範 囲 を 斜 線 で 示 し た 。 同 図 よ り 注 入 圧
1 MPa を 作 用 さ せ た 場 合 の 地 下 300m で の CO 2 溶 解 度 は 45g /L( 4.5wt% -CO 2 /m 3 )
であると想定される。
図 2.1.2-13
圧 力 と CO 2 溶 解 度 の 関 係
31
図 2.1.2-13 に 示 し た デ ー タ は 、 以 下 の 計 算 過 程 に よ っ た 。
・ 温 度 30~ 31℃ 、 圧 力 30 ata、 溶 解 度 は 19.5 Nm 3 -CO 2 / m 3 -H 2 O
重量の単位に換算する。
N=PV/RT=1×19.5×1000/0.082×273=871.0≒ 871 モ ル
CO 2 の 分 子 量 は 44 な の で 、
871×44=38324≒ 38300 g = 38.3 kg
したがって
19.5 Nm 3- CO 2 /m 3 -H 2 O = 38.3 kg-CO 2 /m 3 -H 2 O = 38.3 kg-CO 2 /1000 ℓ- H 2 O
= 38.3g-CO 2 / L
= 0.0383 t-CO 2 /m 3 - H 2 O
= 3.83 wt%-CO 2 / m 3 - H 2 O
= 3.83 wt%-CO 2 /m 3 -液
( CO 2 溶 解 に よ る 体 積 変 化 は 微 小 な の で 無 視 )
・ 温 度 30~ 31℃ 、 圧 力 50 ata の 時 の 溶 解 度 は 27 N m 3 -CO 2 /m 3 -H 2 O
重量の単位に換算する。
N=PV/RT=1×27×10000/.082×273=1206.1≒ 1206 モ ル
CO 2 の 分 子 量 は 44 な の で 、
1206×44=53064≒ 53100 g = 53.1 kg
したがって
27 Nm 3 -CO 2 /m 3 -H 2 O = 53.1 kg-CO 2 /m 3 -H 2 O = 53.1 kg-CO 2 /1000 ℓ- H 2 O
= 53.1g-CO 2 /L
= 0.0531 t-CO 2 /m 3 - H 2 O
= 5.31 wt%-CO 2 /m 3 - H 2 O
= 5.31 wt%-CO 2 /m 3 -液
( CO 2 溶 解 に よ る 体 積 変 化 は 微 小 な の で 無 視 )
上 述 の 計 算 よ り 求 め た CO 2 マ イ ク ロ バ ブ ル 地 中 貯 留 の 対 象 と な る 深 度 300m( 後
述 す る 。) か ら 500m の 圧 力 3 MPa、 5 MPa の デ ー タ を 表 2.1.2-2 に 示 す 。
表 2.1.2-2
温 度 と 圧 力 の 変 化 に 伴 う CO 2 溶 解 度 一 覧
単 位 : wt%-CO 2 /m 3 -液
(
圧
温度
30 ℃
) の 単 位 : g-CO 2 /L
力
3MPa
5MPa
3.8
5.3
( 38.3)
( 53.1)
32
50
2.2
3.4
( 21.6)
( 34.6)
次 に 溶 解 速 度 を 実 験 結 果 か ら 調 べ た 。図 2.1.2-14 は 、20MPa に お け る 温 度 の 違
い に よ る CO 2 溶 解 度 の 時 間 変 化 で あ る 。こ れ は セ ル 内 で 水 道 水 と CO 2 を 静 置 し て
時 間 経 過 と と も に 溶 解 度 を 調 べ た も の で 、 こ の 場 合 180 分 経 て も 溶 解 度 は 増 加 傾
向 に あ る 。CO 2 溶 解 度 は 、経 過 時 間 30 分 ま で は 水 温 100℃ の 溶 解 度 が 高 く な る が 、
経 過 時 間 60 分 以 降 は 水 温 70℃ 、 100℃ よ り 、 水 温 30℃ 、 50℃ の 溶 解 度 が 高 い 。
また温度が高くなるにつれて溶解度は低くなる傾向がある。
た だ し 、 水 温 70℃ と 水 温 100℃ で は 、 水 温 100℃ の 溶 解 度 が 高 い と い う 結 果 に
なっている。この理由は、不明である。
40
35
CO2溶解度(kg/m3)
30
25
20
15
10
水温30℃,20MPa
水温50℃,20MPa
水温70℃,20MPa
水温100℃,20MPa
5
0
0
30
図 2.1.2-14
(b)
60
90
120
時間(分)
150
180
210
水 温 の 違 い に よ る CO 2 溶 解 度 の 経 時 変 化
撹拌の影響
溶解速度促進のため、平成7年度
二酸化炭素の隔離技術に関する調査研究
9)
で は 攪 伴 を 行 な っ て い る 。攪 伴 は 容 器 内 の 水 と CO 2 を 攪 伴 す る こ と で 溶 解 の 均 一 状
態 を 乱 流 効 果 に よ り 速 め る も の で あ る 。 図 2.1.2-15 に 試 験 結 果 を 示 す 。 撹 拌 と マ
イクロバブルとの溶解速度を直接これら実験データからは比較できない。前述のよ
うにマイクロバブルの溶解速度は、乱流に支配されることから、攪拌による容器内
の乱れによりマイクロバブルによる効果と同様の傾向になるものと考えられる。
攪 伴 な し の 静 止 時 は 、圧 力 20MPa の 試 験 で あ り 、撹 拌 時 は 10MPa の 試 験 で あ り 、
撹拌の有無による比較は圧力条件が異なる点を考慮に入れる必要があるが、撹拌す
る こ と で 圧 力 が 10MPa で も 、静 止 時 の 圧 力 20MPa よ り 溶 解 す る 。す な わ ち 乱 流 効
果は溶解促進効果があるといえる。
33
45
40
3
CO2溶解度(kg/m )
35
30
25
20
水温30℃、10MPa
15
水温50℃,10MPa
10
水温70℃、10MPa
水温100℃、10MPa
5
0
0
30
図 2.1.2-15
(c)
60
90
120
時間(分)
150
180
210
撹 拌 時 の CO 2 溶 解 度 の 経 時 変 化
塩水の影響
ア .温 度 、 圧 力 と の 関 係
塩 分 濃 度 と 純 粋 な NaCl( 塩 ) 水 へ の CO 2 の 溶 解 度 の 関 係 を 図 2.1.2-16 に 示 す 。
塩 分 濃 度 が 高 く な る と CO 2 溶 解 度 は 下 が る 。 IPCC の Special Report(2005)に よ
る と 、 塩 分 濃 度 の CO 2 の 溶 解 量 に 与 え る 影 響 は 下 記 の 式 の よ う に 示 さ れ て い る 。
wco2 ,b  wco 2 , w 
(1.0 - 4.893414  10-2 S+0.1302838  10-2 S2 - 0.17871199  10-4 S3)
( 2.1.2-5)
こ こ で wco 2 は 、 CO 2 溶 解 度 で あ る 。 b は 塩 水 を 示 し wco 2, b は 、 塩 水 の CO 2 溶
解 度 で あ る 。 w は 、純 水 を 示 し 、 wco 2, w は 、純 水 の CO 2 溶 解 度 で あ る 。 S は 塩 分
濃度である。
平 均 的 海 水 塩 分 濃 度 へ の CO 2 溶 解 度 は 、そ れ を 3.5% と し て 、2.1.2-5 式 に 代 入 す
る と 、 84% と な る 。
34
0.84
3.5%
図 2.1.2-16
全 蒸 発 残 留 物 で 表 し た 塩 水 濃 度 と 塩 水 の CO 2 溶 解 度
(純水の溶解度1に対する比率)
出 典 : IPCC Special Report on Carbon dioxide Capture and Storage 2005
図 2.1.2-17 に 塩 分 の 有 無 に よ る CO 2 溶 解 度 の 経 時 変 化 を 示 す 。 塩 分 有 無 に お
け る 水 温 の 違 い に よ る 溶 解 度 の 関 係 は 、 塩 分 な し の CO 2 溶 解 度 (150 分 時 点 )は 、
水 温 低 温 (30℃ 、50℃ )> 水 温 高 温( 70℃ 、100℃ )で あ る 。塩 分 あ り の CO 2 溶 解
度 は 、 水 温 低 温 ( 50℃ ) < 水 温 高 温 ( 70℃ ) で あ る 。
た だ し 、水 温 50℃ 、70℃ に お け る 溶 媒 の 塩 分 の 有 無 に よ る 比 較 で は 、塩 分 が あ
る 方 が 溶 解 度 は 低 い 。 温 度 の 影 響 を 含 む と 、 塩 分 有 り は 、 水 温 50℃ と 70℃ の 比
較 で は 、 水 温 70℃ の 方 が 、 溶 解 度 が 高 い が 、 一 方 の 塩 分 な し は 、 水 温 50℃ の 方
が、溶解度が高いという逆転が生じている。また、塩分なしの溶解度だけを見て
も 、 150 分 時 点 で は 、 水 温 50℃ > 水 温 30℃ > 水 温 100℃ > 水 温 70℃ と な り 、 低
温の方が高温より溶解度が高いという関係はあるが、温度によりばらつきがある。
35
50
3
CO2溶解度(kg/m )
45
40
水温30℃、塩分なし
35
水温50℃、塩分なし
30
水温70℃、塩分なし
水温100℃、塩分なし
25
水温50℃、塩分3%
20
水温70℃、塩分3%
15
10
5
0
0
図 2.1.2-17
30
60
90
120
150 180
時間(分)
210
240
270
300
塩 分 有 無 に よ る CO 2 溶 解 度 ( 静 止 ) の 経 時 変 化
同 一 圧 力 条 件 に お け る 塩 分 の 有 無 に よ る CO 2 溶 解 度 は 、 図 2.1.2-18 に 示 す 。 塩
分 濃 度 が 0 % の 方 が CO 2 の 溶 解 度 は 大 き い 。 同 じ 圧 力 で も 塩 分 濃 度 が 0 % の 方 が
CO 2 は 、 溶 解 す る 。
圧 力 の 違 い 、塩 分 濃 度 の 違 い に よ る CO 2 溶 解 度 を 図 2.1.2-19 に 示 す 。20MPa の
試 験 ケ ー ス の 方 が 、 10MPa の 試 験 ケ ー ス よ り CO 2 溶 解 度 が 高 い 。 塩 分 濃 度 3 % の
試 験 ケ ー ス の 方 が 、塩 分 濃 度 6 % の 試 験 ケ ー ス よ り CO 2 溶 解 度 が 高 い 。水 の 塩 分 濃
度が同一の場合、溶解度は圧力が高い方が高い。
25
25
水温70℃、塩分0%,20MPa
水温70℃ 塩分6%10MPa
水温70℃ 塩分6%20MPa
水温70℃ 塩分3%10MPa
水温70℃ 塩分3% 20MPa
水温70℃、塩分3%、20MPa
20
水温70℃、塩分6%、20MPa
C O 2 溶 解 度 (kg/m 3 )
C O 2 溶 解 度 (kg/m 3 )
20
15
10
15
10
5
5
0
0
0
30
図 2.1.1-18
60
90
120
150
時間(分)
180
210
0
240
塩分濃度の違いによる
30
60
90
120
時間(分)
図 2.1.2-19
溶 解 度 の 経 時 変 化( 静 止 時 )
150
180
210
240
圧 力 の 違 い に よ る CO 2
CO 2 溶 解 度 の 経 時 変 化
(静時止)
イ .攪 拌 の 有 無 に よ る 溶 解 度 の 違 い
塩 水 を 溶 媒 と し た 攪 伴 時 の CO 2 溶 解 度 の 経 時 変 化 を 図 2.1.2-20 に 、 塩 水 を 溶 媒 と
36
し た 静 止 時 の CO 2 溶 解 度 の 経 時 変 化 を 図 2.1.2-21 に 示 す 。ま た 撹 拌 時 に お け る CO 2
溶 解 度 経 時 変 化 を 塩 分 の 有 無 を パ ラ メ ー タ と し て 図 2.1.2-22 に 示 す 。
図 2.1.2-20 と 図 2.1.2-21 を 比 較 す る と 、攪 伴 の 効 果 に よ り 溶 解 速 度 が 速 い こ と 、
また撹拌時でも高圧の溶解速度が速いことがわかる。
図 2.1.2-22 の 塩 分 濃 度 0 % 、3 % 、10MPa、20MPa の 撹 拌 の 条 件 で は 、塩 分 0 % 、
20MPa の CO 2 溶 解 度 が 高 い 。
25
25
20
C O 2 溶 解 度 (kg/m 3 )
20
C O 2 溶 解 度 (kg/m 3 )
水温70℃ 塩分6%10MPa
水温70℃ 塩分6%20MPa
水温70℃ 塩分3%10MPa
水温70℃ 塩分3% 20MPa
15
10
水温70℃、塩分濃度3%、10MPa
5
水温70℃,塩分濃度3%、20MPa
15
10
5
0
0
0
30
60
90
120
時間(分)
150
180
210
0
図 2.1.2-20 攪 伴 時 の 圧 力 の 違 い に よ る
30
60
図 2.1.2-21
CO 2 溶 解 度 の 経 時 変 化
90
120
時間(分)
150
180
210
240
静止時の圧力の違い
に よ る CO 2 溶 解 度 の 経 時 変 化
35
C O 2 溶 解 度 (kg/m 3 )
30
25
20
15
塩分濃度0%、10MPa
塩分濃度0%,20MPa
塩分濃度3%、10MPa
塩分濃度3%、20MPa
10
5
0
0
図 2.1.2-22
ウ.
30
60
90
120
時間(分)
150
180
210
攪 伴 時 の CO 2 溶 解 度 の 経 時 変 化
- 海 水 へ の CO 2 の 溶 解 に 伴 う 反 応 -
塩基との反応
CO 2 が 水 に 溶 解 す る と 炭 酸 (H 2 CO 3 )に な り 、 炭 酸 水 素 イ オ ン HCO 3 - と H +
が生
成 し 、 pH が 低 く な る 。
CO 2 ( aq ) +
H2O
H 2 CO 3 ( aq )
⇔
⇔
H 2 CO 3 ( aq )
HCO 3 -
+
H+
そ の 後 、そ の 水 に Ca 2 + な ど が あ る 海 水 で は 、炭 酸 イ オ ン CO 3 2 - が 塩 水 中 の Ca 2 + な
ど と 反 応 し 、 炭 酸 水 素 イ オ ン HCO 3 - が 生 成 す る 。
37
Ca 2 + + 2HCO 3 ― →
Ca( HCO 3 ) 2 ( 炭 酸 水 素 カ ル シ ウ ム )
ま た 、 高 ア ル カ リ 度 (高 pH)の も と で 存 在 す る 炭 酸 イ オ ン CO 3 2 - は 、 塩 水 中 の
Ca 2 + な ど と 反 応 し て 炭 酸 塩 が 生 成 す る 。
Ca 2 + CO 3 2 - →
CaCO 3 ( 炭 酸 カ ル シ ウ ム )
上記の反応は、海水中の成分やバクテリアなどが触媒となり鉱物化を促進する可能
性がある。
3)
そ の 他 の CO 2 の 性 質
こ こ で は 、前 述 の CO 2 の 物 理・化 学 的 性 質 以 外 の 性 質 に つ い て ま と め る 。大 気 に お
け る 通 常 の 構 成 ( 現 在 370ppmv と い う 低 い 濃 度 で 存 在 す る ) で は 、 CO 2 は 危 険 で な
い。非引火性である。
常 温 常 圧 の 空 気 よ り 1.5 倍 の 密 度 な の で 、 管 路 ま た は 円 管 に 集 め ら れ る 貯 蔵 や 危 険
な 状 況 を 作 り 出 す 他 の 薄 い ラ イ ニ ン グ か ら 漏 れ る 傾 向 が あ る 。放 出 さ れ た CO 2 の 危 険
性は、気体で色も味も無く、一般に高濃度で存在しない限り無臭であることである。
圧 力 下 に あ る と き 、CO 2 の 漏 洩 は 非 常 に 危 険 で あ る 。例 え ば 、窒 息 、圧 力 解 放 中 の
騒 音 、凍 傷 、ハ イ ド レ ー ト /ア イ ス プ ラ グ 、高 圧 力 な ど の 状 況 が 生 じ る 可 能 性 が 想 定 さ
れる。
CO 2 の 扱 い と 処 理 に は ど ん な CO 2 関 連 施 設 に お い て も 健 康 、安 全 、環 境 計 画 を 準 備
期間に考慮しなければならない
4)
1) 。 と さ れ て い る 。
CO 2 溶 解 水 の 密 度
溶 解 に よ る CO 2 の 貯 留 に お い て は 、 CO 2 の 密 度 が 重 要 な パ ラ メ ー タ と な る 。 CO 2
の 密 度 を 計 測 し た 例 を 図 2.1.2-23 に 示 す 。 図 で は 、 横 軸 に CO 2 溶 解 水 の 濃 度 を 、 縦
軸 に CO 2 溶 解 水 の 密 度 を 水 の 密 度 と の 差 で 示 し て あ る 。濃 度 上 昇 に 伴 い 、密 度 も 上 昇
し 、 地 下 水 よ り 次 第 に 重 く な る こ と が わ か る 。 例 え ば 、 20℃ の 場 合 、 勾 配 は 2.84 な
の で 、4 wt% 濃 度 の 溶 解 水 で は 密 度 差 は 11.36×10- 3 kg/L で あ る か ら 、4 wt% CO 2 溶
解 水 の 密 度 は 約 1011kg/m 3 と な る 。
図 2.1.2-23 溶 存 CO 2 濃 度 - CO 2 溶 解 水 の 密 度 変 化
出 典 : 小 島 、 山 根 、 綾 : 二 酸 化 炭 素 溶 液 密 度 の 絶 対 計 測 、 National Marine Institute
38
2.1.3 既 往 の CO 2 貯 留 方 式
既 往 の CO 2 貯 留 に つ い て 、 石 油 や 天 然 ガ ス の 増 進 回 収 や 研 究 段 階 の も の を 含 め て 表
2.1.3-1 に ま と め る 。
表 2.1.3-1
既 往 の CCS 方 式 と そ の 概 要
CCS 方 式
貯留方法の概要
深 部 塩 水 帯 水 層 ( Deep
CO 2 を 超 臨 界 状 態 と な る 温 度・圧 力 で 地 下 800m 以 深
Saline Aquifer) 貯 留
の帯水層に注入し、貯留する。モニタリング必要。
溶解方式の浅部貯留
CO 2 を 飽 和 濃 度 レ ベ ル ま で 溶 解 さ せ た 炭 酸 ガ ス 溶 解
水 を 地 上 で 生 成 し 、こ の ガ ス 溶 解 水 を 地 中 の 帯 水 層 に
注入する。
マイクロバブル法による地
CO 2 を 飽 和 濃 度 レ ベ ル ま で 溶 解 さ せ た CO 2 溶 解 水 を
中貯留
地上で生成し、この溶解水を地中の帯水層に圧入す
る。
液体バブル法
高 圧 で 液 化 し た CO 2 を マ イ ク ロ バ ブ ル と し て 水 と 混
合 す る こ と で 、エ マ ル ジ ョ ン を 作 り 、地 層 の 間 隙 に 貯
留する方法。
ジオリアクター
地 中 高 温 地 域 に 排 ガ ス を 注 入 し た 場 合 、 岩 石 中 の Ca
等 と の 反 応 に よ り 炭 酸 塩 が 生 成 し 、CO 2 の 固 定 化 が 促
進 さ れ る と と も に 、岩 石 亀 裂 中 で 炭 酸 塩 が 沈 殿 す る 場
合には、セルフシーリング効果により、その下部に
CO 2 を 安 定 的 に 貯 留 す る シ ス テ ム を 形 成 す る こ と が
期待される。
炭層固定
CO 2 を 石 炭 層 に 注 入 し て 、石 炭 中 の 微 小 空 隙 に 吸 着 さ
せ 、元 々 吸 着 さ れ て い た メ タ ン ガ ス を 置 換 し て 、メ タ
ンを回収する。
石 油 ・ ガ ス 増 進 回 収 ( EOR、
CO 2 を 超 臨 界 状 態 で 油 田 、ガ ス 田 に 注 入 し 、油 田 の 場
EGR)
合 は 超 臨 界 CO 2 と 油 が 混 ざ り 、粘 性 が 低 下 し 、油 の 回
収が増進される。ガスの場合は、炭層固定と同じ。
枯渇油・ガス層貯留
枯 渇 し た 油 田 、 ガ ス 田 に 超 臨 界 状 態 の CO 2 を 注 入 し
て、そこに貯留する。
蛇紋岩層固定
蛇 紋 岩 岩 盤 中 の 地 下 水 に CO 2 を 注 入 し て 、酸 性 化 す る
こ と で Mg の 溶 解 を 促 進 し 、 Mg 炭 酸 塩 鉱 物 を 沈 殿 さ
せ る こ と で CO 2 を 固 定 す る 。 貯 留 ポ テ ン シ ャ ル は 、
11.1~ 14.7 億 tCO 2 /y( 国 内 蛇 紋 岩 体 )。高 ア ル カ リ 地
下 水 を 伴 う 蛇 紋 岩 体 は CO 2 を 炭 酸 塩 鉱 物 と し て 固 定
す る 能 力 を 有 し て い る 。 蛇 紋 岩 体 へ の CO 2 注 入 に よ
っ て 地 下 水 が 酸 性 化 し 、蛇 紋 石( Mg 3 Si 2 O 5 (OH) 4 )お
よ び ブ ル ー サ イ ト( Mg(OH) 2 )の 溶 解 反 応 が 促 進 さ れ 、
39
Mg が 地 下 水 に 供 給 さ れ る 。こ の 地 下 水 が 移 行 す る 過
程で接触した鉱物が溶解して地下水は徐々にアルカ
リ 性 へ 回 復 し 、余 剰 な Mg が Mg 炭 酸 塩 鉱 物 と し て 沈
殿する可能性がある。
コールベッドメタン増進回
石 炭 は 、木 材 か ら 亜 炭 、褐 炭 、亜 瀝 青 炭 、瀝 青 炭 、無
収
煙炭と石炭化が進行していく過程で水分とメタンを
放出する。このメタンはコールベッドメタンと呼ば
れ 、効 率 的 に 回 収 す る と 天 然 ガ ス 資 源 と し て 活 用 す る
こ と が で き 、天 然 ガ ス と し て の コ ー ル ベ ッ ド メ タ ン を
増進回収する方法を、コールベッドメタン増進回収
(ECBM)と 呼 ぶ 。
増 進 回 収 に は 、CO 2 、N 2 、燃 焼 排 ガ ス 等 を 注 入 井 か ら
高 圧 で 注 入 し 、石 炭 層 内 で 注 入 ガ ス と メ タ ン を 置 換 さ
せ、生産井からメタンを生産する方法となる。
2.1.4 ま と め
CO 2 マ イ ク ロ バ ブ ル 地 中 貯 留 の 基 本 コ ン セ プ ト を 考 え る に あ た り 、マ イ ク ロ バ ブ ル お よ
び CO 2 の 特 性 を ま と め る と 表 2.1.4-1 の よ う で あ る 。
表 2.1.4-1
マ イ ク ロ バ ブ ル お よ び CO 2 の 特 性
マイクロバブル特性
地中貯留におけるメリット
① 界 面 面 積 /総 体 積 が 大 き い
直 径 10μ m の マ イ ク ロ バ ブ ル の 界 面 面 積 /総 体 積 は 直
径 1mm の ミ リ バ ブ ル の そ れ の 100 倍 、 そ の た め 溶 解
しやすい。
②浮上速度が遅い
浮 力 が 小 さ い た め 、遮 蔽 層 に 到 達 し た 場 合 で も 大 き な
浮力が働かない。
③内部圧力が高い
径 に 反 比 例 し て 内 部 圧 力 が 高 く な る た め 、ミ リ バ ブ ル
よ り マ イ ク ロ バ ブ ル 化 す る と 圧 力 は 高 く な り 、圧 力 効
果により溶解度も向上する。
④表面が負に帯電している
マイクロバブル同士の結合は帯電の反発により抑制
される。そのため①の性質が保持される。
⑤自己圧壊性を有する
反応性が高くなる。
⑥高密度でのマイクロバブ
加 圧 溶 解 法 で は 数 千 個 /m L、二 相 流 旋 回 法 で は 数 百 個
ルの発生と吐出
/m L 程 度 の マ イ ク ロ バ ブ ル が 発 生 し 、二 相 流 旋 回 法 で
は、大量吐出のため溶解速度が速くなる。
⑦ CO 2 溶 解 水 の 密 度
CO 2 が 溶 解 し た 地 下 水 の 密 度 は 、溶 解 し て い な い 地 下
水 に 比 べ て 重 く な る( 4wt%の CO 2 溶 解 水 1011kg/m 3 )
ので溶解水は下降する。
⑧マイクロバブルの残留
大 気 圧 状 態 で 水 1m 3 当 り に 1.73kg の CO 2 が 溶 け る 。
40
高 濃 度 マ イ ク ロ バ ブ ル で 直 径 10μ m の も の が 2000 個
/m L の 場 合 、体 積 に し て 1m 3 当 り 4.7cc し か 存 在 し な
い こ と に な る 。 4.7cc は 4.7/44= 0.1g と な り 溶 解 量 の
1/10,000 以 下 の 量 で あ る 。高 圧 状 態 で は 、溶 解 量 が 増
加 し 、気 泡 直 径 は 小 さ く な る の で そ れ ら の 差 は よ り 大
きくなり、残留分は無視できる。
以 上 の こ と か ら 、ほ ぼ 全 溶 解 で CO 2 溶 解 水 を 貯 留 層 に 注 入 し 、貯 留 す る 方 法 を 考 え る こ
とが可能である。
2.1 節
参考文献
1)http://staff.aist.go.jp/m.taka/RS_Characteristics_of_マ イ ク ロ バ ブ ル .html:2.3 マ イ ク
ロバブルの特徴
2) http://staff.aist.go.jp/m.taka/RS_Generation_methods_of_マ イ ク ロ バ ブ ル .html: 2.2
マイクロバブルの発生法
2)小 林 森 雄 、 末 政 直 晃 、 永 尾 浩 一 、 岡 庭 一 憲 : マ イ ク ロ バ ブ ル 水 の 混 入 に お け る 飽 和 度 低
下 効 果 の 検 討 、 第 65 回 土 木 学 会 年 次 学 術 発 表 会 、 Ⅲ -091、 2010
3)川 村 隆 文 : マ イ ク ロ バ ブ ル に よ る 抵 抗 低 減 メ カ ニ ズ ム に 関 す る 数 値 的 ・ 実 験 的 解 明 、 な
が れ 25、 pp199-208、 2006
4)http://www.research.kobe-u.ac.jp/eng-multiphase/research/research3.html:マ イ ク ロ
バブルによる摩擦抵抗低減効果に関する研究
5)竹 村 文 男 、 矢 部 彰 : 水 中 に お け る 上 昇 二 酸 化 炭 素 気 泡 の ガ ス 溶 解 速 度 に 関 す る 研 究 、 日
本 機 械 学 会 論 文 集 ( B 編 ) 64 巻 623 号 ( 1998-7)
6) 杉 山 和 靖 、 川 島 久 宜 、 藤 原 暁 子 、 菱 田 公 一 、 羽 田 智 信 、 亀 田 正 治 、 児 玉 良 明 : マ イ ク
ロ バ ブ ル 溶 解 に 対 す る 乱 流 影 響 に 関 す る 研 究 、海 上 技 術 安 全 研 究 所 報 告 、6(2),pp. 139-154、
2006
7) 染 矢
聡 、坂 東
茂 、西 尾
匡 弘:CO 2 の 水 へ の 溶 解 度 に 対 す る 圧 力 の 影 響( ガ ス 析 出
法 に よ る CO 2 溶 解 度 計 測 )、 機 械 学 会 論 文 集 、 B,71-704,pp.151-155,2005
8) 新 エ ネ ル ギ ー・産 業 技 術 総 合 開 発 機 構・財 団 法 人
人
化学工学会、平成7年度
地 球 環 境 産 業 技 術 研 究 機 構・社 団 法
二 酸 化 炭 素 の 隔 離 技 術 に 関 す る 調 査 研 究 ,平 成 8 年 3 月
41
2.2 貯留システム概念の構築
2.2.1 基 本 コ ン セ プ ト
CO 2 マ イ ク ロ バ ブ ル 地 中 貯 留 シ ス テ ム の 基 本 コ ン セ プ ト を 表 2.2.1-1 に ま と め た 。
表 2.2.1-1
CO2 マ イ ク ロ バ ブ ル 地 中 貯 留 シ ス テ ム の 基 本 コ ン セ プ ト
深部塩水帯水層貯留
マイクロバブル法貯留
超臨界
全溶解
CO 2 の 状 態
注入井・揚水井併用方式
注 水 - 揚 水 間 に お い て CO 2 貯 留 を 制 御
することが可能となる。
注入方法
注水-揚水のセットにより注入圧を低
単孔注入
減させられる。
CO 2 溶 解 の 溶 媒 と し て の 地 下 水 を 確 保
すること、それを用いることによる環
境負荷を低減させる。
CO 2 溶 解 水 は 地 下 水 よ り 密 度 が 大 き い
超 臨 界 状 態 の CO 2 密 度 は
200~ 900kg/m 3 で あ り 、地
下 水 よ り 小 さ い た め 、遮 蔽
遮蔽層
層で浮力を抑える必要が
あ る 。十 分 な 強 度 と 低 透 水
の遮蔽層が必要となる。
ので下降することが期待される。
深部塩水帯水層貯留に比べて、地上ま
での漏洩距離が短いので、遮蔽層には、
低透過性、低拡散性が要求される。透
過性には、発生時や残留マイクロバブ
ル の 長 期 的 な 浮 上 に 対 す る 気 化 CO 2 の
透気性と遮蔽層に溶解水の圧力が作用
した場合の透水性が含まれる。
地下水利用深度以下の浅部地層で可能
-800m 以 深
貯留深度
( お よ そ -300m ~ -500m )
2.2.2 基 本 シ ナ リ オ の 検 討
1)
地域分散型貯留の概念とその必要性
我 が 国 の 産 業 別 の CO 2 排 出 量 一 覧 の 例 と し て 、 2007 年 度 調 査 結 果 を 事 業 所 あ た り 排 出
量 の 多 い 順 に 表 2.2.2-1 に 示 す 。 こ れ よ り 少 な い 排 出 量 の も の は 省 略 し た 。 こ の 表 よ り 、
4 位 以 下 は 1 事 業 所 あ た り の 排 出 量 が 、 ほ ぼ 10 万 t-CO 2 以 下 が ほ と ん ど を 占 め て い る 。
表 2.2.2-1
業種
産 業 別 CO 2 排 出 量 一 覧
2007 年 度 排 出 量 (t-CO 2 )
直接
間接
事業所数
事業所あたり
排 出 量 (t-CO 2 )
1
電気業
439,552,874
24,166,489
232
1,894,624
2
鉄鋼業
186,889,270
204,343,459
477
391,801
3
石油精製
33,546,182
35,711,082
120
279,552
4
窯業・土石製品製造
71,122,471
71,680,166
559
127,232
43
業
5
パルプ・紙・紙加工
品製造業
28,498,646
31,151,346
388
73,450
6
化学工業
80,682,372
90,032,012
1,141
70,712
7
サ ー ビ ス 業 (清 掃 工
13,960,325
15,452,291
607
22,999
場など)
8
繊維工業
6,556,260
8,728,720
336
19,513
9
鉱業
1,209,580
1,458,907
64
18,900
10
電子部品・デバイ
12,852,420
21,743,274
687
18,708
ス・電子回路製造業
さらに、特に排出量の多い電気業、鉄鋼業について事業所排出量のヒストグラムを
図 2.2.2-1 に 示 す 。 こ れ に よ る と 、 事 業 所 ご と の 排 出 量 で 年 間 10 万 t を 超 え て い た 。
こ れ ら の 産 業 に お い て も 、 年 間 排 出 量 が 10 万 t 以 下 の 事 業 所 を 多 く 抱 え て い る 。
さ ら に 全 産 業 に お い て も 事 業 所 の 大 部 分 は 年 間 10 万 t 以 下 で あ る こ と が 推 測 さ れ る 。
200
100
39
22
20
32
12
鉄鋼業
80
19
事業所件数
50
電気業
150
105
117
470
135
100
50
45
50
8
10
0
5千
以
5千 下
~
1万
1~
5万
5~
10
10 万
~
5
50 0万
~
10
1 0 0万
0万
以
上
0
5千
以
5千 下
~
1万
1~
5万
5~
10
10 万
~
5
50 0万
~
10
1 0 0万
0万
以
上
事業所件数
224
CO2排出量(tCO2/y)
CO2排出量(tCO2/y)
図 2.2.2-1
電気業、鉄鋼業について事業所排出量のヒストグラム
本 報 告 で は 、 年 間 10 万 t の CO 2 を 排 出 す る 事 業 所 を 大 規 模 排 出 事 業 所 と 年 間 10 万 t
未 満 の CO 2 を 排 出 す る 事 業 所 を 中 小 規 模 排 出 事 業 所 と 定 義 す る 。 図 2.2.2-1 に 示 す よ う
に 事 業 所 の 大 部 分 を 占 め る 中 小 事 業 所 の CO 2 貯 留 方 法 が 必 要 で あ る こ と は 容 易 に 推 測 さ
れる。
中 小 事 業 所 の CO 2 貯 留 を 検 討 す る 場 合 、 定 め る 必 要 の あ る ス ペ ッ ク は 、 貯 留 位 置 、 貯
留規模、貯留深度および貯留方法である。貯留位置は、輸送コストを下げるために事業
所の直下または近傍が望ましい。貯留規模は、これまでの事業所排出量の結果より、年
間 1 ~ 10 万 t 程 度 と 考 え ら れ る 。下 限 の 年 間 1 万 ト ン は あ く ま で も 目 安 で あ り 、コ ス ト
などの検討より導かれるものと考えるが、暫定的に定めた値である。深度は、超臨界貯
留の場合より浅部となり、物理的に定まることは無い。さらにコストの面からはできる
だけ浅いのが望ましいが、井戸による地下水利用が行われているために、利用地下水に
影響の無い深度を確保する必要がある。また、利用地下水への影響排除のため、利用地
44
下水圏よりも低い位置にある低透水層を把握の上、その下層に貯留することが必要とな
る 可 能 性 が 考 え ら れ る 。貯 留 方 法 は 、注 入 位 置 で の 地 下 水 組 成 へ の 影 響 を 抑 え る た め に 、
か ん 水 に CO 2 を 溶 解 さ せ た も の を 注 入 す る 方 法 が 適 す る と 考 え る 。
こ の よ う な 貯 留 方 式 で は 、事 業 所 近 傍 で の 注 入 の た め 、液 化 、輸 送 の コ ス ト が な く な る
ことに加え、ボーリング深さも浅くなることが予想されるため、ボーリング費用が軽減
されると考えられる。このため、注入コストが安価になることより、中小規模排事業所
でも導入の容易な注入方式であると考えられる。
図 2.2.2-2 に 現 在 考 え ら れ る CO 2 地 中 貯 留 の イ メ ー ジ 図 を 示 す 。地 上 に 注 入 設 備 を 設
置し、直下に注入井を設ける。注入井は、遮へい層となる低透水性地層の下位の孔隙率
の大きい地層(砂層:砂礫層も含む)に到達させる。
ただし、未固結堆積物は、強度の面で避けるべきである。距離を離した地点に揚水井
を 設 置 し 、地 下 水 を く み 上 げ る 。こ の か ん 水 に CO 2 を 溶 解 さ せ 地 中 に 注 入 す る 。注 水 井
お よ び 、揚 水 井 の 間 で の 移 流 を 基 本 的 に は 利 用 し CO 2 を 注 入 す る 。砂 層 に 元 々 地 下 水 流
動がある場合はそれを利用して効率化を図る。
陸上ガスパイプライン
脱湿機/ポンプ
陸上揚水パイプライン
揚水井
-300m
観測井
注入井
MB化
-500m
図 2.2.2-2
遮蔽層1
貯留層1
遮蔽層2
貯留層2
CO 2 の 地 層 貯 留 の イ メ ー ジ
2) 基 本 シナリオの設 定
(1)
発生ガスの分離の有無
事 業 所 よ り 排 出 さ れ る ガ ス に は 、 CO 2 以 外 に も 多 く の 気 体 が 含 ま れ て い る 。 例 え
ば 空 気 の 大 部 分 を 占 め る 窒 素 ガ ス な ど は 相 当 量 が 含 ま れ る と 推 定 さ れ る 。NOx な ど
の化合物になっていない窒素ガスは、不活性であり、水への溶解度が低い。これを
CO 2 と と も に 地 中 に 注 入 す る と CO 2 の 貯 留 効 率 を 下 げ る こ と と な る 。排 ガ ス を そ の
まま注入しない場合、分離回収作業が発生することになり、そのコストを考慮する
こ と が 必 要 と な る 。ま た 、分 離 し な い 排 ガ ス を マ イ ク ロ バ ブ ル 化 し 水 に 注 入 し て も 、
窒 素 ガ ス は 溶 解 し に く い た め 、 気 体 と し て 分 離 し 回 収 す る こ と が で き れ ば 、 CO 2 を
主 体 に 注 入 し 溶 解 さ せ る こ と に な る 。 こ の 場 合 は 、 NOx や SOx な ど の 通 常 有 害 と
されるガスも溶解させる可能性がある。
こ の よ う に 、排 ガ ス か ら の CO 2 分 離 の 有 無 に よ り 、コ ス ト や 不 溶 ガ ス 回 収 技 術 や
有害ガスの環境への影響評価などの検討が必要になるが、現在は、それぞれのシナ
45
リオを提示するにとどめる。
(2)
貯 留 CO 2 の 状 態
CO 2 を 貯 留 す る 場 合 の 状 態 は 、 容 積 の 観 点 か ら す る と 液 体 も し く は 固 体 が 望 ま し
い 。 CO 2 の 状 態 図 を 図 2.2.2-2 に 示 す よ う に 、 固 体 は 極 低 温 も し く は 高 圧 領 域 、 さ
ら に 液 体 は 例 え ば 地 温 が 20~ 35℃ あ た り で は 、お よ そ 500m よ り 深 い 領 域 の 圧 力 で
存在可能となる。本貯留法では、貯留深度をできるだけ浅くすることを前提に、温
泉 井 戸 を 除 く 一 般 的 な 利 用 地 下 水 圏 よ り も 深 い と 考 え ら れ る 300m か ら 500m の 間
の貯留層を対象としている。
地 下 300m か ら 500m の 間 で は 温 度 20~ 35℃ が 想 定 さ れ 、CO 2 は 気 体 と し て 存 在
す る 。地 上 へ の 上 昇 を で き る だ け 避 け る こ と の で き る CO 2 の 状 態 と し て は 、地 下 水
へ の 溶 解 が 適 切 と 考 え ら れ る 。 CO 2 溶 解 水 を 作 成 す る 最 も 効 率 の 良 い 方 法 と し て 、
CO 2 の マ イ ク ロ バ ブ ル を 発 生 さ せ 、 急 速 な 溶 解 に 期 待 す る こ と と し た 。
臨界点
(73.9bar/31.1℃)
超臨界領域
水頭m
500
200
100
対象とする領域
CO 2 の 状 態 図
図 2.2.2-2
(3)
注入井配置(水平方向、深さ方向)
孔井は、注入井、揚水井、モニタリング井から構成される。このうち、注入井と
モニタリング井は必須である。
揚 水 井 は 、貯 留 層 の 地 下 水 の 移 流 速 度 が 小 さ く 、注 入 に 伴 い 注 入 位 置 で の CO 2 濃
度が上昇し飽和にいたる懸念が大きい場合は、周囲への移流を喚起すること、注水
量、揚水量の制御により溶解水の移流をコントロールすることを目的としている。
また溶媒水となる水の確保により、コストメリットもある。
貯留層に移流の存在が期待され、その速度が大きいために注入量よりも移流によ
っ て CO 2 溶 解 水 が 移 動 し 注 入 位 置 で の CO 2 濃 度 が 飽 和 に い た る こ と の 無 い 場 合 、
こ れ に 揚 水 井 を 加 え る 必 要 は 無 い と 考 え ら れ る 。 こ の 場 合 は 、 CO 2 溶 解 水 の 移 動 を
46
モニタリングし、生活圏への影響の無いことなど周囲影響の把握が欠かせない。
揚水井の配置に関しては、平面方向および深さ方向で様々な組み合わせが考えら
れ る 。本 報 告 で は そ の 例 を 示 す 。こ れ ら の 優 劣 に 関 し て の 評 価 は 今 後 の 課 題 と す る 。
平 面 的 な 孔 井 の 配 置 パ タ ー ン の 一 般 的 な も の に 、 図 2.2.2-3 に 示 す よ う な 5 点 配 置
がある。これは、注入井を中心に設置し、周囲の正方形の頂点に揚水井を配置する
配置である。
●:注入井
図 2.2.2-3
●:揚水井
孔井の 5 点配置
注 入 井 周 囲 の CO 2 濃 度 が 飽 和 に 達 し 、新 た な 孔 井 を 設 け 注 入 を 行 う 場 合 、そ れ ま
でに用いた孔井を利用して平面的に広がりを持たせるような展開のパターンが考
え ら れ る 。 図 2.2.2-4 に 直 線 的 な 孔 井 の 展 開 し 配 置 し た 例 を 示 す 。 こ こ で は 、 孔 井
を順次役割を変えて使用していくパターンを示す。図の左側に示した例は、注入の
終 わ っ た 孔 井 を 閉 鎖 (も し く は モ ニ タ リ ン グ に 転 用 )し 、 モ ニ タ リ ン グ 井 を 展 開 先 に
新たに設け、モニタリング井を揚水井に、揚水井を注入井に転用して用いるパター
ン で あ る 。図 の 右 側 に 示 し た 例 は 、注 入 井 も 注 入 井 も CO 2 溶 解 水 の 移 動 に は 用 い ず 、
これらを延伸した先に新たに設置するパターンである。
:注入井
:使用済井
:揚水井
:未使用井
:モニタリング井
掘削位置
掘削位置
初回配置
初回配置
2回目位置
揚水井を注入井
に入れ替え
新規に揚水井を
設置
2回目位置
注入井と揚水井を
同時に廃止
新規に注入井と
揚水井を設置
・
・
・
・
・
・・・
図 2.2.2-4
直線的な井の配置例
こ の 直 線 配 置 を 拡 張 し 、 正 三 角 形 に 拠 る 井 戸 の 配 置 法 の 例 を 図 2.2.2-5 に 示 す 。
最初の注入井を中心に正六角形の頂点に揚水井とモニタリング井を交互に配置し
たものを基本配置とする。最初の注入井が飽和に達した後、左図では放射状に揚水
井やモニタリング井を直線配置していくパターンを示す。右図では、基本配置を一
つのユニットととらえ、これをずらすように展開するパターンを示す。
47
そ の 1.
放射状に展開
そ の 2.
ユニットで展開
延長線上に
六面体配置
孔井を配置
ごと移動
図 2.2.2-5
(4)
平面的な井の配置
CO 2 マ イ ク ロ バ ブ ル 地 中 貯 留 シ ス テ ム の ま と め
概 念 検 討 の 段 階 で あ る が 、こ れ ま で に 示 し た CO 2 を マ イ ク ロ バ ブ ル 化 し て 注 入 す る
CO 2 マ イ ク ロ バ ブ ル 地 中 貯 留 シ ス テ ム の 特 徴 を 以 下 に 示 す 。
・貯留深さを浅くできる
現 在 検 討 さ れ て い る 深 部 塩 水 帯 水 層 に お け る 大 規 模 CO 2 貯 留 は 、 超 臨 界 状 態 CO 2
を 対 象 と し て お り 、 貯 留 深 度 が 800m 以 深 と さ れ て い る 。 ボ ー リ ン グ コ ス ト お よ び 、
漏洩管理などを考えると、深地層での技術的な困難さや経済性は大きな課題であるが、
本 貯 留 シ ス テ ム で は 300~ 500m の 深 度 を 対 象 と す る た め に 、 こ れ ら の 困 難 さ は 大 幅
に軽減されるものと考えられる。
・システムがコンパクトである
中 小 規 模 排 出 源 を 対 象 と す る た め に 、 CO 2 の 排 出 量 が 少 な く 貯 留 範 囲 を 制 限 で き る
とともに貯留深度が浅いため、注入のためのシステムは深部塩水帯水層における大規
模 CO 2 貯 留 に 比 べ コ ン パ ク ト な シ ス テ ム で 対 応 可 能 と 考 え ら れ る 。
・ 注 入 お よ び 、 貯 留 CO 2 を モ ニ タ リ ン グ お よ び コ ン ト ロ ー ル で き る
貯 留 CO 2 の 挙 動 に 関 し 相 当 期 間 の モ ニ タ リ ン グ 義 務 が 生 じ る 可 能 性 が あ る が 、循 環
を中心としたシステムでは、新たに設置しなくても注入井や揚水井として使用した孔
井をモニタリング井として用いることができる。これによって、効率的・効果的に周
囲環境影響を精度よく把握することが可能になると考えられる。モニタリングが可能
で あ れ ば 、 注 入 CO 2 量 を コ ン ト ロ ー ル す る こ と は 容 易 に な る と 考 え ら れ る 。
・ マ イ ク ロ バ ブ ル を 用 い る た め に 貯 留 層 上 部 に CO 2 プ リ ュ ー ム が 形 成 さ れ る
可能性が低い
マイクロバブルは浮力が小さく、互いに退け合い、最終的に溶解するなど大きな気
泡 と 異 な る 性 質 を 持 ち 、 CO 2 プ リ ュ ー ム や 大 き な 気 泡 が 発 生 し て 貯 留 層 上 部 に 上 昇 す
る 可 能 性 は 低 い と 考 え ら れ る 。さ ら に 、CO 2 溶 解 水 は か ん 水 に CO 2 を 溶 解 さ せ た も の
であるため、密度は地下水よりも大きく、貯留層下部に沈降していくと考えられる。
こ の た め 、 CO 2 の ガ ス や 液 体 が プ リ ュ ー ム を 作 り 貯 留 層 を 押 し 上 げ 、 破 壊 す る 可 能
48
性は低いと考えられる。
(5)
マイクロバブル発生方法・発生場所
マ イ ク ロ バ ブ ル の 発 生 方 法 と し て は 、加 圧 溶 解 型 と 回 転 せ ん 断 型 が あ る 。こ の う ち 、
加 圧 溶 解 型 は 、 CO 2 の 過 飽 和 を 利 用 す る た め 、 注 入 圧 に 加 え て さ ら に 大 き い 圧 力 を 発
生位置で加えることが必要となる。このため、マイクロバブルの発生位置が地下にな
る場合は圧力の確保や、周囲岩盤への影響などを考慮すると加圧溶解型の発生法は適
さないと考えられる。
気 体 CO 2 が 発 生 し プ リ ュ ー ム が 形 成 さ れ る と 、 地 上 へ の 漏 洩 が 懸 念 さ れ る 。 ま た 、
注 入 位 置 で は 温 度 は 20~ 35℃ 程 度 と 見 込 ま れ 、ジ オ リ ア ク タ ー の よ う に 化 学 反 応 に よ
る 鉱 物 化 を 促 進 す る 作 用 も 見 込 め な い 。 こ の た め 、 CO 2 は 溶 解 水 と し て の 注 入 が 望 ま
しい。ただし、マイクロバブルの発生後に大きな気泡も生じてしまうことや、一部の
マイクロバブルは溶解せずナノバブル化して長い間存在することが指摘されている。
大 き な CO 2 の 気 泡 回 収 の た め 発 生 位 置 で は CO 2 ガ ス の 捕 集 を 行 う 設 備 が 必 要 と な り 、
これが単純な地下水の圧送と異なる点となる。
これらを考慮したうえで、マイクロバブルの発生場所について検討した。まず、地
上 で CO 2 溶 解 水 を 作 成 し 地 中 に 注 入 す る 場 合 は 、そ の ま ま で は 圧 力 が 低 い た め に 溶 解
水の濃度は、貯留位置での飽和濃度より低くなると思われる。このため、加圧状態を
維持できる密閉型の地上施設が必要となり、耐圧の仕様を維持したまま貯留位置まで
の圧送ラインも必要となると考えられる。一方で、地上でマイクロバブルによる溶解
を行う場合、大きな気泡の回収や、マイクロバブルの状態のモニタリングは容易であ
ると考えられる。
直 接 深 部 の 地 中 に 注 入 す る 場 合 は 、CO 2 の ラ イ ン と か ん 水 の ラ イ ン の 2 系 統 で 貯 留
位置までこれらを送り、マイクロバブル化する。この場合は、注入井と揚水井および
地下水分布状態で定まる水頭による管理のみで良いために、地上での溶解方式に比べ
地上施設は簡略化が可能であると考えられる。ただし、原位置でのマイクロバブル発
生のため、注入孔出口付近での大きな気泡の回収や、マイクロバブルのモニタリング
が必要となるため、注入位置での設備が複雑化する可能性がある。
浅 /中 深 度 で の 場 合 は 、特 に 中 深 度 で マ イ ク ロ バ ブ ル を 生 成 す る と 貯 留 層 に 近 い 圧 力
条件での生成となり、貯留深度に近い条件の設備性能で可能と思われる。貯留層まで
の到達に時間を要するため、マイクロバブルの溶解に必要な時間を確保できると考え
られる。さらに、大きな気泡は注入孔を逆流する形で上昇するために、回収のための
設備を要しないと考えられる。
表 2.2-1
表 2.2-1 に 各 注 入 方 法 の 特 徴 を ま と め る 。
各注入方法の特徴
注入位置
地上
浅 /中 深 度
深部の貯留層深度
溶解水濃度
低い
高い
飽和
地上施設
加圧装置
圧送のみ
圧送のみ
大きな気泡
考慮せず
ラインで回収
貯留層に注入
気泡のモニタリング
不要
不要
必要
49
・注入圧は静水圧+注入圧であるため、あまり高圧にすると遮蔽層の破壊が起きる
ことが懸念される。なお、注入区間長が長い場合は、特に注意が必要である。
(6)
基本シナリオ
図 2.2.2-6 に 排 ガ ス よ り 分 離 回 収 を 行 っ た 場 合 の CO 2 の 貯 留 シ ス テ ム( 貯 留 シ ナ リ オ )
の 概 念 を ブ ロ ッ ク 図 と し て 示 す ( 図 で は マ イ ク ロ バ ブ ル を MB: 気 泡 を B と 標 記 )。
ま ず 、 貯 留 深 度 に よ り CO 2 の 状 態 が 異 な る 。 本 検 討 で 扱 う の は 上 段 の 深 度 300~ 500
m へ の 貯 留 で あ る 。こ の 場 合 は マ イ ク ロ バ ブ ル に 変 換 し CO 2 溶 解 水 を 作 成 す る 。下 段 で
は 深 度 500~ 700m の 領 域 と な り こ の 範 囲 で は 液 体 CO 2 を 貯 留 す る こ と に な り 、 今 年 度
の検討では範囲外となる。
上 段 の マ イ ク ロ バ ブ ル 化 し た CO 2 で は 、CO 2 の 状 態 に よ っ て 大 き な 気 泡 の 場 合 は 孔 井
内 を CO 2 と し て 回 収 さ れ る が 、地 盤 中 に 注 入 さ れ る 可 能 性 も あ る 。CO 2 が 溶 解 し た 場 合
は溶解の分だけ周囲の地下水より比重を増して存在することになるが、溶解されなかっ
たものがある場合には貯留層の空隙にトラップされるなどして残留するマイクロバブル
やマイクロバブルの形状のまま遊離して移動するマイクロバブルが存在する可能性があ
る 。溶 解 し た CO 2 は 、貯 留 層 に 留 ま り 、将 来 的 に は 鉱 物 化 し 、固 定 化 さ れ る こ と が 期 待
される。しかし、残留および遊離マイクロバブルには、集合し気泡を作る懸念もある。
この場合は、気泡は浮力が大きいため、貯留層の上方へ移動することになる。これを利
用地下水範囲へ到達させないための遮蔽層が必要となる。
な お 、液 体 CO 2 は 密 度 が 地 下 水 よ り も 小 さ い た め 、CO 2 の プ リ ュ ー ム を 形 成 し 浮 力 に
よる上昇が考えられる。この場合も貯留層の上方に遮蔽層を必要とする。
排気ガス
界面活性剤 注入深度
(注入圧)
トラップ状態
貯留機構
CO2状態
分離・回収
長期鉱物化
自身で遮蔽
孔内B
※③溶解率
※④環境影響
※①MB発生確率
※②注入条件
CO2ガス
-300~-500m
地質構造
循環
※⑦鉱物化率
CO2溶解
重い酸性地下水
CO2MB
貯留層*1
+遮蔽層
残留MB
液体CO2
界
面
活
性
剤
有
無
安定化
※⑤長期残留率
※⑥浮力評価
※⑭凝集防止
※⑮寿命延長
※⑩面積・層厚
※⑪浸透率・強度
遊離MB
浮力微小
B残留
集合浮力
あり
-500~-700m
MB化
CO2プリューム
※⑧MBにならない割合
※⑨浮力評価
なし
貯留
注入圧+浮力
基本シナリオ
オプション
図 2.2.2-6
貯留層+遮蔽層
CO2プリューム
※課題
CO 2 が ソ ー ス の 場 合 の 貯 留 フ ロ ー 図
50
※⑫面積・層厚
※⑬遮蔽層強度
CO 2 を 分 離 せ ず 、 排 ガ ス を ソ ー ス と し て CO 2 を 貯 留 す る シ ナ リ オ の ブ ロ ッ ク 図 を
図 2.2.2-7 に 示 す 。マ イ ク ロ バ ブ ル と し て 注 入 さ れ た 排 ガ ス の う ち CO 2 よ り 溶 解 度 の
低 い N 2 や O 2 、NOx な ど は 結 合 し 大 き な 気 泡 と な り 浮 力 に よ り 注 入 井 を 逆 流 す る こ と
で 回 収 で き る 可 能 性 が あ る 。ま た 、孔 内 に SOx や 重 金 属 な ど の 回 収 装 置 な ど を 設 け る
こ と が 可 能 で あ れ ば こ れ ら の 回 収 を お こ な う 。 残 り は 、 CO 2 ガ ス と な る た め 、 図
2.2.2-2 の CO 2 が ソ ー ス の 場 合 の 貯 留 シ ナ リ オ と 同 じ と な る 。
界面活性剤
注入深度
(注入圧)
トラップ状態
貯留機構
CO2ガスの分離
地質構造
循環 ※⑯排ガス注入時の成分
CO2ガスの分離(溶解度、ハイドレート)
N2+NOX+SOX+重金属+微量元素
※③CO2ガスの分離
※④環境影響評価
長期鉱物化
自身で遮蔽
※⑨鉱物化率
※⑤溶解率
※⑥環境影響
排気ガス
※⑫面積・層厚
※⑬浸透率・強度
CO2溶解
重い酸性地下水
孔内B
-300~-500m
貯留層*2
(+遮蔽層)
残留MB
排ガスMB
※⑦長期残留率
※⑧浮力評価
※①MB発生確率
※②注入条件
遊離MB
浮力微小
界面活性剤有無
貯留層+遮蔽層
B残留
集合浮力
基本シナリオ
オプション
※課題
図 2.2.2-7
CO2プリューム
※⑭面積・層厚
※⑮遮蔽層強度
※⑩MBにならない割合
※⑪浮力評価
排ガスがソースの場合の貯留フロー図
51
2.2.3
深部塩水帯水層貯留との比較
IPCC で は 、 CO 2 の 深 部 貯 留 の 方 法 と し て 図 2.2.3-1 の よ う な 例 を 示 し て い る 。
図 2.2.3-1
深 部 地 層 へ の CO 2 の 貯 留 方 法
出 典 : IPCC
SR2005
図 2.2.3-1 中 の 1 は 枯 渇 油 ・ ガ ス 田 で の 貯 留 方 法 、同 じ く 2 は 、EOR ま た は EGR と 呼
ば れ る CO 2 の 注 入 に よ る 油 お よ び ガ ス の 増 進 回 収 す る こ と で CO 2 を 油 ・ ガ ス と 置 換 し て
貯 留 す る 方 法 、 同 図 中 の 3 は 、 深 部 塩 水 帯 水 層 貯 留 で (a)が 沿 岸 海 域 貯 留 、 (b)が 沿 岸 陸 域
貯 留 で あ る 。 同 図 中 の 4 は 、 ECBM( Enhanced
Coalbed
Methane Recovery: コ ー ル
ベッドメタン増進回収)と呼ばれる天然ガスとしてのコールベッドメタンを増進回収する
た め に CO 2 を 注 入 し て 、置 換 貯 留 す る 方 法 で あ る 。コ ー ル ベ ッ ド メ タ ン と は 、木 材 か ら 亜
炭、褐炭、亜瀝青炭、瀝青炭、無煙炭と進行する石炭化の過程で放出され、石炭層中に貯
留 さ れ た メ タ ン ガ ス を い う 。 大 部 分 の ガ ス は 石 炭 層 中 の ミ ク ロ ( 直 径 : 数 nm オ ー ダ ー )
な孔隙表面に吸着(ファンデルワールス力による物理吸着)した形で存在している。吸着
性 が CO 2 の ほ う が は る か に 良 い こ と を 利 用 し た 方 法 で あ る 。
深 部 塩 水 帯 水 層 貯 留 で は 、 CO 2 の 地 中 貯 留 を 維 持 し て く れ る 、 次 の よ う な ト ラ ッ ピ ン グ
メ カ ニ ズ ム が 考 え ら れ て い る 。 ま と め る と 表 2.2.3-1 の よ う に な る 。
52
表 2.2.3-1
トラッピング
深部塩水帯水層貯留におけるトラッピングメカニズム
概
の種類
念
図
内
地 下 水 を 排 斥 /置 換 し て 浸 透 し た 超 臨 界
水理学的、物
理的または構
状 態 CO 2 は 、帯 水 層 内 の 水 と の 密 度 差 に よ
遮蔽層
造的トラッピ
り、上方に移行しようとする。このとき、
ング
(Hydro-dynami
c
or
or
容
超臨界CO2
砂(礫)岩層上位のキャップロックである
地下水
泥岩層が難透過性であれば、鉛直上方への
Physical
岩石・砂粒子
Structural
移行は妨げられる。これを構造的トラップ
という。
trapping)
帯水層中の二酸化炭素と水の二相流の
特性の一つであるガス相対浸透率のヒス
遮蔽層
残留トラッピ
テリシスに起因して、孔隙中に二酸化炭素
超臨界CO2
ング
が残留して貯留される。
帯 水 層 内 で CO 2 が 移 行 し よ う と す る と
(Residual
trapping)
残留超臨界CO2
き、砂(礫)岩層内の空隙形状の不均一性
岩石・砂粒子
から、一様に動くことはなく、徐々に捕捉
されていくと考えられている。
CO 2 は 水 へ の 溶 解 度 が 大 き く 、い ず れ は
すべて帯水層内の水に溶解すると考えられ
遮蔽層
る。溶解水の比重は帯水層内の水より大き
溶解トラッピ
超臨界CO2
ング
くなるため、上昇することなく帯水層内に
CO2溶解水
とどまることになる。溶解は界面から濃度
(Solubility
岩石・砂粒子
trapping)
勾配により進行し、図は溶解初期を示して
いる。
注 : 超 臨 界 CO 2 の 溶 解 初 期 を 示 し た 。
上位キャップロック側にも長期的には溶
解が進む。
帯 水 層 内 の 空 隙 水 に 溶 解 し た CO 2 が 直
遮蔽層
接・間接的に鉱物及び有機物と反応し、二
鉱物トラッピ
次的な炭酸塩鉱物の析出・沈殿や有機物の
超臨界CO2
ング
溶解として貯留される。
(Mineral
超 臨 界 CO 2 の 中 で は 起 き ず 、地 下 水 内 に
trapping)
CaCO3など
岩石・砂粒子
溶 解 し た CO 2 と 岩 石 成 分 と の 反 応 で 起 き
る。
これらの地化学的現象の素過程は、
① 注 入 し た CO 2 ガ ス に よ る 坑 井 近 傍 の 地 下 水 の 排 斥 /置 換
② CO 2 ガ ス の 地 下 水 へ の 溶 解
53
③ 溶 解 し た CO 2 成 分 と 貯 留 層 を 校 正 す る 岩 石 と の 反 応 ( 岩 石 成 分 の 溶 解 )
④ 溶 解 し た CO 2 成 分 の 貯 留 層 内 の 移 流 /拡 散 過 程( CO 2 分 圧 の 減 少 や 地 下 水 と の 混
合 /希 釈 過 程 を 含 む )
⑤ 溶 存 し た CO 2 成 分 と 貯 留 層 を 校 正 す る 岩 石 か ら の 溶 解 成 分 と の 反 応 ( 沈 殿 )
の5つであり、①~③は坑井近傍に、④~⑤は貯留層縁辺に生じる。残留トラップは過程
① 、② 、④ に お い て 貯 留 層 の 孔 隙 に 捕 獲 さ れ て 移 動 /反 応 で き な い も の を 、溶 解 ト ラ ッ プ は
過程②を、鉱物トラップは過程⑤を主とする。
CO 2 マ イ ク ロ バ ブ ル 地 中 貯 留 シ ス テ ム に お い て は 、地 上 ま た は 孔 内 に お い て マ イ ク ロ バ
ブ ル の 特 性 を 用 い て 、CO 2 は 、溶 解 水 と し て 注 入 さ れ る 。そ の た め 、② の 溶 解 ト ラ ッ ピ ン
グ が 主 体 と な る 。( 図 2.2.3-2 参 照 )。
図 2.2.3-2 CO 2 マ イ ク ロ バ ブ ル 地 中 貯 留 に お け る ト ラ ッ ピ ン グ の イ メ ー ジ
注:下部に溶解水が下降しているイメージとしたが、移流を示している意味で
は な い 。 ま た 、 鉱 物 化 は CO 2 溶 解 水 中 に 溶 出 し た 岩 石 中 の Ca や Mg イ オ
ンとの間で起こるため上部地下水中の岩石・砂粒子には示していない。
54
2.3
技術的に貯留が成立する条件の整理
2.3.1
地質条件の設定
技術的に貯留が成立する地質条件としては、貯留対象地域における地質構造と貯留層・
遮蔽層の物性が重要である。
1)
地質構造
現在の注入技術から、マイクロバブルの全溶解を期待するのは難しく、残留マイクロ
バブル、遊離マイクロバブルや部分的に発生する大口径気泡が存在する条件を考えざる
を得ない。そのようなことから、安全側を考慮すれば貯留層の上位に遮蔽層が存在する
地質構造が必要な地質条件といえる。さらに、少なくとも貯留範囲においては遮蔽層が
連続する必要がある。
■地質構造の条件:貯留層上位に遮蔽層の連続
2)
貯留層・遮蔽層
マイクロバブルが注入されるには貯留層が高い孔隙率を有することが条件であり、
堆積岩分布地域を想定するならば、貯留層の対象は砂岩(高孔隙率の凝灰岩でも可能)
となる。また、砂岩は粒度が粗いほど一般的に透水性が高いことから、厚い粗粒の砂
岩の分布域が有望と考えられる。
一方、遮蔽層は先の条件で示したように貯留層の上位にあり、透水性が低いことが
条件である。堆積岩分布地域を想定するならば、遮蔽層の対象は泥岩となる。泥岩は
連続性が高いこと、ある程度の層厚を有し、亀裂などを有しない塊状もしくは層状で
あることが望ましい。地域分散型貯留では、通常の深部塩水帯水層貯留に対して、貯
留 域 の 大 き さ は 、 限 定 さ れ る の で 、 貯 留 層 、 遮 蔽 層 は 、 10km 2 程 度 の 連 続 性 を 有 し て
いれば、問題がないと考えられる。
■貯留対象層の条件:高い孔壁率を有する堆積岩(砂岩)
■遮蔽対象層の条件:透水性が低く連続性の高い堆積岩(泥岩)
地 域 分 散 型 貯 留 で は 、遮 蔽 層 の 連 続 性 は 限 定 (10km 2 程 度 を 想 定 )
3)
地質時代
深 部 塩 水 帯 水 層 貯 留 に お い て は 、超 臨 界 状 態 CO 2 を 対 象 と す る た め 、深 度 800m 以 深
が貯留対象域となる。このため、地質的に生成時代の新しい堆積岩類を対象と出来ない
場合が多く、対象深度に中生代以前の岩石が分布する地域では、孔隙率が小さく、遮蔽
層にも亀裂が多いため貯留対象域から外さざるを得ない場合が多かった。
マ イ ク ロ バ ブ ル に よ る 注 入 で あ れ ば 、超 臨 界 状 態 で あ る 必 要 が な い た め 、浅 部 を 対 象
と す る こ と が 可 能 に な り 、 表 層 に 地 質 時 代 の 新 し い 堆 積 岩 (堆 積 物 )が 分 布 す る 地 域 で あ
れば貯留対象域となるメリットがある。また、地域分散型貯留を想定すれば、貯留範囲
が小規模で良く、その分布域も比較的限定することが可能である。
排 出 源 近 傍 の 貯 留 を 考 え れ ば 、平 野 部 な い し は 沿 岸 域 が 対 象 と な り 、遮 蔽 層 に 注 入 圧
55
以上の強度が必要であることを考えると、新第三紀鮮新統~第四紀下部更新統が候補と
想定される。ただし、新第三紀中新統であっても十分な孔隙率を有している場合は、貯
留対象域となり選択対象は広がる。
■ 貯 留 深 度 条 件 : 対 象 深 度 が 超 臨 界 状 態 に 至 ら な い 深 度 (深 800m 以 浅 )
■地質対象
4)
:新第三紀鮮新統~第四紀下部更新統
貯留位置
貯留位置については、排出源近傍が有望でありコスト面を考えるならば、排出源直下
も し く は 臨 海 部 を 対 象 と す る 。 ま た 、 地 域 分 散 型 貯 留 を 考 え る な ら ば 、 1 万 t-CO 2 /y~
10 万 t-CO 2 /y の 貯 留 規 模 が 想 定 さ れ る 。
貯留位置選定に際して、事前に留意する条件として活断層の有無がある。遮蔽層と交
叉する断層は漏洩の原因となるが、現在は活動していない地質断層と活断層は別の取り
扱いを必要とするであろう。すなわち、地質断層は過去の構造運動において形成された
工学的弱層として捉えることが出来るため、局所的なものに関しては強度や透水性の改
良が可能である。仮に、想定した貯留位置で小規模の地質断層が出現しても、掘削孔を
利用した改良が可能と判断されるものも少なくない。
一方、活断層は、新たな断層運動により変位が生じる可能性を有しているため、貯留
サイトのある場所で漏えい防止のための改良を実施しても、その後の断層活動により新
たな断層を形成する可能性がある。そこで、事前に既往地質資料により活断層が分布す
ることが判明している地点は避けることが望ましい。
■貯留位置条件:排出源直下もしくは臨海部を想定(分散型貯留)
56
2.3.2
貯留深度・地質構造の考え方
貯留深度はマイクロバブルを利用した地中貯留を考えるならば、特に貯留深度を限定す
る必要がない。ただし、浅部では地下水利用が行われており、出来れば、利用地下水に影
響しない深度での貯留が理想である。この利用地下水深度を利用水深と定義し、仮に深度
300m 以 下 と し て 、 -300m~ -500m を 貯 留 対 象 深 度 と 設 定 し た 。 利 用 地 下 水 深 度 を 考 慮 し
て 、 遮 蔽 層 位 置 を 基 本 と す る 貯 留 層 構 造 を 考 え た 場 合 、 図 2.3.2-1 に 示 す よ う に a 領 域 、
b 領域が存在する。
現在の検討条件
b 領域:利用地下水深度(‐300m)以浅に
遮蔽層がある候補地域
a 領域:利用地下水深度(‐300m)以深に
遮蔽層がある候補地域
0m
0m
-300mに遮蔽層が存在する
H1
-100m~-300m
遮蔽層が存在する場合を想定。
-300m
H2
利用地下水以深を貯留
対象層とする
-500m
-500m
注) 570m以深では液体CO2となる
図 2.3.2-1
・利用地下水以浅で
貯留対象層とする
部分が生じる。
・環境への影響評価
が必要。
※H1、H2は、変動する。
遮蔽層深度の違いによる検討条件
利用地下水:飲料用地下水、工業用地下水をいう。ここでは、深度を一般的に利用され
て い る -300m と し て 仮 定 し た 。
a 領域と b 領域の定義は、以下のとおりである。
a 領 域 : 利 用 地 下 水 深 度 ( -300m) 以 深 に 遮 蔽 層 が あ る 貯 留 候 補 地 域
■利用地下水以深を貯留対象層とする
b 領 域 : 利 用 地 下 水 深 度 ( -300m) 以 浅 に 遮 蔽 層 が あ る 候 補 地 域
■利用地下水以浅で貯留対象となる部分が生じる
( CO 2 の 大 口 径 気 泡 の 上 昇 な ど が 考 え ら れ る ) →環 境 へ の 影 響 評 価 が 必 要 と な る
57
2.3.3
貯留可能領域の検討
CO 2 マ イ ク ロ バ ブ ル 地 中 貯 留 が 可 能 と な る 地 域 を 、前 項 で 示 し た 条 件 に 基 づ い て 検 討 す
る。
1)
地域分散型貯留を考え、排出源直下もしくは臨海部を想定
図 2.3.3-1 に 日 本 の 主 な CO 2 排 出 源 を 示 す 。排 出 源 は 各 地 に 存 在 す る が 、臨 海 部 に 多
くが集中し、特に東京湾、伊勢湾および大阪湾の大都市域のほか、福島~茨城県の沿岸
部 、 瀬 戸 内 海 お よ び 北 九 州 地 域 に 多 く 位 置 す る 。 な お 、 図 2.3.3-1 で 対 象 と し て い る 排
出源は、火力発電所、製鉄所、セメント工場であり、排出量の大きなものが取り上げら
れている。
1.天北地域
凡 例
2.樺戸山地北方
堆積盆データベース作成地区
4.石狩湾
21,826
①内浦湾
☆
☆
☆ 苫小牧
②函館湾
中規模排出源近傍の検討地区
H17大規模排出源近傍検討済地区
H17想定モデル地点調査WG検討済地区
☆
6.津軽半島
火力発電所
一貫製鉄所
セメント工場
数字は県別CO2発生量
t-CO2/年
④能代沖
☆
⑤秋田沖 ☆
9,061 ☆
☆
14.鳥取東部地域
⑥酒田沖
3,893
13.但馬地域
☆
5.下北半島 ☆
☆ 3.十勝地域
③八戸沖
3,089
☆
7.庄内平野
2,088
9.能登半島北部 新潟 11.455
⑮瀬戸内海
☆
☆
☆
⑦仙台沖
15.島根半島
☆
6,504 ☆☆
☆
⑭播磨灘
☆
3,714
⑩富山湾
3,864
⑯周防灘 ⑰三隅沖
☆
8.新潟油田地域
☆☆
北部九州
6,145
⑪若狭湾
31,279
⑧相馬沖
☆
13,404
22,257
17.対馬
☆
☆
23,738
716
28,986 21,745
16.佐世保-平戸
☆
4,758
365
1,160
⑨鹿島沖
20,092
19,279
33,289
大阪湾
2,038
18.五島列島
伊勢湾
4,635 \
☆
☆
16,907
4,688
12.知多半島
10.房総半島
31,075
⑳天草沖 5,356
東京湾
48,090☆
⑲別府湾
7,401
4,607
14,497 ☆ ☆
☆ 8,022
32,822 66,112
117
11.掛川地域
⑫熊野灘
19.宮崎地域 ⑱橘湾
21 川内沖
⑬和歌山沖
図 2.3.3-1
☆
☆
22
沖縄本島
5,254
20.琉球列島周辺海域
全 国 の CO2 排 出 源 位 置 図
出 典 : (財 )地 球 環 境 産 業 技 術 研 究 機 構 / (財 )エ ン ジ ニ ア リ ン グ 振 興 協 会
全 国 貯 留 層 賦 存 量 調 査 成 果 デ ー タ ベ ー ス ( 2009)
( (財 )地 球 環 境 産 業 技 術 研 究 機 構 ; 以 下 、 RITE と い う 。)
( (財 )エ ン ジ ニ ア リ ン グ 振 興 協 会 ; 以 下 、 ENAA と い う 。 )
2)
高い孔隙率を有する堆積岩(砂岩)の上に透水性が低く連続性の良い堆積岩(泥岩)
が分布する。
日本においては、新第三紀以前の地質は固結度が高く上記条件には当てはまらないた
め 、 新 第 三 紀 鮮 新 統 ~ 第 四 紀 更 新 統 が 分 布 す る 地 区 を 対 象 に 検 討 す る 。 図 2.3.2-2 に 示
す よ う に 、対 象 と な る 地 質 は 、主 に 日 本 の 平 野 部 か ら 沿 岸 域 に 分 布 し て お り 、CO 2 の 排
出 源 と 位 置 的 に 合 致 し て い る 。 こ の た め 、 図 2.3.2-1 に 示 さ れ る 「RITE/ ENAA
全国
貯 留 層 賦 存 量 調 査 成 果 デ ー タ ベ ー ス ( 2009) 」に 示 さ れ る 地 区 が 対 象 と 考 え ら れ 、 こ こ
で は 同 地 区 に つ い て 地 質 の 分 布 状 況 と そ の 特 長 に つ い て ま と め る 。そ の 際 に は 、CO 2 マ
58
イ ク ロ バ ブ ル 地 中 貯 留 が 海 抜 -300~ -500m を 対 象 と し て い る こ と に 留 意 す る 。
東北日本の内陸盆地
東北日本の内陸盆地
鮮新世の海成層とひき続き
堆積した湖沼成・河成層。
鮮新世の海成層とひき
層厚1,000m程度。
続き堆積した湖沼成・
河床層
第二瀬戸内累層群
第二瀬戸内累層群
湖沼成・河成層主体で更新世
湖沼成・河成層主体で更新世
の海成層伴う。
湖沼成・河成層主体で更新性
の海成層を伴う
東海層群、古琵琶湖層群、大
の海成層を伴う。
阪層群は、層厚1,500~
2,000m。
東海層群、古琵琶湖層群、大
阪層群は層厚1,500~2,000
m。
新潟盆地,関東盆地
新潟盆地,関東盆地
海成層優勢。
層厚3,000m以
上。
海成層優勢。
層厚3,000m以上
出典:市原実(1993)大阪層群
図 2.3.3-2
日本の新第三紀鮮新統~第四紀更新統の分布
出 典 : 市 原 実 ( 1993) 大 阪 層 群 に 一 部 加 筆
CO 2 マ イ ク ロ バ ブ ル 地 中 貯 留 成 立 可 能 性 に つ い て の 地 質 的 判 定 は 、主 に 以 下 に よ っ た 。
・貯留層となりえる砂岩層と、遮蔽層となりえる泥岩層の存在
・ 十 分 な 貯 留 層 の 分 布 (広 さ )
・貯留候補域の活構造の分布
検 討 の 結 果 を 表 2.3.3-1 に ま と め る 。 有 望 な 地 区 と し て 、 十 勝 平 野 、 内 浦 湾 、 庄 内 平
野 、 房 総 半 島 、 掛 川 地 区 、 伊 勢 湾 、 大 阪 湾 、 宮 崎 地 域 、 別 府 湾 お よ び 、 沖 縄 本 島 の 10
地区が上げられる。このうち、伊勢湾と大阪湾については、既存データも多く、その信
頼性も高いため最有望とした。
59
表 2.3.3-1
対象となる地層
遮蔽層
貯留層
特徴
判定
更別層
第四系更新統が対象。遮蔽層の連続性が課
題?
○(△)
深川層群及びその相当層
軽石を含む砂岩主体。遮蔽層の連続性が課
題?
△
十勝層群
鮮新統~下部更新統が対象。下部層は砂岩
と泥岩。
○
(材木沢層)
西野層、当別層など
鮮新統が対象。第四系更新統の材木沢層は
遮蔽層の連続性が課題?
△
伊勢湾
① 内浦湾
黒松内層(主に上部層)
黒松内層のうち、上部のシルト岩部層(一
部、砂岩を挟む)が対象。近くに活構造が存
在。
○
大阪湾
② 函館湾
館層
厚沢部層
黒松内層に相当し、砂岩、泥岩、シルト岩、灰
岩などの互層。遮蔽層の連続性が課題か?
△
苫小牧
(未検討)
(未検討)
(未検討)
5 下北半島
蒲野沢層
新第三系中新統が対象。貯留層の砂岩の連
続性が課題か?
△
蟹田層
塩越層
新第三系が対象。塩越層は主に珪質泥岩、
蟹田層は主に砂岩。貯留モデルが成り立つ
か?
△
新第三系鮮新統が対象。出羽丘陵西縁の逆
断層の活動による構造盆地。
○
⑰ 三隅沖
地域名 堆積盆No.
地区名
1 天北地域*幌延含む
2 樺戸山地北方
3 十勝地域
北海道
4
石狩湾
*石狩低地帯含む
6 津軽半島
7 庄内平野
常禅寺層、観音寺層、丸山層、楯山層など
特徴
判定
尾鷲層群
熊野層群
熊野酸性岩類が大規模に貫入。堆積盆の北
部に対象層が分布。いずれもやや硬質。
△~×
⑬ 和歌山沖
菖蒲谷層(大阪層群相当層)
大阪層群最下部層もしくはその下位層に相
当すると考えられているが、詳細は不明。
△
⑭ 播磨灘
明石累層(大阪層群下部層)
中世界の流紋岩類が広く分布。貯留対象とな
るのは東部の明石累層のみ。
△
地区名
⑫ 熊野灘
近畿・
中部
遮蔽層/貯留層が深度300~500m付近に分
尾張層群
東海層群(大泉累層及
布する濃尾平野東側(名古屋市街付近)が対
東海層群(米野累層) びその下位の地層)
象地域。
海成粘土層は連続性がよい。貯留モデルも
大阪層群上部層(Ma3 大阪層群下部層(Ma3
比較的広範囲に適用できるものと考えられ
及びMa4海成粘土)
とMa2海成粘土との間)
る。
15 島根半島
中国・
四国
⑯ 周防灘
⑱ 橘湾
④ 能代沖
中沢層(鮪川層)、笹岡層
天徳寺層(主に上部)
新第三系鮮新統、第四系が対象。第四系は
遮蔽層を欠く可能性あり。能代断層群あり。
△
16 佐世保-平戸
⑤ 秋田沖
天徳寺層
新第三系鮮新統が対象となる。酸性凝灰岩
を挟む泥岩ないしシルト岩。北由利断層あ
り。
△
17 対馬
⑥ 酒田沖
(庄内平野と同じ)
(志田層群)、松島湾層群
志田層群は、遮蔽層を欠く可能性あり。松島
湾層群は分布範囲が狭い可能性あり。
(庄内平野と同じ)
△
魚沼層群
西山層、(灰爪層)
魚沼層群は遮蔽層の連続性が課題。西山層
上部は褶曲構造群(活構造)に規制される。
△
10 房総半島
上総層群中部層
(主に大田代層から上部)
新第三系鮮新統~第四系更新統が対象。砂
岩・泥岩互層からなり複数の貯留モデル。
○
11 掛川地域
掛川層群
新第三系鮮新統が対象。掛川層群はタービ
ダイト起源のフリッシュ方の地層で、複数の
貯留モデルが考えられる。
○
多賀層群
高久層群
白土層群
湯長屋層群
新第三系中新統が対象。相馬~双葉付近、
水戸~鹿島付近が深度的に適。
8 新潟油田地帯
⑧ いわき沖
⑨ 鹿島沖
いわき~
鹿島沖
東京湾
9 能登半島北部
12 知多半島
13 但馬地域
⑩ 富山湾
⑪ 若狭湾
(未検討)
(未検討)
西条層、三豊層群、岡村層等、備北層群(勝田 新第三系中新統が局所的に分布。いずれも
層群)、土庄層群等
分布が狭小で層厚も薄いため不向き。
×
九州
益田層群豊田層
-
南田平層
前加勢黒色泥岩層
深月層
楠泊礫質砂岩層
対州層群
△?
×
対象となる地層は分布しない。
×
新第三紀中新統が対象。佐世保層群には炭
層が多く挟まれる。
△
古第三紀漸新統~新第三紀中新統が対象。
地質構造は褶曲が発達し複雑である。
△
津和崎層下部
有川層
五島層群
新第三紀中新統が対象。地質データが少なく
不明点が多い。
△
19 宮崎地域
妻相:高鍋部層、妻部
相
宮崎相:綾部層
妻相:川原部層
宮崎相:田野部層
青島相:双石部層
新第三紀後期中新統~鮮新統が対象。海成
の陸棚堆積物で砂岩頁岩互層が多い。
○
○
⑲ 別府湾
判田層
東庄内層
新第三紀鮮新世から第四紀更新統が対象。
活断層とされる断層が多く、地質データも少
ない。
⑳ 天草沖
砥石層
一町田層
逆瀬川層
古第三系が対象だがややj硬質。向斜構造の
翼部となる。
△
新第三系~第四系は火山岩類から構成され
る。
×
炭層を挟む始新統が対象。層厚は、いずれも
300mを越える。
△
炭層を多く挟む中新統が対象。
△
新第三紀中新統が対象。地層は南東下がり
の傾斜で分布しており、深度゙的にも可能性は
ある。
○
21
川内沖
-
小倉
遠賀層泥岩層
出川層砂岩層
松浦
佐世保層群上部
相浦層群上部
佐世保層群下部
相浦層群下部
島尻層群与那原層
島尻層群豊見城層
北部九州
沖縄
宇部地域の宇部層群は宇部夾炭層と呼ばれ
硬質な岩石。CMSの適用可能な厚さと考えら
れる。
新第三紀中新統が対象。益田層の下底面
はほぼ海抜0m程度、深度が不足すると見ら
れる。
18 五島列島
△
(未検討)
△
益田層群安田層
△
(庄内平野と同じ)
新第三系中新統が対象。層厚は十分あり分
布深度が合致する場所が存在すると考えら
れる。
牛切層
宇部層群(幡生累層含む)
新第三系中新統のが対象。八戸付近のデー
タが少なく詳は不明。
◎
△~×
鳥取層群
古江層
⑮ 瀬戸内海
◎
新第三系中新統が対象。かなり内陸山地部
に限られる可能性あり。
14 鳥取中部地域
鷹架層(市ノ渡層)
⑦ 仙台沖
近畿・
中部
対象となる地層
遮蔽層
貯留層
地域名 堆積盆No.
③ 八戸沖
東北
関東・
甲信越
CO2 マ イ ク ロ バ ブ ル 地 中 貯 留 堆 積 盆 整 理 表
22
沖縄本島
飯塚珪藻泥岩層、南志見泥岩層、飯田層、赤
神泥岩層、法住寺泥岩層、東印内互層等
東印内互層以外の各層はほとんど泥岩主
体。陸域での分布層厚は定かではない。
△
常滑層群(東海層群)
師崎層群(豊浜累層、山海累層など)
新第三系中新統が対象。常滑層群(東海層
群)は砂泥互層からなるが正確な層厚は不
明。
△
◎:最有望
新第三系中新統が対象。陸域での正確な層
厚は不明。
△
○:有望
△
△:可能性
△
×:不適
城之崎層群(村岡累層など)
第四系更新統が対象。丘陵地では新第三系
埴生層、氷見層、音川層、東別所層、黒瀬谷層
中新統ないし鮮新統が対象。平野と丘陵地
等
の境は活断層に規制。
グリーンタフが卓越。一部で北但層群の砂
北但層群(網野累層、豊岡累層等)
岩・泥岩が分布。陸域での正確な層厚は不
明。
61~ 62
2.3.4
1)
重要なパラメータの設定
地 域 分 散 型 排 出 源 の CO 2 排 出 量
地 域 分 散 型 CO 2 貯 留 が 想 定 す る 事 業 所 の CO 2 排 出 規 模 は 、年 間 1〜 10 万 t- CO 2 で あ る 。
表 2.2.2-1 に 示 し た 事 業 所 あ た り の 排 出 量 の 大 き い 産 業 の 1 ~ 5 位 に つ い て 、 事 業 所 の 排
出 量 の ヒ ス ト グ ラ ム を 図 2.3.4-1 に 示 す 。 電 気 業 で の 排 出 規 模 の 大 き い 事 業 所 が 多 い こ と
を 除 け ば 、 い ず れ の 産 業 に お い て も 10 万 ト ン 以 下 の 排 出 量 の 事 業 所 数 が 、 大 半 を 示 す 傾
向 が 明 ら か で 、こ れ ら の 事 業 所 に 対 す る 有 効 な CO 2 の 貯 留 手 段 が 必 要 と さ れ て い る こ と が
分かる。
200
100
電気業
80
39
22
鉄鋼業
事業所件数
50
32
20
19
12
150
105
117
470
135
100
45
50
50
10
8
0
5千
以
5千 下
~
1万
1~
5万
5~
10
10 万
~
5
50 0万
~
10
1 0 0万
0万
以
上
5万
5~
10
10 万
~
5
50 0万
~
10
0万
10
0万
以
上
1~
CO2排出量(tCO2/y)
CO2排出量(tCO2/y)
200
100
石油製品・石炭製品製造業
138
事業所件数
120
53
50
26
110
100
8
1
16
5~
1~
~
1万
下
5千
5千
以
5~
10
万
10
~
50
万
50
~
10
0万
10
0万
以
上
5万
0
0
1~
5万
46
14
13
CO2排出量(tCO2/y)
CO2排出量(tCO2/y)
150
事業所件数
118
100
パルプ紙紙加工製造業
106
387
80
44
50
28
9
3
5~
10
万
10
~
50
万
50
~
10
0万
10
0万
以
上
1~
5万
5千
以
下
5千
~
1万
0
CO2排出量(tCO2/y)
図 2.3.4-1
558
窯業・土石製品
製造業
42
5
5千
以
下
5千
~
1万
188
10
万
10
~
50
万
50
~
10
0万
10
0万
以
上
5千
以
5千 下
~
1万
0
事業所件数
事業所件数
224
各 産 業 ご と の CO 2 排 出 量 規 模 の ヒ ス ト グ ラ ム
63
19
2)
マイクロバブルの発生確率
気体からなるマイクロバブルは、発生直後に大きな気泡となったものは上昇し水面より
散逸し、残ったものの大部分が数十分にて消失・溶解するものと思われる。この消失まで
の 時 間 は 長 い も の で 100 分 程 度 と い わ れ て い る 。ご く 少 量 の マ イ ク ロ バ ブ ル は 周 囲 の 水 へ
溶 解 し な が ら そ の 直 径 を 狭 め ‘ ナ ノ バ ブ ル ’と 呼 ば れ る 状 態 へ と 移 行 す る 。
3)
想定される溶解度
(1)
地層データより推定される貯留域の環境
例 と し て 、A 地 域 の ボ ー リ ン グ デ ー タ を 図 2.3.4-2 に 示 す 。A 地 域 を 例 示 し た 根 拠 は 、
空港建築のために地質調査が詳細に行われ、データが豊富に入手できるためである。
赤線で囲った領域が貯留層として活用できると考えられる。主な構成材は中粒からごく
粗粒の砂層であり、ここで見られる地層の多くは、海成粘土層に挟まれており、貯留域
の地下水は海水由来の成分からなると考えられる。
Ma3
11m
Ma2
32m
海成粘土
2層
挟在
Ma0
25m
Ma1
96m
海成粘土
1層
挟在
図 2.3.4-2
(2)
貯留対象
中粒~
極粗粒砂層
Ma-1
大阪湾の地質データの例
環 境 よ り 推 定 さ れ る CO 2 の 溶 解 度
現在検討されている貯留は、沿岸域の地下が対象である。
前述のとおり、地下においても海水由来の環境に近いことが推定されている。
2.1 節 お よ び 、図 2.1.2-16 に 示 さ れ て い る よ う に 、濃 度 5 %の 塩 水 中 で の CO 2 の 溶 解 度
は 、水 に 比 べ 77% ま で 低 下 す る こ と が 、示 さ れ て い る 。さ ら に 、同 じ く IPCC の Special
Report(2005) 1) に よ る と 、海 水 中 の pH と CO 2 濃 度 の 関 係 は 図 2.3.4-3 に 示 す よ う な 関
係 と な っ て い る 。 こ れ に よ る と 、 地 下 水 の pH が 酸 性 傾 向 に あ る と 濃 度 は 高 く な る 傾 向
にあることが示されている。
64
図 2.3.4-3
海 水 中 の pH と CO 2 濃 度 の 関 係
出 典 : IPCC Special Report on Carbon dioxide Capture and Storage 2005
3)
貯留層の条件
貯留量の正確な算定や、周囲影響を検討する場合、貯留層を中心とした周囲の地盤の
持 つ 力 学 条 件 の 設 定 が 必 要 と な る 、こ れ ら の 物 性 値 と し て 、内 部 摩 擦 角 、地 盤 反 力 係 数 、
一 軸 圧 縮 強 度 な ど が 考 え ら れ る 。 現 在 考 え ら れ て い る 貯 留 層 へ の 10 万 t-CO 2 程 度 の 貯
留では、きわめて局所的な注入となる。ただし、注入に伴う重量の増加は極めて少ない
ため、注入井周囲の岩盤の地盤反力係数、一軸圧縮強度が必要となると考えられる。内
部摩擦角は注入に伴うせん断力が小さいために、前述の物性値と比べその必要性は低い
と考えられる。
4)
その他
モ ニ タ リ ン グ に よ る 原 位 置 で の CO 2 溶 解 の 性 状 把 握 が 最 も 優 先 さ れ る が 、地 下 水 中 で
CO 2 モ ニ タ リ ン グ は 困 難 と 考 え ら れ る た め 、 解 析 に よ る 貯 留 量 の 正 確 な 算 定 や 、 周 辺 環
境 へ の 影 響 を 検 討 す る 場 合 、注 入 さ れ た CO 2 溶 解 水 の 周 囲 へ の 挙 動 を 検 討 す る 必 要 が 想
定 さ れ る 。 CO 2 溶 解 水 の 挙 動 解 析 に は 、 CO 2 溶 解 水 と 貯 留 層 お よ び 周 囲 岩 盤 の モ デ ル 化
が必要となる。
・ CO 2 溶 解 水 の モ デ ル 化
CO 2 溶 解 水 は 、か ん 水 と CO 2 イ オ ン か ら 構 成 さ れ る 。CO 2 溶 解 水 の 挙 動 解 析 を 行 う 場
合 、流 体 の 移 流 と そ こ に 溶 存 す る イ オ ン の 拡 散 と の 連 成 の 現 象 が 対 象 と な る 。こ の た め 、
正 確 な モ デ ル 化 に は 、か ん 水 の 粘 性 係 数 と CO 2 イ オ ン の 拡 散 係 数 が 必 要 と な る 。多 く の
水 中 に 溶 存 す る イ オ ン の 水 中 で の 拡 散 係 数 は 10 -9 [m 2 /s]程 度 の 値
2) で あ る 。こ れ よ り 、1
年 間 に 移 動 す る CO 2 イ オ ン の 距 離 を 求 め る と 、0.35m 程 度 と な る 。す な わ ち 、ほ と ん ど
の CO 2 イ オ ン の 移 動 は 移 流 に よ っ て 支 配 さ れ 、拡 散 の 効 果 は 、CO 2 溶 液 と 周 囲 の 地 下 水
の境界をわずかに希釈するのみと考えられる。また、貯留層となる砂岩は多孔質媒体と
考 え ら れ る の で 、 CO 2 溶 解 水 の モ デ ル 化 に は 、 貯 留 層 の 多 孔 質 媒 体 を 考 慮 し た 溶 解 水 の
65
実効粘性係数が必要となる。
・貯留層のモデル化
貯留層を移流の媒質として扱うためには、貯留層における溶解水の粘性係数が必要と
なる。これを求めることが困難な場合や、位置による差が大きいと見込まれる場合は、
目 的 と す る 貯 留 層 の ミ ク ロ な 多 孔 質 媒 体 の 空 隙 の 3 次 元 情 報 を 求 め 、こ れ を 入 力 値 と し
た、局所領域での移流解析を行い、貯留層の空隙を考慮した実効粘性係数を求める必要
がある。
・周囲岩盤のモデル化
解析条件として境界条件を設定する必要がある。この場合は貯留層周囲の地盤での
CO 2 の 粘 性 係 数 が 必 要 と な る 。 ま た 粘 性 係 数 が 想 定 よ り 高 い 、 す な わ ち 、 周 囲 へ の 移 流
がおきにくく、溶解水が注入位置にとどまる場合は、注入圧を高める必要があり、圧力
による周囲の力学的評価が必要となるため、前項の貯留層の条件が使われる。
マイクロバブルによる貯留層地盤への捕獲過程においても、貯留層のミクロな多孔質
媒 体 の 空 隙 の 3 次 元 情 報 は 必 要 と な る 。貯 留 層 空 隙 を モ デ ル 化 し 、マ イ ク ロ バ ブ ル が ど
れほどその空隙に捕獲されるかを評価する必要がある。この場合には、捕獲に至る過程
のモデル化や、その後のマイクロバブルの挙動、さらに鉱物化に至るかなどのシナリオ
に基づく検討が必要となる。
2.3.5
1)
貯留可能領域の評価法
CO 2 マ イ ク ロ バ ブ ル 地 中 貯 留 の た め の 貯 留 可 能 量 算 出 式
(1)
溶解のみの場合
貯 留 可 能 量 = Rc×A×h×φ ×CO 2 濃 度
ここで、
Rc: CO 2 溶 解 水 の 注 入 、 地 質 調 査 の 精 度 お よ び 、 地 質 の 不 均 質 性 な ど に よ る 不 確
実性を考慮した低減率
A: 貯 留 面 積
h:有 効 層 厚 、地 層 全 体 の 層 厚 に 対 し 貯 留 対 象 層 と な る 層 相 と の 割 合 を 乗 じ た も の
φ:孔隙率
である。
(2)深 部 塩 水 帯 水 層 貯 留 に お け る 貯 留 可 能 量 算 出 式 と の 比 較
貯 留 可 能 量 = Sf×A×h×φ ×Sg/Bg CO 2 ×ρ
ここで、
Sf: 貯 留 率
A: 貯 留 面 積
h:有 効 層 厚 、地 層 全 体 の 層 厚 に 対 し 貯 留 対 象 層 と な る 層 相 と の 割 合 を 乗 じ た も の
φ:孔隙率
Sg: 超 臨 界 CO 2 飽 和 率
BgCO 2 : CO 2 の 容 積 係 数
66
ρ : CO 2 密 度
である。
貯 留 率 Sf は 、 深 部 塩 水 帯 水 層 で の 超 臨 界 状 態 CO 2 の 貯 留 に お い て 考 慮 さ れ た 係 数
で 、 石 油 換 算 で 用 い ら れ る 「 掃 攻 効 率 」 に 対 応 す る 用 語 で あ る 。 RITE の 二 酸 化 炭 素
地中貯留技術研究開発成果報告書
3) に よ る と 、
「掃攻効率」は、油層からの原油の採
収率を向上させるために液体を注入する二・三次回収において、油層の総孔隙容積に
対する注入流体の接触した部分の容積比率として定義されている。ただし、掃攻効率
は孔隙率、浸透率、岩相変化などの貯留層特性によって変化するだけでなく、孔井設
計や孔井配置などの開発計画を行うことで求められる数値である。全国貯留層腑存量
調査においては、全ての貯留対象に対して開発計画を策定するのは非現実的であるた
め「 掃 攻 効 率 」で は な く「 貯 留 率 」と 言 う 用 語 を 用 い て い る 。ま た 、CO 2 地 中 貯 留 に
際 し て も 帯 水 層 に 超 臨 界 CO 2 を 注 入 す る 場 合 、帯 水 層 の 総 孔 隙 容 積 に 対 す る 注 入 流 体
の接触した部分の容積比率として貯留率(掃攻効率)を考慮する必要があることが指
摘されている。
H17 年 度 の 検 討 で は 、非 構 造 性 帯 水 層 を 対 象 と す る カ テ ゴ リ ー B に つ い て は 、比 重
差 に よ る 重 力 分 離 効 果 と と も に 垂 直 方 向 の 貯 留 層 の 不 均 一 性 を 考 慮 し 貯 留 率 25%と
し て 設 定 を 行 っ た 。 ま た 、 カ テ ゴ リ ー B1 の 水 溶 性 ガ ス 田 に お い て も 貯 留 率 は 対 象 と
し た 3 地 域( 南 関 東 ガ ス 田 、新 潟 ガ ス 田 、宮 崎 ガ ス 田 )全 て に つ い て 25%と し て い る 。
以 上 の よ う な 経 緯 か ら 、非 構 造 性 の 帯 水 層 を 貯 留 対 象 と す る CO 2 マ イ ク ロ バ ブ ル 地
中 貯 留 法 に よ る 貯 留 可 能 量 の 概 算 見 積 も り で は 、貯 留 率 25%を 参 考 に 、不 確 実 性 を 表
す 係 数 と し て 、 低 減 率 は 25%を そ の ま ま 用 い る こ と と し た 。
2)
注入井・揚水井併用方式による貯留領域の推定
2.2 節 の マ イ ク ロ バ ブ ル 貯 留 の 貯 留 シ ス テ ム 概 念 に 示 し た よ う に 、 本 貯 留 方 式 は 、 か
ん 水 を 地 下 か ら 揚 水 し 、 CO 2 を 溶 解 さ せ た 後 に 地 中 へ 還 元 す る 方 式 を 前 提 と し て い る 。
こ の た め 、CO 2 溶 解 水 を 地 中 に 復 水 す る 注 入 井 の 周 囲 に 、溶 媒 と な る か ん 水 を 確 保 す る
た め の 揚 水 井 を 配 置 す る 組 み 合 わ せ を 1 貯 留 ユ ニ ッ ト ( 図 2.3.5-1) と し た 。
揚水井設置の副次的効果として、揚水により注入井周辺の圧力が低下することによっ
て、注入に伴う注入層の水圧上昇による遮蔽層や注入井のシール構造へのダメージを低
減 さ せ る 効 果 を 期 待 す る こ と が で き る 。 な お 、 CO 2 溶 解 水 に よ る 地 下 水 の pH 上 昇 や 炭
酸塩の生成などの環境影響確認のため、必要に応じて注入井と揚水井の間にモニタリン
グ井を設けることも考える。
この方式によると、1貯留ユニット当りの水循環は群井の井戸理論式を用いて検討す
る こ と が で き る 。 検 討 手 順 は 、 図 2.3.5-2 お よ び 図 2.3.5-3 に 示 す よ う に 、 ま ず 、 所 定
量 の CO 2 の 貯 留 に 必 要 な 水 循 環 量 を 確 保 す る た め の 必 要 注 入 水 頭 差 を 算 定 し ( 式
2.3.5-1)、こ れ に 揚 水 に よ る 注 入 井 位 置 で の 水 頭 低 下 量( 式 2.3.5-2)を 加 え る こ と に よ
り注入井での必要注入圧が求まる。図中の計算式は以下に示すとおりである。揚水・注
水 に よ る 地 下 水 圧 変 化 の 影 響 半 径 の 考 え 方 に つ い て 、 式 2.3.5-1 で 必 要 注 入 水 頭 を 求 め
る際に注入の影響範囲を揚水井位置と設定して揚水による水循環促進効果を積極的に考
慮することも可能であるが、3章で後述する水循環計算結果から揚水の影響範囲は注入
67
の影響範囲に比べ限定的であることから、注入の影響範囲を外側の計算境界とした。
Q
s
2RC kDs
lnR / r0 
( 2.3.5-1)
n

R
1
 qi ln 

ri 
2RC kD i 1 
( 2.3.5-2)
ただし、
Q : 注 入 井 か ら の 注 水 量 (m 3 /s)
R c : CO 2 溶 解 水 の 注 入 、 地 質 調 査 の 精 度 お よ び 、 地 質 の 不 均 質 性 な ど に よ
る不確実性を考慮した低減率
k : 注 入 層 の 透 水 係 数 (m/s)
D : 注 入 層 の 層 厚 (m)
s : 水 頭 差 (m)
R : 影 響 半 径 (m)
r 0 : 井 戸 半 径 (m)
q i : 揚 水 井 i か ら の 揚 水 量 (m 3 /s)
r i : 揚 水 井 i か ら の 水 頭 計 算 地 点 ま で の 水 平 距 離 (m)
n : 揚 水 井 の 本 数 (本 )
注入井
揚水井
貯留範囲
図 2.3.5-1
貯留ユニットの説明図
1万t-CO2/年の貯留に必要な注入井水頭差 s の計算
揚水時の注入井位置の水頭低下量 sr の計算
注入井での必要注入圧(水頭) ( s1 ) の計算 【 s1 = s + sr 】
図 2.3.5-2
注入井・揚水井併用方式による水循環の検討手順
68
揚水井
離隔距離
注入井
圧入井
圧入による
注入による上昇水頭
上昇水頭
s1
s
原水頭
sr
揚水による
低下水頭
揚水井
注入井
圧入井
揚水井
注入層
圧入層
図 2.3.5-3
2.3 節
水循環量の計算方法説明図
引用および参考文献
1) IPCC Special Report on Carbon dioxide Capture and Storage 2005
2) 渡 辺 正 、中 林 誠 一 郎;電 気 移 動 の 化 学 - 電 気 化 学 入 門 、朝 倉 書 店 、
( 1996)、pp.124-125.
3) RITE/ENAA 平 成 17 年 度 二 酸 化 炭 素 固 定 化 ・ 有 効 利 用 技 術 等 対 策 事 業 二 酸 化 炭 素 地
中 貯 留 技 術 研 究 開 発 成 果 報 告 書 .( 2006)
69
2.4
貯留概念のまとめ
CO 2 マ イ ク ロ バ ブ ル の 貯 留 概 念 を 深 部 塩 水 帯 水 層 貯 留 の 概 念 と 比 較 す る 。ま た 、こ こ で
は、液体マイクロバブルによる中間的な貯留方法についても示した。
表 2.4-1
各貯留概念のまとめ
CO 2 の 状 態
気体マイクロバブル
対象とする貯留工
CO 2 排 出 源 近 傍 設 置
法の目的
地域分散型貯留
液体マイクロバブル
超臨界状態
中間
大規模集中型貯留
A、 h、 φ は 同 じ
貯
留
量
評
価
法
A:貯 留 面 積 ( m 2 )
BgCO 2 : CO 2 の 容 積 係
必要なパラ
h: 有 効 層 厚 ( m)
数 ( m 3 /m 3 ) 貯 留 層 の
メータ
φ:孔隙率
(各パラメ
CO 2 濃 度 ( %)
ρ : CO 2 密 度 大 気 圧 下
ータは貯留
Rc: 低 減 率 = CO 2 溶 解 水 の
で の CO 2 の 密 度( 1.976
層中の状態
注水および揚水効率、調査
kg/m 3 標 準 状 態 )
で
の精度および地質不均質な
E: 貯 留 層 の 圧 力 温 度
算出される)
どによる不確実性を評価す
条件下における液体
る係数
CO 2 の 水 と の 混 合 率
温度圧力条件による
A、 h、 φ 、 BgCO 2 、 ρ は
同じ
Sg: 超 臨 界 CO 2 飽 和 率
Sf : 貯 留 率 = 圧 入 さ れ る
深 部 塩 水 よ り 超 臨 界 CO 2
密度が小さいため掃攻す
る効率が重要となり、そ
れを評価する係数
( m 3 /m 3 )
貯留量評価
貯 留 可 能 量 = Rc×A×h×
貯 留 可 能 量 = Rc×A×
貯 留 可 能 量 = Sf × A ×h ×
式
φ ×CO 2 濃 度
h×φ ×E/Bg CO 2 ×ρ
φ ×Sg/BgCO 2 ×ρ
CO 2 溶 解 水 溶 液 の 貯 留
貯留機能
マイクロバブルにより溶解
速度、溶解度の向上
貯留深度
地質構造
地
質
条
件
貯留層
水のエマルジョン
超 臨 界 状 態 の CO 2
-300m ~ -500m
-570m ~
帯水層
帯水層
十分な孔隙率と透水性を有
十分な孔隙率と透水性
十分な孔隙率と透水性を
する
を有する
有する
必ずしも必要でない
必要
遮蔽層の有
未 溶 解 の CO 2 気 泡 が 生 じ た
無
場合などを想定して必要
低透水性、低拡散性を有す
遮蔽層特性
CO 2 マ イ ク ロ バ ブ ル と
る浮力が小さいので、せん
断強度も小でよい
低透水性、低拡散性
せん断強度を有する
-800m ~
背斜構造・深部塩水帯水
層
低透水性、低拡散性
十分なせん断強度を有す
る
短 期:溶 解 ト ラ ッ プ /残 留 ト
ラップ
トラッピング状態
構造トラップが必要な場合
も想定される。
中長期:鉱物化トラップ
71
短期:残留トラップ
短期:構造トラップ
長 期:溶 解 /残 留 /鉱 物 化
長 期 : 溶 解 /残 留 /鉱 物 化
溶媒としての水供給、貯留
水循環の必要性
範囲内での効率的な注入コ
なし
なし
5.7MPa+α
7.4MPa+ α
常 温 ( 15℃ ~ )
31℃ 以 上
ントロールのために必要
圧力条件
温度条件
注 入 深 度 +α
注入深度の温度により溶解
度が変化
塩の効果により溶解し
注 入 水 お よ び 循 環 水 : pH
水質条件
地下水:残存イオンなど溶
解度への影響
長期注入影響
環境影響
加圧設備の規模
揚水井
にくくなる。マイクロ
バブル維持には効果あ
り
循環の場合の貯留層の透水
性の変化
地下水および循環水の水質
/ CO 2 漏 洩
中間的な流体圧
置換のため問題なし
鉱物化を考えるときのみ
のため極小さい
流体圧の変化が懸念され
る
CO 2 漏 洩 の み
CO 2 漏 洩 の み
プリューム周辺は溶解に
より酸性化する
小規模
注入井・揚水井併用方式の
場合必要
中間
大規模
不要
不要
①地上で溶解する場合、
地上設備
CO 2 タ ン ク 、 溶 液 タ ン ク 、
貯留設備
水質調整装置など
輸送設備
②地下注入の場合、上部設
圧入設備
備は軽微(二相流旋回方式
水との混合設備必要
貯留設備
輸送設備
圧入設備
適用のため)
輸送手段の規模
パイプラインは短距離、
パイプラインは短距
パイプラインは長距離必
コスト小
離、コスト小
要でコスト大
中規模でコンパクト
地上で地下水との
大規模
地上で溶解水作成の場合、
混合設備必要
(一次貯留タンクなど)
地 下 注 入 の 場 合:比 較 的 小 、
設備の規模
作成・貯留設備がプラス
小
小
コスト
(今後、プラント規模等か
ら正確なコスト試算必要)
72
(今後、プラント規模
等から正確なコスト試
算必要)
新 設 石 炭 火 力 (100 万
t-CO 2 /y・ 20kmERD)の 場
合:ト ー タ ル ¥7,300t-CO 2
(う ち 圧 入 ¥2,300 t-CO 2 )
(RITE(2006)試 算 に よ る )
第3章 CO 2 マイクロバブル地中貯留システムのモデル
構築
3.1
3.1.1
想定モデル地点での貯留可能量の評価
モデル地点選定
2.3.2 項 で 述 べ た よ う に 、地 質 条 件 に 限 っ た 場 合 、日 本 で CO 2 マ イ ク ロ バ ブ ル 貯 留 が 可
能 な 堆 積 盆 と し て 、10 地 域 が 有 望 と さ れ 、そ の う ち 2 地 域 は 地 質 デ ー タ の 豊 富 さ で 最 有 望
とされた。これは、地盤沈下調査として行われた深層ボーリングや海域における地下構造
調 査 と し て の 反 射 法 地 震 探 査 の デ ー タ が 豊 富 に あ り 、う ち 一 方 の 地 域 は 、震 災 が 生 じ た 後 、
地質構造解明調査が行われたことで、多くの地質資料が蓄積されたことによる。
これらの調査資料のうち、ボーリング調査では、試料が採取され細部にわたる地質観察
や、地質物性についての試験などが実施されている。また、温泉ボーリングも多く、その
記録が残されている場合も多い。そして、最近では、空港建設に伴って深層ボーリングな
ど が 行 わ れ て い る 。( 以 下 A 地 域 と い う 。)
A 地域の湾内および、平野部には、貯留に適すると考えられる新第三紀鮮新世~第四紀
更新世の地層が広く分布し、上記の調査によってその分布の大要が広い範囲で把握されて
いる。このため、A 地域を想定モデル地点として、貯留可能量の検討を行う。
な お 、 想 定 モ デ ル 地 点 と し て 検 討 を 進 め る が 、 マ イ ク ロ バ ブ ル に よ る CO 2 地 中 貯 留 を
実 施 す る 対 象 地 域 と は 、想 定 し て い な い 。貯 留 可 能 量 評 価 の 方 法 を 例 示 す る こ と の み に 限
って想定モデル地点とした。
3.1.2
A地域の地質概要
表 3.1.2-1 に 市 原( 1991)1 ) に 示 さ れ る A 地 域 の 新 第 三 紀 鮮 新 統 ~ 第 四 紀 更 新 統 の 総 合
層序表を示す。この地層は、礫、砂、シルトおよび粘土層からなる半固結~未固結の堆積
層 で あ り 、下 部 層 の 中 部 か ら 上 位 に か け て は Ma ナ ン バ ー で 示 さ れ る -1~ 10 の 海 成 粘 土 層
が挟まれる。それより下位は、砂層などの粗粒相を主とする陸成層である。これは、寒暖
の差が繰り返す第四紀になって、堆積盆となる湾への海の侵入が認められるようになり、
海成粘土層の分布範囲と厚さが上位に向けて徐々に増加したためとされている。
図 3.1.2-1 に 、 A 地 域 の 北 東 地 点 で 掘 削 さ れ た ボ ー リ ン グ GS-K1 の 模 式 柱 状 図 を 示 す 。
深 度 580m 付 近 で Ma-1 の 海 成 粘 土 層 が 出 現 し 、 上 位 の 海 成 粘 土 層 は 徐 々 に 厚 く な り 、 深
度 440m 付 近 の Ma3 海 成 粘 土 層 で は 厚 さ が 35m 程 と な っ て い る 。 そ し て 、 そ れ よ り 上 位
では、海成粘土層の占める割合が非常に多くなる。
海成粘土層は、連続性が良好な細粒相で、火山灰層と併せて対象地域の有効な鍵層とな
っ て お り 、 そ の 連 続 性 か ら 遮 蔽 層 と し て の 期 待 も 高 い 。 一 方 、 Ma-1 の 海 成 粘 土 層 よ り 下
位 で は 、砂 層 を 主 と す る 粗 粒 相 が 厚 く 分 布 す る ほ か 、Ma3 海 成 粘 土 層 の 下 位 に も 海 成 粘 土
層に挟まれて粗粒相が多く分布している。
73
表 3.1.2-1 A地域の鮮新・更新統の総合層序表
出典:市原(1991)1)、アーバンクボタ
75~76
図 3.1.2-1 A地域北東地区のボーリング GS-K1 の柱状図
出典:関西地盤情報活用評議会(1998)2)
77~78
A 地 域 に は 、 活 構 造 と さ れ る 断 層 も 見 ら れ る 。 主 な も の と し て 、 六 甲 山 の 南 麓 に Ab 断
層帯とされる逆断層が位置し、六甲山と低地を画している。また、その延長域では、淡路
島 の 東 岸 に 位 置 す る Ac 断 層 が 見 ら れ る 。A 地 域 湾 の 内 で は 、Ac 断 層 の 東 側 に 北 北 西 -南 南
東 方 向 に 続 く 北 西 側 隆 起 の Ad 断 層 が 存 在 す る 。Ad 断 層 は 、長 さ 39km の 逆 断 層 で 、地 震
調 査 研 究 推 進 本 部 地 震 調 査 委 員 会( 2005)3 ) に よ れ ば 、平 均 変 位 速 度 が 0.5~ 0.7m/千 年 と
さ れ 、活 動 度 は B 級 に 相 当 す る 。A 地 域 東 側 の 平 野 部 に お い て は 、豊 中 市 か ら 大 阪 市 を 経
て 岸 和 田 に 至 る Aa 断 層 が 南 北 に 続 く 。 地 震 調 査 研 究 推 進 本 部 地 震 調 査 委 員 会 ( 2005) 3 )
に よ れ ば 、 長 さ は 42km の 東 側 隆 起 の 逆 断 層 で 、 平 均 的 な ず れ の 速 度 は 0.4m/千 年 と さ れ
る 。岩 淵( 2002)4 ) は 、図 3.1.2-2 に A 地 域 湾 内 の 表 層 部 に 認 め ら れ る 新 し い 時 代 に 形 成
さ れ た 断 層 を 上 げ る と と も に 、図 3.1.2-3 に A 地 域 湾 内 の 基 盤 に 認 め ら れ る 断 層 の 分 布 を
示 し て い る 。 こ れ ら か ら 、 A 地 域 の 湾 内 に 認 め ら れ て い る 「新 し い 時 代 に 形 成 さ れ た 断 層 」
は、新第三紀鮮新統~第四紀更新統の砂層内の小断層や変形である可能性が高い。
図 3.1.2-2
表層部に認められる新しい時代に
形成された断層
出 典:岩 淵 洋 、コ ア 精 密 対 比 に よ る 京 阪 神 地 域 の
地 下 地 質 、地 質 構 造 の 高 精 度 解 読 シ ン ポ ジ ウ ム 論
文 集 、 pp.129-142、 岩 淵 ( 2002) 4 )
図 3.1.2-3
A地域湾内の基盤に認められる断層
出 典:岩 淵 洋 、コ ア 精 密 対 比 に よ る 京 阪 神 地 域 の
地 下 地 質 、地 質 構 造 の 高 精 度 解 読 シ ン ポ ジ ウ ム 論
文 集 、 pp.129-142、 岩 淵 ( 2002) 4 )
3.1.3
A 地域の貯留可能領域と貯留可能量
79
3.1.3
A地域の貯留可能領域と貯留可能量
CO 2 マ イ ク ロ バ ブ ル 地 中 貯 留 で は 、 周 辺 で の 地 下 水 の 利 用 を 考 慮 し て 、 貯 留 可 能 量 の 算
定 は 深 度 300m 以 深 と し 、 CO 2 を ガ ス 状 態 で 貯 留 す る こ と を 念 頭 に 置 き 、 深 度 500m 以 浅
を想定した。
図 3.1.3-1 に 、遮 蔽 層 上 限 と な る Ma3 海 成 粘 土 層 の 深 度 300~ 500m の 分 布 範 囲 と 、下
限 と な る Ma-1 海 成 粘 土 層 の 深 度 300~ 500m の 分 布 範 囲 を 示 す 。ま た 、A 地 域 の 地 質 構 造
を 考 え た 場 合 、 活 断 層 と さ れ る Ad 断 層 と Aa 断 層 は 、 貯 留 範 囲 を 制 限 す る 地 質 構 造 で あ
る た め 、両 断 層 に は さ ま れ た 地 区 の A 地 域 湾 内 東 岸 を 対 象 と し た 。図 3.1.3-2 に 、A 地 域
中央部東西方向の地質断面図を示す。
図 3.1.3-1 か ら 貯 留 面 積 を 求 め 、 貯 留 可 能 量 の 算 出 は 次 式 に 依 っ た 。 そ の 結 果 、 A 地 域
湾 内 で は 貯 留 可 能 量 と し て 1.52 億 t-CO 2 が 見 込 ま れ る 。
貯 留 可 能 量 = Rc×A×h×φ×CO 2 濃 度
・ Rc: CO 2 溶 解 水 の 注 入 、 地 質 調 査 の 精 度 お よ び 、
地質の不均質性などによる不確実性を考慮
した低減率
・A :面積
・ h: 有 効 層 厚
・ φ: 孔 隙 率
・ CO 2 濃 度 *= 45
kg/m 3 H 2 O
*: CO 2 濃 度 は 図 2.1.2-13 よ り 注 入 圧 1MPa で -300m に
貯 留 す る こ と を 想 定 。 後 述 図 3.2.2-3 の デ ー タ よ り
保守的な値とした。
<A 地域の貯留可能量>
貯 留 可 能 量 = 低 減 率 ( 0.25)×面 積 ( 450×106m 2 )
×有 効 層 厚 ( 200×砂 泥 比 0.5)×孔 隙 率 (0.3)
× CO 2 濃 度 ( kg/m 3 )
貯 留 体 積 = Rc×A×h×φ= 33.75 億 m 3
貯 留 可 能 量 = 33.75 億 m 3 ×45( kg/m 3 H 2 O)
= 1.52 億 t-CO 2
3.1 節
参考文献
1)市 原 実 、12 万 5 千 分 の 1 大 阪 と そ の 周 辺 地 域 の 第 四 紀 地 図 、ア ー バ ン ク ボ タ № 30、
( 1991)
2)関 西 地 盤 情 報 活 用 協 議 会 、 新 関 西 地 盤 - 神 戸 お よ び 阪 神 間 、 270p、( 1998)
3)地 震 調 査 研 究 推 進 本 部 地 震 調 査 委 員 会 、 大 阪 湾 断 層 鯛 の 長 期 評 価 に つ い て 、 地 震 調 査 研
究 推 進 本 部 地 震 調 査 委 員 会 ホ ー ム ペ ー ジ 、( 2005)
4)岩 淵 洋 、 コ ア 精 密 対 比 に よ る 京 阪 神 地 域 の 地 下 地 質 、 地 質 構 造 の 高 精 度 解 読 シ ン ポ ジ ウ
ム 論 文 集 、 pp.129-142、( 2002)
80
図 3.1.3-1 A地域の新第三紀鮮新統~第四紀更新統の Ma3 と Ma-1 の分布
81~82
図 3.1.3-2 A 地域中央部東西方向の地質断面図
83~84
3.2
CO 2 ガ ス注入方法・位置の検討
3.2.1
ガス注入方法
ガス注入方法には、現在3種類の方法が考えられる。これらを以下に示す。
1 ) 地 上 で CO 2 溶 解 水 を 作 成 し そ れ を 地 中 に 注 入 す る 方 式
2 ) 目 標 と す る 貯 留 深 度 (直 接 深 度 )ま で 、 気 体 の CO 2 を 送 り 込 み 、 マ イ ク ロ バ ブ ル と
して貯留層に注入する方式
3) 貯留深度より浅い深度の孔井内でマイクロバブルを発生させ貯留深度で注入する
までに溶解水化する方式
3.2.2
1)
地下環境条件に応じた溶解度の変化
圧力温度条件による溶解度の変化
CO 2 の 溶 解 度 と 温 度 お よ び 気 圧 と の 関 係 を 再 掲 す る (IPCC SR2005
1) よ り )。 現 在 、 深 度
300~ 500m 程 度 と 考 え ら れ て い る 貯 留 位 置 で の 温 度 は 10~ 30℃ 程 度 、 圧 力 は 大 気 圧 換 算
で 35~ 50 気 圧 程 度 と 考 え ら れ る 。 こ の 範 囲 を 図 に 当 て は め る と 溶 解 度 は 5〜 7%程 度 と な
る。深度が深くなると、溶解度は、圧力が上がるために高くなり、温度が高くなるために
減少する。これらの効果は相殺する方向にはたらき、ほぼ溶解度の深度による変化は小さ
くなると考えられる。
80
70
CO2 solubility(CO2(g)/水1L
60
50
40
対象領域
30
20
10
図 3.2.2-1 CO 2 マ イ ク ロ バ ブ ル 地 中 貯 留 に お け る 温 度 、 圧 力 と CO 2 溶 解 度 の 関 係
(図 2.1.2-9 再 掲 )
出 典 : IPCC Special Report on Carbon dioxide Capture and Storage 2005
対 象 と す る A 地 域 の 深 度 500m ま で の 温 度 勾 配 を ま と め る と 図 3.2.2-2 の よ う に な る 。
85
独 立 行 政 法 人 産 業 技 術 総 合 研 究 所 ( 以 下 、 AIST と い う 。) 坑 井 温 度 デ ー タ ベ ー ス よ
り 作 成 し た 。 平 均 的 な 温 度 勾 配 1.7℃ /100m で あ っ た 。
ま た 、 図 3.2.2-3 に は 温 度 勾 配 と 圧 力 を 考 慮 し た 溶 解 度 を 示 し て い る 。 C の 破 線 が 温
度 勾 配 2.0℃ /100m の も の に 相 当 し 、 こ れ よ り 深 度 400m で は 50kg/m 3 程 度 の 溶 解 度 が
想定できる。
温度(℃)
0
10
20
30
40
0
950
951
952
953
954
955
956
957
958
959
960
線形 (950)
深度(-m)
100
200
300
400
y = 58.219x - 771.23
R2 = 0.9897
500
図 3.2.2-2
図 3.2.2-3
想定モデル地域の温度勾配
地 下 の 温 度 圧 力 条 件 下 に 於 け る CO 2 の 水 へ の 溶 解 度 の 関 係
( A:温 度 勾 配 4℃ /100m、 B: 温 度 勾 配 3℃ /100m、 C:温 度 勾 配 2℃ /100m、)
出典:平成 7 年度
二酸化炭素の隔離技術に関する調査研究、
新 エ ネ ル ギ ー ・ 産 業 技 術 総 合 開 発 機 構 、 RITE、
社団法人
化 学 工 学 会 、 平 成 7 年 度 調 査 報 告 書 NEDO-GET-9538
86
3.2.3
効率的注入深度
図 3.2.3-1 に 注 入 深 度 を 変 え た 状 態 の 概 念 図 を 示 す 。地 上 で CO 2 溶 解 水 を 作 成 し 地 中 に
注入する場合は、そのままでは圧力が低いために溶解水の濃度は、貯留位置での飽和濃度
より低くなると思われる。このため、加圧状態を維持できる密閉型の地上施設が必要とな
り、耐圧の仕様を維持したまま貯留位置までの圧送のラインも必要となると考えられる。
一方で、地上でマイクロバブルによる溶解を行う場合、大きな気泡の回収や、マイクロバ
ブルの状態モニタリングは容易であると考えられる。
貯 留 深 度 で マ イ ク ロ バ ブ ル を 注 入 す る 場 合 は 、 CO 2 の 注 入 ラ イ ン と か ん 水 の 注 入 ラ イ ン
の 2 系 統 で 貯 留 位 置 ま で こ れ ら を 送 り 、 CO 2 を マ イ ク ロ バ ブ ル 化 す る 。 こ の 場 合 は 、 注 入
井と揚水井および地下水分布状態で定まる水頭による管理のみで良いために、地上での溶
解方式に比べ地上施設は簡略化が可能であると考えられる。ただし、原位置でのマイクロ
バブル発生のため、発生孔付近での大きな気泡の回収や、マイクロバブルのモニタリング
が必要となるため、注入位置での設備が複雑化する可能性がある。
浅 /中 深 度 で の 場 合 は 、 特 に 中 深 度 で CO 2 の マ イ ク ロ バ ブ ル を 生 成 す る と 貯 留 層 に 近 い
圧力条件での生成となり、貯留深度で必要な設備で可能と思われる。貯留層までの到達に
時間を要するため、マイクロバブルの溶解に必要な時間が確保できると考えられる。さら
に、大きな気泡は注入井の孔内を逆流する形で上昇するために、回収のための設備を要し
ない可能性があると考えられる。
87
表 3.2.3-1
注入位置による特徴
CO 2 溶 解 水 を 地 上 で 作
ボーリング孔上部でマ
ボーリング孔中間部で
ボーリング孔底部でマ
成し、注入する方法
イクロバブルにより注
マイクロバブルにより
イクロバブルにより注
入
注入
入
▽
▽
▽
▽
陸 上 CO 2 圧 力 タ ン ク
注 水 圧 1MPa の 場 合
注 水 圧 1MPa の 場 合
注 水 圧 1MPa の 場 合
3MPa 以 上 が 必 要
先 端 圧 力 1MPa と な
先 端 圧 力 は 1MPa+深
先 端 圧 力 は 1MPa+深
度 相 当 圧 (ex.200m)と な
度 相 当 圧 (ex.500m)と な
り、溶解度が決まる
り 、区 間 が 広 い 場 合 、溶
浸透量と注入量のバ
ランスが必要
り、溶解度は小
気 体
CO 2 注 入 圧 は
1MPa+α
気 体 CO 2 注 入 圧 は
1MPa+水 深 200m 相 当
解度は区間上部で決ま
る
気 体 CO 2 注 入 圧 は
圧
1MPa+水 深 500m 相 当
圧
88
3.2.4
排ガス注入の検討
マ イ ク ロ バ ブ ル を 利 用 し て 浅 部 地 層 に CO 2 溶 解 水 と し て 貯 留 す る 場 合 、 排 ガ ス を マ イ ク
ロ バ ブ ル 化 し て 地 下 水 に 溶 解 さ せ る 方 法 が 考 え ら れ る 。 こ の 場 合 、 CO 2 は 溶 解 度 が 高 い た
め他の気体との分離の可能性が指摘されている。しかし、混合ガスとして注入する場合に
は、分圧によって溶解度が決まるため、ここでは、まず排ガスに含まれる成分とその割合
を調べ、それらの成分についての溶解度をまとめた。
1)
排ガスの成分
日 本 に お け る 業 種 別 の CO 2 排 出 源 と し て 、 代 表 的 な 火 力 発 電 所 ( 排 出 量 1 位 )、 鉄 鋼 業
( 同 2 位 )、セ メ ン ト 業 界( 同 4 位 )、清 掃 工 場( 同 6 位 )に お け る 排 ガ ス の 成 分 を 調 べ た 。
なお、化学工業(同3位)については今回、成分データまでは把握できなかったので、省
略 す る 。 (表 3.2.4-1)
「固定発生源(工場や事業場)から排出又は飛散する大気汚染物質は、大気汚染防止法
により、物質の種類ごと、施設の種類・規模ごとに排出基準等が定められており、大気汚
染 物 質 の 排 出 者 等 は こ の 基 準 を 守 ら な け れ ば な ら な い 。」と 定 め ら れ 、汚 染 物 質( こ こ で 問
題 に な る SOx、 NOx) 濃 度 は 基 準 値 以 下 に な る よ う に 処 理 さ れ て い る 。
排 ガ ス 中 の CO 2 濃 度 (%)は 、業 種 に よ っ て 異 な る が 、数 10% 台 に 分 布 す る 。い ず れ の 業
種 に お い て も 、最 も 多 く を 占 め る の は 窒 素 ガ ス (N 2 )で 50% 台 ~ 80% 台 を 占 め る 。排 ガ ス を
そ の ま ま CO 2 地 中 貯 留 に 使 う 場 合 、こ の N 2 ガ ス の 処 理 が 大 き な 課 題 に な る 。ま た 、SOx、
NOx は 、大 気 汚 染 防 止 法 の 基 準 値 以 下 に 処 理 し て 排 出 さ れ て い る た め 、量 的 に は 僅 か で あ
る。
表 3.2.4-1
代 表 的 な 業 種 の 排 出 ガ ス の 成 分 例 と CO 2 排 出 総 量
CO 2 排 出
業種等
総量
( 万 t /年 )
電力(石炭
火力発電
所)
鉄鋼(高炉
+転炉)
セメント
製造業
排ガス組成の例
N2
CO 2
O2
(―は、数値未入手)
(%、 V/V)
SOx
NOx
H2O
30、 492
*1
*1
*1
0.0030* 1
0.0083* 1
*1
*2
81.9
12.5
5.6
(30ppm)
(83ppm)
13.0
13、 145
*2
*2
*2
51.0
24.5
―
―
*7
*7
*7
64
32
0.04
3、252 * 2
―
備
考
N 2 ~SOx の値は
H2O を 除 外 し た
場合の値
*4
7.2
0.0022* 6
0.066* 6
(22ppm)
(660ppm
)
*4
13.5
N 2 ~SOx の値は
H2O を 除 外 し た
場合の値
出典:
*1: 電 力 は 石 炭 火 力 発 電 の 排 ガ ス 成 分 で 、 排 ガ ス 成 分 は 、「 TSS 法 を 用 い た CO 2 回 収 液
化 装 置 の シ ス テ ム 化 研 究 、エ ネ ル ギ ア 総 合 研 究 所
CO 2 回 収 技 術 推 進 担 当 、香 川
慶
太 」、「 J-POWER グ ル ー プ SUSTAINABILYTY REPORT 2010」 よ り 引 用
*2: NEDO 海 外 レ ポ ー ト
No.1020、 pp10、 2008
*3:( 社 ) 鉄 鋼 連 盟 鉄 鋼 業 の 地 球 温 暖 化 対 策 へ の 取 り 組 み 自 主 行 動 計 画 進 捗 状 況 報 告
89
*4:平 成 21 年 度 NEDO 先 導 調 査
セ メ ン ト 産 業 に お け る 革 新 的 CO 2 削 減 技 術 開 発 に 関
する先導調査
*5: 清 掃 工 場 は 、 清 掃 工 場 の 調 査 資 料 に よ る
*6: 経 済 産 業 省 製 造 産 業 局 住 宅 産 業 窯 業 建 材 課 「 平 成 20 年 度 中 小 企 業 支 援 調 査
セメ
ント産業における非エネルギー起源二酸化炭素対策に関する調査報告書」による値
を換算。
*7:( イ ン タ ー ネ ッ ト 検 索 に よ る )杉 本 主「 技 術 仕 様 書 確 認:セ メ ン ト プ ラ ン ト 設 備 計 画
講義テキスト」より抽出
表 に 見 ら れ る よ う に 、 い ず れ も N2 が 多 く の 割 合 を 占 め て い る こ と が 分 か る 。 ま た 、 一
部 で は SOx お よ び 、 NOx が 含 ま れ て い る 。
排ガスを、そのまま地中に処分することは、効率および安全性の面から避けるべきであ
る こ と が 分 か る 。こ の た め 、排 ガ ス 中 の CO 2 以 外 の 成 分 を 分 離 お よ び 一 部 の 成 分 に つ い て
は回収する必要がある。
排 ガ ス に 含 ま れ る 気 体 の 溶 解 度 を 表 3.2.4-2 に 示 す 。溶 解 度 の 単 位 は [cm 3 /cm 3 ]で 、1 気 圧
の 気 体 が 水 の 1cm 3 中 に 溶 解 す る 容 積 で あ る 。CO 2 に 比 べ 、N 2 は 1/50 以 下 、O 2 は 1/30 以
下 、お よ び NO は 1/25 以 下 し か 溶 解 せ ず 、逆 に 、SO 2 は 40 倍 以 上 の 溶 解 度 と な る 。す な
わ ち 、 本 検 討 で 注 目 す る CO 2 は S の 化 合 物 か ら な る 気 体 を 除 き 、 他 の 気 体 よ り 水 に 溶 解
し や す い 気 体 で あ る こ と を 示 し て い る 。 CO 2 と 共 に 溶 解 し た NOx、 SOx は 環 境 基 準 値 以
下にクリアーするためにイオン交換樹脂で処理する必要がある。
表 3.2.4-2
気体ごとの溶解度
N2
CO 2
O2
SO 2
H2S
NO
溶解
0℃
0.024(0.014)
1.71(1)
0.049
80
4.67
0.074
度
20℃
0.016(0.018)
0.88(1)
0.031
39
2.58
0.047
40℃
0.012
0.53(1)
0.023
19
1.66
0.035
( 理 科 年 表 平 成 15 年 度 版 、 pp501)
排 ガ ス を 直 接 注 入 す る と い う 点 で 類 似 し た 方 法 に ジ オ リ ア ク タ ー 2) が あ る 。 こ れ は 、 温
泉や火山などの地熱の高い地域における大深度地下の高温高圧環境を反応炉と見立てるも
ので、注入する物質を反応させ安定な鉱物へ転化させることが目的の一つとなっている。
現 在 検 討 し て い る 環 境 は 、高 圧 で あ る も の の 、温 度 は 高 々 40℃ 程 度 で あ る た め 、ジ オ リ ア
クターの想定している反応速度には及ばず、鉱物化の速度はきわめて遅いと考えられる。
こ の 方 式 で は 、 地 中 で 溶 解 お よ び 鉱 物 化 を 起 こ さ な か っ た N2 気 体 と 飽 和 に 至 っ て い な
い CO 2 溶 解 地 下 水 を 回 収 し 、 N 2 を 分 離 の 後 、 再 び 地 中 に 戻 し て い る 。 こ の 方 法 で は 、 気
体 CO 2 を 直 接 注 入 す る 。こ の た め 、貯 留 層 の 上 に 遮 へ い 層 を 必 要 と す る こ と や 、大 気 へ の
漏 洩 、地 下 水 へ の 噴 出 な ど CO 2 の 生 活 圏 へ の 侵 入 が 懸 念 さ れ る 。こ れ ら を モ ニ タ リ ン グ す
る技術が求められるなど、課題も抱えている。
90
2)
CO 2 に 関 す る 法 規 制 の 動 向
マ イ ク ロ バ ブ ル で 地 中 へ CO 2 を 注 入 す る 方 式 と し て 排 ガ ス を 注 入 す る 場 合 に は 次 の
二つの事象が想定される。
①地中岩石からの重金属溶出
CO 2 を 地 中 に 注 入 し た 際 に CO 2 が 溶 解 し た 水 に よ る 重 金 属 の 溶 出 に よ る 影 響 が 懸
念される。田中他
3 ) に よ る と 室 内 バ ッ チ 実 験 で は 、 「 pH
緩衝能力の大きい堆積岩で
は 重 金 属 を 中 心 と し た 微 量 元 素 の 溶 出 が 制 え ら れ る こ と が 示 さ れ た 。一 方 で 頁 岩 や 石
灰岩からは、岩石中に多く含まれる元素が、多く溶出する傾向がみられた。」と報告
されている。
こ の よ う に CO 2 水 が 貯 留 層 か ら 漏 洩 す る こ と が な い よ う な 地 質 構 造 で あ る 適 地 の
選定と施工中はモニタリングを行う必要がある。
② CO 2 漏 洩
CO 2 は 、 可 燃 性 、 発 火 性 、 引 火 性 、 爆 発 性 が 少 な い 不 活 性 ガ ス で あ る 。 火 災 時 に
炭酸ガスを使用した自動消化設備において、消防隊が踏み込んだりして中毒になると
いった事例があるに過ぎない。しかし、海外においては、カメルーン・ニオス湖から
マ グ マ 起 源 の CO 2 ガ ス が 噴 出 し て 住 民 が 1.746 名 、 家 畜 8、 000 頭 以 上 が 死 亡 し た 事
例 が あ る た め 、 CO 2 の 地 下 へ の 注 入 に 際 し て は 、 CO 2 の 漏 洩 に 対 す る 危 険 性 の 事 前 調
査や注入後のモニタリング等が必要である。
以上の2点について国内外の法規制についてまとめる。
日本国内では、未だ法規制は検討中である。諸外国における法規制の動向を以下にまと
め る 。( 表 3.2.4-3)
91
表 3.2.4-3
諸外国における法規制
国名
オランダ
概要
2003年 に 鉱 物 法 に よ り 規 制 が 発 効 し た 。 陸 水 お よ び オ ラ ン ダ の 大 陸
棚 に ま で 適 用 さ れ る 。 二 酸 化 炭 素 の 貯 留 を 「 気 体 の 貯 留 (storage of
gases)」の 一 つ と し て 明 白 に と ら え て い る 。オ ラ ン ダ 国 内 の 、地 下 100
mよ り 深 い 場 所 で の 二 酸 化 炭 素 の 貯 留 に つ い て は オ ラ ン ダ 経 済 省
( Ministry of Economic Affairs) の 許 可 が 必 要 と な る 。 さ ら に 、 鉱 山
活 動 に よ る 被 害 を 受 け た 場 合 の 取 り 扱 い 、 操 業 中 止 後 30年 間 の 測 定 義
務を負うとしている。
オーストラリア
一 部 の 州 で 州 法 に よ る 対 応 が な さ れ て い る 。こ の 中 で は CO 2 の パ イ プ
ラインによる輸送および貯留に関して規制されているが、石油生産活
動の一部として捉えている場合もあり、包括的な規制には至っていな
い。
アメリカ
米国では、連邦レベルと州レベルの法規制が存在する。連邦レベル
に 関 し て は 、 Environmental Protection Agency(EPA)は 、 CO 2 の 排 出
を Clean Air Act の 対 象 と な る 汚 染 物 質 と し て い な い 。ま た 、そ の 他 の
連 邦 法 に お い て も 、CO 2 の 回 収 、輸 送 、圧 入 、圧 入 後 の 4 つ の 各 段 階 を
対 象 と し た も の は な い 。 そ の 後 、 CCS関 連 の 法 案 が 何 件 か 提 案 さ れ て
いるがいずれも成立には至っていない。
(http://www.ucl.ac.uk/cclp/ccsdedlegnat-US-Federal.php)
一 方 で 、 州 間 (Inter-states)パ イ プ ラ イ ン 、 有 害 廃 棄 物 、 地 下 圧 入 井
に お け る 活 動 及 び そ の 管 理 を 対 象 と し た 連 邦 法 が 存 在 し て こ れ が CCS
に適用される可能性がある。
Safe Drinking Water Act (SDWA) - 地 下 圧 入 管 理 ( UIC) プ ロ
グ ラ ム ; Safe Drinking Water Act (SDWA)の 下 、 地 下 圧 入 管 理 プ ロ グ
ラ ム (UIC プ ロ グ ラ ム は 、液 体 、ガ ス 、ス ラ リ ー と い っ た 全 て の 液 体 の
圧 入 を 対 象 と し て お り( 天 然 ガ ス 貯 蔵 と 水 圧 破 砕 は 除 く )、CO 2 注 入 の
ための規制として新たなカテゴリーが設定された。
( Federal Requirements Under the Underground Injection
Control (UIC) Program for Carbon Dioxide(CO 2 ) Geologic
Sequestration (GS) Wells;Proposed Rule (Federal
Register/Vol.73,No.144/Friday,July 25,2008))( Bruce Kobelski &
Anhar Karimjee、 2005)
National Environmental Policy Act(NEPA)で は 、 連 邦 政 府 に 対 し 、
連邦政府の提案する施策や事業の環境影響を検討し、妥当な選択肢で
あるかどうか検討することを要求している。また、必要に応じ、詳細
な 環 境 影 響 評 価 書( EIS)の 作 成 が 求 め ら れ る 。現 在 、エ ネ ル ギ ー 省 の
CO 2 隔 離 計 画 ( Carbon Sequestration Programme) に 対 し て 、 プ ロ
グ ラ ム 環 境 影 響 評 価 ( Programmatic Environmental Impact
Statement)が 求 め ら れ て お り 、準 備 書( Draft Environmental Impact
Statement) が 提 出 さ れ た 。
92
EU 域 内 排 出 量 取 引 制 度 指 令 が 変 更 (2013~ 2020)さ れ 、 取 引 の 中 に
EU
CCS を 取 り 込 む こ と と な っ た 。 取 引 に は オ ー ク シ ョ ン 方 式 が と ら れ 、
そ の 収 益 の 一 部 を CCS 関 連 の 研 究 開 発 に 充 て る こ と と な っ た 。さ ら に 、
CCS 指 令 が 新 設 さ れ 、 許 可 ・ 運 用 ・ 閉 鎖 後 の 責 任 移 管 な ど が 規 定 さ れ
た。
( 欧 州 に お け る CCS 関 連 政 策 と 技 術 開 発 の 現 状:下 田 昭 郎 、電 力 中
央 研 究 所 報 告 、 V08062、 2002)
環境省
中央環境審議会
地球環境部会
二酸化炭素海底下地層貯留に関する専門委員会
二 酸 化 炭 素 海 底 下 地 層 貯 留 に 関 す る 専 門 委 員 会 ( 第 2 回 ) 参 考 資 料 2 . 諸 外 国 に お け る CCS関
連 法 令 よ り ( http://www.env.go.jp/council/06earth/y068-02.html)
( 2) 日 本 の 法 規
CCSに 関 し て は 、 大 規 模 地 中 貯 留 実 証 試 験 の た め に 環 境 省 が 検 討 し て お り 、 海 洋 汚
染 防 止 法 の 改 訂 に お い て 海 底 下 へ の CO 2 注 入 濃 度 を 決 め て い る 。
CO 2 を 地 中 に 圧 入 し た 際 に 溶 解 し た 水 に よ る 重 金 属 の 溶 出 や 事 故 時 の 地 中 か ら の 漏
洩、水質汚染などに関連する法令として、大気汚染防止法、海洋汚染防止法(以下海
防 法 と 表 示 )、水 質 汚 濁 防 止 法 、工 業 用 水 法 が あ る 。以 下 に 主 要 な 関 連 法 令 と 要 点 を 以
下 に 示 す 。 (表 3.2.4-4)
表 3.2.4-4
法規
国内法規について
概要
関連の深い条・項
工場等の事故時を想定したものである。排出事
大気汚染
業 者 に お け る NOx、SO X や 煤 塵 の 規 制 、事 故 時
大気汚染防止法:法律第
防止法
に は ば い 煙 中 の 28 物 質 を 規 定 。CO 2 、N 2 の 規 制
97 号
は な い 。 CCS に 対 応 し た 法 令 は な い 。
CO 2 気 体 が 温 度 37.6℃ に お い て 蒸 気 圧 が 0.28MPa を
超えない範囲で海底下廃棄が可能としており、法第
18 条 の 7 第 2 号 で は 、 そ の 詳 細 を 規 定 し て い る 。
・ ア ミ ン 吸 収 法 に よ る CO 2 分 離 。
海防法
・ CO 2 濃 度 99% 以 上 。
(海洋汚
・ 環 境 大 臣 は 、 CO 2 の 海 底 下 廃 棄 海 域 の
染等及び
海上災害
施 行 令 第 11 条 の 4、5、6」
指定と解除。
の 「 法 第 18 条 7 第 2 号
・事業者は、海底下廃棄に関する実施計
の防止に
画と汚染状況の監視に関する計画を環境大臣に提
関する法
出。
律)
・ CO 2 の 海 底 下 廃 棄 は 、 環 境 大 臣 が 許 可 。
・海底下の地層へ貯留する場合は、濃度基準がなく
経 済 産 業 省 「 CCS 実 証 事 業 の 安 全 な 実 施 に あ た っ て
平 成 21 年 8 月
経済産業省産業技術環境局
二酸化
炭 素 回 収 ・ 貯 留 ( CCS) 研 究 会 」 で 課 題 と 指 摘 。
93
及 び 法 第 18 条 の 15、 8
工業用水
地下水の採取・利用に関する法律で、揚水利用
工業用水法
法:
に つ い て は 、揚 水 機 の 吐 出 口 の 径 が 6cm 2 を 超 え
号
法 律 第 146
る場合には許可が必要。
地盤沈下
防止等対
策要綱
地下水の採取・利用による地盤沈下防止に関す
る要綱である。
各自治体の条例等
工場等の事故時を想定し
た 法 令 で あ り 、以 下 の 水 質
基 準 が あ る 。 な お CCS に
対応した法令ではない。
①水質汚濁に係わる環境
基 準( 人 の 健 康 に 関 す る 環
境基準):環境庁告示第
59 号
②地下水の水質汚濁に係
わ る 環 境 基 準:環 境 庁 告 示
第 10 号
③ 地 下 水 の 浄 化 基 準:水 質
水質汚濁
防止法
工場等の事故等による水質汚濁に関する、排水
汚濁防止法施工規則第 9
基準や健康被害に対する基準、水道法に基づく
条の三の二項
水 質 基 準 や 法 令 で あ る 。な お CCS に 対 応 し た 法
④水道法に基づく水質基
令ではない。
準(硝酸態 N
な ど 50 項
目 )、水 質 管 理 標 値( 硝 酸
態 N を 含 む 27 項 目 ):水
道法水質基準および水質
管 理 目 標 設 定 項 目( 厚 生 労
働省)
⑤ 排 水 基 準:水 質 汚 濁 防 止
法第三条
⑥ 地 下 浸 透 基 準:水 質 汚 濁
防 止 法 第 8 条「 特 定 地 下 浸
透水が有害物質を含むも
の」
⑦水質汚濁防止法施行規
則 : 環 境 省 令 第 11 号
土壌汚染
対策法
土壌汚染の状況の把握、土壌汚染による人の健
土壌汚染対策法:法律第
康被害の防止を目的としたもので、重金属等の
53 号 及 び 環 境 基 本 法 : 法
環境基準を定めている。
律 第 132 号 第 9 条
現 状 に お い て は 、 海 防 法 で CO 2 地 中 貯 留 に つ い て 手 引 き 書 の 作 成 が 継 続 中 で あ る 。
94
CCS を 直 接 に 対 応 し た 法 令 は な い が 、以 下 に 段 階 ご と に 関 連 す る と 思 わ れ る 法 令 を 示
す。
( a) 排 出 源
大 気 汚 染 防 止 法 に よ り 、NO X 、SO X 、粉 塵 等 の 規 制 が 定 め ら れ て い る 。一 方 、CO 2 、
N2 は 、 濃 度 、 排 出 量 の 基 準 は な い 。
( b) 圧 入 処 分
関 連 法 令 を 以 下 に 示 す 。 海 洋 投 棄 に 関 す る ロ ン ド ン 条 約 1996 年 議 定 書 に お け る
規定があり、海防法で基準を定めている。
ア .海 底 下 廃 棄 を す る 海 域 及 び 海 底 下 廃 棄 の 方 法 に 関 し 政 令 で 定 め る 基 準
「 施 行 令 第 11 条 の 4、 5、 6」 の 「 法 第 18 条 7 第 2 号 及 び 法 第 18 条 の 15、 8」
で基準を定めている。
イ .海 底 地 下 層 へ 貯 留 す る 場 合
「 CCS 実 証 事 業 の 安 全 な 実 施 に あ た っ て
平 成 21 年 8 月
経済産業省産業技
術 環 境 局 二 酸 化 炭 素 回 収 ・ 貯 留 ( CCS) 研 究 会 」 に よ る と 投 入 す る CO 2 の 濃 度
基 準 に つ い て は 、海 防 法 へ の CO 2 濃 度 追 記 検 討 が 必 要 と 指 摘 課 題 を 指 摘 し て い る 。
( c) 地 下 水 汲 み 上 げ
地 下 水 を 汲 み 上 げ る 場 合 、以 下 の 法 律 が 関 係 し て く る 。但 し 、前 述 し た よ う に CCS
に対応した法令はない。
・地下水の採取・利用に関する法律(工業用水法、地盤沈下防止等対策要綱
等)
・都道府県の地下水に関する条令・要綱(地盤沈下、塩類化防止、水質保全等)
( d) 漏 洩
地中からの漏洩といった事故時に関係する法令では、以下の大気汚染防止法、水
質汚濁防止法が関係してくる。ただし事故時の対応は、工場等の事故時を想定した
法 令 で あ り 、 CCS に 対 応 し た 法 令 は な い 。
・ 大 気 汚 染 防 止 法 : 事 故 時 の ば い 煙 、 28 特 定 物 質 の 排 出 を 規 定
・ 水 質 汚 濁 防 止 法 : ① 水 道 法 に 基 づ く 水 質 基 準 ( 硝 酸 態 N な ど 50 項 目 )、
水 道 法 に 基 づ く 水 質 管 理 標 値 ( 硝 酸 態 N を 含 む 27 項 目 )
②排水基準
③地下浸透基準
④地下水環境基準
・土壌汚染対策法:土壌環境基準
・都道府県条令
:地盤沈下、塩類化防止、水質保全等の条例
( e) 注 水
注 水 す る と き に は 、地 下 浸 透 基 準 が 関 係 し て く る 。表 3.2.4-5に 地 下 浸 透 基 準 を 示
す 。同 表 で は 、「 地 下 浸 透 基 準 値 」を「 地 下 水 環 境 基 準 」で 割 っ て 係 数 化 し た 。よ り
95
0に近い項目は基準が厳しいことを示している。このように他の水質基準より基準
値が厳しい。
96
表 3.2.4-5
(1)排 水 基 準
カドミウム及 びその化 合 物
人の健康に係わる環境基準一覧
(2)地 下 浸 透 基 準 (3)地 下 水 環 境 基 準
(4)土 壌 環 境 基 準
(2)/(3)
0.1mg/L
0.001 mg/L
0.01mg/L
0.01mg/L
0.1
1mg/L
0.1 mg/L
検 出 されないこと
検 出 されないこと
1
1mg/L
0.1 mg/L
検 出 されないこと
検 出 されないこと
-
鉛 及 びその化 合 物
0.1mg/L
0.005 mg/L
0.01mg/L
0.01mg/L
0.5
六 価 クロム化 合 物
0.5mg/L
0.04 mg/L
0.05mg/L
0.05mg/L
0.8
砒 素 及 びその化 合 物
0.1mg/L
0.005 mg/L
0.01mg/L
0.01mg/L
0.5
0.005mg/L
0.0005 mg/L
0.0005mg/L
0.0005mg/L
1
検 出 されないこと
0.0005 mg/L
検 出 されないこと
検 出 されないこと
-
0.003mg/L
0.0005 mg/L
検 出 されないこと
検 出 されないこと
-
トリクロロエチレン
0.3mg/L
0.002 mg/L
0.03mg/L
0.03mg/L
0.07
テトラクロロエチレン
0.1mg/L
0.002 mg/L
0.01mg/L
0.01mg/L
0.2
ジクロロメタン
0.2mg/L
0.002 mg/L
0.02mg/L
0.02mg/L
0.1
四塩化炭素
0.02mg/L
0.0002 mg/L
0.002mg/L
0.002mg/L
0.1
1、2-ジクロロエタン
0.04mg/L
0.0004 mg/L
0.004mg/L
0.004mg/L
0.1
1、1-ジクロロエチレン
0.2mg/L
0.002 mg/L
0.1mg/L
0.02mg/L
0.02
0.4mg/L
0.004 mg/L 上
0.04mg/L
0.04mg/L
0.1
1、1、1-トリクロロエタン
3mg/L
0.0005 mg/L
1mg/L
1mg/L 以 下
0.0005
1、1、2-トリクロロエタン
0.06mg/L
0.0006 mg/L
0.006mg/L
0.006mg/L
0.1
1、3-ジクロロプロペン
0.02mg/L
0.0002 mg/L
0.002mg/L
0.002mg/L
0.1
チウラム
0.06mg/L
0.0006 mg/L
0.006mg/L
0.006mg/L
0.1
シマジン
0.03mg/L
0.0003 mg/L
0.003mg/L
0.003mg/L
0.1
チオベンカルブ
0.2mg/L
0.002 mg/L
0.02mg/L
0.02mg/L
0.1
ベンゼン
0.1mg/L
0.001 mg/L
0.01mg/L
0.01mg/L
0.1
セレン及 びその化 合 物
0.1mg/L
0.002 mg/L
0.01mg/L
0.01mg/L
0.2
0.2 mg/L
1mg/L
1mg/L
0.2
0.2 mg/L
0.8mg/L
0.8mg/L
0.25
(*2)下 記 に表 記
10mg/L
シアン化 合 物
有 機 燐 化 合 物 (パラチオ
ン、メチル パラチオン、メ
チ ル ジ メ ト ン 及 び EPN に
限 る。)
水 銀 及 びアルキル水 銀 そ
の他 の水 銀 化 合 物
アルキル水 銀 化 合 物
ポリ塩 化 ビフェニル
シス-1、2-ジクロロエチレ
ン
海域以外
ほう素 及 びその化 合 物
10mg/L 海 域
230mg/L
海域以外
ふっ素 及 びその化 合 物
8mg/L、海 域
15mg/L
アンモニア、アンモニウム
化合物亜硝酸化合物及
(*1)100mg/L
び硝 酸 化 合 物
97
(*1)
ア ン モ ニ ア 性 窒 素 に 0.4 を 乗 じ た も の 、 亜 硝 酸 性 窒 素 及 び 硝 酸 性 窒 素 の 合 計 量 。
備考
「 検 出 さ れ な い こ と 。」 と は 、 環 境 大 臣 が 定 め る 方 法 に よ り 排 出 水 の 汚 染 状 態 を 検 定 し
た場合において、その結果が当該検定方法の定量限界を下回ることをいう。
(*2)
アンモニアまたはアンモニウム化合物にあっては、1リットルにつきアンモニア性窒素
0.7mmg 以 上 、亜 硝 酸 化 合 物 に あ っ て は 1 リ ッ ト ル に つ き 亜 硝 酸 性 窒 素 0.2 ミ リ グ ラ ム
以 上 、 硝 酸 化 合 物 に あ っ て は 1 リ ッ ト ル に つ き 硝 酸 性 窒 素 0.2mmg 以 上
3.2 節
参考文献
1) RITE/ ENAA
2) 財 団 法 人
全 国 貯 留 層 賦 存 量 調 査 成 果 デ ー タ ベ ー ス ( 2009)
地球環境産業技術研究機構
技術当対策事業
平 成 18 年 度
二酸化炭素固定化・有効利用
プ ロ グ ラ ム 方 式 二 酸 化 炭 素 固 定 化 ・有 効 利 用 技 術 開 発 ( ジ オ リ ア ク タ
ー に よ る 排 ガ ス 中 CO 2 の 地 中 直 接 固 定 化 技 術 開 発 )成 果 報 告 書 、pp188,平 成 19 年 9 月
3) 田 中 姿 朗 他 : 大 規 模 排 出 源 近 傍 に お け る CO 2 地 中 貯 留 性 評 価 法 - 深 部 帯 水 層 貯 留 に 向
け た 研 究 開 発 - 、 電 力 中 央 研 究 所 報 告 、 総 合 報 告 : No7 、 pp.49、 2009 年 8 月
98
3.3
物理・力学特性による貯留可能範囲の検討
本節では、前述してきた貯留システム(注入井・揚水井併用方式地中貯留システム)に
基づき、貯留可能領域中に設定した仮想貯留サイトでの貯留システムレイアウトの例示に
より、貯留可能範囲を示すことにより、適地検討の流れを示す。
3.3.1
1)
貯留サイトの選定
仮想貯留サイトの選定理由
・ 仮 想 対 象 排 出 源 選 定 と 理 由 ( 図 3.3.1-1)
仮 想 貯 留 サ イ ト の 湾 沿 岸 陸 域 に 、A 火 力 発 電 所 (LNG)(排 出 量 254 万 ト ン -CO 2 /年 )、B 火
力 発 電 所 (LNG)(同 197 万 ト ン -CO 2 /年 )、製 鉄 所 (同 11 万 ト ン -CO 2 /年 )、非 鉄 金 属 工 場 (同 2
5 万 ト ン -CO 2 /年 )そ し て 化 学 工 業 プ ラ ン ト (同 48 万 ト ン -CO 2 /年 )が 、排 出 源 と し て 分 布 し て
おり、我が国の大規模排出源の代表的なものがそろっている。セメント工場が存在しない
くらいである。比較的小規模なものも含めて、多種の排出源が一定範囲に存在する排出源
分布状況より、一例として、B 火力発電所を中心とした同範囲を、仮想貯留サイトとして
選定した。地域分散型地中貯留としては、前述したように、特に大規模な排出源である火
力 発 電 所 を ソ ー ス と す る 必 要 は な く 、実 際 の ソ ー ス と し て は 、小 規 模 な 排 出 源 で あ る 方 が 、
排出量の多くを貯留の対象とすることが可能となり、適切と考えられる。
図 -3.3.1-1
仮想貯留サイト位置図
RITE( 2006) 1) の 図 を 参 考 に 作 成 、 赤 枠 が 仮 想 貯 留 サ イ ト
・排出源近傍での仮想貯留サイト選定の理由
貯 留 可 能 領 域 は 、 図 3.3.1-2 の 赤 枠 で 示 す よ う に 広 く 分 布 し 、 海 上 注 入 で 沖 合 と 沿 岸
海 域 、 陸 上 注 入 で 沿 岸 陸 域 の い ず れ も が 貯 留 サ イ ト 候 補 と し て 考 え ら れ る 。 図 3.3.1-2
99
の貯留可能領域内に、
印と
印で示したように、排出源近傍での貯留も、排出源から
10~ 15km の 沖 合 海 域 で の 貯 留 も 可 能 で あ る 。 し か し 、 今 回 は 、 地 域 分 散 型 地 中 貯 留 に
有 利 な 排 出 源 近 傍 と い う 条 件 を 優 先 し て 、一 例 と し て 、図 3.3.1-2 に 示 す 緑 枠 で 示 し た 、
仮想貯留サイト範囲内の排出源直近の海域および陸域を対象とし、仮想貯留サイト内の
貯留位置(範囲)の検討を行った。
図 3.3.1-2
想定モデル A 地域の貯留可能領域位置図
赤 枠 内 が 貯 留 可 能 領 域 ( Ma3~ Ma-1 間 、 -300m~ -500m)。 緑 枠 内 が 仮 想 貯 留 サ イ ト
( 10km 四 方 )。
2)
印、
印 は 貯 留 可 能 位 置 の 例 。 RITE( 2006) 1) の 図 を 参 考 に 作 成 。
A 地域の貯留対象層・遮蔽対象層の物性
A 地 域 で 貯 留 対 象 層 と な る 新 第 三 紀 鮮 新 統 ~ 第 四 紀 更 新 統 の 砂 層 の 孔 隙 率 は 、 RITE( 2
007) 2) に よ る と 、図 3.3.1-3 に 示 す よ う に 、深 度 600m 付 近 で 、40%程 度 で あ る (左 図 )
。こ の デ ー タ は 、GS-K1 孔 の 密 度 検 層 の 値 を も と に し た 推 定 値 で あ る が 、同 孔 の 室 内 物
理 試 験 の 値 も 同 程 度 で あ る (右 図 )。
ま た 、 同 機 構 ( 2007) 2) に よ る と 、 図 3.3.1-4 に
示すように、地表サンプルを用いた試験から孔隙率と浸透率の関係が求められており、
孔 隙 率 40%に 相 当 す る 浸 透 率 は 2000md 程 度 と な る 。地 表 サ ン プ ル に よ る 値 の た め 、深
部 で は 1 桁 小 さ い 値 と な る も の と 想 定 し て も 100md オ ー ダ ー で あ る 。 こ れ ら は 、 貯 留
能力のある地層の特性値であると考えられる。
遮 蔽 層 と な る 海 成 粘 土 層 の 一 軸 圧 縮 強 度 は 、土 質 工 学 会( 1985) 3) に よ る と 、図 3.3.15 に 示 す よ う に 、 Ma3~ Ma1(深 度 400m~ 700m)に 限 る と 1.3~ 4.0MPa 程 度 で あ る 。
ま た 、 中 世 古 ( 1989) 4) よ る と 、 海 成 粘 土 層 Ma1、 Ma2 の 透 水 係 数 は 、 10 -8 ~ 10 -10 m/s
ec で あ り 、非 常 に 小 さ い 。こ れ ら か ら 、こ の 海 成 粘 土 層 に は 、地 質 的 に は 、十 分 な 遮 蔽 能
力が期待されるとともに、貯留可能な強度も有していると考えられる。
100
図 3.3.1-3
砂層の深度による孔隙率の変化
RITE( 2007) 2) よ り 引 用 し 再 構 成 。 左 図 は GS-K1 孔 の 砂 層 部
での密度検層結果よりの推定値。右図は、同孔の室内物理試験の結果。
出典
関 西 地 盤 情 報 活 用 協 議 会 : 新 関 西 地 盤 - 神 戸 お よ び 阪 神 間 ( 1998)( 右 図 )
図 -3.3.1-4
砂層の浸透率の変化
地 表 サ ン プ ル に よ る 室 内 試 験 に よ る 孔 隙 率 と 透 水 試 験 結 果 (RITE(2006) 1) )
の関係からの推定値
出典
RITE:平 成 18 年 度 二 酸 化 炭 素 固 定 化・有 効 利 用 技 術 等 対 策 事 業 二 酸
化 炭 素 地 中 貯 留 技 術 研 究 開 発 成 果 報 告 書 .( 2007)
101
図 3.3.1-5
出典
3)
海成粘土層の一軸圧縮強度
土 質 工 学 会 ・ 関 西 地 質 調 査 業 協 会 : 新 編 大 阪 地 盤 図 . コ ロ ナ 社 ( 1985)
仮想モデルサイトでの適地存在の検討
上 記 1)項 に 示 す 理 由 に よ り 、臨 海 の 10km 平 方 の 範 囲 を 、仮 想 の 貯 留 サ イ ト と し 、そ の
地質状況を検討した。
今 回 対 象 と し た 貯 留 層 の 下 位 に あ た る 海 成 粘 土 層 Ma-1 の 下 底 面 の 分 布 は 、 図 -3.3.1-6
(深 度 300m~ 500m の 間 で 表 示 )お よ び 、図 3.3.1-7( 深 度 300m~ 500m の 間 で 表 示 )に 実
線 の 等 高 線 で 示 す よ う に 、仮 想 貯 留 サ イ ト の 南 東 側 で 、-500m よ り 上 位 に 位 置 し -300m 以
浅に達する。今回対象としている範囲より下位の地層が対象深度に分布することとなる。
た だ し 、 こ の 範 囲 の 地 層 が 貯 留 に 使 用 で き な い と い う わ け で は な い 。 RITE( 2006) 1 )
が 検 討 し た 深 部 塩 水 帯 水 層 貯 留 で は 、 Ma-1 以 深 の 地 層 を 貯 留 対 象 と し て い る 。 今 回 対 象
と し て い る 範 囲 は 、複 数 の 海 成 粘 土 層 が 存 在 し て い る た め に 、層 状 の 複 数 の 小 部 屋 に CO 2
を 隔 離 し て 貯 留 す る こ と と な り 、 遮 蔽 性 能 は 、 そ の 下 位 よ り 高 い も の と 考 え ら れ る 。 Ma1 下位の地層には海成粘土層は分布せず、砂層と泥層の互層のみからなり、最終的には上
位の海成粘土層に遮蔽性能を期待している。しかし、今回検討の貯留対象層に比べて、貯
留性能には大きな差はないと考えられる。
貯 留 対 象 層 の 上 位 に あ た る 海 成 粘 土 層 Ma3 の 下 底 面 の 分 布 は 、 図 3.3.1-6( 深 度 300m
~ 500m の 間 で 表 示 ) お よ び 図 3.3.1-7( 深 度 300m~ 500m の 間 で 表 示 ) に 破 線 の 等 高 線
で 示 す よ う に 、仮 想 貯 留 サ イ ト の 西 側 お よ び 北 東 側 か ら 中 央 部 に 向 け て 、-500m よ り 上 位
に 分 布 し 、 中 央 部 で は -300m よ り 浅 く な る 。
102
図 3.3.1-6 仮 想 貯 留 サ イ ト 内 の Ma-1 層 ・ Ma3 層 下 底 面 分 布 等 高 線 図 (-300m~ -500m 範 囲 )
海 成 粘 土 層 Ma-1、 Ma3 の 分 布 は 、 三 田 村 ( 2002) 5) を 図 読 し 加 筆 。
太 実 線 は Aa 断 層 位 置 ( RITE( 2006) 1) よ り 図 読 )
ま た 、図 3.3.1-6 お よ び 図 3.3.1-7 に 示 す 、南 東 側 に 分 布 す る 北 北 東 -南 南 西 方 向 の 太 実
線 は 、 活 断 層 と さ れ る Aa 断 層 の 位 置 を 示 す ( RITE( 2006) 1) よ り 推 定 )。 北 西 部 の 東 北
東 -西 南 西 方 向 に 分 布 す る 傾 斜 の や や 急 な 部 分 は 、延 長 方 向 が Aa 断 層 と 交 差 し て お り 、図
3.3.3-8 に 示 す よ う に 、 Aa 断 層 か ら 分 岐 す る Ab 撓 曲 ( 岡 田 ( 2000) 6) ) の 南 西 側 延 長 部
に位置する可能性がある、このため、この位置に、安全側の評価として派生断層が存在す
る も の と 仮 定 し た 。た だ し 、三 田 村( 2002)5) で は 、派 生 断 層 の 位 置 は 明 記 さ れ て い な い 。
上 述 の よ う に 、 -300m~ -500m の 200m 間 の 全 範 囲 で 、 Ma3~ Ma-1 間 の 地 層 が 分 布 す
るのは、この貯留サイトの中央部である。また活断層を避け、貯留対象層の効率的な使用
の 観 点 か ら 、仮 想 貯 留 サ イ ト 中 の 貯 留 範 囲 は 、10km 平 方 の サ イ ト の 中 央 部 を 対 象 と し た 。
103
図 3.3.1-7
仮 想 貯 留 サ イ ト 内 の 地 質 断 面 図 (-300m~ -500m 範 囲 )
三 田 村 ( 2002) を 図 読 し 加 筆 し た 。 太 実 線 は Aa 断 層 位 置 ( RITE( 2006) 1) よ り 図 読 )。
5)
図 3.3.1-8
三 田 村 ( 2002)
5)
Aa 断 層 ・ Ab 撓 曲 の 分 布 位 置 お よ び 影 響 範 囲
を 図 読 し 加 筆 。 太 実 線 は Aa 断 層 位 置 ( RITE( 2006) 1) よ り 図 読 )、
太 破 線 は Ab 撓 曲 位 置 ( 岡 田 ( 2000) 6) ) よ り 図 読 )。
104
3.3.2
1)
注入井・揚水井併用方式による1貯留ユニットの貯留可能量の検討
貯留ユニット
貯 留 ユ ニ ッ ト は 、 図 3.3.2-1( 図 2.3.5-1 を 再 掲 ) に 示 す よ う に 1 本 の 注 入 井 と そ れ を
円 周 上 に 取 り 囲 む 4 本 の 揚 水 井 で 構 成 さ れ る 井 戸 群 と 設 定 し た 。揚 水 井 の 設 置 目 的 は 、CO 2
を溶解させるための循環水を確保するとともに、注入井の周囲の水頭を揚水によって低下
させることによって水循環を容易にし、円滑な注入を促進させるためである。
注水井
揚水井
貯留範囲
図 3.3.2-1
2)
貯 留 ユ ニ ッ ト の 概 念 図 ( 図 2.3.5-1 を 再 掲 )
検討方法
水 循 環 の 検 討 は 、 2.3.5 款 の 2)項 で 述 べ た 、 群 井 の 井 戸 公 式 に よ っ て 検 討 し た 。 参 考 の
た め 、検 討 手 順 と 計 算 式 を 以 下 に 再 掲 す る ( 図 3.3.2-2( 図 2.3.5-2 を 再 掲 )、図 3.3.2-3
( 図 2.3.5-3 を 再 掲 ))。
Q
s
2RC kDs
lnR / r0 
n

R
1
 qi ln 

ri 
2RC kD i 1 
( 3.3.2-1)
( 3.3.2-2)
ただし、
Q : 注 入 井 か ら の 注 水 量 (m 3 /s)
Rc: 地 質 の 不 均 一 性 に よ る 水 循 環 効 果 の 低 減 率
k : 注 入 層 の 透 水 係 数 (m/s)
D : 注 入 層 の 層 厚 (m)
s : 水 頭 差 (m)
R : 影 響 半 径 (m)
r 0 : 井 戸 半 径 (m)
q i : 揚 水 井 i か ら の 揚 水 量 (m 3 /s)
r i : 揚 水 井 i か ら の 水 頭 計 算 地 点 ま で の 水 平 距 離 (m)
n : 揚 水 井 の 本 数 (本 )
105
1万t-CO2/年の貯留に必要な注入井水頭差 s の計算
揚水時の注入井位置の水頭低下量 sr の計算
注入井での必要注入圧(水頭) ( s1 ) の計算 【 s1 = s + sr 】
図 3.3.2-2
注 入 井 ・ 揚 水 井 併 用 方 式 に よ る 水 循 環 の 検 討 手 順 ( 図 2.3.5-2 を 再 掲 )
揚水井
離隔距離
注入井
圧入井
圧入による
注入による上昇水頭
上昇水頭
s1
s
原水頭
sr
揚水による
低下水頭
揚水井
注入井
圧入井
揚水井
注入層
圧入層
図 3.3.2-3
3)
水 循 環 量 の 計 算 方 法 説 明 図 ( 図 2.3.5-3 を 再 掲 )
計算パラメータ
計 算 パ ラ メ ー タ を 設 定 根 拠 と と も に 表 3.3.2-1 に 示 す 。 計 算 式 に 導 入 し た 「低 減 率 」 (1
以 上 で 割 り 増 し 、 1 で 低 減 な し 、 0 で 最 大 低 減 )は 、 従 来 の 超 臨 界 状 態 CO 2 貯 留 に お け る
貯留率(掃攻効率)に相当する概念であるが、全溶解を前提としたマイクロバブル貯留に
お い て は 注 入 流 体 と 地 下 水 の 密 度 差 が 超 臨 界 状 態 CO 2 貯 留 に 比 べ 小 さ い た め 、地 質 の 不 均
一性による水循環効果の低減のみを考慮したパラメータである。したがって、低減率は地
質 の 不 確 実 性 が 大 き い 場 合 に は 小 さ く 、不 確 実 性 が 排 除 さ れ た 場 合 に は 、1 と 設 定 さ れ る 。
106
表 3.3.2-1
パラメータ
注入井からの注水量
計算パラメータ一覧
設定値
Q
22.2 万
m 3 /年
設定根拠等
1 万 t-CO 2 以 上 の 貯 留 目 標 に 対
し 溶 解 度 4.5%を 設 定
( 溶 解 度 は 、図 2.1.2-13 よ り 注
入 圧 1MPa で -300m に 貯 留 す る
こ と を 想 定 。 図 3.2.2-3 の デ ー
タ よ り 保 守 的 な 値 と し た 。)
低減率
Rc
1、 0.5、 0.25
超 臨 界 状 態 CO 2 貯 留 時 の 貯 留 率
(掃 攻 効 率 )0.25 を 下 限 値 と 設 定
注入層の透水係数
K
1×10 -6 m/s
H17 年 度 全 国 腑 存 量 調 査 結 果
1)
を参照
注入層の層厚
D
100m
注 入 対 象 全 層 厚 200m
(GL-300m ~ -500m)× 砂 泥 比 率
0.5(H17 年 度 全 国 腑 存 量 調 査 結
果
影響半径
R
R  3000 s k
1) を 参 照 )
揚水、注入いずれも左記経験式
を適用
井戸半径
r0
58mm、 100mm
標 準 ケ ー ス : φ 116mm、
揚 水 量 確 保 ケ ー ス : φ 200mm
揚水井からの揚水量
q
限 界 揚 水 量 q c の 80%と 設 定
0.8  q c
 0.8  2r0 l Rck 15
揚水井と注入井の
r
50m、100m、150m
n
4
( l: 揚 水 井 ス ト レ ー ナ 長 = 注 入
層 の 層 厚 D)
3水準を設定
離隔距離
揚水井の本数
4)
円 周 上 に 90 度 毎 に 配 置
計算ケース
計 算 ケ ー ス は 、 表 3.3.2-2 に 示 す よ う に 、 低 減 率 と 井 戸 径 を パ ラ メ ー タ と し た 4 ケ ー ス
と し た 。 低 減 率 を 1.0 と し た ケ ー ス 1 を 基 本 と し 、 低 減 率 が 0.5、 0.25 に 低 下 し た 場 合 と
低 減 率 を 0.25 と し た 場 合 に つ い て は 、循 環 水 の 確 保 を 目 的 に 井 戸 径 を 200mm に 拡 大 し た
場 合 に つ い て 検 討 を 行 な っ た 。 各 々 の ケ ー ス で は 注 入 井 と 揚 水 井 の 離 隔 距 離 を 50、 100、
150m の 3 水 準 設 定 し 、 そ の 影 響 に つ い て 検 討 し た 。
107
表 3.3.2-2
Case
5)
低減率
計算ケース一覧
井戸径
注 入 井・揚 水 井 の 離 隔
揚水井本数
( mm)
距 離 (m)
(本)
50、 100、 150
4
1
1.0
116
2
0.5
116
3
0.25
116
4
0.25
200
計算結果
4 ケ ー ス の 水 循 環 計 算 結 果 の 一 覧 を 表 3.3.2-3 に 示 す 。ま た 、Case-1 に つ い て 井 戸 の 離
隔 距 離 を 変 化 さ せ た 場 合 の 水 頭 分 布 図 を 図 3.3.2-4 に 、注 入 井 と 揚 水 井 の 離 隔 距 離 を 100m
と し た 場 合 の 各 ケ ー ス の 水 頭 分 布 図 を 図 3.3.2-5 に 示 す 。 こ れ ら の 結 果 か ら 水 循 環 特 性 に
ついて次のことがいえる。
・ 低 減 率 を 1.0 と し た 場 合 、 1 万 t-CO 2 / 年 以 上 の 貯 留 の た め の 水 循 環 を 確 保 す る た め
に は 必 要 注 水 圧 は 、 96~ 99m 程 度 で あ る が 、 低 減 率 を 小 さ く す る と 必 要 注 水 圧 は 著
し く 増 加 し 低 減 率 0.25 の 時 に は 必 要 注 水 圧 は 420 m 程 度 に ま で 増 加 す る 。こ の よ う
な場合にはシール層や井戸のシール構造についての力学的安性検討が必要になる。
・ こ こ で 示 し た 計 算 結 果 は 年 間 1 万 t-CO 2 を 注 入 す る こ と を 想 定 し た も の で あ る が 、注
水 量 を 倍 に し た 場 合 の 必 要 注 水 圧 は 、低 減 率 を 0.5 に し た 場 合 に 相 当 す る 。し た が っ
て 、 年 間 2 万 t-CO 2 の 注 入 の た め に は 、 注 水 井 を 1 本 の ま ま と す る 場 合 に は 必 要 注
水 水 頭 差 が 200 m 必 要 と な り 、 注 水 層 や 井 戸 の 安 定 性 を 考 慮 し て 必 要 注 水 水 頭 を
100m 程 度 の 一 定 値 と す る 場 合 に は 、 ユ ニ ッ ト を 増 や す 必 要 が あ る 。
・ 低 減 率 1.0 の 場 合 に は 水 循 環 の た め の か ん 水 を 揚 水 し た 水 で 確 保 す る こ と は 可 能 で あ
るが、低減率の減少とともに4本の揚水井では確保できなくなる。ただし、この対
策 と し て 井 戸 径 を 200mm に ま で 拡 径 す る こ と に よ り 揚 水 可 能 量 が 増 加 し 、循 環 水 の
確保は可能になる。
・ 注 入 井 と 揚 水 井 の 離 隔 距 離 を 変 化 さ せ た 場 合 の 大 局 的 な 水 頭 分 布 は 、注 水 の 影 響 範 囲
内において揚水位置近傍で局所的に水頭低下が生じる形態となり、注入水頭への影
響は小さい。ただし、揚水井で囲まれる1貯留ユニット内の貯留可能量は離隔距離
に応じて変化する。
・ 注 入 水 の 循 環 性 を 高 め る こ と を 目 的 に 注 入 井 の 周 辺 に 揚 水 井 を 配 置 す る 場 合 、揚 水 井
を 揚 水 の 影 響 範 囲 内 に な る よ う に 注 入 井 か ら の 距 離 を 設 定 す る 必 要 が あ る 。た だ し 、
図 3.3.2-6 に 示 す よ う に 揚 水 の 影 響 範 囲 は 注 入 の そ れ に 比 べ て 限 定 的 で あ る た め 、
循環水確保を揚水目的とする上では揚水位置の制約はないといえる。一方、注水圧
からの遮蔽層の保護の観点からは水頭上昇の影響検討が必要になる。
・
108
表 3.3.2-3
Case
井戸の
井戸径
離隔
(mm)
1.0
(m)
116
必要注水
99
1-2
100
96
1-3
150
96
50
204
2-2
100
200
2-3
150
200
50
421
3-2
100
417
3-3
150
417
50
424
4-2
100
394
4-3
150
389
2-1
3-1
4-1
0.5
116
0.25
116
0.25
200
注水の影
揚水の影
響半径
響半径
(m)
(m)
288
66
0.47
424
64
0.33
水 頭 (m)
50
注水量
揚水量
(m 3 /分 )
(m 3 /分 )
0.42
626
60
0.23
584
113
0.40
120.0
離隔50m
離隔100m
離隔150m
100.0
80.0
水頭 (m)
1-1
低減率
注入井・揚水井併用方式による水循環計算結果一覧
60.0
40.0
20.0
0.0
-20.0
0
50
100
150
200
250
300
350
注水井からの距離 (m)
図 3.3.2-4
注 入 井 と 揚 水 井 の 離 隔 距 離 の 水 頭 分 布 へ の 影 響 ( Case-1)
109
500
Case1 (Rc=1,φ116)
水頭変化量 (m)
400
Case2 (Rc=0.5,φ116)
Case3 (Rc=0.25,φ116)
300
Case4 (Rc=0.25,φ200)
200
100
0
-100
0
100
図 3.3.2-5
200
300
400
500
注水井からの距離 (m)
600
700
低減率と井戸径の水頭分布への影響
圧入影響範囲
揚水井
離隔距離
揚水影響範囲
圧入井
1ユニットの圧入エリア
図 3.3.2-6
注入井・揚水井併用方式による水循環エリアの概念図
6) ま と め と 課 題
以上の注入井・揚水井併用方式による水循環検討の結果を以下にまとめる。
・ 水 循 環 は 低 減 率 の 値 に 大 き く 影 響 さ れ る が 、現 実 的 な 条 件 で 1 万 t-CO 2 /年 の 貯 留 は 可
能である。
・ 井戸径や注入圧力などを適切に設定することで溶媒となるかん水を揚水井でまかな
うことが可能である。
・ 揚 水 に よ る 水 頭 低 下 効 果 は 限 定 的 で あ り 、循 環 水 確 保 の た め の 揚 水 井 の 設 置 上 、位 置
110
の制約は少ない。一方、注入に伴う水頭上昇による遮蔽層や井戸のシールへの影響
については検討が必要である。
検討結果から明らかになった課題を以下に示す。
・ 貯 留 の 効 率 を 示 す 低 減 率 パ ラ メ ー タ の 値 は シ ス テ ム 検 討 上 影 響 が 大 き く 、全 溶 解 を 前
提とする場合の設定方法が課題である。
・ CO 2 溶 解 水 を 継 続 的 に 岩 盤 中 に 注 水 す る 場 合 、物 理 的 な 目 詰 ま り や 溶 解 水 と 岩 石 鉱 物
との化学反応によって透水性が変化する可能性があり、その定量的な評価が課題で
ある。
・ 低 減 率 を 1.0 と し て 半 径 100m の 1 貯 留 ユ ニ ッ ト あ た り の 水 循 環 可 能 量 を 対 象 域 の 孔
隙水容量として求めると、
π ×100 2 ×100×孔 隙 率 0.3×低 減 率 1.0=約 94.2 万 m 3
・ と な る 。 こ の 値 を 1 年 当 り の 水 循 環 量 22.2 万 m 3 で 除 す る と 4.24 が 得 ら れ る 。 つ ま
り 、 半 径 100m の 1 貯 留 ユ ニ ッ ト で は 、 4 年 強 で 、 飽 和 CO 2 溶 液 水 で 満 た さ れ る こ
と に な る 。同 様 な 条 件 で 半 径 200m を 1 貯 留 ユ ニ ッ ト と す る と 、孔 隙 水 容 量 は 4 倍 の
337 万 m3 と な り 、注 水 圧 力 を 同 じ に 保 て ば 、337/22.2= 17.0 年 分 の 貯 留 容 量 を 確 保
できる。
・ 上記の議論はユニット内を均質条件で考えたが、岩盤は必ずしも均質ではないため、
貯留期間の短縮も考えられるため、揚水井で囲まれた水循環域内にモニタリング井
を 設 け て CO 2 飽 和 状 況 を モ ニ タ リ ン グ す る 必 要 が あ る 。
111
3.3.3
1)
貯留範囲の設定
貯留ユニットを考慮した貯留必要範囲
・貯留条件を、以下のように設定する。
貯 留 規 模 ; 1 万 t-CO 2 /年
CO 2 注 入 期 間 ;
総注入量;
注入圧;
注入深度;
25 年 間
25 万 t-CO 2 /25 年
96m ( 0.96MPa)
300m - 500m( 区 間 )
3.3.2 款 の 図 -3.3.2-1 で 示 し た よ う に 、 貯 留 ユ ニ ッ ト の 直 径 は 200m で あ り 、 貯 留 深 度
は 300m~ 500m の 200m 間 で あ る 。ま た 、3.3.2 款 で 述 べ た よ う に 、地 質 構 造 の 不 確 実 性
を 考 慮 す る 必 要 が な い も の と 考 え 低 減 率 を 1.0 と す る と 、 1 ユ ニ ッ ト で 4.24 万 ト ン -CO 2
の 貯 留 総 量 と な り 、1 貯 留 ユ ニ ッ ト で 4 年 を 超 え る 貯 留 が 可 能 と な る 。こ の こ と か ら 、貯
留 条 件 で あ る 25 年 間 で の 貯 留 総 量 を 確 保 す る に は 、 6 ユ ニ ッ ト あ れ ば よ い 。 1 ユ ニ ッ ト
の 直 径 が 200m で あ る こ と か ら 、 貯 留 ユ ニ ッ ト を 1 列 で 直 線 に 並 べ た 場 合 、 影 響 範 囲 は 図
3.3.2-4 の と お り 約 300m で あ る も の の 水 頭 上 昇 範 囲 は 注 水 井 近 傍 に 限 ら れ る こ と を 考 慮
し て 、隣 接 す る ユ ニ ッ ト 間 の 離 隔 距 離 を 200m と す る と 図 3.3.3-1 の よ う に 1.2km×0.2k
m の範囲が確保されればよい。この程度の範囲の確保は容易と考える。
0.2km
1.2km
注入井
図 3.3.3-1
2)
揚水井
貯留ユニットの配置例
沿岸域での貯留範囲設定の例
上 記 貯 留 条 件 を 考 慮 し た 、 仮 想 貯 留 サ イ ト 中 の 貯 留 範 囲 は 、 図 -3.3.3-2 に 示 し た よ う
に 、サ イ ト 中 央 部 で は 、海 域 の 貯 留 ユ ニ ッ ト(
印 )、陸 域 の 貯 留 ユ ニ ッ ト(
印 )を 配 置
し た 範 囲 が 、そ の 例 と な る 。ま た 、断 面 で 示 す と 、図 -3.3.3-3 の よ う に な る 。図 -3.3.3-2
に 示 す よ う に 、 陸 域 、 海 域 と も に 25 ユ ニ ッ ト 程 度 は レ イ ア ウ ト 可 能 で あ り 、 各 々 の 範 囲
で 100 万 t-CO 2 程 度 の 貯 留 が 可 能 で あ る 。 注 入 期 間 25 年 で は 、 必 要 な 貯 留 ユ ニ ッ ト は 6
ユ ニ ッ ト で よ い の で 、各 々 25 ユ ニ ッ ト の 配 置 範 囲 中 で は 、隣 接 す る ユ ニ ッ ト 間 の 距 離 を 離
し た と し て も 、 十 分 な 貯 留 範 囲 が 存 在 す る 。 将 来 的 に は 10 万 t-CO 2 /年 の 貯 留 も 想 定 さ れ
る が 、複 数 ユ ニ ッ ト で 同 時 に 注 入 が 可 能 で あ れ ば 、図 -3.3.1-2 に 示 す よ う に 、少 し 沖 合 で
は、十分な貯留が可能と考えている。また、仮想貯留サイト中の貯留対象範囲(中央部)
に お い て は 、陸 域・海 域 の 両 方 が 使 用 で き る の で あ れ ば 、図 -3.3.3-2 に 示 す よ う に 、仮 想
貯 留 サ イ ト ( 10km 平 方 ) の 中 に も 、 緑 枠 で 示 す よ う に 適 地 が さ ら に 存 在 す る の で 、 貯 留
112
可 能 量 は 数 100 万 ト ン -CO 2 を 超 え る 可 能 性 が あ る も の と 想 定 さ れ る 。 な お 、 こ れ ら の 遮
蔽層・貯留層分布状況は、既往文献の図読による推定のため、その精度は不明であり、実
際のサイト選定にあたっては地質調査による確認が必要である。
今 回 、 貯 留 深 度 は 、 図 -3.3.3-3 に 示 す よ う に 、 300m~ 500m 間 に 設 定 し て い る 。 こ れ
は 利 用 地 下 水 と の 位 置 関 係 を 考 慮 し た も の で あ る が 、 AIST の 全 国 井 戸 ・ 水 文 デ ー タ ベ ー
ス「 い ど じ び き 」(宮 越 他( 2005) 7) )に よ る と 、図 -3.3.3-4、図 -3.3.3-5 に 示 す よ う に 、3
00m 以 深 で の 地 下 水 利 用 は 限 ら れ て お り 、利 用 地 下 水 へ の 影 響 が 生 じ る 場 合 は 少 な い も の
と 考 え ら れ る 。 な お 、「 い ど じ び き 」 に 収 録 さ れ て い る 孔 井 総 数 は 、 34,859 本 で あ り 、 そ
の う ち 深 さ 300m を 超 え る 孔 井 数 は 650 本 で あ る 。し か し 実 際 の 貯 留 サ イ ト の 選 定 に あ た
っては、サイト周辺での井戸分布状況(位置、深度、使用目的など)の調査が必要である
ことは言うまでもない。なお、今回の検討では、温泉井戸については浅部からの揚水は少
ないものと考え、検討対象から外しているが、実際の貯留サイトの選定にあたっては、そ
の影響の調査が必要である。
図 3.3.3-2
仮想貯留サイトにおける貯留範囲(平面)の例示
貯 留 ユ ニ ッ ト は 、 海 域 、 陸 域 、 各 々 25 ユ ニ ッ ト 配 置 。
113
図 3.3.3-3
仮想貯留サイトにおける貯留範囲(断面)の例示
図 3.3.3-4
我が国の揚水井戸の分布(全井戸本数)
AIST「 い ど じ び き 」( 宮 越 ( 2005) 7 )) の デ ー タ を 引 用 し 作 図 。
114
我 が 国 の 揚 水 井 戸 の 分 布 ( 300m 以 浅 )
図 3.3.3-5
AIST「 い ど じ び き 」( 宮 越 ( 2005) 7 )) の デ ー タ を 引 用 し 作 図 。
3.3.4
貯留システムのレイアウトの検討
図 -3.3.3-2 に 示 し た よ う に 、仮 想 貯 留 サ イ ト の 中 央 部 で 、各 貯 留 ユ ニ ッ ト が 適 切 な 位 置
にレイアウトされている。これを前提に、沿岸域でのレイアウトの例として、仮想の排出
源 か ら の 全 シ ス テ ム の レ イ ア ウ ト を 、図 -3.3.3-6 に 示 す 。こ の よ う な レ イ ア ウ ト が 、技 術
的には可能であると、現在、考えている。
排出源
脱湿機/ポンプ
陸上ガスパイプライン
揚水井
注入井
貯留層
観測井
排出源
海域(沿岸沖)注入
1貯留ユニットの貯留範囲
陸域(臨海部)注入
1貯留ユニットの貯留範囲
Aa断層
脱湿機/ポンプ
陸上ガスパイプライン
注入井
海底ガスパイプライン
貯留層
図 -3.3.3-6
観測井
揚水井
仮想貯留サイトにおける貯留システムレイアウトの例示
115
3.3 節
引用および参考文献:
1) 地 球 環 境 産 業 技 術 研 究 機 構 : 平 成 17 年 度 二 酸 化 炭 素 固 定 化 ・ 有 効 利 用 技 術 等 対 策 事
業 二 酸 化 炭 素 地 中 貯 留 技 術 研 究 開 発 成 果 報 告 書 .( 2006)
2) 地 球 環 境 産 業 技 術 研 究 機 構 : 平 成 18 年 度 二 酸 化 炭 素 固 定 化 ・ 有 効 利 用 技 術 等 対 策 事
業 二 酸 化 炭 素 地 中 貯 留 技 術 研 究 開 発 成 果 報 告 書 .( 2007)
3) 土 質 工 学 会 ・ 関 西 地 質 調 査 業 協 会 : 新 編 大 阪 地 盤 図 . コ ロ ナ 社 ( 1985)
4) 中 世 古 幸 次 郎 ・ 橋 本 正 : 泉 北 ニ ュ ー タ ウ ン の 地 盤 の 土 質 工 学 的 性 質 . 中 世 古 幸 次 郎 教
授 退 官 記 念 論 文 集 ( 1989)
5) 三 田 村 宗 樹 : 大 阪 平 野 地 質 構 造 図 の 作 成 . コ ア 精 密 対 比 に よ る 京 阪 神 地 域 の 地 下 地 質
・ 地 下 構 造 の 高 精 度 解 読 コ ア 精 密 対 比 研 究 会 、 日 本 応 用 地 質 学 会 関 西 支 部 ( 2002)
6) 岡 田 篤 正 ・ 東 郷 正 美 編 : 近 畿 の 活 断 層 . 東 大 出 版 会 、 p310-313( 2000)
7) 宮 越 昭 暢 ・ 丸 井 敦 尚 : 全 国 井 戸 ・ 水 文 デ ー タ ベ ー ス 「 い ど じ び き 」 の 改 定 と 適 用 . 地
質 ニ ュ ー ス 、 612 号 ( 2005)
116
第4章
4.1
まとめ
まとめ
本検討の主題であった、貯留システム概念の構築と課題の整理の概要を以下に示す。
1)
貯留概念の整理
マ イ ク ロ バ ブ ル の 特 性 に つ い て 、文 献 調 査 、学 識 経 験 者 へ の ヒ ア リ ン グ を 通 し て 検 討 し 、
微 細 で 上 昇 し に く く 、大 き な 気 泡 に な り に く く 、水 に 溶 け や す い な ど の た め 、注 入 し た CO 2
の ほ ぼ 全 部 を 溶 解 さ せ る こ と が 期 待 で き る こ と を 明 ら か に し た 。CO 2 溶 解 水 の 特 性 と し て 、
地下水より、若干、重く、安全に貯留できるが、酸性であるために環境への影響評価が課
題である。また、既往の貯留概念に比べて、浅部に貯留可能であることを示した。
2)
貯留システム概念の構築
地 域 分 散 型 貯 留 の 観 点 か ら 、10 万 t-CO 2 程 度 以 下 の 排 出 源 に 適 す る こ と を 示 し た 。貯 留
システム概念について整理し、注入井と揚水井を組み合わせた注入井・揚水井併用方式を
提 案 し た 。超 臨 界 状 態 CO 2 の た め 浮 力 に よ る 上 昇 を 考 慮 し な け れ ば な ら な い 深 部 塩 水 帯 水
層 貯 留 に 比 べ て 、地 下 浅 部 に CO 2 溶 解 水 と し て 安 全 に 貯 留 で き る こ と が 特 徴 で あ る 。排 ガ
ス を そ の ま ま 注 入 で き れ ば 、経 済 的 で あ る が 、大 量 の N 2 や 汚 染 物 質 の 対 応 に 課 題 が 残 る 。
3)
技術的条件
上記の貯留概念を考慮すると、我が国においては、新第三紀鮮新統~第四紀更新統の堆
積岩が候補となる。砂岩を貯留層とし泥岩を遮蔽層とすることが可能な地質条件を有する
堆積盆が適するものと判断した。有望な堆積盆は、十勝平野、内浦湾、庄内平野、房総半
島 、 掛 川 地 区 、 伊 勢 湾 、 大 阪 湾 、 宮 崎 地 区 、 別 府 湾 お よ び 沖 縄 本 島 の 10 地 区 で あ っ た 。
4)
想定モデル地点での貯留システムモデルの構築
地 質 条 件 が 適 切 で あ り 、地 質 デ ー タ が 豊 富 な A 地 域 を 例 に 、注 入 井・揚 水 井 併 用 方 式 の
貯 留 シ ス テ ム が 、 技 術 的 に 成 立 性 す る か を 例 示 し た 。 CO 2 溶 解 水 貯 留 に 適 す る 算 定 式 を 設
定 し 、A 地 域 東 側 の 深 度 300m~ 500m に 、1.5 億 t-CO 2 の 貯 留 可 能 量 が 存 在 す る こ と を 示
した。同深度の貯留層を対象に、地下水を揚水して注入する注入井・揚水井併用方式によ
り 、 1 万 t-CO 2 /年 、 25 年 間 の 貯 留 条 件 で は 、 200m 直 径 の 貯 留 ユ ニ ッ ト が 、 6 つ 確 保 で き
れ ば よ く 、10km 平 方 程 度 の 貯 留 サ イ ト に は 、余 裕 が あ る こ と を 示 す と と も に 、沿 岸 域 (臨
海 )の 海 域 、 陸 域 に 同 方 式 で 貯 留 可 能 な 貯 留 範 囲 が 存 在 す る こ と を 示 し た 。
5) 注 入 井 ・ 揚 水 井 併 用 方 式 地 中 貯 留 シ ス テ ム の 今 後 の 展 望
これまで述べてきたように、本地中貯留システムでは、貯留層位置が浅いこともあり、
ユニットを構成する注入井・揚水井群による段階的な調査により、調査精度の向上が見込
まれ、適切な貯留位置の選定が容易に図れると思われる。また、注入前後のモニタリング
による注水および、揚水の管理が可能など、コントロールしやすい地中貯留システムであ
る。本システムは、環境影響の評価・対策が可能であれば、有望な地域分散型貯留として
期待される。
117
4.2
課題の整理
マ イ ク ロ バ ブ ル の 特 性 お よ び 、CO 2 の 特 性 に つ い て 、既 往 の 研 究 開 発 成 果 を 整 理 し 、CO 2
をマイクロバブル化して地中貯留を行なう方法の概念を構築し、貯留量評価法、システム
の検討を行なった過程で、以下のような課題が抽出された。
条件
マイクロバブルの
発生方法
課題
効 率 的 に マ イ ク ロ バ ブ ル を 発 生 さ せ 、CO 2 の 溶 解 を 速 度 お よ び 量
と も に 制 御 す る た め 、現 状 の 発 生 装 置 を 用 い て ど の よ う に 地 下 水
流量と気体混入量を制御していくか、検討課題である。
溶 解 に よ り CO 2 を 貯 留 す る 概 念 で は 、 い か に 飽 和 溶 解 液 を 作 成
するかが、課題となった。
注入方法
地上で作成する場合は、地上設備の設計が課題となる。
孔 内 で マ イ ク ロ バ ブ ル を 発 生 さ せ 、溶 解 す る 場 合 は 、孔 内 の 発 生
深 度 に お い て 、圧 力 と 温 度 、コ ス ト も 含 め た 最 適 な 深 度 を 選 ぶ こ
とが課題である。
深 部 塩 水 帯 水 層 貯 留 に お い て は 、難 透 水 性 で あ り 大 き な 浮 力 に 対
す る 力 学 的 な 条 件 が 必 要 と な っ た 。こ こ で は 大 き な 浮 力 は 生 じ な
い が 、十 分 低 い 透 水 性 と 拡 散 性 を 持 っ て 、遮 蔽 層 内 に 移 流・拡 散
遮蔽層
し て い く CO 2 の 長 期 漏 洩 に 対 し て 十 分 バ リ ア と な る 条 件 が 必 要
で あ る 。貯 留 サ イ ト の 選 定 に 当 っ て は 、連 続 性 の 評 価 が 貯 留 量 評
価 に つ な が り 、安 全 性 に も つ な が る た め 、調 査 の 重 要 な 位 置 を 占
める。
広 域 の 地 下 水 流 動 が あ る 場 合 、CO 2 溶 解 水 が 地 下 水 の 排 斥・置 換
によって移流する方向は、広域地下水流動方向に左右される。
地 下 水 流 動 が 非 常 に 小 さ な 領 域 に お い て も 、長 期 的 に 置 換 さ れ た
管理とモニタリン
フ ロ ン ト か ら 拡 散 が 進 行 し 、コ ン ト ロ ー ル 範 囲 を 超 え る 可 能 性 が
グ
あ る 。注 水 - 揚 水 の セ ッ ト で 考 え た 場 合 の コ ン ト ロ ー ル 範 囲 で の
注水量および揚水量の管理をどのように行うか。
地 表 か ら 地 下 水 の CO 2 濃 度 を 検 出 で き る 物 理 探 査 手 法 、 孔 井 を
利用した地下水流れのモニタリング方法が課題である。
CO 2 が 気 体 と し て 漏 洩 す る こ と に 対 す る 評 価 は 、深 部 塩 水 帯 水 層
貯 留 と 同 様 で あ る が 、 こ こ で は 、 地 下 水 を 揚 水 し 、 そ れ に CO 2
環境への影響評価
を 溶 解 し て 注 入 す る た め 、CO 2 溶 解 水 と し て の 課 題 が あ る 。酸 性
水 の 注 入 に 対 す る 問 題 、注 入 後 の 貯 留 層 内 で の 化 学 反 応 、揚 水 井
到達時の溶解水の揚水の問題が存在する。
118
4.3
技術的成立性の課題
・ マイクロバブルの溶解速度のコントロール
マ イ ク ロ バ ブ ル の 溶 解 速 度 は シ ス テ ム 設 計 上 重 要 で あ り 、全 溶 解 を 前 提 と す る 場 合 、
マ イ ク ロ バ ブ ル 発 生 に お い て 、CO 2 の 供 給 量 、地 下 水 の 供 給 量 の 設 定 値 が 課 題 で あ る 。
地下水の供給量は、貯留層への注入量とバランスさせることが必要で、注入量は揚水
量とのバランスが必要となり、これらを総合的にコントロールするシステムの設計が
重要な課題となる。
また、マイクロバブル自身の溶解速度は径が小さいため速くはないが、界面面積/
総 体 積 が 大 き い こ と 、mL 当 り 数 百 個 と い う 密 度 、お よ び 発 生 さ せ て 水 中 に 噴 出 さ れ る
時の高流速による効果により溶解速度は速いものと推定される。どの程度の溶解速度
が期待されるかは、成立性のための重要なパラメータとなり、今後実証試験が必要で
ある。その場合、室内でのマイクロバブルの発生と実際のボーリング孔内での発生と
の相似性を考慮することが必要である。
・ CO 2 溶 解 水 の 注 水 継 続 時 の 岩 盤 の 透 水 性 変 化 の 影 響 評 価
地 下 水 中 に 陽 イ オ ン が 存 在 す る よ う な 場 合 に は 、 特 に Ca 2+ や Mg 2+ と の 反 応 に よ る
炭酸塩鉱物の生成は貯留領域内の移流経路となる間隙を減少させることになる。しか
し 、 一 方 で は 、 酸 性 水 溶 液 と な る CO 2 溶 解 水 は 、 貯 留 層 内 の 岩 石 ま た は 砂 層 を 溶 解 さ
せ間隙を増加させ、それにより透水性が増すことが考えられる。これらのバランスか
ら長期にわたる透水性変化についての影響を評価しておくことが課題である。
・貯留領域でのモニタリングとコントロール
注 入 井 か ら 揚 水 井 、 お よ び 遮 蔽 層 で 囲 ま れ た 水 循 環 域 で あ り 、 貯 留 領 域 内 の CO 2
の濃度を揚水井から揚水される水の水質からモニタリングし、注入圧力、注入井の位
置、注入深度また揚水量などのコントロールを実施し、溶解水の状況、拡散状況など
をモニタリングし、コントロールすることが課題である。
・排ガス注入における溶解度の向上
排 ガ ス 中 に は 、お お よ そ CO 2 は 、数 %~ 30% の 構 成 比 と な っ て お り 、そ の 構 成 比 に
依 存 し た 分 圧 で 溶 解 度 が 決 ま る 。す な わ ち 、20%構 成 比 の 場 合 、5 倍 の 圧 力 ま た は 5 倍
の溶解水量が必要となり、後述の経済性との関連で考えていく必要がある。
119
4.4
4.4.1
経済性・安全性の検討準備
経済性について
IPCC の レ ポ ー ト お よ び 、RITE レ ポ ー ト に 深 部 塩 水 帯 水 層 貯 留 に つ い て の コ ス ト が 試 算
さ れ て い る 。 図 4.4.4-1 に 圧 入 ・ モ ニ タ リ ン グ コ ス ト を 、 図 4.4.1-2 に 現 状 技 術 で の 日 本
に お け る CCS コ ス ト を 示 す 。
圧 入 コ ス ト で は 貯 留 層 が 陸 地 か ら 離 れ る と パ イ プ ラ イ ン コ ス ト が か か る 、ま た 井 戸 1 本
当りの圧入量の影響が大きいことが示されている。現状での分離回収~貯留コストは
¥5,000~ ¥ 15,000 と な っ て い る 。
図 4.4.1-1
出 典 : CCS ワ ー ク シ ョ ッ プ 2007
図 4.4.1-2
圧入・モニタリングコスト
日 本 に お け る 地 中 貯 留 の 経 済 性 評 価 と 有 効 性 PPT
現 状 技 術 で の 日 本 に お け る CCS コ ス ト
出 典 : CCS ワ ー ク シ ョ ッ プ 2007
日 本 に お け る 地 中 貯 留 の 経 済 性 評 価 と 有 効 性 PPT
120
1)分 離 ・ 回 収 コ ス ト
CO 2 マ イ ク ロ バ ブ ル 地 中 貯 留 の 場 合 、 分 離 ・ 回 収 が 必 要 と な る 場 合 、 発 電 所 を 対 象 と
し た 場 合 そ の 最 小 コ ス ト を 、 他 の 工 業 排 出 源 か ら の 回 収 の 場 合 も IPCC の 最 小 コ ス ト を
当 て は め た 。 分 離 ・ 回 収 が 必 要 な 場 合 、 CO 2 マ イ ク ロ バ ブ ル 地 中 貯 留 で は コ ス ト 高 と な
る可能性は否定できない。
分 離 ・ 回 収 せ ず に 排 ガ ス を そ の ま ま 注 入 す る 場 合 で も 、 分 離 さ れ た 他 の GHG の 処 理
設備が必要となる。
表 4.4.1-1
深部塩水帯水層貯留
の場合
①発電所からの回収
②ガス処理またはアン
モニア生成からの回収
③その他の工業排出源
からの回収
IPCC レ ポ ー ト に よ る CCS 各 段 階 の コ ス ト
最小コスト 最大コスト
円換算
×\85
75 US$/t-CO2
1,275~6,375
5
55 US$/t-CO2
425~4,675
25
115 US$/t-CO2
2,125~9,775
1
⑤注入
合計⑥×¥85
備考
15
④輸送
合計⑥=①+④+⑤
単位
8 US$/t-CO2 250km当り
85~680
0.5
8 US$/t-CO2
40~680
16.5
91 US$/t-CO2
1,402
出 典 : IPCC
7,735
\/t-CO2
1,400~7,735
Special Report Carbon Dioxide Capture Storage
CO 2 マ イ ク ロ バ ブ ル 地 中 貯 留 の 場 合 、輸 送 コ ス ト は 、圧 力 3MPa、距 離 5km 以 内 の パ
イ プ ラ イ ン を 想 定 す れ ば 、相 当 削 減 が 可 能 で あ る が 、年 間 100 万 t-CO 2 を 輸 送 す る と い
うことで算出されたコストを単純に比較できない。
3)注 入 コ ス ト
注入コストには、孔井削孔費用とコンプレッサー費用が含まれるが、まず、削孔費用
を考える。
削 孔 費 用 は 、ERD1 本 2.3 億 円 、500m で は 5000 万 円 と す る と 注 入 井 削 孔 コ ス ト は ほ
ぼ 1/5 と な る 。 し か し 、 1 孔 当 り 深 部 塩 水 帯 水 層 貯 留 で は 超 臨 界 状 態 で 10 万 t-CO 2 /y
注 入 す る と こ ろ 、CO 2 マ イ ク ロ バ ブ ル 地 中 貯 留 で は 、1 万 t-CO 2 /y( 4.5%水 溶 液 で は 22
万 t-H 2 O/y) で の 注 入 と な り 注 入 効 率 は コ ン プ レ ッ サ ー 費 用 に 依 存 す る 。
CO 2 マ イ ク ロ バ ブ ル 地 中 貯 留 シ ス テ ム で は 、 溶 解 が 大 事 で あ り 、 マ イ ク ロ バ ブ ル は 溶
解促進(溶解の時間効率を上げる)ための手段と考えられる。浄化技術で用いられてい
る エ ア レ ー シ ョ ン を 考 え る 。散 気 管 1 本 で 水 に 酸 素 1 kg を 溶 解 さ せ る た め の 電 力 は 通 常
の 0.8kWh( 産 業 用 電 気 代 16 円 /kWh×0.8= 13 円 ) で あ る 。 酸 素 1 kg を 溶 解 さ せ る た
め に は 空 気 を 約 5 kg 噴 出 す る 必 要 が あ る 。こ れ は 常 圧 の 空 気 3.9m 3( = 5000÷29×22.4
121
÷1000) を 噴 射 す る こ と に な る 。
こ れ は 、 水 深 5 m 位 で の エ ア レ ー シ ョ ン ( 水 圧 0.05MPa)を 想 定 し て い る 。 仮 に 水 深
300m ( 3 MPa) に 噴 射 す る な ら ば 、 60 倍 の 噴 射 圧 に な り 、 電 気 代 は 60 倍 と 仮 定 す る
と 、 酸 素 1kg 溶 解 当 り 780 円 と な る が 、 そ こ ま で は 行 か な い と し て も 100 円 程 度 /kg、
す な わ ち 10 万 円 /t 程 度 は か か る 。 こ れ を CO 2 溶 解 に 当 て は め る と ど う な る か 。
CO 2 が 分 離 回 収( 純 度 約 100% )さ れ た 状 態 の 場 合 、CO 2 の 1 kg は 、1000÷44×22.4
= 509L、す な わ ち 常 圧 で 0.5m 3 で あ る 。常 圧 の 空 気 3.9m 3 を エ ア レ ー シ ョ ン す る 時 の 電
気 代 を 示 し た が 、純 粋 CO 2 の 0.5m 3 を 噴 射 す る に は 、そ の 1/8 程 度 の 気 体 量 で あ る の で 、
水 深 5m で は 一 般 散 気 管 で 1.6 円 /kg( = 13 円 ÷8)、 ま た 水 深 300m で は 97 円 /kg 以 下
( = 780÷8) と な る 。 CO 2 の 1 t 当 り で は 、 水 深 5m で そ れ ぞ れ 1,600 円 /t、 ま た 水 深
300m で 1 万 円 /t 程 度 ( = 10 万 円 ÷8) に な る の で は な い か 。
な お 、 CO 2 を 分 離 回 収 せ ず に 排 出 ガ ス の 状 態 で 入 れ る と な る と 、 数 倍 の 排 出 ガ ス を 入
れ な け れ ば な ら な い の で 、 電 気 代 も 数 倍 に は ね あ が る 。 CO 2 噴 射 の た め の 電 力 使 用 に 伴
う CO 2 排 出 量 も 考 え て お く 必 要 が あ る 。
CO 2 排 出 係 数 と し て 0.39kWh/kg-CO 2 が よ く 使 わ れ る 。工 業 用 電 気 代 を 16 円 /kWh と
す る と 、 電 気 代 40 円 当 り 1kg の CO 2 を 排 出 し て い る 。 仮 に CO 2 の 1 t 噴 射 当 り の 電 気
代 を 1、 000 円 と す る と 、 電 力 使 用 に よ り 25kg の CO 2 を 排 出 し て い る こ と に な る ( =
1000 円 ÷40 円 )。 電 気 代 が 1 万 円 /t に な る と 、 250kg の CO 2 排 出 で あ り 、 マ イ ク ロ バ
ブ ル -CO 2 の「 成 立 性 評 価 」は 、電 気 代 、CO 2 イ ン ベ ン ト リ ー の 面 か ら も 行 う 必 要 が あ る 。
これらも踏まえた実験により、今後検証しておくことが必要となる。
4.4.2
安全性に関する課題
CO 2 マ イ ク ロ バ ブ ル 地 中 貯 留 で は 、 CO 2 を 溶 解 さ せ る た め 大 量 の 水 を 注 入 す る 。 そ の
水 が CO 2 飽 和 状 態 に な っ て お り 、 pH は 、 3 前 後 の 強 酸 性 水 に な る と 考 え ら れ る 。 専 門 委
員会を立ち上げて環境アセスメントに対応しなければならない。このような強酸性水を地
中に入れると、岩石中に含まれる鉛、砒素、クロム、カドミウム、銅、などの重金属やほ
う素、ふっ素などがかなりのレベルで溶出する。その溶出は長期にわたって続くことにな
る。
マ イ ク ロ バ ブ ル に よ る CO 2 地 中 貯 留 は 、 大 量 の CO 2 を 溶 解 す る た め に は 、 大 量 の 水 が
必要となり、その水は揚水井から汲み上げたものを使用する注入井・揚水井併用方式を考
えた。この時、揚水量と注水量のバランスにより、揚水量>注水量の場合は、地下水の処
理が必要となる。一方、揚水量<注水量の場合は、溶媒としての水を購入しなければなら
な い 。バ ラ ン ス が 取 れ た 場 合 で も 、一 旦 汲 み 上 げ た 地 下 水 に CO 2 を 溶 解 さ せ て 地 中 に 戻 す
ことの影響評価は、今後の課題である。
広域の地下水流動がある場合、注水量の分がすべて回収できれば良いが、回収井戸か
らすべてが上がって来るという保証はない。その他の場所から一部が海底や地下水に混じ
って噴出する可能性を否定はできない。
以上のような環境影響評価が、今後の大きな課題となる。
122
書 名
平 成 22 年 度 CO 2 マ イ ク ロ バ ブ ル 地 中 貯 留 の 成 立 性 に 関 す る 調
査研究
発 行
報告書
平 成 22 年 3 月 31 日
財団法人
エンジニアリング振興協会
地下開発利用研究センター
( G E C : G eo-space E ngineering C enter)
〒 105-0003 東 京 都 港 区 西 新 橋 一 丁 目 4 番 6 号
TEL
印
刷
03
株式会社
(3502) 3671
FAX 03 (3502) 3265
リョーサン
禁無断転・掲載
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