...

千雨は凡人(ただ)の女子中学生です ID:24994

by user

on
Category: Documents
3

views

Report

Comments

Transcript

千雨は凡人(ただ)の女子中学生です ID:24994
千雨は凡人(ただ)の女子中学生です
おーり
︻注意事項︼
このPDFファイルは﹁ハーメルン﹂で掲載中の作品を自動的にP
DF化したものです。
小説の作者、
﹁ハーメルン﹂の運営者に無断でPDFファイル及び作
品を引用の範囲を超える形で転載・改変・再配布・販売することを禁
じます。
︻あらすじ︼
ネギまとかちょっと真面目に妄想してみたZ
目 次 凡人ちう、魔法世界へ飛び立つ ││││││││││││││
常識人ちう、旅の仲間を探す │││││││││││││││
苦労人ちう、惚気を聞く │││││││││││││││││
女子中学生ちう、ツッコミを放棄する │││││││││││
1
11
23
35
46
61
番外・鈴木6号、烏丸に振り回される │││││││││││
│││││││││││││││
││││
近右衛門、過失の付け落としに負われる ││││││││││
魔法使い最後の日、希望の未来へReady Go
!!
70
幼女千雨、公式バグと邂逅する ││││││││││││││
薬味教師、此処に来てバグを披露する │││││││││││
巫女スナイパー、暁に死す ││││││││││││││││
ちう、状況を見据えて結果を想定し選択を図る │││││││
︻完全なる世界︼
ネギ少年、激突す ││││││││││││││││││││
激闘
!
81
220 206 197 183 173 167 153 143 132 114 106 91
幼女明日菜、宇宙の法則を悟る ││││││││││││││
││││││││││││││││││
番外、麻帆良とかの日常 │││││││││││││││││
魔法淑女、脱げる⋮
││││││││││
!
薬味坊主、運命と邂逅する ││││││││││││││││
ナギ・スプリングフィールド杯、開催
番外、麻帆良とかの日常2 ││││││││││││││││
?
或る世界の終わり ││││││││││││││││││││
!
凡人ちう、魔法世界へ飛び立つ
食料を忘れたっ
﹂
始まりは、高音さんが素っ頓狂な声を上げたことだ。
﹁えぇっ
﹂
?
﹁ヤーーーダーーーーッ
﹂
﹁││ついに貴方を食べるときが来たようですね⋮⋮﹂
るオコジョを徐に手に取った。
思わず期待した目で行動を追うと綾瀬は、ガキの肩に乗っかってい
ているのだろう。
んでいた筈だったな、アイツ。こういう不測の事態に備える準備もし
そういえば図書館探検部だとかいうアグレッシブな部活動に勤し
一番に食らいついていた。
が静かに立ち上がる。何気に食糧事情を気にしていたのか、神楽坂が
ぎゃーすか騒いだ高校生とは対照的に、不敵な笑みを浮かべた綾瀬
﹁えっ、ゆえちゃん何か持ってたの
﹁ふむ。それではこういうときこそ私の出番のようですね﹂
しっかりしてくれよ子供先生。
は 責 任 者 で あ る の だ か ら ど う し た っ て 追 求 の 目 は ア イ ツ に 向 く。
申し訳なさそうな子供に責任を負わすつもりはないのだが、立場上
んなRPGでも言及するはずなんだがなぁ。
よりによって食料を忘れるとか、旅立ちの準備は入念にしろと、ど
を張ろうかと腰を落ち着けたところでとんでもない事実が発覚した。
亜熱帯の原生林を暫く進んだ開けた場所で、今夜は此処でキャンプ
﹁す、スイマセン、なにしろ急な出発だったもので⋮⋮﹂
!?
はんぐりぃ、とハイライトの消えた目に浮かぶはヤバイ文字。非常
!!?
1
!?
食認定された小動物は絶望の声を上げる。
喋る小動物を捌くのは、ちょっと⋮⋮。
夏休みに入って既に二日が経とうという頃、アタシらはなんと魔法
世界にてサバイバルを経験していた。
﹃原作﹄を知る己が身としてはこんなところに馳せ参じる意気込み
など端から持っていなかったはずなのだが、来ざるを得なくなってし
まったからには仕方がない。
精々事件に巻き込まれないように、と己の知る﹃正史﹄とやらに似
通わないルートへ到達できるように修正が効けばいいなぁ、なんて。
そこはかとなく希望していたりもするのだが、果たして。
そんな惚けた明後日の思考をぼんやり浮かべていたら、来ざるを得
何を隠そうワタクシはサバイバルの達人っす
なくなった﹃元凶﹄が無駄に元気な声音でスマホから叱咤激励してき
た。
﹃大丈夫っすよお嬢
﹄
こういう状況を打破するアプリの一つや二つ、すぐにインストー
ルできるっす
堂々とカンニングする気満々の、アニメーションアプリの筆頭みた
いな青髪ツインテールの、某ボーカロイドみたいな、具体的には初音
●クみたいな外見の美少女の似姿が快活に笑っている。
というか、此処って電波届かないだろ。
覚えのある﹃正史﹄には居たはずの絡繰茶々丸というロボッ娘も居
ない現状にては、どう考えてもそのうち役立たず筆頭になりそうな電
子精霊に思わずため息が漏れた。
×
本当に、どうしてこうなったのだか⋮⋮。
×
×
×
﹃││お掛けになった電話は只今電源が入っていないか電波が届いて
×
2
!
﹁それは達人とは言わねーよ﹂
!
!
いないか、はたまた大気圏突入中に付き通話ができません。ご用など
﹄
﹂
がある方は、カァー、という鳴き声の後にメッセージをお入れくださ
い
││カァー
﹁どういう留守電だよ
上げた。
!
﹄
﹃おっ、落ち着くっすよお嬢っ
す
そんな乱暴にしたら壊れちゃうっ
でも走ったのであろうか。﹃パソコンの画面﹄から宥めるように声を
その用事の元凶は、叩きつけられたスマホに次は我が身か、と戦慄
のベッドへと叩きつけたアタシは悪くない。
かけてみると以上のメッセージがスマホから流れた。憤慨して部屋
夏休み初日、烏丸に急遽用事が生まれたアタシが取り急いで電話を
!?
!
﹁う る せ え そ の 原 因 に 宥 め ら れ る ほ ど 空 し い も の は ね ー ん だ よ
﹂
!
作品というか試供品みたいな代物だ。モデリングと耐久テストとか
も兼ねていると言われたので、さぞかし頑丈に作ってあるのだろう。
という思惑も無くは無い。
しかし﹃彼女﹄の言うとおり、暴れても何も解決はしないのも事実。
とりあえず落ち着いて、現状を認識することから始めてみよう。
期末試験も滞り無く済ませられ、夏休みに入った初日。試験という
ことで休んでいたホームページの更新をしようかと、試験勉強のため
に封印していたパソコンを立ち上げたところ、画面には既に彼女がい
た。
青い髪でツインテールの、ボーカロイドみたいな外見のコイツが
だ。
それがつい数分前のこと。
3
!
ついでに言うと、このスマホは先日超に渡された新型ケータイの試
!
一瞬で原因というか、元凶というか、どちらでなくとも解明のため
の要素と言うべきが如き人物を脳裏に浮かべた。そんなアタシが連
絡をしようとしたのは、非常事件に真っ先に専門だと想定すべきなは
ずの魔法先生且つ担任か副担任である両名ではなく、先日エヴァン
ジェリンととうとう本契約を結んだと又聞いた同級生の男子であっ
たのだが。
そのケータイにかけてみたらご覧の有様だよ。ふざけているとし
か思えなく、思わず憤慨するのも致仕方ないと思うのはアタシだけ
じゃぁないよな
というか、このタイミングでそんなメッセージが出てくる以上確信
犯に思えてくるのは穿ち過ぎか
うっすけど、
﹃なんでっ
﹄
﹁よし、帰れ﹂
様っ♪﹄
と り ま 説 明 さ せ て も ら
なたのパソコンにデリバリーにきましたっ
││暫定〝ほ〟の5号
!
可愛がってねご主人
生まれたてぴっちぴちの電子精霊があ
﹃わ か っ た と 言 い な が ら 剣 呑 っ す ね お 嬢
﹁⋮⋮オーケイわかった。とりあえずお前は誰だ﹂
件の彼女へと向き直る。
疑心暗鬼になりそうな思考を一度脳の隅っこに厳重封印しておき、
わなきゃ、現実と。と青い狸も言っていた。気がする。
たかのような錯覚を感じつつも、受け入れなくては話は進まない。戦
スの冒頭で血まみれでナイフを握っていた奴がそのまま犯人であっ
考えれば考えるほど犯人に思えてくる某同級生。まるでサスペン
?
唐突なぶりっ子モードなんてのが効くのは思春期男子くらいのも
のは何処へ吹っ飛ばしたんだよ。
つうか今口調が別人だっただろ、さっきまでの﹁∼っす﹂みたいな
!
!
4
?
なんでもくそもあるかバッカヤロウ。
!?
のだということを理解したのか、
﹃暫定5号﹄は膨れっ面で画面の端に
蹲り拗ねていた。男子であっても効かない気がするけどな。
﹃生まれたての電子精霊になんという仕打ち⋮⋮。ああー、早々にイ
エナキコとなってしまうプログラムっ娘に優しくしてくれるご主人
様は何処かにいないものかー。ちらっちらっ﹄
﹁口で言うんじゃねー。つうか勝手に他人のパソコンに寄生しておい
てどの口が言いやがる。とりあえずファイヤーウォールで削除して
やるから精々地獄の業火に身を焼かれてろ﹂
より酷いっすー
﹄
﹃ファイヤーウォールにそんな効果ないっすよ つうかウイルス扱
い
と泣き喚くクッソうぜぇパソコン娘に邪魔されつつ、
!?
結局焼き払うことができなかったアタシは、直接文句でも言ってや
ら手放すのも惜しいと思うのが人情だ。
し折って中身ごと粉砕するのも考慮に入れかけたが、便利な機器を自
叩きつけたアタシが言うのもなんだけど、これも一応は試作品。へ
そうしたらスマホへと避難された。
キーボードを叩いてプログラムを発動。万象一切灰燼と為せ。
ニ゛ャーッ
!
×
る。
そんなモブキャラで、一般人の一人。そうアタシは自負もまたしてい
それらを変更できるような修正能力染みた影響力は備わっていない。
史﹄と呼べる歴史の流れを一度俯瞰できていようとも、アタシ自身に
たとえ奇妙な体験をし、その果てにこの世界をモチーフにした﹃正
タシのイメージ。
平凡で普通で常識人。それが周囲とアタシ自身が認識している、ア
×
ろうかと、暫定犯人の住処へと足を運んだのであった。
×
×
アタシ、長谷川千雨は凡人だ。
×
5
!
!?
⋮⋮⋮⋮⋮⋮いや、マジで。
アタシには電子精霊を駆使して学園の防御プログラムに対抗でき
るような技術なんて備わってないし、魔法少女の弟子になってアー
ウェルンクスシリーズを退ける修練も積んでいない。仮面を被って
超能力染みた現象を発揮する過去も無ければ、負完全筆頭と知り合い
になって人格を形成した過去も無い。英霊を従えて月の聖杯戦争を
生き抜いた経験も無いし、宇宙人との事故に遭遇してサイボーグに改
造された経験も無い。
そういう所謂〝魔改造〟を施されたタイプの主人公ではない、ただ
の一般人で脇役で、何某かの神の如き高位領域の存在に目を付けられ
るような素養なんて持ってはいない。そんな普通の女子中学生なん
だよ。
だから、アタシの人格をコピーされた少女がリリカルなのはの並行
世界みたいなところに転生させられて面倒ごとに巻き込まれて世界
を救う手伝いをさせられていても、アタシ自身には関係の無いことな
わけだ。
⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮ た と え そ の コ ピ ー の 記 憶
をリーディングシュタイナーのようにアタシ自身が読み取っていて、
己の生きていた世界の﹃本筋﹄を原作漫画で読んで知っている。とい
う余分な俯瞰記憶を有していたとしても、だ。
意味の無い現実逃避は学祭のときにもう止めた。
なので、ここからは少なくとも有意義な思考に切り替えられると思
うのだけど。
俯瞰というか、件の並行世界にて漫画になっていた﹃魔法先生ネギ
ま﹄を読了したのは恐らく痛手にはならない。どれだけ漫画が元だと
いわれようとも、アタシが生きているこの世界はアタシが認識する限
りは何処までも現実だし、割り切った程度で現状をどうこうできるほ
どの影響力も修正力も技術力も才能も、何度も言うようだがアタシ自
身には備わっていない。そんな漫画みたいな女子中学生がそうそう
居て堪るか。
そもそも知っている﹃正史﹄と﹃現実﹄との差異はかなりあるから
6
な。
漫画を﹃正しい話の流れ﹄だと仮定するなら、先ず真っ先にイレギュ
ラーであるのは﹃烏丸そら﹄という同級生なのだろうけど、あいつは
あいつで巻き込まれ方の主人公キャラをやっているような気もする。
いや、あいつ自身もかなりチートには見えるけど。
学祭というか武闘会で、帝釈廻天や彗龍一本髪を駆使していた負完
全染みたチート少年。見た目は踏み台転生者みたいな赤い弓兵もど
きの件の少年は、その半分の人生を育てたと言っても過言ではない真
祖の吸血鬼の話によると直接戦闘よりは開発の方に才能を置いてい
るらしい。
そんなアイツならば電子精霊の一体や二体、簡単に作ってヒトのパ
ソ コ ン に 知 ら ぬ 間 に イ ン ス ト ー ル す る こ と も 可 能 な ん じ ゃ な い か。
そう思ったアタシの思考は間違ってはいないはずだ。
そんな思惑で夏の麻帆良の森を行き、見えてきたエヴァンジェリン
一文。
﹂
×
マジ
×
え
×
?
×
×
7
のログハウスの前にはクラスメイトの影も若干垣間見える。家主で
また面倒ごとか
﹂
そら知らないっ
﹂
﹂
あるエヴァンジェリンとなにやら言い合っているような気配も窺え
る。
なんだ
か嫌な予感が││
電話もつながらないし、なんだ
アタシも用事があったから来たんだが⋮⋮。いないのか
﹁あっ千雨ちゃんっ
﹁よう神楽坂、なんかあったのか
?
﹁麻帆良の何処にもいないのよっ
﹁あ
?
?
?
⋮⋮⋮⋮⋮⋮思い起こされるのは﹃大気圏突入中﹄というイミフな
?
?
!
!
?
?
﹂
な に 考 え て る の エ ヴ ァ ち ゃ ん
﹁そらなら今朝方魔法世界へ旅立ったぞ
﹁な ん で そ の ま ま 見 送 っ て る の よ
﹂
さらりと明かされた衝撃の事実。
?
心配事でもあったのか
応えてくれたのはいいが神楽坂の反応が過剰な気がする。なんか
タシらの疑問に答えてくれた。
そいつらを促しつつ応えた幼女吸血鬼は、割と平然あっけらかんとア
茶を淹れる絡繰、よりも若干表情の乏しく感じる、妹たちだろうか。
はさておいて。
先生とかバカンフーとかが超人みたいな模擬戦を展開していた。の
家の前で話すのもなんだと別荘に招待され、辿り着いた先では子供
!?
﹂
6号ちゃんってアーウェルンクスシリーズの娘
そらをそのまま﹃完全なる世界﹄に参入させるつもりじゃ
ないのよーっ
じゃん
﹁尚更駄目じゃん
護者みたいな立場でついてきて欲しいと頼んでいた﹂
﹁なんでも6号が里帰りをしたいと言い出したらしくてな。そらに保
?
あれ、ちょっとまて。この神楽坂何処まで知ってるんだ
!?
!
から、もう魔法世界に未来はないな﹂
﹂
﹁ああもう、また危ない橋渡って⋮⋮
わけ
エヴァちゃんはそれで良い
﹁そんなことはそらも承知だろう。その上でついてゆくといったのだ
驚きを覚えつつ、二人の会話をしばし静聴することにする。
この時点での彼女から件のラスボス組織の名が出たことに若干の
?
!?
!
﹁本 契 約 し た か ら っ て 調 子 に 乗 っ て る ん じ ゃ な い わ よ こ の ロ リ ー タ
は考えの及ばない厚顔無恥さ加減だなぁ﹂
﹁そら自身が決めたことに口出しをするとか、本妻の余裕がある私に
!?
8
!?
⋮⋮っ
﹂
﹁抜かせ凡乳。高々数日単位の誤差でしかない幼なじみだという自負
も粉微塵に砕いてやろうか﹂
待て待て。
﹁おいちょっと待てお前ら、なんか変な方向に飛び火してる﹂
キャットファイトが併発しそうだったメンチの切りあいに、思わず
ストップをかけたアタシは間違ってない。
というかちょっと見ない間にエヴァンジェリンの烏丸に対する好
感度が天井知らずになっているのだけど、って本契約をしているのな
らそうなっても可笑しくない⋮⋮のか
﹁コホン。
れる烏丸ェ⋮⋮。
問題ないものなのか
そして仲間内からも、敵対したら最悪認定さ
というより、魔法世界がピンチだとかいう件の前提は放っておいて
?
﹁女の嫉妬は醜いぞ。
﹁ハブにされたってことでしょ﹂
は私を連れ出さなかった。これがどういうことか、わかるか
﹂
ろうが、その無理を推し通そうという余力があるにも関わらず、そら
大体だな、私はそもそも麻帆良から離れられん。無理すれば可能だ
?
まあ間違ってないのかもしれないけど。神楽坂もぐうの音も出ない
⋮⋮憶測でよくそこまでいとおしそうな表情を出来るものだなぁ。
﹁ぐぬぬ﹂
う腹積もりも今回の旅にはあるのだろうなぁ﹂
も明らかだからな。そらはそらなりに、私に対する柵を払拭するとい
賞金首だ。魔法世界でどんな扱いを受けるのかなんて、火を見るより
麻帆良ではある程度緩和されているとはいえ、私は一応600万の
?
9
!
感じだし。
あとちょくちょく喧嘩腰になるなよ。なんでアタシが間に挟まれ
なくちゃならないんだ。
﹂
﹁で
﹂
﹁ん
のほうに話が振られる。
﹁長谷川は何故此処までそらを探しに来た
?
言われて思い出し、用件を伝えるよりも見せる方が早いかとアタシ
﹁ああ、そうだった。とりあえずコレをみてくれ﹂
か﹂
何か用事でもあったの
ちょっとだけ痛みそうな胃の辺りを押さえていると、唐突にアタシ
?
はスマホを差し出した。
10
?
常識人ちう、旅の仲間を探す
﹁││で、いないと思ったけど、烏丸と一緒に先に行っていたわけじゃ
なかったんだな﹂
﹂
﹁ど う し て 私 が 烏 丸 さ ん と 一 緒 に 旅 立 た な く て は な ら な か っ た の で
しょうか⋮⋮
マクダウェルの別荘から出発して数分後、超の研究室にて何某かの
調整中であった絡繰を前にするアタシがいた。
つうかなんかの準備でもしているのか、超と葉加瀬が部屋の中を
行ったり来たりと繰り返す。
繰り返しながら、顔だけをこちらへひょっこり出して、
何かあったのか
﹂
﹁いやスマンネ長谷川さん、ちょっとドタバタとしていて申し訳ない﹂
﹁いや、別にかまいやしないけどよ。なんだ
?
つけつつ会話を続ける。
そんなことを続けざまに脳裏に浮かべつつ、絡繰の出した茶に手を
こっちに顔出さなくても良かったのかもしれないな。
旅支度と聞いてそんなことをのんびり思うアタシ。だったら別に
ああ、なんだ話は来ていたのか。
になってきていてネ﹂
ら予測はしていたのでアタが、ちょいとばかりノッピキナラナイ状況
﹁あったというよりは準備中ヨ。旅支度、といったところカナ。前か
?
しかし茶々丸の設計図だけでなくて論
﹁予測していたって、それならもう少し早めに用意できなかったのか
﹂
﹁それなりにはしていたヨ
うカ││﹂
11
?
文も一緒に用意することを義務付けられるとは思ってもミナカタい
?
?
﹁││論文
﹂
あれ。アタシの想定していることとは、なんか違う準備してないか
こいつら。
会話の途中で部屋の向こうへと消えてゆく超に幾許かの不安を植
﹂
えつけられつつ、部屋に残されている絡繰に、浮かんだ疑問を尋ねて
みることにしたら、
﹁⋮⋮なあ、お前ら何処へ旅行に行くんだ
と投げかけた。
ろくでもない答えが返ってきて、思わず呆れた目を部屋の向こうへ
はそのまま本来の時間線へとばっくれる予定であったそうです﹂
﹁元々超は表舞台に出る予定は無かったらしく、学園祭が終了した後
﹁⋮⋮なんでもっと早くに行かなかったんだよ⋮⋮﹂
ンガポールのアトランダム本部へ、ですけれど﹂
﹁以前から穏便な出席要請メールは届いていたのですが。こちらはシ
﹁しゅ、出頭命令って、穏やかじゃねーな⋮⋮﹂
覚しつつ会話を続ける。
思わず心なしか引き気味になった精神状態で、顔が引き攣るのを自
予想してなかったところを答えられた。
が下されています﹂
とハカセが出席することを、頭脳集団〝アトランダム〟より出頭命令
﹁海上都市リュケイオンです。其処で展開されるロボット博覧会に超
?
これは天才の私にも予測できない事態ネ
﹂
﹁そもそもこの時間軸にそのような集団は存在していなかったハズだ
たヨ
﹁言い訳かよ。見苦しいな﹂
﹂
!
12
?
﹁そもそもこうなったのも烏丸さんのせいネー
!
!
部屋の向こうから悲鳴に似た絶叫だけが飛び出た。
つうか聞き捨てならないこと聞こえたな。
﹁以前にイギリスへと渡った際、私の渡航記録についてシンクタンク
へと連絡があったそうです。そこから芋づる式に麻帆良で未認可の
人型ロボットが作成されているという話題が上っていたらしく、武闘
会の大々的な宣伝が決定打となったようです﹂
﹁超の自業自得じゃねーか﹂
切欠は烏丸かもしれないけどな。
﹂
ちょっと待て
ってことはなにか 絡繰はこの夏暇
そんなことよりも重大な事実に思い至る。
﹁││ん
じゃないってことか
?
﹂
少なくともマクダウェルはアタシに言っとけよ
定です。マスターには既に許可を貰っています﹂
言えよ
﹁⋮⋮マジか⋮⋮
﹁どうしましたか
⋮⋮﹂
先ほどから何か興奮しておられるご様子ですが
!?
﹁ハイ。私だけでなく、超包子一行でリュケイオンへ小旅行に行く予
?
想定していた主戦力レベルが二人も候補から消え去るのをアタシ
ひらから摩り落ちてゆくかのような錯覚。
まるでチェスのフィールドで相手に取られるかのごとく、駒が手の
ご様子。
子一行で出かけるということは絡繰だけでなく古も不在になり得る
皮算用で、かつ原作知識を基にした期待値だったのだけれど、超包
やべぇ、いきなり暗礁に乗り上げた⋮⋮。
? !?
13
?
?
!?
は実感する。
というか、古は別荘でも顔合わせていたんだからそれくらい口にし
ても良かったんじゃないかな。
﹁い、いや、ちょっと想定外のことが起きただけだ。大丈夫、麻帆良人
はウロタエナイ﹂
﹁全然大丈夫に聞こえないのですが。それは﹂
怪訝な表情︵清々しいほどのポーカーフェイス︶の絡繰だが、こち
らの事情にわざわざ巻き込むほどの付き合いをそもそもアタシはこ
いつらとはしていない。
つーか原作ではテロに巻き込まれたみたいだしなぁ。そんなのを
懸念できるところへわざわざ無理を言って連れ出すとか、アタシの良
心がズキズキ痛むわ。
ラクターに怪訝な表情を見せた二人に電子精霊だとこいつ自身が名
乗ったと弁明し、こんな代物用意できる人物なんて烏丸以外いないだ
ろうと言ってみれば納得もされ。意図も都合も詳しく知りたかった
のだが本人がいない以上何も出来やしないとがっくりと肩を落とし
たところ、説明不足なら本人に会いに行けばいいじゃない、と何トワ
ネットも真っ青な正論で武装した神楽坂が旅立ちの準備を整えてく
ると意気込んで別荘から飛び出したのが事の始まり。
行きたくないでござる、と駄々を捏ねるのもキャラ的に違いそうだ
なぁ。と半分諦めモードのアタシは、せめて﹃本筋﹄みたいにテロら
14
差し出されていた茶を一杯飲み干して、アタシは本来の要件も伝え
ずに、黙して部屋を後にすることとした。長谷川千雨はcoolに去
×
アニメキャラのように動いて喋るアタシのスマホの待ち受けキャ
×
るぜ⋮⋮。
×
×
││長くなったので割愛するが。
×
れたりしませんように、と幾許かの願いを胸に秘めつつ旅の仲間を探
す﹃支度﹄を開始した。
した、わけだが。
烏丸さんが行方不明で魔
﹁どうするかな、いきなり前途が多難だよ﹂
って﹄
﹃説明したら良かったんじゃないっすか
法世界の危機なんだ
のAAを片手にひらひらと玩ぶスマホガールを
そうだし、一も二もなく飛びついても可笑しく無さそうだ、と思った
魔法界に行くとなると父親の手がかりを探るためとか理由があり
そういえば横で話していたけど、ネギ先生は来るのだろうか。
横目に見つつ、アタシは一つため息をついた。
な、なんだってー
間違ってないからいっそう不安を掻き立てられるわけで。
﹁前後の文脈が繋がってねーよ。間違ってはいないんだろうけどな﹂
?
このままアタシと神楽坂とでの
のだが。あの薬味教師はこちらの話を意識しつつも若干迷っている
様子が見て取れた。
まさか行くつもりはないのか
二人旅行
?
人っきりとか会話がまず持たない。
あ、いや。でも、近衛という最有力候補がまだ残っているのだし、そ
んな事態には陥らないよな。多分。うん。
﹃お嬢、人それをフラグと呼ぶっす﹄
﹁心を読むんじゃねーよ﹂
否応無しに不安しか掻き立てないスマホガールをもう本体ごと麻
帆良大橋から投げ捨てようかなー、なんて衝動に駆られつつも、アタ
シは重くなった脚を女子寮へと向けるのだった。
15
!
!
それは嫌だぞ。烏丸を介して接点は出来上がっていたものの、二
?
×
﹁えー、なんで
﹂
﹁あー、うちはちょっと無理やなー﹂
×
×
﹁は
﹂
西と東の魔法使
﹁まあ、関西呪術協会自体は解散したんやけどなー﹂
で面倒な事情に板挟みにされているってことなのか。
普段からのほほんとしているから気付かなかったけど、近衛は近衛
いの間で。
学旅行では何かしらの進展があったんだっけか
そういえば﹃アタシは﹄直接それに居合わせていなかったけど、修
予想もしなかった真面目な説明に一瞬面食らう。
﹁お、おう﹂
ていう話が出てきたらそれはそれで面倒やー﹂
会に所属しとるらしいし、片面だけのモノの見方を促されたー、なん
﹁お爺ちゃんだけやと後々面倒そうなんよー。ああ見えて関東魔法協
のか﹂
﹁許可を下ろしてもらわないと駄目ってことか 学園長じゃ駄目な
を差し出す近衛へと向き直る。
旅支度を整えながら疑問符を返す神楽坂を尻目に、のほほんとお茶
なのだが。
しかしその衝撃の事実の前に、注視すべきことがある気がするわけ
既に行ってたのかよお前ら。
んやー。前に﹂
﹁春休みに勝手に魔法界に行ったこと、お父様に窘められてしもうた
?
×
?
?
しておる一人娘が危ないことせんように目をつけておく、というのも
16
×
﹁せやから、協会の長の娘の立場とかいうよりは、親元から離れて暮ら
?
納得のはなしなんよ﹂
﹁え。あ、ああ。確かに、それはそうか﹂
なんか聞き捨てならないこと聞こえたけど、まあそっちはどうでも
いいか。アタシには直接関係ないし。
それよりも、確かに近衛の言う通りに。
アタシらは親元から離れているとはいえ中学生なのだから、親の許
可というか、それ以前の問題が浮上してくるのは当然の話だったこと
をすっかり忘れていた。
認識阻害で改竄するにしても限度というものは確実にある。その
点を原作では、学園長とかネギとかがどのように親元へと説明したの
だろうかと、少しばかり気にもなる。
⋮⋮もしも何も説明なしにイギリス旅行へ連れて行ったのだとし
たら、最早未成年略取に相当するのではなかろうか⋮⋮
嫌な想像が脳を過ったが、今のアタシにはきっと関係ないことなの
だと、頭を振って妄想を捨てて、
﹁あとお墓参りにも行っときたいしなー﹂
﹁あー、お盆か。それもあったか﹂
﹁協会関連のいざこざのお陰で、もう何年も行けとらんしなー。うち
はとんだ親不孝なんよー﹂
酷く庶民的な理由も付け足された。その内訳は庶民というには若
干翳りを仄めかせているけど。
﹁でもそらくんが心配なのも事実やしな。うちからはせっちゃんを貸
﹂
してあげるな﹂
﹁は
17
?
棒読みで神楽坂が感謝の言葉を述べたけれども、おいちょっと待て
﹁わー、ありがとーこのかー﹂
!?
何故私がわざわざ魔法界
よお前ら。その件の桜咲はめっさ狼狽えているぞ。
﹁ちょ、ちょっとお待ちくださいお嬢様
﹂
し か も お 嬢 様 の 護 衛 を
放っておいてまで出向けとは無理にもほどがあります
﹁そっちの件なら心配せんでもえーよー﹂
しかもご実家
関西呪術協会が解散したからといっても、お嬢様が狙わ
れなくなったという理由には繋がらないのですよ
﹁いいえ
!
まで出向かなくてはならないのですか
!? !?
ろ
﹂
桜咲のライフはとっくにゼロだ
ても。
どっちかというとこっちに欲しかったなぁ⋮⋮。
﹁え、えと⋮⋮それは、つまり、お暇を出すと⋮⋮
?
﹁大きなお世話過ぎます
﹂
結構お買い得やから是非2人にくっついて欲しいとゆうかー﹂
目指してほしいとゆうかー、ぶっちゃけそらくんはそのお相手として
﹁そういうんやないよー。ただなー、せっちゃんにも人並みの幸せを
のですが、私⋮⋮。
居た堪れなさ過ぎてもう此処から逃げ出したい想いでいっぱいな
られない。
静まり返った室内で泣きそうな声音の桜咲の様子に、最早目を向け
﹂
ついでに洗練されたメンバーもオーバーキルっぽい。護衛役とし
!
のほほんと語っちゃいるが、その実会話のオーバーキル。もうやめ
﹁││はい
であるから、せっちゃんが居らんでも平気なんよ﹂
﹁せやからな。その護衛に、楓ちゃんと月詠ちゃんと刀子先生を頼ん
へとお戻りになるのならば相応の護衛をつける必要が││﹂
!?
!
?
﹁そろそろ素直になっちゃいましょうよせつなさんも﹂
!
18
!
﹁明日菜さんはいい加減諦めたらどうですか
﹂
﹁と、とりあえず旅の仲間は1人参戦ってことでいいよな
会話を交わすやつらのそばにいられるか
だ
﹂
アタシは帰るからな
桜咲を預けられてほくそ笑む神楽坂なんて、アタシは見なかったん
!
涙目で挟まれた桜咲から目を逸らす。こ、こんな泥沼になりそうな
!
!?
と、とうとう部屋を飛び出したアタシである。
!
×
⋮⋮つーか、近衛と神楽坂のやつはまだ狙っていたのかよ⋮⋮。
×
×
×
﹁ファッ
﹂
﹁││そんなわけで、旅行の許可をください学園長﹂
×
﹁││ううむ、話はわかった。⋮⋮わかったがのぅ⋮⋮﹂
⋮⋮なんでこんなに巡り合わせが悪いのか。
名のみの構成現状。
しだけ自棄酒を呷りたくなる。そんなパーティとしても不完全な3
まらない現状。ルイーダの酒場が現実にあれば良いのに⋮⋮、って少
あの後もいくつか知り合いを回ってみたのに、旅の仲間は一向に集
頂戴しに来たわけなんだけどな。
⋮⋮その行き先が問題あるから、こうやって魔法協会関連の許可を
突き詰めてしまえばアタシら旅行に行くだけだし。
実 は な い の だ。別 に 原 作 み た い に ネ ギ ま 部 を 作 る わ け で も 無 い し。
事後報告みたいになってはいるが、元々学園長に事を語る必要性は
明しにきていた。
打って変わって一時間後、アタシと神楽坂は学園長室にて事情を説
!?
現実逃避の合間に神楽坂の説明は済んでいた。
19
!
黄昏の姫
しかし、その決断に若干の暗雲が立ち込める。学園長は何故か、言
い辛そうに言葉を濁している。
なんとなく、理由はわかりそうな気がする。アレだろ
﹂
御子を魔法界に寄越したくないとか、そんな理由なんだろ
﹁ぶっちゃけ、烏丸君は本当に魔法界に居るのかの
あれ、なんか違う方向で懸念してた。
﹁なんか知ってるんですか
﹂
う、行ってないという明確な証拠でも持っているのか
しかし、スマホガールの言に余計に眉を顰める学園長。なんだろ
丸﹄の方程式が確定した瞬間。
つか今マスターって言ったよな。とりあえず﹃マスター=犯人=烏
と、アタシのスマホがパーチク喋る。
ち側に隠れている、で間違ってないんじゃないっすかねー﹄
﹃とりあえず、マスターの反応は地球上にはないっす。おおよそあっ
?
?
?
そ れ が よ い 方 向 で 収 束 し た の は 問 題 な か っ た の
ら苦言が上がってのぉ⋮⋮。行動を制限するための一環として、彼の
パスポートはこの夏の間、儂が預かっとるんじゃよ﹂
疑問は直ぐに氷解した。
確かに、魔法界に行くにはそういう指定のゲートを通らなくてはな
らなかったはずだし、ゲートとやらは大体が海外の聖地だとか。﹃原
作知識﹄ではそうなっていたはずだ。
しかし海外へ先ず行くにはパスポートが要るし、密入国みたいに出
奔するようなリスクを負うような性格をしているわけでもない。そ
20
?
あー、うむ。ほら、烏丸君ってば学園祭で色々はっちゃけて
おったじゃろ
﹁ひょ
?
じゃが、それについて﹃好き勝手に動き過ぎていた﹄と魔法先生方か
?
?
れなら、さすがの烏丸でもおいそれと魔法界へと行けはしないはずな
のだ。
﹂
⋮⋮世界樹の真下のゲートを使ったのでなければな。⋮⋮使って
ないよな
﹁でも、6号ちゃんと一緒に行動してるのは見逃してるんですか
﹁そ っ ち は 元 々 完 全 な る 世 界 の 足 取 り を 追 え れ ば と 放 置 し て い た の
じゃがな。⋮⋮実際6号ちゃんてば麻帆良に来てから敵対行動なん
て欠片も見せちゃくれんから、なんちゅーか見張るだけ無駄じゃった
かなーって⋮⋮。儂ちょっと自信なくしちゃう⋮⋮﹂
﹂
﹁それはどうでもいいのでご勝手にどうぞ﹂
﹁酷くない
つーかお前ら、此処に一般人がいますよー
﹁そらも見張ってるんですか
﹂
も行っておらんはずなのじゃが﹂
﹁烏丸君の行動ログは⋮⋮、九州で止まっておる。海外には少なくと
無関心を装って閉口していると、学園長は書類を取り出し、
⋮⋮アタシは何も聞いてないからな。
ぽんぽん秘匿情報を放流しないでくださいよー⋮⋮。
?
じゃよ﹂
アタシは
何も
だからそういう会話をするんじゃねーよ
聞いてないからな
! !?
の魔法使いの行動くらい目に入れとかんと、海千山千もこなせないの
﹁そりゃあ儂こう見えて関東魔法協会の長じゃもん。そこそこの腕前
?
!
そんなスパイなんだか秘密組織なんだかな会話がアクロバティッ
!
僕も魔法界に行くので許可をもらえないでしょうか
クに飛び交う中、扉を開けて薬味教師が登場した。
﹁が、学園長
!
21
?
?
?
﹂
22
││え、結局付いてくるの
?
!
苦労人ちう、惚気を聞く
﹁え、長谷川さん魔法界いくん
﹂
そんならお土産よろしくなー﹂
﹁いや、来ないのかよ。烏丸を捜索に行くんだけど
学園長室へ行く数十分前、アタシは運動部四人組の屯している女子
寮のロビーにて談笑に加わっていた。
その数分前に神楽坂・近衛の部屋から逃げ出したアタシであった
が、既に仮契約をしているこいつらなら、とちょっとした期待を込め
て声をかけてみた次第。原作じゃあ奴隷にされていた気がするけど、
それを慮る心の余裕は今のアタシには無い。
﹂
﹁い や、う ち ら 一 応 そ ら く ん か ら 聞 い と る ん よ。魔 法 界 に 行 っ て く
るって﹂
﹁⋮⋮そうなのか
声をかけてみたら以上の説明である。
とりあえず、本人が出発前に色々手を回していたことはいいとして
も、ひとつだけ言わせて欲しい。
﹁⋮⋮神楽坂にも言ってやれよ⋮⋮﹂
﹂
﹁言ったら、明日菜やったらついてくるとおもったんやないかな。少
なくとも早いうちに戻る、って言うとったよ
前に。ちょうどいいので聞きたかったことをこいつらへと投げかけ
考えても藪蛇にしかならないようなことへ思考が逸れそうになる、
実際、アイツが心配しているのは魔法界なのか、烏丸なのか。
⋮⋮﹂
﹁そ れ に 納 得 の い っ て な い 神 楽 坂 だ か ら、今 こ の 現 状 な ん だ け ど な
?
23
?
?
﹁その上で危ないから、ついてきたらアカンって言われとったんよ﹂
?
てみることにした。
なに
﹂
﹁ところで、前々から聞こうと思っていたんだけどな﹂
﹁ん
﹂
?
?
﹂
﹂
﹁⋮⋮その短い付き合いで、なんで烏丸なんだ
﹁なにが
﹁あー、その、﹂
﹁⋮⋮好きか、ってこと
﹂
返答されて、尚更首を捻る程度の疑問が浮かんだ。
も似たように返答される。
問いかけてみれば最初にそう返した和泉を筆頭に、大河内と明石に
﹁んーん、うちは中学に上がってからやな﹂
も、お前らと烏丸ってそんな前から付き合いがあったのか
﹁神楽坂は幼なじみだから、まだ好感度の度合いも納得がいくとして
?
﹁JCらしくねーなーお前らは。そろいも揃って﹂
よね﹂
﹁あたしもそうかなー。そらっちと一緒にいるとなんか落ち着くんだ
﹁夢も希望もないようなこと言うなよ⋮⋮﹂
だよ﹂
﹁私は成り行き。男女の仲なんて、傍にいればけっこうくっつくもの
らは。
は躊躇ったんだけどもな。随分とはっきり言葉に出来るなぁ、こいつ
⋮⋮流石にアタシも一介の女子中学生だから、そうと言葉にするの
で肯く。
明石の返しに言い淀むと、大河内がその続きを明確に言葉にしたの
?
?
大きなお世話かもしれないけど、口にせざるを得ない。大河内と明
24
?
﹂
石の言葉に、アタシは思わずマイルドなツッコミを入れた。
﹁長谷川さんって、ひょっとして恋愛に夢見るタイプ
だよ﹂
﹁ほほぉ、なんなら語っちゃう
︵わけ︶、女子会のノリではっちゃけてまう
甘酸っぱくて恋心きゅ
うちがそらくんにぞっこんな理由
へんがお前らの琴線に触れたのかが理解できなかったってだけの話
﹁そういうんじゃねーよ、どっちかというと理屈派だ。烏丸のどこら
?
﹂
あとお前中学生だって
今も小娘だから、そんな台詞人前で使うん
?
⋮⋮﹂
﹁いいっつったよな
こと自覚してるよな
﹂
なんで語りだした
﹁││あれは、うちがまだ酸いも甘いもわからぬ小娘な頃やったかな
の場に留まる理由も無いので、片手でぴしゃっとお断りを入れ、
マジでNo thank youなアタシからすればこれ以上こ
ほどの思い入れが無い佐々木の方がさっきからずっと空気だ。
やたらと己の存在感をアピールする和泉であったけど、烏丸に言う
﹁いや、いいわ﹂
まおうかな
んきゅんな和泉亜子の華麗なるスピンオフ恋物語を語り明かしてし
?
?
部分を聞いたとき、﹁ん゛っ
﹂って。
烏丸が最初に和泉の恋を応援していたポジションだった、っていう
││あとどうでもいいのだけど。
一時間、がっつり語りつくした。
言っても聞かないサッカー部マネージャーは、遠い目をしながら小
とりあえず語りを止めろ。
ろうにサッカー部の主将に恋い焦がれておったんやけども、﹂
﹁人を好きになることが憧れから抜け出せなかったうちは、こともあ
じゃねーぞ
?
?
!?
25
?
?
×
思わず変な声が出た。
×
×
﹄
図書館探検部ってそんなことまで熟知する必要性があるのか⋮⋮
それが一層オコジョの恐怖心を煽ったのは無論言うまでも無いが、
くるのだが⋮⋮。
それはそうと、綾瀬の解体術が随分と手馴れていたようにも思えて
は臭みが強過ぎ、人間の食事には適さないとのことで断念した。
綾瀬の呟きに薬味先生の肩で小さく震える小動物。ちなみに亀肉
﹃ひぃ⋮⋮
﹁あ、あの、カモ君を見ながら怖いこと呟かないでください⋮⋮﹂
⋮⋮﹂
﹁〝 肉 〟 が 有 れ ば よ り 一 層 美 味 し く 頂 け た の か も 知 れ な い の で す が
ない。
昨夜は結局一食抜いたので、一層美味そうに見えているのかもしれ
プに目を輝かせている。
の甲羅を利用した鍋にて煮える、綾瀬曰く﹃食べられる野草﹄のスー
み﹄を美味しく戴くことが可能となった面々は、道中獲った亀型魔獣
彼女のアーティファクトの情報も相俟って魔法世界の﹃自然の恵
のは、サバイバル知識が矢鱈と豊富な綾瀬であった。
食料の確保をすっかり忘れていたアタシたち一行を助けてくれた
ところ変わって魔法世界・熱帯雨林。
で自然の味をお楽しみください﹂
﹁││ゆえ特製、食べられる野草のスープ仕立てー。調味料は無いの
×
なところで役に立つとは思いませんでしたね﹂
﹁それにしても⋮⋮、烏丸さんのダンジョンで身に着けた技術が、こん
?
26
×
!?
違った。これも烏丸の仕込みだった。
アイツ、幾つ伏線張ってやがったんだよ。
冒頭で回想したとおり。
運動部組みはついてこなかったわけだが、ネギ先生がオマケに付属
するという件を改めて語れば佐々木が引率を立候補したという語れ
ぬ過去。
つーかそれ立場逆だろ。
しかし、部活の新体操の県大会があるためにぐぬって断念したのも
また事実。
明確には語れなかったが運動部4人組が烏丸に付随しなかったの
も、その辺りの事情が絡んでいるんじゃなかったんじゃなかろーか。
そして綾瀬はというと、ネギ先生が付いてくる以前の問題で、元々
メルディアナ魔法学校への短期留学許可を学園長に打診していたと
27
のこと。
それについて高音さんらと同行する予定だったとも聞いたが、烏丸
が一足早くに魔法界へ行っていることを聞けば、アタシらと一緒に旅
立つことを急遽取り決めたのが、今の現状へと繋がるわけだ。
前々から魔法学校の教育に興味があったというのも綾瀬の弁だが、
烏丸が携わればいつ魔法界が終了するかわかったもんじゃない、と出
発を早めたのだが⋮⋮。
お前らの烏丸に対する評価は、そろいも揃って酷すぎやしないか
⋮⋮
所しいったらもう⋮⋮。
今更になって魔法生徒だった、とバレたときの春日の態度が余所余
行している。
や佐倉のほかに、ウチのクラスの春日に褐色幼女シスターなんかが同
それと余談になるが、短期留学でメルディアナに行くのは高音さん
が。
いために不参加と相成った。正確には宮崎は巻き込まれた形らしー
ちなみに同じ図書館組みの宮崎と早乙女は、夏の祭典の準備で忙し
?
必死で覆面シスターをやろうとする。無茶な抵抗感にはむかつき
すら覚えたね。
はいはい。深く交流する気はねーよ。
﹂
﹁その烏丸さんのダンジョンというのが少し気になるのだが⋮⋮、こ
ういうサバイバル技術を習得できる修行なのか
﹁ええまあ。剥ぎ取り技術がなければ素材集めにも困難を極めるので
す﹂
そして護衛役として同行している龍宮の問いに、普段通りのテン
ションで応える綾瀬。
剥ぎ取りに素材集めって⋮⋮、モン○ンか。
亀魔獣と対峙したときはさして目立たなかったが、竜の鱗の脛当て
とかビキニアーマーとか、そんなファンタジー装備なんかを綾瀬が
持っていても最早驚かないアタシがいる。
まあそんなことよりも、
﹁おい、龍宮。そっちが気になるのはわかったから、せめてアイツの方
をもうちっと気にしてやれ。同室だろ﹂
﹁⋮⋮そういう理由で振られるとは、まあ思ってもいたけどね﹂
桜咲のことを丸投げしておく。
いい加減、目障りになってきた。
﹁⋮⋮ウフフフー⋮⋮マッテーコノチャーン⋮⋮アハハー⋮⋮﹂
おい、ド酷い幻覚見始めてるぞ。
膝を抱えてキャンプの端っこのほうで体育座りをしているバカホ
ワイトが、近衛不足で禁断症状を併発し始めた。
正直、奴に近づきたくない。
28
?
﹁やれやれ⋮⋮、ちょっとお嬢様と離れたくらいでその体たらくでは
先が思い遣られるな⋮⋮。執着しすぎで、私にとっても見てられん。
││仕方ない。
﹂
││しっかりしろ刹那。別にお嬢様を寝取られたわけじゃないん
だから﹂
﹁フギッ
ちょ。
﹁⋮⋮おや
けど⋮⋮。
てマゾなのか⋮⋮
確かに原作でもそんな様子が若干見て取れた
⋮⋮つーか、容赦なく切り捨てられて有り難がるって⋮⋮。桜咲っ
か過ぎて目に毒だ。
視される。未だ濁流のように滔々と流れているのが、傍目に見て鮮や
てド派手に出血し、心の血花が地面に大輪の赫を咲かせている様が幻
よろよろと起き上がりつつ不敵に笑っているけれど、切り捨てられ
を言う真名﹂
⋮⋮。容赦の無い、いい一撃だった。お陰で正気を取り戻せたよ、礼
﹁ふ、ふふふ⋮⋮、そうだな。⋮⋮確かに、ちょっと取り乱しすぎたか
何の話だ、綾瀬。
この情景、なんだかデジャブが⋮⋮﹂
剣士が切り捨てられるとか世も末。
け方がずんばらりんと容赦が無い。
可能性の世界線を垣間見せたにしても、同室の好にしては発破のか
龍宮の一言で奇声を上げて仰け反る桜咲。
!?
かっていっていたし⋮⋮。
楽しいというよりは、実力の差が結構目に見えていたにも拘らず向
あ、そういえば武闘会で烏丸と対峙したときも、なんか戦うことが
?
29
?
いや、結局は烏丸の棄権で試合は終わったけど、その後少しだけ残
念そうにしていた様子があったような⋮⋮
倒されることを己から望んでいたとか、そんな心情であのとき立ち
向かっていったと考えれば、あの無茶な対峙も納得が││、
││それいじょういけない。
下手な思考に流される前に己の力でカット。
そういう妄想は早乙女辺りがやっていれば良いんだよな。
カットしたところで、桜咲から龍宮に更に言葉が続けられていた。
﹁し か し、真 名 に も ち ょ っ と 言 わ れ た く な い な。執 着 が ど う の と か
⋮⋮、お前はお前でお金に執着しているじゃないか。いつもの夜回り
だけでも一々給金を請求しているし⋮⋮。そんなに稼いで何に使っ
ているんだ﹂
何処かぷんすかと、色々と普段からの鬱憤も溜まっていたのかもし
れない。
今尋ねるべきとは到底思えない、愚痴にも似た言い掛が桜咲から龍
宮へと投げかけられる。
﹁む。そういえば刹那には教えていなかったか。私の傭兵としての給
金は大体が援助金に回っている。児童福祉施設に私が口出しなんて
出来る身分でも無いからな、こんなことくらいしか出来やしないのが
口惜しいが⋮⋮﹂
と、龍宮は龍宮で、原作の最後のほうで明かされた嘘か真か判別の
つかない財産管理の行方を語りだしていた。
言っちゃ悪いとは言わないが、それこそこの場で語ることでもない
ような気がするのはアタシだけか。
周囲のやつらもすっかり聞き入っているし、あんまりツッコミを入
れたくも無いので、アタシは黙してスープを啜り、再度の回想に耽る。
││というか暇になったからこその思考訓練だ。
30
?
別途に突っ込みたかった部分に目を向けておこうか、という試みで
しかないが。
││ネギ先生の付いてくる理由なのだが、どうにも若干生臭い気が
する。
永久石化解除の術式を烏丸が所持しているらしく、ネギ先生の故郷
の村人を救うには奴の手がどうしても必要であった。
それ︵術式︶を手にした烏丸は、ネギ先生に対価を支払わせる代わ
りに、村人を解除することを提示したそうだ。
コレだけ聞くと烏丸が優しくないように聞こえるかもしれないが、
これはこれで順当な手順が踏まえられているだろう。斜に構えたJ
Cの意見だけど。
しかし、取引が成立する前に烏丸は魔法界へと失踪。
夏の間に解除を申請しようとしていたネギ先生は、己の父親の情報
を探るという元来の目的も相俟って、結局魔法界へと赴くことと相
そんなにしてまで隠れたいのは
以前に魔法界に来たときにお前一体何をやった
!
りない。
つーか、今のネギ先生の強さって表で表すとどのくらいなんだろう
な
早いとこ公式バグと合流しておきたいよ。今のメンバーだと戦力
が不安でしょうがない。
ちなみに、既に魔法バレしているはずのいいんちょが不参加なのは
7月中にはどうしても外せない家の用事で出国不可になっているた
31
成った。
﹂発言が原作みたいに出てきたわけだけど、⋮⋮狙われる要素を
こちとら一応生徒であるわけだから、﹁皆さんのことは僕が守りま
す
真っ先に作った本人にそんなこと言われたくは無ぇーよッ
⋮⋮
なんなんだ
!
ついでに昨日の情け無さが際立ちすぎて、正直ちょっと信用度が足
!?
扱いでゲートを潜っての入国だ
正確には烏丸謹製の魔法具とやらで己を圧縮し、アタシらの手荷物
!
あの薬味教師、よりにもよって密入国で魔法世界へ参入しやがった
!
!
?
めだ。
いくら財閥のご令嬢とはいえ、いや、〝だから〟なのかもしれない
が、担任教師︵この世界じゃ副担任だが︶に入れ込んで自家用機のペ
イントを痛車仕様に塗り替えたり、中学生が保護者なしでイギリスく
んだりまで学生旅行に出かけたりするのは、流石に信頼が人事負傷に
陥っても可笑しくないと思うのはアタシだけじゃないはず。
それがどれほど寛容な両親だとしても、未成年にそこまで好き勝手
やらせるのはセレブだとしても、いや逆にセレブだとしたら問題が在
りすぎる。
それらのツッコミどころは﹃原作﹄だけれども、聞けば春にもイギ
リスまでネギ先生を迎えに行っていたというのだから、そのツケが今
回ってきているんじゃないかな。
と、ご両親との裏事情を推理してみる。
流石に原作ほどの暴走具合はしていないはずだから、だからこそ穏
32
やかに国内に軟禁されているのではないかなー、と。
あと、ネギ先生が同行するという部分を聞いたいいんちょ、血涙流
す勢いで悔しがってた。というか実際流してた。
序とばかりに先生の魅力について小一時間語られたのは、完全に余
計なお世話でしかない。お陰で少しだけ薬味教師に対する好感度が
駄々下がったわ。
そして一番に戦力として役立たずなのが、現在龍宮の話を涙ながら
に取材している朝倉だったりする。
﹂││なーんて、⋮⋮コイツだけ麻帆良の認識
﹁ジャーナリストとして不思議世界の謎を解き明かせば夏の収穫と
しては最大級じゃね
らないのだが。アイツ等は聞けば人が全て答えるのが当然みたいに
つーかジャーナリスト︵︶とか自称するのが、アタシは正直気に入
間違いなく、コイツがこの旅では最大級の﹃お荷物﹄だ。
し、マクダウェルのところで特殊訓練を積んだらしい話も聞かない。
こっそりと伺ってみたところ、相坂の奴が憑いている様子も無い
をしていたのには、更に現状の不安を掻き立てられたけどな。
阻害が思考力を阻害しているんじゃないかと不安にさせられる発言
!?
思考している節があるから始末に負えない。報道の自由は結構だけ
ど、何事にもバランスってモノが大事だと学校じゃ習わなかったのか
人の失敗や恋愛事を大々的に騒ぎ立てて金をもらっているんだか
そして都合が悪くなったら〝
ら、ほんとボロい商売だよ。票をかき集めたいのなら自分たちの会社
の不祥事でもバラしてみればどうだ
⋮⋮﹂
かよりもずっと偉いです⋮⋮
﹂
を継いで、自分の未来を賭けるなんて、そこらの立派な魔法使いなん
﹁ううっ、偉いですタツミヤさん⋮⋮
亡くなった恋人さんの意思
だったんだねぇ⋮⋮。このネタは、おいそれと記事にできないかなぁ
﹁そっか、麻帆良児童園の足長おじさんっていうのはたつみーのこと
当に不安だけを煽るんじゃねーってんだよ。大体││、
どうしてこうなった〟と嘆くことくらいしか出来やしないのなら、適
?
!
いつ
!
﹂
﹂
!
己が情けない⋮⋮
どんなことでも
僕もお力になります
﹁そうだったのか⋮⋮、真名は、そこまで先のことを考えて⋮⋮、くっ、
女とは良い関係を築きたいですわ﹂
のことを誤解していたようですわね⋮⋮。麻帆良に帰ってからも、貴
﹁あ、愛衣、そういうことは言うものではありませんわ。しかし、貴女
!
﹁さすがは龍宮たいちょーです⋮⋮
でも相談に乗りますから
あ、話し終わった
!
!
!
出したお陰でオチが言えない。そんな表情。
こう、話のオチとして嘘だとバラしたかったのに、その前に皆泣き
情をしているのが少しだけ可哀相に見えた。
引いた場所からそれらを眺めていたので、龍宮がなんともいえない表
タシも。世の中がいい話だけじゃない、ってことを知っている。一歩
ドン引き、とまではいかないけど、神楽坂も綾瀬も春日もそしてア
け引いているけどな。
イイハナシダッタナー。涙ながらに聞いていた数名以外は、少しだ
?
33
?
コレ以降アイツらが龍宮に対して非常に鬱陶しくなりそうな、そこ
はかとない予感に辟易している。
そんな龍宮であったとさ。
34
⋮⋮どうでもいいけど、今の会話死亡フラグっぽいな。⋮⋮回収す
るなよ
?
﹄
女子中学生ちう、ツッコミを放棄する
﹃超々超音波振動子≪パラダイス・ソング≫
10mくらいの虎とドラゴンを掛け合わせたような猛獣が、実体化
した電子精霊のジャイアンボイスで吹っ飛ばされる。
それを命じたアタシとしては、己の身を守るためだけとはいえ過剰
すぎる防衛力を発揮するたびに、ポケモントレーナーかモンスターマ
スターにでもなったかのような錯覚すら覚える始末だ。
というか、もう熱帯雨林を歩き出して三日くらいは経っているはず
なのに、スマホの電源が未だに切れない。
実 体 化 す る と か 言 う 離 れ 業 も 披 露 し て い る の に 元 気 過 ぎ る こ の
こんな
我が輩の兵装は
!
凭れしそうなくらいにキャラ崩壊し調子に乗るプログラムっ娘をス
マホへと仕舞う。煩ぇ。
つーか、お前どういう武装を積んでやがる。
電子プログラムの癖して、ファンタジー世界のサバイバルを人間様
より役立つとかって。
﹂
もっと人を立てろよ。三原則にこれも入れろよ。もう少し朝倉の
気持ちも酌んでやれよ。
﹁そこで私に向けられる哀れみの視線はなんなのかなぁ
﹁いや、別にたいした意味はねーさ。うん﹂
!?
35
!!!
相手にならない
!
ボーカロイドもどきは、一向に大人しくなる様子を見せやしなかっ
拙い 脆い
!
た。
﹃はーっはっはーっ
﹄
!
!
もんか魔法生物 脆弱すぎるっすよ魔法世界
世界一ィッ
!
勝利の舞を踊りキメ台詞と決めポーズと挑発と、と特盛りすぎて胃
!
物陰にて避難していた非戦闘員数名の中から、パイナップル頭が抜
き出ていた。
うんうん、なんでもねーよ役立たずめ。
現実世界はイスタンブールのゲートを通り、メガロメセンブリアに
全く寄り付かないままにケルベラス大樹林を踏破中のアタシたち。
さっきも思い返したとおり、もう三日もキャンプ中であるのには、
現在お尋ね者真っ最中というあんまり表沙汰にしたくない理由︵わ
け︶がある。
しかし、その理由自体は薬味教師の個人的な裁量しかないわけだか
らそのまま表に出ても問題はなさそうなのであるけど、最初の時点で
一緒に逃走してしまったのは痛かった。
正直、魔法具の圧縮封印が解けて密航がばれたネギ先生を見捨て警
備兵に突き出して、アタシ達は一足早くにアリアドネーで釈放待ちを
36
しておけば良かった。と思わなくもない。
イスタンブールのゲートはゼフィーリアという原作では名称しか
出ない国に繋がっていたわけだが、逃走の果てにアリアドネーとは逆
方向へと追い立てられ、追い詰められた先は海岸沿い。
荒波が押し寄せる崖へと追い立てられたときは、何処の二時間ドラ
マの推理シーンかと悪態もつきたくなった。別に突き落とされたわ
けではないけれど。
漁船に密航して海へと逃げ、逃走経路を追跡されないようにエリジ
ウム大陸傍まで来たところから海へと脱出し、ケルベラス大樹林から
浮上して陸路へ。テロに巻き込まれたわけでもないはずなのに、原作
のようにグラニクスを目指している、というのがこの三日の経緯で
あったりする。
﹂
これが修正力かと思うと泣きたくなるので、考えないようにはして
いるけれど。
﹁⋮⋮どうしたよ
﹁いえ、なんだか長谷川さんが遠い目をしていたので気になりまして﹂
?
﹁別に⋮⋮、ちょっと思い返していただけだ⋮⋮﹂
綾瀬のもの言いたげな視線に、少々やさぐれ気味に返事をする。
ちなみに戦闘面での対応は大体がアタシか龍宮が主力を担ってお
り、猛獣に襲われたときはいちいち詠唱というか始動キーが必要な魔
法使いの面々より前に、狙撃とかで対処できる基本1ターンキル。
﹂
﹂
先制攻撃を任せられっぱなしのお陰で、薬味教師の﹁守ります﹂発
言が実行されたことは終ぞ無いのが現状だ。
仕事してくれよ、薬味先生⋮⋮。
何だ
﹁ところで、そろそろ聞いてみてもかまいませんか
﹁あ
?
﹂
択肢にはあった。
る旅行に付いてゆかず、麻帆良でのほほんと夏休みを謳歌するのも選
原作を知るアタシからすれば、下手にテロに巻き込まれる恐れのあ
人には話せない内容なんだよなぁ⋮⋮。
でも荒唐無稽な原作知識を基に推移した本音の部分だし、普通に他
ど、それ以外の理由もキチンとある。
一応、神楽坂に無理言って連れてこられた体もあるにはあるけれ
平気な顔で嘘を吐く。
﹁隠してねーっての﹂
か
理由にしては少し弱すぎる気がするのです。⋮⋮何か隠してません
﹁それは聞きましたけど⋮⋮、やはり長谷川さんが此処まで移動する
だよ。一言製造元に文句言ってやらなきゃ気がすまねぇからな﹂
﹁それはさっきも見たろ、あのスマホガールの詳細を問い詰めるため
ては、長谷川さんにこそ理由が無いように思えたので⋮⋮﹂
﹁長谷川さんです。正直、魔法世界にわざわざ己の脚で参上するにし
?
という疑問が浮かんだ。
だが、よく考えてみると、それは果たして本当に安全な選択肢なの
か
37
?
?
?
まかり間違って﹃原作の通り﹄に〝物語〟が進んだとしよう。
その場合、
﹃アタシ﹄という﹃ネギ先生﹄に相応の助言とサポートを
施せるキャラクターは、果たして誰になるのだろうか
もしも︵IF︶そんなキャラクターが、アタシ以外に互換し得なかっ
たら。
そうなれば﹃ネギ先生﹄の旅は〝お仕舞い〟だ。
クラスメイトの大半は麻帆良へ帰ってくることは出来ず、﹃裏側を
知っている﹄アタシは後の人生に大きな後悔をずっと引き摺る羽目に
なる。
また、アタシの﹃替わり﹄がその旅に存在し得たとしよう。
喩えるならば二次創作にあった﹃ネギの妹﹄みたいな立場の、原作
知識を知り、物事の認識がしっかり出来、力にならなくとも正しい助
言を﹃ネギ﹄へと与えられる立場の人間だ。
多分、烏丸がこの世界線では﹃それ﹄に一番近い。アイツが﹃原作﹄
を知っているのかどうか、それ以前に﹃本物の転生者﹄じゃねーとは
思うけれども、準拠した正史の流れってやつが﹃原作側﹄にあるんな
らアイツこそが最大のイレギュラーだ。
まあ、実際に漫画にあったみたいな﹃流れ﹄になったらしき部分は
そうそうないだろうから、
﹁この世界が漫画だ﹂なんてバカなことを言
うつもりはないけど。安心院さんとは呼ぶんじゃねーぞ
付いていったとすれば、アタシが付いて行く意味も当然無い。
が、現状は件のお助けキャラが敵側︵憶測︶に寝返って魔法世界は
大ピンチ。それを知るのはアタシらだけなのだろうけど、やはり何某
かの対処を取っておかないと寝覚めがすこぶる悪すぎる⋮⋮
つまりはそんな理由だ。
⋮⋮まあ、夏休み最終日に﹃原作﹄みたいに﹃悪魔﹄が襲撃噛まし
に突き詰めてしまえば﹃それ﹄でしかないのだ。
い。とか、そんなそこはかとない若干の下心もあるにはある。究極的
けれども、手を出す相手が男子中学生ならばなんとかなるかもしれな
平凡なただの女子中学生に何が出来るかというわけではなかろう
!
38
?
話が反れたけど、要するにそういう立場の﹃お助けキャラ﹄が旅に
?
て き て、巻 き 込 ま れ る 恐 れ が あ る か も し れ な い か ら 退 避 し て お い
た。っていう理由もあるにはあるけど⋮⋮。
いや、だって麻帆良祭時には簡易魔法アイテムも配布してなかった
し、学祭の焼き直しみたいに麻帆良の生徒連中が立ち上がって対処に
周る、っていうルートが少しばかり薄弱だし。
それ以前に脱げビームとか相手したくないのは、健全な女子中学生
ならば当然の忌避だと思われるのだけれど如何なものか。
あと﹃人間を襲わない﹄って言う設定を悪魔が守れども、ずんどこ
破壊されていた家屋なんかは対象外らしいから、その倒壊に巻き込ま
!
れてお陀仏な可能性からも逃げ出したって言うのも本音。
×
避難訓練ならまだしも、リアル災害遭遇は簡便な
×
×
﹁﹁﹁﹁肉だーーーっ
﹂﹂﹂﹂
まあ、要するに││、
必要である。
しかして、人間はパンのみで生きられるわけではない。娯楽も当然
るには相応の物資や、秩序の規定も必要になってくる。
生きるものは日々の糧を得なくてはならず、物事の道理を循環させ
んと生きてるご連中の、はっきりとした現実的︵リアル︶な世界。
獣人とか妖精とか亜人とか、ファンタジーな見た目とは裏腹にきち
アタシらは、ようやくグラニクスへと到着していた。
そんな益体も無い本音で思考が反れていたのが五日前。
×
野菜だけで生きていられるって豪語できるあいつらは多分修行僧。
尊敬するよベジタリアン。
すげーよベジタリアン。
かではないが真っ先に近隣の定食屋へと突貫して行った。
雑草食にいい加減飽き飽きしていたアタシらは、誰が叫んだのか定
!!!
39
×
﹄
アタシらには当然ながら無理だったね。欲望に忠実な女子中学生
ですからー。
﹂
﹃そんなことよりお嬢、付近にマスターの反応があるっすよ
﹁││は
それでも必要っていうなら、と選択肢に挙げたのが﹁綾崎ハーマイ
に命名センスは無いんだよ。
ちなみに名前はまだ無い。つけろつけろと煩いが、そもそもアタシ
ホガールが突然そんなことを呟いた。
一週間を超過した久方振りすぎる肉の味を噛み締めていると、スマ
?
オニー﹂か﹁初音みく﹂か﹁昆布﹂。当然どれもNo thank y
?
ou されたが。
この町に
そんなことよりもこいつ今なんて言った
烏丸がいるのか
?
?
﹄
﹁それでいいのですか﹂
い﹂
﹁⋮⋮ と り あ え ず 飯 を 食 お う。あ い つ の 対 処 は そ れ か ら で も 遅 く な
ている。
世界には、当然ながら要らないもの筆頭だ、と自室へ置き去りにされ
ちなみにアタシの荷物にパコソンは無い。ネットも繋がらない別
らば、居場所の把握程度なら不可能じゃない気がしてきた。
他人のパソコンにスパム宜しくこんな玩具を放り込む神経の奴な
﹁⋮⋮有り得るな﹂
じゃないっすかね
﹃ん に ゃ、近 づ い て き て る っ す ね ー。私 た ち が い る こ と 知 っ て る ん
﹁とりあえず、遠いのか
﹂
⋮⋮なんでグラニクスにいるんだ、あいつ。
?
?
40
?
﹁いいんだよ。腹が減っては戦はできぬ、ってな﹂
﹁ああ、サムライの格言でしたね。あとはハラキリとセップクが。京
都では終ぞ見せてもらえませんでしたが﹂
﹁誰に頼んだんだよ⋮⋮﹂
﹁当然サムライマスターですよ。寄る年波には勝てないということな
のでしょうね﹂
﹁いや、そういう話じゃないと、﹂
応えながら、会話をしていた隣の席の﹃誰か﹄に目を向けて、
アタシは間違いなく、固まった。
﹂
﹂﹂﹂﹂
﹁どうも。お久しぶりです皆さん﹂
﹁││6号
﹁﹁﹁﹁││ええっ
驚き叫んでしまったアタシに、皆が遅れて反応し、
﹂﹂﹂
﹃││あ、マスター♪﹄
﹁﹁﹁えええええええっ
かよッ
×
×
ない。が、麻帆良からは若干危険視されている烏丸を魔法界へと引っ
別に﹃完全なる世界﹄のことは神楽坂とアタシ以外には教えてはい
﹁おい﹂
﹁││いえ、別にもうお帰りいただいても結構なんですよ﹂
×
││っつーかお前の〝マスター〟って烏丸のことじゃ無かったの
スマホガールの一言で、場は更に混乱した。
!?
×
41
!?
!?
×
!?
張った張本人であるわけだから、大概の魔法生徒一行である高音さん
とかからは6号自体が少しだけ警戒に値する認識であるらしい。
そんなわけでわずかながらも警戒も露な対応をされた6号だった
のであるが、その前に食事をどうぞと促される。そんな席での会話で
ある。
﹁そらさんに手助けをお願いしたのは確かなのですが、〝黄昏の姫御
子〟が居なくても術式の構成が出来上がってしまいましたので。念
のためにこちらへ来るように、と用意していた﹃彼女﹄だったのです
が﹂
﹁なんだその迷惑すぎる伏線⋮⋮﹂
﹁そらさんのスペックを正直舐めてました。無駄手間でしたね、お互
いに﹂
﹁⋮⋮あー、じゃあ、アタシらはとっとと帰るか。なんかもう付き合っ
42
││本当にな。
要するに、スマホガールを仕込んだのは6号で、狙いはアタシでは
なく神楽坂を魔法世界へと引き込むためのもの。
落とすために本人ではなくてその周囲を狙う辺りは実に周到なの
だが、それに見事に引っかかったアタシが馬鹿を見たみたいで実に憤
慨する。
しかし、その必要も無いってことは、烏丸が完全なる世界に必要す
ぎる人材であったということが如実に雄弁に語られているわけで。
⋮⋮これ、間違いなくこの世界詰んでるよな⋮⋮。
ちなみに此処までの件︵くだり︶は魔法世界的にもとっぷしぃく
れっとに属するわけだから、元より烏丸本人に用事が無かった面々で
あるアタシと神楽坂以外には聞かせられていない。聞かせられるか
薬味教師
こんなハナシ。
え
?
││論外だろ。
?
ていられんわ﹂
﹁やさぐれないでよ千雨ちゃん⋮⋮﹂
やさぐれたくもなるわ。
なんなんだよ烏丸は。黄昏の姫御子って血筋とか体質とか、そんな
換えようのない希少特性じゃなかったのかよ。換わりになるような
〝何か〟を簡単に用意できるんじゃ、確かに神楽坂も要らんわな。
で も そ の 説 明 な し に 6 号 の 暗 躍 を 萌 芽 さ せ た 時 点 で 超 ギ ル テ ィ。
帰ってきたら覚えてやがれよ、と食事をしながら帰宅の決意を顕にし
たアタシである。
﹁もう魔法世界がどうなろうと無視しようぜ。アタシ等は知らなかっ
た。それでいいじゃねーか﹂
﹁いやさすがにそれは⋮⋮。っていうか、このままリライトが発動し
こんなところにいられるか、アタシはもう帰るんだ。
決意を揺すられぬ内に席を立ち、少しだけ離れた席で食事をしてい
る彼女らの元へと足を運ぶ。
すると、
43
たら色々な人たちが火星に投げ出されるんじゃ⋮⋮﹂
心配するだけ無駄な気がしてきたよ、アタシは﹂
﹁それをどうにかするだけの仕込みくらい烏丸ならしてるんじゃねー
の
﹂
?
うろたえる神楽坂だが、アタシの決意はそれなりに固い。
﹁え、もうそれで決定なの
早いとこ逃げておこうって﹂
﹁とりあえず、あいつらにも話して来ようぜ。魔法世界の危機だから
安心できない安定感って、ほんとなんなんだろうな。
もうな。なんつーか安定すぎる。
?
﹂
﹁おーい、これからのことなんだけど││﹂
﹁あっ、長谷川さん大変です
お、おう
どうした
﹁と、とりあえずテレビ
⋮⋮
﹂
﹂
あれ見てください
僕身に覚えなんて欠片も無いです
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮ ネ ギ 先 生、い つ の 間 に テ ロ リ ス ト に な っ た ん で す か
﹁﹁﹁﹁﹁﹁﹁﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮﹂﹂﹂﹂﹂﹂﹂﹂
に映し出されたのは、間違いなく我らが薬味教師その人で⋮⋮。
聞き覚えのない事件が発表されて、件の犯人候補筆頭としてテレビ
│﹄
ちらの人間の少年に懸賞金をかけ、国際指名手配として追跡すると│
発表されました。メセンブリア当局は見た目10歳ほどとされるこ
事件において、事件の実行犯との容疑がかけられている少年の容姿が
﹃││繰り返します。先日世界各所で起こったゲートポート魔力暴走
あれ、なんか嫌な予感が││、
ような、そんな代物へと目線を向ける。
促されるままに、食事所に備え付けのテレビのようなスクリーンの
﹂
薬味教師が興奮した様子で、真っ先に立ち上がった。
!
を掛ければ即座に飛び出す薬味のツッコミ。
打てば轟く軽快な打音もテンポが悪く、その分軽く現実逃避してい
たのだろうなぁということは容易に想像できる。
44
!
?
!
?
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮いや違いますよ
よ
!?
?
誰もが黙して押し黙ったテーブルに思わず、小粋なジョークで小技
!?
まあそれも仕方のないことと思われるけれど。
⋮⋮つーかちょっと待て
ゲートポート魔力暴走事件って、要するに﹃原作﹄でもあった旧世
界とのゲートでのテロ事件のことだよな⋮⋮
⋮⋮そんな、医者が余命を宣告するような沈痛な面持ちで、
すね⋮⋮﹂
﹁││どうやら、帰宅もままならない状況になってしまったみたいで
振り向けば6号が、心なしか残念そうな表情で、
れ、
そんな推理が確信に変わりかけた頃、背後からぽんと肩を軽く叩か
とは⋮⋮。
アタシらは遭遇しなかったけれど、アレが今起こっているというこ
?
﹁残念ですけれど、この先皆さんの旅は非情に容赦のないものと相成
るかと思われます﹂
ものの見事にご臨終宣言を下してくれた。
⋮⋮余計なお世話だよ馬鹿野郎⋮⋮
!
45
?
番外・鈴木6号、烏丸に振り回される
﹂
﹁⋮⋮ところで、なんで私たちはこんなところまでやってきているの
でしょうか
にします。LUNAって⋮⋮、ローカルアイドルですかね
ますよ
﹂
﹂
﹁それなら早めに言ってくれれば⋮⋮。パスポートくらいなら偽造れ
無いけど
﹁そもそも俺パスポート取り上げられちゃってるし、国外に出る気は
?
ペタ系アイドルを垣間見せたところで、ずっと尋ねたかった疑問を口
新幹線の車窓から見える風景が、瀬戸内の荒波をバックに唄うつる
はいっこうに国外へと出奔する様子が見えません。
現在岡山、乗り換え乗り継いで此処まで来ましたが、そらさんから
﹁今更すぎるな﹂
?
う気は無いなー。あとオマエラはこの国の出国審査を舐めすぎだ﹂
なんでもかんでも魔法でスルーされると思うなよー、と死者の舞踏
のようにケタケタ嗤われます。
しかし、そうなると私の策は若干時期が合わなくなる予定が待って
いることに⋮⋮
あとは魔法界から﹃うわぁ⋮⋮、6号たんのナカあったかいナリィ
ス﹄も、ものの見事に無駄足を踏むことになりそうです。
仕掛けてきた私のスタンド﹃ガールズ・アグレッシブ・フロンタリ
が微レ存。
公望も真っ青な策謀を張り巡らせたというのに。裏目に出る可能性
たそらさんの代わりに、その周囲から動かして誘き出そう、という太
巻き込む気をなかったのか、黄昏の姫御子を連れ出そうとしなかっ
?
46
?
﹁魔法界に行くとは言ったけど、その程度で法に抵触するリスクを負
?
日本には世界樹以外に
⋮⋮﹄という意味深メールをそらさんのケータイから送るだけ、とい
う手筈のはずだったのですが。がっでむ。
﹂
﹁しかし、そうなるとどうやって魔法界へ
ゲートなんて残ってませんよ
﹁それは││﹂
﹁││ああ、いたいた﹂
?
宍戸先輩
一人の男性が。
﹁あれ
?
⋮⋮ あ れ
な ん で 山 陽 本 線 に そ ん な 人 が 乗 り 合 わ せ て る ん で
しょう⋮⋮
?
﹁柊さん。随分と気に入られてるみたいだなー、烏丸﹂
﹁聞いたって⋮⋮、誰にですか﹂
られたのでしょうか⋮⋮。
この宍戸という人は、一体どのようなソースからこの場に居合わせ
新幹線に乗り合わせるように待ち構えるってどんな離れ業ですか。
というか、駅で降車するのを待ち構えるのならともかく、走行中の
⋮⋮私たち、誰にも行先は語っていなかったはずですが⋮⋮。
聞いて、さっきの駅で張ってたんだよ﹂
﹁オマエラに手紙預かっててな。此処に来れば乗り合わせられるって
﹁なんでこんなところに先輩が
﹂
そらさんも同じく疑問を感じたのか、怪訝な顔で尋ねます。
?
先輩、ということは麻帆良関係者ですかね。
って、そらさんのお知り合いですか。
﹂
そらさんが答えようと、したところでこちらの席へと顔を覗かせる
?
?
47
?
宍戸さんの返答に、この世の終わりみたいな表情で引き攣る烏丸さ
確か﹃最強の魔女﹄とかいう正体不
ん、というとてつもないレアものを見させていただきました。
柊さんって、アレですよね
この人魔法関係者だったんですか
明の人物。
⋮⋮え
﹂
?
﹂
?
﹁つーか、魔法生徒じゃないってよくわかったな﹂
最初はてっきりそう思っていたのでしたが⋮⋮。
界へ行くのだと。
だからこそ、そらさんはこっちまで足を延ばして、其処から魔法世
本。
話は逸れましたが、そんな関東魔法協会の威光が届きにくい西日
若干見て取れます。
政府は魔法使いの在り様に意趣を抱えながらも渋々従っている様が、
分かりやすい武力衝突を避けるためと思われますが、旧世界の各国
要因が後ろ盾となっている影響なんですよね。
のですが、それも全て﹃メガロメセンブリア元老院﹄という外〝敵〟
首都近くに居を構えて政府にも顔を利かせているようには見える
ので、関東魔法協会は未だに外様のままです。
むしろ、日本は魔法使いの手に属さない無数の裏組織が蠢いている
光が日本全域へ及んでいるわけではございません。
関西魔法協会が解体したとはいえ、魔法使いの、関東魔法協会の威
こうやって対峙しているわけだし
ないし。というか麻帆良に目をつけられたくないから此処まで来て
﹁うん、まあ違うな。そもそも俺魔法使いじゃないし、麻帆良とは関係
法生徒じゃなかったですよね⋮⋮
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮そんなお人と近いって、貴方ナニモノですか⋮⋮。魔
?
?
﹁そりゃあ、空気の違いというか、ぶっちゃけ魔力循環の様相が普通に
48
?
違いますし。というか、人間、ですよね
﹂
﹂
ととご帰宅していただきたいですね⋮⋮。
﹁⋮⋮違うんすか﹂
﹁まぁな。不死者ってやつだよ、一応は﹂
×
?
なんだかイライラする話し方の人ですし、手紙とやらを渡してとっ
のらりくらりと会話を続けます。
そらさんにはっきりと正体を明かさないままに、宍戸さんとやらは
な
だよ。お前で明かせなかったってことは、まだこのままでも通じるか
﹁あー、そこはわからなかったか。まああれだ、〝魔女様〟の迷彩技術
?
今、なんとおっしゃいましたか
×
││は
×
×
?
この人が麻帆良在住の〝闇の福音〟とはまた別口の不死者という
話もないまま横に居られても鬱陶しいことこの上ないので。
手紙を受け取ったそらさんはそのまま読み耽っちゃいましたし、会
というか、正直この人と話すことなんて無いんですけどね。
たことを質問することとしました。
勝手に人の隣の座席に座り込んだ宍戸さんを横目に、気になってい
そっち側には通用しにくいんだよなー﹂
﹁あー、完全なる世界とはいえ、やっぱりアンタも魔法使いか。これは
のお人は﹂
すし。何をもって最強なんて徒名をつけられているのでしょうか、そ
んですよね。魔法世界と違って、旧世界の指標は実力主義とは別物で
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮正直、〝最強の魔女〟と言われましてもピンとこない
×
自己申告はともかくとしておいても、私が気になっているのはそらさ
49
?
んが警戒心Maxで対応している﹃最強さん﹄とやらの方です。
そもそも﹃魔女﹄なんて言葉自体、数百年前に起こった魔女狩り以
降魔法使いですら使いたがらない徒名です。
忌み名、と言い換えてもいいくらいの浸透度なのですが、二つ名み
たいな扱いだとすると尚更警戒心を引き立てられても可笑しくはあ
りません。二つ名というのは、周りから自然とそう呼ばれるようにな
るものですしね。
しかしぶっちゃけ、エヴァンジェリンさんよりも警戒に値する、と
説明はされましたけど、魔法世界においては完全に無名。
果たして何をもってそこまで恐れられる存在となっていて、そして
何故魔法界へは一切の情報伝達されていないのか。
日本の半分に警戒されていたとしても、メガロ元老院の情報収集網
は伊達ではないはず。
それを潜り抜けられる様相からしても、相当の実力者だとは思われ
実
魔法的事件といえばネギ=スプリングフィールドの生まれ故郷が悪
魔に襲撃された事件くらいだと思われます。
いや、あれはもう少し前でしたっけ
﹁やっぱり知らないか。まあムンドゥスマギクスには絶対に情報やら
ない方が正しい案件でもあるしな﹂
50
ますが⋮⋮。
﹁うーん、まあ古さで言えば闇の福音の方がずっと上だけどな
だけどな﹂
﹁5年前⋮⋮。何かありましたっけ⋮⋮
﹂
﹁まあ原因ははっきりしてるのさ。5年前に起こった、ある事件なん
﹁尚更可笑しいでしょう。なんでそんな人が、﹂
て無い﹂
年齢も普通の人間と変わらんし。本人そのものに歴史や由来は大し
?
言うほど大規模な事件が起こったかと言えば、恐らく近年で一番の
?
?
私の反応に納得の様子で頷く宍戸さん。
苛つきますのでとっとと説明しやがってください。
﹁││5年前のことだ、ゴバンだったかヴォドーだったか、2人の魔王
を同時に片手間で誅殺したんだよ。柊さんは﹂
││はぁ。
﹁日本にやってきていたのがぶつかり合っていて、呪術師とかがどう
対処すればいいのかわからなかったらしいんだがな、丁度居合わせて
叩き潰した。
片方は〝権能〟の一切を剥奪されて無力化されて、もう片方は塵一
つ残さずに磨り潰された。そのついでに〝まつろわぬ神〟というも
51
のが顕現する世界的なシステム異常を修復して、以降一切の﹃魔王﹄は
生まれていない。
神様も安心して顕現できる世の中を造った。それが柊 紅が最強
と言われている一番の所以だ﹂
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮あの、かんぴおーね、とか神様とか、正直
話が全く見通せないのですけれど﹂
神様とか、⋮⋮この人本気で言ってますか
があっても可笑しくなかったろうからな。特に元老院と魔王が癒着
⋮⋮そうでなかったとしたら、余計に災害認定されそうな化学反応
してゆくのが﹃正義の魔法使い﹄だもんな。
る存在が、好き勝手に人の命で戯れる、なんて事実を知ったら、突貫
事情が行き届かないように、世界ぐるみで隠蔽し合った。神に匹敵す
事情の一切をひた隠しにしたんだよ。魔王についても、互いに互いの
││だからこそ、こっちの各国政府は魔法世界にこれらにまつわる
﹁まあそうなるよなー、神仏の存在を認識できないのが魔法使いだし。
?
なんてされた日には、政府は目も当てらんねぇだろ﹂
言われてみれば納得の理屈ですが⋮⋮。
しかしそれにしても件の﹃裏事情﹄には納得がいきません。神様と
一概に言われましても、魔法使いには認識できない、と言われてしま
えばどうすることもできなさそうですし。
﹁まあ、柊さんの危険度はそれ以前から各国政府に通達があったんだ
けどな。宝具を製作できる魔女だ、って12の人王から﹂
﹁タイム﹂
思わず待ったをかけました。
はい、それも初耳です。
﹂
ですよ。説明する気ありますか
﹂
?
52
﹁人王ってなんですか﹂
﹁この世界を12に分割して各地を守っている12人の王様。人類の
平穏を守っているからそう呼ばれてるんだが││﹂
﹁⋮⋮そんな存在、聞いたこともありませんが⋮⋮﹂
﹁当たり前だ。魔法使いに聞かせられるかよそんな事情﹂
と魔法世界の根幹に微
一応12の聖地ともリンクしているからゲートの設置の際には数
代前の人王が関わってるんじゃねーのか
妙に関わる憶測をさらりと語られます。
﹁まだ聞きたいのか
柊さんとやらですね。そっちから片づけておきたいです﹂
﹁⋮⋮まぁ、そっちは一旦保留にしておきましょう。それよりまずは
られていないのでしょうかねぇ⋮⋮。
⋮⋮なんで社会の裏側的存在の魔法使いが、この世の裏事情を教え
?
﹁というか、さっきから比較対象が縁遠すぎて一切理解できてないん
?
人王とか神とか魔王とか、魔法使い的には正直眉唾です。
﹁わかりやすい例えが欲しいんなら、丁度いいのがあるぞー﹂
そんなやり取りの果てに、そらさんが手紙を読みながら口を挟みま
した。
﹁獅子目言彦に勝てる安心院なじみ﹂
﹁いるわけないでしょうそんな存在﹂
いたとしたらストーリー破綻どころじゃねーですよ。
私のツッコミがお気に召さなかったのか、そらさんは再び手紙に没
頭します。
﹂
まあ﹃本﹄の種類ごとに検索対象は別個になるんだけど、魔法
53
││と、思いきや、いつの間にかアーティファクトを取り出してお
りました。
﹁あれ、何してるんですか
て手に入れたアーティファクトならばご覧の通りー。検索ワードさ
﹁本来なら絶対に載ってるはずがない情報でもー、この本契約によっ
ねーですよ。他の乗客のSAN値がヤバス。
││って、魔導書の類をこんなところでお気楽に開封するんじゃ
片手間にパラパラ捲ります。
使い方手紙に載ってねーんだよ、と魔本﹃ラブクラフトの書架﹄を
││起動、偽典・ナコト写本。﹃柊紅の製作宝具﹄検索開始﹂
い鑑定を。
﹁ん。柊さんからの餞別に宝具級のアイテム貰っちゃったから、ちょ
?
え判れば元老院でさえ捜索出来ない情報すら手元に引き寄せられま
す
!
﹂
﹂
こ れ が 今 な ら な ん と い ち
界限定のゆえきちのアーティファクトの上位互換ってとこかなー﹂
﹁でも、お高いんでしょう
﹁そ れ が お く さ ん 聞 い て く だ さ い よ
﹂
しかも送料無料でもう一冊
今すぐ電話しなきゃ
きゅっぱ
﹁わぉ
!
!
?
ります。
!!
⋮⋮お楽しそうですねぇ⋮⋮。
1980000
?
きません﹂
﹁何がだー
ル詐欺な魔法学校ライトノベルじゃねーんですから﹂
﹁そんなこと言われてもなー。事実は事実だし﹂
劣等生とか解釈違いにも程があるじゃねーですかやだー
と若干
魔法使いを差し置いて人類最強みたいな存在が出張るとか。タイト
﹁件の魔女さんです。いくら規格外だと説明されましても、並み居る
﹂
﹁そんな話はどうでもいいんですよ。それよりも、やっぱり納得がい
イラつかせます。
そらさん。ノリノリでそんな冗談に付き合う宍戸さんとやらが実に
フリップを取り出し、
と法外な値段を提示する
機会が来た、みたいな嬉しさでテンションが天元突破している節があ
そらさんは、あれですね、通販番組で手に入れた便利グッズを使う
!
!
?
に﹂
自体が可笑しいんですよ。実際にぶつかったわけでもないでしょう
存在がいて魔女とやらの一人や二人に勝てない、とか認めていること
﹁大体、貴方は不死者だと言っていたじゃないですか。そんな規格外
そもそも、この人がそういう態度でいるのが、一番腹が立つのです。
ら。
別口に憤慨する私の言葉にも、のらりくらりと呑気な宍戸さんとや
!
54
!
﹁いや、ぶっちゃけ俺の一歩手前で喧嘩を売った吸血鬼の貴族とかい
うガキが簡単にやられたの見ちまったしな。さすがにあれを見て喧
嘩を売る度胸はねー﹂
⋮⋮⋮⋮⋮⋮なんですと
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮マジですか
﹂
﹁マジマジ。アレも不死者っぽかったのに、手も足も出なかったから
なー。こっちが﹃死なない﹄程度で優位に立てるようなタイプの存在
じゃねーよ﹂
﹃貴族﹄というのは流石に聞いたことはあります。
闇の福音とはまた別種の、本格的な吸血鬼の真祖が旧世界には存在
している、と。
そもそも闇の福音が恐れられる下地がこの世界にはありましたか
らね。最初に吸血鬼という呼び名を造ったのが彼女自身ではない以
上、先達とも呼べる存在が居たことはほぼ確定でもありましたし。
⋮⋮というか、それを倒した
﹁⋮⋮一体どうやってですか
真祖の吸血鬼には弱点らしい弱点な
になってきているような気がします⋮⋮。
今更遅いかも知れませんが、ようやく﹃魔女﹄の凶悪さが浮き彫り
?
?
に余ったわけですし⋮⋮﹂
﹁どうやってって、あれは封印⋮⋮か
わけだが﹂
何処の童謡︵幼︶使いですか。
目の前で赤ん坊に戻された
そ、それを倒したとされるナギ=スプリングフィールドの規格外が目
は封印状態とはいえ、全盛期はほぼ〝それ〟状態でした。だからこ
んて碌に残されていない、とも聞きます。実際エヴァンジェリンさん
?
55
?
?
﹁まあ、見てみろ。これと同じようなもんだ﹂
そう言って、││己の胸元を幼女に見せるように肌蹴させる変質者
がそこにいました。
おまわりさん、こっちです。
﹁おい待てケータイを取り出して流れるように110を押すんじゃな
い。よく見ろ、これだよ﹂
えー⋮⋮。相手したくない男性の胸元を覗き見ろとか、なんて拷問
ですか。
しかし、促されるままにチラ見すれば、円形の車輪のような刺青と、
そこに差し掛かる時計の針みたいな紋様が。合わさって時計のよう
な模様となっていて、実に中二臭いスメルが漂います。
56
なるほど。もうじき死ぬのですね、この人。
││名付け親も
﹁こいつは﹃銀の車輪と射止める短針≪アリアンロッド・カーススソレ
﹂
ムニス≫﹄っていうらしくてな﹂
﹁ご自分で名付けたのですか
﹁残念なものを見るような表情で見るんじゃねぇ
対的なアドバンテージが本人らからは移動しない。この時代の﹃魔
はそれぞれがそれぞれのルールを持つ。そのルールに准ずる限り、絶
﹁これはガチで忠告だからな。現代で未だ﹃魔女﹄と呼ばれている5人
情を引き締めて宍戸さんとやらは続けます。
本当に悪趣味なお洒落にしか見えない刺青を服の下へと仕舞い、表
﹁だから魔女を﹃魔法使いの常識﹄で測るなってことだよ﹂
﹁⋮⋮特に魔力らしいものも感じませんが⋮⋮﹂
せるらしい。要するに若返りの術式だな﹂
造ったのも柊さんだよ。なんでも、これをつけると身体的な退行を促
!
?
女﹄ってのはそういうやつらばっかりだ。
そして柊さんはそのルールが多様かつ万能で、だからこそ覆せる隙
が全くない﹃法則使い﹄だ。多様性があるというのが、まあ﹃最強﹄の
要 因 な わ け だ が、そ れ 以 上 に ご 本 人 様 に 容 赦 と い う も の が 一 切 無
い、っていうのがより最大の理由だ。
│ │ 絶 対 に 相 手 を す る な。名 前 を 広 め る な。目 を つ け ら れ る な。
触らぬなんとやらってやつだ、微かにでも目をつけられた瞬間には、
魔法使いっていう人種そのものが根絶すると思え﹂
僅かに、小刻みに震えて俯きがちになりながら、宍戸さんとやらは
語ります。
それは、まるで怪談のような実体験に遭遇したお人のような反応で
⋮⋮ところで私たちはそっちではないのですか
今日1日で酷く警戒心を刺激されました⋮⋮。
お使い〟に使っているとか⋮⋮、魔女パネェ⋮⋮。
というかそんな不死者を初めてのおつかい張りに本当にただの〝
らこその最後の発奮だったのやもしれませぬ。
かも確かめようもないのですが、七武海からも除籍されてしまったか
乗っていった宍戸ジンベエさんとやら。それが本当に本名だったの
なけなしとなってしまったプライドを奮い立たせ、最後に本名を名
へと乗り換えでした。今から柊さんのお宅へと顔出しとのこと。
下してくださった宍戸何某さんは、福岡に到着したところで日向方面
語りの最中からは震えは収まらず、必死な様相となってまで忠告を
×
ありました。
×
×
トラウマでも抱えていたのでしょうか。
×
俺たちは熊本側を通過する予定で﹂
﹁だって俺が近づきたくないし。今日の最終目的地は鹿児島だけど、
?
57
×
﹁柊さんとやらの現在地は⋮⋮﹂
﹁あの人は基本的に高千穂から出てこないらしいから﹂
何処の引き籠り女神さまですか。
というか、お手紙に餞別って、そもそも一体何を戴いたのでしょう。
﹁宝具級の常識外アイテム2つ。片方は刺すだけで造物主も倒せる代
物だね﹂
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮えっ﹂
︵震え声︶
そ、それは暗に﹃完全なる世界︵うちの組織︶﹄を潰してこい、とい
う魔女さんからの脅迫ですか
﹂
﹁いやいや。というよりは俺のやろうとしていることをお見通しだっ
たみたいで、本当にただの餞別みたいよ
﹁ますます安心できません﹂
のでしょうか。一言で承諾されてしまって会話も終了です。解せぬ。
ル系無口キャラのペルソナがそらさん側の認識に張り付いたままな
割かし精一杯のアピールのつもりでしたのですが、普段からのクー
﹁そ﹂
ど、私は﹂
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮まぁ、いざというときにはそらさんの側につきますけ
と。
というか、気分的に敵対したくないのは⋮⋮実力差以前の心情か
⋮⋮でも今更ですし、私でも勝てるかどうか⋮⋮。
れてしまっていました。
私が今現在うちの大首領の命を狙っている人物をわざわざ引き入
?
しかし、それなのにやや満足気分な私のこの心情は何なのでしょう
58
?
か。
むぅ。惚れた弱みでしょうかね。
﹂
いやはや、私も丸くなったもので││、
﹁闇に呑まれよ
﹂﹁あれ
││はい
﹁は
﹁︵ドヤァ︶﹂
﹂
?
決めポーズしています。
思わず呆気にとられて││って、蘭子ちゃん
じゃないですかこの娘
ふたりは百合キュア、毎週見てます
﹁⋮⋮なんでいるの
﹂
私はビブリオンではなくて裏番組派ですので。
!
?
んがこんなところに
﹂
幸子ちゃんまで現れました。
﹁だからそれはこっちの台詞だよ輿水﹂
!?
ユリブラック役の娘2人が同時に生で見られるなんて⋮⋮
!
﹁ちょ、神崎さん、いきなり大声は止めた方が⋮⋮って、なんで烏丸さ
たのですか
けれど私的にも別の疑問が⋮⋮。この娘、こんなキャラクターだっ
まあ、当然の疑問でしょうけれども。
と、硬直が溶けて最初にそう答えたのはそらさんでした。
?
神崎蘭子ちゃん
⋮⋮なんか、座席の横にドヤ顔な銀髪ツーサイドアップの美少女が
!
?
?
?
59
?
宍戸なんとかさんが現れた時は1日最低な気分にさせられたとこ
ろでしたが、この邂逅ですべて払拭されましたね。
キャー、サチコチャーン
60
!
⋮⋮ところで、なんでそらさんはお二人とお知り合いっぽいので
しょうか
?
幼女千雨、公式バグと邂逅する
﹁││と、蘭子ちゃんの出身である熊本へと里帰りも兼ねて夏休みの
小旅行と洒落込んでいたお二人と別れた後は、種ヶ島へ赴いてロケッ
﹂
トにて火星まで出発ですよ。コメットブラスターというお人らには
お世話になりました⋮⋮﹂
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮もう、おなか一杯なんですけど⋮⋮
遠い目をしながらこれまでの経緯を語られたのはいいが、あまりに
もアクロバティックな行程に思わず瞳を伏せて絶句してしまう。
⋮⋮6号にもうちょっと優しくしてやれよ烏丸ぁ
原作通り、と書けば聞こえは良いように見えるから不思議なのだ
が、お尋ね者扱いをされてしまうこととなったアタシら麻帆良一行は
身の振りを選択せざるを得なくなった。
とはいうものの、元より目的地でもあったアリアドネーに用がある
者もいることなので、そちらはそちらでまた後ほどばらける予定でも
ある。
暇となってしまった残る薬味教師・黄昏の姫御子・半デコ微百合剣
士・恋愛スナイパー・麻帆良のピーピングトム・ニート予備軍のアタ
シ ら は 日 本 へ 帰 る た め の 情 報 収 集 係 と し て 活 動 開 始 だ。は っ き り
言って目立つこと間違いなしなのだろうがそこはそれ、原作の通りに
年齢詐称薬と認識阻害の合わせ技でちょちょいのちょい、と。
今ここに、魔法幼女ちうたんが爆誕した⋮⋮
││そこ、変なの生まれたとか言わない。
受け入れる、とか言っていた気がするので匿ってもらえば一番安全な
方針なのかもしれないが、学ぶ意思自体がありそうなのは綾瀬程度な
ので事案は却下。アタシらは其処まで魔法界に沈着する気は無いの
である。
そして薬味教師もまた年齢詐称をやって身を隠す、のかと思いき
61
!?
!
アリアドネーは聞いた話だと、学ぶ意欲があるものならば犯罪者も
!
や。⋮⋮どうやら以前に魔法界に来た時に本名を大人Verの姿で
﹂
名乗ってしまっていたらしく、そちらはそちらで却下となっていた。
これなら僕だってばれませんよね
いったいどんな姿になるつもりなのだろうかー。
﹁見てください長谷川さん
!
﹂
むしろ土へ還れ。
﹁綾瀬はどういうチョイスをしたんだよ⋮⋮
﹂
コーディネイト担当のデコ娘に物申したい。
お前の仮契約相手だろうに、この有様はどういう了見なんだよ
⋮⋮っ
と
薬味教師は大人Verとなって路地裏より現れたのだった。帰れ。
で。
幼い少女の傍に居れば、即座に警備兵へと通報が行きそうな格好
胸元、極めつけはとんがったサングラス。
ピンクのモヒカン、ぼろぼろのメタルジャケットでガッツリ開いた
出てきた姿が、正直目立ちすぎてどう仕様もない。
なんでも何もないわ。
﹁何でですか
動してくれるか﹂
﹁ああ、そうだな。それじゃあアタシらと十メートルくらい離れて移
!
!?
!?
ケメンでは認識阻害も働きかねますので、いっそのこと絶対的に声を
かけられない姿を目指してみたらこうなりました﹂
﹁別の意味で声かけられるぞ。日本なら特に﹂
なのは確実だ。
警察とのエンカウント率が無意味に高そうな装備を、これでもかと
チョイスしやがる。表に出て数歩で職質待ったナシ
!
62
!?
﹁ネギ先生の大人Ver、正直無駄にカッコいいのですよ。あんなイ
!
ちなみに、アタシ以外の情報収集係は真っ先に狙われているこの薬
味教師との同行をさり気に拒否していた。
ねぎーん⋮⋮︵ ・ω・`︶という表情をしていたアイツを哀れに
みたいで﹂
時間的にも無理があるだろうし﹂
﹁なんだ、そのチートアイテム⋮⋮
?
た。
オノレデ●ケイドぉ⋮⋮︵棒︶。
×
町に根付いて一週間が経過した。
その間に得られた情報は少なくはないが、やはり真新しいものがな
×
やはり最大の原作破壊者は烏丸なのではなかろうか、と改めて思っ
が、そんなものを引き寄せられる時点で可笑しいのは確実だ。
まあ大気圏突入の際に自壊したんですけどね、と付け加えられた
﹂
ね、装備中は本人が認識できない害的影響を全て遮断してくれていた
≪メダル・オブ・ジャスティス≫﹄というものがあったらしくてです
﹁あ、そこですか。そっちは件の柊さんからの餞別品に﹃理不尽の祝福
﹁⋮⋮それでよくガチの宇宙空間を突破してこれたな⋮⋮﹂
﹁ああ、はい。そうですねぇ⋮⋮﹂
なかったよな
﹁あ。それはそうと、6号、お前も烏丸も宇宙飛行士訓練なんて積んで
いのかもしれない⋮⋮。
もうしばらくはグラニクスに滞在する覚悟を決めておいた方がい
なぁ⋮⋮。
⋮⋮とはいうものの、そう簡単に情報が集まるとは思えねーんだよ
い。そんな後悔で歩き出す一時間。
思って同行することを承諾した、数分前のアタシを全力で食い止めた
´
×
×
63
?
まあ、こうなったのは当然かもしれない。
×
いというのもどうしようもない。
1、世界各地の11のゲートは全て不通状態。完全復旧までに2・
3年かかるので、そちらを期待していては夏休み中の帰宅は不可能。
2、唯一破壊されていないであろうゲートは廃都市オスティアに残
されたものくらいだが、オスティアは街自体が無人のために普段は進
入禁止。其処へ赴くためには一ヶ月後の終戦記念祭に足並みを揃え
る必要性がある。
3、但し、遊んでいたのでは所持金は減る一方。旅費と生活費を得
るためには、足がつく恐れのある旧世界通貨との換金を選択できない
ので、働かなくてはならない。
以上の3つが纏められた情報なのだが⋮⋮。
見た目幼女のアタシらをそう簡単に雇うような店はそうそうない
し、むしろあった方が警戒心は掻き立てられる。何の怪しい店なの
か、とか。こう、18禁な不穏な警戒を。
た。
新 人 拳 闘 士 こ れ で 余 裕 の 1 5 連 勝
但し、ピンクのモヒカンスタイルのままに。
⋮⋮これだけは原作通りとは言い難いかなぁー⋮⋮。
64
年齢詐称薬自体は高い代物だが、6号のご厚意に肖っている状態な
のでそっちに関しては心配はしていない。だがそれ以外も世話にな
るわけにいかないのは、真っ当な心意気を持つ学生としては心苦しい
にも程があるのだろう。いや、アタシは原因此奴だから、気にしない
けど。
1対2と
強すぎるぞニューフェイスっ 奇抜な見た目とは
ともあれ、3についてはとっくに解決はしていた。
﹃││強いっ
!
裏腹に、本日も快勝を決めたのはハルハラ・ヤクミ選手
﹄
いうハンデもものともせず
だーーーっ
!
原作の通りに、薬味教師は拳闘士となって旅費&生活費を稼いでい
!
!
!
﹄
ハルハラ選手、何か一言お願いしま
もっと強い相手との対戦を臨むでザー
﹃ヒーローインタビューです
す
﹃相手が弱すぎるザーンス
﹄
﹄
けど⋮⋮、﹃コレ﹄ジャック=ラカンじゃね
⋮⋮アタシの隣の観客席に、フードを被った大柄な男性がいるんだ
﹁ほほぅ⋮⋮、なかなか面白そうな奴が現れたじゃねーか⋮⋮﹂
そう、楽観していたわけだけど、
況に身を落とすこともないだろう。
剣士とスナイパーという護衛が2人もいれば、そうそう危機的な状
の戦力もしっかりといるのだし。
るが、表立って戦う必要性があるのがアイツだけってだけでそれ以外
筆頭戦闘要員がピンクのモヒカン一人なのは心許無いように見え
要なわけでもない。
﹃原作﹄みたいに莫大な金額が必要なわけでも、急を要する強さが必
まあ、何はともかく。
さ、もうちょっと灰汁の薄いキャラにしてほしかったなぁ、って。
いや、キャラクターを作らなくっちゃいけないのはわかるけれども
うん。見て分かったと思うけど、調子に乗ってるんだ、あの餓鬼。
﹃はいありがとうございましたー
ンスよー
!
見てしまったので99%確定の特定情報なわけだが⋮⋮あれ
⋮⋮考えてみればアタシって相手にかかっている認識阻害を無効
?
それは気にはしないけど、見上げた時にフードの下の顔をバッチリ
多分だけど、モブキャラ化したアタシをスルー状態。
だ。
幼女なお蔭で筋肉達磨ご本人からは唯の子供だと思われていそう
女なアタシが思わず見上げるように眺めてしまったのだけれど。
如何にも怪しい風体で、不穏な台詞を吐いてしまっていたので、幼
?
65
!
!
!
!
化する体質だったのだから、別の誰かがアタシらのように認識阻害ア
グ ラ ニ ク ス か ら ア タ シ こ そ 撤 退 し て お く べ き
イテムを使っていても見破れるっている特性持ちなんだよな⋮⋮。
│ │ し く っ た
だった⋮⋮
こんな他人の秘匿個
!
れた日には狙われる要因が更に増えるだけじゃねーかよっ
なんで今それに気づいちまったかなぁぁぁっ
﹂
ど う し た お 嬢 ち ゃ ん、両 手 で 顔 を 覆 っ て 仰 け 反 っ て
⋮⋮賭けにでも負けたか
﹁そ、そうか
﹂
だけですから﹂
﹁っ、いえいえそんなお気になさらず。ちょっと録画予約忘れていた
?
﹁│ │ ア ン
!?
!
人情報を一発で見破れる女が街をうろうろしている、なんてことがば
アタシらが一番身に染みてるんじゃねーか
お尋ね者が普通に闊歩できる街だって、現在進行形で追われている
!
て常備されてるのか
あれ、咄嗟に取り繕ったけど、この世界にビデオとかDVDとかっ
?
今日も勝ったザンスよ∼
薬味教師と目が合った。
﹃ちう殿∼
ちょ、アンタバカぁっ
﹄
!
よりによって今声をかけるんじゃねーよ
!?
ぐ横の筋肉を見上げると⋮⋮、
全力でもってアタシの本能が警鐘を鳴らし、駆け巡る嫌な予感にす
!?
そんな不満はひた隠しに、改めて闘技場へと視線を落とすと、││
な大人が生理的に嫌だ。
あと幼女が賭け事に手を出すかとか、そんな思考回路ができる駄目
だ。
筋肉達磨に、少しだけ引かれたような反応が返されたのが若干不満
?
66
!
?
!
﹂
﹁⋮⋮ほぉう、お嬢ちゃんあのピンクモヒカンと知り合いかぁ。⋮⋮
なあ、ちょいと頼まれちゃくんねーか
×
ほらー、嫌な人に目をつけられちゃったじゃねーかよー⋮⋮。
?
×
×
度の信用性。
用できるのか
﹂という問いに対しては、問題ないだろう、という程
その上で、龍宮の﹁この人が私たちを売り飛ばさないと、本当に信
さん。
だと思われるくらいの信用度とかって正直どうなんだラカンのおっ
ろでの劇的な2人の再会であったのだけれども、初見でその腹積もり
カロガールのパラダイスソングで吹っ飛ばそうかと思っていたとこ
あまりにもうざかった帰りの道中についてきた筋肉達磨を、もうボ
じゃないか、と神楽坂に速攻で見破られていた。
金を巻き上げるために、鍛えてやるとかそんな名目で近づいてきたん
生の勘に則ったらしい口利きだった。のだが、恐らくは溜め込んだ賞
かったピンクのモヒカンが、不完全燃焼っぽいと見越しての本人の野
最初に頼まれたのは、戦闘からして本気でやっているように見えな
まあ、無理もねーよな。
て茶を啜る筋肉達磨の姿に絶句していた。
夕方、路地裏の安宿へと帰ってきた子供の姿の薬味教師は、同室に
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮えっ﹂
なぁ﹂
﹁いよぉーう、待ってたぜハルハラ・ヤクミ。お前がネギだったとは
×
いた。あと同行している6号の存在にも。
というか、神楽坂の記憶が戻っていることに関しては普通に驚いて
⋮⋮魔法界の英雄らの思考回路は、ちょっと理解出来んわ。
?
67
×
更に極めつけは、6号が連れてきてパージした魔法世界の危機を誘
発するであろう核兵器級の危険人物。
そう、烏丸が﹃完全なる世界﹄と手を組んでいる可能性である。
仲間内では何処まで語っていいものか判別が付き辛いので、今はま
だアタシと神楽坂の内に留めている情報なのだけど、やはり判断を下
すには他の意見も要るだろう、と考えておっさんにも伝えてみた。
6号を捕まえて人質交換、などという意見が出されたが、そもそも
人質としての価値が組織間でどんな風に天秤が傾くのかが不明なの
で、アタシと神楽坂より却下される。
あとついでにアタシらの賞金首をどうにか取り下げるお友達とか
がメガロにいないものか、とも尋ねてみる。
要求と相談の多さに、ついにキレられた。
いや、キレたというよりは放棄に近いけど。
そんでその
俺のパートナーとして出るからには無様な戦い方は晒
ついても一旦放置とすることと決めたらしい。
その上で、より良い判断のできそうな奴らに声をかけてやる、とも
そんなの関係ねーな
﹂ってバックれられ
案件自体は請け負った様子も見せるのだから、腐っても英雄といった
ところか。
正直﹁魔法世界の危機
!
捨てられるクズ野郎、とレッテル貼ってマホネットにて情報拡散攻撃
見捨てたら見捨てたで、年相応の女子中学生を見知らぬ世界で切り
かったらしい。
るかとも思ったけど、其処で完全に見捨てられるほどのクズではな
?
68
﹁目標は一ヶ月後にオスティアで開催されるナギ・スプリングフィー
ルド杯だ
﹂
しちゃなんねー 出場権獲得するまで勝ちまくれ
﹂
合間に鍛えてやるからもっと強くなりやがれ
﹁えっ、ちょっ、初耳なんですけどっ
!
とさじを投げたおっさんであったけ
!!!
ど、己が脳筋であることは自覚しているらしく6号についても烏丸に
難しいことはわかんねーっ
!?
!
!
!
仕掛けてやろうとしていたので、そんな手に出る必要性がなくなって
一安心である。
そして溜め込んだ1銭の得にもならなそうな案件のストレス解消
を、薬味教師の修業で晴らそう、という腹積もりかもしれない。
がんばれネギ先生。
負けるなネギ先生。
苦しみの果てに約束された明日があるさ。
69
﹂
まずは一撃撃ち込んでみろ あるんだろ
薬味教師、此処に来てバグを披露する
﹁よぉし
高の一撃ってやつがな
﹁えっ、でも⋮⋮﹂
お前の最
?
﹁うだうだ言ってねえでやってみやがれ
俺はこんなでも英雄だぜ
あったなー、と原作知識に思いを馳せていた。
それについてきたアタシはというと、ああそういえばそんな展開
突然の申し出にネギ先生は普通に困惑。
い出していた。
で、修業をつけてくれると誘ったジャック=ラカンはそんなことを言
街から外れた荒野の果て。オアシスの一角、浅い泉の中ほどに佇ん
!
!
﹂
わかりました
﹂
簡 単 に や ら れ る う よ う な ち ゃ ち な 鍛 え 方 な ん て し て ね ー ん だ
よっ
﹁はっ、はい
!
と集まってゆく。
集束││﹂
光の精霊1001柱、集い
魔法の射手1001矢
﹁ラス・テル・マ・スキル・マギステル
来たりて敵を討て
!
!
けど、そういえば武道会でなんか見た覚えがあるんだよなぁ⋮⋮。
時系列的にはこのまま拳に乗せて、の桜花崩拳。⋮⋮だったはずだ
てゆく。
る。杖を背中へと戻し、集めた光はギュルギュルと勢いよく縮められ
杖の先に集束された光の渦を、杖を引き寄せることで拳へと準え
!
70
!
!
そうして杖を槍のように構えると、魔力の奔流がネギ先生の周辺へ
!
!
?
装填
﹁││掌握
﹂
デルパ≫
術式兵装・天の光は全て星≪スターライト・ア
!
?
いけど。
違うのかよ。
﹂
ラカンのおっさんは首をひねっているが、アタシらからすれば悪夢
ああ、〝あの〟一週間な。
週間〟でなんとか完成形に扱ぎつけたアレです﹂
﹁これはそらさんのダンジョンで編み出した技でして⋮⋮、〝例の一
ウェルの弟子﹄とは一言も聞かなかったしなぁ。
いるのは見たことなかったし、麻帆良で話を聞いてみた時も﹃マクダ
言われてみればネギ先生の腕には闇の証明みたいな刺青が入って
?
﹁マギア⋮⋮
え、なんですかそれ
ともあれ、闇と光が合わさってなんか強そうに見えるのは間違いな
ない。
のまま装填ってことは性質的にはどんなんなってんのか判別が付か
アタシの知ってる知識じゃ雷系を装填していたけど、光の射手をそ
つーかやっぱりそうだったのか。闇の魔法か。
面白そうに頷くおっさん。
隠し手を持ってやがったか。俺の見立ては間違ってなかったぜ﹂
﹁││むっ、マギア・エレベア、か⋮⋮っ
くくっ、やっぱりこんな
見て、ラカンのおっさんは思わず目を見開いていた。
そんな光に包まれて配管工のスター化みたいになったネギ先生を
そう、これだよこれ。
!
﹁違うんかい﹂
?
71
!
と言い換えても可笑しくないくらいの冗長な時間経過だったよ。
しかもその結果を発揮しないままに麻帆良祭は終わったしな。
そんな思い出したくない思い出に浸っていると、ネギ先生が言い辛
そうに言葉を続ける。
お前程度の見習魔法使いが
﹁││で、ですけどね、これ、正直凶悪な性能を持っていますので、そっ
﹂
オメェ俺を舐めてねぇか
ちの岩に打ちますね
﹁嗚呼ン
﹂
?
移動したんだ
の威力で、オアシスの向こう半分が可視光線の波に吹き飛ばされて巻
いや、飛沫っつうよりは瀑布とかって言っても可笑しくないくらい
沫が弾けた。
とんでもない音と共に、岩の反対側のほうから衝撃波のような水飛
││ゴボンッッッ
次の瞬間、
たように見えた。
と思ったのだが、目の錯覚だろうか。岩にずぶりと拳が埋め込まれ
岩に拳が触れた。
││桜花寸勁﹂
﹁では、逝きます。
?
つーか、今の動き水面が全く揺れていなかったんだけどどうやって
の傍へと赴いていた。
言いながら、いつの間にかネギ先生はおっさんを横切って巨大な岩
﹁これはそういうのとはちょっと違うのでして⋮⋮﹂
がるのかよ
修業で編み出したオリジナルスペルで、俺が簡単に倒せると思ってや
?
?
!!!
72
?
き上げられた大量の水がスコールのように降り注ぐ。
イメージ的にはゴ●ラが熱線吐いたのを間近で目撃したような、そ
んな威圧感。
﹂
つか、技の名前違ってなかったか
﹁⋮⋮おい、今のは、なんだ⋮⋮
?
×
答えになってねーよ。
×
×
るのはこれが原因じゃねーかな
﹄
﹁もうあなたがアリアドネーまで来たらいいのではないですか
?
もないのですが、件の様子はココネさんが録画しているらしく、後ほ
まあ、時間の使い方は人それぞれなので私がどうこうと言うつもり
ココネさんを引っ張って街にて遊び歩いているようです。
が、春日さんは夏休みになってまで勉強したくねーと言わんばかりに
期留学生という名目があったのでもとよりこのつもりだったのです
アリアドネーに隠居して一週間ほど、私と高音さんと佐倉さんは短
烏丸先生の魔法学講座がこんなところまで出張できるとは。
﹂
が弱点に発展しない魔法になっている。闇の射手が対極に准じてい
性質変化のお蔭で分かりづらいかもしれないけど、だからこそお互い
るのと同じ理屈だ。相互換性が伴わない光と影の関係性に発展する
いうのは、本来粒子以上の物質性を伴わないはずの光を射手に変換す
﹃あくまで俺の解釈だけどな。影に質量を与えて自在に動かす、って
﹁││なるほど、つまり影魔法とは光魔法に属するものなのですね﹂
×
﹁これが僕の全力の一撃です。一撃必殺、と呼べるだけの﹂
心なしか、おっさんの顔も引きつっているように見える。
?
?
73
×
ど鮫茶先生もといシスターシャークティーへと報告される予定で
あったとココネさんからこっそり教えてもらってしまっている私で
す。
⋮⋮春日さんにも言っておくべきでしょうかね
貴方一体今どこに居りますのっ とっ
いえ、出るとは思わなかったのです。本当ですよ
﹁││というか烏丸さん
んに、どうやって手配書を廃止しろと
﹂
魔法使い。メガロメセンブリアに所属しているわけでもない烏丸さ
いますです。さすがは仕組みをニュアンスのみで説明してきた脳筋
まあ無理もないですけど、その食いつき方は正直どうなのかとも思
高音さんが通話の間に入って叫びます。
! !?
のでした。
帆良での癖が出てしまい、思わず烏丸さんへと電話してしまっていた
仕組みを聞いたところ、返ってきた答えに納得がいかなかった私は麻
そんな高音さんへと、実演してもらったその影魔法術式についての
ておりました。
技術が洗練されているので、生徒の皆さんに頼まれて実技演習を施し
特に高音さんと佐倉さんは私という魔法生徒見習いよりもずっと
ち麻帆良一行。
そんな日常はともかくとして、妙に物珍しい扱いを受けている私た
?
﹄
﹃手配なー、あれ俺はなんも関わってないよ
れるようなことでもしたんじゃねーの
﹂
﹁貴方のいたずらでなかったら一体なんだというのですか
英雄の息子がそう恨まれているはずがないでしょうに
!?
?
﹃英雄の息子だからこそ、っていう理屈もあるけど⋮⋮、まあ高音さん
!
第一、
ネギ君がなんか恨ま
携帯から繋がっているのでしょうか。超さんの技術って凄いですね。
というか、魔法界には電波は届いていないはずなのに、どうやって
?
?
74
?
とと出頭してきて私たちに懸けられた手配を解除しなさいっ
!?
﹄
にはわからないだろうからいいや。ともかく俺には無理よ。潔く出
頭を促したらどう
﹂
﹄
﹁そんな不当逮捕をあんな子供に経験させると
﹃ハハハ、高音さんブーメランって知ってる
?
ね。あとついでに言うとネギ先生は不法入国です。
というかいい加減に携帯返すです。
﹁ともあれ、烏丸さんは何処にいらっしゃるのですか
も別行動となると、心配にはなります﹂
﹃オスティア﹄
﹂
?
﹃それより、そっちはどうだ
友達できたか
﹄
?
﹃詳しく﹄
﹁仲良くなりましたよ
?
ろウサギというよりは垂れ耳の犬科の可能性も、って速いですね
名前はコレットというのですがあれはむし
﹁なかなか楽しいです。ウサギ耳の獣人の女の子と││、﹂
?
えーと、オスティアって何処なのでしょう。地図は、と。
か
そういう事情でしたか。実験となると、やはり術式の実験でしょう
所在が割れました。
高音さんから携帯を返してもらい疑問を挙げてみると、割と簡単に
﹁はあ、そうでしたか﹂
よ。実験兼ねてるからこっちは移動できないんだよ﹄
﹃だから、オスティアにいるから、直接会いたかったら其処まで来な
﹁││はい
6号さんと
そういえば、麻帆良祭では未来の時間軸でネギ先生捕まってました
!?
?
はないですよ
﹂
﹃そ、そんなことねーし、ふつーだし﹄
!?
75
?
前から思ってましたけど烏丸さんのバニーに対する情熱って尋常で
!?
?
﹁アキラさんのアーティファクトチェンジ時の衣装を思い出してから
言ってください﹂
﹁まるでご兄妹みたいな会話してますね﹂
﹁確かに⋮⋮﹂
地図を探しながら通話していると、佐倉さんと高音さんが後ろの方
で何やら余計なことを言っておりました。
×
うるっせえんですよ、ど素人が。
×
×
但し移動術はなかなか思うようにいかないらしく、その状態で一部
ると言われてしまった。なんというread or dead⋮⋮。
ろうと思えば人体をすり抜けて心臓を鷲掴みにすることだって出来
さっきのも、岩へ拳が染み込んだのは錯覚ではなかったようで、や
態のネギ先生は物理&魔法を大体すり抜けられるらしい。
ともかく成立した術式は戦闘力よりは生存力へと特化し、
﹃光化﹄状
る方法も確立してゆくものなのだろう、とは烏丸の弁だ。鬼か。
いていたので、体感時間はのべ6ヶ月。半年もかければ中で生き延び
一週間でも、中じゃ確かその24倍の時間経過があった、とその時聞
同化する方向へと術式を組み立てたらしい。ちなみに外からすれば
先生の説明によれば、〝あの〟一週間で光の魔法を掌握し取り込み
も成長速度可笑しいとは思っていたけど、こっちでもこんなかよ。
つか烏丸もバグっぽいけどネギ先生も大概バグってるな。原作で
ネギ先生の解説を聞いて、納得したようにうなずくおっさん。
﹁ほほー、大ーきく出たな﹂
にこの状態の間は無敵です﹂
﹁はい。粒子と波の同時状態を3分間だけ再現出来たんです。ちなみ
﹁なるほど、完全光化、か﹂
×
解除というのも無理だそうだ。足場が無いのなら確かに移動するこ
76
×
とは出来ないし、踏み込みも出来ないのは道理。さっきの寸勁も中に
溜 め 込 ん だ 〝 光 の 射 手 〟 を 解 放 し て 拡 散 さ せ た﹃放 射 拳﹄だ と か
⋮⋮って、普通にレーザー撃ってないか、それ⋮⋮
?
﹂
﹁あと相手の視界のなかに入り込んで内側から爆散させる方法も考え
てはいるのですけど⋮⋮﹂
﹂
﹁何処のバイツアダストだよ。⋮⋮絶対やるなよ
﹂
﹁⋮⋮フリですか
﹁違ぇよッ
?
の。
あ れ か
嵌っちまったか
唱短縮とか、移動法とか﹂
﹁いえ、まだ改良の余地はあるんですよ。持続時間とか、始動までの詠
発する。
おっさんもそう思ったらしく、質問したところへネギは否定の意を
つーかこれ、修業する意味もう無いだろ。
⋮⋮傍にいたくねぇ⋮⋮。
ち な み に そ う な っ た ら ご 本 人 が 爆 散 す る 可 能 性 が 大 な わ け だ が。
ビスみたいに暴発するんだろうか。
光化状態のネギ先生がくしゃみをしたら、やっぱり原作の読者サー
うわ。
6ヶ月の弊害がこんなところに出ていて涙を誘
半 年 ダ ン ジ ョ ン に 籠 っ て い る う ち に 思 考 形 態 が 型 に
つうかなんでこの子一撃必殺かつ完全勝利型の戦法を選択してん
い人間兵器が生まれてたよ。若しくは人間爆弾。
味方なら頼もしと言えるかもしれないけど、傍に居るだけで恐ろし
つーか聞いててどっと疲れが出た。
た。
に、脱力しつつ呟くと耳聡く尋ねられたので思わずツッコミを入れ
一通りの﹃出来ること﹄を嬉々としておっさんに説明する薬味教師
?
?
77
!
?
﹁あー、足場が無いも道理らしいしな。そこは確かにネックか﹂
﹁ついでに言うと今の持続限界時間の3分を超えると拡散してゆく恐
れがありますので、途中で魔力や魔法を充填することも出来ません。
状態が無敵の代わりに地の力だけで動くことを強いられています﹂
﹁駄目駄目じゃねーか﹂
子供の膂力で何が出来ると思っているんだろうか、この薬味教師
は。
そして制限時間が3分って。光の巨人かお前は。
あと本当に光の巨人なら問題はないのだろうけど、ネギ先生の場合
は人間の子供程度の大きさだ、というのも問題点ではある。
ぶっちゃ
時間いっぱい攻撃を相手が避け続けたら、普通にネギ先生の負けは
確定するわけだし。
││ということが気になったので、挙手。
なんだろうか。学園長からして人外っぽいし。
そんなアタシの疑問は聞かなかったことにしたらしく、ネギ先生は
話を続ける。
﹁││ま、まあそうならないように、最終手段として体内に残った光の
78
﹁逃げる相手を追う、っていうシチュを考えているのか
けそのままだと先生〝だけ〟が生き残るぞ﹂
?
人へ戻れなくなる恐れもありそうですし⋮⋮﹂
﹁⋮⋮人外の一人や二人、今更増えたところで問題なくないか
﹂
﹁えっ﹂
﹁えっ
﹂
発達なのがやはり改善点ですね。あんまり連続して使っていますと、
沿えば瞬動以上のスピードも出せることは出せますけれど、肉体が未
﹁活動中は光の射手をがんがん消費してゆくのでその流動の方向性に
?
ぶっちゃけ、麻帆良そのものが人外の巣窟に思えるのはアタシだけ
?
﹂
射手を集中放射する必殺技も考えてはあります。⋮⋮見ます
﹁見せたいんだろ
﹂
?
﹁││行きます﹂
﹁いつでも来いッ
は あ あ あ あ あ あ ⋮⋮ っ と、中 国 拳 法 の 構 え か ら、何 故 か セ ク
先生が告げ、おっさんが応える。
﹂
今度の技は受けさせても問題ないらしい。
構えを建てる。
何処かわくわくした様子のネギ先生は、そんなおっさんと対峙して
仁王立ちで構えるおっさん。
?
!
シーコマンドーのような雰囲気が発せられている珍妙な気配。
﹂
広げていた手を腕を、ゆらゆらと蠢かせて胸の前でクロスさせ、目
を、見開いた。
﹁││エターナル・ネギ・フィーバーッッッ
﹁││ちょっ
﹂
そして振り返るネギ先生。ドヤ顔である。
さすがのアタシでも一拍遅れた。
﹂
ジャック=ラカンは光に飲み込まれて消えた。
に広げて、全身から光の奔流が放射。
叫ぶ、と同時に腕を〝特保〟のピクトグラフみたいな大の字ポーズ
!!!
おっさん消えたぞ どこ行ったおっ
79
!
!?
﹁どうですか
﹂
!?
!?
?
﹁どうですかじゃねーよっ
さん
!?
慌てて水辺へ分け入りツッコミを入れた。
││が、心配は他所に、瀑布と擬似スコールで見えなくなった泉が
晴れたそこには、ラカンのおっさんがしっかりと立っていた。
﹁よ、よかった、無事だったのか⋮⋮﹂
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮﹂
さすがのおっさんでも死んだかと思った。
⋮⋮⋮⋮⋮⋮って、なんか反応無いな⋮⋮
?
﹂
先生もまた怪訝に思ったのか、近づき、下からおっさんを覗う。
し、死んでる⋮⋮っ
はっと、目を見開いた。
﹁⋮⋮っ
80
!
いやいや、嘘だよな
?
嘘ぉ
⋮⋮⋮⋮⋮⋮え
?
!
!?
幼女明日菜、宇宙の法則を悟る
﹁いやー、死ぬかと思った﹂
ハハハ、と豪快に笑いながらジャックがお酒を飲む姿を遠目に見
る。
昼間から飲むのは相変わらず変わってないみたいね。
というか帰ってきたのだったら千雨ちゃんは手伝ってほしい。
11番テーブル注文よろしくねー﹂
正直人手が足りなくってちょっと、てんてこまいというか。
﹂
﹁アスナちゃーん
﹁はーいっ
て、この町の治安が悪いとはとても思えなかったりする。
ミの国とか、周囲の人たちを見ているとそっちの印象ばかりが際立っ
というとテーマパークによくあるレストランみたいな認識だ。ネズ
酒場と言っても昼の間は親子連れだって食事に来るので、どっちか
たので断言はできないのだけれども。
んな風になっているのかを判別する材料には残念ながらならなかっ
子やっていた程度の世間ずれしたものばかりだから、認識の違いがど
働くことは何処も可笑しい認識はないのだと思う。私の記憶は姫御
ネギが麻帆良じゃ先生やってるんだから、魔法使いの世界では子供が
労働基準法がどーの、って千雨ちゃんは言っていたけど、そもそも
になって、なのだけど。
ぎるので、6号ちゃんに用意してもらった年齢詐称薬で全員幼女の姿
的に働かせてもらっている。とはいっても元の姿だと悪目立ちが過
拳闘士として戦うネギ以外の比較的暇な私たちは、この酒場で基本
少し怖い。
舌っ足らずな声音が自然と口から出るが、もう慣れてしまったのが
!
特に私たちが働くようになってから、このお店のお客さんがやたら
81
!
と増えたとかってクママチーフが言っていた。お客さんたちはみん
な優しくて、私たちが働く姿に決して笑顔を絶やさない。
此処って本当に拳闘士の町
﹁はわぅっ
あの人の嗜好がどうあれ、何気ない紳士の集まるグラニクス。
言っていた。
たりは、ひょっとしたらツンデレなんじゃなかろーか、って朝倉が
しては例外的な人だけど、直にお礼を言われるとそっぽ向いているあ
関しては一番お世話になっていたりもする。笑顔を絶やさない、に関
特にトサカさんはぶっきらぼうだけど、私たちの失敗のフォローに
ああやって、すぐに他のスタッフの人に手助けがもらえる。
﹁⋮⋮いいから気にすんな。早く行け﹂
﹁は、はいっ、ありがとうございますトサカさん﹂
客さんに謝ってきな。ドリンクのサービスも忘れんじゃねーぞ﹂
﹁あー、いい、いい。こっちの片づけは俺がやっとくから、おめぇはお
﹁あぅぅ、す、すいません⋮⋮﹂
﹁おいおい、まーたおめぇかよセツナ﹂
でも大丈夫、何故なら││、
言ってた。
くって動きに支障が出ているって、言い訳みたいな理屈を本人たちが
るほど自身を鍛えぬいた2人。だからこそ、自分の距離感が掴めな
んで、二番目が龍宮さん。麻帆良四天王と呼ばれるまで武道に精通す
手脚が短くなったことで一番弊害を患っているのが実はせつなさ
あ、せつなさんが〝また〟配膳ひっくり返した。
﹂
ならず者の集まるところ、とかって聞いた気がするんだけど。
?
なるほど、今ならそらの以前に言っていたことも理解できる気がす
る。
82
!
これが﹃可愛いは正義﹄という宇宙の法則の恩恵なのかも、⋮⋮何
×
言ってんだ、私。
×
×
バカっぽさは嫌いじゃねーが﹂
﹁そ、そうでしょうか﹂
﹁ああ、ある意味ナギよりバカなんじゃねーのか
﹁父さん以上⋮⋮﹂
?
らな
いけど。あ、さすがにえっちな要求がある店にまでは発展してねーか
駄目な部類だ。まあ中身は中学生だし、元の姿に戻ってもやや犯罪臭
絶対にお目にかかれねー、ってより犯罪臭が香ばし過ぎて実現したら
つーか見事にロリータ喫茶になってるな、此処。現実世界じゃまず
たのはおっさんの意思であってアタシの責任じゃない。
いや、大人Verだとしても酒を飲むつもりはねーから。此処に来
んねぇ。
な。今のアタシは幼女じゃねーから、この酒場の雰囲気には合わせら
神楽坂にちょっと手伝ってほしそうな視線向けられたけど、悪い
タシのせいじゃない。
オアシスから帰ってきて世話になっている酒場に直行したのはア
ファザコンも此処まで極まると気持ち悪ぃな。
味教師大人Ver。
ほめ言葉に聞こえねーよ。なのにちょっと嬉しそうにしている薬
﹂
﹁しっかしまあ、お前ぇも碌でもない術式を考えるもんだなぁ。あの
×
光に呑まれたラカンのおっさんはどっこい生きてた。まあバグが
服着て歩いているようなおっさんだから、そう簡単に消失したわけは
ないと思っていたけどさ。それにしたってそこを脅かすネギ先生の
今の実力が、少しばかり異常な領域に達している気がする。
83
×
それはそうと、修業の話だ。
?
﹁﹃あの状態﹄だと瞬動は使えないんだよな
それを踏まえても遠距
離の相手を撃墜することもあのビームで出来るということか。やる
じぇねーか坊主﹂
﹁まだ改良の余地はあると思うんですけど⋮⋮﹂
﹁いやいや、大したもんだよ。この俺に片膝をつかせたんだからな。
効いたぜ、あの一撃は﹂
べた褒めだ。⋮⋮なんか、怪しーんだが。
﹂
﹁お前になら、聞かせても大丈夫かもしれねぇな。⋮⋮20年前の戦
争のことを﹂
﹁││っ、それってもしかして父さんの⋮⋮
﹁但し、情報料として100万ドラクマ請求するが﹂
続いた台詞に盛大にすっころぶネギ先生がいた。こういうところ
は漫画っぽい。
アタシもまた、思わず顔が引きつるのを感じつつも、
一応は勝った
あ ん な ん で 勝 ち と か 調 子 に 乗 っ て も ら っ ち ゃ 困 る
﹁べ、別に只で語ってやってもいいいんじゃねーか
んだし﹂
﹁は ぁ ー ん
?
なー﹂
こんなバカな要求に乗る必要もないと思うし、ネギ先生や朝倉はと
もかく一緒に魔法世界まで付き合っている他のメンツがわざわざ聞
くようなことがあっただろうか、とも思うので情報料とやらの値下げ
を狙って口を開く。
││前に、
84
?
!
な ぁ ー 俺 は あ そ こ か ら の 反 撃 の 手 段 だ っ て 思 い つ い て い た し
?
小学生かお前は。
?
﹁わ、わかりました﹂
薬味教師は承諾してしまっていた。
いや、お前そんな金何処に持ってんだ
﹂
お支払いいたしますからその
時には父さんのことをしっかりと聞かせてもらいますからね
金、占めて100万に届くはずです
の取り分、そしてエントリーに至るまでに釣り上がるであろう掛け
﹁一ヶ月後のナギ=スプリングフィールド杯、そこでの優勝賞金の僕
?
ろ
﹂
﹁はいっ
×
⋮⋮まあ、アタシらに被害が及ばなけりゃどうでもいいけどな。
界の神みたいな表情で嗤ってやがるぞ。
おい、気付けネギ先生。そこの筋肉達磨、
﹁してやったり﹂って新世
⋮⋮呆れてものが言えねー。
﹂
﹁ほぉう、随分といい啖呵を切るじゃねーか⋮⋮。よぉし、やってみせ
!
!
×
×
な ん だ っ て こ ん な と こ ろ ま で 来 な き ゃ い け な い の
×
﹂
﹁あ ー も う
よーっ
×
!
いつまで待っても帰ってこないバカネギを私が迎えに
来ないでどうするっていうのよ
!
﹃夏休み﹄になったって葉書にはあったのに一向に現れないネギに
それに日本には前から来てみたいとも思っていたし。
!
があるわ
割には呼ばれたわけでもないけど、⋮⋮年長者としての立場ってもの
いや、何故かというか完全に幼馴染のせいでもある。せい、という
七月末日、私は何故か日本に来ていた。
!
85
!
!
対するネカネさんの心配も理解できるし、来ること自体は吝かじゃな
いのだ。
⋮⋮問題はそのボケネギがいるはずの住所に、知らない男の子が住
んでいたってだけで。
オーシバとか言ったその人の話では、ネギはいつもは森の中のログ
時には泊まり込みの日もある
ハウスで修業をしているとか言っていた。
魔法の修業をしているってこと
要領を得なかったけど、修業しているくらいならまず帰国しなさいよ
から、長期の修業の可能性もあるとか⋮⋮。なんだかあの人の話じゃ
?
そうして森を歩いて一時間。
迷子
﹂
│ │ 夏 場 に 徒 歩 は き つ い わ ⋮⋮。と、木 陰 で 立 ち 止 ま っ た と こ ろ
へ、
どーしたのお嬢ちゃん
おっぱいもおっきいしまず間違いなく敵の
?
﹁││およ
何このお姉さんは
開口一番に失礼な人が話しかけてきた。
?
×
×
﹂
同じところに用があるみたいで、ログハウスまでの道すがら雑談を
するわ。
ユーナにアキラにアコにマキエかー。そういえば写真で見た気が
通りがかったのはネギのクラスの生徒さんたちだった。
﹁そ、そう
﹁あー、えーよ無理して敬語にしなくっても﹂
﹁そうよっ、あ、いや、そうです﹂
﹁ほほぉー、ネギ君を迎えに来たのかーアーニャちゃんはー﹂
×
部類⋮⋮って、後ろの人たちも含めて何処かで見たような⋮⋮
!?
×
?
?
×
?
86
!!
かわす。
ケンタイカイ、というのがあるていど終わったので、麻帆良に取り
残されているログハウスの主が寂しがってないか見に来たのだとか。
なんか悪趣味ね。
まあ言葉にしているほど本気で悪気があるわけでもなさそうで、い
たずら程度の意気込みでいるみたいにも見える。
仲がいいのかな
それはそうと、気になるのはネギの現状よ
ら帰ってこないんじゃないでしょうねぇ⋮⋮
長者としてっ。
?
﹁と、ところで、ネギの様子はどうなの
きちんと先生をやれている
こ、これはそれとなく聞いておくべきかもしれないわね。そう、年
!?
あのバカネギぃ、ユーナやアキラみたいな巨乳のお姉さんがいるか
!
?
﹁そうだね。まだ失敗も多いけど﹂
﹁そこは10歳なんだししょーがないってー﹂
﹁せやね。けど、覗き癖のほうは今のうちに矯正しとらんと、後々大変
なことになりそうやけどなー﹂
の、覗き⋮⋮
﹂
﹁あっ、いっ、いやいや
ねっアキラ
あれはほんと事故みたいなもんだから
!
﹁え、えと、今最後とんでもないこと聞こえた気がするんだけど⋮⋮﹂
?
!
﹂
まだ10歳なんだしわたし達も気にしてないか
!
﹁さすがにダークネスなことまでにはなっとらんし、増長する前にお
らさー
﹁だ、大丈夫だよ
だけなんだよ、きっと﹂
﹁えっ、あっ、うん。そうだね。多分某ラブコメの神とかに呪われてる
!
87
﹂
のかしら
?
んー、まあ頑張ってるよー﹂
﹁ネギ君
?
!
祓いを申請しとくわ﹂
さっきからなんかアコの発言が辛辣に聞こえる。
あれがそう
﹂
じ、実は嫌われてるのかしら、ネギって⋮⋮。
﹁あっ、見えてきたよ
うん。とりあえずネギと会ったら一発蹴っておけばいいか。
ウスを指さしていた。
話を切り替えるためだろう。ユーナが木々の隙間に見えるログハ
!
﹂
話を切り替えてくれたことに感謝しつつ、私たちは小屋へと足を踏
み入れた。
﹁エヴァちゃーん、元気してるー
﹂﹂﹂﹂
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮あー⋮⋮﹂
﹁﹁﹁﹁どうしたのっ
?
子であった。また女、って思っている場合じゃないっ
×
!?
中に居たのはうつろな目で虚空を見つめて空返事する、金髪の女の
!?
×
に居ないし、爺や古本と何が悲しくてわざわざ顔つき合わせなくちゃ
ならんのかって思うからこそここ1週間碌に人と会ってない。それ
より何よりソラニウムが足りない。私も魔法界に行くんだった⋮⋮﹂
﹁落 ち 着 い て エ ヴ ァ ち ゃ ん。す っ ご い キ ャ ラ 崩 れ て る か ら。も う 誰
あとそっ
ってくらいに崩壊しきってるから。あと変な栄養素をねつ造しな
いで﹂
此処でボケに回らないでよアキラまでっ
﹁あ、ソラニウムなら私も足りない気分﹂
﹁ええいっ
!
88
!
×
×
﹁暇なんだよ、暇すぎるんだよ、付き合いのあるやつらはみんな麻帆良
×
!
?
﹂
ちの2人も謎栄養素をプリーズミーなんて言った日にはガンズアン
ドローゼスで撃ち抜くからねっ
どうやってるの
た。
て、アコとマキエの2人は︵ ・ω・`︶︵ ・ω・`︶って顔してい
よくわからない単語で脅迫染みたツッコミを入れるユーナに対し
!?
その顔芸
?
´
´
その赤いのは誰なんだ
げていた。
﹁で
?
はっ、そうだった。此処に来た要件を忘れるとこだった
﹂
その最中に、こっちが気になったのか、彼女は私の方を見て首を傾
えさせている。
メイドの女の子たちがユーナのお願いで動き出し、金髪の子を着替
ら
ていうか、魔法界云々ってこの4人の前で言っていい言葉なのかし
るのは私だけじゃないはずだ。
そう捉えると、なんだか恋する乙女みたいで微笑ましいものを感じ
かいう理由以上に、特定の誰かに会えないことが一番辛いらしい。
パジャマのままでうつろな目をしていた女の子は、どうやら暇だと
?
れ戻しに来たわ
あのバカは何処にいるのっ
﹂
!?
﹂
!?
ん﹂
﹁はぁっ
何よそれーっ
﹂
!?
わ、私が暑い中わざわざ此処まで来たっていうのに⋮⋮
旅行で
﹁なんでと言われても⋮⋮、旅行に行っているから、としか答えられ
﹁なんでいないのよっ
﹁なんで喧嘩腰なんだお前⋮⋮。ネギ先生ならいないぞ﹂
!
﹁ウェールズから来たアンナ・ユーリエウナ・ココロウァよ、ネギを連
!
!
!?
89
?
?
すってネギのやつ⋮⋮っ
だったら帰ってくるまで此処で待たせてもらうから
﹂
ウェールズまでとんぼ返りとかなんの
いやなんでそうなる。帰れよ﹂
﹁いいわ
﹁は
﹁帰れるわけないでしょっ
﹂
アイツが悔しがるくらいに日本を満喫させてもらうんだ
拷問よ
﹁わけがわからん⋮⋮﹂
!
放り出すなんて、とんでもないことをやるわよネギのバカ
できるんだって思えば﹂
?
エヴァと呼べ⋮⋮、おい、聞いてるのか
﹂
⋮⋮それにこの金髪の娘、かなりぺったんだし。仲間よねっ
と
﹁⋮⋮今なんか不快な電波を感じたぞ﹂
きっ
﹁オマエラ他人事だと思って好き勝手言いおって⋮⋮。まあいいか。
﹁せやね、一人だとまーたボケ老人みたいになってまうで
﹂
﹁あー、まあいいんじゃないのかにゃー。エヴァちゃんも暇つぶしが
!
というか今から宿を探すとかもう無理だもん。異国で女の子一人
!
人に心配させた罰よ罰
からっ
!
!
!
?
90
!
!
!?
?
!
番外、麻帆良とかの日常
﹃麻帆良忍者、傍観する﹄
うーむ、此処に来るのは二度目でござるが、思ったほど感慨深いも
のは感じないでござるなー。
元関西呪術協会総本山、という炫毘古社︵かがびこのやしろ︶へと
足を運んだ我ら﹃このか殿護衛一行﹄でござるが、拍子抜けするほど
何もなかった道中でござった。
元協会長の娘でも現関東魔法協会長の孫でもあるこのか殿を狙う
者は少なくない、と見ての拙者・月詠・小太郎・刀子先生殿という布
陣であったのだが、結局鳥居を全て潜り終えても何も出てこなかっ
た。
うかのー。
⋮⋮ところで、恰好が以前見た時よりもずっと露出が減っているの
は何某かの心境の変化なのでござろうか。聞いて〝年の所為〟等と
言う悲しい答えが返ってこないとも限らんので聞いたりはせぬが
⋮⋮。
91
これは西の元長が何かしらの手を打ったのか、はたまた学園長の影
響力が強いのか⋮⋮。
ともあれ、そんな小旅行を終えた拙者らを待っていたのは、
﹁あらら、随分大勢できはったんどすなぁ。まあ大したおもてなしも
何故あなたが此処に⋮⋮﹂
できんけど、ゆっくりしていってな﹂
﹁⋮⋮天ヶ崎千草
のときに一緒にぴんちになっていたお人ではなかったでござらんか
刀子先生殿は警戒しているようでござるが、確かあの人は修学旅行
?
敵ではなかったと思うのだが、なんらかの確執でもあるのでござろ
?
﹁あー、千草さん、久しぶりやなー﹂
﹁ええ、このかちゃんも久しゅう。今日は暑い中、京都までわざわざお
疲れ様﹂
警戒する先生殿とは打って変わって、このか殿は完全に心を許して
いるようでござる。
そんなこのか殿の様子に警戒するのも馬鹿らしいと判断したのか、
麦茶が冷えとるから、すぐ用意するからなぁ﹂
先生殿から張り詰めていた空気が払拭されるのが見て取れたわけで。
﹁暑かったやろ
﹁﹁﹁わーい﹂﹂﹂
このか殿・小太郎・月詠の声が見事に輪唱したでござる。
どれ、拙者も力を抜こうかな。
﹂
﹁││と、そういえば、今日の予定を聞いて居らんかったでござるな。
お墓に参るのは何時ごろにするのでござる
つりと使うほど予定が埋まっているのでござろうか
﹁長、ではなくて、詠春様が
﹂
﹁ああ、そういえば他にも話がある、いうておったなー、お父様が﹂
?
このか殿からは墓参りとしか聞いて居らんかったが、盆休みをがっ
ら、ふと気になったことを尋ねる。
以前に大立ち回りをした間では無く、お座敷の居間に通されなが
?
か⋮⋮。
というか、先生殿の中ではこのか殿の御父上は様付けなのでござる
刀子先生殿が疑問の声を上げた。
?
92
?
﹁││⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮は
×
×
殿が。
それはまた、お目出度いでござるなぁ。
おめっとさん
!
ら﹂
﹁ううん、そんなことあらへんよ
﹂
おめでとう父さま、千草さん
﹂
あ、それともお母さま言うた方がええんかな
﹁そっちはゆっくりでもええからね
!
でござるかな。
!
まあ、お祝いだけでも口にしておくべきでござろうな。
というか待ちなさいその結婚
!
﹁ちょ、ちょっと待ってください
﹂
うーむ、良く知らぬ者からとしては、拙者から何か言う必要もない
早くものほほんご家庭団らんが展開されかけているでござるな。
?
?
!
て堪忍なぁ、この人がどうしても自分から話す云うて聞かんものやか
﹁ああ、ありがとうな、小太郎、月詠。このかちゃん、報告遅れてもう
﹁ほんに。おめでとうございますなぁ千草さん﹂
﹁ほんまか千草ねーちゃん
﹂
そして告白した詠春殿のお隣には、恥ずかしそうに頬を染める千草
る。
随分とたっぷりとした間を置いて、刀子先生殿が絶句したでござ
﹂
×
﹁実は私たち、結婚することになりまして﹂
×
!
そんなことを思っていたら刀子先生殿からのちょっと待ったコー
ル。
?
93
?
×
はて ひょっとして詠春殿に恋慕でも抱いていたのでござろう
か
?
﹁天ヶ崎千草
貴女何考えているのですか 元西の長との結婚と
﹂
また古い話を持ち出してきおって⋮⋮﹂
か、反対派筆頭の貴女が
﹂
﹁なんやの葛葉はんは
﹁古いとか言うな
?
何故その単語に憤ったのかはさしてわからぬが。
あと本当に反対派とかって、何の話でござる
よ
いや、別に刀子先生殿のことを言ったわけでは無いと思うでござる
!?
!
て、﹂
﹁でも関西呪術協会って、とっくに解散しておるやろ
話持ち出されても、野暮ったいやないんかなぁ﹂
?
?
﹂
﹁なんでそんな事情知ってるんですかあの子
﹂
﹁ほな、もうあとは若いお二人にお任せにしておこう、っていうことで
⋮⋮。
烏丸殿⋮⋮、本当に色々なところに手を出しているでござるなぁ
予想外の名前が出てきてちょっとびっくりしたでござる。
﹂
﹁その辺りは嵯峨とかが手綱を握っている、てそらくんいうとったえ
術師らへの影響力はそれなりにあって、﹂
﹁、し、しかしですね
解散したとはいえ西日本を主流としている呪
言い淀んだでござるな、あれは。
あ、話を聞かせようとしたこのか殿自身に口を挟まれて思いっきり
今更そんな
呪術協会の融和を崩そうとする反魔法使いを題目に掲げる連中でし
﹁よくお聞きくださいお嬢様。反対派というのは関東魔法協会と関西
?
?
ええんやないの
?
94
!
!?
!?
?
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮ですね。もう、疲れました⋮⋮﹂
沈んだ顔で刀子先生殿はがっくりと項垂れ申した。
なんだか可哀そうになってくるでござるよ⋮⋮。
﹁あ、その烏丸君からの伝言です。関東魔法協会に色々整理が入りそ
﹂
うな気配がするらしいので、夏の間は麻帆良に近寄らない方が賢明ら
しいですよ
﹂
ひょっとして拙者らの出番これだk
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮はぁっ
⋮⋮おや
﹃魔法教授、一枚噛む﹄
﹁お待たせ、夕子さん﹂
﹁んーん、待ってないわよー﹂
語尾に音符が付属しているかの如く上機嫌な彼女、夕子さんに微笑
まれて、自然とこっちの気分も高揚する。
待ち合わせ場所は墓地だが、麻帆良の外でもないと彼女とは会話も
出来ないのだから、待ち合わせ場所に不満などは億尾にも出す気は無
かった。
﹂
﹁あら、目の前に奥さんがいるのに、わざわざ手を合わせる必要あるの
かしら
要な行為だからね﹂
95
!?
?
?
﹁はは、様式美というやつだよ。此処に来たら、どうあってもコレは必
?
云われながら、線香に火を点けて墓石を拝む。
其処には、明石家ノ墓、と彫られてあった。
﹁麻帆良内に用意しておかなくてよかった。そうしたら、キミとこう
して話すことも出来なかったからね﹂
﹁まあ、これも完全に反則みたいなものなのだけどねー﹂
のんびりと会話しながら、透けることのないあの頃のままの彼女の
身体を眺め、その手を自然と掴む。
もう決して手にすることが出来ないと理解して、諦めていた筈の肌
に触れる感触が、思わずじんわりと僕の涙腺を歪めていた。
﹁⋮⋮本当に受肉できているんだね⋮⋮﹂
れた麻帆良の外の喫茶店でであった。
僕としてはてっきり娘との交際に関して何かしらの言い分でも出
てくるのかと身構えていたのだが、彼の口から出てきたのと同席して
いたのは受肉した彼女とその事情に関する簡単な説明。
なんでも、烏枢沙摩明王の眷属として取り成してもらい、今では都
内の清掃業で修業を積んでいるとか。
││目の前に現れられても、何の冗談かと思った。
96
﹁もう、それ何度目よ。神様の眷属になったのだから、そのくらいの恩
恵は貰えているのよ﹂
変わらぬ若々しさで笑い乍ら、死んでいた筈の彼女、明石夕子は僕
×
の感動を何でもないことの様に言い放ってくれた。
×
それが、なんだか無性に嬉しく思う。
×
×
最初に彼女と再開したのは夏休みに入る少し前、烏丸君に呼び出さ
×
いやだって、烏枢沙摩明王とかって完全に闘将神仏だし、神クラス
の霊的存在とか悪魔を除いて顕現した記録なんて魔法世界にも無い
奥さん人間やめてるの
し、その上元妻が眷属
え
ね
⋮⋮いや、かといって娘との付き合いを認めるかどうかは別だけど
まったく、彼にはもう頭も上がらない。
慮して外で会うことを薦めてくれたのも烏丸君だ。
疑問には答えてくれそうもないのだが、その上で麻帆良の結界を考
てその神様と知り合いになったのだろうか⋮⋮。
⋮⋮神様が何でもありなのはまあ認めるとして、烏丸君はどうやっ
僕との面会を烏丸君がお膳立ててくれたのだという。
なので、一時的な受肉を要求して、普通の存在に近しくなってから
認めない魔法使いの前にも顕れることは困難であったらしい。
んみたいな普通の幽霊とかの侵入を防ぐのはもちろん、神族の存在を
落ち着いて話を聞いてみると、麻帆良自体にある守護結界は夕子さ
語らなければ全く信じられることじゃなかったよ⋮⋮。
理解するまで、彼女が僕の目の前で赤裸々に僕らの青春の思い出を
⋮⋮。
とか死後の世界とか、魔法使いは全く想定していない事情だからなぁ
いや、死んでいるから止めてはとっくにいるのだろうけど、眷属化
?
?
娘を手放して堪るか。
あと烏丸君の周りって普通に色々と﹃そういうふう﹄に見れそうな
付き合いも多数あるし。
あとエヴァンジェリンがなんだか完全に烏丸君をロックオンして
そう考えると彼が段々と可哀想に思えてきた⋮⋮。
いるみたいだし。
⋮⋮あれ
をくれと云われた。
なんだかこの夏の間に麻帆良の結界を弄るから、学園結界のデータ
それはともかく、そんな烏丸君繋がりで思い出したことがある。
?
97
?
奥さんは完全に認めているみたいだけど、僕は父親だ。そう簡単に
?
だが、僕にも魔法使いとしての
普通は機密事項なんだけど、弄ると夕子さんも普通に学園に来れる
ようになるらしい。
な、なんという悪魔の誘惑⋮⋮
矜持が⋮⋮
と夕子さん
これ只の天秤で測っちゃダメな問題じゃないかな
そう葛藤していると恩とプライドどっちを選ぶの
!
何故
と思っていたが、夕子さん曰く、彼は極力女の子の知り合
しまった。
わっている電算部所属の夏目君を紹介すると、何故か苦い顔をされて
渡ったとしても問題は無い程度だったので、学園結界の維持にも携
まあ、それくらいなら多少弄られた程度では﹃学園の外﹄の﹃敵﹄に
欲しいのは単純な仕組みと範囲だけであったらしい。
⋮⋮僕の葛藤は一体⋮⋮。
れる。
渋々ながらデータを見せたけど、こういうのは要らないと突き返さ
女の人ってそういうところあるよね⋮⋮。
?
に窘められる。
⋮⋮いやね
?
!
⋮⋮娘の相手として
るんだろうか⋮⋮
暇だ
!
ぬあー
!
それとこれとは別だッ
?
﹃吸血幼女、暇を持て余す﹄
?
⋮⋮しかし、弄ると簡単に言っていたけど、そんなこと本当に出来
!
年頃の男子としては贅沢な注意力だな、と思う。
いを増やさないようにしているらしい。
?
98
?
そらも五月もいない麻帆良で何をやって暇を潰せと言うんだー
そんなことを思いながら過ごしたのは一週間ほど。
最終的に暇すぎて廃人になるところだったが、危ういところで暇つ
ぶしのタネが現れてくれた。
ネギ先生の幼馴染だという、アーニャとかいう小娘だ。
はじめは鬱陶しかったが、妙に世話焼き気質のお蔭でようやく人並
みにはSAN値が回復した頃、折角なので戦闘用魔法を教授してやる
ことにした。
⋮⋮意外と教え甲斐があったのが功を奏したな。
﹁ねー、別荘使いましょうよエヴァー、日本の夏蒸し暑いー﹂
﹁そこに十数年生きている私をもっと敬え貴様﹂
魔法の射手炎の数千をぶっぱさせていたところで不満の声が出る。
避暑地みたいに空気が違う別荘内が随分と気に入ってしまったら
しい。
⋮⋮まあ、埼玉は暑いからな。
だがこの夏はもう使う気は無いぞ。何故ならば使ったところで時
間が無駄に過ぎるだけだからだ
か経っていなかったことを思い知らされた。
暇つぶしのために教えているのに、時間が消費されないってなんの
拷問だ⋮⋮。
﹂
﹁次、魔法無使用の戦闘狂奔に移るぞ。肉体活性と自己暗示の用意は
万全か
そういう状態でも生き残れるように、と矯正中だが、その技術が最
終的に何の役に立つのかと問われないうちに開発を済ませておこう。
99
!
⋮⋮使って三日ほど経ってから気付いて外に出たら、まだ三時間し
!
やややる気が無さそうに、魔力切れを起こした身体で起き上がる。
﹁いえっさー﹂
?
くくく、気づいたときには渾名をキリングドール等と呼ばれ始める
恐怖を実感させてやる。
敵だったら
﹁わたしつよーい、つよーい、すっごくつよーい、くびをきってー、て
戦 っ て 斃 さ れ ろ よ
?
首 ぃ、置 い て
きをたおしてー、がんばれわたしー、なあお前敵だろ
﹂
倒 す べ き だ よ な 戦 え よ
けっ
?
?
﹂
分以上持たせろよ
﹁了、解っ
﹂
と絶叫する小娘。
魔法世界に居るんじゃなかったのか
││っておいぃッ
﹁そ、そらっ
﹂
﹂
う、嬉しいのは分かったから糸をばらけさせたまま走
り寄ってこないで切り刻まれるっ
!?
せると男はつけあがるって雑誌に載っていたじゃないか。
む、い、いかんいかん。落ち着けわたし、あまり嬉しそうな顔を見
!?
﹁うおおっ
!?
!?
そんなことをやっていたらひょっこりとそらが現れた。
﹁何してんのあんたら﹂
ああ、あれも赤いもんな。
!
﹁よし、強化完了だな。糸を掻い潜って何処まで来れるか、今度は十五
犯人はそらだ。半分は。
この小娘に嵌ってしまったらしい。
そらの部屋に在った謎のメモの走り書きを試してみたが、意外にも
妖怪首置いてけ、の完成だ。
?
?
The、ビーストォッ
!
!?
100
!
﹂
﹁ふ、ふんっ、べ、別にお前が居なくたって寂しくなんか、なか、な、
﹂
⋮⋮寂しかったぞばかぁっ
﹁なばっふ
ム摂取のお時間だヒャッハーぁ
⋮⋮﹂
﹁待ってマジで落ち着いて、少年誌に載せらんない顔してる﹂
﹂
×
そんなの知るか。
﹁⋮⋮えーと、エヴァー、修業は中止ー
ほんのちょっとだけ待っとけ。
先っぽ、先っぽだけだから。
?
×
×
﹁く ん か く ん か く ん か く ん か す ー は ー す ー は ー ⋮⋮ は ぁ ん、そ ら ぁ
⋮⋮﹂
﹁お い お い ⋮⋮、3 週 居 な か っ た だ け で な ん で こ ん な ん な っ て ん の
!
鳩尾へとダイブ。鈍い呼吸音がしたけどそんなことよりソラニウ
!!!
褐色系の肌をした白髪。
⋮⋮コスプレ
浅黒い
確かに見た目は黒い。黒いっていうか、完全な黒人系ではなくって
てたから、多分間違ってないはず。
マキエ曰く、優しくないけど良い人だとか。あと黒い人だって言っ
想い人が帰って来たらしい。
エヴァの暇つぶしに魔法の修業をつけられること2週間、エヴァの
×
101
!?
×
いや、悪い人じゃないってマキエは言ってたし、偏見で見るのは間
?
?
違っているわよね。うん。
﹁え、えーと、初めまして、ネギの幼馴染のアンナ・ココロウァです。
アーニャって呼んでください、よろしく﹂
﹁初めまして烏丸です。俺のことはお好きにお呼びくださいな﹂
⋮⋮へ、偏見で見ちゃダメだとは思うけど、ゴロゴロと喉を鳴らす
エヴァを膝に乗せたまま挨拶されると思う処があるわね⋮⋮。
この人って、本当に近寄って大丈夫な人⋮⋮
ていうかエヴァの変わり様が凄いんだけど。
まさか日本に来てウェールズの魔法学校以上の魔法応用技術の使
い手に会えるとは思っていなかったし、修業をつけてくれるって渡り
に船なことを言い出したから教えてもらっていたけど、今更ながらこ
の子に教わっていて果たして本当に大丈夫なのかしら。
!
ていうかドヤ顔うざいし
﹂
!
だ﹂
﹁こんな時ばっかり心を読むなっ
今更だけどわがまますぎるわ、このロリっ子
って、そういえば、
!
!
102
?
ここ数日は魔法と関係ない気がする技術を教えてもらっているし
⋮⋮。
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮﹂
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮﹂
!
喉を鳴らしてないで取り成してよ 共通の
か、会話が続かないぃぃぃッ
ちょっとエヴァ
友人でしょ
!?
﹁友 人 じ ゃ な い。そ ら と 私 は 切 っ て も 切 れ な い 絆 で 結 ば れ た 仲 な の
!?
﹁そういえばエヴァ、アンタカラスマさんのこと色々あたしに愚痴っ
ていたような、﹂
その言い方アンタその男の人と一緒に入るつ
先ずは風呂にでも入ろうか、旅の疲れをゆっくりと落
﹁それでそら。帰って来たということはもう魔法界のことは事が済ん
だのだろう
そうじゃないか﹂
﹂
ソラニウムはまだ充電しきれてないんだー
﹂
おおお女の子がそういうことをするんじゃありませんは
﹁待ちなさいエヴァ
もりね
したない
﹁ええい放せ
謎栄養分を作るな
ていうか話を逸らすんじゃないの
!
てからってことで﹂
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮なん、だと⋮⋮
﹂
なんていうんだっけこういう時、BLEACH乙
申し訳なさそうに答えたカラスマさんの言葉に、絶句するエヴァ。
?
旦帰って来ただけだから、また行かんとあかんのよ。風呂はまた帰っ
﹁あー、ソラニウムがなんなのかはまあ置いといて、ちょっと用事で一
!
!
﹂
まだ時間はあるから続きを聞こうか。エヴァが俺のことをな
んだって
﹁で
﹁えーと⋮⋮﹂
2人の力関係が、アーニャよくわかんない。
項垂れるエヴァに届かない声をかけるカラスマさん。
﹁聞いて﹂
﹁そんな、馬鹿な⋮⋮﹂
﹁ていうか、どうやって帰って来たのかは聞かないのか﹂
?
103
!
?
!
!
!?
?
?
﹂
﹁え。えー、と、旗立男とか、幼女が近寄ると妊娠するからお前は近寄
るなとか、麻帆良の這い寄る混沌だとか
﹁ほほぉ⋮⋮﹂
⋮⋮あっ、これ今更だけど言っちゃダメなやつだ。
﹁エーヴァー、随分と好き勝手に教えてくれたもんだなぁー﹂
﹁ひぎゅっ、ひゃめりょぉ、ほおをひっぱるにゃあー﹂
ダメだと思ったけど意外と問題ないらしい。
落ち込んだエヴァのほっぺをぐにぐにと弄りながら、カラスマさん
はスキンシップを取っているようにも見えた。
時折、誰が無貌の神だー、とか聞こえてくるけど。
エヴァはまあ楽しそうだし、放っといていっか。
﹂
﹁お待たせしましたー﹂
﹁へ
誰かに、似
?
たぺたと出てきた。
それは、同じくらいの年ごろの女の子で⋮⋮、あれ
てる
﹁おう、さよちゃん。今から色々説明するからな﹂
﹁はいはいー。ようやく私の出番ですねー﹂
﹁いや、もうちょっと後﹂
﹂
ほっぺを弄ったままカラスマさんは会話を続ける。
ていうか、この娘⋮⋮ネギ
﹁惜しい﹂
?
104
?
そんなとき、部屋の奥から聞いたことの有るような声の誰かが、ぺ
?
?
﹁惜しいの
﹂
言葉にしてしまっていたらしいけど、あたしの疑問にカラスマさん
は答えてくれた。
﹁彼女はネギ君の血を基にクローニングした相坂さよちゃんだ。素体
が女の子なのは精神体も女の子だからだよ﹂
﹁⋮⋮え、いやいや。それ説明になってない⋮⋮﹂
﹁要するに女の子Verのネギ君﹂
﹁なにそれキモイ﹂
思わず口を突いて出た言葉にショックを受けたらしい。
さ よ ち ゃ ん が が ー ん、と 口 ず さ ん で い た。な ん か、ご め ん な さ い
⋮⋮。
105
?
魔法淑女、脱げる⋮
?
アリアドネーの市街を抜けて魔獣の森を迂回し、
﹃オスティア記念式典警備兵選抜、百キロ横断箒レース
ルールは簡単
!
る
ただそれだけ
但し、30m以上の飛行は厳禁
しかし妨害は自由
!
!
十個のチェックポイントを通過し、ペアでスタート地点へと戻ってく
!
果の認められる妨害は捕縛・幻惑・催眠、そして武装解除のみ
レースである
﹂
?
が語る圧倒的事実。此処は淑として判定を受け入れるほかは無いの
しらの問題も同時に孕みかねないソースが存在するというのも歴史
ての江戸時代の伊勢参りや紀元前のローマの様に、人口の集中が何か
問題が必ず起こると言っているわけでは無いのですよ。しかしかつ
等という事態には学院側もしたくは無いでしょうしね。いえ、決して
の奔流とも呼べるお祭りに刳り出したら面倒事に巻き込まれました、
はないとのこと。まあお客様扱いのはずの麻帆良生を、諸外国の文化
席してもらえれば良かったのですが、学院で学ぶ以上留学生も例外で
外様である私たち麻帆良組はスルーしてオスティア行きの船に相
そんな折に開始された選抜試験。
すが、私はどうやら学院内では優秀な部類のようです。
パー代わりに烏丸先生の魔法講座を挟んでもらっている身で恐縮で
アリアドネーで学ぶこと既に2週間、ちょくちょくカンニングペー
﹁⋮⋮今のナレーションって、ミソラ
﹁そんなレースに私まで参戦することとなりました。がっでむ﹂
﹄
の﹃女 子 校﹄と い う こ と も あ っ て 近 隣 住 民 に は 頗 る 好 評 な 横 断
結果として凄惨なる﹃脱がし合い﹄のゲームになること間違いなし
!
直接攻撃系の呪文は学院の校則により制限されているからこそ、効
!
!
です。
106
!
!
あとコレット、今のナレーションは間違いなく烏丸さんです。
﹃おっと、ばれたか﹄
という
﹁なんで広域念話でそんな発言をしたのかはわかりませんが、今ので
学院内の女子からのイメージは圧倒的にアウェーですよ
か貴方用事とやらは終わったのですか﹂
まだ調整ちゅー。でも高音さんとかゆえきちが脱げレー
念話が届く、ということは近場に居るということですよね
﹃いんや
?
?
﹄
スに出るって言うから 思わずアリアドネー中に配奇兵を散りば
めさせちゃった
!
﹁今すぐ撤廃しなさい覗き魔
﹂
無駄に技術力が上がってます
!
﹄
?
相方となるコレットがおずおずと手を挙げます。
どー﹂
﹁そ、それをされると落ちこぼれとしてはちょっと恥ずかしいんだけ
ようになー﹄
﹃ちえー。じゃあ学院内だけで済ませるわ。評価がきっちりと下せる
ださい﹂
﹁それで泣きを見る婦女子があまりにも多すぎます。本気でやめてく
かったのにー﹄
﹃え ー
!?
各 地 の 電 光 掲 示 板 や ご 家 庭 に リ ア ル な 映 像 を お 届 け し た
ていうかオスティアからそれらを扱っているんですか
!
映像をハイビジョンで色んな所へお送りできるんだぜ
﹃魔法で作ったゴーレムみたいなやつ。低い魔力で大勢活用できて、
﹁なんですかハイキヘイって⋮⋮﹂
!
私がフォローするので大丈夫ですよ。
107
?
?
﹄
ユエのお兄さん
﹂
﹃おお、キミがうさちゃんな同級生かー。ゆえきちと仲良いんだって
ね
﹁は、はあ⋮⋮。あの、ところでこの人誰
のです﹂
﹃あれ、ゆえきっちゃん辛辣すぎじゃね
﹄
﹁あんな奴と血が繋がっているとか魔法世界が崩壊してもあり得ない
?
﹁烏丸さん
貴方は一体何を、﹂
文句を言いたい人物は私だけではないのです。
か
それといい加減にSOUND ONLYは止めにしたらどうです
そうなる原因を現在進行形で作っているのは何処のどいつですか。
?
マスターキーで何を遊んでいるん││﹄
!
﹂
いてちょっと痛々しいです。
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮﹂
﹁お、お姉さま⋮⋮
﹂
﹁ふ、ふふふ、ふふふふふふふふふふふふふふふふふ⋮⋮
﹁ひぃっ
あ、これ本気で怒ってるですね。
ワタクシを本気で怒ら
!
?
メイっ、文句の言わせぬ結果を捻り出してな
﹁あ、の、お、と、こ、はぁーーーーーーっ
﹂
通話を交換した高音さんの振り上げた憤慨は行き場をなくし、見て
声を最後に音声を一切発しなくなりました。
通話に対応していた手のひらサイズのアンノ●ンが、謎の女の子の
﹃こらーカラスマー
﹃おっと、サボりが見つかったわ。そんじゃまた後ほど﹄
!?
せたようですわねっ
!?
!?
!?
108
?
?
?
﹂
んとしてでもオスティアへと行きますわよっ
丸を焼き鳥にしてやるのですわっ
﹁お、お姉さま落ち着いてくださいぃーーーっ
そしてにっくき烏
﹂
?
⋮⋮あー、まあ、いい具合に火が付いたようで何よりですね。
で、美空さんはなんで出場しようとしないのですかね
﹂
×
﹂
エクサルマティオー
フランス
エクサルマティオー
波 ・武 装 解 除
カレファキエンス
熱
﹁風花・ 武 装 解 除
﹁にゃんノ
×
去っていった。
﹁す ご い す ご い
﹂
ていますよっ
﹂
ば、その先には夕映の言う通り。
無事であったペアのコレットと夕映が通りを箒で飛び抜けて行け
先ほど以上の大物がこの先に待ち構え
本 当 に ユ エ の 言 う 通 り に や っ た ら 抜 け れ た よ ー
目に、打ち勝った方の少女は悠々とスピードを上げて箒に跨り過ぎ
それを咄嗟に羞恥で隠そうと、身を隠せる布を必死で探す彼女を尻
にした通りを往く男性らから大きく沸き立った。
振えて弾むその柔肌を拝して歓声が、期待通りの光景を目の当たり
ていたはずの豊満な白い双丘が顕わとなる。
弾け飛び、辛うじて無事であったレースのインナーと、それに包まれ
口調のイントネーションにやや不具合の見られる女生徒の制服が
が、効果が発揮されたのは片方のみ。
二者がほぼ同時に放った術式の射線が、互いを撃ち抜く。
×
褐色肌のお嬢様と、麻帆良からの留学生代表が、激戦を繰り広げて
109
×
!
!
!
!
!
×
!
﹁油断は禁物ですコレット
!
!
!
!
×
いた。
×
×
目の前で艶やかなキャットファイトが始まった
﹃いや、やるだろ
が、解説の烏丸さん。あんた何口走ってんですか﹂
﹁⋮⋮えー、いきなり地の文入って草不可避、という奴かと思われます
×
生にどんなお説教を戴くことか。
自分の身が可愛いのもありますけどね
いいんじゃないっすかね︵諦観︶。
あたしとしてはわっざ
﹁つうか、なんであのお二方ガチのバトルに入りかけてるんすかね
キャラが被っていて危機感でも感じたんじゃねーの
え、マジじゃないよね
?
ぶっぱしそうでちょい怖﹂
﹃さー
﹁まっさかー﹂
⋮⋮いやいや、まさかね
?
﹄
今んとこ捕縛系で応酬しているっすけど、すぐにでも魔法の射手を
?
ゲートが不通で帰れないとかって言っても、この地に骨を埋めれば
わざオスティアとか行く目的もないですしー。
?
特にココネたんなんかを衆目に晒したりなんかしたら、後で鮫茶先
持ってないっす。
いやぁー、あんな脱げバトルに突っ込んでゆくような精神構造は
まーす。
ちなみに実況はワタクシ春日美空とココネたんでお送りしており
﹁何処の閃乱カ●ラっすか﹂
﹄
ら実況入れるだろ
?
!
!
も、貴女なんかに負けるわけにはいかないのですからっ
﹄
﹃と っ と と 道 を お 開 け な さ い っ ワ タ ク シ の 目 的 の あ の 男 た め に
?
110
×
?
?
﹃あ、あの男⋮⋮ ││はっ
まさか貴女も︵ピ│︶様に⋮⋮
﹄
﹄
此処で負けてはセブンシープ家の名折れ、今こそ
愛⋮⋮
愛のために、負けるわけにはいきませんわーーーっ
﹃なんですって⋮⋮
!?
アクケレレット
!?
﹃││ 加 速﹄
ユエっ、戦わないのっ
!?
﹄
!
お待ちなさいっ
あんたの功績かい。
ユエさん
﹄
!
﹃っ
﹃あっ、に、逃がしませんわっ
﹄
﹃つーか、俺が前に教えた奴だわ、あれ﹄
﹁く、詳しいっすね﹂
体強化魔法の部分強化版だな﹄
せるつもりか。人間に元々備わっている空間認識能力を強化する、身
﹃一時的に脳処理速度を倍加させて自身の意識圏内の障害物を回避さ
なんか聞いたことのない術式口走ったけど、
﹃りょ、りょうかーい
を最大範囲に展開させてください﹄
速飛行で人の間を縫って突き進みます。事前に教えた空間把握術式
超高度な触手です。真っ向から撃ち合うのでは分が悪すぎるので、低
﹃高音さんの黒衣の夜想曲は防御に特化しているうえに捕縛も出来る
﹃えっ
﹄
お、其処にゆえきちあーんどコレットのご登場っ。
色々今回はぶっ飛んでますなー。
ていうか、高音さんにエミリィさん。キャラ似ているお二方共々、
あ、良かった。全然違った。
!
!
それならば⋮⋮
?
!
!
111
!
!?
!
!
市街地を抜け脱出してゆく2人にやや遅れて、エ
﹁っと、実況の合間に抜けて行ったゆえきち&コレットペア、トップに
躍り出ましたー
﹂
﹃﹃聞こえてますわよそこの男ッ
!?
って、あのパチもん臭いアレっすか。︶あー、それは確
で修業していたんすかねー﹂
﹄
﹃││地獄の一丁目です﹄
﹃ユエ
大丈夫
﹄
!?
つーか通信で漫才すんじゃねーっすよ。
﹃顔色悪いよユエ
﹃茨の鞭でしたけどね﹄︵震え声︶
﹃飴と鞭って奴だ﹄
﹁そこもあんたの功績かい﹂
の環境じゃないか﹄
﹃地獄とは人聞きの悪い。旨い肉を狩れる代わりに強くなれる、最高
?
かに。しかし本場の魔法学院に匹敵可能な技術力とかって、一体何処
﹁︵魔法少年
魔法少年に匹敵するレベル﹄
﹃しかし、改めて見るとゆえきち箒の扱い上手いな。映画になった某
どんなゴーレム使ってんの、烏丸っち。
相互間の通信領域ぱねぇわ。
﹄﹄
﹃コンビと聞くとお笑いみたいだな、あいつら﹄
追いかけまーす
ミリィ・ベアトリクスコンビと高音さん・愛衣ちんコンビが順繰りに
!
!
!?
112
?
なんかぼそっと聞こえましたよ
?
漫才の合間に後方のペアも追いついてきたご様子。
いざ、尋常に勝負ですわっ
魔獣の森を迂回中に、バトル勃発の予感かな
﹃追いつきましたわよユエさんっ
﹄
るなどと、認められるものですかッ
﹄
﹄
﹃貴女があの︵ピ│︶=︵ピ│││││││││︶様と仮契約をしてい
﹁彼女の剣幕からしてそれなりに因縁がありそうっすけど⋮⋮﹂
﹃なんでつっかかってんだあの娘
﹁委員長ことエミリィさんがゆえきちに勝負を仕掛けましたねー﹂
!
?
﹂
麻帆良のいいんちょと鉢合わせたらどういう化学反応が起こるん
関連の事実⋮⋮。
つうか、エミリィ委員長には教えない方が良かったかなぁ、ネギ君
節しているとか⋮⋮どんだけなのさ。
見事にネギ君の名前だけ聞こえないように、リアルタイムで音声調
なにこの無駄に洗練された無意味に高性能な技術力。
﹁アンタの仕業かい﹂
﹃聞かせちゃダメな個人情報は情報規制がされるべきだろう﹄
げぇんすけど。どうなってるんすか
﹁ていうかさっきからエミリィさんの台詞にところどころ違和感がす
わー、かなりどうでもいい因縁だったー。
!
?
だろうねー。チョータノシミー︵棒︶。
113
!
?
番外、麻帆良とかの日常2
﹃夏美さん、発見する﹄
わたくしおおきくなったらそらさんのおよ
﹃そらさんそらさんー
﹄
めさんになりますわー
﹄
ふーん。式には呼んでね﹄
﹄
それは完全に勘
ですからおよめさんになるのですの
まて落ち着けいいんちょ
お前の愛情は生まれるはずだった弟さんにこそ注がれ
﹃いつのまに親公認
!
ところだよ
﹄
!
﹃なんでそんな対照的なのお前ら
﹄
﹃名前で呼ぶことゆるした憶えは無い﹄
﹃あやかとよんでほしいのですわー
﹄
るべきものだったんだからそこを俺にシフトするのは筋違いもいい
違いだよ
!
たのですわ
いっておとうさまにきいたらけっこんするのがいちばんだといわれ
﹃む つ か し い こ と は わ か り ま せ ん け ど、そ ら さ ん と い っ し ょ に い た
ないんだけど﹄
﹃え、ちょいまって明日菜あといいんちょ、俺そんなの一言も了承して
﹃え、ふたり結婚するの
﹃⋮⋮What
!
?
?
なんか、校庭に埋まっていた不発弾を発見した気分。
か⋮⋮。
⋮⋮ていうか、これあたしたちが観てもいいものだったのでしょう
い回しだなー。︵諦観︶
言葉の使い方にもびっくりだ。年の割には妙に大人染みた語彙の使
クラスメイト2人のキャラの違いが一番びっくりだけど、烏丸君の
すっごい翻弄されてるぅー⋮⋮。
画 面 の 中 の ち っ ち ゃ な 烏 丸 君 が ロ リ い い ん ち ょ と ロ リ 明 日 菜 に
!?
114
!
!?
!
!
!
﹁どうかね幼いあやかは、可愛いだろう
﹂
﹁え、えーと⋮⋮いいんちょのお父さん⋮⋮
、﹂
﹁もっとフランクに、いいんちょパパで構わないよ
しなさい﹂
﹂
﹂
?
ろうあやかは
﹂
﹁少なくとも私の記憶では正しくもガチでこんな遣り取り。可愛いだ
﹁何処にどう安心しろと⋮⋮。ていうか、マジの記録なんですか
﹂
てみたのだが。ちなみにあやかには知られていないブツなので安心
のだがね、当時の状況を完全再現できると聞いたのでさっそく製作し
﹁先日烏丸くんに、とあるところからのお土産だと譲り受けたものな
てもみなんだ。
まさかご本人の居ぬ間に過去バナを映画で見せてもらうとは思っ
わけなのだけど⋮⋮。
中見舞に来ていた。
とちづ姉の2人は、実家に軟禁状態のいいんちょこと雪広あやかの陣
夏休みも半分ほどが過ぎたころ、あたしこと村上夏美と那波千鶴こ
い代物なんですかね⋮⋮
﹁アッハイ⋮⋮。これ、いいんちょに無断で見せてもらっちゃって良
?
?
?
﹁戦わなきゃ、現実と﹂
いいんちょパパさん、それなんか違う。
進展しているのかね
﹂
﹁で、これを踏まえて、うちのあやかと烏丸くんの仲は正直どうなのか
ね
?
⋮⋮言えない。遠目に見た感じだけだけど二人の仲が深まってい
115
?
﹁今のいいんちょを見るとちょっと信じられないです⋮⋮﹂
?
﹁え、えぇっとぉー、それはあたしからはなんとも⋮⋮﹂
?
るとはとても思えず、その上いいんちょは副担任の先生をショタコン
全開で追っかけています、なんてあたしにはとてもとても││。
﹂
ちづ姉が暴露しちゃったよ
﹁我がクラスの副担任を目の色変えて追いかけていますね、あやかは﹂
﹁ちづ姉ぇっ
言っちゃったよ
い貴女は
どうしちゃったのちづ姉 もっと空気が読める娘だったじゃな
!
て捨てた。
でも食い下がらないいいんちょぱぱ。
?
行ったのは覚えているよね
﹂
﹁2人は知っているかと思うが、あやかがこの春、イギリスまで旅行に
り軟禁中のいいんちょが暇を持て余して呼んだのだとばかり。
というか、あたしたちを呼び出したのってパパさんなの
てっき
思い掛けない提案された││かと思ったらちづ姉がバッサリ切っ
﹁そこを何とか﹂
﹁無理ですわ﹂
伝ってほしいのだよ﹂
﹁2 人 を 呼 び 出 し た の は 他 で も な く て ね、う ち の あ や か の 矯 正 を 手
は。
この人の人となりを知っていたからぶっちゃけたのかな、ちづ姉
案顔であごひげをなぞる。
てっきり目の色変えて憤慨するかと思いきや、いいんちょパパは思
││あれ
知ってたの
﹁ふむ、やはりそうかね⋮⋮﹂
!
!
?
?
116
!
!?
?
﹁あー⋮⋮、はい﹂
確か、ネギ君が教師辞めるって言って実家に帰ったのを、学園長命
令で連れ戻しに行ったんだったよね。
あれ 今更だけど当時のネギ君って未だ本採用じゃなかったは
ずなのに、なんであんな騒動になったんだろ
﹁その目的はキミ等の覚えている通り、キミたちの副担任であるネギ・
スプリングフィールド先生だ。だがね、﹂
一度言葉を切り、茫洋と虚空を見つめる。
いいんちょパパの目には、何が思い浮かんでいるのであろうか。
﹁正直、一生徒が教師のために海外まで追いかけるって、宜しくない傾
向ではないかな。と思うんだよ、私﹂
﹁はぁ⋮⋮、まあ、そう、ですよね⋮⋮﹂
云われてみれば、確かに。
麻帆良じゃ気にならなかったけど、思い返してみると色々とスキャ
ンダルになりそうなことやってないかな、あたしたち⋮⋮
あれ、今更だけどちょっと怖くなってきたよ
!
ていたら炎上どころの騒ぎじゃないよコレ
⋮⋮ッ
﹁あ れ、夏 美 く ん
⋮⋮﹂
﹁あ、あはは、そうかもしれないですねー⋮⋮
﹂
ど う し た の 震 え て。エ ア コ ン 効 き す ぎ た か な
﹃学 生 の ノ リ﹄で 済 ま す に は か な り 危 な い こ と 繰 り 返 し て い た ぁ
!?
メイド喫茶風営法に引っかかっての営業停止とかって、ツイートされ
食券賭けは未だしも、中間考査前の英単語野球拳に、麻帆良祭での
!?
!
?
117
?
?
!?
嫌な汗が止まらないよ。
思い返してみたらとんでもない学校のとんでもないクラスに所属
していたよ。
子供先生が教鞭取って担任は出張でほぼいないって、中学三年に
やっちゃダメな授業受けてたよあたしたち。
⋮⋮絶対に麻帆良外での受験を受けられそうにない⋮⋮。
内申、どんな風になってんだろ⋮⋮。
﹁まあ、話を戻すけど。
あやかはどうしたのかそのネギ先生にとんでもなくお熱だ。これ
が普通の男の子との関係であれば、性癖がどうあれ、温かく見守るこ
とも吝かではないのだよ﹂
﹁性癖はどうにかした方がいいのでは﹂
﹁それができれば苦労は無いよ千鶴くん﹂
実父に諦められちゃうレベルなんだ、いいんちょのショタコンっ
て。
﹁しかしね、この﹃お相手﹄には﹃立場﹄がある。﹃教師﹄という﹃立
場﹄がね。
それが﹃優秀な教師﹄であれば彼の人生設計を邪魔するであろうと
いう理由で尚更駄目だし、そうでなければ﹃人間性の問題上﹄実の親
として認められない。そんな奴に大事な娘を任すような親は居らん
からね﹂
云わんとしていることは把握できた。
やっぱりしっかり者なんだなぁ、いいんちょパパもいいんちょと似
通っているところあるよ。
││なんでネギ先生相手になるとポンコツになるんだろう、いいん
ちょって。
118
﹂
﹁それにしても⋮⋮、あやかの恋愛事情に随分とお詳しいんですね。
何処かに調査でも頼んだのですか
いいんちょの最大の謎に思いを馳せていたところ、ちづ姉が小首を
傾げた。
言われてみれば、娘の恋愛事情をそこまで細かく把握しているお父
さんと言うのも確かに珍しいかもしれない。しかも娘は中学三年生
だし、思春期真っ盛りだし。
あたしも疑問に感じたのでいいんちょパパを覗ってみれば、そこに
はなんだかやつれたように斜に翳るいいんちょパパの姿が。
﹁││自家用ジェットに痛車レベルでのペイントをされれば怒りもす
るのだよ⋮⋮﹂
││ああ、なるほど。
だから軟禁されたのかー、と思わず納得するあたしであった。
﹃超鈴音、困惑する﹄
私たちは﹂
さて、海上都市リュケイオンへ向かった私たち超包子一行、なので
アタガ⋮⋮。
﹁いつまで待ちぼうけ食らうアルか
﹁さてネー。こればかりは相手側の采配であるからネ﹂
古も焦れて来ているようネ。
まあ、一週間前には到達している筈の海上都市が何故か封鎖中で、
119
?
?
船も出ずにホテルに缶詰め状態では、二進も三進もいかないのも仕方
ないのであるガ。
麻帆良とは違うから下手に茶々丸でハッキングツールを使うわけ
にはいかんだろうし、何より外様状態であるはずの私たちが口を挟ん
で状況を混乱させるのも間違っている。と。
⋮⋮それにしたって迎えの何某かが現れてくれても良い頃合いだ
と思うのだがネ⋮⋮。
﹂
﹁││。どなたかが来たみたいです﹂
﹁││ホ
声を荒げないことを見ると、敵意があると見なくても良さそうカネ
茶々丸の感知領域内に誰かが侵入したか。
?
﹂
﹃││済まない、超包子ご一行の部屋で合っているであろうか。迎え
に来た者だが﹄
﹁ハイハイ待ってたヨー
﹂
焦れているのは仕方ないとしても、もうちょっと落ち着いてもいい
て開け放つ。
ドア越しのノックの後にかかった女性の声に、真っ先に古が反応し
!
お姉さんが迎えの人アルカー
んじゃナイカナ
﹁おりょ
?
?
た。
やたら綺麗でスタイルの良い、長い髪の女性が其処には立ってい
││全く、手間を簡単に人に投げてくれる﹂
が、今所用で出ていてな。私が代わりに話を通しておくように、と。
﹁正 確 に は 迎 え の 代 替 だ。オ ラ ト リ オ の 奴 が 来 る は ず だ っ た ら し い
?
120
?
はて、何だろうかこの違和感は
⋮⋮⋮⋮⋮⋮えー、える
た。ガ⋮⋮、
茶々丸の呼びかけに、嘆息していた彼女はそう自己紹介をしてくれ
合いになるだろうから、よろしく頼む﹂
アトランダムナンバーズ・A│L、LAVENDERだ。長い付き
﹁ム。キミが後輩か。では、先に自己紹介だけでも済ませておこう。
﹁││若しかして、貴女は﹂
⋮⋮。
と い う か 目 的 の 人 を 前 に し て 手 間 と か 言 わ な い で 欲 し い の ダ ガ
?
普通はその前に誰か科学者さん
!?
ど、どういう意味合いで送られてきたのかネ⋮⋮
戦闘型ではなかったカ
しかも〝らべんだー〟って、SP︵セキュリティサービス︶専門の
とかが来るのではないのかネ
るとかってどういう冗談アルカ
││チョッ、いきなりナンバーズ登録済みのロボットが接触してく
?
リュケイオンに問題が発生したので、ロボット博覧会は中止となって
しまったとのことであった。
予定されていた超シリーズのお目見えや、ナンバーズ登録としての
手続きも次の機会に、とのこと。
⋮⋮ 予 定 よ り 少 し 速 い け ど、麻 帆 良 に 帰 る こ と に な り そ う だ ネ
⋮⋮。
121
!?
│ │ 結 局、そ れ は 牽 制 で も 何 で も な い 本 当 に た だ の 連 絡 事 項 で、
!?
!?
﹃第一回、魔法生徒集会﹄
﹂
﹁││てれってーってれってってっ、てってってっててFuー
﹁⋮⋮くっ、ひっ⋮⋮、⋮⋮かはっ⋮⋮っ
画面四隅に映し出される﹃満 身 創 痍﹄の大文字。
しかし歌い上げた俺以上に、野木坂パイセンが満身創痍。
笑い過ぎて呼吸困難に陥っている模様。
いったい何がそこまでツボに入ったのか。
ない面子ってのもあるし、ね。俺
そこはまあ置いといて。
﹂
と違うし、学園からの呼び出しを受けている子らじゃないと話が通じ
ている俺との仮契約メンバーは本日不在。まあ元々正式な魔法生徒
そんなわけで、不本意ながら一部から烏丸ガールズ等と呼ばれ出し
うんだ。
普段顔をあまり突き合せない魔法生徒間の交流は、結構大事だと思
て魔法生徒のみでの会合を開催してみた。
夏休みも半ばを過ぎた本日、麻帆良より若干離れた某カラオケ店に
はあるぜ。
が案の定だ。さすがネギ君をサブカル色に染め上げた張本人なだけ
オタク系だからなタクミンは。絶対反応してくれると思っていた
上げてくれたタクミンと﹁いえーい﹂﹁ふひひ﹂とハイタッチを交わす。
呆れ顔の夏目を余所に、歌の途中で丁度良い合いの手を入れて盛り
センキュー﹂
﹁こういうのは吹っ切れたもの勝ちでしょーよ。それよりも合いの手
﹁見事に唄い切りましたねー⋮⋮﹂
教室∼やさぐれVer∼。
そんなに面白かったかなぁ、烏丸せんせいのぱーふぇくとさんすう
!
だって魔法生徒って基本無償奉仕のボランティア感覚で仕事して
122
!
ちなみにどうでもいいかも知れんけど会費は半分ほど俺持ち。
?
るから、遊ぶ金とか余分な贅沢に使えない、とかって元々断られかけ
たんだぜ。
まあ、雪広パパに魔法世界のお土産を持って行ったときに寄越され
た、10万程のお小遣いと言う名のあぶく銭で賄っているから経済的
に懐は痛くは無いのだけれど。流石セレブ。どこぞの超セレブパパ
みたいにお土産と言って鉱山を包ませるほどじゃないが、学生の身分
ならば充分すぎる金額だよ。有り難く接待費に廻させてもらうぜ。
しかし、明石教授に紹介された夏目とか、ウルスラ生徒会長の野木
坂さんとか、元同室の大柴タクミンとか、数少ない伝手を辿って呼び
かけてもらったけれどやはり集まりは悪い。
ま あ 基 本 的 に 俺 自 身 の 評 判 の 悪 さ が 邪 魔 し て る ん で し ょ う ね ー。
この前エヴァに又聞いた噂だと﹃麻帆良の這い寄る混沌﹄とか呼ばれ
ているらしいし。ナニソレ香ばしッ。
作知識を基にしても全く分からない。
あなたは
﹂
数が多いのに大体がモブとか、赤松先生のキャラ愛の底突きがマッ
ハ。
しかし折角なので命名しておこう。えーと、確か自己紹介しかけて
﹂
123
﹁それにしたって俺の名前出したわけじゃないのに、この集りの悪さ
は如何したものか﹂
﹁私たちに遊んでいる暇があると思っているの
?
そう口を開いたのは名前も知らない魔法生徒女子。ぶっちゃけ原
?
もらっていたから⋮⋮、お、お、おつ、おと⋮⋮、おにづか、⋮⋮。
﹁││巌ちゃん
﹁誰よ﹂
﹁そんなこと言うなら巌ちゃん、﹂
なんかしっくりきたからこれでいいか。
?
﹁だから誰⋮⋮私
ちょっ、私の事言ってるの
ねぇ
!?
﹂
!?
﹂
?
あけてやるぜー。
⋮⋮あれ、今の俺、本当に裸エプロン先輩っぽい⋮⋮。
?
﹂と巌ちゃんが叫んでいるのを
﹁そんなことを言ったって、魔法生徒なんだし当り前じゃないのか
私の名前はねぇ││
予想外の所からの返球が。
﹁ちょっと
﹂
〝麻帆良の外に居る〟今の内に、その未成年らしからぬ認識に穴を
なんか抗議しているけど、話を聞いてくれる今がチャンス。
生と言う身分で粛々と受け入れる。それでいいのかにゃ
﹁﹃休む暇もない﹄、労働基準法に抵触している麻帆良の今の状況を、学
!?
中2だけど⋮⋮﹂
﹁んー、へい今口開いた男子、何歳よ
﹁俺
﹂
﹁留年り︵ダブり︶とかじゃねーよな
居るって状況で合ってる
﹁え、あ、ああ﹂
﹂
うけれど⋮⋮。全ては女子に甘い学園長の所為だと俺は視たね。
そこそこの数は居る。まあ発言権はほぼ無いと見て間違いないだろ
魔法生徒には何故か女子が多いけど、俺とかタクミンとかを筆頭に
つ隣の男子くん。
他所に、会話のキャッチボールをキチンと応えてくれる野木パイの2
!
それで学園の警備にも就いて
?
唐突に飛び出した単語に、場が完全に沈黙する。
﹂
確認は取れた、じゃあぶっちゃけるか。
﹁は
﹁15歳未満の児童は軍隊又は武装集団に徴募してはならず、また、敵
124
!?
﹁││ジュネーブ諸条約第二追加議定書第4条﹂
?
?
?
?
﹂
対行為に参加することを許してはならない﹂
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮は
呆けた顔で男子が、他の魔法生徒らもこっちを見る。
俺の言った言葉の意味を、充分に理解したであろう余裕をもって周
囲を見渡す。
話飛んだと思う
⋮⋮じゅ、ジュネーブ条約って、要す
ところがどっこい現実なのさ。
﹁えっ、ちょっ、まって、え
るに、俺らの行為って、﹂
るどころかすっ飛んで罪
﹂
﹁ちょっ、ちょっと待ってくださいよ先ぱ、││裁判
え、法に触れ
﹁も一つあるぞー、国際刑事裁判所規程8条・戦争犯罪﹂
?
!?
見事に無視だぜ﹂
﹁ま、マジっすか⋮⋮
﹂
使用すること。││すげーな、魔法先生方ってこれらの条約や法令を
基づいて編入すること。又は敵対行為に積極的に参加させるために
﹁15歳未満の児童を自国の軍隊に強制的に徴集し、若しくは志願に
!?
⋮⋮適用されていても、国際的な犯罪行為が認められるわけはない
されている﹂。
しかしそんな状況での先生方の答えは、﹁麻帆良は治外法権が適用
やつもいるかもしれん。
は常識的に無理︶を扱っている奴もいるし、その点を先生方に聞いた
か。エアガンとか竹光とかと言いそうだけどアレをそう言い張るの
まあ多分だけど、生徒の中にはそのものずばりな武器︵銃とか刀と
駆られているのだろう。
皆の顔に疑念と疑惑、あとこれまでの己の行動を思い返して不安に
ためではない。
ざわざわと場に喧騒が戻り始めるが、それは俺の話を聞かなかった
!
125
?
?
わなー。
そんな事実に気づいてしまった騒めく生徒らの中、真っ先に俺に噛
みついて来た鬼塚巌ちゃん︵仮︶が、
﹁ちょ、ちょっと待ちなさいよ、魔法生徒や先生方は別に軍隊ってわけ
じゃ⋮⋮﹂
﹂
﹂
私たちの使う魔法は兵器とは違うの
﹁武装集団であることには変わりないんじゃねーすか
﹁非武装でしょ
﹁兵器より怖いっすけどねー﹂
﹁っ﹂
?
いるわけだし﹂
そも襲ってくる理由が﹃魔法使い側﹄の理屈だし、原因作っちゃって
﹁武装って言っちゃってんじゃん、まあそれは今は良いけどさ。そも
を守るためには、やっぱり相応の武装を⋮⋮﹂
﹁で、でも、襲ってくる方が悪いんじゃないでしょうかー。それから身
そんなん撃ち合う時点で、学園警備に一言物申したいレベル。
ている、という信用にまでは至れねぇ。
非殺傷とかいう謳い文句があっても、﹃相手が﹄それ︵ルール︶を守っ
る、って時点で銃火器よりも危ないねんな、魔法って。
ぶっちゃけ、練習すればよっぽどの例外でない限り誰にでも扱え
俺の一言で言葉に詰まってしまった巌ちゃん。
想像力豊かなのか、それとも前からある程度は理解していたのか。
!
世界樹の守護と貴重な蔵書の詰まった図書館島の
夏目の言い分に突っ込み、以下の問題点を手持ちのホワイトボード
へとカキコ。
なんだっけ
警備
な。
126
!
?
貴重な蔵書とやらをなんで日本の麻帆良に持ち出して来ているか
?
﹃世界樹の守護﹄って理由が付属するなら、そもそも此処に肉の壁に
成り得る﹃学生︵一般人︶﹄を通わせる理由になる﹃学園都市﹄なんて
作るなよ。って言いたい。
まあ要するに、
って聞きた
﹁完全に学園長っつーか、魔法協会っつーか、魔法世界っつーか。それ
﹂
らの都合で使い潰されるお前らの青春、それでいいの
いんだけど
うおぅ⋮⋮、とぐうの音も出ないご様子の面子。
俺の言いたいことを予め把握していたらしい野木パイやタクミン
?
は、若干の他人事顔でカラオケの曲目を開いたりジュースを飲んだ
り。
﹂
?
﹂
他人事ですか
私は知っていましたけど
﹁⋮⋮あの、生徒会長
﹁え
?
?
たから知っているって程度の認識。
この後俺が何を提案するのかも、一応は話を通してあるのです。
話を振られたウルスラの子らしき別の魔法生徒に、平然と応える野
木坂パイセン。
﹁そもそも私も元は関西の人間ですからねー。魔法生徒の扱いとか、
流石にこんなんなっているのはびっくりしましたけど、いろいろ法に
触れていることぐらい自覚済みなのかと﹂
﹁⋮⋮今知りました⋮⋮﹂
﹁そう。なら教えてくれた烏丸くんにお礼言わないとね﹂
笑顔でそう言う野木パイですけど、俺に一向に目線を向けないのは
何故ですか。
127
?
他人事そうだけど興味が無いわけではなくて、前もって口挟んでい
?
あれですか、最初に唄ったさんすうきょうしつが何気にまだ尾を引
いているのですか。
⋮⋮コッチヲミロォ∼。
﹂
﹁で、でも⋮⋮﹂
﹁ん
﹁⋮⋮パパがたいへんなのは、やだ⋮⋮﹂
あらいい子。
弐集院先生の娘さんがぽつりと言葉を漏らす。
麻帆良の認識阻害仕事し
⋮⋮って、いくら夏休みだとはいえ、こんな小さな子が魔法生徒ら
と混じってカラオケ来ていていいのか
すぎだって⋮⋮。
ていうことでもないし
﹂
﹂
﹁だ、だよね。それにお給料もらっているわけじゃないから、バイトっ
法使いの仕事はそういうのが本分だろ
﹁そ、そうだよ。俺らがやらなきゃ先生方が大変なんだし、そもそも魔
?
?
んだよ
﹂
﹁人手が足りないのは事実なんだ。それを手伝って何が悪いって言う
!
ている面子のご様子だな。
認識阻害の効力が薄れているのも加味しているかも
ってことで、追撃。
しょ﹂
﹁││いや、親のお手伝いで戦闘行為、ってのは流石に人として駄目で
?
立ち上がっていない者らは、今問題にすべきことをしっかり理解し
が、全員じゃない。
の面々。
小さな子の発言が琴線に触れたのか、勢いづいて奮い立つ魔法生徒
!
128
?
﹃
ほんまや
﹁それで
﹄
それをどうにかできるわけ
﹂
烏丸くんは今の現状に不満があるのは分かったけれど、
が生まれつつあるんだぞ。
人。そんなんだから﹁MAHORAならばしょーがない﹂なんて格言
此処がそもそも日本だってことを忘れてるんじゃねーのか麻帆良
面々。
冷 水 浴 び せ ら れ た よ う に 叫 び、し ゅ ん と 座 り 込 む 立 ち 上 が っ た
!
?
﹂
てるし⋮⋮﹂
!
の解消のために社会正義を蔑ろにして良い訳がねーだろうがよ﹂
﹁お前とりあえず全力で警察とか消防とか病院とかに謝れ。個人正義
が⋮⋮﹂
﹁でも、そういう人たち以外にも事件の解決とか、そういう正義の仕事
いように、つまり襲われる理由を消せばいいんだし﹂
﹁どうにか、っつうか、まあ解決法ならあるんだよな。要は襲ってこな
y﹂と他人に聞いといて唄い出すし、野木パイも⋮⋮。
ロに何かが吹っ切れていたらしい。﹁おあぞーらいーっぱいぃにーr
﹁くっ、栗●キターーーっ
﹂と絶叫するタクミン。流れ出すイント
﹁じゃあ曲入れるのちょっと待ってくださいよ。ああもう伴奏始まっ
でしょ
﹁なんで無駄にチャラ男風なの⋮⋮。今はこっちじゃなくってそっち
﹁パイセン何唄うんすか
﹂
次はどうやらパイセンが歌うらしい。
手に話題を振る。
話が進まないことに苛立ってきているのか、野木パイがマイクを片
?
?
?
129
!
﹁⋮⋮仰るとおりでした﹂
魔法使い以外は仕事しないとでも思ってんじゃねーだろうな。魔
法生徒って人を疑うことが仕事なの 箱社会だってそれなりに仕
﹁話戻していいか つーかもうめんどくさいな⋮⋮。要は、麻帆良
事しているよ。警察の代わりに学生が成れて堪るかよ。
?
からそういう理由を遠ざける良案があるから、当日に仕込みだけでも
それって﹂
手伝ってくれって話だよ。今回の会合は﹂
﹁え。もう話が済んでいるってこと
発案者が俺と言う点で不安はみんなにあるだろうけど、基本イイ子
驚きの女子に、うんまあ、と頷く。
?
﹂
であるこいつらは其処だけで否決というつもりはないようで、
﹁で、良案ってなんだ
﹁おい
﹂
﹁麻帆良の結界を落とす﹂
?
入れてくれた彼を手で制しつつ、
﹁そして、〝魔女〟に移住してもらう﹂
そう、告げた。
﹂﹂﹂
││が、みんなの反応が全く無い。
﹁﹁﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮誰
﹁お前らどんだけモノを知らないんだよっ
﹂
と、思わずツッコミを入れてしまったが、そういえば魔法使い自体
!
?
130
?
まあ端的に言えばこれだけど、それだけじゃないので、ツッコミを
!?
がこの世界線に置いてはモノ知らずの代表だったわ、と思い出す。
今日ツッコミしかしてない感じだからだろーか、そういう基本的な
ことすらも頭からすっぽ抜けていたらしい。
﹂
⋮⋮ん、まあ原作から乖離しっぱなしのこの世界線も、充分に悪い
よな。
﹁私は知ってますよ
﹁マジでか。野木パイセンなんで知ってんすか﹂
﹁その呼び方やめてください。まあ、元西の者ですからね、日本の東西
の情報を把握するくらいはやってましたから、家系自体が﹂
平然と言ってるけど、そういえばこの人元々俺を暗殺する目的で突
貫して来たんだったよな、建前上は。
そりゃあ確かに両方の情報を掴んで置かんと置いてかれるわ。
遙さんマジムルシエラゴ。
﹁誰が第四・十刃ですか﹂
そっちじゃねーよ。ムルシエラゴには蝙蝠の意味合い以外含まれ
てねーよ。
というか何気に心読まれている俺が居た。
131
?
ナギ・スプリングフィールド杯、開催
ビィーーーッ
﹃│ │ 優 勝 は、ジ ャ ッ ク・ラ カ ン あ ー ん ど ハ ル ハ ラ・ヤ ク ミ コ ン
!
特にラカン選手がッ
﹄
!
ところで順当すぎる結末で
とっとと帰らせてくれよ麻帆良
﹃優勝おめでとうございますお二方
に⋮⋮。
マジでアタシら必要ないだろ
に乾いた笑いしか生まれやしねぇな。
⋮⋮完全に先生だけの事情に此処まで引き摺られてきている現状
るわけだ。
生としての︶目的である﹃ナギの過去﹄を教えてもらえる手筈に相成
賞金100万ドラクマは得られたから、先生の当初の︵あくまで先
ングフィールド杯を制覇。
んの無敵コンビは、見事にオスティアで開催されているナギ・スプリ
かんたん
とんとん拍子で事は進み、大人Ver.ネギ先生とラカンのおっさ
さて、時は流れてグラニクスより一ヶ月後の現在オスティア。
結末でしたーッ
なんていうか他の選手との実力差が圧倒的過ぎて順当に過ぎる
!!!
﹄
したけど、何故ラカン選手は今大会に出場しようとしたのでしょうか
!
?
い て し ょ う が な い の か、実 況 の お ね ー さ ん が 優 勝 コ ン ビ に イ ン タ
ビューをしているところだった。
しかし観客も含めて、興味の程は大体がラカンへとベクトルが向い
132
!
若干白けた目で客席から舞台上へと視線を向けていると、時間が空
?
ている。
見た目がどうしたってピンクのモヒカンだからな、今のネギ先生
は。ファンの方も実際それほど居ない状況らしいし、無理もない。
﹃まあ気まぐれなんだけどな、こんな単調過ぎる結果じゃあ客共も
納得もいかねぇだろう
││つーわけで、俺様からちょっとばかしのサプライズを用意し
たんだ﹄
あれ、やな予感。
そう思った次の瞬間には、にやりと何か企んでいるような笑みを浮
﹄
かべたラカンのおっさんは、傍に居るピンクのモヒカンへと全力のパ
い、いきなり何をするザンスかぁラカンさんッ
ンチを繰り出した││っておい。
﹃ぬほぉッ
!?
そのキャラ、実は気に入っているのか
まあ、││もう無駄だけど。
ジャ
イ
ア
鎧袖一触なんかじゃねぇ││、
ン
ト
キ
リ
ン
グ
勝って当然、負かせて当然の、有象無象を有耶無耶に撒き散らす
拮抗した実力者同士の、どちらが強いのだ、と手に汗握る緊張感。
血沸き肉躍る、弱者が強者を食らおうとする意地。
よ。
﹃言ったろ 客だってイージーゲームなんざお呼びじゃねーんだ
?
133
?
焦っているはずなのに、キャラを崩さずに緊急回避するネギ先生。
!?
?
拳 闘 ファ ン
・・
﹄
││コイツらは、本物の漢の戦いって奴が観たいのよ。
や
要
つーわけで、本気でや戦り合おうぜ。ネギ⋮⋮
求
手を大きく広げて、会場中の観客らの、本当の欲求って奴を代弁す
るラカンのおっさん。
││だがそれに賛同する声は、今は一切無い。
ついでに言うと会場は水を打った様な静寂に包まれたまま、観客の
誰もが見入るだけで、声を発しようとはしなかった。
何故ならば││、
おっさんの拳は、外されたわけでは無かった為だ。
││取り外されたのは、サングラスに、モヒカン付きのかつら。
白日の下に晒されたのは、赤き髪と端整な顔立ち。
袖 の 破 れ た 革 製 ジ ャ ケ ッ ト を 着 た ま ま で は い る も の の、そ ん な
今
かつて拳
ハルハラ・ヤクミ選手
こ、これは、まさか⋮⋮
ファッションなど取沙汰されない、会場が見知った顔が其処にはあっ
た。
﹃││⋮⋮⋮⋮
な、なぁーんということでしょーうっ
﹄
姿 を 晦 ま せ た 伝 説 が
此 処 に 再 び 登
の正体は、あ、あの、ネギ・スプリングフィールド選手
闘の話題を独占し
場しましたーーーッッッ
││⋮⋮⋮⋮⋮⋮にゃんだって
×
・・
!
134
!
!
×
!
!
!
!
!
×
?
!!!
×
×
﹃さ ぁ
ヴイ
エス
︻英 雄 の 息 子︼V ッ S ッ
一時期拳闘士ファンの間でまことしやかに囁かれ
俄 然 面 白 く な っ て き ま し た
せませんッ
﹄
この勝負の行方
ゲーデル総督っ
ワタクシもう目が離
!
緊急特別解説者のクルト・
!?
﹄
ここからどう
?
えるフライングスタート噛ました陰険眼鏡総督の解説を尻目に、目立
立ち、解説席にいつの間にかいた原作と比べると若干マイルドにも見
実況のおねーさんが興奮冷めやらぬ声で叫ぶと共に会場中が湧き
り有名なのか﹂
﹁⋮⋮⋮⋮おい神楽坂、ネギ先生ってひょっとして魔法界じゃかな
やって戦況を覆すつもりなのでしょうね
ホラ、ネギ選手がラカン選手にフルボッコですよ
⋮⋮というか、もう見た方が早いので解説は控えましょう。ホラ
という期待も込められそうな気もします。
の上を往くチート英雄の息子でもあるのですから、ひょっとしたら、
ては十二分⋮⋮。その上、件のバグキャラと唯一互角に渡り合ったそ
これまでのハルハラ・ヤクミとしての戦績を窺ったところ実力者とし
ないかと推測します。あの人普通にバグキャラですからね。しかし、
そうですねぇどちらか、と言えばラカン氏に軍配が上がるのでは
す。
質したいところですが、呼ばれた以上は仕事を済ませようかと思いま
彼が行方を晦ませていた間、一体何処でどうしていたのかを問い
総督ぅ☆と御呼びください。
参りましたオスティア新総督です。お気軽にクルトきゅん♪または
﹃どうも、行方を晦ませた〝彼〟が公の場に現れたと聞いて飛んで
どう見ますか
果たしてどちらに軍配が上がるのかッ
た夢の好カードが、今まさに実現と言うこの光景ッ
︻伝説の漢︼ッ
!!!
?
135
!?
!
!
!
!
!
た ぬ よ う に ひ と 纏 ま り に な っ て い た 幼 女 集 団 の 中 で、ア タ シ は あ
ちゃーという顔をしている神楽坂にひっそりと問う。
この中ではどうにも状況をよく理解していそうなのはコイツだけ
に見えた所為だ。
アタシとしてはてっきり、ナギスプリングフィールド杯ということ
で赤毛親父のポスターがそこら中に貼り巡らされているから大人V
er.の実態を隠ぺいしていたのだと思っていたんだけどな
じゃねえよなぁ
﹄
お前の〝変身〟を待つつもりは毛頭ねぇ !?
!
﹃ふげっ、ぶごっ、ひゅぐっふ
﹃フハハハハハハ
開始早々その戦法は卑怯が過ぎるぐんばっ
ちょ、ちょっとラカンさんッ
度現れた﹄っぽいことに興奮しているように聴こえたのは、気の所為
なんかさ、会場中というかさ、あのゲーデル野郎も含めて﹃もう一
?
かった己を呪うんだな
﹄
大人げなさすぎますラカンさん
﹄
しかし負けて
悔しかったらタイムラグ無しで魔法を込める手段を構築していな
!
こんなこともあろうかとォッ
﹃大人げない
堪るかっ
!
!
!
・天の光は総て星ァッ
ス タ ー ラ イ ト ォ・ア デ ル パ
﹄
この場に居るのが龍宮・桜咲・朝倉・6号だけだということを確認
し││
エーミッタム
﹃解 放
﹃ほほう、遅延術式による魔法の時間差発動⋮⋮そして完全光化魔
!
136
!?
!
?
!
神楽坂は呆れたような、諦めたような、妙な貌で周囲を見回し。
﹁あー⋮⋮﹂
!
!
?
法、ですか。面白い真似をしますねネギ選手は﹄
極奥義です。それを光魔法で兼ねるとは⋮⋮﹄
﹃闇と光が合体してすごく強そうに見えますね
﹃まさにそれですね﹄
﹄
﹄
魔法と同化し高位精霊と同等の性質を備えるという闇魔法の究
した幻の術式だとか⋮⋮。
﹃噂に聞いたことがある程度ですが、なんでも闇 の 福 音が創り出
ダーク・エヴァンジェル
﹃知っているのですか雷電もとい解説のクルト総督
!?
展開させないつもりで
﹃ちっ、やっぱり隠し持ってやがったか
!
ンです﹄
﹃⋮⋮そいつはどうかな
﹁6号ちゃん、パス﹂
アデアット
﹃来たれ
﹄
﹄
﹃なっ、クっクルト総督っ
﹄
アレがジャック・ラカンのアーティファクトッ|千の
あれが、あの伝説のッ
と、6号へと説明責任を譲渡した││って、おい。
?
⋮⋮しかしどのような武器だとしても所詮は物理技、精霊
に対応できると言えるかどうかは⋮⋮っ﹄
﹄
しかしそれだけで倒せる程、僕の魔法は拙くは、﹄
・・・・・・・
対術式兵装対応剣技
!
﹃⋮⋮刀
﹃そしてぇ、これが俺様流
!
ン︾ッ
顔を持つ英雄︽ホ・ヘーロース・メタ・キーリオーン・プロソーポー
﹃そうっ
!?
﹃お褒めに預かりまして光栄です。⋮⋮さて、ここからは僕のター
﹄
撃っても隙がねぇたぁ可愛くねぇガキだな
!
!?
!
!
?
137
!
!!
﹃えっ﹄
﹁よろしいのですか
﹂
﹄
﹄
﹁いやだってわたし解説キャラじゃないし﹂
﹄
斬魔剣弐の太刀ッ
なんだその理由。
﹃見様見真似
﹃ぐっはぁああああッッッ
と、語り出す6号。
﹁ではせんえつながら﹂
﹃えー⋮⋮﹄
﹃ネ、ネギ選手が真っ二つにぃいいい
!
﹄
で若干お姉さん的な空気を醸し出していた。
なんの此れしきッ
そんな気がする。
﹃││っ、ぐぅ
﹃ハッ、やっぱり平気かよ。が、甘ぇ⋮⋮
!
いつまでも続くとは⋮⋮﹄
﹄
﹃再生力特化、でしょうか⋮⋮。いや、それにしたってそんな無茶が
押さえて再生しましたよ⋮⋮﹄
﹃うわぁ⋮⋮、分離したはずのネギ選手が無理矢理身体を両側から
!
!
138
?
今更だが彼女の外見は、アタシらよりも少しだけ年上の見た目なの
!?
!!?
!
﹂
﹁麻帆良で言う処の半年前。ネギくんはイギリスへと舞い戻りまし
た。これはご存知ですよね
ああ、そういえば⋮⋮。
って、その時思っていた気がする。
⋮⋮で、それがどうして此処に繋がる
斬魔剣弐の太刀っ
斬魔剣弐の太刀っ
斬魔剣弐の太刀っ
斬魔剣弐の太刀っ
!
﹃斬魔剣弐の太刀っ
斬魔剣弐の太刀っ 斬魔剣弐の太刀っ
斬魔剣弐の太刀っ 斬魔剣弐の太刀っ
!
!
斬
斬魔剣弐の太刀っ
!
!
!
斬 魔
斬魔剣弐の太刀っ
斬 魔 剣 弐 の 太 刀 っ 斬 魔 剣 弐 の 太 刀 っ
剣弐の太刀っ
斬魔剣弐の太刀っ
斬魔剣
剣弐の太刀っ
斬 魔 剣
斬 魔 剣 弐
斬 魔 剣 弐 の 太 刀 っ 斬 魔 剣 弐 の 太 刀 っ
弐の太刀っ
斬 魔 剣 弐 の 太 刀 っ
斬魔剣弐
斬魔剣弐の太刀っ 斬魔剣弐の太刀っ
の 太 刀 っ 斬 魔 剣 弐 の 太 刀 っ
弐の太刀っ
!
!
!
!
斬魔
!
!
!
!
!
斬
!
斬 魔 剣 弐 の 太 刀 っ
斬魔剣弐の太刀っ
斬魔剣弐の太刀っ !
斬魔剣弐の太刀っ
斬魔剣弐の太刀っ 斬魔剣弐の太刀っ
!
!
斬 魔 剣 弐 の 太 刀 っ
斬魔剣弐の太刀っ
!
!
魔剣弐の太刀っ 斬魔剣弐の太刀っ
魔剣弐の太刀っ
!
?
られたな。コレは烏丸にも愚痴っていたから、よく覚えているわ。
えられているみたいで、それを後から知ったときは普通にイラつかせ
ついでに言うと﹃アタシら﹄の成績をそのまま﹃先生の手柄﹄に換
る麻帆良ってどうよ
││⋮⋮そもそも教育実習みたいな立場だったのに首が掛けられ
を辞めることになった、とかいう話だったか。
なんだったっけ、確か2│Aが学年で1位を取れなかったから教師
前に一度、家出染みたエスケープを図っていたような⋮⋮。
だが、確かこっちの﹃本流﹄ではネギ先生はアタシらが3年に上がる
アタシがより鮮明に覚えているのは﹃原作﹄を読んだ時の記憶の方
?
!
!
139
?
!
!
!
!
!
!
!
!
!
!
!
!
の太刀っ
斬魔剣弐の太刀っ 斬魔剣弐の太刀っ
斬 魔 剣 弐 の 太 刀 っ
斬魔剣弐の
斬 魔 剣 弐 の
斬魔剣弐の太刀っ
斬 魔 剣 弐 の 太 刀 っ
太刀っ
斬魔剣弐の太刀っ
斬 魔 剣 弐 の 太 刀 っ 斬 魔 剣 弐 の 太
斬魔剣弐の太
太刀っ
斬 魔 剣 弐 の 太 刀 っ
刀っ
斬 魔 剣 弐 の 太 刀 っ も ひ と つ お ま
斬 魔 剣 弐 の 太 刀 っ
﹄
刀っ
けに斬魔剣弐の太刀ぃっ
﹃ちょおま﹄
!
﹂と付け加える6号。
こめかみを抑えて頭痛を訴えるアタシに﹁鼻で嗤うといいですよ
﹁⋮⋮何処から突っ込めばいいのかわからねぇ⋮⋮﹂
法界から麻帆良へと帰る決意を決めたのでした﹂
ラック。鴉を模した仮面を被った彼が勝利することで、ネギくんは魔
﹁そして、それをストップさせたのが颯爽と現れたレイヴーン・ブ
なんだその頭が痛くなる展開⋮⋮。
人Ver.ネギくんが﹂
いた烏丸さんたちが追い付いた時には拳闘八百長で連勝を重ねる大
﹁その果てに元老院辺りに唆されたのか、連れ戻しに魔法界まで赴
おい。
たのか、その足で魔法界へと密入国したんです﹂
﹁出戻りしたネギくんは卒業した魔法学園に戻ることを恥だと思っ
!
!
笑っても頭痛が治まるわけじゃねえんだからな
なった、彼のフォトシリーズ︻最後の姿Ver.︼は現在でも非合法な
﹁ちなみに件のネギ・スプリングフィールド最終試合にお披露目と
?
140
!
!
!
!
!
!
!
!
!
!
!
!
!
?
サ
ロ
ン
界隈ではトレードも留まる事を知らぬ人気っぷり。拳闘ファンを自
称するお嬢様方の社交場では向こう3年はこの︻祭り︼が止め処なく
燃え盛っており、彼の話題が下火になることはもうしばらく御座いま
せん。ぷげら﹂
﹁おいちょっと本気で待て﹂
こめかみを押さえ、手の平を向けて説明をストップさせ、6号の口
﹂
今なんて言ったのこの娘
にした内容を吟味する。
⋮⋮え
﹁フォト⋮⋮
﹁こちらになります﹂
﹁⋮⋮こ、コレ、出回ってるのか
なんで
﹂
?
大 人 V e r.
恰好をした││目を疑いたくなる写真であった。え、誰得。
と、突き出されたのは、大人Ver.ネギ先生がバニーでスク水な
?
﹃⋮⋮ま、参りました⋮⋮﹄
す。
バ
ト
そんな感想を抱いて、改めて会場で拳闘ってる2人へと視線を戻
くはねぇよなぁ。
これが公になってんだとしたら、確かに表立ってあの姿で出歩きた
それにしたって酷い。
罰ゲームか何かだろうか⋮⋮。
﹁ですから、最後の姿がコレです﹂
?
││刀を構えて仁王立ちのおっさんを前に、土下座で降参している
141
?
?
!?
ネギ先生の姿が其処に在った。
142
⋮⋮⋮⋮⋮⋮ちょっと目を離した隙にもう負けてるだと⋮⋮っ
え、いや待て待て何があったんだよオイぃっ
!?
薬味坊主、運命と邂逅する
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮﹂
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮﹂
⋮⋮⋮⋮。
互いにこうしてテーブルに付き、無言で俯く薬味教師を眺める作業
が延々と終わらない。
反省しているのか、はたまたいじけて居るだけなのか。
周囲はこんなに活気と歓声に溢れているというのに、このテーブル
には閑静しか佇んでいなかった。
それもまたこの坊主からしたら、居心地のいい静けさとはまた違う
カテゴリなんだろうなぁ、とも予測できるが。
こんなになっているのは、当然のことながら目の前の薬味坊主の勝
手な行動と判断に起因する。
コズモエンテレケイア
そもそもアタシらは魔法界に一ヶ月も拘束される謂れも無い。
強行軍に見えても、6号、要するに完全なる世界に話をつけて貰え
ればすぐにでも帰れたはずだ。
6号に話をつけて貰う時点でかなり反則臭いのは言うまでも無い
けど、かと言っても時間をかけて金を稼ぎ、拳闘の選手として登録し、
予選を通過するために試合を熟して、ようやく本戦会場のオスティア
へと辿り着いた、⋮⋮遠回り過ぎるだろう。
原作みたいに﹃奴隷解放﹄っつう目的が無い以上、拳闘の大会で優
勝する、っていう目的を達成するのは要するに﹃引率教師の個人的理
由﹄⋮⋮学校行事だとしたら完全にアウトな原因だ。
しかも、その結果として提示された﹃ナギの情報﹄をラカンから得
られるのはネギ先生だけ。
そんでもって、その結末がネギVSラカンで降参による試合放棄。
しかも素手のが強いおっさんに剣で負けるってことは、完全に手加減
されてた、ってことにもなる。
143
⋮⋮おい、舐めてんの
﹂
﹁⋮⋮ハァ﹂
﹁⋮⋮ッ
さて、北斗の拳みたいな画風になったコイツとなんでこうして街中
のマッチョとなった爆肉鋼体系薬味坊主。
たなぁ、と胡乱な感想を抱かせる外見と言うには、顔の下がガチムチ
赤毛から銀髪に変更され、なんだか二次創作のオリ主みたいになっ
にあってマジで助かったぜ⋮⋮。
り体型や顔つきを変える程度の、所謂﹃現実的な変身魔法﹄がリスト
メイドやナースにコスプレさせるだけじゃなくて、髪の色を変えた
け出されているみたいだったし普通に却下。
剰に拒否反応を示したが、アタシとしても自分のパソコンの中身を曝
最初は魔女っ子系コスプレ、等と口ずさまれたせいでネギ坊主が過
そこで用意したのが、アタシの手にあるスマホガールの変身魔法。
目星を付ける意識程度は備わっていると見て間違いない筈だ。
兵だって無能じゃねぇ。そういう﹃人ごみの中の空白﹄みたいな奴に
この世界で漫画みたいなご都合主義は通用せず、捜索する側の警備
恰好の子供が独りで出歩いてるのも逆の意味で目立つ。
じ理由でアウトだし、かといって認識阻害ローブと言う原作みたいな
ハルハラヤクミの格好は既に知れ渡っているし、大人Ver.も同
物のバカ⋮⋮もとい逃亡犯だ。
ゲート破壊は冤罪だとしても、密入国って言うバカをやらかした本
指名手配犯だ。
忘れているかもしれないが、少年Ver.のネギ坊主は思いっきり
いるのかね。
⋮⋮そもそも、コイツはなんでアタシが同行しているのか理解して
ギ坊主。
思わず溜め息が出ると、怯えたような貌でビクッと身を竦ませるネ
?
に居るのかと言うと、単に現在逃亡中だったりする。
144
!
⋮⋮そりゃあ、トサカさんらの前に姿見せるわけにもいかねぇから
な。ギルドの代表として目を掛けて貰ったにも拘らず、正体を隠して
最終的に無様な負けを晒したわけなんだし。
お蔭で芋づる式にアタシらも逃亡犯だ。
桜咲は神楽坂の護衛で、朝倉には龍宮、そしてアタシに付いた護衛
せめて組み合わせ
戦える奴が魔法生徒や魔法先生、っていう考え方は
が薬味坊主、というペア。
⋮⋮あのな
判るけど、此処は神楽坂が適任の筈じゃねえの
を先取りするんじゃなくて、籤とかで決定に扱ぎ付けないか
魔法界参入してから散々好き勝手やっているから愛想
⋮⋮6号が普通に同行している以上は、まだ、平気か⋮⋮
ゲートと繋がっている、だったっけ
確か、墓守り人の宮殿にあるゲートが麻帆良の世界樹の真下にある
るまではこうやって隠密行動をする必要性がある。
とにかく、まだ気を抜けない以上は6号が向こうに話をつけてくれ
てきれてない。
それを除いたとしても、クルト総督に見つかる可能性だってまだ捨
?
此 処 ま で で 入 れ 替 わ り が 成 さ れ て い た ら 目 も 当 て ら れ な い け ど、
らな。
原作じゃ龍宮っつう護衛が就いた時には、既に入れ替わっていたか
だし、護衛を付けるのは間違っちゃいない。
原作知識参照すると、神楽坂が真っ先に狙われても可笑しくないん
⋮⋮でもなぁ、多分、まだイベント残ってるよなぁ⋮⋮。
アタシだってそんなんとっくに尽いてるわ。
が尽いたとか、そんな理由か
アレか
?
?
?
少しだけ耐え難いものがあるからな⋮⋮。
⋮⋮いい加減にこの羅王葱にひそひそと視線が集まってくるのも、
とかに話を付けに行った奴らには、早くに戻ってきてもらいたい。
ギ坊主の今回の役割だが、隠ぺいを見破られる前に綾瀬とか高音さん
実は、一番目立つから、って言う理由で街中で囮役を務めるのがネ
?
145
?
?
﹁││失礼、相席良いかな﹂
何度目かの溜め息が出そうになったところで、そう口にしながらネ
ギ坊主の向かい側、つまりアタシの隣へ腰かけてくる何者かの声が届
く。
﹂
問題ないことを返そうとそちらに顔を向けたところで、アタシの意
識は見事に固まった。
﹁⋮⋮ッ、その、声は⋮⋮
今は面を向けれないので確認できないが、恐らくは驚愕の表情で、
アタシと同じように絶句するネギ坊主。
そんなアタシらに構わず、声の主は悠々と言葉を紡ぐ。
ア
レ
﹁試合、見させてもらったけれど、随分とお粗末な結果に収まったモ
ノだね。ラカンを下せないようでは、キミはどうやらまだまだサウザ
ンドマスターには届かないようだ﹂
何処かに呆れを含ませるその物言いだが、明らかなる挑発。
そして沸点も低いのか、恐らくはこれまでにもやられっぱなしだと
思われるネギ坊主が、勢いよく椅子から立ち上がり、アタシとの間に
も し や 貴 方
!
割って入っていた。
そ の 声 独 特 の 口 調
!
﹁石●彰さん⋮⋮ッ
﹁誰だい﹂
﹂
!?
146
!
なんかネギの興奮のベクトルが絶妙に違くね
﹁そ、そ ん な こ と よ り
は、﹂
⋮⋮ん
?
!
そう感じて、こちらも意識を面を、ネギ坊主へと向けると其処には、
?
反応可笑しくね
││やたらキラキラとした表情で、相席の白髪少年を見つめるマッ
チョが居た。
⋮⋮あれぇ
﹁あ、うん﹂
るし。
⋮⋮烏丸と同室だっていう話だし、仕込んだのは奴なのか
?
﹂
フィールドくん江││と、キレイな書体で書かれた彼の名が、
そこには││フェイト・アーウェルンクスより。ネギ・スプリング
む。
キラキラとした顔で受け取ったそれを、アタシは後ろ側から覗きこ
してゆく。
結局、少年2人の会話は白髪少年が色紙にサインを書くことで集束
勘繰るアタシは間違ってないだろ⋮⋮。
って
授業の後とか、会話の中に微細だけどネタとかが混じってるときあ
し。
文化祭の時だって、メイド喫茶を最終的に推し進めたのはコイツだ
チャーに染まってるよなぁ。
⋮⋮そういえば今更だけど、うちらの副担任って微妙にサブカル
得︶。
っ て い う か、公 共 の 場 で 名 乗 る な よ 馬 鹿 か。⋮⋮ バ カ な の か︵納
話は進んでゆく。
⋮⋮アタシが呆れた顔で遣り取りを見てる間にも、着々とそんな会
﹂
その癖になる様な変態ヴォイス⋮⋮ 本物だぁ
?
﹂
!
﹁うわぁ⋮⋮
さ、サインくださいッ
!
﹁あ、ネギ・スプリングフィールド君へ、ってお願いできますかっ
﹁││え、えぇー⋮⋮﹂
⋮⋮
?
!
﹁││誰ですかッ
!?
147
?
!
﹁それはこっちが聞きたいよ﹂
⋮⋮書いてあったのだが、ネギ坊主にとっては見事に別人認定であ
るらしい。
完全に人違いされたアーウェルンクス少年が、やや疲れたような顔
×
で嘆息したのは錯覚じゃないと思われる。
×
×
出来上がりであった。
である﹃鬼神の確保﹄を阻止した人物とは到底思えない、実に粗末な
魔法界で観察させてもらった彼の人物評価は、京都でこちらの目的
⋮⋮はずなのだが。
働くのは間違いない。
こちらのやろうとしている﹃魔法世界の完全封印﹄を阻止しようと
だが、相手はあのサウザンドマスターの息子。
にもある程度の事情は伝わっている、と普通ならば思うべきだ。
セクストゥムが未だ同行しているのだし、協力者の同郷である彼ら
う。
虚ろな目で壊れた人形のように返す彼を見乍ら、そんなことを思
然興味ナイデスカラー﹂
﹁アハハー、所詮ウワサデスヨ、ウワサー。ボクハこすぷれナンテ全
が趣味だとか﹂
キミのことは、噂だけなら聞いてるよ。なんでも、拳闘ではコスプレ
﹁⋮⋮とりあえず、初めまして、だねネギ・スプリングフィールド。
一先ず、カードは小刻みに出しても問題は無いだろう。
けじゃない。
⋮⋮見事に出鼻を挫かれた感があるが、こちらの優位が覆されたわ
×
ゲート破壊の犯人として指名手配を采配したのは間違いなく目の
148
×
前のボクとその一派だと理解できるだろうに、彼はもちろんその従者
らも此処に至るこの一ヶ月の間一切その件については触れようとし
ていなかった。
憶測を立てることもしないでいたのは、多分色々と状況に流される
ままになっていることに慣れきっていた麻帆良での生活の弊害もあ
るのだろうが、そもそも情報が無い状態で放り込まれた状況であった
ことにも端を発するのだろう。
しかし、こうして目前にして顔を突き合わせてみても﹃彼は本当に
何も知らない﹄ということしか伝わって来ない。
情報を得る機会は幾らでもあったはずだ。
セクスティウム然り、ジャック・ラカン然り。
それなのに、まるで相手にされていないのは、まだ認められていな
いからなのか⋮⋮
という当てになら
協力者のカラスマにも、彼については幾つか尋ねてみた。
だが、返ってきた答えは会って話してみれば
ない返事しかない。
﹁⋮⋮まあ、名乗ったしな﹂
理解してもらいたい。此処まではいいかな
﹂
ちを麻帆良へと送り届ける手筈を整える役割でもある、ということを
﹁さて、キミの正体を僕が知っていることは既に納得の上で、キミた
試しとはいえ、指名手配はやり過ぎだったかもしれない。
⋮⋮此れは完全にボクの思い違いだったようだ。
思って納得していた。
言って完全に情報を預けるほどの信用は得ていないのだろう。そう
ファクトを幾つか用意して貰えたので文句は無いが、協力者だからと
カラスマ自身は実に有能だし、こちらにとっても有益なアーティ
?
驚かないのは別に構わないが、やはり彼にはボクらの正体を明かし
える女性だが、彼女が疲れたように溜め息を吐く。
と、彼の従者の少女・ハセガワチサメが、今は二十歳そこそこに見
?
149
?
ていないのか
彼はというと、帰宅の手筈を誰かが用意する、と言う点は既に納得
していたのか頷くだけだ。
⋮⋮どうでもいいが、その幻影はいい加減に解いてもらいたい。違
和感しかない。
﹁その上で、ネギ・スプリングフィールド。キミにはしっかりとした
契約を結んでもらう。なに、金銭の遣り取りをしようと言うわけじゃ
ない。この紙にサインをする、それだけで構わない﹂
そうして彼の前へと契約書を差し出すと、同じように彼の従者が書
面を覗きこむ。
其処には以下の事が書かれているはずだ。
一つ、ボクらと敵対しない。または、不利益となる行動を取ろうと
しない。
一つ、ボクらの情報を他者に漏らさない。しかしこちらの同意があ
れば可能とする。
一つ、この契約は契約者同士が離別したとしても有効とする。
精々この三つだが、これだけでも充分な内容だ。
彼の中身はともかく、実力よりも身に附けたその術式は何より厄介
だ。
下手に敵対若しくは邪魔されるよりは、事前に最低限の約定を取り
付けておいた方が安心できる。
法
璽 ﹄というアーティファクトも
エンノモス・アエトスフラーギス
言葉だけで相手を縛る﹃ 鵬
あるにはあるが、そういう〝騙し討ち〟をやってしまっては誠意に欠
けるだろう。
用意はしておくが、書類として証拠を残しておくことで相手側の不
備を事前に封じろ、というのがカラスマの託だ。
案外彼は、ボクらみたいな﹃悪の秘密結社﹄よりも、ずっと腹黒い
150
?
のかもしれない。
﹂
同行の間、魔法や抵抗を封印してもらう、というわけ
﹁⋮⋮少し、締め付けすぎじゃねーか
ますかな
﹂
其処な少年たち﹂⋮⋮えっ
﹂
﹁⋮⋮ハイ、じゃあ、これで僕らを麻帆良まで││﹁お待ちいただけ
﹁ああ、それで頼む﹂
んですよね
﹁わかりました、僕のサインで済むのなら⋮⋮。此処に書けば良い
この辺りは彼女自身の資質によるところかもしれないな。
しい。
これで魔法生徒ならば納得なのだが、カラスマ曰く彼女は一般人ら
能転気揃いの麻帆良の女子中学生とはとても思えない警戒心だ。
ハセガワチサメはこちらの意図も読み取れるらしい。
﹁ぐ⋮⋮、そう云われると⋮⋮﹂
じゃないのだから充分良心的だと自負するけど﹂
﹁そうかい
?
?
彼の書付の合間に先に注文していた珈琲を飲もうと手にしていた
ので、思わず邪魔をされたことに嫌気を感じつつ背後を振り返る。
果たして其処へ我が目に付いたのは││メガロメセンブリアの正
規兵団を大勢従えた、オスティア新総督のクルト・ゲーデルの姿で
あった。
コズモエンテレケイア
﹁ふむ、少々出遅れた感は有りますが、まあ範囲の内と割り切りま
しょう。
﹂
││﹃完全なる世界﹄残党のフェイト・アーウェルンクスとお見
受けします。お話をお聞きしたいので、ご同道願えますかな
?
151
?
?
と、彼が言葉を紡いだところで、背後の方から口を挟まれる。
?
ブ レ イ ク タ イ ム
⋮⋮やれやれ、珈琲を飲む暇も無いとは、実に急かしてくれる。
152
それとも、これもキミの策だとでも言うつもりかな、ネギ・スプリ
ングフィールド
?
﹂
巫女スナイパー、暁に死す
﹁⋮⋮ッ
﹁な⋮⋮っ﹂
彼女の胸を、一発の弾丸が貫いてゆくのが目に取れる。
射線ははっきりとその場の誰にもの目に映り、だからこそ捌けな
く、それを代わりにと受け止めた彼女に驚愕を隠せない。
﹂
撃たれ、それを自覚も出来ずそのままに倒れて塵となって消えた彼
女を見届けて、呆然と膝をつく僕に届いたのは、
﹁⋮⋮馬鹿か、狙撃手が狙撃されてどうすんだ⋮⋮ッ
と、憤る様な長谷川さんの声だった。
を構えている。何処か間の抜けた姿が。
﹂
その様相に驚きつつ振り返れば、射線が差し込まれた方向へと携帯
!
次弾が来る前に此処を抜けるぞ
!
﹄
﹁障壁張れスマホガール
﹃アイサー
!
なんだよネギ先生っ
﹁⋮⋮は、長谷川さん、﹂
﹁あ
﹂
アンタを庇って
﹁た、龍宮さん、は、どうしたんです、か⋮⋮
見てただろうがッ
﹁ッ
﹁なん、で⋮⋮﹂
﹂
だッ
目の前で死んだ
!?
!
﹂
僕はと言うと、一つだけ、思うことだけを聞いておきたかった。
く警備兵らを尻目に走り出す長谷川さん。
抱え上げられ、何処か能天気な声が響く中、劫火に晒され消えてゆ
!
?
!
153
!
!
!?
!
﹁そうだな
なんでだろうなァ
﹁どうすれ、ば、﹂
﹁何がだよっ﹂
ろッッッ
﹁∼∼っ
﹂
知るかッ
﹂
幻影でカバーし
×
﹁さてさて、そちらにいらっしゃるのは、んん∼
×
フィールド君では
ひとけ
貴方は有名ですからね﹂
身体つきと髪色を変えても、顔つきが変わらな
ておらっしゃられるご様子ですが、ひょっとしてネギ・スプリング
?
﹂
そんなことは此処を切り抜けてから考え
﹁そのひとたち、に、僕は、なんて言えば、いいんですか⋮⋮
﹁っ﹂
﹁た、つみやさんの、帰りを、待つ人たちが、﹂
!?
怒る様な最後の声に、僕は何も言えずに俯くのみだった。
!
×
ければ意味は御座いませんよ
?
よな
問題は、目の前のクルト総督。確か、原作だと﹃弐の太刀﹄使えた
られるはずだ。
は無いっぽいあの術式だが、いざとなれば薙ぎ払う程度の火力は備え
いつもの子供の姿に戻り、目配せして魔力を練るのを促す。機動力
法使い相手じゃ50歩100歩な差異だけど。
も、逃げるときは脚がいつもより長い分ちょっとだけ便利だ。⋮⋮魔
く。ち な み に ア タ シ の は 時 限 式 な の で、意 図 し て 解 け な い。も っ と
思わず舌打ちして、いい加減にシュールすぎるネギ先生の幻影を解
るっぽいな。
⋮⋮ 気 が 付 い た ら 周 囲 に あ る 人気 は 大 体 甲 冑 騎 士 で 埋 ま っ て い
?
作じゃ名前も明かされなかった小姓みたいな少年の従者が桜咲の刀
154
!!!
!?
×
!
!
×
使えるんだろうなぁ⋮⋮。アレにとっての控えみたいな位置に、原
?
みたいな奴を預けられているし。
まあ、でもなんとかなるだろ。
ラカン戦の記録は見せてもらったけど、斬られても再生するネギ先
生の回復力特化ならオッサンが相手にでもなってない限りは抵抗し
きれると見ても良い。
⋮⋮いや、連撃やったのがふつーにバグなのはよく理解できる試合
だったし。
今回は勝つ必要も無い。逃げればいいんだから、楽な相手だろ。頼
むぜ、先生。
﹂
﹁ほほぅ、やはりキミがそうですか。⋮⋮しかし、困りましたねぇ。
何故、キミが其処の彼と同行しているのですかな
云われて、先生が疑惑を抱いた表情でフェイトを見る。
フェイトはと言うと、無表情だが何処か険を抱いているような、そ
んな風情でコーヒーを飲んでいた。
おい、まさか云われっぱなしのままにしておく気か
になり兼ねねぇんだぞ
コズモエンテレケイア
此処で正体バラされるとネギ先生の気が変わるとか、そういうこと
?
織の残党でしてねぇ。何を隠そう、魔法世界崩壊を目論む最大級のテ
ロ組織なのですよ。そんな彼と同行しているとなると、あの話も本当
なのか、と疑い深くなってしまいますなぁ⋮⋮﹂
あの陰険眼鏡、何を言うつ
驚愕の貌となってフェイトを二度見する。
そんな先生はさて置き、⋮⋮なんだ
?
155
?
﹁そちらの彼は先ほども言った通り﹃完全なる世界﹄、という秘密組
?
確か原作だと、
もりだ⋮⋮
待てよ
?
﹁かつてオスティアを崩壊させた災厄の女王、アリカ・アナルキア・
?
﹂
エンテオフュシア。キミの母である彼女もまた、その組織に属してい
た、という話があるのですが⋮⋮さて
﹁ど、どういうことですか⋮⋮っ
それよりも、テロリストって⋮⋮
まあ、前情報ゼロだもんな。
﹂
というのなら、そこの彼と共にご同道願えますかな
﹂
ると何も聞かされていなかったご様子で⋮⋮。詳しい話を聞きたい
﹁はっはっは、いやいや、所詮噂ですよ噂。しかし、その有様からす
悪い。流石クルト。ほんと、お前はクルトだよ。
それを見てにやにやと笑みを浮かべている陰険眼鏡は実に意地が
こんなんなるわな、当然。
母、僕の、貴方は知って、いや
だが、ネギ先生は当然のことながら別問題だ。
はそれに反応するようなギャラリーも居ない。
と、初耳では無いアタシの反応としてはそういう程度だし、周囲に
⋮⋮あー。そういえばあったなぁ、そんな話。
?
⋮⋮今更だけど、コイツの喋り誰かに似てると思ったら二宮飛鳥
る。
静かに、だが語気のある口調でコーヒーを飲みつつ、フェイトは語
で全てを騙ろうという立場の者は見過ごせない﹂
を諌める気が無いからこそ、流石に一方的な観点のみからの意見だけ
﹁真実を知ろうという心意気は尊くも純粋な感情だ。ボクにはそれ
まあそうだよなぁ。
お、こっちも動くか。
﹁││騙されてはいけないよ、ネギ・スプリングフィールド﹂
?
156
!? !?
か。この喉に小骨が引っかかってた感がようやくすっきりした。
似てるっつうよりは﹃完全にセカイ系﹄ってだけなんだろうけど
なぁ。世が世なら結局コイツも中二病、って、普通に断じちゃ駄目か
も知れんけど。
ていうか、そんな風に思われてるって知られれば流石に失礼か。自
重しよ。
﹁ボクが彼の言うその組織だと言うのは否定はしない、だが、そんな
ボクからも敢えてキミにこの情報を送ろう。其処からキミの行く末
を判断すると良い﹂
目を白黒させながらも、語るそいつの言葉を待つネギ先生。
そんな様子に満足したのか、フェイトは先生にとっての爆弾を叩き
落とした。
157
﹁││かつてキミの村を焼いたのは他でもない、彼ら元老院だ。キ
ミの本来の敵とは、言うまでも無く、魔法使いの最大組織であるメガ
ロメセンブリアそのものさ﹂
││一瞬の静寂の後、流石に許容できなかったのか、甲冑騎士の奴
らとかその外側の野次馬のざわめきが波紋のように広がって行った。
ネギ先生は、完全に虚を衝かれたような顔で。
思考すらも止まっているのは、目に明らかだった。
さて、クルトは⋮⋮
押し殺したような声で、ネギ先生がいや、ネギ坊主が言葉を吐く。
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮どういう、ことですか⋮⋮﹂
しい。
流石の総督様も、その情報をこの場で広められるのは堪えているら
おお、余裕に見えて少しだけ目じりがヒクついてるな。
?
出口の無い何処かへと迷い込んでいるような、そんな弱々しい顔つ
きで席を立ち、対峙している2人から距離を取ろうと後ずさる。
だが、下がったところで後ろの方にも騎士は居る。
逃げ出せやしないぜ、此処が正念場だ。
﹁ふむ、その事は折を見て教えるつもりだったのですがね。人の悪
い﹂
﹁そうかい。ボクとしては当然の配慮だと思うけどね、あのままで
﹂
は貴方に取り込まれて使い潰される未来しか見えなかったよ﹂
﹁では、キミならば彼を上手く使える、とでも
﹁まさか。そんな気は毛頭ないよ。ボクは彼に動いてもらわなけれ
ば、それだけで充分さ﹂
近づいてゆくクルトに、あくまで静かなまま待機しているフェイ
ト。
そんな2人の会話が、どちらも信用のおけるものでは無い、とでも
思っているのだろう。
ネギ坊主の顔面は蒼白で、見るからに使い物にならないのは明白
だった。
それを確認するまでも無く、従者を連れてあと数歩、にまで近づい
たクルトが、フェイトへと告げる。
﹁││フェイト・アーウェルンクス、貴方にメガロメセンブリア元老
院議員、並びにオスティア総督として出頭を命じます﹂
﹁断るよ。ボクにはこの後も用事がある﹂
158
?
﹁⋮⋮そうですか。ならば、無理にでも推し通るまでです﹂
﹂
と、手を、刀を預かっている従者へと広げ、
﹁││は⋮⋮
?
││次の瞬間には、その刀を脇腹へと突き刺されていたクルトの姿
があった。
⋮⋮は
﹁伏兵は兵法の基本だよ、クルト・ゲーデル﹂
飽く迄も、フェイトは優雅にコーヒーを飲む姿勢を崩さないまま
に、そう告げた。
改めて見る。
控えていた小姓の従者が総督の脇腹へと、預かっていたその刃を深
く突き刺していた。
クルト自身も、何故今それをされたのかが理解できない顔で彼を見
ている。
﹂
が、即座に腕を振るい、彼を迎撃しようとしていた。が、躱され離
れた彼が不敵に嗤う。
﹁な、ぜ⋮⋮、いつ、から⋮⋮ッ
﹁いつからぁ⋮⋮
最初っからだよ、バァカっ﹂
フェイトと酷似していた。
・・・・・・・
一 度 噴 火 す る よ う に 火 柱 が 上 が っ た 後 に 晴 ら し た そ の 姿 は、
く。
笑みを浮かべたままの彼の姿が、見る間に焔に包まれて変貌してゆ
!?
って、コイツお構いなしかよッ
!?
で未だ残っていた他の民間人らを煽る。
その火が広場を囲む様に広がり、甲冑騎士や総督、そしてその外側
クスが、腕に纏わせた火焔を振るう。
心底馬鹿にするようにそう嗤い、彼が、恐らくは火のアーウェルン
?
159
?
﹁あ⋮⋮ッ
ふぇ、フェイトさんっ
彼を止めてくださいっ
!
﹂
!
﹂
﹁っ、フェイトさん
﹁何故
!!
!
﹁で、でも⋮⋮っ﹂
﹂
﹁そもそも、この世界に拘るキミの理由は何だい
グフィールド
初めて、ネギ先生へと視線を向けた。
?
おい、揺らいでんじゃねえよ主人公。
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮それもそうかも﹂
のアレ、随分出回っているみたいだけど﹂
ミ自身にトラウマ染みた想いを抱かせたのではなかったかな。拳闘
﹁キミにとっては関係の無い世界で、敵を擁護する世界で、何よりキ
ネギ・スプリン
いだ。まあ、運が悪かったと思って諦めてもらうさ﹂
ない。むしろ早くに苦しみから解放されるのだから、推奨したいくら
その過程でこうして市政の住民が巻き込まれようとも、結果は変わり
﹁先ほども聞いただろう、ボクらの目的は魔法世界の崩壊と滅亡だ。
﹁な、何故って⋮⋮
﹂
その冷静さに、ネギ先生は思わず怯んだようにも見えた。
再び声を荒げたネギ先生に、視線を崩さずに問う。
﹂
には、正面に立つネギ先生すら見えていないように思えた。
しかし云われても、フェイトは何も応えようとはしない。彼の視界
るフェイトへ声を荒げた。
に意を起こし、彼を仲間だと判断したのか、未だにカップを片手にす
巻き込まれている奴らにも目が行ったのだろう。ネギ先生は咄嗟
!
?
160
?
すいませ
﹁じ ゃ あ 邪 魔 せ ず に 見 て い る ん だ ね。何、幻 を 消 す だ け の 作 業 だ。
すぐに終わる﹂
言い切り、再びコーヒーブレイクへと戻るフェイト。
御執心か。どんだけコーヒー好きなんだよ。
﹂
﹁っ、それでも、ただ見ているだけでは居られませんっ
んフェイトさん、僕は貴方と敵対しますッ
言い捨てるように叫び、魔法を込めて光へと変わる。
か。
﹁││よく言った坊主ッ
﹂
さて、アタシも何とかするために、スマホガールに渡りをつけます
普通に人としてアレだろうしな。
ん、まあ良く言ったよ主人公。これで大勢を見捨てるんだとしたら
!
1人はネギ先生の前へ、もう1人はクルト総督の傍らへ。
叫んだのは1人だが、共に降りてきたもう1人は手にした銃で火の
誰だ貴様らッ
﹂
敵さ﹂
・・・・
お前絶対出待ちしてただ
アーウェルンクスへと弾丸をお見舞いしていた。
﹁あぁ
﹁先生が言ったろう
⋮⋮た、龍宮さぁーーーん
ろッ
!
161
!!
そう思っていたところへ、降りてくる二つの影。
!
!
なんだそのカッコいい登場の仕方ッ
!!!
?
!?
﹁よぉ、久しぶりだなぁ。フェイト﹂
!?
﹁⋮⋮ジャック・ラカン、か﹂
相手がリライトを使わない限り、此れで勝て
フェイトと対峙したのはラカンのおっさん
よぉしよく来た
るッ
!
しかし、
﹁││逃がすかよ
た。
それをしなくとも、傍へと来ていた龍宮に撃ち落とされるはずだっ
う。
当然、それくらいは避けるか叩き落とすかは出来る筈だったのだろ
なモノを、ナイフを投げるようにクルトへと投擲した。
火のアーウェルンクスは、いつの間にか持っていた小さな鍵のよう
﹂
出しようと試みる総督。
足取りの悪いクルトを気遣う龍宮に促されるように、焔の壁から脱
らうと良いよ﹂
﹁⋮⋮言う程酷い怪我でもなさそうだな。早くに治癒術師に見ても
﹁す、すいませんねぇ、助かりましたよ⋮⋮﹂
いッ
ネギ先生の出番が見事に今潰されたけど、そんなんどうだってい
!
!
﹂
が、それらの一切を摩り抜けるように通過した〝其れ〟は、
﹁││あ⋮⋮
?
﹂
突き刺さったクルト総督を塵のように掻き消した。
﹁⋮⋮は
?
162
!
!
﹂
﹁あ⋮⋮
﹂
﹁え⋮⋮
だが、まさか、これは⋮⋮
フェイトを潰そうと踏み出した。
が、
・・
﹁其れは悪手だよ、ジャック・ラカン﹂
││おい、なんでお前がそれを持っていやがる⋮⋮
やべ、﹂
﹁││αγκαλι
﹁おぁっ
││消えた。
πειρο﹂
一瞬で、おっさんの姿が掻き消えた⋮⋮
?
アーティファクトか⋮⋮
?
い や、今 の は 総 督 の 時 み た い な 消 え 方 と は 違 う。多 分、封 印 系 の
?
?
それは、﹃原作﹄での﹃ネギ先生﹄のアーティファクトだろうが⋮⋮ッ
約カードが仕舞われていた。
革製の手帳で、手の平サイズのカードホルダーには、何枚かの仮契
フェイトが取り出したアーティファクト。
や け に ス ロ ー モ ー シ ョ ン に 見 え た、そ の 一 瞬 で 確 認 出 来 た の は、
?
何かをしたのは間違いないと判断したのか、おっさんが真っ先に
フェイトの呟きに、総てが動き出す。
﹁││なるほど、威力は上々か。コレなら、問題無い﹂
!
誰もが何が起こったのか理解できずに、ただ絶句していた。
?
!?
163
?
!?
﹁⋮⋮改めて使い勝手が良すぎやしないか、此れ﹂
片手に四角推を重ねたような、クリスタルみたいな形状の箱を弄び
ながら、自分で使ったアーティファクトの性能に呆れた声を出すフェ
イト。
アタシらはと言うと、やはり絶句しか出来やしなかった。
だってそうだろ。現状最強のおっさんが、何をされたかもわからな
・・・・・・・・・
いままに封印された。
どう動いていいのかすら、見通しが無くなっちまった。
﹁さてネギ・スプリングフィールド。キミは敵対すると言ったが、先
程の契約を忘れていないわけじゃあるまい。それを破るというなら、
ボクらはキミたちを麻帆良へ送り届けるわけにはいかなくなる。そ
もそも、言う程暇でも無いからね﹂
164
││それでもいいのかい
方がずっとマシだ。
だから、アタシらのチップを勝手に賭けるな⋮⋮
﹂
!
﹂
﹁それでも、見過ごせません。お断りします
﹁そうかい。残念だよ﹂﹁っ、ネギ先生っ
!
!
其処を覆すにはもっと面子を、最低限でも力を集めてリトライした
シの知るリライトとは微妙に違う。
さっきのクルトを消したモノの正体はまだはっきりしないが、アタ
多分だけど、ずっと真摯に対応しているつもりなんだコイツは。
﹃原作﹄みたいに罠に嵌めている、っていう﹃意識﹄が見当たらない。
幸いにも、﹃この﹄フェイトはまだ﹃優しい﹄方だ。
この戦力差じゃ﹃勝てない﹄。
⋮⋮駄目だ。降伏しろネギ先生。
と、最後通牒を確認するように、フェイトは問い質す。
?
心底どうでもいいように、そう告げたフェイトの視線はネギ坊主へ
と向いていた。
最初から狙っていたのか、それとも何処かで合図を下したのか。
ル
ム
トゥ
×
次の瞬間には龍宮がネギ坊主を押し退けて、その場へと⋮⋮、
クゥァ
×
×
ン
トゥ
ム
電磁砲の要領で彼命名﹃使い切り方改良版リライト﹄等とふざけた
レールカノン
風のアーウェルンクス。彼が狙撃を外させられるとはね。
クゥィ
し か し、も し も の 場 合 に 2 ㎞ ほ ど 外 側 へ と 控 え さ せ て い た
して貰って、ネギ・スプリングフィールドには感謝の念が絶えないよ。
カラスマから齎されたアーティファクトの性能を試せる場を用意
な相手になっていただろうな。
良して使用できるアーティファクト⋮⋮。敵対していたら、実に厄介
える時点で只の魔法具職人とは一線を画す。アーティファクトを改
違いないが、自分も中に入らずに個人のみを封印できるように作り変
暦の﹃時の回廊﹄と環の﹃無限抱擁﹄のコンボは初見殺しなのは間
ク・ラカンも封印できるとは思えなかった。
それを先に片づけられたのは言うまでも無いが、一緒くたにジャッ
柄なのだろう。
らね。会談のように引っ張り出せたのは、矢張り彼が政治家故の職業
密裏にボクを処理しようと只の力圧しで済ませていた恐れが有るか
彼とこうしてカフェでお茶でもしなければ、クルト・ゲーデルは秘
が僥倖なのは間違いない。
のは作戦の内だが、ネギ・スプリングフィールドと話を付けられたの
ボクが認識阻害も用意せずにオスティアの街中を歩き回っていた
能には流石のボクでも薄ら寒いモノを感じるな。
それにしても、本当に此れだけの威力を出せるとは。カラスマの性
焔に焼かれるオスティアを睥睨する。
⋮⋮逃げ去ってゆく彼らを眺め乍ら、火のアーウェルンクスの作る
×
﹃鍵﹄を射出。それは距離が離れているとはいえ、いや、離れているか
165
×
らこそ殺気もそうそう感知されずに、目標を潰す。そういう狙撃だっ
たはずなのだが。
咄嗟に威力と性能を察知して撃ち落とすことが不可能と判断し、自
らが壁となってネギ・スプリングフィールドを助ける。
彼は良い生徒に恵まれたみたいだね。それが彼自身の資質を補え
ないのは、非常に勿体無いことだと思うけれど。
そしてこの手元の契約書だ。
これ自体には何も誓約も無い、只の紙だ。だが、此れは確かになる
ほど、と理解できる。
後ろめたくない。その一言に尽きるのだ。
こうして形となって文書が残っている以上、先に契約を破棄したの
は彼の方だ。と、そういう意識で対処できる。
これは幾らボクらが﹃悪の秘密組織﹄でも、良い大義名分になる。
カラスマ風に言うならば﹃ボクは悪くない﹄、とでも言うべきか。
166
だからこそ、何をして、何がどのように相手を下そうとも、実に﹃心
苦しくない﹄。
やはり、彼はボクらよりもずっと悪党だ。実は旧世界で噂のロアナ
プラとかいう街が彼の出身地なんじゃなかろうか
さて、そろそろ締めと往こう。
消滅させていた。
弄んでいた水晶型の箱へ、
﹃小さな鍵﹄を差し込んで両手で潰すように
││そんなことを思い乍ら、フェイト・アーウェルンクスは手元に
削っておいた方がずっと楽に仕事も済む。
魔法界の戦力がオスティアに集中している今のうちに、削れるだけ
いとも限らないからね。
いくら大魔法の構築式が済んでいるからと言っても、邪魔が入らな
?
ちう、状況を見据えて結果を想定し選択を図る
﹁⋮⋮被害は甚大、焔の魔法を使う少年や市外より狙撃される恐怖
に加えて、街中には魔法が効かない謎の魔族や魔獣が多数出現。メガ
ロメセンブリア、セラス、アリアドネー、魔法世界における最大多数
の主力戦力が軒並み鴨撃ちされ、オスティアも焼かれました。生き残
りを数えても絶望的なくらいのテロですね﹂
沈んだ顔で綾瀬は云う。
そこに何某かの異を唱える声は無く、そもそも全員気力も無い程度
には参っていた。
現在、場所はアリアドネー巡洋艦ランドグリーズ艦内。
アリアドネー主力兵が軒並みリライトされ諸共破壊される寸前、先
ヤ
ツ
に綾瀬らと合流してくれていた朝倉の機転のお蔭で徴収に成功した。
足が無くては逃亡も適わなく、その点で言えば彼女という作戦立案
能力の持ち主がチーム内に居てくれて助かったと言える。
割と今迄役立たずだと思ってた。ごめんな朝倉。
乗っているのは、逃亡に成功した神楽坂、桜咲、朝倉、私にネギ坊
主。
アリアドネー組からは綾瀬に佐倉、春日にココネとかいう教会コン
ビ。そして向こうで知り合ったというコレット、エミリィ、ベアトリ
クスの3人のみ。
原作通りの被害、ではないけど、あっちとこっちと、果たしてどっ
ちが絶望的なのか⋮⋮間違いなくこっちだな。何故なら、
﹁高音さんが死んだってのは、マジなのか﹂
﹁はい。何故か私やビーさんの魔法は通用したので防御は間に合い
ましたが、高音さんは襲われる人らを助けるために立ち向かい⋮⋮﹂
らしい、といえばらしい最期だ。
167
例えるならば子供を守るために車に轢かれる、HEROみたいな生
き様を見せつけてくれた。
正直遺された佐倉の気持ちも考えやがれ、としか言いようがない
が。
﹁先に攻勢を打って出ていたエミリィさんは自分の手が届かないこ
とを悟ると私たちのサポートに徹してくれたのでなんとか間口は凌
げましたが、コレットも併せて間違いなく戦場へは赴けないと見て正
解でしょうね。かといって、安全な場所が果たしてこの世界の何処に
あるのかと問いたいのですが⋮⋮﹂
﹁戦況を見るだけの余裕があったのならなんとかなるだろ。襲撃さ
れたのに生き残れたのなら、上出来だ﹂
ついでに言わせてもらうと、一部の魔法が通用してもこの世界線の
﹃リライト﹄は現実世界人にも有効な反則技だということを全員が再
確認できた。
彼女の死は無駄じゃない。が、やはりお人好しな女子中学生として
は、あの人にも生きて帰ってきてもらいたかったよ。
﹁││さて﹂
言葉を切り、沈んだ顔の全員を見渡す。
このまま私が話題を引く他ないのか、誰にも行動を起こそうという
意気込みが見受けられない。
嘆息し、議題を改めて立ち上げることとした。
﹁状況は絶望的だ。改めて考えても戦力の差はハッキリしすぎてい
て、私らのような女子中学生⋮⋮まあ魔法学園の精鋭とやらもいるに
はいるが、それでも一般的に戦力として数えられることのない女子供
であることは間違いようがない。対して、敵は絶大な攻撃力と殲滅力
と召喚魔までも駆使して魔法界そのものへと襲い来る﹃悪の組織﹄だ。
168
⋮⋮どうする
﹂
全て言ったわけではないが、誰もが理解しているので口を閉ざす。
議論は沈黙、案は出ない。
其処で手を挙げたのは、神楽坂だった。
﹂
﹁││えーと、死んだ人たちを襲った魔法って推測付くし、ひょっと
したら生き返らせられるかもよ
おい、言っちまうのかよ。
に神楽坂へと喰い付いた。
タカネを、生き返らせられるとっ
!?
﹁ほっ、本当ですのっ
﹁うん、多分﹂
!?
⋮⋮まあ、美少女で本気出せば車並みのスピードで駆け抜けられる
にという指示も出しておいたわけだし。
実際、もしもの場合は神楽坂から離れずに、優先的に離れないよう
ちそうな桜咲を押し付けたのだが。
だからこそ、神楽坂が浚われないようにと、護衛として一番役に立
ということも知っている。
出てきたアーティファクトもハマノツルギではなく、件の﹃鍵﹄だ
る。
││だが、私はコイツが烏丸と仮契約をした時のことを目撃してい
中学生。
実力を隠しているようにも見えない、本当にそこらにいそうな女子
に関しては私らの中じゃ一番の素人であることも周知の事実だ。
その割には漫画で見たような剣を扱った記憶は微塵も無いし、戦闘
憶を取り戻しているんだっけか
軽く応える神楽坂だが、⋮⋮そういえばコイツ姫御子だった時の記
﹂
当然、その話には誰もが目を見開き、エミリィが特に詰め寄るよう
?
?
169
?
女子中学生をそこらに居そう、って表現するのは間違いだとは思う。
ア
イ
ツ
やべぇ、麻帆良に毒され過ぎだろ私。
⋮⋮ところで﹃完全なる世界﹄ら、どうやって今回のテロを実現させ
たんだろうな。やはり烏丸か アイツも神楽坂のアーティファク
トを理解していたみたいだし、製造系に重点置いて居そうなオリ主っ
ぽいあの色黒白髪なら難なく再現させていても可笑しくないし。
そこまで思考したところで、当然の如く待ったがかかる。
この中では一番楽観視からは程遠い思考能力を持つ、やはり綾瀬か
らのツッコミ⋮⋮ではなかった。
﹂
﹁待ってください。明日菜さんは、魔法生徒では無いですよね
どうやってお姉さまを助けられる、っていうんですか
?
く⋮⋮
春
期
邪気眼とかセカイ系とかが生じたりするんだもんな。くっ、右腕が疼
自分ルールで動き出そうと色々思いつくままに動こうとするから、
般的な青少年だ。
思
に事を済ませて貰えると思っていられるほど楽観的じゃないのが一
節はあるのだが、そっちが何も言わないからと言って無言でなあなあ
綾瀬は神楽坂の実力というか、その本質をどことなく理解している
すれば得体の知れないスキルホルダーにしか見えんよな。
だよな。事情知ってる私らとは違い、本職の魔法生徒である奴から
問い詰めるような視線で、佐倉が神楽坂を見つめる。
?
﹂
へ突貫して、鍵を指せばなんとかなるかなぁ、って﹂
﹁行き当たりばったりにもほどがあります
行き詰っているんですし﹂
魔法使いの巣窟に乗り込めるほどの戦力が無いから、こうしてみんな
﹁明日菜さん、体力的には兎も角自分を過信しすぎですよ。流石に
!?
170
?
﹁どうやってって言うか、まあ、とりあえず乗り込んで術式の中心部
!
バカホワイトがまともなことを言った。
まだ龍宮が死んだこと引き摺ってんのかな。不調なのかな。心配
になるな。
﹁其処に付いては私から提案が﹂
別ベクトルに思考が傾きかけたところで、ひょっこりと顔を出した
のは6号だった。
││当然、場は騒然となる。
﹁おう、出てきていいのかお前﹂
﹂
﹂
﹁どちらにしても確認を取るのが前提なので。顔を合わせないこと
にはことは進みませんし﹂
﹁な、なんで貴方が此処にっ
﹂
独行動中ですし﹂
自我の芽生えが明後日の方向過ぎる。
コレも烏丸の影響か
も、私の役処に変更は有りません﹂
一つ、麻帆良へ帰る。一つ、魔法世界を救う。どちらを選んだとして
﹁さて一々事情を説明するのも面倒ですので選択肢を提示します。
?
171
﹁は、離れてください長谷川さんっ、その子は⋮⋮っ
まあ、こうなるのは知ってた。
だよな
﹁まあ落ち着け、コイツはすぐに攻撃とかしない。⋮⋮しないはず
てくれば、警戒も露わになるのも当然だよな。
先ほどから世界を襲っている集団の一部と同じ顔をした少女が出
!
!?
﹁優先順位は皆さんの救助ですから。お兄ちゃんズと違って私は単
?
﹁なんで﹂
﹁どちらでも、行き先は﹃墓守り人の宮殿﹄です。帰還ならば唯一可
・・・・・・・・・・
動している麻帆良直通のゲートへ、救済ならば宮殿中心にある祭壇
へ。どちらを選んだとしても、私は案内役を務めます。どうしますか
﹂
その台詞に、全員が首を捻った。
如何にも敵として立ち塞がると思っていたのに、6号の言い分では
﹂
敵対しているとは思えない発言過ぎた所為である。
﹁⋮⋮どういうことだ
帆良組﹄の援助活動を﹂
?
けど、いいのかおい。
若干極秘っぽい情報をつらつらと喋っちゃっている気がするんだ
⋮⋮なんだろう、明け透けな物言いに頭痛が痛い。
めないのですよ﹂
﹁私、水属性で氷の魔法使いですから、お三方とはチームワークが組
﹁⋮⋮⋮⋮お兄ちゃんズとやらの手伝いはしなくていいのか
﹂
ランを進行中です。なので、烏丸さんから直にお願いされている﹃麻
烏丸さんを連れてきたということで、褒賞として戴いた素敵な休日プ
﹁現在私は開店休業中なのです。大幹部であるデュナミス様からは
?
﹂
シリアスじゃなかったのか、もうちょっと仕事しろよ︵二つの意味
で。
﹁で、どうしますか
?
172
?
ネギ少年、激突す
﹁││ぅおおおおおおおおおおッッッ
﹂
雄叫びを上げつつ、少年はこちらへと接敵する。
光と化したその状態は、本来の︻現象としての︼顕現であるならば
まさに﹃光速﹄を体現し得るのであろうが、
︻魔法として︼の光系統の
術式は実は其処までの速度が出ない。
使い手の指向性に則ってその機動性を維持している為に、使い手が
︻光速で思考する︼ことが出来ない限りは、単純な捕縛術式程度の効能
しか見出せないのである。
それが光系統呪文の使用率が低いそもそもの理由であり、事実それ
と同化した彼もまた、自らの肉体が散逸することを防ぐ方向へしか術
式の維持は傾けられておらず、再生力はあるが機動力は皆無な彼が駆
けてくる姿からも、拳闘にて見遣った時点から成長していないことを
も把握する。
若い、そして実に未熟な彼を、こうまで奮い立たせるのは一体何な
のだろうか。
何故キミは其処まで戦おうとする
﹂
﹁確かに、キミのその完全光化呪文は﹃個人が生きるため﹄ならば脅
威と呼べる。だが、何故だ
?
ずっと早くに侵入してきたことには暗い歓喜も覚えたほどだ。
カラスマの協力により﹃完全なる世界﹄の目的達成は既に目前。
稼働前に準備の全てを終えて置くという選択により、初動でオス
ティアに集まった戦力のほとんどを作戦開始︻以前の段階︼で削除完
了するという快挙を成し遂げることに成功した。
その総ての﹃上手く行った事態進行﹄に僅かに寂寥を覚えたのは、ボ
173
!!
敵対した彼ならば、きっと来るのだろうと思っていたが、予想より
場所は墓守り人の祭壇前。
?
フェ
イ
ト
ライフメイカー
クがボクであるが故の、テルティウムとして生きたが故の、造 物 主が
言う処の﹃謹製﹄成りに得た経験則からなる︻感傷︼なのかもしれな
い。
即ち、このまま終わっても完全とは程遠い、という仕事の﹃粗﹄を
削って往こうとする志向。計画の完遂を追い求め、尚も精練を極めん
とする目標への高水準化だ。それは人形故に刷り込まれた本能に近
しい。
それを理解した時、ボクは確かに迫りくる小さな敵に歓喜したの
だ。
﹂
それが実にほの暗い感情であっても、ボクは彼へと期待した。
││この暇を潰させてくれるのか、と。
キルクルス・ピーロールム・ニグロールム
﹁それでも、守りたい世界があるんだぁーーーーッ
ネギ君は石化効果を伴う万 象 貫 く 黒 杭 の 円 環をも物ともせず、自
らを再生させながら前へと進む。
マギア・エレベア
なるほど、此れもまた幼い誇りを顕す意志か。
代償が激しいと噂に名高い闇の魔法を惜しげも無く使ってまで突
き進もうというその姿勢、実に面白い。
﹁ならば、戦ってあげるよ。何、総てが終わるまでの僅かな暇つぶし
×
は戦線を移動させた2人を尻目にこっそりと祭壇前まで顔を出す。
コード・オブ・ライフメイカー
フ ェ イ ト が 姿 を 消 し た 其 処 を 守 る 者 は 1 人 も 居 ら ず、
造 物 主 の 掟と思しきデカい鍵状の杖を携えた烏丸が唯一、球状の
星時計みたいな円環の中心に意識なく浮かんでいた。
それ、原作神楽坂の役目じゃねーの
?
174
!!!
×
さ﹂
×
×
ネギ先生が盛大な囮として前面へ出てくれたのを見計らい、私たち
×
戦力も情報も不充分な私らは本来ならばいきなりこうしてラスト
あ
ち
ら
さ
ん
ら
セクストゥム
ダ ン ジ ョ ン へ と 乗 り 込 む よ う な 真 似 を す る は ず が な い、と
﹃完全なる世界﹄は想定している筈だ。
でも目標を達成するためのキーカードとして、 6 号がこちら側へ
と寝返った。
お蔭でその辺の細やかな調整や詰め直しや戦力の確保または実力
を上げるための修行編なんかを挟むこともなく、見事なまでのショー
トカットは私らをこうして墓守り人の宮殿の最奥にまで至らせてく
れたわけだ。
件の6号は黒ローブ中ボスのデュナミスその他を足止めするため
三
郎
の別行動中で、その隙をついて烏丸を解放する役割を私らが担ったと
いうのが真相だ。
⋮⋮が、そこで何故か待機していたフェイト。
それに戦力を割くために、ネギ先生を突貫させたのは言うまでもな
郎
ロー
三
郎
五
郎
﹂と、関羽張りに銅鑼の音が鳴ったの
五
郎
大体烏丸の所為大体烏丸の所為
はいはい、D K SD K S。
175
い。
ブ
誰だってそーする。私だってそーする。
サ
その時﹁ゲェッ、フェイト
は幻聴だと思いたい。
語
無いんだし。
どうせこれも烏丸の所為なんだろ
?
ネギ先生の役割は時間稼ぎで囮で、別に勝って貰わなくても問題は
予定を消化することとした。
てことはイレギュラーな事態と判断し、私らはあらかじめ決めていた
実に6号の張った罠だったろうけど、ああしてサブローだけが居たっ
此 処 で クゥァルトゥム と クゥィントゥム ま で も 待 機 し て い た ら 確
四
抱いて其処を張っていたか⋮⋮。
原作の修正力が働いたか、それとも三郎だけがなんらかの予感でも
物
らないはずだ、って言っていたんだけど。
ちゃんズは各地へのリライト作業に散り散りとなっていて3日は帰
可 笑 し い な ぁ、6 号 の 話 じ ゃ フェイト か ら クゥィントゥム の お 兄
!?
﹁⋮⋮これ、私の役割だったような気がする﹂
﹁ナニ言ってるんですか明日菜さん﹂
想定が鋭い神楽坂の推理に、桜咲が胡乱な目でツッコミを入れた。
ちなみに囮として前線へと赴いたネギ先生の心配は割と誰もして
おらず、先生が自分が前へと出ることを進み出た時にも、ダチョウ倶
●部張りにどーぞどーぞ、と押し遣っていた。
というのも、初めにネギ先生が今回の魔法界救出を諦めた所為でも
あるんだが。
6号が選択肢を提示した其処へ、ネギ先生は麻帆良へ帰宅すること
を選択して大バッシングを受けた。
私らみたいな女子中学生を牽引している教師という立場なのだか
ら、私たちの安全を第一に考えることは間違っていない。
しかしそれならば、もっと前の段階でそれを提示しておくべきであ
176
るし、彼の今回の旅行での要所へ張り巡らされた選択肢の数々をそも
そも︻間違えていた︼のもネギ先生だ。
此処で私たちの安全を第一に考えた、と口にしたとしても、そうい
う段階はとっくに過ぎている。
神楽坂が被害に遭った仲間たちを助けられる手段を挙げているの
に、それを危険だからと取って付けたような理由で今更封殺されたと
ころで、納得できるほど私らは大人では無かった、ということだろう。
⋮⋮まあそれ以外にも、あのネギ坊主が帰宅を選択したそもそもの
前提の部分に、実力不足云々以上に︻原作程の精神的成長︼を見せて
いない為の﹃甘え﹄が透けて見えていた、っていう理由があるんだが。
﹂という感想が湧いてくる感じで。
そう、漫画原作三巻ほどでエヴァンジェリン相手に逃亡した時点か
ら﹁コイツ成長して無くね
それでも、見過ごせないのだから仕方がない。
⋮⋮いや、私も頭では危険さを理解してるけどな。
の︻信用︼が、ネギ坊主には足りていなかったってところだな。
という小賢しい前提が働いている時点で、その提案を受け入れるほど
そんな子供としては当然だが、この場に来てまで逃げて済ませよう
?
﹂
やっぱ目の前で龍宮がリライトされたのは、普通に感情として許せ
なかったみたいだ。
﹂﹂
!
﹂﹂﹂﹂﹂﹂﹁﹁うんっ
﹁││よし、起こすぞ。この寝坊助をなっ
﹁﹁﹁﹁﹁﹁はいっ
!!
かなぁ⋮⋮
ココネー⋮⋮へるぷー⋮⋮﹂
許せ春日。
大事な逃走手段なんだよ、お前は。
×
﹁⋮⋮気は済んだかい、キミたち﹂
×
⋮⋮世の中はこんなはずじゃなかったことばかりだよっ
フェイト・アーウェルンクスが呆れたような表情をしていた︵無表情。
四 肢 を 石 化 さ れ て 身 動 き で き な く な っ た ネ ギ 先 生 を 引 き 摺 っ て、
後から声をかけられる。
差し込めないかと四苦八苦したりと30分ほど経過したところで、背
があることを確認したり、神楽坂のアーティファクトをむしろそこへ
いる烏丸の手元に何故か神楽坂のアーティファクトらしき巨大な鍵
原作宜しく円陣組んで周りから呼びかけたり、円環の中心で佇んで
×
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮なんでアタシまで一緒に連れてこられちゃってるの
!!
もらいたい。総てが終われば、キチンと解放するよ﹂
いが、術式を維持している彼を其処から解放するのはもう少し待って
﹁カラスマを今起こされては計画が頓挫してしまうのでね。済まな
話自体がそもそも少ないのだけどな。
⋮⋮いや、冷静に考えたらホント全部が全部上手く行く、っていう
!
177
×
!?
×
コイツ紳士じゃね
?
あれ
?
なんちゃって英国紳士坊主よりずっと真摯な対応をされて、という
脳
筋
か、実力の時点で歯向かえそうにも無い相手に冷静に諭されて、臨戦
態勢を取ろうとしていた魔法使い組︵一部除く︶も蹈鞴を踏む。
﹂
唯一一部除かれた綾瀬が、前へ出てフェイトへと質問をした。
﹁⋮⋮私たちを拘束しないのですか
うん、それだよそれ。
私らと対峙したところで、フェイトは其処から手を出そうともして
いない。
私らが四苦八苦していた時点で、既に隙だらけだったろうに無事な
のがその証拠だ。
﹁攻撃するのなら迎撃するし、現実世界へ逃げるのならば追う気は
ない。彼だって、光化が解けた時点で待ったをかけるくらいだから
ね。本当に何処まで本気なのか、見通せなくなるところだったよ﹂
おいこらネギ坊主。
どうやらネギ先生が先立って命乞いしたお蔭で、私らは見逃されて
いるらしい。
というか、傍観されていた節もあるということは烏丸を回帰させる
手段も出来やしないと高を括られていたか、いや、そもそもなんにも
通用しないと初めから見通されていたような感じだ。
ホント用意周到だぞこの﹃完全なる世界﹄。
﹂
︻悲報︼敵組織がガチ︻逃げ場無し︼、ってテロップが先に立つな。
﹂
﹁さて、コーヒーと紅茶、どっちにする
﹁⋮⋮えっ、本気
いや、フェイトは何処の国籍を持っているのかよく知らんが。
?
178
?
オモテナシ精神を外国人に発揮された。
?
何に使うのかとずっと疑問だった円環外周部に備え付けられてい
たイスとテーブルの本来の役割を知って、困惑の声を上げる私であ
る。
﹁紅 茶 は レ モ ン と ミ ル ク も 用 意 し よ う。コ ー ヒ ー も キ チ ン と シ ュ
ガーが備えられている。お茶請けは何が良いかな﹂
﹂
﹁⋮⋮ではレモンティーをお願いするです﹂
﹁ユエさん
驚愕の声を上げたのは第二の脱げ女と原作ではもっぱらの噂のエ
ミリィさん。
ラカンさん
今更だが、この時点で生き残っている筈の無い彼女が一緒に同行し
てる、っていうのが何故か違和感が無かった。
﹁今のこの状態から戦えるとは到底思えません、相手は英 雄を一手
で倒せる手段も持ってますし、
﹃普通の魔法使い﹄でしかない私たちが
﹂
逃げられるとも思えません。こういう時こそ余裕を持って、淑女なら
ば難しくは無いですよね、委員長
﹁む⋮⋮っ﹂
けどな。
⋮⋮なんか、今から︻遺言遺す︼みたいな雰囲気なのが普通にヤだ
そういう理性的な側面が働いた、とも云える。
い。
むざむざと消されるよりかは、自身を律せる立場に自分を置きた
んなんかにも手加減をする必要はあっちには無いはずなのだ。
されている私たちだし、魔法世界人であるエミリィさんやコレットさ
そもそも、例えばリライトをこの場で使われて一番困るのは命を晒
戦闘も逃走も、この時点では選択肢にすら無い。
綾瀬は見事に冷静に時世を読み切った。
?
179
!?
ワタクシ
そう、ブブヅーケなるモノでもっ
﹂
﹁無論ですわっ。それならば私 旧世界ニホン式のお茶を戴いてみ
たいところですわねっ
!
みたいだけど
﹂
﹁⋮⋮質問があるんだけど﹂
烏丸の方を、敢えて視線に入れないような仕草で。
リ
ラ
イ
神楽坂は視線が定まらないままに、疑問符を浮かべる。
アタシの手元には、今も﹃造 物 主 の 掟﹄があ
るっていうのに⋮⋮﹂
⋮⋮神楽坂は、ひょっとして記憶を取り戻してんのか
コード・オブ・ライフメイカー
﹁そらは、どうやってあんたたちの﹃魔法世界強制書き換え術式﹄を
ト
﹁どうしたのかなお姫様。キミのお仲間たちは、皆話を聞くつもり
トが、それに気づいて声を投げる。
﹁日本茶⋮⋮あったかな﹂と急須とごはんを取り出しているフェイ
の最後に、神楽坂が躊躇していた。
場の空気が和んだ、とはとても言えないが、渋々と席へ着く私たち
うん、エミリィさん。それなんか違う。
!
理は⋮⋮確か、︻換喩︼がどうの、と言っていたような⋮⋮﹂
﹃リライトを再現できる﹄と云うから手を貸してもらったので、その原
の だ け ど ね。彼 に 関 し て は、ボ ク ら も よ く は 把 握 し て い な い ん だ。
﹁⋮⋮︻其れ︼がお姫様の手元に〝ある〟という時点で普通に異常な
雰囲気で返事を返す。
そんな私の疑問には気づきもせず、フェイトは歓談に応じるような
Cだった面影が薄いのだが。
なんか、妙に冷静な部分が生きていて、麻帆良に居た時の呑気なJ
?
180
?
維持しているの
?
ス
タ
イ
ル
││︻換喩遣い︼
物
﹁そらがアンタたちに手を貸した理由はナニ
語
?
いいの
﹂
最終回に突っ切っちまうけど、いいの
﹂
﹁⋮⋮それをキミが訊くのかい
﹁││え
今度は正真正銘、フェイトが呆れた声を上げた。
│
アー
んてのは││、
﹁│
イィィィーーーーーーーーッック
ニ ャ・ フ
﹂
レ
イ
ム
バ
ス
ター
キ
まあなあ、普通に考えたら、間違いなく烏丸が手を貸してる理由な
らしく、頓狂な顔で音を返す。
神楽坂もその返事は予想外の意図が汲まれていたことに気づいた
?
⋮⋮ そ れ 聞 い ち ゃ う の か よ 割 と こ の 世界線 の 核 心 じ ゃ ね ぇ か
?
﹂
ると、意を決した神楽坂がフェイトをキッと見据えた。
麻帆良武闘会でも覚えた頭痛に頭を抱えたくなる衝動を堪えてい
あれ、この世界はいつからめだかボックスに⋮⋮。
?
た私らの視線何ぞ気にもせず、堂々と言い放っていた。
そしてびしぃっ、と蹴飛ばしたフェイトを指さすと、呆気に取られ
れたテーブルの頭上へとスタッと着地していた︵擬人化表現︶。
炎を纏った赤毛の幼女は、宙をくるくるくるくると反動で回転し頽
回転させつつ歓談の場を引っ繰り返して逝った。
││めしり、とフェイトの顔面に幼女の足蹴がめり込んで、錐揉み
!!!!
181
?
?
?
?
﹂﹂﹂﹂﹂﹂﹂﹂﹂
﹁私が来たからにはもーう好き勝手はさせないわよ
﹁﹁﹁﹁﹁﹁﹁﹁﹁││どなた
悪党
﹂
!
のJCが咄嗟に出したのはそんな言葉であったという。
半死半生のネギ先生と私を除き、余りの展開に驚愕通り越した9人
!
⋮⋮そーいやぁ、初対面だったよな、私らとこの幼女⋮⋮。
つーか、なんで居る。
182
!?
激闘
︻完全なる世界︼
﹂
!
のだと判別しておこう。
⋮⋮それはそれで非情に物悲しい分析でもあるが。
あの
?
説明になっていない。
﹂
ココロウァ略してアーニャ︼はきっぱりと言い切った。
息も絶え絶えのネギの問いに、赤毛の少女︻アンナ・ユーリエウナ・
からこう答えるわ。││色々よ
﹁ん。まあ色々説明して欲しいのかもしれないけど、めんどくさい
﹁あ、アーニャ⋮⋮、どうして、どうやって、ここに⋮⋮
﹂
判断によっては読む側の精神衛生上宜しくないので、此処は後者な
推論する
線を潜り抜けて来たのか。
それは彼女が薄情なのか、はたまたそんな分析も出来るくらいの死
認識されているらしい。
る辺り、彼女にとってはこの状態は﹃大したことは無いレベルだ﹄と
⋮⋮どうでもいいが少年のそんな様を認識しつつもスルーしてい
ネギ坊主
とした気持ちにさせてくれた。
いるのかというくらい、その場にいた数人の女子中学生らをホッコリ
あるのだが、それを差し引いても彼女の幼さが場の空気を弛緩させて
床に転がった幼馴染は半分石化して四肢が捥げて割と半死半生で
もよく相俟って見る者を微笑ましい気持ちにさせるドヤ顔だ。
今世紀誰も見たことが無いくらいのドヤ顔だが、彼女の幼い外見に
腰に手を当ててドヤ顔を晒す。
元気溌剌意気揚々と、赤毛の少女が床に転がる幼馴染を見下ろし、
たんじゃないかしら
程度の相手にやられて転がってるようじゃ、魔法界にくるのも早すぎ
﹁まったく、やっぱりネギってば私が居ないとダメダメね
!
!
183
!
!
﹁いやおい、説明になってないぞ﹂
様子を見ているつもりだったけど此処で口を挟まなくちゃホント
ズルズルいくよな。
麻帆良で日本の夏を
ということでツッコミを入れさせてもらう。
堪え切れんわ、そんなん。
﹁なによー、ほんと色々あったんだからね
満喫しつつエヴァの修行を受けてたら上空に魔法世界が映るなんて
﹂
異常事態めったにないわよ。今なら私、一番濃い夏休みを過ごしてい
るって自負できるわ、うん﹂
﹁うわホントにツッコミどころ色々ある。⋮⋮え、上空に
﹁うん、ほら﹂
星
?
のよね﹂
火
﹁30分前、っていうと⋮⋮丁度私らが此処に付いた頃か⋮⋮
というか、麻帆良から30分で此処に来たのかよ。
どこぞの空賊BBAもびっくりの身支度速度だな。
﹂
の連絡が取れない、とか言って、学園長先生がエヴァのところに来た
タし出したのよ。何人かの魔法先生とか魔法生徒とかいう人たちと
﹁30分前くらいかしら、世界樹の発光が始まって麻帆良中バタバ
的に繋がったかのようで⋮⋮詳しくは︻オルバース界面︼でググれ。
その様相は、何処かのエターニアな物語における二つの惑星が閉塞
魔法世界の空に映り込んでいた。
と、空を指さす彼女の視線を辿れば、確かに夜景のような街並みが
?
つうか、
﹃この現象﹄が起こったのは︻原作︼じゃもう少し後だった
気がするのだけど。
なんか状況を加速させる要因でもあったのかね
?
184
?
﹁あの⋮⋮長谷川さん、お知合いですか⋮⋮
と、推理に入る寸前で口を挟むのは桜咲。
のは仕方ないか。
﹂
﹂
﹂
ラストダンジョンラスボス戦
﹁いや、刹那さんも知ってると思うわよ
﹁え
﹁私もですか
応えたのは何故か神楽坂。
あとゆえちゃんも﹂
ああ、まあ初対面の子供だし、状 況 が 状 況だし、戸惑いが表立つ
と怪訝な視線を向けていた。
はたと視線を向ければ、他の面子もこちらへ、というかアーニャへ
?
なんでしたっけそれ⋮⋮
﹁││ああ、そういえば﹂
﹁え
﹂
﹁ほら、前にネギに見せてもらった昔の記憶で⋮⋮﹂
?
⋮⋮。
﹁アーニャちゃんよね
ネギの幼馴染の﹂
⋮⋮ 未 だ に 思 い 出 せ な い の か、桜 咲 の み 首 を 捻 っ て い る の だ が
インの好感度を底上げする、っていうテンプレイベント。
身も蓋も無い云い方をすれば、昔の記憶を見せてお涙頂戴してヒロ
主人公の辛い過去
⋮⋮そういえば、そんなイベントが原作にもあったな。
?
﹁そういうアナタはアスナっていったかしら エヴァから聞いて
?
﹁自称じゃないんだけど
﹂
子供にナニ吹き込んでんのよあのロリババァ
と、此処に居ないマ
るわ。カラスマさんの幼馴染を自称してるって﹂
?
!?
!?
185
?
?
?
クダウェルに吠える神楽坂。
思えばこいつらの関係性も原作と大きくズレた。
少年オリ主の身柄を巡って天地魔闘の構えに超級覇王電影弾で立
ち向かう様な間柄だ。
﹂
何が間違っていると言ったら、間違いなく世界が間違ってるとしか
言いようも無いが。
﹁話を戻そうぜ。麻帆良はこの事態にどうする気なんだ
ろうな
とかいうものを解除するのに手間
原作のマクダウェルはどうやって魔法世界に乗り込んで来たんだ
﹁ああ⋮⋮そういやそんなのあったな﹂
取ってるから、私が先に来たの﹂
だったんだけど、とうこうじごく
もないかも、っていうのが現状よ。ホントはエヴァが此処に来るはず
﹁さっきも言ったけど、麻帆良じゃ人手が足りな過ぎてどうしよう
対処すべきなんじゃないかなって私も思うんだ。
割と本格的に緊急の事態かと思われるが、そういうときこそ冷静に
?
ちていた感じがするから、それの余波か
あ、フェイト起きた。
﹁││なるほど。では、急いだ方が良いかもしれないね﹂
だけど、エヴァは追い付かないだろうな、って言ってたわ﹂
つかない魔法生徒や魔法先生とかを麻帆良へ呼び戻しているみたい
﹁幸い、今は麻帆良も夏休みで人が少ないから目撃者も少数、連絡の
どうにも時系列に齟齬がある様な気がしないでもないが。
?
186
?
思えば麻帆良に侵略が活性化していたときには、既に学園結界も落
?
﹁術式の維持だけじゃ不充分だったが、ああなった事態に思い至る
原因もある。恐らくは、彼の所為さ﹂
と、目線で促すのは未だ復活できてないネギ坊主。
その間もアーニャへ警戒を怠ってないのは、恐らくは気の所為では
無いのだろう。
﹁﹃彼﹄の血縁に当る人物が祭壇の上に居る、それが術式の活性化を
促しているのさ。ネギ君がいる以上、魔法世界の回帰も時間の問題
だ﹂
⋮⋮あったなぁ、そんな設定。
アレも後付けっぽいけど、現にこうして﹃向こう﹄と大接近状態だ。
そりゃあ魔法先生方だって大わらわにもなるか。
187
﹁││そしてこうなった以上、僕たちも手を拱いているわけには行
かなくなった﹂
﹂
そう言ったフェイトの言葉に、烏丸の周囲を覆っていた呪文様式が
途端に輝きを増す。
こう、活性化していると言った具合だ。
﹁計画の最終段階に入る。シラベさん、来れるかい
そして耳に手を当て、問うような口調。
念話というやつだろうか。
﹁⋮⋮そうか、了解した。こっちは僕で済ませる﹂
へと顔を向けた。
色好い返事が無かったのかそれだけで念話を終えて、改めてこちら
?
﹁セクストゥムが妨害に廻っているそうだ。キミたちがこうしてい
るのも彼女の手引きというわけか﹂
おお、6号グッジョブ。
しかし本気で私らに手を貸してくれているのは有り難いが、そんな
祭
壇
ことやっちまってアイツはアイツで大丈夫なのかね。
﹁しかし、此処に︻術式︼と︻血統︼が備わっている以上、僕らには
相応のショートカットだってある﹂
次の瞬間、フェイトと同じ顔の少年らふたりに加えて、色黒の幼女
や長髪の優男、ムキムキロンゲのおっさんなどと様々な敵キャラが
続々登場。
﹂
てくるらしい。手が多いに越したことはない﹂
ダーク・エヴァンジェル
﹁フン。この俺を手駒扱いか。状況が終わったら覚えていろよ﹂
無駄に偉そうなのは多分2号。
フェイトを大人にしたような容姿だが、その顔つきは性格の悪さが
滲み出るくらいに歪んでいた。
﹁││そして、諸君らの希望も今潰えた﹂
188
原作では軽くしか触れられなかったが、デュナミスと同僚程度の古
株の方々なのであろう。
名前も良く分からん。
つーか、⋮⋮なんで今呼んだ
と追い込まれているのか
﹁││フゥー、この俺を呼ぶとは、テルティウム、ひょっとして随分
!?
﹁牽制だよ。この後、彼女の話だと麻帆良の英雄に闇 の 福 音も出
?
そんな科白と共に、背後からこちらへ投げつけられる幼女。
つうか6号だった。
人
形
⋮⋮おい、連絡から一分も持ってないぞ。
﹁セクストゥムは元より我らの手駒。どうやって手懐けたかは知ら
ぬが、我が本気を出せば容易いものよ﹂
﹁⋮⋮申し訳ありません、足止めは此処までのようです﹂
そうか、負けたか。
さらっとデュナミスその他のフェイトガールズまで合流してるっ
てことは、本気で詰んだ状況なわけだな。
満身創痍の6号を受け止めて、抱え込んで応える。
は痕も濁さぬようという殊勝な心掛けかね
﹁別にどっちでもねぇよ﹂
まったく、どうしてこうなった。
にスポットが当たっている。
﹂
ネ
ギ
そ
脇役
原作とその辺りかなり乖離しているのだが、今は主人公ではなく私
攻勢に打って出ようという意気込みは無いらしい。
いるのだが、そいつらは今はフェイトの勅令に従っているのか直ぐに
後ろは後ろでフェイトの召喚した古参メンバー sに警戒を張って
立っているのは私。
気づけば、ひとまとまりになっている女子中学生らで一番矢面に
そうな様で問いかけて来ていた。
私の余裕な態度に何を思ったのか、黒尽くめの男デュナミスが怪訝
?
189
﹁ま、しゃーねえさ。端から端まで駄目で元々、むしろ此処まで面倒
随分と余裕だな まだ何か策でも持っているのか
?
見てくれて助かったよ6号﹂
﹁ム
?
れとも、諸君らにもこれ以上の足掻きは無駄だと伝わり、せめて最後
?
溜め息を一つ。
こうなったら行ってやるさ。
云いたいことは大体云う。
﹁元よりな、こんな戦力も戦術も拙い私らが、お前らみたいな︻悪の
組織︼に対抗できるなんて思っちゃいない。目的は巻き込まれた私ら
﹂
の仲間を、せめて翳め取ってやろうって言う泥棒みたいなモノだし
な。結局失敗に終わったが﹂
﹁⋮⋮む。魔法世界はどうでもいい、と
﹂
﹁実際、私らには大きく関係してねぇ﹂
﹁ちょっ、長谷川さんっ
耳元で叫ぶはエミリィさん。
ああ、この子はネギ派だったっけ
ネギ派というか、ネギを支持しつつ世界救済推奨派
それはそれ
知 る か よ。そ ん な の は 口 笛 吹 の 死 神 に で も 任
は御大層な問題かもしれんけど、私らにとっては重要なのは仲間の存
在 だ。世 界 の 危 機
せておけよ﹂
如何せん、アレはフィクションだ。
﹁⋮⋮セクストゥムにでも聞いたかね
喋り過ぎたかもしれねぇな。
りゃいいんだよ﹂
我々の目的を知っている
﹁だ か ら 知 ら ね ぇ っ て の。そ ん な シ リ ア ス は 遣 り た い 奴 が や っ て
とは、この世界の真実にも届いているのか⋮⋮﹂
?
190
?
﹁︻魔法世界の救済︼がアンタらの目的なんだってな
?
?
?
!?
此処でワーグナーが口笛で聴こえたら面白いんだけどな。
?
私の科白に引っ掛かりを覚えたデュナミスをあしらいつつ、勝ちに
も負けにも興味ない、という態度で現状を留める。
だから、これ以上私らを攻撃するのは止しておくれよな
﹁││ウム。では遣るべき者が遣ろうかの﹂
││ドッ、と不意打ちのようにデュナミスの横っ面を蹴り飛ばす小
子
供
柄な老人。
私らを助けるように目の前へと降り立ったのは、ぬらりひょんみた
いな妖怪老人の姿。
﹁待たせたのう﹂
そして雨霰のように降り注ぐ衝撃波が復活怪人らを集中的に狙い
撃ち、幾つもの黒い渦がそこらへ弾けた。
やはり数に勝るには後出しジャンケンが効果的のようだ。
﹁手数が足りませんが、此処で出し惜しんでいては英雄の名折れで
すね﹂
﹁問題ありませんよ。僕の教え子たちを傷つけたんだ、そのツケは
しっかりと払ってもらう﹂
そうして私らの背後に降り立ったのは、アルビレオ・イマに高畑先
生。
191
?
特に高畑先生は既に臨戦態勢で、デスメガネの異名のままに殺気を
﹂
﹂
抑える気もないらしい。
﹁学園長
﹁タカミチ
!
!
﹁と、アルさんですね﹂
桜咲、神楽坂、綾瀬の声が重なったが⋮⋮あれ
少なくね
?
い﹂
﹁マクダウェル﹂﹁エヴァ
が。
﹁⋮⋮うーむ、本当に来れるとはな。これ、まずいんじゃないか
﹂
と疑問に思っていると、自分の手を身を振り振り唸る金髪幼女の姿
で、どうやってきたのん
つうか、ホントに来たのか。
学園長とやや仲良さげな会話を軽く交わす。
﹁もん、とか言うな。キモチワルイ﹂
ん﹂
﹁違うわい。奴さんの伝手が廻り過ぎて時間も足りなかったじゃも
じゃねーぞ私は。
キスショットちゃんみたいに出てこないでくれよ、阿良々木さん
重なる。
私の影からずるり、と這い出て来た金髪幼女に私とアーニャの声が
﹂
﹁結 局 集 ま り 切 れ ず に 此 の 様 さ。ジ ジ イ は や は り 人 望 が 疎 い ら し
?
説明ありがとうございます。
か。
⋮⋮てことは登校地獄の無効化をしているわけじゃないってこと
場は麻帆良と同位軸に当るわけじゃな﹂
﹁みたいじゃのー。麻帆良とこの祭壇が直通になっておる。今この
?
192
!
?
﹁一応学園結界の強化を頼んで来たのじゃが、この分では封印も解
ける恐れがあるのう⋮⋮﹂
﹁チ。そうなったらより面倒か。おいアーニャ、ぼんやりしてない
﹂
封印って、学園の地下に眠る鬼神とか言う奴らの事か
でとっととアレらを焼き払って来い﹂
⋮⋮んん
それとも⋮⋮。
手加減利かないから、烏丸さんも巻き込むかもよ
ていうか、マクダウェルは幼女に何を頼んでるんだよ。
﹁いいの
﹂
﹁あれなら平気だ。元々アイツの手札だ﹂
﹁んー、わかった﹂
ウツロ
︻虚︼
!
││オイィ
︻顕現︼
!
﹁いっくわよー
!
?
んやり覗え始める。
暴虐の限りを尽くそうにも手数が足りてないであろう英雄らのバ
トルへ踏み込んで往く様はまさに戦乙女のようでもあるが、ぶっちゃ
アーニャさんになんという無
け無謀な真似にしか見えませんがコラ。
﹂
﹁ちょっ、エヴァンジェリンさん
茶振りを
!?
﹁問題無いさ。││ソラの研究を基に魔改造した私の二番弟子だぞ
でもない風に彼女は手を振った。
真っ先に状況を把握した綾瀬がマクダウェルへツッコミを入れ、何
当然、慌てた者も居る。
!?
193
?
?
と叫びつつ駆けだすアーニャの周囲に、焔の龍が巻き付くようにぼ
?
?
﹂
﹁﹁﹁⋮⋮⋮⋮あ∼⋮⋮﹂﹂﹂
納得したように嘆息する神楽坂、綾瀬、そして桜咲。
﹄
﹄
⋮⋮いやいや、置いてきぼりな奴も此処に居ますからァ
﹃薙ぎ払え
ミ ヤ ● キ ハ ヤ オ
﹃ッギャアアアアアアアアァァァァ⋮⋮
巨蟲侵食崩壊世界の王女様みたいに、高らかに宣言したアーニャの
全身からレーザービームが放射。
以前私と行った溶岩エリアを。⋮⋮
乗っり乗りで腕を振るうだけで、焔同然の幼女の膨大な熱量が今2
号を焼却した。
ナニアレコワイ。
﹁ネギ先生、覚えているか
遠い目をしてマクダウェルは云う。
そのネギ先生が死にかけなのはスルーですか
つうか英雄の手数とかもうどうでもいいな。
幼女無双。
もうアーニャだけで良いんじゃないかな。
?
りている戦闘スタイルだ。まあ、時間制限付きだがな﹂
アーニャのアレは其処から連れて来た炎の精霊の一部を、一時的に借
?
それくらい呆然と、私らは︻完全なる世界︼の崩壊を眺めていた。
﹂
﹁││そこまでだ﹂
﹁ぐっ
!?
194
!?
!
!
?
﹂
﹁ぬぅ
ない。
これは、あれか。
﹂
あの黒ローブの仕業か⋮⋮
﹁ぐ、ふふ⋮⋮
マスター
いくら貴様ら英雄が揃おうと、我らが主人には敵
﹂
何せ、彼のお方は﹃始まりの魔法使い﹄。︻造物主︼様
!
なのだからなぁっ
うまい⋮⋮っ
!
つうか私らにも正体不明の威圧が襲い掛かって膝を着かざるを得
まってるけど。
いや、アーニャだけは電池切れみたいにぷぎゅうと突っ伏してし
呑気に、それぞれ圧し付けられたように膝を折る。
マクダウェル、学園長、高畑先生、アルビレオ、そしてアーニャが
﹁あ、時間切れ﹂
﹁⋮⋮これは⋮⋮
﹂
﹁くっ
!
見て間違いはなかろう。
そして、アレがネギ先生の⋮⋮、
﹁││その瞬間を待っていた﹂
﹁││ッ、ガ、ギ、ャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア
││⋮⋮⋮⋮⋮⋮は
?
﹂
!!!!!!???????
そんなのは兎も角、筆頭戦力の正面に居座る黒ローブがラスボスと
半焼けを免れていたデュナミスが自信満々に吠える。
!
!!
195
!
!
﹁⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮は
何が起こったのかよくわからねぇ⋮⋮。
とりあえず、纏めてみると⋮⋮。
﹂
﹂
﹁︻蕃 神 鍵・ヨ グ = ソ ト ー ス︼、よ う や く 手 放 せ る ぜ。痛 い か
ライフメイカー
︻造 物 主︼様
・幼女の無双にラスボスが立ち上がる。
・威圧スキルで全員1ターン停止。
ひょっ
腹を貫通されて絶叫してる造物主様に、流石のデュナミスも顎が外
と、こんなところだろうか。
るも、自信満々のデュナミスが目の前の状況に呆然自失。
・射線から逃れていたデュナミス他フェイトガールズがはみ出てく
した。
・眠っていた筈の烏丸が造物主の背後から︻造物主の掟︼をぶっ刺
?
?
烏丸、タイミング測ってた
?
?
れている。
⋮⋮⋮⋮⋮⋮つうか、え
として狸寝入りしてた
ちょ、おま。
?
196
?
或る世界の終わり
たった今まで敵同士だった者たちですら、その光景に互いを屠る事
さえ忘れていた。
いくらアーニャが無双出来たからと言って、いくら英雄が助けに来
たからと言って、数の暴力を易々と覆せるほどの決定打は自陣には無
く、首魁である︻造物主︼が動いた以上こちらの濃厚な敗北色は覆ら
れそうにないな、というのが本音でもあったのだ。
だが事態は怒涛を巡り急転直下に、速やかにカーテンコールの鐘を
鳴らせられようとしている節が見受けられていた。
﹁︻概念︼って言葉にはぶっちゃけ大雑把な意味合いが多分にあるん
だが、だからこそ覆すことが困難な言葉でもある。この世は大多数の
︻観測︼によって実存が成り立っており、故に存在性の肯定を促すもの
は人の認識であるからな。︻認識︼という数の優位性を孕む︻概念︼が
どうしたって物理現象の上位に位置する。これはその性質故に魔法
にも通用する法則でな、件の概念を阻むにはより性質を違えた概念で
上書きしなくては破棄しきれない、という﹃いたちごっこ﹄が派生す
る温床となってしまう。いや、むしろこういうフィジカルフィード
バックみたいな法則こそが概念論争の主体なのかもしれんけどな﹂
コード・オブ・ライフメイカー
腹を巨大な鍵で貫通され、苦しむ︻造物主︼を相手に、烏丸は滔々
と論議を語る。
というか、振り下ろした﹃それ﹄って﹃造 物 主 の 掟﹄ではなかっ
たのか。
突き刺した時に邪神の名を呟いていた気がしたが、それの説明に
移って貰えないだろうか。
﹁ともあれ、その︻概念︼を支配下に置くのが、今のところ地球に5
人いる︻魔女︼だ。︻法則使い︼とも呼ばれる彼女らは魔法世界産の﹃魔
197
法使い﹄から派生する﹃魔女﹄とは次元が完全に異なり、時に星を支
える神や異界の怪物を弄ぶ。悪魔の実在を認められても自分らより
上位の︻神︼を認識できない﹃魔法使い﹄にはその次元を知れという
のは酷かもしれんけど、実際﹃そのざま﹄なんだし口を挟んでも仕様
がねぇ。此れで逆鱗に触れたとかじゃなく、単純に邪魔だ、っていう
理由の介入なんだからアンタらには同情を禁じ得ない﹂
沈痛な面持ちで、苦しみ身動きすら取れない黒ローブに言葉を吐
く。
その身体は次第に何処か重なるように、ブラウン管に映る像がブレ
るように存在が乖離し、抜け落とす様に男性の身体を吐き出した。
鍵から逃れられたそいつは赤い髪をした少年のような容姿の青年
コード・オブ・ライフメイカー
﹂とネギ先生が呟いていた。
で、その姿に﹃知らなかった﹄誰もが目を見開く。
私たちの端っこで、﹁父さん⋮⋮
﹁││フェイト、デュナミス、お前らが︻造 物 主 の 掟︼と思って
いたコイツは、
︻蕃神鍵・ヨグ=ソトース︼という全くの別物だ。件の
︻魔女︼のひとりが手がけた、
﹃人外封じ﹄の一品だよ。ちなみに名前
の基となった邪神は﹃門の神﹄とやらだが、此れは見てわかる通り﹃鍵
をかける側﹄だ。解放では無く封印。何処かの魔法少女モノの最終兵
器とは性質的に真逆だな﹂
預けられて実に邪魔だった、と烏丸は云う。
邪魔ってお前。
で、では、術式は、お前が用意したというの
そしてその魔法少女モノは、主に筋肉が跳梁跋扈してやしないかね
⋮⋮
﹂
﹁封印具、だと⋮⋮
は嘘だったのか
とはさすがの俺も予想外だった。というかそもそも、お前らは︻始祖
198
!?
﹁本物は今も明日菜が持ってる。アーティファクトとして出てくる
!?
!?
?
の血筋︼とやらを既に手配していたじゃないか。明日菜っていう︻黄
昏の姫御子︼には最初から頼らない方針だったのだし、それこそ俺に
﹃最初から神楽坂には頼らない方針
も伝手を辿ろうとせず自分たちで片付けるべきだったんだと思うよ
﹂
⋮⋮というかちょっと待て
だった﹄⋮⋮
その点について思い返せば、そういえば原作での魔法世界突入初期
に襲撃に遭った時点で、フェイトらは偶然だと嘯いていた気がする。
もしもその言葉が本当だったとするならば、烏丸の言ったことにも
説明はつく。
だが、それなら烏丸は、どうやって︻術式︼の﹃発生と維持﹄を執
り行える⋮⋮
コ ズ モ・エ ン テ レ ケ イ ア
ス
タ
イ
ル
⋮⋮説明の隙間に他人様にバトらせるってどういう鬼畜だ⋮⋮
ておけという烏丸の有り難い下知なのだろう。
つまり、
︻完全なる世界︼を抑えつけているから、今のうちに粛清し
合わない。
ルンクスシリーズや復活怪人らが対峙しようとも一足遅れでは間に
アーニャは完全にスタミナ切れらしいが、事態を察知したアーウェ
長の少数精鋭。
その言葉に戦闘を再開するのは高畑先生やアルビレオ、そして学園
ない。英雄共、やーっておしまい﹂
ライト﹄は不完全なままだ。よって、
︻完全なる世界︼の活性化は最早
となる︻造物主の掟︼も必要になってくるが、手元に無いからこそ﹃リ
﹁術式の根幹はこの︻祭壇︼にも遺されていた。術式の起動には﹃核﹄
そんな私の疑問を感じ取ったのか、烏丸の説明はなおも続く。
?
の大幅な修正であって個人能力だけで支えてるほど容易くはねーよ
﹁ちなみに︻言葉遣い・換喩︼も嘘。俺が遣ったのは儀式転送系術式
!
199
?
?
?
コレ﹂
││しかも此れまでの前提をさらっと覆しやがった
自分たちの信じていた何某かを決定的に否定されて、流石の人形で
も呆然とせざるを得ない。
復活もリライトの行使も意味が無くなり次々討伐されて逝くそん
ア イ テ ム
な中、烏丸は﹁││説明を続ける﹂と言葉を続ける。
﹁この魔女製概念具︻蕃神鍵・ヨグ=ソトース︼は先も語った通り封
印具でもある。その効果は﹃人以上の人外のみに有効﹄でさらに﹃封
印期間が制限される﹄という実にピーキーな仕様だ。多く歳を重ねた
モノ、意識のみで長い時を過ごしていたモノ、それこそ概念存在に匹
敵するモノ、そういった実存が曖昧なのに強力な干渉性を備えた人外
へ通じるように造られた、らしい。期間制限っていう弱点にしかなら
ないような制約がついてる裏には、だからこそ上位の存在へ効果が出
HUNTERみたいな﹂
せる、っていう限定特化みたいなシステムなんじゃないか。ほら、H
UNTER
つが電子音声染みた掠れるような悲鳴を上げる中、烏丸の何処か軽い
説明が淡々と続く。
・・・
ああ、ホントに決定的且つ致命的な性能で対処されてんのか、と見
ぬ魔女とやらの徹底性に思わず引いた。
﹁俺の予想でしかないんだが、造物主あらため始まりの魔法使いは
意識だけの存在なんじゃないかな、と。それこそ﹃メロスの意思﹄み
たいな拡散性と集束性を両方備えた︻力の根源︼。だから殺しても死
な な い、斃 し て も 終 わ ら な い。で も ま あ、封 印 す れ ば 問 題 ね ー よ ね
﹂
って見破られたのが決定打だよなぁ。単独で封印されちまったら
手も足も出せそうにないだろ
200
!?
﹃ガァァアアアアアアアアアアアア﹄と黒ローブだけになったそい
×
﹁さらっと言ってるけどそれ魔女さんとやらの見解なのか、それと
?
!
もお前の見解なのか﹂
﹁︻向こう︼のもある俺の見解。まあ、あっちの話は人外封印の為に
﹂
此れを寄越すよ、ってだけだったから効能序でに性質を解析されてん
じゃねーかな、っていう予測だけど﹂
﹁⋮⋮つうか、ただの封印だと今回みたいに暴かれたりしないか
みたいな無間地獄系へ吹っ飛ばされるって説明にあった﹂
⋮⋮ゲスの極みだなおい⋮⋮
る時期をとっくに過ぎている、と。
そして封印が解ける頃には魔法世界の問題なんてどうにかしてい
かな﹂
いが、精々10000年くらいは封印が解けることは無いんじゃない
算される。造物主がどれだけ生きたかは聞き齧った程度しか知らな
﹁そしてこの﹃封印﹄の効果はそいつが生きて来た年数に比例して加
こえーよ。
︻辺獄︼
リンボ
ろーよ。その封印先だって、墓荒らしの心配もない次元の果て、あー、
﹁だからこそ時間制限有りの﹃絶対に何時かは解ける封印﹄なんだ
?
うにしてその姿を消失させる。
そうして││造物主を封印した︻鍵︼もまた、空中に掻き消えるよ
﹁それでは││10000年後までご機嫌良う﹂
に消え逝くそれに、烏丸は実に嫌な笑みで最後に告げた。
どこぞの﹃私が天に立つ﹄と謀反企てたオサレな死神の最後みたい
も映さず泣いているのか嘆いているのかさえも覗えない。
腕を伸ばそうにもそれも折り畳まれて、ローブの果ての相貌は表情
き混ぜられて、次第にその姿が縮小して逝く。
てガチャガチャガチャと立体パズルを弄ぶようなエフェクト音に掻
そうしているうちに、造物主は鍵に吸い込まれるように折り畳まれ
!
201
?
×
跡には何も残さない騒動は、それにて一様の結末を迎えた。
×
つわもの
兵どもが夢の跡。
×
⋮⋮言葉にすると尚更憐れを誘うなオイ⋮⋮
度の感想しか私ら外様組には抱けやしない。
別に憎たらしくは思ったりしないが、ふーんよかったね、という程
キは色々と悪手を取り過ぎた。
今更﹃ネギ先生の目的の一つの達成﹄と共感を覚えるには、あのガ
⋮⋮今更なんだよな。
の更に外から様子を覗うだけである。
ルというナギを知る女子で、残りの面子は私みたいに所在無さげにそ
同じように取り囲む中に連れ立っているのは神楽坂とマクダウェ
子を取り囲むようにして覗っている。
周囲には同じく事情を知っていたであろう英雄の面子が、親子の様
快復させてもらったネギ先生との感動の対面を果たしていた。
ングフィールドが衰弱しきった様子で、同じく半死半生からようやく
いに身体を乗っ取られていたのだろうと思しき元英雄・ナギ=スプリ
やや気まずくなってそんな彼女らから目を離せば、始まりの魔法使
!
まってるから本格的に詰んでいるのだろうけど⋮⋮。
く⋮⋮、むしろ組織の生き残りであるフェイトがやる気なくなってし
まあ、監視と言ってもこれ以上彼女らが何をしたとしても意味も無
したアリアドネー隊。
監視についてるのは同じ魔法世界人であるエミリィさんを筆頭と
まりにさせられて軟禁状態だ。
その従者である少女らも討伐の対象からは外れて、諸共にひとまと
方はやる気がなくなって不貞腐れた感が微妙にある。
除く︻完全なる世界︼の面々は次々と討伐され、というかフェイトの
抵抗の意志を見せなかったフェイトと仲間認定されていた6号を
×
マクダウェルも神楽坂も、ナギに対して色々と思う処があったのか
202
×
もしれんが⋮⋮。
⋮⋮距離を近づけようとしていない以上、アイツらの心境は其処ま
で英雄らに向いているというわけでも無いらしい。
で、だ。
私は私で目的を果たしたいのだが、烏丸は何処にいった
﹁はい、全員ちゅうもーく
﹂
た立役者は何処に行ったのかしら
と。
祭壇から降り立って﹃始まりの魔法使い﹄を封印し、ナギを解放し
目を離して周囲を見渡す。
ふと龍宮のことを思い出し、皆の視線を独占していた親子対面から
?
││そう、云った。
﹁﹁﹁﹁﹁﹁﹁﹁﹁﹁﹁﹁﹁﹁﹁﹁﹁﹁﹁⋮⋮⋮⋮│││は
﹁本気です﹂
﹁││本気です﹂
﹁⋮⋮本気の、ようだな﹂
﹂﹂﹂﹂﹂﹂﹂﹂﹂﹂﹂﹂﹂﹂﹂﹂﹂﹂﹂
﹁今から俺が、魔法世界をぶっ潰します﹂
かっと笑い、
烏丸は何故かまた祭壇の上へと戻っていて、全員の視線を集めに
パンパン、と手を叩く音が響いて、その主を見上げる。
?
子を見上げたマクダウェルが呆れた顔で、しかし理解もしていた。
追従した6号は初めから烏丸の目的に従うらしく、そのふたりの様
呆気に取られた私たちを放置して、続けた台詞は実に簡素で簡潔。
?
203
!
そもそも、烏丸が初めから﹃嘘﹄を吐いていないのなら、その目的
﹂
﹂
もまた事実であるのだから。
﹁││ぬお
﹁魔法陣が⋮⋮ッ
驚愕に目を見開く学園長に、アルビレオが祭壇を見上げる。
一度沈静化したはずの祭壇上の天球儀がひときわ大きく輝いた。
烏丸はその前に佇んだまま、6号はそれに寄り添うように控えてい
る。
﹂﹂
││まるでゲームの最終ボスみたいに。
﹁﹁││な、何故だ
﹂
﹁キミはさっき止めたじゃないか⋮⋮
世界を自ら破壊しようとする
!
る。
﹁っ、そうだ 烏丸くん
と云うものじゃない
﹂
そんな﹃もののついで﹄みたいに世界を破壊するなど
!
いや、それは合っていて間違ってる。
キミの目的は︻造物主︼だと言ってい
同じく投げるべき言葉を一瞬忘れていた高畑先生が、はっと我に返
!?
その張本人が、何故魔法
先立って、より冷静に状況判断が出来たのはフェイトだった。
が別にある。
その行動に互いを見合わせるふたりだが、今はそれよりも優先順位
フェイトと高畑先生が、驚愕も露わに同時に問うていた。
奇しくも、叫んだのは敵対していた者同士。
!?
!
なかったか
!
204
!?
!?
!?
烏丸の目的が︻造物主︼なんじゃない、烏丸に﹃お使いを頼んだ奴﹄
の目的がそっちなんだ。
魔法使いが⋮⋮﹂
件の鍵を此処まで運んだ理由を、アイツ自身語った筈だ。
そして最大の目的は、やはり、
﹁⋮⋮やはり、赦せないのですか
と、アルビレオが烏丸へ問う。
その言葉に思う処があったのは、事情を知る神楽坂にマクダウェ
ル、学園長に桜咲や綾瀬といった一部の者たち。
私もそう思いかけたが、⋮⋮いや、アイツの場合なんかそっち方向
は違うんじゃないかな、とも思う。
事情を知らない一部は困惑し、唐突に始まったシリアスの予感に烏
丸の背景を慮る様な視線が彼へと向く。
しかし、其処は彼としても違うらしく、悠然と微笑んだまま﹁アデ
無論、こっちも相応に当た
アット﹂とアーティファクトを現出させた。
﹁さて、止めたければ力づくでどうぞ
らせてもらうけどな﹂
﹁出て来い、ジャック=ラカン﹂
は思い掛けない方法で覆した。
少数精鋭とはいえ戦力的には届くとも思えないその﹃差﹄を、烏丸
本型のそれを片手に、﹁ショートカット﹂と続ける。
?
205
?
と咄嗟に続いた長谷川くんの
近右衛門、過失の付け落としに負われる
お前が戦うんじゃないのかよッ
勝てる見込みなぞ微塵も有らん。
⋮⋮どうしてこうなった⋮⋮っ
ハッハッハ
﹃武装錬金﹄より﹃サテライト30﹄。
と笑い乍ら、目前に顔の半分が白いラカンが拳を振り
来ることだけどな。弊害は、顔の陰影が変化するくらいか﹂
く行える。下手に武器を持たせるよりも素手の方が強いからこそ出
雄﹄というのは、知識と想像力さえあればこのくらいのチートも容易
だ。ジャック=ラカンのアーティファクトである﹃千の顔を持つ英
もう見てわかると思うが、本人を30人へ延々と増殖させる︻武器︼
﹁先生方、漫画は読まないか
サーティ
平静を装っていられるのじゃが、戦力としては完全にバランス崩壊で
頭の何処かで冷静にモノを見切る思考が働いておるからこうして
しかもこっちが追われる立場じゃ。
いや、これ明確には殲滅戦じゃの。
と全力で戦っておる。
ツッコミも空しく、儂らは30人に増殖したジャック=ラカンの群れ
!?
!
れておるが、戦闘上其れが直接役に立っておるのではなくマジモノの
ラカンの肉体言語が功を鳴らしておる。
正直、﹃完全なる世界﹄の復活怪人共と戦うよりもピンチなんじゃ
が。
烏丸くんの言う通り、儂らへと襲い来るラカンの顔色はそれぞれが
違う。
特に﹃新月ラカン﹄なんかは完全に美白じゃ。違和感が凄い。
そして、その実力もどれも本物と相違ない。
206
?
申し訳程度にその手には﹃月牙﹄と呼ばれる三日月形の鈍器が握ら
下ろしたところじゃった。
!
⋮⋮こんな最悪な手札を齎されとったら、この状況に陥る前段階で
とっくに魔法世界壊滅されとるわい⋮⋮っ
まり、拳圧がボフワと白髪を揺らした。
⋮⋮完全に仕留められる寸前じゃった⋮⋮っ
なぁ⋮⋮っ
﹁学園長っ
貴方が真っ先に投降してどうするんでうわっ
!
込み何ぞ全然ないじゃろ
﹂
いやいや、そうして攻撃を往なせるだけの余裕も無いのでは勝てる見
タカミチくんが先立って戦場を放棄した儂に抗議の声を上げるが、
あっぶな、あっぶ
直前まで来ていた十六夜月ラカンの拳が、顔擦れ擦れでピタリと止
と、諸手を上げて降伏の意を示す。
﹁││降参じゃ﹂
か。
たということは、やっぱり彼の目的はテロ由来のモノとは別と云う事
﹃完全なる世界﹄に与しとらん状態でその手札を使っておらんかっ
!
﹁確かに、このラカンたちは本物とは云い難いですが、実力的には微
とるの。魔法界で何やっとったんじゃラカンの奴。
⋮⋮ネギ君の方は、なんぞトラウマでも呼び起こされたような顔し
ネギ君でさえラカンの群れに腰が引けておるし。
復活できたナギは体力魔力共に底尽いておるし、何とか五体無事な
既にエヴァは彼の方へついておるしの。
れない以上、儂らに口を挟むことなど出来やせんよ﹂
じゃよ。どういうトリックかは知らんが、こうして烏丸くんを抑えき
﹁タカミチくん、世にはどうしようもない事態、というモノもあるの
?
207
!?
!
!?
塵も弱体化していませんしね。何より私たちには、数が足りない﹂
アルビレオの奴も降参し、儂らが再び戦意を擡げた時の為か2人づ
つ並ぶように聳え立ち、元より戦う気の無かったフェイトとその従者
はスルー。
残る26人のラカンがタカミチくんへと強襲してゆく。
はよ降参せんとマジで死んでしまうぞい。
そんな惨劇を他所に、烏丸くんがこちらを見下ろす様に告げた。
﹁ふぅん。まあ、流石は既に魔法界を見限っていた人だ。その選択
もするだろうなとは思っていたさ﹂
⋮⋮っ、そこまで見破られとるのか⋮⋮。
こちらの腹の内まで見透かす困ったことに優秀な、いやこの場合は
どうするのじゃタカミチくん。
どうもこうも、明日菜を麻帆良で隠すってことはそうなんで
しかも魔法界にも明日菜の存在を報告してないってこと
208
︻憂秀︼と呼ぶべきかもしれん。
こちらが墓の下まで持って逝くはずだった秘密まで、易々と暴かれ
ては堪ったものでは無いわい。
そんな儂の腹の内も読み切れなかったタカミチくんが、彼の言葉で
動きを止めた。
﹂
包囲されておるが、攻撃の意志を見出せない以上﹃敵性無し﹄とで
も判断されたのかもしれん。
どういう、ことですか。学園長⋮⋮
結構自動的に動くようじゃな、あのラカンズは。
﹁見限っていた⋮⋮
?
高々中学生でしかないというのに、その言葉に容易く搦め捕られて
?
しかし、彼を諌める前に烏丸くんの言は易々と飛ぶ。
﹁
しょう
?
?
は、近いうちに崩壊するはずの魔法界の行く末は見捨てていた﹂
違いますか
そう目で問われ、即座に言葉を返したかった。
だが、烏丸くんは恐らく﹃その先﹄も見据えておる。
﹁まあ、魔法世界をどうにかする鍵である︻黄昏の姫御子︼の幸せを
願う、っていう理由があっても別にいいですけど、その代わりに世界
﹂
1つ見捨てるとは随分と大胆不敵な話だ。﹃今﹄隠せていても、明日菜
はすぐに気づいたでしょうけどね﹂
言外に、
﹁﹃その時﹄になって本人に罪過の意識を齎せるつもりか
と云われたようじゃ。
序でに言うと﹃元老院の闇﹄とやらが芳ばしすぎて、明日菜の事を
﹁ただ、魔法世界の誰が敵なのかも判別付かなかったのでしょう
しかし、
其処は確かに、儂らの見通しの甘さが招いた結果じゃとは思う。
動いていたことを突き付けられた気分じゃろうて。
束も相俟ってじゃと思うが、
︻アスナ姫の幸せ︼という彼個人の独善で
彼も彼でナギらについていた過去があるからのお、ガトウ殿との約
にしておくべきじゃろう。
今更愕然とした貌を見せてどうする。その辺りの覚悟はもっと昔
しかし、タカミチくんはその事には思い至らなかった模様。
じゃったのじゃがのぅ。思い出すこと自体がイレギュラーじゃよ。
実 際、明 日 菜 君 い や ア ス ナ 姫 に は 過 去 を す べ て 忘 れ て も ら う 筈
?
?
秘密裏に明かす人材の確保が追い付かなかったと見える。それこそ
詰めの甘さが垣間見えますけど﹂
⋮⋮。
内心で語ろうとしていた言い訳を前以て語られておる⋮⋮
!?
209
?
なんじゃ、儂いつの間にサトラレに
というか烏丸くんのツッコミが容赦ない
のライフはとっくにゼロよ
もう辞めて
儂ら
!
え、これ以上何を言うつもりじゃ
い上に、それらを補える証拠が無いという点ですがね﹂
﹁問題は、その﹃俺の予測﹄が︻真実︼か︻誤り︼かの判別がつかな
!
!?
⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮はぁっ
けられるのでは、と画策してたんじゃないですか
﹂
秘密裏に確保できたことで、この世界の行く末を自分の思い通りに傾
﹁学園長、貴方︻アスナ︼という魔法世界に対するアドバンテージを
!?
?
居合わせた﹃子供﹄である他の者らには確実に染み渡る⋮⋮っ
じゃがこの飛躍、間違いなくタカミチくんやナギ、更にはこの場に
じゃ。
は下手に止めれば止めた方が危険だと匂わせるレベルでの理論飛躍
いっそジェットエンジンに火が付いたかのように、飛び荒ぶ︻予測︼
悠々と進む。
こちらが驚きで声を上げられない隙を突いて、烏丸くんの予測は
は、魔法使いたちの﹃本国﹄で舵取りを行う︻元老院︼らだ﹂
付けておく方が容易いですから。そして、その話し合いの場に赴くの
識阻害を謳っていても、
﹃外側﹄に確実な影響を及ぼすには前以て話を
を執り行う﹃上﹄の方との連携が必須となってくる。麻帆良が幾ら認
たちだ。これらを確実に動かすには﹃俺たちの世界﹄の社会の舵取り
﹁何せ、魔法使いは人の世の裏を暗躍する﹃正義の味方﹄を称する者
!?
﹁︻黄昏の姫御子︼という魔法界への最大のアドバンテージを何時で
!
210
!?
も解放できる立場に立てた貴方は、芋づる式に社会掌握すらも行使で
きる立場へ伸し上がる伝手を得られていた筈だ。魔法世界に明日菜
の事を知らせなかった、という理由には、こういう裏もあったのでは
﹂
彼が麻帆良で︻這い寄る混沌︼などと呼ばれるわけがようくわかっ
たわい⋮⋮っ
今、儂の事を見るみんなの目がかなりキツい⋮⋮っ
﹁誤解じゃ、そのような意図は決して無いぞ﹂
邪神
に騙る⋮⋮っ
魔王
烏丸ァ
言葉だけで儂を完全に悪役に見立てて、確証も無いのに事実のよう
をするが、烏丸くんには暖簾に腕押し。
声を荒げればそのまま見咎められると見越して落ち着いた物言い
ですし﹂
﹁さて、どうでしょう。口では何とでも云えるのが大人というモノ
!
!
!
﹁ジジィ、テメェ⋮⋮っ
!
おったじゃろう
らどうじゃ
﹂
そんなに儂の事苛めるの愉しいのか
⋮⋮
!?
!?
治
ラ
屋
イ
ト
たいに︻陰謀論︼騙っとるくらいならとっとと魔法世界崩壊を始めた
リ
というか烏丸くんも、そんな何処かのミステリーレポルタージュみ
レベルで腹の底真っ黒じゃし問題はないかの⋮⋮。
⋮⋮中学生をそう呼ぶのもどうかと思うが、今の彼はそれくらいの
!
大 戦 時 に は 烏 丸 く ん レ ベ ル の 魑 魅 魍 魎 な 有象無象 は い く ら で も
政
じゃからナギ、お主が真っ先に騙されてどうする
!?
!
!
!
?
211
?
そうじゃ、何故彼は未だに行使しようとせん
﹃││っ、学園長
聴こえますか
﹄
まるで場を繋ぐかのように悠々と会話を、って誰が狸爺じゃい。
踏み進めるだけで事は終えられるはずじゃ。
未だに祭壇の活性化は停止して居らぬが、それこそ﹃あと一歩﹄を
揄するだけで術式の行使を執り行おうとはしておらん。
控えさせているだけで、自身もまた儂の事を﹁とんだ狸爺だぜ﹂と揶
今も、
︻祭壇︼を完全に掌握して居るにも拘らず、6号くんには傍に
?
と墓守り人の宮殿が同期された所為か会話も可能としたのかの
そんなことを判別しつつ、心内で返事を返す。
﹄
﹃くそっ、聴こえてないのか
の言が飛ぶ。
﹄
!
!
しかしそれでも言葉だけは、と判断したのか、届くことを願って彼
む、一方通行か
﹄
﹃聴こえておるぞガンドルフィーニくん。そちらの状況はどうじゃ
ナギが。
此処で儂だけ喋ったらボケかまた陰謀かと喚き出しそうじゃ、特に
?
魔力嵐による周波攪乱が念話阻害を引き起こしておったが、麻帆良
に届く。
と、疑問を抱いたところでガンドルフィーニくんからの念話が耳元
!?
﹃世界樹の発光が収まらず、また世界樹の周辺にも近づけません
未確認の魔法使いの妨害が⋮⋮っ
?
││﹃近づけない﹄
いや、何故じゃ
?
212
!
?
!?
?
完全なる世界の残党は軒並み倒し、烏丸くんが麻帆良にまで被害を
﹂
及ぼす︻攻撃︼を起こすとは到底⋮⋮。
⋮⋮っ
﹁そう、か。時間稼ぎか⋮⋮
脳裡にて嵌ったピースの答えに、答え合わせを求めて声が漏れる。
そうして彼を見上げれば、こちらの声がしっかりと届いたのか、一
瞬虚を突かれた顔をした烏丸くんがゆっくりと、にやりと嗤った。
﹁気づかれたか﹂
様子は一貫してこちらを嘲るようなモノで、策を見越せても即破棄
するような思惑も抱いていない。
その様からも、彼がキチンとこちらの陣営に居てくれれば、と忸怩
たる後悔が内心を苛むようじゃった。
先ほど彼の事を、儂は政治屋のような腹黒さと評価してしまった
が、その隙を突き自陣に引き入れられなかったこともまた儂の甘さが
招いた結果なのじゃろう。
﹂
そして彼の真の目標は此の祭壇では無く、
﹁世界樹⋮⋮
﹁Bingo﹂
いかん、世界樹には未だに︻あの方︼が眠って居るのに⋮⋮
誰じゃ、麻帆良に一体誰が居った⋮⋮
?
﹁聞いての通りじゃ。彼はこうしてラカンを動かしているが、その
﹁時間稼ぎ、とは⋮⋮
﹂
ビレオが口を挟んで来おった。
後悔が先に立たぬ儂に、こちらの腹の探り合いを察したらしいアル
!?
!
!
213
!
!
結果として儂らを全滅させるような手段まではとっておらん。そし
て麻帆良では現在、魔法先生方も思うように動けておらん。妨害に
在っとるらしいの﹂
こうしてる間にも、ガンドルフィーニくんの報告は未だ引っ切り無
しに届いておる。
ピンク髪の美女が魔法で応戦して多数の魔法先生が行く手を遮ら
れておるらしいの。
恐らくはその女性も烏丸くんの伝手じゃろうな。
そして、彼に対してもまた違和感が残る。
﹁お主がこうして大々的に動いたことも不思議じゃが、幾ら︻祭壇︼
魔法使い
に直接携わる権限を得たとしてもお主の実力としてどうにも見通せ
ぬのじゃよ。 儂らの見通せぬ伝手があったとしても、其処は魔法世
﹂
214
界の︻秘墺の秘︼じゃ。然るべき手段が無ければ、易々と操ることも
容易くはあるまい
﹁まあ、お察しの通り、此の術式は実際﹃詐欺﹄ですけどね﹂
そもそも、このラカンズもまた﹃本物﹄とは云い難い。
本当に魔法世界を任せてしまっても大丈夫かのう、という点でな。
じゃよ。
積んだ研鑚とは別のアプローチに見えて、その点の納得がいかないの
いや、叶わなかったから嫉妬しとるのではなくての、やはり儂らが
はり踏むべき手順が違うのでは、と見得てしまう。
を隠せる実力者、と見るにはエヴァの弟子であることを踏まえてもや
こうしてラカンを従えておるのも違和感があるし、そこまでして爪
女とリンクしておるとは決して見て取れぬ。
しかし、現状明日菜くんは未だに祭壇からは離れており、術式が彼
例えば、彼の言ったように︻黄昏の姫御子︼、とかの。
?
こちらの腹も見通されておるのか、烏丸くんはあっけらかんとネタ
明かしを始める。
恐らくはこれも時間稼ぎじゃろうが、これは彼に乗っかる方がまだ
道が開けるかの。
真に勝負に勝つモノとは、どれだけ自らの思惑に沿った道筋に近づ
けるか、ということも重要なのじゃよ。
云わば正しい負け方を取れる者、と云った感じかの。
現状、組み伏せられつつも未だ抜け出そうともがくタカミチくんで
は、まだ理解できぬ強かさじゃろうが⋮⋮基本正面突破の策しか取れ
ぬ麻帆良の魔法先生方と轡を並べておるのじゃし、その辺も仕様が無
い事かも知れぬがの⋮⋮。
朱に交われば赤く、ということか。
その辺りを見越して、烏丸くんもまた関わりを取ろうとしなかった
のかも知れぬ⋮⋮。
半年ほど事態の収拾を図られたのも彼の手腕が鳴っとったしのぉ
それにしたってエヴァは彼をどんなふうに教育したんじゃぁ
!?
!
215
ともあれ、彼が時間を稼ぎたいのなら、儂もそれに乗るまでじゃ。
思考する隙さえあれば、彼の策を見通し﹃その後﹄の対応も練るこ
とが出来る⋮⋮
えるわけがないわい⋮⋮っ
んじゃろ
序でに﹃遠隔破棄﹄というのは明日菜くんの魔法無効化を指しとる
!
さらっと見知らぬ新術開発しとる子が﹃実力者では無い﹄などと云
⋮⋮⋮⋮⋮⋮スマン、前言撤回じゃ。
ないんですけどね﹂
術式です。空間系では無くて心理系なので、遠隔破棄は絶対に通用し
心理に働きかける﹃大多数が抱く絶対的強者の存在﹄を﹃共感させる﹄
﹁術式名﹃ドラゴンデスティニー﹄、この場に居る者たち全員の深層
!
これまで彼のことはあまり確認できんかったが、考えて見ればここ
!?
﹁此処でミソなのは、
﹃自信がある奴ら﹄の心もぽっきりと折る為に
﹃使い手﹄が設定を追加で弄られる仕様だという部分ですね。妥当な
人選を出来なければ意味も無いけど、其処に英雄がいらっしゃるので
ぶっちゃけ楽でした﹂
と、ナギを指さす烏丸くん。
なるほどのぅ、ラカンと互角の強者が居たからあの﹃人選﹄か⋮⋮。
まあ﹁実際﹃奴﹄なら出来そう﹂と初手で解説されて思ったことも
事実じゃが、そういう﹃人選﹄も使い手の匙加減に含まれるのじゃろ
うなぁ⋮⋮。
⋮⋮ほんっとうに隙が無いの。
マジで抜け出すことが出来なくね
×
を踏み締める、赤い髪の少女が居た。
貼り付けられた鏡面のような水面の上を、ひと踏みするごとにその
︻共鳴︼は世界樹を、その場を振動させる。
少女の名は相坂さよ。
烏丸イソラの手によってネギ=スプリングフィールドの血から造
られたクローンの身体に憑依して、彼の望む通りの結末を執り行う為
の総ての采配を握る︻黄昏の姫御子︼︵仮︶である。
これらは原作からの推測でしかないが、元よりネギにはアリカ姫と
いう始祖の血が流れている。
︶が続いてい
明日菜とアリカの血縁の関係性は未だ良く公開されていないまま
に連載も終了し、今でこそ続編︵という名の二次創作
?
216
?
つーか、烏丸くんは世界樹まで制圧してこれから何をするつもりな
×
んじゃ⋮⋮
×
独り優雅にしゃらりしゃらりと、巫女の振りをして踊るように反閇
一方この場は世界樹地下。
×
?
×
るが、アリカが︻王家の魔力︼というそれっぽいモノを行使していた
以上、︻姫御子︼の資質は彼女にも備わっていたと思われる。
そして、それから連想される﹃姫御子の資質﹄の発現条件はその名
の示すとおりに﹃女児である﹄こと。
もしもネギが女児であったならば、というIFの似姿が今のさよの
存在であり、その予測を見出して状態維持を組み込めた烏丸の魔術式
遺伝子操作が齎した﹃一つの結果﹄が現状に繋がるのである。
烏丸が遠回しに魔法世界へ渡った理由が、﹃世界樹から目を逸らさ
せる﹄こと。
世界樹の下には︻墓守り人の宮殿︼へ直通するゲートが存在し、其
処と祭壇とで連携を取っていることを見通されれば、結果を出す前に
阻止に繋がるのは間違いが無い。
︻リライト︼の本領は﹃さよ﹄にあり、祭壇はそれを過不足なく実行
するためのアンプとしての役割。
217
現に、
﹃完全なる世界﹄の面々すらも、
﹃墓所の主﹄という︻リライ
ト︼の本領を担う人材を仲間としていた。
この世界線ではそちらへは誰からも一切触れられていなかったが、
﹃完全なる世界﹄に︻必要な人材︼を相応に揃えるだけの収集力が烏丸
に備わっていた事実の弊害にもなるのかも知れない。
序でに言うと、ネギが祭壇上へ赴かなくても﹃同期﹄が為せるよう
にさよが控えていたりしたのだが、先立って同期が成り立ち﹃主力﹄が
魔法世界へ赴いたことも隙を突く好機であったことは割愛とさせて
いただく。
何気に原作でもこの世界線でも、ネギどころか3│Aの面々の魔法
世界における必要性が危うくなってきたことはさて置き。
という点についての確認でも
一度、麻帆良へこのゲートを使って戻って来たのも布石の1つ。
本当に﹃宮殿﹄と行き来できるのか
ある。
なかったのである。
丸であり、最終目的を実現させるには﹃今回は﹄負けるわけには行か
原作で幾ら知識があるとはいえ、それが絶対とは信用しないのが烏
?
何せ、この世界は原作とは﹃やや違う﹄し、世界樹の下にはゲート
﹃以外のモノ﹄も有ったりする事実を知っている。
だからこそ、こうして魔法世界を覆す策を打てたわけでもあるが。
﹁そいやっさー﹂
緊張感の伴わないさよの声が揺れる。
反
閇
死後を知り、神の存在を︵烏丸経由でだが︶知る彼女だからこそ、
北斗の星辰を踏むこの立ち位置なのだが、如何せん何処か軽い。
それというのも、その帰結が﹃どうなるか﹄を﹃全て﹄教えて貰っ
ているからこそ、そうした心内で割り切れるのだろう。
結局さよは、魔法使いたちへ一度も悪いとは思うことなく、
﹃ゲート
﹂
を曲げる﹄為の反閇を踏み切った。
﹁終足
カン、と履いていた高下駄の音が鳴り響き、ぎゅるりと、
││世界樹が歪曲を始めた。
﹁ほわっ﹂
事前に聞いていたが、やはり驚きの声は隠せない。
世界樹の根が一斉にさよへと巻き付き、身体を総て包み込むように
絡んで逝く。
同時に、地上の方は割とトンデモナイ変動が起こっていたりする
が、その辺りは割愛。
巻き込まれる身体をそのままに、さよはするりと憑依を解いた。
水底へと引き摺り込まれて逝くかつての己の身体を敬礼と共に見
送りながら、途中動いた世界樹の元あった根の部分に意外な姿を発見
する。
218
!
自分を引き上げる為に降ろされた﹃新体操用のリボン﹄をなんとか
世界樹が、世
彼が手を下すまでも無く、今迄の行動は総てが茶番。
文字通り時間稼ぎであったのじゃろう。
魔法世界の最後が、ようやく始まった。
同時にガンドルフィーニくんの﹃がっ、学園長ーっ
﹄って焦った声がすっごい五月蠅いが、もうど
!
﹂
!
⋮⋮﹂
項垂れたように消沈するフェイト。
お主らそんなんやっとったんかい。
﹁まあ、そいつらも一緒さ。チョイと違うのは行き先程度││ん
何やら気になる言葉を発した烏丸くんが一瞬怪訝な顔になる。
そしてこちらを見て、
?
連絡来たんだけど、どういうこと
﹂
﹁⋮⋮なんか、世界樹の地下で二又眉毛の女の人がみつかったって
﹂
﹁⋮⋮オスティアで大虐殺を行った僕たちが馬鹿みたいじゃないか
は無い。さよなら魔法世界
﹁さて一連のネタばらしはまた後で。なに、一種の転移だから痛み
×
動かして、上の人物らへと念話を送るのだった。
×
×
儂の問いの後間も無く、祭壇の光は最大に発揮される。
×
うしようもないじゃろコレー⋮⋮。
界樹がぁあああああ
!!!!????
そんな言葉と共に、全ては光に包まれた││。
?
219
×
魔法使い最後の日、希望の未来へReady Go
││結局、私が出娑婆ったことは碌な意味も無く、端から端まで私
という個人は傍観者でしか居られなかったらしい。
魔法世界が壊滅したあの日、それと同時にこの世界から︻魔法︼が
消えた。
明確には、︻魔法︼と﹃呼ばれていた技術﹄だ。
現にあの日以来、捻れて二・三十周りくらい縮小した世界樹の番人
としてやって来た︻魔女︼
﹃イリシャ・リーバス﹄さんなんかは、未だ
に︻魔女︼としての実績を残したままだ。
麻帆良に元からいた魔法先生や魔法生徒なんかは、今迄使えていた
﹃魔法﹄を扱う為の﹃魔力﹄が消失したことも相俟って、少し裏の事情
を知ってしまっただけのちょっとだけ強めの一般人でしかなくなっ
ている。
烏丸曰く、
﹁要するに、この世界に蔓延っていた魔力素って奴が元々
﹃造物主﹄の異能の派生なんだよ。それが大元になってるから、学術と
しての側面より親和性の方が﹃魔法使いとして﹄の性能に肖る﹂とか
なんとか。
まあ、自分の能力の領域を世界中にまで蔓延らせた、って言われて
その壮大な説には驚愕したが、考えて見れば﹃始まりの魔法使い﹄と
かって呼ばれている時点で怪しい点はあったしな。
始祖としての立ち位置が在るのは兎も角、それが単機で成立する時
点で才能云々以前になんらかの裏を想定しちまうのは仕方がないだ
ろうし。
ちなみにそんな世界的飽和現象を引き起こした烏丸自身はその例
に則らないらしいが。
なんでも、自分自身の中で元からあった﹃魔力﹄に似た﹃何らか﹄を
魔法の大元として使用していたらしく、性能の疑似性故に違うモノだ
と今まで気づかなかったらしい。
まあ、古菲とか桜咲なんかの元から︻気︼を扱っていた人らなんか
220
!!
は性能が落ちたわけでも無かったらしいし、それと似たモノなんだろ
う。
世界樹の﹃捻れ﹄は魔法世界を集束する為のエネルギーの収集、明
確には存在性と呼ばれるモノの収納に近いとか説明を受けた。
それに伴って﹃世界﹄そのものが十数平米くらい狭くなっていると
かなんとか⋮⋮まあ、実際に誰かが観測したわけでもなさそうだし、
聞かなかったことにしておこう。うん。
ともかく、元からあったと烏丸とイリシャさんが云う、世界樹の下
にある異界への通用口、正しくは︻産道︼とか言っていたが、それを
ぐいっと引き伸ばして距離を稼ぐためにも、造物主という影響力が有
り余った擬似神性存在の欠片を犠牲として使い潰すことで儀式の擁
立を促した、⋮⋮らしい。
私にもよくわからん。言っていた説明をそのまま云っただけだか
ら、詳しくはそっちに聞いてくれ。
とかいうモノをぶち込んで、其処に魔法世界の
と、妙
以外にはわけのわからない答えが。⋮⋮ゲーセンのリズムゲームか
モード鬼﹂と、烏丸・神楽坂・綾瀬・桜咲・マクダウェル・ネギ坊主
?
にはその﹃モード鬼﹄とかいう奴が件の断続性なんちゃらだったらし
く﹁掻い摘んで説明すると人間が存在できるレベルの法則性を伴った
多元宇宙の各星系の地球と似たそれぞれの世界を、またその世界間に
221
そうして引き伸ばした産道、今では︻行路︼と烏丸が呼ぶ、
﹃断続性
多重層型連結世界﹄
面子を転送させていた。
件の︻産道︼に直接魔法界ぶち込むわけにいかなかったのか
ンジョンの達人﹂
﹁﹁﹁﹁﹁何度だって遊べるドン ﹂﹂﹂﹂﹂
﹁そう、それの
結局それ何なのか、とみんなが問う処、
﹁あー、アレだよ、アレ、ダ
の引き攣る説明を充てられてしまう。何それ怖い。
引っ張られて人間が人間としての形を保てなくなる、という非常に顔
﹃その先﹄にある次元位相と宇宙法則の完全に異なる︻世界︼の影響に
に手間のかかる遠回りな仕込みに疑問をぶつけてみたが、それだと
?
?
ダンジョンと訊いて胡乱な目を向けられていた烏丸だったが、正確
?
存在する︻行路︼がダンジョンの形で繋がって維持している世界間突
破型なんだよ。全体像が膨大だから流石に俺でも一挙には攻略しき
れてない。今でもアバターを放り投げて攻略の途中だ﹂とか。
そんなところに魔法世界人放り込むんじゃねぇ。全然掻い摘んで
ねぇしな。
序でに言うと、その︻世界︼もまたこっちでの﹃魔法﹄が使えない
仕様らしく、益々放り込まれた奴らが危ういことに学園長その他の顔
が青くなる。
そっちはそっちで法則性の違う魔法が主流らしいが、尚更いきなり
放り込まれた奴らの生存確率が惜しまれる。
魔術は如何なく効果を発揮したらしいが、⋮⋮あれ、烏丸そんなの
使えたっけ。
私のその疑問に応えは無く、代わりに﹁その世界間のみで輪廻は完
結しているらしくてな、一応転送先を定めておいたから基本的には現
222
地住民との齟齬は起こらない。ただ、それも転送される奴らの︻魂の
位 階︼が 左 右 す る。正 確 に 言 う と、業 の 深 い 奴 ら は 下 層 へ と 落 ち 込
む﹂。
⋮⋮地獄とか、そんな感じ
の龍樹とかいうのよりも、ずっとデカくて硬くて速くて凶暴で食欲旺
んかが蔓延っているとか。ドラゴンなんかもいるらしい。魔法世界
ブリンやオーガやオークやマンティコアやキマイラやバピルサグな
としている世界らしく、それこそ古典系ファンタジーの王道を飾るゴ
ちなみに最下層は人よりも人を喰う怪物らの方がずっと活き活き
元老院とか、その辺の奴らかなー⋮⋮。
にアレ﹄な奴らは中層どころかもっと下層の方へと一直線らしい。
奴らの人間性にまでは口出しできず、世界の法則に則って﹃人間性的
烏丸はその頂点地域に転送先を定めて置いたらしいが、転送される
か。
らしく、より上層を探索するほどに住民の数は減少傾向にあるのだと
事実、現地住民らはある一定の世界で交流や戦争を執り行っている
そんな感想が出たのも仕方のないことだと思う。
?
盛な奴がゴロゴロと。絶対に逝きたくない世界だな。
というか、そんな世界をそもそも烏丸が造ったのか、という点が一
番の衝撃な気がするのは私だけか。
青い狸の銀河創生セットでも備えているのかしら、と後日個人的に
訊いてみたが、明確には﹃自分のダンジョン﹄を造る際に下方位階開
拓という極少領域発掘作業中に見つけてしまった﹃既にあった世界﹄
であったとか。
そうだよな。そんなぽんぽん異世界造れていたら、烏丸が造物主と
同レベルの超人になっちまう。魔法使いの始祖的扱いに達するのも、
誰としても本意では無いはずだ。
と、飽く迄軽い意見で頷いてみた処、
﹁むしろ造物主がの●太﹂とい
う容赦のない意見で切り返される。烏丸の中では造物主に対するイ
メージが非常に悪い気がする。
転送された奴らもまた、大体が虐殺によってリライトされた人たち
だった。
それらが集められてよく暴動が起きなかったなと思ったが、そうい
う奴らは﹃死んだ状態﹄のまま、情報だけを圧縮して件の頂点世界へ
と送り込まれていたらしい。
だからこそ世界法則には抗えないが、それ故に人間性の解析は楽に
執り行われた。お蔭で龍宮や高音さんもすぐに回収できたけどよ。
そして、烏丸はその魔法世界人らを全部ひっくるめて、私らの世界
とは断絶させるつもりでこの計画を立てていたらしい。
が、此処で私らという問題が起こる。
既に知り合っているエミリィさんなんかのアリアドネー御一行と、
果たして二度と会わない事が出来るのか、という問題だ。
答えは否。
文化の交流が既に起こってしまった以上それを見過ごすには烏丸
にも憚られたらしく、そういった点をキチンと見据えて﹃これから﹄に
調整を入れようと手を加える以上、やはりアイツが魔法世界を滅ぼし
たそもそもの理由にはどうしたって﹃人情的な理屈﹄が関わっている
のだと覗えていた。
223
其処を問い質したところ、案外あっさりと、
﹃いや、だってこのままじゃ明日菜が人柱になって魔法世界を維持
するために封印されるのは目に見えてるし。というか、それを易々見
送れるほど俺はこの世界の有様に納得できてないんだよ。女子ひと
りと引き換えにようやく生き残れる世界なんてのは滅んでも良いだ
ろ﹄
と、妙に具体的過ぎる未来予測をばらしてくれた。
⋮⋮なんでお前、そこまで明確に︻正史︼を語れたのかな。そもそ
も根拠は在るの
続け様に問い質すと、
つ ー か 案 外 あ っ さ り バ ラ す ね。気 が 抜 け た
﹃まあ、読んだしなぁ。といっても、思い出したのは中等部に上がっ
てからだけどさ﹄
や っ ぱ り か よ ⋮⋮
か
!
把握してるだろ。エヴァだって、俺が幼いながらに相応の自意識を
持っていたことの説明を受けているし﹄
なんでそう明け透け過ぎるよオイ。
そう、やっぱりアイツは転生者だった。
この世界の大元となる﹃魔法先生ネギま﹄の原作をある程度把握し
それにしては色々と迂闊過ぎないか
ていた、といういわゆる︻上位存在︼らしいのだが、⋮⋮ぶっちゃけ
ていいか
?
﹃転生者﹄とは何か異なってくる。
先を知る漫画の世界へ降り立ったにしては私が﹃向こう﹄で接触した
私も並行世界を垣間見た体験を実感したから口出しできる身だが、
?
224
?
﹃いや、俺がそういう﹃前世の記憶﹄を持ってることくらい、一部は
?
世の先とキャラの心情を把握できていると錯覚して足元を掬われ
た﹃オリ主﹄は割とよく見ていたし、逆に慎重に物語の主流を離れさ
せないようにストーリーを沿う﹃影響﹄を避けようという保身に走る
奴だって居た。
烏丸の場合は、変に﹃ちぐはぐ﹄だ。
﹃先を知る﹄にしては現地を探り、
﹃自己保身﹄の割には相応に働か
せられる能が在るのに好き勝手に動く。
﹃強い奴﹄に初めからなっていたわけでも無いし、
﹃物語﹄の陰に犠
漫 画 の 登 場 キャ ラ ク ター
牲となって潰されたものの、それなり真っ当に生きている。
そして、自分の周りにいる奴らに無駄な愛着を見せてもいる。
烏丸が魔法世界を滅ぼした理由は、第一に﹃神楽坂の為﹄だと見て
間違いはない。
序でに言うと、
︻魔法使い︼を無力化した理由には﹃マクダウェルの
為﹄というモノも働いている。
大体の説明を終えて、魔法界のその先を集まった関係者各位に伝え
た際、何でもない事のように説明したのだ。
﹁造物主の能力効果がアレの魔力素が主立った理由だとすると、エ
ヴァもその内普通の女の子に戻れるよ﹂。
封印という箍から外れて自由になる﹃闇の福音﹄をどうするのか、と
元魔法先生らに問い詰められた際の答えだ。
烏丸曰く、世界的に﹃魔力素﹄と呼ばれていた素粒子が正しい循環
によって入れ替わることで、維持されていた﹃魔法﹄に連なる現象の
性質が減少傾向に当る筈。計測結果はこの先正しく出せるはずだが、
そもそも魔法を使えなくなっている魔法使いらがいるのだから、自分
自身で似たモノを精製している烏丸以外は例外になる道理が無い。
⋮⋮それを聞いて感極まったマクダウェルが烏丸に抱き着いたの
はお約束だ。
結局、アイツは魔法世界に一番﹃被害﹄に遭っている自分の周りの
﹃キャラクター﹄を、影響に左右されない左右しない﹃普通の女子中学
生﹄へと変えたかったのだろう。
勿論、其の為にかかる手間はかなりあった筈だ。
225
いくら自分がこの世界で生きて逝かねばならないからと言って、特
殊技能が使えども只の人間であるままの彼が、其の為に数多くの代償
を支払ってまで片づけなくてはならない問題だ、というわけでもな
い。
今後烏丸は色んなモノに目を付けられるはずだ。
魔法界に関わっていながら、魔法を扱わずに世界の裏を跳梁跋扈し
ていた魑魅魍魎なんてのが無駄にいる世界だ。
この先安全で平穏な人生が続くかどうかと問われれば、真っ先に困
難を味わうのは烏丸が筆頭になってゆく。
それを、予測できていなかったはずは無い。
世界樹の縮小と図書館島の崩落、そしてそれに伴った世界樹を中心
とした麻帆良学園の敷地の一部収縮。
そんなトンデモ現象を結果として顕わにし、夏休み中の生徒の目が
少ない中での突貫工事で街並みを作り直し、認識阻害に頼らない﹃違
ことは無い﹄
﹃む し ろ 問 題 が 浮 上 し て き て る、っ て 感 じ だ け ど な、お 前 の 場 合
⋮⋮﹄
異世界開拓した奴が云う話では無いと思われる。
結 局、魔 法 世 界 の 建 築 物 や 財 産 な ん か は 一 掃 さ れ て し ま っ た が、
︻命︼は 揃 っ て ま る っ と 無 事。下 層 へ 落 ち 込 ん だ 奴 ら も 頂 点 領 域 に
頂点領域
残っていた魂魄も纏めて実体化させて、それなりに交流が可能な上層
域に領地を制定し手元に残っていた人材だけでなんとか国を作らせ
226
和感の解消﹄を全て取っ払った麻帆良学園。
﹄
一応は此れで全部問題解決だ
そんな街中にて、最後に烏丸と交わした言葉を思い起こす。
﹃││この先お前はどうするんだ
ろ、原作終了、ってことで世界でも渡るのか
というか、ようやく大まか
?
なことが片付いたんだ。此処でハイさよなら、と行くこと程勿体無い
なるけど、むしろ超リンの領分じゃね
﹃次元突破は俺の領分じゃねーなー。下層に行くだけならなんとか
?
?
るに至った。魔法世界人12億、内約はメガロメセンブリーナ連合6
700の人間種。一国とするには過剰な人材の上に、そもそも一致団
結するかというと非常に不明瞭な先行きで大変だろう。それでも烏
丸は使い潰される予定だった︻魔力素︼に変換された魔法世界の街並
みの一部を、寄せ集めてちぐはぐながらに住居を製作した。生き残り
の内何割かは下層世界という未開の地へ開拓という名の侵略に赴く
かもしれないが、その辺りは自身の生き死にの関わることだ、と切っ
て捨てるらしい。慈悲を見せる癖に無駄にシビアな奴だった。
というか、烏丸本人の望みは其処に掛かっているのだろうか。
いくら転生者だからと言って、もしかしたら抱いていた筈の大元の
﹃先行きをどうにかしたい﹄という願望を片付けた﹃その後﹄が無くて
は、達成以前まで抱いていた﹃やる気﹄も失われる可能性が高い。
人生のエンドロールを迎えるまで捨て身で生きる羽目になるので
は、といくら何でもニートは無いだろう、と自分の最終話その後が酷
ばっかりじゃん⋮⋮
﹄
?
かったというか﹄
﹃お前それサバンナでも同じこと言えるの
﹄
﹄
﹃だからさ、平穏な日々を送る為にも、後顧の憂いは片づけておきた
﹃あ、それ自覚できてたんだな⋮⋮﹄
?
227
かった身としては若干の懸念が脳を過ぎる。
それとも、彼には何らかの人生設計でも備わっていたのだろうか。
﹃とりあえず進学。それで最終的に平和な家庭を作りたいから、癖
お相手
のあるヒロインキャラに襲われない人脈を作る。これだけお膳立て
﹄
お、おっま、アレだけアイツらの為になる様な事
したんだし、明日菜もエヴァも、もう﹃普通の男子﹄を探せるよな
﹃⋮⋮。ハァ
やってのけた癖に、え、ハァァ
なんかさらっと原作ヒロインディスられてんですけど
?
﹃いや、だって、俺アレだけキャラ強い娘たち相手だとさ、負けて
!?
!?
!?
烏丸の身体を狙う雌ライオンの群れを前にして、果たして彼は生き
て逝けるのだろうか。
心
の
壁
というか、その割にはマクダウェルの事とか、受け入れてるよな烏
丸って。
神 様 特 典 っ ぽ い ATフィールド を 突 破 さ れ た ら し い じ ゃ ね ぇ の。
それが証拠だよ。
それであいつらを遠ざけることが、本当に出来ると思ってるのか
×
⋮⋮
×
そして休み明け。
×
また物騒な科白を口遊む。
働かせんで良い、そんな物騒センサー。
﹁ちゅーかアレやな、麻帆良全体に活気が足りん。事故の所為か
﹂
と、学中第一に物騒な月読が︵普段比では︶静かな教室内で、これ
まへんわぁ﹂
﹁ん∼、随分と小波に成りましたなぁ∼。斬り甲斐センサーが働き
龍宮とか、長瀬とか、那波さんとか。
︵上位置換︶くらいか。
唯一いつも通りに見えたのは、元から大人し目な一部の年齢詐称組
しこで見受けられる。
て、それなりに﹃年齢通りの女子学生たち﹄といった雰囲気がそこか
認識阻害の削れた影響下なのか、普段の能天気さが割と鳴りを潜め
が教室に漂う。
いつもの元気な面子が集まった⋮⋮にしては、妙に大人し気な空気
×
?
228
×
?
読み手も忘れていたと思われるロリ巨乳代表・犬上小太郎が、公に
した麻帆良の一部収縮に当る理由を諳んじる。
実のところ全てを発表するわけにもいかず、裏の世界に置いて色々
と評価の下がった麻帆良がこれ以上馬鹿をやって本気で攻め滅ぼさ
れるわけにもいかなかったことも相俟って、元魔法先生方はようやく
﹃大人しくなる﹄という選択肢を執ることが出来るようになったらし
い。
実際、麻帆良防衛、っていう理由の上で﹃生徒に﹄反撃用の技術提
供をしたことに付いては、麻帆良を﹃襲撃に来なかった﹄者たちが普
通に白い目で見ていたそうな。
其処で世界樹の事態をどのように解決するか、が今後の麻帆良の先
行きを図る﹃物差し﹄として思案されており、学園長は﹃事故﹄と発
表。その際提案された理屈が、﹃世界樹が元は学園内機関で制作した
新しいエネルギー生成機構の人工物であり、稼働の失敗に伴って機能
と実験の縮小をこの夏の間に実行。年単位で引き起こされていた断
続的な発光はその副次作用であり、人体に影響こそないが事実を公表
する以上今後は自粛する心積もりであるので、過剰な情報公開の提示
要求などは学生の生活に配慮して互いに気を付けてゆきたい所存で
ある﹄という︻嘘︼だ。
世間の納得を本当に得られるかというと不安が残るが、魔法界﹃以
外﹄の﹃裏﹄も全部の事情を暴かれることも面倒だと理解しているら
しいので、そちらがそれなりの情報規制に働きかけてくれるだろう。
というのが記者会見までした学園長の内心だそうだ︵by烏丸。
PTAなんかの一部も保護者として微妙に騒ぎ立てるような勢い
を見せかけたが、雪広財閥なんかの大手から寄せられた﹁それでも麻
帆良の生徒たちが伸び伸びと真っ当に育っている点は認めなくては
ならない。麻帆良以外では言葉にするのも憚られるような生徒が存
在することもまた事実であるし、そういう﹃保護者にとっての好まし
くない事例﹄を生徒に顕わとしなかった以上認めるべきではないの
か﹂という言葉のお蔭で、麻帆良の存続はなんとか許可が下りたとか。
ちなみに、件に挙げられた世界樹に関する嘘については、
﹃尚、実験
229
の成果は未だ完成とは云い難く、未熟なモノを公表することの危うさ
をご理解の上、各位追及は穏便に﹄と続けられている。
もうひとつちなみに烏丸曰く、﹁世界樹って循環器としては最上の
モノなんだよね﹂。お前そんな理由で世界樹いっこ犠牲にしたの
﹁事故、事故って言っていいのですか、アレ⋮⋮﹂
﹁諦めなよ史伽、麻帆良だからしょーがないって﹂
現場に居合わせたらしい鳴滝妹が青い顔で声音も弱い。
﹂
﹂
竜巻みたいにぎゅんぎゅん吸い込んで世
対して姉の方は能天気なままだが、其処の差は何だろうな。
﹁いやー、凄かったよ
界樹がすっごい捻れてくの
﹁ぶ、物理法則仕事してたのソレ⋮⋮
らしい。
その差は、烏丸の魔力︵に似たモノ︶が関わったか否か、という点
在。
仮契約していた三人娘のアーティファクトは事が全て終わっても健
終わってから顕現させようとしても現れることは無く、逆に烏丸と
たらしい。
ティファクトを仕舞うときに世界樹へと一緒に呑み込まれてしまっ
この差というのも、佐々木は例の︻現象︼の際、使い終わったアー
木は先ほどから廊下の方が気になって仕方がないらしい。
控え目な微笑で否定とも肯定とも取れない反応をみせるだけで、佐々
明け透けな物言いに、共立って活躍していたと聞く大河内・和泉は
半信半疑の様子。
一緒に聞いている椎名は目をキラキラとさせているが、柿崎の方は
た明石の説明に、驚愕を隠し得ないのは釘宮だ。
同じく目の当たりにしていた、元魔法先生方の行動阻害をやってい
?
︻仮契約︼というシステムは消えても、カードとアーティファクトは
230
!?
!
!
烏丸との契約だけが残っている点から見ても、やはりそれが一番の理
由だろう。
尚、神楽坂は自身のアーティファクトである﹃造物主の掟﹄は危険
視される筆頭なのできっちり烏丸へ受け渡し、⋮⋮てないらしい。い
や、片付けさせてやれよ。アレか、目に見えて判る繋がりを失くした
く な い か。乙 女 な 理 由 だ よ ね ぇ 神 楽 坂。や っ ぱ り ガ ン 堕 ち し て ん
じゃねーか。
﹁どうしようかこのか、そらとのハネムーン﹂
﹂
﹁あははーアスナー、気が早いえー。それにせっちゃんもまだ残っ
とるからなー、せっちゃんはまだ変身をみっつ残しとるんやで
れ、烏丸。
回収となっている不憫⋮⋮
﹂
⋮⋮まあ、自業自得だな。安らかに眠
2年時には冗談で言い合っていた婚約ネタが、この時になって伏線
丸の株が逝き付く処を知らねぇ。
が自身の為に、しかも見返りを求めてなかったことで神楽坂の中の烏
そして思った通りに、魔法世界ひとつ壊滅させるほどの策略の総て
⋮⋮幻覚だな、きっと。
操が近衛の策で失われる未来が見える。
桜咲が必死で涙目で懇願してるが、なんだろう、この先アイツの貞
けは止めてくださいお嬢様⋮⋮
﹁残してません。お願いですから烏丸さんに嫁がせるような計略だ
?
雌クセェ⋮⋮ ラブ臭が芳醇過ぎてアタシのセ
ンサーが焼き切れる⋮⋮
稿が遅れなければァァァァ
何があったのよ夏休み アタシも原
﹂
﹁いえ、碌でもない結果でしたよ
ネタ風に云うなら、嫌な事件
!
﹁ゆ、ゆえ∼、私のカードがいつの間にか消えていたんだけど⋮⋮﹂
﹁⋮⋮ああ、大丈夫ですのどか。私ももう持ってません。ええ、魔法
231
!
!
だったね⋮⋮、としか言い様がありません﹂
?
﹁うぉぉ⋮⋮
!
!
!!!
!
﹂
に関わるのはもう辞めましょう﹂
﹁どうしちゃったのゆえ⋮⋮
綾瀬の言い分に驚愕を隠し得ない宮崎。
しかし、そんな綾瀬に待ったをかけるのは、
!
﹂
!
も、是非﹂
﹂﹂
色々と見た目に関しての問題もあったが、﹃ちょっと人と違う中二
た。
はり﹃向こうの世界﹄に辿り着けなかった所為、としか言い様が無かっ
しかし、元魔法世界人である三人がこの場に居る理由としては、や
が付く。
いのでは、という意見に関しては﹃大体烏丸が色々やった﹄で割と片
ベアトリクスさんはともかく、他のふたりはこっちじゃ存在し得な
室だったりする。
ベアトリクスさんが一緒に居る理由は﹃転校生﹄として先駆けての入
尚、魔法世界人であるはずのエミリィさんやコレットさん、そして
侵入も不可能だそうだぜ
というか綾瀬、ホント卑屈になり過ぎだし、図書館島は閉鎖されて
コレットさんと宮崎の科白が見事にはもった。
﹁﹁卑屈になり過ぎだよユエ
朽ちた図書館島の片隅でひっそりと生きて逝くのがお似合いです﹂
うとするほど酔狂にはなれないのです。所詮私は本の虫、こんな私は
﹁お黙んなさい、ナイトメア通り越してルナティックな案件に進も
﹁力を貸してよユエっ
﹂
﹁私 か ら も お 願 い し ま す ユ エ さ ん。お 嬢 様 の ご 家 族 を 探 す た め に
66の迷宮を突破するべくわたくしに力を⋮⋮
の向こうにあるセブンシープ家を再興させるためにも、踏破すべき6
﹁いいえユエさん、貴女には才能があるのです
いつかあの世界
酷煩ぇ早乙女を切って捨てる綾瀬に、立ち位置が完全に反転してる
!?
!?
232
!
?
人に優し
デミ・ヒューマン
病を患ってる娘﹄で片が付くくらい、この世界は何気に亜
い世界である。
⋮⋮まあ、人型ロボットが意外に其処らに居座ってる世界でもある
しな。
﹂
﹁お久しぶりです、千雨さん﹂
﹁⋮⋮絡繰
話題に出したわけでも無いのに、人型ロボット麻帆良筆頭・絡繰
茶々丸が静かに挨拶を。
⋮⋮あれ、コイツなんで此処にいるの
﹁お前なんで居るの﹂
だお前﹂
向中じゃなかったっけ
あと、魔力が無いのにどうやって動いてん
﹁ちう云うな。そーじゃなくて、お前とマクダウェルは男子部に出
﹁酷いですね。イジメ良くないですよ、ちうさん﹂
?
きたのでは、と思ってた。
﹁ナニね。妙に優しい目をされてるヨ⋮⋮
﹂
﹂
今回も、てっきり私らの知らないところで何某かの苦労を背負って
度の苦労人だった筈なのだが。
何気に見て来た未来軸では、件の世界中の裏組織に狙われていた程
そしてコイツこそ普通に動いていていいのか。
﹁超﹂
﹁その点に関してはワタシがするネ﹂
聞きたいのはむしろ後半だったりするのだが。
?
﹁まあ、気にするな。で、コイツどうやって動いてるんだ
?
!?
233
?
﹁ムウ、まあイイか。そもそも烏丸サンが循環を促しタ魔力素とい
うモノは││﹂
長くなったので要約。
超が語るに、魔力素そのものは消失傾向にあるが、それが星の進化
に連れ立って来た所為で生存と存在の為に生物に必要不可欠な要素
の一つとしての側面も担っていた。実際、
︻原作史︼じゃあ最終巻辺り
で﹃実は重要なモノ﹄ってネギ先生が説明していたしな。しかし、明
確に取り扱える者たち、つまりは魔法使いがその活用技術を独占して
いたお蔭で、素粒子としての魔力を解析することは不可能であった。
結局依り明白に元素の有り様を解析することは不可能に終わった
が、消失した元素一つで生物の生き死にを楽に左右されるようではこ
の世の︻存在︼が余りにも脆弱としか見られないことになる。
だからこそ、逆説的に生物が未だに存在し続けられている理由に
234
は、魔力素に代わる﹃同質の何某か﹄が魔法使いに扱えない形で世界
を循環する形へと変貌を果たしたのではないか。というのが超の意
見だった。
事実、烏丸は﹃似た何か﹄を自ら精製するし、それを扱って︻魔法︼
に﹃似たこと﹄を執り行えている。
実にしっくりくる説明だが⋮⋮、烏丸、此れ予想以上に先行きが不
安になるんじゃねーのか⋮⋮
握していました。それと対比するように、
︻気︼は自身の中から生み出
﹁元来、魔法使いは大気中の魔力を自身に循環させて使用する、と把
気中魔力素の回収は修了してイルと見て間違いないネ﹂
ルのだが、恐らくは世界樹のアレが引き起こされタ日には一括して大
イタのかを魔法使いが把握しテいない所為で結果の観測が遅れてオ
るらしいネ。﹃魔法で齎された結果﹄が﹃どの辺りにまで﹄行き届いて
としテ魔法使いが遺しタ世界中の︻魔法︼の痕跡は事実減少傾向にあ
﹁烏丸さんノ、正確にはイリシャさんノ解析結果ダと、造物主を筆頭
実験動物だけにはされないように、祈っててやるよ⋮⋮。
?
されるエネルギーだ、とも。実際の処、その両方が人に予め備えられ
ている力ならば、反発し合うことも無く混じるのが正解です。咸卦法
はその﹃反発﹄を使ったリニアモーターのような使用法だ、と此れは
烏丸さんからの補足ですが﹂
﹁相変わらず一言余計な説明を付け加えてくるな、しかも遠隔的に﹂
﹁マ、実際麻帆良武道会では烏丸さんガ正規とは違う方法で咸卦法
を成功させていたシ、その説に異論は無いネ。そして魔力素に似た何
かを︻循環︼させテ、未だ魔法効果の残るモノを回帰させてイルのが
今の世界樹の真相ヨ。本当に無駄なく使い潰すつもりミタイネ⋮⋮﹂
﹁生存と存在の話どこ行った﹂
﹁大丈夫でしょう。マスターも、あの通り︻普通の女子︼としてご健
在ですし﹂
ま、大丈夫か。
﹂
と知っちゃったら、惚れないわけないじゃない⋮⋮﹂
﹁⋮⋮おい其処はもうちょっと気を張れよ。私がこうして煽ってる
んだからツンデレっぽい空気出してくれよ﹂
真っ赤になって俯く神楽坂に、困惑するマクダウェルの姿が其処
に。
やっぱり神楽坂がメインヒロイン。はっきりわかんだね。
つうか、事が終わってようやく神楽坂は烏丸に対する自分の未練を
自覚できた、というのが正解のようだ。
235
実際、アクロバティック魔法世界制圧を果たしたキャラだし、私が
心配するだけ無駄だな。
神楽坂の会話にもマクダウェルが加わっているみたいだし、対岸の
片腹痛いな
神楽坂、貴様程度が今更本気になったところで私
火事として観戦に臨ませてもらうぜ。
﹁ハッハッハ
とそらの絆に勝てると思ってるのか
!
﹁⋮⋮だ、だって、あんな全部私の将来の為に動いていた、なんてこ
!?
!
その結果で神楽坂だけでなくマクダウェル、その他諸々も問題を片
付ける方向へと収束していった手腕に関してはもう言葉も無いが
⋮⋮。
ま、本当に﹃世界を救う﹄とか豪語するんなら、細かい処をキチン
と片付けることは前提過ぎる話だよな。
﹃世界﹄って言葉にはざっと意味合いを思案するだけでも、漠然とし
た全てを大雑把に見て把握した気になってる奴と、それぞれひとりひ
﹂
とりの人生を世界としてきっちり見做す奴、ちょっと挙げただけでも
最低でも二通り私の目でも見て判るんだし。
﹁⋮⋮で、男子部に行ってたはずのお前らが、なんで此処に
﹁はい。まあ学園長の指示ですが﹂
思考が逸れたし、別に誰の事を云うつもりも無いのでその程度で適
当にカット。
あちらの事情を睥睨しつつ、何でもない事のように茶々丸と語る。
うん、やっぱコイツを呼ぶのは﹃絡繰﹄って苗字よりも名前呼びの
方がしっくりくるわ。
﹁認識阻害を使えなくなりましたので、情報操作も難しくなりまし
た。また麻帆良の情報公開も外より提示されていますので、﹃闇の福
音﹄を公に晒すことになる扱いは控えるように、と。要するに、
﹃共学
に向けてのテストケース﹄という形でも、顕わとしておくわけにいか
なくなりました。もっと言うなら、魔法先生方もマスターの我が侭に
236
?
付き合っていられる余裕がなくなって来たので、今学期より女子部へ
﹂
?
と出戻らせられたという次第です﹂
﹁⋮⋮それで云うならウチの方がずっとヤバくね
情報公開提示されてんのかよ。
うちのクラス、﹃子供先生﹄だぞ
副担任だが。
?
﹁その点については御心配なさらず﹂
﹃あ、マスター﹄
と、私らの会話に紛れ込んでくる、少々幼さが残りはするが童顔と
いう言い訳が通用しそうな、普通に見て女子高生くらいのスーツ姿の
少女が。
スマホから消えない小娘が口遊むことで面影も判るが⋮⋮6号
﹃先生﹄として名を通せるはずです﹂
﹁え。その形はどうした。なんか成長してね
レ プ ラ コー ン
﹁そらさんがひとばんでやってくれました﹂
⋮⋮
⋮⋮最後に組織裏切った形だから、居づらいとかそんな理由かね
いたのだけど。
つうか、お前は御兄弟と一緒に﹃あっちの世界﹄へ行ったと思って
靴屋の妖精か。
﹂
て、私が新担任に着任しました。この形ならば﹃容姿が﹄﹃子供っぽい﹄
﹁ネギ先生という麻帆良最大のスキャンダルのカモフラージュとし
?
をアイサツ廻る学園長のお守り役です﹂
ああ⋮⋮。
黒板前
学園長も魔法使えなくなったから、護衛が必要ってことか。
ひとり納得していると、6号はそのまま壇上へ上がり、全員に顔を
向ける。
﹁こ の た び 新 副 担 任 と し て 着 任 す る こ と と な っ た イ レ ヴ ン・ア ー
ウェルンクスです。解任されたネギ先生の替わり以上を務める所存
237
?
﹁そして新学期早々、高畑先生は出張です。もっと明確には、世界中
?
6
6
11
ですので、どうぞ皆さん宜しく﹂
ⅥとⅥを重ねてⅪです、と名前の由来を続けていた6号改めイレヴ
ンは、表情を変えないまま静かになった教室へと言葉を放っていた。
名前はそれでお前は良いのか。
ク ー ル 系 キ ャ ラ が 増 え た ら 茶 々 丸 の 陰 も 薄 く な る 懸 念 は 兎 も 角、
ちょっと見過ごせない事口にしなかったかコイツ⋮⋮
﹂
そか。
﹁なん、ですって⋮⋮
﹂
のまま教師の仕事も辞めるそうです﹂
みの間に探していた家族とようやく再会し、ウェールズへと帰郷しそ
﹁冗談では無くマジです。ネギ・スプリングフィールド先生は夏休
る。気の所為か。
気の所為か、﹃かいにん﹄という言葉が若干ニュアンス違う気がす
一番に気が動転している雪広が挙手。
⋮⋮
﹁あ、あの、ネギ先生が懐妊、と聴こえましたけど、冗談ですわよね
?
実際愕然としてるのが雪広・佐々木・宮崎くらいで、他の生徒は比
んし。
から逃げたかったとか、そんな理由がありそうだが気の所為かもしれ
期待値とか友好度とか、そういった部分の解消が不可避になっている
それ以外にも、この夏に極限まで下降したガキに対する好感度とか
にいかなくなった学園側の意見でもあるのだろう。
ら麻帆良が提示しなくてはならない以上、判り易いネックを晒すわけ
の担任やってるとか、っていう物語の根幹を揺るがす問題点をこれか
其処に至る理由の諸々には、そもそも子供が中学生のしかも受験生
まあ止める道理も無い、イイハナシダナー。
!?
238
?
較的﹃仕方ない事﹄と割り切られる節がある。
仮契約をしている綾瀬も後者側だという点については、⋮⋮うん。
実際、イレヴンが言葉にした通りの事情も相俟っているのだから良
い話なのだ。
それとも、親子三人が出国したのを学園長も追って突然の出張に繋
がっているのかねぇ。
どちらにしろ云えることは一つだ。魔法先生ネギま、完ッ
﹁それでは早速ですが、このクラス他クラスと比べて内容が大幅に
遅れているので授業を始めましょう。といっても休み惚けが抜けき
れない方の為に触りだけ。﹃ワイバーン退治のコツと竜が齎す経済効
果について﹄││﹂
﹁先生、のっけから内容が学生の本分を超過してます﹂
やや思考回路がショート寸前な我がクラスメイトの反応が大人し
目だったので、思わずツッコミの手を入れる。
かっ、勘違いすんなよっ、物事に流されたままじゃ結局碌でもない
239
!
処にしか逝きつかない、ってことをこの夏で学んだから口出しするん
だからなっ。
今日だけなんだからなっ
!
Fly UP