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アカイイト・アナザーストーリー ボディーガード

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アカイイト・アナザーストーリー ボディーガード
アカイイト・アナザーストーリー
★ボディーガード
1.出くわした2人
ここ最近、特に目立った鬼の被害は無いという事で、烏月は桂の護衛の任務に集中する事になっ
た。
とはいえ通っている学校が違うので、さすがに四六時中ずっと一緒というわけにはいかないのだ
が、それでも烏月は可能な限り桂のそばにいる事にした。
学校への登下校の際はいつも一緒、休日には外に出かける桂を護衛したりもした。
何しろ昼間はノゾミが具現化出来ないのだ。その時は烏月が桂を守ってやるしかなかった。
鬼が昼間に悪さをする事は滅多に無いが、全く襲わないというわけでも無い。
それに桂は贄の血を身体に宿しているのだ。ノゾミが宿るお守りの力で贄の血の存在を隠しては
いるが、それでも全く安心というわけにはいかない。
それに護衛任務とかそういうのとは関係無しに、烏月は桂と一緒にいるのが楽しかった。桂のそ
ばにいたかった。というか、ぶっちゃけ烏月は桂に恋をしていた。
だが、この日はちょっと事情が違った。
久しぶりに鬼が出て、しかも役付きで無い者達には少々荷が重い相手だという事で、烏月はそ
の鬼を斬るために、桂のそばを一時的に離れる事になったのだ。
その隙を突いたわけでは無いだろうが、烏月が任務を終えて慌てて桂の元に戻ってきた際に、
桂がものの見事にナンパされていたのだ。
「なあなあ、お嬢ちゃんたち、暇?」
「俺等と一緒に遊ぼうぜ。」
「うまいもん食わせてやるからよ。」
桂はとても嫌そうな顔で逃げようとするのだが、それでも男たちも全く引こうとしない。
烏月は慌てて桂を助けようとしたのだが・・・
「桂さ・・・」
「桂!!」
突然現れた一人の少女。
桂は彼女を見て、とても嬉しそうな表情を見せる。
唖然とする男たち。そして。
「あなたたち、桂が嫌がってるでしょ!?」
「な、何だてめえは!?」
「今すぐに桂から離れろって言ってるのよ!!」
「何だとてめえ、生意気な口をぼぉえあ!!」
一瞬即斬。
竹刀を使っての目にも止まらぬ斬撃で、少女は男たちを叩きのめす。
「ふう・・・桂、大丈夫だった?怪我は無い?」
「梢子ちゃん、もう、遅いよ~。」
「ごめんごめん、ちょっと電車に乗り遅れちゃって・・・。」
「いいよ・・・守ってくれてありがと。」
和やかに話をする2人。
「あの女は・・・あの時チンピラから桂さんを助けた・・・!!」
慌てて烏月が桂の元に姿を現した。
「桂さん!!怪我は無かったかい!?」
「烏月さん!!」
「すまない、私が桂さんのそばを離れている内にこんな事になってしまって・・・。」
「大丈夫だよ、梢子ちゃんが守ってくれたから。」
烏月と梢子は、互いの存在を『恋敵』だと瞬時に理解した。
睨み合う烏月と梢子。
烏月VS梢子。
「・・・桂、こんな人ほっといて、早く映画を観に行きましょ。」
「な・・・映画だと!?桂さんと!?」
「何よ、今日は桂とデートの約束をしてるのよ?何か文句あるわけ?」
「デートだと!?くっ、私でさえまだだというのに!!」
「そういうわけだから、烏月さん・・・でしたっけ?私たちの事はお構いなく。さあ桂、早く行くわよ。」
「ならば私も同席させてもらおう。」
「ちょっと、何であなたが私たちと一緒に来るわけ!?」
「先程のような汚らわしい男共から桂さんを守るのが、ボディーガードとしての私の役目だ。」
「ご心配無く。私が桂を守りますから。」
「貴方の実力では不安だと私は言っているのだよ。」
「なんですって!?」
「では、勝った方が桂さんとデートするというのはどうだ?」
「・・・ねえ桂、この人物騒よね・・・。何でも暴力で解決しようとするなんて・・・。桂もそう思わな
い?」
「しまった!!」
「ほら、ぐずぐずしてると映画が始まっちゃうわ。早く行きましょ。」
「待て待て待て、だから私も同席すると言っているだろう!!」
「だから桂は私がちゃんと守りますから!!心配しないで下さいってば!!」
「いや、任務だから!!」
「いや、邪魔だから!!」
……結局、3人で映画を観る事になってしまった・・・。
2.火花を散らす2人
「あの・・・烏月さん・・・いつまでついて来るつもりなんですか(怒)?」
「言ったはずだよ。桂さんの護衛が私に課せられた任務だとね(怒)。」
映画を観終わった後も、烏月は桂と梢子から離れようとしなかった。 というか、梢子に対して思い切り嫉妬の炎を燃やしていた。
表向きには護衛の任務だが、腹の中では梢子の邪魔をする気マンマンだった。
梢子もそれに気付いているのか、決して桂から離れようとしない。トイレに行く際にも桂を無理矢
理一緒に連れて行く程だ。
とにかく桂と烏月を2人きりにしてはおけない。さもないと何されるか分かったもんじゃない。梢子
の直感がそう警告を放っていた。
だが烏月もまた、桂のそばを決して離れようとしない。
映画を観終わった後に立ち寄ったレストランやゲームセンター、アクセサリーショップ、公園・・・。
どこに行くにも烏月は一緒について来た。
火花を散らす烏月と梢子。
烏月VS梢子。
桂は「烏月さんと一緒だと賑やかになって楽しいな~」という程度しか思っていないのだが、梢子
と烏月にそんな純真な気持ちは全く無い。
とはいえ、桂をナンパしようとする汚らわしい男共は、梢子と烏月が物凄い形相で追い払ってしま
うので、桂のボディガードとしての機能はちゃんと果たされているのだが。
そんなこんなで、遂に夜になってしまった。
結局梢子は烏月という余計な邪魔が入ったせいで、桂との2人きりのデートを満喫出来なかった。
正直な話、烏月のせいで映画の内容もあまり頭に入っていない。
しかも烏月は、桂をマンションまで送る時まで一緒について来るのだ。
いや、この様子だとマンションの中にまで一緒についていきそうな気配だ。
「全く、明日から合宿でしばらく桂に会えないってのに・・・。台無しにされてしまったわ。」
「そうだね。明日からなんだよね。ちょっと寂しいかも。」
「じゃあ私はここで。桂も明日から柚明さんとノゾミを連れて旅行だったっけ?」
「うん。」
その旅行先というのは実は梢子の合宿先と同じだったりするわけだが、この時の2人はまだ知ら
ない。
「だったら今日は早く寝ないと・・・」
言いかけて梢子は気が付いた。
烏月が「チャ~~~~~ンス」とばかりにニヤニヤしていたのだ。
桂さんと小山内梢子がしばらく会えない。桂さんと小山内梢子がしばらく会えない。桂さんと小山
内梢子がしばらく会えない。
この機を逃さずしてどうするというのか。ふははははははは!!
烏月の表情がそう語っていた。
梢子もこの状況に危機感を抱いていた。
桂としばらく会えない。桂としばらく会えない。桂としばらく会えない。
これはまずい。非常にまずい。その間に烏月さんに何されるか分かったものじゃない。
何か、私と桂の心を繋ぐ為のいい方法は無いものか・・・
そこへ、梢子は先程の恋愛映画の1シーンを思い出した。
「・・・よし!!」
「梢子ちゃん?何がよしなの?」
「ねえ、桂・・・。」
「な、何・・・ひゃうっ!!」
ちゅううううううううううううううううううううううううう。
思いっきり桂の首筋にキスマークをつける。
「・・・こんな物かしら。」
「な、な、な、梢子ちゃん、何を・・・」
「しばらく桂と会えないから、桂の身体に私自身を刻んでおこうかな~って思って。」
「しょ、梢子ちゃんったら・・・。」
「じゃあ私はこれで。桂も今日は早く寝なさいよ?」
最後に烏月に不適な笑みを見せながら梢子は帰路についた。
キスマークを付けられた桂は、ぼんやりとしながら顔を赤くしている。おまけに嫌そうなそぶりは全
く見せていない。
むしろ嬉しそうな顔をしているようにも見える。
「もう、梢子ちゃんったら・・・烏月さんが見てる前で恥ずかしいよう・・・烏月さん?」
烏月は口を『あー』させながら呆然としていた・・・。
3.あっけない決着
それでも烏月に一筋の勝機が見えた。
桂が烏月に「どうしても相談に乗ってほしい事がある」と懇願して、烏月をマンションの中に招待
したのだ。
この機を逃さずしてどうするというのか。烏月はいかにして桂の気持ちを自分に向けさせるか、頭
の中で試行錯誤していた。
というか、もはや護衛の任務で桂のそばにいるという事が全然頭に入ってない。それでいいのか
鬼切り役。
「柚明お姉ちゃん、ただいま~。」
「桂ちゃん、ノゾミちゃん、お帰りなさい・・・あら、烏月さんも一緒なの?」
「うん、ちょっと相談に乗って欲しい事があってね。」
「相談?桂ちゃん、私じゃ駄目なの?」
「ううん、柚明お姉ちゃんにも相談したい事なの。」
「そう、じゃあお茶を用意するから席に着いて待っててね。晩御飯はいらないんだったわよね?」
「うん。梢子ちゃんと烏月さんと一緒に食べてきたから。」
桂に案内されて烏月は部屋へと案内されていく。
そう言えば烏月は、桂のマンションに入るのはこれが初めてだった。
烏月がそれを伝えると、桂は『梢子ちゃんは10回位誘ったよ~』と返答した。
おのれ小山内梢子。
「お茶が出来たわよ。はい、烏月さんもどうぞ。」
「柚明さん、わざわざすみません。頂きます・・・。」
「これ位気にしなくてもいいのよ?桂ちゃんの大切なお友達なんだし。」
「お友達・・・ですか・・・そうですね・・・。」
それを恋人へと昇華させてみせよう。
「それで桂さん、私と柚明さんに相談したい事って何だい?私でよければ力になるよ。」
「うん、烏月さん、柚明お姉ちゃん・・・あのね・・・凄く言うのが恥ずかしいんだけど・・・」
「何だい?私の前で遠慮はいらないよ。」
ここは好感度を大幅に上げるチャンス。この機を逃してたまるものか。
烏月はそう思っていた。
思っていたのだが・・・。
「あのね・・・私、梢子ちゃんの事が好きなの。」
クリティカルヒ~ット。
「ぬなあああああああああああああああああ!?」
逆にとどめを刺されてしまった。
「お、おかしいかな・・・女の子が女の子を好きになるなんて・・・」
「け・・・桂さん・・・」
「でも私、梢子ちゃんの事が好き・・・大好き・・・愛してる・・・この気持ちだけはもうごまかしきれな
いの・・・。」
「そんな・・・そんな・・・」
「でも私女の子だし、梢子ちゃんも女の子だし、梢子ちゃんにこの気持ちを告白したら、梢子ちゃ
んに気持ちの悪い女だとか言って嫌われちゃうんじゃないかって・・・」
「ううう・・・うううううううう・・・」
「それで私、烏月さんと柚明お姉ちゃんに相談を・・・烏月さん?」
「うわああああああああああああああああああああああああああ!!」
「ちょっと、烏月さん!?」
烏月は泣きながら桂のマンションから出て行った・・・。
4.幕切れ
「・・・で、ものの見事に桂に振られたって訳かい?」
サクヤはため息をつきながら、目をうるうるさせた烏月に缶ビールを差し出した。
「しょうがないねえ。明日は休みだし、今夜はとことんまで付き合ってやるよ。遠慮せずに飲みな。」
「いえ、結構です。私は未成年ですから。」
「やれやれ、相変わらず堅苦しい奴だねえ。誰も見てないしアタシもチクらないから安心おしよ。」
「あの、お茶をもらえますか?さっき桂さんのマンションで飲み損ねたので・・・。」
「はいはい、ペッドボトルのお茶でいいかい?」
「はい、サクヤさんすみません・・・」
烏月のコップにペッドボトルのお茶が注ぎ込まれていく。
目をうるうるさせながら、烏月はその様子をじーっと眺めていた。
負けた。完膚なまでに叩きのめされた。
というか、桂に直接とどめを刺された。
烏月さん、相談に乗って欲しいの。
私、梢子ちゃんの事が好きなの。
つーか、どうしろと。
「サクヤさん・・・サクヤさんは恋をした事はありますか?」
「まあ、ガキの頃に姫様を慕っていた事はあったけどねえ。あれが恋なのかどうかは私にも分から
ないよ。でも今となってはいい思い出だよ。」
「いい思い出・・・そうですか・・・うふふ・・・うふふふふ・・・あはははははは・・・あははははははは
はははは・・・OTN」
「烏月、無理するのはおよしよ。泣きたければアタシの胸を貸してやるからさ。」
「うわあああああああああああああああああああああああああああああ!!」
「思い切り泣いて、すっきりするがいいさ・・・。」
「うをおをおをおをおをおをおをおをおをおをおをおをおをおをおを!!」
「アンタはいい女なんだからさ。他にアンタを慕う女なんていくらでも出てくるさ・・・。」
烏月の失恋の悲しみを、サクヤはその馬鹿でかい胸で受け止めてあげたのだった。
終わり。
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