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Selections From Current World Scientific Literature 2013. September [総監修] 水澤 英洋 東京医科歯科大学大学院 医歯学総合研究科 脳神経病態学 教授 [監修 / 執筆]阿部 康二 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 脳神経内科学 教授 CONTENTS 1 SCA36(Asidan)の臨床的特色、運動ニューロン障害を伴う 新規の脊髄小脳失調症 2 脊髄小脳失調症関連遺伝子 制御する 3 マウス脳でのカルパスタチンを介したカルパイン阻害は、変異型アタキシン3の 加水分解、核局在化、および凝集を妨げ、Machado-Joseph 病を和らげる 4 SCAとMNDの合併する新規変異 Asidanの認知・感情障害 5 は線毛発生の開始を 「Costa da Morte」失調症は脊髄小脳失調症 36 型である: 臨床的特徴および遺伝的特徴 6 SCA36 型の臨床像、日本人失調症患者 2,121名の研究 7 Machado-Joseph 病における磁気共鳴画像上の顔面神経丘平坦化 8 乏突起膠細胞プロモーター下にヒトα‐シヌクレインを発現する遺伝子導入マウスモデルでは プロテアソーム阻害薬の全身投与が神経変性を惹起する:多系統萎縮症との関連 9 パーキンソン型多系統萎縮症患者における進行性のドーパミン輸送体減少: [123I]β-CIT SPECTによるボクセルベース解析 10 小脳型多系統萎縮症(MSA-C)の小脳萎縮を3 次元 gyrification index 解析を用いて定量化する 11 多系統萎縮症の自然経過、プロスペクティブな欧州コホート研究 エルゼビアジャパン株式会社 /ELMCOM Topics for this issue 1 SCA36(Asidan)の臨床的特色、運動ニューロン障害を伴う新規の 脊髄小脳失調症 Clinical features of SCA36, a novel spinocerebellar ataxia with motor neuron involvement (Asidan) Ikeda Y, Ohta Y, Kobayashi H, et al. Neurology 2012;79(4):333-341. Summary 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 脳神経内科学 教授 阿部 康二 脊髄小脳失調症36型(SCA36、別名Asidan)は、緩徐に進行する小脳失調症と上下運動ニューロン障害を特徴とす る常染色体優性遺伝性疾患で、nucleolar protein 56遺伝子のGGCCTGリピート伸長を病因とする。14名の患者を対 象とした今回の精査によれば、発症年齢は平均53.1±3.4歳で、体幹失調と失調性構音障害が全患者にみられた。他の 主要症状は、四肢失調、滑動性追跡眼球運動障害、四肢の反射亢進、舌の萎縮・攣縮、四肢や体幹の骨格筋萎縮などであっ た。脳のMRIやCTでは、小脳虫部および小脳半球の萎縮と、第四脳室の軽度拡大が示された。神経病理学的所見としては、 小脳および歯状核のプルキンエ細胞層におけるニューロン数の減少が目立った。 目的 遺伝子に GGCCTGリピート伸長が認められ、このうち 14 名 を精査した (表)。発症年齢は 47∼58 歳(平均 53.1±3.4 歳) 脊髄小脳失調症(SCA)は多様な臨床像を示す神経変 で、初発症状は体幹の失調が多かった。体幹の失調およ 性疾患である。SCA の表現型を詳細に記述することは、 び失調性構音障害が全患者に、四肢失調および滑動性追 SCA の自然経過を理解し、患者に適切な医療や遺伝カウン 跡眼球運動の障害が 13 名(93%)の患者にみられた。四 セリングを提供する上で必要となる。新規に確認された SCA 肢の反射亢進が 79%に認められたが、病的反射はみられな であるSCA36 は、nucleolar protein 56 遺伝子(NOP56) かった。嚥下障害は、罹患期間が 10 年を上回る患者の一 のイントロン1 に存在する6 塩基リピートGGCCTG の異常伸 部に生じていた。舌の萎縮または攣縮が 10 名(71%)に存 長を病因とすることが最近になって同定されている。本稿で 在し、特に罹患期間 10 年以上の患者では全員に舌萎縮 は、小脳失調と運動ニューロン障害を特徴とする常染色体 がみられた。萎縮は舌の側縁に目立ち、舌を突出させるとよ 優性遺伝性の神経変性疾患であるSCA36 の特色について り顕著になった。9 名(64%)が四肢や体幹の骨格筋萎縮を 報告する。 呈し、特に四肢 遠 位の萎 縮が著 明であった。Scale for 方法 Assessment and Rating of Ataxia(SARA)スコアは 9.0∼ 34.0 点で、体幹の安定性の障害がもっとも大きかった。脳 外来を受診した優性遺伝性失調症の患者を対象に、病 の MRI や CT では、小脳虫部および小脳半球の萎縮と、 歴の聴取、臨床評価、遺伝子解析、電気生理学的検査、 第四脳室の軽度拡大が示された。中小脳脚、脳幹、大脳 画像検査などを行って、SCA36 の臨床像、遺伝学的特徴、 皮質は比較的保たれていた。橋の軽度萎縮が認められた および神経病理を検討した。また、1 名の筋生検標本を精 患者は、罹患期間が 17 年および 29 年と罹患歴の長い 2 名 査した。剖検の実施された別の 1 名の脳を用いて、神経病 のみであった。染色体 20p13 の NOP56 遺伝子に認められ 理学的評価も行った。 るGGCCTGリピートの伸長の数は、罹患者では 1,700 から 結果 2,300 に及んだが、発症年齢や SARAスコアとGGCCTGリ ピート数とは相関していなかった。電気生理学的検査では、 筆者らは、本州西部を流れる芦田川の流域に優性遺伝 四肢と体幹の複数の場所で、線維性収縮電位や線維束性 と命名して症 性失調症の 10 家系を認め、これを「Asidan」 収縮電位、刺入時電位の上昇が認められた。また、生検 例を集積してきた。このうち 9 家系、18 名の患者で NOP56 筋のヘマトキシリン・エオジン染色では、筋線維の群萎縮、 2 Update on SCD Selections From Current World Scientific Literature 小角化線維、および pyknotic nuclear clump が明らかにさ 脳失調症に、進行性の上下運動ニューロン障害が合併して れた。これらは、慢性脱神経を伴う神経原性筋萎縮に一致 いる。特に、下位運動ニューロン障害による舌の攣縮や萎縮、 する所見であった。神経病理学的所見としては、小脳およ ならびに骨格筋の萎縮を伴う点を特徴とする。SCA36 の び歯状核のプルキンエ細胞層におけるニューロン数の減少 GGCCTGリピート変異について検討することが、非コーディ が目立った。また、舌下神経核や頸髄後角で運動ニューロ ング領域のマイクロサテライトリピート伸長が引き起こす他の ン数も減少していた。免疫染色では、NOP56 は各種神経 SCA や、筋萎縮性側索硬化症を含む各種運動ニューロン 細胞の核に局在していることが示された。NOP56 陽性の核 障害などの発病機序を解明する手掛かりになることが期待さ 内封入体や NOP56 の異常集積はみられなかった。 れる。 結 論 本稿は、SCA36 の独特な臨床像について述べた初の報 告である。SCA36 では、比較的純粋で緩徐に進行する小 表 SCA36 の 9 家系における患者の臨床的特徴 家系 A 家系 B 家系 C 家系 D 家系 E 家系 F 家系 G 家系 H 家系 I Ⅲ -14 Ⅳ -5 Ⅳ -7 Ⅱ -5 Ⅲ-1 Ⅲ-3 Ⅲ-4 Ⅲ-2 Ⅱ-4 Ⅲ-2 Ⅲ-6 Ⅱ-4 Ⅱ-6 Ⅱ-6 F F M M M M M F M F F M M F 発症年齢、歳 52 57 52 58 56 51 55 48 57 47 49 52 55 55 診察時年齢、歳 68 63 59 77 62 61 77 61 86 57 62 69 63 74 罹患期間、年 16 6 7 19 6 10 21 13 29 10 13 17 8 19 性別 体幹の失調 3+ 2+ + 3+ 2+ 3+ 3+ 2+ 3+ 3+ 3+ 3+ 2+ 3+ 失調性構音障害 2+ + + 2+ + 2+ 2+ + 3+ 2+ 2+ 3+ 2+ 3+ 四肢の失調 3+ + + 2+ ± + 2+ + 3+ + + 2+ 2+ 2+ 注視眼振 + + − + − − + − − − − − − − 舌萎縮 + + + + ± + + 2+ + + + 3+ 2+ 3+ 舌攣縮 ± + ± + ± + + 2+ − 2+ + 3+ + + 嚥下障害 2+ ± − − − + − 2+ 3+ − ± 2+ − + 筋萎縮 (四肢および体幹) + − − 2+ − + 2+ + 3+ + − 3+ − + 筋攣縮 (四肢および体幹) + − − + − + + ± + + − 3+ − + 筋力低下 + − − − − − − 2+ 2+ − − 3+ − + 筋緊張の亢進 − − − − − + − +/LE − − +/LE +/LE − − 筋緊張の低下 − − − + − − − +/UE − − − +/UE − + 下顎反射 − − − − − − − − − − ± − − + 上腕二頭筋反射 a 2+/2+ 2+/2+ 2+/2+ +/+ 2+/2+ 2+/2+ 2+/2+ 2+/2+ +/+ 2+/2+ 3+/3+ 3+/3+ +/+ 3+/3+ 上腕三頭筋反射 a 2+/2+ +/+ 2+/2+ 2+/2+ 2+/2+ 2+/2+ +/+ 2+/2+ 3+/3+ 3+/3+ +/+ 3+/3+ +/+ 2+/2+ 2+/2+ 2+/2+ 2+/2+ +/+ 2+/2+ 3+/3+ 3+/3+ +/+ 3+/3+ +/+ 3+/3+ 膝蓋腱反射 +/+ +/+ 3+/3+ 2+/2+ 2+/2+ a a ± /+ +/+ +/+ −/− +/+ +/+ +/+ 3+/3+ −/− +/+ 進展性足底反射 (バビンスキー)a −/− −/− −/− −/− −/− −/− −/− −/− −/− −/− −/− −/− −/− −/− − − − − − − − − − − − − − − SARA スコア 25.5 13.0 9.0 25.0 14.0 24.0 26.0 21.0 NE 14.0 22.0 34.0 20.5 NE 脳 MRI/CT での萎縮 Cbl Cbl Cbl Cbr,Cbl Cbl Cbl Cbl Cbl Cbr,Cbl Cbl Cbl Cbl Cbl Cbl アキレス腱反射 振動覚低下 3+/3+ 3+/3+ 略語:−=症状なし、±=軽微な症状あり、+ =軽度の症状あり、2+ =中等度の症状あり、3+ =重度の症状あり、Cbl =小脳、Cbr =大脳、LE= 下肢、NE= 未検、 SARA = Scale for Assessment and Rating of Ataxia、SCA =脊髄小脳失調症、UE =上肢。 a 反射スコアは右側 / 左側で記載。 Update on SCD 3 2 脊髄小脳失調症関連遺伝子 開始を制御する は線毛発生の The spinocerebellar ataxia-associated gene Tau tubulin kinase 2 controls the initiation of ciliogenesis Goetz SC, Liem KF Jr, Anderson KV Cell 2012;151(4):847-858. 一次線毛はヒトの発生や疾患において重要な役割を て、母中心子に被さった CP110をはずし、線毛の軸糸 担っているが、線毛発生の制御機構は不明である。 を構成するIFT 蛋白質の動員を促す。ヒトTTBK2 の優 本 稿では、Tau tubulin kinase 2(TTBK2)が in vivo 性 遺 伝 性 短 縮 型 変 異 は、脊 髄 小 脳 失 調 症 11 型 での線毛発生開始に特化した調節因子であることを示 (SCA11)の原因となる。これらの変異蛋白質は線毛 す。筆者らは、一次線毛を必要とするシグナル経路で 発生を促進せず、野生型細胞で線毛発生を阻害する。 あるSonic hedgehog 活性の喪失を踏まえて、マウス 細胞周期調節因子によって TTBK2 は基底小体に動員 Ttbk2 のヌル対立遺伝子を同定した。基底小体の鋳型 されて、特定の標的を修飾して線毛発生を開始させる が正常であるにもかかわらず、Ttbk2 変異体は線毛を と考えられる。 欠損していた。TTBK2 は基底小体の遠位端で作用し 3 マウス脳でのカルパスタチンを介したカルパイン阻害は、 変異型アタキシン3 の加水分解、核局在化、および凝集を妨げ、 Machado-Joseph 病を和らげる Calpastatin-mediated inhibition of calpains in the mouse brain prevents mutant ataxin 3 proteolysis, nuclear localization and aggregation, relieving Machado-Joseph disease Simões AT, Gonçalves N, Koeppen A, et al. Brain 2012;135(Pt 8):2428-2439. 4 Machado-Joseph 病は、もっとも高頻度にみられる優 体を縮小、減少させ、神経細胞の機能不全や神経変 性遺伝性小脳失調症である。MJD1 遺伝子に認めら 性を抑制した。アタキシン3 の断片化を抑えることによっ れる3 塩基 CAG の過剰反復が翻訳されて蛋白質アタキ て、カルパスタチンの過剰発現は変異型アタキシン3 の シン3 のポリグルタミン鎖となり、これが蛋白質分解の際に 細胞内での局在を変化させ、アタキシン3 は細胞質内 Machado-Joseph 病を誘発する。筆者らは、有毒なア にとどめられ、凝集や細胞毒性が抑えられて、変異型 タキシン3フラグメントの産生および Machado-Joseph 病 アタキシン3 の発現に伴って観察されるカルパスタチンの の発生におけるカルパインの役割について検討した。こ 枯渇が克服された。今回の所見は、カルパインによる れを行うために、内因性のカルパイン阻害物質であるカ 変異型アタキシン3 の加水分解が変異型アタキシン3 の ル パ スタチ ンを 過 剰 発 現 さ せ ることによって、 核への移行、凝集、および毒性を媒介し、カルパイン Machado-Joseph 病のマウスモデルでカルパイン活性を の阻害が Machado-Joseph 病の有効な治療法となりう 阻害した。カルパインの阻害は変異型アタキシン3 封入 ることを初めて in vivo で立証した。 Update on SCD Selections From Current World Scientific Literature 4 SCAとMND の合併する新規変異 Asidan の認知・感情障害 Cognitive and affective impairments of a novel SCA/MND crossroad mutation Asidan Abe K, Ikeda Y, Kurata T, et al. Eur J Neurol 2012;19(8):1070-1078. 5 背景:さまざまな遺伝性脊髄小脳失調症(SCA)で、 年齢は 65.1±6.2 歳であった。 多彩な失調症状と非失調症状とが発現する。認知およ 結果:12 名の Asidan 患者では、年齢と性別の一致す び感情の変化はこうした非失調症状の例であるが、エ る対照群と比較して、前頭葉機能検査(FAB)および クソンに CAG 遺伝子伸長が認められる遺伝性 SCA で モントリオール認知評価法(MoCA)で評価した前頭葉 しか報告されていない。 の遂行機能に有意な低下が認められた。しかし、ミニ 方法:筆者らは、NOP56 遺伝子のイントロンにおける6 メンタルステート検査(MMSE)や改訂長谷川式簡易知 塩基 GGCCTG 遺伝子伸長が、日本西部を流れる芦 能評価スケール(HDS-R)は正常範囲内であった。前 田川の流域を出身地とする日本人家族性 SCA の非血 頭 葉 遂 行 機 能 の 低 下 は、罹 患 期 間 や Scale for 縁 9 家系(SCA36)における病因変異であることを新た Assessment and Rating of Ataxia(SARA)と相 関し につきとめ、この変異を Asidanと名付けた。患者は、 ていた。患者は軽度の抑うつと無気力も呈した。単光 小脳失調症と運動ニューロン疾患とを臨床的に独特の 子放出断層撮影(SPECT)解析によれば、Asidan 患 バランスで呈し、これら2 疾患の交差地点に位置してい 者ではブロードマンの 24 野や 44∼46 野など大脳皮質 る。9 家系の患者 14 名を診察し、Asidanを遺伝学的 の特定領域での局所脳血流(rCBF)低下が示された。 に確認した。本研究では、調査への参加に同意した 結論:今回のデータから、Asidan 変異を有する患者は、 患者 12 名(男性 7 名、女性 5 名)について、認知およ エクソンでの CAG 伸長を呈する他の遺伝性 SCA や運 び 感 情の解 析を行った。12 名の平 均 発 症 年 齢は 動ニューロン疾患とは異なる独特の認知・感情特性を 53.1±3.2 歳、平均罹患期間は 12.1±5.2 年、平均現 呈することが示唆された。 「Costa da Morte」失調症は脊髄小脳失調症 36 型である: 臨床的特徴および遺伝的特徴 ‘Costa da Morte’ ataxia is spinocerebellar ataxia 36: clinical and genetic characterization García-Murias M, Quintáns B, Arias M, et al. Brain 2012;135(Pt 5):1423-1435. 脊髄小脳失調症 36 型(SCA36)は、運動ニューロ 病の危険を有する者は 400 名を上回る。本稿では、詳 ン徴候を伴う新型の SCAとして、近年日本人家系で報 細な臨床像について述べている。晩期に発生し緩徐に 告されている。これは、NOP56 のイントロン1 における 進行する小脳症候群で、多彩な眼球運動異常と感音 GGCCTGリピート伸長によって引き起こされる。家族の 性難聴とを伴う。軽度の錐体路徴候のほか、舌には脱 聞き取り調査および文献調査から、17 世紀の同じ村(ス 神経の徴候が認められるが、それ以外には典型的な ペイン、ガリシア地方の Costa da Morte)に起源をもち 筋萎縮性側索硬化症の徴候はみられなかった。磁気 複数の世代に渡る2 つの大きな一族が再構成された。 共鳴画像所見は臨床経過と一致しており、病初期には これらの家系では染色体 20p に存在する最大 0.8 Mb 小脳虫部の萎縮が認められ、後期になるとオリーブ橋 の連鎖領域が既に同定されていたが、SCA36 の変異 小脳萎縮のパターンへと進展した。ガリシア地方におけ が疾患と共に分離することも明らかになった。続くスクリー る創始者変異の起源は 1,275 年前にさかのぼると推定 ニングで、ガリシア地方のさらに 8 つの失調症家系で される。ガリシア地方の SCA 160 家系のうち 10 家系 NOP56 の伸長が確認された。正常の対立遺伝子には 5∼14 の 6 塩基リピートが含まれるのに対して、伸長対 立遺伝子では共有ハプロタイプ内のリピート数は 650 か ら2,500 に及ぶ。特に父性遺伝の場合にはリピート長が (6.3%)では SCA36 への罹患が明らかになったが、15 より長くなることが多かったが、母性遺伝では対立遺伝 つてスペイン人が移住したアメリカ大陸諸国においても 子の短縮例が観察された。計 63 名が変異を保有して 重要な意味をもつ可能性がある。 家系(9.4%)はルーチンで検査が行われる別の型の優 性遺伝性 SCAを示した。したがって、SCA36 はこの 地方でもっとも頻度の高い優性遺伝性 SCA であり、か おり、このうち 44 名は臨床的に罹患が確認された。発 Update on SCD 5 6 SCA36 型の臨床像、日本人失調症患者 2,121 名の研究 The clinical characteristics of spinocerebellar ataxia 36: a study of 2121 Japanese ataxia patients Sugihara K, Maruyama H, Morino H, et al. Mov Disord 2012;27(9):1158-1163. 脊髄小脳失調症 36 型(SCA36)は、NOP56 のイン 51.7 歳で、疾患の進行は緩徐であった。本疾患の主 トロンの 6 塩基リピートGGCCTG の伸長を原因とする。 な症状と徴候は、失調、構音障害、反射亢進などであっ この疾患について述べた原著論文では、SCA36 の患 た。罹患者の約半数が、眼振、眼球突出、病的反 者が舌の萎縮を呈することが明らかにされており、これ 射を呈したが、嚥下障害、舌萎縮、難聴は稀であった。 は過去の SCA にはみられなかった所見である。臨床的 さらに、観察された小脳と脳幹の萎縮は重度ではなかっ に SCAと診断された計 2,121 名の患者が本研究に参 た。本研究で同定された患者は、西日本に集中してい 加した。repeat-primed polymerase chain reaction 法 た。常染色体優性遺伝性の一群では、SCA36 の発 を用いて患者検体で SCA36 のスクリーニングを行い、 生頻度は約 1.2%で、発症年齢は SCA の他の型に比 併せて SCA36 の臨床像も特定した。検査が行われた べて高かった。 失調症患者のうち 12 名が SCA36と同定された。この うち 7 名(6 家系)は常染色体優性遺伝例で、4 名(3 家系)は家族歴が認められたが常染色体優性遺伝例 ではなく、1 名は孤発例であった。平均発症年齢は 7 Machado-Joseph 病における磁気共鳴画像上の顔面神経丘平坦化 Flattened facial colliculus on magnetic resonance imaging in Machado-Joseph disease Ogawa Y, Ito S, Makino T, et al. Mov Disord 2012;27(8):1041-1046. 6 橋被蓋および顔面神経丘の萎縮は Machado-Joseph (0.37±0.16 mm)で有 意に狭 かった(p<0.01)。し 病に独特な病理学的特徴である。この所見が従来型 かし、橋 被 蓋 の 幅 は、Machado-Joseph 病 患 者 の脳磁気共鳴画像でも検出できるかを評価した。遺 (4.85±0.58 mm) と歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症 伝学的に Machado-Joseph 病と確定している計 17 名 患 者(4.72±0.59)の 両 者 で 健 常 被 験 者 の 患 者、15 名 の 対 照 患 者(脊 髄 小 脳 失 調 症 6 型 (6.35±0.74 mm)よりも狭かった(p<0.01)。顔面神 [SCA6]、歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症)、およ 経丘の目視検査については、受信者動作特性曲線 び 17 名の健常被験者に、1.5 テスラ磁気共鳴画像ス 下面積は Machado-Joseph 病を歯状核赤核淡蒼球 キャナで検査を行った。顔面神経丘の幅、橋被蓋の ルイ体萎縮症(0.78)や SCA6(0.87) と鑑別するのに 幅、橋底の幅、ならびに第四脳室の面積を、T2 強 十 分 で あ ること が 示 さ れ た。病 理 検 査 で は、 調横断像上で測定した。病理検査が 9 名の Machado- Machado-Joseph 病患者の全員で顔面神経丘の有 Joseph 病患者で実施された。さらに、顔面神経丘の目 意な萎縮が明らかにされた。顔面神経丘の萎縮は、 視検査について受信者動作特性解析で評価した。顔 Machado-Joseph 病の診断に適した磁気共鳴画像所 面神経丘の幅は、健常被験者(平均±標準偏差で 見であり、第四脳室底の平坦化として簡単に見つけ 0.73±0.30 mm) と比較して Machado-Joseph 病患者 られる。 Update on SCD Selections From Current World Scientific Literature 8 乏突起膠細胞プロモーター下にヒトα‐シヌクレインを発現する 遺伝子導入マウスモデルではプロテアソーム阻害薬の全身投与が 神経変性を惹起する:多系統萎縮症との関連 Systemic proteasome inhibition triggers neurodegeneration in a transgenic mouse model expressing human α-synuclein under oligodendrocyte promoter: implications for multiple system atrophy Stefanova N, Kaufmann WA, Humpel C, et al. Acta Neuropathol 2012;124(1):51-65. 9 多系統萎縮症(MSA)は、晩発性、進行性の神経 現型は、PSI 処置を行った遺伝子導入αSYN マウスの 変性α‐シヌクレイノパチーで、病因は明らかにされてい 線条体黒質系およびオリーブ橋小脳系で生じる進行性 ない。最近の遺伝学的研究や病理学的研究からは、 の選択的神経細胞喪失に一致していた。これに対して、 MSA の発病にα‐シヌクレイン(αSYN)が重要な役割 を果たしていることが裏付けられている。乏突起膠細胞 PSI 処置を行った野生型対照群では神経変性は検出さ れなかった。遺伝子導入αSYN マウスの PSI 処置に の細胞質内にみられるαSYN 原線維封入体およびユビ 伴って、超微細構造に著明な変化が認められた。この キチン‐プロテアソーム系の機能障害が、MSA の蛋白 変化には乏突起膠細胞の細胞質内におけるヒトαSYN 質分解ストレスであることが示唆されている。乏突起膠 原線維の蓄積も含まれ、その結果、g-ratio の上昇を 細胞のαSYN 蓄積および蛋白質分解不全が MSA の 特徴とするミエリンの破壊および脱髄が生じた。乏突起 発病に果たしているであろう役割を解明するために、乏 膠細胞およびミエリンの異常に付随して、病的な神経 突起膠細胞にヒトαSYNを発現する遺伝子導入マウス 突起ではミ トコンドリアストレスの徴候および軸索輸送障 でプロテアソーム阻害薬の全身投与(PSI)を行って、 害によって明示される軸索変性が認められた。まとめる このモデルでの MSA 様神経変性の有無を野生型マウ と、新たな証拠から、MSA の発病において蛋白質分 スと比較して検討した。PSI は、遺伝子導入αSYN マ 解不全が主要な役割を担っていることが裏付けられ、 ウスでオープンフィールドにおける運動障害を惹起した 乏突起膠細胞およびミエリンによる栄養供給の途絶に関 が、野生型マウスではこれはみられなかった。運動表 連する神経変性が病理機序であることが示唆された。 パーキンソン型多系統萎縮症患者における進行性のドーパミン輸送体減少: [123I]β-CIT SPECTによるボクセルベース解析 Progression of dopamine transporter decline in patients with the Parkinson variant of multiple system atrophy: a voxel-based analysis of [123I]β-CIT SPECT Nocker M, Seppi K, Donnemiller E, et al. Eur J Nucl Med Mol Imaging 2012;39(6):1012-1020. 目的:パーキンソン型多系統萎縮症(MSA-P)患者の 線条体、および中脳や橋を含む線条体外領域において SPM で特定された(p<0.001)。さらに、MSA-P 患者 の尾状核および被殻前部でもPD 患者と比べて DAT シ 進行するドーパミン輸送体(DAT)の減少について、そ グナルが低下していることが追跡時検査で特定された の特徴を明らかにし、パーキンソン病(PD)患者コホー (p<0.001)。縦断的分析では、PD 患者と比較して トで縦断的に収集した SPECT 結果と比較した。 方法:MSA-P 患者 8 名(年齢 60.4±7.7 歳、罹病期間 MSA-P 患者で尾状核や被殻前部でのトレーサー結合 が相対的に低下している(p<0.05)ことが明らかであっ 2.4±1 年、UPDRS-Ⅲ運動スコア39.7±4.7 点)、ならび たのに対して、脳幹では有意な相対的シグナル変化は に PD 患 者 11 名(年 齢 61.2±6.4 歳、罹 病 期 間 観察されなかった。 2.4±1.1 年、UPDRS-Ⅲ運 動スコア 18.9±7.6 点)に対 して、1.3 年以内の実施間隔で、ベースライン時および 追跡時に [123I]β-CIT SPECT 検査を実施した。統計的 パラメトリックマッピング(SPM) と繰り返しのあるANOVA 結論:PDとは対照的に尾状核および被殻前部の比較 ライン時に MSA-P 患者の脳幹におけるトレーサーの取り デザインを用いて、演繹的な部位の仮定を行わずに 込みは健常対照者のそれと比較して既にごく低いレベ DAT 利用能低下部位の局在を客観的に特定した。 結果:MSA-P 患者では PD 患者よりもベースライン時の 脳幹腹側での [123I]β-CIT 取り込みが有意に低いことが ルとなっており、それ以上進行することはなかった。この 的強いシグナル低下がみられることは、MSA-P では疾 患の進行が急速であるという報告と矛盾しない。ベース ことは、モノアミン作動性ニューロンの変性は病初期に ほぼ完了していることを示唆している。 Update on SCD 7 Selections From Current World Scientific Literature 10 小脳型多系統萎縮症(MSA-C)の小脳萎縮を 3 次元gyrification index 解析を用いて定量化する Quantifying cerebellar atrophy in multiple system atrophy of the cerebellar type (MSA-C) using three-dimensional gyrification index analysis Wu YT, Shyu KK, Jao CW, et al. Neuroimage 2012;61(1):1-9. 11 小脳型多系統萎縮症(MSA-C)は中枢神経系の変 出した。3D-GI 値は安定した範囲におさまって分散は小 性 神 経 疾 患 である。本 研 究 では、 「surface-based さく、性差による影響や年齢に関連した萎縮は認められ (3D-GI) と命 three-dimensional gyrification index」 なかった。健常被験者と比較して、MSA-C 患者では 名された方法を用いて、正常小脳(脳幹を含む)および 小脳灰白質と小脳白質のいずれでも3D-GI 値が有意に MSA-C 患者の萎縮小脳における形態学的変化を定量 した。また、3D-GI によって、性差や年齢差を取り除い 低く、これは病初期においても同様であった。3D-GI 値 の低下は小脳の折りたたみ構造の変性を表しており、小 て小脳と脳幹の萎縮をより正確に定量できるかを検討し 脳の形態学的変化を正確に反映していた。3D-CBGM た。健常被験者 16 名および MSA-C 患者 16 名が研究 に基づく3D-GI 法は、小脳灰白質体積測定法と比較し に参 加した。T1 強 調 MR 画 像に基 づいて、小 脳の て鑑別の正確度が高いという結果が得られた。2 次元 3D-GI 値と体積とを比較した。また、小脳灰白質と小脳 白質の再構成 3D 画像(3D-CBGM、3D-CBWM) を 比較して、MSA-C 患者で萎縮している小脳領域を検 3D-GI 値を用 いることで、K 平 均 分 類 子 によって MSA-C 患者と健常被験者とを明らかに鑑別できた。 多系統萎縮症の自然経過、プロスペクティブな欧州コホート研究 The natural history of multiple system atrophy: a prospective European cohort study Wenning GK, Geser F, Krismer F, et al. Lancet Neurol 2013;12(3):264-274. 背景:多系統萎縮症(MSA)は、いまだに十分理解さ 析で求めたところ、9.8 年(95%CI 8.1∼11.4 年)であっ れていない致死的な変性運動障害疾患で、特徴として た。パ ーキンソン型 MSA(ハ ザ ード 比[HR]2.08、 自律神経不全、小脳失調、パーキンソニズムをさまざま 床的に 2 年間追跡した。生存の確認を試験終了の 2 年 95% CI 1.09∼3.97、p=0.026)および残尿(HR 2.10、 1.02∼4.30、p=0.044) は、生存期間の短縮を予測した。 UMSARS の日常生活動作スコア、運動機能スコア、 および総スコアの 24カ月後の平均変化率は、ベースライ ン値との比 較で、それぞれ 49%(平 均 変 化 量 9.4 点 [SD 5.9 点] ) 、74%(12.9 点[8.5 点] ) 、57%(21.9 点 [11.9 点] )であった。自律神経症状スコアは追跡期間 後に行った。疾患の進行は unified MSA rating scale を通じて悪化し続けた。ベースライン時の症状持続期間 な組み合わせで呈する。本稿では、MSA の自然経過 を調 査するために実 施された European MSA Study Group によるプロスペクティブ多施設共同試験の最終解 析結果を報告する。 方法:MSAと臨床診断を受けた患者を募集して、臨 8 (UMSARS) を用いて評価した。UMSARS は MSA に が短いこと (オッズ比[OR]0.68、0.5∼0.9、p=0.006) 、 特異的な質問紙法で、MSA 患者の自律神経障害お およびレボドパに対する反応が認められないこと (OR よび運動障害を半定量的に評価できる。さらなる評価 3.4、1.1∼10.2、p=0.03)は、UMSARS の急速な悪 法を適用して、全般的な疾患重症度、自律神経症状、 化を予測する因子であった。サンプルサイズの見積もり および 生 活 の 質 に 評 点 を 付 け た。生 存 率 は からは、258 名の患者を対象とした介入試験(各群 Kaplan-Meier 分析を用いて算出し、予後予測因子 は Cox 回帰モデルで同定した。群間差はパラメトリック 129 名)によって、効果量 30%の UMSARS 運動機能 スコア年間低下率を80%の検出力で検出できることが 検定またはノンパラメ トリック検定を適宜用いて解析した。 明らかにされた。 サンプルサイズの見積もりは対応のある2 群の t 検定を 解釈:これまでの研究を上回る長期間の追跡が行われ 用いて算出した。 たことから、今回のプロスペクティブなデータセッ トによって、 結果:中等症の患者 141 名が MSA の合意基準を満た MSA の進展に関する新たな知見が得られた。また、こ した。発症時の平均年齢は 56.2 歳(SD 8.4 歳)であっ のデータセッ トは、患者カウンセリングや多施設共同試験 た。発症からの生存期間の中央値をKaplan-Meier 分 の計画立案に有用な情報源としての役割も担っている。 Update on SCD CD--347A2013 年 9月作成