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Twinkle:Tokyo Women`s Medical University

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Twinkle:Tokyo Women`s Medical University
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血液-脳関門
清水, 美津子; 田中, 幸子; 町田, 十糸子; 泉二, 登志
子; 吉浜, 伸
東京女子医科大学雑誌, 40(6):382-385, 1970
http://hdl.handle.net/10470/15471
Twinkle:Tokyo Women's Medical University - Information & Knowledge Database.
http://ir.twmu.ac.jp/dspace/
38
(東女医大誌第40巻 第6号頁382∼385昭和45年6月)
〔調査報告〕
血 液一脳 関
門
東京女子医科大学第皿生理学教室(指導 菊地鐙瓦教授)
東京女医科大学学生
清水美津子・田中 幸子・町田十糸子
シミズミ ツ コ
タナヵ サチコ
マチダ ト シ コ
泉二登志子・吉浜 伸
モトジ ト シ コ
ヨシハマ
シン
(受付 昭和45年3月25日)
1・血液一得関門の概念
老もあるのが現在の状況である.
脳への血液中に存する物質の移行には,他の臓
現在発表されている主な説としては,
器に見られないような特殊性がみられる.すなわ
1) 内皮細胞には構造上の特異性がないようである
ちある物質は脳への移行が他の臓器への移行に比
が,その間隙をうめる接着物質が水やイオンおよび脂肪
べて遅いという現象である.この現象の説明とし
不溶物質の透過性を制御するという仮説がある.
て,血液一脳関門(以下BBBと略す)なる概念
が生じた.一般にBBBは脳髄を保護し,血液成
ログリアがまつわりついて,神経細胞の栄養がこの二足
2)毛細血管基底膜に直接ダリア細胞,とくにアスト
分の変動の際にも脳髄に高度のhomeostasisを保
つように働くと理解される.BBBを知るにあた
によって取り込まれるのではないか,さらに,このダリ
ア細胞の介在によってBBBの選択性が説明できるので
はないか,とする主張がある.
って,まず,どのような形態が考えられ,どのよ
3)ダリア細胞の配列により形成される膜様構造も古
うな現象が観察されてきたかを調べた.
くから考えられており,これをBBBの形態学的根拠と
A・形態学的観察8)9)
する説がある.
ある indicatorが血液より脳組織へと移行する際に
4) ダリア細胞がBBBそのものであるとする説もあ
は,毛細血管壁,毛細.血管周辺組織,細胞間隙などの部
る.
位を通過しなくてはならない.これらのいずれかの部位
このようにさまざまの意見がだされてはいるが,どれ
にBBBが存在すると仮定しうる.毛細血管壁について
も裏付けが十分でなく,一般に認められている説は見当
は,BBBの存在は不可能であるという説が優勢であ
たらない.形態学的の根拠だけから,何がBBBである
り,毛細血管周辺組織の構造についてもさまざまな見解
かを議論すること自身無意味に近いことに思われる.
があり未だ不明な点が多い.毛細血管隙のBBBの存在
B・生理学的観察8>
については,生理学者と電子顕微鏡学者では意見を異に
1)イオン:陰イオンCl, Br,1, P, Sは,血液から
してきた。従来,脳では他の組織と異なり,間隙が少な
脳組織への移行はさらに緩慢である.これに反して他の
いと考えられていたが,最近組織固定法に改良を加えた
臓器では両方共急速に移行する,
結果,ある研究者の電子顕微鏡像においても細胞間隙を
2)色素1メチレンブルー,メチールレッドなど陽性
認めたという報告が提出された.この段階では,細胞間
荷電の塩基性色素は移行するが,トリパソブルー,アニ
隙に基質が充填していて,この基質がBBBという特異
リン色素など陰性荷電の酸性色素は移行しない.この荷
性を生ずると主張する学老と,それを誤りだと批判する
電状態による透過性のちがいは脳だけでなく,全ての臓
Mitsuko SHIMIZU, Sachiko TANAKA, Toshiko MACHIDA, Toshiko MOTOJ!, S−m YOSHIHAMA,
(Students of Tokyo Women’s Medical College) : The blood−brain barrier.
L一 382 一
39
器に認められる。したがって色素に対してBBBはない
の機構が関与してくるものと思われる.
また,哺乳類以下の脊椎動物におけるBBBを
ように思われる.
3) リンおよびリン脂質:移行は非常に少ない.
みると,例えばカメにおいて,シヨ糖の脳への移
4) コレステロール:移行しない.但し,precursor
行はラットに対して3倍以上である.同様の実験
で少量移行する.
で,スルファニール酸の脳への取りこみをラッ
5) アミノ酸およびタンパク質:グルタミン酸は移行
ト,ツノザメ,カエルでみると,ラットに比べて
しない.但し,イソろリン性昏睡で脳のグルタミン酸が
半分以下に減少すると移行する.また,正常でも放射性
グルタミン酸は移行する.同様なことが,リジン,Pイ
シンでもみられる.
ツノザメやカエルの方がはるかに多い.またPA
H(パラアミノ馬尿酸)の脳へのとりこみについ
て,ウサギとツノザメでは,ウサギに比べてツノ
ザメのそれは多く,哺乳類に比して哺乳類以下の
6) タンパク:移行しない.
7)炭水化物:グルコースは血液から脳髄へ何ら制約
脊椎動物ではいずれも高い脳への移行が認められ
されることなく移行するが,イヌリン,ショ糖は全然移
るのである1).哺乳類以下の脊椎動物におけるB
行せず,フルクトース,グリセロール,プロピレングリ
BBは,未成熟な哺乳類と同じく発達していない
コールはわずかに移行する.したがってこれらに対して
と考えられる.
BBBの存在が想定される.
B・成人における炭水化物とBBB
この中でわれわれは,糖に関するBBBを研究対象と
脳髄ではグルコースを主なエネルギー源として
し,これに関する諸論文(1966∼68)を調べた.特にグ
いるので,その機能維持のためには,グルコース
ルコースが容易に血中から脳に移行するのに対し,他の
がたえず供給される必要がある.それは,脳脊髄
糖は容易には移行しないという点に注目して,関連した
液を介してではなく,血液から直接に行なわれ
業績をまとめることを試みた.
IL 本
る1).
題
脳組織中のグルコース濃度は,脳脊髄液と等し
A.脊椎動物におけるBBBの相違
BBBの機能は発育,年令にともなって変化す
ルコース濃度は,インスリン欠乏の高血糖ラット
る.胎児や幼若な動物においてはBBBの機構が
においては増加し,インスリン過剰の低血糖ラッ
く,70mg/dlで血糖値(100mg/dl)より低い.このグ
存在しないか,または,成熟動物にみられるよう
トにおいては減少する.このように血液のグルコ
な完全なものではなく,成長とともに完成される
ース濃度が脳組織のグルコース濃度に直接影響す
と考えられる.このことに関する研究は数多くあ
る.また,脳中のグルコース量はある範囲では,
るが,例えば新生児に見られる核黄疸は,脳へ胆
血中濃度のわずかな変化にともないこれに比例し
汁色素が容易に移行することを示している.ま
て変化するが,血中濃度が異常に高くなるとほと
た,仔猫(生後3∼7日)の硫酸塩イオンの脳への
んど変化しない.このようにある範囲内では,B
とりこみは成熟した猫のそれに比べるとはるかに
BBのような機能はグルコースに対し存在せず,
多いということも,未成熟な動物においてBBB
異常に高い濃度においては,何か制御機構が働い
が充分に発達していないことを示唆するだろう.
ていると思われる.その機構の一つとしてcarrier
ところが,未成熟動物においては,活発な代謝活
の存在を考える.グルコースがcarrierによって
性を有するために,脳髄への代謝物質のとりこみ
脳内に輸送され,これらが飽和さると,それ以上
が多くなるとも考えられるので,このような発育
には脳内濃度は上昇しないと仮定すると,上記の
にともなうBBBの変化を,単なる透過性の変化
ことは理解できる2).
としてのみ取り扱うことはできない.結局,成熟
動物の他の組織では死後15∼20分を経過しても
動物と未成熟動物のBBBの違いについては,発
アラビノースをとりいれ,そのとりこみは温度に
育にともなう形態的な変化や化学的および代謝的
左右されるが,脳ではとりこまない.また,酸
素欠乏や機械的な脳の障害の時,生理的透過性が
な多くの因子,さらに成熟動物における能動輸送
一 383 一
40
高まることが知られている.これらのことから
えられる6).
passive diffusionではないとも考えられる.そこ
生体内で脳以外の臓器では,グルコースはグ
で血液・脳の境界部に,何か積極的にグルコー
ルコースー6一リン酸の形で血液から組織へ移行し
スを運ぶ機構として,エネルギー一を必要としない
ていくのだろうか.グルコースー6一リン酸を投与
機構と,エネルギーを必要とするcarrier medi−
した際,脳で代謝されてできたCO2の量は,
ated proess(facilitated difl’usion) active transport
血中でグルコースー6一リン酸がグルコースに変
とが考えられる.前者だとすれば,carrierと糖
換され脳に摂取され産生されたCO2量より多い
が,脳を通過する際にグルコースー6一リン酸か
との結合の際の酵素の媒介が必要となるだろう3).
Croneはcarriermediated processを考えてい
らグルコースに変換しているとすると,このCO2
る10).
量はグルコースの摂取量と一致する.このことか
では,BBBの部位的な差はどうだろうか.視床
下部の傷害により肥絆症をきたすということはよ
ら,グルコースー6一リン酸は部分的にグルコース
に変換して脳を通過していることが判る7).
く知られている.ゴールドチオグルコースをマウ
他の糖をみると,アラビノースの脳へのとり込
スに注射すると,視床下部の腹側内側核に病変を
みは立体異性体により異なり,明らかに2:1の
おこし,著しく肥腔する.Perry and Liebeltii)は,
割合でアラビノース(一)の形でとりこみが多い.
これをBBBがこの部位で弱いために生ずる現象
この値は濃度に比例して増加し,温度にも(Qlo
だと考えた.もしこの考えが正しいとすれば,人為
=3.0)高度に影響される.しかし生体内では,
的に視床下部以外のBBBを弱めたとき,ゴール
投与されたアラビノースの脳へのとりこみは,高
濃度のグルコースにより阻害される3).
ドチオグルコースにより病変がおこりうるはずで
あるが,実験の結果それは認められなかった,ゆ
m・考
察
えにBBBの透過性が単に増加しただけでは病変
BBBに対するグルコースと他の糖との差につ
は誘導されない.この現象は以前から言われてい
いて調べたが,これに関する報告は非常に少な
たように,この部位にグルコースの受容器がある
く,グルコースそのものとBBBとの関連につい
ために生ずるとする考えの方が妥当であろう4).
て論文を中心に検討を試みた.
コリンエステラーゼ阻害剤を用いてBBBを通
われわれはBBBというものを構造的に他の臓
しての漏れ(leakage)を証明しようとする実験が
器とは異なっているという先入感をもつていた
ある.leakageが存在するならば,その部位でのコ
が,その存在は,実際には形態的に十分証明され
リンエステラーゼ阻害剤のとりこみは多くなり,
阻害の差がでてくる筈である,ところが,非可逆
ておらず,脳のhomeostasisを保つための生理的
的に血中のコリンエステラーゼを85パーセント阻
機能的な機構という観点にたった意見が強いこと
害した場合に,脳での各部位(大脳,小脳,脊髄,
を知った.脳腫瘍や代謝障害,さまざまな脳の外
延髄,橋,間脳)の阻害には差がなかった.つま
傷でしばしば正常時には移行しない物質が脳にと
りこまれているのがみられる.これは上でのべた
りこの実験からはleakageの存在は証明されなか
ようにhomeostasisとBBBとが密接に関係して
った5).
飢餓と副腎皮質ホルモンの欠乏というストレス
いることを示している.
BBBが未成熟動物に存在せず,年令とともに
とBBBとの関係を,脳中のコカイン量を指標と
してみると,ストレスによりコカイン量は増加
する.これは,脳組織の酵素が働くにはNaイオ
発達していくということは,脳の発達過程から考
えられるのではないか,すなわち脳は生後年令的
変化がさかんにおこる臓器である.それに伴ない
ン,Kイオンの存在が必要であり,上記のような
ストレスによってこれらイオンが減少し,酵素を
BBBも年令とともに成長するであろうことは形
不活化し,BBBの崩壊をおこしているためと考
態的にも機能的にも考えうるであろう.
一 384 一
41
血液から組織ヘグルコースが移行する際,脳で
学教室菊池錬二教授,ならびに御校閲,有益な御助言を
はそのままの形で移行するが,他の臓器ではグル
いただいた小児科学教室福山幸夫教授,慶大医学部生理
コースー6一リン酸の形で移行する.この相違が何
学教室永田豊助教授に心から感謝致します.
を意味するか不明であるが,ここにも脳の特異性
文 献
が存在するのではないか.
1) Cserr, H.F.: Blood−Brain Barrier in verteb−
rates. Fed Proc 26 1020−3 (1967)
グルコースと他の糖との差を考えると,六炭糖.
2) Flock, E.V.: Regulatory effects of insulin
の間では脳のヘキソキナーゼはただ1つの活性中
and liver on brain glucose metabolism. Endo−
心を有し,1つのヘキソースが他のヘキソースの
crinology 84 392一一406 (1969)
3) Eidelberg, E., J. Fishman, M.L. Hams:
リン酸化を競合的に阻害する.グルコースはこの
Penetration of sugars across the B.B.B..1 Physiol
酵素に対し相対的親和性が強いのでグルコースの
191 47一一57 (1967)
とりこみが大きい.ペントースとヘキソースでは
4) Arees, E.A.: Goldthioglucose and the B.B.B.
Experientia 24 1253−4 (1968)
輸送過程の一部を共有しており,グルコースがペ
5) Aarseth, P.,J.A. Barstad: B.B.B. permea−
ントースを競合阻害する.したがってグルコース
bility in several parts of the CNS. Arch lnt
Pharmacodyn 176 434一一42 (1968)
のとりこみが他の糖に比べ大きいことが考えられ
6) Ange!, C.: Starvation, stress and B.B.B. Dis
る.
Nerv Syst 30 94−7 (1969)
IV・要
約
7) Sacks, W., S. Sacks: Conversion of glucose
phosphate−i‘C to glucose−i‘C in passage through
BBBについて組織学的,生理学的に研究され
human brain in vivo. J Appl Physiol 24 817−v
た論文を,特にグルコースに注目していくつか集
27 (1968)
め,それらの検討を試みた.これらの論文からわ
8)相沢豊三・後藤文男・富田 稔:血液一脳関門
183∼218頁〔中垣正幸編:薬物1の生体内移行
南山堂(1968)より引用〕
9)高垣玄吉郎=血液一脳関門と脳の代謝53∼67頁
〔塚田裕三ら:脳の生化学 医学書院(ig64)
れわれは,BBBの現象は形態学的に説明される
ものではなく,むしろ生理学的見地から理解され
るものと考える.哺乳類以下の動物では,BBB
より引用〕
はあまり著明ではなく,哺乳類でみられるBBB
10) Crone, C.: The permeability of brain capil一
も年令に伴ない発育する、
]aries to nonelectrolytes. Acta Physiol Scand
他の糖は脳に入らないのに比べ,グルコースは
64 407一一17 (1965)
〔中垣正幸編薬物の生体内移行南山堂(1968)
ある程度入り,脳におけるグルコース濃度は血液
より引用〕
の濃度に比例して増加する.
11) Perry, J.H., R.A. Liebert: Extra−hypotha−
Iamic lesions associated with goldthioglucose
現在,グルコースが脳に入る機構として,car−
induced obesity. Proc Soc Exp Biol )v{ed 106
rier.mediated processかactive transportが考ら
55一一一・57 (1961)
えれている.
[Arees, E.A.: Experientia 24 1253一一4 (1968)
より引用〕
最後に,この論文の作成にあたり御指導下さった生理
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