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株式市場見通し(2016 年 6 月 3 日)
2016 年 6 月 3 日 作成 第 67 号 株式市場見通し(2016 年 6 月 3 日) 大和住銀投信投資顧問 部長 経済調査部 門司 総一郎 6 月に入って日本株は 2 日続落。2 日間の下落率は、日経平均が▲3.9%、TOPIX が▲3.5%と 5 月の上 昇を打ち消すものとなりました。今回は「通貨と株式市場-『通貨安=株高』は本当か?」をお休み して、足元の日本株について検討します。 安倍晋三首相による消費増税延期の正式表明を 6 月 1 日に控えて、株高を見込む向きが多かったと 思いますが、結果は逆になりました。特段の悪材料がないにもかかわらずです。 株安の理由としてまず挙がるのは円高ですが、円高になる理由も特に見当たりません。逆に為替の 関係者の中には、株安が原因で円高になったとの指摘もあります。なお当コラムでは円高と株安の関 係については、どちらが原因でどちらが結果という訳ではなく、リスク・オン/オフ次第で円高/株安 になったり円安/株高になったりすると見ています。(詳しくは当コラムの「通貨と株式市場-『通貨 安=株高』は本当か?」をご覧ください)。 それ以外では英国の国民投票や米国の利上げなどの海外要因。また安倍首相が記者会見で景気対策 の内容を明らかにしなかったこと、などが挙げられていますが、どれもピンときません。私自身は実 は今回の株安の理由は、消費増税延期の決断そのものと、それを巡る安倍首相の迷走にあると考えて います。 6 月 2 日付けウォールストリート・ジャーナル(アジア版、以下 WSJ)は、1 日の安倍首相の記者会見 に関して“Abenomics Is on the Rope”(アベノミクスは行き詰った)と題する記事を 1 面に掲載しま した。内容は「安倍首相は日本経済が消費税率引き上げを許すような状況でないこと、デフレに逆戻 りするリスクがあることを認めた」、「安倍首相の言葉は、アベノミクスのエンジンが止まりかけて いることを認めたようなものだった」などで、今回の決定をアベノミクスの行き詰まりを示すものと 批判的に受け止めています。 同日のフィナンシャル・タイムズ(FT)の記事は、WSJ に比べれば穏やかなものですが、それでもこの 決定を「就任 3 年が経過したにもかかわらず、日本経済が本格的な財政再建に着手できないことを示 した」と、WSJ 同様に否定的に受け取っています。 日本の投資家の間では増税先送りは景気にプラス、日本株にも好材料との受け止め方が一般的です。 しかし WSJ や FT のように日本経済の回復の遅れやアベノミクスの停滞を示すものと受けとめれば、こ れは日本株売り要因となります。ここ 2 日間の株安は今回の決定について WSJ や FT のような受け止め 方をした投資家によって引き起こされたものと考えています。 本資料は投資判断の参考となる情報提供を目的としたもので、当社が信頼できると判断した情報源からの情報に基づき作成したもので す。情報の正確性、完全性を保証するものではありません。本資料に記載された意見、予測等は、資料作成時点における当社の判断に 基づくもので、今後予告なしに変更されることがあります。投資に関する最終決定は、投資家ご自身の判断で行うようお願い申し上げ ます。 1 市場のここに注目! 2016 年 6 月 3 日 今回の決定を巡って安倍首相に 2 つの誤算があったと思います。1 つは「日本の景気は弱い」といわ ざるを得なくなったことです。 同じ増税延期でも「日本経済はデフレ脱却に向かっているが、それを確実にするために増税を延期 する」といえれば随分楽だったと思いますが、自ら「リーマン・ショック級の危機がなければ予定通 りに増税する」とを明言したためにできません。伊勢・志摩サミットを利用して、何とか正当化しよ うと思いましたが果たせず、却って内外の批判を浴びることとなりました。 もう 1 つの誤算は、増税先送りを否定的に受け取る見解が思った以上にあったことです。安倍首相 としては「増税しないのだから景気はよくなって当然」ぐらいの気持ちだったのでしょうが、「そん なに景気は悪かったのか」との受け取り方も当然あるでしょう。 この他に財政規律をないがしろにすることや容易に発言を撤回することへの批判もありました。 「安 倍一強」と祭り上げられる中で安倍首相の心の中に驕りが生じていたのかもしれません。サミットを 増税延期を正当化する場所に利用する発想、盟友と呼ばれた麻生太郎財務相の意見に耳を貸さない態 度などは 3 年前の安倍首相にはなかったと思います。 皮肉なことに 1-3 月の実質経済成長率は前期比年率 1.7%、先日発表された法人企業統計が良かった ことから 2%台に上方修正されるとの見方も出ています。その他にも、4 月鉱工業生産指数など足元の 経済指標は軒並み改善を示しており、このまま行けば「先送りは不要だった」との声が出るかもしれ ません。 日本株については足元の景気に改善の兆しが見られること、一株利益ベースでは今期は 2 ケタの増 益が見込まれていること。またバリュエーションに割安感があることから、基本的には強いと見てお り、英国の国民投票で波乱がなければ、当面上昇が続くと予想しています。ただし、安倍首相が最近 の独断的なふるまいを続けるのであれば、政治リスクが株価の上値を抑える可能性はありそうです。 特に 7 月には参院選が控えていますが、そこで苦戦するようであれば株式市場にも影響が出るでしょ う。こうしたリスクには注意が必要と見ています。 以上 本資料は投資判断の参考となる情報提供を目的としたもので、当社が信頼できると判断した情報源からの情報に基づき作成したもので す。情報の正確性、完全性を保証するものではありません。本資料に記載された意見、予測等は、資料作成時点における当社の判断に 基づくもので、今後予告なしに変更されることがあります。投資に関する最終決定は、投資家ご自身の判断で行うようお願い申し上げ ます。 2