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クロマチンの構造変換機構によるゲノム機能の制御

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クロマチンの構造変換機構によるゲノム機能の制御
[研究課題名]クロマチンの構造変換機構によるゲノム機能の制御
[研究担当者(分担者も含む)]永田恭介
[研究室]東京工業大学大学院生命理工学研究科生命情報専攻分子生命医工学分
野
1. 研究目的(500 字程度)
遺伝子の基本的な機能である転写や複製の酵素機構は、はだかの遺伝子を
用いた無細胞系の開発により、次第に明らかになりつつある。ところが、実
際に細胞で機能する遺伝子は決してはだかではなく、タンパク質との複合体
として存在している。この複合体の構造変化を誘起し維持する要因の同定と
機構解析こそが、複合体の動的な変化に依存した、たとえば精子の核の脱凝
縮や分化に伴うエピジェネシスなどの機構を理解するための重要な視点と考
えられている。本研究では、我々が見いだしたこの遺伝子-タンパク質複合
体の構造変化に関る因子の解析成果をもとに、さらなる因子群の同定とそれ
らの機能の解析を行う。明かとなった機構は、それが細胞分化や細胞周期な
どの種々の生物学的プロセスの中で機能するものであることを示すことで、
一般性を付与され強化される。さらに得られた概念の普遍性は、その概念を
基盤に生物プロセスを制御することでも得られる。具体的には、細胞の脱分
化を誘起し制御したり、遺伝子治療に望まれている遺伝子発現の制御や細胞
内挙動の制御が可能な遺伝子-タンパク質複合体の再構成などを計画してい
る。
2. 平成 12 年度の研究計画(500 字程度)
我々はすでに細胞の遺伝子-タンパク質複合体の構造変換に関わる因子(ク
ロマチンリモデリング因子)を同定する系として、アデノウイルスクロマチ
ンの無細胞転写・複製系を確立している。本年度は、この系を用いて細胞の
抽出液から系統的にクロマチンリモデリング因子群を同定し、精製・単離す
る計画である。すでにこの系を用いて同定されている因子については、細胞
内での機能を明らかにする解析を開始する。具体的には、野生体やドミナッ
トネガティブ変異体を細胞に過剰発現し、細胞内での遺伝子の機能を解析す
る予定である。また、酵母のホモログを単離して、遺伝学的な解析を行う。
一方 RNA-タンパク質複合体の構造変換については、インフルエンザウイル
ス RNA 遺伝子-ヌクレオプロテイン複合体(RNP 複合体)の無細胞 RNA 合
成系を確立しているので、同様に RNP 複合体の機能に関わる細胞因子の同
定・単離を行う。
3. 平成 12 年度の研究成果(1000-2000 字程度)
アデノウイルスクロマチンを鋳型とした無細胞複製系を用いて、すでに
我々が同定していた TAF-I(Template Activating Factor-I)に加えて、TAF-II
と TAF-III の同定に成功した。抗体等を用いた解析から、TAF-II がすでに TAF-I
の 機 能 的 お よ び 構 造 的 な ホ モ ロ グ と し て 解 析 を 開 始 し て い た NAP-1
(Nucleosome Assembly Protein-1)と同一であることが明らかとなった。
TAF-III は部分分解したペプチドの解析から、核小体に局在が認められるヌ
クレオフォスミン B23.1 および B23.2 であることが判明した。これらの因子
はいずれも酸性アミノ酸に富んだ領域を持ち、この領域はヒストンとの結合
やクロマチンリモデリング活性に必須であった。また、クロマチンリモデリ
ング反応とは逆の反応であるクロマチンの集合反応を促進することも明らか
になった。これらの機能は、いわゆるヒストンシャペロンの機能として一く
くりできるものである。興味深いのは、インフルエンザウイルス RNP 複合
体を鋳型とした無細胞 RNA 合成系の解体と再構成により、類似の性質を示
す因子が同定できたことである。RNA 合成を促進する宿主細胞因子として
単離された RAF-1(RNA polymerase Activating Factor-1)と RAF-2 のうち、
RAF-2 については完全精製と構成サブユニットの一部の cDNA クローニング
を完了した。RAF-2 を構成する酸性アミノ酸に富んだ 48 kDa のペプチド
(RAF-2p48)は単独で活性を示した。RAF-2p48 はウイルスの塩基性タンパ
ク質であるヌクレオプロテイン(NP)と相互作用し、NP を RNA に転移す
る反応を促進することで活性型の鋳型である RNA-NP 複合体の生成を促進
した。我々はこれらの機能的な酸性アミノ酸領域を持ち DNA/RNA-タンパク
質複合体の構造変換に関わる因子群を総称して「酸性分子シャペロン」と呼
ぶことを提唱した。
以上の生化学的な解析に加えて、性格付けがすすんできた TAF-I と TAFII/NAP-1 については細胞内機能についての解析を開始した。TAF-I の過剰発
現を行うと細胞ゲノムに挿入されクロマチン構造を形成していると考えられ
るモデルレポーター遺伝子からの転写が促進された。この現象は、TAF-I 発
現ベクターとレポーターベクターとの単なるコトランスフェクションでは観
察されなかった。TAF-I は 2 量体を形成して機能することから、2 量体形成
ドメインは持つが TAF-I 活性を持たない変異体を作成したところ、上記の系
でドミナントネガティブ変異体として機能した。また、このドミナントネガ
ティブ変異体を導入した細胞ではアデノウイルスの初期遺伝子の発現が有意
に抑制されていた。以上は TAF-I が細胞内でもクロマチンの構造変換に関わ
っていることを強く示唆している。酵母のホモログを単離して行った遺伝学
的な解析からは、TAF-I の欠失によろ表現形の変化は認められなかったに対
して、NAP-1 の欠失は温度感受性の増殖と分裂芽の過剰な伸長をもたらした。
NAP-1 欠失株からさらに TAF-I を欠失させると NAP-1 欠失によって観察さ
れた表現形が打ち消されたことから、NAP-1 と TAF-I は遺伝学的に相互作用
している可能性が示された。
4. 目的と成果の要約(100-200 字程度.年報原稿用)
遺伝子-タンパク質複合体の動的な機能を明らかにするためには、複合体
の構造変化を誘起し維持する要因の同定と機構解析が重要と考えられている。
本年度は我々が開発した遺伝子-タンパク質複合体を鋳型とした無細胞転
写・複製系を用いて、複合体の構造変換に関わる因子を系統的に探索した。
その結果、「酸性分子シャペロン」と総称できる因子群の同定・単離に成功
した。
5. 平成 12 年度誌上発表(英文のみ)(EndoNote file を添付される場合にも確
認用に下記の書式でリストアップしてください)
(1) 原著論文
Kuribayashi, H., Takahashi, T., Nagata, K., Ueno, A. and Mihara, H. (2000)
Construction of two-stranded-helix peptides selectively bound to RNA based on
influenza virus M1 protein. Bioorg. Med. Chem. Lett. 10:2227-2230.
Pepin, K., Momose, F., Ishida, N. and Nagata, K. (2001) Molecular cloning of horse
Hsp90 cDNA and its comparative analysis with other vertebrate Hsp90 sequences. J
Vet. Med. Sci. 63:115-124.
Momose, F., Basler, C. F., O’Neill R. E., Iwamatsu, A. Palese, P. and Nagata, K.
(2001) The cellular splicing factor RAF-2p48/NPI-5/BAT1/UAP56 interacts with the
influenza virus nucleoprotein and enhances viral RNA synthesis. J. Virol. In press.
Watanabe, K., Takizawa, N., Katoh, M., Hoshida, K., Kobayashi, N. and Nagata, K.
(2001) Inhibition of nuclear export of ribonucleoptotein complexes of influenza virus
by leptomycin B. Virus Res. In press.
(2) その他
なし
6. メンバー(日本語および英語で)(理研以外の方は所属機関の正式呼称を日
本語と英語で書いてください)
永田恭介 Kyosuke Nagata
東京工業大学大学院生命理工学研究科生命情報専攻分子生命医工学分野
Laboratory of Molecular Medical Engineering, Department of Biological
Information, Graduate School of Bioscience and Biotechnology, Tokyo Institute of
Technology
7. 共同研究者(同上)(理研のデータベース登録に必要なので,誌上発表のみ
ならず,口頭発表でも名前を連ねている人をリストしてください)
百瀬文隆 Fumitaka MOMOSE(Tokyo Institute of Technology)
Kim PEPIN(Tokyo Institute of Technology)
Kadir TURAN(Tokyo Institute of Technology)
渡辺健 Ken WATANABE(Tokyo Institute of Technology)
滝沢直己 Naoki TAKIZAWA(Tokyo Institute of Technology)
加藤雅樹 Masaki KATOH(Tokyo Institute of Technology)
星田恒太郎 Kohtaro HOSHIDA(Tokyo Institute of Technology)
栗林英人 Hideto KURIBAYASHI(Tokyo Institute of Technology)
高橋剛 Tsuyoshi TAKAHASHI(Tokyo Institute of Technology)
上野昭彦 Akihiko UENO(Tokyo Institute of Technology)
三原久和 Hisakazu MIHARA(Tokyo Institute of Technology)
三林正樹 Mibayashi MASAKI(Tokyo Institute of Technology)
山口まり Mary YAMAGUCHI-MIYAJI(Tokyo Institute of Technology)
杉山賢司 Kenji SUGIYAMA(Tokyo Institute of Technology)
下山多映 Tae SHIMOYAMA(Tokyo Institute of Technology)
春木宏仁 Hirohito HARUKI(Tokyo Institute of Technology)
村野健作 Kensaku MURANO(Tokyo Institute of Technology)
齋藤祥子 Shoko SAITO(Tokyo Institute of Technology)
加藤広介 Kohsuke KATO(Tokyo Institute of Technology)
辻本雅文 Masafumi TSUJIMOTO(RIKEN)
奥脇暢 Mitsuru OKUWAKI(RIKEN)
高月昭 Akira TAKATSUKI(RIKEN)
喜田宏 Hiroshi KIDA(Hokkaido University)
菊池韶彦 Akihiko KIKUCHI(Nagoya University)
小林信之 Nobuyuki KOBAYASHI(長崎大学 Nagasaki University)
森川裕子 Yuko MORIKAWA(北里研究所 The Kitasato Institute)
石田信繁 Nobishige ISHIDA(日本中央競馬会競走馬総合研究所 JRA Equine
Research Institute)
岩 松 明 彦 Akihiro IWAMATSU ( キ リ ン ビ ー ル 基 盤 研 究 所 Central
Laboratories for Key Technology Kirin Brewery Company)
Christopher F. BASLER(Mount Sinai Hospital)
Robert E. O’NEILL(Mount Sinai Hospital)
Peter PALESE(Mount Sinai Hospital)
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